【編集部注:著者のJoanna GlasnerはTechCrunchの寄稿者である】
ボストンは、米国で2番目に大きいスタートアップ資金調達の中心地としての、旧来の地位を回復した。
ニューヨークの年間ベンチャー投資総額の後塵を、何年にも渡って拝し続けたマサチューセッツ州が、2018年に遂にリードを奪い返したのだ。ボストンのメトロエリアへの今年のベンチャー投資額は、これまでのところ52億ドルとなり、ここ数年のうちでも最も高い年間合計額になる予想が出されている。
現時点でのマサチューセッツ州の年初来の数字は、ニューヨーク市全体の数字よりも約15%高いものだ。このことは、今年ボストンのバイオテック重視のベンチャーを、これまでのところ、国内の様々な場所に比べて、シリコンバレーに次ぐ第2の地位に押し上げた。また、ニューイングランドのVCたちにとって、最新の数字は、地元の起業家たちの優れた才能についての、すでによく知られた観察を裏付けるものだ。
「ボストンはしばしば、『元』スタートアップの街だね、と片付けられてしなうことが多いのです。しかも、成功はしばしば見過ごされてしまい、サンフランシスコのそれほど成功はしていないけれど目立つ企業たちと同じような注意を引くことはありません」こうCrunchbase Newsに語るのは、ボストンのベンチャーファームであるOpenViewのパートナーであるBlake Bartlettだ。彼は、Amazonが10億ドルで買収したばかりのオンライン処方薬サービスのPillPackや、昨年10月に公開され現在株式総額が47億ドルになった中古車市場のCarGurusなどを、地元の成功例として挙げた。
また、ニューイングランドの猛烈な嵐の中で、地元のスタートアップたちの金庫の中には、新たな資金が積み上げられている。下記のグラフでは、報告されたラウンド数とともに、2012年以降の資金調達総額をみることができる。
競争が気になる向きに配慮して、過去5年分のボストンのスタートアップエコシステムとニューヨークの比較も示した。
資金を調達しているのは誰か?
ボストンが今年成功している理由は何だろう?単一の原因を突き止めることは不可能だ。ニューイングランドのスタートアップシーンは広大で、バイオテック、企業向けソフトウェア、AI、コンピューターアプリケーション、その他の分野に対して、とても豊富な専門知識を抱えている。
ただそのなかでも、最も多くを占めるのがバイオテックだということを指摘しないわけにはいかない。今年はこれまでのところ、バイオテックとヘルスケアがニューイングランドにおける投資資金の大部分を占めている。だがもちろん地元の投資家たちは驚いてはいない。
「ボストンはこれまでもずっとバイオテック世界の中心でした」と語るのはボストンとシリコンバレーに本拠を置くVCであるCRVのパートナーであるDylan Morrisだ。そのことによってボストンはこの分野において近年、資金調達とエグジットのブームの中核を担う拠点となっている。そこでは病気の診断と治療に対してより計算的な手法を使う方向に長期的な投資が移行しつつある。
さらに、MITの故郷であるこの街が、いわゆるディープテクノロジー(真に複雑なテクノロジーを使って真に難しい問題を解くこと)に関して、高い評価を得ていることは言うまでもない。それは巨額の資金調達ラウンドにも反映されている。
例えば、ボストンに拠点を置く企業の中で2018年に最大規模の資金調達を行ったModerna Therapeutics(mRNAベースの製薬会社)は、2回のラウンドで6億2500万ドルを調達した。Moderna以外には、巨額ラウンドが向けられたディープテクノロジーを持つ他の企業たちとしては、癌治療のためにT細胞の操作に焦点を当てたTCR2や、民生用ブロードバンド向けの世界初のミリ波バンドを使うアクティブフェーズドアレイ技術を開発するStarry(ボストンとニューヨークに拠点を置く)などがある。
他の分野にもいくつかの巨額ラウンドが見られる。例えばエンタープライズソフトウェアや、3Dプリント、そしてアパレルにさえそうした動きが見られるのだ。
ボストンはまたこうした超大規模資金調達ラウンドの恩恵を受けている。1億ドル以上を調達した多くのラウンドは、ベンチャー資金調達ランキングにおける都市の地位の上昇を助けた。これまでのところ、今年は少なくとも15社のマサチューセッツ州の企業がその規模の調達を成し遂げている。これは2017年には12社に過ぎなかった。
エグジットも行われている
ボストンの企業たちは、今年も活発なペースで、そしてしばしばそれなりの金額で、公開したり買収されたりしている。
Crunchbaseのデータによれば、今年少なくとも7つのメトロエリアのスタートアップが、1億ドル以上の公開価格で買収された。もっとも高値がついたのはオンライン処方薬サービスのPillPackだ。2番目に大きな案件は、S&P Globalに5億5500万ドルで売却された、大金融機関向けのアナリシスを提供するKenshoだった。
IPOも巨大だ。今年はこれまでに合計17社のベンチャーキャピタルによる支援を受けた企業が公開を行った。このうち15社がライフサイエンス系スタートアップだ。最大のものは、赤血球治療の開発を行うRubius Therapeuticsであり、それに続くのがサイバーセキュリティプロバイダーのCarbon Blackだ。
一方、過去数年間に公開された多くの地元企業は、公開以来その価値を大いに高めて来ている。Bartlettは、オンライン小売業者のWayfair(時価総額100億ドル)、マーケティングプラットフォームハブスポットHubSpot(時価総額48億ドル)、そして企業向けソフトウェアプロバイダーのDemandware(28億でSalesforceに売却)などを例として挙げた。
ニューイングランドが熱い(hot)
マサチューセッツ州で4月の極寒を体験した記憶を持つ私が、「ボストンが暑い(hot)」などというフレーズを口にするなんて新鮮過ぎる心持ちだ。しかし、天気の話は脇に置き、スタートアップの資金調達だけに話を絞れば、確かにボストンの風景には気温上昇が見えてきている。
もちろん、ボストンだけに限った話ではない。今年は超巨大なベンチャーファンドが、エリア全体に急増している。Morrisは南方向数時間の位置にある最大のライバルに対しても強気だ:「ニューヨークとボストンはお互いを嫌い合うのが大好きなのです。しかし、ニューヨークは素晴らしいこともやっています」と、バイオテックスタートアップのエコシステムを活性化するための努力を指摘した。
それでも現段階では、2018年はスタートアップにとってはボストンの年になりつつあると言ってしまっても間違いはないだろう。
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(翻訳:sako)