「在留外国人の入居お断り」問題の解決を目指す「AtHearth」が正式リリース、4100万円の資金調達も

左から、ジェネシア・ベンチャーズ代表取締役の田島聡一氏、アットハース代表取締役の紀野知成氏、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメント・マネージャー水谷 航己氏

外国人は日本での生活を始める際、様々な困難に直面する。その象徴の1つとも言えるのが物件探しだ。法務省が2017年に発表した調査結果によると、過去5年間に日本で住む家を探した経験のある人2044人のうち、「外国人であることを理由に入居を断られた」経験のある人は39.3%、「日本人の保証人がいないことを理由に入居を断られた」経験のある人は 41.2%、「『外国人お断り』と書かれた物件を見たので、あきらめた」経験のある人は 26.8%。

また、日本の英字新聞社、ジャパンタイムズが2017年に発表した独自の読者調査によると、回答を得られた63名のうち52名、82.5%が国籍を理由に入居を断らるなどを経験している。首都圏の賃貸物件空室率は約34%(アットハース)と年々増加傾向にあるのにも関わらず、だ。約260万人強まで増加している(アットハース)在留外国人の受け入れ体制は十分に整備されていない状況にあると言えるだろう。

このいわゆる「在留外国人の入居お断り」問題を解決するために立ち上がったのが、紀野知成氏が代表取締役を務めるアットハース。同社は賃貸物件契約手続きを多言語かつオンラインで完結できる、外国人向けのプラットフォーム「AtHearth」を提供している。

アットハース代表取締役の紀野氏は三菱商事での勤務を経て、2015年に同社を設立した。三菱商事在職中のフランス駐在から帰国した後、国際シェアハウスの「Tokyo Hearth」を立ち上げ4年間ほど運営する中、在留外国人と管理会社の双方における課題を痛感し、AtHearthの着想に至ったという。同社のミッションは「外国人という概念自体をなくし、誰もが世界に自由に暮らし、Hearth(暖炉)の前の様な居心地の良い暖かな場所を持てる世の中を作る」ことだ。紀野氏はフランス駐在の前にも、米国での留学を経験しており、「外国人」としての立場を経験し良く理解している。

日本において1000人ほどの外国人の住居探しに立ち会ったという紀野氏。前記のジャパンタイムズによる調査は有効回答数が63名と少ないものの「82.5%が国籍を理由に入居を断らるなどを経験している」という結果となったように、紀野氏も実感としては「8割ほど」の外国人が国籍を理由に入居を断られていると言う。大手企業に務めている外国人も例外ではないそうだ。

このように外国人が入居を断わられてしまうという問題を解決するため、AtHearthでは不動産オーナー、入居希望の外国人就労者留学生、そして外国人就労者を迎える企業人事部や学校法人学生課の担当者にサービスを提供している。

Athearthを利用し、不動産オーナーや管理会社は、多言語による集客、内覧、契約、支払い代行をアットハースに委託することで「入居者の幅を拡大し、空室率を大幅に下げることができる」(アットハース)。入居希望の外国人就労者や留学生は、物件の検索ならびに契約の手続きを母国語で行い、住居を確保した上で来日し、代理保証や保険のみならず、水道光熱費、WiFi契約、銀行口座開設などのサポートを受けることができる。最後に、外国人就労者、留学生を迎える企業人事部、学校法人学生課の担当者は、部屋探しをアットハースに一括委託することが可能だ。

アットハースはジェネシア・ベンチャーズ、そしてエンジェル投資家の芝山貴史氏から4100万円の資金調達を実施したと10月1日に発表。ジェネシア・ベンチャーズのインベストメント・マネージャー、水谷 航己氏は「経済活動のグローバル化によりますます国境がシームレスになっていく中、不動産業界は国や地域ごとに手続きや慣行が異なり、依然として言語障壁も高いことから、国際的な人材流動化を支える不動産インフラの構築は必須と考えていた」とコメントしている。アットハースは調達した資金をもとに人材採用、管理物件獲得を強化し、事業を推進していく。

8つのプロペラで空⾶ぶクルマが年内に有⼈⾶⾏試験へ、SkyDriveが15億円調達

SkyDriveは9月30日、第三者割当増資および助成⾦で総額15億円調達したことを発表した。累計調達額は20億円。今回の第三者割当増資の引き受け先には、既存投資家であるDrone FundとZコーポレーションに加え、STRIVEと伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、環境エネルギー投資が加わった。同社は今回調達した資金を、2019年内の有⼈⾶⾏試験に向けた開発に投下していく。また、今回の第三者割当増資のリードインベスターを務めるSTRIVE代表パートナーの堤 達⽣⽒がSkyDriveの社外取締役に就任する。

SkyDriveは、航空機・ドローン・⾃動⾞エンジニアを中⼼して2016年に結成された有志団体CARTIVATORが前身。2018年12⽉に、電動で⾃動操縦と垂直離着陸が可能な無人の空⾶ぶクルマの屋外⾶⾏試験を開始。最近では愛知県・豊⽥市と「新産業創出へ向けた『空⾶ぶクルマ』開発に関する連携協定」を締結し、2019年6⽉に豊⽥市に⾶⾏試験場をオープンしている。同社は、2019年内の有⼈⾶⾏試験のあと、2020年夏のデモフライト、2023年の発売開始、2026年の量産開始を目指している。

同社によると、当初は有志団体として2020年夏のデモフライトを目標に機体を開発していたそうだが、効率よく移動できる日常的な交通手段やエンターテイメントとしての空飛ぶクルマの可能性を感じ、多くの利用者が利用できる未来を目指すために事業や技術開発の加速させるために株式会社化したとのこと。

無⼈試作機での屋内⾶⾏試験

この空飛ぶクルマは、4か所に搭載した8つのプロペラで空を飛び、地上走行には3つのタイヤを使う。サイズは通常の自動車よりひと回り大きく、大人2人が乗車して高度150~300m程度を飛行することを想定しているとのこと。すでに、機体フレームや飛行ユニット、飛行制御の最適化により、無人状態でさまざな形態での安定飛行が可能になっている。

有人飛行試験については、まずは大人1人が乗車することになるという。技術的にはすでに実現可能な段階になっており。現在は機体の安全をより担保するため、モーターやアンプ、フライトコントローラーなどの耐久試験、機体トラブル時の乗員保護の試験などを進めている。

2023年からの一般販売に向けて同社は、既存の航空機レベルの安全性の確保、バッテリーの長寿命化などによる航続距離延長(現時点では20分強)、多くの人が空飛ぶクルマを受け入れてくれる社会受容性の向上、離発着上や飛行経路などのインフラ構築などがカギになるとしている。正式な予定販売価格は発表していないとのことだが、まずは3000万円程度の価格設定になるという。ただし、将来的には量産効果によって自動車レベルに価格を下げることが可能とのこと。

空飛ぶクルマの価格が自動車並みの数百万円に収まり、周辺住民の理解が進んで離発着できる場所が増えれば、移動手段としてだけでなく物流にも大きな変革をもたらすの間違いない。道路行政を主体とした公共事業のあり方も変わるかもしれない。

小売業界のデータドリブンな意思決定を支援、店舗分析サービス開発のFlow Solutionsが1.5億円を調達

小売業界向けのデータ活用ソリューションを展開するFlow Solutionsは9月26日、複数の投資家を引受先とした第三者割当増資により総額1.5億円を調達したことを明らかにした。投資家リストは以下の通りだ。

  • DNX Ventures
  • アコード・ベンチャーズ
  • 博報堂 DY ベンチャーズ
  • 楽天キャピタル
  • Darwin Venture

Flow Solutionsは小売店舗が“データドリブンな意思決定”を行うのに必要となる基盤を開発するスタートアップだ。主要プロダクトの「InSight」ではカメラなどのIoT端末を通じて取得した来店客数や顧客属性、POSや店内の導線、レジ待ちなど店舗内の各種データを中心に、天気やスタッフのシフトなど付随する情報を含む様々なデータを統合し、ダッシュボード上で可視化する。

店舗の売上に直結する主要な指標をリアルタイムで常に把握できるのはもちろん、様々な角度からデータを収集することで従来は実現できていなかった観点からの深い店舗分析が可能。それにとどまらず客数や店内の混雑を予測した上で現場のスタッフに次のアクションを提案する機能を備えるほか、スタッフのデータ活用をサポートするeラーニングシステムなども提供している。

これまでFlow Solutionsのソリューションは59ブランド、800以上の店舗が導入。たとえば商品棚ごとのパフォーマンス分析を実施した上で店内の商品陳列が変更されるなど、同社のサービスを活用した実店舗での改善事例も多数生まれているという。

なおInSightに関しては店舗ごとの月額サブスクリプションモデル、IoTセンサーなどのハードウェアについても同様にHaaS(Hardware–as–a–Service)モデルの月額制だ。

Flow Solutionsによるとカナダや米国、欧州などではすでに7割程度の小売店で来店者分析や転換率の計測などデータに基づいた店舗分析が実施されているそう。一方で日本ではPOSに集積したデータ分析が主流になっていて、購買に至らなかった人に関するデータなど網羅的な店内データの収集や分析が進んでおらず、店員の勘や経験に依存している店舗も未だに多いようだ。

「顧客データの必要性を感じ、いち早く分析システムを導入した小売業者でも、データがバラバラであったり、顧客を洞察するまでに及んでおらず、従来は経験と勘に基づいた意思決定をせざるを得ない状況にあります。顧客のニーズが多様化し進化するのを感じながらも、今なお、ほとんどの小売業者が、顧客の好みや行動に対する推測、直感に基づいて意思決定を行っています」(代表取締役CEOのチャド・スチュワート氏)

上述した通りInSightではPOSや人員配置、キャンペーンなどこれまで散らばっていた各種データととももに、IoTセンサーから取得できる店内の行動情報を統合・分析し誰でも使えるようにするのが特徴。「店長からCEOまで、組織内のすべての人が、簡単に多数のデータソースを表示・実行できることも、お客様がFlowを選んでくださっている理由の1つ」だという。

今後はポイントサービスの分析機能やエクスポート機能の追加や、AIを用いた予測機能の拡充など引き続きプロダクトのアップデートに力を入れる計画。今回調達した資金を活用して組織体制を強化しながら、さらなる事業拡大を目指す。

「『小売データを実用的なものにする』という私たちの使命を一貫し、小売のデジタル化を強化するため、今後数か月に渡り素晴らしい新機能を提供していく所存です。予想よりも早くなりましたが、日本以外の小売業者やパートナーから注目が集まり始めています。 そして、日本の小売業者においても国外での成長機会を求めているため、言語や文化を超え管理できる『データ駆動型ツール』を使用し成長をサポートする態勢を整えていきたいと思っています」(スチュワート氏)

現役エンジニアが執筆した教材で“作りながら”プログラミングを学べる「Techpit」が資金調達

CtoCのプログラミング学習プラットフォーム「Techpit」を運営するテックピットは9月26日、​F Venturesなどを引受先とする第三者割当増資により、​総額3000万円​の資金調達を実施したことを明らかにした。

同社が手がけるTechpitは現役エンジニアが執筆した学習コンテンツを用いて、アプリを作りながらプログラミングスキルを磨けるCtoCの学習プラットフォームだ。未経験者や初学者向けに基本からレクチャーするプログラミング教室や学習サービスとは異なり、入門レベルの文法を学んだ後「自分でWebアプリケーションを作ってみたい」と考えるユーザーに実践的なコンテンツを提供する。

たとえば「Instagram風簡易SNSアプリを作ってみよう」や「Tinder風マッチングアプリを作ってみよう」、「Trello風ToDoタスク管理アプリを作成しよう」といった教材は実際にTechpit上で販売されているものだ。

現在公開されているコンテンツは約50種類。各教材は基本的にテキストベースで作られていて、項目に沿って開発を進めていけば目的のアプリが完成するようになっている。

動画とテキストという違いはあれど、サービスの仕組み自体は「Udemy」に近い。コンテンツ執筆者は自ら作った教材を有償で公開し、購入された場合には代金の65%を受け取れるモデル。運営側はコンテンツ公開前のレビューやマーケティングのサポートをする代わりに残りの35%を手数料として取得する。

執筆者として登録しているエンジニアは現在150人ほどいて(テックピットの基準を満たした人のみが登録)、その内約30人がすでにコンテンツを公開しているそう。顔ぶれも大企業やベンチャー企業で働くエンジニアからフリーランスまで幅広く、経験豊富な熟練者もいれば新卒3年目の若手エンジニアもいるのだという。

エンジニアにとっては「受託開発など、労働時間に対して収入を得られるものとは違ったスタイルの副業」という捉え方もでき、実際に副業の1つとして執筆に取り組むユーザーもいるそう。「隙間時間などを活用して自由なペースで進められるのがメリット。1度作ってしまえば、コンテンツが売れるごとに継続的な収入を見込める」(テックピット代表取締役の山田晃平氏)のが特徴だ。

執筆者向けの画面

「実際のサービスの作り方がわからない」を解決

慢性的なエンジニアの人材不足という背景もあってか、近年はオフライン・オンライン問わず未経験者であってもプログラミングを学びやすい環境が整い始めている。

「progate」や「ドットインストール」のようにオンライン上で手軽にスタートできるものから、講師のサポートを受けながら一定期間集中して学習に取り組む「テックキャンプ」や「テックアカデミー」といったものまで選択肢は多い。

Techpitは2018年10月のローンチで後発とも言えるが「言語の文法を初歩から学べるサービスはあるが、その次のステップとしてプロダクトの作り方を実践的に学べる場所がない」というユーザーの課題に着目して開発した。

テックピットのメンバー。左から取締役COOの辻岡裕也氏、代表取締役CEOの山田晃平氏、取締役CTOの前山大次郎氏

「これまでであれば、Web上で公開されているブログ記事などで調べながら作っている人が多かった。ただ無償のため質にバラツキがあったり情報が古かったりもする。有償になったとしても現役のエンジニアが作ったコンテンツを通じて、実務に基づく形でサービスの作り方を学べるのであれば十分に価値があると思った」(山田氏)

初学者向けの学習サービスが受験勉強における「教科書」的な位置付けだとしたら、Techpitはそこから一歩エンジニアに近くづくための「参考書・問題集」のようなものをイメージしているそう。初学者のレベルから企業で求められるようなレベルへ橋渡しをする役割を担いたいという。

正式ローンチ前にプロトタイプを作ってTwitterにポストしたところ反響があったため、教材数を増やしながらプロダクトをブラッシュアップ。10月のローンチ初日には1000人の登録者が集まった。

山田氏いわく、今後のポイントはユーザーが満足する良質なコンテンツをいかに集められるか。特にTechpitはCtoCという性質上、自分たちで教材を作るわけではないため「執筆者となるエンジニアの負担をなるべく減らしつつ、わかりやすい教材が継続的に生み出されるための環境整備」が必要だ。

「プログラミング言語や技術はアップデートが頻繁に行われ、新しいものもどんどん生まれる。その中でCtoCの仕組みがうまく回れば、内省でやる以上に最新のトレンドに沿ったものやニッチな領域のものまで、豊富な種類の教材を提供することもできる。だからこそ執筆の環境作りには重点的に力を入れていて、フォーマットやテンプレートを使うことで少しでも楽に書ける仕組みを整えたり、章ごとにフィードバックをしたりなど、教材づくりのサポートをやってきた」(山田氏)

今後は執筆者の工数をさらに削減するべく執筆者向けのプロダクトのローンチも計画。入門レベルを終えた中級者向けのプログラミングサービスとして、より充実した場所を目指していく。

なおテックピットは2018年7月の創業。代表の山田氏と取締役CTOの前山大次郎氏が同年4月にガイアックスへ新卒入社後Gaiax STARTUP STUDIOに採択され、会社を立ち上げた。

C Channelが9億円超の資金調達、トランスコスモスとの協業も

C Channelは9月24日、約9億円の資金調達を発表した。第三者割当増資での調達で主な引受先は下記のとおり。今回調達した資金は、サービス拡充と事業基盤の強化に投入されるとのこと。

  • セラク
  • ナントCVC2号投資事業有限責任組合(南都銀行とベンチャーラボインベストメントの共同運営ファンド)
  • 博報堂DYメディアパートナーズ
  • 価値共創ベンチャー2号有限責任事業組合(ABCドリームベンチャーズとNECキャピタルソリューション、ベンチャーラボインベストメントの共同運営ファンド)
  • SBIインベストメント
  • VLI新ベンチャー育成投資事業組合

C Channelは動画メディアを中心にサービスを展開しており、女性向けの「C CHANNEL」(シーチャンネル)やママ向けの「mama+」(ママタス)を運営している。またこれら両メディアのほか、インフルエンサーマーケティング事業も手がけており、現在は日本をはじめ世界10カ国でサービスを展開している。

写真に向かって左から、トランスコスモスDEC統括 デジタルトランスフォーメーション本部 プラットフォーム戦略統括部・統括部長の野田朋哉氏、C CHANNEL公式クリッパーひよん、グランプリ~みかこ~、C Channel代表取締役社長の森川 亮氏

同日、同社はトランスコスモスと合同で「次世代インフルエンサー発掘プロジェクト」を発足させ、インフルエンサーとして将来的な活躍が期待される方をオーディション形式で選出。グランプリに~みかこ~さん、準グランプリに猪瀬百合さんが決定。~みかこ~さんは今後、トランスコスモスの専任クリエイターとして、C CHANNELやInstagramを中心としたSNSプロモーションの企画立案・クリエイティブ制作などに参画するとのこと。

プログラミングなしで複数SaaSを連携、定型作業を自動化するiPaaS「Anyflow」が資金調達

生産年齢人口が減少しこれから人手不足が一層深刻化すると考えられる日本において、テクノロジーを活用した業務の効率化・自動化にかかる期待は大きい。

特に近年はAIを活用したものを中心に様々なプロダクトが登場してきているが、「定型業務を自動化する仕組み」という観点で注目を集めるのがRPAだ。

Robotic Process Automationという名の通り、ロボット(プログラム)がPC上の業務を自動で実行してくれるこの技術は国内でも徐々に拡大。昨年紹介したPRAカオスマップを見ても多様なプレイヤーが関わっていることがわかるし、国内企業のRPA導入率は32%なんて調査結果もある(MM総研が2月に発表したもの。年商50億円以上の国内企業1112社が対象なのであくまで参考程度ではあるけれど)。

その一方で「ロボットが間違えを起こした」「エラーで止まってしまった」などRPAに関する課題や悩みを声を聞くようにもなってきた。他のテクノロジーと同じようにRPAも万能ではなく、時にはフィットしない場面もある。それが徐々に浮かび上がってきたタイミングということなのかもしれない。

今回紹介するAnyflowはそんなRPAとは異なる「iPaaS」というアプローチで業務の自動化・効率化に取り組むスタートアップだ。

同社は9月24日、事業拡大に向けてCoral Capitalを引受先とするJ-KISS型新株予約権方式により2000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

SaaS同士をつなぎ合わせ、より便利にSaaSを使えるように

Anyflowが開発する「Anyflow」はクラウドネイティブなiPaaSだ。

iPaaSとはそもそもintegration Platform-as-a-Serviceの略称で、SaaSのようなクラウドサービスとオンプレミス型のサービスを統合するプロダクトのこと。Anyflowの場合はプログラミングなしで複数のSaaSを簡単に繋ぎ合わせ、業務を効率化できる。

たとえば名刺管理ソフトとSalesforceを連携させて、名刺交換した人の情報を自動でSalesforce上に転記したり。労務ソフトの入力をトリガーに、Slackなど社内ツールへメンバー招待業務を自動化したり。SaaS同士を繋ぐことで、各SaaSをもっと上手く使いこなせるように手助けするプロダクトと捉えてもいいかもしれない。

Anyflowを使う際には自動化したいアクションを「ワークフロー」として管理画面上に作成していく。ワークフローは自分でゼロから作るほか、既に登録されているレシピ(テンプレートのようなもの)を使ってもいい。

ワークフローを自分で作る場合は連携させたいSaaSを選び、どんな場面でどのようなアクションを実行するのか、具体的な条件を設定していく。分岐や繰り返し、フィルターなど設定を細かな調整をすることはもちろん、ワークフローから別のワークフローを呼び出すことも可能。特殊なケースでなければ、大抵の業務はビジネス部門のメンバーが自身でサクサク効率化できるという。

「日本の企業は1社あたり平均で20種類くらいのSaaSを使っていて、その連携に困っているという悩みがある。従来は自社のエンジニアや外部のSIerに依頼するのが一般的だったが、スピードやコストの面が課題。(SaaS間の連携を)ビジネス職の人が自分でできるようになるというのがAnyflowの特徴だ」(Anyflow代表取締役CEOの坂本蓮氏)

方向性としては冒頭で触れたRPAと似ている部分もあるが、坂本氏によると「RPAとの決定的な違いはAPIをフル活用すること」にある。

基本的にRPAはコンピュータのマウスやキーボードをシミュレートして操作する類のプロダクトであるため、仕様変更が少ないアプリケーションに関する作業の自動化にはもってこい。一方でSaaSのようにアップデートが多いものを対象とする場合、その都度ロボットが止まってしまう恐れがある。

「Anyflowでは各SaaSが公式で用意しているAPIを使っているので仕様変更に強い。ただ必ずしもiPaaSの方が優れているという話ではなく使い分けだと思っていて、APIがなければiPaaSの力は発揮できないし、RPAの方が向いているアプリケーションもある」(坂本氏)

実はもともとAnyflowでもクラウド型のRPAを作ろうと思っていたのだそう。しかしヒアリングを繰り返している内に「SaaSを使っている企業にとってはRPAだと仕様変更がボトルネックになる」と感じ、最終的に現在のiPaaSへと方向性をシフトした。

Anyflowは7月にベータ版をローンチ。これまでは約10社とPoCのような形で同サービスを使った取り組みを進めてきたが、今月からとあるマザーズ上場企業で有償導入もスタートしているという。

プライシングは連携できるSaaSの数に応じた月額モデル。現時点ではミニマムで3万円から利用できる仕様だ(3個まで連携可能)。

SaaS同士をつなぎ合わせ、より便利にSaaSを使えるように

国内ではiPaaSの認知度はそこまで高くないかもしれないが、海外ではむしろRPA以上にiPaaSのマーケットが広がっている。Salesforceが2018年に約7000億円で買収したMulesoftや日本でもちょこちょこ耳にするZapierを始め、プレイヤーの数も多い。

膨大な数のアプリケーションを連携できる海外の主要プロダクトに比べると、Anyflowで連携できるのはSalesforceやSlack、Googleカレンダーなど約10サービスとまだ少ない。ただし日本のSaaSや日本語のサポートに対応しているものは限られるため、まずは国内SaaSを中心に連携できるサービスを増やしながらプロダクトの機能強化と顧客獲得を進めていく計画だ。

国産のSaaSではfreee、Senses、Sansan、kintoneなどの対応を進めているそうで、直近では電子契約サービス「クラウドサイン」との連携もスタート。同サービスで契約締結されたらSalesforceに登録されている取引のフェーズを「契約締結完了」にしたり、締結した書類のPDFをGoogle DriveやDropboxに保存してバックアップを取ったりといったことを自動化できるようになった。

Anyflowは2016年にサイバーエージェント出身の坂本氏を含め、3人のエンジニアが共同で立ち上げたスタートアップ。最初の約2年間はグルメサービスなどC向けのプロダクトを開発するもなかなか上手くいかず、何度かチャレンジした末に現在のクラウドネイティブiPaaSに行き着いた。

「全員エンジニアだったこともあり、必要な時は自らコードを書いて作業の効率化や自動化を進めていた。初めてRPAの概念を知った時に『エンジニアがやっていることを民主化する』ような形で、コードを書けない人でも簡単に自動化できる仕組みがあれば便利だし、自分たちも得意な領域だと考えたのがきっかけ。ユーザー調査を進めていく上で『RPAよりもiPaaSの方が良いのでは』という結論に至り、今のAnyflowが生まれた」(坂本氏)

Anyflowのメンバーと投資家陣。左から3人目が代表取締役CEOの坂本蓮氏

同社はC向けのプロダクトを開発していた頃に赤坂優氏や堀井翔太氏、古川健介氏から資金調達を実施しているが、iPaaSへと方向転換してからは今回が初めての調達。まだ始まったばかりではあるものの「過去のプロダクトよりは手応えを感じている」そうで、先日開催されたIncubate Campでは総合1位も獲得している。

最近はTechCrunchでも日本のSaaSスタートアップのニュースを紹介する機会が増えてきた。今後このマーケットがさらに拡大すれば「SaaSをさらに使いやすくするプロダクト」としてAnyflowのようなiPaaSのニーズも増していきそうだ。

飲食店の仕入れコストを減らすクロスマートが1.2億円調達、リリース半年弱で250店舗が導入

飲食店の仕入れコストを減らすプラットフォーム「クロスマート」を運営するクロスマートは9月24日、ベンチャーユナイテッド、セゾン・ベンチャーズ、XTech Ventures、梅田裕真氏などを引受先とする第三者割当増資により総額1.2億円を調達したことを明らかにした。

同社はTechCrunchでも何度か紹介しているXTechの子会社として設立されたスタートアップ。2019年4月より展開するクロスマートでは、飲食店と卸売業者をつなぐことで飲食店に「仕入れコストを削減する手段」を、卸売業者には「新たな顧客開拓チャネル」を提供してきた。

飲食店の食材原価率は一般的に30%ほどとも言われるように、店舗にとって仕入れコストの削減は利益を増やす上で大きな影響を与える。ただクロスマートがメインターゲットとしている小規模の飲食店や個店の多くは自ら把握している仕入れ先の選択肢が限られているため、簡単にこのコストを減らせるわけではない。

そこで従来は飲食店コンサル経由で複数業者に見積もりをとったり、「飲食店.COM」のようなマッチングサイトを使ったりしていたわけだけど、クロスマートはそれをよりシンプルに、かつ効果的にできるような仕組みを整えた。

同サービスのウリは飲食店が1ヶ月分の納品伝票を登録するだけで、複数の卸売業者から一括で見積もりの提案を受けられることだ。スマホから請求書を撮影しさえすればいいので作業時間はだいたい10〜15分ほど(登録作業自体をクロスマートに依頼することもできる)。日々の業務内で無理なく使えるだけでなく、コンサルに依頼する場合などと違って飲食店側の利用料金が無料のためハードルも低い。

「(飲食店としては)どうしても集客の方を優先しがちだが、実は売上を伸ばすよりも仕入れコストを削減できた方が経営的なインパクトが大きいことも多い。クロスマートは納品データを軸に、今よりもコストが下がるというピンポイントの提案だけが届く。無駄な提案は一切こないことが他にはない特徴だ」(クロスマート代表取締役の寺田佳史氏)

「飲食店の人たちは仕入れ以外の仕事もあるので、仕入れ先の選別だけに膨大な時間をかけるというのは難しい。従来の仕組みでは自分で積極的に情報を集めて、複数の業者に問い合わせた上で話を聞く必要があった。クロスマートでは納品書をあげさえすれば、後は相手から情報が届く。ある意味“受け身”の姿勢で効果的にあいみつを取れる」(クロスマート執行役員の岡林輝明氏)

各提案ごとにどのくらいのコスト削減効果が見込めるかがすぐにわかる

サービススタートから約5ヶ月が経った現在は約250店舗の飲食店と約50社の卸売業者が利用。平均で5%のコスト削減を実現している。

「この半年ほど、まずは飲食店の成功体験を作ることを目標にやってきた中で、大きなものでは年間60万円のコスト削減につながるような例もでてきた。単にコストを下げたというだけでなく、その先で顧客向けのキャンペーンにお金を使えるようになったり、アルバイトスタッフの給料をあげることができたりなど、成功事例と言えるものが増えている」(寺田氏)

クロスマートのビジネスモデルは飲食店側からはお金を受け取らず、卸売業者から月額の利用料を得る構造。ミニマムでも月額5万円からのため、当然ながら卸売業者がそれだけの料金を払ってでも使いたいと思うサービスになっている必要がある。

卸売業者側の画面イメージ

その点についてはこれまでになかった「新規顧客の開拓チャネル」として卸売業者から評価されているそうで、毎月10〜20件のペースで利用企業が増えているという。

「新規開拓のために飛び込み営業をしている業界。優秀な営業マンであっても獲得できるのは月に3〜4件とも言われているので、月額数万円を払っても新たな顧客が獲得できれば十分ペイする。Web上で双方をマッチングする既存サービスは『食材を買いたい』という飲食店の書き込みに対してレスをする形が多く、その飲食店が何を買っているのかがわからない状態で提案をする。クロスマートの場合は、どの飲食店が何をいくらで買っているか把握した状態で商談を開始できるので、卸売業者にとっても効率がいい」(寺田氏)

今のところ卸売業者側のユーザーは大きく2パターン存在するとのこと。1つはすでに営業マンが何人もいる業者が営業活動をより生産的に行うべく導入するケース。そしてもう1つが人員が足りず営業活動を積極的にできていない業者が、事業を伸ばすために導入するケース。

どちらにせよ無闇に営業マンを増やすよりも効果が見込めるということで、引き合いが増えているそうだ。

今回の資金調達は飲食店側を中心に、双方の利用企業が増えて成功事例が生まれているタイミングで「営業を含めて一層アクセルを踏むため」のもの。人材採用を強化しさらなる事業拡大を目指すという。

「目標として掲げているのは外食産業の生産性自体をあげていくこと。飲食店と卸売業者をマッチングすることで仕入れのコストを削減するのはその1歩目で、ゆくゆくは日々の受発注や代金の支払いなど飲食店のバックオフィスの生産性向上を一気通貫でサポートできるサービスを目指したい」(寺田氏)

クロスマートのメンバー。最前列左から執行役員の岡林輝明氏、代表取締役の寺田佳史氏、取締役の西條晋一氏

テクノロジーで“オフィス探し”をラクにする「estie」公開、UTECからの資金調達も

個人向けの賃貸住宅市場に比べると、オフィス賃貸市場は情報の非対称性が多く借り手にとっては難解な領域だ。

「SUUMO」や「LIFULL HOME’S」のように様々な物件情報を集約して1箇所で比較できるようなプラットフォームもなければ、そもそもWeb上で可視化されている情報自体が少ない。そのため基本的に借り手は各不動産仲介会社(エージェント)のサイトを目視でチェックしながら、個別に具体的な条件を問い合わせる必要があった。

本日9月20日に正式公開された「estie」はテクノロジーやデータを活用することで、企業のオフィス探しをラクにすると同時に、少しでもいい物件を見つけられるようにアシストするサービスだ。

希望条件に合わせて複数エージェントからオファーが届く

estieについては2018年12月のβ版ローンチ時に「オフィス版のSUUMO」のようなサービスとして一度紹介したけれど、そこから現在に至るまでいくつかのアップデートが行われている。

もっとも大きな変更点としては、Web上に散らばる物件情報を整理してユーザー企業に提示するスタイルから、エージェントとマッチングする仕組みへ軸を移行したこと。現在のestieではユーザー企業が登録時に利用人数や賃料の予算など希望条件を記載すると、複数のエージェントから条件に合いそうなオファーが届く。

ユーザーは各オファーに対して「お気に入り」か「興味なし」を選択するだけ。お気に入りを選んだ場合に初めてエージェントとのチャットが開設されるため、従来のように興味のない営業メッセージや電話に毎回対応する必要もない。

エージェントと繋がった後はメッセージ機能を通じてテキストでのコミュニケーションのほか、カレンダーを使った内覧日の調整や必要書類の共有が可能。複数エージェントとのやり取りをestie上に集約できるのも大きなメリットだ。

「もともとユーザーがオフィス探しにおいて『十分な情報にアクセスできないこと』に課題を感じ(Web上のオフィス情報を)リストにすることで解決しようと思っていたが、マーケットにでてきた直後のホットな情報を即座に反映することが難しく別のアプローチも必要だと考えた。また多くの人にとってオフィスは住宅と比べ、十分な情報に触れても『何が自分にとっていい物件なのか』を判断しにくい。優秀なエージェントがサポートすることで、よりいい提案ができる」

「一方でユーザーに話を聞いていて、オフィス探しで1番面倒に感じているのはコミュニケーションの部分だと気づいた。特にエージェントと付き合っていく過程での営業電話やアポなし訪問を負担に感じるという声は多い。ユーザーが良いと思ったエージェントとだけメッセージをやり取りすることで、精度の高い提案を受けられるようにしつつも、コミュニケーションの負担を極力無くしていく」(estie代表取締役CEOの平井瑛氏)

エージェントに関してはすでに大手オフィス仲介会社の過半数がestieに参画。市場の大部分の物件情報にアクセスできる状態であり、実績のある企業と一緒にやっているため提案の精度も担保できると考えているそうだ。

プロダクトをフルリニューアルした2019年7月からの直近3ヶ月ほどで約50社のユーザー企業が活用(ユーザー登録をして実際にオファーを受けた企業の数)。この業界はオーナーとの関係性や交渉力が募集条件にも影響を与えるため、実際にユーザー企業の中には「全く同じ物件を自分で探していた時より好条件で提案してもらえた」ケースも出てきているという。

「『これまで関係性が築けてなかったような企業とも接点が持てる』という点でestieに期待し、参画してもらっているエージェントも多い。特に相手がスタートアップなどの場合、ベテランの営業マンが常につきっきりでサポートするというのはコスト面でも難しい。一方で業界でもネット上でオフィスを探す流れはきていて、そこに乗り遅れられないという危機感はどこも持っている」(平井氏)

estieはユーザーが提案内容に反応を示すほど、ユーザーごとの趣向が伝わるのでエージェントからの提案精度があがる。またエージェントの視点では「このユーザーにはどんな物件を提案すると良さそうなのか」がデータを基に判断できるようになれば、従来よりも効果的な提案ができ、成約に至るまでの期間短縮や成約率の向上も見込めるかもしれない。

「レコメンドの質が上がればユーザーだけでなく、エージェントがestieを使い続ける大きな理由になる」からこそ、平井氏も今後の注力ポイントにレコメンドエンジンを中心としたプロダクト基盤や各種機能周りの強化を挙げていた。

業界の知見とテクノロジーで「事業用不動産」領域のアップデートへ

ここまで紹介してきた通り「物件探しのプロであるエージェントとのマッチングによって企業のオフィス探しをサポートする」のが現在のestieの軸ではあるが、リニューアル前の仕様に近い「e-Map」機能も残している。

この機能では各ユーザーの条件に合わせて、公開されている募集情報の中から最大100件の物件情報が地図上にマッピングされる。物件は登録時の内容やそれまでのアクション(各物件に対してもお気に入りや興味なしといったアクションができる)を基に、estieのレコメンドAIが自動で抽出したものだ。

必ずしも最新の情報ではない可能性はあるそうだが、現在どんな物件情報が世に出ているのか、エージェントの提案とは別の視点から俯瞰的に捉えたい場合には役に立つ仕組みと言えるだろう。

estieでは今月3日にデベロッパーや不動産機関投資家をサポートする「estie pro」もリリースしたばかりで、今後はこの2つのサービスを軸に事業用不動産の領域における課題解決を進めていく計画。そのための資金として東京大学エッジキャピタル(UTEC)から約1.5億円の資金調達を実施したことも明かしている(調達は3月に実施)。

estieのメンバー。前列中央が代表取締役CEOの平井瑛氏

同社は平井氏を含む3人の共同創業者が2018年12月に立ち上げた。3人は全員が東京大学の出身で学生時代からの付き合い。平井氏と取締役の藤田岳氏は大手デベロッパーの三菱地所、取締役CTOの宮野恵太氏はNTTドコモを経て起業しているため「事業用不動産の知見とテクノロジーのバックグラウンドをどちらも持っているのがチームの特徴」(平井氏)だ。

「事業用不動産の領域はテクノロジーやデータの活用が進んでおらず、アメリカやイギリスなど海外に比べて少なくとも5年は遅れているという感覚を持っている。まずは2つのサービスでこの領域をシンプルにして、ユーザーとエージェント双方に新しい価値を提供していきたい」(平井氏)

暗号資産取引のリスク検知でマネロン対策を支援するBassetが5000万円を調達

(写真右から3人目)Basset代表取締役CEO 竹井悠人氏

暗号資産(仮想通貨)による“自由な”取引が世の中に与えたのは、国境を越えた自由な送金や安価な送金コストといったメリットだけではない。日本では2017年4月に資金決済法が改正され、仮想通貨交換業者の登録制が導入されたが、その後もコインチェックZaifなど、取引所からの暗号資産流出事件が起こっているし、投機的な取引による利用者保護の問題や、違法な売買、マネーロンダリングで利用されるといった不適正な取引のリスクもある。

これらの課題を受けて、今年6月7日にはあらためて、資金決済法と金融商品取引法の改正法が公布された。また国際的にも規制強化への要求が高まるマネーロンダリングやテロ資金供与に関しては、6月21日、政府間会合である金融活動作業部会(FATF)から暗号資産サービスプロバイダーに対し、対策の強化を求めるガイドラインが発表されている。

暗号資産を巡るこのような背景の中、仮想通貨交換業者にも厳格な本人確認「KYC(Know Your Customer)」に加えて、資産の預入れ、引出しの取引を都度リスク評価・分析する「KYT(Know Your Transaction)」が求められるようになっている。2019年7月に設立されたBasset(バセット)は、仮想通貨交換業者や行政機関向けに、ブロックチェーン取引の分析・監視ソリューションを開発するスタートアップだ。9月18日、BassetはCoral Capitalを引受先として、5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

“RegTechカンパニー”として金融機関を支援していく

Basset創業者で代表取締役CEOの竹井悠人氏は、前職のbitFlyerではCISO(Chief Information Security Officer)およびブロックチェーン開発部長を務めていた。ほかの3名の創業メンバーもbitFlyerに在籍していた同僚たちで、bitFlyerからスピンアウトするような形で独立したのがBassetだ。

竹井氏はbitFlyerでの業務を通して「暗号資産の取引所では今後、コンプライアンスがとても重要になる」と考えていた。同時にデータ分析の観点からも、コンプライアンスプロダクトの分野に強く魅力を感じていた。だが、bitFlyerは仮想通貨取引所。コンプライアンス製品をつくる会社ではないし、スタートアップとしてイノベーションを追うステージを卒業して、取引所、金融機関として安定した運営を金融庁からも求められるフェーズにあった。そこで竹井氏は「新しいチャレンジにそろそろ取り組むタイミング」として、6月末にbitFlyerを退職し、Bassetを立ち上げることにしたという。

Bassetが開発しているのは、暗号資産のマネーロンダリングを防止するためのデータ分析サービスだ。これはブロックチェーンデータを分析することで、資金の流れを追うプロダクトである。BTC(ビットコイン)やETH(イーサリウム)をはじめ、金融庁のホワイトリストで指定された暗号資産のリスク検知・評価とマネーロンダリング対策に対応していく予定だ。

Bassetでは、仮想通貨取引所や、金融庁などの行政機関へのソリューション提供を想定している。また警察や司法機関などでの利用も考えられている。竹井氏は「我々が把握しているだけでも、世界で過去2年間にサイバー攻撃によって取引所から暗号資産が流出した金額は1200億円相当にのぼり、流出した資産は小口の送金を繰り返してマネーロンダリングされ、犯罪者の手に渡っている」と述べ、「これらの取引による資金の流れは、世界各国の警察が欲している情報だ」と説明する。

竹井氏は「コンプライアンス関連のニーズは金融機関の間でどんどん高まっている。ブロックチェーンの世界はすべてデータでできている。その中でコンプライアンス遵守に対応する『レギュレーション(法規法令)×テクノロジー』のRegTechカンパニーとして、クライアントを支援していきたい」と話している。

世界的に見ると、同様のソリューションを提供する企業としては、米・ニューヨークに拠点を置き、欧米でサービスを展開するChainalysis、英・ロンドンに本社があるElliptic、今年5月に楽天ウォレットが提携したCipherTraceといった先行者がいる。

「彼らが日本市場へ進出するという話もあり、今後戦っていくことになるということは認識している」と竹井氏は述べつつ、「コンプライアンス強化のためには1つのサービスを使っていればよいということはなく、我々のような別の分析ソリューションが要らないというわけではない」と続ける。

「こういった分析ツールでは、どれだけ多くのデータをカバーするかというのが重要。海外の会社が英語圏で強いのは当然だが、一方アジア言語圏はどうかと言えば、日本語、中国語などのソースについては我々の方が目が届きやすい。そこにフォーカスをして差別化を図ろうと考えている」(竹井氏)

竹井氏によれば、あるシンクタンクが発表した統計では、金融機関が使うコンプライアンス関連のテクニカルソリューションの数は、これまで1製品で完結していることが多かったのだが、ここ数年は利用する製品数が増える傾向にあるのだという。「理由としては、データソースのカバレッジが多ければ多いほどよい、という状況の中で反社会的勢力のデータベースなど複数のデータをチェックすることが増えていることが挙げられる。また顧客や企業の照会をするといった、さまざまな用途がある中で、複数製品を組み合わせてコンプライアンスプログラムを組むのがより一般化しつつあるためだ」(竹井氏)

そのような背景から「我々のようなブロックチェーンのフォレンジック(インシデントにおける証拠調査・解析)の分野でも、1つの製品のみならず、複数の製品を組み合わせて利用していただくということは、今後あるのではないか」と竹井氏は見ている。

取引可視化はマーケティングに使える可能性も

プロダクトは現在も鋭意開発中。「MVP(Minimum Viable Product)はできあがっており、現在、いくつかの仮想通貨取引所でトライアルで利用してもらっている」(竹井氏)とのことだ。

調達資金はエンジニア採用などに主に投資すると竹井氏は述べている。ほかに、世界各国の犯罪者データベースを参照するためのデータパートナーシップ締結や、サーバー運用、分析のための計算にかかるフィーなどにも充てる可能性があるという。

竹井氏は今後の同社の展望について、「ブロックチェーン関連のコンプライアンスという領域をスタート地点としているが、実際の犯罪捜査に役立てるためには、まだまだいろいろな機能が足りていない。また取引所のコンプライアンス対応として、反社チェックまですべてやりたいとなるとブロックチェーンのデータだけでは完結しないので、ほかのデータも集め始めている。データを広げる、機能を増やすという観点での拡大は考えている」と話す。

また「捜査・コンプライアンスに関するフォレンジックツールとしてだけではなく、暗号資産の取引が可視化できるということは、マーケティングにも使える可能性がある。さらに、例えば将来ビットコインでの支払いを受け付けたいという店舗が増えた場合に、そうした店舗でマネーロンダリングの検出プラットフォームとして利用してもらい、店頭での高額商品の購入がマネーロンダリングの温床にならないような使い方というのも想定している」とも竹井氏は語っていた。

日本版ライドシェア実現へ、ロイヤルリムジン運営のアイビーアイが4億円調達

モビリティーや不動産に関する事業を展開するアイビーアイは9月18日、グロースポイント・エクイティとXTech Venturesが運営するファンドを引受先とした第三者割当増資により、総額4億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

アイビーアイは2001年2月の設立。現在の主力は設立時から手がける不動産事業と、2008年に立ち上げたグループ企業「ロイヤルリムジングループ」を通じて展開するモビリティー事業の2つだ。同社では今回の調達を踏まえ両事業においてITの活用を推進し、数年以内のIPOも視野に入れながらさらなる成長を目指すという。

不動産関連では中古マンションのリノベーションを軸に「iReno」ブランドでアフターサービス保証付き物件を提供。近年はITの導入により業務効率の改善を推し進め、年間100件超の物件を提供するまでに成長中だ。

アイビーアイ代表取締役の金子健作氏によると「特に都心の中古マンションに関してはかなり細かいデータベースが蓄積できてきている」状態なのだそう。これまで社内で蓄積・活用してきたノウハウやデータを今後仲介事業者などにも一部有料で提供しながら、物件をリフォームして販売するまでの期間の短縮を狙う。

もう1つの核となるモビリティ事業ではタクシーベンチャーのロイヤルリムジンを通じて「ロイヤルリムジン」や「ジャパンプレミアム」、「東京シティエスコート」など複数のタクシーブランドを保有。東京および神戸にてグループ企業7社で約350台の車両を抱える。

これらのタクシーインフラのほか、配車アプリ「RoyalTaxi配車」を自社で開発。海外ライドシェア企業の「DiDi」や「Uber」との提携も積極的に進めてきた。

金子氏の話ではVCなどからの本格的な外部調達は2001年の設立以来初めてとのこと。すでにグループ全体では2017年12月期、2018年12月期と売上100億円を超えている中での増資は「レバレッジをかけながら、IPOを見据えてもう一段階事業の成長スピードを加速させたい」という思いからだという。

「特に力を入れていきたいのがモビリティ領域数年前から国内外でライドシェアが注目され日本にも一部の事業者が参入してきているが、(規制などの影響もあり)消費者視点で大きくプラスになったプロダクトはまだ生まれていない。決済において使いやすくなった側面はあるものの、基本的に料金や利便性の面における質はそこまで上がっていないと考えている。だからこそ、そこを何とか変えていきたいという思いが強い」(金子氏)

日本のタクシー業界は歴史のある業界であり、近年なかなかベンチャー企業が生まれてこなかった。アイビーアイは2008年にこの業界に参入しタクシー10台からスタート。直後に規制が厳しくなるなど逆風に直面しながらも、M&Aなどを通じて事業を拡大してきた。

金子氏の構想はこの自社インフラ、つまり自社で保有するタクシーブランドも活かした「日本版ライドシェアの実現」だ。

「現在日本で事業を展開する場合、基本的に(白タクではなく)緑ナンバーの車を配車することになるが、料金が顧客の希望する価格帯まで下がっていかないと最終的に支持を集められない。当社で今考えているのは旅行業の免許を取得して、法に沿った形でダイナミックプライシングを実現すること。配車アプリを通じて従来のタクシーよりも安い価格帯で利用できるモビリティの提供をゴールに、プロダクトの開発に投資をしていく」(金子氏)

現在も配車アプリ「RoyalTaxi配車」を運営しているが、これを大幅に拡張したライドシェアアプリを計画しているという

金子氏が考えるプロダクトを成立させるためには、当然需要に応えられるだけの供給(タクシー)が必要になる。アイビーアイでは今回調達した4億円とは別に追加の調達も予定しているそうだが、その資金を活用してテクノロジーへの投資だけでなく、タクシー事業者のM&Aによるインフラの拡充も進めていく方針だ。

「顧客視点では良質なサービスの車が配車されるということ、そして料金が需給に応じて最適な価格へきちんと変動することがポイント。インフラを持つ会社が高い志の下、法規制に沿った方法で業界の中からチャレンジをすれば、現状を変えられる可能性もある」(金子氏)

タクシーのインフラを保有するベンチャーとしては日本交通のグループ会社であるJapanTaxi累計で100億円以上の資金を調達済み。またモビリティ領域では過去に紹介したNearMeAzit(CREW)電脳交通など独自のアプローチで事業を拡大するスタートアップも出てきているだけに、アイビーアイを含めた各社の今後にも注目だ。

難解なITシステムの使い方を“画面上でガイド”する「テックタッチ」が1.2億円調達

企業内でのWebシステム活用をサポートするSaaS「テックタッチ」開発元のテックタッチは9月18日、Archetype Ventures、DNX Ventures他個人投資家などから総額1.2億円を調達したことを明らかにした。

スクリーン上のガイドでWebシステムの使い方をナビゲート

テックタッチは対象となるWebシステムの使い方や注意事項に関する「ガイド」をスクリーン上にリアルタイムで表示することで、ユーザーをサポートするプロダクトだ。

たとえば経費精算システムに経費を入力する場合に「どのような順番でどのボタンをクリックし、どこに必要事項を入力すればいいのか」をチュートリアルのような形で順々に示すことができる。

手順をナビゲートするだけでなく、入力の誤りが合った際にアラートを出してチェックすることも可能(半角英数字のみが対象となる入力欄にそれ以外の記号があった場合など)。条件によって次に表示されるガイドの内容を変える「条件分岐」を始め、細かいニーズに対応した機能を搭載する。

ガイドの作り方もシンプルだ。操作フローにそって「画面上のどこで」「どんなアクションをするか」を設定していくだけ。プログラミングスキルも不要で、吹き出しやポップアップなどを使いながら説明文をテキストで入力しておけばOKだ。

メインのターゲットはエンタープライズ企業。テックタッチ代表取締役の井無田仲氏はもともと金融業界の出身で、自身も過去に社内の業務システムなどに複雑さや使いづらい部分を感じた経験があるそう。社員数が多いためWebシステムに接する人も必然的に多く、なおかつ自社開発のものを含めて社内で複数のシステムが動いている。テックタッチが狙っているのはまさにそのような企業の課題解決だ。

「特に自社でフルスクラッチで開発した業務システムなどは様々な機能が盛り込まれている反面、複雑で使い方がわかりづらいことも多い。これまで社員にとって『難解でわからない、面倒なもの』と捉えられることもあったWebシステムを『便利で業務の生産性を上げてくれるもの』へと変えるのがテックタッチの役割だ」(井無田氏)

現場ではこれまで操作画面のキャプチャとテキストを組み合わせてマニュアルを作成したり、従業員向けの研修を開催してシステムの使い方をレクチャーするのが一般的だった。ただ結局のところシステム担当者には問い合わせが殺到し、ユーザーである社員も時間をかけた割に使い方がわからず、双方が負担を感じていたという。

テックタッチは画面上にガイドを表示できるので、マニュアルと画面を見比べながら操作をする必要がない。研修やeラーニングなどに比べると担当者側の負担も少なく、なおかつユーザーにとってもフレンドリーな形でシステムの使い方を浸透できるのが最大のメリットだ。

「自分たちが作っているのは『企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するプラットフォーム。マニュアルだけでなくOJTなどの研修やeラーニングなどをリプレイスするものであると同時に、システム導入担当者への問い合わせや不要な作業を減らす効果もある」(井無田氏)

従業員数1万人超えの企業を始めすでに10数社で活用

同サービスは2019年2月にクローズド版、同年5月にオープンベータ版をリリース。従業員数1万人を超える大企業を始め、現時点で10数社で活用されている。

井無田氏によると金融業界のほか、まだ本導入に至った企業はないもののコールセンターなどは特に相性が良いと感じているそう。コールセンターのように社員の退職や入れ替わりが定期的に発生する業界では、新メンバーの教育にその都度時間とコストがかかっていたが、その負担をテックタッチを通じて解消できるという。

プライシングは1ユーザーごとの月額定額制。たとえば従業員1万人の会社で全社員が使うシステムに活用された場合は、1万ユーザーになる。なお複数のシステムに導入しても料金は同じだ。

直近はエンタープライズ企業を中心に比較的規模の大きい企業への導入を進めていく方針だが、もう1つのアプローチとしてシステムを開発するベンダー向けの展開も見据えているそう。

例としては勤怠管理や労務管理などのHRTech、会計システムなどのFinTech周りのSaaSを手がけるスタートアップにテックタッチを提供するような形で、カスタマーサクセスの一環としてテックタッチが活用されていく可能性もありそうだ(その場合はベンダーが料金を払い、ユーザー企業に対して提供)。

約50社へのヒアリングで手応え、企業のDX支える基盤目指す

中央がテックタッチ代表取締役の井無田仲氏

テックタッチは2018年3月の創業。代表の井無田氏はドイツ証券や新生銀行を経てユナイテッドに入社し、同社では着せ替えアプリ「CocoPPa」を運営する米国子会社の代表などを勤めていた人物だ。

CocoPPa時代を振り返った時に「ユーザーの声をもっとプロダクトに活かせれば良かった」との思いがあったことから、企業のユーザーの関係性作りを支援するようなプロダクトでの起業を考えた。

いくつかアイデアを検討する中で行き着いたのが、現在のテックタッチ。グローバルではユニコーン企業の「WalkMe」を始め複数社がWebシステムの使い勝手を改善するプロダクトに取り組んでいることを知り、この領域に強い関心を持ったという。

「(構想段階で)大企業を中心に50社くらいの担当者にヒアリングしたところ、最初の10社の時点で大きなペインやプロダクトに対する熱狂を感じた。単純に『担当者のマニュアル作成や問い合わせのコストが減る』『企業のDXを支援できる』だけでなく、これまでITを上手く活かせなかった企業やそこから取り残されてしまっていた人をサポートできる事業になりえるとも思った」(井無田氏)

現在のプロダクトはまだその第1段階にすぎない。今回の資金調達で開発チームを中心に人材採用を進め、プロダクトのさらなるアップデートに取り組む計画だ。

次のステップでは来年春頃を目安に、企業内における「システム利用状況の解析機能」をリリースする予定。社内で各システムがどのように使われているかを可視化することで、システム利用についての課題をあぶり出したり、システム投資のROIを分析できる環境を提供する。

ゆくゆくは一部の業務を自動化するような機能なども取り入れながら、システムをよりわかりやすいものに変え、誰もが便利に使いこなせるようなサポートをしていきたいという。

テックタッチの今後の展望

現実さながらのフェイク映像を簡単に作れる「Xpression」が2.3億円調達、次世代CG技術の開発加速へ

動画や静止画に映っている誰かの顔を乗っ取り、あたかも本人が実際にしゃべっているような映像をスマホから簡単に作れる——。そんなちょっと不思議だけど、ワクワクする体験を手軽に楽しめる「Xpression」というiOSアプリを知っているだろうか。

ユーザーがやることは素材となる動画や静止画を選び、スマホのカメラに向かって喋りかけるだけ。そうすれば自身の顔と素材に映る人の顔を入れ替え、現実さながらの映像をリアルタイムで生成することが可能だ。

たとえば有名人のスピーチ動画を使って本人からビデオレターが届いたような“サプライズ映像”を作ることもできるし、前もって撮影しておいた友人の動画を使って“その友人が絶対に言わなそうなこと”を言っている映像を作ったりもできる。

このプロダクトを手がけるEmbodyMeは、ディープラーニングを用いた映像生成技術などを開発する日本のスタートアップだ。同社は9月12日、複数の投資家を引受先とする第三者割当増資とNEDOの助成金により総額で約2.3億円を調達したことを明らかにした。

EmbodyMeでは調達した資金を活用してコア技術の研究開発を進める計画。「AIで目に見えるあらゆるものを自由自在に作り出す」というビジョンの下、ゆくゆくは次世代コンピューターグラフィックスの中心を担うような存在を目指していきたいという。

同社では過去にもインキュベイトファンドから9000万円、日本政策金融公庫の資本性ローンによる融資で4000万円を調達していて累計調達額は約3.6億円となった。なお本ラウンドの投資家は以下の通りだ。

  • DEEPCORE
  • インキュベイトファンド
  • Deep30
  • Techstars(米国の有名アクセラレータの1つ)
  • SMBCベンチャーキャピタル
  • 漆原茂氏

現実と区別がつかないリアルな映像をスマホから簡単に生成

Xpressionは冒頭でも触れた通りスマホから簡単にフェイク映像を作れるアプリだ。

EmbodyMe代表取締役の吉田一星氏によると、数年前に話題になった「Face2Face」など近しいコンセプトの研究はあるものの、プロダクトとして実用化しているものはまだない状況。既存の研究とは映像を生成するのに必要な素材や処理時間、動作環境などにおいても大きな違いがあるという。

「類似研究は17時間分の同じ人のビデオを用意した上で、約2週間の前処理時間が必要。なおかつリアルタイムでは動かないといった点が課題になっている。自分たちの技術は静止画や短いビデオでも問題なく、前処理は全く必要ない。さらにモバイルでもリアルタイムに動かせるのが特徴だ」(吉田氏)

実際のところXpressionはどのような技術で成り立っているのか。具体的には以下の3つのディープラーニングモデルを同時に動かすことで、リアルタイムで現実に近いコンテンツを生成している。

  • カメラ越しにユーザーの顔の形状と表情を3Dで推定するモデル
  • 素材となる動画や静止画から、3Dで顔の形状と表情を推定するモデル
  • 口の中など映像として存在しない箇所を画像生成し補完するモデル

表情を推定する技術(3D Dense Face Tracking )においては、従来使われてきた技術が70点以下の2Dのポイントを推定するのに留まっていたところ、Xpressionでは5万点以上の3Dのポイントを推定できる仕組みを構築。より詳細な表情認識を実現する。

同様の技術自体はAppleも保有しているが、3Dセンサーを使っているためハイエンドなiOSマシンが必要。Xpressionの場合は一般的なカメラがあればどのマシンでも動かせるのがウリだ。

また「存在しない箇所を画像生成する」モデルについては近年言及されることも増えてきたGAN(Generative Adversarial Network : 敵対的生成ネットワーク)を活用。吉田氏によると「静止画だけでなく動画を生成でき、モバイルでもリアルタイムに動かせるのは他にはない特徴」だという。

これらに加えて、機械学習の学習データを集める仕組みとして50台のカメラと偏光LEDライトを保有し高精度な3Dフェイシャルモデルをキャプチャできる設備も整えた。

米国の有名アクセラに採択、「ミーム」文化に合わせた新アプリも

EmbodyMe代表の吉田氏は前職のヤフー時代から、スマホのインカメラを使ってキャラクターや他の人物になりきれる「怪人百面相」や自分の分身となるアバターを生成し動かせる「なりきろいど」を開発してきたエンジニアだ。

2013年ローンチの怪人百面相は「Snapchat」や「SNOW」に搭載されているフェイスエフェクト機能のようなもの、2015年ローンチのなりきろいどはVTuberになれるアプリに近い。これらの技術をいち早くプロダクト化してきた吉田氏を中心に、EmbodyMeには先端技術の開発に携わった経験を持つエンジニアが集まっている。

EmbodyMe代表取締役の吉田一星氏

2018年にローンチしたXpressionは、同社が現在取り組む基盤技術を実用化したプロダクトの1つという位置付け。同サービスに関する論文はSIGGRAPH Asia Emerging Technologiesに採択されるなど、技術的な観点でも注目を浴びている。

現時点のアプリダウンロード数は非公開だが、海外比率が約7割と海外ユーザーの利用も多い。今年に入って米国の著名アクセラレータープログラム「Techstars」にも採択され、現地のプログラムに参加。ポジティブな反響も多かったようで、年内を目安にコミュニティ要素などを加えて大幅にバージョンアップしたアプリ(サービス名は同じ予定)を公開することも計画している。

「米国には大きな『ミーム』文化があり、大雑把に説明すると日本における『ボケて』のようなアクションが大規模に行われていて、いろいろな人が同じネタをパロディ化してYouTubeなどに投稿することが広がっている。(Xpressionは)その文化にすごく合致するので、ユーザーが面白い動画を投稿したり、楽しめるようなコミュニティを作っていきたい」(吉田氏)

近年、特に海外ではディープフェイク技術がフェイクニュースなどに使われる可能性も懸念されている。Xpressionもその性質上、悪用される恐れもあるが、電子透かし技術(対象となる映像が自分たちの技術で作られたのか判別できる技術)などを取り入れながら対策をする方針。著作権についても企業と組みクリアにした形で、より多くの素材を使える仕組みを作っていきたいという。

狙うは次世代コンピュータグラフィクスの中心を担う存在

EmbodyMeのメンバー

現在EmbodyMeは基盤技術の研究開発に軸足を置いている段階で、今回の資金調達もそれを加速させることが大きな目的。「アプリは技術のショーケース的な意味合いもある」と吉田氏が話すように、会社としては今後同サービスに限らず、自社技術を用いた別領域のプロダクト開発も検討していく。データを集めながら基盤技術を育てていくことが狙いだ。

たとえばXpressionの技術を使えば「事前に自身のスーツ姿や仕事スタイルの映像を撮影しておくことで、パジャマやすっぴんの状態でも“ちゃんとした格好に見える”ビデオ会議ツール」なども実現可能。動画広告用のクリエイティブ作成やVTuber用のアプリなどエンタメ領域、AIスピーカーと絡めた映像生成ツールなども同様に基盤技術の活用方法として考えられるそうで、すでにプロトタイプの開発が進んでいるものもあるという。

また日本政府がXpressionの技術を使ってG20サミットのプロモーション映像を制作した事例など、他社と共同でプロジェクトに取り組むケースも生まれている。同アプリとほぼ同じものをスマホSDKとして提供する、コア技術の一部を提供するなど座組みは都度異なるが、引き続き他社とタッグを組むことによる技術のアップデートも視野に入れていく。

吉田氏いわく現在は「研究としても初期段階で、自分たちの将来的な構想を踏まえても10%ぐらいまでしか到達していない状況」なのだそう。まずは声や文字だけから表情を動かせる技術、その次は頭部や体全体を動かせる技術などへ少しずつ技術を拡張していくことを目指すが、最終的に見据えているのは「コンピュータグラフィックス(CG)領域での挑戦」だ。

「CGは90年代にアニメーションやゲーム領域で商業的にも大きく成功したが、2020年代にかけてディープラーニングの発展などにより従来とは全く違う形で映像や画像を生成できる技術が生まれ、今までのCGを置き換えていくと考えている。あらゆる人がものすごく簡単にどんな映像でも作れる時代がきた時に、いち早くプロダクトを出して中心的なポジションにいたい」(吉田氏)

インサイドセールス向け通話記録ツール「pickupon」正式提供開始、「Senses」と連携

この数年、日本でもインサイドセールスは有力な営業手段として普及してきた。従来のフィールドセールスと比べて対面のための移動や会議室確保などのコストを省くことができ、効率のよい営業活動が進められるとして注目されるインサイドセールス。だが、効率アップの副作用として「大量のやり取りを記録することになり、情報共有の時間や手間がかかる」「正確な一次情報が共有できない」といった課題が浮上している。

今日9月11日、正式提供開始が発表された「pickupon(ピクポン)」は、インサイドセールス向けに開発されたAI搭載クラウド電話だ。電話の通話内容を音声認識を使ってテキスト化。さらに通話の中で重要なポイントをAIが自動で要約(ピックアップ)して、SalesforceなどのSFAに入力することが可能だ。通話によるやり取りを記録するコストの削減、正確な一次情報と要点の共有を支援する。

pickuponを開発するpickuponは、正式提供と同時にマツリカが展開するクラウド型営業支援ツール「Senses」との連携も発表した。pickuponは同日、エンジェルラウンドで複数の投資家から総額2000万円の資金調達を実施したことも明らかにしている。

インサイドセールスの情報共有コスト低減を目指した「pickupon」

pickuponの創業は、同社代表取締役の小幡洋一氏が岐阜県の情報科学芸術大学院大学(IAMAS)で、メキシコ人のカンパニャ氏らとともに進めていた研究プロジェクトに端を欲する。プロジェクトでは、HCI(Human-Computer Interaction)、身体拡張、メディアアート、インテグラルデザインなどを領域横断的に研究。卒業後、一度はWeb制作会社に入社した小幡氏だったが、カンパニャ氏との研究がOpen Network Labの第16期プログラムに採択されたことを機に、2018年2月に会社を設立した。

小幡氏は「情報共有のコストを下げることで、人類はここまで進化してきた」とプロダクト開発の根底にある思想について語る。「声によるやり取りから文字の発明、印刷の登場、画像や映像の複製、そしてインターネットの普及、検索システムの登場。これらは情報を共有するコストを下げるテクノロジーだ。こうしたテクノロジーが現れると、人間の進化のスピードは爆速で上がる」(小幡氏)

そうした“人類に寄与するような”テクノロジー、サービスを開発したいと考えていた小幡氏。「究極の理想は『攻殻機動隊』に出てくるタチコマ(自律行動するAI搭載の多脚型戦車。複数台が並列処理で情報を共有する)」という小幡氏は、その世界へたどり着くために「まずは情報共有のコストが大きくて困っている人たちの課題を解決しよう」と考え、インサイドセールス領域に着目した。

ちょっと“タチコマ”からの飛躍が大きいような気はするが、確かに「フィールドセールスより効率がよい」とされるインサイドセールスも、営業活動をきちんと進めるためには質のよい情報共有が求められる。そこではツールとしてSalesforceのようなSFAプロダクトが使われるのが一般的だ。しかし、効率やサポートの質を求めて電話業務を増やすことで顧客とのコンタクトポイントが増え、ツールへの入力量も多くなり、かえって効率性を下げてしまうという課題が生まれる。

「ここで情報共有の負の面が大きくなってしまうことに、ユーザーインタビューを通じて気づいた」と小幡氏は説明する。「特に事業が立ち上がったばかりのゼロイチフェイズだったり、提案型販売が求められるような難易度の高い商材を扱っていたりする場合は、顧客からのヒアリングの難易度も高く、ひいては情報共有の難易度も高くなる」(小幡氏)

そうした顧客の「情報共有の負」を解決するプロダクト、すなわち、インサイドセールス領域でのやり取りの入力コストを下げ、正確性を担保するプロダクトとして、pickuponは開発された。

pickuponでは音声認識による通話内容のテキスト化に加えて、顧客のニーズ・課題、怒っているかどうかなどをセンテンス単位でAIが抽出。通話の重要な部分が要約されるため、やり取りの内容を把握しやすくなるという。

プロダクト思想も一致した「Senses」との連携

インサイドセールスを支援するツールにはさまざまなものが出ているが、小幡氏はpickuponを「既存のツールとはキャラクターが違い、ユーザーも違う」プロダクトだと見ている。

クラウド電話の領域では「MiiTel(ミーテル)」がAIによる電話対応の可視化など、pickuponと似た機能を持つが「セールスがどう話したかに注目していて、いい感じに営業トークができるようなトレーニングに使われるのがMiiTel。これはトークスクリプトが確立していて、商材も固まっているところに向いている」と小幡氏は分析する。

対してpickuponは「顧客が何を発言したかに着目し、顧客が困っている部分は何か、センテンスをピックアップするといった使い方をする。商材をゼロイチから売る場合や、現在のセールスアプローチをドラスティックに変えたい場合などに適した、発見のツールだ」(小幡氏)と位置付ける。

マツリカのクラウド型SFA、Sensesとの連携により、SensesのGrowthプラン以上とpickuponを両方使うユーザーは、簡単な連携設定だけで通話の内容をSensesへ自動入力でき、顧客情報の自動取り込みも利用できる。pickuponではほかのツールとの連携も計画しているが、小幡氏は「Sensesとの連携は特別なものだ」と話している。

「Sensesはプロダクトとしてのフィロソフィが近く、ずっと勝手に“先輩”だと思っていた。ユーザーヒアリングをしていると、情報共有のコストに苦しみ、各社のSFAを導入しても『担当者がきちんと入力してくれない』と困っている企業は大変多い。Sensesはそうした企業にアプローチしていて、近い課題を解決しようとしている」(小幡氏)

マツリカ共同代表の黒佐英司氏は「Sensesはグループウェアや名刺管理ツールなど、幅広い連携が考えられるプロダクトだが、CTI(Computer Telephony Integration)システムとの連携はまだなかった。また、我々自身の営業活動を効率化するためにも、そうしたツールを探していた」と話しており、pickuponについて「いろいろなツールを使ってみて検討していたのだが、pickuponはターゲットとする顧客属性やフィロソフィのようなものが近いのではないかと感じた」と連携に至った経緯について説明している。

「思想はプロダクトをつくっていくので、重要だ。そこの部分が合致しているというのは、連携決断のひとつの大きな要素だった。自社の中でも使いたいツールだったというのも重要なポイント。ほかのツールと比較して音声の品質や、技術力が高いと感じた。少ないリソースの中で、速いスピードで進化し、開発されている。将来を考えたときに心強いと考えた」(黒佐氏)

小幡氏は「Sensesのユーザーと僕たちのプロダクトの相性はよいはずだ」と考えている。連携によりまずは「Sensesユーザーのうち、CTI領域で困っている人たちをこの半年ぐらいで幸せにできるよう、成果を出していきたい」と語る。

小幡氏は「将来的には、すべての情報をなめらかに共有するものをつくりたい」と話している。「対面の発話によるやり取りを共有するのは大変だとまだ思われている。CTIシステムで経営基盤をつくった上で、対面のやり取りを共有するためのプロダクトづくりに進みたい。そのプロダクトを人類にとってのタチコマ的な存在にしていき、最終的には人類がタチコマのようにやり取りできるようになればと思う」(小幡氏)

“PriceTech”の空にグロービスが出資、ラウンド全体で3億円を調達

写真左:グロービス・キャピタル・パートナーズ 渡邉佑規氏、右:空代表取締役 松村大貴氏

ホテルの料金設定サービス「MagicPrice」を提供するは9月4日、グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)からの資金調達実施を発表した。今年5月に発表されたUB Venturesからの調達と今回の調達を合わせ、ラウンド全体では約3億円の調達となる。

顧客コミュニティ醸成で改善進むMagicPrice

TechCrunch Tokyo 2017の「スタートアップバトル」で最優秀賞を獲得した空。「世界中の価格を最適化する」というミッションを掲げる同社は、ホテル向けプライシングサービス「MagicPrice」を提供している。客室料金を検討する際に必要な予約状況などのデータを自動収集・分析し、AIが適切な販売料金を提案するMagicPriceは、ホテルの担当者が簡単な操作で客室料金設定ができ、旅行予約サイトへの料金反映も自動で行える。

2018年12月に、同社が提供していた市場分析サービス「ホテル番付」と名称を統合し、デザインやAIを改善するリニューアルを実施したMagicPrice。7月に東急ホテルズ所属の那覇東急REIホテルへの導入が決まるなど、各社・各地のホテルで順調に導入が進んでおり、顧客数は直近1年間で約5倍に伸びているという。

「顧客増に加え、カスタマーサクセスチームが中心になって、コミュニティを形成しながらホテル収益をどう高めていくかを学び合うなど、MagicPriceの使い方だけでなく、ホテル業界としていかに前に進んでいくかを語り合うような関係性になっている」(空代表取締役の松村大貴氏)

コミュニティの醸成により「より多くの顧客の声を集めることができるようになった」と松村氏は述べ、「開発チームもそれを聞いてプロダクトを改良する、というよい循環が生まれている」と話している。

他業界へのプライシングサービス展開もにらみ組織強化へ

GCPからの資金調達を得ることになったきっかけは、5月に出資発表があったUB Venturesの紹介によるものだと松村氏は明かす。GCPはユーザベースへ出資していた経緯もあり、ユーザベースからの高評価が、空へのGCPの出資を後押しした形となる。

「ユーザベースにならいながら、空がSaaS事業を伸ばしていくという点は、グロービスにとって魅力に感じてもらえたのではないか。ユーザベースにはSaaS事業の先生として、事業面や組織づくりなど、さまざまな面で教わることも多い」(松村氏)

今回の調達ラウンドではGCPがリードインベスターとなる。出資はGCP過去最大の400億円規模となる6号ファンドからのものだ。ユニコーン創出を目指す同ファンドから投資を受けたことについて、松村氏は「空がホテル向けのプライシングにとどまらず、“PriceTech”という新しいテーマの事業を創造していることと、価格戦略というどの企業にも共通のテーマを軸に大きな広がりを見せそうだというところに『大きく化けるかもしれない』可能性を感じていただけたのではないか」と語っている。

調達資金については、MagicPrice事業強化のための人材採用とマーケティングに充てるという空。既存プロダクトの強化とともに、プライシング支援サービスを他業界にも展開すべく、「データサイエンティスト、エンジニアや、各業界でクライアントのビジネスパートナーとなれる人材も集めていく」と松村氏は述べている。

今回、資金調達の発表と同時に、社外取締役としてグロービス・キャピタル・パートナーズの渡邉佑規氏を、監査役に空の財務・コーポレートアドバイザーを務めていた堅田航平氏を迎えることも明らかにしており、IPOを見据えた財務面の強化を図る構えだ。グロービスには「経営マネジメントを担うハイレイヤー人材の採用と、今後のファイナンス面でも協力を仰ぐ」と松村氏は話している。

葬儀サービスのよりそうが20億円調達、終活プラットフォームの構築目指す

よりそうは9月2日、総額20億円の資金調達を発表した。調達方法は、SBIインベストメント、ジャパン・コインベスト(三井住友トラスト・インベストメント)、新生企業投資、ナントCVC2号ファンド(南都銀行とベンチャーラボインベストメントの共同設立ファンド)、山口キャピタル、AGキャピタルを引受先とする第三者割当増資。累積調達額は32.6億円となる。

同社は、葬儀関連サービスを手がける2009年3月設立の企業。2013年に「よりそうのお葬式」(旧・シンプルなお葬式)、「お坊さん便」の提供を開始。同社によると、いずれも問い合わせ件数を伸ばしているとのこと。

よりそうのお葬式は、税込み12.8万円からの低価格な葬式から、葬式を省略して火葬のみとするプラン、通夜を開催せずに葬式のみとするプラン、家族葬プラン、知人や友人を招いた一般的な葬式まで、さまざまな形式を選べるのが特徴だ。

お坊さん便は、初回3万5000円から法事の僧侶を手配できるサービス。葬式はもちろん、四十九日法要や初盆・新盆、一周忌法要、3回忌法要などの依頼も可能だ。戒名・法名については2万円から受け付けており、天台宗、真言宗、浄土宗、曹洞宗、臨済宗、浄土真宗、日蓮宗、宗派不問から選べる。もちろん戒名は、高位になるほど料金が上がる。

加えて同社は、2018年3月に、終活、葬儀、相続などのサービスをワンストップで提供するブランド「よりそう」を発表。2019年8月現在、加入することで葬儀・供養の特典が受けられる「よりそうメンバー制度」の会員は数万人規模に成長しているとのこと。将来的には、介護など老後に関わるそのほかの領域への事業拡大を目指す。

今回調達した資金は、人材採用と提供サービスの認知向上、新しい葬儀プランの提案、ライフエンディングプラットフォーム確立に向けた新規事業開発などに投下される。人材については、ライフエンディングプラットフォーム構築のために、エンジニアやマーケティング、カスタマーサポートなどの職種を中心に、社員数を2020年度末までに現在の2倍にあたる約200名に増員する計画だ。サービスの認知向上については、シニア層への訴求を公開するため紙媒体やマスプロモーションをはじめとするオフラインマーケティングに注力するという。

昔ながらの檀家制度が続いている実家などでは葬儀の手配や僧侶の招聘は難しいことではない。しかし、実家から離れた場所に住居を構えている場合、突然訪れる肉親の死と向き合いながら葬儀や僧侶を手配するのは精神的にかなりの負荷がかかる。よりそうは、葬儀にさまざまな選択肢を用意しつつ価格を明瞭にすることで、遺族に対してまさによりそうサービスを提供する。

また今後、日本は超高齢化社会を迎え、独り暮らしのシニアが増加することは明らか。同社は、終活、葬儀、相続などのサービスをワンストップで提供する「よりそう」ブランドを通じて、葬式や供養の生前予約などサービスを提供して老後の不安を解消していく。

クラウドゲーミングプラットフォーム「OOPartsが」が始動、月額定額でスマホで美少女ゲーム

ブラックは8月30日、ウェブブラウザー経由で往年のゲームを月額定額でプレイできるプラットフォーム「OOParts」(オーパーツ)のクローズドアルファ版を一部の法人向けにリリースした。今冬に正式サービス開始を目指しており、一般ユーザー向けのベータ版は本日から事前受付を開始、10月ごろに提供される見込みだ。

クローズドアルファ版に申し込むにはブラックのウェブサイト経由で連絡、ベータ版の事前登録に申し込むには「OOParts」(オーパーツ)の公式Twitterアカウント(@OOParts_JP)をフォローして、事前登録用のツイートをリツイートすればいい。正式ローンチの料金体系は現在のところ未定だが、月額数千円での遊び放題を採用するとのこと。

同社は今回の発表に合わせて、サイバーエージェント・キャピタルと個人投資家の古川健介氏、塚本大地氏を引受先とする、総額約5,000万円の第三者割当増資による資金調達も発表した。

ストリーミングゲームといえば、最近ではGoogle(グーグル)が開発中の「Stadia」(スタディア)を連想するが、OOPartsは、StadiaのようにFPSや3Dアクションゲームを対象とするのではなく、コマンド入力形式の過去の名作を中心にサービスを展開する。ストリーミングでネックとなるのは回線速度だが、回線の遅延がゲームバランスに影響を与えないタイトルが中心になるため、スマートフォンなどで楽しめるとしている。

アルファ版で提供されるゲームタイトルは、「MOON.」「キラ☆キラ」「超電激ストライカー」「1/7の魔法使い」「聖鍵遣いの命題《プロポジション》」の5タイトル。主にWindows専用に作られたアドベンチャーゲーム(美少女ゲーム)をスマートフォンを含めた、あらゆるデバイスで楽しめるようになる。プレイを開始すると、クラウド(データセンター)でゲームが起動し、インターネットを介して操作する。

ブラック代表の小川楓太氏は「今後は、ストーリー中心のアドベンチャー、ノベルゲーム、ビジュアルノベル、美少女ゲームを中心に展開したい」と話す。その理由として「インベーダーゲームなどは『懐かしさ』以外の動機で本気でプレイさせるのは難しいが、ストーリー性のあるタイトルはいつまでも古びないと確信している」と続ける。OOPartsでは、クリエイターの自由な表現を尊重し、App StoreやGoogle Playなどでは規制されていたゲームが楽しめる点も特徴だ。

OOPartsは、2019年04月に小川氏がクラウドゲーミングサービスのデモを個人として企画・開発したことがキッカケ。その動画をTwitterに投稿したところ、1万を超えるリツイート、28万を超える動画再生を獲得したほか、ゲームメーカーからも多くの好意的な反応があったことから、ブラックで事業を進めることになったという。

初回ローンチは美少女ゲームだが、ターン制のRPGやシュミレーションゲーム、アドベンチャーゲームなどラインアップが増えてくれば、当時の記憶を思い起こしながら新たな気持ちで往年のゲームを楽しめるだけでなく、若年層がさまざまな過去の名作を低価格でプレイできる環境整う。今後のラインアップ拡充が楽しみだ。

スマートロック×不動産サービスのライナフが東急不動産HDから資金調達

ライナフ代表取締役 滝沢潔氏

スマートロックなどのIoT製品「NinjaLock(ニンジャロック)シリーズ」や不動産事業者向けサービスを提供するライナフは、8月30日、東急不動産ホールディングスが運営するスタートアップ支援プログラム「TFHD Open Innovation Program」から資金調達を実施したことを明らかにした。調達額は非公開だが、1億円以上とみられる。

ライナフは2014年の創業。これまでに、三井住友海上キャピタルおよび三菱地所による2016年2月の調達、三菱地所などが参加した2016年11月の調達、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、長谷工アネシス、住友商事などを株主とする2018年1月の調達を実施しており、今回で累積調達額は10億円以上になる。

老舗メーカーと共同開発したスマートロックがヒット

ライナフでは、スマートロック「NinjaLock」などのIoTハードウェアを提供する一方で、これらを活用した無人内覧サービス「スマート内覧」や、AIを利用した物件確認電話システム「スマート物確」など、不動産事業者向けの業務効率化サービスを展開している。

2019年4月には鍵・錠前メーカーの老舗企業、美和ロックと共同で、住宅向けに完全固定式のスマートロック「NinjaLockM」を開発し、発売した。スマートロックとしては従来製品のNinjaLockと同様、暗証番号やカード(NFC対応ICカードやスマホなどの端末)、アプリでの解錠が可能。賃貸物件をターゲットとしたNinjaLockMでは、このスマートロックとしての基本機能に加えて、「空室モード」「入居モード」の運用モード切り替えができる点が特徴だ。

  1. NinjaLockM_top

  2. NinjaLockM_app

  3. NinjaLockM_keypad

空室モードでは、管理会社や仲介業者が解錠できるように設定され、入居者が決まれば入居モードに切り替え。入居者以外の解錠権限が一括で停止される。賃貸物件での業者間の鍵の受け渡し、管理のコスト削減や、内覧管理業務の効率化を実現でき、発売時から先行して導入を表明していた三井不動産レジデンシャルリース、三菱地所ハウスネットをはじめ、不動産企業や仲介会社からも好評を得ているという。

ライナフ代表取締役の滝沢潔氏は「大手建設業者、不動産業者は、賃貸住宅のスマートロックに高い信頼性を求めている。NinjaLockMは固定式で、美和ロックが定める品質検査をクリアした高品質の住居用スマートロックということで、多くの問い合わせがあった。今後の新築マンション全棟に標準で導入すると決まったところもある」と話している。

当初1万台程度を予定していた来年1年間の販売予測は、引き合いの多さから目標10万台に変わった、と滝沢氏。新築への導入だけでなく、既存の賃貸マンションでも、退去時の鍵交換の際にNinjaLockMへの入れ替えが進んでいるということだ。

滝沢氏によれば、老舗メーカーとテクノロジーベンチャーが手を組む動きは、錠・鍵の領域でも世界的な潮流だという。2017年12月にはスウェーデンの老舗メーカーAssa Abloyが、米国のスマートロックスタートアップAugust Homeを買収している。「品質のよいものをつくる老舗と、サーバー運用やUI/UXに明るいベンチャーが組むことで、よりよいものができる」と滝沢氏は語る。

「賃貸物件は固定式スマートロックにシフトするだろう」

ライナフではこれまで、スマートロック単体ではなく、不動産管理に注目したサービスとの組み合わせにより事業を展開してきた。物件管理のためのWebサービスと鍵が連動している点が評価されたことで、「住居、賃貸物件に主戦場が絞られてきた」(滝沢氏)という。こうした動きに伴って、ライナフは8月23日付で会議室の空室管理サービス「スマート会議室」を、遊休不動産活用事業を展開するアズームへ事業譲渡している。

スマートロックには、家電量販店などで販売され、個人が中心ターゲットのQrio(キュリオ)や、同じく一般家庭向けで月額360円のサブスクリプション型で利用できるBitkey(ビットキー)の製品、入退室管理システムと連携し、オフィス向けに導入が進むAkerun(アケルン)などがある。

滝沢氏は、賃貸物件市場に焦点を当てたことで、これらのスマートロックとライナフ製品とは「全くバッティングしなくなった」と述べている。「後付け型のスマートロックは、賃貸物件で入居中もそのまま使うには、やや心許ない。今後、後付け型ロックは管理のために空室の間だけ付けるものとなり、入居中も使えるものとしては固定式のスマートロックへとシフトしていくだろう」(滝沢氏)

ライナフでは今回の調達発表と同時に、東急住宅リースと資本業務提携を締結したことも明らかにした。今後、賃貸物件管理やマンション管理業務で連携していくとしている。

今回の東急不動産HDからの出資により、ライナフの株主には日本の大手不動産プレイヤーが、ほぼそろった形となる。これは以前から「1社に限らず、不動産業界全体からの応援を受けたい」とする滝沢氏の意向にも合致するものだ。

ライナフには、将来的にはスマートロックを活用したサービスを通じて、住居のセキュリティを保ちながら、買い物代行や家事代行などのサービスを安全に家に取り入れる、という構想もある。

8月2日には、置き配バッグ「OKIPPA」を提供するYperと連携し、宅配伝票番号だけでオートロックマンションのエントランスを解錠、自宅のドア前まで置き配配達を可能にする取り組みを始めた。「ライナフが自社だけでこうしたサービス開発を行うのではなく、宅配に特化したYperと連携して、オープンイノベーションとして取り組む方が、より効率よく課題を解決できる」と滝沢氏は話していた。

出版社の教材を便利な「デジタル問題集」に進化させるLibryが3億円調達、全国数百の中高で活用進む

中高生向けのデジタル問題集「Libry(リブリー)」を開発するLibryは8月29日、グロービス・キャピタル・パートナーズ、みらい創造機構を含む複数の投資家を引受先とした第三者割当増資などにより総額約3億円を調達したことを明らかにした。

同社は今年3月に社名(forEst)とプロダクト名(ATLS)を共にLibryへと変更。資金調達は昨年forEst社の時代に数億円を調達して以来約1年半振りとなる。

Libryでは調達した資金を用いて人材採用を進めるほか、提携出版社およびサービス導入校の拡大、プロダクトのアップデートに向けた取り組みを強化する計画だ。

既存の問題集をデジタル化し、便利な形に進化させて提供

Libryは出版社が発行している既存の問題集や教科書、参考書などを電子化した上で、紙の教材にはないスマートな機能をいくつか搭載したデジタル問題集だ。別の表現をすれば「普段から使い慣れた教材を、より効果的な学習がしやすい形にアップデートするサービス」と言えるかもしれない。

ポイントは従来のやり方を大きく変えることなく使えること。Libryのコンテンツは出版社の教材のみで、普段学校で使っている教科書や問題集がほとんど。タブレットやスマホ端末で教材を開きながら、普段通り「紙のノートとペン」を使って問題を解いていくのが基本的な使い方だ。

それだけだと単なる電子書籍にすぎないけれど、Libryの場合はそこにデジタル問題集ならではの便利な機能が付いてくる。

わかりやすいのが学習の履歴がたまり自分だけのデータベースができる「学習履歴機能」。問題集のページにはストップウォッチが搭載されていて、それを使えば「自分がいつ、どの問題をどれくらいの時間で解いたのか」が自動で記録される。

  1. s1_問題集一覧画面 (1)

    問題集一覧
  2. s2_問題集紙面画面

    問題集紙面
  3. s3_問題回答画面

    問題解答
  4. s4_解答結果画面

    解答結果
  5. s5_学習履歴

    学習履歴

問題を解いたノートを撮影して学習履歴に紐付ける仕組みがあるので、具体的にどのようなアプローチで取り組んだのかまでしっかりと蓄積していくことが可能。自分の得意不得意や解き方の傾向、間違いっぱなしになっている問題などをいつでも確認しやすいのが特徴だ。

その履歴を基に以前学習した問題を忘れそうなタイミングでレコメンドする「復習支援」機能や、苦手そうな問題をレコメンドする「挑戦問題」機能を実装。分野・単元・使われている知識を軸に教材横断で類似の問題を検索できる仕組みなども取り入れている。

従来のタブレット版に加えて、3月にはスマホ版もリリース

現在Libryでは6社の出版社と提携し数学、英語、物理、化学、生物の5科目に対応。取り扱い書籍数は120冊を超える。

今のところ学校現場を通じてサービスを提供している例がほとんどで、トライアルでの利用も合わせると全国で数百の中学校・高等学校で活用されているという。一部の書籍のみが対象にはなるが、公式のオンラインストアで販売されているものについては誰でも購入・利用することができる。

「(生徒ユーザーからは)そもそも重たい紙の問題集を常にカバンに入れて通学する必要がなくなった、カバンが軽くなったという声が多い。その上で慣れ親しんだ教材や勉強方法を変えることなく、便利な機能が追加され効率よく学習できるようになったという点が好評だ。学校側・先生側にとってもこれまでの指導方法を大きく変えずに導入できる点は評判が良い」(Libry代表取締役CEOの後藤匠氏)

デジタル問題集のデファクトスタンダード目指す

Libry代表取締役CEOの後藤匠氏

近年は学校教育におけるICT活用というテーマが社会的にも話題になることが増えてきた。6月には教育情報化推進法も成立し、今後さらに教育現場でのICT環境整備やデジタル教科書などの活用が本格化していくはずだ。

後藤氏も「実際に学校現場に出向いていてもここ1年半ほどで空気感が変わり、確実にICT活用に前のめりになった人が増えている」と話す。

当初Libryはタブレット端末用のプロダクトとしてスタートしたこともあり、導入に至るのは生徒にタブレットを支給している私立校がほとんどだった。ただ今年3月のスマホ版リリースを機に公立校への導入が加速。実際に公立校の現場で、生徒各自のスマホを用いながらLibryが活用される事例も出てきている。

特に地方の公立校などでは、ICTを積極的に取り入れたい気持ちは強い一方で予算の関係上踏み切れないケースも多いそう。その点Libryは実際に教材が購入された際のレベニューシェアのみを収益源としているため(教材の販売代金を出版社とLibryでシェアするモデル)、学校側は無料で導入できるのもポイントだ。

後藤氏によるとLibryは生徒の学習を支援するだけでなく「先生側の働き方改革をサポートする役割」としても効果が出始めているそう。Libryには生徒側のメインサービスとは別に先生用の宿題管理ツールがあり、これを通じて膨大な時間がかかっていた宿題業務に効率よく対応することができるという。

「従来は『宿題を出して、回収して、分析する』という工程を全て手作業でやっていた。Libryでは各生徒がサービス上から宿題を提出するので、回収する作業は不要。提出されたタイミングで確認できるので、空き時間を活用して各自へフィードバックすることもできる。問題ごとの正答率まで自動で集計されるので、エクセルを使って自身で分析する手間もなくなる」(後藤氏)

生徒がアプリから提出した宿題が自動で集計・分析されていくので、エクセルなどに手動で打ち込みながら集計する手間もない。先生は生徒の正答率や解き方などをチェックして授業の内容を考えたり、個別のフィードバックに時間を使うことができる 

ある学校では先生の1日あたりの業務時間が2〜3時間ほど短縮された例もあるとのこと。宿題業務の時間を縮めることができれば、長時間勤務を減らすことに繋がるだけでなく、授業の準備に時間をかけたり、各生徒ごとのケアにより多くの時間を使えるようになるといった効果も見込めるだろう。

最近は出版社に対して先生側から「この教材もLibryで使えるようにして欲しい」と要望が届くことも増えているようで、出版社との連携強化を積極的に進めているとのこと。今後も提携出版社・コンテンツの拡充と導入校の拡大を大きなテーマに、調達した資金を活用しながら事業に取り組んでいく方針だ。

「各出版社と協力しながら学校市場を開拓できてきている。教科書や問題集は全ての生徒が使うものなので、そこにアプローチできる価値は大きい。まずはしっかりとユーザー体験を作り込み、市場に浸透させて『デジタル問題集のデファクトスタンダード』を目指す。ゆくゆくは蓄積された教育ビッグデータを使い、より豊かな学びを提供するチャレンジもしていきたい」(後藤氏)

ギフト特化EC「TANP」が5億円調達、豊富なオプションと独自のロジスティクス軸に事業拡大

「TANP」を運営するGraciaのメンバーと投資家陣。前列左から4番目が代表取締役CEOの斎藤拓泰氏

ギフトプラットフォーム「TANP」を展開するGraciaは8月28日、グロービス・キャピタル・パートナーズなど複数の投資家を引受先とした第三者割当増資により、シリーズBラウンドで総額5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

Graciaにとっては2018年10月に1.2億円を調達して以来の資金調達で、本ラウンドを含めた累計の調達額は6.4億円になる。同社では今後も引き続きギフト体験に特化したプラットフォーマーとしてTANPのアップデートを行っていく方針。調達した資金を活用しながら人材採用と事業拡大を計るという。

今回同社に出資した投資家のリストは以下の通り。なおGraciaでは資金調達と合わせて、グロービス・キャピタル・パートナーズの⾼宮慎⼀氏が社外取締役に就任したことも明かしている。

  • グロービス・キャピタル・パートナーズ
  • スパイラルベンチャーズ
  • 福島良典⽒
  • 有安伸宏⽒
  • ⼤湯俊介⽒
  • 遠藤崇史⽒
  • ANRI(既存投資家)
  • マネックスベンチャーズ(既存投資家)
  • ドリームインキュベータ(既存投資家)
  • SMBCベンチャーキャピタル(既存投資家)

ギフトならではの豊富なオプションはユーザーの8割以上が活用

冒頭でも触れた通り、TANPはギフトに特化したECサイトだ。誕生日や結婚祝い、母の日などギフトを贈るシチュエーションや相手の性別・関係性に合わせて、豊富な品揃えの中からぴったりな商品を探しやすい仕組みを構築。そこにギフトならではの幅広いオプションを組み合わせ、良質な購買体験の実現を目指している。

この「オプションのバラエティ」とそれを支える「独自のロジスティクス」はGraciaが前回の調達時からさらに磨きをかけてきたポイントだ。

TANPでは複数種類のラッピングや紙袋を始め、メッセージカード、ドライフラワー、名前の彫刻、熨斗(のし)サービス、ダンボール内の装飾など豊富なオプションを用意。商品ごとにその数は異なるが、たとえば「誕生日や女子会で使えるバルーン」「結婚用のご祝儀袋」などユーザーの要望に合わせて細かいオプションを選択できるようになっている。

ギフトを購入する手段自体は百貨店や専門店のほか、既存のギフトECやAmazonのような総合モールECなどすでに複数の選択肢が存在するが「ギフトに特化することで実現した商品探しの体験やオプションの充実度」はTANPの大きな特徴だ。

Gracia代表取締役CEOの斎藤拓泰氏によると購入時に何らかのオプションを選択するユーザーは8割を超えているそうで、TANPが選ばれる要因の1つになっているのはもちろん、コアなファンを形成するきっかけにもなっているという。

TANPで選べるオプションの一部。商品ごとに種類は異なるが、オプションを組み合わせることで手軽に凝ったギフトを作ることができる

またギフトに特化してユーザー体験を作り込んでいることは、コンシューマー側だけでなくギフトを販売するメーカー側にとっても大きな意味を持つ。

TANPでは現在the body shop、gelato pique、DEAN&DELUCAなどの有名ブランドを筆頭に約300社ほどと取引をしている。斎藤氏の話では多くのブランドからは「(ギフト商品のみが掲載されているため)ブランドが毀損されるリスクが少ないことと、ギフトに特化したロジスティクスの仕組みを築いていること」が評価され、取引に至っているようだ。

現在はブランドの拡大に伴ってTANPで購入できる商品数も増え、色違いなども合わせると3000〜4000種類の商品を掲載。中には他のサイトには出品していないようなメーカーもいるため、TANP以外では手に入りづらいものもある。

「一見ギフトは自家需要とそこまで違いがないようにも見えるが、実際はメッセージカードを含む同梱物やラッピングなど専用のオペレーションが不可欠だ。メーカー側もギフトの取り組みを強化したい意向を持ってはいるが、どこに出店するべきかわからなかったり、ギフト用のオペレーションに自社で対応するのは難しいといった悩みを抱えていた。ロジスティクスの部分からしっかりと支援してもらいたいというニーズは大きい」(斎藤氏)

裏側のシステムはフルスクラッチで開発、ロジスティクスが強みに

GraciaはTANPの性質上ギフトにフォーカスしたECの会社に見えるが、実際はロジテックの会社と言っても過言ではないくらいロジスティクスの仕組み作りに力を入れている。

TANPを裏側で支えている在庫管理や発送管理、CS管理などに関する各システムは基本的にフルスクラッチで開発。それらを軸に社内のオペレーションを最適化することで「オプションのバラエティを増やしながらもビジネスとしてスケールできる体制」(斎藤氏)を時間をかけて構築してきた。

「テック企業ぽくないと言われることも多いが、実は表からは見えない裏側のシステムの部分でテクノロジーをフル活用している。ロジスティクスを効率的に回す仕組みなどは意外と難易度が高く、そこをフルスクラッチでやってこれているので開発力にもそれなりに自信を持っている」(斎藤氏)

ロジスティクスの体制は前回調達時に比べてさらに洗練されてきているそうで、1日あたりの最高発送数は1200件まで拡大。前回は「最も多い時で800件」という話だったから、オプションの数が増えたにも関わらず1日に対応できるキャパシティは400件分増えたことになる。

このような裏側の仕組みが整ってきたことに加えて商品数の増加などの要因も合わさり、事業規模も成長。売上の年次成長率は約400%ほどだという。

細かいアップデートにも日々取り組んでいて、最近ではAmazonのAPIを繋ぎ込み、地域のコンビニで24時間受け取れる機能を作った。ギフトは「いつまでに送らないといけない」という明確な期限があるからこそ、ユーザーからも好評のようだ。

「オペレーションの効率化が進んだことで対応できるオプションも増え、今まではあまり多くなかった『結婚』や『出産』のようなセミフォーマルなギフトの利用も増加してきている。ロジスティクスは作り込むのに相応の工数はかかるが、一度確立できればそうそう壊れない。この仕組みがTANPの競合優位性にもなるし、今回の調達では(トラクションなどだけでなく)ロジスティクスの部分を評価して頂けたと思っている」(斎藤氏)

今後は購入データの収集や活用も一層強化へ

Graciaでは今回調達した資金を用いて人材採用を強化するほか、マーケティングへの投資も行っていく計画。現在の強みにもなっているオプションやロジスティクス周りを引き続き磨いていくほか、年内にはアプリ版のリリースも予定している。

中長期的には「『ギフトを買うならTANP』という、ギフト市場における第一想起を獲得することが大きな目標」(斎藤氏)であり、それに向けて取引先のブランドや商品数の拡充なども含め、プロダクトをアップデートしていく方針だ。

特に斎藤氏が今後のポイントの1つに挙げたのが、TANPを通じて収集されたデータを活用した最適なギフト選びのサポート。現在もLINEを通じてユーザーにぴったりのギフトを提案する「プレゼントコンシェルジュ」を提供しているが、サービス上で自動でレコメンドできるような仕組みまでは構築できていないという。

「そもそも何を選んだらいいのかわからない」という問題はギフトを選ぶ際に多くのユーザーが抱えている根本的な課題だ。Graciaとしては購入データの収集や活用にも今後力を入れながら、ユーザーとメーカーを繋ぐプラットフォーマーとしてギフト市場でさらなる成長を目指す。

AIチャットボット開発の空色が約6.5億円を調達

空色は8月22日、総額約6.5億円の資金調達を発表した。WiL、NTTドコモ・ベンチャーズ、S5(エスファイブ)1号投資事業有限責任組合、みずほキャピタル、三菱UFJキャピタルを引受先とした第三者割当増資による調達となる。累積資金調達額は約10億円。

写真に向かって左から、空色で取締役CSO兼CFOを務める瀧 直人氏、代表取締役を務める中嶋洋巳氏

同社は、ウェブ接客ソリューション「OK SKY」、AIチャットボットソリューション「WhatYa」(ワチャ)を開発・提供する、2013年10月設立のスタートアップ。

今回の調達した資金は、これまでに蓄積した会話データを活用した購買促進を目的とした会話標準化モデルの実現、顧客接点拡大に伴うウェブ接客ソリューションの発展と開発体制の構築、新事業領域への参入および海外事業展開を目的としたマーケティング、事業拡大に伴う全職種における採用活動の強化などに投資する計画だ。人材採用も強化し、2020年度末をめどに累計導入企業数500社を目指す。同社によると、現在の導入企業数は累計約80社で、流通、小売、メーカー、インフラなどの業種が採用しているとのこと。

同社ではすでに、コールセンターに代わるチャットセンター事業の拡大に向け、伊藤忠商事や三井物産、ベルシステム24などの事業会社と資本業務提携を結んでいる。今後は、大量に保有するチャットログデータの解析およびAI開発、チャットログデータのマーケティング活用に向けた事業提携も検討しているという。

OK SKYは、LINEやFacebook Messenger、SMS、サイト内チャットなどを横断して顧客とやり取り可能できるのが特徴。チャットの内容を蓄積してAIが解析することで、有人チャットと組み合わせた効率的な顧客サポートが可能になる。2018年10月には、こども服大手のファミリアが「OK SKY Chat Bot」を導入している。そのほか、朝日新聞デジタル、レイクALSA、ベルメゾンなどにも導入されている。

WhatYaは、多言語対応のAIチャットボットで、2018年7月に近畿日本鉄道ではウェブサービス「近鉄ご利用ガイド」に試験導入されている。日本語、英語に対応しており、利用者から寄せれた質問をAIが学習して自動回答を行う。

同じく7月に髙島屋京都店でも店内案内にWhatYaを導入。こちらは、日本語、英語、中国語の3カ国対応だ。店内案内に掲載されている二次元コードをスマートフォンなどで読み取れることでウェブサイトにアクセスでき、ブランド名やカテゴリー名などのキーワードを入力すると目的の売場の場所情報を受け取れるというものだ。