2020年5月にGeorge Floyd(ジョージ・フロイド)氏が殺害された事件は、米国で多くのことに火を付けた。そのうちの1つは、黒人コミュニティを対象としたデジタルバンクの増加である。これは恐らく予想外の出来事だろう。
黒人コミュニティに属する一部の人たちが、大手銀行は自分たちのニーズを満たしていないという考えを持つようになり、それをスタートアップのコンセプトにした。
そうしたスタートアップの1つFirst Boulevard(ファースト・ブールバード)(旧Tenth)は、Barclays(バークレイズ)、Anthemis(アンテミス)や、女優のGabrielle Union(ガブリエル・ユニオン)氏、Union Square Ventures(ユニオンスクエアベンチャーズ)のJohn Buttrick(ジョン・バトリック)氏、AutoZone(オートゾーン)のCFOであるJamere Jackson(ジャミア・ジャクソン)氏といったエンジェル投資家のグループから500万ドル(約5億4000万円)のシード資金を調達したところだ。
共同創業者兼CEOのDonald Hawkins(ドナルド・ホーキンス)氏が、カンザス州オーバーランドパークに銀行を創設したきっかけは、フロイド氏が殺害された後、友人のAsya Bradley(アシア・ブラッドリー)氏と、真の解決策が見えないまま同じ問題が繰り返されるという「悪循環から米国黒人が抜け出すために本当に必要なこと」は何かについて話し合ったことだった。
「フロイド氏の悲劇が黒人コミュニティを飲み込み、根深い問題に対してこれまでと変わらない抗議活動が起こるのを目の当たりにしてから、米国黒人が必要とする解決策は、財政面を重視したものであり、黒人コミュニティの中で生み出される必要があることがはっきりとわかりました」とホーキンス氏は述べた。
両氏にはフィンテックの経験がある。ホーキンス氏は、地方銀行や信用組合にリアルタイムな情報を状況に応じて提供することに重点を置く企業Griffin Technologies(グリフィン・テクノロジー)を設立した。そしてブラッドリー氏は、直近では、Synapse(シナプス)の創立チームメンバーであり収益責任者も務めていた。シナプスは、フィンテックプラットフォームを銀行機関に接続することで米国の非銀行利用者層に銀行サービスを提供できるようにする、Banking-as-a-Service(BaaS)APIを構築したプラットフォームである。
両氏は、米国にある黒人向けの銀行は19行ほどしかなく、保有している資産は合わせて約50億ドル(約5400億円)であることを発見した。
「そうした銀行のテクノロジーは間違いなく時代遅れなものでした」とホーキンス氏はいう。「私たちは既存のデジタルバンクのいくつかを詳しく調べ、米国黒人が求めているような方法でデジタルバンクを運営している人物を見つけ出そうとしました。そしてその時点で、蓄財活動という形である程度の財政安定を築けるように米国黒人をサポートするという課題に本気で取り組もうとしている人は誰もいない、ということがはっきりわかったのです」。
ホーキンス氏とブラッドリー氏は2020年8月First Boulevardを設立した。両氏は、米国黒人について年間1兆4000億ドル(約152兆円)の購買力を持つにもかかわらず、金融商品や金融サービスを「十分に享受していない消費者」だと考えている。このスタートアップの使命は、デジタルネイティブのプラットフォームを通じて「自分たちの財政状態を管理し、資産を築き、黒人経済に再投資する」力を米国黒人に与えることだ。First Boulevardは現在、サービスの提供開始を待っている利用希望者10万人を抱えており、第3四半期中にローンチする予定である。
新しい資本金の使用目的には、黒人ビジネスのマーケットプレイスの構築が含まれている。このマーケットプレイスでは、会員がCash Back for Buying Blackを利用できる。またチームの拡大、顧客基盤の拡大、手数料無料のデビットカードを提供するためのプラットフォームの開発、金融教育、会員の貯蓄や資産形成を自動化するためのテクノロジーの開発にも、資本金が使われる予定だ。
「不公平な扱いを受けたコミュニティは、その資産を集約することにより困難を打破できることが、歴史によって証明されています。黒人コミュニティの金融サービスに関して言えば、そうした資産を集約する力が長い間待ち望まれていました」とホーキンス氏は述べた。
First BoulevardのCash Back for Buying Blackプログラムでは、会員が黒人経営の企業でお金を使ったときに最大15%のキャッシュバックを得ることができる。
「最新の統計では、新型コロナウイルス感染症が流行してから、41%の黒人経営の企業が廃業していると考えられます」とホーキンス氏は述べた。「私たちは彼らをできる限りサポートしたいのです」。
First Boulevardは、受動的に資産を築ける方法を黒人コミュニティに提供することにも力を入れている。
「米国黒人は全般にお金の仕組みを学ぶことができませんでした。私たちは、マネーマーケットアカウントなどのマクロ投資、高金利の貯蓄、暗号資産といった資産を築くための手法、つまり米国黒人が今まで締め出されてきたことに会員を結び付けたいと思っています」とホーキンス氏は述べた。
First BoulevardのCOOを務めるブラッドリー氏は、現在の金融業界は黒人のニーズを満たすように作られていないと考えている。同社の目標は、黒人コミュニティ特有のニーズを理解し、賃金の早期獲得、切り上げ貯蓄機能、対象を絞った金融教育、予算管理ツールなどを提供することである。
ホーキンス氏とブラッドリー氏は、同社がサービスを提供しようとしているコミュニティを象徴する「真にインクルーシブな」チームを持つことを目指している。現在、20名のスタッフの60%が黒人、85%がBIPOC(白人以外の人たちを指す)である。そして首脳部の3分の2が女性で、その全員がBIPOCだ。同社は年末までにスタッフを50名に増やす予定である。
「フィンテックの世界においては、リーダーシップの観点から見ると、この数字は普通ではありません。それを考えると、非常に誇らしい気持ちです」とブラッドリー氏は述べた。
バークレイズとアンセミスが開始したFemale Innovators Lab(フィーメール・イノベーター・ラボ)の投資家であるKatie Palencsar(ケイティ・パレンツァー)氏は、同氏の会社が「デジタル革新が進んでいるにもかかわらず、人々の間では金融サービスへのアクセスが長い間課題になっている」ことを常に認識していると述べた。
「このことは特に、金融サービスが乏しい地域に住むことが多く、自分たちにサービスを提供してくれるプラットフォームを見つけるのに苦労している米国黒人に当てはまります」と同氏は言った。「First Boulevardはこの課題を深く理解しています」。
パレンツァー氏は、米国黒人が銀行を利用するだけでなく、実際に資産を築けるように支援するというFirst Boulevardの使命は、この市場では類まれなものだと信じている。
「First Boulevardは、米国内で拡大し続ける貧富の格差を認識しており、米国黒人やその仲間が自分たちのコミュニティに投資できるよう支援しながら、こうした人々が直面している制度上・構造上の課題に対処するデジタル・バンキング・プラットフォームを構築したいと考えています」と同氏は述べた。
同社は最近、Visaとの提携も発表し、Visaの新しい暗号資産APIスイートを他社に先駆けて試験運用することになった。またFirst BoulevardのVisaデビットカードもリリースする予定だ。
First Boulevardは、ここ数カ月間に登場した米国黒人向けのデジタルバンクの1つである。黒人や褐色人種のコミュニティ向けデジタルバンクPaybby(ペイビー)は最近、AIと生体認証技術を利用してユーザーにパーソナライズされたサービスを提供するネオバンクのWicket(ウィケット)を買収した。ペイビーのCEO兼創設者であるHassan Miah(ハッサン・マイア)氏は、同行の目標は「黒人および褐色人種コミュニティを対象とした、一流のスマートなデジタルバンク」になることだと語った。
ペイビーは、銀行口座と、PPP融資を迅速化する方法を提供することから始め、間もなく黒人および褐色人種コミュニティ向けの暗号資産口座を追加する予定だ。
「黒人の購買力は2024年までに1.8兆ドル(約195兆円)に成長すると予測されています」とマイア氏は述べている。「褐色人種の購買力は2兆ドル(約216兆円)を超えています。ペイビーはこの数兆ドル規模の市場のかなりの部分を獲得し、これらのコミュニティに収益を還元したいと考えています」。
2020年10月、Greenwood(グリーンウッド)は、同社がいうところの「黒人およびラテン系の人々や企業経営者のための初のデジタル・バンキング・プラットフォーム」を構築するために、個人投資家から300万ドル(約3億2000万円)のシード資金を調達した。
その時、Bounce TV(バウンスTV)ネットワークの創業者であり、グリーンウッドの共同創業者Ryan Glover(ライアン・グローバー)氏は「従来の銀行が黒人やラテン系のコミュニティの役に立っていないことは周知の事実だった」と述べた。
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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)