米セブン-イレブンが2022年末までに北米250店舗にEV充電ステーション500基を設置

コンビニエンスストアはユビキタスだ。米国の消費者が購入するガソリンの圧倒的大部分を販売している。しかし多くの米国人が電気自動車(EV)に移行するにつれ、人々がコンビニに立ち寄る大きな理由は消失する。

コンビニ大手の7-Eleven(セブン-イレブン)はこの成長しつつあるEVドライバーマーケットをつかもうとしている。同社は米国時間6月1日、2022年末までに北米の250店舗にDC急速充電ポート500基を設置すると発表した。サプライヤーから購入されなければならないガソリンスタンドの燃料とは対照的に、これらの充電ステーションはセブン-イレブンが所有・運営する。

EVgoやChargePoint、TeslaのSuperchargerネットワークのような米国最大のプロバイダーが展開している多くの充電ステーションは、ショッピングモールやTargetのような小売店に隣接している駐車場の寄せ集めに立地している。しかしセブン-イレブンのようなコンビニ店の大きな特徴は、高速道路や幹線道路に隣接したエリアにすでに立地していることであり、ドライバーを引きつけるという点で優位かもしれない。

充電スピードが遅いチャージャーではなくDC急速充電を選んだのも、もう1つの強みだ。コンビニ店の大半は、給油する時間で出たり入ったりする短時間のサービスのためのものだ。多くの店舗が室温が管理された座れる場所を提供しておらず、長い充電時間はドライバーにとって問題となる。古いEVモデルは受け入れられる充電キロワットに制限があるが(なので、バッテリーを充電するのにどれくらいの時間がかかるかという点で、チャージャーの出力レートは重要ではない)、比較的新しいEVはさまざまなレンジの出力を受け入れることができる。

充電インフラ、あるいはその不足はEV浸透にとって引き続き最大の障壁の1つであり、セブン-イレブンが発表したもののような主要小売店による設置計画は消費者のEV移行に関するためらいを減らすのに役立つかもしれない。

セブン-イレブンは現在4州の14店舗にステーション22基を展開していて、新たな充電ステーション500基はこの既存ネットワークに加わる。

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タグ:セブン-イレブン充電ステーションアメリカカナダコンビニエンスストア電気自動車

画像クレジット:7-Eleven

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

テクノロジーと災害対応の未来3「接続性、地球が滅びてもインターネットは不滅」

インターネットは、神経系のように世界中で情報伝達を司っている。ストリーミングやショッピング、動画視聴や「いいね!」といった活動が絶えずオンラインで行われており、インターネットがない日常は考えられない。世界全体に広がるこの情報網は思考や感情の信号を絶え間なく送出しており、私たちの思考活動に不可欠なものとなっている。

では機械が停止したらどうなるだろうか。

この疑問は、1世紀以上前にE.M. Forster(E・M・フォースター)が短編小説で追求したテーマである。奇しくも「The Machine Stops(機械は止まる)」と題されたその小説は、すべて機械に繋がれた社会においてある日突然、機械が停止したときのことを描いている。

こうした停止の恐怖はもはやSFの中だけの話ではない。通信の途絶は単に人気のTikTok動画を見逃したというだけでは済まされない問題だ。接続性が保たれなければ、病院も警察も政府も民間企業も、文明を支える人間の組織は今やすべて機能しなくなっている。

災害対応においても世界は劇的に変化している。数十年前は災害時の対応といえば、人命救助と被害緩和がほぼすべてだった。被害を抑えながら、ただ救える人を救えばよかったとも言える。しかし現在は人命救助と被害緩和以外に、インターネットアクセスの確保が非常に重要視されるようになっているが、これにはもっともな理由がある。それは市民だけでなく、現場のファーストレスポンダー(初動対応要員)も、身の安全を確保したり、ミッション目的を随時把握したり、地上観測データをリアルタイムで取得して危険な地域や救援が必要な地域を割り出すため、インターネット接続を必要とすることが増えているからだ。

パート1で指摘したように、災害ビジネスの営業は骨が折れるものかもしれない。またパート2で見たように、この分野では従来細々と行われていたデータ活用がようやく本格化してきたばかりだ。しかし、そもそも接続が確保されない限り、どちらも現実的には意味をなさない。そこで「テクノロジーと災害対策の未来」シリーズ第3弾となる今回は、帯域幅と接続性の変遷ならびに災害対応との関係を分析し、気候変動対策と並行してネットワークのレジリエンス(災害復旧力)を向上させようとする通信事業者の取り組みや、接続の確保を活動内容に組み入れようとするファーストレスポンダーの試みを検証するとともに、5Gや衛星インターネット接続サービスなどの新たな技術がこうした重要な活動に与える影響を探ることとする。

地球温暖化とワイヤレスレジリエンス

気候変動は世界中で気象パターンの極端な変化を招いている。事業を行うために安定した環境を必要とする業界では、二次的・三次的影響も出ている。しかし、こうした状況の変化に関し、通信事業者ほどダイナミックな対応が求められる業界はほぼないだろう。通信事業者は、これまでも暴風雨によって何度も有線・無線インフラを破壊されている。こうしたネットワークのレジリエンスは顧客のために必要とされるだけではない。災害発生後の初期対応において被害を緩和し、ネットワークの復旧に努める者にとっても絶対的に必要なものである。

当然ながら、電力アクセスは通信事業者にとって最も頭を悩ませる問題だ。電気がなければ電波を届けることもできない。米国三大通信事業者のVerizon(ベライゾン、TechCrunchの親会社のVerizon Mediaを傘下に擁していたが、近く売却することを発表している)、AT&T、T-Mobile(Tモバイル)も近年、ワイヤレスニーズに応えるとともに、増え続ける気象災害の被害に対処するため、レジリエンス向上の取り組みを大幅に増強している。

Tモバイルにおいて国内テクノロジーサービス事業戦略を担当するJay Naillon(ジェイ・ナイロン)シニアディレクターによれば、同社は近年、レジリエンスをネットワーク構築の中心に据え、電力会社からの給電が停止した場合に備えて基地局に発電機を設置している。「ハリケーンの多い地域や電力供給が不安定な地域に設備投資を集中させている」という。

通信3社すべてに共通することだが、Tモバイルも災害の発生に備えて機器を事前に配備している。大西洋上でハリケーンが発生すると、停電の可能性に備えて戦略的に可搬型発電機や移動式基地局を運び入れている。「その年のストーム予報を見て、さまざまな予防計画を立てている」とナイロン氏は説明する。さらに、非常事態管理者と協力して「さまざまな訓練を一緒に行い、効果的に共同対応や連携」を図ることで、災害が発生した場合に被害を受ける可能性が最も高いネットワークを特定しているという。また、気象影響を正確に予測するため、2020年からStormGeo(ストームジオ)とも提携している。

災害予測AIはAT&Tでも重要となっている。公共部門と連携したAT&TのFirstNetファーストレスポンダーネットワークを指揮するJason Porter(ジェイソン・ポーター)氏によれば、AT&Tはアルゴンヌ国立研究所と提携し、今後30年にわたって基地局が「洪水、ハリケーン、干ばつ、森林火災」に対処するための方策と基地局の配置を評価する気候変動分析ツールを開発したという。「開発したアルゴリズムの予測に基づいて社内の開発計画を見直した」とポーター氏は述べ、少なくとも一定の気象条件に耐えられるよう「架台」に設置された1.2~2.4メートル高の脆弱な基地局を分析して補強していると語った。こうした取り組みによって「ある程度被害を緩和できるようになった」という。

またAT&Tは、気候変動によって不確実性が増す中で信頼性を高めるという、より複雑な問題にも対処している。近年の「設備展開の多くが気象関連現象に起因していることが判明するのにそれほど時間はかからなかった」とポーター氏は述べ、AT&Tが「この数年、発電機の設置範囲を拡大することに注力」していると説明した。また可搬式のインフラ構築も重点的に行っているという。「データセンターは実質すべて車両に搭載し、中央司令室を構築できるようにしている」とポーター氏は述べ、AT&T全国災害復旧チームが2020年、数千回出動したと付け加えた。

さらに、FirstNetサービスに関し、被災地の帯域幅を早急に確保する観点から、AT&Tは2種類の技術開発を進めている。1つは空から無線サービスを提供するドローンだ。2020年、記録的な風速を観測したハリケーン・ローラがルイジアナ州を通過した後、AT&Tの「基地局はリサイクルされたアルミ缶のように捻じ曲がってしまったため、持続可能なソリューションを展開することになった」とポーター氏は語る。そして導入されたのがFirstNet Oneと呼ばれる飛行船タイプの基地局だ。この「飛行船は車両タイプの基地局の2倍の範囲をカバーする。1時間弱の燃料補給で空に上がり、文字通り数週間空中に待機するため、長期的かつ持続可能なサービスエリアを提供できる」という。

ファーストレスポンダーのため空からインターネット通信サービスを提供するAT&TのFirstNet One(画像クレジット:AT&T/FirstNet)

AT&Tが開発を進めるもう1つの技術は、FirstNet MegaRangeと呼ばれるハイパワーワイヤレス機器である。2021年に入って発表されたこの機器は、沖合に停泊する船など、数キロメートル離れた場所からシグナルを発信でき、非常に被害の大きい被災地のファーストレスポンダーにも安定した接続を提供できる。

インターネットが日常生活に浸透していくにつれ、ネットワークレジリエンスの基準も非常に厳しくなっている。ちょっとした途絶であっても、ファーストレスポンダーだけでなく、オンライン授業を受ける子どもや遠隔手術を行う医師にとっては混乱の元となる。設置型・可搬型発電機から移動式基地局や空中基地局の即応配備に至るまで、通信事業者はネットワークの継続性を確保するために多額の資金を投資している。

さらに、こうした取り組みにかかる費用は、温暖化の進む世界に立ち向かう通信事業者が最終的に負担している。三大通信事業者の他、災害対応分野のサービスプロバイダーにインタビューしたところ、気候変動が進む世界において、ユーティリティ事業は自己完結型を目指さざるを得ない状況になっているという共通認識が見られた。例えば、先頃のテキサス大停電に示唆されるように、送配電網自体の信頼性が確保できなくなっていることから、基地局に独自の発電機を設置しなければならなくなっている。またインターネットアクセスの停止が必ずしも防げない以上、重要なソフトはオフラインでも機能するようにしておかなければならない。日頃動いている機械が停まることもあるのだ。

最前線のトレンドはデータライン

消費者である私たちはインターネットどっぷりの生活を送っているかもしれないが、災害対応要員はインターネットに接続されたサービスへの完全移行に対し、私たちよりもずっと慎重な姿勢を取っている。確かに、トルネードで基地局が倒れてしまったら、印刷版の地図を持っていればよかったと思うだろう。現場では、紙やペン、コンパスなど、サバイバル映画に出てくる昔ながらの道具が今も数十年前と変わらず重宝されている。

それでも、ソフトウェアやインターネットによって緊急対応に顕著な改善が見られる中、現場の通信の仕組みやテクノロジーの利用度合いの見直しが進んでいる。最前線からのデータは非常に有益だ。最前線からデータを伝達できれば、活動計画能力が向上し、安全かつ効率的な対応が可能となる。

AT&Tもベライゾンも、ファーストレスポンダー特有のニーズに直接対処するサービスに多額の投資を行っている。特にAT&Tに関してはFirstNetネットワークが注目に値する。これは商務省のファーストレスポンダーネットワーク局との官民連携を通して独自に運営されるもので、災害対応要員限定のネットワークを構築する代わりに政府から特別帯域免許(Band 14)を獲得している。これは、悲惨な同時多発テロの日、ファーストレスポンダーが互いに連絡を取れていなかったことが判明し、9.11委員会(同時多発テロに関する国家調査委員会)の重要提言としてまとめられた内容を踏まえた措置だ。AT&Tのポーター氏によれば、777万平方キロメートルをカバーするネットワークが「9割方完成」しているという。

なぜファーストレスポンダーばかり注目されるのだろうか。通信事業者の投資が集中する理由は、ファーストレスポンダーがいろいろな意味でテクノロジーの最前線にいるためだ。ファーストレスポンダーはエッジコンピューティング、AIや機械学習を活用した迅速な意思決定、5Gによる帯域幅やレイテンシー(遅延)の改善(後述)、高い信頼性を必要としており、利益性のかなり高い顧客なのだ。言い換えれば、ファーストレスポンダーが現在必要としていることは将来、一般の消費者も必要とすることなのだ。

ベライゾンで公共安全戦略・危機対応部長を務めるCory Davis(コリー・デイビス)氏は「ファーストレスポンダーによる災害出動・人命救助においてテクノロジーを利用する割合が高まっている」と説明する。同氏とともに働く公共部門向け製品管理責任者のNick Nilan(ニック・二ラン)氏も「社名がベライゾンに変わった当時、実際に重要だったのは音声通話だったが、この5年間でデータ通信の重要性が大きく変化した」と述べ、状況把握や地図作成など、現場で標準化しつつあるツールを例に挙げた。ファーストレスポンダーの活動はつまるところ「ネットワークに集約される。必要な場所でインターネットが使えるか、万一の時にネットワークにアクセスできるかが重要となっている」という。

通信事業者にとって頭の痛い問題は、災害発生時というネットワーク資源が最も枯渇する瞬間にすべての人がネットワークにアクセスしようとすることだ。ファーストレスポンダーが現場チームあるいは司令センターと連絡しようとしているとき、被災者も友人に無事を知らせようとしており(中には単に避難するクルマの中でテレビ番組の最新エピソードを見ているだけの者もいるかもしれない)、ネットワークが圧迫されることになる。

こうした接続の集中を考えれば、ファーストレスポンダーに専用帯域を割り当てるFirstNetのような完全分離型ネットワークの必要性も頷ける。「リモート授業やリモートワーク、日常的な回線の混雑」に対応する中で、通信事業者をはじめとするサービスプロバイダーは顧客の需要に圧倒されてきたとポーター氏はいう。そして「幸い、当社はFirstNetを通して、20MHzの帯域をファーストレスポンダーに確保している」と述べ、そのおかげで優先度の高い通信を確保しやすくなっていると指摘する。

FirstNetは専用帯域に重点を置いているが、これはファーストレスポンダーに常時かつ即時無線接続を確保する大きな戦略の1つに過ぎない。AT&Tとベライゾンは近年、優先順位付け機能と優先接続機能をネットワーク運営の中心に据えている。優先順位付け機能は公共安全部門の利用者に優先的にネットワークアクセスを提供する機能である。一方、優先接続機能には優先度の低い利用者を積極的にネットワークから排除することでファーストレスポンダーが即時アクセスできるようにする機能が含まれる。

ベライゾンのニラン氏は「ネットワークはすべての人のためのものだが、特定の状況においてネットワークアクセスが絶対に必要な人は誰かと考えるようになると、ファーストレスポンダーを優先することになる」と語る。ベライゾンは優先順位付け機能と優先接続機能に加え、現在はネットワークセグメント化機能も導入している。これは「一般利用者のトラフィックと分離する」ことで災害時に帯域が圧迫されてもファーストレスポンダーの通信が阻害されないようにするものだという。ニラン氏は、これら3つのアプローチが2018年以降すべて実用化されている上、2021年3月にはVerizon Frontline(ベライゾン・フロントライン)という新ブランドにおいてファーストレスポンダー専用の帯域とソフトウェアを組み合わせたパッケージが発売されていると話す。

帯域幅の信頼性が高まったことを受け、10年前には思いもよらなかった方法でインターネットを利用するファーストレスポンダーが増えている。タブレット、センサー、接続デバイスやツールなど、機材もマニュアルからデジタルへと移行している。

インフラも構築され、さまざまな可能性が広がっている。今回のインタビューで挙げられた例だけでも、対応チームの動きをGPSや5Gで分散制御するもの、最新のリスク分析によって災害の進展を予測し、リアルタイムで地図を更新するもの、随時変化する避難経路を探索するもの、復旧作業の開始前からAIを活用して被害評価を行うものなど、さまざまな用途が生まれている。実際、アイディアの熟成に関して言えば、これまで大げさな宣伝文句や技術的見込みでしかなかった可能性の多くが今後何年かのうちに実現することになるだろう。

5Gについて

5Gについては何年も前から話題になっている。ときには6Gの話が出てレポーターたちにショックを与えることさえある。では、災害対応の観点から見た場合、5Gはどんな意味を持つだろうか。何年もの憶測を経て、今ようやくその答えが見えてきている。

Tモバイルのナイロン氏は、5Gの最大の利点は標準規格で一部利用されている低周波数帯を利用することで「カバレッジエリアが拡大できること」だと力説する。とはいえ「緊急対応の観点からは、実用化のレベルはまだそこまで達していない」という。

一方、AT&Tのポーター氏は「5Gの特長に関し、私たちはスピードよりもレイテンシーに注目している」と語った。消費者向けのマーケティングでは帯域幅の大きさを喧伝することが多いが、ファーストレスポンダーの間ではレイテンシーやエッジコンピューティングといった特徴が歓迎される傾向にある。例えば、基幹ワイヤレスネットワークへのバックホールがなくとも、前線のデバイス同士で動画をリレーできるようになる。また、画像データのオンボード処理は、1秒を争う環境において迅速な意思決定を可能とする。

こうした柔軟性によって、災害対応分野における5Gの実用用途が大幅に広がっている。「AT&Tの5G展開の使用例は人々の度胆を抜くだろう。すでに(国防省と協力して)パイロットプログラムの一部をローンチしている」とポーター氏は述べ、一例として「爆弾解体や検査、復旧を行うロボット犬」を挙げた。

ベライゾンは、革新的応用を戦略的目標に掲げるとともに、5Gの登場という岐路において生まれる新世代のスタートアップを指導する5G First Responders Lab(5Gファーストレスポンダーラボ)をローンチした。ベライゾンのニラン氏によれば、育成プログラムには20社以上が参加し、4つの集団に分かれてVR(仮想現実)の教育環境や消防隊員のために「壁の透視」を可能とするAR(拡張現実)の適用など、さまざまな課題に取り組んでいるという。同社のデイビス氏も「AIはどんどん進化し続けている」と話す。

5Gファーストレスポンダーラボの第1集団に参加したBlueforce(ブルーフォース)は、最新のデータに基づき、できるかぎり適切な判断を下せるようファーストレスポンダーをサポートするため、5Gを利用してセンサーとデバイスを接続している。創業者であるMichael Helfrich(マイケル・ヘルフリッチ)CEOは「この新しいネットワークがあれば、指揮者は車を離れて現場に行っても、情報の信頼性を確保できる」と話す。従来、こうした信頼できる情報は司令センターでなければ受け取ることができなかった。ブルーフォースでは、従来のユーザーインターフェース以外にも、災害対応者に情報を提示する新たな方法を模索しているとヘルフリッチ氏は強調する。「もはやスクリーンを見る必要はない。音声、振動、ヘッドアップディスプレイといった認知手法を検討している」という。

5Gは、災害対応を改善するための新たな手段を数多く提供してくれるだろう。そうはいっても、現在の4Gネットワークが消えてなくなるわけではない。デイビス氏によれば、現場のセンサーの大半は5Gのレイテンシーや帯域幅を必要とするわけではないという。同氏は、IoTデバイス向けのLTE-M規格を活用するハードやソフトは将来にわたってこの分野で重要な要素になると指摘し「LTEの利用はこのさき何年も続くだろう」と述べた。

イーロン・マスクよ、星につないでくれ

緊急対応データプラットフォームのRapidSOS(ラピッドSOS)社のMichael Martin(マイケル・マーティン)氏は、災害対応市場において「根本的な問題を解決する新たなうねりが起きていると感じる」といい、これを「イーロン・マスク効果」と呼んでいる。接続性に関しては、SpaceX(スペースX、正式名称はスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ)のブロードバンドコンステレーションプロジェクト「Starlink(スターリンク)」が稼働し始めていることからも、その効果は確かに存在することがわかる。

衛星通信はこれまでレイテンシーと帯域幅に大きな制約があり、災害対応で使用することは困難だった。また、災害の種類によっては、地上の状況から衛星通信接続が極めて困難だと判断せざるを得ないこともあった。しかし、こうした問題はスターリンクによって解決される可能性が高い。スターリンクの導入により、接続が容易になり、帯域幅とレイテンシーが改善され、全世界でサービスが利用できるようになるとされている。いずれも世界のファーストレスポンダーが切望していることだ。スターリンクのネットワークはいまだ鋭意構築中のため、災害対応市場にもたらす影響を現時点で正確に予測するのは難しい。しかし、スターリンクが期待通りに成功すれば、今世紀の災害対応の方法を根本的に変える可能性がある。今後数年の動きに注目していきたいと思う。

もっとも、スターリンクを抜きにしても、災害対応は今後10年で革命的に変化するだろう。接続性の高度化とレジリエンス強化が進み、旧式のツールに頼り切っていたファーストレスポンダーも今後はますます発展するデジタルコンピューティングを取り入れていくだろう。もはや機械が止まることはないのだ。

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カテゴリー:EnviroTech
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画像クレジット:Justin Sullivan / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

テクノロジーと災害対応の未来2「データとAI」

データが10年以上も次世代の石油として評価されてきたきた経緯については、さまざまなメディアで取り上げられており、特定の分野ではまさにデータが重要な要素となっている。今やほとんどの民間企業で、マーケティング、物流、金融、製造、意思決定などのあらゆるレベルでデータが欠かせない(これが間違っているなら、私は履歴書を書いてすぐにでも転職した方がよい)。

データを使用することにより、多くの被災者が苦しめられるような災害に対する対応を根本から変えられる可能性があるが、この10年間に発生した緊急時対応にデータがほとんど活用されていないと聞くと、少し驚くかもしれない。災害対応機関と民間の組織は長年にわたり、災害対応用として入力するデータの範囲を広げ、処理するデータの量を増やしてきたが、結果はあまり芳しくなく、データを活用するには程遠い。

しかし、モノのインターネット(IoT)の普及により、このような現状も変わりつつある。災害の最前線で作業する危機管理マネージャーは、回復、対応、復興のサイクルにわたって必要なデータを入手し、的確な判断を下せるようになってきている。ドローンからの航空撮影、災害想定状況の可視化、AI誘発型の災害のシミュレーションなど、最前線で活用されている技術は最高レベルに達していない。これは、2020年代の災害対応における変革の幕開けに過ぎない。

膨大な量の災害データをついに入手

緊急時対応は、先の見えない不安と刻々と迫る時間との戦いである。山火事やハリケーンの現場では、数秒ですべてが変わる場合がある。注意を怠れば一瞬で事態が急変することさえある。避難者を輸送するはずの安全な道路に山火事が広がって突然通れなくなることや、避難チームが再編成を繰り返して広範囲に広がり過ぎること、また予想外の状況が急に発生することで、救助活動が立ち行かなくなってしまうといったことがよくある。情報を完全に掌握していたオペレーションセンターに、突如として地上検証データがまったく入らなくなってしまうこともある。

残念ながら、災害前や災害発生時に未処理データを取得することが極めて難しいことさえある。ビジネスの世界でこれまでに発生したデータ革命を振り返ってみると、初期の成功があったのは、企業が常にデータに大きく依存しながら、自社の活動を進めていたという事実によるところが大きい。今もそうだが重要なのはデジタル化である。つまり、放置されている未処理データをパソコンで解析可能な形式に変換するために、業務を書類からパソコンに移行することだった。ビジネスの世界でこれまでの10年間は、いわばバージョン1からバージョン2へのアップグレード期間だったといえる。

緊急対応管理について考えてみると、多くの対応機関がバージョン0からバージョンアップしていない。洪水を例にとると、洪水の発生源と水の流れをどのように把握するのか。つい最近まで、洪水の発生場所と水の流れに関する総合的なデータすら存在していなかった。山火事の場合は、世界中に点在する樹木の場所や可燃性に関するデータセットが管理されていなかった。電線や携帯電話の基地局といったインフラ設備でさえ、デジタル世界との接点がまったくないことが多かった。そのため、ユーザーがそうした設備を判別できなければ、そうした設備があっても、設備側からユーザーを認識することもできなかった。

洪水モデルは、災害防止計画と災害対応の最先端だ(画像クレジット:CHANDAN KHANNA/AFP/Getty Images)

モデルやシミュレーション、予測、分析には、未処理データが不可欠である。災害対応の分野には、これまで詳細なデータは存在しなかった。

モノのインターネット(IoT)がかなり浸透してきた今では、ありとあらゆるモノがインターネットに接続されるようになり、米国や世界中の至るところにIoTセンサーが設置されている。温度、気圧、水位、湿度、大気汚染、電力、その他のセンサーが広範に配備され、データウェアハウスに定常的に送信されるデータが分析されている。

例として米国西部の山火事を挙げよう。連邦政府と州の消防庁が火災の発生場所を把握できないというのは、そんなに昔の話ではない。消防には「100年の歴史があるが、その伝統が技術進歩に妨げられることはない」と、米国農務省林野部で10年間消防局長を務め、現在はCornea(コルネア)の最高消防責任者であるTom Harbour(トム・ハーバー)氏はいう。

彼のいうことは正しい。消火活動というのは理屈抜きの活動なのだ。消防隊員には炎が見える。炎の熱風を自分の肌で感じることさえある。広大な土地が広がり、帯状に都市が点在しているような米国西部では、データは役に立たなかった。衛星で大火災を発見することはできるが、茂みでくすぶっている小火を地理空間情報局から確認することはまず不可能だ。だが、小さい火事を発見できなくても、カリフォルニア一帯には煙が充満していることがある。では、このような貴重な情報を、地上の消防隊員はどのように処理すればよいのだろうか。

これまで10年にわたってIoTセンサーの成功が謳われてきたが、ここへきてようやく障害となっていた多くの問題が解決されつつある。回復力のあるコミュニティについて調査しているRAND Corporation(ランド・コーポレーション)の社会科学者Aaron Clark-Ginsberg(アーロン・クラークギンズバーグ)氏は「非常に安価で使いやすい」大気質センサーを使うと、大気汚染に関する詳細な情報(山火事の重要な徴候など)を入手できるため、このセンサーがいたるところに設置されていると説明する。同氏は、最近のテクノロジーの可能性を示すものとして、センサーの製造だけでなく、人気のある消費者向け大気質マップも作成しているPurple Air(パープルエアー)を挙げた。

災害時にデータを扱う際には、マップが重要なツールとなる。大半の災害防止計画チームや災害対応チームは地理空間情報システム(GIS)をベースに活動しているが、この分野で随一のマップ制作量を誇っているのが非公開企業のEsri(エスリ)だ。同社の公安ソリューション担当部長Ryan Lanclos(ライアン・ランクロス)氏は、水位センサーの数が増えたことにより、特定の災害に対する対応が劇的に変化したという。「洪水センサーは常に稼働状態にあります」と同氏はいう。「連邦政府が作成している全米洪水予報モデル」により、研究者はGIS分析を使用して、洪水が各コミュニティに及ぼす影響をかつてないほど正確に予測できるようになったと指摘する。

デジタルマップとGISシステムは災害防止計画と災害対応にますます不可欠な存在となっているが、印刷版のマップも依然として好まれている(画像クレジット:Paul Kitagaki Jr. — Pool/Getty Images)

Verizon(ベライゾン)(Verizon MediaはTechCrunchの親会社であるため、ベライゾンは当社の最終的な所有会社)の公安戦略および危機対応担当ディレクターCory Davis(コリー・デイビス)氏によると、このようなセンサーのおかげで、同社の作業員がインフラを管理するために行う作業が変わってきたという。「送電線にセンサーを設置した電力会社を想像してみてください。センサーがあれば、障害が発生した場所にすぐに駆け付け、問題を解決して、復旧させることができます」。

同氏はセンサーのバッテリー寿命が延びたことで、この分野で使用されているセンサーがこの数年で大きく進歩したという。超低電力のワイヤレスチップやバッテリー性能、エネルギー管理システムが絶えず改善されているおかげで、荒れ地に設置したセンサーをメンテナンスしなくても、非常に長い期間使用できるようになった。「バッテリー寿命が10年というデバイスもある」と同氏はいう。これは重要だ。最前線の送電網にセンサーを接続することなどできないからだ。

同じ考え方がT-Mobile(ティー・モバイル)にも当てはまる。防災計画に関して、電話会社の全米技術サービスオペレーション戦略上級ディレクターJay Naillon(ジェイ・ナイロン)氏は次のように話す。「価値が向上し続けているタイプのデータとして、高潮データがあります。このデータのおかげで、設備が正常に稼働していることを容易に確認できます」。高潮データは洪水センサーから送信されるため、全米の防災計画策定者に警報をリアルテイムに送ることができる。

災害関連のセンサーやその他のデータストリームの採用を進めるためには、電話会社の関心やビジネス面での関心を惹くことが必要不可欠だった。洪水や山火事のデータを必要とするエンドユーザーは政府ではあるが、このようなデータの可視性に関心があるのは政府だけではない。Columbia(コロンビア)大学の地球研究所国立防災センターのプロジェクト統括責任者Jonathan Sury(ジョナサン・シュリー)氏は「こうした情報を必要としているのはほとんどの場合、民間企業です」と話す。「気候変動などの新しいタイプのリスクが、企業の収益に影響を与えるようになっています」と同氏はいい、センサーデータに対するビジネス面での関心が、債権格付けや保険の引受などの分野で高まっていると指摘する。

センサーはどこにでも設置できるわけではないが、緊急対応管理者がこれまで確認できなかったような、現場のあいまいな状況を見通すのに役立ってきた。

最後に、世界中の至るところで利用されるようになったモバイル機器には、膨大なデータセットが存在する。例えばFacebook(フェイスブック)のData for Good(データ・フォー・グッド)プロジェクトでは、接続に関するデータレイヤーを利用できる。ある場所から接続していたユーザーが別の場所で接続したら、移動したと推測できる。フェイスブックや電話会社が提供するこのようなデータを使うことで、緊急対応計画を策定するスタッフは、人の移動をリアルタイムに把握することができる。

氾濫するデータとAIの可能性

データが乏しかった過去と比べると今は情報が溢れているが、世界中の都市で発生している洪水のように、データの氾濫に対応する時期が近づいている。データウェアハウスやビジネスインテリジェンスツールなどのITスタックによって、過剰なまでのビッグデータが収集されている。

災害データが簡単に処理できさえすればよいのだが、現実はそう簡単ではない。民間企業や公的機関、非営利団体などさまざまな組織が災害関連データを保持しているため、データを相互に運用する面で大きな障害がある。分散しているデータを統合して知見を得られたとしても、最前線で対応するスタッフが現場で意思決定に役立てられるようにまとめるのは困難だ。そのため、防災計画以外の用途でAIを売り込むのは今でも難しい。ベライゾンのデイビス氏は次のように話す。「過剰なまでのデータをどのように活用すればよいのかという点に関して、多くの都市や政府機関が苦慮しています」。

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残念ながら、あらゆるレベルでの標準化が課題だ。世界的にみると標準化が徐々に進んではいるものの、各国間の相互運用性はほとんど実現されていない。緊急電話対応プラットフォームCarbyne(カーバイン)の創業者兼CEOのAmir Elichai(アミール・エリチャイ)氏は「テクノロジーと標準化の両面で、国ごとに大きな隔たりがあります」と語り、ある国のプロトコルを別の国で使用するには、まったく別のものに作り直す必要があることが多いと指摘する。

ヘルスケア災害対応組織Project HOPE(プロジェクト・ホープ)の緊急対応準備担当ディレクターTom Cotter(トム・コッター)氏は、国際的な環境では、対応するスタッフ同士でコミュニケーションを確立することさえ難しいと話す。「ある国では複数のプラットフォームを使用できるのに対し、別の国では使用が許可されていないということがあり、状況は常に変化しています。基本的には、テクノロジーコミュニケーションプラットフォームを国ごとに別々に用意している状態です」。

連邦政府の緊急管理部門のある上級担当者は、テクノロジーの調達契約ではデータの互換性がますます重要になっていることを認め、政府は自前のソフトウェアを使用するのではなく、市販の製品を購入する必要性を認識していると話す。こうしたメッセージはエスリなどの企業にも届いている。ランクロス氏は「当社の中核となる使命はオープンであることです。作成したデータを一般公開して共有するか、オープンな基準に基づいてセキュリティ保護したうえで共有するというのが当社の考え方です」。

相互運用性が欠如しているというのはマイナス面がいくつもあるが、皮肉なことにイノベーションの際にはプラスに作用することがある。エリチャイ氏は「標準化されていないということは利点になります。従来の標準に合わせる必要がなくなるからです」と指摘する。標準化されていない状況では、最新のデータワークフローを前提とした、質の高いプロトコルを構築できることもある。

相互運用性が確保されたとしても、その後にはデータ選別の問題が控えている。災害関連データには危険も潜んでいる。センサーから発信されるデータストリームは検証したうえで別のデータセットと照合できるが、一般市民から発信される情報量が激増してきているため、初動対応するスタッフや一般向けに公開する前に安全性を精査する必要がある。

一般ユーザーがかつてないほどスマホにアクセスできるようになっているため、緊急対応計画を策定するスタッフが、アップロードされたデータを選別して検証し、使える状態にする必要がある(画像クレジット:TONY KARUMBA/AFP/Getty Images)

災害コミュニケーションプラットフォームPerimeter(ペリメーター)のCEO兼共同創業者Bailey Farren(ベイリー・ファレン)氏は「正確な最新情報を持っているのが一般市民である場合もあります。そうした貴重な情報を、初動対応するスタッフが作業を始める前に市民が政府担当者に伝えてくれればよいのですが」と話す。問題は、無益な情報や悪意のある情報から質の高い情報を選別する方法だ。自然災害の対応要員として有志の退役軍人チームを構成する非営利団体Team Rubico(チーム・ルビコン)のCIO Raj Kamachee(ラージ・カマチー)氏は、データの検証が必要不可欠であると述べ、同氏が2017年にチーム・ルビコンに参加して以来、組織で構築するインフラの重要な要素にデータの検証があると考えている。「当社のユーザーが増えているため、フィードバックのデータ量も増えています。結果として、セルフサービス型の非常にコラボレーション的なアプローチが形成されています」。

量と質が確保されれば、AIモデルを活用すべきだろうか。答えは、イエスでもありノーでもある。

コロンビア大学のシュリー氏は、一部で話題になっているような過剰な期待をAIにすべきではないと考えている。「注意が必要な点ですが、機械学習やビッグデータ関連のアプリケーションで何でもできるわけではありません。こうしたアプリケーションでさまざまな情報を大量に処理できますが、AIが具体的な解決策を教えてくれるわけではありません」と同氏はいう。「初動対応するスタッフはすでに大量の情報を処理しており」、それ以上のガイダンスを必ずしも必要としているわけでない。

災害分野では、防災計画や復旧にAIを利用することが増えている。シュリー氏は、防災計画プロセスでデータとAIを組み合わせた1つの例として、復旧計画プラットフォームOneConcern(ワン・コンサーン)を挙げる。また、さまざまなデータシグナルをいくつかのスカラー値にまとめて、緊急対応計画を策定するスタッフが危機管理計画を最適化できるようにする、CDC(米国疾病管理予防センター)の社会的脆弱性指標とFEMA(連邦危機管理庁)のリスクツールも挙げた。

とはいえ、筆者が話を聞いたほとんどの専門家は、AIを使用することについて懐疑的だった。災害に関する販売サイクルについて取り上げたこのシリーズのパート1で少し説明したように、データツールは、人命がかかっているときは特に信頼性が重要で、最新の情報に更新されていなければならない。チーム・ルビコンのカマチー氏は、ツールを選択する際にはそのツールの秀でているポイントではなく、各ベンダーの実用性だけに注目するという。「当社はハイテク機能も追求しますが、ローテクも用意しています」と同氏は語り、災害対応で重要なのが、変化する状況に機敏に対応できることであることを強調する。

カーバインのエリチャイ氏は、同社の販売実績にも同様のパターンがあると認識している。同氏は「市場には新しいテクノロジーに対する意識の高さと、採用を躊躇する慎重さの両方がある」ことを指摘するが「あるレベルに達すればAIが有益となることは間違いない」と認める。

同じように、ティー・モバイルのナイロン氏も経営者の観点から、ティー・モバイルの災害計画に「AIを最大限に活用できるとは思えない」と語る。ティー・モバイルはAIを頭脳として使う代わりに、単純にデータと予測モデリングを使用して装置の配置を最適化している。高度な敵対的生成ネットワークなど必要ないというわけだ。

AIは計画策定以外でも、災害後の復旧、特に損害査定に活用されている。災害の収束後にはインフラと私有財産の査定を行って、保険金を請求し、コミュニティを前進させる必要がある。チーム・ルビコンのCOO兼社長Art delaCruz(アート・デラクルーズ)氏は、テクノロジーとAIの普及によって、損害査定の作業が大幅に軽減されたと指摘する。チーム・ルビコンでは、復旧作業の過程でコミュニティの再構築を支援することが多いため、損害の重大度判定が対応戦略を効果的に進めるうえで不可欠だ。

太陽の光で将来は明るくなるが、その光でやけどする可能性もある

AIはこのように、回復計画と災害復旧の分野でいくらかの利用価値があるものの、緊急対応の分野ではあまり役に立っていない。とはいえ、災害対応サイクル全体では有効な場面も増えてくるだろう。ドローンの将来性には大いに期待が寄せられているし、現場で使用されるケースも増えている。しかし、長期的に考えると、AIとデータが解決策とならず、新たな問題を引き起こすのではないかという懸念がある。

災害対応の現場でドローンを使用することは、明らかに価値があるように思える。救援隊員が立ち入ることが困難な現場でも、ドローンを導入したチームは空からの映像や情報を入手できる。バハマでの任務遂行中に主要道路が閉鎖されたため、現場のチームがドローンを使って生存者を見つけたと、チーム・ルビコンのカマチー氏は話す。ドローンから撮影された画像がAI処理され、生存者を特定し避難させるのに役立った。同氏は、ドローンとその潜在能力について「とにかくすばらしいツールだ」と話してくれた。

ドローンから航空写真を撮影することで、災害対応チームが入手できるリアルタイム情報の質は大幅に向上する。地上からは近づけない現場ではなおさらだ(画像クレジット:Mario Tama/Getty Images)

プロジェクト・ホープのコッター氏もやはり、データ処理を高速化することで的確に対応できるようになると話す。「災害地で人命を救うのは、結局のところスピードです。対応をリモートから管理できるケースも増えたため、多数の要員を現地に送らずに済みます」と同氏はいう。これは、人員が限られている場所で活動する対応チームにとって、とても重要である。

「捜索や救助、航空写真などに、ドローンのテクノロジーを活用する緊急管理機関が増えています」とベライゾンのデイビス氏はいい「現場に機材を導入することが先決」という考え方の作業員が多いと指摘し、次のように続ける。「AIの性能は向上する一方であり、初動対応するスタッフはより効果的、効率的かつ安全に対応できるようになっています」。

センサーやドローンから送信される大量のデータを迅速に処理して検証できるようになれば、災害対応の質は向上するだろう。大自然が気まぐれに起こす大災害が増えているが、そうした現状にも対応できるかもしれない。しかし問題がある。AIのアルゴリズムが将来、新たな問題の原因となることはないのだろうか。

ランドでは典型的な代替分析を提供しているが、ランドのクラークギンズバーグ氏は、これらのソリューションで問題が発生する可能性があると話し「テクノロジーが引き金となって災害が発生し、テクノロジーの世界が災害を悪化させます」と指摘する。これらのシステムは破綻する可能性がある。間違いを犯すかもしれない。そして何より不気味なのは、システムを細工して大混乱と破壊を拡大させる可能性があるということだ。

筆者が最近紹介した災害対応VCファンド兼慈善活動組織のRisk & Return(リスク&リターン)社の取締役会長で、9/11 Commission(米国同時多発テロ事件に関する調査委員会)の前共同議長、およびネブラスカ州知事と上院議員も務めたBob Kerrey(ボブ・ケリー)氏は、多くの対応現場でサイバーセキュリティが不確定要素となるケースが増えていると指摘する。「(調査委員会が業務を遂行していた)2004年当時は、ゼロデイなどという概念はありませんでした。もちろんゼロデイを取引する市場もありませんでしたが、今はその市場があります」。9/11の同時多発テロでは「テロリストたちは米国にやってきて、飛行機をハイジャックすることが必要でした。今はハイジャックしなくても米国を破壊することが可能です」と同氏はいい「ハッカーたちは、モスクワやテヘランや中国の仲間、もしかすると自宅に引きこもっている仲間と、家で座ったまま攻撃できます」と指摘する。

災害対応の分野でデータは注目を浴びているが、このような状況が原因で、これまで存在しなかった二次的な問題が引き起こされる可能性がある。与えられしものは奪われる。今は石油が湧き出ている井戸もいつか突然枯渇する。あるいは井戸に火が付くかもしれない。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:気候テック自然災害気候変動アメリカIoT人工知能ドローン

画像クレジット:BIJU BORO/AFP / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

受刑者の社会復帰を支援するUptrustは無駄な大量収監に浪費される数千億円の問題に取り組む

「technical violation(規則[法則]上の違反、厳密な法解釈による違反)」は、米国の現代刑事司法制度を象徴する、プロセスと手続きの不条理な泥沼を埋めるために米国政府が使用しているオーウェルの用語の1つだ。犯罪者が刑を執行した後、彼らはしばしば保護観察下に置かれ、どこに行くことができるか、誰に会うことができるかについての多数の規則をともなう。規則上の違反を犯した人は、仮釈放の審理に数分遅れるという単純な処置のために、何カ月あるいは何年も刑務所に戻されることが少なくない。

規則上の違反は、私たちすべてにとって高くつく。2021年初め、ニューヨークの首都地区の新聞Times Unionは、コロンビア大学およびIndependent Commission on New York City Criminal Justice and Incarceration Reform(ニューヨーク市刑事司法と収監の改革に関する独立委員会)の報告書に基づいて「ニューヨーク州は他のどの州よりも多くの人々を規則上の仮釈放違反で収監しており、その率は全国平均のほぼ3倍である」と報告し「これらの人々の再収監には、納税者の負担として少なくとも6億8300万ドル(約745億円)かかる」と伝えている。

オーウェル的であり、カフカ的でもある。そして公共資源の破滅的な浪費となっている。しかし、それは潜在的な解決策へとつながる問題でもあり、Uptrustはそこを改善しようとしている。

Uptrustは、社会復帰した人々を公選弁護人や裁判記録と結びつけるサービスを提供しており、規則上の違反を防ぐために必要なカレンダー、アポイントメント、ルール、手続きを確実に整備することで、彼らの通常の生活への復帰を促進するとともに、納税者の多大な費用を節約することを目指している。

同社は米国時間5月18日、Decaration FundLuminateStand Together Ventures Labという3つの主要投資家から200万ドル(約2億2000万円)のシード資金を調達したことを発表した。これは2020年TechCrunchが報じた130万ドル(約1億4000万円)のラウンドに続くものだ。

2015年に設立され、2016年に最初の製品をローンチした同社は、Jacob Sills(ジェイコブ・シルズ)氏とElijah Gwynn(イライジャ・グウィン)氏が共同設立し、刑事司法制度を改善する方法を模索していた。両氏は保釈保証金のような領域に目を向けながらも、基本的な問題に立ち返り続けた。「あまりに多くの人が制度から脱してません【略】そして彼らは再び戻ってしまいます」とシルズ氏はいう。

Uptrustは、テキストメッセージングや独自のアプリを通じてサービスを提供している。被告側の弁護士は刑事司法制度に関わる他のメンバーより依頼人に通じやすいことから、同社のサービスはおおむね公選弁護人とリンクしている。

Uptrustのアプリは、保護観察官との迅速なチェックインを可能にし、主要な予定表のアポイントメントをモニタリングする(画像クレジット:Uptrust)

シルズ氏によると、同社は何年も前からさまざまなプロダクトを試しながら成長を続けており、現在では28州で150サイトを展開し、18カ月前の30サイトから増加しているという。現在2カ所でサービスを利用しているバージニア州は、2021年末から2022年初めにかけて同サービスを州全域に拡大する予定だ。

同社は現在、サービスを利用する政府に対して料金を請求しており、その目的は、支払い資金が不足しがちなエンドユーザーの金銭的負担を抑えることにある。しかし長期的には、ユーザーが社会に再参入する際に、増加しているユーザーを新しいサービスにつなげるという大きな機会があると捉えている。「彼らの半数以上は、ヘルスケアへのアクセスに問題を抱えています」とシルズ氏は語り、ヘルスケア、金融、銀行、住宅など、さまざまな分野でアプリが将来的に役割を果たす可能性があるとの見方を示した。

それでも同氏は、これは多くの伝統的なベンチャーキャピタルにとって魅力的ではない「新規市場」であることを認識していた。そこで今回の資金調達で、シルズ氏とそのチームは刑事司法問題に深く染み込んだ資金をターゲットにすることを決断した。解決されようとしている問題、そしてUptrustが自身の使命を果たしながらビジネスとして成功する方法について、先見の明を示してくれることを期待してのことだ。

彼らはまた、シルズ氏のいう「思考における優れた多様性」を求めた。Decarcation Fundはまさにその言葉どおりに投資しており、進歩派のPam Omidyar(パム・オミダイア)氏とPierre Omidyar(ピエール・オミダイア)氏によって設立されたLuminateは、市民の関与に焦点を当てた慈善事業を行っている。一方、Stand Together Ventures Labは、Charles Koch(チャールズ・コッホ)氏が設立したStand Togetherによる資金提供を受けている。コッホ氏は、共和党や保守派の運動に広く資金を提供しているだけでなく、近年では、民間人に対する政府の力を最小化するための刑事司法改革への取り組みも強化している。

Decarceration Fundでマネージング・プリンシパルを務めるChris Bentley(クリス・ベントレー)氏は、Uptrustがこうした特殊な人々が何を必要としているかを正確に理解していると確信し、同社を最初の投資先に選んだ。「この分野には、善意の会社が意図せぬ結果をもたらしてきた重大な歴史があります」とベントレー氏は語る。同ファンドは、明確な目標を備え、ポジティブな結果をもたらすビジネスモデルを有する企業への投資に注力している。「私たちの投資委員会の半分は自らが創業者ですが、同時に、この制度に関する実際的な経験を持つ市民でもあります」と同氏は続けた。

Uptrustは現在、サンフランシスコを中心に15人の従業員を擁するまでに成長し、東海岸にも拠点を広げている。「営利企業が残した実績はあまり芳しくありません。そうした企業のほとんどは、刑事司法制度が望むものを作っているだけなのです」とシルズ氏は指摘した。「私たちは、収益、成果、そして実質上の影響力をもたらすことを実証しようとしています」。

【2021年5月18日更新】LuminateはOmidyar Networkの一部ではなく、パム・オミダイア氏とピエール・オミダイア氏が運営するThe Omidyar Groupから独立した資金を受けている。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Uptrust資金調達アメリカ犯罪

画像クレジット:MARVIN RECINOS / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

テクノロジーと災害対応の未来1「世界で最も悲惨な緊急事態管理関連の販売サイクル」

スタートアップが 自分たちは使命感を持っていると語るのをよく耳にする。しかし、その使命が節税対策のためにキャッシュフローを最適化することだとしたら、そのような言葉を真に受けてはならない。一方、新世代のスタートアップも登場してきている。世界規模の大きな課題に挑み、これまでのスタートアップと同様の起業家精神や卓越した運営能力、優れた技術力を、現実的な使命に生かそうとしている企業だ。こういった企業が何千人もの命を救う可能性がある。

気候テックは全般的に、新世代のスタートアップの登場というトレンドから大きな恩恵を受けているが、私が注目したのは災害対応という小規模な専門分野だ。この分野はソフトウェアサービスのカテゴリーで、何年も前からあちこちのスタートアップが参入しているが、今、新たな創業者たちが、これまでにない危機感や熱意を持ってこの分野の課題に取り組んでいる。

最初に触れたように、災害対応は急激に成長している。2020年は厳しい年だった。その理由は新型コロナウイルス感染症の世界的な流行だけにとどまらない。この年、記録的な数のハリケーンが発生し、米国西部では過去最悪の山火事シーズンとなった。また、世界各地でメガストームも発生した。気候変動、都市化、人口増加、不十分な対応策などの要因が重なり、人類全体がこれまでに直面してきた中でもかなり危険な状況となっている。

私は、この10年間で災害対応市場がどのような状況になっているのかを把握すべく、過去数週間にわたりスタートアップの創業者、投資家、政府関係者、公益企業の幹部など30人以上にインタビューを行い、最新の状況とこれまでの変化を理解するに至った。4回にわたるシリーズで、テクノロジーと災害対応の未来をテーマに、災害対応市場の販売サイクル、ようやく災害対応にデータが活用されるようになったいきさつ、インターネットアクセス問題への公益企業や特に通信会社による対処法、そして地域社会における今後の災害対応の再定義について考えていく。

災害対応やレジリエンス(災害復旧力)におけるテクノロジーの発展を紹介する前に、次の基本的な質問について考えることが重要だ。テクノロジーを確立すれば、それは売れるのか。創業者や投資家、政府調達関係者からは「ノー」というシンプルな答えが返ってきた。

実際、今回のシリーズ用のインタビューでは、緊急事態管理関連の販売サイクルの厳しさが繰り返し話題にのぼり「世界のどの企業にとっても、緊急事態管理関連の売上を上げるのは最も難しいことかもしれない」と語る人も1人ではなかった。地方自治体、州政府、連邦政府、各国政府の調達予算を合計すると、あっという間に数百億ドル(数兆円)規模の市場になることを考えると、この見解は意外かもしれない。しかしこの後見ていくように、この市場には独特のメカニズムがあるため、従来の販売手法はほとんど役に立たない。

これは悲観的な見方だが、販売活動が不可能というわけではなく、いくつもの新しいスタートアップがこの市場への参入障壁を打ち破っている。現在、多くのスタートアップが突破口を開くために採用している販売戦略と製品戦略を見ていく。

厳しい状況での販売

政府機関相手の販売には困難が付き物であるが、それも驚くにはあたらない。これまで多くのGovTechスタートアップの創業者たちが学んできたことは、販売サイクルの遅さ、複雑な調達手続、厄介な検査やセキュリティ要件、契約担当者の全般的に消極的な態度などが、収益を上げるための戦いにおいて障害となっているということだ。現在、多くの政府機関がスタートアップに特化したプログラムを導入しているが、これは、新たなイノベーションが日の目を見ることがいかに難しいかを知っているからだ。

緊急事態管理関連の販売活動は、他の分野のGovTechスタートアップと同様の問題を抱えている。一方で、それに加えさらに6つほどの問題があるため、販売サイクルは疲弊し、かなり厳しい状態になっている。

まず第一に最も厳しいのは、緊急事態管理関連の販売活動が、著しく季節に依存することだ。季節的な災害(ハリケーン、山火事、冬の嵐など)に対応している機関の多くは、災害に対応する「活動」期間を経た後、その活動内容を評価し、次のシーズンに向けて必要な変更を判断して、災害対応要員の活動の効果を高めるために追加または廃止する災害対応用ツールを検討する「計画」期間に移行することが多い。

ここでは、先ごろ紹介した山火事対応分野のスタートアップであるCornea(コーニー)Perimeter(ペリメーター)を取り上げる。どちらの企業も、製品を継続して販売するためには、火災シーズンを考慮する必要があると語っている。ペリメーターのCEO兼共同創業者であるBailey Farren(ベイリー・ファーレン)氏は「解決すべき問題を適切な方法で解決するため、2回の火災シーズンをかけてテクノロジーのベータテストを行いました。そして、実は2019年にカリフォルニア州で起こったキンケード火災の際に、ベータテストの対象を変更しました」と述べている。

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こういった点について、防災テックとEdTechを比較することもできる。EdTechに関しては、学校がテクノロジーを購入する時期は、アカデミックカレンダーで決まることが多い。米国の教育システムでは、6月から8月までの期間を逃すと、スタートアップはその年に学校で販売する機会を失い、次の年まで待つことになる。

3カ月という短い期間に売り込まなければならないEdTechの方が、以前は状況が困難だったかもしれないが、年々、災害対応の販売活動の方が難しくなってきている。気候変動の影響により、あらゆる種類の災害の継続期間が長くなり、深刻さが増し、被害が悪化している。そのため、これまで災害対応機関には半年以上のオフシーズンがあり、その期間に次の計画を立てていたのだが、今では1年中、緊急事態対応の活動に追われていることもある。つまり、災害対応機関が新たに購入すべきソリューションを検討する時間はほとんどないということになる。

さらに言えば、標準化されたアカデミックカレンダーとは異なり、災害が起こる時期の予測が最近では難しくなっている。例えば、洪水や山火事のシーズンは以前は年間の特定の時期に比較的集中していた。しかし今は、このような緊急事態が1年中いつでも発生する可能性がある。この結果、災害対応機関は災害にいつでも対応する必要があるため、調達手続は急に開始されることもあれば急に凍結されることもある。

季節性は販売サイクルだけでなく、災害対応機関の予算にも影響を与える。災害が発生している間は市民や政治家の関心はそこに注がれるが、その後、次の大災害が発生するまで、私たちはそのことをすっかり忘れてしまう。他のテクノロジーへの政府支出が毎年安定している一方、防災テックの予算には増減がある場合が多い。

連邦政府の緊急事態管理機関のある高官(公に話す権限がないため名前は伏せるようにとのことだった)は「好天の日々」(災害のない期間など)には一定の予算の確保とそれを迅速に使用する条件が非常に限られており、同局のような機関は、連邦議会や州議会が追加資金を承認した場合に、補完的な災害資金をつなぎ合わせて使用しなければならないと説明した。主要な機関はテクノロジー関連のロードマップを用意しており、追加の資金が入ってきた時に、すぐにその資金を使って計画を実現できるようにしているが、すべての機関がそのような準備をするためのテクノロジー計画のリソースを持っているわけではない。

911(緊急通報)センターでの電話対応をサポートするクラウドネイティブプラットフォームであるCarbyne(カーバイン)のCEO兼共同創業者のAmir Elichai(アミール・エリチャイ)氏は、災害対応への関心の波は2020年の新型コロナウイルス感染症の世界的な流行で再び頂点に達し、それにより緊急対応能力に関する注目度と資金が大幅に増加したと述べた。「新型コロナウイルス感染症によって、政府の準備が不十分であるということが明らかになったのです」と同氏はいう。

驚くにはあたらないが、災害対応業界や災害対応要員が長年にわたって提唱してきた次世代の911サービス(一般的にNG911と呼ばれている)に対する大幅な資金強化が期待されている。バイデン大統領が提案したインフラ法案では、米国内の911の業務機能を強化するために150億ドル(約1兆6400億円)が追加される予定だが、この資金は過去10年間ほぼ毎年要請されてきた。2020年、120億ドル(約1兆3000億円)規模の同法案は、連邦下院議会を通過した後、上院で否決された

販売活動では、例えるならば客に鎮痛剤を提供する場合とビタミン剤を提供する場合がある。鎮痛剤には即効性が、ビタミン剤には遅効性がある。システムのアップグレードを検討している災害対応機関は、おおかた鎮痛剤を求めるだろうと予想される。恐怖感と危機的状況が災害対応機関とその活動を取り巻いているため、これらの機関は自分たちのニーズを直感的に意識するようだ。

しかし、このような恐怖感から、テクノロジーの組織的なアップグレードよりもその場しのぎの、いわば鎮痛剤のようなソリューションに注意が向いてしまい、実際は逆効果となる場合が多い。名前を伏せたあるGovTechのVCは「この世界が怖くて危険な場所だというイメージを与えないようにしています」と語った。そうすることがないよう「重要なのは、危険性よりも安全性に目を向けることです」。安全性の確保は、時々起こる緊急事態への対処より、はるかに広範で一貫したニーズだ。

最終的に資金が承認されれば、各機関は立法府からついに割り当てられた予算資金の用途として優先すべきことを見つけ出すためにすぐに行動しなければならない。スタートアップが適切なソリューションを提供していても、特定のサイクルでどの問題に資金が集まるのかを見極めるためには、すべての顧客にきめ細やかな意識を向ける必要がある。

スタートアップスタジオでありベンチャーファンドでもあるHangar(ハンガー)のマネージングパートナーであるJosh Mendelsohn(ジョシュ・メンデルゾーン)氏は「災害対応機関のお客様は常にさまざまなニーズを提示してくださいます。最も難しいのは、最も取り組む価値がある問題は何かを見極めることです」と述べた。その価値は、残念ながら、災害対応機関の任務の要件に応じて非常に急速に変化する。

すべての条件が揃っているとしよう。災害対応機関には購入する時間的余裕とニーズがあり、スタートアップは彼らが求めるソリューションを持っている。最終的に最も解決が困難だと思われる課題は、そもそも災害対応機関が新しいスタートアップを信頼していないということだ。

この数週間、緊急対応の関係者たちと話をしたが、当然のことながら信頼性の話が何度も持ち上がった。災害対応は極めて重要な仕事であり、現場でも司令センターでも決して中断することは許されない。一方、最前線の災害対応要員は、タブレットや携帯電話の代わりに今でも紙とペンを使っている。紙ならばバッテリー切れになることなく、どんな時でも使用できるからだ。シリコンバレーの「Move Fast and Break Things(すばやく動き、物事のマンネリを打破すべし)」という精神は、この市場とは根本的に相容れない。

季節性、資金の増減、注目度の低さ、調達の緊急性、信頼性の厳しい要件などのため、緊急事態管理関連の販売活動はスタートアップにとってかなり困難なものとなっている。これには、GovTechの典型的な課題は含まれていない。その課題とは、レガシーシステムとの統合、米国や世界各地に散在し、バラバラな状態となっている何千もの緊急対応機関、多くの機関の人々がそもそも変革にあまり興味を持っていないという事実などだ。ある関係者は、政府による緊急対応テクノロジーへの取り組みについて「多くの部署の人員が、テクノロジーの移行という困難な課題に取り組む前に、あわよくば定年を迎えられるかもしれないと考えています」と述べた。

不確実な状態から抜け出すための戦略

つまり、販売サイクルは厳しい状態なのだ。では、なぜVCはこの分野に資金を投入しているのか。数カ月前には、緊急対応データプラットフォームのRapidSOS(ラピッドエスオーエス)が8500万ドル(約93億円)を調達しており、これはCarbyneが2500万ドル(約27億3000万円)を調達したのとほぼ同時期だ。この他にもかなりのスタートアップが初期段階でプレシード投資やシード投資を調達した。

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この分野に携わるほぼ全員が同意している重要な論点は、創業者(およびその企業への投資家)は、民間企業に対する販売戦略を捨て、災害対応機関に特化して販売するために、アプローチを根本から再構築しなければならないということだ。つまり、収益を確保するためにまったく異なる戦略や戦術を立てなければならないということになる。

第一に最も重要なアプローチは、まず顧客となる機関を知ることではなく、この分野の人々が実際にどのような仕事をしているかを知ることだと言えるだろう。販売サイクルが示すように、災害対応は他の仕事とは異なる。混沌とした状況、急速に変化する環境、複数の分野にまたがるチームや省庁間の連携など、効果的に対応するにあたって行うべきことは、オフィスワークとはかなり違っている。ここで重要なことは共感だ。紙を使っている災害対応要員は、現場でデバイスが故障して危うく命を落とすところだったという経験があるかもしれない。911センターのオペレーターは、ソフトウェアのデータベースから適切な情報を見つけようと必死になっている間に、誰かが亡くなるのをリアルタイムで聞いたという経験があるかもしれない。

要するに、顧客の発見と開発だ。これは企業の世界とあまり変わりないが、緊急対応の業界関係者と多くの会話を交わす中で、そこからは忍耐の必要性が感じ取れた。構築すべきソリューションやソリューションを効果的に売る方法を確実に見いだすためには、とにかく長い時間、時には何シーズンもの時間が必要だ。企業向けのSaaS製品を繰り返し市場に出し、それが市場に受け入れられるまでの期間が6カ月だとすれば、政府機関ではそれと同等の段階に達するのに2~3年かかる可能性もある。

RapidSOSのMichael Martin(マイケル・マーティン)氏は「公共サービス分野における顧客発見に近道はありません」と語った。同氏は「シリコンバレーの技術コミュニティの傲慢さと、公共安全に関わる課題の実態の間には、実に難しい問題があると思います」と述べ、スタートアップが成功を収めるためには、そうした問題を解決しなければならないと指摘した。一方、公共安全分野の企業であるResponder Corp(レスポンダー)の社長兼共同創業者、Bryce Stirton(ブライス・スタートン)氏はこう語る。「すべての課題を捉えるにはエンドユーザーについて考えるのが一番です。エンドユーザーにとって新しいテクノロジーを導入する上で満たす必要のある条件は何かを考えるのです」。

ハンガーのメンデルゾーン氏は、顧客発見のプロセスで創業者はいくつかの難しい質問に答えを見いだす必要があると述べている。「結局のところ、エントリーポイントは何かということです」と同氏はいう。「Corneaでは、顧客発見のプロセスを経る必要がありました。顧客にとってすべての要素が必要に思えたとしても、最小限の行動変化ですぐに効果があらわれる最適な解答を見つけ出す必要があるのです」。

確かに、顧客発見のプロセスは顧客の側からも評価されている。連邦政府の緊急事態管理機関の高官は「どの会社もソリューションを持っていましたが、誰も私の抱えている問題について質問することはありませんでした」と語った。質の高い製品を用意し、この市場で行われている特別な仕事に合わせてその製品をカスタマイズしていくことが鍵となる。

しかし、仮にすばらしい製品があったとしても、どうやって調達手続の難しい課題を解決できるのか。その答えはさまざまで、この問題へのアプローチ方法について各スタートアップが戦略を示している。

RapidSOSのマーティン氏は「問題解決のための新しいサービスを調達するうえで、政府には手本となる良いモデルがない」と述べる。そこで、同社は政府向けのサービスを無料にすることを決めた。「かつて当社の製品を使用している政府機関はゼロでしたが、3年であらゆる政府機関が当社の製品を使用するようになりました。手本となるモデルがないという調達の問題を解決したことが功を奏しました」と同氏は語る。同社のビジネスモデルが基盤としているのは、自社のデータを911センターに統合して自社の安全を確保したいと考える有料の企業パートナーを持つことだ。

これはMD Ally(エムディアリー)が採用しているモデルと同様のものだ。同社は先週、シードラウンドでGeneral Catalyst(ジェネラルカタリスト)から350万ドル(約3億8200万円)の資金を調達した。エムディアリーは、911通報システムに遠隔医療の紹介サービスを組み込んでいる。CEO兼共同創業者のShanel Fields(シャネル・フィールズ)氏は、政府調達を避け、医師や精神医療従事者側からの収益エンジンを作成することに活路を見いだしたと強調している。

「政府のロビンフッド」とでも呼ばれるようなもの(つまり無料で提供するサービス)以外に、別のアプローチもある。より有名で信頼できるブランドと連携して、スタートアップの革新性と既存プレイヤーの信頼性を兼ね備えた製品を提供するというものだ。レスポンダーのスタートン氏は「この分野で企業を立ち上げるには、資本金だけでは不十分であることをこの市場で学びました」と述べている。同氏は、民間企業とパートナーシップを構築して、政府に共同提案を行うことが効果的だと判断した。例えば、クラウドプロバイダーのAmazon Web Services(アマゾンウェブサービス)やVerizon(ベライゾン)は政府からの評判が良く、そのおかげでスタートアップが政府調達のハードルを越えやすくなっているという(TechCrunchはベライゾングループの一員であるVerizon Mediaが運営している)。

Carbyneのエリチャイ氏は、販売の大部分はインテグレーションパートナーを介して行っていると言い、その一例としてCenterSquare(センタースクエア)を挙げた。911サービスについては「米国の市場が最も細分化されていることは明らか」だ。だからこそパートナーを持つことで、同社は何千もの機関へ販売する労力を省くことができる。「通常、政府に直接販売することはありません」と同氏は述べた。

パートナーを持てば、緊急事態管理関連の調達における地元主義の問題に対処することもできる。多くの政府機関は実際に何を購入すべきかわからないため、地元地域の身近な企業が提供しているソフトウェアを購入する。パートナーは地元地域での存在感を示すと同時に、スタートアップが全国的にすばやく事業展開する後押しをしてくれる。

また、パートナーとして、経験豊富な退職した政府関係者との関係を構築することも考えられる。彼らの存在やネットワークを通してスタートアップへの信頼を勝ち得ることができる。政府関係者、特に緊急事態管理担当者の仕事は、企業における仕事以上に密接な連携が求められるため、お互いに協力し合い、信頼関係を築く必要がある。そのような連携を通して親しくなった関係者からの積極的な推薦があれば、商談の流れは簡単に変わる可能性がある。

最後に、緊急事態管理ソフトウェアは政府を対象にしているが、民間企業にとっても、自分たちの業務を守るために同じようなツールを検討する必要が増してきている。多くの企業は、従業員や現場チーム、守るべき物理的資産を分散して抱えており、政府と同様に災害に対応しなければならない場合が多い。スタートアップによっては、初期の段階では民間企業に売り込みながら、公的機関との関係を根気強く構築し続けることも可能だ。

要するに、スタートアップが政府の災害対応機関と関係を築くためには、長期的な顧客開発プログラムや良好なパートナーシップ、共同提案に加え、民間企業も大切にするというのが最善の道だ。

幸いなことに、こうした努力は報われる可能性がある。災害対応機関にはかなりの資金があるだけでなく、これらの機関自体が今より優れたテクノロジーが必要であることを認識している。Corneaの消防責任者であり、以前は米国森林局で火災対応責任者も務めていたTom Harbour(トム・ハーバー)氏は「私たちが費やす資金は数十億ドル(数千億円)にもなります。しかし、もっと効率を上げることができると考えています」と述べた。政府は効率性を高めることに必ずしも協力的ではないが、最後までやり遂げる意思のある創業者なら、影響力があり、収益性が高く、使命感を持った企業を作り上げることができるだろう。

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

テスラの北米向けModel 3とModel Yがレーダー非搭載に

北米の顧客向けに製造されるTesla(テスラ)の「Model Y(モデルY)」と「Model 3 (モデル3)」には、レーダーが搭載されなくなる。これは、機械学習を組み合わせたカメラのみを使用して、同社の先進運転支援システムやその他のアクティブセーフティ機能をサポートするようにしたいという、Elon Musk(イーロン・マスク)CEOの意向を反映した変更だ。

センサーの使用をやめるという決定は、多くのテスラの動向と同様に、業界の標準的な考え方に反している。今のところ、レーダーなしのテスラ車は、北米のみで販売される。テスラは、中国や欧州の顧客向けに製造される車両から、レーダーセンサーを削除する時期やその可能性については言及していない。

自動車メーカーは通常、レーダーとカメラを(さらにはLiDARも)組み合わせ、周囲の交通状況に合わせて車両の走行速度を調整するアダプティブ・クルーズ・コントロールや、車線維持および自動車線変更など、先進運転支援システムの機能を実現するために必要なセンシングを行っている。

しかし、以前からマスク氏は、カメラといわゆるニューラルネット処理のみで、車両を取り巻く環境で起きていることを検知・認識し、適切な対応を行うシステムの可能性を喧伝しており、このシステムにはブランド名を冠した「Tesla Vision(テスラ・ビジョン)」という名称が付けられている。

ニューラルネットとは、人間の学習の仕方を模倣した機械学習の一種で、一連の接続されたネットワークを使用してデータのパターンを識別することにより、コンピュータが学習することを可能にする、人工知能アルゴリズムの洗練された形態だ。自動運転技術を開発している多くの企業は、特定の問題を処理するためにディープニューラルネットワークを使用しているが、彼らはこのディープネットワークを壁で囲い、ルールベースのアルゴリズムを使って、より広範なシステムに結びつけている。

Whole Mars Catalog@WholeMarsBlog
ピュア・ビジョンの考え方について、もう少し詳しく教えてください。

レーダーを使わないのは時代に逆行するという意見もありますが、なぜ使わないほうがいいと判断したのでしょうか?

Elon Musk@elonmusk
レーダーと視覚が一致しないとき、あなたはどちらを信じますか? 視覚認識の方がはるかに精度が高いので、複数のセンサーを組み合わせるよりも視覚認識を倍に増やした方が良いのです。

テスラは更新したウェブサイトでレーダーからの移行について詳述し、2021年5月から切り替えを開始したと述べている。このカメラと機械学習(特にニューラルネット処理)を組み合わせた方式は「Tesla Vision」と呼ばれ、同社の車両に標準装備されている先進運転支援システム「Autopilot(オートパイロット)」と、そのアップグレード版で1万ドル(約109万円)の追加料金が必要な「FSD(フル・セルフ・ドライビング)」に使われる。テスラのクルマは自動運転ではないので、人間のドライバーが常に運転に関与し続ける必要がある。

レーダーを搭載していないテスラ車では、当初は運転支援機能が制限される。例えば、Autosteer(オートステア)と呼ばれる車線維持機能が使える速度は最高時速75マイル(時速約120キロメートル)までに制限され、最小追従距離も長くなる。また、緊急車線逸脱回避機能や、駐車場で自車を自分の側まで呼び寄せることができるSmart Summon(スマート・サモン)機能は、納車当初には利用できない可能性があると、テスラは述べている。

同社では、今後数週間のうちにワイヤレス・ソフトウェア・アップデートによって、これらの機能を復活させることを計画しているという。ただし、テスラはその具体的なスケジュールを明らかにしていない。他のAutopilotやFSDの機能は、(注文した仕様にもよるが)納車時にすべて有効になっているとのこと。

一方、Model S(モデルS)とModel X(モデルX)の新車や、北米以外の市場向けに製造されるすべてのモデルには、引き続きレーダーが搭載され、レーダーを使ったAutopilotの機能も利用できる。

テスラは「よくある質問」の中で「Model 3とModel Yは、当社の製品の中でも生産台数が多いモデルです。これらのモデルを先にTesla Visionに移行することで、膨大な実世界におけるデータを短時間で分析することが可能になり、結果的にTesla Visionをベースとした機能の展開を早めることができます」と書いている。

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

米国がシャオミの中国共産党軍事企業指定を解除

トランプ政権の標的にされていた中国の有名なテクノロジー企業の1つXiaomi(シャオミ)がこのほど「Communist Chinese Military Company」(CCMC、中国共産党の軍事企業CCMC)を指定している政府のブラックリストから除外された。

2021年5月25日に提出された文書によると、コロンビア特別区連邦地方裁判所は1月、米国防総省によるXiaomiのCCMCへの指定を取り消した。

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Xiaomiは2月、軍事ブラックリストに載せたことで米政府を訴えた。3月、にワシントンD.C.裁判所はXiaomiに対し、DoD指定に対する予備的差し止め命令を出した。DoD指定は「恣意的で気まぐれな」決定だとして、すべての米国人がXiaomiの証券を購入したり所持したりすることを禁止するものだった。この判決は、中国のスマートフォンメーカーに対する「修復不能な損害」を防ぐために下された。

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ブラックリストから外れたことについて、Xiaomiは次のように述べている。

当社は世界中のユーザー、パートナー、従業員、株主のみなさまからの信頼とご支援に感謝しています。当社は、当社がオープンで透明性が高く、株式を公開し、独立して運営・管理されている企業であることを改めて表明します。当社は、ユーザーのみなさまに信頼性の高いコンシューマーエレクトロニクス製品とサービスを提供し、革新的な技術によって世界中のすべての人々がより良い生活を享受できるように、誠実な価格ですばらしい製品を絶え間なく作り続けていきます。

Xiaomiの国内競合企業であるHuawei(ファーウェイ)は、米国の貿易ブラックリストに掲載されたことで、同国の重要な技術へのアクセスが禁止され、世界中でのスマートフォンの販売に支障をきたしており、いまだに苦労している。

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(文:Rita Liao、翻訳:Hiroshi Iwatani)

【コラム】警察犬ロボのパトロールが嫌ならCCOPS法の検討を

編集部注:本稿の著者であるAron Solomon(アロン・ソロモン)氏は、NextLevel.comのデジタル戦略責任者であり、モントリオールのマギル大学Desautels Faculty of Managementのビジネスマネジメントの非常勤教授。

ーーー

Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)のロボット「犬」やその類似製品は、ハワイ、マサチューセッツ、ニューヨークの警察署ですでに採用されている。ベールに包まれた実験とあって、これらの強力な監視装置を使用する利点やコストについて警察からの回答はほとんどない。

米国自由人権協会(The American Civil Liberties Union、ACLU)は、 CCOPS(警察の監視に対する地域社会による制御)に関する立場表明書で、監視技術の透明性を促進し、市民の権利と自由を保護するための決議を提言した。これまでに米国の19の都市がCCOPS法案を可決させている。つまり他のすべての地域社会では、事実上、警察による監視技術の使用の透明性は必要とされていないことになる。

このようにさまざまな場面で新しい未完成技術を使用できることは、多くの人にとって問題となる可能性がある。世界的に有名な人工知能の専門家であり、TuraltのCTO(最高技術責任者)のStuart Watt(スチュアート・ワット)氏はこれに不快感を示している。

「こうした指針とロボット犬、そして、その実情には愕然としています。膨大な資金の浪費であり、実際の警察業務の妨げとなっているのです」とワット氏は述べた。「間違いなく、地域社会はこれらに関与していく必要があります。正直言って、警察がどう考えているのかさえわかりません。物理的な監視システムを使って思いとどまらせるためでしょうか?それとも、実際に、ある時点で行われる何らかの監視に人々を備えさせているのでしょうか?」

「警察の大部分は『保護し、奉仕する』ことをすべて忘れてしまい、それを実行していません」とワット氏は付け加えた。「もし人工知能を使ってホームレス、麻薬中毒者、性労働者、貧困層、不当に攻撃されているマイノリティのような弱者を実際に保護し、奉仕することができるなら、その方がはるかに良いでしょう。人工知能に資金を費やす必要があるならば、人々を助けるために使うべきです」。

米国自由人権協会の主張は、ワット氏の提言とまったく同じだ。国中の市議会への提言で、米国自由人権協会は次のように明確に述べている。

市議会による監視技術に関する資金、導入、または使用の承認は、監視技術の利点がコストを上回り、その提案が市民の自由と権利を保護し、監視技術の使用や配備が、差別や見解要因に基づくことなく、いかなる地域社会やグループにも差別的インパクトがないと判断される場合にのみ行われるものとしなければならない。

Team Lawで特別顧問を務める、弁護士のAnthony Gualano(アンソニー・グアラノ)氏は、法的観点からCCOPS法案は多くの面で理に適っていると考えている。

「全国各地で警察による監視技術の使用が増えるにつれて、人々を守るために使用する技術はより強力で、効果の高いものとなってきます。使われる技術やその使用方法を確認するために、透明性を義務付ける法律が必要です」。

このボストン・ダイナミクスの犬だけでなく、未来のスーパーテック犬のすべてについて心配している人にとって現在の法的環境が問題なのは、地域社会が大手テクノロジー企業や政府が関わる実験場となるのを本質的に認めているからだ。

ちょうど先月である2021年4月、世論の圧力によって、ニューヨーク市警本部はDigidog(デジドッグ)という非常に控えめな名前のロボット犬の使用停止を余儀なくされた。市民からの反発のため、テクノロジー犬が一時帰休措置にされた後の3月に、ニューヨーク市警は公営住宅でそれを使用した。予想通り、これに端を発して、ニューヨークでのこうしたテクノロジーの当面の扱いに関する議論がもたらされた。

ニューヨーク・タイムズはこれを目の当たりにして「過度に攻撃的な治安維持活動の悲惨な例として批判者の注目を集め、ニューヨーク市警はこのデバイスを予定よりも早く返却することになるだろう」と的確に表現した。

これらのバイオニックドッグは犯罪を減少させるのには十分だが、それを使おうとしている警察は、まずは多くの広報活動を行う必要がある。警察は積極的かつ前向きにCCOPSの議論に参加し、明日、翌月、そして、今から数年後に使用する可能性があるテクノロジーの詳細やそれら(およびロボット)の使用方法を説明することから始めるべきだろう。

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タグ:Boston Dynamics警察アメリカ米国自由人権協会コラム

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(文:Aron Solomon、翻訳:Dragonfly)

UberとLyftが新型コロナワクチン接種促進のための無料乗車提供を米国で開始

Uber(ウーバー)とLyft(リフト)が新型コロナウイルスワクチンを接種しに行く人に無料乗車の提供を正式に開始した。これら配車サービス2社は2週間前にホワイトハウスとのプログラム合意を発表していた。

バイデン大統領は米国の全成人70%のワクチン接種を7月4日までに達成することを目標としていて、無料乗車は同日まで提供される。UberとLyftは以前TechCrunchに、無料乗車のコストをカバーすると話していた。ホワイトハウスはプロダクトの開発と立ち上げをアドバイスした。ホワイトハウスはまた、米国の8万カ所超のワクチン接種会場のデータを共有したともUberの広報担当はTechCrunchに述べた。

Uberはそれぞれ最大25ドル(約2700円)割引の片道乗車4回を提供する。これらの2往復の乗車は7月4日までの間に3週間の間隔を空けなければならない、とUberはブログで説明している。乗客はUberアプリを立ち上げて「ワクチン」をタップし「無料乗車を利用する」をタップしてプログラムに参加できる。提供時間は午前6時から午後8時までだ。利用する人は行き先、あるいは乗車する場所を検索するのに郵便番号を入力しなければならない。そしてワクチン接種会場と乗車オプションを選ぶ。

画像クレジット:Lyft

Lyftは最大15ドル(約1600円)の乗車を2往復分提供する。乗車の料金が15ドルを超えた場合、あるいは乗客がドライバーにチップをあげる場合は乗客に課金される、とLyftは述べた。また、無料乗車は3週間の間隔を要する。

ワクチン接種アクセスプログラムは、十分なサービスを受けられていないコミュニティに無料あるいは割引の乗車を提供し、またワクチン情報やワクチン接種会場へのアクセスを簡単なものにする機能の展開に続く取り組みだ。Uberはまず2020年3月に無料乗車を提供する新型コロナ救済プログラムを展開し、12月に追加で1000万回の無料・割引乗車を提供すると述べていた。

同社は2021年4月にユーザーがWalgreensでのワクチン接種を予約し、接種場所までの移動の乗車を予約できる機能を含む6つ以上の新機能を立ち上げることを発表した。

Lyftは12月にJPMorgan Chase、Anthem、United Wayなどを含むパートナーと、低所得者、保険に加入していない人、そしてリスクの高いコミュニティにワクチン接種にともなう行き来のために乗車6000万回を提供するというユニバーサルなワクチンアクセスキャンペーンを開始した。

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Nariko Mizoguchi

米財務省が暗号資産の報告義務を提示、富裕層の税逃れ対策を強化

バイデン大統領のIRS(内国歳入庁)の権限を強化するというビジョンは、暗号資産(仮想通貨)取引に大きな影響を及ぼす準備ができているようだ。

米財務省の新しい報告書によると、バイデン政権は暗号資産を含む金がどのように動いているかを政府が簡単に把握できるよう、新しい義務を課す考えだ。報告書は、暗号資産が「かなりの検知の問題」を抱え、税金を逃れたい高所得者によって頻繁に使われていると指摘している。

提案されている変更では、納税者が稼いだ利子を申告するのに使っている既存の1099-INTフォームのフレームワークをベースに新たに報告義務を設ける。暗号資産取引と管理者には、口座を通じて動く資金の「全体の流入と流出」についての詳細な情報の報告を義務づける。事業者は、1万ドル(約109万円)以上の暗号資産の送金も報告しなければならない。

「現在の商取引における暗号資産の割合は小さいが、そうした包括的な報告は収入を新たな報告体制からシフトする動機づけや機会を最小限にするために必要だ」と報告書にはある。

財務省は、IRSが現在ディスララプトするリソースを持たない複雑なスキームを通じ、富裕税フィルターは往々にして相応の納税を逃れることができるとも指摘している。報告書によると、IRSは賃金による税金の99%を徴収しているが、この数字は非労働収入に関しては45%と低くなる。これは「見えにくい」収入源を持つ高所得者が大きな恩恵を受けるという矛盾だ。いくつかの報告義務があるものの、規制上グレーゾーンのほぼ見えないところで運用されている暗号資産はかなり懸念されるものだ、と財務省は指摘している。

「そうした機会は特に、オフショアリングや複雑な提携ストラクチャの構築、課税対象資産の暗号資産エコノミーへの移動といった洗練された戦略を通じて税を逃れることができる高所得者が利用できます」と財務省は書いている。

報告書には、向こう10年で税収入を7000億ドル(約76兆円)増やすことにつながる、IRSの執行力強化のための複数年にわたる取り組みの詳細も記されている。

カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:暗号資産米財務省IRSアメリカジョー・バイデン

画像クレジット:Getty Images

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Nariko Mizoguchi

Spotifyが米国で有料ポッドキャスト開始、2年間クリエイターの取り分は100%

Spotifyは米国時間4月27日、2021年2月に開催された同社のイベント「Stream On」で新しいサブスクリプションプラットフォームを発表したのに続き、ポッドキャストの有料サブスクリプションの提供を正式に開始した。Spotifyのポッドキャスト作成ツールAnchorを通じて、ポッドキャスターは特定のエピソードをサブスクライバー専用コンテンツとして設定し、Spotifyやその他のプラットフォームに公開することができるようになる。このサービスは当初、12の独立系クリエイターを対象にテストされていたが、順次ウェイトリストに登録済みのクリエイターへと展開される予定だ。

当面は米国のクリエイターのみを対象に有料サブスクリプションを提供し、今後数カ月のうちに海外展開を目指すとしている。

このローンチは、ポッドキャスト、特に有料ポッドキャストの市場が過熱している中で行われた。Appleは先に、Apple Podcastプラットフォームを通じてポッドキャストの有料サブスクリプションを提供する計画を発表している。

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しかし、Spotifyの取り組みとAppleの計画には大きな違いがある。それはサブスクリプションの収益をどう分配するかだ。

Appleは、初年はポッドキャスト収益の30%を徴収し、2年目からは15%に引き下げる。これはApp Storeのストリーミングサービスと同じである。一方Spotifyは、同社のプログラムは今後2年間、クリエイターに無料で提供されると述べている。つまり、クリエイターは収益の100%を得ることになる。そして2023年春、Spotifyはこのツールへのアクセスに5%の課金を導入する計画だ。

画像クレジット:Spotify

12のクリエイターからなる最初のグループは、サブスクライバー限定の有料ボーナスエピソードをフィードに公開し、プラットフォーム上の他のポッドキャストのエピソードと同じように発見や検索が可能になる。これらの有料エピソードはポッドキャストのメインフィードに表示され、再生ボタンに鍵のアイコンが表示される。アーリーアダプターには、Wild Thing、Tiny Leap、Big Changes、The Mindful Minuteなどが名を連ねている。

クリエイターはサブスクリプション料金を、月額2.99ドル(約325円)、4.99ドル(約542円)、7.99ドル(約868円)の3つの価格帯から選択できる。

Spotifyは、Anchorのクリエイターがフィード全体を有料としてマークできるようにする一方で、クリエイターが有料化を選択的に行う場合、無料エピソードの魅力はリスナーをまず惹きつけることにつながり、より賢明なアイデアであると考えている。後からボーナスコンテンツをアップセルすることもできる。ただし、大規模なポッドキャストでは別のアプローチの可能性もあるだろう。

例えば、Spotifyは有料フィード全体を含む有料サブスクリプションの契約をNPRと結んだ。NPRは5つの番組―How I Built This with Guy Raz、Short Wave、It’s Been a Minute with Sam Sanders、Code Switch、Planet Money―を公開し、5月4日から有料サブスクライバーには無料で提供される。これらの番組は「Plus」としてブランド化され(例:Planet Money Plus)、無料フィードと一緒に配信される。このケースでは、リスナーはボーナスの材料を得られないが、NPRをサポートすることになる。今後数週間のうちにさらに多くのNPR番組が独自のPlusバージョンとして公開される予定だ。

The Wall Street Journal(ウォール・ストリート・ジャーナル)は、Spotifyの有料サブスクリプションが今週登場することを報じた。記事の中で、購読を希望するiOSユーザーは取引を処理するためにウェブサイトに送られ、Appleのアプリ内購入要件を回避することに言及している。これはSpotifyにとってトリッキーな一線になる可能性がある。同社はApple批判の中心的存在であり、先週議会でApp Storeに関してAppleの反競争的行動を証言している。

アプリ内購入を迂回して、ユーザーにウェブサイトに行ってサブスクリプションを購入するように誘導しているわけだが、同社は、その説明はポッドキャストの制作者に任せているとしている。

Anchorの共同創設者であるMichael Mignano(マイケル・ミニャーノ)氏は次のように述べている。「基本的に、ポッドキャストを購読する方法や場所についてリスナーに情報を提供するのは各クリエイターに任されています。実際のサブスクリプションはAnchorのウェブページ—Anchorのクリエイターのプロフィールページで行われますが、認証後にSpotifyに戻ってくると、ロックは解除されます」。App Storeのルール上、Spotifyアプリが実際にこのウェブページを開くことはないという。(また、Spotifyはサブスクリプションベースの売上の一部を徴収していないため、Appleが数年前に設立したクリエイターへの寄付に対しては、たとえアプリ内課金を採用していたとしても、当面はカーブアウトを通じて保護されることになる。)

有料のポッドキャスト機能を利用するために、クリエイターは最初にエピソードを録画またはアップロードした後、Anchor内でエピソードにマークを付ける。別のポッドキャスティングアプリでコンテンツにアクセスしたいリスナーには、購読後にプライベートRSSフィードが提供される。

またSpotifyは、初めてSpotify Open Access Platform(OAP)を発表した。これにより、すでに他のプラットフォーム(競合サービスやプライベートRSSフィードを含む)で有料サブスクライバーとなっているクリエイターが、既存のログインや課金ソリューションを使って、そのコンテンツを現在のサブスクライバーに提供できるようになる。Spotifyによると、これはクリエイターが関係を直接コントロールするのに役立つという。しかしSpotifyは、そのコンテンツを同社のサーバー上で再ホストすることで、結果としてより広範な有料ポッドキャスト市場への洞察を得ることになる。

同社は、まだこのソリューションの完全な詳細を発表する準備はできていないが、今週中にいくつかのニュースを発表すると述べている。

有料ポッドキャストの提供に加えて、Anchorを使ってオーディオ広告のマーケットプレイスSpotify Audience Network(SPAN)を独立系ポッドキャストに開放する計画だという。これもまた、SpotifyがAppleと差別化されている領域だ。Apple Podcastでは、クリエイターは自分の広告を販売する責任があるため、収益の100%にとどまる。

これに対してSpotifyは、ポッドキャスト視聴者にサービスを提供することを目標に、広告技術に投資してきた。同社はこれまで、ネットワーク経由でMegaphone(2020年に買収)のインベントリのロックを解除していたが、今後はAnchorのクリエイターの一部がSPANを利用できるようになる。同社によると、5月1日に50のクリエイターを集めてスタートし、その後徐々に拡大していくとしている。

関連記事:Spotifyがポッドキャストのホスティングと広告会社のMegaphoneを約250億円で買収

カテゴリー:ネットサービス
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画像クレジット:stockcam / Getty Images

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(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

アルゴリズムに焦点を当てた第230条の改正に向け米議員が公聴会で討議

米国時間4月25日に行われたアルゴリズムに関するビッグテック公聴会では、CEOをこき下ろす攻撃的な自由参加の討論会というよりも、話を聞くことを目指し、そういった意味では、ほとんど成功を収めたと思う。

関連記事:次のテック公聴会の標的はSNSのアルゴリズム、YouTubeが初めて証言へ

珍しいことに、公聴会はFacebook(フェイスブック)、YouTube(ユーチューブ)、Twitter(ツイッター)の最高経営責任者ではなく、ポリシー担当主任(ポリシーリード)からの証言を中心に行われた。数時間に及んだ討議では、大きな進展はなかったが、それでも世界で最も影響力を持つ者が一貫して「その件については後ほど説明する」に終始するよりは実りがあったと言えるだろう。

公聴会で議員たちはソーシャルメディアのエコーチャンバーと、アルゴリズムによる、完全に人の行動を再形成することができるプラットフォームを通じたコンテンツの拡散方法について嘆いた。

「この高度技術は、我々の時間と注意をソーシャルメディアに引き付けるよう設計されたアルゴリズムに用いられており、その結果として、子どもたちの注意範囲や、公開講演の質、公衆衛生、ひいては民主主義そのものに危害が及ぶ可能性がある」とChris Coons(クリス・クーンズ )上院議員(民主党・デラウェア州)は言及した。クーンズ上院議員はこの公聴会を開いた、プライバシーとテクノロジーに関する上院司法小委員会会長を務めている。

クーンズ上院議員は、アルゴリズムはイノベーションを推進するが、そのダークサイドには大きな代償があると述べた。

これはもちろん今に始まったことではないのだが、議会の解決に向けての動きは非常に遅く、同じような公聴会が毎回繰り返されている。火曜日の公聴会では、超党派合意のいくつかの領域が強調された。これにより民主党によって厳しく制御される上院を通過する技術改正法案の可能性が定まるかもしれない。クーンズ上院議員は「広範的に超党派の解決策」に到達できるかもしれないという楽観的な見方を示した。

それはどのようなものなのか?おそらくは 通信品位法第230条の改正だろう。これについては何年も前から大々的に記事にしてきている。この法律はユーザーが作成したコンテンツに関する責任からソーシャルメディア企業を保護するもので、バイデン政権の新しい民主党主導の上院と、以前のトランプ政権に影響された共和党主導の上院の両方に共通する、技術規制に関する話題である。

米国時間2021年4月27日、米国ワシントンDCで行われた上院司法小委員会の公聴会にリモート参加し、発言するTwitter Inc.の米国公共政策部長Lauren Culbertson(ローレン・カルバートソン)氏(画像提供: Al Drago/Bloomberg / Getty Images)

壊れたビジネスモデル

公聴会で、議員たちは問題の核心として大手ソーシャルメディア企業が利益を得る方法に固有の欠陥について指摘した。特定の欠陥について企業を批判するのではなく、ソーシャルメディアの多くの問題が噴き出るコアビジネスモデルに主に重点を絞ったのだ。

Ben Sasse(ベン・サッセ)上院議員(共和党・ネブラスカ州)は「本当に複雑で質的な問題には、簡単な量的解決策があるという考えを押しのけることが非常に重要だと思う」と語った。ソーシャルメディア企業は、ユーザーを自社製品に夢中にさせ続けることで利益を得ているため、本当の解決策ではそのビジネスモデルともどもなくす必要があると主張した。

Josh Hawley(ジョッシュ・ホーリー)上院議員(共和党・ミズーリ州)は「こうした企業のビジネスモデルは中毒である」と同意し、ソーシャルメディアを意図的な「注目のトレッドミル」と呼んだ。

Google(グーグル)元社員でテック評論家のTristan Harris(トリスタン・ハリス)氏は、自身の証言において、テック企業がその中心的な設計の信条についてどのように納得させるのかについて歯に衣着せることなく語った。「それはまるで、人質の動画で人質の話を聞くようなものだ」として、エンゲージメントを探すビジネスモデルを舞台裏で突き付けている銃に例えた。

第230条に対する世間の注目

議員がこのような深く根付いたインセンティブを破壊するために提案する1つの大きな方法は何であろう?ソーシャルメディア企業が享受している第230条の保護にアルゴリズムに焦点を置いた例外を追加することだ。そのアプローチを取る法案がいくつか上がっている。

法案の1つは、2020年に John Kennedy(ジョン・ケネディ)上院議員(共和党・ルイジアナ州)、Paul Gosar(ポール・ゴーサー)下院議員(共和党・アリゾナ州)、Tulsi Gabbard(トゥルシー・ギャバード)下院議員(民主党・ハワイ州)が提案した、1000万人以上のユーザーを持つプラットフォームに対し、第230条の保護を継続させたい場合には、ユーザーの行動やデモグラフィックデータに基づくコンテンツを提供する前にユーザーの許可を得ることを求めるものだ。これはユーザーが特別にそのように選択しない限り「ユーザーの見解を分極する情報をユーザーに提供する」ことでエンゲージメントを向上させるプラットフォームから第230条の免責を取り消すのが狙いだ。

また別の法案「Protecting Americans from Dangerous Algorithms Act(危険なアルゴリズムから米国民を守る)法令」では、Anna Eshoo(アンナ・エシュー)下院議員(民主党、カリフォルニア州)とTom Malinowski(トム・マリノウスキー)下院議員(民主党、ニュージャージー州)が、第230条の保護の禁止と「企業のアルゴリズムがオフラインの暴力に繋がる誤報を増幅する場合」にその企業の責任が問われることを提案している。

第230条の擁護者たちは、不十分に対象を絞った法律の変更により、現在の近代的なインターネットは混乱に陥り、その結果意図した改正の努力範囲を超えて連鎖的に悪影響がおよぶと主張している。法律の完全な廃止はほぼ確実に提案されることはないが、わずかな調整でさえ、良くも悪くも、インターネットビジネスが完全に再編される可能性があるとしている。

ホーリー上院議員は、利益を追求するためにアルゴリズムを使用する企業に対してより広い提案をした。「行動広告やアルゴリズムによる増幅を行うプラットフォームから第230条の保護を単に廃止すべきでは」と問い、法律の完全廃止に反対ではないと付け加えた。

上院の反トラスト小委員会委員長を務めるAmy Klobuchar(エイミー・クロブシャー)上院議員(民主党・ミネソタ州)は、アルゴリズムの問題をテック業界の反競争的行為に結び付け「ある企業がその傘下にある全員を買収しているのであれば、その企業が付加製品を開発して誤情報を提供できたかどうか知ることは決してありません。なぜなら競争がないのですから」と語った。

小委員会メンバーのクロブシャー上院議員とMazie Hirono(メイジー・ヒロノ)上院議員(民主党・ハワイ州)は独自の主要な第230条改正法案「Safe Tech Act(安全なテクノロジーに関する法令)」を出しているが、この規制ではアルゴリズムは広告や有料コンテンツよりも問題とされていない。

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アルゴリズムのレンズを通じて第230条を鑑みる主要法案は少なくとももう1つある。ビックテック批判で有名なDavid Cicilline(デビッド・シシリン)下院議員(民主党、ロードアイランド州)が第230条の法案を提案する予定だ。これは、エンゲージメントを向上させ、私腹を肥やすためにアルゴリズムに依存する企業に対し、免責を廃止するものとなる。

「これは非常に複雑なアルゴリズムで、エンゲージメントを最大化して広告価格を吊り上げ、企業にさらなる利益をもたらすように設計されている」と シシリン下院議員は2021年3月Axios(アクシオス)に語った。「これは一連のビジネス上の決定であり、企業が責任を問われるべきだと主張するのは簡単なのかもしれない」。

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Dragonfly)

バイデン大統領が「がんを撲滅」するために医療高等研究計画局の設立を提案

Biden(バイデン)米国大統領は、現地時間4月28日に議会で行った演説において、ワクチン接種の取り組みについて国民に報告するとともに、政権の野心的な目標を説明した。

バイデン大統領が就任してからの100日間は、何百万人もの米国民を貧困から救い、気候変動に歯止めをかける、広範な立法措置が印象的だった。だが、議会の上下両院合同会議で初めて行った施政方針演説では、それより規模は小さいものの劣らず野心的なもう1つの計画を強調した。それは「我々が知っている限りのがんを撲滅する」というものである。

「これ以上に価値のある投資はありません。これ以上に党派を超えた取り組みもありません」と、水曜日の夜に語ったバイデン大統領は「それは私たちの力でできることです」と続けた。

この発言は突然出てきたものではない。ホワイトハウスは2021年4月初め、画期的な健康研究のための新しい政府機関を設立するために、65億ドル(約7075億円)の予算要求を発表した。この機関は「ARPA-H(Advanced Research Projects Agencies for Health、医療高等研究計画局)」と呼ばれ、NIH(National Institutes of Health、国立衛生研究所)の中に設置される。当初はがん、糖尿病、アルツハイマー病などを対象とするが、さらに医療研究を根本的に変えるような「変革的イノベーション」を追求することになる。

この65億ドルの投資は、NIH予算の510億ドル(約5兆5520億円)の一部だ。しかし、ARPA-Hは、NIHの中に置くのではなく、保健福祉省の下に置くべきだと批判する専門家もいる

ARPA-Hは、国防省の高等研究計画局(DARPA)をモデルにしている。DARPAは、国防への応用を目的としてムーンショット的な技術を開発している機関だ。DARPAの目標は、科学というよりも空想科学のように聞こえることが多いものの、これまでに、GPSの前身となる技術や、現代のインターネットに発展したコンピュータネットワークであるARPANETなど、現在のさまざまなユビキタス技術に貢献したり、その基礎を作り上げてきた。

DARPAは、保守的で漸進的な研究チームとは異なり、他の政府機関よりもシリコンバレーに近い形で、大きな科学的進歩を積極的に追求している。バイデン大統領は、DARPAのモデルを最先端の医療研究に用いることで、米国がバイオテクノロジーの分野で後れを取ることはないようにしようと考えている。

「中国や他の国々が急速に迫ってきています」と、バイデン大統領は演説の中で述べた。「私たちは、未来の製品や技術となる、高度なバッテリー、バイオテクノロジー、コンピューターチップ、クリーンエネルギーを開発し、優位に立たなければなりません」。

関連記事:スタートアップにはバイデン大統領のインフラ計画を支持する110兆円分の理由がある

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Google Payがアップデート、食料品セール情報・交通カード・家計管理機能を追加

Google Pay(グーグル・ペイ)の2020年11月の大規模なリニューアルで個人向け会計サービスに進出したGoogleは、本日米国時間4月29日、Google Payをユーザーの日常生活の一部にするための新機能を公開した。このアップデートによって、食料品のセール情報や公共交通機関の支払い、支出の分類などに利用できるようになる。

大手スーパーのSafeway(セーフウェイ)とTarget(ターゲット)との提携を通じて、Google Payユーザーはこれらの店のセール内容が書かれたチラシを見ることができる。Safewayは500以上の店舗にGoogle Payプラットフォームを導入し、Targetも全米の店舗で同様の機能を提供する予定だ。Google Payユーザーは、おすすめのお得情報をお気に入りに登録して後で見ることができる。さらに、近々Google Payは、位置情報が有効になっていれば、ユーザーが参加店舗の近くに行くとその週のセールを通知する機能も導入する。

関連記事:Google Payがリニューアル、オプトインで支出履歴の把握など家計簿サービス的に進化

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今回拡張されるGoogle Payの交通機関機能は、現在すでに米国内80以上の年で乗車券の購入と使用に対応している。近々新たに加わる中には、シカゴとサンフランシスコ・ベイエリアという主要市場がある。これは、Apple Pay(アップル・ペイ)が最近提供を開始して大いに歓迎されたベイエリアのClipper(クリッパー)カードへの対応を追うものだ。GoogleはToken Transitとも統合して、全米の小都市の交通機関へも対応範囲を広げる。

関連記事:iPhoneやApple Watchでベイエリアの公共交通機関支払いが可能に

近々、Googel Payアプリを利用しているAndroid(アンドロイドユーザー)は、アプリのホーム画面から「Ride Transit(交通機関を利用する)」ショートカットから乗車券を使えるようになる。ユーザーはそこで交通カードを購入したりチャージしたりできる。カード購入後は、スマホをリーダーにかざす(あるいはリーダーがなければチケット画面を見せる)だけで乗車できる。

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最後に紹介するのは、Google Payを使って家計を管理する機能だ。2020年の大改訂で、Googleは11社の銀行と提携し、Plex(プレックス)という新しいタイプの銀行口座をスタートさせることを発表した。増え続けるモバイル専門デジタルバンクのライバルとなるGoogle Payアプリは、Citi(シティ)、Stanford Federal Credit Union(スタンフォード連邦信用組合)などの提携銀行が実際に運用している口座の窓口として機能する。

新機能の一環として、Google Payユーザーは、自身の消費行動や残高、請求書などを「Insights(インサイト)」タブを通じてこれまで以上に便利に確認できるようになる。これを使えば、残高はいくらか、期限が迫っている請求書は何かを見たり、大きい取引のアラートを受けたり、分類別や店舗別に消費状況を追跡することができる。Googleは取引を自動的にカテゴリー分けしているので、一般的な分類(「食料」など)でも特定の店名(「バーガーキング」など)でも検索できる、とGoogleは説明している。

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これらの機能は、決済アプリを使ってユーザーのデータをさらに集めようとするGoogleの計画の一部でもある。そのユーザーはGoogle Payパートナーからの売り込みターゲットになる。

2020年改定されたアプリが公開された時、ユーザーはカスタマイズ機能へのオプトインを勧められた。ユーザーにとって意味のあるよりよいセール広告をアプリが表示するためだ。Googleはユーザーのデータを第三者のブランドや小売店に直接提供することはないと述べているが、追跡業界がAppleのプライバシー方針変更に振り回されている中、同アプリは企業が潜在顧客とつながるパイプを提供することになるだろう。

そうなるために、今後Google Payがもっと便利な、あるいは「必携の」機能を出してくることが予想される。

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nob Takahashi / facebook

グーグルが元受刑者のキャリアとデジタルトレーニングに関する取り組みを発表

Google(グーグル)は米国時間4月29日、Grow with Google Career Readiness for Reentryの開始を発表した。この取り組みは非営利団体のThe Last Mile、Center for Employment Opportunities(CEO)、Defy Ventures、Fortune Society、The Ladies of Hope Ministriesとの連携により、元受刑者に就職準備とデジタルスキルのトレーニングを提供することを目的としている。

グーグルが本日公開したブログ記事によると、出所後の失業率は全米平均の5倍にも上り、黒人の出所者は差別的な扱いを受けているためさらに高い失業率となっている。全体では、毎年約60万人の米国人が出所後に就職への移行を試みている。

このプロジェクトでは2021年から1万人を対象に、プロジェクトベースとビデオ学習を組み合わせたカリキュラムを実施する。グーグルによると、学習内容は5つのポイントで構成されている。

  1. 基礎から始める
  2. 仕事探し
  3. 仕事への準備
  4. オンラインの安全性
  5. 「次のステップ」の仕事への備え

YouTube(ユーチューブ)の人権担当グローバルヘッドであるMalika Saada Saar(マリカ・サーダ・サール)氏はこのニュースに関連した声明の中で「デジタルスキルトレーニングやジョブコーチングへのアクセスがないことは、受刑者が再就職して経済的可能性を高めようとする際に、非常に不利な状況をもたらします。私たちは出所の影響を受けた男性と女性、母親と父親にデジタルスキルトレーニングを提供し、再就職を成功させるために真の専門知識とリーダーシップを発揮しているプログラムパートナーと協力できることに興奮しています」と述べている。

グーグルによるとこのプログラムは、刑事司法改革の非営利団体に4000万ドル(約44億円)、コンピューターサイエンスの学習に6000万ドル(約65億円)を投資するという、より大きな取り組みの一環だ。

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(文:Brian Heater、翻訳:塚本直樹 / Twitter

【コラム】バイデン政権はインクルーシブであるためにAI開発の取り組みにもっと力を入れる必要がある

本稿の著者Miriam Vogel(ミリアム・フォーゲル)氏は、人工知能に存在する無意識の偏見を減らすことを目的とした非営利団体EqualAIの代表兼CEO。

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人工知能国家安全保障委員会(NSCAI)は2021年3月、不安なメッセージを公的に伝える報告書を発表した。「米国は、AI時代に防衛したり競争したりする準備ができていない」というものだ。この報告書は、直ちに回答が求められる2つの重要な質問につながる。つまり、米国がAIの開発と導入に遅れをとった場合、米国は世界の超大国であり続けるのか?そして、この軌道を変えるために私たちは何ができるのか?

一見、中立的に見える人工知能(AI)ツールを放置すると、不平等が拡大し、事実上、差別が自動化されてしまう。テクノロジーが可能にする弊害は、すでに信用判断、医療サービス広告などで表面化している。

このような事態の再発と規模の拡大を防ぐために、Joe Biden(ジョー・バイデン)政権は、AIと機械学習モデルに関する現行の法律を明確にする必要がある。これは、民間企業による利用をどのように評価するかという点と、政府システム内でのAI利用をどのように管理するかという点の両方においてだ。

一見、中立的に見える人工知能(AI)ツールを放置すると、不平等が拡大し、事実上、差別が自動化されてしまう。

政権は、ハイテク分野に重要な地位の人事を置いたり、就任初日にEquitable Data Working Group(公平なデータのためのワーキンググループ)を設立する大統領令を発布するなど、好印象を与えている。これにより、米国のAI開発とデジタル空間における公平性の確保を懸念する懐疑的な人たちをも安心させた。

しかし、AIへの資金提供を現実のものとし、その開発と利用を保護するために必要なリーダーと体制を確立するという強い決意を政権が示さなければ、その安心も束の間のことだろう。

優先順位の明確化が必要

連邦政府レベルでは、AI政策や技術分野における平等性へのコミットメントが大きく変化してきている。OSTPの副局長であるAlondra Nelson(アロンドラ・ネルソン)、NECのTim Wu(ティム・ウー)、NSCのKurt Campbell(カート・キャンベル)など、バイデン政権内の注目を集める人事を見ると、内部の専門家による包括的なAI開発に大きな焦点が置かれていることが分かる。

NSCAIの最終報告書には、包括的なAI開発のためのより良い基盤を実現するために重要となる提言が含まれている。例えば、現在および将来の従業員を訓練するためのU.S. Digital Service Academy(米デジタルサービスアカデミー)を通じて新たな人材パイプラインを構築することなどが挙げられている。

また、報告書では、副大統領が率いる新しいTechnology Competitiveness Council(技術競争力協議会)の設立を推奨している。これは、AIのリーダーシップに対する国の取り組みを最高レベルの優先事項として維持するために不可欠なものとなるだろう。ハリス副大統領が大統領との戦略的パートナーシップを持っており、技術政策に精通していること、公民権に力を入れていることなどを考慮すると、AIに関する政権のリーダーシップをハリス副大統領が陣頭指揮することは理に適っていると思われる。

米国は模範となるべきだ

AIは、何千通もの履歴書に目を通し、適している可能性のある候補者を特定するなど、効率化を実現する上で強力であることはわかっている。しかし、男性の候補者を優先的に採用するAmazonの採用ツールや、人種に基づく信用の「デジタル・レッドライニング」など、差別を拡大することもできてしまう。

バイデン政権は、AIが政府の業務を改善する方法についてのアイデアを募る大統領令を各省庁に出すべきだ。また、この大統領令では、米国政府が使用するAIが意図せずに差別を含む結果を広めていないかどうかを確認することも義務付けるべきである。

例えば、AIシステムに組み込まれた有害なバイアスが、差別的な提案や、民主的で包括的な価値観に反する提案につながっていないかどうかを評価する。そして、AIが常に反復して新しいパターンを学習していることを考慮すると、定期的に再評価を行うスケジュールを設定するべきだ。

責任あるAIガバナンスシステムの導入は、特定の利益を拒否する際にデュープロセスの保障が求められる米国政府においては特に重要だ。例えば、AIがメディケイドの給付金の配分を決定するために使用され、そのような給付金がアルゴリズムに基づいて修正または拒否された場合、政府はその結果を説明できなければならず、これはまさに技術的デュー・プロセスと呼ばれている

説明可能性、ガイドライン、人間の監督なしに決定が自動システムに委ねられると、この基本的な憲法上の権利が否定されるという、どうしようもない状況に陥ってしまう。

同様に、主要企業によるAIの安全対策を確実なものにするにあたり、政権はその調達力を通じて絶大な力を持っている。2020年度の連邦政府の契約費は、新型コロナ対策費を含める前でも、6000億ドル(約64兆9542億円)を超えると予想されている。米国政府は、AIシステムを連邦政府が調達する際のチェックリストを発行すれば、非常に大きな効果を上げることができる。これにより、関連する市民権に配慮しつつ、政府のプロセスが厳格かつ普遍的に適用されるようになるだろう。

AIシステムに起因する差別からの保護

政府は、AIの弊害から私たちを守るためのもう1つの強力な鍵を握っている。調査および検察の権限だ。判断がAI搭載システムに依存している場合、現行の法令(ADA、フェアハウジング法、フェアレンディング法、公民権法など)の適用可能性を明確にするよう各機関に指示する大統領令が出れば、世界的な大混乱に陥る可能性がある。米国で事業を行っている企業は、自社のAIシステムが保護対象クラス(Protected Class)に対する危害を加えていないかどうかをチェックするきっかけができることだろう。

低所得者は、AIの多くの悪影響に対して不相応に弱い立場にある。特にクレジットやローンの作成に関しては、従来の金融商品へのアクセスや、従来のフレームワークに基づいて高いスコアを得ることができない可能性が高いため、その傾向が顕著だ。そしてこれが、そのような判断を自動化するAIシステムを作るためのデータとなる。

消費者金融保護局(CFPB)は、差別的なAIシステムに依存した結果の差別的な融資プロセスについて、金融機関に責任を負わせる上で極めて重要な役割を果たす可能性がある。大統領令の義務化は、AI対応システムをどのように評価するかを表明するための強制機能となり、企業に注意を促し、AI利用に関する明確な予測で国民をよりよく保護することができる。

個人が差別的な行為をした場合には責任を問われ、説明もなく恣意的に公共の利益が否定された場合にはデュー・プロセス違反となることが明確になっている。理論的には、AIシステムが関与している場合、これらの責任と権利は容易に移行すると思われるが、政府機関の行動や判例(というよりもむしろ、その欠如)を見る限り、そうではないようだ。

差別的なAIに対する法的な異議申し立てを基本的に不可能にするようなHUD(都市住宅開発省)規則案を撤回するなど、政権は良いスタートを切っている。次のステップとして、調査や訴追の権限を持つ連邦政府機関は、どのようなAI行為が審査の対象となり、現行の法律が適用されるのかを明確にする必要がある。例えば、HUDは違法な住宅差別について、CFPBは信用貸しに使用されるAIについて、労働省は雇用、評価、解雇の際に行われる判断に使用されるAIについてといった具合だ。

このような行動は、苦情に関する原告の行動に有益な先例を作るという利点もある。

バイデン政権は、差別のない包括的なAIの実現に向けて、心強い第一歩を踏み出した。しかし、連邦政府は、AIの開発、取得、使用(社内および取引先)が、プライバシー、公民権、市民的自由、米国の価値観を保護するような方法で行われることを連邦政府機関に要求することで、自らの問題を解決しなければならないだろう。

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(文:Miriam Vogel、翻訳:Dragonfly)

テック業界に対するリナ・カーン氏の時宜を得た懐疑論はFTCの承認公聴会を新鮮かつ友好的な方向に導くものだ

近ごろの承認公聴会がどう進むかは誰にもわからない。現状と大企業に挑みながらも重要な地位に指名された若い部外者にとっては特にそうだ。FTC委員のポジションに就く予定のLina Khan(リナ・カーン)氏はまさにそのような人物だが、米国時間4月22日に行われた上院商業委員会の承認公聴会で、意外なほど快適な時間を過ごした。おそらく、反トラストに対する彼女の因習打破的なアプローチが昨今の政策を良い方向に導いているからであろう。

コロンビア大法科大学院の准教授であるカーン氏は「Amazon’s Antitrust Paradox(アマゾンの反トラスト・パラドックス)」という鋭敏な論文を通じてテクノロジー業界で一躍有名になった。(同氏は最近、テクノロジー政策に関する下院の報告書にも寄稿している。)

2018年に同論文が発表されたとき、Amazonが自社の立場を乱用し始めたという印象は、一部の業界では常識化していたが、連邦議会ではあまり認識されていなかった。しかし、自由放任主義や不十分な規制がAmazon、Google、Facebookに(手始めに)モンスターを生み出しているという意識の高まりは、これらの新進企業を元の場所に戻す何らかの方法を見つける必要があるという、超党派の稀有な合意につながった。

それが今度は、目的を共有しているという感覚と、承認公聴会での仲間意識をもたらした。この公聴会はトリプルヘッダーで行われ、カーン氏はNASAの責任者に指名されたBill Nelson(ビル・ネルソン)氏、商務省の法律顧問に就任予定のLeslie Kiernan(レスリー・キーナン)氏とともに、実に有意義な、3時間ほどの短い会話を交わした。

カーン氏はバイデン政権の中で、ビッグテックなど手に負えなくなったビジネスに立ち向かうための新たなアプローチを提示している人物の1人だ。両陣営の上院議員から誠実な印象の質問が寄せられ、自信に満ちたカーン氏から真摯な申し分のない回答が提示された。

セクション230や、不正な委員会、上院議員に関するものを含め巧妙にカーン氏を導くいくつかの動きを避けながら、その回答は主に、こうした秘密主義の強力な企業に対する規制のアプローチにおいて、FTCは十分な情報を得てより先制的な行動を取るべきだという同氏の専門家としての意見を再確認するものとなった。

以下に、いくつかの主要な問題に対する同氏の見解を示す質疑応答を抜粋して紹介する(回答はわかりやすくするために若干編集されている)。

FTCがGoogle、Facebook、ニュースプロバイダーの争いに介入したことについて。

「すべてが議論の対象になる必要があります。明らかにローカルジャーナリズムは危機に瀕しており、新型コロナウイルス感染症を巡る現下の情勢は、信頼できるローカルニュースの情報源がない場合に引き起こされる、民主主義の深刻な緊急事態を浮き彫りにしていると思います」。

同氏はまた、広告市場の集中化や、業界全体に広範な影響を及ぼす可能性があるアルゴリズム変更などの恣意的な性質についても言及した。

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ソーシャルメディア企業は「一般通信事業者」と見なされるべきだというClarence Thomas(クラレンス・トーマス)氏の困惑する提案について。

「それは多くの興味深い議論を引き起こしたと思います」と彼女は極めて慎重に語った。「Amazonの論文の中で、私はこれらの支配的なデジタルプラットフォームについて考える際の2つの潜在的な道筋を特定しました。その1つは、競合法を施行し、これらの市場が競争的であることを確実にすることです」(独占禁止法の使用など)。

「もう1つは、規模の経済やネットワークの外部性があるために、これらの市場が少数の企業によって支配され続ける可能性があることを認識した場合、別のルールを適用する必要があるということです。私たちには、集中度が高い場合にどのような種類の規制を適用できるかについて考えてきた長い法的伝統があり、一般通信事業として捉えることはそうしたツールの1つです」。

「これらの企業の一部は現在、非常に多くの市場に統合されているため、どの特定市場を対象としているかによって、異なるツールのセットに対応する可能性があることを明確にしておく必要があります」。

(これは、一般通信事業や既存の独占禁止規則がこの問題の対処にまったく適さないということを表す非常に丁寧な言い方だ)。

FTCが承認した過去の企業合併を再検討する可能性について。

「同委員会のリソースは、経済の規模の拡大や、同委員会が検討している案件の規模と複雑度の増大に追いついていませんでした」。

「デジタル市場は特に急速に動いているため、市場への潜在的な集中を気にする必要はないという前提がありました。なぜなら、どんな力の行使も参入や新たな競争によって規律づけられるからです。もちろん今では、市場には実際に大きなネットワーク外部性があり、それによって市場をより厄介なものにしていることが理解されています。後から振り返ってみると、これらの合併レビューは機会を逸したものだったという感覚が高まっているのです」。

(ここでは、Blackburn[ブラックバーン]上院議員[共和党・テネシー州選出]がスペクトラムプラン ― 不正な委員会、上院議員について尋ねる前にカーン氏の「ポジション就任における経験の欠如」を指摘するという、数少ないネガティブな瞬間の1つが見られた)。

Facebookに対する指令のようなものを強制することの難しさについて。

「課題の1つは、これらの企業と執行機関や規制機関との間に存在する情報の非対称性です。いくつかのケースでは、当局が根底にあるビジネスの現実や、これらの市場がどのように機能しているかという経験的な現実に追いつくのに少し時間がかかっていることは明らかです。ですから、少なくとも、当局がペースを保つためにできることを確実に行っていくことが重要になります」。

関連記事:FacebookはFTCの反トラスト法違反訴訟にビッグテックの荒削りな戦略で反論

「ソーシャルメディアにはブラックボックスアルゴリズムという独自のアルゴリズムがあり、実際に何が起こっているのか把握するのを困難にすることがあります。FTCは情報収集能力を活用して、こうしたギャップの一部を緩和する必要があります」。

子どもをはじめとする脆弱なグループに対する保護をオンラインで強化することについて。

新型コロナウイルスのパンデミックにより、家族や子どもたちがこうした[教育に関わりのある]テクノロジーに特に依存するようになっていることを考えると、その危険性は高まっています。そのため、ここでは特に注意を払う必要があります。従来のルールは、離れたところではなく、近いところに置くべきです。

全般的に見て、党派を超えた議論はほとんど見られず、双方において、カーン氏はその職務での実務経験がないとしても(FTC委員のような要職では珍しいことではない)、誰もが求めるような能力を備えた候補者だとの認識が多勢を占めていた。さらに独占禁止法や競合の問題について彼女が高く評価され、かなり断定的な立場をとっていることは、すでに規制の独走状態にあるAmazonとGoogleを一旦は守勢に立たせるのに役立つかもしれない。

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

次のテック公聴会の標的はSNSのアルゴリズム、YouTubeが初めて証言へ

議会では毎週のように大きなテック関連の公聴会が開かれている。相次ぐ反トラスト改革法案が待っている中、民主党議員らは、世界最強クラスのテック企業を再び呼び出して尋問しようとしている。

米東部時間4月27日午前10時に予定されている次期公聴会で、上院司法委員会のプライバシーおよびテクノロジー小委員会は、アルゴリズムによる誤情報増幅の問題に焦点を絞る。具体的には、いかにアルゴリズムが危険なコンテンツを増幅し、ソーシャルプラットフォームにおけるユーザー行動を変えるかを検討する。

小委員会議長のChris Coons(クリス・クーンズ)上院議員は、以前テックCEOたちを連れてくることを示唆していたが、4月27日の公聴会では、代わりにFacebook(フェイスブック)、Twitter(ツイッター)、Youtube(ユーチューブ)各社のポリシー責任者が証言台に立つことになった。

この公聴会は、YouTubeに圧力をかけられる稀有な機会になるかもしれない。世界最大級のソーシャルネットワークでありながら、そして、過激思想と誤情報のコントロールに関する再三の失敗に関する透明性を欠いているにもかかわらず、YouTubeは滅多に議会の顕微鏡下に置かれたことがない。YouTubeの公開ポリシー地域ディレクターであるAlexandra Veitch(アレクサンドラ・ヴェイッチ)氏が会社の代表として召喚される。

過去の大きな公聴会では、Google CEOのSundar Pichai(サンダー・ピチャイ)氏がYouTubeの親会社を代表して登場することが多く、YouTubeのCEOであるSusan Wojcicki(スーザン・ウォジスキ)氏はどういうわけか監視の目を逃れてきた。Googleは巨大な存在であることから、議員はピチャイ氏をGoogleの検索と広告ビジネスを巡る問題で追求することになる結果、YouTubeとそのポリシー特有の問題は紛れてしまいがちだった。

先週の敵対的アプリ・ストア公聴会にAppleだけでなく同社を批判する人々が出席したのと同様、誤情報研究者のJoan Donovan(ジョーン・ドナヴァン)博士と元Googleで大型テック企業を再三批判しているTristan Harris(トリスタン・ハリス)氏も、火曜日に証言する。この緊張感がより深い尋問につながり、議員の技術的知識の不足を補う外部専門家の意見をもたらすに違いない。

これらの会社のポリシー責任者は、見出しを派手に賑わすことはないかもしれないが、各社が毎日行っているコンテンツ選択に関する彼らの知識の深さを踏まえると、より本質的な情報を引き出すチャンスだ。Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏やJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏などのテックCEOは、これまでに数多くの公聴会に引っ張り出された結果、和合が始まり、最高幹部たちははほとんど何も晒すことなく、彼らのプラットフォームで行われている日々の意思決定に関してだんまりを決め込むようになった。小委員会の有力メンバーであるBen Sasse(ベン・サス)議員(共和党・ネブラスカ州)はその点を強調し、公聴会は学ぶ機会であり、ヒアリングショーではないと語った。

民主党はアルゴリズムに関して以前から警鐘を鳴らしてきた。共和党がトランプ政権の後半を費やして、テック企業が削除した投稿をしつこく追い回していたのに対して、民主党は暴力的コンテンツや過激主義、ときには極端な誤情報などが掲載を放置され、さらにはテック企業がめったに明らかにしない秘密のアルゴリズムによって強調さえされるていることに焦点を当ててきた。

アルゴリズムの透明性は、ほとんど明らかにされてこなかったが、それも変わる可能性がある。狙いを絞った上院の改革法案230条は、大企業のアルゴリズムが過激主義を増幅したり、公民権を侵害した時には、法による保護を奪い取るものだ。

Twitter CEOのジャック・ドーシー氏は、別のアプローチを検討中であることを示し、将来ユーザーが好きなアルゴリズムを選べるようになり、サードパーティー・マーケットプレイスのようなものから選べる可能性さえ示唆した。いうまでもないが、Facebookは自分たちのユーザーにアルゴリズムの制御を与える計画を一切示していない。

誰が何を見るかをプラットフォームが決める方法に大きな変更が起きるのはずっと先のことだろうが、4月27日には議員たちがブラックボックスをこじ開けようとするところを見られることを期待しよう。

関連記事:TwitterとFacebookのSNSに対する考え方の違いが最新テック公聴会で鮮明に

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(文:Taylor Hatmake、翻訳:Nob Takahashi / facebook

アップルが米国に5年で46兆円超投資し2万人を新規雇用、ノースカロライナに新社屋

Apple(アップル)は米国4月26日朝、今後5年間で4300億ドル(約46兆4868億円)超を投資するという抜本的な計画を発表した。ここには米国の全50州での「経済的恩恵」が含まれ、同期間に2万人超の雇用を創出するとしている。

計画は2018年に同社が発表したものを拡大しており、元々の3500億ドル(約37兆8343億円)から20%引き上げた。計画の中心となるのは、待望のノースカロライナ社屋の建設だ。機械学習やAIのような新興分野に専従する3000人など、リサーチ・トライアングル首都圏への10億ドル(約1081億円)の投資が含まれる。

「イノベーションは長らくノースカロライナのコーリングカードでした。新しい社屋をリサーチ・トライアングルに建設するというAppleの判断は、ノースカロライナ州の良好なビジネス環境、ワールドクラスの大学、テックのスキルを持った労働者、そして多くの人がノースカロライナをホームと呼びたくなる友好的で多様なコミュニティの重要性を示しています」と州知事は共同声明で述べた。「この発表は州全域のコミュニティに恩恵をもたらします。経済を成長させ続け、 トランスフォーメーショナルな産業と高賃金の仕事をノースカロライナにもってくるために協業することを誇りに思います」。

Appleはまた、ローリー・ダーラム周辺エリアのコミュニティと学校のための1億ドル(約108億円)の基金と、インフラへの1億1000万(約118億円)の支出の概要も示した。

「回復と再建のこのときに、Appleは米国全50州のコミュニティに行き渡らせる長期投資で米国のイノベーションと製造へのコミットメントを倍増させます」とTim Cook(ティム・クック)氏は投資計画のニュースリリースで述べた。「当社は5Gからシリコンエンジニアリング、人工知能に至るまでの最先端分野で雇用を創出し、次の世代のイノベーティブな新規事業に投資します。そして、より環境に優しく公平な未来に向けて取り組みを進めます」。

Appleが拠点を構えるカリフォルニア州、それからコロラド州、テキサス州、ワシントン州、アイオワ州における取り組みの概要も示された。この中ではカリフォルニア州がまず最初に最大の恩恵を受け、サンディエゴのオフィスで5000人超を、カルバーシティで3000人超を新規に雇用する。インディアナ州とケンタッキー州、テキサス州はAppleが2017年に設置した50億ドル(約5405億円)のAdvanced Manufacturing Fundの一環としてすでに雇用を始めている。

今回のニュースの1週間前には、ウィスコンシン州がフラットスクリーンテレビを製造するはずだったFoxconn(フォックスコン)の工場を大幅に縮小する計画を発表した。Donald Trump(ドナルド・トランプ)氏は大統領時代、クック氏を含むさまざまなテック企業のトップの機嫌を取る一方で、計画されていたFoxconnの工場を「世界8つめの不思議」と呼び、製造を米国に戻す計画の中心に据えていた。

関連記事:トランプ氏が強引に進めたFoxconnのウィスコンシン工場計画が大幅縮小

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(文:Brian Heater、翻訳:Nariko Mizoguchi

SoftBankが米国のヒスパニック系移民向けサービスに大型投資

ロサンゼルスを拠点とするスタートアップWelcome Techは移民コミュニティを対象とした大規模なデジタル・プラットフォームを構築中だ。このほどTTV Capital、Owl Ventures、SoftBank Groupが立ち上げた1億ドル(約107億9000万円)のSB OpportunityFundが共同でリードしたシリーズBのラウンドで3500万ドル(約37億8000万円)の資金を調調達した。

Crosscut Ventures、Mubadala Capital、Next Play Capital、Owl Capitalもラウンドに参加しており、2010年のWekcome Techの創立以来の調達総額は総額は5000万ドル(約53億9000万円)に達した。同社はテキサス州サンアントニオにもオフィスがあるが、2020年3月に800万ドル(約8億6000万円)のシリーズAラウンドを実施している。

移民によって、移民のために作られたWelcome Techは、その名が示すとおり、米国への移民を歓迎し社会に慣れることを助け、大きな成功を収めるために役立つプラットフォームとなることを目的としている。

こうしたサービスでは金融商品をリリースして移民の便宜を図り、その結果移民コミュニティの信頼を得ようとすることが多い。しかしWelcomeのアプローチは逆で、地域社会のニーズを理解するために全力を上げ、まずコミュニティの信頼を得ようと努力するという点で異なっている。

具体的には、Welcomeは設立後1年間「新しい国で成功するために必要な情報、サービス、教育リソース」を提供するプラットフォームの構築に注力してきた。当初の対象は米国におけるヒスパニック系コミュニティだった。

このプラットフォームはSABER es PODER(スペイン語で「知は力なり」)と名づけられた。目的はヒスパニック系コミュニティのメンバーに「広く認知されて信頼される」リソースとなることだった。

Welcome Techは、その後蓄積した知識、データを元に、半年前にバイリンガルで利用できるモバイルアプリとデビットカードを含む銀行サービスを開始した。さらに2021年1月には病院や歯科医院などのリソースを割引価格で利用できる月額制のサービスを開始している。

TTVキャピタルの共同ファウンダーでパートナーのGardiner Garrard(ガーディナー・ガラード)氏はヒスパニック市場は、人口6280万人という米国最大のマイノリティコミュニティだと指摘し、次のように述べた。

しかしヒスパニック系世帯の半数は銀行サービスをフルに利用できていません。口座を開設することができないためクレジカードやデビットカードなどのサービスを利用できない世帯が多数あるのです。これほど大きなコミュニティにサービスを提供していないのは記録的な失敗です。Welcome Techはこの問題に正面から取り組んでいます。

Welcomeの共同ファウンダーでCEOのAmir Hemmat(アミール・ヘマット)によれば、同社のプラットフォームには現在300万人弱のアクティブユーザーを持っているという最終的な目標は「デジタル・エリス島 」だという。ニューヨークの自由の女神の近くの小島、エリス島には移民局が置かれていたことがあり、米国社会において移民歓迎の象徴となっている。

ヘマット氏はTechCrunchの取材に対し「移民の成功を運任せにするやり方はバカげています。企業が魅力的な人材を確保しようとあらゆる努力を払っていることを考えてみましょう。国の場合はほとんど逆のことをしています」と語った。

画像クレジット:Welcome Tech

特に、ヘマット氏と共同ファンダーのRaul Lomeli-Azoubel(ラウル・ロメリ・アズベル)氏は移民の成功には金融サービスへのアクセスが不可欠だと以前から認識していた。

「我々は最終的な目的は移民のためのより良い未来とより幅広いプラットフォームの構築ですが、そのための基盤、第1歩は間違いなく金融サービスの提供です」とヘマット氏は述べた。

Welcomeはヒスパニック系コミュニティのために英語・スペイン語バイリンガルの無料の銀行口座を提供する。この口座は「コミュニティのニーズに合わせて高度にカスタマイズ」されているという。

最近、TomoCreditGreenwoodなど、ヒスパニック系コミュニティを対象とした新しいデジタル・バンキングが数多く登場している。Welcomeは、さらに広範囲なプラットフォームを提供することでライバルとの差別化をを図っている。月額10ドルのサービスをサブスクリプションすれば、医療の割引やテレビの無料のテレビチャンネルのなどのサービスを受けることができる。へマット氏はこう述べた。

この点を検討した結果、移民に対してはデータをコンピュータで処理した「お勧め」が十分提供されていないことがわかりました。多くの移民は試行錯誤や口コミに頼っており、こうした情報源は場合によっては詐欺的であったりするのです。移民が置かれているこうした厳しい状況を改善するには、これまでばらばらだった人々をプラットフォームに集約することが必要です。これがさまざまなカテゴリーの消費者により良いサービスや製品、有利な価格、優れた体験などを提供するための大きな一歩となると考えています。

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今回の大型ラウンドで得た資金は、こうした目的を実現するためにより多くのパートナーの確保すると同時にWelcomeの認知度を高めるために用いられるという。

SoftBankのOpportunity Fundで投資ディレクター、グロースステージ投資責任者を務めるGosia Karas(ゴシャ・カラス)氏は、TechCrunchの取材に対し「米国では、移民人口が急増しているにもかかわらず、十分にサービスは提供されていません。このギャップにより、新たな参入者が金融サービスを提供する絶好のチャンスが生まれています」と述べた。

SoftBankはターゲットとなる市場を真に理解し着実にデータを収集するWelcomeのアプローチにに特に魅力を感じたといいう。カラス氏はこう述べた。

フィンテックサービスの分野に飛び込む前にWelcomeのファウンダーたちは十分に準備を重ね、経験を積んでいました。何年もかけて、移民というオーディエンスに対する理解を深め、コミュニティにおける信頼関係を構築してきました。これによりターゲットを絞りこみ、そのニーズに適合したコンテンツの構築ができました。これはがバイリンガルの銀行アプリ、デビットカードなどのサービスを展開するための優れたバックボーンとなっているのです。

カテゴリー:フィンテック
タグ:Welcome Tech移民SoftBank Group資金調達アメリカ

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:滑川海彦@Facebook