NEM流出事件でコインチェックに業務改善命令、金融庁は「9月までのBSは把握済み」

コインチェックが顧客から預かっていた580億円相当の仮想通貨「NEM」が1月26日に不正流出した件を受け、金融庁は1月29日に仮想通貨交換業者の行政対応に関する記者説明を行った。

関東財務局が同日発表した資料によれば、事件発生当日の26日、当局が今回の流出事件についての報告をコインチェックに求めた結果、「発生原因の究明や顧客への対応、再発防止策等に関し、不十分なことが認められた」という理由により、以下の業務改善命令を発令した。

  1. 本事案の事実関係及び原因の究明
  2. 顧客への適切な対応
  3. システムリスク管理態勢にかかる経営管理態勢の強化及び責任の所在の明確化
  4. 実効性あるシステムリスク管理態勢の構築及び再発防止策の策定等
  5. 上記1〜4までについて、2月13日までに、書面で報告すること。

また、金融庁の会見内容を伝えた「bitpress」のツイッターアカウントによれば、以下のような質疑があったという、

・金融庁は今後、業務改善命令に基づき、精査とフォローアップを行う。場合によっては立入検査の実施も検討中である。

・利用者保護の観点など総合的に判断し、業務停止命令を出さなかった。

・今回の流出事件を受け、コインチェックはハッキング被害にあった26万人に対し日本円で補填をするという旨の方針を発表している。補填総額は460億円相当で、同社はこの支出を自己資金で賄うとしているが、「9月時点での貸借対照表は把握しているものの、直近のものは現在確認中」

ここ数年で大きな盛り上がりを見せた仮想通貨だが、今回の流出事件により規制強化の対象になるのかはまだ分からない。金融庁は仮想通貨に対する規制を強化するか否かは現在、関係省庁全体で協議のうえ検討中だとしている。

ソフトバンク子会社がAI特化のインキュベーション事業を開始、学生も対象で創業支援

ディープコアのメンバー。写真中央が代表取締役の仁木勝雅氏。

ソフトバンクグループの100%子会社であるディープコアは1月29日、学生や起業家が対象となるAI分野に特化したインキュベーション事業を開始すると発表した。

ディープコアはもともと、「汐留事業4号株式会社」という変わった法人名がつけられていた企業で、ソフトバンクがいつ新規事業を立ち上げてもいいように用意したペーパーカンパニーだった。同社は2017年9月に法人名を現在のディープコアに変更。今回発表したインキュベーション事業が現在の主要事業だ。

そんなディープコアのインキュベーション事業が特に注力する分野がディープラーニングだ。ディープラーニングといえば、Preferred Networksがトヨタ自動車から約105億円の資金調達を実施するなど、日本でも大企業とスタートアップとの協業が活発的に進みつつある分野である。ディープコアは東京大学松尾研究室と共同研究契約を締結し、企業との共同プロジェクトの実施や起業家育成を進めていく。

また、同社は東京大学に近い本郷にコワーキングスペースを開設し、NVIDIA(ソフトバンクが約1兆円を出資したとされる)の協力の下で用意したコンピューティング・リソースを提供する。起業意欲がある優れたメンバーについては創業支援も行うという。

ソフトバンクグループでは投資部門を担当してきたディープコア代表取締役の仁木勝雅氏は、“求める人材像”についてこう語る。

「一定のAIスキルを持っている理系学生、大学院生、エンジニアなどで、『現在は特にビジネスに係わっていないが、経験してみたい』だとか、『AIの技術を使って、面白いことをやってみたい』という人だ。既に起業意欲を持っている人は大歓迎だが、現時点で、必ずしも具体的なテーマやアイデア、起業意欲を持っている必要はない。企業との実証実験などへ参加してもらうことで、社会における実課題に取り組む機会を提供する」(仁木氏)

ディープコアは50人のプログラムメンバーを2018年2月1日より募集開始する。インキュベーション施設は2018年春に開設予定だ。その他の詳細は同社のWebページに随時アップデートされる。

独立系VCのSpiral Ventures Japanが総額70億円の1号ファンド組成を完了

ベンチャーキャピタル(VC)のSpiral Ventures Japanは1月29日、1号ファンドの最終募集を締め切り、総額70億円で組成を完了したことを発表した。日本企業のみを投資対象とする独立系VCが組成した1号ファンドとしては、過去最大規模の金額となる。

1号ファンドの主な出資者は、アシックス・ベンチャーズ、セイノーホールディングス、T8、図書印刷、森トラストなどの事業会社、国内証券会社や海外ヘッジファンドなどの大手金融機関と中小企業基盤整備機構。TMT(テクノロジー、メディア、テレコム)セクター以外の大企業の出資が多いのも特徴だ。

Spiral Venturesグループは、IMJ傘下で投資活動を行うVC子会社として2012年に設立された。2013年、IMJがカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のグループ会社となってからは、CCCグループ傘下で投資活動を継続しながら、拠点をシンガポールに移し、東南アジア向けのファンド運営を開始。その後、2015年に新たに国内拠点を設立し、日本向けファンドの運営を開始。その後、事業拡大にともないCCCグループから独立し、2017年からはSpiral Venturesとして投資活動を行っている。

1号ファンドの投資領域は、テクノロジーの活用により既存産業が抱える課題を解決し、付加価値向上を図る「業界変革型ビジネス」と、先端的なテクノロジーやビジネスモデルで新たな産業を創出する「新産業創出型ビジネス」の2つが対象。

既に投資を行った例では、オープンロジ(物流業務プラットフォーム)や、エネチェンジ(電力自由化ビジネスなど)ビズリーチ(転職サービス)などが業界変革型、ナーブ(VR内見)Z-Works(IoT介護支援システム)フューチャースタンダード(AIによる映像解析システム)などが新産業創出型に当たる。

投資ステージとしては、アーリー〜レイターステージまでのスタートアップを対象としており、これまでにアーリー・ミドルを中心に19件(合計約21億円)の投資を実行している。アーリーステージで5000万円から3億円程度、レイターステージでは5億円程度の出資を行うという。

Spiral Ventures Japanでは、1号ファンドの運営を通じて「日本のスタートアップエコシステムの発展に貢献する」とコメント。またグループの連携を生かし、日本のスタートアップのアジア展開にも協力するという。アジア展開の際のリサーチ協力、営業・アライアンス先の紹介などで支援を行っていく。

Spiral Ventures Japanのメンバー。右から3番目が代表パートナーの奥野友和氏。

医師や看護師にチャットで相談、“健康経営”推進プラットフォームのiCAREが1.5億円調達

従業員の健康管理サービス「Carely」を運営するiCAREは、Beyond Next VenturesインキュベイトファンドみずほキャピタルSMBCベンチャーキャピタルを引受先とする第三者割当増資を実施した。調達金額は1億5000万円だ。

iCAREが提供するCarelyは、従業員の健康状態を管理するための企業向けサービスだ。最近、「健康経営」というワードを耳にする機会が多くなった。これは、健康診断やストレスチェックなど、社員数に応じて義務付けられたものをただ遂行するだけでなく、それ以上に従業員の健康状態を重視することで生産性の向上を目指すという経営手法のことを指す。

「ストレスチェックで“高ストレス”と診断された従業員は、そうではない従業員に比べると2年後の離職リスクが3倍になる」と、iCARE取締役COOの片岡和也氏はいう。

ただ、健康診断結果や産業医との面談内容は紙やエクセルファイルなどでバラバラに保管されていることも多く、情報が横断的に確認できないことから、健康経営を推進するうえでの障害となっているそうだ。

一方のCarelyでは、勤怠データ、健康診断の結果、ストレスチェックの結果、産業医との面談内容などの労務情報を取り込んでオンライン上で一括管理することが可能。それらのデータを元に、どの従業員がどの程度の健康上のリスクを抱えているのかを可視化する。また、企業は法律で定められているストレスチェックをCarelyを通して実施することもできる。

それに加え、従業員がチャット形式で医師や保健師に直接相談できることもCarelyの特徴だ。現在、こういった相談に対応するCarelyのチャットチームは10名ほど。医療系の質問には医師や看護師などの有資格者が対応するが、フィットネス関連の質問には(必ずしも有資格者ではない)トレーナーなどが回答する場合もあるという。その中心メンバーはiCAREの社員であり、チャット対応も同社オフィスから行っている。

片岡氏は、「寄せられる相談の3割は(うつ病などの)メンタル系の内容だ。次に多いのが睡眠に関する相談で、なかには肩こりや腰痛の相談を頂くこともある」と話す。

Carelyの利用料金は従業員1人あたり月額300円。チャット機能はいらないからストレスチェックだけ実施したいという企業向けにはさらに低価格のライトプランもある。また、オプションとして、産業医紹介、健康診断代行、睡眠改善プログラムなども提供している。現在Carelyのユーザー企業数は80社(従業員総数1万5000人)だ。

iCAREは2011年6月の創業で、2016年3月には1億円の資金調達も実施している。

会話でニーズを“あっためる”、チャットボット広告のZEALSが4.2億円調達

チャットボットを利用した会話広告サービスを展開するZEALSは1月29日、JAFCOフリークアウト・ホールディングスを引受先とした第三者割当増資を実施した。調達金額は4億2000万円だ。

ZEALSが提供する「fanp(ファンプ)」は、チャットボットを利用した会話型の広告出稿サービスだ。通常では、Facebookに出稿したインフィード広告をクリックすると、より詳細な内容を説明するランディングページ(LP)に遷移することが多いと思う。

一方、fanpでは広告をクリックするとLPに飛ぶ代わりにFacebook Messengerのチャットボットが立ち上がる。ユーザーはそのチャットボットとの会話を通じ、広告を出稿した企業のサービスや商品の理解を深めるというわけだ。そのような会話内容の“設計”はZEALSが行う。

チャットボットとの会話は自然言語処理を駆使したフリー形式ではなく、あらかじめ用意された選択肢をタップして会話していくタイプだ。ZEALSは元々ロボットの向けの会話エンジンを作っていた企業なので、自然言語処理には長けている。しかし、ユーザーの離脱率をできるだけ低くするという目的から選択型のチャットボットに決めたそうだ。

「はじめは自然言語処理を利用したチャットボットもテストしたが、ユーザーがボットと2回も会話することなく離脱してしまうことが続いた。今は、個人情報の入力などを除き、ほぼすべての入力を選択形式にしている」(ZEALS代表取締役の清水正大氏)

fanpには顧客情報を管理するCRMもあり、ダッシュボードからユーザーの会話内容やデモグラフィック・データを確認することができるようにもなっている。

fanpのCRM機能

それでは、会話広告の威力とはいかほどのものなのだろうか。ZEALSが独自に調査したところによれば、インフィード広告とLPの組み合わせで出稿した場合のCVR(コンバージョン率)は0.8%だったのに対し、会話広告ではその約7倍にあたる5.7%だったという。

清水氏はこの結果について、「入力された検索語をもとに表示されるリスティング広告では、ユーザーのニーズが明確だ。一方、インフィード広告ではユーザーのニーズがまだ“あったまって”いない。会話広告では、まだ顕在化していないニーズをチャットボットとの会話と通してあっため、商品やサービスの理解を深めることができる」と語る。

また、一度ユーザーが離脱してしまったとしても、fanpはその後も継続してユーザーに働きかける。なかには、追加的な会話によって初回から半年後にコンバージョンした例もあるそうだ。

2017年5月にリリースしたfanpは、これまでに味の素キャリアデザインセンターインベスターズクラウドなど数十社を顧客として獲得している。業種としては、人材、保険、不動産など高単価サービスを提供する企業が多いのだという。よく考えてから購入を決めるタイプの商品・サービスと会話は(たとえそれがボットとの間のものでも)相性が良いのだろう。これまでに解析した会話データは4200万件を超す。

fanpを利用した広告出稿には、広告出稿費(最低150万円〜)、システム利用料、会話量に応じた従量課金料金がかかる。

ちなみに、ZEALSはもともと、メディア向けチャットボットサービスの「fanp」と企業向けの会話広告サービス「fanp Biz」の2つを提供していた。しかし、その後同社は会話広告サービスにリソースを集中させると決断。現在はかつてのfanp Bizをfanpという名称で提供している。やっぱり広告の方が儲かったのだろう。

ZEALSは今回調達した資金を利用して、チャットボットとユーザーの会話をデザインする「コミュニケーション・デザイナー」の採用を進めるという。TVCMや雑誌広告などは専門のクリエイターがクリエイティブの企画設計を行う。それと同じように、チャットボットやロボットとの会話の設計にも専門的な人材が必要になる社会がくる、というのが清水氏の考えだ。

ZEALSは2014年4月の創業。2017年5月には約8000万円の資金調達も実施している。

ZEALS代表取締役の清水正大氏

コインチェック、流失したNEMの保有者約26万人に日本円での返金を発表

1月26日に約580億円に相当する仮想通貨「NEM(ネム)」の不正流出を発表していた、仮想通貨取引所を運営するコインチェック。

同社は28日、流出の影響を受けたNEMの保有者が約26万人であったことを報告。その上でNEMの保有者全員に、日本円でコインチェックウォレットに返金する形で補償することを明かした。

補償金額は88.549円×保有数となり、総額は日本円で約460億円。補償時期や手続きの方法については現在検討中で、返金原資については自己資金より実施する。

なお金額の算出方法については、NEMの取扱高が国内外含めて最も多い仮想通貨取引所Zaifの価格を参考にし、CoincheckにおけるNEMの売買停止時から本発表まで(2018/01/26 12:09〜2018/01/27 23:00 )の加重平均の価格で、日本円にて返金する。

コインチェックが580億円のNEM不正流出について説明、補償や取引再開のめどは立たず

既報の通り、仮想通貨「NEM(ネム・XEM)」の不正流出が明らかとなり、NEMを初めとした仮想通貨の売買を中止している仮想通貨取引所「Coincheck」。サービスを運営するコインチェックは1月26日、その詳細を説明する会見を東京証券取引所で行った。23時30分にスタートした会見は(当初のアナウンスは23時開催)、27日1時過ぎまで続く異例のものとなった。

会見には、コインチェック代表取締役社長の和田晃一良氏、取締役COOの大塚雄介氏、同社の弁護士である堀天子氏が出席。冒頭、和田氏は「本件に関しまして、皆様をお騒がせしていますことを深くお詫び申し上げます。たいへん申し訳ございませんでした」と謝罪。その後、大塚氏が状況を説明し、記者からの質疑に回答するかたちで会見は進められた。

大塚氏による説明および当日配布された資料によると、今回の不正送金の経緯は以下の通り。

2時57分(以後、すべて1月26日):事象の発生(コインチェックのNEMアドレスから、5億2300万NEM(検知時のレートで約580億円)が送信される。

11時25分:NEMの残高が異常に減っていることを検知

11時58分:NEMの入出送金を一時停止

12時7分:NEMの入金一時停止について告知

12時38分:NEMの売買一時停止について告知

12時52分:NEMの出金一時停止について告知

16時33分:日本円を含むすべての通貨の出金を一時停止について告知

17時23分:ビットコイン以外の仮想通貨の売買、出金を一時停止・告知

18時50分:クレジットカード、ペイジー、コンビニ入金の一時停止について告知

コインチェックでは、今回の不正アクセスによる送金を金融庁および警視庁へ報告。NEMのコミュニティをとりまとめるNEM財団やNEMを取り扱う国内外の取引所と連携して、送信されたNEMの追跡および売買停止要請をしているという。なお、今回の取引に関しては、NEM財団との話し合いの中で、ハードフォークやロールバックによって被害を受けたユーザーを救済することはできかねる、といった旨の回答を受けているという。

被害ユーザー規模は調査中、運用体制に不備

流出の影響を受けるユーザーの数は「現在調査中」(大塚氏)で、規模感も把握できていないという。補償については、「お客さまの保護を最優先に検討しており、対応中」という表現にとどめて、現時点で具体的な施策を明らかにしていない。コインチェック社への財務的な影響についても精査をしている状況であり、確認ができ次第対応を報告するとしている。また、サービス復旧の見通しについては、原因を究明中であり未定。見通しは立っていないとした。

今回の不正流出の原因は、現時点では不明。だが、NEMはホットウォレット(ネットワークに接続されたウォレット。手軽に仮想通貨を取り出しやすい一方で、今回のように不正な送金をされる可能性がある)で管理されており、マルチシグ(仮想通貨の秘密鍵を分割し複数管理することでセキュリティを高める技術)を実装していない状態だったという。一方でコインチェックはビットコイン(BTC)に関してはコールドウォレット(ネットワークに接続されていない環境に秘密鍵を保存したウォレット)を利用し、マルチシグを実装。Coincheckで取り扱う代表的オルトコインのイーサリウム(ETH)に関しても、コールドウォレットでの管理を行っていた。

会見では、この運用体制に関する質問が報道陣から相次いだ。大塚氏、和田氏はセキュリティに関しては「何より最優先していた」と説明するも、マルチシグ実装予定についての質問には「他の優先事項が高い項目もあり、具体的な見通しがついていたわけではない」(大塚氏)と回答。それに対して記者が「結果的にこういう自体を引き起こしたのは、やはりセキュリティが甘かったのではないか」とさらに追求し、大塚氏が数十秒の間回答に窮するという場面もあった。

あくまで主観的に現場の空気を伝えると、マルチシグの未実装、ホットウォレットでの管理という観点で「セキュリティの甘さ」について何度も具体的な回答を求める報道陣(会見の後半になると、参加している僕ですらうんざりするような質問の仕方もあったけど)に対して、「セキュリティは万全だった」と答えるコインチェックが噛み合わない状況だった。会見後に話した投資関係者からは、「これはセキュリティの不備を認めることで、善管注意義務違反に問われることを避けたのではないか」といった声も聞いた。

数字の公開「株主を含めて協議」

また、影響を受けるユーザーの数をはじめとして、金額以外の数字を公開しなかったことに対しても質問が集まった。これに対して、大塚氏らが「公表するかどうか株主を含めて協議する」と回答したが、和田氏、大塚氏が株式の過半数を持っていると説明したところ、会場の報道陣の一部からは笑い——どちらかというと失笑だ——が起き、「(過半数あるのであれば)2人が情報の公開を決めれば他の株主の反対を排除できるのではないか」といった指摘も飛んだ(これについては、「株主」という言葉がスタートアップコミュニティと、一般の市場で異なる性質を持っていることをより認識してもよかったのではないかとも感じた。スタートアップにとっては過半数未満の株主も成長を支援するパートナーという意味もあるが、世のマーケットを見ている人たちからすればそれは想定している「株主」とは異なるからだ)。

もう1点質問が多かったのは、テレビCMと仮想通貨交換業者の登録についてだ。コインチェックは仮想通貨交換業者への登録申請をしているが、現時点までに登録が完了していない(登録申請自体は行っており、受理されてはいるが認められていない状況)。だがその一方で、すでにテレビCMを含めたマーケティングを積極的に行っている。業者登録前にCMを積極的に流すのは良識が無いのではないかと問われると、「登録申請、セキュリティに関しては、経営上最優先でやってきた。その上で、さらに使っていただきたいというところで……優先順位としては2番目で、CMもやらせていただいた」(大塚氏)と回答した。

会見の後半、和田氏は、今回の最悪のケースについて「顧客の資産が毀損し、お返しできないことだと考えている」と語った。コインチェックは「顧客最優先」と再三説明し、今後情報も開示していくことを検討しているという。だが、現状はその内容のほとんどが「調査中」という状況だ。

【更新】仮想通貨取引所「コインチェック」が出金を一時停止、何らかのトラブル発生か

仮想通貨取引所 「コインチェック」が1月26日の午後から、日本円を含む取り扱い通貨全ての出金を一時中止するなど、大きな騒動となっている。

コインチェックでは同日12時過ぎに仮想通貨「NEM」の入金について制限したことを発表。そこから矢継ぎ早にNEMの売買、NEMの出金を一時停止。16時30分すぎに公式ブログにて「現在、JPYを含め、取り扱い通貨全ての出金を一時停止しております。大変ご迷惑をおかけしてりますが、ご了承くださいますようお願い申し上げます。」と発表した。

さらに17時すぎにはBTC以外(オルトコイン)の売買について、19時前にはクレジットカード、ペイジー、コンビニ入金による入金についても一時停止した。

Twitterを中心にSNSなどでは様々な憶測が広がり、大きな騒動となっている。20時の時点では本件に関する公式の発表は行われていないが、コインチェックのオフィス前にも、多数のユーザーとメディアが集まっている状況だ。

【1/26 21時10分 更新】: あくまでも現時点で公式発表はされていないが、今回NEMが盗まれたと言われている。NEM.io財団の代表ロン・ウォン氏も20時27分に本件についてTwitterで言及。ロン氏がシェアしたcryptonewsの記事では約5.2億XEMが盗まれたとしていて、記事内で同氏は「コインチェックがNEMのマルチシグを活用していなかったため、今回の事件が起こった」という旨のコメントをしている。

店舗が資金やファンを獲得できる“会員権”の取引所「SPOTSALE」、開発元のイジゲンが6200万円を調達

店舗が会員権を発行することで、資金やファンを獲得できるプラットフォーム「SPOTSALE(スポットセール)」。同サービスを開発するイジゲンは1月26日、ANRI、インフキュリオン・グループ、モバイルクリエイト、バリュープレス創業者の大木佑輔氏を引受先とした第三者割当増資により、総額6200万円を調達したことを明らかにした。

2013年設立のイジゲンは、受託開発やITコンサルティングに加えて、自社で位置情報を活用したポイントアプリ「AIRPO」やグループ向けの写真共有アプリ「guild」を展開する大分発のスタートアップだ。

同社で現在開発している新サービスが冒頭でも紹介したSPOTSALE。飲食店や美容室などの店舗が会員権を発行、販売することで資金を調達できる「お店の会員権の取引所」だ。

会員権にはたとえば「1000円以上の注文でドリンク1杯目が無料」「来店時に20%オフ」のような優待が設定される。これを通じて店舗が新規顧客の開拓や、中長期に渡って応援してくれるファンの獲得も目指せるのがウリだ。

購入した会員権については他のユーザーと売買することもできるため、イジゲン代表取締役CEOの鶴岡英明氏は「購入型のクラウドファンディングに(会員権を売買できるC2Cの)二次市場がくっついてるようなプラットフォーム」だと話す。

たしかに店舗が複数の個人から資金を調達できることに加えて、顧客の獲得手段としても活用できる点ではクラウドファンディングに近い。また会員権をユーザー同士で取引できる仕組みや、店舗がSPOTSALEを活用する際に「SPOTSALEに上場する」という表現が使われているあたりは、ICOに似ている点もある。

ただし株やICOにおけるトークンの取引とは違い、C2Cで会員権を売買する際のオファーや価格の設定などは完全に1対1で決める。鶴岡氏も「(株のように)そこまで頻繁に売買が発生するわけではない」という考えで、たとえば引っ越しや違う店舗に浮気してしまった際などに使ってもらうことを想定している。

「継続して長いスパンで(店舗とユーザー間の)関係性が構築されるサービスを作りたい。そこに愛が生まれると、単発の取引ではなくもっと深い特別な関係性ができる。特に地方はICOができずIPOをやる規模でもないが、いいお店や企業がたくさんある。そのような企業が応援される、評価される仕組みを作り、店舗から『SPOTSALEに上場すること』を目標にしてもらえるようなサービスを目指したい」(鶴岡氏)

SPOTSALEのリリースは2月の予定だが、現在Webサイト上で先行してユーザーと会員権の発行店舗を募集中。現時点で登録ユーザー数は2000人、店舗数は50店舗、会員権の購入に利用できるポイント(SPT)の発行総額は200万円分を超えた。

現時点では飲食店が多いが、コワーキングスペースなど場所の運営をしている企業からの登録もあるそう。今後はNPO向けのサービス展開も準備していくという。

今回の調達先のうち、インフキュリオン・グループとモバイルクリエイトとは業務提携も締結。グループ内および出資先がFintech系の事業を展開しているインフキュリオン・グループとは知見やノウハウの共有のほか、共同で事業開発にも取り組む。IoTサービスや決済事業を展開するモバイルクリエイトについても同様だ。

スリッパや座布団が勝手にうごく――自動運転を応用した未来型旅館を日産自動車が公開

風が吹いているわけでもないのに、スリッパや座布団がひとりでに動く。

安心してほしい。TechCrunch Japanが紹介するのだから、これはお化けの話じゃない。テクノロジーで旅館の“おもてなし”が進化したというお話だ。

日産自動車は1月25日、300年以上の歴史を誇る箱根の老舗旅館「一の湯本館」の協力のもと、自動運転技術を旅館運営に応用した未来型旅館の「ProPILOT Park RYOKAN(以下、PPP旅館)」を公開した(プロモーションムービー)。

この旅館では、スイッチを押すと脱ぎ散らかされたスリッパが玄関先に整列する。それだけでなく、客室の座布団やテーブル、リモコンなども勝手に定位置へと戻ってきてくれるのだ。

こんな夢の旅館を実現したのは、日産の新型EV「日産リーフ」に搭載された「プロパイロット パーキング」という技術。これは、スイッチを押したりナビの確認ボタンを押したりといった3ステップを踏むだけで、自動車がステアリング、アクセル、ブレーキなどを自動制御して駐車場の空きスペースに自動駐車するという技術だ。以下のTVCMで目にしたことがあるという読者も多いだろう。

日産はPPP旅館の開発背景について、「(日本政府は)観光を目的とした訪日外国人を2020年に現在の2倍の4000万人、30年には同3倍の6000万人に増やすという目標を掲げている。しかし、『旅館ブランドに関する調査研究』(国土交通省)によると、国内の小規模旅館で外国人旅行者の集客に取り組んでいるのは43.2%以下。これは、多くの伝統的な旅館における“労働者の高齢化問題”や“旅館従業員の効率化に向けたIT活用の不足”が原因と指摘されている」としている。

自動運転スリッパのような胸踊るテクノロジーに外国人が「Wow!」と驚いてくれるのはまず間違いだろうし、今は物珍しいこの技術も、普及すれば人手不足問題の解決策の1つとなるかもしれない。

日産は2月1日〜4日まで、日産グローバル本社にて自動運転スリッパの展示デモを行う予定だ。そして、それでも物足りないという読者は実際にPPP旅館への宿泊予約もすることができる(1月25日〜2月10)。

応募方法は、Twitterアカウントで 「#PPP旅館 #wanttostay」 とハッシュタグを付け、宿泊希望人数を明記の上、公開設定で投稿するだけ。条件などを精査し、後日事務局から連絡がくる手はずとなっている。

ただし、宿泊できるのは全世界で1組だけ。

だから、なるだけ思いの丈をこめたツイートをしてみよう。

独自のスマホ用OS「SUNBLAZE OS」を開発するアメグミが2000万円を調達、快適で安価なスマホ実現へ

写真左から川田尚吾氏、アメグミ代表取締役社長の常盤瑛祐氏、本田謙氏

独自のスマホ用OS「SUNBLAZE OS」を開発するアメグミは1月24日、ディー・エヌ・エー共同創業者の川田尚吾氏とフリークアウト創業者の本田謙氏から総額2000万円を調達したことを明らかにした。

現在アメグミが取り組んでいるのは、「長期間に渡ってサクサク動作し、価格も安い」スマートフォンの実現に向けた独自のOS開発。主なターゲットはゲームや動画を利用する機会がほとんどなく、SNSや検索など一部のアプリさえ使えれば困らないという人たちだ。

アプリの審査を厳しくするなど余計なアプリを排除し、OSのアップデート回数についても、セキュリティー面など必要最小限に止めることで動作を軽減。「バッテリー交換を含めて最低5年間はサクサク使えるもの」 (アメグミ代表取締役社長の常盤瑛祐氏)が目標だ。

常盤氏によると2017年1月に市場調査でインドを訪れた際の体験が、プロダクトの構想につながっているそう。現地で約300人にモバイルに関するアンケートを取ったところ、10人のうち2人くらいの割合で「(現在使っている端末の)動作が重くて不満を抱えていることがわかった」という。

「スマホでは頻繁にOSのアップデートが行われるが、多機能を必要としない人にとっては過剰。特に低価格のスマホでは動作がすぐに重くなってしまう」(常盤氏)

機能面をシンプルにすることに加え、新たしい仕組みをつくることで低価格のスマホ端末を開発する。生産に関しては中国の受託生産工場(EMS)を活用し、まずはアジアやアフリカの新興国市場を中心に、約5000円程度で端末を提供することを目指していくという。

すでにSUNBLAZE OS のプロトタイプが完成。今後はOSの開発を進めるほか、端末の生産や販売に向けて通信キャリアや広告代理店、アプリ開発会社など大手企業とのアライアンスも進めていく方針だ。

アメグミは2016年10月の設立。これまでSkyland Venturesと個人投資家の山本真司氏から出資を受けている。

任天堂のスマホアプリ「Miitomo」が5月9日に終了、リリースから約2年

2016年3月17日、任天堂にとっては初のスマホアプリとしてリリースされた「Miitomo」。似顔絵キャラクター「Mii」を通じて、友人とコミュニケーションを楽しめるのが特徴で、質問に答えることで友人との共通点や意外な一面を見つけることもできた。

任天堂初のスマホアプリということに加えて、DeNAとの共同プロジェクト第一弾ということもあり、リリース当時から注目を集めていたが、それから約2年。どうやらそのMiitomoも終わりの時を迎えるようだ。

任天堂は1月25日、Miitomoの提供を5月9日に終了することを発表した。サービスの終了に伴い、本日の午前10時をもって「Miitomoコイン」の販売を終了。今後はサービス終了までの期間にショップや「おとしてMii」などの有償サービスを楽しめるよう、ログインボーナスにて毎日Miitomoコインやゲームチケットを配布するという。

5月9日にサービスが終了した後はMiitomoを起動しても、サービスが終了した旨を通知する画面が表示され、アンサーや伝言の閲覧、服などのアイテムや壁紙の利用を含め、アプリの機能は利用できなくなる。作成したMiiについては、ニンテンドーアカウントと連携することでMiiの外見を移行できるという(性格などの情報は引き継がれない)。

また日本円で購入した未使用分の有償Miitomoコインについては、サービス終了後に払い戻し対応を実施。詳細は終了後に公式ページにてアナウンスするという。

器用にたこ焼きを返す調理ロボットを開発、コネクテッドロボティクスが6700万円調達

調理ロボットを開発するコネクテッドロボティクスは1月25日、500 Startups JapanDraper Nexusエースタート、複数の個人投資家を引受先とする第三者割当増資を実施したと発表した。調達金額は6300万円だ。

写真中央がコネクテッドロボティクス代表取締役の沢登哲也氏

コネクテッドロボティクスは企業向けの調理ロボットを開発するスタートアップだ。同社はその第1弾として、たこ焼き調理ロボットの「OctoChef」を2018年春にリリースする予定としている。

この調理ロボットがなかなかスゴイ。ロボティクスに関しては素人の僕がOctoChefの話を聞いた時、どこまで自動化できるのだろうと疑問に思った。でも、その答えは”最後まで”だった。

このロボットが実際動いている動画を見て欲しい。たこ焼きのなかに入れる具材こそ調理済みのものだけれど、生地の流しこみからたこ焼きのひっくり返し、そして容器への移し替えまですべてをロボットが行っている(まだまだ大阪人の読者からはツッコミが入る出来かもしれないが)。

「ロボットが苦手とするのは”切る”という動作。その工程が少ないたこ焼きはロボットでも可能だと考えた。あまりに素早い動きを繰り返すと安全性も低くなるし、動力のロスも大きくなる。だから、焼き上がるまでの待機時間がある点もロボットとは相性がいい」とコネクテッドロボティクス代表取締役の沢登哲也氏は話す。

聞けば、このロボットのプロトタイプの開発費用は200〜300万円ほどだったという。しかも、それに要した期間もわずか2ヶ月だ。「プロトタイプの開発に必要なロボットはオリックス・レンテックを通してレンタルした。このような環境が整ったことで、ロボットビジネスを始めるためのハードルはかなり低くなった」(沢登氏)

同社はOctoChefのような調理ロボットを「2年で投資回収できる程度の」価格で企業に提供していく。また、そういった買取型のマネタイズだけでなく、初期費用を抑えることができるサブスクリプション型も将来的なビジネスモデルとして視野に入れているという。

沢登氏は、東京大学大学院でロボット工学を学んだあと、最初は飲食店の立ち上げというかたちでビジネスの世界に足を踏み入れた。彼の祖父母や叔父が長年飲食店を営んでいたことから、もともと飲食業界への興味があった沢登氏は言う。その後、飲食とロボティクスを組み合わせた「飲食ロボット」の製造を専門としたコネクテッドロボティクスを2014年2月に創業した。

同社は今回調達した資金をロボットエンジニアの採用とロボット機材の購入費用に充てるという。今後はたこ焼きだけではなく、カレー、寿司、牛丼、焼き鳥などの自動調理にも取り組んでいく予定だ。

不動産テックのライナフが伊藤忠テクノロジーベンチャーズなど5社から3.2億円を資金調達

スマートロックなどのIoTデバイスを切り口に不動産サービスを展開する、不動産テックのスタートアップ企業ライナフは1月25日、伊藤忠テクノロジーベンチャーズをリード投資家として、長谷工アネシス住友商事、FFGベンチャービジネスパートナーズ、既存投資家である三井住友海上キャピタルを引受先とした、総額3.2億円の第三者割当増資の実施を発表した。

今回の資金調達は、三井住友海上キャピタルおよび三菱地所が出資に参加した2016年2月、三菱地所、DGインキュベーション、西武しんきんキャピタル他が参加した2016年11月に続くもので、シリーズBラウンドにあたる。

ライナフでは、スマートロックの「NinjaLock(ニンジャロック)」、オートロック付きの共有エントランス向け開錠システム「NinjaEntrance(ニンジャエントランス)」をIoTハードウェアとして提供。また、これらのハードと連動して、不動産オーナーや管理会社向けに「スマート内覧」「スマート会議室」「スマート物確」といったサービスを提供してきた。

ライナフ代表取締役の滝沢潔氏は「今回の調達は資本・業務提携としての目的が強い」と話している。「これまでの株主構成では、どうしても既存株主のための事業展開と見えてしまう。不動産各社へのサービス提供も進めているが、サービスの単なる“運用”から“拡大”へと進むために、一社に限らず、さまざまな不動産プレイヤーからの応援をいただいているという形にしたかった」(滝沢氏)

大手不動産プレイヤーとして新たに株主に加わった長谷工アネシスは、長谷工グループのサービス事業を行う企業で、マンション販売や賃貸マンションの管理事業などに加え、スマートマンション事業や保険サービスなども手がける。ライナフでは今後同社と、マンション建設や不動産事業、住宅関連サービスへのICT活用について検討していく予定だ。

また住友商事とは、同社が保有する不動産や販売するマンションへのサービス導入を検討してもらうほか、商社として、海外展開への支援をライナフとしては期待しているという。

福岡銀行グループのVCであるFFGベンチャービジネスパートナーズについては、銀行と地元不動産会社との金融機関としてのつながりを生かし、九州地域への進出で協業する予定で、滝沢氏は「これを機に関東以外への進出も強化していく」としている。

今回の調達資金は、営業体制強化のための人材採用のほか、「カスタマー・サクセス」部門の強化にも充てる。滝沢氏は「現在提供しているサブスクリプション型のサービスで、投資の回収を完了して収益を上げるためには、顧客に2年目以降も継続していただくことが重要。新規顧客の開拓はもちろんだが、既存顧客への定期訪問などでより多くの物件へのサービス導入をお勧めし、さらにその顧客がまだ利用していない新サービスも使ってもらえるような体制づくりを行っていく」と説明している。

なお、ライナフでは既存の空室向けサービスのほかに「住生活領域についても、日本初となる新しい取り組みを予定している」として、1月30日に新サービスを発表するそうだ。滝沢氏の話では、どうやらそれは、2017年3月のLIXILとの提携の際にTechCrunchが取材で聞いた、スマートホームならぬ「スマートドア」構想と関係しているらしい。

このスマートドア、あるいは「サービスが入ってくる家」と滝沢氏が呼ぶ構想は、米Amazonが2017年11月から開始した、不在時でも家の中に荷物を届けてくれるサービス「Amazon Key」と似ている。

2017年3月の取材当時の滝沢氏の話では、スマートロック付きのドアが家の外側と内側の2カ所に設置され、不在でもドアとドアの間で荷物の受け取りやクリーニングなどの宅配サービスが受けられ、内側のドアが開けられるキーを発行すれば家事代行サービスも受けられる、というサービスが想定されていた。どのようなサービスになるのか、発表の内容も追って記事にする予定だ。

ヤフー新体制へ——副社長の川邊氏が代表取締役社長CEOに内定、宮坂氏は会長に

ヤフーは1月24日開催の取締役会で、副社長の川邊健太郎氏を代表取締役社長CEOに内定する人事を決議した。現社長の宮坂学氏は、代表権のない会長となる予定。6月に開催される株主総会の決議を経て、それぞれ就任する。

ヤフーでは同時に新執行体制への移行も決定。市場環境変化のスピードが速いインターネット業界を勝ち抜くためには「新たな挑戦と経営幹部の若返りが重要な要素」として、4月1日からの新執行体制を発表した。これまでの宮坂氏の取り組みによる「スマートフォンで利用される会社」への移行やコマース事業の拡大が功を奏したとしつつ、2018年度からは加えて「データの会社」になることを目指す、としている。

川邊氏は1974年生まれ。電脳隊 代表取締役社長、ピー・アイ・エム 取締役を経て、ヤフーとピー・アイ・エムの合併により2000年にヤフー入社。Yahoo!モバイル担当プロデューサー、Yahoo!ニュースプロデューサーなどを務め、2009年5月にヤフーが買収したGyaO(現GYAO)の代表取締役に就任する。2012年より副社長COOを務める。新体制への移行後は、CEO職とCOO職は統合され、川邊氏が担当することになる。

なお、宮坂氏はヤフーが新規事業のために設立した「Zコーポレーション」の代表取締役に、4月1日に就任する予定。新会社では「ヤフーの事業と切り離した新領域への挑戦を加速させていきます」とリリースでは述べられており、こちらの“新領域”の内容についても気になるところだ。

マーケティング分析ツール「マゼラン」を提供するサイカが4.5億円を調達

クラウド型マーケティング統合分析ツール「XICA magellan(サイカ・マゼラン、以下マゼラン)」を提供するサイカは1月24日、INTAGE Open Innovation Fund、NTTドコモ・ベンチャーズ、アイ・マーキュリーキャピタル、そして既存投資家のDraper Nexus Venturesを引受先とした第三者割当増資により、4億5000万円を調達したと発表した。

マゼランは、インターネット広告、テレビCM、交通広告といったさまざまな広告の効果を、オンライン・オフラインを統合して評価・分析することができるツール。広告予算の最適な配分案が提示され、費用対効果の改善が期待できる。2016年9月に正式リリースされてから、1年あまり。国内の広告宣伝費ランキング上位100社(東洋経済オンライン記事による)のうち、1割の企業に利用されているという。

今回の資金調達発表と同じ1月24日には、導入・運用工数が軽減する機能や、分析の制度改善を簡易化する機能などを追加した、マゼランの新バージョンを提供開始している。

サイカは2012年の創業。2013年11月に開催されたTechCrunch Tokyo スタートアップバトルでは、マゼランの前身となる、素人でも使える統計分析ツール「adelie」(現在はサービスを終了)でマイクロソフト賞を受賞した。これまでに数回の資金調達を実施しており、直近では2016年3月に、電通デジタルが運営するファンド、Draper Nexus Venture Partners Ⅱ、アーキタイプベンチャーズの3社から資金調達を行っている。

サイカでは今回の資金調達を機に、マゼランの機能拡充と、販売拡大のための人員やマーケティング活動の強化に投資していく、としている。

SmartHRが15億円調達、東京海上日動火災保険との連携も視野に

労務管理クラウド「SmartHR」を提供するSmartHRは1月23日、戦略的スキーム「SPV(Special Purpose Vehicle)」を活用して15億円の資金調達を完了したと発表した。また、今回の調達に併せて、500 Startups Japan代表兼マネージングパートナーのJames Riney氏が社外取締役に就任することも明らかとなった。

写真中央がSmartHR代表取締役の宮田昇始氏、その右が500 Startups Japan代表兼マネージングパートナーのJames Riney 氏。

今回SmartHRが資金調達に利用したSPVは、特定の企業やプロジェクトに投資することを目的に専用のファンドを組成し、このファンドを通して資金を供給するスキームだ。SmartHRのプレスリリースによれば、SPVを利用した資金調達は米国では事例があるものの、「日本では未だ前例の少ないスキーム」としている。

SmartHRにとってシリーズBとなる今回のラウンドでは、既存株主である500 Startups Japanが専用のファンドの組成を行い、東京海上日動火災保険日宣、機関投資家3社、CVC、個人投資家などをLPとして資金調達を行った。SPVを利用した資金調達は、(日米両方の)500 Startupsにとって初めてのことだという。

スタートアップがSPVを利用するメリットとしては、資金調達活動にかかる負担を軽減できることなどがある。一方、500 Startups Japanにとっては、ファンド規模などの理由からこれまではシード・シリーズAが同ファンドの主戦場だったが、SPVを利用することでそれ以降のラウンドからも利益を得られる仕組みを手に入れたことになる。

SmartHRは今回調達した資金を利用して、サービスの追加開発、人材採用、マーケティング活動の推進を行っていく。また、オンライン利用率が8.9%とまだ低い社会保険・労働保険分野の電子申請の啓蒙を行い、クラウド人事労務ソフトの市場拡大を目指していくとしている。

「税務関係の書類(に関わる業務)はバリューを出しやすいが、社会保険や労働保険分野の書類作業はただ書き写すだけというような作業も多い。SmartHRを利用することで、そこにかかる時間を圧縮し、バリューアップにつながるような他の作業に集中できる」(SmartHR代表取締役の宮田昇始氏)

これに加え、具体的にはまだ不明だが、今回からSPVのLPとなった東京海上日動火災保険との業務提携、ならびに金融における新規事業も視野に入れているという。

SmartHRは2013年の創業で、TechCrunch Tokyo 2015スタートアップバトルの優勝企業だ。クラウド人事労務ソフトのSmartHRを導入する企業は現在9300社を超えた。2016年8月にはシリーズAで5億円の資金調達も行っている

“証券3.0”を目指すFinatextが14億円で証券会社を設立——取引の基礎となる機能をAPIで提供

株式市場の予測アプリ「あすかぶ!」や金融機関向けの投信データ提供サービスなどを手がけるFinatextは1月23日、新たに設立した子会社スマートプラスを通して証券業に参入すると発表した(スマートプラスの設立は2017年3月で、証券業登録は12月26日に完了)。さらに、Finatextは2017年5月にJAFCOから14億2500万円の資金調達を行っていたこともTechCrunch Japanの取材で明らかとなった。

2013年創業のFinatextはこれまで、株式市場の予想アプリ「あすかぶ!」や仮想通貨を使ったFXの予想アプリ「かるFX」といったコンシューマー向けの投資アプリを手がけてきた。また、2016年4月からはこれと並行して日本アイ・ビー・エムと共同でロボアドバイザーのエンジンを金融機関に提供するビジネスも行っている。

このように、これまでは間接的に証券業に関わってきたFinatextだが、彼らは新子会社のスマートプラスを設立して証券業に直接参入することを決めた。スマートプラスを通して彼らが目指すのは“証券3.0”の実現だ。

Finatextは、伝統的な対面営業の証券業を”証券1.0”、また、その業界がインターネットによって効率性を追求し、手数料の引き下げや商品ラインナップの充実を進めてきたことを”証券2.0”と呼ぶ。そして、投資家が多様な証券サービスの中から自分の趣向に合ったサービスを自由に選べる世界というのが、Finatextが目指す証券3.0だ。

それを実現するために必要となるキーファクターが、「BaaS(Brokerage as a Service)」という考え方。これは、各証券会社がこれまで自社で一式に提供してきた証券インフラ、証券取引の執行機能、フロントエンドサービスをアンバンドル化し、その中の基礎的な部分であるインフラと執行機能をFinatextがAPIとして提供するというもの。執行機能部分はスマートプラスが担当し、証券インフラ部分は同社とパートナーシップを結ぶ大和証券が提供する。

そうすれば、証券会社はユーザーと直に接するフロントエンドサービスに注力することができるようになるとFinatextは主張する。また、証券サービスの開発コストが極小化されることで新規参入者が増え、小規模ニーズにも対応した多様な証券フロントサービスが生まれるようになるという。

Finatextは、片手で迅速に取引が可能なUIや、自然言語解析による情報と銘柄の関連付けなどが特徴の株式取引アプリ「STREAM」を2018年初旬にリリースする予定だ。証券3.0が実現すれば、ユーザーエンドの技術に強みをもった他業種の企業でも、STREAMのようなアプリを開発することで独自の証券サービスを提供できるようになる。それがFinatextが目指す新しい証券業界のカタチだ。

だんきちが東京ドームとエイベックスから8000万円を調達、「スポーツのオンラインレッスン文化」浸透へ

野球やゴルフなどのレッスンを、オンライン上で受けられるサービスを提供するだんきち。同社は1月23日、東京ドームとエイベックス・ベンチャーズを引受先とする第三者割当増資により、約8000万円を調達したことを明らかにした。

だんきちは2013年の設立。2014年にディー・エヌ・エー、NTTドコモ・ベンチャーズおよび個人投資家から3000万円、 2015年末から2016年にかけてiSGSインベストメントワークス、朝日放送グループのベンチャーキャピタルであるABCドリームベンチャーズから約4500万を調達。今回が3度目の資金調達となる。

スマホさえあれば、いつでもどこでもレッスンが受けられる

だんきちが取り組むのは、ITを活用した新たな「スポーツレッスン」の仕組みづくりだ。従来であればレッスンを受けるには毎回スクールに足を運ぶのが一般的。開始時刻や日程が決まっているため時間の制約があることに加えて、住んでいる地域によっては自宅から通える場所にスクールがないなど、地理的な制約もある。

一方だんきちが展開するのは、スマホさえあれば好きな場所で、いつでもレッスンを受講できるオンラインレッスンサービス。自分のフォームやプレー動画をアップすると、プロのコーチによるフィードバックや動画を使ったフォーム指導、練習メニューのアドバイスなどをもらえるのが特徴だ。

現在は元プロ野球選手やプロゴルファーがレッスンを行う「スポとも」「スポともGC」を自社で開発し提供。またテニスに関しては開発や運営をだんきち、プロモーションをWOWOWが担当する形で「WOWOW パーソナルコーチ」を共同展開している。

東京ドーム、エイベックスとも新サービスを開発

だんきちの代表取締役CEOである与島大樹氏によると「今後は各スポーツでブランド力がある企業とアライアンスを組みながら、オンラインレッスンの文化を広げていく」方針。今回の出資元である東京ドームやエイベックスとも資金の提供を受けるだけでなく、WOWOW パーソナルコーチのように、野球とダンスに関する新サービスを一緒に開発するという。

もともと東京ドームでは元読売ジャイアンツの選手から指導を受けられる野球塾を運営しているため、そこで培ったナレッジやコーチ陣のリソースをサービスに活用する予定。各地でダンススクールを展開するエイベックスとの取り組みについても同様だ。

サービスの軸となるのは、「スポとも」と同じくユーザーが投稿した動画をもとにしたフォーム指導だが、生徒とコーチがコミュニケーションをとりやすい設計など、細かい機能やデザイン面で新たな取り組みも行っていくという。

現在だんきちが手がけるオンラインレッスンサービスは単月で約3500人が使用。年内にこの数値を8000人まで増やすのが直近の目標だ。まずはフォームが重要視されるスポーツとして「野球」「ダンス」「テニス」「ゴルフ」「陸上」の5種目に注力する。

「オンラインレッスンの文化を作りたいというが自分たちのビジョン。東京五輪も近いので、それまでにもっと普及させられるように事業を加速させたい」(与島氏)

「金と人は俺が集めるから、やろう」――辻庸介氏が語るマネーフォワードの創業ストーリー

2017年9月、家計簿アプリの「マネーフォワード」やお釣り貯金アプリの「しらたま」などを展開するマネーフォワードが東証マザーズへの上場を果たした。

2012年5月に創業したマネーフォワードは、その翌年に開催されたTechCrunch Tokyo 2013のスタートアップバトルに登場したこともある。それから4年が経ち、当時はまだ創業したばかりのスタートアップの社長だった辻庸介氏が、今度は上場企業の社長としてTechcrunch Tokyoに戻ってきてくれた。本稿は2017年11月17〜18日開催のイベント「TechCrunch Tokyo 2017」のセッションのレポートだ。

マネーフォワードの歴史は、恵比寿の小さなマンションの1室から始まった。辻氏は当時を振り返りながらマネーフォワードの創業ストーリーを語った。

始まりは、失敗から

辻氏がビジネスに目覚めたのは、大学時代のことだった。当時、彼は京都大学農学部で木材を溶かして発泡スチロールを作るという「今話しても誰一人として興味をもってくれない研究」(辻氏)に没頭する、研究者寄りの人物だった。だが、大学のテニスサークルで一緒だった先輩が起業し、その手伝いをしたことでビジネスの面白さに目覚めることになる。

辻氏は大学卒業後にソニーに入社。そこで経理担当として数年間務めたのち、2004年にマネックス証券へと転職した。

「(マネックスグループ代表取締役の)松本大さんには非常に影響を受けた。当時の日本では、インターネットバンキングは今ほど便利ではないし、サービスの質も悪かった。そんななか、松本さんは『日本の金融を変える。資本市場を民主化する』というビジョンを掲げていて、それに共感したことが転職のキッカケだった」(辻氏)

マネックス証券でマーケティング部長として務めた辻氏はその後独立し、2012年5月にみずからの会社を立ち上げた。これが後にマネーフォワードとなる。松本氏に影響を受けたと話す辻氏が独立後のビジネス領域として選んだのも、やはり金融だった。

「さまざまな人生において、お金の問題はすごく障害になっていると思う。例えば、お金のことを今後一生心配しなくてもいいと言われたら、何パーセントの人が今の仕事を辞めるのだろうとか、そんなことを考えていた。それぞれの家庭には教育費の問題や老後の不安があるし、中小企業の中には、融資を受けられさえすればもっと伸びるのにと思う会社がいっぱいある。そんな課題をサービスで解決できればと思っている」と辻氏は語る。

創業したばかりの辻氏が始めたのは「Moneybook(マネーブック)」と呼ぶサービスで、当時の社名もサービス名と同じマネーブックとしていた。Facebook創業者マーク・ザッカーバーグの本を読み、そのオープン思想に共感した辻氏は、「まずは家計が上手な人の事例をオープンにして誰もが見れるようにする。ユーザーがそれをマネすれば、勉強しなくても家計が上手くなるのではないか」と考えた。

Facebookのマネー版。だからマネーブックというわけだ。しかし、このサービスは残念ながら上手くいかなかった。「ユーザーはずっと10〜20人。しかも、10人中7人が僕の友だちというような状態だった」と辻氏は当時を振り返る。辻氏はマネーブックの運営で「『リーン・スタートアップ』(エリック・リースの著書)に書いてある失敗事例はすべて体験」し、結局、マネーブックは失敗のまま幕を閉じることとなった。

その後、会社の再起を懸けて作り上げたのが家計簿アプリの「マネーフォワード」だ。同社は2012年12月15日にマネーフォワードのベータ版をリリース。社名もそれに併せてマネーフォワードへと変更している。そして、このピボットが辻氏たちの運命を大きく変えることになった。

人をハッピーにするサービス

リリースの翌年にあたる2013年10月28日、マネーフォワードはJAFCOを引受先とする第三者割当増資を実施し、総額5億円の資金調達を完了したと発表した。今でこそ億単位の資金調達のニュースをよく目にするようになったが、2013年当時ではスタートアップが数億円の資金調達をするというのは珍しいことだった。その頃、マネフォワードに登録されたユーザーデータは1億件を超え、サービスが連携する金融機関の数も正式版リリース時の201件から1300件へと大きく増えていた。

提供するサービスの幅も広がった。5億円の資金調達を発表した翌月の2013年11月、マネーフォワードは法人向けの「マネーフォワード for BUSINESS(現:MFクラウド会計MFクラウド確定申告)」をリリースする。

法人向けサービスの開発に社内は猛反対だった、と辻氏は言う。当時はまだ人的リソースも少なく、個人向けのマネーフォワードの開発だけでも手が回らないほど忙しかった。終電の1本前で帰ろうとした辻氏に対し、社員が「辻さん、今日は早退ですか?」と言うほどだ。しかも、会計系サービスにとって外せない確定申告シーズンに間に合わせるためには、わずか3ヶ月でサービスを完成させる必要があった。

そのような反対意見に対し、辻氏は「このサービスは絶対に人をハッピーにする。金と人は俺が集めてくるから、やろう」と言い放つ。この強い熱意が社員を背中を押し、ついに法人向けサービスの開発が始まった。ソニー時代、経理部門で経理担当者のカスタマーペインを体感していた辻氏だからこそ出た言葉だった。

人と資金を集める

個人向け、法人向けと続けざまにサービスをリリースし、5億円という大型の資金調達も完了したマネーフォワード。端から見ればすごく順調そうに見えるけれど、もちろん、当人にとっては苦労の連続だった。当時の資金調達について辻氏はこう振り返る。

「当時、スタートアップが数億円規模の資金調達をするという事例はあまりなく、その規模で調達していたのはクラウドワークスの吉田さん(吉田浩一郎氏)やnanapiのけんすうさん(古川健介氏)くらいだった。お2人とはあまり面識はなかったが、厚かましく色々と聞きに行って勉強させてもらった。ああいうのがなければ、無理でした」(辻氏)。

「初めての調達の時はほぼすべてのVCを回った。でも、断られ続けた。マネーフォワードを見せたとき、『こんな怖いサービス、ユーザー1万人も集まらないよ』と言われたのを今でも覚えている。当時は自信もないので、有名な方にそう言われると『やっぱりダメなのかも』と思ったりもした」と辻氏は当時を振り返る。

スタートアップの創業者が集めなければならないのは資金だけではない。サービスが本当に成功するのかも分からないなかでも企業の黎明期を支えてくれるメンバーも集めなければならない。

従業員を集めるために、辻氏はまず知り合いから声をかけていった。知り合いのなかから、「こいつを選んで失敗するのであれば、しょうがない」と思える人たちをリスト化し、それを片っ端からあたっていった。でも、最初は上手くいかなかった。

「苦しいときはどうしても人手が欲しくなる。目の前で火が噴いていれば、それに水をかけて消さないといけないんです。でも、そうして急いで集めた人材がじつは油だったなんてこともあった。」(辻氏)

人材採用にまつわる失敗を重ねてきた辻氏は、その経験から今では「迷ったら採らない」と決めているそうだ。また、当時は10以上もあった“採用で重視するポイント”も今では3つに絞り込むことができた。地頭の良さ、チームワークができる人柄、ビジョンへの共鳴だ。「特に、ビジョンへの共鳴が最終的には一番重要」と辻氏は語る。

久しぶりのTechCrunch Tokyoの舞台で、辻氏は創業当初の資金調達や人材採用における失敗を赤裸々に語ってくれた。現在は上場企業となったマネーフォワードも、創業当初は苦労の連続だった。でも、当時の思い出を語る辻氏の表情はとても明るかった。

壇上で、「もう一度マネーフォワードを創業するとしたら、二度とやらないことは何か」と聞かれた辻氏は、笑顔でこう答えた。

「まず、マネーブックは作らなかったですよね」