オンライン家庭教師サービスのmana.bo、ベネッセなどから3.3億円の資金調達

 

スマートフォンやタブレットを使った家庭教師サービスを展開するマナボは9月18日、ベネッセコーポレーション、ニッセイ・キャピタル、三菱UFJキャピタルから合計3億3000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。またこれにあわせて、ベネッセホールディングス インキュベーションセンター EdTech Lab部長の森安康雄氏が同社の社外取締役に就任する。

マナボが手がける家庭教師サービス「mana.bo」は、スマートフォンやタブレット向けのアプリを通じて、オンデマンド、リアルタイムでの個別学習を実現するものだ。生徒が学習している中で、解き方の分からない問題に出会ったときにアプリ上で指導を求めると、待機している講師(おもに有名大学の学生)がアプリ上で音声通話と手書きでの画像共有を使って解き方を指導するというもの。

2013年1月から法人向けにOEM提供して試験的にサービスを展開してきたが、2013年夏にはベネッセと本格的なトライアルを実施。2014年4月からは「リアルタイム家庭教師」の名称で正式にサービスを開始していた。料金は月額9980円で180分利用できるプランと月額1万9800円で無制限に利用できるプランがあるが、後者では月に3時間45分程度利用されているという。ちなみにサービスは一応PCでも利用できるのだが、85%がスマートフォンおよびタブレット出利用していることから、現在はアプリの開発にリソースを注力しているそうだ。

またマナボでは、前述のBtoBtoCで提供するリアルタイム家庭教師とは別に、今秋にもmana.boの名称で自社サービス(BtoC)を正式に開始する予定。価格はリアルタイム家庭教師とほぼ同程度になる見込み。加えて、OEM提供の幅を広げるため、来年度に向けてパートナー向けにAPIを公開していくという。さらに現在500人程度の講師については、今年度内に3000人程度まで拡大させるとしている。


数百万ストア開設の第一歩に–STORES.jpがフォロワー機能を導入

先週アドオン機能の提供で大企業や中堅企業向けにサービスを拡大すると発表したばかりのオンラインストア構築サービス「STORES.jp」。ショップオーナーの拡大施策の次は、そのショップのユーザー拡大のための施策を実施する。同社は9月17日、STORES.jpにフォロー機能を導入した。

この機能は、Twitterや各種SNSにある「フォロー」と同様に、STORES.jpのオンラインストア同士でフォローしたり、STORES.jpのIDを持つユーザーがお気に入りのストアをフォローしたりすることができるというもの。フォローしたストアの更新情報はタイムライン形式で閲覧できるため、お気に入りのストアの新着商品などを時系列に閲覧することができるようになる。利用にはSTORES.jpのIDが必要となる。なお、IDを作ると、自動的にストアが開設できる状態になる。

ブラケット代表取締役の光本勇介氏

STORES.jpは、どうしてECなのにフォロー機能を導入したのか? ブラケット代表取締役の光本勇介氏は、これが「STORES.jpのストア数を大きくジャンプさせるための施策になる」と説明する。

1人1アカウントの世界を目指す

光本氏はSTORES.jpを開始した頃から、「FacebookやTwitterのように、STORES.jpのストアのアカウントを1人1つずつ持つようにしたい」ということを語っていたのを覚えている。

現在STORES.jpのストア数は12万件。確かに数字的にはすごいのだけれど、当初語っていた1人1アカウントの世界はまだ遠い。そこで、まずはフォロー機能でお気に入りのストアの更新情報を閲覧できるといった利便性を提供することで、ID(STORES.jpはIDがあればいつでもストアをオープンできる)やトラフィックを増やし、最終的にストアの拡大を狙うという。

IDを利用するメリットは何もフォロー機能に限った話ではない。ユーザーがSTORES.jpで作られたストアで商品を購入する際、IDを持っていなければ買い物の都度配送先の住所や氏名を入力する必要があったのだが、IDと紐付けて保存すれば、一度入力した配送先情報をすべてのストアで自動入力できるようになる。

最近ではSTORES.jp同様にオンラインストア構築サービス「BASE」を展開しているBASE代表取締役の鶴岡裕太氏が、国内のストア数を30〜40万店舗、海外あわせて100万店舗といった具体的な数字の目標を各種イベントやインタビューで語っている。光本氏はこういった数字を意識しているようで、「(フォロー機能の導入は)40万店舗を市場の天井にするか、何百万店舗にするかの勝負の始まり。まずはSTORES.jpのカルチャーを作らないといけない」と語った。


オンラインダイエットプログラムを展開するFiNC、数億円の資金調達を実施

左から元ミクシィ代表取締役の朝倉祐介氏、FiNC取締役副社長 CFOの乗松文夫氏氏、FiNC代表取締役CEOの溝口勇児氏、元オプト代表取締役CEOの海老根智仁氏

オンラインを中心にしたダイエットプログラム「FiNCオンラインダイエット家庭教師」を提供するFiNCが9月12日、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、グリーベンチャーズ、リンクアンドモチベーション、MIDベンチャーキャピタル、元ミクシィ代表取締役の朝倉祐介氏、元オプト代表取締役CEOの海老根智仁氏を割当先とした第三者割当増資を実施したことを明らかにした。あわせてみずほ銀行などからの融資も実施している。調達額およびバリュエーションは非公開だが、数億円になるという。またこれにあわせて朝倉氏と海老根氏が同社の戦略顧問に就任する。

FiNCのサービスやビジネスモデルについては、以前に紹介したとおりだが、遺伝子検査や血液検査、アンケートに基づいて、管理栄養士によるダイエット指導が受けられるというもの。

ユーザーがサイト上に毎日の食事と体重を写真と共にアップロードすると、60日間のプログラム期間中、栄養士からの評価や指導が受けられる。もちろんスマートフォンでの利用が可能。このほか、東京・永田町と銀座にある同社のスポーツジムや、提携するジムの利用などが可能になる。また、遺伝子検査の結果に応じて独自に組み合わせたサプリメントも提供している。このサプリメントは、プログラム終了後も約50%のユーザーが継続購入しているそうだ。

前回の記事で僕もこのプログラムを利用させてもらっていると紹介したが、その後厳しい指導のおかげで7.5kgのダイエットに成功している(とりあえず終了して2週間ほどでのリバウンドも無いようだ)。

元みずほ銀行常務も参画

話を調達の内容に戻そう。今回の調達では、人材採用による体制強化、本社移転(すでに8月に実施済み)、プロモーションの実施を行うという。

人材採用に関しては、元みずほ銀行常務の乗松文夫氏が取締役副社長 CFOとして同社に参画したことが8月に発表されている。今回の資金調達に関しても、特に融資の面で尽力したという。金額こそ非公開だが融資額も小さくない金額だそうで、シリーズAでの億単位での調達において、あまり株式を希薄化することなく調達に成功しているという。

また、栄養士やトレーナーといった専門職のネットワーク構築を進める。前回の記事でも紹介したとおりだが、クラウドソーシングの仕組みを利用したり、提携スポーツジムを増やすなどして、1000人規模まで拡大する見込みだそうだ。

実は現在プログラム自体は「宣伝もしていないし大きな数字ではないが、満員御礼な状況」(FiNC取締役COOの岡野求氏)だそうで、専門職の人材不足がボトルネックになっているそう。今後は人材や会社の基盤を年内にも確立し、年明けに向けて、プロモーションを強化していくそうだ。「意識的に営業を抑えているが、法人も含めて正直売り込んでいける先はあると思っている。ここ数カ月は内部の業務フロー確立を進める」(乗松氏)

またFiNCでは、料理関係の新事業なども予定。そのほか、時期こそ明らかにされなかったが、海外進出も検討しているという。

ところでこのFiNC、プログラム自体は60日で終了するのだが、ユーザーのLTV(ライフタイムバリュー:継続的な取引でユーザーが企業にもたらす価値)を上げる施策などは考えているのだろうか? 岡野氏は「ビジネスモデルは一時的なプログラムではない。極論だが、最終的にはダイエットだけは無料でもよいと思っている。属性に基づいた宅配やキュレーション、広告などいくらでも検討できる」と将来について語ってくれた。


クックパッドの新サービス「Holiday」は、お出かけプランの投稿・共有サービス

クックパッドといえば料理レシピの共有サービスをすぐに思い浮かべるが、同社が9月11日から本格稼働する新サービス「Holiday」は、休日の「お出かけプラン」を投稿、共有できるというものだ。

Holidayでは、テーマを決め、登録されているスポット情報を検索し、一言コメントしていくことで、お出かけプランを作成し、投稿することができる。

スポット情報には住所やURLが付与されており、名前を検索して登録するだけで自動的に地図にマッピングされて表示される。スポット数は非公開だが、同社が独自に集めた上で住所やURLを付与しているという。もちろん登録されていないスポットを新たに追加することもできる。7月にPC版のみを公開してテスト的に運営してきたが、今回のタイミングでスマートフォン対応もした。現在数百件のプランが投稿されており、数週以内に1000件に達する予定だそうだ。

マネタイズやユーザー数の目標は現状公開していない。まずは外部APIに頼らないスポット情報のデータベース構築、質の高いお出かけプランが登録されるようなサービスの活性化などを進めるという。

主要メンバーは新卒、学生起業家をチーム採用

クックパッド Holiday事業室のプロジェクトリーダーである友巻憲史郎氏は、4月にクックパッドの入社したばかりの新卒だ(厳密には一度大学を退学し、現在は京都造形芸術大学に編入しており現在4年生だが、クックパッドでは新卒として採用したとのこと)。実は同サービスに関わる5人全員が新卒であり、さらに友卷氏を含む4人は学生起業を考えて活動していたチームなのだという。

友卷氏らが学生時代に提供していたのは、アクティビティの予約サイト。メンバーの拠点であった関西を中心に営業をかけたところそれなりの手応えもあったそうで、友卷氏は大学を中退して事業に専念。法人化してベンチャーキャピタルなどから資金調達を実施しようとしていたが、途中でエンジニアがチームから抜けてサービスの開発が続けられなくなってしまったのだという。

一時は就職活動もしたというメンバーだったが再度奮起。サービスもアクティビティ予約からお出かけプランの共有サービスへとピボットし、さらにはエンジニア任せだったコーディングも自ら行い、「心の底から作りたいものを作ろうとした」(友卷氏)という。そしてベンチャーキャピタルや事業会社と資金調達の相談をしている中でクックパッドから、「事業を譲渡して、チームでクックパッドの新卒でサービスを開発しないか」という打診を2013年末にもらった。

クックパッドで新規事業を手がける意味

「雑念を捨てて集中しないといけないと思っていたので、最初はまず調達から解放されて仕事できるのが嬉しかった」と本音を漏らす友卷氏だが、クックパッドに入社して半年。何よりも「ブレない」ということの大事さに気付いたのだそうだ。

「ブレがあると怒られる。目先のKPIより何より、いかにユーザーの課題を解決するか。派手なことをする、スピードアップのテクニックを考える、いろんな雑念が出てくるが、ユーザーの課題を解決することで価値を出せば結果は必ずついてくるものだとみんな本気で考えている」(友卷氏)。研修としてクックパッドのレシピを管理する部署の業務をした際にも、1つずつ投稿されたレシピを見て、情報不足や問題があればつどユーザーにコミュニケーションを取る姿勢に感動したのだという。クックパッドの月間利用者は約4500万人。それだけ利用されるサービスの理由はこういった姿勢や1つ1つの対応によるものだろうか。

実はクックパッドは「レター」を手がけるROLLCAKEのように子会社で新事業を作ったり、漢方デスクのように分社化を前提にクックパッド内でサービスを開発していたり、起業や新事業の立ち上げに柔軟な姿勢を見せる会社だったりする。ただし、学生起業家をチームで新卒採用したのは「結果的にではあるが、そういった取り組みは初めて」(クックパッド)だそうだ。

起業することと新規事業を社内で立ち上げることは、リソース面でもリターン面でも大きく違うので、どちらが正しいというものでもないし、むしろまったくの別物ではないかと思っている。ただ、クックパッドの姿勢は若い人がサービスを始める上で1つの選択肢を提示してくれているのは間違いないし、何より経験の少なかったHolidayのチームにとっては大きな価値になっているようだ。


日本未上陸の白タクサービス「uberX」が安くて早くて快適だった

サンフランシスコといえば、シリコンバレー生まれ「Uber」のお膝元。空港を降り立ってアプリを起動すると、乗車可能な車両がマップ上にウヨウヨとうごめいている。ここで気づくのは、日本未上陸の「uberX」が使えることだ。

Uberが日本で提供しているのは、ハイヤータクシーを配車するサービスのみ。uberXで配車するのは、営業許可を受けずに自家用車で営業する「白タク」に近い。Uberに登録した一般のドライバーが運転する自家用車と乗客をマッチングしている。空き部屋を持つホストと旅行者をつなぐAirbnbのような仕組みだ。

アプリから「uberX」を選び、乗降車場所を設定して「uberXを依頼する」ボタンを押すだけで、近くを走っている車が早ければ3分程度でやってくる。日本でインストールしたアプリを日本語表記のままで使えるので、英語が苦手な人でも操作に戸惑うことはなさそうだ。

日本で白タクというと胡散臭い(そもそも法律で認められていない)けれど、サンフランシスコで利用してみると、タクシーよりも早く捕まえられるし、ドライバーの人当たりも良い。なにより安いのがうれしい。そこで、実際に乗車して何人かのuberXドライバーに取材してみた。

uberX(左)とuber TAXI(右)の同一区間(約3.5km)の料金

タクシーでは考えられない「おもてなし」

平日は病院に勤務しているサンフランシスコ出身のジョアン(推定40代)は、金曜夜から週末だけuberXを稼働している。彼女によれば、1日の乗客数は10〜20人。客単価はバラバラだが、月に1000ドル以上は稼いでいるという。

見ず知らずの人を自分の車に乗せる不安はないのかと聞くと、「今までに不快な思いをしたことは一度もないわ」と事も無げに答える。uberXはモバイルの広告で知ったと言い、「生活を支えるため」にドライバーをやっているそうだ。

印象に残ったのは、僕が車に乗り込もうとすると、トランクからキンキンに冷えたペットボトルの水を手渡してくれたこと。乗客に無償で提供しているそうで、タクシーではとうてい考えられない「おもてなし」だった。

Uberでは、利用者が降車後に運転手を5段階で評価し、その点数が他の利用者にも公開されるようになっているのだが、こうした仕組みがドライバーのサービス精神を駆り立てているのだろう。


手数料は20%、まもなく15%に

平日は救急車のディスパッチャー(通信指令員)をしている30代女性(推定)のブリジッタは、FacebookでuberXの存在を知り、6月から週末限定のドライバーとなった。

1日の収益は200〜400ドル。Uber側には売上の20%を手数料として支払っているという。手数料はまもなく、すべての運転手に一律で15%に引き下げられるとも言っていて、「わりといいお金になるわ」と満足気だった。

彼女はUberの競合サービスである「Lyft」のことも知っていた。Lyftの運転手はやらないのかと尋ねたところ、「Lyftは車のナンバーにピンクの髭を付けるのがダサい」という理由でUberを選んだそうだ。UberとLyftを掛け持ちしている友だちもいるのだとか。


本業になりつつある

イギリスに本拠を構える石油大手のBPを2月にレイオフされたという40代男性は、「uberXが本業になりつつある」と言う。本業にしようというだけあってか、燃費の良いハイブリッドカー「PRIUS V」(日本ではプリウスアルファ)に乗っていて、平日は毎日10時間稼働。1日の売り上げは200〜350ドルに上るという。

彼によれば、サンフランシスコではタクシー業界からの反発も大きいようで、タクシーの配車サービス「Uber TAXI」が空港で乗客をピックアップするのは禁止されているという。実際に空港でアプリを立ち上げると、確かにUber TAXIの項目は表示されなかったが、uberXは規制の対象外となっているようだ。


こうした一面からも、Uberがタクシー業界とバチバチやりあっている様子が垣間見られるが、少なからず顧客を奪われているuberXについて、タクシー運転手はどう思っているのか?

「奴らは素人」と吐き捨てるタクシー運転手

25年間、タクシーで生計を立てているというドライバーに聞くと、語気を強めて「uberXの奴らは素人。何の研修も受けてないし、道も知らない。俺の頭の中にはこの街のすべてが入っている」と吐き捨てる。道順はuberXの車両に据え付けるアプリに表示されるのだが、この道25年の「プロ」からすると「素人」に見えるのだろう。

タクシードライバーが「奴らは素人」と切り捨てる背景には、2013年12月にサンフランシスコでUberの契約ドライバーが交通事故を起こし、6歳の少女を死なせてしまった事件があるのかもしれない。この事件を受けてロサンゼルスのタクシー会社の幹部は、「Uberの車に乗ることは、ふつうのタクシーに比べて危険である」という声明を出している。

先述した通り、Uberには乗客が運転手を評価するシステムがあるためか、ドライバーは運転が荒いこともなく、態度が悪いこともなかった。そして、価格もタクシーと比べると3割から5割くらい安い(ただし、Uberでは利用状況に応じて「高需要料金」も設定している)。事前に登録したクレジットカードで自動決済されるので、精算時に現金のやりとりをしたり、チップの計算をする必要がないのも快適だ。

サンフランシスコでuberXを試して感じたのは、タクシーはディスラプト(破壊)されつつあるのかもしれないということだ。手を上げて数十秒でタクシーが捕まる東京と違い、サンフランシスコで流しのタクシーを捕まえるのは簡単ではない。15分かけてやっとタクシーが止まったと思えば、行き先を告げたら何も言わずに走り去られたりもする(実体験)。

uberXがそこまで浸透していない地域もあると思うが、少なくとも僕は、サンフランシスコでタクシーを使おうとは思わない。日本ではタクシー業界の相当な反発があったり、法整備も必要になるので上陸は簡単ではなさそうだが、実現すれば「黒船」になるのは間違いないだろう。


TechCrunch Disrupt:日本から参加のアイ・トラッキングVRヘッドセットのFOVEがプレゼン

FOVEはアイ・トラッキング・テクノロジーを採用してより優れた没入型体験を与えようとするVRヘッドセットだ〔TechCrunch Japan記事〕。消費者向けVRプロダクトにアイ・トラッキングを利用したのはFOVEがおそらく世界初だろう。FOVEは東京に本拠を置くスタートアップで、小島由香CEOとロックラン・ウィルソンCTOがTechCrunch Disruptサンフランシスコのステージでプレゼンを行った。

FOVEという名前はfield of view(視野)とfovea( 網膜中心窩)という網膜の中心にあってもっとも感度の高い部分を意味する単語から来ている。Foveヘッドセットは、アイ・トラッキング、頭の位置のトラッキング、方向センサーを組み合わせ、視線の動きだけで360度を見渡せる。FOVEのバーチャル・リアリティーは画面全体に焦点が合っている他のシステムとは異なり、ユーザーが注視した部分に焦点を合わせてレンダリングする。これによってさらに現実に近い奥行き感が得られる。これもアイ・トラッキングによってユーザーが画面のどこを見ているかを認識することによって可能になっている。

FOVEを利用すればユーザーは、たとえばゲームのキャラクターと目を合わせてアイコンタクトを取ったり、武器の狙いを素早くつけたりすることが可能になる。敵の姿を見た瞬間にもう狙いがついているわけだ。

特許出願中であるため、共同ファウンダーたちは詳細に触れることを避けたが、FOVEのアイ・トラッキングには人間の目に感じない赤外線を用いており、精度と反応速度を上げているという。

「重要なのは、ユーザーの視野をまったく妨害せずに精密なアイ・トラッキングを可能にした点だ」とCTOのウィルソンは説明した。

FOVEのライバルとなり得るのは、Oculus Riftを始めとして、ソニーのProject Morpheusなどがある。しかし共同ファウンダーたちはFOVEはこれらのライバルと競争して市場シェアを奪おうとは考えていないという。FOVEはOculus Riftが開いた市場をさらに拡大し、消費者に映画アイアンマンのスーツを着たような体験を居間にいながらにして与えようとしている。FOVEでは、当初、高い没入体験を与えることが必要なハイエンドのゲームをターゲットと考えている。

現在このスタートアップはMicrosoftのロンドンに本拠を置くベンチャー・アクセラレーター・プログラムに選定されて資金援助を受けている。まだ具体的な交渉に入っているわけではないが、将来MicrosoftのXboxにFOVEのテクノロジーを提供する可能性もある。ウィルソンCTOは「一つの問題は価格だ。ゲーマーはコンソール機以外のアクセサリーに金を出したがらない」と述べた。FOVEではまだ価格を決めていない。

ただしFOVEが狙っているのはゲーム分野だけではない。ALS〔筋萎縮性側索硬化症〕や脊椎の負傷などにより重度の運動障害を負っている人々に手を使わず、視線だけで文字を入力したり、さまざまな機器を操作したりする能力を与えることができる。

日本の大学では、さらに自閉症のような症状に対してもFOVEが応用できると考えて研究が行われている。またロンドンの企業はFOVEを利用して四肢まひ障害のある人々が他人の手を借りずに周囲を見回すことができるようにしようとしている。またアスペルガーや自閉症の人々は他人とアイ・コンタクトを取ることが困難なばあいが多い。FOVEはこうした人々が恐怖を感じずにキャラクターとアイ・コンタクトが取れる仮想現実を構築するのにも役立つという。

FOVEは現在、プロトタイピングの最終段階にあり、量産型の開発に入っている。来年にはKickstarterでゲーム開発者向けSDKのキャンペーンを行う予定だ。消費者向け製品は、早ければ2016年に出荷できるという。FOVEは日本でエンジェル投資家から支援を受けているが、さらに本格的な資金調達を計画している。.

〔スライドショーは原文参照〕

審査員とのQ&A

Q: ゲームの開発をどうやって進めていくつもりか? 卵とニワトリの関係で、ユーザーベースが広がらないとデベロッパーを引きつけることが難しい。いまのとろFOVEにはユーザーベースがない。

A: われわれのテクノロジーは強い興味を引き起こすと考えている。アイアンマン・スーツのようた体験を居間で体験できるテクノロジーだ。消費者とデベロッパーともに関心を示してくれるものと考えている。

Q: この分野でFOVEがコントロールできない技術的障害はどんなものがあるのか?

A: われわれがコントロールできないような大きな技術的障害は少ない。頭の位置のトラッキング精度を改善するためにソフトウェアの改良を続けている。これがいちばん大きな課題かもしれない。しかし近く十分な解決ができると信じている。

Q: すると主要な課題はどうやってデベロッパーにこのテクノロジーを売り込むという点ということか?

A: イェス。われわれはFOVEが驚くべきクールな体験を与えられることをデモしてユーザー、デベロッパーを説得していく。また応用分野やゲームだけでなく、ALSのような重度の運動障害を負った人々を助けるための研究が日本で行われている。

Q: FOVEの価格は?

A:Oculus Riftよりはやや高価となりそうだ。FOVEはより高度なユーザー体験を提供する分、ハードウェアのコストも高くなる。

Q: ハードウェアから上がる利益は規模の拡大に対応できるのか?

A: 十分な利益率が確保できると考えている。われわれはハードウェアを日本国内で調達しているが、調達先は極めて優秀な企業で、十分に競争力のある価格を出してもらっている。

Q: 10から30%くらいの利益率を確保できるか?

A: それより高くできるだろう。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


STORES.jpが高機能をアドオン形式で提供開始–大企業・中堅企業向け市場をねらう

ブラケットが提供するオンラインストア構築サービス「STORES.jp」。これまで利用の手軽さを武器に、個人や小規模企業を中心にサービスを展開してきた同サービスだが、今後は機能を強化し、大企業や中堅企業での利用をねらう。9月10日には月額980円のプレミアムユーザー(有料会員)向けに「アドオン機能」の提供を開始した。

STORES.jpは、「新規登録から開業までに要する時間は最短2分で、世界でひとつだけのオンラインストアをオープンできる」とうたっているとおり、簡単さを1つのウリにしたサービスだった。サービス開始から2年経った現在、ストアの数は12万店舗以上となっているほか、流通額(実際に決済されている金額)は非公開ながらリリース当初の100倍以上、ページビューやユニークユーザー数は20倍以上になっているという。

競合サービスのBASEとともに、ECの裾野を広げつつあるSTORES.jp。だが、15.9兆円(MM総研調べ。2013年4月〜2014年3月、BtoCとCtoCの合算)ともいわれる国内ネット通販市場の多くを占めるのは大企業や中堅企業によるBtoCの取引だ。そこで同社はその市場をターゲットとすべく、これまでより高度な機能を開発してきたのだという。

大企業向けのネットショップ構築といえば、GMOメイクショップやEストアーの提供するサービスが代表的。たとえばGMOメイクショップの「MakeShop」は、2013年の年間総流通額が1108億円と大きい規模を持っていることが分かる。

アドオン機能では、ダウンロード販売や送料の詳細設定から、年齢制限やギフトフォーム、再入荷のお知らせといった機能を提供するほか、直近にはトップページの作成(これまでSTORES.jpでは、トップページが商品一覧ページになっていた)、HTMLの編集といった機能も導入する予定だ。ちなみにSTORES.jpのプレミアムユーザーの数は非公開だったが、「一般的なフリーミアムモデルでの課金ユーザーの割合より多いと思う」(ブラケット代表取締役の光本勇介氏)とのこと。

ブラケットではこの機能の導入に先駆けて、ZOZOTOWNの出展企業に限定してブランドオリジナルのネットショップを構築できる「STORES.jp PRO」を提供しており、そこで年商数億円から数十億円規模の企業を相手に、大規模ネットショップのノウハウを蓄積していたという。光本氏は5月に「夏にも予想できない新機能を提供する」と語ってくれていたが、これがその第1弾となる。直近にもまた新たな取り組みを発表する予定だそうだ。


高級ホテル予約のrelux、創業者の古巣リクルートから3.3億円調達–10言語対応でインバウンド需要狙う

高級旅館・ホテルの宿泊予約サイト「relux」を運営するLoco Partnersは9月5日、リクルートホールディングスなどを割当先とした第三者割当増資を実施した。調達額は3億3000万円、バリュエーションは非公開となっている。調達した資金をもとに事業開発担当者やエンジニアの採用を進める。Loco Partners代表取締役の篠塚孝哉氏はリクルートの出身。古巣からの調達となる。

また今回の増資の発表とあわせてグローバル対応を強化する。同日より10カ国語対応に加えて、12種類の通貨での予約決済サービスを開始する。

reluxは2013年9月にサービスを開始した宿泊予約サイト。同社の社員が現地を訪れ、100項目におよぶ独自の審査基準を満たした高級旅館や高級ホテルのみ厳選して掲載している。現在国内200件の宿泊施設の予約に対応している。

ユーザーは30代から40代が中心。客単価は9万円前後で、会員数は7万人。これまでは月1000〜2000人程度の会員増があったが、直近数カ月でその勢いは加速しているそうだ。会員は毎月30%ほど増加。売上高は非公開ながら、毎月30%増となっているそうだ。

ちなみに同社では、宿泊施設に満足しなかったユーザーに対する返金保証制度を用意したのだけれども、それを8月に終了している。その理由は「サービスを開始して1年半、1件も返金が発生しなかった」(篠塚氏)からだそうだ。また最低価格保証をしており、他の予約サイトなどより価格が高い場合は差額返金に対応するとしている。

古巣からの資金調達

前述のとおりだが今回の調達は、篠塚氏の古巣(篠塚氏のキャリアについてはこちらを参照)であるリクルートグループからの出資となる。篠塚氏は宿泊予約サイトの「じゃらんnet」に携わっており、既存事業と競合するため(reluxは同社がキュレーションした宿泊施設のみに厳選した予約サイト。一方でじゃらんは2〜3万件の宿泊施設を集めている)、リクルート社内では挑戦できないビジネスだからこそ起業して自らreluxを立ち上げた同社がなぜここでリクルートからの出資を受け入れたのか。

これについて篠塚氏は、「リクルートやじゃらんのアセットをうまく活用していいと言われている。通常のベンチャーキャピタルであれば人や事業会社の紹介はしてもらえるが、事業会社ではないのでそこまでで終わってしまう」と説明する。またアセットを借りられる一方で、ブランド的には独立したサービスを展開するという。またリクルートへのバイアウトについては「考えていない」(篠塚氏)とのことだが、リクルートとしては、まさにイノベーションのジレンマで実現できないreluxと近い距離に置いておきたいという狙いはあるだろう。

海外旅行代理店と組みインバウンド需要を狙う

また今回、英語、スペイン語、中国語(繁体字)、中国語(筒体字)、タイ語、韓国語、ベトナム語、アラビア語、インドネシア語、フランス語に対応。さらに円のほか、USドル、ポンド、カナダドル、オーストラリアドル、ニュージーランドドル、ユーロ、元、バーツ、ウォン、ドン、ルピアでの決済にも対応する。

これはもちろん海外からのインバウンド(訪日旅行)需要を狙ったものだが、ロコパートナーズでは今後訪日旅行専門の代理店に管理画面を提供し、代理店経由でreluxの予約ができるようにしていくそうだ。すでにシンガポールのほかアジア圏の旅行代理店との交渉を開始している。

「東京オリンピックも控えているが、訪日旅行はホットになっている。それを加速したい。日本の旅館やホテルはサービスレベルが高いのに、まだまだ観光後進国。そのギャップを埋められるようなサービスにしていきたい」(篠塚氏)


グリー田中氏、ゲーム”だけ”の会社から抜け出るために「次の10年を考える」

東京・渋谷で9月3〜4日にかけて開催されたイベント「Startup Asia Tokyo 2014」。9月4日には、グリー代表取締役社長の田中良和氏が登壇。「グリーの挑戦と未来について」というタイトルで、Tech in AsiaレポーターのDavid Corbin氏とのセッションに臨んだ。

–Corbin氏(以下省略):田中氏はCEOを務めているが、元々エンジニアリングが好きだったと知っている。どういう風にして好きになったのか。

田中氏(以下省略):最近は「社長」の仕事ばかりだが、もともと15年くらい前にインターネット業界に入って、最初はプログラミングもできなかったが、そこで覚えたのが最初。

自分で企画しても作れないとアイデアを具現化できないと思っていたので、本当の意味でもの作りができるようになったと思う。

–今ならどのような(開発環境や)言語を学びたいか。

ネイティブアプリだ(笑)

–最初に入った楽天はベンチャー企業。なぜそこを退職したのか。

起業したいと思ったことは今でもないと思っている。起業って大変なのになぜやるんだろうか、(聞かれたら)おすすめしないのにと思っていた。ただ、楽天で働きながら(SNS)GREEを趣味で作っていたら、個人では作れない規模になったのがきっかけ。

でもはじめはコミュニティサイトでは儲からないだろう、製作会社でもやりつつボランティアで運営しようと考えてたので、真剣に考えて起業したわけでない。

–後悔はしていないのか。

結果的には(笑)。やっぱりいろいろ大変なこともあったので、人に勧められるような簡単なことではない。

–パズドラ(ガンホーのパズル&ドラゴンズ)が出たあとで、GREEのゲームシェアは下がっていると思う。どのように回復させていくのか。

3年前くらいから振り返ると、いろんな事業の変化に直面していたと思う。3年前はフィーチャーフォンのゲームビジネスが中心だったが、ハードウェアとしてなくなっていく(スマートフォンに置き換わる)ところに直面した。ネット業界で産業ごと消滅することはあまりないが、我々はそこに直面した。なので、まずは本命のブラウザゲームをガラケーからスマホに移さないといけなかった。それを対応させながらネイティブゲームをやり、海外戦略もやり、ということを同時にチャレンジすることになった。

そこでまずスマホ(ブラウザゲーム)、2番目にグローバル、3つめに国内ネイティブゲームという優先順位をつけ直した。米国進出までは順調に来たので、今はネイティブに注力している。

–どのような条件でゲーム業界をサヨナラしたいのか。

そんなことは考えていない(笑)ゲームとインターネットが交差した世界はいいと思っている。ゲーム産業は日本で作って世界に向けて売っていくときに競争力がある産業分野。収益として重要だ。

また、日本で始めてすぐにグローバルに進出できる。でも我々はゲームだけの会社ではない、最近はいろいろと始めている。

–「スマートシッター」「介護のほんね」「Tonight」「SmartNews(への投資)」など新しい事業にチャレンジしている。新しい事業にはつながりはあるか。なぜこういった新事業をはじめたのか。

事業を考える上で、まずはマーケットが大きくなり続けるかの仮説を大切にしている。楽天で言うとECは右肩に上がっていくに違いないと考えているということだ。

例えばコミュニケーションやコミュニティビジネスは10年後に大きくなっているに違いない。モバイルビジネス、ゲームビジネスもそう。マーケット自体が成長するビジネスをやる。ただし、さっきの楽天の例で言うと、ECといってもオークションなのか、モールなのか、直販なのかというところに関しては、提供しながらアジャストしていく。

モバイルやコミュニケーション、ゲームという事業はそういう仮説でやってきた。でもそれはある程度やっているのでほかの事業に挑戦していく。

これから来るトレンドは何かと考えている。好調なのはUberとかAirbnbなど、広い意味でのEコマース。それが次の10年のサービスだと思う。

–チャイルドケアもトレンドになるということか。

ビジネスの手法の話だ。例えばUberも、すべての人がスマホを持つ今だからできるようになったサービスだ。同じようにスマートシッターもスマホが普及しているからこそ、資格があれば誰でもベビーシッターになれるというのはいけると思う。

–スマートシッターについて、サービス開始後の様子、ユーザー数はどうなっているのか。

サービス規模は伸びているが、スマートシッターで言うと、ベビーシッタービジネスだけを考えなくていいと思っている。例えばブラウザゲームのビジネスは、ただ1つの「釣りゲーム」が出発。これが将来(売上高)何十億、何百億円というプラットフォームになるとは思ってなかった。

スマートシッターもうまくいけば、家にいるお母さん向けのビジネスができるのではないか、別の働き方もできるのではないかということになる。Amazonも最初は本しか売ってなかった。切り口を作ればもっとビジネスはできる。

–その他どんな分野に挑戦するつもりか。

スマホが普及しないと成立しなかったサービスだ。例えばTonightは、5回くらいクリック(タップ)するだけでホテルの予約ができてしまう。こういったものあればスマホ特化でブレークスルーする。また、UberやAirbnbのようにシェアリングエコノミー的な概念のモノ。

–(投資先の)スマートニュースはいつから米国バージョンを公開するのか。

僕は戦略を細かく分からないし、言えない(笑)。ただあれはまさにスマホ時代のニュースをどうするのかというもの。昔から見ていたがすごいと思う。グリーに向いているビジネスは自分たちでやるが、「いいな」と思うサービスには投資させていただく。

–スマートニュースは36億円を調達した。日本では「○億円調達」というニュースはあるが、バリュエーションは発表されない。スマートニュースのバリュエーションはいくらだったのか。

またこれもコメントしづらい(笑)。ただ我々としてはバリューはフェアだと思って投資しているので成功して欲しい。

–海外展開で成功に必要なのは何か。

これまで3、4年ほど苦労している。ネイティブゲームは海外でも売上がかなりあり、海外比率の高いネットベンチャーになってきていると思う。

一番重要なのはやはり、「それ(プロダクトやその場所で事業をすること)自体が強みになっている」というものでないといけない。サンフランシスコでやったほうがいいことをわざわざ日本でやっても、それ自体が強みにならないといけない。

そういう意味ではゲームは数少ない日本でやって不利にならないビジネス。グローバルで成功しているゲームスタジオには北欧や英国のものもある。大企業大資本だけが生きるわけではない。

–新しい国(市場)に入るにはどんな準備が必要か。

まずはGoogleやFacebookみたいなサービス。圧倒的製品力で突き抜けるかどうか。でもそれは実現が難しい。

それでなければ、ローカルのマネジメントに完全に任せて成功するサービス。現地に日本人だけ派遣しても成功しないし、(現地の)優秀な人はついてこない。

逆に言うと、日本にある外資系の会社で、日本語を話せない外国人がやっていても成功しているものもある。そういう意味では製品力で突き抜ければ問題ない。

–今海外に出るなら何をすべきか。

海外のゲームビジネスが伸びつつあるが、日本ではネイティブゲームがまだ成功せずにチャレンジする中で、海外でスタジオを作ってさらにネイティブゲームを当てるのは、知らない場所で知らないモノをやると難しいことをやっている。

やはりどちらか押さえる。成功していることを違う場所をやるか、日本で違うことをやるか、どちらかにするべきだと思っている。そうはいってもネイティブは強くなっているので、まずはそこに特化していく。

–SNSからゲームの会社になり、また新しい事業も展開するが、社員は自分の会社についてどう思っているのか。

青臭いが、コーポレートスローガンには「インターネットで何かを変えていく」というものがある。なのでゲームのみをやる会社じゃないということは多くの人は分かっていると思う。

ただゲームは(売上の)大きな分野であり、引き続き大きな柱になるという前提だ。だがあくまで1つの柱にしながら新しいことをやる時代になってきた。

–安倍政権がテクノロジー企業を応援しようとしているが、その動きをどう思うか。

本当にありがたいことだと思う。これから日本自体の経済を成長させる意気込みを感じる。インターネット業界が新しい産業となり、日本経済の大きな柱にならないといけない。

–政府を巻き込むためにどういうことをやっているのか。

ロビイングというほどではないが、世界というより日本で大きな役割を果たすのであれば自分たちのやっていること、やりたいことをいろんなチャネルで発信しないといけない。事業を成功するだけでなく、どう世の中に価値を還元すると考えているか伝えることも大事。

–若い起業家へのアドバイスを聞かせて欲しい。

言うと自分で自分の首を絞めることになるが(笑い)。高い目標を持ち続けて頑張って欲しい。会社をやっているといろんな大変なことがある。どうやったら高い目標を持ち続けられるか考えて欲しい。


グノシー木村氏が代表退任、真相は「任期満了」ではなくグリーとの訴訟リスク回避か

木村新司氏

ニュースキュレーションアプリを提供するスタートアップの大型調達が続き話題になっているが、「Gunosy」を提供するグノシー代表取締役で共同最高経営責任者の木村新司氏が、8月28日付で退任した。弁護士ドットコムトピックスが報じ、TechCrunchでも事実を確認した。今後は創業者であり、代表取締役の福島良典氏が引き続き経営にあたる。

木村氏は起業家としても投資家としても知られる人物。グノシー創業期のエンジェル投資家でもある。2013年11月にはグノシーの代表に就任し、福島氏ととも事業をけん引してきた。グノシーでは木村氏の代表就任と時を同じくして広告販売を開始しており、マネタイズの基盤を作ってきた。またKDDIなどから合計24億円の資金を調達しているが、ここにも木村氏の経験やノウハウが大きく寄与したと言われている。

グノシー取締役CFOの伊藤光茂氏は木村氏の退任について、「もともと予定していたもの。任期満了に伴って8月28日の株主総会で決定した」と説明する。木村氏は今後、株主という立場でグノシーを支援していく。

同社は8月29日の官報で2015年5月期第2四半期決算を発表している。売上高は3億5905万円と、広告事業の立ち上がりは見えている一方、純損失が13億9367万円の赤字となっている。

この赤字決算と退任の関連性を考える人もいるかも知れないが、この赤字はあくまでテレビCMをはじめとした「勝負をかけたプロモーション戦略」の結果と見るべきだろう。同社も調達時に「広告宣伝目的」と語っていたし、それは同社に出資する投資家も想定していたはずだ。実際テレビCMが奏功したGunosyは現在500万ダウンロードを達成しているという。伊藤氏も赤字決算と木村氏の退任は「関係ない」と断言する。

競業避止義務をめぐる訴訟の可能性

伊藤氏は「赤字と結びつけて考えられるので、なおさら唐突な感じもするかもしれない。だが人材もそろい始めたタイミング。退任はポジティブな決断だ」と続ける。赤字ながらも広告ビジネスの基盤ができたため、木村氏は創業メンバーをはじめとした若い起業家にその道を託したということになる。

そう思って業界関係者への取材を続ける中で、「実はこのタイミングでの退任発表には、グリーとの競業避止義務でのトラブルを回避する目的があるのではないか」という話を何度か聞くことになった。

木村氏はかつてスマートフォン向けアドネットワーク事業を手がけるアトランティスを立ち上げ、2011年1月にグリーに売却した経験を持つ。木村氏は2013年9月に同社を離れ、同年11月にグノシーの共同代表となった。だがそれから1年も経たない2014年7月、グノシーもスマートフォン向けに(ネイティブ広告の)アドネットワークを展開していると日経デジタルマーケティングが報じた。前職を離れて、また同様のビジネスを展開するという報道があったわけだ。だが通常、取締役が退任する際は、競業避止義務(競業に就いてノウハウや顧客を奪うような行為を禁止すること)を2〜3年負うことがほとんどだ。

これは何を意味するのだろうか。もちろん複数の業界関係者から話を聞いた上ではあるが、あくまで可能性として考えるのであればこういうことだ。広告事業の基盤もでき、IPOへの道が見えたグノシー。しかし木村氏が代表となっていることで「競業を手がけている」としてグリーから訴訟を起こされるかもしれない。つまり、IPOを考えた際のリスクになりえてしまう。しかもグリーはグノシーの競合であるスマートニュースへ出資しているという関係なわけだ。

そう考えれば、グノシーの言う「(木村氏の退任は)もともと予定していたもの」という言葉の意味が、単純に「体制や広告ビジネスの基盤ができたことから若き起業家に道を託す」というものではなくなってくるのではないだろうか。この可能性についてグノシー側にも尋ねたところ、「(木村氏の競業避止義務に関する契約といった)個人のことについては分からないこともある」としつつも、「そういった話は聞いていない」(伊藤氏)という回答を得た。

いずれにせよグノシーが短期間で広告ビジネスの基盤を作り、大型調達を実現し、その資金を元にしたプロモーション施策でユーザーを拡大させたことは間違いない。木村氏はとあるイベントに登壇した際、「当初スマートニュースに遅れをとっていた」と語っていたが、現在公開されているダウンロード数では、同社を追い抜いている(Gunosyは500万ダウンロード、スマートニュースは450万ダウンロード)状況だ。今回の木村氏の退任はグノシーにどういう意味をもたらすのか。今後も引き続きその動向に注目していきたい。


日本発のパーソナルモビリティ「WHILL Model A」がいよいよ発売、量産に向け1100万ドルの資金調達も

CEOの杉江理氏(後列中央)ほかWHILLのメンバー

パーソナルモビリティを手がけるWHILLが、いよいよ製品の販売を開始する。オンラインでの先行予約分となる数十台を国内で製造。10月にも予約者の元に届ける予定。今後は台湾で製品を量産し、先行予約分とあわせて今年度250台を日米で販売する予定。先行予約での販売価格は95万円。

またあわせて、総額1100万ドルの資金調達を実施したことを発表している。今回同社に出資するのは産業革新機構、NTTドコモ・ベンチャーズ、500Startups、東京センチュリーリース、三菱UFJキャピタル、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV)、YJキャピタルのほか、台湾のJochu、米Sunbridge Startup LLP、サン・マイクロシステムズ共同創業者のScott McNealy氏などとなっている。ITVおよびSunbridgeは前回のラウンドからの追加投資となる。

WHILLはTechCrunch Tokyo 2012のスタートアップバトルにも登壇し、見事優勝を果たしている。日産自動車出身の杉江理CEOをはじめとして、ソニーやトヨタグループ、オリンパスなどメーカー出身エンジニアが中心となって2010年にチームを立ち上げた。その後1年をかけてプロトタイプを開発。東京モーターショーなどにも出展したのち、2012年には正式に法人化。販売に向けて製品のブラッシュアップを進めてきた。

杉江氏によると、同社のパーソナルモビリティ「WHILL Type A」の特徴は大きく3つ——24個の小さなタイヤを組み合わせることで、その場での回転、方向転換を実現した前輪や、四輪駆動による走破性といった「機能」、見た目だけでなく利用者の動きやすさを意識した「デザイン」、スマホアプリ経由で操作のカスタマイズが可能な「ソフトウェア」——となっている。

小さなタイヤが連なって構成された前輪

実は僕も5月時点でプロトタイプに試乗しているのだけれども、その場で方向転換できることは狭い通路などでも便利に感じたし、多少の段差なら不自由なく乗り越えれそうなくらいパワフルな駆動だった。そして思っていた以上にスピードが出る(このあたりはソフトウェアでコントロールできるようになるそうだ)。

なおtype Aは各国の法規制には準拠しているほか、米国における工業規格であるRESNAに準拠。日本のJIS企画への準拠に向けた準備も始めているとのこと。

冒頭でも書いたとおりだが、今後はJochuと共に台湾でプロダクトの生産を進める。来年度には2000台程度の量産体制を整える予定だ。日米(現在米国はカリフォルニア州のみでの販売となっている)に加えて、アジア圏での販売を検討している。また直販のほか、パートナー経由での販売も予定する。ただし杉江氏によると、メンテナンスやサポートの体制を整えつつの展開になるとのことだった。ちなみに生産は台湾だが、R&D拠点は日本(東京)、ビジネス拠点は米国という位置づけにしていく。

百貨店での運用実験も

今回の発表は、東京・日本橋の三越百貨店で9月3日の朝に行われた。三越では同日より、イベント「未来の歩き方」を開催。Type Aのほか、クラモトの「Luggie(ラギー)」、片山工業の「walking bicycle club」の展示、試乗を行っている。

ちなみに現場で三越やWHILLの関係者に話を聞いたところ、三越では富裕層の高齢者をカード会員や顧客として多く抱えているそう。その層にリーチできる商品への関心も高いということもあって、今後パーソナルモビリティの販売や店内での運用実験なども進めるという。


コンテンツマーケティングのイノーバがセールスフォースと提携、2.2億円調達

TechCrunch読者であれば、コンテンツマーケティングという言葉をご存じだろう。企業が自らメディアとなり、顧客が興味を持ちそうなコンテンツを継続的に出すことで、自社のファンになってもらう手法だ。アメリカに続いて日本でも関心が高まってきているようだが、コンテンツマーケティングの導入を支援するイノーバが2日、セールスフォース・ドットコムとの資本・業務提携を発表。あわせて、セールスフォース、Draper Nexus Venture Partners、日本ベンチャーキャピタルから、総額2億2000万円の資金調達を実施した。

過剰なSEOに頼らない本質的なSEO

イノーバは、企業がターゲットとする顧客のペルソナ設計から、コンテンツの企画・制作までを手がける。コンテンツは主に企業のオウンドメディアに掲載するもので、これまでに1万本以上を制作。4月時点ではヤフーや楽天、ディー・エヌ・エー(DeNA)といったネット大手や中小企業など72社が導入している。料金は10〜20本のコンテンツで月額30万円前後という。

コンテンツを制作するのは、合格率50%以下という課題文の審査を通過した1200人の登録ライター。能力や過去の実績に応じて仕事をマッチングしている。最近ではクラウドソーシングで安価に執筆依頼するケースも増えているが、「紙媒体の執筆経験があったり、学歴や職歴が高い『ハイスペック主婦』も多く、ライターの質はクラウドソーシングよりも高い」と、イノーバ代表取締役の宗像淳は語る。

コンテンツマーケティングへの関心が高まってきている背景には、PandaやPenguinの名前で知られるGoogleの検索アルゴリズム変更がある。以前まで有効だった有料の被リンクによるSEOが通用しなくなり、内容が薄っぺらいサイトの検索表示順位を下げたためだ。

そうした中でイノーバは、過剰なSEOに頼らない本質的なSEOを実現することを謳っていて、「オウンドメディアを始めたいけど、コンテンツを内製する人手が足りない」という企業からの引き合いが多いようだ。

イノーバの顧客

コンテンツマーケに特化した日本初のクラウドソフト投入へ

今後はコンテンツ制作に加え、コンテンツマーケティングに特化した「日本初のクラウドソフト」(宗像)をまもなく投入する。同ソフトは専門知識が不要で、オウンドメディアの構築やコンテンツの制作・配信、顧客管理までを一貫して行えるというもの。セールスフォースのモバイル向けプラットフォーム「Salesforce1」とも連携し、コンテンツマーケティングで獲得した見込み客への営業活動を強化する。

今回の業務提携は、イノーバがセールスフォースの知名度を生かし、顧客を獲得できるのがメリット。一方、セールスフォースは自社のCRMサービスにイノーバのコンテンツマーケティングを組み込めるのが利点といえそうだ。


クックパッドに雑誌掲載の「プロのレシピ」、月額360円で見放題

レシピサイト「クックパッド(COOKPAD)」が1日、オレンジページやレタスクラブなどの料理雑誌に掲載されるレシピが月額360円(税抜き)で見放題のサービス「プロのレシピ」をスタートした。これまでユーザーの投稿が主体だったクックパッドだが、新たな月額課金サービスでは出版社や有名料理家と提携し、料理雑誌やレシピ本のジャンルでプラットフォームになろうとしている。

各雑誌のレシピを同じフォーマットで

プロのレシピは、料理・生活雑誌や書籍のレシピを閲覧できるサービス。最新号やバックナンバーに掲載されるレシピ約1万品が対象。食材名や料理名で横断的な検索が可能となっている。月額360円の有料ユーザーは見放題で、お気に入りのレシピを3000件まで保存できる。無料ユーザーは毎月3品まで閲覧可能だ。クックパッドの有料ユーザーでも、プロのレシピを利用するには別途、月額料金を支払う必要がある。

クックパッドと提携するいくつかの出版社は、独自にレシピを公開している。プロのレシピはこれらのレシピや、雑誌のみに掲載されているレシピを同一のプラットフォームで閲覧できるのが特徴だ。各社の雑誌は写真やレイアウトでレシピ内容を伝えることがあるが、プロのレシピでそれを再現するのは難しい。そこで、誌面のレシピを出版社の意向を損なわないよう、クックパッド側で編集しているそうだ。「慎重に言葉を選んで編集するのが地味に大変な作業だった」と、同社執行役員の加藤恭輔は振り返る。

通常のクックパッドの写真と比べると、プロのレシピの写真は随分と洗練されているのにも気づく。素人のユーザーが投稿するレシピの中には、いわゆるメシマズ写真が掲載されていることもあるが、プロのレシピは雑誌や書籍と同様に、写真を見て「これ作ってみたい」という気をそそられそう。クックパッドが「冷蔵庫の材料ありき」のプル型でレシピを探すサービスだとすれば、プロのレシピにはプッシュ型でレシピを提案する一面もありそうだ。

月額課金でプロのレシピを見放題にした理由

「生活者の料理実態に目を向けると、料理を作る人が365日クックパッドだけを見ているわけではない。雑誌のレシピも参考にしている」。プロのレシピは、ユーザーの利用シーンを網羅するために作られたサービスだと、加藤は語る。それに加えて、料理の腕が上達した利用者にとっては、クックパッドの必要性が低くなる課題もあったと指摘する。プロのレシピは、クックパッドを卒業した料理上級者に向けて、彼や彼女らが挑戦したくなるレシピを提供する側面もあるのかもしれない。

従来もクックパッドは、「レシピストア」という有料サービスで有名料理家のレシピを提供してきた。しかし、「20品500円」といった都度購入形式では多くのユーザーに利用してもらいにくかったことから、月額課金で見放題のサービスを開始するに至ったのだという。

出版社のメリットは2つある。1つは、のべ月間利用者数4400万人に上るクックパッドユーザーにリーチする機会が得られることで、雑誌や書籍の認知度や売り上げの向上が見込めること。もう1つは、クックパッドとレベニューシェアするプロのレシピ経由の売り上げだ。

「本は紙からウェブに移行されつつあると言われるが、こと、レシピの分野は紙に勝てない部分もある。例えば、料理写真のシズル感はウェブよりも紙に分がある。実際、クックパッドのレシピ本は60万部以上も売れ、改めて紙の強さを実感した。だったら、手を組めばいいというのが今回の新サービス。レシピの魅力だけでなく、雑誌や本そのものの魅力も伝え、パートナーの出版の市場も拡げることを目指したい。」

クックパッドと提携した出版社は以下の通り。今後も随時、提携先を増やしていく予定だ。

クックパッドは、レシピの人気順検索などが可能なプレミアム会員サービスを月額280円(税抜)で提供している。2014年4月末時点の会員数は130万人を突破。純増数は前年比2倍の36万人と、順調に推移しているようだ。2014年4月期の会員事業の売上高は39億6800万円に上るが、プロのレシピが会員事業の新たな収益源になるか注目だ。


個人の特技を売買できる「ココナラ」、次の一手は1分100円の有料電話相談

個人間でスキルや知識を売買できるサイト「ココナラ」が29日、1分100円の有料電話相談サービスを開始した。ココナラは似顔絵の作成や恋愛相談、SEOのアドバイスなど、個人のスキルや知識が一律500円で売買されている。2012年7月にスタートし、登録ユーザーは10万人、取引成立数は約13万件。有料電話相談は、ココナラの出品者が相談者の悩みに答えるものだ。

相談者は、ココナラのスマートフォンサイトから相手を選び、希望の時間を予約する。予約時間になるか、待機中の出品者がいれば即座に、出品者と相談者の双方が登録した電話番号にココナラのシステムから電話を転送する。お互いは電話番号を伝えずに通話でき、匿名でのやりとりも可能だ。料金は1分100円で、出品者が受け取る報酬は50%。双方の通話料は当面、ココナラが負担する。

電話相談の内容とはどんなものなのか? サービスを運営するココナラ代表取締役の南章行は、女性のプライベートな悩み、起業や転職、マーケティングなどのビジネス系の相談が中心になると予想する。相談者からすると、ネット上のやりとりと比べて、スピーディーに対応してもらったり、じっくり相談に乗ってもらえるのがメリットだという。

有料電話相談を使う動機は?

ところで、ネット上にはタダで相談に応えてくれるサービスは山ほどある。それこそ、TwitterやFacebookでつながる友人や知人に相談すれば無料。個人が特定されるのが嫌であれば、匿名でQ&Aサイトに投稿することもできる。あえて有料電話相談サービスを利用する動機は何なのか? この点について、南は次のように説明する。

「無料だと、答える側も相談する側も本気度がぐっと減ってしまう。有料になったとたんに、それは500円だろうと1万円だろうと、相談する側は本気の相談をしますし、お金をもらう以上、答える側も本気で回答します。1対1のクローズドの場で、有料サービスならではの本気のやり取りが満足度を生むと思っています。」

電話相談で費やされる時間はユーザーによって振れ幅がありそうだが、南は平均45分と見込んでいる。従来のスキル売買が1件あたりの500円だったことを考えると、電話相談の単価は9倍の4500円となるわけだ。ココナラはまず、既存ユーザーに電話相談の利用を促し、1年後には既存ユーザー経由の売り上げだけで月額800万円を目標に掲げる。さらに、広告経由で外部ユーザーも取り込んでいく。

類似サービスとして最も知られているのは、Googleが手がける専門家とのビデオチャット「Helpouts」だろう。検索してもわからないことを専門家に教えてもらえるというもので、Google+のHangoutsとGoogle Walletを融合させたサービスだ。日本ではオールアバウトが2014年3月、専門家が電話相談に応じる「navitell(ナビテル)」を開始している。


LINEは5000万人の「つながり消費」でECを変えようとしている

あらゆる商品を個人間で売買できるフリマアプリとして2014年3月にスタートした「LINE MALL」。サービス開始から5カ月を経て、国内5000万のLINEユーザーのつながりを商品購入に生かす新戦略を発表した。第1弾としては、LINEの友人間で商品をまとめ買いできる「LINE グループ購入」を28日から開始する。「つながり消費」を促すサービスを強化することで、LINE MALLは文字通り、モールアプリに変化しつつあるようだ。

リアルなつながりを消費に変える

「LINE グループ購入」の該当商品は食品や飲料などの日用品がメイン。通常価格よりも最大50%オフで購入できるのが特徴だ。注文方法は、代表者となるユーザーが商品を選び、LINEのトークやグループでまとめ買いする相手を指定する。その後、自身の購入個数を入力した注文書をLINEのメッセージで送り合い、参加メンバーの購入個数が最低個数を上回れば購入できる。決済はユーザーごとに行われ、商品は各家庭に届けられる。

グループ購入サービスは過去にもあったが、最大の違いは「リアルなつながりを消費に変えられるかどうか」だ。LINE執行役員の島村武士は従来のPCをベースとしたECについて、商品名を検索したり、スペックを比較して購入する「Pull Commerce(検索型EC)」が中心だったと指摘する。「Pull Commerceは特定の商品が欲しいケースには対応できても、ニーズが顕在化していないシーンでは利便性が高くない」。

これに対して「LINE グループ購入」は、新たなニーズを創出する「Push Commerce(プッシュ型EC)」だという。「みなさんが商品を買いたいと思った時に、自分発じゃないこともある。例えば妖怪ウォッチは、私じゃなくて子どもや妻に欲しいと言われて買ったりする」。Push Commerceは、LINEの友人や知人に推薦されることで、本来買おうとしていなかった商品に出会う機会を提供するものと言えそうだ。

「つながり消費」を促すサービスとしてはさらに、LINEの友人にギフト商品を送れる「LINE ギフト」を今秋に開始する予定。購入者はLINE MALL内でギフト商品を購入し、LINEの友達リストから送り先を選ぶだけで、相手の住所が知らなくても商品を送付できる。購入者は1人だけでなく、LINEの友だちを誘って割り勘することも可能だ。受取人はLINE上で届いたメッセージから住所や配送日を設定することで、商品を受け取れる。

27日に発表された新戦略の中には、ショッピングモール型のサービスも含まれている。具体的には、地域の生産者が収穫した農産物や、水揚げされたばかりの魚介類を販売する「LINE マルシェ」、オフラインで店舗展開している人気セレクトショップの店頭販売商品を購入できる「LINE セレクト」を年内に開始する予定。LINEとしては、両サービスに出店する店舗から販売手数料を徴収する。

開始時期は未定ながらも、クリエイターがハンドメイド商品を量産製造できるように支援する「LINE クリエイターズモール」も手がける。同サービスは、LINE MALLでユーザーから多くの「お気に入り」登録されたハンドメイド商品に対して、LINE MALLの審査を経てから、工場に量産化のオファーができるというもの。クリエイターにとっては、個人では難しい量産が可能になり、工場としては、職人や機械の遊休時間を有効活用できるメリットがある。

EC化率の白地図を全部取る

LINE MALLはフリマアプリとしてスタートしたこともあり、メルカリやフリルといったアプリと競合視されることが多い。この点について島村は、「LINE MALLをフリマサービスと考えていたら、サービス名はLINEフリマにしていた。LINE MALLはあくまでモール。個人間のやりとりに限らず、新しいECの形を目指している」と語り、フリマアプリとは見ているところが違うと言い切る。

経済産業省の調査によれば、小売りやサービス業におけるB2C市場のEC化率は3.1%にとどまっている。LINE執行役員の舛田淳は、ECには攻めるべき「白地図」が残っているといい、LINE MALLでは「白地図を全部取ることを目指す」と意気込んでいる。「最大のリアルグラフを持つプラットフォーム上でECを展開するのが唯一かつ最大の強み」。


bento.jpは単なる弁当デリバリー屋にとどまるつもりはない

「単なる弁当デリバリー屋にとどまるつもりはない」。bento.jpを運営するベントー・ドット・ジェーピー社長の小林篤昌は創業当初、こう語っていた。その言葉通り、いよいよ弁当以外の商材を扱うこととなった。オイシックスと協業し、主菜と副菜が20分で作れるレシピと食材の献立セットを期間限定で配送する。ランチタイムに自転車で弁当を届ける配送網を、16時以降の「空き時間」に有効活用する狙いだ。売り上げは両社でシェアする。

サービス名称は「KitOisix by bento.jp」。8月25日から29日までの16時以降、bento.jpのアプリ内から2人分の主菜と副菜のセットを注文できる。メニューは日替わり。初日となる25日は、主菜が「豚肉のこっくり照り焼き」、副菜が「ほくほく!ツナポテト」となっている。価格は配送料込みで1400円、配送エリアは弁当と同じで渋谷区と港区の一部エリア。注文から40分以内に届く。

bento.jpはスマートフォンで注文してから20分以内に弁当が届くサービスとして、2014年4月にサービスを開始。iPhoneアプリで住所や電話番号、メールアドレスなどを事前に登録した上で注文すれば、20分以内に自転車で指定の場所に弁当を届けてくれる。現在は常時10人以上のスタッフで配送する体制を整えている。

今後は自転車の配送網を有効活用すべく、食以外の商材も扱っていきたいという。ちなみに小林は、7月に福岡で開催されたイベント「B Dash Camp 2014」において、弁当以外の商材として「医薬品」を候補に挙げている。薬が欲しいタイミングでは家から外に出るのが困難なためだといい、実現すればニーズはありそうだ。

消費者が必要なモノやサービスを必要な分だけ即座に購入できる「即日配達ビジネス」は、GoogleやAmazon、eBayといったアメリカのIT業界の巨人が続々と参入している分野だ(関連記事:GoogleやAmazonも参入、熾烈を極める米国の即日配達ビジネス、日本の可能性は?)。

日本ではヤフーも参入。東京・豊洲地区の実店舗と提携し、Yahoo!ショッピングで注文してから2時間以内で商品を届ける「すぐつく」の実証実験を5月に開始した。同社執行役員の小澤隆生は5月、札幌で開催されたイベント「IVS 2014 Spring」で「大赤字」と赤裸々に語りつつ、その狙いを明かしている。(関連記事:ヤフーが大赤字でも「2時間配送」にこだわる理由)。ベントー・ドット・ジェイピーも「数時間配送」のネットワークを強化していくようだ。

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David Rader II


コンピュータウイルスが人間に感染する日

編集部注:この原稿は経営共創基盤(IGPI) パートナー・マネージングディレクターでIGPIシンガポールCEOの塩野誠氏による寄稿だ。塩野氏はこれまで、ゴールドマン・サックス証券、ベイン&カンパニー、ライブドア、自身での起業を通じて、国内外の事業開発やM&Aアドバイザリー、資金調達、ベンチャー企業投資に従事。テクノロジーセクターを中心に企業への戦略アドバイスを実施してきた。そんな塩野氏に、遺伝子、人工知能、ロボットをテーマにした近未来予測をしてもらった。本稿では、国内でも本格化してきた遺伝子ビジネスについて解説してもらう。

読者のみなさん、こんにちは。敬愛するTechCrunchに寄稿する機会をいただいたので、普段はテクノロジー企業に戦略アドバイスを行っている筆者だが、現在、最もホットなテクノロジー分野についてビジネスの観点から近未来予測をしてみよう。そのホットな分野とは、遺伝子、人工知能、ロボットの3つであり、第1回目は遺伝子ビジネスについて取り上げる。

最近、TechCrunchでも報じたように、ヤフーが「HealthData Labo」と呼ぶ、遺伝子情報を利用した生活習慣の改善サービスを始めたり、ディー・エヌ・エー(DeNA)が東京大学医科学研究所と提携して遺伝子検査サービスの新会社「DeNAライフサイエンス」を設立するといった動きが出てきた。TechCrunchのYUHEI IWAMOTOも利用してみたダイエット指導サービスのスタートアップ「FiNC」も忘れてはならない。同社は遺伝子検査と血液検査、そして生活習慣に関するアンケートをもとに管理栄養士が「ダイエット家庭教師」となるプログラムだ。

一方で海外にはこの領域の先駆者達がいる、アイスランドのdeCODE genetics(Amgenが買収)やクライナーパーキンスも出資したNavigenics(Life Technologiesが買収)、そしてグーグルからも出資を受けた23andMeだ。急速に立ち上がりつつある遺伝子関連ビジネスだが、どうして急にインターネット企業が遺伝子と恋に落ちてしまったのだろう?

最初の答えは、少し手垢のついた言葉、「ビッグデータ」にある。遺伝子はDNAの中の塩基配列がその組み合わせによって意味を持つデータであり、塩基はアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類から成り、約30億個の塩基対が人間を構成している。面白いことにどんな人間にも共通な塩基配列が約99.9%であり、残りの0.1%の違いが個性をつくっているところだ。この個人によって異なる部分をSNPs(スニップス)と呼び、このSNPsの一部が遺伝的な個人差、つまり体質や性格、特定の病気にかかりやすい、かかりにくいといったことに関係していると言われている。遺伝子関連ビジネスで注目されているのはこの部分だ。

ビッグデータの解析がコンピューティングパワーの向上によって飛躍的に進歩してきたが、その恩恵は人間自身の持つデータである遺伝子にも向かっている。優秀なデータサイエンティストからすれば解析の対象がソーシャルゲームのユーザ行動だろうが、顔画像だろうが、遺伝子だろうが、データはデータだ。データサイエンティストがDDBJ(日本DNAデータバンク)をブックマークし、フリーソフトの「R」を駆使し、バイオインフォマティクスの基本ツールであるBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)を使う職場を選ぶことも、もっと普通になっていくだろう。遺伝子解析とデータサイエンティストはとても相性が良い。遺伝子関連ビジネスの潜在的市場規模は数兆円とも考えられ、医療関連会社や保険会社といった豊富な資金を持つプレイヤーも多く、将来的にはギークにとって魅力的な職場が待っているかも知れないし、ギーク達を企業が奪い合うかも知れない。こうした動きは70~80年代に軍事技術を研究していた米国の科学者達が、東西冷戦の終結と共にその数理能力を武器にウォール街の金融機関に職を求めて散っていった時代を思い起こさせる。

多くのデータサイエンティストを抱えるテクノロジー企業が遺伝子関連ビジネスを成功させるのに必要なのは、言うまでもなく、もっとたくさんの人間のデータだ。23andMeはユーザの唾液から採取した遺伝子データに対し、医学研究論文を根拠に統計的にかかりやすい病気をユーザに伝えていた(現在は同サービスは停止されている)、同社が知名度を上げるためにセレブリティを集めて行った「唾吐きパーティ」は有名だ、パーティには大富豪のウォーレン・バフェット氏も参加した。こうした解析は遺伝子と体質や病気の相関性をデータから見ており、解析結果も「あなたが○○という病気にかかるリスクは通常平均に比べて1.5倍である」といった表現になる。この解析アルゴリズムの精度を上げるためには、日本であれば解析に十分な日本人の遺伝子データが必要になる。サービス提供者としてはこのデータは誰かに集めてもらうか自社で集めるかは別として、優良なデータを集めた企業がビジネスにおいて優位となる。

また、アルゴリズムのバグは絶対に避けるようにしなければならない、前出の23andMeはSpacedeckの共同創業者でもあるルーカス・ハートマン氏にアルゴリズムのバグを指摘され謝罪している。ハートマン氏は肢帯型筋ジストロフィーのキャリアである可能性を23andMeより指摘され、自分でPrometheaseという遺伝子解析ツールを使ってアルゴリズムのバグを発見したのだ、その経緯は同氏がブログでも公表している。

通常のインターネットサービスではベータ版でサービスインして修正していくといったアプローチも多いが、遺伝子解析アルゴリズムにおいて、バグは致命的だ。ユーザの期待値からすれば、ニュースキュレーションサービスの精度ではなく、医療レベルの精度が求められる。一方でデータの増加、学術的な研究の進歩によってはアルゴリズムをアップデートしていかなければならない。将来的には人工知能の解析アプローチの1つであるディープラーニングも活用されていくだろう。

今後、各社が遺伝子解析サービスを提供していくための大きなハードルに法規制がある。革新的なサービスを200ドルで提供してきた23andMeもFDA(米国食品医薬品局)によって遺伝子検査キットによる「診断サービス」の販売を停止させられ、現在は99ドルで遺伝子から自分の祖先を探すサービスへと形を変えている。FDAは同社の検査キットに偽陽性等の誤った結果が出る可能性があることを問題視した模様だが、女優のアンジェリーナ・ジョリーが遺伝子検査によって乳がんの可能性を知り、乳房切除を行ったことなど同種の検査に対する社会的注目もその背景にあるだろう。

日本においても民間事業者は検査結果に基づく診断等の医学的判断が医師法や政府のガイドラインで禁じられている。「あなたが○○という病気にかかるリスクは通常平均に比べて1.5倍である」といった検査結果の内容もこうした法規制に抵触しない表現にすることが求められ、ややもすると血液型占いレベルの内容しか伝えられない可能性もある。シリコンバレーのヘルスケアにおける著名キャピタリストは「ユーザに伝えるのは占いでも、技術的精度は最高レベルまで上げておく必要がある」と述べている。他にも既に病気や障害を有する個人へのアドバイスに対しては、医師または医師の指示の下、看護師が行わなければならない、といった規制がある。

また、遺伝子は究極の個人情報であり、今後、検査自体は安価になっていくだろうが、第三者に勝手に遺伝子検査をされない権利なども論点となるだろう。現状では個人情報保護法の観点からサービス利用について文章等での情報提供とユーザ本人の同意(インフォームド・コンセント)が必要である。

こうしたハードルがありながら、インターネット業界にいる人間なら、すぐにアドテクノロジーと遺伝子情報の融合を思いつくだろう。ユーザが自分の遺伝子情報を開示していれば、医療機関や製薬会社がターゲット広告を打つことも楽になる。頭髪に関する遺伝因子を気にするユーザの画面に薄毛治療の広告が表示されるというわけだ。ユーザが聞いたことも無い難病の治療薬の広告が表示されることを心地良く思うかどうかはわからない。しかしながら遺伝子情報の第三者提供には大きなネックがある。個人の遺伝子は父母から受け継がれており、個人の遺伝子を公開することは父母や親族についても重要な個人情報を開示することとなる。ユーザの家族が持つ難病や精神疾患の遺伝因子を広告業者に開示することに、家族中の許諾を得られるだろうか。この点は法的、技術的に大きな論点となるだろう。

遺伝子解析によってかかりやすい病気がわかるのであれば、その人の性格診断も可能ではないかと思うだろう。マイクロソフトの創始者としてビル・ゲイツと共に知られるポール・アレンはAllen Institute for Brain Scienceという脳科学の研究所を設立しており、そこではマウスを使って遺伝子が脳のどの部分と関係しているかを研究し、その脳の「地図」をデータベースとして公開している。実際にウェブ上でデータベースから遺伝子を検索することも可能だ。同研究所では人間の脳に関するプロジェクトも行われている。脳、つまり性格と遺伝子の関係性の研究は進んでおり、人工的に遺伝子を変異させたマウスをつくり、その遺伝子の変異がマウスの行動(性格)にどういった影響を与えるかも研究されている。どの遺伝子がどの性格に関係するのかを見つけ出す目的だ。ちょっと恐ろしい話ではあるが、他者に攻撃的なマウスや周囲のリスクに対して敏感、鈍感といったマウスを遺伝子の一部を欠損させることによってつくり出せることが報告されている。

遺伝子解析事業者はあなたの性格を説明したがるだろうし、こうした研究の人間への応用分野としては精神疾患の発見などが考えられる。あなたが遺伝上の自分の性格を知りたがるように、統治者たる国家もあなたの性格を知りたいかも知れない。ここには大きなプライバシー上の論点がある。国家主導のDNAデータベースの先駆者は1998年からデータ整備を行っている英国だが(United Kingdom National DNA Database)、このデータベースは明確に犯罪予防を目的としている。

遺伝子関連ビジネスの今後はドライなソフトウエア・アプローチだと考えられる。ドライはデータ解析、ウエットは実験室の意味だ。データサイエンティストの獲得、整ったデータの収集、精緻なアルゴリズムの構築、そして法規制への対応を総合的に制した企業が市場を獲得していくだろう。コンピュータを手に入れた生物学は、ますますデータを解析する世界となっていく。それ自体が人間というコードをデコード(解読)することだ。それでは逆に生物を情報からコーディング出来ないのか?塩基配列を「書く」ことによって生物を創りだせないのか?

実は2010年5月に人類を震撼させる出来事が密かに起きていた。バイオテクノロジーにおける権威の1人であり、ヒトゲノム解析を行ったセレラの初代社長だったJ・クレイグ・ヴェンター氏のチームが人工的な生命体を創り出したのだ。コンピュータを使って新しい生き物をプログラミングしたというわけだ。その新しい生命体(マイコプラズマ)は新しい塩基配列を持ち、自己複製を行う。この人工生命体はJ・クレイグ・ヴェンター研究所(J. Craig Venter Institute)のウェブサイトで遺伝子情報を見ることが出来る。ヴェンター氏は自身の研究を「合成生物学」と呼んでいる。

情報から創り出された新生命体は、各国の国家安全保障を含む我々人類への大きな課題を突き付ける。なぜかって?人工生命体が無害なバクテリアや燃料をつくり出してくれる微生物だったら問題ないが、もしそれが地球上に無いインフルエンザだったら?そして製薬会社に雇われたバイオ・プログラマーが先回りしてそのワクチンをつくっていたら?これは国家レベルで考える論点だろう。

バイオ・エンジニアリングとコンピュータサイエンスの出会いは近未来的にはバイオ・プリンティングの世界をつくりだすことだろう。クラウド上にある遺伝子情報のデータベースや他の研究者がつくった遺伝子情報を別の場所にいる研究者がダウンロードしてA,T,G,Cから成る塩基配列の合成を行う。プリント(合成)された生命体がゆるキャラならいいが、病原菌や生物兵器を創らせないためのグローバルでの規制が必須である。サイエンティストには常に「創ってみたい」欲求があるものだ。

インターネット企業が今すぐバイオ・プリンティングまで手掛けることはないだろうが、数年前にヤフーとDeNAが遺伝子解析事業を手掛けることも予測できなかっただろう。Y Combinatorが遺伝子操作によってつくられた光る植物Glowing Plant出資し、サンフランシスコではローコストのバイオ・プリンティングを目指すCambrian Genomicsも登場している。バイオテクノロジー専門家であり未来学者であり、「細胞は生きるコンピュータである」と唱えるアンドリュー・ヘッセルは、合成生物学はインターネット出現以上のインパクトになるかも知れないと言う。同氏はシンギュラリティ大学にも所属している。そう、同大学はテクノロジーが人間を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)を予言するレイ・カーツワイルによってつくられたシリコンバレーの教育機関だ。そのうちハッカー達はコンピュータかバイオのどちらの「ハッカー」なのか聞かれるかも知れない、コンピュータ(が創った)ウイルスが人間に感染するかも知れない。近未来的にはバイオしかり、エネルギーしかり、データがある世界にはコンピュータサイエンスが益々、浸食していくだろう。社会科学がデータサイエンティスト達に浸食されていったように。

photo by
MIKI Yoshihito


日本のスタートアップはRubyがお好き? PHPと人気ほぼ互角に

ソーシャルリクルーティングサイト「Wantedly」を運営するウォンテッドリーが25日、スタートアップ企業に人気のプログラミング言語に関する調査結果を発表した。それによれば、2009年に創業した企業の間ではPHPが最も人気だったが、2011年以降に創業しているスタートアップ企業の使用言語はPHPとRubyがほぼ半々であることが分かったという。

詳しくグラフを見ると、2009年創業の企業のうち、PHPを使用していたのは38%、Rubyは15%と倍近くの差があったが、2011年に創業した企業ではPHPとRubyが24%で同率。2013年創業の企業ではPHPが32%、Rubyが27%と再び差が広がったが、2014年に創業した企業ではPHPが22%、Rubyが25%と、初めてRubyがPHPを上回っている。

調査は、Wantedlyの登録企業で使用言語を記載している企業390社の中から、各社の創業年度別にサーバーサイドで使用している言語を集計したもの。JavaScriptはフロントエンドの使用が多いため除外した。JavaはAndroidでの使用とサーバーサイドでの使用の両方をカウントしている。

プログラミング言語は時代とともに人気が移り変わるもの。PHPとRubyの人気が伸びている理由についてWantedly代表取締役の仲暁子は、「PHPはCakePHP、RubyはRuby on Railsなどの代表的なフレームワークが存在するため」と見ている。


卒業率わずか25%、シリコンバレー発の「マジでガチ」な起業家育成プログラムがすごい

FI関西の卒業生と運営スタッフ

シリコンバレー発の起業家育成プログラムを運営する「Founder Institute」(ファウンダーインスティテュート、以下FI)をご存じだろうか。2009年の創設から過去5年間で1116社の卒業企業を輩出し、このうち8社がエグジットを達成。そのポートフォリオの評価額は50億ドルを超えるという、40カ国66都市で展開するグローバルなインキュベーターだ。

FIの特徴のひとつとして挙げられるのが、会社を辞めずに参加できること。プログラムは毎週1回、4カ月にわたって夜間にコーチングとメンタリングが行われ、昼間の仕事と両立させながら起業の準備を進められる。こう聞くと、生ぬるく感じる人もいるかもしれないが、そんなことはない。というよりも、なかなかのスパルタ式プログラムだ。

それを物語っているのが卒業率の低さ。2014年4月、関西に日本初のFI支部が設置されたことはお伝えしたが、第1期生は大阪、京都、神戸、奈良から約50人が応募し、IQテストや志望動機などの審査に通過した20人が入学。このうち、実際に卒業できたのはわずか5人。入学者の25%にとどまっている。

起業志望者はテスト費用として50ドル、合格した場合はプログラム参加料として900ドルをFIに支払う。退学になっても返金されないが、来期の参加料が免除される仕組みとなっている。

FIの起業家育成プログラムとは

入学者にとって最初の関門は「メンターレビュー」だ。ビジネスアイデア策定、市場調査、収益モデルの決定を経て、メンターの前でプレゼンを実施する。メンターの評価が低ければ落とされるわけだが、FI関西では半数がドロップアウトさせられたのだという。

関西支部のメンターにはFI創業者のアデオ・レッシ、Google Japan元社長の村上憲郎、東証マザーズへの上場が承認されたロックオン代表取締役の岩田進らが参加。グローバルでは、EvernoteのCEOであるフィル・リービンや『リーン・スタートアップ』の著者として知られるエリック・リースら3000人が登録している。

メンターレビュー後も、スパルタ式の課題は毎週続く。

一例を挙げると、プロダクトのランディングページを1週間以内に作り、事前登録フォーム経由で翌週までに150人、翌々週までに200人のメールアドレスをゲットしろ、といった内容だ。期限内に課題を提出できなければ退学となり、毎週のようにふるいにかけられていく。

プログラミングをかじっていればランディングページを1週間で作るのは造作ないかもしれないが、起業志望者の中にはITとは無縁だった人もいる。昼間の仕事を続けながらページを作り、しかも、そこから実際に事前登録ユーザーを集めるのは、そんなに簡単なものではないだろう。

入学者のひとりで、スポーツ業界向けウェアラブル端末を手がける山田修平は、「(運営側が)とにかくプレッシャーをかけてくる」と4カ月間のプログラムを振り返る。最もきつかったと語るのは、プロダクト開発にあたって最低25人からお金を借りる「プライベートファンディング」の課題だ。

「お金を返さないといけない状況を作って自分を追い込むとともに、周りの人間を巻き込んでいけというもの。金額は1円でも1000円でも構わないのですが、25人というと気軽にお願いできる人ばかりではなく、心理的なハードルがめっちゃ高かったです」。

卒業の最終条件は「会社を登記すること」

FI関西の運営に携わる、みやこキャピタルの藤原健真によれば、課題の作業量は「毎週20時間分」に相当。最終的な卒業条件は「会社を登記すること」で、「座学だけで終わらないガチなプログラム」と説明する。プログラムは世界共通だ。

「本国からは『簡単に卒業させるな』と言われているので、いつも落とす理由を探している。ただ、これだけ厳しい基準を設けているからこそ、卒業企業の高い成功率がある」。FIによれば、卒業企業の生存率(現在も運営している会社)は89.5%。全体の42%は卒業後に資金調達を実施しているのだという。

FI関西を運営する藤原健真

そしてこのたび、第一期生のプログラムを終了したFI関西が8月7日、大阪で卒業式を兼ねたデモデイを開催した。4社5人が手がけたプロダクトはトラック輸送の価格比較サイト、高級コーヒー豆の定期購入サービス、ルームシェア向け家計簿アプリ、フットサルプレイヤー向けウェアラブルデバイスと多種多様。いずれもローンチ前ではあるが、関西にスタートアップを育成する拠点が根付くかどうかを占う意味でも、各社の今後に注目したい。

FI関西の第1期卒業生のプロダクト

トラック輸送の価格比較サイト「BestLogi」

出発地や到着地、貨物の大きさや重要といった条件を入力すると、運賃相場を検索できる。中小の輸送業者に登録してもらい、初回の発注のみ90%オフのお試し輸送サービスも設ける。中小の輸送業者をどれだけ集められるかが成功の鍵を握りそうだが、創業者の青山晋也はセミナーやイベントを通じて集めるという。

青山によれば、中小の輸送業者は日通やヤマトの下請けが大半。BestLogiでは大手を中抜きすることで、発注者はコストを削減でき、受注者は取り分を増やす仕組みを作るとしている。キャッチフレーズに「輸送業界の価格ドットコム」を掲げている。

高級コーヒー豆の定期購入サービス「CANVAS COFFEE」

毎月3000円で3種類のコーヒー豆を届けるサービス。翌月以降は、ユーザーがお気に入りのコーヒー豆に加えて、最低1種類はCANVAS COFFEEが選んだコーヒー豆を届ける。10月中旬にサービスを開始する予定で、事前ユーザー登録を受け付けている

バリスタとして10年のキャリアを持つ創業者の八木俊匡は、「コーヒーの美味しさは言語化するのが難しく、知識がなければ理想のコーヒーを選べない」と語る。FI関西に入学した当初は、バリスタを派遣して豆を届けるビジネスモデルを検討していたが、「それではスケールしない」というアドバイスに従い、現在のサービスにピボットした。

毎月定額料金を支払うことで商品が届くサブスクリプション型ECは2012年頃に日本やアメリカで急増したが、そのブームは沈静化した。日本での可能性について八木は、「飲み比べないとわからないコーヒーにはチャンスがある。ゆくゆくは顧客の嗜好データのノウハウをワインやチョコレートなど、他の業界でも応用したい」と話している。

ルームシェア向け家計簿サービス「Crewbase」

創業者の1人で京都大学に在学中の浦嶋優晃の試算によれば、日本のルームシェア人口は約140万人、ルームメイト間で支払う金額は255億円に上るという。また、ルームメイト間でのトラブルの多くは金銭問題と指摘。これを解決するために、FI関西で出会った元電機メーカーの中江敏貴とともに、ルームメイト間の支出を記録したり、差額の精算時に送金できる家計簿サービスを立ち上げることにした。

サービスは、支出の負担や清算方法を細かくルール付けできるのが特徴。例えば、食費はAさんが全額支払う、光熱費はBさんが3割、Cさんが7割負担する、といったルール設定が可能だという。収益はルームメイト間の差額資金を決済する際に徴収する手数料がメインとなる。

フットサルプレイヤー向けのウェアラブルデバイス「Up performa」

アマチュアのフットサルプレイヤーが、プレイ中の走行距離やスピード、ポジショニングを記録・分析するためのウェアラブルデバイス。位置情報はGPSを活用して取得する。2015年にクラウドファンディングに出品する予定。サッカー以外の屋外スポーツでも展開したいという。

アマチュアスポーツにデータ解析の需要があるのか、データを取得しても解析できる人がいるのかは定かではないが、実際に中学校のサッカー部で使ってもらったところ、「お前走ってないやん」というのが丸わかりだったりして、監督や選手の反応が良かったとのことだ。


日本のGumiが北アメリカ市場参入を発表―ゲームスタジオを世界4箇所で立ち上げ中

北米ゲーム市場は118億ドルという巨大な規模だが、最近、ZyngaやCandy CrushのメーカーKingのような有力ゲーム企業でさえ躓いたことでもわかるように、非常にタフな環境だ。

しかし日本のゲーム企業、gumiは北米市場に挑戦することを決めた。 今日(米国時間8/21)、gumiは北米市場向けのゲームの開発拠点として4つのスタジオを立ち上げることを発表した。gumiによれば、今後北米で新たに100人を採用していくという。

gumiはSegaLineGreeなどの有力なパートナーと提携しており、最近、シリコンバレーのベンチャー・キャピタル、World Innovation Lab (WiL)がリードしたラウンドで5000万ドルの資金を調達している。

gumiのアメリカ本社兼スタジオはテキサス州オースティンに置かれる予定だ。これに加えてバンクーバー、ストックホルム、キエフでもスタジオを立ち上げ中だ。これらのスタジオはアメリカを中心とする英語圏市場向けのゲーム開発を専門に行う。また近くサンフランシスコに事業開発とPRのためのオフィスを開設する。

gumiはまた、ゲーム企業WeMadeの前CEOで、 Microsoftのアジア・ゲーム・スタジオのゼネラル・マネージャーだったA.J. Redmerを北米事業の責任者として採用したことを発表した。RedmerはMicrosoftでXboxを創設したチームの1人であり、任天堂ソフトウェアのゲームデザイン担当ディレクターを務めたこともある。

gumiは今年中に10億ドル規模の株式上場を予定しているとされる。ただしRedmerは「現時点ではこの問題についてのコメントは控える」と述べた。

同社は800人の社員を擁し、この2年で300%の成長を遂げたという。シンガポール、韓国、中国、台湾、インドネシア、フィリピンで事業を行っており、売上の半分以上は海外からのものだという。

Redmerはgumiの北米参入について「ブレイブフロンティアがアメリカ市場で大きな成功を収めたことが、われわれが西欧市場で十分な競争力を持つという確信を強めた。またブレイブフロンティアを売り込んだ体験がアメリカのモバイルゲーム市場に関して多くの貴重なノウハウと知見を与えてくれた。他のゲームを販売していく上でこれらは大きな財産となるものと信じている」と述べた。

またゲーム開発については「われわれは世界各地でスタジオを運営しており、それぞれの地域市場に深く根ざしたゲーム開発を行っている。われわれの新しいスタジオも北米地域の特性を十分に理解して開発を行う。また西欧市場でこれまで見過ごされてきたジャンルのゲームを開発していく」と述べた。

Gumiの最大のパートナーはSegaとLineだ。Segaはまた5000万ドルのベンチャー資金の出資者の1人でもある。またgumiの戦略的パートナーのLineも出資およびゲーム流通の両面で協力するという。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+