30cm下の土壌を調査し、栄養素や微生物といった実際の畑の化学的特性把握を支援するEarthOptics

ここ数十年の間に、持続可能で効率的な農業は、巨大なトラクターの問題からビッグデータの問題へと変化してきた。スタートアップのEarthOptics(アースオプティクス)は、精密農業の次のフロンティアは土壌の奥深くにあると考えている。同社は、ハイテク画像処理技術を用いて、従来の技術よりも早く、より正確に、より安く、農地の物理的および化学的組成をマッピングできると謳い、そのソリューションを拡大するために1000万ドル(約11億円)を調達した。

EarthOpticsの創業者でありCEOのLars Dyrud(ラース・ダイルード)氏は「土壌をモニタリングするほとんどの方法は、50年間変わっていない」とTechCrunchに語る。そして「農業における精密データや最新のデータ手法の利用については、非常に多くの進歩があった。しかし、その多くは植物や季節的な作業に焦点を当てたもので、土壌に対する投資は比較的少なかった」と続ける。

植物が根を張る土壌をより詳しく調べるのは当然だろうと思うかもしれないが、単純な事実としてそれは難しいことだ。航空写真や衛星写真、IoT技術を組み込んだセンサーが水分や窒素などを検出し、農地の表面レベルでのデータは非常に豊富になった。しかし、1フィート(約30センチメートル)より深くなると簡単にはいかない。

同じ畑でも部分ごとに、作物の出来に大きな影響を与える土壌圧縮などの物理的特性や、溶解している栄養素や微生物叢などの化学的特性のレベルが大きく異なる場合がある。こういった違いを調べるための最善の方法は「非常に高価な棒を地面に突き刺すこと」だとダイルード氏はいう。それらのサンプルから得られるラボの結果によって、畑のどの部分を耕したり肥料を与えたりすべきかを判断する。

画像クレジット:EarthOptics

棒による調査は重要であり、農場では今も行っているが、数エーカー(数千平方メートル)ごとに土壌サンプルを採取することは、1万エーカー(約40平方キロメートル)もの土地を管理する場合では、大変な作業となってしまう。そのため、データが得られない多くの農場では、すべての畑を耕し肥料をまき、何のメリットもない、むしろ有害なプロセスに多額の費用を投じている(ダイルード氏は、米国では約10億ドル[約1100億円]もの費用をかけて不必要な耕作を行っていると推定している)。そしてこれは、地中に安全に封じ込められていた大量の炭素を放出してしまうことにもなる。

画像クレジット:EarthOptics

EarthOpticsは「高価な棒」に相当する部分を最小化することで、根本的により優れたデータ収集プロセスを目指している。同社は、地中探知レーダーと電磁誘導を利用した画像処理システムを構築し、土壌深部の組成地図を作成している。1つのサンプルから何エーカー(何千平方メートル)ものデータを推定する方法に比べ、より簡単で、より安く、より正確なものだ。

GroundOwl(グラウンド・オウル)とC-Mapper(シーマッパー、Cはcarbon[炭素]の頭文字)という同社の2つのツールでは、機械学習がその中核をなしている。同社のチームは、非接触データを通常よりはるかに低いレートで採取された従来の土壌サンプルと照合するモデルを学習させ、従来よりもはるかに高い精度で土壌の特性を正確に予測できるようになった。画像処理装置は、通常のトラクターやトラックに搭載可能で、数フィート(数十センチメートル)ごとに測定値を取得する。物理的なサンプリングは継続して行われるが、その頻度は数百回から数十回のレベルに低減した。

現在の方法では、何千エーカーも(何十平方キロメートル)の農地を50エーカー(約20万平方メートル)ごとに分割し、この区画にはもっと窒素が必要だとか、この区画は耕す必要があるとか、この区画にはあれこれの処理が必要だとかいったことを考える。EarthOpticsは、それをメートルの単位にまで細分化し、そのデータを、耕す深さを変えられるスマート耕運機のようなロボット化された農業機械に直接供給することができる。

画像クレジット:EarthOptics

畑に沿って走らせると、必要な深さだけ耕して進んでいく。もちろん、誰もが最新の農業機械を持っているわけではないため、データは、より一般的な地図として、耕したり他の作業を行ったりする時期など、ドライバーに一般的な指示を提供することもできる。

このアプローチが軌道に乗れば、コストダウンを目指す農家にとっては大きな節約になり、規模拡大を目指す農家にとっては、農地面積や耕作費用に対する生産性が向上することになる。そして最終的なゴールは、自動化やロボット化された農業を実現することでもある。この移行は、機器や運用方法を練り上げている初期段階ではあるが、いずれにしても必要となるのは優れたデータだ。

ダイルード氏は、EarthOpticsのセンサーシステムが、ロボット化されたトラクターや耕運機などの農業機械に搭載されることを期待しているが、同社の製品は、データと何万回もの現地調査での実測値を用いてトレーニングした機械学習モデルに他ならない、と述べている。

同社の1030万ドル(約11億3000万円)のシリーズAラウンドでは、Leaps by Bayer(リープス・バイ・バイエル、複合企業バイエルのインパクト投資部門)がリードし、S2G Ventures(S2Gベンチャーズ)、FHB Ventures(FHBベンチャーズ)、Middleland Capital(ミドルランド・キャピタル)のVTC Ventures(VTCベンチャーズ)、Route 66 Ventures(ルート66ベンチャーズ)が参加した。今回の資金調達では、既存の2つの製品の規模を拡大するとともに、明らかにすべての農場が関心を示すであろう次の製品、水分マッピングに着手する予定だ。

画像クレジット:EarthOptics

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

開発者が適切な機械学習モデルを見つけられるようにするCatalyzeXが約1.9億円調達

電気自動車の駆動用などで需要が高まるネオジム磁石、NIMSが最小限の実験と機械学習による最適な製作条件の予測に成功

機械学習の利用が爆発的に増えている今日では、モデルの数もたいへん多く、デベロッパーは選択に苦労している。Googleで検索しようとしても、それは機械学習のモデルを検索するために設計された検索エンジンではない。そこで、CatalyzeXが登場した。それは、デベロッパーが抱えるデータにもっとも適したモデルを見つけるのを助けてくれるだけでなく、単純なインターフェースでそのコードへの直接のリンクを提供する。

このアーリーステージのスタートアップが米国時間11月16日、164万ドル(約1億9000万円)のシードラウンドを発表した。Unshackled Ventures、Kepler Ventures、On Deck、Basecamp Fund、Abstraction Capital、Unpopular Ventures、Darling Venturesそして多くの業界のエンジェルたちが参加している。

同社の共同創業者である2人の兄弟、Gaurav Ragtah(ガウラヴ・ラグタ)氏とHimanshu Ragtah(ヒマンシュウ・ラグタ)氏は、すでに大量の研究が為されていることを見て、デベロッパーが現在、持っているデータと目的に最もふさわしいモデルを容易に見つけられるためのツールを作ろうと思い立った。

CEOのガウラヴ・ラグタ氏によると「私たちが作ったプラットフォームは、特定のユースケースに適したさまざまなテクニックと利用可能なモデルをすべて簡単に検索して、ワンクリックでそのコードへジャンプできる。これまでのように『良いテクニックを見つける』ことと、『それを実際に実装しているコードを見つける』ことの間にある苦労を少なくします」という。

CatalyzeXの検索結果ページ(画像クレジット:CatalyzeX)

目的に応じて最適を発見する、それは、どんなタイプの調査にもいえることだが、若きスタートアップである彼らが機械学習に集中したのは、応用範囲が極めて広いからだ。このようなプラットフォームを構築する経験を通じて彼らは、どのユースケースにはどんなタイプの調査研究が最も適切かを知り、ユーザーにとってもっとも適切なものを自動的に浮かび上がらせる。

同社の各週のアクティブユーザーは3万ほどだが、ユーザーの研究調査のタイプとそれに適したモデルを正しく精密にマッチングできるためには、いわゆる臨界質量に達することが必要だ、と彼らも知っている。そこで当面彼らは、そのツールに組み込んだ技術、たとえばクローラーとかアグリゲーターなどを利用して、そのプロセスをより活性化している。

兄弟は、1940年代後期に英国がインドとパキスタンを分割したときの難民たちのためのニューデリーの地域で生まれ育った。祖父母たちがそこに入植し、最初はテント生活だったがやがて家を建てた。ガウラヴ氏は2009年に奨学金で渡米し、その後、ヒマンシュウ氏も後を追った。2人は米国のテクノロジー企業に就職し、機械学習のプロジェクトで仕事をした。そして、そこで見た調査研究の問題点から、それらを解決するソリューションとしてCatalyzeXを着想した。

現在、社員は彼ら2人だけだが、そのアイデアが実を結ぶことを期待して人を増やし、ツールを構築していくつもりだ。彼ら自身の出自からして、雇うのはマイノリティの人たちにしたいと考えている。

「ありとあらゆる背景を抱えた人たちと仲良くしたいといつも努力をしてきましたが、人を雇うという話ならそのための求人求職パイプラインで、多様なバックグラウンドの人びとを見つけるしかありません。ベストの人材を多様なバックグラウンドから見つけられなかったら、それは私たちにとっての不利になります」と彼は言っている。

同社のウェブサイトからツールにアクセスできる。また、ChromeとFirefox用のブラウザーエクステンションもある。

画像クレジット:Jonathan Kitchen/Getty Images

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(文:Ron Mller、翻訳:Hiroshi Iwatani)

医療業界のデジタルインフラ構築に取り組むフランスのLifenが約66.2億円調達

フランスのスタートアップであるLifen(ライフェン)は、5800万ドル(約66億2600万円)の資金調達を行った。このスタートアップは、医療レポートを皮切りに、ヘルスケア業界のデジタルインフラに取り組んでいる。実際、600の医療施設が医療文書の送受信にこの製品を使用している。

また、各顧客は、毎月24万人の医師に送られる200万件の医療文書をLifenがまかなうため、Lifenを集中して使用している。患者はLifenから直接文書を受け取ることもできる。

Creadev(クリーデブ)Lauxera Capital Partners(ラクセラ・キャピタル・パートナーズ)は、米国時間11月15日のシリーズCラウンドを主導した。既存の投資家であるSerena(セレナ)Partech(パーテック)は今回の資金調達ラウンドに再び参加した。

Lifenは、アップグレードの機会を見据えて、ヘルスケア業界の通信方法から手を付けた。医療業界の多くの関係者は、医療文書の送付に昔ながらの物理的な手紙に頼っていた。病院では、データのプライバシー保護のため、電子メールに切り替えることができず、困っていた。

同スタートアップは、医療記録用に設計された複数の電子メッセージングプロトコルと連動するドキュメントプラットフォームを構築した。これにより、ペーパーレス化やレポートの自動送信が格段に容易になる。

また、Lifenは、ドキュメント製品の上に機械学習を追加した。同社は、重要な情報を自動的に検出し、ドキュメントを構造化されたデータに変えようとしている。例えば、同社は患者の名前や送信者の情報を自動的に識別しようと試みている。

そして今、同社は通信方法にとどまらず、ヘルスケア業界向けに本格的なデジタルプラットフォームを提供したいと考えている。医療機関は、Lifenを利用して他のe-ヘルス・アプリを使い始めることができる。

Lifenには独自のアプリストアがあり、Lifenのユーザー管理システムと連携するすべてのアプリを参照し、Lifenと接続することができる。この戦略は、Salesforce(セールスフォース)にとって特に効果的だった。

今回の資金調達により、同社は今後1年半の間に200人以上の従業員を雇用する予定だ。2025年までに、このスタートアップは1500の病院、200のe-ヘルスソリューションと連携したいと考えている。

画像クレジット:Lifen

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(文:Romain Dillet、翻訳:Akihito Mizukoshi)

電気自動車の駆動用などで需要が高まるネオジム磁石、NIMSが最小限の実験と機械学習による最適な製作条件の予測に成功

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)は11月15日、永久磁石では最強とされる希土類磁石(レアアース磁石)、ネオジム磁石の製作条件を変えて得たデータを機械学習させることで、最小限の実験回数で磁石特性を最大化できることを実証したと発表した

電気自動車の駆動用などで需要が高まっているネオジム磁石だが、原料合金の組成や温度管理など、その製造工程や加工条件は複雑で、用途に合わせた特性を得るには、これらの無数の組み合わせを考慮し、実験を重ねて最適化しなければならない。

NIMSでは、ネオジム磁石の製作条件と特性のデータを機械学習させ、優れた磁気特性が表れると思われる製作条件を予測した。その予測に従い実際に製作したところ、磁石の特性が効率的に最大化できたとのことだ。この機械学習は、18点という少ない初期データからスタートしている。アクティブラーニングによる特性予測と製作実験を繰り返すと、40回ほどの追加実験で磁気特性が大きく向上したという。

今後は、用途に応じて望みどおりの特性を持つネオジム磁石が素早く開発できるよう、合金組成や磁気特性などのデータの蓄積を進め、アクティブラーニングを活用し、製作条件の効率的な予測を可能にする手法の開発を目指すとのことだ。

「臓器もどき」とAIで、医薬品開発のスピードアップと動物実験の削減を目指すイスラエルのQuris

創薬のプロセスに動物実験は必要悪だ。マウス(ハツカネズミ)は特に人間に近いとはいえないものの、マウスを代替するものはないようにも思える。イスラエルを拠点とするQuris(クリス)は「チップ上の患者(複数のオルガノイドをリンクさせたシステム)」のデータとAIとを組み合わせて、マウスを必要としない新開発の本格的な方法で、低コストで極めて信頼性の高い試験と自動化を実現する、と主張している。

同社は、試験運用から実際の生産に移行するために900万ドル(約10億3000万円)を資金調達した。また、錚々(そうそう)たる後援者およびアドバイザーたちも、同社のアプローチが持つ利点を示す有望な指標となっている。

ベースとなるのは非常に理にかなったアイデアだ。これまで以上に優れた人体の小規模シミュレーションを構築し、それを使って機械学習システムが解釈しやすいデータを収集する。もちろん「言うは易し、行うは難し」だが、研究者たちのそんなアイデアを受けて、Qurisはすぐさまこれを実行に移した。

Qurisのアプローチは、ハーバード大学で行われた、いわゆる「organs on a chip(生体機能チップ)」の使用に関する大規模な研究に基づいている。まだ比較的新しいが、この分野ではすでに確立されたシステムで、少量の幹細胞から作られた組織(オルガノイド、臓器もどき)を薬や治療法の実験台として使用し、例えば人間の肝臓がある物質の組み合わせに対してどのように反応するかを調べることができる。

ハーバード大学では、複数の臓器(肝臓、腎臓、心臓の細胞など)の生体機能チップをリンクさせることで、驚くほど効果的に人体のシミュレーションが可能になるということが発見された。本物(の人体)にはかなわないとはいえ、複数のオルガノイドをリンクさせたシステム=「チップ上の患者」は、マウス実験に代わる真の手段となる可能性がある。というのも、マウスでの実験に合格した分子が人での実験に合格する確率は10%未満という事実にもかかわらず、マウスでの実験は未だに行われているからである。

Qurisの共同設立者でCEOのIsaac Bentwich(アイザック・ベントウィッチ)氏は、同氏と同僚はこの研究結果が発表された直後にこの研究が持つ将来性に気づき、実験的なシステムから規模を拡大するために、エンジニアリングとAIという点で何が必要かを考え始めたという。Qurisが取り組むのは単なるマウスの代替ではない。制約のある、人を使った実験を、人を使わずに、かつマウスの不確実性を排除して(比較的)安価に行う方法である。

自動化された「チップ・オン・チップ」デバイスの全体像(画像クレジット:Quris)

ベントウィッチ氏はインタビューで次のように話す。「あなたが製薬会社だと仮定しましょう」「理論上では効果がありそうな分子があるとします。実際に効果があるかどうかを調べるのに、臨床試験を行う寸前まで待ちますか?ゲノム情報をいくら集めても、マウスの実験で失敗する確率は90%です。Qurisの手法があれば、レースに出る前にうまく機能する(しそうな)分子を選別することができるのです」。

医薬品候補が臨床段階に到達するまでに何百億円もの費用がかかることを考えると、失敗する(はずの)候補を除外するために、わずかな費用(数十億円程度)を費やす価値は十二分にある。手法が正確であれば(おそらく正確なはずだが)、リスクは実質的にゼロであり、高額を費やしながらも失敗する(はずの)医薬品候補を1つ除外するだけで元が取れる。ベントウィッチ氏によれば、要はソフトウェア産業における「Fail fast, fail cheap(損害の少ないうちにさっさと失敗しよう)」という考え方を、こういう考え方がまったく存在しなかった医薬品という領域に持ち込んだのだ。

Qurisのシステムでは、チップオンチップという技術を使用する。つまり、複数のオルガノイド(チップ)を並べて(別のチップ上に)配置するのだが、最新の研究室のシステムと比べてはるかに小さく、効率的である。ハーバード大学で行われた実験方法で100人分のオルガノイドを調査するには何億円もかかるが、Qurisのシステムでは100万円以下で済む。Qurisの自動システムには適切に訓練された機械学習モデルが採用され、使用する生体物質の量も少ないからだ。

機械学習モデルはQurisのもう1つの特徴である。実験を理解し、実験の実行と解釈をサポートするQuris独自のAIを機能させるには、同社だけのデータセットが欠かせない。同社のAIは、既存の医薬品や今後発売される医薬品の一部を学習済みで、物質の安全性にとってさまざまなセンサーからの信号がどのような意味を持つかを学習する。これにより(500匹のマウスの代わりに)一握りのチップで効果的な実験を行えるようになる。

チップ自体もすべて同じではない。幹細胞や組織を慎重に操作・選択することで、人のさまざまなタイプ、さまざまな状態や表現型を検査することができる。効果は十分だが10%の確率で副作用が起こる医薬品があり、その原因がわからないとしよう。自動化された環境で異なる遺伝的素質や複雑な要因に対するテストを行えば、どのような要素がその副作用を引き起こすのかを調べることができるかもしれない。

ラボで作業するQurisチームのメンバー(画像クレジット:Quris)

AIはこれらすべてを認識し、カタログ化しているので、比較的少数の自動テスト(数千ではなく数十のテスト、コストも数億円ではなく数十万円)で、その医薬品候補を臨床試験に持ち込めるかどうかを判断できるようになるはずだ。AIによる解釈がなければ、データの解析は(何種類もの博士号が必要なぐらいの)難しい問題になる。しかし、ベントウィッチ氏は、生物学的な側面を排除してAIだけに頼ることは決して想定できないとすぐに気づいたと言い「『AIは生物という相手と連携する必要がある』というのが、哲学、生物学という点での私たちの見解です」と話す。

科学諮問委員会に参加しているModerna(モデルナ)の共同設立者、Robert Langer(ロバート・ランガー)氏は、このTechCrunchのインタビューでベントウィッチ氏の見解に同意し、この技術はすぐに採用されるだろうが、(本質的に)保守的な大手製薬会社がどうするかはわからない、と予測している。

ランガー氏は次のように話す。「これは非常に大きなチャンスだと思います」「私は他の化学分野でも『AIを使ってこれらの予測を行うことができる』という類似のアイデアを持っています。(動物での、あるいは人での)試験に置き換わるものではありませんが、候補を絞ることで、プロセスを爆発的な速さで進めることができるだろうと思っています」。

ランガー氏やノーベル賞受賞者のAaron Ciechanover(アーロン・チカノーバー)氏のような人物を味方につけるのは良いことだが、ベントウィッチ氏は、Qurisのビジネスはランガー氏やチカノーバー氏の特許ポートフォリオとこの分野における優位性に依存している、と話す。Qurisはニューヨーク幹細胞財団と契約を締結し、財団の幹細胞ワークフローを特別に利用している。

このビジネスモデルには2つの柱がある。1つは、製薬会社に医薬品候補をスクリーニングするサービスを提供し、その結果が正確であると証明された場合(例えばQurisのシステムによって絞り込まれた医薬品が、予測通りに所定の試験をクリアした場合)に支払いを受け取るというものであり、もう1つは、自社の医薬品の開発だ。現在、同社は自閉症に関連する脆弱X症候群の治療薬を開発中で、来年には臨床試験を開始すると予定している。

ベントウィッチ氏は、AIを活用した創薬が急増し、投資が行われているにもかかわらず、自社の研究成果である分子が臨床試験に入ったといえる企業はほとんどない、と指摘する。この理由としては、たとえば企業が、特定の生物活性を持つ分子やその効率的な製造方法を公表するなどの主張を行っていないからではなく、(医薬品候補となる分子の)発見、試験、承認のプロセスには他にも時間のかかる多くのステップがあり、AIなどを利用することで以前よりは高くなったとはいえ、成功する確率はまだまだ低い、ということにある。

シードラウンドでの900万ドルの資金調達について、ベントウィッチ氏は「私たちの装置を製品化し、一層の効率化、自動化を図り、AIを訓練するために最初の100~1000種類の薬をテストするための資金として非常に有効です」と話す。プレスリリースによると、今回の資金調達ラウンドは「心血管治療のパイオニアであるJudith Richter(ジュディス・リヒター)博士とKobi Richter(コビ・リヒター)博士が主導し、データストレージの革新的技術の先駆者であるMoshe Yanai(モシェ・ヤナイ)氏と複数の戦略的エンジェル投資家が参加した」という。機関投資家からの投資が見当たらない点については読者の判断に委ねたい。

ベントウィッチ氏は、Qurisの未来を「完全にパーソナライズされた医療」という自身が持つ大まかな未来像の一部として捉えている。幹細胞のコストが下がり続ければ(数億円だったものがすでに数十万円に下がっている)、まったく新しい市場が開拓されるだろう。

「製薬会社が高価な実験をするだけという状況は変わるでしょう。5年後、10年後には、何億もの人々が創薬をしているかもしれません。考えてみれば、私たちの今の生活は、野蛮なものとも言えるのです」とベントウィッチ氏。「薬剤師は起こりうる可能性のある副作用を教えてくれますが、はっきりとしたことはわかりません。自分はモルモットだと思いませんか?私たちは全員がモルモットです。しかし、それこそがこの状況からの脱却の第一歩です」。

画像クレジット:Andrew Brookes / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

地球のデジタルツインを開発する豪Blackshark.aiが約22億円を調達、MSのFlight Simulatorにも採用

オーストリアのスタートアップであるBlackshark.ai(ブラックシャーク・エーアイ)は、「Microsoft Flight Simulator」に搭載されている「デジタル地球」を開発した企業だ。同社は、地球のレプリカ技術の開発と拡張のために2000万ドル(約22億円)を調達した。地球の「デジタルツイン」の潜在的な用途は多様で、同社はGoogle(グーグル)のようなマッピング大手より先行している。

2020年の「Flight Simulator」では(100%ではないにしても)完全に横断可能で、驚くほど正確な地球を世界に見せてくれた。TechCrunchは「技術的な驚異」と表現し、それがどうやって作られたのか後に詳細を報じた。

Blackshark.aiは、ゲームスタジオBongfish(ボンフィッシュ)からスピンアウトした会社で、創業者でCEOのMichael Putz(マイケル・プッツ)氏によると、世界構築技術をゲーム環境以外にも応用することを目指している。Blackshark.aiの技術の基本は、機械学習とちょっとした賢い推測、そして大量のコンピューティングパワーを使って、広く利用可能な2D画像を正確な3Dに変えることだ。

基本的にBlackshark.aiのシステムは、最適ではない照明や不完全な画像であっても、さまざまな建物が上からどのように見えるかをしっかりと理解する。Blackshark.aiが構築した機械学習システムは、近隣の環境(住宅地と商業地)、屋根の種類(傾斜した屋根と平らな屋根)、空調設備の有無などの要素を考慮して、不完全な輪郭を推定する。これらすべての情報をもとに、建物のもっともらしい3D再現を行う。

難しいのは、一度だけではなく、定期的に何億回も繰り返して、地球上のすべての建物の最新の3D表現を作成することだ。プッツ氏は次のように説明する。「その作業のためのコンピューティングパワーをすべて購入できたとしても、それを動かすためのバックエンドを構築するのは大変なことです。これは私たちが直面した現実的な問題でした」。

プッツ氏らの解決策は、AIを搭載したサービスによく必要とされるように、最適化だった。同氏によると、地球上のすべての建物の3Dモデルを計算するプロセスは、もともと約1カ月の時間を要していたが、今では約3日で済むようになり、約300倍の加速を実現している。

人工衛星からの新しい画像をもとに定期的に更新できるこのような機能は、Blackshark.aiのビジネス提案にとって非常に重要だとプッツ氏は説明した。GoogleやApple(アップル)の地図に見られるような3D地図データの多くは写真測量をベースにしている。これは、複数の航空写真を組み合わせて、目のように視差データを比較して大きさや奥行きを判断する航空写真で、写真が撮影された時点ではすばらしいデータとなる。

2年前ではなく先週のシカゴのある一角の様子を3Dマップで表現したい、そしてそのレベルの最新情報をできるだけ多くの地球上の人々に提供したい、と考えた場合、現在では衛星画像しか選択肢がない。しかし、そのためには前述の2Dから3Dへの変換が必要になる。

パッツ氏は、Blackshark.aiの3DマップとGoogleやAppleの3Dマップは、表面的には似ているが、実際には競合するものではないと指摘する。リアルな「キャンバス」を提供するという点では同じだが、その意図は大きく異なる。

「Googleマップは、ローカルビジネスのためのキャンバスです。同社とそのユーザーの両方にとって重要なのは、場所、レビュー、道順などです」とパッツ氏は話す。「私たちは、たとえば気候変動のユースケースである洪水についてシアトルの3Dデータを提供していますが、水の物理学や流体シミュレーションを専門とする人たちは、現実世界をキャンバスとして描くことができます。私たちの目標は、検索可能な地球の表面になることです」。

画像クレジット:Blackshark.ai

サンディエゴのとある地区で利用できる平らな屋上の総面積はどれくらいか? 4000平方メートルのスペースが空いている地方空港は? 山火事のリスクがあるエリアは、更新された風モデルとどのように重なっているか? このように、活用法を思いつくのは難しいことではない。

「これは、考えれば考えるほどユースケースが出てくるアイデアの1つです」とプッツ氏は話す。「政府機関、災害救助、スマートシティ、自動車や飛行機などの自律型産業などで応用できます。これらの産業はすべて人工的な環境を必要とします。単に『これをやりたい』ということではなく、必要とされていることでした。そして、この2D-3Dは巨大な問題を解決する唯一の方法なのです」。

今回の2000万ドルのラウンドは、M12(Microsoftのベンチャーファンド)とPoint72 Venturesがリードした。プッツ氏は、アドバイザーとしておなじみの顔ぶれが参加したことに感激した。Google Earthの共同創業者であるBrian McClendon(ブライアン・マクレンドン)氏、Airbus(エアバス)の元CEOであるDirk Hoke(ダーク・ホーク)氏、Y Combinator(Yコンビネーター)の元COOで現在はApplied Intuition(アプライド・インチュイション)のCEOであるQasar Younis(カサール・ユーニス)氏らだ(これらの人々は助言をしているのであって、取締役会に参加しているわけではない)。

事業の拡張はプロダクトを作り上げるというより、市場投入のことだ。もちろん、エンジニアや研究者を増やすことは必要だが「賢いスタートアップ」から「3D合成地球の世界的プロバイダー」になることを急がなければ、他の賢いスタートアップに美味しいところを持っていかれるかもしれない。そこで、営業とサポートのチーム、そして「ハイパースケーリング・コンパニオンの残りの部分」も編成する、とプッツ氏は話した。

同氏が挙げた明白なユースケースの他に、想像できるかと思うが、メタバースアプリケーションの可能性もある。ただし、これはでたらめではなくアイデアだ。ゲームから旅行ガイドまで、おもしろいAR/VR/その他のアプリケーションが、最近レンダリングされた地球のバージョンをベースに、仮想体験をしたいと思えばそれが可能になる。それだけでなく、地球以外の世界も同じ方法で生成することができるため、もしあなたが地球のレイアウトを崩して新しい惑星を作りたいと思ったら(誰がそれを非難できるだろう)、今週中にはそうすることができる。すばらしいことではないか?

新しい資金が使われるようになれば、地球の表面で行われている複雑なマーケットやプロセスの新世代のより詳細なシミュレーションに「Powered by Blackshark.ai」などと表示されるようになるだろう。

画像クレジット:Blackshark.ai

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】AIのトレードオフ:強力なパワーと危険な潜在的バイアスのバランス

新たなAIツールのリリースが続く現在、有害なバイアスが存続するリスクがますます高まっている。特に、今までAIアルゴリズムのトレーニングに使用されてきた社会的・文化的規範の多くが改めて認識された2020年以降、このリスクは増大し続けると考えられる。

膨大な量のトレーニングデータを元に本質的に強力な基本モデルがいくつか開発されているが、有害なバイアスのリスクは残存している。私たちはこの事実を認識する必要がある。

認識すること自体は簡単だろう。理解すること、そして将来のリスクを軽減することははるかに困難だ。AIモデルの開発にともなうリスクをより正しく理解するためには、まずバイアスの根源を確実に知る必要がある。

バイアスの隠された原因

現在のAIモデルは、事前に学習されたオープンソースであることが多く、研究者や企業はAIをすばやく導入し、個々のニーズに合わせて調整することができる。

このアプローチではAIを商業的に利用しやすくなるが、真の弱点もここにある。つまり、業界や地域を問わず、AIアプリケーションの大半が一握りのモデルに支えられているのだ。これらのAIモデルは、検出されていないバイアス、あるいは未知のバイアスから逃れられず、これらのモデルを自分のアプリケーションに適応させることは、脆弱な基盤の上で作業することを意味する。

スタンフォード大学のCenter for Research on Foundation Models(CRFM)が最近行った研究によると、これらの基本モデルやその基礎となるデータに偏りがあると、それが使用されるアプリケーションにも引き継がれ、増幅される可能性があるという。

例えばYFCC100MはFlickrで公開されているデータセットで、一般的にモデルの学習に利用される。このデータセットの人物画像を見ると、全世界(であるはず)の画像が米国に大きく偏っていて、他の地域や文化の人々の画像が不足していることがわかる。

このように学習データに偏りがあると、AIモデルの出力に、白人や欧米の文化に偏るといった過小評価や過大評価のバイアスがかかる。複数のデータセットを組み合わせて大規模なトレーニングデータを作成すると、透明性が損なわれ、人や地域、文化がバランス良く混在しているかどうかを知ることがますます困難になる。結果として重大なバイアスが含まれたAIモデルが開発されてしまうのは当然と言えるだろう。

さらに、基本となるAIモデルが公開されても、通常、そのモデルの限界に関する情報はほとんど提供されない。潜在的な問題の検出はエンドユーザーによるテストに委ねられているが、このステップは往々にして見過ごされる。透明性と特定のデータセットの完全な理解がなければ、女性や子ども、発展途上国の出力結果が偏るといったAIモデルの限界を検出することは困難だ。

Getty Images(ゲッティイメージズ)では、さまざまなレベルの能力を持つ人、性的流動性、健康状態など、実存して生活している人物の画像を含む一連のテストで、コンピュータビジョンモデルにバイアスが存在するかどうかを評価している。すべてのバイアスを検出することはできないが、包括的な世界を表現することの重要性を認識し、存在する可能性のあるバイアスを理解し、可能な限りそれに立ち向かうことが重要だと考えている。

メタデータを活用してバイアスを軽減する

具体的にはどうすれば良いのだろうか?Getty ImagesでAIを使用する際は、まずトレーニング用データセットに含まれる人物の年齢、性別、民族などの内訳を確認することから始める。

幸いなことに、Getty Imagesがライセンスを供与するクリエイティブコンテンツでは、モデルリリース(写真の被写体による当該写真を公表することへの許諾)を要求しているので、この確認が可能である。そして、写真のメタデータ(データを記述する一連のデータ、データに関するデータ)に自己識別情報を含めることで、Getty ImagesのAIチームは何百万枚、何千万枚もの画像を自動的に検索し、データの偏りを迅速に特定できる。オープンソースのデータセットは、メタデータの不足によって制約を受けることが多い。複数のソースのデータセットを組み合わせてより大きなデータセットを作ろうとすると、メタデータの不足という問題はさらに悪化する。

しかしながら、現実としては、すべてのAIチームが膨大なメタデータにアクセスできるわけではないし、Getty Imagesも完璧ではない。より強力なモデルを構築するためにトレーニングデータセットを大きくすればするほど、そのデータに含まれる歪みやバイアスの理解は犠牲になってしまう、という本質的なトレードオフが存在するのだ。

世界中の産業や人々がデータに依存している現在、AI業界はこのトレードオフを克服する方法を見つける必要がある。鍵となるのは、データを中心としたAIモデルをもっと注視していくことであり、その動きは徐々に活発になっている

私たちができること

AIのバイアスに対処するのは簡単ではなく、今後数年間はテクノロジー業界全体で協力していく必要があるが、小さいながらも確実な変化をもたらすために、実務者が今からできる予防的な対策がある。

例えば基本となるモデルを公表する際には、その基礎となったトレーニングデータを記述したデータシートを公開し、データセットに何が含まれているかの記述統計(データの特徴を表す数値)を提供することが考えられる。そうすれば、ユーザーはモデルの長所と短所を把握することが可能で、情報に基づいた意思決定を行えるようになる。このインパクトは非常に大きいはずだ。

前述の基本モデルに関するCRFMの研究では「十分なドキュメンテーションを提供するための、コストがかかり過ぎず、入手が困難ではない適切な統計情報は何か?」という問題が提起されている。ビジュアルデータでいえば、メタデータとして年齢、性別、人種、宗教、地域、能力、性的指向、健康状態などの分布が提供されれば理想的だが、複数のソースから構成された大規模なデータセットでは、コストがかかり過ぎ、入手も困難である。

これを補完するアプローチとして、基本モデルの既知のバイアスや一般的な制約をまとめたリストにアクセスできるようにする。簡単にアクセスできるバイアステストのデータベースを開発し、そのモデルを使用するAI研究者に定期的にアクセスしてもらうこともできるだろう。

この例としては、Twitter(ツイッター)は先ごろ、AIのエキスパートにアルゴリズムのバイアスを検出してもらうというコンペを開催した。繰り返しになるが、認識と自覚はバイアスを緩和するための鍵である。このコンテストのような取り組みが、あらゆる場面でもっと必要だ。このようなクラウドソーシングを定期的に実践すれば、個々の実務者の負担も軽減することができる。

まだ答えがすべて出ているわけではないが、より強力なモデルを構築していくためには、業界として、使用しているデータをしっかりと見直す必要がある。強力なモデルではバイアスが増幅されるから、モデル構築の際に自分が果たすべき役割を受け入れなければならない。特に、AIシステムが実際の人間を表現したり、人間と対話したりするために使用される場合は、使用しているトレーニングデータをより深く理解する方法を模索することが重要だ。

このように発想を転換すれば、どのような規模でもどのような業種でも、歪みをすばやく検出し、開発段階で対策を講じてバイアスを緩和することが可能だ。

編集部注:本稿の執筆者Andrea Gagliano(アンドレア・ガリアーノ)氏は、Getty Imagesのデータサイエンス部門の責任者。

画像クレジット:Hiroshi Watanabe / Getty Images

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(文:Andrea Gagliano、翻訳:Dragonfly)

Pelotonがコネクテッド筋力トレーニングシステム「Peloton Guide」を発表、約5万6000円

ほとんどの企業は、Peloton(ペロトン)のようなユーザーからの支持をのどから手が出るほど欲しがるだろう。Pelotonのサイクリングマシンやトレッドミルは、コネクテッドフィットネスのプラットフォームとして、カルト的な人気を博している。出荷の遅れや2度のリコールなどの問題があったにもかかわらず、パンデミックの間にもその熱狂的なファンは増すばかりだった。

しかし、ジムの崩壊をめぐる数々の主張にもかかわらず、再開されたジムは同社の収益に影響を与え始めている。Pelotonのような企業は、どうすればこのような状況を打開できるのだろうか?迅速かつ簡単な解決策は、ホームフィットネスの他のカテゴリーにも拡大していくことだ。タイミング的には、このPeloton Guide(ペロトン・ガイド)が2020年3月頃に登場していたらベストだったかもしれない。しかしこの新しいハードウェアが、ホームフィットネス分野での同社の地位を維持するために役立つ可能性は十分にある。

最近の噂では、PelotonはHydroのようなブランドと並んで、活況を呈する家庭用ローイングマシン分野に飛び込むと言われており、そのような動きは今でも十分に考えられるが、米国時間11月9日の発表は、TempoやTonalのようなブランドをより強く意識したものだ。そしておそらく最も重要なのは、Pelotonがこれまでで最も安価なハードウェアを発表したということだ。

Peloton Guideの495ドル(約5万5900円)という価格は、同社の最も安い製品であったBikeよりもさらに1000ドル(約11万3000円)安い。その理由の1つには、この製品が最も包括的でないということが少なからず貢献している。この価格で手に入るのは、Guide本体(テレビに接続するカメラシステム)、心拍数バンド、そしてリモコンだ。その他の筋力トレーニングに必要な器具は、ユーザーが用意することになっている。これは同社が資料の中でプラスとして説明していることで「メンバーは自分の器具やウェイト、アクセサリーを使うことができ、筋トレ体験を始めるのにかさばる装置は必要ありません」と記している。つまり、BYOW(Bring Your Own Weight=マイダンベル持参されたし)。

Peloton Guideは、先日発表された競合の「Tempo Move」(395ドル、約4万4600円のミニ冷蔵庫サイズで、独自のウェイトがあらかじめ搭載されている製品)よりも高価だ。しかし、ハードウェア面でのもう1つの大きな違いは、Tempoの製品はユーザーのスマートフォンに依存しているため、潜在的なユーザーは比較的新しいモデルのiPhoneを持っている人に限られてしまう点だ。

画像クレジット:Peloton

その代わりに、Peloton Guideは、同社独自のカメラシステムを中心に構築されている。その機能について、同社は次のように述べている。

Peloton Guideは、定評のあるPelotonのストレングス(筋トレ)クラスの体験を向上させるために、データを使ってパターンを特定し、エンジニアの最小限のインプットで判断するAIの一種である機械学習(ML)を使用することで、初心者から上級者まで、ストレングストレーニングを魅力的でモチベーションを引き出すものにしています。Peloton Guideは、メンバーが自分の動きや進捗状況を把握できるよう、MLを利用しています。

このシステムは、同社の既存のストレングスコースのラインナップと連動しており、同社はそれが「Pelotonにとって最も急速に成長している分野です」とも述べている。Guideの発売はホリデーシーズンには間に合わないが、2022年初頭に米国とカナダで発売される予定で、新年の抱負を立てる頃には間に合うはずだ。英国、オーストラリア、ドイツのユーザーは同年の後半まで待たなければならない。

画像クレジット:Peloton

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(文:Brian Heater、翻訳:Aya Nakazato)

グーグルが発話障がい者のための音声認識・合成アプリ「Project Relate」 をテスト中

Google(グーグル)が、発話障がいがある人たちにコミュニケーション手段を提供するAndroidアプリの開発で、テスターなどの協力者を求めている。Project Relateと名づけられたプロジェクトおよびアプリは、音声の書き起こしと合成を提供し、言葉の理解をサポートする。

Project Euphonia」がこのプロジェクトの始まりで、TechCrunchは2019年に発表されたときに取り上げ、その後の研究についても触れている。その研究開発努力のリーダーはGoogleの研究科学者Dimitri Kanevsky(ディミトリ・カネフスキー)氏で、彼自身も発話能力に障害があり、その体験者としての知識をAIを用いるソリューションに持ち込んだ。現在、このプロジェクトの主要パートナーでアプリのユーザーでもあるAubrie Lee(オーブリー・リー)氏はマーケティングのチームにも所属しておりアプリの命名者でもあるが、筋ジストロフィーのため自分の言葉を人やアプリに理解してもらうのが難しい。彼女の様子は動画で見ることができる。

シンプルな事実として、AIによる音声認識は、人の発話を正しく理解できるようになるために大量の録音された発話を必要とするが、しかしそれらのデータは多くの場合、健常者の発話パターンに偏っている。訛りや変わったアクセントのある発話はAI用の教材として使われていないことが多いから、それらの理解もできない。発話障がいの人びとの喋りが含まれていることは、さらに稀だ。そこで、通常の音声認識デバイスを彼らは使えない。

第三国などで特殊なアクセントで喋られる英語の理解は最近改善されているが、しかし障害などで個人によって強烈なクルのある発話パターンを集めて分析するのはとても難しい。声は人によってみな違うが、脳卒中や重度傷害などで相当特殊なパターンになってしまった発話を機械学習のシステムに正しく理解させるのは困難だ。

関連記事:インドやフィリピンなどアクセントが異なる英語の認識が向上した音声認識モデル「Speechmatics」

Project Relateの中核にあるのは、障がい者のための改良された音声書き起こしツールだ。その「Listen」ファンクションはユーザーの発話をテキストに変換する。それをどこかにペーストして、他の人が読むことができる。「Repeat」は、入力された発話を繰り返すが、2度目はやや聞き取りやすく加工されている。「Assistant」は書き起こしをGoogleアシスタントに転送して、音楽の再生や天気予報など単純なタスクをやらせる。

その能力を実現するためにGoogleはまず、できるかぎり多くのデータを集め、ボランティアによる100万以上の発話サンプルをデータベースに収めた。それらを使って、音声認識AIの基底的インテリジェンスとでも呼ぶべきものを訓練する。機械学習システムの例にもれず、これもまたデータは多ければ多いほど良いが、個々のユースケースに対応できるためには、特異なデータが多いほど良い。

 

Google ResearchのプロダクトマネージャーであるJulie Cattiau(ジュリー・カティアウ)氏は、TechCrunch宛のメールでこんな説明をしてくれた。

ターゲットのオーディエンスが必要とするものを事前に想定することを避けたかった。そのための最良の方法は、このプロダクトを利用すると思われる人たちと一緒になって作ることです。そうした人たちの最初の集団をテストに参加させることにより、アプリケーションが多くの人の日常生活の中でどのように役に立つかを、良く理解できました。どれほど正確であるべきか、どこを改良すべきかを理解してから、広範なオーディエンス向けに拡張しました」。

同社は、日常生活の中でこのアプリを試用してくれる、第一ラウンドのテスターを募集している。最初のステップではフレーズを集めて記録し、それを発話のモデルに組み入れて多様な発話パターンに対応する。このやり方なら自分の日常生活にも役に立ちそうだ、と思った方はボランティアに応募できる。あなたも、このアプリの改良に貢献できるだろう。

画像クレジット:incomible/iStock

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

アップル、iOS 15.2開発者ベータ第2弾で「メッセージ」アプリに子供向け新安全機能を搭載

Apple(アップル)は、iOS 15.2の2回目のデベロッパーベータをリリースし、メッセージAppの新機能「コミュニケーションセーフティー」のサポートを開始した。この機能が2021年初めに発表された際は、児童性的虐待コンテンツ(CSAM)検出技術の新機能と並んでのことだった。同時に発表されたCSAMは物議を醸し、反発を受けて延期された。

一方、このメッセージAppの新安全機能は、子どもたちがオンラインコミュニケーションを上手に使いこなせるよう、親がより活発な、情報に通じた役割を果たすのを支援することを目指している。メッセージAppは、デバイス上の機械学習(ML)を利用して画像の添付ファイルを分析し、共有されている写真が性的に露骨なものかどうかを判断できるようになる。この技術では、すべての処理がデバイス上で行われるため、Appleが子どものプライベートな通信にアクセスしたり、読み込む必要はない。この機能はデフォルトでは有効になっておらず、ファミリー共有機能の中で、保護者がオプトインするようになっている。

メッセージスレッドの中にセンシティブな写真が発見された場合、その画像はブロックされ、写真の下に「これはセンシティブな写真かもしれません」というラベルが表示され、クリックするとその写真を見ることができるリンクが表示されるようになっている。子どもが写真の閲覧を選択すると、詳細情報を示す別の画面が表示される。ここでは、センシティブな写真や動画について「水着で隠すようなプライベートな体の部分が映っています」「あなたのせいではないけれど、センシティブな写真や動画はあなたを傷つけるために使われる可能性があります」というメッセージが子どもに伝えられる。

注目すべきは、Appleがコミュニケーションセーフティー機能について、当初の計画に比べていくつかの変更を加えたことだ。同社は当初、13歳未満の子どもがメッセージAppで露骨な画像を閲覧した場合、親に通知する予定だった。しかし、その通知システムが子どもたちを危険にさらす可能性があるとの批判を受け、Appleはこの機能を削除した。

このコミュニケーションセーフティー機能は、現在、iOS 15.2のベータ版で提供されている。Appleがこの機能を正式にリリースする予定は今のところ不明だ。

編集部註:9to5Mac.comによると、上記の通知システムは特定の状況で機能するため Appleは削除したという。iOS 15.2 beta 2での機能の実装では、子どもがよりコントロールできるようにすることに重点を置いており、Appleは現在、年齢を問わず、子どもが助けを求めたい場合には信頼できる人にメッセージを送るという選択肢を与えているが、その判断は、画像を見るかどうかの判断とは完全に切り離されているとのこと。

画像クレジット:Apple

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(文:Aisha Malik、翻訳:Aya Nakazato)

ナイキのアスリート革新方法「ナイキスポーツリサーチラボ」とは

アマチュアスポーツ向け映像分析ツールのSPLYZAが約2.5億円調達、SPLYZA Teamsの機能追加や新製品開発・マーケ強化

8年前、Nike(ナイキ)はナイキスポーツリサーチラボ(NSRL)を拡張することを決意した。その当時、NSRLは本社の向かいにあるミアハムビルディングに入っていた。

現在NSRLは当時の5倍の規模となり、新設のレブロン・ジェームズ・イノベーションセンターの最上階で研究を行っている。このセンターは非常に広く、そのためアスリート、研究者、イノベーターたちが私たちの日々着用する製品の開発を共同で行うことを可能にしている。

研究者は、サッカーのスター選手であるMegan Rapinoe(ミーガン・ラピノー)氏や、世界最速のマラソンランナーであるEliud Kipchoge(エリウド・キプチョゲ)氏について、両足のミリ単位の違いから足が地面につくたびにどれくらいの力が地面に伝えられているかまで、あらゆることを研究しガイドラインを作成する。そしてクリエーターがそれを元にパフォーマンスを強化することの可能なアパレルや靴をデザインする。アスリートはナイキの科学者のサポートを受けながらトレーニングし、自分自身や自分の身体についてより深く知ることで、パファーマンスの向上に役立てている。

しかし、NSRLはただ単に世界のエリートアスリートのためだけに研究を行っているのではない。NSRLは、街の公園のコンクリートコートでバスケットボールをしている人や、一般のランナー、ナイキの「最もタフなアスリート」フィルムで強調されているような、妊婦や新しく親になった人向けの研究も行っているのだ。

ナイキのエクスプロア・チームスポーツ・リサーチラボ副所長のMatt Nurse(マット・ナース)氏は、ナイキが他社に先駆けてより深い理解をより速く追求しようとすることはたびたびあるという。

「ビックデータといった科学や、機械学習およびAIを使用した観察を通し、よいパフォーマンスを引き出すためのさまざまな新案を見出そうとしています」。

ナース氏によると、ラボを訪れる人の80%から85%はさまざまな体の特徴を持つ、多様なバックグラウンドの一般アスリートだという。ナイキは、この新しい環境で何千人もの人をラボに迎え入れる計画で、これを通し新しい知見を得、開発の速度を高めようとしている。

ナイキは最近、メディアの人々を招待し、ナイキ製品の開発のためにアスリート、研究者、イノベータが一丸となって取り組んでいる様子を取材者自身に体験してもらう取り組みを行った。

レブロン・ジェームズ・イノベーションセンターの入り口(画像クレジット:Rae Witte )

75万平方フィートのレブロン・ジェームス・イノベーションセンターの入り口は、データとデザインを活用してイノベーションを生み出そうという、ナイキが約10年に渡って行ってきた取り組みの方向性を伝えるものとなっている。

レブロン・ジェームズはプロとして通算3万ポイントを達成したわけだが、彼が打ったすべてのシュートがどの位置からのものだったのかを示すマークが、ゴール前のつややかなコンクリートフロアの上に記されている。シュートが決まった場合には金色の点、はずれた場合にはただの円になっている。特別なシュートにはやや大きめの文字入りのマーカーがついているが、そこには彼の最初のシュートと、2万ポイント目のシュートも含まれている。

メインフロアの上は、アパレル、シューズのプロトタイプが置かれていて、デザイナーやクリエイターがロボットや3Dプリンターを使って仕事をするスペースになっており、ニット、ファブリック、刺繍セクションもある。また、ナイキの共同創設者であるPhil Knight(フィル・ナイト)氏が陸上競技会場へ出向くのに使用したトラベルトレーラーであるウィネベーゴの複製すらある。ナイト氏は、アスリートからフィードバックを得ようと競技会場でナイキの最も初期の靴を配ったのだ。

8万4000平方フィートのNSRLは建物の最上階を占め、そこで研究者とアスリートがともにナイキの靴や服を開発する。NSRLには、フルサイズのNBA企画のバスケットボールコート、200メートルの陸上トラック、人工気候室、人工芝のフィールドが設けられている。これらのエリアには、フォースプレート92個、モーションキャプチャカメラ400台、プロトタイピングマシン80台が置かれている。

ナース氏が豪華な体重計と表現するフォースプレートが、トラックや人工芝やバスケットボールコートの下に配置されている。通常の体重計は乗ると1つの数値を示すだけだが、フォースプレートは、垂直の動きだけでなく、横や前後の3次元の力のかかり方を1秒間に数万回測定可能という。

例えば、ランナーがトラック上にいる場合、足が地面に着地しそして蹴り出す力を測定することができる。

NSRLには余剰スペースがあり、そのため流動的で制限の少ないゲームプレイと動きの測定が可能である。

「ここでの目標の1つは、アスリートがフルスピード、フルモーションで持続的にプレイできるようにすることです。規模の小さな施設だと決められた動きしかできず、それ以上の研究ができないことがあります。私たちの施設では、アスリートに自由に動いてプレイしてもらうことができます」とナース氏はいう。

ラボでのテスト

ここにあるすべてのツールをどのように使用して制御された実験を行い、観察のためのビックデータを収集するかを研究者に知らせるためには「量、行動、反応」の三角形の3つの柱を理解する必要があるとナース氏はいう。「私たちが量、行動、反応を把握することができれば、プロトタイプから情報を得ることができます。これが問題解決のいとぐちになると思います」。

ラボの見学ツアーで、私たちはナイキがアスリートのためにデザインしたのと同じ、バスケットボールコート、陸上トラック、人工芝、そしてトレッドミルなどでのテストを体験した。

まず全身スキャンを行って、どのナイキアパレルが最適かを決定し、形態学的な身体サイズの追跡と骨格筋および筋肉の非対称性の調査、足と足首の3次元スキャン、裸足歩行圧テスト、といったベースラインデータの収集を行ったあと、応用パフォーマンスイノベーショントレッドミルの上を走った。私は快適に感じるジョギングスピードを選び2、3分走るように指示をされたのだが、その間、研究者は分析のためにそれを記録した。

研究者は、アスリートの走り方が跳ねすぎてはいないか、つま先で走っているか、前傾姿勢になりすぎていないかなど、フォームについての観察結果を知らせてくれる。

また、研究者は機能的なアドバイスもしてくれる。例えば、前傾姿勢になりすぎているランナーはより効率よく走るために、臀筋またはハムストリングスを強化する必要がある、といった具合である。

研究者は、生体力学的な知識と、製品やアスリートを理解するためのアルゴリズム開発を通じて、このテストをベースラインデータと組み合わせ、より速く走ることができるか、より長時間走ることができるか、そして体へのストレスのかかり具合が少ないかどうかなど、最も効率のよいパフォーマンスをするための靴についてアドバイスをしてくれる。

トラック

トラックは、人工芝のフィールドとバスケットボールコートを囲む形で配置されている。トラックには長時間のランニングや、スタートといったより個別化したテストに使用することのできるフォースプレートやモーションキャプチャカメラが装備されている。ledラビットまたはペーサーにより実験にさらにもう1つの制御がかけられ、また屋外を走るシュミレーションのために100メートルのコンクリートストリップが設けられている。

トラックでは、二足の靴をテストすることができた。そのうちの1足、Infinity Reactsは足の保護と身体へのストレスの軽減、安定性を重視した靴である。私はこの靴を履き、ナイキランクラブの平均ランナーのマイルペースである11分37秒より速く、そしてマラソンを2時間未満で走るエリウド・キプチョゲ氏よりだいぶ遅いのだが、自分が快適に感じられる速度で(1日中トラックを回転している緑に光るLEDペーサーがペースを知らせてくれる)トラックを周回することができた。

しかし、エリートランナー用の紐靴、ZoomX Invincibleを履いて1周しようとした時、私たちはそのクッションシステム(誇張されたフォームとエアシステムソール内にカーボンプレートを備えた超軽量のシステム)が私の足に合わないことを発見した。

私の足の幅は狭く、足首は以前怪我をしたことがある上フレキシブル(あるいはゆるいまたは弱いと私は考えている)である。ランニングフォームは適切であることがわかったものの、私がランナー向きではないことは認める。クッションシステム構造は一部のランナーには最高に効率がよいのだろうが、私には合わず、走りが非常に不安定になってしまった。

ナイキスポーツリサーチラボのトラックを走るアスリート(画像クレジット:Nike)

これが幅広くアスリートを調査する必要がある理由である。キプチョゲ氏のようなランナーを研究することは信じられないほど貴重なことである。というのも彼は非常に効率のよい体をしていてマラソンを完走するのに5時間も必要としないため、それほど長時間走ったことがないのだ。しかし、世界の平均マラソンランナーの所要時間は4時間20分から4時間40分の間である。

この広範囲に渡るデータ収集により、複数の靴を通じて靴の革新を行うことができ、それによってナイキが、エリートマラソンランナーか一般のジョガーかに関わらず、どのランナーにも合う靴を開発することが可能になっている。

人工芝

人工芝の研究を行うターフラボはNSRLで最大のデータキャプチャ量を誇り、ナイキによると、そのデータ量は世界最大かもしれないとのことだ。人工芝の下にはフォースプレートが装備され、ゲームでの動きやより制御された実験のモニターが行われている。研究者は異なるスピードで異なる方向へ動きながら、他のプレイヤー、人工芝、クリーツ、ボールに関与している最大22人のプレイヤー(実際にサッカーのゲームをした場合にフィールドにいる人数である)のデータを集めることができる。また人工芝はターゲットを投影することのできるスクリーンを備えており、シュートやパスの正確性を記録することができるようになっている。

ナイキはサッカーシューズでは2つの部分に特に力を入れているのが、それらは機能的に非常に異なっている。ソール部分は移動のための推力が必要であり、一方上部はドリブル、パス、キックのための動きが重要になってくる。

ナイキスポーツリサーチラボでのゴールのシュートのシミュレーション(画像クレジット:Nike)

フィールドの周囲には200台のカメラが設置され、サブミリメーターの動きをキャプチャしており、ターフの下には15台のフォースプレートが配置されている。制御された環境でアスリートの動きを計測することで、研究者はパフォーマンスのための、そして保護のための極めて小さな変化を突き止める事ができ、そうした発見の多くは野球、フットボール、ラグビーなどの他のフィールドスポーツに適用される。

サッカーのテスト中、私はゴールを狙う動きのシミュレーションを行った。これにはあたかもディフェンダーをタックルしているかのようなシャトルランや、ディフェンダーの周りを走ること、ゴール内にあるスクリーンに投影されたターゲットにシュートをする、といったことが含まれていた。

このシミュレーションでは、私がカットバックした際の力、定められたルート全体でのタイミングや俊敏性、ターゲットが投影された瞬間の私の意思決定のタイミング、ボールがターゲットに対してどれだけ正確にあたっているかがキャプチャされた。

このテストの結果はアスリートの体格、彼らにどれほどの爆発力があるか、そして彼らがフォースプレートをどれだけ速く押し出すことができるかを物語る。シューズの推力に加え、力が彼らの動きのスピードに変換される。推力が不十分な場合、同じレベルの力では速度は遅くなる。

推力に優れてはいるが、靴の上部の作りのために、足を包み込む性能に乏しい靴の場合、靴の中で足が滑ってしまう。靴が地面と効率よく作用している一方、足そのものは効率よく作用していないからである。

対照的に、上部が足を包み込む性能に優れていても推力に乏しい場合は、靴は足にはフィットするものの、地面の上で滑ってしまう。こうしたデータにより靴に修正を加えることができるようになっている。

バスケットボールコート

近くのバスケットボールコートの下にもフォースプレートが設置されていて、バスケットボールプレイヤーのために、同様のデータをキャプチャしている。

プレイヤーはモーションキャプチャカメラに取り囲まれ、心拍数やコートでの動きの速度を追跡するセンサーを身につけている。センサーで追跡された数値は、壁にある大きなスクリーンにリアルタイムで投影されている。これらに加え、フープの下に4Kカメラを備えたフォースプレートがあり、スニーカーのソールがフロアとどのように相互作用するかを記録することができる。

スニーカーの剛性あるいはソールの厚みに応じ、靴によってスピードがどの程度影響を受けるのかを、データを追跡するモーションセンサーと組み合わせて追跡し、センサーが動き全体を通してアスリートの心拍数を追跡している間、ソールが床とどのように接触しているかをすべて観察および確認することができる仕組みだ。

フープ内に設置されている別のカメラは、フープ内を通過するボールの位置を記録する。これらのシュートから収集されたデータは、フープを通過するより一貫した効率的なシュートを生み出すにはどういった機能調整が必要かを示してくれる。

  1. Basketball-at-the-Nike-Sport-Research-Lab1

    (画像クレジット:Nike)
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    (画像クレジット:Nike)
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    (画像クレジット:Nike)
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    (画像クレジット:Nike)

 

人工気候室

着用者による水分管理のニーズの違いを理解することで、デザイナーは、より機能的な服を作るガイドラインを得ることができる。私たちは暑い気候室と寒い気候室の2つの気候室を見学した。この気候室は、気温を-20度から50度以上に、湿度を10%から90%まで、そして風速を調節できる。また、太陽光線の出方と一致する2種類の電球を使用して、太陽の放射熱をシミュレートすることができるようになっている。

気候室はこうした精度で設定できるため、私たちが訪れた日は、ホットタンクが摂氏34度、湿度70%と、この夏にオリンピックが開催された8月6日の東京とまったく同じ気候に設定されていた。この温度と湿度のために、スタッフやアスリートの中には、熱性疲労で手当を受けなければならない人々もいた。

気候室を活用することで、ナイキは、アパレルデザインまたは機能のゾーニングのどういった違いが衣服の通気性に最大の影響を与えるのかを評価することができる。

人は汗をかくことで体温の調節をすることができるので、高温の気候室はアスリートの発汗反応とそれらが性、年齢、体の大きさでどう異なるのかを研究するのに使用されている。

スタッフは、私たちにヴェイパーマッチメンズサッカージャージを示し、ニットを変化させ最も発汗が多い部分へゾーニングしたことを示した。その様子はここの三枚目の画像で確認することができる。

逆に、ナイキNSRLトランスフォームジャケットは、屋外でのランニングに必要なさまざまな温度管理に対応したものになっている。袖は取り外してジャケットの裏にある収納場所に収めることができる他、ダウンの中綿を取り外すことが可能。このため、外へ出た直後から体が温まるまでの体温の変化に対応できるようになっている。研究により、ランナーの一日の走行距離の平均は5キロで、体温調節が最も必要になるのは、スタートから2.5〜3キロのあたりであることがわかった。そこを超えると体温は一定になり、それは5キロ以上走るランナーにも当てはまる。

最後になるが、なんとここには汗をかくサーマルマネキンがあり、人体にストレスをかけることなくゾーニング機能をテストすることができる。気候を調節できる部屋と決して疲労しないサーマルマネキンがあるため、デザインチームは多くの仕事をこなすことができるのだ。

クールダウン

私たちは、スポーツの世界において「精神的強さ」という言葉をよく耳にする。それらがパフォーマンスに影響を及ぼすとあって、ナイキがアスリートの心理を理解しようとしているのは理に適っている。

NSRLのラボでは、マッサージや鍼の他、身体が休養と維持のために必要とするものを利用できるが、彼らの研究はそういった身体的ニーズをはるかに超えたもので、被験者の精神状態をも研究対象としている。

メンタルヘルスは、メディアにおいてエリートアスリートについてのディスカッションのトピックになっている。Naomi Osaka(大阪なおみ)氏が記者会見を回避したり、 Simone Biles(シモーネ・ヴァイルス)氏が2020年の夏のオリンピックの体操女子総合決勝に欠場する必要性について公にするなどがその例である。

ベースライン測定を行う前に、私は認知評価を受けたのだが、これをもとに、一日の最後に学んだことを振り返った。驚くべきことに(おそらくそのように意図されているのだろうが)、その評価は、スポーツにおけるアスリートにも、人間として日々の行動にも簡単に変換して考えることができるものだった。

チームは、確実性よりも不確実性がずっと大きい場合がある、ということを指摘しつつ、意思決定についてや、アスリートが、失点を防ぐ、またはリスクを回避するという立場から意思決定を行いやすい傾向があるのかどうかを、さまざまな結果をもとに議論した。

これらの知見は、他のテストがフォームや機能の推奨事項を提供するのと同様に、認知の推奨事項にも適用できる。彼らはより良いアパレルや靴を作ろうとしているだけでなく、アスリートの能力のあらゆる側面を促進することに取り組んでいる。

例えば、コントロールの必要に悩んでいるアスリートは、結果そのものよりも、その結果を将来の成功やさらには成功へのプロセスに役立てる事ができる、という事実にもっと目を向ければよい。同様に、スポーツ心理学者は、ある一瞬やシュートの失敗といったことにいつまでもとらわれるのではなく、将来に向けたポジティブな結果を想像したり視覚化することを推奨している。

最終的に、この新しいレブロンジェームズイノベーションセンターは、ナイキのアパレルや靴のイノベーションを促進するとともに、アスリートの心身の健全性やパフォーマンスの向上といったことをサポートしていくだろう。

ここでは、問題解決に向け一面的なアプローチを取るのではなく、すべてに対しチームが一丸となってより大きなチャンスという側面からアプローチしている。このセンターの持つ可能性はすばらしいものがあり、今後ここからどのような製品が生み出されるのかが大変楽しみである。

レブロンジェームズイノベーションセンター(画像クレジット:Nike)

画像クレジット:Nike

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(文:Rae Witte、翻訳:Dragonfly)

AIを活用したエンジニアリング卓越性プラットフォームのPropeloがシリーズAで約13.6億円を調達

ここ数年、DevOpsツールの数は飛躍的に増加しており、それにともない、企業がソフトウェア開発プロセスを改善するためにそうしたツールが生み出すデータの量も増加している。しかし、ほとんどの場合、これらのデータは単にダッシュボードの中でばらばらに分析されている。Propelo(旧社名:LevelOps)は、この混沌とした状況に秩序をもたらしたいと考えており、機械学習(ML)を活用した分析サービスとノーコードのロボティックプロセスオートメーション(RPA)ツールを組み合わせた「AI駆動のエンジニアリング卓越性プラットフォーム」を構築し、ユーザーがこれらのデータポイントを実用的なものに変えられるようにすることを目指している。

同社は米国時間11月4日、Decibel Partnersが主導するシリーズAラウンドで1200万ドル(約13億6000万円)の資金調達を実施したと発表した。このラウンドには、Fike Ventures、Eniac Ventures、Fathom Capitalも参加した。

Propeloの創業者兼CEOであるNishant Doshi(ニシャント・ドーシ)氏は、2015年にPalo Alto Networks(パロアルトネットワークス)が買収したSaaS型セキュリティサービス、CirroSecureを共同創業した経験がある。その後、Palo Alto Networksに数年間在籍し、シニアディレクターやエンジニアリング担当VPとして、DevOpsツールの爆発的な普及を身をもって体験した。開発プロセスをよりよく把握するために、チームはJira、GitHub、Salesforceなどのソースからデータをつなぎ合わせる必要があった。

画像クレジット:Propelo

「これは手作業が多く、多大なリソースを必要とします」と同氏は語る。「ビジネスの核心にフォーカスしていないのに、解決策を探そうとすると、いつも別のツールが必要になってしまうのです。また、それらのツールを手に入れても、何を測定すればよいのかわかりません。当社のような専用のソリューションがもたらす進歩にアクセスできず、さらに重要なのは、行動可能性がないということです」。

画像クレジット:Propelo

そして、最後の部分がキーポイントだとドーシ氏は強調する。優れたデータや分析結果があっても、その情報に基づいて実際に行動を起こすことができなければ、開発プロセスを改善することはできない。PropeloのRPAツールを使えば、ユーザー(同社によれば、主にエンジニアリング・リーダーシップ・スタックのユーザーを対象としている)は、企業内のDevOpsプロセスを改善するための多くのタスクやワークフローを簡単に自動化することができる。

このサービスは現在、Jira、GitHub、GitLab、Jenkins、Gerrit、TestRailsなど、約40種類のDevOpsツールと連携している。Propeloは、AIを活用することで、ユーザーが隠れたボトルネックを発見したり、スプリントが失敗しそうなタイミングを予測したりできる。実際、データの衛生管理やJiraチケットの更新は、ほとんどの開発者があまり考えたくないことなので、Propeloは定期的に開発者にそれを促すことができる。

現在のPropeloのユーザーには、Broadcom(ブロードコム)やCDK Globalなどがいる。Broadcomでセキュリティ技術とエンドポイントソリューションを担当するエンジニアリングVPのJoe Chen(ジョー・チェン)氏はこう述べている。Propelo は、DevOps の摩擦を減らし、無駄な動作を減らす方法について、スクラムチームごとの非常に細かいレベルで、データに基づいた洞察を提供してくれます。これは、追加技術投資の効率を最大化し、エンジニアのペインポイントを取り除くのに役立ちます」。

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Aya Nakazato)

12月開催のSight Tech Global、アップルとアマゾンの機械学習・AI専門家の講演が決定

センサーとデータが急増している。スマートフォンから、あるいはクルマやスマートホームデバイスから得られる驚異的な量のデータをもとにして、新しいプロダクトやエクスペリエンスを考える研究者や開発者の取り組みは加速する。こうした研究や開発は、視覚障がい者に対してもこれまで以上に寄与する。

そこで12月1〜2日に開催するオンラインイベントのSight Tech Globalから、2つのセッションを紹介しよう。1つはApple(アップル)、もう1つはAmazon(アマゾン)のセッションで、この2つのセッションでは機械学習(ML)とAIのリーダーである両社が将来について、特に視覚障がい者を支援する新しいエクスペリエンスについて語る。Sight Tech Globalへの参加は無料だ。今すぐ登録して欲しい。

Designing for everyone:Accessibility and machine learning at Apple(すべての人のためのデザイン:Appleのアクセシビリティと機械学習)

Appleのセッションでは、TechCrunch編集長のMatthew Panzarino(マシュー・パンザリーノ)がJeff Bigham(ジェフリー・ビガム)氏、Sarah Herrlinger(サラ・ヘルリンガー)氏に話を聞く。

ビガム氏はAppleのAI/MLアクセシビリティリサーチ責任者で、カーネギーメロン大学でコンピュータサイエンスのアシスタントプロフェッサーも務める。同氏はAIと機械学習を活用した先進的なアクセシビリティを専門とする研究者とエンジニアのチームを率いている。

ヘルリンガー氏はAppleのグローバルアクセシビリティポリシー&イニシアチブ担当シニアディレクター。同社のアクセシビリティプログラムの責任者として、ワールドワイドで障がい者コミュニティを支援し、同社のハードウェアとソフトウェアにアクセシビリティ技術を実装し、他にもAppleのインクルージョンのカルチャーを推進する役割を担っている。

AppleのiPhoneとVoiceOverは視覚障がい者にとってナビゲーションからメールの読み上げまで多くのサービスを提供する極めて重要なツールだ。LiDARとコンピュータビジョンの機能なども取り入れることで、iPhoneとクラウドコンピューティングを組み合わせて周囲に関する情報を取得し、その情報を役に立つ形で伝える手段としてさらに機能が強化されている。ヘルリンガー氏とビガム氏が、アクセシブルなデザイン、この1年間の進歩、機械学習研究におけるインクルージョン、最新の研究と将来に関して、Appleのアプローチを語る予定だ。

Why Amazon’s vision includes talking less to Alexa(Amazonが話しかけないAlexaを考える理由)

Amazonのセッションでは、Be My EyesのバイスプレジデントであるWill Butler(ウィル・バトラー)氏が、Alexa AI担当バイスプレゼントのPrem Natarajan(プレム・ナタラジャン)氏、Alexa TrustディレクターのBeatrice Geoffrin(ベアトリス・ジェフリン)氏とともに語る。

ジェフリン氏はAmazonのAlexaチームでプロダクトマネジメント担当ディレクターを務めている。Alexaに対する顧客の信頼を獲得して維持し、Alexaのアクセシビリティを向上する部署であるAlexa Trustの責任者で、Alexa for Everyoneチームを監督する。

ナタラジャン氏はサイエンス、エンジニアリング、プロダクトの学際的な研究をする組織の責任者で、会話のモデリングや自然言語理解、エンティティリンキングとエンティティ解決、関連する機械学習テクノロジーの進化を通じたカスタマーエクスペリエンスの向上に取り組んでいる。

AmazonのAlexaはすでに多くの家庭で利用され、視覚障がい者が使うテクノロジーツールセットとしても効果をあげている。家庭でテクノロジーが多く使われるようになると、Teachable AIやマルチモーダル理解、センサー、コンピュータビジョンなど、さまざまなソースからのインプットによって周囲の環境が作られる。すでにAlexaスマートホームでのやりとりの5回に1回は、話し言葉以外から開始されている。Alexaは利用者や利用者の家を十分に理解してニーズを予測し、利用者に代わって有効なやり方で動作する。こうしたことは、アクセシビリティにどのような影響を及ぼすだろうか?

Sight Tech Globalはオンラインで開催され、世界中から無料で参加できる。今すぐ登録しよう。

Sight Tech Globalは、シリコンバレーで75年にわたって運営されているNPOのVista Center for the Blind and Visually Impairedが主催する。現在、Ford、Google、Humanware、Microsoft、Mojo Vision、Facebook、Fable、APH、Visperoがスポンサーとして決定し、感謝している。本イベントのスポンサーに関心をお持ちの方からの問い合わせをお待ちしている。スポンサーシップはすべて、Vista Center for the Blind and Visually Impairedの収入となる。

画像クレジット:Sight Tech Global

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(文:Ned Desmond、翻訳:Kaori Koyama)

タップやスワイプを行動分析し詐欺・不正行為と闘うNeuro-IDがシリーズBで約40億円調達

私たちの生活の大部分はデジタル体験を中心に成り立っており、企業はコンバージョンを促進したり、詐欺スクリーニングを最適化する方法をますます模索している。米国時間11月4日、リアルタイムの行動分析ツールを構築したスタートアップが自社サービスへの需要の高まりを受けて、資金調達を発表した。

デジタル企業がデジタル顧客の意図を理解し、顧客との摩擦の根本原因を特定するために、大規模なスケールでリアルタイムの顧客行動を捉える分析プラットフォームを提供するNeuro-IDは、シリーズBラウンドとして3500万ドル(約39億8000万円)を獲得した。

今回の新たな資本は、2020年12月に調達した700万ドル(約8億円)のシリーズAに続くもので、2014年の設立以来、同社の累計調達額は4950万ドル(約56億3000万円)に達した。

今回のラウンドはCanapi Venturesがリードし、既存の投資家であり共同でシリーズAを主導したFin VCとTTV Capitalがそれに加わった。

Neuro-IDは評価額を公表していないが、CEOのJack Alton(ジャック・アルトン)氏は、メールで「強い顧客の牽引力」を背景にしたものだと述べている。

「Neuro-IDは、2021年には売上高、顧客数ともに3~4倍の成長が見込まれています」と同氏は付け加えた。「これは、顧客数と収益が3~4倍に増加し、モニターされたカスタマージャーニーが500%増加した、当社にとって大きな拡大の年に続くものです」とも。

Neuro-IDのヒューマンアナリティクスダッシュボード(画像クレジット:Neuro-ID)

同社の顧客リストには、Intuit(インテュイット)、Square(スクエア)、Affirm(アファーム)、OppFi、Elephant Insuranceなどが名を連ねており、Neuro-IDが独自に開発したHuman Analyticsソフトウェアを使用して、スワイプやタップによるユーザーの行動のすべてを実用的なインサイトに変換している。

この行動分析により、顧客は行動データを見て、既存のAI / MLモデルを最適化するために利用することもできる。顧客は平均して、コンバージョンを200%向上させ、過去の不正率を35%低減させることができたという。

アルトン氏は、今回の資金調達を、エンジニアリング人材の追加採用、製品主導の成長の加速、グローバルな事業拡大に充てる予定だ。過去1年間で、同社の社員数は約3倍に増え、現在は60名になっているという。

Canapi VenturesのパートナーであるWalker Forehand(ウォーカー・フォアハンド)氏は、メールで次のように述べている。「Neuro-IDは、ユーザーの意図や体験を分析するためのワンストップショップであり、新規顧客を分析する独自の機能を備えていることで、リピート顧客との対話に重点を置く他社との差別化を図っている」とのこと。

シームレスなカスタマージャーニーを実現することは、フィンテック企業にとっても銀行にとっても優先事項であり、フォアハンド氏は、デジタルジャーニーを開始してから完了する人はわずか10%未満であると述べている。また、従来のモデルでは、住所や生年月日などの物理的な属性を用いて認証を行っているが、Neuro-IDでは他の方法で顧客が本物か不正かを識別する。

フォアハンド氏はこうも述べている。「顧客の行動を大規模に把握するこの新しい見解は、詐欺を減らしつつ、優良顧客を早期に獲得してより多くの収益を上げるためのコンバージョンの改善、意図の測定の高度化、デジタル製品の設計品質の向上などの可能性を広げます。最もエキサイティングなのは、Neuro-IDの技術はフィンテックや銀行に適用できるだけでなく、大量のデジタルおよび自動意思決定に対応するあらゆる業界がNeuro-IDの顧客になりうるということです」。

画像クレジット:Neuro-ID

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(文:Christine Hall、翻訳:Aya Nakazato)

「機械学習データセットのためのGoogleフォト」実現加速のためScale AIがSiaSearchを買収

Scale AI(スケールAI)は、欧州でのリーチ拡大と最新製品の開発スピードアップに貢献する小規模なスタートアップを買収した。

買収にともなう合意条件は明らかにされていない。

欧州のベンチャースタジオMerantixからスピンアウトしたSiaSearchは、先進運転支援システムや自動運転システムが取得するペタバイト規模のデータの検索エンジンとして機能するデータ管理プラットフォームを構築している。すでにフォルクスワーゲンやポルシェなどの大手自動車メーカーと提携しているこのスタートアップは、車両群が収集した生センサーデータのインデックスを自動作成し、構造化することができる。

その機能は、Scale AIの既存の技術とうまく調和している。Scale AIは、ソフトウェアと人を使って、画像、テキスト、音声、ビデオデータにラベルを付け、機械学習アルゴリズムを構築する企業に提供している。Scale AIは当初、自律走行車メーカーに、機械学習モデルのトレーニングに必要なラベル付きデータを提供することを目的として設立された。これにより、ロボタクシー、自動運転トラック、倉庫やオンデマンド配送に使用される自動ロボットなどの開発・展開が可能になる。しかし、同社はデータラベリングにとどまらず、データマネジメントのプラットフォームとしての役割を果たしている。政府、金融、EC、エンタープライズなどの他の業界にもサービスを提供しており、現在はAirbnb(エアビーアンドビー)、DoorDash(ドアダッシュ)、Pinterest(ピンタレスト)などの企業と提携している。

ベルリンを拠点とするSiaSearchは、Scale AIの共同創業者兼CEOであるAlexandr Wang(アレクサンダー・ワン)氏が以前「我々の未来の最初の製品」と呼んだNucleusの構築において、特に有益な存在となり得る。ワン氏によると、SiaSearchチームをNucleusの活動に組み込むことを計画しているという。

Nucleusは、ワン氏が「機械学習データセットのためのGoogleフォト」と呼ぶAI開発プラットフォームだ。この製品は、膨大なデータセットを整理、管理し、モデルのテストやパフォーマンス測定などを行うための手段を顧客に提供する。SiaSearchによって、Scale AIは取り組みを加速させ、さらには機械学習のライフサイクル全体をサポートするために機能を拡張することができる、とワン氏はいう。

今後の目的は、SiaSearchの技術をNucleusに組み込み、自動車やAV技術以外でも、あらゆるAI開発者が使用できる完全なデータエンジンを提供することだ。これは、ロボットメーカーや自動車メーカーなど、データの取得、ラベル付け、整理だけでなく、自社製品のアルゴリズムを改善するために必要な新しい種類のデータを継続的に再定義するための追加ツールが必要な企業にとって、非常に有用なものとなるだろう。

ワン氏は、Tesla(テスラ)が同社の先進運転支援システム「オートパイロット」の改良のためにデータエンジンのコンセプトを率先して導入したことを指摘し、これはテスラが行ってきたことに似ています、と語った。

ワン氏は、自動車メーカーやロボットメーカーは、車両やロボットなどのフリートが拡大するにつれ、膨大な量のデータをどのように活用するかに頭を悩ませていると語る。これらのデータをすべてクラウドにアップロードするだけでも、文字通り何十億ドル、何百億ドル(何千億円、何兆円)ものコストがかかると同氏はいう。

「基本的に、すべてのAIチームが求めているのは、いかにして機械学習の開発を加速させ、Teslaのようにデータセットの取り組みを加速させるかということです」とワン氏。「当社は、Teslaが持っているのと同じように、モバイルフリートから最も関連性が高く、最も興味深いデータを使って、常にアルゴリズムをスーパーチャージできるというスーパーパワーを彼らに与えようとしているのです」。

画像クレジット:Scale AI

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Aya Nakazato)

AIアプリケーションのためのストリーミングデータベースを構築するActiveloopが約5.7億円調達

Y Combinatorの2018年夏季から巣立ったActiveloopは、メディアに特化した人工知能アプリケーションのために特別に設計されたデータベースを開発している。米国時間11月2日、同社は 468 CapitalとCM Venturesがリードする500万ドル(約5億7000万円)のシード投資を発表した。これにはTribe CapitalとShasta Ventures、およびテクノロジー業界のさまざまなエンジェルたちが参加した。

同社の創業者でCEOのDavit Buniatyan(ダビット・ブニアティヤン)氏によると、同社は彼がプリンストン大学で行っていた研究から生まれた。そのとき彼は、AIのユースケースのために特別に設計された、画像や動画など非定型データのストリーミングデータベースが必要だと感じていた。同社はこの度、商用プロダクトのアルファバージョンを立ち上げている。

「私たちのAIのためのデータベースは、具体的には、データを極めて効率的に保存し、これを機械学習のアプリケーションや、コンピュータービジョン、音声処理、NLP(自然言語処理)などのモデルの訓練へストリーミングするレイターです」とブニアティヤン氏は説明している。

実用面では、ビデオやオーディオなどのデータをマシンが理解できる数学的表現に変換するためのオープンソースのAPIだ。さらにそのAPIでデータの異なるバージョンを追跡でき、そして最終的にはそれを、Amazon S3のようなにリポジトリに保存できる。

データがストリーミングで入手できれが、データサイエンティストやデベロッパーはこれまでのようにすべてのデータを手元のノートパソコンにダウンロードする必要もなく、それをモデルが使うために送ることもできる。Netflixでムービーを自分のところへストリーミングするのと同じで、自分のローカルマシンには何もダウンロードしない。

Activeloopの画像データベース(画像クレジット:Activeloop)

彼によると、このオープンソースプロジェクトには55名のコントリビューターがいて、コミュニティのメンバーはおよそ700名いる。そのプログラムはこれまでに30万回ダウンロードされた。

彼がデータをストリーミングしようと思いついたのは、プリンストンの神経科学研究所で大量のデータを扱っていたときだ。彼は、ファイルでは大きすぎると悟った。それをダウンロードするのは非実用的であり、むしろストリーミングするやり方を思いついて、それがActiveloopのベースになった。

現在、社員は15名だが、5〜6名の高度な技術者を求めている。彼が同社を創るときには、人材のダイバーシティをできるかぎり心がけた。たとえばエンジニアリング担当の副社長は女性だ。最近ではエチオピア出身のエンジニアを雇用しようとしたが、彼は結局断った。ブニアティヤン氏によれば、有能な人材であれば性別や人種や国籍などはまったく関係ないし、気にもしないという。

「人の出自や生まれつきなどはどうでもいい。重要なのは、我が社のミッションに貢献してくれるかだけです。私はこの会社をインパクトのある企業に育てたいので、そのための人材が欲しいのです」。

APIはオープンソースだが、この度アルファをリリースした商用プロダクトは、ストリーミングデータへのSQLクエリなど、いろいろな機能が加わっている。それらはオープンソースプロダクトにはない。同社はまだ売上を計上していないが、2022年の第1四半期には商用バージョンをリリースしたい意向だ。

画像クレジット:Activeloop

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(文:Ron Miller、翻訳:Hiroshi Iwatani)

CoinbaseがAI駆動型カスタマーサポートの印Agaraを約45億円超で買収へ

Coinbase(コインベース)は、AI駆動のカスタマーサポートプラットフォームを運営するスタートアップAgara(アガラ)を買収する。両社が米国時間11月2日に発表した。暗号資産(仮想通貨)取引所であるCoinbaseは、ユーザーがサービスを利用したりサポートを求めたりしやすくしようとしているようだ。

両社は買収に関する財務面での詳細を明らかにしなかったが、取引の規模は4000万〜5000万ドル(約45億〜56億円)の間だとこの件に詳しい2人が筆者に語った。Coinbaseの広報担当者はコメントを控えた。また、Agaraの共同創業者で最高経営責任者のAbhimanyu(アビマニユ)氏も、守秘義務契約を理由に取引規模についてのコメントを却下した。

データインテリジェンスプラットフォームのTracxnによると、インドで創業して4年目のAgaraは、今回の買収前にBlume Ventures、RTP Global、UTEC Japan(東京大学エッジキャピタルパートナーズ)、Kleiner Perkinsから約700万ドル(約8億円)を調達していた。

Agaraは機械学習と自然言語処理に関する深い専門知識を構築し、それをユーザー体験の向上に役立てている。40人以上の従業員を擁する同社は、世界中に複数の大口顧客を抱え、Salesforce、Shopify、Twilioなど多くの人気サービスに統合されている。買収後、AgaraはCoinbaseにフォーカスを移すとアビマニユ氏はTechCrunchとのインタビューで答えた。

「我々は、大きく分けて2つのことに注目して会社を立ち上げました。1つはカスタマーエクスペリエンスとサポート。2つ目は機械学習です。MLテックスタックを作り、それをカスタマーケアに応用するという考えでした」とアビマニユ氏は話す。「我々が行っている複雑な業務の中には、電話での問い合わせがあります。電話によるサポートのすべてではないにしても、その多くを自動化することに取り組んできました」と述べた。

同氏によると、Agaraのテックチームは、その大部分がインドで勤務しており、買収の一環としてCoinbaseに加わる。両社は年内に取引を完了する予定だ。今回の動きの数カ月前に、Coinbaseはインドにテックハブを構築する戦略を打ち出し、Google Payの元幹部であるPancaj Gupta(パンカジ・グプタ)氏を採用していた。

「Agaraの強力な技術を活用して、当社のカスタマーエクスペリエンス(CX)ツールを自動化し、強化する計画です。ここ数カ月でサポートスタッフの人数を5倍に増やし、年末までに24時間365日の電話サポートとライブメッセージを提供することを発表しました。今回の買収により、パーソナライズされたインテリジェントでリアルタイムなサポートオプションを顧客に提供することができるようになります」とCoinbaseのエンジニアリング担当EVPであるManish Gupta(マニッシュ・グプタ)氏は声明で述べた。

画像クレジット:TechCrunch / Flickr

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(文:Manish Singh、翻訳:Nariko Mizoguchi

OctoMLが機械学習のアクセラレーションプラットフォームのために巨額約96.5億円調達

OctoMLはシアトルのスタートアップで、企業の機械学習モデルの最適化と多様な実行環境による実用展開を助けている。米国時間11月1日、同社は、Tiger Global ManagemenがリードするシリーズCのラウンドで8500万ドル(約96億5000万円)を調達したことを発表した。これまでの投資家であるAdditionとMadrona Venture GroupおよびAmplify Partnersもこのラウンドに参加した。これで同社の調達総額は1億3200万ドル(約149億9000万円)となり、その中には2021年初めのシリーズBの2800万ドル(約31億8000万円)も含まれている。

同社の共同創業者はCEOのLuis Ceze(ルイス・セゼ)氏とCTOのTianqi Chen(ティアンキ・チェン)氏、CPOのJason Knight(ジェイソン・ナイト)氏、チーフアーキテクトのJared Roesch(ジャレッド・ローシュ)氏、そしてテクノロジーパートナーシップ担当副社長Thierry Moreau(ティエリー・モロー)氏らで、彼らは、オープンソースの機械学習コンパイラーフレームワークApache TVMの作者でもある。TVMは現在、AmazonやMicrosoft、Facebookなどが使っている。OctoMLは、TVMの、機械学習モデルを自動的に最適化し、ほとんどどんなハードウェアでも動くようにする能力をベースにしている。

セゼ氏によると、シリーズAを調達して以降のOctoMLは、QualcommやAMD、Armなど多くのハードウェアパートナーと契約を交わした。同社はまた最近、ビデオコンテンツのモデレーションの大規模な展開に関して、Microsoftと協働している。同社によると、ユーザーはGlobal 100社の企業が多く、たとえばトヨタは、同社のサービスを利用するようになってからMLモデルのパフォーマンスを2倍から10倍向上させている。

2021年初めのシリーズBのころの同社は、同社のSaaSプラットフォームのアーリーアダプターがわずかにいる程度だった。しかし本日の発表に先立ってセゼ氏は、そのサービスがまだ一般的な可用性に達していない、と述べた。それでも現在、OctoMLはともに仕事をする顧客の数が多くなり、そのプラットフォーム上で彼らが成功するよう注力に努めている。

セゼ氏によると、モデルが増殖しより高度になると、それらをクラウドで動かす費用も高くなる。そこで、そういうモデルを最適化できるシステムは直ちに、同社の顧客が達成しているようなコスト削減に向かうことになる。「コストだけでなく持続可能性の問題です。同じハードウェアの上で何かを従来の倍速で動かせるのなら、それは半分のエネルギーしか使わないということであり、スケールにインパクトを及ぼします」とセゼ氏はいう。また彼によると、大きなクラウドプロバイダーでもハイエンドなGPUのデプロイにはチップの不足も相まって容量的に限界があり、モデルを別のGPUや、あるいはCPUにさえ、移すこと、すなわちハードウェアの多様化に新たなアドバンテージがありうる。

セゼ氏によると、現時点では新たな資金調達の必要性はなかったが、現在順調ではあるものの万一に備えておくべきだと結論した。「新たなハードウェアの立ち上げやクラウドの能力拡張など、万一に備えておくべき部分はいくつもあります。これまでは『もっと速くしておけたし、そうすればこの仕事を取れたのに』の連続でした。ビジネスのチャンスはいつも目の前にあるが、それらに全部対応するためには、もっと速くスケールすべきだ」とセゼ氏は語る。

そういうチャンスをものにして新たな顧客を獲得するためには、今回の資金で迅速に技術と営業の両方を拡大する必要がある。また、パートナーのエコシステムも築いていきたい。

Tiger GlobalのパートナーであるJohn Curtius(ジョン・クルティウス)氏は次のように語る。「企業や組織が次世代のAIモデルとアプリケーションを構築するやり方に、OctoMLはとても深い変化を作り出そうとしている。ユーザーが依存しているすべてのハードウェアベンダーにわたって統一的なデプロイライフサイクルを実現しようとするOctMLのビジョンは、MLのデプロイのコスト効率を上げ、もっと多くの開発者がアクセスできるものにしていく。OptMLのLuisらの共同創業者チームがTigerのポートフォリオに来てくれたことは本当にすばらしいし、その成長の次の章では、私たちも重要な役を演じたい」。

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画像クレジット:Zhang Jingang/VCG / Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Hiroshi Iwatani)

マイクロソフト、新しくAzure OpenAI Serviceを通じ言語AI「GPT-3」を招待制で提供開始

Microsoft(マイクロソフト)は米国時間11月2日、Azure OpenAI Serviceの提供開始を発表した。Azure OpenAI Serviceとは、その名の通り、OpenAIの機械学習モデルをAzureプラットフォーム上で利用できるようにするものだ。具体的には、OpenAIの画期的な大規模自然言語処理モデルである「GPT-3」が対象となる。GPT-3は、適切な環境下であれば、わずかなプロンプトで人間のようなテキストを生成することができる。

しかし、少なくとも今のところ、すべてのAzureユーザーがアクセスできるわけではない(たとえお金を払う用意があっても)。アクセスは招待制で「AI技術を使用するための責任ある原則と戦略を取り入れた、明確に定義されたユースケースを実装する予定の顧客」が対象とのこと。Microsoftは、GPT-3の悪用や誤用のケースを見つけるための安全性モニタリングと分析を提供し、GPT-3をベースにしたチャットボットが(たとえそれに値するとGPT-3が考えたとしても)重役に悪態をつき始めたりしないようにするためのフィルターを提供する。

画像クレジット:Microsoft

ここで注目に値するのは、OpenAI自体は2020年、すでにGPT-3のAPIを公開していることだ。ただし、まだウェイティングリストがある。MicrosoftもGPT-3を使って、デベロッパーのコード作成を支援する「GitHub Copilot」ツールをすでに構築している。しかし、Azure以外でGPT-3にアクセスする方法はすでにあるが、Microsoftは「セキュリティ、アクセス管理、プライベートネットワーク、データ処理の保護、またはスケーリング能力の追加レイヤー」を提供できるとしている。

Microsoftは2019年にOpenAIに10億ドル(当時約1080億円)を投資し、GPT-3のライセンスを取得しているので、今、より広い範囲の製品に導入しようとしているのは驚くことではない。

OpenAIのSam Altman(サム・アルトマン)CEOはこう語った。「GPT-3は、自然言語のための最初の強力な汎用モデルであることを証明しました。1つのモデルであらゆることに使えるので、非常に簡単に試すことができ、デベロッパーにとって使いやすいものです。以前から、可能な限り広くスケーリングする方法を見つけたいと思っていました。その点が、Microsoftとのパートナーシップで最も期待していることです」。

画像クレジット:Westend61 / Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Aya Nakazato)

睡眠中の脳卒中を早期に警告するZeitのウェアラブル、実用化に向けシード約2.3億円調達

睡眠中の脳卒中を早期に警告するシステムを開発しているZeit Medicalは、Y Combinator(Yコンビネータ )のSummer 2021コホートを卒業した直後に、シードラウンドで200万ドル(約2億2800万円)を調達した。同社の研究によると、脳モニタリング用ヘッドバンドは、脳卒中の可能性を数時間前に警告することで命を救うことができると考えられており、今回の資金調達は、実用化に向けた推進力となる。

同社のデバイスは、軽量の脳波計(EEG)が内蔵されたソフトなヘッドバンドだ。スマートフォンのアプリと連動して、脳の活動を分析し、人間の専門家によって訓練された機械学習モデルを使って、差し迫った脳卒中の兆候を監視することができる。

共同創業者でCEO(そして現在はFerolynフェロー)のOrestis Vardoulis(オレスティス・バルドゥリス)氏は、使用状況の調査で、CPAPマシンを使用している人も含め、90%の夜にヘッドバンドを装着して、装着感や快適性に関する不満はほとんどなかったと述べている。脳卒中の影響を軽減するという目標を達成するためには、継続して使用することが重要であり、不快なヘッドバンドやかさばるヘッドバンドは確実に悪影響を及ぼす。

「当社は、製品を最終的に完成させ、今後の研究でテストできるようにすることに加えて、入院患者へのAIのさまざまな応用を試してきました。集中治療室の患者の多くは、綿密な虚血モニタリングを必要とします」とバルドゥリス氏は語る。本来であれば専門家や専用のシステムでなければ診断できないような様々な状態を、Zeitが作成したモデルで警告できる可能性がある。「くも膜下出血の患者を脳波でモニターしているいくつかの大規模な国立学術センターに、当社の技術が許容可能なアプリケーションであるかどうかを確認するためにアプローチしました」とも。

バルドゥリス氏によると、脳卒中患者のコミュニティはこの装置に非常に興味を持っており、我々の以前の記事でも、コメント欄にこの装置が自分にどれほど役に立つかを指摘する人がいたという。ZeitはFDA(米国食品医薬品局)の認可に向けて進んでおり、「Breakthrough designation(ブレイクスルー指定)」という一種のファストトラックを取得しているが、広く普及するまでにはまだ1〜2年かかるかもしれない。

これは、医療機器としては非常に短いリードタイムであり、投資家たちは明らかにこの製品がインパクトとROIの両方をもたらす機会であると考えた。

200万ドル(約2億2800万円)のラウンドは、SeedtoBとDigilifeが共同で主導し、Y Combinator、Gaingels、Northsouth Ventures、Tamar Capital、Axial、Citta Capital、そしてエンジェルのGreg Badros(グレッグ・バドロス)氏、Theodore Rekatsinas(テオドール・レカツィナス)氏をはじめとする医療関係者数名が参加した。

この資金はご想像のとおり、事業の継続と拡大、チームの構築、FDAの検討と承認に必要な研究のために使用される予定だ。運がよければZeitのデバイスは、早ければ2023年には、脳卒中のリスクを抱える人々に標準的に使われることになるだろう。

画像クレジット:Zeit

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Aya Nakazato)