AIの学習手法は人間の教育にも応用可能

Medical Research with Molecule as a Concept

気づけば身の回りには人工知能だらけといった状況だ。車にも家にも、もちろんポケットの中にも人工知能がある。IBMはWatson(ワトソン)に「理屈」を教え、さらに自らも「理屈」を学び得るように育てている。情報を知識に変え、たとえば医療分野で情報に基づいたさまざまな判断を下せるようにしているのだ。

トップ企業がプロダクトにAIを埋め込み(Siri、Alexa、Googleアシスタントなど)、スマートフォンをより便利にし、さらに急速に広がりつつあるホームアシスタント市場で存在をアピールしている。

そうした人工知能ツールは、次第により適切な解答を出すことができるようになりつつある。ひいては、利用者がよりスマートに振る舞えるようになってきているのだ。ところで、常に大量の情報やインテリジェンスが自分の手元に存在する時代を迎えて、教育は変わらなくて良いのだろうか。事実や数字を覚えこませるのではなく、そうした情報を発見する方法を教えるようにすべきなのではないか。現在AIに対して行うようになっているように、「どのように学ぶのか」を教えていく必要があると思うのだ。

残念ながら、今のところの教育スタイルは時代に追いついていないと言わざるを得ない。何百年も続いてきた旧来の方法に拘泥し、学校や教師は知識を与えるものだとされている。しかし、生徒自らが、たとえばAlexaを通じて必要な情報を何でも入手できる時代に、学校や教師の役割が旧態依然としたもので良いのだろうか。時代の流れを把握して、ただ情報を与えるだけの教育システムを変えて移行とするフィンランドのような国もある。生徒たちはグループで課題に取り組み、そして問題解決の方法を学んでいくのだ。教師の役割は、生徒自らが学んでいくのを手助けすることになる。そうして思考の柔軟性を身につけ、さらに学び続ける能力を身に着けていくこととなるのだ。世界経済フォーラム(The World Economic Forum)は、小学校に入学する生徒の65%は現在存在しない職につくことになるとしている。そうした時代への対応力を磨く教育が必要となっているのだ。

コンピューターのちからを利用して、人間の知性がクラウド化するような時代を迎えつつある。意識しているか否かに関係なく、私たちは「バイオニック」な存在になりつつあるのだ。私たちの感覚や身体的機能は、コンピューターやスマートフォンと連携して強化されることとなっている(記憶やデータ処理の一部を代行して、脳の負担を軽減してもいる)。AIは確かに人類をスマート化しつつある。人間のちからだけでは不可能だった情報処理能力を与えてくれているのだ。

AIトレーナーの目標は、コンピューターが自身で学び始めるシンギュラリティに到達すること。

ほんの少し前まで、何か情報が必要であれば図書館に出かけて司書や書籍のインデックスを頼って探すしかなかった。参考になりそうな本を見つけ、その本に探している情報が記されていることを願いながらページを繰っていたのだ。膨大な時間をかけて、マイクロフィルムで記事や写真を探したりもした。現在ではパーソナルアシスタントに尋ねれば、あっという間に情報が手元にやってくるようになった。

ただし、パーソナルアシスタントでは対応できない問題というものもある。そうした場合には自らが検索エンジンを利用して情報を探すこととなる。ここで、アクティブ・ラーニング(self-learning)が重要となってくる。検索エンジンを活用する場合、まず正しい語句を使って検索するテクニックが必要となる。そして役に立ちそうな情報を取捨選択して、情報の正しさをきちんと判断しなければならないのだ。「インターネットで見つけたから正しい」などということはなく、情報の正しさや有用性を判断するのは、検索者の側にまかされているのだ。

コンピューターの能力は高度化して、そして価格は安くなっている。また大量のデータも入手できるようになった。そうした中でAIの分野が大いに賑わってきているのだ。ディープラーニングの成功を導くのに必要な、ニューラルネットワークの構築が効率的に行えるようになってきているのだ。CB Insightsの情報によれば、ベンチャーキャピタルが投資する企業の2%が、AIアルゴリズムの強化に携わっているのだそうだ。「いかに学ぶかを学習する」という点に、多くのベンチャーが注力しているのだ。その方法を学んでこそ、アクセス可能な膨大な情報の中から正しく学ぶことが可能となるのだ。

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しかしGlobal Future CouncilでAIおよびロボット部門の共同議長を務めるMary Cummingsによると、「人工知能は期待に沿う能力を発揮できていない」としている。自ら学ぶ能力は未だ発展途上で、現在のところは人間が手を貸して、仕事効率を挙げる程度の使い方に留まっているというのだ。確かに、それが現在の状況だろう。ニューラルネットワークのちからを存分に活用するGoogleの検索エンジンも、人がそれを活用してこそ仕事に役立つようになっている。

ホモサピエンスが最初に道具を創りだして以来、私たちは生活のために新しい道具の使い方を学習し続けてきた。ときに、作業は完全にテクノロジーにより行われるようになったものもある。人類はそうした状況にも適応し、自分たちの能力を発揮する方向を見つけてきているのだ。ただ、現代になって変化のスピードは急速に上がっている。

AIはシンギュラリティを目指している。人工知能自らが情報を取捨選択して学習を続けていくような世界の実現を目指しているのだ。世界に「スーパーインテリジェンス」を登場させようと狙っているわけだ。そうした時代はまだ少々先のことのようだが、AIに対する教育方法は人類に対しても使えるのではないかと思う。AIに実現させようとしているように、人類の教育でも「自ら学ぶ」ことを強化していく必要がある。そうしたトレーニングを経て、人類は新たなテクノロジーを制御して、それを最大限に活用できるようになっていくのだ。世界経済フォーラムのレポートにもあるように、「創造性をさらに磨き、これから訪れる変化に備える必要がある」のだ。21世紀、AI時代の人材を育てるために、ふさわしい教育システムというものがあるはずだ。

原文へ

(翻訳:Maeda, H

スマートウォッチの時代は終わったのか?

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迫りゆくPebbleの滅亡と、「今のところ、新しいスマートウォッチを市場に送り出すに見合うだけの需要があるとは思わない」というMotorolaによる発表を理由にして、スマートウォッチ市場が収縮しているという意見を正当化することもできるだろう。この意見は正しい。だが、これはウェアラブル端末の終焉ではない。

Appleは今年、110万台のApple Watchを販売した。昨年に比べて73%少ない販売台数だ。2017年の販売台数はまだ確定していないものの、今年と同じくらいの数字となるだろう ― ホリデーシーズンの恩恵を受けて年始の販売台数が増加し、次のモデルのリリースまで徐々に減少していくというパターンだ。これはAndroid Wearデバイスでも同じことだ ― 人々は早い段階で興奮しはじめ、年末にかけてその興奮が収まってくる。

この状況を引き起こしているファクターはいくつかあるが、年間で何百万台ものスマートウォッチを販売しようとしている企業にとっては良いニュースとは言えないものばかりだ。まず第一に、スマートウォッチは内部に矛盾を含んでいる。携帯電話とは違い、時計は電子デバイスというよりはファッション・アクセサリーという要素が強い。人々からの目に付きやすく、通常は店頭できれいに飾られている。「スマート」という要素が染みこんではいるものの、端的に言えば、スマートウォッチは宝飾品の一部なのだ。そのため、スマートウォッチや他のウェアラブル端末を購入する際の理由付けと、スマートフォンやノートパソコンを購入する際の理由付けはまったく異なる。消費者がApple WatchやSamsung Gearの購入を検討するとき、彼らはそのデバイスが他のデバイスよりも優れているかということではなく、そのデバイスが自分の服装とマッチするかどうか考えるのだ。

2つ目の問題はより厄介な問題だ。携帯電話の場合とは違い、消費者は時計を頻繁に買い換えることはない。時計はあたかも家宝であるかのように扱われる。すでに時計を所持する人にスマートウォッチを購入してもらうには、従来の時計製品よりも格段に安い価格(不可能と思われるような値段)で販売するか、寿命が格段に長いプロダクトを開発するしかない。消費者の年代によって状況が異なるのはもちろんだが、これが今後数年間に渡ってスマートウォッチの販売台数を抑える要因であることは確かだ。

それゆえに、消費者はスマートウォッチを必要とせず、それを欲しいとも思っていないことが多い。そして、すでにスマートウォッチを持っていれば、それを新しいものに買い換える理由はどこにもない。Pebbleは特定のマーケットへの集中戦略で他のスマートウォッチとの差別化を図り、非常に少ない数のモデルしか製造しなかった。しかし結局、彼らはそのマーケットが小さすぎたことに気がついた。Appleはスマートウォッチを贅沢品にしようと試みて、周りから大いにばかにされた。Androidは彼らの技術を様々な企業に提供したが、その結果、それぞれが似通ったクローンのようなデバイスが大量に生まれることになる。明らかに勝利者と呼べるような企業はまだ現れていないし、そのような企業が今後10年間で誕生するとは思いがたい。

では、今後のスマートウォッチはどうなるか?

多くの人に支持されているのは、長らくファッション・ウォッチを製造してきたSwatch、Burberry、Casio、Seikoなどの企業が、彼らの豊富な経験を駆使し、消費者が本当に買いたいと思うようなスマートウォッチをつくり始めるというシナリオだ。だが、それなのに彼らがまだスマートウォッチの製造を始めていないのは、彼らの能力が絶対的に不足しているということを証明している。低価格帯の時計を製造して大きなマージンを得ることに長らくフォーカスしてきた彼らは、高価格帯の時計を薄いマージンで販売することはできないのだ。Skagenのような企業は正しい戦略を採用しているように思う。彼らは、機能は最小限ではあるがモバイルと接続可能なスマートウォッチを開発している。Fitbitなどの健康分野に特化したウェアラブル端末への対抗策だ。しかし、これも長くは続かない。今後、GoogleやAppleなどの企業がユーザーがウェアラブル端末を欲しがる本当の理由を理解し、ウェアラブルの新しい用途が生まれれば、時計メーカーは彼らの後を追うことはできるかもしれないが、それもどうかは分からない。

私は個人的に、ウェアラブル端末は消えてなくなると考えている。ユーザーとデバイスの交流の仕方が音声認識やモーション・コントロールへと移り変わるにつれて、現実世界で私たちに常に耳をかたむけ、私たちに常に付き添うようなデバイスが誕生するだろう。私たちの健康状態を把握し、重要な情報を欠かさず教えてくれるようなデバイスだ。耳の中に入れてつかうAlexaのようなデバイスがあり、そのデバイスが1日を通してアドバイスしてくれるような世界を私は想像している ― 「その先の道を左に曲がってください」、「注文したコーヒーが出来上がりました」、「あなたが今話している相手は”Joe”という名前の人物で、彼とは先週会っています」 ― 常にそばに付き添う会話型のアシスタントのようなものだ。なぜ時計ではダメなのか?時計をつける手首は私たちの感覚器官から遠い場所にあるため、この利用用途には適さないのだ。

だからといって、私は自分が持っているSeikoやOmegaやRolexを手放しはしないし、あなたにもそれを勧めてはいない。私が言いたいのは、私たちはスマートウォッチを買わなくなるということだ。

スマートウォッチは時代と時代の中間に生まれたものだ。その一方で、伝統的な時計製品はツールとして、そしてちょっとした自己顕示の道具として、これからも私たちの生活に生き続ける。Apple Watchを含むスマートウォッチが10年後に生き残っているとは思えない。小さいデバイスがより小さく、よりスマートになる今の時代では、それは特に難しいだろう。

伝統的な時計製品の世が長らく続きますように。スマートウォッチよ、さようなら。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

SnapchatによってL.A.がテクノロジーの中心地へと進化する

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編集部注: 本稿を執筆したJustin ChoiはNativoのCEOである。

もしあなたがシリコンバレーの歴史を書き表すとすれば、まずはそこにあるコミュニティの数々を観察することから始めることだろう。Google、Yahoo、Oracle、PayPalなどの企業は、何年ものあいだ優秀な人材をこの場所に惹きつけてきた。そういった企業が成熟期に達したり、買収やIPOなどを行う時期に達すると、彼らが抱える優秀な人材は分散し、次の世代を担う企業で芽を出しはじめる。

実った果実は、母となる木から遠く離れて落ちることはない。新しい企業は、自分たちの先輩企業の近くで会社を立ち上げ、成長させようとする傾向がある。そのおかげでベイエリアのコミュニティを維持する良い循環が生まれ、この地域は今でも起業家やテクノロジーの最初の目的地として機能しているのだ。

そして今、Snapchat(正確には、親会社のSnap)がIPOを行うと報じられ、2017年3月頃には約250億ドルかそれ以上の企業価値を持つ公開企業が新たに生まれる可能性がでてきた。「Snapchatマフィア」たちが2020年台にシリコンバレーのようなコミュニティをLAで創り上げていく可能性は大いにある。どんな企業でも南カルフォルニアと北カルフォルニアが分断された状況を一手に作り変えることはできないものの、SnapchatのIPOが実現する時期は、LAを将来のスタートアップコミュニティの中心地に変えるような、他の大きなトレンドと並行して起きるのだ。

SnapchatマフィアたちはFacebookやPayPalの後を追うのか?

シリコンバレーの起源はいつかと人々に尋ねると、「8人の反逆者たち」がShockley Semiconductor Laboratoryを離れ、Fairchild Semiconductorを創業した1957年だと答える者がほとんどだ。同企業の出身者はその後、IntelやAMDなど数々の企業を立ち上げている。

近年の最も有名なマフィアといえば、もちろん、PayPalマフィアたちだろう。Elon Musk、Peter Thiel、Max Levchin、Jeremy Stoppelman、Reid Hoffman、David Sacks、Dave McClure、Chad Hurleyなどがその例だ。このマフィアが立ち上げた企業は、Tesla、SpaceX、SolarCity、Yelp、LinkedIn、YouTube、Palantir、Yammer、Clarium Capital、The Founders Fund、500 Startupsなど、数えればキリがない。PayPalの出身者たちが創出した価値の大きさは計り知れず、このようなマフィア集団がもう一度誕生することは想像しがたい。

だが、規模は小さいながら同じようなマフィア集団は他にもある:Facebookの出身者たちはPath、Quora、Asanaや数々のVCを立ち上げた。Yahoo出身者が創り上げたのは、WhatsApp、Chegg、Slack、SurveyMonkey、Clouderaなどの企業だ。Instagram、Foursquare、Pinterest、Twitterの創業者たちはGoogleの出身者である。

今、そのような真のテック・スーパースターたちはLAにいる。優秀な人材を惹きつける力を持つ企業がその街にあるのだ。1億5000万人のデイリーアクティブユーザー数と巨額のバリュエーションを誇る、Snapchatだ(参考のために言えば、Facebookが100億ドルの企業価値に達したのは、ほんの7年前だ)。

もしあなたが野心と才能に溢れた若者であれば、どこに行こうとするだろうか。すでに急激な成長とイノベーションのステージを終えたFacebookだろうか。それとも、あなたの仕事が企業の成長に直結する、Snapchatだろうか?すでに何人かは心を決め、古巣を離れている。Facebookの元プロダクト部門長であるSriram Krishnanがその1人だ。彼に続く者はこれからもっと現れるだろう。

コンテンツ:王の帰還

もちろん、Snapchatがもつ人材がLAに留まっているのは、そこにあるコミュニティが不活発であるからではない。

「コンテンツは王様だ」という言葉は、Hollywoodの重鎮たちが長く語り継ぐマントラだ。しかし過去20年間、コンテンツ製作者は王様と呼ばれるには程遠い存在だった。コンテンツの販売や流通という分野は、テクノロジーを駆使するプレイヤーがディスラプションを狙う分野だったのだ。今日もこの状況は当てはまる。そして、そのようなプレイヤーの多くはBay Areaの出身者だ。

まず初めに、インターネットの急激な普及により、多くの新聞にとっての利益の源泉だったクラシファイド広告業界が破壊された。その後、2000年台前半に誕生したAppleのiTunesとiPodが、音楽業界を玉座から引きづり下ろす。近年ではソーシャルメディアの普及により、従来のオンライン広告モデルが倒れ、新たにクリッカブルでシェアラブルなコンテンツ広告が誕生している。そしてもちろん、Netflixなどのオンデマンドビデオ・ネットワークを忘れてはならない。そのようなサービスによって映画館や映画製作スタジオ、従来型のテレビ制作会社は敗走を重ねているのだ。

この20年間で、コンテンツ配信のあり方は大きく変化した。従来型のメディアネットワーク通じたコンテンツ配信に取って代わり、テクノロジーを駆使したプラットフォームを通じたPC、タブレット、モバイル端末へのオンデマンド配信が生まれたのだ。多くの点において、このことは21世紀のコンシューマー・テクノロジーを語る上で欠かせない要素である。伝統的なメディア企業がもつ、コンテンツ配信手段の破壊の物語だ。

プラットフォーム誕生の時代は終わり、プラットフォーム戦争の時代に突入した。

トレンドは今にも変わりつつある。コンテンツに力のバランスが移りつつあるのだ。Facebook、Apple、Amazon、Google、Netflixなど、メディアのパラダイムシフトを引き起こした破壊的なプラットフォームがその主役となる。人々がコンテンツを消費する方法が完全に変わった今、このような企業が争う相手は伝統的なメディア企業ではない。これからは彼ら同士が争うことになる。プラットフォーム誕生の時代は終わり、プラットフォーム戦争の時代に突入したのだ。今後は、古い企業が新しいプレイヤーと妥協案を結ぶという場面ではなく、そのような新しいプレイヤー同士が争う場面こそがゲームの中心となる。

その争いはコンテンツをめぐる戦争だ。コンテンツこそがプラットフォーム間の差別化の要因であり、彼らはコンテンツのクオリティを高めるために巨額の投資をしている。今年、Netflixはコンテンツ製作のために60億ドルを費やし、Amazonは30億ドルを費やした。AppleはTime Warnerの買収を検討していると報じられている。TwitterはNFLを初めとするスポーツの生配信に望みをかけ、ミュージック・プラットフォームをもつApple、Spotify、Amazon、Tidalなどは音楽アルバムの限定リリース権をかけて互いに争っている。

このような現状はすべて、コンテンツ・クリエイターの聖地であるL.A.にとっては良いニュースである(この街にとって唯一のライバルはニューヨークだ)。Facebook、Google、Twitterなどの企業から離れてSnapchatにやってきた優秀なテック系人材と、コンテンツ・クリエイターが共存するこの南の大地には、スタートアップ・ルネサンスを加速するための土壌があるのだ。

テクノロジーに特化したモノカルチャーに代わる、L.A.の活気のある文化

サンフランシスコに住む私の友人たちは、街に根付くテクノロジーに特化したモノカルチャー(単一的な文化)に不満をもらす。私には彼らの言い分がよく分かる。かつてのサンフランシスコは、様々なバックグラウンドをもつ、クリエイティブで一風変わった人材を惹きつける街だった。美しく、安価で、(良い意味で)奇妙なこの街を彼らは気に入っていたのだ。テック系スタートアップにそこまで興味がない人々にとって、最近のサンフランシスコは、物価が高くなっただけではなく、多様性に欠けたつまらない街となってしまった。まさしく、現在のBay Areaは誰もが気に入るような地域ではなくなった。

その一方でL.A.は広大で、活気に溢れている。様々なバックグランドを持つ人々が住み、隣を見れば自分とは違うタイプの人がいる。そして彼らは、それぞれが違った目的や興味を追いかけている。この街のテックシーンも成長しつつある:この街での資金調達や人材の獲得は、以前よりもずっとやり易くなった。だが恐らく、L.A.のスタートアップシーンがもつ最大の特徴とは、業界の文化によって街全体がもつ文化が塗り替わることがないという点だろう。多くの人がこの特徴を魅力に感じている。

この街の文化と多様性によって恩恵を受けるのは、人々の生活の質だけではない。Google GlassとSnap Spectaclesを比べてみることにしよう。Spectaclesには、Glassにはないファッション性がある。プロダクト開発にかかわる様々な意思決定は、企業が属する環境に影響を受ける。L.A.に拠点を置くSnapchatでは、どのような物が「クール」なのか、消費者にとって何が一番重要なのかという点が重視される。一方で、シリコンバレーでは技術的に達成可能なものは何かを考え、文化的な側面にフォーカスすることは少ない。

Snapchatは南カルフォルニアのPayPalになる可能性がある:L.A.で解き放たれたSnapchatのモメンタムと将来性によって、これから誕生するスタープレイヤーたちは、この街を彼らが向かう候補地の1つとして考えるようになるだろう。テクノロジーの物語における次の章では、コンテンツが重要な役割を担うことになる。そして、そのコンテンツこそが、L.A.文化の根幹となる要素なのだ。Evan Spiegelに刻み込まれたL.A.のDNAがSnapchatに与えた影響をすでに理解している人もいるだろう。

Bay Areaの階級闘争やモノカルチャーに疲れきった起業家にとって、L.A.は魅力的な選択肢だ。この街での生活の質の高さと、比較的安価な生活費も、この街に移住する理由の一つになるだろう。Snapchatこそが、そのトレンドを加速し、この街のテックカルチャーに活気をもたらす存在なのだ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

ブロックチェーンがサプライチェーンにもたらす変革

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編集部記:Ben DicksonはCrunch Networkのコントリビューターである。Ben DicksonはソフトウェアエンジニアでありTechTalksのファウンダーだ。

2世紀ほど前、サプライチェーンという画期的な概念が発明された。サプライチェーンはA地点からB地点までの商品やプロダクトの移動を可視化し、把握するための概念だ。しかし、現在の製造経路及びサプライサイクルには適さなくなってしまった。それらはあまりに細分化し、複雑になって、地理的に分散してしまっているからだ。

現在のサプライチェーンは不透明で不完全なプロセスであり、すべてを把握するのは非常に難しい。

このサプライチェーンの問題はブロックチェーンで解決できるだろう。ブロックチェーンはすでにいくつかの業界で透明化と効率化に寄与している新興テクノロジーだ。

サプライチェーンの問題

サプライチェーンは原材料からコンシューマーが手にする最終的な商品に至るまでの製造と物流のすべてのつながりを表す。現代のサプライチェーンは100以上の工程と数十以上の地理的に異なる拠点をつなぐ場合もある。これにより、サプライチェーンで起きたことを遡って確認したり、問題を調査したりすることがとても難しくなっている。

カスタマーやバイヤーは購入したプロダクトやサービスの本当の価値を確認したり、立証したりできる確実な手段はない。サプライチェーンの透明性が失われているためだ。それはつまり、私たちが商品に支払う金額は、製造における本当のコストを正確に反映していない状態であるとも言える。

サプライチェーンに影響を受ける、あるいは連動する物事はさらにトラックしづらい。例えば、商品を製造する時の環境へのダメージなどをトラックする方法は現状ほとんどないと言える。

また、サプライチェーン上で行われる違法な行為の調査や責任追求をすることも非常に難しい。例えば、プロダクトの偽造、強制労働、工場の劣悪な労働環境、あるいはプロダクトの利益が戦争犯罪や犯罪グループの資金源になるといった問題だ。モバイル端末を始めコンシューマー向け電化製品の蓄電器を製造するために使用するコルタンの事例もこれに当てはまる。

ブロックチェーンでサプライチェーンを変える

分散型台帳は透明性とセキュリティーの両方を担保していて、ブロックチェーンは既存のサプライチェーンの問題を解決できる可能性がある。サプライチェーンにブロックチェーンを単純に適応する方法を考えた時、品物の移動を台帳に登録する方法があるだろう。ブロックチェーンには品物に関わる事業者や価格、日付、位置情報、品質、プロダクトの状態を始めとするサプライチェーンの管理に必要な情報を登録することができる。

台帳は広く利用可能であるため、すべてのプロダクトはそれを作るのに使用された原材料の出発店まで辿ることが可能になる。分散化した台帳の構造により、1社が台帳を占有したり、誰かが自分にとって有利になるようにデータを書き換えることはできない。さらに暗号化され、トランザクションは不変であるという特徴により、台帳を改ざんすることも不可能に近い。専門家の中にはブロックチェーンはハック不可能だと考える人もいる。

サプライチェーンのより良い管理のためにブロックチェーンを用いようとする取り組みも複数始まっている。IBMはカスタマーがブロックチェーンを安全なクラウド上で走らせ、複雑なサプライチェーンを要す高価な商品をトラックするためのサービスを展開している。Everledgerはこのサービスを活用している。Everledgerはブロックチェーンを使ってサプライチェーンを透明化することで、強制労働が横行し、またアフリカの犯罪組織の資金源となっているダイアモンド市場を正そうとしている。

ロンドンに拠点を置くProvenance はビットコインやイーサリアムの基盤となるブロックチェーンを活用し、原材料からコンシューマーに届くまでのサプライチェーンの透明化で人々の信頼を得ようとしている。企業はサプライチェーンやプロダクトの製造方法に関して透明性を保つことができる。また環境への影響、プロダクトの製造場所、誰が製造したかまでのすべてを開示することも透明性の内容に含まれる。

ブロックチェーンにはサプライチェーンを変革し、既存の商品の製造、マーケティング、購入、消費のあり方をディスラプトする力があるだろう。

Provenanceの取り組みは、社会的に認められた運用方法を促進することにもつながる。例えば、プロダクトを製造する段階で奴隷を用いたり、搾取が発生したりしていないことを保証することになるからだ。

BlockVerifyはまた別の取り組みを行っている。彼らはブロックチェーンの透明性を用いて、プロダクトの偽造に対抗する。特に多大な経済的なダメージをもたらし、毎年何百何千もの人命を奪う医薬品の偽造に対抗することに注力している。

BlockVerifyは箱に印刷されたQRコードを読み取るのと同じくらいの簡単さで真正な医薬品の認証ができるようにしたい考えだ。各プロダクトはブロックチェーン上に個別の認証があり、所有者の変更の履歴が記録される。その情報には誰もが簡単に確認することができる。

透明性の他にもブロックチェーン技術とサプライチェーンを掛け合わせることにより生まれる明確な利便性がある。

フィンランドのスタートアップKuovola Innovationはサプライチェーンにおけるスマートな入札を可能とする ブロックチェーンのソリューションに取り組んでいる。RFIDタグのついた荷物を台帳にA地点からB地点に運ぶ必要があると登録する。運送業社は、その仕事を獲得するためにアプリケーションに入札する。RFIDは最も適切な条件を提示した入札者に渡り、ブロックチェーンにその取引が登録される。荷物の移動は、タグがサプライチェーンを進んでいる最中でも随時トラックすることが可能だ。

ConsenSysのRebecca Migirovは、「サプライサークル」の青写真について説明している。これはブロックチェーンに基づいたコミュニティーの製造と消費のシステムを表す。コミュニティーの協力関係とコラボレーションを促進し、また消費者が「プロシューマー」(消費者であるとともに各自が製造者でもある)となることを促すシステムだ。

ブロックチェーンとスマート・コントラクトのインフラが整うことで、地域の製造事業者は分散化プラットフォームによりサードパーティーに頼らず、それぞれのスキル、リソース、プロダクトを共有することが可能となる。

サプライチェーンの未来

ブロックチェーンにはサプライチェーンを変革し、既存の商品の製造、マーケティング、購入、消費のあり方をディスラプトする力があるだろう。サプライチェーンに透明性、トレーサビリティ、セキュリティーが加わることで私たちの経済の安全性は高まることが期待できる。信頼と誠実さを促進することでより信頼できるようになり、また不審な活動を未然に防ぐことにもつながるだろう。

Featured Image: Bryce Durbin

[原文へ]

(翻訳:Nozomi Okuma /Website

ついにインドア・ロケーションの時代がきた

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編集部注:本稿を執筆したArif Janmohamedは、Lightspeed Venture Partnersでパートナーを務めている。

 

正確な情報を必要なときに必要なところで入手する。個別化されたエンゲージメントやエクスペリエンス。簡単に利用できるステップバイステップのナビゲーション。これらは屋内位置情報を利用したサービスのほんの一例だ。

GPSやGoogle Mapのおかげで、屋外ではこれと似たようなサービスが10年前から存在する。しかし、インドア・ロケーション技術の進歩は非常に遅かった。しかし今、その状況が変わりつつあり、2017年にはこの技術が主流となりつつあるのだ。

インドア・ロケーションの時代がついに到来した。この記事では、その理由について考えてみることにしよう。

第一にインドア・ロケーション技術の進歩の引き金となったのは、スマートフォンの進化だ。先日AppleはiBeaconを、GoogleはEddystoneをそれぞれローンチしている。これにより、Bloetooth Low Energy(BLE)が事実上すべてのスマートデバイスのスタンダード技術となったのだ。これが意味するのは、これからはスマートフォンの位置情報を屋内でも正確に割り出せるということであり、デパートや病院、学校、企業、博物館などのドアをくぐった顧客それぞれにカスタマイズされたサービスを提供することが可能になる。

私にとって、これローンチは2013年にIntelがCentrinoプロセッサーにWi-Fiを組み込んだとき以来の衝撃だった。いったんノートパソコンがユビキタス化されると、それに乗じて様々な技術がまるで山火事のように誕生していった。そして2017年、私たちはBLEによって当時と似た転換点に差し掛かろうとしているのだ。

第二の引き金は、BLEを利用した新しいワイアレス・インフラストラクチャーの登場だ。これにより、簡単に、そして安価にBLEの大規模導入が可能となった。第一の引き金も、これが無ければ成し得なかった。

モバイルユーザーはどんな所でもカスタマイズされたサービスを提供してほしいと思っている。

今日までBLEの導入が遅れた理由は、BLEユーザーの位置を探知し、そのユーザーと交信するためにはアイスホッケーのパック程の大きさのデバイスを約6メートル間隔で配置しなければならなかったからだ。この量のデバイスを配置するには時間もコストもかかる。また、環境が頻繁に変化するような場所ではデバイスの管理も困難となる。新しいワイアレス・インフラストラクチャーでは、ビーコンの機能を可視化することでこの問題を解決している。この業界の「400キロ級ゴリラ企業」であるCiscoは、つい先月このアプローチを採用した新しいプロダクトを発表している

BLEを導入する上で、次に大きな障害と考えられていたのが位置情報の精度だ。BLEを利用してナビーゲーション、アセットトラッキング、プッシュ通知などのサービスを実現するためには、位置情報の精度を誤差1メートルの範囲にまで高めなければならない。しかし、機械学習の進歩や、Wi-Fiシステムと統合されたBLEなどによってこの問題も解決している。

最後の引き金はモチベーションだ。モバイルユーザーはどんな所でもカスタマイズされたサービスを提供してほしいと思っている。室内でも屋外と同等のサービスを期待しているのだ。また、企業もよりユーザーに寄り添った形のモバイル体験を提供したいと思っている。ホテルは、ユーザーが玄関をくぐると即座にチェックインできるような仕組みや、客室やレストランまでの行き方をナビーゲーションするような仕組みを望んでいる。病院は手術室やカフェテリアまでのナビゲーションシステムや、車いすやインフュージョンポンプなどの場所を教えるようなサービスを望んでいる。スーパーやデパートなどでは、特定の棚の売れ筋情報を買い物客に伝えたり、近くのスタッフの位置を知らせたりする仕組みを望んでいる。

さらに、現代のような「データの時代」では、このようなサービスから得られるデータを分析することもできる。スーパーの買い物客はどこの棚の商品を立ち止まって見ているのか?どれくらいの時間をそこで過ごしているのか?どの場所で、どのような行動をしているのか?このような情報を分析することで収益を伸ばせるだけでなく、顧客がもつ実際のニーズに寄り添ったサービスを提供することが可能になる。

投資家たちはこのポテンシャルを見逃さず、今年には数多くのロケーション分野のスタートアップが資金調達を完了している。ターゲット広告のBlis MediaはシリーズBで2500万ドルを調達。ユーザーの位置情報を広告業者に提供するPlaceIQはシリーズDで2500万ドルを調達。Euclid AnalyticsはシリーズCで2000万ドルを調達。機械学習を応用した高精度の位置情報と、ビジネスに不可欠なWi-Fiサービスを提供するMist Systemsは、先日実施したシリーズBで2800万ドルを調達している(ディスクロージャー:私の会社はMistに出資をしている)。位置情報を駆使したモバイルアプリを製作するPhunwareは、先日2200万ドルの追加調達を完了し、同社の総調達金額は9000万ドルとなった。

「ロケーション・エコシステム」を創り出しているこれらの企業がもつ可能性に興奮させられるばかりだ。彼らが自分たちのポテンシャルを発揮することができれば、ユーザーである私たちは、自分用にカスタマイズされたサービスをどこに行っても受け取ることができるようになるのだ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

Android Instant Appはアプリ開発者の「フレネミー」

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編集部注: 本稿を執筆したのはLiftoff CEOのMark Ellisだ。

 

iPhoneの誕生以来、AppleはApp Storeというマーケットプレイスを通して、人々とモバイルデバイスの関わり方をデザインし、革新し、そしてある程度はコントロールしてきたとも言えるだろう。App Storeがスタートした直後に掲載されていたアプリの数は552個だ。それが今となっては、iOSアプリは世界中で200万、AndroidのGoogle Playストアには220万ものアプリが掲載されている。言うまでもなく、自分が開発したアプリを420万ものアプリの「海」の中から見つけてもらうのは非常に困難なことだ。さらに、人々が1ヶ月のあいだに使用するアプリの数は限られており、彼らはほとんどの時間をそれよりもさらに少ない数のアプリの中で過ごす。アプリの開発者の仕事はさらにやりづらくなったことだろう。

アプリはモバイルにとって欠かせないものになった。ある問題に対して「いいアプリがあるよ!」という言葉は、ただのスローガンではない。ライフスタイルなのだ。簡単にホテルを予約したいって?アプリをダウンロードすればいいじゃないか。

しかし、ダウンロード抜きでアプリを使えるAndroid Instant Appが誕生したことによって、近い将来このライフスタイルが変化するかもしれない。GoogleのInstant Appは、Androidアプリの開発者がこれまで苦労して作り上げてきたマネタイズの方法を破壊するために生まれてきたもののように思える。エンゲージメントの定義をぼやけさせ、大きなマーケットプレイスが持つ経済システムを少しずつ破壊していく。つまり、Instant Appはアプリのパブリッシャーのフレネミーとなるのだ。それについて考察していこう。

Googleが欲しいものがアプリにはある

GoogleはInstant Appのことを開発者の「味方」だと呼んでいる。ユーザーがアプリを利用するまでの時間を短縮できるというのがその理由だ。しかし、Instant AppはユーザーをモバイルWebに引き戻すための手段として開発された可能性が高い。検索機能と広告界のリーダーであるGoogleは、Webを通して名を上げた(そしてお金を稼いだ)企業だ。だからこそ彼らは、デバイスがデスクトップであろうと、モバイルであろうと、ユーザーにこれからもWebを使い続けてほしいと思っているのだ。

現在、検索を通じたアプリのダウンロード数は、全体のダウンロード数の27%でしかない。アプリをどこで見つけたのかという質問に対して、もっとも多い答えは友人や家族からの紹介で、2番目がアプリストア、そして3番目が検索エンジンを通じて見つけたという答えだ。さらに、検索でアプリを見つけたとしても、アプリをダウンロードするときにはユーザーは検索エンジン(ほとんどがGoogle)を離れ、ダウンロードされたそのアプリに完全に集中することになる。ほんの数年前まで、Googleはアプリ内にある情報をインデックスすることができなかった。そのため、アプリ内のコンテンツが検索結果に表示されず、Googleはアプリからマネタイズすることが出来なかったのだ。

Instant Appがアプリの機能を抽出することで、スマートフォンの容量を節約しながらアプリを利用するまでの時間を短縮することができるだけでなく、ユーザはGoogleのモバイルWebエコシステムから離れる必要がなくなる。これによってGoogleはより多くの情報を集めることができ、彼らのサービスの利用を促進して広告料金を稼ぐことができるようになる。この点において、Android Instant Appはアプリのパブリッシャーがアプリ内広告によってマネタイズする機会を減らしていると言える。なぜなら、ユーザーはもはやアプリをインストールする必要はなく、定期的にアプリを利用する必要もないからだ。

問題の裏に隠された解決策

モバイルアプリをマネタイズする方法としてよく採用されるのが、アプリの販売(アプリ自体を有料にして販売する)、アプリ内購入(追加的なコンテンツや、広告の削除に課金をする)、そしてアプリ内広告(アプリ内でビデオ広告やバナー広告をポップアップ表示する)の3つだ。Android Instant Appが普及することになれば、この3つのマネタイズの方法すべてが機能しなくなる可能性がある。Googleのモバイルブラウザを使えば、素早く、かつ広告なしでアプリを利用できるのにもかかわらず、わざわざアプリをインストールして利用するユーザーなどいるだろうか?

しかし、ディベロッパーが直面している問題はこれだけではない。アプリのリテンション率自体も低下してきているのだ。全体の25%のユーザーは、あるアプリをダウンロードした後90日の間にそのアプリを1度しか利用していないことが分かっている。また、ユーザーが一ヶ月の間に一度もアプリをダウンロードしていないという結果を受けて、モバイルアプリのブームは終わったと主張する者もいる。

新しい技術にはセキュリティに関する懸念が常につきまとう。

Instant Appを利用して友達にアプリを紹介するのはとても簡単だ。もはや、アプリストアを起動して自分のスマートフォンのストレージを犠牲にしてまでそのアプリをインストールすべきかどうか判断する必要はない。必要なのはInstant Appを起動して、そのアプリのコアとなる機能やコンテンツにアクセスすることだけだ。

例えば、Buzzfeedに掲載された料理のレシピを友人にシェアしたければ、その友人にリンクを送ればいい。リンクをクリックすればInstant Appが起動して、シエアされたレシピを簡単に、かつ素早く見ることができる。また、パブリッシャーがアプリをモジュール化して複数のInstant Appを開発すれば、既存の顧客ベースを拡大することもできるだろう。マーケットプレイスにアプリが溢れかえっているという状況を考えれば、自分のアプリをできるだけ見つかり易いようにできるInstant Appの存在は歓迎すべきものだろう。

残念ながら、Android Instant Appの誕生によってユーザーがアプリをダウンロードする回数は減っていくだろう。そして、パブリッシャーはエンゲージメントを計測するための新しい方法を考えださなければならない。Instant Appが普及すれば、ユーザーがネイティブアプリを利用した時間によってエンゲージメントを計測することはできなくなる。つまり、ゴールを設定してそれを計測する必要があるのだ。

例えば、ホテルのInstant Appを通した部屋の予約や、スターバックスのInstant Appを通したコーヒーの注文は増えるだろう。Instant Appを利用してホテルの予約ができるのに、1年に数回しか利用しないホテル予約アプリをわざわざダウンロードする人などいないからだ。この種のサービスを提供するアプリでは、Instant Appの登場によって収益が伸びる可能性がある。

Instant Appの登場によってアプリのダウンロード回数は減る一方で、ユーザーがアプリの価値や利便性を理解するにつれてエンゲージメント率やリテンション率は上昇するかもしれない。そして、ユーザーの利用回数が増えれば増えるほど、アプリ内購入の回数やアプリの利用時間も増え、広告のインプレッション回数も増えていくのだ。

今後はどうなるか?

現在のところ、Android Instant Appを利用できるのはAndroid 7.0 Noughtを搭載したデバイスのみに限られており、DisneyやMedium、Hotel Tonightなどの企業が利用を検討している最中だ。Instant Appで利用できる機能は限られている一方で、そのロードにかかる時間はモバイルWebのハイパーリンクと同じとは言わないまでも、同等の速度を実現している。今後もこのスピードが維持され、Instant Appが普及するにつれて、これが今後のアプリ開発の中心要素となり、アプリを提供する方法やアプリの探し方が変化していくかもしれない。Androidに追いつくために、AppleがiOS向けにInsta Appと似たものを発表する可能性もあるだろう。

しかし、新しい技術にはセキュリティに関する懸念が常につきまとう。Instant Appではポップアップ表示によって許可を得ることで、センシティブな情報を集めることができるようになっている。しかし、この機能を悪用すれば、悪意のあるデベロッパーがユーザーの合意を得ることなしに任意のアプリを動作させるということができるかもしれない。さらに、Instant AppはWebアプリ特有の非効率性を引き継ぐことになるのではないかと心配する人もいるだろう。つまり、Instant Appではネイティブコードの代わりにJavaScriptやそれに似たものを動作させる必要があるのだろうかという懸念や、クロスプラットフォーム互換性を持たせなければならないのか、そしてネイティブ・アプリに比べてさえないAPIしかもたないWebアプリのように、Instant Appの機能が限定されるのではないかという懸念だ。Instant Appが普及するかどうかを判断するには時期尚早だが、確かなことが1つある。ユーザーはコンテンツに早く到達することを望み、Googleはそれを実現しようとしているということだ。

「フレネミー」とは、本当は敵やライバルであるにもかかわらず、潜在的な利益のために友人のふりをしている人のことを指す。Android Instant Appは、アプリのダウンロード回数やネイティブ・アプリが使用される時間を減らす一方で、長期的な目線で見れば、アプリのコンテンツとユーザーの間にある壁を取っ払い、より幅広い人々がアプリを利用する可能性を高める。そして最終的には、それによってアプリからの収益が上昇する可能性もあるのだ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

パーソナライズしたFacebookフィードの弊害

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Facebookバブルは弾けた。未だにアメリカ合衆国の半分はショックから立ち直れていない。アメリカ大統領選に至る月日の間、人々は住んでいる世界とは合致しない情報を見ていたということが分かった。現実だと思っていたものは崩れ去った。

それがFacebookという世界だ。

このソーシャルメディアネットワークは、私たちの周りで起きる出来事を理解するツールを提供する巨大なプレイヤーだ。しかし、しばらく前から、他者の意見や違う視点で物事を見る場合におけるFacebookという声が反響する小部屋の弊害も指摘されていた。だが、今日ほどその影響力の強さを意識した日はなかった。

Facebookのユーザーはこの出来事を災難か、あるいは国が前進するために起きた記念すべきことか、どちらか一方のストーリーを受け取っている。Facebookのユーザーはトランプ氏の勝利は確実、あるいはクリントン氏の当確は決定的、といういずれかのストーリーしか見ていない。Facebookでは、ユーザーが持つ見解がそのまま記事の「いいね!」となり、シェアとして映し出される。Facebookでは、誰かの叫び声は全員に届くか、あるいは誰にも届かないかのいずれかなのだ。

大声で叫ぶほど、Facebookを閲覧する時間は長くなった。それに伴いFacebookの収益も増す。

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Facebookはユーザーの見解を反映しただけではない。センセーショナルな記事、さらには頻繁に誤った情報で見解を誇張し、歪めていた。しかし、Facebookにそれを追及しても両手を上げて、「私たちはメディアではありませんから」と言い逃れをしてきた。

Facebookは誰でも常識の範囲内で好きな情報をシェアできる中立的なプラットフォームであると主張している。彼らのコンテンツの検査官はポルノや銃器、薬物といった違法なものや他に禁止している内容のコンテンツがないか注視している。しかしそれ以外の壁の内側にあるコンテンツの内容に関しては目を瞑る。

Facebookはコンテンツの真偽に対する責任を負っていないと主張する中でも、虚偽のニュースサイトがいくつも並びでっち上げのニュースがネットワークに溢れかえって誤った情報がバイラルに広がった。

さらには、Facebookは「トレンド」セクションを管理していたニュース編集者を解雇し、公平だが、間違いを犯すアルゴリズムにそれを任せるようになった。人の判断を完全に排除したFacebookのニュース配信マシーンの登場は、選挙という最悪な時期に重なった。

Facebookのプラットフォームで人気の高いセクションに虚偽のニュースが入っていることを報じている記事には、アルゴリズムがトレンド入りさせた「明らかに間違った」記事をトラックしている。

Facebookのトレンドには9/11は内部の人間の犯行としたタブロイド記事やFox NewsのキャスターであるMegyn Kellyがクビになったという嘘の情報 、大学がキャンパスから祈っていた人を締め出したという噂が誤りと情報開示する声明文もある。さらには、アラジンの魔法のランプように使えるiPhoneの偽記事を、その名も「FakingNews(偽ニュース)」というサイトから取り上げていた。

Facebookはこれらの批判に対し間違いであったと認め、改善していくとして火消しを行った。

しかし、Facebookはコンテンツの精査ではなく、パブリッシャーがいかに彼らのネットワークで簡単に記事を共有できるようにするかに注力している。Facebookは文字や広告で埋もれがちな記事を読むのに最適な形式を追求し、素早くロードするインスタント記事の開発など技術的な発展に投資してきた。Facebookはユーザーがより長くサイトに滞在する方法を探していて、ユーザーがさらにターゲット広告をクリックするよう、フィードのパーソナライズに力を注いでいる。

もちろんユーザーのエンゲージメントを高める1つの方法は、ユーザーがFacebookを開いた時に良い気分になることだ。そして、Facebookはユーザーの気分を操作する方法を知っている。なぜなら、大規模な調査を行っていたからだ。

Facebookは2014年、68万9000人のユーザーのページを対象に、投稿を改変することでユーザーの気分をポジティブ、あるいはネガティブに変えることができるかの調査を実施したことについて謝罪している。

その調査結果から、ユーザーの気分を変えることができると判明している。

Facebookはそうやって集めたデータを使って、ユーザーがサイトを見続けるために良い感情を想起させるフィードだけを配信するようになるのではないかと人々は懸念した

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何か思い当たる節があるだろう。

WSJは「Blue Feed, Red Feed」のグラフィック記事で、政治分野におけるこの影響を取り上げた。Facebookはユーザーが聞きたいことだけをスプーンに乗せて与え、もう一方の見解への露出は最小限に留めていたということが分かる。

これは、少なくともFacebookにとって有益だった。2016年9月の月間アクティブユーザーは17億9000万人に登る。 前四半期には70億ドルの収益を得た。そのうち利益は23億7900万ドルで、前の四半期の20億5000万ドルより16%増加した。前年同期比では160%の増加だ。

Facebookバブルの問題は、ユーザーがアルゴリズムに騙されるということだけではない。ニュース配信においてFacebookが大きな役割を担っていることが問題を大きくしている。

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2016年5月のPew Researchの調査結果から、現在アメリカの成人の過半数(62%)がFacebookを始めとするソーシャルメディアからニュースを得ていることがわかった。

そして、Facebookはその中でも最大のSNSであり、アメリカの成人の67%にリーチしている。

Facebookユーザーの3分の2(66%)がこのSNSでニュースを得ている。Pew Researchのデータによると、それは全人口の44%に相当するという。2014年時点から30%増加している。

さらに事態を悪化させているのは、ソーシャルメディアは別の主張を理解を促すのには適していないプラットフォームであることだ。 別のPewによる調査から、社会的、政治的な問題についてソーシャルメディアの情報を見て意見を変えた人はたった20%だった。ソーシャルメディアを見て選挙の立候補者への見解を変えたというのはそれよりさらに少ない17%にとどまった。

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Pewは意見を変えた内容についてもさらに詳しく調査した結果、ソーシャルメディアは人々をよりネガティブな方向に変える傾向にあったという。つまり、クリントン氏について意見を変えた人々は、彼女に対してネガティブな意見を持つ傾向が3倍高く、トランプ氏から意見を変えた人は彼に対してネガティブな印象を持つ傾向が5倍高かった。

さらにSNSユーザーの82%はソーシャルメディアを見て立候補者に対する意見は変えたことはないとし、ソーシャルメディアへの影響で社会的、政治的問題に対しても79%が意見を変えないとした。つまり、誰かに何かを説得しようとする際、Facebookはそれに適した場所ではないということだ。

私たちはしばらくの間Facebookを使用しているが、今回ほどその影響力の強さを感じたことはないだろう。ユーザーにパーソナライズしたフィードで、見たいことだけが表示されるのは素晴らしいことのように思える。実際はそうではないという状況が目の前に突きつけられるまでは。

昨夜から今朝にかけて人々は、これまで見ていた情報源の情報の質が低いということに気づき始めた。見ている情報がそもそも間違っているか、偏っているかだ。そして最も重要なことは、人々が変わった同郷の叔父だと思っていた彼は異端な少数派なのではなく、怒りを抱え、不満を募らす国民の過半数を代弁する存在だということに気づいたことだ。

[原文へ]

(翻訳:Nozomi Okuma /Website

バイアスなきAIを創るのは、なぜ難しいのか

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編集部注:本稿を執筆したのは、TechTalksの創業者であり、自身もソフトウェアエンジニアであるBen Dicksonだ。

 

人工知能と機械学習のテクノロジーが成熟し、それを利用すれば複雑な問題をも解決できることが実証されつつある。それにつれて、私たちはこれまで人間には不可能だったことも、ロボットなら成し遂げることが可能なのではないかと考えるようになった。それはすなわち、個人的なバイアスを排除して物事を判断するということだ。だが、最近の事例によって機械学習が抱える予想外の問題が浮き彫りになっている。その他の革新的な技術と同じように、機械学習でさえも時には人間界のモラルや道徳的な基準からかけ離れた結果を生むことが分かったのだ。

これからお話するストーリーの中には面白おかしいものもあるが、それは同時に、私たちに未来についてよく考えるためのきっかけを与えてくれる。その未来とは、ロボットや人工知能が今よりももっと重要な責任をもち、もしそれらが間違った判断を下したとすれば、ロボット自身がその責任を取るという未来だ。

機械学習特有の問題点

機械学習とは、アルゴリズムを使ってデータを解析し、そこからパターンを抽出することで得た洞察をもとに、未来を予測したり、物事を判断することを指す。私たちが毎日のように使うサービスにもこの機械学習が利用されている。サーチエンジン、顔認識アプリ、デジタルなパーソナルアシスタントなどがその例だ。機械に投入するデータの量が多ければ多いほど、機械はより賢くなっていく。だからこそ、企業はより多くの顧客データやユーザーデータを集める方法を探し求めているのだ。

だが結局、機械は投入されたデータ以上に賢くなることはできない。そして、それこそが機械学習に特有の問題を生んでいる。アルゴリズムをトレーニングするために使用したデータによっては、機械が悪の心を持つことも、バイアスを持つこともあり得るからだ。

人間の子どもと同じように、機械もその育て親が持つ趣味嗜好やバイアスを受け継ぐ傾向がある。機械学習という分野において、この問題はより複雑だ。企業は自分たちのサービスの背後にあるアルゴリズムの内部を明かそうとせず、それを企業秘密として扱うからだ。

機械学習はどのように間違った結論を生むのか

機械学習のスタートアップであるBeauty.aiは今年、史上初のAIによる美人コンテストを開催した。このコンテストには6000人以上の人々が参加し、AIは提出された顔写真を解析して、顔の対称性やしわなどを元にその人がもつ「魅力度」を算出した。

このコンテストでは人間の審査員がもつバイアスを排除できるはずだった。しかし、結果はいくらか期待外れのものだった:44人の受賞者のうち、白人がその大半を占め、アジア人の受賞者は数えるほどしかいなかったのだ。褐色の肌を持つ受賞者にいたっては、そのうち1人しかいなかった。この結果について、Motherboardが掲載した記事では、アルゴリズムをトレーニングする際に使われた画像サンプル自体がもつ、人種や民族に対するバイアスがこの結果を生む原因となったのだと結論づけている。

機械学習の「白人びいき問題」が表沙汰になったのはこれが初めてではない。今年初めには、ある言語処理アルゴリズムが、JamalやEbonyといった黒人に多い名前よりも、EmilyやMattなどの白人に多い名前の方が心地の良い響きを持つと結論付けるという事件があった。

データベースからバイアスを取り除くことこそ、公正な機械学習アルゴリズムを設計するための鍵となる。

この他にも、Microsoftが開発したチャットボットの「Tay」がサービス停止に追い込まれるという事もあった。10代の女の子の言動を真似るように開発されたTayが、暴力的な内容のツイートをしたことが問題視されたからだ。Tayはもともと、ユーザーから受け取ったコメントを吸収し、そのデータを元に学習することで、より人間に近い会話をするという目的をもって開発されたチャットボットだった。しかし、ユーザーはTayに人間味を持たせることよりも、彼女に人種差別やナチズムの概念を教えることの方に興味があったようだ。

だが、もしこれが人間の命や自由に関わるような状況だったとしたらどうだろうか?ProPublicaが5月に発表したレポートによれば、当時フロリダ州が導入していた囚人の再犯率を計算するアルゴリズムは、黒人に対して特に高い再犯率を算出するような設計だったという。

黒人をゴリラとして認識するGoogleのアルゴリズム高給の求人広告を女性には表示しない広告エンジン下品なトピックや嘘の出来事を表示するニュース・アルゴリズムなど、機械学習の失敗例は他にも数えきれないほどある。

機械学習が犯した過ちの責任を取るのは誰か?

従来のソフトウェアでは、エラーの原因がユーザーにあるのか、それともソフトウェアの設計自体にあるのかということを判断するのは簡単だった。

しかし機械学習ではそうはいかない。機械学習において一番の難問となるのは、過ちが起きたときの責任の所在を明らかにすることなのだ。機械学習の開発は従来のソフトウェア開発とは全く異なり、プログラムのコードと同じくらい重要なのが、アルゴリズムのトレーニングだ。アルゴリズムの生みの親でさえも、それがもつ正確性を厳密に予測することは出来ない。時には、自分がつくったアルゴリズムの正確さに驚かされることもある。

そのため、Facebookの「Trending Topics」がもつ政治的バイアスの責任の所在を明らかにするのは難しい。そのサービスの少なくとも一部には機械学習が利用されているからだ。共和党の大統領候補であるDonald Trumpは、Googleが同社の検索エンジンを操作してHillary Clintonに不利なニュースを表示しないようにしていると批判しているが、これに関しても、Googleが検索エンジンの仕組みを明確に説明して、その主張を跳ね返すのは難しいだろう。

人工知能がより重要な判断をするような状況では、この問題はもっと深刻なものになる。例えば、自動運転車が歩行者をひいてしまったとしたら、その事故の責任は誰にあるのだろうか?運転手、より正確に言えばそのクルマの所有者の責任になるのだろうか、それとも、そのアルゴリズムを開発した者の責任なのだろうか?

機械学習のアルゴリズムからバイアスを取り除く方法とは?

データベースからバイアスを取り除くことこそ、公正な機械学習アルゴリズムを設計するための鍵となる。だが、バイアスのないデータベースをつくること自体が難問だ。現状、アルゴリズムのトレーニングに使われるデータの管理に関する規制や基準などは存在しておらず、時には、すでにバイアスを含んだフレームワークやデータベースが開発者のあいだで使い回されることもある。

この問題に対する解決策の1つとして、厳密に管理されたデータベースを共有し、その所有権を複数の組織に与えることで、ある1つの組織が自分たちに有利になるようにデータを操作することを防ぐという方法が考えられる。

これを可能にするのが、Facebook、Amazon、Google、IBM、Microsoftなど、機械学習界のイノベーターたちが結んだ歴史的なパートナーシップである「Partnership on Artificial Intelligence」だ。機械学習と人工知能が発展するにつれて様々な問題が浮き彫りとなった今、そのような問題を解決することがこのパートナーシップの目的である。人工知能がもつ道徳性の問題を解決すること、そして、複数の組織による人工知能のチェック機能をつくることなどがその例だ。

Elon MuskのOpenAIも面白い取り組みの1つである。OpenAIでは、AIの開発にさまざまな人々を参加させることで、その透明性を高め、AIが犯す過ちを未然に防ぐことを目指している。

ロボットが自分の言動の理由を説明し、みずから間違いを正すという未来もいつか来るだろう。しかし、それはまだまだ遠い未来だ。それまでのあいだ、人間がもつバイアスをAIが受け継ぐことを防げるのは人間しかいない。そして、それは1つの組織や個人によって成し遂げられるものではない。

人間の知恵を結集してこそ達成可能な目標なのだ。

[原文]

(翻訳:木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

スタートアップの取締役会:入門

Office workers talking with colleagues in board room meeting on telephone conference call

編集部注:本稿はSamer HamadehとAdam Dinowによって執筆された。Samerはセラピストの自宅派遣サービスを展開するZeelの創業者兼CEOだ。AdamはWilson Sonsini Goodrich & Rosatiのニューヨークオフィスでパートナーを務めている。
どの企業にも取締役がいる。だが、取締役会の構成についてじっくりと考えている起業家は少ないだろう。

この記事を執筆したSamerは、これまでに5社のスタートアップの取締役に就任し、彼自身が立ち上げた会社の取締役にも2度就任している。もう一人の著者であるAdamは、Wilson Sonsini Goodrich & Rosatiで企業パートナーを務めている。同社はテック系の企業でもあり、スタートアップに関する法律相談も受け付けている会社だ。私たちはこの記事で、起業家やCEOに向けて、そして取締役に就任してほしいと頼まれた人に向けて、取締役会についてのアドバイスをしていこうと思う。

基本事項

必ず取締役会を設置する必要がありますか?

その通り。法律により、すべての企業は取締役会を設置しなければならないと義務付けられている。ただ、必ずしも大規模な取締役会を設置する必要はなく、取締役は1人でもいい。しかし、すべての企業に取締役会は必要だ。

どのタイミングで取締役会を設置する必要がありますか?

起業した時点で取締役会を設置する必要がある。面白いことに、取締役会のメンバーは1人だけでも良く、創業者1人だけで構成される取締役会でも構わない。取締役会では、株式の発行、ストックオプション制度の導入、資金調達や借り入れの承認など、経営に関わるさまざまな事柄が話し合われる。大半のスタートアップでは創業者自身も取締役会に参加している例が多い。そして、企業の規模が大きくなるにつれて取締役の人数も増えていく。

取締役会を設置する方法を教えてください。

取締役会の設置にあたっては、経験豊富な弁護士を雇うべきだ。他にも考慮すべき要素はあるものの、その数はかなり多い。そのため、本稿の最後に関連資料へのリンクを掲載しておくことにする。

取締役にはどのような人が就任するのですか?なぜ取締役会は重要なのですか?

究極的に言えば、取締役会が企業経営に関する重要事項の最終決定権を持っている。資金調達を行うかどうか、買収交渉に応じるかどうか、戦略的な意義の高い提携を結ぶべきかどうか、シニアマネージャーを雇うべきか、または解雇すべきかどうか、などがその例だ。間違いなく、取締役会のメンバーは企業にとって重要な鍵を握る人々だと言える。そのため、その企業や業界について豊富な知識をもった賢い人々を取締役に就任させることが重要だ。

時間が経つにつれて取締役会の構成メンバーは変わっていくし、企業によってその構成はバラバラだろう。だが、経営の各ステージごとに取るべき標準的なアプローチというものが存在することも確かだ。

これは必ずしも必要というわけではないが、多くの企業の取締役会は奇数の人数で構成されている。投票結果が引き分けになるリスクを失くすためだ。引き分けとなった場合、取締役会に提出された議題は却下されてしまうのだ。

もし、あなたの企業の取締役会では議論がまとまらず、投票結果が割れることが多いとすれば、それは企業が深刻な問題を抱えていることを意味している。

シードラウンドで資金を調達した後は、通常そのラウンドのリード投資家のために取締役会の席を用意しなければならない。それ以降も創業チームが取締役会をコントロールしていくために、新しい取締役会では普通株主(創業者など)の取締役2人に対して、新規投資家の取締役1人という割合で構成されることが典型的だ。

通常では、各ラウンドで資金調達を行うたびに、そのラウンドのリード投資家が取締役会に加入していく。新しい投資家を取締役会に招くたびに、それとは別で新しい取締役を用意することを忘れないようにしておこう。出資をするための条件として取締役会の席を要求する投資家もいるだろう。その投資家を取締役会に入れたくなければ、その出資は断らなければならない。もしその出資金が必要であれば、その投資家のために席を用意する必要がある。

2回目のラウンドを終了した頃になると、取締役会に「独立取締役」のための席を用意することが多い。この独立取締役とは、投資家でもなければ、企業の創業者や従業員でもない取締役のことを指す。そのポジションには、その業界に精通していて、コネクションも豊富な人物が就任することになる。2回目のラウンドの後に独立取締役を任命した場合、取締役会は創業メンバー2人、投資家2人、そして独立取締役1人という構成になっているだろう。したがって、独立取締役はもう1つの重要な役割をもつことになる。引き分けの投票に決着をつける、タイブレーカーという役割だ。

各シリーズごとに投資家が取締役会に加わることになるが、覚えておかなければならないのは、あるシリーズから加わった投資家は、そのシリーズに参加した投資家の代表なのではなく、投資家全体の代表であるということだ。

ある程度の期間が経過したあと、取締役会のサイズが大きくなりすぎたり、ある投資家を取締役に任命するにはその投資家からの出資金額が小さすぎると判断した場合には、彼らに取締役会の席を与える代わりに「オブザーバー」としての役割を与えることができる。オブザーバーとは、取締役会に参加する権利は持つものの、投票する権利は持たない人々のことだ。後から出資者に加わった投資家がオブザーバーになることもあれば、初期からの投資家がオブザーバーになることもある(オブザーバーに関しては後ほど詳しく説明する)。

取締役会の役割とは何ですか?

取締役会は企業の全体的な方向性を決める役割を持っており、企業の主要な意思決定機関である。例えば、シニアマネージャーの人事決定、予算案の承認、エクイティファイナンスやデットファイナンスを実施するかどうかの最終決定などが取締役会の役割だ。企業にとって特に重要となる人物を雇い入れるためには取締役の承認が必要であり、そこで給与やストックオプションなどの報酬額が決定される。CEOの給与を決めるのも取締役会だ。

最後に、取締役会には他社や個人、その他のリソースなどとのコネクションを企業に提供するという役割もある。また、彼らは経営全般に関するアドバイスを提供するという役割もある。

取締役の忠誠心はどこにあるのでしょうか。

取締役会のメンバーは、企業の所有者である株主から企業の経営を任された「受託者」である。従って、彼らには株主に対する「信任義務」と呼ばれる義務が課されることになる。信任義務とは、簡単に言えばすべての取締役は株主の利益を再優先に考えて行動する義務があるというものだ。取締役に対してよくある誤解とは、取締役がもつ主な役割は彼ら自身の利益を守ることだというものだ。実際には、信任義務のある取締役の役割とは株主利益を最大化することなのだ。

もし、ある取締役が信任義務を果たしていないと株主が判断した場合、株主は取締役に対して訴訟を起こすこともできる。そうなれば時間がかかって費用もかさむ裁判のせいで、本業が深刻なダメージを受けかねない。信任義務に従うためには、取締役は「注意義務」と「忠実義務」と呼ばれる2つの義務を満たさなければならない。

忠実義務とは、取締役はみずからの利益を重視するのではなく、会社や株主の利益を最優先に行動しなければならないというものだ。

注意義務とは、取締役は企業が置かれている状況について良く理解していなければならず、問題がある場合には、それに関連する事実を根拠に決断を下さなければならないというものだ。言い換えれば、取締役会は話を集中して聞く場であり、クロスワードをする場所ではないということだ。取締役会に参加している間は、実際にそれに「参加」し、企業が置かれている状況をよく理解しておかなければならない。

忠実義務とは、取締役はみずからの利益を重視するのではなく、会社や株主の利益を最優先に行動しなければならないというものだ。もし会社と取締役との間に利益相反があれば(例えば、取締役の1人が所有する企業と大きな契約を結ぶ場合など)、その取締役は企業の意思決定にバイアスをもたらす可能性のある全ての利害関係を開示する必要があり、その契約について議論したり、承認したりする権利を放棄しなければならない。

取締役会はどのくらいの頻度で開催されますか?

取締役会が開催される頻度は、企業がどのステージにいるのか、マネジメント陣から要請されているかなど、様々な要素によって変わってくる。典型的なスタートアップでは、四半期に一度開催される例が多い。四半期の始まりに集まって前四半期を振り返るためだ。アーリー・ステージの企業では、もっと頻繁にインフォーマルな会議や電話会議が開かれる。インフォーマルな取締役会が開かれる回数が多ければ多いほど、アーリー・ステージの企業にとっては利益になる場合もある。なぜなら、そのような企業の戦略はより頻繁に変更される可能性が高いからだ。(Zeelは2012年の秋に戦略の方向転換をし、2013年4月についに新しいローンチをするに至った)。

企業が危機的な状況にあったり、他社を買収したり、逆にされたりといった場合には、もっと頻繁に取締役会が開催されることになるだろう。毎日、または1日に何度も開催されることもあるかもしれない。

典型的に、四半期ごとの取締役会は3時間程度で終了することが多いが、もっと長くかかる場合もある。

取締役は有給ですか?

取締役の報酬は、その企業のステージや、その人物の有名度などによってバラつきがある(有名な企業で会長を務めているなど)。また、企業ごとに方針は違う。通常、その企業に出資するファンドから出向してきた取締役には報酬は支払われないことが多い。しかし、個人として参加している取締役には報酬が支払われる例がほとんどだ。通常、独立取締役には報酬として株式が支払われる。アーリー・ステージの企業では通常、企業全体の0.5%から2%の株式が支払われ、企業が大きくなるに連れてこの数字は下がっていく。このような報酬に加えて現金報酬が支払われることもある。

また、ほとんどの場合、取締役が出張する時などの経費は会社から支払われる。それに加えて、取締役が株主から訴訟された時の費用なども会社が保障することが多い。取締役は企業に対して、100万ドルの会社役員賠償責任保険(D&O保険)に加入するよう求めるのが通例だ(企業の規模が大きくなるにつれ、この金額も大きくなっていく)。

問題とその解決策

取締役会がCEOである私を追いだそうとしています!

企業が成長するにつれて、創業者であるCEOは別の役割を持たされることが多い。なかには会社から解雇される例もある。創業者が普通株主票をコントロールできていない場合には、自分が立ち上げた企業の取締役会から追い出されてしまうのだ。その場合、企業内における創業者の発言権は無くなってしまう。

そのような場合でも取締役会に参加したいとするならば、取締役会を設置する際、CEOとしての役割とは別に創業者としての永久的な役割とは何かということを明確にしておくことが重要である。そうすれば、もし創業者がCEOとしての役職から解任されたとしても取締役会に席を残しておくことができるのだ。このポジションについてファイナンス分野では盛んに議論されている。

取締役がCEOである私に反対します。

取締役会では、取締役同士が協力し、投票の前に盛んな議論ができるような環境をつくらなければならない。だが、理想的には投票前にすでにコンセンサスに達しているのが望ましいと言える。

もし、あなたの企業の取締役会では議論がまとまらず、投票結果が割れることが多いとすれば、それは企業が深刻な問題を抱えていることを意味している。

とは言うものの、ある特定の取締役が何か問題を抱えている場合には、グループ会議の一環としてではなく、個別のミーティングのような形でその取締役と個人的に話し合ってみるべきだろう。

オブザーバーの役職に就きたがっている投資家がいます。取締役会に参加させるべきでしょうか?

エンジェル投資家などは相当な金額を投資するが、それは取締役会の席に値するほどの金額ではないことがほとんどだ。それにもかかわらず、彼らが取締役に就任したい、または参加したいと言うのであれば、妥協案としてオブザーバーの役職を与えるという選択肢がある。

その名前の通り、オブザーバーには取締役会に参加する権利はあるが、投票する権利はない。この他にもオブザーバーと取締役との違いは多い。例えば、取締役には守秘義務と信任義務が課せられ、企業の秘密情報を明かすのを拒否する権利があるが、オブザーバーにはそのような義務や権利はない。そのため、機密情報の保持についてオブザーバーとあらかじめ合意に達しておくことが重要だ。

参考資料

この記事のトピックについて、もっと学びたいのであれば以下の資料をおすすめする:

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

新しい自動車メーカーの誕生

編集部注:本稿はAdvanced Telematic Systemsの創業者兼CEOであるArmin G. Schmidt によって執筆された。同社は自動車業界のソフトウェア開発を支援する企業だ。彼はこの他にも、アジア、ヨーロッパ、アメリカなどにある数多くのイノベーティブなテック企業で役職をもつ。

 

フランスのMulhouseという街にあるCité de l’Automobileは素晴らしい場所だ。スイス人のHansとFritz Schlumpf兄弟の自動車に対する強い愛情のおかげで、この場所には多くの自動車が展示されている。展示されている自動車を集めるための費用は、彼らが立ち上げたビジネスから得た収益で賄われた。彼らはウール製品向けの紡績工場を経営していた。面白いことに、「Schlumpf」をドイツ語にすると「smurf」となる。アニメの「Smurf」を覚えている読者であれば、The Cité de l’Automobileを見て「Smurftastic(最高に素晴らしいという意味の造語)」と言うことだろう。

Schlumpf兄弟の自動車に対する過剰な愛情と、1970年代に布製品の生産がアジア国々にシフトしていった事が理由で、ついに彼らのビジネスは破産してしまった。そこで彼らはフランスを離れ、故郷のスイスに戻ることにした。その頃までには、彼らの自動車コレクションの価値はとても高くなっており、フランス政府は彼らのコレクションには歴史的な希少価値があるとして、それを破壊したり輸出したりすることを禁止する命令を出した。そして1978年、彼らのコレクションはCouncil of Stateによってフランスの歴史的記念物として認定されることとなったのだ。

数年前、今では世界最大の自動車博物館となったCité de l’Automobileに訪れる機会を頂いた。まさに自動車の栄光の時代にタイムスリップしたような感覚だった。何百もの自動車で埋め尽くされた巨大なホールを歩いていると、その多くはかつての「スタートアップ」(過去の起業家にも現代の用語を当てはめることは可能だろう)がゼロから自動車を創り出し、ブランドを確立し、誕生したばかりの自動車市場でのシェアを奪い合っていた時代に製造されたものだということに気付くだろう。馬によって移動することはもはや時代遅れとなり、それが理由で私たちは乗馬を贅沢な趣味として認識するようになった。

新しいテクノロジーが誕生して産業が革新的な発達を遂げたことにより、当時のスタートアップは限られた資本でも自動車を製造することができるようになった。第一次の自動車ブームが始まったのだ。例えば、1920年代には自動車はボディ・オン・フレームという製造方法で製造されていた。この方式では別々のサプライヤーから供給される部品をモジュールとして組み合わせることが可能になる。その後、開発予算のあるハイエンドのクルマ向けにユニボディ構造が採用され、高精度に一体化された車両が開発されるようになった。この構造はボディ・オン・フレームは開発コストはかかるが、大規模に生産することができれば開発コストを下げることも可能となる。現代の電気自動車のなかにはボディ・オン・フレームというコンセプトに回帰したものもあり、例えばBMW i3の頑丈なフレームの中にはドライブトレイン(クランクやチェーンなど自動車を前に動かすためのパーツの総称)とバッテリーが組み込まれている。

これから挙げる自動車ブランドのリストはCité de l’Automobileに展示されている自動車のほんの一部だ。もしあなたがこの中の3つ以上のブランドを知っているとすれば、正真正銘の自動車エキスパートと名乗ることもできるだろう。もしそれが本当ならば、今度会う時にはお酒を一杯おごろうではないか。 ABC、Amilcar、Arzens、Aster、Ballot、Bardon、Barraco、Barré、Baudier、B.N.C、Bollée、Brasier、Charron、Cisitalia、Clément de Dion、Clément-Bayard、Clément-Panhard、Corre La Licorne、Darracq、Decauville、 De Dietrich、 De Dion-Bouton、 Delage、 Delahaye、 Delaunay-Belleville、 Dufaux、 Ensais、 Esculape、 Farman、 Fouillaron、 Georges Richard、 Gladiator、 Gordini、 Horlacher、 Hotchkiss et Cie、 Hotchkiss-Gregoire、 Jaquot、 Le Zèbre、 Lorraine-Dietrich、 M.A.F.、 Mathis、 Maurer-Union、 Menier、 Minerva、 Monet-Goyon、 Mors、 Neracar、 O.M.、 Panhard & Levassor、 Pegaso、 Philos、 Piccard-Pictet、 Pilain、 Ravel、 Rheda、 Richard-Brasier、 Ripert、 Rochet-Schneider、 Sage、 Salmson、 Scott、 Sénéchal、 Serpollet、 Sizaire-Naudin、 Soncin、 Turicum、 Vermotel、 Violet-Bogey、 Zedel.

この優秀なスタートアップたちが自動車を製造していた時代は、まだクルマの燃焼機関が参入障壁として機能していなかった時代だった。その後、GM、Ford、Mercedes、Toyota、BMW、VWなどのメーカーが40年以上もの間マーケットを独占することになる。これにより、これらの大規模メーカーとMcLarenやLotusのような小規模メーカーとの間に巨大な壁が生まれたのだ。

もちろん、DeLoreanやFisker、Artegaのようなスタートアップが誕生したことは事実だ。しかし、燃焼機関を搭載したクルマを製造開発し、マーケティングを行って製品を販売し、そして言うまでもなくディーラーのバリューチェーンを維持するというビジネスは、大規模で資金力のある企業が常に勝利する試合だった(今でもそうだと主張する者もいる)。自動車業界でスタートアップを立ち上げて成功させるのは簡単ではない。1億ドル以上の資金を調達できないスタートアップはすべて、遅かれ早かれ倒産の道をたどることになるだろう。特に、大半の投資家はこの業界を触れてはいけないもののように扱っている。非常に大きなリスクを伴うのにもかかわらず、成功する確率が低いからだ。

次世代のクルマや商用車、そして他のタイプの交通手段を開発することを目的としたスタートアップが次々に誕生しつつある。

しかし、2004年に台湾に現れた1人の男がすべての常識を覆した。Elon Muskだ。その時彼は、台湾だけでなく様々な場所で資金を調達するために奔走していた。彼が開発した第一号モデル「Roadster」をローンチするための資金だ。当時このクルマに使われていた部品の大半は、人口2300万人の島国である台湾で製造されたものだった。この国は世界中に存在するPCやノートパソコン・メーカーの8割に部品を供給しているだけでなく、iPhoneで使われているマイクロチップのすべてを生産していることでも有名だ。また、Foxconn、Pegatron、Wistronなどの台湾出身の巨大メーカーの存在もよく知られている。

Teslaが2006年にローンチした当時、同社のプロダクトに搭載されたエンジンは台湾にあるTeslaの工場で生産されていた。その当時から、Elon MuskはITと自動車の世界は交わることになるだろうと確信していたのだ。初めての資金調達を完了したあと、彼は野望を抱き始めるようになる。「専門家」と呼ばれる人たちのアドバイスは聞かなかった。2009年までにTeslaは1億8000万ドルを調達し、147台のプロダクトを販売した。

その数年後、その時すでに何十億ドルもの追加資金を調達していたTeslaに世界は注目し、Teslaであればそれまで誰もが避けてきたことを成し遂げることができるだろうと考えるようになった。伝統的で巨大な自動車メーカーへの攻撃だ。コンピューターの処理能力の発達し、業界を進化させるというモメンタムが大きくなっている今、時代は「イノベーションのジレンマ」と呼ばれる新たな1ページに差し掛かろうとしている。ハーバード大学教授のClayton Christenseが提唱したこの理論は、新しいテクノロジーによって優良な大企業が没落する過程を説明している。そして何より、これまで競争力のあるプロダクトが創り出したプレミアムを享受してきたAudi、BMW、Toyota、Mercedesのような企業は、この理論を真剣に受け止め始めている。

豊富な資金力と技術によって構築された巨大な壁は崩壊しつつある。VC業界はこの絶好の機会に歓喜し、自動車業界を攻撃し始めた。過去5年の間に自動車メーカーは2200億ドル以上もの資金をM&Aに費やしている。

洗練された生産技術を必要とする、燃焼機関などのプロダクトによって構築された参入障壁は今後消え去ることになる。電子部品が業界の主流となりつつあるのだ。例えば、今ではE-ドライブトレインの製造はMagnaなどのODM製造業者にアウトソースされており、今後はこの分野のFoxconnとも言えるような企業が生まれることになるだろう。

より重要なことには、Teslaは機械学習という分野において有利な立場にいるだけでなく、彼らのクルマには従来の自動車システム(内部燃焼エンジンなど)が搭載されていないことから、より大規模で成長著しいマーケットに競合他社よりも素早く参入することが可能なのだ。従来のモデルから転換してインターネットにつながれたコンピューターを搭載するクルマをつくるという動きは、いずれ人々が自動運転車を所有し、共有し、そして自動運転車がオンデマンドで配車されるという世界を生み出すだろう。

新しいクルマや商用車、そして他のタイプの交通手段を開発することを目的としたスタートアップが次々に誕生しつつある。以下のような企業だ: NextEV、 Atieva、 ThunderPower、 GogoroNavya、 Borgward、 Local MotorsZMP Faraday Future、 Starship、 Varden Labs Easy Mile Auro Robotics、 Gaius Automotive、 ElioLeEconuTonomy、 Dyson、 Mission Motors、 Boosted、 Lit MotorsRenovo Motors、 Inboard Technology、 Future Motion、 GLM、 Dubuc Motors、 Dagmy Motors、 Newton VehiclesALTe Technologies、 Lumen Motors、 Barham Motors、 Highlands PowerMyers Motors、 Tratus、 Virtus Motors、 AC Motors、 Scalar Automotive、 Fenix Vehicles、 Marfil、 Esco Motors、 Lithos Motors。今後数年間のうちに何百ものスタートアップが新しく生まれることだろう。

近い将来、レッドブルのロゴが塗装されたクルマが道を走っていたとしても驚かないように。

どんなにイノベーティブな交通手段のコンセプトでも、最終的には人を乗せる「乗り物」が必要となる。未来の乗り物は今日のものと比べて異なる要素を持ち合わせていたり、異なる材料から製造されていたり、電源の供給の仕方や制御の方法も違うかもしれない。しかし、誰かがその乗り物を開発し、製造し、販売し、品質の維持をしなければならない。現存する自動車メーカーはまだその部分においては競争能力を持っており、要素が変化すればそれに徐々に適応していく能力も持っている。現在のクルマのように複雑で、耐久性があり、安全性が高いプロダクトを製造しているにもかかわらず、そこから利益を得る知恵やプロセスを彼らは持ち合わせているのだ。しかも、彼らにはビジネスの規模を拡大させる能力もある。それに加え、彼らのブランド力や評判、そしてカスタマーロイヤリティが今後しばらく色焦ることはないだろう。

現状のマーケットで力を握る自動車メーカーは、今後も一定の間は優位に立つことができるだろう。資金が豊富で身軽な新参企業でもそれは同様だ。また、ニッチな市場にフォーカスするブランドや企業が現れる可能性は高い。将来のクルマを開発していくうえで、まだ解答されていない問題が残っている。新しいクルマはどのように利用されるのか。都市部と地方の移動手段はどう異なるのか。電気自動車や自動運転車はいつ業界の主導権を握り、そして受け入れられるのか。規制機関は新しいクルマの開発を加速するのか、または減速させるのだろうか。

自動車を選ぶ消費者にとって、ブランド力はいまだに重要な要素の1つである。そのため、ポルシェなどの高級車ブランドはそこから大きな恩恵を受けることができ、マスマーケット向けのブランドに比べれば業界の変化によって受ける影響の度合いは小さいだろう。FenderとVW Beetle、Paul smithとMini、GucciとFiat 500のように、今後も新しいファッションブランドや既存のファッションブランドとクルマとのコラボレーションが生れるだろう。近い将来、レッドブルのロゴが塗装されたクルマが道を走っていたとしても驚かないように。

また、たとえ自動運転車がより賢くて安価になったとしても、ブランドがもつ力が衰えることはない。航空業界で言えばeasyJet、Virgin、RyanairなどのLCCも、みずからのポジションを確立した立派なブランドだ。航空券を選ぶとき、消費者が選ぶのはサービスのプロバイダー(航空会社)であって、メーカーではない(航空機)。この航空業界の状況は自動車業界にも当てはまるかもしれない。

Cité de l’Automobileに展示されているクルマのブランド名が書かれたリストを覚えているだろうか?スタートアップたちはこの世に誕生しては消え、博物館にその遺産を残していったのだ。それと同じように、この記事で紹介した現代の自動車メーカーの中のいくつかが今後数年間のうちに消えていくのは明らかだ。しかし、その中に私たちの毎日を支える自動車という分野で独占的な地位を占める企業がいるのは確かだ。

今では6.4兆ドル規模(McKinsey調べ)とも言われるこの業界では、非常に多くのブランドやイノベーションが新しく誕生している。彼ら全員がクルマを製造しているわけではなく、死亡事故を失くして安全な交通を実現するための、まったく新しい交通手段のアイデアを持つ者もいる。

いつか将来、Schlumpf兄弟のCité de l’Automobileのような博物館に私たちが良く知る現代のクルマが並ぶ日が来るだろう。コレクターがこれから新しく誕生するクルマ(究極のモバイルデバイス)を集めてつくった博物館を見られる日が来るのを楽しみにしている。私たちの子どもや孫はその博物館に興味津々になることだろ(Smurfと関係しているからということではない)。歴史は常に繰り返すのだ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

IoT専用のネットワークが必要とされる3つの理由

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編集部注:本稿はBeep Networksの共同創業者であるDaniel Conradによって執筆された。彼はGoogleのAndroidとAccessのチームでプロジェクト・マネージャーを務めた経験をもつ。

 

世界中の通信キャリアがまったく新しいIoT向けのセルラーネットワークを構築しつつある。携帯電話でこのネットワークを利用することはできない。このネットワークはまだこの世の中に存在しないIoTデバイスのために構築されたものなのだ。しかも、これに取り組んでいるのは小規模のキャリアたちではない。ComcastSoftbankOrangeSKTKPNSwisscomなどのキャリアが全国規模の新しいIoTネットワークを構築している。VerizonVodafoneは彼らがもつネットワークをアップグレードし、IoTのためだけに周波数スペクトラムを用意している。CiscoSamsung、Nokia、Ericssonなどの企業は、それに必要な設備を販売している。

新しいネットワークが必要とされている理由は、携帯電話用のネットワークがIoTデバイスに必要とされる3つの条件を満たしていないからだ。その条件とは、バッテリー寿命、コスト、そしてネットワークのカバレッジだ。

新しいネットワークを構築することを正当化するためには、この条件のなかの1つをクリアするだけでも十分だ。だが、もしこの3つの条件をすべてクリアすることができるとすれば、それはIoT業界に大きな変革をもたらすことになる。そして、この変革こそ通信キャリアたちが目指しているものなのだ。

その3つの条件をこれから1つずつ見ていくことにしよう。

バッテリー寿命:月単位ではなく、年単位のバッテリー寿命が必要

携帯電話用ネットワークのエネルギー効率は高くない。そして、今後それが改善されることもない。

携帯電話用のネットワークは元々、車載電話向けに開発されたものだった。クルマが時速100キロで走行していても、通話を途切らせることなく基地局間で電波を「手渡し」するという技術は革新的なものであり、その技術によってセルラー方式のネットワークが誕生することとなった。電波を「手渡し」するためには洗練されたアルゴリズムが必要であり、電話とネットワークが継続的に通信をする必要がある。

そのため、携帯電話用のネットワークを利用するデバイスは基地局と1秒間に何度も通信をおこなう必要がある。それがバッテリーの寿命を縮める原因だ。

IoTデバイスのバッテリー寿命を年単位で伸ばすためには、大半の時間は電波を受信しない「スリープモード」にしておく必要がある。それは携帯電話用のネットワークでは不可能だ。電源を入れたり消したりすればよいのでは、と思われるかもしれないが、ネットワークに再接続するまでの数分間はかなりの電力を消費する。飛行機を降りたとき、電波をつなげるために何度も電源を入れたり消したりすれば、私がいま言ったことを実感することができるだろう。

その点において、IoT向けのネットワークでは新しいアプローチが採用されている。

まず第一に、このネットワークには低消費電力の無線通信チップが使われている。データの送受信にかかる消費電力量を極力抑えるために最適化されたチップだ。これにより、携帯電話用のネットワークよりも桁違いに低い消費電力で通信することが可能となる。

次に、このネットワークを利用すれば、デバイスを何時間ものあいだ通信を必要としない「スリープモード」にしておくことができる。ほとんどの時間を省電力モードで過ごし、データを送受信したり、センサーからの情報の取得する間のミリ秒単位の時間だけ起動させるだけでいい。

こうすることによってバッテリーの寿命を何百倍も伸ばすことができるのだ。

数年間も充電が不要なバッテリーは、IoTデバイスにとって非常に大きなメリットとなる。なぜなら、バッテリー寿命を伸ばすことにより、IoTデバイスの導入コストを大幅に抑えることができるからだ。デバイスを電源につなげる必要もなければ、バッテリーを充電する必要もない。長いバッテリー寿命のおかげで、いったんデバイスを設置してしまえば後は放っておくだけでよくなる。何千何万ものデバイスを設置しなければならないとすれば、これは特に大きなメリットだ。

これだけでも新しいネットワークを構築するための理由づけとしては十分だ。

だが、理由はこれだけではない。

コスト:できるだけ安いデバイスが必要

IoTデバイスで携帯電話用のネットワークを利用するのには高いコストがかかる。

第一に、通信キャリアがIoTデバイスに対応するためには大きなコストがかかる。割り当てする周波数を増やすのには何十億ドルもの費用がかかり、周波数はいくらあっても足りることはない。月に1ドル程度の収入にしかならないIoTデバイスのために、月に100ドルのデータ通信料を得ることができる携帯電話を犠牲にすることもできない。IoTデバイスに対応するためにかかる機会コストは高すぎるのだ。

この問題を解決するため、新しいIoTネットワークはアンライセンスバンドを利用しているか、もしくは周波数帯の間に設けられた「ガードバンド」と呼ばれる未使用の周波数帯を利用して構築されている。いずれにせよ、周波数帯の利用には事実上コストがかからない。

また、携帯電話用のネットワークを利用するのはデバイスの開発者側にとっても高いコストがかかる。複雑なLTE受信機を利用するためにはデバイスに複数のアンテナを搭載する必要があり、高価なIPライセンスを取得する必要もある。携帯電話用のネットワークに対応させるためにはデバイス1つあたり数十ドルのコストがかかる一方で、新しいネットワークに対応させるためにかかるコストは1ドルか2ドル程度で済む。

長いバッテリー寿命、低いコスト、広いカバレッジ。これらがすべて1つのパッケージとして実現される。

最後に、キャリアからネットワークの利用に関する認可を受けるのにもコストがかかる。例えば、Verizonからネットワーク使用の認可を受けるためには5万ドルから10万ドルの費用がかかり、そのプロセスには数カ月もの時間がかかる。Verizonのネットワークを利用する他のデバイスへの干渉を防ぐためにも、この認可制度は必要なものだ。彼らが慎重なのも当然なことだろう。

また、新しいIoTネットワークは干渉に強い設計となっている。共有された周波数帯を利用するこのネットワークでは、他の電波から干渉されることが当たり前だからだ。そしてほとんどの場合、Wi-Fiのアクセスポイントのように、エンドユーザーが自分自身のゲートウェイを設定することもできる。それも無料で。

このことは次に説明するテーマにも関わってくる。

カバレッジ:どんな場所でもつながる電波が必要

LTEがつながらない場所は多い。また、IoTデバイスは携帯電話用の電波がつながらない場所に設置されることがほとんどだ:地下室に設置する浸水監視センサー、地下駐車場に設置されるパーキングセンサー、地方のトウモロコシ農場に設置される土壌センサーなどだ。

新しいIoTネットワークでは、このカバレッジの問題を2つの方法で解決しようとしている。

まず第一に、IoTネットワークでは帯域幅ではなく室内でのつながりやすさを最大化するように設計されている。高周波の変調の基本ルールとして、1ビットを表すために沢山のビットを送信することで、通信速度を抑える代わりに電波の受信範囲を広げることができるというものがある。LTEがデータを大量に送受信するスマートフォン向けに最適化されている一方で、新しいIoTネットワークはより少ないデータの送受信向けに最適化されている。例えば、センサーからの情報を読み込んだり、サーモスタットで温度を設定したりというような短いメッセージだ。大抵の場合ビットレートが1Kbps以下という遅い通信速度ではあるものの、新しいネットワークでは同じ電力でも広い受信範囲を実現することができるのだ。

次に、新しいネットワークではWi-Fiのルーターのように独自のゲートウェイを設置することもできる。そのため、通信キャリアの電波が自宅の地下室まで届かないのであれば、その近くに自分でゲートウェイを設置することでIoTデバイスまで電波を届けることができる。自分でネットワークを設置することができることは、このテクノロジーを普及させるうえで重要な要素だ。とりわけ、通信キャリアによるネットワークが普及する前の初期段階ではそれが特に重要となる。

 

これこそが、これからのIoTの姿だ。長いバッテリー寿命、低いコスト、広いカバレッジ。これらがすべて1つのパッケージとして実現される。

IoTという分野に何年もの時間を費やしてきた私にとって、この新しいネットワークは見果てぬ夢のようなものだ。デバイスを設置して後は放っておくだけで、そのデバイスが至るところで働いてくれる世の中になる。

楽しみで仕方がない。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

 

インターネットを蝕む大規模DDoS攻撃

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編集部注: 本稿はForeScoutのCEOであるMichael DeCesareによって執筆された。

 

金曜日の朝に目が覚めると、私たちの会社で全社的に利用しているシングル・サインオンとクラウドストレージが機能しなくなっていることに気がついた。ドメインホストであるDynに対する分散型サービス妨害(DDos)攻撃が原因だ。

この攻撃はとても大規模だった。SpotifyやNetflixなどの消費者向けサービスだけでなく、HerokuやZendeskなどの企業向けプロバイダーが提供するサービスも機能しなくなっていた。騒動はひとまず一段落したが、こうしたサイバー攻撃はこれからもっと大勢の人々に、そしてこれまでにない程の影響を与える可能性がある。

DoS攻撃とは、ネットワーク上のサービスを機能停止の状態に追い込むことを目的としたサイバー攻撃だ。そのような攻撃が複数のIPアドレスやマシンによって行われることを分散型サービス妨害(DDoS)と呼ぶ。標的となったコンピューターは大量の処理負荷に耐え切れずに機能が停止してしまうのだ。

ここ数週間のあいだ、ハッカーたちはこのDDoS攻撃を大規模に行ってきた。KrebsonSecurity.comへの攻撃から始まった一連の騒動はその深刻さを増していき、何千ものデバイスによってDDoS攻撃が行われるようになった。サイバー攻撃の規模は回を重ねるごとに大きくなっていったのだ。

これはまだ確実ではないが、私が金曜日の朝に経験したサイバー攻撃もこの一連のDDoS攻撃の一部であった可能性が高く、しかもその攻撃に利用されたのはコンピューターやサーバーではなく、IoTデバイスだったのだ。

実際、Dynへの攻撃には多数の監視カメラが利用された可能性が高い。なぜ監視カメラなのか?なぜなら、世界中の家庭や企業で使われている監視カメラの多くは、数社の企業によって開発された同じファームウェア、またはそれによく似たファームウェアが組み込まれているからだ。

Courtesy of Getty Images/Frank Graessel / EyeEm

Courtesy of Getty Images/Frank Graessel / EyeEm

今ではこのファームウェアに深刻な脆弱性が存在することが知られており、その脆弱性を利用することで監視カメラのようなデバイスがDynのような標的に銃口を向けることになる。さらに、そのような監視カメラの多くではデフォルトの認証設定がそのまま使用されており、ハッカーたちにとっては恰好の餌食となる。

なぜこれが重大な問題なのだろうか?今回のサイバー攻撃のように、ビデオカメラを利用すればこれまでとは比較にならないほど簡単に、そして安価に大規模なボットネットを構築することができる。もはや、DDoS攻撃を開始するためにボットネットを調達する必要すらない。数週間前にインターネット上にアップされたプログラムを使えば、ハッカーたちはボットネットを自分たちで構築することができてしまうのだ。

また、IoTデバイスの脆弱性が引き起こす問題はDDoS攻撃だけではない。ハッカーがIoTデバイスを利用すれば、企業のファイアーウォールを攻略することも可能になってしまう。

これが重大な問題だと言われる理由はもう1つある。大方の推測によれば、現存するIoTデバイスでは今回のようなサイバー攻撃から身を守る体制がまったくとれていない。政府や企業がIoTデバイスのセキュリティー強化に取り組んではいるものの、それにはいくつかの課題がある。その中でも特に大きな課題なのが、従来のサイバーセキュリティソフトをIoTデバイスに搭載することができないという問題だ。

結果として、IoTデバイスを保護するセキュリティソフトの数は従来のOSを搭載するコンピューター向けのものと比べても少ない。パッチをあててプログラムを修正できるIoTデバイスもあるが、それができないものもある。パッチをあてることができないデバイスの場合には手動でセキュリティ対策をする必要があるが、通常それが行われることはない。

この問題に対する解決策とはなにか?この問題もサイバーセキュリティに関する問題である以上、それに対する単純な解決策など存在しない。たとえIoTデバイスであっても、サイバーセキュリティに関する基本的な教えを適応する必要がある。つまり、多重防護だ。IoTデバイスにもパッチをあてられるようにするなど、現時点で認識されている課題を解決するだけでは不十分だ。それだけでなく、はたしてそのデバイスは厳重なセキュリティソフトによって守られているのか、そして不穏な動きを常にモニタリングする体制は整っているのかということを常に問い続けていかなければならない。

それぞれのアプローチがもつメリットやデメリットについて議論をすることはできる。しかし、本当に重要なのは、ある1つのアプローチだけを考えて視野を狭めるのではなく、考え得るかぎりのアプローチやセキュリティ方法を検討するということなのだ。

IoTのネットワークを保護するために、わざわざ一から技術を開発し直す必要はない。しかし、IoTデバイスを利用した大規模なDDoS攻撃がインターネットの信頼性とそれがもつ機能を少しずつ傷つけていることは認識しなければならない。経済全体がインターネットに依存している今、ハッカーに対する防衛策について真剣に話し合うべき時が来ている。そのためには、IoTデバイスがハッカーたちの銃弾として利用されることを防ぐ方法をまず考えなければならないのだ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

VCマネーの過剰接種:71社のIPOから学べること

Person consuming overdose of medicines depicting concept of health expense

編集部注: 本稿はFounder Collectiveのマネージング・パートナーであるEric PaleyとJoseph Flahertyによって執筆された。

 

ベンチャー・キャピタルは劇薬だ。適切に利用すれば、過去50年間そうであったように、素晴らしい企業を元気づけるアドレナリンのような働きをしてくれる。不適切に利用すれば、有害な依存症を引き起こす。

スタートアップのコミュニティに浸透している社会通念とは、素晴らしい企業がより大きな資本を活用することで成長を加速させることができるというものだ。しかし、この「どでかくやるか、家で寝てるか」というアプローチは、緻密な調査にも耐えうることができるのだろうか?すべてが理想的に進んだ場合、VCマネーを豊富に蓄えた企業は限られた資本を効率的に使う企業よりも本当にパフォーマンスが優れているのだろうか?その答えを見つけるため、私たちは過去5年間に新規上場した71社のテック系スタートアップを対象に調査を実施した

「Efficient Entrepreneurship」

Founder Collectiveでは、「効率的アントレプレナーシップ(Efficient Entrepreneurship)」と呼ばれる美徳について話し合ってきた。最近、私たちはスタートアップが豊富な資本を抱えることのデメリットを伝えるレポートを発行している。そのデメリットには、エグジットの選択肢が制限されることや、不安定なバーンレートを引き起こす危険性などが含まれる。しかし、積極的な資金調達の良い面として考えられるのは何だろうか?VCの成功例を調べることで、多額の資金調達をすることの意義について私たちは何を学べるのだろうか?

調査結果は驚くべきものだった。過去5年間のテック系スアートアップのIPO事例を調べることで分かったのは、IPO以前のパフォーマンスを比べてみても「富める者(豊富な資本をもつ企業)」が「貧しき者(限られた資本しかもたない企業)」をアウトパフォームすることはなかった。それどころか、IPO後のパフォーマンスを見てみると実際には富める者のパフォーマンスの方が悪かったのだ。

巨額の資金調達は「ユニコーン企業」という称号を受け取るための必要条件だ。しかし、テクノロジー業界の成功例を調べてみると、豊富な軍資金が成功と正の相関を持つわけではないことが分かる。

公開株式市場で取引されているスタートアップの上位20社(現時点の時価総額が高い順に選出)を見てみると、合計で1億ドル前後の資金を調達した企業は14社だった。5000万ドル以下を調達したのは6社であり、そのうちの1社は資金調達を行ってすらいない。非上場のユニコーン企業が調達した金額の中央値が2億8400万ドルであることを考えれば、この数字は驚くべきものだ。

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調査手法

スタートアップのパフォーマンス計測は厄介な作業だ。当然のことながら、レーターステージの企業は情報をあまり開示していない。企業が買収されていた場合、より厄介なことに実際の買収金額が不明瞭になるように考慮されていることが多い。IPO市場のデータは他に入手可能な数字のなかでも最も透明性の高い価値尺度である。不完全なデータではあるが、そこから学べることは多い。例外はあるものの、ベンチャー・キャピタルが獲得する成果の大部分はIPOから生まれるリターンなのだ。過去5年間のIPOとベンチャー・キャピタルとの関係性を調べることで、優秀な企業に多額の出資をすることが良いリターンを生むのかどうか調べることができる。

データ10-14-efficient-entrepreneurship-master-stats-all-companies-founder-collective

  • 調査対象である71社の資金調達額の合計は102億ドル。
  • 71社合計の時価総額は5660億ドル。つまり、総投資金額の55倍。
  • 71社合計の調達金額の平均は1億4400万ドル、時価総額の平均は79億ドル。
  • 71社合計の調達金額の中央値は7900万ドル、時価総額の中央値は18億ドル。

Facebookを除外する

この世にFacebookという会社は1社しかなく、その1社がもつ数字が極端な異常値であることを理由に、私たちはFacebookを本調査から除外することにした。Facebookを除外した後も統計結果は以前として素晴らしいものであるが、たった1つの企業がこれほどまでに全体のデータを歪めていたことには驚かされるばかりだ。

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  • 調査対象の70社の資金調達額の合計は96億ドル。
  • 70社合計の時価総額は2020億ドル。つまり、総投資金額の21倍。
  • 71社合計の調達金額の平均は1億3700万ドル、時価総額の平均は28億ドル。
  • 71社合計の調達金額の中央値は7900万ドル、時価総額の中央値は18億ドル。

調査対象

本調査の対象となる企業は、2011年から2015年のあいだに新規上場をした企業とする。5年以上さかのぼった調査結果も興味深い物ではあるが、非公開企業が前代未聞の資金額を調達する「ユニコーン企業の時代」と呼ばれた時代に焦点をあてて調査することで、そこから私たちが学べることも多いだろう。また、本調査では2000年以前に創立された企業(GoDaddy、FirstDataなど)、通常とは違った資金調達方法をとってきた企業(Match Group、RetailMeNot)、欧米とはまったく異なる金融市場をもつアジア諸国、およびロシアの企業を除外している。71社を対象とした調査結果のデータセットはここで公開している。いくつかの例外を除き、データの大部分はCrunchbaseから取得している。

レーターステージのプライベート・エクイティ、セカンダリー・オファリング、借入金に関しては、スプレッドシート上には掲載しているが調査結果の計算からは除外している。また、私たちはIPOによって調達した資金にはあまり注目していない。その資金はベンチャー・キャピタルゲームの終点であり、企業の規模がその調達額の大小を決める最も大きなファクターであるからだ。できる限りの注意を払ってデータを集めてきたものの、データセットには以前として不完全な部分は残っている。データセットへのフィードバックは大歓迎であり、それがデータセットを公開している理由だ。

「Big VC」にとってのベスト・シナリオ

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データを見てみると、「どでかくやるか、家で寝てるか」というアプローチは特に投資家サイドにとっては機能しているように思われる。多額の資金を調達した企業群は、ドルベースで見れば確かに大きなリターンを生み出している。調達額の上位20社は合計で67億ドルをVCから調達し、時価総額は20社合計で620億ドルだ。つまり投資金額の約9倍のリターンを生み出したことになる。

下位20社のデータを見てみると、VCからの資金調達額は合計で6億2300万ドルだ。しかしながら、時価総額の合計は480億ドルであり、これは投資金額の77倍のリターンを生み出したことを意味する。

リターンの絶対額だけをみると、その違いは140億ドルだ。VCにとってこの差はささいな数字ではない。しかし、調達額が10億ドルに少し満たない程度だったTwitterを除外してみると、140億ドルの差のうち120億ドルがその1社によって生み出されていたことが分かる。つまり、FacebookとTwitterを除いて考えてみると、VCは20億ドルのリターンを得るために約50億ドルを費やしたことになるのだ。株式市場の変動は激しく、この記事の執筆中も、調達金額上位20社の時価総額は大きく変動していることは留意しなければならない。しかし、そうだとしてもその変動は1社か2社の異常値によって引き起こされることが多いのだ。

毎年多くの企業が誕生するなか、そのうちの数社によって多額のリターンが生まれることは確かだ。また、そのような異常値(FacebookやTwitter)が生まれた場合には、その企業に最も多く賭けていた投資家が勝つことも事実だ。しかし、VCが常にそのような企業を見つけられるとは限らず、たとえその企業が優秀であったとしても資金を必要以上に投入してしまっているということも考えられる。

これはVCモデルの根底を揺らがすものではない。VCはリスクを伴うものなのだ。ハイリスクな状況下であっても、本当に優秀なVCはいくつものファンドを成功させている。

しかし、起業家はこの結果から学ばなければならない。FacebookやTwitterといった企業はエコシステム全体にとって無くてはならない存在だが、すべてのスタートアップに彼らのモデルが当てはまるわけではない。次なるFacebookを生み出すことができると確信している場合は別として、起業家がフォーカスすべきなのはIPOによって生み出される金額の絶対値ではなく、収益率なのだ。

VCにはポートフォリオがある一方、起業家に与えられたチャンスは(一回の起業につき)一度きり

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VCは何度失敗したとしても、一度のホームランでその損害を取り返すことが可能だ。しかし、起業家に与えられたチャンスは一度きりである。起業家にとって、最良のケースでも24%しかないプレミアムを得るために4倍以上のリスクをとる価値があるだろうか?実際はどうだったのか調べてみると、資金調達上位の企業はそのプレミアムを得るためにリスクをとっていた:

  • 「富める者」が調達した金額の中央値は1億9300万ドル、時価総額の中央値は21億ドル
  • 「貧しき者」が調達した金額の中央値は3700万ドル、時価総額の中央値は17億ドル

しかも、起業家が実際に受け取るリターンはこの数字よりも悪い。数度にも及ぶ資金調達は起業家の持ち分比率を希薄化させるだろう。それに、スタートアップの快進撃が止まって結局IPOまで辿りつかなかった場合には、IPO以前に発行された優先株はVC側に有利に働くことになる。そのようなリスクがあるということ以上に、多額の資本をもつことはエグジット時の選択肢を狭めることになる。資本が少ないスタートアップの創業者たちは、満足のいくリターンを得られるのであれば、いつでも事業を売却することができる。その一方で、多額の資本を抱えるスタートアップの創業者たちは、エグジットすることで何十億ドルものお金を生み出さなければならず、しかも投下された資本が増えるごとに収益率は逓減していく。

これはVCにとって本当に最良のモデルなのだろうか?

VC業界に浸透する社会通念とは、投資家は勝ち組企業により多くの資金を投資するべきだというものだ。だが、リターンが逓減していく勝ち組への投資金額を抑える一方で、その分を10倍、20倍、30倍のリターンを得る可能性のある他のスタートアップへの投資にまわしたほうが良いのではないか?

ダビデ vs ゴリアテ

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極めて少ないサンプル数ではあるが、2億ドル以上を調達した企業(このサンプルでは9社)とリストの下位にいる同じ数の企業を比べてみよう。結果は驚くべきものだった:

  • 「富める者」は5億6700万ドルを調達し、その6倍となる35億ドルのリターンを生み出した。
  • 「貧しき者」は1290万ドルを調達し、その218倍となる28億ドルのリターンを生み出した。
  • 「富める者」は「貧しき者」の44倍の資金を調達したが、そこから得たリターンは「貧しき者」の1.25倍である。

少ない資本 = 良い企業?

新規上場時のスタートアップの市場価値は重要な指標である。その価値はベンチャー・キャピタルにとってリターンの源泉だからだ。しかし、上場して公開企業となった「富める者」と「貧しき者」を比較してみるのもおもしろい。「貧しき者」はVCから調達した資金によってではなく、徹底した顧客獲得戦略によって企業を成長させなければならない。企業をそのような状況下に置くことは、よりサステイナブルなビジネスを構築することにつながるのだろうか?

IPO以降の「貧しき者」と「富める者」を比べてみた結果、「貧しき者」のパフォーマンスの方がはるかに優れていた:

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極めて少ないサンプル数ではあるが、2億ドル以上を調達した企業(このサンプルでは9社)と、リストの下位にある同じ数の企業を比べてみよう。結果は驚くべきものだった:

  • IPO以降、「貧しき者」の株価は89%上昇した。
  • 同期間における「富める者」の株価は22%しか上昇していない。

この結果に対する私たちの仮説は、必要以上に資本をもつ企業では、クリエイティビティや経営上の規律よりもその豊富な資本に頼ってしまう企業カルチャーが生まれるのではないかというものだ。大きなバランシートをもつ企業はたとえ非効率であっても成長できてしまう。なにか問題が生じた場合、価値の創造というスタートアップのコア・エンジンによって問題を解決するのではなく、豊富な人員と資金によってその問題をカバーしてしまうのだ。一方で、資本をもたない企業は早い段階から難しい決断を迫られ、切らなければいつまでも残ってしまう経営のムダを省こうとする。「貧しき者」がもつ、効率性を追求する精神はやがて高いパフォーマンスを生み出す企業カルチャーとなる。効率的な経営の仕方を知らない「富める者」が同様の企業カルチャーを育てあげるのは困難だろう。

これに対する主な反論として、「富める者」はIPOの時点ですでに高いバリュエーションをもっており、しかもそのバリュエーションは公開市場の投資家によってではなく、非公開市場の投資家によって決められたものだというものがある。この反論は正しいかもしれないが、起業家やVCはこの反論自体が示唆していることを考慮しておかなければならない。つまり、IPO以前から多額の資本を抱えるユニコーン企業に対して、公開市場の投資家は相当な割引率を適応しているということだ。

正の相関があるべきではないのか?

この調査結果がどれだけ驚くべきものなのか、深呼吸してもう一度認識する必要がある。VC業界で広く信じられている仮説とは、最良のシナリオにおいては、より多くの資金を投入すれば企業の成長をより加速させることができるというものだ。真の勝ち組企業には「過剰な資本」という言葉など存在しないと主張する人もいるだろう。結局そのような企業は投下された資本を再投資して、彼らの企業エンジンをさらに加速することができるという主張だ。企業に資本が注入されることで、ビジネスの原動力である人材やR&Dなどへの投資が可能になる。直感に従えば「富める者」が「貧しき者」よりも有利な立場にあると考えるのは当然のことだ。

もしそれが本当だとすれば、資本量と成長との間にある正の相関をこのレポートで示し、その相関を引き起こす要因となっているのがVC業界なのだろうという推測を立てていてもおかしくはない。言い換えれば、成功する企業は多額の資金調達がしやすい企業であるということを考慮に入れながら(原因と結果の関係が不明瞭な相関関係)、多額の資本が果たして本当に成功を引き起こしているのかという因果関係について考察するのがこのレポートの目的だっただろう。

驚くべきことに、データはその正の相関が存在することを示してはいない。パフォーマンスが優れている企業ほど多額の資金を調達しやすいにもかかわらず、パフォーマンスと資金の調達額とのあいだに正の相関は見られなかったのだ。

数社の例外を除き、多額の資金を調達をしたからといって高いパフォーマンスを発揮するわけではなく、IPO以降の株価のパフォーマンスを比べてみると、実際には多額の資本をもつ企業のパフォーマンスの方が悪い事ことが分かった。確かに、VCは「異常値」を探しだすビジネスであり、ボラティリティを前提とする職業だ。しかし、「富める者」が「貧しき者」よりも高いパフォーマンスを出していないところ見ると、たとえ優秀な企業であってもどこかの時点で投下資本に対するリターンが逓減してしまうことが分かる。データが示すのは、VCがリターンが逓減していく分岐点を知るのは難しいということだ。VC業界に伝わる格言のなかに、毎年多くのスタートアップが誕生するなかで、本当に重要なのはそのうちの15社だけだという格言がある。資金を企業に投入することがVCの仕事だとしよう。そのうえでVCの格言が本当に正しいのか調べてみると、実際にはその「本当に重要な企業」は過去5年間においてたったの2社しか存在しなかったことが分かる。勝ち目のない戦いだ。

企業買収の場合はどうか?

データを見てみると、時価総額上位20社のなかで資金調達額が1億2500万ドル以下の企業は15社だった。(この計算にはWayfairのデータも含まれている。同社は創業後10年間は資金調達を実施しておらず、どちらかというとレーター・ステージにおけるプライベート・エクイティ投資に近い形で資金を調達している)。Four、Atlassian、shutterstock、Textura、SkullCandyにいたっては資金調達をまったく実施していない。SplunkとPalo Alto Networksの調達金額を合計すると約1億500万ドルであり、この2社の時価総額の合計は約200億ドルだ。GrouponとZyngaは1億ドル以上もの資金何度も調達しており、この2社の調達金額を合計すると約20億ドルにもなる一方で、時価総額の合計は50億ドル以下だ。

この分析が不完全なものであることは承知している。2015年に上場した企業のなかには上場後1年未満の企業もおり、1年分の決算資料がまだ出揃っていない企業もある。また、たとえVCマネーを豊富にもつ企業であったとしても、もっと長期的な目線で見れば高いパフォーマンスをあげるという可能性もある。それでも、このデータはVCと起業家に重要な示唆を与えるものだ。ユニコーンの時代には時代遅れのことを言うようだが、5000万ドルかそれ以下の投資で何十億ドル規模の公開企業を生み出せる可能性はとても高く、そして恐らくはそれが賢いVC投資のあり方なのだろう。

資金調達額は虚栄の指標

製品戦略、マーケティング戦略、人事戦略などと同じように、資金調達は企業の戦略的なオプションの一つである。それゆえ、資金調達を行うべきなのかどうか、事前に慎重な検討を重ねる必要がある。だが残念ながら、起業家は日和見的に資金調達を実施する傾向があり、さらに悪いことに、彼らのプライドや間違ったバリデーションを理由に資金調達が実施されることもある。

経営が順調であれば、資金は勝手に近づいてくる。資金調達ができるということは喜ばしいことであるし、大きなバランスシートを持つことは時として良いことだ。しかし、それがエグジット時の選択肢を狭めてしまうのも事実だ。企業とって資本とは、最大の制約でもなければ、最大のチャンスでもないのだ。彼らにとって何よりも悪いニュースなのは、バランスシートが企業の長期的なパフォーマンスを支えるのには限界があるとデータが証明していることだ。データをよく見てみると、多額の資金を調達してきた「富める者」のパフォーマンスが悪いことは確かだが、それでも現存するユニコーン企業は彼ら以上の資本を抱えていることが分かる。「富める者(データ中の時価総額上位20社)」の非公開市場での資金調達額の中央値は1億9300万ドルだった一方で、ユニコーン企業2億8400万ドルだ。しかも、ユニコーン企業は非公開企業であることから上場するまでにさらなる資金調達があってもおかしくはない。

私たちは企業に自給自足を勧めているわけでもなければ、のろのろとした成長を奨励しているわけではない。VCからの資金の申し出には「ただNOと言っておけ」と主張しているわけでもない。だって、私たちもVCなのだから。資金調達をまったく実施しなくても成功を収めた企業がいることは確かだが、それはとても珍しいケースだ。誰にも頼らずにスタートアップを創りあげたからといってボーナスポイントが貰えるわけではない。

起業家はみな同じように野心をもって企業を立ち上げ、みな同じように成功を渇望している。それは「貧しき者」も「富める者」も同じだ。「貧しき者」はただ効率的に事業を運営してきただけだ。何十億ドル規模のグローバル企業をつくりあげるために「貧しき者」がとったリスクは「富める者」よりも非常に少なく、かつ企業の持ち分も多い。この調査によって新たに分かったのは、資本の制約は企業に悪い影響を与えるわけでなく、逆に良い影響を与えるということなのだ。

これはVCに対する宣戦布告ではない。起業家への祝辞なのだ。

かつて、人々はゼロから何かを創り出すという起業家精神の神秘性に魅了されていた。しかし今では、まるで銀行のようにVCから多額の資金を調達する起業家が賞賛される時代となった。この状況は健全ではなく、変えていく必要があると私たちは思う。スタートアップ市場に大量の資金が流れ込んでいる一方、起業家が成功するために多額の資金を調達する必要はなく、少ない資本がより良いパフォーマンスにつながることが調査結果から明らかになった。それでも、今日の起業家の多くはそれとは逆のアプローチを取ろうとしているのだ。

私たちが批判しているのはVCマネーそのものではなく、VCマネーの非効率な使い方である。VCは多くのスタートアップにとって成功の原動力ではあるが、追加的に多額の資金を調達することを正当化できることはほとんどない。薬と同じように、VCマネーも服用すべき時と場合があり、それが持つ副作用には注意する必要がある。

私たちのポートフォリオには、大きな資本をもつ「富める者」も、ガソリンの匂いだけでエンジンを動かしているのかと思うほど効率的な「貧しき者」もいる。私たちが彼らに与えるアドバイスは同じだ。もし、追加の資金調達が不可能で、銀行口座に残っている資金が最後の資金だとしたら、あなたはどのように経営の仕方を変えるべきか?この答えまでたどり着くことができたとすれば、億万長者への入口はすぐそこかもしれない。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

 

IPO市場が活気を取り戻す一方、VCは慎重な姿勢を崩していない

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編集部注:本稿はBen NarasinとJeremy Abelsonによって執筆された。25年のベテラン起業家であるBen Narasinは、これまで8社に対してシード投資を実施しており、現在はCanvas VenturesのGeneral Partnerとして勤務する。Jeremy AbelsonはIrving Investorsの創業者であり、ポートフォリオ・マネージャーとして活躍している。

 

荒涼としたQ1と静かな夏が終わり、IPO市場はほぼ180度の方向転換をしようとしている。JPMorganは、同社が幹事を務めるものだけでも20社の新規上場を予定していると話し、そのうち9社をすでに米国株式市場に送り出した。おなじく市場全体(S&P500)も復活を遂げている。今年前半には1810にまで下がっていたS&P500だが、その後最高値(に近い)レベルの2193(9月時点)を記録し、その上昇幅は21%にもなる。

それとは対象的に、IPO市場とともに昨年の後半から冷え込み始めたVC投資市場はまだ静かなままであり、量から質への転換というスタンスを変えていない。少ないラウンド数、ハイクオリティな企業への集中投資などがその例だ。

公開市場とは違い、非公開市場の活気はすぐには戻らない。IPOのパーティーには音楽が鳴り響く一方で、プライベート・マーケットの調整は永遠に続くかもしれないのだ。18か月前であれば、初年度に100万ドルの収益をあげるようなSAAS企業はシリーズAで相当な額の資金調達が可能だっただろう。しかし、今ではそのような企業でも「第2シードラウンド」や「インサイドラウンド」といったものに頼らざるを得なくなっている。

公開市場

BETRRUNが上場した時のパフォーマンスからも分かるように、2015年8月以降IPO市場は急激に冷え込んでいった。BETRとRUNの上場時には、2社ともに募集枠以上の申し込みがあったにも関わらず、いざ上場すると株式が取引されることはほとんどなかった。本当の意味での買い手/株主が見つからなかったのだ。

買い手が疲れ果てていたのは明白だった。IPOの案件は急速に減り、買い手有利の市場が始まった。

それ以降、2015年度中に新規上場を果たしたのは数社のみ。テック系の目立った企業にいたってはSQTEAMの2社だけだ。そして、2016年初旬になるとIPO市場は完全に凍ってしまった。

この状況は各メディアで大々的に取り上げられた。専門家たちは大統領選挙や石油価格の下落、連邦準備銀行による利上げ、英国のEU離脱、中国とブラジルの不況などによってマーケットのボラティリティが上昇したことがIPO市場の冷え込みの原因であると主張した。これらの問題が完全に解決したわけではないが、それでも今では投資家はIPO市場への興味を取り戻しつつある。

関係者によれば、投資家たちは企業の成長ではなく、その価値に焦点をあてるようになったという。より具体的に言えば、すでに利益を出していたり、少なくとも黒字化までの明確な道筋を示している企業に投資をするようになったのだ。つまり、価値をともなう成長へのシフトだ。また、負債を多く抱える企業への投資にも慎重になった。このメッセージはシリコンバレー全体に響き渡った。シリコンバレーでは、バーンレート(利益が出る前に資本を消費する割合)を下げ、そして収益をあげる能力をみせて持続可能なビジネスであることを示すべきだと語られるようになった。

テック企業の株価収益率は今年はじめに下落し、その後回復してきてはいるものの、まだ2015年初めの水準には達していない。

  • Cybersecurity(最もダメージを受けた): 2015年7月の9.11倍に対し、現在は5.19倍
  • SaaS: 2015年7月の6.21倍に対し、現在は4.61倍
  • Internet Names: 2015年7月の5.69倍に対し、現在は5.83倍
  • Adtech: 2015年7月の4.26倍に対し、現在は2.13倍

2ヶ月前の一般的なコンセンサスは、少なくとも2017年までIPO市場は閉鎖したままになるだろうというものだった。つまり、17カ月ものあいだ新規上場案件が1つもないだろうという事だ。

そこにTwillioが現れた!

2016年6月22日、その日上場したTwillio(TWLO)は15ドルだった公募価格を92%も上回る初日終値を叩き出した。その後TWLOの株価は278%上昇。IPO市場は活気を取り戻した。

そんな具合に、IPO市場に再び注目が集まるようになり、それまでの恐怖はどこかに行ってしまった。市場が冷え込む原因となった数々の問題はいまだ解決していないにもかかわらず、IPOに対するためらいは完全に消え去ったのだ。おそらく、必要だったのはひとまずの休憩だけだったのだろう。「先の不況以来の深刻なIPO不足」という形をした小休止だ。

非公開市場

IPO市場の後を追うように、非公開市場における資金調達量は2015年3Qで1333を記録したあと、Q4には1137へと下落していった。2016年Q2までその傾向は続き、今年の資金調達量は2012年よりも少なくなる予定だ。

大衆に逆らう意思のあるVCにはチャンスが訪れている

1回の資金調達ごとの調達金額は増えてはいるが、資金調達の案件の数はそこまで増えていない。より規模が大きく優秀な非公開企業を対象に、より金額の大きな出資が行われているということだ。

IPO市場が冷え込むにつれて、「質へのシフト」は非公開市場でより顕著に見られるようになった。2016年のVCによる投資金額の合計は米国市場全体で318億ドルという状況のなか、UberとSnapの2社が調達した金額だけで45億ドルだ。急速に成長するSlack、Airbnb、Spotifyなどの企業もまた多くのラウンドを実施し、そのほとんどにおいて相当な金額を調達している。

また、人工知能、保険テクノロジー、自動運転技術、バーチャル・リアリティなどの分野には2015年初頭と同じレベルの注目が集まっている。だが、こういった分野以外での投資案件においては、VCはデューディリジェンスを重視する慎重な姿勢を崩していない。彼らは過去にユニコーン企業に熱中しすぎたという苦い経験を忘れていないのだ。VCマーケットは未だに買い手市場である。

ユニコーン企業に対するバイアスによって、2016年に誕生したユニコーン企業の数は劇的に減った。2015年のQ2、Q3に新しく生まれたユニコーン企業は49社だったのに対し、今年のQ1、Q2では12社だ。

今後はどうなるのか

株価が最高値をつけ、IPO市場も回復している(そして、パフォーマンスも良い)ところを見ると、公開市場が復活を遂げたことは明らかだ。2017年までIPO市場の活気は続くだろうと各投資銀行は話している。

一方で、ベンチャー投資業界に生じたひびはすぐには埋まらない。VCの慎重な姿勢がイノベーションを減速させているわけではない。しかし、VCから調達した資金によって誕生するイノベーションがあることも確かなのだ。

VCは企業がもつテクノロジーよりも、企業そのものに興味を持つようになった。彼らは企業がもつインフラ、トラックレコード、信頼性を見るようになり、次なるビックアイデアを持っているだけでは不十分なのだ。「どうやって数十億レベルのビジネスを育て上げるのか教えてくれ」というレトリックは、「どうやってこのアイデアをサステイナブルなビジネスにするのか教えてくれ」というものに変わった。

こうして、大規模で明らかな勝ち組である企業には買い手がこぞって集まる一方で、大多数の企業が、特に小規模の企業が資金調達をすることはとても難しくなった。しかし、大衆に逆らう意思のあるVCにとってはチャンスが訪れている。

より多くの時間、そして大きな価格競争力を利用して次のユニコーンを見つけ出すチャンスなのだ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

なぜシリコンバレーのトップ投資家たちは今、ラテンアメリカに投資するのか?

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ベンチャー〔編集部〕Julie Ruvoloは元TechCrunchライターで、現在はLatin American Private Equity and Venture Capital Associationの論説主任を務めている。

ラテンアメリカは、今地球上で最も見過ごされている市場かもしれない。

ラテンアメリカのベンチャー市場規模はインドや中国には及ばない。ウォールストリートジャーナルによれば、2016年前半の中国における新規ベンチャーキャピタルファンドは118億ドル(14%減)に上るのに対し、ラテンアメリカでは2億1800万ドルだった。「真のスタートアップ」となるには10億を超えるユーザーが必要だと考える投資家たちは、同地域の6億人という人口規模も見落としている。

しかしAndreessen Horowitz(コロンビア)、Founders Fund、Sequoia Capital(ブラジル)、QED(メキシコおよびブラジル)からの初投資によって、その様相は変わりつつある。

自分はここ数年、TechCrunch向けにラテンアメリカでの投資について書いてきた。VivaRealPSafeComparaOnlineDescomplicaなどのスタートアップのラウンドについて取り上げたこともある。また、幅広く成功中のMercadoLibreが設立した「KaszeK Ventures」や、その名のとおりRedpointとe.Venturesのジョイントベンチャーである「Redpoint e.Ventures」のようなラテンアメリカ地域の主要なローカル投資家を取材したこともある。

ローカル投資家の視点から見た場合、ラテンアメリカにおける機会には次のようなものがあるだろう。

  • インターネット人口は3億人から6億人へと倍増する見込み。
  • 人口の半数が銀行システムを利用していない(たとえばメキシコではわずか15%しかクレジットカードを所持していない)。
  • 人々のほとんどが安価なAndroid経由でオンラインに接続している。

注目に値するのはブラジルで、その人口2億人のうち、半数しかオンラインにいないにもかかわらず、すでに主要ソーシャルプラットフォームで世界2位または3位を占めている事実だ。また、データよっては、ブラジル人は(不思議なことになぜかOrkutに端を発して)世界のどの国民よりもオンラインで時間を過ごしているという。

ではベンチャーに関するデータはどうだろうか。ベンチャーキャピタルによる投資はこの5年間で着実な増加をみせている。2015年には過去最高となり、総額5億9400万ドル、182件以上の取引があった。ブラジルは経済的・政治的危機にもかかわらず、調達額と投資額の点でラテンアメリカのベンチャー市場ではトッププレイヤーだ。

Latin American Private Equity and Venture Capital Association(LAVCA)による年半データによると、ラテンアメリカでのベンチャーキャピタル取引は前年比で46パーセント増加したという(ちなみにLAVCAは筆者が勤務するOmidyar Networkがサポートする非営利団体だ)。

アメリカ国境よりも南では「大したことは起きていない」と思っているあなたのために、以下に自分が気づいた投資トレンドをいくつか紹介しよう。

シリコンバレーのトップ企業がラテンアメリカで投資を始めた

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ちょうど今年、Andreessen Horowitzがコロンビアの食料品宅配サービスRappiに、ラテンアメリカで初めての投資を行った。

Founders Fundもラテンアメリカでデビューを飾った。投資先は弁護士マッチングプラットフォームのJusbrasilと、フィンテック関連のスタートアップNubankだ。Nubankは昨年にかけてFounders Fund、Sequoia Capital(同キャピタル初のブラジルへの投資)、Tiger Global、KaszeK Ventures、QED Investorsから8000万ドルを調達し、さらに今年に入ってゴールドマンサックスによる5200万ドルの債務投資も受けた。

またゴールドマンサックスは今年、ブラジルの物流系スタートアップCargoXに対する1000万ドルの投資も率いた。その際にはValor Capitalと、Uberの共同設立者Oscar Salazarの参加があった。

メキシコではAccel PartnersとQED Investorsが初めての投資を行った。Accelは同国の食料品ショッピングサービスCornershopへのシリーズAで670万ドルを出資したのだ。このラウンドはラテンアメリカで最もアクティブなベンチャーキャピタルの1つ、ALLVPが率いた。QEDはKaszeK、Quona Capital、Accion Frontier Inclusion Fund、Jaguar Ventures(メキシコの投資会社)とともに、融資プラットフォームKonfioに向けた800万ドルのシリーズAに参加した。

メキシコは2015年、資金調達で初めてブラジルを追い抜いた

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2016年上半期には、メキシコの資金調達件数はラテンアメリカでトップとなった。取引数は47件(2015年上半期と比較して4.2倍)で、政府機関であるFondo de FondosとNational Institute of the Entrepreneur(INADEM)がここ数年で提供した資本によって活気づいたところが大きい。

(ちなみに、ブラジルにおけるベンチャーキャピタルのエコシステムも、BNDESFINEPからの政府出資で活性化した経緯がある。また、多数国間投資ファンドFOMINのSusana Garcia-Roblesが、ラテンアメリカ地域における70ファンド以上で個人的にアンカー投資を率いているのも注目に値する。)

今のところラテンアメリカのベンチャー投資ではフィンテックが優勢

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IT関連の投資では、フィンテックが投資額面で2015年には29パーセント、2016年上半期では40 パーセントを占めた。メキシコでは前述のKonfioに加えて、同じく融資プラットフォームのKueskiがCrunchFund、Rise Capital、Variv Capitalなどから1000万ドルを調達した(さらに2500万ドルの借入もあり)。ブラジルではIFCが1500万ドルを調達したGuiaBolsoのシリーズCを率い、KaszeK Ventures、Ribbit Capital、QED Investorsが名を連ねた。興味深いのは、ラテンアメリカでは人口の半数が銀行サービスを利用していないため、ほとんどすべてのフィンテック系スタートアップは直接的、あるいはそうと意図せずとも、市民の金融サービスへのインクルージョンに影響していると言える点だ。

MonsantoやQualcomm、BASFによる大規模投資で、アグテックもヒートアップ中

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ブラジルは、アメリカに次いで世界第2位の農業ビジネス市場だが、ラテンアメリカにおけるアグテックは全くといっていいほど注目されておらず、2011年以降は同地域におけるベンチャー投資の1パーセント以下しか占めていなかった。しかしこれも変わりつつあるようだ。Monsantoが、ブラジルのアグテックファンドBR Startupsに最大9200万ドルを投資することになった。このファンドはMicrosoftがQualcomm Venturesとの協力のもと管理しているものだ。

またQualcomm Venturesは、ブラジルで200万件以上あるすべての農場にドローン1機を配置するプログラムをローンチした。さらにドイツの大手殺虫剤メーカーBASFも、アグテックアクセラレーターのAgrostartを先頃ローンチしたばかりだ。

買収に精を出すブラジルのモバイル複合企業Movile

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ラテンアメリカ関連のデジタルM&A取引については、公に入手可能なデータが十分とはいえないが(これについては現在改善中だ)、現在最も活発に買収活動を行っているのはMovileのようだ。

Movileの子会社で、ラテンアメリカでオンデマンド式フードデリバリーの先陣を切るスタートアップのiFoodは、シリーズFで調達したばかりの3000万ドルでSpoonRocketを買収した。これは過去2年以内で15件目の買収にあたる。

また、メキシコではMovileのオンデマンド式デリバリー・配送サービスのRappidoが、ブラジルでのライバル会社99Motosを合併し、ますます勢いを増している。

注目の集まるアルゼンチン

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新たに選出されたマウリシオ・マクリが大統領となったアルゼンチンでは、起業を促そうと構造改革が進行中だ。

マクリ大統領とNational Secretary of Entrepreneurship(起業庁)長官のMariano Mayerは、起業家精神と新規企業設立の促進を目的とした一連の法案を発表した。このLey del Emprendedor(起業家法)では、起業家はオンラインから24時間かからずに登記して会社を設立できるようになる。Ley de Sociedades de Beneficio de Interés Colectivo(集団的利益に関する会社法)は、持続可能な環境的・社会的影響について定義し、ビジネスを承認する法律としてはラテンアメリカ地域で初めてのものとなる。

加えて、新たに10件のファンドを設立して起業家が資本にアクセスできるようにする計画(このうち3件は今年末までにそれぞれ3000万ドルを調達する予定)や、クラウドファンディングの許可に関する法案も提出予定となっている。これと似た企業の新設を後押しするための法案プロジェクトは、メキシコシティとブラジルでも進行中だ。

<筆者付記>ラテンアメリカのベンチャー資金調達や投資データ、ローカルおよび世界で最もアクティブな投資家と最大規模の取引などについては、LAVCA発行の5年間の動向レポートをお読みいただきたい。最新のベンチャーキャピタル取引をフォローするには、同じくLAVCAが隔週発行するLatAm Venture Bulletinの定期購読をおすすめする。

 

画像提供:LEIRIS202/FLICKRCC BY 2.0ライセンス)

原文へ

(翻訳:Ayako Teranishi / website

会議、ブレーンストーミングで頭が良さげに見せる9つのトリック

2016-10-02-shipit

この記事はCrunchNetworkのメンバー、で作家、コメディアンのSarah Cooperの執筆。Cooperは風刺的ブログのTheCooperReview.comを運営している。以前、Googleドキュメントのデザイン責任者を務めたことがある。現在は企業を舞台にしたユーモアの執筆と講演に力を注いでいる。CooperのFacebookInstagram。以下の記事はCooperの近刊、 100 Tricks to Appear Smart in Meetings

(『会議で頭が良さげに見せる100のトリック』 10月4日 Andrews McMeel刊)からの抜粋

会議やブレーンストーミングの席でなにか新しいアイディアを考え出さねばならないという圧力はときに息苦しいほどになる。幸か不幸か、たいていの場合、会社が求めているのは新しいアイディアではない。

本当は無意味な暇つぶしであるこうしたミーティングで重要なのは「そこにいること」だ。その過程で「他人が出したアイディアを自分のアイディアのように思わせる」、「ミーティングの効果を疑うような発言をして自分がその場のリーダーであると印象づける」ことができれば理想的だ。

以下、あなたがそのグループの創造力の源であると思わせるのに役立つ 9つのトリックを紹介しよう。

  1. 水を取りに行きながら「誰かなにか要る?」と尋ねる

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ミーティングが始まる前にすかさず立ち上がって「誰か何か要る?」と尋ねる。メンバーはあなたが思慮深く親切で気前がよい、と感じる。その上、一切の言い訳を必要とせず、10分間席を外していることができる。 誰も何も欲しがっていなくても、ミネラルウォーターや清涼飲料水のペットボトルと適当なスナック類を持ち帰ること。

メンバーはどうしてもその飲み物、食べ物に手を出すことになり、その過程で皆はあなたの先見性に感じ入る。

  1. 粘着パッドに何か図を描き始める

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ミーティングのテーマが説明されたら粘着パッドの大きいのを一枚剥がしてなんでもいいからフローチャートみたいな図を描く。 同僚は自分たちがまだテーマをよく飲み込めないでいるうちにあなたが即座にかくも複雑なアイディアを思いつけたことを不安な面持ちで盗み見ることになる。

  1. あまりくだらないので考え深か気に聞こえるような比喩を持ち出す

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皆が問題を定義しようと努力を始めたら、ケーキを焼くとか、そのようなわけのわからない例えを持ち出す。同僚は当面の問題との関連が全然理解できなくともともかく同意のうなずきを示すはずだ。わけがわからないことを言われると人は完璧に自分のレベルを超越した創造的なアイディアの持ち主なのだと思ってしまう。あなたがケーキが好きなだけだということは気づかれない。

  1. 「それは正しい質問かな?」と質問する

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問題が難しくなってきたとき、質問の意義を疑う質問をすることほど質問者の頭を良さ気に見せるものはない。万一誰かが「われわれの質問が正しい質問かどうかってそれはどういう質問?」と質問の意味を尋ね返してきたときには「それがまさに私が質問したかった点だ」と答えよう。

おまけ:些細に過ぎるアイディアをけなす方法

自分は考えのスケールが大きいゲームチェンジャーだというように振る舞っているときにスケールの小さいアイディアに悩まされそうなときがある。

以下のようなフレーズが対策として有効だ。

  • それはディスラプトするかな?(But how is it disruptive?)
  • 10倍にスケールできる?(Is this 10x?)
  • それが未来というものだろうか?(Is this the future?)
  • それはダメだったはずだと思う。(I thought that was dead.)
  • 決定的な勝利なのか?(What’s the big Win?)
  • Appleがもうやってないか?(But isn’t Apple doing that?)
  1. イディオムを使って質問する

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イディオムを使って質問の形でけなすのはスマートで有効な方法だ。こういうイディオムの中から選ぶのがよいだろう。〔いずれも「それは無用だ、かえって悪化させる」の意〕

  • ユリをさらに金メッキで飾ることにならないか?(Isn’t that gilding the lily?)
  • 豚に口紅では?(Isn’t that putting lipstick on a pig?)
  • クソ団子を磨くようなものだ(Seems like we’re polishing a turd.)
  1. アイディアが湧き出すきっかけになるようにみえるとっぴなクセを身につける

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「考える助けになる」とか「アイディアが沸いてくるんだ」というようなことをいってとっぴなクセを披露する。パジャマ姿で現れる、床にあぐらをかいて沈思黙考する、その場でジョギングする、ボールを壁にぶつける、スティックをデスクの引き出しから取り出してドラムを叩く真似をするなどいろいろ考えられる。複数を混ぜて実行してもよい。 アイディアは出て来なくても同僚はあなたのコントロール不可能な創造的精力らしきものに恐れをなすはずだ。

おまけ:ビッグ過ぎるアイディアをけなす方法

アイディアが非常にビッグな場合、あなたは会社のリソース配分について真剣に考えているところを見せるのがよい。

以下のようなフレーズが参考になる。

  • ディスラプトしすぎてないか?(Is it too disruptive?)
  • ロードマップにはどう収まる?(How does this fit into the roadmap?)
  • つまりピボットしろと?(This seems like a pivot.)
  • 無理筋というものでは?(Isn’t that a non-starter?)
  • それはスコープ外では?(Isn’t that out of scope?)
  • それをどうやってテストする?(But how would you test that?)
  • それは国際化できる?(Will that work internationally?)
  1. 「CEOはどう考えるだろう」と言ってみる

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同僚に自分がCEOなどのトップと非常に親しいことを印象づける。まず「このアイディアだがCEOはどう思うかな?」と言ってみる。あるいはCEOのファーストネームを親しげに呼ぶ。次に彼/彼女に会ったときこの話題を持ち出してみよう、と言う。CEOが大いに気に入りそうなアイディアを思いついておめでとうと皆を祝福する。 CEOにたいへん近いことを十分にわからせると同僚はあなたをCEO候補の一人ではないかと考えるようになる。

  1. 「それは正しいプラットフォーム(フレームワーク、モデル)だろうか」と尋ねる

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「前進のためのフレームワーク」というような言葉を持ち出すと、同僚より大きなスケールで考えているように見せることができる。「思考のモデル」でもいいし「これをいかにプラットフォーム化するか」でもいい。こういメタ単語は同僚を煙に巻き、自分には何も新しいアイディアがないことを隠すのに効果的だ。

  1. あるアイディアを皆が気に入りそうだったら、すかさず「よし、それで決まりだ!」と叫ぶ

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全員があるアイディアに興奮している、あるいは気に入っているように見えたらこう叫ぶのがよい(原文、Ship it!は「(製品などを)出荷する」の意味)。たしかに多少とっぴな印象を与えるし、笑う人間もいるだろう。しかしあなたはこれによってある種の権威を確立できる。あたかも会議の結論を出したり、ミーティングを終わらせたりする権限が―実際は少しもないのに―あるように見えるのだ。

100 Tricks to Appear Smart in Meetings は10月4日に刊行される。 予約はこちらから。著者のサイト100Tricks.comでも関連記事が読める。

〔日本版〕 上記はもともとユーモア記事だし、日本の現実と直接比較するのは難しい。しかし風刺として笑えるだけでなく、誇張にせよアメリカのテクノロジー企業のミーティング、ブレーンストーミングの雰囲気がうかがえる。例文には原文を残し、日本文はなるべく逐語訳に近いものにした。一部それが難しい場合があり、non-starter(競馬での出走取り消し馬)は「無理筋」としてある。ship itなどについては訳文内に注記した。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

GoogleがTwitterを買収するなら、YouTubeと統合するのがベストだ

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最も早いタイプのSNSと最も遅いタイプのSNSを組み合わせたら、それはみんなが見るような、忘れらないSNSになるだろう。

YouTubeには短く、頻繁に更新されるコンテンツはないが、YouTubeの動画とそれに付随する視聴者は多額の利益をもたらす広告を惹きつけることができる。Twitterはグロースとマネタイズに苦戦しているが、それは地球の鼓動を体現し、無数のリアルタイムのコンテンツとエンゲージメントを生んでいる。

Kara Swisherが伝えところによると、買収額300億ドルという。この金額をGoogleが支払うことに意欲的なのなら、両者はきっと強力なチームになることができるだろう。

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YouTube’s new Twitter-esque Community tab

CNBCTwitterが売却を検討していると報道した。TechCrunchでもTwitterは他にVerizon、Salesforce、Microsoftと買収の話をしていると伝えた。また、Disneyも入札を検討しているようだ。

これらの買収先の中では、Googleが一番合っているようにみえる。GoogleはTwitterと連携しやすいプロダクトをいくつか所有している。それにGoogleはYouTubeを買収以後、成功するソーシャルネットワークを作れていない。そして、Googleは検索広告というありえないほど利益をもたらすビジネスを保有しているので、財務的に不安定なTwitterを支援することができるだろう。

GoogleはTwitterの買収で、大量のデータ入力を期待でき、世界の情報を整理するという目標に向かって前進することができる。GoogleのAIが、世界で何が起きていて、人々がそれにどのような反応をしているかの理解することの助けにもなるだろう。それに加え、GoogleのAdwordsやAdSenseで知り得た全てのデータを合わせることで、効率的なマネタイズも実現できるかもしれない。

しかし、最も良い戦略はYouTubeの散発的な動画コンテンツとTwitterの定常的なおしゃべりを組み合わせることだと私は思う。YouTubeとTwitterが深く連携することで、YouTubeチャンネルには洗練された動画と無加工のツイートが揃い、熱狂的なファンのためのワンストップサービスになることができる。それは、コンテンツ・クリエイターのチャンネルに視聴者が再訪する率を高めることが期待できる。

Googleはつい最近、YouTubeにTwitter風機能YouTube Communityを実装したばかりだ。これを本物と置き換えることができるだろう。

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YouTube Community はYouTubeのチャンネルのサイドバー/タブにあり、クリエイターがテキスト、写真、GIF、リンクなどを共有することができる機能だ。これにより、クリエイターは視聴者とさらに深い関係性を築くことができる。クリエイターが週に2、3回、新しい動画を投稿した時だけユーザーがサイトを訪れるのではなく、もっと頻繁にYouTubeへの来訪を促すことが目的だ。YouTubeのアルゴリズムによる提案を駆使すれば、そういった視聴者に他の動画や、ユーザーのお気に入りのスターの過去動画を紹介したりすることができるだろう。

これができればYouTubeは、Facebookと競争する力を補強できる。Facebookはユーザーが新しい動画を発見できる仕組みを組み込むことで多くの視聴者を得ている。ユーザーは友達の近況を知るためにニュースフィードを訪れるが、気がつくとランダムに流れる動画を視聴している。この環境では、ユーザーは特定の見たい動画があって視聴しているわけではないため、Facebookには高額な動画広告を差し込むチャンスが生まれる。YouTubeはこれまで、ユーザーが特定の動画を見たり、フォローするクリエイターの最新の動画クリップを見るために訪れるサービスとして発展してきたのだ。

一方Twitterは、YouTubeのメインストリームやティーネイジャーの観衆への露出があることで多大な恩恵を受けられるだろう。Twitterにサインアップする動機がまだいまいち理解できていない人もいる。公人でなく、ツイートだけで大きな観衆を作ることができないユーザーは特にそうだ。しかし、YouTubeに実装されるなら、ユーザーにスターや業界の聡明なリーダーなどをフォローしたり、返信したりできるようになる。自分自身でオリジナルのツイートをしなくとも楽しめるTwitterの隠れた良さを伝えることができるかもしれない。

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Googleが買収するならTwitterは、自分たちで直接マネタイズする圧力から解放されることにもなるだろう。Twitterの収益の伸び率は芳しくなく、急速に縮小している。Twitterが提供する「スポンサードツイート」などの広告商品は、ユーザーの目に止まりにくいという問題もある。

人々は、Twitterのタイムラインのツイートを全て細かくチェックしているのではなく、飛ばし読みしていることが多い。Twitterの広告は、Facebookの広告より飛ばされやすい。それはFaebookの投稿はアルゴリズムでソートされ、リアルな友達の投稿はじっくり読むことが多く、その合間に出てくる広告も視聴しやすい環境にあるからだ。Twitterの最も効果的な広告形態は動画で、YouTubeが提供する体験と広告主とのつながりは、Twitterの広告を促進させる力があるだろう。

いずれにしろTwitterは変わらなければならない。ただ、Twitterの売却で資金を得たい投資家は前向きではないかもしれない。株価はどんどん下がっている。決算発表がある度に、ユーザーグロースの問題が収益グロースの問題へと発展し、希望が失われているように感じられた。新たなマネジメントを迎え、クロスプロモーション施策に実績のあるGoogleのようなテクノロジー企業の後ろ盾があれば、Twitterはその翼を治すことができるかもしれない。

[原文へ]

(翻訳:Nozomi Okuma /Website

「AI時代」の子どもたちはロボットの夢を見るか?

Little boy holding his daddys hand, wearing box over his head with robots face drawn on it.

編集部:Crunch Network ContributorのRemi El-Ouazzaneは、最近Movidiusに加わった。前職ではTexas InstrumentsのOpen Multimedia Applications Platform (OMAP) 部門担当およびグローバル業務部長を務めた。

想像してみよう、ここに5歳の女の子がいる。母親はSiriに、父親はAlexaに話しかけているのを毎日のように見ている。こうしたやり取りは、その子の目にはどのように映っているだろうか。最近の子どもたちは、心を持っているような、あるいは関わり合いの対象として実在物のようにすら見えるコンピューターを目の当たりにしているのだ。今の子ども世代にとってのマシンというもの - そして世界そのもの - の認識は、当然私たちのそれとは大きく違っているのではないだろうか。

人工知能(AI)は、今日最も前途有望なテクノロジーのひとつだ。たとえ私たちの生活様式、経済の動向、社会が機能する方法に衝撃的な変化をもたらす可能性が低かったとしても、そのことに変わりはない。膨大な量のデータと、それを分析する計算力のおかげで、テクノロジー企業はまるでゴールドラッシュの様相を見せるAI分野で進歩を遂げている

ディープ・ニューラル・ネットワークの活用のような新しいアプローチは、AI分野では画期的な成果をあげた。その一部は、次の10年では起こらないだろうと予測されていたほどだ。Googleが囲碁の世界チャンピオンを負かしたのは有名なだし、今後も推論や計画の組み合わせによるディープラーニングの進歩、あるいは創造性とアートのエミュレーションすら含め、さらに多くの事例が登場することだろう。

機械学習のアプローチはAIへと進化を遂げつつあり、医用画像から株取引にまで応用されている。それによりマシンはビッグデータの多大なる利点を保ちつつ、より人間らしい方法で思考できるようになるのだ。

2016年現在、私たちの多くがコンピューターの使用における次世代の始まり — AI革命 —  に立っていると信じている。この「人工知能の時代」が「モバイルの時代」を継承すると仮定するならば、このことは「ジェネレーション I」(情報化時代)を継承する子どもたちにとって、何を意味するのだろう?「AIの時代」に育つことの意味とは?そして社会全体として、私たちはこの変化をどのように促進し、この進歩が善用されるようにできるだろう?

現在のオートメーションに関する議論は、すでに対立があることを示している。それが自動運転車、工場のオートメーション、あるいはロボット手術についてであろうと、この話題に不安あるいは疑念すら抱いてかかる大勢の人々がいるのだ。

人が行っている仕事の大部分をマシンが遠隔で再現するなんて突拍子もない考えだと多くの人が思っている。というのは、マシンたちの優雅さに欠けた進歩の過程を目にしてきたからだ。今生きている大人なら、日常生活にコンピューターが存在していなかった世界を、また黎明期における成長痛の目撃例を思い出せるだろう。分厚いマニュアルやクラッシュ画面、2000年問題のバグに苦しめられた、あの時代だ。今の子どもたちが目にする直感的かつ堅ろうで、信頼できる現在のシステムと比較になるだろうか。

子どもたちはもう間もなく、マシンを「エンジニアリングの偉業」ではなく、「感覚をもった存在」として認識しながら育っていくだろう。

しかし、一部の人々がいくら懐疑的になったところで、事実を否定することはできない。AIが工程を改善し、安全と効率を向上しているという見方は広く認められている。やがて車のハンドルをマシンに明け渡さないと軽率あるいは公然の無責任として受け取られる日が来るだろう。法的な観点では、1975年(41年前)のKlein対米国連邦判例がすでに先例となっている。この件ではパイロットが自動操縦装置を解除し、手動操縦を選択したことが怠慢とみなされたのだ。人々が車の自動運転を解除して手動で運転することを選び、怠慢とみなされて訴えられる日まで、あとどれだけかかるだろう?

TeslaのCEO、イーロン・マスクは、自社の自動運転機能がアメリカ国内の自動車平均よりも10倍安全であると示せた時点で「ベータ版」と書かれたシールをはずすと述べた。しかし将来的にシールが取れたとしても、統計的に10倍安全なオプションを意図的に避けているという理由で、「無責任な行動をとっている」と手動ドライバーを非難するのは難しいだろう。AI世代ならばそんな説得工作がなくても、マシンに主導権を明け渡すのではないだろうか。

オートメーションを受け入れたあかつきには、社会における生産活動と労働の捉え方は根本的に変化するだろう。AI世代が生活のあらゆる面でオートメーションを取り入れれば、経済はそれに適応せねばならないし、実際に適応の道筋をたどることになるはずだ。富の再分配、私企業、あるいはユニバーサルな生活賃金のような概念について対処する必要も出てくるだろう。技術的かつ知的な苦闘のあとには、もっと大変な作業が待ち受ける。コンピューターが発明される200年も前に生まれた1人の男の著述に根付いた経済システムと「自動化を認めた世界」を順応させる、あるいはまるごと入れ替えるという哲学的な課題だ。

I世代がiPadとスマートフォンを生まれながらに受容したのと同様に、AI世代は、AIの備わったマシン - 精神と、思考(として認識される)能力が宿るマシン、さらには人工的な共感性やカリスマすら備わったマシン - を当たり前のように受容するだろう。

社会が大きくて根源的な問いに答えを出さねばならない一方で、AI世代としても自分たちの私生活でどのようにAIを取り入れるのか考える必要が出てくる。チャットボットとの会話や仮想デートの利用は、今でこそ「不気味」の領域に入ってしまうが、iPhone上のSiriや、キッチンに置いたAlexaに話しかける両親のもとで育った子どもたちにとっては、移ろいやすい人間関係を避け、シミュレートされた関わり合いに興味をもつのも、敷居は低いだろう。

未来の世代にとっては「ロボットの権利と保護」という発想も、大して違和感がなさそうだ。当然のことながら権利には責任がついてまわる。いつの日か自動運転車が殺人の罪で訴えられるようになるだろうか。あるいはお手伝いロボットが刑事的な違法行為で起訴されるのだろうか。冷笑する前にちょっと思い出してほしい。私たち自身の司法システムがサルを裁こうとしたのは、ほんの少し前のことだったではないか。

子どもたちはもう間もなく、マシンを「エンジニアリングの偉業」ではなく、「感覚をもった存在」として認識しながら育っていくだろう。彼らにとっては、「何がAIを『真のAI』たらしめるのか」という哲学的な議論が争点になるだろう。なぜなら、実際に「何が」AIを動かしているのかに気づくよりもずっと前に、マシンが人間らしい方法でインタラクションする世界(そう、驚くべきことに人間「だけ」に向かって!)で彼らは育つのだ。本物そっくりな人格や共感のシミュレーションのおかげで、マシンの擬人化はさらに簡単になるはずだ。

車輪の発明を目の当たりにした私たちの祖先は、おそらく「車輪ってけっこう便利だな」とは思っただろうが、その後も数多くの技術の進歩にとって重要な役割を果たすことになるなどとは思いもしなかったはずだ。私たちは、というと、AIが未来の世界に影響をもたらすだろう、と、かろうじてその方法を想像し、うっすらと感じ取ってはいるように思える。しかし、人間社会がここで述べたような課題にどのように向き合い、「必ずしも人類だけが知的な存在ではない世界」に順応するかは、時間のみが知るところだ。

画像提供: SALLY ANSCOMBE/GETTY IMAGES

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(翻訳:Ayako Teranishi / website

シリコンバレーでは、スタートアップ経験が履歴書代わりになりつつある

WE ARE HIRING, vector. Card with text in hands. Message on the card WE ARE HIRING, in hands of businessman.  Isolation on background. Vector illustration flat design style. Template.

編集部:筆者のSaeid FardはCrunch Network Contributorで、Sokanuのデジタル・デザイナー兼プロダクト担当。

エンジニア5人とその仲間が集まってエンジェル投資をいくらか募り、スタートアップを設立したと思ったら、ほとんどもしくは全く収益もないまま1000万ドルで売却。一体どういうことなんだ? ありがちな解釈ならば、ITバブル、思慮のない”アクハイヤー”(買収による人材獲得)、あるいは不合理な共同幻想ということになるだろう。

しかし、もう少し大きな視点から見れば、たとえば超一流の人材が報酬を得る方法が根本的に変化したとか、何か別の現象なのかもしれない。

約10年前、最後のITブーム以前には、最も優秀な新卒学生はウォール街でキャリアをスタートしたものだった。今日では、ますます多くの新卒者が、アメリカの新たな経済的中心地であるシリコンバレーに照準を合わせている。そこでは理想主義や「世界を変えてやろう」というカルチャーを押し出してはいるものの、実際にはウォール街と同様、優秀な若手を魅了する金と権力への約束がまん延している。

両者の似通った点はそれだけではない。テクノロジーの世界でも、成功は売上規模と短期での投資回収にかかっている。何十億ドル規模のヘッジファンドの運営陣は、5~6人程度のことが多いのと同様に、2~3人のエンジニアで何十億ドルも生み出すプロダクトを開発することができる。これら2つの産業はどちらも労働効率が非常に良い。よく言うように、優秀なエンジニア1人は、良いエンジニア10人分に匹敵するのだ。

効率の追求は、一流の人材を獲得するための巨額のインセンティブにつながり、その結果、皮肉にも使えない人材を高い費用で雇ってしまうことになりがちだ。今こうして技術革命の黎明期にあるシリコンバレーは、いうなれば「開拓時代の西部の荒野」のようなものだ。大企業が生き残りと長期的な市場シェアをかけて戦いを繰り広げる世界では、どの人材を雇うかはずっと先まで影響をもたらし続ける重要事項だ。

しかしテクノロジー業界は金融業界とは異なり、価値ドライバー、つまりエンジニアやデザイナー、その他プロダクト担当者を評価し、能力に見合った報酬を出すのはもっと難しい。MBA用語的に言えば、これはバンカーやトレーダーがレベニューセンター(収益に責任を負う部門)なのに対して、エンジニアとデザイナーがコストセンター(費用だけが集計される部門)であることが原因だ。金融業ならば社員の純益への貢献は簡単に評価が可能で、スター社員を見分けたければ「いくら儲けたか見せてみろ」と尋ねれば済む。

一方でエンジニアの場合、プロジェクト全体への貢献や、プロジェクトの成功が事業の存続にどれだけ貢献したかをはっきりと測るのは困難だ。トレーダーの場合なら、先の取引で上げた利益がその人材の価値になる。では「インフラストラクチャ分析チーム在籍の某エンジニア」の価値は一体どれだけだろうか。

どの人材を雇うかは、ずっと先まで影響をもたらし続ける重要事項だ。

テクノロジー業界は、いまだにエリート人材への報酬はどうあるべきかを模索中だ。なぜなら、これまでにコストセンターが業界全体の収益に対して影響力をふるったことなどなかったからだ。たとえば製薬業界の場合でも、事業の命運はプロダクト(の研究開発)にかかっている。しかし製薬関連でスタートアップを立ち上げる手間とコストは一般に高すぎるため、ガレージで何かを作るようなことは不可能だ。その結果、研究開発チームの貢献度は高くても、経営側に対する発言力は高くはならない。

こうした事情と背景は、興味深いインセンティブ・システムを創りだした。雇用側は一流の人材を確保したいし、高額な報酬も喜んで支払う気でいるが、情報の非対称性とエリート社員の持つ交渉力の問題がある。世界中のGoogleのような企業は、業界トップレベルのプログラマーになら法外な金額を支払うことができるし、実際にそうするだろう。しかし、たとえばスタンフォード出の新卒学生の場合になると能力自体は測定不能なので、その人材が今後トップ・プレイヤーになるかは「予測」しかできない。しかし少なくとも、100万ドルの契約金を正当付けるだけの説得力がないことは明らかだ。

テクノロジー業界では、頭が良くて野心のある若手へのインセンティブは、従来の労働モデルと同列に考えることはできない。大手企業に入社して、実力を証明したり、自分の価値が認められるよう社内政治に精を出したりすることに何年もの年月を費やしたとしても、本来桁外れであるべき報酬が十分に支払われない可能性も高い。だが代わりにスタートアップを立ち上げて成功すれば、一生分の給料をものの数年で稼ぐこともできるだろう。

スタートアップの評価は、売上のような従来型の指標に依存しないことも特徴だ。なぜなら、そもそもスタートアップというものは、事業やプロダクトとしての成熟など全く意図していないからだ。最高のケースでは、もっと大きな企業の製品ラインナップにニッチなプロダクトとして加わり、営業チームが代わりに広めてくれる。最悪のケースでも、その人材がプロダクト開発ができることの証明にはなるだろう。スタートアップでの経験は「生きた履歴書」となり、採用時には履歴書と実力のギャップを縮めてくれるだろう。

このようにして、スタートアップは人材市場の空洞を埋めはじめている。「スタートアップを立ち上げる」という行為そのものが、自分は雇われる価値があると証明し、自らが創出した価値をさらに増幅するための影響力を得る手段になるのだ。企業側としても、人材の過去の実績そのものは入手できなくても、だれかが何年もかけて開発したプロダクトと、それを生み出した頭脳を活用する権利は獲得できることになる。

では、スタートアップがたどる最も一般的な道のりとはどのようなものだろう? 率直に言うなら、それは「失敗」だ。さまざまなサクセス・ストーリーはあっても、大成功を収めるビジネスはほんの一握りだ。加えて、どのスタートアップも口をそろえて自社の使命や世界の変革のようなことを振りまくけれども、ファウンダーの多くはただ単に何百万ドルかを稼いで、自分のエゴと財布を満たしたいだけなのだ。

注目を浴びる大ヒット・ビジネスのたどった道のりだけを見てスタートアップの価値を判断したならば、シリコンバレーで起きていることの多くは正気の沙汰には見えないだろう。けれども一部のスタートアップを人材市場にとっての「機能の追加」として捉えるなら、少しは理にかなっているかもしれない。

画像提供: ANASTASIIA_NEW/GETTY IMAGES

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(翻訳:Ayako Teranishi / website

髭剃り定期購買「Dollar Shave Club」のCEO、Michael DubinがUnilever による買収を語る

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編集部記:David Pakmanはニューヨークに拠点を置くベンチャーキャピタルVenrockのパートナーだ。アーリーステージのインターネット、デジタルメディア企業を中心に投資している。

Dollar Shave Clubのアーリーステージにおける投資家として私はDollar Shave ClubのCEOを務めるMichael DubinとUnileverによる買収、そしてこれまでの軌跡について話を聞いた。Venrockの「Running Through Walls」のポッドキャストでその様子を放送している。

この会社が初期の頃にローンチしたユーモアたっぷりのビデオを覚えている人も多いだろう。ネット上で大きな話題となったそのビデオは、会社のウェブサイトをクラッシュさせるほどの人気となった。「ビデオの人気が凄すぎて、もう会社が立ち直れないんじゃないかと思いました」とDubinは話す。

会社は見事に立ち直り、Dubinは男性の手入れの分野で確固たるブランドを築きあげた。彼は自社の物流センターを訪れたときに、ベルトコンベアを流れる大量の出荷待ち製品をみて、自社プロダクトがどれほど多くの人々の生活に役立っているかを目の当たりにし、会社の成功を確信したという。「アメリカ人の約3%は朝起きたらDollar Shave Clubの製品を使っているのです」。

Dubinはその昔、即興劇のクラスを取ったこともあり、ユーモアはいつでも会社のカルチャーで重要な役割を果たしてきた。彼はそのクラスで学んだことをCEOとしての仕事に生かしてきた。「台本なしでステージに立つことは、どんな困難にも立ち向かうための訓練になります。スタートアップ向けの最高のトレーニングでした」。

買収後もDubinは引き続きCEOとして新製品の開発と海外展開を中心とした「平常業務」を続けていく予定だ。Dublinによると「Unileverは世界で有数の先進的、革新的な一般消費材メーカー」で、Dollar Shave Clubの買収先として理想的な相手だという。

5年後には「ネットショッピングの概念に意味のある変化を与える」企業になることを目指しているとDubinは言う。

[原文へ]

(翻訳:Maki Itoi)