月額料金を払ってまで参加するコアファンが盛り上げるコミュニティ、「fanicon」が3億円調達

THECOOのメンバー。前列中央が代表取締役の平良真人氏

会員制ファンコミュニティアプリ「fanicon(ファニコン)」を運営するTHECOO(ザクー)は4月25日、YJキャピタル日本ベンチャーキャピタルみずほキャピタル吉田正樹事務所、日本政策金融公庫から約3億円を調達したと発表した。

2017年12月のサービスリリース時にも紹介したfaniconは、YouTuberや声優などのインフルエンサーたちが自身のファンと交流するためのサービスだ。THECOOが「アイコン」と呼ぶインフルエンサーは、同サービスを利用して自身の近況を投稿したり、ライブ配信やファンとの1対1のチャット機能を利用してコミュニティを盛り上げていく。

一方のファンたちは、アプリ内に設けられたファン同士のグループチャットや、サイン入りTシャツなどの特典が当たる有料のスクラッチくじなどでアイコンを応援することが可能だ。

同サービスは月額課金が必要な会員制サービス。月額料金はアイコン自身が設定するが、500円程度の料金が一般的だ。“フリーミアム”という言葉が一般化するなか、わざわざ会員制という仕組みを採用した理由をTHECOO代表取締役の平良真人氏は以下のように語る。

「faniconはファンベースを広げるためのサービスではなく、コアなファンたちとのコミュニティを醸成するもの。月額料金を払ってでもコミュニティに参加するコアなファンを集めるサービスを作りたかった。その結果、いまではアイコンがテストマーケティングの手段としてfaniconを利用する例も出てきた」(平良氏)

コアなファンを集めることで、コミュニティ内の活気も高めることができたようだ。平良氏によれば、faniconユーザーの7〜8割が1週間のうちにサービス内で何らかのアクションを起こしている。また、半分以上のユーザーが月額課金だけではなく、従量課金をしてスクラッチくじを購入しているそうだ。現在、faniconに参加するアイコンの数は約210人。ユーザーの数は非公開だけれど、1コミュニティあたりのファン人数の平均は100人程度ということだから、単純に計算すると現在のユーザー数は約2万人というところだろうか。

THECOOはfaniconのほかにも、インフルエンサーマーケティングに特化したデータ事業、YouTuberなどが所属する事務所の運営も行っている。今のところ収益の基盤となっているのは事務所の運営事業だと言うが、THECOOは今回の資金調達によってfaniconをさらに強化。新たな収益の柱へと育てていく方針だ。

平良氏は今後の戦略について、「2017年12月のfaniconリリースで、(上の写真にある)三角形が完成し、インフルエンサー、広告主、ファンに関わるビジネスをTHECOOのサービスですべてカバーできるようになった。今回調達した資金は、イベント協賛などによるfaniconのプロモーションや、開発人員の強化に利用する」と語った。

また、従来のYouTuberや声優といった領域でのアイコンの発掘を進めつつ、スポーツ選手などの領域にもアイコンの幅を広げていくそうだ。

日本発の量子コンピュータ系スタートアップQunaSysが数千万円を調達、第一線の研究を実用化へ

従来のコンピュータと比べて、圧倒的な速度で計算ができるようになるかもしれない——そんな期待から、日本でも新聞やニュースメディアで取り上げられることが増えた「量子コンピュータ」。最近はスーパーコンピュータと比較して紹介されることも多い。

海外ではGoogleやIBM、Microsoftなど大手企業がこぞって開発に力を入れているほか、Rigetti Computing(以下Rigetti)など関連するスタートアップも数十社存在。ここ数年で研究開発も一気に進み、化学や製薬、金融、物流、機械学習などさまざまな分野での応用が期待されている。

ただ日本で量子コンピュータ関連の事業に取り組むスタートアップはまだほとんどないのが現状だ。今回紹介するQunaSys(キュナシス)は、数少ないそのうちの1社。同社は4月25日、ベンチャーキャピタルのANRIから数千万円を調達したことを明らかにした。

量子化学コンピュータと量子機械学習の領域にフォーカスし、アプリケーションの開発を進めていく方針だという。

第一線の研究者がタッグ、社会への応用目指す

QunaSysのメンバー。前列中央がCEOの楊天任氏、前列右がCTOの御手洗光祐氏

QunaSysは量子コンピュータのソフトウェア(アプリケーション)を開発するスタートアップだ。

東京大学で機械学習を研究するCEOの楊天任氏と、大阪大学で量子アルゴリズムを研究するCTOの御手洗光祐氏が中心メンバー。そこに京都大学の藤井啓祐特任准教授、大阪大学の北川勝浩教授、根来誠助教授といったこの分野の専門家を顧問に迎え、2018年2月にスタートした。研究者が集まったチームだが、楊氏はクラウド会計のfreeeや自動運転システムを開発するZMPなどスタートアップでのインターン経験もある。

QunaSysが取り組む量子コンピュータとは、量子力学のルールを用いて計算するコンピュータのことだ。コンピュータでは「0」と「1」というデジタル信号を用いて処理を行う。一般的なコンピュータではこの「0」か「 1」どちらか一方の状態をとるビットを使っているのだけど、量子コンピュータで使う量子ビット(qubit)では「0」と「1」を重ね合わせた状態で計算できる。

この性質により、たとえば10個の量子ビットがあれば2の10乗、1024通りの重ね合わせ状態を保持することができるようになるという。つまり何か問題を解く際に、たくさんの可能性を重ね合わせた中からもっともらしい答えを高確率で、かつ高速で求められる可能性を秘めているのだ。

「(理論上では)300量子ビット規模のコンピュータを準備できれば、2の300乗と宇宙上の全ての原子の数より多い場合の可能性を一気にテストできることになる。量子コンピュータが注目されているのは、量子ビットのサイズが増大すれば計算能力も指数的に増大するからだ。ゆくゆくは現在の暗号・認証を破るほどの計算パワーを持つ可能性もある」(楊氏)

近年は原子のサイズに制約があるため、いわゆる「ムーアの法則」が限界に近づき、現在のコンピュータの性能向上が頭打ちになるとも言われている。量子コンピュータはその制約を受けずに発展できうるため、期待値も高い。

製薬や材料開発、機械学習分野で量子コンピュータを活用

QunaSysでは現時点で具体的なプロダクトを提供しているわけではないが、すでに述べた通り「量子化学シミュレーション」と「量子機械学習」にフォーカスをしてアプリケーションを開発していくという。

量子化学シミュレーションは「製薬や材料開発」などの分野において量子コンピュータを活用するというもの。たとえば創薬の現場では量子コンピュータによる化学反応のシミュレーションで、薬の候補となるサンプルを絞り込むことができる。これにより実験するサンプル自体を減らせるため、創薬のスピードが速くなるだけでなく、大幅なコストの削減にも繋がる。

もうひとつの量子機械学習は機械学習における量子コンピュータの応用だ。この分野では大量のデータをどのように処理していくのかがひとつの課題。扱うデータが増えるほど、そこにはコストや時間も必要になる。この対応策として量子コンピュータが期待されているわけだ。

これについてはCTOの御手洗氏らが、量子コンピュータと従来のコンピュータを組み合せた理論を考案。この研究などを元に量子機械学習の可能性を探索していくという。

ただ機械学習の分野においては、既存のGPUなどの性能も高く「量子コンピュータがアドバンテージを持つのは少なくとも数年先の話になるのではないか」(楊氏)という話もあった。そのため実用化という点では量子化学シミュレーションが先になりそうだ。

海外ではGoogleやRigettiらが量子化学計算を量子コンピュータ上で行うライブラリ「OpenFermion」の提供も始めている。このような流れもある中で、量子コンピュータをどのように企業の課題解決に活用していくのか。QunaSysでは主に製薬や化学系の大企業向けにサービスを提供していく予定だ。

「これから数年後には従来のコンピュータでは解けなかったような問題を解決できるようになるかもしれない。そのタイミングで大企業が量子コンピュータを活用できるように、下準備を進めていく。企業にとってアドバンテージとなるようなツールの提供や、活用サポートを行っていく」(楊氏)

また並行して、量子情報分野に精通した人材の育成にも力を入れる。たとえば今後より多くの人材が必要とされるAIの領域では「Aidemy」のような特化型の学習サービスが登場。東京大学の松尾教授がオンライン上でコンテンツを無償提供しているような事例などもでてきている。

「実用的な量子コンピュータが完成すれば、AI領域以上に人材が不足することが考えられる」(楊氏)ため、QunaSysでは10名程度の勉強会からスタートし、ゆくゆくは誰でも受講できるオンラインコースも整備していく方針。量子関連の情報を発信するメディア「Qmedia」もすでに立ち上げている。

進歩が著しい業界、海外では関連スタートアップも増加

TechCrunch読者の中にはカナダのスタートアップD-Wave Systemsをきっかけに量子コンピュータに関心を持った人もいるかもしれない。NASAやGoogleらが同社のハードウェアを導入するなど、さまざまなメディアで取り上げられてきた。海外企業のみならずリクルート(広告配信)デンソー(交通)野村ホールディングス(資産運用)といった日本企業との共同研究や実証実験にも取り組んでいる。

量子コンピュータは量子アニーリング方式と、量子ゲート方式に分かれるとされ、D-Waveが開発するのは量子アニーリング方式のマシン。それぞれ特徴は異なるが、アニーリング方式は特定の用途で力を発揮するものとして登場した一方、ゲート方式はあらゆる目的で使えるという意味で「汎用量子コンピュータ」とも言われる。

汎用量子コンピュータの領域ではGoogleが72量子ビットのプロセッサーを発表。そのほかIBMが16量子ビットのデバイスを誰でも使えるようにクラウドで公開しているほか、Y Combinatorの卒業生でAndreessen Horowitzなども出資するRigettiは19量子ビットのマシンで機械学習のデモンストレーションを行っている。

ハードウェアだけでなくソフトウェアを開発するスタートアップも増えてきている状況で、富士通とも協業する1QBitやNASAなどとパートナーシップを組むQC Wareなどがその一例。QynaSysもこの汎用量子コンピュータに特化したソフトウェア開発企業という位置付けだ。

近年進歩が著しい業界ではあるが、社会に大きなインパクトをもたらすのはこれからだろう。実用化に向けてはクリアすべき課題もある。たとえば「量子誤り訂正技術」の実現もそのひとつ。楊氏によると、現在各社が開発を進める量子コンピュータには誤り訂正という機能がなく「エラーが発生するノイジーなデバイス」なのだそうだ。

QunaSysでは顧問の藤井教授が誤り訂正の理論を複数発表していることもあり、その実用化や性能評価、アドバイザリー等も行っていく方針だ。第一線の研究者が複数人メンバーにいるのがQunasysの特徴。「今後はハードウェアを作る会社との提携をしながら、実用的なアプリケーションを作っていく」(楊氏)という。

スタートアップと投資家のコミュニケーションを効率化する「FUND BOARD」のケップルが3000万円を調達

スタートアップと投資家のためのファイナンスプラットフォーム「FUND BOARD」を運営するケップルは4月25日、複数の個人投資家を引受先とした第三者割当増資を実施したことを明らかにした。

同社に出資したのはベクトルやオークファンなどで社外取締役を務める西木隆氏、ベインキャピタルの日本オフィス立ち上げに携わった末包昌司氏、医療法人やPEファンドなどの役員や顧問を務める提橋由幾氏を含む4名。金額は約3000万円で、累計の調達額は5000万円ほどになるという。

ケップルでは2018年6月に投資家ユーザー向けのサービスを正式にリリースする予定。それに向けて本日より事前登録の受付を開始した。

FUND BOARDはスタートアップと投資家のコミュニケーションを効率化することを目的としたサービスだ。双方間での資料や情報共有、情報管理における負担削減を軸に複数の機能を開発。2017年7月にベータ版を公開した。

スタートアップ向けにはオンライン上での資本政策の作成、株主情報やストックプションの管理といった機能を提供。投資家向けには投資先情報の一元管理、ミーティングメモの作成、投資先への一括資料依頼や提出状況の確認機能を提供している。

ケップルの代表取締役を務める神先孝裕氏はあずさ監査法人の出身。2013年にKepple会計事務所を立ち上げ、主に税務やファイナンス業務の面でスタートアップの支援をしてきた。FUND BOARDも神崎氏自身がスタートアップと日々やりとりする中で感じた、コミュニケーション面の課題を解決するために生まれたものだ。

ベータ版はこれまでに約150社が導入。そのうち100社ほどがスタートアップ、残りの50社が投資家だという(50社中10〜20社がVC、その他が事業会社や個人投資家)。

「反響はあったものの、全体的にはあまり継続されなかったというのが正直なところだ。これは主にUI/UXの点で使い勝手に課題があったためだと考えている。一方で複数拠点を持つVCが投資先の情報管理やレポート共有の目的で頻繁に使ってくれているケースもあった。ニーズのある機能をベースにしつつ、デザインなどをアップデートしたうえで正式にリリースする」(神先氏)

まずは6月を目処に投資家向けのサービスを公開する予定。コンセプト自体はベータ版から大きく変わらず、投資家のポートフォリオ管理を楽にすることだ。

特にVCでは数名で数十社の投資先とやりとりをするケースが多い。通常はスプレッドシートやエクセル、ファイルストレージ、メールやチャットといった複数のツールを使い分けながらコミュニケーションや情報管理を行っていくことになる。

「目指しているのは投資家が複数のツールをまたぐ必要がなく、FUND BOARDにアクセスすれば欲しい情報が全てまとまっているという状態。バーティカルなEightのような形で起業家の名刺を読み込めばシステム上に情報が登録され、「投資済み」「投資検討中」といったステータスごとに管理できるデータベースを作れるようにする。そこに各企業に紐付く形でファイルやメモがアップロードされていく仕組みを考えている」(神先氏)

決算書類を作る際など、投資先へ一括で資料提供依頼ができる機能もアップデート。投資先のスタートアップがFUND BOARDを使っていなくても一時的なユーザーとして扱い、送られてきたメールにあるリンクから1クリックで資料の提供ができるようになる。

「チャットやメールでやりとりをしていると、様々な場所にファイルが分散して確認漏れが生じる原因になる上に、ダウンロードしたファイルを再度ストレージにアップロードする手間も生じる。この負担を極力なくしていきたい」(神先氏)

正式リリース後はVCについては人数ベース、個人投資家については投資先の社数ベースで課金をする方針。夏頃を目処にスタートアップ向けのサービスもリリースする予定のほか、チャット機能や条件合意をスムーズにする機能の提供も検討していくという。

「海外ではスタートアップがオンライン上で資本政策を作れるサービスをいくつかあるが、スタートアップと投資家間のコミュニケーションにフォーカスしたものはない。FUND BOARDでも資本政策はサポートするが、まずは日々の情報共有を効率化することで、双方がより本質的な仕事に時間を使えるようにしたい」(神先氏)

投資家を含むケップルのメンバー。後列の右から3人目が代表取締役を務める神先孝裕氏

日本発の仮想通貨ウォレット「Ginco」がビットコインに対応、分散型サービスの入口となることを狙う

仮想通貨ウォレットアプリ「Ginco」を開発・提供するGincoは4月24日、同アプリをビットコイン(BTC)にも対応させ、本格リリースしたと発表した。BTCへの対応は、2月にリリースしたベータ版でのイーサ(ETH)、3月のアップデートによるイーサリアム上のトークンERC20系通貨9種への対応と、ブロックチェーンを使ったVR空間アプリケーション「Decentraland」内の仮想通貨MANAへの対応に続くもの。これで取引量上位2種のBTC、ETHを含む、12通貨に対応したことになる。

Gincoはスマートフォンで仮想通貨を管理するためのクライアント型ウォレットアプリ。日本語インターフェースで仮想通貨の入金・送金・管理が可能で、取引所から送金した仮想通貨の保管、飲食店やECサイトでの決済、個人間での仮想通貨のやり取りなどに利用できる。現在はiOS版がリリースされている。

ウォレット提供の背景について、Gincoでは「仮想通貨ユーザーの資産の正しい管理・保護」と「ブロックチェーン技術の本来の意味での活用」を目的に挙げている。同社代表取締役の森川夢佑斗氏は、3年ほど前からGincoとは別のウォレットアプリを開発してきたが、「日本では仮想通貨やブロックチェーン、ウォレットに関する知識、普及が遅れている」と話す。

「ウォレットは仮想通貨の入れ物というだけでなく、テクノロジーとして本来のあり方でブロックチェーンを生かす土台であるべき。『ブロックチェーン技術を使ったサービス上で仮想通貨を利用できる』ようなウォレットが必要だと考えてきた。Gincoは仮想通貨ユーザーの資産保護と、ブロックチェーン技術の本来の意味での活用の両面からウォレット開発を進め、ブロックチェーンを使った分散型社会を実現するイノベーションを届けることを目指している」(森川氏)

技術とデザインの力でウォレット普及を図る

2017年は日本の「仮想通貨元年」とも言うべき年になり、仮想通貨保有者は100万人を超え、200万人になったとも言われている。2018年3月には国内交換業者17社の現物取引顧客数が350万人となった(4月10日、日本仮想通貨交換業協会が発表)。一方でCoincheckのNEM不正流出事件などでも見られたように、多くのユーザーが取引所に仮想通貨を預けたままにしている実態もわかってきた。

資産として仮想通貨を管理・保護するのであれば、不正アクセスなどで狙われやすい取引所ではなく、秘密鍵を端末で管理するクライアント型ウォレットなどへ移し替えて管理した方が、より安全だ。だが、既存のウォレットは海外発のものが多く、日本のユーザーにとってわかりやすく使いやすいものが少ない。そのことが、日本でのウォレット普及を遅らせるひとつの要因ともなっている。

森川氏は「海外発のウォレットは英語インターフェースだけのものが多く、日本人にとってはユーザーフレンドリーではない。デザイン面でも、一般の人にはとっつきにくい。このため、バックアップやプライベートキー(秘密鍵)の管理などウォレット操作が難しくなっているが、これらの操作はウォレットで仮想通貨を正しく安全に扱うためには外せない。そこで我々のウォレットは、デザインとしてユーザーがわかりやすいものにしたいと考えた」と話している。

仮想通貨ウォレットの概念は難しく、とはいえ資産を守るためには、秘密鍵の使い方を他人に手取り足取り教えてもらうわけにもいかない。自分で仮想通貨を管理するには、相応のリテラシーが必要だ。Gincoでは、日本語でのバックアップの設定など、誤操作での資産損失がなるべく起こらないようなUI設計を行ったという。

「仮想通貨に詳しい人のブログなどを調べずに、初心者でも使えるようなウォレットは今までなかった。我々は技術とデザインをウォレットの“使いやすさ”に落とし込んで、ユーザーにアプローチしたい」(森川氏)

またGincoはセキュリティ対応に加え、外部APIに依存せずにウォレット機能を独自に実装したことで、自前でブロックチェーンにアクセスでき、正しい取引履歴情報に対応するスケーラビリティを備える。日本では外部APIに依存するウォレットが多いが、「それでは仮想通貨のインフラとして十分でない」との考えからだ。

現状ではGincoは、ブロックチェーンの仕組み上最低限必要な手数料だけで、上乗せ手数料なしで利用できる。「今はダウンロードしてもらうことに注力し、仮想通貨をより活用する場面が出てきたときに何かしらの形でマネタイズする」とGincoでは考えているようだ。リアルの銀行が口座ごとにいくら資産があるか、情報を持っていることを強みとしているように、仮想通貨の銀行、お金のハブとなることで集まる情報を使ってビジネスにしていくという。

Gincoは近いうちに、ビットコインキャッシュ(BCH)やライトコイン(LTC)などの主要な仮想通貨にも順次対応していくとのことだ。またAndrod版の開発なども進めていくという。

ブロックチェーン時代の「銀行」を目指して

Gincoは今後、DEX(Decentralized EXchange:分散型取引所)やDapps(Decentralized Applications:分散型アプリケーション)への接続機能を拡張していくことで、ブロックチェーン時代の銀行、分散化された社会を実現するためのインターフェースとなることを目指している。

現在利用されている、bitFlyerやZaif、Coincheckといった取引所は、管理主体がある中央集権型取引所だ。それに対し、DEXは取引を管理する主体がなくても機能する、ブロックチェーンを活用して個人同士で取引を行うことが可能な取引所である。

Dappsはブロックチェーンを用いた分散型アプリケーションの総称で、実はビットコイン自体も分散型の通貨アプリケーション、つまりDappsの一種である。現在、インターネット上にさまざまなウェブアプリケーションが存在しているように、さまざまな分散型アプリケーションがブロックチェーン上で開発されている。

分散型アプリケーションの代表的な例がゲームのCryptoKitties。過去にTechCrunchの記事でも紹介されているが、イーサリアム・ブロックチェーン上に構築されたトレーディングカードゲームのようなもので、バーチャルな子猫を売買したり、交配して新しいタイプの子猫を作り出すことができる。ガチャのように子猫のレア度をゲーム運営主体が調整することはなく、透明性が保たれている。また購入や交配で得た子猫は、中央集権型ゲームで運営会社が倒産すれば無価値になるキャラクターとは異なり、イーサリアム・ブロックチェーンがある限り資産となる。

森川氏は「中央集権型サービスと非中央集権の分散型サービスにはそれぞれ一長一短があるが、分散型のほうがメリットがあるサービスがDappsへ移行してくるのは確実」と話す。「その時に入口として必要になるウォレットをGincoで実現する」(森川氏)

Gincoでは、イーサリアム・ブロックチェーンベースのトークンでVR空間に土地が買えるDecentralandをはじめ、Dapps開発が盛んな海外のブロックチェーンカンパニーを中心にアライアンスを組み、Dappsとの接続を進めていくという。

森川氏は「仮想通貨をリアルな決済手段として浸透させて普及させる、というのは“ダウト”。結局は使われないのではないかと思っている」と話している。「SUICAなど、既存のバーチャルマネーは使える場面が多いから使われているわけで、場面が少なければ『使って何の得があるの?』となるだけ」(森川氏)

森川氏は、ブロックチェーンを利用した分散型のコンテンツプラットフォーム「Primas」を例に説明する。「Primasでは良いコンテンツを生産すれば、評価によって(仮想通貨の形で)返ってくる。今は円を仮想通貨、仮想通貨を円に替えるといった、わざわざボラティリティの高いことをやっているが、そうじゃなくて使ったサービスを通して仮想通貨を手に入れられなければ、仮想通貨経済は回らない」(森川氏)

「仮想通貨を仮想通貨として使うサービスやアプリ(Dapps)はまだ少ない。そこへアクセスするためのウォレットも少ない。そこでまずは海外のプレイヤーと組んで、ウォレットからDappsを使えるようにして、いずれは自分たちでもDappsを作っていこうと思っている」と話す森川氏。将来的にはDappsで得た仮想通貨がウォレットに入ってくるよう連携したり、ウォレット内で各種仮想通貨間の両替なども行えるようにしたいと語っている。

Dapps接続および通貨としての利用を見越して、Gincoではビットコインやイーサリアムなど、仕様の異なる複数のブロックチェーンプラットフォームに対応している。「現状ではイーサ(ETH)を使うDappsが多いが、BTC対応のものも出てきており、利用者の多さから対応は必須と考えている。ウォレット開発は、ブロックチェーンを使ったアプリケーションなどを展開するための足がかりとしてのステップ1だ」と森川氏は話す。

Gincoは2017年12月の設立。1月にはグローバル・ブレインが運営するファンドから、総額約1.5億円の資金調達を実施したことを発表している。

「Recipio」は、家にある食材から最適なレシピが分かるAI献立アプリ――1000万円の調達も

AIを活用したレシピアプリ「Recipio(レキピオ)」を開発するTADAGENICは4月24日、同アプリの正式リリースとともに、F Venturesおよび個人投資家などから約1000万円の資金調達を実施したと発表した。

Recipioは、家の冷蔵庫にある食材をアプリに登録し、チャットボットが投げかけてくる質問に答えるだけで最適なレシピを提案してくれるというサービス。誰と食べるのか、何人で食べるのか、今日の気分はどうか(あっさりか、またはガッツリか)などの簡単な質問に選択形式で答えていく。

例えば、友人のために料理を振る舞う場合と家族で食べる場合では、作るべき料理は変わってくるだろう。そういったものを変数にして、特に主婦層が抱える「今日何作ろう」という毎日の悩みをAIが解決するというわけだ。

主に主婦層をターゲットにしたRecipioだけれど、同サービスは僕のような本当の料理のド素人にとっても有用なサービスだ。僕の場合、主婦の方々のように毎日の意思決定が苦痛だというよりも、そもそも冷蔵庫にある食材から作れそうなレシピを思いつくだけの想像力がゼロだ。そこをAIが補ってくれるのは、嬉しいかぎりだ。

リリース時点のRecipioの総レシピ数は300通りほど。現状、レシピはサードパーティから購入するというかたちで整備を進めているという。TADAGENIC代表取締役の平塚登馬氏は、現状のレシピ数はまだ少ないと認めつつも、「1日に4品のレシピを提案するとしても、最終的に約3000通りのレシピがあれば十分だと思う。Recipioは意思決定を助けるサービス。例えばハンバーグというカテゴリーのなかで、“大根おろしハンバーグ”や”デミグラスハンバーグ”というように種類が多すぎると、意思決定が逆にしんどくなってしまう」と語る。コンテンツの数を追わず、ユーザーによる繰り返しの利用によってAIの精度を高めていく、というのがRecipioの戦略のようだ。

Recipioを開発するTADAGENICは2017年9月の設立。代表取締役の平塚氏をはじめ、創業メンバー全員が関西地方の大学生だ。同社は今後、「スマートスピーカーへの対応で、提案から調理サポートまで音声のみで行えるようになる機能も追加していく」としている。

写真右から2番目が代表取締役の平塚登馬氏。

人手のかかる来客対応を自動化する「ACALL」が1億円を調達、きっかけは自社の課題解決から

来客対応を自動化するRPA(Robotic Process Automation)サービス「ACALL」を提供するACALL。同社は4月24日、ジェネシア・ベンチャーズみずほキャピタルを引受先とする第三者割当増資により約1億円を調達したことを明らかにした。

今回の調達を受けて、IoT連携のためのAPI開発やコワーキングスペース向けのサービス開発などプロダクトの改良や、事業基盤の強化を図るという。

一連の来客業務を効率化、生産性の向上とおもてなしをサポート

ACALLはiPadを活用した受付業務の効率化を始め、オフィスなどの来客対応時に生じる一連のオペレーションを自動化するサービスだ。アポイントの作成から会議室の予約、リマインドメールの送信、当日の入館手続き、そして商談終了後の退館手続きやサンクスメールの送信といった各業務にかかる負担を削減する。

個々の機能については後述するが、大きな特徴は「来客プロセス」に焦点を当てて必要な機能をまるっと提供していること。そしてそれらの機能を自社の用途に合わせて柔軟に組み合わせ、独自のプロセスを設計できることだ。

「当日のビルの入館手続き、オフィスでの受付対応、お茶出しなど一連のプロセスには最大で4〜5名の手がかかってしまうようなケースもある。それらを自動化・効率化することで最終的には担当者1名でも対応できるようになるといいよね、という思いで開発している」(ACALL代表取締役の⻑沼⻫寿氏)

2016年の7月に正式リリースし、2018年3月末時点で上場企業からスタートアップまで約630社に導入済み。業種や規模はさまざまだが「来客受付を効率化したいスタートアップや中小企業」「入館ゲートや自動ドアとの連携から始まり、一連の業務をスマート化したい大企業」「ゲストの来訪管理といった頻繁に発生するオペレーションをシステム化したい共有スペースのオーナー」という3つのニーズが多いという。

たとえばACALLとiPadを活用した受付業務の流れをみてほしい。まず来客対応をする側(ホスト)がACALLの管理画面、もしくはGoogleカレンダーなどのスケジューラーと自動連携してアポイントを作成するところがスタートだ。これによって来客側(ゲスト)にアポイント情報が届くとともに会議室が自動で予約される。

ゲストに送られてきた情報にはアポイントコードとQRコードが含まれているので、当日は受付にあるiPadにコードを入力するかQRコードをかざせばホストに直接通知が届く。ChatWorkやSlack、SMSなど複数の外部アプリと連携できるため、来客の通知は普段使用しているアプリで受け取れる。ゲストを不安にさせないように「すぐ参ります」などホストからの応答をiPad上に表示することも可能だ。

また入館ゲートや自動ドアとのIoT連携を通じた入館手続きのスマート化にも対応。受付のiPadから手続きをすると入館証や入館シールが印刷される機能を搭載していて、これを使えばゲストがわざわざ入館用紙を記載する必要もない。

APIで複数サービスと連携、細かいカスタマイズにも対応

ACALLの特徴は来客プロセスを柔軟に設計できる点だと紹介した。たとえば受付対応についても相手によって必要となるアクションや表示されるメッセージなどを事前にカスタマイズし、自動化することができる。

「メニューからオンオフを操作するだけで必要な機能の組み替えを自由にできることを重要視している。またすでに(スケジューラーやチャットアプリなど)業務用のツールを複数使用している企業も多い。API連携を通じて極力面倒な作業が発生せず、すでに使っているアプリやIoT機器と一緒に使いやすい設計を意識した」(長沼氏)

この考え方は同種のサービスとの違いにも繋がるかもしれない。たとえば受付業務に特化したサービスでは過去にTechCrunchでも紹介した「RECEPTIONIST」などが存在する。同様に会議室の予約など個々の機能ごとでは似たようなサービスがあるものの、「来客プロセスという一連の流れを最適化しようとしているところはほとんどない」というのが長沼氏の考えだ。

「(各機能に特化したプロダクトはあるが)個別で導入すると管理画面だらけになってしまい、担当者が大変だと思った。それらを統合してプロセスレベルで効率化、自動化できることがACALLの価値だ」(長沼氏)

現在は登録できるホスト数や機能数に応じて5つのオフィスプランを用意しているほか、コワーキングスペース向けのプランも提供。今後は大企業やビル会社向けに入館ゲート、自動ドアなどとのIoT連携を強化するためのAPI開発、コワーキングスペース向けプランの改良を行っていく予定だという。

またACALLの根幹となる独自システム「OMOTENASHIエンジン」を海外にも展開していく。2018年後半より既存顧客の海外支店への導入から段階的に実施し、その後はアジア圏を中心に提供する計画。2019年末を目処に国内外2万社への導入を目指す。

ゆくゆくは「商談」の質をあげるサービスへ

もともとACALLは自社の課題を解決するために生まれたプロダクトだ。長沼氏によると「コーディングをしている時に来客対応があると手が止まってしまうし、対応後に再び頭を切り替えるのにも時間がかかるのが課題だった」そう。そこで当初はiPadにRaspberry Pi(ラズペリーパイ)をつけて、来客時にiPadが光るというシンプルな仕様からスタートし、少しずつ改良を加えていった。

すると試しに使ってみた周囲からも評判が良かったため事業化を決定。会社名も2017年12月にACALLへと変更し、さらに加速させるべく今回の調達に至ったという。

まずは来客対応のオペレーション効率化に取り組むが「ゆくゆくは商談そのもののクオリティ向上にむけて機能を拡充していく計画」(長沼氏)。現時点でも商談を活性化する機能として、会議室に設置したiPadに残り時間や当日のアジェンダが表示される「ファシリテーション機能」を搭載。6月を目処にアイスブレーク機能や議事録の作成共有機能も実装していく予定だ。また将来的には来客以外のシーンでも活用できるようにしていきたいという。

ACALLは代表の長沼氏が日本IBMを経て2010年に設立したスタートアップ。これまで複数の企業向けSaaS事業を手がけたのち、2015年にACALLの原型となるプロダクトを開発。2016年7月に正式版をリリースした。

「日本仮想通貨交換業協会」が正式発足、ルール整備で信頼回復を目指す

この日開催した記者発表会には、仮想通貨交換業の登録を受けた16社のうちテックビューロを除く15社の代表が集まった。記者会見の質疑のほとんどは奥山会長が答え、技術的な内容の一部を加納副会長が補足した

2018年4月23日、金融庁から仮想通貨交換業の登録を受けた16社が集まり一般社団法人 日本仮想通貨交換業協会を設立した。業界団体として仮想通貨の取り扱いに関する各種ルールを整備し、金融庁から自主規制団体として認定されることを目指す。今年3月に新団体設立を目指すとの発表を行っているが(関連記事)、今回は正式な旗揚げということになる。

設立と同時に臨時社員総会および第1回理事会を開催。会長にはマネーパートナーズ代表取締役社長の奥山泰全氏、副会長としてbitFlyer代表取締役の加納裕三氏およびビットバンク代表取締役社長の廣末紀之氏が就任。また理事として、以上の3氏に加えSBIバーチャル・カレンシーズ代表取締役執行役員社長 北尾吉孝氏とGMOコイン代表取締役社長 石村富隆氏が選任された。

後手に回っていた自主規制作りを急ぐ

2018年1月に起きたコインチェックからの仮想通貨NEM大量盗難事件を受けて、金融庁は仮想通貨取引所/販売所を営む仮想通貨交換業への監督を強化した。事業者への立ち入り検査や行政処分が相次ぎ、登録を受けないまま事業を続けていた「みなし事業者」が撤退する事例も出ている。こうした状況のもと、新たな仮想通貨交換業者の認可やICO(Initial Coin Offering、トークン発行による資金調達)実施の取り組みなど仮想通貨ビジネスを推進する取り組みはほぼストップしている状況だ。

この状況を打開するには、金融庁が描いていた構図、つまり「業界団体による自主規制」の実態をいち早く整える必要がある。

仮想通貨取引所/販売所に求められる要件は数多い。マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策のための本人確認の強化、コインチェック事件で重要性が改めて認識されたサイバーセキュリティ対策、それに相場操縦やインサイダー取引などに対する自主規制も求められている。これに加えて、仮想通貨やブロックチェーン分野は技術の進化が速く、法整備と行政の指導を待っていては前に進みにくい構図がある。今回の団体には、進化が速い仮想通貨の分野で実効性がある自主規制ルールをいち早く作っていくことが期待されている。

まずは最低限必要なルールを大急ぎで整備し、業界各社でルールを遵守する実態を作り、それを金融庁が認めて自主規制団体として認定される必要がある。これが同団体の最初の目標ということになる。

奥山会長は記者会見の席上、「新規に参入する業者は多い方が望ましい」と発言した。その理由として、今の16社だけでは自主規制団体を運営する負担が大きいことを挙げた。自主規制団体は、業者を検査する能力や、ルール違反があった場合の処分を決める委員会などの機能を備える必要があり、予算規模もそれなりに大きくなるとした。

今回の団体による自主規制がうまく機能すれば、新規の仮想通貨交換業者の登録などが再開されて仮想通貨ビジネス全体が再び回転し始めると期待できる。奥山会長は「いち早く信頼を回復し、仮想通貨市場を発展させていきたい」としている。

日本仮想通貨交換業協会のメンバー16社の社名は以下のようになる。

  • マネーパートナーズ
  • QUOINE
  • bitFlyer
  • ビットバンク
  • SBIバーチャル・カレンシーズ
  • GMOコイン
  • ビットトレード
  • BTCボックス
  • ビットポイントジャパン
  • DMM Bitcoin
  • ビットアルゴ
  • Bitgate
  • BITOCEAN
  • フィスコ仮想通貨取引所
  • テックビューロ
  • Xtheta

ARで“インテリアを試着”——リビングスタイルが3.4億円調達、150万点の3Dデータ活かしたARコマースも

インテリア関連のサービスを展開するリビングスタイルは4月23日、DGインキュベーション、DG Daiwa Venturesが運営するDG Labファンドカカクコムアコード・ベンチャーズから3.4億円を調達したことを明らかにした。

同社は2007年の設立。2016年7月にも三井不動産のCVCとアコード・ベンチャーズから2億円を調達しており、今回はそれに続くラウンドとなる。調達した資金を元に組織体制を強化するほか、調達先であるVCやカカクコムとの連携を進め、インテリアの新しい購買体験の開発にも取り組むという。

リビングスタイルはインテリア商品の3Dデータを活用したサービスを複数展開しているスタートアップだ。

もともと取り組んでいたのは、インテリア業界向けの「インテリア 3Dシミュレーター」。同サービスではPCやタブレットから顧客の部屋の間取りを作成し、販売している商品を実際に配置してシミュレーションができる。

無印良品やFrancfranc、大塚家具など30以上のブランドがすでに導入。店頭での接客やオンラインストアに活用されている。導入時の初期費用と月額の利用料に加え、新商品の3Dモデルを取り込む際に都度料金が発生する仕組みだ。

「家具のデータベースを作りたいという思いから始まった事業。今では150万点を超えるインテリア商品の3Dデータが蓄積されている。前回の資金調達以降はこのデータを活用した個人向けのサービスにも力を入れてきた」(リビングスタイル代表取締役の井上俊宏氏)

それがいわば“インテリアの試着”サービスといえるARアプリ「RoomCo AR」だ。

RoomCo ARは家具を置きたい場所にスマホをかざすだけで、アプリから選んだ商品を空間上に実物サイズで配置できるアプリ。サイズ感を確かめるだけでなく、ほかの家具との色合いや全体のレイアウトを購入前に試せることが特徴だ。

井上氏によると当初は自社データベース上にある商品を対象にスタートしたが、実際にリリースしてみると仏壇や楽器など家具メーカー以外からも反響があったそうだ。

実際に現在RoomCo ARでは「お仏壇のはせがわ」や「ヤマハ」がラインナップに加わり、アプリから配置シミュレーションが可能。もちろん無印良品や大塚家具の商品を含め、ソファやテーブル、カテーン、ベッドなど様々な家具を試すこともできる。

また3Dデータを活用したインテリアコーディネートの情報メディア「RoomCo NAVI」も展開。6畳のリビング、8畳1LDKなど間取りごとにコーディネート事例を紹介し、気に入ったものは購入できるという流れだ。

現在はARアプリやメディアからメーカーのECサイトへ送客する仕組み。特にメディアが育ってきているようで「B向けだけでなくC向けの事業でも収益をあげられる体制を作っいきたい」(井上氏)という。

今後リビングスタイルでは調達先と連携しながらサービスを強化していく方針。DG Labとはシミュレーターの機能拡充やAR関連技術の研究を進める。またカカクコムとは両社が持つ商品データベースとAR技術を活用した「ARコマース」のチャレンジも検討していくという。

「(ARを活用したレイアウトのシミュレーションやコマースに関しては)たとえば家電のように、家具以外の商材も可能性がある。この領域は『価格.com』を一度チェックしてから商品を購入するユーザーも多く、ここと手を組めるのは大きい。両社のデータベースを使って、一緒にARコマースのチャレンジをしていきたい」(井上氏)

カスタマーサクセスを実現する管理ツール「HiCustomer」、クローズドベータ版の提供開始

HiCustomer代表取締役の鈴木大貴氏

この2、3年ほどで、国内のマーケティング界隈でもよく耳にするようになり、また職種としても増えつつある「カスタマーサクセス」というキーワード。この領域にチャレンジするスタートアップが新たに1社現れたようだ。HiCustomerは4月23日、カスタマーサクセス管理ツール「HiCustomer」のクローズドベータ版を事前登録者向けに提供開始したことを明らかにした。

能動的に顧客を成功に導く「カスタマーサクセス」

プロダクトを紹介する前に、そもそものカスタマーサクセスとは何かについて説明しておきたい。カスタマーサクセスとは、端的に言えばその言葉の通りで「顧客が自分たちの課題を解決し、成功に導く」ということ。具体的にはQ&Aやヘルプの提供、ツールチップの表示、ステップメール、問い合わせのサポートなどなど、プロダクトを改善していくための活動すべてを指すのだと、HiCustomer代表取締役の鈴木大貴氏は語る。

また、カスタマーサクセスとカスタマーサポートというのは同列で語られることが多い。だが従来のカスタマーサポートが顧客からの問い合わせなどがあってはじめて対応する受動的なアプローチであるのに対して、カスタマーサクセスはプロダクトの提供者から顧客に対して積極的に関わっていく能動的なアプローチであるという違いがあるという。

カスタマーサクセスは、サブスクリプションモデルのプロダクトが普及すればするほどに重要性を増しているのだと鈴木氏は続ける。SaaSの普及によってエンタープライズ向け製品の多くはサブスクリプションモデルを採るようになっただけでなく、音楽や動画、読書といった個人向けのネットサービスまでもが、いまではサブスクリプションモデルを採用するようになってきた。

これまでのようにプロダクトを作って売りきる、というモデルであればマーケティングや営業といった行動は、売上に直結する活動であり、売ったあとのカスタマーサポートは極力コストを抑えたいものだった。だがサブスクリプションモデルであれば、基本的に導入までは無料ないしほぼ無料であるケースがほとんど。マーケティングや営業といった行動はあくまで「受注に直結する活動」であり、継続的な利用があってはじめて売上が発生する(LTV:Life Time Valueの最大化が重要になる)。つまり、サブスクリプションモデルにおけるカスタマーサクセスの実現(≒プロダクトの継続利用)というのは「売上に直接繋がる活動」だと言えるのだ。「従来はものを売る、頑張る、売るでお金が入った。だがモノのサービス化が浸透してあらゆる材がサブスクリプションモデルになりつつある。そうなると、カスタマーサクセスはより大事になってくる」(鈴木氏)

カスタマーサクセスを実現するダッシュボードを提供

前段が長くなったが、HiCustomerのクローズドベータ版は、そんなカスタマーサクセスを実現するためのダッシュボード機能を提供するサービスとなる(僕は実際にデモを見たが、現時点でのスクリーンショットは非公開とのこと)。実際このカスタマーサクセスを実現しようにも、これまでであればCRMやBIツール、チャットのログなど様々なプロダクトを組み合わせて顧客の状態を把握し、施策の提案を行う必要があった。それを一元管理するのが狙いだ。

導入企業はまず、自社のプロダクト(もちろんサブスクリプションモデルの製品だ)に最適な顧客のルール設定を行い、HiCustomer上にデータを取り込む必要がある。例えばプロダクトの活動頻度や満足度、利用頻度などの度合を、プロダクトを利用するステージごとに見る、といった具合だ。設定をすれば、顧客ごとにプロダクトとの関係性が「Good」「Normal」「Bad」といったステータスで一覧表示することができる。

これによって、例えば、「サインアップしたばかりだが、利用頻度が低い」という顧客がいれば、導入を支援するメールや電話を送ることができるし、「継続利用しており、かつ滞在時間も長い」という顧客にはオプション機能を割引するオファーを出してアップセルを狙うことができる、といったことが可能になる。「(カスタマーサクセスの)メソッドについてもこれから開発していかないといけないが、ルール設定自体はユーザーが割と簡単にできるようになっている。大規模なデータを扱う場合など、将来的には導入のコンサルティングも考えている」(鈴木氏)。

HiCustomerは3月にティザーサイトを公開したが、現時点で数百社から問い合わせがあり、すでに約20社の導入が決定しているという。クローズドベータ版の料金は無料。今秋には有料の正式版をリリースする予定で、「定額+従量課金」での提供を検討しているという。今後の機能追加に関しては「プロダクトの方向性としては、『カスタマーサクセスマネジメント』から『カスタマーサクセスオートメーション』に取り組んでいきたい。サブスクリプションモデルのユーザーのリテンションやアップセルのためにメールやメッセージの自動化までを実現したい」(鈴木氏)としている。

代表は高専出身、スタートアップ支援やコンサルを経験

プロダクトを提供するHiCustomer社は2017年12月の設立。代表の鈴木氏は仙台電波高専(現・宮城高専)卒業後、医療機器メーカーや人材、SaaSのセールスを経て、スタートアップ投資や大企業の新規事業立ち上げ向けのコンサルティングなどを手がけるアーキタイプに入社(自身の書いているスタートアップの分析をテーマとしたブログに、同社代表取締役の中嶋淳氏が問い合わせたことがきっかけになったのだという)。アーキタイプの投資先スタートアップ支援やコンサルなどを4年経験して2017年12月に退職。同時にHiCustomerを立ち上げた。現在同社には外部資本は入ってない。

「前々職で新規事業立ち上げ責任者を経験したのが社会人になって一番楽しかったこともあって、起業自体はぼんやりと考えていた。そんな中でBtoB領域のSaaSを見てみると、ジャンルごとに国内外の差(プロダクトの種類や数)が激しいのが分かった。 海外の人達はSaaSで生産性が上がっているのに、日本はまだExcelでデータを管理しているといったことに課題を感じた。それがHiCustomer設立の理由だ」(鈴木氏)

Web上の情報を活用したAI与信管理サービス「アラームボックス」が1億円を調達

インターネット上の情報を活用したAI与信管理サービス「アラームボックス」を提供するアラームボックスは4月20日、ナントCVC(ベンチャーラボインベストメントと南都銀行が共同で設立)、GMOペイメントゲートウェイ、西武しんきんキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、池田泉州キャピタルを引受先とする第三者割当増資により、総額1億円を調達したことを明らかにした。

南都銀行とは事業提携契約も締結し、関西圏の地域企業へアラームボックスの提供を進めていくという。アラームボックスは2016年6月の創業。2017年2月にみずほキャピタル、KLab Venture Partners、デジタルハリウッドらから、同年8月にも日本ベンチャーキャピタルらから資金調達を実施している。

アラームボックスはSNSや口コミサイト、ブログやニュースメディアなどオンライン上にあるデータを活用した与信管理サービスだ。取引先を登録しておけば、リスクや状況の変化を自動で収集・通知する。たとえばネガティブな口コミ、評価ランクの急降下、行政処分といった出来事を自分に変わって収集し、知らせてくれるというわけだ。

2017年2月のリリースから約1年が経ち、現在約700社が導入。半数以上は東京以外の地域の企業であり、3分の2以上が年商10億円未満の中小企業だという。

「新規の取引をする際に与信調査をすることはあっても、取引先のモニタリング(継続調査)までは手が回っていない中小企業も多い。そのような課題に対して、待っているだけでいろいろな情報が集まってくるサービスとして始めた。この1年間で想定していたニーズがあると確認できたので、事業を加速させるべく資金調達を実施した」(アラームボックス代表取締役の武田浩和氏)

リリース時は機械学習やAIを実装できていなかったため、信用リスクを判断するための独自アルゴリズムをベースに、知見のあるプロが人力で判定をしていた。現在はWeb上でクローリングした情報の5割ほどは機械学習で処理できるようになっていて、残りの5割をプロが審査している状況だ。「今後は9割をAIでカバーできるようにしたい」(武田氏)という。この1年で精度も向上し、継続率は98%だそうだ。

料金は登録者数が1社までの無料プランをはじめ、登録者数ごとに複数のプランを提供している。

2018年1月にはセールスフォースが提供する「AppExchange」でアラームボックスの提供を開始。Salesforce上の取引先データと連携することで、取引先のアラーム情報をリアルタイムで確認できるようになった。

武田氏の話では今回調達した資金をもとに組織体制の強化やプロダクトの改良を進めつつ、今後も外部サービスや各地の銀行との連携を積極的に進める方針。

たとえばクラウド会計ソフトやクラウド請求書など企業の与信情報を持つサービスとAPI連携することで、より使い勝手のいいサービスを目指すという。また地方の中小企業から問い合わせが多いこともあり、地方銀行との事業連携を推進。積極的に中小企業へのアプローチしていく。

 

防犯カメラの映像を活用した「万引き防止AI」開発のVAAKが5000万円を調達

防犯カメラ解析AIを万引き防止に活用する「VAAK EYE」。同サービスを提供するVAAKは4月20日、目社名非公開のVC1社から5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

VAAKは機械学習で防犯カメラの映像を解析するスタートアップ。このシステムを万引き防止という目的に合わせてサービス化したのがVAAK EYEだ。

同サービスでは防犯カメラの映像を解析し、万引き犯特有の不審行動を検知する。不審行動はリアルタイムに通知するほか、不審人物が次にいつ来店するのか再来店時刻を予測できる機能を搭載。これにより従業員や万引きGメンが万引きを事前に防ぐことも可能になる。

VAAK代表取締役の田中遼氏によると「防犯カメラの映像から人の詳細行動を認識する解析技術が強みで、これにより不審行動の検出制度が高くなる」という。とはいえ現在は実証実験に着手し始め、3月にベータ版を公開したところ。大手企業含め複数の実証実験が決まっているほか、正規の顧客もすでにあるそうで、今月末から活用を本格化し精度の検証やブラッシュアップを行っていく。

その結果も踏まえつつ、6月ごろに正式版を公開する予定だ。

近しいサービスはいくつかあるが、専用のネットワークカメラが必要になるケースも多い。VAAK EYEの場合は既存の防犯カメラの映像をそのまま活用できるため、導入のハードルやコストを抑えられる点も特徴だ。

まずは万引き防止サービスとしてSaaSモデルで提供しつつ、今後は防犯カメラの解析結果を店舗のマーケティングや「Amazon Go」のようなレジなし決済にも展開できるように、機能開発を進めていくという。

VAAKは2017年11月の設立。代表の田中氏は学生時代から起業経験があり今回が3社目になる。「社会貢献性とスケーラビリティの高い事業」という観点で領域を検討したのち、行動解析に軸を定めVAAKを創業した。

Appleのりんごの葉っぱが緑色になった

Appleのりんごの葉っぱが緑色になった。

これだけ聞くと、ちょっと遅めにきたエイプリルフールのネタだと思われる読者もいるだろう。でも、今回はそうじゃない。これは、4月22日のアースデイ(地球の日)に向けたAppleならではの取り組みだ。この期間限定のロゴは、世界中のApple直営店で見ることができる。

同社は2018年4月、オバマ前大統領が発表したクリーンパワー計画を撤廃しようとする観光保護庁に対して反対の意を表明した。それに加えて、同月10日には世界各地にある直営店やオフィスなどの施設に使われる電力の100%を再生可能エネルギーで調達していることも発表するなど、環境問題への取り組みを積極的にアピールしてきた。AppleのWebページには、「環境」と題した特設ページも設立されている。

また、Appleは環境問題に取り組みつつユーザーにも恩恵をもたらす取り組みも行っている。「Apple GiveBack」と名付けられたリサイクルキャンペーンでは、ユーザーが使い終わったデバイスをApple Storeに持っていくと、新しいデバイスの購入価格が割引になる。オンラインでも申し込むことが可能で、その場合はApple Storeギフトカードを受け取ることができる。

4月20日〜4月30日の間に回収されたデバイス1台ごとに、Appleは地球環境の保全・保護を目的として世界30カ国以上で活動するConservation Internationalに寄付を実施するそうだ。

Apple GiveBackでのおおよその下取り価格は、このWebページで調べることができる。メルカリに出品するのもいいけれど、アースデイを期に、Appleの環境問題への取り組みに協力してみるのも良いだろう。

DeNAがタクシー配車アプリ「タクベル」を横浜・川崎で提供開始、AI活用の需要予測システムも予定

DeNAは4月19日、神奈川県タクシー協会と共同でAI活用のタクシー配車アプリ「タクベル」の提供を横浜・川崎エリアにて開始した。

今後対象エリアを順次拡大する予定で、まずは今夏から神奈川県全域で展開を始める。タクベルは神奈川県タクシー協会の推奨アプリに採択。神奈川県内の約半数のタクシー事業者の導入が決定しているという。

タクベルは全車両でネット決済に対応したタクシー配車アプリ。予想到着時間を確認した上で配車依頼ができるほか、周辺を走る空車タクシーの情報をリアルタイムに把握したい際にも活用できる。乗務員とのメッセージ機能や、双方が現在地を確認できる機能も搭載。事前のカード決済にも対応し、スムーズな乗車体験を提供する。

事業者横断で配車依頼ができ、特定のタクシー会社を指定することも可能だ。

タクベルにはAIを活用した需要予測システムも導入する予定。このシステムでは走行位置や車速など「運行中のタクシー車両から収集するデータ」と、気象や公共交通機関の運行状況、イベントなど「タクシー需要に関連する各種データ」を解析。乗務員へリアルタイムかつ個別に走行ルートを推薦する。

以前TechCrunchでも紹介したように、2017年9月から10月まで横浜市の一部地域にて実証実験を実施。単に需要を予測するだけでなく、周囲の空車車両の状況なども加味した上で流し営業での走行ルートを提案するなど、実験の結果を踏まえた機能改善を行っていくという。

今後はこの「流し走行ルートの車両個別推薦」の実用実験を2018年に実施する予定。2019年には新人乗務員でもすぐに平均以上の収益があげられる状況の実現を目標に掲げる。機能面では駅からの乗車が中心となるエリアへの需要予測システム、供給最適化機能の追加を予定。

DeNAでは「『タクベル』は、2018年秋以降の全国展開を目指し、2020年には配車回数国内ナンバーワンを目指します。また、タクシー会社との連携を強化し、労働力不足などのタクシー会社が抱える課題の解決に貢献していきます」としている。

2018年は国内でもタクシー×テクノロジー領域のニュースが多い。AIを活用した需要予測についても、3月に「全国タクシー」を提供するJapanTaxiがトヨタ、KDDI、アクセンチュアと共同でシステムの開発、都内での試験導入を開始した。またソニーもタクシー会社6社とタッグを組み、配車サービスを展開する新会社を2018年春に設立する方針を発表。需要予測などにAI技術を活用するとしている。

ゴールは“起業家を増やすこと”——スタートアップメディアの「THE BRIDGE」がPR TIMES傘下に

PR TIMES代表取締役の山口拓己氏(左)、THE BRIDGE取締役・共同創業者の平野武士氏(右)

TechCrunchがシリコンバレーで産声を上げたのは2005年のこと。翌年にはその日本版であるTechCrunch Japan(当時のサイト名はTechCrunch Japanese)がスタートした。そこから12年、日本発でスタートアップの情報を伝えるメディアやブログが徐々に立ち上がっていった(そして、いくつかは消えていった)。そんなスタートアップ向けメディアの1つである「THE BRIDGE」のイグジットに関するニュースが飛び込んできた。

プレスリリース配信事業などを手がけるPR TIMESは4月19日、THE BRIDGEの運営元である株式会社THE BRIDGEからメディア事業を譲受したことをあきらかにした。譲受に関する金額は非公開となっている。なお今後もTHE BRIDGE取締役・共同創業者でブロガーの平野武士氏が中心となってメディアや有料コミュニティの運営を継続。加えてPR TIMES内の編集部にてニュースの執筆なども準備する。一方、THE BRIDGEが開催する仮想通貨をテーマにしたイベント「THE COIN」については、平野氏が個人で運営する予定だという。

THE BRIDGEは2010年の設立(当時の社名はbootupAsia、2013年に社名変更)。エンジェル投資家などから支援を受けていたが、2016年1月にはフジ・スタートアップ・ベンチャーズおよびPR TIMESから資金を調達した。これに先駆けるかたちで2015年2月には、PR TIMESに掲載するスタートアップ(創業7年以内)のプレスリリースの転載を実施。それと前後してPR TIMESが同社のイベント協賛を行うなど、連携を進めてきたという。

なお先に開示しておくと、僕は前職のメディア「CNET Japan」において、THE BRIDGE設立以前の平野氏と契約して1年以上に渡って共同でスタートアップの取材を行っていた関係がある。さらにさかのぼれば、平野氏は立ち上げたばかりのTechCrunch Japanでライター等として活躍。現在はビジネス上の関係はないが、一時は運営元の変更で閉鎖の可能性もあったTechCrunch Japanを支えてきた人物でもある(TechCrunch Japanのこれまでについてはこの記事も参照して欲しい)。また同時に、PR TIMESは僕らが毎年開催してきたスタートアップ向けイベント「TechCrunch Tokyo」のスポンサードをしてくれている企業の1社でもある。

スタートアップのエコシステムとともに成長

THE BRIDGEには当然広告枠もあるが、主な収益源となっているのは、イベントや大企業とスタートアップを結び付けるマッチング・勉強会を軸にした会員制の有料コミュニティだ。「とにかくインプレッション、ユニークユーザー、ページビューといった指標で記事を書く場合、どうしても扇動的な内容やゴシップ、激しいものが必要になってくる。一方でスタートアップの情報は地味。誰も知らない起業家の突拍子もないアイデアや情報を書くので。広告、課金というインターネットのビジネスモデルに当てはめたときに、課金や積み上げのモデルを探したかった」(平野氏)。

また、コンテンツ課金についても考えたが、「誰もが情報発信ができる時代では、コンテンツの価格は限りなくゼロになってくる。それでお金を払ってもらうというのはどうしても信じられなかった」として、ビジネスを模索する中でリリースワイヤー、つまりプレスリリース配信サービスのモデルに興味を持ち、以前からスタートアップコミュニティに積極的にアプローチしていたPR TIMESと関係を深めていったと語る。

一方のPR TIMESは、THE BRIDGEへの資本参加より以前の2015年1月から、特定条件を満たした創業2年以内のスタートアップのプレスリリースを月間1本無料にする「スタートアップチャレンジ」といった取り組みも行ってスタートアップとの関係性を強めてきた。2018年2月末時点では、累計約3200社のスタートアップ(創業2年以内と定義)がサービスを利用している。PR TIMESの利用企業社数は累計2万2000社。スタートアップの割合は決して小さいものではない。

PR TIMES代表取締役の山口拓己氏は、今回の事業譲受にも至ったこれらの取り組みについて、「スタートアップのお客さんを増やして行きたいと思っていたものの、一方でメディアは非常に少ない。生産量も少ない。ニーズはあるが生産者に届くものは少ないので(スタートアップを取り扱うメディアとの)関係を含めたいと考えていた」「PR TIMESが始まった2007年は、PRと言えば大企業のものがほとんどだった。それはメディアが、(メディアの)枠が、尺が限られている中では大企業や社会的役割が大きいところが中心だったから。一方で我々は裾野を広げようと思った。中小企業からスタートアップ、最近では地方まで広げている。その課程の中でスタートアップの人にリリースを活用頂きたいと考えていた。その中でスタートアップチャレンジを始めたり、THE BRIDGEと資本業務提携を進めたりしてきた」と説明する。

スタートアップのプレスリリース配信件数がこの数年で増えているというのは僕も感覚的には理解していたし、そのリリースの種類についてもプロダクトローンチから資金調達、提携、上場と幅広くなっているとは思っていた。実際、山口氏の話では、2017年に上場した90社中40社は上場時にPR TIMESでプレスリリースを配信していたのだそうだ。「 自分たちがスタートアップをけん引したのではない。スタートアップのエコシステムが広がった結果としてこの数年で会社も伸びてきた。 そのエコシステムを作っているのは『参加者』だ。メディアもそうだし、起業家、投資家も増えた。大企業とのコラボレーションも広がった。その核となるメディアに協賛や業務資本提携をしてきたことで、スタートアップのエコシステムの広がりとともに私たちの事業も広がった」(山口氏)

起業家は人をエンパワーする

少し余談になるのだが、日本のオンラインメディアで「ベンチャー(もしくはVB、Venture Business。これは和製英語だという説も)」から「スタートアップ(動詞、名詞として)」という言葉に変わっていったのは、ざっくりした肌感では2009年から2010年頃のことだったと思う(翻訳記事は除く)。そういう意味では平野氏や僕らは国内で「スタートアップ」のニュースに関わった初期の人間かも知れない。

そんな国内のスタートアップの環境の変化について、平野氏は2010年にスタートしたシードアクセラレーションプログラム「Open Network Lab」の存在が1つのターニングポイントになったのではないかと振り返る。「それまであったインキュベーションではなく、3カ月といった期間でスタートアップを生み出すようなプログラムが2008年頃に米国で起こり、それを日本に持ってきたところから環境が変わっていった」「イベントにしても、これまでは登壇者が並んで、話を聞いて、名刺交換をして帰るという、『行くこと』が目的だった。一方で(西海岸を中心に)『ミートアップ』と呼ばれる起業家と投資家が会って、エコシステムを作るための場所ができはじめた。そういうモノをやりたいというのが自身の最初のアクションだった」(平野氏)

そんな平野氏は、メディアの“中の人”から起業家として自らメディアを立ち上げるに至った経緯についてこう語る。

「一番最初はコンプレックスからスタートした。(TechCrunchに関わり始めたのは)30歳になった当時で、米国に行ったこともないし英語もできない。毎日面倒くさくて、給料をもらえればそれでいいくらいだった。でも記事を見ると、シリコンバレーには無茶苦茶なことをやっている起業家達がいた。YouTubeだって違法アップロードが当たり前だし、Napsterのようなサービスもあった。彼らを見て、自分はどう生きていくか考えて、『元気にやっていこう』と気付かされた。自分がそれで元気になれたのだから、もっと色んな人が元気になれるんじゃないかと思った。 起業家は人をエンパワーする力を持っている。 リスクだらけだし、金を借りて出ていくだけかも知れない。人からは怒られるし、詐欺師だとまで言う人がいるかも知れない。ネガティブな話ばかりだ。それでも進んでいって、最後にはみんなを幸せにする人が出てきた。この界隈は本当の詐欺師のような人もいるので、『この人はいい人だ』と伝えていくことにしても、情報を出す意味もある」

「自分で記事を書き始めてむずがゆいところがあった。 取材空いては全員が創業者。何かをやって実績がある人ばかり。だから聞けないことも多かった。じゃあ自分もやってみよう。 そうすれば少なくとも『金に苦労した』ということだって話せると思った。そういうことから同じ年代の起業家と話が聞けるようになると思った」

ゴールは「起業家を増やす」

冒頭にあるとおりだが、PR TIMESは今後、THE BRIDGEのメディアを中心にしつつ、イベントやコミュニティ形成を強化するとしている。またスタートアップに限らず、幅広い層に対してプレスリリースという手段で自身の行動を発信するための施策を展開していくとしている。

また平野氏はTHE BRIDGEのゴールについて「起業家を増やすこと」と語る。「それに取り組んできた10年だし、だからこそ自身で起業もやった。日本でメルカリみたいな規模の会社をもっと作れるはずなのに、なぜ見つからないのだろう。 例えば渋谷には人がたくさん歩いているが、彼らが起業したらどうなるだろうか。でもそんな選択肢を考えるには情報が足りない。大学を出て、いい会社に入って……と思う人はたくさんいるから。ニッチな情報を出すメリットを伝えないといけない」

「今は情報を出す側の人間も圧倒的に少ない。また、今は起業家と投資家を見ると今は投資家のほうが強い。そうなると、どの起業家にどのビジネスをさせると成功するかというのが分かるようになってしまった。ある意味ではリスクを取らなくなってしまった。そういう人達の情報を出すにはPR TIMESなども活用していけばいいと思う。一方でスマートフォンシフトのような大きな波が暗号通貨やブロックチェーンのまわりで起こっているが、情報が足りない。何が正しいのか、誰が悪いのか、そういう情報も分からない。だから情報を出す側も勉強しないといけないし、企業も学ばないといけない。この大きなパラダイムシフトを理解して情報を出すメディアを作らないといけない」(平野氏)

 

ユーザーを「人」として分析する顧客体験プラットフォーム「KARTE」のプレイドが27億円を資金調達

写真左:プレイド代表取締役社長 倉橋健太氏 右:同代表取締役兼CTO 柴山直樹氏

ユーザーを「データ」でなく「人」として分析し、それぞれの人に合った体験を提供するためのプラットフォーム「KARTE(カルテ)」を運営するプレイド。同社は4月19日、既存株主のフェムトパートナーズEight Roads Ventures Japan(旧Fidelity Growth Partners Japan)と、新たに出資に参加する三井物産三井住友海上キャピタルSMBCベンチャーキャピタルみずほキャピタル三菱UFJキャピタルなどを引受先とする第三者割当増資と、みずほ銀行などからの借入れにより、総額約27億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

プレイドではこれまで、2014年7月にフェムトグロースキャピタルなどから約1.5億円を調達、2015年8月にはFidelity Growth Partners Japanとフェムトグロースキャピタルから約5億円を調達している。今回の資金調達により、累計調達総額は約34億円になった。

今回の調達に先駆けてプレイドは、4月17日にKARTEのブランドリニューアルと機能拡張を発表している。“ウェブ接客からCX(Custmer eXperience:顧客体験)プラットフォームへ”とうたったその内容は、プレイド代表取締役社長の倉橋健太氏にTechCrunchが3月に取材したときの話をほぼ踏襲したものだ。まずはその新しい機能について見ていこう。

数値でなく人から発想することでマーケティングを楽しく

プレイドでは、2015年3月にウェブ接客ツールとしてKARTEをリリースして以来、2016年3月にユーザーへのメッセージチャネルをLINEやSMSなどに広げる連携ツール「KARTE Talk」、2017年12月にはサイト間や実店舗でのユーザー行動も横断的に見ることができる「KARTE CX CONNECT」、2018年3月にはアプリユーザーを対象にした解析・メッセージングツール「KARTE for App」を提供してきた。

プレイド Customer Success Directorの清水博之氏は、これまでのサービス展開については「ユーザーとのコミュニケーションを求める市場に対して、ユーザーへの『アクション』部分の機能を強化してきたもの」と述べている。

「KARTEは接客ツールとして始まった当初から『人軸』でユーザーを見ること、つまりユーザーを“知る”ことと、ユーザーに“合わせる”ことの双方をコンセプトとしている。ただしこれまでは、“知る”ことは大事だと思いながらも、ニーズとして強かった“合わせる”ことのほうに、より応えてきた」(清水氏)

リリース以来、KARTEの導入企業・サイト数は純増を続け、3年間の累計解析ユーザーは22億人、導入企業の約半数であるECの年間売上解析金額は5480億円に上るという。利用企業の規模も大きくなり、認知度も上がった今、顧客企業からは「どういう人が買っているのか、結局わからない」との声が増えてきたと清水氏は言う。

「ユーザーに“合わせる”、アクションを提供するツールでは、CVRがいくつとか、メールを何通送ったとか、(評価が)数字やデータの話になることが多い。そこではユーザー一人ひとりがどういう動きをし、どういう環境にあるのかはわからない。また大きな組織でデータを分析しようとすると、各部署に散在しているデータを集め、必要なものだけ抽出して解析して……と分析のためのスキルが必要でコストもかかる。そこでこれからのKARTEは“知る”ことに重心を移し、誰でもユーザーを『人』として知ることができ、誰でもユーザーにアプローチできるように機能を拡張した」(清水氏)

マーケターなどいわゆる「分析屋」だけでなく、経営層やカスタマーサポート部門といった社内の誰もがユーザーを直感的に理解できるよう、進化させるというKARTE。今回発表された新機能は5つある。

既存のマーケティング環境(左上)に対して、KARTEの5つの新機能がカバーするエリアをプロットした図。

1. ライブ(仮称、ベータ版)

今夏の正式リリースに向けて開発が進められている「ライブ」は、ユーザー一人ひとりの行動を動画で見ることができる機能だ。サイトやアプリリニューアルの際に行うユーザビリティテストにも似たこの機能では、スクロール、タップやクリック、テキストの選択(ハイライト)といったユーザーの実際の動きを見ることができる。

「データにすると抜け落ちてしまう行動そのものを見ることで、新たな発見ができる。同時に(クリックなどの)イベントも計測しており、ユーザーの属性と動きを見比べることも可能だ。あるテキストを選択したユーザーがどういう属性かを見て、その人に刺さる言葉を考えるといったこともできる」(清水氏)

実店舗なら「買わない人」がどういう人で、どのように滞留して帰っていったか、ということも把握しやすいが、これまでの定量データでは、ウェブやアプリでアクションを起こさずに離脱した人の動きを見ることは難しかった。ライブ機能ではその把握もやりやすくなる。「数字じゃないところにヒントがある」と清水氏は話している。

2. スコア(ベータ版)

一人ひとりのユーザーの感情や状態をリアルタイムに数値化・可視化する機能が「スコア」だ。ユーザーが購入しそうか冷やかしなのか、よいユーザー体験を得ているかそうでないのか、といった度合いを見ることができる。

またECサイトならアパレル、コスメ、グルメといった商品カテゴリにより、ユーザー背景や動きは違ってくるが、それぞれのユーザー行動(イベント)をもとにルールを作成してポイントを付けることが可能。モチベーションの高いユーザーだけを絞り込んで表示する、といったこともできるので、コミュニケーションを取りたい人や観察したい人を見つけるのもやりやすくなる、と清水氏は言う。

3. ストーリー

スコアはあるユーザーのその瞬間の状態を把握するための機能だが、「ストーリー」はユーザーのこれまでの行動や状態を、時系列のグラフで表示することができる機能だ。スコアや行動量の変化を追っていって急に上下したところがあれば、グラフ上をクリックして、より詳しい行動を確認したり、ライブ機能で実際の動きを見たりすることができる。

「ライブ、スコア、ストーリーの3つの機能は、一人ひとりのユーザーを徹底的に可視化して、理解するためものだ」と清水氏は説明する。

4. ボード

残る2つの機能、「ボード」と「レポート」は定量データからユーザーにアプローチする機能だ。ボードはユーザーの属性や行動の統計値をグラフ、チャート、ファネルを使って見ることができる機能。見た目はGoogle Analyticsライクだが、グラフやファネル上でより詳しく見たいユーザー群があれば、クリックするだけで表示する内容を切り替えることが可能。ユーザー単位の情報にもたどり着ける。

「定量データから相関や特徴を読み解くことと、一人ひとりのユーザーに絞り込んだ理解とを、面倒な抽出やクエリなどの操作を挟まず、より直感的な操作でできるようにした」と清水氏は説明する。

5. レポート

レポートは5つの機能の中では「一番引いた視点」でユーザー情報を提供するもの。「事業サイドではやはりどうしても数字で情報が見たいときがあるので」全体像を把握するための機能も備えていると清水氏は言う。

ただしレポートでもボードと同様、情報から個々のユーザーにたどり着くことが可能。また逆に個々のユーザーの情報からレポートにたどり着き、そのユーザーが全体でどの位置に当たるのかを確認することもできるという。

清水氏はこれらの新機能により「ユーザー体験づくりが変わるはず」と言い、「数字とにらめっこして体験をつくる場合、どうしても数字から仮説を立てて、施策をやって、検証して、また分析をして……となる。『この人はなんでこういう行動をするんだろう』と人から発想すれば、マーケティングが楽しくなるのでは」と語っていた。

マーケティングのほか「先を示す」取り組みにも投資

プレイド代表取締役社長の倉橋氏は「新機能追加でも『データではなく、人としてユーザーを見る』という方向性は変わらない」として、お披露目されたばかりのコンセプトムービーを紹介してくれた。

そして導入企業も増える中で、より「顧客を知る」ニーズが顕在化してきたと倉橋氏は話す。今回の資金調達では「マーケティングも含めた投資で、成長に向けここでアクセルを踏む」と語っている。

プレイドの事業収益は2017年3月に単月黒字化を達成。「T2D3」*以上の成長を続けているという。
*“Triple, Triple, Double, Double, Double”の略。サービス開始から3倍、3倍、2倍、2倍、2倍と年々売上が成長すること。SaaSスタートアップの成長指標として使われる。

「これまでの投資は、ユーザーを“知る”、“合わせる”と言ってきたことを実際のプロダクトで実現するために機能拡充を進めることと、ビジネスオペレーションの磨き上げに充ててきたが、マーケティング活動によらず、オーガニックに成長することができた」(倉橋氏)

倉橋氏は、ここで成長をゆるやかにせず「逆に成長角度を上げていきたい」と言い、「マーケティング投資が今回の調達の最大の目的」と述べている。

またマーケティング以外では、KARTEシリーズとして展開するアプリやKARTE CX CONNECT、KARTE Talkといったプロダクトをさらに良いものにすること、顧客企業のカスタマーサクセスにつながる体制強化のための採用活動や、EC以外のサービスへの普及なども進める考えだ。

非EC分野については、倉橋氏はこう言っている。「3年前は7割がECでの利用だったが、人材や不動産、金融など幅広い分野で利用されるようになり、現在はEC対非ECが50%ずつぐらい。KARTEが広い市場に受け入れられたサインだと思っている」

アパレル業界や不動産業界など、KARTEの導入率が高い業界も出てきている中で「プロダクトはシングルのまま、広く使っていただけるように戦略を強化していく」と倉橋氏は話す。

倉橋氏は海外への本格進出にも意欲を見せる。KARTEの多言語対応は、導入企業の中で日本から海外進出したり、海外の日本法人が利用したりしたことをきっかけに自然に始まったというが、倉橋氏は「今後は仕掛けて出て行く」と話している。

さらに昨年11月に公開された、サイトのユーザーが買い物する様子をVR空間で再現する「K∀RT3 GARDEN」(カルテガーデン)をはじめとした、研究開発への投資も加速する構えだ。

「コンセプトとしては『お客さまを大事に』『顧客視点が大事』といった当たり前のことしか言っていないKARTEだが、これをよりしっかり受け取っていただきたいとの思いから開発したのが、カルテガーデンだ。ユーザーを人として見られれば、感じ方や気づきが変わるということをもっと知ってもらいたい。そのために先を示す取り組みも進めていく」(倉橋氏)

また各サービスでの行動データの蓄積も進む中、R&Dによってデータをより意味のある形で、「人」化して本格的に提示していきたい、と倉橋氏は述べている。「新機能のライブやスコアでも、ゼロから見方を考えてもらうよりは、ある程度こちらから型を用意することで、顧客企業のナレッジのベースアップになれば。そういう意味でも、蓄積データで顧客を支援できれば、と考えている」(倉橋氏)

クリエイターの“お金に換えられない価値”を評価・支援する暗号通貨「CLAP」

個人の価値をお金やモノなど別の価値に換える「評価経済」。これまでのYouTubeやInstagramといった、インフルエンサーが発信する“コンテンツ”が評価されるプラットフォームに加え、2017年は、自分の価値を模擬株式として発行し、ビットコインで取引ができる「VALU」が5月にスタート、ユーザーが提供する時間を10秒単位で取引する取引所「タイムバンク」も9月にアプリを公開するなど、評価自体を取引できるサービスのローンチが相次ぐ年だった。

そうした中、新たに独自の暗号通貨を使ったサービスでクリエイターの価値を可視化して、支援しようと2017年8月に設立されたのがOnokuwa(オノクワ)だ。オノクワが開発した独自通貨「CLAP(クラップ)」は、ビットコインなどと同様にブロックチェーン技術を活用した暗号通貨(仮想通貨)。CLAPをやり取りすることで、ミュージシャンやイラストレーター、漫画家などのクリエイターが活動できる場を提供する「CLAP経済圏」の構築を、オノクワは目論んでいる。

そのCLAPの第1弾サービスが4月19日、リリースされた。ベータ版として登場したiOSアプリ「CLAP」は、この独自通貨CLAPを獲得するためのツールだ。

クリエイターが活動するライブハウスや劇場、ギャラリー、グッズショップなどの「CLAP SPOT」に設置されたQRコードを読み取ることで、1カ所につき1日1回CLAPが獲得できる。つまりファンがクリエイターを応援するために実際に足を運ぶことで、CLAPが増えていくという仕組みだ。

4月時点では、都内約25カ所のCLAP SPOTにQRコードが設置される。CLAP SPOTがどこにあるかは、CLAPアプリ内で確認することができる。

オノクワではCLAPを使ったクリエイター支援のための経済圏を作りたい、としている。CLAPアプリでは、ファンが獲得したCLAPを好きなクリエイターの支援に使ったり、CLAPと引き換えにクリエイターのオリジナル特典(会員証)を手に入れたりできる。

第1弾クリエイターとして音楽制作ユニット「Mili(ミリー)」が参加することが決定、キャンペーンの実施も発表された。ユーザー(ファン)は、4月25日にリリースされるMiliの3rdアルバム『Millennium Mother』の関連グッズ購入やライブ来場でCLAPを入手できる。またスペシャルイベントの開催も予定されているという。

さらに今後オノクワでは、クリエイター側がファンから支援されたCLAPを使い、自身の創作活動を行うために利用できるサービスなどのリリースも予定している。

クリエイターが与える感動の総量をブロックチェーンで可視化する

オノクワを立ち上げた代表取締役CEOの石谷優樹氏と、共同創業者CSOの森川夢佑斗氏は、学生時代のインターン時代に知り合った。石谷氏は、関西学院大学在学中に700人規模の音楽フェスを成功させたこともあり、クリエイターがやりたいことをできる表現の場を用意することに関心があった。

一方、森川氏は「資本主義の『お金を稼ぐだけ』の拝金主義的な評価だけでなく、社会への貢献やYouTuberに対する評価なども評価軸としたい」と考える中で、ブロックチェーンに興味を持ったという。京都大学在学中にブロックチェーン技術を活用したプロダクト開発やコンサルティングを行うAltaAppsを創業。仮想通貨ウォレットを開発するGincoの代表取締役でもあり、1月31日には1.5億円の資金調達実施を発表している。

2人は昨年の初夏、森川氏が書籍『ブロックチェーン入門』を出版したことをきっかけに連絡を取り合い、久しぶりに会う機会があった。そこで、森川氏の1軸から多軸による価値評価へ、という思いと、石谷氏のクリエイターを支援したい、という思いを重ね合わせたときに「影響力、すなわちクリエイターが与える感動の総量を可視化できていないことが課題だ」との共通認識を持つ。

これを解決するためにツールとしてブロックチェーンを使い、ビジネスとして仕組み化することにしたのが、オノクワ設立のいきさつだ。

森川氏は「新しい価値指標としてのCLAPには、透明性と特定の機関に依存しないことを求めて、ブロックチェーンを使うことを選んだ。ブロックチェーンを利用することで、指標をグローバルに広めることもできる」と話している。「またブロックチェーンは個人間のP2P取引に用いられる仕組み。たまったCLAPをファンからクリエイターへ、クリエイターが別の才能を持つクリエイターへ、という形でやり取りすることで、価値を個人間で流通させることも目指している」(森川氏)

ブロックチェーンの活用により仮想通貨(CLAP)を基盤としたプロダクトを開発し、アセットとなるデータを扱うアプリを用意する。この仮想通貨を流通させることで、歌手の世界でいえば「オリコンチャート」のようなものに当たる指標を、音楽でも絵でも文字でも横断的に、クリエイター分野全体で把握できるデータとして持ち、指標の提供をビジネスとして展開する。これがオノクワの想定する収益モデルだ。つまり、売上ランキング、あるいはYouTubeやInstagram、Twitterなどのフォロワー数に代わる、クリエイターの評価指標を提供しよう、ということのようだ。

実際、森川氏はCLAPについて「お金とフォロワー数の間ぐらいに位置するものと認識している」と言う。そして「それこそが、評価経済プラットフォームとして先行するVALUとの違いだ」と説明する。「VALUでは、最後には評価が金銭として価値化される。CLAPは円やビットコインとはつながない。CLAPは、クリエイターの活動場所に、足を運んで参加するファンの行動に対して与えられる。これにより、投機的な行動が入らなくなる。純粋にファンが『いい』と思ったものに入る仕組みだ」(森川氏)

「CLAPではこれまでの仕組みと比べて、よりピュアな評価が見える」と森川氏は考えている。「例えば『Twitterのフォロワーは少なくても、ライブに足しげく通うコアなファンが付いている』というような、本来の“人を動かす力”が可視化できる。影響力の可視化という点ではCLAPもVALUと同じだが、アプローチが違う。副次的な価値は人気の実態とは乖離する。だから、独立した指標を作りたい」(森川氏)

ネット宅配クリーニング「リネット」に早朝・夜間の集配サービス登場——SBグループ子会社との提携で実現

ネット宅配クリーニングサービス「リネット」を提供するホワイトプラスは4月18日、夜間・早朝の宅配サービス「Scatch!(スキャッチ)」を提供するソフトバンクグループ子会社のMagicalMoveと提携し、朝6時からの早朝集荷や夜24時までの夜間配送などが可能な「プレミアム便」サービスを開始した。

プレミアム便は、月会費(390円)または年会費(4680円)を払って登録した、プレミアム会員が利用できる集配サービスで、早朝・夜間集配の「朝イチ便・夜イチ便」、「翌日届け」など5つのサービスが含まれる。このうち朝イチ便・夜イチ便と翌日届けがMagicalMoveとの業務提携により実現したものだ。

MagicalMoveのScatch!は、提携するオンラインショップの商品を対象に、早朝から夜まで配達してくれるというサービスで、日中は2時間ごと、朝10時までと夜間20時以降は1時間ごとに配達時間を指定できる。ソフトバンクグループで新規事業を手がけるSBイノベンチャーが2015年6月にサービスを開始し、2017年5月に子会社を設立、事業を独立させた。再配達の減少とAI活用で、効率的な宅配を行い、ドライバーの人手不足を解消することを目指している。

リネットプレミアム便の朝イチ便・夜イチ便では、朝6時〜10時、夜21時〜24時までの集配を1時間単位で指定できる。通常の利用料金以外の手数料は無料だ。また翌日届けでは、預けた日の翌日にクリーニングした洋服を配達する。6時〜18時に預ければ、翌日の夜21時以降に配達可能だ。こちらは1注文当たり300円の料金がかかる。

朝イチ便・夜イチ便と翌日届けの対象地域は現時点では、集荷が東京都内10区(千代田区、中央区、港区、新宿区、江東区、品川区、目黒区、大田区、世田谷区、渋谷区)、配達が東京23区内となっている。

プレミアム便ではこのほかに、預けてから最短2日後に洋服が届く「お急ぎ届け」、コンビニ持ち込みで24時間洋服が預けられる「らくらくコンビニ持込」、自宅の宅配ボックス経由で洋服が預けられる「宅配BOX預け」を提供する。

2009年10月にネット完結型の宅配クリーニングサービスとしてスタートしたリネットでは、共働き世帯などでサービスをスムーズに利用できないユーザーがいることを課題としてきた。ホワイトプラスが1月に実施したリネットのユーザーアンケートでは、宅配サービスで指定時間に在宅しておらず、再配達を利用するなど「荷物が1回で受け取れなかった経験がある」と答えた人が56.5%にのぼったという。

ホワイトプラスではプレミアム便導入で「再配達問題に代表される昨今の宅配サービス問題の解決に取り組み、早朝・深夜の集配サービスを展開することで、DINKSや共働き世帯をはじめさらに多くのユーザーに『お気に入りをもっと着たくなる』体験を提供する」としている。

AIが次に読むべき記事をリコメンド、スマホにサクサクなWeb体験をもたらす「Smooz」に新機能

僕たちが1日に一度は触れるであろうスマホブラウザ。そこへPCのようにタブを複数開いて調べものをするという体験や、調べたいものをカメラにかざすだけで検索結果を表示する「かざして検索」など、イノベーションを起こそうとしているのがアスツールだ。そんな同社は4月18日、彼らが開発するスマホブラウザの「Smooz」にまたちょっと新しい新機能を追加した。

今回の新機能は、AIが次に読むべきWebページをリコメンドするというもの。そのときに読んでいるWebページの文字を自然言語処理にかけ、そのカテゴリーやキーワードを抽出。ユーザーが気に入るであろうWebページをリスト化してリコメンドする。例えば、野球の大谷翔平選手がホームランを打った、という記事を読んでいれば、大谷選手の他の試合の記事を自動でオススメしてくれる。

アスツール代表取締役の加藤雄一氏は、今回の新機能について、「YouTubeで動画を観ていると、右側におすすめ動画が表示されてどんどん観てしまう。そんな体験を作りたかった」と話す。

現在、数十万人の月間アクティブユーザー数をもつSmoozでは、1日あたり約300万ほどのWebページが読み込まれている。同社は、ユーザーがそのページを読了したか、スクリーンショットは撮ったか、などのデータも記録していて、そこからWebページの“質の高さ”を判別する。今回の新機能では、Webページの文章から得たユーザーの趣向に合い、かつ質の高いものから順にリコメンドしていく仕組みだ。

従来のウェブブラウザでは、何かしらのWebページにたどり着くまでにユーザー自身が適切なキーワードを選び、検索にかけるというステップがある。アスツールは、そのステップすらも排除して快適なWebサーフィン体験をスマホで実現する、というのだから、結構野心的な試みだ。

また、今回の新機能はアスツールのビジネスにも大きな意味をもつ。リコメンドする記事のなかにインフィード型の広告を埋め込むことで、今後は広告収入を得ることが可能になったのだ。もともとSmoozには、AIを使った検索クエリのリコメンド機能が備えられていた。今回の新機能によってAI活用という点では第二フェーズに突入したSmoozだが、プレミアムサービスへのユーザー課金以外に追加のマネタイズ手段を得たことで、アスツール自身も新たなフェーズへと進むことになるのだろう。

2016年3月に創業のアスツールは、同年9月にSmoozをローンチ。11月に開催したTechCrunch Tokyoのスタートアップバトルにも出場している。2018年2月には、iOSおよびAndroid版の全世界配信も開始。今のところ、日本のほか、アメリカ、インド、アラビア語圏の国々でよく利用されているという。

加藤氏は、「新機能はまだ完全ではない。今年は新たな機能をさらに追加するのではなく、リコメンド機能の精度を上げることに注力する。また、グローバルリリースによって得た国ごとの細かなニーズに応えていくことも並行してすすめたい」と今後の戦略について語った。

BASEが丸井グループから資金調達、6月より渋谷マルイで常設店舗オープンへ

ネットショップ開設サービス「BASE」を提供するBASEは4月17日、丸井グループを引受先とした第三者割当増資による資金調達とともに、資本業務提携を実施したことを明らかにした。

調達額は非公開。なお今回の提携に伴い、2018年6月より渋谷マルイ1階にBASEの出店店舗なら誰でもレンタル可能な常設店舗をオープンする予定だという。

BASEでは2017年10月より丸井グループとの協業を開始。BASEへ出店する店舗に対し、丸井グループの展開する新宿マルイ本館、マルイファミリー溝口、有楽町マルイ、博多マルイにて、ポップアップショップによる実店舗での販売支援を実施してきた。

BASE担当者によると「ECとリアル店舗では売れる商品や売れ行きも異なり、特に初めて実店舗で販売するユーザーからは言い反響があった」という。これまでは期間限定のポップアップストアという形態で実店舗の運営を行っていたが、2018年6月より常設の店舗を渋谷マルイ1階にオープンする予定だ。

本件について同社では「将来的に多くの人々に受け入れられるブランドへと成長する可能性を秘めた店舗に対して、常設店舗での販売機会と販促ノウハウを提供し、各店舗の認知度向上や、新規顧客の獲得など、商機拡大を目指してまいります」としている。

また決済をはじめとするフィンテック面でも協業する方針。こちらについては具体的な話は今後進めていくということだが、「PAY ID」および「PAY.JP」を提供する100%子会社のPAYを絡めた話になりそうだ。

BASEは直近で2018年1月にグローバル・ブレインとマネーフォワードから15億円を調達。それ以前にも2014年5月にグローバル・ブレインから3億円を調達し、2016年1月にはメルカリから最大4.5億円の出資を含む資本業務提携を実施。2016年10月にもSBIインベストメント、SMBCベンチャーキャピタルなどから総額15億円の資金調達を行っている。

なお同社では本日、BASEのショップ開設数が2018年4月に50万店舗を突破したことも発表している。

 

ARでリフォーム後をシミュレーション、内装提案アプリ「ゲンチロイド」運営が7000万円を調達

ARを活用したスマホアプリを開発するKAKUCHOは4月17日、ニッセイ・キャピタルおよびベクトルを引受先とした第三者割当増資により約7000万円を調達したことを明らかにした。

KAKUCHOでは2017年10月にも家入一真氏、古川健介氏、須田仁之氏らから資金調達を実施。今回はそれに続くものとなる。同社では今回の資金調達をもとに、さらなる事業拡大に向けてサービス開発と組織体制の強化を図っていくという。

KAKUCHOが展開しているサービスのひとつが、AR技術を内装提案の現場に用いた「ゲンチロイド」だ。同サービスは実空間上にARで壁紙を貼ってシミュレーションすることで、消費者が施工後の部屋の様子をよりイメージしやすくなるというもの。リフォーム業者や壁紙職人、インテリアデザイナーなどが使うプレゼンツールのような位置付けだ。

ゲンチロイドには数千点の壁材・床材が登録されていて、サービス上で発注にも対応。営業担当者が紙のカタログを持ち運ぶ負担や、発注にかかる作業を削減する効果もある。

同社では引き続きゲンチロイドの開発に力を入れていくとともに、AR技術を使用した新しいコンテンツの制作・運用を行い「ユーザーに全く新しい体験を提供することで新しい社会の実現を目指す」としている。