あるスタートアップが消費者向けトレーディングのブームを変える

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター「The TechCrunch Exchange」へようこそ。

みなさん、お元気でお過ごしだろうか。今回は取り上げる話題が山のようにある。消費者向けフィンテック市場における魅力的なスタートアップのラウンドに関するメモ、AppianのCEOであるMatt Calkins(マット・カルキンス)氏と決算説明会に行ったインタビューによるローコードの世界に関するメモ、そしてIPOたち、Kidas(キダス)のベンチャーキャピタルラウンド、ビルの「公開」、NFTなどをすばやく紹介していく。では始めよう!

あるスタートアップが消費者向けトレーディングのブームを変える

Robinhood(ロビンフッド)は、投資やトレーディングに対する消費者の関心の波に乗り、株式を公開するまでに至った。最近では、いくつかの失敗があったものの、同社は株式の購入だけでなく、より魅惑的なオプション取引に対する市場の関心の高さも証明している。

今回話題にしたいのは後者だ。シカゴにゆかりのある分散型スタートアップOptions AI(オプションズAI)が、410万ドル(約4億6000万円)のシードラウンドを実施した。私はこの会社の創業メンバーを知っていたので、会社についでも以前から知っていたものの、これまであまり書く機会がなかった。

だがAkuna Capital、Miami International Holdings、Optiver Principal Strategic Investmentsの3社のリードインベスターなどから資金を調達したいま、取り上げる時期にきたといえるだろう。

基本的にオプションは複雑であり、トレーディングに臨む多くの人々は、手をつけようとする時に。良い選択をするためのツールや洗練された技術を持ち合わせていない。私の意見を疑うなら、トレーディングをやっている友人にオプション戦略について聞いてみると良いだろう。きっと複雑さが理解できるやりとりになる筈だ。

Options AIは、トレーダーが執行する前に対象のトレードをよく確認して、マルチレッグオプションなどを扱う際により良い選択ができるようなツールを開発した。これは非常に優れたツールで、以前からオプション取引の仕組みや価格付けについて漠然としか理解していなかった私にとっては、しっかり理解を深めるのに役立った。

しかし、Options AIが私の興味を引いた理由は、チャートが優れているということだけではない。もう1つの理由は、トレードに課金することだ。このスタートアップは、トレードコストを一律5ドル(約567円)としているため、Robinhood(ロビンフッド)やWebull(ウィブル)などが近年追求してきた無料トレーディングの流れに逆らって泳いでいることになる。

現在、Options AIは株式オプションを扱っているが、The Exchangeには、そのうち暗号資産や先物オプションを追加するかもしれないと語っている。同社は現在の状況を、これまで開発しテストしてきた場所から頭を出した状態だと述べ、初期の人気とユーザーデータから何かを掴んだと考えている。もちろん、新しい投資家たちもそう思っているだろう。

さらに話を進める前に、オプションに関するデータを。大手消費者向けトレーディングプラットフォームが、なぜオプション取引に興味を持つのだろうか?なぜなら、めちゃくちゃ儲かるからだ。例えばオプショントレーディングのおかげで、Robinhoodは2021年第3四半期に6400万ドル(72億6000万円)の収益をあげた。一方株式トレーディングの収益は5000万ドル(56億7000万円)だった。これはビッグビジネスなのだ。

また、一律手数料とPFOF(ペイメント・フォー・オーダーフロー)の収入があることで、Option AIは十分な数の人々を集めることさえできれば、かなり魅力的な市場ポジションを得ることができる。スタートアップのターゲットユーザーは誰だろう?トレードを始めてはみたものの、もう少し専門的なツールが欲しいという人に向いていると思う。そしてRobinhoodの数字は、そのようなユーザーが相当数存在する可能性を示している。

Option AIのトレーディングの成長データを得たときに続報をお知らせする。

SaaSの価格設定を揺るがす

これまでTechCrunchは、SaaSの価格設定の議論を、サブスクリプションとオンデマンドまたは使用量ベースの価格設定レンズを通して検討してきた。現在、多くのスタートアップ企業が、(オンデマンドの価格設定がより理にかなった)APIとして誕生しているため、このレンズは市場の進化を見る上で良い視点になっている。また、市場にはSaaS疲れも見られる。

そんな中、Appian(アピアン)は少し変わったことをしている。先週、同社のCEOであるMatt Calkins(マット・カルキンス)氏を決算説明会の後でつかまえて、ローコード市場、プロセスオートメーション、プロセスマイニングについての話を中心に聞いてみた。Appianは、顧客が自動化すべき点をプロセスから抽出し、必要に応じて設計や自動化を行うことができるソフトウェアセットを提供している企業だが、私たちはその内容はもちろん、価格についても話し合った。

Appianは、利用無制限の価格設定を用意している。これは、使用量に上限のないSaaSのようなものだ。SaaSはアカウントやアプリケーションごとに価格が設定されることが多いのだが、カルキンスらはSaaSとオンデマンドの良いところをミックスしたような試みをしている。もっと簡単に言えば、1年分のサービスを定額制にして利用制限を設けないことで、顧客にAppianのサービスをたくさん使ってもらい、そのプラットフォームにどっぷりとハマってもらおうとしているのだ。

カルキンス氏は、公開企業のCEOとしては不自然なほど「無制限プランは、一部のお客様にとって非常にお得なプランになるかもしれません」と明言した。カルキンス氏は、価格設定に「イノベーション」を起こしたいと口にする。彼は、利用無制限の価格設定モデルを提供することで、顧客がAppianの技術を使って多くのものを作り、他の価格設定メカニズムで支払うよりも少ない金額で済ませる可能性があるものの、それは顧客にAppianの技術を全面的に使ってもらうためのコストに過ぎないと強調した。

上手く行けば、Appianは利益率の高い高収益を生み出すことができる長期顧客を持つことになるだろう。悪い取引ではない。

IPOまとめ

  • HashiCorp(ハシコープ)が上場を申請したので、その数字を調べてみた。結果はこちらで
  • 消費者直販のAllBirds(オールバーズ)は、IPOの価格を予定レンジよりも高く設定し、取引開始時にはさらにポイントを上昇させた。価格情報はこちら、財務情報はこちら
  • NerdWallet(ナードウォレット)は、IPOの価格を中程度に設定したが、その後高値で取引された。その後、少しずつ価格は下がったが、それでも見事なデビューを果たしている。金融関連の報道はこちらこちら。(そして、元TechCrunchのFelicia Shivakumar[フェリシア・シバクマール]氏にもエールを送りたい。彼女はかつて、私がTCのためのビデオショーを立ち上げる際に手伝ってくれた。非常に優れた人間であると同時に、現在はNerdWalletで働いている!)。
  • Nubank(ヌーバンク)が株式公開を申請したことで、その経営の数字の一端が明らかになった
  • Bird(バード)のSPAC取引が完了したが、初日は ベストではなかった
  • そして最後に、Backblaze(バックブレイズ)は自社のIPOに向けて最初の価格設定を行った。これは、同社の手堅い収益規模を考えると魅力的なことだと思う。

その他のこと

  • 先週私の目に飛び込んできたKidas(キダス)は、親と協力して子どもたちがオンラインゲーム環境で安全に過ごせるようサポートするスタートアップだ。これまでの控えめな資金調達に加えて、今回200万ドル(約2億2700万円円)を調達した。同社はThe Exchangeに対して「親御さんにとっては、他の方法では得られない新しい情報が得られ、それによって好きなものを介してお子さんたちとより良い関係を築くことができます」と語っている。
  • 私は権力者が配下の者のデジタル活動の制約を強めるようなことは、決して良いことだとは思わない。しかし、ゲームの世界ではコミュニケーション手段が急速に多様化しているため、保護者は何らかの監視を必要とするだろう。
  • 注目すべきは、そのツールがゲームプレイを妨げないことだ、つまりアンチチートソフトウェアを反応させないということである。これは本当に本当に重要なことだ。
  • 会社の詳細はまた別の機会に紹介するが、本拠地はフィラデルフィアで、私はそこに惹かれた。
  • ビルが「公開」された:私たちのIPOのセクションとは関係しないが、私が動向を薄くトラッキングしているLEX Capital Markets(レックス・キャピタル・マーケット)というスタートアップが、1つのビルを債権化して公開した。この会社は、実にすてきなモデルを提供している。覗いてみる価値があるだろう。
  • そして最後に、最近のNFT(非代替性トークン)報告の延長だが、、Mythical(ミシカル)がNFTを取り入れたゲームのために1億5000万ドル(約170億円)を調達したところだ。NFTの風はそこに向かっているのかもしれない。

画像クレジット:Nigel Sussman

原文へ

(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

衣服の素材イノベーション企業Allbirdsが新規上場、次代を制する企業を見極める鍵は「持続可能性」

Allbirds(オールバーズ)は米国時間11月3日、NASDAQに新規上場し、それにふさわしいティッカーを選んだ。「BIRD」だ。

天然ウールを使用した控えめなデザインの(そして大変履き心地の良い)靴から始まったAllbirdsだが、現在は単なるアパレル企業ではない。今や衣服の製造方法に革新をもたらす素材イノベーション企業となっている。素材をオープンソース化して他者に提供することで業界に変化をもたらし、それによって持続可能性を実践する業界の旗手だ。

ファッション業界では、毎年21億トンもの二酸化炭素を大気中に排出している。これは、現在米国で使用されているすべての自動車から排出される量の2倍に相当する。現在、私たちが身体に身につけているもののほとんどは合成樹脂でできている。その合成樹脂は、化石燃料である石油から作られる。

この状況は変える必要がある。そしてそれは変わるだろう。

Allbirdsは、単に顧客に服を着せるだけではない。人々が自分の子どもたちも自分がしてきたような生活を楽しめるようにする可能性に貢献できるように、しかもそれを製品の快適さ、スタイル、性能を通じて、気持ちよく行えるようにすることで、人々が賛同するだけでなく、人々に愛されるブランドを作ろうとしている。

このようなビジョンやイノベーションは、Allbirdsだけのものではない。例えばTesla(テスラ)の仕事は、単にドライバーをある場所から別の場所に移動させるだけではなく、Impossible Meats(インポッシブル・ミート)の仕事は、空腹の客に食事を提供するだけではない。これらの企業の仕事は、我々の住む地球が数十年後も確実に生き残るだけでなく繁栄できるようにすることであり、同時に消費者がライフスタイルの質を落とさずに、積極的にそれに参加できる選択肢を提供することでもあるのだ。

持続可能性に取り組む企業が次世代をリードする

「サステイナブル(持続可能)」になることの重要性は認識されているものの、「サステイナビリティ(持続可能性)」を実現するためには何年もの時間が必要になる。このような一般的な見方は、レースが始まってから単に追いつくことが、どれほど難しいかを過小評価している。逆に起業家にとっては、社会に世代を超えて影響を与える「目的ネイティブ」な企業を構築する大きなチャンスとなる。従業員や投資家にとっても同様だ。

持続可能性というテーマは、消費財に限らず、あらゆるビジネスに当てはまる。ある日突然、町外れにある小さなサステイナブル・テクノロジーの会社に、巨額の資金提供が行われたというニュース(大手ベンチャーキャピタルはすべて、少なくとも1社の代替食肉会社を投資先に入れている)や、大企業のESG(環境・社会・企業統治)責任についてのニュースを見つけることは珍しくない。

The Economistによると、2021年に投資家が「エネルギー移行(エネルギーや輸送から産業、農業まで、あらゆるものを脱炭素化すること)」に注ぎ込む金額は5000億ドル(約57兆円)を超え、2010年の2倍になるという。地球の脱炭素化に必要な投資額は30兆ドル(約3400兆円)以上と推定されており、人々は炭素排出量のネットゼロを目指すレースに参加する企業に投資できる貴重な機会を得ている。気候変動は投資家にとって、今世紀最大の追い風だ。

EV(企業事業価値) / NTM(今後12カ月)の収益が、約16倍というテスラのような企業の現在の評価は、収益の7倍から10倍の間で取引されている他の自動車メーカーや、フォワード収益の約10倍で取引されているBeyond Meat(ビヨンド・ミート)と比較すると、非常に高額であるという認識がある。

このようなビジネスに投資するには、単に「持続可能」という変化だけでなく、長期的に劇的な変化があり、そこでは持続可能な活動をすべての意思決定の中心に据えることができる企業が長期的な勝者となると信じる必要がある。

今、会社を設立するのであれば、それは「目的ネイティブ」でなければならない。こうした企業にとって、現在の採用率と成長率は、この優位性のおかげで、同業他社よりも長く継続することが可能であり、おそらく実際にそうなるだろう。サステイナブル・ファーストの企業は、次世代の勝者となる可能性が最も高いのだ。

Allbirdsは次のNike(ナイキ)のような企業となり、数十年にわたって最大25%という成長率を記録できるだろうか?私にはわからないが、他のどのアーリーステージの挑戦者よりも、その可能性が高いことは確かだ。持続可能性がCO2を噛み砕く前に、世界が自分自身を食べてしまわないことを祈ろう。

TDM Growth Partners(TDMグロース・パートナーズ)は、Allbirdsに出資している。

編集部注:本稿を執筆したEd Cowanは、国際的投資会社TDM Growth Partnersの投資チームメンバー。

画像クレジット:Spencer Platt / Getty Images

原文へ

(文:Ed Cowan、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Rivianが有害な「ボーイズクラブ文化」で女性の元副社長に性差別訴訟を起こされる

このほどIPOを申請した電気自動車メーカーのRivian(リビアン)が、元営業・マーケティング担当副社長から性差別の疑いで訴えられた。

この訴訟では、2020年11月にRivianに入社する前にJaguar Land Rover(ジャガー・ランドローバー)やAston Martin(アストン・マーティン)で長い職歴を持っていた元営業・マーケティング担当のLaura Schwab(ローラ・シュワブ)氏が、同社の人事部に性差別を報告した後に解雇された、としている。米国時間11月4日にオレンジ郡のカリフォルニア高等裁判所に訴状が提出された。

Rivianの広報担当者はTechCrunchに対し、株式公開を控えた静粛期間にあるため、コメントは出せないと話した。

シュワブ氏は、米仲裁協会(AAA)に主張の声明を提出し、Mediumに掲載されたブログ記事の中で自身の主張を述べている。TechCrunchが閲覧したAAAの声明では、同社の上層部における「有害な兄弟文化」について述べられている。この訴訟では、シュワブ氏は問題を指摘しようとしても上司に度々無視されていたと主張している。また、男性の同僚が出席する会議からもよく排除され、シュワブ氏のチームに関する決定は同氏の意見を無視して行われていたと、声明には書かれている。また、AAAに出した声明によると「Rivianの誤解を招くような公表や欠陥のあるビジネス慣行」に関する彼女の懸念は却下されたという。

シュワブ氏が「ボーイズクラブ文化と、経営幹部から受けていた性差別」について人事部に話したところ、Rivianは突然彼女を解雇した、と声明にはある。

ブログの中で、シュワブ氏は次のように書いている。

Rivianは自社文化を公に自慢しています。ですから、私が入社してすぐに、女性を疎外し、会社のミスを助長するような有害な兄弟文化を経験したときは、痛烈なショックを受けました。上司からの性差別「ボーイズクラブ」文化、そしてそれが私や私のチーム、会社に与えている影響について、私は人事部に懸念を示しました。その2日後、上司は私を解雇しました。

この訴訟は、Amazon(アマゾン)の支援を受けているRivianが、2021年最も期待されている上場の1つを行う準備をしている中で起こされた。規制当局に提出された直近の書類によると、Rivianは新規株式公開で最大84億ドル(約9560億円)の資金調達を計画している。同社は、1億3500万株を57〜62ドル(約6480〜7055円)の価格で提供する予定だ。また、引受人は2025万株まで追加購入できるオプションを持っている。引受人がこのオプションを行使した場合、Rivianは最大で96億ドル(約1兆925億円)を調達することになる。

発行済み株式数に基づくと、その市場評価額は約530億ドル(約6兆320億円)になる。従業員のストックオプションやその他の制限付き株式を考慮すると、評価額は600億ドル(約6兆8290億円)にもなる。同社は10月1日に米国での上場を申請した。

画像クレジット:Kirsten Korosec

原文へ

(文:Kirsten Korosec、翻訳:Nariko Mizoguchi)

電気自動車メーカーRivianが新規株式公開で最大約9585億円調達へ

電気自動車メーカーのRivian(リビアン)が新規株式公開で最大84億ドル(約9585億円)の資金調達を目指していることが、11月1日に掲載された規制当局への提出書類で明らかになった。

Amazon(アマゾン)から出資を受けているRivianは、1億3500万株を57〜62ドル(約6500〜7075円)で提供する予定だと書類の中で述べている。また、引受人は2025万株まで追加で購入できるオプションを持っている。引受人がこのオプションを行使した場合、Rivianは96億ドル(約1兆950億円)もの資金を調達することになる。

発行済み株式数に基づくと、同社の市場評価額は約530億ドル(約6兆448億円)になる。従業員のストックオプションやその他の制限付き株式を考慮すれば、評価額は600億ドル(約6兆8431億円)にもなる。

Rivianは10月1日に米国での株式公開を申請した。その際、S-1書類では目標株価を開示していなかった。11月1日に提出された修正文書には新たな情報が盛り込まれ、その中にはRivianに繰り返し出資しているAmazonと新規出資者のBlackstone(ブラックストーン)が関心を寄せていることが含まれていた。

Amazon、T. Rowe Price Associatesのアドバイスを受けたファンドや口座、Coatue Management、Franklin Templeton、Capital Research Global Investors、D1 Capital Partners LP、Third Point LLC、Blackstone Alternative Asset Management に所属するファンド、Dragoneer Investment Group LLC、Soros Fund Management LLCに所属する一部の事業体が、最大50億ドル(約5703億円)のクラスA普通株の購入に関心を示している。

Amazonが最近提出した書類によると、同社はすでにRivianの株式20%を保有している。

Rivianの新規株式公開申請は2021年最も期待されていたものの1つで、現在はNASDAQ証券取引所での公開に注目が集まっている。同社はティッカーシンボル「RIVN」で取引される。

画像クレジット:Kirsten Korosec

原文へ

(文:Kirsten Korosec、翻訳:Nariko Mizoguchi

アマゾンがEVメーカーRivianのIPOを前に20%の同社株式保有を公表

米国時間10月29日、Amazon(アマゾン)が2021年10月初初旬にIPOを申請した電気自動車メーカーRivianの株の20%を保有していることを公表した。

9月30日の時点でこのeコマース巨大企業は、約20%の所有権を表すRivianの優先株を含む非公開株投資を行っていたことが、文書に示されている。その持ち株の「簿価」は38億ドル(約4329億8000万円)で、2020年12月31日現在の27億ドル(約3076億4000万円)から上がっていた。

その公表は規制当局への提出文書により明らかとなり、Rivianの将来がAmazonと密接に結びついていることがうかがわれる。RivianのIPO文書によると、Amazonは同社に13億4500万ドル(約1532億5000億円)を投資している。Amazonはまた最近、Rivianの4億9000万ドル(約558億3000万円)の転換社債を購入し、それは一定の価格規定によりIPO後にクラスAの株式に転換される。

Amazonは、Rivianの投資者であるだけでなく顧客でもある。2019年9月の協定によりRivianはAmazonに、10万台の電動デリバリーバン(配達車)を供給する。2021年10月初めにRivianは、2021年12月に少なくとも10台を納車する予定であることを公表した。残りの9万9990台は2025年までに納車される。

RivianのIPO文書により、AmazonがRivianという宇宙の大きな部分であることが明らかとなった。たとえばRivianのS-1文書には、Amazonの名が81カ所で言及されている。投資家でもあり顧客でもあるというAmazonの二重性格により、登場機会が多くなっている。

その時点ではAmazonはRivianの少なくとも5%を保有していると思われたが、最終的な数字はまだ得られていない。Amazonからの公表によると、同社の保有株はもっと多いようだ。

TechCrunchが以前報じたように、Amazonとの強い結びつきはRivianにとって好機とリスクの両方である。RivianのS-1のリスク要因の部分には、こう書かれている。

弊社の初期の売上の大きな部分が、弊社の主要株主の1つに関連する1つの顧客に由来する。弊社がこの関係を維持できなかったり、この顧客の購入が現在弊社が予期するより相当少ないか、皆無であれば弊社の事業と将来性と財務状況と操業の結果およびキャッシュフローは著しく悪化するだろう。

画像クレジット:撮影ROBYN BECK/AFP/Getty Images

原文へ

(文:Kirsten Korosec、翻訳:Hiroshi Iwatani)

なにはともあれGitLabの巨額IPO

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター「The TechCrunch Exchange」へようこそ。
みなさん、こんにちは。良い週末をお過ごしだっただろうか。では始めよう!

先週スタートアップの世界でおきた重要なマネーストーリーといえば、なにはともあれ巨額のGitLab(ギットラボ)のIPOだ。

ご存じない方のために。私たちはGitLabが株式公開を申請したことを報じ、同時に現在の市場価格で、このDevOpsの巨人は約100億ドル(約1兆1400億円)の価値があることを指摘した。その後GitLabは、IPOの価格帯を当初の予想よりも大幅に引き上げ77ドル(約8790円)とした。金曜日(米国時間10月15日)の午後遅くには、一株あたり108ドル(約1万2300円)以上の価格となっている。

GitLabのCEOであるSid Sijbrandij(シッツェ・シブランディ)氏に、今回の公開についての話を電話で聞いた。私はシブランディ氏とは、この話題を皮切りに、以前からあちこちで話をしていた。ということでIPOの日に、通常のSEC規則に縛られている彼と話をするのはとても楽しかった。私が聞き出したのは以下のような話題だ。

  • なぜ今、GitLabを公開したのか?シブランディ氏は、収益規模、収益の予測可能性、コンプライアンスなど、すべての条件を満たしているからだと述べた。IPOの日は、共同創業者のDmitriy Zaporozhets(ディミトリー・ザポロゼツ)氏が同社のための初めてのコードを書いた日から10年後の同じ月となった。なので、それはいい循環のタイミングになった。なにしろ人間はキリの良い数字が大好きなので。
  • GitLabの力強い総合継続メトリクスは、収益予測に役立ったか?答えはイエスだが、シブランディ氏はそれをはっきりとは話そうとはしなかった。
  • オープンソースは今や障害ではなく利点となっている。この点は、先月スタートアップ企業に関して指摘したことと同じですが、いずれにしても指摘しておく価値がある。オープンソースのコードは、開発者との長期的な関係を築きたいと願う企業にとって、大きなメリットとなっている。敢えて言い切るならば、製品主導の成長に関してしばしば重要な意味を持つ。これは、10年前の世界とは正反対を向くものであり、おそらくMicrosoft(マイクロソフト)がオープンコードに対する考えをしばらく前に変更した理由でもある。
  • そして、将来GitLabはDevOpsだけでなくMLOpsにも参入するようになるのだろうか?おそらくは。シブランディ氏は、この件について明言はしなかったが、MLOpsの世界が加速しているいま、GitLabがそのうちにその領域に入り込んだとしても、私は驚かないだろう。確かに、いまはしたいことを何でもすることのできる資金があるのだから。

Cloudflareと世界

2021年9月下旬に発表された、Cloudflare(クラウドフレア)が「サービスとしてのストレージ」市場に参入するというニュースを振り返ってみよう。このニュースは、Cloudflareが世界中のデータセンターを束ねてクラウドストレージを提供しようとしているというものだった。この製品に関するニュースは、ウェブサイトをより速く、より安全に表示するという、Cloudflareが最も得意とするこれまでの仕事からはかけ離れていた。

関連記事:Cloudflareが「R2」でクラウドストレージ市場に参入、「第4の大型パブリッククラウド」を目指す

なぜいまさら上場企業が、ストレージというコモディティ化したものに参入したのだろうか。当時、Ron Miller(ロン・ミラー)記者は、Cloudflareは自分のために作ったものを他の人向けに転用していると書いていた。また、Cloudflareのストレージサービス「R2」は、一部の料金を省くことで、たとえばAmazon(アマゾン)が提供するインフラサービス「AWS」を介して使うストレージよりも安くなるという。

ある考えが浮かんだ。つまり、超巨大企業ではないものの、世界的に事業を展開し、特定のデジタルサービスを提供している大規模なハイテク企業が、始めはニッチと思われるインフラツールの提供に乗り出し、AmazonやMicrosoftが現在AWSやAzure(アジュール)を通じて提供しているものと、最初は控えめながら競合するようになったとしても、私はまったく驚かないだろう。

これはまったくの妄想かもしれないが、アナロジーである程度説明できる。私の主張は、Intel(インテル)が長い間、特定のCPUに関わり世界を牛耳ってきたにもかかわらず、いまや暗号資産の採掘に使われるGPUだけでなく、例えばAIにチューニングされたシリコンを作るスタートアップの台頭にも未来を奪われてしまったことに似ているというものだ。このたとえ話の中では、AWSはIntelで、AIチップはCloudflareのR2のようなものに対応している。

AWSとAzureが価格の駆け引きを繰り返していた時代は終わった。次は何だろう?

関連記事:AIチップメーカーのHailoが約155億円調達、エッジデバイスにおけるAIモジュールの機会を倍増させる

その他のこと

  • 中西部のVCが350万ドル(約4億円)を投じたPresidio(プレシド)は、一般消費者向けのデジタル情報金庫スタートアップだ。フロリダにある同社は、2022年のローンチを目指している。これについては、無数の疑問が湧いてくる。しかし、この時代にストレージを中心としたスタートアップを作っている人がいるということが私の目を引いた。
  • 資本政策表(キャップテーブル)ソフトウェア企業のCartaが、私が楽しんで触っていたデータ製品を発表しした。時代や会社の種類ごとに分類された多数の資金調達データをいじくり回したい人には、とても楽しいソフトウェアだ。
  • 英国のスタートアップが、母国での個人情報保護規則の変更を受けて、EUへの再進出をどのように進めているかというエッセイに対するメモを書こうと思ったのだが、我らがNatasha Lomas(ナターシャ・ローマス)記者に先を越されてしまった。ということで、彼女の投稿を読んで欲しい。私が思いついたものよりも良い内容だ。
  • また、英国といえば、同国のFreetrade(フリードレード)が100万人のユーザーを獲得した。この数字は、Robinhoodブームがまさに、多くのスタートアップのボートを上昇させる国際的な消費者運動であることを示しているので、とても重要だ。

画像クレジット:Nigel Sussman

原文へ

(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

細胞データの「新たなレイヤー」を発見、プロテオーム解析用機器のIsoPlexisがIPO

細胞の周辺におけるタンパク質の活動を調べるツールを開発するIsoPlexisの株式が、米国時間10月8日からマーケットに出回った。同社はこのIPOで1億2500万ドル(約140億円)の調達を狙っており、資金で同社技術の商用化のためのチームを作り、精密医療の創造において重要な役割を果たすという同社の計画を進めようとしている。

IsoPlexisは2013年に創業した、薬学の研究でラボに出入りしているようなタイプの企業だ。同社は主に、シングルセルのプロテオーム解析(タンパク質とそれらの相互作用の研究)に力を入れてきた。同社は主に、免疫細胞や腫瘍細胞などの細胞が分泌するタンパク質を分析する機器やソフトウェアを開発してきている。

それらの機器を使うと、多種類のタンパク質を放出する細胞を見つけることができる。そのデータセットを利用して、新しい治療法を開発したり、既存の治療法への人間の反応を理解することができる。

CEOで共同創業者のSean Mackay氏(ショーン・マッケイ)氏は「私たちが発明した機器は、体中の、私たちがスーパーヒーロー呼んでいる細胞を見つけ出します。その細胞の小さな部分集合には、今日の既存の技術では見つけられない大量の活動があります」と説明する。

マッケイ氏によると、市場には2021年の前半で約150のIsoPlexisの装置が出回っており、顧客の中には15社の世界的大手の製薬企業がいる。またIPOのためにSECに提出した文書によると、米国の総合がんセンターの約半分に同社の機器がある。

IsoPlexisは過去にも、著名な投資家たちから相当な額の資金を調達している。

Crunchbaseによると、同社はIPOの前までに2億550万ドル(約231億円)の資金を調達している。至近のシリーズDでは、総額1億3500万ドル(約151億円)を調達した(約8500万ドル[約95億円]がエクイティー証券、5000万ドル[約56億円]が借入金)。そしてこのラウンドにはPerceptive AdvisorsやAlly Bridge Group、そしてBlackRockが管理する「ファンドと信用口座」が参加している。

本日の初値は約15ドルだったが、本稿を書いている時点では約12ドルに落ちた。

IsoPlexisの特徴は、プロテオーム解析とシングルセル生物学を利用して、細胞の機能を患者の状態に結びつけた初めての企業であることだ。言い換えると同社は、個々の細胞とタンパク質の相互作用を調べて、がん患者のような人がどれだけ良くなるかを知ることのできる、最初の企業に属している。

IsoPlexisの機器がそのために使われたことを示すエビデンスも公表されている。特にそれは、がんの治療に関するものだ。

例えばNature Medicineに2021年に掲載された論文では、IsoPlexisの機器を使って、リンパ腫の患者の免疫細胞の活動を調べている。これらの患者には、治療に抵抗するがんや、軽快後に再発したがんがあった。特に彼らは、CAR-T細胞療法を受けていた。それは、遺伝子を変えた免疫細胞を患者に注入する治療法で、がん細胞の標的化を助ける。その研究では、CAR-T細胞によるサイトカイン(細胞の信号送受に関わるタンパク質)の生産がCAR-T細胞の効果を示す指標であることがわかった。

そこでもIsoPlexisのデバイスが、CAR-T細胞の効果を示す信号を明らかにした。

「それは、私たちが見つけた特定の細胞が、患者における長期的な反応の指標になるということです。さまざまながんでの調査を公表していますが、患者にそういうタイプのユニークな免疫細胞があれば、これらは私たちがスーパーヒーローとして見つける細胞であり、患者に長期的にその結果があることがわかります」とマッケイ氏はいう。

細胞に関心がある人にとっては、IsoPlexisの技術が、細胞を蛍光色で染色して観察や計測をする、すでに確立した方法であるフローサイトメトリーに似ていると思えただろう。フローサイトメトリーの世界には、Thermo Fisher Scientificのような大企業もすでにいる。

しかしIsoPlexisは、まったく新しい情報のレイヤーを提供するとマッケイ氏は主張する。それは主に、フローサイトメトリーにはないタンパク質の情報だ。同社は、デバイスが個々の細胞のタンパク質の活動をバーコードで表す発明をライセンスした。そのコードを、IsoCodeと呼んでいる。Nature Reviews Chemistryに掲載された論文では、何千もの細胞のいろいろなタンパク質を一度で分析できるバーコードは便利さを主張している。しかも、細胞そのものは他の実験に使える。ただしこの方法で捉えられるのは今のところ、プロテオームの活動全体のごく一部だ。

マッケイ氏は「その新しいレイヤーのデータは個々の細胞に関して、現在、市場にある技術で得られるものと非常に異なっている」と付け加えた。

しかしそれでも、同社はまだ利益が出ていない。SECの文書によると、損失は過去数年間続いている。売上が750万ドル(約8億4000万円)だった2019年と1040万ドル(約11億6000万円)の2020年は損失がそれぞれ約1360万ドル(約15億3000万円)と2330万ドル(約26億1000万円)だった。

今後の成長への道は、もっと多くの機器をもっと多くの研究者の手に渡すことだ。

「私たちの目標は、現在と同じタイプのお客様を、より深く拡大しながら、速いペースで前進し続けることです。それはまさにコマーシャルチームを構築し続けることが必要です」とマッケイ氏はいう。

画像クレジット:IsoPlexis

原文へ

(文:Emma Betuel、翻訳:Hiroshi Iwatani)

吉利傘下のVolvo CarsがストックホルムのNASDAQに新規株式公開を申請へ

中国の浙江吉利控股有限公司(Zhejiang Geely Holding)傘下のスウェーデンの自動車メーカーであるVolvo Cars(ボルボ・カーズ)は現地時間10月4日、新規株式公開を申請し、ナスダック・ストックホルム取引所に上場すると発表した。上場により最大29億ドル(約3190億円)の資金調達を見込む。

上場により、Volvo Carsの価値は最大で250億ドル(約2兆7500億円)になる可能性があると、ウォール・ストリート・ジャーナルが関係者の話として報じた

Volvo Carsのプレスリリースによると、吉利は一定数の株式を売却するが上場後も筆頭株主として残る。スウェーデンの機関投資家であるFolksam(フォルクサム)とAMFも同様に株主として残る。Volvo Carsは声明で、吉利との関係、および吉利のエコシステムに属する他の企業との関係のおかげで「既存および将来の技術の共有、共同調達、規模の経済によるメリットを享受し、相乗効果、競争力、長期的な価値を実現することができます」と述べた。

Volvoは2030年までに全ラインナップを電動化し、2030年代半ばまでに販売台数の50%を電動化すると約束した。今回のIPOで得る資金は「市場環境が悪化した場合であっても」電気自動車への完全移行を早めるために使われると述べた。

このニュースは、Volvoがこの11年間でどれだけ成長したかを物語っている。同社は2010年、Ford Motor(フォード・モーター)により18億ドル(約1980億円)で吉利に売却され、Fordは多額の損失を計上した(Fordは1999年に65億ドル[7150億円]でVolvoを買収した)。Volvoは吉利に買収されて以来、中国に2つの車両組立工場を建設し、サウスカロライナ州にも工場を建設するなど、大規模な拡張を行ってきた。6月にはサウスカロライナ工場にさらに1億1800万ドル(約130億円)を投資すると発表した。

回復は販売にも表れている。同社は10月1日、2021年の9月までの売上高が、2020年の同時期と比べ17.6%増加したと発表した。

Volvoが株式公開の意向を表明する前に、EVメーカーのPolestar(ポールスター)が200億ドル(約2兆2000億円)規模でSPAC(特別買収目的会社)と合併するというニュースが流れた。Volvo Carの電気自動車ブランドの一部門であるPolestarも吉利が所有する。このタイミングは偶然ではなさそうだ。WSJの報道によると、Volvoが持つPolestar SPACの株に約100億ドル(約1兆1000億円)の価値が割り当てられ、VolvoのIPOへの道が開けたとのことだ。

画像クレジット:Volvo Cars

原文へ

(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

米RivianがIPO目論見書を公開、アジアなどでもEV販売を計画

R1Tピックアップトラックの出荷を9月に開始した電気自動車スタートアップのRivian(リビアン)は、米国で公開会社になるための目論見書を公開した。

米証券取引委員会に米国時間10月1日に提出したフォームS-1には上場のための詳細は含まれていない。

同社はAmazonのClimate Pledge Fund、D1 Capital Partners、Ford Motor、T. Rowe Price Associates Incのアドバイスを受けたファンドや個人がリードした25億ドル(約2777億円)のプライベート資金調達をクローズしたわずか2カ月後の8月下旬に密かにIPOを申請していた。Third Point、Fidelity Management and Research Company、Dragoneer Investment Group、Coatueもそのラウンドに参加した。

フォームS-1はRivianの財務データと同社に関する他の知見、さらにはリスクや同社が接しているチャンスなどのおおまかなところをつまびらかにしている。

Rivianは2019年に4億2600万ドル(約473億円)の赤字だった。こうした赤字は、同社がイリノイ州ノーマルに工場を建設し、R1TピックアップトラックとR1S SUVの生産開始と従業員増強を準備するのに伴って10億ドル(約1110億円)へと倍増した。同社は現在、カリフォルニア州、ミシガン州、イリノイ州、そして英国の施設で8000人超を雇用している。

以来、赤字は悪化している。Rivianは2021年上半期に9億9400万ドル(約1104億円)の赤字を計上した。前年同期の赤字3億3700万ドル(約374億円)よりも多い。

同社はまた、長期的な事業戦略と、初のEVをまず米国とカナダで、その後ほどなくして欧州で販売する計画も明らかにした。アジアでの販売がその後に続く。同社はフォームS-1で、そうした新マーケットでの成長を支えるためにローカルの施設を建設すると述べた。

Rivianはまた、 9月時点での米国とカナダでのR1TピックアップトラックとR1S SUVのプレオーダーが4万8390件であることも明らかにした。払い戻し可能な1000ドル(約11万円)の前金を要するプレオーダーは必ずしもそのまま販売台数にはならない。だが、プロダクトに対する需要の兆候を示す。

RivianはフォームS-1でForeverという慈善活動を立ち上げたことも明らかにした。同社は差し当たって、このIPO完了直前の発行済み株式の1%の自社クラスA普通株で資金をまかなう。

画像クレジット:Kirsten Korosec

原文へ

(文:Kirsten Korosec、翻訳:Nariko Mizoguchi

ソフトバンク出資のインドの格安ホテル予約サービス「Oyo」がIPO申請、最大約1290億円調達へ

Oyo(オヨ)は公開市場を探索する準備が整ったようだ。創業8年のインドの格安ホテル大手である同社はインド証券取引委員会にIPO申請の書類(PDF)を提出した。書類によると、同社は11億6000万ドル(約1290億円)の調達を模索する。

グルガーオンに本社を置くOyoは、ホテル経営者にデジタル予約・決済の導入、部屋の最適価格の決定、サードパーティ予約サービスの統合をサポートするオペレーティングシステムを提供している。同社は新規株式の発行で9億4200万ドル(約1045億円)を調達することを目指していて、残りは既存株の販売(セカンダリー取引)で調達する。

SoftBank(ソフトバンク)は1億7500万ドル(約194億円)超相当の株式を売却する計画だとOyoはIPO申請書類で説明した。同社は3億3000万ドル(約366億円)を借金返済にあてる。同社はつい最近、負債で6億6000万ドル(約732億円)を調達していた。

主な投資家にSoftBank、Airbnb、Lightspeed Venture Partners、Sequoia Capital India、Microsoftなどを持ち、直近の評価額が96億ドル(約1兆650億円)だったOyoは、個人投資家から何を得ようとしているのか詳細を明らかにしていない。しかし今週初めにTechCrunchが報じたように、わかっていることがある。OyoはIPOで評価額120億ドル(約1兆3312億円)を目指している。そして同社の若い創業者、Ritesh Agarwal(リテッシュ・アグルワール)氏は自身の持分を売却しない。

10月1日の仮目論見書提出は、近年海外マーケットでかなり野心的に事業を拡大してきたものの、そうした取り組みにブレーキをかけて方向を修正したOyoにとって大きな転換だ。

他のホスピタリティー・旅行業界の企業と同様、Oyoもパンデミックで大打撃を受けた。新型コロナウイルスの拡散を抑制しようと、一部の国はロックダウン措置を取ったため、売上高が60%減った時期もあったと同社は明らかにした。

同社の2021年3月までの会計年度の総収入は6億ドル(約665億円)で、5億2800万ドル(約585億円)の赤字だった。

ただ、同社の主要マーケットがここ数四半期に経済活動を再開したため、同社は直近の数カ月で急速な回復の兆しを見せている。仮目論見書の中で、4つのマーケット(インド、インドネシア、マレーシア、欧州)が同社の総売上高の約90%を占めると明らかにした。

Oyoはまた、このところホテルとの関係を簡素化してきた。同社は現在ホテルを所有せず、その代わり15万7000を超えるパートナーと協業し、そうしたパートナーがホテルやリゾート、住宅を運営するのをサポートしている。パートナーに最低保証も約束していない。

ソフトバンクが現在45%超の株式を保有するOyoのストーリーは、アグルワール氏がラージャスターン州でより良い教育を受けようと故郷を後にしたところから始まる。同氏は頻繁にデリーに住む友人を訪ね、友人の家や安いホテルに宿泊した。そして10代後半で通っていた学校を退学したとき、同氏は格安ホテルが毎晩部屋を埋めるのに苦労しているのに気づいた。

そしてアグルワール氏は、ホテルのリノベーションを自身にさせるようホテル経営者を説得し、将来の手数料と引き換えに企業に販促を始めた。これは同氏が過去の会話で語ったことだ。

この取引は、成功したことがすぐさま証明された。そして、マーケットで無視されてきた部門にフォーカスするために、アグルワール氏がテクノロジーを使ってサービス拡大を模索することにつながった。

Oyoのサービス

これがOyoの始まりだ。同社はすぐに成功し、PayPal共同創業者Peter Thiel(ピーター・ティール)氏の財団からの共同出資をひきつけるほど急速な成長だった。

Oyoはまず市場をリードする地位を築き、それから事業を拡大した。東南アジア、欧州、中国、米国から始めた。同社の積極的な拡大は部分的には成功で、部分的には失敗でもあった。欧州と東南アジアではいうまくいっているが、中国と北米のマーケットに参入するのは同社が思った以上に難しいことがわかった。

事業拡大の最中に、27歳のアグルワール氏は同社に7億ドル(約776億円)を投資した。同氏は、この投資に先立って、自身の持分を10%から30%に引き上げるためにRA Hospitality Holdingsという企業を通じて20億ドル(約2219億円)を使う計画だと発表した。アグルワール氏と同氏の持ち株会社のOyoの持分はいま32〜33%だと仮目論見書にはある。

Oyoのアプリは1億回超ダウンロードされ、従業員の70%がインド国内居住だと同社は仮目論見書に書いた。そして同社は、2019年12月時点で獲得可能な最大市場規模は短期滞在施設5400万軒だととらえている。

「インド、インドネシア、マレーシアでは、2018年と2019年にOYOプラットフォームに加わったホテルの2019年の業績は、同規模の他の独立経営ホテルを上回りました。OYOプラットフォームに加わってから12週間後、OYOで稼働しているホテルの2019年の売上高は、インド、インドネシア、マレーシアにおける同規模の独立経営ホテルの推定平均売上高の1.5〜1.9倍でした。欧州では、OYOで稼働している民泊施設の売上高は2019年に、個人で運営している施設の推定平均売上高の2.4倍でした」と仮目論見書にはある。

Oyoの事業についての知見が得られる2枚の興味深いスライドが仮目論見書にあった。

OYOで稼働しているホテルと比較対象の独立経営ホテルのコロナ前の平均売上高(米ドル、2019年)

Oyoはフード、小売、ホテル、旅行事業においてインドで2番目に大きいロイヤルティプログラムを展開している

この記事にはCatherine Shu氏も協力した。

画像クレジット:Akio Kon / Bloomberg / Getty Images

原文へ

(文:Manish Singh、翻訳:Nariko Mizoguchi

ボルボの高級EVブランドPolestarが約2兆2200億円の評価額でSPAC上場へ

スウェーデンのEVメーカーPolestar(ポールスター)は、特別買収目的会社(SPAC)のGores Guggenheim Inc.(ゴアズ・グッゲンハイム)との間で合併によるIPO(新規株式公開)に向けて合意したと発表した。これにより、Polestarの評価額は200億ドル(約2兆2200億円)に達する見込みだ。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は米国時間9月26日、この取引に詳しい関係筋を引用して、SPAC合意が間近に迫っていると報じていた。TechCrunchは、公式発表の情報を反映してこの記事を更新した。合併が完了すると、統合後の会社は、Polestar Automotive Holding UK Limitedという新しい公開企業が保有する。この会社は「PSNY」というティッカーシンボルでNASDAQに上場する予定だ。

PolestarはVolvo Car Group(ボルボ・カー・グループ)のEVパフォーマンスブランドに該当するが、PolestarとVolvoはともに、中国の自動車メーカーであるZhejiang Geely Holding(浙江吉利控股集団有限公司)が所有している。

今回の発表により、Polestarは、過去2年間にSPACを通じて上場した、Arrival(アライバル)、Nikola(ニコラ)、EVgo、Proterra(プロテラ)、Lucid Motors(ルーシッド・モーターズ)、Bird(バード)などのEVおよびEV関連企業の仲間入りを果たす。

Polestarは、EV製造業界におけるライフサイクルアセスメントの枠組みを構築することを目指している。製造、販売、廃車のプロセス全体が透明でトレーサブルであり、カーボンニュートラルな自動車を作ることができるというものだ。同社は、6月に初のSUVであるPolestar 3(ポールスター3)を米国で製造する計画を発表し、2022年にはグローバルに生産を開始する予定だ。高品質の部品と米国での製造施設は、決して安い取り組みではない。今回の報道が事実となれば、IPOはPolestarが目標達成に必要な資金を得る手段になり得る。

また、この合併は、PolestarがTesla(テスラ)に対抗するために、米国での市場投入を早めることにもつながる。Polestarは、セダンタイプのPolestar 2をTeslaよりも優れたクルマと位置づけているが、EV業界で同じような知名度を持ち、信頼されるためには、資金が必要だ。2020年、Polestarは部品の不具合により、全世界の車両のリコールを余儀なくされた

SPAC(特別買収目的会社)であるGores Guggenheimは、3月のIPOで8億ドル(約888億円)を調達し、7月にはBloombergがPolestarと交渉していると報じていた。

関連記事
Polestarが2030年までに温暖化ガスの排出量をすべて見直して初の「クライメートニュートラル」なEV開発を目指す
ボルボの高級EVブランドPolestarが初のフル電動SUV「Polestar 3」を米国で生産へ

画像クレジット:Geely holdings/Polestar

原文へ

(文:Rebecca Bellan、翻訳:Aya Nakazato)

インドの格安ホテルチェーンOyoが来週にもIPO書類を提出か

インドの格安ホテルチェーンスタートアップOyo(オヨ)は早ければ来週にも新規株式公開の書類を提出する。この件に詳しい人物がTechCrunchに明らかにした。世界第2位のインターネット市場であるインドで株式公開に取り組んでいるひと握りの企業に仲間入りする。

まだ秘匿事案であることから匿名を希望した複数のバンカー情報筋によると、27歳のRitesh Agarwal(リテッシュ・アグルワール)氏が興した創業7年のOyoはIPOで12億ドル(約1320億円)を調達しようとしている。

この内容は今後数日で若干変わる可能性はあり、IPO書類の提出も追加でもう数日かかるかもしれない、と情報筋は話した。

Zomato(ゾマト)、そして Paytm(ペイティーエム)やPolicyBazaar(ポリシーバザール)などを含むいくつかの会社と同様、Oyoはインドの証券取引所に上場する計画だと情報筋の1人は話した。

投資家にソフトバンク、Lightspeed Partners(ライトスピードパートナーズ)、Airbnb(エアビーアンドビー)などを抱え、直近の評価額が96億ドル(約1兆570億円)だったOyoは、3カ月前の時点で銀行口座に7億8000万ドル(約860億円)〜8億ドル(約880億円)を持っていて(このほど開かれた会議でのアグルワール氏の公のコメントによる)、7月にデットで6億6000万ドル(約730億円)を調達した。

Microsoft(マイクロソフト)からの戦略的投資で最近約500万ドル(約5億5000万円)を調達したOyoは約36カ国で事業を展開している。インドで最も評価額の大きな企業の1つである同社は、ホテル経営者がデジタルで予約や支払いを受けられるようにするオペレーティグシステムのようなものを開発した。このテクノロジースタックを使って、同社はホテル経営者が部屋の最適な価格を決めたり、インターネット上でホテルを見つけやすくしたりするのをサポートしている。Booking.comやMakeMyTripといったサードパーティのホテル予約サービスの統合も手伝っている。

関連記事:マイクロソフトがインドのホテルチェーン「Oyo」に投資へ

旅行やホスピタリティ産業の大半の企業と同じく、Oyoはパンデミックで大打撃を受けたが、ここ数カ月でかなり回復した。

同社の売上高の大半は、ワクチン接種が進むにつれてロックダウン規制を緩和したインドやマレーシア、インドネシア、欧州などを含む一握りのマーケットからきている。

7月のBloomberg TVとのインタビューの中で、アグルワール氏はOyoが「すでに上場企業のように事業を展開している」と述べたが、すぐに上場するつもりなのかどうか明言は避けた。同社はこれまでのところIPO計画についてはコメントしていない。

画像クレジット:Akio Kon / Bloomberg / Getty Images

原文へ

(文:Manish Singh、翻訳:Nariko Mizoguchi

米国IPOで評価額9900億円を目指すインド生まれの顧客管理ソフトウェアFreshworks

Freshworks(フレッシュワークス)は米国時間9月13日に、米国の新規株式公開(IPO)で最大90億ドル(約9900億円)の評価額を目指していることを明らかにした。同社はIPOで8億ドル(約881億円)以上を調達することを望んでいる。

もともとはインドで設立され、現在はSalesforceに対抗する、このカリフォルニアの企業は、28ドル(約3081円)から32ドル(約3522円)の価格帯で2850万株を売却する計画だと語った。もし同社がその上限でその株を売ることができれば、9億1200万ドル(約1004億円)を調達することになる。Freshworksは、もともと8月下旬にIPOの書類を提出していたが、いくつかの数字を開示していなかった。

創業11年の同社は、2019年11月の直近の資金調達ラウンドでは35億ドル(約3852億円)と評価された。この問題に詳しい人物は、スタートアップは2021年初めに50億ドル以上の評価額でIPO前ラウンドを行うことも検討したが、結局それは行わないことにしたとTechCrunchに語った。

関連記事:顧客管理ソフトウェアのFreshworksがシリーズHで約160億円を調達

Accel、Sequoia Capital India、Tiger Global、CapitalGなどが、投資家として連なるFreshworksは、CRMからヘルプデスクソフトウェアに至る、さまざまなビジネスソフトウェアツールの開発および提供を行っている。近年には、顧客に一連の統合ビジネスツールを提供するためにエンタープライズSaaSプラットフォームを構築し、製品提供の拡大を積極的に追求してきた。

NASDAQへFRSHのシンボルでの株式上場を申請したこのスタートアップは、現在5万を超える顧客にサービスを提供し、2021年上半期の収益は、前年同期の1億1100万ドル(約122億2000万円)から1億6900万ドル(約186億円)に増加した。同時に、純損失は1年前の5700万ドル(約62億7000万円)から980万ドル(約10億8000万円)に減少した。

「まず第一に、International Data Corporation(IDC)の業界調査に基けば、約1200億ドル(約13兆2000億円)ものの巨大なアクセス可能市場があると信じています」と同社は9月13日に更新されたS-1ファイリングの中で述べている。

「そして第二に、社内のデータと分析に基づいて、当社の製品の年間の潜在的な市場機会は770億ドル(約8兆4800億円)と見積もっています。[…]お客様が当社の製品をより多く採用し、使用を拡大していただくことで、当社の推定市場機会は拡大し続け、当社の製品を使用するための顧客あたりの加重平均ARR(年間経常収益)が増加すると予想しています」。

最近TechCrunchは、Freshworksの共同創業者で最高経営責任者のGirish Mathrubootham(ガーリッシュ・マシュルブーサム)氏にビジネスについて話を聞いた。マシュルブーサム氏は、インドで最も尊敬されている起業家の1人だ。マシュルブーサム氏は、世界で2番目に大きなインターネット市場でアーリーステージのSaaSスタートアップを支援するために、3人の友人とともに、2021年7月下旬に8500万ドル(約93億6000万円)のベンチャーファンドを立ち上げている

画像クレジット:Freshworks

原文へ

(文:Manish Singh、翻訳:sako)

ユニコーン企業のオンライン学習プラットフォームQuizletがIPOを準備中

10億ドル(約1099億円)と評価されてから約1年、人工知能で動く個別指導プラットフォームに変わったフラッシュカードツールのQuizlet(クイズレット)は新規株式公開を計画している。この件に詳しい人物によると、Quizletの株式公開の準備はかなり進んでいる。直近の求人情報では、同社は「IPOを目指すのにともない、財務システムとプロセスの構築をサポートする」上級職の人材を求めている。

関連記事
リモート学習の急拡大でオンライン記憶カードのQuizletが評価額1000億円越えでユニコーンに
Quizletの月間アクティブユーザーが5000万人を突破

TechCrunchへの電子メールで、サンフランシスコ拠点のQuizletはコメントを却下した。同社は具体的な売上高や、収益をあげているかどうかなどについて多くを語らなかった。まだ未公開である同社は2020年、売上高は年100%成長していると述べた。ウェブサイトでは、月間の学習者は6000万人で、2018年の総数から1000万人増えたとしている。

Quizletはシェアするのも使うのも簡単なプロダクトで大規模なビジネスを構築した。同社の無料のフラッシュカードメーカーでは学生が試験に備えるためにトピックの学習参考書を回すことができる。そうした知見はQuizlet Plusにつながっている。Quizlet Plusは同社のサブスクプロダクトで、年額47.88ドル(約5300円)で個別指導サービスを含むその他の機能にアクセスできる。

同社のCEOであるMatthew Glotzbach(マシュー・グロッツバッハ)氏によると、Quizlet LearnというQuizletの個別指導部門は最も人気のサービスだ。学習者がシステムを使っているとき、Quizlet Learnは学習者がどこで間違えたのか、そしてどこで進歩したのかを常に査定する。

「明らかにこれは人間に取って代わっておらず、またそこに近づいてもいませんが、参考書を提供して正しい方向を示し、正しい場所で時間を費やせるようにサポートできます」とグロッツバッハ氏は話す。「目標を定めるのをサポートすることでさえ、学習における重要なステップです」。

直近では同社は、人気の教科書の問題セット向けのステップバイステップの解答ガイドを提供する「説明」の立ち上げを発表した。この機能は「専門家によって書かれ、検証されて」おり、「学生が演習し、学習したことを自分で応用できるよう、練習問題で根拠と思考過程の理解」をサポートすることを目的としていると声明文で説明した。全面的なブランド変更の中で、同社はまた不運な前任者からQを取り戻した

Quizletの新規株式公開に向けた静かな歩みは、ゆっくりとしたものだが着実だった。同社は15歳だったAndrew Sutherland(アンドリュー・サザーランド)氏によって2005年に創業された。2015年までは事業は自己資金で賄われた。その後、YouTubeの幹部だったグロッツバッハ氏が2016年に加わった。同社にはまだCFO(最高財務責任者)がいないようだが、これは株式公開しようとしている企業にとっては珍しいことだ。

Quizletはベンチャーキャピタル6200万ドル(約68億円)の大半をグロッツバッハ氏のもとで調達した。現在、同社の投資家にはGeneral Atlantic、Owl Ventures、Union Square Ventures、Costanoa Ventures、Altos Venturesなどがいる。

Quizletの株式公開の追求は、他のEdTech企業が市場の受容性をこの部門で示している中でのものだ。例えばDuolingo(デュオリンゴ)も消費者向け教育の会社だ。ただしQuizletが幅広い学習内容になっているのに対し、Duolingoは1つの分野にフォーカスしている。Duolingoは7月に株式公開し、現在は始値を上回る1株あたり169.75ドル(約1万8660円)で取引されている。

関連記事:EdTechユニコーンDuolingoが株式公開を申請

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

原文へ

(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Nariko Mizoguchi

タンパク質探索プラットフォームのAbsciが市場デビューを果たす

バンクーバーを拠点とし、多面的な医薬品開発プラットフォームを開発するAbsci Corpは米国時間7月22日、株式を公開した。一般的にリスクが高いと言われている医薬品開発事業だが、これはこの分野における新しいアプローチへの関心が著しく高まっていることを示唆するニュースである。

Absciは前臨床段階での医薬品開発の加速化に注力しており、薬の候補を予測し、潜在的な治療ターゲットを特定し、治療用タンパク質を何十億もの細胞でテストして、どれが追求する価値のあるものかを特定することができる複数のツールを開発、取得している。

Absciの創業者であるSean McClain(ショーン・マックレーン)氏は、TechCrunchのインタビューに応じ「我々は医薬品開発のための完全に統合されたエンド・ツー・エンドのソリューションを提供しています。タンパク質創薬とバイオマニュファクチャリングのためのGoogle検索だと想像してみてください」と話している。

IPOの初値は1株あたり16ドル(約1760円)。S-1ファイリングによると、プレマネー評価額は約15億ドル(約1650億円)となっている。同社は1250万株の普通株式を提供し、2億ドル(約220億円)の資金調達を計画しているが、Absciの株式はこの記事を書いている時点ですでに1株あたり21ドル(約2300円)にまで膨らんでいる。同社の普通株は「ABSI」というティッカーで取引されている。

同社がこのタイミングでの株式公開を決めた理由は、新たな人材を獲得して維持する能力を高めるためだとマックレーン氏は話している。「急速な成長と規模拡大を続ける当社にとって、トップクラスの人材の確保が欠かせません。IPOによって、優秀な人材の確保と維持のために必要な知名度が得られることでしょう」。

2011年に設立されたAbsciは、当初から大腸菌でのタンパク質の生産に着目。2018年には複雑なタンパク質を構築できるバイオエンジニアリングされた大腸菌システムである「SoruPro」という初の商用製品を発売した。2019年、同社は「タンパク質印刷」プラットフォームを導入することで、このプロセスをスケールアップさせている。

創業以来、今では170人の従業員を抱えるまでになり、2億3000万ドル(約253億円)を調達した同社。Casdin CapitalとRedmile Groupが主導して2020年6月にクローズした1億2500万ドル(約138億円)のクロスオーバーのファイナンスラウンドが最近の資金流入だ。しかしAbsciは2021年になって2つの大きな買収を行い、タンパク質の製造・検査からAIを活用した医薬品開発まで、提供するサービスを完成形へと近づけたのである。

2021年1月、AbsciはディープラーニングAIを用いてタンパク質の分類と挙動予測を行うDenoviumを買収。Denoviumの「エンジン」は、1億個以上のタンパク質で学習されたものだ。また6月には、特定の病気に対する免疫系の反応を分析するバイオテック企業、Totientを買収した。買収当時、Totientはすでに5万人の患者の免疫系データから4500の抗体を再構築していた。

Absciはすでにタンパク質の製造、評価、スクリーニング技術を保有していたものの、Totientの買収により新薬の潜在的なターゲットを特定することが可能になった。また、Denoviumの買収によりAIベースのエンジンが追加され、タンパク質の発見がこれにより容易になったのである。

「我々が行っているのは、ディープラーニングモデルに(自社のデータを)投入することで、それがDenoviumを買収した理由です。Totientを買収する前は創薬や細胞株の開発を行っていました。今回の買収により統合が完全になったため、ターゲット発掘もできるようになりました」とマックレーン氏は話している。

この2つの買収によって、Absciは医薬品開発の世界でとりわけアクティブかつニッチな位置に身を置くことになったわけだ。

数十年もの間、医薬品の研究開発はローリターンとされてきたにもかかわらず、医薬品開発における新たなアプローチの開発には注目すべき財政的関心が寄せられている。Evaluateの報告によると、新薬開発企業は2021年上半期、欧米の取引所でのIPOで約90億ドル(約9900億円)を調達している。医薬品開発は一般的にハイリスクであるにもかかわらずだ。バイオ医薬品のR&Dリターンは、2019年に1.6%と過去最低を記録し、現在も約2.5%までにしか回復していないとDeloitteの2021年の報告書は指摘している

医薬品開発の世界ではAIの役割がますます大きくなってきている。「ほとんどのバイオファーマ企業が、AIを創薬、開発プロセスに統合しようとしている 」と、同じくDeloitteのレポートは伝えている。また、スタンフォード大学のArtificial Intelligence Indexの年次報告書によると、2020年に創薬プロジェクトはこれまでで最も多くのAI投資を受けていたという。

最近では候補化合物を前臨床開発の段階へと進められた企業によって、医薬品開発におけるAI活用の将来性が高められているようだ。

6月、香港のスタートアップInsilico MedicineはAIが特定した特発性肺線維症の薬剤候補を前臨床試験の段階にまで進めたことを発表。この成果により2億5500万ドル(約280億円)のシリーズCラウンドが成立した。創業者のAlexander Zharaonkov(アレクサンダー・ジャラオンコフ)氏はTechCrunchに対し、PI薬の臨床試験を2021年の終わりか2022年初めに開始する予定だと話してくれた。

関連記事:開発期間も費用も短縮させるAI創薬プラットフォームのInsilico Medicine、大正製薬も協業

AIとタンパク質生産の両方をてがけるAbsciは、誇大広告が多く、混み合った空間ですでに確固たる地位を確立している。ただし、ビジネスモデルの詳細については今後詰めていかなければならないだろう。

Absciは医薬品メーカーとのパートナーシップによるビジネスモデルを追求している。つまり、自社で臨床試験を行うことは考えていないわけだ。医薬品の開発過程のある段階に到達することを条件とした「マイルストーンペイメント」や、医薬品が承認された場合に販売額に応じたロイヤルティで収益を得ることを想定している。

これにはいくつかの利点があるとマックレーン氏はいう。何百万ドル(何億円)もの研究開発費を投じて試験を行った後に新薬候補が失敗するというリスクを回避でき、また一度に「数百」もの新薬候補の開発に投資することができるのだ。

現時点でAbsciは製薬会社との間で9つの「アクティブなプログラム」を行っている。同社の細胞株製造プラットフォームは、Merck、Astellas、Alpha Cancer technologiesを含む8つのバイオファーマ企業の薬剤試験プログラムで使用されている(残りは非公開)。これらのプロジェクトのうち5つは前臨床段階、1つは第1相臨床試験、1つは第3相臨床試験、最後の1つは動物の健康に焦点を当てたものであると同社のS-1ファイリングに記載されている。

現在Absciの創薬プラットフォームを使用しているのはAstellasのみだが、マックレーン氏がいうように、創薬機能は2021年展開したばかりである。

しかしこれらのパートナーはいずれも、Absciのプラットフォームを正式にライセンスして臨床または商業利用しているわけではない。マックレーン氏は、9つのアクティブなプログラムの中には、マイルストーンやロイヤリティの可能性があると考えている。

確かに同社の収益性に関しては、まだ改善の余地がある。2021年の時点でAbsciは約480万ドル(約5億3000万円)の総収入を得ており、2019年の約210万ドル(約2億3000万円)から増加傾向にある。それでもコストは高止まりしており、S-1ファイリングによると過去2年間で純損失を計上。2019年には660万ドル(約7億3000万円)の純損失、2020年には1440万ドル(約16億円)の純損失を計上しているという。

同社のS-1によると、これらの損失は、研究開発費、知的財産ポートフォリオの構築、人材の雇用、資金調達、およびこれらの活動に対するサポートに関連する支出とされている。

マックレーン氏によると同社は最近、7万7000平方フィートの施設を完成させたという。今後事業規模を拡大していく可能性があるという意味なのだろう。

当面はIPOで調達した資金を使ってAbsciの技術を使用するプログラム数を増やし、研究開発に投資し、同社の新しいAIベース製品を継続的に改良していく予定だ。

画像クレジット:CHRISTOPH BURGSTEDT/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

原文へ

(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

EVメーカーのRivianが秘密裏にIPOを申請

Ford(フォード)やAmazon(アマゾン)など、多くの機関投資家および戦略投資家に支援されている新興EVメーカーのRivian(リヴィアン)が、米国証券取引委員会(SEC)に対し、秘密裏に上場申請の書類を提出した。

IPOの規模や株価幅は未定だ。簡潔な声明によると、IPOはSECが審査プロセスを完了した後に、市場やその他の状況に応じて実施される予定だという。

今回の秘密申請は、RivianがAmazonのClimate Pledge Fund、D1 Capital Partners、Ford Motor(フォード・モーター・カンパニー)、T. Rowe Price Associates Inc.がアドバイザーを務めるファンドおよび口座が主導する25億ドル(約2746億円)の私募式ラウンドをクローズしたと発表してから、2カ月も経っていない。このラウンドにはThird Point(サードポイント)、Fidelity Management and Research Company、Dragoneer Investment Group、Coatueも参加した。

同社は2021年7月のラウンド発表時には、ポストマネー評価額を公表しなかった。

現在7000人の従業員を擁するこのEVメーカーは、9月にピックアップトラック「R1T」の納入を控えている。R1Tとそれに続くSUVを生産するためには資本が必要だが、Rivianがそれを調達するのは難しいことではなかった。

Rivianはこれまでに約105億ドル(約1兆1532億円)を調達している。2021年1月には、既存の投資家であるT. Rowe Price Associates Inc.、Fidelity Management and Research Company、AmazonのClimate Pledge Fund、Cootue、D1 Capital Partnersから26億5000万ドル(約2910億円)を調達した。このラウンドには新規投資家も参加し、Rivianの評価額は276億ドル(約3兆円)に達したと、同ラウンドに詳しい情報筋が当時TechCrunchに語っていた。

このニュースは進行中のため、新情報が入り次第引き続きお伝えする。

【更新】このニュースを最初に報じたBloombergによると、Rivianは約800億ドル(約8兆7862億円)の評価額を求めており、感謝祭(11月末)前後のIPOを視野に入れているとのこと。TechCrunchは現時点でこの報道を独自に確認していない。

関連記事
Rivianが事業拡大を見据えAmazonのファンドなどから新たに約2760億円調達
Rivianがコロラド州に続きテネシー州の56の州立公園にEVチャージャーを設置
・​​Rivianが電動車両R1TとR1Sの納車時期を9月以降へとさらに延期
画像クレジット:Rivian

原文へ

(文:Kirsten Korosec、翻訳:Aya Nakazato)

クラウド録画プラットフォームの「セーフィー」が9月29日マザーズ上場へ

クラウド監視カメラ&クラウド録画の「セーフィー」が9月29日マザーズ上場へ

クラウド録画プラットフォーム「Safie」を手がけるセーフィーは8月25日、東京証券取引所マザーズに新規上場を申請し承認されたと発表した。上場予定日はは2021年9月29日で、証券コードは4375。

セーフィーは、「映像から未来をつくる」というビジョンを掲げ2014年10月に設立。対応カメラとインターネットをつなぐだけで、遠隔地にいてもスマホやPCからリアルタイムで現地の映像・音声を確認できるというクラウド録画サービス「Safie」を展開している。

またSafieは、サブスクリプション形態で提供しており、2021年6月末時点で、課金カメラ台数が12.9万台となっている。2020年のクラウドモニタリング・録画サービス市場において、稼働台数ベースで約47.5%のシェアを獲得した。

同サービスの拡大に向け100社以上の販売パートナー網も構築しており、特にNTTグループ、Canonグループ、SECOMグループ、関西電力グループなどの企業グループとは資本・業務提携を実施している。2021年6月末時点でのOEM提供パートナーは8社。残りの販売パートナーはSafieブランドのまま再販する販売パートナーとなっており、両社を合わせて販売パートナーとしている。

これまでの資金調達としては、ソニーネットワークコミュニケーションズ、オリックス、関西電力、キヤノンマーケティングジャパン、NECキャピタルソリューション、ティーガイア、セコムなどを引受先とする第三者割当増資を実施している。

上場にともない329万7000株を公募し、571万1000株を売り出す。オーバーアロットメントによる売り出しは135万1000株。ソニーネットワークコミュニケーションズ(116万株)、代表取締役社長CEOの佐渡島隆平氏(90万株)、オリックス(65万株)、キヤノンマーケティングジャパン(65万株)などが株式を放出する。

公募・売り出し価格の仮条件の決定は9月9日、ブックビルディング期間は9月10~16日。価格の決定日は9月17日。

ForgeRockがアイデンティティーおよびアクセス管理事業の拡大にともないIPO申請

ForgeRock(フォージロック)は米国時8月24日、米証券取引委員会(SEC)にフォームS-1を提出し、IPOに向けて次のステップを踏み出した。

同社は想定株価を提示しなかった。同社の株式はニューヨーク証券取引所でシンボル「FORG」として取引される。Bloomberg(ブルームバーグ)によると、このIPOはMorgan StanleyとJ.P. Morgan Chase & Co.がリードしており、同社の評価額は40億ドル(約4400億円)に上る。これは、PitchBookにある、2020年に行った前回のラウンド後のポストマネーの価値である7億3000万ドル(約803億円)を大幅に上回る。

あらゆる規模の組織に対するサイバーセキュリティ攻撃が増え続ける中、ユーザーのアイデンティティーを安全に管理する必要性が高まっている。サンフランシスコに拠点を置くForgeRockは、これまで複数のラウンドで2億3300万ドル(約256億円)の資金を調達している。同社の最後のラウンドは、2020年4月に発表された9350万ドル(約103億円)のシリーズEで、Accenture Venturesと並んでRiverwood Capitalがリードした。当時、CEOのFran Rosch(フラン・ロシュ)氏は、このラウンドがIPO前の最後のラウンドになるだろうとTechCrunchに語っていた。これは2017年9月に同社が8800万ドル(約97億円)のシリーズDを実施した後に、前CEOのMike Ellis(マイク・エリス)氏が語ったことでもある。

ここ数年、同社のIPOのタイミングははっきりしていなかったが、同社の成長は良い軌道に乗っていた。同社はS-1で、6月30日時点での年間経常収益(ARR)が1億5500万ドル(約171億円)、前年比で30%の成長だったと報告した。

収益が増加する一方で、損失は縮小している。純損失は2000万ドル(約22億円)と、前期の3600万ドル(約39億円)から減少していた。同社は、世界全体で実現可能なIDサービスの市場は710 億ドル(約7兆8100億円)規模になると推定しており、成長の余地は大きいと考えている。

ForgeRockが対峙する多くの競合他社の中には、2017年に上場し、その後数年間で成長を続けているOktaがある。Oktaは3月、クラウドアイデンティティーのスタートアップであるAuth0を65億ドル(約7000億円)で買収し一部を驚かせた。また、2019年に上場したPing Identityも成長しており、8月4日には、6月30日までの四半期でARRが2億7960万ドル(約308億円)に達し、前年同期比で19%増加した。2018年にCisco(シスコ)に23億5000万ドル(約2585億円)で買収されたDuo Securityなど、この分野ではここ数年、大きなイグジットが続いた。

関連記事:クラウドアイデンティティ管理のOktaが同業のスタートアップAuth0を約7000億円で買収

「ForgeRockは優れたアクセス管理ツールを持っており、顧客のアイデンティティーとアクセス管理(CIAM)において強力なプレイヤーであり続けています」と、Gartner(ガートナー)のシニアリサーチディレクターであるMichael Kelley(マイケル・ケリー)氏はコメントした。

ケリー氏によると、ForgeRockは2020年に中核となるアクセス管理サービスのほとんどをSaaS型に変更し、すでにアクセス管理をSaaS型で提供している他の市場に追いついたという。また、2020年はアイデンティティー・ガバナンスの分野にも進出し、まったく新しいアイデンティティ・ガバナンス・アドミニストレーション(IGA)製品を発表した。

「ForgeRockが提供している製品の中でも特に興味深いのは、ForgeRock Treesです。これは、顧客のために複雑な認証・認可のプロセスを構築するノーコードまたはローコードのオーケストレーションツールで、CIAM市場では特に有用です」とケリー氏は付け加えた。

ForgeRockは2010年創業だが、そのルーツは、2005年にSun Microsystems(サン・マイクロシステムズ)が立ち上げたOpenSSOと呼ばれるオープンソースのシングルサインオンプロジェクトにまで遡る。2010年初頭にOracle(オラクル)がSun Microsystemsを買収した際、同社の多くのオープンソースの取り組みが放置されたため、Sunの元従業員がForgeRockを創業した。

ForgeRockはこの10年間で、単にシングルサインオンを提供するだけでなく、コンシューマー、エンタープライズ、IoTのユースケースに対応するアイデンティティープラットフォームを提供するまでに大きく拡大した。現在、同社のプラットフォームは、アイデンティティーとアクセス管理に加えて、アイデンティティーガバナンスも扱っている。

同社がS-1でアピールしているのは拡張性の高さであり、そのプラットフォームは、顧客ごとに1秒間に6万件以上のユーザーベースのアクセストランザクションを処理できるという。

「2021年6月30日時点で、1億件以上のライセンスIDを持つ顧客が4社ありました」と同社はS-1で述べている。「大口顧客の複雑な環境におけるミッションクリティカルなニーズに対応する当社の能力が、大口顧客の基盤を拡大し、またそれぞれの顧客の中でも拡大することを可能にします」。

画像クレジット:LeoWolfert / Getty Images

原文へ

(文:Sean Michael Kerner、翻訳:Nariko Mizoguchi

医療用注射剤を代替するカプセル剤開発のRani TherapeuticsがIPO申請

医療用注射剤の代替となるカプセル剤の開発を進める、サンノゼを拠点とするRani Therapeuticsが米国時間7月30日金曜日に株式を公開した。

S-1申請書によると、IPO前週の株価は14ドル(約1500円)から16ドル(約1700円)の間と推定されている。金曜日に株価はやや下がり、約11ドル(約1200円)でデビューした。Rani Therapeuticsはこれで約7300万ドル(約79億6000万円)を調達した。

Raniのデビューは、セラピューティクス分野でのIPO活動が相次ぐ中でなされた。2020年には71のバイオテック企業が上場を果たしている。2021年はすでに59社がIPOを行っており、さらに多くの企業が現在進行中だ。7月30日だけで、Rani Therapeuticsを含む8つのバイオテック企業の取引開始が見込まれている。

Rani Therapeuticsの意識は、同社を取り巻くIPO活動というよりも、自らに向けられており、創業者のMir Imran(ミール・イムラン)氏の言葉を借りれば「レーザー光線のように集中」している。同社の主力製品であるRaniPillの第I相試験で、臨床への応用が期待される初期のエビデンスを得たことで、株式公開の決定が後押しされる形となった。

「私たちはすでに人を対象とする段階に入っており、間違いなくオーラルバイオロジクスを実現する確固たる道を歩んでいます。これはライフサイエンスの方向性を示す注目すべき特異な市場であり、私たちはこの分野でイノベーションを推進することに大きな興奮を覚えています」とイムラン氏はTechCrunchに語った。

Rani Therapeuticsの主力製品はRaniPillというカプセルで、通常は注射で投与される薬剤を体内に送り込む。TechCrunchはこの薬についてここで詳しく説明しているが、いくつかの基本的なステップに沿って作用するものだ。

関連記事:Rani Therapeuticsのロボットカプセルは皮下注射治療をどう変えるか

カプセル剤は胃酸に強いコーティングで覆われている。カプセル剤が小腸に入ると、コーティングが溶け、小さなバルーンを膨らませる。その小さなバルーンが膨らむと、微小針によって薬剤が注入される(微小針は薬剤投与後に溶解する)。その後、同社のS-1申請書によると、バルーンの残りの部分は「通常の消化過程を経て排泄される」。

このプロセスはすべてカプセル剤の中で行われる。見た目はジェルカプセルのようだ。

患者が注射よりも経口薬を好むことを示唆するエビデンスがいくつか存在する。例えば、がん患者を対象とした研究では、通常の注射よりも経口療法に対する患者の選好が明確になっている。ただし、すべての状況に当てはまるわけではない。一部の患者では、大量の錠剤を服用するよりも、注射で投与される長時間作用型の薬剤に対する選好が示されている(一部のHIV患者でこの傾向がみられる)。

しかし、注射針はあまり快適なものでない。2019年に発表された35件の研究のレビューとメタアナリシスによると、若年成人の20%から30%が注射針の使用を懸念しており、治療やワクチンを避ける人もいるという。

Rani Therapeuticsは、FDA承認済み薬剤のカプセル剤の開発を進めているが、これらの薬剤は多くの場合通常の注射で投与されるものだ。次の薬剤が開発対象に含まれている。

  • 末端肥大症または消化管の神経内分泌腫瘍(NET)に対するオクトレオチド
  • 乾癬性関節炎に対するTNF-α阻害薬
  • 骨粗鬆症に対する副甲状腺ホルモン(PTH)
  • HGH欠損症に対するヒト成長ホルモン(HGH)
  • 甲状腺機能低下症に対する副甲状腺ホルモン

同社の研究サイクルの中で最も進んでいる製品は、オクトレオチド(治験での名称はRT-101)を投与するために開発されたカプセルで、62人の参加者を対象とした第I相臨床試験で試験された。S-1申請書で部分的に報告された試験結果では、オクトレオチドのバイオアベイラビリティが注射薬と比較して65%であることが示された。このことは、カプセルが効果的に薬物を体内に取り込むことができることを示唆しているが、これらの結果はまだ初期段階にある。

Rani Therapeuticsは2022年に、骨粗鬆症治療薬のPTHとヒト成長ホルモンの2つの第I相試験を開始する。現在開発中の残りの薬についての研究は、2023年に予定されている。

同社の究極的な目標は、RaniPillを特定の薬剤とは切り離して妥当性を検証することにある。同社は、薬物を使用せずに臨床試験でRaniPillを試験できる治験用医療機器に関する適用除外(IDE)の承認取得を進めている。この研究は、製品が反復投与に対してどの程度安全かを明らかにすることを目的としており、2022年に開始される予定だ。

「引き続き薬を使ったデータの生成を進めていきたいと考えています。私たちは今後も薬を作ることになるからです。ですが、プラットフォームの安全性と忍容性を確立することは重要です」とイムラン氏。「ですから、この点(薬剤と切り離した妥当性の検証)にも高い重要性を見出しています」。

同社のリーダーには、バイオテック分野で成功したイグジットの実績がある。

Rani Therapeuticsは、2012年にミール・イムラン氏によって設立された。イムラン氏は1985年に、後にEli Lillyに買収されたIntec Systemsの一員として、植込み型除細動器を開発した。それ以来、同氏は20社に及ぶ医療機器企業を立ち上げている。そのうちの15社はすでにIPO済みもしくは買収済みだ。

しかし現時点では、Rani Therapeuticsの財務は大幅な損失を計上している。2019年と2020年の純損失は、それぞれ2660万ドル(約29億1200万円)と1670万ドル(約18億2800万円)だった。2021年3月現在、同社は1億1960万ドル(約130億円)の赤字を計上している。

これまでの資金調達総額は約2億1150万ドル(約230億円)で、これには今回のIPOで獲得したキャッシュは含まれていない。Rani TherapeuticsはIPOで調達した7300万ドル(約79億6000万円)をIDEの研究資金に充て、さらなる臨床試験を実施する計画だ。

関連記事
心電図読み取りAIを開発するCardiomaticsが約3.5億円を調達
注射に慣れていない医療従事者も対応の「VR注射シミュレーター」が高知県室戸市の新型コロナ・ワクチン接種研修で採用
糖尿病患者が針を身体に刺すことなくインスリンを投与できる体内ドッキング式の薬剤投与ロボットが開発中
画像クレジット:Rani Therapeutics

原文へ

(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

IPOを控えたソフトバンク出資のインド発ホテルチェーン「Oyo」にマイクロソフトが出資

今週明らかになった規制当局への提出書類によると、Microsoft(マイクロソフト)はインドの格安ホテルチェーン「Oyo(オヨ)」に500万ドル(約5億5000万円)を出資した。この投資は、7月のTechCrunchのスクープを裏付けるものだ。

この新たな投資によりOyoの評価額は96億ドル(約1兆540億円)となり、インドのスタートアップである同社が2019年に行った前回の資金調達ラウンドでの暗示的な企業評価、100億ドル(約1兆980億円)をわずかに下回っている。パンデミックの影響でビジネスを大幅に失ったこのスタートアップは、最大の投資家のひとつであるソフトバンクから、最近の四半期ではわずか30億ドル(約3295億円)と評価されていた。

関連記事:インドのホテルスタートアップOyoが創業者の株式購入で企業価値1兆円超え

TechCrunchは以前、この戦略的投資により、OyoがMicrosoftのクラウドサービスの利用にシフトする可能性もあると報じた。この件に詳しい2人の情報筋によると、同社は2021年後半にIPOを申請する予定だという。

インドで最も価値のあるスタートアップ企業の1つであるOyoは、近年、東南アジア、欧州、米国など多くの市場に積極的に進出している。しかし、「有害なカルチャー」、ガバナンスの欠如、多くのホテルオーナーとの関係など、いくつかの失策がその成長を傷つけた。

同社がホテルオーナーとの関係を改善すると誓約した矢先、パンデミックが発生した。それを受けてOyoは成長を減速し、世界各国でロックダウンが実施される中、2021年3月には世界で数千人の従業員を解雇した。

関連記事:ソフトバンク出資のインド格安ホテルチェーン「Oyo」が世界で5000人レイオフ

Ritesh Agawal(リテシュ・アガーワル)CEOは2021年7月、パンデミックは創業7年のスタートアップである同社をサイクロンのように襲った、とBloomberg TVに語っていた。「何年もかけて作り上げてきたものが、たった30日の間に60%以上崩壊しました」と同氏は語り、株式市場への参入については何も決断していないと付け加えた。

Airbnbが支援するOyoは、銀行に7億8000万〜8億ドル(約856億〜878億円)の残高があり、全事業の支出を毎月400万〜500万ドル(約4億4000〜5億5000万円)に削減したと、アガーワル氏は最近のバーチャルカンファレンスで述べた(2020年12月時点で同社の預金残高は約10億ドル[約1098億円]だった)。

7月、アガーワル氏が上記のカンファレンスでコメントした後、Oyoは負債によって6億6000万ドル(約725億円)を調達したと発表した。本件に詳しい関係者によると、その借金は以前の負債の返済に充てられたという。

2社間の取引が実現すれば、Microsoftにとってインドのスタートアップへの最新の投資になる。同社はこれまでにも、ニュースアグリゲーターと短編ビデオプラットフォームのDailyHunt(デイリーハント)、eコマースの巨人Flipkart(フリップカート)、物流SaaSのFarEye(ファーアイ)など、南アジア市場のスタートアップをいくつか支援してきた。

関連記事
マイクロソフトがインドのホテルチェーン「Oyo」に投資へ
GoogleがインドのスタートアップGlanceとDailyHuntに投資、世界第2位市場へさらに注力
画像クレジット:Akio Kon / Bloomberg / Getty Images

原文へ

(文:Manish Singh、翻訳:Aya Nakazato)