CO2排出量算出・可視化クラウドのゼロボードが三菱UFJ銀行と協業、金融機関向けCO2データインフラ機能拡充など目指す

CO2排出量算出・可視化クラウドサービス「zeroboard」を開発・提供するゼロボードは11月5日、カーボンニュートラルの実現に向け、三菱UFJ銀行との協業について基本合意したことを発表した。三菱UFJ銀行の持つネットワークや総合金融グループとしての知見と、ゼロボードのクラウドサービスや辰炭素経営に関するノウハウをかけ合わせ、企業の脱炭素経営を後押しするソリューションを提供する。

具体的には、以下のような取り組みを進める。

  • 三菱UFJ銀行の顧客企業へzeroboardの提供
  • zeroboardのCO2排出量データ・サプライチェーンデータに基づく三菱UFJ銀行による金融ソリューションの開発・検討
  • 金融機関含めその他事業者までも含めたオープンかつインクルーシブ(包括的)なパートナシップの発展およびソリューションプラットフォームの共同開発・提供
  • アジアを中心としたグローバル製造業サプライチェーンのCO2排出量可視化・削減支援
  • CO2排出量以外の社会インパクト評価手法・可視化手段、ソリューション提供分野での初期検討

zeroboardは、企業活動により排出されたCO2量を算出したうえで、温室効果ガス(GreenHouse Gas)の排出量の算定と報告に関する国際基準「GHGプロトコル」における対象範囲区分(Scope1~3)を可視化できるクラウドサービス。Scope1は「自社の事業活動における直接的なCO2排出」、Scope2が「他社から供給された電気、熱・蒸気の使用により発生する間接的なCO2排出」。またScope3は「上記以外の事業活動に関わるサプライチェーンのCO2排出」を示す。

zeroboardでは、「サプライチェーンでの排出量や商品ごとのCO2排出量の算出」「CO2排出量の削減管理やコスト対効果のシミュレーション機能」「TCFDなどの国際的な開示形式に加え、国内既存環境法令にも対応するアウトプット」「専門的な知識を必要としないユーザーフレンドリーな操作性」などの機能を備えているという。

食品廃棄物を利用して持続可能な軟木を堅木のように扱えるようにするKebonyが約40億円調達

これはごくシンプルなことだ。針葉樹(軟材)は「持続可能」な森林で、広葉樹(硬材)よりも早く成長する。広葉樹は、アマゾンのような生物多様性に富んだ原生林に多く見られる。つまり、もし軟材を硬材のように使うことができれば、より持続可能な建築用木材を入手できるだけでなく、広葉樹の森林を破壊から守ることができる。さらに、温室効果ガスの排出量も大幅に削減できる。


これが、Kebonyが開発した製品の背景にある理由だ。Kebonyは、自らを「木材改質技術会社」と位置付け、Jolt CapitalとLightrockが主導して、3000万ユーロ(約39億8000万円)の資金調達を実施した。その木材特性をコントロールする方法はとても興味深いものだ。

Kebonyは、持続可能な方法で伐採された木材に、サトウキビやトウモロコシなどの食品製造過程で発生する廃棄物を加えている。これにより、熱帯広葉樹の挙動や特性を実際に反映した、長持ちする特性を木材に与えることができるという。

もちろん、建設業界がよりグリーンな建設資材を求めている中で、このような素材を使用することは非常に理に適っているし、熱帯林の伐採を減らすことにもつながる。

Kebonyは、この処理によってパイン材のような木材を「貴重な熱帯広葉樹に匹敵し、場合によってはそれを上回る」特徴を持つ木材に変えることができるとしている。また、このプロセスは、木材防腐剤を含浸させる従来の木材処理よりも優れているという。

Kebonyの資金調達は、Jolt CapitalとLightrockがリードした。Jolt CapitalとLightrockは、以前からの株主であるGoran、MVP、FPIM、PMV、Investinorとともに参加し、後者2社は引き続き取締役会に参加する。

Kebonyのコア市場は欧州と米国で、今後も拡大を計画している。欧州の木材市場は、住宅・非住宅建築業界で30億ユーロ(約3980億円)規模の市場となっている。

KebonyのNorman Willemsen(ノーマン・ウィレムセン)CEOは次のように述べている。「Kebonyは市場で最も美しくエコロジカルな木材を生産しており、環境に優しく費用対効果の高い優れた品質を誇っています」。

Kebonyの創業者たち。ノーマン・ウィレムセンCEOとThomas Vanholme(トーマス・ヴァンホルム)CFO(画像クレジット:Kebony)

Jolt CapitalのマネージングパートナーであるAntoine Trannoy(アントワーヌ・トランノワ)氏は次のようにコメントしている。「Jolt Capitalでは、特許技術を活用して持続可能な製品を提供するマテリアルサイエンス企業に強い関心を持っています。ウッドテックにおける20年以上の研究開発と、栽培された針葉樹にハードな熱帯広葉樹の望ましい特性を与える実証済みのプロセスを持つKebonyは、そのうちの1つです」。

LightrockのパートナーであるKevin Bone(ケビン・ボーン)氏は、こう付け加えた。「Kebonyは、脱炭素社会に向けた競争の中で、木材改質技術のリーダーになるという野心を持っており、絶好の立場にあります」。

Kebonyによると、2021年上半期の売上高は2020年の同時期と比べて23%の成長を遂げ、EBITDAも大きくプラスとなっているという。

ウィレムセン氏は次のように説明してくれた。「私たちが実際に行っているのは、木材に含浸させてオートクレーブに入れることです。これにより、木材構造の細胞壁が恒久的に変化し、恒久的に変化した特性が得られ、実質的に木材の寿命を延ばすことができるのです」。

それは何よりだが、スケーラビリティはどれほどのものなのか、と尋ねてみた。

「実際、非常にスケーラブルです。現在、2つのオペレーションが稼動しています。さらにスケールアップするための基本的な青写真を持っています」。

コンクリートやスチールなどの伝統的な素材と比較して、カーボンフットプリントは「大幅に削減されます」と同氏は語った。「立方メートルあたりのCO2排出量は約350キロです。例えば、スチールや従来の広葉樹と比較すると、それらは約1万キロです。つまり、他の素材に比べて非常にわずかです」。

画像クレジット:Kristian Alveo / Kebony

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

マーク&リン・ベニオフ夫妻とSalesforceが気候変動対策で約340億円を寄付

Marc and Lynne Benioff(マーク&リン・ベニオフ)夫妻は米国10月28日、気候変動対策と他の人々に行動を促すために2億ドル(約227億円)を寄付すると発表した。マーク・ベニオフ氏の会社であるSalesforce(セールスフォース)がさらに1億ドル(約113億円)を追加し、寄付は計3億ドル(約340億円)だ。

ベニオフ夫妻の寄付金は2つに分けられる。1億ドルは「Benioff Time Tree Fund(ベニオフ・タイム・ツリー基金」に、残りの1億ドルは夫妻のベンチャー企業である「タイム・ベンチャーズ」に寄付され、気候変動に対処する製品やサービスを開発している有望な新興企業に投資される。

「Benioff Time Tree Fundは、新興国や発展途上国において、最もリスクの高いコミュニティや自然生態系への気候変動の影響を軽減するために、先住民族やコミュニティに根ざした森林管理に焦点を当てます」と同基金は声明で述べた。

マーク・ベニオフ氏は、気候変動に立ち向かうためには、さまざまな構成員が一致団結して努力することが必要であり、植林活動はそのための大きな要素だと話す。

「すべての政府、企業、個人が地球の保護と保全を優先すれば、気候変動の阻止に成功することができます。私たちは100ギガトンの二酸化炭素を分離しなければなりませんが、それを実現するためには森林再生が不可欠です」と述べた。

さらにTime Venturesの方では、エコに特化したスタートアップ企業に1億ドルを投資する計画だ。これは、夫妻の会社が2014年以降、DroneSeed、Loam Bio、Mango Materialsなどの企業に投資してきた1億ドルに上乗せされる。

Salesforceは、すでにネットゼロ(温室効果ガス実質ゼロ)を達成したことを表明しており、9月に開催された同社の顧客向けカンファレンス「Dreamforce」では、2021年3000万本の木を育てるというコミットメントを発表している。この追加の1億ドルは、生態系の修復や気候変動対策などの分野で活動する非営利団体を支援するための今後10年間の助成金など、いくつかの取り組みに分配される。さらに、気候変動対策に取り組んでいる団体に技術を提供し、250万時間のボランティア活動を行うことを計画している。

関連記事:Salesforceがバリューチェーン全体での温室効果ガス実質ゼロを達成

Salesforceのチーフ・インパクト・オフィサーであるSuzanne DiBianca(スザンヌ・ディビアンカ)氏は、ネットゼロの達成に向けた同社の活動は第一歩だが、今回の追加資金は他の団体を支援することを目的としていると話す。

「私たちは、気候変動対策を加速させるために活動している人々に力を与え、気候変動による影響を最も受けている人々を支援したいと考えています。二酸化炭素排出量を削減し、より健康的で回復力のあるネットゼロの世界を実現するためには、大胆かつ緊急の行動が必要です」と述べた。

同社は、再生可能エネルギーの使用と、それが不可能な場合はカーボンオフセットの購入を組み合わせてネットゼロを達成している。

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】気候変動の解決に向けたスタートアップの取り組み、私がNestを設立した理由

持続可能な変革を起こす最良の方法は、正しい行動が容易な行動でもある機会を作り出すことだ。今度の気候変動国際会議COP26は、それを可能にするためのさまざまな解決策を、新たな才能が採用し展開することを動機づけるまたとない機会だ。

一瞬の判断や習慣的行動になると、平均的消費者は常に便利な方の道を選ぶ。たとえそれが「正しくないこと」であっても。テクノロジーにユーザー体験への深い共感が組み合わさると、そこに消費者と出会う機会が生まれる。そこでは問題を解決する最低限の利便性を満たすだけではなく、より多くの人にとってよりよい方法で実現するソリューションを提供できる。

これまでに私は、テクノロジー関係でもそれ以外でも、企業がこの原則を見失うところを何度も目にしてきた。

長年制度化されている事例を挙げてみよう。リサイクルだ。リサイクルが無駄を減らし、その結果、気候変動を緩和するための鍵であることは誰もが知っている。私たちが今のペースでゴミを出し続けられないことは明らかだ。リサイクルは地球上の廃棄物負荷を軽減しようとする試みの1つだ。リサイクルのコンセプトは単純、古いものを新しい方法で再利用することだ。しかし、平均的消費者が青い分別箱(ガラス・金属・プラスチック用)と黒い分別箱(紙資源)の前で瞬時の判断を求められたとき、その品目の厳密な再利用性を調べるために必要な手順を踏むよりも、黒い箱に放り込む方がずっと簡単だ。

一方、我々Nest(ネスト)では、平均的世帯がサーモスタットを1日中同じ温度に設定していると莫大なエネルギーを無駄することを知っている。また我々は、忙しい人たち(あらゆる人は忙しい!)にとって一番やりたくないのが、サーモスタットの設定を天候パターンや時刻、エネルギー消費の急激な変化に基づいて忘れずに設定することなのも知っている

サーモスタットをオフにしなさい、なぜなら地球に優しいから、と人に勧める方法が1つ。もう1つの方法は、彼らのために自動的にサーモスタットをオフにしてあげることだ。当社が温度調節を最先端と感じられるようなオートメーションやエネルギー利用データ、アプリによる制御、デザインなどを導入した時、自分たちは持続的な変化をもたらすに違いない製品を作っていることを実感した。NestのLearning Thermostat(学習型サーモスタット)は、平均して世帯当たり暖房で10~12%、冷房で15%のエネルギーを節約している(詳しいデータはこちら)。

Nestは、たしかに家庭の省エネルギーをクールなものにした。しかしそれで終わりではない。個人だけでなく地球にとっての費用と便益を意識するよう顧客を教育している。Nestは、平均的消費者がより簡単で便利に正しい行動をとれるようにしている。

Nestよりもっと大きい話をしよう。

今はテクノロジーにとって大きな問題を解決するための重要な転機だ。その中でも最大かつ最も時期に迫られているのが気候変動だ。我々には、誰もが、そう、誰もが、地球を救う行動に参加するために過去数十年間に成し遂げた進歩を利用する機会がある。健康でいることに加えて、良いことを実際に成し遂げるテクノロジーを生み出し、支援し、推進していく必要がある。

私は投資家の1人として、この原則を受け入れているテック企業と無視しているテック企業の両方を毎日見てきた。数年前、私はSpan(スパン)のファウンダー、 Arch Rao(アーチ・ラオ)氏に会い、面倒な仕事を簡単にし、その過程で変化を起こす彼のアイデアに衝撃を受けた。現在、自宅の電力をまかなうことはかなり難しい。もちろん、ソーラーパネルや地下にバッテリーを設置することはできるが、家主にとってそれがどれほど省エネに貢献しているかを知るのは容易ではない。Spanは住宅内のあらゆる回路をスマートフォンアプリから遠隔制御できる電気制御パネルだ。Spanは、家庭の電力というあまり魅力的ではない分野にユーザー中心のデザインを持ち込んだ。

ここで疑問が生じる。もし人間中心のデザインとテクノロジーとすばらしいUX(ユーザー体験)と徹底したプロダクト思考をもっと他の分野(それがどんなに「退屈」でも)にも適用できたなら、どんなソリューションを構築できるだろう? どんな大きな問題を私たちは解決できるのだろうか?

我々はソーラーと再利用についてすばらしい進歩を遂げてきたが、まだ十分ではない。あらゆる産業を横断するソリューションに向かって計画を立てリソースを投入する必要がある。この問題提起はテック業界から始まるかもしれないが、投資家や非営利団体や政策立案者からの支援が必要だ。さらには、今月英国グラスゴーで開かれるCOP26に集結するリーダーたちがロードマップとインセンティブを策定する必要がある。気候変動の解決に特効薬は存在せず、1人の人間や1つのアイデアや会社が解決することもできない。我々全員が、そして我々全員のアイデアが必要だ。

端的に言って、人は正しい行動を起こす気持ちを持っている、ただしそれがより便利である限り。実行にあたり、我々は人間の特性を課題として受け入れる必要がある。利便性の試練に耐えうるテクノロジーは、結局持続する変革を推進する時の試練にも耐えるだろう。どうすれば、正しいことを正しくないことよりも簡単にできるようになるだろうか。それを解き明かし、同じことをするよう人に教えていけば、世界を救う足固めができるはずだ。

編集部注:本稿の執筆者Matt Rogers(マット・ロジャース)氏はNestのファウンダーとして、初の機械学習型サーモスタットを開発。以前はAppleのエンジニアとして10世代のiPhoneおよび初代iPadの開発に貢献した。

画像クレジット:Westend61 / Getty Images

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(文:Matt Rogers、翻訳:Nob Takahashi / facebook

物流・輸送業向け「炭素測定・除去」APIを開発するPledgeが約5億円調達

気候変動の危機が迫る中、多くの企業が自らの役割を果たしたいと考えている。しかし、顧客に「今回の配送にともなうCO2排出量をオフセットしてください」とお願いするのは、たいていの場合、木の実を割るのにハンマーを使うようなものだ。カーボンオフセット関する透明性はほとんどない。さらに、中小企業は高品質のカーボンクレジットにアクセスしたいが、同時に製品、サービス、取引レベルでの影響も計算したい。そして、非常に不正確な「スキーム」ではなく、カーボンクレジットを小さい単位で購入できるといいと考えている。

Pledge(プレッジ)は、貨物輸送、配車サービス、旅行、ラストマイルデリバリーなどの業界を対象としたスタートアップで、顧客の取引に関わるカーボンオフセットを提示することができる。

Pledgeは、Visionaries Clubがリードするシードラウンドで450万ドル(約5億円1300万円)を調達した。Chris Sacca(クリス・サッカ)氏のLowercarbon CapitalとGuillaume Pousaz(ギヨーム・プサ氏、Checkout.comの創業者でCEO)の投資ビークルであるZinal Growthも参加した。Pledgeは、これまでクローズドベータ版として運営されてきた。

同社は、Revolut(レボリュート)の草創期の従業員であるDavid de Picciotto(デビッド・デ・ピチョット)氏とThomas Lucas(トーマス・ルーカス)氏、Freetradeの共同創業者で元CTOのAndré Mohamed(アンドレ・モハメド)氏が創業した。まず物流業と輸送業を対象にスタートする。同社によると、企業はPledge APIを組み込めば、カーボンニュートラル達成に向け、出荷、乗車、配送、旅行にともなう排出量を測定・軽減することができるようになるという。このプラットフォームは、分析や洞察に加え、時間をかけて排出量を削減するために推奨する方法を顧客に提示することを目指す。

Pledgeによると、同社の排出量計算方法は、GHGプロトコル、GLECフレームワーク、ICAOの手法などのグローバルスタンダードだけでなく、ISO基準にも準拠しているという。

重要な点として、Pledgeのプラットフォームでは、個人投資家が株式の一部を購入するように、企業は炭素クレジットの一部を購入することができ、また、ETFのように異なる方法論や地域を含むバランスのとれたポートフォリオにアクセスできる、と同社は話す。

Pledgeの共同創業者でCEOのデビッド・デ・ピチョット氏は次のように説明する。「現在、どのような規模の企業も利用できる、自社の排出量を把握・削減するための簡単で拡張可能な方法は存在しません。従来のCO2測定やオフセットのソリューションは、コストが高く、導入が難しいため、限られた大企業だけが利用できます。私たちがPledgeを立ち上げたのは、どのような企業でも、高品質で検証済みの気候変動対策製品を、可能な限り簡単かつ迅速に導入できるようにするためです」。

Visionaries Clubの共同創業者でパートナーのRobert Lacherは次のように語る。「Pledgeは、あらゆる企業が環境への影響を測定・軽減するためのアプリケーションを立ち上げる際に必要とする導管を開発しています。金融インフラプロバイダーが続々と登場し、あらゆる企業がフィンテックになれるようになったのと同様、Pledgeは関連するツールとその基盤となるソフトウェアインフラを提供し、気候変動対策を実現する会社となります」。

Lowercarbon CapitalのパートナーであるClay Dumas(クレイ・デュマ)氏はこう付け加える。「炭素除去の規模を拡大する際の最大のボトルネックは、供給と需要を結びつけることです。Pledgeのチームは、世界のトップレベルの金融商品開発で学んだことを応用し、ユーロやドル、ポンドを使って、空から炭素を吸い取ることに取り組んでいます」。

ピチョット氏は、大手プライベートエクイティファームでESGチームに所属していたとき、LP(主に年金基金)から、投資先企業のESG、特に気候に関するKPIの透明性や報告を求める声が増えるのを目の当たりにした。同氏は、報告・計算を合理化し、高品質のカーボンクレジットにアクセスして、社内外のステークホルダーにさらなる透明性とツールを提供する方法があるはずだと考えた。

「炭素市場が構築されたメカニズムを調べれば調べるほど、金融サービス業界との類似性が見えてきました。我々は、FreetradeやRevolutのような業界をリードする企業を設立や、設立支援の経験により、気候変動の流れを変えるユニークな切り口を提供できるのではないかと考え、調査を開始しました」とピチョット氏は述べた。

画像クレジット:Pledge / Pledge founders

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

機械学習を使って作物の気候変動への適応を加速するAvalo

気候変動は世界中の農業に影響を及ぼしており、その解決策に単純なものはほとんどない。しかし、何千マイルも離れた場所に移動することなく、暑さ、寒さ、干ばつに強い作物を植え付けることができたらどうだろう?Avaloは、AIを利用したゲノム解析によって、この高温の世紀においてより丈夫な植物を育てるために必要な時間と費用を削減することで、こうした植物の実現を支援している。

アカデミアの世界に入る前にスタートアップを試してみたいと考えた友人2人によって設立されたAvaloは、極めて直接的な価値提案をしている。だがそれを理解するには科学的な知識が少し必要となる。

大手の種子会社や農業会社は、主要な作物の改良版の開発に力を注いでいる。トウモロコシや米について、暑さ、虫害、干ばつ、洪水への耐性を少しでも高めることで、農家の収量と利益を大幅に向上させることができる他、以前は育たなかった場所で植物を育てることも可能になる。

「赤道地域では収穫量が大幅に減少しています。それはトウモロコシの種子が少なくなっているからではありません」と共同創業者でCEOのBrendan Collins(ブレンダン・コリンズ)氏はいう。「塩水の侵入により農地が劣化しているため、農家は高地を移動しています。しかし、苗木を枯らす早春の霜に見舞われます。あるいは、湿度が高く湿った夏に発生する真菌に対処するには、さびに強い小麦が必要です。こうした新しい環境の現実に適応するには、新しい品種を作る必要があります」。

このような改良を系統的に行う上で、研究者は植物の既存の形質を強調する。これは新しい遺伝子のスプライシングではなく、すでに存在している性質を引き出すものである、ということだ。これまでは、例えば遺伝学入門編におけるメンデルのような感じで、いくつかの植物を育てて比較し、目的の形質を最も良く体現する植物の種を植え付けるという単純な方法で行われていた。

しかし現在では、これらの植物のゲノム配列が決定されており、もう少し直接的になる可能性がある。望ましい形質をもつ植物においてどの遺伝子が活性であるかを知ることによって、これらの遺伝子のより良い発現を将来の世代に向けた標的とすることができる。問題は、これを実現するには依然として長い時間を要することだ。10年単位の時間である。

現代のプロセスの難しい部分は、干ばつにさらされた状態における生存のような形質は単一の遺伝子によるものではないという問題からきている。それらは、複雑に相互作用する任意の数の遺伝子であり得る。オリンピックの体操選手になるための単一の遺伝子がないように、干ばつに強い米になるための唯一の遺伝子というものはない。そのため、企業がゲノムワイド関連解析と呼ばれる研究を行うと、その形質に寄与する遺伝子の候補が何百も出てきて、生きた植物でこれらのさまざまな組み合わせを苦労してテストしなければならない。しかもそれを工業的な比率と規模で行うには何年もかかる。

試験目的で栽培されている、遺伝子的分化を検出して番号付けされたイネ(画像クレジット:Avalo)

Avaloの共同創業者でCSOのMariano Alvarez(マリアーノ・アルバレス)氏は「遺伝子を見つけて、その遺伝子を使って何かを行う能力は、実際にはかなり制約されています。こうした形質はより複雑なものになるからです」と語る。「酵素の効率を高めようとするのは簡単で、CRISPRを使って編集すれば済みます。ですが、トウモロコシの収量を増やそうとすると、何千、ともすると何百万もの遺伝子がそれに寄与しています。干ばつに強い米を作るという大きな戦略を立てようとするなら(例えばMonsanto)、15年という時間と、2億ドル(約220億円)という金額を検討することになるでしょう【略】それは長期にわたる賭けのような取り組みになります」。

ここにAvaloが足を踏み入れる。同社は、植物のゲノムに対する変化の影響をシミュレートするためのモデルを構築した。同社によるとこのモデルは、15年間のリードタイムを2〜3年に短縮し、コストを同等の比率で削減できるという。

「そのアイデアは、より進化的に認識できる、より現実的なゲノムモデルを作り出すことでした」とコリンズ氏は語る。つまり、ゲノムと遺伝子をシステムの上でモデル化し、そのシステムに生物学と進化に由来するコンテキストが組み込まれていくというものだ。より優れたモデルでは、ある形質に関連する遺伝子についての偽陽性がはるかに少なくなる。ノイズ、無関係な遺伝子、マイナーな寄与因子などの除外をより多く行うからである。

同氏はある企業が取り組んでいる耐寒性を持つイネの例を挙げた。ゲノムワイド関連解析では、566個の「興味深い遺伝子」が発見され、各調査に要する費用は、必要な時間、スタッフ、材料を考慮するとそれぞれ4万ドル(約440万円)前後になることが示された。つまり、この形質を調査すると、数年間で2000万ドル(約22億円)もの資金が必要になる可能性があり、このような操作を試みることができる当事者と、時間と資金を投資する対象作物の両方が必然的に制限されることになる。投資収益率を期待するのであれば、アウトライヤー市場向けのニッチ作物の改良にその種の資金をつぎ込むことはできないだろう。

「私たちはそのプロセスを民主化するためにここにいます」とコリンズ氏はいう。同じ耐寒性のイネに関するデータ群の中で「興味深い32の遺伝子を発見しました。私たちのシミュレーションとレトロスペクティブ研究に基づき、これらすべてが真の因果関係を持つことがわかっています。そして、それらを検証するために、3カ月の期間で3つ、10のノックアウトを育てることができました」。

それぞれのグラフの点は、検査しなければならない遺伝子の信頼水準を表している。Avaloモデルはデータを整理し、最も有望なものだけを選択する(画像クレジット:Avalo)

ここで専門用語を少し明らかにしてみよう。Avaloのシステムは当初から、個別に調査しなければならなかったであろう遺伝子の90%以上を除外した。この32個の遺伝子は単に関連しているだけでなく、因果関係があり、形質に実際に影響を及ぼしているという確信が高かった。そしてこれは、特定の遺伝子をブロックし、その影響を研究する「ノックアウト」研究の簡潔版により立証されたものである。Avaloはその方法を「情報のない摂動による遺伝子発見」と称している。

ノイズからシグナルを引き出すという点では、機械学習アルゴリズムが本来持っている機能もその一部だが、コリンズ氏によると、同社は新しいアプローチでこの問題に取り組む必要があり、モデルが自ら構造や関係を学習できるようにする必要があったという。また、モデルが説明可能であること、つまり、その結果がブラックボックスの外に表示されるのではなく、何らかの理由で正当化されることも重要であった。

後者に関しては難しい問題だが、彼らは繰り返しシミュレーションを行い、興味深い遺伝子をダミーの遺伝子に相当するものと系統的に入れ替えることでそれを達成した。ダミーの遺伝子は形質を破壊することなく、各遺伝子が何に寄与しているかをモデルが学習するのに役立つ。

Avaloの共同創業者Mariano Alvarez(マリアーノ・アルバレス)氏(左)とBrendan Collins氏(ブレンダン・コリンズ)氏、温室のそばで撮影(画像クレジット:Avalo)

「当社の技術を使えば、興味深い形質のための最小限の予測育種セットを考案することができます。完全な遺伝子型をin silico(すなわちシミュレーション)で設計し、集中的な育種を行い、その遺伝子型を観察することができます」とコリンズ氏は語る。そしてコストが十分低いことから、小規模な作物やあまり人気のない作物、あるいは可能性に欠ける形質でも導入することができる。気候変動は予測がつかないので、今から20年後に耐暑性小麦と耐寒性小麦のどちらが優れているかは誰にもわからない。

「こうした活動にかかる資本コストを低減することで、気候耐性のある形質に取り組むことが経済的に実現可能な空間を解放するような役割を私たちは果たしています」とアルバレス氏は語っている。

Avaloはいくつかの大学と提携し、他の大学では決して日の目を見ることのなかった、回復力があり持続可能な植物の創造を加速させようとしている。これらの研究グループは大量のデータを保有しているが、十分なリソースを持ち合わせていないため、企業の能力を実証する優れた候補者にすぎない。

大学とのパートナーシップにより、大規模に利用する前にある程度の作業が必要な「十分に栽培品種化されていない」植物にもこのシステムを適用していくことが確立される。例えば、自然界に存在する大型の穀物に干ばつ耐性を付与しようとするのではなく、自然界に存在する干ばつ耐性を持つ野生の穀物を大型化する方が得策かもしれないが、それを解明するために2000万ドルを投じようとする者はいなかった。

商業面では、データ処理サービスを最初に提供することを計画している。つまり同社は、農業や製薬などの分野で実績はあるが速度に欠けている企業に、コストと時間の大幅な節約を提供する多くのスタートアップの1つとなる。うまくいけば、Avaloはこの種の植物を農業に持ち込み、種子ども給者にもなることができるだろう。

同社は数週間前にIndieBioのアクセラレーターを卒業したばかりで、すでに300万ドル(約3億3000万円)のシード資金を確保して大規模に活動を続けている。このラウンドはBetter VenturesとGiant Venturesが共同で主導し、At One Ventures、Climate Capital、David Rowan(デイビット・ローワン)氏、そしてもちろんIndieBioの親会社であるSOSVも参加した。

「ブレンダン(・コリンズ氏)は私に、スタートアップを始めることは教員の仕事に応募するよりもずっと楽しくておもしろいことだと確信させました」とアルバレス氏。「そして、彼は完全に正しかったのです」。

画像クレジット:Avalo

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

MITの研究室から生まれたVia Separations、ろ過技術で製造業の脱炭素に貢献

Via Separations(ヴィア・セパレーションズ)は、MITの材料科学エンジニアのカップルが立ち上げたスタートアップ企業だ。彼らは製造プロセスに必要なエネルギー量を削減する方法を考え出し、結果として炭素排出量、エネルギー使用量、コストを削減することに成功した。米国時間10月21日、同社はシリーズB投資ラウンドを実施し、3800万ドル(約43億円)を調達したことを発表した。

今回のラウンドは、二酸化炭素の排出量を削減するための投資に注力しているNGP ETPが主導し、2040 Foundation(2040ファウンデーション)の他、既存投資家のThe Engine(ジ・エンジン)、Safar Partners(サファー・パートナーズ)、Prime Impact Fund(プライム・インパクト・ファンド)、Embark Ventures(エンバーク・ベンチャーズ)、Massachusetts Clean Energy Center(マサチューセッツ・クリーン・エナジー・センター)が参加した。

CEO兼共同設立者のShreya Dave(シュレヤ・デイヴ)氏によれば、この会社は製造工程で炭素を削減することによって、消費者がより環境に配慮した商品を購入できるようにするための手助けをしたいのだという。

「基本的に私たちのビジョンは、サプライチェーンのインフラを脱炭素化できれば、消費者が欲しいものと地球に良いことをする方法のどちらかを選択しなければならない、ということがなくなるというものです」と、同氏は筆者に語った。

Viaのソリューションは、製造工程の途中で輸送用コンテナに設置され、生産される製品のろ過システムとして機能する。デイヴ氏は、ろ過プロセスの仕組みを、パスタの鍋に例えて説明した。「熱を加えて水を沸騰させた鍋の中に入れるのではなく、ストレーナー(こし器)を通すのです。圧力をかけてパスタストレーナーのようなフィルターを通過させるわけです」。

それにはいくつかの利点があるとデイヴ氏はいう。まず、熱の代わりに電気を使うので、必要なエネルギー量が減る。熱を使うプロセスに比べて、90%ものエネルギーを削減できるという。さらに、このプロセスでは電気を使用するため、再生可能エネルギーから電気を得ることができれば、プロセスの電化とエネルギー効率の向上の両方が実現できる。

複雑なソリューションを構築している初期のスタートアップ企業として、Viaは当面、50億ドル(約5700億円)規模のパルプ製紙業界に集中することに決めたが、この技術は、石油化学、食品・飲料、医薬品など、他の業界にも広く応用できる可能性がある。

同社はこれまでに3件のパイロットプロジェクトを進めているが、最終的にはこのソリューションをサービスとして提供することを目標としている。これを導入する顧客企業は、資本コスト全体を削減することができ、メンテナンスの負担を顧客自身ではなくViaに押し付けることができる。また、同社ではソフトウェアによるモニタリングソリューションも構築しており、製品を監視することで、顧客が最大限の効果を得られるように支援し、メンテナンスの問題を早期に発見できるようにしている。

Viaは2017年にMITからスピンアウトした。現在の社員数は23名で、年内に30名に達することを目標としている。デイヴ氏は、多様性のある創業チームとして、共同創業者でCTOのBrent Keller(ブレント・ケラー)氏とともに、多様性のある社員の集団を作りたいと語っている。

「採用するすべての職種に多様な候補者がいるというのが私の哲学です。しかし、リソースに制約があるという現実もあります。ですから、私たちは最も広い視野が得られるように、リソースを配分するよう努めています」と、デイヴ氏はいう。それは、経験よりも可能性を重視した採用を意味するということかもしれない。彼女によれば、同社では採用時に厳格なアンチバイアス教育も実施しているという。

このスタートアップのアイデアは、デイヴ氏とケラー氏がMITの大学院生時代に、現在同社の主任研究員を務めているJeffrey Grossman(ジェフリー・グロスマン)教授のもとで行っていた研究がルーツになっている。

「共同設立者と私は水のろ過膜の研究をしており、水から塩を取り除くプロセスを、より安く、より良く、より速くする方法を検討していました。その結果、私たちが発明したものは、水にはあまり応用できないものの、水以外のものを原料とする化学品製造には大きな可能性があることがわかりました」と、デイヴ氏は述べている。

会社を立ち上げたとき、彼らは最終的に、温室効果ガスの観点からより影響力の大きい工業製品の製造に焦点を移すことにした。これは創業者たちが特に重要視している点である。

画像クレジット:Via Separations

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(文:Ron Miller、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

テスラは標準モデルEVに旧来の安価な鉄ベースのバッテリーのみを採用

Tesla(テスラ)は米国時間10月20日、標準モデルであるModel 3とModel Yに、グローバル市場全体で鉄ベースの電池を採用すると発表した。同社の第3四半期業績報告では、テスラのCEOであるElon Musk(イーロン・マスク)氏が何カ月も前から示唆していた、この安価なバッテリーの役割が大きくなっていることが裏付けられていた。

このLFP(リン酸鉄リチウム)電池は、旧来の安価な電池化学技術を利用したもので、中国では人気がある。これに対して中国以外の地域では、EV(電気自動車)用電池はニッケル・マンガン・コバルトやニッケル・コバルト・アルミニウムなどのニッケル系が主流だ。しかし、LFP電池にはコスト削減だけでなく、コバルトやニッケルなどの希少な原材料に依存しないという魅力もある。特に、テスラのCFOであるZach Kirkhorn(ザック・カークホーン)氏は、水曜日の投資家向け電話会議で、ニッケルとアルミニウムの価格に影響が出ていることを認めている。

LFP電池が中国以外であまり見られない理由は、中国がLFP市場を独占することを許している一連の重要なLFP特許に関係している。

だが、それらの特許は間もなく切れるため、テスラはその時期を狙っているように見える。実際テスラの幹部は、LFP電池の生産を車両の生産地と同じ場所で行うつもりだと示唆している。

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テスラのパワートレイン・エネルギーエンジニアリング担当SVPであるDrew Baglino(ドリュー・バグリーノ)氏は、投資家に対して「私たちの目標は、車両の主要部品をすべて同じ大陸上で生産すること、たとえ距離は近くなくても車両が生産されている場所と同じ大陸で生産することです」と語った。「それが私たちの目標です。私たちはその目標を達成するために、社内でサプライヤーと協力して、最終組立レベルだけでなく、可能な限り上流レベルに遡れるように取り組んでいます」。

またテスラは、自社設計のカスタムセルを採用した4680バッテリーパックの最新情報を、ごく簡単に少しだけ発表した。テスラは、4680バッテリーは、より高いエネルギー密度と航続距離を実現できるとしている。バグリーノ氏によると、4680は構造試験と検証がすべて予定通り行われており、来年の初めには車両に搭載される予定だという。しかし、現行のスケジュールには満足しているものの「これは新しいアーキテクチャーであるため、予想外の問題がまだ存在する可能性があります」とバグリーノ氏は述べつつ「セル自身の観点からは、デザインの成熟度と製造の準備は、いまご説明したバッテリーパックのスケジュールに合致しています」と付け加えた。

画像クレジット:Tesla

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:sako)

法人向けカーボンオフセットAPIで企業の脱炭素化を支援するSustineriが5000万円のシード調達

企業の脱炭素化を支援するSustineriは10月20日、シードラウンドにおいて、第三者割当増資による5000万円の資金調達を発表した。引受先はインキュベイトファンド。調達した資金はサービス開発および事業推進メンバーの採用など組織の強化にあてる。また、今秋にはカーボンオフセットAPI「Caboneu」(カボニュー)および温室効果ガス(GHG。GreenHouse Gas)算出APIのβ版をローンチする予定。

カーボンオフセットAPIは、企業による商品やサービスの販売と利用に伴って排出されるGHGについて、相殺・埋め合わせ(カーボンオフセット)が可能なクラウド型サービス。eコマース、自動車保険、旅行・航空などを販売するウェブサイトに数行のコードを記述するだけで、商品やサービスの提供に伴うGHGを算出。さらに同量のGHG削減クレジットまたは再生可能エネルギー証書を購入することで、GHG排出を相殺し気候変動への影響をニュートラルにできる。

こうしたGHG排出量を算定するには専門知識が必要になるが、カーボンオフセットAPIを利用すれば企業のサプライチェーン全体をカーボンニュートラル化可能としている。

法人向けカーボンオフセットAPIで企業の脱炭素化を支援するSustineriが5000万円のシード調達

Sustineriは、「人と地球が共存する新たなあり方を創造する」をミッションに掲げ2017年7月に設立された。企業がサステナブルシフトと脱炭素化を実現するための効果的なソリューションを提供している。事業はカーボンオフセットAPIの開発と運営のほか、GHG算出APIの開発・運営、カーボンオフセットとカーボンニュートラルの実施支援、気候変動対策および脱炭素化に関するコンサルティング。今後は日本企業の脱炭素化およびカーボンニュートラル化に貢献するサービスを継続的に開発するとのこと。

スペクティ・日本気象協会・トランストロンがトラックの運行データから路面・周辺気象情報を抽出する実証実験

スペクティ・日本気象協会・トランストロンがトラックの運行データから凍結・積雪など路面情報や周辺気象情報を抽出する実証実験

AIリアルタイム危機管理情報ソリューション「Spectee」を提供するSpectee(スペクティ)は10月18日、日本気象協会、ネットワーク型デジタルタコグラフのメーカー「トランストロン」と共同で、AIなどの先端技術を活用したトラックの運行データの解析から、路面情報、周辺気象情報などの抽出を目的とする実証実験を行ったことを発表した。

2021年2月から6月にかけて行われたこの実証実験では、トランストロンのデジタルタコメーターを導入している札幌市の幸楽運輸、富山市の池田運輸の協力のもと、走行中に取得した路面の画像データ、日本気象協会の気象データをスペクティのAIで分析し、乾燥、湿潤、凍結、積雪などの路面状況を判定した。これにより実用化に向けた有効なデータが得られたことから、さらに精度を高め、スペクティ、日本気象協会、トランストロンの3者で実用化に向けた検討を進めてゆくという。

【コラム】ESG目標達成の鍵を握るのは取締役会やCEOではなく技術チームのリーダー

スタートアップ企業のCTO(最高技術責任者)や技術チームのリーダーは、会社創立のその瞬間からESG(Environmental[環境]・Social[社会]・Governance[企業統治])を重要事項として扱う必要がある。なぜなら、投資家が、ESGを重視するスタートアップ企業を優先的に評価して、持続可能性を重視した投資を行う傾向が高まっているからだ。

あらゆる業界にこの傾向があるのはなぜだろうか?答えは簡単だ。消費者が、持続可能性を重視しない企業を支持しなくなっているからである。IBMの調査によると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、消費者の持続可能性(サステナビリティ)への関心と、持続可能な未来のために自身が支出することを許容する意識が高まったという。また、米国がパリ協定に復帰し、最近では気候関連への取り組みに関する大統領令が出されるなど、気候変動に対する米国政府の動きも活発化している。

ここ数年、長期的なサステナビリティ目標を設定する企業が増えているが、CEOやCSO(最高サステナビリティ責任者)が設定する目標は、往々にして長期的かつ野心的なものだ。ESGプログラムの短期的、中期的な実施は運営チームや技術チームに委ねられている。

CTOは、計画プロセスにおいて重要な役割を担っており、組織がESG目標を飛躍的に向上させるための秘密兵器となり得る。ここからは、CTOと技術チームのリーダーがサステナビリティを実現し、倫理的にポジティブなインパクトをもたらすためにすぐにできることをいくつか紹介する。

環境負荷を軽減する

企業のデジタル化が進み、より多くの消費者がデバイスやクラウドサービスを利用するようになった現在、データセンターが消費するエネルギーは増加し続けている。実際、データセンターの電力使用量は全世界の電力使用量の推定1%を占めているといわれているが、International Data Corporation(インターナショナル・データ・コーポレーション)の予測によると、クラウドコンピューティングを継続的に導入することで、2021年から2024年にかけて10億トン以上の二酸化炭素の排出を防ぐことができるという。

コンピューティングワークロードの効率化を図る。まず、コンピューティング、電力消費、化石燃料による温室効果ガス排出の関連性を理解することが重要だ。アプリやコンピューティングワークロードの効率化を図ることで、コストとエネルギー消費を軽減し、ワークロードの二酸化炭素排出量が削減することができる。クラウドでは、コンピューティングインスタンスの自動スケーリングや適正サイズの推奨などのツールを利用して、需要に対してクラウドVM(バーチャルマシン)を過剰に実行したり、オーバープロビジョニングしたりしないようにすることに加え、このようなスケーリング作業の多くを自動的に行うサーバーレスコンピューティングに移行することも検討の余地がある。

コンピューティングワークロードを二酸化炭素排出原単位(Carbon Intensity、一定量の生産物をつくる過程で排出する二酸化炭素排出量)の低いリージョンに配置する。これまでクラウドのリージョンを選択する際には、コストやエンドユーザーに対する遅延などの要素が重視されていた。しかし現在は、二酸化炭素排出量も考慮すべき要素の1つである。リージョンのコンピューティング能力が同程度でも、二酸化炭素排出量は異なることが多い(他の地域よりも二酸化炭素排出量の少ないネルギー生産が可能な地域は、二酸化炭素排出原単位が低くなる)。

そのため、一般的に、二酸化炭素排出原単位の低いクラウドリージョンを選択することは、最も簡単で効果のあるステップである。クラウドインフラのスタートアップ企業、Infracost(インフラコスト)の共同創業者かつCTOのAlistair Scott(アリスター・スコット)氏は、次のように強調する。「クラウドプロバイダーは正しいことを行い、無駄を省きたいと考えるエンジニアを支援できると思います。重要なのは、ワークフローの情報を提供することです。そうすれば、インフラプロビジョニングの担当者は、デプロイする前に、二酸化炭素排出量への影響と、コストやデータレイテンシーなどの要素を比較検討することができます」。

もう1つのステップは、Cloud Carbon Footprintのようなオープンソースソフトウェアを使って、特定のワークロードのカーボンフットプリントを推定することである(このプロジェクトにはThoughtWorksが協賛している)。Etsy(エッツィー)も、クラウドの使用情報に基づいてエネルギー消費量を推定できるCloud Jewelsという同様のツールをオープンソースで提供していて、Etsy自体もこれを利用して「2025年までにエネルギー強度を25%削減する」という目標に向けた自社の進捗状況を把握している。

社会的インパクトを作り出す

CTOや技術チームのリーダーは、環境への影響を軽減するだけでなく、社会的にも直接的で意義のある、大きなインパクトをもたらすことができる。

製品の設計に社会的な利益を盛り込む:CTOや技術系の創業者であれば、製品ロードマップで社会的利益を優先させることができる。例えばフィンテック分野のCTOは、十分な金融サービスを受けられない人々が借り入れをする機会を拡大するための製品機能を盛り込むことができるが、LoanWell(ローンウェル)のようなスタートアップ企業は、主に金融システムから排除されている人々が資本を利用できるようにして、ローン組成プロセスをより効率的かつ公平にしようとしている。

製品デザインの検討にあたっては、有益で効果的なデザインにすると同時に、サステナビリティも検討する必要がある。サステナビリティと社会的インパクトを製品イノベーションの中核として捉えれば、社会的な利益に沿うかたちで差別化を図ることができる。例えばパッケージレスソリューションの先駆者であるLush(ラッシュ)は、スマートフォンのカメラとAIを利用して商品情報を見ることができるバーチャルパッケージアプリ「Lush Lens」で、美容業界で過剰に使用されている(プラスチック)パッケージに取り組んでいる。同社のプレスリリースによると、Lush Lensは200万回の利用を達成したという。

社会的な弊害を避けるためには、企業は責任あるAIプラクティスという文化を持つ必要がある:機械学習と人工知能は、製品やおすすめコンテンツの表示、さらにはスパムフィルタリング、トレンド予測、その他「スマート」な行動に至るまで、高度でパーソナライズされたデジタルエクスペリエンスの中心となり、誰もが慣れ親しむものとなった。

そのため、責任あるAIプラクティスに取り組み、機械学習や人工知能がもたらす利益をユーザー全体で実現すると同時に、不慮の事故を回避することが重要である。まずは、責任を持ってAIを利用するための明確な原則を定め、その原則をプロセスや手順に反映させることから始めよう。コードレビュー、自動テスト、UXデザインを考えるのと同じように、責任あるAIプラクティスのレビューを考えてみよう。技術系の創業者や技術チームのリーダーは、こういったプロセスを確立することができる。

企業統治へのインパクト

企業統治の推進には、取締役会やCEOだけではなく、CTOも重要な役割を担っている。

多様性、包括性を備えた技術チームを構築する:多様性のあるチームが、1人の意思決定者よりも優れた意思決定を行う確率は87%である。また、Gartner(ガートナー)の調査では、多様性のある職場では、パフォーマンスが12%向上し、離職率が20%軽減するという結果が出ている。

技術チームの中で、多様性、包括性、平等性の重要性をしっかりと示すことが重要であるが、この取り組みにデータを活用する、というのも1つの方法である。性別、人種、民族などの属性情報を収集する自主的な社内プログラムを確立できれば、このデータは、多様性のギャップを特定し、改善点を測定するためのベースラインとなる。さらに、これらの改善点を、目標と主要な成果(objectives and key results、OKR)など、従業員の評価プロセスに組み込むことも検討し、HR部門だけでなく、全社で全員が責任を担うようにする。

これらは、CTOや技術チームのリーダーが企業のESG推進に貢献する方法を示すほんの一例である。まずは、会社設立と同時に、技術チームのリーダーとして何らかのインパクトをもたらすことができるたくさんの方法を認識することが重要だ。

編集部注:本稿の執筆者Jeff Sternberg(ジェフ・スターンバーグ)氏は、Google CloudのOffice of the CTO(OCTO)のテクニカルディレクター。

画像クレジット:Maki Nakamura / Getty Images

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(文:Jeff Sternberg、翻訳:Dragonfly)

レーザー核融合の効率化に向け前進、大阪大学が高温プラズマに強磁場を加えるとプラズマ温度が上昇する現象を世界初観測

レーザー核融合の効率化に向け前進、大阪大学が高温プラズマに強磁場を加えるとプラズマ温度が上昇する現象を世界で初めて観測

激光XII号レーザー室

大阪大学レーザー科学研究所は、10月14日、高温プラズマに強磁場を加えるとプラズマが変形するという現象を、世界で初めて実験により観測し、理論とシミュレーションでこの現象の詳細を明らかにしたと発表した。これは、レーザー核融合におけるエネルギー発生の効率化に資すると、同研究所は話している。

核融合では、1億度ほどの超高温でプラズマを閉じ込める必要がある。大阪大学レーザー科学研究所が研究しているレーザー核融合では、100テスラ程度の磁場をプラズマに加えることで核融合反応数が上昇することが、シミュレーションで予測されていた。同時に、磁場が強まるとプラズマの変形が大きくなり、均一な高密度プラズマコアの形成が難しくなるというという負の側面も予測されている。だがこれまで、十分に強力な磁場を実験室で作ることが難しかったため、実証されずにいた。

大阪大学レーザー科学研究所の松尾一輝氏を中心とした、佐野孝好助教、長友英夫准教授、藤岡慎介教授らによる研究チームは、同研究所が所有する国内最大のレーザー装置「激光XII号レーザー」を磁場発生装置「キャパシター・コイル・ターゲット」に当てて強磁場を発生させる手法を用い、実験室内で200テスラの磁場を発生させ、プラズマの挙動を調べた。その結果、周囲への熱エネルギーの損失が抑制され、プラズマの温度が上昇することがわかった。同時に、温度上昇にともないプラズマの変形が大きくなり、熱いプラズマと低温のプラズマが混ざり合う現象が起きることも確認できた。だが同研究所では、この実験結果をもとに、プラズマの保温ができて、それでいて低温高温のプラズマが混ざることのない最適な磁場強度が存在することを、理論モデルから予測している。

さらに、今回確認された磁場によってプラズマが混ざる現象は、宇宙での星雲の崩壊との関連性を示唆しており、宇宙の現象の理解にもつながると期待されている。この研究成果は、フランスの世界最大級のLMJ-PETALレーザー装置における学術枠の実験課題として、日本からの提案としては初めて採択された。またこの研究成果は、10月12日公開の米科学雑誌「Physical Review Letters」に掲載された。

 

ウェザーニューズが周囲50キロを30秒で3次元観測する新型レーダーの実証実験、ゲリラ豪雨や線状降水帯の予測精度向上へ

ウェザーニューズが周囲50㎞を30秒で3次元観測する新型レーダーの実証実験、ゲリラ豪雨や線状降水帯の予測精度向上へ

ウェザーニューズは10月14日、高頻度観測小型気象レーダー「EAGLEレーダー」を千葉県内に設置し、レーダーの有効性を確認する実証実験を開始したと発表した。2022年6月にかけてレーダーの精度評価と最終調整などを行う。

EAGLEレーダーは、周囲360度を高速スキャンし雲の立体構造を高頻度で観測するというもの。半径50km以内の積乱雲の発達状況をほぼリアルタイムに捉えられるため、ゲリラ豪雨や線状降水帯・大雪・突風・ヒョウなど、突発的かつ局地的に発生する気象現象をより正確に把握できるとしている。

道路の管理事業者における除雪作業判断の支援など新サービスも開発するほか、2年以内に日本を含むアジアの計50カ所への設置を計画。グローバルにおける気象現象の監視体制を強化する。

高頻度観測小型気象レーダー「EAGLEレーダー」

ウェザーニューズは、2009年に小型気象レーダー「WITHレーダー」を開発し、全国80カ所に設置・運用してきた。10年以上にわたり、ゲリラ豪雨や突風などの観測実験を行った結果、小型気象レーダーの有効性を確認できたという。しかし、従来のWITHレーダーでは、全方位を3次元で観測するには5分程度かかるため、雲が急激に発達する過程やその変化を詳細に捉えることは困難だった。

そこで、より高頻度な観測を可能にするため、WITHレーダーの後継機としてEAGLEレーダーを開発。同レーダーは、360度全方位を高速スキャンすることで、雨粒の大きさや雲の移動方向を立体的にほぼリアルタイムで観測できる独自の気象レーダーという。最短で5秒ごとに1回転し、半径50kmの詳細な3次元観測データを30秒で取得できる。これにより、ゲリラ豪雨や線状降水帯、大雪、突風、あられ、ひょうなど、局地的に発生する気象現象の把握が可能としている。

ウェザーニューズが周囲50㎞を30秒で3次元観測する新型レーダーの実証実験、ゲリラ豪雨や線状降水帯の予測精度向上へ

千葉県内八街市に設置し実証実験を開始

同社は、同レーダーを千葉県八街市に設置し、実証実験を開始した。2022年6月にかけて、レーダーの精度評価と感度の最終調整などを行う。

レーダーの活用方法として、まずはウェザーニューズの予報センターでレーダーを監視し、観測データを数時間先の予報精度向上に活用する。また、従来のWITHレーダーと同様に雲の様子を3次元的に把握するだけでなく、実証実験と並行して、道路の管理事業者における除雪作業の判断支援や迂回ルートの推薦など、企業向けのサービスを開発する。

また同レーダーの展開を進めるため、総務省(情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会 気象レーダー作業班)と無線免許の新制度策定について検討しているという。新制度が実現すると、同レーダーの設置が加速するとともに、観測データの販売も可能となる見込みとしている。気象データを扱う企業・研究機関などに活用してもらうことで、サービスへの利用や技術の発展に寄与できるとしている。ウェザーニューズが周囲50㎞を30秒で3次元観測する新型レーダーの実証実験、ゲリラ豪雨や線状降水帯の予測精度向上へ

2023年までに50台設置、日本・アジアの気象現象の監視体制を強化

同社は、2014年よりオクラホマ大学と共同でEAGLEレーダーの開発を進めてきたという。2017年6月には、航空宇宙向けの電子機器やシステムを設計・製造しているカナダNANOWAVE Technologiesとレーダーの量産に関する覚書を締結した。

気象レーダーの仕様変更や生産ラインの変更のほか、世界的な半導体不足による影響を受けて当初の計画からは遅れが生じたものの、現在の計画では、今後2年以内に日本を含むアジアの計50カ所にレーダーを設置する予定。引続きレーダーの設置を進め、観測データが十分ではないアジア地域における気象現象の監視体制を強化するという。

炭素市場Agreenaは農家が環境再生型農業に切り替える経済的インセンティブを提供する

ヨーロッパの温室効果ガス排出量の24%は農業が占めているが、これは過去数十年間に行われてきた集約的な「工業型」農法と、肉の消費の増加によるところが大きい。しかし、新しいアプローチが農業界に旋風を巻き起こしている。「環境再生型農業(リジェネラティブ農業)」とは、劣化した土壌を自然に戻し、野生生物を増やし、地球を破壊する二酸化炭素を蓄えるというもので、文字通り土壌を炭素吸収源として利用する。

森林地帯を作り、泥炭地を復元することで、炭素を吸収すると同時に、ミツバチの授粉などに欠かせない自然多様性の減少を食い止めることができる。さらに、再生農業は、環境やCO2排出に焦点を当てた古い政府の補助金制度や、工業的な農業からの脱却にもつながる。

Agreenaはデンマークのスタートアップで、環境再生型農業に移行した農家が生み出す炭素クレジットを発行、証明、販売している。

2021年夏に設立されたばかりの同社は、このたびGiant Venturesとデンマーク政府のDanish Green Future Fundがリードし、470万ドル(約5億3000万円)のシード資金を調達した。また、欧州の多くの農家も参加している。

Agreenaのプラットフォームは、農家に「CO2e-certificate」を発行し、農家と購入希望者の間で販売することで、農家が従来の耕作地から再生農法に切り替えるための経済的なインセンティブを提供するという。

その仕組みとは?農家は自分の畑を登録し、再生農法に移行するためのアドバイスを受ける。そして、その変化をAgreenaが衛星画像と土壌の検証によって監視する。その後、農家はCO2e-certificateを単独で、またはAgreenaのマーケットプレイスを通じて、農家からカーボンオフセットを購入したい企業に販売することができる。買い手は、Agreenaのプラットフォームを介して、スポンサーしたCO2削減をフィールドレベルで追跡する。

AgreenaのCEOであるSimon Haldrup(サイモン・ハードルップ)氏は次のように述べている。「当社のチームは、カーボンサイエンティスト、ソフトウェア開発者、商業的グロースハッカーを含む30人のプロフェッショナルで構成されています。農業は、歴史的に誇り高い農業国であるデンマークに深く根ざしているため、会社はここで生まれましたが、私たちはヨーロッパ全体で規模を拡大しており、今後はグローバルに展開していく予定です」。Agreenaは、ハードルップ氏、Julie Koch Fahler(ジュリー・コッホ・ファーラー)氏、Ida Boesen(アイダ・ボエセン)氏によって設立された。

Agreenaは、初年度に5万ヘクタール以上の契約を締結し、発行されたカーボンオフセット証書の20%以上を事前に販売したという。

Agreenaには、いくつかの競合が存在する。農業分野のボランタリー炭素市場には、米国のスケールアップ企業Indigo(米国のユニコーン)、Nori(米国&ブロックチェーン特化)、英国・フランスを拠点とするSoil Capitalなどがある。しかし、Agreenaは、垂直統合されたカーボンプラットフォームが重要な差別化要因だとしている。

Giant Venturesの共同設立者兼マネージングパートナーであるCameron McLain(キャメロン・マクレーン)氏は、次のように述べた。「Agreenaの農業カーボンオフセットに対する垂直統合型のアプローチは、業界のニュアンスや農家にとってのインセンティブに共感的なもので、大きな期待を抱いています。また、Agreenaは、まだ誰も解いていない農業分野でのオンラインB2Bコマースを促進する有力なインターネット市場になれると信じています」。

画像クレジット:Agreena

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

ボルボ・グループが「化石燃料を使わない」鉄鋼で作られた車両を公開

スウェーデンのVolvo Group(ボルボ・グループ)は現地時間10月13日「化石燃料を使わない」鉄鋼で大部分が製作された新しい車両を発表した。同社では、早ければ2022年にこの新素材を使用した小規模な連続生産の開始を計画している。

「私たちの意図は、この化石燃料フリーの鉄鋼を使って、このような比較的積載量の小さな運搬車両の製造を始めることです」と、ボルボ・グループのトラック技術担当エグゼクティブ・バイスプレジデントであるLars Stenqvis(ラルス・ステンクヴィスト)氏は、TechCrunchによる最近のインタビューで語った。「重要なのは、これが研究開発プロジェクトでもなければ、政治家に見せるためのある種の実証プロジェクトでもないということです。これは連続生産するのです」。

今回公開された試作車は、鉱山や採石場で使用される完全電動式の自律走行型運搬車で、車体に3000kgを超えるこの新素材が使用されている。ボルボによれば、建設現場用トラックは車両重量の約70%が鉄鋼と鋳鉄でできているため、この化石燃料フリーの鋼材を最初に適用することにしたという。

この鋼材は、ボルボが2021年初めに提携したスウェーデンの鉄鋼メーカーであるSSAB(スウェーデンスティール)が製造したものだ。従来の鉄鋼製造では、石炭を使って鉄鉱石から酸素を取り除いていたが、SSABは水素を使って鉄鋼を製造するプロセスを開発した。この水素は、再生可能エネルギーを使って水を水素と酸素に分解する電気分解によって生成される。

今回発表された運搬車は、化石燃料フリーの鋼材で100%作られているわけではない。ステンクヴィスト氏によると、それはSSABがまだ、例えば円筒形のシャフトを作るために必要となるような、ある種の形状を実現できていないためだという。しかし、部品の大部分、特に車体後部の大型バケットは化石燃料フリーの鉄鋼製であると、同氏は付け加えた。

SSABの鋼材は、すべての面で従来の鋼材と同じであるため、ボルボの既存の製造施設のすべてで使用することができる。「これは、私たちにとって非常に重要なインプットです。なぜなら、生産や製造の面では変わらないということを意味するからです」と、ステンクヴィスト氏は述べている。

ボルボは、2040年までに事業全体でゼロエミッションを達成することを目標としており、今後10年間でこの鋼材の使用量を増やすことを目指している。また、中国の浙江吉利控股有限公司(Zhejiang Geely Holding、ジーリー・ホールディング・グループ)傘下のVolvo Cars(ボルボ・カーズ)も、早ければ2025年に、この材を使用したコンセプトカーの製作を計画している。

画像クレジット:Bo Håkansson, Bilduppdraget / Volvo CE

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

千葉大学が2050年の脱炭素を目指す全国自治体に向けて「カーボンニュートラルシミュレーター」を無料公開

千葉大学が2050年の脱炭素を目指す全国自治体に向けて市町村ごとの「カーボンニュートラルシミュレーター」を無料公開

千葉大学は、日本の基礎自治体が2050年までの脱炭素計画を立てやすくするサポートツールとして、「カーボンニュートラルシミュレーター」を公開した。現在の人口、世帯数、就業者数の推移から2050年の状況を予測し、脱炭素実現には電気自動車やネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH。net Zero Energy House)などの比率、再生可能エネルギーの導入をどう調整すればよいかを教えてくれる。千葉大学大学院社会科学研究院 倉阪秀史教授を中心とする研究チームの開発によるもの。誰にでも使えるようExcelファイルで作られていて、無料でダウンロードが可能

全国1741の市区町村の自治体コードを入力すると、その自治体の現状から推測した、何もしなかった場合の2050年の二酸化炭素排出量が示される。また、現在の人口の推移から推測した2050年の人口も示される。そこに、2050年の自動車の削減率、ZEH、ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB。エネルギーを消費するより生み出すほうが多い建物)、電気自動車や再生可能エネルギーの導入率などを加味すると、2050年時点での全体の削減量がわかる。人口を含めたこれらの要素を調整することで、達成までの計画が立てられるというものだ。

また、2050年までの「総投資額」、「総省エネ額」(節約分)、「再生可能エネルギー販売額」、「差し引き金額」が表示されるので、脱炭素に必要な予算もわかる。

開発者の倉阪教授は、2050年の脱酸素宣言を行った214の自治体について、同じ条件を入力してその達成状況を調べたところ、35.5%にあたる76自治体が脱炭素を達成できたという。ただし、達成率には地域によって差があり、北海道や東北など広大な土地のある地域では再生可能エネルギーが豊富なため達成率が高い傾向にあった。また、人口が多い都会のある自治体は、どこも達成できなかった。そのため脱炭素達成には、豊かな再生可能エネルギー源を持つ地方と都会との連携が必要になると倉阪教授は話している。

Googleフライトが航空便それぞれの炭素排出量の推計値を計算

米国時間10月6日、Googleがに、フライトの環境への影響を示す新機能を立ち上げた。検索結果で出るほとんどすべてのフライトの炭素排出量の推計が見られるようになる。その推計値は価格の隣にあり、フライトが続く間表示される。Googleによると、この新しい機能によりユーザーは、便を予約するときに料金や時間だけでなく、炭素排出量も搭乗するフライトを選ぶ基準にすることができる。

推計値は、フライトと座席により異なる。例えば推計排出値は、エコノミーかファーストクラスかで異なり、席の専有スペースが大きいほど総排出量も多くなる。また、最新の航空機は古い機種よりも大気汚染が少ない。

排出量が少ないフライトにはグリーンのバッジが付く。フライトを探すとき炭素への影響を優先したい者は、検索結果をソートして、最少排出値の便をリストのトップに載せられる。フライトは排出量の程度を、高い、普通、低い、不明などとラベルでマークされる。

Googleは推計値を、European Environmental Agency(欧州環境機関)のデータと、航空会社が提供する情報から計算する。後者は、航空機のタイプや座席数などだ。ただし同社によると、炭素排出量の実値は機種や構成、機の速度、高度、出発地と目的地の距離などによっても異なる。計算方法の改良は今後も続けるそうだ。

Googleの旅行プロダクト担当副社長Richard Holden(リチャード・ホールデン)氏は、ブログで「Googleフライトの今回のアップデートは、人びとが毎日の生活の中でなるべく持続可能な選択ができるようにするための、多くの方法の1つにすぎない」と述べている。

Googleフライトのこの最新のアップデートは、同社がGoogleマップで米国のエコフレンドリーなルートを提示するようになった時期と一致している。エコフレンドリーなルートとは、目的地に最も早く到着できて、使用する燃料がルートのことだ。Googleの計算では、この機能によりGoogleマップのユーザーは1年で100万トン以上の炭素排出量を減らせるという。Googleマップの本機能は、ヨーロッパでは2022年に導入される。

関連記事:Googleマップが米国で「最も環境に優しい」ルート検索機能を提供開始

画像クレジット:lex Tai/SOPA Images/LightRocket/Getty Images

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(文:Aisha Malik、翻訳:Hiroshi Iwatani)

フィリピンの環境情報プラットフォーム「Komunidad」が約1.1億円のシード資金調達

フィリピンは台風、洪水、火山、地震、干ばつなどの災害に見舞われやすい地理的条件を備えており、世界で最も災害が多い国の1つだ。Felix Ayque(フェリックス・アイク)氏は、IT業界で働いていた頃、サイクロンのレポートをまとめ、Eメールでコミュニティに警告を送る仕事を始めた。彼の仕事はその後、環境情報プラットフォーム「Komunidad(コムニダッド)」へと発展した。Komunidadは、政府や民間の情報源からデータを収集し、カスタマイズ可能な分析結果に変え、顧客が潜在的な災害に迅速に対応できるようにしてくれるものだ。

マニラとシンガポールを拠点とするこのスタートアップは、アジアでの事業拡大と2022年1月にリリースを予定しているセルフサービス版を含むプラットフォームの機能追加のために、100万ドル(約1億1000万円)のシード資金を調達したことを発表した。Wavemaker Partners(ウェイブメーカー・パートナーズ)が主導し、アジア開発銀行のベンチャー部門であるADB Ventures(ADB ベンチャーズ)が参加している。

2019年に設立されたKomunidadは、フィリピン、インド、カンボジア、ベトナムに顧客を持ち、公益事業、農業、鉱業、教育、地方自治体、ビジネスアウトソーシングセンターなど、複数のセクターにサービスを提供している。スタートアップを立ち上げる前のアイク氏は、国有のニュージーランドMetService(メットサービス)を含む複数の気象機関でIT開発者として働いていた。2013年に、少なくとも6300人の犠牲者を出した台風18号(通称スーパータイフーン・ヨランダ)がフィリピンを襲った後、コンサルタントとしてサイクロンレポートの作成を始めるようになった。

もともとこのレポートは、企業が自然災害に対してより迅速に対応できるようにするためのものだった。台風18号が襲ったのは、フィリピンでビジネス・アウトソーシングの分野が急成長していた時期で、当時多くの外国企業がフィリピンに複数のオフィスを設置していた頃だった。台風の際には、企業は通常、業務を被災していない地域のオフィスに移管する。アイク氏が最初に送ったメールは、サイクロンの可能性を手動で分析したものだった。

しかし、エネルギー供給会社をはじめとする企業が気候変動への対応を迫られる中、アイク氏のレポートに対する需要が高まっていった。Komunidadは、事業を拡大するのに十分な収益を上げるようになり、アイク氏は、気象学者、データサイエンティスト、ソフトウェア開発者、インドや東南アジアを拠点とするビジネス開発チームなどの従業員を雇用するようになった。今回の投資は、スケーラブルなプラットフォームの構築に使用される。

Komunidadのデータソースには、2015年にIBMが買収したThe Weather Company(ザ・ウェザー・カンパニー)や、ウェザーインテリジェンスプラットフォームのTomorrow.io(トゥモロー.io)などの大手企業の他、いくつかの小規模な環境・気象データプロバイダーが含まれている。

フィリピン・マンダルヨン市のプロジェクトで作成されたKomunidadダッシュボードの一例

このプラットフォームは、データを悪天候、太陽、海洋、土壌水分、大気の質など、顧客のニーズに関連するダッシュボードに変換してくる。「私たちは、関連するデータだけを持ってきて、これが最も重要なデータであると顧客に伝えるシステムインテグレーターの役割を果たしています」とアイク氏は述べている。Komunidadでは、顧客が独自の警報システムを構築することも可能だ。例えば、フィリピンでは、多くの顧客が、フィリピンで最も人気のあるメッセージングアプリの1つであるViber(バイバー)や、インターネット接続が不安定な地域に届くようにSMSを使ってアラートを送信している。

エネルギー分野の顧客には、Komunidadのツールを使って、気温に基づいて電力使用量などを予測することもできる。また、地方自治体が学校の休校を決定する際にも利用されている。パンデミックの際には、Komunidadは都市が人の密集度をモニターし、どの地域でより多くの人をコントロールする必要があるかを判断するのに役立った。

Komunidadの競争力の1つは、さまざまな分野でどのようなデータが重要であるかを理解しているということだ。例えば、Komunidadは最近、アッサム州災害管理局(ASDMA)と契約を結び、インドで最も雷が発生しやすい州の1つであるアッサム州の雷と雷雨に関する警報に焦点を当てて協働することとなった。

「すべての国がそれぞれ異なる状況を持っており、私たちのアプローチは、コミュニティに焦点を当てたものでなければならず、その上でビジネスに拡大していかなければならないということを理解しています」とアイク氏は語っている。

Komunidadの顧客は迅速に対応しなければならないため、技術的なバックグラウンドを持たない人には理解できないことが多い生のデータレポートから、わかりやすいビジュアライゼーションを作成している。例えば、シンプルな棒グラフ、緑、黄、赤の警告、6時間以内に大規模な気象・環境イベントが発生すると予想される場合は赤に変わる地図などがある。

Komunidadの資金の一部は、Wix(ウィックス)やWordPress(ワードプレス)でウェブサイトを作成するのと同様に、顧客がウィジェットをドラッグ&ドロップすることができるセルフサービス型のカスタマイズ可能なダッシュボードを来年開始するために使用される。今回の資金調達により、Komunidadは、インド、タイ、カンボジアなどでの新たなビジネスチャンスの獲得、営業チームの増強、データソースの追加などを行えるようになる。

画像クレジット:John Seaton Callahan / Getty Images

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(文:Catherine Shu、翻訳:Akihito Mizukoshi)

【インタビュー】Misoca創業者が農業×ロボットにかける想い「有機農業を劇的に加速させすべての人に安心・安全な食環境を」

業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を政府が推し進めている。とはいえ、エッセンシャルワークと呼ばれる職種、つまり人々が日常生活を送る上で必要不可欠とされている医療・福祉や保育、小売業、運輸・物流などに関しては、重要度が高いのにDXが進まないというジレンマが生じている。

エッセンシャルワークの主な7つの職種の中に含まれていないとはいえ、農業も生活基盤に不可欠な仕事であることは疑念の余地がない。にもかかわらず、農業は最もDXが進んでいない分野の1つだ。

農業をロボットで変えようと起業した人がいる。トクイテン代表取締役豊吉隆一郎氏と共同創業者で取締役の森裕紀氏だ。高専時代にロボット研究に携わり、2011年にクラウド請求管理サービス「Misoca」を立ち上げた豊吉氏が、なぜ農業という分野を選んだのか、考える農業の未来などについて、豊吉氏と森裕紀氏に話を聞いた。

わずかなITツールで大きなインパクトを与えられる農業というフィールド

豊吉氏は、工業高等専門学校卒業後、Webシステム開発で独立し、2011年には後に20万事業者以上が登録するクラウド請求管理サービス「Misoca」を立ち上げた。

会社を売却した後もしばらくは同社内にとどまっていたが2018年11月に代表を退任し、2021年8月にロボット開発の知識を活かした有機農業を事業とする「トクイテン」を森氏と共同創業した。

ここで、疑問が生じる。なぜオフィスのバックヤード業務の効率化を進めるMisocaから農業へとシフトしたのだろうか。

実は、豊吉氏の実家は兼業農家。農業に幼い頃から親しんでいたという背景がある。農業に興味を持っており、家庭菜園まで行っていたところ、知り合いの農家の灌漑(かんがい、水やりのこと)システム開発に携わる機会を得たという。

「スマホから遠隔操作で畑に水やりをするシステムを作りました」と豊吉氏。「わずか数万円という費用に、自分の得意なプログラミング技術を使っただけなのに、『これで旅行にも行きやすくなる』ととても喜んでもらえた」と振り返る。

「これだけのことで、ここまでインパクトがあるのか」と、農業にITを持ち込むことの影響力の大きさに驚いた瞬間だった。

これほどまでに感動をもって受け入れられた理由を「農業分野ではDXが遅れているという現状がある」と豊吉氏は分析する。

「製造業なら、24時間、休まず人間以上のスピードでロボットが働けば、時間ごとの生産性は上がる。ソフトウェアなら、やはり人間が行う以上のスピードで正確に計算し続けられる。

しかし、農作物の成長スピードは、ロボットが入っても変わらない。そのため、コストをかけても無駄、という考え方があるのだろう」と豊吉氏はいう。

灌漑システム開発で、何度もその農家を訪れるうちに、成長していく作物を情を持って見つめるようになり、農業について真剣に学ぶため県の農業大学校1年コースに入学し、農業者育成支援検研修を修了。農業の素晴らしさと大変さを身をもって感じたという。

「20種類ほどの農作物を育てて収穫したが、在籍していた2020年の夏は特に暑かったため、熱中症で倒れてしまう人も出るほど過酷な状況だった。また、有機野菜は管理が大変で、そのぶん価格も高いのが現状。これを自動化できれば、大変な思いをすることなく農業を行え、有機野菜も一般化するのでは……との思いが強まった」。

そこで、高専時代の同級生であり、現在は早稲田大学次世代ロボット研究機構で主任研究員・研究院准教授となっている森氏と共同でトクイテンを立ち上げたのだ。

社名に込められているもの

それにしても、農業のスタートアップ企業名に「トクイテン」を選んだのはなぜだろうか。一体何の「特異点」なのだろう。

「それには3つの意味が込められている」というのは森氏だ。「ロボットの勉強会をしたときに、通常とは異なる(特異な)取り扱いをしなければならない場合のことを特異点というよね、という数学的な話が出た。自分たちがこれから挑む農業は、今までとは違うやり方で行うことが決まっていたという意味が1つ」と解説する。

続けて「宇宙論やロボット工学ではある種の状態が特異点に近づくと劇的に加速し変化することがあります。わたしたちの技術が浸透することで農業が劇的に変わるという意味の特異点。それから、人工知能も含め、新しい技術が出てきて加速度的に指数関数で物事が進んでいき、ある瞬間に世の中が劇的に変わるのも技術的特異点(シンギュラリティ)と呼ばれており、その意味も含んでいる」と森氏は説明してくれた。

「これまでの農業では、人が介入することで収穫(人が摂取するエネルギー)を得られたが、それを人間なしにまかなえるようにすることが、トクイテンの目指す農業。それは後から振り返ると、文明が変わってしまうほどの特異点になるのではないか。また、そういう特異点と呼ばれるような存在になりたい、という想いで、この社名を選んだ」(森氏)

農地法に守られているからこそ難しかった農地の取得

あくまでも、農業を事業の柱とするのがトクイテンなので、作物を植える土地が必要になる。しかし、その取得には苦労があったという。

それは、農地が農地法によって守られているからだ。この農地法では、地域の農業委員会から許可を得た農家または農業従事者以外に農地を売却してはならないと定められている。また、売却先の管理者が管理を怠り、害虫を発生させる、耕作を放棄して荒れ地にするといったことを防ぐため、信用を得ていることも重要になる。

「農地売却は二束三文にしかならないうえ、信用できない人に売ってしまうことで回りからつまはじきにされるなど、デメリットが多いため、売りたくてもそれをためらう農家が多い」と豊吉氏は解説する。

ここで活きてきたのが、農業大学校を修了したことや、地元の農業法人の土地を間借りし、有機トマトを苗から育てて出荷したという豊吉氏の実績だ。「この人たちなら、きちんと活用してくれる、というお墨付きをもらえた」と豊吉氏は振り返る。

「ようやく30a(アール)程度の農地売却の許可を得られそうというところまでこぎつけた。ビニールハウスを建て、来年の春から本格的に生産を開始したい」と豊吉氏は語る。

それでも国内で始めることのメリット

農地取得が難しいことに加え、国土の狭さ、台風が毎年来襲することも日本で農業のDXを進めることの難しいところだが、それでも日本だからこそのメリットがあると豊吉氏は考える。1つは水資源の豊富さ、そしてもう1つはロボティクスの強さだ。

「農業という業種で高齢化が進んでいることがDXを阻む1つの要因になっているが、高齢化が進んでおり、人手不足だからこそ、ロボットが活きてくる」と豊吉氏は説明する。

「まず、わたしたちはできあいの産業用ロボットに手を加えてすばやく現場投入し、実地経験を積みながら改善していくことを考えている。いちから作ると、1つの作業に特化したものができてしまい、年に数時間しか使わないようないくつものロボットで倉庫が満杯になってしまうこともあるからだ。

ただし、工業用ロボットは、人が近づかないところで作業するよう設計されているので、Co-ROBOT(人と一緒に作業できるロボット)という点ではまだまだ改善が必要。収穫作業や、人があまりやりたがらない運搬作業、農薬散布など、さまざまな作業を行える汎用性の高いロボットを目指したい」(森氏)

手間のかかる有機農業を劇的に加速させたい

2022年春に本格始動を予定しているトクイテン。まずはロボット×有機農業で作ったミニトマトを販売して収入を得るビジネスモデルを確立したいと考えている。

ミニトマトを最初の作物に選んだのは「ミニトマトが好きだったから」と豊吉氏。「嫌いな野菜だと、おいしくできたのかそうでないのかがわからないし、愛着もわかない。しかも、ミニトマトは、野菜の中で産出額が高く市場が大きい。また、最初のロボットは雨が当たらないビニールハウスの中で作業するものを作りたかったことと、品種によって、そこまで育て方に違いがないことも、選んだ理由」だと教えてくれた。

海外のベンチャー企業150社程度を調査し、有機農業を広げようとするところもあれば、作ったロボットの販売を事業の柱にしようとしているところもあったという。

豊吉氏は「ロボットを開発するが、それを単体で売るようなことは考えていない。あくまでも農業が主体で、農作物を売っていきたい」と語る。「ただ、蓄積されたノウハウを売って欲しいという要望が出たら、ロボットを使った有機農業の方法も含めたシステムという形で販売することもあるかもしれない」と展望を述べた。

「今は、有機野菜を作るのに手間がかかるため、一般的な野菜の2〜3割、場合によっては5割ほど高く販売されていて、なかなか手が出せない状況にある。でも、出始めは高くて手が出せなかった電気自動車を一般の人が買えるまでになっているのと同じように、ロボティクスによって、有機野菜が一般化するようになるとわたしたちは考えている。

今はまだ会社のメンバーが少なく、エンジニアをしている段階だが、農業分野の拡大や、有機野菜の一般化などにより、農業の特異点となれるよう邁進していきたい」と豊吉氏は語る。

画像クレジット:トクイテン

【コラム】山火事が日常になりつつある今、植生管理にもっとITを活用すべきだ

山火事はギリシャ、トルコからオーストラリアそしてカリフォルニアと、世界中で日常の出来事になりつつある。

火災の原因は、タバコの吸い殻、キャンプファイヤーの消し忘れから落雷までさまざまあり、カリフォルニア州で特に多いのが送電線の破損によるものだ。

Dixie Fire(ディキシー・ファイア)は現地時間7月13日、Pacific Gas and Electric Company(PG&E、パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック)の送電線に木が倒れたことで発火し、カリフォルニア州史上最大の単一火災となった。

PG&Eは、2015年、2017年の山火事、および2018年にバラダイスの町全体を破壊した山火事、通称Camp Fire(キャンプファイヤー)を巡る数々の訴訟によって増え続ける負債に直面し、チャプター・イレブン(連邦破産法第11章)を申請し、数百億ドル(数兆円)にのぼる追加の火災補償を免れようとした。

PG&Eは、山火事のすべての主要被害者グループと255億ドル(約2兆8327億円)の示談、および取締役の入れ替えを約束して倒産を免れた。

現在、PG&Eの植生管理プロトコルは、年間を通じた従来手法による樹木伐採を行っている。土地・住宅の所有者が検査の予告を受けた後、検査員が枝切りあるいは撤去が必要な樹木に手作業で印をつける。印をつけられた木々が適切な処置を受けるまでには4~6週間かかる。

破産にともなう組織再編計画の一環として、California Public Utilities Commission(カリフォルニア州公共事業委員会)はPG&Eの統治と運営を強化するための対策を複数制定した。その1つが、山火事のリスクを減らすためのEnhanced Vegetation Management(EVM / 拡張植生管理)プログラムだ。

これは、PG&Eが植生管理計画を継続するだけではなく、枯れたり枯れそうな樹木、張り出した枝、あるいは高く伸びすぎた樹木による潜在リスクの責任を負うことを意味している。同社の主要目標は、2021年末までに2400マイル(約3860km)分のEVMのうち1800マイル(約2900km)を完了することだ。

委員会は山火事リスクの高い上位20%の地域に焦点を絞り、Circuit Protection Zones(サーキット・プロテクション・ゾーン)を設定した。この上位20%をリスクが1~3%、4~10%、および11~20%の区域に分け、トップの1~3%が1800 EVMマイルの中心に位置づけられる。この1~3%だけで推定2422マイル(約3900km)を占めている。

ディキシー・ファイアーの出火元をSan Francisco Chronicle(サンフランシスコ・クロニクル)紙やGoogleマップ、PG&E提供の地図などの情報源を元に比較してみると、ディキシー・ファイアーの近くにはCPZのリスク11~20%の地域しかなかったことがわかる。2021年PG&Eがディキシー・ファイアー地域でEVMプログラムを実施する可能性は非常に低い。

カリフォルニア州の干ばつは以前にも増して厳しく長期に渡っている。どれが最大のリスク要因であるかに賭けている余裕はない。この場合、情報へのアクセスと一連の作業のスピードが規模と一致している必要がある。

我々が所属するSpacept(スペースプト)では、ディキシー・ファイアーの原因となった植生危険要因を突き止めるために当社のツールを使用できるかどうかを検討している。植生の異常増殖を発見できれば将来の山火事防止に役立つとともに公共事業の信頼性を高めることができる。

これを確かめるために、我々はSPOT(スポット)衛星の6月15日のデータを元に、San Francisco Chronicleが特定した地域を可能性の高い出火元として集中的に調べた。この山火事はDixie Road(ディキシー・ロード)のFeather River Canyon(フェザー川渓谷)付近から始まったことが報告されている。

画像クレジット:Spacept

次に当社のTree Detector(ツリー・ディテクター)を衛星写真に適用し、PG&Eが送電線周辺で伐採した道筋に木や植生の侵入がないかを調べた。

画像クレジット:Spacept

Tree Detectorはその送電線経路における一定レベルの異常増殖を検出した。その一部を拡大し、送電線の経路と植生を示すマスクを設定することで、危険増殖地帯の画像を生成した。

画像クレジット:Spacept

画像の青で示された部分は送電線経路の伐採された区域を表し、赤は高い木と植生の密度を、オレンジ色は中程度の植生密度を表わしている。

高さ40フィート(12メートル)以下の樹木境界線は送電線から15フィート(4.5メートル)以内にあってはならないというPG&Eの推奨を踏まえると、この地域にはその規則が守られていない高懸念地帯がいくつかあることがわかる。将来、PG&Eや他の電力会社は、このような異常増殖を事前に察知し、該当する地域に植生管理リソースを割り当てるためにSpaceptのような衛星に基づくソリューションを使うことができるだろう。

カリフォルニア州のように特に山火事の頻度が高く破壊的な場所では、山火事の数が少しでも減ることが、重要エコシステムとインフラストラクチャーの破壊防止につながる。そして関連する企業を数十億ドルの訴訟から救う。

点検を実施するためのスケーラビリティーと運用の障壁を越えるためには、経営における洞察力の改善が必要だ。衛星分析は実行可能な先見的取り組みであり、植生管理のための結果を取得するまでの時間を短縮する。

編集部注:本稿の執筆者Elijah Priwer(エリジャー・プライワー)氏はカリフォルニア大学バークレー校の機械工学科学生で、航空工学、人工知能、および宇宙物理学に興味を持っている。

Rita Rosiek(リタ・ロジーク)氏はニューヨーク拠点のコピーライター / マーケターで、業務範囲はスタートアップや新興技術にわたる。

画像クレジット:Justin Sullivan / Getty Images

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(文:Elijah Priwer、Rita Rosiek、翻訳:Nob Takahashi / facebook