Discordがプレミアム会員制度を構築中、クリエイターの新しい収益手法に

Discord(ディスコード)は、コミュニティメンバーに有料購読者限定コンテンツへのアクセスを提供することで、クリエイターが収益を上げられるようにする新しい方法を導入する。この新プレミアム会員制度は最も要望の多かった機能の1つで、Discordのコミュニティが成長するために使用するツールを合理化するオプションを提供すると同時に、同社に新たな収益源をもたらす。

プレミアム会員になると、Discordコミュニティは、コンテンツの一部または全部を有料にすることができるようになる。サーバーはほぼ無料で開放したまま、最も熱心なメンバーのために有料のプレミアムチャンネルを設けることもでき、あるいはコミュニティ全体をプレミアム化して、アクセスにお金をかけることもできる。

プレミアム会員制度について同社は、現時点では「非常に初期のパイロット版」としており、有料機能をテストしてフィードバックを提供する少数のコミュニティに先行して導入される。プレミアム会員制度の小規模テストグループには、チュートリアルやアドバイスを提供するゲーミングブートキャンプ、Trans Community Center(トランスコミュニティセンター)、ストリーミング技術のチュートリアルを提供するサーバーStream Professorなどのコミュニティが含まれる。

Discordのクリエイター製品を統括するプロダクトマネージャーDerek Yang(デレック・ヤン)氏は「Discordコミュニティの運営をより持続可能なものにすることが重要です」とTechCrunchに語った。ヤン氏によると、プレミアムサブスクを広範に展開する時期は決まっておらず、製品を正しいものにするために一歩一歩進めているという。

多くのDiscordコミュニティは、プレミアムコンテンツへのアクセスを管理するために、Patreonのようなサードパーティのサービスをすでに利用している。Discordにこのオプションが導入されたことで、コミュニティは、メンバーがDiscordのプレミアムなNitro機能に支払うこれまでの決済と一緒にサブスクできるカスタマイズされた特典を作ることができるようになる。

同社は、有料会員サブスク料の10%を徴収する予定だが、クリエイターの収益化の実験結果によっては、この数字は将来的に変化する可能性がある。同社は5月に、クリエイターがプラットフォーム上で収益を上げることができる最初の機能として、チケット制のバーチャルイベントのテストを開始した。

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同社はブログへの投稿で「より多くのクリエイターと対話する中で、彼らがこのすばらしいコミュニティを構築するだけでなく、維持・継続できるようにしたいと考えました。そして、これらのコミュニティのメンバーが、作成された価値に対してクリエイターに対価を喜んで支払うことをすでに目の当たりにしています」と書いている。

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画像クレジット:Discord

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Nariko Mizoguchi

録音したTwitterスペースをiOS、Android、ウェブの全ユーザーが聴けるように

Twitter(ツイッター)はiOS、Android、ウェブのすべてのユーザーに、スペースの録音を聞くオプションを展開した。この最新の動きにより、同社のスペース機能は、従来のポッドキャストに近いものとなり、ユーザーはライブ放送終了後に会話を聞くことができるようになった。この新機能は、Clubhouse(クラブハウス)が、ユーザーがライブルームを録画して後で共有できるリプレイオプションを導入したことを受けたものだ。

また、Twitterは一部のホストに対して、iOSおよびAndroid上でスペースを録音する機能を提供している。この機能は、10月に開始されたスペースの録画機能に続いて、iOSの一部のホストにのみ提供されていた。

この機能を利用するには、スペースのホストは、通常通り、自分のスペースにタイトルを付け、部屋の内容を説明するタグを3つまで選択して、ライブオーディオルームを作成する。その後「スペースを開始」ボタンをタップしてライブオーディオセッションを開始する前に、新しい設定「スペースを録画」をオンにすることができる。

録画中のTwitterスペースにいるユーザーには、スペースの上部に「Rec」ボタンと赤い点が表示され、録画が行われていることがわかる。

ホストがスペースを終了するときは、通常通り右上の「終了」ボタンをタップすると、ポップアップボックスが表示され、スペースの終了と録画の停止の両方を確認するように求められる。終了すると、スペースの録音はTwitterのプラットフォームで共有され、リスナーはいつでも再生したり、自分で再共有したりすることができる。

Twitterは、ここ数カ月の間に、スペース機能の拡張と強化に取り組んできた。最近では、ユーザーが自分のスペースへのダイレクトリンクを共有することで、他のユーザーがTwitterにログインすることなく、ウェブ上でライブオーディオセッションを聴くことができる機能を提供している。Twitterは、この新機能は、Twitterを利用していないがスペースでのライブを聴きたいと思っている友人がいるユーザーに向けたものだと述べている。

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今回の機能拡張により、スペースはより多くの人に利用されるようになり、Twitterは新規ユーザー獲得のチャンスを得ることができる。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Aisha Malik、翻訳:Yuta Kaminishi)

ツイッターがSlack対抗のメッセージングサービスQuillを買収、チームはDM機能開発に取り組む

Twitter(ツイッター)は新CEOの下、広告ベースのオープンエンドな消費者によるメッセージ投稿からさらに事業を多様化するために、今後の展開を示唆するような買収を行った。Twitterは、ビジネスに特化したメッセージングサービスQuill(クイル)を買収した。Slack(スラック)などへの対抗と、人々のTwitter利用維持を目的としている。

買収条件は開示されていない。Quillは、Sam AltmanやIndex Venturesなどの出資者から約1600万ドル(約18億円)を調達し、2021年2月にステルス状態から登場した。Slackの欠点を指摘し、Salesforce(セールスフォース)に買収されたことで勢いを増したSlackに対抗する製品を開発しようとした勇敢さはさておき、Quillの最大のセールスポイントは、スタートアップコミュニティの多くの人々が賞賛する、Stripe(ストライプ)の元クリエイティブディレクターであるLudwig Pettersson(ルードウィヒ・ペターソン)氏が設立したことだ。

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Twitterの広報担当によると、Quillは今回の買収の対象にはならず、アプリとしての活動は終了するとのことだ。しかし、Quillのチームは、TwitterのExperience部門に加わり、メッセージングツール、特にTwitterのダイレクトメッセージ(DM)の開発に取り組むことになっている。またTwitterによると、ペターソン氏はプロダクトマネージャーの役割を担い、Oji Udezue(オジ・ウデツエ)氏が率いるConversationsチームに所属する。

DMは、Twitterウォッチャーにとって長い間関心の的だった。多くの人はTwitterがいつ、どのようにしてDMをより独立した製品、そして可能なビジネスラインに発展させようとするのか関心を寄せてきた。特に、近年はメッセージングアプリの大ブームがあり、他の多くのオープンエンドのソーシャルメディア・プラットフォームがダイレクトメッセージのビジネスを強化する動きがあったためだ。

今、Twitterはビジネスラインを多様化する動きを活発化させているが、もしかしたらこの買収はその機会になるかもしれない。

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Quillにとってはほろ苦いエンディングだ。前述したように、Quillは社会人にはコラボレーションとコミュニケーションが必要だが、気晴らしを犠牲にしてはいけないという主張をし、それを解決するためにまったく新しい製品を構築して規模を拡大しようとする大胆さを持っていた。しかし、この分野への新規参入を成功させることは、他の多くの大金持ちやプラットフォームを独占する企業が積極的に展開していなかったとしても、困難なことだった。Quillは才能と野心に満ちたチームを結成した。それゆえに、彼らのIPと人材が次に何に活用されるか、見る価値がある。

ペターソン氏も仲間に加わるかどうかTechCrunchは問い合わせており、情報が入り次第、この記事を更新する。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

ツイッターがデータ分析により問題行動をより早期に特定する新しい違反ツイート報告システムをテスト中

Twitter(ツイッター)は、ユーザーがTwitterのルールに違反していると思われるツイートを報告する方法に、いくつかの変更を加えようとしている。

多くのソーシャルメディア企業と同様に、Twitterはこれまで、ポリシー違反の可能性があるツイートにフラグを立てるために、ユーザーからの報告に頼ってきた。しかし、同社が思い描いている新しいシステムでは、報告された情報は、個々のインシデントを単独評価する方法ではなく、そのユーザーのプラットフォーム上の行動パターンをより詳細に把握できるようになる。

画像クレジット:Twitter

Twitterは現在、米国内の一部のユーザーを対象に新システムのテストを行っているが、2022年からはより広範囲のユーザーにこのシステムを提供する予定だ。このシステムは、Twitterユーザーがコンテンツを報告する際に表示される既存のプロンプトを置き換える。

最も大きな変更点の1つは、ユーザーが報告する際、特定のツイートがTwitterのどのポリシーに違反しているか尋ねるのではなく、ユーザーは情報を提供し、Twitterは自動システムを使って、そのツイートがどのルールに違反しているかを提案することだ。

ツイートを報告したユーザーは、その提案を受け入れることも、正しくないと指摘することもできる。このフィードバックは、Twitterが報告システムにさらに磨きをかけるために利用される。Twitterはこれを、医者に行って自分の症状を説明するのと、自己診断するのとの違いになぞらえている。

担当チームのシニアUXマネージャーであるRena Al-Yassini(レナ・アル・ヤシーニ)氏は次のように述べている。「違反を報告する際にもどかしく複雑なのは、プロセスがTwitterルールで定義されている利用規約違反に基づいているということです。報告される内容の大部分は、Twitterの違反行為という特定の基準を満たしていない、より大きなグレーの領域に属していますが、ユーザーは自分が経験していることを、深刻で、非常に害悪なものとして報告しているのです」。

Twitterは、このようなグレーエリアに属する報告を収集・分析し、プラットフォーム上の問題行動のスナップショットを得たいと考えている。理想的には、ハラスメント、偽情報、ヘイトスピーチ、その他の問題領域の新たな傾向を、それらがすでに定着した後ではなく、浮上してきた時点で特定できるようになる。Twitterは、この変更によって人間のモデレーターを増員する必要があるかどうかについてはコメントを避け、人間によるモデレーションと自動化されたモデレーションを併用して情報を処理するとしている。

また同社は、ユーザーからの報告プロセスを改善し「ループを閉じる」ことで、たとえあるツイートが執行措置に至らなかったとしても、報告プロセスをより有意義なものにしたいと考えている。この新システムは、プラットフォームをより安全にするための調査で判明した、よくある苦情を解決することを目指している。

Twitterのヘルスチームに属する製品管理担当ディレクターのFay Johnson(フェイ・ジョンソン)氏はこう語っている。「このシステムは、まだ把握されていない未知の問題に対処するのに役立ちます。また、まだルールが存在しないような新たな問題が発生した場合、それを知るためのメソッドを確保していきたいと考えています」。

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画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Aya Nakazato)

フェイスブックがエンド・ツー・エンド暗号化の全面導入を「2023年中まで」延期

Facebook(フェイスブック)改めMeta(メタ)が、エンド・ツー・エンド暗号化を同社の全サービスに全面展開することを「2023年中まで」延期する。このことは、同社の安全部門のグローバル責任者であるAntigone Davis(アンティゴン・デイビス)氏が英国のTelegraph(テレグラフ)紙に寄稿した論説記事によって明らかになった。

Facebook傘下のWhatsApp(ワッツアップ)には、すでに2016年からエンド・ツー・エンド暗号化が全面的に導入されているが、ユーザーがメッセージデータを暗号化する鍵をユーザーのみに持たせるこの機能は、同社の他の多くのサービスではまだ提供されていない。つまり、エンド・ツー・エンド暗号化が提供されていないそれらのサービスでは、メッセージデータを公権力に提供するよう召喚されたり令状が発行されたりする可能性があるということだ。

しかし、Facebook創業者のMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏は、Cambridge Analytica(ケンブリッジ・アナリティカ)のデータ不正利用スキャンダルを受けて、2019年にはすでに「プライバシー重視のプラットフォームへと転換させる」取り組みの一環としてエンド・ツー・エンド暗号化を同社の全サービスに全面導入する計画であることを発表した。

ザッカーバーグ氏は当時、エンド・ツー・エンド暗号化の全面導入の完了時期について具体的な日程には言及しなかったが、Facebookは2021年初めに、2022年中には全面導入が完了する予定であると示唆していた。

それがこの度、同社は、2023年中の「いずれかの時点」まで完了する予定はないと発表した。明らかに先送りされているようだ。

デイビス氏によると、今回の延期は、子どもの安全に関わる捜査を支援するために情報を法執行機関に提供する能力を同社が保持できるようにして、安全性を確保しながらエンド・ツー・エンド暗号化を実装することに時間をかけたいと同社が希望しているためだという。

デイビス氏は次のように語る。「当社でもそうだが、ユーザーのメッセージにアクセスできない状態で、テック企業が虐待問題に立ち向かい続けることと法執行機関の重要な任務をサポートし続けることをどのように両立できるのかという点については、今も議論が続いている。プライバシーと安全性のどちらかを選ばなければならないような状態にしてはいけないと当社は考えている。だからこそ当社は、適切な方法でこの技術を導入するために、強力な安全対策を計画に盛り込み、プライバシー分野や安全分野の専門家、市民社会、政府と協力している」。さらに、同社は「プロアクティブな検知テクノロジー」を使用して不審なアクティビティを特定することに加え、ユーザーのコントロール権限を強化し、問題を報告する能力をユーザーに付与する予定だと同氏はいう。

Facebookが2年以上前に「全サービスへのエンド・ツー・エンド暗号化導入」計画を公に発表してからこれまで、英国を含む西側諸国の政府は、最高レベルの暗号化を全サービスに全面導入する計画を延期または断念するよう同社に対して強い圧力をかけ続けている。

英国政府はこの点で特に、Facebookに対して苦言を呈してきた。内務大臣のPriti Patel(プリティ・パテル)氏は、Facebookのエンド・ツー・エンド暗号化拡大計画は、オンラインの児童虐待を防止する努力を阻害するものになると、公の場で(繰り返し)警告し 、同社を、児童性的虐待コンテンツ(CSAM)の制作と配信を防ぐ闘いにおける無責任な悪役であるとみなした。

したがって、Metaが今回、英国政府ご贔屓の新聞に論説記事を寄稿したのは偶然ではなかったのだ。

Telegraph紙に寄稿された前述の論説記事の中で、デイビス氏は「エンド・ツー・エンド暗号化を展開するにあたり、当社は、市民の安全を確保する活動に協力しつつも、暗号化されていないデータの組み合わせを用いて各種アプリ、アカウント情報、ユーザーからの報告をプライバシーが保護された安全な状態に保つ」と述べ「この取り組みにより、すでに、子どもの安全を担当する当局機関に対し、WhatsAppから極めて重要な情報を報告することができている」と同氏は付け加える。

デイビス氏はさらに、Meta / Facebookは過去の事例をいくつも調査した結果「エンド・ツー・エンド暗号化をサービスに導入した場合でも、重要な情報を当局機関に報告することができていた」との結論に達したと述べ「完璧なシステムなど存在しないが、この調査結果は、当社が犯罪防止と法執行機関への協力を継続できることを示している」と付け加えた。

ところで、Facebookのサービスにおいてすべてのコミュニケーションがエンド・ツー・エンドで暗号化された場合に、同社は一体どのようにして、ユーザーに関するデータを当局機関に渡すことができるのだろうか。

Facebook / Metaがそのソーシャルメディア帝国において、ユーザーのアクティビティに関する手がかりを集めている方法の詳細をユーザーが正確に知ることはできない。しかし、1つ言えることとしてFacebookはWhatsAppのメッセージ / コミュニケーションの内容がエンド・ツー・エンドで暗号化されるようにしているが、メタデータはエンド・ツー・エンドで暗号化されていないということだ(そしてメタデータからだけでも、かなり多くの情報を得ることができる)。

Facebookはまた、例えば、2016年に議論を呼んだプライバシーUターンのように、WhatsAppユーザーの携帯電話番号データをFacebookとリンクさせるなど、アカウントとそのアクティビティを同社のソーシャルメディア帝国全体で定期的にリンクさせている。これにより、Facebookのアカウントを持っている、あるいは以前に持っていたユーザーの(公開されている)ソーシャルメディアアクティビティが、WhatsAppならではの、より制限された範囲内でのアクティビティ(1対1のコミュニケーションや、エンド・ツー・エンド暗号化された非公開チャンネルでのグループチャット)とリンクされる。

このようにしてFacebookは、その巨大な規模(およびこれまでにプロファイリングしてきたユーザーの情報)を利用して、たとえWhatsAppのメッセージ / コミュニケーションの内容自体がエンド・ツー・エンドで暗号化されていたとしても、Facebook / Metaが提供する全サービス(そのほとんどがまだエンド・ツー・エンド暗号化されていない)において、誰と話しているのか、誰とつながっているのか、何を好きか、何をしたか、といったことに基づいて、WhatAppユーザーのソーシャルグラフや関心事を具体的に把握できる。

(このことを、デイビス氏は前述の論説記事で次のように表現している。「エンド・ツー・エンド暗号化を展開するにあたり、当社は、市民の安全を確保する活動に協力しつつも、暗号化されていないデータの組み合わせを用いて各種アプリ、アカウント情報、ユーザーからの報告をプライバシーが保護された安全な状態に保つ。この取り組みにより、すでに、子どもの安全を担当する当局機関に対し、WhatsAppから極めて重要な情報を報告することができている」)。

Facebookは2021年の秋口に、WhatsAppが透明性に関する義務を遂行しなかったとして欧州連合から多額の罰金を科せられた。WhatsAppがユーザーデータの使用目的と、WhatsApp-Facebook間においてそのデータを処理する方法について、ユーザーに適切に通知していなかったことが、DPAの調べによって明らかになったためだ。

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FacebookはGDPRの制裁金に関して控訴中だが、米国時間11月22日に、欧州の規制当局からの求めに応じて、欧州のWhatsAppユーザー向けのプライバシーポリシーの文言を少し変更することを発表した。しかし、同社によると、ユーザーデータの処理方法については、まだ何の変更も加えていないとのことだ。

さて、エンド・ツー・エンド暗号化そのものに話を戻すと、2021年10月、Facebookの内部告発者であるFrances Haugen(フランセス・ハウゲン)氏が、同社によるエンド・ツー・エンド暗号化テクノロジーの応用に関して懸念を表明した。このテクノロジーはオープンソースではなく、専有テクノロジーであるため、ユーザーはFacebook / Metaのセキュリティ方針を信じなければならず、同テクノロジーのコードが本当にそのセキュリティ方針を順守しているかどうか、独立した第三者が検証する術がない、というのが同氏の主張だ。

ハウゲン氏はさらに、Facebookがエンド・ツー・エンド暗号化をどのように解釈しているのかを社外の者が知る方法がないことも指摘し、同社がエンド・ツー・エンド暗号化の使用を拡大しようとしていることについて「Facebookが本当は何をするつもりなのかまったくわからない」と述べて懸念を表明した。

「これが何を意味するのか、人々のプライバシーが本当に保護されるのか、私たちにはわかりません」と英国議会の議員たちに語ったハウゲン氏は、さらに次のように警告した。「これは非常に繊細な問題で、文脈も異なります。私が気に入っているオープンソースのエンド・ツー・エンド暗号化製品には、14歳の子どもがアクセスしているディレクトリや、バンコクのウイグル族コミュニティを見つけるためのディレクトリはありません。Facebookでは、社会的に弱い立場にある人々を標的にすることが、この上なく簡単にできてしまいます。そして、国家政府がそれを行っているのです」。

ハウゲン氏は、エンド・ツー・エンド暗号化の支持については慎重に言葉を選んで発言し、エンド・ツー・エンド暗号化テクノロジーは、外部の専門家がそのコードや方針を厳正に調査できるオープンソースで対応することが望ましいと述べた。

しかし、Facebookの場合は、エンド・ツー・エンド暗号化の実装がオープンソースではなく、誰も検証できないため、規制当局による監視が必要だとハウゲン氏は提案した。ユーザーのプライバシーをどの程度確保するか(したがって、政府当局などによる潜在的に有害な監視からの保護をどの程度確保するか)、という点についてFacebookが誤解を招く指針を打ち出さないようにするためだ。

「私たちはプライバシーを保護し、危害の発生を防ぐ」という見出しの下で書かれた前述のデイビス氏の論説記事は、Metaが「外部の専門家と引き続き協力し、虐待と闘うための効果的な方法を構築していく」ことを誓う言葉で締めくくられており、英国議会の議員をなだめることによって、Facebookが一挙両得を狙っているように感じられる。

「Facebookはこの取り組みを適切な方法で進めるために時間をかけており、当社のすべてのメッセージングサービスでエンド・ツー・エンド暗号化を標準機能として導入することが、2023年中のある時点までに完了する予定はない」とデイビス氏は付け加え「Facebookはユーザーのプライベートなコミュニケーションを保護し、オンラインサービスを使用する人々の安全を守る」という、具体性のない宣伝文句をまた1つ発して記事を締めくくった。

英国政府は間違いなく、Facebookが今回、規制に配慮を示しながら非常に厄介な問題に関する記事を公に発表したことについて、喜ばしく思うだろう。しかし、同社が、パテル内相などからの長期にわたる圧力を受けて、エンド・ツー・エンド暗号化の延期の理由を「適切に導入するため」だと発表したことは「では、非常にセンシティブなプライバシーに関する問題という文脈において、その『適切』とは何を意味するのか」という懸念を強めるだけだろう。

もちろん、デジタル権利の擁護活動家やセキュリティの専門家を含むより大きなコミュニティも、今後のMetaの動向を注意深く見守っていくだろう。

英国政府は最近、児童性的虐待コンテンツ(CSAM)の検知または報告、作成阻止を目的として、エンド・ツー・エンド暗号化サービスにも応用できる可能性があるスキャニング/フィルタリング技術を開発する5つのプロジェクトに、およそ50万ポンド(約7700万円)の税金を投じた。「代替ソリューション」(プラットフォームにエンド・ツー・エンド暗号化を実装する代わりに、スキャニング / フィルタリング技術を暗号化システムに組み込むことによってCSAMの検知 / 摘発を行う)を開発することによって、革新的な方法で「テクノロジーにおける安全性」を確保するよう閣僚たちが求めたためだ。

したがって、英国政府は(ちなみに現在、オンライン安全法案の制定に向けても動いている)、子どもの安全に関する懸念を政治的な圧力として利用して、暗号化されたコンテンツを、エンド・ツー・エンド暗号化の方針のいかんに関わらず、ユーザーのデバイス上でスキャンすることを可能にするスパイウエアを実装するようプラットフォームに働きかける計画のようだ。

そのようにして埋め込まれたスキャンシステムが(閣僚たちの主張とは相容れないものの)堅牢な暗号化の安全性にバックドアを作ることになれば、それが今後数カ月あるいは数年のうちに厳密な調査と議論の対象になることは間違いない。

ここで参考にできるのがApple(アップル)の例だ。Appleは最近、コンテンツがiCloudのストレージサービスにアップロードされる前に、そのコンテンツがCSAMかどうかを検知するシステムをモバイルOSに追加することを発表した。

Appleは当初「当社は、子どもの安全とユーザーのプライバシーを両立させるテクノロジーをすでに開発している」と述べて、予防的な措置を講じることについて強気な姿勢を見せていた。

しかし、プライバシーやセキュリティの専門家から懸念事項が山のように寄せられ、加えて、そのように一度は確立されたシステムが(著作権下のコンテンツをスキャンしたいという市場の要求だとか、独裁政権下の国にいる反政府勢力を標的にしたいという敵対国家からの要求に応えているうちに)いや応なく「フィーチャークリープ」に直面する警告も発せられた。これを受けてAppleは1カ月もたたないうちに前言を撤回し、同システムの導入を延期することを表明した。

Appleがオンデバイスのスキャナーを復活させるかどうか、また、いつ復活させるのか、現時点では不明である。

AppleはiPhoneのメーカーとして、プライバシー重視の企業であるという評判(と非常に高収益の事業)を築いてきたが、Facebookの広告帝国は「利益のために監視する」という、Appleとは正反対の野獣である。したがって、全権力を握る支配者である創業者が、組織的に行ったプライバシー侵害に関する一連のスキャンダルを取り仕切った、Facebookという巨大なソーシャルメディアの野獣が、自社の製品にスパイウエアを埋め込むようにという政治的な圧力を長期にわたって受けた結果、現状を維持することになれば、それは自身のDNAを否定することになるだろう。

そう考えると、同社が最近、社名をMetaに変更したことは、それよりはるかに浅薄な行動だったように思えてくる。

画像クレジット:Justin Sullivan / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

キャリアSNS「YOUTRUST」がAndroid版アプリをリリース、累計登録ユーザー数10万人突破も発表

キャリアSNS「YOUTRUST」がAndroid版アプリをリリース、累計登録ユーザー数10万人突破

信頼でつながるキャリアSNS「YOUTRUST」(ユートラスト)を運営するYOUTRUSTは12月7日、従来のウェブ・iOSアプリ版に加えて、新たにAndroid版アプリをリリースしたと発表した。また、累計登録ユーザー数が10万人を突破(2021年12月現在)したことも明らかにした。

2017年12月設立のYOUTRUSTは、信頼でつながる「日本のキャリアSNS」として「YOUTRUST」を展開。友人や同僚と仕事の話を楽しみながら、新しいつながりやキャリアに役立つ情報、自分にあった仕事と出会えるという。活躍し続けるキャリアを歩みたいすべての人にとって、キャリアのチャンスを増やし出会いを生み出すSNSとしている。

WhatsApp、メッセージの自動消去をデフォルト設定可能に

WhatsAppユーザは、送信あるいは受信するすべての新規メッセージを簡単に消すことができるようになった。世界最大のインスタントメッセージングサービスは、同社幹部のいう次のプライバシー標準に向けて、機能を拡張している。

世界で20億人以上が使っているMeta(メタ)傘下のサービスは、ユーザーがすべてのチャットをデフォルトで自動消去させるオプションを米国時間12月6日に提供開始した。これまでユーザーは、新しいチャットごとに手動で自動消去を有効にする必要があった。

またWhatsAppは、メッセージを24時間あるいは90日後に消去させるオプションを、2020年最初に同機能を導入した際の7日間の期間に加えて提供する。

「自動消去によって、より自由で正直な会話が可能になります」とWhatsAppの消費者プロダクト責任者であるZafir Khan(ザファー・カン)氏がTechCrunchのインタビューで語った。全新規メッセージをデフォルトで自動消去させるオプションができることで、ユーザーが友達との気まずさを回避するのに役立つだろうとのことで、新機能の開発中、チームがユーザーからのフィードバックを得たことを付け加えた。

画像クレジット:WhatsApp

メッセージは、会話参加者のいずれかが自動消去オプションを有効にしていれば、一定時間後に消去する、と同氏は説明した。また、グループメッセージ向けにもこのオプションを提供する予定で、グループ作成時に選択できるようにする、と語った。

自動消去はWhatsAppが拡大展開する上での大きな焦点のようだ。「プライバシーは常にWhatsAppの中心にあります。私たちはエンド・ツー・エンド暗号化を提供しており、メッセージングの世界で標準となるずっと前にデフォルトにしました」と同氏はいう。

「自動消去はメッセージングの新たな業界標準だと考えています」とMetaのCEOであるMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏はFacebookの投稿で述べ「すべてのメッセージが永遠に残る必要はありません」と付け加えた。

メッセージが消える仕組みは絶対ではないので念の為。

今後もメッセージを転送したりスクリーンショットを取ることで、消去プロセスを回避できる。しかしカン氏は、これは技術の問題ではないことを示唆した。メッセージを送る相手がこちらの要求に従いたくなければ、連絡するのをやめる以外にできることはほとんどない。

画像クレジット:Kirill Kudryavtsev / AFP / Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Nob Takahashi / facebook

ラテンアメリカの「アリババ」を目指すMeru、海外から安全に商品を調達できるB2Bマーケットプレイスを構築

海外から商品を調達したり輸入したりする際には、どこかで問題が発生することがあり、企業は代金を支払った品を受け取れなかったり、あるいは何も届かないことさえある。

メキシコに拠点を置くMeru.com(メル・ドットコム)を共同設立したManuel Rodriguez Dao(マヌエル・ロドリゲス・ダオ)CEOと共同設立者のFederico Moscato(フェデリコ・モスカート)氏は、他社のために商品を調達する仕事をしていたとき、当初注文した商品を手に入れることができないなどの問題に直面し、このことを痛感した。

2020年、彼らはEduardo Mata(エドゥアルド・マータ)氏、Virgile Fiszman(ヴィルジール・フィスマン)氏、Daniel Ferreyra(ダニエル・フェレイラ)氏と共同で、中小企業が同じ運命を避けられるようにMeruを起ち上げた。同社は米国時間12月2日、シリーズAラウンドによる1500万ドル(約17億円)の資金調達を発表した。このラウンドは、Valor Capital(バロー・キャピタル)とEMLES Ventures(エムレス・ベンチャーズ)が共同で主導し、創業者グループによる個人投資も含まれている。これまでに同社は総額1700万ドル(約19億2500万円)を調達している。

Meruの技術には、シンプルなプロセスで、価格の非対称性なしに国内外のメーカーをサプライチェーンの他の部分と結びつけるマーケットプレイスとアプリが含まれており、まずは中国とメキシコの間で展開している。品質認証を受けた工場と直接取引していると、ロドリゲス・ダオ氏はTechCrunchに語った。

従来の調達方法では、中小企業は週に2日もの時間を費やし、最大5社の仲介業者を介して、取引しなければならなかった。しかも、平均して80%もの取引が詐欺に遭っていると、ロドリゲス・ダオ氏はいう。これに対し、Meruを利用する顧客は、数分で商品を選択して購入することができ、その際には商品を確実に、そして市場のベストプライスで受け取ることができるという保証も、同社で付けているという。

MeruはY Combinator(Yコンビネータ)の2021年冬のバッチに参加しており、今回の新たな資金調達は、最終的にはラテンアメリカのAlibaba(アリババ)になるという目標に向けて、Meruが中小企業のためのワンストップショップになることを支援すると、ロドリゲス・ダオ氏は述べている。

「私たちは中国でリモートワークを始め、グローバルな取引の中で、新興国でも同じような痛みが発生していることを知りました」と、同氏は続けた。

「私たちは、アリババのようにテクノロジーを駆使した流通によって、仕入れや調達を安全なものにしたいと考えています。そのために、サプライチェーン全体の関係者をつなぎ、彼らが割引価格を利用できるようにしています」。

Meruは開始からわずか1年で、すでに1万人以上の登録ユーザーを抱え、7つの商品カテゴリーを運営している。資金調達を支援するフィンテックのパートナーもいる。Meruがマーケットプレイスを起ち上げた2020年8月には6名だった従業員が、現在では中国とメキシコの両方で合わせて210名の従業員を擁するまでになった。

同社は今回の資金調達を、新たな業種やカテゴリーの追加、技術開発、チームの拡大に充てる予定だ。毎月の収益は40%から50%増加している。

「Meruは、ラテンアメリカの中小企業が、すべて単一のコンタクトポイントを通じて、アジアからより効率的に商品を購入できる統合的なB2Bマーケットプレイスを構築しています」と、Valor Capital GroupのマネージングパートナーであるAntoine Colaço(アントアーヌ・コラソ)氏は声明で述べている。「何千もの商品へのアクセスを提供し、すべての物流、請求、フォローアップのプロセスを管理し、金融ソリューションを組み込むことによって、Meruはラテンアメリカとアジアのグローバルなサプライチェーンのつながりを強化することに貢献するでしょう」。

画像クレジット:Meru.com

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(文:Christine Hall、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

「カーク船長」ことウィリアム・シャトナー氏の宇宙旅行がAmazonプライムのドキュメンタリーに

2021年10月、William Shatner(ウィリアム・シャトナー)氏は、史上最高齢で宇宙に飛び立った人物となった。その彼の旅が、Amazonプライムのドキュメンタリー番組「Shatner in Space」になることが決まった。「スタートレック」の俳優として知られる同氏が、ポップカルチャーカンファレンス「CCXP Worlds」のバーチャルパネルで自らこのニュースを明らかにしたと、Deadlineが報じた。

「The Shat」というニックネームも持つ同氏は、Blue Origin(ブルーオリジン)の2回目の有人飛行ミッションであるNS-18の4人のクルーの1人で、New Shepard(ニューシェパード)に乗って高度66マイル(約106.22km)まで飛行し、いわゆるカルマンラインを越えて宇宙に到達した(ただし、地球を周回してはいない)。90歳の彼の参加は、その数カ月前に宇宙飛行の最高齢記録を樹立した82歳のWally Funk(ウォーリー・ファンク)氏を超える快挙だった。

このドキュメンタリーでは、旅行前、旅行中、旅行後に何が起こったか見ることができる。同フライトには、Blue Originの副社長であるAudrey Powers(オードリー・パワーズ)氏、Planet Labs(プラネット・ラボ)の共同設立者であるChris Boshuizen(クリス・ボシュイゼン)博士、臨床試験ソフトウェア企業Medidata Solutionsの共同設立者であった故Glen de Vries(グレン・デブリース)氏も参加した。これは、Blue Originが2021年に計画している3回の有人ミッションのうちの2回目で、3回目(NS-19)は12月9日に予定されている。そのフライトには、マーキュリー・セブンの1人として米国初の宇宙飛行に成功したAlan Shepard(アラン・シェパード)氏の娘にあたるLaura Shepard Churchley(ローラ・シェパード・チャーチリー)氏と報道・情報番組「グッド・モーニング・アメリカ(GMA)」の共同アンカーであるMichael Strahan(マイケル・ストレイハン)氏の他、4人の有料顧客が参加する予定だ。

シャトナー氏は、Deadlineに次のように語った。「私の宇宙滞在は、想像を絶するほどの最も忘れ難い経験でした。私の旅を記録したこの特別番組は、その経験をドラマチックに紹介しています。私の願いは、地球を救うためには宇宙に行かなければならないということを、世界に向けて発信することです」。このドキュメンタリーは、米国、カナダ、英国、オーストラリア、ニュージーランドでは12月15日にAmazonプライムで放送され、その他の地域では2022年に放送される。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Steve Dent(スティーブ・デント)氏はEngadgetのアソシエイトエディター。

画像クレジット:Blue Origin

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(文:Steve Dent、翻訳:Aya Nakazato)

中国アリババがCFO交代を含む大規模な経営陣の再編を発表

Alibaba(アリババ)は、同社の最近の歴史の中で最大規模の再編成の1つとして、4人の幹部の役割を変更することを中国時間12月6日朝に発表した。

eコマースの巨人である同社のMaggie Wu(マギー・ウー、武衛)CFO(最高財務責任者)は2022年4月に退任し、後任には現副CFOのToby Xu(トビー・シュー、徐宏)氏が就任する。ウー氏は、Alibabaの方向性に大きな影響力を持つ人材で構成されるAlibaba Partnership(アリババ・パートナーシップ)のパートナーとAlibaba取締役会の執行取締役を引き続き務める。

ウー氏は、約15年前にAlibabaに入社して以来、同社の3件の株式上場に貢献した。2007年のAlibaba.com(同社のB2Bマーケットプレイス)の香港証券取引所への上場、2014年のAlibaba Group Holding(アリババグループ・ホールディング)のニューヨーク証券取引所への上場、2019年の香港証券取引所への上場である。Alibabaは、米中の緊張が高まる中、香港でのセカンダリー上場を推し進めた米国上場の中国企業の1つだ。

1999年に設立されたAlibabaは、2015年にJack Ma(ジャック・マー、馬雲)氏がCEOの座をDaniel Zhang(ダニエル・チャン、張勇)氏に譲り、さらに2019年に会長に任命したことで、すでに大きな再編を経験している。

ウーCFOは声明で次のように述べている。「本日行われたAlibabaのCFO交代の発表は、長年にわたる広範な準備の集大成であり、Alibabaの幹部継承計画の一環です」。

同氏はこう付け加えた。「市場には常に浮き沈みがありますが、Alibabaには野心的な長期目標があります。私たちはリレー選手のようなもので、会社を前進させるには、新世代の人材が必要です。私は、数年前に初めてCFOに就任した時の自分以上にトビー(・シュー)を信頼しています」。

シュー氏は、3年前にPwC(プライスウォーターハウスクーパース)からAlibabaに入社し、2021年の同社の投資家向け説明会に副CFOとして初めて登場した。Alibabaでは、中国でのスターバックスとの提携など、いくつかの大きな取引を監督してきた。

CFOの交代と同時に、ダニエル・チャンCEOは社内文書で、Alibabaは、国内および国際的なeコマースという2本立ての戦略を強化するための大規模な組織再編をすると発表した。

Alibabaの収益の柱である中国国内の消費者向けマーケットプレイスを長年にわたって指揮してきたJiang Fan(ジャン・ファン)氏は、新たに設立されたインターナショナルデジタルコマース部門を指揮する。インターナショナル部門には、同社が2016年に経営権を取得した東南アジアのAmazon(アマゾン)と呼ばれるLazada(ラザダ)が含まれる。また、Alibabaはトルコの主要なECプラットフォームTrendyolの過半数株式を取得し、南アジアで同社に相当する地位のDarazを買収している。

チャンCEOは社内文書の中で「今後も真のグローバル企業を目指していく中で、海外市場には多くのエキサイティングな可能性と機会があると考えています」と記している。

一方、中国国内の消費者向け市場と卸売市場は統合され、新たに中国デジタルコマース部門が設立され、Trudy Dai(トゥルーディ・ダイ)氏の監督下に置かれる。ダイ氏はこれまで、Alibabaの新たな成長ドライバーである、中国の低所得者層を対象としたバザー「Taobao Deals(淘宝ディールズ)」と、近隣の食料品店を対象とした「Taocaicai」の2つのサービスの陣頭指揮を執ってきた。

画像クレジット:Qilai Shen/Bloomberg / Getty Images

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(文:Rita Liao、翻訳:Aya Nakazato)

コーヒー2050年問題に挑むTYPICA、世界のコーヒー流通をDX

朝、目覚めたあとに、「まずコーヒー」という人は多いだろう。全世界でコーヒーは毎日22億杯飲まれている。つまり、(正確ではないが)世界人口の4分の1の人にとって欠かせない飲み物である。世界中で石油の次に多い流通量というのもうなずける。

しかし今のままでは、おいしいコーヒーを飲めなくなる時代がやってくるといわれている。「コーヒー2050年問題」だ。

その問題とは何か、何がその原因となっているのだろうか。コーヒー豆のダイレクトトレードプラットフォームを提供するTYPICAが開催したメディアセミナーで、それらに加え、同社の考える解決策や、実際に見られている成果について代表 後藤将氏に聞いた。

TYPICA代表の後藤将氏。普段はオランダを拠点としている(画像クレジット:YASUAKI HAMASAKI)

コーヒー2050年問題

私たちが普段飲んでいるコーヒーは、赤道を挟んで北回帰線(北緯25°)と南回帰線(南緯25°)に挟まれた「コーヒーベルト」と呼ばれる、地球上でもごく限られた地域で生産されている。そのため、消費量の多い欧米をはじめ、日本でも輸入に頼らざるを得ない。つまり、コーヒーは貴重な農産物なのだ。

しかし、過去30年間で世界のコーヒー生産は600万トンから1030万トンへと70%も増加している。

喜ばしいように見えるこの成長の裏にあるのが、これまで生産していなかった国のコーヒー業界への台頭だ。以前であれば主要な生産国はコロンビア、メキシコ、エチオピア、グアテマラ、エルサルバドルなどであったが、最近ではベトナムといった東南アジアでも生産が盛んになってきている。

もともと生産量の高かったブラジルと、近年になって生産を開始したベトナム。この2国による大量生産が、コーヒー生産の増加の85%を牽引している。

国別生産量の遷移。赤い線で表されている生産国は今後の生産が危ぶまれている

では何が問題なのか。

コーヒーの品種(原種)にはアラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種があり、全流通の60%をアラビカ種が占めている。

このアラビカ種は、高品質で、いわゆる「おいしい」コーヒー。缶コーヒーなどでも、誇らしげに「アラビカ豆使用」とプリントしてあるものを目にしたことがあるだろう。

おいしくて高品質な反面、アラビカ種は病害虫に弱く手間がかかる。つまり、コストがかかるのだ。

しかし、気候変動による収穫量の減少、収穫可能なエリアの変化、買い手が価格を決める「先物市場」という取り決めなどにより、生産者が1年もの間、手間ひまかけて生産したコーヒーで生活できなくなりつつある。しかも、大量生産する国が生産量を上げてきたことから、需要と供給のバランスが崩れ、価格が下がり気味。流通量が増えれば増えるほど、小規模生産者の手取りが減り、コーヒーで生活できなくなってしまうのだ。

コーヒーは天候に左右されやすく、収穫後も果皮を発酵させたり、水洗いしたり、天日干ししたりと何かと手間がかかる

そうすると、生活のためにマンゴーやバナナといったリスクが少なくコストのかからない農産物へと添削する農家が増える。その結果、これまで小規模ながらも高品質で希少なコーヒー豆を輩出していた生産者が減り続け、2050年には「普遍的」で「平準化」されたコーヒーは飲めても、おいしくて高品質、かつ個性豊かなコーヒー(ケニア、メキシコ、エルサルバドルといった産地のもの)を飲めなくなってしまうと予測されているのだ。

セミナーの最中にふるまわれた3種の希少なコーヒー(画像クレジット:YASUAKI HAMASAKI)

これがコーヒー2050年問題といわれているものだ。

サステナビリティ×DX=TYPICA

では、30年後の世界にもおいしいコーヒーが存在し続ける方法はないのだろうか。

それを解決する1つの鍵は、生産者がコーヒー豆の生産で生計を立てられるようにすることだ。つまり、生産者が生活を続けられるようにすることが、おいしいコーヒーのサステナビリティにつながる、というわけだ。

TYPICAは、コーヒー豆生産者が国際価格で売らざるを得ない状況から、世界各地のロースターに適正価格でダイレクトトレードできるような仕組みを整えた。

それが、社名にもなっているコーヒー豆のダイレクトトレードプラットフォーム「TYPICA」だ。

TYPICAの仕組みはこうだ。

コーヒー豆の生産者がニュークロップ(収穫し精製したて)のコーヒー豆を、TYPICAのオンラインプラットフォームに登録(オファー)する。ロースターは更新されたオファーリストから、購入したい生産者のコーヒー豆を選び、価格を確認して予約する。単位は麻袋で、1袋に約60キログラムの生豆が入る。

購入個数により、手数料率が変化する。輸入にかかる費用などもわかったうえで、ロースターは購入する

予約数が確定したところで、TYPICAが総数を取りまとめ、輸入する。国内到着後、各ロースターに配分。在庫を持たず、在庫から受注分を配送するわけではないため、到着したばかりのフレッシュな生豆をロースターに届けられる。もちろん、在庫を持つことによる余計なコストもかからない。

一般的に、個人店のロースターが生豆を購入するのは問屋や卸業者からである。それら業者は、商社がコンテナ単位(約18トン)で仕入れて流通させたものを取り扱う。その結果、チェーン店ではないロースターは、「一般的」な「よく知られている」生豆を仕入れるほかない。独自性を打ち出すとしたら、焙煎方法やブレンドの比率を変更するぐらいしかなかったのだ。

しかし、TYPICAを利用することにより、名前を知ることがなかったような中小規模の農園が作る、高品質で希少なコーヒー豆に出会えるため、他店との差別化を図れるようになる。

国内で名前の知られていない中小規模の農園で作られたコーヒー豆の買い付けに不安を感じさせないよう、TYPICAでは次のようなものを提供している。

  1. サンプルリクエスト:オファーリストの中から、生産者(農園または精製所)の扱っている品種を選び、リクエストする。ロースターは、届いたものをカッピング(ワインでいうところのテイスティング)して購入を検討する
  2. カッピングコメント:カッピングしたロースターは、オファーリスト内にカッピングコメントを書き込める。それを参考にして購入を検討する
  3. 生産者情報:コーヒーの味を決めるのは品種だけでなく、エリアや標高も関係している。開示されている生産者情報をもとに味を予測し、購入を検討する

実際に、サービスを利用しているロースターの1人である石井康雄氏(Leaves Coffee Roasters)は、「新しい農園を発見することにより、他店との差別化が図れる。大規模ロースターのようなネームバリューがなくても、高品質なコーヒーを入手するチャンスが与えられている」とコメントした。

ケニアでコーヒーカンパニーを経営しているピーター・ムチリ氏(ロックバーンコーヒー)は、「生産者からロースターの元へ豆が届くまでの費用に透明性があるおかげで、生産者のモチベーションが上がっている。なぜなら、彼らにきちんとした対価が支払われていることがはっきりわかるからだ」とコメント。ボリビアで精製所を経営しているフアン・ボヤン・グアラチ氏(ナイラ・カタ)は、TYPICA側の人がインタビューのために生産者と会うので、信頼関係が生まれ、モチベーションもアップして、コーヒーの生産を続けるという意志が生まれている。また、ヨーロッパやアジアのロースターに、自分たちの豆が届く、ということも、彼らに良い影響を与えている」と語った。

なお、TYPICA自体のサステナビリティも気になるところだが、現在のところロースターから得る手数料(15~30%。購入袋数によって段階的に遷移)によってマネタイズしているという。

世界59カ国でサービスを開始したとはいえ、まだ赤字状態が続いている。「2025年が損益分岐点になるだろう。今は、投資を受けつつ、面を取りにいく段階にある」と後藤氏は語った。

コーヒーを愛するすべての人がコーヒーを愛し続けられるように

「これまで、ロースターが、離れた場所にいる生産者について知るすべはほとんどなかった」と後藤氏。「今回のように我々がオーガナイズしたイベントに、生産者とロースターにオンラインで参加してもらうことで、お互いの顔を見られるようになった。それが、ロースターにも生産者にも良い影響を与えている」という。

また、「今まで、中小規模の生産者は、世界にオファーできなかったが、TYPICAのプラットフォームを通じて、ダイレクトトレードが可能になった。ロースター側も中小規模の生産者からオンラインで購入できるようになった」と述べ、「これがコーヒー業界のDXたる所以だ」と説明した。

共同代表の山田彩音氏は「大規模生産されたものが大量に流通するようになったため、コーヒー豆の生産地に依る多様性が失われているという声がある。また、どのロースターに行っても、同じような品種しか置いていない。TYPICAというプラットフォームを利用することで、ロースターはオリジナリティを発揮できるし、客側としてはスペシャリティコーヒーを身近なロースターで楽しめるようになる。生産者の生活も守られ、持続性に役立つと考えている」と、TYPICAが果たす役割についてまとめたていた。

鈴木洋介氏(ホシカワカフェ)は、「遠い国にいる生産者も、私たちと同じように生活しているんだ、という意識を改めてもてるようになった。彼らの中には、自分たちが生産したコーヒーを飲んだことのない人がいることだろう。『あなたの育てたコーヒーは、こんなふうに焙煎されました』と、生産者に飲んでもらえる仕組みを作ってもらえたら」とコメントとともに要望を出した。

今後の展望については、「マンツーマンで、オンライン商談できる場を提供したいと考えている。言語の壁があるので、通訳付き。チケット制にして30分間、直接商談してもらえるようになる」と後藤氏。それがもたらす「おいしくて高品質」なコーヒーの持続性への効果について、次のように期待を込めて語った。

「これにより、中小規模の生産者であっても、世界中のロースターを相手に取引できるようになり、農園を続けるモチベーションを保ってもらえる。また、自分たちが販売した価格と、ロースターが購入した価格の差について透明性が保持されているため、搾取されているという気持ちが生まれない。正当な対価が支払われていると感じてもらえる。

コーヒー生産で生活できるようになれば、農園を続けたいと考えたり、もっと質の高いものを生産したいと試行錯誤したりしてくれるようになる。それが、多様で希少なコーヒーのサステナビリティへとつながるのだ」と後藤氏はいう。

画像クレジット:YASUAKI HAMASAKI

ツイッターの新CEOパラグ・アグラワル氏が就任早々リストラ開始、すでに幹部2人退任

米国時間11月29日、Twitter(ツイッター)の共同創業者兼CEOであるJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏は、その職を退いた。そして、CTOのParag Agrawal(パラグ・アグラワル)氏を新CEOに任命した。2011年にエンジニアとしてTwitterに入社したアグラワル氏は、The Washington Post紙が入手した社内メールによると、12月3日の時点ですでに、会社の大幅な組織変更を発表したという。TwitterはTechCrunchにもこのニュースを確認した。

この再編の一環として、これまでに2人の幹部が退任した。2019年に入社したTwitterのチーフデザインオフィサーDantley Davis(ダントリー・デイビス)氏と、2011年に入社したエンジニアリング責任者のMichael Montano(マイケル・モンターノ)氏である。

8月にニューヨーク・タイムズ紙は、デイビス氏の職場における「愛のムチ」の方針を報じ、同社関係者はこれが時に行き過ぎた可能性があると述べている。この行動パターンは「協力的で、お互いに敬意を払い、かなりクールな雰囲気を持つ文化を作る」ことを強調する、Twitterの「#LoveWhereYou Work」や「#OneTeam」のスローガンに反しているように見えた。

Twitterの広報担当者がTechCrunchに語ったところによると「ダントレー(・デイビス)の退社はあくまでも、当社の組織モデルを、1人のリードマネージャーが会社の重要な目標をサポートする構造にシフトさせることに焦点を置いたものです」とのこと。「関係者を尊重するために、この変更についてこれ以上の詳細をお伝えすることはできません」とも。

「パラグ(・アグラワルCEO)は、卓越したオペレーションとTwitterの目標達成に注力しており、今回の変更はそれを念頭に置いて行われました。製品および技術部門のチームについては、ゼネラルマネージャーモデルに移行し、会社の主要な目標をサポートする業務を1人が担当することになります。これにより、よりクロスファンクショナルな運営が可能になり、より迅速で情報に基づいた意思決定ができるようになります」と同社の広報担当者は付け加えた。

2021年初め、ドーシー氏は、Twitterと彼が共同設立したフィンテック企業Square(スクエア)のCEOを兼務していることをめぐり、株主から批判され、訴訟まで起こされた。Twitterは、これまで革新が遅れていたが、2021年に入ってからは、サブスクリプションサービス「Twitter Blue」、オーディオルーム「Spaces」「Super Follows」「Ticketed Spaces」、暗号資産での投げ銭機能などの新機能を急速に追加している。アグラワル氏は、今後もTwitterのペースを上げていくことに興味を示している。

「我々は最近、野心的な目標を達成するために戦略を更新しましたが、その戦略は大胆で正しいものだと信じています」と、11月29日にスタッフに宛てたメールに書いた後、アグラワル氏はその内容をツイートした。「しかし、私たちの重要な課題は、それをどのように実行し、結果を出すかということです。それが、お客様、株主のみなさま、そしてみなさま1人ひとりのために、Twitterを最高のものにする方法です」。

ドーシー氏が共同設立した両社にとって、この1週間は大きな変化の連続だった。彼がTwitterのCEOを退任することを発表した数日後、Squareは12月1日、Block(ブロック)にブランドを変更すると発表した。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Aya Nakazato)

ユーチューバーがリアルで「イカゲーム」を再現、ハリウッド並予算で作られたYouTube動画がクリエイターに与える影響

韓国のサイコスリラー「Squid Game(イカゲーム)」が話題になった。「イカゲーム」は1億4200万人の視聴者を獲得し、Netflix(ネットフリックス)のシリーズ史上最大のヒット作となった。そして今、ユーチューバーのMrBeast(ミスター・ビースト)が、ドラマのタイトルになった死闘を再現し、8日間で1億4200万回の再生回数を記録したことが話題になっている(誰も殺されていないのでご安心を)。

関連記事:Netflix配信の韓国ドラマ「イカゲーム」、全世界で1億4200万世帯が視聴

先日、YouTubeの米国トップクリエイターに2年連続で選ばれた23歳のJimmy Donaldson(ジミー・ドナルドソン、MrBeast)氏は、セットを用意し、456人の参加者の衣装を作り、Netflixのドラマに限りなく近い動画を制作した。そして、Netflixの人気シリーズ同様、最後まで勝ち残ったプレイヤーは、人生を変えるような賞金を手にする。ドナルドソン氏の動画では、参加者は45万6000ドル(約5150万円)を獲得するチャンスが与えられた。

ドナルドソン氏の「イカゲーム」が、少なくとも再生回数では元祖「イカゲーム」と同じくらい人気を呼んだのには、いくつか理由がある。1つには、YouTubeは無料で、Netflixはそうではないからだ。

だが、動画がバイラルにする(拡散する)ためには、コストがかかる。同氏は、25分の動画に、なんと350万ドル(約4億円)もかかったとツイートした。ちなみに、Netflixの全9話のシリーズにかかったコストは、合計2140万ドル(約24億円)。シリーズ1時間あたり平均240万ドル(約2億7000万円)だ。

ドナルドソン氏のような人気ユーチューバーであっても、Netflixのような上場グローバル企業が持つ経営資源にはかなわない。そのため、ドナルドソン氏のように、衝撃的なスタント(人目を引くための馬鹿げた行為)を内容とする動画を作るクリエイターにとって「イカゲーム」の再現のような、前例のないことをするのは難しくなっている。

「イカゲーム」リリース後、9時間を割けなかった人のために、背景を説明しよう。「借金まみれから一生抜け出せないなら、途方も無い富を手に入れるために死闘を繰り広げてみてはどうか」。これが、韓国の債務危機に対するHwang Dong-hyuk(ファン・ドンヒョク)監督の答えだが、海外の視聴者にも共感してもらえるだろう。米国では学生の借金が1兆7300億ドル(約195兆円)に達し、過去10年間で91%以上増加した。もしあなたが、たった一度、歯医者に行っただけで、これまでの貯金を使い果たしてしまうのではないかと心配しているのであれば、登場人物たちが手っ取り早く金を手に入れようと必死になる姿に共感するのは難しくないだろう。

「イカゲーム」の中で、そのゲームは、裕福なエリートたちが自らの娯楽のために作ったものであることが明かされる。貧しい人々がゲームの条件に同意するなら、死闘を演じさせてはどうだろう、ということだ。

そこまで極端でなくても、MrBeastの動画が行っていることも同じだ。同氏は、普通の人々に大金を渡し、自らのブランドであるパフォーマンス的な慈善活動で、何百万人もの視聴者を楽しませ、注目を集めることで金銭的な利益を得ている。

予想どおり、MrBeastの「イカゲーム」動画には、Netflixのドラマをあれほど魅力的にした、感情的な共鳴やサスペンスが欠けていた。参加者は何のリスクも負わないため、昼間の「Wheel of Fortune(米国のゲーム番組)」の再放送と同じ程度に、懸けられたものが小さく感じられる。だがドナルドソン氏は、このスタイルのYouTubeコンテンツを開拓しただけでなく、完成させた。とんでもなく馬鹿げたことをすれば、みんながそれを見てくれる。YouTubeでは視聴時間が金になる。ただ、このモデルを追求していくと、ユーザーの注目を集めるための投資コストが時間を追うごとに膨らんでいく。

クリエイターエコノミーの拡大に伴い、一部のユーチューバーの予算も増えている。しかし、不安定な性質を持つこの仕事で、赤字に陥ることは危険だ。Netflixの「イカゲーム」は、これまでに少なくとも予算の約42倍の8億9110万ドル(約1007億円)を稼いだが、ドナルドソン氏は自身の「イカゲーム」への投資を回収できないかもしれない。

「これ以上できない」というところまでエスカレート

動画「How I Gave Away $1,000,000(僕が100万ドル[約1億1300万円]を誰かにあげるまで)」でドナルドソン氏は、こうしたコンテンツを作り始めたきっかけは、デジタルアイテム収集アプリのQuidd(クイッド)から、1万ドル(約113万円)の動画ブランド契約を持ちかけられたことだと説明している。同氏は、その1万ドルをホームレスの人に渡す動画を撮った。その後もQuiddからの資金で動画を作り続け、その数は雪だるま式に増えていった。

現在、最も人気のある動画の中には「I Ate A $70,000 Golden Pizza(7万ドル[約800万円]のゴールデンピザを食べてみた)」「Last To Leave Circle Wins $500,000(円の中に最後まで残ったら50万ドル[約5650万円]」「Donating $100,000 To Streamers With 0 Viewers(視聴者ゼロのストリーマーに10万ドル[約1130万円]を寄付してみる)」など、投資額がもっと大きなものもある。

MrBeastは9月、クリエイター向けのYouTubeチャンネル「Colin and Samir」で「動画制作に毎月400万ドル(約4億5200万円)を使っているが、自分の期待を上回る動画もあれば、そうでない動画もある」と語っていた。同氏によると「I Sold My House For $1(自宅を1ドル[約113円]で売ってみた)」という動画の制作費は100万ドル(約1億1300万円)を超えたが、広告収入で回収できたのは50万ドル(約5650万円)にも満たず、スポンサー料ではその差を埋められなかった。だが、いくつかの動画が予想以上に良い結果を出している限り、あまりバイラルではない(拡散しない)動画が多少あっても、痛くも痒くもない。

「動画をバイラルにする方法がわかれば、あとはいかに多くの動画を配信するかということになります」と同氏は2020年、Bloombergに語った。「稼ぐことができる金額は実質的に無限です」。

Forbes(フォーブス)は、ドナルドソン氏が2019年6月から2020年6月の間に、YouTubeで2400万ドル(約27億円)を稼いだと推定した(YouTubeだけが同氏の収入源ではなく、MrBeast Burgerというゴーストキッチンを経営したり、Twitch(ツイッチ)でストリーミングしたり、多くのブランドとコラボレーションしたりしている)。しかし同氏は、同じバイラルスターのLogan Paul(ローガン・ポール)氏とのインタビューで、収入のほとんどをそのまま動画に使っていると語っている。

「月に300万ドル(約3億3900万円)とか400万ドル(約4億5200万円)稼いだら、次の月には動画に使ってしまいます」とドナルドソン氏は話す。「私たちが得る、文字どおり『カミソリのように』薄い利益は、すべて単純に再投資しています」。

このようなクリックベイトモデルの問題点は、視聴者が高予算のYouTube動画に鈍感になってしまうことだ。クリエイターはさらにレベルアップする必要に迫られる。

コメディアンのDemi Adejuyigbe(デミ・アデジュイグベ)氏も、Earth, Wind, & Fire(アース・ウインド&ファイアー)の「September」に合わせて踊る動画を毎年公開するなかで、この問題に直面した。

2016年の最初のバイラル動画では、表に「SEPT 21(9月21日)」、裏に「THAT’S TODAY(それは今日だ)」と書かれた自作のシャツを着て、寝室で踊っただけだった。翌年は派手に風船を使い、2018年には子ども合唱団を登場させ、2019年にはマリアッチバンド(メキシコの大衆的な楽団)を雇った。その後の展開はおわかりだろう。2021年、同氏はもうビデオを作らないと決めた。毎年、より大きく、より良いものを作り続けるのは、時間がかかりすぎるし、困難だからだ。そこで、同氏は最後にもう一度、全力で取り組み、ファンから100万ドル(約1億1300万円)以上の寄付を集めた。だが、一連の「September」動画は、同氏の生業にはならなかった。動画が話題になったことで、ハリウッドで注目されるようにはなった。毎年の「September」動画の企画の合間に「The Good Place」や「The Late Late Show with James Corden」などの番組で脚本を担当した

美容・ファッションクリエイターのSafiya Nygaard(サフィヤ・ナイガード)氏も、クリックベイトモデルの問題に直面した1人だ。同氏は最初、BuzzFeed(バズフィード)のビデオプロデューサーとしてファンを獲得したが、退職して自身のチャンネルに投資し、独立することにした。同氏は、美容分野で差別化を図るために「Melting All My Nude Lipsticks Together(私が持っているヌードカラーの口紅を全部溶かしてみる)」「Mixing All My Foundations Together(私が持っているファンデーションを全部混ぜてみる)」など「悪いメイクの実験」をしてきた。1年後には「Melting Every Candle From Bath & Body Works Together(Bath & Body Worksのすべてのキャンドルを一緒に溶かしてみる)」「Melting Every Lipstick From Sephora Together(Sephoraのすべての口紅を一緒に溶かしてみる)」とエスカレートしていった。後者の動画では、600本以上の口紅を使用した。Sephoraの口紅の価格は約10〜50ドル(約1130〜5650円)。同氏の支払額があまりに高額だったため、Sephoraのレジ係が確認のために銀行に電話した。同氏はその様子を撮影した。

しかし、Sephoraであらゆる口紅を買ってしまったら、それ以上のことをするのは無理だろう。ナイガード氏は目下、約1000万人の登録者がいるYouTubeチャンネルを月に1~2回しか更新していないが、Instagram Reels(インスタグラム・リール)やTikTok(ティクトック)には数日に1度のペースで投稿するようになった。TikTokでも高価な買い物をすることがある。ある人気のTikTokで、同氏がBalenciaga(バレンシアガ)の1350ドル(約15万3000円)のピンヒールをデザインした。しかし、117本のBath and Body Worksのキャンドルや、600本のSephoraの口紅に比べれば、小さな買い物だ。

ナイガード氏やアデジュイグベ氏のようなクリエーターは、このように高額で、時に低報酬となるコンテンツから離れることができた。だが、ドナルドソン氏にとって、高予算の動画を作ることは活力の源となっている。自分のチャンネルがYouTubeの食物連鎖の頂点に立ち続けるために、より過激なコンテンツの制作をやめるわけにはいかないのだ。

クリエイター経済への資金供給

スタートアップは事業の成長のために資金を必要とするとき、ベンチャーキャピタルを利用する。動画制作コストが増大する昨今、バイラルクリエイターに投資機会を見出すベンチャーキャピタル企業が出てきている。ベンチャーキャピタルのSignalFireは、クリエイターは最も急成長している中小企業であると述べている。Sam Lessin(サム・レッシン)氏のSlow Venturesのように、その考えを次のレベルにまで高めている企業もある。Slow Venturesは最近、Silicon Valley Girlというチャンネルを持つユーチューバーのMarina Mogilko(マリアナ・モジルコ)氏の将来に170万ドル(約1億9200万円)を投資した。今後30年間、同氏のクリエイターとしての収益の5%を受け取る。

「人」に投資するというのは薄っぺらく聞こえるかもしれない。だが、関係者全員が善意であると仮定した場合、アーティストに金銭的な余裕を与えることは、本当に最悪なことなのだろうか。これは、すでにハリウッドで起こっていることだ。制作会社が脚本を購入し、人材を雇い、映画を売り込んでも、興行的には大失敗に終わることがある。

しかし、クリエイター、つまり「人」はスタートアップではない。そして、自分を超えようとし続けるとどうなるか。燃え尽きてしまうのだ。

ベンチャー企業からの資金調達という緩衝材が、クリエイターの経済的負担を軽減する可能性はある。だが、利害関係者へのアピールというプレッシャーが、さらなるストレスとなることも考えられる。

YouTubeのCEO、Susan Wojcicki(スーザン・ウォジスキ)氏は、2019年にクリエイターに宛てた手紙の中で、燃え尽き症候群の問題が大きくなっていることを認めている。

「自分のチャンネルが上手くいかなくなるのではと心配して、撮影を休めないという気持ちになる、というクリエイターの声を聞いたことがあります」とウォジスキ氏は述べた。「もし、あなたがしばらく休みたいと思っても、ファンは理解してくれるでしょう。結局のところ、あなたが作っているからこそ、ファンはそのチャンネルを選ぶのですから」。

YouTubeのプロダクトチームは、クリエイターが休みから戻ってくると、より多くの再生回数が得られることに気づいた。しかし、Drake McWhorter(ドレイク・マックウォーター)氏は、それは真実ではないと思う、と当時CNNに語った。

「YouTubeはトレッドミルのようなものです」と同氏はいう。「一瞬でも止まったら死んでしまいます」。

ネットでバイラルになるのはこれまでになく簡単になったが、だからといって長期的に視聴者の注目を集めるのが簡単だとは限らない。ネットで生計を立てるには、視聴者が必要となる。MrBeastがハリウッド級の予算でYouTube動画を制作し、なおかつ「カミソリのように薄い」利益しか上げていない今、私たちは「クリエイター経済で勝っているのは誰か」と問わなければならない。結局のところ「Real Life Squid Game」の成功は、ドナルドソン氏にとってよりも、YouTubeにとって、あるいはNetflixにとってさえも、朗報なのかもしれない。

画像クレジット:MrBeast/YouTube

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi

Facebook Messengerが米国で新しい割り勘機能「Split Payments」をテスト中

Facebook Messenger(メッセンジャー)は、ユーザーが同アプリを通じて請求書や費用を割り勘できるようにする新機能「Split Payments」のテストを開始すると発表した。同社は、この新機能は、Messengerを通じて財務処理を行うための「無料かつ迅速な」方法であるとしている。この新機能は、米国のユーザーを対象に来週から展開される。

Split Paymentsを使用するには、ユーザーはMessengerのグループチャットまたはPayments Hubで「Get Started」ボタンをクリックする必要がある。そこから、食事の勘定を均等に分割したり、自分を含めた、または含めないで、グループチャット内の各ユーザーの貢献額を修正することができる。また、パーソナライズされたメッセージを入力するオプションも用意されている。最後に、Facebook Payの詳細を確認するように求められる。その後、リクエストが送信され、グループチャットのスレッドで見ることができる。

同社はこの新機能について、ブログで次のように述べている。「グループでのディナーや共同の生活費、月々の家賃などで、うまく分担するのに(そして後から払ってもらうのに)苦労していた方は、これで楽になります」。

今回のSplit Paymentsの開始は、Messengerが数カ月前に個人間の支払いのためにVenmoのようなQRコードを追加した中でのことだ。QRコード機能は米国で提供開始され、Facebook(フェイスブック)の友達でなくても、誰でもFacebook Payを通じてお金を送ったりリクエストすることができる。この機能は、Messengerの設定にある「Facebook Pay」の項目からアクセスできる。

関連記事:米国でFacebook MessengerにQRコードによる個人間送金機能追加

Facebook Payは、個人間の支払いだけでなく、寄付やEC取引など、同社のアプリ全体に広がる決済システムを確立するための手段として、2019年11月に初めて登場した。

Split Paymentsは、クリエイターのEmma Chamberlain(エマ・チェンバレン)氏、Zach King(ザック・キング)氏、Bella Poarch(ベラ・ポールチ)氏、King Bach(キング・バーチ)氏がデザインした4つの新しいグループARエフェクトなど、他のいくつかのMessengerアップデートとともに導入された。また、Messenger内で送信すると音が鳴る絵文字である「Stranger Things(ストレンジャー・シングス)」のSoundmojiを新たに2つ、そして新しいチャットテーマをリリースした。Messengerは他にも最近、アルバム「Red」のリリースを記念して、新しいTaylor Swift(テイラー・スウィフト)のSoundmojiを発表している。

画像クレジット:Messenger

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(文:Aisha Malik、翻訳:Aya Nakazato)

中国eコマースのPinduoduoが利益のすべてを農業に投資する理由

ここ数年、Pinduoduo(拼多多、ピンデュオデュオ)は、Alibaba(阿里巴巴、アリババ)の最強挑戦者として広く知られてきた。Alibabaの小売プラットフォームにおける年間アクティブユーザー数が、9月までの12カ月間で8億6300万人だったと報告されている一方、Pinduoduoは9月までの四半期の月間平均アクティブユーザー数が7億4000万人を超えたと発表している。

新たな成長エンジンを求めて、Pinduoduoはライバル企業とは異なる道を歩もうとしている。電子商取引の巨人である両社はともに成長が頭打ちになり始めているが、Alibabaがクラウドコンピューティングに力を入れているのに対し、Pinduoduoが資金を投入しているのは農業だ。

Pinduoduoは8月に「農業分野と農村地域の重要なニーズに直面し、対処する」ことを目的とする100億元(約1770億円)規模の農業プログラムを発表した。この包括的な取り組みには、農業関連のスタートアップ企業に対する出資や、基礎研究や人材育成への助成などが含まれている。

このプログラムは利益を目的としたものではなく、この第2四半期に得られたすべての利益と「今後の四半期に得られる可能性のある利益は、この取り組みに充てられる」と、同社は約束している。

Pinduoduoの農業に対する投資は、農村部の貧困を緩和するための努力であり、中国政府が最近呼びかけている「共同繁栄」(物心両面の豊かさをみんなで共有すること)への回答であるという見方もある。しかし、同社は当初から農業がその中核事業であることを繰り返し主張してきた。

2015年に設立されたPinduoduoは、果物のオンライン販売からスタートし、徐々に商品カテゴリーを広げていった。多くの生産者にとってeコマースは有益だった。中国の農業は、数百万もの小規模な家族経営の農場が中心で、生産した農産物を全国に販売するためには、何重もの流通業者に頼らければならなかった。そのため、農家はわずかな利益しか得られないことも多かった。

農産物の販売業者を誘致するため、Pinduoduoは手数料を免除しており、先週の決算説明会では「将来の四半期」もこの方針を維持する予定だと述べた。農家が登録すると、Pinduoduoは彼らをデジタルストアの運営やマーケティングに長けた人材に育成する。注文が入れば、中国の電子商取引ブームの中で形成された成熟した配送ネットワークを活用し、サードパーティの物流サービスが農産物を消費者に届ける。

農村の農産物を都市部の家庭に届けようとしているのは、Pinduoduoだけではない。AlibabaのTaobao(タオバオ)は、以前から「農業関連の電子商取引」を重要な取り組みとしており、Kuaishou(クアイショウ、快手)のような動画アプリは、ライブストリーミングを通じて農家の販売を支援している。

関連記事:中国版TikTokのライバル「Kuaishou」はオンラインバザールとしても人気

しかし、Pinduoduoは販売だけでなく、農家の生産上の問題に関しても解決に役立ちたいと考えている。

2021年3月にColin Huang(コリン・ホアン)氏の後任としてCEOに就任したChen Lei(チェン・レイ)氏は「エンジニアとしての訓練を受けた私と私のチームは、農業のサプライチェーン全体に導入できる技術ソリューションを見つけることに専念してきました」と、決算説明会で語った

「当社の農業技術への取り組みは、需要と供給をマッチングさせることに留まらず、生産性、栄養組成、環境持続性を向上させるためのアップストリームな技術ソリューションを見出すことにまでおよびます。アグリテックの応用を強化することで、農業が技術に精通した若い世代にとって魅力的なものになることを、私たちは願っています」と、チェン氏は続けた。

販売や栽培のみならず、Pinduoduoは研究機関と協力して、肉や農作物などの生産物に業界標準を導入することにも取り組んでいると、同社の財務担当バイスプレジデントであるJing Ma(ジン・マ)氏は決算説明会で語った。

NASDAQ上場企業であるPinduoduoは、当然ながら投資家に恩義を受けている。第3四半期には、マーケティング費用の削減などにより、2四半期連続で営業利益が黒字となった。その一方で、同社は研究開発費に重点を移しており、これが第3四半期の営業費用の約19%を占めている。

Pinduoduoの農業投資が目に見える形で成果を上げるまでには、しばらく時間がかかりそうだ。例えば、Pinduoduoで販売している1600万人の農家にとって、同社の技術はどのように収穫量の向上に貢献するというのだろうか?

Pinduoduoはいくつか初期の成果を公表している。例えば、同社は2020年、世界中のスタートアップ企業に、最も甘く最も環境に優しいイチゴの栽培を呼びかけ、優勝したチームの精密農業ソリューションは、すでにいくつかの農場に導入されているという。

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画像クレジット:Pinduoduo / A strawberry grower on Pinduoduo

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(文:Rita Liao、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

クリエイターのコミュニティ形成を支援するPlayground、ベータ版の展開を開始

米国時間12月2日よりベータ版の展開が始まったPlayground(プレイグラウンド)は、人々がコミュニティを発見し、発展させることを支援するとともに、クリエイターには視聴者の収益化を可能にさせることを目指すソーシャルプラットフォームだ。すでにそのウェブサイトでは、Museum of Modern Art(近代美術館)や、コメディ司会者のAlexis Gay(アレクシス・ゲイ)氏、Aboritionist Teaching Network(アボリショニスト・ティーチング・ネットワーク)、活動家のNupol Kiazolu(ヌポル・キアゾル)氏、マレーシアのバーチャルダンスクラブなど、さまざまなユーザーが名を連ねている。現在のところ、ベータ版はカルチャー分野(アート、音楽、ウェルネス、ゲームなど)の一部のクリエイターにのみ公開されており、コミュニティメンバーに関してはウェイティングリストが用意されている。

台湾系米国人の娘という移民として、文化的に多様性のあるサンタフェ地域で育った創業者のJia Ling Yang(ジアリン・ヤン)氏は、人々を結びつけることの価値を理解している。しかし、フリーランスのクリエイティブディレクターとして、Facebook(フェイスブック)、Google Play(グーグル・プレイ)、E! Entertainment(E!エンタテインメント)などのブランドと仕事をしているうちに、彼女は新しい方法でオンラインコミュニティの構築に貢献したいと思うようになった。もちろん、ソーシャルメディアでは、地域における本の交換グループから、One Direction(ワン・ダイレクション)の熱狂的ファンによるTwitter(ツイッター)まで、すでにさまざまなコミュニティが生まれている。しかし、オンライン生活では孤立してしまうこともある。

「スクロールしてお互いの生活を見るのではなく、一緒にバタバタしようよと言っているのです。一緒にフィリピン料理を作ったり、一緒にトレーニングしたりしましょう」と、ヤン氏は語る。

画像クレジット:Playground

現在のところ、Playgroundではユーザーが文化機関やクリエイターと一緒に参加できるイベントを、オンラインと対面の両方で見つけられるようになっている。最終的には、ヤン氏はPlaygroundを、クリエイターがビジネスを運営できるオールインワン&エンド・ツー・エンドのプラットフォームにしたいと考えている。つまり、クリエイターはPlaygroundを利用して、ファンのサブスクリプション管理、ニュースレターの送信、イベントや記事やポッドキャストの投稿、分析結果の閲覧、物販などが可能になるということだ。ヤン氏と9人のチームは現在、コミュニティのメンバー同士が互いにつながることを手助けするソーシャルツールを開発中だ。

「私たちは、メンバー間で議論するためのフォーラムを作りたいと考えています」と、ヤン氏はTechCrunchに語った。「単にコンテンツを押し付けるだけのオーディエンスと、コミュニティとの違いは、メンバーが主催者の外で実際に交流できるかどうかということです」。

クリエイターにとって、1つのアカウントで管理できるオールインワンのプラットフォームは価値がある。Discord(ディスコード)、Patreon(パトレオン)、Eventbrite(イベントブライト)、Mailchimp(メールチンプ)など複数のアカウントを使い分けるよりも楽だからだ。しかし、ビジネスの全体像をスタートアップ企業に委ねることには、それなりのリスクもともなう。だが、Playgroundでは、クリエイターがサブスクリプション会員のリストとその連絡先を完全にコントロールできるため、ファンへのアプローチに関して、Playgroundのプラットフォームに依存することはない。

「自分のコミュニティを自分のものにできないことは、本当にフラストレーションが溜まります」と、ヤン氏はいう。「例えば、Clubhouse(クラブハウス)などでファンを獲得した後、そのプラットフォームがなくなってしまったらどうでしょう? そうなると、あなたのファンは、Instagram(インスタグラム)のDMであなたにメッセージを送ってきた人だけになってしまいます」。

クリエイターはPlaygroundのプラットフォームを無料で利用できるが、有料チケットや会員プログラムなどのマネタイズ機能を利用するには、希望するカスタマイズのレベルに応じて、月額15ドル(約1700円)または30ドル(約3400円)を支払う必要がある。

画像クレジット:Playground

ヤン氏は、Web3がPlaygroundの将来にどのように関わってくるかについても考えている。彼女の会社は設立以来、Animoca(アニモカ)、SoGal(ソーギャル)、Gaingels(ゲインジェルズ)、Anomaly(アノマリー)から230万ドル(約2億6000万円)のシード資金を調達している。出資している企業の1社であるAnimocaは、ブロックチェーンベースのプロジェクトに投資していることで知られているが、Playgroundがターゲットとしている文化系クリエイターの間では、暗号資産に対する反感も目立つ。NFT(非代替性トークン)の可能性を歓迎するアーティストがいる一方で、環境コストや規制のない市場で詐欺の蔓延を心配するアーティストもいる。しかしヤン氏は、暗号資産の世界にはコミュニケーションの問題があると考えている。

「この世界では文化が語られていません」と、彼女はTechCrunchに語った。「文化的なクリエイターは、自分で自分のアートを所有し、コミュニティを収益化し、コミュニティの統治方法を自分で決めることができる、そんなコンセプトを好みます。これらはすべて、クリエイターが本当に夢中になれる原則であり、私たちはその会話を、少しだけ橋渡ししているだけだと感じています」。

ヤン氏は、ブロックチェーンを利用したPlaygroundの将来性に興味を持っているものの、今はベータ版のローンチ後、クリエイターやコミュニティメンバーを育成することに注力している。

画像クレジット:Playground

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

コンピュートリソースをエンドユーザーの近くに置くAWS Local Zonesが2022年から新たに30以上立ち上げ

2021年のre:InventカンファレンスでAWSは、30を超える新しいAWS Local Zonesを世界の主要都市に立ち上げると発表した。これらの新しいAWS Local Zonesは、2022年以降、21カ国(アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、チェコ共和国、デンマーク、フィンランド、ドイツ、ギリシア、インド、ケニア、オランダ、ノルウェー、フィリピン、ポーランド、ポルトガル、南アフリカ)で利用できるようになる。

なお、AWS Local ZonesはAWSのインフラストラクチャのデプロイのタイプで、エンドユーザーやオンプレミスのインストレーションへの、AWS上のアプリケーションのレイテンシーが一桁のミリ秒以下という厳しい要求に応じるために、コンピュートとストレージとその他の選ばれたサービスを顧客の至近に置く。

画像クレジット:AWS

AmazonのCTO、Werner Vogels(ワーナー・ヴォゲルス)氏は、会場で「ローカルゾーンを、ヨーロッパと南アメリカ、アフリカ、アジア、オーストラリアなど世界全体で国際的に拡張するという発表を申し上げることに、私自身、心から感動しています。私の故郷であるアムステルダムも含まれるのです」と述べた。

AWSによると、これらの新しい場所には米国の16のLocal Zonesが含まれ、これらを合わせて世界中のエンドユーザーに、同社の顧客がさらに低いレイテンシーを提供できるようにする。現在のLocal Zonesがある米国の都市はボストン、シカゴ、ダラス、デンバー、ヒューストン、カンサスシティ、ラスベガス、ロサンゼルス、マイアミ、ミネアポリス、ニューヨーク市、フィラデルフィア、ポートランドだ。

画像クレジット:AWS

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(文:Aisha Malik、翻訳:Hiroshi Iwatani)

【コラム】Discordの可能性を知る。創業からマネタイズ、Web3でのチャンスまで

編集部注:本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説する「Off Topic」の投稿の転載だ。Off Topicでは、最新テックニュースの解説やスタートアップについてポッドキャストYouTubeも配信している。ぜひチェックしてみてほしい。

今回は1年以上ぶりの翻訳記事となる。2020年5月から愛読しているニュースレター「Not Boring」のPacky McCormick(パッキー・マコーミック)氏と2020年8月のスタートから読んでいるニュースレター「The Generalist」のMario Gabriele氏が一緒に組んでDiscordについての記事「Discord:Imagine a Place」を書いたと聞いたときに、どうしても翻訳しなければいけないと思った。仲良くさせてもらっているPacky氏にお願いしたところ、快く翻訳の許可をいただいた。少し要約する部分もあるかもしれないが、ぜひみなさんにもこの対策を共有したい。

また、まだNot BoringThe Generalistを購読してない方はぜひチェックして欲しい。毎週これからくる企業やトレンドについて深堀しているOff Topicでもよく参考にしている情報源だ。

はじめに

「人中心のサイトを想像して欲しい」。

「流行りのミームがハチミツのように流れる場所を想像してください」。

「人間とボットは平和に暮らせる場所を想像してください」。

上記はすべて、Discordの最新広告キャンペーンでフィーチャーされたものである。Discordがユーザーに対して、今まで使ったことがない人にDiscordをどう説明するかを聞いたところ、上記のような言葉が出てきた。ここまでおもしろいサービスの定義が出てくるのは、幅広いユースケースとユーザーの愛があるからかもしれない。

また、ナルニア国をルーシーとエドマンドが、ウィザードの世界をハリー・ポッターが、マトリックスから出たネオが瞬間を説明するのと似たような文章になる。

「クローゼットを開けたら、話すことができる動物の国があるのを想像してください」。

「自分の学校に行くために、壁を通り抜けないといけないことを想像してください」。

「飲むと世界が変わる薬を想像してください」。

これらの文章もDiscordをやや言い当てていることからも、Discordがどのような会社なのかがわかる。Discordはコミュニケーションプラットフォームではなく、隠れた世界なのかもしれない。

マーク・ザッカーバーグ氏は、自分が最もメタバースを構築できる立場にいると思うかもしれないが、すでに「メタバースネイティブ」になっているプラットフォームなのはDiscordかもしれない。メタバースのパイオニアといわれるるゲーム業界向けのプラットフォームとしてまず開発されたDiscordは、今では教育グループや投資コミュニティなど幅広いファンコミュニティに活用されている。さらには、NFTなどWeb3世界を作っているデフォルトのプラットフォームにもなっている。

これだけ盛り上がっている会社で、何百億円と売上を抱えながら直近で時価総額150億ドル(約1兆6995億円)でありながら、いまだ成熟されたアイデンティティを確立しておらず、これまでのSNSサービスとは違ってまだまだ進化する可能性を秘めている。Discordが次の進化をするには、ピボットするのに慣れているCEOのJason Citron(ジェイソン・シトロン)氏が新しい技術を受け入れたり、違う売上チャネルを検討したり、Web3の世界を取り込まないといけないかもしれない。Discordはメタバースのソーシャルインフラになり得る会社であり、同社の可能性は無限大だと思われる。

そんなDiscordの可能性を知るために、創業物語、課題、今後の取り組むべきことについてまとめてみた。

創業物語:Discordのストーリーは、いろいろなピボットや変化のある中で始まった

カオスなプロダクト:特にミレニアル世代にとって理解しづらいプロダクト

ユーザーの拡大:元々ゲーマー用ツールとして始まったのが、今では幅広いユーザーに使われている

遅いマネタイズ:ユーザー数は急成長しているが、ユーザーからのマネタイズはかなり遅れている

Web3のチャンス:現在、Web3企業のデフォルトプラットフォームになっているが、そのリードを広げるためには何が必要なのか。いくつかアイデアがある

オンラインゲームで勝つ:インターネットユーザーの居場所としてどう成立させるのか。

さぁ、サーバーを立ち上げて行こう。

スタート地点

いろいろな会社がピボットして成功した中で、最もピボットが上手いのがジェイソン・シトロン氏なのかもしれない。実は、ジェイソン氏は2回起業して2回ともピボットして成功している。Discordに関しては、たまたまPMFを見つけられた。

OpenFeint

始まりはAppleがアプリストアをリリースした2008年7月10日。ローンチと同時に500個のアプリを公開して、その中にパズルゲーム「Aurora Feint, the Beginning」が含まれていた。そのゲームを作ったのは当時23歳だったジェイソン・シトロン氏と、彼が参加していたインキュベーターのYouWeb。YouWebは元Webvan CTOのPeter Relan(ピーター・レラン)氏がY Combinatorとほぼ同じタイミングで設立したインキュベーターだ。ただし同社はYCと違って参加者を拡大せず、15年間で30社ほどインキュベートした。

当時のYouWebのモデルは会社の50%の株を取得する代わりにアイデア、マーケティング、採用周りを支援するというものだった。ジェイソン・シトロン氏が参加したときにはゲーム領域で何かしたいとは思っていたものの、それ以上の考えがなかったので、YouWebはEIRのDanielle Cassley(ダニエル・キャスリー)氏と組ませてAuroraのローンチまで導いた。

結果としては成功した。World of Warcraft的な見た目とテトリスやPuzzle Leagueに似たゲームだったAuroraは、初期アプリの中ではかなり人気だった。

アプリのレビューを見ても「最も楽しかった初期iPhoneゲーム」と書かれていたが、それはマネタイズには繋がらなかった。新しいバージョンのゲームを出したり、値段を8ドル(約900円)から1ドル(約110円)に下げたりしたが、なかなか売上が上がらなかった。それにも関わらず、いくつかの機能には可能性があった。特にジェイソン氏が導入したチャットルーム、プロフィール、リーダーボード、非同期型のマルチプレイヤーゲーム性といったソーシャル要素はかなりの可能性があり、他の大企業が作ったゲームにはないコミュニティ性がAuroraにはあった。

そこでジェイソン氏が初のピボットをした。

Auroraの未来について会話をしている中でジェイソン氏は「誰もiPhone用のXbox Liveを作ってない。Auroraのチャット機能などをスピンオフさせてiPhone版Xbox Liveを作れないか考えるときもある。とりあえずそれを出して人が欲しいかみても良いかもしれない」という

ジェイソン氏はすでに、将来どのゲーム開発者もプロダクトにソーシャル要素を入れたがると予想できていた。また、それを全員ゼロから作るよりも、すでに存在するツールにお金を払って開発したがると感じてもいた。OpenFeintという会社名にピボットして、TechCrunchでフィーチャーされた際に多くのクライアント候補先から連絡がとどき、この領域は必ずくるとジェイソン氏は確信した。調達も無事終了し、ゲーム間でソーシャルインタラクションを管理できるアプリをリリースして、通信キャリアAT&Tと提携して新しいスマホにプリインストールされることにもなった。

そこに興味を持ったのがGREEだ。2011年に1億4000万ドル(約158億7000万円)でOpenFeintを買収し、ジェイソン氏、そしてYouWeb含めたOpenFeintの株主が大金を得た。

数カ月間GREEで働いてから、ある日ジェイソン氏がYouWeb創業者のピーター氏にメールを送った。

「帰ってきたぞ」。

Discord

OpenFeintの話を聞くと、Discordの話が同じような流れのものに聞こえる。

ある若手起業家がインキュベーターに参加する。ビジネスプランは特にないが、ゲーム領域で何かすることを目標にする。すばらしいマルチプレイヤーゲームを作るが、大きなファンベースを抱えられず、PMFを探すためにインフラになる機能を見つけてそれが成功する。

OpenFeintの物語はDiscordと同じ物語。今回はより良い条件をジェイソン氏はYouWebのピーター氏と交渉して「Phoenix Guild」というゲームを作ることを決める。すぐに名前を「Hammer & Chisel」に変えるが、ジェイソン氏のOpenFeintの成功もあったおかげで110万ドル(約1億2000万円)のシード調達と820万ドル(約9億3000万ドル)のシリーズA調達を無事行う。シリーズAラウンドはジェイソン氏の2013年のTechCrunch DisruptのDemo Dayのプレゼンに惹きつけられたBenchmarkのPartnerだったMitch Lasky(ミッチ・ラスキー)氏がリードした。

Hammer & Chiselは2014年にタブレット向けのバトルアリーナゲーム「Fates Forever」をローンチしたが、思ったほど成功しなかった。OpenFeintでも行ったように、ジェイソン氏はゲーム内にコミュニケーション機能を組み込んでいた。

「ゲーム前、ゲーム中、ゲーム後にプレイヤーが集まれるサービスにチャンスがあると思ってはいたが、上手くいくかどうかは正直分からなかった」とジェイソン氏はいう

そこでジェイソン氏は、またピボットすることを決断する。

どうピボットするかを考えていた際にCTOのStan Vishnevskiy(スタン・ヴィシュネフスキー)氏が「もうモバイルゲームは作りたくない。チャットサービスを作ることを社内でも話しており、それについてアイデアがある」と発言し、そこから数カ月間、Hammer & Chiselチームはゲーマー向けのチャットサービスを開発した。アイデアとしては常にオンになっている電話会議、ゲームのプライベートカフェだった。

2015年にDiscordというプロダクト名でリリースしたが、まったく反応がなかった。数十人が毎日活用していたが、特に成長する感じではなかった。当時はTeamspeakやSkypeなどゲームコミュニティが活用していたツールはあったが、競合の力というよりも、初期ユーザーの信頼を勝ち取るまで認知されてなかったのが問題だと気づいた。

転換期はReddit経由で訪れた。Discordチームがファイナルファンタジーのsubredditメンバーと繋がっていて、そこでDiscordをメンションしてくれないかとお願いした。ジェイソン氏曰く、そのメンバーは「Discordという新しいボイスチャットアプリを知っているか?」と書いたらしい。

そこで数名のRedditユーザーが会話に入り込み、Discordを活用してDiscordの開発チームと試しに話した。そこで1人のユーザーが「あのチームの開発者とさっきDiscord上で話したけど、めちゃくちゃイケてた。これは要チェックなアプリだ」とフィードバックした影響で、一気にユーザーが入り込み始めた。ジェイソン氏曰く、その日がDiscordの本当のローンチ日だった。

そこから今となっては急成長し続けたDiscordは1億人以上のユーザーがいて、10億ドル(約1133億4000万円)弱の合計資金調達額を達成。それ以上にゲームカルチャーを取り入れながら、エバンジャライズしたことがすごいことかもしれない。

プロダクト

Discordは、ゲーマーがゲーマー向けに開発したプロダクトだ。もちろんコロナ禍の期間からゲーマー以外のユーザーを受け入れていたが、いまだにゲーム色がかなり強いため、ゲーム関係者以外の人からすると一見難しいプロダクトに思える。自分もテクノロジーにある程度慣れている方だと思っているが、Discordサーバーほど年齢を感じさせるものはなかなかない。時間を重ねてようやくDiscordという言語を学び始めたので、今回はDiscordのプロダクト解説・翻訳する。

Quartzは「DiscordはSlack、AOLメッセンジャー、Zoom、ちょっと怪しいチャットルームをかけ合わせたもの」と題して、Discordを既存のサービスの組み合わせたものとして比較している。

PCGamerはDiscordでユーザーが「無料」できることをリストアップして説明している。

Discordは無償で以下のことが可能だ。

  • 時間が無制限でほぼラグがない高クオリティの音声で何人の友達と話せる
  • ラグがほぼなくツークリックでサーバー内でゲームのライブ配信ができる
  • 複数の配信を見ながら各配信のボリュームコントロールが可能
  • 何年分もデータも保存してくれる無制限のテキストチャットルーム
  • 友達と小さめのファイルを共有
  • 音楽を流すなどボットを入れ込む
  • 動画配信やスクリーンキャプチャ含めてすべてスマホでできる

Discordは、既存のツールや機能などで説明するよりも自社のプロダクトをユーザーにどういう場所か想像するようにお願いしている。

画像クレジット:Discord

Discordは、自社プロダクトを白紙のキャンバスとして見て欲しいため、あのような初期ブランドマーケティングキャンペーンを行っている。ユーザーがその白紙のキャンバスで思い描くデジタルスペースを作れる場所にできるようになっており、実際にそのような場所になっている。

新型コロナ期間中にはさまざまなユーザーがDiscordに群がり、Discordのチャット機能、高クオリティの音声や動画チャット、プライバシー、直接繋がれる機能、そしてSlackと違って無償のサーバーに需要を感じた。

会社としてもちょうど良いタイミングでゲーマー以外の層にオープンになった。そしてどのコミュニティもコロナによってオンラインに移らないといけなくなった際に、2つの選択肢を迫られた。

・1ユーザーあたり毎月6.67ドル(約760円)支払ってSlackを使う

・Discordサーバーを立ち上げて無償で誰でも招待できるようにする

オプションを見ると、当然ながら2つ目を選ぶコミュニティが多かった。Discordとしても想像しなかったユーザー層も集まり始めた。

2019年に記者のTaylor Lorenz(テイラー・ローレンツ)氏がThe Atlanticの記事でインフルエンサーがDiscordに群がり始めたことについて書いた。FacebookやTwitterのアルゴリズムベースのフィードがミドルマンとして邪魔されるのではなく、直接ファンと話せるDiscordサーバーを立ち上げるインフルエンサーが増えてきたと記載している。ForbesによるとそのThe Atlanticの記事を読んだDiscord創業メンバーのジェイソン氏とStanislav Vishnevskiy(スタニスラフ・ヴィシュネフスキー)氏はゲーマー以外の領域に広がり始めたことについて驚いてたとのこと。

ピボット経験者の2人は、この新しいユーザー行動を調査することにした。Discordがコミュニティに23問アンケートを送った際に、Discordユーザーの3割以上が主要目的はゲームではないことが判明した。そのユーザーたちはブッククラブ、友達のグループチャット、ファンコミュニティ、そして会社の社内コミュニケーションとしても使っていた。Discordはインターネットのサードプレイスになり始めていた。

これを理解したジェイソン氏とスタニスラフ氏はすぐにこの情報を活用してよりユーザーにアットホーム感を与えるために会社のミッションを更新した。ゲーマー中心のコミュニティを作るミッションから、誰でも親密な関係性を作れる力を提供するミッションとなった。

画像クレジット:Colossus

さらにブランドとホームページも進化させた。

画像クレジット:Internet Archive Wayback Machine

そこで会社初のブランドマーケティングキャンペーンの「Imagine a Place」を5月にローンチした。

少しペースが早くてわかりにくい動画に見えるが、Discordの雰囲気も上手く捉えたものでもある。

一見、DiscordはSlackのようにも見える。各コミュニティのスペースをサーバー毎に分けて、各サーバー内ではチャネルで分けられている。中にはボイスチャネルもあり、さらには25人まで動画通話もできる。そのボイスチャネル自体は常にオンになっていて、ユーザーは自由に出入りできるスペースとなっている。

サイドバーには簡単にユーザーが参加しているサーバーを確認できるようになっている。いろいろなサーバーに入っていると未読のメッセージの数字がパッキー氏のように増えていくので、少し圧倒されるユーザーもいる。

Discordを始めるのは簡単。各サーバーはユニークなURLとなっている(discord.gg/サーバー名)、そしてそのURLをユーザーは自分のTwitterプロフィール、subreddit、チャットなどでシェアする。「Join the Discord」はYouTubeでいう「登録してください」と同じだ。

ユーザーも簡単にジョインできる。Discordアカウントを作成すると、さまざまなサーバーにアクセスできる。Slackは1つのコミュニティごとのスペースとして作られており、新しいSlackワークプレイスに招待されるとメールを再入力して登録フローを行う必要があるが、Discordは違う。Discordユーザーはサーバーからサーバーへの移動が簡単で、さらに他のDiscordユーザーへのDMまで簡単だ。

これがSlackとのもう1つの違いとなる。Slackでは1つのワークスペースコミュニティ内だとDMし合うことができるが、Discordだと相手のユーザー名さえ知っていればお互い同じサーバーに入ってなくてもDMが可能(DMを受け入れる設定にしていれば)。これは一見すると小さな違いのようだが、実はすごいことだ。Discordはこの機能によって組織内の活性化だけではなく、そのサーバーの上にもう1つソーシャルレイヤーを加えている。ユーザーとしては自分のコミュニティの中でコミュニティらしい話をしながら、まったく別の場所で直接友達と違う会話が可能になる。

そしてDiscordはこのソーシャルレイヤーを加えながら他のSNSっぽい機能を捨てている。フォロワーやフィードの概念がないため、アルゴリズムも存在しない。ユーザーは課金していればサーバーごとに異なるアバターを表示できるが、それ以上にソーシャルキャピタルを得られる手法はあまりない。

さらに、Discordのチャット機能とソーシャル要素の構成以外のおもしろいところがボットのエコシステムだ。2020年のDiscordブログによると300万以上のボットが作られていて、複数のボットは数百万以上のサーバーで使われている。比較するとSlackのアプリエコシステムでは2400個のアプリを抱えている。もちろん多くのボットはかなり特定のユースケースだったり一時的な物だったかもしれないが、これだけのボリュームの差があるのは気になる。

ボットは多種多様で、Memeを送るものもあれば、YouTubeやSoundcloudの音楽を流すものもあれば、モデレーション用のボットもある。

MEE6は特にモデレーションボットとして人気だ。1400万以上のサーバーで活用されており、カスタムウェルカムメッセージを作れたり、悪質なユーザーを取り除いたり、コミュニティの役割をユーザーに割り振ったり、より参加するユーザーにXP(経験値)を提供するボットだ。

よりクリエイティブなボットも存在する。IdleRPGはサーバーに組み込まれるとコミュニティメンバーがチャットのコマンドでRPGゲームを遊べる。さらにDiscordのボットエコシステムはクリプト領域にも拡大している。例えばCollab.Landでは、NFTや特定のトークンを持つとプライベートチャネルにアクセスできるボットなどではクリプト業界にとって欠かせないもの。それ以外にクリプト投げ銭を可能にするTipやクリプトリワード付きのRPGのPiggyなどがおもしろい事例だろう。

もちろんユーザー目線からするとおもしろみや機能面の拡張としてDiscordのボットエコシステムは重要だが、会社としてはボットは優位性作りのために存在する。Discord APIの上で多くの開発者にアプリ開発させることによって、いろいろなコミュニティに対応してロックインさせることができる。例えば今からDAOを始めたとすると、Collab.Land、MEE6、Tipなどのボットが含まれるDiscordを選ぶ確率が高い。他のコミュニティツールでは存在しないツールがあるからこそ、Discordは人気になる。

Discordはここにより投資をしなければいけない。2020年によりボット戦略にフォーカスすると発表したが、ボットのディスカバリー、マネタイズ、そして利用率を上げる施策を打たなければいけない。それを実現するためには、Discordはボットストアを作る必要がある。

今だとボットを探すにはとりあえずGoogle検索するか、ゲームのハイライト動画などを配信するMedalが抱えるDiscordディレクトリーのTop.ggに行くのがベストだ。別のスタートアップがこのサービスを提供するほどディスカバリーが需要があることを証明している。ボットストアを作ればDiscord内でボットディスカバリーが始まり、ボット開発者にも自分たちのボットの見せ場もでき上がる。他のアプリストアのオーナーと同じように、Discordは今後期待のボットをよりフィーチャーすることもできるようになる。

そしてデータが集まるとレコメンドを通してボットディスカバリーを強化できる。クリプト系のサーバーを立ち上げた人に対してCollab.Landや類似ツールをオススメできる。

開発者がDiscordでボットの販売なども可能になると、より開発者・クリエイターを招くことが可能になり、それによって新しいグロースサイクルができ上がる。Discordは人気・注目しているボットをフィーチャーして、そのボットを見たユーザーが使い始めて、ボットクリエイターはお金儲けして、その成功を見て新しいボットクリエイターが参加して、Discordのプラットフォームを強化して、強化されたプラットフォームがより多くのユーザーを引き寄せて、そのユーザーたちはより多くのボットを求める。


ボット戦略によってDiscordは本来ビジョンに掲げていたゲームストアのようなプラットフォームになるかもしれない。今ではDiscord内だけではなく、Discordの上に新しいプロダクトが作られている。例えばStirの新プロダクト「Newsroom」ではDiscordのカオスになりがちなサーバーをきれいなUIで表示している。

画像クレジット:Stir Newsroom

Discordをリプレイスするのではなく、改善してDiscordに慣れてないユーザーに対して新しいかたちでDiscordの強みを紹介してくれている。起業家が競合サービスではなくそのツールに連携したり相補するツールを開発するのは、最もDiscordがプラットフォーム化している証拠かもしれない。このトレンドはさらに続きそうだ。今ではDAOのオンボーデイングツールを開発する起業家も増えている。

Discordとしてはこのようなツールとの連携をシームレスにして、ボットストアを拡張してDiscordアプリケーションのエコシステムを広げるとリプレイスしづらくなる。Discordチームとしてはもちろんコアプロダクト自体は強化するのも重要だが、周りの開発者エコシステムを活用するとどんなユーザーの需要にも応えられる、変幻自在なサービスになれる。

ユーザー

Discordは全体で3億人のユーザーがいるといわれていて、そのうち1億5000万人が月次でアクティブなユーザーだ。さらに週次でアクティブなサーバー数だと1900万を超えている。会社の創業物語からの影響でDiscordのユーザーの多くはゲーマー。新しいサーバーを見つけられる「Explore」タブを見ても、フィーチャーされている10個のサーバーのうち9つはゲーム関係のサーバーだ。


唯一の例外は「Anime Soul Discord」という50万人のアニメコミュニティだが、このコミュニティは人気ゲームGenshin Impactの情報発信も行なっている。実際にアニメとゲーマーの組み合わせ自体は不思議ではなく、逆にDiscordが徐々にゲーム領域を起点に扱うトピックを拡大し始めている証拠でもある。ゲームという大きなニッチからアニメなど他のサブカルへ展開するのがDiscordの成長戦略の1つでもある。

アニメ以外だとDiscordで盛り上がっているサーバーのカテゴリーは教育、投資、そしてクリプトとWeb3。各グループで共通しているのはインターネットネイティブであることだ。そもそも米国のゲーマーの2割は18歳以下で、学生である。遊び場所・ツールと同じところで勉強すると考えると、Discordの教育カテゴリーがなぜ伸びているのかがわかる。もちろんすべての教育サーバーが高校生以下が所属している場所ではなく、英語や韓国語の勉強をするサーバーや、ゲームを上手くなるための教育サーバーも存在する。学生向けのサーバーだと宿題をお互い助け合い、教え合う、28万人以上いる「Study Together」コミュニティが存在する。実際にサーバー内では多くの人たちがテキスト・音声・動画などを活用して勉強の支援を行なっている。

Discordもこのユースケースを推薦している。新しいサーバーを作るとサーバーのアイデアとしてよくオススメされるのが教育関連の「スクールクラブ」や「勉強グループ」だ。

Discordの新機能として「Student Hubs(学生ハブ)」というものがあり、ここのサーバーでは高校か大学に所属している人たちのみが参加できる。このグループにアクセスするには正しいメールアドレス(.edu)で認証できる。

若者層へのリーチに苦しんでいるFacebookやInstagramを考えると、Discordがうまくこの層を取り組むチャンスがあると理解して動いているのかもしれない。

Discordの人気な投資関連のグループはゲームコミュニティにある擁護を上手く描き合わせたものとなる。これはトップ投資家が集まってアイデアを語り合うValue Investors Clubみたいなコミュニティではなく、かなりカオスな会話になりがちな場所。そういうことを考えると、RedditのWallstreetBets(WSB)がコミュニティのリアルタイム会話をDiscordに選んだのは正解かもしれない。57万人が集まり、本当に理解不可能なリアルタイムカオスがサーバー内で起きている。

WSBのDiscord活用方法はDiscordをソーシャルな場所としてのポジショニングを表している。Reddit以外にもTwitterなど非同期型な配信プラットフォームで存在するコミュニティがディスカッションの場を設けたいときにDiscordサーバーを作る傾向がある。実際にDiscordの「Explore」機能を見ると「Subreddit」系のサーバーが399個ある。

Discordの最後の人気カテゴリーはWeb3で、NFT、DAO、クリプト投資グループ、クリプトスタートアップとしては最も選ばれる連携プラットフォームになっている。これだけのスピードでDiscordを使うのが普通になったのはかなり驚きだった。今NFTプロジェクトを初めてSlackグループを作ると批判の声が大きい。これはHotmailのメールアドレスを使ってたり、デフォルトの検索エンジンをBingにしていると同じ扱いを受ける。

Web3での人気Discordコミュニティは80万人のAxie Infinity、15万人のSushi、8.6万人のSolana、8.3万人のLoot、7.2万人のUniswap、6.9万人のBored Ape Yacht Clubなどだ。

それ以外のカテゴリーだと職場向けとしては安全ではないNSFW(not safe for work)も人気になり始めている。Discordの人気チャネルの1つは「Sinful 18+」だ。

コミュニティ名にもあるが、これはアダルト系のコンテンツが含まれるコミュニティ。出会い系やアダルトコンテンツはSinful以外にもDating Lounge、Playroom、Paradiseなど複数存在する。

これもDiscordがどれだけ幅広く使われているかを証明している。サーバーのカテゴライズと利用率をモニタリングしているDiscordMeがDiscordのカテゴリー訳をした結果、ゲーム領域が未だに強いことと、人気領域のクリプトでさえまだサーバー数だけ見ると小さい。

サーバー数よりメンバー数の方が適切な指標かもしれないが、この情報だけ見るとゲーム以外にもアート、フィットネス、ミームなどどんなカルチャーの中でも使われ始めているのが分かる。

経営メンバー

Discordは読みにくい会社だ。この記事を書くために会社の経営メンバー、従業員、株主などに連絡したが、あまり良い回答は返ってこなかった。あまり表に出ない会社なので、我々の分析も外部からの情報をベースにしなければいけない。The Orgによると以下がDiscordの主要メンバーとなる。


先にも書いたが、ジェイソン・シトロン氏は平均Discordユーザーと近しい存在だ。OpenFeintの開発を見ても、Discordを見ても、話している内容などを見てもゲーマーであり、業界を本当に好きな人だ。Discordの成功は彼のミッションへの親近感を感じるユーザーが多いのが一部あるかもしれない。初期Discordユーザーで現Commsor CEOのMac Reddin(マック・レディン)氏と話すと、他社と比較してDiscordが成長した理由はゲーマー文化を理解していたからだという。マック氏によれば「ゲーマー向けのプロダクトが少なかった。あったとしても微妙だった」とのこと。Discordは何千億円の時価総額の会社だと考えないことが重要だと語る。

Discordはゲーマーの言語を話せることが重要で、それが可能なのはジェイソン・シトロン氏が創業者だったからだ。

共同創業者のスタニスラフ・ヴィシュネフスキー氏は似た経歴を持っている。彼はジェイソン氏とOpenFeintを買収したGREEで出会い、ジェイソン氏が会社を立ち上げたときにCTOとして誘った。GREEとDiscord(当時はHammer & Chisel)の仕事の合間にスタニスラフ氏はMMORPG向けのSNS「Guildwork」を立ち上げた。ファイナルファンタジー、World of Warcraft、Aionなどのゲームを対応するほどのプロジェクトだった。

元OpenFeintメンバーのSteve Lin(スティーブ・リン)氏以外のDiscord経営メンバーは実はあまりゲーム経験がないが、その分Discordを成長させる経歴を持っている。3月にジョインしたCFOのTomasz Marcinkowski(トマシュ・マルチンコフスキ)氏はPinterestで働いており、今後のDiscordのM&A戦略と上場に向けて担当すると思われている。DiscordのChief People OfficerのHeather Sullivan(ヘザー・サリバン)氏はユニコーン企業であるUdacityで同じ役割を果たしていた。

1つ抜けているバックグラウンドはクリプトかもしれない。経営メンバーでWeb3経験者はいないが、それは当然の話かもしれない。ちょうど大手クリプト企業が出始めたタイミングでもあり、現在はCoinbase経営メンバーよりGoogle経営メンバーの方が引き抜きやすい。

Discord自体も、Web3業界がここまでDiscordを受け入れることを予想していなかったはずだ。2021年前だとクリプトにフォーカスしても一般社員の採用に影響しなかったが、今後はそこは変わるはず。DiscordはWeb3領域に参入したければ、そのコミットを見せるためWeb3関連の経営メンバーを採用しなければいけないかもしれない。

ただ、Discordの経営メンバーを見ると最もユニークな特徴はマネタイズを嫌う傾向かもしれない。

急成長しながら遅いマネタイズ

8月に150億ドルの時価総額でDiscordは資金調達すると噂になった時にパッキー氏は可能であればできるだけ出資したいとツイートした。

いまだにその想いは変わらない。新型コロナウイルス、そしてゲーム領域とWeb3の成長によってDiscordは急成長しているプロダクトで世界的に重要なコミュニティを抱え始めている。Discordがより幅広い層にアピールするタイミングもピッタリだった。2020年は670万の週次アクティブサーバーがあったのが1年で3倍成長して今は1900万を達成している。

画像クレジットBusiness of Apps、Discord

毎分のように新しいNFTプロジェクト、DAO、DeFiプロトコルが立ち上がっている中、年内に週次アクティブサーバー数が2000万を超えてもおかしくない。サーバー数が増えているのはユーザー数が増えていると同等だ。2017年ではDiscordのMAUは1000万人を突破したが、4年後の2021年では1億5000万人を達成。4年で15倍成長とはとんでもない成長率だ。

画像クレジット:Business of Apps

比較するとMeta(Facebook)は合計30億MAUを抱えている(InstagramやWhatsAppを含む)。Snapchatは3億4700万人、Redditは4億3000万人のMAU。Twitterは2019年にMAUを共有しなくなったが、課金可能なDAU(mDAU)は2億1100万人で、2019年時点でのMAUは3億9600万人。それを考えると、Discordの2015年のローンチから6年でMeta以外にすでに現在のトップアプリが視野に入り始めたことになり、明らかに他社アプリより早く伸びている。

Discordの売上成長率はユーザー成長率を超えている。2016年では500万ドルの売上だったのが2020年には1億3000万ドルまで成長した。

画像クレジット:Business of Apps

これだけ成長しているが、まだマネタイズできるはずだ。プロダクトのマネタイズ度を見ると、Discord CEOのジェイソン氏はMetaのマーク・ザッカーバーグ氏よりも元TwitterのJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏に近しいかもしれない。2020年のDiscordのARPU(1ユーザーあたりの平均売上)はたったの1.30ドル(約147円)だった。上場しているSNS企業と比較すると、どれだけ差があるかがわかる。

画像クレジット:Atom Finance

現在のDiscordを見ると、唯一推しているマネタイズ要素がプレミアム課金「Nitro」なのでこの結果に至っていること自体はあまり不思議ではない。今はユーザーがDiscordプロダクトや参加しているコミュニティを応援する気持ちで課金してくれている。ジェイソン氏のこれまでのフォーカスは、広告や売上ではなくプロダクトとコミュニティの強化だ。その結果、かなりロイヤリティが高いユーザーを引き寄せることができた。しかもこのユーザー層はかなり価値がある人たちでもある。ゲームのARPUは大体20〜60ドル(約2670〜6810円)で、クリプトトレーダーたちは高いガスコストに慣れているので、Discordが本気でマネタイズに集中した時にはキャッシュが流れてくるはずだ。

株主側も、マネタイズ問題よりもDiscordの偉大なる可能性に賭けているように見えるので、まだDiscordには時間の余裕はある。Discordほど重要なSNSプラットフォームに投資する機会はなかなかないため、投資家側もかなり期待を高めているはずだ。

株主

初期投資家はよく会社の立ち上げ時ではアイデアより起業家・人の方が大事だという。アイデアは変わるかもしれないが、良い起業家は成功の道を見つける。Discordはこの理論に当てはまる会社だ。

2012年7月に当初の名前「Phoenix Guild」はYouWeb、Accel、General Catalystなどから110万ドル(約1億3000万円)のシードラウンドを実行。当時は「ポストPC時代のBlizzardを作る」という名目で調達していた。翌2013年に社名変更して「Hammer & Chisel」としてBenchmarkがリードで870万ドル(約9億9000万円)のシリーズA調達を発表。そこでは「タブレット向けのMOBAゲームFates Foreverを開発する」と語った。

2015年にHammer & ChiselはBenchmarkとTencentから450万ドル(約5億1000万円)のシリーズB調達を行い、時価総額は4500万ドル(約51億円)となった。当時のVentureBeatの記事ではゲーム会社へのファーストステップを歩んでいるとジェイソン氏が発言していた。ただ、ジェイソン氏は恐らくその時からFates Foreverが正しい道のりではないことを理解していたかもしれない。調達を発表した3カ月後の2015年5月13日にDiscordはローンチする。

Fates Foreverはコアユーザーがいたにも関わらずマネタイズができなかったが、初期投資家としてはDiscordにピボットして報われた。PitchbookによるとBenchmarkやシリーズAに参加した投資家は1.95ドル(約221円)の株価で出資した。2020年12月のDiscordの70億ドル(約7940億3000万円)の時価総額のシリーズHラウンドでの株価は280.25ドル(約3万1790円)まで上がったので、シリーズA投資家は143倍のリターンを出している(未実現だが)。直近の150億ドルの時価総額を考えると、今では存在しないゲームに投資したのにシリーズA投資家は約300倍のリターンを出している。

2016年1月にDiscordとして初めて資金調達を行なった。1億ドル(約113億4000万円)の時価総額でGreylockとSpark Capitalが2000万ドル(約22億7000万円)出資を行い、そこから成長は止まらなかった。

画像クレジット:Pitchbook、Crunchbase

そこから3年以内にDiscordはIndexとIVPから5000万ドル(約56億7000万円)のシリーズD調達、16億5000万ドル(約1871億9000万円)の時価総額で既存投資家から5000万ドルのシリーズE調達、そして20億ドル(約2268億7000万円)の時価総額でGreenoaksがリードで1億5000万ドル(約1701億5000万円)のシリーズF調達を行なった。そのあとはジェイソン氏からすると珍しく18カ月間の期間を空けて2020年6月にIndexから1億ドルのシリーズG調達、そして2020年12月にGreenoaksから70億ドル(約7940億5000万円)の時価総額で1億ドルのシリーズH調達を発表。

そして2021年3月にはMicrosoftが100億〜120億ドル(約1兆1339億〜1兆3607億円)でDiscordを買収しようとしたが、4月に交渉が途絶えたと報道があった。MicrosoftとしてはXBox、Minecraft、直近で買収したZeniMaxなどのゲームポートフォリオに上手く入り込めたはずで、Microsoft Teamsとの連携も考えれらた。さらに他社の大手テック企業とのメタバースへの戦いの中では重要アセットになったはずだが、120億ドルのオファーは断られた。

結果として2021年9月に150億ドル時価総額でDragoneerが5億ドル調達をリードした。クロスオーバー投資家のBaillie Gifford、Coatue、Fidelity、Franklin Templetonも参加したので上場が遠くないことを匂わせた。

2020年の売上を見ると、Discordの150億ドルの時価総額は115倍の売上マルチプルとなる。これは一見高く見えるが、Discordは売上を伸ばせるチャンスはいくらでもある。今世界で最も価値があるものはアテンションで、Discordはそれを十分取れている。アテンションをコントロールするものは世界をコントロールする。

DiscordのMAUが50%以上の成長を保ちながらPinterest級のARPUに行くとこの150億ドルは安く見える。そしてもう1つ大きなチャンスがWeb3への参入だ。

Web3の機会

多くの大手テック企業を見ると、メタバース戦略はコアビジネスの上で何かしらのメタバース事業を立ち上げられるオプションを持っている。Metaは広告事業の上にメタバース事業を乗せることができ、Tencentは中国で最も利用されるアプリとDiscord含む世界トップレベルの投資実績を持った上にメタバース事業を乗せられる。

Discordは急成長しているユーザー数と売上のSNSでWeb3のバリューチェーンでは欠かせない立ち位置のプロダクトになっている。疑問としてはこのWeb3の良さを理解してそれに合わせてWeb3戦略を思い切って進めるか?会社としてもWeb3戦略をわざと曖昧にしているが、8月に複数のDiscordユーザーはあるアンケートを受けるように求められた。

2019年にアンケート結果によってDiscordはユーザー層を広げることを決意したため、アンケートはDiscordの未来を揺らぐ重要なものだ。2021年の8月に出たアンケートの質問をHsakaTrades氏がツイートしたが、そこでDiscordの次の動きをヒントしていたかもしれない。

画像クレジット:@HsakaTrades

漠然としたアンケートだったが、唯一のプロダクトに対しての質問はDiscordネイティブのクリプトウォレットについてだった。これはDiscordがWeb3コミュニティの利用率が上がっていることを理解した証拠でもあり、その領域に入るべきか検討しているのを示した。

それ以外の情報がないため、ここからは我々の想像で、どうWeb3にDiscordが参入するべきかを考えた。

Discordウォレット

8月のアンケートでは唯一のプロダクト関連の質問はDiscordのネイティブクリプトウォレットについてだった。Web3に参入するのであれば当然な展開になる。アイデアとしてはすべてのDiscordアカウントに対してクリプトウォレットを提供すること。ウォレット自体はMetamaskRainbowみたいにイーサリアムエコシステムをサポートしたり、PhantomみたいにSolanaのエコシステムをサポートするウォレットかもしれない。中立的な立ち位置のDiscordとしてはどのクリプトエコシステムも対応すること、そしてDiscordプラットフォームではクリプトユーザーがまだ少ないため、クリプトウォレットっぽくない形で提供するのが大事かもしれない。これを実行するには技術的にもUI的にも難しい。

ただし、Discordはどの会社よりもユーザーのディストリビューションと信頼を得ているので、Discordがこのような展開をすると多くの人たちがWeb3に参入できる。そしてウォレット連携をすることによってDiscordのプロダクトが拡張される。

  • ユーザー同士でメッセージだけではなく、トークンや暗号資産の送金できるようになる
  • Collab.landなどサードパーティボットに頼らずにDiscord内でトークンがないとアクセスできないサーバーやチャネルの機能を提供できる
  • 簡単にコミュニティがメンバーにトークンをairdropできるようになる
  • そしてウォレットを自社で開発するのはDiscordにもメリットがある。
  • 取引、スワップ、ステーキング、レンディングなどをマネタイズできる
  • Discordがインターネット全体のパスポートになる
  • ユーザーのウォレットに入っている物に関する体験作りができる

ウォレットはWeb3上ではアイデンティティとアカウントの役割を果たすので、ユーザーがオンライン上で常に持ち歩くものになる。そこにアクセスできるのは非常に重要なポジション。もちろん、これを実行するにはいくつものハードルがある。そもそもDiscordはクリプト経験者がチームにいない。ただ、ウォレット企業を買収することも可能なので、Discordが本気でWeb3領域へ参入したければウォレットが鍵となりそうだ。

DAO_OS

数週間前にMario氏がおもしろいミームをツイートした:

この「DAOスターターパック」でDiscordが一番最初に出てくるのは偶然ではない。多くのDAOが連携・コミュニケーションするためにDiscordがコアなツールとなった、いわゆるDAO文化に根付いたプロダクトだ。

以前、TwitterやRedditで立ち上がった非同期型のコミュニティがDiscordへ流れ込む話をしたが、Web3の場合はDiscordがより初期段階から利用されている。

DAOをどう始めるかというと、まずTwitterやTelegramで数名の友達に直接連絡して、アイデアや興味度合いを把握する。ある程度の興味があるとわかったタイミングでDiscordサーバーを立ち上げてそこで会話を続けて初期オーディエンスを作るのが一般的な流れ。この後にマルチシグネチャウォレットを立ち上げて調達をしたり、Snapshotなどのプラットフォームでガバナンスを決め始める。NFTコミュニティ、ソーシャルDAO、さまざまなWeb3ユースケースでプロジェクトのスタートは大体Discordから始まる。

これを考えるとDiscordがDAOのOS的なレイヤーを取りに行くチャンスがあるかもしれない。例えば財務管理プラットフォームやガバナンス管理を提供する会社との連携を行うことによってDiscordを出ずにコミュニティマネージャーが一括管理できる場所を用意する。

DAOのスタート時点として使われるほどのDiscordだが、同時に一部のユーザーから嫌われているのも事実。以下ユーザーは大型コミュニティの管理やDAOの連携としては適したツールではないが、今は仕方なく使っていると語る。

現在、DAOを立ち上げる際にはDiscordサーバーが最も使われるツールになっているが、まだ完全に適したツールではないことは確かだ。その関係性を深めるためにはDiscord側が連携などを通して機能性を高めなければいけないかもしれない。

取引手数料のビジネスモデル

Discordのビジネスモデルは後から付け加えたもの。ジェイソン氏曰く、元々、Steamと同じようにゲームストアを立ち上げてマネタイズする予定だった。ストアをリリースする前は売上を作らなかったDiscordは一部のユーザーを心配させた。Discordが顧客データの販売や広告モデルにいずれかシフトすると思ったユーザーを補うために課金型サブスク「Nitro」をローンチした。毎月支払うことによってユーザーは複数のアバター、カスタム絵文字、より良い動画の解像度など特典をもらえるプレミアム課金モデルだった。

ユーザーの心配を抑える一時的なモデルだったが、非常に効果的だった。劇的に体験を変えなくても課金するユーザーがいるのはDiscordへの満足度・愛情があるからだ。Nitroはユーザーにとって会社を応援・支援するメンバーシッププラットフォーム。このようなマネタイズモデルを抱えている大手テック企業は存在しない。

売上チャネルを増やすアイデアとしてDiscordはプラットフォーム内に売買・投資体験を検討するべき。Discordで会話をしている中でユーザーが他のユーザーに音楽・写真・フリーランスの仕事などを売れるようになったり、それ専用のDiscordマーケットプレイスを用意しても良いかもしれない。クリプト業界でも似たような立ち位置を抱えられる。Bored Ape所有者は会話しているチャネルで売買することができたり、Bankless DAOメンバーはディスカッションしながらトークンを購入できるのは非常に価値がありそうだ。

そしてもちろん、すべての購入はDiscordウォレット上で所有することになる。

現在、プラットフォーム内で購入・投資意欲を抱えた人はDiscordを離れないといけない。Discordは購入意欲がスタートするような場所と考えると、その行動を支援する機能を付け加えるのは相性が良さそうだ。結果としてはOpenSeaやFTXなどと似たような機能になるかもしれないが、スタートがコミュニティの会話からとなる。

分散型への進化

10億ドル以上の株式投資を受けているDiscordからすると最後のアイデアが起きる可能性は低いかもしれないが、トークンを活用してDiscordが分散型プラットフォームになるのもおもしろいかもしれない。

そもそもDiscordとWeb3には、相性が良いところもあるが、悪いところもある。Discordのサーバーはカオスで、多くのクリプト詐欺師がDMに変なオファーを出したりしている。さらにDiscordは分散型ではなく、集中型の会社である。このようなプラットフォームが分散型のプラットフォームへ進化するのは難しいので、ゼロからWeb3版のDiscordを誰かが作るべきと語る人も多い。

David Phelps氏はWeb3版Discordの要素を記載した。

  • トークンでのアクセス権限、リワード、投票機能を組み込む
  • ステーキングとイールドファーミングを可能に
  • アプリ内賞金やリワードでマネタイズ
  • 参加者/利用者がプラットフォームのオーナーになる

David氏はWeb3版Discordは出てこないと予想しているが、部分的にDiscordがアンバンドル化されて、特定のWeb3ツールが出ると考えている。

Discord自体が分散化した場合、どうなるか?上場するのではなく、$DISCORDみたいなトークンを発行することができるかもしれない。

これは誰も見たことがないピボットかもしれないし、法的に可能かもわからない。ただ唯一できそうなユニコーンはDiscordかもしれない。そもそもジェイソン氏とスタニスラフ氏はピボット慣れしている。そしてすでにDiscordは分散型のプロトコルっぽいサービスだ。インターネット上でスケールされたUGCコミュニティであり、ユーザーのクリエイティビティに頼り、ユーザーから必要以上にお金を取らないプロダクト。広告を出さないのを証明するためにNitroを出したDiscordとしてはガバナンストークンを発行するのはさらにそれを証明するアクションになる。

分散型プラットフォームへの進化は良いディフェンス戦略でもあり、オフェンス戦略でもある。

ディフェンスとしてはトークン発行はDiscordの課題解決に繋げられるツールかもしれない。コンテンツモデレーションに関わるメンバーを$DISCORDトークンを与えて、スパムを減らすために知らない人へのDMをする際はユーザーが少額の$DISCORDトークンを払わせるのはコミュニティ活性化に繋がる。

オフェンス戦略としてはDiscordのアップサイド、オーナーシップをユーザーに与えるとより多くのコミュニティがDiscordを活用するのと、リテンションを上げる施策になる。アプリ内経済のインセンティブ作りになり、コミュニティが自社でもトークン発行させるインフラにも繋がるかもしれない。

それをウォレットなどと組み合わせると$DISCORDトークンをDiscord MAUの1億5000万人にairdropすると一気にDiscordが世界最大級のWeb3プラットフォームとなり、Web3へ何千万人も紹介できるチャンス。Coinbaseでも6800万人のユーザーしかいないので、DiscordがWeb3に賛同するとインパクトが圧倒的に違う。

もちろん、ここまでの話はただの想像にしか過ぎないが、Discordがユーザーに想像するように命じたのでこのような記事を書いた。現実的に考えると、99.999%の確率でDiscordは分散化してトークン発行はしない。

ただ、急成長しているWeb3ユーザーセグメントを見てDiscordもこの領域に投資するべきだ。Discordはゲーマーのコミュニケーションインフラを開発したから成功したが、これからはインターネットというゲームのツール開発に関わることができる。

インターネットというオンラインゲーム

より多くの時間をインターネットで過ごして少しずつパッキー氏が書いたオンラインゲーム的な世界になる中で、ゲーマーがゲーマー向けに作ったチャットアプリで多くの人が集まるのは自然な流れかもしれない。Twitterがインターネットのタウンホール(市民が集まる公共の場)であれば、Discordは居心地の良いラウンジや隠されたネットワークになるかもしれない。そこで会社やDAOが作られ、関係性が築かれ、アイデアが生まれ、作戦が練られて、情報がリークされる。今までリアルの世界でも大きなスタジアムより学校のクラスルーム、混雑したレストラン、友達のリビングで人生を過ごして密な会話をすることが多い。

「Web 2.0」から「Web3」「インターネット」から「メタバース」へと進化するにあたり、次の世代のサービスの多くはDiscordの構成を参考にするはずだ。Metaはメタバースをコントロールしない。メタバースは共通の興味などを立ち上げたコミュニティやスペースをまたぐことができる場所になる。その新しい世界はわかりにくく、最初はカオスのように見える。集中型の利点はみんなが行き場所を指定してくれるので、わかりやすい。分散型のインターネットは地図や出会う場所などが必要になるが、その世界に最も適したプロダクトを作っているのはDiscordだ。

今はオンライン慣れしている人たちのファネルが存在する。TwitterからDiscord、最終目的地といった流れとなる。Discordはそのファネルのどのピースにいてどこを取りにいくのかによって「重要な会社」「かなり重要な会社」「世界的インパクトの会社」になる。Twitterと合併してインターネットのアテンションを支配するべきか?それともファネルのダウンストリームに行ってWeb3プロダクトと連携するべきか?最近の買収実績を見ると、AR領域へ展開している。Discordサーバーが世界に進化するのを想像しているのかもしれない。

Discordがすでにインターネット上で重要なパーツツールになっているため、まだローンチしてから6年しか経ってないことを忘れてしまう。まだDiscord自身も、どのような会社になりたいのかを理解していないかもしれない。しかし、それも同社の強みかもしれない。カオスだがまとまっていて、安定していて柔軟でもある。それを考えると、競合と比べても分散化された世界に最も対応力があるかもしれない。ユーザーの意思を受け継いでそのインフラを作ることができる組織。

マネタイズはどこかのタイミングで解決するはずだ。次の5年で売上を数千億円に成長させるかもしれないが、それが会社のおもしろみを表してはいない。Discordはインターネットというオンラインゲームの参加者の居場所を作っていて、ゲームは始まったばかりだ。

画像クレジット:Discord

(文:Tetsuro / @tmiyatake1

決算開示業務を「最短・最適ルート」に導く「Uniforce」(β版)を手がけるstart-up studioが1億円のシード調達

決算開示業務を「最短・最適ルート」に導く「Uniforce」(β版)を手がけるstart-up studioが1億円のシード調達

決算開示業務のDX化を目指すサービス「Uniforce -決算開示業務ナビゲーション-」(β版)を手がけるstart-up studioは12月3日、第三者割当増資による1億円の資金調達を発表した。引受先は、イーストベンチャーズ3号投資事業有限責任組合、成田修造氏(クラウドワークス)、野口圭登氏(Brave group)、ほか個人投資家。2022年度の本格的な事業成長に向け、採用活動・開発体制の強化する。決算開示業務を「最短・最適ルート」に導く「Uniforce」(β版)を手がけるstart-up studioが1億円のシード調達

Uniforce -決算開示業務ナビゲーション-は、決算開示業務を「最短・最適ルート」へと導くというコンセプトの基、業務全体を見渡しながら正しい順序でナビゲーションし、細かなタスクの抜け漏れを防ぎ、スムーズで快適な業務を遂行できるDXソリューションサービス(2022年3月末日まで全機能を無料で試用可能)。経験豊富な公認会計士を中心とした、決算開示業務のスペシャリストのノウハウを集結して設計した最も効率的な業務(決算開示業務)フローで、これまで以上の正確性とスムーズな業務を実現するとしている。

バックオフィスを中心とした決算開示業務に携わる方にとって、決算開示業務における複雑さ・非効率さ・情報の網羅性や非対称性といった課題や属人化リスクに関する課題の解決策になるという。決算開示業務を「最短・最適ルート」に導く「Uniforce」(β版)を手がけるstart-up studioが1億円のシード調達

同社は、決算開示業務のスペシャリストとテクノロジーの力を融合させた新たなサービスとしており、先に挙げた課題を根本から解決し業界全体のDX化を牽引していくため、資金調達に至ったとしている。

リンク管理のBitlyがQRコード業界リーダーの独Egoditorを買収

リンク管理企業のBitlyが米国時間12月1日、ドイツに拠点を置くQRコード企業でフラッグシップ製品のQR Code Generatorで知られるEgoditor GmbHを買収すると発表した。

買収の条件は公表されていないが、BitlyのCEOであるToby Gabriner(トビー・ガブリナー)氏は現金と株式の取引であることを明かし、買収が完了すると有料版顧客は32万5000社、アクティブユーザーは500万人以上、従業員は180人、年間経常収益は7500万ドル(約84億6000万円)を超える企業になると述べた。

これはBitlyにとって初の買収で、組織が顧客や人々と関わりデジタル体験でつながりを持つことに貢献するグローバルなSaaS企業を目指すという同社の目標に沿うものだ。

Bitlyは買収と同時に、リンク管理、QRコード、リンクインバイオのリソースをオールインワンで提供するCustomer Connectionsプラットフォームも発表した。Bitlyはここ数年、短縮リンクからさまざまなツールへの進化に関心を移してきた。

Bitlyのトビー・ガブリナーCEO(画像クレジット:Bitly)

BitlyがQRコードのソフトウェアを自前で開発するか買収するかをじっくり検討する中で、Egoditorが第一候補にあがった。Egoditorは10年以上にわたってQRコードの世界をリードしてきたことに加え、Bitlyとの間に顧客や機能性の共通点が多く、この両社が1つになるのは自然な成り行きだったとガブリナー氏は補足した。

同氏は「市場の発展にともない、Bitlyの自然な進化としてこのような道をたどり始めました。当社がQRコード機能の提供を始めたところ相当数のお客様に利用され、お客様が望む機能であると確信を深めました」と説明する。

ドイツのビーレフェルトに本社を置くEgoditorは、QRコードのデザイン、利用、管理、分析をするエンド・ツー・エンドのツールを提供している。2009年にNils Engelking(ニルス・エンゲルキン)氏とNils Drescher(ニルス・ドレッシャー)氏が創業し、190カ国以上の1000万人を超えるユーザーに活用されている。同社の顧客にはスターバックス、Zalando、救世軍などがある。

QRコード自体は新しいものではなく1990年代ごろから存在する。人々はQRコード読み取りアプリをダウンロードしなくなったが、Snapなどは最近、QRコードをクールにしようと試みている。ガブリナー氏は、GoogleとAppleがスマートフォンのカメラでQRコードを読み取れるようにしてから改めて使われるようになったという。そしてコロナ禍の時代となった。

ガブリナー氏はTechCrunchに対し次のように述べた。「利用者が企業と非接触でやり取りする手段が注目され、行動が変容しました。レストランでメニューを見ることから不動産業や小売業、NPO、歯科医に至るまで、あらゆるところにユースケースが爆発的に広がりました。ユースケースの広がりは始まったばかりで、毎週のように新しいことが出てきます」。

ガブリナー氏によれば、Bitlyは現在Egoditorのチームを統合している途中で、全員が合流するという。また新規採用も進めているとのことだ。ドイツと米国のオフィスで、50のポジションに人材を求めている。

同氏は、これは単なる買収ではなく2社が「急速に成長する」ストーリーで、両社の組み合わせはその成長を後押しすると考えている。この1年半でBitlyのカスタマーベースは170%以上成長し、リンクインバイオ機能は数週間前に発表したばかりで現在はプライベートベータだ。

「当社を次のレベルに引き上げる買収として、とても喜んでいます。新しいプロダクトやソリューションを今後提供する基盤を得て、当社は1つのプロダクトから複数のプロダクトへと移行します。エンジンを全開にして成長のストーリーをこれから加速していきます」とガブリナー氏は語る。

画像クレジット:Nutthaseth Vanchaichana / Getty Images

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(文:Christine Hall、翻訳:Kaori Koyama)