ファッションECのIROYA、自社ノウハウをもとにオムニチャネル基盤を提供——大和ハウスや東急など提携

毎月特定の「色」をテーマにしたセレクトショップとファッションECを展開するIROYA。これまでC向けにサービスを展開してきた同社が、大和ハウスグループや東急グループと組んでB向けビジネスを展開する。同社は7月12日、アパレルなど小売流通事業者向けのオムニチャネル支援に向けたプラットフォーム「Monopos」の提供を開始した。

IROYAは2013年10月の創業。代表取締役社長兼CEOの大野敬太氏は、学生時代に地元・神戸のアパレルショップの店員を経験。その後広告代理店やコスメ系IT企業、コーポレートベンチャーキャピタルなどを経てIROYAを起業した。

冒頭で書いた通り、毎月特定の色をテーマに、幅広いブランドを集めたセレクトショップ「IROZA」を展開。東京のほか京都、名古屋、博多などでポップアップストア(期間限定ショップ)を出店した後、現在は東京・渋谷の東急百貨店東横店に旗艦店を出店。同時にECサイトの「IROZA」も展開している。

IROZAの実績について

IROZAの実績について

そんな同社が展開するMonopos。これはIROZAの店舗、ECサイト運用の経験をもとに、倉庫や物流のマネジメントから在庫登録、配送、ECサイトの運用、店頭でのPOS利用、決済代行まで、サプライチェーンの行程を一元管理するプラットフォームだ。“オムニチャネル支援”とあるように、EC、実店舗むけそれぞれに機能を提供している。EC向けに自社サイト構築やウェブでの集客サービス、決済代行、配送といった機能を提供する一方、実店舗向けにはスマートフォンベースのPOSレジを提供するほか、集客支援などの機能を提供する。

この仕組みを実現するため、IROYAでは大和ハウスグループの大和物流(倉庫提供やフルフィルサービスを支援)、VOYAGE GROUP傘下のVOYAGE VENTURES(アフィリエイトによるウェブ集客支援)と資本提携業務提携を実施。また東京急行電鉄(東急電鉄)、東急百貨店(新規出店店舗向けにオムニチャネルサービスを提供)と業務提携、ヤマト運輸(配送連携および決済代行)とサービス連携を実施している。なお資本提携による調達額やバリュエーションは非公開となっている。

「Monopos」のサービスイメージ

「Monopos」のサービスイメージ

Monoposを利用するメリットの1つは、ECサイトと店頭の在庫を共有できること。これまではシステムが分かれているため、ECサイトと店頭で販売アイテムの在庫を分けて管理する必要がった。だがMonoposではそれを一元管理できるため、販売チャネルごとの在庫を用意する必要がなく、結果としてアイテムの消化率を高めることができるという。また、ECサイト向けのアイテム撮影や商品登録などのフルフィルメント業務はパートナー各社が対応。登録したアイテムは、IROZAに在庫シェアが可能。新たな販路を開拓することもできる。ユーザーにはそれぞれ固有のIDとQRコードを発行。このQRコードによって、ユーザーごとのEC・店舗両方の利用を管理できる。

今回の取り組みは、東急電鉄が手がけるスタートアップ向けアクセラレーションプログラム「東急アクセラレートプログラム(TAP)」がきっかけになっているという。プログラム発表の際にはその温度感が分からないところがあったのだけれど、今回の発表といい、クローズドで開催している着実に成果を出しているということだ。もちろん大和グループには倉庫の新しい利用用途の発掘、東急グループにはテナント誘致といった狙いはあるだろうが、小売流通事業者にとっても、EC・実店舗を1つのプラットフォームで管理できる意味は大きいはず。最近だとアパレル業界の不況について報じられることも増えているが、このプラットフォームを利用して事業の効率化を図るといったケースも今後出てくるんじゃないだろうか。

無印良品やFrancfrancも採用、インテリア試着アプリ「リビングスタイル」が2億円調達

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店頭で「インテリアの試着」

インテリア選びの失敗でありがちなのは、「部屋のサイズに合わない」「他の家具と相性が合わない」のどちらかだろう。こうした問題を解消すべく、3Dシミュレーターを使って接客する家具販売店が増えてきた。

タブレットやスマホを使って来店者の部屋の間取りを作成し、店頭で売っている家具を配置する。いわば「インテリアの試着」を体験してもらうことで、意思決定までの期間短縮や購買単価の向上につながるメリットがある。

無印良品が接客で利用するiPadアプリ。店頭で販売する商品でシミュレーションできる

無印良品が接客で利用するiPadアプリ。店頭で販売する商品でシミュレーションできる

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20ブランド、30万点を3D化

こうした3Dシミュレーターを家具販売店に提供するのが、2007年10月設立のリビングスタイルである。無印良品やFrancfranc、島忠など20ブランド、30万点の商品を3Dデータ化。商品を配置するシステムとあわせて提供する。

家具販売店の多くは、カタログ用の写真は撮影しても、3D化を前提とした写真は持っていない。リビングスタイルは各社の商品を1点1点、あらゆる角度から撮影し、フィリピンの協力会社を通じて3D化している。

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生地サンプルをスキャンすることで生地感を再現している

3D化に必要な写真は想像以上に多い。例えば、イスであれば正面、横、上、裏側、アーム部分、足の部分まで、多ければ30枚近くの写真を撮影することもある。生地のサンプルをスキャンすることで、生地感も再現している。

家具メーカーはシーズンごとに新商品を出したり、その反対に販売終了商品も出てくる。こうした商品の入れ替えにも対応し、店頭では販売中の商品で3D接客するためのデータベースを構築している。

「業界シェアは9割」

実際に、3Dシミュレーターを導入すると、どれだけ売り上げに貢献するのだろうか。リビングスタイルの井上俊宏社長によれば、導入企業の1社は売上高6億5000万円のうち、10%は3D経由で、購入者は約5000人に上るのだという。

「消費者は家具購入までに店舗と自宅を何度か往復し、部屋のサイズや床、壁の色、手持ちの家具の色などを確認する。これらを3Dシミュレーターに落としこむと確認作業が不要になるので、購入につながりやすい。」

リビングスタイルの井上俊宏社長

リビングスタイルの井上俊宏社長

店頭で3Dシミュレーターを使って接客する家具メーカーの9割は、リビングスタイルを選んでいると井上氏。「将来的に3Dデータを作り直す金額や、店頭スタッフに3Dシミュレーターの使い方を説明する手間を考えると、他社への乗り換えリスクも少ない」と強気だ。

リビングスタイルは3Dデータ制作費用、システム利用のための初期構築費と月額ライセンス費用が収益源となる。3Dデータは商品1点につき約1万円、月額ライセンス費は対応端末に応じて40〜50万円。

自宅で家具を置けるARアプリ強化

7月12日には、三井不動産のコーポレートベンチャーキャピタルファンド(CVC)とアコード・ベンチャーズの2社を引受先として、シリーズAとなる第三者割当増資を実施。調達は9月まで継続し、総額2億円になる見込み。この資金をもとに自宅で家具の3Dデータを仮想的に配置するARアプリ「RoomCo(ルムコ)」の開発を強化する。(App StoreGoogle Play

ルムコは、スマホのカメラ画面に映し出された空間に、家具の3Dデータを実寸で配置できるのが特徴。リリース前のアプリを見せてもらったが、タップ操作で家具の向きや色を変えられるので、自分の部屋にマッチするかがイメージしやすそう。

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開発中のARアプリ

似たアプリとしては、イケアの「IKEAカタログ」を思い浮かべるTechCrunch読者もいるかもしれないが、大きな違いはブランド横断で家具を選べる点だ。すでに3D化した家具メーカーの商品を配置でき、気に入った商品は各社のECサイトで買えるようにする。

家具以外にも、観葉植物や家電を扱うメーカーからの引き合いもある。今後はアプリ経由の商品の売り上げや店舗への送客に応じて、手数料を取るアフィリエイトモデルで収益化を検討する。

FinTechスタートアップのカンムがVISAプリペイドカードを発行へ、その意図は?

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CLO(Card Linked Offer)事業を展開するFinTechスタートアップのカンム。同社は7月11日、VISAのプリペイドカード「Vandle」を今夏中にも発行することを明らかにした。クレジットカードの加盟店で利用できるプリペイドカードは、KDDIの「au WALLET」(Master)やLINEの「LINE Pay カード」(JCB)などの登場によってユーザーの認知も高まっている存在。スタートアップがこれを提供する意図はどこにあるのだろうか。

その前にカンムについてご紹介しておこう。同社の設立は2011年。シード期に独立系ベンチャーキャピタルのEast VenturesおよびANRIから、2015年末にアドウェイズ、iSGSインベストメントワークス、フリークアウト、三菱UFJキャピタル、TLMから合計1億2500万円の資金を調達している。

カンム代表取締役社長の八巻渉氏

カンム代表取締役社長の八巻渉氏

カンムでは2013年からは大手クレジットカード会社のクレディセゾンと提携してCLO事業を展開してきた。CLOとは、クレジットカードの利用履歴をもとに、カード会員の属性に最適な各種の割引情報や優待情報を提供するというもの。現在は大手小売店やEC、保険などの領域のクライアントを中心に取り扱い、送客手数料や送客後の成果報酬によって収益を得ている。カンム代表取締役社長の八巻渉氏によると、すでに事業単体で単月黒字化を達成している状況という。

だが一方で課題もある。提携カード会社と直接契約している加盟店以外はCLOを利用できない(ざっくり言うと、カード決済において、イシュアー(カード発行者)とアクワイアラ(加盟店)が異なる場合は、決済に関する情報の一部を確認できないことがあり、最適なオファーを提案できない)ほか、オファーUIをカスタマイズできない(クレジットカードのオンラインサービス上で固定のバナーを提供する程度)という課題があった。これを解決するためには自らが決済情報を把握でき、かつさまざまな形でカード会員にオファーを提案できるプラットフォームを築く必要がある。これがカンムがプリペイドカード発行に至る経緯だ。

Vandleは、あらかじめ金額をチャージしておけば、VISAのカードが使える店舗・インターネット決済どこでも利用可能なプリペイドカードだ。あらかじめチャージする必要があるため、年齢制限や与信審査も必要ない。専用のアプリをインストールし、会員登録さえすればすぐにカード番号をが付与されてECの決済に利用できる。決済情報はリアルタイムに通知されるほか、今日いくら使ったか? 今週いくら使ったか?といったデータをアプリ上で表示する機能も用意する。

「Vandle」のアプリやその上でのCLOイメージ

「Vandle」のアプリの利用イメージ

アプリ上からはバナー広告を一掃。CLOを用いて、ユーザーが興味あるであろう情報だけを提供するという。具体的には、行ったことある店舗の情報が関連付けて表示される、そのカードが店舗のポイントカードの代わりになるといったようなものになるという。

また、Vandleは企業などが独自ブランドでプリペイドカードを発行することも可能となっている。あくまで例だが、出資するiSGSインベストメントワークスの親会社であるアイスタイルが、「@cosmeプリペイドカード」を発行することだって可能なわけだ。さらに言えば、自社サービス上で提供するポイントと、Vandleを通じた独自プリペイドカードを組み合わせることができれば、ネットとリアル両方で利用できる新たなポイントサービスを生み出し、また裏側では様々な決済データをもとに、より精度の高いCLOを実現できる。どこまでの範囲での話かはさておき、カンムではすでに複数の大手企業との提携を進めているところだという。

カンムではまた、今回の発表に合わせて、決済やマーケティング関連の3つの特許も取得している。今後はCLOで培ってきた決済データ解析の強みを活かして、自社で与信モデルを開発。独自のクレジットカードも発行する予定だという。この新しい与信モデルでは、既存の与信方法ではカードを作れなかった層にもクレジット機能を提供していく予定。

オーストリアが今後ヨーロッパのスタートアップ投資の中心地となる理由

The Stephansplatz is a square at the geographical centre of Vienna. It is named after its most prominent building, the Stephansdom, Vienna's cathedral and one of the tallest churches in the world.

【編集部注】本記事はConrad Egusa氏とVictoria Stunt氏によって共同執筆されたもの。Egusa氏はPublicizeのCEO。Stunt氏はコロンビアを拠点に活動するPublicizeのライター。

多くの人にとってオーストリアは、栄光の時代が過ぎ去ったこと自体にまさにその魅力がある、過去の国として感じられることだろう。この陸地に囲まれた人口850万人を有する中央ヨーロッパの国家による世界制服の野望と共に、オーストリア=ハンガリー帝国は約100年前に崩壊した。

そのせいもあり、オーストリアのスタートアップシーンはこれまで注目されてこなかった。ドイツから北欧にかけてや、ハイテク国家オランダが話題になる一方、アルプス山脈の反対側で起きている急速な変化に目を向ける人はほとんどいなかったのだ。

しかし、歴史的な魅力に包まれたオーストリアは、現在新しい企業をはじめるのに世界中で最も魅力的な場所のひとつとして自国を売りだそうとしている。そして、オーストリアのスタートアップ界における歴史上最大のエグジットとなった、Adidasによる2億4000万ドルでのフィットネスアプリ企業Runtasticの買収を含む最近の盛り上がりを見る限り、ヨーロッパで将来オーストリアのスタートアップシーンが大きな役割を担うことになると考えるのには理由がある。

オーストリアはスタートアップシーンを盛り上げる上での優位性をもともと持っており、地元の起業家はその強みが持続性のあるインフラ整備に向けられることを願っている。まずオーストリアはヨーロッパの中心に位置しているため、ヨーロッパ大陸の各首都へ3時間以内で移動することができる。そして開発にかかるコストも低いため、企業にとっては初動での失敗に伴う資金流出を抑えることができる。そのため、様々な携帯電話のキャリアがオーストリアを試験国とし、他国へサービスを展開しているのだ。更には、これまで投資家はスタートアップ市場を受け入れるのに前向きではなかったものの、昔からの富裕国であるオーストリアにとって投資リソースに関する心配は不要であり、あとは投資家の気運が新興の起業家世代の勢いに追いつくのを待つのみだ。

オーストリア人の多くは、企業がアーリーステージの資金調達を行うのにオーストリアより良い場所はないと感じている。これは恐らく少々誇張された表現ではあるものの、最近のGlobal Entrepreneurship Monitorの調査によって、オーストリアはプレシードの段階にある企業への公共投資がヨーロッパで最も盛んであることが分かり、彼らの主張が正しいことが証明されている。

2015年に、政府は2億8900万ユーロ(約3億2500万ドル)を助成金として3715社のスタートアップに提供しており、この政府のコミットメントが、起業家を目指す人や学生の多くに新たなベンチャー企業を立ち上げる意欲を与えている。ウィーンを拠点とするオーストリアでもっとも有名なベンチャーキャピタルのSpeedinvestは、ふたつ目となるファンドの設立のために昨年9000万ユーロ(約1億100万ドル)を調達した。

オーストリアのスタートアップカルチャーは、特に歴史的な背景という観点から見るとまだまだ若いといえる。しかし、オーストリアの人々は、スタートアップカルチャーの質的飛躍が間近に迫っていると感じている。そして民間の支援者が政府のサポートに呼応した活動を続ける限り、彼らの感覚は全く正しいものなのかもしれない。

誕生秘話

以前までも、オーストリアのスタートアップシーンは協力の精神で溢れていたが、2011年にそれまでとは違う動きが見られはじめた。

その年に開催された、2日間の集中的なワークショップとベンチャーキャピタルへのピッチイベントからなるStartup Weekにて、オーストリアスタートアップシーンの最前線にいる起業家たちが顔を合わせたのだ。このイベントはSpeedinvestの協賛で開催され、同社の初となるファンド(1000万ドル規模)も同じ年に設立された。参加者はカンファレンス終了後それぞれの道をたどっていったが、第一線で活躍するスタートアップ設立者の中には、このイベントで初めてオーストリアのスタートアップシーンが本当のエコシステムを構成しているように感じたと後に語った人たちもいる。

2012年には次のマイルストーンとなる、Austrian Angels Investor Association(AAIA)を、Johann “Hansi” Hansmann氏がSelma Prodanovic氏と共に設立した。国民1人あたりが世界でも有数のお金持ちであるオーストリアにとって、資金は問題ではなかった。しかし「それ以前のオーストリアには、スタートアップに投資することに価値を見出している人があまりいなかったんです」とHansi氏は説明した。

設立当初のAAIAはスタートアップ投資の魅力を知っている少数の人々が集まる場でしかなかったが、その後拡大を続け、国中から200人以上の投資家を集めるまでになり、月次のミーティングでは有望な投資案件についての議論がなされている。

好むか好まざるかに関わらず、オーストリアに変化が訪れようとしている。

スタートアップに興味を持った投資家の数が増えるにつれ、オーストリアの新興企業を紹介するイベントの数も増えていった。2013年に設立されたAustrianStartupsという非営利スタートアップ団体は、現地における起業家文化の可視性を高め、スタートアップエコシステムを強化することを目指している。同団体は、当初Facebookのグループでメンバー同士をつなぎあわせ、後にオーストリアのエコシステムの将来について書かれた40ページにおよぶ「ビジョンペーパー」を発表した。

今日では、AustrianStartupsはオーストリア中の9つの州全てでその存在感を発揮しており、定期的に開催しているイベントには、何100人もの起業家や投資家、そして興味を持った一般の人たちが参加している。AustrianStartupsは、Christoph Jeschke氏Vlad Gozman氏Patrick Manhardt氏Adiam Emnay氏、そしてCan Ertugrul氏によって設立された。

Startup Weekはその後Pioneers Festivalに名前を変え、ウィーンのホーフブルク宮殿で開催される世界規模のカンファレンスとなった。今年は世界中から2500人以上の起業家が集まり、400人以上の投資家に自らのビジネスアイディアを売り込んでいた。Pioneers Festivalの協同設立者であるJürgen Furian氏Andreas Tschas氏Pioneer Venturesというベンチャーファンドをはじめており、オーストリアのエコシステムの中でも最も有名なメンバーの二人だ。

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ウィーンでのPioneers Festivalの様子

Adidasに昨年買収された、フィットネスアプリの開発を行うRuntasticは、2011年の時点では既に順調にビジネスを運営していたが、オーストリアの非常に勢いのある企業の多くはもっと最近設立されている。2013年に設立されたBitmovinは、Y Combinatorの支援を受け、オンラインビデオの品質向上に繋がるトランスコーディングのサービスを運営している。直感的なSQLインターフェースでデータベースクラスタの分散設置サービスを提供しているCrateは、2013年に設立され、その翌年にはTechcrunch Disrupt Europeで優勝を飾った。

さらに、昨年Harald Mahrer氏が国務大臣に任命され、オーストリアにおける起業家文化の発展を促進するという役目を担うこととなった。以前に彼自身がエンジェル投資家であったこともあり、オーストリアの進む道について野心的なプランを策定していたMahrer氏には「Mr. Startup」のニックネームがつけられた。今年のはじめには、彼の集めた400人を超える政治家や科学者、実業家、市民の代表者が参加したOpen Innovation Strategy Stakeholder Workshopにて、オーストリアにおけるイノベーションが将来とるべき方向性についての計画がたてられた。

ウィーン

180万人の人口を誇るオーストリアの首都ウィーンは、EUの中で7番目に人口が多い街だ。ウィーンでの臨床診療を通じて精神分析学の理論を確立した、心理学者のジグムント・フロイトに敬意を評し、夢の街(the City of Dreams)と呼ばれることもある。しかしその名は、国際都市ウィーンのビジネスシーンでの活躍を夢見る、オーストリアのスタートアップシーンの中の約3分の2を占める企業への言及としてとることも容易にできる。

経験豊富な投資家のOliver Holle氏が2008年にオーストリアに戻り、シリコンバレーの精神を受け継ぎつつもしっかりとローカルな雰囲気も持ったベンチャーキャピタルを設立しようと考えていたとき、その拠点をウィーンに置くのは理にかなった判断であった。2010年に彼が設立したSpeedinvestは、「株主利益のため」というアプローチとは一線を画しており、パートナーとなるスタートアップに対して、実践的な役割を担ったチームを派遣している。その一例が、同じくウィーンを拠点とするオルタナティブな投資プラットフォームを運営するwikifolioで、最近600万ユーロの資金調達を達成した。

イノベーションラボ、インキュベーター、そしてコミュニティセンターとしての顔を持つImpact Hubは、ウィーンへの進出で、国際的な観点を持った現地のもう一本の柱となった。同社はアクセラレータープログラムの運営から、スケールに関する指導、さらにはソーシャルインパクトアワードの開催まで行っており、スタートアップの起業家精神を活かして、差し迫った課題に対しての持続的な解決策を推進することに力を注いでいる。

起業家コミュニティーを擁するコーワーキングスペースの運営を行うsektor5も、ハッカースペースのMetaLabと共に、ウィーンのスタートアップエコシステムの中心的な存在だ。

ウィーンにはオーストリア国内のスタートアップに関連した公共インフラのほとんどが集まっている。

さらにウィーンのスタートアップコミュニティは、その協力的な姿勢で知られている。「みんな進んで自分たちの経験を共有し、お互いを助け合おうとしています。ウィーンの伝統的なコーヒーハウスに立ち寄れば、それに気がつくかもしれません」とAustrianStartupsの共同設立者のひとりであるCan Ertugrul氏は述べた。「外からみてもその様子はわかりませんが、中に入って『ヴィーナー・メランジェ』を飲んでいるうちに、気づけばあなたの隣で、起業家や投資家、実業家、さらに最近その数が増えている政府の役人が、スタートアップエコシステムの発展を促進する方法について議論を行っているかもしれません」

他の国の首都でもよく見られるように、ウィーンにはオーストリア国内のスタートアップに関連した公共インフラのほとんどが集まっている。オーストリア研究促進庁(FFG)は、国もしくはヨーロッパ規模での産業調査に対して国家資金を提供している。連邦政府の下にある金融機関のAustria Wirtschaftsservice(AWS)は、特定の科学・クリエイティブ分野に与えられる補助金を利用しつつ、ファーストステージ、プレシード、シードと各企業の段階に応じた資金を提供している。これらの助成金には少額(約5000ユーロ)のものもあるが、額の大きいものだと100万ユーロにまで達するものもある。AWSは、2015年に3613社のスタートアップに対して計2億1800万ユーロを提供し、一方FFGは102社に対して7100万ユーロの資金を供給した。AustrianStartupsがまとめた連邦政府の補助金のリストはこちらから確認できる。

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AustrianStartupsの設立者たち。(左から)Vlad Gozman氏、Christoph Jeschke氏、Patrick Manhardt氏、Daniel Cronin氏、Adiam Emnay氏、Can Ertugrul氏。

また、各地の地方公共団体にとっては、Vienna Business Agencyが外資・内資問わず企業に関する窓口となっている。

ウィーンのスタートアップコミュニティの牽引者には、CondaのDaniel Horak氏、i5investのStefan Kalteis氏Bernhard Lehner氏、DreamacademiaのHarald Katzenschläger氏、Product Hunt CTOのAndreas Klinger氏、sektor5のYves Schulz氏、Impact HubのMatthias Reisinger氏、PioneersのTim Röhrich氏、そして投資家のMichael Ströc氏やMichael Altrichter氏が名を連ねる。

リンツ(Linz)

オーストリアで2番目に重要なスタートアップハブが、規模で言えばオーストリアで3番目の街リンツだ。人口は20万人ほどだが、サイズで劣る点は工業都市としての深い歴史や、盛り上がってきているクリエイティブ経済が埋め合わせしている。2009年にUnescoから欧州文化首都に選ばれたリンツは、特にデジタルアートやインダストリアル・エンジニアリングの才能を擁していることで知られている。

そのため、他を圧倒してオーストリアで最大の成功を収めたアプリがリンツで誕生したのも驚きではない。2009年にローンチされたRuntasticは、アッパーオーストリア応用科学大学の研究課題としてその開発がはじまり、2014年に買収されるときには、1億4000万ダウンロード以上を記録していた。

RuntasticはAdidasによる買収後も依然、共同設立者のFlorian Gschwandtner氏Christian Kaar氏René Giretzlehner氏、そしてAlfred Luger氏によって運営されている。

同じくリンツを拠点としているのが、Michael Eisler氏とBernhard Lehner氏によって設立されたアクセラレーターのstartup300で、 リンツのエコシステムの中で活躍する100人近い起業家のネットワークを構成している。Tabakfabrikもスタートアップやクリエイティブ系の人たちに人気のハブだ。

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投資家のHansi Hansmann氏(左)とRuntastic CEOのFlorian Gschwandtner氏(右)

その他の地域

イノベーションと資金の集中という、ウィーンを起業家にとって魅力的な場所にした要因が、同時にその他の地域の大部分から有意義なスタートアップカルチャーを奪い去ってしまった。しかし、そこにも変化が訪れようとしている徴候が見られる。

リンツに規模で勝り、豊かさで劣るグラーツ(Graz)は、若さが溢れる古都だ。Unescoから世界遺産に選ばれたこの街には、6つの大学があり学生人口も多い。ここでは、現代風の建築物を歴史的な街並みにうまく取り入れるという課題から、世界的にも有名な都市デザインのイノベーションが生まれた。さらに、物理的な近さや文化的な深い繋がりから、スロベニアがグラーツのスタートアップにユニークなチャンスを与えている。Ideen Triebwerkはグラーツの起業家文化の成長を支える有名な団体で、Maria Reiner氏が運営するManagerieは、スタートアップや文化的活動のための人気スペースだ。

オーストリアのスタートアップカルチャーが直面している顕著な問題のいくつかは、どの発展途上にあるシーンでも見られるようなことだ。

インスブルック(Innsbruck)は、ロケーションという点で興味深いスタートアップの街だ。ミュンヘンから150km、イタリアとの国境から40kmに位置し、交易の要所とされている。さらにインスブルックの人々は、一年で冬が最も長い山間の出身で、生きることの厳しさを知っていることから、理想的な起業家精神を持っていると言われている。インスブルックで行われる、世界初のスキーに関するスタートアップイベントSkinnovationは、人気イベントとなった。

ドイツ国境付近に位置し、15万人の人口とRed Bullの本社を擁するザルツブルグ(Salzburg)州は、Romy Sigl氏によって設立されたコーワーキングスペースのCoworkingSalzburgで知られている。この地域の投資家コミュニティーの力は極めて限られているが、Startup Salzburgという最近はじめられたイニシアティブの下でその成長を目指している。ザルツブルグ出身の有望なスタートアップの例としては、医者の検索エンジンSymptomaが挙げられ、同社は最近ヨーロッパのe-ヘルススタートアップの最有望株に選ばれた。

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ザルツブルグにあるRed Bullの本社(Photo by Sergio Fernandez / Flickr CC BY-SA 2.0)

まとめ

オーストリアのスタートアップカルチャーが直面している顕著な問題のいくつかは、どの発展途上にあるシーンでも見られるようなことだ。Speedinvestを除くと、シードステージを脱却した大規模ベンチャーキャピタルの数は少ない。また、国際的なベンチャーキャピタルが求めるような企業の成長スピードを経験した起業家はほとんどいないため、新進気鋭の起業家は、見習うべき例や頼りにするソートリーダーシップ無しにそれぞれのやり方をみつけるしかない。

さらにオーストリアは、スタートアップの首都であるベルリンと競い合う必要があり、ドイツからも起業家を誘致しなければならない。Valentin Stalf氏のいるNUMBER26Christopher Kahler氏のいるQriouslyなど、オーストリア人の共同設立者がいる成功したスタートアップの多くが、現在ベルリンやロンドンを拠点としている。

Tech.euの創刊者兼編集者であり、ヨーロッパで最も有名なテック記者のひとりでもあるRobin Wauters氏は、「素晴らしい会社はどこでも設立できるという考えは段々と真実味を帯びてきましたが、今日のヨーロッパの現実として、小さなエコシステムの中にいるほとんどの企業にとっては、雇用対象となる才能ある人材のプールや、幅広い投資のオプション、シニアマネジメント層をひきつける力などスケールアップに必要な要素が揃っている近場の主要ハブに目を向けた方が良いと思っています」と語った。

オーストリアもその要素を兼ね備える力を持っているものの、もっと一般的な意味での成功体験が、逆説的にその動きを邪魔している。低い失業率は急速な経済的変化へのインセンティブを弱らせ、オーストリアにある豊富な資金は、比較的リスクの低い投資対象に固まって向けられてしまっているのだ。スタートアップシーンにいる多くの人が、オーストリア人は起業という茨の道を生き抜くために失敗を乗り越えるという経験を十分にしていないと控えめな自慢話をしている。

しかし、好むか好まざるかに関わらず、オーストリアに変化が訪れようとしている。2008年の金融危機からの復興は緩慢で今のところ不完全なため、これまでにない経済的苦難への新たな対抗策を求められている政治家には強烈なプレッシャーがかかっている。欧州難民危機もこの小さな山間の国にとりわけ長きに渡る影響を与えており、最近の大統領選での全面的な政治的混乱もそれに輪をかけている。

Impact Hub Viennaの投資先であるRefugees Workは、オーストリアの労働市場への参入を既に目指している3万人超の難民と雇用主を結びつける求人プラットフォームを運営している。彼らの活動は、イノベーションセクターが立ち上がることで、難民問題を含む様々な課題を解決することができるという事例のひとつに過ぎない。このような動きには、政府からの継続的なサポートだけでなく、民間セクターの積極的な参加が必要ではあるが、似たような事例が今後たくさん起きても驚かないでほしい。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ネットワークセキュリティーのVeriflowが820万ドルの資金を調達

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ターゲットが自社のネットワークにハッカーの侵入を許し何百万の顧客のクレジットカード番号が盗まれた時のことを覚えているだろうか。それもよりによって、ターゲットの契約する空調管理会社のシステムを通じての侵入だったのだ。

Veriflow Systemsというスタートアップは、まさにこのような事態を未然に防ぐことを目標に掲げ、シリーズAのラウンドで820万ドルの資金を調達した。同社のウリは「数学的ネットワーク認証」と呼ばれるテクノロジーだ。

簡単に言えば、同社のシステムはセキュリティーとネットワーク運営の専門家に彼らのネットワークの構成を地図として提供し、さらには設定や装置の変更が実際にどのような影響を与えるのかを、それらが実装される前にモデル化する。

そういったモデル化により、どこにセキュリティーホールが開き、その他の問題が起こり得るかが明らかになる。それらの問題は放置すれば予期せぬネットワークの停止やパフォーマンスの低下を引き起こす。

Menlo VenturesがシリーズAではリードを務め、以前から投資しているNew Enterprise Associatesが今回も参加した。

以前、VeriflowはNEA、全米科学財団、米国国防省から290万ドルの資金を得ていた。

同社はすでに製品を販売しており顧客の中には他の政府機関のオフィスが含まれるが、それ以上の詳細を明らかにする許可は下りなかった。

Menlo Venturesのマネージングディレクターである Matt Murphyによると、「今日ネットワークはかなり不透明で、我々がインフラでのコンピュータ、ストレージやアプリケーションのレベルで実現している監視および可視性をネットワークで実現することは難しいのが現状です」

カリフォルニア州オークランドを拠点にする同社は、今回の資金を使ってそのテクノロジーを専門家の間で広く知ってもらうことを目指す。特にITオペレーターやネットワークセキュリティーの専門家の間で広く認知してもらおうと考えている。また、新規人材の雇用と現在の研究および製品開発にも資金が使われる見通しだ。

Veriflow CEO James Brear

VeriflowのCEO、 James Brear

Murphyによると、MenloがVeriflowをサポートするのは、設立チームのコンピュータ科学における経歴の良さが一因だ。
 同社の共同設立者は受賞歴のあるPhDを持ったコンピュータ科学者であり、その出身はイリノイ大学 Urbana-Champaign校UCバークレーだ。主任エンジニアはAhmed Khurshid、チーフサイエンスオフィサーはMatthew Caesar、チーフテクノロジーオフィサーはBrighten Godfreyとなっている。
VeriflowのCEO兼社長のJames BrearはProcera NetworksでCEOを務め、在任中の2011年に同社を上場させ、2015年の2億4000万ドルでの売却を見届けた。

[原文へ]

(翻訳:Tsubouchi)

フォトシンスの新スマートロック「Akerun Pro」、交通系ICカードでの開錠・施錠にも対応

フォトシンス代表取締役社長の河瀬航大氏

フォトシンス代表取締役社長の河瀬航大氏

スマートロック「Akerun」シリーズを開発するフォトシンスは7月7日、オフィスや民泊物件などでの利用を想定して機能を強化した新プロダクト「Akerun Pro」を発表した。7月23日より契約者に対して順次発送を行う。本体価格は無料で、月額9500円のレンタルプランでのみ提供する。フォトシンスでは3年間で1万台の販売を目指す。

まずは従来のAkerun(7月7日開催の会見では「Akerun One」と呼ばれていたが、サイト上の表記に合わせて「Akerun」としている)についてご紹介。Akerunは2015年3月に発売された後付け型のスマートロック。一般的なドアの内側についた錠前の上に粘着テープで本体を貼り付けることで、専用アプリを通じた開錠・施錠が可能になるというものだ。

Akerun Proはこの従来機と比較して、バッテリー容量を2倍に拡大。またバッテリーに加えてACアダプタによる給電(停電時などはバッテリー駆動に切り換え可能)にも対応した。開錠・施錠速度は15倍にスピードアップしている。僕はこれまで従来機でのデモを何度も見る機会があったが、正直スピードの変化には驚かされた。

「Akerun Pro」のデモ

「Akerun Pro」のデモ

Akerun Proは本体に加えて、NFCリーダー(室内用と室外用の計2台)、ドアセンサーとBluetoothで接続して動作する。この組み合わせによってSuicaやPASMOをはじめとした交通系ICカードをはじめとしたNFC対応ICカードを使った開錠・施錠が可能になる(NFC搭載スマートフォンは非対応)。また専用のクラウドサービスで鍵や入退室の管理などもできる。ICカードを元にした勤怠管理なども実現している。

APIを提供することで、外部サービスとの連携も可能だ。例えば「その日最初の出社」を検知してオフィス全体の電気を付ける、「その日最後の出社」を検知してオフィスの電気を消す、なんてことも可能になる。

フォトシンス代表取締役社長の河瀬航大氏はAkerunについて「スマートロック」ではなく、「スマートロックロボット」だと強調した(ついでに言うと配布された資料にも「スマートロックロボット」と表記するよう指示があった)。例えば本体のボタンを押してドアを開錠したとき(内側からのみ本体操作で開錠可能)に本体スピーカーで雨が降っていることを知らせる、緊急地震速報をもとに自動開錠を行うといったことを実現するという。「(Akerun Proが)人間がすべきではない煩わしい仕事を奪う。クリエイティブな仕事ができるようにする」(河瀬氏)

フォトシンスでは3年間で1万台の販売を目指す。なおAkerun Proはレンタルでのみの提供となるが、個人利用などを想定して従来機も併売するとしている。

pairs運営のエウレカ、創業者の赤坂氏が代表退任——新代表にCOO・CTOの石橋氏

左からエウレカ新代表となる石橋準也氏、創業者で取締役顧問の赤坂優氏

左からエウレカ新代表となる石橋準也氏、創業者で取締役顧問の赤坂優氏

日本と台湾で400万ユーザーが利用するマッチングサービスの「pairs」、350万ダウンロードの恋人専用アプリの「Couples」を展開するエウレカ。2015年5月には世界各国でマッチングサービスや各種ウェブサービスを展開する米IACグループが100億円とも200億円とも言われる大型のM&Aをしたことでも話題になった同社だが、そのM&Aから1年弱で代表交代のニュースが入ってきた。7月下旬をめどに、創業者で現・代表取締役CEOの赤坂優氏が代表を退き取締役顧問に就任。現・取締役COO兼CTOの⽯橋準也氏が新たに代表取締役CEOに就任する。

赤坂氏は、2008年11⽉に共同創業者で取締役副社⻑を務める⻄川順氏とともにエウレカを設⽴。受託事業から始まり、デザイン特化のクラウドソーシングサービス「MILLION DESIGNS」、アプリシェアサービス「peepapp」、SNSを利用したアプリ検索サービス「Pickie」などを手がけてきた。MILLION DESIGNSはランサーズに売却しているが、これは「事業撤退」の意味合いの強い売却で、いずれの自社サービスも決して大きく成功したとは言えない結果だったという(同社のこれまで、そして2016年以降の戦略についてはこちらの記事をご参考頂きたい)。その後2012年10月にスタートしたpairsのヒットで会社の規模は大きく成長。世界各国でマッチングサービスを展開するIACグループのメンバーとして、日本・アジア圏でのサービス拡充を進めている。

エウレカでは今回の人事について、「今後のさらなる事業成⻑と組織拡⼤に向けた経営スピードの加速を⾒据え、⽯橋をトップとする経営体制に移⾏することが最適であると判断し、新たなステージへ進むことを決定いたしました」と説明している。

新代表となる⽯橋準也氏は、1987年⽣まれの28歳。大学では建築を専攻していたが、ITに興味を持ち⼤学を中退。制作会社での業務と個人での開発請負などを行い2013年にエウレカに⼊社。2014年に執⾏役員CTOに、2016年3⽉に取締役COO兼CTOに就任している。僕が聞いたところでは実はpairsは直近バックエンドの大規模なリニューアルを実施しているのだそう。同社では以前にそのリニューアルプロジェクトで失敗したことがあるが、執念でプロジェクト遂行までの指揮を執った人物こそが石橋氏だったという。

今回の代表交代について、赤坂氏、西川氏、石橋氏のコメント(一部要約)は以下の通り。なおコメントにもあるとおりだが、共同創業者である西川氏は引き続きエウレカの副社長としてメンバーをリードしていく。一方赤坂氏は、分散型動画メディア運営のエブリーへの出資をはじめとしたエンジェル投資家としての活動も開始している。エウレカでは、年内にもpairsのユーザー数500万人(日本と台湾の合計)を目指すとしている。

赤坂氏:

本当に沢山の方に支えられエウレカはここまで来ることができました。私が願うのは、エウレカがベンチャー企業とは一線を画し、創業者の存在など関係なく、永続的に発展を遂げる会社になっていくことです。これからは石橋新代表の元、事業を通じて未来を創って参ります。石橋はこれから組織が急拡大するのに必要な戦略性や課題解決力を持っており、経営者にとって最も必要な「執念」を持っているリーダーだと思っています。個人的には、エウレカの成長に寄与しながら、インターネット産業及び日本が経済的に発展するために、スタートアップへの投資や自分自身ができる事をしていきたいと思っています。

西川氏:

2008年、赤坂と二人で創業したエウレカが、USのMatchグループにジョインし、合計800万人のユーザーに支持され、100人を超える社員を抱えるようになるとは起業当時は想像も出来ませんでした。「創業者が経営者で居続けるべきか」は、様々な考え方があると思いますが、会社というのは生き物であり、ステージによって、最適な経営チームに変化していくことが必要だと、創業者でもある私は考えています。その点で、エウレカは、石橋という素晴らしい新CEOを輩出できたこと、赤坂が代表でなくなっても会社が成長し続けられる状態になったことを非常に感慨深く思います。私は、引き続き、取締役COO&CFOとして、新代表の石橋、取締役CSOの中村とともに、エウレカを世界に通用する企業にすべく、頑張ってまいりますので、今後ともエウレカをよろしくお願いします。

石橋氏:

私がエウレカに入社したのは2013年7月で、今から丁度3年前になります。当時はこんな日が来るとは思いもしませんでした。入社してからはいちエンジニアからpairsのリードエンジニア、執行役員開発責任者、執行役員CTO、取締役COO兼CTOと目まぐるしくロールが代わる中でとにかく目の前の課題に必死に取り組んできた3年間でした。創業者である赤坂から代表のバトンを受け取る、その重責を担うことを決めたのには2つ理由があります。1つは赤坂の覚悟の大きさを理解したこと。もう1つは赤坂や共同創業者の西川、取締役CSOの中村と話をしていく中で、私自身誰よりもエウレカの未来を明確に考えその実現に向けて執念を持てる人間だと自覚したことです。引き続きエウレカの成長とエウレカの成長を通した社会的価値の創出に全力を尽くして参ります。

 

BASE、オンライン決済サービス「PAY.JP」上でID決済の「PAY ID」を開始

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BASEは6月27日、自社で展開するオンライン決済サービス「PAY.JP」にて、ID決済の「PAY ID」の提供を開始した。

ID決済とは、あらかじめID情報と紐付くクレジットカード情報を登録しておけば、IDだけでスムーズにオンライン決済が可能なサービス。国内ではPayPalやLINE Pay、Yahoo!ウォレットや楽天ID決済、Amazonログイン&ペイメントなどの他、モバイルキャリア各社が同様のサービスを提供している。PAY IDでは複数のクレジットカードを登録可能で、目的によってカードを使い分けることができる。

BASEでは、ECサイトプラットフォームの「BASE」を展開。現在では個人や法人、行政機関などが合計20万店舗のECサイトを開設しているが、ここにPAY ID決済を順次導入する。ローンチしたばかりのID決済サービスではあるが、最初から20万店舗の加盟店舗持つことになる。なお、BASEのスマホアプリ(iOSおよびAndroid)でもPAY IDによる決済が可能だ。

「BASEで利用できるID決済だが、『BASE PAY』というブランドではなく、『PAY.JP』という決済サービスのブランドで展開することにはこだわった」——BASE代表取締役の鶴岡裕太氏はこう語る。

例えば大手のプラットフォーマーがID決済を提供する場合、そこで狙うのはユーザーの決済簡略化だけではない。IDと結びついた購買データを取得することで、ユーザーに最適な購買施策を行うことも重要になるのだ。だがPAY IDで狙うのは、あくまで質量を持った「現金」をリプレイスしうるプラットフォームを拡大するということなのだそうだ。PAY.JPはBASEが2015年に買収したサービスだが、その際にも鶴岡氏は「個人の与信をもとに、価値と価値の交換をなめらかにする」と話していた。

 

パナソニックがアクセラレーション、生体電位センサや言語解析の技術も開放

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大企業がスタートアップとコラボレーションして新しい事業を始める道を模索する——そんな動きはここ1、2年でかなり具体的なかたちになってきているのだけれど、大手エレクトロニクスメーカーのパナソニックもスタートアップとの共創を進めるのだという。パナソニックは6月27日、スタートアップのcrewwと共同で企業アクセラレータープログラム「Panasonic Accelerator 2016」を発表。同日より参加を希望するスタートアップの募集を開始した。エントリー期間は7月8日まで。

Panasonic Accelerator 2016では、パナソニックとスタートアップ企業、両者のリソースを掛け合わせたオープンイノベーションによる事業創出を目指すとしている。「家電・くらし」、「仕事」、「先端技術」という3点をテーマに、パナソニックとスタートアップによる革新的事業、マーケットの創造を目指すとしている。crewwは、スタートアップのマッチングから新規事業提案までをパナソニックと共同で行う。

と、これだけではよく分からないのでもう少し具体的に話を聞いたところ、ビエラブランドで展開するテレビや生活家電、レシピサイト「ウィークックナビ」とコラボレーションする事業や、グローバルで25万人のパナソニックグループ社員を対象にした新しい職場環境や福利厚生、採用効率化に向けた事業のプランを創出していくという。また、(1)脳や筋肉の活動をミリ秒オーダーで計測する生体電位センサ、(2)対話の記録や翻訳に欠かせない人工知能を用いた音声言語解析のノウハウ、(3)機械学習により医用画像の類似性を判定する画像診断支援システム——というパナソニックの保有する先端技術をスタートアップに開放する予定だ。

パナソニックではスタートアップごとに専任の担当者を割り当てて、上記の領域で具体的なプランを練り込んでいくという。最終的には採択スタートアップと協業の契約をして、フィールド実証や事業化の詳細検討を進める。詳細な条件等は明かされていないが、取り組みの内容次第では資金提供にも前向きだとしている。

クラウド会計ソフトのfreeeがAIによる自動仕訳の特許を取得、ラボも開設

左からfreee執行役員プロダクトマネージャーの坂本登史文氏とfreee CTOの横路隆氏

左からfreee執行役員プロダクトマネージャーの坂本登史文氏とfreee CTOの横路隆氏

様々な領域で利用に向けた研究の進む人工知能(AI)。FinTechの領域もその例外ではない。クラウド会計ソフト「freee」などを提供するfreeeは6月27日、自動仕訳に関するAI技術の特許を取得したことを発表。同時に、AIによるバックオフィス業務効率化をすすめる「スモールビジネスAIラボ」を創設した。今週中にもクラウド会計ソフトにAIを用いた自動仕訳機能を提供する。

クラウド会計ソフトfreeeは、銀行口座やクレジットカードなどと連携し、出入金を自動で取得、勘定科目を仕訳してくれるというもの。このデータをもとにして帳簿や決算書を作ったり、請求書や見積書を作ったりできる。

データは銀行口座などと自動で同期されるとは言え、勘定科目については当初キーワード単位でのルールで仕訳を行っていた。1つの例だが、「さくらインターネット」や「インターネットイニシアティブ」といったクラウド・インフラ企業への支払いが「インターネット」というキーワードをもとに「通信費」として仕訳される一方、本来ほかの勘定科目に仕訳すべき内容も「●●インターネット」という名称がついていた場合、「通信費」となってしまっていた。これを防ぐには、結局のところ、最終的に人間が勘定科目を確認・選択する必要があった。

AIを用いた自動仕訳機能のイメージ

AIを用いた自動仕訳機能のイメージ

だが仕訳登録AIを導入するより最適な勘定科目を推測できるようになるという。AIは学習エンジンを搭載しており、利用ユーザーが増えれば増えるほどにその精度は高まるのが特徴だ。開発を担当したfreee執行役員プロダクトマネージャーの坂本登史文氏によると、その精度は現在70%弱。今後は数カ月のベータ版運用を経て、90%程度まで精度を引き上げていく予定だという。

freeeのスタッフは現在200人以上。エンジニアの10%はラボのメンバーとしてAI関連の開発に従事しているという。デジタルインファクトの調査やMM総研の調査によると、freeeはクラウド会計、給与計算でシェア1位だという(とは言えそもそもクラウド化率が会計で11.1%、給与計算で12.5%という数字だ)。freee CTOの横路隆氏はこの数字を挙げて、「(freeeには)個人事業主や中小企業のデータが集まっている。このデータを利用すればイノベーションを起こせる余地はまだまだある。また我々は会社設立から会計、給与計算までの機能を提供している。パッケージされた業務システムを1つ1つ最適化するのでなく、すべてのサービスを1つのデータとして最適化できることは強み」と語る。

今後ラボでは、AIをもとにした不正データの検知や、チャットサポートの自動化、消し込み作業の支援といった経理作業の効率化に向けた機能を提供していく。また将来的には資金繰りのシミュレーションや経営分析など、経営意思決定の支援に向けた機能を提供していく。

スタートアップと移民をめぐる情報の真偽

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【編集部注】執筆者のDesmond Lim氏はQuickForceの創設者。

Uberがアメリカ各都市の移動手段に変化をもたらし、SpaceXがアメリカ国民に火星旅行を提供しようとしている。Oscar Health Insuranceが、健康保険をアメリカ国民にとって身近なものにし、ZocDocが医者のアポ取りを簡素化している。Razerが世界中のゲーマーから愛される製品をつくり、FanDuelは、スポーツファンが楽しめるファンタジースポーツのプラットフォームをつくり出した。これらの先進的企業の共通点に気づいただろうか?実は、創設者のうち最低ひとりが外国生まれの起業家なのだ。

ヴァージニア州アーリントンを拠点とする、無党派シンクタンクのアメリカ政策国家基金(the National Foundation for American Policy)のある調査によると、アメリカ国内の10億ドル規模のスタートアップのうち、51%(87社中44社)を移民が創設しており、さらに70%以上(87社中62社)で移民が重要なポストについている。

さらに同調査では、これらの企業が合計で6万5000以上もの雇用を生み出したことがわかっている。ここから、移民がアメリカの雇用創出や起業家精神、スタートアップのエコシステムに関して、大きな役割を担っていることが見てとれる。しかし、アメリカでは厳しい移民政策が敷かれており、「スタートアップビザ」に関する法案も未だ可決されていない。スタートアップビザに関しては、現在の情勢を考えると、段々法案可決が難しくなっているとさえ言える。

私は、最近修士課程を修了し、キャリアに関する様々なオプションについて模索する中で、自分で会社を立ち上げるか、スタートアップで働こうという決意を固めた。ほとんどの留学生のように、当初私は、アメリカに滞在し続けて起業やスタートアップでの勤務を行うことは不可能だという印象を持っていた。

私の友人の多くが、H-1Bビザのスポンサーとなり得るような信用力のある会社で勤務した方が良いだろうという思いから、AppleやGoogle、Facebookへ就職していった。さらに、毎年4月1日に行われるH-1Bビザの抽選システムのせいで、ビザを取得するチャンスは一度しかないとも聞いていた。

移住問題の解決策を模索することや、真実を突き止めることを諦めないでほしい。

そのため、外国生まれの起業家精神溢れる人たちにとっての「安全策」は、スタートアップの道へ進む前に、大企業で数年間働くというものであった。学生によって運営され、学生が立ち上げたスタートアップへの投資を行うDorm Room Fundという投資ファンドも、留学生が自らの事業を続けたり、スタートアップに就職したりするのではなく、大企業への就職という選択肢に走る1番の理由は「移民問題」だと語っている。

しかし、私のメンターや移民問題に詳しい弁護士と話をしていくうちに、このような話のほとんどが嘘であり、次のSpaceXやUber、Palantirとなる企業の立ち上げや、スタートアップでの勤務を目指し、アメリカ滞在を決意した起業家たちにとって、以下のような都市伝説や嘘、間違いを含んだ情報について知っておくことが大切だと学んだ。

H-1Bビザの抽選結果は、勤めている企業のサイズやブランドで決まる

真実:私の経験からいって、FacebookやTeslaで働いているH-1Bビザの申請者に許可が下りる確率は、その他の条件が全く一緒だとして、社員5人のアーリーステージスタートアップで働く申請者と同じである。確かに、FacebookやTeslaの人事部の方が申請書の準備については頼りになるかもしれないが、重要な点は、抽選結果が全くのランダムで決まるため、勤務先のサイズやブランドに関わらず申請者全員にとって、H-1Bビザがおりる確率は同じだということだ。

H-1Bビザの申請は、オプショナルプラクティカルトレーニング(OPT)期間の一発勝負

真実:2016年3月11日にアメリカ合衆国国土安全保障省は、新たなルールを制定し、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Math)(略してSTEM)の学位を持っている一定数の留学生については、全学部の留学生に許可される12ヶ月のOPT期間に加えて、さらに24ヶ月間の延長が認められることとなった。これによって、1回目の申請でビザがおりなくても、2年目以降に再度申請のチャンスが与えられることになる。

さらに、申請期限が4月1日であることから、もしも学部4年生、または大学院の最終学年在籍中に就職先が決まれば、OPTがはじまる前にH-1Bビザの申請ができるので、実質的にビザ申請のチャンスが1回分増えることとなる。

アメリカに滞在するには、H-1Bビザしかオプションがない

真実:H-1Bの他にも、B-1、 O-1、 E-2、 J-1、 L-1、F-1など取得できるビザには様々な種類が存在する。B-1(商用ビザ)であれば、出張者として6ヶ月間アメリカに滞在が可能だ。また、もしも科学、芸術、教育、ビジネス、スポーツの分野で、これまでの実績や評価をサポート材料に、申請者が卓越した能力を持っていることを証明できれば、O-1ビザがおりる可能性もある。また、新規・既存問わず、もしもアメリカ企業に多額の投資を行っていれば、E-2ビザが取得可能だ。L-1ビザは、同企業内での転勤者向けのビザで、母国で登記された会社の社員を、子会社設立のためにアメリカへ派遣する際などにぴったりだ。

抽選がH-1Bビザを取得するための唯一の方法

真実:H-1Bビザ取得には他の道もある。マサチューセッツ大学ボストン校のVenture Development Centerでは、the Massachusetts Global Entrepreneur-in-Residence (GEIR)というプログラムが提供されていて、外国生まれの起業家が、事業を継続しながらGEIRのメンターとして活動することで、発行上限無しのH-1Bビザを取得し、アメリカに滞在できるようサポートを行っている。GEIRプログラムは、2014年にマサチューセッツ大学とMassachusetts Technology Collaborativeの試験的プログラムとしてはじまった。さらに、シンガポールまたはチリ生まれの人については、H-1B1と呼ばれる非移民ビザ(永住を認めていないビザ)を取得でき、このビザが発行上限に達することはほとんどない。

外国人はアメリカで会社を設立できない

真実:私の会社の顧問弁護士から聞いた話によると、外国人でもアメリカで会社を設立することができる。実際、私と同じ大学にいた外国人の同級生たちの多くが、在学中もしくは卒業後に会社を登記している。しかし、労働に対して正当な報酬を受け取るためには、労働が許可されているビザをもっているか、OPT下になければならない。

自らが共同設立者のひとりである会社を通して、H-1Bやその他の非移民ビザの申請を行う際は、外国人が株式の過半数を保有することが認められていないため、牽制力のある取締役会や、申請者以外の主要株主の存在から、申請者が会社に対して支配権を持っていないということを証明しなければならない。

弁護士に法外な費用を払うことがビザ取得の唯一の手段

真実:アメリカに滞在して働きたいという外国人のための情報が、オンライン上でだんだん増えてきている。そのため、ビザ取得を目指す人は、オンライン上の情報にアクセスしたり、最近増えてきているClearpath ImmigrationLegal Heroなどの法律系スタートアップに相談することができる。

その他にもアメリカ国内には、外国人起業家をサポートし、彼らの野望を叶える手助けをしているスタートアップ関連プログラムがたくさん存在する。その中でも、ミッション重視の外国人起業家向けファンドであるUnshackledは、選別された外国人起業家の、労働ビザや永住権獲得に必要なスポンサーに関する問題対応のサポートを行っている。

アーリーステージスタートアップへの就職や起業を志す、熱意あふれる起業家たちにとって、自分のキャリアにおける次のステップにふさわしい場所を決める際には、移民政策に関する都市伝説や嘘、間違いを含んだ情報について理解することが重要だ。移民に関する情報は分かりづらい上に、オンライン上の情報は片手落ちであることが多い。しかし、ひとつだけ確かに言えるのは、もしもあなたが、自分のスタートアップのアイディアに真の情熱を持っているなら、移住問題の解決策を模索することや、真実を突き止めることを諦めないでほしいということだ。

著者注:私は、最近ハーバード大学を卒業したシンガポール生まれの起業家です。私自身は弁護士ではなく、アーリーステージスタートアップにおける勤務経験のある起業家として、私の個人的な経験をもとにこの記事は書かれています。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

メルカリで自宅発送が可能に、出品者の心理的ハードルを下げる

メルカリが6月20日、自宅から発送できるサービスを開始した。ヤマト運輸との提携で提供する配送サービス「らくらくメルカリ便」の利用者が対象。自宅にいながら出品できるようになったことで、「出品=面倒」という心理的なハードルが下がりそう。

従来の「らくらくメルカリ便」は、ヤマト運輸の営業所かファミリーマートに商品を持ち込む必要があった。今後は出品時に「らくらくメルカリ便」を選択し、配送時にアプリ内で「集荷」を選べば、ヤマト運輸のセールスドライバーが自宅まで商品を取りに来てくれる。

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「らくらくメルカリ便」の「宅急便」と「宅急便コンパクト」が対象。集荷時の料金は、商品持込時の料金と比べて、それぞれ30円高くなる。

サイズ別の料金(カッコ内は持ち込み時の料金)

宅急便コンパクト :410円(380円)

宅急便60サイズ :630円(600円)

宅急便80サイズ :730円(700円)

宅急便100サイズ:930円(900円)

宅急便120サイズ:1030円(1000円)

宅急便160サイズ:1530円(1500円)

「らくらくメルカリ便」は全国均一の料金設定で、ヤマトの通常料金より最大69%オフで利用できるのが特徴。名前や住所を開示せずに匿名で取り引きでき、配送トラブル時にはメルカリが商品代金を全額補償する。

いままでメルカリで1万円以上売り上げた人は177万人ーー。メルカリが6月16日に公開したデータだが、僕もその1人で「らくらくメルカリ便」愛用者でもある。落札後にアプリで生成したQRコードを店頭の端末にかざせば、宛名書き不要、しかもレジ会計不要で発送できるのは、僕にとって「出品=面倒くさい」という印象が大きく変わった。

ただ、唯一不満だったのは、店頭まで商品を持参しなければならなかったこと(重量7〜8kgの漫画全巻セットを運ぶのは、なかなかの重労働だ)。自宅発送が可能になることで、大きな荷物が送りやすくなるし、小さな子どもがいて外出できないという人も、気軽に出品できるようになりそうだ。

さすがのノルウェイ、水産飼料企業がスタートアップコンテストで優勝

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もしも、あなたがテック業界の記者で、自分にとって大切な国であるノルウェイに出張し、ノルウェイのスタートアップシーンについて、良いニュースを持って帰ってきたいと本気で願っているとしよう。そして、あなたは他でもない、Angel Challenge開催のスタートアップコンテストの決勝戦に招待された。しかし優勝したのは、MiniProというインターネット上にもその存在が全く知られていない企業だった。MiniProの製品といえば、稚魚のベビーフード。あなたは、これから起きることを信じられないだろう。

Ingmar Høgøy, CEO of MiniPro, pitching his company (Image by Dan Taylor/Heisenberg Media)

MiniProについてピッチを行う、CEOのIngmar Høgøy氏(Image by Dan Taylor/Heisenberg Media)

他の国であれば、MiniProのピッチは冗談だと思われただろう。パロディのような会社が、何かの拍子で間違って部屋に入ってしまい、気がついたら、言語障害を持つ子どものためのアプリを開発している企業(Milla Says)や、AirBnBモデルの補完サービスとなるようなビジネスを行う企業(EasyBnB)と並んでピッチを行うことになってしまったとさえ感じる。

私はこれまで、数多くのデモデイやピッチイベントの様子を見てきたが、MiniProがステージに出てきたときには、「本気か…」と不運にも私の隣に座っていた人たちに漏らさずにはいられなかった。「魚のエサを作る会社が、スタートアップコンテストの決勝に残れるのはノルウェイだけじゃないでしょうか」という私に対して、周りの人たちはちょっと時間をおいて肩をすくめながら、「まぁノルウェイですからね」と答えた。

そしてコンテストの優勝者が発表されると、それはもちろん、MiniProだった。私は周りの人たちに同意するしかなかった。これがノルウェイなのだ。

そしてそれは実はとても大切なことだ。

20 investors each invested 50,000 NOK (approx $6k) each. Here, they're trying to decide which company to invest in (Image by Dan Taylor/Heisenberg Media)

20人の投資家が、1人あたり5万ノルウェイクローネ(およそ6000ドル)の資金を、どの企業に提供しようかと悩んでいる様子。(Image by Dan Taylor/Heisenberg Media)

ノルウェイのスタートアップシーンが賞賛に値するのは、さらなるシリコンバレーのクローン(シリコンフィヨルド?)にならないよう、意識的な決定がなされているように感じられる点だ。そして、その様子が現地スタートアップシーンのいくつかの面に反映されている。例えば、このエコシステムの中にいる多くのスタートアップは、原油やガス、海運や漁業などノルウェイが伝統的に力を持っている業界に特化している。国の長所を利用するという意味で、この傾向には納得がいく。起業家は業界のどこに課題があるか理解しており、ソリューションを考え出すのに必要なスキルも持っている。さらに、投資家が共感できるような企業の方が資金調達もしやすい。 そして当然、ノルウェイでは海運関連企業の方が、例えばUberの競合となるような国産企業よりもイグジットを想像しやすいのだ。

優勝者であるMiniProは、100万ノルウェイクローネ(およそ12万ドル)の資金を調達した。私が知る限り、MiniProは自社のウェブサイトどころか、ネット上に全く情報が掲載されていない。ノルウェイの商業登録を除いては、同社に関する情報をひとつもネット上で見つけることはできなかった。魚のエサを作っているMiniProの存在は、私が普段慣れ親しんでいるスタートアップから全くかけ離れている。前述の話に戻ると、「稚魚のベビーフード」を作っている企業を、スタートアップコンテストで優勝させるというのは、テック業界記者の私にとって頭をもたげさせる出来事だった。(もしもこの記事を読んでいるノルウェイの人がいたら、今回の出来事が、どれだけ自国を嘲笑の的にしているかというのを考えてみてほしい)

しかし同時に、MiniProの優勝が、ノルウェイはなぜこんなにも興味をそそる国であるかというのを上手く表している。客観的にどの基準で見ても、その日ステージに上がっていたスタートアップの中では、MiniProが一番だったのだ。

従来型のテック系スタートアップとは対照的な存在として認識されていても、MiniProはスタートアップとして重要な要素を備えている。強固なチーム、ターゲットとなる市場の深い理解、特許で保護された製品、はっきりしたビジョン、明解なGTM戦略、大きな成長可能性、厚い利益、明確なプロダクト/マーケットフィットなどがその要素として挙げられる。MiniProが、マーケット全体に相当する1年あたり60億ドルの売上をあげる可能性があることは否定できないし、もしもMiniProが水産業以外の業界にいたならば、同社のオフィスの周りに投資家が列を作っていても驚きではない。

そしてこれが、今回の私のノルウェイ出張の中での一番の気づきであった。ノルウェイのことを、シリコンバレーの視点から伝えようとしても意味がなく、かといってノルウェイのスタートアップシーンに明るい未来がないという訳でもない。しかし、それだけにノルウェイは今後ユニークな課題に向き合うことになるだろう。

[原文へ]

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

熊本発「シタテル」はアパレルの低価格・小ロット生産を実現する、全国の縫製工場と提携で

消費者の趣味が細分化する中、アパレル業に求められるのは多品種・少量生産。そんな時流に乗って、アパレルからじわりと熱視線を集めるサービスがある。オリジナル商品を作りたいアパレルブランドやデザイナーと、中小・零細の縫製工場とマッチングする「SITATERU(シタテル)」だ。

利用しているのは、個人デザイナーだけでなく、ビームスやユナイテッドアローズといった有名セレクトショップに商品を卸すブランド、パリコレに参加するハイブランドまで。会員登録数は前年比300%の約1800事業者と急増し、流通総額は5億円に上る。

中小・零細の繊維工場をネットワーク化

シタテルは全国120以上の縫製工場と提携し、これまで難しかった15〜100枚単位の発注を可能にした。アパレル事業者にとって小ロットの発注は単価が高くつくため、数百枚単位で発注するのが通例だった。

アパレル事業者は、電話かチャットで作りたい服を伝えると、目安の料金がわかる。生地が決まるとシタテル側でパターン(型紙)を作成。その後、サンプルを送ってもらい、問題がなければ本生産に移る流れだ。

アトリエは「マイ・アトリエ」という会員サイトを通じてシタテルとやりとりをする

アパレル事業者は「マイ・アトリエ」という会員サイトを通じてシタテルとやりとりをする

工場とのマッチングは独自アルゴリズムを使う。

データベース上には縫製レベル、対応可能アイテム、料金、リードタイム(発注から納品までの期間)、稼働状況といった情報があり、アパレル事業者の要望に応じて最適な工場をマッチングする。

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ここで気になるのが、縫製品質。メイドインジャパンの縫製技術は海外に比べると高いと言われるが、実際のところはどうなのだろう。この疑問についてシタテルの河野秀和社長はこう答える。

「総じて品質は高いが、工場ごとに差があるのも事実。そのため、工場に提出してもらうサンプルを元に、シタテルが5段階で評価している。これによって、縫製技術の難易度に応じた工場をマッチングできるようにした」

シタテル社内には、アパレル事業者の要望を聞くコンシュルジュや、デザインをCADでデータ化するパタンナーも在籍。すぐに稼働できる工場も把握していることから、通常3カ月かかるリードタイムを最短6日に短縮しているという。

シタテルのメンバー(右から2番目が河野社長)。お揃いのコートはもちろん、シタテルで作ったものだ。おしゃれ感が漂う

シタテルのメンバー(右から2番目が河野社長)。お揃いのコートはもちろん、シタテルで作ったものだ

工場の代わりに新規開拓

大手アパレルが海外に生産拠点を移したことで、国内の縫製工場は仕事が激減。特に営業力がない零細・中小の工場は新たな仕事の受注ができず、苦境にあえいでる。「国内の縫製工場は15年前の1万5000から、5000ほどに減ってしまった」と河野氏は言う。

「最近の円安傾向と中国の人件費高騰で、国内工場への回帰も進んだ。とはいえ、工場には繁忙期と閑散期があり、すべての工場が1年中稼働しているわけではない」

稼働していないなら小ロットでも受注すればいいと思うかもしれないが、工場側からすると効率が悪く、旨味のある仕事ではない。そこでシタテルは、工場が受注時に経由する卸売や企画会社を迂回することで、小ロット生産でも利益を確保できるようにした。

提携工場の中には、ふだんはレディース専門の縫製しかやっていなかったが、その技術をメンズ商品で生かすようなケースが少なくない。営業力のない工場にとってシタテルは、非稼働の時間を埋めるだけでなく、新規顧客を開拓してくれる存在ともいえる。

ディオールやコム・デ・ギャルソンといったハイブランド、有名セレクトショップに卸すブランドが発注する縫製工場とも提携する

ディオールやコム・デ・ギャルソンといったハイブランド、有名セレクトショップに卸すブランドが発注する縫製工場とも提携する

震災復興を後押しする熊本発スタートアップ

シタテルは2014年3月に創業した熊本県のスタートアップだ。

河野氏は熊本出身。前職は地元企業の相談に乗る経営コンサルタントだった。そこで気づいたのが、小ロットで商品を作りたいアパレル事業者が多いにもかかわらず、需要に応える工場がなかったこと。

この構造を変えようと、アパレルと縫製工場をつなぐ、現在のビジネスモデルにたどり着く。創業当初は地元の工場と提携し、全国から注文を受けては縫製を依頼。現在も熊本県内34の縫製工場と提携している。

4月の熊本地震直後は、県内で多くの提携工場が操業を停止したが、徐々に生産を再開。パリコレに参加する世界的な国産ブランド「アンリアレイジ」が県内の縫製工場に依頼するなど、復興を後押ししている。

アンリアレイジがシタテルで作ったコート。生地にはコード(!)が埋め込まれていて、ドットや市松模様、花柄やらが浮かび上がるそうだ。すごい

アンリアレイジがシタテルで作ったコート。生地にはコード(!)が埋め込まれていて、ドットや市松模様、花柄やらが浮かび上がるそうだ。すごい

シリーズA調達でアパレル・工場向けアプリ開発へ

6月17日にはオプトベンチャーズと三菱UFJキャピタルを引受先として、シリーズAとなる第三者割当増資を実施。金額は非公表だが、数億円程度と見られる。

調達した資金では、アパレルと工場が必要事項を入力する専用アプリの開発、双方がやりとりするクラウドプラットフォームの強化などにあてる。

シタテルは2014年10月にも、三菱UFJキャピタル、日本ベンチャーキャピタル、リブセンスから資金調達を実施。リブセンスとクックパッドがスタートアップを支援するプログラム「STARTUP50」の第一号のファンディング先でもある。

子供たちにプログラミングの概念を教えるBox Island、2年の開発期間を経てiOSゲームとして登場

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AppleのSwift Playgroundsがアナウンスされる2年も前から、やはりゲームを通じてコーディング教育を行おうとするBox Islandの開発が行われていた。そのBox Islandが、iOS版のゲームとしていよいよデビューすることとなった。子供たちに、コーディングの基礎を教えることを目的とするゲームだ。

「キューブ界のカリスマであるヒロ」の友だちとして、ゲーム世界に配置されたパズルを「アルゴリズム」を活用して解いていくのだ。盤面を理解し、そしてループや条件分岐などを使いつつ問題を解決していくことになる。

ゲームを通して(最初の10ステージを無料でプレイできる)、子供たちにコーディングの魅力を伝えたいのだと(大人になってからコーディングを覚えた)ゲーム開発者たちは語っている。

「プログラミングの勉強を続けるには、まず楽しさが必要だと思うのです」と開発元であるRadiant GamesのCEO兼共同ファウンダーであるVignir Gudmundssonは述べている。「Box Islandは、興味を持ってもらうことを目的に作られています。子供たちは面白がってゲームに熱中してくれるでしょう。そしてその興味を育んで、立派なプログラマーになってくれればと思っています。いつか、自らのスタート地点がBox Islandであったと振り返る人が出てきて欲しいと考えているのです」。

Box Island

「子供たちに」という目的についてGudmundssonは、たとえばAppleのアナウンスしたSwift PlaygroundsやHopscotchなどのコーディング学習のためのゲームを楽しめるようになる前の子供たちを主なターゲットにしているのだと述べる。すなわちいずれのプロダクトも子供たちのために必要なプロダクトであり、競合関係にはないと意識しているのだそうだ。

「Elon Muskも、電気自動車同士は競合関係にないのだと言っていました。それぞれがある意味で協力して既存のガソリンカーと競合するようなマーケットを生み出していくのだとのことで、私たちも同じような立場にあると思うのです」。

また、Box Islandは「ジェンダーニュートラル」なものにもなっているのだそうだ。「Radiant Gamesの役割を考えた時、ジェンダーギャップを意識しないものとすることが大切であると考えているのです」とのこと。そうして両性に対応するとともに、また20の言語に対応しているのも特徴のひとつだ(訳注:日本語にも対応しています)。どの国の人にも、コーディングの楽しみを開放しようとも考えているわけだ。

「親しみやすく、カラフルなキャラクターがゲーム空間を自在に動きまわります。男の子も女の子もきっと楽しんでくれると思います」と述べている。「これまでに多くの国で何百人もの子供たちにテストしてもらっています。この経験からも、このゲームがジェンダーニュートラルに仕上がっていると自信をもって主張することができます」。

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なお、Radiant Gamesは外部からプライベートな資金を一切調達していない。すなわち会社は完全に4名のファウンダーの手の中にあるということになる。唯一例外となる外部資金は、祖国のアイスランドからの助成金で、これが33万5000ドルとなっている。

「2年間の成果が問われるときがやってきたと意識しています」とGudmundssonは改めて述べていた。「自分たちの給料は安いものとなってしまいましたが、外部資金に頼らずにここまでこれたことに満足しています。Box Islandを世に出した今、子供たちにハイレベルなコーディング体験を提供していくための資金を獲得する方法などについても、あらためて考えてみたいと思っています」。

原文へ

(翻訳:Maeda, H

エウレカがパパママ社員に優しい新人事制度、英会話全額負担や「pairs婚」手当ても

恋愛マッチングアプリ「pairs」を運営するエウレカが15日、福利厚生プログラム「baniera(バニエラ)」を導入した。これまでも一般的な福利厚生制度はあったが、結婚や出産、育児に関する支援を中心に充実させた。主な内容は以下の通りだ。

バニエラとは、古代ギリシャ語で「お風呂」の意味。アルキメデスが浮力の原理を見つけた場所で、そのとき「エウレカ!(わかったぞ!)」と叫んだと言われている。「エウレカでのひらめき・成長を支える場所」という意を込めて、バニエラと名付けたのだという

バニエラとは、古代ギリシャ語で「お風呂」の意味。アルキメデスが浮力の原理を見つけた場所で、そのとき「エウレカ!(わかったぞ!)」と叫んだと言われている。「エウレカでのひらめき・成長を支える場所」という意を込めて、バニエラと名付けたのだという

・オンライン英会話学習の全額負担
米国とのやり取りがある社員、月間受講日数が15日以上の社員にはレッスン受講料を全額負担する。

・海外カンファレンス参加費用負担
WWDC/Google IO/F8の参加者に飛行機代、ホテル代、カンファレンスチケット代を全額負担する。

・結婚祝い
5万円+上限20万円までの家電をプレゼント。乾燥機付き洗濯機やお掃除ロボットなどで、家事の負担を減らしたいという思いがあるという。

・Happy pairs婚
自社アプリ「pairs」を通じて結婚したメンバーには、結婚祝いに加えて5万円分のギフト券をプレゼントする。

・出産お祝い金
10万円を支給。男性社員には、出産時に家族に寄り添えるように3日間の「出産応援休暇」を付与する。

・育休中1on1/育休中でも会議出席
産休・育休中も月例の上長面談を継続。育休中でも全社会や重要会議に参加できる。どちらも復職を支援することが狙いで、Skypeでの参加も可能。

・banier for ペット
ペットを病院に連れて行く際、年3回の半休を取得可能。ペットが死亡した場合には2日間の休暇を付与する。

エウレカのオフィスでは創業当初から、副社長の西川順さんの愛犬が会社の成長を見守っているそうだ。

エウレカにはCDO(Chief Dog Officer)の「ジョブ」がいる。共同創業者・西川順さんの愛犬で、創業当初から会社の成長を見守っているそうだ。

メガベンチャーの福利厚生のいいとこ取り

エウレカは2008年11月に設立。日本と台湾で400万人が利用するpairs、350万ダウンロード超のカップル向けコミュニケーションアプリ「Couples」を運営する。2015年11月には、MatchやTinderなどのマッチングサービスを世界展開する米IACグループの傘下となった。

新人事制度は従業員が100人に達したことをきっかけに、安心して働ける仕組みを整えた。家族向け制度の内容を考案したのは、まもなく社内で育休取得第1号となる人事総務部の進真穂さん。「メガベンチャーの福利厚生のいいとこ取りをして、私が欲しいものを作りました」と語る。

「エウレカは平均年齢が28歳。出産や育児中の社員は少ないですが、30代で子供を持つ社員も増えましたし、これから必要な人も出てきます。充実した福利厚生があれば、社員が安心して働けるだけでなく、会社としてもアクセルを踏んで事業拡大しやすくなると思います」

バニエラではこのほか、有料セミナー参加費負担や自己負担200円の育児シッター制度、待機児童対策の引越し金援助などがあり、今後も社員の要望に応じて随時充実させる。現在は従業員の健康のために、営業時間中に社内でヨガを実施することを検討している。

スタートアップの福利厚生としては、フリマアプリのメルカリが産休・育休の8カ月間も給与100%を保障する「merci box」が話題になった。大企業に引けをとらないスタートアップの福利厚生は、これからも増えていきそうだ。

マネーボール理論を企業でも、ビズリーチが採用管理システム「HRMOS」公開

映画「マネーボール」といえば、貧乏球団のアスレチックスを強豪チームに変えた実在のGM(ジェネラルマネージャ)、ビリー・ビーンの活躍を描いた物語である。

ブラッド・ピット演じる主人公のビリーは、野球のデータを統計学的に分析して、選手の評価や戦略を決める「セイバーメトリクス」という手法を採用。これによって、資金不足にあえぐ弱小チームを、ア・リーグ記録の20連勝を遂げるまでに育てあげた。

このセイバーメトリクスを企業人事で実践しようとしているのが、転職サイトを手がけるビズリーチだ。

ビズリーチが発表した戦略人事クラウド構想

ビズリーチが発表した戦略人事クラウド構想

人事業務のムダをなくす

人材の採用から育成、評価までをクラウド上で最適化する構想「HRMOS(ハーモス)」を6月14日に発表。第一弾として、求人媒体ごとの採用状況を一元管理するサービス「HRMOS 採用管理」をスタートした。

例えばリクナビやマイナビといった求人媒体からCSVファイルを取り込むと、ダッシュボード上で応募者のステータスを一覧表示する。ビズリーチの転職サイト経由の応募者情報は自動的に、人材紹介エージェントや社員紹介による応募者情報は手動で入力すれば、ダッシュボード上で一元管理できる。

設定済みの面接や要対応メールの有無などのタスクをダッシュボードでわかりやすく表示する

ダッシュボード上では、「書類選考」「最終面接」「内定」といった応募者のステータスがわかり、人事担当者はやるべきタスクがひと目でわかる。応募者とのメールのやり取りもHRMOS上で完結する。

応募者の情報や面接の進捗状況をExcelで管理して、そこからメールアドレスをコピペして連絡する……といった人事業務にありがちな面倒な事務手続きから開放されそうだ。

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応募者ごとの選考ステータス

応募経路別の採用単価をグラフ化する機能もある。求人媒体や人材エージェント、社員紹介によるリファラル採用などで、一人あたりの採用にかかるコストを比較することで、もっとも効率のよい採用方法に注力できる。

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応募経路別の選考状況

面接官が応募者に出した評価もグラフ化する。面接官の山田さんは内定者に「A評価」を出す傾向があるが、面接官の鈴木さんは内定者に「C評価」を出す傾向があるので、「山田さんの判断を重視すべき」といった意思決定を支援してくれそうだ。

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面接官別の選考評価レポート

企業経営でマネーボールの理論は実践できるか

採用管理サービスに続き、第二弾として「HRMOS 勤怠管理」を今秋、第三弾として「HRMOS 業績管理」を来春にリリースする。これらのモジュールが連動しながら、自社で活躍する人材の行動や成果を人工知能が学習し、戦略的な人材活用の意思決定を支援するという。

ビズリーチの南壮一郎社長は「人事関連のデータを活用した企業経営が実現できる」と意気込む。

「◯◯さんは現在、どれだけ会社に貢献していて、採用時はこんなパラメータだった、ということがわかるようになる。自社で活躍する社員のデータと照らし合わせることで、高い実績を残すハイパフォーマーの採用や育成にもつながる。」

とはいえ、企業の業績は市場環境や競合などの外部要因で左右するもの。南氏も「経営は野球ほどシンプルな指標で分析できない」と認めるが、人事領域では「採用したら終わり」で完結しているのが問題点だと指摘する。

「営業やマーケティングでは効果検証を行うにもかかわらず、なぜか人事領域は例外。採用した人材が3〜5年後にどんな成果を出したかを数値化し、次回の採用の改善に役立てている企業は少ない。」

プレイヤーが乱立するATS業界

HRMOSをリリースするにあたっては、セールスフォース・ドットコムと業務提携し、機能面での連携を視野に入れている。今年3月に実施した総額37億3000万円(37.3億円で「みなみ」ということらしい)の資金調達では、Salesforce Venturesからも投資を受けている。

スタート時は特別価格として月額5万円で提供。すでに試験提供を開始していて、スタートアップ業界ではRettyやSansan、ラクスルなどが導入済み。2019年6月までに、ビズリーチの利用企業を中心に2000社以上の導入を目指すという。

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ビズリーチの南壮一郎社長

クラウド型採用管理システムは、ATS(アプリカント・トラッキング・システム)と言われ、米国では大企業向けのOracle「Taleo」やSAP「SuccessFactors」が先行、スタートアップではairbnbやsnapchatが導入することでも知られる「greenhouse」がある。

国内でもTaleoやSuccessFactorsが先行するが、古株では2005年に開始した「リクログ」、2008年に開始した「ジョブスイート」、直近3年では「jinjer」や「talentio」、シンガポールに本拠を置く「ACCUUM」も日本市場に進出するなど、新興サービスの参入も相次ぐ。

ちなみにマネーボールの舞台となったアメリカでは、人事にもビッグデータを活用するのは当たり前という風潮になってきている。このあたりの話は過去記事「経験や直感による採用はもう古い、人材採用に広がるデータ・ドリブンなアプローチ」に詳しいので、興味のある方は読んでほしい。

アカツキがアクティビティ予約のそとあそびを14億円で買収へ、ゲームからリアルに進出

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3月に上場したばかりのアカツキ。スマートフォン向けゲームを開発する同社がレジャー・アクティビティ予約サイトの「そとあそび」を運営するそとあそびを買収する。アカツキは6月13日開催の取締役会で株式取得を決議したと発表した。アカツキは今後2018年6月まで、4回に分けて株式を取得する。取得価格の合計は14億1004万7000円となる予定。

そとあそびは2004年にスタートした老舗のアクティビティ予約サイト。アウトドア経験豊富な「キュレーター」が体験取材したアクティビティを掲載している。

このサービス、もともとは現在そとあそびのキュレーターとして活躍する山本貴義氏が個人で立ち上げたものだった。2014年には現在代表取締役社長を務める、ガイアックス元代表取締役副社長COOの中島裕氏が株式を取得。株式会社化してサービスを拡大してきた。2015年6月にはB Dash Venturesなどから総額3億円の資金調達を実施している。開示された資料によると、2016年2月期は売上高が3097万6000円(前期比80%増)、営業利益が9254万1000円の赤字(前期は3789万7000円の赤字)、経常利益が9343万1000円の赤字(同3906万1000円の赤字)、純利益が9372万1000円の赤字(同3950万7000円の赤字)。

ところでアカツキと言えばソーシャルゲームの会社。そんな同社がなぜいわゆるアウトドアのサービスを買収するのだろうか? その答えとして、アカツキでは今回の買収発表に合わせて、新たに「ライブエクスペリエンス事業」を開始すると発表している。

ライブエクスペリエンス事業では、生の体験——つまりアクティビティや旅行、インバウンドなどに関わる領域のサービスを展開していく。アカツキでは今日の発表の中で、(1)世界観やストーリーを生かした企画力・プロデュース力、(2)スマホ向けサービス開発の技術力とスピード、(3)データを元にしたマーケティングやPDCAサイクルの実施などを続けてきた運用力、(3)台湾子会社を通じた海外オペレーション力——という自社ゲーム事業での強みが、ライブエクスペリエンス事業でも活用できると説明している。

LINE、東証とNYSEの同時上場へ——時価総額は約5880億円

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かねてから噂のあったLINEがついに上場することが決まった。東京証券取引所は6月10日、同社の上場を承認した。

上場予定日は7月15日で、市場区分は未定(東証1部または2部)。ニューヨーク証券取引所にも同時上場する(現地時間の7月14日)。証券コードは3938。上場にともない3500万株(国内1300万株、海外2200万株)を公募。オーバーアロットメントでの売り出しは525万株。発行想定価格の2800円で算出した場合、公募で約980億円を調達することになる(時価総額では約5880億円)。なお、共同主幹事会社は、野村證券株、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券、JPモルガン証券。

LINEのルーツは1999年に設立された韓国ネイバーコム(NAVER Corporation)にある。同社は日本進出に向けて2000年にゲーム事業を展開するハンゲームジャパン(2003年にNHN Japanに商号変更)を設立。また2007年には検索サービスの「NAVER」やキュレーションプラットフォームの「NAVERまとめ」などを展開するネイバージャパンを設立(厳密には同社グループでは2001〜2005年にも日本で検索サービスを展開していた)。2010年にはライブドアを子会社化し、2012年には3社を経営統合。2013年4月には「LINE株式会社」に商号を変更している。商号変更にあわせてゲーム事業をNHN Japan(こちらは新設会社。2013年8月にNHN PlayArtに商号変更)に承継している。なおLINE株式の87%はNAVER Corporationが保有している。

LINE社の事業基盤となるコミュニケーションアプリ「LINE」は2011年6月のローンチ。世界230以上の国と地域で利用されており、サービスの全世界での累計登録ユーザー数は10億人超。3月末時点の月間アクティブユーザー数(MAU)はグローバルで約2億1840万人(前年同期比7%増)、シェア率が高い日本、タイ、台湾、インドネシアでは約1億5160万人(同23%増)。これまでに提供されたスタンプの総数は全世界で25万8000セット以上(2016年2月末時点)、1日あたりの最大送受信回数は24億回以上。2015年度の年間スタンプ売上総額は253億円となっている。

現在はそのLINEのプラットフォーム上でスタンプに加えてゲームや漫画などのコンテンツや販売するほか、広告事業や決済事業を展開。2015年通期の売上額は1207億円(前年通期比40%増)で、サービス別での割合は、コンテンツ41%、コミュニケーション24%、広告30%、その他5%となっている。また直近では、MVNO事業への参入も発表。NTTドコモの回線を使用し、月額500円からの料金設定で、LINEをはじめとしたSNSの通信料無料のプランを提供する予定だとしている。

独調査会社のStatistaによると、2016年4月時点での世界のメッセージアプリのユーザー数はWhatsAppが10億人、Facebook Messangerが9億人、QQ Mobileが8億5300万人、WeChatが6億9700万人、Skypeが3億人、Viberが2億4900万人、それにLINEが続くかたち(Statistaの発表では2億1500万人)となっている。

分散型動画メディア「DELISH KITCHEN」などを運営するエブリー、6.6億円の資金調達——ネイティブ広告も好調

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分散型動画メディアを運営するエブリーは6月9日、グロービス・キャピタル・パートナーズ、DBJキャピタル、グローバルブレイン、エウレカ代表取締役CEOの赤坂優氏など個人投資家複数人を引受先とした合計6億6000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。エブリーでは調達した資金をもとに本格的な人材採用を開始。年内にも20〜30人規模まで組織を拡大し、動画コンテンツの制作体制を強化していく。

エブリーは2015年9月の創業。代表取締役の吉田大成氏は、グリーで「釣り★スタ」「探検ドリランド」などをはじめとしたヒットタイトルを手がけた人物で、2015年8月に同社を退社してすぐエブリーを立ち上げ。これまで自己資金でサービスを運営してきた。

エブリー代表取締役の吉田大成氏

エブリー代表取締役の吉田大成氏

同社が手がけるのは、以前にもTechCrunchで紹介した料理動画メディアの「DELISH KITCHEN」やライフスタイル動画メディアの「KALOS」のほか、2月にスタートしたママ向け動画メディアの「MAMA DAYS」、3月にスタートしたニュース動画メディアの「Timeline」の4つ。いずれもコンテンツはオリジナルで制作するものの(Timelineでは自前に動画に加えて、通信社などから編集可能な動画をライセンス契約した上で利用している)、自前のサイトを持たずにFacebookやInstagramなどのプラットフォームを通じて動画を配信する、いわゆる「分散型」の動画メディアとなっている。

特にDELISH KITCHENの成長が著しいとのことだが、各メディアのファン(いいね)数(2016年6月7日時点)はDELISH KITCHENが95万人、KALOSが8万8000人、MAMA DAYSが13万人、Timelineが7万人。ソーシャル上でのシェアを含めた月間でリーチ数は延べ2500万人以上になるという。

吉田氏によると、クライアントとコラボレーションした動画を配信するネイティブ広告が好調だという。すでにアスクル、江崎グリコ、エスビー食品、オイシックス、コーセー、サッポロビール、小学館、ブルボン、ミクシィ、明治、リクルートライフスタイル、ローソンフレッシュなど大手のクライアントもついている。

「テレビCMの置き換え需要が高い。いまや10〜20代の若者だけでなく、30〜40代もテレビから離れてきている。これまで、日々スーパーで買っていたようなモノはテレビや雑誌で認知していたが、テレビの接触時間が減ってきたので、その需要がデジタルにシフトしている。今までのウェブ広告は『検索してモノを買う』という意思決定のための広告が中心だったが、今ではテレビCMと合わせてウェブでもコンテンツを出すなど、リーチ数獲得とブランディングのための広告が求められている」(吉田氏)

再生回数ベースで見れば、ネイティブ広告も自前のコンテンツも大差なく、広告であってもコンテンツとして面白ければユーザーに受け入れられているそうだ。たとえばYouTubeなどは、本編動画の前に強制的に動画広告を表示しているが、吉田氏はこういった方式と比較した上で、「(強制的に表示する広告は)出せば出すほどスキップされる。違う文脈の動画を見せることで良くないイメージを持たれかねない。メディアとコラボしたコンテンツ(ネイティブ広告)のほうがソーシャルな世代に対してリーチできる」と語る。なおネイティブ広告の動画にはいずれも広告表記を入れているという。

料理動画の分散型メディアとしては、Buzzfeedが提供する「Tasty」などが大きい。最近では日本での配信を強化しているし、また国内でもDelyが「KURASHIRU」のブランド名で複数の動画メディアを運営しているが、料理動画の「KURASHIRU FOOD」などは月間で数千万人のリーチを集めているという。

こういった競合環境について吉田氏は、「テレビと違ってネットは番組数の上限がない。(競合が)増えてくること自体は想定通り」とした上で、「だからこそ、いかにして多くのユーザーから支持を受けるかが大事。セグメントを細かく、コンセプトをぶらさずに動画を提供していく。例えばDELISH KITCHENであれば、『翌日作れる』『失敗なく作れる』という料理の紹介を丁寧にやっている。そのため、(競合と比較して)早送りで(調理の)ステップを紹介するようなことはあまりしない。こういったところが差になってくると思う」としている。