【編集部注】執筆者のMynul Khan氏は、専門家と企業をマッチするオンラインプラットフォームを運営するField NationのCEO。
ルンバが家の掃除をし、Siriが両親の家の近所で一番良いイタリアンのお店を教えてくれる、というのが目新しかった頃から、ロボットと人工知能の進化は止めどなく進んでいる。
車は自動で走行し、ロボットがピザを配達するなど、今まさに革命が起きようとしている。オックスフォード大学の2013年の研究によると、向こう20年でアメリカ国内に存在する仕事の半分が自動化される可能性がある。更に同研究は、数ある産業の中でも、交通・物流・事務関連の仕事が特に自動化されやすいと指摘した。その他にも、教師や旅行代理店、通訳等の職業につく人々が、ロボットに取って代わられるのも時間の問題であるという主張をする人さえいる。
このような労働機会の消失に関する予測がされる中、多くの未来学者や経済学者が仕事のない未来について考え始めている。彼らの主張は大きく2つのシナリオに別ける事ができる。1つはディストピア的なシナリオで、将来的に人間は職や収入を無くし、賃金格差の拡大や社会的混乱が起きるというもの。そしてもう1つは、各国政府が市民の収入を保障し、人々はより生産的でクリエイティブかつ起業家精神に溢れた活動を行えるようになるというユートピア的なシナリオだ。
この問題について、私はそろそろ別の角度から光を当てる必要があると考えている。つまり、労働現場にいるロボットは、むしろ仕事の幅を広げ、新たな種類の仕事を生み出す機会をもたらすという視点だ。ロボットは人間の仕事を奪うだけでなく、生み出すものなのだ。
テクノロジーの歴史
テクノロジーの進歩はこれまでにない速度で進んでいるが、大きなテクノロジーの変革を経たのはわれわれの世代が最初ではない。車輪の発明から、グーテンベルグの印刷機まで、歴史を通して人間は新たなものを生み出し、新たなテクノロジーに順応してきた。そして同様にこれまでも、新しいテクノロジーが労働者にどのような影響を与えるかということが危惧されてきた。
そしてどの例をとっても、テクノロジーは結果的に新たな産業や仕事を生み出してきた。1440年の印刷機の発明によって本の大量生産が可能になると、製本や、輸送、マーケティングや販売などの仕事が登場した。その後、印刷所が立ち並ぶようになると、印刷コストの低下し、新聞の創刊に繋がった。確かに印刷機の登場によって、写本筆記者という職業はなくなってしまったが、その代わりに新たな仕事が生まれていったのだ。
もっと最近の例で言うと、農業や繊維業を思い浮かべてほしい。1800年代には、アメリカ国内の仕事の80%が農場で行われるものであった。今ではその数字はたった2%にまで縮小している。しかし、ご存知の通り農業の機械化は経済を損なってなどおらず、むしろロボットによって農業がより簡単かつ環境に優しいものへと姿を変えたことから、更なる機械化が今日も続いている。
時を同じくして、繊維業も技術的に大きな変化を遂げた。産業革命によって力織機等の機械が生み出されたことで、織布に必要な労働力が減少したのだ。
ロボットによって生み出された職に就くために、全ての人がエンジニアになる必要はない。
職を失うことを恐れた織物工や自営の織り手によって組織されたラダイトは、イングランドで機械化に反対し、時には機械を破壊しながら反乱を扇動して、最終的には軍の力によって抑えつけなければならない程であった。今ではラダイトという呼び名は誰かを侮辱するときに使われており、彼らの心配が事実無根であったこと証明している。
私たちが将来への糸口を見つけ出すためには、過去を振り返るしかない。確かに今日人間が行っている仕事の多くは、将来的にロボットが行うようになり、労働力や人間の仕事の種類に影響を与えるだろう。しかし、歴史が証明する通り、それが必ずしも人間の仕事が無くなってしまうこととには直結しない。アメリカの労働者は、過去200年間に劇的な変化を切り抜けてきた、強靭で柔軟な存在なのだ。
未来の仕事
ロボットの弱点と、人間の長所に目を向けることで、未来にはどんな仕事が待っているかというのを想像することができる。
ロボットは未だ、交渉や説得といった複雑なタスクをこなす能力を持っておらず、問題解決能力に比べて、新たなアイディアを生み出す能力に劣る。つまり、部下を持つマネージャーや看護師、アーティストや起業家等、創造性や感情的知性、社会性が要求されるような仕事はすぐにはなくならないだろう。
そして私たちは、テクノロジーが上手く機能したときの高揚感と、上手く機能しないときの不満感について良く理解している。最先端のテクノロジー企業でさえ、人間が所属するカスタマーサポート部署を完全には閉鎖していない。何か問題が起きたときに、それを解決するのは多くの場合人間だからだ。
これからも機械を相手にしていく上で、現場の人間やその専門性は欠かせないものであり続けるだろう。ロボットは誤作動することもあれば、アップデートや新たなパーツが必要になることもある。機械化されたシステムや自動装置への私達の依存度が高まっていく中で、システムやハードの運用・交換・更新・保守を行う技術的なスキルを持った人に対する需要は高まって行くだろう。
そしてその傾向は既に現れて始めている。デジタルテクノロジーの導入以後、IT部署がどの会社でも誕生し、ネットワーク管理者やウェブディベロッパー、保守技術員といった肩書は30年前には存在さえしなかった。
テクノロジーは、単に社内の部署や仕事だけでなく、全く新しい企業やビジネスを生み出してきた。あるパーツが壊れていたら、誰かがロボットを修理しないといけないし、自動運転車にも整備士が必要なように、技術的なスキルへの需要は自動化が進むことで増加していく。
新しい仕事は、ナノテクノロジーやロボット工学のように科学(Science)やテクノロジー(Technology)、エンジニアリング(Engineering)や数学(Mathmatics)のSTEM分野を中心に生まれていくだろう。2011年のある研究によると、100万台の工業機器の導入によっておよそ300万もの新たな仕事が生み出されていた。更に調査対象となった6ヶ国のうち、5カ国でロボットの増加つれて失業率が下がっていったことがわかっている。
この研究から、新たな仕事がSTEM分野以外にも生み出される可能性があることがわかる。また、著者は今後ロボット導入の直接的な影響で、雇用者数が増えるとされる6つの業界について触れている。自動車、電子機器、再生エネルギー、高度システム、ロボット工学、食品と飲料がその6つだ。ロボットによって生み出された職に就くために、全ての人がエンジニアになる必要はない。
また、ロボットの導入によって仕事や職場を失う恐れから、現代のラダイトになる必要もない。むしろ、これまでのテクノロジーがそうであったように、ロボットは私達の生活を豊かにしてくれるものであり、更には新たな仕事が生み出してくれるものであると歓迎さえできる。
私は将来ロボットが雇用を増加させ、私たちが今では想像もつかないような刺激的な仕事を生み出してくれるのを楽しみにしている。
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(翻訳:Atsushi Yukutake)