7月設立の慶大初のVC「KII」の投資1号は、AI開発の「カラフル・ボード」

慶應イノベーション・イニシアティブ」(KII)の山岸広太郎CEO(左)と、カラフル・ボード創業者の渡辺祐樹CEO(右)

慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)の山岸広太郎CEO(左)と、カラフル・ボード創業者の渡辺祐樹CEO(右)

kii-logoここ1、2年、大学発の技術系ベンチャーファンドが次々と立ち上がっている。すでに3号ファンドとなっている東京大学エッジキャピタル(UTEC)の145億円や京都大学イノベーションキャピタルの160億円など100億円を超えるファンドも少なくない。Beyond Next Venturesのような独立系VCや、ユーグレナSMBC日興リバネスキャピタルなど事業会社によるCVCのファンドを含めると、2013年以降の大学発研究開発系のベンチャー資金は総額で約1300億円となっている。旧帝大だけでなく、2016年に入ってからは東工大や東京理科大もそれぞれ40億円規模のファンドを設立している。

慶應大学発の「慶應イノベーション・イニシアティブ」(KII)も、そうしたファンドの1つ。45億円のファンド規模で7月1日に設立されたばかり。1社あたり2億円程度、最大5億円ほどを開発に時間のかかることもある研究開発系のスタートアップ企業20社ほどに投資していく計画だ。KIIは元グリー副社長の山岸広太郎氏がCEOを務める、ということで、ちょっと関係者は驚いたかもしれない。山岸氏は日経BP編集記者、CNET Japanの初代編集長を経て、グリーを共同創業。グリーの副社長として10年間事業部門を統括してきた人物だ。

そのKIIの投資案件第1号となったのは、TechCrunch Japanでも以前に紹介したことのあるAI系スタートアップのカラフル・ボードだ。カラフル・ボードは10月11日、KIIに対する第三者割当増資により5000万円の資金調達を実施したことを発表した。カラフル・ボードは2011年の創業。2015年5月にACAをリード投資家とする1.4億円の資金調達などと合わせて、これまでに合計約3億円を調達したことになる。

カラフル・ボードを創業した渡辺祐樹CEOは、2005年に慶應義塾大学理工学部を卒業。フォーバル、IBMビジネスコンサルティング(現:日本IBM内のコンサルティングサービス部門)などでの戦略コンサルタントを経て起業している。学部在籍時には人工知能を研究していたが、研究者になることよりも技術で世の中に役に立つものを作り出したいとの思いからカラフル・ボードを創業していて、そういう意味ではKIIの投資1号案件にはピッタリという印象だ。

KIIの山岸CEOによれば、これまで慶應大学が直接出資したベンチャー企業は全部で13社。そのうち3社、ブイキューブ、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ、サンバイオが上場しているほか、ハイテク素材のスパイバーなども注目株となっている。

大学発ベンチャー、あるいは研究開発系ベンチャーというと、医療・介護、バイオ、素材、ロボティクス、製薬などの分野が思い浮かぶ。一方、カラフル・ボードはファッションや食(味覚の定量化)へのAIの適用を進めているので、相対的には資金需要が小さい分野に思える。山岸CEOによれば、KIIの狙いは「慶應大学の研究成果を社会実装していく」こと。カラフル・ボードが持つAI技術そのものだけでなく科学研究で使われるようなセンサーデータや生体情報のセンシングデータなど、慶應大学でつながる複数の研究を融合させるような応用にも期待している、ということだ。KIIの投資領域は、IT融合領域(IoT、ビッグデータ、AI、ロボティクス、ドローンなど)、デジタルヘルス(医療・介護)、バイオインフォマティクス、(ITxバイオ)、再生医療など慶應大学が強いジャンルで、社会的インパクトの大きい分野だという。

カラフル・ボードはAIによるファッションアイテムのリコメンドアプリ「SENSY」からスタートして、ワインや日本酒の個々人の嗜好の分析と提案というB2B2Cモデルで技術適用の実証実験を進めてきた。三菱食品や伊勢丹と協力し、売り場でAIを使った未完診断を実施。試飲後に購買につながる「CVR」を向上させつつあるそうだ。顧客の味覚データの可視化して、これを売上データと重ねることで、これまでできていなかった商品ジャンルごとの売場面積の最適化や販促施策などが打てるようになる、という。カラフル・ボードのチームは現在研究者3人、エンジニア7人を含む14人。今後研究者やエンジニアを増やしていくという。

シンガポールのNugitが520万ドルを調達 AIを利用したビッグデータ分析サービスを提供

Colorful data graphs on glowing panel of computer screens

ビッグデータの時代が訪れ、データの組織化と処理の効率化が求められるようになった。それこそがマーケティングに特化したシンガポールのスタートアップであるNugitが得意とする分野だ。今週、同社はSequoia CapitalがもつIndia Fundから520万ドルを調達したことを発表した。Nugitは昨年、500社のスタートアップとThe Hub Singaporeから金額非公開のシード資金を調達している。

オーストラリア出身のマーケッターであるDavid Sandersonが創立したNugitは、顧客企業と顧客が持つデータ・プラットフォームの仲介役となり、そのデータが持つ意味を浮き彫りにする機能をもつ。現在はFacebook Ad Manager、Google AdWords、DoubleClickなど15個のデータ・プラットフォームをサポートしている。Nugitのアイデアとは、データに存在するノイズを排除するだけでなく、Nugit自体がPowerPointなどの「即座に意思決定につながる資料」を作りだすことで、デジタル・マーケッターの負担を軽減するというものだ。

マーケッターがデータを扱う際には、データのクリーニングやアラインメントなど数多くのプロセスを手作業でこなす必要がある。しかし、GroupMや他の広告代理店で勤務していたSandersonは、コンピューターを利用すればそのプロセスをただ完了させるだけでなく、データが持つ意味を浮き彫りにすることができると気づいたのだ。こうして、人間には相当の労力が必要なプロセスのオートメーション化を目的にNugitが設立されることとなった。

Nugit CEOのSandersonはTechCrunchとのインタビューの中で「そのようなプロセスは特にデジタル分野のマーケッターにとってエキサイティング時間でもあります。しかし、データの量が多すぎると質の高い分析を行うことが難しくなってしまいます。人間が処理できるデータの量は限られており、そのために置き去りにされるデータがあるのです。それに加え、人々はデータを集めることにうんざりしていて、代わりに即座に意思決定につながる情報を欲しがっています」と語る。

シンガポールを拠点とする25人のチームからなるNugitの顧客企業には、FacebookやJohnson & Johnson、Publicisなどがある。同社の料金体系はデータの量やソースによって利用料金が変わる会員料金型だ。会員料金は最低で500ドル、最高で2000ドルだ。また、特別なインテグレーションやホワイトラベル化された製品を必要とする顧客向けには、それぞれにカスタマイズしたオプションも提供している。

Sandersonによれば、元々は彼がよく知る広告代理店業界向けのビジネスとして始まったNugitではあるが、大量のデータを抱える他分野の業種にもビジネスの範囲を広げつつあるという。その最近の例として、金融業界の会計データの処理にNugitのテクノロジーを利用したいとのアプローチがあったとSandersonは話してくれた。

「多くの組織が大量のデータを保有してはいますが、社内に分析チームを抱えていてもデータを大規模に分析することができていません。そのような分析チームのほとんどが、多種多様なツールを使って人間の手でデータの分析を行っています」とSandersonは語る。「あと1年か2年もすれば、企業のコアとしてNugitが提供するようなデータマネジメント能力が必要だと気づくようになるでしょう。それはデジタルメディア向けのキャンペーンに関してのデータであっても、企業の財政データであっても、もしくは消費者の新製品購入に関するデータであっても同じことです」。

Nugitは今回調達した資金によって、R&Dを強化して同社のテクノロジーのさらなる開発に努めるとともに、新しい業種にもビジネスの範囲を広げていく予定だ。Sandersonによれば、来年の終わりまでに従業員の数を2倍に増やすことも考えているという。しかし、拠点はシンガポールのまま変わらず、今後もアジア地域の企業やグローバル企業にフォーカスしていくと話している。同社は顧客が利用できるSDKの開発にも取り組んでおり、これが実現すればNugitをベースにカスタマイズされたソフトウェアを顧客自身が構築することが可能になる。

Sequoia CapitalがアジアのAI系スタートアップに投資したのはNugitで2社目だ。今年の8月、Sequoiaはインドとアメリカを拠点にEコマース向けのサービスを開発するMad Street Denに対して金額非公開の出資を行っている。また、9月にはNugitと同じくシンガポールのAI系スタートアップであるViSenzeが楽天から1050万ドルを調達している。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Websie /Facebook /Twitter

インフォステラが6000万円を調達、人工衛星との通信手段を「クラウド化」で低コストに

人工衛星向けアンテナシェアリングサービスを手がけるスタートアップであるインフォステラがシードラウンドで6000万円の資金を調達した。フリークアウト、500 Startups Japan、エンジェル投資家の千葉功太郎氏に対して第三者割当増資を実施する。

同社のビジネスモデルは、人工衛星のための通信リソースを効率よくシェアすることでコストを下げ、使い勝手を高めるというものだ。いわば衛星通信インフラのクラウド化だ。同社は「宇宙通信分野のAWS(Amazon Web Services)になりたい」(取締役COOの石亀一郎氏)と話している。

打ち上げられる人工衛星の数は急増しているのに対して、人工衛星の運用に不可欠な地上局の運用コストは高価なまま──同社はここに目を付けた。

infostellar1

インフォステラの提供するサービスの概念図。既存の地上局のアンテナ、同社の無線機、それにクラウドサービスを組み合わせ、人工衛星運用に欠かせない「通信機会」を効率よくシェアして提供する。

低コスト人工衛星の需要増に対応し、地上局との通信機会を提供

商用宇宙開発のブームについては読者はすでにたくさんの話題を耳にしていることだろう。イーロン・マスクのSpace X、ジェフ・ベゾスのBlue Originが再利用可能な打ち上げロケットを開発し、日本では堀江貴文氏が後押しする小型ロケットのスタートアップであるインターステラテクノロジズ(ITS)がチャンスをうかがっている。彼らが目指すのは、より低コストな人工衛星打ち上げ手段を提供することだ。背景には人工衛星の需要が急増していることがある。

特に超小型人工衛星の需要が急増している。以下のグラフを見てほしい。低コストを特徴とする超小型人工衛星(Cube Sat)の打ち上げ数を示すグラフだが、2013年から2014年にかけて打ち上げ数が年間100機のラインを突破して急増していることが分かる。「打ち上げる衛星の予約は先まで詰まっていて、今はロケットがネックになっている。安いロケットがあればバサバサ決まる状態にある」(石亀氏)。

cubesat1

超小型人工衛星(Cube Sat )の打ち上げ数は急増している。Satellite Industry Reportより引用。

打ち上げ手段と人工衛星の需要が揃えば、次に解決すべき課題は通信手段の確保だ。人工衛星を追尾可能なアンテナを備えた地上局の設備は有限の資源だ。さらに、超小型人工衛星が投入される低軌道では人工衛星が視野に入る可視時間が短く、一つのアンテナで通信できる時間は1回あたり十数分にとどまる。つまり、人工衛星との通信機会は希少性がある資源なのだ。

こうした背景から、人工衛星向け通信手段を提供する企業は数が限られており(ノルウェーKSAT、スウェーデンSSCが寡占状態にあり、最近ではRBC Signalsが登場している)、価格も高止まりしているのが実情とのことだ。つまり、スタートアップの参入余地がある分野ということだ。

人工衛星の需要増に伴い、人工衛星と地上局との間のデータ通信の需要も急増している。例えばリモートセンシングによる地上の画像のデータを集めて気象、交通量などのデータを抽出する取り組みが盛り上がっているが、こうした分野では大量の画像データを人工衛星から地上局へ転送する必要がある。地表をくまなく撮影できる人工衛星を打ち上げても、通信機会を十分に増やさなければ取り出せる画像データが限られてしまう。

インフォステラが狙うのは、既存の地上局のネットワークを作り、通信機会という資源を効率よく配分し、低コストで顧客に供給することだ。衛星通信に必要なアンテナは既存の設備を借りる。ただし、通信機は自社開発のものを使う。衛星通信分野では標準規格が確立していないことから、幅広い周波数帯(バンド)に対応できる通信機を開発して適用することで通信機会を増やす狙いだ。

クラウドサービスは大規模なサーバーインフラを多数のユーザーでシェアし、手軽かつ低コストに時間課金で利用できるようにする。同様に、インフォステラのサービスでは世界各地に散らばる人工衛星用の地上局をパス(通信機会)単位の課金で利用できるようにする考えだ。地上局設備の初期投資なしに、人工衛星との通信機会(パス)を買うことができるのだ。

宇宙開発では、自分たちの人工衛星のために地上局のアンテナを設置してきた事例が多い。ただし、自分たちの人工衛星の運用に使うだけではアンテナの空き時間が長く、稼働率は低いままとなる。アンテナ保有者にとって、アンテナの空き時間を売ることができれば新たなビジネス機会となる。

創業メンバーは宇宙と無線のプロ

インフォステラは2006年1月の設立。創設メンバーはCEOの倉原直美氏、COOの石亀一郎氏、社外取締役の戶塚敏夫氏の3名である。

1-01hodoyoshi

超小型人工衛星「ほどよし」1号機の外観。形状は1辺約50cmの立方体で質量約60kg。

桑原直美CEOは人工衛星の地上システムのプロフェッショナルだ。東京大学で、内閣府の最先端研究開発支援プログラム(FIRST)に採択された超小型衛星「ほどよし」のプロジェクトにおいて地上システム開発マネージャーを務め、北海道大樹町における人工衛星データ受信用パラボラアンテナと運用管制システムの設置にも関わった。なお、「ほどよし」プロジェクトは人工衛星スタートアップであるアクセルスペースが参加していることでも知られている。

石亀一郎COOは、学生時代に宇宙ビジネスに関するメディアastropreneur.netを運営し、アニメグッズのフリマアプリを運営するセブンバイツのCOOを経験している。今回で2度目のCOOへの挑戦となる。社外取締役の戶塚敏夫氏は無線機メーカーのエーオーアール取締役専務だ。エーオーアールはインフォステラのシステムに必要となるユニバーサル無線機の開発も手がけている。

創業メンバー以外に、顧問として超小型人工衛星の第一人者である東京大学の中須賀真一 教授(前述の「ほどよし」プロジェクトの中心人物でもある)と、元ヤフーCTOで現在フリークアウト執行役員の明石信之氏が名前を連ねている。

アドテク、Web、IoTの技術を投入

ところで、今回のシードラウンドで筆頭に挙がっている投資家はアドテクノロジーを手がけるフリークアウトである。前出のフリークアウト執行役員の明石氏はインフォステラに対してエンジニアリング面での支援を行っているとのことだ。

ここでは取材内容から想像できる部分を記すに留めるが、アドテクノロジーと衛星通信との関係は、どうやらあるようだ。アドテクノロジー分野では、ユーザーが広告を閲覧する機会(インプレッション)と広告主のニーズとをマッチングする仕組みがビジネス価値の源泉となっている。一方、インフォステラのビジネスでは、人工衛星が地上局と通信できる通信機会(パス)という資源と、人工衛星を運用するユーザーとのマッチングがビジネスの根幹となる。この部分で、Webやアドテクノロジーで培った技術的なノウハウが役に立つ──らしい。

インフォステラでは、「今回のシード投資をテコにエンジニアの求人を活性化させたい」(石亀氏)と話している。同社が作り上げているのは、人工衛星用のパラボラアンテナと接続した通信機から取り出したデジタルデータをリアルタイムに処理し、さらにクラウドサービスに吸い上げて処理する仕組みである。いわゆるエッジコンピューティングやAWSのIoT向けの機能群などの最新技術を投入する必要があるとのことだ。

宇宙ビジネスに取り組む起業家が活躍し、人工衛星打ち上げが増え続けていることから、人工衛星向けアンテナシェアリングサービスの必要性も増していく。同社のチャレンジに期待したい。

リファラル採用ツール「Refcome」のCombinatorがBEENEXTなどから5000万円の資金調達、開発・サポートを強化

左からBEENEXTの前田ヒロ氏、Combinator代表取締役の清水巧氏、Draper Nexus Venture Partnersの倉林陽氏、ANRIの佐俣アンリ氏

左からBEENEXTの前田ヒロ氏、Combinator代表取締役の清水巧氏、Draper Nexus Venture Partnersの倉林陽氏、ANRIの佐俣アンリ氏

リファラル採用(紹介採用)支援サービス「Refcome(リフカム)」を手がけるCombinatorは10月6日、BEENEXT、ANRI、Draper Nexus Venture Partnersを引受先とした総額5000万円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。

7月にリリースしたRefcomeは、効果的なリファラル採用を行うための施策設計のサポート(コンサルティング)に加えて、人事担当者、社員、社員の友人(採用対象)の3者に向けた機能を提供する。

社員への人材紹介依頼機能や、協力した社員の管理機能、そして友人の招待を促すメッセージの作成機能を提供することで、人事、社員の双方に余計な手間がかからないリファラル採用が実現する。利用料は導入企業の社員数やコンサルティング内容によって異なるが月額7万〜10万円程度。正式公開から3ヶ月で、すでに約30社9000人に利用されているという。

screenshot_667同社は今回調達した資金をもとに、開発および営業・サポート体制を強化。リファラル採用の支援だけでなく、より良い組織創りのヒントが得られるプロダクトの開発を目指すとともに、サポート体制を整えることで、企業ごとに最適化したリファラル採用の施策を支援できるようにするとしている。

「Incubate Camp」での優勝が資金調達の契機に

Refcomeの正式公開から3カ月で資金調達を実施したCombinator。その経緯には7月15日、16日に開催されたスタートアップとベンチャーキャピタリストの合宿「Incubate Camp」が大きく関わっている。

「BEENEXTからの投資はIncubate Campが開催される前に決まっていたのですが、ANRI、Draper Nexus Venture Partnersからの投資はIncubate Campでの結果があったからこそ、決まったのではないかなと思っています」(Combinator代表取締役の清水巧氏)

Incubate Campはシードラウンドの資金調達およびサービスリリース済みで、さらなる事業成長を目指して資金調達を希望するスタートアップとVCが一堂に会し、2日間で事業アイデアを磨きあげる合宿イベント。今回参加した17社のスタートアップの中で、Combinatorは最も高い評価を獲得。その結果も相まって、3社のVCから資金を調達することができたという。

3人の投資家と一緒に戦おうと思ったワケ

もちろん、Incubate Campに参加していたVCは数多くいる。様々な選択肢が用意されている中、なぜCombinator代表取締役の清水巧氏はBEENEXT、ANRI、Draper Nexus Venture Partnersの3社から投資を受けることにしたのだろうか?

「BEENEXTは前田ヒロさんがいたからです。前田ヒロさんには、スタートアップに特化した仲間集めプラットフォーム「Combinator」を立ち上げた頃から事業の相談に乗ってもらってたんです。その経験もあって、今回資金調達の相談をしに行ったら、その場で快諾していただけて。前田ヒロさんは起業家と一緒になって事業をつくっていくことに強みを持っている方だと思っているので、僕自身、一緒にRefcomeをつくっていきたいと思っていました」(清水氏)

清水氏自身、Refcomeはプロダクトマーケットフィットの少し前の段階と話しており、”事業・組織づくり”の観点から前田ヒロ氏が所属するBEENEXTを選択した。ANRI、Draper Nexus Venture Partnersを選んだ理由もそれぞれある。

「Draper Nexus Venture PartnersはIncubate Campでメンタリングを担当してくれたこともあるのですが、パートナーの倉林陽さんがSaaSの領域に強く、BtoBサービスのグロースの方法に精通していた方だったので、その方法を教えてもらいたいと思いました。ANRIの佐俣アンリさんはCombinatorの創業時から相談に乗ってもらっていて、僕のことをすごく理解してくれ方だと思っていました。また、すごくビジョナリーで大変なときも背中を押してくれるので一緒に戦っていきたいと思いました」(清水氏)

組織課題も解決できるようなサービスに

実際、3カ月間サービスを走らせることで見えたこともある。それはリファラル採用のハードルを下げられたこと。リファラル採用の導入・運用の簡略化させることで、「リファラル採用って何から始めて良いかわからない」という人事担当者の悩みに答えることはできた。

しかし、一方で「ツールを導入すればリファラル採用が上手くいく」と思っている企業も一定数出てきたという。その原因は、リファラル採用を運用していくための仕組みづくりができていないことにあるので、今後、清水氏はRefcomeを社員満足度や組織課題を可視化できるようにし、より良い組織づくりのヒントが得られるプロダクトにしていくそうだ。

また、企業によって最適なリファラル採用の手法が異なることもわかったため、カスタマーサポートの採用を強化。導入企業のサポート体制を整えることで、企業ごとに最適化したリファラル施策を支援できる基盤を整えていく。

「3カ月間サービスを運用していく中で、リファラル採用の導入ハードルを下げることはできたかなと思っています。ただし導入後、リファラル採用が定着していない企業も多くある。もちろん、リファラル採用の導入・運用の簡略化も継続して行っていきますが、リファラル採用をきちんと運用できるよう、組織づくりもサポートできるサービスにしていきたいと思っています」(清水氏)。Combinatorでは2016年中の導入企業100社を目指す。

アーリーステージの企業がShippoのシリーズAから学ぶべきこと

shippo-seriesa-banner-1

シリーズAのクロージングは難しいことで有名だ。その厳しさから”シリーズA危機”という言葉が生み出されるほどである。また、シードラウンドで資金調達に成功したスタートアップのうち、25%しかシリーズAをクローズできないとも推定されている。

複数の配送会社に対応したAPIを提供しているShippoは、その苦難を乗り越えたスタートアップのひとつだ。先月同社は、USVをリードインベスターとするシリーズAで700万ドルを調達したと発表し、今後USVのAlbert Wengerを取締役として迎える予定だ。

他の起業家がShippoの経験から学べるよう、彼らは特別な計らいとして、シードラウンドとシリーズAで使われたプレゼン資料を一般公開することを決めた(記事の末尾参照)。プレゼン資料からは機密情報が取り除かれているものの、Shippo CEOのLaura Behrens Wuはそれぞれの資金調達の詳細について話をしてくれた。

TC:2014年にシードラウンドで資金調達をしようとしていたときの話からはじめましょう。いつ頃資金調達の必要性を感じましたか?また、その時はどんなゴールに向かって進んでいましたか?

Wu:Shippoをはじめてから7ヶ月経った頃に資金調達を決断しました。最初の4ヶ月は手持ちの資金を使い、残りの3ヶ月は500 Startupsのプログラムに所属していて、Shippoの成長に関する数字を確認したとき資金調達の必要性に気づきました。機能しているプロダクト・満足している顧客・取引量の増加という、ビジネスに最低限必要なものはその頃既に揃っていたんです。一方で、その当時私たちのプロダクトがヒットしていたとも、市場にフィットしていたとも言えないんですけどね。その頃から何度も何度もプロダクトの改良を行ってきましたし!

新米ファウンダーだった私たちは、Shippoのビジネスに参加して会社の成長を手助けしてくれるような支援者を探していました。また、事業の成長に専念できるよう、資金調達のプロセスは本業とは全く別のスケジュールで捉えるようにしていました。

TC:あなたと共同ファウンダーのSimonはどちらも外国人ファウンダーですよね。アメリカではどのように投資家とのネットワークを作っていったんですか?

Wu:当初は500 Startupsを通じてでしたが、その後は自分自身の評判を高めることでネットワークを築いていきました。さまざまな場面で会う投資家(や他のファウンダーなど全員)に、自分のことを、信頼に値し責任感がある人だと考えてもらいたいですよね。そのためにも、自分が約束したことを必ずやり遂げるということが大切です。アドバイスをもらって人の時間を使っておきながら、なにもアクションを起こさないなんてことは、絶対にしてはいけません。

TC:当時のShippoの段階において、投資家はどのような指標を重要視していたんですか?

Wu:投資家はトラクションの兆候を見たがっていました。私たちは、ユーザーが常にShippoを利用し、気に入っている(利用率・継続率の増加、低い解約率などを指標として)ということを投資家に証明することができました。また、常に議論にあがっていたのが市場規模で、支援先企業にとって十分な可能性がその市場にあるのかというのを彼らは知りたがっていました。

TC:シードステージにある企業には、何も指標がなかったり、あったとしても価値ある洞察が得られるほどではないという場合が多いと思いますが、彼らにはどのようなアドバイスをしますか?

Wu:ひとつのKPIを重視するということですね。指標を得たいがために複数の指標を準備する必要はありません。本当に意味のある数値だけに集中するんです。もしもそれが何か分からない場合(もしくは目標に到達しない場合)は、お客さんが自分たちのプロダクト無しでは生きていけないと思うほど、彼らを満足させることに集中すればいいんです。

TC:投資家を説得させるのが最も難しかったことはなんですか?

Wu:マーケットプレイスやECが盛り上がっている一方、配送業に注目している投資家はあまりいませんでした。配送業に隠された問題を知らない人にとっては、とても地味な業界ですからね。しかし、そのうち問題の深層や、私たちのプロダクトがどのようにその問題を解決できるか、さらにはそこからどのようなデータが得られるか、といったことにある人が気づきはじめると、段々と興奮が高まっていったんです。

TC:ラウンドはクローズまでにどのくらいかかりましたか?また、ラウンド自体はどのように構成されていたんですか?

Wu:私たちが資金調達に注力しようと決めてからは、全部ひっくるめて約4ヶ月程度かかりました。その間に125もの投資家と話をしました。一旦勢いづくと、とても上手く進んで行き、全てが3週間のうちにまとまりました。当時はYC Safeがまだなかったので、法律事務所が用意した通常のコンバーティブル・ノートの書類を準備して、Jeff Clavierがそれを基にプライスドラウンドを計画しました(これはとても一般的な書類とプロセス)。

他社とちょっと違っていたのは、シード段階のプライスドラウンドで取締役のポジションを投資家に渡したことですかね(これは一般的なアドバイスに反する動き)。しかしこれは私たちにとって、とても価値のあることでした。シード段階で取締役になるということは、私たちが成功するまで支援し協力するという覚悟をその投資家が持っているという表れですからね。私たちがシリーズAで資金調達した際に、Jeffは取締役のボジションをはずれ、通例に従ってシリーズAの投資家が取締役になれるよう席を空けてくれました。

TC:会社をシードステージからシリーズAで資金調達ができるようになるまで成長させる上で、1番大変だったことはなんですか?

Wu:ファウンダーに期待される役割がすごい速さで変わっていくことです。もともとは全て自分たちでやっていたのに、専門家を雇って権限を委譲していなかければいけません。そしてファウンダーとしての私たちの役目は、会社がスケールするにつれて目まぐるしく変わっていきます。チームが出来上がってくると狂乱状態がおさまってきて、より大きな課題に取り組めるようになるんですが、それでもプレッシャーは変わらずそこにあります。ただ、そのプレッシャーは当初のものとは少し性質が違うような気がします。

TC:スタッフの雇用というのはどのファウンダーも直面する課題のようですが、どうやって効率的に人を雇う術を学んだのですか?

Wu:当初は、以前自分の下で働いていた人や一緒に働いていた人など、知り合いを当たるのが1番の手段でした。しかしそれでは数が稼げません。

私たちは、大規模な雇用方法についてはまだまだ模索している最中です。雇用は、一時期私が自分の時間の約80%を費やしていた程、シリーズA後のShippoにとって大きな焦点のひとつとなっています。現在私たちは、リクルーターや紹介ボーナス、ブランディング、カンファレンス参加など、さまざまな方法を試しているところです。近いうちに新しい情報を共有できればと思っておりますのでお楽しみに!

TC:シリーズAでは、どのようにアプローチ先となるVCを決めましたか?シードラウンドと比較して話をしたVCの数に変化はありましたか?

Wu:シリーズAでは25社のVCと話をしました。さらに私たちは、組織としてのVCだけでなく、その中にいるパートナーという存在に重きを置いていました。また、これまでに大型のマーケットプレイスやEC企業の立ち上げに関わったことがあり、願わくばECショップが日々直面している配送に関する問題点を理解しているような投資家と仕事をしたいと考えていたんです。結果的に、シードラウンドの投資家の支援を引き続き受けると同時に、USVのAlbert WengerがShippoに参加することとなり、私たちは興奮しました。Albertが持つTwilio(別のAPI企業)とEtsyでの経験は、非常に貴重ですからね。

シードラウンドに比べるとずっとタイトな日程でしたが、自分たちのスケジュールに沿って、プロセスに振り回されるのではなく、私たちの方からプロセスを進めていきました。

TC:プレゼン資料以外に、デュー・デリジェンスの一環として何か別の資料を準備しましたか?

Wu:シリーズAのミーティングに向けて、Shippoのフィナンシャルモデルと収支予測が正確かつ完全かというのをチェックし、顧客からの推薦状も持っていきました。さらにはSocial Capitalのmagic 8-ball分析を行い、これは投資家だけでなく私たちにとっても大変有益な情報でした。今でも会社の状況を確認するために分析結果を使っています。

TC:シリーズAでの資金調達前に知っておけばよかったと思うことは何ですか?

Wu:数週間の間でシリーズAの投資家について深く知ることはできないため、彼らとは資金調達のプロセスを開始するずっと前から関係性を築きはじめなければいけません。そして資金調達の段階で、既にどの投資家に参加して欲しいかというのが分かっていれば、彼らとの会議がもっと効果的なものになります。

TC: Shippoの投資家であるAlbert Wenger(USV)やJeff Clavier(SoftTech VC)とはよく話をしているようですが、積極的なアドバイザーの存在はどのくらい重要だと思いますか?

Wu:Jeffとは月次の電話ミーティングをしていますが、それだけでなく必要に応じて彼とは連絡をとっています。何かあればどんなときでも彼にテキストを送っていますし、Albertについても同じことが言えます!

私は定期的に連絡をとることで信頼関係が構築されると強く信じています。投資家は(悪い)ニュースを聞いたときに驚くべきではないと思いますし、彼らとは常に会社の動向に関する最新情報を共有すべきだと思います。つまり、取締役会の場にサプライズがあってはいけません。

Version OneのBoris WertzFundersClub、500 Startups、Jeff、Albertは、大企業との交渉の場や、見込み顧客への紹介、採用者候補の選定、オペレーションに関するアドバイスなど、さまざまな場面で私たちにとってかけがえのない存在でした。

TC:シリーズAに到達するのは大変ですが、シリーズBに到達するのも同じくらい大変ですよね。今後Shippoの成長を持続または改善するにあたって、どんなことを考えていますか?

Wu:成長を続けるには、繰り返しになりますが人材の雇用が不可欠です。Simonと私しか会社にいなかった頃は、私たちが全部やらなければいけませんでした。でも今は、自分たちのやっていたことを他の人ができるようにしなければいけません。そのためには、仕組みやプロセスが必要で、現在専門家の力を借りながらそのシステムを構築しようとしています。最高の幹部陣を揃えるのは本当に重要です。

また、私たちは話をした全ての投資家から資金を調達したわけではありません。その代わり資金調達のプロセスで、たくさんの素晴らしいフィードバックを得ることができました。そのフィードバックを持ち帰って、私たちの事業のさまざまな点を改善するのに使おうとしているところです。

TC:Shippoの次の一手は何でしょうか?

Wu:私たちはどんな企業や人に対しても、よりスマートにものを送ることができるテクノロジーを提供したいと考えています。

Shippo Seed Deck

Shippo Series A Deck

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

語学学習サービス「HiNative」のLang-8が2億円調達——開発・マーケを強化し17年末250万ユーザーを目指す

Lang-8代表取締役の喜洋洋氏

Lang-8代表取締役の喜洋洋氏

「9年目にしてやっと『レバレッジをかけて伸ばす』ということの意味が分かってきた」——Lang-8(ランゲート)代表取締役・喜洋洋氏はこう語る。同社は10月5日、京都大学イノベーションキャピタル、East Ventures、ディー・エヌ・エーのほか、千葉功太郎氏、Justin Waldron氏(元 Zynga co-funder)をはじめとした個人投資家数人を引受先とした第三者割当増資を実施し、総額2億円の資金を調達した。

screen696x696

Lang-8の創業は2007年。当時京都大学の大学生だった喜氏が立ち上げたスタートアップだ。提供していたのは語学学習向けSNSの「Lang-8」。京都にてサービスを運営していたが、2012年には本社機能を京都から東京に移転。2013年にはOpen Network Labのインキュベーションプログラムに参加した。

SNSのLang-8を運営しつつ、2014年11月に正式ローンチしたのが新たな語学学習サービス「HiNative」だ。これはとある国の言語を学んでいるユーザーが「○○語(学習している言語)で□□はどう表現するか」という質問を投稿し、その言語を母国語に持つユーザーがテキストや音声で回答するというQ&A型のサービスだ。

積極的なプロモーションこそは行わなかったが、ユーザー数は徐々に増えていった。変化が起こったのは2015年末。SEOでウェブ経由の流入が増えたほか、YouTuberを起用したマーケティングが奏功した。これにともなって登録ユーザーも増加。2016年1月時点の6万人だった登録ユーザーは、9月末には4倍の24万人まで拡大した。

集まった質問は9月末時点で96万件。回答数は340万件に上る。対応言語数は120言語で、それらの言語の使われるほぼ全ての国からアクセスされているという。

「2015年は地道にリテンションを改善する施策を進めた。質問に対する回答が早いとユーザーの満足度が上がり、リテンションもよくなる」(喜氏)。質問に対して回答がつくまでの平均時間は2016年初の90分から約30分に短縮。今後は5分以内に回答がつくよう仕組みの導入も検討しているという。

ウェブ版「HiNative」の月間ユニークユーザー数

サービスの質を変えるとともに、冒頭の言葉のように、レバレッジをかけてユーザーを集めることにも力を入れる。「今までは広告でユーザーを増やすという発想がなかったが、薄く、長い時間を掛けるのは意味がない。経営者思考を持ってユーザーを大きく増やしていきたい。さまざまな国のユーザーを集めて、ユーザー数1000万人規模のサービスに育てれば簡単にはマネができない」(喜氏)。京都にいた頃のLang-8は、月次売上が10万円なんて報じられたこともあった、どちらかというと地道にユーザーを伸ばすスタートアップにも思えた。だが東京に拠点を移し、そこで出会った起業家が自社を追い抜くペースでイグジットするのも目の当たりにしたことで、焦りを感じ、戦い方も変えたという。

 Lang-8では今回の調達資金をもとにスマートフォンアプリエンジニアやウェブエンジニアなどの開発者を拡充していく。現在5人のチームだが、倍の10人程度まで増員していく計画だ。また、マーケティング施策も強化する。海外を中心にユーザーの認知を拡大し、今後は有料オプションや高度な学習向けの課金サービスに誘導を図る。Lang-8では、登録ユーザー数で2017年末に250万人、2018年末に1000万人を目標としており、最終的には「1億人のグローバルで使われるサービスを目指す」としている。

外国人宿泊客向けのチャットコンシェルジュ「Bebot」開発のビースポークが資金調達

ビースポークCEOの綱川明美氏

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-10-05-7-25-40

訪日外国人向けの旅行サービスを手がける株式会社ビースポークは、アーキタイプベンチャーファンドを引受先とする第三者割当増資を実施したことを明らかにした。調達額は非公開だが、前回の調達(2000万円)を大きく上回るとしている。この調達資金をもとに、10月末にサービスを開始するインバウンド向けのチャットコンシェルジュ型サービス「Bebot」の開発を強化する。

ビースポークは2015年10月に設立。同年12月にはエンジェル投資家(非公開)から約2000万円を調達し、2016年4月には日本の穴場を紹介する訪日外国人向けサイト「LEVERT」を公開している。なお現時点では黒字化しておらず、本格的なマネタイズに向けた取り組みとして今年6月から、訪日外国人向けのチャットコンシェルジュ型サービスBebotの開発に取り組んでいる。

Bebotは、チャットボットを活用し、ホテルや民泊施設で人的リソースを使わずに24時間外国人宿泊客への対応を可能とするソリューションだ。背景には、インバウンドの増加でホテル従業員の多言語対応が求められている事情がある。ビースポークCEOの綱川明美氏は「英語ができる人は韓国語ができず、韓国語ができる人は中国語ができない」と説明する。つまり、従業員の多言語対応には人を多く雇う必要があり、Bebotでは従業員の代わりにチャットボットを活用するというわけだ。

%e4%bb%95%e7%b5%84%e5%9b%b3

具体的なサービス内容はこうだ。外国人宿泊客がホテルにチェックインすると、ルームキーとともにBebotのアクセスコードが発行される。BebotはチャットサービスのFacebook MessengerおよびSlackで利用できる。宿泊客は「Wi-Fiのパスワードは?」「鍵の場所は?」「おすすめの観光地は?」「六本木周辺でおすすめのバーは?」といった質問を自身が使い慣れたチャットで行える。綱川氏によれば「まるで日本に詳しいコンシェルジュが同伴しているような安心感」を訪日外国人に与えられるといい、また、宿泊客の施設外での行動データを可視化できる点も大きな売りだとしている。

マネタイズは、外国人宿泊客1人につき数ドル程度のコンシェルジュ料をホテルや民泊業者から徴収する。10月末にサービス開始予定だが、すでに複数のホテルチェーンと契約。都内の宿泊施設におけるインバウンド率は高い場所で80%台、低い場所でも30%台だといい、収益が期待できるという。なお、あくまでもホテル向けのソリューションとして展開し、ビースポークが直接一般ユーザーへ提供することは想定していない。

Bebotに類似するサービスとしては、訪日観光客にチャットで情報を提供する「FAST JAPAN」がある。しかし、FAST JAPANが一般ユーザー向けにサービスを提供するのに対し、Bebotはホテル・民泊事業者向けのソリューションとして提供する点で違いがあるという。

使い慣れたチャットサービスを使ってさまざまな質問が行える

使い慣れたチャットで宿泊施設や観光に関して質問できる

起業のきっかけは一人旅

ビースポークCEOの綱川明美氏は、もともとフィデリティ投信で機関投資家向けの商品開発に携わり、次にデロイトで国内大手金融機関の海外進出支援を担当。その後マッコーリーで機関投資家向けの日本株営業を行うなど、投資銀行でキャリアを積んできた。

ビースポークCEOの綱川明美氏

ビースポークCEOの綱川明美氏

綱川氏もともと起業に興味はなかったが、趣味で一人旅をするうちに、Bebotの着想を得たと話す。「旅行先で現地に知り合いがいれば体験に差があるんです。1人じゃ辿り着けない場所にも連れて行ってくれます。誰も居なくても友だちがいるような体験をどうやって味わえるか… ということで、Bebotを思いつきました」(綱川氏)。起業の際には投資銀行での経験が特に資金調達面で役立ったという。

ビースポークは、今回調達した資金を元手にBebotの開発および販売を強化。10月末のサービス開始時点では英語のみだが、年内に複数言語に対応。さらに飲食店やタクシーの予約機能も順次追加していくという。

「ライフサイエンス界のGoogle Docs」BenchlingがThrive Capitalなどから700万ドルを調達

4528869007_4484c3d401_b-1

リサーチャー向けのクラウドベース・ソフトウェアを提供するBenchlingが700万ドルを調達した。BenchlingはY Combinatorから卒業したバイオテック企業だ。Benchlingはこの資金を利用して、リサーチャーが製薬会社などの調査資料にアクセスできるツールの強化をはかる。

Benchlingをライフサイエンス業界のGoogle Docsと考えてもよいかもしれない。ITソリューションはバイオテック業界の「最もセクシーなもの」とは言えないかもしれないが、調査資料の整理は業界にとって重要なステップであり、Benchlingはそのエコシステムの一部を提供しているのだ。

科学者向けのクラウドベースのコラボレーション・ツールとして2012年に創業したBenchlingは、現在では4万人のリサーチャーが利用するツールへと成長した(2014年には2000人だった)。さらに同社によれば、MITの研究所や、Zymergen、Editasなど、アメリカ国内のトップ20の製薬研究所と提携を結んでいるという。

benchling-product-screenshot

つい昨年には、Benchlingは同社のソフトウェアをよりパワフルでよりスピーディーなものへと進化させたと話している。これにより、リサーチャーが必要な時に必要な情報を手に入れることが可能になった。Google検索やエクセルのスプレッドシートよりも数倍速いスピードを実現したという。

今回のラウンドではThrive Capitalがリード投資家を務め、既存投資家のAndreessen Horowitz(前回のラウンドのリード投資家)もラウンドに参加した。これらに加え、Y CombinatorのパートナーGeoff Ralston、SequoiaのパートナーMatt Huang、そしてTencentのCXOであるDavid Wallersteinなど、数名のエンジェル投資家も参加している。

バイオテック・スタートアップへの追加投資を考えていると言われていた俳優のAshton Kutcherも、少額かつ非公開の金額ではあるものの、今回のラウンドからBenchlingの新しい投資家の1人となった。

Benchlingはこれまでに合計で1300万ドルを調達している。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

セカイカメラ、Telepathyの井口氏が帰ってきた―5秒の声サービス「Baby」を米国でローンチ

2008年のセカイカメラ、2013年のTelepathy One―。大きなビジョンと話題性で、これまで何度か大きな注目を集めてきた起業家の井口尊仁氏が、新プロダクトを引っさげて帰ってきた。いや、正確には帰ってきてはいない。米国サンフランシスコを拠点に、北米市場を狙った音声系アプリ「Baby」を今日(米国時間10月3日19時)ローンチしたのだ。

ローンチ直前に東京に戻っていた井口氏にTechCrunch Japanで話を聞いたのでお伝えしたい。

Babyはスマホに向かって5秒間の声を吹き込み、見ず知らずの人と繋がり、会話が楽しめるアプリだ。吹き込んだ声は、画面上で愛嬌のある風船型のキャラとなり、これが「パレード」と名付けたパブリックなタイムラインにプカプカと漂うようになる。

ユーザーは次々と流れてくる風船から聞こえてくる「声」を聞き、ちょっとコミュニケーションしてみたいなと思ったら右へスワイプ。スルーしたければ左へスワイプ、とTinderのように次々にスワイプする。Tinder同様に誰かとマッチすればプライベートメッセージが始まる。

パレードに流れてくるのは、Tinder同様に位置情報でソートした「同じ町の人」の声だ。近隣の人であれば、使っている言葉や話題が同じと期待できるからだ。井口氏自身の説明によれば、Babyを現実世界に存在するものに無理やりこじつけると「バー」なのだ、という。以下が画面と全体を紹介する動画だ。

女性が女性と安心してしゃべれる場を

プライベートメッセージも5秒の音声のみだ。5秒の音声の断片を次々と交換する形でコミュニケーションが進む。「Babyはリアルに会わなくてもおしゃべりができる、声と声の出会いなんです」と井口氏はいう。というとTinderの声版、出会い系サービスに思えるが、そうではないという。

Babyでは自分の性別と、コミュニケーションしたい相手の性別が選べる。当初男女の対話がメインと考えていたものの、ヒアリングとユーザーテストを重ねるうちに「女性が女性としゃべりたいというニーズがすごくある」ことに気づいたという。「女の子と安全にしゃべりたい、という女性は多い。安全なら男がいてもオッケーというんです。だからまず最初に女の子が女の子としゃべれる環境を作りたい」(井口氏)。

当初ラブリーなトーンだったアプリのCIは赤から青に変更し、男女の出合いを思わせる表現も全て消した。

今さら声なの、と思う人もいるだろう。声を選んだ背景には日米文化の違いもあるという。

「アメリカでの学生ヒアリングで分かるのは、見ず知らずの人と仲良くするのに慣れていること、おしゃべりが大好きなことです。アメリカの若い子は相変わらず電話をしているんですよ」

井口氏の見立てでは、いまアメリカの若者はTinderとかHappnのようなランダムな出会いサービスに飽きている。Down To Lunchなどもそうだが、アプリのゴールが「会うこと」だとデートが成立しないと満足度が低い。「だから会うことをゴールにしないほうがいいと思っていて、むしろ会わないほうが理想だと思っています。しゃべること自体が楽しくて、声だけでずっと繋がっている状態があるんじゃないかと思っています」(井口氏)

なぜしゃべりたいのか、ということについては、「みんな孤独なんですよ。大学に入って寮で新生活を始めたりして」ということだそうだ。都市部の日本の大学生でも似た状況がありそうだが、基本的に人が移動し続ける社会、アメリカっぽい話ではある。

井口氏に言われるまま、ちょっとだけぼくも5秒の音声を吹き込んでみたのだけど、これは結構短い。何を言うとかと考えてる間にぷつっと切れる。ただ、これは意図的な設計で、5秒というのが良いのだという。

「3秒、5秒、8秒で試しました。3秒は短いし、8秒は冗長なんです。就職面談やコンサートの冒頭なんかがそうですが、実は人間というのは表現の最初の6秒だけ見聞きすれば、それで良いかどうか分かる。心理学ではThin-slicingというのですが、そういう知見にもとづいています」(井口氏)

1つの音声メッセージを5秒に限定するというのは、Twitterの140文字制限と似た話なのかもしれない。この辺は蓋を開けてみないと分からないところがあって、井口氏自身も「まだこの先、5秒の尺を変えるかもしれないし、連続投稿を許すかもしれないし、VoIPによる連続通話を実装するかもしれない」と話している。ニーズ模索フェーズであるため、今回のローンチは「ソフトローンチ」と位置付けているそうだ。

最終的に声のコンピューティングを作りたい

Babyは蓋を開けてみないと何がでてくるか分からないタイプのサービスだろう。

井口氏自身も「ユースケースが見えないし、なんでこれが流行るのかという論理的な説明が付かない。ヒットして何百万人がコアユーザーになってくれると、なんか良いんじゃないってなるだけ。プラットフォームサービスって、そういうものですよね」と話している。

なんだか独自文化が生まれてくる予感もする。それもそのはず、日本人であれば「ダイヤルQ2」を知っている世代にはピンと来るだろうし、実はアメリカには「パーティーライン」という似たサービスがかつて存在していたそうだ。ある年齢以上のアメリカ人にBabyのコンセプトを説明すると、みんな目を細めて「懐かしい」というんだとか。

とはいえ、それはインターネット以前の話。いまさら音声なのかという疑問はある。しかし、いま現在シリコンバレーでは声系サービスに対して、がぜん注目が集まっている。コンピューターと人間のインターフェイスは、文字ベースのCUIに始まり、2次元のGUIに進化し、続いてタッチで置き換わり、次は音声だという見方をする人が業界では増えている。音声は人間にとって自然だし、操作対象が複雑で膨大になるにつれてGUIのようにキレイに対象を階層的に整理できなくなっているからだ。パソコンユーザーなら誰でもメニューの中を迷子になった経験はあるだろう。

音声が「次のUI」として注目されている一方で、井口氏に言わせると今の音声系サービスには決定的に欠けているものがある。「SiriにしろCortanaにしても欠けてるのは、しゃべりたい、と思わせるもの」(井口氏)。結局、今のところどんな話題にも対応できるAIは存在しないので話す理由がない。買い物をするためのAmazon Echoはどうやら合理性がありそうだとシリコンバレーの人々は考え始めている。しかし、買い物のように明確な理由もなくコンピューターに向かって話を続けることはない。

一方、もし活発な声コミュニケーションがBabyで生まれると、ちょうどTwitterがリアルタイムの世界のつぶやきを獲得できた(マネタイズはまだ苦労しているが)ように、Babyは誰より早く声のビッグデータを取れるのではないか。それが井口氏の狙いだそうだ。「最終的に声のコンピューティングを作りたいんですよ。ARやVRにはインターフェースとして音が向いてますし、ながら、のときにも音が向く。AppleがAirPodsを出したことで『ヒアラブル』が注目されて、いまシリコンバレーでは『次は声だよね』という認識ができつつある」

「5秒の声の雑談→音声コンピューティング」はつながるか?

5秒の声の雑談がブレークするかどうかは未知数だが、確かに恒常的に断片的センテンスとしての声が流れる「場」を作ることができれば、声を取り入れたコンピューティングの未来を先取りする何かが生まれてくるのかもしれない。先日TechCrunchでも「snackable audio」と呼ぶべき短いオーディオコンテンツの可能性を指摘する記事を掲載しているが、Babyにエンゲージメントが生まれれば、そこにコンテンツや広告を結びつけることはできそうだし、さらに音声・言語解析によってECを繋ぎ込む未来がひらける可能性もあるのかもしれない。

ただ、Babyの実際の取り組みに比べると、そうした「声のコンピューティング」の目標は遠大にも思える。これまで井口氏の取り組みは、やたらと大きなビジョンや先進的なモックアップを喧伝して、それを実現できずに終わってきた経緯があるので、なおさらだ。

2008年に話題となったセカイカメラのデモ動画は、あまりうまくない英語でも日本人が堂々とアメリカでコンセプトをぶち上げて喝采を浴びた、という意味で「伝説」だ。気概だけでいえばニューヨークの五番街に乗り込んで、ヘタな英語でウォークマンをアメリカ人に売り込んだソニー創業者の盛田昭夫に通じるものがあったと思う。一方で、喝采を浴びた中でも、デモ動画を見た審査員の何人か(例えばティム・オライリー氏)が手厳しく批判していたのも事実だ。セカイカメラがどう実現できるのかの見通しについて説明が何もない、という批判だった。

セカイカメラはARブームを先取りしたようなコンセプトをぶち上げたプロダクトだったが、2008年というのはスマホも非力だったし、ARは早すぎた。これを「時代を先取りしていた」ということもできるし、「実現不可能であることを実現可能であるかのように吹聴した」と見ることもできるだろう。セカイカメラ開発の頓知ドットは最終的に約15億円の資金を調達して、そのコンセプトの「一部」を実現したアプリでは大手企業との業務提携なども行うなど一時はファンも少なくなかった。しかし、一言でまとめると「結局セカイカメラは実現しなかった」と言わざるを得ない。

Telepathy Oneについても同様だ。やはり5億円の資金を米国VCから調達していたものの、「本当にこんなコンセプトが現実のプロダクトとして実現できるのか?」と懐疑的に見る人は多かった。デモ動画はイカしていたが、やはり「時代の先」を行きすぎていたのかもしれない。井口氏の退任騒動から半年後にテレパシージャパンから出てきたのは、半端ないコレジャナイ感いっぱいのバーチカル向けメガネデバイス、Telepathy Jumpなのだった。Telepathy JumpはB向けで市場はあるだろうが、どうみても聴診器。井口氏が見せてくれたスリークで未来っぽいグラス型ウェアラブルとは似ても似つかないものだった。

日本の起業家はもっと世界を目指せ

photo

井口尊仁氏

井口氏が語る、哲学的思索すら入り交じるコンピューティングの未来の話はいつも刺激的で面白い。セカイカメラはAR、Telepathy Oneはグラス型ウェアラブル、そして今回は音声コンピューティング。こうした刺激的な「未来話」の一部でも現実のものにしていける、その足がかりがBabyでつかめるだろうか。

前二回の取り組みと異なるのは、いきなり現実的なプロダクトが出ていること。それから当初ターゲットとする若い女性層、とくにサンフランシスコの大学生を対象としてヒアリングを繰り返してプロダクトのパラメーターや打ち出しアングルを変えながら地に足の着いたの作り込みをしているのも、だいぶ違う印象を受ける。

井口氏自身によれば、前二回は、アメリカを主戦場にしきれなかったこと、アメリカ型組織を作って戦うには調達額が小さすぎたことなどの反省もあるという。あまり多くを語らない井口氏だが、テレパシーの退任騒動は「退任」どころではない苦い経験となっているようだ。

今回チームは日本人を中心に構成し、当初ターゲットを北米市場としている。Snapchatが3年遅れで日本市場で徐々に広まりを見せていることから、「もしBabyがアメリカで流行したとして、それが日本市場に入るのには3年くらいかかるとと思ってる」(井口氏)という。

なぜアメリカにこだわるのか。

「セカイカメラのとき、投資家から想定売上が大きすぎると言われて自分で自分にブレーキをかけていた部分がある。遠慮があったんだと思います。デカイ話を抑えていた。でも、日本の起業家はもっとホラを吹かないとダメですよ。日本で講演やメンタリングを依頼されると、いつもdisってばかりいますね。だって、任天堂にしろ、ホンダにしろやれたわけじゃないですか。ソニーやホンダのようなパイオニアがいない国だってあるわけですよね。日本は世界制覇できる実力がある。それなのに日本でチマチマやってるのに違和感を覚えます」

Babyを開発・運営するDOKI DOKIは、すでにSkyland Ventures、サイバーエージェント・ベンチャーズのほかエンジェル投資家らから5000万円の資金を調達していて、2016年内に1億円程度のシード資金調達のクローズを予定しているという。

「ブルドーザーと掘削機のAirbnb」Dozrが190万ドルを調達

dozr_bulldozer

工事業者間で重機の貸し借りができるプラットフォームのDozrが、シードラウンドで250万カナダドル(米ドル換算で190万ドル)を調達した。

カナダのオンタリオ州にあるKitchenerを拠点とするDozrを利用すれば、掘削機やスキッドステアローダー、ドローン、産業用ロボットなどをレンタルすることができる。器材を単体で借りることもできるし、その器材を操作できる免許を持ったオペレーターも一緒にレンタルすることも可能だ。

2015年に創業のDozrはすでに2000社以上の顧客を抱え、同社のマーケットプレイスには合計で5000万ドル相当にものぼる器材がリストアップされている。

今回のシードラウンドは、Fairfax Financial Holdings Ltdの傘下であるFair Venturesからの単独出資だ。

dozr-app

Dozrのアプリを利用すれば、同業者から設備をレンタルすることができる。

Fairfaxのグループの中には、保険業および再保険業を手掛ける会社がある。その中のひとつ、Federated Insuranceは実際、Dozrのプラットフォーム上で重機のオーナーに対して保険を販売しているのだ。

現状はカナダ市場にフォーカスしているものの、Dozrの投資家たちは将来的なアメリカ市場への進出も期待しているところだ。

より短い期間の目標としては、今回調達した資金を利用してプラットフォームに新しい機能を追加する予定だとしている。さらに、セールス、マーケティング、プロダクト、エンジニアリング部門の人員を強化する。

Dorzの創業者は全員、建設業界での経験を持ち、さらに全員が家族のメンバーでもある。KevinとTim Forestell兄弟、そしてKevin Forestellの妻のErin Stephensonだ。

プラットフォームに追加される予定の新機能は、ビデオのアップロード機能だ。重機をプラットフォームにリストアップする際に、一緒にビデオもアップロードできるようになる。

「ビデオの要素をDozrに加えることによって、レンタル時や返却時の器材のコンディションを見ることができます。実際の仕事の現場において、その器材がどのように使われていたのかということも見ることができるのです」とKevin Forestellは話す。

dozr_founders

Dozrの共同創業者たち。Tim Forestell、Erin Stephenson、Kevin Forestell。

映像を利用することで、器材のコンディションを「キーキー音」などから判断することができるかもしれない。また、保険会社にとっても利点がある。レンタル前に撮影したビデオを利用すれば、レンタル中の故障や事故の原因が貸した側にあるのか、もしくは借りた側にあるのかをはっきりさせることができるからだ。

同社は現在、PCとモバイルのブラウザで動作するマーケットプレイスを提供している。だが、今回のシード資金によってモバイルアプリの開発にも着手する予定だ。

Fair VenturesのGerry McGuireは、シェアリングエコノミーのコンセプトは建設業界や重機業界にも通用するとの判断からDozrへの出資に踏み切ったと話す。

産業設備は高額であり、かといって仕事を受注した時に設備がなければ困ってしまう。産業設備のユーザーは常にこのような選択を迫られているとFair Venturesは話す。

「設備を購入することを選択した場合、設備の稼働率の問題に向き合わなければなりません。それを考えれば、過剰設備のレンタルを可能にし、設備が必要でありながらそれを購入することを望まない業者のニーズを満たすことは道理にかなっていると言えるでしょう」と彼は語る。

Yard Club、 Getable,、EquipmentShareなど、米国市場においてDozrと同じく産業設備のマーケットプレイスを提供するスタートアップが彼らの競合となる。

Dozrは、器材のオーナーに直接提供する保険や、器材と併せてレンタルできるオペレーター、そしてなにより、長い間この業界で荒波を乗り越えてきた創業者たちの経験こそが、これらの競合とDozrの違いだと話す。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

 

予約台帳サービス運営のトレタが12億円の資金調達、「予約ツール」から「経営プラットフォーム」へ

toreta2

飲食店向け予約・顧客台帳サービス「トレタ」を手がけるトレタは9月30日、Eight Roads Ventures Japan(旧:Fidelity Growth Partners Japan)、NTTドコモ・ベンチャーズのドコモ・イノベーションファンド投資事業組合、三井住友海上キャピタルのMSIVC2012V投資事業有限責任組合、既存株主であるフェムトグロースキャピタル投資事業有限責任組合、WiLのWiL Fund I, L.P.、iSGSインベストメントワークス、米セールスフォース・ドットコムの投資部門であるセールスフォース ベンチャーズの7社(リードはEight Roads)を引受先とした総額12億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。またこの調達にあわせて、Eight Roads日本代表のデービッド・ミルスタイン氏が社外取締役に就任する。

トレタは2013年7月の設立。同年12月にサービスを提供開始しており、2016年9月時点での登録店舗数は7000以上。累計予約件数は約1400万件で、累計で約6500万人分の予約が登録されている。業界シェアは38%で、2年連続でシェアナンバーワンとなっているという(2016年9月、シード・プランニング調べ)。

同社では今回調達した資金をもとに、開発体制の増強や営業・サポート・マーケティング体制を拡充を実施。「予約ツール」から「経営プラットフォーム」への進化を実現するとしている。トレタの言う「経営プラットフォーム」とは果たしてどういうものか? トレタ代表取締役の中村仁氏はまず、飲食店の集客の課題について次のように語った。

「今まで飲食店の集客と言えば、『(グルメ系メディアなどの)サイトに情報を出して終わり』だった。しかし成熟した、もしくは縮小しはじめたマーケットにおいては、新規の顧客を取ることだけでなく、常連をいかに作るかが大事になる。新規顧客を増やすだけの施策はサステナブルではない。リピーターを増やす、そのリピーターの来店頻度を上げていくということをトータルでやらないといけない。そのポジションを取り行かなければならない」

食の好みもこれまで以上に細分化されてきており、例えば焼肉屋でも赤身肉に強い店と脂の乗った肉に強い店がでてきた。そうなると、ぐるなびのような総合的なグルメ系メディアだけでは顧客のニーズを満たせなくなってきたという。そこで求められるのはさまざまなメディアを繋いで、店舗ごとに最適なメディアを選んで送客(来店予約)できる仕組みだ。そして来店した顧客の情報を蓄積して2回目以降の来店でのサービスに生かす仕組み、さらにはリピーターに対してマーケティングを行うような仕組みも求められる。トレタの言う経営プラットフォームとは、この集客からリピーター化、さらにはCRMまでを一括で実現するサービス基盤のことだ。

この経営プラットフォームの実現に向けて、トレタではすでに「トレタメディアコネクト」(グルメサイト(現在14サイト)と連携し、各グルメサイト上でトレタの顧客情報と予約情報を閲覧できる機能)、「トレタPOSコネクト」(POSレジとトレタのデータを連携し、オーダー履歴の収集・参照ができる機能)などを提供。今後はさらにCRMツールとの連携や解析機能、満席時に空席情報をサジェストするような機能を備える新たなウェブ予約サービスなどを提供していくとしている。

Blue Bottle Coffeeが新たな大型投資ラウンドを計画中か

LOS ANGELES, CA. - MARCH 12, 2014:  Blue Bottle Coffee shot in the Los Angeles Times Studio an item from the Natural Products show in Ananheim that Mary will talk about on March 12, 2014.  (Photo by Anne Cusack/Los Angeles Times via Getty Images)

サンフランシスコのコーヒー戦争が再燃している!

情報筋によれば、昨年の7500万ドルにおよぶ大型資金調達から、1年わずかしか経っていないにも関わらず、Blue Bottleが新たな大型ラウンドを計画しているようだ。調達額については分かっていないが、コーヒーに対するシリコンバレーの投資家の大きな(そしてときに不思議な)興味を考慮すると、前回に近いか、同等レベルの金額に達しても驚きではない。シリコンバレー、そしてサンフランシスコのコーヒー愛には際限がなく、その熱は投資家にも飛び火しているようで、何千万ドルという資金がBlue Bottle CoffeeやPhilzといった会社に流れ込んでいる。

ということで、ここは何よりもコーヒーを優先させよう!コーヒー!コーヒー!コーヒー!

シリコンバレーは、数々の一風変わった投資で知られている。投資先のビジネスは、オルタナティブフードの生産から宇宙探査までさまざまで、コーヒーも決してその例外ではない。しかし、そこにはちゃんとした裏付けがある。コーヒー市場の規模は巨大かつ、800億ドルのバリュエーションを誇るスターバックスという、ほぼ完璧な比較対象が存在するのだ。どんなコーヒー関連企業も、市場のほんの一部を獲得できれば、ユニコーン企業の仲間入りを果たすことができる。そしてもちろん、そのような企業を買収しようと考える企業も同時に存在する。

それでは、ここでコーヒービジネス関連の最近行われた大型ラウンドを見てみよう。

私たちの理解では、上記にSightglass Coffeeがこれまでに調達した資金は含まれていない。(同社には、Square CEOのJack Dorseyが投資しており、ベイエリア界隈では、このことがよく知られている)

また、Blue Bottleは、アメリカ中で精力的に店舗の数を増やしている。店舗の様子も、ブルックリンから近く(以前)流行っていたWilliamsburgのエリアにあるロースター兼コーヒー店から、サンフランシスコのダウンタウンにあるアップルストア風のもの(ここのワッフルはとても美味しい)までさまざまだ。スターバックスが営業している場所では、競合するコーヒー店がうまくやっていける余地が当然ある。特に、スターバックスよりも良いコーヒーや、少なくともより良いエクスペリエンスが提供できるならばなおさらだ。

スターバックスも一般消費者の視点から見るとユニークな立場にある。というのもスターバックスは、会社として大きく成長した結果、一般投資家からその動向をいちいちチェックされてしまうようになったのだ。そしてそんな中でも結果を残すことを求められている。そのため、もしかしたら原料となるコーヒー豆にそのしわ寄せが来ている可能性がある。一方で、Blue Bottleはその高単価を背景に、良質なコーヒー豆を使用できるほか、より良いサプライチェーンを(今無いとすれば)構築しているというイメージを与えることができる。

しかし、Blue Bottleも新たな収入源の発掘を行っており、コーヒー豆のほかにも、ニューオリンズスタイルのアイスコーヒー(小学校の頃の給食に出てきたような可愛らしい牛乳パックに入っている)やコールドブリューコーヒーを販売している。Sightglassも、Ritualのような新興コーヒー企業と同様にコーヒー豆の販売を行っている。このような動きを背景に、コーヒー市場(少なくともサンフランシスコ・ベイエリアのコーヒー市場)は驚くほど競争が激化しており、広く知られるようになるまでには、強く後押ししてくれる、流行に敏感な人が何人かいなければいけない。

(もしかしたら、読者の方には流行に敏感ではないものの、一押しのコーヒー店があるかもしれないが…)

Blue Bottleのケースで言えば、店舗の数を増やすうちに、最終的には海外市場に目を向けざるをえなくなるだろう。これまでにBlue Bottleは、コーヒー好きの間では確固たるブランドを築いてきたものの、今後はカフェイン狂の都市部の消費者以外にも、自分たちがスターバックスより優れていると説得していかなければならない。海外市場の中でも特に、コーヒーが日常的な飲み物と捉えられ、良いワインや食べ物のような職人の手によって作られたものだとは思われていないような地域では、そのプロセスはより困難を極める。

結局のところ、コーヒー市場は、企業が新たに参入するにはなかなか悪くない市場のようだ。実際、スターバックスのサイズだけを考えてみても、世界中にコーヒー豆や関連製品を販売する、こだわりのコーヒー店やロースターを複数社支えるくらいの市場規模である。課題となるのは、どのように店舗・物流網を拡大していくかということで、そのためにはもちろん多大な資本が必要となる。

最終的にコーヒー戦争は、私たち消費者にとってはもちろん良いことだ。コーヒー自体素晴らしいものだし、競争激化でより良いコーヒーを楽しめるようになる。

Blue BottleとSightglassの担当者に、本件に関してコメントを求めたが、回答は得られていない。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

仏スタートアップZenly、位置情報共有アプリでBenchmarkから2250万ドルを調達

zenly-1

フランスのスタートアップZenlyが、この夏にかけてBenchmarkほか数件の投資家から2250万ドルを調達した。このラウンドについては最初にBusiness Insiderが報じ、TechCrunchでも公式な確認を得た。我々がつかんだ詳細は以下のとおりだ。

今回のラウンドのリード投資家はBenchmarkが務め、同社のPeter FentonがZenlyの取締役会に加わった。Fentonはこれまでにいくつかのソーシャルネットワーク企業に投資しており、Twitterの取締役も務めている。本ラウンドでは既存の投資家であるIdinvestとXavier Nielからも追加投資があった。Insight Venture Partnersの共同設立者Jerry Murdockも個人的に出資したという。

さらに興味深いのは、Benchmarkがこのフランス企業に直接投資した点だ。多くのアメリカのVCは米国企業に投資することを希望する。そのため、フランスのスタートアップが多額の費用をかけてアメリカに会社を移すことになる場合もある。そう考えると今回の直接投資の意義は深い。Benchmarkは時間を無駄にしたくなかったようだ。

今回のラウンドはイントロから銀行口座への入金までわずか28日間でスピーディーだった。Zenlyは昨年のシリーズAラウンドで1120万ドル(1000万ユーロ)を調達しており、口座にはまだ潤沢な資金が残っていたはずだが、Benchmarkに「ノー」とは言い難かったに違いない。

「友達が今どこに誰といるのかを可視化できれば、プロダクトとしての機会は大きく拓かれます。今後うまく達成して行ければ、歴史に残る象徴的な企業へと成長するでしょう」とFentonは語る。「Zenlyチームの技術的専門性の深さと、ソーシャルエンゲージメント全般の基礎となるマップ機能についてのビジョンは、即断するだけの説得力があるものでした」。

もしも本件ついての「エピソード1」を見逃していたら、筆者が以前に記した、この前途有望な位置情報共有アプリZenlyの長い長い紹介記事(英語)を読んでみて欲しい。これは新手のチェックインアプリでもなければ「友達は今どこ?」タイプのアプリでもない。それらをさらに超えたアプリなのだ。

Zenlyは位置情報の共有をふたたび「クール」なものにしたいと願っている。同社は基本部分の見直しに莫大な時間を費やしてきた。現行ではZenlyを使うと自分の現在位置を何人かの、あるいは何十人かの友達と簡単に共有できるようになっている。

反応は、というと、ティーンに大好評で、すでにアプリのダウンロードは200万件にのぼるという。しかもこれはまだ「始まり」だ。Zenlyは現在の基本機能に、さらに何層もの有用なデータを追加する予定だ。

たとえば、友達がどこかで集まっていたら通知を受け取り、パーティーに乗り遅れないで済む。同様にZenlyならば他のアプリに先駆けて人気スポットを知ることができる。なぜなら人々がいつそこに行くかを知っているからだ。

Zenlyが勝負するのは非常に競争の激しい分野であるため、その道のりは長くなるだろう。これまでもGoogle、Apple、Uberのようなテック企業が最良の地図サービスを作り上げようと努力を重ねてきている。マップにピンを立てるだけの機能をさらに超えたものを目指すZenlyは、独自の地図データを構築せねばならないだろう。

Zenlyの従業員は現在35名で、向こう数週間でサンフランシスコにオフィスを開設する予定だ。エンジニアリングチームの大部分はフランスに置き、オフィス2か所で運営するつもりだという。この多額の資金調達を果たしたスタートアップは、当面は資金繰りを心配せず、プロダクトに集中できることだろう。

原文へ

(翻訳:Ayako Teranishi / website

インドのオンライン家具販売サイトPepperfryが3100万ドルを調達

screenshot-2016-09-21-19-51-42

インドの急速に成長する経済を背景に、都市部に移り住んで住居を構えはじめる人が増加している。その結果、持ち家や貸し家に家具を提供するためのネットサービスを運営する企業が誕生した。Pepperfryは、そのような企業のひとつで、本日(米国時間9月22日)インド中にビジネスを展開するために3100万ドルの資金調達を行ったと発表した。

設立から4年の同社は、元eBay幹部のAmbareesh Murty(Pepperfry CEO)とAshish Shah (同COO)によって設立された。彼らは、同社設立直前に「起業家となり、インドに秘められたECの可能性を最大限利用することに決めた」とMurtyはTechCrunchとのインタビューで語った。

Murtyは、インドのインテリアデザイン市場は、売上げ額にして300〜400億ドルの規模だとふんでおり、同業界にはそろそろディスラプションが必要だと考えている。

「インドには、きちんと整備された小売業界が成立しておらず、家具市場は極めて分散しています。その証拠に、業界トップ5のブランドを合わせても、全体の売り上げの4%しか占めていません」と彼は付け加えた。

Ppperfryは、これまでに1億6000万ドル近くの資金を投資家から調達しており、今回は、以前から同社に投資しているGoldman Sachs、Bertelsmann India Investments、Norwest Venture Partners、そしてZodius Technology Fundがラウンドを率いた。なお、Goldman Sachsは、昨年の夏に行われた1億ドルのシリーズDラウンドでもリードインベスターを務めていた

Pepperfryは、自社ブランドを含む、1万以上のパートナーの製品を販売していると公表しており、家具からデコレーション、キッチン・ダイニング用品、ペット用品までさまざまな製品を取り揃えている。オンラインでの販売以外にも、同社はいくつものエクスペリエンスセンターを運営しており、インテリアデザインの専門家が、家のデコレーションに関するアイディアを求める顧客にアドバイスを提供している。Murtyによれば、Pepperfryは現在10軒あるエクスペリエンスセンターの数を30軒にまで増やし、インドの第2、第3階層の都市へも進出していく計画だ。

さらに同社は、物流拠点の拡大も目論んでいる。Murtyによれば、現在Pepperfryはインド国内の500都市へ製品を届けることができるが、物流ネットワークへの投資を行い、今年中にはこの数を1000都市まで伸ばしたいと考えている。Pepperfryは、ユーザーへ最終的に製品を届ける部分を含む、物流システム全体を独自で確立しており、彼はその理由について、「Pepperfryが誕生するまで、インドには大きな箱を消費者まで届けることができる企業がいなかったんです」と説明する。今では同社は、17箇所のフルフィルメントハブと400台以上もの輸送車を保有している。

それと並行して、Pepperfryはテクノロジーへの投資も倍増させ、エンジニアの数を現在の50人から100人まで増やそうとしている。既に同社のアプリはARをサポートしており、ユーザーは携帯電話のカメラを、家具を設置するつもりの場所に向けるだけで、例えば、購入予定のソファーの様子を確認することができる。しかし、Pepperfryは、さらなるVRテクノロジーを同社のアプリに組み込む予定で、エクスペリエンスセンターにVR機能が備えられる可能性もある。

経済力が限られている若者にアピールするため、Rentomojoのようなレンタルモデルを提供することを検討しているかMurtyに尋ねたところ、彼は、長期的に見ると、レンタルよりも家具を購入するニーズの方があると考えていると説明してくれた。

「私たちは、レンタルの段階というのは、消費者が自分で家具を購入し始めるまでの3、4年間しか続かないと考えています。もしも、Pepperfryが企業努力を重ね、顧客が家具を購入する際に素晴らしい価値を提供できるとすれば、レンタルの必要性はないでしょう」と彼は主張する。

同様に、Pepperfryの郊外への進出計画からも分かる通り、同社は、現時点でインド国外への進出は予定していない。

「インドはまだ若い国家で、その購買力は急速に増大しています。今後数年の間はインド市場に集中し、その後どうするか改めて考えようと思っています」とMurtyは付け加えた。

しかし、利益については明確な計画が立てられている。

Murtyは、今回のラウンドがPepperfryにとって最後の資金調達になると予測しており、今後半年の間で、販管費を除いた黒字化を目指していると話す。そして、それが計画通りいけば、向こう2年内に”完全な損益分岐点”に達する可能性があると彼は考えている。

「私たちは幸運にも、長期的な視点で物事を考え、そして実行できる論理的な投資家を迎えることができています」と彼は語った。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

BrightFarmsが3010万ドルを調達、革新的な温室をアメリカ全土へ

brightfarms_greenhouse_chicago

農業テックスタートアップのBrightFarmsは、シリーズCで3010万ドルを調達し、アメリカ中に同社のハイテク温室と新鮮な農作物を提供しようとしている。

同社は、スーパーの店頭に並ぶ果物や野菜を、海外から輸入したり遠隔地から輸送したりせずに、全て地産し、新鮮な状態で消費者に届けることを使命としている。

アメリカの太陽光電力事業者の戦略からヒントを得たBrightFarmsは、同社の温室を使って育てられたサラダ用野菜やトマトを、長期間に渡ってスーパーに定額で販売するサービスも提供している。

BrightFarms-raised produce.

BrightFarmsで育てられた農作物。

同社CEOのPaul Lightfootは、BrightFarmsが”農作物買い取り契約”をまとめてから、経済開発プログラムや、さまざまな銀行・投資会社などを通じて資金を調達し、新たな温室を建設していると説明する。

実際のところ、温室内で作物を育てはじめる前に、BrightFarmsの原価のほとんどが農作物の販売契約でカバーされている。

Catalyst Investorsがリードインベスターとなった今回のラウンドには、BrightFarmsにもともと投資していた、WP Global PartnersNGENが参加した。

Catalyst InvestorsのTyler Newtonは、BrightFarmsへの投資の理由について、その大半がビジネスモデルの革新性や、アメリカに存在する他の食物生産者を”上回る”同社の力だと話す。

消費者は、地元の企業から食料品を購入し、近隣に住む人たちの生活費をまかなっている仕事をサポートしたいと間違いなく考えている。アメリカ農務省の研究によれば、地産された食料品の売上額は、2014年に120億ドルを記録しており、この数字は2019年までに200億ドルに達すると予測されている。

A BrightFarms greenhouse that grows tomatoes and salad greens.

トマトとサラダ野菜が育てられているBrightFarmsの温室。

「これまで、天候に恵まれない時期は、地元で育てられた作物を買うというオプションがなかったため、その選択肢が生まれるだけでも素晴らしいことです。しかし、BrightFarmsで育てられたトマトやルッコラを、西部から輸送されてきた野菜と食べ比べてみると、明らかに味の面でも勝っていることがわかります。これこそ、スーパーが求めているものなのです」とNewtonは話す。

BrightFarmは、現時点でカリフォルニア州とアリゾナ州以外の、競争が緩やかで規模の大きいマーケットを狙っている。

農務省の最新のデータによれば、農業は毎年1兆7720億ドル(アメリカのGDPの約1%)もアメリカの経済に寄与している。

そして、アメリカで消費されるサラダ野菜の90%が、カリフォルニア州とアリゾナ州で生産され、そこから国中で販売されるか、国外に輸出されている。

そのほかの農業テックスタートアップとしては、AeroFarmsやFreightFarmsが挙げられる。彼らは、地産された新鮮で美味しい食べ物を求める都市部の消費者の需要に応えるべく、屋内で使えるコンテナ型の農場を製造している。

BrightFarms' CEO Paul Lightfoot.

BrightFarms CEOのPaul Lightfoot

しかしLightfootは、自然光を(当然)利用しているBrightFarmsの温室の方が、屋内農場に比べて、環境的に持続可能かつ費用対効果が高く、さらにコンテナ型や屋上に設置された農場よりもたくさんの収穫物を得ることができると考えている。

その理由について彼は、BrightFarmsの環境制御温室は、屋内農場に比べて、温度や光のコントロールに必要な電力の消費量が少ないと話す。なお、どちらのタイプも、例え精密なかんがいシステムが構築されているものを考慮しても、旧来の農場に比べるとずっと水の消費量は少ない。

現在までに、BrightFarmsは、大フィラデルフィア地域、ワシントンD.C.、シカゴの都市部に建てられた3つの温室を運営しており、それぞれに25名のフルタイム従業員を抱えている。

干ばつが長引けば、BrightFarmsもそのうち”サラダボール”・カリフォルニア州やその他の農業ハブへ進出し、旧来の水を大量に使用することの多い農場を代替することができるかもしれない、とLightfootは語る。

しかし、しばらくの間BrightFarmsは、新鮮な農作物に対する高い需要がありながらも、旧来の農場を運営できる程の耕作地や天候状況に恵まれていない都市部にフォーカスしていく予定だ。

これまでのBrightFarmsの顧客やパートナー企業には、Kroger、Ahold USA、Wegmans、ShopRiteなどのスーパーが名を連ねている。

Lightfootによれば、シリーズCで調達した資金は、新たな温室の建設に加え、品種の拡大にも利用される予定で、同社は近いうちにもパプリカやイチゴの栽培を開始しようとしている。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

文字コンテンツ読み上げ・フォロー型のクラウド放送局「Voicy」がローンチ

今さらネットでラジオなの? という人がいるかもしれない。逆に、やっぱりいま音声系サービスが来そうだよね、という人もいるかもしれない。2016年2月設立のVoicyが今日ベータ版としてiOS版をローンチしたクラウド放送局アプリ「Voicy」は「みんなで作る放送局」とでもいうべきアプリだ。

利用者はコンテンツ(記事)の読み手である「パーソナリティ」と、その聞き手である「リスナー」に分けられる。パーソナリティはチャンネルを開設して個性を活かした音声コンテンツを発信でき、リスナーはパーソナリティをフォローする。コンテンツは大手メディアや雑誌などから提供を受けるモデルだ。いまは立ち上げ期ではあるものの、Voicyを創業した緒方憲太郎CEOは「活字メディアを放送にしていく」という説明が旧来のメディア関係者に響いていて、すでに毎日新聞やスポニチなどがコンテンツ提供をしている。

voicy012次元活字メディアをクラウドで音声の放送に

「2次元だった活字メディアを、クラウドの発信者の力で放送網に乗せます。活字メディア+声の表現者+フィードバックするリスナーという、みんなで作る放送局になります。今まで放送局が1社で全部やってたネタ収集、編集、企画、放送、アンケートまでをいろんなプレイヤーで分担してやります」(緒方CEO)

ジャンルは経済、社会、グルメ、エンタメなどの幅広くする。当初パーソナリティは40アカウントでスタート。最初のうちは申し込みと審査が必要で1週間に5〜10人ペースで増やしていく。パーソナリティとなるのはアナウンサーや声優志望者など「声のプロ」やセミプロだけでなく、全くの未経験者や特定ジャンルに熱意を持った人なども入れていくという。例えば、すでに元乗馬の選手をしていた人が競馬を語るチャンネルがある。

voicy02

コンテンツは「プレイリスト」という単位で配信される。プレイリストには記事などを読み上げる音声コンテンツが複数入っている。コンテンツの平均の長さというのは今のところない。1つの記事を15秒から30秒で読み、テンポ良く次々とその日のニュースダイジェストもあれば、もっと長いものを10分〜20分で読んで1つのプレイリストとする人もいるという。

ここまで読んだ読者は、誰が、何の目的で、どういうタイミングで聞くのか想像が付かないのではないだろうか。ぼくは想像が付かなかったし、今も正直よく分からない。

これまで限定ユーザーでサービス運用をしてきた緒方氏によれば、視聴時間帯は主に3つあるそうだ。朝すぐの支度や通勤時間帯。それから帰宅後の時間。そして「思った以上に寝る前に聞いている」(緒方CEO)のだそう。ながら視聴よりも、むしろプッシュ通知が来たらテーブルにスマホを置いて座って聞いている人が多いという。

一般ニュースや業界ニュース、趣味の情報をスマホ上で文字で読む人は多いと思う。Voicyでは読み手の個性やちょっとした意見に魅力が感じられる視聴スタイルを実現する。「活字は知性にしか訴えて来なかった。でも声ならハートに訴えられる」(緒方CEO)。電波と違って双方向なので、リスナーはパーソナリティに対してコメントを送ることもできる。

Voicyのパーソナリティとなる人のうちアナウンサー志向の人であっても「キレイにしゃべる」ことを良しとするキャスター的な人と「個性的にしゃべる」パーソナリティ的な人がいて、人によってその比率が異なる、ということらしい。リスナーのほうも総合ニュースを聞きながら、ゆるいノリのものも同時に聞きたい人もいれば、朝はテキパキ系を好む、という人もいるそうだ。

なぜ今さら音声なのか?

なぜ今さら音声なのか? 動画ではダメなのか? この点について聞くと緒方CEOは、何点か理由を挙げた。

1つはコスト構造上有利だから。音声なら「20分のコンテンツが25分で作れる」(緒方CEO)が、動画はなかなかそうはいかない。そして文字コンテンツを持っている出版社や、企画や編集ができる人材というのは多い。「コンテンツを作って編成をする人や取材ができる人をレバッジできる気がしています。どういう番組構成がいいのか、それをみんなで探っていく」(緒方CEO)。

ネタと発信者(読み上げるパーソナリティ)を分けているので、コラボ企画もやりやすく、テレビ局の新人アナウンサーやアナウンサー学校のエースをスポーツチャンネルでマネタイズするなどできるのでは、という。サービス開始当初こそ「リスナーがいるのが嬉しいという人たちを集めたい」としているものの、「プレイヤーがCMを取れる、営業ツールになるものを提供したい」という。法人チャンネル提供も考えているという。

もう1つ、動画より音声がいいという理由は「感性に伝わるものが一番いい」からだそうだ。「声というのは大きすぎても小さすぎても不快。映像では、そういうのはあまりない。それだけ心に刺さるのが声なんです」。

声って今さら? これから?

クラウド分業放送局というのは新しいアイデアだが、音声系サービスのVoicyをみて「今さら音声?」と思った人は多いだろう。逆に「そうだよね、声が来そうだよね」という人もいるかもしれない。

今さら、という人は日本国内の音声系サービスに動向に詳しい人もいるだろう。2007年にカヤックで生まれて2014年にサイバーエージェントに事業譲渡された「こえ部」は2016年9月末のサービス終了を発表しているし、同じくサイバーエージェントの「ラジ生?」も8月末と、立て続けにサービスを閉じる。動画系サービスが伸びる一方で、音声系サービスはオーディオブックも含めて日本国内では立ち上がっていると言える状況にない。ただ、「こえ部もラジ生もネタがなかった」からサービスが伸びなかったのではないか」というのが緒方CEOの見立てだ。

国内で声系サービスが伸びない一方で、米国ではいま「音声(会話)こそ次のインターフェイス」として、がぜん注目を集めている。先日のTechCrunch Disrupt SFでデビューした「Pundit」は音声版Twitterというべきサービスだし、2016年2月にローンチした「Anchor」はVoicyに少し似ている。Anchorはホストとなる人に対して参加者が随時乱入して声でコメントができるポッドキャストの進化版という感じのサービスだ。

音声認識の精度が95%から99%となって遅延も実用レベルになった。だから今後コンピューターへの入力インターフェースとしては音声こそが最も効率的だと指摘したのはKPCBパートナーの著名VC、メアリー・ミーカー氏だ。

ミーカー氏が指摘したのは入力やGUIに変わる操作手段としての音声だが、今後人々がデバイスに向かってしゃべることが増えるのだとしたら、2016年が声系サービスの立ち上げに適している可能性もあるだろう。なにより、AppleがワイヤレスのiPhone向けイヤホン「AirPods」を出したことで、オーディオコンテンツに追い風が吹くという期待感もある。

もう1度。なぜ声を選んだのか?

Voicyは現在、フルコミットのエンジニアが1人いて、それ以外に8人が手伝う「草ベンチャー」だ。草ベンチャーとはビズリーチ創業者の南壮一郎氏の造語だが、就業時間後や土日に仲間が集って実験的なプロダクトや事業を作っていくような活動を指している。Voicyのチームにはテレビ局や広告代理店関係者が入っている。

「バーンレートゼロでリリースまで漕ぎ着けた」と、ちょっとスゴいことを言っている緒方CEOだが、体制は整えつつある。すでに確定金額ベースで数千万円規模のシード資金の調達をしつつあって、アプリのローンチと前後して渋谷に新たにオフィスを構えたそう。

緒方CEOは会計士としてキャリアをスタートして、起業前は、監査法人トーマツの社内ベンチャーであるトーマツベンチャーサポートに2年間所属。これまでスタートアップ企業、数百社を支援してきたという。「顧問として入っていた企業だけで資金調達額は30億円を超えています。今年の調達額だけでも6億円」というスタートアップ起業家を支援する側にいた人物だ。会計士ではあるものの、実際には「会計士業務はやっていませんでした。主に社長の相談役で、ビジネスモデルの相談から、嫁が逃げたという相談までやっていました(笑)」という。

「ミイラ取りがミイラになった感がある」と起業の背景を語る緒方CEO。ただ、大量の事業アイデアとダメ出し、事業計画とオペレーションの実際を見てきた36歳という目のこえた立場を考えると、なぜ2016年時点でVCウケの悪そうなアイデアでの起業を選んだのかは、ちょっと腑に落ちないところもある。実際「こんなにも否定されるものか」というほどVoicyのアイデアに対して否定的な意見や、頼んでもいない思い付きにすぎない「アドバイス」をもらっていて、支援側と起業家の立場の違いを身にしみて感じているそうだ。

それでも緒方CEOがこだわっているのは、「誰もやっていないサービスを出すこと」だそう。「何か既存のものを安くするというのではなくて、大きな付加価値を生む企業をやりたいんです」。もし声のメディアプラットフォームに可能性があるのだとしたら当たれば大きいのかもしれない。もし声系コンテンツサービスにはやっぱり市場がなかったとなれば、たぶんゼロ。ホームランか三振か。バッターボックスに立つなり「大振り」することにしか興味がない、と言い切る緒方CEOのチャレンジを見守りたいと思う。

インターホンシステムのNucleusがシリーズAで560万ドルを調達、Alexa Fundがリードインベスターに

incall_lee_nucleus_01

インターホンシステムの製造・販売を行い、8月から製品の出荷を開始したNucleusが、シリーズAで560万ドルの資金を調達した。

このラウンドでリードインベスターとなった、AmazonのAlexa Fundは、Alexaのテクノロジーを利用した製品を開発している、将来有望なスタートアップへの投資を行っている(Nucleusも、最近Alexaの音声認識機能をサポートしだした)。そのほかにも、Joe MontanaのベンチャーファンドであるLiquid2BやBoxGroup、Greylock Partners、FF Angel、Foxconn、そしてSV Angelが今回のラウンドに参加した。

Nucleusのローンチ前に同社は、スマートホームインターホンという製品が、最新のガジェットに目がないテクノロジー通のアーリーアダプターだけではなく、さまざまな人にアピールできるものだという仮説を持っていた。

そのため、同社はAmazon以外に、500軒ものLowe’s(アメリカのホームセンター)の店頭でNucleusを販売しており、これまでIoTデバイスの購入を考えていなかったような人にも、Nucleusを実際に見る(そして購入する)機会が生まれた。その結果、Nucleusは販売開始からたった1ヶ月でアメリカの47つの州にユーザーを抱え、東海岸や西海岸のテクノロジーハブ以外でも、同製品にマーケットシェアを獲得できる力があることを証明したのだ。

Nucleusの主要顧客が、スマートデバイスの動向に特に注目していない人、ということも同社の成功の背景にある。Nucleusの共同ファウンダー兼CEOであるJonathan Frankelは、同社のユーザーの多くが、もともとは家庭用のインターホンシステムの購入を考えていた人たちだと説明する。しかし、彼らは旧来の音声通話機能しかないインターホンシステムが、何千ドルもする(そしてNucleusの10分の1程の機能しか備えていない)ことを知ると、大体の場合、その代わりにNucleusを喜んで購入するという。

もう一方の主要顧客が、遠く離れた場所に住む親戚の様子を確認したり、彼らと連絡を取り合ったりしたいと考えている人たちだ。彼らは、通常複数台のNucleusを購入し、1、2台を自分の家用に、そしてもうひとつを、様子を確認したい相手用に利用している。

上記の2つの主要顧客グループ間で、ユーザーは平均してひとりあたり3〜4台のNucleusを購入している。さらに、Nucleusは複数台購入すると、一台あたり249ドルから199ドルに値段が下がるため、これもユーザーが追加で1台(もしくは2台)購入するのを後押ししているようだ。

Nucleusは、今回の調達資金を製品開発力の強化に利用する計画だ。さらに本日(米国時間9月21日)同社は、家庭用電話/インターホンシステムの開発を行うIlyの買収計画を発表した。なお、Ilyは、6月にクラウドファンディングで資金調達を行っている。Nucleusは、Ilyの買収によって、既に家庭用インターホンに精通したエンジニアチームを新たに獲得することができると説明しており、買収が無事完了すれば、Nucleusは新たな機能をユーザーに対して素早く提供できるようになるだろう。

Nucleusは、バックグラウンドで自動的にOTAアップデートされるため、開発チームは難なく頻繁にアップデートをユーザーに届けることができ、既にNucleusのチームはそのような体制をとっている。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

電通ベンチャーズ、スポーツ観戦向けVR動画配信を手がける米LiveLikeに出資

screenshot_664

電通傘下のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンドである電通ベンチャーズ。主に海外、新事業領域への出資をしている彼らが9月21日、VRによるスポーツ観戦を実現する米LiveLikeへの出資を発表した。出資額は非公開だが、数千万円程度と見られる。

LiveLikeは2015年2月に立ち上がった米ニューヨーク発のスタートアップ。同社は、スポーツ観戦に特化したライブVR動画配信プラットフォームを開発している。このプラットフォームを利用すれば、ワイドカメラ1台で競技場を撮影してVR動画の配信が可能。VR撮影専用の設備を用意せずともよいという。

ユーザーは専用アプリ(iOS、Android、Gear VR対応)を通じて、配信されている360度動画の視聴が可能。Facebook経由でユーザーを招待すれば同じVR空間を共有できるため、実際に友人と一緒にスポーツ観戦をしているのと同じような体験ができるという。観戦中の競技に関する情報やショップ機能なども提供していく。現在はFox SportsやサッカーチームのManchester City FCなどとコンテンツ面で提携している。

開発・デバッグ、数百デバイスへの反映も一発、HerokuのようなIoT PaaS「Isaax」が登場

PaaSやBaaSの便利さは、Web開発者なら誰でも知っているだろう。特にプロトタイピングのとき、自分でサーバーを立てたりデータベースの設定など準備が不要というのは開発のハードルを大いに下げてくれる。コードをクラウドに投げれば即プロダクトが動き出す。おっと表示が崩れてるのはバグだ、修正、修正っと、またコードを手元で修正してプッシュすれば、これまた即サービスに反映される。Salesforceに巨額買収されたHerokuのようなPaaSは実に素晴らしいものだ。

ではIoTのサービス開発はどうか。

PaaSやIaaSがあるさ、オッケー、オッケー。バックエンドはNode.jsでもRailsでもいいね? でも、デバイスの管理とか認証、ハートビートとかどうするんだっけ? ていうか、数十台とか数百台単位でデバイスが広まったときのソフトウェアのアップデートって、何を使えばいいんだっけ?

そんな課題を解決する日本のスタートアップ企業、XSHELLが今日、IoT向けのプラットフォームサービス「Isaax」(アイザックス)をベータ版として公開した。同時に、グローバル・ブレインISID(電通国際情報サービス)に対して第三者割当増資を実施したことを発表した。実際の投資タイミングは2015年末と2016年8月の2度に分かれているが、2社合わせて総額8000万円のシード投資ということになる。

ISIDは最近Fintech関連のイベントのFIBCや、大手町のFintech拠点であるFino Labなどスタートアップ企業への投資や協業で知っている読者も多いと思うが、純粋なエンジニアリング方面での投資はめずらしい。金融システムや電通グループ向けシステムのほか、自動車産業向けのシステムなども手がけていることから、ISIDとしてはIoT時代への布石という意味合いもあるようだ。

xshell01

左からグローバル・ブレインの熊倉次郎氏(パートナー)、XSHELL共同創業者でCEOの瀬戸山七海氏、同COOのベセディン・ドミトリ氏

開封から15分以内でSlack温度計を実装、その場で投資決定

XSHELLを創業したのは慶應SFCに通っていた現在25歳の瀬戸山七海氏だ。情報系の学部在学中に起業して、複数デバイスの協調動作を取り入れたパワードスーツの開発をしていた。3体のパワードスーツが協調動作すれば、非常に重たい物体を持ち上げるときに多地点測量して重心を推定するなど、これまでにない価値が生み出せるのでは、と考えたそうだ。実際には安定した低遅延無線ネットワークを前提にすることができないためにリアルタイム処理は難しく、このアイデアはうまくプロダクトに結びつかなかった。このときの経験からIsaaxのアイデアにたどり着いたという。

Isaaxの説明の前に面白いエピソードを1つ。今回の投資を担当するグローバル・ブレインのパートナーでベンチャーキャピタリストの熊倉次郎氏がTechCrunch Japanの取材に対して語った投資の意思決定に関してだ。

デジタル温度計で室温を測り、それをSlackでつぶやく―、そんな良くあるIoTの習作のような成果物を投資家たちの前でピッチする15分間で実装できたら投資しようじゃないか、となった。瀬戸山氏は未開封のIntel Edisonのパッケージを開けるところから始めて、実際にSlackへ温度を投げるコードを15分足らずで完成。IoT開発の速度を上げるというバリュープロポジションに対して、実践デモで説得したそうだ。「誰も投資に反対とは言えませんでしたね(笑)」(グローバル・ブレイン熊倉氏)と投資の意思決定が行われたという。

さすがに自分が慣れた開発環境なら、たいていのものは15分でプロトタイプを完成させるライブコーディングくらいできるだろうとも思うが、興味深い話ではある。

CLIのコマンド一発で複数デバイスにコードを反映

Isaxx(アイザックスと読む、もう1度念のため。この記事中4度めの登場だけど)は、Herokuに似ている。Go言語で書かれたコマンドラインツールがあって、そのサブコマンドを使うことで、まずベースとなるコードの雛形を生成し、その後デバイスとクラウドに対して必要なコードを一発で転送できる。

「フルスタックエンジニア」という、それが何を指していて実際に生存が確認されているのかも良く分からない謎の言葉が生まれて久しい。ハードウェアやシステムに近いプログラミングから、モバイル、フロントエンドなど、あらゆるプログラミング言語や技術トレンドに精通していて、サービス全体を1人で実装できるエンジニアのことだ。

XSHELL瀬戸山氏は、IoT分野でそんなスーパーハッカーはほぼ存在しないという。

「IoT実証実験のコストは60%がソフトウェア開発だと言われています。IoTの開発にはデータ処理や認証技術、センサー、WAN、セキュリティー、製造管理などの知識が必要です。IoT検定というのがあるのですが、全部で19項目の知識が必要です。Wantedlyの全てのスキルセットを持つ人を検索すると60万人の登録中19項目全てのスキルセットを持つ人はゼロです。IsaxxではJavaScript、Python、Ruby、PHP、Golang、C++のいずれかの言語の1つが使えれば、デバイスのアプリも含めて開発、デバッグ、ローンチ後のアップデートなどが可能です」

リリース直前のMac版IsaxxのCLIツールをTechCrunch Japan編集部でダウンロードしてみたところ、サブコマンドとして「app show/create/delete」、「device show/init/config」、「cloud cluster/project/device/login/logout/quick」などが利用可能となっていた。例えばデバイス初期化コマンドを発行すると、デバイスの種類を聞かれ、デバイス側に常駐させるデーモンのバイナリイメージをネットからダウンロードし、これがデバイスに転送されるという流れ。クラウド操作のサブコマンドとしては、さらに「cluster create/register/deregister/list/status/delete」などがある。

xshell02

IsaxxはMIPS系も含めてLinuxが稼働するモジュール、RaspberryPi、Intel Edison、Onion Omega、Pocket CHIPなどが使える。Arduinoに対応しないのかという質問に対して瀬戸山氏は「今は1980年代に似ています。当時オープンシステム、専用機、汎用機が戦っていました。IoTも同じで、5〜8ドルのLinuxが主流になっていくと見ています」と説明する。

ハードの世界にウェブアプリの世界を持ち込む

Isaxxでは1デバイスでの開発とデバッグという「開発フェーズ」から、複数台での「検証フェーズ」、数十台、数百台をセルラーネットワークで繋ぐ「事業フェーズ」まで対応する。コードの反映にかかる所要時間は開発や検証段階で1、2秒。数百台のデバイスにセルラー経由でアップデートをかけるとなると、さすがに3分程度かかるそうだが、それでもこれは従来の組み込み開発やM2Mの世界からしたら、大きな進歩かもしれない。例えば、従来カラオケボックスのリモコンのソフトウェアアップデートとなると、個体管理やアップデートの仕組みがシステム化されてこなかったため、数百人がかりによる属人的な職人芸となっていた現場もあるそうだ。

XSHELL瀬戸山CEOは「ハードウェアの世界にウェブアプリの世界観を持ち込む」のがIsaxxの狙いと話していて、「例えば既存サービスに対して変更を加えて、後から登場したデバイスと連携するようなことが可能になります」という。これまでIoTの実証実験で7人の開発者で6カ月(2400万円)ほどかかっていたものを、1人の開発者、2週間の開発期間(50万円)に短縮できるとしている。何より、ウェブ開発で使われるプログラミング言語であれば使える開発者は非常に多い、というわけだ。

JavaScriptだけできればIoTサービスのプロトタイピングが可能になる、という世界観は興味深い。ただ一方で、実際の製品レベルのサービスにしていくときに、各分野の知識なり専門家なりがなくていいのかと言えば、そんなわけにはいかないのではないか。北米市場の話だが、現在販売されているスマートロック16種のうち12種でセキュリティーが破られた、という話がある。「セキュリティーについてはプラットフォームが保証してくれています」と開発者が言うようなプロダクトは、ぼくなら使いたくはない。IoTで広く使われるプロトコル、MQTTのベストプラクティスを知らずに消費電力やトラフィックといったリソースの最適化ができるとも思えない。

もう1つ、すでにIoTと呼ぶべきデバイスやプロダクトを開発している人であれば、「Linuxモジュールが対象」という点に違和感を覚えるかもしれない。多くのIoT製品は、そもそもOSを搭載していないからだ。カラオケのリモコンのようにリッチなUIを扱う組み込みデバイスと呼ぶべきものが対象であればいいが、Linuxのフットプリントはそこまで小さくない。特にスマホを経由して使うタイプのIoTであれば、複雑な処理はiOS上で行うというのも現時点では現実的なアプローチだろう。そう考えると、Isaxxは、今後1年とか2年かけて実用性を検証するユースケースで、ある程度ノード側に処理をオフロードするタイプのアプリケーションから立ち上がる市場がターゲットになるのかもしれない。

XSHELLでは今回のIsaxxのプラットフォームサービスのほかにも「Rapid」と名付けた受託開発サービスも提供していく。これはPoC案件(Proof of Concept)を中心として、自分たちのサービスのドッグフーディングをする意味が強いのだとか。「顧客を巻き込むという意味もありますが、PaaSとしてやっていくためにはベストプラクティスを知ってないといけない」(瀬戸山CEO)。

IoT市場の予測として2020年に全世界で530億台のデバイスが稼働するという数字を総務省が発表している。XSHELLでは、このうち国内シェア0.8%(770万台)を獲得して1デバイスあたり月100円の課金となれば、年商100億円となるとソロバンを弾いている。「IoT、IoTと言われ始めて2、3年して、なぜ誰もIoTでブレークスルーできていないか? それはPoCの数が少ないから。開発コストが高くて稟議が通らないという事情もあるのではないか」と瀬戸山CEOは話す。ちょうどHerokuがそうだったように、「プロの事業会社から、趣味のホビィストまで、誰もが使えるIoTプラットフォームサービスを作りたい。そういうミッションもあります」という。

ベンチャー資金―使い方を誤ればスタートアップの麻薬になる

Long exposure of cars traffic at night

この記事はCrunch NetworkのメンバーのEric Paleyの執筆。PaleyはFounder Collectiveのマネージングディレクター。

この数年、巨額の金がスタートアップにつぎ込まれている。資金を集めるのが簡単でコストがかからないというのはもちろん有利だ。ファウンダーは単に多額の資金を得られるようになっただけでなく、以前だったら資金集めが不可能だった巨大なプロジェクトを立ち上げることができるし、中には実際ユニコーン〔会社評価額10億ドル以上〕の地位を得るものも出ている。

このトレンドの負の面については、「これはバブルだ」という議論が常に持ち出される。こうした警告は主として経済環境やビジネスのエコシステムのリスクに関するものだ。

しかしスタートアップのファウンダーが日々するリスクについての分析はめったに行われない。簡単にいえば、こういうことだ―より多くの資金はより多くのリスクを意味する。問題はそのリスクを誰が負うのかだ。物事がうまく行かなくなってきたときどのようなことが起きるのか? なるほど資金の出し手は大きなリスクを負う。しかしリスクを負うのはベンチャー・キャピタリストだけではない。

ベンチャー・キャピタルでファウンダーのリスクは増大する

短期的にみれば、ベンチャー資金はチームの給与をまかなうために使えるのでファウンダーが負う個人的リスクを減少させる。ファウンダーは開発資金を確保するためにクレジットカードで金を借り入りるなどの困難に直面せずにすむ。しかし、直感には反するかもしれないが、ベンチャー資金の調達は、次の2つの重要な部分においてリスクを増大させる。

エグジットが制限される

ベンチャー資金の調達はスタートアップのエグジット〔買収などによる投資の回収〕の柔軟性を奪うというコストをもたらす。またバーンレート〔収益化以前の資金消費率〕をアップさせる。実現可能性のあるスタートアップのエグジットは5000万ドル以下だろう。しかしこの程度ではベンチャー・キャピタリストにはほとんど利益にならない。ベンチャー・キャピタリストはたとえ実現性が低くてはるかに大型のエグジットを望むのが普通だ。

ベンチャー資金というのは動力工具のようなものだ。動力工具なしでは不可能が作業が数多くある―正しく使われれば非常な効果を発揮する。

巨額のベンチャーを資金を調達したことによって引き起こされた株式持分の希薄化に苦しむ起業家は非常に多い。巨額の資金調達は、実現性のあるエグジットの可能性を自ら放棄することを意味する。その代わりに、ほとんどありえないような低い確率でしか起きないスーパースター的スタートアップを作ることを狙わざるを得ない状態を作りだす。何十億ドルものベンチャー資金が数多くの起業家にまったく無駄に使われている。スタートアップに巨額の資金を導入しさえしなければ現実的なエグジットで大成功を収めたはずなのに、実現しない大型エグジットの幻を追わされた起業家は多い。.私のアドバイスはこうだ―実現するかどうかわからない夢のような将来のために現在手にしている価値を捨てるな。

バーンレートが危険なレベルに高まる

エグジットが制限されるだけでなく、ベンチャー資金の導入はバーンレートのアップをもたらすことが多い。 スタートアップのビジネスモデルが本当に正しいものであれば、バーンレートの増大は有効な投資の増大を意味する。ところが、スタートアップがそもそも有効なビジネスモデルを持っておらず、増大したバーンレートが正しいビジネスモデルを探すために使われることがあまりに多い。残念ながら正しいビジネスモデルは金をかけたから見つかるというものではない。そうなれば会社はすぐにバーンレートそのものを維持できなくなる。CEOは節約を考え始めるが、そのときはもう遅すぎる。すでにベンチャー・キャピタリストの夢は冷めており、熱狂を呼び戻す方法はない。

導入された資金はすべて持分を希薄化させるものだということを忘れてはならない。粗っぽく要約すると、スタートアップは資金調達後の会社評価額を2年で3倍にしなければならない。1ドル使うごとに2年以内に3倍にして取り返せるというか確信が得られないなら、そういう金を使うべきではない。というか最初からベンチャー資金を調達すべきではない。

繰り返すが、ベンチャー資金は動力工具だ。つまり使用には危険が伴う。しかし未経験な起業家はどんな夢でも常に叶えてくれる打ち出の小槌と考えがちだ。チェーンソーがなければできない作業は数多い。しかし間違った使いかをすれば腕を切り落とされることになる。

ベンチャー・キャピタリストには10億ドルのエグジットが必要―起業家はそうではない

10億ドルのエグジットはもちろん素晴らしい。しかし起業家は最初からそれを成功の基準にすべきではない。ユニコーンを探すのはベンチャー・キャピタル業界特有のビジネスモデルではあっても、スタートアップの成功はそういうもので測られるべきではない。

10億ドルのベンチャー資金の背後にあるビジネスの論理を簡単に説明しよう。

  • ベンチャー・キャピタリストが10億ドルのファンドを組成する。成功とみなされるためにはそれを3倍に増やさればならない。
  • ベンチャー・キャピタリストは30社に投資する。
  • ベンチャー・キャピタリストは10社についてブレーク・イーブン、10社について全額を失う。すると残りの10社は平均して3億ドルの利益をファンドにもたらす必要がある。。
  • ベンチャー・キャピタリストのスタートアップの持分は通常2割から3割だ(それより低いことも珍しくない)。このビジネスモデルでは、1社10億ドル以下のエグジットではベンチャー・キャピタリストにとって成功とはみなせないことになる〔10億ドルのエグジットならVCの利益は2-3億ドルとなる〕。

こういう仕組みがあるのでベンチャー・キャピタリストは10億ドルのエグジットを求める。10億ドルのエグジットがたびたび起きないことが事実であっても、大型ベンチャー・ファンドのビジネスモデルがそれを要求する。
単に10億ドルのレベルだけの問題ではない。ベンチャー・キャピタリストのビジネスモデルは2.5億ドルのエグジットについても同じことを要求する。

資金に洞察力はない―それは単なる金に過ぎない

おおざっぱに言って、スタートアップのエグジットは資金の元となったファンドの総額以上でなければベンチャー・キャピタリストにとって重要な意味があるとはみなされない。これはもちろん「尻尾が犬を振る」ような本末転倒だ。ベンチャー・キャピタリストはファウンダーに「ビッグを目指せ。でなければ止めろ」という非合理な行動をけしかけている。誰も表立って言わないが、「ビッグを目指せ。でなければ破滅だ」というのが裏の意味だ。

もしスタートアップが失敗したら―これは多くのスタートアップがたどる道だ―30社に投資しているベンチャー・キャピタリストはあとの29社に期待をつなぐことができる。しかし起業家には自分のスタートアップ以外に後がない。スタートアップを育てるために注ぎ込んだ努力と時間はまったくの無駄になる。つまりベンチャー資金の調達ラウンドでは、通常、資金の出し手より受け手の方がはるかに大きなリスクを負う。

もちろん一部のファウンダーにとってベンチャー資金は必須のものだ。しかし―フェラーリは確かに優れた車だが、普通の人間が家を抵当に入れてまで買う価値があるかは疑問だ。通勤やスーパーで買い物するためならトヨタ・プリウスを買うほうが賢明だろう。

エグジット額は見栄の数字

もしファウンダーの目標の一つに金を稼ぐことが入っているなら、エグジット額に気を取られるのは愚かだ。スタートアップを10億ドルで売却したにもかかわらず手元に残った利益は1億ドルで売ったときより少なかったということはしばしばある。

身近な例でいえば、Huffington Postは3億1400万ドルでAOLに売却され、ファウンダーのアリアナ・ハフィントンは1800万ドルを得たという。一方、TechCrunchのファウンダー、マイケル・アリントンは同じAOLにTechCrunchを3000万ドルで売却し、2400万ドルを得たと報じられた。ベンチャー・キャピタリストの立場からすればTechCrunchの売却は「大失敗」だ。ベンチャー・キャピタリストならマイケルに「そんな値段では売るな」と強く勧めただろう。ところがマイケル・アリントンはこの取引でアリアナ・ハフィントンより多額の利益をえている。

起業における練習効果

私がベンチャー・キャピタリストから何度も聞かされた議論は、ファウンダーはポーカーでいえばオールインで、全財産をつぎ込むのでなければスタートアップを成功させることはできないというものだ。これはもちろんナンセンスだ。スタートアップを10億ドルに育てるためにはまず1億ドルにしなければならない。起業家は一足飛びに10億ドルに到達できるわけではない。現金化のレベルに到達するまでにはさまざまな段階を踏まねばならない。次の1歩に集中していてもなおかつ、結局はスケールの大きいエンドゲームにたどりつくことはできる。

まだ実現してい将来のために現在を売り渡してはならない

これは本質的に重要な点だ。成功したとみなされるスタートアップを見てみるとよい。WayfairBraintreeShutterstockSurveyMonkeyPlenty of FishShopifyLyndaGitHubAtlassianMailChimpEpicCampaign MonitorMinecraftLootCrateUnityCarGurus and SimpliSafe等々。こうしたスタートアップはどれも最初から「10億ドルか死か」というような考え方と無縁だった。にもかかわらず、このリストには10億ドル以上の企業が多数含まれている。こうした企業はスタート当初はほとんど、あるいはまったくベンチャー資金を導入していない。プロダクトにニーズがあり、市場に適合していることが明らかになり、さらに需要な点だが、ファウンダーが企業を拡大するためにどのように資金を使ったらいいかわかるようになってからベンチャー資金を調達している。なかにはベンチャー資金に一切頼らなかったスタートアップもある。

上に挙げたようなスタートアップは最初の1日から資金の使い方が非常に効率的だった。こうしたスタートアップには上場したものもあるし、10億ドル以上の金額で大企業に買収された会社もある。私は外部資金に頼らない起業、いわゆるブートストラップを特に推奨するものではない。しかし資金を賢明に使って企業を育てたファウンダーのやり方には学ぶべき点が多々あるとはずだ。

賢いのは人間で、金ではない

私は10億ドル起業のファウンダーとなることを目指すこともできたかもしれないが、事実は起業した会社を喜んで1億ドルで売却した。スタートアップを10億ドルに育てることも1億ドルに育てることも同じくらいの確率で実現するという誤った思い込みをしている起業家が多すぎる。なるほど10億ドルでエグジットするというのはファウンダーの夢としてはすばらしい。しかし5億ドルのエグジットなら間違いなくホームランだし、1億ドルのエグジットは驚くべき成功だ。
5000万ドルのエグジットでも大勢の関係者の生活を一変させるようなインパクトがある。そもそも100万ドル程度の「はした金」の現金化でファウンダーには大きな影響がある。

要するに、エグジットの可能性を早まって売り渡してはならない。持分やオプションを売るのは、スタートアップの将来価値が現在よりはるかにアップするという確信が得られてからにすべきだ。いかに多額の資金を導入しても洞察力が増すわけではない。堅実なビジネスを宝くじの束などと交換してはならない。

会社をスケールさせる必要があるからといっても道理に合わない多額の資金を調達することはビッグ・ビジネスを作る道ではない。起業家は大きく考え、大きな夢を持つべきだ。ベンチャー・キャピタリストの助力を得ることはよい。だがベンチャー資金をステロイドのように使うのは致命的だ。「効率的なスタートアップ運営」をモットーにすべきだ。断っておくが、私は起業家は小さい会社を作るべきだかとか小さい問題だけを解決すべきだとか言っているわけではない。正しい理由があるならなんとしてもベンチャー資金を調達すべきだ。しかしベンチャー資金ラウンドの華やかな見かけのために将来を売り渡してはならない。ベンチャー資金はファウンダーの自由を奪い、不必要に高いバーンレートをもたらす可能性がある。

実は大部分のスタートアップにとってベンチャー資金の導入は正しい選択ではない。正しく使われればベンチャー資金はきわめて有効だ。しかし残念ながら、多くの起業家は正しい使い方をしていない。

画像:xijian/Getty Images

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+