Facebookの決済ライセンス取得で危ぶまれる銀行の存在意義

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【編集部注】執筆者のChristoffer O. Hernæsは、チャレンジャーバンクかつノルウェイ初のオンライン専門銀行であるSkandiabankenのチーフデジタルオフィサー。

Facebookはアイルランドで電子マネーと決済サービスのライセンスを取得したことを、昨年12月頭にようやく明らかにした。しばらく前にFacebookが送金ライセンスを申請したという報道がなされた頃から、同社がヨーロッパで決済市場に新規参入するかもしれないとは噂されていた。さらにPayPalの前社長David MarcusをFacebook Messengerのトップとして迎えたことから、Facebookが決済市場参入の野望を抱いていることは明らかになりつつあった。Mark Zuckerbergが昨年1月に「私たちは決済サービスを提供している会社全てと提携していくつもりです」と話していた通りだ。

アメリカでは既にFacebook Paymentsが提供されており、ヨーロッパでも同サービスを展開するという戦略がまず頭に浮かんでくる。そしてFacebookがMessengerプラットフォームのスティッキネスを高めるためにシンプルなP2P決済サービスを提供することで満足するのか、はたまた5000億ドルを超える世界の送金市場を狙っていくのか、というのはこれから明らかになってくるだろう。

決済を他のサービスと組み合わせて考えると、Facebookが決済サービスを提供し始めることで、従来の銀行は現在の地位が危ぶまれることになるかもしれない。

改正後の決済サービス指令(PSD2)のもと、ヨーロッパの各銀行は金融系のサードパーティに対して決済APIを提供しなければならなくなる。さらにユーザーはサードパーティに1)支払指図と2)口座情報の抽出を委任できるようになる。

Facebookはコンシューマー市場における最も強力なデジタルエコシステムを誇る企業として、リテールバンクを省くことができるポジションにいる。

Facebookは既にFacebook Marketplaceのローンチでクラシファイド広告市場を変革しており、PSD2がヨーロッパ各地で法制化されれば、Facebook自体が支払指図サービス事業者(PISP:Payment Initiation Service Provider)として決済処理を行い、APIを通じて口座情報を直接Facebookのプラットフォーム上に引っ張ってこれるようになる可能性がある。そうすれば、Facebookは支払い関する情報を取得するため、消費者に対して銀行情報にアクセスする許可を求めるられるようになり、一旦アクセスが許可されれば、Facebookはセキュアに消費者の口座へアクセスし、代金を回収できるようになる。

FacebookがPISPになることで、コスト削減以外にも複雑な支払プロセスが省略され、繰り返しサービスを利用する顧客に対しては“ワンクリック”支払のオプションも準備されるだろう。さらにPSD2のもと、顧客の銀行口座から代金を直接回収できるようになれば、支払にかかる時間が短縮されるほか、従来の業界構造も大きく変わってくることになる。

さらにFacebookは、口座情報サービス提供者(AISP:Account Information Service Provider)にもなれる。PSD2では複数の口座にまたがった情報をAISPが取りまとめられるようになっているので、AISPは消費行動の分析サービスを提供したり、複数の銀行の口座情報をひとつにまとめ、ひとつひとつの口座に紐づいた旧来のモバイル・オンラインバンキングソリューションを代替したりできるようになる。

またチャットボットが銀行サービスに大きな変化をもたらすことになるのは既に周知の事実だ。というのも、銀行サービスの大部分は、「次の給料日までに使える金額はいくら?」や「まだ払ってない請求書の支払処理行って」といったシンプルなメッセージを利用して自動化することができるのだ。Facebook Messengerで全てセキュアに行うことができれば、銀行のアプリにわざわざログインする必要はなくなる。

一方、決済ライセンスを持った企業として、Facebookがソーシャルレンディングプラットフォームを運営するためには、一部地域で決済リスクに関する規制対応を行わなければいけない。ヨーロッパ中で300以上の企業が類似サービスを提供しているソーシャルレンディング業界の競争は厳しいが、Facebookは膨大なユーザーベースやユーザーデータ、リスク・信用査定のための口座情報を武器にすることができる。

Facebookはコンシューマー市場における最も強力なデジタルエコシステムを誇る企業として、リテールバンクを省くことができるポジションに既にいる。同社が現在の地位を維持するためには、日々変化する消費者行動に沿って進化していかなければならない。この点に関し、これまでのところFacebookは素晴らしい実績を残している。またFacebookが持つデジタルエコシステムとしての大きな力は、全てのユーザーの個人情報を管理しているという事実に支えられており、上手く行けばFacebookを利用することで電話番号やメールアドレス、口座番号さえ不要になるかもしれない。

その結果、将来的には今私たちが知っている銀行のサービスはコモディティ化し、送金やECのほか日常的な銀行業務含む顧客とのやりとりは全てFacebook PaymentsやFacebook Messengerを通して行われるようになるかもしれない。PWCが行った調査によれば、銀行員の68%が今後顧客との結びつきをコントロールできなくなるのではないかと心配している。Facebookがきちんと規制に対応すれば、その心配は間違いなく現実のものとなるだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ソーシャルレンディング界のユニコーンFunding Circleが新たに1億ドルを調達

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ヨーロッパでフィンテック企業に対する新たな大型投資が行われた。ロンドンに拠点を置き、小規模事業者に融資をしたいと考えている投資家と企業を結ぶソーシャルレンディングプレットフォームを運営しているFunding Circleが、1億ドルの資金調達を行ったのだ。Accelがリードインベスターとなった今回のラウンドには、以前からFunding Circleに出資していたBaillie Gifford、DST Global、Index Ventures、Ribbit Capital、Rocket Internet、Sands Capital Ventures、Temasek、Union Square Venturesも参加していた。

共同ファウンダー兼CEOのSamir DesaiはFunding Circleの評価額を公開せず、2015年の資金調達時より「すこし増加した」と話すにとどまった。なお、TechCrunchでは前回の資金調達時に、同社の評価額が既に10億ドルを超えていたことを確認した

今回の調達額は、2015年4月以降ヨーロッパのフィンテック企業を対象に行われたラウンドで最大だとFunding Circleは話す(2015年4月には他でもないFunding Circleが1億5000万ドルを調達していた)。今週だけでもモバイル決済のiZettleが6300万ドル、CompareEuropeGroupが2100万ドルを調達しており、全体的に2017年はフィンテックへの投資が加速していきそうな雰囲気だ。

シリーズFとなる今回のラウンドの結果、Funding Cicleの調達資金総額は約3億7500万ドルに達した。

そしてこの1億ドルの資金調達は、Funding Circleにとって面白いタイミングで起きた。

まず同社は猛烈な勢いで成長を遂げており、2016年の世界中での貸出額合計は11億ポンド(13億ドル)に及ぶ(Funding Circleはヨーロッパとアメリカで営業しており、Desaiによれば採算のとれているイギリスが同社にとって最大の市場だ)。そして合計額のうち4億ポンドがQ4単独の数字で、前年同期比で90%も増加している。

昨年のFunding Circleの成長度合いをわかりやすくするために書くと、2010年の設立からこれまでの貸出額の合計は25億ポンドだと同社は話している。

その一方でFunding Circleは特に追加資金を必要としていなかったが、Lending ClubWongaなど他社のスキャンダルを考慮すると、レンディングサービスを提供するスタートアップにとっては今がとても大事な時期なのだ。

「昨年の市況は、特にオンラインレンディング企業にとって厳しいものでした。それでも私たちはFunding Circleの状況を喜ばしく思っています。前回のラウンドで調達した資金の大半は未だに手元に残っていますが、私たちはさらに事業へ投資できるチャンスを利用したいと考えていました。今回の資金調達によって、イギリスやヨーロッパ当局に対して私たちが今後もビジネスを続けていこうとしていることをアピールできます。Funding Circleは旧来の銀行を代替し、信頼に値する企業という地位を確立しようとしており、今回のラウンドは私たちの進歩やFunding Circleのビジネスの未来を証明するものでもあります」とDesaiは話す。さらに彼によると、調達資金の一部は、同社のプラットフォームや「プラットフォームをさらに強力なものにする」アルゴリズムの開発にあてられる予定だ。

プラットフォーム上での貸出と、実業家コミュニティや労働市場、経済への貢献という、Funding Cirleの政府へのアピールはうまく機能しているようだ。

「Funding Circleはイギリスのフィンテックにおける、本当の意味での成功モデルになりました。そして8000万ポンドもの投資を受けることができたという事実が、フィンテックの重要性が増していることを証明しています。また今回のラウンドは、ビジネスの成長や雇用創出というイギリス経済における重要な役割を担った企業が、新たに信任を得たということを意味しています」と財務大臣のPhilip HammondはTechCrunchへの声明の中で語った。

現在Funding Circleのプラットフォーム上では、個人や地方自治体、中央政府、欧州投資銀行、年金ファンドといった金融機関を含む6万人の認定投資家が、2万5000もの企業へ貸し出しを行っている。Desaiによれば、今後は小口投資家の参加も目論んでいるようだ。さらにリターンについては、同社がこれまでに1億ポンド以上を払いだしており、年間の利回りは7%に達するとDesaiは話す。

次の一歩として、Funing Circleは現在の市場での売上を拡大すると共に、2013年にEndurance Lending Networkを買収してアメリカ市場へ進出したように、買収を通して新たな市場でビジネスを展開していくことも考えている。

Desaiは「現状IPOに関しては何も計画していない」と語っているが、長期的な目標としてはIPOも視野に入れている。「企業としての透明性や債権者ではなくプラットフォームであり続けることなど、私たちが大切だと考えている事項に加え、私たちはいつもFunding Circleを上場させたいと話してきました」

この継続性こそ、Funding Circleが新たな投資家を招かずに、既存の投資家との関係を保っているように見える理由なのだ。

「私たちは初期の投資段階から、Funding Circleのチームに感心していました。同社は中小企業が求める借入のオプションを準備するとともに、投資家に対しても魅力的なリスク調整後利益を提供することで、世界中の市場において大きな成長を遂げてきました。今回のラウンドの結果、Funding Circleは世界最大かつ最も自己資本の多い中小企業向けレンディングプラットフォームとなり、私たちは今後も同社をサポートしていけることを嬉しく思っています」とAccelのパートナーであるHarry Nelisは声明の中で語った。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

支払日の前に給与を現金化できるActivehoursがシリーズAで2200万ドルを調達

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次の給料小切手を受け取るまでに、2週間待つ必要がなかったらどうだろうか?

働いたあと、すぐにその分の給料が受け取れるとしたらどうだろうか?

給料担保金融業者とは違い、そのために手数料を支払う必要がなかったとしたら?その代わりに、気が向いたときに寄付をするだけでよかったとしたら?

これらがPalo Altoを拠点とするActivehoursが提供する価値である。創業から4年の同社は、ペイロールの常識を覆そうとする企業だ。そして同社は現地時間9日、Matrix PartnersがリードするシリーズAで2200万ドルを調達したと発表した。

同社のサービスはどこかATMにも似ている。ユーザーは同サービスを利用することで給与を支払日前に現金化することができ、その資金を予期せぬクルマの故障による修理費用や、期限が迫った支払いなどに充てることができる。銀行や高金利の給料担保金融業者とは違い、厄介な当座貸越手数料を支払う必要もない。このサービスには金利もかからないが、Activehoursのサービスに満足したときには寄付することが奨励されている。

Activehoursはユーザーの信用情報をチェックしていない。社会保障番号を聞くこともない。普通預金口座を持っていて仕事があれば、誰でもサービスを利用することが可能だ。どのような企業に務めていてもActivehoursを利用することは可能だが、同社はSears Holdings(SearsとKmartの親会社)をはじめとする企業と提携を結んでいる。これらの提携企業に勤めるユーザーは通常よりスムーズにActivehoursを利用することができ、未受領の給与を給与小切手が届くまえに現金化することができる。また、同社はUberとも提携を結んでおり、UberドライバーはActivehoursに自分の銀行口座番号とUberのアカウント情報を提供することで、勤務後すぐに給与を受け取ることが可能だ。

Activehoursのおもしろい機能は、プラットフォームに参加するユーザーが他の誰かの代わりに「チップ」を支払うことも可能だということだ。そして、この機能は完全に匿名で利用することができる。イメージとしては、高速道路の料金所で自分の通行料と一緒に後ろにいるクルマの分まで支払うようなものだ。

今回の調達ラウンドをリードしたMatrix PartnersのDana Stalderは、「Activehoursは、バリスタや本屋の店員、銀行の窓口係などに向けたサービスです」と語る。「クレジットカードでリボルビングローンを組んでいるアメリカ人は全体の50%です ― それに加えて、リボルビングローンを利用していない層も大勢取り込めます」。

とはいえ、手数料が無料?金利もナシ?そのようなビジネスが成り立つのだろうか。特にビジネスをスケールさせようとするなら尚さらだ。Stalderの話しによれば、Activehours CEOのRam Palaniappanがビジネスモデルのプレゼンテーションを行ったとき、Stalderもこれと同じ質問をしたそうだ。しかし、実際にユーザーは寄付をしてくれているのだと、その時Palaniappanは言った ― しかも、今では1万2000社以上の従業員が利用するサービスとなったActivehoursの売上予測をするのに十分なほど、寄付が集まっているというのだ。

Stalderは「私は本当に寄付だけでこのビジネスが成立するのかどうか疑問に思っていましたが、Ramは確かにそれが成立しうることを証明したのです」と話す。

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それはつまるところ、ロイヤルティの力なのだとStalderは言う。このことは、無期限に有給休暇を取ることができたとしても、実際にはそれまでよりも少ない休暇を取る傾向にあるということに似ている。

残念なことに、Activehoursは寄付の平均単価を公開してはいない。しかし、人々の働き方はいま急速に変化しつつあり、個人として企業と業務委託契約を結ぶ人々がこれまで以上に増えている。Activehoursはそのような状況に即したサービスであるようにみえる。実際、2020年までにアメリカ国民の40%がフリーランスとして働くようになるという調査結果をIntuitが発表している。

それに加えてPalaniappanは、現在のような2週間毎の給与の支払い方式は、時代遅れの帳簿記入システムが生んだ過去の遺産なのだと話す。

気になるのは、Activehoursがユーザーにとって良いサービスなのかどうかという点だ。たとえば、Activehoursを利用しすぎたあまりに、いざ家賃を支払う時に十分な資金が無くなってしまっていたらどうだろうか?その点についてPalaniappanは、Activehoursには予算管理の機能も備わっているため、そのような落とし穴にはまる心配はないという。また、給与小切手の額面全額を現金化することはできない仕組みにもなっている。

さらにStalderとPalaniappanは、両者ともにある点についても言及している。人々の働き方が変化し、細分化された契約取引が増えるようになれば、人々は自分たちの財政状況をより上手くコントロールすることが可能になると彼らは主張しているのだ。そして、その中心的な役割を担うのがモバイルなのだという。

彼らの主張は正しいのかもしれない。確かに、Activehoursと同じような理由からこの分野に参入した競合も存在する。PayActivFlexWageなどがその例だ。これらの企業は両社ともに、給与の支払日を待たずにそれを現金化できるというサービスを展開している。

どちらにしろ、全体で何十億ドルにもなる当座貸越手数料の支払いに苦しむ人々が彼らのサービスを試してみる気になる可能性はある。

今回の調達ラウンドをリードしたMatrix Partnersに加え、新規投資家のMarch Capitalや既存投資家のRibbit Capital、Fellicis Venturesの他、いくつかのアーリステージ投資家も本ラウンドに参加している。

Activehoursは、これまでにードラウンドで410万ドルを調達している。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

マイクロ投資アプリのStashがシリーズBで2500万ドルを調達

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金融知識をあまりもっていない人でも簡単に株式投資ができるアプリを開発しているStashは、シリーズBで2500万ドルを調達したと本日発表した。8月に925万ドルのシリーズAをクローズした直後に行われたこのシリーズBでは、既存投資家のValar Venturesがリードインベスターとなり、Breyer Capital、Goodwater Capital、Entrée Capitalがラウンドに参加していた。

Stashのほかにも、なるべくリスクを避けつつ株式投資に手をだそうとしているミレニアル世代を主なターゲットとしたマイクロ投資アプリはいくつか存在する。具体的にはAcorやRobinhoodなどが競合として挙げられ、特にRobinhoodは、これまでにNEA、Index Ventures、Andreessen Horowitzなどから6600万ドルを調達している。

競合他社同様、Stashは株の売買時やユーザーが口座からお金を出し入れする際には手数料をとっていない。その代わりに、残高が5000ドル未満の口座からは毎月1ドル、5000ドル以上の残高がある口座からは年間0.25%の口座維持費をとっている。

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定期的に手数料が発生するという意味では、口座に余っているお金に対する金利や、プレミアムラインのRobinhood Goldに含まれている新製品のマージンアカウントから収益を挙げているRobinhoodほど、Stashの料金形態は思い切ったものではない。

ビジネスモデルの違いはあれ、Stash、Acorn、Robinhoodの3社は、資産運用に重きを置いている旧来の投資業界には相手にされなかった人々という、同じターゲットを狙っている。

「Stashのゴールは、保有資産額に関わらず、できるだけ多くの人にプラットフォームを利用してもらうことです。私たちは既存の投資会社に過小評価されている、一度に少額の投資しかできない、そして投資額を少なくすべき人たちを主なターゲットとしています」とウォールストリート時代の仲間であるEd RobinsonとStashを共同設立したCEOのBrandon Kriegは説明する。

「私たちは顧客に対して、自分のリスク許容度や、金銭的な目標、意見、興味を反映した金融商品を使って、長期的に資産を運用するよう勧めています。何十億ドルもの資産を運用している投資マネージャーの多くは、顧客の長期的な財政状態を顧みずに、販売手数料や売買手数料を目的とした資産集めに走っているため、顧客と投資会社の利益が相反してしまっていることがあります」と彼は付け加える。

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Stashは既存の金融商品とは異なるプロダクトを提供しており、それが功を奏したのか、毎週1万人以上もの新規ユーザーを獲得していると同社は話す。さらに過去1年間の新規ユーザー数は、30万人以上に及ぶ。

マイクロ投資ツールの中には、利用者に代わって全てをこなすものもあるが、Stashではユーザーの意見やゴール、リスク許容度から割り出されたオススメ株の情報をもとに、ユーザー自らがポートフォリオを構築するようになっている。

ユーザーは、Stashが選んだ30銘柄以上の上場投資信託から、自分が投資したいものを選ぶことができる。また、候補となる銘柄は、過去の運用成績や手数料の割合、リスク内容、組入比率などを勘案したモデルをもとに選ばれる。

投資サポートと共に、Stashは投資に関するアドバイスやヒントを提供することで、ユーザーに投資の基礎知識を身に着けてもらおうとしている。

今日までに、Stashのユーザーは合計2500万ドル以上をアプリ経由で投資しており、その数は増え続けている。

Stashのようなサービスは、運営企業にとっては良いビジネスである一方、大きな収益をあげようと考えている顧客には、旧来の投資方法と比較して物足りなく映るかもしれない。Stashのようなアプリのおかげで、株式投資のハードルは下がっている可能性がある一方、ユーザーは数ドルからでも投資ができ、毎月維持費がかかるため、多額の現金を運用しない限り、ユーザーは投資というよりも株遊びをしていることになってしまう。

今回の調達資金は、アプリの強化や新機能の追加、オンライン教育ハブの「Learn」のような新製品の開発に充てられる予定だ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

金融機関を味方にメッセージアプリのSymphonyが評価額10億ドル超で新たに資金を調達中

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ウォールストリートにある14の金融機関を投資家・ユーザーに持つ、暗号化メッセージサービスのSymphonyが、新たなラウンドで2億ドルを調達中であることがわかった。調達前の評価額は10億ドルを超えると見られている。既存の投資家に加えて、新たにシンガポール政府が(Temasek、GICを含む)投資部門を通してラウンドに参加する予定だ。Symphonyは調達資金を使って、現存する金融機関向けサービスの内容を拡充すると共に、ヘルスケアなど他分野の顧客獲得も狙っている。

同社は、最近では2015年3月に1億ドルを調達しており、Symphony社内の情報筋によれば、当時の評価額は7億ドルだった。既存の投資家には、Google、Lakestar、Natixis、Societe Generale、UBS、Merus Capitalのほかにも、Bank of America、BlackRock,、Citibank、Deutsche Bank、Goldman Sachs、HSBC、JP Morganを含む14の大手金融機関からなるコンソーシアムが挙げられる。また、これまでにSymphonyは合計1億6600万ドルを調達してきた。

1億2500万ドルから2億ドルの規模に達すると情報筋が伝える今回のラウンドは、既に完全にクローズしているかどうかは分かっていないが、投資ラウンド自体はSymphonyが追加資金を必要として主導したわけではなく、むしろ投資家から同社に声をかけていたようだ。

さらに、ラウンドがはじまってから既にある程度の期間が経っているようだ。今年の10月には、General Atlanticやシンガポール政府などを新たな投資家候補とし、Symphonyが最大1億ドルを調達中だとThe Wall Street Journalが報じており、私たちが入手した情報と内容が一致している。

Symphony自体は、今回のラウンドについて直接コメントを発表しようとしていない(今回も投資家が同社にアプローチしてラウンドが開催されたと噂されている)。

Symphonyの広報担当者は「私たちは追加資金を必要とはしていません。既に現在のオペレーションや将来の成長戦略に必要な資金は確保しています」と話す。それとは別に、同社のCEO兼ファウンダーのDavid Gurleは広報担当者を通じて、ラウンドの存在と評価額が10億ドル以上であったことを認めている。

Symphonyは2014年に、同社の投資家である複数の銀行から成るコンソーシアムが、Perzoと呼ばれるメッセージングサービス企業を買収して「Bloombergキラー」を作ろうとする中で誕生した。ここでのBloombergとは、Bloombergが金融期間向けに製造・ライセンシングしている、メッセージ機能、株価・ニュース機能を備えたオールインワン端末を指している。

各銀行は、誰も必要としていない、もしくは利用していないデータで溢れた高価なBloomberg端末に不満を感じていた。さらに、顧客や関係者とはWhatsAppなど他社のサービスを使ってメッセージのやりとりを行う利用者も増えていた。

Symphonyは、不要な機能を削ぎ落とした、両者の間を埋めるようなプロダクトなのだ。

メッセージ機能を核としつつ、今年に入ってからは新たな主要機能もいくつか追加された。今ではSymphonyを使って、音声通話やビデオ通話ができるほか、Slackなどのアプリのように、ユーザーがニーズに応じてサードパーティーアプリを追加し、機能を拡大できるような仕組みも導入されている。現状のSymphony用マーケットプレースのサイズは小さく、5つのアプリしか登録されていない。その内訳は、Dow Jones、ビジネス向けキュレーションアプリのSelerity、Chart IQ、S&P market intelligence、そしてSelerityに加えてさらなる情報源となるFintech Studiosだ。

極めて携帯性が高い(スマートホン上でも利用できる)上、Symphonyの利用料はBloombergターミナルとくらべてかなり安い。Bloombergターミナルは、端末1台で年間約2万5000ドルほど(バルクで導入するともう少し価格は下がる)のコストがかかるところ、Symphonyはフリーミアムモデルを採用しており、有料プランも1ユーザーあたり月額15ドルで利用できる。

最後に大切な事項として、このプロダクトの鍵は、会社を超えて外部とコミュニケーションをとる必要がある人をターゲットとしつつも、セキュリティや規制ポリシーにはしっかりと準拠しているということだ。「銀行とのコラボレーションの難しさを知っている人であれば、この点だけでSymphonyが偉業を成し遂げたと理解できるでしょう」とある人は語る。

MicrosoftやFacebookといった大手テック企業は、さまざまな分野でSlackのような企業と、職場におけるコミュニケーション・コラボレーションプラットフォームの座を奪い合っている一方、Symphonyはターゲットを絞ることで、彼らとは大きく違ったアプローチをとっている。

これまでのところ、Symphonyは金融機関というひとつの業界にターゲットを絞ってきたが、私たちが聞いたところによれば、長期的には他の業界へも手を伸ばそうとしているようだ。

Symphonyは金融機関のように特定のニーズがある業界を狙っているが、どんな生産性向上ソリューションも、同僚や仕事相手と効率的に話ができるようなチャットサービスを必要としている。同社の次のターゲットはヘルスケア業界だという話を聞いているが、政府から教育、科学まで、Symphonyはさまざまな業界で活躍する可能性を持っている。

追加レポート:Ron Miller

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Facebookがアイルランドで電子マネーライセンスを取得、ヨーロッパへP2P決済サービスを展開予定か

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ヨーロッパでのFacebook Messengerを介したP2P決済サービス提供に向けて(昨年3月のアメリカでの同サービス提供開始からしばらく時間はたったものの)、Facebookは密かにアイルランド中央銀行から電子マネーのライセンスを取得していた。

アイルランド中央銀行の登録簿を見てみると、Facebook Payments International Limitedという会社が10月24日にライセンスを取得していたことがわかる。具体的には、電子マネーの発行のほか、口座振替、支払、送金といった決済サービスが提供できるライセンスが同社に付与されている。

さらに、アイルランドはEUの加盟国であるため、Facebookはいわゆる金融パスポート制度を利用し、アイルランド以外の27加盟国でも今回許可を受けた業務を行うことができる。

しかし、なぜFacebookがヨーロッパでのライセンスを取得するのにここまで時間がかかったかは明らかになっていない。同社がライセンス取得に向けて動き始めている様子は、2014年の時点で既にThe Financial Timesが報じていたのだ。さらに同じ時期に、Facebookがロンドンの送金系フィンテックスタートアップを買収しようとしているという話まで出ていた。この記事の本題からはズレてしまうが、その後も買収の話は進み、買収先候補のうち一社が、FacebookファウンダーのMark Zuckerbergと会議を行ったという決定的な情報も私は得ていた。

別の疑問として、Facebookがこのライセンスを使って実際に何をしようとしているのかも具体的には分かっていない。彼らはFacebook Messenger Payをヨーロッパにも展開して、同じ国で同じ通貨を使っているユーザー同士がお金をやりとりできるサービスを提供しようとしているのか、それともヨーロッパという環境に合わせて、外貨為替のサービスまで提供していくつもりなのだろうか。

送金サービス比較サイトMonitoのファウンダーであり、今回のFacebookによるライセンス取得の話を知らせてくれたFrançois Briodも以下のように語っている。

短期的に見れば、Facebookは今後Messengerを介したP2P送金サービスをヨーロッパにも展開していくでしょう。彼らはPaymやBarclaysのPingitといったサービスと競合すると思われますが、それに加えて、アメリカほど普及していないP2Pのモバイル決済サービスをヨーロッパで広めるのに一役買うことが期待されています。しかし、中期的に見たときのサービスの可能性については、いくつか不明点が残ります。まず、Facebook Messengerの送金サービスは、ヨーロッパの全ての通貨に対応していくのか、ユーロのみに対応するのかという点です。また、同通貨のクロスボーダー送金サービス(例:フランス→ドイツへのユーロ送金)を提供していくのか、さらには異なる通貨間の送金(例:イギリスからポンド送金→スペインでユーロ受取)にも対応していくのかというのも気になるところです。

本件については、近々もっと詳しい情報が明らかになる可能性が高く、現在Facebookに対してもコメントを要請しているため、何か新たな情報を入手次第、本記事をアップデートしていきたい。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ブレグジットで陰るイギリスのフィンテック業界にGoCardlessが見た一縷の望み

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イギリス政府は依然としてブレグジットの計画に関する詳細を明らかにしておらず、そもそも計画の存在自体を疑う人もいる中、イギリスに拠点を置く企業は、ブレグジットが持つ意味について分からないままでいる。

首相の「ブレグジットはブレグジットでしかない」という主張は上手い表現だが、ビジネスプランをつくろうとしている人にとっては何の意味もなさない。

イギリスのEU離脱による予算への影響を予測しようとしている予算責任局(OBR)にとってもそれは同じだ。

OBRよ、まさにその通りだ。「私たちが政府にブレグジットの意味を尋ねたところ、ブレグジットはブレグジットでしかないと、何の役にも立たたない回答が返ってきた」

しかし、ロンドンに拠点を置くGoCardlessは、少なくとも国内のフィンテク業界には一縷の望みがあると考えている。11月23日に財務大臣が発表した秋季財務報告書の中には、(ブロードバンドのインフラ、自動運転車、電気自動車、VCなどを強化する施策と並んで)フィンテックをサポートするいくつかの施策が明記されていたのだ。

その施策には、スタートアップ向けの特別予算年間50万ポンドや、各地域におけるフィンテック特使の任命、“State of UK fintech(イギリスフィンテック業界の現状)”年間レポートの発行、電子ID認証の近代化に関するガイダンスなどが含まれていた。

ブレグジットの広範囲に及ぶ影響を考慮すると(OBRはブレグジットにより、イギリスの公共財政に590億ポンドの悪影響があるとの概算を示している)、フィンテック業界に投じられる年間50万ポンドという額は大したことがないように映る。とはいえ、ブレグジットの悲劇の中でも、イギリスのスタートアップにとって何か良いことがあるべきだ。

「政府は、フィンテックが高成長を見込める業界で、多くの可能性を秘めていると示唆しようとしているのだと、私たちは考えています。数十億ポンドの予算を見込んでいれば、イギリス中の注意をフィンテックに向けようとしているサインになりますが、少なくとも政府自体がこの業界に注目しており、成長を促そうとしているのがわかります」とGoCardlessで法務部門のトップを務めるAhmed Badrは語る。

現行政府は、これまでにイギリスのフィンテックスタートアップの経済的な可能性に注目したことがあるのだろうか?という問いに対して、彼は「政府の公式な文書にそれが現れたのは、恐らく今回が初めてのことでしょう。しかし、財務報告書のように公式かつ重要な文書としてではないものの、これまでにも政府は、Innovate Financeのような団体を通じて、フィンテック業界の発展を促進しようとしていました。その活動は今でも続いており、これ自体はとてもポジティブなことです。今回そのような動きが、きちんと財務報告書の中に反映されたというのは、もちろんさらに喜ばしいことです」と答えた。

さらにBadrは、金融サービスへのアクセスに利用される(紙ベースのIDチェックとは対照的な)テクノロジーをサポートする目的で、政府が金融サービスの業界団体であるJoint Money Laundering Steering Groupと共に、電子ID認証システムの近代化を図っていることを、”極めて明るい話題”だと歓迎する。

そして「電子認証システムが導入されれば、サービス利用開始時やデュー・デリジェンスの業務がかなり効率化する可能性があります。利用者の中には本人確認のプロセスを面倒だと感じている人もいるため、カスタマーエクスペリエンスの向上に努めている私たちのようなフィンテック企業にとって、この施策は極めて重要です」と続ける。

「電子ID認証は、詐欺や身元詐称を阻止する上でも大変有効なツールです。古臭い紙の文書から、便利かつ正直なところ信用性も高い電子IDへのシフトが早く実現することを私たちは願っています」

もちろん、ブレグジットに関してフィンテック業界が1番心配しているのは、EU離脱に関する条件交渉をイギリス政府が進める中で、同国が金融パスポートを失うことになるのかどうかということだ(数年におよぶ条件交渉は、来年3月末までにスタートする予定)。金融パスポートとは、欧州経済領域(EEA)加盟国のいずれかで金融サービスを提供することを許された企業が、長期に渡る複雑な認証プロセスを繰り返すことなく、他加盟国でも同じサービスを提供することができる権利を指す。

Badrは、秋季財務報告書の内容から今後イギリスのフィンテックスタートアップにとってポジティブな流れが生じると考えているが、フィンテック業界を支える金融パスポートを、イギリス政府がなんとしても保持しようとしているかについてまでは確証を持っておらず、長引いているブレグジットの条件交渉に触れながら「現段階では、金融パスポートについて何も言うことはできません。何が起きるか全く分からないことについて無責任な予測もしたくないですしね」と語っていた。

「もちろん私たちは、政府に対して金融パスポートがフィンテックにとってどれだけ重要かという説明を行ってきました。恐らく私たちが言うまでもなく、継続的にヨーロッパ市場へアクセスできることが金融サービスにとって大切だということは政府も認識していると思います。金融パスポートであれ、他の形であれ、もしも政府高官の間でどのようにヨーロッパ市場へのアクセスを保つことができるかという議論が行われていないとすれば、むしろ驚きです」と彼は付け加える。

しかしGoCardlessは、ブレグジットの影響で金融パスポートが失効してしまったときのためのバックアッププランも用意している。最悪の場合同社は、他のEU加盟国のどこかに子会社を設立し、金融パスポートを保持しようとしているようで「必要であればそれも辞さない」とBadrもそれを認めている。

同時に、設立から5年が経ったGoCardlessは、イギリスから国外へ完全に脱出する必要もないと今の段階では考えている。ロンドンという街には、住みやすさや、例えば教育水準が高い大学のおかげで、優秀な人材へアクセスしやすいことなど、不変の良さがあるとBadrは話す。「このようなロンドンの長所は、ブレグジット後も無くなってしまうことはありません。本当に金融パスポートを保持することだけが、GoCardlessが後回しにしていたかもしれないことを、恐らく前進させるきっかけになると思っているんです」と彼は主張する。

ヨーロッパのフィンテック中心地としてのロンドンの地位が、ブレグジットによって危ぶまれることになると彼は考えているのだろうか?その答えとしてBadrは、ヨーロッパ中でフィンテック業界の競争が激化することで、ビジネスを国外へ移動させる動機が増えるだけでなく、イギリス国内の金融サービスのイノベーションが活発化すると期待している。

「誰も金融サービス企業にとっての金融パスポートの重要性を疑っていはないでしょう。ただ、それはイギリス企業だけの話ではなく、イギリス以外のヨーロッパ諸国に拠点を置く数々の企業が、イギリス市場で金融ビジネスを行う上でも同じです」と彼は語る。

「他国の金融サービス企業も、イギリス企業と同じを動きをとることになると思いますか?もしもイギリスの金融パスポートがなくなり、何の代替手段もないとすれば、きっと双方向に同じ動きが起きると私は思います。つまり、これまでヨーロッパ諸国で営業するために金融パスポートを利用していたイギリスの金融サービス企業は、他国に子会社を設立するでしょうし、イギリス国外の企業で、これまで金融パスポートを使って、イギリス市場にアクセスできていた企業についても、イギリスに子会社を設立して、営業を行うことになると思うんです」

「現在のところ、GoCardlessの売上の大半はイギリス国内で発生しているため、外国に子会社を設立してもしばらくの間は、小規模なオペレーションにとどまると思います。しかし同時に、イギリスでそうだったように、他国の子会社も急成長することを願っています。もしかしたら、将来的にはイギリス以外にも、フィンテックの”中心地”となるような国や都市が突如誕生したり、現在ある程度力を持っている地域が、徐々にヨーロッパ内での地位を高めていったりするかもしれません。また、イギリス企業が国外に出ていくにあたり、全ての企業があるひとつの街や地域に集中して移動するというのは考えづらいです。むしろ、移転候補先になりえる都市が、これからいくつか誕生してくるでしょう」

ブレグジットに関して明らかになっていない点は多々あるものの、Badrは現時点でGoCardlessが、この困難を乗り切る”ひそかな自信がある”と語っている。「困難という意味では、スタートアップはこういった問題に直面する運命にあります。私たちは、新しい環境や社内の変化に適応するのに慣れているので、今後も引き続き、私たちの順応性を証明していければと思います」と彼は話す。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

決済サービスのStripeが新たに1億5000万ドルを調達、評価額は90億ドルに

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ウェブサイトやアプリに、数行のコードを挿入するだけで決済機能をAPI経由で搭載できるサービスを提供しているStripeは、新たにシリーズDで1億5000万ドルを調達し、資金調達前の評価額が90億ドル、調達後の評価額は92億ドルに達した。

スタートアップ界のいわゆる”ユニコーン企業”が過大評価されているのではないか、とたくさんの人が疑問に思っている中、この調達額はStripeにとって大きな意味を持つ。なお、Visaと協力して行った昨年夏のラウンド時の同社の評価額は50億ドルだった

資金調達に加え、Stripeは合計2億5000ドル分の回転信用枠(リボルビングクレジットファシリティ)を、J.P. Morgan Chase & Co.、Goldman Sachs Group Inc.、Morgan Stanley、Barclays PLCとの間に設定しようとしている。金利が低迷している今のうちに、借入自体ではなく、借入の上限額を引き上げておこうというのが同社の狙いだ。しかし資金が必要でなければ、Stripeはこの枠を利用しなくても良い。

今回の資金調達に関するニュースは、面白いタイミングで発表された。というのも、先週の木曜日は買い物客が増える休暇の初日で、プラットフォーム経由の全ての決済から手数料をとっているStripeのような会社は、この時期に1年で一番大きな売上を期待することができるのだ。サンクスギビングデーには、売上が2016年に入って初めて20億ドルの超えると予想されている。

中には、ニュースが静かになる休暇中の週末に、このニュースが発表されたことを不思議に思っている人もいるかもしれない。なお、最初にこのニュースを報じたメディアはThe Wall Street Journalだった。

しかし、私はこのタイミングでの資金調達の発表には意義があると感じている。Stripeはいずれ株式を公開するか、同社よりも大きなEC(もしくはテック…もしかしたらGoogle?)企業に買収されることを念頭においているため、今回の発表でStripeは、オンラインショッピング界にとって大事なこの時期に、「Stripeがここにいるよ。これからEC業界を席巻していくよ」と伝えようとしているのだ。

Alphabetブランドの下に検索・モバイル事業を置くというGoogleの組織改編後に、Google Capitalから名称変更を行い、今回初めてStripeに投資した”CapitalG”と、以前から投資家として名を連ねていたGeneral Catalystの2社が今回のラウンドのリードインベスターを務めた。その他にも、Sequoia Capitalや、以前から同社に投資を行っていたものの、名前が明かされていない投資家が同ラウンドには参加していた。

2010年にアイルランド出身のPatrick・John Collison兄弟(それぞれCEOとプレジデントを務めている)によって設立され、サンフランシスコを拠点とするStripeは、今回の調達資金を含め、これまでに約4億6000万ドルを外部から調達している。

同社のビジネスの中心は決済サービスではあるものの、今後金融サービスプラットフォームへと進化していくために、Stripeは決済以外のサービスの開発も進めている。

例えば、アメリカ国外からアメリカ籍の企業を設立するためのサービス詐欺防止ツール、企業の支払をスピード化するツール、Stripeのプラットフォームを利用したマーケットプレイスなどの開発が行われている。Stripeは自社のプラットフォームを利用して、利幅を増やす(決済サービスだけでは少額の利益しかあげられない)と共に、顧客との接点を増やそうとしているのだ。

その点に関しStripeは、今回の調達資金をディベロッパー向けツールの開発や企業買収時に使えるツールなど、実業家をサポートするような機能をプラットフォームに追加するために使っていくと話している。さらにスタッフの増強も行っていく予定だ。

Stripeは次に何をローンチするのか名言していないが、詐欺防止ツールのRaderを10月末にリリースした際に、John Collisonは、EC業界にいる人たちの信頼感を高めるために、売る側・買う側両方をさらに保護していくためのサービスが今後発表されるかもしれないと、ほのめかしていた。

「この分野のサービスの開発は活発に行われており、私たちがやりたいと思っていることもたくさんあります。まだ利用者保護サービス(を単独のサービスとしてローンチするかどうか)の可能性は断念していませんが、今後ユーザーがどのようにこのサービスを利用して、何がうまくいって、何がうまくいかないかというのを観察していきたいと考えています」

ネットビジネスの運営やオンラインコマースへのアプローチとして、仕組みが複雑なサービスをシンプルにすることでPayPalのような企業へ対抗するという、Appleが得意とするやり方をStripeはもっと広く活用しようとしている。

先月Collisonに話を聞いたところ、Stripeのミッションは「ビジネスを成長させる上で直面する複雑な問題を簡素化することです。そのため、今後ローンチされるStripeのプロダクトは、そこに特化したものが多くなると思います。何がビジネス上の問題なのか、なぜ成長スピードが思うように伸びないのか、そして私たちはその状況に対して何ができるのか、というのが私たちの考え方なんです」と語っていた。

Stripeはまだ、世界中のユーザーの数や売上額、Stripeプラットフォーム上での決済総額などは明らかにしていない。しかし同社は、現在ユーザーが110ヶ国にいて、アメリカのインターネット人口の半分にあたる人々の決済をこれまで処理してきたと話している。

つまり、かなり広範囲に渡る顧客が、Stripeのサービスを少なくともひとつは利用したことがあり、そのユーザーには有名なネット企業も含まれているのだ。具体的にはSAP、Macy’s、Missguided、 GE、Adidas、Docusign、Slack、Medium、Daily Mail、Yelp、NASDAQ、UNICEF、「他にも先の大統領選の両候補者」などがStripeのサービスを利用している。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ユーザーの貯蓄を促すファイナンスアプリのAlbertが250万ドルを調達

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貯蓄口座にお金を預けたり、支出を記録したり、借金を減らしたり、公共料金を節約したり、うまく投資をしたりと、誰でも個人の財政状態を改善するための基本的な方法を知っているはずだ。しかし本当に難しいのは、このような知識を今すぐ実践できるようなアクションへと変換することだ。Albertというアプリがその問題を解決しようとしている。最近行われたシードラウンドで250万ドルの資金を調達したAlbertのアプリを使えば、ユーザーは簡単に収支をトラックできると共に、ひとりひとりに合った財政上のアドバイスを受けることができる。

Bessemer Ventures PartnersやCFSI(Center for Financial Services Innovation)、500 Startups、500 Fintechなどが参加した前述のラウンドが開催されたのは、今年の夏にアプリがローンチされてからすぐのことだった。

Albertは、金融サービス業界での勤務経験を持ち、大学時代の友人同士であるYinon RavidとAndrzej Baraniakによって共同設立された。

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若いモバイルユーザーをメインのターゲットとしているAlbertは、Simpleのようなモバイルバンキングアプリではない。このアプリは、例えるならばMintのように、銀行口座やクレジットカード、不動産、ローン、投資のように、各サービスに散らばったファイナンスに関するデータを一か所に集めるサービスを提供している。

しかし、Mintのようなサービスと違って、Albertはユーザーに対して財政上のアドバイスを行い、ユーザーの行動に変化を起こすことにフォーカスしていると共に、日頃の収支を追うためのサポートも行っている。

そして、実際にユーザーに行動を起こさせるため、Albertは少々強引にアドバイスを行うようにつくられている。

アドバイスの一例として、Albertはユーザーに貯蓄口座を作るように勧めることがある。

「20~40歳の人のほとんどが貯蓄をしておらず、実は彼らの過去3ヶ月間の支出は同じ期間の収入を上回っているんです。そのため、私たちからの最初のアドバイスのひとつは、緊急時のために少しずつでも貯金をするということです」とRavidは説明する。

その後Albertは、実際に貯蓄を作るために、ユーザーの銀行口座からAlbert Savingsへ自動送金を設定するサポートを行う。なおAlbert Savingsとは、アプリ上に存在する、FDIC(連邦預金保険公社)によって保護された貯蓄口座のことを指している。

自動送金は、貯蓄アプリのDigitやQapital、投資アプリのStash InvestやAcornsといった、もっと広い意味でのフィンテックサービスでも採用されている機能で、Albertはそのほかにも、Level MoneyやProsper Dailyのような、ユーザーの財政状態を俯瞰するための機能も備えている。さらに、ユーザーが自分でお金の管理をするためのパーソナルアドバイスサービスは、Albert以外にもLearnVestが提供している。

しかしAlbertは、このような複数の機能を一か所にまとめることで、ユーザーの心をつかもうとしているのだ。

貯蓄以外についても、Albertは、クレジットカード上の負債を支払うために利率の低いローンの借入を促したり、自動車保険の料金を下げるために保険会社の変更を勧めたり、投資を提案したりと、さまざまなアドバイスをしてくれる。

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上記のようなアドバイスをするために、Albertは外部企業と提携しており、そこがこのサービスのマネタイズのポイントでもある。Albertは、ローン見積もりを行う金融業者や、投資に関するアドバイスを行うBetterment、保険見積もりを行うCoverHoundと協力し、彼らから受け取る紹介料を収入源としているのだ。そのため、ユーザーは無料でAlbertのサービスを利用することができる。

これはつまり、ユーザーへのアドバイスに関し、Albertは手間がかかる箇所の大部分をアウトソースしていることになるが、そのおかげでアドバイスの公平さが保たれているとRavidは話す。

「ユーザーにアドバスをして、彼らの財政状態を改善する上で、私たちがとても重要だと考えていることのひとつが、オススメするサービスから一定の距離を保って客観的であり続けるということです」と彼は語る。

アドバイス以外にも、当座貸越の費用が発生したときや、公共料金の支払期限が近づいたときなど、Albertはユーザーのお金に関する重要な情報を通知する機能も備えている。その他にも、Albertには、支出や請求書、収入などを確認するためのツールなど、ユーザーがAlbertのアドバイスにもとづいてアクションをとった後も、継続的にアプリを利用するきっかけになるような機能が搭載されている。

Ravidは、Albertアプリのユーザー数については明かさなかったが、現在iTunes App Storeのファイナンスカテゴリーで、同アプリは84位にランクインしており、Appleも最近Albertアプリを人気アプリとして取り上げている。またRavidによれば、Albertがトラックしている情報量は増加傾向にあり、現時点では5000万件以上の決済情報を追っている。

ロサンゼルスを拠点とし、4人のメンバーで構成されているAlbertは、Android版のリリースを待たずして、最近iOSアプリのバージョン2.0をリリースした。同アプリはApp Storeから無料でダウンロードできる。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Toastが150万ドルを調達、アジアの移住労働者のために海外送金サービスを展開中

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盛り上がりを見せる東南アジアのフィンテック業界で最近資金調達を行ったのが、海外に住む移住労働者向けに、簡単で安い海外送金サービスを提供しているToastだ。

シンガポールを拠点とするToastは、”プレシリーズA”と同社が呼んでいるラウンドで、150万ドルを調達したと本日発表した。Aetius Capitalがリードインベスターを務めた今回のラウンドには、アメリカの1776やオーストラリアの金融サービス企業Pepper Groupが参加した。

Toastは、東南アジアのスタートアップの多くと同様に、これまでMoneygramやWestern Unionなどのサービスを利用して母国の家族へお金を送っていた、多数の移民労働者をターゲットにしている。2015年に設立された同社は、Androidアプリを介して、電子海外送金サービスを安価な手数料(もしくは無料)で提供している。毎月送金を行っている人であれば、1年間で手数料が1ヶ月分の給与に相当することもあるため、これはユーザーにとっては大きなアドバンテージだ。

さらにToastは、現状のシステムを壊して一からサービスを構築する代わりに、受取人がお金を回収するときなどは、地元の既存の送金業者と協力してサービスを提供している。その一方で、海外決済から1番恩恵を受けているWestern Unionのような大企業は、彼らのサプライチェーンには含まれていない。

「私たちは、銀行など旧来の金融機関を代替しようとは思っていませんが、事業を成長させるため、流通やアクセス面で意味のあるパートナーシップを結んでいきたいと考えています」とToastのCEO兼ファウンダーであるAaron Siwokuは、TechCrunchとのインタビューで語った。

当初Toastは、ビットコインやブロックチェーンテクノロジーを使っていたが、将来的に暗号通貨への規制が強まる可能性があることを考慮し、利用を取りやめた。

「規制を受けたくないという理由からビットコインを使っている企業はたくさん存在します。確かにビットコインやブロックチェーンテクノロジーは素晴らしい技術ですが、私たちが関わっているビジネスの実情を考えると、個人的には暗号通貨にも規制が必要だと考えています。今後、送金ライセンスを持っている私たちにとっては有利な状況になっていくと思いますし、いつかはビットコインも規制の網にかかることになるでしょう」とSiwokuは説明する。

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現在Toastは香港とフィリピンでオペレーションを行っており、フィリピンの送金市場の規模は、推定で年間297億ドルと世界で3番目の大きさだ。また、資金調達に関するニュースの他にも、本日同社はシンガポールで送金ライセンスを取得したと発表し、近日中に同国でもサービスが開始される予定だ。

イギリス出身のSiwokuは、家族へお金を送るために店頭に並んでいたフィリピン人労働者の列をシンガポールで見て、Toastのアイディアを思いついた。彼は、送金のために何時間も辛抱強く列で待っている労働者の手に、スマートフォンが握りしめられていることに気付いたのだ。

Siwokuによれば、今後Toastは、送金サービスの需要が多いと彼が考えるインドネシア、マレーシア、インド、パキスタンにサービスを展開していく予定だ。その後ヨーロッパへ進出していく可能性もあるが、そのためには追加で資金を調達する必要があり、18〜24ヶ月くらい先の話になるだろうとSiwokuは付け加えた。

3月のサービスリリース以降、Toastは成長を続け、今ではフィリピンから香港への月々の送金合計額が100万ドルを超えるほどだ。

またSiwokuは、Toastが他の国にサービスを展開する前に、単なる送金以外の新しいサービスを増やしていきたいと考えている。新サービスの内容は、香港やシンガポールに住む移住労働者向けの、マイクロローンや保険商品かもしれない。というのも、移住労働者のクレジットヒストリーやレーティング情報を集めるのは難しく、旧来の金融機関は彼らをターゲットにしていないのだ。

「私たちはお金の流れを把握していますし、融資やその他のサービスを提供するために必要な、顧客の情報やクレジットヒストリーも手元に持っています」とSiwokuは話す。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Sudoアプリでオンラインアイデンティティの変更が簡単に

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読者の方の中には、私のように1、2回しか買い物をしていないサイトから送られてくる何百通ものメール広告が、受信箱に溜まっている人がいるだろう。一旦そのようなサイトにメールアドレスを登録してしまうと、際限なく毎週(または毎日!)メールが送られてきてしまう。

携帯電話の番号を登録する場合は、購読解除のやり方が複雑なために事態が悪化する。さらに、月額制と知らずに何かを購入した際に、クレジットカードの情報が登録され、毎月勝手に料金がとられてしまったような場合は最悪だ。

ここから分かるのが、オンラインショッピングをする際に、積極的に使い捨てのメールアドレスやデビットカードを使わない限り、いつかユーザーは問題に直面することになるということだ。しかし言うは易しで、平均的な消費者がこれを実行するには、ほとんどの場合かなりの手間がかかり、テクニカルな知識も必要になってくる。

SudoAppとSudoPayがそんな消費者の悩みを解決してくれる。Anonyome Labsが開発したこのふたつのアプリを使えば、ユーザーは一時的(もしくは永続的)なオンラインアイデンティティを作成・削除できる。そしてそれぞれの仮想ユーザーに、カスタマイズ可能な氏名とメールアドレス、電話番号が付いてくるのだ。

全てのやりとりはSudoApp上で完結し、それぞれの仮想ユーザーには、普段使っているようなメールの受信箱やスレッド式のSMSが割り当てられる。

このアプリには、広告ブロッカー付きのウェブブラウザも標準装備されており、さらなる対策を講じたい人向けに、匿名でのブラウジング機能も搭載されている。

また、クレジッドカード詐欺を心配しているユーザーは、ふたつめのアプリであるSudoPayを利用することで、どの仮想ユーザーでも使える、一回もしくは複数回限りのプリペイドクレジットカードを作成できる。SudoPayの仮想カードではApple Payも利用できるため、実在するクレジットカードを全く連携させないでプリペイドカードを利用することも可能だ。

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Sudoのファウンダー兼CEOであるSteve Shillingfordは、SudoAppが主に2種類のユーザーをターゲットにしていると説明する。1種類目は想像できる通り、テクノロジーにとても興味を持っていてプライバシー保護に関心のある人たちだ。この中には、これまでに使い捨てのメールアドレスや電話番号を使ったことがあるが、SudoApp上での仮想ユーザー作成・管理の簡単さにひかれたという人もいるだろう。

そしてもう1種類のターゲットがなかなか面白い。Shillingfordは、”最高家庭責任者(Chief Household Officer)”、つまりさまざまな人生の側面を別けて管理しなければならない親を、もう一方のターゲットに挙げていた。彼らはサッカーチームや仕事、学校のメーリングリストなど、目的に応じて仮想ユーザーを作る(全て実名を使って、メールアドレスや電話番号だけ新しいものを作成する)必要があるのだ。

前述の通り、使い捨てのメールアドレスや電話番号、プリペイドクレジットカードはこれまでにも存在した。しかしSudoの功績は、その全てを組合せてふたつの使いやすいアプリの形にまとめたことにある。

さらに利用料も安い。ユーザーは9種類までであれば、無料で無制限の電話・SMSと1GB分のメール受信箱が付いた仮想ユーザーを作成できる。プリペイドカードについては、仮想カードの残高を補充するたびに、その額に応じて1ドルの手数料がとられる。

これまでSudoは外部からの資金調達を行っていないが、Shillingfordは、恐らく2017年中に初めての外部資金調達を行うことになると考えている。

SudoAppSudoPay共に、現在iOS向けアプリが公開中だ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

N26がAllianzの旅行保険付きプレミアムカードを発表

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N26には何が欠けているだろうか?同社はゆっくりではあるが確実に、新しい銀行口座を一から作りあげつつある。そして現在、Visa PremierやMasterCard Goldに付帯する保険商品を作り変えようとしている同社は、N26 Blackカードを発表した。

N26はこれまで保険会社と直接交渉を進めてきており、旧来の銀行が上位クラスのMasterCard(Gold、World Eliteなど)に付帯させているような保険商品をついに提供できるようになったのだ。近日中にN26のユーザーは、今持っているカードをN26 Blackカードにアップグレードできるようになる。なお、機能面では既存のカードとほぼ同じN26 Blackカードには、Allianzの保険がついてくる。

1年契約で料金は月々5.9ユーロ(6.4ドル)に設定されており、普通の銀行が発行しているMasterCardやVISAカードの上位クラスの保険とほぼ同じ補償内容になっている。そのため、海外旅行中に病院へ行かなければならない場合、その費用はAllianzがカバーしてくれる。さらにフライトが4時間以上遅れた場合の費用についても払い戻しが申請できるほか、携帯電話が盗まれたときの補償もついてくる。

保険の全容についてはまだ公開されていないため、スキー保険やレンタカー保険が含まれているかは分からない。しかし上位クラスのカードにはこういった保険がついてくることが期待されるため、N26 Blackカードにも含まれる可能性がある。

N26のサービスの良い点は、必要のない保険に対してお金を払わなくてすむということだ。ユーザーがN26の口座をそこまで頻繁に使っていなければ、無料のN26カードを選ぶことができる。ドイツ、オーストリア、アイルランドの希望者には、11月前半にN26 Blackカードが届けられ、フランス、イタリア、スペインのユーザーはその数週間後にはカードを受け取ることができる。

また、興味深いことにN26は今年の夏に銀行のフルライセンスを取得し、同社は今後数週間の間に、20万人のユーザーを自社の銀行インフラ上へと移管させる予定だ。つまり、ユーザーは新しいカードと口座番号を受け取ることになる。

そのため、ユーザーはこのタイミングで、新しいベーシックなMasterCardかN26 Blackカードから希望のものを選ぶことができる。全てのユーザーが新しいカードを受け取るタイミングで、新たなプランを発表するというのは賢い動きだ。この作戦でN26 Blackカードのコンバージョン率は高まるだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ココペリインキュベートが1億円を調達、金融機関向け融資審査AIをローンチ予定

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中小企業向けスポットコンサルサービスのSHARESを運営するココペリインキュベートは、SBIインベストメント横浜キャピタルアドウェイズTISの4社を引受先とする第三者割当増資で、計1億円を調達したと本日発表した。

今回調達した資金は、既存ビジネスのBPO事業(給与計算・経理代行)とスポットコンサルサービスSHARESに続いて第三の柱となる、金融機関向けの融資審査AIエンジン・SHARESΦ(シェアーズファイ)の開発にあてられる。

中小企業の財務管理負担を軽減するサービス

ココペリインキュベート代表取締役の近藤繁氏は、もともと金融機関で中小企業への融資業務を担当していた。その現場で、財務管理が不十分なために融資を受けられないでいる企業を目の当たりにしたことから、中小企業をサポートするという使命感に目覚め、ココペリインキュベートを設立。

当初の財務コンサルティング業務から派生して、給与計算や経理作業を代行するサービスをスタートさせると、顧客から契約や登記関連業務の相談を受けるようになり、それをきっかけに同社は専門家と中小企業をマッチさせる、スポットコンサルティングサービスのSHARESを2015年6月にローンチした。

今では340名以上の専門家と1000社以上の企業が登録しているSHARES上では、既にSHARES AIという人工知能を利用したサービスが提供されている。企業が財務・労務・給与等の関連データを入力すると、AIがその内容を分析して、資金調達や助成金申請のタイミングなど経営課題に関する通知を行うようになっているのだ。

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なお、BPO事業での収益を中心とした、2015年度の売上規模は6000万円で、SHARESの有料化がはじまった今年度は20%前後の売上増加を見込んでいる。

AIで中小企業がお金を借りやすい環境をつくる

SHARES AIとは別のサービスとしてローンチ予定のSHARESΦは、月次の財務情報を基に与信判断を行うことができるAIエンジンだ。

大企業に対する貸し出しの状況はリーマンショック以前のレベルに回復している一方、中小企業への貸し出しについては、依然2008年の状況からそこまで好転していない。というのも、一般的に金融機関の与信審査は年次の財務情報を基に行われるため、一過性の減益などに左右されやすい。そのため、業績にブレが出やすい中小企業に対しては、銀行もリスクを取りづらい構造になっているのだ。

しかし、月次の情報を参照すれば企業の実態を深く把握でき、細かなリスク判断が可能になるため、金融機関も中小企業へ貸し出しを行いやすくなる。また、情報の受け渡しはクラウドベースで行われるため、融資担当者が決算書を受け取りにわざわざ企業を訪れたり、郵送を依頼したり、紙に印刷されたデータを金融機関側で再入力したりする手間もなくなり、結果的に審査プロセスがスピードアップする。

既にいくつかの金融機関で実証テストが開始されており、2020年までにSHARESΦを50の金融機関に導入することを目指していると近藤氏は話す。

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また、SHARES AIは、クラウド会計ソフトのfreeeやMFクラウドとのAPI連携に対応しているほか、130万以上の登録ユーザー数を誇る弥生ともCSV連携できるようになっている。そのため、将来的には会計ソフトの情報をダイレクトにSHARES AIへと供給し、企業が資金調達のタイミングに関する通知を受け取ったら金融機関に連絡をとり、金融機関がSHARESΦ経由でその情報をもとに融資審査を行う、という一気通貫サービスが提供できるようになるかもしれない。

顧客ベース拡大に向けて

今回投資に参加したSBIインベストメントは、今年の6月に300億円規模の「FinTechファンド」を設立しており、SHARES Φの顧客獲得に向け、同社にはファンドに参加している金融機関とココペリインキュベートの関係深化を促す役割が期待されている。

また、ココペリインキュベートは、横浜キャピタルの親会社にあたる横浜銀行や他数社と共に、小口融資の自動審査システムを開発するためのコンソーシアムを今年立ち上げた。そこでは企業からの申し込み後、即日もしくは翌日に融資ができるようなシステムの開発にあたっている。

さらに取締役COOの森垣昭氏によれば、弁護士や税理士など士業への営業力に定評のある、アドウェイズ傘下のサムライアドウェイズとの業務提携を通して、SHARES上の登録専門家の数を増やしていく計画だ。

金融機関へのシステム導入実績のあるTISとは、財務情報登録作業の効率化や事務作業の軽減を目的とした同社の既存のシステムと、ココペリインキュベートの与信審査テクノロジーを組合せた新たなシステムの開発にあたっていくとのこと。

その他にもココペリインキュベートは、先月よりビッグローブと提携し、同社が起業家向けに提供している創業支援サービスの一部として、SHARES経由の相談サービスを提供している。

今後もSHARESを利用する企業数の拡大に取り組むと共に、 特許出願中のSHARESΦで、融資先を増やしたいと考えている金融機関と資金調達のハードルに苦しむ中小企業のギャップを埋めていく考えだ。

次にフィンテックの舞台となる保険業界で成功をおさめるための秘訣

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【編集部注】執筆者のRichie Heckerは、投資家でTraction & ScaleのCEOを務めるほか、Bloomberg Nationのコミュニティリーダーでもある。

結局のところ、保険とはリスクのビジネスだ。契約者に何も起きなければ保険金の請求額は低くなり、みんな幸せになれる。しかし、保険テクノロジー(もしくはインステック/保険テック)の分野が多くの起業家や投資家の間で人気を博している中、その実情はあまり理解されていない。

数ある業種の中でも、保険業は始めるのがとてつもなく難しい。というのも、規制機関が保険市場に新たなプレイヤーを参入させたがらないのだ。その理由はリスクで、保険業にはリスクを管理するための強固なシステムとバランスシートが欠かせない。しかし、新規参入の難しさゆえに、テクノロジーの観点から言うと保険業界は他の業界に遅れをとっている。これこそ、保険業界でディスラプションが起きようとしている背景だ。

「2016年の上半期だけで保険テクノロジー界に10億ドル以上もの投資が集まっていることや、1000人もの企業幹部の参加を予定しているInsureTech Connectのような業界イベントの盛り上がりから、保険業界にテクノロジーの波がきていることが分かります」とQED Investorsのパートナー兼InsureTech Connectの共同ファウンダーであるCaribou Honigは話す(実はInsureTechのもうひとりの共同ファウンダーは、以前私のポートフォリオ企業に投資している)。

冒頭の通り保険はリスクのビジネスであり、自分たちがケガをしないよう各企業の動きは遅い。保険商品の開発に3〜5年かかることもよくある。3年から5年もだ。スタートアップの世界で言えば、これは永遠に感じられるほど長い。一方で保険のプレミアムは毎年1兆2000億ドルに達している(アメリカでは”プレミアム”とは保険業界の売上を指す)。この数字は大したものだ。一般的にはどんなテクノロジーの開発にも一年以上かかり、さらにその後収集したデータを利用しながら3〜5年かけてアンダーライティングのモデルに磨きをかけなければいけない。しかし、現在収集できるデータの量や種類は昔に比べて豊富で、かつリアルタイムで入手することができる。つまり長い商品開発の期間は、スタートアップにとってのチャンスとなるのだ。

保険とは確率のゲームで、統計モデルに基づいた賭け事だ。

保険業界への参入の鍵は、行動経済学を理解することにある。行動経済学とは、人間の行動そのものや、それが購買活動にどのような影響を与えているかを研究する学問だ。まず、保険は負の支出だと考えられている。契約者が保険料の対価を得るということは、何か悪いことが起きたことを意味する一方、保険料を支払いっぱなしだと損をした気分になり、負けっぱなしな気がする。しかし実はそうではない。

市場規模を考えると、Win-Winな状況を作りだせることは明らかだ。自動車保険を例にとれば、さまざまな保険会社を比較している人たちの中でも、71%以上の人が2015年中に保険会社を変更することはなかった。

「保険業界の現状を表す例としては、Blockbuster(米レンタルビデオチェーン)とNetflixの対決が最適だと思います。既存の保険会社が商品の効率化に没頭しているかたわら、スタートアップは顧客の声に耳をかたむけて、保険業の基本的な構造から変えようとしています。彼らは過去100年間で誰も見たことがないようなやり方で、商品や流通、テクノロジーを根本的に変えつつあります」とBumbleBeeの共同ファウンダー兼CEOのJerry Guptaは話す。なお、Jerryは以前Liberty Mutualのイノベーション・ディレクターを務めており、ライドシェア向け自動車保険の世界を変えようとBumbleBeeを設立した(私はBumbleBeeに投資しており、同社の会長でもある)。

同時に、保険業界にディスラプションを起こし得る要素はいたるところにあり、シェアリングエコノミーやオンデマンドサービス、ビッグデータ、IoTやテクノロジー全般がそれにあたる。では保険テクノロジー企業が成功するにはどうすればいいのだろうか?この問いに対する答えは、自分たちで保険会社を立ち上げるか、サービスプロバイダーに徹するかの大きくふたつに別れる。この記事の中では、前者について議論していきたい。

保険とは確率のゲームで、統計モデルに基づいた賭け事だ。それでは、テクノロジーをどのように使えば勝率を上げて市場で稼ぐことができるのだろうか?

角を丸くする

保険テクノロジーの分野で大きな成功をおさめるには、既存商品の角をとっていくのが1番の方法だ。言い換えれば、いちから新しい商品を開発するのではなく、うまくいっている部分はそのままにして、既存の商品を今の時代にあった形に変化させていくということだ。具体的には、分かりやすい契約書を準備し、ユーザーエクスペリエンスを向上させ、インセンティブ(顧客にある行動を促す要因)を現在私たちが住む世界に合わせていくことなどが考えられる。

契約書の内容の多くは100年以上前に考え出されたもので、その頃には現代のテクノロジーもなければ、デジタルに繋がったシェアの世界に潜む複雑さも存在しなかった。そのため契約書を作る際には、補償内容をシンプルにして例外を省き、その保険商品を購入することで、加入者にはどんな利点があるのかをハッキリさせなければいけない。それはちょうど鋭い角を丸めるように、やるのは簡単な上、人がケガをするのを防ぐことができる。

契約書を作る際には、補償内容をシンプルにして例外を省き、その保険商品を購入することで、加入者にはどんな利点があるのかをハッキリさせなければいけない。

「保険業界には、わかりやすさを求める消費者のニーズに合わせてサービス内容を変更する責任があります」と大手生命保険会社RGAxでヴァイスプレジデント兼イノベーションスタジオリードを務めるFarron Blancは話す。「アンダーライターが加入希望者の情報を審査する際の基準や、保険相談にかかる費用や支払タイミングについての情報を明らかにするなど、保険業界は消費者の声に応えていかなければならない。その高潔な目的のもとで人々の生活を良くするため、保険業界には変化が求められているんです」

分かりやすい契約書:「保険は複雑で分かりにくい」というイメージを持つ人は多い。そもそも、弁護士の作った契約書に普通の消費者がサインをするというのは、不公平に感じないだろうか。分かりやすく補償内容がハッキリと書いてある契約書をつくるだけでも、保険業界にディスラプションを起こすことができるのだ。

そのためには、簡潔な言葉で何がカバーされていて何がカバーされていないのかを明記し、例外をなくしつつ、現状に合わせた微調整を行わなければいけない。住宅保険であれば、Airbnbの利用も一定の範囲でカバーすべきだし、自動車保険であれば、Uber車としての利用も許されるべきだ。もしもフルタイムでUberドライバーの仕事をする、ということであれば事情は変わってくるが、保険会社は保険内容に余裕をつくって、加入者が何か新しいことに手をだすのを許容しなければいけない。さらに契約書の内容はわかりやすく書いてあるか、そして実際に顧客に起こり得るような出来事をカバーしているかどうかも重要だ。このようなポイントを抑えれば、消費者の間でその保険会社の評判が高まることになるだろう。

ユーザーエクスペリエンスデザイン:ユーザーエクスペリエンスについても、分かりやすさを追求しなければいけない。ほとんどの保険会社は、未だに代理店を通して商品を販売しているが、代理店を利用するにも費用がかかり、結果的には消費者にそのしわ寄せがきている。そこで、保険テクノロジースタートアップは、ユーザーが彼らと直接契約できるようにしなければいけない。モバイルアプリをつくって、契約や保険金請求のプロセスをアプリ上で行えるようにすればいいのだ。そして、もし請求があればビデオチャットを通して、状況を把握することができる。さらに顧客とのコミュニケーションチャンネルは、モバイル、SMS、チャットボットなど、彼らの要望に合わせて用意しておいた方が良い。そして請求の処理が終わったら、顧客が請求時に使ったものと同じチャンネルを通じて、処理完了に関する連絡をする。そうすれば顧客満足度が高まっていくだろう。

同時に、できる限り多くのデータを集めるられるように、ユーザーにインセンティブを与えることも重要だ。モバイルデバイスやIoTデバイスを使うことで、データの収集経路を増やすことができる。さらに集めたデータを利用することで、リアルタイムで顧客の行動を解析でき、インセンティブの調整も可能だ。早い時点からデータ収集のために顧客の教育に注力すれば、最終的には顧客の行動に基いたセグメンテーションという形でその労力が報われることになる。

インセンティブの調整:必要なときに保険を請求できるかどうかというのが、保険商品の品質の要だ。しかし保険は、自動車のこすり傷や、ただ咳が出ているだけのときなど、全ての状況をカバーするためには設計さていない。もともと保険は大災害(=大きな出費)が起きたときのためのものだ。例えば船が海賊に盗まれたら、Lloyd’s of Londonはそれをカバーしてくれる。

保険金の請求プロセスは、請求額の大小に関わらず全ての案件で同じだ。だからこそ、少額の問題については加入者が自分で手数料をかけずに処理し、被害額が大きいときには保険を利用するように仕向けることで、保険会社は出費をかなり抑えることができる。そして減らした出費を顧客に還元すれば良いのだ。

保険業界は今ディスラプションを起こすには最適な市場だ。そして上述のように、保険業界で成功するためには、分かりやすい契約書や簡素化された契約プロセス、使いやすいサービスを準備し、加入者が出費を抑えつつ、本当に必要なときにだけ保険を請求するようにインセンティブを調整することが重要になってくる。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

クレジットカードのCapital Oneがオンラインで商品価格をトラックするParibusを買収

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Capital Oneが、またフィンテック分野で買収を行う。今回は価格トラッキング・サービスのParibusだ。Paribusは、オンラインの買い物客が購入した商品の価格が下がった際に、自動で返金を得られるように手伝うサービスだ。取引条件は公開されていないが、今回の買収でParibusのテクノロジーとチームのどちらもCapital Oneに加わることになる。

ParisubはTechCrunch Disrupt NY 2015のStartup Battlefieldでローンチし、そのアイデアはオンラインの買い物客が、購入した商品の価格を継続的にトラックし、価格が下がった際にはオンラインの小売店に返金を依頼するプロセスを自動化するというものだ。多くの小売店は、購入後でも価格を一致させるための返金に応じるが、ほとんどのコンシューマーは商品の購入手続きが完了した後、その商品の価格の変動を確認するのを面倒に感じている。

ParibusはGmail、Outlook、YahooなどのEメールプロバイダーと連携し、ユーザーの受信箱にあるオンラインで購入した商品のレシートをスキャンする。レシートを見つけると、オンライン店舗に設置してある商品価格の一致を知らせるウェインドウを見に行って、価格が下がっているかどうかを確認する。このサービスはAmazon、Best Buy、Walmart、Target、Bloomingdale’s、Macy’s、Bonobos、J.Crew、NewEgg、Costco、Staples、Kohl’sを始め、多くのオンライン店に対応している。

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Paribusは220万ドルを調達し、12名のチームで運営している。彼らは全員Capital Oneに加入する。ParibusのファウンダーであるEric GlymanとKarim Atiyeは、Capital OneのU.S. Cardでシニアディレクターに就任する。

「私たちは彼らの才能、そして彼らがユーザーの生活を助けるという揺るぎないミッションを掲げて開発している革新的なテクノロジーに感嘆しました」とCaptal OneのU.S. CardでManaging Vice Presidentを務めるEmilia Lopezは、同社がParibusを買収した理由について話す。

「私たちが注力することは、Capital Oneの幅広いサービスの中にParibusを融合させること、そしてCreditWiseやSecond Lookといった私たちが人々の生活を楽にすることを目指して提供しているテクノロジーやツールにParibusのプロダクト加えることです」とLopezは言う。

買収時、Paribusは70万人のユーザーを抱え、共同ファウンダーのGlymanはここ数年における同社の方向性と成長にチームは満足していたと話すが、収益については開示しなかった。

「他の多くのスタートアップ同様、私たちは1年間で急速に成長し、様々な道を選ぶことができました」とGlymanは話す。「私たちはCapital Oneと力を合わせる道を選びました。革新的なテクノロジー企業に加わり、私たちの取り組みを大幅に増強できること、そして彼らと共にコンシュマー向けの素晴らしいテクノロジーを構築する力を活性化させることができることを嬉しく思います」。

Paribusは買収後に閉鎖することはないが、Capital Oneと新たな節約サービスの開発に取り組みという。同社はすでに、クレジットカードの価格保証に焦点を当てた新プロダクトに着手していて、次のビジネスにおける一歩を踏み出している。

今回の買収は近年Capital Oneがテック人材の採用とカスタマーにモダンで革新的なサービスを提供するために行なっているいくつかの買収案件に続くものだ。Capital OneはBundleBankOnsAdaptive Pathといったスタートアップを買収していて、昨年もLevel MoneyMonsoonを買収している。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website

なぜシリコンバレーのトップ投資家たちは今、ラテンアメリカに投資するのか?

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ベンチャー〔編集部〕Julie Ruvoloは元TechCrunchライターで、現在はLatin American Private Equity and Venture Capital Associationの論説主任を務めている。

ラテンアメリカは、今地球上で最も見過ごされている市場かもしれない。

ラテンアメリカのベンチャー市場規模はインドや中国には及ばない。ウォールストリートジャーナルによれば、2016年前半の中国における新規ベンチャーキャピタルファンドは118億ドル(14%減)に上るのに対し、ラテンアメリカでは2億1800万ドルだった。「真のスタートアップ」となるには10億を超えるユーザーが必要だと考える投資家たちは、同地域の6億人という人口規模も見落としている。

しかしAndreessen Horowitz(コロンビア)、Founders Fund、Sequoia Capital(ブラジル)、QED(メキシコおよびブラジル)からの初投資によって、その様相は変わりつつある。

自分はここ数年、TechCrunch向けにラテンアメリカでの投資について書いてきた。VivaRealPSafeComparaOnlineDescomplicaなどのスタートアップのラウンドについて取り上げたこともある。また、幅広く成功中のMercadoLibreが設立した「KaszeK Ventures」や、その名のとおりRedpointとe.Venturesのジョイントベンチャーである「Redpoint e.Ventures」のようなラテンアメリカ地域の主要なローカル投資家を取材したこともある。

ローカル投資家の視点から見た場合、ラテンアメリカにおける機会には次のようなものがあるだろう。

  • インターネット人口は3億人から6億人へと倍増する見込み。
  • 人口の半数が銀行システムを利用していない(たとえばメキシコではわずか15%しかクレジットカードを所持していない)。
  • 人々のほとんどが安価なAndroid経由でオンラインに接続している。

注目に値するのはブラジルで、その人口2億人のうち、半数しかオンラインにいないにもかかわらず、すでに主要ソーシャルプラットフォームで世界2位または3位を占めている事実だ。また、データよっては、ブラジル人は(不思議なことになぜかOrkutに端を発して)世界のどの国民よりもオンラインで時間を過ごしているという。

ではベンチャーに関するデータはどうだろうか。ベンチャーキャピタルによる投資はこの5年間で着実な増加をみせている。2015年には過去最高となり、総額5億9400万ドル、182件以上の取引があった。ブラジルは経済的・政治的危機にもかかわらず、調達額と投資額の点でラテンアメリカのベンチャー市場ではトッププレイヤーだ。

Latin American Private Equity and Venture Capital Association(LAVCA)による年半データによると、ラテンアメリカでのベンチャーキャピタル取引は前年比で46パーセント増加したという(ちなみにLAVCAは筆者が勤務するOmidyar Networkがサポートする非営利団体だ)。

アメリカ国境よりも南では「大したことは起きていない」と思っているあなたのために、以下に自分が気づいた投資トレンドをいくつか紹介しよう。

シリコンバレーのトップ企業がラテンアメリカで投資を始めた

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ちょうど今年、Andreessen Horowitzがコロンビアの食料品宅配サービスRappiに、ラテンアメリカで初めての投資を行った。

Founders Fundもラテンアメリカでデビューを飾った。投資先は弁護士マッチングプラットフォームのJusbrasilと、フィンテック関連のスタートアップNubankだ。Nubankは昨年にかけてFounders Fund、Sequoia Capital(同キャピタル初のブラジルへの投資)、Tiger Global、KaszeK Ventures、QED Investorsから8000万ドルを調達し、さらに今年に入ってゴールドマンサックスによる5200万ドルの債務投資も受けた。

またゴールドマンサックスは今年、ブラジルの物流系スタートアップCargoXに対する1000万ドルの投資も率いた。その際にはValor Capitalと、Uberの共同設立者Oscar Salazarの参加があった。

メキシコではAccel PartnersとQED Investorsが初めての投資を行った。Accelは同国の食料品ショッピングサービスCornershopへのシリーズAで670万ドルを出資したのだ。このラウンドはラテンアメリカで最もアクティブなベンチャーキャピタルの1つ、ALLVPが率いた。QEDはKaszeK、Quona Capital、Accion Frontier Inclusion Fund、Jaguar Ventures(メキシコの投資会社)とともに、融資プラットフォームKonfioに向けた800万ドルのシリーズAに参加した。

メキシコは2015年、資金調達で初めてブラジルを追い抜いた

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2016年上半期には、メキシコの資金調達件数はラテンアメリカでトップとなった。取引数は47件(2015年上半期と比較して4.2倍)で、政府機関であるFondo de FondosとNational Institute of the Entrepreneur(INADEM)がここ数年で提供した資本によって活気づいたところが大きい。

(ちなみに、ブラジルにおけるベンチャーキャピタルのエコシステムも、BNDESFINEPからの政府出資で活性化した経緯がある。また、多数国間投資ファンドFOMINのSusana Garcia-Roblesが、ラテンアメリカ地域における70ファンド以上で個人的にアンカー投資を率いているのも注目に値する。)

今のところラテンアメリカのベンチャー投資ではフィンテックが優勢

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IT関連の投資では、フィンテックが投資額面で2015年には29パーセント、2016年上半期では40 パーセントを占めた。メキシコでは前述のKonfioに加えて、同じく融資プラットフォームのKueskiがCrunchFund、Rise Capital、Variv Capitalなどから1000万ドルを調達した(さらに2500万ドルの借入もあり)。ブラジルではIFCが1500万ドルを調達したGuiaBolsoのシリーズCを率い、KaszeK Ventures、Ribbit Capital、QED Investorsが名を連ねた。興味深いのは、ラテンアメリカでは人口の半数が銀行サービスを利用していないため、ほとんどすべてのフィンテック系スタートアップは直接的、あるいはそうと意図せずとも、市民の金融サービスへのインクルージョンに影響していると言える点だ。

MonsantoやQualcomm、BASFによる大規模投資で、アグテックもヒートアップ中

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ブラジルは、アメリカに次いで世界第2位の農業ビジネス市場だが、ラテンアメリカにおけるアグテックは全くといっていいほど注目されておらず、2011年以降は同地域におけるベンチャー投資の1パーセント以下しか占めていなかった。しかしこれも変わりつつあるようだ。Monsantoが、ブラジルのアグテックファンドBR Startupsに最大9200万ドルを投資することになった。このファンドはMicrosoftがQualcomm Venturesとの協力のもと管理しているものだ。

またQualcomm Venturesは、ブラジルで200万件以上あるすべての農場にドローン1機を配置するプログラムをローンチした。さらにドイツの大手殺虫剤メーカーBASFも、アグテックアクセラレーターのAgrostartを先頃ローンチしたばかりだ。

買収に精を出すブラジルのモバイル複合企業Movile

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ラテンアメリカ関連のデジタルM&A取引については、公に入手可能なデータが十分とはいえないが(これについては現在改善中だ)、現在最も活発に買収活動を行っているのはMovileのようだ。

Movileの子会社で、ラテンアメリカでオンデマンド式フードデリバリーの先陣を切るスタートアップのiFoodは、シリーズFで調達したばかりの3000万ドルでSpoonRocketを買収した。これは過去2年以内で15件目の買収にあたる。

また、メキシコではMovileのオンデマンド式デリバリー・配送サービスのRappidoが、ブラジルでのライバル会社99Motosを合併し、ますます勢いを増している。

注目の集まるアルゼンチン

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新たに選出されたマウリシオ・マクリが大統領となったアルゼンチンでは、起業を促そうと構造改革が進行中だ。

マクリ大統領とNational Secretary of Entrepreneurship(起業庁)長官のMariano Mayerは、起業家精神と新規企業設立の促進を目的とした一連の法案を発表した。このLey del Emprendedor(起業家法)では、起業家はオンラインから24時間かからずに登記して会社を設立できるようになる。Ley de Sociedades de Beneficio de Interés Colectivo(集団的利益に関する会社法)は、持続可能な環境的・社会的影響について定義し、ビジネスを承認する法律としてはラテンアメリカ地域で初めてのものとなる。

加えて、新たに10件のファンドを設立して起業家が資本にアクセスできるようにする計画(このうち3件は今年末までにそれぞれ3000万ドルを調達する予定)や、クラウドファンディングの許可に関する法案も提出予定となっている。これと似た企業の新設を後押しするための法案プロジェクトは、メキシコシティとブラジルでも進行中だ。

<筆者付記>ラテンアメリカのベンチャー資金調達や投資データ、ローカルおよび世界で最もアクティブな投資家と最大規模の取引などについては、LAVCA発行の5年間の動向レポートをお読みいただきたい。最新のベンチャーキャピタル取引をフォローするには、同じくLAVCAが隔週発行するLatAm Venture Bulletinの定期購読をおすすめする。

 

画像提供:LEIRIS202/FLICKRCC BY 2.0ライセンス)

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(翻訳:Ayako Teranishi / website

スマホ証券One Tap BUYがみずほ銀行と連携ーー銀行口座に預金があれば株取引ができる

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どの証券会社でも、株式を注文するためには、ユーザーは指定の証券口座に入金する必要がある。けれど、そのためだけにATMや銀行に行って、預金口座から証券口座に送金する時間を取れない人も多いだろう。また、証券口座に送金しても、着金が反映されるまでには時間がかかる。金曜日の夜に送金して、週明けまで着金が反映されないのでは、株を買いたいと思った時に購入することは難しくなる。

証券取引アプリのOne Tap BUYはこの送金作業を簡略化するため、みずほ銀行が提供する「アドバンストデビット」機能と連携し、新しく「銀行においたまま買付」サービスを提供することを本日発表した。その名が示す通り、銀行口座から証券口座に資金を移さずとも、株の買い付けができるサービスだ。

みずほ銀行の預金口座を持つOne tap BUYのユーザーは、スマホから「銀行においたまま買付」への申し込み手続きを行うことができる。手続き完了後、One Tap BUYで株式を購入する時に「入金連携」でみずほ銀行の口座を指定すると、One Tap BUYのシステムが預金残高を確認し、買付金額以上の金額が入っていれば、買付を行う仕組みだ。

screen 「One Tap BUYは、日本で株式投資を身近にしたいという思いで創業しました」とOne Tap BUYの取締役マーケティング部長三好美佐子氏は説明する。それを実現するため、創業時はまず株式の注文の部分を簡単にするサービス開発に注力してきたと話す。昨年開催されたTechCrunch Japan 2015では、スタートアップバトルに出場し、銘柄と金額を指定して3タップだけで株式取引ができるシンプルなアプリUIを披露した。今年の6月に正式ローンチしたOne Tap BUYのアプリは、6万6300以上のダウンロードを達成している。

ただ、ユーザーの中には口座開設はするものの、入金に至らない人もいたと三好氏は話す。そういったユーザーにヒアリングを行い、入金のハードルを下げる施策を検討した結果、今回の「銀行においたまま買付」の開発につながったそうだ。「銀行においたまま買付」を利用するには、1回の取引につき108円を課金する予定だが、2017年3月末までは無料で提供する予定だ。

資産管理アプリMoneytree、iOS 10のメッセージで使えるiMessageアプリ「ワリカン」を早速ローンチ

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本日よりiOS 10の一般公開が始まった。スマホを持ち上げるとスリープが解除されたり、ホームスクリーンの小さなウィジェットからアプリ機能が使えたりと使い勝手が向上している。中でも大きく変わったのが、Apple純正のメッセージアプリだ。iOS 10のメッセージアプリでは、友人とやりとりしながら様々なiMessageアプリを使用できるようになる。日本でも早速、iOS 10の一般公開初日から使用できるiMessageアプリが登場した。本日、資産管理アプリのMoneytreeはiOS 10へのアップデート、そしてiMessageアプリ「ワリカン」の提供を開始したと発表した。その名の通り、友人とお会計を割り勘する時に使えるシンプルなアプリだ。

MoneytreeのiMessageアプリを説明する前に、改めてiOS 10のiMessageアプリについておさらいしたい。今年6月に開催された開発者カンファレンス「WWDC」で、Appleはメッセージアプリのアップデートを発表した。iOSに最初から搭載されているこのメッセージアプリは、iOS 10からスタンプや手書き文字を送受信したり、Apple Musicの楽曲などを簡単に共有したりすることができるようになる。

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iMessage最大のアップデートは、iPhoneにダウンロード済みのアプリと連動するインタラクティブなiMessageアプリが使用できるようになることだ。「iMessages App Store」が新設され、ユーザーは欲しいアプリをそこからダウンロードして使用できる。ただ、iMessageアプリは、iOSアプリのエクステンションという位置付けで、iMessageアプリを使用するには、iOSアプリをスマホにダウンロードしている必要がある。これは、Apple Watchでアプリを使用するにも、スマホに元のアプリをダウンロードしている必要があるのと同じ仕組みだ。

MoneytreeのiMessageアプリは、iOS 10のローンチ初日の今日から使用できるアプリの1つだ。MoneytreeのiOSアプリは、銀行口座や証券口座の残高を確認したり、クレジットカードの使用状況などを確認したりすることができ、iMessageアプリではワリカン機能を提供する。moneytree-immessage

「ワリカン」は、何名かで食事に行った時にそれぞれの会計金額を決めるためのシンプルなアプリだ。メッセージで、お会計金額を該当する人やグループに送付する。領収書を添付することも可能だ。メッセージを受け取ったユーザーは金額を確認し、もしその金額に不満があれば申し出たり、あるいは表示金額より多く払うことを提案することもできる。対面だと直接言いづらいお金のやりとりも、かわいらしいアプリのスタンプで伝えることが可能だ。支払いが完了した時には、支払い状況を変更することができる。

他のコミュニケーションアプリでこういった追加機能を提供することも可能ではあるが、iMessageアプリを選んだのはApple製品の安全性の高さが決め手とMoneytreeのChief of Marketingを務めるザック・タウブ氏は話す。iMessegeにはエンドツーエンドの暗号化が施され、プラットフォーム自体の安全性が高い。Apple製品はセキュリティー、プライバシー、透明性の高さに定評があり、お金のやりとりというセンシティブな情報を扱うMoneytreeでも安心してプロダクトを開発できるとタウブ氏は説明する。

また、Appleのセキュリティーやプライバシーへの取り組み方はMoneytreeとの理念にも通じるという。Moneytreeはサービス展開において、セキュリティーとプライバシーを重んじるスタンスを強調してきた。例えば、Moneytreeはアプリを提供する全てのプラットフォームで個人情報保護認証であるTRUSTeを取得してプライバシーの安全性を担保し、個人情報に基づくファイナンスマーケティングも一切行わないと明示している。Moneytreeは、今後モバイルでの電子決済といった金融サービスが充実するほど、ますます個人がどこに何の情報を提供するかをコントロールし、個人主導のデータの使い方が主流になると考えているという。その時、ユーザーはよりセキュリティーやプライバシーの安全性が高いプラットフォームやサービスを支持するようになるだろうとタウブ氏は説明する。

現段階でMoneytreeのiMessageアプリには、それぞれの個人が支払う額を決める基本的な機能しかない。しかし、人々がスマホアプリを使ってお金の話をすることに慣れれば、ゆくゆくは決済機能などを付け加えることも視野に入れているという。

Moneytreeが最終的に目指すのは「ソーシャルマネー」という新たなカテゴリーの確立とタウブ氏は言う。この「ソーシャルマネー」は個人が行うお金のやりとりを意味するそうだ。割り勘もその一種であり、例えば個人間でのお金の貸し借りや、広義には個人と会社間のお金のやりとりも含むと話す。今回のiMessageアプリは、その「ソーシャルマネー」領域に踏み込むための最初の一歩と位置付けている。

私もメッセージアプリを触ってみたが、手書きメッセージやGIFを見つけて送ったりするのは面白いし、専用アプリも役立ちそうではある。ただ、このワリカン機能を使うためには、食事や飲み会に集まった友人や同僚全員が、Apple端末で、iMessageを利用していて、さらにMoneytreeのiOSアプリをダウンロードしている必要がある。これは少しハードルが高いかもしれないと感じた。ただ、これはMoneytreeの問題というより、iMessage自体の普及率の問題でもあるだろう。Androidでは現状iMessageは利用できないし、日本では多くの人がFacebook MessengerやLINEを利用し、それらのプラットフォームには強力なネットワーク効果がある。プラットフォームのセキュリティーの高さやこれから魅力的なアプリが使えるようになれば、それは確かにユーザーを惹きつける理由になるかもしない。しかし、実際にそうなるかが分かるのはもう少し先のことのようだ。

AIが人に代わって資産運用を行う時代

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【編集部注】執筆者のNathan RichardsonはTradeItのファウンダー兼CEO

これから5年後のAIに対する私たちの考え方は、2008年時点でのアプリに対する考え方と近いものになるだろう。そして、その頃には2016年がAIの石器時代のように映ることになる。

アプリは全く新しい消費者行動を生み出し、特にフィンテックの分野ではモバイルバンキングやシェアドペイメントを利用したサービスが誕生した。しかし、残念ながらアプリ経済はピークを迎えようとしているようで、アプリのマネタイズには各社が苦戦を強いられている。

アプリはそのうち過去のテクノロジー となり、AI時代の到来を告げることになるだろう。今日のボットは単なるアプリの代替品か目新しいおもちゃの域を出ず、まだロボットに話しかけているような気分がする。しかし、最終的にボットは今のアプリよりもスマートになり、まだ現実になっていないような全く新しい方法でアプリが解決できない問題を否が応でも解決することになる。

すこし未来に目を向けてみると、例えばボットやAIは消費者の当座預金口座を使ってお金を生み出すことができるようになる。

口座の中に余っている現金には、機会損失が発生しているということに気づいているだろうか?さらにその価値は毎日インフレで目減りしているのだ。逆に利益を生み出すためには、最小限の現金を当座預金口座に預け、残りを投資に回すという手がある。しかし、予期しない支出が発生すると突然残高が減ってしまうため、銀行の手数料やクレジットカードの金利で投資益が相殺されてしまわないよう、口座にはある程度余裕をもっておかなければならない。

私たちはAIの力を使って資産を増やしつつ不安を減らすことができるようになるのだ。

こう考えると勝ち目がないように見える。キャピタルゲインを見逃すか、口座残高とリンボーダンスをするしか選択肢がないのだ。しかし、将来的にはAIがこの葛藤を過去のものにしてしまうだろう。

AIが進歩していくうちに、消費者自身よりも彼らの支出に詳しいロボット会計士が誕生するだろう。ロボット会計士はユーザーの購買履歴を解析し、当座・普通預金口座、投資用口座、クレジットカード口座の間で現金を絶え間なく移動させる。そうすることで、当座預金口座の残高を、手数料をとられる恐れがないくらい十分、かつ投資益を逃すほどではない”スイート・スポット”に常に保つことができるのだ。

現状スイート・スポットをみつけるのには時間がかかる上、消費者の不安を誘発しやすい。しかし、そのうちロボット会計士は、いつユーザーが散財するかや、いつ車を修理する必要があるか、どの時期に電気代が上昇するかなどを感知することができるようになる。さらには、最低預金残高を下回って銀行へ口座維持費を支払ってでも、クレジットカード口座にお金を残しておいた方が良いといった判断までできるようになるだろう。

手数料の低減や収益の最適化というのはAIがなくとも実現できるが、そこまで上手くは機能しないだろう。AIは、過去の消費傾向やさまざまな金融機関の手数料のほか、数えきれないほどの情報をもとに複雑な判断を下すことができる。ロボットが計画をたてるからユーザーは何もしなくて良い、ということこそロボット会計士が便利だと感じる上での重要なポイントなのだ。

ロボット会計士は全ての情報を考慮し、ユーザーの投資益を最大化しながら、全体の手数料を最小化するようになる。つまり、私たちはAIの力を使って資産を増やしつつ不安を減らすことができるようになるのだ。これは、アメリカ市民の60%がリタイア時の貯蓄目標を達成できそうにないと心配していることを考えると、素晴らしい偉業だといえる。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

EUの新たな規制がフィンテックの繁栄につながるかもしれない

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【編集部注】執筆者のDennis Mitznerは、Tel Aviv在住でスタートアップやテクノロジートレンドを専門とするライター。

EUの金融市場に対する規制強化の動きは、グローバルに活動するフィンテック企業に新たなチャンスをもたらせた。というのも彼らは、28カ国から構成され、高収益が期待されるEU市場に入り込むため、共通基準の導入を待っていたのだ。過剰規制が経済の成長を抑制してしまう一方、消費者の信頼が必要なフィンテック業界は、規制フレームワークがきちんと定められることで多くを得ることができる。

「フィンテックスタートアップは、製品やマーケティング戦略のほかにも、とても明確な規制対応やコンプライアンスに関する戦略が必要になってきます。透明性の高さやデータインテグリティを支えに、データ駆動型のビジネスを開発しているフィンテック企業は、新しい規制環境から利益を享受することができるでしょう」とストックホルムを拠点とする投資会社、NorthzoneのMarta Sjögrenは語る。

ある地域でビジネスを行うために規制機関から認可を得る必要があるなど、各種の規制は企業にとって参入障壁となることが多い。事業拡大を目指すスタートアップにとっても、コンプライアンスは避けられない問題であり、特に金融システムはリスクを嫌う傾向にある。

「結果的に、フィンテック企業のファウンダーは規制機関と協力しなければならず、さらには回答までの長い期間を考慮に入れ、この長期戦に付き合いつつ成長の手助けをしてくれるような戦略的パートナーをみつける必要があります。フィンテックは短距離走ではなくマラソンのようなビジネスなんです」とFuture Asia VenturesのファウンダーであるFalguni Desaiは、最近の白書の中に書いている。

明確な規制環境を構築するまでにかかる長い期間や、フィンテックスタートアップ、銀行、規制機関の3者間でのやりとりは、消費者にとって安全な環境をつくりだすためにあるのだ。

さらに、融通の利かないことが多い銀行とは対照的に、柔軟なフィンテック企業が提供する価値全体が、より良い金融商品をより安く、より効率的に顧客へ届けることにかかっている。そして、もしもフィンテック企業が旧来の金融サービスを代替しようとしているのであれば、消費者の信頼を勝ち取らなければならない。規制機関の役割はここで必要になるのだ。

「結局のところ、規制対応の目的は消費者の保護と共に、企業と消費者が信頼関係を築いていくことにあります。以前は、銀行がその役割を全て担っていましたが、これからは状況が変わってくるかもしれません」とSjögrenは言う。

近年、EUは新たな規制を多数導入しており、モバイル・インターネット決済基準(PSD2)や銀行の自己資本比率やストレステストに関する任意の規制フレームワーク(バーゼルIII)をはじめ、反マネーロンダリング指令(AMLD)、EU域内でのユーロ電子決済処理方法の標準化イニシアティブ(SEPA)、統一的投資規制(MiFID II)、EU全体での統一的保険規制体制(Solvency II)、会計基準(IFRS)のほかにも、そろそろ施行が予定されている電子請求書指令では、28加盟国に対して2018年11月27日までに、企業と政府・自治体間で行われる取引(B2G)では規定の基準に沿った電子請求書を利用するよう求めている。

もしもフィンテック企業が旧来の金融サービスを代替しようとしているのであれば、消費者の信頼を勝ち取らなければならない。

現時点でのヨーロッパの電子請求書利用率は24%で、2024年までにはこの数字が95%まで増加することが予想されている。その結果、企業は1年あたり全体で約645億ユーロ(720億ドル)の経費を削減できるようになる。

経費削減もさることながら、2008年の金融危機が近年の規制強化に直接の影響を与えている。特にフィンテック企業のような新たなプレイヤーにとって、コンプライアンスは事業継続に欠かせないものであるため、新しい規制環境は天の恵みのようなものだ。

「2008年の金融危機の結果、ヨーロッパ・アメリカの両地域で規制機関が積極的な活動を行っており、新たなプレイヤーにとってのチャンスが生まれていますが、コンプライアンスは絶対的に必要なものです」とSjögrenは話す。なお、彼女の勤めるNorthzoneは、ヘルシンキを拠点とする電子請求プラットフォーム企業のZervantが行った450万ドルの投資ラウンドに最近参加していた。

Sjögrenによれば、昔から存在する金融機関が持つ何世紀分にもおよぶデータによって、静的モデルを通じて資本を守るための保守的なオペレーションモデルが確立されてきた結果、金融業界は旧来のインフラや、実際には機能していないプロセスに縛られてしまっている。これは、リスクを評価するためのリアルタイムなデータ解析とは対照的だ。

「旧来の金融機関は、経済の中心地となることで独占的な地位を獲得したのです」とSjögrenは話す。

PSD2のような規制によって、銀行は将来的に自分たちのシステムをフィンテック企業に公開しなければならず、さらにはAPI関連の規制のおかげでスタートアップは銀行と顧客を仲介する役割を担うことができるようになる。

「フィンテックはみるみるうちに、世界中で様々なビジネス間の結合組織として機能し始めています。散り散りになったシステムやプロセスがつなげ合わされることで効率性が上がるほか、迅速な金融・事業戦略を後押しする仕組みができ、全てのビジネスパートナーが恩恵を受けることができます。このおかげで、ますます競争が激化し不確実性が高まっている市場においても、各企業が経済成長に貢献しつつさらなる成功をおさめることができるようになります」とサプライチェーンファイナンス関連ソフトを開発するTauliaのCEO Cedric Bruは話す。

Zervantのような企業を含めた全てのプレイヤーにとって、新たな規制は参入障壁を下げることにつながる。例えば、電子請求書指令が成功すれば、ヨーロッパ市場が完全電子化の方向へ向かい、他のオンラインベースのソリューションが浸透しやすくなる。

「EUの電子請求書に関する指令は、請求関連分野の電子化を促進することにつながるため、私たちにとってはプラスだと考えています。私たちがコアターゲットとしているスモールビジネスは、この指令に基いて数年のうちに請求ソフトを使用しなければいけなくなります」とZervantの共同ファウンダー兼CEOのMattias Hanssonは話す。

将来の規制フレームワークがどのような形になるかについての共通見解が生まれつつある中、電子化によって、B2B、B2C、B2Gを問わず、フィンテックサービスを提供する全ての企業が活躍できる土壌が生まれようとしている。

「共通基準はビジネスの連携をスピードアップさせる力があるため極めて有益です。サイズや業界を問わず、全ての市場参加者がビジネスの連携によって利益を得ることを可能にする上で、大きな影響力を持つ関連基準やガイドラインを構築しようとしている官民パートナーシップにとっては大きなチャンスがあります」とBruは語る。

多くのフィンテック企業のファウンダーや投資家は、規制の複雑さや曖昧さに対する不安感を示しており、規制過多さえ叫ばれている一方、現在成長期にあるフィンテック業界にとっては、一握りの例外を除いて、規制は少なすぎるよりも多すぎる方がまだ良いのかもしれない。なお、規制サポートネットワークの献身的な活動のおかげで、イギリスはフィンテック界を率いるハブとして機能している。

EUのような規制機関にとっての課題は、過度な規制という官僚的な落とし穴を避け、その代わりにフィンテック企業に対してオープンで先進的なアプローチをとっていくということだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter