「起業家と伴走できる関係でありたい」グリーベンチャーズが70億円規模の新ファンド

左からグリーベンチャーズ代表取締役社長の天野雄介氏、パートナーの堤達生氏

左からグリーベンチャーズ代表取締役社長の天野雄介氏、パートナーの堤達生氏

グリーベンチャーズは5月12日、新ファンド「AT-II投資事業有限責任組合」(AT-II)を組成し、1次募集(ファーストクローズ)を完了したことを明らかにした。主な出資者は、グリー、みずほフィナンシャルグループ各社(みずほ銀行、みずほ証券プリンシパルインベストメント、みずほキャピタル)など。ファーストクローズ時のコミットメントは約40億円。12月末まで出資者を募集し、総額約70億円規模のファンド組成を目指す。

グリーベンチャーズは2011年12月の設立。名称から分かるように、グリー傘下の組織ではあるが、いわゆる本体との事業シナジーを狙ったCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)とは異なり、非常に独立性の高い投資活動を行っているのが特徴だ(むしろグリー本体の事業と関わるゲーム領域の投資は行わないというのが基本方針だ)。グリーベンチャーズ代表取締役社長の天野雄介氏、パートナーの堤達生氏ともに個人としてもGP(ジェネラルパートナー、無限責任を負う組合員)としてファンドに出資するというのも、いわゆるサラリーマン的なCVCとは異なる点だろう。

これまでの投資実績はBtoB領域を中心にした国内および東南アジアの約30社。バラマキでなく、ハンズオンでの投資を行うという。4月に朝日新聞社が買収したサムライトも同社の投資先だ。国内に加えてすでに東南アジアでのイグジット実績もある(東南アジアのスタートアップの場合IPOではなく現地大企業や現地に進出したい日本企業による買収が中心だそう)。「具体的数字は公開できないが、(前回のファンドは)2年で投資が完了して、すでにファンドサイズの半分近くの金額を回収している。結構なペースだ。(それを評価して)今回のファンドでも前回のファンドの投資家が積極的に投資してくれている」(天野氏)。

新ファンドでも引き続きこれまで投資してきた日本国内・東南アジア地域への投資を行うが、新たにインドでの投資も進める。新ファンド組成にあたり、インド出身者も含めたキャピタリストを複数人を採用した。投資の対象となるのはコンシューマーインターネット、モバイルサービス、マーケティングテクノロジーなどインターネット領域全般。引き続きBtoB領域を重視する。これら領域のシード・アーリーステージに対して原則リード投資家として1社あたり約1億〜3億円の投資を実施する予定。最近TechCrunchでも紹介したSORABITOookamiはこの新ファンドのそれぞれ1号、2号案件となる。

ちなみにGPでもある天野氏、堤氏に投資の際、最も重要視するポイントを聞いたところ、2人からそれぞれ「マーケット」だという回答が返ってきた。

「僕らはマーケットに対するこだわりがある。大きくて、かつすごく伸びるマーケットを狙っていく。建機も、スポーツも飲食メディア(それぞれ投資先のSORABITO、ookami、Rettyを指している)もまだまだビジネス化されていない領域。そこにちゃんと真剣に取り組むべきかどうか。経営者がシリアルアントレプレナーである必要はないし、シードの極めて早い段階で投資するケースが多いので、起業家と投資家としてではなく、(より近くで)起業家と伴走できる関係でありたいと思っている。あとは24時間とは言わずとも楽しく仕事できるかは重要だ」(堤氏)

「最終的には狙っているマーケットが重要。その市場に可能性があるのか、規模は大きいのか。もちろんマーケットへのアプローチは、挑戦していく中で変わっていく。だがそこでアベレージのパフォーマンスを出せるかどうか。マーケットが成長していればアベレージのパフォーマンスでもいいし、さらに伸びる可能性がある。だがマーケットを間違うとそうはならない」(天野氏)

スマホで楽しめるゲームカセット「ピコカセット」販売へ、Makuakeでプロジェクトを公開

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「ゲームをプレイする」と聞くと、スマホの画面からゲームアプリのアイコンをタップする、という動作を思い浮かべるんじゃないだろうか。

コンシューマーゲーム機もまだまだ健在だが、カートリッジやディスクといった物理メディアと並行して、ウェブ上で購入する「ダウンロード版」のゲームが増えている。

そんな時代に、30年ほど前に流通していたゲーム機の「カセット」(カートリッジ)を再現。スマートフォンのイヤフォンジャックに差し込むことでゲームをプレイできるのが「ピコカセット」だ。同社は東京ゲームショウ2015でこのガジェットのコンセプトとモックを発表していたが、いよいよ製品化に向けて動き出したという。同社は5月11日より、クラウドファンディングサービスのMakuakeにプロジェクトを公開した

このプロジェクトを手がけるのは「ピコカセ倶楽部」。Beatroboとシロクによる共同プロジェクトだ。Beatroboは、イヤホンプラグに差し込み、専用アプリを立ち上げることでコンテンツのダウンロードや音楽試聴などを実現する「PlugAir」と開発している。PlugAirはこれまで、米国の人気バンド「Linkin Park」をはじめとしたアーティストなどのツアーグッズやライブチケットの特典などに利用されてきた。ピコカセットはこのPlugAirの仕組みを転用したガジェットとなる。

今回第1弾として提供されるのはジャレコ(現:ハムスター)が1985年に発売したファミリーコンピュータ向けタイトルの「忍者じゃじゃ丸くん」。Beatrobo CEOの浅枝大志氏に聞いたところだと、やはり今回のプロジェクトで一番苦労したのはライセンスまわりの調整だったのだそう。

「通常のIPものだと、『キャラクターライセンス』の提供などはよくある話。ライセンスを受けてゲームキャラのフィギュアを販売するようなモデルだ。次のステップとしては、キャラクターライセンスを使って新しいゲームを作るというのがある。例えばアニメのライセンスを押さえて、ゲームメーカーがゲームを作るというモデルだ」

「だが今回は過去のゲームの移植で、かつゲームそのものも昔のままという調整が必要だった。また当然だが、当時のゲームはスマートフォン対応でプログラミングされているわけでもないので、(開発面でも)ゼロベースでのスタート。ゲーム業界でも極めてユニークな座組みだと考えている」

ピコカセットの反響は海外でも大きいという。プロジェクトでは今後継続してレトロゲームの復刻を進めるだけでなく、新作の開発や一般流通での販売、世界でのヒット作を活用した海外展開などを検討していくとしている。

iemo創業期メンバーが立ち上げたのは“サッカー×VR”の新メディア「サカチャン」

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2016年は”VR元年”だなんて言われているが、その波はオンラインメディアにも押し寄せている。2015年11月設立のSkyballは5月11日、サッカー特化の動画メディア「サカチャン」を正式公開した。

サカチャンはサッカーに特化した動画メディアだ。Jリーグの各チーム(オープン時点では横浜F・マリノス、大宮アルティージャ、セレッソ大阪の3チーム)の練習風景を中心に取材。短い動画として編集して配信する。動画の一部は360度動画になっており、スマートフォンなどを使って、臨場感のあるコンテンツとして楽しむことができる。

Skyball代表取締役の熊谷祐二氏

Skyball代表取締役の熊谷祐二氏

基本的に配信するのは独自コンテンツだ。チームごとに週1回の取材を行い、毎回20本程度の動画を作成するという。ベータ版運用時に公開した横浜F・マリノスの中村俊輔選手の360度動画は、Facebookでのシェアのみで公開から48時間で20万人以上に視聴されたという。「練習風景の動画コンテンツは世に出回ってない。ヨーロッパのクラブチームならYouTubeの専門部隊などがある場合もあるが、日本ではほとんどなかった」(skyball代表取締役の熊谷祐二氏)

熊谷氏は2007年に起業。求人情報検索サイトやソーシャルゲームなどの領域を手がけた。その後2014年には4人目のメンバーとしてiemoに参画。おもに国内での経営、開発のマネジメントを行った。iemoは同年9月にディー・エヌ・エーに買収されるが、買収後に同社を退社。2014年末から世界一周の旅行に出かけたのちにSkyballを起業した。

「iemoでの経験はとてもエキサイティングだった。代表(の村田マリ氏)がシンガポールを拠点にしていたこともあり、国内を中心に様々な経験をさせてもらった。その一方で、自身が30歳を迎えるにあたってゼロイチでサービスをやりたいという思いが強くなっていた」

「そんなときに興味を持ったのが『SportTech』。自身が高校まで野球をしていたし、旅先ではプレミアリーグなどサッカーの試合がどこでも、みんなで盛り上がることができると知った。ITとスポーツ、どちらも人と人を繋げるもの。今では選手が自らメディアで発信もするし、ビッグデータだって活用されている」

「(FCバルセロナ所属でブラジル代表選手の)ネイマールのインタビュー記事で『子どもの時にネット上にあったブラジル代表の練習動画を観て、技術をマネしていた』という話があった。調べてみると今どきのサッカー少年は、親や自身のスマートフォンでゲームをするか、YouTubeでサッカー動画(好きな選手のハイライトやテクニック集)を観ていることが分かった。米国ではThe Player’s Tribuneuninterruptedなど新しいスポーツメディアも登場しており、この領域に挑戦しようと思った」

今後は取材範囲を拡大するほか。撮影スタッフやエンジニアなどの人材の採用強化を進める。現在は外部資本を入れていないが、資金調達も検討している。

熊谷氏は単純に動画メディアを成功する、というだけでなく「スポーツクラブの良きIT商社」になりたいと語る。「スポーツ業界にあらゆるITソリューションを提供していきたいし、クラブだけでは対応しきれないコンテンツを提供し、選手とファンの新たなコミュニケーションの場を作りたい」(熊谷氏)。また今後はVRやARを使うことでスポーツの新たな視聴体験を提供していくという。

Instagramで変わるソーシャルメディアのビジネス利用と「俺通信」な20代のコミュニケーション

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編集部注:この記事はカイユリコ氏による寄稿である。同氏は東南アジア向けアパレルコマース事業ANELAでCEOを務めた後、現在はFacebookグループの「Instagramマーケティング勉強会」を主催して情報交換をしつつ、自らInstagramマーケティングプラットフォームの「PONY」を開発している。本稿ではそんなカイ氏にInstagramのビジネス活用、そしてInstagramのメインユーザー層のオンラインコミュニケーションについて語ってもらった。

2010年にサービスを開始し、2012年にはFacebookが買収した写真・動画共有SNSの「Instagram(インスタグラム)」。今では全世界で何百万というブランドがこのサービスにアカウントを持ち、自社の商品に関わる情報を発信している。

広告ビジネスも好調だ。同社が2月に発表したところによると、グローバルで月間20万社がInstagramに広告を出稿しているという。これはTwitterの月間13万社を軽く超える数字だ。

この勢いは海外だけの話ではない。日本国内でもすでにMAU1200万人を突破。ビジネスユーザーは1万社を超えた。筆者らが運営しているInstagramマーケティング勉強会というFacebookグループは2015年1月末に運用をスタートしたが、すでに1500人近くが参加しており、Instagramのビジネス活用に注目する人が急増していることを感じる。

なぜInstagramへの注目が高まっているか? 一番大きな理由は、そのインタラクション(投稿を見たユーザーによるいいね!やコメント、シェアなどの行動)の多さである。米hootsuiteの調査データによれば、フォロワーに対するインタラクションはInstagramが4.21%であるのに対して、Facebookは0.07%、Twitterに至っては0.03%。つまり約60〜120倍の数字を出しているのだという。ファッションやフードなど、写真との相性が良い“インスタグッド”な業界の投稿であれば、より高い数字になっているのだという。例えばニューヨーク・コレクション(New York Fashion Week)においては、期間中に獲得した1300万件のインタラクション(いいね、コメント、シェア)のうち97%はInstagramで、残りはFacebookが2%、Twitterが1%という結果が出ている。

インタラクションの高さは、Instagram経由でのアプリダウンロードやメディア訪問などのエンゲージメントにも繋がっている。親会社であるFacebookはInstagram広告の最適化を今後重視していくとしている。

Instagramをプロモーションに活用する2つの方法

では企業はInstagramをどのようにプロモーションに利用するのか?それは

  1. 自社アカウントを育てる(ルーティン型)
  2. インフルエンサーに依頼する(スポット型)

大きくこの二択しかない。もっと簡単に言えば、「自分で発信する」か「他者に発信してもらう」かである。それぞれの手法についてもう少し詳しく紹介する。

  1. 自社アカウントを育てる(ルーティン型)

Instagramを通じてファンとの関係を築き、継続的に運用するための基盤作りを目的にしている場合、企業のアカウントでは良い写真や動画を投稿することに注力するだろう。また、ハッシュタグを利用した写真コンテストなどを開催したりもする。

このように自社アカウントを販売・PRチャネルとして機能させるには、コンバージョン目標とエンゲージメントレートから逆算したフォロワー数(あるいは投稿が拡散した際の閲覧者数)が必要である。もちろん時間や運用する人のセンスが問われるが、ファンと継続的に関係を保つ上で有効な手法である。

こういった「ルーティン型」の運用を支援する国内のサービスの代表格は以下の通り。筆者も現在Instagram向けのマーケティングツールPONYのベータ版をローンチしたばかりだ。

マーケティングツール(無料):PONY

マーケティングツール(有料):Aista (notari)、 Social Insight (ユーザーローカル)、 hashlikes (ナナメウエ)

運用/キャンペーン代行:sharecoto(シェアコト)、monipla(アライドアーキテクツ)

  1. インフルエンサーを巻き込む(スポット型)

これも最終的に自社アカウントの育成に繋がるケースもあるが、基本的にはスポット的にキャンペーンを盛り上げたり話題を作ったりすることを目的としており、そのために有名人やフォロワーの多いユーザーに対して投稿やプロジェクト単位で広告を依頼するやり方である。国内のおもな関連サービスとしては以下がある。

インフルエンサーへの発注プラットフォーム:Instagrammer.jp(3MINUTE)、 Tagpic(タグピク)、Life-Instagrammer Network(トレンダーズ)、コムニコインスタグラマーズネットワーク(コムニコ)

1、2の施策ともに、どちらか一方のみ行うのが良いというわけではない。戦略と予算に応じて効率的に運用を行わなければユーザーを囲い込めない。前者はセンスと時間、後者はお金が必要である。

Instagramはプロモーションだけのチャネルか

前述のとおりで、そのエンゲージメントの高さからInstagramアカウントを運用してプロモーションに活用するという動きは多い。だがInstagramの底力はプロモーションだけではないと筆者は考えている。

あくまでファッション業界を中心とした動きではあるのだが、「インスタグラムは顧客との最初の接点として、製品がベストセラーになるかどうかを判断するのに使っている」という企業が増えているのだ。

例えばオンライン小売のエバーレーン(Everlane)は、2016年1月、Instagramで非公開のアカウント(@EverlaneStudio)を開設し、つながりの深い顧客で構成された一種のフォーカスグループをInstagram上に作り、新しい製品のデザインなどについて議論に関わってもらった。

オンラインファッション誌「フーホワットウェア(WhoWhatWear)」は2016年、米量販店のターゲット(Target)と協力して、はじめてのリテールブランドを立ち上げた。その際、彼ら短い動画を撮影し「@whowhatwear」のアカウントから160万人のフォロワーたちに、「クローゼットのなかにない服は何か」と尋ねた。 そのフィードバックから、若い女性にはファッショナブルで手ごろな値段のビジネスウェアの種類が少ないことを突き止め、その後の商品開発に生かしている。

ファッション業界をはじめとして、いくつかの業界において、顧客はすでにInstagram上に存在しており、コミュニケーションをとれる状態なのだ。上のように潜在的な顧客のニーズを聞いたり、商品デザインや画像のA/Bテストを行ったり、より良いものを作り伝えるためにもInstagramは使われている。

今後の国内Instagramマーケティングの動き

今後Instagramは、アートだけの世界ではなくなっていく。より多くの広告が入り、アルゴリズムによって表示順序が変わり、フォローしている人からは広告としての投稿が流れてくる。

ここで予測できることは2つある。ひとつは——もはや発生していることだが——InstagrammerがYoutuberのような「仕事」にもなるということ。たとえば海外だと、sponstaのような企業とInstagrammerのマッチングサイトがある。ここにはセレブリティだけでなく、数千人のフォロワーがいる一般人が登録しており、様々な広告案件を請け負っている。

また海外セレブリティについては、Instagramの投稿広告が高額で発注されている状況だ。ケンダル・ジェンナーカーラ・デルヴィーニュらのトップモデルのソーシャル上での一投稿の価値は約1530万円〜3700万円、カーリー・クロスミランダ・カーらの投稿は、約300万円〜615万円ほどの価値があることが判明した

国内においても、上記インスタグラマーネットワークではこうした投稿広告の発注が行われている。TechCrunch JapanでインスタグラマーであるGENKINGの記事が話題になったのも記憶に新しい。今後はセレブリティや著名人だけでなく数千、数万程度の一般ユーザーに対しても広がっていくだろう。

もうひとつは、Instagramの写真データとしての活用だ。

Instagram、あるいはInstagram APIを使うサードパーティが、写真という大量のデータの機械学習によって振り分けて最適化していく(これは写真・動画投稿SNSとしてユーザビリティを改善するだけでなく、ECサイトやメディアにおいてCVRの高い写真・動画素材としての活用かもしれない)ことが考えられる。FacebookはF8において、今後10年間で注力することのひとつにAI活用を挙げたが、もしかしたらこれにも関わってくる動きになるのではないか。

リテラシーの高い学生のコミュニケーションは“俺通信”が中心に

最後に、Instagramのメインユーザーでもある20歳前後の大学生たちに聞いた話を紹介したい。もちろんITリテラシーの高い人物が中心なので、これが「ごく一般的な大学生のリアル」とは言えない。しかしながら、10〜20代のコミュニケーションの質が変わり始めていることを感じられる体験だった。

これまでコミュニケーションアプリといえば、日本ならLINE、グローバルで見ればWhatsAppやViberなど、メッセージやスタンプを「送る」「受け取る」ことでやりとりをする、文字通り「コミュニケーションをとる」ためのアプリだった。

そのため、自分がメッセージを送ったときには相手からの返信を期待する。返信がなければ「既読スルー」に悩み、極端なところでは仲間内で作ったLINEのグループから外される「LINEいじめ」といわれるような現象が生まれるなど、コミュニケーションをとることの煩わしさも目立つようになった。

しかし筆者が話を聞いた学生のコミュニケーションは、その煩わしさからも解消されているというのだ。つまり、彼らのコミュニケーションは、もはや相手からの積極的なインタラクションすら期待していないというのだ。

彼らはFacebookやLINEで相手に連絡する手段は確保しつつも、日常ではInstagramやSnapChat、MSQRD(マスカレード)でただ自分の日常をアップデートするだけ。恋人でもない人やさほど興味のない相手が自分の報告を逐一メッセンジャーなどで送ってくることを「俺通信」と呼ぶことがあるそうだが、そんな俺通信と呼べるような発信こそがコミュニケーションの主軸になっているのだ。

俺通信を主軸にしたコミュニケーションとは具体的にはどんなものか? まず彼らは食事会や合コンで知り合った異性に対してLINEのID交換を求めるのではなく、Instagramのアカウントを教えあう。直接コミュニケーションを取るのではなく、Instagram上でお互いの発信する内容を見て人となりを知り、趣味を知り、話のネタを見つけて、仲良くなれるかを探る。そして 仲良くなれそうだと判断した時に初めてLINEやFacebookのアカウントを交換する。ここでやっと連絡手段を確保し、距離を縮めていくのだという。

そして何度か話したり、共通の友人が多いことが分かったりすると、今度はSnapChatアカウントを教え合うのだという。SnapChatのStory(Facebookのウォールのように、時系列で投稿を閲覧できる機能)で、近況をテキストやスタンプとともに投稿し、特定の友人とだけ共有したい話があるときだけ、直接メッセージを送り合う。

SnapChatやInstagramは、基本的に自分が送って相手が返信する、というコミュニケーションは求められていない。既読スルーもなければ、送受信の頻度も割合も気にかけなくて良い。全員が好きなタイミングで「俺通信」を送り、興味がある時にだけ連絡をする。それは「返信」ではなく「連絡」くらいの感覚だ。ITリテラシーの高い大学生にとっては、自分との関係を”推し量る”程度の距離感が心地いいようだ。

メタップスとLOCUSが業務提携、ゲーム向けの動画制作から分析までをワンストップにした「LOOP」を提供

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アプリ収益化プラットフォームの「metaps」や手数料無料の決済サービス「SPIKE」などを提供するメタップスが、動画制作・マーケティング支援を行うLOCUSと業務提携を行うと発表した。4月26日より、企画や制作から解析、その後の評価までワンストップで提供する動画コンサルティングサービス「LOOP(ループ)」を共同で展開する。

メタップスではこれまで、アプリをはじめとしたウェブマーケティングを展開してきた。動画広告に関しても、広告配信から効果の分析までを行う「メタップスアナリティクス(ローンチ当時はMetaps Video Analytics)」を提供するなどしている。一方LOCUSでは、これまで採用動画やアプリ紹介動画などの制作、動画広告の制作、運用などで豊富な実績を持つという。

今回スタートしたLOOPは、そんな両者の強みを生かしたサービス。LOCUS側で動画の制作を行い、メタップスが解析ツールを提供。施策の評価やコンサルティングを行うという。料金は動画のタイプによるが1本25万円から。

LOOPではまず、「LOOP for GAME」としてゲームアプリに特化した施策を展開する。また今後は市場のニーズに合わせてゲーム以外の業界に向けて特化型のサービス提供・商品の拡充を進める予定だ。

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ドリコムの「Pass!」は地図をベースに“レス不要”なゆるいコミュニケーションを提供する

image41週間ほど前に物々交換アプリ「Clip」をローンチしたばかりのドリコム。その際に代表取締役社長の内藤裕紀氏が語っていたが、早速新しいサービスをリリースしたようだ。同社は4月25日、ライブコミュニケーションアプリ「Pass!」ベータ版を招待制で公開した。アプリはApp Storeにてダウンロードできる。

Pass!は地図をベースにしたコミュニケーションサービス。クラスメイトやサークルの仲間などさまざまなグループを作り、ユーザーはグループ間で「今何しているのか」について、テキストと着ぐるみ(登録した画像とさまざまなアクションをする着ぐるみイラストを組み合わせたもの)を使ってコミュニケーションができるというもの。

投稿時の位置情報のオン/オフ機能、自宅など特定のエリアに入った際に自動で位置情報を非公開にする「プライバシーエリア機能」、現在いる場所とは違う場所からの投稿が可能な「ワープ」といった機能も用意する。

地図をベースにしたコミュニケーションと聞くと、かつてGoogleが提供していた「Google Latitude」(2009年にローンチ、2013年に終了)やLINEの「LINE HERE」などいくつかのサービスを想起させるのだが、ドリコム内藤氏に聞いたところPass!のアプローチはちょっとそれらとは違う、むしろ送信したテキストや画像・動画が消えるメッセンジャーアプリ「Snapchat」に近い思想のサービスだというのだ。はたしてそれはどういう意味か?

Snapchatと同様の「レスを求めないコミュニケーション」

最近数人の起業家・経営者と話していて気付いたのだけれども、Snapchatが提供する本質的な価値というのは、「投稿したテキストや画像が消える」ということ以上に、「レスを求めない1対nのゆるいコミュニケーション」ということにあると思う。内藤氏も同様のことを語った上で、Pass!もそういった「レスを求めない、でも何をやっているかを伝えるコミュニケーションサービス」であると説明する。

「メールの時代は返事が来るまで半日とか1日という時間がかかった。チャットの時代になってそれが数時間になり、会話の中で『どこにいるの?』『何しているの?』『誰といるの?』的なものが占める割合が圧倒的に増えた。それがライブ感。Pass!は今どこにいる、何している、誰といる、が分かったところにコミュニケーションを乗せるという設計」(内藤氏)

とは言っても「LatitudeやLINE HEREなどとは目指してる思想が全然違うが、使わないと伝わらない」というのが内藤氏の弁。まずはひっそりとサービスをスタートし、ユーザーの反応を見ていくという。

日本版Y Com目指す——YJキャピタルとEast Venturesが新アクセラレーター「コードリパブリック」立ち上げ

左からYJキャピタル代表取締役の平田竜氏とEast Ventures代表取締役の衛藤バタラ氏

左からYJキャピタル代表取締役の平田竜氏とEast Ventures代表取締役の衛藤バタラ氏

ヤフー傘下のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)であるYJキャピタルと、独立系VCのEast Venturesがタッグを組んで新たなアクセラレータープログラム「コードリパブリック」を開始する。4月25日から第1期参加者を募集する。プログラムの期間は3カ月。今後は年2回ペースで開催していく予定だ。

コードリパブリックは、YJキャピタルとEast Ventures共同で運営するアクセラレータープログラム。募集の対象となるのは「インターネットを使ったビジネスを検討しているベンチャー企業」となっており、国籍不問、法人化前のチームでもよいという。これだけ聞けば間口は広いようにも見えるが、「審査の敷居は高い。数を求めるのではなく、クオリティを重視したい」(YJキャピタル代表取締役の平田竜氏)という。また条件上はエンジニア必須となっていないが、「チームの中にいた方がいい。資金がない中での外注は難しい」(East Ventures代表取締役の衛藤バタラ氏)ということで、開発力のあるチームを求めているようだ。

審査を通過したスタートアップ(およびその準備を進めるチーム)には、East VenturesおよびYJキャピタルから合計700万円の出資(一律バリュエーション1億円で7%の第三者割当増資。必須)のほか、3カ月間のインターネットビジネス運営・企業経営向けの講座、1週1回のメンタリング、デモデイへの参加、オフィススペース(今春オープン予定のEast Venturesの新六本木オフィスの一部となるコワーキングスペースとのこと)の提供などが行われる。

プログラムのスケジュールは以下の通り。
2016年4月25日〜6月17日:第1期の募集期間
2016年6月下旬〜7月上旬:審査期間(1次:書類審査、2次:面接)
2016年8〜10月: 第1 期のプログラム期間
2016年10月31日: 「Demo Day」を開催
2016年11月中旬: 第2期の募集開始

メンターにはEast Ventures代表取締役の衛藤バタラ氏、同じくEast Ventures代表取締役の松山太河氏のほか、YJキャピタル代表取締役の平山竜氏、YJキャピタル取締役 兼 ヤフー執行役員ショッピングカンパニー長の小澤隆生氏、ヤフー上級執行役員 メディア・マーケティングソリューションズグループ長の宮澤弦氏、ヤフー執行役員パーソナルサービスカンパニー長の田中祐介氏、ヤフー執行役員CMOの村上臣氏、YJキャピタル パートナー CFOの戸祭陽介氏、YJキャピタル パートナー COOの堀新一郎氏が担当。今後は外部メンターの招聘も検討する。またゲストアドバイザーとして、メルカリ代表取締役社長の山田進太郎氏、KAIZEN platformの代表取締役社長の須藤憲司氏、ラクスル代表取締役の松本恭攝氏、フリークアウト取締役COOの佐藤裕介氏が参加する。

2010年7月にスタートしたOpen Network Labをはじめとして、国内でもいくつかのインキュベーション・シードアクセラレーションプログラムが展開されてきた。これまでプログラムを持っていなかったYJキャピタルだが、「これまでYJキャピタルでも数千万円前半程度の小さいステージ(シード・アーリー期)への投資は行ってきたが、より少額の投資をどうやっていくべきかという議論があった」(YJキャピタル代表取締役の平田竜氏)と考えていたのだそう。

「日本のベンチャーを見たとき、経済規模を考えてもまだ伸びる余地はある。でも一番初め、創業期のところではまだ仕組みが少ない。Y Combinatorの日本版を作りたい。3カ月の期間で世に問えるプロダクトを作れる人達を求めている」(平山氏)

East Venturesでも一度プログラムを実施したがリソース不足もあって定常的に実施することが難しかった。また、シリアルアントレプレナーなどにはリーチできているが、「肌感覚でもデータで見ても、まだまだ起業家は少ない。1人ずつ声をかけるのにも限界がある。プログラムを通じてより起業家を支援していきたい」(衛藤氏)

コードリパブリックが重視するのはプログラム自体がコミュニティであり、エコシステムを作ることだという。まず、必須ではないが基本的にプログラム参加チームはコワーキングスペースでサービス開発を進めてもらうのだという。「ここはY Combinatorというより500 Startupsの考え方だが、彼らは(コワーキングスペースにプログラム参加者を入居させて)オフィスで切磋琢磨している。『ディナーでないと顔を合わせない』というのではなく、共同体になってほしい」(平山氏)

今後は外部からもメンターを招聘する予定。外部メンターに対しては、プログラム参加メンバーへの先行的な出資の交渉権などを付与することも検討しているという。「(Y Combinatorでは)デモデイが行われる頃には各社のバリュエーションが上がっている。なので『先に出資したいのであれば、先に彼らを鍛える』という仕組み自体ができている。それがシードのエコシステムになっている。あれ自体を実現したい」(平山氏)

ソーシャルギフトのgifteeが三越伊勢丹と資本業務提携、法人向け事業に活路

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国内ソーシャルギフトサービスの先駆けである「Giftee」。運営元のギフティが三越伊勢丹グループのCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)である三越伊勢丹イノベーションズを引受先とした第三者割当増資を実施したことをあきらかにした。金額は非公開だが、関係者によると数千万円規模だという。三越伊勢丹イノベーションズは2016年1月にできたばかりのCVC。ギフティへの投資が第1号案件となる。

ギフティはOpen Network LabのSeed Acceleratior Programの第1期、KDDI ∞ Labo (ムゲンラボ)」の第1期にそれぞれ参加した経験のある、2010年スタートのスタートアップだ。gifteeはソーシャルメディアを通じてスターバックスやローソン、上島珈琲店などで利用できる電子ギフトチケットを送るサービス。会員数は47万人。ギフトの取扱店舗は全国2万5000店に上る。

リリース当初からコンシュマー向けにサービスを展開してきたgifteeだが、オペレーションやPOS対応などの課題も多く、店舗側の導入が難しいというケースがあったのだという。また同時に、「個人間でのギフトの送付だけでなく、マーケティングツールやカタログギフトの置き換えといったかたちで法人利用できないか?」といった問い合わせが増えてきた。

そこで同社は2014年から法人向けに「giftee e-Gift System」の提供を開始した。これを利用すれば、企業は店頭利用できるギフトチケットを生成、自社サイト上でも販売できるようになる。サービスを導入するのはミニストップやローソンなど大手11ブランドまで拡大した。またこのサービスに乗ることで、企業はgiftee上でもチケットの販売が可能になる。

「giftee e-Gift System」のイメージ

「giftee e-Gift System」のイメージ

ギフティでは今回の資金調達をもとに、法人向けを中心にしたサービスの強化を進める。三越伊勢丹グループと連携した新サービスの開発も検討中だ。「僕らは1000円未満のカジュアルなギフトを手がけてきた。一方で三越伊勢丹グループは『(高額な)包み紙に包まれたギフト』に価値を置くという対極にいた。今後は彼らが持つギフトのアセットと僕らの技術を掛け合わせていきたい」(ギフティ代表取締役の太田睦氏)。具体的なサービスについてはまだ公開できる状態ではないとのことだったが、百貨店商品券やカタログギフトなどを置き換えるサービスなどを検討中なのだという。

 

Facebookの国内アクティブユーザーは2500万人、92%がモバイル利用——10代ユーザーの割合は少ない?

Facebook Japan代表取締役の長谷川晋氏

Facebook Japan代表取締役の長谷川晋氏

Facebookの国内月間アクティブユーザー(MAU)は2500万人、その92%はモバイルからアクセスしている。InstagramもMAU1200万人まで成長——Facebook Japanは4月20日に東京・六本木で開催したプライベートイベント「Mobile Moves People」を開催。Facebook Japan代表取締役の長谷川晋氏がこんな数字を発表した。

モバイルの時代は「もう来ている」

イベントの冒頭に登壇した長谷川氏は、2015年7〜9月期に国内スマートフォンユーザー数は5080万人と5000万人の大台を突破したとし、あわせて人々が携帯電話やスマートフォンに接触する時間が10年で7倍に増加(これはテレビや新聞、ラジオなどの各種メディアのうち21%を占める数字だ)していると説明。スマートフォンがブランドと消費者、ビジネスと消費者を繋ぐ役割を担っていると語った。

この流れは若い世代ほど大きい。すでに10代、20代のファーストスクリーン(一番接触している「画面」)がスマートフォンになっており、20代女性の78%がスマートフォンで商品購入経験があるというデータも示した上で、若い世代にとって、スマートフォンがマーケットの窓口にもなっていると話した。

そんなスマホシフトした時代により重要度が増しているのが「動画」だ。長谷川氏は動画について「単独のトレンドで見るのではなく、モバイル上でのコミュニケーションという点で捉えるべきだ」と語る。つまり昔は携帯電話上でテキストによるメッセージが生まれ、携帯電話にカメラがついて写真でのコミュニケーションが生まれた。さらにカメラの品質が向上することで動画を撮影するようになった、と(Facebookがその次のコミュニケーションとして考えているのは「AR/VR」による体験の共有だが、今はまだ動画が台頭してきた段階だ)。

事実、Facebookでは毎日80億回の動画が再生されている。ユーザーの急増するInstagramも動画の割合が増えてきた。具体的な数字は公開されなかったが、過去6カ月での動画再生伸び率は40%だという。自分自身やペットの動画もあれば、イベントレポートや著名人の情報発信など、様々な利用シーンがある。こういった背景から長谷川氏は「あらゆるシーンで動画の重要度が上がっている」と説く。

動画の重要性は広告の世界でも同じだと長谷川氏は続ける。Facebookではすでに動画広告、カルーセル(複数の写真をスライドして表示する)、360度動画、キャンバス(全画面表示で動画、カルーセルを組み合わせた広告)など、各種の広告商品を展開すると会場に向けて語った。「モバイル化する時代が来る来ると言われて何年も経っているが、モバイルのプラットフォームを運営している立場からすれば『もう来ている』。人を動かすマーケティングが求められている」(長谷川氏)

Facebookの広告フォーマット

Facebookの広告フォーマット

 

イベントではこのあと、Facebook Japan マーケティングサイエンスリードの小関悠氏がFacebook広告の成功事例に関するプレゼンを行った。Facebook広告は、ブランド広告に求められる(1)狙った人に届く精度(ある会社(社名は非公開とのことだった)とのテストでは、Facebook広告によるターゲットへのリーチ精度が95%以上だったのに対して、その他のターゲティング広告でのリーチ精度が62%以下だった)、(2)記憶に残るフォーマット(広告接触者、非接触者を比較したところ、一般的な施策では6ポイント程度の広告認知が進むところ、Facebookで9ポイント、Instagramで18ポイント上昇したという)、(3)他メディアとの相乗効果(テレビとFacebook、Instagramは利用シーンが異なるため、相乗効果がある)——の3つの要素を実現している、といった話だ。

FacebookとInstagram、テレビの利用シーンに関する調査

FacebookとInstagram、テレビの利用シーンに関する調査

 

実は10代ユーザーは少ない? スライドに疑問

最後にちょっと気になったスライドがあるのでここで掲載しておく。これはその小関氏のあとに登壇したFacebook Japan クリエイティブストラテジストの田中徹氏によるプレゼンの一部だ。

田中氏は、プレゼンの前に広報ストップがかかって数字(世代ごとの割合)を削除したと語っていたのだが、これは冒頭に書いた2500万人の国内Facebookアクティブユーザーの世代ごとの割合を示した図だ。数字が非公開ということなのでなんとも言えないところではあるが、この図の「世代ごとの割合」自体が正しいとしたら、実は国内Facebookのユーザー層は30代、40代以上が半分以上の割合をしめており、一方で10代(とはいえ16〜19歳の数字なので、そもそも対象となるのが他の世代の半分以下ではある)は全体から見ると決して大きい割合ではない…そんなことも考えられるものではないだろうか。

Facebook Japan クリエイティブストラテジストの田中徹氏によるプレゼンの一部

Facebook Japan クリエイティブストラテジストの田中徹氏によるプレゼンの一部

チャットボットがCtoCサービス成功の鍵、新事業に挑むドリコム内藤氏

ドリコム代表取締役社長の内藤裕紀氏

ドリコム代表取締役社長の内藤裕紀氏

物々交換アプリ「Clip」を4月19日に正式公開したドリコム。このClipや、先行して3月にリリースされているコンシェルジュによる飲食店の紹介・予約サービス「PlanB」をはじめとして、現在複数のCtoCサービスを開発中なのだという。その背景や今後の取り組みについて、ドリコム代表取締役社長の内藤裕紀氏に聞いた。

じわじわやって、誰も追いつけないサービスを作る

ドリコムの売上を生み出しているのはスマートフォン向けのゲーム事業だ。同社ではそのポートフォリオを見直して不採算タイトルを整理。IP(版権)モノのタイトルを中心に提供していくことを発表している。「ゲームをIPに寄せる。では3年後、5年後には何をやるか? と考えていたのが1年少々前。それで出た答えがCtoCの領域だった」(内藤氏)

GoogleやFacebookが参入してしまうような領域にチャレンジするのは難しい。やるのであれば、1、2年は芽が出なくて周囲に「うまくいかないよ」と言われようが、圧倒的なサービスを作らないといけない。「Airbnbだってじわじわやってきたが、今となっては誰も追いつけない。そんなサービスを作りたい」(内藤氏)

そんなビジネス的な観点とは別に、大量生産大量消費の時代からモノを大切にする時代、貨幣よりも信用が価値になる時代だからこそ成り立つプロダクトを作りたいという思いがあったという。「今のビジネスは『儲かる』という前提で設計されている。でも田舎では道ばたで無人の野菜販売だってしているし、モノの貸し借りもしやすい。そんな信用社会のサービスだっていい」(内藤氏)。Clipは、単にCraigslistを置き換えるためだけのサービスではないという。

とは言えあくまでドリコムのビジネスの中心はゲーム。新サービス群は20代半ばの社員を中心にした少数チームで担当している。内藤氏はプロデューサーとして新サービスにも時間を割いているという。「ヒットではなく、外してもいいから大きく振っていく。時間をかけてじわじわと(価値が)高まっていくものを作る。一方でゲームは逆張り。IPモノでヒットを打っていく」(内藤氏)

チャットボット×CtoCの可能性

リリースされているClipとPlanB、開発中のものも含めて、サービスの一部にチャット型のUIを採用している。「まだインターネットは使うのが難しい。チャットUIがそのハードルを下げているというのをこの1年くらい感じていた」(内藤氏)。MicrosoftにFacebook、LINEなどのプラットフォーマーがチャットUIとAIの組み合わせである「チャットボット」に注目しているが、内藤氏はこれとCtoCサービスとの相性が非常にいいと語る。

チャット形式でユーザーがやりとりする「Clip」

チャット形式でユーザーがやりとりする「Clip」

「なぜ僕らがチャットUI、ボットとCtoCとの掛け算を重視しているかというと、まずよく言われることだが、リテラシー低くても使いやすいから。この業界にいると当たり前になりがちだが、いちいち地域だの値段だのを入力して検索するというのはエンジニア的発想。一般の人の発想は電話みたいな感覚で尋ねたいはず」(内藤氏)

またこの組み合わせは、ユーザーのコンバージョンを高めるのにも最適だというのだ。

「CtoCのサービスで重要なのは、『ユーザーは待てない』ということ。そのためにできる限り待たせずリアクションをしなければならない。ここでチャットボットを使えば、すぐに返事できる。例えばPlanBでも、ユーザーからの問い合わせにボットと人力、それぞれでやることを分けている。そういうことがユーザーのエクスペリエンスを向上させる」(内藤氏)

内藤氏は「ライブ」というキーワードでチャットボットの価値を語る。ユーザーは自分がアクションを起こした際、リアクションがなければそのアプリなりサービスからいったん離れてしまう。だが相手がリアクションをしていることが分かればそのサービスから離れにくい。これは僕らがLINEの「既読」やFacebookメッセージの「入力中」という表示を見たときのことを考えればしっくりくる話だ。また、素早く反応が返ってくれば、それが意志決定にも繋がる。そんな“ライブ感”がCtoCのサービスには必要だという。だがチャットUIは決して万能な訳ではない。たとえばフロー型のUIであるがゆえに、検索性は弱かったりする。Clipでも検索機能は強化せず、いかに偶然の出会いを作るかを意識しているのだという。

PlanBのチャット画面

PlanBのチャット画面

PlanBは1回の予約ごとに課金(アレンジ料として1500円。ただしオープン記念で現在は1000円)を行うが、Clipは当面無料でサービスを提供する予定だという。企画当初からマネタイズ手段も用意し、開発に乗せていたが、リリース前にあえて機能を外した。「ビジネスモデルは時にユーザーの邪魔になる。しばらくはそういうことを無視して、回転数がどれだけ上がるか考えていきたい」(内藤氏)。ドリコムでは直近にもいくつかの新サービス(CtoC領域以外のサービスもあるようだ)をリリースする予定だ。

余談だが、最初にClipを紹介したのとほぼ同じタイミングでメルカリ子会社のソウゾウが同種のクラシファイドサービス「メルカリ アッテ」をローンチしていた。これは本当に偶然だったのだそうだ。

東大卒中心のFinTechスタートアップのFinatext、日本IBMと組んでロボアドバイザーを提供へ

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数あるFinTech系サービスの中でも、この1年弱という短期間で注目を集めているのが「ロボアドバイザー」という領域。コンピュータを使うことで最適な資産運用(やその助言)を行うプロダクトの総称で、米国ではWealthfrontやBettermentを始めとして数多くのサービスが登場。日本でもお金のデザインの「THEO(テオ)」やウェルスナビの「WealthNavi」など、徐々にサービスが立ち上がりつつある。

2014年にスタートしたFinatextもそんなスタートアップの1社。同社は4月18日、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)と協業し、ロボアドバイザーのエンジンを金融機関向けに提供することを明らかにした。

Finatextはこれまで、株式市場の予想アプリ「あすかぶ!」や仮想通貨を使ったFXの予想アプリ「かるFX」といったコンシューマー向けのアプリを提供してきた。またこれと並行して、金融機関向けの投信データ配信サービスなども開発している。同社は東京大学経済学部の卒業生らが中心となって設立されたスタートアップ。現在個人投資家からマイナー出資を受けているが、ベンチャーキャピタルなどの資本は入っていない。

同社はアルバイト、インターンを含めて24人のチームで、そのうち8割が東京大学の出身者および在学生だそう。エンジニアの多くは東大大学院で金融工学を研究したり、経済学部に所属したりしているという。同社は、4月に入って以降、トムソン・ロイターと提携した市場動向解析コンテンツの共同開発を開始したほか、カブドットコムと協業して独自の注目株シグナルを提供するなどしている。

今回の日本IBMとの協業では、Finatextが投信のデータ(API)、ロボットアドバイザーのロジックエンジンと総合的なデザインブランディングを担当。IBMは営業やサイト構築のサポートを担当する予定。5月をめどに開発を進め、7月からの導入を目指す。詳細についてはまだ公開されていないが、導入金融機関のユーザーは、投資のスタンスに関する10個程度の質問に回答することで、最適な投資のポートフォリオの提案を受けることができるようになるという。

ウォンテッドリーがポートフォリオサービス「CASE」を公開、まずは国内10社300作品を掲載

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ビジネスSNS「Wantedly」を展開するウォンテッドリー。これまでも主力事業であるWantedlyに加えて、ビジネスメッセンジャーの「Sync」など“仕事”に関わるサービスを複数提供している同社だが、また新たなサービスをリリースしたようだ。同社は4月18日、ポートフォリオサービス「CASE」の提供を開始した。

CASEは「Behance」や「Dribbble」などに代表されるクリエーター向けのポートフォリオサービス。さまざまな企業やクリエーターが制作したデザイン作品、アプリ、動画など様々なプロジェクトを閲覧し、「Like」の評価やコメントを付けることができる。サービス開始時点では、PARTYやバスキュールをはじめとして、10社300作品以上のポートフォリオを掲載している。サービスの利用は無料。ただしウォンテッドリーのサービスを利用するためのID取得が必要だ。

CASEの機能は——(1)プロジェクト一覧の閲覧(オススメ順、Like順、コメント数順などで並べ替えするほか、タグを使った検索などが可能)、(2)クレジットの閲覧(プロジェクトの関係者を「CREDITS」として掲載可能。デザイナーやクリエーターだけでなく、エンジニアなども登録できる。クレジットの情報はWantedlyと連携する)、(3)企業ページの閲覧(企業の投稿したプロジェクトを一覧表示可能)——の3つ。作品を見て直接企業やクリエーターへ連絡する機能は「現状だとサービス自体がどう使われるのかまだ分からない」(同社)ということから備えていないが、今後はこのあたりをマネタイズのポイントにも考えているという。

サービスは2015年新卒のエンジニアが中心となり、2ヶ月半・5人のチームで開発した。プロジェクトマネジメントを行ったエンジニアの南直氏は、「Behanceなど先行するサービスはあるが、国内の企業・クリエーターの作品が集まっている場所がなかった。初期に掲載する作品はリレーションがある国内の企業が中心だが、国内の著名クリエーターにも参加してもらっている」と開発の経緯を語る。

今後は創作機会の多いクリエイターをターゲットに利用者を拡大し、数カ月を目処に2000作品を集める予定だという。またWantedlyがインドネシアなど海外展開を進めているのにあわせて、海外ユーザーへ日本の作品を紹介したり、海外ユーザーの作品も投稿したりといった利用を検討していく。

会員制宿泊予約サイトの「relux」、運営元がKDDIから5億円を調達——訪日対応さらに強化

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会員制宿泊予約サイト「relux」を運営するLoco Partners。3月にサービス開始から3周年を迎え、同時にミクシィ元代表取締役の朝倉祐介氏を社外取締役として迎えたという発表があったが、今度は大型の資金調達を実施したという。同社は4月18日、KDDIがグローバル・ブレインと運営する「KDDI Open Innovation Fund」を引受先とした5億円の第三者割当増資を実施したことをあきらかにした。

先日の記事でも紹介したとおりだが、relux は同社のスタッフや全国の旅館・ホテルに精通した審査委員会のメンバーが厳選した一流旅館・ホテルを紹介する会員制の宿泊予約サイト。満足度保証や宿泊プランの最低価格保証、relux会員限定の特別プランを提供してきた。

KDDIが提供する定額制スマートフォン向けサービスの「au スマートパス」においても、2012年3月からクーポン配布などを実施。現在では、au スマートパス会員向けの優待プログラムを提供しており、今後さらなる旅行サービス拡充を目的として、より広範な業務提携を進めるとしている。ただし今後の具体的な提携については「現在検討中。reluxのリソースをうまく用いた形で、KDDI国内4000万会員に旅行商品を何らか訴求できればと考えている」(Loco Partners執行役員の酒井俊祐氏)とのこと。

また3月時点でもインバウンド需要が急増している(訪日旅行売上比率は10%近くまで増加)と語っていたが、その割合はひと月でさらに増加して現在15%近くまで伸びているという。KDDIとの提携に加えて「さらに伸ばしていくポテンシャルがある。海外事業へも投資し、訪日旅行事業の成長を加速させる。国の訪日外国人数の政策目標(2020年に4000万人)にも乗っかっていければ」(酒井氏)

グルメ情報まとめサイトなど展開するfavyが1億円を調達、飲食店を使った“リアルABテスト”を展開

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飲食店向けのウェブサイト作成サービス「favyページ」、そしてMAU(月間アクティブユーザー)150万人グルメ情報のまとめサイト「favyまとめ」、さらには飲食店の「C by favy」を展開するFavyは4月18日、みずほキャピタルおよびサイバーエージェント・ベンチャーズが運営するファンドを引受先とした総額約1億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。今回調達した資金をもとに経営基盤の強化を図るとともに、新サービス「飲食店ABテスト」の提供を開始する。

飲食店ABテストとは、いわばオンラインのABテストのリアル版とも言えるサービスだ。飲食店に来店したユーザーに対して、クライアントの商品や原料を利用した料理などを複数体験してもらった上でアンケートに答えてもらい、商品名の是非や品質・強みの把握、適性価格を探ることができるマーケティングリサーチサービス。

これまで生産者・産地・メーカーによる商品テストでは、実店舗でリアルな消費者の意見を集めることは難しかったとfavyでは説明する。また一方で、飲食店は収益を営業収益(つまり飲食の提供)に頼っており、曜日や天候によって差が生まれて安定した収益の確保が難しい状況だったという。

だがこの飲食ABテストでは、生産者・産地・メーカーの商品を提携する飲食店に提供。favyが商品企画・開発、商品テスト、宣伝・拡販などで支援を行いつつ、来店したユーザーに対してABテストとして料理を提供する。その後アンケートを回収。消費者の声を元に商品の戦略を練り、販売時にはfavyページなどでネットワークを持つ飲食店に商品の提案などを行う。また飲食店ではタイアップ商品のアンケートを行うことで、営業外の収益を得ることが可能になるという。

冒頭にあるようにfavyでは東京・新宿に飲食店も展開していることから、2月から試験的に取り組みを進めていた。C by favyではこれまでに、生パスタと乾麺の比較や、国産ワインと通常の海外産ワインの訴求力の違いなど、いくつかのテストを行っている。

「ABテストの狙いは、飲食店に営業外収益的な新たなキャッシュポイントを作ること。そのために飲食店という場を他のビジネスに活用できないか検討した結果、行動観察型のリサーチの場として転用できることに気付いた。それを飲食ABテストというサービスメニューとして磨いてきた」(favy代表取締役の高梨巧氏)。favyでは年内に提携100店舗でのアンケート調査の実現を目指す。

運送業向けサービス開発のhacobuが業務・運行管理クラウドを提供——7月にはデジタコも販売

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「コネクテッドカー」なんてキーワードがこの1、2年で広がったが、内蔵するセンサーや外付けのIoT機器で車のデータを取得し、そのデータをクラウド上にアップするなどしてさまざまな用途に利用するという動きが進んできている。コンシューマー向けの動きであれば、以前に紹介したSmartDriveの車両診断デバイスだってその1つの事例だろう。

ではビジネス向けの動きはどうだろうかというと、運送業向けのクラウドサービスやIoT機器を開発するHacobuがおもしろいプロダクトを手がけている。同社は4月14日、運送業支援向けのクラウドシステム「MOVO クラウド」およびスマートフォンアプリ「MOVO App」の提供を開始した。

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MOVO クラウドは、運送業(ここで指すのは事業用貨物自動車、つまり緑色地に白文字のナンバープレートを付けた事業用自動車による運送業務)向けの業務・運行管理システムをクラウド化したもの。利用は無料。運送業の多くは、案件ごとに「どこからどこまで、何時間で運送したか」「何時間で何キロ走ったか」などをドライバーが紙で申請し、管理者が100万円近い業務パッケージを利用して入力・運賃などを計算する…というのがまだ主流だそう。MOVO クラウドは案件の入力から請求書発行まで、つまり紙と業務パッケージで行っていた機能をクラウドサービスで提供することで、手入力の作業を大幅に削減するという。

hacobu代表取締役の佐々木太郎氏

hacobu代表取締役の佐々木太郎氏

またMOVO Appでは、スマートフォンのGPSなどを活用し、リアルタイムな位置情報や走行状況を取得。さらに荷積み・荷下ろしといったステータスの管理などを行う。アプリとクラウドサービスは連携しており、アプリのログをもとにして、クラウド上にドライバーの日報が自動生成される。アプリは月額960円だが、当面は無料で提供する。

さらにhacobuでは、7月をめどにしてクラウドサービスと連携するデジタルタコグラフ(デジタコ:車載の運行記録計。走行の速度や時間を記録し、外部メモリに保存する)「MOVO Hub」を提供する予定だ。

国土交通省は交通事故削減の観点から事業用貨物自動車へのデジタコ導入を進めており、2015年4月以降、総重量7トン以上の新車に対しての導入が義務化された(以前は総重量8トン以上)。また2017年4月以降、対象範囲はさらに広がる予定だ。

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MOVO Hub

このデジタコ導入、運送業者にとっては悩みの種になっているのだという。まず端末自体が、オプションや取り付け費用込みで10万〜20万円代(端末が5〜6万円でも、解析用のソフトが数十万円なんてことになるものもある)と高価なこと、また一部の端末はMOVOシリーズのようにクラウド対応しているものの、多くの端末はSDカードなど外部メモリにデータを保存しており、手動で業務システムに連携する必要があることなどがあり、導入のハードルは高い。これに対してMOVO Hubは3万円程度の価格で提供する予定だという。さらに、安価かつ通信機能のついた温度センサーも将来的に提供していく予定だという。

hacobuは2015年6月の設立。代表取締役の佐々木太郎氏は外資系コンサルなどを経て、サブスクリプションECの「GLOSSYBOX(現:BLOOMBOX by @cosme)」を手がけるビューティー・トレンド・ジャパンの代表に就任。同社は2014年7月にアイスタイルが買収。佐々木氏はその後hacobuを立ち上げた。現在チームは嘱託のスタッフを含めて7人で、大手メーカーでカーナビの開発統括部長を経験したメンバーもいるという。また同社は2015年10月にベンチャーユナイテッドおよびYJキャピタル、オージス総研から合計数千万円の資金を調達している。

朝日新聞社がオウンドメディア運用支援を手がけるサムライトを買収

朝日新聞社は4月14日、サムライトの全株式を取得することで合意したことを明らかにした。買収額は非公開。

4月下旬に開催する臨時役員総会を経て創業者で取締役会長の柴田泰成氏、現在代表取締役COOを務める池戸聡氏が再任され、引き続き経営を担当する予定だ。加えて朝日新聞社からは1人取締役が派遣される。サムライトは今後社名変更などを行う予定はないという。サムライトは朝日新聞傘下で既存事業を行うほか、共同での営業・商品企画なども進める。つまり朝日新聞社がグループとして本格的にオウンドメディア分野に参入するということだ。

サムライトは2013年9月の設立。柴田氏は楽天の広告事業の出身。また池戸氏はネット広告のセプテーニの出身で、楽天時代の柴田氏の業務上のパートナーだった人物。なお柴田氏はインキュベイトファンドが開催するインキュベーションプログラム「Incubate Camp 5th」(2013年開催)で優勝。現在はインキュベイトファンドのFoF(Fund on Funds)の1つ、ソラシード・スタートアップスで投資も手がけている。

現在サムライトの社員数は50人。インターンも少なくないようだが、それも含めて(クラウドソーシングなどではない、という意味で)「内製」でのコンテンツ制作に注力することで、コンテンツの品質向上に努めているという。これまでに累計で約100社のオウンドメディアの企画や運用支援を行ってきた。その中にはサッポロビールやアデコといった大手企業も名を連ねる。

このほかネイティブ広告の企画や制作、自社開発したオウンドメディアのネイティブ広告ネットワーク「somewrite ad」をコンテンツ制作とセットで提供。支援するオウンドメディアの価値向上に努めてきた。同社はすでに単月黒字化を達成しているという。

朝日新聞社によると、両社は朝日新聞社が2015年秋に開催したプレゼンテーションイベントで出会ったという。そこから朝日新聞社の新規事業・投資部門である「朝日新聞メディアラボ」を通じて提携や買収までの道を模索した中で100%子会社として買収するに至った。

(追記:4月14日14時10分)なお複数関係者によると、買収額については非公開ではあるものの、投資サイドにもファイナンシャルなリターンのある、かつ気鋭のメディア運用支援の会社と歴史ある大手メディアが連携する非常に好い事例だという話を聞いた(金額は出せないが、スタートアップにありがちな「うまくいかなかった事業を手放す」という救済的な買収ではないということだ)。大手メディアと新興メディアの組み合わせというと、まれに文化面の違いなどで苦労するなんて話もあると聞くが、両社ははたしてどのようなシナジーを生み出していくのだろうか。

Facebookが「保存ボタン」を外部に開放、日本では楽天とメルカリがファーストパートナーに

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Facebookが4月12〜13日(米国時間)にかけて開発者向けカンファレンス「F8」を開催中だ。かねてからうわさになっていたチャットボットやVR撮影カメラの「Surround 360」をはじめとして、さまざまな内容が発表されている。すでに初日の発表内容はまとめ記事も用意されているが、日本で独自にパートナーと組んだ動きもあったのでこちらを紹介しておこう。

Facebookは今回のF8に合わせて、「保存ボタン(Saveボタン)」の外部提供を開始した。日本では楽天およびメルカリがローンチパートナーとして本日4月13日よりボタンの導入を開始した(まずはPCおよびモバイル向けのウェブサイトのみ。アプリは今後対応を検討する)。今後は利用動向を見て逐次パートナーを拡大していく。

保存ボタン自体は2014年7月にFacebookに搭載された機能だ。Facebookで友人やフォローしたユーザーの投稿を保存すると、ブックマークのようにあとから読んだり、あとからシェアしたりできる機能だ。世界で2億5000万人がすでにこの機能を利用しているという。

これまではFacebook内の記事に限定して提供していた機能だが、この機能を「いいね!ボタン」や「シェアボタン」、「コメントプラグイン」同様にパートナーサイトに対して開放する。これによって、例えば楽天やメルカリで気になった商品があれば保存し、それをFacebook上で管理することができる。

ここまでであればPocketやはてなブックマークのようないわゆるソーシャルブックマーク、“あとで読む”的なツールでしかない。だがこの機能では、保存されたページの情報がアップデートされた際、Facebookを通じてユーザーに通知を送ることができるのだという。

当初のパートナーとしてEC関連のサービスを選んだのは、「『価格の変動情報が欲しい』というニーズはある。一方でFacebookには滞在時間の長いユーザーも多い。そこ(Facebook上)がユーザーとの接点を持てるツールになると思っている」(Facebook執行役員 パートナーシップ事業 日本代表の横山直人氏)。メルカリでも「アプリのダウンロード数も2700万以上、当初は20代女性が中心だったが男性など(Facebookも多用するユーザー層)も増えてきた。Facebookからの流入の期待も高まり、その一方でFacebookはその価値を上げられる。ユーザーが欲しがっている情報であれば、やらない理由はない」(メルカリ取締役の小泉文明氏)と説明する。

今回の発表はFacebookがこれまでも進めてきたプラットフォームのオープン化施策の1つだ。今回のF8はチャットボットが話題をかっさらっていた印象はあるが、この保存ボタンの開放を含めた開発者向け機能のアップデートも注目すべき情報だろう。

高級飲食店予約の「ポケットコンシェルジュ」、運営元が500 Startups Japanなどから資金調達——訪日外国人旅行者に照準

ポケットメニューのメンバーら。2列目中央が代表取締役社長の戸門慶氏、その右が500 Startups Japanのジェームズ・ライニー氏と澤山陽平氏

ポケットメニューのメンバーら。2列目中央が代表取締役社長の戸門慶氏、その右が500 Startups Japanのジェームズ・ライニー氏と澤山陽平氏

高級飲食店に特化した飲食店予約サービス「ポケットコンシェルジュ」。サービスを運営するポケットメニューは4月13日、アイ・マーキュリーキャピタル、アドウェイズ、マネックスベンチャーズ、アライドアーキテクツおよび500 Startups Japanが運営するファンドから資金調達を実施したことをあきらかにした。金額や出資比率は非公開だが、合計で数億円に上るという。今回の調達をもとに採用を進め、開発、営業、マーケティングを強化するとしている。ポケットメニューは2013年にフジ・スタートアップ・ベンチャーズと日本ベンチャーキャピタルから、2015年2月にLINEから資金調達を実施している。

なお今回の投資は、2015年9月に立ち上がった500 Startups Japanの投資第1号案件となる(500 Startups Japanは同時にもう1社スペイシーへの投資を実行しており、厳密にはこの2社が最初の投資案件となる)。500 Startups Japanは2月にファンドのファーストクローズ(最終的な規模は3000万ドルを予定。現在1500万ドル規模だという)を終えたばかり。今後積極的に投資を行うとしている。

ポケットメニューは2011年の創業で、2013年からポケットコンシェルジュを展開してきた。代表取締役である戸門慶氏は元料理人で飲食店のプロデュースなどを手がけてきた人物。これまでのキャリアも生かし、高級飲食店を中心に予約可能な店舗を拡大。また2014年には予約に加えて決済サービスも開始した。現在の会員数は12万人、300店舗以上を掲載している。

ポケットコンシェルジュは東京を中心に横浜、京都の店舗を掲載しているが、最近ではインバウンド、つまり訪日外国人旅行者のニーズが急増しているのだという。「訪日旅行者の予約は月次で20〜30%ずつ伸び、日本人の予約と半々というところまで伸びている。現在はFacebook広告や一部の英語メディアでの露出などをしているが、調達を契機により積極的なマーケティングを進める」(ポケットメニューCFOの小山達郎氏)という。

ちなみにポケットコンシェルジュにおける1件の予約(平均2.2人)あたりの平均単価は国内ユーザーで3万円、訪日旅行者のユーザーで6万円。僕らだって旅先ではいつも以上にいいモノを食べたいのだから単価も高くなることが多いが、一方で店舗からすれば、外国人の旅行者に対して言語の問題を感じたり、ドタキャン(直前の予約キャンセル)やノーショウ(連絡もなく、来店もしないこと)のリスクを感じたりするケースもあるそう。昨年ミシュランの2つ星を獲得した寿司屋が外国人の予約を断るという対応をしたとして賛否があったが、その背景には「旅行者のドタキャンが多い」という問題があったと言われている。ポケットコンシェルジュはコース料理の予約が中心となっていること、決済機能も提供することで、こういった店舗側の課題を解決する一助にもなっているという。

自身もポケットコンシェルジュのユーザーであるという500 Startups Japanの澤山陽平氏は「苦しい時期もあったが、現在はトラクションも非常に好調で、インバウンド需要なども増えるため、さらに伸ばせるサービス」だと語る。OpenTableのような競合サービスもあるが、ポケットコンシェルジュが掲載するのは、高級店や伝統のある店などが多く、実は参入障壁の高いサービスとも言える。こういった点でも元料理人である戸門氏、そして同社の強みがあるとしている。500 Startupsとしては、将来的には海外のパートナー紹介なども行っていく考え。

政府では2020年に訪日旅行者4000万人という目標を掲げている。ポケットメニューでは今後、彼らのニーズを満たすべく、さまざまな施策を行っていく予定だという。

スマホ向けゲームメディア運営のAppBroadCast、KDDIグループのmediba傘下に

右からmediba執行役員の小野村嘉人氏、AppBroadCast代表取締役社長の小原聖誉氏、AppBroadCast執行役員の中村啓次郎氏

右からmediba執行役員の小野村嘉人氏、AppBroadCast代表取締役社長の小原聖誉氏、AppBroadCast執行役員の中村啓次郎氏

KDDI子会社で広告事業を中心に展開するmedibaは4月8日、スマートフォンゲーム向けメディア「ゲームギフト」を展開するAppBroadCastの株式を取得。連結子会社化したことを明らかにした。株式の取得数や割合については非公開だが、関係者によるとバリュエーション(評価額)は十数億円になるという。

AppBroadCastは2013年1月の設立。当初はAndroid向けのアプリとしてゲームギフトを展開していた。ゲームギフトはアプリストアで人気のゲームのアイテムの提供のほか、ゲームのニュースや攻略記事、レビューといったコンテンツを配信。現在ではベータテストサービス「サキプレ」、事前予約サービス「ハヤトク」、ゲーム会社公認のコミュニティ「ファンページ」といったサービスも提供している。Androidアプリは410万ダウンロード、これに加えてiOS向けのウェブサービスも提供している。

同社はスマホゲームのユーザーの消費者行動について「PIPAS」というキーワードを掲げている。それぞれP=Pre、I=Install、P=Play、A=Action、S=Sleepの頭文字を取っているのだが、事前予約からユーザーが休眠するまでの行動にあわせて、それぞれ最適なマーケティングソリューションを提供してきた。

実はAppBroadCastとKDDIグループ、両者は以前からは様々なかたちで関わりを持っていたのだそうだ。AppBroadCastは2014年1月にKDDIとグローバル・ブレインが手掛けるベンチャーファンド「KDDI Open Innovation Fund」などを引受先とした資金調達を実施。これと前後してKDDIと業務提携も行っている。また現:Supershipが手がけるモバイルポータル「Syn.」のアライアンスにも参画している。KDDIとの業務提携においては、medibaとも頻繁にやりとりをしている関係性があった。

KDDIグループではすでに定額制のコンテンツサービス「auスマートパス」上でゲームコーナーの「auゲーム」を展開している。auスマートパスのユーザー数は現在1300万人以上。このauユーザー向けに限定したゲーム関連サービス、そしてゲームギフトで培ってきた広くモバイルユーザー向けのゲームサービス、いわば「内」と「外」向けのゲームメディアについて、medibaとAppBroadCastが一体的な運営を進めていく。

「もともとフィーチャーフォンの時代から、広告やポータルに関わってきた。だが今は『メディア』と『広告』を分けるのではなく、一体にしてコミュニケーションやビジネスを考えていく必要がある。また、ユーザーのスマートフォンリテラシーは上がってきている。さまざまなメディアやサービスが出てきている中で、ただ単純に広告を売るだけでは先行きが見えてしまう。ただバナーを出すのではいけない。メディアとして、コンテンツして魅力がないと広告も成り立たない」

今回の子会社化の背景についてこう語ったのは、mediba執行役員の小野村嘉人氏。KDDIグループでのメディア系スタートアップの買収についても、「大きい構想としては(可能性は)ある」(小野村氏)とした。

両者による新事業や具体的な施策についてはこれから発表されることになる。その方向性については「ユーザーが継続してプレイするゲームはせいぜい4タイトル程度。そうなるとゲームの継続率が大事になってくる。それは顧客満足度に繋がる話で、これからの(ゲームメーカーの)課題はそこにある。そうであれば、顧客満足度向上のための手段をmedibaのノウハウもあわせて提供していく」(ゲームギフト代表取締役社長の小原聖誉氏)

将来的にはアジアを中心にしたゲームギフトの海外展開なども想定されるという。「我々はゲーム会社を応援したいという気持ちで起業した。今までアイテムのギフトやベータテストなどをやってきている。国によってゲームマーケターの課題は違う。そこに合わせて提供できるモノはあるはず」(小原氏)

Onlabが創業期向けに新たな育成プログラム、まる2日で事業成長を学ぶ「BootStrap」

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明日4月5日はOpen Network Lab(Onlab)が手がける「Seed Accelerator Program」のデモデイが開催される。Seed Accelerator Programは2010年にスタートした、国内では老舗のアクセラレーションプログラムだ。

今回で第12期を迎えるこのプログラムでは、採択された創業期のスタートアップに対して、3カ月間のメンタリングや資金提供を実施。その集大成として投資家やスタートアップ関係者などを前にプレゼンテーションを行うデモデイを行っている。これまで電動モビリティのWHILLや米国で福利厚生サービスを提供するAnyPerkをはじめとして合計64社のスタートアップを輩出してきた。そのうち40%のスタートアップが次のシリーズの資金調達に成功。全体の15%のスタートアップは10億円以上のバリュエーション(評価額)がついているという。

そんな実績を持つOnlabが、新たなプログラム「Open Network Lab Bootstrap(Onlab Bootstrap)」を5月27日〜28日の2日間、東京にて開催することを明らかにした。4月5日より特設サイトにて参加者を募集している。また反響を見て今後は東京のほか、地方での提供を進める。

Onlab Bootstrapは、「資金調達をする前のプロダクトをどのように作り・見せるといいのかを徹底的に学ぶ」ということをテーマにしたプログラム。Onlabと比較して事業成熟度や資金ニーズの低い、より創業期に近いスタートアップを対象にしたもの。通常3カ月続くOnlabのメンタリングでも特に重要な、事業のブラッシュアップに関わるポイントを2日に圧縮して伝えていくという。

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Onlabを担当するDGインキュベーションの松田崇義氏によると、Onlab Bootstrapでは(1)仮説とソリューション、それぞれについて深掘りしてすることで、プロダクトのニーズを検討する「アイデア検証」、(2)ユーザーのニーズを聞き具体的にどういったアウトプットをもらうべきか、何をもとにサービスの継続、ピボットを検討すべきかを学ぶ「ユーザーヒアリング」、(3)サービス(MVP:Minimum Viable Product)を作る上で考えるべき3つのこと、(4)プレゼンテーションのノウハウを中心とした「プロダクトの上手な見せ方」——の4点にフォーカスし、OnlabのメンバーやOnlab卒業企業の代表などがメンタリングを行うという。

DGインキュベ−ション マネージング・ディレクターの林口哲也氏は、新プログラム提供の背景について、アクセラレーターの増加やOnlabの東京外での認知拡大の2点で説明してくれた。Onlabのスタートした2010年と異なり、インキュベーション・アクセラレーションのプログラムは増えてきた。特に事業会社がオープンイノベーションの目的でプログラムを実施ししたり、エンジェル投資家がシードラウンドの資金調達やメンタリングを行うという機会が増えてきた。そのため、より若いステージのスタートアップに対しても提供できるメンタリングの仕組みが必要だと考えたようだ。また一方で、東京以外の地域(名古屋・大阪・福岡など)でのOnlabの認知度はまだまだ低く、プログラムの内容が見えにくいという課題も見えてきたことから、2日間集中・各地域で展開可能なプログラムになっているという。

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