愛犬とのライフスタイルに寄り添うブランドを構築するFable

近年の消費者の犬に対する接し方はこれまでの消費者とは大きく異なっており、その違いはこのようにミーム化されるほどになっている。

Bond Vet(ボンドベット)Small Door(スモールドア)など、新たなペット用医療サービスが次々と登場し、Farmer’s Dog(ファーマーズ・ドッグ)Spot & Tango(スポット・アンド・タンゴ)などのペットフード企業も本格的な参入を果たしている。

一方で首輪、リード、クレート、おもちゃなど、ペットの飼い主が都市環境で心穏やかに保つために必要な小物類を販売しているのがFable(フェーブル)である。14Wがリードし、Female Founders Fund(フィーメール・ファウンダーズ・ファンド)とSlow Ventures(スロー・ベンチャーズ)が参加したシリーズAで900万ドル(約10億円)を調達したばかりの同社だが、エコシステムの一環として犬用アクセサリーを作るという計画がいかに賢いものであるかということを、この新資金が証明している。

ニューヨークを拠点とする同スタートアップ。パンデミックに後押しされたペット購買意欲と、ミレニアル世代ならではのペットの扱い方法(息をする生き物に対する真っ当な扱い)に追い風を受けている。

しかしFableでは、ペットだけに焦点を当てるのではなく、ペットを飼う人のことも配慮している。

Fablesの製品はペットの世話をより簡単に、より見た目にも美しくするためにデザインされたものばかりである。

当初は首輪とリーシュから開始し、その後Magic Linkという新タイプのハンズフリーリーシュへと進化した。コーヒーを飲みながら犬の散歩をするというマルチタスクに挑戦したことがある人なら、ハンズフリーリーシュの価値をすぐに理解できるだろう。

画像クレジット:Fable Pets

その後Fableは、犬の世話にまつわるあらゆるユースケースを展開していった。ベッドサイドサイドテーブルにもなるクレート、犬用ボウル、ウンチ袋用ディスペンサー(数カ月間交換不要)、そして重要なのがおもちゃである。

実際、その名も「The Game」と呼ばれるおもちゃが同社のベストセラー商品となっている。私も自分の愛犬のために1つ持っているが、これはまさに神の贈り物である。

底面に重りがついたシリコン製容器には、カップ1杯分のドッグフードやおやつを入れることができる。内部のスライド構造を調整し、おやつの出方の難易度を変更することができるため、愛犬は遊びと狩猟本能の両方を活性化させて長時間夢中になることができる。

パズルやボール類など、おやつを出すおもちゃはこれまでにもあったものの、私の愛犬には簡単すぎたり(5分で終了)安っぽかったり、音がうるさかったりなどで使い物にならなかったのだが、The Gameがこの問題を解決してくれた。

Falconというおもちゃも同社から発売されているが、これは小さな溝からおやつが出るようになっていて、ペットがそれを押さないと開かないようになっている。Falconは単体でも楽しめるが、複数のファルコンを連結してより難しいゲームを作ることも可能だ。

相性の良いアースカラーとジュエルトーンのカラーを揃え、いずれも小さな空間でも映えるデザインになっている。

これがFableの真骨頂なのである。

1つの製品が次の製品につながるのだ。首輪とリードという必需品を購入したら、おそろいのデザインのおもちゃやウンチ袋ディスペンサーを信頼できるブランドから購入するという考えは理にかなう。愛犬がThe Gameを気に入っているからFalconも買ってみてはどうだろう、どうせなら2つ買ってみよう。Falconはクレートの内側に吊り下げることができるから、クレート内で愛犬を刺激して楽しませることもできるし、ついでにおそろいのボウルも買ってみてはどうだろう。

さらにFableはそこで止まらない。ポートフォリオに追加する新たなユースケースだけでなく、既存の製品を強化するさまざまな方法も考えており、兄妹創業者のJeremy Canade(ジェレミー・カネード)氏とソフィー・バカラー(Sophie Bakalar)氏によると、同社は「Crate」のアドオンの販売を計画しているという(現在Crateには飼い主の持ち物を収納する引き出しやコンパートメントがついていない)。

画像クレジット:Fable Pets

また、The Gameの難易度を変えられる、新たな挿入物を検討しているとカネード氏はほのめかしている。

計画的陳腐化は戦略に含まれておらず、むしろ新製品をリリースしながら既存製品を強化するために何を提供できるかという点に同社は注力している。

この戦略はかなり効果的なようだ。

2021年にはCrateのキャンセル待ちが2万人を超え、ホリデーシーズンには5分から10分に1台の頻度でThe Gameを販売した。

全体として前年比約3倍の成長を遂げたという。

また、愛犬にまつわるコンテンツは多くの人が好んで共有してくれるため、それも追い風となっている。Magic LinkやThe Gameのような製品の有機的マーケティングは、宣伝効果として抜群だったと創業者らは話している。

Fableの価格帯は比較的高価で、特にCrateは395ドル(約45000円)。Amazon(アマゾン)やPetCo(ペトコ)では40ドル(約4600円)で手に入るのだが、この価格設定は製品そのものをどう評価するかによって変わってくるとバカラー氏は説明している。例えば、Crateはベッドサイドテーブルでもあるため、West Elm(ウエストエルム)やRestoration Hardware(レストレーション・ハードウェア)の価格と比較すると妥当な価格なのである。

ちなみに、The Gameは55ドル(約6300円)、Magic Linkは65ドル(約7500円)、Waste Bag Holderは35ドル(約4000円)である。

「(競合)製品は、短期間で捨てられるように設計されています」とカネード氏。「私たちは実際に製品をゼロから考え直し、動物と人間の両方のためになるものを作ろうとしています。ペット用品とは、動物と人間両方の世界で同時に存在するものなのですが、誰もそんなものは作っていません。人間のためだけに、犬の消耗に耐えられないような品質グレードで設計しているか、人間のことを考えず、犬のためだけに設計しているかのどちらかなのです」。

画像クレジット:Fable Pets

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(文:Jordan Crook、翻訳:Dragonfly)

アップルの次期ハードウェアイベントは3月上旬か、新iPhone SE、iPad Air、27インチiMac Pro登場のウワサ

Bloombergによると、Appleは3月8日前後に次のハードウェアイベントを開催する予定だ。このイベントでは、第3世代のiPhone SE2020年のiPad Airの後継モデル、Apple Siliconチップを搭載した新しいMacが発表されるという。BloombergのMark Gurman(マーク・ガーマン)氏は、この日程は以前AppleがSEのデビューのために設定した3月から4月のタイムフレームと一致するが、潜在的な生産の遅れにより、同社が計画を変更せざるを得なくなる可能性があると警告している。

これまでどおり、記事ではiPhone SEシリーズとしては初となる5Gに対応すると報じられている。また、より高速なプロセッサやより優れたカメラも搭載されると予想されているが、現行モデルのiPhone 8時代のデザインは維持されるという。新型iPad Airにはプロセッサが刷新され、5G接続が追加される。Bloombergは、Appleが同イベントで発表するかもしれない新型Macについて多くを語らなかったが、最近のほとんどの報道では、同社が27インチのiMac Proの新モデルを発表すると指摘している。

新しいiPhone SEの話がいまいち盛り上がらなかった人への朗報は、AppleがiOS 15.4も2022年3月前半にリリースするとBloombergが報じていることだ。このアップデートでは、マスクを着用していてもFace IDでiPhoneのロック解除できる機能が追加される予定だ。

関連記事:ついにマスク姿でもiPhoneのロック解除可能に!アップルの最新ベータ版OSはマスク着用に対応したFace IDや待望のユニバーサルコントロールを提供

編集者注:本記事の初出はEngadget。執筆者のIgor BonifacicはEngadgetの寄稿ライター。

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(文:Igor Bonifacic、翻訳:Hiroshi Iwatani)

小さなスタートアップMayhtは新コンセプトの小型スピーカーで業界の巨人たちに挑む

スタートアップを立ち上げる方法はいろいろあるが、少数の既存企業が深く根を下ろし市場を独占している業界に挑戦するには、ひときわ勇敢な創業者チームが必要だ。例えば、トップ企業の名前が文字通り「インターネットで検索する」という動詞になっているようなネット検索市場には、余程の勇気がなければ挑戦しようとは思わないだろう。スピーカーの世界も似たようなもので、過去100年の間、テクノロジーはほとんど進歩しておらず、Shania Twain(シャナイア・トゥエイン)の甘く心地良い歌声を気中に放つスピーカーのコンポーネントは、ほとんどすべてひと握りのメーカーが作っている。

この世界に風穴を開けようと考えるスタートアップは多く、毎年、さまざまな方法で「スピーカーをより良くする」と謳う企業のプレゼンを何度も目にするが、いつもそれは不発に終わっている。確かにイノベーションは起きているが、スピーカーのコアテクノロジーでは、真に革新的といえるような動きがほとんどない。しかし、2022年のCESでは、その例外ともいえるMayht(メイト)のチームと話をすることができた。

同社は、お互いに反対方向を向いたスピーカーを作り、モーターでスピーカーの振動板を同時に動かすことで、手を叩くのと同じような動きを実現した。つまり、2つのスピーカーは完全に同調するということだ。同社によると、この小型化されたスピーカーは使用時のエネルギー効率を高め、出荷や保管の際のサイズも小さくでき、業界に与えるインパクトはこれまでの投資に見合うものだとしている。スピーカーの技術も興味深いが、筆者が興味をそそられたのは、オランダの小さな寄せ集めのイノベーター集団が、どのようにしてこの業界の状況を変えようとしているのかということだ。

Mayhtはテクノロジー企業だ。同社は開発の早い段階で、スピーカー技術の世界においては、巨大企業と真っ向勝負してもあまり意味がないことに気づいた。そのため、いくつかの特許とクールなリファレンススピーカー(パートナー候補にデモをするプロトタイプ)を武器に、同社は実質的に外部から委託を受ける研究開発部門を構築したいと考えている。つまり、新しくて興味を引くテクノロジーを生み出し、それを有名なスピーカーブランドにライセンス供与するスカンクワークス(極秘開発チーム)だ。筆者は、このオランダの小さなスタートアップに注目し、コンシューマーエレクトロニクスの中でも最も強固な守りを敷く業界にどのように挑んでいるのか詳しく見てみることにした。

このインタビューでは、Mayhtチームとその投資家らに話を聞き、ゴリアテの世界の中で好戦的なダビデになるための秘訣は何かを考えてみた。

「当社は、2016年からこのスピーカー技術に取り組んできた。最初の2、3年はプロトタイプを作っていたが、今では量産に近いもの、あるいは量産中のものが数多くある。当社はスピーカーユニットのメーカーではなく、その技術を守り、それをライセンスしているだけだ」と、MayhtのCEOであるMattias Scheek(マティアス・シーク)氏は説明する。そして「サウンドバーから小型サブウーファー、小型音声アシスタントスピーカーまで、さまざまな用途で当社の技術をようやく紹介できるようになった。特に小型音声アシスタントスピーカーは、市場に旋風を巻き起こすと確信している。例えば、Echo Dot(エコードット)がSonos One(ソノス・ワン)やサウンドバーと同じ音を出せるようになるということだ。また、サブウーファーのないスピーカーでも、サブウーファーのあるものと同じ音が出せるようになれば、市場は大きく変わる。当社はようやくそれらを公開することができた」と同氏は述べる。

同社は、新世代のスピーカーユニットを発明したという。一般的なスピーカーユニットは振動板を備えているが、駆動機構全体が振動板の後ろにあるため、限られた動きしかできない。Mayhtのイノベーションは、駆動機構を振動板の横に配置することだ。これにより、振動板はより大きく動くことが可能となる。自動車のエンジンでも似たようなことがある。エンジンのパワーを大きくするには、2つの方法がある。1つはシリンダーを大きくして、より多くのガスと空気の混合物を爆発させてパワーを生み出す方法、もう1つは、ストローク長を大きくする方法だ。Mayhtは、この考え方をスピーカーにも応用している。Google Mini(グーグルミニ)やAlexa(アレクサ)のスピーカーのようなスマートスピーカーだけでなく、スペースが限られている車載用など、さまざまな用途でスピーカーの小型化が求められていると同社は考えている。また、同社のスピーカー技術は、ビリつきを抑えることもできるという。

Mayhtのスピーカー技術では、駆動機構を振動板の横に配置している。これにより、2つのスピーカーを同調させ、従来のデザインによる同等サイズのスピーカーに比べて、より多くの空気を動かすことができるという理論だ(画像クレジット:Mayht)

同社は、現世代のスマートスピーカーに対してあまり高い評価はしていない。音声コントロール機能、メッシュWi-Fi、優れたデザイン、電源管理、優れたユーザーエクスペリエンスなど、いずれも意味のあるイノベーションだったが、スピーカーの技術自体は代わり映えしないものだ。

「Bang&Olufsen(バング&オルフセン)、Bose(ボーズ)、Sony(ソニー)など、どのメーカーも似たようなものだ。どのメーカーも同じ技術を使い、同じスピーカーユニットを使っている。同じ工場で作られたユニットなのだから仕方がない。主要メーカーは3~4社で、さまざまなスピーカーブランドはそれらのメーカーからスピーカーユニットを調達しているのだ。この分野でイノベーションが起こらないのは不思議なことではない」とシーク氏は嘆く。「メーカー自身がスピーカーユニットを開発しているわけではないので、より高品質なテクノロジーを追求しようとは思わないのだ。1~2%程度の改善はあっても、スピーカーユニットの全体的なアーキテクチャを変えることはない。そのようなことをすれば、メーカー全体の製造体制を変えることになり、メーカーにとっては大きなリスクとなる」と同氏は続ける。

Sonos Oneを分解してみると、凝ったテクノロジーの下には平凡なスピーカーユニットがあることがわかる(画像クレジット:Haje Kamps for a Bolt teardown

「スピーカーメーカーは、真のイノベーションを達成するのに見合う報酬が得られない。というのも、最低レベルのコストで最高の品質を実現する必要があるため、既存のテクノロジーにとらわれず、本当に新しくて革新的なものを生み出すインセンティブがスピーカーメーカーには与えられないからだ」と、MayhtのチーフコマーシャルオフィサーであるMax van den Berg(マックス・ファン・デン・バーグ)氏は説明する。そして「そういったことを踏まえて、当社は創業以来、世界中の45社ほどのスピーカーメーカーと話をしてきた。その中で、このような製品を見たことがある会社はなかった。これはまさに破壊的なイノベーションだ」と同氏は語る。

Mayhtは、今回のラウンドで、オランダのベンチャーキャピタルForward One(フォワード・ワン)を中心に総額400万ユーロ(約5億2000万円)を調達した。筆者は、この投資を先導した同VCのパートナーにインタビューを行い、はたから見ると困難な戦いに挑もうとしているように見える会社に、なぜ自信を持って資金を投入できたのかを探った。

「私は、このチームがMayhtを特別なものにしていると思う。創業者の兄弟2人は、7歳の頃からスピーカーに携わっており、とても感銘を受けた」とハードウェアのスタートアップに投資をしているフォワード・ワンのパートナー、Frederik Gerner(フレデリック・ゲルナー)氏は述べる。「両氏がスピーカー業界の枠組みを破壊しようとしていることは、非常に有意義なことだ。同じテクノロジーで何十年も成り立っていた巨大かつ成長中の市場は、今まさに革命の時を迎えている。ハードウェアは、多くの業界を一歩前進させる真の手段であり、当社はこのハイテクハードウェアのイノベーションの必要性を、これまで以上に達成可能で重要なものと考えている」と同氏は続ける。

既存のスピーカーユニットメーカーを蹴落とすために工場を建設するのは無駄なことだ。代わりに賢明な同社は、ライセンス方式を採用し、非常にスリムでエンジニアリングに特化したチームを構築し、比較的少額の資金を調達することを進めている。現在、Mayhtの従業員は20名で、そのうちの70%ほどがエンジニアリング部門の担当者だ。また、戦略的に非常に強い影響力を持つ人材を顧問として迎え入れたのも賢い選択だ。このことは、今後この種の企業を構築する上での鍵となるかもしれない。

「顧問には、非常に経験豊富なメンバーがいて、チームで活躍している。Philips(フィリップス)のライセンス部門で働いていたメンバーが2人いるが、そのうちの1人は、実際にライセンス部門を率い、フィリップスにおいてライセンシングを巨大なビジネスにした。彼は、ライセンシングの仕組みだけでなく[特許]訴訟の処理についても大いに助けてくれているし、非常に優れた交渉役でもある」とシーク氏は説明する。

Mayhtのスピーカーのプロトタイプと、Sonosの(より大きな)スピーカー。Mayhtによると、この2つのスピーカーの音量や音質は同じだという。画像クレジット:Mayht

Mayhtでは、起業する場合、自分たちによく合うタイプの会社を作ることを重視している。例えば、同社は、Sonosでマネージングディレクター兼グローバルオペレーション担当副社長を5年間務めたPiet Coelewij(ピート・コエレウィジ)氏も顧問として招き入れている。また、同社のチーフコマーシャルオフィサーであるマックス・ファン・デン・バーグ氏も注目の人物だ。同氏は、1990年代半ばにソニーのパーソナルオーディオ部門のマーケティングマネージャーを務め、その後も長年にわたってソニーの上級幹部として活躍してきた。「適切な人材が部屋にいることで、ドアを開けて進むことができる」と、シーク氏は控えめな表現ながらも両氏の功績に言及する。

同社はブランドを築き上げ、それを他社との共同ブランドとして活用したいと考えている。これはブランディング上の大きな問題を解決する賢明な方法だ。ほとんどの人は、自分が持っているスピーカーの内部で使われているスピーカーユニットのメーカーは知らないし、知る必要もないだろう。しかし、他の業界では前例がある。余程のマニアでもない限り、ほとんどの人は自分のパソコンのプロセッサーが誰によって作られているかなどは気にしていない。少なくとも、AMD(エイ・エム・ディー)がIntel(インテル)のしっぽを捉えた時、IntelがAMDに対抗して「Intel inside(インテル入ってる)」キャンペーンを展開するまでは、そうだったはずだ。Mayhtはそのシナリオを参考にして、Heartmotion(ハートモーション)ブランドを商標登録した。そして、同社のスピーカーをライセンシーと共同ブランド化することの合意を取りたいと考えている。例えば「Sonos powered by Heartmotion(Heartmotion搭載Sonos)」といったようなものだ。

「『Heartmotion』というのは、当社がライセンス供与するテクノロジーブランドだ。スピーカーの動きが心臓の動きに似ていることから、そう呼んでいる。目標は、すべてのスピーカーが当社の技術を搭載し、当社の技術を使用するパートナーが製品の箱にマーケティングの一環としてHeartmotionのロゴを使用することだ」とシーク氏はいう。

スピーカーのサイズと重量を最小限に抑える技術を基に、同社はいくつかの巧妙なセールスポイントを用意している。自動車やRVのメーカーにとっては、ドアパネルやダッシュボードなどの小さなスペースに、音の出力を落とすことなく、より多くのスピーカーを配置できるということだ。これは当然のことなのだが、筆者が特に感心したのは、より環境に配慮した技術に人々が(ようやく!)興味を示し始めている現在の状況において、Mayhtがいくつかのマーケティングメッセージを活用していることだ。低消費電力でありながら大きな出力が得られる小型スピーカーをパッケージ化することで、思いがけない効果が生まれることがある。その一例として、同社が試作したスピーカーには、太陽光発電技術の「Powerfoyle(パワーフォイル)」で覆われたものがある。これは、鳴り続けるBluetoothスピーカーを作ることが可能ということだ。エネルギー消費量に加え、フォームファクターが小さくなれば、重量や輸送量が削減され、結果的に環境面でも大きなメリットがある。

関連記事:太陽電池を搭載し自ら電力を供給し続けるMayhtの小型高音質スピーカー

Mayhtの「Heartmotion」スピーカーのプロトタイプ(画像クレジット:Mayht)

Mayhtは、特許ポートフォリオ戦略に裏打ちされたライセンシングファーストのビジネスモデル、優れた創業者のストーリー、ライセンシングやオーディオの専門家が名を連ねる顧問チーム、そして初めから適切にものごとに対処するために落ち着いて行動しようとする姿勢によって、注目の2022年に向けて着実に体制を整えている。そして、チームは、長年の研究と土台作りを経て、実行の年に向けたシフトアップを狙っているため、十分なリソースを確保したいと考えている。

「2022年は、当社の製品が消費者の手に渡る年だ。その瞬間を目にすることをとても楽しみにしている。当社は、かなり長い間、目立たないように製品作りに取り組んできた。これは本当に奇妙なことだが、業界ではそのすばらしさが知られていても、消費者はまだそれを体験していないのだ。当社にとって、2022年は大々的に公開する年になる。パートナーと協力してこの製品を消費者に届けるだけでなく、当社自身もやることを考えている……」といいながら、シーク氏は途中から声をひそめた。詳細を話しかけていたのだが、録音されていることを思い出したのだ。しかし「もうすぐ、2022年の第2四半期には発表できるだろう。まだ詳しいことはいえないが、現在、消費者が当社から直接購入できるリファレンス製品を開発中だ。消費者にも体験してもらいたいので、試用のために限定版のスピーカーを作っている」と話してくれた。

同社によると、自社製品での収益はあまり考えておらず、これはブランドの認知度を高めるために、大量に生産するサンプルだという。

「自分たちで(3インチ[7.62cm]の)T3スピーカーユニットを搭載した製品を作っているのは、実績を上げれば業界全体が動き出すからだ。この数年間でたくさんのプロトタイプを作った」とファン・デン・バーグ氏は説明する。問題は、新製品の設計には時間がかかり、大手スピーカーブランドにもその時間が必要だということだ。そのため同社は、ペースを上げるべく、リスクを冒して自分たちの手で問題を解決しようとしている。「当社は(サードパーティがデザインしたスピーカーは)少し長いプロセスを必要とすると感じている、サードパーティには決定する時間が必要なのだ。おそらく、彼らの製品が市場に出回るのは、2022年末から2023年初頭になるだろう。それまでの間、当社がこのテクノロジーを消費者に発表することが非常に重要だと考えている。当社は誰かと競争をしたいわけではないが、当社がてがけていることはクールだと思うし、Heartmotionを搭載したすばらしいBluetoothスピーカーの限定サンプルを提供できることをとても楽しみにしている」とファン・デン・バーグ氏は語った。

画像クレジット:Mayht

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

ユーザーが修理可能なノートPCで注目を浴びたFrameworkが製品ラインナップの拡大を計画中

2021年11月、Apple(アップル)は「Self Service Repair(セルフサービスリペア)」プログラムを開始すると発表した。これまで個人による修理を認定していなかった同社にとって、これは驚くべきことだ。もちろん、このような変化が何もないところで起こったわけではない。米国では大統領も議会も、いわゆる「修理する権利」を開放するよう働きかけてきた。その理由は、消費者の選択を増やすためや持続可能性への配慮など、いくつもある。

しかし、かつての抵抗勢力だった企業がこの変化を受け入れ始めたとしても、修理できる可能性をユーザーに開放することと、製品を実際にユーザーが修理できるようにすることでは異なる。近年の家電製品は薄型化が進み、ますます専門家でなければ修理することが困難になっている。

元アップルやOculus(オキュラス)・Facebook(フェイスブック)のエンジニアだったNirav Patel(ニラブ・パテル)氏が2019年後半に設立したFramework(フレームワーク)という会社は、修理可能性を製品設計の重要な機能として位置づけることに注力する、急成長中のハードウェアスタートアップの1つだ。米国時間2月1日、同社は1800万ドル(約2億円)のシリーズA資金調達を発表したが、これはそのミッションの正当性を証明するものだと宣伝している。

画像クレジット:Framework

「私たちの使命とFramework Laptop(フレームワーク・ラップトップ)に対するみなさまの多大かつ迅速な関心は、私たちが正しい道を歩んでいることを明白にしてくれました」と、パテル氏は資金調達を発表したリリースで述べている。「この業界では、長く使えるように設計されたパーソナルな製品が、以前から高く必要とされています。このことは、私たちだけでなく、誰にとっても明らかであり、Spark(スパーク)社のパートナーもそれを確信しています」。

パテル氏によれば、今回のラウンドを主導したSpark Capital(スパーク・キャピタル)は、OculusのシリーズA資金調達も主導していたという。この投資により、SparkのゼネラルパートナーであるKevin Thau(ケビン・トー)氏がFrameworkの取締役に就任した。他にシード投資家のPathbreaker Ventures(パスブレーカー・ベンチャーズ)、Anorak Ventures(アノラック・ベンチャーズ)、Formic Ventures(フォーミック・ベンチャーズ)もこのラウンドに参加した。パテル氏は、ベイエリアを拠点とするFrameworkが「会社の存続のために投資家の資金が必要だった」わけではなく「アップグレード、カスタマイズ、修理をより多くのコンシューマーエレクトロニクスに提供する」ための製品ラインナップの拡大に、この資金を使うと述べている。

それが、どのようなカテゴリーになるのかは明らかにされていないものの、同社はすでに今後2年間のロードマップを作成しているという。スマートフォンは、その一般性の高さから、妥当な判断だと思われるが、最近の市場はノートパソコンよりもさらに飽和状態にある。アムステルダムを拠点とするFairphone(フェアフォン)は、2021年「Fairphone 4」をリリースするなど、積極的にこの市場をターゲットにしている。

今回の追加資金は、Frameworkの人員増強に充てられる。ユーザーによる修理が可能であるという魅力が、比較的ニッチな顧客層を超えて十分に関心を集められるかどうかは、まだわからない。同社より大きないくつかの企業が、修理可能性の実現に向けて一定の成果を上げているものの、多くの大企業がFrameworkやFairphoneと同じようにオープンな設計に取り組むことは、おそらくないだろう。

画像クレジット:Framework

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

横浜国立大学、超柔軟なゲルや生体組織などに液体金属で配線する新技術を世界で初めて確立

液体金属を用いたゲル基板上の立体配線。(a)ゲル上およびゲル内部への液体金属配線と LED の点灯の様子。(b)液体金属を用いたゲルファイバー表面のらせん配線

液体金属を用いたゲル基板上の立体配線。(a)ゲル上およびゲル内部への液体金属配線と LED の点灯の様子。(b)液体金属を用いたゲルファイバー表面のらせん配線

横浜国立大学は1月31日、ゲルや生体組織といった超ソフトで非平面の基板上に、液体金属で配線を転写する技術を、世界で初めて確立したと発表した。今までよりもさらに柔軟なウェアラブルデバイスの開発や、インプラントデバイスへの応用が期待される。

横浜国立大学の太田裕貴准教授、渕脇大海准教授らによる研究グループは、液体金属で配線を行ったPVA(親水性がよい合成樹脂の一種であるポリビニルアルコール)フィルムを超柔軟基板の上に置き、フィルムを水で溶解させることで超柔軟基板上へ配線を転写することに成功した。配線可能な線の最小幅は165µm(マイクロメートル)と非常に細いため、らせん構造や三次元に交差する立体構造の配線も可能だった。

また、ラットの迷走神経を刺激する柔軟電極を設置したところ、生体組織に与える物理ストレスが抑えられた。さらに、PVAフィルム上に構築した温度測定システムを、機能を維持したままゲルに転写し、腕に貼り付ける実験も行ったが、その状態での温度測定も可能だった。

液体金属配線技術を用いたアプリケーション。(a)ラットの迷走神経に配線した液体金属の写真。(b)腕に取り付けたゲル基板上の温度測定デバイス。(c)作製したデバイスの上面図とデバイスの断面構造を示す回路図

液体金属配線技術を用いたアプリケーション。(a)ラットの迷走神経に配線した液体金属の写真。(b)腕に取り付けたゲル基板上の温度測定デバイス。(c)作製したデバイスの上面図とデバイスの断面構造を示す回路図

液体金属は、次世代スマートデバイスの配線素材として注目されている。生体適合性が高く柔軟であるため、ゲルと組み合わせれば、非常に柔軟なウェアラブルデバイスが作れるようになるのだ。剛性を表す比例係数ヤング率はゲルよりも低く、伸縮性と生体適合性は高く、変形による抵抗値変化が小さいという優れた特徴を持つが、加工しづらいという欠点もある。従来の方法では、非平面基板に複雑な回路を作ることは難しかった。この研究で、そうした課題が克服され、柔軟な素材のみを使用し、人体への密着性を高め、不快感を少なくしたウェアラブルデバイスの開発が可能となるとのことだ。

今後は、生体組織に液体金属で配線を施し、「健康状態を測定できるようなインプラントデバイスの開発」も期待されるという。

医薬品の低温輸送に適した「自己冷蔵型クラウドベースの配送箱」をEmberが発表、大手ヘルスケア物流企業と提携

Ember(エンバー)は2021年、最近のハードウェア分野で見られる最も魅力的な事業展開の1つを発表した。同社は保温機能を備えたスマートマグカップで知られているが、以前からコールドチェーン、特に医薬品の長距離輸送に注目したきた。最初は会話から始まったこのプロジェクトは、2021年2350万ドル(約27億円)の資金を調達して促進されることになった。そして今回、同社は新たな製品と、今後の展開を示すパートナーシップを発表した

新しい方向性の中心となる製品は「Ember Cube(エンバー・キューブ)」と名付けられたもので、同社はこれを「世界初の自己冷蔵型クラウドベースの配送箱」と呼んでいる。この技術は、重要な荷物を運ぶのに、いまだに段ボールや発泡スチロール、使い捨ての保冷剤などに頼っている時代遅れの輸送技術を更新するために開発された。その核となるのは、内容物を摂氏2~8度に保つように設計されたEmber独自の温度制御技術だ。

このEmber Cubeは、温度・湿度の情報とGPSの位置情報をクラウドで共有することで、輸送中の情報を追跡することができる。本体背面には「Return to Sender(送り主へ返却)」ボタンがあり、これを押すと本体のE Ink画面上に返品ラベルがポップアップ表示される。同社によると、このCubeは「数百回」の再利用が可能だという。

同社は今回、このEmber Cubeの公開と併せて、大手ヘルスケア物流企業であるCardinal Health(カーディナル・ヘルス)との提携も発表した。

Cardinal Healthスペシャリティソリューションズ部門のプレジデントであるHeidi Hunter(ハイディ・ハンター)氏は、今回の発表に関連したリリースの中で「Ember社とのパートナーシップは、リアルタイムの可視性を備え製品を完全な状態に保つ、新しい業界標準となる技術ソリューションを活用するとともに、廃棄物の削減にも変革をもたらします」と述べている。「Ember Cubeは、医薬品開発パイプラインにおける多くの細胞療法や遺伝子療法にとって、特に価値あるソリューションとなるでしょう。これらは温度に敏感で、価値が高く、リアルタイムに統合された追跡を必要とするからです」。

Cardinal社は、この2022年後半に発売予定の新デバイスを試験的に使用する最初の大手企業となる。

画像クレジット:Ember

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

「偏光」でデジタルセンシングをアップグレードするMetalenzのPolarEyes技術

技術的な見方を変えれば、LiDAR、赤外線、超音波など、私たちが知覚できない複数の種類のデータを融合させることができる。先端センシングに使用する非常にコンパクトな「2D」カメラのメーカーであるMetalenzは、PolarEyes技術を使い、セキュリティと安全性確保のために偏光を取り入れたいと考えている。

偏光は、あまり注目されていない光の性質だ。偏光は、空気中を波打つ光子の運動の向きと関係があるが、一般的に光から必要な情報を得るには、偏光を確認する必要はない。だからといって役に立たないというわけではない。

「偏光は、一般的には考慮から外されてしまうものですが、対象が何でできているかを教えてくれるものなのです。また、通常のカメラでは見えないコントラストを見つけることができます。医療分野では、昔から細胞が癌かどうかを見分けるのに使われてきました。可視光では色や強度は変わりませんが、偏光で見ると変わるのです」とMetalenzの共同設立者兼CEOであるRob Devlin(ロブ・デブリン)氏はいう。

しかし偏光カメラは、ほとんどはその特異な性質が必要とされる医療や工業の現場でしか見られない。したがって、それを行う装置は異様に高価で、かなり大型のものになる。たとえ1000万出せるとしても、パソコンの画面上部にクリップで留めておけるような代物ではない。

2021年、私がMetalenzについて書いたときの彼らの進歩は、複雑なマイクロスケールの3D光学機能を確実かつ安価に製造し、小さいながらも効果的なカメラをチップ上に実現したことだった。これらのデバイスは現在、STMicroelectronicsとの部分的な提携により、産業用3Dセンシングモジュールの一部として市場に投入されているとデブリン氏は述べている。しかし偏光には、より消費者に関係のある応用方法がある。

関連記事:カメラの受光素子をMetalenzが2Dでブレイクスルー、3M、TDKなどから10億円調達し大量生産へ

「顔認識における偏光は、見ているものが本物の人間の肌なのか、シリコンマスクなのか、それとも高画質の写真なのか、といったことを教えてくれます。車載用設定では、黒くて見えない薄氷を検出することができます。これは通常のカメラでは難しいのですが、偏光を使うとわかります」とデブリン氏はいう。

顔認証の場合、iPhoneに搭載されているLiDARユニット(小型レーザーで顔をスキャンする)のように、前面カメラと並べて設置できるほど小型化できる可能性がある。偏光センサーは、(この例では)おそらく4つの異なる偏光軸に対応して画像を4つに分割し、それぞれがわずかに異なるバージョンの画像を表示する。これらの違いは、わずかな距離や時間をおいて撮影された画像間の違いと同じように評価することができ、顔の形状や細部を観察することができる。

画像クレジット:Metalenz

偏光は素材の違いも見分けることができるという利点があり、肌はリアルなマスクや写真とは異なる光を反射する。おそらくこれは日常生活では一般的な脅威ではないが、もし携帯電話メーカーが同じ「Face ID」タイプの機能を手に入れ、なりすまし防止セキュリティを追加でき、小さなLiDARよりも派手でないものを使えるとしたら、おそらくそのチャンスに飛びつくだろう(そして、Metalenzのターゲットは適切だ)。

偏光は自動車や産業においても役に立つ。あるピクセルが何でできているかを知ることは、かなり複雑な問題で、通常はそのピクセルが構成する物体を特定しなければならない。しかし、偏光データを使えば、さまざまな素材を瞬時に見分けることができる。実は、これがVoyantの新しいLiDARの価値提案の一部となっている。100個の通常の画素に対して1個の偏光画素があれば、それほど高い解像度は必要ない上、場面についての非常に多くの洞察を得ることができる。

関連記事:小さくて安価なLiDAR技術の生産拡大を目指すVoyantが約17.7億円調達、ロボティクスや工作機械がターゲット

画像クレジット:Metalenz

これらはすべて、Metalenzが偏光カメラユニットをこのような状況で使用できるように小型化し、高感度化できるかどうかにかかっている。当社は、産業界で使用されているブレッドケースサイズのユニットをクラッカーのサイズに縮小し、テストを行っている。また、ロボット、自動車、パソコン、そしておそらく携帯電話のカメラユニットに追加したり交換したりできるように、チョコボール程度の大きさのカメラスタックを開発中だ。研究開発の「開発」の段階にしっかり入っている。

Metalenzは現在、3M、Applied Ventures、Intel、TDK(利益をもたらす可能性のある新しいタイプの部品への投資を行う企業だ)などから2021年得たAラウンドの資金をもとに活動している。PolarEyesへの関心が、同社が最初のセンサーで集めた関心と同じ程度になっていれば、スケーリングコストをカバーするための新たな資金調達が間もなく行われると予想される。

画像クレジット:Metalenz

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

2021年のスマートフォン出荷台数は2017年以来初めて増加

2020年になる前に、世界のスマートフォンの出荷台数はすでに縮小し始めていたが、2年間のパンデミックと、その結果としてのサプライチェーンとチップの制約で数字はさらに悪化していた。しかしCounterpoint ResearchIDCのレポートによると、2021年に市場はやっと2017年以来初めての成長を経験している。

Counterpointは全体の前年比成長率を4%とし、IDCはやや楽観的な5.7%としている。しかし両社とも、第4四半期は6%または3.2%の減少としている。半導体の不足が続いたため減少は予想されていたが、小さなメーカーは特に影響が大きく、Apple(アップル)やSamsung(サムスン)などのようにサプライチェーンの工夫ができない分、第4四半期の減少も大きかった。

両調査会社とも、2022年の伸び率ではSamusungがトップで、どちらも6%となっている。Appleが2位だ。また最近のCanalysのレポートでは、Appleが1位になっている。3社の調査レポートの傾向に大きな違いはない。Apple自身も、その優秀だった決算報告でこの傾向を確認したが、そこではiPhoneの成功が特に大きく寄与していた。

画像クレジット:Counterpoint Research

AppleのiPhone部門は前年比で9%増の716億3000万ドル(約8兆2529億円)だった。Tim Cook(ティム・クック)CEOは、サプライチェーンの制約は引き続き同社のハードルであり、需要に供給が追いつかない市場も一部にあった。しかし問題は収まりつつあり、前進できると決算報告で述べている。このような問題は、最終的には、そうでなければより強固に回復したであろう市場を指し示している。

IDCリサーチディレクターのNabila Popal(ナビラ・ポパル)氏は「2021年は、供給の制約がなければ、劇的に高い成長率になっていたという事実が、2021年の健全な5.7%の成長率をさらにポジティブなものにしています」とリリースで述べている。「私にとっては、ほぼすべての地域で大きな潜在需要があるというメッセージになります。消費者需要の弱体化をめぐる課題がある中国でさえ、第4四半期の市場は予想をはるかに上回り、正確には5%上回ったが、それでも前年同期比では減少しています」。

画像クレジット:IDC

中国は引き続きサプライチェーンの制約により強い打撃を受けているが、2位と3位のスマートフォン市場は2021年に成長を遂げた。

「米国の成長は、Apple初の5G対応iPhone 12シリーズの需要が2021年の第1四半期まで伸び続けていたことが大きな要因です。この需要は年間を通じて継続し、ブラックフライデーやホリデーシーズンのプロモーションのおかげで第4四半期は好調に終わりました。インドでも中・上位機種の買い替え率の上昇、入手性の向上、魅力的な融資オプションにより、好調な1年となりました」とCounterpointのアナリストであるHarmeet Singh Walia(ハーミート・シン・ワリア)氏は述べている。

10年近くにわたる力強い成長の後、アップグレードサイクルの遅れ、高価格、市場の飽和により、パンデミックの前にスマートフォンの需要の減少は拡大していた。新型コロナウイルスは、消費者の消費意欲を減退させ、その減速にさらに拍車をかけた。これらの問題は、サプライチェーンの問題によってさらに悪化してしまった。しかし、需要の高まりと5Gのようなものが再び消費者の関心を呼び起こしているが、全体の出荷量はまだパンデミック以前のレベルを下回っている。

画像クレジット:Fajrul Islam/Getty Images

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(文:Brian Heater、翻訳:Hiroshi Iwatani)

アップル、iPhoneの販売台数がサプライチェーンの不足を克服し過去最高に

全世界的なパンデミックが始まった直後にガイダンスをやめていたAppleが、四半期の売上高で過去最大の売上を記録したことには、笑顔になるべき理由がたくさんある。パンデミックの不確実性とサプライチェーンの制約に直面しても、ハードウェアの巨人は投資家の予想を上回り、売上高が11%増加した。

iPadの売上が予想を下回り、前年同期比14%減となったことを除けば、ハードウェア部門は全体的にバラ色だった。iPhoneは、2021年9月下旬に発売されたiPhone 13シリーズに続き、堅調な伸びを示した。スマートフォンの売上は716億3000万ドル(約8兆2710億円)で、前年同期の656億ドル(約7兆5740億円)から9%増加している。

世界的なサプライチェーンのボトルネックとチップ不足を考慮すると、この結果はより顕著になる。Tim Cook(ティム・クック)氏は決算説明会で、サプライチェーンの問題は今後、緩和される見込みであると言及している。

「過去最高となった当四半期の業績は、これまでで最も革新的な製品およびサービスのラインアップによって実現された。接続することがかつてないほど重要な時代に、世界中のお客さまから反響があったことをうれしく思います」とCEOはいう。さらに彼は、Appleが現在進めているカーボンニュートラルへの取り組みについても言及した。

このニュースは、私たちが以前から知っていたことを確認するものだ。Appleのスマートフォンが大ヒットしたこの四半期は、主に最近の中国における成功のおかげだ。Counterpoint Researchの発表によると、Appleは世界最大のスマートフォン市場である中国でシェア1位を獲得している(Vivo、Oppo、Honor、Xiaomiなどがそれぞれ2位から5位であることを考えると、これは小さな成果ではない)。

一方、Huawei(ファーウェイ)は、制裁措置により重要な技術へのアクセスが遮断されているため、自国でも苦戦が続いている。

2021年1月初め、Canalysは、他のメーカーもサプライチェーンのボトルネックやチップ不足に悩まされ続けている中、Appleは世界第1位に躍り出たと指摘している。同社は、特定の市場における需要に対応するのに苦労していた前四半期に比べて、大幅な伸びを示した。

サプライチェーンの制約により、一部の市場において需要を満たすことが困難な状況が続いていることは事実だが、こうした状況は、サプライヤー間の影響力が弱い中小メーカーに対して過度に影響を与える傾向がある。

上述したようにiPadが目標を下回った一方で、Macの売上高は前年比25%増の108億5000万ドル(約1兆2550億円)を記録した。これは主にiMacとMacBook Proのここ数年で最も有意義なアップデートを含む、M1モデルのリフレッシュが主な要因だ。Apple WatchやAirPodsなどを含むウェアラブル、ホーム、アクセサリーは147億ドル(約1兆7000億円)に成長し、サービス部門は195億2000万ドル(約2兆2570億円)を記録している。

画像クレジット:Apple

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(文:Brian Heater、翻訳:Katsuyuki Yasui)

インドの電子機器&ライフスタイルのスタートアップboAtがIPOを申請

インド発の希少なハードウェアスタートアップの1つである電子機器&ライフスタイルブランドboAt(ボート)の持ち株会社Imagine Marketing(イマジン・マーケティング)は、最大2億6600万ドル(約305億円)のIPOを申請した。

Warburg Pincus(ウォーバーグ・ピンカス)が支援するboAtは、現地時間1月27日に地元の規制当局に提出したDRHP(予備目論見書のこと)の中で、約1億2000万ドル(約137億円)相当の新株発行と1億4600万ドル(約167億円)相当の株式の売り出しを計画していると述べている。boAtの出資者の1人であるSouth Lake Investment(サウス・レイク・インベストメント)氏は、IPOで1億640万ドル(約122億円)相当の株式を売却する予定であると、申請書は述べている。

1年前のシリーズBラウンドで3億ドル(約344億円)と評価されたこのスタートアップは、IPOの手続きを過去の債務の支払いや現在の債務の「前払い」に充てる予定だという。匿名を希望する投資家の1人によると、新規株式公開では15億ドル(約1721億円)以上の評価額を求めているとのこと(求められる評価額は、地元メディアによって以前に報告されている)。

boAtはヘッドフォン、フィットネスウェアラブル、スマートウォッチ、ゲームコントローラー、充電ケーブル、携帯バッテリーパック、イヤフォン、その他のモバイルアクセサリーなど、さまざまな電子製品を「製造」し販売している。同社の低価格でプレミアム感のある美しい外観デザインのデバイスは、顧客層の大半を占める若者の支持を得ている。

boAtは近年、展開カテゴリーを拡大し、そこでも最初に際立った存在となったのと同じ戦略を取っている。フィットネス用ウェアラブルは25ドル(約2870円)以下から、スマートウォッチとAirPodのようなイヤフォンは30ドル(約3440円)以下、充電ケーブルは3ドル(約340円)、ホームシアター用サウンドバーは約50ドル(約5740円)、ワイヤレススピーカーは10ドル(約1140円)強、ヘッドフォンは5.5ドル(約630円)である。

boAtは提出書類の中で、オーディオ、ウェアラブル、パーソナルケアなどのカテゴリーを含む製品の生産について、多くの契約メーカーに依存していると述べている。

「当社は、製品の製造をこれらの契約メーカーに依存しており、当社の契約メーカーは、同様に、当社の製品に使用される多くの構成部品をサードパーティサプライヤーに依存しています。2019年、2020年、2021年および2021年9月30日に終了した6カ月間において、11億6092万ルピー(約17億7900万円)、34億833万ルピー(約52億2400万円)、71億7618万ルピー(約110億円)および99億1081万ルピー(約151億9200円)、もしくは、我々の仕入れの57.79%、69.34%、57.19%、60.73%は、それぞれ最もよく使うサプライヤー5社からです」と述べた。インドと中国の地政学的緊張がスタートアップのビジネスに影響を与える可能性があるとも指摘した。

また、boAtが商品の販売にサードパーティーのマーケットプレイスであるAmazon(アマゾン)とFlipkart(フリップカート)に大きく依存していることも、潜在的な懸念材料となっている。「当社の主要な販売チャネルはオンラインマーケットプレイスを介しており、2019年、2020年、2021年の会計年度および2021年9月30日までの6カ月間、当社の営業収益の85.11%、86.26%、85.84%、83.24%はオンラインマーケットプレイスに由来し、当社の営業収益の78.59%、81.35%、83.72%、75.02%はトップ2のオンラインマーケットプレイスに由来しています」と申請書には書かれている。

「当社の上位2つのオンラインマーケットプレイスとの契約は、非独占的なものです。一部の顧客については、彼らとの契約に基づき、一定期間後に売れ残った商品について再購入または追加価格支持を行う義務を負っています」。と記されている。

マーケティング調査会社IDCによると、boAtは2021年初頭の時点で、インドのウェアラブル市場の30%以上を占め、同カテゴリーにおいて世界第5位のブランドとなっている。

このスタートアップの新規株式公開は、ここ数日、世界中の投資家が米国の金利上昇とテック系株への影響を懸念して急落している現地の株式市場にとって、試金石となる可能性がある。2021年上場したインドのテック系スタートアップ4社(Zomato、Paytm、Nykaa、PolicyBazaar)の株価は、過去2週間で下落している。

画像クレジット:Boat Lifestyle

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(文:Manish Singh、翻訳:Akihito Mizukoshi)

韓国EVバッテリーメーカーLG Energy Solutionが上場、時価総額で同国2位に浮上

韓国最大手のEVバッテリーメーカーであるLG Energy Solution(LGエナジーソリューション)は1月27日、成功裏に韓国取引所に上場した。終値で計算した同社の時価総額は118兆1700億ウォン(約11兆2600億円)で、Samsung Electronics(サムスン電子)に次ぐ国内2位の企業となった。

LG Energyの株価は、公募価格の30万ウォン(約2万8716円)を99%上回る59万7000ウォン(約5万7145円)で始まり、取引開始後は25%下落したこともあったが、最終的には68.3%値を上げた。

中国のCATL(寧徳時代新能源科技)に次いで世界2位のEV用バッテリーメーカーである同社は、先週、韓国最大のIPOで12兆8000億ウォン(約1兆2250億円)を調達し、同社の価値は590億ドル(約6兆8000億円)に達した。

セクターアナリストによると、LG EnergyはTesla(テスラ)、General Motors(ゼネラルモーターズ)、Volkswagen(フォルクスワーゲン)などを顧客とし、世界のEV用バッテリー市場の約23%を占めているとのこと。これに対し、中国のCATLは約35%のシェアでトップだ。また、日本のパナソニックは約13%、中国のBYD(比亜迪)は約7%のシェアをそれぞれ占めている。

LG EnergyはIPOで得た資金をもとに、グローバル市場での生産能力を高める計画だ。また、米国、欧州、中国の自動車メーカーと戦略的パートナーシップを結び、世界の競合他社に対抗していきたいと考えている。

2020年12月にLG Chem(LG化学)からスピンアウトしたLG Energyは、3万人以上の従業員を擁し、EV、モビリティ、ドローン、船舶、ITアプリケーション、電力貯蔵システム(ESS)用のリチウムイオン電池を開発している。上場後、親会社のLG ChemはLG Energyの81.8%の株式を保有することになる。

2021年6月、ソウルに本社を置く同社は、GMのChevrolet Bolt EV(シボレー・ボルトEV)についてバッテリーセルの欠陥により発火の危険性が指摘され、一連のリコールが行われたことを受けて、IPOプロセスを中断していた。

2021年7月に同社は、2025年までに電池材料に52億ドル(約6000億円)を投資する計画を発表した。LG Energyは1月25日、GMと共同で米国に26億ドル(約3000億円)規模のEV用バッテリー工場を建設する計画を発表した。

関連記事:LG化学がEV用バッテリー生産拡大へ向け2025年までに5770億円を投資

画像クレジット:LG Energy Solution

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(文:Kate Park、翻訳:Aya Nakazato)

韓国EVバッテリーメーカーLG Energy Solutionが上場、時価総額で同国2位に浮上

韓国最大手のEVバッテリーメーカーであるLG Energy Solution(LGエナジーソリューション)は1月27日、成功裏に韓国取引所に上場した。終値で計算した同社の時価総額は118兆1700億ウォン(約11兆2600億円)で、Samsung Electronics(サムスン電子)に次ぐ国内2位の企業となった。

LG Energyの株価は、公募価格の30万ウォン(約2万8716円)を99%上回る59万7000ウォン(約5万7145円)で始まり、取引開始後は25%下落したこともあったが、最終的には68.3%値を上げた。

中国のCATL(寧徳時代新能源科技)に次いで世界2位のEV用バッテリーメーカーである同社は、先週、韓国最大のIPOで12兆8000億ウォン(約1兆2250億円)を調達し、同社の価値は590億ドル(約6兆8000億円)に達した。

セクターアナリストによると、LG EnergyはTesla(テスラ)、General Motors(ゼネラルモーターズ)、Volkswagen(フォルクスワーゲン)などを顧客とし、世界のEV用バッテリー市場の約23%を占めているとのこと。これに対し、中国のCATLは約35%のシェアでトップだ。また、日本のパナソニックは約13%、中国のBYD(比亜迪)は約7%のシェアをそれぞれ占めている。

LG EnergyはIPOで得た資金をもとに、グローバル市場での生産能力を高める計画だ。また、米国、欧州、中国の自動車メーカーと戦略的パートナーシップを結び、世界の競合他社に対抗していきたいと考えている。

2020年12月にLG Chem(LG化学)からスピンアウトしたLG Energyは、3万人以上の従業員を擁し、EV、モビリティ、ドローン、船舶、ITアプリケーション、電力貯蔵システム(ESS)用のリチウムイオン電池を開発している。上場後、親会社のLG ChemはLG Energyの81.8%の株式を保有することになる。

2021年6月、ソウルに本社を置く同社は、GMのChevrolet Bolt EV(シボレー・ボルトEV)についてバッテリーセルの欠陥により発火の危険性が指摘され、一連のリコールが行われたことを受けて、IPOプロセスを中断していた。

2021年7月に同社は、2025年までに電池材料に52億ドル(約6000億円)を投資する計画を発表した。LG Energyは1月25日、GMと共同で米国に26億ドル(約3000億円)規模のEV用バッテリー工場を建設する計画を発表した。

関連記事:LG化学がEV用バッテリー生産拡大へ向け2025年までに5770億円を投資

画像クレジット:LG Energy Solution

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(文:Kate Park、翻訳:Aya Nakazato)

近くiPhone単体を非接触決済端末として使える可能性、iOS 15.4で提供開始か

近い将来、小規模ビジネスはハードウェアを追加することなく、iPhoneを使って支払いを受け付けられるようになるかもしれない。Bloombergによると、Apple(アップル)は今後数カ月のうちにソフトウェアアップデートを通じてこの機能の提供を開始する可能性があり、おそらく2022年春にリリースされるiOS 15.4の最終バージョンで提供されることになるだろうとのこと。Appleはスマホを決済ポータルに変える技術を開発したことで知られるカナダのスタートアップ、Mobeewaveを2020年に買収しており、その頃からこのサービスに取り組んできたと言われている。

Mobeewaveの技術は、外部ハードウェアの使用を必要とするSquare(スクエア)のようなサービスとは異なり、アプリと携帯電話のNFCだけで動作する。ユーザーは請求したい金額を入力するだけ、顧客はクレジットカードを端末の背面にタッチするだけでよい。AppleはBloombergからのコメント要請を拒否したため、iPhoneに内蔵される機能が同じように動作するかどうかは不明だ。

また、Bloombergの情報筋は、この機能がApple Payの一部としてブランド化されるかどうかについては言及できなかった。ただし、この機能を開発しているチームは、AppleがMobeewaveを買収して以来、同テック大手の決済部門と協力してきたと報じられている。Appleが既存の決済ネットワークでサービスを開始するかどうかも、現時点ではわかっていない。

Mobeewaveは、買収される前にSamsung(サムスン)と提携し、後者の携帯電話をコンタクトレス決済端末にした。この機能をカナダで試験的に導入し、Samsung POSと名付けられた同社のPOSサービスをカナダで広く展開したこともある。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Mariella Moon(マリエラ・ムーン)氏は、Engadgetのアソシエイトエディター。

画像クレジット:Bloomberg / Contributor / Getty Images

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(文:Mariella Moon、翻訳:Aya Nakazato)

米国は半導体不足の解消からほど遠いとライモンド米商務省長官が警告

米商務省は米国時間1月25日、半導体市場の供給不足がどの程度広がっているかを把握するために150社を対象に行った調査の結果を発表した。自動車産業と医療産業は、この供給不足の影響を大きく受けている。

この調査結果を受けて行われた記者会見においてGina Raimondo(ジーナ・ライモンド)商務長官は、問題を厳しい言葉で表現し「半導体の供給問題に関しては、まだ脱却したとは言えない」と指摘。さらに「この問題は2022年後半まで、いや、もっと長く続きそうだ」と述べた。

ライモンド氏は、現在下院が起草しているU.S. Innovation and Competition Act(USICA)に、米国内での半導体生産増強のための520億ドル(約5兆9236億円)の資金が含まれていることを挙げ、議会の通過を強く要請した。

調査では、2019年から2021年にかけて需要が17%増加したことを指摘しており、この数字は今後さらに増加することが予想される。さらに、予期せぬ事態に直面した場合、破滅的な結果をもたらす可能性がある薄利多売についても述べている。

チップの在庫の中央値は、2019年の40日から5日未満に減少している。この在庫は、主要産業ではさらに少なくなってしまう。つまり、新型コロナウイルスの流行や自然災害、政情不安によって海外の半導体施設がわずか数週間でも混乱すれば、米国内の製造施設が閉鎖される可能性があり、米国の労働者とその家族が危険にさらされることになる。

ほとんどの製造施設は現在90%以上の生産能力で稼働しており、上工場を増やさなければこれ以上生産量を増やすことは不可能だという。特にIntelは、オハイオ州の2工場への大規模な投資を発表しているが、最初の工場が稼働するのは2025年だ。おそらく、現在行われている措置の多くは、将来の供給不足を回避することを目的としているのだろう。

「2021年初頭からの進展にもかかわらず、半導体不足は続いている。「半導体のサプライチェーンが複雑であることが一因だ。生産者は常に需要を明確に把握しているわけではなく、チップ消費者は必要なチップがどこで生産されているのかを常に把握しているわけではない。こうした障壁が、ソリューションの開発を難しくしている」と商務省の調査報告では述べられている。

画像クレジット:Joshua Roberts/Getty Images

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(文:Brian Heater、翻訳:Hiroshi Iwatani)

NVIDIA、Arm買収を断念か、ソフトバンクによる上場計画の噂も

Bloombergの情報筋によると、NVIDIAは400億ドル(約4兆5560億円)でのArm(アーム)買収について、規制当局の承認取得がほとんど進んでおらず、内々に買収を断念する準備を進めているという。一方、Armの現オーナーであるソフトバンクは、買収の代替案としてArmを上場させる計画を進めているようだ、とこの件に詳しい別の関係者は述べている。

NVIDIAは2020年9月にこの買収を発表し、CEOのJensen Huang(ジェンスン・フアン)氏は「AIの時代に向けてすばらしい位置にいる企業が誕生する」と宣言した。Armの設計は、Apple(アップル)、Qualcomm(クアルコム)、Microsoft(マイクロソフト)、Samsung(サムスン)、Intel(インテル)、Amazon(アマゾン)といった企業によってほぼ全世界でスマートフォンなどのモバイル機器にライセンス使用されている。

買収発表後すぐに反発が始まった。Armが拠点を置く英国は2021年1月に買収に関する反トラスト調査を、11月にはセキュリティ調査も開始した。米国では、データセンターや自動車製造などの産業における競争を「阻害」するとの懸念から、FTC(連邦取引委員会)が買収を阻止すべくこのほど提訴した。また、他の規制当局が買収を阻止しなければ、中国が買収を阻止すると報じられている、とBloombergの情報筋は話す。

我々は、最新の規制当局への提出書類で詳細に述べられている見解、すなわちこの取引はArmを加速させ、競争とイノベーションを促進する機会を提供するとの見解を引き続き持っている。

Intel、Amazon、Microsoftといった企業が、規制当局にこの取引を中止させるのに十分な情報を与えたと、情報筋は話している。これら企業は以前、NVIDIA自身がArmの顧客であるため、Armの独立性を保つことができないと主張した。つまり、Armのライセンス取得者のサプライヤーと競合社の両方になる可能性もある。

このような厳しい逆風にもかかわらず、両社は依然として買収を進める姿勢にある。NVIDIAの広報担当者Bob Sherbin(ボブ・シェルビン)氏はBloombergに対し「我々は、この取引がArmを加速させ、競争とイノベーションを促進する機会を提供するという見解を引き続き持っています」と述べた。ソフトバンクの広報担当者は「当社はこの取引が承認されることを変わらず望んでいます」と声明で付け加えた。

後者のコメントにもかかわらず、ソフトバンクの一部の派閥は、特に半導体業界がこれほど熱狂していることから、買収の代替案としてArmのIPOを推進していると伝えられている。また、NVIDIAの株価が買収発表後2倍近くに上昇し、実質的な買収価格が上昇していることから、買収を継続したいとの考えも一部にはあるようだ。

最初の契約は2022年9月13日に失効するが、承認に時間がかかる場合は自動更新される。NVIDIAは、この取引は約18カ月で完了すると予想していたが、今となってはこの期限は非現実的のようだ。

編集部注:本稿の初出はEngadget。執筆者のSteve DentはEngadgetの共同編集者。

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(文:Steve Dent、翻訳:Nariko Mizoguchi

1024個の長期安定型の分子センサーを1チップに集積化、空中の分子の空間濃度分布の可視化に成功

1024個の長期安定型の分子センサーを1チップに集積化、空中の分子の空間濃度分布の可視化に成功

開発したセンサーアレイの顕微鏡写真(右図)およびアナログフロントエンドセンサー計測回路システムの写真(左図)

東京大学と慶應義塾大学からなる研究グループは、気体に含まれる分子(揮発性分子)を電気信号として検出する分子センサー1024個を1チップに集積化したセンサーアレイ(センサー群)を開発し、揮発性分子の空間濃度分布の可視化に成功した。この分子センサーは金属酸化物ナノ薄膜を用いた堅牢なもので、従来技術では難しかった長期間の安定化と、高密度集積を可能にした。

分子センサーは、医療や食品管理など幅広い分野で注目を集めているが、実際に検出対象となるガスには数十から数百種類の分子が含まれているため、数多くのセンサーを集積したセンサーアレイが必要となる。また、小型、省電力であるうえに、長期間データを取得し続けられる長期安定性も求められる。だが従来技術では、高密度集積化と長期安定(堅牢性)という2つの条件を満たすセンサーアレイは作れなかった。

そこで、東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻の大学院生 本田陽翔氏、慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻の大学院生 椎木陽介氏らからなる研究グループは、金属酸化物半導体をクロスバー構造に配置したセンサーアレイを開発した。クロスオーバー構造とは、格子状にセンサーを配置するもので、これまで広く開発されている「縦型チャンネル構造」に比べて面積を大きくできる。研究グループは、1辺に32本の電極を設け、計1024個(32×32)の分子センサーを5mm四方の中に集積化した。

ただクロスオーバー方式は集積化に優れている反面、配線の電気抵抗がセンサーの電気抵抗に加わってしまうため正しい測定ができないという問題があるのだが、50nm(ナノメートル)という非常に薄い酸化スズの膜をセンサーに用いることでセンサー自体の電気抵抗を大きくし、配線の抵抗の影響を小さくすることでこれを解決した。またこの酸化スズは熱に強く、長期間安定した分子センサーも実現している。

(a)液滴をから蒸発・拡散させた分子をセンサーアレイで検出する実験の模式図と写真。(b)蒸発・拡散してきたエタノールに対するセンサー応答とセンサー列の関係。液滴に近いセンサーほど高い応答が得られている。(c)bのセンサー応答の勾配(傾き)と各種液滴滴下後の時間の関係。60s時点で液滴を滴下している。勾配の時間依存性が分子の種類に応じて異なる傾向を示している

(a)液滴をから蒸発・拡散させた分子をセンサーアレイで検出する実験の模式図と写真。(b)蒸発・拡散してきたエタノールに対するセンサー応答とセンサー列の関係。液滴に近いセンサーほど高い応答が得られている。(c)bのセンサー応答の勾配(傾き)と各種液滴滴下後の時間の関係。60s時点で液滴を滴下している。勾配の時間依存性が分子の種類に応じて異なる傾向を示している

このセンサーアレイの近くにアルコールを配置して蒸発し拡散する分子の検出を行ったところ、アルコールからの距離に応じてセンサーの反応に差異が出た。このことから、このセンサーアレイで分子の種類を判別できる可能性が示された。

この技術とセンサーチャンネル表面の化学物性を制御する技術を融合すれば、多種類のセンサーを高密度に集積化でき、「多種類の分子が混合された分子群の判別」ができるセンサーシステムの実現も期待されるとのことだ。

12.6型120Hz有機ELの高速Androidタブ「Lenovo Tab P12 Pro」が日本発売、キーボード込み約13万円

12.6型120Hz有機ELの高速Androidタブ「Lenovo Tab P12 Pro」が日本発売、キーボード込み約13万円

一時期の「高速・高級タブレットといえばiPad Proのみ」といった市場から一転し、昨年ごろより再び市場が活性化しつつある、Androidの高速タブレット。

中でもレノボ・ジャパンは、昨年の11.5インチ有機EL搭載機『Lenovo Tab P11 Pro』や、HDMI入力でモバイルディスプレイとしても使える13型液晶搭載『Yoga Tab 13』など、意欲的なモデルをラインナップしているメーカーです。

そんなレノボが、海外で高評価を得ている、最高120Hzのリフレッシュレート(可変式ではなく選択式)に対応した12.6インチ有機EL画面+クアルコムSnapdragon 870搭載モデル『Lenovo Tab P12 Pro』の日本版を発表しました。

販路は同社Web直販『レノボオンラインストア』で、発売日は1月28日の予定。気になる価格は、RAM 8GB/ストレージ 256GB/Wi-Fiのみモデルが、キーボードカバーとペンとのセットで13万円(税込)前後。単品構成や5G対応モデルはありません。

なお米国版では699.99ドルからとなっており、一見価格差が大きそうに見えますが、これはRAM 6GB/ストレージ 128GBという下位構成にあたるモデルで、なおかつ本体のみ。現状米国モデルもこの1構成のみなので、直接比較はできません。

参考記事Lenovo Tab P12 Pro 発表。120Hz有機EL採用のハイエンドAndroidタブレット (2021年9月)

12.6型120Hz有機ELの高速Androidタブ「Lenovo Tab P12 Pro」が日本発売、キーボード込み約13万円
さて、同機の特徴はなんといっても、12.6インチの大画面有機ELディスプレイを搭載しながら本体重量が約565gと、「ある程度だったら手持ちでいける軽さ」である点。

直接的なライバルとなる現行の(ミニLED搭載液晶の)12.9インチiPad Proは682gなので、110g以上軽量。しかも600g台と500g台というのは、12.6インチ画面タブレットとしては体感重量にかなり“効く”差です。

本体サイズも、縦長状態で約184.53×285.61×5.63mm(幅✕高さ✕厚さ)と、とくに薄さが際立つ仕様。昨今のスマホやタブレットは薄型をことさら強調する例が増えていますが、筆者が海外モデルに触れてみたところ、さすがに12.6インチ画面で5mm台となると“実感を伴い”ます。

なお、12.9インチiPad Proは214.9✕280.6✕6.4mm。幅が30mmほど違うのは画面のアスペクト比が大きく異なるためですが(横長状態で本機は16:10、iPad Proは4:3)、このあたりもハンドリングには地味に影響する印象です(両機ともそもそもが大きくはあるのですが)。

そして「大画面で軽い」と聞くと気になるバッテリー駆動時間ですが、公称で最大約17時間。容量は10200mAhと、このあたりはさすがに大画面タブレットの水準といったところでしょう。なお急速充電は、ノートPC並の45Wに対応します。

12.6型120Hz有機ELの高速Androidタブ「Lenovo Tab P12 Pro」が日本発売、キーボード込み約13万円
そしてもう一つの特徴は、搭載する有機EL画面です。解像度は2560×1600でアスペクト比は16:10、最高輝度も600ニトで、HDR映像ソースはドルビービジョンとHDR10+にも対応。さらにスピーカーも4ユニットを搭載したJBLとのコラボ仕様と、良い意味で最新世代タブレットらしい水準でまとめられています。

さらに、Windows PCと組み合わせることで、本機をワイヤレス接続のディスプレイとしても使用可能な『Lenovo Project Unity』にも対応。タッチやペン入力もPC側で利用可能です。

SoCには、Yoga Tab 13に続き、クアルコムの高速モデル『Snapdragon 870』を搭載。Snapdragonシリーズでも888 Plusと888無印に次ぐ性能と位置づけられたグレードだけに、速度に関してはかなりのヘビーなゲームであってもカバーできる水準。

並のSoCでは負荷が高い、ヘビー級ゲームの120Hz表示環境を支えるだけのパワーを備えた、と呼べるモデルです。

12.6型120Hz有機ELの高速Androidタブ「Lenovo Tab P12 Pro」が日本発売、キーボード込み約13万円
本機に同梱されるキーボードは、いわゆるSurface Proタイプの背面スタンドカバーとセットで、本体カバーを兼ねる構造(スタンドカバーも、もちろん同梱です)。

本体の底面積の大きさを活かし、キーピッチなどもいわゆるフルサイズに近い仕様に。またタッチパッドも大型となっているため、操作性はかなり良好です。

もう一つ同梱されるペンは、4096段階の筆圧感知や傾き検知機能も備えた、最新世代の『Lenovo Precision Pen 3』仕様。本体画面のリフレッシュレートが120Hzであることも相まって、なめらかなペン入力が可能と謳います。

接続はBluetoothで、充電は本体とのマグネット装着により無接点で行われるタイプです。

カメラ部はタブレットだけあり、スマートフォンよりは仕様は控えめですが、それでもリア側はメイン(広角)1300万画素+超広角500万画素のデュアルカメラタイプ。フロント側も800万画素と、セルフィー用途も見据えた仕様です。

基本的な仕様は

  • アウトカメラ:1300万画素広角(メイン)+500万画素(超広角)
  • インカメラ:800万画素
  • ディスプレイ:12.6インチ有機EL(2560×1600/アスペクト比16:10)、10点タッチ
  • プロセッサ:クアルコムSnapdragon 870(8コア、最高3.2GHz)
  • メモリ(RAM):8GB
  • ストレージ:256GB
  • 外部ストレージ:microSD
  • 拡張端子:USB Type-C✕1
  • OS:Android 11
  • バッテリー駆動時間:最大約17時間
  • バッテリー容量:10200mAh
  • ワイヤレス通信: Wi-Fi 6、Bluetooth 5.2
  • 本体サイズ:約184.53×285.61×5.63mm
  • 重量:約565g

といったところ。総じていまどきのAndroidタブレットでも最上位に属するだけあり、仕様としては非常に隙のないタイプとして仕上がっています(その分、残念ながら値も張りますが)。

そしてなんといっても、12.6インチという美しい大画面を500g台という手持ちができる重量に収めた点は大きな魅力。実際の画面も、現行世代の有機ELにふさわしい高水準のため、多くのユーザーの期待を裏切らないものと呼べそうです。

(Source:本版製品ページ(レノボ・ジャパン)Engadget日本版より転載)

Metaが(おそらく)民間最速のAIリサーチ用「SuperCluster」でスパコン戦争に参入

地球上で最も大きく、最もパワフルなコンピューターを構築するための世界的な競争が過熱する中、Meta(別名Facebook)は「AI Research SuperCluster(RSC、AIリサーチ・スーパークラスター)」でその混戦に飛び込もうとしている。完全に稼働すれば、世界最速のスーパーコンピュータのトップ10に入る可能性があり、言語やコンピュータビジョンのモデリングに必要な大規模な演算に使用されることになる。

OpenAIのGPT-3が最も有名であろう大型AIモデルは、ノートPCやデスクトップではまとめられるものではなく、最先端のゲーム機をも凌駕する高性能コンピューティングシステムによって、数週間から数カ月にわたって継続的に計算された最終的な成果だ。また、モデルのトレーニングプロセスが早ければ早いほど、そのモデルをテストして、より良い新しいモデルを生み出すことができる。トレーニングの時間が月単位になるというのは、とても重要なことだ。

RSCは稼働しており、同社の研究者たちはすでにそれを使って仕事をしている。ユーザー生成データを使用して、と言わなければならないが、データはトレーニング時までに暗号化されており、施設全体が外部インターネットから隔離されていることをMetaは慎重に説明した。

スーパーコンピュータは驚くほど物理的な構築物であり、熱、ケーブル配線、相互接続などの基本的な考慮事項が性能や設計に影響を与えるが、RSCを構築したチームは、ほとんどリモートでこれを成し遂げたことを当然のことながら誇りに思っている。エクサバイト級のストレージはデジタル的に十分な大きさに聞こえるが、実際にどこかに存在し、現場でマイクロ秒単位でアクセスできる必要がある(Pure Storageも、このために同社が用意したセットアップを誇りに思っている)。

RSCは現在、760台のNVIDIA DGX A100システムをコンピュートノードとして使用しており、これらのシステムには合計6080個のNVIDIA A100 GPUが搭載されている。Metaは、米ローレンス・バークレー国立研究所のPerlmutterとほぼ同等の性能を持つと主張している。これは、長年のランキングサイト「Top 500」によると、現在稼働しているスーパーコンピュータの中で5番目に強力なスーパーコンピュータとなる(ちなみに、1位は今のところダントツで日本の富岳である)。

これは、同社がシステムの構築を続けることで変わる可能性がある。最終的には約3倍の性能になる予定で、理論的には3位の座を狙えることになる。

そこに補足説明があるべきなのは間違いない。2位の米ローレンス・リバモア国立研究所のSummitのようなシステムは、精度が求められる研究目的で採用されている。地球の大気圏内の分子を、これまでにない詳細なレベルでシミュレーションする場合、すべての計算を非常にたくさんの小数点以下の桁数で行う必要がある。つまり、それらの計算はより多くの計算コストを要するということだ。

Metaは、AIアプリケーションでは結果が1000分の1パーセントに左右されるわけではないため、同様の精度は必要ないと説明する。推論演算では「90%の確率でこれは猫である」というような結果が出るが、その数字が89%でも91%でも大きな違いはない。難しいのは、100個ではなく、100万個の物体や語句に対して90%の確実性を実現することだ。

それは単純化しすぎだが、結果として、TensorFloat-32(TF32)演算モードを実行しているRSCは、他のより精度を重視したシステムよりも、コアあたりのFLOPS(1秒あたりの浮動小数点演算)を多く得ることができる。この場合、189万5000テラFLOPS(または1.9エクサFLOPS)にもなり、富岳の4倍以上になり得る。それは重要なことだろうか?もしそうであれば、誰にとって?もし誰かいるとすれば、Top 500リストの人々にとっては重要かもしれないので、何か意見があるか聞いてみた。だが、RSCが世界最速のコンピュータの1つになるという事実は変わらないし、おそらく民間企業が独自の目的で運用するものとしては最速だろう。

画像クレジット:Meta

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

「噛む」ことで音楽プレイヤーを操作する技術をWisearが開発

Wisear(ワイシア)は、イヤフォンにいくつかの電極と電子部品を追加することによって、あなたの音楽体験をこれまでよりもずっとハンズフリーにすることを目指している。自分の歯で2回、噛む動きをすることで曲を一時停止したり、3回噛んで次の曲にスキップしたりすることができるようになるのだ。音を立てることなく、手でジェスチャーをしたり、ボタンを押したり、その他外から見える動きを一切しなくても、この技術を使えば音楽プレイヤーやAR / VRヘッドセットを操作することが可能になる。同社の創業者たちは、両手がふさがっている時や、周囲がうるさすぎて通常の音声コマンドが使えない場合などに、この技術が特に役立つと想定している。

この技術を既存のヘッドセットメーカーやヘッドフォンメーカーにライセンス供与することを目指し、同社は米国時間1月20日、総額200万ユーロ(約2億6000万円)の資金を調達したことを明らかにした。この投資ラウンドはParis Business Angels(パリ・ビジネス・エンジェルス)とKima Ventures(キマ・ベンチャーズ)が主導し、BPI France(BPIフランス)が支援した。

Wisearは、そのニューラルインターフェースを筆者に見せてくれた。前述の電極を使って脳と顔の動きを記録し、特許出願中のAI技術によって、これらの信号をユーザーが行動を取るためのコントロールに変換するという仕組みだ。同社は競合他社に対してかなり懐疑的で、他の「思考によるコントロール」をてがけるスタートアップ企業は、人々を欺こうとしているのではないかと思っているという。

「現在、思考コントロールや精神コントロールを手がけているといっている人は、基本的に真実を捻じ曲げているのです」と、Wisearの共同設立者であるYacine Achiakh(ヤシン・アキアク)氏は説明する「もし彼らが本当にそれを実現させているのであれば、全財産を投資しても大丈夫。なぜなら、それはすべてに革命をもたらすからです。これは私たちにとって本当に苛立たしいことでした。精神コントロールを実現させたと言っている人たちは、周囲に騒音がなく、人が動かず、外は晴れていて、温度もちょうどいいという、非常に特殊な環境下で動作するデモを行っているだけだと、私たちは気づきました」。

「研究室では動作する」症候群を克服するため、同社は初めからやり直し、既製の部品を使って新しい技術を作り出した。そして十分に機能する技術のプロトタイプを作って披露し、その技術をヘッドフォンやAR/VRヘッドセットのメーカーにライセンス供与しようと考えている。

「私たちは、脳ベースで何かをしようとするときに最も難しいのは、実際にそれをユーザーに一般化し、どんな環境でも機能するようにすることだと気づきました。そこで私たちは、一歩下がって、まず筋肉と眼球の活動をベースにしたニューラルインターフェースを開発することにしました。私たちの主なコントロールは、顎の動きに基づくものです」と、アキアク氏は語る。「イヤフォンに搭載したセンサーが、顎の筋肉の動きを捉えて、コントロールに変換します。音を出す必要は一切ありません。そして2022年の目標は、顎を2回または3回、噛む動きをすることで、2つのコントロールができるようにすることです。今後3年間で12種類のコントロールに拡大することを目指しています」。

先週、同社の創業者はビデオ通話で同社の技術を披露してくれたのだが、その内容は一言でいうとすばらしいものだった。アキアク氏が筆者と話している間に発生したあらゆる物音や動きなどに、ヘッドフォンは一切混乱することがなかった。同氏が自分の歯を噛みしめる、つまり顎を食いしばるような動きをすると、音楽プレイヤーは一時停止したり、またそこから音楽を再開したりした。

この技術はまだ実用化の段階には至っていないものの、成功率はかなり高いようだ。

「私たちが作っているのは、本当に誰にでも使える初めての技術です。CESの我々のブースでは、約80%の人がうまくデモを動作させることができましたが、さらに向上させるために努力しています」とアキアク氏は語った。「私たちが作っているのは、今の時代にきちんと動作する唯一のニューラルインターフェースです。筋活動は、2022年に構築できる真の新しいインターフェースです」。

Wisearは、携帯電話の音楽プレイヤーをコントロールできるイヤフォンの実験中の試作機を公開している。同社はこの分野における既存のメーカーに、その技術をライセンスすることを望んでいる(画像クレジット:Wisear)

画像クレジット:Wisear

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

広島大学が発光効率最大80%のシリコン量子ドットの合成に成功し、シリコン量子ドットLEDを開発

(a)は出発素材。(b)はaの粉末体で、(c)はbを焼成した生成物。(d)は赤色発光するシリコン量子ドット(溶液中に分散)。(e)はdの電子顕微鏡像

(a)は出発素材。(b)はaの粉末体で、(c)はbを焼成した生成物。(d)は赤色発光するシリコン量子ドット(溶液中に分散)。(e)はdの電子顕微鏡像

広島大学は、発光効率が最大80%という世界トップレベルの赤色発光シリコン量子ドットの合成に成功し、それを用いたシリコン量子ドットLEDを開発したと発表した

10nm(ナノメートル)以下の発光性の半導体ナノ結晶「量子ドット」は、すでにタブレットや大画面テレビなどの発光体に利用され始めているが、現在はインジウム系(レアメタル)、カドミウム系や鉛系などの重金属で作られており、自然環境保護の観点から、毒性の少ないものが求められている。それに対してシリコン量子ドットは、砂や石から作れるシリコン製であるため、安全・安価であり、シリコン量子ドット溶液と高分子溶液を基板に塗布するという、簡便な製造法で作ることができる。

カドミウム系や鉛系を使った重金属製の量子ドットは、発光量子収率が最大98%と高いものの、そこには環境適合性と効率性との相反関係がある。欧米の研究グループからは、発光量子収率が60%を超えるシリコン量子ドットが報告されているが、その高効率発光のメカニズムは、よくわかっていなかった。

広島大学は、これまで17年間にわたりシリコン量子ドットの研究を続けており、今回、発光量子収率が最大80%という赤色シリコン量子ドットの合成に成功し、しかもその構造を明確化した。表面が水素で覆われた直径3nmのシリコン量子ドットを合成し、これをコアとして、表面に結合する物質(リガンド)で化学的に変化させ、デシル基修飾のシリコン量子ドットを合成した。このときの化学的変化(化学修飾)を、熱反応と常温反応という2つの種類で行ったのだが、そこで得られたシリコン量子ドットの構造と物性を数値化し、高効率発光のメカニズムに紐付けたことが、この研究のポイントだと広島大学では話している。

今回開発された製造手法は、他のリガンドを持つシリコン量子ドットにも拡張できる汎用的なものであり、高効率シリコン量子ドットとそのLEDの製造における有力モデルになるとのことだ。今後は、さらに高強度、高効率のシリコン量子ドットとLED、その他の発光色への展開を目指すとしている。

広島大学が発光効率最大80%のシリコン量子ドットの合成に成功し、シリコン量子ドットLEDを開発

(a)シリコン量子ドットLED作製手順の概略図。(b)LEDの写真。2cm角で発光面は4mm2の大面積。(c)シリコン量子ドットLEDが発光している様子。(d)LEDの発光(EL)スペクトル