【コラム】山火事が日常になりつつある今、植生管理にもっとITを活用すべきだ

山火事はギリシャ、トルコからオーストラリアそしてカリフォルニアと、世界中で日常の出来事になりつつある。

火災の原因は、タバコの吸い殻、キャンプファイヤーの消し忘れから落雷までさまざまあり、カリフォルニア州で特に多いのが送電線の破損によるものだ。

Dixie Fire(ディキシー・ファイア)は現地時間7月13日、Pacific Gas and Electric Company(PG&E、パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック)の送電線に木が倒れたことで発火し、カリフォルニア州史上最大の単一火災となった。

PG&Eは、2015年、2017年の山火事、および2018年にバラダイスの町全体を破壊した山火事、通称Camp Fire(キャンプファイヤー)を巡る数々の訴訟によって増え続ける負債に直面し、チャプター・イレブン(連邦破産法第11章)を申請し、数百億ドル(数兆円)にのぼる追加の火災補償を免れようとした。

PG&Eは、山火事のすべての主要被害者グループと255億ドル(約2兆8327億円)の示談、および取締役の入れ替えを約束して倒産を免れた。

現在、PG&Eの植生管理プロトコルは、年間を通じた従来手法による樹木伐採を行っている。土地・住宅の所有者が検査の予告を受けた後、検査員が枝切りあるいは撤去が必要な樹木に手作業で印をつける。印をつけられた木々が適切な処置を受けるまでには4~6週間かかる。

破産にともなう組織再編計画の一環として、California Public Utilities Commission(カリフォルニア州公共事業委員会)はPG&Eの統治と運営を強化するための対策を複数制定した。その1つが、山火事のリスクを減らすためのEnhanced Vegetation Management(EVM / 拡張植生管理)プログラムだ。

これは、PG&Eが植生管理計画を継続するだけではなく、枯れたり枯れそうな樹木、張り出した枝、あるいは高く伸びすぎた樹木による潜在リスクの責任を負うことを意味している。同社の主要目標は、2021年末までに2400マイル(約3860km)分のEVMのうち1800マイル(約2900km)を完了することだ。

委員会は山火事リスクの高い上位20%の地域に焦点を絞り、Circuit Protection Zones(サーキット・プロテクション・ゾーン)を設定した。この上位20%をリスクが1~3%、4~10%、および11~20%の区域に分け、トップの1~3%が1800 EVMマイルの中心に位置づけられる。この1~3%だけで推定2422マイル(約3900km)を占めている。

ディキシー・ファイアーの出火元をSan Francisco Chronicle(サンフランシスコ・クロニクル)紙やGoogleマップ、PG&E提供の地図などの情報源を元に比較してみると、ディキシー・ファイアーの近くにはCPZのリスク11~20%の地域しかなかったことがわかる。2021年PG&Eがディキシー・ファイアー地域でEVMプログラムを実施する可能性は非常に低い。

カリフォルニア州の干ばつは以前にも増して厳しく長期に渡っている。どれが最大のリスク要因であるかに賭けている余裕はない。この場合、情報へのアクセスと一連の作業のスピードが規模と一致している必要がある。

我々が所属するSpacept(スペースプト)では、ディキシー・ファイアーの原因となった植生危険要因を突き止めるために当社のツールを使用できるかどうかを検討している。植生の異常増殖を発見できれば将来の山火事防止に役立つとともに公共事業の信頼性を高めることができる。

これを確かめるために、我々はSPOT(スポット)衛星の6月15日のデータを元に、San Francisco Chronicleが特定した地域を可能性の高い出火元として集中的に調べた。この山火事はDixie Road(ディキシー・ロード)のFeather River Canyon(フェザー川渓谷)付近から始まったことが報告されている。

画像クレジット:Spacept

次に当社のTree Detector(ツリー・ディテクター)を衛星写真に適用し、PG&Eが送電線周辺で伐採した道筋に木や植生の侵入がないかを調べた。

画像クレジット:Spacept

Tree Detectorはその送電線経路における一定レベルの異常増殖を検出した。その一部を拡大し、送電線の経路と植生を示すマスクを設定することで、危険増殖地帯の画像を生成した。

画像クレジット:Spacept

画像の青で示された部分は送電線経路の伐採された区域を表し、赤は高い木と植生の密度を、オレンジ色は中程度の植生密度を表わしている。

高さ40フィート(12メートル)以下の樹木境界線は送電線から15フィート(4.5メートル)以内にあってはならないというPG&Eの推奨を踏まえると、この地域にはその規則が守られていない高懸念地帯がいくつかあることがわかる。将来、PG&Eや他の電力会社は、このような異常増殖を事前に察知し、該当する地域に植生管理リソースを割り当てるためにSpaceptのような衛星に基づくソリューションを使うことができるだろう。

カリフォルニア州のように特に山火事の頻度が高く破壊的な場所では、山火事の数が少しでも減ることが、重要エコシステムとインフラストラクチャーの破壊防止につながる。そして関連する企業を数十億ドルの訴訟から救う。

点検を実施するためのスケーラビリティーと運用の障壁を越えるためには、経営における洞察力の改善が必要だ。衛星分析は実行可能な先見的取り組みであり、植生管理のための結果を取得するまでの時間を短縮する。

編集部注:本稿の執筆者Elijah Priwer(エリジャー・プライワー)氏はカリフォルニア大学バークレー校の機械工学科学生で、航空工学、人工知能、および宇宙物理学に興味を持っている。

Rita Rosiek(リタ・ロジーク)氏はニューヨーク拠点のコピーライター / マーケターで、業務範囲はスタートアップや新興技術にわたる。

画像クレジット:Justin Sullivan / Getty Images

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(文:Elijah Priwer、Rita Rosiek、翻訳:Nob Takahashi / facebook

海上ドローン船でハリケーン中心部の様子を米海洋大気庁が初撮影、将来の予報用データも取得

海上ドローン船でハリケーン中心部の様子を米海洋大気庁が初撮影、将来の予報用データも取得

Saildrone Inc

アメリカ海洋大気庁(NOAA)が水上ドローンを使って、初めてハリケーンの中心近くの様子を映像に捉えました。風速54メートル、波高15mという激しい嵐になっているハリケーン「Sam」の内部を海上から捉えたのはSaildrone Explorer SD 1045と名付けられたウィンドサーフィンのようなドローン船で、海上でのハリケーンの様子をデータとして収集しました。

SD 1045は、ハリケーンシーズンに大西洋に配備していた5艘のうちの1つ。これらのドローン船は、研究者がハリケーンについて寄り詳しく分析するためのデータを常時記録するようになっています。そして収集した情報は、将来のハリケーンに関する予報の精度向上のために役立てられ、ハリケーンの上陸予測を寄り確かなものにすることで、犠牲者が出るのを抑えることが期待されます。

「ハリケーンは数時間で急激にその勢力を増すこともあり、沿岸地域の人々にとっては深刻な脅威になり得ます。NOAAの科学者であるグレッグ・フォルツ氏は、NOAAが使用しているSaildroneやその他の無人機器が収集する新しいデータは、ハリケーンの勢力変化をより正確に予測し、早期にハリケーンの予想進路上のコミュニティに警​​告を発するのに役立ちます」と述べました。

ちなみに、ハリケーン「Sam」に関しては、予報では米国本土に上陸する可能性は低いと予測されています。しかし、今回の映像でみられるような激しい波がこの週末には米国東海岸沿い打ち寄せ、場所によっては非常に危険な離岸流を起こす可能性があると、米国立ハリケーンセンターが注意喚起しています。

(Source:NOAAEngadget日本版より転載)

グーグルがGoogleマップの山火事追跡、森林被覆率、Plus Codeを強化

Google(グーグル)はGoogleマップの価値を高め、まだの人には使い始めてもらうためにいくつかのツールを改訂した。同社は山火事を追跡する機能を改善し、都市の樹冠被覆率を測定するツールを拡張した他、Plus Code(プラス・コード)によるバーチャル住所作成の自動化を進めている。

山火事は多くのユーザーにとって最も緊急な利用方法であり、それはかつて稀だったこの災害が繰り返し起こる事象へと発展したからだ。Googleは2020年、衛星データを利用した山火事追跡ツールをこの種の火災を探している人たちのために提供した。たとえば「焚き火」などを探すと、ニュースを提供するだけでなく、頻繁に更新される情報センターには火災の専門家による最も有力な予測がリアルタイムで報告される。

その情報が、マップアプリに交通情報や自転車経路のようなレイヤーの1つとして表示されるようになった。機能をオンにすると、近くで起きている火災がすべてマップにマークされ、タップすると約1時間前時点のライブ概要が表示される。危険地帯にもマークがついているので、ある場所に車で行っても安全なのか現場に留まったほうがよいかを知ることができる。山火事が非常に多くて危険であり、状況の追跡が困難であることを考えると、非常に役立つツールだ。

画像クレジット:Google

都市部向けに、Googleは航空写真を利用してヒートアイランドその他の危険地帯を識別する 「Environmental Insights Explorer(EIE) Tree Canopyツール」 を提供している。市政機関はこれを、新たな樹木を植えたりその他の資源を配分する参考に利用できる。ロサンゼルスで最初にテストされたこのツールは、現在世界の100都市、メキシコ、グラダラハラ、英国、ロンドン、オーストラリア、シドニー、カナダ、トロント、日本の東京などで利用されている。

もう1つ、都市当局、特に人口が希薄な地域や急変する都市環境の行政が持っていないデータが住所だ。ある場所に住所がないなんておかしい、と思うかもしれないが、そもそも郵便や荷物が配達されるためには、行政が街路名と番地を割当て、登録し、追跡する必要がある。貧困な田舎町では、近所の公的住所を使い、追加の指示や詳しい配達員に頼って郵便が正確に配達されていることもよくある。

数年前、Googleは「Plus Codes」を導入した。基本的にGPS座標を文字と数字の短い列に結びつけたもので、さまざまなオンライン住所サービスに入力することができる(もちろんGoogleマップにも)。正式な住所を持たない人でも、Plus Codeを持つことは可能で、誰かが自分を尋ねてくるには十分だ。

画像クレジット:Google

このほど、通常の方法で住所を割り当てるのに苦戦しているいくつかの地方自治体と協力して、Plus Codesを公式の政治機構に組み込んだ。たとえばガンビアとケニヤでは、国の身分証明書など、通常政府が検証した住所を必要とする場面でPlus Codeが使用されている。なお、情報を所有、管理しているのは当局でありGoogleではない。会社はコードの生成と既存オンラインインフラとの統合に協力しているだけだ(経路案内の生成にも役立つ新たな一括生成ツールもある)。

一連のツールは、Googleの公私連携への関心を強調している。批判する人たちはGoogleが人々の生活のあらゆる側面を捕まえようとしているだけだと考えるかもしれないが、実際この会社は、広告と観察のビジネスモデルに関わらず、常にこの種のプロジェクトを推進している。産業と政府の転換を純粋に望み、ときには成功している。少なくとも、これらのプロジェクトに私利は見つからず、世界中の人たちにとって大いに役立つ可能性がある。

画像クレジット:Google

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nob Takahashi / facebook

マイクロソフトはクラウドコンピューティングで自然災害モデルの再構築を目指すが課題は残る

気象予測は難しい分野として知られているが、地球の日常機能の理解のためには、この分野がますます重要になってきている。気候変動により、山火事や台風、洪水やサイクロンなどの自然災害の規模や被害が拡大している。災害がいつ、どこで発生するかを正確に知ること(あるいは数時間前に知らせること)は、被災者の状況に大きな違いをもたらす。

この分野を、Microsoftは、自社のクラウドコンピューティングサービスであるAzureにとって、利益を生むニッチな分野であると同時に、良いことをする機会でもあると考えている。2017年の立ち上げ時にTechCrunchが取り上げたAI for Earthプログラムを通して、Microsoftは一連のサービスを「Planetary Computer(プラネタリー・コンピュータ)」と呼ぶものにまとめた。このプログラムは、物体や動植物の種類を識別するためのAPIを含んでいる。AI for Earthは、科学者などが自らの研究やモデリングにAzureを利用するための助成金を提供しており、このプログラムは、AI for HealthAI for Accessibilityといった他のMicrosoftのクラウドイニシアチブに加わる。

関連記事:AI利用のヘルスケアの実践や研究を支援するマイクロソフトのAI for Health事業

私はこの数カ月間、災害対応のあらゆる側面に注目していたため、Planetary Computerと呼ばれるものの性能はどうなのか、自然災害のモデリングを改善するための障壁はどこにあるのかに興味を持っていた。このプロジェクトのプログラムディレクターであるBruno Sánchez-Andrade Nuño(ブルーノ・サンチェス=アンドラーデ・ニーニョ)氏は、このプロジェクトの野望はこれまでと同様に強いものであると語った。

「目標は、誰もが地球の生態系を管理できるようにするためのPlanetary Computerを手に入れることです。それは災害が起きた時の唯一の有効手段ですから」。このプログラムは「削減、対応、復興」に焦点を当てているが、できるだけ早く決断を下さなければならない「対応」が最も興味深い段階だ。

サンチェス=アンドラーデ・ニーニョ氏は、ここ2、3年の間に、特に環境に関連する領域でAIが驚異的な速さで進歩していると指摘した。「AIは多くの人が考えているほど多くのデータを必要としないのです」と彼は言った。「アルゴリズムに多くの進展がありましたし、私たちは、AIを理解し、非常に効率的な深層学習(モデル)を構築する方法を人々に理解してもらうために、多くの仕事をしています」。

地球システムにAIを適用する際の大きな課題の1つは、モデリングを成功させるために必要な専門分野の数だ。しかし、多くの分野は互いに隔てられており、科学者とAI研究者の間にはこれ以上ないほどのギャップがある。サンチェス=アンドラーデ・ニーニョ氏は、地球が直面する最も困難な課題に立ち向かうために、このプログラムがあらゆる分野の人々を継続的に巻き込む機会になると考えている。

「科学者のコミュニティには、より多くの知識を生み出したいというインセンティブがありますが、モデラーにとっては、良い答えをすばやく生み出したいというインセンティブがあります」と彼は説明した。「どうやって不確実性の中で迅速な意思決定を行えるでしょうか?」。

このギャップを埋める方法の1つが「アップスキリング」と彼が呼ぶ、科学者にAIのトレーニングを提供することだ。「これはすべて、環境分析をより速く、より良く行えるようにするという、同じ戦略の一環です」。特に地理分析分野ほど難しいものはない。「コンピュータは一次元を得意としていますが、近くにある複数のものを扱うのは苦手です」。彼は、もともと宇宙物理学を専攻していたが、GIS(地理情報システム)の「アップスキル」をしたと語った。

高度なAIスキルを身につけるための労力は、ライブラリが拡充し、一般的なAIモデルがうまく動作するようになり、さらにAIモデルを理解するための膨大な教材が用意されるようになったことで減少している。「かつては博士号が必要でしたが、今では10行のコードが必要です」。

そのAIの能力の増大により、人々はAIがあらゆる惑星規模の問題を解決できると信じ始めている。しかし、それは不可能であり、楽観的な見方をするとすれば、少なくとも今はまだ不可能だ。「私たちはAIの誇大広告を減らそうとしています」と彼はいう。「AIとは何かを知らなければ、それを信用することはできません」。このAI for Earthでは、科学者とAI研究者が一緒になってモデルのアウトプットを理解できるように、多くの取り組みで説明可能性を重視している。

このミッションは、関連する政府機関との連携を強めている。最近、AI for Earthは、米国陸軍エンジニア研究開発センターとパートナーシップを結び、同機関の沿岸監視システムの改善に取り組んでいる。

やるべきことが多くても、多くのモデリングの成熟度は高まっている。サンチェス=アンドラーデ・ニーニョ氏はこう言った。「今はまだ、発展途中の段階です。多くのプロセスで、必要以上にアドホックな処理が必要になっています」。良いニュースは、ますます多くの人々がこの分野に足を踏み入れ、点と点を結びつけようとしていること、そしてその過程で世界の災害対応能力を向上させようとしていることだ。

関連記事:テクノロジーと災害対応の未来4「トレーニング・メンタルヘルス・クラウドソーシング、人を中心に考えた災害対応スタートアップ」

画像クレジット:EDUARD MUZHEVSKYI / SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images 

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(文:Danny Crichton、翻訳:Yuta Kaminishi)

気候変動で増える水害を抑えるため、ただ成長を良しとする都市部に建築基準で待ったをかけるForerunner

市長は世界一大変な仕事であり、都市を引っ張っていくことは益々困難になっている。世界中の都心部で人口が膨れ上がっているが、その成長が起きる地域は気候変動の制約を受けている。住民に人気の高い海沿い地域も、海面上昇のリスクを負っている。成長のニーズと住民を災害から守る必要性をどう天秤にかけたらよいのだろう。

ほとんどのケースで、針は成長の方向に振りきっている。沿岸都市は大規模な広がりと開発をなすがままにし、より多くの固定資産税と住民を追い求めている。海面は恐ろしいほど上昇しているにもかかわらず。これは大惨事のレシピであり、それでも構わず多くの都市が選んだ献立だ。

Forerunner(フォアランナー)は針を反対側に振れさせようとしている。このプラットフォームは都市計画者や建物管理者が調査、研究を行い、将来の洪水被害の軽減に焦点をあてたより厳しい建築基準や土地利用基準を執行できるようにする。特に焦点の中心にあるのが、国の洪水保険制度の利用が多い米国都市で、Forerunnerは、各都市が同制度の複雑なルールをできるだけだけ遵守するための手助けをする。

画像クレジット:Forerunner

会社はFEMA(連邦緊急事態管理局)などからデータを入手して、各施設に義務づけられている最低床高基準を割り出し、建物がその基準を満たしているかどうかを調べる。さらに、洪水地帯の境界線を追跡し、水位認定証の作成、管理など国の洪水保険書類の処理手続きを支援する。

共同ファウンダーのJT White(JT・ホワイト)氏とSusanna Pho(スザンナ・フォ)氏は長年の友人同士で、MIT Media Lab(メディア・ラボ)で働いたあと、2019年初めにこの氾濫原管理プロダクトを一緒に作り上げた。「多くの自治体が『国の洪水』規則を守っていない問題はいくら強調しても足りません」とフォ氏はいう。「彼らは厳しい条例を元に戻すつもりです【略】多くの日常的な遵守確認が不可能だからです」。

洪水被害にあった沿岸都市は国の洪水保険で保護されるが、そこではしばしば倫理崩壊が起きる。なぜなら被害は補償されるので、そもそも災害を避けようというインセンティブが小さいからだ。連邦政府がこの基準を強化しようとしているのに加え、新しい世代の都市設計家や首長の間では、多くの都市の「建築-破壊-再建築」モデルは気候変動を踏まえてやめるべきだという認識が高まっている。洪水の後には「都市がより高い基準で再構築することを望んでいます」とホワイト氏は語った。「一種の再構築のサイクルや、同じことの繰り返しに私たちは憤慨しています」。

新たなモデルへの移行はもちろん容易ではない。「自治体は多くの難しい決断を迫られます」と彼はいう。しかし「当社のソフトウェアはそれを少しだけ簡単にします」。これまでに会社は早くも手応えを感じており、現在33の自治体がForerunnerを使用している、とファウンダーらは述べている。

顧客はルイジアナ州とニュージャージー州北部に集まっているが、同社最大の顧客はテキサス州ヒューストン市街地の大部分を含むハリス郡だ。郡は国基準の遵守を高めることによって洪水保険料を最大500万ドル(約5億5000万円)節約できる可能性がある、ホワイト氏はいう。「当社サービスの利点の1つは、自治体内の洪水保険契約者全員が来年からすぐに割引を受けられることです」と彼は語る。しかし、いずれFEMAはインセンティブよりも逆インセンティブに焦点を当てるだろう。「FEMAの持つ最強の武器は、自治体から洪水保険制度を取り上げられることです」とホワイト氏は指摘した。

会社は2019年に早期シードラウンドで資金調達し、現在プラットフォームの機能強化と売上を軌道に載せることに集中している。行政テック分野では難しい注文かもしれない。

住宅の増加と成長への要求が高まる中、気候変動は別の要求を都市に突きつける。市長や都市のリーダーたちは、過去のグロース(成長)モデルから、未来のレジリエント(適応)モデルへの転換を益々迫られている。

関連記事:テクノロジーと災害対応の未来1「世界で最も悲惨な緊急事態管理関連の販売サイクル」

画像クレジット:STR/AFP / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】EVの充電ソリューションは電力網の資産になる

編集部注:本稿の執筆者Oren Ezer(オレン・イーザー)氏は、電気自動車にワイヤレス充電を提供する共有エネルギープラットフォーム「ElectReon」のCEO兼共同設立者。

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2030年までに米国の販売台数の約半分を電気自動車(EV)にするというJoe Biden(ジョー・バイデン)大統領の計画は、現在、米国の総排出量の約半分を占める交通システムの脱炭素化を進めようとしていることを意味している。

電気自動車の大量導入を促進するためには米国政府の支援が不可欠だが、一方で、何百万、何千万もの人々が頼りにしている劣化した電気インフラ、すなわち電力網を修復する必要にも迫られている。

社会がオール電化に移行し、EVの需要が高まる中、現代社会が直面する課題は、どうすれば電力網に負荷をかけ過ぎずに、増え続けるEVに充電できるかということである。EVは電力網に対して過負荷となるという予測がある一方で、ワイヤレス充電、V2G(Vehicle to Grid、自動車と地域電力網の間で電力を相互供給する技術やシステム)、再生可能エネルギーのより効率的な利用など、エネルギーインフラをバックアップする方法も研究されている。

不安定な電力網に対して信頼性の懸念が高まる現在、この重要なインフラを強化し、電力網の限界を超えないようにするためのソリューションを見つけることは急務となっている。

現在、電力網が直面している課題

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の気候変動報告書は、地球温暖化や人類が排出した二酸化炭素の影響により、以前は50年に1度だった激しい熱波が、今後は10年に1度あるいはそれ以上の頻度で起こると予想している。このことは、すでに2020年も太平洋岸北西部における記録的な熱波や大火災で確認されているが、電力会社や事業者、業界の専門家たちは、現在のエネルギーシステムが気候変動による温度上昇に耐えられるか懸念を示している。

熱波だけではない。2月にテキサス州で発生した寒波は、エネルギーインフラを麻痺させ、何百万もの住宅で停電が発生した。温暖化が進み、電力需要を満たすために電力網が過負荷になればなるほど、このようなことは増加し続けるだろう。

気温の変動に加え、今後数年のうちに市場に出回ると予想されるEVの増加をサポートできるかどうかについても多くの人が懸念している。交通機関の電化にともない、2050年までに米国の発電容量を2倍にする必要があるとの報告もあり、充電のピーク時に柔軟性を向上させ、稼働率を上げられるEV充電の技術が求められている。しかし、現状では、米国の電力網の能力は2028年までに2400万台のEVをサポートできるにとどまり、道路輸送による二酸化炭素排出量を抑制するために必要なEVの数を大幅に下回っている。

このような課題にもかかわらず、業界の専門家は、EVが電力需要管理に大きな役割を果たし、必要に応じて電力網の安定化に貢献する潜在能力があることを指摘している。しかし、全米でEVの普及が進めば、電力会社は、人々がいつEVを充電するのか、何人のユーザーがいつEVを充電し、どのような種類の充電器が使用されてどのような車両(乗用車や中型・大型トラックなど)が充電されているのかといった重要な問題を調査し、電力需要の増加と電力網のアップグレードを決定する必要がある。

EV充電ソリューションは負債ではなく資産になる

電力網インフラのアップグレードには長い時間がかかる上、自動車の電動化を希望する個人や企業が増加しているので、全米の自治体は、EVの増加に先んじて、電力網の安定性を確保しながら必要な充電インフラを展開する方法を必死に模索している。しかし、国際クリーン交通委員会(ICCT)の最近の分析では、米国のEV充電器の数は現在21万6000台で、EVの普及目標を達成するためには2030年までに240万台の公的および民間の充電システムが必要になると推定されている。

各都市は充電インフラの不足を解消するために、必要な充電インフラの導入を早め、電力網を保護するための従来の据え置き型充電器以外の充電オプションを検討し始めている。その1つがワイヤレス充電や走行中充電といったダイナミックチャージング(大電力充電)である。

ワイヤレスのEV充電は、充電レーンの配置や交通量によって充電時間が断片化され、需要の変動が大きくなり、既存の電力網インフラにさらなる負担をかけるという意見がある一方、ワイヤレス充電では、14~19時に多く発生するエネルギー需要をまかなうためにEVを固定式充電器に接続しておく必要がなく、24時間さまざまな場所に分散して充電できるため、実際には電力網の需要を減少させ、グリッド接続の増設やアップグレードの必要性を減らすことができるという主張も多くある。

また、ワイヤレス充電は、道路、商業施設の搬入口の真下、施設の出入り口、タクシーの行列、バスの駅やターミナルなど、導電式(プラグイン)充電ソリューションでは対応できない場所にも設置することができるので、1日のうちに一定の間隔でEVに「上乗せ」充電を行うことができる。

導電式のEV充電ステーションは主に夕方や夜間にのみ使用され、蓄電装置が必要だが、ワイヤレス充電では、主に日中に生産・利用される再生可能な太陽エネルギーをより効率的に利用することができるので、必要な蓄電装置の台数を減らすことができる。

これには、都市や電力会社がワイヤレス充電のような効率的なエネルギー利用戦略を活用することで、エネルギー需要を時間的・空間的に分散させ、電力網に柔軟性をもたせて保護することができるというメリットがある。このエネルギー利用戦略を、自家用車やタクシーだけでなく、中型・大型トラックに適用すれば、EV化が難しいトラック分野でもEVへの移行をより迅速化できるようになる。

電気自動車の普及を支える電力網にプラスとなるワイヤレス充電

電力網にとっては乗用EVだけでも課題を抱えているが、大規模なトラック充電は、電力会社が積極的に移行を準備しなければ、非常に困難な課題となる。2030年には商用や乗用の全車両の10〜15%をEVにすることが計画されている現在、EVへの移行で二酸化炭素排出量の削減目標を達成しようとしている事業者にとって、ワイヤレス充電は費用対効果の高いソリューションになる。大型車のプラグイン充電とワイヤレス充電の比較と、両者が電力網に与える影響は次のようになる。

  • プラグインの導電式充電:240kWhのバッテリーを搭載した100台のEVバスをバス停留所で夜間導電充電する場合、全車両が毎日の運行終了時に同時に充電するために、最低でも6メガワット(MW)のグリッド接続が必要となる。
  • 電磁誘導方式のワイヤレス充電:都心部のバスターミナル、駐車場、ステーションに設置したワイヤレス充電の定置充電技術を使用して、100台のEVバスを、1日を通して運行の合間に「上乗せ」充電することができる。この充電戦略では、蓄電容量を大幅に削減でき(正確な削減量は車両と車両のエネルギー需要によって異なる)、1日を通して充電が行われるので、必要なグリッド接続は(プラグイン充電と比べて)66%減の2MWになる。

道路に隣接するソーラーパネルフェンスを備えたワイヤレス電気道路システムは、発電を分散させ、電力網への負荷を減らすための究極のソリューションになるかもしれない。業界が行った計算によると、約1kmの電気フェンスは、1.3〜3.3MWの電力を供給することができる。太陽光発電と道路に埋め込まれたワイヤレス充電インフラを組み合わせることで、1日あたり1300台から3300台のバスを電力網に接続せずに走らせることができる(平均時速80km、日射量の季節変動を考慮)。

さらに、ワイヤレス電気道路システムはすべてのEVに共通で使用できる。同じ電気道路でトラックやバン、乗用車に充電でき、電力網に新たな負荷をかけることもない。

電力網の近代化に向けて重要な役割をもつ革新的な充電技術

ワイヤレス充電はまだ市場に出てきて間もない技術だが、そのメリットは次第に明らかになっている。交通機関の電化の促進、気温の上昇、異常気象などに直面する電力網の老朽化が懸念される中、革新的な充電技術は最適なソリューションだ。

1日を通してEVの充電を分散させて過負荷を回避し、乗用車と大規模なトラック輸送両方のエネルギー需要を同時にサポートするワイヤレス充電などの技術は、将来の全電化脱炭素社会に向かうための重要なリソースとなる。

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画像クレジット:Bloomberg Creative / Getty Images

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(文:Oren Ezer、翻訳:Dragonfly)

気候変動で米国は安全保障のあり方が再定義される、書評「All Hell Breaking Loose」

今日の気候変動のポリティクスにおける亀裂の中で最も不幸な分断の1つが環境活動家と国家安全保障に関わる人々との連携の欠如だ。左翼系の環境活動家は右よりの軍事戦略家と付き合わず、前者は後者を破壊的で反エコロジカルな略奪者とみなしているし、後者は人々の安全保障よりも木やイルカを優先する非現実的な厄介者とみなしていることが少なくない。

しかし、気候変動により、両者はこれまで以上に緊密に連携することを余儀なくされている。

名誉教授で数多くの著作を持つMichael T. Klare(マイケル・T・クレア)氏は、自著「All Hell Breaking Loose(大混乱:気候変動に対するペンタゴンの視点)」の中で、過去20年間で気候変動がどのように米国の安全保障環境を形作ってきたかについて、ペンダゴンの戦略アセスメントに対するメタアセスメントを行っている。本書は、謹直で繰り返しが多いがいかめしいわけではない。そして防衛に携わる人々が今日最も厄介な世界的課題にどのように対処しているかについて、目を見張るような見方を提供してくれる。

気候変動は、国防の専門家でなければ気が付かないようなかたちで、実質的にあらゆる分野で安全保障環境を弱体化させている。米海軍の場合、沿岸から工廠や港へアクセスするわけだが、海面の上昇は任務遂行力を減退させたり時には破壊する脅威である。そのよい例がハリケーンが米海軍施設の最大の中心地の1つであるバージニアを襲った時であった。

画像クレジット:Metropolitan Books/Macmillan

米国の軍隊は、米国内のみならず世界中に何百もの基地を持っている。その意味で、戦闘部隊であると同時に大家のようなものでもある。これは当たり前のことだが繰り返していう価値がある。こうした施設のほとんどが、任務の遂行に影響を及ぼしかねない気候変動による問題に直面しており、施設の強化にかかる費用は数百億ドル(数兆円)、あるいはそれ以上に達する可能性がある。

これに加えて、エネルギーの問題もある。ペンタゴンは世界でも有数のエネルギー消費者であり、基地向けの電気や飛行機の燃料、船舶用のエネルギーを世界規模で必要としている。これらを調達する任にあたっている担当官にとって気がかりなのは、その費用もさることながら、それが入手できるのか、という点だろう。彼らは最も混乱した状況であっても信用できる燃料オプションを確保する必要があるのだ。石油の輸送オプションがさまざまな混乱にみまわれる可能性があるなか(暴風雨からスエズ運河での船舶の座礁まで)、優先順位を記したリストは気候変動のために曖昧になりつつある。

ペンタゴンの使命と環境活動家の利益が、完璧ではないにしても、強く一致するのはこの点である。クレア氏はペンタゴンが、戦闘部隊の任務遂行力を確保するためにバイオ燃料、分散型グリッドテクノロジー、バッテリーなどの分野に投資している様子を例として示している。ペンタゴンの予算を見て批評家は嘲笑うかもしれないが、ペンタゴンは、より信頼できるエネルギーを確保するため、いわゆる「グリーンプレミアム」を支払っている。これは他の機関では現実的には支払いが難しいような額であり、ペンタゴンは特殊な立場にあると言える。

両者の政治的な協調は、それぞれの理由は大きく異なるものの、人道的対応ということでも続いている。ペンタゴンの責任者が地球温暖化で懸念していることの1つは、この機関が中国、ロシア、イラン、その他の長年の敵対者からの保護といった最優先の任務ではなく人道的危機への対応へとますます足を取られて行くことである。ペンタゴンは、災害の起こった地域に何千という人数を派遣できる設備と後方支援のノウハウを持っている唯一の米国の機関として頼りにされている。ペンタゴンにとって難しいのは、軍隊は人道支援の訓練ではなく戦闘訓練を受けた存在であることだ。ISIS-Kを攻撃するスキルと、気候変動で難民となった人々のキャンプを管理するスキルとはまったく異なるのである。

気候変動活動家は、気候変動により何百万という人々が飢饉と灼熱から逃れるために難民となることがないよう、安定した公平な世界のために戦っている。ペンタゴンも同様にその中核的任務以外の任務に足を取られることのないよう、不安定な国家にテコ入れしたいと考えている。両者は異なる言語を話し、異なる動機を持っているものの、目指すところはほぼ同じなのである。

気候変動と国家安全保障との関係で最も興味深いのは、世界の戦略地図がどのように変化するかである。氷がとけ、北極海航路がほぼ1年を通して航行できるようになった今( そしてまもなく1年中航行できるようになる)、主な勝者はロシアであるが、クレア氏はペンタゴンが北極圏をどのように安定させるかについて的確な説明をしている。米国は、戦闘部隊に対し北極圏での任務の遂行と、この領域での不測の事態に備えるための訓練を初めて実施した。

クレア氏の本は読みやすく、そのテーマは大変興味深いが、どう想像力を膨らませても、見事に書かれた文章とは言えない。同書はまさにドラマ「Eリング」に出てくる防衛計画専門家チームによって書かれたかのようであり、筆者はそれをメタアセスメントと呼んでいる。これはシンクタンクがまとめた数百ページにおよぶ論文であり、これを読了するには、スタミナが必要である。

厳しい見方をすると、本書のリサーチと主な引用はペンタゴンのアセスメントレポート、議会証言、および新聞などの二次的レポートを中心になされており、当事者による直接的なインタビューはわずかであるかまったくないのであって、これは現代の米国の言説における気候変動の政治的な性質を考えると、大きな問題である。クレア氏は確かに政治を注意深く観察しているだろう。しかし将軍や国防長官が政府の報告書として公的にサインをする必要がない場合に、彼らがどのような発言をするかを私たちは知ることができない。これは大きな隔たりであり、本書を読むことで読者がどれほどペンタゴンの真意をつかめるのかは疑問である。

そうはいっても、本書は重要な位置付けを持つ本であり、国家安全保障に関わるコミュニティもまた、その利益を保護しつつではあるが、気候変動における変化を導く重要な先駆者でありうる、ということを思い出させてくれる。活動家と軍事戦略家は敵意を捨ててもう少し頻繁に話し合うべきである。同盟を結ぶ意義はあるのだから。

2021年夏に発表された気候変動に関する本

画像クレジット:Sergei Malgavko / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

マップ型リアルタイム空き情報配信サービス「VACAN Maps」が導入避難所数1万件達成、災害時の混雑状況を可視化

マップ型リアルタイム空き情報配信サービス「VACAN Maps」が導入避難所数1万件達成、災害時の混雑状況を可視化

AIとIoTを活用してあらゆる空き情報を配信するスタートアップ「バカン」は9月2日、マップ型リアルタイム空き情報配信サービス「VACAN Maps」(バカン マップス)において、2021年8月に国内人口15%をカバーするとともに(「導入自治体の人口合計÷国内の総人口」で算出)、全国で170超の自治体への導入を達成したと発表した。これにより、災害時には1万件以上の避難所の混雑情報をリアルタイムに可視化可能となった。

現在コロナ禍により、感染拡大防止のため人と人との間に距離を確保する社会的距離(ソーシャルディスタンス)や密の回避などが求められている。これら感染対策は災害時に開設される避難所も例外ではなく、距離の確保や体調不良者のゾーニングなどが重要となる。

一方で、そうした状況下では各避難所の収容可能人数が従来と比べ少なくなる可能性があり、一部の避難所に人が集中することを避け、分散して避難をすることが必要になる。

この課題を解決するため、多くの自治体において、マップ上で各種施設の空き・混雑状況を一覧表示できるVACAN Mapsの避難所への活用が進んでいるという。2020年8月の東京都多摩市導入以降、11カ月で1万件、170超の自治体が導入しており、2021年内には導入先が200自治体に増える見通しとしている。マップ型リアルタイム空き情報配信サービス「VACAN Maps」が導入避難所数1万件達成、災害時の混雑状況を可視化

VACAN Mapsでは、PCやスマートフォンなどでアクセスすることで、アプリなどをダウンロードすることなく各避難所の位置や混み具合を確認できるようになっており、ユーザー情報の登録なども必要ない。地図上のアイコンと表示される文言から、「空いています(青)」「やや混雑(黄色)」「混雑(赤)」「満(赤)」の4段階で避難所の混み具合を確認できる。マップ型リアルタイム空き情報配信サービス「VACAN Maps」が導入避難所数1万件達成、災害時の混雑状況を可視化

サプライチェーンのリスク管理プラットフォームを運営するResilireが1.5億円を調達

サプライチェーンのリスク管理プラットフォームを運営するResilireが1.5億円を調達

サプライチェーンのリスク管理を行うプラットフォーム「Resilire」(レジリア)を運営するResilireは9月1日、第三者割当増資による1億5000万円の資金調達を完了したことを発表した。引受先は、Archetype Ventures、DNX Ventures、DEEPCORE、STRIVE、みずほキャピタル、グロービスファンド。

2018年創業のResilireは、サプライチェーンの管理と、災害などの影響を受けたサプライヤーの状況把握・対応をひとつのプラットフォームで行えるリスク管理サービスとしてResilireを運営している。たとえば大手製薬企業は、これまで数百から数千件というサプライヤーや社内拠点の管理を表計算ソフトなどで行ってきたが管理が行き届かず、緊急時の対応に遅れが出てしまっていたという。

これに対してResilireは、サプライチェーン全体をクラウドで管理する。災害発生時には、影響のあるサプライヤーが自動的にリストアップされ、メールが送信される。サプライヤーがこれに回答することで、被災状況や影響する製品、関係企業が自動的に可視化されるという。

具体的に、Resilireは以下のように活用できる。

  • コントロールタワーの構築:サプライチェーンや拠点全体をツリーでマッピングし可視化
  • 災害情報の収集:24時間365日、気象庁と電力会社の情報を監視し即時に国内の災害情報を収集
  • マップで影響拠点を可視化:収集した災害情報から企業への影響範囲を可視化。
  • 被災状況の把握:社内メンバーやサプライヤーにメールやアンケートを送信し、情報を集約
  • コラボレーション:クラウド上で社内チームやサプライヤーとのコミュニケーションが可能。リスクアセスメント、サプライチェーンの見直しなども可能に
  • BCM体制の構築:BCP(事業継続マネージメント)を常にアップデートし続ける

2020年6月にクローズドベータとしてリリースして以来、製薬、製造、商社、卸などの大手企業に導入されているとのこと。今回の資金調達は、自然災害が増える中でのResilireの機能充実にあてられるという。

「イーロン・マスク、ジェフ・ベゾスは地球を救うために火星への移住計画を民間企業として達成しようとしています。それは気候変動による地球の持続性に危機感を持っているからだと考えています。私も同じく危機感を持つものとして、彼らに負けないようなイノベーションを起こしていきます」と、Resilire代表取締役の津田裕大氏は話している。

温暖化でリスクが高まる山火事に備える家屋強化のマーケットプレイス「Firemaps」にa16zが出資

世界中の国々を山火事が襲っている。カリフォルニア州は史上最悪(この比較級を毎年のように使っている気がする)の山火事に対処中であり、州北部ではCaldor fire(カルドア・ファイアー)などの火災が起きている。一方、ギリシアをはじめとする地中海の国々は数週間に渡る消火活動の結果巨大な火災を鎮圧した

気候温暖化が進む中、米国だけでも数百万世帯が山火事の高リスク地域に位置している。保険会社と政府は家屋所有者に対し、いわゆる「hardening」(ハードニング、耐火性強化)を実施するよう緊急な圧力をかけている。火災に遭った際に家屋が損害を免れる可能性を最大限に高め、それ以上災害を広げないための対策だ。

サンフランシスコ拠点のFiremaps(ファイアマップス)は、事業規模を急速に拡大し、複雑で時間のかかる手続きをできる限り簡易化することで、家屋ハードニングの問題を解決する、という壮大なビジョンを持っている。

会社は数カ月前(2021年3月)に創業したばかりで、ドローンを装備した作業員を山火事の高リスク地域にある家屋に派遣する。作業チームは20分以内に、センチメートル単位で物件の高解像度3Dモデルを作成する。そこからハードニングのプランを構成し、同社のマーケットプレイスに参加している業者に入札依頼が送られる。

ドローンで家をスキャンした後、Firemapsは建築物と近隣物件の高精細CADモデルを作成する(画像クレジット:Firemaps)

始まったばかりだがサービスはすでに好調だ。同社ウェブサイトに登録した数百人のホームオーナーに加えて、数十人がドローンによるスキャンを終えており、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ、a16z)のAndrew Chen(アンドリュー・チェン)氏は同社の550万ドル(約6億円)のシードラウンドをリードした(Form D申請書によるとラウンドは4月ごろ実施された)。ラウンドにはUber(ウーバー)CEOのDara Khosrowshahi(ダラ・コスロシャヒ)氏、Addition(アディション)のLee Fixel(リー・フィクセル)氏も参加している。

Firemapsを率いるJahan Khanna(ジャハン・カンナ)氏は都市工学の長い経験を持つ弟とRob Moran(ロブ・モラン)氏の3人で会社を共同設立した。カンナ氏は初期のライドシェアリングスタートアップ、Sidecar(サイドカー)の共同ファウンダー兼CTOで、モラン氏は同社の初期従業員の1人だった。3人は気候問題にどう取り組むかを繰り返し研究しながら、今ここににいる人たちを助けることに焦点を当て続けてきた。「人類が(気候に関する)一定のしきい値を超えてしまった今、私たちはこの問題を制御する必要があります」とカンナ氏は言った。「当社はそのソリューションの一部です」。

過去数年間、カンナ氏兄弟はカリフォルニアにソーラー施設かソーラー利用の家屋を作ろうとしていた。「誰と話した時にも驚いたのは、カリフォルニアには何も建てられない、なぜなら燃えてしまうから、と言われたことでした」とカンナ氏は言った。「それが転機でした」。2人は火災ハードニングについて調べるうちに、何百万というホームオーナーが、手軽で安い選択肢を必要としていることを知った。それもできるだけ早く。

家を火災に強くする方法は何十とある。家から1〜2メートル以内に耐火ゾーンを作るのはその1つで、花崗岩の砂利を置くことが多い。天井裏の換気口や排水溝、家の羽目板などを耐火性で高温に耐えられるようにすることもそうだ。これらの方法の価格はさまざまだが、一部の自治体や州政府は、助成金プログラムを設けて、ホームオーナーがこうした改善にかけた費用の一部でも取り戻せるようにしている。

Firemapsの3Dモデルで描かれた家にハードニングの代表例と価格が表示されている(画像クレジット:Firemaps)

同社のビジネスモデルはシンプルだ。選別された契約業者は、Firemapsのプラットフォームに掲載料を支払う。カンナ氏は、同社がドローンを使った家屋の総合的モデルを提供するので、契約業者は自分で現地視察をすることなく入札に参加できる、と考えている。「業者はすぐに取りかかれるプロジェクトが手に入るので、取得コストは事実上ゼロです」とカンナ氏は言った。

長期的に「当社の事業上の仮説は、プラットフォームを作り、このような家屋のモデルを作ることには本質的な価値がある、というものです」とカンナ氏は言った。現在同社はカリフォルニア州でサービスを開始し、2022年の目標は「このモデルを反復、スケール可能にして週に何百もの家屋をスキャンすることです」と彼は言った。

関連記事:国連IPCCの報告書を受け、我々には増加する災害に対応する技術が必要だ
画像クレジット:Firemaps

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(文:Danny Crichton、翻訳:Nob Takahashi / facebook

アップルの天気アプリに空気質指数を提供するBreezoMeterが「山火事トラッカー」発表

BreezoMeter(ブリゾメーター)は、環境汚染による健康ハザードをできるだけ多くの人に知ってもらうことを使命としている。イスラエルを拠点とする同社は、空気質指数(Air Quality Index、AQI)の計算を通じて、今では数十カ国で数メートル単位の大気質を識別できるようになった。また、Apple(アップル)との提携により、同社のデータをiOSの「天気」アプリや自社の人気アプリに組み込み、さらに他企業が独自の目的でデータセットを利用できるAPI製品を通じ、数億人のユーザーにこれらの指標を提供している。

数週間前に3000万ドル(約33億円)のシリーズCラウンドを調達したのに続いて、同社は新製品「Wildfire Tracker(森林火災トラッカー)」を発表し、大気の質から山火事の周辺地域のリアルタイム検知へと製品を放射状に拡大した。

関連記事:iPhoneの「天気」アプリで大気の質を表示するBreezoMeterが約33.2億円を調達

この新製品は、同社のセンサーデータ、衛星画像、現地の目撃情報を融合して、山火事の範囲をリアルタイムに把握することができる。共同設立者兼CEOのRan Korber(ラン・コーバー)氏はこう語った。「人々は、正確な天気や湿度のデータを期待するのと同じように、正確な山火事情報を求めています。彼らの生活に、直接影響する情報だからです」。同氏はさらに、BreezoMeterは「気候テックと人の健康をつなぐ橋渡し役になっていきたい」と付け加えた。

火災危険区域はポリゴンの境界線で赤く表示され、従来通り、これらの区域とその周辺地域の大気質データを見ることができる。

BreezoMeterの大気質マップは、山火事の汚染の広がりを簡単に示すことができる(画像クレジット:BreezoMeter)

コーバー氏は、そうした境界線を数十カ国にわたって正確に把握するのは、簡単なことではないと強調した。特に山火事が発生するような森林では、センサーの数が少ないこともある。また、熱画像を中心とした衛星データは惑わされることがあり得る。同氏は「私たちは異常を探しているわけですが、多くの場合、誤検出が起こります」という。例えば、大規模なソーラーパネルアレイは、熱センサーでは非常に熱く見えるが、明らかに火災ではない。

このようにして特定された火災の周辺地域は、BreezoMeterの大気質マップウェブサイトで消費者に無料で提供され、まもなく同社のアプリにも導入される予定だ。また、2021年後半には、これらの境界線を同社のAPIから商業顧客向けに提供する予定だという。コーバー氏は、APIエンドポイントを利用することで自動車メーカーなどの企業が、ドライバーに火事が近づいていることを警告できるようになると期待している。

今回の新機能は、BreezoMeterが長年にわたって行ってきた製品の拡張の延長線上にあるものだ。「設立当初は、大気質のみ……それもイスラエル国内の大気汚染を予測するだけのものでした」とコーバー氏はいう。「それ以来、ほぼ毎年、新しい環境ハザードに製品ポートフォリオを拡大してきました」。2018年には花粉情報が追加され、アプリのグローバル化が進んでいることを同氏は指摘した。

山火事の検知は、VC投資家にとって最近ホットな分野だ(失礼)。例えば、Corneaは消防士が火災を検知して軽減することに焦点を当てたスタートアップであり、Perimeterは山火事の境界範囲を識別して、地図付きの明確な避難指示を出すことを目指している。シリコンバレーのあるカリフォルニア州をはじめ、世界中の多くの地域で森林火災が多発するようになってきている中、この分野への投資や製品の投入が増えることが予想される。

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画像クレジット:David Odisho/Bloomberg / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Aya Nakazato)

Paladinが初の行政向け緊急対応ドローン「ナイトホーク」を発売

緊急対応は一刻を争うものだ。火災が発生したりクルマが衝突した時、数秒が生死を分けることもあり、状況は制御不能になる。消防と警察にとって、気まぐれな交通渋滞と不完全な道案内の中でチームを現地に派遣することは大きな課題だ。

テキサス州ヒューストン拠点のスタートアップPaladin(パラディン)は、都市が緊急事態により早く、より良いデータを得て対応するために、ドローンによるハードウェアとソフトウェアのソリューションを開発している。同社は数年の開発期間を経て、同社はKnighthawk(ナイトホーク)とWatchtower(ウォッチタワー)という製品を公開した。

Knighthawkは緊急対応人員の特別なニーズに応えるために設計されたカスタムメイドのドローンだ。2台のカメラ(1台が光学10倍ズーム、1台がサーマル)を備え、昼夜を問わずわずか0.5秒の遅延で刻々と変化する現場の状況を高画質動画で伝える。重要なのは、ドローン飛行時間が55分間あるので何マイルも離れた場所にも到達できることだ、と同社は言う。離陸までの時間は911通報が届いてから数秒以内だ。

日中飛行するPaladin DronesのKnighthawk(画像クレジット:Paladin Drones)

ドローンを操縦して動画を見るためには、同社のソフトウェアWatchtower(アプリとして提供)を使い、マップ上で緊急現場と思われる場所にピンを置いてドローンを向かわせる。到着したら、アップロードされた動画はアプリ上だけでなく既存のコンピュータ化された911センター配備システムにも送られる。

Paladin DronesのWatchtowerを使って操縦者はKnighthawkドローンを誘導、操作して動画を見ることができる(画像クレジット:Paladin Drones)

この一般公開は同社にとって大きな一歩だ。TechCrunchが2019年に取り上げた時、会社はY Combinatorから登場したところで、Khosla、Correlation Ventures、Paul Buchheit氏らからシード資金を受け取っていた。当時の目標は、市販のDJIドローンに統合するソフトウェアの開発だった。Paladinが実験していたAndroidアプリでは、操縦者がマップにピンを置いてドローンを誘導していた。

しかしそのバージョンはその業務には不十分だったことがわかった。CEOで共同ファウンダーのDivy Shrivastava(ディビー・シュリバスタバ)氏は、プロダクトの開発が進むにつれ会社はハードウェアも持つ必要があることがわかった。「私たちが使っていたドローンは自動運転向けに作られてはいませんでした」と彼はいう。「結局ドローンには私たち自身の通信技術を組み込みました、接続が途切れないようにするためです」。

CEO・共同ファウンダーのDivy Shrivastava(ディビー・シュリバスタバ)氏(画像クレジット:Paladin Drones)

2018年の創業以来、同社のドローンは約1600件の緊急事態に対応したと同社の内部データはいう。彼らはヒューストンのMomorial Villagesとオハイオ州のOrange Twonshipという2カ所の現場で途方もない時間を費やしたが、1日数件決められた時間帯に緊急通報に対応するだけだった。

その制約が、このドローンスタートアップにとって最大の障壁の1つを示唆している。規制だ。FAA(連邦航空局)は操縦者の目視範囲に関して厳格なルールを定めている。完全にシームレスで簡単に配備できるシステムのビジョンを実現するために、Paladinは膨大なデータを集めてFAAに申請し免除を受ける必要があった。FAAは「First Responder Tactical Beyond Visual Line of Sight」、その他の関連する例外規定に沿って認可する。これまでにPaladinは同社が運用している2都市で正式な目視見通し免除を得ており、シュリバスタバ氏は、今後同社製品を購入する新しい都市でも使える繰り返し可能なプロセスを開発できたと自信を持っている。

インストールは比較的簡単だとシュリバスタバ氏はいう。ドローン自身はどこにでも、駐車スペースに置くこともでき、通常は警察または消防署に設置される。ドローンが地形を分析したり周辺を理解するための特別なハードウェアやセンサーやガイドラインを設置する必要はない。911通報受信者が使用するコンピューター管理の配備システムにドローンを統合するためには何らかのソフトウェア統合が必要になる。

一般公開され、これまで以上の実績を示さなくてはならない今、会社は売上の上昇に注力すると共に「私たちの長期的目標はすべての消防、警察、緊急対応機関が当社製品を使うことです」と言っている。

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画像クレジット:Paladin Drones

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(文:Danny Crichton、翻訳:Nob Takahashi / facebook

豪スタートアップFloodMappは洪水の流れを予測しようとしている

洪水は壊滅的な被害をもたらす。コミュニティをバラバラにし、近隣の人たちを離散させ、毎年何千人もが避難を余儀なくされ、復旧に何年もかかることがある。米国政府は、ここ数十年の洪水により1600億ドル(約17兆6000億円)相当の被害があり数百人が亡くなったと推計している。

地上のセンサーや上空の衛星を活用して、世界中で水がどこにあり、どこへ流れていくのかを示すリアルタイムのモデルがあるはずだと考える人もいるだろう。しかしほとんどない。代わりに、ビッグデータやビッグコンピューティングの可能性を考慮しない旧態依然としたモデルに頼っている。

オーストラリアのブリスベンを拠点とするスタートアップのFloodMappは、水文学(すいもんがく)や予測分析の古いアプローチをやめ、もっとモダンなアプローチで緊急対応責任者や市民に洪水がいつ発生するのか、何をすべきかを知らせたいと考えている。

共同創業者でCEOのJuliette Murphy(ジュリエット・マーフィー)氏は、水資源工学の分野に長年関わり、水が引き起こす大変な破壊の状況を直接見てきた。2011年に同氏は大規模な洪水の際に友人の自宅が水没するのを目撃した。「水が屋根を越えました」と同氏はいう。その2年後にカナダのカルガリーで、同氏は再び同じ状況を目にした。洪水と恐怖の中で、友人は避難するかどうか、どう避難するかを決めようとしていた。

こうした記憶と自身のキャリアから、マーフィー氏は災害担当責任者向けの良いツールを作るにはどうすればいいかを考えるようになった。2018年、同氏は共同創業者でCTOのRyan Prosser(ライアン・プロッサー)氏とともにFloodMappを創業し、130万オーストラリアドル(約1億300万円)とマッチング・グラント(同額補助金)を調達した。

FloodMappの前提はシンプルだ。現在、リアルタイムの洪水モデルを構築するツールはあるが、我々はそれを活用しないことを選んできた。水は重力に従って流れる。つまり、ある場所の地形がわかれば、水がどこへ流れるかを予測できる。難題は、2階微分方程式を高解像度で処理する費用がかさむことだった。

マーフィー氏とプロッサー氏は、何十年にもわたって水文学で一般的に用いられてきた従来の物理学的アプローチを避け、機械学習で幅広く利用される手法を活用して適切に計算し、完全にデータに基づくアプローチをとることにした。マーフィー氏は「これまでボトムアップだったことを、トップダウンでやっています。我々はスピードの壁をまさに打ち破りました」と語る。これが、同社のリアルタイム洪水モデルであるDASHの開発につながった。

ブリスベンの川の氾濫に関するFloodMappのモデリング(画像クレジット:FloodMapp)

ただし典型的なテック系スタートアップとは異なり、FloodMappは独立したプラットフォームになろうとはしていない。そうではなく、他のデータストリームと組み合わせることのできるデータレイヤーを提供してESRIのArcGISといった既存の地理情報システム(GIS)と相互運用し、緊急対応や復旧の担当者に状況を知らせる。顧客はFloodMappのデータレイヤーを利用するためにサブスクリプション費用を支払う。FloodMappはこれまでにオーストラリアのクイーンズランド消防救急サービスや、バージニア州のノーフォーク市およびバージニアビーチ市と連携している。

しかしFloodMappがゆくゆく注目して欲しいと考えているのは緊急サービスだけではない。電話や電力から銀行、実店舗のある小売チェーンなど物理的な資産を持つあらゆる企業がこのプロダクトの顧客になる可能性を秘めている。実は、FloodMappはSEC(米国証券取引委員会)が気候変動に関する財務情報の開示を義務づけることに注目しており、そうなれば新規の取引が大幅に増えるかもしれない。

FloodMappのチームは2人の創業者にエンジニアリングやセールスの人材が加わって拡大した(画像クレジット:FloodMapp)

マーフィー氏は「我々はまだ初期段階です」とし、同社は2021年の水害シーズンを乗り切り新規顧客をいくつか獲得して、2022年の早い段階でさらに資金を調達する見込みだと述べた。同氏は、FloodMappが最終的に「人々を助けるだけでなく、気候変動に直面するオーストラリアが変化しこれに対応するための助けとなる」ことを望んでいる。

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食べチョクが8月の大雨による被災生産者の支援プログラムを開始、販売額の一部寄付・応援チケットの取り組みを新たに実施
国連IPCCの報告書を受け、我々には増加する災害に対応する技術が必要だ
現役の救急集中治療医師が設立、緊急医療の改善に取り組む千葉大発医療スタートアップSmart119が約3億円調達

カテゴリー:EnviroTech
タグ:FloodMappオーストラリア自然災害気候変動

画像クレジット:Joe Raedle / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Kaori Koyama)

食べチョクが8月の大雨による被災生産者の支援プログラムを開始、販売額の一部寄付・応援チケットの取り組みを新たに実施

食べチョクが8月の大雨による被災生産者の支援プログラムを開始、販売額の一部寄付・応援チケットの取り組みを新たに実施

国内産直通販サイト「食べチョク」(Android版iOS版)を運営するビビッドガーデンは8月14日、令和3年(2021年)8月の大雨被害を受けた生産者の支援プログラムを開始すると発表した。大雨の影響を受けた生産者の商品と応援チケットを特集したページ「令和3年8月大雨 被災生産者まとめ」を新設している。

今回の取り組みでは、被災した生産者の商品を対象に、1購入につき300円を食べチョクが生産者に寄付する。商品を今すぐに出品できない生産者支援には、応援チケットの販売を行う。また、被災し食べチョクへの登録を希望する生産者に対し、優先的に審査対応を行う。これにより最短1日で出品可能になるという。登録の有無に関わらず、被害を受けた方は連絡するよう呼びかけている。食べチョク登録済み生産者の場合は「2021年8月大雨 被災生産者支援プログラム」より申請する。食べチョク未登録の場合は、出品者募集ページの「出品の申請はこちら」より、フォーム特記事項に「大雨によりサポート希望」の旨を記載し申請する。

支援詳細

  • 特集ページの開設:大雨の影響を受けた生産者の商品と応援チケットを特集したページを新設。掲載にあたり、被害状況を運営にて確認している
  • 1購入あたり300円を生産者に寄付:被災された生産者の商品を対象に1購入につき300円を食べチョクが生産者へ寄付。商品ページ内の「※運営からのお知らせ※」に「300円寄付対象商品」と記載のあるものが対象
  • 応援チケットの販売:被災した生産者の中で販売する商品がない方を優先し、1口500円の応援チケットを販売(応援チケットは300円寄付の対象外)。応援チケットは特集ページや各生産者ページから購入可能。手数料は無料で、全額が生産者に支払われる
  • その他:SNSやプレスリリースによるリアルタイムな情報発信(#農家漁師からのSOS)、予約商品などの出品サポート、新規登録の審査体制強化などを実施

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カテゴリー:フードテック
タグ:自然災害 / 火災(用語)食品 / 食料品 / 食材 / 食品加工(用語)食べチョクビビッドガーデン日本(国・地域)

国連IPCCの報告書を受け、我々には増加する災害に対応する技術が必要だ

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は今週、気候変動の自然科学に関する第6次評価報告書の主要部分を発表した。その内容は、より良いデータ、より包括的なデータが入手できるようになり、より正確になったとはいえ、厳しいものだ。TechCrunchでMike Butcher(マイク・ブッチャー)氏が先に要約したように、この報告書は「容赦なく、率直な結論」を提示した。

関連記事:地球温暖化がいよいよ「赤信号」、国連IPCCが報告書で警告

報告書の主題の多くは、(ますます暑くなる)岩の下に住んでいない人(編集部注:「岩の下に住む」は「世の中の動きに疎い」の意味)にはおなじみのものだが、文書を熟読していた筆者の目に、ある部分が飛び込んできた。IPCCの作業部会は、地球に起きている負の変化の多くが、緩和策や適応策を講じたとしても将来のあらゆるシナリオにおいて衰えることなく続くと評価した。以下、要約報告書から引用する。

過去および将来の温室効果ガスの排出による多くの変化は、数世紀から数千年にわたって不可逆的であり、特に海洋、氷床、地球の海面レベルの変化が顕著である。【略】山岳氷河や極地の氷河は、数十年から数百年にわたって溶け続けることが確実視されている(信頼度は非常に高い)。永久凍土の融解にともなう永久凍土の炭素の損失は、100年単位の時間スケールで不可逆的である(信頼度は高い)。

要するに、より暖かく、より混沌とした世界へと向かう勢いがすでにあり、こうした傾向の多くを食い止める手段は限られているのだ。

農業や食料生産における収穫量の向上や排出量の削減、電力網の改善、ビルの空調からの排出量の削減など、あらゆるプロジェクトに注目し、クライメイトテックをテーマにした取り組みや投資、スタートアップが急増している。だが、これらの取り組みは、今世紀の私たちが直面している最も困難な課題の1つを解決するものではない。災害はすでに発生しており、また到来しつつあり、今世紀が進むとさらに激しさを増すということだ。

カリフォルニア州ではこの1週間、州史上2番目に大きな火災「Dixie Fire(ディキシー・ファイア)」が発生し、州北部が数十万エーカーの範囲で炎上している。一方、ギリシャでは何百もの山火事が発生し、未曾有の危機にある。干ばつ、洪水、ハリケーン、台風などの自然災害が深刻化し、全大陸の何十億もの人々が被害を受けている。

この問題を解決する方法の1つは復元力の向上だ。自然災害に備えて都市や構造物だけでなく、食料や水のシステムを構築する。しかし、こうしたプロジェクトの多くは、コストも時間もかかり、月単位ではなく、数十年単位で考えなければならない。

それよりも、より優れた災害対応技術の開発を今すぐにでも進める必要がある。筆者はここ数カ月、そうした企業を幅広く取材してきた。RapidSOS(ラピッドSOS)は、緊急通報にデータを加えることで、迅速かつ効率的な対応を実現している。また、550万ドル(約6億500万円)を調達したQwake(クウェイク)は、消防士が煙の中で周辺を可視化するためのハードウェアとクラウドサービスを開発している。一方、YCが支援するGridware(グリッドウェア)は、電力網の障害を迅速に検知するセンサー開発に向け500万ドル(約5億5000万円)以上を調達した

関連記事:消防隊がARヘッドセットで火災現場の作業状況を共有するQwake Technologiesのシステム

このように、災害対策技術を提供するスタートアップ企業は増えているが、今後数年間に発生するさまざまな災害に対処するためには、さらに多くの企業が必要となる。

被災者や初期対応者のためのメンタルヘルスリソースの充実、生活再建のための復興資金への容易なアクセス、災害の早期発見のための高品質なセンサーやデータ分析、人々を危険な場所から避難させるための迅速な物流など、やるべきことはたくさんある。実際には、文字通り何十もの分野で、より多くの投資や創業者の注目を必要としている。

販売サイクルの分析でも指摘したように、この市場は容易ではない。予算は厳しく、災害は不定期で、技術は後回しにされがちだ。次世代のサービスをいかに開発し、どう売っていくかは、ハイリターンの可能性を秘めたリスクでもある。

今週、IPCCの報告書で明らかになったように、ここ数十年で目にしてきた混沌とした天候や激しい災害がすぐに和らぐことはないだろう。だが工夫次第で、すでに発生している災害にうまく対応し、命と財産を守ることができる。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:気候変動地球温暖化自然災害国連

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(文:Danny Crichton、翻訳:Nariko Mizoguchi

現役の救急集中治療医師が設立、緊急医療の改善に取り組む千葉大発医療スタートアップSmart119が約3億円調達

現役の救急集中治療医師が設立、緊急医療の改善に取り組む千葉大発医療スタートアップ「Smart119」が約3億円を調達

現役の救急集中治療医師が設立し、テクノロジーで緊急医療の改善に取り組む千葉大学発医療スタートアップSmart119(スマートイイチイチキュウ)は8月10日、第三者割当増資による総額3億675万円の資金調達を発表した。引受先は、ニッセイ・キャピタル、三井住友海上キャピタル、Sony Innovation Fund(ソニーグループCVC)、PKSHA SPARX アルゴリズム1号(PKSHA Technology Capital/スパークス・AI&テクノロジーズ・インベストメント)。

Smart119は、音声認識とAIを活用した救急医療支援システム「Smart119」のほか、緊急時医師集合要請システム「ACES」、災害時の医師の招集や最適な人員配置を支援する病院初期対応システム「Smart:DR」(スマートディーアール。Smart Disaster Response。Android版iOS版)など、「急性期医療の問題を解決する」SaaS型ソリューションの開発・運用を行っている。

Smart119は、2020年7月から千葉市消防局において本格運用を開始。Smart:DRなどの病院向けソリューションは、大阪急性期・総合医療センター、国立国際医療研究センター、りんくう総合医療センター、島根大学病院、千葉大学病院などに導入されている。

今回調達した資金は、PKSHA Technologyの知見を取り入れた「急性期医療分野における予測診断アルゴリズムなどの研究開発」、日本生命と三井住友海上グループのネットワークを活用した自治体や医療機関への営業活動の促進にあてられるという。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:医療 / 治療(用語)自然災害 / 火災(用語)Smart119(企業・サービス)千葉大学(組織)BCP / 事業継続計画(用語)資金調達(用語)日本(国・地域)

バカンとあいおいニッセイ同和損害保険が防災領域で提携、リアルタイム被害予測サイト「cmap」で避難所混雑情報を公開

バカンとあいおいニッセイ同和損害保険が防災領域で提携、リアルタイム被害予測サイト「cmap」で避難所混雑情報を公開

AIとIoTを活用してあらゆる空き情報を配信するバカンは8月5日、あいおいニッセイ同和損害保険と避難所混雑可視化に関する提携を8月から開始すると発表した。今回の提携により、あいおいニッセイ同和損害保険のリアルタイム被害予測ウェブサイト「cmap」(シーマップ)およびアプリ(Android版iOS版)上で、バカンが配信する全国150超の地方自治体が運営する避難所1万カ所以上の混雑情報を閲覧できるようになる。無償一般公開としており、利用時にユーザー登録などの必要はない。

バカンとあいおいニッセイ同和損害保険が防災領域で提携、リアルタイム被害予測サイト「cmap」で避難所混雑情報を公開

cmapは、被災規模の早期把握や迅速な救助・支援活動に貢献を目的として、台風・豪雨・地震による被災地域の被災建物棟数を最新の気象観測データに基づき現在進行形で予測し、無償公開するシステム。あいおいニッセイ同和損害保険、エーオングループジャパン、横浜国立大学による産学共同の研究から誕生した。

台風の場合は上陸前から(最大7日先まで)、豪雨、地震による被害が発生した際は被災直後から、被災建物棟数、被災件数率を市区町村ごとに予測し、地図上に表示する。また、洪水ハザードマップなどの機能も実装している。

利用者は、cmapにスマートフォンやPCからアクセスすることで、災害発生時には避難所のリアルタイムの混雑情報や位置を地図上で確認できる。​混み具合の情報は、各避難所の職員や災害対策本部の職員がインターネット上で入力することで更新され、「空きあり」「混んでいる」「満席/満室」の3段階で表示される。

また今回の連携により、従来より掲載していた予測情報などだけでなく、災害発生時のリアルタイム情報もcmapに掲載される。両社で連携することで、混雑情報可視化の対象となる避難所を増やすとともに、防災プラットフォームとして機能を拡充するとしている。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:あいおいニッセイ同和損害保険(企業)自然災害 / 火災(用語)バカン / VACAN(企業・サービス)防災 / Emergency management(用語)日本(国・地域)

テスラの大型バッテリーシステム「メガパック」がオーストラリアの蓄電施設で発火事故

現地時間7月30日、南東オーストラリアの蓄電施設で13トンのTesla(テスラ)Megapack(メガパック)が発火した。火災は現地時間午前10時から10時15分の間に起きたことを当事者であるVictorian Big Battery(ビクトリアン・ビッグ・バッテリー)は発表した。地元消防によるとビクトリア州ジーロングの現場には特殊消火班が出動した。消防士は危険化学物質流出に対応するために作られた装置を使用して消火にあたり、特殊ドローンが大気観測を行った、とFire Rescue Victoriaは伝えている。

現場から人々は避難し、けが人はなかったとVictorian Big Batteryは声明で語った。また、設備は電力網から遮断され、電力供給に影響はないことを同社は付け加えた。同施設を運営しているフランスのエネルギー会社Neoen(ネオエン)と請負業者であるTeslaは、救急救命サービスと協力して状況に対応している。

この火災を受け、有害ガス警報が近隣のベイツフォード、ベル・ボスと・ヒル、ラブリー・バンクス、およびムアアブール地区に発令されたとThe Sydney Morning Herald(シドニー・モーニング・ヘラルド)紙は伝えている。住民は屋内に避難して窓や換気口、暖炉の煙突を閉じ、ペットを家に入れるよう警告された。

Victorian Big Batteryの施設は、300MW / 450MWhのバッテリーストレージ設備で、ビクトリア州政府の立てた2030年までに再生可能エネルギー50%を目指す目標の鍵になると見られている。NeoenとTeslaが南オーストラリアのホーンズデールに建設した 100MW / 129MWhバッテリー設備が計画よりも早く完成し、市場関係者や消費者に数百万ドル(数億円)の節約をもたらした成功を受けたものだった。いずれの設備も再生可能エネルギーが得られない時に予備電力を提供するものであり、日が照っていないときや風が吹いていない時の隙間を埋める。

2021年2月にNeoenは、Victorian Big BatteryがTeslaのMegapack(同社のギガファクトリーで製造されている地域供給規模の大型バッテリー)とAutobidder(オートビダー)のソフトウェアを利用して電力網に電気を販売することを発表した。契約の一環として同施設は、さらに既存のビクトリアのピーク容量250MWをニュー・サウス・ウェールズ・インターコネクターに供給することで、向こう10年間オーストラリアの夏にエネルギーを安定供給する。

編集部注:本稿(原文)の初出はEngadgetに掲載されている。著者のSaqib Shah(サキーブ・シャー)氏はEngadgetの寄稿執筆者。

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:Teslaバッテリーオーストラリア火災Megapack

画像クレジット:Tesla

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(文:Saqib Shah、翻訳:Nob Takahashi / facebook

サンフランシスコ名物フードトラックフェス「Off the Grid」、山火事、パンデミックを乗り越えて地元の食文化維持にも貢献

サンフランシスコでグルメといえば「Off the Grid(オフ・ザ・グリッド)」だ。2010年にMatt Cohen(マット・コーエン)氏が設立した同名のイベント会社は、起業を夢見るベンダーのフードトラックを中心に、身近で楽しめるポップアップフェスティバルを計画。食と食を楽しむ人々について独創的なアイデアを持つ、野心的で多様な未来のシェフに道を開くためのこのイベントは、フードトラックムーブメントの先駆けとなった。

サンフランシスコのフォートメイソンで開催される「Off the Grid」のフードフェスティバル(画像クレジット:Off the Grid)

フェスティバルは年々人気が高まり(筆者も何度か立ち寄ったが、長蛇の列ができていた)、Off the Grid自体もイベント向けのケータリングサービスをますます拡大してきた。コーエン氏は「食べ物はどんな時でも心の支えになるという信念に基づいてキャリアを築いてきた」と話す。

古き良き時代の話だろうか?

同社に変化の兆しが見え始めたのは、ソノマやナパで発生したような山火事がカリフォルニアを襲った2017年のことだった。第一線で活躍する消防士たちは、時には署から離れたところでの消火活動も余儀なくされ、MRE(米軍が採用している配給品)のようなものしか口にできないことも多かった。

コーエン氏とチームは、ここにチャンスを見出した。「長年にわたり、緊急時の配給品は、カロリーを採るためだけのものと考えられ、必ずしも地元の食品事業者にとって利益の出るものではありませんでした」とコーエン氏。配給品は総じて当たり障りのない味で、通常は大量に州外に注文される。点と点をつなげるように、Off the Gridが物流を提供して、地元のレストラン経営者が作った料理を最前線に届けることはできないだろうか?

Off the Gridは2017年の山火事をきっかけに、消防隊や被災者の支援に乗り出す。同年、Off the Gridはレストラン経営者と協力して推定2万人に食事を提供した。「緊急対応における市場の状況を知ることができた」とコーエン氏は話す。

2020年に新型コロナウイルス感染症によるパンデミックがカリフォルニアをはじめとする世界各地で発生したことにより、Off the Gridの試みは劇的に加速する。突如として、レストランと地域社会をつなげる手段がデリバリーだけになり、もはや火災が発生している山麓だけではなく、常にあらゆる場所が最前線となったのだ。

2020年のパンデミックや山火事のピーク時に、パートナーのレストランと協力して、最前線の労働者や被災者に食事を届ける事業を拡大したOff the Grid(画像クレジット:Off the Grid)

Off the Gridは、悲惨な状況にある人々に心の安らぎを提供する機会を得て、事業を方向転換する。コーエン氏は次のように話す。「食べられるものさえあればラッキーであり、非常時の食事は美味しくないと考えられているかもしれません」「でも、つらい状況であればあるほど、美味しい食事が心の支えになるのです」。パンデミックの期間中、Off the Gridは、一時収容施設に滞在する人から自宅待機の免疫力の低い人まで、130万食の食事を提供し「常に喜んでもらえるように、選択肢を増やす」ことにも成功した。

このモデルは、美味しい食事を提供するだけでなく、Off the Gridが長年のプログラムで育ててきた地元の食文化の維持にも貢献している。コーエン氏は、カリフォルニアのみならず世界各地で気候変動が深刻化する中、こうした地域とのつながりは、レジリエンス(回復力)の高いコミュニティを構築するための重要なツールであると考えている。

2020年の急激な成長により、同社は迅速な事業拡大を余儀なくされた。食品の安全性や健康に関する規制は郡によって異なるので、Off the Gridはベイエリアをはじめとするカリフォルニア州全域に食事を届けるにあたり、事務や物流を処理するためのスケーラブルなプロセスを開発する必要があった。この技術は、設立から11年目を迎えたOff the Gridの次のビジネスの基盤となっている。

「フードビジネスにはフードビジネスだけのユニークな側面がたくさんあります。ライセンスや許可、保険といったあまりおもしろくないものも、運営には必要です」とコーエン氏は話す。同社のロジスティックスはますます体系化され、2021年は同社にとってさらに成長できる年になるだろう。

Off the GridのCEOかつ設立者マット・コーエン氏(画像クレジット:Off the Grid)

コーエン氏は次のように話す。「州と赤十字社と協力してカリフォルニア州の中でも比較的火災の危険性が高い39の郡を特定し、200店のレストランをリスト化しました。火災が発生した場合にはこれらのレストランにアクセスして活動を開始します」。現在、同社の約半分はこの緊急対応プログラムに特化している。

とはいえ、フードフェスティバルがなくなるわけではない。ノースビーチのコイトタワーの近くにあるLevi’s Plaza(リーバイス・プラザ)など、小規模な会場ではすでに再開され、十分に安全になれば大規模なフェスティバルも再開するという。しかし、緊急事態への対応は、ミッションを重視するこの会社にとって、新たな、かつ永続的な使命である。「ニーズがある限り、確実に継続していきます」。

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タグ:サンフランシスコ自然災害レストラン

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

静岡県豪雨災害の復旧工事の応援が必要な事業者と全国の工事会社をマッチング、「助太刀」が「災害支援機能」を無料開放

静岡県豪雨災害の復旧復興工事の応援が必要な事業者と全国の工事会社をマッチング、「助太刀」が「災害支援機能」を無料開放

建設職人と現場をマッチングするアプリ「助太刀」(Android版iOS版)運営の助太刀は7月27日、令和3年(2021年)7月静岡県豪雨災害の復旧復興工事に携わる業者を対象に「災害支援機能」を無料開放すると発表した。

災害支援機能とは、助太刀登録業者のうち、災害時支援が可能であると意志表明している業者・職人を現地の業者に紹介し、迅速につながるようにするというサービス。

助太刀アプリは、建設現場で働く職人や工事会社同士ををマッチングするプラットフォームとして、すでに15万を超える事業者に登録。建設業界のあらゆる課題を解決するべく、求人、ファクタリング、ECなど様々なサービスも展開している。

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タグ:建設 / 建築(用語)自然災害 / 火災(用語)助太刀(企業・サービス)土木(用語)日本(国・地域)