アマゾンが約1兆円でMGMの買収を完了、「007」「ロッキー」「ロボコップ」などがプライム・ビデオで配信予定

Amazon(アマゾン)は85億ドル(約1兆円)でのMGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)の買収を完了したと、米国時間3月17日に発表した。この買収完了により、4000本以上の映画と1万7000本以上のテレビ番組が、Amazonのストリーミングサービスであるプライム・ビデオの一部となる予定だ。

このリストには「007」や「ロッキー」シリーズ「ファーゴ」「ロボコップ」「羊たちの沈黙」などの名作が含まれている。これらの新タイトルは、Netflix(ネットフリックス)、Hulu(フールー)、HBO Maxなどのライバルに対して、プライム・ビデオを優位に立たせることになる。

2021年5月に初めて発表されたこの取引は、2日前に欧州連合の反トラスト規制当局から認可を受けた。規制当局は、AmazonとMGMの重複が限定的なため、この取引が競争を著しく低下させることはないだろうと判断した。Amazonは、米連邦取引委員会が合併に異議を唱える3月中旬の期限が切れた後、取引を進めている。

「MGMは、100年近くにわたって優れたエンターテインメントを生み出してきた歴史があり、私たちは、世界中の視聴者に幅広いオリジナル映画やテレビ番組を提供するという彼らの取り組みを共有しています」と、プライム・ビデオおよびAmazon Studioの上級副社長Mike Hopkins(マイク・ホプキンス)氏は声明で述べた。「我々はMGMの社員、クリエイター、タレントをプライム・ビデオとAmazon Studiosに歓迎します。我々のお客様に質の高いストーリーテリングを届けるより多くの機会を創出するためにともに働くことを楽しみにしています」。

Disney(ディズニー)+のようなスタジオストリーミングプラットフォームの立ち上げに見られるように、この契約により、既存の契約が終了すれば、競合するサービスからコンテンツが引き抜かれる可能性もある。

「MGMとその象徴的なブランド、伝説的な映画やテレビシリーズ、そして我々のすばらしいチームとクリエイティブパートナーがプライム・ビデオファミリーに加わることに興奮しています」と、MGMの最高執行責任者であるChris Brearton(クリス・ブレアトン)氏は声明で述べた。「MGMは、過去 100年間で最も有名で高い評価を得た映画やテレビシリーズの制作を担ってきました。私たちは、この伝統を引き継ぎ、次の章に向かい、プライム・ビデオとAmazon Studiosのすばらしいチームと協力して、今後何年にもわたって視聴者に最高のエンターテインメントを提供していきたいと考えています」。

Amazonはここ数年、大きな成功を収めているが、MGMはそれ以上の困難を経験している。2010年、同スタジオは、何度も手を変え品を変え、連邦破産法第11章の適用を申請した。スタジオは再建され、債権者が経営権を握った。

Amazonは、100年近い歴史を持つこのスタジオが、プライム・ビデオとAmazon Studiosのコンテンツを補完し、両者が協力することで、加入者により質の高いエンターテインメントの選択肢を提供するとしている。

さらに、Amazonは自社の制作スタジオや配給を通じて、オリジナルコンテンツへの積極的な取り組みを進めている。映画分野では、アカデミー賞脚本賞を受賞した「マンチェスター・バイ・ザ・シー」など注目作を制作している。また、9月2日に公開予定の「ロード・オブ・ザ・リング」を題材にしたシリーズ「ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪」にも着手している。このシリーズは、プライム・ビデオが現在提供している「マーベラス・ミセス・メイゼル」「フリーバッグ」「ザ・ボーイズ」「ジャック・ライアン」などの人気テレビ番組と合流する予定。

画像クレジット:Amazon

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(文:Aisha Malik、翻訳:Yuta Kaminishi)

HBO MaxとDiscovery+が合併、1つのサービスに統合される

先週、Discovery(ディスカバリー)の株主がWarnerMedia(ワーナーメディア)との合併を承認し、米国最大のメディア企業の1つが誕生するというニュースがあったが、この合併が両社の消費者向けストリーミングサービスであるHBO MaxDiscovery+にどのような影響を与えるのかがわかる、ヒントがある。米国時間3月14日朝、DiscoveryのCFOであるGunnar Wiedenfels(グンナー・ウィーデンフェルス)氏は、両社が2つのストリーミングサービスを1つのサービスに統合する計画であることを明らかにしたのだ。しかし、この変更には時間がかかるため、早急に何らかの暫定的なソリューションを提供する予定だ。

具体的にどのようなソリューションになるかは、あまり明確ではない。

ウィーデンフェルス氏は、月曜日に開催されたドイツ銀行の第30回メディア・インターネット・テレコム会議でのプレゼンで「そのため、すぐにでも、バンドルアプローチを準備し、シングルサインオン、コンテンツを他の製品に取り込むなど、早い段階で何らかの利益を得られるよう取り組んでいます」と述べた。

「しかし、主な目的は技術的なプラットフォームを調和させ、非常に強力な消費者直結型の製品とプラットフォームを構築することであり、これにはしばらく時間がかかるだろう」と述べた。また、現在大きなコスト要因となっている、サービスのマーケティングを最適化することで、両社はより直接的な利益を得ることができるようになると同氏は述べている。

430億ドル(約5兆円)規模のこの合併は、米国EUの承認を得て第2四半期に完了する予定だが、新しいWarner Bros. Discovery(ワーナー・ブラザース・ディスカバリー)は、HBO/HBO Max、CNN、Warner Bros. (TV and film studios)、DC Films、TBS、TNT、TruTV、Cartoon Network/Adult Swim、Turner Sportsなどと、従来のケーブルテレビ加入者が知っている DiscoveryのHGTV、Discovery Channel、Discovery+、Food Network、TLC、ID、Travel Channel、Animal Planet、Science Channel、OWNなどを統合した、強力なメディア帝国となることが予想される。この取引が完了すると、新メディア会社はDiscoveryのCEOであるDavid Zaslav(デヴィッド・ザスラブ)氏によって運営され、ウィーデンフェルス氏は引き続きCFOとして統合会社で務めることになる。

今朝のイベントで、ウィーデンフェルス氏は、2つのストリーミングサービスを組み合わせることで、それぞれのサービスが単独で行うよりも、男性と女性の両方の層によりよく届くようになることを示唆した。

画像クレジット:Discovery

「HBO Maxはよりプレミアムで男性向けな位置づけにあり、Discoveryは女性向けです。HBO Maxの出来事中心のコンテンツに対して、Discoveryのコンテンツは日常的に楽しんでいただけるものです。これらを合わせると、老若男女を対象とした四象限で最も完成度の高い製品ができることは間違いないと思っています」と述べている。

また、ウィーデンフェルス氏は、長期的な戦略として、サービスをバンドルするのではなく、組み合わせるという決断に至った同社の考え方について、さらに詳しく説明した。Disney(ディズニー)がこれまでバンドルで成功してきたことを認めながらも、同社は「20万時間のコンテンツポートフォリオ」を含む「完璧な火力」を、価値あるタイトルと迅速に投入する新しいタイトルと、1つのソリューションにまとめることが競争力を高めるための最善の方法だと考えるようになったという。

この2つのサービスは、2021年末までにHBO Maxが全世界で7380万人Discovery+が2200万人に達するなど、すでに単独でも確かな加入者数を誇っている。

HBO MaxとDiscovery+がすでにそのモデルで成功を収めているように、最終的に登場する統合サービスも、広告サポートと広告なしの層を提供する可能性が高いとCFOは指摘している。

「これは、我々にとって非常に効果的です。Disneyも同じ結論に達したと聞いてうれしく思いました」とウィーデンフェルス氏は語った。「プレミアム価格を支払ってもいいという層があります。もう1つは、もっと安い価格がいい、広告なんて気にしないという人たちです」このようなユーザーは、驚くことに数分の広告を本当に迷惑なものだとは思っていないという。

「そのため、私たちが市場に出てくる時は、そのような構造になる可能性が非常に高い」と述べた。

同社によると、このサービスを市場に投入するタイミングは、数週間ではなく数カ月かかるというが、数年ではなく数カ月で実現したいとのことだ。

今後のサービスの価格はまだ不明だが、HBO Maxは広告付きで月額9.99ドル(約1170円)、広告なしで月額14.99ドル(約1760円)、Discovery+は広告付きで月額4.99ドル(約580円)、広告なしで月額6.99ドル(約820円)となっている。

この合併に先立ち、ストリーミングの世界では、エコシステムの競争力向上が既存企業に影響を与えているようで、少しずつ整理がされてきている。例えば、Netflixはここ数年来、加入者数の伸びが低下している。同社は現在、加入者を増やし、維持する方法として、モバイルゲームの追加を通じてサービスの付加価値を高めようとしている。一方、Disneyは、Hulu/Disney+/ESPN+のバンドルサービスをより魅力的なものにし、一部の高価なアドオンをコアバンドルの一部とすることで加入を促進している。また、Paramount+は、この夏からShowtimeを直販サービスに加え、サービスを統合することを決定した。

画像クレジット:Presley Ann/Getty Images for WarnerMedia

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(文:Sarah Perez、翻訳:Akihito Mizukoshi)

ハリウッドではすべてがリブートされる、そう散々なサービスだった映画見放題サブスクMoviePassでさえも

MoviePass(ムービーパス)の2.0キックオフ記者会見は、ふわさしく不安定なスタートとなった。近日公開の映画の予告編をモンタージュしたエネルギーにあふれる紹介の後、創業者で新オーナーのStacy Spikes(ステイシー・スパイクス)氏が、音声の問題がある中で登壇し、最終的にはハンドマイクに切り替えることとなった。

スパイクス氏は、これまでの苦労をどうこういうよりも、物事を(少しは)笑い飛ばすことを学んだようで、これまでの経緯の表現として後ろのスライドにある「The Hindengurg(ヒンデンブルグ号)」の画像をすぐにクリックした。

リンカーン・センターで行われたイベントの最初の数分間は、この企業で何が問題だったのかを説明することに費やされた。「まず、基本的に何が起こったかを話します」と彼は笑いながら説明した。スライドは、MoviePassのCEOであるMitch Lowe(ミッチ・ロウ)氏とHelios and Matheson(ヘリオス・アンド・マシソン)のCEOであるTed Farnsworth(テッド・ファーンズワース)氏が笑顔でMoviePassカードを掲げているページに進んだ。スパイクス氏は、和やかな会場からの野次のようなものを振り払った。

「多くの人がお金を失い、多くの人が信頼を失いました。傷つき、失望した人々がたくさんいました。私もその1人でした」と説明した。買収から3年足らずで、Helios and Mathesonは連邦破産法第7条の適用を宣言し、MoviePassの運命はその過程で決まってしまった。

画像クレジット:MoviePass

2022年のスタートアップにふさわしい展開として、スパイクス氏は、MoviePassが再び市場に戻ってきたことを、同社の壮絶な盛衰を描いた映画を制作しているドキュメンタリークルーから知らされたという。入札から21日後、破産裁判所が買収を承認した。2021年11月、このニュースが流れた直後にスパイクス氏に話を聞いたところ、彼はアプリの技術的な問題について、次のような非常に率直な評価をしていた。

あれは技術的な問題ではなく、意図的なものでした。私がCEOだったとき、MoviePassのアプリはちゃんと動いていました。機能していたんです。人々は、そのサービスの使いやすさを気に入っていました。行きたいところどこにでも行けるし、どの映画館にも歩いていけます。私たちは、Fandango(ファンダンゴ)とMovie Tickets(ムービーチケット)を合わせたよりも大きなフットプリントを持っていました。おそらくドライブインやキャッシュオンリー以外ならどの映画館でも、MoviePassを使うことができたのです。その使い勝手の良さとシンプルさは完璧でした。そのために、私たちは何年も働きました。その後の展開は、すべて意図的なものでした。技術的な問題ではありません。AMCシアターの撤退を決めたのも、アプリが完全に動作しないのも、技術的な問題ではなかったんです。

その古傷が一夜にして癒えるものではないことは明らかだが、今日のイベントは、2022年の夏にローンチする(と予定されている)MoviePass2.0の形についてのものだった。また、スパイクス氏が再始動に際して株式クラウドファンディングの呼びかけを行っていることもわかった。同サービスのサイトには、出資に興味のある人向けの登録フォームがある。十分な資金を使えば、生涯会員になることができる。

ある意味、オリジナル版は自身の成功の犠牲者であり、持続不可能な速度で成長していた。スパイクス氏のプレゼンは、控えめな成長計画と、2030年までに全劇場販売数の30%を促進するという「ムーンショット」の間をいこうとするものだった。

画像クレジット:MoviePass

この新サービスの核となるのがクレジットシステムであり、その基盤はWeb3の技術によって培われているという(この点については、あまり詳しい説明はしていない)。例えば、ある映画を火曜日の午後に見るか、金曜日の夜に見るかなど、さまざまな変数に応じて、映画の料金は異なるクレジット数になる。クレジットは、月単位で翌月に繰り越され、取引も可能だ。また、クレジットを消費して友人を連れてくることもできるという。

MoviePassは、これを「暗号資産」と呼んでいる。スパイクス氏が設立したPreshow(プレショー)上で流れる広告を閲覧することで、ユーザーが獲得できる通貨だ。TechCrunchのAnthony(アンソニー)は、2019年に行われたこの機能のデモについて、このように説明していた

スパイクス氏は先週、私のためにこの機能のデモを行い、彼の顔がPreshowアプリのロックを解除する様子を見せてくれました。彼が観たい映画を選ぶと、その映画に合わせて特別に選ばれた動画広告が表示され、彼が画面から目をそらしたり、携帯電話から離れすぎたりすると、広告の再生が停止されるんです。(ユーザーからのフィードバックにより、感度を上げたり下げたりすることができるようだ。)

ユーザーが見るのを止めた瞬間に広告が止まるというビジュアルは、確かに衝撃的であり、すでにディストピアとの比較もされているようだ。しかし、ここで少し正直にいうと、これは広告マネタイズの未来でもあるのだ。さらに、新MoviePassは、このサービスと提携する映画館の登録も開始している。現在、ニューヨークのAngelika(アンジェリカ)をはじめ、いくつもの映画館が参加しているという。

画像クレジット:MoviePass

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(文:Brian Heater、翻訳:Akihito Mizukoshi)

映画製作者が直接、作品をAmazonプライムビデオやApple TVなどのチャンネルで配信可能にするFilmhub

ストリーミング市場の成長にともない、コンテンツに対する需要も高まっている。だが映画製作者にとっては、従来よりコンテンツ作成が容易になったとはいえ、配給は依然として伝統的なシステムに支配されていることが多い。つまり、多くの映画製作者は、適切なコネがなければハリウッドから締め出されているのが現状だ。Filmhub(フィルムハブ)という企業は、この問題を解決するために、テクノロジーを利用して流通の簡素化と効率化に取り組んでいる。このプラットフォームにより、映画製作者は、Amazonプライムビデオ、Apple TV、IMDb TV、TCL、Tubi、Plexなどの大手を含む100を超えるストリーミングチャンネルに直接配信することが可能になる。

Filmhubは米国時間1月20日、Andreessen Horowitz(a16z、アンドリーセン・ホロウィッツ)がリードしたシードラウンドで680万ドル(約7億7000万円)を調達したことを発表した。

このラウンドには、他に8VC、FundersClub(ファウンダーズクラブ)、Eleven Prime(イレブン・プライム)、Tara Viswanathan(タラ・ビスワナタン)氏(Rupa Health[ルパ・ヘルス]のCEO)、Nick Greenfield(ニック・グリーンフィールド)氏(Candid[キャンディッド]のCEO)、David Fraga(デビッド・フラガ)氏(InVision[インビジョン]の元COO)、Jerrod Engelberg(ジェロッド・エンゲルバーグ)氏(Codecov[コードコヴ]のCEO)が参加した。

Filmhubは、ロサンゼルスを拠点に活動する映画作曲家Klaus Badelt(クラウス・バデルト)氏のサイドプロジェクトとして2016年にスタートした。バデルト氏は「Thin Red Lin(シン・レッド・ライン)」「Gladiator(グラディエーター)」「Pirates of the Caribbean:The Curse of the Black Pearl(パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち)」の他、これまでに100本を超える作品を手がけている。製作費が下がり、より多くの映画が作られるようになる中で、同氏はこの作品ストリーミングの分野に機会を見出したが、強力な配給を得ることはできなかった。バデルト氏はその後、テック業界のベテランで、Square(スクエア)、Mint.com(ミント・ドットコム)、Google(グーグル)などで働いた経験のあるAlan d’Escragnolle(アラン・デスクラニョール)氏とチームを組み、2020年からフルタイムでプロジェクトに取り組むようになった。

Filmhubはそれ以来、ビジネスを成長させ、パートナーとしてストリーミングチャンネルを追加し、権利を放棄せずに作品を視聴者に見つけてもらう簡単な方法を望む映画製作者を増やしていくことにフォーカスしてきた。

画像クレジット:Filmhub

Filmhubはまず、映画製作者にインタビューを行い、彼らのコンテンツが同社と協働するストリーマーの技術仕様を満たしていることを確認する。同社はその後、自動化された技術と自社のセールスチームを活用して、可能な限り多くのストリーミングサービスにコンテンツを提供する。社名は「Filmhub」であるが、デスクラニョール氏は、そのコンテンツは必ずしも長編映画である必要はないと明言している。テレビ番組や短編映画など、プロが作成したコンテンツをシリーズ化することも可能である。ただ、同社の焦点は映画製作者と直接仕事をすることにある、と同氏は語る。

「伝統的なスタジオシステムが映画製作者にとって最良の環境になるとは考えていません。例えば、映画製作者としてスタジオ映画を製作する場合、通常は前払いです」とデスクラニョール氏は説明する。しかし、その映画が公開されれば、映画製作者たちは自分の作品が生み出す収入を共有できなくなるかもしれない、と同氏は指摘する。「クリエイター、そしてオリジナルの映画製作者に力を取り戻し、彼ら自身のライブラリを構築する機会があると信じています」とデスクラニョール氏は付け加えた。

ある意味で、Filmhubが行なっていることは、DistroKid(ディストロキッド)のような他の配信プラットフォームが音楽業界に対して成し遂げてきたことに類似している。これらのプラットフォームは、アーティストたちがレーベルと契約を結ぶことなく、自分たちの作品をトップストリーミングサービスに直接アップロードできる場となっている。

最近のパートナーシップの1つとして、小規模な動画サービスのコンテンツを独自のサブスクリプションで集約するClassPass(クラスパス)風のストリーミングサービス、Struum(ストゥルーム)との協業がある。FilmhubはStruumと協力して、Slamdance Film Festival(スラムダンス映画祭)に参加している映画製作者が作品を配信できるよう支援している。Struumは、スラムダンス映画祭の各タイトルを3カ月間独占的に提供する。そして契約の一環として、映画製作者は最初の1年間、FilmHubとStruum上の利益の100%を受け取ることになる。

Filmhubは通常、配信する映画のロイヤリティ収入の20%を得ている。ただし、各ストリーミングサービスがFilmhubに支払う料金はさまざまである。

画像クレジット:Filmhub

同社は収益の数字を公表していないが、デスクラニョール氏によると、収益は対前年比で3倍に成長し、配信数は数千タイトルから1万タイトルに増加したという。コンテンツは100を超えるストリーミングチャンネルに配信されている。同社はまた、手元にあるデータを活用して、ストリーミングパートナーがFilmhubのサービスでどのようなコンテンツが最適かを判断するのを支援することもできる。これはひいては取引の成立に貢献するであろう。

Filmhubが配信するコンテンツのすべてが新しいわけではない。例えば、Torsten Hoffmann(トーステン・ホフマン)氏が2020年に製作したドキュメンタリー映画「Cryptopia — Bitcoin, Blockchains, and The Future of the Internet」のように、現代的な映画もあるかもしれない。一方で、2014年に公開された、マジシャンのJames Randi(ジェームズ・ランディ)氏を描いた「An Honest Liar」などの古いコンテンツも、ストリーミングプラットフォームでの配信が実現すれば、堅調な第2の人生を迎える可能性がある。デスクラニョール氏によると、Filmhubは50年代、60年代、70年代のクラッシックな作品も配信しており、それらを「エバーグリーン」なものだと考えている。この種の映画やテレビ番組は、今のところテレビではあまり注目されていないかもしれないが、さまざまな視聴者とつながることができるストリーミングサービスに進出する可能性を秘めている。

将来的には、Filmhubは独自の消費者向けストリーミングサービスを立ち上げ、映画製作者のコンテンツをフィーチャーすることを目指していく。同社はこのサービスをデバイスを越えて利用できるようにしたいと考えており、他社の既存のストリーミングプラットフォーム内におけるアドオンとしての利用も視野に入れている。同社は今回の資金調達を受けて、このプロジェクトのためにエンジニアリング、技術オペレーション、セールスなどの人材採用を進めており、現在35名のチームを成長させていく計画である。

「今日の市場では、定評のある映画製作者でない限り、作品が世に出てくるのは非常に困難です。これはストリーミングサービスにとっても消費者にとっても、機会を逸しています。特に、より多様で国際的なコンテンツのポテンシャルがあることを考えると、なおさらです」とa16zのゼネラルパートナーであるAndrew Chen(アンドリュー・チェン)氏は自身の投資について語っている。「業界の流通モデルを前進させることを通して、Filmhubは世界中のクリエイター、プラットフォーム、視聴者にWin-Win-Winの関係を構築しています」と同氏は付け加えた。

画像クレジット:Niklas Storm / EyeEm / Getty Images

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(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

ISSに宇宙初の映画スタジオを2024年までに接続する計画を米エンターテインメント会社が発表

国際宇宙ステーションに、映画スタジオやスポーツアリーナを備えたモジュールが、2024年12月までに接続される可能性が出てきた。このプロジェクトは、宇宙で一部撮影を行うTom Cruise(トム・クルーズ)の映画を共同制作しているSpace Entertainment Enterprise(スペース・エンターテインメント・エンタープライズ、SEE)が発表したものだ。Variety(バラエティ)によると、このSEE-1と呼ばれるモジュールが稼働すれば、テレビや映画の制作だけでなく、音楽イベントやある種のスポーツなどを開催し、それらを撮影したりライブ配信することができるようになる計画だという。

関連記事:NASAがトム・クルーズの映画に協力、ISS宇宙ステーションで撮影

実際にこのモジュールを建造するのは、2年前にNASAからISS初の商用モジュールの建造を受注したAxiom Space(アクシオム・スペース)が担当することになっている。すべてが順調に進めば、SEE-1はISSのAxiom Spaceが建造したアームに接続される。Axiom社のステーションは、SEE-1を取り付けたまま、2028年にISSから分離する予定だ。

関連記事:国際宇宙ステーションの商用化に向けてNASAが居住モジュールの設計をAxiom Spaceに発注

SEEとAxiomがこの計画を実行できるかどうかはまだわからない。なぜなら、SEEは施設の建造費用を明らかにしておらず、現在はその資金調達を計画している段階だからだ。

2021年、ロシアのクルーが初めて宇宙で長編フィクション映画を撮影し、トム・クルーズやDoug Liman(ダグ・ライマン)監督を出し抜いた。その映画「The Challenge(ザ・チャレンジ)」は2022年中に公開が予定されている。一方、クルーズとライマン監督は、2022年後半にISSで映画の撮影を行う予定だ。

関連記事:ロシアの映画監督と女優がISSに到着、12日間滞在し軌道上での映画撮影に挑戦

編集部注:本記事の初出はEngadget。執筆者のKris Holtは、Engadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Space Entertainment Enterprise

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(文:Kris Holt、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ライブツイートされたで発表されるゴールデングローブ賞、Netflixが作品賞を初受賞

今回のゴールデングローブ賞は見逃せなかった、そもそも放送されていないからだ。しかし、あなたはツイートを見たかもしれない。NBCは2021年5月、L.A.Timesの調査により、毎年イベントを開催しているハリウッド外国人記者協会(HFPA)内の多様性の欠如や、一部の会員が賄賂に相当する贈り物を受け取っていた証拠が明らかになったことをうけ、2022年の授賞式を放送しないことを発表した。HFPAは改革を進めており、イベントは、テレビ放送はもちろん、ライブストリーミングも行われず、個人的に開催された。

その代わり、イベントの受賞者は、奇妙な方法でライブツイートされた。

HFPAは、間違いのあるツイートを取り消すことができるTwitterのサブスクサービスを利用したほうがよかったようだ。HFPAのゴールデングローブ賞Twitterアカウントは、ソーシャルメディア上で受賞者を発表する際、グローブ賞受賞者がどのTVや映画の企画で受賞したのか、例えばAndrew Garfield(アンドリュー・ガーフィールド)の受賞が「tick, tick… BOOM!:チック、チック…ブーン!」だったように、定期的に書き忘れていた。また「ウエスト・サイド・ストーリー」の笑い(?)を「最高の薬」と称したツイートは、後に削除され、音楽が最高の薬であることを伝えるために再び投稿されるという奇妙なものだった。それは「笑いは百薬の長」の諺とは異なっている。

とはいえ、イベントは続行された。

HFPAが論争の後に組織を改革しようとしているため、全体的に静かな年であることに加え、受賞したネットワークも、いくつかの注目すべき初受賞や逆転劇があったにもかかわらず、いつものように、その勝利を宣伝していない。

例年であれば、HBOはライバルを一掃したことを喜んで宣伝しているだろう。このネットワークは、HBOの4勝とHBO Maxの2勝を含む、6勝でこの夜をリードした。同ネットワークのテレビシリーズ「キング・オブ・メディア」は、作品賞、テレビドラマ男優賞(Jeremy Strong[ジェレミー・ストロング])、助演女優賞(Sarah Snook[サラ・スヌーク])を受賞した。HBO Maxのコメディ「Hacks」は、エミー賞受賞作「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく」(Apple TV+)を抑えて作品賞(コメディ)を受賞し、主演のJean Smart(ジーン・スマート)が女優賞(コメディ)を受賞した。そして、Kate Winslet(ケイト・ウィンスレット)がHBOの「メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実」でリミテッドシリーズ部門の女優賞を受賞した。

一方、Netflixは、ドラマ映画賞「パワー・オブ・ザ・ドッグ」やドラマシリーズ「イカゲーム」を含むノミネーションでリードしたものの、HFPAが改革を終えるまで同イベントには参加しないとしていた。この決定は、賞での注目すべき初めての出来事についても、自慢しないことを意味している。

Netflixは、オリジナル作品「パワー・オブ・ザ・ドッグ」で、ゴールデングローブ賞の作品賞(ドラマ部門)を受賞し、ストリーミング配信会社として初の快挙を達成した。この作品は、監督賞(Jane Campion[ジェーン・カンピオン])と助演男優賞(Kodi Smit-McPhee[コディ・スミット=マクフィー])にも輝いている。

また、Netflixの大ヒットTVシリーズ「イカゲーム」が2022年は3部門にノミネートされ、韓国人俳優O Yeong-su(オ・ヨンス)が「キング・オブ・メディア」のKien Culkin(キーラン・カルキン、HBO)と「ザ・モーニングショー」のBily Crudup(ビリー・クラダップ、Apple TV+)を抑えて受賞し、韓国にとって初の受賞につながった。

Netflixも、ツイートではプロジェクト名をクレジットし忘れていたものの「tick, tick…BOOM!:チック、チック…ブーン!」で、アンドリュー・ガーフィールドが映画(ミュージカル&コメディ)の主演男優賞のトロフィーを手にした。

Apple TV+は「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく」のJason Sudeikis(ジェイソン・スデイキス)がTVシリーズ(コメディ)部門の男優賞を受賞し、1勝を挙げている。Amazon Prime Videoの「地下鉄道 ~自由への旅路~」が同部門の作品賞を制したものの、Huluも「DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機」のMichael Keaton(マイケル・キートン)がテレビ向けリミティッド・シリーズまたは映画で男優賞を受賞し、グローブ賞を1つ獲得した。Amazon Prime Videoの「愛すべき夫妻の秘密」は、Nicole Kidman(ニコール・キッドマン)が映画部門の主演女優賞を受賞し、注目を集めた。

また、トランス系女優として初めてゴールデン・グローブ賞を受賞したFXの「POSE」のMichaela Jaé Rodriguez(ミカエラ・ジャエ・ロドリゲス)は、ドラマ部門の女優賞のトロフィーを手にした。

20センチュリースタジオ / ディズニーの「ウエスト・サイド・ストーリー」は最優秀作品賞(ミュージカル&コメディ)を受賞し、主演のRachel Zegler(レイチェル・ツェグラー)とAriana DeBose(アリアナ・デボース)はそれぞれ主演女優賞と助演女優賞を獲得した。劇場公開からわずか1カ月でDisney+で配信されたディズニーの「ミラベルと魔法だらけの家」は、アニメーション部門での作品賞を受賞した。

ワーナー・ブラザースの「DUNE/デューン 砂の惑星」では、Hans Zimmer(ハンス・ジマー)が音楽賞のトロフィーを獲得し、Will Smith(ウィル・スミス)が「ドリームプラン」で映画(ドラマ)部門の主演男優賞に選ばれた。非英語圏の作品賞は、日本映画の「ドライブ・マイ・カー」に贈られた。

全受賞者リストはこちら

画像クレジット:Netflix

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(文:Sarah Perez、翻訳:Yuta Kaminishi)

かつて人気を博した海賊版の映画・ドラマ配信サービス「Popcorn Time」が閉鎖

海賊版の映画やテレビシリーズをNetflix(ネットフリックス)を利用するのと同じくらい簡単に視聴できるアプリとして、かつて人気を博した「Popcorn Time」が閉鎖された。当初の開発者たちは、2014年にサービスを開始してからわずか数日で停止し、プロジェクトを放棄した。しかし、このプロジェクトはオープンソースであったため、他の開発者が彼らが残したものを引き継ぐことができ、それ以来、何度か打ち切られたり復活したりしていた。Popcorn Timeがこれで永久に消えたかどうかはまだわからないが、直近の終焉の最大の要因は、アプリへの関心が薄れてきていることのようだ。

同アプリのウェブサイトには、過去7年間「Popcorn Time」が検索された回数のグラフが掲載されている。グラフを見ると、2015年のローンチ後数カ月間は大量の検索数を誇っていたが、2016年には関心が急激に低下している。その人気は衰え続け、少なくともGoogleトレンドに基づくと、その後回復することはなかった。

Bloombergによると、Popcorn Timeを運営していたグループは、メディア関係者に向けたメールでアプリの終了を発表したという。今回のアプリ閉鎖の決定に法執行機関の動きが関係しているかどうかについては言及していないが、Popcorn Timeは過去に法に触れたことがある。オリジナル版は当局の関与を受けて閉鎖された可能性があり、ハリウッドのスタジオ各社は、映画の海賊版コピーを違法にダウンロードして共有したとされる個々のユーザーを訴えたこともあった。

Popcorn Timeに関連する開発者たちは以前Bloombergに、同サービスは実際にはコンテンツを自らホストしていないため、著作権侵害の責任はないと語っていた。Popcorn Timeは、ピア・ツー・ピア(P2P)のBitTorrentファイル共有システムに依存しており、ユーザーが他人のコンピュータでホストされているコンテンツにアクセスする手段を提供しているに過ぎないからだ、と当時は語っていた。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Mariella Moon(マリエラ・ムーン)氏は、Engadgetのアソシエイトエディター。

画像クレジット:LightField Studios / Getty Images

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(文:Mariella Moon、翻訳:Aya Nakazato)

BMWはクルマをプライベートシアタールームにする

2年前のCES 2020で、クルマに心地よいラウンジシートをフィットさせたBMWは、米国時間1月5日、同社の車載エンターテインメントの次なるステップを披露した。31インチ、8KスマートテレビにAmazon Fire TVサービスがついてくる(中国向けには国独自のストリーミングサービスを開発中)。後部座席に乗る人のために配置されたこの新しい32:9「My Mode Theatre(マイモード・シアター)」画面とBowers & WilkinsのDiamond Surround Sound Systemの組み合わせは、国道を走りゆく乗客に映画館のような体験をもたらすことを意図している。

関連記事:BMWは自動運転車をラウンジに変える

5G接続を利用して、このクルマでは最新のショーをオンデマンドでストリーミング視聴することが可能で、My ModeシステムはThe Expanseのエピソードを最新回まで一気見するムードを醸し出す。今のところ見るべき8Kコンテンツは多くないし、Fire TVもまだ対応していないが、少なくともそのときが来たら、あなたのクルマは準備完了だ。

画像クレジット:BMW

また、巨大画面にいつも視野を遮られたいわけではないため、スクリーンは天井に格納することができる。そのためのタッチコントロールは後部ドアに備え付けられている。

「私達は純粋なドライブの楽しみのために没入的なデジタル体験を開発しました」とBMW AG Developmentの研究開発責任者、Frank Weber(フランク・ウェーバー)氏はこの日の発表で語った。「シアターモードでは後部座席がプライベートシネマラウンジに変わります。31インチディスプレイと5G接続、8K解像度にサラウンドサウンドとストリーミングプログラムによって車載エンターテインメントの新しい標準を決める前例のない体験が作り出されます」。

映画を観るだけでなく限らず車内のムードを醸し出すために、BMWの最新のiDriveやOSはMy Modeを備えている。My Modeは運転とトランスミッションの制御を変更することで、車全体の運転挙動だけでなくディスプレイのテーマやサウンド、全体のライティングなどをユーザーの好みに基づいて変化させることができる。

画像クレジット:BMW

これまでにあったモードは「Efficient(効率的)」「Sport(スポーツ)」「Personal(パーソナル)」の3つだったが、この日のCESで同社は、新しいバリエーションをいくつか追加した。「Expressive(表現的)」「Relax(リラックス)」「Digital Art(デジタルアート)」および映画鑑賞のための「Theatre(シアター)」だ。これらの新モードは2022年の後半に提供される。ちなみにここで取り上げている新しいモードのほとんどはドライブの特性を変えるものではなく、クルマのテーマ変更に関するものだ。

デジタルアートモードに関して、BMWは中国のマルチメディアアーティストCao Fei(ツァオ・フェイ[曹斐])氏とパートナー契約を結び、人間と自然の深いつながりを象徴することを狙いとする新発表に向けて同氏が新しいアートワークを制作した。

画像クレジット:BMW

一方、サウンドデザインについては、BMWは映画音楽作曲家のHans Zimmer(ハンス・ジマー)氏と再び組んで、同社の電気自動車シリーズのために特別なサウンドを制作した。BMW IconicSounds Electric(BMW アイコニックサウンド・エレクトリック)は、2022年後半にBMW i4でデビュー予定で、ワイヤレスオンラインアップデートで提供される。

画像クレジット:BMW


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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【レビュー】映画「マトリックス レザレクションズ」はテクノロジーをうまく解釈、描いているが駄作

この年末に公開されている「Matrix(マトリックス)」の新作は、ちょっとした失敗だったように思う。アクション、キャラクター、テンポ、ビジュアルなどは、ほとんどの面でしくじっていた。だが意外な点で成功していた。テクノロジーと私たちの関係について、説得力のある内容を提示している。

(この先「The Matrix:Resurrection(マトリックス レザレクションズ)」のネタバレがあるのでご注意を)

私たちの住む世界は現実ではない、というオリジナルの「マトリックス」の前提は、独創的とはいえなかった。だが、それを深くSF的にアレンジしたもの、つまり、シミュレーションを使った大衆受け狙いの「ターミネーター的ロボカリプス」は、説得力があり、上々の出来だった。当時、スマートフォンは存在せず(それゆえ、スマートフォンへの不健全な依存もなかった)、ロボットは初歩的、AIはまだSF的で、ソーシャルメディアといえばICQとチャットルームという時代であった。「Oh, blessed ignorance(無知は幸いだ)」。

つまり、恐怖や脅威がテクノロジーから生まれるというのは、表面的な見方にすぎない。人類を生きた電池に変えてしまったのが、たまたま機械だったというだけだ。結局のところ、パラノイア(極度の心配性)が不安に思ってきたのは、(秘密結社)イルミナティが世界の真実を隠しているということであり、その考えは何世紀も前にさかのぼる。

「レザレクションズ」は違う。「マトリックス」が公開後の20年間で出現したスマートフォン、AI、ソーシャルメディアなどは、単に影響力のあるテクノロジーというだけにとどまらず、それらによって可能になるものと、それらがもたらす新たな恐怖の両方において、この時代を特徴づけた。

画像クレジット:Warner Bros Pictures

「レザレクションズ」が描く根本的な脅威は、完全な欺瞞ではなく、標的を定めた偽情報だ。これはおそらく、現代における最も明白で差し迫った危険だ。その解決策は、これまでのシリーズで示されてきたように、単にベールを突き破ることではなく、純粋に、人間らしく、他者と調和し、対話しながら生きることだ。

映画の冒頭で主人公たちが置かれた状況は、私たちが陥るかもしれない罠を象徴している。オリジナル3部作がゲームのシリーズとしてメタ的に再構成されていることは、初めのうちは説得力がある。それは、半分は真実であって、嘘よりも説得力がある。称賛されながらも、仕事面でも創作面でも行き詰まったネオは、ゲームを現実として認識してしまう不健康な状態を治すためにセラピーを受けている。トリニティは、最も抵抗の少ない道として快適な日常を過ごしている。そして(新)モーフィアスは、逃れられないエコーチェンバーの中で生きている。

こうしたアイデアを、ソーシャルメディアに内在する最も悲惨な脅威である自己欺瞞、ドゥームスクローリング(悪いニュースばかりをネットで探すこと)、過激化と結びつけるのはまったく難しいことではない。ここでの「機械」は影響を及ぼす機械だ。その機械は、機械の考えが私たち自身の考えだと思わせるのだ。

これはもはや「これは現実の世界ではない」というより「私の考えは本当は私自身の考えではない」ということなのだ。自分自身の考えでないなら、誰の考えなのか。その問いに答えれば、あなたは抑圧者を見つけることができる。

他でも、私たちは「自分で考える」というアプローチに失敗していることがわかる。現実世界という「外側」で、人類は行き詰っている。革命的なオリジナルのモーフィアスはいなくなり、新しいリーダーは終末的な脅威に直面し、リスク回避のために足踏みしている。前進するために必要な大胆な行動をとることができない、非力な政府の姿が目に浮かぶ。

倉庫の中には、たとえ不格好であっても、Mervを完全に拒絶する、ある種のネオフォビア(シャレで、意図的に)的ブーマーのメンタリティーがあるのだ。「私たちには優雅さがあった、スタイルがあった、会話があった、これは違う、ピーピーピー! 芸術も、映画も、本も、すべて優れていた! オリジナリティが大事だった!」。彼は、偉大だと思われていた過ぎ去った時代に戻りたがっている。泣き虫で屈辱的な野蛮人が、自分の適応能力のなさをテクノロジーのせいにしているのだ。

そして最後に、機械たちの内戦の存在がある。持続不可能でありながら止められず、自分自身を食べ始めてしまう。

「レザレクションズ」が進むべき道として提示するのは、ある意味で陳腐な「みんなで力を合わせよう」だ。しかし、その背後にある意味が、目的を持ったメッセージでそれ自体を豊かにしている。共通の敵は本来テクノロジーに関わるものだが、テクノロジーそのものではない。もしあなたが自分自身の心の牢獄に閉じ込められているのなら、脱出は幻想だ。

この映画で重要なポイントは、私たちが自らのために採用したプログラミングを拒否すること。それが、ハイテクな敵が悪意により意図的に作ったものであれ、自己反省の欠如によってより自然にたどり着いたものであれだ。

共存こそが私たちの進むべき道であり、そのためには相手に対する自分自身の先入観を疑わなくてはならない。人間と憎き機械が共存できるとは、ネオにとっては衝撃的だ。政治的な側面から深読みするのはやめよう。筆者は、これが超党派主義の寓話だとは思わない。むしろ、映画で使われた新しい用語について考える。彼らはロボットではなく「synthient(シンシエント)」だ。これは愉快な混成語で、若干手を加えることにより、代名詞と表示の問題を反映している。ジェンダーの様相は連続している。意識がそうでないと言えるだろうか。

「レザレクションズ」では他者との共存こそが唯一の現実的な道だ。ロボットと人間がこの星を共有しなければならない「現実世界」においても、AIさえも自分の役割と主体性を押しつぶされるように管理されて息苦しくなる「マトリックス」においてもだ。

最後に必ずやってくる「愛はすべてに勝つ」という瞬間とその後の大げさなアクションシーンの後、最後の対決が1つの視点を提供した。人間に自らを縛る縄を与えた「アナリスト」は、その方が人間は幸せになれるという。ネオとトリニティは、人々が自ら選んでその上を走っているとされる、テクノロジーのトレッドミルが機能するのは、真のつながりと真の喜びを妨げるように設計されているからこそだという。

独我論的な野蛮人や楽天的な受動的リーダーシップとは程遠く「レザレクションズ」は人々が自由に学び、成長できる包摂的で協力的な世界を支持する。なぜなら、人々を無知にし、分裂させていたツールと実体は、光とつながりをもたらすものと同じだからだ。

アクション映画としては、Lana Wachowski(ラナ・ウォシャウスキー)監督の作品はめちゃくちゃで、崩壊寸前だ。(筆者は口直しに「コマンドー」を観た)。しかし、そのあやしい出来映えはともかく、この映画が描く混乱こそがメッセージなのだ。この映画には、私たち自身と現代のジレンマが不穏なほど正確に描かれている。監督は、私たちが、世界をではなく、自らが課した限界を疑えば、もっと多くのことができると思っている。その信念が、監督が提案する「赤いピル」なのだ。

画像クレジット:Warner Bros Pictures

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi

AIを活用したVFXスタートアップ「Wonder Dynamics」がシリーズAで11.4億円を調達

Wonder Dynamics(ワンダー・ダイナミクス)は、AI(人工知能)とクラウドサービスを使って「リビングルームレベル」のクリエイターが「ブロックバスターレベル」のビジュルエフェクトを作れるようにすることを目標にしているが、その内容はベールに包まれている。豪華なアドバイザーを誇る秘密主義の同社は、2022年の製品公開を前に1000万ドル(約11億4000万円)のシリーズAラウンドを完了した。

同社を創業したのは、Nikola Todorovic(ニコラ・トドロビッチ)氏と俳優のTye Sheridan(タイ・シェリダン)氏だ。2人は数年前、映画で一緒に仕事をした際に映画製作ツールの民主化が必要だという信念を共有したことから力を合わせることになった。もちろん、高解像度カメラとコンピューティングパワーによる編集や色調整など、すでに多くのツールは価格も難易度も下がっている。

しかし、本格的VFX(ビデオエフェクト)は別物であり、昨今のカメラとディスプレイの高解像度化とCG(コンピュータグラフィックス)の質向上によって、費用と参入障壁は高いままだ。

Wonder Dyanamicsは、AIとクラウドサービスを利用して、この状況を改善するVFXプラットフォームだが、その正確な内容は未だ秘密裏に隠されている。

「私たちのプラットフォームはまったく新しいプロセスを利用していて、CGやVFXコンテンツを作るのに必要な技術知識をもたないコンテンツクリエイターのための完全なソリューションです」とトドロビッチ氏は説明した。「プロフェッショナルなアーティストのために、制作物は既存のワークフローやソフトウェア(Unreal、Blender、Mayaなど)にエクスポートすることができる。機能はポストプロダクション(撮影後の編集作業)に特化していますが、ハードウェア要件や制作に必要な追加作業を劇的に減らします」。

関連記事:インディーズ映画制作者にAIを活用したVFXを提供するWonder Dynamicsが2.7億円を調達

2022年のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)で実物を見れば詳細がわかるだろうが、心配な人はそれまでの間、アドバイザーとしてSteven Spielberg(スティーブン・スピルバーグ)氏とJoe Russo(ジョー・ルッソ)氏の名前があることに慰められるかもしれない。もちろん、2人ともベテラン監督であり、作品の見栄えにはうるさい。特にルッソ氏(および兄のAnthony Russo[アンソニー・ルッソ]氏)は、絶対必要な場面以外、CGよりも操演(特撮の一種)を好むことで知られている。

「開発を進めるにつれ、これはビジュアルエフェクトだけのソフトウェア以上のものになるとわかりました」とシェリダン氏がプレスリリースで語った。「当社のプラットフォームは映画、テレビだけでなくビデオゲームやソーシャルメディア・コンテンツ、さらにはメタバースでも利用できる可能性があります」。

後半の用途は、新たな出資者であるEpic Games(エピックゲームズ)とSamsung Next(サムスン・ネクスト)にとってさらなる正当化材料になるだろう。今回1000万ドルのラウンドをリードしたのはHorison Ventures(ホライゾン・ベンチャーズ)で、シードラウンドで出資したFounders Fund(ファウンダーズ・ファンド)とMaC Venture Capital(マック・ベンチャー・キャピタル)も参加した。

画像クレジット:Hiretual

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nob Takahashi / facebook

映画「シン・ウルトラマン」公開日が2022年5月13日に決定、飯塚定雄氏による手書きスペシウム光線の新予告編も

映画「シン・ウルトラマン」公開日が5月13日に決定、飯塚定雄氏による手書きスペシウム光線の新予告編も

円谷プロの新作発表会TSUBURAYA CONVENTION 2021で、映画『シン・ウルトラマン』の公開日が2022年5月13日になることが明かされました。同時に、ウルトラマンの必殺技スペシウム光線が見られる「特報2」映像も公開しています。

映画『シン・ウルトラマン』は企画・脚本が『エヴァンゲリオン』『シン・ゴジラ』の庵野秀明、監督が『シン・ゴジラ』監督・特技監督の樋口真嗣。

当初は2021年初夏公開予定としていたものの、新型コロナウイルス感染症の影響で「公開時期調整中」の状態でした。

約一年の延期を経て、ようやく劇場で令和の庵野版ウルトラマンが観られるようになります。

映画「シン・ウルトラマン」公開日が5月13日に決定、飯塚定雄氏による手書きスペシウム光線の新予告編も発表会配信には樋口真嗣監督も登壇。とうに完成しているのに公開が延期になった作品と思われがちなものの、実際にはまだ完成しておらず、スタッフはポストプロダクションに追われていると明かしています。

今回新たに公開された特報映像は、ウルトラマンがゆっくりと立ち上がり、スペシウム光線を放つ場面。改めて見ると立ち上がる部分は特報1と同じで、塵の向こうで光る眼とシルエットが見えるエフェクトが追加されています。

映画公式によると、このスペシウム光線はなんと初代ウルトラマンで光線作画を手掛けた飯塚定雄さんが担当したとのこと。

シン・ウルトラマンのデザインはテレビの初代ウルトラマンを尊重しつつ、それ以上に成田亨のオリジナルデザインと佐々木明の造形への回帰を志向しカラータイマーや着ぐるみのモールド等を排除したことが庵野秀明によって語られていました。

スペシウム光線をオリジナルの手書きベースでCG化することからも、「本来のウルトラマン」を描くために現代のCG技術を用いるコンセプトが伺えます。映画「シン・ウルトラマン」公開日が5月13日に決定、飯塚定雄氏による手書きスペシウム光線の新予告編も

メインビジュアルは昨年からそのまま、公開日が確定したのみ。しかし樋口監督の口から、中央のベーターカプセルはやっぱりベーターカプセルであること、ドッグタグは斎藤工演じる主人公のものであること、名前は「神永新二」であることが明らかにされています。

(初代ウルトラマンに変身するハヤタ隊員のフルネームは、後付けされた設定では「ハヤタ・シン」。「シンジ」は樋口監督の名前であり、そこから名付けられたエヴァンゲリオンの主人公「碇シンジ」の名でもありますが、ウルトラマンの主人公「シン」がシン・ウルトラマンでは「シンジ」になっているのが面白いところです)。

物語についての具体的な新情報はなし。惹句の「そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン。」は、初代ウルトラマン最終回のゾフィーの台詞を思い出させます。

映画『シン・ウルトラマン』特報映像公開。二体の怪獣も初公開

このキアヌは本物?CG?キアヌが映画「マトリックス」世界に誘うUnreal Engine 5技術デモ、PS5・Xbox版無料公開

このキアヌは本物?CG?キアヌが映画「マトリックス」世界に誘うUnreal Engine 5技術デモ、PS5・Xbox版無料公開

Epic Games/Warner Bros.

12月17日に公開の映画『マトリックス・レザレクションズ』は本予告編が月曜に世界一斉に公開され、いよいよ期待も高まってきましたが、その映画のテーマでもあるコンピューターの世界ではEpic Gamesは、『マトリックス・レザレクションズ』とのタイアップにより、映画の世界感をUnreal Engine 5(UE5)で再現するデモンストレーション「The Matrix Awakens: An Unreal Engine 5 Experience」を先行公開しました。

YouTubeで公開されたこのデモのティーザー動画では、例の緑色のテキストの雨のなかネオことキアヌ・リーブスが現れ「それが現実だと、なぜわかる?」と問いかけます。そして、このキアヌを観た人たちの感想は、これが本人の実写映像なのか、UE5で描かれたCGなのかで意見が分かれています。前置きを含めてわずか15秒の映像ながら、すでに映画『マトリックス』の世界感を再現していると言っても過言ではありません。

このデモはラナ・ウォシャウスキー監督をはじめ映画のスタッフがEpic Gamesその他パートナー企業と制作したもの。デモ内ではキアヌ・リーブスに加えて、キャリー=アン・モスも登場します。

記事執筆時点でPS5およびXbox Series X|S版がそれぞれのストアからダウンロード可能になっており、ほとんどの人にとってはこれがUE5を実際に動かしてみる最初の機会となるはずです。今年5月、EpicはPC向けにUE5の早期アクセス版をリリースしていますが、要求されるPCハードウェア要件的に、それを試せた人はほんのわずかしかいませんでした。もし、手もとにPS5もしくはXbox Series X|Sをお持ちなら、デモをダウンロードして試してみてはいかがでしょうか。

(Source:Unreal EngineEngadget日本版より転載)

ゲームクリエイター小島秀夫氏率いるコジマプロダクションがLAに映画・TV・音楽コンテンツ関連の新部門開設

ゲームクリエイター小島秀夫氏率いるコジマプロダクションがLAに映画・TV・音楽コンテンツ関連の新部門開設

Kojima Productions

『メタルギアソリッド』シリーズや『デス・ストランディング』で世界的な支持を集めるゲームクリエイター、小島秀夫氏が率いるコジマプロダクションが、映画・テレビ・音楽に関する新しい部門を開設しました。GamesIndustry.Bizによると、コジマプロダクションはロサンゼルスにこれら新部門の拠点を置き、元SIEのライリー・ラッセル氏が陣頭指揮を執るとのこと。

ラッセル氏は28年間SIEに務め、PlayStationの法務や商務部門を率いてきた人物で、今回のコジマプロダクションとの合流について新部門の役割を「ゲーム業界に加え映画・テレビ・音楽の各業界でクリエイティブな才能を持つプロフェッショナルたちとの協力体制を構築する」ことだと述べ「コジマプロダクション作品の認知度向上、大衆化を目指す」としています。

また「新しいビジネス開発チームはロサンゼルスを拠点としてすべてのエンターテインメント業界で、できる限り最高のエンターテインメントの才能と協力することを楽しみにしている」と続けました。

小島作品はこれまででもすでに『メタルギアソリッドV』でスネーク役の声優としてキーファー・サザーランドを起用し、『デス・ストランディング』ではノーマン・リーダス、マッツ・ミケルセン、レア・セドゥ、ギレルモ・デル・トロ、リンゼイ・ワグナーといった豪華キャストを揃えてきました。

今回の新部門開設は、ゲームというジャンルを超える創造的な物語を提供し、ファンがその世界に没頭しコミュニケーションできるようにする方法を切り開いていくためと考えられます。小島作品はそのストーリー展開や”見せ方”における映画的なアプローチを特徴としており、新しい部門は将来、ゲームのコンセプトを長編映画、サウンドトラック、さらには配信向け映像作品といったジャンルに展開していく可能性を示しているのかもしれません。

ちなみに現在、ハリウッドでは『メタルギアソリッド』の実写映画化が進められており、スネーク役にオスカー・アイザックの起用が発表済みです。

(Source:GamesIndustry.BizEngadget日本版より転載)

リドリー・スコット監督が実写TVシリーズ版「ブレードランナー」制作を公表、全10話を予定

リドリー・スコット監督が実写TVシリーズ版「ブレードランナー」制作を公表、全10話を予定

Warner Bros.

リドリー・スコット監督が、SF作品『ブレードランナー』の実写TVシリーズの制作に取り組んでいることを明かしました。すでにパイロットのあらすじを書き上げており、シリーズは全10話になるだろうとのこと。

1982年に公開された映画『ブレードランナー』は劇場での興行的には失敗作に分類されるものの、そのサイバーパンクな世界観などがカルト的な人気を得て再評価され、いまやSF映画の代表作のひとつとされています。2017年には続編となる『ブレードランナー2049』が公開され、今月にはCrunchyrollとAdult Swimで神山健治氏と荒牧伸志氏が共同監督としてタッグを組み制作されたCGアニメ作品『ブレードランナー:ブラックロータス』が配信・放送を開始しています。

リドリー・スコット監督が述べた実写TVシリーズはまだ制作のごく初期段階であるため、キャストなどについてはまだ情報がありません。また脚本や監督を誰が担当するのか、シリーズの時間軸的にどの時点を舞台とするのかなども明かされませんでした。ただ、現在作品の権利を持つアルコン・エンターテインメントは『ブレードランナー』のシリーズ全体で時間軸的な整合性を保つため、作品のつながりをきちんと管理する方針を打ち出しています。そのため、実写TVシリーズも『ブラックロータス』と同様、ほかと被らない時代を舞台としつつ、互いの作品に絡む要素も登場するようになると思われます。

ちなみにスコット監督は現在『エイリアン』のTVスピンオフ作品に関してもパイロットを執筆中で、こちらも8~10話ほどの構成になるとされています。

(Source:VarietyEngadget日本版より転載)

短編動画アプリに一石、インタラクティブな映画体験ができる「Snax」

短編動画アプリには、TikTok(ティックトック)のような大きな成功例もあれば、Quibi(クイービ)のような大きな失敗例もある。今回「Snax(スナックス)」という新しいアプリは、人気のある縦型動画フォーマットに変化を加え、ユーザーがモバイルデバイスでミニムービーを見るだけでなく、それらとやりとりする方法を提供しようとしている。Snaxの定額制ストリーミングサービスには、拡大中の、伝統的な物語の要素とインタラクティブなゲームを組み合わせたオリジナルムービーのレパートリーを取り揃えている。ユーザーは、物語を進めるためのパズルを解いたり、殺人事件のシーンで手がかりを探したり、ゲームブック「Choose Your Own Adventure」のようなモードで登場人物の選択をしたり、360度動画の要素を利用したりと、さまざまなことができる。

この新しいタイプのインタラクティブな映画体験のアイデアは、パリを拠点とするアプリケーション開発会社であるMarmelapp(マーメラップ)から生まれた。Marmelappは、Alan Keiss(アラン・キース)氏、Stéphane Fort(ステファン・フォート)氏、Jérôme Boé(ジェローム・ボエ)氏が共同で設立した会社だ。Marmelappは、これまでに15のアプリをリリースし、そのダウンロード数は3000万を超え、アプリ全体で年間数百万ユーロ(約数億円)の収益を上げている。

Marmelappの最近のタイトルには、パーティゲームのPicolo(ピコロ)や、テキストベースのゲームブックスタイルのアプリBlaze(ブレイズ)などがある。このBlazeがSnaxの出発点になったと聞いている。

「Blazeの開発はとても楽しく、すばらしいフィードバックをいただきました。Blazeでは、75のオリジナルストーリーを開発・公開しました。枝分かれしていて複数のエンディングがあるため、実際にはかなりの数のコンテンツがありました」とSnaxのコンテンツ責任者であるJames Davies(ジェームズ・デイビス)氏は説明している。後にチームは、Blazeが単なるテキストだけでなく、ストーリーに沿ったミニフィルムなどを盛り込めば、もっと楽しいものになると気づいた。当初、彼らはそのコンセプトをBlazeに取り入れようと考えていたが、あまりにも複雑になってしまった。

「別のプロジェクトにする必要があることがはっきりしました」とデイビス氏はいう。そうして1年半ほど前にSnaxの開発が始まった。

画像クレジット:Snax

現在、このアプリは、縦長の動画として観ることができるひと口サイズのムービー(「Snax」という名前の由来)をウリにしている。各エピソードは約3〜5分で、ユーザーが何らかの形でコンテンツに関われるためのストップポイントが含まれている。ユーザーはパズルやクイズを解かなくてはいけないかもしれない。もしくは、部屋の中で何かを選択したり、隠されたアイテムを見つけたりする必要があるかもしれない。キャラクターとメッセージのやりとりをする必要があるかもしれない……などなど(困ったときには「ヒント」という選択肢もある)。

ユーザーは、選択肢をタップする以上のことをしなくてはいけないこともある。例えば、ある殺人事件のムービーでは、テキストボックスが表示され、そこに自由に答えを書き込んでいく。この機能を実現するために、Snaxは答えの候補とその誤字脱字をデータベース化し、ユーザーが正解したときに正しく判断できるように設計した。

画像クレジット:Snax

ムービー自体も、この種のエンターテインメントアプリとしては想像以上に高品質なものになっている。

Snaxでは、7人のチームが脚本の作成やインタラクティブ機能の追加を担当し、映像コンテンツの制作はプロの映像作家や提携した制作会社と協力して行っていると説明している。現在、これらの撮影には、1つのプロジェクトにつき10万ユーロ(約1280万円)の費用がかかっているが、Snaxは、同じチームが異なる脚本で複数のシリーズを連続して撮影することで、制作費の効率化を図っている。

画像クレジット:Snax

映像作家には、アプリが生み出すサブスクリプションの収入は分配されず、前払いとなっている。現在、Snaxは、週4.99ドル(約560円)、月8.49ドル(約960円)、年47.99ドル(約5450円)の定額制サービスを提供している。(試しに2、3のエピソードを無料で視聴することもできる)。

同社は、2021年初めにフランスでSnaxの提供を開始し、10月には米国、英国、カナダ、オーストラリアの英語圏の視聴者にもこのアプリを導入したばかりだ。現在のところ、このアプリには、英語に吹き替えられたフランス映画が掲載されているが、長期的な戦略として、今後は英語とスペイン語でのコンテンツ制作にも着手する予定だ。

サービス開始以来、Snaxのユーザーの約半数は英語圏の人たちだが、同社は近い将来にはこれが90%にまで増えると予想している。

画像クレジット:Snax

Snaxのユーザーは、18歳から24歳の若い世代が多く、男女の比率は均等だ。これまでのところ、特に米国のユーザーが多くアプリについて話したり、シェアしたり、アプリのコンテンツに反応を示している、とSnaxは確認している。

「私たちは、フランスのユーザーより、米国の男女のほうが、多くのコンテンツに関わろうとする傾向にあることに気づきました。エピソードを完成させたり、ストーリーを完成させたりする割合が、フランスよりもかなり高いのです」とデイビス氏はいう。「つまり、北米の視聴者に向けて作品を制作する必要があるのです」。

初期の作品には無名の俳優を起用したものもあったが、Snaxは現在、フランス第3位のYouTuberであるNorman、俳優でコメディアンのLudovik(ルドヴィック)、俳優のBastien Ughetto(バスティアン・ウゲット)など、フランスで知名度の高いスターを起用して制作を進めている。今後、米国での展開に合わせて、このような取り組みをさらに進めていく予定だ。

Snaxは現在、インタラクションのバリエーションを増やし、よりエキサイティングで、より深く楽しめるようにすることに取り組んでいる。また、スクリプトを作成するための独自のソフトウェアの開発も進めている。

Marmelappは、2022年にSnaxを独立させることを計画しており、その際には資金調達を検討する可能性がある。

画像クレジット:Snax

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(文:Sarah Perez、翻訳:Akihito Mizukoshi)

ゲームエンジン開発Unityが数々の大作映画を手がけた視覚効果のWeta Digitalを約1850億円で巨額買収

ゲームエンジンの開発で知られるUnity(ユニティ)は、Peter Jackson(ピーター・ジャクソン)氏が共同設立した有名な視覚効果会社のWeta Digital(ウェタ・デジタル)を、16億2500万ドル(約1850億円)もの巨額で買収すると発表した。

その名前を知らなくても、Weta Digitalの作品を見たことがある人は多いだろう。「ロード・オブ・ザ・リング」から「アバター」や「シャン・チー/テン・リングスの伝説」など「ぜひ映画館で見るべきだ」といわれるような映画では、Weta DigitalがVFXで大きな役割を果たしている可能性が高い。

これまでWeta Digitalは、視覚効果を生み出すアーティストのチームであると同時に、アーティストが使用するツールの多くを開発するエンジニアのチームでもあった。Unityが買収するのは、これらのツールとエンジニアチームであり、その一方で視覚効果のアーティストチームは、独自の新しい組織に分割される予定だ。

今回の買収により、Weta Digitalの275人以上のエンジニアが、Unityに加わることになる。VFXアーティストは、ピーター・ジャクソン氏が引き続き過半数を所有する新会社「Weta FX」にスピンアウトする。両社は今後も協力関係を続けていく予定で、Unityはこの先、Weta FXが「メディア・エンタテインメント分野における最大の顧客」の1つになると見ているという。

その一方でUnityは、Weta Digitalの数多くの自社製ツールの開発を引き継ぐ予定だ。例えば「City Builder」(「キングコング」などの映画で破壊された巨大な3D都市をプロシージャルに生成する)「Manuka」(最終バージョンですべてが非常にリアルに見えるようにするために役立つ物理シミュレーションを行うカスタムレンダラー)「Gazebo」(より高速なリアルタイムレンダラーで、アーティストが時間のかかる最終レンダリングの前にシーンを正確にプレビューするために使用される)、そして他にも、キャラクターを動かすためのリギング、顔のアニメーションやレンダリング、モーションキャプチャーの処理、髪の毛 / 毛皮 / 煙 / 何千年も前に放棄された都市の景観に生え茂る植物などをシミュレートするためにチームが構築した独自の技術のすべてだ。

Wetaの「City Builder」ツール(画像クレジット:Unity/Weta Digital)

なぜWetaなのか?UnityのSVPであるMarc Whitten(マーク・ウィッテン)氏に電話して、彼の考えを聞いてみた。

「10年前を思い出してみてください」と、彼はいう。「これは2Dの話ですが、どれだけの写真が撮影されていたか。きっと膨大な数でしょう。しかし、それから10年後……今はさらに驚異的に増えています。3Dも同じようなものではないかと私は思います」。

「ただし、1つ違いがあります」と、彼は続けた。「10年前の私でも、写真を撮ることはできると思っていました。今、2Dで同じように写真を撮ることができます。しかし、実際にはそれは10年前と大きく異なります。なぜなら、私がiPhoneのシャッターボタンを押すたびに、iPhoneは私を(写真家に)変身させるために、おそらく500万行の超高度なコードを実行しているからです。しかし、3Dでは、現在、個人的に何かをモデリングすることはほとんどできません。これからの10年で私たちがやるべきことは、同じアプローチを取ることです。つまり、この信じられないほど深い技術を、簡単に使えるようにすることです」。

言い換えれば、つまり、Unityは3Dでの構築をより簡単にする必要性が高まっていると考えており、それはWetaが過去数十年を費やして追求してきたことなのだ。

この買収契約の一環として、UnityはWeta Digitalが長年にわたって構築してきた膨大なデジタル資産のカタログも取得することになる。それは、都市や自動車、人々の3Dモデルから、雨の中で火から出る煙の仕組みを決定するアルゴリズムや、動物の群れが木々の間をどのように移動するかのシミュレーションまで、1つ1つ挙げれば切りがないほど膨大だ。これらのすべてが、潜在的にはUnityの製品に組み込まれ、クリエイターがそれを基に制作できるようになる可能性があるというわけだ。もっとも、ウィッテン氏は「明確に認められるIP」は含まれないので、次に開発するゲームに(ロード・オブ・ザ・リングの)Gollum(ゴラム)をドラッグ&ドロップできるようにはならないだろうと指摘している。

これ以前にUnityが行った最大の買収は、2021年の8月にParsec(パーセク)を3億2000万ドル(約365億円)で買収したことだった。当時、ウィッテン氏はこの買収がUnityのより大きなクラウドへの野望の一環であることを示唆していたが、今回の買収にも同じことが言えるだろう。

「(Weta Digitalの)ツールは……まさにこのパイプラインです」と、ウィッテン氏は述べている。「それぞれのツールは個々に強力ですが、このパイプラインに沿って連携すると、すべてが実にうまく機能します。あるツールで変更を加えれば、他のツールで照明や合成を行ったときに、それが正しい形で現れます。複数の人が本当に簡単に一緒に作業できます」。

「その先に私たちが考えているのは」と、同氏は続けた。「アーティストがMaya(マヤ)やHoudini(フーディニ)、Unityの中で作業をするときに、これらのクラウド機能が直接接続できるようにすることです」。

「このパイプラインをクラウドで利用可能にして、どこにいてもすぐに接続できるようにすることが重要であると、私たちは考えています」。

Unityによれば、この買収は2021年の第4四半期中に完了する見込みだという。Weta DigitalのCEOを務めているPrem Akkaraju(プレム・アッカラジュー)氏は、新たに設立されるWeta FXのCEOとして留任し、CTOのJoe Marks(ジョー・マークス)氏は、Weta DigitalのCTOとしてUnityに移籍する予定だ。

画像クレジット:Unity/Weta Digital/20th Century Fox

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(文:Greg Kumparak、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

クリエイティブ業界の環境改善を目指すプラットフォームContact、女優メイジー・ウィリアムズやZ世代起業家が支援

生活のあらゆる面をデジタル化したパンデミックの影響で、かつてないほどの盛り上がりを見せているクリエイターエコノミーは、今や1000億ドル(約11兆円)以上の市場になっているという試算もある。しかし、モデル、俳優、作家、デザイナーのプロとして生きていくためには、電子メール、手作業の契約手続き、膨大なPDFファイルなど、さまざまなものを処理する必要がある。トップレベルのタレントエージェンシー全体の評価額が200億ドル(約2兆2000億円)に達しているにもかかわらず、クリエイターたちは支払いの遅延や不透明な業界慣習に苦悩している。しかし、モデルとして活躍するタレントが、20~40%ものコミッション料を請求されることがある一方、ソーシャルメディアは、タレントの参入障壁を下げ、タレントにコンタクトしやすくすることで、従来のエージェンシーを徐々に排除してきた。それでもやはり、いうまでもなく、誰もがソーシャルメディアで自分のキャリアを高められるわけではない。

2020年末に登場したContact(コンタクト)は、当初、モデルの契約の代行や、仕事の一部を管理するといったサービスを提供していた。現在は、クリエイティブ業界のキーパーソンたちを巻き込んで新たな資金調達を行い、前述の広範な問題に対処しようとしている。

「Game of Thrones(ゲーム・オブ・スローンズ)」で名を馳せたMaisie Williams(メイジー・ウィリアムズ)氏は、クリエイティブ業界の環境改善を熱心に訴えるとともに、このスタートアップのクリエイティブストラテジスト兼アドバイザーに就いている。

コンタクトは今回、Founders Fund(ファウンダーズ・ファンド)が主導するシードラウンドで190万ドル(約2億1000万円)の資金を調達した。また、LAUNCH(ローンチ、投資家のJason Calacanis[ジェイソン・カラカニス]氏が率いるファンド)、Sweet Capital(スウィート・キャピタル、Pippa Lamb[ピッパ・ラム]氏主導)、Rogue VC(ローグVC、Alice Lloyd George[アリス・ロイド・ジョージ]氏主導)、エンジェル投資家のSimon Beckerman(サイモン・ベッカーマン氏、Depop[デポップ]の共同創業者)、Eric Wahlforss(エリック・ウォールフォース氏、SoundCloud[サウンドクラウド]の共同創業者で、現在はDance[ダンス]の創業者兼CEO)、Abe Burns(アイブ・バーンズ)氏、Joe White(ジョー・ホワイト)氏も参加している。

コンタクトの原型は、モデルの世界を対象としているが、その視線ははるかに大きなものを見据えている。コンタクトの共同設立者兼CEOのReuben Selby(ルーベン・セルビー)氏は、ファッションデザイナーであり、ウィリアムズ氏がキャリアをスタートさせた会社の設立チームに所属していたことや、Nike(ナイキ)、Thom Browne(トム・ブラウン)、JW Anderson(JWアンダーソン)などと仕事をしてきたこともある。同氏によると、このプラットフォームは、1042億ドル(約11兆4000億円)規模のクリエイターエコノミー全体のスケーラブルなバックエンドソリューションとなり、世界トップクラスのクリエイティブな才能へのアクセスを「民主化」することを目指しているという。

ルーベン・セルビー氏(画像クレジット:Reuben Selby)

近頃、自閉症の創業者であることを語ったセルビー氏は、自身のレーベルReuben Selby(ルーベン・セルビー)の創業者兼クリエイティブディレクターでもあり、クリエイティブエージェンシー兼コミュニティCortex(コルテックス)の共同創業者でもある。セルビーには、Deliveroo(デリバルー)、Daisie(デイジー)、Government Digital Service(ガバメント・デジタル・サービス)などを手がけたJosh McMillan(ジョシュ・マクミラン)氏がCTOとして加わっている。

大まかに言えば競合他社には、Patreon(パトレオン)Creatively(クリエイティブリー)The Dots(ザ・ドッツ)などが挙げられるが、これらのプラットフォームのさまざまな側面を1つの屋根の下に集めようとするコンタクトのビジョンは、意欲的であると同時に、魅力的であると言えるだろう。

エージェンシーに牛耳られているこの業界で、個人や企業がエージェンシーを介さずに直接クリエイターやクリエイティブなサービスを見つけ出し、契約できるというのは挑戦的な試みだ。

コンタクトはまず、2020年10月にファッションモデルの発掘や契約機能を備えたプラットフォームを立ち上げたが、資金調達後はフォトグラファー、スタイリスト、ビデオグラファーなど、他のクリエイティブ分野でのサービスも展開する予定だ。

画像クレジット:Contact

セルビー氏は、自身がモデル、フォトグラファー、クリエイティブディレクターとしてクリエイティブ業界に参入しようとした経験から、コンタクトのアイデアを思いついたという。同氏は、報酬を得るための安全で確実な方法がほとんどないこと、委託会社には基本的な技術的ツールが欠けていることを知り、さらに「中間業者」と「エージェンシー」がピンハネによって利益をむさぼる黒幕であり、多くの場合サービスのクオリティーも低いことに気づいた。

では、コンタクトはどのような仕組みになっているのだろうか。

クリエイターが登録すると、さまざまなクリエイティブサービスに渡って自身のポートフォリオを公開し、直接オファーを受けられるようになる。

企業は、フィルターを使って人材を閲覧して見つけ出し、クリエイティブな人材を絞り込み、仕事の詳細を伝え、クリエイターと直接契約することができる。クリエイターは、ウェブ上のプラットフォームや、間もなく公開予定のスマートフォンアプリを使って、仕事の受諾や拒否を行うことができる。仕事が終われば、クリエイターにはコンタクトを通じて報酬が支払われる。

モデル業界での限定公開以来、コンタクトは約600人のクリエーターと、デポップ、Farfetch(ファーフェッチ)、Nike(ナイキ)、Vivienne Westwood(ヴィヴィアン・ウエストウッド)、Vogue(ヴォーグ)など1400以上のクライアントを獲得したという。そして、このプラットフォームのユーザー数は、前年同期比で100%増加したとのことだ。

セルビー氏によると、コンタクトはバックグラウンドに徹し、タレントがさまざまな分野で独立してブランディングできるようにするつもりだという。重要なのは、コンタクトがクリエイターからは料金を取らず、委託会社からのみ取引に対して20%の手数料を徴収することだ。

画像クレジット:Contact

ファウンダーズ・ファンドのパートナーであるTrae Stephens(トレエ・スティーブンス)氏は「特定の会社を作るために生まれてきたような創業者を見つけると、いつも興奮する。ルーベン氏は、まさにそのような創業者の1人だろう。コンタクトが規模を拡大し、新たなクリエイティブ分野に進出していくのを見ることが楽しみだ」とコメントしている。

また、スウィート・キャピタルのパートナーであるピッパ・ラム氏は「コンタクトのチームは『クリエイターエコノミー』という言葉がバズワードになるずっと前から、クリエイターエコノミーのフロンティアを開拓してきた。コンタクトは、世界レベルの技術的才能と、今最も創造的な精神から生まれる真の革新性を併せ持つ稀有な存在だ。この次の展開に期待している」と述べている。

「ゲーム・オブ・スローンズ」のArya Stark(アーヤ・スターク)役で知られるウィリアムズ氏にとって、スタートアップで働くことは初めてではない。同氏は以前、デイジーのプラットフォームに貢献したことがある。そのプラットフォームは、クリエイター同士を結びつけてお互いのプロジェクトに取り組むことや、クリエイターが自分の作品のための協力者を見つけることを支援している。

しかし「中間業者」に支配されているクリエイティブ業界の構図を破壊したいという同氏の思いは、その経験ではまったく満たされなかった。

ウィリアムズ氏とセルビー氏は、筆者の独占インタビューに答えて、自分たちのビジョンを説明してくれた。

セルビー氏は、現在のモデル市場はほんの始まりに過ぎないとし「ビジョンは、常にクリエーターを中心に据え、クリエーターが自分の仕事に対して報酬を得られるようにすることだ。基本的に、モデル業界という1つの分野からスタートした。そして今、フォトグラファー、メイクアップアーティスト、スタイリストなど、新たな分野に展開しているところだ。しかし、それは全体的なビジョンの中では非常に小さな部分だ」と語る。

また同氏は現在「作品の配信、視聴者との関係構築、収益化の方法」に焦点を当てているという。そして「つまり、物理的な制約の解放だけでなく、創造性を収益化するためのツールキットを提供することであり、今はそれを模索しているところだ。マーケットプレイスはあるが、それはごく一部であって、もっと大きなものを考えている」と述べる。

マーケットプレイスモデルは、企業とクリエイターを直接結びつけることができるが、企業が大きな力を持っていることに変わりはないと、同氏はいう。そして「クリエイターたちは、誰かが何かを与えてくれるのをただ座って待っているだけだ。そのため、クリエイターが自分の作品を配信し、自分のやり方で収益化できる方法を模索している。バックエンドではすべてのロジスティックスが機能し、運用面では当社が構築したサービスを使って、支払いやライセンス、保険を処理している」と述べる。

画像クレジット:Contact

ハリウッドの大スターであるにもかかわらず、ウィリアムズ氏は、同氏がよく知るクリエイティブ業界やエンターテインメント業界は、テクノロジー業界が構築し使い慣れているプラットフォームではなく、電子メールやハイパーリンクといった旧態依然とした世界に留まっていると話してくれた。「タレント事務所に所属していたため、オンラインでのやり取りはすべてメールだ。デジタル化されている資産もなく、台本を保管する『オンライン金庫』も、オーディションテープをアップロードする場所もない。いつもメールの中にリンクがあるだけだ。業界標準というものがない。エージェンシーについていえば、彼らが行う仕事はどれもあまり効率的ではなく、方向性も定まっていない」と同氏は語る。

同氏は、それを変える必要があるとし「キャスティングのプロセスがあるが、今はまだ、キャスティングディレクターと俳優、脚本家などの間では、非常に時代遅れな方法が取られている。そのため、もっと効率的なプロセスを構築したいと考えている」と述べる。

コンタクトを支援するために集めた投資家について、セルビー氏は、チームがファウンダーズ・ファンドをリードインベスターとして選んだ理由は、同社のアプローチにあるという。「彼らが創業者と一緒に仕事をする方法は、個人に対して非常に裁量を持たせてくれるものだ。[彼らは]創造的に考えるために、多くの自由とスペースを与えてくれる。そのため、明快な連携を取ることができる」と述べる。

画像クレジット:Contact

今回のラウンドに参加した他のエンジェル投資家について、同氏は「エリック・ウォールフォース氏やサイモン・ベッカーマン氏のような人たちは、ファッションや音楽文化全体に渡って大きなコネクションを持っている」という。

一方でウィリアムズ氏は、エンターテインメント業界がコンタクトにどのような反応を示すかについて「俳優は、俳優業以外にもさまざまなことをしている。そのようなことすべてを収益化できるプラットフォームを持てるということは、特に俳優は仕事がない時間も長いため、とても重要なことだ」と述べる。しかし、現在のシステムは「エージェントが受けさせてくれるオーディションからしかチャンスが得られない」仕組みになっていると同氏はいう。そして「これでは意欲が湧かずやりがいもない。だから多くの俳優は、ストリーミングプラットフォームで自分の番組を配信したり、自身のドキュメンタリーを作ったり、他の方法で作品を売ったりしている」と続ける。

画像クレジット:Contact

同氏は、コンタクトがプラットフォームを通じてそういった場を作り、クリエーターがより自立できるようにしたいと述べ「映画業界や音楽業界には、さまざまな分野でマルチな才能を発揮する、信じられないほど優秀な人たちが溢れている。しかし、彼らはいまだに、強大な権力をもつエージェンシー、レコード会社、マネージャーらに支配され『萎縮』している。才能を発揮するために、他の多くの手段を提供することは、本当に重要なことだと思う」と語る。

セルビー氏、共同設立者、そしてウィリアムズ氏のビジョンが非常に大きなものであることは明らかだ。問題は、同氏らがそれを成し遂げられるかどうかということだ。

しかし、ハリウッドスターを含めたZ世代の影響力を持つ情熱的なチーム、本格的なテクノロジープラットフォーム、米国の有力な投資家、クリエイティブ業界から集められたエンジェル投資家らの組み合わせは、確かに成功の可能性を示しているといえるだろう。

画像クレジット:Getty Images

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(文:Mike Butcher、翻訳:Dragonfly)

国際宇宙ステーションで初の長編映画撮影を行っていたロシア映画班が無事に帰還

国際宇宙ステーションで初の長編映画撮影を行っていたロシア映画班が無事に帰還

ISS、NASA

10月17日午後1時半過ぎ、国際宇宙ステーション(ISS)で初の長編映画撮影を行っていたロシアの映画撮影班クリム・シペンコ監督と俳優ユリア・ペレシルド、そして宇宙飛行士のオレグ・ノビツキーの3人がソユーズMS-18宇宙船で地上に帰還しました。帰還直前のソユーズの試験ではスラスター誤噴射がありヒヤリとさせられましたが、その後は問題はありませんでした。

ハリウッドを出し抜いてISSで撮影された初の長編映画になる予定の作品「The Challenge」は、テレビ局のChannel OneとYellow, Black and Whiteプロダクション、そしてロシア宇宙機関Roscosmosの協力で制作されます。

ノビツキー飛行士はソユーズMS-18ミッションとしてNASAのマーク・ヴァンデハイ飛行士とロシアのピョートル・ドゥブロフ飛行士とともに4月9日からISSに長期滞在していて、今回映画班と一緒に帰還しましたが。映画撮影クルーが同乗することになったため、残りの2人は、滞在期間を6か月延長することになりました。結果、ヴァンデハイ飛行士はNASAの飛行士としてもっとも長くISSに滞在した飛行士の記録を樹立することになります。

また、記録という点では、ユリア・ペレシルドはプロの役者としては先日Blue Originの宇宙船に搭乗したウィリアム・シャトナー氏より1週間早く宇宙に行った人物になりました。

ISSで撮影された「The Challenge」がいつ頃公開されるのかがわかるまでにはしばらく待つ必要がありそうですが、おそらく国際的な作品というよりはロシア国内向けと思っておくのが良さそうです。それでも、ISSでの映画撮影の実績は、今後トム・クルーズやそれに続く世界的なスターたちが続々と低軌道へ向かい、何らかの作品を作るようになる未来を拓いたかもしれません。

(Source:NASAEngadget日本版より転載)

ロシアの映画監督と女優がISSに到着、12日間滞在し軌道上での映画撮影に挑戦

ロシアの映画監督と女優がISSに到着、12日間滞在し軌道上での映画撮影に挑戦

Handout / Reuters

2020年、NASAはハリウッドスターのトム・クルーズがSpaceXの宇宙船で国際宇宙ステーション(ISS)に搭乗し、宇宙での映画撮影を行う計画があることを認めていましたが、ロシアはその計画から”初”の文字を奪い去るつもりです。10月5日、ロシアの映画監督と女優ら撮影クルーが、ソユーズ宇宙船で映画『The Challenge』の撮影のためにISSに到着しました。映画クルーの滞在期間は12日間の予定です。

この映画は、宇宙飛行士の命を救うために国際宇宙ステーションに派遣されたロシア人医師の奮闘を描くという内容とされます。監督のクリム・シペンコはコメディ作品『Son Of A Rich』を(ロシア国内で)大ヒットさせた実績があり、女優のユリア・ペレルシドは映画だけでなく舞台での経歴も持つとのこと。両氏は打上げに先だって、宇宙飛行士が受ける訓練をこなしており、その様子はロシアのテレビでも報道されていました。

ちなみに、ロシアの映画クルーは12日間で再びソユーズに乗って地上に戻りますが、宇宙飛行士でない民間人のISS滞在は今後も続きます。12月には、日本の前澤友作氏と、前澤氏が設立した「スペーストゥデイ」社の映像プロデューサーの平野陽三氏が、米国の宇宙旅行斡旋企業「Space Adventures」を通じて予約したソユーズに搭乗し、やはり12日間滞在します。

そして2022年2月下旬には、SpaceXのCrew Dragonのシートを購入した3名を含むクルーがISSに向かう予定になっています。

最近は宇宙を舞台とする映画でISSが描かれることも多く、その再現度も目を見張るものがありますが、さすがにISSの”現場”で撮影した映像が劇場用映画に使われるのはおそらく初。どのような出来栄えになるのかは気になるところです。

(Source:New York TimesEngadget日本版より転載)

【インタビュー】iPhone 13シネマティックモードの開発経緯をアップル副社長とデザイナーに聞く

iPhone 13 Proモデルのシネマティックモードは、先に行われたApple(アップル)の同端末のプレゼンテーションで特に強調されていた。これまでに公開されたレビューを読んだ人たちは、このモードの賢さは認めているものの、その利便性に疑問も感じているようだ。

筆者はこの機能を試してみた。最新のiPhoneをディズニーランドに持っていって、今後数年で数千人いや数百万人の人たちが行うような方法で実際にこの機能をざっと試してみた。筆者が行った個人的なテストの一部は、この記事でも触れる他、こちらの筆者のiPhoneレビューでも紹介している。この記事では少し掘り下げた情報をお届けする。

関連記事:【レビュー】iPhone 13 Proを持ってディズニーランドへ!カメラとバッテリー駆動時間をテスト

この記事では、世界iPhone製品マーケティング担当副社長Kaiann Drance(カイアン・ドランス)氏とアップルのヒューマンインターフェースチームのデザイナーJohnnie Manzari(ジョニー・マンザリ)氏に、この機能の目標と開発の経緯について話を聞いた。

「動画で高品質の被写体深度(DOF:ピントの合う最も近い距離と遠い距離の間)を実現するのはポートレートモードよりもはるかに難しいことはわかっていました」とドランス氏はいう。「静止画と違い、動画は撮影時に動く(撮影者の手ぶれも含め)ことが前提です。ですから、シネマティックモードで、被写体、人、ペット、モノを撮影するには、さらに高品質の深度データが必要になります。しかも、その深度データをすべてのフレームに追いつくように継続的に維持する必要があります。このようなオートフォーカスの変更をリアルタイムで実行すると、非常に重い計算負荷がかかります」。

シネマティックモードではA15 BionicチップとNeural Engineを多用する。Dolby Vision HDRでエンコードすることを考えると当然だ。また、ライブプレビュー機能も犠牲にしたくはなかった(アップルがこの機能を導入後、大半の競合他社は数年間、この機能を実現できなかった)。

しかし、アップルは最初からシネマティックモードの概念を機能として考えていたわけではない、とマンザリ氏はいう。実際、設計チームでは、機能とは反対の側面から取り掛かることが多い(同氏)。

「シネマティックモードなどというアイデアはありませんでした。ただ、興味深いとは思いました。映画製作が今も昔も人々を惹き付けるのはなぜだろうか、と。そして、それが徐々におもしろい方向へと進み始め、このテーマについて調査が始まり、社内で広く検討されるようになり、それが問題解決につながります」。

ドランス氏によると、開発が始まる前、アップルの設計チームは映画撮影技術の調査に時間を費やし、リアルな焦点移動と光学特性について学んだという。

「設計プロセスではまず、現在に至るまでの映像と映画撮影の歴史に深い敬意を払うことから始めました。映像と映画撮影のどの部分が今も昔も人々を惹き付けるのか、映画撮影のどのような技術が文化的な試練に耐えて生き残ったのか、またそれはなぜなのか、という疑問には大変魅了されました」。

マンザリ氏によると、従来とは異なる技法を選択する決断を下すときでさえ、アップルのチームはもともとのコンテキストの観点から慎重かつ丁寧に決断を下そうとするという。アップルのデザインとエンジニアリング能力を活かして、複雑さを排除し、人々が自身の可能性を引き出せるような何かを作成する方法を見出せるようにすることに重点を置く。

ポートレートライティング機能の開発プロセスでも、アップルの設計チームは、アヴェンドンやウォーホルなどの古典的な肖像画家やレンブラントなどの画家、および中国のブラシポートレートなどを研究し、多くの場合、オリジナルを見に足を運んだり、研究室でさまざまな特性を分析したりした。シネマティックモードの開発でも同様のプロセスが使用された。

画像クレジット:Matthew Panzarino

設計チームはまず、世界中の最高の映画撮影スタッフに話を聞いた。また、映画を観たり、昔のさまざまな映像例を分析したりした。

「そうすることで、いくつかの傾向が見えてきました」とマンザリ氏はいう。「ピントとピントの変更はストーリーテリングには欠かせない基本的な道具であること、私たちのように職能上の枠を超えたチームではそうした道具を使う方法とタイミングを把握する必要があることは明らかでした」。

それができたら、撮影監督、撮影スタッフ、第一助手カメラマン(ピント調整役)などと緊密になる。セットで彼らを観察したり、質問したりする。

「浅い被写界深度を使う理由、またそれがストーリーテリングという観点からどのように役に立つのかについて、撮影スタッフと話すことができたことも本当に良い刺激になりました。そこで覚えたのは、これは本当に陳腐化することのない知見ですが、見る人の注意を誘導する必要がある、ということです」。

「しかしこれは、現在のところ、スキルのあるプロ向けのアドバイスです」とマンザリ氏はいう。「あまりに難しいため、普通の人は試してみようとも思いません。1つのミスで数インチずれただけでだめです。これはポートレートモードで我々が学習したことです。いくら音楽やセリフで見る人の聴覚を刺激しても、視覚に訴えることができないなら、使いものになりません」。

その上にトラッキングショットがある。トラッキングショットでは、カメラが移動し、被写体もカメラに対して移動している状態で、ピント調整担当者は継続的にピントを合わせる必要がある。高度なスキルを要する操作だ。トラッキングショットを成功させるには、カメラマンは数年間、徹底的に練習を重ねる必要がある。マンザリ氏によると、アップルはここにビジネスチャンスを見出したのだという。

「これはアップルが最も得意とする分野なのです。つまり、難しくて、習得が困難とされている技術を、自動的かつシンプルにできるようにしてしまうというものです」。

チームはまず、フォーカスの特定、フォーカスロック、ラックフォーカスなどの技術的な問題に取り組む。こうした研究からチームは凝視にたどり着く。

「映画では、凝視と体の動きによってストーリーを組み立てていくのは極めて基本的なことです。人間はごく普通に凝視をコミュニケーションに使います。あなたが何かを見れば、私も同じものを見るという具合です」。

こうして、アップルのチームは凝視を検出する仕組みを組み込んでピントの対象をフレーム間で操作できるようにすることで、観る側がストーリーを追えるようにする必要があることに気づく。アップルは撮影現場で、こうした高度なスキルを備えた技術者を観察し、その感覚を組み込んでいったとマンザリ氏はいう。

「我々は撮影現場でこうした高い技術を備えた人たちと出会うことができます。彼らは本当に最高レベルの人たちです。そんな中、あるエンジニアが気づきます。ピント調整担当者というのはピント調整ホイールの感覚が体に染み付いていて、我々は、彼らがそれを操る様子を観ているだけだと。つまり、本当にピアノがうまい人が演奏しているのを観ていると、簡単そうに見えるけれど、自分にはできないことはわかっているのと同じ感覚です。ピント調整担当者が行っていることをそのまま真似ることなどできないのだと」とマンザリ氏はいう。

「第一助手カメラマンはアーティストで、自分がやっている仕事が本当にうまく、すばらしい技量を備えています。ですから、我々チームもフォーカスホイールを回すアナログ的感覚をモデル化しようと多くの時間を費やしました」。

これには、例えば長い焦点距離の変更と短い焦点距離の変更では、フォーカスホイールランプの操作スピードが速くなったり遅くなったりするため、変更の仕方が異なるといったことも含まれている。また、ピント調整が意図的かつ自然に感じられない場合、ストーリーテリングツールにはならない、とマンザリ氏はいう。ストーリーテリングツールは観る側に気づかれてはならないからだ。映画を観ていて、ピント調整テクニックに気づいたとしたら、おそらくピントが合っていないか、第一助手カメラマン(または俳優)が失敗したからだ。

最終的に、チームは映画撮影現場での調査研究を終えて多くの芸術的および技術的な課題を持ち帰ったのだが、それを解決するには極めて難しい機械学習の問題を解く必要があった。幸いにも、アップルには、機械学習研究者のチームとNeural Engineを構築したシリコンチームがいつでも協力してくれる体制があった。シネマティックモードに内在する問題の中には、これまでにない新しい独自のMLの問題が含まれていた。それらの問題の多くは非常に厄介で、微妙な差異や有機的な(人間くさい)感覚を維持するという掴みどころのないものを表現するテクニックを必要としていた。

シネマティックモードを試す

このテストの目的は、1日でできること(と午後のプールでのひととき)を撮影することだった。ディズニーランドに行けば誰もがやりたいと思うようなことだ。1人でカメラを持ち、特別なセットアップもなければ、撮影者の指示もほとんどない。ときどき、子どもにこっちを向いてというくらいだ。下の動画は、誰が撮っても大体こんな感じになるだろうというレベルを維持した。これは肝心なところだ。B-ROLL(ビーロール)はあまり用意していないし、何度も撮り直すようなこともしなかった。編集もしていない。唯一、撮影後にシネマティックモードを使っていくつか重要な場所を選択した。これは、エフェクトを入れるため、または自動検出機能によって選択されたカ所が気に入らなかったためだ。といっても大した編集ではなかったが、編集結果には満足している。下のデモ動画を再生できない場合は、こちらをクリックしていただきたい。

この動画はもちろん完璧なものではないし、シネマティックモード自体も完璧ではない。アップルがポートレートモードで導入して大成功した人工的なぼけ味(レンズブラー)は、1秒あたりの実行回数があまりに多くなる点が非常に苦しい。焦点追跡もカクカクすることがあるため、撮影後に編集するケースが想定していたよりも多くなるようだ。低照度設定でも問題なく動作するように思うが、高い精度を求めるならライダー光線の届く範囲内(約3メートル以内)で撮影するのがベストだ。

それでも、何を追跡しているのか、どこに向かっているのかはわかるし、このままでもとても便利で使っていて楽しい。多くのレビューがこのあたりを軽く流していることは知っているが、この種の新機能を(実際に使ってみるのではなく)人工的な負荷を与えてテストするのは、ごく普通の人がどの程度便利に使えるのかを確認するには、いささか雑な方法ではないかと思う。筆者が、2014年にディズニーランドでiPhoneのテストを始めた理由の1つもそこにある。iPhoneが数百万の人たちに使用されるようになって、処理速度とデータ量の時代はあっという間に過ぎ去りつつある。どのくらいの高い負荷を高速処理できるかはもうあまり重要なことではなくなってしまった。

人工的なテストフレームワークによって多くの早期レビューワたちが主に欠点を見つけているのを見ても別に驚きもしない(実際欠点は存在するのだ)。だが筆者は可能性のほうに注目したい。

シネマティックモードとは

シネマティックモードは実は、カメラアプリの新しいセクションに存在する一連の機能であり、iPhoneのほぼすべての主要コンポーネントを利用して実現されている。具体的には、CPUとGPUはもちろん、アップルのNeural Engineによる機械学習作業、加速度計による動きの追跡、そしてもちろんアップグレードされた広角レンズとスタビライザーも利用されている。

シネマティックモードを構成している機能の一部を以下に示す。

  • 被写体認識と追跡
  • フォカースロック
  • ラックフォーカス(ある被写体から別の被写体に自然にピントを移動する)
  • イメージオーバースキャンとカメラ内蔵スタビライザー
  • 人工的ぼけ(レンズブラー)
  • 撮影後編集モード(撮影後にピント変更可)

上記のすべての機能はリアルタイムで実行される。

動作原理

これらすべてを、リアルタイムプレビューや後編集で毎秒30回も実行するためには、控えめにみても、かなり大きな処理能力が必要だ。アップルのA15チップで、Neural Engineのパフォーマンスが飛躍的に向上しており、GPUの処理能力も大幅に向上しているのはそのためだ。上記の機能を実現するには、そのくらいの処理能力が必要なのだ。信じられないのは、シネマティックモードを1日中かなり使ったにもかかわらず、バッテリーの駆動時間が明らかに短くなるということがなかった点だ。ここでも、アップルのワットあたりのパフォーマンスの高さがはっきりと現れている。

撮影中でも、ライブプレビューによって撮影内容を極めて正確に確認できるので、そのパワーは明らかだ。撮影中、iPhoneは加速度計からのシグナルを拾って、ロックした被写体に自分が近づいているのか、逆に被写体から遠ざかっているのかを予測し、すばやくピントを合わせることができるようにする。

と同時に「凝視」のパワーも利用している。

凝視検出機能により、次の移動先となる被写体を予測し、撮影シーン中のある人物が別の人物を見たり、フィールド中の物体を見ている場合、システムはその被写体に自動的にラックフォーカスできる。

アップルはすでにセンサーをオーバースキャンしてスタビライザーを実現している(つまり、事実上フレームの「エッジを越えて」見ている)ため、設計チームは、これは被写体予測にも使えるのではないかと考えた。

「ピント調整担当者は被写体が完全にフレーム内に収まるまで待ってからラックを行うわけではなく、被写体の動きを予測して、その人がそこに来る前にラックを開始します」とマンザリ氏は説明する。「そこで、フルセンサーを実行することで動きを予測できることがわかったのです。このように予測することで、その人が現れたときには、すでにその人にピントが合っている状態になります」。

これは上記の動画の後半のほうで確認できる。娘がフレームの左下に入ってきたときにはすでにピントが合っている。まるで、目に見えないピント調整担当者がそのシーンに娘が入ってくるのを予測して、そこ(つまりストーリーに新しく入ってきた人)に観る人の注意を惹きつけているかのようだ。

撮影した後も、焦点を修正して、クリエイティブな補正を行うことができる。

シネマティックモードの編集ビュー(画像クレジット:Matthew Panzarino)

撮影後の焦点選択ですばらしいのは、iPhoneのレンズは非常に小さいため、当然の結果として、被写界焦点が極めて深くなる(だからこそポートレートモードやシネマティックモードで人工的なぼけを実現できる)。つまり、物体に非常に近い位置にいない限り、フレーム内の任意の物体を選択してピントを合わせることができる。その後、シネマティックモードがすべての動画について保持している深度情報とセグメンテーションマスキングを使用してリアルタイムで変更が行われ、人工的なぼけエフェクトが再生される。

筆者は、iPhone 13 Proのレビューで、シネマティックモードについて次のように書いた。

このモードは、マーケティング上はともかく、焦点距離の設定や膝を曲げてのスタビライズ、しゃがんで歩いてラックしてのフォーカシングなどの方法を知らない大多数のiPhoneユーザーに、新たなクリエイティブの可能性を提供することを目的としている。今までは手の届かなかった大きなバケツを開けるようなものだ。そして多くの場合、実験的なものに興味があったり、目先の不具合に対処したりすることを厭わない人は、iPhoneの思い出ウィジェットに追加するためのすばらしい映像を撮影することができるようになると思う。

この機能をデモするためにアップルがどの映画会社と組もうと興味はないが、この機能から最大の恩恵を受けることができるのは、必ずしもカメラの操作に長けている人たちとは限らないと思う。幸いにも手が空いていて、このコロナ禍という厳しい現実の中でも、そこにいたときの気持ちを撮りたいという基本的な欲求を持っている人たちこそ最大の恩恵を受けるのではないか。

そして、それこそが映画という媒体の持つパワーだ。そこにいたときの気持ちになれる。シネマティックモードは、この初期バージョンではまだまだ完璧には程遠いが、従来よりもはるかに容易で、扱いやすい形で、これまではとても手が出せなかった世界への扉を開く道具を「ごく普通の人たち」に与えてくれるものだ。

現時点では、詳しく見ていけば不満な点もたくさんあるだろう。しかし、初めて実物のカイロ・レンを目の当たりにしたときの子どもの反応を撮影したことがある人なら、気にいる点もたくさんあるはずだ。完璧ではないからといって、この種の道具が使えることに異を唱えるのは難しい。

「私が誇りに思うのは、誰かが私のところにやってきて、写真を見せてくれたときです。写真の出来栄えを誇らしげに語り、自分が突如として才能あるクリエーターになったかのように満面の笑みをたたえて、こんな風に話してくれる。『私は美術学校など行ったこともないし、デザイナーでもない。私を写真家だと思った人など1人もいないけど、この写真は本当にスゴイでしょ』と」とマンザリ氏はいう。

「映画は人間のさまざまな感情やストーリーを見せてくれます。そして、基本を正しく抑えていれば、そうした感情やストーリーを観る側に伝えることができる。iPhoneであなたにも新しい世界が開けるのです。私たちはシネマティックモードに長い間、本当に懸命に取り組んできました。お客様に実際に試していただけるのを本当に楽しみにしています」。

画像クレジット:Matthew Panzarino

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(文:Matthew Panzarino、翻訳:Dragonfly)