医療保険技術のOscar Healthは2020年中に加入者40万人・売上2200億円超を目指す

新興の医療保険・技術開発会社のOscar Health(オスカー・ヘルス)は、2020年末までに同社のヘルスケアプラン利用者を40万人集め、売上20億ドル(約2200億円)を目指しているとJP Morgan Healthcareカンファレンスのプレゼンテーションで発表した。TechCrunchが会場で確認した。

この数字はごく最近締め切られた加入受付期間の実績に基づくもので、加入者数、売上とも50%の成長を示している。同社を設立したのはMario Schlosser氏とJoshua Kushner氏のふたりで、Kushner氏はベンチャーキャピタル会社、Thrive Capitalのファウンダーでもありトランプ大統領上級顧問のJared Kushner(ジャレッド・クシュナー)氏の弟にあたる。

米国時間1月13日、Oscar Healthは医療保険大手のCigna (シグナ)との提携によって、スモールビジネス・オーナー向けにサービスを提供すると発表した。企業向け医療保険は、Oscarの加入者のごく一部を占めるだけだが成長中であり、同社が拡大したいと考えている領域だ。Oscarは企業が使い慣れた大規模医療保険ネットワークと協調しながら提携することで、同社の高度にIT化された医療保険をスモールビジネスに提供する。

今日までにOscarは、37万5000人の個人保険加入者を数えており、それ以外に小グループ保険およびメディケア・アドバンテージからの加入者2万人がいる、と同社に詳しい筋が語った。

わずか3年前、Oscarはごく小さな会社で、ダラス・フォートワースとニュージャージーの市場から撤退したあとの加入者はわずか7万人だった。今やニューヨーク、サンアントニオ、ロサンゼルス、オレンジカウンティー、サンフランシスコの各都市に進出し、2020年末までに29都市の市場を見据えている。

その拡大を支えているのが、同社が過去数年に獲得した驚異的な資本注入だ。2018年だけで、Oscarは5億4000万ドル(約594億円)の資金をAlphabet、Founders Fund、Capital G(Alphabetのレイターステージ向け投資会社)、およびAlphabetのライフサイエンスに特化した投資会社であるVerilyから調達した。Oscarの調達総額は13億ドル(約1430億円)で、これを使ってモバイルアプリ、遠隔治療、医師との相談、診察予約、医薬の再処方、その他コンセルジェのような医療サービスを通じて、よりよいヘルスケア体験を提供するという同社のビジョンを実現させようとしている。

2012年の設立当初、同社のビジネスは医療費負担適正化法(ACA)によって生まれたマーケットプレイスで個人が医療保険を購入することを期待したものだったが、現在はCignaのような保険会社と提携することで成長を加速させようとしている。

同社が最終的に見越しているのは、雇用者が決めた保険プランはなくなり、多くの消費者が「Individual Coverage Health Reimbursement Arrangements」(個人加入健康保険払い戻し制度)を利用しているという保険業界の将来像だ。そうした環境では、Oscarが最近スタートアップのCapsule Pharmacyと組んでニューヨークのOscarメンバーに処方薬を即日配達するサービスなどの特注サービスや、Cleveland Clinicなどの医療機関との密接な関係が競争優位性になる。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

見るだけで子供の弱視が治る特殊なディスプレイ

弱視は多くの人を苦しめている視覚障がいだが、早期に発見できれば完全に治すことができる。ただし、治療のために何か月も眼帯を着けなければならない。しかしNovaSightは「弊社製のディスプレイの前で1日に1時間過ごすだけで治る」と主張する。

弱視は、2つの目の動きがそろわないことによって起きる。通常は両目の網膜にある物の細部を見分ける凹部分が、今見ている対象に焦点を合わせる。しかし弱視の場合は、片方の目の凹部が対象に正しく焦点を合わせられず、その結果、両目が正しく収束しないので視覚障がいになる。治療を怠ると、次第に視力を失うこともある。

この障がいは子供のとき早期に見つけることができ、正しく機能している目をほぼ終日眼帯で覆うという簡単な方法で治すことができる。そうすると悪いほうの目が正しく見ることを強制され、次第に治るのだ。ただし言うまでもなく、子供にとって眼帯は不快だし面倒だ。しかも片目だと、校庭で十分に遊べないなど不自由なことも多い。

これを着けるとクールだ!

NovaSightのCureSightを使うと、眼帯なしでこの治療を進められる。その代わり、子供が見ているコンテンツの一部をぼかすことによって正しい方の目を休ませ、その間に問題がある方の目に頑張らせる。

このような二重視像方式は、昔の遊園地などによくあった立体映画でも使われていた。そのときは、片方の像は青のフィルター、もう片方の像を赤のフィルターを通して、右の目と左の目が本物の立体物を見た場合のように、互いにわずかに視差のある像を見ていた。今回の二重視像は、正常な像とぼかした像の2つを使う。

CureSightの場合はまず、円の画像を用いて二重の視像を作る。そのスクリーンはTobiiのアイトラッキング用センサーを使って、ユーザーの目線から円があるべき位置を知る。私自身も試してみたが、円の像は目が見ている方向にいつも正しくある。そうすると、ぼけてない正しい方の画像を悪い方の目がみて円の正しい位置を知ろうとする。

この方法がいいのは、特別の処置や検査がいらないことだ。NovaSightによると、円の像だけでなく、子供はYouTubeでもムービーでも、何でもこのスクリーンで見ているうちに、悪い方の目が矯正されてくる。しかも自宅で好きな時間にできる。

グラフ提供: NovaSight

同社が実施した小規模な治験によると、12週間で十分な改善効果が得られた。「今後は完治の結果を得ることと確立しているほかの処置方法との違いの検証に力を入れたい」と同社は語る。

でも3Dディスプレイの技術がお粗末な映画でなくて視覚障がいの治療に使われるのは素敵なことだ。NovaSightは、弱視の治療だけでなく目の検査や診断のための製品も、同じく3Dディスプレイの技術を使って開発している。詳しくは同社のウェブサイトを参照してほしい。

[原文へ]

(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

筑波大発スタートアップiLACが伊藤忠と資本業務提携、全ゲノム解析事業が加速

茨城県つくば市拠点で全ゲノム解析事業を展開するiLAC(アイラック)は1月7日、大手総合商社の伊藤忠商事と資本業務提携を発表した。

iLACは、個人のゲノムを高速解読する「次世代シークエンサー」(遺伝子の塩基配列を高速に解読できる装置)を運用し、代謝産物なども含めた統合解析が可能な唯一の全ゲノム解析の技術を擁する、2012年8月設立の筑波大学発スタートアップ。創業者(サイエンティフィックファウンダー)は筑波大学プレシジョン・メディスン開発研究センター長である佐藤孝明氏。アドバイザー(サイエンティフィックアドバイザー)には、大阪大学名誉教授で、以前はDNAチップ研究所で代表取締役社長だった松原謙一氏が就任している。

伊藤忠によると、全ゲノム解析は、患者の個人レベルで最適な治療方法を分析・選択する「プレシジョン・メディスン」(個別化精密医療)の観点からますます重要なっているとのこと。そして、ゲノム情報を解析することで病気の予測ならびに発症前診断を通じ、最適な予防医療が期待できるとしている。全ゲノム解析を含む次世代診断・検査の世界市場は2025年に1.5兆円、各年3.6倍の成長率で拡大するという予想もあり、先行する欧米各国に追い付くためにも今回の資本業務提携は重要な一歩となる。

伊藤忠商事は今回の資本業務提携を通じ、全ゲノム解析プラットフォームの構築をiLACと共同で進める計画だ。また、伊藤忠グループのネットワークを駆使して、製薬企業とのデータ連携による創薬支援や、健診データと組み合わせた予防事業への展開といった関連事業の産業化を目指すという。

新生FiNCが約50億円を調達、食事画像解析機能の強化とAI関連特許権取得も発表

FiNC Technologiesは1月6日、約50億円の資金調達を発表した。第三者割当増資による調達だが、引き受け先は非公開。創業からの累計調達額は150億円強になる。なお、同社は同日午前中に南野充則氏が代表取締役兼CEOに就任し、創業者で代表取締役兼CEOだった溝口勇児氏が非常勤取締役となる新体制を発表したばかり。

同社は今回の資金調達により、ヘルスケア/フィットネスアプリ「FiNC」をはじめとした各種サービスで利用しているAI(人工知能)の開発や新規事業の拡大、さらにマーケティングの強化に焦点を当てるとのこと。

資金調達に併せて「食事画像解析」のお大幅アップデートとAI関連特許権の取得も発表された。食事画像解析機能は、AIやディープラーニングを活用して、食事の画像を識別してカロリーや三大栄養素(炭水化物・タンパク質・脂質)を計算する機能。今回のアップデートにより「画像解析」できる食事の種類(カテゴリー)を増やしたほか、より精度の高いカロリー計算や食事の画像解析ができるようになったとのこと。ちなみにこれまでFiNCアプリ上では500万枚超の食事画像の投稿があったとのことで、これらすべてがデータ解析に活用されている。
 
AI関連特許権ついては、食事記録に関連する「メニュー選択」(特許第6486540号)や「食事投稿の評価」(特許第6075905号)をはじめとした「食事画像認識機能」関連の特許を取得。ほかにも国内外において累計60件の特許権を取得している。

そのほか、テレビ朝日で月〜木曜日の0時45分〜0時50分の深夜帯に「フィンク1分フィット」という番組を開始することも発表された。初回放送にはタレントのおのののかがゲスト出演する。

不静脈と睡眠時無呼吸症候群を感知するスマートウオッチ「ScanWatch」が登場

Withings(ウィジングズ)は1月6日、心房細動(不整脈)のリスクと、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を知らせてくれるハイブリッドスマートウォッチ「ScanWatch」を米国ラスベガスで開催されている2020 International CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で発表した。

循環器専門医と睡眠の専門家と共同開発された製品で、北米とヨーロッパで2020年第2四半期(4~6月)に、38mmモデルが249ドル(約2万7000円)、42mmモデルが299ドル(約3万3000円)で販売予定となっている。日本での販売は現在のところ未定とのこと。現在はFDA(U.S. Food and Drug Administration、米国食品医薬品局)とCE(EUの法律で定められた安全性能基準)の認定待ちとなっている。

特徴は、医療レベルの心電図を測定可能で、不整脈や心拍の状態を手元で把握できる点。心電図の測定にはScanWatch内蔵の3つの電極を使う。ユーザーが動悸などの身体の異常を感じた際に側面にあるボタンを押したあと、ベゼルの両端を触ることによって計測可能だ。30秒後にScanWatch本体が振動することでユーザーに心電図の測定を完了したことを通知し、その結果を画面で確認できる。

さらに継続的に心拍を測定し続けることで、ユーザーが異常を感じなくても異常な心拍が感知されると、心電図計測を促す通知機能もある。集計されたデータを医師または医療関係者と共有することも可能だ。

日本でも中高年を中心に患者が増えている睡眠時無呼吸症候群を検知できる機能にも注目だ。内蔵の酸素飽和度(SpO2)センサーで就寝中の酸素飽和度の推移を測定。呼吸の乱れによる異常値を感知することで、睡眠時無呼吸症候群を認識できるという。

そのほかの特徴としては、金属アレルギーを起こしにくいと言われるステンレス316Lステンレスがケースを採用しているほか、時計版はサファイヤガラスで覆われている。表示パネルには文字や静止画の表示に適したPMOLED(パッシブマトリクス有機EL)を採用。当日・前日の歩数やスリープスコア、消費カロリー、走行距離などの健康・運動データを収集・記録することも可能だ。フル充電状態の電池寿命は30日間。

なおScanWatchの開発元であるWithingsは、2016年にノキア傘下となってブランド名もWithingsからNOKIAに変わったが、2018年5月にWithings創業者であるÉricCarreel(エリック・カリール)が経営権と取り戻し、新生Withingsとして独立企業に戻っている。

CES 2020 coverage - TechCrunch

Google社内にも診療所があるプライマリーケア医療のOne Medicalが上場を申請

サンフランシスコでテクノロジーを活用したコンシエルジュサービスによりプライマリーケアを提供するOne Medicalは米国時間1月3日、証券取引委員会(Securities and Exchange Commission、SEC)にIPOを申請した。

内科医のTom Lee(トム・リー)氏が2007年に創業した同社は、現在評価額が10億ドルあまりに達している。リー氏は2017年に同社を去り、元UnitedHealthグループの役員Amir Rubin(アミー・ルービン)氏に後を託した。

同社の診療所は米国の9つの主要都市に全部で72カ所あり、2020年には3カ所の新設を予定している。これまで5億ドルを超えるベンチャー資金を調達しており、主な投資家は同社の株の4分の1以上を保有するCarlyle Groupのほか、AlphabetのGVやJ.P. Morganなどが名を連ねる。

Googleは社内にOne Medicalの診療所があり、SECへの提出文書によると同社売上の約10%を占める。IPO申請文書にはさらに、同社が1Life Healthcare 、ティッカー名「ONEM」として正式に法人化され、1億ドルの調達を計画していることが言及されている。

おそらくこの資金は、同社のテクノロジーの改良と市場の拡大に充てられると考えられる。One Medicalに詳細を問い合わせたところ、この声明を読むよう指示された。

そしてその声明によると、One MedicalはNasdaq Global Select Marketにティッカーシンボル「ONEM」で上場を申請している。より詳しい情報が得られ次第、この記事をアップデートする予定だ。

[原文へ]
(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

猫枕ロボに小型・低価格バージョンが登場

Qoobo(クーボ)の開発者であるユカイ工学の青木俊介氏はいつもクーボをトートバッグに入れて持ち歩いている。彼が写っている写真や動画には必ず、クーボも一緒に写っている。そしてこの猫枕ロボットは、どんなときでも会話のきっかけになるからすごい。それはちょっと見ただけでは、つまらないものにしか見えない。毛でおおわれた丸い枕で、なでると尻尾を振る。それだけだ。でも高齢化が進んでいる日本のような国では、本物のペットを飼う時間やお金のない人たちにとって、暖かみのある癒やしになるだろう。

しかしそのクーボも高すぎて買えない人がいるから、ユカイ工学は来週のCESでPetit Qoobo(プチ・クーボ)を披露する。このクーボの弟は機能的にはお兄さんと同じだが、サイズはほぼ半分、そして価格は未定だがやはり半額ぐらいなるだろう。

この小型バージョンのクーボはまだプロトタイプで、日本で3月にクラウドファンディングを開始する。そして秋には、Amazon(アマゾン)とユカイ工学のサイトで発売される。

今度のバージョンでは、なでて尻尾を振るだけでなく、マイクロフォンで音を検知したり、触るとときどきゴロゴロ声を発したりする。前よりも元気な猫という感じだ。

人生にはクーボが必要とまでは言わないが、でも写真などでこれを見るたびに、そばにいる誰か一人が必ず「ほしい!」と言う。小さくて安くなったバージョンも、猫アレルギーの人やアレルギーでない人に、爆発的に売れるだろう。

CES 2020 coverage - TechCrunch

[原文へ]

(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

AIで「がん」の病理をマッピングするPaigeが約49億円を調達

人工知能を使ってがんを理解し、がんと戦う注目すべきスタートアップの1つが、4500万ドル(約49億円)を調達した。資金は、事業を拡大し商業化を急ぐために使用する。

Paige(ペイジ)は、機械学習などのAIベースの方法をがんの病理診断におけるマッピング(生検から摘出した標本から読み取れる情報を、文章や図などわかりやすいかたちで表現すること)に応用する。マッピングは、突然変異が際限なく続くように見える疾患の起源と進行を理解する重要な役割を果たす。会社名はPathology AI Guidance Engine(病理学AIガイダンスエンジン)の頭文字をとったものだ。調達した資金は、バイオマーカーや予後予測能力(病状の見通しを予測する能力)といった分野で開発している製品のFDA(米食品医薬品局)承認のために使われる。

また資金は病気を診断し、究極的には病気を克服する優れた治療法の開発だけでなく、特にバイオ医薬品の領域でこれまで行われてきた同社研究の商業化の機会を模索するために使われる予定だ。現時点では、同社はまだ商業用の商品をリリースしていない。

このラウンドはHealthcare Venture Partnersがリードし、既存の投資家であるBreyer CapitalやKenan Turnacioglu、その他のファンドも参加した。Paigeは企業価値評価を明らかにしていないが、PitchBookによると、3300万ドル(約36億円)を調達したこのラウンドにおける最初のクロージングで、2億800万ドル(約230億円)の評価がついたという。この評価を踏襲するなら、現在の企業価値評価は約2億2000万ドル(約240億円)となる。今回のラウンドでは合計4500万ドル(約49億円)を調達。企業価値評価は前回ラウンドの3倍以上となった。

Paigeは、2018年にステルスモードから初めて姿を現した。

Paige.AI(当時はそう呼ばれていた)はMemorial Sloan Kettering Cancer Center(MSK、スローン・ケタリング記念がんセンター)で生まれた。同センターは、がんの治療法開発とがん患者の治療の両方を行う世界有数の施設だ。Paigeは、Jim Breyer(ジム・ブレイヤー)氏が率いる2500万ドル(約27億円)の投資を受け、MSKが持つ2500万件もの病理標本群への独占的アクセスと、その後のPaigeの事業基盤となるAIベースの計量病理学に関する知的財産を確保した。病理標本群は、この種のものとしては世界最大級だ。また、機械学習に基づいて構築したすべてのソリューションとサービスは、それらに供給されるデータと同様に重要だ。いずれも同社の立ち上げに不可欠だった。

Paigeの立ち上げには優秀な才能が関わった。

同社が使用する計量病理学の多くは、「計量病理学の父」として知られるThomas Fuchs(トーマス・フックス)博士が開発した。同氏は現在、MSKのデジタル計量病理学のWarren Alpert Center(ウォーレン・アルパート・センター)の計量病理学のディレクターとWeill Cornell Graduate School of Medical Sciences(ウェイルコーネル大学院医学研究科)で機械学習の教授を務めている。

フックス氏は、PaigeをMSKの病理学部門の会長であるDavid Klimstra(デビッド・クリムストラ)博士と共同で設立した。フックス氏はもともと同社のCEOだったが、2019年初めに他のバイオスタートアップ、Heartflow(この会社もHealthcare Venture Partnersが支援する)から来たLeo Grady(レオ・グレイディ)氏と交代した。フックス氏はまだ会社を支えているが、役員としての役割は果たしていない。

立ち上げから約2年で、いくつかのマイルストーンに到達した。現在、約30人の従業員を抱える同社は、腫瘍病理学でAIを使用するためのFDAの「ブレークスルー・セラピー指定」(患者に選択肢がない、もしくはほとんどない緊急の事態に、本来は薬剤承認に必要な長いプロセスを短縮する制度)を最初に獲得した会社となった。同じカテゴリーで初めてCEマークを取得したことも、欧州での展開への扉を開いた。Paigeはこれまでに120万枚の画像をスライドデータベースに取り込み、診断ソリューションの開発に取り組んでいる。データベースにはゲノムデータ、薬物反応データ、結果データも取り込むアルゴリズムを使っている。

医療関連のあらゆる新製品と同じく、典型的なハイテクスタートアップのように四半期ごとに同社の進捗が評価されるわけではない。医療の世界において、すばやく行動し破壊せよという考え方は避けるべきものなのだ。

そのため、上述したような進歩はあったものの、まだ市販された製品はない。グレイディ氏は新製品が発売される時期を明らかにしていない。 また、腫瘍病理学に関する識見が製品としてかたちになるのか、それにはどうすれば良いのかもまだはっきりしていない。製品化が可能なら、がんの診断と治療方法に大きな飛躍をもたらすはずだ。

さらに、同社が2018年にステルスモードをやめた際、乳がん、前立腺がんなどの主要ながんに焦点を当てると表明したが、いまだに市販品を発売する際のターゲットを特定するには至っていない。

これらのいくかに関して、これまで以上の説明がなされない間、ペイジはもう1つの面について明確な発言をしている。それは現在、主としてきた臨床環境だけでなく製薬環境にまで課題を拡大していることだ。

「臨床環境は依然として当社のターゲットだが、現在拡大を図っており、より広範に影響を与えたい。そこには医薬品の顧客も含まれる」とグレイディ氏は述べた。

同氏によると、資金調達ラウンドは戦略的投資家(ファンドとは異なり自ら事業を営む投資主体)から多くの関心を集めたが、Paigeは意図的に彼らからの投資を避けている。

「当社はスキャナーのベンダーといくつかのバイオ医薬品会社からアプローチを受けた」とグレイディ氏は明らかにした。「しかし当社は、このラウンドでは戦略的投資家からの投資は受けないことに決めた。ハードウェアベンダーに対して中立であり、どのベンダーにも縛られたくないためだ」

同氏はまた、最先端の分野で働いているときに、投資家と会話する難しさについても指摘した。例えば、投資家が騙されてTheranos(セラノス)のような間違った選択を支援することもある。

「私たちはテクノロジー、医療機器と臨床医学、ライフサイエンスとバイオテクノロジーという3つの分野が交わるところにいる」とグレイディ氏は説明した。「多くの投資家は1つの分野に正面から取り組んでおり、他の分野には自信がない。それが対話を難しく、短いものにしてしまう。しかし、この3つの分野のブレンドは増え続けている」

Healthcare Venture Partnersはまさにこの混合に最適だ。「Paigeはデジタル病理学の利点を示しており、AIを推進力とする医療診断の明るい未来の姿だ」とHealthcare Venture PartnersのJeff Lightcap(ジェフ・ライトキャップ)氏は声明で述べた。

「病院はデジタル化に伴い課題に直面する。Paigeは臨床チームと病理学者の協力体制を強化して、課題の多くに対処できると考えている。Paigeの将来に自信がある。Paigeは最先端の技術を開発し続け、前世紀からほとんど変わっていない病理学部門の実務を変革できると信じている」

 「診断プロセスと患者のケアを改善する臨床AI製品開発に対するPaigeのコミットメントを称賛する」とBreyer Capitalのブレイヤー氏は声明で付け加えた。「病理学者はこれまで以上に重い作業負荷を抱えるようになっており、現在は、病理学にとって重要な時期だ。Paigeは病理学者のニーズを理解しており、それに応える最先端の技術を開発した。 Paigeは計量病理学の未来であり、彼らの継続的な成長と成功に期待している」

Paigeがその名前に「AI」を入れたことは注目に値する。グレイディ氏は、これは意図的であり、昨今のAIの隆盛を反映した部分もあると述べた。

「基本的な誤解があると思うのは、AIは製品であって技術ではないと考えられている点だ」とグレイディ氏は言う。「AIは、これまでできなかった多くのことを可能にするテクノロジーの集合だが、意味のある方法で適用する必要がある。 優れたAIを開発し市場に投入しても、それがただちに臨床で採用されるというわけではない」

画像クレジット:suedhang / Getty Images

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi)

デンタルケア用品のBurstが専門家たちと協力しハイテクフロスを開発

とってもかわいい歯ブラシを販売しているサブスクリプションのデンタルケアサービスを提供するBurst(バースト)が、毎月届くキットに、とても使いやすいデンタルフロスを追加した。

ロサンゼルス生まれの歯の衛生専門サイトは、成長資金の投資企業Volition Capitalから2000万ドル(約22億円)を獲得し、Quip(キップ)などの競合他社とは違うやり方で消費者に接近しようとしている。

Burstは歯科衛生士や歯科医たちのネットワークと協力して流通チャネルを開拓し、新製品の販売や新製品開発に対する意見も聞いている。現在、2万名以上ものデンタルヘルスのプロフェッショナルがBurstの販売チャネルとして協力している。Burstは彼らと利益を共有し、これまでに約350万ドル(約3億8000万円)を配布した。

今回のデンタルフロスも、エキスパートのネットワークとのパートナーシップがあったからこそ開発できたものだと言える。

BurstのCOOであるBrittany Stewart(ブリタニー・スチュワート)氏は「たしかに、市場に安くて良い電動歯ブラシがないという状況はあるが、Burstが成功したのは、歯科医療や歯科技術のプロたちとの非常に強力なパートナーシップのおかげだ。製品の開発からテスト、ネットワークでの共有など、すべての段階でBurstのアンバサダーたちが手伝ってくれる。歯のプロたちが自主的に草の根運動を熱心に続けてくれていることが誇りだ。彼らは古くさい業界の現代化に、我々と同じくらい情熱を傾けている」と語る。

新製品であるミントとユーカリ味の木炭でコーティングしたデンタルフロスは12ドル99セント(約1400円)。交換用のフロスは毎月6ドル99セント(約770円)で郵便受けに届く。

Volition Capitalの共同創業者でマネージングパートナーのLarry Cheng(ラリー・チェン)氏は「Burstの創業者たちに初めて会ったとき、彼らが根本的な変化が期待されている業界に変革を起こす特殊な能力を持っていることがすぐにわかった。彼らのビジョンにも感銘を受けた。さらなる成長の機会を探りながら、製品開発の能力も高く、アンバサダーのネットワークを持つ彼らの強みを活かし、成長路線にすでに乗っていた彼らを支援したいと考えている」と述べている。

画像クレジット: Burst

[原文へ]
(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

英国のHuelが栄誉補給バーを米国で発売へ

欧州で栄養補充バーやサプリメント、食事代替シェイクなどの食品を展開しているHuel(ヒューエル)が、その栄養補給バーの米国販売を考えている。同社はさまざまなバーを欧州で取り扱ってきたが、米国にはまずチョコレート味と塩キャラメル味を持ち込む。

このバーは、27種類のビタミンとミネラルを含み、1本あたり200カロリーある。それらをネットで15本入り1箱28ドルで販売している。バーの原料は、オーツ(燕麦)の粉や挽いたもの、エンドウ豆、玄米のたんぱく質、ココアの粉、ココナッツ、デーツのシロップ、アマニ、そして各種のビタミンとミネラルだ。これまで同社は、世界の80カ国で5000万個のシェイクやパウダー、バーを販売してきた。

Huelの共同創業者でCEOのJulian Hearn(ジュリアン・ハーン)氏は「パウダーやドリンクは前から米国でも販売しており、しかも売り上げは全国的に急速に伸びている。今度はHuel Barで勝負したい。このバーはとてもユニークで、おいしいだけでなく栄養補給になるので、食間や外出時に食べるのに適している」。

米国では栄養サプリメントや食事代替製品がビッグビジネスだ。2017年にはKellogg(ケロッグ)がRxBarを6億ドルで買収したが、それは同社の業績を大きく押し上げた。シリアル食品の販売が落ち込んでいる中で、それを補って余りある売り上げだった。

米国で食事代替製品の市場を若返らせたスタートアップの寵児であるSoylent(ソイレント)は、新しい原料配合と売り方でシリコンバレーのプログラマーたちに人気があるが、同社もやはり栄誉補給バーを開発している

関連記事:スナックバーの破壊的創造、完全食を目指すSoylentが米国1兆円規模の市場に参入

画像クレジット: Huel

[原文へ]

(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

より効果的ながん治療に向けXilisが微小な腫瘍の培養技術を開発中

米国のみならず世界中で、がん治療が奇跡的と言ってもいいほどの進歩を遂げているにもかかわらず、依然としてこの病気は米国で死因の第2位を占めている。

問題は、人間の体が一人一人異なるため、あらゆる病気の症状も患者に固有であるということだ。一般的にがん治療の有効性は、ある種類のがんにかかっている人のうち同じ治療法でいかに多くの人を治せるのかにかかっている。

疾患の理解が進むにつれて、個別の疾患に標的を定めた治療が市場に出始めた。Xilis(ジリス)の創業者は、その種の治療をさらに効果的にするプロセスを開発した。

Xilisは、それぞれデューク大学の教授および研究者であるXiling Shen(シリン・シェン)氏とDavid Hsu(デイビッド・スー)氏が創業した。同社における技術は、オランダの研究科学者Hans Clevers(ハンス・クレバース)氏の研究をベースとしている。クレバース氏は、2004年にライフサイエンスのBreakthrough Prizeを受賞し、現在はロシュの取締役を務める。同氏は、研究用に人間の小型臓器を培養する手法の改良に貢献した。

シェン氏とスー氏はその研究を一歩進め、がん患者の腫瘍を培養・維持できるプロセスを開発している。医師や製薬会社が、一つ一つのがんにあった治療法を開発するのに役立つ。

「当社の技術は、1つのがん生検から1万個の微小な腫瘍を生成し、どのがん治療が患者に効果があるのか、またはないのかを検証する」とシェン氏は声明で述べた。「臨床試験ではすでに、当社の技術が治療の成功に貢献する見込みを示すデータや、薬剤耐性患者への新しい治療法発見を示唆するデータもある」。

創業者らは2019年の早い時期に、研究での発見に基づき臨床試験を開始した。その結果は非常に有望だったため、2人はこの技術を活用に向けて会社を設立し、臨床現場で使えるまでの時間を短縮するため資金調達することを決めた。臨床で使えるようになれば、患者は標的を定めた治療法の恩恵にあずかれる。

シェン氏はインタビューに対し、同社の技術には非常に説得力があるため、先駆者であるクレバース氏が共同創業者として会社に参画し、将来の開発に協力することに同意した、と述べた。

「我々が発明したのは、マイクロ流体力学で使える微小な液体だ」とシェンは言う。「マイクロオルガノイド(試験管内で作られた小型臓器)を培養して、その3次元の微小環境でがん細胞を腫瘍に成長させる」

Xilisは技術の商業化を加速するため、シードで300万ドル(約3億3000万円)を調達した。投資家には、数十億ドル(数千億円)規模のがん治療技術開発企業Guardant Healthの初期投資家であるFelicis Ventures、元NFLのスーパースターJoe Montana(ジョー・モンタナ)氏のファンドであるLiquid 2 Ventures、Pear、8VCなどが名を連ねる。

同社の技術の価値は、短期的には患者一人一人に的確に合わせた治療を生み出す能力にあるが、長期的には同社が蓄積するデータセットに価値がある。「当社が保管・蓄積するマイクロオルガノイドを、製薬会社が試験に使いたいと考えている」とシェン氏は言う。

シェン氏は、新薬の有効性を検証する初期的な試験で何百万ドル(何億円)も節約できる可能性を、製薬会社が見逃すはずはないと言う。この技術を利用すれば、製薬会社は「はるかに早くかつ低コストで大規模な医薬品スクリーニングを行うことができる」

画像クレジット:Oregon State University / Flickr under a CC BY-SA 2.0 license.

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi)

記憶力向上ウェアラブル開発のHummが2.9億万円を調達

脳に電気刺激を加えると、記憶力と認知機能が向上することを示した新しい研究がある。2019年にボストン大学の研究者が実施した研究で臨床試験を行い、70代と20代の参加者らがそれぞれ軽度の電気神経刺激を受けた後に記憶力を測る特定の課題に取り組んだ。結果は4月に科学雑誌Nature Neuroscienceに掲載され、Science Dailyが報じた

Berkeley Skylabアクセラレータープログラムを卒業したHumm(フーム)は、自社製品の商業化に向け260万ドル(約2億9000万円)を調達した。同社は脳への電気刺激の影響に関する長年の研究に基づき商業化に取り組んでいる。

同社はカリフォルニア大学バークレー校で独自の研究を実施した。今年初めの発表では、Hummのウェアラブルパッチを貼った40人の参加者のうち、記憶テストの成績がプラセボ(本物と見分けのつかない薬や器具)を用いた対照群よりも約20%向上したという。この研究では、対照群の自然学習効果の約120倍の改善であったと同社は述べた。

簡単に言えば、電気刺激が脳波を増強し、神経科学者がワーキングメモリーと呼ぶものを強化する。ワーキングメモリーは、人間が一時的に保持できる情報量を司る機能だ。パッチが小さな電気信号を流すと、ニューロンが同じ周波数で共鳴する。より多くのニューロンを同調して発火させると、脳がより多くの情報を処理できる。

Hummの他にも、さまざまな応用分野で神経刺激ウェアラブルを開発するスタートアップが何社かある。Halo Neuroscienceは、運動能力を向上させるウェアラブルを開発。KernelFlow Neuroscienceは、うつ病を治療する技術を研究している。BrainCoも、神経刺激による学習改善を研究している。Neuros Medicalはこの技術を慢性的な痛みに適用している。

Hummによれば、シードファイナンスで得た資金は、8月に発売した同社初の製品の生産拡大に活用する。「ソフトウェアと生物学の融合が続けば、新しいテクノロジーのパラダイムが現れる。科学者、臨床医、エンジニアの創造性を解き放てば、人間の主要な機能を含めた生物学の体系を読み取り、編集し、書き込むことができる」とラウンドをリードしたBlueyard CapitalのパートナーであるCiarán O’Leary(シアラン・オリーリー)氏は語った。「Hummのテクノロジーは人間の記憶力を改善し、何百万人もの人々の健康を増進する可能性を秘めている」。

同社の最高経営責任者兼共同創業者であるIain McIntyre(イアン・マッキンタイア)氏によると、同社の製品の最初のターゲットは、新しいスキルや言語を習得しようとしているミドルクラスの中年層だ。

「パッチはバンドエイドと同じくらい簡単に貼れる。かさばったり、厄介なことは何もない。15分間の臨床試験で、パッチを着用して最初の3分間でワーキングメモリー容量がプラセボと比べて20%改善され、その後効果が1時間以上続くことが示された。「数百人の先行ユーザーを対象にした今年のテストでは、言語習得のスピードを高めたり、読んだ内容をより多く覚えたりするなど、多くの人がその効果を楽しんだ」。

パッチは1つ5ドル(約550円)。同社は、高めのコーヒーと同じくらいの費用で、生産性を刺激する良い結果が得られると売り込む。ユーザーはパッチを額に貼って、約30分間そのままにしておく。マッキンタイア氏が推奨するパッチの使用回数は1日2回までだ。

パッチの先行申し込みは現在受け付けていない(空軍が1万個のパッチを試用するよう命じたと報じられている)が、同社は試用を検討している人向けに待機リストを用意した。来年の第3四半期までにはパッチが市販される予定だ。

画像クレジット:Getty Images / antoniokhr / Getty Images

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi)

がん患者と臨床試験をマッチングするTrialjectory

がん患者と臨床試験をマッチングするテクノロジーを開発しているTrialjectoryは、さらに成長を続けるべく270万ドル(約2億9600万円)を調達した。

ラウンドをリードしたのはContour Venture Partnersで、調達した資金はさまざまな種類のがんの臨床試験を追加し、介護士、医薬品会社、患者らとのつながりを拡大することでTrialjectoryの事業を加速するために使うと同社は表明している。

「がんは米国で2番目の死因であり、毎年数千例が診断される今、先進治療の利用は特権ではなく必然的な選択肢だ」とTrialjectroyの共同創業者でCEOのTzvia Bader(ツヴィア・バザー)氏は言う。「そして、がん専門医が現在直面する最大の障壁は、患者の臨床試験の機会が少ないことであり、これは利用できる治療の選択肢が広がっていることが理由だ。また、患者と治療を正しく適合させるプロセスは非常に複雑で、オーダーメイド医療の増加によってその傾向はいっそう高まっている」。

現在同社は、乳がん、結腸がん、膀胱がん、黒色腫、および骨髄異形成症候群の臨床試験を取り扱っている。

Trialjectoryのソフトウェアは、自由記述された治療記録から意味のあるデータを抽出するように訓練されている。その後集めた情報を分類し、臨床試験に役立つよう患者の特徴を捉えたデータベースを作成する。患者は質問票に書き込んだ後、臨床試験とマッチングされる。

「Trialjectroryのテクノロジーは、がん専門医とテクノロジーの専門家からなる高度な経験を持つ経営チームに支えられて、伝統的ながん治療に対するわれわれの考え方を一新した」とContour Venture PartnersのBob Greene(ボブ・グリーン)氏は語った。「さらに重要なのは、自分の治療に主体的に取り組む力を患者に与えたことだ。Trialjectoryのプラットフォームが早く広まることを機体している。この会社は世界の医療界にとって必須の資源となり、あらゆる場所の患者にテーラーメイド医療を実施するために役立つだろう」。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

クラウド電子薬歴システム開発のカケハシが調剤医事システム開発のPHCから数億円の資金調達

カケハシは12月18日、PHCを引受先とする第三者割当増資を実施したことを発表した。10月9日に発表したPHCとのセールスパートナーシップ契約を踏まえたマイノリティ出資だ。調達額は非公表だが、累計調達額は40億円弱となった。

同社は10月31日に、伊藤忠商事、電通ベンチャーズ、アフラック・イノベーション・パートナーズ、みずほキャピタル、DNX Ventures、グロービス・キャピタル・パートナーズなどを引き受け先とする第三者割当増資で約26億円を調達し、累計調達額が37億円となっていたことから、PHCの出資額は数億円と考えられる。今回の調達もシリーズBの一環とのこと。

同社は調剤薬局向けのクラウド電子薬歴システム「Musubi」を開発・運営している2016年3月設立のスタートアップ。Musubiを搭載したタブレット端末を利用することで、薬剤師が患者とともに服薬についての指導や相談を受けられるのが特徴だ。一方PHCは、1969年に設立された歴史のある企業。PHCと聞くとなじみが薄いかもしれないが、同社の前身である松下寿電子工業は聞いたことがある読者が多いだろう。松下寿電子工業といえば、2000年代にPC向け光学式ドライブの開発メーカーとして一躍有名になった。PHCという現社名となり、糖尿病マネジメント、診断、ライフサイエンス、ヘルスケアなどの事業を展開している。

両社の提携により、MusubiとPHCが開発した調剤医事システム「Pharnes」を連携させることで、調剤薬局での効率的な医療支援を加速させる。また調達した資金は、Musubiを中心とする次世代医療ITインフラ構築に向け、人材に投資する予定とのこと。

医療系ビッグデータ分析のOM1が約55億円を調達

ヘルスケア業界にビッグデータ分析を提供するOM1が新たに5000万ドル(約55億円)を調達した。営業、マーケティングと製品開発を強化し、その臨床的知見をより多くの病院や大手製薬企業に提供しようとしている。

同社のようなデータ分析スタートアップに資金が集まるのは、データへのアクセスがヘルスケアの効率向上と費用の低減に大きく貢献すると広く認識されているため。データを活用すれば、製薬会社は食品医薬局に新薬の有用性を説明しやすくなるし、病院や医師は、どの治療方法が最良の結果につながるかをデータの活用で探ることができる。

OM1のCEOで創業者のドクターであるRichard Gliklich(リチャード・グリクリッヒ)氏は、「臨床データは、ヘルスケアにおいて最も重要なものだ。OM1は今回獲得した資金で、さまざまな臨床結果やエビデンスをより速く提供できるようになり、顧客はより有効的にそれらのデータを利用できる」と語る。

OM1に対する最新の投資には、Scale Venture Partnersがリードし、General Catalyst(GC)やPolaris Partners、7wire Venturesといった既存の投資家も参加した。この投資にともなって、Scale Venture Partnersのマネージングディレクター、Rory O’Driscoll(ロリー・オドリスコール)氏は、同社の取締役会に席を得た。

オドリスコール氏は、声明で「AIとデータが多くの産業における変化を推進している。OM1は、AIとデータをヘルスケアにおける変化に結びつける最先端にいる。医療と介護をより良いものにしていく過程に弊社が加われたことに、感激している」と述べている。

同社は特に、免疫、リウマチ、循環代謝系、筋骨格系、特定の中枢神経系、および行動保健技術といった分野の治療法にフォーカスしている。

同社は、グリクリッヒ氏がGeneral Catalystの常勤役員だった2015年に創業した。グリクリッヒ氏は、医薬や医療技術の結果を定量化して評価しそれらの標準化を図る国レベルの取り組みにも主席調査官として参加しているが、OM1はそれらのサポートも行っている。

[原文へ]

(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

Nyxoがアプリベースの睡眠コーチングプログラムを提供

ヘルステックの中で、睡眠についてのテクノロジーほど未開発なものはない。かなり多くの人が四六時中、睡眠時間をいかに最大限活用するか考えている。Nyxoは、ユーザーが睡眠の質を分析・改善するのをサポートする、4週間にわたるアプリベースの睡眠コーチングプログラムを構築している。

消費者向けのヘルステックアプリは、顧客に完全な体験を提供しようといつも苦戦してきた。データの収集は大変で、最小公倍数のためのプロダクトを作ることになる。だが、Nyxoは巷に出回っている睡眠トラッカーからデータをインプットすることでその作業負担を減らしている。睡眠トラッカーの代わりにユーザーは自身の睡眠の質について情報収集するためにNyxoのアプリを使うこともできる。

出回っている睡眠追跡アプリのほとんどは、いつコーヒーを飲むのをやめるといいかアドバイスはするものの、睡眠の質に関するコーチングはそこで終わる。Nyxoの創業チームは、睡眠のリズムやなぜ不満足の睡眠になっているのかについての知見を提供するためにヘルシンキ大学の研究を応用している。

レッスンプランは睡眠ルーティーンの構築や、睡眠と運動の関係、そして注意力を高めたり良い生活習慣を築くのをサポートするための、体重やその他の指標に睡眠がいかに影響を及ぼすかといったものにフォーカスしている。ユーザーはアプリに提供した自分の睡眠データに基づく統計にアクセスすることもできる。

Nyxoには従業員をしっかりと休ませたいと考えている企業からかなりの関心が寄せられていて、そうした企業と提携して従業員にサービスを提供している。また、専用アプリを通じて消費者にも直接サービスを提供していて、アプリは月7.99ドル(約870円)で利用できる。

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi)

Theranos解散から1年、Truvian Sciencesが低コスト血液検査に挑む

一時は飛ぶ鳥を落とす勢いの血液検査のスタートアップだったTheranos(セラノス)が解散してから1年余り。新たなスタートアップが、ポイントオブケア(ラボよりも身近な場所での検査)を提供する医療施設に、低コストの血液検査をもたらすというビジョンの達成に向け2700万ドル(約29億円)以上を調達した。

Theranosは、血液検査のほとんどが米食品医薬品局(FDA)の認可を必要としないと主張していたが、Truvian Sciences(トルビアンサイエンス)は違う。資金調達したのは、技術を改良しFDAの承認を得るには1年以上かかると見込んでのことだ。

「ヘルスケアの現状に不満を覚える人が増えている。高価な検査、不便な予約、自分の検査結果へアクセスできないことなどだ」と同社の社長兼最高経営責任者であるJeff Hawkins(ジェフ・ホーキンス)氏は声明で述べた。「他方、ドラッグストアの存在感は高まっている。手頃な価格で健康を維持向上する拠点になりつつある。検査機関での正確な血液検査をもっと身近にすることで、我々はよりシームレスな体験を消費者に提供し、通常の血液検査で得られる膨大な医学的洞察に基づいて消費者が次の行動を決められるようにする」。

ホーキンス氏はIllumina(イルミナ)で生殖・遺伝子健康事業の副社長兼ゼネラルマネージャーだった。ライフサイエンスの分野で経験豊富な経営陣が同氏を支える。Epic Sciencesの共同創業者だったDena Marrinucci(デナ・マリヌッチ)博士もその一人。Truvian Sciencesの共同創業者であり、事業開発上級副社長を務める。

Image courtesy of Flickr/Mate Marschalko

Truvian Sciencesはまた、Epic SciencesおよびIlluminaの経営陣だったKatherine Atkinson(キャサリン・アトキンソン)氏を新しく最高営業責任者として、Thermo Fisher Scientific(サーモフィッシャー・サイエンティフィック)の取締役会会長だったPaul Meister(ポール・マイスター)氏をディレクターとして迎えると発表した。

資金を提供したのはGreatPoint Venturesのほか、DNS CapitalTao Capital Partners、既存株主であるDomain Associatesなどだ。

Truvian Sciencesの究極の目標は、20分間でしかもわずか50ドルで、微量の血液サンプルから正確な検査結果を提供できるような血液検査システムを開発すること。 通常こういった検査は、施設によって異なるが数百ドルから数千ドル(数万円から数十万円)の費用がかかる、とホーキンス氏は言う。

同社は、新しい自動化技術と検知技術で、生化学・免疫血清・血液学検査を単一の機器に統合し、脂質パネル、代謝パネル、血球数、甲状腺、腎臓・肝臓機能の検査などの標準的な血液検査の実施を目指している。

Truvian Sciencesの声明によると、同社のシステムにはリモート監視機能とメンテナンスを容易にする機能が含まれている。ドライ試薬技術により材料を室温で保管できるため、低温物流や冷蔵保管の必要がない。同社は欧州経済領域(EEA)でCEマークの取得に取り組むほか、FDAに510(k)クリアランスと、機器をドラッグストアなどの小売店舗や小規模の医療機関で使用する「臨床検査改善修正」免除申請書を提出した。

「指から採取した一滴の血液であらゆる事ができるとは考えていない」とホーキンスは言う(セラノスとは反対の立場)。「基本的な点を断っておきたいが、当社はヘルスケアの経験が豊富な経営陣が率いている」

Truvianは検査技術を市場に投入するにあたり、診断ツールキットを補完する手段として、企業と検査結果を受け取る患者を結ぶアプリ開発も検討している。ホーキンス氏によると、TruvianのデータはAppleとGoogle両方の健康アプリで使えるほか、同社独自アプリでも使える。

「結局のところ、精密医療はデータソースを統合することから生まれる」とホーキンス氏は言う。「当社が達成したいことができたら、定期的な血液検査がはるかに利用しやすくなる」。

画像クレジット:WLADIMIR BULGAR / SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi)

ゲノム配列を利用して非侵襲的ながん検診を実現するLucenceが20億円超を調達

非侵襲的な癌検診技術を開発しているゲノム医学のスタートアップLucence Diagnosticsが、世界最大の民間総合ヘルスケアグループの一つであるIHH HealthcareがリードするシリーズAのラウンドで2000万ドル(約22億円)を調達した。これにはSGInnovateとこれまでの投資家Heliconia Capital(Temasek Holdingsの子会社)、Lim Kaling、およびKoh Boon Hweeが参加した。

この資金はLucenceの研究施設の規模拡大と人員増員および、アジアと北米地区で同社製品の商用化を進め、より多くの患者が利用できるようにすることに充当される。

資金はまた、2つの有望な治験をサポートする。ひとつはこの技術の、末期がん患者への有効な感応性にフォーカスし、他は肺がんや大腸がん、乳がん、すい臓がんなどいくつかのタイプのがんの早期発見への有効性の評価だ。Lucenceは現在、早期発見の評価のために10万名を対象とする調査を設計している。最初の患者の起用を来年半ばと予定しており、米国とアジアでローンチする。

この前のシード資金と合わせてLucenceの総調達額は2920万ドルになる。

Lucenceのテストは現在、東南アジアと香港の医師が利用しているが、今後は北米と東アジアにも広げる計画だ。シンガポールの研究所はすでにCLIAとCAPの認定を得ているので、米国の医師と患者もそのテストを利用できる。現在ベイエリアに建設中のラボが完成すれば、患者が結果を得るまでの時間も短くなる。

シンガポールに本社があり、サンフランシスコと香港と中国の蘇州にオフィスのあるLucenceは、CEOで医師のMin-Han Tan(ミン-ハン・タン)氏が創業した。彼は腫瘍専門医で、2016年にシンガポールの科学技術研究庁からスピンアウトした。2年後にLiquidHALLMARKをローンチし、それは同社によると「世界初で唯一の血液の遺伝子配列テストにより、1回のテストでがん関連の遺伝子の突然変異と癌を起こすウィルスの両方を検出する」。それは、14種のがんの兆候を検査できた。同社によるとLiquidHALLMARKはこれまで、アジアの1000名の患者に利用された。

ゲノム配列を利用するがん検診を開発したスタートアップとして、ほかにSanomics、Prenetics、Guardant、Grailなどがいる。Lucenceの差別化要因は、その特許技術によるアンプリコンシーケンスで、ゲノムの特定部分の変異を調べて癌に結びつく突然変異などを見つけることにある。同社はそのテストを「スイス製アーミーナイフ」と呼んでいる。それは、がんの検診と診断と処置と選別と監視に利用できるからだ。

IHH HealthcareのCEOに任命されているドクターの、Kelvin Loh(ケビン・ロー)氏は声明で「液体生検は、処置の精密な選択とより安価なケアによって癌の処置を画期的に改善した。Lucenceへの投資は、IHHの患者にこの先進的な技術へのより良いアクセスを提供するだろう」と述べている。

画像クレジット: Enterprise Singapore

[原文へ]

(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

2019年の気温は記録史上最高だった3年前に次ぐ第2位の高温に

合衆国政府のデータは、現政権はそう言わないかもしれないが、地球が温暖化していることを示しているようだ。どうやら今年の地球は、記録にあるかぎり2番目に暑い10月を経験したようであり、このまま行くと同じく記録上、今年は2番目に暑い年になるようだ。海洋大気局(National Oceanic and Atmospheric Administration、NOAA)のデータがそれを示している。

10月が暑かっただけでなく、南極の氷が1979年に観測を開始して以来最も小さく縮小した。10月の暑さは記録に残るかぎり、2003年以降で10度目の、それ以前の記録を破る暑さであり、しかもその10回の記録破りの内の5回は過去5年連続だ。

地球の気候変動につながる大気中排出物質を減らそうとする政策をトランプ政権は廃棄しようとしているが、NOAAのような政府機関は、この惑星がどれだけ変わりつつあるかを正確に示す報告書を出し続けている。

今月初めに国務長官のマイク・ポンペオ氏は、米国を気候変動に関するパリ協定から離脱させる手続きを公式に開始した。現政権の極めて重大なこの出来事を、世界はTwitterから知らされた。

ポンペオ長官は「すべての排ガスの削減」へのこの国のアプローチを賞賛しているが、ヨーロッパとアフリカとオセアニア、カリブ海地域、そしてハワイ諸島はかつてない記録的な温度に達し、世界の平均海面温度は記録上で2番目の高温に達した。

一方、新たな予測が、気温上昇による氷河の溶解によって起きる海面上昇で都市が直面するリスクの大きさを、従来の予測の3倍に上方修正している。

研究団体であるClimate Centralが作り、NatureCommunicationsに載った地図は、都市の耐性が強化されるか、または気候変動の方向が今の逆にならないかぎり、海面上昇によって現在1億5000万人が住む陸地が2050年までに洪水や高潮の下になる。

連邦準備制度ですら、気候変動によるリスクに目覚めつつある。米国の金融政策を司るこの規制当局は、今月初めに、気候変動が財政に与える影響にフォーカスしたイベントを開催した。

The New York Timesの記事によると、このイベントのために前もって用意されたコメントで連邦準備制度理事会のメンバーであるLael Brainard(ラエル・ブレイナード)氏は「連邦準備制度が気候関連の研究と実践にもっと積極的に参加すれば、強力な経済と安定的な金融システムをもっと実効的に支援できるはずである」と述べている。

画像クレジット: NOAA

[原文へ]

(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

iPhoneとApple Watchで健康調査に参加するための「Apple Research」アプリが米国で公開

Apple(アップル)は9月に、米国のユーザーが自分のデバイスから健康調査に参加できるアプリの計画を発表していた。米国時間11月14日、米国でiPhoneとApple Watchのユーザー向けにそのアプリが公開された。この「Apple Research」アプリから、ユーザーは現時点では3種類の調査に参加できる。女性の健康調査、心臓と運動に関する調査、聴覚に関する調査だ。

アップルはこれまでも研究者や医療機関とともに調査をしてきたが、参加するユーザーは自分のiOSデバイスに調査ごとの専用アプリをインストールする必要があった。このほどリリースされた「Research」アプリには参加に関するアクティビティがまとめられていて、複数の調査に参加したいユーザーにとってはシンプルになる。

アップルのデバイス(そしてそこに内蔵されている多くのセンサー)から収集されたデータを利用して、研究者はこれまでは不可能だった大規模な健康調査を実施することができる。アップルは、これまでこの種の調査には費用と時間が必要だったが、これからはユーザーが参加することで心臓、運動レベル、アクティビティ、騒音など、健康に関する情報を研究者に直接共有できるとしている。

アップルのプライバシーに関する取り組みは、ここでも同様だ。データの共有はユーザーのコントロール下にあり、データは暗号化され、販売されることはなく、研究者はユーザーに対しデータがどう活用されるかを知らせなくてはならない。そして参加者はいつでも参加を取りやめることができる。

最初にスタートする3つの調査のうちの1つは、ハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院および米国国立環境健康科学研究所と連携した女性の健康調査だ。この調査は、女性の月経周期と不妊、骨粗鬆症、更年期、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)との関係を明らかにすることを目的としている。この調査では、iPhoneの「ヘルスケア」アプリまたはApple Watchの「周期記録」アプリから、ユーザーの周期記録のログを収集する。

心臓と運動に関する調査では、米国心臓協会およびブリガム・アンド・ウィメンズ病院と連携する。この調査では、ワークアウト中のデータに加え、心拍数とアクティビティのデータがApple Watchから収集され、簡単なアンケートも実施される。このデータは、運動のシグナルおよび心拍数とリズムから、心房細動、心臓病、運動能力の低下などの早期発見につながるサインを発見できるかを研究するために使われる。

聴覚に関する調査ではミシガン大学およびWHO(世界保健機関)と提携し、iPhoneやApple Watchの「ノイズ」アプリからユーザーがさらされている音に関するデータを集める。アンケートと聴覚検査も実施する。この研究では、大きな音が検出されたときに「ヘルスケア」アプリの通知によってユーザーが自分のリスニング行動を変えるかどうかも調査される。

アップル最高執行責任者のJeff Williams(ジェフ・ウィリアムズ)氏はアプリの発表の中で次のように述べている。「今日はアップルが健康調査に乗り出した重要な日だ。この取り組みは、医療関係者が長く求めていた領域に大きな成果をもたらすだろう。「Research」アプリの参加者は、新しい発見につながり健康な生活に貢献できるような、とてつもない影響を生み出すことになる」。

iPhoneとApple Watchで利用できる「Research」アプリは米国で配布されている。

[原文へ]

(翻訳:Kaori Koyama)