世界的に成長中のVCマーケット、主に中国が貢献

ベンチャーキャピタルのビジネスモデルが世界中でみられるようになった。まだ金融業界の特別クラブ的なものではあるが、今やワールドワイドに、そしてそれなりの規模で展開されている。

Crunchbaseニュースが2018年第3四半期に報じたCrunchbase推定によると、世界のVCディールと投資額はそれぞれ空前の記録となった。米国とカナダにおいて、ディールの件数は第2四半期よりわずかに減少したが、膨張しているディールのサイズが総投資額を過去最高へと押し上げた。

このVCマーケットの世界的な成長の大部分は、米国とカナダ以外のマーケットによるものだ。Startup Revolutionと米国起業家精神センターがコラボで行なった最近の研究では、中国・北京が世界のVC投資成長に最も貢献していることがわかった。

地域別を表示したディール件数を下に示している。世界のディール件数が一貫して成長傾向にあるのに比べ、米国とカナダのディール件数の成長パターンはやや途切れ途切れになっていることに気づく。(Crunchbaseがいかに、そしてなぜこのような予測を作成するのかについては、グローバルレポートの末尾にあるMethodologyセクションを参照してほしい)。

中国のような急激に成長しているスタートアップマーケットでは、ベンチャーディールの金額こそわずかに減っているものの(*注記1)、件数は過去最高となっている。アジア太平洋地域全体では、ベンチャーディール件数は昨年同時期に比べ約85%も増えている。レポートされた中国の件数は、4倍以上となっている。

中国のベンチャーマーケットの拡大は、世界都市別の予測でより鮮明だろう。下記に、第3四半期でスタートアップが最もアクティブだったトップ10の都市を示すチャートがある。(グローバルレポートのMethodologyセクションで“レポートされた”データとは何か、どのように使用されたかについての説明がある)。

チャートにある10都市は、3カ国で占められている、ベイエリアの件数を押し上げているシリコンバレーがなければ、北京が生の件数的にはサンフランシスコよりも上にきていたはずだ。(しかし、北京の人口はベイエリア全体の3倍にもなる)。

ディールの件数と金額を活発度合いのバロメーターとすれば(健全度ではない)、VCの動きの広まりはマーケット全体にとってよいことととらえることができるかもしれない。グローバルでのVCの動きの高まりは、世界的に全てのスタートアップマーケットを押し上げるている。しかしながら、そうした成長のほとんどは、いくつかの大きなマーケットに集中している。

シリコンバレーのベンチャーキャピタル投資モデルの世界的な拡大、そして当地での再解釈は、スタートアップ創業者が頭に入れておかなければならない現象となっている。創業者はこれまでになく大規模なラウンドで多くの資金を調達していて、投資家が成長マーケットの多くを買うのにさらに大金を投入することを期待している。同様に、投資家はそうした企業の飽くなきキャピタル欲を満たそうと、これまでにない規模の資金を調達している。

大きなトレンドの中で、変化著しいマーケットの状態に適応できない創業者はマーケットサイクルの終わりに消えていくことになる。

*注記1:金額が減ったのは、第2四半期の金額がAnt Financialによる140億ドルものシリーズCラウンドで大きくなったためだ。これは、これまでのところ最も大きなVCラウンドとなっている。

イメージクレジット: Li-Anne Dias

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(翻訳:Mizoguchi)

“ファン家のアメリカ開拓記”の兄弟、大麻やクリプトにフォーカスしたBatuキャピタル設立

レストランオーナーで談話家のEddie Huangは“Fresh off the Boat”(編集部注:台湾系アメリカ人一家を描いた米国ABCテレビのコメディードラマ、邦題は「ファン家のアメリカ開拓記」)に出てくる3兄弟の一人として知られる。ABCのシチュエーションコメディは彼の回想記がもとになっている。しかし、彼の兄弟EmeryとEvanは、ドラマをかなり熱心に視聴した人にとってすら、どちらかというとミステリアスな存在だ。この2人のキャラクターはドラマではかなりフィーチャーされていたが、実在の彼らはあまり表舞台には出て来ず、Eddieのソーシャルメディアにおける露出が目立っていた。

しかしながらEmeryとEvanは不動産投資に忙しく、最近はテックスタートアップ分野にも進出した。彼らの多家族経営の投資オフィスBatu Capitalは今年事業を始めたばかりだが、今週、彼らの初の投資先の一つ、大麻産業のためのソフトウェアデベロッパー企業MJ FreewayがMTechとの合併に合意し、今後Nasdaqに上場する親会社をつくるという、大きなマイルストーンを達成した。

The fictionalized versions of Evan and Emery Huang, portrayed on “Fresh off the Boat” by Ian Chen and Forrest Wheeler. (Photo by Vivian Zink/ABC via Getty Images)

TechCrunchとのインタビューで、この2人の兄弟は米国、中国、そして東南アジアで投資したいテック部門とスタートアップについて語った。Batu Capitalはビッグデータと同様、大麻やブロックチェーン、クリプト部門の企業探しにフォーカスしている。

大麻ビジネス向けの資源計画やコンプライアンス追跡ソフトウェアを企業に提供するMJ Freewayに加え、ポートフォリオにはイーサリアムでのビデオ広告を展開するという新たなアプローチを構築しているスタートアップVidyや、クリプトを使ったブロックチェーンとデジタル通貨ベンチャーファンドのSora Venturesも含まれる。Batu Capitalはシード期もしくはシリーズAステージの企業、またはシリーズCとIPO前に投資を行い、その平均的な規模は50万ドル〜200万ドルだ。

Batuは1家族によるオフィスではないものの、投資のためにパートナーのネットワークから資本を調達する代わりに、何世代にも及ぶ政治的そして社会的大変動を経て、家族の資産を守りたいというEmeryとEvanの願望が設立の動機となっている。

「長いストーリーを手短に言うと、僕らの家族は前の2世代で富を築き、失うということに5回以上も繰り返した。かなり率直に言うと、もし僕とEvanが生きている間にまたそんなことがあれば罵られるよ」とEmeryは語る。

第二次世界大戦前、Huang兄弟の父方の親戚は鉄道により富を築いたが、旧日本軍による南京占領中に富を失った。親戚は重慶市に逃れ、不動産で富を再び築き始めた。しかし今度は中国共産革命で台湾に逃げることを余儀なくされ、またもや全てを失った。一方、母方の祖父母も旧日本軍から逃れようと、中国から台湾へと避難した。彼らは以前、銀行業に携わっていたが、台北では繊維プラントに職を得るまでの数年間、路上で蒸しパンを売ってなんとか生き延びた。この繊維プラントでの労働はその後、自前の室内装飾材料ファッブリック工場へとつながる。

しかし、中国共産党を逃れた人たちの多くがそうだったが、兄弟の親戚も台湾で暮らしを再建したものの、また侵略があるのではないかと用心を怠らず、結局父方、母方どちらも米国に移った。そこで彼らの両親、LouisとJessicaは出会い、結婚し、3人の息子をもうけた。アジア系米国人が主役のプライムタイムのシットコム(編集部注:シチュエーションコメディの略)としては20年ぶりのものとなった “Fresh off the Boat”は、LouisとJessicaが兄弟が育ったフロリダでレストランビジネスを立ち上げるのに伴うHuang一家の浮き沈みをフィクション化したものだ。

新産業の主力に投資する

3人の兄弟は、Eddieが2009年にマンハッタンのロウワーイーストサイドで立ち上げた人気レストランチェーンBaoHausで働き、そこでビジネスの経験を積んだ。将来が期待されるライターに贈られる賞を受賞したEmeryはそのビジネスから早くに離れ、中国へと渡った。彼はそこで作家活動を行いたかった。しかしまた、新たな投資機会も探したかった。当時、Emery とEvanは彼らの両親がレストランビジネスをやめてリタイアする準備を手伝っていて、彼らは家族の資産を不動産、中国投資グループとニューヨークの土地オーナーを結ぶブローカーディールに投資し始めた。

Batu Capitalの名称は、彼らがモンゴルの歴史好きということで、モンゴルの支配者でジョチ・ウルス王朝を築いたBatu Khanにちなんでいる( 23andMeのテストのおかげで、両親の血統にモンゴルの血が混ざっていることが最近わかった)。

Batu Capitalは大麻にフォーカスしている。というのも、「疼痛管理と医学的な使用、そしてレクレーションとしての使用でかなりの需要が見込めるマーケットだからだ」とEmeryは言う。特に兄弟は大麻が170億ドルもある鎮痛剤マーケットに取って代わることを期待している。しかしそれは、麻薬乱用の広がりを引き起こすかもしれないという副作用を抜きにした話だ。クリプトに関しては、Emeryは「僕たちは、データストレージとデータフィデリティという意味での情報保管手段として、ブロックチェーンのテクノロジー、それは通貨だけでなくブロックチェーン全体、そしてスマート元帳全体に魅力を感じている」と語る。

それぞれのセクターでは、「“業界の全インフラ”のためのソリューション構築を考えている企業をBatuは探している」とEvanは話す。

たとえば、MJ Freewayは州や国の規則に則っていることを確認しながら栽培者や薬局がそれぞれビジネス展開するのをサポートする。一方、Vidyは出版社が広告を出す手法を新たなものにするのにブロックチェーンを使っている。自動のポップアップや埋め込みと違い、読者は指やカーソルをオンライン記事の文字の上に置くことでビデオを見るかどうか決められる(この動作はこちらのEsquire Singaporeの記事でピンク色にハイライトされたところに指やカーソルをもってくることで試せる)。ビデオのストリーミングを読者が簡単に選べるようにすることで、出版社がユーザーの動きの微妙な差異を理解できるようになれば、とVidyは願っている。MediacorpやMercedes-Benz、 DeliverooなどをパートナーとするVidyはまた、VidyCoinと呼ばれる独自のERC20ユーティリティトークンをつくった。このトークンでは、広告主は広告を出す費用を払え、読者はビデオを閲覧して稼ぐことができる。ブロックチェーンでの取引を記録することでVidyはクリックスパムのような異なるタイプのオンライン広告詐欺から守ることができる。

家族の過去の経緯から、Huang兄弟はポートフォリオに地理的多様性を持たせることにプライオリティを置いている。米国と中国に加え(Emeryは上海拠点、Evanは間もなく米国から北京に移ることを計画している)、Batu Capitalはまた東南アジアの成長マーケット、特にフィリピンとカンボジアに注目している。中国資金の恩恵があるだけでなく、投資家により透明性を提供できる、と彼らは言う。

「僕たちがスタートアップに最も求めるものは、エグゼクティブチームだ。その業界、または関連業界で会社を育ててきた経歴を持っていること、またはいかせる経験を持っていることを確かめたい。たとえば、ビッグデータ業界でどこに適所を持っているのか、戦略的なパートナーシップを抱えているか、といったことだ」とEmeryは語る。「クリプトや大麻でもそれは同じだ。僕らは何もないところには投資しない。投資するには投資先が際立っていることを確かめる必要がある」。

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(翻訳:Mizoguchi)

2018年の米VC投資が1000億ドル超え

企業価値10億ドル超の新ユニコーン企業の続出、数え切れないほどの1億ドル規模のベンチャーファイナンス、そして巨大ファンドの爆発的な増加ー2018年の米国企業ベンチャーキャピタルが過去最多になることはまったく驚きではない。

今年はあと2.5カ月を残しているが、PitchBookの第3四半期ベンチャーモニターからのデータによると、9月30日時点で、6583件のVCディールがあり米国企業はすでに841億ドルを調達したーこれは2017年通年の額を上回る。

昨年は9000件超のディールがあり、820億ドルを調達した。この数字はこの業界ではかなりの出来だった。多くの人が感じたのは、この傾向が今年も続くのだろうかということだ。ところが、どうだ。VC投資は過去10年の最高額を更新し、スローダウンする気配はまったくない。

なぜ上昇しているのだろうか。資金調達する企業の数は少なくなっているが、ラウンドの規模が膨張している。たとえば、ユニコーンは2018年のキャピタルの25%を占める。SlackStripeLyftなどを含むそうした企業は今年これまでに192億ドル調達していてーこれは最高額だー2017年の174億ドルから増えている。2018年第3四半期だけでユニコーン企業のディールは39件、額にして79億6000万ドルだった。

以下、米国ベンチャーエコシステムについてのPitchBookのレポートから興味深い点をいくつか挙げる。

・2018年、おおよそ280億ドルがアーリーステージのスタートアップに投資された。前四半期の平均的なディール規模は25%大きい700万ドルだった。

・10のファンドが今年5億ドル以上を調達し、そのほかLightspeed Venture PartnersIndex Venturesを含む5つのファンドが10億ドル以上をクローズした。

・西海岸拠点のスタートアップが第3四半期ディールバリューの54.7%を占めた。しかし他のエリアのスタートアップが伸びている。ニューイングランド(12%)、中部大西洋(20%)、五大湖(5%)。

・米国の医薬品・バイオテックへの投資が、今年すでにこれまでで最高の140億ドルに達している。

・コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の動きが活発化している。今年、CVCは米国のスタートアップに393億ドル投資した。これは2013年の152億ドルの倍以上の額だ。

・買い占めによるVCから支援を受けた企業がこれまでになく増えている。

イメージクレジット: Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

コーポレートベンチャー投資、2018年通年で増加の見通し

【編集部注】筆者Jason RowleyCrunchbase Newsでベンチャーキャピタルとテクノロジーを担当するライター

多くの企業が将来をベンチャー投資ポートフォリオにかけている。イノベーション競争でスタートアップにかなわないのであれば、ファイナンシャルパートナーとしてスタートアップとビジネスを展開すればいい。

多くのテック企業が確固たるベンチャー投資イニシアチブを持っているーAlphabetが世界展開するベンチャーファンディングや実をたくさん結んでいるIntel Capitalのスタートアップ投資などが思い浮かぶーが、他企業はたったいまベンチャー投資を倍増させつつある。

過去数カ月、いくつかの大企業がコーポレート投資に資本を追加した。たとえば、軍事企業ロッキード・マーチンは6月に自社ベンチャーグループに資本として2億ドルを追加した。アヒルで有名な保険会社Aflacはコーポレートベンチャー基金を1億ドルから2億5000万ドルに増やした。Cigna2億5000万ドルの基金を立ち上げたばかりだ。日本の通信大企業ソフトバンクが自ら280億ドル拠出している本当に巨大なVision Fundは言うまでもない。

2018年はこのままいくと、米国企業がかかわるベンチャー案件数として記録を打ち立てることになりそうだ。米国拠点のトップ100の公開企業(記事執筆時点での株式時価総額によるランクづけ)のコーポレートベンチャー投資パターンを分析し、そうした結論に至った。下のチャートはステージ別を表記した2007年からの投資アクティビティを示している。

このチャートでいくつか目を引く点がある。

これら大企業が投資するラウンドの回数は今年、このまま行けば最多を記録する。今年はまだ四半期まるまる残っている。ホリデーシーズンは例年ベンチャーの動きがややスローダウンする傾向にあるとはいえ、おそらく前年を上回るだけの十分な動きはある。

そのほかに特記すべきこととして、コーポレートインベスターの一部はシードやアーリーステージの企業に繰り返し、そしてより多く投資している。2018年のこれまでのところ、シードまたはアーリーステージのラウンドはコーポレート・ベンチャーディールフローの60%超を占めている。より投資件数が増えればこの数字はさらに大きくなるかもしれない。(特に、エンジェル、シード、シリーズA案件はレポートとして上がってくるまでにタイムラグがある)。過去数年は同様の動きだ。

また、このチャートには優良会社の過去10年のリスク対応姿勢の縮図が現れている。リスクを伴うキャピタル投資の後退を引き起こした2008年経済危機時の恐怖や不確かさが見て取れる。

危機は2008年に始まったが、株式市場は2009年まで底を打たなかった。チャートでコーポレートベンチャー投資の動きが少なくなっているところが底だ。その後経済は回復するが、安い金利で元気付けられたのだろうか。パブリックそしてプライベートの投資家にとってはわずかに膨らんで弱っただけのマーケットを引き起こしたにすぎず、我々はいま、その真っただ中にある。

従来のベンチャー企業の多くがリミテッドパートナーに保有されていた一方で、投資家ベースでは異なった年金基金、寄付、投資信託ファンド、富裕層をターゲットにしたファミリーオフィスへと少しずつ広がっている。稀な例外もあるが、コーポレートベンチャー企業の投資家は、企業そのもの1社のみだ。

たいていそれは、コーポレートベンチャー投資はその企業の戦略と方向性は同じということになる。しかし企業はまた、投資家やエンジェルが行っているように、バラエティを豊かにするという理由でスタートアップにも投資を行う。それは将来を考えてのことだ。

データに関して

この記事の目的は企業の投資活動を可能な限りつまびらかにすることだったが、言うほどに簡単なことではない。

我々はなんとも不自然なデータセットで取り組み始めた。そのデータセットとは、米国に拠点を置く公開企業で、記事執筆時点での株式時価総額ランキングトップ100の企業というものだ。それから我々は、そうした企業のネットワーク下にあるサブ組織をCrunchbase データであたった。これにより、各企業が行った直接的な投資だけでなく、企業のベンチャーファンドや他の子会社が行った投資の動きも拾うことができた。

我々がAlphabetの世界的な投資を調べるときにとった手法と同じような方法だ。Alphabetの例でいくと、Alphabetの直接の投資に加え、サブ組織に関連する投資も把握できた。今回はこの作業を1社ではなく100社分行った。

これは決してパーフェクトなアプローチではない。企業はCrunchbaseに記載されるベンチャー部隊を持つことは可能だ。しかしどうしたことか、ベンチャー部隊は親会社のサブ組織として記載されない。加えて、リストにある企業の多くが米国拠点であるにもかかわらずグローバルで存在感が大きく、そうした企業のいくつかがレポートにあがってこない海外マーケットで投資を行っているというのはあり得る。

イメージクレジット: Li-Anne Dias

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(翻訳:Mizoguchi)

古いメディア大企業が次なる策としてVCに目を向け始めた

ウェブ1.0とウェブ2.0の時代は、世界の大きなメディアコングロマリットにとって優しいものではなかった。それまでのビジネスモデルに疑問符がつくようになり、コンテンツ消費する全く新しいカテゴリーをつくり、オンライン上での購読や価格設定などでの競争を展開することになった。1990年代から2000年代はじめにかけてのメディア大企業の多くは、数十億ドルもの企業価値を持ったマーケットリーダーであったが、会社を発展させるための戦略としてスタートアップに積極的に投資するようになった。

コーポレートVCをするようになった従来のメディア企業には、はっきりとした2つの戦略がある。一つは、長年展開されてきた新聞の広告に取って代わり、消費者向けマーケットプレイスを多様化させるための投資だ。もう一つが、メディアを再形成するスタートアップの動きをいち早くとらえることを(初期の株取得も)狙った投資だ。

広告に代わり、マーケットプレイスに投資する

ベルリン、ドイツ – 6月6日:2018 NOAH会議で話すAxel SpringerのCEO、Mathias Doepfner。この年次会議にはスタートアップのリーダーや起業家、投資家、メディアが参加した(写真: Michele Tantussi/Getty Images)

1990年代と2000年代初期にテックスタートアップによって新聞グループにもたらされた初の危機はオンライン広告のサイト(Craigslistとか)と取引マーケットプレイス(eBayやAmazonなどの興隆で、それまで儲かっていた広告収入が減ることで彼らの注意はeコマースへと向かった。

ハースト社はさておき、新聞や雑誌を複数発行している米国の主な企業ーガネット、ニューズ・コーポレーション、メレディス・コーポレーション、タイム、デジタル・ファースト・メディアなどーはこれまでさほどスタートアップに投資してこなかった。おそらく、ほとんどの新聞社の経営は苦しく、数年間は見返りがないVC投資に回すだけの現金が手元になかったからだろう。

しかし北欧や中欧では、ニュース会社や出版社の財政状況は比較的健全で、主要なメディアグループは過去10年間、マーケットプレイスや欧州にまたがるeコマーススタートアップに積極的に投資している。

欧州をリードする出版社Axel Springerはすでに欧州スタートアップ業界では確固たる地位を築いている。Axel Springerのデジタルベンチャーチームは車のCaroobiやAirbnbなどのマーケットプレイスに出資し、Axel Springerのベルリン拠点のアクセラレータ(Plug & Playと共同運営)はデジタル銀行N26やボートレンタルマーケットプレイスのZizoo、インフルエンサーブランドのマーケットプレイスblogfosterなど、100以上の若いスタートアップに投資してきた。本業での戦略として、従業員1万5000人を抱えるこのメディアグループはARのユニコーン、Magic Leapに今年2月に大規模な投資を行なった。その際、コンテンツIPをレバレッジするパートナーシップも締結した。

一方、ノルウェーのSchibsted、スウェーデンのBonnier、ドイツのHubert Burdaメディア(テックに詳しい人にとって、ミュンヘンで毎年開かれるDLD会議で知られている)とホルツブリンク出版もグローバルで積極的に動いていて、主にeコマースブランドやマーケットプレイスの初期または成長段階VCポートフォリオで活発で、何十億ドルも投資している。

新聞コングロマリット(または類似する他企業)による最も象徴的な企業ベンチャー投資は、2001年に南アフリカの出版グループNaspers(1915年創業)が、設立3年の中国のソーシャルウェブスタートアップTencentに3200万ドルもの投資を行った一件であることに疑いの余地はない。Tencentの企業価値は現在4000億ドルで、アジアで最も大きく、そしてパワフルなデジタルメディア企業だ。Naspersが今年3月に保有するTencentの株式を100億ドルで売却したとき、Naspersの保有株式31%の価値はおおよそ1750億ドルだった。

当然の帰結として、Naspersは世界中のオンラインマーケットプレス事業を支援・育成し、買収し、そして投資するホールディング・カンパニーへと姿を変えた(かなり小さい出版部門はまだ残しているが)。

メディアという領域外のスタートアップに投資する従来のメディア企業にとっての課題はというと、たとえその投資がかなり成功したとしても、メディア業界での目立ったアドバンテージにならないこと、ビジネスモデルをじわじわとテック企業のモデルのようにはできないことだ。これらの投資は経営上、大きな混乱を引き起こしかねず、主要事業を再度見直すのに失敗すると、株主たちは会社に刷新を要求する。AirbnbやBaubleBarに投資をすることは、従来の出版グループにとって重要なチャレンジやチャンスを意味するものではない。

それゆえに、この戦略でメディア企業にとって一番良いシナリオは、 Naspersがとった方法にある通り、まずはコンテンツ競争を抜け出して経営で成功を収め、他の消費者向けブランドのホールディング・カンパニーになることだ。しかしその後の道のりは不透明かもしれない。他の全ての活動にかかわらず、Naspersの時価総額はTencent株の時価総額より小さい…一番良いシナリオが必ずしも中心的な組織の変更であるかどうかは不透明だ。

次世代メディアへの投資

社の年次報告会に出席するドイツのメディアグループBertelsmannのCEO、Thomas Rabeー2018年3月27日、ベルリン / AFP PHOTO / Tobias SCHWARZ (Photo credit should read TOBIAS SCHWARZ/AFP/Getty Images)

 

“古いメディア”がとる別の道は、メディア事業の将来を明らかにする手段としてVCにフォーカスするというものだった。そうすることで古いメディアは新世代のメディア起業家から学ぶことができ、競合相手よりマーケットの変化に素早く対応できる。興味深いことに、こうした戦略をとったコングロマリットは、新聞事業よりもテレビやラジオ、データ、通信事業を運営しているところだった。

ベルテルスマン、ハースト、そして21世紀フォックスは、ストリーミングビデオサービスやクラウドソースストーリーテリングプラットフォーム、または拡張現実といったメディアの将来を作ろうとしているスタートアップに最も積極的にCV投資している企業だ。

年間170億ユーロの収益を上げているベルテルスマンは世界で最も大きなメディア企業の一つで、事業はテレビ制作や放送(RTLグループ)、書籍出版(ペンギン・ランダムハウス)、新聞、雑誌出版(GrünerとJahr)、そして教育など多岐にわたる。しかしメディア企業には珍しく、メディアスタートアップへのベンチャー投資をサイドプロジェクトとしてではなく、社の主要部門と位置付けている。

社の主要事業であるベルテルスマン・デジタルメディア投資(BDMI)はAudible、Mic、The AthleticそしてWonderyといった米国、欧州の企業に投資しているが、と同時に中国、インド、ブラジルにフォーカスして投資するファンドと、ニューヨーク市を拠点とする教育にフォーカスした大学ベンチャーファンドも抱える。2017年の年次報告書によると、ベルテルスマンのチームは2017年、スタートアップに合計40もの新規投資を行い、その見返りとして1億4100万ユーロの収入を得た。

2017年の収益が108億ドルと米国最大の出版社の一つ、ハーストの投資部隊はBuzzFeed、Pandora、Hootesuite、Roku、そして言うに及ばないが中国の言語アプリLingoChamp、ライブエンターテイメントブランドのDrone Racing League、VRスタートアップの8i、その他数十ものメディア関連スタートアップに投資してきた。こうしたベンチャーにおけるハーストのオーナーシップは戦略的なものだ。主要事業に関連するマーケットの動向をとらえ、素早く提携を結ぶ機会を確保する。変化するマーケットの中で企業の存在意義を高めるような戦略的買収のターゲットを探すことにもなる。

21世紀フォックスとスカイ(21世紀フォックスはスカイの株式39%を保有し、すぐにも買収しようとしている)の両社は過去数年、メディア部門の多くのスタートアップに投資してきた。ライブストリーミングプラットフォームCaffeineへの1億ドルもの投資(9月5日に発表された)に加え、Meg Whitman主導のWndrCoのNewTVベンチャーへの巨額投資、そしてフォックスは、スポーツ中心のOTTサービスfuboTV、ヒットしたニュースレターブランドTheSkimm、VRスタジオのWITHIN、ファンタジースポーツアプリDraftkingsにスカイとともに繰り返し投資してきた。スカイはiflix(東南アジアと中東における主要ストリーミングビデオサービス)のような国際的なスタートアップに共同で投資したり株式を取得したりしてきた。

従来のメディア大企業は、ヒットしたショーや映画など広範にわたる知的財産、人気のライブイベントの権利ー何百、何千万人に配信するチャネルは言わずもがなだろうーを所有し、メディア企業そしてスタートアップ双方に益をもたらすような、パートナーシップも目下抱える。こうしたメディア企業は所有権を構築するのに往々にして繰り返し投資を行い、提携を深める。これはメディア企業がマーケットプレイススタートアップに投資するときにはあまり起こらない。

Tencentの常に展開するモデル

NetflixやSnap、VICEそしてBuzzFeedを含むデジタルメディア大企業の新たな収穫は、戦略的な投資でもしない限りさほど多くはない。その代わり、彼らは主要プロダクトの成長にフォーカスしている。大きな例外がTencentだ。

中国でブームとなりつつあるメッセージアプリ部門をWeChatとQQで独占しているのに加え、中国における音楽ストリーミングの75%のマーケットシェアを持っている。また、自社スタジオ(Riot Games、Supercellなど)により世界でも有数のゲーム開発元でもある。Activision Blizzard、Epic Games、その他の少数株式も保有し、Tencentは度々、成長が見込めるデジタルメディアスタートアップに初期段階での戦略的投資を行うという戦略をとってきた。彼らは全てに対して触覚を働かせている。

Crunchbaseデータに基づくと、Tencentはスタートアップに300件超も投資してきた。中国において、最もアクティブなベンチャー投資家だ。投資は中国内に集中しているが、SoundHound、Wattpad、Spotify、Smule、そしてWonder Workshopといった西側のメディアスタートアップにも投資している。

Tencentはこれらのスタートアップに多くのデジタル資産を通して流通手段を提供し、これによりどういう新しいコンテンツフォーマットやビジネスモデルが伸びているかを常にウォッチすることができる。Tencentは常に展開するという方針のもとに動いていて、コンテンツの制作や流通、収益化で将来重要な資産となり得るプロダクトを持つスタートアップに飛びつこうとしている。こうしたアプローチというのは、古いメディア大企業、そして次世代のユニコーンとなるメディアスタートアップが検討すべきものだ。

イノベーションのペースは速く、購読制ストリーミングやesportsといったものから音声インターフェース、ARに至るまで、新たな扉が多く開かれている。“古いメディア”と分類されてしまう前に、コーポレートベンチャーを主要戦略とすることで発展する機会を組織は手にすることができる。

イメージクレジット: Mark Kauzlarich/Bloomberg / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

インタビュー:ジェイソン・カラカニスがエンジェル投資を勧める理由

 Uberの投資家として大成功を収めたジェイソン・カラカニスが著書『エンジェル投資家』の邦訳出版を機に来日している。カラカニスにインタビューする機会があったので紹介してみたい(写真はジェイソン・カラカニスと企画から編集まで出版を担当した日経BPの中川ヒロミ部長)

カラカニスは無名のスタートアップだったUberにシード資金を投資した。その後Uberは世界的大企業に成長した。カラカニスは他にもいくつかのホームランを打ちポートフォリオの価値は数億ドルとなり、アメリカでもトップ5に入るエンジェル投資家となった。その経験をベースにエンジェル投資の秘訣を率直に書いた『エンジェル投資家』をTechCrunchの同僚、高橋氏と共訳する機会があった(7月にTechCrunchでも書評かたがた紹介している)。

ジェイソン・カラカニスは2003年というインターネット普及の最初期にWeblogs, Incを立ち上げ、AOL(TechCrunchの親会社であるOathの前身)に売却することに成功して一躍シリコンバレーの著名人になった。インターネットで記事を発表することは当時ウェブ・ログと呼ばれており、その短縮形がブログとなったという経緯がある。つまりカラカニスは現在のブログ文化のパイオニアの一人だ。また2007年にはTechCrunchのファウンダー、マイケル・アリントンと共同でDisruptの前身となるカンファレンスを立ち上げている。

『エンジェル投資家』はデイブ・ゴールドバーグに捧げられている。ゴールドバーグがSurvey MonkyのCEOとして来日したときTechCrunchでインタビューしたことがあり、急死したと聞いて残念に思っていた。カラカニスはゴールドバーグとは親しく、夜遅くまでテーブルを囲むポーカー仲間だったという。「自分を差し置いてまずみんなのこと、世の中に役立つことを考える人間だった。本当に惜しい」と語った。

カラカニスによればファウンダーに求められるもっとも重要な資質は「目的意識」だという。自分がやり遂げたい明確な目的を持っているのでなければスタートアップというつらい仕事を続けることはできない。「金儲けが目的ならもっと割のいい仕事がいくらでもある。だから金が目的のファウンダーは途中で投げ出してしまう。私はそういう相手には投資しない」という。

 

「やり遂げたい目的があるのとないのではこれほどの差が出る」

女性として初めて名門ベンチャーキャピタルのパートナーとなったサイアン・バニスターの記事を翻訳したところだったのでその話になった。「サイアンとはいつ会ったか忘れてしまった。そのぐらい昔からの知り合いだ」という。バニスターは高校中退の女性で大学に行ったことがない。「学歴はある程度重要だ。スタンフォードとかハーバードとかに入ったと聞けばそれだけの努力ができたのだとわかる。しかし学歴や職歴など経歴の重要性は薄れている。どんな経歴かより何をやったかが重要だ」という。

2010年にカラカニスが主催した小さなフォーラムでトラビス・カラニックを紹介され、カラカニスとともにトラビスのスタートアップにエンジェル投資したのがバニスターの投資家としての地位を築いたという。その後も着実に投資を続け、現在では独立のエンジェル投資家から名門ベンチャーキャピタルのパートナーに転じている。一方、カラカニスがエンジェル投資家を続けている理由は「自分で全部決められるからだ」という。

最近シリコンバレーでは「指先から取った一滴の血でたくさんの病気が検査できる」という触れ込みで大企業になったもののすべて捏造だと判明したTheranosとそのファウンダーのエリザベス・ホームズが話題になっている。カラカニスは「テクノロジーの中身を見せずに投資しろなんていう話はまっぴらだ」という。

さきほどの学歴の話と関係してくるが、同じスタートアップでもプログラミングで作れるアプリやサービスとハードウェアではだいぶ違う。ましてバイオや医療はまったく別の話だ。ビル・ゲイツもマーク・ザッカーバーグもハーバードのドロップアウトですばらしいプログラムを書き成功の一歩を踏み出した。しかしバイオ、医療となると長期にわたる専門教育と研究開発に携わる期間がどうしても必要だ。大学を1年でドロップアウトして医療機器なんか作れるものではない。投資家はファウンダーが何を作ろうとしているのか十分注意を払う必要がある。 

著名なベンチャーキャピタリストでDFJのファウンディング・パートナーのティム・ドレイパーがシード資金を提供したことでエリザベス・ホームズは信用を得て大がかりな詐欺が可能になった。その点について責任があるのではないかと尋ねると―

ベンチャー投資家は投資先のファウンダーを大切にしなければならない。それに家族や友達を大切にする必要がある。ドレイパーはエリザベス・ホームズの父親と友だちで娘同士も親友だった。ドレイパーは両方の理由でエリザベス・ホームズをかばおうとしたのだと思う。結果として難しい立場になったが。

と答えた。カラカニスはまだクレイモデルもろくにできてに最初のTeslaを買ってイーロン・マスクを助けたことで有名だが、最近マスクが苦境に陥っていても「必ず切り抜ける。そういう男だ」という。ドライなニューヨーカーのようにみえて日本人的な義理人情を重んじる男のようだ。最後にTechCrunchの読者に一言求めると、こう語った。

世界を良い方に変えていくのは国家でもNPOでも口先だけの評論家でもない。資本主義はとかく非難される。ゲイツ、ベゾス、マスクらが金を儲けすぎだというのだ。しかし私はそうは思わない。 彼らは病気や貧困の追放、宇宙旅行の実現など人類に役立つ目的に向けて儲けた金を賢明に使っている。資本主義は人間の創造性を最大限に発揮させる場だと思う。起業家には世界を良い方向に変えるという強い目的意識とビジネスを成功させるインセンティブがあるからだ。しかしスタートアップを立ち上げるのは簡単ではない。たいへんな仕事だ。ファウンダーは支援を必要とする。いくら良いアイディアがあっても最初のひと押しとなる資金がなければ埋もれてしまう。だからぜひともリスクを取って彼らをサポートして欲しい。

カラカニスは「エンジェル投資家」で「たとえ自分にまとまった資金がなくてもエンジェル投資家になる方法ある」としていくつもの方法を詳しく説明していた。このあたりはぜひ本で読んでいただきたい。余談だが、日本茶の喫茶店の奥にある個室という一方変わった場所がインタビュー会場だったが、カラカニスは「きみは何がいい? グリーンティーか? アイスかホットか? ではアイス・グリーンティーを3つだ」とたちまち場を仕切ってしまった。なるほど大型ベンチャーキャピタルのような整然とした組織のパートナーになって会議で同僚に投資先についてプレゼンしたりするのは向かないのかもしれないと納得した。

なお、カラカニスは今週木曜(9月20日)に渋谷ヒカリエで開催されるTech In Asiaカンファレンスに登壇する予定。

滑川海彦@Facebook Google+

書評:Bad Blood――地道な調査報道が暴いたシリコンバレー最大の嘘

シリコンバレーでは毎年千の単位でスタートアップが生まれている。その中で全国で名前を知られた会社になるというのはそれだけで大変なことだ。

指から一滴の血を絞り出すだけで多数の病気が検査できると主張したTheranosはそうした稀有なスタートアップとなり、続いて真っ逆さまに転落した。

Wall Street Journalの記者、ジョン・カレイルーの忍耐強く勇気ある調査報道が起業家、ファウンダーのエリザベス・ホームズとそのスタートアップの実態を暴露した。これによりバイオテクノロジーの新星は、嘘で塗り固められた急上昇の後、あっというまに空中分解した。Theranosはシリコンバレーの歴史上前例のない大規模な詐欺だった。

Bad Bloodは調査報道報道の金字塔だ。Theranosが崩壊し、弁護士たちという盾を失ったことはこの本に大いに役立った。WSJの記事ではカレイルーが匿名にせざるを得なかった多数の取材源が実名で登場することができた。これにより、過去の多数の記事を総合し、完全なストーリーとすることが可能になった。

しかしこの本は決してスリル満点でもなければショッキングな暴露でもない。地道でストレートなジャーナリズムだった。

ひとつにはカレイルーのいかにもWSJ的な「事実を伝える」という態度と文体にあるだろう。登場人物の動機や心理の考察はごくたまに挟まれるだけだ。もちろんこのスタイルはWSJを毎日読む読者には適切だろうが、一冊の本の長さになるとややカリスマ性を欠くともいえる。

エリザベス・ホームズとナンバー2だったラメシュ・”サニー”・バルワニが連邦検事により起訴されたのだから、公判でさらに事実が明らかになってから本にすべきだったという意見もある。しかし私はそうは考えない。というのも詐欺の手口自体は比較的単純なだったからだ。

事件の核心にあるのは投資家も消費者も重大な判断をするにあたって過去の経験や評判を頼りにしがちだという点だ。またTheranosは小さな雪玉が転がっていくうちに大雪崩を引き起こす現象の例でもある。引退した有名なベンチャーキャピタリストがシード資金を提供した。その実績がTheranosを有名にし、他の投資家を呼び込んだ。10年の間にTheranosの取締役会には現国防長官のジェームズ・マティスやヘンリー・キッシンジャーを始め大勢の有名人が集まった。

その中にはNews Corporationを通じてWall Street Journalの所有者でもあったルパート・マードックがいた。この大富豪は1億2500万ドルをTheranosに投資していたことが本の最後で明かされる。マードックはシリコンバレーのあるディナーでホームズにに会った。

ディナーの席上でホームズはマードックのテーブルにやって来て自己紹介し、少しおしゃべりした。 ホームズはマードックに強い印象を与えた。後日マードックは(投資家の)ユリ・ミルナーに話したところ、ホームズを大いに称賛したので印象はさらに強められた。

しかし他の有力ベンチャーキャピタル会社とは異なり、マードックはなんのデューディリジェンス(適正な調査)をしないまま多額の投資を決めた。84歳になるマードックはデータより直感に頼って行動するほうであり、これまではそれでうまく行っていた。

マードックは電話を一回かけただけで1億2500万ドルを投資した。普通の人間には息をのむような額でもMurdochにとってははした金だったようだ。報道によればマードックの資産は170億ドルだという

マードックにとって経験則に従って行動したことは資産の1%以下の損失だった。しかも損金処理によって税金が安くなったはずだ。つまり誤った投資をしたといってさしたる痛手を受けたわけではない。

このあたりがこの本の弱点かもしれない。2008年の金融危機では抵当証券の破綻によって普通の人々が何百万人も家を失ったのに対し、Theranosの詐欺で被害を受けたのは大富豪ばかりだった。

しかしちょっとした手間が愚かな投資を防止できた可能性はある。たとえばLinkedInを少し検索するだけでTheranosでは人員の出入りが異常に激しいことがわかったはずだ。これは企業文化と経営陣になにか根本的な問題があることを示す可能性が高い。質問する気さえあれば答えは手近なところにいくらでも転がっていた。

血液検査を受けた消費者の被害を跡づけるのは投資家、社員の場合以上に難しい。Theranosの詐欺が深刻な被害を及ぼしたのはこうした血液検査を受けた人々のはずだ。Edisonと呼ばれたTheranos独自の機械による検査結果はきわめて信頼性が低く、ときにはあからさまな捏造さえ行われた。カレイルーの著書では
Theranosの検査が死亡率を上昇させたというはっきりした証拠は示されていない。【略】

Bad Bloodは〔映画キリング・フィールドと〕似ている。地味で、スリルを盛り上げようとはしない。しかしそこが優れている点だ。この本はわれわれのシリコンバレーに対するステロタイプにいわば針を刺して血を一滴絞り取る。シリコンバレーの投資家やファウンダーは優れた人々であり愚行とは無縁だという通念だ。もちろんそんなことはない。Theranosはそれを思い出させるためのかっこうのキーワードとなるだろう。

画像: Michael Loccisano / Getty Images

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滑川海彦@Facebook Google+

VCたちはどれだけ稼いでいるか

ベンチャーキャピタルは不透明な業界と思われているので、われわれの多くが、平均的なVCの年収などを知らなくても当然だ。

しかし、ベンチャー企業の報酬に関するJ. Thelander Consultingの調査報告書を見ると、やはりVCたちは大金を稼いでいる。

では、どれだけ? そう、VCたち204名のうち(男172女32)、平均的なゼネラルパートナー(GP)の今年の予想年収は63万4000ドルだ。この中には2017年の業績に対するボーナスも含まれる。

VC企業の規模によって、平均年収に差がある。たとえば運用資産残高(AUM)が2億5000万ドル未満のVC企業のVCたちは、それより大きなVC企業のVCよりも年収が低い。

[VCたちの2018年平均総報酬]

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VC企業でランクのトップにいるGPたちは、報酬パッケージも最大だ。彼らの年額ボーナスの平均は、アソシエイトパートナーやエントリーレベルの投資家たちの平均基本給より大きい。

この調査は、Sequoias, NEAs, Kleiner Perkinsといった、AUM 数十億ドルクラスの世界的VC企業を調べていない。しかし上の結果を外挿すれば、彼らはもっと稼いでいるだろう。

注記: 実際の年収は、上記にVC企業の運用益の分け前、いわゆるcarried interestを加えた額である。

〔訳注: VCといえば個人のVC、VC firmといえばVC企業のこと。〕

[あるミーティングでVCたちの真実を垣間見た](未訳)

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

スタートアップは国際投資をいかに確保できるか

【編集部注】Jose DeustuaはペルーのアクセラレーターUTEC Venturesのマネージングディレクター。UTEC Venturesはペルー最大の投資イベントPeru Venture Capital Conferenceを開催している。

中南米でスタートアップが資金を調達するのは、砂漠のど真ん中で水飲み場を探すようなものだ。どこかにあるはずだ、というのは分かっているが、タイミングよく見つけるのは死活問題だ。

そうした状況であっても、この地域におけるベンチャーキャピタル投資はこれまでになく活発になっている。Andreessen HorowitzやSequoia Capital、そしてAccel Partnersなど主要各社がコロンビア、ブラジル、メキシコといったマーケットで創業への投資を行なっている。しかし同時に、スタートアップ創業者たちは彼らの周りで起こっている巨額投資のニュースにじれったい思いでいるかもしれない。というのもスタートアップ創業者のほとんどが投資ステージに近づくのだが、往々にしてそれは蜃気楼以外の何物でもないと認識する。

これは中南米だけの問題ではないだろう。世界中どこでもスタートアップは投資家探しに苦労している。ベンチャーキャピタルは次のユニコーンを探し出そうと果てしない追求を続け、これまでより少ない案件により多くの資金をつぎ込んでいる。米国欧州においてベンチャーキャピタルの案件数は減少していて、確立されたエコシステムに身を置く起業家ですら、ビジネスを展開するための材料を探そうと遠くに目を向け、起業家の多くは中南米などの新興マーケットに向かっている。

スタートアップ創業者が新興マーケットの人間であれ、外国人であれ、幸いにも会社を大きくするために必要な投資を海外から探し出す方策はある。以下、我々がペルーで展開しているUTEC Venturesアクセラレータープログラムに参加しているスタートアップに勧めていることを紹介しよう。これはあなたにも勧めたいことだ。

シード期の資金調達はまずローカルで

新興マーケットのスタートアップとして、ローカルからの投資を見つけ出すのは簡単なことではない。事実、だからこそまず海外からの投資をあたるのだろう。しかし、手始めにローカルからのシード投資を探すというのは、その後に控える海外からの投資確保にまず必要なことだ。

たとえば、ペルーでは昨年、スタートアップにシード資金として720万ドルが投じられた。そのうち100万ドルが海外ファンドからのものだった。これは、新興マーケットに関心のある海外投資家は、シードラウンドにおいてはそれほど活発ではなく、企業がそれなりの価値を示してからのラウンドに関心を持っていることを示している。

海外投資家の関心を集めたければ国際的なスタートアップであるべき

そのため、我々は全てのスタートアップにシード期における1回目、2回目の資金調達はペルーで行い、その後海外からの投資を模索するようアドバイスしている。これは他の新興マーケットにおいても言えることだ。

最初のラウンドで資金を調達するために最も重要なことは、確固としたチームを有していること、そして客を引きつけ、また地元の競争相手より優れたビジネスアイデアを持っていることを示すことだ。これらを満たせば、ローカルでシード資金を調達するのはそう難しいことではないだろう。ローカルのエンジェル投資グループとネットワーキングをする時や投資イベントの時に必要なのは、良い売り込み資料といくらかの忍耐力だ。

さらに大きく競争の激しいマーケットで成功するためには

もし海外の投資家をひきつけたいのなら、国際的なスタートアップでなければならない。言い換えると、国際的な投資機関のトップに向き合う前に、より大きく競争の激しいマーケットでプロダクトを売ることができると示す必要がある。ペルーと中南米における新興マーケットのスタートアップにとって、これは中南米で最も発展しているメキシコ、ブラジル、アルゼンチンのマーケットに進出することを意味する。

例として、コロンビアの配達サービスRappiを挙げる。Andreessen Horowitzが主導した、初の大きな国際投資で2016年初めに資金を調達したのち、Rappiはメキシコへと事業を拡大した。その1カ月後にシリーズBラウンドを実施。今年初めには、ドイツの食料配達会社主導のラウンドを実施し、そこにはたくさんの米国投資家も加わって1億3000万ドルを調達した。

同じことが、中南米以外の新興マーケットでもいえる。ベンチャーキャピタル投資で西欧諸国に遅れをとっている東欧では、多くの起業家が自国で商売を成功させるとすぐさま西欧に進出し、ビジネスを最初から立ち上げたりそこで拡大させたりする。成熟したマーケットからの資金調達をしたいと考えているなら、そうしたマーケット、少なくとも同規模のマーケットに拠点を置くべきというのはこれで明らかだろう。すなわち、国際投資を模索する際に最初にフォーカスすべきは、現地マーケットでローカル企業になることだ。それから、成熟したマーケットー米国やメキシコ、西欧または別のところーでそれまでに収めた成功を再現させればいい。

国際投資の全てが国際VCによるものとは限らない

国際ベンチャーキャピタルから目がくらむような投資を確保するというのに注意がいきがちだが、思いのままに国際投資を確保するには他にもたくさんの方法がある。

新興マーケットの政府は、経済成長のエンジンとなる自国のスタートアップエコシステムを活性化させるようなプログラムを急激に増やしている。国内でビジネスを立ち上げると決めた起業家に対しエクイティフリーの資金を提供するという形でサポートするなど、政府による多くのプログラムが展開されるようになっている。

中南米のような新興マーケットでは大企業による投資が重要

中南米だけでも例はたくさんある。たとえば、Start-Up Chileはチリから世界に進出するようなビジネスを立ち上げようとする起業家に最大8万ドルを提供する。プエルトリコのParallel18は同様の趣旨で7万5000ドルをあてる。ペルー政府も、スタートアップがペルーでソフトローンチするのを最大4万ドルの提供でサポートするプログラムを、きたるPeru Venture Capital Conferenceで発表する計画だ。

他にも手段はある。中南米のような多くの新興マーケットでは、コーポレートキャピタル、または大企業のスタートアップ投資が非常に大きな役割を果たす。事実、米国のテック大企業Qualcommの投資部隊、Qualcomm Venturesは中南米において最も活発なグローバル企業投資家となっている。 NaspersやAmerican Express Ventures、他企業のファンドもこの地域のスタートアップに盛んに関心を寄せている。

外国政府によるサポートの増加、そしてグローバル展開する大企業の関心も併せて、国際投資を確保することは実際に可能であり、あなたが思うほど難しいことではない。国際ベンチャーキャピタルから資金を調達するにはいくつかオプションがあるが、これから打って出ようとしているマーケットでどういう選択肢があるのか、時間をかけて検討した方がいい。

だから、新興マーケットでローカルの起業家なのかそれとも外国人の起業家なのかに関係なく、国際投資を模索しない手はない。鍵となるのは、グローバル視点で考えることと、直面している問題の解決にテクノロジーを使うことだ。その上で、まずは自国でそれなりの成果を出し、それを今度はさらに大きなマーケットで再現させる。一歩踏み出すと打開するための手段がある。それをうまくつかめれば、投資の井戸は結局枯渇しているわけではなかった、ということに気づくだろう。

イメージクレジット: Loskutnikov / Shutterstock

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(翻訳:Mizoguchi)

Disrup SF:サイアン・バニスターが高校中退からエンジェル投資家への道を語る

今日(米国時間9/5)、サンフランシスコで開催中のTechCrunch SF 2018でFounders Fundのパートナー、サイアン・バニスターが15歳のホームレスのティーンエージャーからトップクラスのエンジェル投資家になった驚くべき道筋を語った。バニスターはUber、Thumbtack、SpaceX、Postmates、EShares、Affirm、Nianticといった著名なスタートアップへの投資家だ。

バニスターは今朝のTC Disruptでストリートチルドレンの一人がベンチャーキャピタリストに転身することを可能にするカギとなったいくつかの重要なポイントを説明した。その一つは「次のステップ」に集中する漸進主義だ。。バニスターはティーンエージャーの頃、いつも次の食事、次のシャワーを得るために必死だった。そして個人主義、良いメンターを得ること、テクノロジー、飽くなき好奇心も大きな役割を果たした。

バニスターは「金を稼ぐこと」―つまり資本主義に夢中だった。それが結局自分の人生を救ったのだという。バニスターの「次の一歩」は食事やシャワーを得ることから始まったが、やがて職を得ること、新たなスキルを身につけることへ階段と上っていった。

バニスターはこうしたステップを「ゲームのレベルをアップしていくこと」と考えていた。

良きメンターに恵まれてテクノロジーに目を開くことができたのが次の大きな幸運だったとバニスターは言う。

バニスターはコンピューターの使い方を習い、やがてオンラインの世界に入り、プログラミングができるようになるとハッカー文化を知り、テクノロジー企業で初級の職を得ることができた。

「突然、生まれて初めて、私の頭脳はフル回転し始めました」とバニスターは言う。

こうして異例のコースをたどってテクノロジーの職を得たが、幸運なことに「決まりきったルール」を守らないことでクビになることはなかった。それどころか創造性を自由に伸ばすよう励まされた。彼女は昇進し、その結果LinuxやBSDを習うことができた。その後の2年でバニスターはインターネットの仕組みを学び、ルーター、DNSサーバー、メールサーバーのセットアップができるようになった。

バニスターは高校のドロップアウトであり、大学には一度も行ったことがない。

サンフランシスコに移ってスタートアップで働き始めたところ、折よくその会社がCiscoに買収され、バニスターも多少の恩恵を受けた。これを資金として彼女は有望そうなスタートアップへの投資を始めた。

「私の最初のエンジェル投資先はイーロン・マスクのSpaceXでした。とても怖かったんですが同時にエキサイティングな経験でした…以来、いってみれば、中毒してしまったといえるでしょう」とバニスターは言う。

賢明な投資が続き、バニスターはFounders Fundにパートナーとして迎えられた

「私はまったく新しい分野に飛び込み、知的にも全力を尽くして働くことができるようになりました」とバニスターは語った。

どうやってそんな成果を収めることができたのかと尋ねられて、バニスターは、「言えるのは私はいつも好奇心の塊だったということです。私は私より頭がよくて、もっと能力のある人達に囲まれて過ごすようにしました。これが私がプレイしてきたゲームです。今でもこのゲームを続けています」と答えた。

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Y Combinator 2018夏クラスのデモデーをビデオでチェック


先週マウンテンビューのコンピューター・ヒストリー・ミュージアムで開催されたY Combinator 2018夏のクラスのデモデーをビデオでまとめた。TechCrunchではすべてのスタートアップを紹介している。1日目のスタートアップ63チーム(ハイライト10チーム)、2日目のスタートアップ59チーム(ハイライト10チーム)。

会場の外にはUberやLyftの車が行列していたが、ドライバーたちは頭いい。Qurasense(1日目)は生理の血液から各種診断ができるというもの。Papa(1日目)は「オンデマンドでお孫さんを提供」というユニークなサービス。高齢者と大学生を結びつけて高齢者の社会的孤独という大きな問題を解決しようとしている。

2日目にはYCグループでスタートアップクラスを運営するYC CoreのCEO、Michael Seibel(Justin.tvの元CEO)に話を聞くことができた。スタートアップや投資家のビジネス成功に対する判断も社会的な要素を敏感になってきたという。クリプトやバイオのスタートアップが目立つようになったが、YCではどのようにスクリーニングしているのかと尋ねた。Seibelは「クリプトの場合は実際に何かの問題を解決するテクノロジーをもたらしているのかを見る」と答えた。バイオの場合、専門性が高いだけに判断はむしろ容易なようだ。実際バイオ関係のファウンダーは博士号保持者が多く超高学歴ぞろいだ。インタビュー全体は下のビデオを参照。


いずれにせよ、YCデモデーはシリコンバレーの最新のトレンドを一箇所で感じ取れるまたとないチャンスだと感じた。

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ビジネスチャットのSlack、 さらに4億ドルを調達中――ポストマネーは70億ドル以上か

Slackはビジネスパーソンが社内、社外で共同作業をすることを助けるプラットフォームだ。手軽にチャットし何百というフォーマットのデータを簡単に共同利用できる。こここ数年の急成長は目をみはらせるものがあった。最近ではアクティブ・ユーザー800万人、うち有料ユーザー300万人というマイルストーンを達成している。このSlackが現在さらなる大型資金調達に動いている。

TechCrunchがつかんだところでは、Slackは新たなラウンドで4億ドルかそれ以上の資金調達を狙っている。ポストマネーの会社評価額は少なくとも70億ドルになるはずだ。この2資金を上乗せできれば、会社評価額は2017年の20億ドル以上ジャンプするだろう。Slackの前回のラウンドはSoftBankがリードし、51億ドルの会社評価額で2億5000万ドルを調達していた。

われわれは複数の情報源から新しい投資家であるGeneral Atlanticがラウンドをリードすると聞いている。新規投資家にはDragoneerも加わる可能性がある。他の投資家についてはまだ不明なところもあるが、PitchBookによればSlackの資本政策表にはすでに41社の株主が掲載されているという(Slackのブログのタイトルをもじって言えば「何人かが投資中…」というところだ)。またこのラウンドが実施中なのかすでにクローズされたのかについてもまだ情報がない。【略】

ビジネスチャット分野には強力なライバルも参入している。MicrosoftはTeamsを、FacebookはWorkplaceをそれぞれスタートさせている。Microsoftは今年に入ってすでに20万社の有料ユーザーを獲得しており、FacebookもWalmartのような巨大ユーザーを引き入れている。.

しかしSlackのボトムアップによるユーザー拡大戦略は、こうした巨大企業の攻勢に対しても有効なようだ。Slackはシンプルで使いやすいが、ライバルのプロダクトは多機能なだけに複雑だ。Slackはメッセージング機能を優先しあくまでライトなシステムを目指している。Slackが多くの企業にいつのまにか入り込むことに成功しているのはこうした特長によるところが大きい。【略】

テキサス州オースティン、2016年3月15日:SXSWのステージに登壇したファウンダー、CEOのスチュワート・バタフィールド。Flickrの共同ファウンダーとしても知られる。(撮影:Mindy Best/Getty Images)

Slackはまだ社員1000人程度で、そのプレゼンスからすれば比較的小規模な会社だ。同社は今年IPOはしないと発表している。今回のラウンドはライバルとの競争とさらなる成長を助けることになるだろう。

われわれはSlackに取材を試みたが、同社は「噂や推測についてはコメントしない方針だ」とのことだった。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

SoftBankの投資戦略を検討する――WeWorkへの5億ドルもテーマの一つに過ぎない

〔この記事はJason Rowleyの執筆〕

今週、WeWorkは中国における子会社、WeWork ChinaがSoftBankTemasek Holdings他から5億ドルの追加投資を得たことを発表した。これにより中国法人の価値は1年前の10億ドル(投資後会社評価額)から50億ドルにアップした。WeWork Chinaは前回の投資ラウンドをほぼ1年前、2017年の7月に発表している

SoftBankが同一会社に複数回投資することはめったにない。この記事の執筆時点で、Crunchbaseのデータによれば、SoftBank自身は144社に175回の投資を行っている。このうち、2回以上SoftBankから投資を受けた会社は23社だ。 このうちWeWorkは、中国法人も加えて、合計4回の投資を受けており、SoftBankの投資として最多となっている。

こうした実績から判断すると、SoftBankの戦略は各ビジネス分野におけるトップ企業に投資することのようだ。株式の持ち分として会社評価額の何パーセントにあたるのか外部から判断しにくい場合もあるが、SoftBankからの投資は各企業における最大の投資であることが多い。

たとえばWeWorkの場合を見てみよう。WeWork本体と現地法人、WeWork China、WeWork Indiaなどを含め、SoftBankの投資は単独出資であるか、投資ラウンドをリードしているかだ。また投資シンジケートの一員である場合もその中で最大級の金額を出資している。

特に市場拡大のチャンスが大きい分野の場合、SoftBankはその地域でリーダーの会社に投資することが多い。 なるほど世界征服というのは難しい企てだが、SoftBankは非常に巨大なので、ある事業分野について各地域のトップ企業の相当部分を所有することができる。結果としてSoftBankがその分野の世界のシェアのトップを握るチャンスが生まれる。

これは大胆な戦略だ。リスクも大きいし、巨額の資金を必要とする。しかしSoftBankは多くの急成長市場で最大の金額をコミットする投資家となっている。

不動産は投資テーマの一つに過ぎない

WeWorkはSoftBankの不動産投資の一例だが、下に掲げた表に同社の不動産、建設関係の投資の代表的なものをまとめてある。 順位はSoftBank(単独の場合、シンジケートの一員の場合双方を含む)の投資額だ。また関与したラウンド中に占めるSoftBankの投資額の比率も掲げておいた。

しかし、成長中の大型市場で成功を収めているトップ・スタートアップに巨額の投資を行うというSoftBankの戦略は不動産分野に限られない。オンライン・コマース、ロジスティクス、保険、ヘルスケア、そして大きな注目を集めたところではライドシェアとオンデマンド交通機関にもSoftBankは大型投資を行っている。

また人工知能スタートアップ分野で大きなポートフォリオを持っていることも見逃せない。SoftBankはNvidiaImprobableBrain CorporationPentuumなどに投資している。またMapboxCruise Automationに投資していることはSoftBank自身の自動運転車プロジェクト、SB Driveにも有利だろう。

SoftBankは古いものもすべてリニューアルしていく戦略の一例だ。 1990年代後半、SoftBankとファウンダーの孫正義はすでにテクノロジー分野で最大の投資家の一人だった。当時も現在同様、孫正義はSoftBankのポートフォリオをいわばバーチャル・シリコンバレー化しようとしていた。つまり投資先企業同士が協力することによってビジネス上のシナジー生むプラットフォームの構築だ。投資テーマを絞り込むSoftBankの戦略を見ると、今日、こうした大胆で愛他的な構想が実現する可能性は十分にある。しかし孫正義はテクノロジー投資の第1ラウンドではドットコム・バブルの崩壊で多額の損失を被ったことが知られている。第2ラウンドでSoftBankが成功するかどうかは今後に待たねばならないだろう。

画像:Ufuk ZIVANA / Shutterstock

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

ハイテク企業が公開に足踏みをする一方で、バイオテックのIPOは上向き

収益と売上予想に基いて投資の判断を行う人びとにとっては、バイオテックのIPOは魅力的なものではない。新しい市場参入者たちは、基本的に利益を挙げないどころか、その大部分は売上さえ立っていないのだ。株式公開は多くの場合、治験に向けての費用捻出のために行われるが、その先さらに何年にわたって赤字が続く。

Crunchbase Newsを含むベンチャーキャピタルニュースが、バイオテック企業のIPOに対して大きな扱いをしない理由の1つが、そうしたパターンによるものなのだろう。まあ、有名なインターネット企業が取引初日に躍進するところを見たり、思わぬ不調に沈むところを面白がる方が楽しいのだから仕方がない。

しかし、ハイテク企業へ固執する余り、私たちは大局を見逃している。実際には、ハイテク企業よりも、バイオテックとヘルスケアのスタートアップIPOの方がずっと多いのだ。例えば今年の第2四半期には、米国でベンチャー支援を受けたバイオテックとヘルスケア企業の少なくとも16社が株式を公開した。これに比べるとハイテクスタートアップの公開は11社に過ぎない。Crunchbaseのデータによれば、過去4年間のうち3年間で、バイオテック企業の公募件数はハイテク企業のIPO件数を上回っていた。

以下に述べる分析では、バイオテック公募のペースのスピードに追いついて、状況を評価し、いくつかの注目株に光を当ててみたいと思う。

バイオテックはハイテクを上回っている

上で述べたように米国のバイオIPOは、ほとんどの年でハイテク公募の件数を上回っている。しかしながら、総額としてみたときにはバイオ企業たちの調達額は少ない。この理由の一部は、最大規模のハイテクIPOは、最大規模のバイオIPOよりもはるかに大きいことが多いからだ。下のグラフでは、過去4年間の2つのセクターを比較している。

世界的レベルでは、これらの数字はさらに大きい。Crunchbaseのデータを使用して、過去4年間にわたって世界中でVCが支援したバイオテックおよびヘルスケアIPOのグラフも下にまとめてみた。私たちは2018年を半年過ぎたばかりだが、バイオテックとヘルスIPOは既に過去3年のどの年よりも多額の資金を調達している。

基本が動かして、サイクルが増幅させている

スタートアップに関連するすべてのサイクルが上昇傾向にあることは明らかである。VCの景気は良く、後期ステージの規模は大きくなり、そしてIPOとM&Aの動きも盛り上がっている。

それがバイオIPOにとってどのような意味を持つのだろうか?公募のペースと規模の上昇は、主に強気な市場状況の結果なのだろうか?あるいは、現在のIPO候補者たちが、過去の候補者たちよりもより魅力的なのだろうか?

私たちは、最高のパフォーマンスを誇るバイオテック投資家の1人でありARCH Venture Partnersの共同創業者でもあるBob Nelsenに話を聞いた。彼によれば、現在の状況は「基本が動かして、サイクルが増幅させている」ちょっとしたIPOブームなのだ。

スタートアップの技術革新のペースが過去よりも速いため、より多くの企業が市場に歓迎されるIPOを行っている。Nelsonはこれを「ついに本質的なデータ駆動型のイノベーションへとたどり着いた、バイオテックにおける過去30年間の投資と技術革新の成果だ」と述べている。それは、より多くの治療技術、疾患修飾治療(disease-modifying therapies)、そして予防技術につながるものだ。

しかし私たちはまた、バイオテックのマーケットサイクルの強気の局面にも助けられている。それは、違う状況下ではおそらく未公開のままにとどまっていたであろう企業たちを、公開へと促している。そしてまた、既にIPOへ向けて準備を進めていたスタートアップたちに対しても、より大きな結果を提供している。

大きな成果を挙げたIPOの最新の例は、遺伝的に改造された赤血球を用いて薬品を開発するRubius Therapeuticsだ。今週、この創業5年の会社は、20億ドル以上の初期評価額の下に、2018年最大のバイオ公募となる2億4100万ドルを調達した。このマサチューセッツ州ケンブリッジの企業は、これまでに約2億5000万ドルの資金を調達しているが、まだ治験の前段階だ。

今年は既に、相当規模の複数の公募が行われている。例えば製薬会社のEidos TherapeuticsHomology Medicinesは、最近それぞれ8億ドルの評価額を付け、一方Tricidaは12億ドルの評価額を付けている。(2018年の、世界的なバイオならびにヘルス企業公募の一覧についてはこちらを参照)。

派生市場のパフォーマンスに関しては、上昇も下落も見られたが、いくつかの大きな上昇もみられた。昨年バイオテックは、米国証券取引所で最もパフォーマンスの良いIPOたちを先導した。Renaissance Capitalによれば、6つのトップスポットのうち4つをバイオ系が占めた。それらを牽引したのは製薬会社のAnaptysBioArgenxUroGen、そして農業バイオテックスタートアップのCalyxtである。

そしてこれから

概して楽観的なバイオVCたちは、既に始まっているバイオIPOの増加に対して、複数の理由を挙げている。

Nelsonは、大手の製薬会社やバイオテック企業内の、社内イノベーションのペースの遅さを原因として指摘する。競争力を維持し、新製品のパイプラインを構築するために、大手企業たちは徐々に、スタートアップや公開後間もない企業の買収をする必要に迫られている。

また、ヘルスケアスタートアップのために用意された大量の新規資金もある。2017年の米国では、ヘルスケアにフォーカスするベンチャーキャピタリストたちが91億ドルの資金調達を行った。Silicon Valley Bankによれば、この数字は2016年に比べて26%増加している。

単一のファンドを通して、ハイテクとライフサイエンスの両者へ投資を行うベンチャーファームからも、より多くの資金が流れ込んでいる。こうしたVCのリストには、投資にすぐに使える手元資金を持つPolaris PartnersFounders FundKleiner Perkins、そしてSequoia Capitalなどが含まれている。

それでもNelsonは、IPOの強気市場の奥底では、公募の質の平均が下落傾向にあることを認めている。とはいえ、彼は以前のサイクルでも同様の屈折点は経験しており、「サイクルの同じ地点を比べると、その質は著しく良い」と述べている。

[原文へ]
(翻訳:sako)

Image Credits: Li-Anne Dias

書評:『エンジェル投資家 』――Uberで場外満塁ホームランのジェイソン・カラカニスが投資の極意を説く

TechCrunch翻訳チームの同僚、高橋信夫さんとジェイソン・カラカニス(Jason Calacanis)の『エンジェル投資家』を翻訳したので書評かたがたご紹介したい。

ジェイソン・マッケイブ・カラカニスはUberが誰も知らないスタートアップだったときに2万5000ドルを投資した。それが今年は3億6000万ドルの評価額となったことで、多少のことには驚かないシリコンバレーもショックを受けているらしい。

この本を読んでいると知らず知らず自分もエンジェル投資家として起業の修羅場に出ているような気分になる。この迫力、説得力はジェイソン・カラカニスというベンチャー投資家として異色の人物の経歴と分かちがたいように思う。

ジェイソンはもともとインターネットのセレブだったが、初期のTechCrunchともいろいろ縁があった。2003年というインターネットの最初期にブログの将来性をいち早く認めてWeblogs. Incというスタートアップを立ち上げ、後にAOL(現在のTechCrunchの親会社でもある)に売却することに成功した。Weblogsという社名が時代を感じさせる。当時ウェブメディアはウェブログと呼ばれており、ブログはその短縮形として生まれた。ちなみにTechCrunchの姉妹ブログ、EngadgetもWeblogs出身だ。

ジェイソンはその後TechCrunchのファウンダー、マイケル・アリントンと共同でスタートアップによるプレゼンを中心とするカンファレンスを立ち上げた。これが現在のDisrupt SFの前身となる。

最初のカンファレンスはサンフランシスコのプラザホテルのボールルームで開催された。今から考えるとずいぶんこじんまりした会場だったが、当時のTechCrunchはまだ知名度の低いブログだったので取材してその盛況に驚いた。ジェイソンと初めて会ったのはこの時で、小柄ながら全身からエネルギーを発散して会場を仕切っていた(右写真)。

その後マイクと意見の相違があったらしくTechCrunchカンファレンスからは離れ、ロサンゼルス近郊に移ってMahaloという人力検索エンジンを立ち上げた。このコンセプトは今のQuoraに近いものでこれも先見の明があったと思うが、大ブレークするというところまではいかなかった。その後、最初期のスタートアップに少額の資金を提供する投資家になったと聞いたものの、当時ははっきり言ってその意味をあまりよく理解できていなかった。

ところがUberがアラジンの壜から出た魔神のようにあっという間に世界的大企業に成長するにつれ、ジェイソンがその最初期の投資家の1人だと聞くようになった。しかし翻訳にあたってAngel: How to Invest in Technology Startups(『エンジェル投資家』の原題)を読んで決して順風満帆でそこまで来たわけではないことを知った。

アメリカで成功した起業家はシアトルの有力弁護士の息子のビル・ゲイツ、大学教授の息子のラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンなど上層中産階級出身が多い。マーク・ザッカーバーグもニューヨーク近郊の流行っている歯科医の家庭に生まれた。それにこの全員がハーバード、スタンフォードに行っている。ところがジェイソンはほとんど無一物からの叩き上げだった。

『エンジェル投資家』でジェイソンは「大学の夜学に通うために地下鉄に乗るときポケットには2ドルしかないのが普通だった」と書いている。ギリシャ系(カラカニス)の父はブルックリンでバーを経営していたが破産して差し押さえを受け、アイルランド系(マッケイブ)の母が看護師の仕事でなんとか一家を支えたという。

貧しい家に生まれ名門大学の出身者でもないジェイソンがどうやってIT投資で1万倍ものリターンを得るような成功を収めたのかといえば、本人も書いているとおり強運という要素があるだろう。エンジェル投資はいつもそんなにうまくいくとは限らない。しかしうまくいくこともあるというのはジェイソンが実証しているし、いわゆる「確実な投資」にも投資であるかぎり必ず大きなリスクが潜んでいるのは最近のニュースでもよくわかる。ジェイソンによれば、「当たり前のナンバーズくじでは7桁の数字を当てなければならないがこの本の方式によって投資するなら2つの数字を当てるだけでいい」という。

その正しいエンジェル投資のノウハウを解説するのがこの本のメインの目的だ。執筆の動機はスタートアップ・エコシステムの発展のためにエンジェル投資が不可欠の要素であり、具体的な役割やノウハウを広く知ってもらう必要があると考えたからだという。主としてアメリカの読者を想定しているのでそのまま日本の事情に移しかえるのが難しい点もある(「最大のチャンスはシリコンバレーにある」など)が、スタートアップを成功させる秘密を投資家、起業家両方の立場から非常にわかりやすく説明している。ベンチャー投資特有の用語についてもそのつど意味を書いているのでその面の予備知識はあまり必要ないだろう。

 

ただ「スタートアップ」だけはあまりに当たり前なコンセプトだったと見えて初出で定義していない(「スケーリング」を説明するところで触れている)。TechCrunchのほとんどの読者にはこれで違和感ないと思うが、一般読者にはまだ馴染みの薄い言葉だったかもしれない。逆に本書で「スタートアップ」というコンセプトとその必要性が広く認識されるきっかけになればいいと思う。

本書は32章に分かれており、それぞれ内容を要約するタイトルが付されている。章立てはおおむね、エンジェル投資の概要とメリット、実際の業務のノウハウ、注意すべき点、エグジット(現金化)、といった順序だ。ただし章は並列的なので読者は興味がある部分から読み始めることができる。

本書には日本を代表するベンチャー投資家の1人、孫泰蔵氏が序文を寄せている。たいへん率直かつ的確な内容紹介だと思うのでぜひご一読いただきたい。

ちなみにジェイソンは何度か来日している。左の写真は宝くじ売り場の招き猫の前でおどけているところ。左手を挙げている招き猫は「人を招く」縁起物だそうだ。ジェイソンはこの本で「私はどんなプロダクトが成功しそうかなどまったくわからないのだと気づいた。私は成功しそうだと思う人間に投資することにした」と書いているが、Uberを引き寄せたのは日本の招き猫の力もあったかもしれない。

エンジェル投資家 リスクを大胆に取り巨額のリターンを得る人は何を見抜くのか』(日経BP刊)は通常版に加えてKindle版も提供される。

画像:Umihiko Namekawa

Chris Dixonインタビュー:Andreessen Horowitz、3億ドルの暗号通貨ファンド結成――元連邦検事が女性初の共同責任者に

シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタルの一つ、Andreessen Horowitzがビッグニュースを2つ発表した。今日(米国時間6/25)、同社は総額3億ドルの暗号通貨専門ファンドの設立を完了した。Cryptoファンドは先週、Andreessen Horowitzのリミッテッド・パートナーから出資契約を得ていた。

Cryptoファンドは最近シリコンバレーのベンチャー業界最大の話題となっていた。というのも他のベンチャーキャピタルも暗号通貨テクノロジーに対する戦略を決めようとしており、この5年間、暗号通貨への投資を着実に増やしていたAndreessen Horowitzの動向を注視していたからだ。

もうひとつのビッグニュースは、創業9年になるAndreessen Horowitzに初めて(ついに)、女性のジェネラル・パートナーが誕生したことだ。Katie(Kathryn) Haunは以前からジェネラル・マネージャーを務めるChris Dixon(筋金入りの暗号通貨支持者)と共にAndreessen Horowitzの暗号通貨ファンド担当のジェネラル・パートナーに就任した。Haunの株はこの数年シリコンバレーで上昇を続けていたので同社がジェネラル・パートナーに選んだことは意外ではない。

Haunは司法省の連邦検事を10年以上務め、証券取引委員会、FBI、財務省などと協力して詐欺、サイバー犯罪、企業のコンプライアンス違反の捜査と訴追に当ってきた。Haunの略歴には司法省初のデジタル資産担当調整官という職務もみえる。中でも注目すべきなのは、暗号通貨取引所の歴史で最大の経済事件となった、Mt. Goxの不正を捜査し、オンラインの麻薬や違法物質の取引所となっていたSilk Roadを捜査するチームに加わっていた点だろう。Haunはまたスタンフォード大学ビジネススクールの講師、暗号通貨取引ネットワーク、Coinbaseの取締役を務めている。 Andreessen HorowitzはCoinbaseの最初期からの出資者で、Dixonが取締役だったためHaunと知り合ったという(2人は現在も取締役)。

今日、TechCrunchはChris Dixonにインタビューすることができた。われわれはファンドの詳細、特にDixonとHaunが投資先の暗号通貨スタートアップのエグジット(現金化)についてどう考えているかを尋ねた。これまでのところクリプト企業がエグジットに成功した例は少ない。なお、読みやすさと文章量を考慮して以下のテキストには若干の編集が行われている。

Chris Dixonインタビュー

TC: 3億ドルの出資者の大部分はもともとAndreessen Horowitzの本体のファンドの出資者だと思うが、暗号通貨ファンドの結成は今後の本体ファンドの結成に何らかの影響を与えるだろうか? つまりAndreessen Horowitzは暗号通貨分野にこれまで以上に力を入れ、反面、他の分野への投資は減少することになるのだろうか?

CD: 答えはノーだ。われわれはこれまで投資してきた分野への投資をフルスピードで続ける。Cryptoファンドの結成はこの分野への努力を倍加するということであり、コンシューマー向け、エンタープライズ向けのプロダクトだろうと、バイオ・テクノロジーだろうと、これまでのコミットメントを減少させることはまったくない。

TC: 新しいファンドが他の暗号通貨ファンドに投資することはあり得る? Union Squareはこれを積極的に推し進めているが?

CD: あり得る。しかし当面そのつもりはない。われわれは暗号通貨ビジネスについて学ぼうと考え、Polychainその他何社かに1年半前から投資を始めている。今回暗号通貨を専門とする本格的ファンドが作られ、初期段階、後期段階両方の暗号通貨プロジェクトに出資できる体制が整えられた。われわれの使命はあくまでそうしたスタートアップへの直接投資だ。もっとも何ごとであれ「絶対ない」と言うつもりはない。

TC: Andreessen Horowitzはこれまでに何件ほど暗号通貨プロジェクトに投資してきたのか? そのうちの何件かは新しいファンドに移管されるのか?

CD: われわれはこの5年で20件程度の暗号通貨投資を行っている。. [Bitcoinのライバル] Ripple は私の最初の暗号通貨投資で、2013年1月のことだった。その後、同年中にCoinbase、21.coに投資した(同社はEarnになり、今年Coinbaseが買収している)。 その他、OpenBazaar、Mediachainにも投資した。やがてEthereumがスタートして暗号通貨分野の動きが激しくなってきた。才能ある起業家や優秀な企業が参入し始めた。われわれの[既存の暗号通貨プロジェクトへの]投資は当初の枠組みのまま本体ファンドに残る。

TC: 新ファンドですでに投資を決めた案件は?

CD: いくつか検討中のプロジェクトがある。ただし決定したものはない。

TC: このファンドの投資はどのような形態になるのか?

CD: エクイティー〔株式〕投資の一部はトークンによる投資 [つまりスタートアップがトークンを発行し、投資家が購入できる場合]が行われるだろう。われわれは〔適格投資家のみを対象とする〕SAFTによる投資も実施している。 われわれはまたストレートなBitcoinやEthereumの購入という形式でも投資してきた。しかし〔Andreessen Horowitzの〕本体ファンドでは投資方法に限界に突き当たった。そこで優秀な起業家がビッグかつ重要なアイディアを実行に移そうとしており、それに経済的将来性があるなら、あらゆる方法で投資したい。そこで条件を整えた専門ファンドを結成したわけだ。

TC: そうした投資のエグジットはどうなるのか?

CD: いい質問だ。これまでわれわれは暗号通貨資産を売却したことはない。この業界のプレイヤーの多くはデイトレーダーだ。しかしわれわれは投機筋ではなく、投資家だ。われわれはどんな投資も5年から10年にわたってポジションを維持していく考えだ。こうしたスタートアップの一部が発行するトークンは自由に流通するようになるだろうから、そういう形でのエグジットも可能だろう。いちばん可能性が高いシナリオは、アーリー・ステージの暗号通貨プロジェクトに投資し、引き換えにデジタルコインあるいはトークンを受け取ることだろう。その後プロジェクトが成功すればこうしたデジタル資産はそれに応じた評価を受ける。しかし何億という人々に利用されるようになることを目標とするプロジェクトの場合、われわれはそうした目標が実現するまでエグジットを考えることはない。

TC: ファンドの出資者に対してトークンで払い戻しを行うことはないと考えていいだろうか?

CD: そのとおり。われわのリミッテッド・パートナーは通常のキャッシュを好んでいる。

TC: 投資先企業における持ち分比率についてどのように考えているか?

CD: 伝統的なベンチャーキャピタルのビジネスモデルでは10%から20%の持ち株比率を目標とする。しかし暗号通貨スタートアップの場合は固定的な持ち株比率を考えるのは現実的でない。ごく初期のプロジェクトでは持ち株比率が会社評価額と連動するからそれを目安とするかもしれない。しかし一般的に言って、われわれは率ではなく額を問題にする。この投資は元が取れるほど成功しそうか、といったことだ。次のビッグウェーブに登場する企業はわれわれがこれまで経験したのに比べて10倍も大きくなるだろう。

TC: ICOについてどう考えるか? 将来適格投資家以外にもトークンを広く販売する予定の会社にも投資する予定か?

CD:適切に実施されるならICOは暗号通貨へのアクセスを拡大し、デモクラタイズする。これは正しい考えだと思う。参加者を増やすために役立つアイディアはなんであれ歓迎だ。しかし現在実施されている多くのICOは規則を忠実に守って実施されているとは考えられていない。われわれはこうしたICOには一切関与して来なかった。われわれはFilecoinに投資しているが、このICOの対象は厳密に適格投資家に限られていた。

TC: 投資における利益相反についてどう思うか? この分野はスタートしたばかりなので同種の企業に投資する制限についてもこれまでの例とは異なる点が多いのではないかと思う。伝統的分野におけるベンチャー投資では、当然ながら、複数のライバル企業に投資するのはタブーだが。

CD: クリプト企業への投資では伝統的なベンチャー企業への投資とは行動基準が違ってくる。基本的にベンチャーキャピタルは直接の競合関係になる会社の双方に投資してはならない。しかし暗号通貨では倫理が異なる。企業同士はライバルというより協力関係にあることが多い。この分野の参加者はパイ一切れの大きさを巡って戦うのでなしに、まず協力してパイ全体を大きくしたいと考えている。われわれは競合するプロジェクトへの投資が行われないようチェックしてきた。しかし暗号通貨のような動きの速い新興マーケットでは固定的なカテゴリーで考えることは難しい。この分野での投資基準はまだ確立していないが、たとえば、暗号通貨を複数の種類支援することはあり得る。

TC: Basisの投資家の1人としてステーブルコインについてどう考えているか? 価値が不規則に変動せず安定したプロダクトを作り出そうとしているスタートアップだが、暗号通貨が広く利用されるためには価格安定性が必須だろう。ステーブルコインでは複数のプレイヤーが存在する余地があると考えるか?

TC: われわれはBasisだけでなくMakerにも投資している。両者の仕組みは大きく異なるが、われわれは相互補完的だと考えている。投資を決定する際に両者に詳しく話を聞いた。ステーブルコインというアイディアは重要だ。暗号通貨がメインストリームになるためには、現在のような価値がボラタイルな通貨でなく、アメリカ・ドルのような安定した外部の価値によって担保される仕組みが必須だ。そうした重要性を持つインフラだけに、勝者は複数存在することになるだろう。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

米、中国のハイテク商品に25%の関税発動へー制裁タイムラインを発表

米国と中国の貿易問題をめぐる協議はここ数カ月行ったり来たりしていてたが、ホワイトハウスは中国のハイテク製品に関税を課し、また中国からの米国企業への投資にも厳しい制限を設ける方針を明らかにした。

今朝(米国5月29日朝)のホワイトハウスの発表によると、トランプ政権は“産業的に重要な技術”を含んでいる500億ドル相当の中国のハイテク製品に対し、25%の関税を課す。これは、中国による知的財産権の侵害に関する調査を経て発動された通商法301条に基づくものだ。どのような製品を対象とするかはこれまで検討が続いていたが、最終リストは6月15日に発表される。今回の課税は、今年初めに発表された鉄鋼とアルミニウムへの関税とは異なるパッケージとなる。

中国企業による投資の制限については、その内容を6月末までに公表する。知的財産の保護を巡る世界貿易機関(WTO)への提訴はそのまま続行する。

こうした発表は、関係当局向けに行われるべきものだろう。とういうのも、ホワイトハウス内部、そして中国政府との一連の交渉における最新カードにすぎないからだ。

米国が産業保護を目的に中国に対しどれくらい強硬に出るか、ホワイトハウスはさまざまな意見で揺れていた。Steven Mnuchin財務長官のような財務分野の人は柔軟な策をとるべきとしているのに対し、通商代表部のRobert Lighthizerや国家通商会議ディレクターのPeter Navarroは攻めの姿勢をみせている。こうした人々がそれぞれの考えを大統領に吹き込み、案が出ては消えるという状態だった。

外に目を向けると、米国と中国は貿易を巡り長い多次元的交渉を続けてきた。米国サイドでは、クアルコム社のNXP買収の承認問題、中国サイドではZTEへの輸出再開の許可問題などを抱える。これらの交渉はまだ継続しており、数週間内に何らかの声明、または報復措置などが発表されることが見込まれる。

企業やスタートアップにとって、これらの関税方針は不安定かつ非常に不透明で、対応が難しい。新方針が発表されれば製品のロードマップやサプライチェーンを見直さなければならず、今後の新商品の展開も難しくなる。テック業界では誰も関税など求めていないが、関税が設けられると考えるのが賢明だろう。

より難しいのは、発表が迫っている投資制限だ。通常、ベンチャーキャピタルのラウンドはデューデリジェンスのために数週間かかることを考えると、新投資規制の発表のデッドラインは6月末となる。シリコンバレーの創業者たちは、ワシントンから投資制限の通達が届くことを見越し、中国のベンチャーキャピタルの資金受け入れを躊躇していることだろう。

私は以前、国家保障と中国ベンチャーキャピタルを関連づけて考えるのは大げさだと書いた。しかし結局、トランプ政権は新ルールを導入しようとしている。新たな情報がない限り、中国関連企業からの投資はなくなる。貿易をめぐって、米国と中国は駆け引きを続けており、さらなる展開が予想される。

イメージクレジット:JACQUELYN MARTIN/AFP / Getty Images

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi)

ジャーナリストから投資家への転身――元TechCrunch社員がたったひとりで立ち上げたVCファンドDream Machine

5年ほど前、Alexia Bonatsos(旧姓Tsotsis)はTechCrunchの共同編集長として働いており、スタートアップ界では名のしれた存在だった。さまざまなスタートアップやファウンダーとも顔見知りだったBonatsos。しかし彼女が本当にやりたかったのはスタートアップ投資だった。

「私はかなり早い段階でPinterestやWish(当時はまだContextLogicという名前だった)、Uber 、Instagram、WhatsAppの記事を書いていた。そのため、自分はいいタイミングにいい場所にいる(つまりラッキーだった)か、うまく自分に情報が流れるようになっているんじゃないかと感じるようになり、『もし投資したらどうなるんだろう?』と考えずにはいられなかった」と語るBonatsos。

それから彼女は複数のベンチャーキャピタル(VC)と話をしたが、それが具体的な仕事につながることはなかったため、やりたい仕事を自分で作ろうと考えた。まずBonatsosは2015年にTechCrunchを去り、スタンフォード大学ビジネススクールの1年制修士プログラムへの参加を決める(Bonatsosいわく、他の投資家と「対等に話せるくらいの知識を身につけたかった」とのこと)。そして修士課程在籍中も修了後も、Bonatsosはさまざまな起業家と面談を繰り返し、ストーリーの伝え方や情報発信のやり方、多くのフォロワーを抱える人の説得方法など、彼女がTechCrunchで培ったスキルを彼らに伝えていった。

彼女は単にネットワークを広げようとしていたわけではなく、それと同時に個人投資家から資金を集め、徐々に第一号ファンドの準備を進めていたのだ。そして昨年12月、Bonatsosは遂にサンフランシスコにDream MachineというVCを立ち上げ、2500万ドルをファンドの目標金額としSEC(証券取引委員会)への登録も完了させた。

しかしたとえ2500万ドルという調達目標に近づこうが到達しようが、(元ビジネスジャーナリストらしく)規制上のリスクを考慮して彼女は資金調達に関する情報を公にするつもりはないようだ。とは言いつつも、先日話したときに彼女はすでに7社に投資した(うち1件はトークンセールへの参加)と教えてくれた。さらに投資先の共通点については、未だに成長を続けるシェアリングエコノミー、そして最近盛り上がっている非中央集権というトレンドがヒントだと語った。

そんなDream Machineの投資先のひとつが、先週TechCrunchにも関連記事が掲載されたTruStoryだ。CoinbaseやAndreessen Horowitzでの勤務経験を持つPreethi Kasireddyが最近立ち上げたこの会社は、ブログやホワイトペーパー、ウェブサイトの情報、ソーシャルメディアの投稿などをファクトチェックできるプラットフォームを開発している。彼らは「ブロックチェーンを使い、情報のヒエラルキーを確立するシステム」を構築しようとしているのだとBonatsosは言う。なおTruStoryの株主には、True VenturesやCoinbaseの共同創業者Fred Ehrsamなども名を連ねている。

さらにDream Machineは、サンフランシスコを拠点にオンデマンドの貸し倉庫サービスを提供する、設立4年目のOmniにも投資している。倉庫に持ちものを預けるだけでなく、Omniのユーザーはプラットフォーム上で所有物を貸し借りできるため、家でホコリを被っているものを使ってお金を稼ぐことができるというのが同社のサービスの売りだ。Bonatsosも最近Omniを利用し、投資家仲間が一度着たきりクローゼットの奥にしまっていたドレスを借りたのだという。なおプラットフォームに掲載される写真はOmniが撮影し、ユーザーは知り合いだけに貸し出すか、赤の他人にも貸出を許可するか選べるようになっている。

そして3社目となる投資先がFable Studiosだ。おそらくこの企業がBonatsosの夢でもある「サイエンスフィクションを現実にするチーム」にもっとも近い。Oculus Story Studio出身者で構成されFable Studiosは、一言で言えばAR・VRコンテンツ専門のクリエイティブスタジオ。彼らは今年のサンダンス映画祭でそのベールを脱ぎ、会場では同社の初期プロジェクトのひとつである三部作構成のアニメシリーズ『Wolves in the Walls』が上映された(トレーラーはこちら)。

Fable Studiosはこれまでの調達額を公開していないが、Dream Machineの他にもShasta Venturesや起業家兼投資家のJoe Lonsdaleらが同社に投資している。

普段どのように投資先を見つけるのか尋ねたところ、Bonatsosは自分がネットワーキングをまったくためらわないタイプであることが助けになっていると答えた(実は先日ある業界イベントに参加した彼女の様子を私たちは観察していた)。

さらにBonatsosは、彼女のように唯一のジェネラル・パートナーとしてファンドを運営する人が、まだわずかではあるものの最近増えてきており、彼らとの協業や情報交換も役立っていると話す。

Product Huntの創業者Ryan Hooverもそんな“ソロVC”を立ち上げたひとりだ。現在彼はWeekend Fundという300万ドル規模のファンドを運営しており、昨年の設立以来、10社前後のスタートアップに投資している。他にもProduct Huntの初期の社員で、現在はShrug Capitalで300万ドルを運用するNiv Dror、「技術面には明るいがネットワーキングが不十分な起業家」を支援するプレシードファンドのBoom Capitalを立ち上げたCee Cee Schnugg(Boom Capital以前は、Google元CEOのエリック・シュミットが立ち上げたInnovation Endeavorsファンドで4年半勤めていた)がいる。

さらに今年に入ってからシードファンド22nd Street Venturesを設立したKatey Nilanは、ファンド立ち上げ以前、さまざまな分野でマーケティング・広報関連の仕事に6年間携わっていた。

Dream Machineをはじめとするこれらのシードファンドが、今後成長はおろか生き残れるかどうかも、もちろんまだわからない。有名なシードファンドで働くあるベンチャーキャピタリストは、シードステージ投資が「狂乱状態」にあると話す。現在、大手のシードファンドやアクセラレータープログラム、新進気鋭のファンドなどから膨大な資金が流入しており、日を追うごとに将来有望なスタートアップに投資するのが難しくなっているというのだ。

しかしBonatsosは特に心配していないようだ。ちなみにDream Machineの初回投資額は平均30万ドルほどで、投資先候補の創業者の起業経験は問わないのだという。

というのも彼女には、起業家との広大なネットワークやシード投資家の知り合いからのサポート、そしてTechCrunch時代から培ってきた直感がある。またBonatsosは、他の投資家よりもずっと早い段階での投資もいとわないと語る。

「心配するのをやめ、野心的なビジョンを持って投資に臨むだけ」とBonatsosは言う。何年間もスタートアップ界にいる彼女がよく知っている通り「不確実性が高い投資こそリターンが期待できるのだ」。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake

アシュトン・カッチャーが語るスタートアップ投資の目的と戦略

【編集部注】筆者のアシュトン・カッチャーは俳優兼投資家で、Sound Venturesの共同創業者でもある。

注:本稿の英語原文はAtriumの記事を転載したもの

これまで何度も投資先の選び方について訊かれたことがある。投資先のステージは? 収益指標は? どのセクターか? と。

しかし私は企業のステージにこだわるのではなく、難しい課題を解決しようとしている優秀な人たちに投資する気持ちでいる。

明日をより良いものにするための力を備えた、素晴らしい投資家を見つけるというシンプルなゴールに集中することこそが、私の投資戦略のキモだ。

アシュトン・カッチャー流投資の「公式」

多くのベンチャーファンドはリターンの最大化に注力している。彼らは複雑な経済モデルを使い、各投資先候補について良いケース、悪いケースの両方で最終的に株式がどれほど希薄化するかといったことを計算しているのだ。

しかし私はそんなことはしない。ただ最高に優秀な人たちに投資するだけだ。

さまざまな難しい課題に挑む、世界中の頭脳明晰な人たちと一緒に仕事をするのはとても楽しいし、往々にしてそうすることでリターンが生まれる。

なお、投資判断では以下の2つの要素を重視している。

  • リターン
  • 幸福度

まずはリミテッドパートナー(LP)のためにも、期待リターンを精査する。5年から8年、もしくは10年で6〜10倍のリターンが得られる可能性はあるか? もしもその答えがNoならば、時間とお金をかけるまでもない。

しかしこれが唯一の判断基準ではない。

もしも私たちが投資先企業を喜んでサポートしたいと感じられ、さらにLPにもある程度のリターンを提供できると自信を持って言えれば、その企業には投資する価値がある。

一見直感に反するように映るかもしれないが、実際に第一号ファンドのリターンは8〜9倍の水準にある。

ちなみに投資額すべてが無駄になったこともあるが、そうでないことの方が多かった。

100倍ものリターンを叩き出す企業はそうそうないが、5〜6倍のリターンで大事な課題を解決できた企業はいくつも存在する。だからこそ、金銭的なリターンと、問題解決までの道のりを投資先と一緒に旅することで得られる幸福感の両方を考えることで、投資結果の全体像を掴むことができるのだ。

Image: Bryce Durbin/TechCrunch

無知の知

数字の壁で自分を囲ってしまうと素晴らしい企業を見逃してしまいがちだし、数字だけに頼るのは長期的に見て良い戦略とは言えない。

というのも投資判断の時点では、どのプロダクトが「金のなる木」になるかを予測するのは難しいことがあるからだ。

しかしユーザーに十分な価値を提供できているから、そのうちマネタイズもできるだろう、と考えられるからFacebookのような企業に投資できるのだ。

もしも数字だけを見ていれば、そうはできないだろう。

8年ほど前に、メンターのひとりと話をしていたときにこんなことがあった。彼はある10社の名前をホワイトボードに列記して、私に「まずバリュエーションが高いと思う順に企業をランク付けしてみろ。そしてその次に収益額が大きいと思う順に再度ランク付けしてみろ」と言うのだ。

私はどちらのリストについても、1位と5位と7位に同じ企業の名前を書いた。

しかし実は収益額が一番小さい企業のバリュエーションが一番高く、逆に収益額が一番大きい企業のバリュエーションが一番低かったのだ。

Image: Lee Woodgate/Getty Images

創業者に求めるもの

どのスタートアップに投資するときも、私は以後5〜10年は創業者と一緒に仕事をすることになる前提で考えている。

魔法の公式とまでは到底呼べないが、私が投資を決める際の条件として設定している4つの要素が以下だ。

1. 専門知識

良い創業者というのは、自分が取り組もうとしているビジネスの分野について独自のインサイトを持っており、それがスタートアップの武器になる。そして専門知識とは以下の3つのどれかを指す場合が多い。

  1. 消費者行動に関する深い理解
  2. 時間軸に沿ったインサイト
  3. データ

通常、創業者からは何かしらの鋭い洞察をハッキリと感じることができる。だからこそ投資家はその人が課題解決に必要な専門知識を持っていると自信を持てるのだ。

2. 粘り強さ

想像できないほど辛い場面でも耐えぬける粘り強さが創業者には要される。

その証拠に、すべてが計画通りにいったという起業家の話はこれまで一度も聞いたことがない。

そのため何か予想外の事態が起きたときに、その苦難を頑張って乗り越えようという気持ちと能力があるかというのが重要なのだ。

これはなかなか判断が難しい資質でもある。普段私は創業者と面と向かって会ったときの直感を信じるようにしている。

3. 目的

3つめは、投資先候補がつくろうとしているものは、創業者が個人的に情熱を抱いているもっと大きな目的と何かしらの関係があるか、という点だ。

これはつまり、どんなプロダクトであっても、そこに創業チーム自身や彼らの考え方、信念といったものが反映されているかどうかということだ。何か問題があったときや困難な壁に立ち向かうときにこそ、創業者の信念が重要になってくる。

4. カリスマ性

素晴らしい創業者には一定のカリスマ性がある。特にCEOになろうとしている人物であればなおさらだ。

真の意味のカリスマ性を持った創業者に会うと、私は今の仕事をやめてでもその人と一緒に働きたいと感じる。そもそも投資家が今の仕事をやめてでもチームに加わりたいと思えなければ、その企業が雇おうとしている人がそう感じるわけもない。

採用はCEOの一番難しい仕事だ。

CEOは自分自身やビジョン、そして会社を売り込まなければならない。もしも私さえ説得できないほどのカリスマ性であれば、恐らく誰にも相手にはされないだろう。

Image: Boris Austin / Getty Images

私が警戒する創業者のタイプ

望ましくない創業者のタイプというのはいくらでもあるが、私が特に注意しているのは以下のような人たちだ。

1. 行動指針に問題がある

私は基本的に行動指針や主義をとても重視している。

特に男女や人種間の平等については自分なりの判断基準を持っているし、人間として尊敬できる人と働くことにしている。そのため、投資先企業やその創業者にも私と似たような行動指針を持っていてほしいのだ。

これは私が自分の会社を代表するように自分たちの会社を代表する人たちとつながっていたいと言い換えることもできる。

人は色んな数値やモデル、予測に簡単に惑わされてしまうものだが、だからといって定量的な情報の重要性が変わるわけではない。

むしろ私は数字と一緒にビジネスを構築する人間を見ている。とにかく私は人間として信頼でき、他者に敬意を払い、モラルがある人と仕事がしたいのだ。

2. 専門知識の欠如

もしも創業者が数字に関する質問に答えられなければ、すぐにその企業からは手をひいたほうがいい。

よく私は、投資先候補の分野について創業者に何度も質問をする。これまで見たこともないような、まったく新しくてディスラプティブなビジネスを実現しようとしている人はたくさんいるが、その目新しさに興奮して経済的な側面を見失ってはいけない。

業界の状況や仕組みについての理解がなければ、すぐにその人に専門知識がないということがわかる。

そしてもしも業界を理解せずに独自のインサイトを持ってるとしても、その人は特別なプロダクトを生み出すことはできないだろう。

3. 他人の時間を大切にしない

自分のプロダクトを売り込むのに必死な人は、基本的な他者の理解というとても大切なことを忘れがちだ。

賢い人はいつどのように連絡すればいいのかをよく心得ている。

実際に私は、何の紹介もなく突然送られてきたメールであっても、内容がよく練られていて、私自身や私の時間に敬意を払っているものには応えている。

エレベーターピッチに応じたこともある。

赤の他人とミーティングをしたこともある。

あなたの時間にさえ気を払わない人が、他人の時間を大切にすることはないだろう。そんな人のビジネスがうまくいくはずはないと私は考えるのだ。

創業者や企業から連絡があっても、私の時間や私が興味を持っていることに対する敬意や思いやりが感じられないと、彼らの無礼さに気付かずにはいられない。

Image: Bryce Durbin/TechCrunch

スタートアップの成長に関する投資家としての役目

資金を差し出すだけが投資家の仕事ではない。私たちの仕事は、専門知識や業界の情報、コネクションを投資先に提供することでもあるのだ。

スタートアップの成長ステージは(紙の上では)以下のようにまとめることができる

    1. 初期の仮説検証
      • ビジネスアイディアの考案
      • MVP(実用最小限のプロダクト: minimum viable product)の開発
      • MVPを顧客に届ける
    2. フィードバックループの確立
      • 顧客がプロダクトを気に入っているか確認
      • 顧客を巻き込んだフィードバックループを確立し、顧客の意見に沿ってプロダクトを改善できるようにする
    3. 会社設立
      • 必要最小限の人員を採用
      • プロダクトマーケットフィット達成
      • ターゲット全員にリーチできるようマーケティング
      • チームを作り上げる
    4. 追加の資金調達

これまでの12年間におよぶ投資活動のなかで、私は各ステージにいる企業を見てきた。それぞれのステージで求められるものは違うため、次のステージへ移るには新たな課題を解決しなければならない。

そこで創業者は、これまでに各ステージを経験して理解し、何を心得るべきか、そしてどうすれば次のステージへと移れるかといったことを知る人を仲間にすべきだと私は考えている。

そこで投資家が力を発揮するのだ。

Image: Shutterstock

例えば自己資金ですべてをまかないつつ、スケールするというのはなかなか難しいことだ。

多くのファウンダーが初期に陥る失敗として、組織に多様性や専門性をもたらす人よりも、自分に似た人を採用するというものがある。

初期の採用活動が終わった後は、スタートアップの中にスタートアップを構築するつもりで、マイクロマネジメントからマイクロマネジメントへと移行し、組織がスケールする上で必要になるさまざまな部署を充実させていく。

似たような道のりをたどった企業へ投資したことがある投資家であれば、各マイルストーンを達成する上で注意すべき点をアドバイスできるのだ。このようなアドバイスを受けられなかったために道をそれてしまったアーリーステージ企業はたくさん存在する。

成長ステージに移ってからも資金調達は一筋縄ではいかない。数々のチェックポイントを通過し、ようやく追加資金を調達した後は、その資金を使ってプランを実行していかなければいけない。

最終的に上場するか誰かに事業を売却することになったとしても、これもまた信じられないほど困難なプロセスで、ここまでの時点で心の準備ができている創業者というのは珍しい。

もちろん個々の企業の事情はそれぞれだ。

もしもあなたの会社が2、3人の小さなチームであれば、投資家を10人ほどチームに迎えることを考えてもいいかもしれない。そのときは、各投資家が異なる経験を持っていて、違う会社に属しているようにした方がいいだろう。

名の知れた企業から資金を調達しようとする創業者がたくさんいるが、本当に必要なのは自分たちのニーズや課題を理解し、適切なアドバイスをしてくれる個人であって、その人がどの企業出身なのかは関係ない。

最後はやはり目的と行動指針

誤解のないように伝えておくと、私は数値に関しても厳しい判断基準を設けている。

TAM(市場規模:Total Addressable Market)やNPV(正味現在価値:Net Present Valut)、IRR(内部収益率:Internal Rate of Return)といった指標もチェックする。

しかし大多数の投資家に比べると、私はビジネスが持つ人類への影響やCEOの能力に重きを置いている。

今後投資活動を続けるうちに、私の判断基準がもっと厳しくなる可能性もあるだろう。

しかしそれまでのあいだは、現在のように私が興味のある課題に取り組んでいる優秀な人たちと仕事をしていくつもりでいる。

結局のところ難しい課題を解決しようとしている素晴らしいチームを見つけられれば、お金は後からついてくるものなのだ。

注:本稿の英語原文はAtriumの記事を転載したもの。

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(翻訳:Atsushi Yukutake

あるVCがファンドの規模を急激に拡大しないワケ――業界の流れに逆行するEmergence Capital

テック業界への投資を強化しようとする機関投資家が増えたことで、シリコンバレーでは実績のあるベンチャーキャピタル(VC)が資金調達で困ることはない。今年の3月にはSECに提出された書類によって、General Catalyst13億7500万ドルのファンドを立ち上げたことがわかった。これは同社の18年におよぶ歴史の中でも最大規模だ。設立から35年が経つBattery Venturesも、今年に入ってから2つのファンドを組成し、合計調達額は同社史上最大だった。さらにSequoia Capitalは、複数のファンドを通して合計120億ドルを調達中だと報じられており、これは同社だけでなくアメリカ中のVCを見渡しても、これまでになかった規模だ。

設立から15年のEmergence Capitalもやろうと思えば彼らのように巨額の資金を調達できただろう。同社はエンタープライズ向けのプロダクトやSaaSに特化したアーリーステージ企業への投資を行っており、その実績には定評がある。Emergence CapitalのポートフォリオにはストレージサービスのBox(上場済み)やソーシャルネットワーキングのYammer(2012年にMicrosoftが12億ドルで買収)、生命科学や医薬業界向けのCRMで有名なVeeva Systemsなどが含まれている。Veevaにいたっては、2013年の上場でEmergenceに300倍以上ものリターンを生み出したと言われている(Emergenceは650万ドルの投資で手に入れた31%の株式をIPOまで保有し続けた上、彼らはVeevaの株主の中で唯一のVCだった)。

そんなEmergenceであれば、第5号ファンドで何十億ドルという資金を調達できたはずなのに同社はそうしなかった。カリフォルニア州サンマテオに拠点を置く彼らは、その代わりに2015年に設立された3億3500万ドルのファンドから調達額を30%だけ増やし、先週の金曜日に4億3500万ドルの投資ビークルを設立した。

先日、Emergenceの共同創業者Jason Greenと話をする機会があった。彼は4人いるジェネラル・パートナーのひとりでもあり、同社の要と言える存在だ。私たちが特に聞きたかったのは、なぜ在シリコンバレーの他のVCのように、前回のファンドから調達額を大きくひきあげなかったのかという点。この質問に対しGreenは「私たちは プロダクトマーケットフィットを目指すアーリーステージ企業のなかでも、一緒に仕事がしやすいコアメンバーがいる企業に絞って投資を行っている」と答えた。このターゲット像が変わっていないため、ファンドの規模も変える必要がないと彼は言うのだ。

とは言っても社内ではいくつかの変化があった。2016年にはKaufman FellowsからEmergenceに移って3年のJoe Floydがパートナーに昇格。なお、Kaufman Fellowsは2年間におよぶベンチャーキャピタリスト育成プログラムを運営している。またEmergence Capital共同創業者のBrian Jacobsは、このたび新設されたファンドにはタッチしないのだという。そこでGreenにJacobsは仮想通貨投資を始めようとしているのか(最近よくある動きだ)と尋ねたところ、彼は「Jacobsはそれよりも慈善活動に取り組もうとしている」とのことだった。

Emergence初の投資先はSalesforceだった。それ以外にも、2016年にServiceMaxをGEへ9億1500万ドルで売却し、昨年にはIntacctをSage Groupに8億5000万ドルで売却。新しい企業への投資は年に5〜7社といったところだ。続けて私たちはEmergenceがどうやってその5〜7社を選んでいるのかという問いを投げかけた。

するとGreenはまず、Emergenceは「テーマを重視している」のだと答えた。そして、同社は設立当初からSaaSやクラウド、ホリゾンタル(業界を問わない)なアプリケーション、そしてエンタープライズ向けプロダクトに特化してきたが、今後は関連分野の中でもう少し業界を絞っていこうとしているとのことだ。最初のターゲットは「コーチングネットワーク」とGreenが呼ぶプロダクト群で、これはエンタープライズ向けの機械学習テクノロジーと読み替えることができる。たとえば彼らの投資先でシアトル発のTextioは、AIを搭載したツールでビジネスライティングの可能性を広げようとしている。また、営業電話の音声を分析し、営業チームにリアルタイムでフィードバックを送るシステムを開発するChorusもEmergenceの投資先だ。Greenがこのようなプロダクトを総称して「コーチングネットワーク」と呼ぶのは、システムが人間を代替するのではなく、人間の仕事のパフォーマンスを上げるための手助けをしているからだという。

またEmergenceは、“デスクレス”労働者にも注目している。デスクレス労働者とは、世界の労働者の80%にあたる、オフィスの外で仕事をしている人たちのことを指す。これは決して新しいトレンドではないが、「早いイニング」だとGreenは語り、関連テクノロジーは「世界中のチームで徐々に浸透し始めている」のだという(急成長を続けるビデオカンファレンスシステム企業Zoomへの投資も恐らくこのカテゴリーに入るのだろう)。

Greenは具体的な投資額については明言しなかったが、従来のVCのようにEmergenceは投資先の株式の20%以上を保有するようにしており、「シリーズAから(イグジットまで)通して」企業をサポートしているのだという。

また最新のファンドで新たに加わった投資家がいるのかという問いに対しては、「財団法人や基金への寄付など、リターンを世のために使うだろうと私たちが信頼できる何社/人かをリミテッドパートナー(LP)に選出した」と答えた。

現在の流れとして、巨額の資金を調達しないことが「だんだんと珍しくなってきている」とGreenは語る。「今は簡単に多額の資金を調達して思いっきり投資できてしまうため、かなりの自制心がいる。そんななかEmergenceはずっと軸をブラさずにいることを誇りに感じている」

結局のところは「自分がやっていて楽しいことがすべて」だと彼は続ける。「私たちは単にお金を賭けているわけではなく、事業に直接関わるのを心から楽しんでいるのだ」

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(翻訳:Atsushi Yukutake