欧州人権裁判所は「大規模なデジタル通信の傍受には有効なプライバシー保護手段が必要」と強調

欧州人権裁判所(ECHR)の最高院は、デジタル通信の大量傍受が人権法(プライバシーと表現の自由に対する個人の権利を規定)に抵触することを本質的には認定せず、欧州の監視反対運動家たちに打撃を与えた。

ただし、現地時間5月25日に下された大法廷判決は、判事がいうところの「エンド・ツー・エンドの保護手段」を備えた上でこうした侵入的諜報権限を運用する必要性について強調している。

そのような措置を講じていない欧州各国政府は、欧州人権条約の下、こうした法令を法的な異議申し立てに一層さらしていくことになるだろう。

大法廷判決はまた、2000年捜査権限規制法(通称RIPA)に基づく英国の歴史的な監視体制が、必要な保護手段を欠いていたため違法であったとする判断を下した。

裁判所は「エンド・ツー・エンド」の保護手段の内容について次のように説明している。「大量傍受を行う権限は、プロセスの各段階において、講じるべき措置の必要性と比例性の評価を伴わなければならない」「大量傍受は、運用の対象と範囲が定義される最初の段階で、独立した承認を受けるべきである」「運用は、監督および独立した『事後』検証の対象とすべきである」。

大法廷判決は、RIPAの時代の中で英国で運用されてきた大量傍受体制に、いくつかの欠陥があることを明らかにした。大量傍受は行政機関から独立した組織ではなく国務大臣によって承認されていたこと、捜査令状の申請に通信の種類を定義する検索語のカテゴリを含めなくてよいとされていたこと、個人に関連する検索語(メールアドレスなどの特定の識別子)の使用について事前の内部承認が不要であったことなどだ。

裁判所はさらに、機密の報道資料に対する十分な保護が含まれていなかったことを理由に、英国の大量傍受体制が第10条(表現の自由)を侵害したと判断した。

通信サービスプロバイダーから通信データを取得するために使用された当該体制は「法に従っていなかったため」、第8条(プライバシーおよび家族、生活 / 通信に対する権利)と第10条に違反するとしている。

一方、裁判所は、英国が外国政府や諜報機関に情報提供を要請できるようにしている当該体制が、濫用を防止し、英国当局がこうした要請を国内法や条約に基づく義務を回避する目的で利用していないことを保証するという点では、十分な保護手段を有していることを認めた。

「現代社会において国家が直面している多数の脅威のために、大量傍受体制を運用すること自体は条約に違反していないと判断した」と裁判所はプレスリリースで付言した。

RIPA体制は後に、英国の調査権限法(IPA:Investigatory Powers Act)に置き換わり、大量傍受権限が明確に法制化されている(ただし監視の層の主張が盛り込まれている)。

IPAは、数多くの人権問題にも直面してきた。2018年、政府は英国高等裁判所から、人権法と相容れないとされてきた法律の一部を改正するよう命じられた。

今回の大法廷判決は、RIPAの他、いくつかの法的な異議申し立てにも関連している。ECHRが一斉に聴取を行うことになった、NSAの内部告発者Edward Snowden(エドワード・スノーデン)氏による2013年の大規模監視暴露を受けて、ジャーナリストやプライバシー活動家、デジタル権利活動家が英国の大規模監視体制に対して提起したものだ。

2018年に行われた同様の裁定で、下級審は英国の体制のいくつかの側面が人権法に違反すると判断した。過半数の投票により、英国の大量傍受体制は不十分な監視(選別者とフィルタリング、検査のために傍受された通信の調査と選択、関連通信データの選択の管理における不適切な保護措置など)のために第8条に違反するとした。

人権活動家らはこれに続き、大法廷への付託を要請し、確保した。大法廷は今回、そのときの見解を採択したことになる。

通信事業者から通信データを取得する制度について、第8条違反があったことを全会一致で認定した。

しかし、12票対5票で、英国の体制が外国政府や諜報機関に対して傍受された資料を要求したことについては、第8条に違反していないと判断した。

別の全会一致の投票においては、大量傍受体制と、通信サービスプロバイダーから通信データを取得するための体制の両方に関して、第10条の違反があったと大法廷は認めている。

しかし、繰り返しになるが、12票対5票で、外国政府や諜報機関に傍受された資料を要求したことについては第10条に違反していないと裁定したのである。

今回の問題の当事者の一員であるプライバシー擁護団体Big Brother Watchは、声明の中でこの判決について「英国の大量傍受行為が何十年にもわたって違法であったことが明確に確認され」、スノーデン氏の内部告発の正当性が示されたと述べている。

同団体はまた、Pinto de Alburquerque(ピント・デ・アルバーカーキ)判事による異議を唱える意見も強調した。

対象を定めない大量傍受を認めることは、欧州における犯罪防止や捜査、情報収集に対する我々の見方を根本的に変えてしまうことになります。特定できる容疑者を標的にすることから始まり、すべての人を潜在的な容疑者として扱い、そのデータを保存、分析、プロファイリングすることになりかねません【略】こうした基盤の上に築かれた社会は、民主社会というよりは警察国家に近いものです。これは、欧州人権の創立者たちが1950年に条約に署名したときに欧州に求めていたものとは、対極に位置します。

Big Brother Watchでディレクターを務めるSilkie Carlo(シルキー・カルロ)氏は、判決についてさらに次のように述べている。「大規模監視は、保護を装いながら民主主義に損害を与えるものであり、裁判所がそれを認めたことについて歓迎します。ある判事が述べたように、私たちは欧州の電子的な『ビッグブラザー』の中で暮らす大きな危険にさらされています。英国の監視体制が違法であったという判決を支持しますが、裁判所がより明確な制限と保護措置を定める機会を逸したことは、リスクが依然として存在し、現実的であることを意味するものです」。

「私たちは、侵害的な大規模監視活動の終結に向けて、議会から裁判所に至るまで、プライバシーを保護するための取り組みを継続します」と同氏は言い添えた。

この件の別の当事者であるPrivacy Internationalは、大法廷はECHRの2018年の判決よりもさらに踏み込んで「新たな、より強力な保護手段を設けるとともに、大量傍受には事前の独立した、あるいは司法による承認が必要であるとする新たな要件を追加している」と述べ、判決の結果を前向きに解釈する姿勢を示した。

同団体は声明で「承認は意味のある厳格なものでなければならず、適切な『エンド・ツー・エンドの保護手段』が存在することを確かめる必要があります」と付け加えた。

また、Open Rights GroupのエグゼクティブディレクターJim Killock(ジム・キルロック)氏は、公開コメントで次のように語った。「2013年に私たちがBig Brother WatchとConstanze Kurzとともに法廷に持ち込んだ時点で、英国政府の法的枠組みは脆弱で不適切であったことを裁判所は示しています。裁判所は、将来の大量傍受体制を評価するための明確な基準を定めていますが、大量傍受が濫用されないようにするためには、将来的にこれらをより厳しい判断基準に展開していく必要があると考えています」。

「裁判所が述べているように、大量傍受の権限は巨大な力であり、事実上秘密主義的で、制御するのは容易ではありません。技術的な機能性が深まりを続けている一方で、今日の大量傍受が十分に保護されているとは到底考えにくいです。GCHQは、テクノロジープラットフォームと生データを米国と共有し続けています」とキルロック氏は続け、判決を「長期的な道のりにおける1つの重要なステップ」と評した。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:EUヨーロッパプライバシーイギリス監視

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

フェイスブックの広告データ利用について英国と欧州の規制当局が競争規則違反の疑いで調査開始

Facebook(フェイスブック)は、欧州で新たに2つの独占禁止法違反の調査を受けている。

英国の競争・市場庁(CMA)と欧州委員会は現地時間6月4日、ソーシャルメディアの巨人であるFacebookの事業に対する正式な調査開始を発表した。そのタイミングはおそらく協調して合わせたものと思われる。

英国と欧州の競争規制当局は、Facebookが広告顧客やSSO(シングルサインオン)ツールのユーザーから得たデータをどのように利用しているかを精査し、特にこのデータを、クラシファイド広告などの市場で、競合他社に対して不公正な手段として利用していないかどうかを調査する。

英国が欧州連合から離脱したことで、英国の競争監視当局は、EUが実施している反トラスト調査と類似または重複する可能性のある調査を、より自由に行うことができるようになった。

Facebookに対する2つの調査は、表面的には類似しているように見える。どちらも広告データをどのように利用しているかに大きく焦点を当てているからだ(とはいえ、調査の結果は異なるかもしれない)。

Facebookが恐れるのは、英国とEUの規制当局が、共同で調査を行ったり、調査結果を相互参照する機会を得て(いうまでもなく、英国とEUの機関間では多少の調査競争が行われる)、両者から規制措置が取られた結果、より高い次元の監視が同社のビジネスに適用されるようになることだ。

CMAは、Facebookがオンライン・クラシファイド広告やオンライン・デートのサービスを提供する上で、特定のデータの収集・使用を通じて競合他社よりも不当に有利な立場にないかということを調査しているという。

つまり、これらの同種のサービスを提供する競合他社に対し、Facebookが不当な優位性を得ているのではないかと懸念していると、英国の規制当局は述べている。

Facebookはもちろん、オンラインクラシファイド広告とオンラインデートの分野で、それぞれFacebook Marketplace(フェイスブック・マーケットプレイス)とFacebook Dating(フェイスブック・デーティング)というサービスを展開して収益を上げている。

CMAのCEOを務めるAndrea Coscelli(アンドレア・コシェリ)氏は、今回の措置に関する声明の中で次のように述べている。「私たちは、Facebookのデータ利用を徹底的に調査し、同社のビジネスのやり方がオンライン・デートやクラシファイド広告の分野で不当な優位性を築いていないかを見極めるつもりです。そのような優位性は、新規事業や小規模事業を含む競合企業の成功を阻むものであり、顧客の選択肢を狭める可能性があります」。

欧州委員会の調査も同様に、Facebookが事業を展開している市場で、広告主から収集した広告データを利用して広告主と競合し、EUの競争規則に違反していないかということに焦点を当てている。

ただし、調査の対象となる市場で特に懸念される例として、欧州委員会はクラシファイド広告のみを挙げている。

EUの調査にはもう1つの要素がある。それは、Facebookが同社のオンライン・クラシファイド広告サービスをソーシャルネットワークに結びつけることが、EUの競争規則に違反していないかを調べることだ。

これとは別の(国による)動きとして、ドイツの競争当局は2020年末、FacebookがOculus(オキュラス)とFacebookアカウントの使用を結びつけていることについて、同様の調査を開始した。このようにFacebookは、米国で2020年12月に提起された大規模な独占禁止法違反の訴訟に加え、欧州でも複数の独占禁止法違反の調査を受けており、各地で苦しい立場に置かれている。

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欧州委員会は「Facebookとも直接競合する企業が、Facebookでサービスを宣伝する際に、商業的に価値のあるデータを同社に提供する場合があります。Facebookはデータを提供した企業と競合するために、そのデータを利用している可能性があります」と、プレスリリースで指摘した。

「これは特に、オンラインクラシファイド広告プロバイダーに当てはまります。多くの欧州の消費者が商品を売買するプラットフォームであるオンラインクラシファイド広告プロバイダーは、Facebookのソーシャルネットワーク上で自社のサービスを宣伝していますが、同時にこれらの業者は、Facebook独自のオンラインクラシファイド広告サービスである『Facebook Marketplace』と競合しています」。

欧州委員会は、すでに実施した予備調査で、Facebookがオンラインクラシファイド広告サービスの市場を歪めている懸念が生じていると付け加えた。委員会は今後、このソーシャルメディアの巨人がEUの競争規則に違反しているかどうかを完全に判断するため、より踏み込んだ調査を行うことになる。

欧州委員会の競争政策で責任者を務めるEVPのMargrethe Vestager(マルグレーテ・ベステアー)氏は、声明の中で次のように述べている。「Facebookは、毎月30億人近くの人々に利用されており、700万社近くの企業がFacebookに広告を出しています。Facebookは、そのソーシャルネットワークのユーザーや閲覧者の活動に関する膨大なデータを収集することができ、それによって特定の顧客グループをターゲットにすることが可能です。私たちは、特に人々が毎日商品を売買し、Facebookがデータを収集している企業とも競合しているオンライン・クラシファイド広告の分野で、このデータがFacebookに不当な競争上の優位性を与えているかどうかを詳細に調査していきます。現代のデジタル経済において、データを使用して競争を歪めることは、許されるべきではありません」。

今回の欧州の独占禁止法に関する調査についてコメントを求められたFacebookは、次のような声明を発表した。

当社は、Facebookを利用する人々の進化する需要に応えるために、常により良いサービスを開発しています。MarketplaceとDatingは、人々により多くの選択肢を提供し、どちらも多くの大手既存企業が存在する競争の激しい環境で運営されています。我々は調査に全面的に協力し、この調査が無意味であることを証明していきます。

これまで(特に) Google(グーグル)やAmazon(アマゾン)のような他の巨大テック企業に対して複数の調査と取締りを行ってきた欧州委員会の競争当局にとって、Facebookはちょっとした盲点だった。

しかし、ベステアー氏のFacebookに対する看過は、これで正式に終了した(Facebook Marketplaceに対するEUの非公式調査は、2019年3月から続いていた)。

一方、英国のCMAは、アドテック複占の翼を切り落とすという計画に基づき、FacebookやGoogleなどの巨大テック企業に真っ向から狙いを定めた、より広範な競争促進規制の改革に取り組んでいる。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:FacebookSNS広告英国欧州EU独占禁止法CMA欧州委員会

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

有権者へのスパムメール送信で英首相ボリス・ジョンソン氏の保守党に罰金

英国の政権与党である保守党がスパムメールを送信したとして、国のデータ保護監視機関から1万ポンド(約156万円)の罰金を科せられた。

情報委員会(ICO)は、Boris Johnson(ボリス・ジョンソン)首相の名前で送信された迷惑なマーケティングメールを受け取った51人の受信者からの苦情をきっかけに調査を行い、保守党に制裁措置を取った。

問題のメールは、ジョンソン氏が党首に選出された後(つまり英国首相になった後)の2019年7月の8日間に送信され、受信者を保守党への入党サイトに誘導し、リンクをクリックするよう促すものだった。

英国では、ダイレクトマーケティングはPECR(Privacy and Electronic Communications Regulations)で規制されている。デジタルマーケティングのメールを配信する際、送信者は個人の同意を得ることが義務付けられている。

だがICOの調査によると、保守党にはPECRに関するポリシーがなく、自分たちの「正当な利益」がこの種のダイレクトマーケティングの送信に関する法の要請を上回るという誤った前提のもとで運営されていたようだ。

また、同党はバルクメールのプロバイダーを変更していた。その際、配信停止の記録が失われたようだ。だがもちろん、それは法律違反の言い訳にはならない。特に2018年にEU一般データ保護規則が国内法に移行されてからは、記録保持は英国のデータ保護法の中核的な要件となっている。ICOは、保守党が自身の何が悪かったのかについて、適切に説明できなかったことを明らかにした。

さらに、保守党がスパムメールを送信していた当時、ICOがいう「詳細な関与」が行われていたことも明らかになった。

これは、ケンブリッジ・アナリティカのスキャンダルを受け、オンライン政治広告のエコシステムと倫理を調査するために規制当局が行った広範な活動の結果だ。保守党はすでに、データ保護法とプライバシー法の遵守に関する基準が不適切だと警告されていた。だが党はとにかく人々にスパムメールを送り続けた。

ボリス・ジョンソン氏からのスパムメールに関して、個々の受信者からICOに寄せられた苦情は「たった」51件だったが、ICOは、保守党が2019年7月24日から31日の間に送信した100万通以上(119万280通)のダイレクトマーケティングメールについて、適切な同意を得ていたと十分に証明できなかったと判断した(ICOは、党員以外に送られた少なくとも54万9030通は、51人の苦情申立者に送られたメールで確認されたのと同じコンプライアンス上の問題を抱えている可能性が「本質的に高い」との見解を示した)。

さらに党は、2019年の総選挙(冬の投票でジョンソンが地滑り的に過半数の80議席を獲得した)を前に、スパムエンジンを止めず、法律を軽視し続けていた。

「委員による調査期間中、党は2019年の総選挙キャンペーン中に大規模なダイレクトマーケティングメールの実施を進め、約2300万通のメールを送信した」とICOは指摘している。「これにより、委員へさらに95件の苦情が寄せられた。これは、2019年7月の電子メールキャンペーンに関する委員の調査や、党の個人データの処理に関する広範な監査で確認されたコンプライアンス上の問題に、党が対処しなかったことに起因すると考えられる」。

報告書には、保守党が情報提供や説明に応じる際の「大幅な遅延」についても記されている。党が調査を妨害したとは認められなかったものの、規制当局はその行為が「罪を緩和する要因になるとは言えない」と述べている。

ICOの処分は、ボリス・ジョンソン氏率いる英保守党にとっては恥ずべきものだ。しかし、2020年ICOが発表した英国の主要政党を対象としたデータ監査では、すべての政党が有権者情報の取り扱いと保護に問題があるとされた。

だが、保守党が前回の選挙で権力を握ることができたのは、オンライン上の人々のデータとプライバシーに対する同党の迅速かつ甘い態度があったからに他ならない。

カテゴリー:セキュリティ
タグ:英国スパムメールボリス・ジョンソン罰金

画像クレジット:Christof Schmitt / Flickr under a CC BY-SA 2.0 license.

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

eコマースEtsyが中古品も扱う英国のZ世代向けマーケットプレイスDepopを約1780億円で買収

eコマース業界におけるかなり大きなニュースが6月2日、欧州から届いた。手芸クリエイターやスタイルに関心のある人がさまざまなアイテムを発見したり購入したりできる、ニューヨーク拠点のマーケットプレイスEtsy(エッツイ)が、ソーシャルショッピングという新たなアプローチでミレニアル世代とZ世代の消費者をターゲットにしているロンドン拠点のマーケットプレイスDepop(デポップ)を買収すると発表した。買収額は16億2500万ドル(約1780億円)で、Etsyは大半をキャッシュで支払う取引だとしている

わずかな差で、今回の取引はEtsyにとってこれまでで最大の買収ではない。同社はこの他に7件の買収を行ったが、ほとんどが10億ドル(約1095億円)以下だった。とはいえ、欧州のeコマースにとっては大きな買収で、ビジネスモデルの中でも特に若い、そして、あるいはよりクリエイティブなユーザーをターゲットとしているコマースモデルを構築している企業にとってはかなり心強いものだ。

Depopのユーザーの90%ほどが26歳以下で、EtsyはDepopのそうした若い人々やそのコミュニティにアクセスする大きな機会を手にするが、Depopはより多くのコンテンツや若い買い物客をEtsyに持ってくる橋渡しのように機能しそうだ。Etsyは若い人に目を向け始めたが、かなりの数の若くないユーザーも抱えている。同社は上場企業であり、直近の時価総額は200億ドル(約2兆2000億円)を超えている

Depopが最後に資金調達したのは2019年のようで(6200万ドル、約68億円のラウンド)、ユーザー1300万人を抱えて米国で急成長中と当時は絶好調だった。それから約2年、同社のユーザー数は2100万人を超え、その多くはスタイリストやデザイナー、アーティスト、コレクター、ビンテージ販売者などで、米国(Etsy最大のマーケットだ)とホームマーケットである英国(こちらもEtsyの大きなマーケットだ)でかなりのユーザーを抱えている。

Etsyにとってこれはボリュームゲームだが、必ずしも最初から利益をともなうわけではない。2020年のDepopの流通総額は6億5000万ドル(約712億円)だったが、売上高はわずか7000万ドル(約77億円)で、いずれも前年は100%増だった。

ただし、Etsyが自社の成長についてのとらえ方、特に衣服、家庭用品、そして消費財の買い物という分野における反Amazonという点で、Depopの精神は有望だ。Depopはまた現代の風潮にもぴったり合っている。2020年はeコマースが急成長したばかりでなく、人々が地元で買い物したり個人をサポートしたりし、またこれまでよりも中古品を買うようになった結果、零細事業や家内工業が繁盛した。Depopが強みを持っている分野だ。

「Z世代にとっての再販のホームだと我々が信じているDepopがEtsyファミリーに加わることに胸躍らせています。Depopは活気がある二面性のあるマーケットプレイスで、情熱的なコミュニティ、高度に差別化されたユニークなアイテムの提供をともなっています。そして我々はさらなる展開の大きな可能性を確信しています」とEtsyのCEOであるJosh Silverman(ジョッシュ・シルバーマン)氏は声明文で述べた。「Depopのワールドクラスの経営陣と従業員はこのコミュニティを育て、EtsyのDNAそしてKeeping Commerce Humanというミッションとよく一致している方法でオーガニックで正真正銘の成長を推進するというすばらしい仕事を成し遂げました。我々は専門性を共有するすばらしい機会、それぞれに異なる巨大な「ハウス・オブ・ブランド」ポートフォリオ、そしてかなり特別なeコマースブランドになる成長シナジーを目にしています」。

シルバーマン氏はeBayで何年もShopping.comを率いた経歴を持ち、これはEtsyの成長を今後どのようにとらえるか考えるときに考慮するに値するものだ。

DepopのCEOであるMaria Raga(マリア・ラガ)氏は次のように述べた。「我々はDepopを次世代がユニークなファッションを見つけるために訪れ、買い物方法を変えるコミュニティの一部になる場所にするというすばらしい旅をしています。当社のコミュニティは新たなトレンドを確立し、古いものから新しいものをつくることで新しいファッションシステムを創造する人によって構成されています。彼らは衣服のためにDepopにやって来ますが、カルチャーのためにとどまります。当社はいま、Etsyファミリーの一員としてジョッシュと彼のチームの専門性、Depopのものと一致する価値観を持つ大企業のリソースの恩恵を受けながら、エキサイティングな躍進を遂げようとしています」。

米国と英国の当局の承認やクロージング条件次第ではあるが、買収は2021年第3四半期に完了する見込みで、取引完了後はEtsy、そして2019年に買収された楽器マーケットプレイスReverbとともにDepopは別のブランドとして運営されるとEtsyは話した。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Etsy買収Z世代ミレニアルイギリスマーケットプレイスファッションeコマース

画像クレジット:Paul Zimmerman / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

英国が子どものためのオンライン安全法案の草案を発表

英政府が、オンライン上のコンテンツや言論を規制しようと長きにわたって議論を進めてきた(子どもの)「安全確保」計画を公開した。

Online Safety Bill(オンライン安全法案)制定に向けた動きは、数年にわたって続いていた。以前の計画では、子どもがオンライン上の不適切なコンテンツにさらされることを防ぐ目的もあり、英国内でオンラインのポルノにアクセスする際の年齢確認を義務化する試みがあったが、こちらは非現実的として広く批判され、ひっそりと取り下げられた

当時の英政府は、オンライン上のさまざまな危険を規制する包括的な法案の策定に注力すると述べた。今回、それが達成された様子だ。

145ページにわたるオンライン安全法案は、123枚の補足資料と146枚のインパクト評価とともに、gov.uk(英政府の公式ウェブサイト)のこちらのウェブサイトにて公開されている。

本草案では、ユーザーがオンライン上で違法および / または有害なコンテンツにさらされる危険を防ぐため、ユーザーが生成したコンテンツの管理義務をデジタルサービスプロバイダーに課している。

英政府はこの計画を世界においても「画期的」なものと位置付け「テクノロジー企業が新時代で負う義務の先駆けであり、オンライン界に公平さと責任をもたらすもの」と主張している。

批評家は、プラットフォームによる過度な検閲を促すことで表現の自由が脅かされるだけでなく、提出法案がデジタル企業にとって法務および業務上大きな負担となるため、技術革新の減退につながる可能性があると警鐘を鳴らしている。

議論が本格化するのは、これからだ。

本法案は今後、下院議員による合同委員会で徹底的に調べられたのち、年内には最終版が正式に議会に提出される。

本法案が施行されるまでどのくらいの時間がかかるのかはまだ不透明だが、英政府は議会の過半数を獲得しているため、世間で大騒動が起きたり与党内で多数が反対に回ったりしない限り、オンライン安全法案は確実に制定の道をたどるだろう。

デジタル相のOliver Dowden(オリバー・ダウデン)氏は声明でこう述べている。「本日発表した画期的な法案は、英国が世界を率いるリーダーであることを示すものだ。この法案はテクノロジー企業が新時代で負う義務の先駆けであり、オンライン界に公平さと責任をもたらすものである」。

「私たちは、我々の権利を保護する新たな措置を通じてインターネット上で子どもたちを守り、ソーシャルメディアで見られる人種差別的発言を厳しく取り締まることで、真に民主的なデジタル時代を切り開いていく」。

英政府がオンライン安全法案の草案を作成する上で要した期間の長さは、法によって「インターネットを規制」する試みがいかに困難かという点を裏づけている。

DCMS(デジタル・文化・メディア・スポーツ省)の広報担当者は、以前「インターネットを安全にしようとする政府の奮闘」についてうっかり漏らしたことがある。英国のオンライン安全法案をめぐる勝者と敗者が誰になるのか、現在はまだ疑問だ。

安全性か、民主主義か

本計画に関するプレスリリースにて、デジタル・文化・メディア・スポーツ省はこの「歴史的な法令」が「子どもたちの安全を守り、人種差別を撤廃し、オンライン上の民主主義を保護する」と主張する。

とはいえ、壮大な目標がいくつも並んでいることからわかるように、関連する分野の範囲はとても広いだ。規定の間で矛盾が生まれ、法令の一貫性が失われてしまえば、失敗のリスクも非常に高い。デジタル企業の業務にも、必要なコンテンツにアクセスしようとするインターネットユーザーにとっても足かせとなってしまう。

本法案は広範囲に適用される模様だ。大手のテクノロジー企業やソーシャルメディアサイトにとどまらず、ユーザーが生成するコンテンツをホストしたり、単にオンラインで人と対話するサービスを提供したりするさまざまなウェブサイト、アプリ、サービスが対象となる。

サービスの領域では、違法コンテンツおよび(大手サービスの場合は)有害なコンテンツを削除および / または制限する法的義務が課せられ、ユーザーを保護する義務を怠った場合は多額の罰金が命じられる可能性がある。さらには、子どもの性的搾取に該当するコンテンツについては、警察に報告する義務も課せられる。

放送メディアと通信分野の取り締まりを担当する英国の通信監視機関Ofcom(オフコム)は、本計画にて英国内のインターネットコンテンツの監視機関としての役割も担う予定だ。

オフコムはユーザー保護の新しい義務を怠った企業に対し、最大1800万ポンド(約28億円)または世界売上高の10%(のどちらか高額な方)を罰金として科す権限を持つ。

この監視機関は、サイトへのアクセスをブロックする権限も有するため、プラットフォーム全体を検閲する可能性も潜んでいる。

厳格なインターネット規制の制定を支持する活動家の一部は、役員階級の目を有害コンテンツ防止策の遵守にしっかりと向けるため、CEOに対する刑事制裁も法案に含めるよう英政府に圧力をかけている。大臣らはここまで厳格な措置の制定は予定していないものの、デジタル・文化・メディア・スポーツ省は、将来的には刑事犯罪での役員の起訴も検討するとし、こう補足している。「テクノロジー企業が安全性向上のための取り組みを強化しない場合、この措置を追って導入する可能性もある」。

インターネット上のプラットフォームに対する規制強化については、英国内の世論は大きく賛成に傾いている一方で、問題となるのは具体的な計画の詳細だ。

本計画は英政府が私有企業に言論の取り締まりをさせることになるため、人権活動家や技術政策の専門家らは、当初から本計画がオンライン上の表現を委縮させるのではないかと警告を重ねてきた。

法律の専門家も同様に、この枠組みの非現実性について警鐘を鳴らしている。「有害」といった概念、さらには新たに「民主的に重要」と位置づけられるコンテンツ(英政府は特定のプラットフォームに対し、これを保護する特別な義務を課そうとしている)の定義が困難なためだ。

わかりやすいリスクとしては、デジタル企業が負う膨大な法的責任の不透明さが挙げられる。英国内のスタートアップ企業の革新に加え、サービス提供状況は大きな影響を受けることとなる。

2019年のホワイトペーパーで公開された法案の前身には、表題に「有害」という単語が使われていた。その後、この単語はより穏やかな「安全」に置き換えられたわけだが、法的な面での不透明さは解消されていない。

法案の主眼は依然として「有害」とされる漠然とした何かを抑制することに向けられている。オンライン上のアクティビティにさまざまな形で関連または関係しているものが対象で、なかには違法なコンテンツもあれば単に不快なコンテンツも含まれる(対象の大半は、Instagramなどのプラットフォーム上で自殺に関するコンテンツが子どもにさらされた事例など、注目を浴びたメディア報道に基づいている)。

具体的な内容としては、いじめや暴言(オンライン荒らし)から、違法コンテンツ(子どもの性的搾取)の流布、単に子どもが見るには不適切なコンテンツ(合法ポルノ)まで多岐に及ぶ。

最新の草案を見ると、ある特定のオンライン詐欺(恋愛詐欺)もまた、英政府が法令で規制しようとしている危険の1つのようだ。

包括的な「有害」コンテンツの枠組みを作る英国のアプローチは、欧州連合のDigital Service Act(デジタルサービス法)とは対照的だ。デジタルサービス法は欧州連合のデジタル規則を改訂する目的でオンライン安全法案と並行して策定が進められており、こちらは違法コンテンツに注意が集中している。内容としては、連合内で違法コンテンツの報告手続きを統一すること、そしてeコマース市場で危険な商品が販売されているリスクに対処すべく、顧客の本人確認を必須とすることだ。

英国の法案がオンライン上の表現に影響を及ぼしかねないとする批判に対し、英政府は本日、人々がオンラインで自由に表現する権利を強化する措置を追加で講じると発表した。

また、この措置は英国におけるジャーナリズムの保護に加え、政治に関する民主的な議論を保護する役割も果たすという。

しかし、こうした条項が本来の法案と相反しているように見えることから、このアプローチにはすでに疑問の声が上がっている。

例えば、報道コンテンツの取り扱い方をめぐるデジタル・文化・メディア・スポーツ省の議論によると、ニュース発行社の公式ウェブサイトは法令の対象にはならない(サイトに投稿される読者のコメントも対象外)こと、また対象サービスにて共有された「一般に認知されているニュース発行社」の記事は、報道以外のコンテンツに適用される法的義務からは除外されることがわかっている。

プラットフォームに、報道コンテンツへのアクセスを保護する法的義務があるのは事実だ。(「つまり、『デジタルプラットフォーム』はコンテンツのモデレーションを実施する際にジャーナリズムの重要性を考慮しなければならないということだ。削除されたコンテンツについてはジャーナリストの控訴手続きを迅速に行い、報道コンテンツを恣意的に削除した場合はオフコムから責任を問われることとなる」とデジタル・文化・メディア・スポーツ省は述べている)

しかし一方で、英政府は「市民ジャーナリストのコンテンツはプロのジャーナリストによるコンテンツと同様の保護を受ける」とも述べているのだ。とすると「一般に認知されている」ニュース発行者(対象外)と市民ジャーナリスト(こちらも対象外)、そして単にインターネット上にブログ記事やコンテンツを投稿しているおじさん(おそらく対象?)のそれぞれの線引きは具体的にどのように行われるのか、見方は人によってさまざまだろう。

政治的発言を保護する取り組みは、デジタルサービスにおけるコンテンツモデレーションを複雑化することにもなる。例えば、人種差別的な意見を持つ過激派集団は、自身のヘイトスピーチや差別発言を「政治的意見」としてごまかすこともできるからだ(人種差別主義で有名な活動家も自らを「ジャーナリスト」と名乗るかもしれない)。

デジタル・文化・メディア・スポーツ省の声明によると、企業は「特定の政治的意見に対する差別をしてはならず、所属政党に関わらず、多様な政治的意見を平等に保護しなければならない」という。

「こうしたコンテンツを保護する政策は明確かつ現実的な規定と条件によって定める必要があり、企業がこの政策に従わない場合はオフコムによる強制措置を受けることになる」声明はさらに続く。「コンテンツのモデレーションを行う際は、企業は該当コンテンツが共有されている政治的背景を考慮する他、民主的に重要な場合はそれを高度に保護する必要がある」。

プラットフォームはこうした相いれない条件をすべてバランスよく遵守する責任を負うことになるというわけだ。今後、オフコムが表現の自由を尊重する形でコンテンツモデレーションを行うための行動規範が作成される予定だが、企業が何かミスをした場合はいつでもオフコムから多額の罰金を科せられる危険がある。

興味深いことに、英政府はFacebook(フェイスブック)が考案した「監督委員会」モデルを好意的に受け止めているようだ。この監督委員会では、委員らが「複雑な」コンテンツモデレーションの事例について判断を下す他、発言のニュアンスの取り違いやコンテンツの不必要な削除を招く恐れがあるとして、AIフィルターの過度な使用を抑制している(以前、テロ関連のコンテンツの削除を高速化する目的で、英政府がプラットフォームに対してAIツールの導入を強く求めていたことを踏まえると、非常に興味深い動きといえる)。

「本法案は英国に住む人々がオンライン上で自由に表現し、多元的かつ率直な議論に参加する権利を徹底的に保護する」デジタル・文化・メディア・スポーツ省はこう続けている。「対象に含まれる企業はすべて、自らの責任を果たすうえで表現の自由の保護を考慮に入れ、必要な措置を取らなければならない。これらの対策はオフコムが作成する行動規範で定められるものの、背景情報が重要となる複雑な事例については、人間の監視官を含める必要がある場合も想定される」。

「企業のサービスを利用する人には、正当な理由なくコンテンツが削除された場合に即座に控訴手続きを行う手段を用意する他、不当にコンテンツが削除された場合は、企業は該当コンテンツを再公開しなければならない。ユーザーはまた、オフコムに控訴することができ、こうした告訴はオフコムのホライズン・スキャニング、調査、および強制措置の大部分を形成する」声明はさらに続く。

「カテゴリー1のサービス『最大かつ最も一般的なサービス』には、追加の義務が課せられる。これらのサービスは表現の自由に与える影響について最新の評価を実施してそれを公開し、マイナスの影響がある場合はそれを最小限に抑える対策を行動で示さなければならない。これらの措置はオンライン企業の対策が限定的になるリスクを取り除く他、オンライン安全性の義務を果たすためにコンテンツを過度に削除する事態を防ぐものである。後者の例としては、AIのモデレーション技術が風刺などの無害なコンテンツを誤って有害と判断してしまう場合などが挙げられる」。

本計画においてわかりにくい別の要素は、法案にいわゆる「ユーザーが生成する詐欺」(偽の投資機会についてのソーシャルメディアでの投稿や、デーティングアプリでの恋愛詐欺など)への対応策が含まれていながら、広告、メール、偽ウェブサイトなどを使って行われるオンライン上の詐欺行為は対象外だという点だ。デジタル・文化・メディア・スポーツ省によると「本法案はユーザーが生成するコンテンツにおける危険に焦点を当てている」。

とはいえ、インターネットユーザーが簡単かつ低コストでオンライン広告を作成し、掲載できる(基本的に、Facebookをはじめとするプラットフォームは料金を払う人なら誰にでも広告ターゲティングツールを提供している)のなら、広告による詐欺を規制から除外する理由はあるのだろうか?

どうやら、ここでの線引きは無意味なようだ。数ドル(数百円)払って虚偽の情報を広めようとする詐欺行為は、無料のFacebookページで秘密の投資アドバイスをうたう投稿をする詐欺行為と比べて何ら変わりはない。

つまり、線引きがランダムでずさんな場合、規則の一貫性やわかりやすさが失われ、抜け穴が存在しやすくなるリスクが生まれてしまうのだ。

並行して、英政府は特に大手テクノロジー企業を規制するため、競争を促す壮大な事前規制制度の考案を進めている。大手プラットフォームの規制制度と、有害なデジタルコンテンツを広範囲で規制するオンライン安全法案の2つの枠組みがある中、双方で義務の矛盾や重複が生まれないようにする難題は、まだ前途に立ちはだかっている。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

水素燃料電池飛行機へのZeroAviaの野望は技術的な課題が残るが大志は今なお空のように高い

2020年9月、ZeroAvia(ゼロアビア)の6人乗り航空機が英国クランフィールド空港から離陸して8分間の飛行を終えた時、同社は、商用サイズの航空機で史上初の水素燃料電池飛行を行うという「非常に大きな偉業」を成し遂げたと断言した。

この航空機はPiper Malibu(パイパーマリブ)プロペラ機を改造して作られており、同社によると、水素を燃料とする航空機の中では世界最大のものである。「水素燃料電池を使用して飛行する実験的な航空機はいくつかあったが、この機体の大きさからすると、完全にゼロエミッションの航空機に有償旅客を乗せる時代が目前に迫っている」と、ゼロアビアのCEOであるVal Miftakhov(ヴァル・ミフタコフ)氏は付け加えた。

しかし、水素を燃料としているといっても、実際にはどのような状況なのだろうか。乗客の搭乗はどの程度現実味を帯びているのだろうか。

ミフタコフ氏は飛行直後の記者会見で「今回の構成では、動力をすべて水素から供給しているわけではなく、バッテリーと水素燃料電池を組み合わせている。しかし、水素だけで飛行することも可能な組み合わせ方だ」と述べた。

ミフタコフ氏のコメントはすべてを物語っているわけではない。TechCrunchの調査では、今回の画期的なフライトに必要な動力の大半がバッテリーから供給されたこと、そしてゼロアビアの長距離飛行や新しい航空機で今後もバッテリーが大きな役割を果たすことがわかった。また、マリブは技術的には辛うじて旅客機と言えるかもしれないが、大型の水素タンクやその他の機器を収容するために、5つの座席のうち4席を撤去しなければならなかったのも事実だ。

ゼロアビアは、ピックアップトラックでの航空機部品のテストから始めたが、4年も経たないうちに英国政府の支援を得るまでになり、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏やBill Gates(ビル・ゲイツ)氏、そして先週にはBritish Airways(ブリティッシュエアウェイズ)などからも投資を呼び込んだ。現在の問題は、ゼロアビアが主張している軌道を進み続け、本当に航空業界を変革できるかどうかだ。

離陸

航空機が排出する炭素の量は、現在、人類の炭素排出量の2.5%を占めているが、2050年までには地球のカーボンバジェット(炭素予算)の4分の1にまで拡大する可能性がある。バイオ燃料は、その生産によって木や食用作物が消費し尽くされる可能性があり、バッテリーは重すぎるため短距離飛行にしか使用できない。それに対し、水素は太陽光や風力を使用して生成でき、大きな動力を生み出すことができる。

燃料電池は水素と空気中の酸素を効率的に反応させて結合させるもので、生成されるのは電気、熱、水だけである。ただし、既存の航空機に燃料電池をすぐに搭載できるかというと、話はそう単純ではない。燃料電池は重くて複雑であり、水素には大型の貯蔵庫が必要だ。このようにスタートアップが解決しなければならない技術的な課題は多い。

ロシア生まれのミフタコフ氏は、1997年に物理学博士号の取得を目指して勉強するために渡米した。いくつかの会社を設立して、Google(グーグル)で勤務した後、2012年に、BMW 3シリーズ用の電気変換キットを製造するeMotorWerks(EMW、eモーターワークス)を設立した。

しかし2013年、BMWは同社の商標を侵害しているとしてEMWを非難した。ミフタコフ氏はEMWのロゴとマーケティング資料を変更すること、そしてBMWとの提携を示唆しないことに同意した。ミフタコフ氏はまた、BMWオーナーからの需要が落ち込んでいることにも気づいていた。

EMWはその後、充電器とスマートエネルギー管理プラットフォームの提供にビジネスの軸を移した。この新しい方向性はうまくいき、2017年にはイタリアのエネルギー会社Enel(エネル)がEMWを推定1億5000万ドル(約162億円)で買収した。しかしミフタコフ氏はここでも法的問題に直面した。

EMWのVPであるGeorge Betak(ジョージ・ベタック)氏はミフタコフ氏に対して2件の民事訴訟を起こし、ミフタコフ氏が特許からベタック氏の名前を除外したり、報酬を渡さなかったり、さらにベタック氏が自分の知的財産権をEMWに譲渡したように見せかけるために文書を偽造したりした、などと主張した。後にベタック氏は請求を一部取り下げ、2020年夏にこの訴訟は穏便な和解に至った。

2017年にEMWを売却してから数週間後、ミフタコフ氏は「ゼロエミッション航空」という目標を掲げ、カリフォルニア州サンカルロスでゼロアビアを法人化した。ミフタコフ氏は、既存の航空機の電気化への関心がBMWのドライバーよりも高い航空業界に期待していた。

第1段階:バッテリー

ゼロアビアが初めて公の場に登場したのは、2018年10月、サンノゼの南西80キロメートルにあるホリスター空港だった。ミフタコフ氏は、1969年型エルカミーノの荷台にプロペラ、電気モーター、バッテリーを据え付け、電気を動力として75ノット(時速140キロメートル)まで加速させた。

12月にゼロアビアは6人乗りのプロペラ機であるPiper PA-46 Matrix(パイパーPA-64マトリックス)を購入した。このプロペラ機は後に英国で使用することになる航空機と非常によく似ている。ミフタコフ氏のチームは、モーターと約75キロワット時のリチウムイオンバッテリーをこれに搭載した。このバッテリーは、テスラのエントリーレベルのモデルYとほぼ同じ性能である。

2019年2月、FAAがゼロアビアに実験的耐空証明書を発行した2日後、電気だけを動力とするパイパーが初飛行に成功した。また、4月中旬には最高速度と最大出力で飛行していた。これで水素にアップグレードする準備は整った。

輸入記録によると、3月にゼロアビアは炭素繊維製水素タンクをドイツから取り寄せている。マトリックスの左翼にタンクを搭載した写真が1枚存在するが、ゼロアビアは飛行している動画を公開したことがない。何か不具合が起こっていたのだ。

ゼロアビアのR&Dディレクターが、パイパーオーナー向けのフォーラムに次のようなメッセージを投稿したのは7月のことだ。「大事に扱ってきたマトリックスの翼が破損しました。損傷が激しく、交換しなければなりません。すぐにでも部品取り用に販売される『適切な航空機』をご存知の方はいませんか」。

ミフタコフ氏は、今までこの損傷について明言してこなかったが、今回、ゼロアビアが航空機に手を加えている最中にこの損傷が発生したことを認めた。この損傷の後、その航空機は飛行しておらず、ゼロアビアはシリコンバレーにおけるスタートアップとしての活動を終えようとしていた。

英国に移る

ミフタコフ氏は、ゼロアビアの米国での飛行テストを中断し、英国に目を向けた。英国のBoris Johnson(ボリス・ジョンソン)首相が「新たなグリーン産業革命」に期待しているからだ。

2019年9月、英国政府が支援する企業であるAerospace Technology Institute(航空宇宙技術研究所)(ATI)は、ゼロアビアが主導するプロジェクト「HyFlyer(ハイフライヤー)」に268万ポンド(約4億100万円)を出資した。ミフタコフ氏は、水素燃料電池を搭載し、飛行可能距離が450キロメートルを超えるパイパーを1年以内に完成させると約束した。出資金は、燃料電池メーカーのIntelligent Energy(インテリジェントエナジー)および水素燃料供給技術を提供するEuropean Marine Energy Centre(EMEC、ヨーロッパ海洋エネルギーセンター)との間で分配されることになっていた。

当時EMECの水素マネージャーだったRichard Ainsworth(リチャード・エインズワース)氏は「ゼロアビアは、電動パワートレインを航空機に組み込むというコンセプトをすでに実現しており、電力はバッテリーではなく水素で供給したいと考えていた。それがハイフライヤープロジェクトの中核となる目的だった」と述べている。

ATIのCEOであるGary Elliott(ゲイリー・エリオット)氏はTechCrunchに対し、ATIにとって「本当に重要」だったのは、ゼロアビアがバッテリーシステムではなく燃料電池を採用していたことだと述べ「成功の可能性を最大限に高めるには、投資を広く印象づける必要がある」と語った。

ゼロアビアはクランフィールドを拠点とし、2020年2月に、損傷したマトリックスと似た6人乗りのPiper Malibu(パイパーマリブ)を購入した。同社は6月までにマリブにバッテリーを取り付けて飛行したが、政府は安心材料をさらに求めていた。TechCrunchが情報公開請求によって入手したメールに対し、ある政府関係者は「ATIの懸念を確認し、それに対して我々ができることを検討したいと考えている」と書いた。

インテリジェントエナジーのCTOであるChris Dudfield(クリス・ダッドフィールド)氏はTechCrunchに対し、ハイフライヤープログラムは順調に進んでいるが、同社の大型燃料電池が飛行機に搭載されるのは何年も先のことであり、同氏はゼロアビアの飛行機を見たことさえもないと語った。

ゼロアビアは、インテリジェントエナジーとの提携により、英国政府から資金を確保しやすくなったが、マリブの動力の確保は進まず、燃料電池の供給会社を早急に見つける必要があった。

第2段階:燃料電池

ゼロアビアは8月、政府関係者に「現在、水素燃料による初の飛行に向けて準備を進めている」と文書で伝え、国務長官を招待した。

ミフタコフ氏によると、ゼロアビアのデモ飛行では、航空機としては過去最大となる250キロワットの水素燃料電池パワートレインが使用された。これはパイパーが通常使用している内燃機関と匹敵する出力であり、飛行において出力を最も必要とする段階(離陸)においても十分な余力が残る数値である。

ゼロアビアは燃料電池の供給会社を明かしておらず、250キロワットのうちどの程度が燃料電池から供給されたのかも詳しく説明していない。

しかし、デモ飛行の翌日、PowerCell(パワーセル)というスウェーデンの企業が、プレスリリースで、同社のMS-100燃料電池が「パワートレインに不可欠な部品」だったことを発表した。

MS-100の最大出力はわずか100キロワットであり、残りの150キロワットの供給源は不明である。つまり、離陸に必要な電力の大部分は、パイパーのバッテリーから供給されたとしか考えられない。

ミフタコフ氏は、TechCrunchのインタビューにおいて、9月のフライトではパイパーが燃料電池だけで離陸できなかったことを認めた。同氏によると、飛行機のバッテリーはデモ飛行中ずっと使用されていた可能性が高く「航空機に予備的な余力」を供給した。

燃料電池車でも、バッテリーを使用して、出力変化を安定させたり一時的に出力を高めたりするものは多い。しかし、いくつかのメーカーは、動力源について高い透明性を持たせている。飛行機に関していうと、離陸時にバッテリーを利用する上での問題点の1つは、離陸時に使用したバッテリーを着陸まで積載し続けなければならないことだ。

Universal Hydrogen(ユニバーサルハイドロジェン)は、別の航空機向けに2000キロワットの燃料電池パワートレインを共同開発している企業である。同社のCEO、Paul Eremenko(ポール・エレメンコ)氏は「水素燃料電池航空機の基本的な課題は重量だ。バッテリーはフルスロットル時のみに使用されるものであり、これをいかに小さくするかが軽量化の鍵になる」と述べている。

2月、ゼロアビアのVPであるSergey Kiselev(セルゲイ・キセレフ)氏は、バッテリーを完全になくすことが同社の目標だと語った。また、Royal Aeronautical Society(王立航空協会)に対し「離陸時の余力を確保するためにバッテリーを利用することは可能だ。しかし、航空機に複数の種類の駆動力や動力貯蔵システムを使用するとなると、認証の取得が著しく困難になるだろう」と話した。

今回、ゼロアビアは、出力の大部分をバッテリーから供給することで、投資家や英国政府から注目を集めたデモ飛行を成功させることができた。しかし、これにより、有償顧客を乗せた初飛行が遅くなる可能性がある。

排熱の問題

熱を排出する装置がなければ、燃料電池は通常、過熱を防ぐために空冷または水冷の複雑なシステムが必要になる。

「これこそが鍵となる知的財産であり、単に燃料電池とモーターを購入して接続するだけではうまくいかない理由なのです」とエレメンコ氏はいう。

ケルンにあるGerman Aerospace Center(ドイツ航空宇宙センター)では、2012年から水素燃料電池航空機を飛ばしている。特注設計された現在の航空機HY4は、4人の乗客を載せて最大で720キロメートル飛行できる。65キロワットの燃料電池には、冷却用の通風を確保するために、空気力学的に最適化された大きな流路を利用した水冷システムが搭載されている(写真を参照)。

画像クレジット:DLR

100キロワットの同様のシステムでは、通常、HY4のものより長く、3割ほど大きい冷却用インテークが必要になるが、ゼロアビアのパイパーマリブには追加の冷却用インテークがまったくない。

「離陸時の対気速度や巡航速度に対して、開口部が小さすぎるように見えます」というのは、ゼロアビアと共通する取引企業があることを理由に匿名でコメントを述べた航空燃料電池エンジニアである。

「熱交換器の配置や設定を試す必要はありましたが、熱を処理するために航空機の形状を再設計する必要はありませんでした」とミフタコフ氏は反論した。また同氏は、飛行中に燃料電池は85〜100キロワットの出力を供給していたと主張した。

ゼロアビアは、TechCrunchのインタビューに答えた後、パイパーの燃料電池が地上試験中に最大70キロワットの出力を供給している様子を示すビデオを公開した。地上試験中の70キロワットは、飛行中であればさらに高出力になる。

もちろん長距離飛行での実証は必要だが、ゼロアビアは、他のエンジニアを何年も悩ませてきた排熱問題を解決したのかもしれない。

次の飛行機:規模と性能の拡大

9月には、Robert Courts(ロバート・コート)航空大臣がクランフィールドでデモ飛行を見学し、飛行後に「ここ数十年間の航空業界で最も歴史的な瞬間の1つであり、ゼロアビアの大きな成果だ」と語った。タイム誌は、2020年の最大の発明の1つとしてゼロアビアの技術を挙げた。

ハイフライヤーの長距離飛行はまだこれからだというのに、12月、英国政府はハイフライヤー2を発表した。これは1230万ポンド(約18億4000万円)のプロジェクトであり、ゼロアビアが大型の航空機に600キロワットの水素電気パワートレインを提供するというものだ。ゼロアビアは、19人乗りの飛行機を2023年に商業化することで合意している(現在は2024年に変更されている)。

同日、ゼロアビアは2130万ドル(約23億円)のシリーズAの投資家陣営を発表した。これには、Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏のBreakthrough Ventures Fund(ブレイクスルーベンチャーズファンド)、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏のAmazon Climate Pledge Fund(アマゾン気候誓約基金)、Ecosystem Integrity Fund(エコシステムインテグリティファンド)、Horizon Ventures(ホライゾンベンチャーズ)、Shell Ventures(シェルベンチャーズ)、Summa Equity(スマエクイティ)が参加している。3月下旬には、これらの投資家からさらに2340万ドル(約25億3000万円)の資金を調達することを発表した。これにはAmazonは参加していないが、英国航空が参加している。

ミフタコフ氏によると、マリブはこれまで約10回のテスト飛行を終えているが、新型コロナウイルス感染症のため、英国での長距離飛行は2021年後半に延期されたという。また、ハイフライヤー2については、当初はバッテリーと燃料電池を半分ずつ使用する予定だが「認定取得可能な最終飛行形態では、600キロワットすべてを燃料電池でまかなう」とのことだ。

19人乗りの航空機から始まり、2026年には50人乗り、2030年には100人乗りと、約束した航空機を完成させることが、ゼロアビアにとって厳しい挑戦となることは間違いない。

水素燃料電池トラックの公開デモを誇張し、株価の暴落やSECによる調査を招いたスタートアップであるNikola(ニコラ)のせいで、水素燃料電池にはいまだに胡散臭いイメージがある。ゼロアビアのような野心的なスタートアップにとって最良の選択肢は、投資家や、持続可能な空の旅の可能性に期待している人たちの期待を弱めることになっても、現在の技術と今後の課題について透明性を高めることだ。

ポール・エレメンコ氏は「ゼロアビアの成功を切に願っている。我々のビジネスモデルは非常に相補的であり、力を合わせれば、水素航空機を実現するためのバリューチェーンを築くことができると考えている」と述べている。

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タグ:ZeroAvia飛行機水素バッテリーゼロエミッションイギリス炭素燃料電池

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(文:Mark Harris、翻訳:Dragonfly)

定額制ブロードバンドで英国ISPの「反逆者」目指すCuckoo Internetが約6.5億円を調達

英国のブロードバンドプロバイダー市場を破壊することを目指しているCuckoo Internetは、RTP Globalが主導し、JamJar Investmentsが参加した600万ドル(約6億5000万円)の投資調達ラウンドをクローズした。また英国時間4月26日から、価格比較サイト「uSwitch」でサービスを開始する予定だという。

RTP Globalは、YandexやDelivery Hero(デリバリー・ヒーロー)、Datadogを早くから支援してきた。一方のJamJarは、Bulb、Deliveroo、Tails、Oatlyを支援している。その他の個人投資家には、MonzoやStripe(ストライプ)の元幹部らが含まれている。

Cuckooのセールストークは、シンプルなブロードバンドサービスで、単一プランである67Mb/sのファイバー契約を月単位の継続契約で提供し「隠された料金は一切なし」というものだ(2021年4月現在、月額29.99英ポンド / 約4500円)。

Cuckooの創業者兼CEOであるAlexander Fitzgerald(アレクサンダー・フィッツジェラルド)氏は、声明の中で次のように述べた。「ブロードバンド市場は壊れており、消費者は毎日のように搾取されています。2020年、何百万人もの人々が自宅で仕事をするようになったことで、高速で信頼性が高く、かつ手頃な価格のブロードバンドの重要性がより明確になりました。今回の資金調達により、(英国)全国の何万人もの人々のブロードバンドをシンプルにする支援ができることをうれしく思います」。

RTP GlobalのパートナーであるGareth Jefferies(ギャレス・ジェフリーズ)氏は次のように述べている。「消費者向けブロードバンドは、最大の市場の1つでありながら、最もサービスが行き届いていない市場の1つです。消費者は、顧客に不利な価格設定、柔軟性に欠ける契約、わざとらしいほどひどいカスタマーサービスにうんざりしています。保険やエネルギー、銀行で見られたように、差別化された商品パッケージと顧客に対する新たな敬意をもって、既存企業のシェアに食い込んでいこうとするチャレンジャープロバイダーが数多く登場してくるでしょう」。

カテゴリー:その他
タグ:Cuckoo Internet資金調達ブロードバンドイギリス

画像クレジット:Cuckoo

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

AIスタートアップ英Facultyが将来の医療需要を予測する事業を同国保健サービスから受注

VCが支援する人工知能スタートアップのFaculty(ファカルティ)が、新型コロナウイルスパンデミック対応状況から抽出したデータに基づいて、患者が将来必要とするサービスの予測を向上させることを目的とするNHS(英国民保健サービス)の事業の入札を勝ち取った。

Facultyは2019年12月にシリーズAラウンドで英国拠点のVCであるLocal Globe、GMG Ventures、そしてSkypeの創業チームのエンジニアの1人であるJaan Tallinn(ジャン・タリン)氏から1050万ドル(約11億3500万円)を調達し、評価額は約1億ドル(約108億円)になった。

Facultyは、パンデミック中にNHSのために開発したEarly Warning System(EWS)の上に患者の将来の予測システムを構築するためにNHSイングランド、NHS Improvementと協業する。ベイズの階層モデリングに基づいて、EWSは病院が必要とするスタッフやベッド、機器を配置できるよう、新規感染者数が急増する可能性について病院に警告するために、集合データ(たとえば新型コロナの陽性患者数、救急通報、モビリティデータなど)を使う、とFacultyは話す。この学習をパンデミック対応だけでなく、サービス提供や患者のケアの改善、A&E(救急外来)需要や冬場のプレッシャーの予測など、サービス全体に応用しようとしている。

Facultyはまた、英国新型コロナの胸部画像データベース(NCCID)を開発したNHS AI LabのためにパートナーとしてNHSXとも協業する。

Facultyは、テロリストのデータベースにAIを応用するために英国内務省と、そしてBBCやeasy Jetとも協業していると報じられていた

筆者はFacultyのCOOであるRichard Sargeant(リチャード・サージェント)氏に、Facultyが「英国におけるPalantir」だと思うか尋ねた(ビッグデータ分析のソフトウェア会社であるPalantirもパンデミック中にNHSと協業した)。するとサージェント氏は「私が思うに、当社はかなり効果的でスケーラブルなAIの会社です。英国においてだけでなく、当社は米国、欧州、アジアでも展開しています。当社は引き続き事業を拡大します。当社は成長していて、今後も成長します。というのも、AIは市民や顧客のために物事を良くすることができると確信しているからです。Palantirは実際にはAIを実行していません。大まかに言えば彼らはデータエンジニアリングをしています。そしてNHSでは効果的だということがわかりました。Facultyはある種、独自の立場をとっていると思います」と述べた。

サージェント氏は、FacultyがPalantirとは異なる役割を持っていると話した。「Palantirはデータパイプラインでサポートしました。そしてPalantirは多くのデータを引き出すのに自前のソフトウェアを使っています。しかしPalantirは機械学習の会社ではなく、データを集結することを専門としています。NHS全体のデータはむしろ群島のようです。数百もの異なる場所からのデータであり、それらのデータをまとめられることで、中央レベル、ローカルレベルの両方で機械学習を行うのがかなり簡単になります。初期の警報システムと異なるのは、機械学習を使っているだけでなく、医療関係者や管理者になぜモデルがその結果を予想しているのかを理解できるよう説明しています。これはかなり最先端のものであり、Facultyが専門とするものです。Palantirは専門としていません」。

なぜFacultyがVCをひきつけたのかについても筆者は尋ねた。通常VCはスケーラブルなプロダクトを持っているスタートアップに投資する。「いい質問で、当社がよく尋ねられるものです。サービス事業として、Facultyは他の昔ながらのソフトウェアとは少し異なっていると思っています。AIは『一度で完了』のプロダクトではありませんし、人々が毎回最初から作り出すものでもありません。しかし我々が行うことの構成要素があります。繰り返し使えるものです。またモデルそのものは常にあつらえのものです。オーダーメードであること、一般的であること、あるいは包括的であることの組み合わせであり、それがFacultyを形成していて、その点が少し異なります」とサージェント氏は答えた。

Facultyは政府との契約に関して議論を巻き起こしてもいる。2020年、NHSの新型コロナデータストア運営をサポートするという230万ポンド(約3億4500万円)の契約を同社が獲得したとき、英国の大臣がFacultyの株式9万ポンド(約1350万円)分を所有していたことが明らかになった。

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:NHSFacultyイギリス新型コロナウイルス

画像クレジット:Win McNamee / Getty Images

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

半導体IPのカナダ企業Alphawave IPが英国で上場へ、本社も移転

Alphawave IPは、半導体の回路にフォーカスしているグローバルの半導体IP会社だ。5Gデータネットワークが展開され、家庭から産業、自動走行車両まであらゆるものを動かし始めるときに、半導体の回路は重要なものとなる。

それゆえに、トロントで創業した同社が評価額45億ドル(約4842億円)でロンドンでの上場を計画しているというのは興味深い。同社はBlackrockとJanus Hendersonから5億1000万ドル(約548億円)を調達した。また、同社は上場の一環として本社を英国へと移す予定だ。

Deliverooの評価額が英国でのIPO後に悲惨なものになったこともあり、Alphawave IPの動きは英国のテック株式リストウォッチャーに歓迎されている。

CEOのTony Pialis(トニー・ピアリス)氏は「当社は事業を成長させるために英国に来ることを選びました。英国は驚くべきテクノロジーと半導体産業のエコシステムを持っています。知識、経験、そして人材の蓄積が英国にはあります。我々はコネクティビティの専門家です。創業チームは20年以上にわたって一緒に働いていて、半導体イノベーションと投資家のために大きな価値を創造することにおいて長い歴史を持っています」。

Alphawave IPの上場は、別の英国拠点のディープテック会社である半導体設計のArm Holdingsが米国の会社に売却されようとしている中でのものとなる。Arm Holdingsの売却は英国の国家安全保障上の懸念から調査が行わることになり、遅延している。

カテゴリー:ハードウェア
タグ:Alphawave IP半導体カナダイギリス新規上場

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

自然の成分を含みクリーンで科学的な健康サプリで業界の改革を進めるFeelが6.7億円調達

2021年初め、TechCrunchでは、サプリメントという最近ますます人気分野のスタートアップHeightsのローンチを取り上げた。今回取り上げるFeelは、英国で1年前に創業された同分野のスタートアップで、純粋な栄養サプリメントという独自のポリシーを持っている。同社はこのほど、Fuel Venturesのリードにより620万ドル(約6億7000万円)の投資ラウンドを完了した。これにはTMT InvestmentsとSova VCであるRichard Longhurst(リチャード・ロングハースト)氏(LoveHoney.comの創業者)、そしてIgor Ryabenkiy(イゴール・リャベンキイ)氏(Alair Capitalの創始者でゼネラルパートナー)が参加した。

関連記事:科学的なデータを基に脳に栄養を与える「ブレインケア」用サプリを販売するHeightsが2.4億円調達

Feelの創業者でCEOのBoris Hodakel(ボリス・ホダケル)氏によると、彼はGrazeやTesco、Bulk Powders、Simba Sleepなど英国の大手健康ブランドやリテールのブランドをよく調べてから自分のスタートアップを立ち上げたという。

サプリは郵便受けにちょうど入るぐらいの箱に入って届き、多様なパッケージから選んでサブスクする点では、Feelは健康食のGrazeに近い。「Grazeはナッツだけど、うちはサプリだ」とホダケル氏はいう。

Feelは、D2Cのサブスクリプションだ。最初の1年で60倍に成長し、アクティブな会員つまり休眠でない会員は2万1000名いる。

ホダケル氏の主張では、Feelはグレードの高いサプリを消費者に提供するが、その生産コストは高い。そこで消費者時点での費用を抑えるためにD2Cのビジネスモデルを採用している。

「いろいろなビタミン剤がありますが、そこらのお店の棚にあるのはほとんど正しい処方でなく、体に吸収されにくく、自然の成分を欠いたものです。私たちは市場で最もクリーンで科学的な製品を提供しています。また継続的な投資により、消費者が買いやすい価格に抑えつつ、より服用効果の高い処方を開発しています」とホダケル氏はいう。

彼がFeelを創業したのは、自身が皮膚のトラブルを抱えてサプリが必須という生活を送るようになったからだ。そして市販の一般的なサプリは無意味な増量剤が多いことを知ったとき、起業を決意した。「私たちの処方はすべて、弊社自身の研究開発の成果であり自家製の処方です。しかも絶えずアップデートに努めているため、うちのフラグシップ製品であるマルチビタミンなどは2年ですでに3度のバージョンを行っています」と彼はいう。

Fuel VenturesのマネージングパートナーであるMark Pearson(マーク・ピアソン)氏は、投資家として何と言っているか。ピアソン氏は「Feelの製品は成長と拡大が続いており、現在、同社は実にエキサイティングな時期にあります。私たちは、同社がいずれ健康サプリの市場をディスラプトする重要な企業になるために投資をしています」という。

さらにSova VCのパートナーであるAlexander Chikunov(アレクサンダー・チクノフ)氏は「Feelは今、消費者のビタミンの摂り方に革新をもたらしつつあります。そして顧客に最高品質の製品と、非の打ちどころのないフレンドリーなサービスを提供して、この1440億ドル(約15兆6000億円)の市場を変えつつあります」と付け加えた。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:Feel資金調達サプリメントイギリス

画像クレジット:Feel supplements

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hiroshi Iwatani)

英国のドローンスタートアップsees.aiがBVLOS飛行試験の許可を取得

英国の民間航空管理局(CAA)は現地時間時間4月19日、産業用ユースケースのためのデータ収集を支援するBVLOS(目視見通し外)飛行のコマンド&コントロールソリューションを開発する同国のスタートアップsees.ai(シーズエーアイ)に、英国の民間企業としては初めて、BVLOSの定常運用の概念実証試験を認可したと述べた

この試験は、2019年5月に発表された、政府の資金援助と規制当局の支援をドローン分野の研究開発に向けるサンドボックスプログラムの一環として行われる。最初は、回避システムや検知システムの仮想テストから実施される。

Sees.aiは、このサンドボックスプログラムに早期から参加している企業の1つだが、これで、3つの(物理的な)試験場で、毎回事前の許可を得ることなく、定常BVLOS運用の概念実証試験が行える権限を手にした。

Techstars(テックスターズ)の支援を受けるこのスタートアップは、工業環境でのドローン運用、つまり、石油やガスなどの工業分野での検査や維持管理の目的に合わせてドローン利用の規模を調整し、フライトごとにパイロットが現地に赴かなくとも、特定の場所から遠隔操作できる技術の構築にフォーカスしている。

だが、BVLOS能力は、配達などの他分野のドローン利用にも欠かせないものであることは明らかだ。そのためCAAも、この試験を「ドローン業界にとって極めて大きなステップ」と呼ぶ。

「検査、モニター、維持管理といった工業環境で概念を試すことで、sees.aiはまずその状況での同社システムの安全性を実証し、その後に、時間をかけて、徐々に困難さを増すミッションへの対処をテストしていきます」と同局は話している。

現在の英国の規制では、特別な許可がない限り、オペレーターはドローンを見通せる範囲内に留め、英国のドローン規定に従わなければならない。

過去にその許可を得た企業に、米国のテック最大手Amazon(アマゾン)がある。2016年に英国でBVLOSによる宅配ドローンの試験を開始した。現在も、Prime Air(プライム・エアー)というブランド名で、商用ドローン配達サービスを市場に投入しようと活動を続けている。

Amazonの取り組みはすでに何年間にも及んでおり(実験は2003年から行われている)、2020年、Financial Times(ファイナンシャル・タイムズ)がPrime Airの文書を引用するかたちで伝えたところによると、世界中で大規模にドローン宅配が行えるようになるまでは、あと「何年」もかかるとのことだ。そのため、また別のBVLOSドローン技術の試験が英国で始まり、これが業界にとって規制当局の大変な進歩であったとしても、ドローン宅配がすぐにでも実現するという英国人の期待は、裏切られることになりそうだ。

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CAAがsees.aiに試験許可を与えたことで、BVLOSのテスト飛行は150フィート(約45メートル)以内で可能となる。最初は、ドローンを目視できる場所に監視人を置き、必要に応じてリモートのパイロットと通信ができるようにしておくことが規定されている。

つまり厳密に言えば、最初は、本当のBVLOSではなく、範囲を限定したEVLOS(拡張視野見通し内)飛行となる。つまり、リモートのパイロットから500メートル以上離れた範囲を飛行できるが、監視人を配置する必要があり、同社が最終目標としている完全に監視人を廃した飛行とはならない。CAAは、監視人を置かない飛行を目指していると明言しているが、それは試験によってsees.aiの概念が実証された場合だ。また同局は、この試験は、従来のEVLOS飛行とは異なるとも話している。監視人が常にパイロットと連絡を取り合う必要がないからだ。必要なときにだけ話ができる手段があればよい。

CAAが2020年秋に発表したロードマップによれば、範囲を限定しない空域での「ごく普通の」状態でのBVLOSになんとか到達するまでには、数多くの手順を踏まなければならない。そのため、商用ドローンが運用者から遠く離れた場所で合法的に飛び回りデータ収集(や荷物の配達)ができるようになるまでには、まだ道のりは長い。

「BVLOS運用における運用者の長期的な願望は、英国中の事業でそれがごく普通のものになることです。これが実現するためには、膨大な量の実証結果と、これに関わるすべての人の膨大な経験と学習が必要です。イノベーターにもCAAにもその未来を構築し、テストし、学習し、そして小さなステップを繰り返し行う努力が欠かせません」とCAAのロードマップには記されてる。

sees.aiのCEOであるJohn McKenna(ジョン・マッケナ)氏は声明の中で、今回の試験の許可を「極めて画期的な出来事」と称し、こう述べている。「私たちは、ドローンが大規模に自律飛行する未来に向かって加速しています。そこには、上は有人飛行から、下は工場や校外や街といった範囲内の飛行が含まれます。英国で初の許可を取得したことは、この旅の大きな一歩となり、公共衛生および安全から、効率化や環境へのインパクトに至るまで、大きな社会的恩恵をもたらすことになります」。

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カテゴリー:ドローン
タグ:sees.ai民間航空管理局(CAA)イギリスドローン配送

画像クレジット:sees.ai

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(文:Natasha Lomas、翻訳:金井哲夫)

英国のIoT向け「セキュリティー・バイ・デザイン」法がスマホも対象に

英国の消費者向けデバイスのセキュリティ向上を目的として計画されている「security by design(セキュリティ・バイ・デザイン)」法の対象に、スマートフォンも入ることになった。政府が英国時間4月20日に発表した。

発表は、モノのインターネット(IoT)が長年引きずっている最もゆるいセキュリティ慣行に取り組む法制計画に関する質問への回答の中で行われた。

政府はIoTデバイス製造メーカー向けのセキュリティ実務指針を2018年に導入した。しかし、この度の法案は、そこに一連の法的拘束要件を追加することを意図している。

法案の草稿は閣僚らによって2019年に公開された。政府が焦点を当てたウェブカメラや赤ちゃんモニターなどのIoTデバイスは、最もひどいデバイスセキュリティ慣行としばしば結び付けられてきた。

今回の計画では、事実上すべてのスマートデバイスが、法的拘束力のあるセキュリティ要件の対象となり、政府が参照した消費者グループ 「Which?」の調査によると、3分の1の人々が携帯電話を4年以上使っており、メーカーの中にはセキュリティアップデートを2年以上実施していないところもある。

この法案は、スマートフォンやデバイスのメーカー、たとえばApple(アップル)やSamsung(サムスン)に対し、ソフトウェアアップデートを受けられる期間を、販売時点で消費者に通知することを義務づけている。

さらに、メーカーが容易に推測できてセキュリティの意味をなさない共通デフォルトパスワード(「password」や「admin」)を工場設定で埋め込むことを禁止する。

すでにカリフォルニア州では、そのようなパスワードを禁止する法案が2018年に通過し、2020年法制化された。

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来たるべき英国法の下で、メーカーは誰もが簡単に脆弱性を報告できる公開連絡窓口を提供することも義務づけられる。

政府は同法案を議会日程が許す限り迅速に提出すると語った。

デジタルインフラストラクチャー担当大臣のMatt Warman(マット・ワーマン)氏は声明で次のように語った。「私たちの携帯電話やスマートデバイスはデータを盗もうと狙っているハッカーにとって宝の山ですが、未だに多くの人達がセキュリティシステムに穴のある古いソフトウェアを使っています」。

「私たちは法を改訂し、買おうとしている製品がいつまで必要なセキュリティアップデートのサポートを受けられるのかを購入者が知り、簡単に推測できるデフォルトパスワードを禁止することでデバイスへの侵入を困難にします」。

「この改訂は、世界中のテクノロジー団体の支援を受けており、オンライン犯罪者の行動を打ち砕き、パンデミックから安全を取り戻すという私たちの使命を後押しするものです」。

デジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)広報官は、ノートパソコン、デスクトップパソコン、および携帯通信機能を持たないタブレットや、中古品は本法案の対象外であることを確認した。ただし、その意図は対象範囲を柔軟にし、今後デバイスを襲うかもしれない新たな脅威に追随することにあると付け加えた。

カテゴリー:セキュリティ
タグ:イギリススマートフォンIoT

画像クレジット:Karl Tapales / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nob Takahashi / facebook

NVIDIAのArm買収に国家安全保障上の懸念を理由に英国政府が介入

英国政府は半導体メーカーのNVIDIAによるArm Holdings買収計画に介入し、公益のための監視を始動した。

デジタル・文化・メディア・スポーツ省のOliver Dowden(オリバー・ダウデン)大臣は英国時間4月19日、政府は半導体に関わる契約のあらゆる安全保障問題を調査する意向であると語った

NVIDIA(エヌビディア)による英国企業Arm(アーム)の400億ドル(約4兆3330億円)での買収は2020年9月に発表されたが、未だに規制当局の承認が得られていない。

英国競争・市場庁(CMA)は2021年1月にこの買収提案の調査を開始した。

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NVIDIAの計画に対する国内の反対はすばやく、Armの共同ファウンダーの1人は「Save Arm(Armを救え)」キャンペーンを2020年9月に立ち上げた。そのHermann Hauser(ハーマン・ハウザー)氏は、米国企業によるArmの買収は、米国の利害関係に対する同社の独立性を失わせ、貿易における最も重要な兵器を手放すことで英国の経済主権を脅かすものだと警告した。

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デジタル・文化・メディア・スポーツ省による介入(2002年企業法が発効した規制力を使ったもの)は、競争規制当局がフェーズ1捜査を開始するよう指示されたことを意味している。

CMAには7月30日までに大臣に報告しなければならない期限がある。

ダウデン氏は声明で次のように語った。「ARM買収の提案を慎重に検討した結果、本日、国家安全保障を理由に介入命令を発行しました。次の段階として私が関連情報を集めるために、英国の競争・市場庁は、本買収から予測される結果報告を準備中であり、今後の判断に役立てます」。

「私たちは繁栄している英国テック業界を支援し、海外からの投資を歓迎したいと考えていますが、このような取引の招く国家安全保障上の懸念については、慎重に考慮することが適切です」と同氏は付け加えた。

CMAのフェーズ1捜査が完了すると、ダウデン氏には契約を承認する選択肢が生じる。即ち、国家安全保障および競争上の問題が見つからなかった場合、あるいは、指摘された問題の改善を条件に承認するかだ。

ダウデン氏は、さらに捜査を進めるために、CMAに詳細なフェーズ2捜査の実施を命令することもできる。

フェーズ1報告書が提出された後、大臣が次の段階の決定を下すまでの期間は決められていない。ただし、DCMSは「当然実用的」に不確定要素が減り次第、決定は下されるとしている。

ダウデン氏の介入は国家安全保障の理由で実施されているが、NVIDIAのArm買収については、別の懸念も取り沙汰されている。具体的には、英国の雇用およびArmのオープンライセンシングモデルに関してだ。

2020年NVIDIAはこれらの問題を解決するために、Armのライセンシングモデルの維持と英国ケンブリッジのArm事業所の拡張を約束し、英国キャンパスに「新しい卓越したAI研究の世帯的研究拠点」を作ると語った。

しかし、NVIDIA傘下のArmが英国の経済主権に与える結果に対する懸念を和らげるために、どのような商業的譲歩が提案されるのかは想像がつかない。なぜならこれは政治的リスクであり、和らげるためには政治的な、例えば、条約レベルの解決方法が必要になるからだ。それは、NVIDIAの力だけではどうにもならないものだ。

国家安全保障の懸念は、半導体設計や次世代ネットワークのような最先端インフラストラクチャーを供給するテック企業にとって、増大する事業リスクだ。競争が比較的少ない分野では、市場の選択が制限されるだけでなく、政治的思惑を助長させる。

数々の買収提案は、政治経済的情勢の急変を呼ぶ市場統合の引き金だ。

しかし、テック企業の事業は、国家安全保障の名のもとにますます圧迫を受けている。たとえばここ数年、米国政府によるHuaweiなどの中国拠点5Gインフラ供給会社に対する攻撃で、トランプ元大統領は同社による次世代ネットワークの提供を、米国からだけでなく、西側同盟国の国内ネットワークからも追放しようとした。

最近(地理)の政治的圧力は、主要インフラストラクチャー企業だけが標的ではない。トランプ氏は国家安全保障を理由に中国製ソーシャルネットワークのTikTokを揺さぶり落とそうとした。これは、いかにテックツールが地政学的権力に利用され、各国の経済・政治の私欲に後押しされているかを示す好例だ。

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:NVIDIAArm HoldingsイギリスCMA

画像クレジット:Chris Ratcliffe/Bloomberg

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nob Takahashi / facebook

英ネットスーパーOcadoが自動走行システム開発Oxboticaに約15億円投資、他社配達事業展開支援を目指す

英国のネットスーパーOcado(オカド)は、他のグローサリー企業がオンライン注文と配達の事業を展開するのを手伝おうと、自社のテクノロジーの再販に向けて順調に進めている。同社は現地時間4月16日、事業成長において次の章になると確信しているものに投資する。自動走行システムを開発している英国のスタートアップOxbotica(オックスボティカ)の1000万ポンド(約15億円)分の株式を取得する

Ocadoはこの株式取得について、車両そのもので、そして梱包倉庫の内外からグローサリー注文を家庭に届けるラストマイルの車両に至るまでのオペレーション全般で使えるAI駆動の自動走行システムを開発するための戦略的投資ととらえている。今回の取引による初のプロダクトが、構造がはっきりしていない道ではなく倉庫のような閉環境で、おそらく2年以内に使えるようになると予想している、と同社は話す。

「1つのユースケースの取り組みに自らを縛ろうとはしていません」とOcadoの高度テクノロジー最高責任者Alex Harvey(アレックス・ハービー)氏はインタビューで述べた。しかし自動システムをあらゆるところで展開するために、さまざまな要素の中でも「規制対応する必要があるエリアがあることに気づきました」とハービー氏は付け加えた。株式取得の取引は非独占で、両社とも他のパートナーと協業できることを互いに確認した。

投資は、2021年1月に発表されたOxboticaのシリーズBの延長として実施される。石油・ガス大手bpの投資部門bpベンチャーズがリードし、BGF、安全装備メーカーHalma、,年金基金HostPlus、IP Group、Tencent、Venture Science、Doxa Partnersのアドバイスを受けた複数のファンドなどが参加したシリーズBの総規模は6000万ドル(約65億円)超となった。Oxboticaはバリュエーションを公開しなかったが、同社の共同創業者でCTOのPaul Newman(ポール・ニューマン)氏はインタビューの中で、最新の投資によりバリュエーションがアップしたことを認めた。

関連記事:自動運転車用ソフトウェアを産業アプリケーションへ展開するためにOxboticaが48.3億円を調達

今回のニュースのタイミングは非常に興味深い。米国のWalmart(ウォルマート)が、自動走行テック企業Cruise(クルーズ)の27億5000万ドル(約2991億円)という巨額ラウンドの一環として株式を取得したというニュースがあった翌日のことだ(実際24時間も経っていない)。

2021年2月までWalmartは、Ocadoの英国における大きな競合相手の1社であるASDAを所有していた。そしてOcadoは今週から運用が始まるKrogerのオンライングローサリー事業をサポートする取引で米国進出を果たした。ゆえに、この2社が繰り広げる競争は熾烈なものになりつつある。

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一般的に、2020年オンライングローサリーと配達サービスは大きく成長した。オンラインサービスのみを提供している先駆け的な存在のOcado、英国のTesco(実在店舗とオンラインネットワークを持つ)、米国のInstacartは記録的な需要を目の当たりにしたが、資金豊富でチャンスをつかむのに熱心、そして異なるアプローチ(1時間以内の配達、少量販売、特定のプロダクトなど)を持ち込む数多くの新規参入者との競争にも直面した。

Ocadoのホーム英国へは、他国のビッグネーム企業も進出を狙っている。そうした企業にはOda(元Kolonial)、チェコのRohlik(2021年3月に約250億円を調達した)、イタリアのEverli(以前はSupermercato24という社名で、約108億円を調達した)、オランダのPicnic(このところ資金調達を発表していないが、海外展開の野心を公にしたことを踏まえると、時間の問題のようだ)などがある。Ocadoもグローバル展開の野心を追求するために巨額を調達した。そしてそれは数十もの即配の小規模グローサリー配達事業者が出てくる前のことだった。

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そうした小規模事業者の多くにとって2020年は当たり年だった。少なからずそれはパンデミックのおかげだ。パンデミックでは多くの人が家にこもり、新型コロナウイルスに感染したりウイルスを広めたりしそうな場所を避けるようになった。

しかしいま、人々が「ノーマル」な暮らしに戻るとき、そうしたオンライングローサリーマーケットが将来どのようなものになるのかというのは大きな疑問だ。

先にTechCrunchが指摘したように、Ocadoはすでに需要が縮小する見通しを立てたが、それでもパンデミック前より需要は大きい。実際、ニューノーマルではおそらく競争がさらに激化するだろう。

それは、Ocadoなどの企業がさらに多くの資金を次世代のサービスとなりそうなもの、つまり効率的で純粋にテクノロジーで動くものへの取り組みに注ぐ理由の1つかもしれない。

コストを節約するために、まだほとんどテストされていない非常に高価な自動走行テックに大金を支払う理論的根拠は、長期的な視点に基づいている。ロジスティックはグローサリー配達オペレーションのコストの10%ほどを占める。しかし需要のピーク時、あるいは定期サービスが崩壊したとき、この数字はさらに大きくなる。

筆者が予想するに、新規事業を推進するための配達料無料サービスやグローサリーの割引など、費用を助成しているサービスが現在あちこちで展開されている(マーケットの競争が激しくなっている結果だ)ために、ロジスティックはさらに大きなコストとなっている。

そのため、この業界の大手が効果は数週間ではなく数年内に出てくるということであっても、そうしたコストを抑制し、オペレーションを迅速化するためにテクノロジー面での強みを生かす方法に目を向けるのは驚きではない。もちろん、投資家はそれが軌道に乗らないということでなければ目にするだろう。

Oxboticaとのコラボレーションに加えて、Ocadoは自動走行車両の能力を発展させながら、提携にさらに投資することを視野に入れていると話した。今回は初のOxboticaへの投資だが、他の多くのスタートアップにも投資し、次のステージのテクノロジーにともに取り組んだ。ここには、間もなく導入される物をつかむためのロボットアームを構築する研究、最近のロボット企業2社(KindredとHaddington)の2億6200万ドル(約285億円)での買収、ロボットスタートアップKarakuriMyrmexへの投資などが含まれる。

特筆すべきは、OxboticaとOcadoが互いを知らないわけではないということだ。両社は2017年にデリバリー試験事業で協業を始めた。デリバリーサービスがどのようなものか、以下の動画で確認できる。

「OxboticaとOcadoにとって、これは自動走行の未来に向けたビジョンを共有しながら提携を強化するすばらしい機会です」とニューマン氏は声明で述べた。「両社の最先端の知識とリソースを組み合わせることで、我々のユニバーサルな自動化ビジョンを暮らしにもたらし、引き続き世界で最も複雑な自動化の問題を解決することを願っています」。

しかし自動走行テクノロジーはおそろしく複雑で、規制や安全面でのハードルがあることから、一連のオペレーションから人をほぼ排除する完全商業システムからはまだ程遠い。

「規制と複雑さのため、Ocadoは都市部、あるいはCFCビルやCFCヤード内のようなアクセスが制限されたエリアを低速で走行する車両の開発は、消費者の家庭への完全自動走行デリバリーよりもずっと早く現実のものとなると予想しています」とOcadoは今回の取引についての声明文に書いている。「しかしながら、自動走行車両開発のすべての要素はコラボレーションのスコープに含まれます。Ocadoは2年以内に自動走行車両の初期ユースケースの初プロトタイプを披露することを想定しています」。

ニューマン氏は、道での自動走行はまだ数年は先のことである一方で、かつてほどにムーンショットコンセプトではなく、Oxboticaがすでにそれに向けて取り組んでいると指摘した。「少しずつ月に近づくことができます」と同氏は述べた。

カテゴリー:モビリティ
タグ:OxboticaOcadoイギリス自動運転資金調達

画像クレジット:Ocado

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

米国のプライバシー保護団体が「監視広告」の禁止を米議会に強く要請

米国時間3月25日に、ビッグテックと議会による「映画のような」激しい応酬が行われた。米国議会は、虚偽情報という不快なトピックについて今回もFacebook(フェイスブック)、Google(グーグル)、Twitter(ツイッター)のCEOに聴聞する予定だ。それに先立ち、プライバシー、反トラスト、消費者保護、公民権の各分野の組織で構成される連合体が「監視広告」の禁止を要求し「ビッグテックの有害なビジネスモデルが民主主義を弱体化させている」という論調を強めている。

「不快な広告」の禁止を要求しているのは、40あまりの組織で構成される強力な連合体だ。このような広告には、行動広告のターゲティングを目的としたウェブユーザーの大規模追跡とプロファイリングが利用されている。この連合体には、American Economic Liberties Project(アメリカ経済的自由プロジェクト)、Campaign for a Commercial Free Childhood(広告のない子ども時代を目指すキャンペーン)、Center for Digital Democracy(デジタル民主主義センター)、Center for Humane Technology(人道的技術センター)、Epic.org(電子プライバシー情報センター)、Fair Vote(フェア・ボート)、Media Matters for America(メディア・マターズ・フォー・アメリカ)、Tech Transparency Project(技術透明性プロジェクト)、The Real Facebook Oversight Board(リアルフェイスブック監視委員会)などの組織が参加している。

同連合体は公開書簡の中で「我々はさまざまな問題や業種を代表しており、コミュニティの安全性と民主主義の健全性に対する懸念を共有している。ソーシャルメディア大手は、情報を吸い取る有害なビジネスモデルのサービスにおいて、合意された現実を侵食し、公共の安全を脅かしている。監視広告の禁止に向けた取り組みで我々が協力しているのはそのためだ」と述べている。

この連合体はまた、より安全な非追跡型の代替手段(コンテキスト広告など)が存在することを指摘している。一方で、アドテックのインフラストラクチャのさらなる透明性とそれに対する監督が、関連するさまざまな問題(ジャンクコンテンツ、陰謀論の増加、広告詐欺、デジタルイノベーションの荒廃など)の解決に役立つ可能性があると主張している。

前述の公開書簡の中には「この危機に対処するための特効薬はない。この連合体のメンバーは、包括的なプライバシー関連の立法、反トラスト法の改正、責任基準の変更など、引き続きさまざまな政策的アプローチを追求していく。しかし全員が同意できることが1つある。それは、今こそ監視広告を禁止すべきときだということだ」と書かれている。

さらに、同連合体は「ビッグテックのプラットフォームは、憎悪、不法行為、陰謀論を増幅している。また、ユーザーにますます極端なコンテンツを提供するようになっている。それによってエンゲージメントと利益を最大化できるためだ」と警告する。

「ビッグテック自身のアルゴリズムツールによって、白人至上主義者のグループ、ホロコースト否認主義、新型コロナウイルス感染症関連のデマ、偽造オピオイド、虚偽の癌治療情報など、あらゆる情報の拡散が促進されてきた。エコーチェンバー現象、急進化、嘘の拡散はこのようなプラットフォームの特徴である。これはバグではなく、ビジネスモデルの中心なのだ」。

また、この連合体は監視広告による従来型ニュースビジネスへの影響についても警告している。プロのジャーナリズムにおける収益が減ってきており、それにより民主主義で取り組むべき(真の)情報エコシステムへの危害が大きくなっていると述べている。

これらの批判にもそれなりの根拠はあるのが、従来型ニュースの終焉をテクノロジー大手のせいにするのは単純化しすぎである。巨大テック企業の存在そのもの、つまりインターネットによってもたらされた産業のディスラプション(創造的破壊)を批判しているのと同じだ。とはいえ、一部のプラットフォーム大手による、プログラムを使用したアドテックパイプラインの支配は、明らかによいことではない(オーストラリアの立法はこの問題に対して判決を下したが、つい最近のことであるため、まだその影響を評価することはできない。しかし、ニュースメディアへの対価の支払いを義務付ける法律の恩恵を受けるのは大手メディアビッグテックだけで、声を上げた両業界全体に利益がもたらされることにはならない、というリスクがある)。

同連合体は次のように警告する。「フェイスブックとグーグルの独占的な力と、データを『収穫』する行為は、両社に不公平なほど大きなメリットを与えてきた。それにより両社はデジタル広告市場を支配し、以前は各地域の新聞が得ていた収益を吸い上げるようになった。そのため、ビッグテックのCEOがさらに裕福になる一方で、ジャーナリストは解雇されている。ビッグテックは現在も差別、分断、迷いを煽っている。標的型の暴力を助長し、暴動の土台を用意することになる場合でも、金銭面でのメリットがある限りこれを行う」。

連合体は、具体的な被害をまとめたリストの中で、フェイスブックとグーグルなどのテクノロジー大手による圧倒的に有利なオンラインビジネスモデルが「医療関連のデマ、陰謀論、過激なコンテンツ、外国のプロパガンダを促進する狡猾な虚偽情報のサイト」の資金源になっていると指摘している。

「監視広告を禁止することで、デジタル広告の表示に対する透明性と説明責任を以前のように戻せる可能性がある。また、虚偽情報のパイプラインにおいて重要なインフラストラクチャとして機能しているジャンクサイトの資金を大きく減らせる可能性がある」と同連合体は主張し、さらに「このようなサイトでは、拡散目的で作られた陰謀論がいつまでも続くことになる。この陰謀論は、ソーシャルメディア上の悪意のあるインフルエンサーや、エンゲージメントに飢えたプラットフォームのアルゴリズムによって拡散が促進される。つまり、監視広告が有害なフィードバックループを加速し、資金源にもなっている」と述べている。

同連合体が指摘する被害には他にも、プラットフォームによるジャンクコンテンツや虚偽コンテンツ(新型コロナウイルス感染症に関する陰謀論やワクチンに関する誤った情報など)の拡散による公衆衛生に対するリスク、不公平に選ばれた、またはバイアスがかかった広告ターゲティング(女性や民族的マイノリティなどを違法に排除する求人広告など)を通じた差別のリスク、コンテンツや広告におけるユーザーエンゲージメントを増加させるために過激なコンテンツや悪意のあるコンテンツを増やす、広告プラットフォームによる道義に反する経済的インセンティブ(これは社会の分断を促進する。また、コンテンツが多く拡散されるほどプラットフォームが財務的に利益を得るという事実の副産物として党派性を促進する)、等がある。

同連合体はまた、監視広告システムが「小規模ビジネスに対して不正な試合を持ちかけている」とも主張している。プラットフォームの独占的状態が監視広告システムに組み込まれるためだ。これは「不快な広告は何らかのかたちで中小企業と大規模ブランドの勝負を公平にする」というテクノロジー大手の自衛的主張に対する妥当な反論である。

「フェイスブックとグーグルは自らを小規模ビジネスのライフラインであるかのように装っている。しかし真実は、単に独占企業としてデジタルエコノミーへのアクセスに対して課金しているだけだ」と同連合体は述べており、独占的状態にある両社による「広告市場に対する監視に基づく拘束により、小規模企業はレバレッジや選択肢を利用できない」と主張している。これはビッグテックによる搾取の余地を生む。

そのため、同連合体は、フェイスブックとグーグルが米国の広告市場の60%近くをコントロールしている現在の市場構造ではイノベーションと競争が抑制される、と断言している。

「監視広告はオンラインパブリッシャーに恩恵をもたらすのではなく、ビッグテックのプラットフォームに対して偏ったメリットをもたらす」と同連合体は述べ、フェイスブックは2020年に842億ドル(約9兆3214億円)の広告収入を、グーグルは1348億ドル(約14兆9231億円)の広告収入を得て「一方で監視広告の業界では詐欺の申し立てが多数あった」と指摘する。

行動ターゲティング広告の禁止を要求するキャンペーンは、今回が初めてではない。しかし、支持している署名者の数を考えると、これは、今の時代を形作り数社のスタートアップが社会と民主主義を弱体化させる巨人に姿を変えたデータ収穫型ビジネスモデルに反対する勢いの大きさを示している。

米国議会がビッグテックの影響に細かい注意を払うようになってきたため、この点は重要だと思われる。また、複数のビッグテックに対する反トラスト法関連の訴訟が進行中である。とはいえ、マイクロターゲティングの悪用の影響と民主的社会へのリスクについて早い段階で警鐘を鳴らしたのは、欧州のプライバシー規制当局だ。

話は2018年にさかのぼる。Cambridge Analytica(ケンブリッジ・アナリティカ)が関与していたフェイスブックデータの不正使用と投票者をターゲットにしたスキャンダルが発生すると、英国のICOは、倫理的な理由から政治キャンペーン目的でのオンライン広告ツールの使用停止を要求した。また「Democracy Disrupted? Personal information and political influence(民主主義は崩壊したのか?個人情報と政治的影響)」というタイトルの報告書を作成した。

その同じ規制当局が、行動ターゲティング広告が制御不能になっているという警告を2019年に受けていながら、アドテック業界によるユーザーデータの違法使用に対してこれまでアクションを起こしてこなかったことは、ちょっとした皮肉では済まされない事態だ。

ICOが行動を起こさないのを見た英国政府は、ビッグテックを監督する専門の部門が必要だと判断した。

英国政府は近年、オンライン広告の分野を独占禁止法関連の懸念事項として挙げており、2019年に競争・市場庁が実施したデジタル広告セクターの市場調査に従い、競争重視の規制機関を作ってビッグテックの支配に対応していくと述べている。この調査では、アドテックによる独占的状況に対する大きな懸念が報告された

一方で、欧州連合のデータ保護監督機関のトップは先月、インターネットユーザーのデジタルアクティビティに基づくターゲティング広告を、停止ではなく禁止することを主張し、各加盟国の議員に対して、デジタルサービスルールの大規模な改正にそのための手段を組み入れるよう求めた。このルールは、運用者の説明責任などの目標達成を促進することを目的としたものである。

欧州委員会の提案がここまで踏み込んだのは今回が初めてだ。しかし、デジタルサービス法とデジタル市場法に関する交渉は現在も継続中である。

2020年、欧州議会でも、不快な広告に対してより厳しい姿勢で臨むことが支持された。ただし、ここでもオンラインの政治広告対応に取り組む委員会のフレームワークでは、あまり過激な内容は提案されていない。そのため、EUの議員はさらなる透明性を求めている。

米国議会が今回のキャンペーンにどう反応するかはまだわからないが、米国では市民社会組織は協力してターゲティング広告に反対するメッセージを広めようとしており、有害なアドテックを一掃すべきだ、という圧力が米国内でも高まっている。

同連合体のウェブサイトに記載されているコメントの中で、フォーダム大学ロースクールの法律学准教授であるZephyr Teachout(ゼファー・ティーチアウト)氏は「フェイスブックとグーグルは、権威主義国家における監視体制とタバコのような依存症ビジネスモデルを組み合わせた、巨大で独占的な力を持っている。議会には両社のビジネスモデルを規制する広範な権威があり、監視広告への取り組みを禁止するためにそれを使用するべきである」と述べている。

Ruby on Rails(ルビー・オン・レイルズ)のクリエイターであるDavid Heinemeier Hansson(デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン)氏は、今回の活動を支持する別の声明の中で次のように述べている。「監視広告は、新聞、雑誌、独立したライターから、生活およびコモディティ化された仕事を奪ってきた。代わりに我々が得たものは、数社の腐敗した独占的企業だった。これは社会にとってよい取引ではない。このやり方を禁止することで、我々は文章、音声、動画の独自の価値を、それを集める者ではなく、それを作る者の手に取り戻すことができる」。

興味深いことに、米国の政策立案者がアドテックにさらに細かく注意を払うようになっている状況を受けて、グーグルは個人レベルの追跡サポートを「プライバシー保護」型の代替策として認知されている方法(FLoC)で置き換える努力を加速させている。

それでも、Privacy Sandbox(プライバシーサンドボックス)でグーグルが提案したテクノロジーでは、ウェブユーザーのグループ(コホート)が引き続き広告主のターゲットになる。ここには引き続き、差別が発生するリスクや、社会的弱者のグループが何らかの標的にされ、社会的規模で操作が行われるリスクが存在する。そのため、議員はグーグルのブランディングではなく「プライバシーサンドボックス」の詳細に注意を払う必要がある。

「要するに、これはプライバシー保護の点では有害なことだ」とEFF(電子フロンティア財団)は2019年の提案について触れながら警告した。「集団の名称は基本的には行動の信用スコアだ。デジタル版の額にタトゥーが刻まれているようなもので、あなたが誰か、何が好きか、どこに行くのか、何を買うのか、誰と関係があるのか、といった情報を提供している」と述べている。

EFFはまた「FLoCはプライバシー保護テクノロジーとは逆のものだ」と付け加え「今日も追跡者はウェブ上であなたを追いかけている。あなたがどのような人間かを推測するためにデジタル環境でコソコソ動いている。グーグルによってもたらされる未来では、追跡者は椅子に座って何もせず、自分の代わりにあなたのブラウザに働かせるだろう」と述べている。

関連記事:EUの主管プライバシー規制当局が行動監視に基づくターゲティング広告の禁止を求める

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

自宅でのプライベートシェフパーティーをアレンジするYhangryがシードで1.65億円調達

最近はあらゆる分野での「Uber」がある。「パーソナルシェフのUber」もある。例えばPopTop100 Pleatsを思い浮かべて欲しい。そしてロンドンには今、Yhangry(ほどよく派手なYHANGRYというブランドで展開)がある。これは「自宅でのプライベートシェフによるパーティー」のウェブサイトであり、ある意味で間違いなくアプリだといえる。同社は多くの著名な英国のエンジェルらから、シードラウンドで150万ドル(約1億6500万円)を調達した。エンジェルには英国のベンチャーキャピタリストや「Made In Chelsea」のテレビスターであるOllie Locke(オリー・ロック)氏も含まれている。

創業者のHeinin Zhang(ヘイニン・ツァン)氏とSiddhi Mittal(シディ・ミタル)氏は、パンデミックの前に同社を創業した。同社のサービスを使えば、オーダーメイドのディナーパーティーをオンラインで注文できる。新型コロナウイルスの前まで同社はゆっくりと成長していたが、2020年のロックダウンの間は、バーチャルシェフクラスにシフトしなければならなかった。同社は現在、ロンドンのロックダウン解除への備えを整えている。ロックダウン解除により、合法的な屋外や屋内での食事が復活するからだ。

同社はまた、パンデミックをきっかけに起こった「エクスペリエンスの分散化」についても語っている。2019年、私たちはエクササイズをジムで行い、レストランにも行っていた。2021年、エクササイズは自宅で行われ、レストランは自宅に持ち込まれようとしている。

通常、プライベートディナーパーティーの予約には多くの手間がかかる。同社の構想は、YhangryによりUberEatsやDeliverooと同じくらい簡単に注文できるということだ。

シードラウンドの投資家には、Blossom CapitalのCarmen Rico氏(カルメン・リコ)、Passion CapitalのEileen Burbidge氏(アイリーン・バーブリッジ)、AntlerのOrson Stadler氏(オーソン・スタッドラー)、Index VenturesのMartin Mignot氏(マルタン・ミニョット)、Ollie Locke(オリー・ロック)氏、UrbanのJack Tang氏(ジャック・タング)、MindLabsのAdnan Ebrahim氏(アドナン・エブラヒム)、Cuckoo InternetのAlex Fitzgerald氏(アレックス・フィッツジェラルド)、VinehealthのGeorgina Kirby氏(ジョージナ・カービー)、Alma AngelsのDeepali Nangia氏(ディーパリ・ナンジア)らが名を連ねる。Yhangryの声明によると、彼ら投資家は常連顧客でもある。きっとそうだろう。

共同創業者のミタル氏は声明で次のように述べた。「いつもお客様から耳にするのは、プライベートシェフをより身近で手頃な価格で利用できれば、定期的に自宅で友人と近況交換できるということです。お客様の70%はこれまでプライベートシェフを利用したことがありません。彼らにとって、自分自身の夜をキュレートする自由と柔軟性は貴重です」。

Yhangryは現在130人のシェフを抱える。シェフは調理試験に合格し、新型コロナに関する規則を順守する必要がある。資金は、同社のチームの規模を2倍にするために使われる。

メニューは6人で1人あたり17ポンド(約2550円)から。予約価格は新鮮な食材の費用などすべてを含むが、顧客は料金を払えばワインなどを追加できる。2019年12月の開始以来、同社は7000人以上のロンドンの住民にサービスを提供してきたと話す。

Yhangryはパリ、ベルリン、リスボン、バルセロナなどの欧州主要市場に参入するという。

新型コロナ後にレストランやバーが再びオープンしても、Yhangryはも生き残れるのだろうか。

ミタル氏はこう述べる。「立ち上げから2020年3月までの間、レストランは開いていました。その時から、人々はリラックスした雰囲気の中で友人と時間を過ごしたいと考えていました。2時間の枠に限定したくないという需要がありました。店が再びオープンし始めたとしても、Yhangryはそうした家庭での食事と社交というトレンドを追いかけます。少なくとも、混み合ったパブやレストランに出かける心の準備がまだできていない人達がいます」。

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

フェイスブックが偽レビューを売買する1万6000のグループを削除、英当局の調査を受けて

英国の競争・市場庁(CMA)の新たな介入を受けて、Facebook(フェイスブック)は同社のプラットフォームで偽のレビューを売買していた1万6000のグループを削除した、とCMAが現地時間4月9日明らかにした。

CMAは2018年にこの問題の調査を開始して以来、偽レビューを売るマーケットプレイスを拡大する場所として同プラットフォームが使われるのを防ぐようFacebookに求めてきた。2019年には偽レビューのセラーに対して行動を取るようeBayとFacebookに圧力をかけている

Facebookが所有するInstagramもまた偽レビュー売買のハブとなっていたことが判明し、当局からさらに圧力をかけられた両社は2020年、狡猾な取引に一層取り組むことを約束した。

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CMAによる直近の介入は2020年のものよりもかなりのものだったようだ。Facebookは前回、188のグループを削除し、ユーザー24人のアカウントを使えないようにした。ただし、Facebookが桁違いの数のグループを削除した今回、いくつのアカウントを禁止そして(あるいは)一時停止としたのかは明らかではない(TechCrunchは問い合わせている)。

【更新】規制当局はミスリードするレビュー、あるいは偽のレビューを取引する個人よりグループの除外に注力しているとTechCrunchは理解している。禁止あるいは一時停止となったユーザーは新しいプロフィールを作成できるが、偽レビューを扱うグループの排除はそうした活動の抑制により効果的な方法だとみられているためだ。

FacebookにはTechCrunchから質問を送ったが、同社は質問にまともに答えず、以下のような声明を送ってきた。

当社はこの問題を解決するために広範囲にわたってCMAと取り組んできました。偽レビューの提供や取引を含め、詐欺や不正行為は当社のプラットフォームでは許されません。当社の安全・セキュリティのチームはこうした行為の防止に引き続き取り組んでいます。

CMAが偽レビュー取引の問題を提起して以来、Facebookはプラットフォーム上で展開されているそうした行為の一掃に十分に取り組んでいないと繰り返し批判されてきた

規制当局は本日、Facebookが「以前の約束を果たすためにプラットフォーム上の偽レビューあるいはミスリードレビューの取引を特定、排除、そして予防する」のに使っているシステムにさらに変更を加えたと述べた。

Facebookが偽レビューの取引に対する取り組みを強化するのになぜ1年以上も、そして注目を浴びる介入を何回も要したのかは不明だ。しかし同社は、新型コロナウイルスパンデミックとそれによる影響(在宅勤務など)でこの問題に取り組むのに利用できるリソースに負荷がかかっていていた、と示唆した(Facebookの年間売上高は2020年に増加したが、経費も同様だった)。

CMAによると、Facebookが偽レビュー対策でシステムに加えた変更には以下のものが含まれる。

  • 偽レビューあるいはミスリードレビューを宣伝、促進、保持するFacebookグループやInstagramプロフィールを繰り返し作るユーザーの使用を一時停止あるいは禁止する
  • 偽レビューのコンテンツの検知・削除を向上させる新たな自動プロセスを導入する
  • FacebookとInstagram上の偽レビューやミスリードレビューのグループやプロフィールを探すための検索ツールを使用しづらくする
  • こうした変更が継続して効果を上げ、再発を防いでいることを確認する専用のプロセスを設ける

そしてまたもや、Facebookがなぜ繰り返し不正行為を行っているユーザーを一時停止にしたり禁止したりしてこなかったのかは不明だ。少なくとも、最低限のことで逃げ切るということでなければ、本当に問題を解決するために実際に誠実な行動を取っていなかったかのようだ。

声明文でのコメントで、CMAのCEOであるAndrea Coscelli(アンドリア・コシェリ)氏は次のように述べて本質的な問題を指摘した。「Facebookはプラットフォーム上のそうしたコンテンツの取引を停止するためにできるあらゆることを行う義務があります、我々が再度調査した後、同社は大きな変更を加えました。しかしこうした問題を解決するために1年以上も要したのは残念です」。

「我々は今後もInstagramも含め、Facebookを注視し続けます。同社が約束を果たしていないことが認められた場合、躊躇せずさらなる行動を取ります」とコシェリ氏は付け加えた。

偽レビューを取引している英国のグループをFacebookのプラットフォームで検索すると、2019年2020年にTechCrunchが同様にチェックしたときよりも明らかに疑わしい検索結果は減っているようだ。ただし検索結果には数多くのプライベートグループが含まれていて、どのコンテンツがメンバーからの勧誘なのか、すぐには確かめられなかった。

TechCrunchはまた、フランスやスペインのような他の欧州マーケット向けのAmazonレビューを提供している数多くのFacebookグループも発見した(とあるグループはAmazon Spainをターゲットとし、レビューに対しPayPalで「料金」を提供する人物をTechCrunchは発見した)。こうしたことからするに、Facebookは英国よりも当局からの介入が少ないマーケットのユーザーによって取引されている偽レビューの対策には英国と同じレベルの注意を払っていないようだ。

スクリーンショット:TechCrunch

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

パフォーマンスを上げケガを防ぐチームスポーツトラッキングプラットフォームのPlayerDataが約2.5億円調達

Hiro Capitalは「デジタルスポーツ」あるいは略して「DSports」分野の投資家として徐々に名を知られるようになってきた。このHiro CapitalがPlayerDataの230万ドル(約2億5000万円)のラウンドを主導した。小規模のラウンドのように聞こえるかもしれないが、参入しようとしている領域は大きく、しかも成長している。このラウンドでは英国スーパー最大手であるTescoのCEOだったTerry Leahy(テリー・レイフィー)卿も出資した。

英国エジンバラに拠点を置くPlayerDataはウェアラブルのテクノロジーとソフトウェアによるトラッキングを活用して、市民スポーツからプロスポーツに至るまでトレーニングに関するフィードバックを提供している。例えばコーチがゲームの重要な瞬間をリプレイしたり、さらにプレイヤーのポジションに基づいてさまざまな結果をモデリングしたりすることもできる。

Hiro CapitalがDSportsや「コネクテッドフィットネス」に投資するのは、Zwift、FitXR、NURVVに続いてこれで4社目だ。「Tomb Raider(トゥームレイダー)」のパブリッシャーであるEidos plcの元会長でさまざまなゲームのパイオニアとして知られるIan Livingstone(イアン・リビングストン)氏が共同創業者でパートナーであることにふさわしく、Hiroは英国や米国、ヨーロッパのゲームスタートアップ8社にも投資している。

PlayerDataによると、同社は英国のサッカーとラグビーで1万以上のチームセッション、プレイの距離では5000万メートル以上を記録している。またネットワーク効果が高く、新たに1つのチームがPlayerDataのプラットフォームを使っているチームに遭遇すると、そこから5チームがユーザーになるという。

PlayerDataの共同創業者でCEOを務めるRoy Hotrabhvanon(ロイ・ハトラブヴァノン)氏は、かつて国際的なアーチェリー選手だった。ファームウェアとクラウドインフラストラクチャのエキスパートであるHayden Ball(ヘイデン・ボール)氏が共同創業者として加わりCTOになった。

PlayerDataのアプリ(画像クレジット:PlayerData)

発表の中でハトラブヴァノン氏は「我々のミッションは、ゲームメイキングを進化させプレイヤーのパフォーマンスを上げケガを防ぐのに役立つように、きめ細かいデータとインサイトをチームスポーツのクラブに提供することです。我々の最終目標はあらゆる分野、あらゆるレベル、あらゆるチームが利用できるウェアラブルのパイオニアとなって最先端のインサイトを実現することです」と述べている。

Hiroの共同創業パートナーであるCherry Freeman(チェリー・フリーマン)氏は「PlayerDataは我々が重視するポイントをすべてクリアしています。300万を超える草の根クラブが存在する巨大なTAM(獲得可能な最大の市場規模)、共有されたプレイヤーのデータの上に築かれた大きな参入障壁、機械学習とアクションに結びつけやすい予測アルゴリズム、顧客のネットワーク効果の高さ、そして熟練でありながら謙虚な創業者チームです」と述べた。

PlayerDataのニュースはデジタルスポーツの幅広い成長ぶりを示す一端だ。この分野のニュースにはPeloton、Tonal、Mirror、そしてHiroの投資先であるZwiftなど注目の名前が並ぶ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により家でのワークアウトと健康全般の両方が重視され、パフォーマンスをデジタルで測定できる魅力はこの分野で重要な要素になっている。

フリーマン氏はTechCrunchに対し「PlayerDateの潜在的な顧客は300万チーム程度と考えています。ランナーの数は明らかに膨大で、その市場のごく一部を獲得するだけで極めて大きなビジネスになります。結局、誰もが運動をしていて、あるいは単に散歩に行くだけかもしれませんが、ターゲットとなる市場は巨大です。PlayerDateは走りに関することから始めましたが、同社のテクノロジーは他の多くのスポーツに応用可能です」と述べた。

カテゴリー:ソフトウェア
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画像クレジット:PlayerData

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(文:Mike Butcher、翻訳:Kaori Koyama)

英国でテック大企業を監視する新部署「DMU」発足、デジタル分野の競争を促進

競争がオンラインを健全なものにし、そしてデジタルサービスを利用する消費者が自身のデータに関してより多くの選択肢とコントロールを持てるようにするために、デジタル部門で最も力を持つ企業を規制するというタスクを担う新しい英国の公的機関が現地時間4月7日、発足した。

デジタルマーケットパワーの集中に関する懸念についての数多くのマーケットレビュー研究を受け、2020年11月発表されていたDigital Markets Unit(DMU)はまだ法的権限を持っていないが、英政府は新たな「競争促進体制」のデザインを2021年協議し、議会が承認し次第、DMUに法的権限を持たせる法律を制定すると述べていた。

アドテック大企業Facebook(フェイスブック)とGoogle(グーグル)のマーケットパワーに関する懸念が規制整備へと駆り立てている主な要因だ。

最初の取り組みとしてDMUは、デジタルプラットフォームと、広告でそうしたプラットフォームに頼っている中小企業のようなサードパーティーの間の関係を管理するのに行動規範が役立つかどうかを、将来のデジタル立法に組み込むために調べる。

強力なオンライン監視者の役割はまた、EUの議員たちのターゲットにもなっている。EUの議員たちは、プラットフォーム大企業とそうしたプラットフォーム企業の規約の下で事業を展開している中小企業の間での取引を確実に公正なものにする規制フレームワークを作成することを目的とする法制化を2020年末に提案した

英政府は4月7日、DMUがさまざまなデジタルマーケットにわたるプラットフォームの役割を調べるのに、競争を促すという視点でセクター中立のアプローチを取ると述べた。

DMUは、通信監視機関のOfcomと連携するよう求められてきた。2021年制定される予定の法律(現在Online Safety Billと呼ばれている)の下でソーシャルメディアプラットフォームを規制すべく、英政府は2020年Ofcomにその任務を課した。

関連記事:2021年提出予定の英国オンライン危害法案の注意義務違反への罰金は年間売上高10%

間近に迫った法制化は、いじめからヘイトスピーチ、児童の性的虐待、他のスピーチ関連問題(多くの論争、そしてプライバシーとセキュリティに関連する特定の懸念を巻き起こしているもの)に至るまで、消費者に影響を及ぼすかなり広範のオンライン害を規制しようとしている。その一方で、DMUのフォーカスは事業のインパクトと、デジタルマーケットにおける競争に影響を及ぼし得る消費者コントロールだ。

最初に取り組む業務の一環として、法律体系がプラットフォームとメディアのようなコンテンツプロバイダーの間の関係をどのように管理するかを特に調べるために、デジタル国務長官がDMUにOfcomと連携を取るよう求めた、と政府は述べた。「可能な限りプラットフォームとコンテンツプロバイダーの関係が公正で、合理的なものであるようにすることが含まれる」とプレスリリースにはある。

これはDMUがオーストラリアで議会を通過した最近の法案をかなり参考にしていることを示している。この法律では報道機関のコンテンツを再利用するのに料金を支払うための交渉をプラットフォームに義務付けている。

DMUを抱える英国の競争・市場庁(CMA)は2021年初め、テック大企業と報道機関の料金交渉が合意に至らない場合のために強制仲裁という砦を持つというオーストラリアのアプローチは「賢明だ」とBBCに語っている

DMUはまた、現在数多くのテック大企業の調査を行っているCMAの監視部署と緊密に連携を取る。展開されている調査には、Apple(アップル)とGoogle(グーグル)に対する苦情の検討、そしてFacebook(フェイスブック)のGiphy買収の徹底的な調査が含まれる。

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DMUが緊密に連携をとると政府がいう他の規制当局には、データ保護監視当局(ICO)と金融行動監視機構(FCA)が含まれる。

また、デジタル競争が本質的に自然とグローバルなものになっていることから、DMUは国際パートナーとの調整も取ると政府は述べた。そして、2国間の取り組みを通じて、そしてG7議長国として英国のアプローチをすでに協議していると付け加えた。

「デジタル国務長官は、より良い情報共有、規制と政策のアプローチの協調に関する調整について合意形成を模索していて、デジタルとテックの大臣のミーティングを4月に開催します」とも述べた。

DMUはWill Hayter(ウィル・ハイター)氏が統括する。同氏は、Brexitトランジッション政策に取り組んでいるCabinet Officeでの任務に続き、2021年5月初めに暫定責任者のポストに就任する。規制政策でさまざまな役割を果たしてきた同氏は以前CMUとOfcomでも数年働いていた。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

暗号化チャットのSignalが英国でMobileCoinによる決済機能をテスト中

メッセージを暗号化して送信しているチャットアプリSignalが、そのサービスに決済を加える。それはユーザーが長年待望し、同社自身も開発に時間をかけていた機能だ。英国のみのベータプログラムでユーザーは、暗号資産MobileCoin使って、迅速で容易に、そして特に重要なこととしてプライベートに支払ができる。

英国に住んでたり、住んでることになってる人は、SignalをアップデートするとSignal Paymentsという新しい機能に気づくだろう。利用するために必要なことは、暗号資産の取引所FTXでいくつかのMobileCoinを買ってから、そのウォレットをリンクするだけだ。現在、MobileCoinを扱っている取引所はそこだけだ。

そうしてリンクしたら、同じくウォレットをリンクしている誰かに即座にMOBを送金できる。チャットを送るのと同じぐらい簡単だ。英国以外の国でのベータの予定は、まだ発表がない。

Signal自身はユーザーの送信内容や通話内容にどんな方法でもアクセスできないが、それと同じでユーザーが行う決済も完全にプライベートだ。Signalが数年前から取り組んでいたMobileCoinは、スピードとプライバシーを重視して完全に新しく開発され、ゼロ知識証明システムやその他のイノベーションを利用して、Venmoのように容易でしかしSignal自身のように安全だ。詳しく知りたい人はこの研究論文(PDF)を読もう。

関連記事:高セキュリティのメッセージングアプリ「Signal」開発者が助言を行った暗号資産「MobileCoin」がベンチャー資金調達

MobileCoinは2021年3月、この統合が近いという噂の中で、110万ドル(約1億2000万円)ほどの資金を調達した。さらなる噂がMOBの価値を高騰させ、持ってる人はラッキーだったが、これから誰かに食事代の割り勘を払うつもりだった人はアンラッキーだった。突然あなたは友だちにBenjamin(米100ドル紙幣)、今なら英国でTuring(英50ポンド紙幣)を払うはめになり、あるいはランチタイムを過ぎたらそのサンドイッチのお値段が急落していたりする。

もちろん、あなた自身がその通貨を持っていなくてはならないことはないが、毎回安定通貨や法定通貨を換えてもらうのは面倒だ。Signalの共同創業者であるMoxie Marlinspike(モクシー・マーリンスパイク)氏がWiredで、自動交換システムの構想を語っていたが、実際のところ開発中ではないため詳しく語れたのではないだろうか。

暗号資産については悪い評判もあるし、リスクをともなうため、Signalが安全で第三者的なサービスプロバイダーとして開発した善意のシステムも、希釈されたり汚染されるかもしれない。しかしチームは、それは避けられないと考えているようだ。結局のところ、広く利用されている決済サービスがメールやソーシャルメディアのように傍受されていたら、そんなものは芽のときに摘み取り、早急にエンド・ツー・エンドの暗号化へ移行すべきだろう。

カテゴリー:フィンテック
タグ:SignalMobileCoin決算サービスイギリス暗号資産

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)