Yahooに致命傷を与えた、プラットフォームの交代

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2000年、Yahooの価値は1250億ドルだった。2008年、Microsoftが提案した440億ドルでのバイアウトを拒否した。そして、本日Verizonに48億3000万ドルでの身売りに至った。ここでの学びは、前回のコンピューター・プラットフォームで勝利を収めても次のプラットフォームが到来する時、それに対応できないのなら会社は売り払った方が良いかもしれないということだ。

悪役にピアノが落ちてくるアニメのように、Yahooの予期していなかった「モバイル」が同社に降りかかった。Yahooはウェブポータルだった。ユーザーは数多ある多様なウェブサイトを検索したり、ブラウズしたりすることができた。しかし、2007年にiPhoneがローンチしたのと同時にモバイル時代がやってきて、ユーザーの行動が変わった。1つのオムニサイトから検索やブラウズをしてインターネットを巡るのではなく、用途ごとに専用のアプリをダウンロードして使うようになった。

それに加え、コンテンツ消費のパターンも変わった。デスクトップのコンピューターで拡張的なコンテンツやニュースサイトを長時間見るのではなく、生活の中のちょっとしたダウンタイムを埋めるために、ユーザーは細切れで楽しめるモバイルエンターテイメントを求めるようになった。

Yahooはそれらに対応できるよう作られたものではなかった。そして、順応することにも戸惑っていた。Yahoo SpotrsやYahoo Financeといったいくつかのプロダクトで食いしのげたのだ。しかし、中核となる資産は別の環境で生き抜くために進化してしまった。モバイル版のデザインはあったが、機能は乏しかった。人々の利用率はこぼれ落ち、Yahooの広告在庫は減少しただけでなく、ソーシャルネットワークによる広告ターゲットのための情報を得る機会も失った。

そして、Yahooは石のように海底へと沈んでいった。

Yahoo home page in 2008

この船を助けるためには、例えば積極的にモバイル会社を買収するなど、もっと早い段階から決定的な行動を取るべきだった。同社は危険な状況にあり、Yahooは社運を賭けた決断をしなければならなかった。しかし、その代わり価格は高いが、ウェブ・ファーストの小さなスタートアップであるFlickrやTumblrを買収した。それらの会社の基盤を正しい方向へと向かわせることに力を割いた。けれども、それらはあまりに小さく、あまりに間違っていて、あまりに遅かった。

より良い判断はなんだったのかを見るために、例えばFacebookを見てみよう。彼らの中核プロダクトはニュースフィードであり、ユーザーが投稿する短いステータスのアップデートや写真で構成される。彼らの初期のモバイルアプリは良いものではなく、ウォール街も不安を持っていたが、Facebookはモバイルに適応することに意欲的だった。

Facebook's app circa 2009 when it misunderstood mobile

まだモバイルを正しく理解していない2009年頃のFacebookアプリ

「ウェブサイトのように同時に色んなことをやる」という考えで作った一覧デザインを捨て、デフォルト画面をフィードにして、素早く使えるアプリに変更した時、ユーザーの利用が爆発的に増えた。彼らはInstagramやWhatsAppの買収に多額の資金を使ったが、それらの企業はモバイルで利用率が増えている機能を中心に置くモバイル・ファーストのプロダクトを手がけていた。

Yahooの終焉はMarissa Mayerの責任ではないだろう。Yahooが栄光を取り戻すには、先見の明、スキルも運も必要だが、最も必要だったのは、モバイルへの方向性をもっと早い段階から進めるためのタイムマシーンだ。もしかするとVerizonは、YahooのアドテクとAOLを組み合わせ、残骸から利益を絞り出す方法を見つけることができるかもしれない(情報開示:VerizonはTechCrunchも所有している)。

ただ重要なポイントは、テックチームはプラットフォームの交代に対して準備することに危機感を持たなければならないということだ。会社を殺すのは、競合他社であることは少ない。変化を目前に固まってしまうことが会社の終焉を招く。そして今、水平線には拡張現実、仮想現実、音声、人口知能といったものが夜明けを待っている。

気鋭のCEOは準備を整えている。GoogleはDeepMindのAIを買収し、社内のプロダクトに行き渡らせている。FacebookはOculusを買収し、VRとARに参入を目指す。Uberは自動運転車のラボを構えた。そしてAmazonはEchoの音声コントロールにリソースを投下している。もしこれらの戦略が結実すれば、会社がディスラプトされることを避けることができるだろう。

地殻変動が起きる中で会社が断層線の上を走り続けるなら、近いうちに揺れに耐えられなくなって地面に叩きつけられるだろう。

何十年も生き抜く巨大テクノロジー企業は、地面に飲み込まれるのを待っていたりはしない。彼らは、全面的なプロダクト変更、大胆な買収、落ち着かない状況でも必要なことを実行する意志を持ち、未来のある方向にビジネスの配置替えを行っている。復活することより、ピボットする方が簡単なのだから。

[原文へ]

(翻訳:Nozomi Okuma /Website

Volkswagenのレースゲーム、IKEAの拡張現実アプリにみる効果的な「顧客体験」創出の事例

Experiences generate clicks  not ads   TechCrunch

【編集部注:本稿の執筆者、Pratham MittalVenture Pactの共同創業者】

広告はもはや、あまり効果的でなくなっている。

まず第一に、あまりにも多くの広告が存在しているからだ。画面、生活の至る所に広告が溢れかえっており、企業、スタートアップはその他大勢の中で目立つことが恐ろしく難しいことに気づいている。

確かに、広告コピーによってクリエイティブであることは可能だ。ユーザーへの徹底的なリマーケティングで話題となり、共感を得ることもできる。しかし、結局は他の企業もそのまま同じようなことをしているところで未だに競い合って、ユーザーの視界から外れてしまう。

今日、経験豊富なマーケターはコンテンツ・マーケティングが非常に重要なものだと認識している。しかし、現実を見てみよう。一体どれだけのEブックとブログが座って読むに値するものだろうか?さらには、かなり良質なコンテンツを作ったとしても、競争の激しいキーワードで順位を獲得するのは簡単ではない。Eブックがバイラルになる、もしくはDharmesh Shah氏からElon Musk氏のような人が自社のコンテンツをツイートしてくれると思ってるなら、あなたの成功を祈るよ!

一般の消費者はオンライン広告・マーケティングに対して慣れきっている。どのようにしてこの状況を変えようか?消費者が広告に興味を持たないこの状況下で何が有効なのか?顧客がEメール、電話番号を渡すに値するとどのように証明しよう?

顧客の興味を引くのはデートに誘うときとそんなに変わらない。いかに自分が素晴らしいのか、もしくは月並みな口説き文句をいったりはしない。その人自身が特別な存在だと感じさせる、信頼を築くために一層の努力をする、本当に気にかけていることを示す、そしてさりげなく電話番号を聞くのだ!

今日の顧客は、あなたが顧客に対して気を配っていないこと、またいかにもなセールストークを言っているだけだと気づいている。
前述したことがあなたが顧客にすべきことだ。記憶に残る体験を構築すること、交流の機会を設けること、個々の顧客に合わせてカスタマイズを行うこと、付加価値を与えること、信頼を築くことだ。

それでは実際のこれらの顧客体験はどのようなものなのだろうか。

私たちは有名スタートアップとFortune500入りの企業に調査を行った。素晴らしい顧客体験のほとんどは後述の5つのデジタル体験のうちの1つに当てはまる。

カリキュレーター(計算機)

オンラインスクールに登録するもしくは、保険を購入する際にあなたが真っ先に知りたいのは「費用は一体いくらなのか」だろう。カリキュレーターがそんな喫緊の質問に答える手助けになる。費用は一体いくらなのか?投資対効果は何か?いくら節約できるのか?

現実に、購入決定のためのカリキュレーターを使った投資対効果、費用の計算が毎月数百万回実施されている。

カスタマーに平凡なランディングページを突きつけるのではなく、彼らの質問に直接答えられるようにしたらどうだろうか?インタラクティブなカリキュレーターの出番だ。

想像してもらいたいのだが、病院のサイトに「心臓病を患うリスクを計算しよう」というカリキュレーターがあればどれだけ顧客のエンゲージメントを高めることができるだろうか。もしくはオンラインスクールのサイトに「学問を修めるための費用をいくら節約できるか計算しよう」というカリキュレーターがあればどれだけコンバージョンを得ることができるだろうか。

レベル判定

顧客はいつも自分自身について知りたいと思っている。とりわけ自分がしている良くないことについて。もし成績をつけることができる場合、顧客は判定「A」を獲得するために努力することだろう。そして、その過程で顧客からの高いエンゲージメントと多くの顧客データを手に入れることができる。

一般の消費者はオンライン広告・マーケティングに対して慣れきっている。

SEOの判定、もしくはWebサイトのスピードの判定で自社のWebサイトをテストしている時のことを考えてみよう。一旦判定Aを獲得するためにしなければならないことがわかったら、そのために多くの努力をするだろう。

HubSpotを例に取ろう。Webサイトがマーケティングにしっかり対応しているか、ユーザーフレンドリーがどうかを判定するツールがある。インバウンド・トラフィックがどこで遅くなっているのかHubSpot の見込み顧客に伝えることで、信頼を築くだけでなく大量のWebサイトの情報を集めることもできている。
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Webサイトの判定が最も一般的なものだが、さらに他の可能性もある。大学は論文の成績判定ツール、IQレベル判定などを開発できる。ヘルスケア企業は腎機能値、BMI(肥満指数)などの人の健康データを判定するツールを利用できる。

コミュニティー

業界フォーラム、コミュニティーはまだ手がつけられていない有用かつ有望な分野だ。買い手は何か買う前に、ほとんどいつでも他の人からの意見を求めている。意見の交換ができるフォーラムはかなり価値が有るだろう。

すぐに、しっかりした回答をもらうことができる業界フォーラムを立ち上げることができたら、業界に関することを質問するための行きつけのサイトになることができる。そして、しっかりSEO対策をしている場合、フォーラム上での質問も検索に引っかかり多くの検索トラフィックを得ることができるだろう。
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最高の見本となるのはクラウドに関する意見をもらうことができるGartherのCloudAdviceフォーラムだろう。GartherはIT分野の調査・研究を行う企業だ。ITに関わる人のためのコミュニティーを作っており、そこで技術的な質問を投稿したり、課題となっていることを議論することができる。このフォーラムによってGatnerは見込み顧客に自社の存在を認知してもらえるし、また彼らをその業界の権威として確立することができる(示すことができる)。

Gartnerはフォーラムに「Weekly Heroes」というカテゴリーを設けゲーム感覚を追加している。ユーザーに報酬を与え、投稿を続けてもらえるようにインセンティブを設けているのだ。

ゲーム

ポイントサービスから実際のモバイルケームのようなゲーム体験はユーザーがゴールを達成したいように仕向ける。正しく使えば、ユーザーのエンゲージメント向上に役立ち、ブランドを印象づけることができる。
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チョコレートを販売する企業のKinder Joyは5〜12歳の子供向けのアプリの提供を開始した。アプリでクイズ、パズル、教育ゲームなどがある教育環境下に子供を置くことができる。コンテンツを楽しんでいる間、子供は継続的にKinder Joyのブランドに接することになる。子供の親がアプリの利用時間、接続を管理することができるので、信頼できるブランドという印象をあたえることができる。

これだけ大勢の企業がごっだ返している中では、最高のセールストークも効果的でない。
他の例にはVolkswagenがあげられるだろう。Volkswagenの車でレースができるクラッシクカーのレーシングゲームのアプリを作った。アプリ自体は非常にシンプルなものだが、ユーザーはゲームで新しいモデル、パーツを手に入れるために奮闘しながらVolkswagenのすべての車に詳しくなっていくのだ。

AR(拡張現実)

AR(拡張現実)とVR(仮想現実)は顧客のエンゲージメントを高めることにつながる新たなタイプの体験となる。お気に入りの例の1つはL’Oréalの「Makeup Genius」アプリだ。このアプリを使うことで、スマートフォンの画面上でL’Oréalの様々な化粧品を仮想で顔に試すことができる。報告によるとアプリは2000万回以上ダウンロードされているそうだ。

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2000万人もの潜在顧客を深くブランドにエンゲージするというのはマーケティングの世界で未曾有のことだ。L’Oréalは正確にあなたがどのアイライナーが好きなのか、あなたの顔がどんなタイプか、その他様々な情報を把握しているということだ。販売において、どれほど個々の顧客にカスタマイズした販売が可能になるか想像してほしい。

IKEAはAR(拡張現実)の利用成功例を持つ企業だ。IKEAのアプリは仮想でリビングスペースに家具を置くことができる。外出することなく数百万の机、椅子、洋服だんすを試してみることができるのだ。そしてここにIKEAにとって素晴らしいメリットが存在している。IKEAはあなたが何色の机を好きかといった情報だけでなく、家の間取り、部屋数、その他いろいろな情報を集めることができるのだ。

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このアプリという特効薬によって、IKEAがまるで顧客の家に上がりこむのと同じだけの多くの情報を得ることができ、大きな価値をもたらしている。

今日の顧客は、あなたが顧客に対して気を配っていないこと、またいかにもなセールストークを言っているだけだと気づいている。これだけ大勢の企業がごっだ返している中では、最高のセールストークも効果的でない。

それゆえ顧客を獲得する競争は広告への入札や誇大広告でクリックを誘ったりすることではなくなる。顧客との相互の交流、個々の顧客にカスタマイズしたやり方で真の価値をもたらすテクノロジーの最新の手法を駆使できた人が勝者になるだろう。

マーケティングのあり方が大きく変わっていることを考慮して、マーケティング部門は自社の「デジタル指数」は何かについて、そしてそれを最大化するにはどうすれば良いのか考え始めるべきだ。テクノロジーに精通した自社専属の科学技術者を雇い、IT/テクノロジー部門にもより力を入れ、熱心に製品開発に取り組むとよいだろう。

マーケティングが新たなITとなる日はそんなに遠くない。

原文

(翻訳:Shinya Morimoto)

世界の社会起業家を支援するシーバスリーガル社の「The Venture」ファンド

NEW YORK, NY - JULY 14:  Trevor Noah and Eva Longoria join the 27 finalists on stage at Chivas' The Venture Final Event on July 14, 2016 in New York City.  (Photo by Michael Loccisano/Getty Images for Chivas The Venture) *** Local Caption *** Trevor Noah; Eva Longoria


【編集部注】Bérénice Magistretti はサンフランシスコに拠点を置くスイス人フリーランスライターである。彼女はサウジアラビア、スイスその他の新興市場におけるスタートアップに焦点を当てている。

木曜日(7月14日)の夜「ザ・デイリー・ショー」のホストTrevor Noaが、シーバスリーガル社の主催する「The Venture」の資金獲得者を発表した。これはそれぞれの事業を善行のために運営している社会起業家たちに向けて与えられるものである。

その100万ドルのファンドを使って「The Venture」は、世界中の社会起業家たちが規模を拡大し、世の認知度を高めることが可能になるように努めている。

シーバスプログラムの一環としてファイナリストのグループは、オックスフォード大学のサイード・ビジネス・スクールのSkoll Centre for Social Entrepreneurship(社会起業研究所)が用意したAccelerator Weekプログラムに、今年の初めに参加している。

木曜日の最終審査で観客と審査員の前でのライブプレゼンテーションを許されたのは5つのグループだけだった。審査員には女優で慈善家のEva Longoriaや、(シーバスリーガルの親会社である)ペルノリカール会長兼最高経営責任者(CEO)のAlexandre Ricardも含まれている。

5つのグループ全てが最終的にファンドを得ることができたが、その中でも飛び抜けた勝者はConceptos Plásticos(30万ドルを獲得)だった。これはコロンビアに拠点を置く企業で、プラスチックやゴム廃棄物を恒久的な住宅の建築基礎の代替品として再生している。

この企業が持つトリプルインパクト(社会的、環境的、経済的)が、審査員に対する決定的なアピール要素となった。「ビジネスの観点から私たちは、企業が目指す目標、プロジェクトの影響の規模、そして長期的な持続可能性などに着目して審査を行いました」とRicardは語った。

ニューヨーク市、ニューヨーク州 - 7月14日:ファイナリストの面々のMaria Pacheco、Kenny Ewan、Or Retzkin、Julia RomerそしてOscar Andres Mendez。加わった審査員たちはEva Longoria、Joe Huff, Sonal ShahそしてAlexandre Ricard。2016年7月14日にニューヨークで開催されたChivas’ The Venture Final Eventにて。(写真提供 Michael Loccisano/Getty Images for Chivas The Venture)

ニューヨーク市、ニューヨーク州 – 7月14日:ファイナリストの面々のMaria Pacheco、Kenny Ewan、Or Retzkin、Julia RomerそしてOscar Andres Mendez。加わった審査員たちはEva Longoria、Joe Huff, Sonal ShahそしてAlexandre Ricard。2016年7月14日にニューヨークで開催されたChivas’ The Venture Final Eventにて。(写真提供 Michael Loccisano/Getty Images for Chivas The Venture)

資金獲得額20万ドルで2位だったのはWeFarmだ。この小規模農家のための知識共有プラットフォームは、インターネットにアクセスすることなく無料のSMSサービスを介して、農業のヒントや、質問と回答、そして回答のレーティングを共有することを可能にする。

5ファイナリストのうちの2つは同じ額の資金(10万ドル)を獲得した。イスラエルのスタートアップであるEyeControlが提供するのは、「体の動かない」患者がいつでもどこでもコミュニケーションをとることができるようにする、安価で、画面を必要としない、モバイル通信装置である。

グアテマラのWakamiは、グアテマラの16の農村地域で生産される手作りのファッションアクセサリーを、世界の20カ国の小売店にデザインして販売している。最後に、ドイツの Coolar(5万ドル獲得)はエチオピアやルワンダなどのオフグリッド地域において、ワクチン、医療品、そして食品保存用に、電源が不要で持続可能なソリューションをポータブル冷蔵庫の形で提供している。

残りの25万ドルは、最後の数週間にわたって行われてきた公開投票を経て、最も人気のあった複数の社会的企業へと割り振られた。Conceptos Plásticosはこの投票でも人気を集め、既に獲得した資金30万ドルに加えて更に5万3148ドルを持ち帰ることになった。

分配された100万ドルの基金は、企業の社会的責任に対して長い伝統を誇るシーバスリーガル社から直接拠出されたものである。

「我々はリターンを求める典型的な投資家にはなりたくないのです」とRicardは語った。「第一の基準は、なんと言っても社会や環境への影響なのです」。The Venture Fundが投資先企業の株式を所有することはない。

ニューヨーク市、ニューヨーク州 - 7月14日:Chivas’ The Venture Final Eventで審査員を務めるステージ上のEva Longoria。2016年7月14日ニューヨーク市にて。(写真提供 Michael Loccisano/Getty Images for Chivas The Venture)

ニューヨーク市、ニューヨーク州 – 7月14日:Chivas’ The Venture Final Eventで審査員を務めるステージ上のEva Longoria。2016年7月14日ニューヨーク市にて。(写真提供 Michael Loccisano/Getty Images for Chivas The Venture)

Longoriaはまた、教育と起業家精神を用いてラテン系移民を支援する彼女自身が運営する財団の視点からも、社会的影響力の重みを述べた。財団の見積もりでは、科学、技術、工学および数学系(STEM)の仕事は、現在米国内では70万人以上不足しているにもかかわらず、そうした仕事を得るために必要なスキルを得て卒業するラテン系の人材の割合はわずかなのだ。

「私がしようとしていことは、ラテン系の人たちがSTEM分野へ入るための教育なのです。何しろラテン系は米国で一番急速に人口が増えている集団なのですから、将来はこの国支える労働力になるのです」とLongoriaは語る。「私たちはそうした人たちを連れて、この先彼らの前に現れる機会へと導いて行かなければなりません」。

運動としての社会起業家精神は世界的な牽引力を持ち続ける、社会的な影響を与えることに特化したAcumenのような財団と共に。

原文へ
(翻訳:Sako)

オーストリアが今後ヨーロッパのスタートアップ投資の中心地となる理由

The Stephansplatz is a square at the geographical centre of Vienna. It is named after its most prominent building, the Stephansdom, Vienna's cathedral and one of the tallest churches in the world.

【編集部注】本記事はConrad Egusa氏とVictoria Stunt氏によって共同執筆されたもの。Egusa氏はPublicizeのCEO。Stunt氏はコロンビアを拠点に活動するPublicizeのライター。

多くの人にとってオーストリアは、栄光の時代が過ぎ去ったこと自体にまさにその魅力がある、過去の国として感じられることだろう。この陸地に囲まれた人口850万人を有する中央ヨーロッパの国家による世界制服の野望と共に、オーストリア=ハンガリー帝国は約100年前に崩壊した。

そのせいもあり、オーストリアのスタートアップシーンはこれまで注目されてこなかった。ドイツから北欧にかけてや、ハイテク国家オランダが話題になる一方、アルプス山脈の反対側で起きている急速な変化に目を向ける人はほとんどいなかったのだ。

しかし、歴史的な魅力に包まれたオーストリアは、現在新しい企業をはじめるのに世界中で最も魅力的な場所のひとつとして自国を売りだそうとしている。そして、オーストリアのスタートアップ界における歴史上最大のエグジットとなった、Adidasによる2億4000万ドルでのフィットネスアプリ企業Runtasticの買収を含む最近の盛り上がりを見る限り、ヨーロッパで将来オーストリアのスタートアップシーンが大きな役割を担うことになると考えるのには理由がある。

オーストリアはスタートアップシーンを盛り上げる上での優位性をもともと持っており、地元の起業家はその強みが持続性のあるインフラ整備に向けられることを願っている。まずオーストリアはヨーロッパの中心に位置しているため、ヨーロッパ大陸の各首都へ3時間以内で移動することができる。そして開発にかかるコストも低いため、企業にとっては初動での失敗に伴う資金流出を抑えることができる。そのため、様々な携帯電話のキャリアがオーストリアを試験国とし、他国へサービスを展開しているのだ。更には、これまで投資家はスタートアップ市場を受け入れるのに前向きではなかったものの、昔からの富裕国であるオーストリアにとって投資リソースに関する心配は不要であり、あとは投資家の気運が新興の起業家世代の勢いに追いつくのを待つのみだ。

オーストリア人の多くは、企業がアーリーステージの資金調達を行うのにオーストリアより良い場所はないと感じている。これは恐らく少々誇張された表現ではあるものの、最近のGlobal Entrepreneurship Monitorの調査によって、オーストリアはプレシードの段階にある企業への公共投資がヨーロッパで最も盛んであることが分かり、彼らの主張が正しいことが証明されている。

2015年に、政府は2億8900万ユーロ(約3億2500万ドル)を助成金として3715社のスタートアップに提供しており、この政府のコミットメントが、起業家を目指す人や学生の多くに新たなベンチャー企業を立ち上げる意欲を与えている。ウィーンを拠点とするオーストリアでもっとも有名なベンチャーキャピタルのSpeedinvestは、ふたつ目となるファンドの設立のために昨年9000万ユーロ(約1億100万ドル)を調達した。

オーストリアのスタートアップカルチャーは、特に歴史的な背景という観点から見るとまだまだ若いといえる。しかし、オーストリアの人々は、スタートアップカルチャーの質的飛躍が間近に迫っていると感じている。そして民間の支援者が政府のサポートに呼応した活動を続ける限り、彼らの感覚は全く正しいものなのかもしれない。

誕生秘話

以前までも、オーストリアのスタートアップシーンは協力の精神で溢れていたが、2011年にそれまでとは違う動きが見られはじめた。

その年に開催された、2日間の集中的なワークショップとベンチャーキャピタルへのピッチイベントからなるStartup Weekにて、オーストリアスタートアップシーンの最前線にいる起業家たちが顔を合わせたのだ。このイベントはSpeedinvestの協賛で開催され、同社の初となるファンド(1000万ドル規模)も同じ年に設立された。参加者はカンファレンス終了後それぞれの道をたどっていったが、第一線で活躍するスタートアップ設立者の中には、このイベントで初めてオーストリアのスタートアップシーンが本当のエコシステムを構成しているように感じたと後に語った人たちもいる。

2012年には次のマイルストーンとなる、Austrian Angels Investor Association(AAIA)を、Johann “Hansi” Hansmann氏がSelma Prodanovic氏と共に設立した。国民1人あたりが世界でも有数のお金持ちであるオーストリアにとって、資金は問題ではなかった。しかし「それ以前のオーストリアには、スタートアップに投資することに価値を見出している人があまりいなかったんです」とHansi氏は説明した。

設立当初のAAIAはスタートアップ投資の魅力を知っている少数の人々が集まる場でしかなかったが、その後拡大を続け、国中から200人以上の投資家を集めるまでになり、月次のミーティングでは有望な投資案件についての議論がなされている。

好むか好まざるかに関わらず、オーストリアに変化が訪れようとしている。

スタートアップに興味を持った投資家の数が増えるにつれ、オーストリアの新興企業を紹介するイベントの数も増えていった。2013年に設立されたAustrianStartupsという非営利スタートアップ団体は、現地における起業家文化の可視性を高め、スタートアップエコシステムを強化することを目指している。同団体は、当初Facebookのグループでメンバー同士をつなぎあわせ、後にオーストリアのエコシステムの将来について書かれた40ページにおよぶ「ビジョンペーパー」を発表した。

今日では、AustrianStartupsはオーストリア中の9つの州全てでその存在感を発揮しており、定期的に開催しているイベントには、何100人もの起業家や投資家、そして興味を持った一般の人たちが参加している。AustrianStartupsは、Christoph Jeschke氏Vlad Gozman氏Patrick Manhardt氏Adiam Emnay氏、そしてCan Ertugrul氏によって設立された。

Startup Weekはその後Pioneers Festivalに名前を変え、ウィーンのホーフブルク宮殿で開催される世界規模のカンファレンスとなった。今年は世界中から2500人以上の起業家が集まり、400人以上の投資家に自らのビジネスアイディアを売り込んでいた。Pioneers Festivalの協同設立者であるJürgen Furian氏Andreas Tschas氏Pioneer Venturesというベンチャーファンドをはじめており、オーストリアのエコシステムの中でも最も有名なメンバーの二人だ。

Egusa Photo 2

ウィーンでのPioneers Festivalの様子

Adidasに昨年買収された、フィットネスアプリの開発を行うRuntasticは、2011年の時点では既に順調にビジネスを運営していたが、オーストリアの非常に勢いのある企業の多くはもっと最近設立されている。2013年に設立されたBitmovinは、Y Combinatorの支援を受け、オンラインビデオの品質向上に繋がるトランスコーディングのサービスを運営している。直感的なSQLインターフェースでデータベースクラスタの分散設置サービスを提供しているCrateは、2013年に設立され、その翌年にはTechcrunch Disrupt Europeで優勝を飾った。

さらに、昨年Harald Mahrer氏が国務大臣に任命され、オーストリアにおける起業家文化の発展を促進するという役目を担うこととなった。以前に彼自身がエンジェル投資家であったこともあり、オーストリアの進む道について野心的なプランを策定していたMahrer氏には「Mr. Startup」のニックネームがつけられた。今年のはじめには、彼の集めた400人を超える政治家や科学者、実業家、市民の代表者が参加したOpen Innovation Strategy Stakeholder Workshopにて、オーストリアにおけるイノベーションが将来とるべき方向性についての計画がたてられた。

ウィーン

180万人の人口を誇るオーストリアの首都ウィーンは、EUの中で7番目に人口が多い街だ。ウィーンでの臨床診療を通じて精神分析学の理論を確立した、心理学者のジグムント・フロイトに敬意を評し、夢の街(the City of Dreams)と呼ばれることもある。しかしその名は、国際都市ウィーンのビジネスシーンでの活躍を夢見る、オーストリアのスタートアップシーンの中の約3分の2を占める企業への言及としてとることも容易にできる。

経験豊富な投資家のOliver Holle氏が2008年にオーストリアに戻り、シリコンバレーの精神を受け継ぎつつもしっかりとローカルな雰囲気も持ったベンチャーキャピタルを設立しようと考えていたとき、その拠点をウィーンに置くのは理にかなった判断であった。2010年に彼が設立したSpeedinvestは、「株主利益のため」というアプローチとは一線を画しており、パートナーとなるスタートアップに対して、実践的な役割を担ったチームを派遣している。その一例が、同じくウィーンを拠点とするオルタナティブな投資プラットフォームを運営するwikifolioで、最近600万ユーロの資金調達を達成した。

イノベーションラボ、インキュベーター、そしてコミュニティセンターとしての顔を持つImpact Hubは、ウィーンへの進出で、国際的な観点を持った現地のもう一本の柱となった。同社はアクセラレータープログラムの運営から、スケールに関する指導、さらにはソーシャルインパクトアワードの開催まで行っており、スタートアップの起業家精神を活かして、差し迫った課題に対しての持続的な解決策を推進することに力を注いでいる。

起業家コミュニティーを擁するコーワーキングスペースの運営を行うsektor5も、ハッカースペースのMetaLabと共に、ウィーンのスタートアップエコシステムの中心的な存在だ。

ウィーンにはオーストリア国内のスタートアップに関連した公共インフラのほとんどが集まっている。

さらにウィーンのスタートアップコミュニティは、その協力的な姿勢で知られている。「みんな進んで自分たちの経験を共有し、お互いを助け合おうとしています。ウィーンの伝統的なコーヒーハウスに立ち寄れば、それに気がつくかもしれません」とAustrianStartupsの共同設立者のひとりであるCan Ertugrul氏は述べた。「外からみてもその様子はわかりませんが、中に入って『ヴィーナー・メランジェ』を飲んでいるうちに、気づけばあなたの隣で、起業家や投資家、実業家、さらに最近その数が増えている政府の役人が、スタートアップエコシステムの発展を促進する方法について議論を行っているかもしれません」

他の国の首都でもよく見られるように、ウィーンにはオーストリア国内のスタートアップに関連した公共インフラのほとんどが集まっている。オーストリア研究促進庁(FFG)は、国もしくはヨーロッパ規模での産業調査に対して国家資金を提供している。連邦政府の下にある金融機関のAustria Wirtschaftsservice(AWS)は、特定の科学・クリエイティブ分野に与えられる補助金を利用しつつ、ファーストステージ、プレシード、シードと各企業の段階に応じた資金を提供している。これらの助成金には少額(約5000ユーロ)のものもあるが、額の大きいものだと100万ユーロにまで達するものもある。AWSは、2015年に3613社のスタートアップに対して計2億1800万ユーロを提供し、一方FFGは102社に対して7100万ユーロの資金を供給した。AustrianStartupsがまとめた連邦政府の補助金のリストはこちらから確認できる。

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AustrianStartupsの設立者たち。(左から)Vlad Gozman氏、Christoph Jeschke氏、Patrick Manhardt氏、Daniel Cronin氏、Adiam Emnay氏、Can Ertugrul氏。

また、各地の地方公共団体にとっては、Vienna Business Agencyが外資・内資問わず企業に関する窓口となっている。

ウィーンのスタートアップコミュニティの牽引者には、CondaのDaniel Horak氏、i5investのStefan Kalteis氏Bernhard Lehner氏、DreamacademiaのHarald Katzenschläger氏、Product Hunt CTOのAndreas Klinger氏、sektor5のYves Schulz氏、Impact HubのMatthias Reisinger氏、PioneersのTim Röhrich氏、そして投資家のMichael Ströc氏やMichael Altrichter氏が名を連ねる。

リンツ(Linz)

オーストリアで2番目に重要なスタートアップハブが、規模で言えばオーストリアで3番目の街リンツだ。人口は20万人ほどだが、サイズで劣る点は工業都市としての深い歴史や、盛り上がってきているクリエイティブ経済が埋め合わせしている。2009年にUnescoから欧州文化首都に選ばれたリンツは、特にデジタルアートやインダストリアル・エンジニアリングの才能を擁していることで知られている。

そのため、他を圧倒してオーストリアで最大の成功を収めたアプリがリンツで誕生したのも驚きではない。2009年にローンチされたRuntasticは、アッパーオーストリア応用科学大学の研究課題としてその開発がはじまり、2014年に買収されるときには、1億4000万ダウンロード以上を記録していた。

RuntasticはAdidasによる買収後も依然、共同設立者のFlorian Gschwandtner氏Christian Kaar氏René Giretzlehner氏、そしてAlfred Luger氏によって運営されている。

同じくリンツを拠点としているのが、Michael Eisler氏とBernhard Lehner氏によって設立されたアクセラレーターのstartup300で、 リンツのエコシステムの中で活躍する100人近い起業家のネットワークを構成している。Tabakfabrikもスタートアップやクリエイティブ系の人たちに人気のハブだ。

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投資家のHansi Hansmann氏(左)とRuntastic CEOのFlorian Gschwandtner氏(右)

その他の地域

イノベーションと資金の集中という、ウィーンを起業家にとって魅力的な場所にした要因が、同時にその他の地域の大部分から有意義なスタートアップカルチャーを奪い去ってしまった。しかし、そこにも変化が訪れようとしている徴候が見られる。

リンツに規模で勝り、豊かさで劣るグラーツ(Graz)は、若さが溢れる古都だ。Unescoから世界遺産に選ばれたこの街には、6つの大学があり学生人口も多い。ここでは、現代風の建築物を歴史的な街並みにうまく取り入れるという課題から、世界的にも有名な都市デザインのイノベーションが生まれた。さらに、物理的な近さや文化的な深い繋がりから、スロベニアがグラーツのスタートアップにユニークなチャンスを与えている。Ideen Triebwerkはグラーツの起業家文化の成長を支える有名な団体で、Maria Reiner氏が運営するManagerieは、スタートアップや文化的活動のための人気スペースだ。

オーストリアのスタートアップカルチャーが直面している顕著な問題のいくつかは、どの発展途上にあるシーンでも見られるようなことだ。

インスブルック(Innsbruck)は、ロケーションという点で興味深いスタートアップの街だ。ミュンヘンから150km、イタリアとの国境から40kmに位置し、交易の要所とされている。さらにインスブルックの人々は、一年で冬が最も長い山間の出身で、生きることの厳しさを知っていることから、理想的な起業家精神を持っていると言われている。インスブルックで行われる、世界初のスキーに関するスタートアップイベントSkinnovationは、人気イベントとなった。

ドイツ国境付近に位置し、15万人の人口とRed Bullの本社を擁するザルツブルグ(Salzburg)州は、Romy Sigl氏によって設立されたコーワーキングスペースのCoworkingSalzburgで知られている。この地域の投資家コミュニティーの力は極めて限られているが、Startup Salzburgという最近はじめられたイニシアティブの下でその成長を目指している。ザルツブルグ出身の有望なスタートアップの例としては、医者の検索エンジンSymptomaが挙げられ、同社は最近ヨーロッパのe-ヘルススタートアップの最有望株に選ばれた。

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ザルツブルグにあるRed Bullの本社(Photo by Sergio Fernandez / Flickr CC BY-SA 2.0)

まとめ

オーストリアのスタートアップカルチャーが直面している顕著な問題のいくつかは、どの発展途上にあるシーンでも見られるようなことだ。Speedinvestを除くと、シードステージを脱却した大規模ベンチャーキャピタルの数は少ない。また、国際的なベンチャーキャピタルが求めるような企業の成長スピードを経験した起業家はほとんどいないため、新進気鋭の起業家は、見習うべき例や頼りにするソートリーダーシップ無しにそれぞれのやり方をみつけるしかない。

さらにオーストリアは、スタートアップの首都であるベルリンと競い合う必要があり、ドイツからも起業家を誘致しなければならない。Valentin Stalf氏のいるNUMBER26Christopher Kahler氏のいるQriouslyなど、オーストリア人の共同設立者がいる成功したスタートアップの多くが、現在ベルリンやロンドンを拠点としている。

Tech.euの創刊者兼編集者であり、ヨーロッパで最も有名なテック記者のひとりでもあるRobin Wauters氏は、「素晴らしい会社はどこでも設立できるという考えは段々と真実味を帯びてきましたが、今日のヨーロッパの現実として、小さなエコシステムの中にいるほとんどの企業にとっては、雇用対象となる才能ある人材のプールや、幅広い投資のオプション、シニアマネジメント層をひきつける力などスケールアップに必要な要素が揃っている近場の主要ハブに目を向けた方が良いと思っています」と語った。

オーストリアもその要素を兼ね備える力を持っているものの、もっと一般的な意味での成功体験が、逆説的にその動きを邪魔している。低い失業率は急速な経済的変化へのインセンティブを弱らせ、オーストリアにある豊富な資金は、比較的リスクの低い投資対象に固まって向けられてしまっているのだ。スタートアップシーンにいる多くの人が、オーストリア人は起業という茨の道を生き抜くために失敗を乗り越えるという経験を十分にしていないと控えめな自慢話をしている。

しかし、好むか好まざるかに関わらず、オーストリアに変化が訪れようとしている。2008年の金融危機からの復興は緩慢で今のところ不完全なため、これまでにない経済的苦難への新たな対抗策を求められている政治家には強烈なプレッシャーがかかっている。欧州難民危機もこの小さな山間の国にとりわけ長きに渡る影響を与えており、最近の大統領選での全面的な政治的混乱もそれに輪をかけている。

Impact Hub Viennaの投資先であるRefugees Workは、オーストリアの労働市場への参入を既に目指している3万人超の難民と雇用主を結びつける求人プラットフォームを運営している。彼らの活動は、イノベーションセクターが立ち上がることで、難民問題を含む様々な課題を解決することができるという事例のひとつに過ぎない。このような動きには、政府からの継続的なサポートだけでなく、民間セクターの積極的な参加が必要ではあるが、似たような事例が今後たくさん起きても驚かないでほしい。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

シリコンバレーからでは見えない新興市場におけるビジネスの可能性

Go-Jek Indonesia Pt. motorcycle taxi riders drive along a street in Jakarta, Indonesia on Monday, March 21, 2016. The Jakarta-based startup has already become a household name in its home country. The startup's app has been downloaded more than 11 million times and it has more than 200,000 motorbikes. Its name is a play on ojek, the Indonesian word for the motorcycle taxis that crisscross Southeast Asia's most populous nation. Photographer: Dimas Ardian/Bloomberg via Getty Images

編集部記:Sebastiaan VaessenはCrunch Networkのコントリビューターで、Naspers Groupの戦略リーダーを務める。

シリコンバレーがデジタルイノベーションの地理的な中心地であるというのは頷ける。Google、Facebook、Uber、Netflixなど、世界を牽引する多くのグローバルテクノロジー企業はシリコンバレーで育った。しかし、次の大型スタートアップを見つけるには、シリコンバレーの外に目を向ける必要があるだろう。

可能性

欧米スタートアップは世界が直面する「重大な」ニーズを解決するというよりは、「金持ちヒップスターの生活のアシスト」に注力するスタートアップが多いように見える。

次の5年で、新たに25億人がスマートフォンでオンラインとつながるようになる。その80%は新興市場からだ。これは、各地域のニーズに特化したイノベーティブなソリューションを構築する地元起業家の数を確実に伸ばすことだろう。その一環で大きく成功するビジネスも出てくるだろう。将来的に大規模なデジタルイノベーションが欧米でない市場から誕生する確率が高いのだ。

証拠

このトレンドはもう始まっている。例えば、 私たちのポートフォリオのうちの1社にインドのredBusがある。redBusが登場する前は、インドの中で移動す際、各社バラバラの時刻表を見て無数のバス会社と交渉しなければならなかった。国の端から端に移動するには複数の乗り換えをやりくりしなければならず、混乱を招いていた。redBusはこの複雑な市場を統合し、インド全域におけるバスのシンプルなチケットプラットフォームを構築した。現在はマレーシアやシンガポールなど、海外市場にも展開している。

GO-JEKも良い例だ。この企業は、インドネシアの10の主要都市における20万人以上の小型バイクのライダーをつなげ、例えば食品配達の輸送に活用している。

世界中の成長市場が新たなデジタルイノベーション・ハブとして台頭する下地が出来つつある。

Naspersが投資するTruckPadは、モバイルアプリを使ってカソリンスタンドの物理的な広告板の輸送を行う小さなベンチャーとして始まった。今では、ブラジルにおいて毎月35万人以上のトラックドライバーが何百万ものトラック運搬の仕事に入札するようになった。

これらのビジネスがシリコンバレーで生まれることはなかっただろう。シリコンバレーにはない課題に取り組んでいるからだ。これらのスタートアップは、急成長を遂げる市場において何十億人が毎日直面している問題を解決している。

次はどこか?

成長市場で地域の問題を解決するチャンスは、多岐に渡る業界で豊富にあるだろう。

世界ではまだ12億人が電気へのアクセスがない。世界の3分の1以上の人口はまともなヘルスケアや教育へのアクセスがない。世界には銀行サービスを利用できない人が約25億人にいる。そしてアフリカ、アジア、ラテンアメリカ、中東といった成長市場には22億人が住んでいる。

そこには社会における深刻な課題がある反面、商業的チャンスも大きく広がっている。新興市場において25億人が新たにスタートフォンを保有するようになれば、それは地域のテクノロジー起業家と彼らのビジネスが育つ強力なプラットフォームになるだろう。JumoやM-KOPAのビジネスが一例だ。

Jumoは、サブサハラアフリカ地域のモバイルユーザーが従来の銀行システムを介さなくてもローンが組める金融マーケットプレイスだ。 一方M-KOPAはケニアの世帯に、モバイル決済の従量課金で購入可能なソーラーエネルギーのソリューションを提供している。

世界は、ソーシャル・モビリティーと経済的な繁栄において大きな課題を抱えている。必要性は新たな発明を促す。現在、世界中の成長市場が新たなデジタルイノベーション・ハブとして台頭する下地が出来つつある。次の何百億ドル企業を作る起業家はサンパウロ、バンガロール、深センといった地域から誕生する。そしてその会社の事業ははお金持ちのヒップスターを相手にするものではないだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website

Startup Step-By-Step 「闘い」

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編集部注:この記事はFreemitのCEOであり、TechCrunchの元ライターであるJohn Biggsにより執筆された。

勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求める。(Every battle is won or lost before it is fought. )この、自己啓発セミナーでよく耳にする孫子の知恵は、意欲的な起業家の世代に対する禅の公案だ。だが、この言葉にはもう少し地味なバージョンもある。

「Every battle is won or lost before it is fought.」
活気に満ちた起業家の物語での重要な部分は、誰も口にしない部分だ。それは、起業家が誰にも相手にされず、カップラーメンをすする場面だ。世界がきらびやかに輝やく一方で、その起業家がVCに会うために各地を飛び回るという場面だ。敗北の物語は決して語られることはない。

これは、敗北の物語だ。

カルフォルニアで誕生

私が最初にFreemitに関する記事を執筆した当時、私たちの状況は今とは違っていた。私たちのチームは10名ほどで構成されていた。東ヨーロッパ出身の2人のプログラマー、コロラド出身のビックデータ専門家、若い弁護士、そしてユーザーエクスペリエンスが専門の若者、そして、共同創業者たちというメンバーだった。共同創業者は、私の大学時代からの友人であり技術家のRichard Svinkin、ラマーズ法のクラスで出会ったPaul、そして私の3人だ。私たちは、有望な企業を探していたエンジェル投資家から多少の資金を獲得し、Alchemist Acceleratorに参加することになった。Richardは数カ月のあいだシリコンバレーに滞在し、ピッチのやり方を学んだり、ビジネス拡大の方法論などを学ぶことになった。その一方で、残りのメンバーはVCと面接するために各地を転々とし、たくさんの成果を残すことになった。

私たちは送金アプリを製作しようとしていた。それは、ビットコイン・ベースのシステムにM.Night Shayamalan流のアレンジを加えたアプリケーションだ。ビットコインのシステムに存在する「不均衡性」が利益をあげるツールとして利用されており、私たちはそれに目を付けた。ある通貨でビットコインを購入し、それを別の通貨に換金する。すると、その時に適応される為替レートは、従来の金融機関が提供する為替レートに比べて有利になることが多い。私たちはこのビジネスモデルをテストし、構築し、そして拡大することにしたのだ。

スタートアップの生活

Alchemist Acceleratorから学んだことの1つに、スタートアップは仮想実験のマシーンであるという考え方がある。実験をし、数字が結果として現れ、そしてまた別の実験をする。成果を示すためには、それを見せるための何かが必要だ。2010年から2014年に限っては、この考え方は正しかった。VCたちがClinkleのようなバカげたアイデアに対して多額の金額をつぎ込んでいた時代だ。私たちが資金調達を試みた2016年は、ビットコイン系の投資が落ち込み、ユニコーンと呼ばれるIT系スタートアップに対して再評価が行われる時代だ。VCが探していたのは、人を惹きつける力を持ち、売り上げや利益をあげているスタートアップだった。私たちはそのすべてを持ち合わせていなかった。

唯一、私たちが持っていたのは夢だった。ビットコインの価格を最適化すれば、マーケットに打ち勝つことができ、この業界のメインプレイヤーたちにも勝てるという夢だ(このどちらとも、私たちは本気でそう思っていた)。そして、世界中に存在する従来の送金サービスや、非ブロックチェーンの送金サービスに比べて有利なレートでの送金を可能にできるという夢だ。しかし、投資家を納得させるためには、このビジネスモデルを支えるだけの流動性が、はたしてビットコインにあるのかどうかを示す必要があった。それから優秀なVCたちとの会話を経て、私たちはあることを痛感した。今後短期間でビットコインがもつ流動性が十分なレベルまで達する可能性は低く、このビジネスモデルで生き残ることは不可能だということだ。

しかし私たちは闘った。何度もVCのもとに足を運び、私たちのビジネスモデルを説明して回った。私たちは、ビットコイン市場の成熟度が私たちのビジネスモデルにいずれ追いつくことに賭けたのだ。このビジネスモデルを成立させるだけの取引量は存在するし、それがもつハイスピードな送金機能は魅力的であるはずだ。そして、私たちはビジネスのターゲットを送金者から旅行者に変更することも説明した。マドリードへの旅行中に友人にユーロを渡す必要があるとき、Freemitを使えば、数分でその友人に直接ユーロを送金することができる。ポーランドに旅行中、花屋ですてきな花を見つけ、それをおばあちゃんへプレゼントしたければ、Freemitを使って60ズロチを花屋に送金すればいい。Freemitは速く、無料で、シームレスなシステムだ。Freemitのインド企業パートナーを利用すれば、現地でルピーを引き出すことだってできる。これは素晴らしいアイデアだった。

私たちが失敗した理由は3つある。まず第一に、ビットコイン市場は私たちの夢を支えられるほど成熟していなかった。私たちのビジネスに必要なビットコインの量は多い。その量を実際に売り買いすれば、マーケットに多大な影響を与えてしまう。ボウリングのボールを湯船に投げ込むようなものだ。その影響は破滅的なものにもなりかねない。第二に、アメリカ人VCが私たちのビジネスモデルを理解することは難しい。彼らは裕福で、旅行中のお金のことなど気にしたことがないからだ。アメックスのプラチナムカードを持っている彼らが、私たちのサービスなど必要とするだろうか?最後に、私たちは規制によって羽交い絞めにされていた。当時、無許可で送金ビジネスを運営したとして逮捕されるものがいた。そのため、私たちは資金調達なしではサービスを開始することができず、サービスを開始することなしでは資金調達することもできなかったのだ。

「Every battle is won or lost before it is fought.」
その時、私たちの闘いは始まったばかりだった。しかし、私たちはその時すでに敗北していたのだ。

4月は最も過酷な月

私たちは約50社のVCに対してピッチをおこなった。そして、その答えはすべて同じものだった。たった一つの答えを除いて。前CFOの元同僚が、はみ出し者の寄せ集めともいえる私たちのチームに何かを見出してくれたのだ。私たちにとっては最後のチャンスだった。

Keith Teareが「Valley of Death」と呼んだ場所に、私たちは足を踏み入れた。エネルギーいっぱいで、資金があり、従業員も揃っているという時期を意味するインキュベーション。その後にくるステージに、私たちは立っていた。VCの元に足を運び、彼らが私たちのビジネスに投資するかどうか判断する。審判の時だ。結局、私たちが得た答えは「No」だった。

時間が経つにつれて、私たちはチームを編成し直すことを決めた。それまで半年間連れ添ってきたチームメンバーをすべて解雇し、プログラミングは私たち自身で行った。競合企業が私たちのビジョンに追いつき、RevolutやCircleといった企業が私たちのものと似たサービスをローンチした。彼らは、私たちのビジネスモデルが他の方法でも実現可能なことを示したが、同時にそれが持つ制約も浮き彫りにした。地理的、法的、そして経済的な制約だ。

私たちの技術リーダーもCFOもチームを離れた。友情に緊張が走り、ぐらついた。厳しい時期だった。起業家に必要な自信、パワー、積極的な姿勢がすべて吹き飛んだ。完全なる社会不適合者でもなければ、この状況は耐え難いものだろう。病気になった。体重が約10キロ増えた。腰痛とパニック発作に苦しめられた。スタートアップを創りあげることと、精神的な病のあいだには明確な関係が存在する。感受性の高い起業家が壁にぶち当たることを防ぐため、そのことについて話すのは意義のあることだろう。しかし、それはまた別の記事で述べることにする。

Ash RustHans Reisgies、Ravi Belani、Edith Harbaughから学んだ事がある。それは、ある仮説が間違いだったからといって、すべてが間違っているわけではないということだ。それは、間違った質問に答えようとしているだけに過ぎない。

Richardと私は毎日お互いの家で働き、色々な数値の組み合わせを試して最良の道を見つけようとしていた。ビットコインに頼らなくてもビジネスモデルを実現できる技術をもつ人物を新たに技術リーダーとしてチームに招いた。私とRichardは、ビットコインとブロックチェーンの世界が向かう先を知ろうとした。当初のビジネスモデルには多くの変更が加えられ、新しいアイデアが生まれた。

必要は発明の母である。新しい技術的なソリューションを試している途中、私たちはある重大な壁に突き当たった。そこで立ち止まったが、それは短い間だった。5月にメンバー同士で話し合いをしていたとき、議論は白熱し、チームはバラバラになる寸前だった。その時、Richardが動きを止め、彼独特のブルックリンのアイルランド訛りで、ある言葉を発した。起業家にとっては、最高の一言だ。

「ちょっと待ってくれ。いい手が浮かんだぞ。」

闘い、戦争

私たちはまだ完全にやられたわけではない。しかし、これはスタートアップの復活劇でもない。今のところは。この記事は、最初のアイデアを賞賛するものではなく、葬るためのものだ。未来は予測不能であるが、その未来は常に、私たちの会社のようなビジネスと関わりあいながら形成される。私たちのビジネスに起こったことや、現代のスタートアップのあり方について説明するのは意義のあることだ。

現代のスタートアップは以下のように機能する。データを一通り集めたあと、上手くいかない物事を素直に認めて、先に必要があるのだ。「上手くいかない」という言葉が意味するのは、あなたの力が足りないということだ。「上手くいかない」が意味するのは、もう一度チャレンジするということだ。

スタートアップの王道ともいえる、このプロセスを繰り返すことで、ある失敗のアイデアが成功のアイデアに結びつく可能性もある。1日1歩、3日で3歩、3歩進んで2歩下がる。それでも、歩き続けるのだ。


この記事は、「Startup Step-By-Step」の第三話である。残りの記事はここで読むことができる。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook

Rocket Internetからの買収で運命が大きく変化したイタリアのスタートアップ

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編集部注:本稿はMarcello Mariによって執筆された。

 

最初はおとぎ話だった。2015年の初頭、ドイツの巨大企業Rocket Internetがイタリア初のフードデリバリー企業であるPizzaBoを買収することを発表した。その買収金額は5100万ユーロ(約62億円)だった。

この金額は、イタリア出身のスタートアップに対する買収金額としては歴史上3番目に高い金額であり、Rocket Internetがイタリア企業を買収したのはこれが初めてだった。

Rocket Internetは、ドイツ出身のインターネット企業の中で最も成功した企業であろう。彼らの有名な(または悪名高い)ビジネスの手法とは、世界中の成功したビジネスモデルを丸ごとコピーをして、そのビジネスモデルを発展途上のマーケットで立ち上げるというものだ。だからこそ、このニュースがメディアに飛び込んだ時、皆がこの買収を大きな成功として祝ったのだ。

イタリアの企業に対する投資や、他企業からの買収(特に外国企業からの買収)は不足しており、だからこそ彼らはこのニュースをお祝い事として扱った(実際の功績より過剰の反応だったと言ってもよい)。

実際この買収の発表の後、同社はStartupItaliaが発表したイタリア出身スタートアップのランキングでTOP10入りを果たした。ちなみに、このランキングはイタリアのスタートアップ業界ではとても威厳あるものだ。

その後、PizzaBoの最高経営責任者であるChristian Sarcuniは世界のスターの仲間入りをする。少なくとも、彼がイタリアのスタートアップシーンにおけるスターとなったのは間違いない。彼はこの買収を、初期のPizzaBoを見捨てた投資家たちに対する「大きな復讐」と表現した。

TechCrunchとSarcuniとの独占インタビューの中で、彼は「メディアがPizzaBoにもつ関心は、私たちのサービスに対するものではなく、今回の買収によって巻き起こった、どよめきに対するものなのではないかと感じます」と語った。

しかし、Rocket Internet独特の積極的な成長戦略、そして極端にアグレッシブとも言える、PizzaBoブランドのマーケット拡大計画をPizzaBoに提示し始めたことで事態は一変する。

「買収完了後、初めてMarc Samwer(Rocket Internetの共同創業者)と会いました。彼は自分の事をシェアホルダーの代弁者であると話しました。しかし、彼が食品事業全体の実権を握っていることは明らかでした。明らかに、彼は食品事業における意思決定者だったのです」とSarcuni氏は本誌に語ってくれた。

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世界中に存在する多くのスタートアップと同様、PizzaBo創業の物語は実に控えめなものだ。創業者であるSarcuniは南イタリアにある小さな町で生まれ、2010年にイタリア最大の学生都市であるボローニャで会社を立ち上げた(ボローニャは学生都市であるからこそ、ピザの配達業としては最良の条件が整ったマーケットだった)。

創業1年目は6万枚のピザを配達した。4年後、その数字が100万枚に達し、ボローニャの他にも5つの学生都市に事業を拡大したころ、Rocket Internetが同社の門を叩く。

「Rocket InternetからのEメールを受け取った時は、本当に驚愕の思いでした。メールの受信から24時間以内には、要求された資料をすべて揃えて送信しました。その翌日にはRocket Internetの担当者が当社を訪れ、資料の数字を確認する作業が始まったのです」とSarcuniは買収後のインタビューで語った。

それから間もなく、あとはサインを待つばかりの契約書がSarcuniのデスクに届いた。Rocket Internetの財務諸表によれば5100万ユーロの買収金額だ。

当初、Rocket InternetとSarcuniの間には多くの約束事があった。その一つが、PizzaBoの社名とロゴの変更はしないというものだった。

ところが、それから数カ月の内にPizzaBoの社名は「Hello Food」と変更されることになる。Rocket傘下のフード企業であるHello Freshと似た名前だ。「彼らとは数多くのミーティングを実施しましたが、あれはその中でも特に厳しいものでした。あらゆる手段を使い、彼らにもう一度考え直してもらうよう努力しましたが、どうすることもできませんでした」とSarcuniは語る。

社名に関する約束のほかにも、PizzaBoが新たに20都市へとマーケットを拡大する際、Rocket Internetはその支援を約束していた。しかし、Sarcuniの言葉を借りれば、当時のRocket Internetのチームはデューデリジェンスで忙しく、事業拡大までは手が回らなかった。

「Rocket Internetが戦略を変更しようとしていたのは明らかでしたが、私たちは必死の努力で20都市への事業拡大の目標を達成しました。彼らからの電話を受けとったのは、大規模なマーケティング・キャンペーンの準備を整え、私はみずからカメラの前に立ち、当社初の全国放送のテレビ・コマーシャルを撮影していた時でした。そのキャンペーンのための資金援助をキャンセルするという旨の通告です。それに関する説明は一切ありませんでした」と彼は話す。

この後、事態は深刻化する。

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2016年2月5日金曜日、Sarcuniが目覚めたとき、大量のテキスト・メッセージとEメールが届いていた。

その中の一通には、彼の会社がJust Eatという企業に売却されたと書かれていた。同社はイギリス首位の食品配達企業であり、PizzaBoのメインの競合企業だった会社だ。

「Just Eatのイタリア責任者との会議では、私たちの両者とも驚きを隠せませんでした。彼も私と同じく今回の売却に際して何の知らせも受けておらず、意見を聞かれることも無かったのです」とSarcuniは話す。

しかし、Just EatがpizzaBoを買収して以来、事態は好転し始めた。新しい企業の傘下となったことで、PizzaBoは本来の社名を取り戻した。独立性も維持されていたようだ。

しかし、それは嵐の前の静けさだったのだ。2016年3月後半、その嵐がやってきた。

買収以来、Just EatとSarcuniは何事においても、ただの一度も合意に達することはなかった。そのJust EatがPizzaBoに対し、本社をボローニャからミラノへと移転するように指示する。

Sarcuni率いるPizzaBoには、同社の成功の秘訣とされるチームが存在する。そのチームは本社移転に反対していた。本社移転の陰に、隠された人員削減が存在することを恐れたのだ。典型的なイタリア企業らしく、PizzaBoの労働組合による抗議活動が行われることとなった。これはイタリアにおけるスタートアップの歴史上、初めての出来事だ。

しかし、イギリスの巨大企業からの要求を前に、労働組合の交渉責任者は無力だった。最終的な決定権はSarcuniに移った。結局、彼はチームとの約束を果たすことができず、3月15日に本社移転を了承した。

PizzaBoは、Sarcuniがみずからの手で創業し、無借金であり、Rocket Internetによる買収以前は他社から資金援助も受けてこなかった。そのPizzaBoは、彼が最高経営責任者として続投することを認めなかった。

PizzaBoがたどった運命はさておき、買収から始まったこの物語は、イタリアのスタートアップの歴史上、最も高額な買収劇の一つであることには変わりはない。

劇の幕が降りた今、Sarcuniは自分が起こした失敗を痛いほど自覚している。「もし時間を戻せるのならば、あの時、自分の会社を丸ごと売るようなことはしなかったでしょう。少なくとも、会社のコントロールを失わないようにするでしょう。当然、もっと信頼のおけるパートナーを選ぼうとするはずです」と彼は語る。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook

すべてを支配するチップ?IoT、そしてハードウェアの偉大な新時代

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編集部注:本稿を執筆したNarbeh Derhacobianは、Adesto Technologiesの共同創業者であり、現CEOである。同社は各アプリケーションに特化した、電力消費量を極限まで抑えた不揮発性のメモリを製造している。

 

AppleがiPhoneを発売してから10年あまり。あの日以来、スマートフォンはテクノロジー業界におけるイノベーションの原動力として存在してきた。カメラ、Wi-Fi、バッテリー、タッチセンサー、ベースバンド・プロセッサー、メモリー・チップ。10年と経たないうちに、スマートかつパワフルなデバイスを求める消費者の声に応えるため、これらの部品は毎年驚くべき進化を続けてきた。

チップメーカーに与えられた使命は、次々に現れるスマートフォン向けに、より小さくてよりパワフルな部品を製造するということだった。高密度、高速、低価格。これまで途方もなく長い間、これらの言葉が私たちの業界をつき動かす原動力だった。

しかし、そこから状況は変わった。スマートフォンの時代はまだ終わっていないものの、その成長速度には陰りが見えるようになった。近い将来、「モノのインターネット」こそがハードウェア業界の成長の支えとなるだろう。今後10年のうちに、ネットと接続されたセンサーデバイスが何百億と生まれるであろう。高速道路から幹線道路にいたるまで、そのデバイスは世界のありとあらゆる場所に設置され、私たちの生活をより良くするための情報を与えてくれる。

その時代が来ることにより、ハードウェア業界は重大な変化を遂げる。そして、スマートフォンの時代におこった進化が巻き戻される。この重大な時代の変化を理解するためには、マーケットとともに変化してきたコンピューター製造の歴史をひも解く必要がある。

サーキットボードからすべては始まった

ほんの数十年前のコンピューターは、部屋を丸ごと1つ埋めてしまうくらいの大きさだった。その当時のコンピュータの部品は、それぞれが個別に製造されたあと、サーキットボードの上でつなぎ合わされていた。ロジック処理部品が片面にあり、ラジオ部品が端の方につけられているという基板を覚えている人もいるだろう。それぞれの部品はワイヤや銅線によって接続されていて、簡単に部品を追加したり、取り除いたりすることができた。

この「システム・オン・ボード」という製造のあり方は長い間採用されていた。しかし、科学者がトランジスタを小型化させ続けたことによって、コンピューターのサイズも小さくなっていった。トランジスタとは、電気のスイッチのような役割をもつ、現代のコンピューターに欠かせない部品だ。

1965年、インテルを創業したGordon Mooreは、かの有名な「将来予測」を発表した(「法則」という誤解を呼ぶ名前がつけられている)。集積回路上のトランジスタの数は18カ月から24カ月ごとに倍になるという予測だ。短期間のうちにコンピューター部品の小型化が進み、サーキットボードには急に大きなスペースが生まれた。

マスターチップ

すぐに、エンジニアたちは1つのシリコン基板上に複数の部品を取り付けようとし始める。やがて、彼らはたった1つのシリコン基板にコンピューターを丸ごと取りつけることに成功した。それは綺麗に包装され、すべての機能が詰まったパッケージとして発売された。

私たちはこれを「システム・オン・チップ(SoC)」と呼ぶ。あなたのスマートフォンにも搭載されていることだろう。複数の部品を小さく統合させる技術は大きな進化をもたらすことになった。部品同士がより近くなったことで、シグナルのやり取りのスピードも早くなり、処理速度も上昇したのだ。

大抵の場合、SoCは低価格でもある。従来では大量の部品ごとにテストを行う必要があったが、SoCではチップ1つにつき1回のテストを行うだけで良い。そして、もちろんサイズも重要だ。この統合された小さなパッケージのおかげで、AppleSamsungといったメーカーはより軽量かつスマートなデバイスを製造することが可能になったのだ。

しかしSoCには重大な欠点もあった。SoCは、「fab」と呼ばれる巨大な施設において共通のプロセスで製造される。この巨大施設は月に何百万個ものSoCを製造することが可能だ。

高密度、高速、低価格。これまで途方もなく長い間、これらの言葉が私たちの業界をつき動かす原動力だった。

SoCのパラダイムにおける問題点とは、たった1つのチップ上に構成された全ての部品(プロセッサー、ラジオ、メモリーなど)が、たった1つのプロセスによって製造されているという点だ。その1つの製造工程では、各部品それぞれにおいて「最高品質」を生み出せるというわけではないのだ。例えば、ある製造プロセスはプロセッサーの製造ではとても優秀だが、埋め込み式のフラッシュメモリーの製造では劣るかもしれない。しかも、部品のアップグレードや取替えは、「fab」を丸ごとアップグレードしなければ難しい。

スマートフォンやその他の製品向けに製造されていた時には、SoCが与える恩恵のおかげで、それが持つ欠点が取り沙汰されることはなかった。しかし、新しいハードウェアの時代が誕生したことにより、チップの製造メーカーに難題が降りかかることになる。

「モノ」の時代における新しいルール

モノのインターネット(IoT)を考えてみよう。これが未来のハードウェアであり、何百億ものセンサー・デバイス上で稼働することになる。しかし問題は、それらのデバイスがありとあらゆる環境に存在するという点だ。あるデバイスは工場に、またあるデバイスは屋外に取り付けられる。水の中でデータを集めるデバイスもあるだろう。これらのデバイスの基本的な機能は共通している(データを感知し、集め、保存し、送信する)。しかし、その設置に必要な条件はそれぞれ大きく異なるのだ。

例えば、車のエンジンに取り付けられたセンサー端末には、高熱にも耐えられる構造が必須だ。広大な農場に設置された端末には、長距離でもデータを送信できる強力なラジオ部品が必要になるだろう。多くのIoTのセンサーには少ない電力消費量で動作することが求められるが(コンセントとつながれないため)、ある特定のセンサーにとっては電力消費量がその他のどの機能よりも重要なものになるだろう。

より厄介なことに、多くのIoTアプリケーションで求められる必要条件は、現時点ではハッキリと分かっていない。この時代は、まだ始まったばかりだからだ。しかし、それでも私たちはハードウェアを製造せざるを得ないのだ!この状況こそが今のチップ製造モデルが抱えるあらゆる問題を引き起こしている。

統合しない方法を模索する

PCやスマートフォン業界では同じチップを何億もの個体に搭載させることが可能だった。統合された巨大なSoC製造施設は、その時代にはとても適したものだった。だがIoTはそうではない。そこには何百万通りのアプリケーションが存在するであろう。このことは、これまでにない程に多様化されたチップ製造のあり方が必要になることを示している。

その結果、新しいチップ製造モデルが誕生しつつある。それをマルチチップ・モジュールと呼ぶものもいれば、2.5Dや、System in a Package(SiP)と呼ぶものもいる。これらすべてに共通するのは、各部品は近接に構成されながらも、SoCのように完全に統合されたものではないという点だ。これらのアプローチが提供する、コスト、パフォーマンス、電力消費をコントロールする方程式は、IoTデバイスに適した選択肢としてSoCからシェアを奪い、その地位を確立しつつある。

ある意味では、PCやスマートフォンの時代はデバイスの標準化を推進する時代だった。偉大なビジョンをもつAppleは、人々は統合された美しいパッケージを求めているのであって、ハードウェアに多くの選択肢を求めているわけではないことを理解していた。だが、大抵の場合ソフトウェアはその逆だ。それぞれが違ったニーズを持ち、それぞれに最も適したアプリやプログラムを選びたいと思っている。

インターネットに接続されたスマートな世界において、設置される工場が違えばセンサーに求められる必要条件も大きく異なる。農業、都市計画、自動車など異なる業界ごとに違う条件が必要になることは言うまでもない。スマートフォンの使用者がそれぞれ違ったアプリを求めるように、IoTメーカーも単一の「fab」にとらわれず、それぞれが求める部品を選びたいと思うだろう。

この時代の変化の重要性を大げさに言うのは難しい。3000億ドル規模以上のセミコンダクター業界が、PCとスマートフォンのハードウェア標準化時代とともに成長してきた。屋内で使用され、壁のコンセントにつながれた「箱」の時代だ。その一方で、IoTはハードウェアに大きな多様性を求める。シリコンバレーの「シリコン」基板に巻き起こる巨大な変化に、心の準備を。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook

APIの台頭

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編集部注:本稿はMatt MurphyとSteve Sloaneにより執筆された。Steve SloaneはMenlo Venturesに勤務する。

ソフトウェアが世界を支配する」と耳にするようになってから5年ほど経った。SaaSアプリケーションの数が爆発的に伸び、ソフトウェアに重要な結合組織と機能を提供するAPIの分野にイノベーションの波が押し寄せている。サードパーティAPI企業の数も急増し、それらの企業がソフトウェアの作成および流通のあり方を根本から変えつつある。

マイクロソフトのWindowsのような特定のプラットフォーム向けのソフトウェアを開発する方法として、アプリケーション・プログラミング・インターフェイス(API)は何十年間も重要な役割を担ってきた。最近では、SalesforceやFacebook、Googleといった新しいプラットフォーム・プロバイダーたちがAPIをソフトウェア開発者に提供するようになった。そうすることにより、彼らのプラットフォームへの依存性をつくり出すことに成功したのだ。

そして今、新種のサードパーティAPI企業がソフトウェア開発者たちに特定のプラットフォームへの依存から脱却する方法を提供し、彼らはアプリケーションをより効果的に流通させることが可能となったのだ。

過去数十年間においてビジネスの世界で活躍してきたのは、全体が1つのアプリケーションで構成されたインフラストラクチャーやアプリケーションだった。しかし、それらに代わって台頭しはじめたのがモジュール型のアプリケーションだ。モジュール型のアプリケーションは、小型かつ独立した再利用可能のマイクロ・サービスによって構成されており、それらのマイクロ・サービスを組み合わせることで、より複雑なアプリケーションを作成することができる。結果として、ソフトウェア開発者はユニークな機能の開発に専念し、外部のスペシャリストが開発したプログラムでその周りを補強すればよい。そして、そのプログラムにアクセスする方法がAPIなのだ。

速い、安い、スマート

アプリケーションに必要な機能のほとんどは、既に他の企業が苦労して開発したものと同じものだ。そのことに気づいた開発者たちは、車輪の再発明に貴重な資源を投入することを避け、より大きなプラットフォームが提供するAPIを活用することにした。SalesforceやAmazonがそのプラットフォームの例であり、最近ではAPIに特化した企業も現れた。サードパーティAPIの時代は始まったばかりだ。だが、これまでに開発されたソフトウェアを見れば、StripePlaidの支払いシステムや、Twilioの通話システム、Factualの位置情報データ、Algoliaのサイト検索機能などを、開発者たちがどのように活用できるのかが一目瞭然だ。

まさしく、この分野はブームとなりつつある。私が調べた限りでは、ProgrammableWebは約1万5000ものAPIを提供しており、その数は毎日増え続けている。これらのAPIをソフトウェアに組み込めば、単体で開発した場合より遥かに素早く完成させることが可能だ。

ソフトウェアを低コストかつ素早くマーケットに流通させることは大きなアドバンテージとなる。その一方で、もっと重要な利点もある。コア能力に特化する企業は、他者と差別化する機能、すなわち「秘密のソース」をより早い速度で開発できるのだ。

APIがソフトウェア開発のエコシステムに与える恩恵はとてつもなく大きいのだ。

もう一つの利点は、サードパーティAPIを利用することは総じて優れた方法だということだ。サードパーティAPIは、独自に開発されたAPIよりも柔軟性を持つ。ある機能を構築し、それを維持するには多大な労力を必要とするが、企業はその労力を過小評価する傾向にある。しかもそれらの機能はサードパーティAPIによって代用可能なのにも関わらずだ。そして最後のアドバンテージは、サードパーティAPIの開発者の方がより大きなデータにアクセスすることが可能であり、そのデータがネットワーク・エフェクトを創り出すという点だ。

そのネットワーク・エフェクトは優れた価格やサービス品質に見て取ることができ、AIを使ってそのデータの中から最も良いパターンを抽出することができる。例えば、Menlo傘下の企業であるSignifydは不正アクセスを見つけ出すサービスをAPIとして提供している。同社は100以上の企業から取引データを集めており、個々の企業による独自分析よりも高い精度で不正アクセスを見つけ出すことができる。

新種のソフトウェア企業

APIとしてソフトウェアをリリースすることで、そのソフトウェアが採用される可能性を高めることができる。多くの場合、ソフトウェアを利用する顧客はディベロッパーなのであり、ソフトウェアを特定の業界に対して垂直に売り込んだり、パッケージとして売り出すよりも販売プロセスがスムーズになる。収益モデルは常に反復的であり、利用される頻度が高まれば収益も増えるという、本質的にスケーラブルなビジネスモデルだ。APIベースの企業がもつエコシステムはまだ進化の途中ではあるが、そのような企業の特性が組み合わさることで、最終的にはより資本効率的で利益率の高いビジネスモデルが創り出されると私たちは考えている。

このチャンスは新参者の企業だけに与えられたものではない。既存の開発企業にとっても、独自の機能をAPIとして提供し、製品をアプリケーションからプラットフォームへと進化させる機会となるだろう。傑出した企業の中には、目標以上の成果を生み出すAPIビジネスを構築した者もいる。伝えられるところによれば、Salesforceは収益の50%をAPIから生み出しており、eBayは60%近く、Expediaではなんと90%だ。

このビジネスモデルは起業家や投資家たちを惹きつけている。次なる大流行アプリをゼロから創り出そうとしたり、需要があるのか分からない状態でマーケティングや流通のために多額の資金を投入したりするよりも、特定領域の機能を構築し、他のディベロッパーの武器商人となる方が理にかなっているのかもしれない。

APIモデルは、成功すれば資金効率性を得られ、時間が経つにつれてネットワーク・エフェクトが生まれるという強力な流通方法である。現在、900万人の開発者がプライベートなAPIの開発に取り組んでいる。これらの人材が、「企業より機能」というチャンスに目を向けることがあれば、パブリックなAPI開発にも大きな変化が生まれる可能性がある(パブリックAPI開発者は120万人に留まっている)。

バリュー・チェーンを見直す

これまではデータに最も近い企業や(例:システム・オブ・レコード、SoR)、ソフトウェアを自社のプラットフォームに依存させることが可能な企業こそが「ビックな企業」だった。APIの世界では、ビックな企業とはスマートな方法でデータを集め、それを他者に公開する企業なのかもしれない。

これにより新しいタイプの参入障壁が生まれる。Twilioは圧倒的な通信ボリュームをもつことから、個々の開発者では得られられないような割引を通信キャリアから得たり、多くの開発者が利用する支払いシステムをもつStripesが獲得している大口割引などがその例だ。Usermind(Menlo Venturesの投資先企業の一つ)などの企業は、既存のSaaSアプリケーション間のAPIによるコネクションを単純化するワークフローを創り出すことによって、複数のアプリケーションの運用を可能にしている。

今現在においてもAPIスタートアップのエコシステムは魅力的であるが、私たちはその魅力は増す一方だと考える。これまでの5年間、SaaSやビックデータ、マイクロサービス、AIといった企業志向のテクノロジーに対する世間の関心はとても高かった。この4つの分野が結合した存在こそ、APIなのだ。

企業向けソフトウェア開発の現場においてサードパーティAPIへの注目がさらに高まることで、これから数々の大物企業が生まれるだろう。プロセス間の人手を減らした販売モデル、循環する収益、分散化された顧客基盤をもつAPIのビジネスモデルはとても魅力的だ。それに加えて、アプリの開発者はユニークな機能の開発に専念することができ、特に重要なイニシャル・プロダクトを低コストかつ素早く流通することが可能となる。APIがソフトウェア開発のエコシステムに与える恩恵はとてつもなく大きいのだ。

menloapi

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook

コメディ専用のストリーミング番組を提供するLaugh.ly、現在はクローズドベータで運用中

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ディック・ヴァン・ダイク(Dick Van Dyke)のように大声で笑うのが好きな人には、きっと気に入ってもらえるはずだと信じているのがLaugh Radioだ。コメディやお笑いが大好きな人に、検索可能なコメディアーカイブのストリーミング番組を提供するアプリケーションだ。

「コメディを構成する話芸に興味を持つ人のために、いちからアプリケーションを作り上げました」とファウンダーのDave Scottは言っている。

Scottによると、スタンダップ・コメディは人気であり、毎年5000万もの人がコメディ・クラブに出かけているのだとのこと。スタジアムでのイベントも売り切れになり、いまやニッチな娯楽ではなくテレビやラジオでも放送されるメジャーな存在になっている。

しかし。その割に、コメディアンたちは十分な収入を得られずにいるのだ。

「30年前、レコードセールスの20%はコメディでした。エディ・マーフィーやチーチ&チョン(Cheech & Chong)、およびアンドリュー・ダイス・クレイ(Andrew Dice Clay)などの全盛期でした」とScottは語る。「しかしレコード(およびCD)が廃れてしまったのです。アルバムは売れなくなり、人々はストリーミングを聞くようになりました。おかげでコメディ市場が衰退してしまったのです。ただし、市場が衰退したといっても、人々のコメディに対する興味までなくなってしまったとは思えないのです」。

「コメディを待ち望んでいる人が多いことは、現状から明らかでしょう。また、それと同時に多くのコメディアンが恵まれずにきたことも理解したのです。コメディアンたちはどのようにして露出の機会を増やせばいいのかわからず、状況を改善するためにいったい何をすれば良いのかの手がかりを掴めずにいたのでした。そこでこのアプリケーションを世に問うこととしたのです」とのこと。

狙いはなかなか面白そうだ。アプリケーションは今夏より提供を開始する予定で、400名のコメディアンの参加を見込み、さらに新人には自身の作品をアップロードするような場も提供したいと考えているそうだ。視聴者はストリーミングチャネルを選んで、特定のコメディアンのコントを聞いたり、あるいは何人かのコメディアンたちが共演するお笑い番組などを聞くことができるようになる。

無料版には広告が流されるようになっていて、月額7.99ドルの有料版も提供されるそうだ。有料版では専用のコンテンツも提供し、また広告を流さないようにするのだそうだ。

Scott曰く、コメディアンたちにも好意的に受け入れられているとのこと。ルイス・ブラック(Lewis Black)なども、すぐに参加したい旨の態度表明を行なっているのだそうだ。

「録音してしまえば、トイレに行っている間に稼げたりするわけかい?」とブラックは言ったのだとのこと。「そりゃやらないわけがないじゃないか」。

現在資金集めを行い、それと同時にクローズドベータでサービスを提供中なのだそうだ。

原文へ

(翻訳:Maeda, H

金融イノベーションにおいて、なぜ英国は米国を打ち負かしたのか

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編集部注:本稿を執筆したJeff Lynnは、Seedrsの共同創業者およびCEOである。

一般投資家によるスタートアップや小規模ビジネスへの投資を可能にする法案が、2011年に初めて米国議会に持ち込まれた。二大政党からの支持や、オバマ大統領からの承認があったにもかかわらず、それは今になってやっと現実味を帯びた。

アメリカで生まれ育ち、英国で働きながら生活するアングロ・アメリカンである私は、大西洋の両側にある両国に強い忠誠心を持っている。しかし、これまでの数年間を振り返り、これから始動する米国のクラウドファンディングを考えたとき、企業や自由競争市場、そしてイノベーションに対してともに似たようなコミットメントをしてきた両国が、これ程までに違った道を歩んできたという事実に私は驚きを隠せない。

英国はこれまで、エクイティ・クラウドファンディングだけでなく、他にも一般的な金融改革を推進してきた。現在、英国の金融セクターは繁栄を極め、小規模ビジネスや投資家、そして経済全体がそこから同様に恩恵を得ている。

一方、米国は時代遅れの規制システムによって身動きが取れず、英国に対してかなり遅れをとっている。そして、この状況はこれからも続きそうだ。

2つの規制システムの物語

金融改革へのアプローチが両国において異なる理由は、それぞれの規制システムの歴史にあると考えられる。

1929年に株式市場が崩壊したとき、米国では大勢の一般市民が多額の資産を失った。1920年代に米国の株式市場に参入してきた個人投資家は、自分たちが何に投資をしているのかすら分かっていなかった。投資に関するリスクが明らかにされないまま、玄関先で株式のやり取りが行われることもあった。

イノベーションが生まれるたびに新しい法律を必要とするような規制システムでは、それが持つスピードに追いつくことなど不可能だ。

それゆえに、一般投資家たちは株式市場の崩壊に驚愕しただけでは済まされず、自分たちが許容できる金額以上の投資を行っていた彼らは家や暮らしまで失うことになったのだ。

この事態に応じて、米国政府は世界初の包括的な金融規制システムを導入した。その内容のほとんどは、一般市民の理解を超えた投資行為から彼らを守るというものだった。このシステムは、1920年代および30年代に売買された投資商品や、当時の投資家の熟練度やコミュニケーションの相対的欠如に基づいてデザインされたものである。

そして立法者たちは、それらの投資商品や投資家の熟練度が今後に変化するとは考えなかったため、彼らは「ルール・ベース」と呼ばれるシステムを構築した。それはすなわち、投資行為のあらゆる側面において細かくルールを制定するというものだった。多少の変更は加えられたものの、今日でもアメリカではこのルール・ベースのシステムを採用している。

1929年の株式市場の崩壊は英国にも影響を与えた。だが、それは米国に与えた影響とは違う種類のものだった。他のヨーロッパ諸国と同様、当時の英国における投資行為というものは、一部の機関や裕福な個人が行うものに過ぎなかった。一般市民が株式市場に投入していた金額は少なかったため、彼らが失ったものも少なく、一般市民を保護するための法整備を求める大規模な活動は起こらなかった。それから何十年もの間、英国の金融セクターは比較的規制による干渉の少ない、自立的なセクターとして残った。

英国政府が包括的な金融規制システムの必要性を感じたのは、個人投資家が増え始めた1990年代になってからのことだった。その結果、Financial Service and Markets Act 2000(FSMA)が生まれ、それが今日でも採用されている。

FSMAが制定された時には既にインターネットが広く普及していた。しかし、恐らくそれよりも重要なことは、当時は投資やビジネスのやり方が日々進化しており、数年間のうちにテクノロジーが更なる変化をもたらすことが明らかだった事だろう。

それゆえに、FSMAはマーケットの変化に柔軟に対応できるようにデザインされたものであり、将来の変化にも耐えうるものだったのだ。米国による「ルール・ベース」のアプローチを採用する代わりに、FSMAは「原則ベース」のアプローチを導入した。英国の金融機関は投資家保護の原則(およびその他の原則)を守ることを求められる。しかし、その具体的な方法は彼らに委ねられていた。

金融のイノベーション

大西洋をかこむ両国における金融改革の進化を理解するためには、それぞれの国の規制システムのレンズを通して見なければならない。

原則ベースのアプローチは常にイノベーションと共存する運命にある。このアプローチでは、まったく新しい金融サービスを誕生させるために法律を改定する必要はなく、すでに存在する原則を適用することができるからだ。参加自由の市場だと言っているわけではない。ほとんどの場合、新しいビジネスモデルを開始するためには英国の規制機関(Financial Conduct Authority, FCA)からの認可が必要だ。しかし、米国で生まれるイノベーションには新しい法整備が必要であることに比べれば、そのプロセスは著しくシンプルでフレキシブルなものだ。

エクイティ・クラウドファンディングの歴史をひも解けば、このアプローチが実際にどう機能するのかが良くわかる。

私と共同創業者が、一般投資家が小規模ビジネスやアーリーステージの企業への投資に参加できるプラットフォームを立ち上げようとした時、まず私たちはFSMAやそれに関連する規制を調べることから初めた。私たちの投資サービスは、ハイリスクではあるが特に複雑だとは言えないものだ。しかし一番の問題点は、そもそもこの種の投資サービスを一般投資家に提供することが可能なのかというものだった。

この調査によって、私たちはある規則を発見した。それは、この種の投資サービスを提供するためには、投資家のリスクに対する理解とその受け入れを評価する必要があるというものだった。その評価方法は企業(私たち)に委ねられており、規制機関が私たちのプロセスを監視し、彼らがそのアプローチ方法に満足すれば認可が降りる。あらかじめ定められた評価方法のフォーマットは存在しない。

イノベーションは常に法整備の先を行く。

そこで私たちはイノベーターを見習い、新しい評価手段を創り出した。それまでの評価方法とは、金融機関が投資家の資産額とこれまでの投資経験を聞くというものだった。だが、エクイティ・クラウドファンディングにはこの方法は適さないと考えた。最低金額が10ポンド(約1600円)の投資において、投資家の資産額を知る必要はない。また、エクイティ・クラウドファンディングは特別に複雑な投資ではないことから(基本的なモーゲージや保険契約の方が企業の株式よりも複雑なものだ)、これまでの投資経験を聞く必要もないと考えた。

私たちが最も気にしたのは、投資家が裕福なのか、または豊かな投資経験を持つのかということではなく、彼らが実際にこの種の投資に関するリスクを理解しているのかということだった。そこで私たちはクイズを作成することにした。投資家たちは、このアセットクラスへの投資やリスクに関する理解度を示すためにオンラインの選択式クイズに合格しなければならない。

私たちは、認可のためのプロセスとしてFCAにこのクイズを提出した。彼らはそのアプローチが的を得ていると考え、私たちは認可を受けることができた。その後は皆様もご存じの通りだ。

それでは次に米国式のアプローチを考えてみよう。米国の法律には、投資家のリスク理解の保証に関する原則は存在しない。その代わり、投資家が裕福でなければ(定められた収入と資産のラインを超えなければ)、極めて稀な例外を除いて彼らが非公開企業の株式を取得することを認めないという明確なルールがある。そこには議論の余地はなく、規制機関(Securities and Exchange Commission, SEC)がケースバイケースの判断を下すという柔軟性もない。

その結果、エクイティ・クラウドファンディングを実現させるには以下の3つが必要だ。法律が議会を通過すること、大統領がそれに署名すること、そしてSECがそれを実施することだ。

驚くべきことに、最初の2つのプロセスは比較的早く実現した。両政党がエクイティ・クラウドファンディングを支持し、2011年から12年にかけた約7カ月間で法案が上下両院を通過、大統領の署名を得ることとなったのだ。

しかし、2つのプロセスが完了しただけでは十分ではない。規制機関がその法案を実装する段階になると、すべてが足踏み状態となったのだ。SECは2012年12月31日までにプロセスを完了する予定だった。結局、SECが必要とされる実装ルールを導入したのは期限を3年ほど超過した2015年10月30日だった(しかもそれが有効となるのは2016年5月16日である)。

しかし、そこで話は終わらない。2012年に議会を通過した最初の法案には多くの欠陥があった。その欠陥は、ヨーロッパにおけるエクイティ・クラウドファンディングのプラットフォームが成熟し、人々がそれに対する理解を深めてはじめて浮かび上がった。

SECはその欠陥を認識していた(だからこそ法案の実施にここまで時間がかかったと主張する者もいる)。しかし、彼らにはその法案を変える力がなかった。そして今ではその法案を修正するための法案が必要となってしまったのだ。

2016年3月下旬、2011年に最初のクラウドファンディング法案を議会に提出したPatrick McHenry議員は、シンプルに「Fix Crowdfunding Act」と呼ばれる新しい法案を提出した。そして例のプロセスのやり直しが始まったのだ(私はFix Crowdfunding Actを強く支持している。また、米国のエクイティ・クラウドファンディングは、この法案が導入されて初めて始動すると考えている)。

Innovation Initiative

エクイティ・クラウドファンディングにまつわる話は、両国の異なる規制システムが育んだ金融分野のイノベーション文化の一例にすぎない。それと似た問題が金融サービスやフィンテックの分野にも存在する。

それでは、米国における金融イノベーションという希望は失われたのだろうか?それは恐らく違うだろう。McHenry議員とKevin McCarthy下院多数党院内総務は、先日「Innovation Initiative」と呼ばれるプログラムを開始した。このプログラムには、米国の起業家がフィンテック・ベンチャーを起業しやすくするための数々の提案も盛り込まれている。とりわけ、小規模ビジネスや一般市民のニーズを満たすようなフィンテック企業が対象だ。

このような活動はまだ始まったばかりである。しかし、金融分野において米国と英国との差が開き続けているという事実に米国のリーダーたちが気づいたという心強いサインだ。また、ワシントンで開催された、フィンテック分野で英国が米国に対してもつ優位性についてのディスカッション・イベントでMcHenry議員がこのプログラムを発表したことは適切なことだ。

私はInnovation Initiativeを支持する。しかしながら、これが根本的な問題を解決したとはまだ言えないだろう。イノベーションは常に法整備の先を行く。イノベーションが生まれるたびに新しい法律を必要とするような規制システムでは、それが持つスピードに追いつくことなど不可能だ。

将来に起こる変化にも耐えうる金融規制を米国が構築しなければ、英国がもつ原則ベースのレジームによって、またはその他の要因によって、金融改革における両国の差は開き続ける一方だろう。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook

頼むからプログラミングを学ばないでくれ

編集部注:本稿を執筆したBasel FaragはiOS Engineerだ。(そう彼は思っている)。GPUプロセッサー、ロボット、AIなどへの興味の他にも、Baselはコンピューター・サイエンス、天文学、哲学に興味を持つ。かつて彼は、「the Draft Punk of people」と称された。彼はこのフレーズの意味を理解していないが、それはほめ言葉だとは理解している。

 

最近のテック業界で広まりつつある考え方がある。皆がプログラミングを学ぶべきだという考え方だ。しかし、その考え方には問題がある。プログラミングは、読み書きする能力のような必須のスキルではないのだ。

シリコンバレーにおける文化的なごまかしに常に注目している人であれば、「Learn to Code」というムーブメントを耳にしたことがあるだろう。政治家、Code.orgのような非営利団体、そしてニューヨーク市の前市長であるMichael Bloombergにいたるまで、彼らはそれを明日の労働者が持つべきスキルであると伝導してきた。

米国におけるエンジニアの需要に陰りが見えないことを踏まえれば、それはあながち間違いではないのかもしれない。

しかし、これはもっと複雑な問題だ。

私たちの世界は、人々が求められる人材に変わろうとする超競争化社会である。その世界においてプログラミングを学ぶことを経済的な救済として人々に売り込むのは誠意のないことだ。

コーディング・ブートキャンプを例にしてみよう。大勢の人々がシリコンバレーのエンジニアの成功を目の当たりにしていることから、皆が起業したり、エンジニアになることを望んでいる。HBOのドラマ「Silicon Valley」で描かれているのは、20代の若者がプログラミングをして大麻を吸いながら夜を過ごし、同時に何百万ドルものお金を稼ぐという姿だ。一夜にして何百万ドルもの資産を築いたように見える、Elon MuskやMark Zuckerbergといった人々にアメリカ人は驚嘆している。プログラミングに対する熱はホワイトハウスにまで広まったようだ。オバマ大統領は、すべての公立学校のカリキュラムにコンピューター・サイエンスの授業を取り入れようとしている。

不可解なことではあるが、プログラミングを推奨しているのはブートキャンプだけでなく、政治家が人々に奨励するものでもあるのだ。

ハリウッドからテック業界の有名人にいたるまで、社会のあらゆる人々がプログラミングを学ぶことを熱心に奨励している。その流れに逆らうようだが、私はそのコーディング・ブートキャンプにたいして懐疑的な見方をしている。私たちの社会がシリコンバレーをセクシーなものとして仕立てあげ、ブートキャンプのつやつやのパンフレットでは卒業後には給料の高い仕事を得られると謳ってある。だが現実には、多くの訓練機関はなんの認定も受けておらず、卒業後の就職に関する統計資料を公表していない。生徒が卒業後に成功するかどうかは、保証されたものではないのだ。正当なプログラマーの養成機関もあり、本当に生徒のことを想う機関も多い。だがそれ以上に多くの数の機関は、インチキ者に運営された、人々の必死な心につけ入るようなものなのだ。

誤解はしないでほしい。私もエンジニアリングやプログラミングは重要なスキルであるとは思っている。しかし、それは特定の状況下のみにおいて重要なのであるし、成功のために心血をそそぐ意思のある人のみにこそ重要なものなのだ。これは他のスキルにも言えることだ。私が人々に測量技術を奨励する度合いと、プログラミングを奨励する度合いは、なんら変わらない。

プログラミングが注目されたことにより、問題を理解することよりも、それを「正しい方法で」解決することに重きが置かれるようになった。

私が人々に測量技術を奨励する度合いと、プログラミングを奨励する度合いは、なんら変わらない。

プログラミングにおける何らかの問題に取り組むとき、まず私たちはその問題が何であるのか、そしてそれは本当に問題であるのかを見極めなければならない。その問題が本当にプログラミングで解決できる問題かどうかを考慮せず、プログラミングで解決することに固執し、「なぜ問題なのか」という視点を失ってしまっては、そこから何も得ることはできない。それがプログラミングで解決できる問題であろうと、なかろうとだ。

スタンフォード出身の私の親しい友人は、Association for Computing Machinary International Collegiate Programming Contestの優勝者になった経験を持つ。ACMチャンピオンシップに関して彼が私に語ってくれたことは、解決しようとする問題を理解することの重要性だ。

「本当に問題は存在するのか」そして「それにファインマンの原理を応用できるのか。それを他人が理解できるように説明ができるのか」ということを、あなたは自分自身に問わなければならない。

その友人いわく、エリート校の生徒でも問題の要綱を一度だけ読んでからすぐにコーディングを始める者がほとんどだと言う。

その友人がそのチャンピオンシップで優勝した年、彼はあることを学んだ。エリートでさえ「コード」という一つの武器だけで複雑な問題に頭から突っ込んでいくということだ。

一方、私の友人は問題を徹底的に理解してから初めてコードを書き始めた。問題を理解すること自体に与えられた時間のほとんどを割いたのだ。彼がコード書き始めたのは締め切りまであと数分というところだった。

彼はチャンピオンになった。

彼はプログラムを打ち込むこと自体は問題解決の手段ではないことを知っていた。冷静沈着な問題解決能力こそが、文字通り問題を解決する手段なのだということを。

プログラミングを過度に奨励することは、現存するディベロッパーの窮状を無視したものである。

テクノロジーはもの凄いスピードで変化している。

ほんの数年前まで私はObjective-Cを使っていた。しかし、今では私が書いたほとんどのプログラムはSwiftで書かれたものだ。iOSディベロッパーへの応募者のなかには、これまでにObjective-Cによるコードを一行も書いたことがないものもいる。Swiftは習得しやすく、安全で、モダンな開発パラダイムをもち、Objective-Cにはないエレガントさを持ち合わせている。新しいディベロッパーが、Objective-C独自の不完全さに対処する必要がないのは良いことだ。だが、それはプログラマーという職業がもつ現実を無視している。

シリコンバレーのロマンスに夢中になる間も、現実を直視することを忘れてはならない。

ディベロッパーたちは、たとえガイダンスが少なかったとしても素早く学ぶことを求められる。インセンティブは解雇通告されることへの恐怖だ。それはこの職業で成功するためのコストでしかないと主張する者もいるだろう。しかし、もし現存するディベロッパーたちが挫折し、取り残されているという現実があるのだとすれば、そしてその証拠があるとすれば、なぜ私たちは人々にその領域に踏み込むことを奨励するのだろうか。

昼夜Objective-Cを学び、WWDC 2014でSwiftの発表に愕然とした人はどうなるのだろうか?彼らは傍流となった言語でのプログラミングを続けるのだろうか。それとも、また始めから勉強し直すのだろうか。20代の若いディベロッパーにとっては、それは大した問題ではないのかもしれない。しかし毎月の支払いを抱え、家族を養わなければならない者たちにとっては、そのやり直しは非常に困難なものになる。

プログラミング言語は日々進化しているため、それ自体を理解することもできないまま、彼らはその問題に直面することになる。

プログラミングを学ぶことと、それを生業とすることの間には高い壁があるのだ。

本当に。

私がフリーランスとしての仕事を得るまでに、1年の独学期間が必要だった。その後も給料は微々たるものだった。コンピューター・サイエンスの学位を持っていないことを理由に、面接を受けることさえできなかったことが何度もある。

予算にあった住居を見つけられず、友人の親切心に頼らざるを得なかったこともある。何度も諦めようと考えながら夜を過ごした。しかし、進み続けるためのチカラを身につけた。

それは私の粘り強さだ。そのチカラがその時に私を、そして今でもこの領域に踏みとどまらせている。

ディベロッパーとして見習いになることすら、単純に難しいというのがこの業界の現実だ。職を得るためには、コネクションや推薦人、長い間メンテナンスされたGitHubアカウントが必要だ。機会の平等が世に広まりつつある。それにもかかわらずこの業界では、もしあなたが過小評価されたマイノリティに属していれば、人の2倍の能力を持たなければならない。単に能力を示すためだけのためにだ。

門番はいたるところに存在する。彼らはアイビーリーグの卒業生であり、「どのようにバイナリーツリーを反転させますか?」という質問が人の技術的能力を計る物差しになると信じる人々だ。彼らはホワイトボード・テストに取り憑かれたプロジェクト・マネージャーたちであり(告白:私も複数のホワイトボードを所有している)、募集要項に「5年間のSwiftプログラミング経験が必須」と書くような無知な人事マネージャーたちである。(ヒント:Swiftがリリースされたのは2014年)。良くも悪くも、まともな職とあなたの間にはこのような人々が立ちふさがるのだ。

私の知る限り、彼らのやり方に従うしか道はない。それがアンフェアなゲームであったとしても。

終わりに

もしエンジニアになりたいのであれば、誰にも(そして、その意味では私にも)その夢の邪魔をさせてはならない。そして、教育システムのような伝統的な制限を理由に夢に向かって突き進む速度を緩めてはならない。夢を叶えるための道のりに、正しい道も間違いの道もない。

しかし、シリコンバレーのロマンスに夢中になる間も、現実を直視することを忘れてはならない。この業界は借金をチャラにしてくれる魔法のカードではないのだ。時間をかけてこの業界の理解を深めなければならない。あなたは単なる「フレームワークを当てはめる」だけのディベロッパーなのではなく、問題解決者であるという事実を受け止めなければならない。新しいフレームワークや言語を学ばなければならない時が来るかもしれないということ、正式な資格をもたなければ職を得るために闘わなければならないことを覚悟しなければならない。

ソフトウェア・エンジニアリングは儲かる仕事だ。だが「コーダー」から「エンジニア」に進化するのは簡単な話ではない。

もし頑張って踏みとどまれば、それはあなたの人生を変えるだけでなく、ものごとに対する考え方も変えることになるだろう。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /website /Twitter /Facebook

スマートな消費者を増やすために、スマートホーム・デバイスができること

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編集部注:本稿はRobert S. Marshallによる。MarshallはEarth NetworksのCEOを務めている。

ラスベガスで行われてあConsumer Electronics Showに参加した人は、「スマートホーム」関連デバイスの多さに目を回したことだろう。牛乳や玉子が少なくなったときに通知してくれる5000ドルのスマート冷蔵庫や、スマートフォンやテレビ画面から灯りや鍵、あるいはサーモスタットをコントロールできるデバイスなどが出品されていた。いずれもなかなか便利そうなプロダクトにみえる。ただし、スマートホーム化が節約になっているのか、エネルギーを効率的に利用しているのかなどと考えだすと、よくわからなくなってしまう面もある。

起業家たちも、スマートホーム関連のデバイスないしサービスを生み出して、スマートホーム業界への参入をはかっている。しかしスマートホーム・デバイスの普及のために、スマートな消費者の存在が必要であることを見落としているのではなかろうか。

Parks Associatesの2016年3月のレポートによれば、スマートデバイスを利用している家庭の70%が、エネルギー消費を抑えることに成功しているのだそうだ。ただし、アメリカではブロードバンド導入済み家庭の83%が、毎月の電気代がいくらなのか把握していないという結果も得られている。すなわち、電気代を抑えたりすることのできるスマートデバイスへの興味の低さを示しているとも言えるだろう。

こうした状況の中、スマートホームを実現する機器に注目してもらい、そして利用を促進するためには、新たな戦略も必要となってくる。デバイス製造者、技術開発者、ユーティリティ機能の提供者、インテグレーター、そして規格の策定者たちが歩調を揃えて、統合的に利用できる環境を整えることによって「賢い消費者」を育てていく必要があるように思えるのだ。このために直ちに対処する必要のある改善点がいくつか存在する。

IOTに根ざしたアプローチを

まず、スマートホーム関連デバイスは、単独で動作するものではなくIoTの機能を備えている必要がある。消費者は、スマートホームのデバイスを1つずつ追加していく傾向があるようだ。そうでありながら、2015年のForresterの調査によれば、13%の消費者が複数のスマートホーム・デバイスを活用しているのだ。すなわち、複数のデバイスが連動して快適さなどを提供することができるようにならなければならない。

直接に役立つデータを提供して、賢い消費者を応援することが必要だ。

スマートホーム・デバイスの導入時期には、セキュリティシステムが灯り制御をコントロールするシステムを制御できるかとか、あるいはスマートサーモスタットがスマートメーターのデータを読み取ったりすることができるのか(あるいはその逆)といったことに興味を持つ人は少なかったかもしれない。初期の利用者は、プロダクト自体に新規性があればとにかく使ってみるという傾向もあるからだ。しかしスマートホーム・デバイスを一般家庭にも普及させるためには、何百ドルも出してさまざまなスマートホーム・デバイスを導入することで、全体として実現できる快適さをアピールしていく必要がある。

スマートホーム・デバイスに統合的なシステムや、あるいは標準プロトコルを持たずに相互通信が行なえような状態が続くなら、スマートホーム・デバイスは「おもしろい」存在に留まり、「必要」なものとしてとらえられることはないだろう。複数導入しても便利になったり、節約できるようになるわけではなく、ただ混乱がもたらされるだけといったことになってしまうのだから。

今後はさらなるスマートホーム・デバイスが市場に出てくることが予想される。そしてIoTを意識したアプローチの重要性が増すことになる。Parks Associatesの最新レポートによれば、ブロードバンドを導入している家庭の40%が、1年以内にスマートホーム・デバイスの導入をする予定なのだそうだ。しかしそうした消費者の頭の中でも、スマートホーム・ソリューションの相互連携を大事だとする考えが芽生えつつあるようだ。

前向きな技術開発はいくつも行われており、たとえばZigBeeZ-Waveなども、スマートデバイスないしセンサーをIoTで連携させる仕組みを構築しつつある。スマートデバイス分野においては、独自の仕様にこだわるのではなく、IoTで連携するための標準化の上にプロダクトを構築していくことで、消費者はさらに便利に、そしてスマートに利用できるようになる。家庭に設置した各デバイスがリアルタイムで情報のやり取りを行い、そこから考慮ないし対処すべきさまざまな情報が得られるようになる。デバイスの相互接続性が増すことで、スマートホーム・デバイスの普及がさらに進むことになるはずだ。

データの活用範囲は「ホーム」を超えて拡大する

本稿では「スマートホーム」という用語を何度も使ってきた。ちなみに「スマートホーム」と「コネクテッド・ホーム」(connected-home)の違いを意識しているだろうか。「スマートホーム」に重要なのは「データ」だ。有用でわかりやすいデータが消費者に届けられることにより、消費者自身も「スマート」になるのが「スマートホーム」の目的であるのだ。

デバイス間の相互接続性をそれほど意識していなかったものから、徐々に「スマートホーム」を目指して、デバイスが連携してトータルなサービスを提供を目指すデバイスが増えつつあるようにみえる。

たとえばAmazon Echoは、それほどの期待はなかったものの、徐々にその評価をあげつつある。ecobeeEmersonPhilips Hue、さらにはSamsung SmartThingsなどと連携して、さまざまな機能を提供するスマートホームを音声によりコントロールできるようになっている。それにとどまらずUberDominos Pizzaのサービスとも連携することで、「ホーム」を超えたデータ連動の可能性が示されつつあるのだ。

データは使うためにある

現在のところでは、スマートホーム・デバイスについてはIoTを使ってどのようなデータをやり取りすることができるのかということよりも、単体としての機能に注目が集まっている段階ではある。開発者たちやメーカーは、これを次の段階に進める必要がある。データを連動させることによって描かれる未来を消費者に提示していく必要があるのだ。

すでにセンサー技術の発展などにより、屋内外から膨大なデータが収集できるようになっている。しかしそうした情報を消費者に向けて、使いやすい形で提供することはまだできていないのが現実だ。

相互接続の機能もなく、データの互換性もないような状況が続けば、データを統合的に活用するなど夢のまた夢だ。さまざまなデータを活用したいと考える消費者も混乱するばかりになってしまう。さまざまなデバイスで得られるデータを統合して、利用しやすい形で提供することができれば、それは消費者をよりスマートにさせることにつながる。そして消費者は2度の温度調整が家計にもたらす影響を把握できるようになり、外の気候に応じて室内環境を整えることの大事さを具体的に知ることができるようになるのだ。

知ることがさらなる行動につながる。スマートホーム・デバイスに関わる人たちはそのことを念頭におくべきだ。消費者をよりスマートにすることで、データも、もちろんデバイスも広く活用されるようになっていくのだ。

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(翻訳:Maeda, H

ロボットは人間の仕事を奪うだけでなく生み出していくもの

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【編集部注】執筆者のMynul Khan氏は、専門家と企業をマッチするオンラインプラットフォームを運営するField NationのCEO。

ルンバが家の掃除をし、Siriが両親の家の近所で一番良いイタリアンのお店を教えてくれる、というのが目新しかった頃から、ロボットと人工知能の進化は止めどなく進んでいる。

車は自動で走行し、ロボットがピザを配達するなど、今まさに革命が起きようとしている。オックスフォード大学の2013年の研究によると、向こう20年でアメリカ国内に存在する仕事の半分が自動化される可能性がある。更に同研究は、数ある産業の中でも、交通・物流・事務関連の仕事が特に自動化されやすいと指摘した。その他にも、教師や旅行代理店、通訳等の職業につく人々が、ロボットに取って代わられるのも時間の問題であるという主張をする人さえいる。

このような労働機会の消失に関する予測がされる中、多くの未来学者や経済学者が仕事のない未来について考え始めている。彼らの主張は大きく2つのシナリオに別ける事ができる。1つはディストピア的なシナリオで、将来的に人間は職や収入を無くし、賃金格差の拡大や社会的混乱が起きるというもの。そしてもう1つは、各国政府が市民の収入を保障し、人々はより生産的でクリエイティブかつ起業家精神に溢れた活動を行えるようになるというユートピア的なシナリオだ。

この問題について、私はそろそろ別の角度から光を当てる必要があると考えている。つまり、労働現場にいるロボットは、むしろ仕事の幅を広げ、新たな種類の仕事を生み出す機会をもたらすという視点だ。ロボットは人間の仕事を奪うだけでなく、生み出すものなのだ。

テクノロジーの歴史

テクノロジーの進歩はこれまでにない速度で進んでいるが、大きなテクノロジーの変革を経たのはわれわれの世代が最初ではない。車輪の発明から、グーテンベルグの印刷機まで、歴史を通して人間は新たなものを生み出し、新たなテクノロジーに順応してきた。そして同様にこれまでも、新しいテクノロジーが労働者にどのような影響を与えるかということが危惧されてきた。

そしてどの例をとっても、テクノロジーは結果的に新たな産業や仕事を生み出してきた。1440年の印刷機の発明によって本の大量生産が可能になると、製本や、輸送、マーケティングや販売などの仕事が登場した。その後、印刷所が立ち並ぶようになると、印刷コストの低下し、新聞の創刊に繋がった。確かに印刷機の登場によって、写本筆記者という職業はなくなってしまったが、その代わりに新たな仕事が生まれていったのだ。

もっと最近の例で言うと、農業や繊維業を思い浮かべてほしい。1800年代には、アメリカ国内の仕事の80%が農場で行われるものであった。今ではその数字はたった2%にまで縮小している。しかし、ご存知の通り農業の機械化は経済を損なってなどおらず、むしろロボットによって農業がより簡単かつ環境に優しいものへと姿を変えたことから、更なる機械化が今日も続いている。

時を同じくして、繊維業も技術的に大きな変化を遂げた。産業革命によって力織機等の機械が生み出されたことで、織布に必要な労働力が減少したのだ。

ロボットによって生み出された職に就くために、全ての人がエンジニアになる必要はない。

職を失うことを恐れた織物工や自営の織り手によって組織されたラダイトは、イングランドで機械化に反対し、時には機械を破壊しながら反乱を扇動して、最終的には軍の力によって抑えつけなければならない程であった。今ではラダイトという呼び名は誰かを侮辱するときに使われており、彼らの心配が事実無根であったこと証明している。

私たちが将来への糸口を見つけ出すためには、過去を振り返るしかない。確かに今日人間が行っている仕事の多くは、将来的にロボットが行うようになり、労働力や人間の仕事の種類に影響を与えるだろう。しかし、歴史が証明する通り、それが必ずしも人間の仕事が無くなってしまうこととには直結しない。アメリカの労働者は、過去200年間に劇的な変化を切り抜けてきた、強靭で柔軟な存在なのだ。

未来の仕事

ロボットの弱点と、人間の長所に目を向けることで、未来にはどんな仕事が待っているかというのを想像することができる。

ロボットは未だ、交渉や説得といった複雑なタスクをこなす能力を持っておらず、問題解決能力に比べて、新たなアイディアを生み出す能力に劣る。つまり、部下を持つマネージャーや看護師、アーティストや起業家等、創造性や感情的知性、社会性が要求されるような仕事はすぐにはなくならないだろう。

そして私たちは、テクノロジーが上手く機能したときの高揚感と、上手く機能しないときの不満感について良く理解している。最先端のテクノロジー企業でさえ、人間が所属するカスタマーサポート部署を完全には閉鎖していない。何か問題が起きたときに、それを解決するのは多くの場合人間だからだ。

これからも機械を相手にしていく上で、現場の人間やその専門性は欠かせないものであり続けるだろう。ロボットは誤作動することもあれば、アップデートや新たなパーツが必要になることもある。機械化されたシステムや自動装置への私達の依存度が高まっていく中で、システムやハードの運用・交換・更新・保守を行う技術的なスキルを持った人に対する需要は高まって行くだろう。

そしてその傾向は既に現れて始めている。デジタルテクノロジーの導入以後、IT部署がどの会社でも誕生し、ネットワーク管理者やウェブディベロッパー、保守技術員といった肩書は30年前には存在さえしなかった。

テクノロジーは、単に社内の部署や仕事だけでなく、全く新しい企業やビジネスを生み出してきた。あるパーツが壊れていたら、誰かがロボットを修理しないといけないし、自動運転車にも整備士が必要なように、技術的なスキルへの需要は自動化が進むことで増加していく。

新しい仕事は、ナノテクノロジーやロボット工学のように科学(Science)やテクノロジー(Technology)、エンジニアリング(Engineering)や数学(Mathmatics)のSTEM分野を中心に生まれていくだろう。2011年のある研究によると、100万台の工業機器の導入によっておよそ300万もの新たな仕事が生み出されていた。更に調査対象となった6ヶ国のうち、5カ国でロボットの増加つれて失業率が下がっていったことがわかっている。

この研究から、新たな仕事がSTEM分野以外にも生み出される可能性があることがわかる。また、著者は今後ロボット導入の直接的な影響で、雇用者数が増えるとされる6つの業界について触れている。自動車、電子機器、再生エネルギー、高度システム、ロボット工学、食品と飲料がその6つだ。ロボットによって生み出された職に就くために、全ての人がエンジニアになる必要はない。

また、ロボットの導入によって仕事や職場を失う恐れから、現代のラダイトになる必要もない。むしろ、これまでのテクノロジーがそうであったように、ロボットは私達の生活を豊かにしてくれるものであり、更には新たな仕事が生み出してくれるものであると歓迎さえできる。

私は将来ロボットが雇用を増加させ、私たちが今では想像もつかないような刺激的な仕事を生み出してくれるのを楽しみにしている。

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(翻訳:Atsushi Yukutake

人工知能の暴走を抑える「人工天使」が必要だ

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編集部注: Jarno M. Koponen氏はデザイナーであり人文科学社でもある。またメディア関連のスタートアップであるRandomの共同ファウンダーでもある。新しい「人間中心」のデジタルエクスペリエンスを模索している。

インターネット上のさまざまなことがアルゴリズムにより処理されるようになった。しかしどうやら「人間のため」という視点が欠落しつつあるようにも見える。実現したところで何のメリットもないような「ソリューション」が提示されることすらあるように思うのだ。

アルゴリズムにより表現される自己の危うさ

デジタルデバイスは、ポケットに入るものになり、そして身に付けるものとなって、さらには身体と一体化するようにまで進化してきている。わたしたちがオンラインで触れるものも、アルゴリズムにより決定されている面もある。近いうちには家庭や車の中に存在する現実のモノすらも変えることになりそうだ。

アルゴリズムが進化して「パーソナライズ」ということが言われるようになり、私たち自身がアルゴリズムに組み込まれることとなった。加えて、そもそも「パーソナライズ」という言葉も矛盾しているように思える。「パーソナライズ」がアルゴリズムにより行われるおかげで、私たちは「自分で」(パーソナルに)パーソナライズすることができないのだ。また、アルゴリズム的に認識されている私たちの姿を変更することも、自由に行うことはできない。これは今現在だけの問題というわけでなく、そもそも「パーソナライズ」ということが、そうした方向で実現されつつあるのだ。

「パーソナライズ」を行うアルゴリズムに、「パーソナライズ」される側から関わることはできない。「パーソナライズ」の仕組みは完全にオープンなものではなく、わかりやすいものでもない。何がどのように影響するのかがよくわからない。どのような現象を把握して、判断指標としてどの程度の重み付けをされるのかがまったく見えないのだ。自分自身の行動も、またアルゴリズムにより把握されている自分自身さえも、自分では理解できない「データの塊」として存在するようになる。

「パーソナライズ」のアルゴリズム自体が、個人の判断に影響し、ひいては行動も影響を及ぼす。「パーソナライズ」のためのアルゴリズムが存在するのは、他のだれかが、ある人物の思考ないし行動様式を理解するためだ。今、必要なものも、あるいは将来必要になるものも、アルゴリズムにより判断されて(誰か他のひとの立場から)提示されることとなる。

「パーソナライズ」のアルゴリズムは、完全に「ニュートラル」の立場にあるわけではない。もちろんだからといって、「誰かによる支配」を直ちに招くというものでもない。しかし「パーソナライズ」のアルゴリズムは(たいていの場合)誰か他の人のものの見方から生まれたものだ。アルゴリズムを生んだ人のものにくらべ、「パーソナライズ」して利用する人のものの見方が軽んじられることはあり得る。ここから自らの考えを反映しない「パーソナライズ」が生まれたり、別の人の考えを押し付けてくるような現象に戸惑ったりすることもあるわけだ。

「パーソナライズ」はごく一面的な判断に基づいて、あるいは特定の一面を必要以上に強調して為されることがある。アルゴリズムにより生み出される「アルゴリズム的自己」(algorithmic self)は細かく分断されているのだ。たとえばAmazonとOkCupidにおける自分は別の興味をもつ人物となっているだろう。これによりアルゴリズム側の行う、どのような人なのかの判断も異なるものとなる。このように、場合場合に応じて特定の一面だけをとりあげて解釈することで、「パーソナライズ」を行う世界においては、人間はかなり「一般化」され、かつ「単純化」される。把握できた人間像と不一致であり、また現在の人間像の解釈にやく立たずなデータは捨て去られる。「必要」だと判断して集めたデータがあまりに薄っぺらいものであったような場合は、アルゴリズム側で「似た人」と判断する人物のデータを流用して補正したりする。すなわち「アルゴリズム的自己」は、統一的な深みなど持たず、特定の条件に定まった反応をする、いわば成長前のフランケンシュタインのようなものとなっているのだ。

しかも、そうして生まれた「アルゴリズム的自己」が、自らのコントロールを離れてうろつき回るような状況となりつつある。デジタル環境において私たちの代理人となるような存在は消え去りつつあるのだ。すなわちデジタル界には「私たち」はいなくなり、それであるにも関わらずその「アルゴリズム的自己」に基づいてさまざまな「パーソナライズ」したサービスや情報が提供されることとなってしまっている。このような状況は変える必要があるのではなかろうか。

「アルゴリズム的自己」は、器官を寄せ集めただけの「デジタル・フランケンシュタイン」のようなもの

人工「天使」を待望する

いろいろと言ってはきたが、果たして「パーソナライズ」のアルゴリズムが明らかになれば問題は解決するのだろうか。あるいはアルゴリズムがわかったところで、さほど役に立たない話なのだろうか。

きっと有効性は低いのだと思う。私たちのために働いてくれる人工存在を生み出す方が良さそうだ。新しい概念であり決まった用語もないので「人工天使」(algorithmic angels)とでもしておこう。困ったときには助けてくれるし、いつも私たちを守ってくれ、トラブルに巻き込まれたりしないように配慮してくれる存在だ。

もちろん不器用そうなクリッパーのことではないし、微妙なことになると「わかりません」を連発するSiriでもない。IBMのWatsonでもなく、もちろん悪意を持っているHALでもあり得ない。私たちのことを学習して、ともかく私たちを守ろうとする存在を想定しているのだ。デジタル世界の「アルゴリズム的自己」のいたらない点を補正してくれる存在であることが期待される。具体的な働きをイメージしてみよう。

「人工天使」は理由なく自由を制限するような動きに対抗してくれる。「パーソナライズ」にあたっての行き過ぎた個人情報提供を見張り、場合によっては情報提供を無効化する。不必要に情報を集めまくるサービスに対抗する術を与えてくれる。

別の選択肢を示し、物事の他の見方を示してくれる。私たちは偏見をもったり、あるいは一面的な常識に囚われてしまうことがある。それがために、アルゴリズムの提示する「事実」をそのまま受け入れてしまいがちになる。そのようなときに「人工天使」が登場し、妄執を戒めてくれる。新しい世界を開き、独善的な振る舞いを改める機会を得ることができる。情報を取り入れる新しいやり方が示され、新鮮で新しい気づきをもたらしてくれるのだ。

無用な調査の対象から外してくれる。「人工天使」のおかげで、実名と匿名を適切に使い分けることができるようになる。利用するサービスに応じて、適切な設定を行ったプロファイル情報を利用してくれる。もちろん、これは「人工天使」に任せっきりにするのではなく、自分でさまざまな設定を使い分けることもできる。

自分に関するデータの扱いを、主体的に決定できるようになる。人工天使のおかげで、自分に関するデータの流れを主体的に制御できるようになるわけだ。自身の詳細な情報に誰がアクセスできるのかを決めたりすることができるようになる。必要なときには、従来のやり方ではばらばらにされて存在していた「アルゴリズム的自己」をまとめて活用することもできるようになる。もちろんデータの安全性は担保され、データの取り扱いはあくまでも所有者の主体的意志にひょり決せられることとなる。自分のどのような情報をネット上に流し、どういった情報を削除するかを自分の意志で決められるようになるわけだ。

人工天使はデバイスや環境間の違いも吸収してケアしてくれる。自身の情報は、望んだように提供/制限されるようになり、必要としないマーケティング行動のためのデータとはならない。そのために、たとえばウェアラブルなどから収集する情報についても適切に扱ってくれる。

こうした機能をもつ「天使」の存在のおかげで、リアル/バーチャルの違いなく、統合的かつ主体的に提供する自己情報に基づいて生活できるようになるというわけだ。

もちろんときにはこの「人工天使」機能をオフにしたくなることもあるだろう。天使なき世界がどのようなものであるのか、いつでも見てみることができる。

「人工天使」が無敵の人工知能である必要はない。別の表現を使うのなら、人間ほど賢い必要はない。デジタル社会の進化にともなって広がるネットワークワールドでのふるまいについてスマートであれば、それで事足りるのだ。多くの人が創造する「人工知能」とは、求められるものが異なることになるだろう。私たちは人間の立場で考え、評価し、選択する。「人工天使」は「機械」風に考え、そこで得られる知見をすべて人間のために使ってくれれば良いのだ。

「アルゴリズム的自己」の出現シーンが拡大し、そうした「自己」が活躍する分野の重要性は増してくることだろう。そのようなときには、今までよりもさらに自己情報の管理を丁寧に行うことが求められる。自律的存在であり続けるために、アルゴリズムで動作する守護天使が求められる時代となりつつあるのだ。そうした存在なしには、とてもさまざまな「アルゴリズム的自己」を活躍させることなどできなくなる。

「人工知能」の行き過ぎが危惧されることも増えてきた。「人工天使」を生み出すことにより、意外に簡単にバランスがとれる話なのかもしれない。

(訳注:本稿は昨年4月にTechCrunchサイトに掲載されました。訳出を見送っていましたが、最近の状況との絡みで面白そうだと判断して訳出いたしました)

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(翻訳:Maeda, H

大学はスキルギャップを埋めることができるのか?

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編集部記:Jonathan MunkはDegreedの信任部門のジェネラル・マネージャーを務める。

2015年卒業の生徒は平均で3万5000ドルの学生ローンを持ち、この金額は歴史上最も多い。それでも企業の役員や採用マネージャーは、自社のスキルを要する空きポジションを埋めることができないと嘆いている。これがスキルギャップであり、10年以上に渡って議論されている問題だ。それなのになぜ大学側は問題を解決しないのだろうか?それは彼らにもできなからだ。

理由は次の通りだ。

このスキルギャップには2つの側面がある。学生が実際に習得したスキルと彼らが求める仕事で必要なスキルのギャップだ。もう一つは、人が持っていると認識しているスキルと実際のスキルのギャップだ。

実質的なスキルギャップ

習得したスキルと仕事で必要なスキルギャップは存在する。Career Builderの2014年の調査結果によると、採用マネージャーの81%はスキル不足が理由で、空いているポジションを埋めることが少なくとも「やや困難である」と回答している。さらに61%は採用要件を完全に満たしていない人でも採用したと答えた。いくつかの重要なスキルギャップはどのキャリアステージにもつきものだが、新卒が求めるエントリーレベルの仕事にも多くのスキルギャップが見られる。

教育に多額の投資をしているにも関わらず、学生にとって仕事探しは大きな課題のままだ。新卒のおよそ半数は大学で労働市場に進むための準備が整わなかったとし、83%は卒業する時にすぐに仕事に就けていない。また、他の調査結果では学生の62%は仕事探しは「ストレス」あるいは「とてもストレス」と回答している。女性や少数派の人にとってこれはさらに大きな壁だろう。

スキルの認識に関わるギャップ

このスキル問題についてあまり語られることがないのがスキルの「認識」の問題だ。大学卒業後、学生は適切なスキルを持っていると考えているが、雇用主はそれに同意しているわけではない。AACUの最近のアンケート調査からクリティカル・シンキング、口述、記述によるコミュニケーションスキル、クリエイティブであることなど主要分野のスキルにおいて、学生は雇用主より2倍、それらのスキルが備わっていると認識していると示した。別の調査では大半の従業員はスキルギャップを認識している(61%)が、その一方で驚異の95%の人たちは自分自身には当てはまらないと考えていることを示した。典型的なレイク・ウォビゴン効果だ。誰もが平均以上だと思っている。

スキル開発機関としての大学

これらの問題の責任を大学に問うのは簡単なことだ。学生は給料の良い仕事を得る可能性を広げるために歴史上最も高い金額の授業料を支払っているのだから。その結果、アメリカ全土の学生ローンの債務は1兆3000億ドルに上る(その金額は毎秒2700ドルのペースで膨らんでいる)。

居心地の良いと感じている老犬に新しい芸を覚えさせようとしている。変化は起きない。

大学は実際にはどれくらいスキル開発に注力しているのか?2016年における25のビジネススクールの掲げるミッションステートメントを見てみるとよい。そこには知識を得たり、共有したりすることや世界をよりよくするといった内容は載っているが、カーネギーメロン大学たった1校以外のミッションステートメントにスキルの単語すら出てこない(他に数校、別の文脈でスキルについて言及はしている)。アメリカの上位ビジネススクールが学生のスキル習得をミッションに掲げないのなら、教育機関が仕事に向けて学生を整えることに期待できないだろう。

アメリカのカレッジや大学は学生に豊かな経験と知識を提供することで、彼らが社会に貢献し、社会的地位の向上を目指して創設された。1930年代、何百万人に職のない時代、大学の役割は文化的な側面からキャリアで重要な性質を伸ばすことに軸が移った。時間が経過し、大学に行くことはキャリアの展望が良くなることと捉えられるようになった。その認識は今でも同じだ。2015年のアンケートによると、学生が大学に行く理由のトップ3は次の通りだった。

  • 就職のチャンスを高めるため
  • より良い収入を得るため
  • 良い仕事に就くため

しかし大学には変わるインセンティブがない。教授の報酬体系は学生のキャリア上の成功ではなく研究することにインセンティブが働くようになっている。何百年も続く教育機関の伝統は変化に抵抗するだろう。高等教育機関がスキルギャップを埋めることを期待するのは、居心地の良いと感じている老犬に新しい芸を覚えさせようとしているのと同じだ。変化は起きない。

それでも学位は重要

多くの人は、有名企業が採用要件に大学の学位を求めるというハードルを取り外したことを指摘するだろう。Deloitte、Google、Penguin Random House、Cisco、T-Mobileといった企業はすでに採用要件から学位を外した。

大学の学位がなくとも高給な仕事を得ることができるといった認識は広まっている。特にテクノロジー業界ではそうだが、実際の採用データは別の状況を示す。労働市場のデータ企業Burning Glass TechnologiesによるWSJの記事には、テクノロジーセクターの92%の仕事掲載では学士号を採用要件としていることを示した。

なぜだろうか?簡単に言えば、採用マネージャーは他に人のスキルや専門性を測ることのできる優れた方法を他に持っていないからだ。誰かが有名大学の関連分野で良いGPAを修め、推薦もあるのなら、本人の本当のスキルレベルや専門性が分からなくとも、基礎的な能力や知性が会社の求める水準に近いと言えるのだろうから。

[原文へ]

(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

「Uberだけではない」:カーネギーメロン大のコンピューターサイエンス学部長に聞いた、学界からの人材流出問題

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10年あまりもの間、Andrew Mooreはカーネギーメロン大(CMU)においてコンピューターサイエンス学部とロボティクス学部の教授であった。彼は2006年にGoogleに引き抜かれ、同社のターゲット広告と詐欺防止のチームを率いることになった。

CMUは2014年に、Mooreを学部長として再び招き入れた。だが彼は今でも、実業界から教授たちに引き抜きのオファーがかかった時、彼らがどのように感じるのかをよく理解している。彼いわく、学界と実業界の人材獲得競争は、年々その激しさを増しているという。

1年前、Uberが同大学のロボティクス学部に目をつけ、そこから科学者とリサーチャーを40人引き抜いたのは有名な話だ。今日、私たちはMooreにその件について話を聞いた。Mooreはどのようにして優秀な人材を同校につなぎとめているのか、そして、2000人の学生を抱える彼の学部は、今どの分野に注力しているのか。記事の長さの調節のため、インタビュー内容には編集が加えられていることを、あらかじめご了承いただきたい。

TC:何度も質問されているとは思いますが、同校の教授やリサーチャーがUberに引き抜かれたことによるダメージは、どれほど大きかったのでしょうか?

AM:そのような出来事はたびたび起こります。学界と実業界が日々革新的なものを生み出している分野では特にそうです。2015年の1月、Uberは同社のAdvanced Technologies Centerをピッツバーグに設立するにあたって、当校から4人の教授と35人あまりの技術スタッフを引き抜きました。この出来事は学界にとって、私たちの教授が実業界にしばらく吸収されてしまうという例の一つでしかありません。私もその一人です。たいてい毎年5人から15人ほどの人材が、1年から4年ほど学界から実業界に引き抜かれていきます。彼らの多くはその後に学界に戻ってきますが、そのうち数人は戻ってきません。

TC:この出来事は重大な時代の流れとして受け止められていましたが、そうではない?

AM:その世間の認識こそが、もっとも大きなダメージになってしまうのです。現実は、私たちが抱える40人の教授のなかから、4人が引き抜かれたということに過ぎません。この分野は急速に成長しているため、その一方では昨年に17人の教授を雇い入れています。その半分がロボティクスの分野に所属し、もう半分が機械学習の分野に所属しています。その世間の認識については遺憾に思います。私たちは新しい人材の不足に苦しんでいるのではなく、彼らにポストを与えることに苦労しているのです。

TC:カーネギーメロン大とUberの、現在の関係はどうでしょうか?交流はありますか?

AM:私たちはUberを応援しています。公的な交流はありませんが、私たちとUberは、同じ街に住む親しい隣人なのです。具体性に欠けた学術理論が商用の製品に進化することは、ピッツバーグの経済に多大な恩恵をもたらします。

このような引き抜き競争は、今まさに(人工知能と)ロボティクス分野において広く発生しています。この分野の教授たちに対する需要がとても大きいため、私たちは彼らに対して、学界に残って学生を育てることに注力するように促しています。この新しいフロンティアを育てるために、我が国には彼らの力が必要です。そして、米国でも指折りの(学術)機関に勤める者として、私の指名は最良の人材を育て上げることです。そのために私がその優秀な教授たちに徹底させているのは、スタートアップにとっても最新鋭すぎるような、急進的な新しいテクノロジーを学生たちに使わせるということです。

TC:実業界からオファーされる金額に対抗するために、どのようなインセンティブを彼らに与えていますか?

彼らに与えているのは単に、私たちが持つ理想だけです。自動化の技術と、AIアルゴリズムによる人間のアシスタントは、多大な数の人々を救い、人間をリスクから遠ざけるという事実です。私たちが抱えるエキスパートのなかには、ゲーム理論を応用した腎臓移植のドナーと患者とのマッチングによって、1年に何百人もの命を救っている者もいます。何十年後に世界が90億の人口を抱え、耕作に適した土地が減っていたとしても、それに耐えうるような効率的な農業を実現させようとしているグループもいます。

TC:しかし、実業界がオファーする金額は多額です。

実業界に引き抜かれた教授はその後、お金の心配をしなくても良くなります。ただその一方で、(学界に残った)教授は、子どもを大学に生かせるための資金繰りに苦労している。おかしなことですが、これが現実です。実業界に移るというのはとても魅力的なことなのです。そのため、私を含めた学長たちは、彼らが数年間スタートアップを設立したり、大企業に勤めたりすることを推奨し始めています。そして学界に戻ってきてもらうのです。

TC:教授たちがそこから得られる給料やエクイティを貯め込めるようにでしょうか。

AM:これには2つの理由があります。1つ目の理由は、彼らに対する需要がかなり大きいので、たとえ数年間だけでも、キャリアを賢く選ぶことによって彼らは経済的に豊かになれるということです。もう1つの理由は、企業に関わることで彼らが刺激され、その後大きなアイデアを持って(CMUに)戻ってきてくれることが多いということです。

人材流出という問題を軽視しているわけではありません。何千万ドルにも値する人材をつなぎとめておく方法を考えることで、私の抜け毛も進行してしまいます。ただ、教授たちが持つ世界クラスの能力によって、望むのであれば起業することもできるという事実に、私たちは誇りを感じています。

TC:Uber はあなたにも声をかけましたか?

AM:どの企業が誰を雇ったかについては、コメントしかねます。

TC:昨年、あなたが監督する7つの学部の内の1つであるthe Robotics Instituteが、コンピューター・ビジョンの新しい修士号プログラムを開始しました。その他の分野における注力分野はどこでしょうか。そしてそれはなぜでしょうか。

人工知能の世界において、12カ月前には注目されていなかったにも関わらず、それ以降に急激に注目されている分野が、感情認識技術の分野です。その分野の技術のほとんどが、当校のコンピュータ・ビジョン・プログラムと、ピッツバーグ大学(の心理学および精神医学部)から生まれています。その技術を知るために、実業界や政界からCMUを訪れる人々の数は計り知れません。

人間がミクロレベルで発する感情を認識し、その人がストレスを感じているのか、嬉しいのか、興味をもっているのか、または眠いのか、ということを知ることができれば、(それによって開発できる)アプリケーションの数は数多く存在します。その範囲は、より良い教育や医療の分野から、セキュリティ分野にいたるまで多岐に渡るでしょう。何千人もの人々が、音声と文字の分野に注力をしていますが、人間の感情認識は、それに加わる第3の主要分野なのです。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook

IoTに投資(あるいは起業)するのは今がチャンス?!

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編集部注:本稿はTim Chouによる。元Oracle On Demandのプレジデントであり、スタンフォードでコンピューターサイエンスのレクチャーを行い、またIoT Track of the Alchemist Acceleratorの議長も務める。

2004年に、私は最初の著書となる『The End of Software』を上梓した。当時はOracle On Demandのプレジデントであった。当時生まれたこのビジネスは数年をかけて10億ドルを稼ぎだすクラウドビジネスに発展した。そのような時代にあった私は『The End of Software』の中で、ソフトウェアは「サービス」として提供されるべきである経済面から期待される必然的な動きについて論じたのだった。

例として私は、サービスとしてのソフトウェアを提供する4社を検討した。VMwareSalesforceNetSuite、そしてOpenHarborだ。この時代にあって、Salesforceは未だ売り上げが8600万ドルという状況だった。ただ、この4つをとりあげた私も、時代を正しく予見していたというわけではない。4つのうち3つは押しも押されぬ大企業となり、エンタープライズソフトウェアの新世代を担うこととなったのだった。

そしてそこからさらに12年が過ぎ、第二世代エンタープライズソフトウェアは最盛期を迎えた。CRMやERPは当然のものとなり、ソフトウェアを購入すればほとんどがクラウドサービスとして提供されるようになっている。第二世代で、エンタープライズソフトウェアはその「完成形」となったのだろうか。

そういうわけでもないと思う。第二世代ソフトウェアの登場により、コストは下がり効率はあがった企業も多い。しかし私たちの住む世界の様子を変えるにはいたっていないと思うのだ。エネルギー、水、農業、交通、建築業界や健康問題について、当時生まれた第二世代エンタープライズソフトウェアは大した成果を示さなかった。ようやくそれが変わりつつあるように思うのだ。

工業機械やその他さまざまなモノたちは、センサーを搭載されてそれぞれが繋がるようになってきている。前CiscoのCEOであるJohn Chambersは2025年までに5000億のデバイスがインターネットに繋がるようになると語っている。風力タービンについてみれば、10万台がすでに400個のセンサーを搭載して5秒毎にデータを取得するようになっている。この数は今後ますます増えていくことは間違いない。

人のためのモノではなく、モノのためのモノを作るつもりなら、すぐに取り掛かった方がいい。

これまでも、デバイスを繋いでデータを収集したり、それを分析したり何らかの知見を得たりするミドルウェアやアプリケーションは存在した。しかしこれまでは、そうしたすべてを活用するのが「人間である」という前提になっていたのだ。人のインターネット(Internet of People)の時代だったのだ。しかしようやくモノに注目が集まってきた。モノは人のいないところにも存在する。モノの方にこそよりたくさんの「伝えたいこと」があるはずで、しかも人間よりもはるかに雄弁に語ることができる。Joy Globalの振動センサーを搭載した採掘マシンは、1秒間に1万回もデータを取得するのだ。エンタープライズアプリケーションやミドルウェア、分析ツール、などがモノを繋ぐことにより、より正確な採掘ツールを構築することができるのだ。きっと交通、健康管理、建築、発電、水や農業を巡る問題についても新たなソリューションを産んでいってくれることだろう。

すでにこの分野で走り出している企業もある。GE Softwareは2011年に10億ドルの資金を集めて設立さた。CEOのJeff Immeltは、産業用の機械がより一般的なものになっていく中、GEはソフトウェアおよびアナリティクス企業として成長していくと語っていた。Immeltは2020年までにソフトウェア関連ビジネスで150億ドルを稼ぎだすと言っていた。GEはそのためにGE DigitalのCEOであるBill Ruhを中心的な担い手としてPredix という新しいソフトウェアプラットフォームを構築した。

またPTCに関していえば、4億ドル以上を投じてM&Aのみちを突き進んでいる。ThingWorxを1億1200万ドルを投じ、ColdLightを1億500万ドルで買収した。Axedaは1億7000万ドルで買収している。ベンチャーについてみれば、おそらくご存じないかもしれないが、シカゴに拠点をおくIoT系スタートアップのUptakeがSlackやUberを上回ってForbesにおける2015年のHottest Startupに選出されている。4500万ドルを集め、資金調達が後の評価額も10億ドルとなっている。

IoTに投資すべきタイミングというのは、それぞれがはかるものなのだろう。しかしアーリーステージの、あるいはレイトステージでも良いかもしれないが、いずれにしても投資家であるのなら、エンタープライズソフトウェアの第二世代に革命をもたらすこの分野に注目しておいて良いはずだ。また、自身がスタートアップを運営する起業家であり、かつモノのためのプロダクトを生み出そうとしているのなら、ただちにスタートするのが良いだろう。12年もすれば、誕生したスタートアップはVMwareやNetSuite、あるいはSalesforceのような成長を遂げる可能性があるだろう。

原文へ]

(翻訳:Maeda, H

自動運転トラックがやってくる。そして、数百万の職を自動化する。

2016-04-08-dispatch

編集部注:本稿を執筆したRyan PetersenはFlexportのCEOである。

先日、自動運転トラックの輸送団がヨーロッパを横断し、ロッテルダムの港にたどり着いた。自動運転トラックほど自動化によって職を減らすもの、または経済を効率化させるものはない。

トラック1台分の積み荷をロサンゼルスからニューヨークまで輸送するのは、現在4500ドルのコストがかかる。その75%が人件費だ。だが、自動運転トラックを導入することによる恩恵は、人件費の削減だけではない。

人間のドライバーは、8時間の休憩を取ることなしに1日あたり11時間以上運転してはならないと法律で定められている一方で、自動運転トラックは1日24時間近く稼働することができる。これは、米国の輸送ネットワークにこのテクノロジーを導入すれば、現状の25%のコストで2倍のアウトプットを生み出せることを意味する。

そして、燃料効率の向上も考慮に入れれば、自動化によるコストの節約は大きくなる。燃料効率の観点から言えば、もっとも効率的なのは時速約45マイル(およそ時速72km)で走行することだ。だが、走行距離に応じて報酬を受け取るドライバーたちは、それよりも速いスピードで運転している。自動走行トラック隊に、「プラトーン走行」の技術を取り入れれば、燃料効率はさらに良くなる。これは、Peloton Technologyのシステムに代表される、複数車両が短い車間距離を保ってあたかも列車のように連なって走行する技術の事だ。

私たちが購入するあらゆる製品のコストにおいて、トラックによる輸送コストはその相当な割合を占める。そのため、各地の消費者はこの変革によって、より低いコストでより高い生活水準を得ることができる。

自動運転トラックによる効率化という恩恵は、無視するにはあまりにも現実味を帯びたものである。だが、このテクノロジーには恐ろしい副作用もある。

これらに加えて、いったんこのテクノロジーが商業用に利用されるまでに成熟すれば、それがもたらす安全面での恩恵にも相当に期待することができる。今年1年間だけでも、過去45年間の国内線の航空事故による死亡者よりも、多くの数の人々が交通事故で命を落とすだろう。それと同時に、米国において勤務中に命を落としたトラック運転手の死亡者数である、835人という数字は、その他のどの職業における死亡者数より多い。

直接的な安全面でのリスクはさておくとしても、トラックの運転手という仕事はとても体力のいる仕事で、若者が就きたがらない仕事だ。トラック運転手の平均年齢は55歳であり(そしてこれは毎年上昇している)、将来想定されるトラック運転手不足は、今後数年のうちに自動運転トラックを導入するインセンティブとなっている。

自動運転トラックによる効率化という恩恵は、無視するにはあまりにも現実味を帯びたものである。だが、このテクノロジーには恐ろしい副作用もある。現在、米国には160万人ものトラック運転手が存在しており、29の州ではそれは最も一般的な職業なのだ。

米国の労働人口の1%が職を失うことは、同国の経済にとって破壊的な打撃となる。しかも、その副作用はそこで終わらない。ガソリンスタンド、幹線道路沿いのレストラン、運転手の休憩施設、モーテルなどのビジネスは、トラック運転手なしで生き残るのは難しいだろう。

ヨーロッパにおけるデモンストレーションは、自動運転トラックの実用化が目前に迫っていることを示した。残るおもな障壁は法的規制だ。高速道路で自動運転に切り替えるにしても、いまだ人間の運転よって乗り入れることができる高速道路の出入り口が必要だ。ゆっくりと走行する自動運転トラックは人間の運転手にとっては障害物になり得るので、それ専用のレーンが必要かもしれない。これらの大きなプロジェクトには政府の協力が必要不可欠である。しかし、数多くの職を消し去る可能性のある自動運転技術のための法整備に、行政機関が及び腰になるのも無理はない。

それでもなお、自動運転トラックを導入することによる恩恵は、このテクノロジーを単に禁止するには大きすぎる。陸上輸送の対費用効果が400%向上することは、人類の幸福が途方もなく向上することを意味する。大多数のアメリカ人が農地に足を着けて働いていた20世紀初頭に、トラクターや刈り取り機が生まれた。その時、もしも私たちがその機械式の農業を禁止していたら、世界はどうなっていただろうか?

私たちは人工知能やロボットによって人間の仕事が奪われることを、遠い将来に私たちがやがて直面する抽象的な問題としてよく取り上げる。だが、ごく最近に自動運転トラックのデモンストレーションが成功したことは、この新しい現実に私たちがどのように適応すべきなのかという議論を、もはや先延ばしには出来ないことを示しているのだ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook

 

「信頼」経済のこれから

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編集部注:本稿はW magazineのPRディレクターであり、メディア、カルチャー、テクノロジー分野での寄稿も多いAdriana Stanによるもの。

まったく知らない人の車に乗せてもらったり、会ったこともない人のベッドで眠ったり、あるいは地球の裏側にいる人にお金を貸したりするような行為が普通になりつつある。そんな時代の中で、これまでとは違った評価基準が生まれつつあるようだ。その基準とは「信頼」に根ざすものだ。

形成されつつあるシェアリング(共有)経済の中で、真に注目すべきはそれを可能としている技術ではないように思うのだ。技術の進化云々よりも、もっと大きな変化を社会にもたらしたように思う。コミュニティに新しい意味をもたせ、コラボレーションが増加し、人々の考え方も変化した。そしてあらゆる場面で「信頼」というものの価値が高まることとなったのだ。

「信頼」の重要性に気づかず、自らの信頼を高める努力をしていない人は時代に取り残されることともなろう。「信頼」は、全世界的にもっとも信用できる通貨として流通するようになりつつあるのだ。

「信頼」の評価技法として機能するシェアリング経済

「信頼」には少し前まで、ある意味で金次第の面もあった。たとえば銀行は「信頼」を得るために大理石でできた柱や豪華な装飾品を配した建物をたて、伝統などをアピールすることで信頼性の高さを訴えていた。「オフィスにこれだけ金をかけられる私たちを信頼してください」というニュアンスがあったわけだ。

言ってみれば、信頼はある種の浪費によってアピールするものであったとも言えるかもしれない。

銀行の大理石同様に、テレビコマーシャルを打つことで高品質をアピールすることができた。

外見を整えれば受け入れられるというのは、たとえば学歴などについても同様だった。高い学費を払ってアイビーリーグを卒業すれば、学業における成果を示すだけでなく社会的ポジションについてもある程度のことを示すと判断されていた。「浪費」し得る経済状況にあるとみなされ、そうした人たちで「エリート」集団を形成した。求職の際にも学歴が優位に働くこととなった。

ホスピタリティ業界においても「信頼」を求める金銭的投資が行われた。ホテルは広い範囲で一定の設備レベルや快適さを提供し、安全性にも十分配慮して信頼を築いてきた。広く安定したサービスを提供することで、伝統を築き信頼を得てきたのだ。

そうした一切のことが変化しつつあるように思う。宿泊にせよ自動車移動にせよ、まったく知らない人に身を任せるようなことをするようになった。知らない人に対する直感的な恐怖心というものは、急速に消えつつあるようなのだ。

これは、世の中で「人」を評価する基準が育ってきたからなのだろう。さまざまなシーンで、人の名前の後ろに、5つ星による評価が付けられているのを見るようになってきた。これにより、まったく知らない人をも「評価」できるようになったわけだ。そうした「評価」の仕組みの普及とともに私たちの生活も変化してきている。すなわちUberXを利用できるようになったし、Airbnbを使って見ず知らずの人の家に泊まれるようになった。あるいはハンドメイドのものをEtsyを通じて売り買いできるようにもなったし、個人間でお金の貸し借りをするようなプラットフォームも出てきた。仕事を頼むにはUpworkのようなプラットフォームがあるし、ハウスクリーニングなどならTaskRabbitで依頼するようにもなってきた。車を借りるのも大手のレンタカーサービスではなく、Turoを使ったりするようになった。

さらには、誰かが下した評価(インフルエンス)を信じて良いのかどうかについても、判定技法が成立してきている。LinkedInで繋がっている人からのプラス評価があれば、それが仕事に直結することもある。あるいはInstagramで人気を集めてメジャーどころにフォローされているような場合、Rayaの会員となってデート相手をゲットできる(かもしれない)ようになっている。ちなみにRayaはInstagramでの人気に基づいて、クリエイティビティを判定してメンバーに迎えるかどうかを判断して、クリエイティブな人同士を結びつけるのに役だとうとしているサービスだ。

人の「評判」というものも、いまや「システム」により判定されることになっているわけだ。従来は人がする評価やおすすめなどをどのように評価して良いのかわからなかった。しかし人同士の関係が「デジタル化」され、ソーシャルネットワークで繋がることが一般的となり、何事かを評価している人が周囲にどのように受け入れられているのかが直ちにわかるようになった。発話者の評価基準が明確化されつつあり、かつ簡単にわかるようになってきているのだ。

新しい「信頼」時代における「ブランド」

PRや広告はこれまで、すすめたい対象物の高品質をアピールすることにより成り立ってきた。信頼感を勝ち取り、それにより消費者からの支持を得るという方法がとられていた。

シェアリング(共有)経済の中で、真に注目すべきはそれを可能としている技術ではない。

消費者としての私たちは、高品質であるというアピールを通じて、ホテルやブランドを認知してきた。すなわち、そうしたアピールなしには商材を広く認知させる方法はなかったのだ。

実際のところ、デジタルエイジを迎える前は、ある意味「金の力」でブランドイメージを形成していた。銀行の高級建築と同様に、テレビコマーシャルも消費者に高級感を訴えるのに最適だった。テレビCMは費用もかかり、また限られた放送時間を買い取ってまで映像を流すからには品質も優れたものであると受け取られていたのだ。

現在では多様化が進み、あらゆる人が注目するメディアというものも存在しなくなってきている。これによって企業側の戦略も難しくなっている意味もある。ニュースを読むのも友人のお気に入りやシェアにより、また泊まるホテルもInstagram上で人気になっているホテルから選ぶようになってきた。このような時代に、ブランド自らが行うキャンペーンは従来型から変化せざるを得ない。

「ブランディング」の意味合いが急速に変化しつつある時代であるとも言えるだろう。

たとえば「ブランディング」に地域的制約がまったくなくなりつつある。金本位の時代から遠く離れて、いまや貨幣すら国境をまたぐバーチャルなビットコインに変貌しつつある。またWixでは誰でも29ドルにてEコマースサイトを立ち上げることができる。ソーシャルネットワーク上でうまく商材をアピールすることにより、地域にとらわれることなくものを売ることができるようになっている。

ウェブの普及により、「信頼」はユーザーインタフェースやサイトの使いやすさ、および適切なイメージ写真などにより醸成されるものとなった。そこから発展し、消費者からのレビューやレーティング、およびインフルエンサーによる評価が「信頼」に欠かせなくなっている。

「信頼度」ポイントの絶対的評価基準は生まれるか?

なにかものを消費するときばかりでなく、人と付き合う場合にも「信頼」という評価が用いられるようになってきている。人が商品をレビューして評価するだけでなく、人みずからが「信頼」の尺度で評価されるようになってきているのだ。

自身のもつ影響力やソーシャルネットワークや仕事上での繋がり方などを統合して「信頼度」の基準で測られるようになっている。その「信頼度」に応じて、たとえば飛行機に乗る際のアップグレードを提示されたり、優良顧客として迎え入れられたり、特別なサービスを提供されたりすることになる。

すなわち「信頼度」ポイントこそが唯一の評価手法として存在することになる。このポイントに基づいて人間関係が構築されていくことになるのだ。この「信頼度」スコアを適切に表現し得るポイントシステムの構築には、大きなビジネスチャンスもあるに違いない。

ビジネスにとっても、顧客からの信頼を勝ち得るために何をしているのかということこそが焦点となる。どのように宣伝するのかではなく、消費者の評価こそが商品の価値を決めるものとなる。マーケティングというものも、現在のスタイルからは大きく異なるものとなっていくはずだ。

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(翻訳:Maeda, H