Sarcos Roboticsが遠隔操作可能な移動式マニピュレーションシステムのRE2を約124億円で買収すると発表

ユタ州に本拠を置くSarcos Robotics(サーコス・ロボティクス)が、同じロボット工学の会社であるRE2を買収する計画を、米国時間3月28日朝に発表した。買収額は1億ドル(約124億円)で、現金3000万ドル(約37億円)とSarcosの株式7000万ドル(約87億円)の混合で支払われる。同社によると、3000万ドルは手持ちの現金で支払うという。これは2021年、同社がSPACを通じて株式公開を決定したことから得たものであることは間違いない。

ピッツバーグに本社を置くRE2は、遠隔操作可能な移動式マニピュレーションシステムでよく知られているが、これは将来の親会社が得意とする分野の1つである。潜在的な余剰労働力になるにも関わらず、RE2の100人を超える従業員は移行期間中も引き続き在籍することになると、Sarcosは述べている。その中には、CEOのJorgen Pedersen(ヨルゲン・ペダーセン)氏も含まれており、同氏は合併後の新会社のCOOに就任する予定だ。

「RE2のチームは、Sarcosの一員となり、インテリジェントロボットシステムの開発と採用を加速させることを楽しみにしています」と、ペダーセン氏はリリースで述べている。「特に熟練労働者の不足が深刻化している現在、世界中でロボット技術は、複雑で時に危険な作業をともなう労働者の仕事のやり方を変えつつあります。両社が統合することによって、Sarcosはより幅広い顧客層に向けてさまざまなロボットソリューションを提供できるようになります」。

画像クレジット:RE2

現在、産業および防衛(つまり軍事)用途に特化しているSarcosの製品ラインナップは、今回の買収によって拡大することになる。その中には海中や水中での用途や、ロボット産業にとって大きく可能性が開かれている医療市場も含まれる。おそらく、買収完了後には提供する製品の統合が行われるだろうが、Sarcosは今回の移転により、エンジニアリング部門の人数が実質的に2倍になると言及している。

「今回の買収により、補完的かつ相加的な製品群を持つ革新的な企業がSarcosファミリーに加わり、顧客のニーズに対応したより幅広いソリューションを提供できるようになります」と、SarcosのKiva Allgood(キヴァ・オールグッド)CEOは述べている。「また、これによって私たちは、医療や海底など新しい産業へ向けた製品提供の拡大、ロボティクス専門家チームの深化、非構造化環境で使用するAIや機械学習技術の開発推進が可能になります」。

この買収は、第2四半期中に完了する予定だ。

画像クレジット:RE2

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

遠隔操作・AIロのTelexistence、物流施設の低温エリアなどで自律制御・遠隔操作による新型ハイブリッドロボの実証実験

遠隔操作・AIロのTelexistence、物流施設の低温エリアなどで自律制御・遠隔操作による新型ハイブリッドロボの実証実験

遠隔操作・AIロボットの開発・事業を手がけるTelexistence(テレイグジスタンス。TX)は3月4日、独自AIシステムによる自動制御と人による遠隔操作のハイブリッド制御ロボット技術を核とした新たな物流オペレーションの開発を目的に、実証実験を開始した。

実証実験を行うのは、低温物流のニチレイロジグループ本社と、物流事業を展開するセンコーの2社。第1弾として、ニチレイロジグループの物流施設にある冷蔵エリアにおいて、遠隔操作ロボットがカゴ台車にさまざまな荷物を積み込む(混載積み付け)実験を行った。2022年秋には、センコーの大手小売業向け物流施設にて実験を行う予定だ。

実験に使用されたロボットは、協働用ロボットアーム、自律走行搬送ロボット(AGV)、エンドエフェクター、遠隔操作機構で構成されたもの(協働用ロボットアームとAGVは他社製を採用)。

パレットへの積み付けや積み下ろし(パレタイズ、デパレタイズ)を行うロボットは、一般には床に固定される。そのため稼働範囲が限定され、ロボット作業の前後の工程にその他の移動用機器(マテハン機器)を準備する必要がある。これに対してTX製ロボットは、電源を搭載しているため移動をともなう作業にも対応し、また時間帯に応じて作業場所を変えるなどの柔軟性がある。同時に、オペレーターが遠隔で荷物や積み付け場所を目視で確認するため、保冷カバー付きのカゴ台車への積み付けのような複雑な作業を要する場面でも、最適な形で効率よく荷物を扱うことができる。

遠隔操作・AIロのTelexistence、物流施設の低温エリアなどで自律制御・遠隔操作による新型ハイブリッドロボの実証実験

段ボールを側面から把持した状態でのカゴ台車への積み付け

遠隔操作・AIロのTelexistence、物流施設の低温エリアなどで自律制御・遠隔操作による新型ハイブリッドロボの実証実験

遠隔操作オペレーターとコックピットビュー

この実証実験は、「労働者からすべての身体的労働作業を解放する」というミッションに合致するものだとTXは話す。これは、身体への負担が大きい冷蔵エリアでの作業や重たいケースの運搬をロボットに代替させ、労働環境の改善と生産性の向上を目指す実験だとしている。

またニチレイロジグループは、人手不足への対応や作業者の負担軽減、さらには現場作業の「誰でもできる化」を目的とした業務革新に注力。人間と機械の双方の特性を活かした最適な作業体制の構築を進めている。冷蔵エリアの作業を人が事務所から遠隔で行うことで、「物流センター作業におけるリモートワークとストレスフリーな作業環境構築の可能性」を検証するという。

秋に実証実験を予定しているセンコーは、すでに2014年にパレタイズアームロボットを導入し、その後もAGVや省人化、省力化機器の導入を積極的に進めているが、TX製ロボットに期待するのは、その移動性だ。

時間帯や業務の都合に合わせて移動できるため「ロボットの稼働時間が飛躍的にアップする」という。また遠隔操作で人が常時監視するため、トラブル発生時に迅速な対応が可能になる点も挙げている。夏場の作業などをロボットに担わせ、「ワークライフバランスを図りながら、時間や場所に限定されない働き方をより多くの人々に提供すること」を目指すということだ。

単純なセキュリティバグが大学キャンパスの「マスターキー」になっている

Erik Johnson(エリック・ジョンソン)氏は、大学のモバイル学生IDアプリがまともに使えなかったとき、何か回避方法はないかと探した。

そのアプリはかなり重要で、彼の通っている大学の学生は、これを使って食事代を払ったり、イベントに参加したり、さらには寮の部屋や研究室を始めキャンパスのさまざまな施設の鍵を開けることもできる。GET Mobile(ゲット・モービル)と呼ばれるそのアプリを作ったのはCBORD(シーボード)というテクノロジー企業で、病院や大学にアクセス制御や決済のシステムを提供している。しかしジョンソン氏(およびアプリのレビューに不満の星1つをつけた多くの人たち)は、アプリは動きが遅くロードに時間がかかりすぎると言っていた。もっといい方法があるはずだ。

そして彼は、寮室の鍵を開けた瞬間のアプリのネットワークデータを解析することで、ネットワークリクエストを再現することに成功し、iPhoneのショートカットボタンを1タップするだけでドアを解錠できるようになった。ただしこのショートカットが動作するためには、自分の正確な位置情報をアンロックリクエストと一緒に送る必要があり、それがないと鍵は開かない。ジョンソン氏は、セキュリティの観点からこのアプリを使ってドアを解錠する際に学生は物理的にドアの近くにいなくてはならないようになっていると語った。キャンパス内のあちこちで誤ってドアが開いてしまうことを防ぐための措置だ。

まずはうまくいったが、ここでやめる必要はある?アプリを使わずにドアをアンロックできるとしたら、他にどんな動作を再現できるだろうか?

ジョンソン氏は広く助けを求める必要がなかった。CBORDは、APIを通じて使えるコマンドの一覧表を公開しており、APIは学生の識別情報(例えば彼自身の)を使って制御することができた(各APIでは、インターネットを通じて2つの実体がやり取りすることが可能で、この場合はモバイルアプリと大学の学生データが保存されているサーバー)。

しかし、すぐに彼はある問題を見つけた。APIは学生の識別情報が有効であるかどうかをチェックしていなかった。つまりこれはジョンソン氏、あるいはインターネット上の誰でもが、このAPIを使って他のあらゆる学生のアカウントを、パスワードを知る必要なく乗っとることができるを意味している。ジョンソン氏によると、APIは学生のユニークIDだけをチェックしていたが、ときとしてそのIDは大学が発行した学生のユーザー名あるいは学生ID番号であり、大学によってはオンライン学生名簿で公開しているため秘密とはいえないと同氏は警告した。

ジョンソン氏はこのパスワードバグを、大学の「マスターキー」と評した、少なくともCBORDで制御されているドアに対しての。解錠するためにドアの近くにいなくてはならないという要件についても、バグのおかげで物理的にそこにいるとAPIを思い込ませることができたとジョンソン氏は言った。鍵そのもののおおよその座標を送るだけでよかった。

バグはAPI自身にあることから、他の大学にも影響を与えている可能性があるとジョンソン氏はいうが、アカウントのアクセス境界を超えることを恐れて、チェックはしていない。代わりに彼は、バグをCBORDに報告する手段を探したが、同社のウェブサイトで安全な専用メール窓口を見つけることはできなかった。彼は電話サポートにつないで脆弱性を報告したが、サポート担当者は、会社にセキュリティ窓口はないと答え、バグは大学を通じて報告するように言われた。

このバグは容易に悪用が可能(すでに実行されているかもしれない)であることを踏まえ、ジョンソン氏はTechCrunchに、脆弱性の詳細をCBORDに伝えるよう依頼した。

脆弱性はTechCrunchが2月12日に会社に連絡を取ってからまもなく解決した。CBORDの最高情報責任者、Josh Elder(ジョシュ・エルダー)氏はメールで、問題の脆弱性は解決済みであり、セッションキーは無効化されため、残存していた可能性のあるAPIへの不正アクセスも遮断されたことを確認した。エルダー氏は、CBORDの顧客に通知を送ったと言ったが、メール内容をTechCrunchに知らせることは拒んだ。CBORDを使用している別の組織のセキュリティ担当幹部は、CBORDからその脆弱性に関する通知を受けていない、とTechCrunchに話した。果たしてCBORDが、ユーザーやアカウント保有者、例えばジョンソン氏のような学生に通知するつもりがあるのかどうか、わかっていない。

エルダー氏はジョンソン氏の発見に異議を唱えなかったが、会社がログを保存しているか、あるいはAPIの悪用を検知する仕組みがあるのかという質問に対してそれ以上の回答を拒んだ。TechCrunchは同社広報担当者に追加質問への回答を要求したが、その後連絡を受けていない。

遠隔からドアを解錠できる脆弱性をCBORDが修正しなくてはならなかったのはこれが初めてではない。Wiredは2009年に、ドアの解錠コマンドを傍聴することで次のシーケンス番号を予測し、IDカードの要求を回避できることを報じた。

画像クレジット:Olena Ruban / Getty Images

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Nob Takahashi / facebook

ロボット遠隔制御サービスHATSを開発するキビテクが1.5億円調達、システム開発や実証実験推進・エンジニア採用強化

ロボット遠隔制御サービス「HATS」などを開発しているキビテクは2月16日、第三者割当増資による1億5000万円の資金調達を2022年1月に行ったと明らかにした。引受先は、リード投資家のSpiral Capital Japan Fund 2号投資事業有限責任組合、また九州オープンイノベーション1号投資事業有限責任組合。

調達した資金は、システムの開発推進とともに、エンジニア採用の強化と実証実験にあて、さらなる事業の加速化を図る。コロナ禍により、非対面・非接触や遠隔操作での搬送ニーズの需要が高まっていることから、ロボット導入DX化の課題解決、ロボットのマーケット拡大に貢献するという。

キビテクが開発中のHATS(Highly Autonomous Teleoperation Service)は、様々なロボットにアドオンすることで遠隔制御を実現するサービス。各ロボットにキビテクが開発した装置をアドオンしたうえでシステムに接続することで、遠隔オペレーターがロボットを制御可能となる。

自律ロボットの場合、予想外の出来事に対応できず、頻繁な停止で作業効率が低下するなどの課題があることから、ロボット導入に踏み切ることができない現場や、導入後のロボット運用に課題を感じている現場に役立つサービスを目指すという。

またHATSの場合、現場ごとに違う様々な課題・状況に応じて人がロボットを補完する半自動化が実現でき、現場フローに沿った柔軟な対応が行える。人ならではとされていた、ロボットでは難しい作業や業界の解決に取り組むとしている。

知能ロボットの開発を行うスタートアップ「キビテク」は、東京大学の人型ロボット研究室JSK(情報システム工学研究室)出身者が主となり、2011年11月に設立。ロボット遠隔制御システムの開発・販売やロボットシステム受注開発を事業として手がけている。また、ロボティクス技術の活用とロボット遠隔オペレーターという新しいリモートでの働き方を提案し、社会課題の解決とともに、現場の人手不足といった課題の解決を目指している。

100台を超えるテスラ車が遠隔操作の危険性にさらされる、サードパーティ製ツールに脆弱性

Tesla(テスラ)車のオーナーに人気の高いオープンソースのログ記録ツールに、セキュリティバグが見つかった。これにより、セキュリティ研究者は世界中の数十台のテスラ車にリモートアクセスできたと述べている。

この脆弱性に関するニュースは2021年1月初め、ドイツのセキュリティ研究者であるDavid Colombo(デヴィッド・コロンボ)氏のツイートで初めて明らかになった。コロンボ氏は、25台以上のテスラを「完全に遠隔操作」できるようになったが、その詳細を公表せずに、悪意のあるハッカーに警告を与えず、影響を受けたテスラ車のオーナーに問題を開示することに苦労していたと述べている。

現在、このバグは修正されていることをコロンボ氏は確認している。TechCrunchはこの記事を、脆弱性が悪用される可能性がなくなるまで掲載を保留していた。コロンボ氏はブログで調査結果を発表した。

コロンボ氏がTechCrunchに語ったところによると、この脆弱性は「TeslaMate(テスラメイト)」というツールで見つかった。これはテスラ車のオーナーが自分の車両に接続して、車両のエネルギー消費量、位置情報の履歴、走行統計などの隠されたデータにアクセスし、問題のトラブルシューティングや診断を行うために使用する無料でダウンロードできるロギングソフトウェアだ。TeslaMateは、テスラ車マニアたちが家庭用コンピューターで実行していることも多いセルフホスト型のウェブダッシュボードで、テスラのAPIにアクセスすることで、クルマの所有者のアカウントに紐付けられている車両のデータに触れることができる。

しかし、匿名でのアクセスを許可したり、デフォルトのパスワードを変更せずに使用しているユーザーがいたりといったウェブダッシュボードのセキュリティ上の欠陥が、一部のテスラ車オーナーによる設定ミスと相まって、100台分を超えるTeslaMateのダッシュボードが、テスラ車を遠隔操作するために使用する車両オーナーのAPIキーを含めて、直接インターネットに漏洩するという事態を引き起こした。

コロンボ氏はTechCrunchに電話で、影響を受けたテスラ車の数はもっと多いだろうと語っている。

漏洩したTeslaMateのダッシュボードの1つには、あるテスラ車がカリフォルニア州を横断している最近の移動ルートが表示されていた。TeslaMateはその後、脆弱性を修正し、テスラは数千のAPIキーを失効させた(画像クレジット:David Colombo)

コロンボ氏によると、TeslaMateのダッシュボードがデフォルトでは保護されていないことを発見したのは、2021年、漏洩したダッシュボードを偶然見つけたことがきっかけだったという。インターネットで他のダッシュボードを検索した結果、同氏は英国、欧州、カナダ、中国、米国でダッシュボードが露呈されたテスラ車を発見した。

しかし、ダッシュボードが露呈しているテスラ車のオーナーに個別に連絡を取ることは非常に困難であり、多くの場合、影響を受けたテスラの顧客に連絡できる方法を正確に知ることはできないと、コロンボ氏は説明する。

さらに悪いことに、露呈したダッシュボードからテスラ車ユーザーのAPIキーを抽出することが可能だったため、悪意のあるハッカーが、ドライバーに気づかれず、テスラ車に長期的なアクセスを続けることができてしまったのだ(APIは、インターネット上で2つのソフトウェアが相互にやり取りすることを可能にする。この場合、テスラの車両と同社のサーバー、Teslaアプリ、またはTeslaMateダッシュボード)。テスラのAPIへのアクセスは、所有者のアカウントに紐付けされたプライベートAPIキーによって、テスラ車の所有者に制限されている。

コロンボ氏は、流出したAPIキーを利用することによって、ドアや窓のロック解除、クラクションの吹鳴、キーレス運転の開始など、車両の一部機能に遠隔操作でアクセスできることを、アイルランドのあるテスラ車オーナーに確認したという。また、車両の位置情報、最近の走行ルート、駐車場の場所など、車両内部のデータにもアクセスできたとのこと。ただし、APIへのアクセスを利用してインターネットから遠隔的に車両を動かすことができるとは思えないと、コロンボ氏はいう。

今回のセキュリティ問題は、テスラのインフラにあったわけではないものの、業界標準の措置であるパスワードが変更された時に顧客のAPIキーを失効させるなど、テスラはセキュリティを向上させるためにもっとできることがあると、コロンボ氏は述べている。

TeslaMateは内密に脆弱性を報告した後、アクセスを防ぐためにユーザーが手動でインストールしなければならないソフトウェア修正を配信した。

TeslaMateプロジェクトの保守管理者であるAdrian Kumpf(エイドリアン・クンプフ)氏は、コロンボ氏のメールを受け取ってから数時間以内に更新プログラムを配信したと、TechCrunchに語っている。このソフトウェアはセルフホスト型であるため、ユーザーが誤って自分のシステムをインターネットに露呈させてしまうことを防ぐことはできないと、クンプフ氏はメールで語っており、TeslaMateの説明書では以前から、ソフトウェアを「ホームネットワーク上にインストールするように。さもなければ、あなたのテスラAPIトークンが危険にさらされる可能性があります」と警告していると付け加えた。また、クンプフ氏は、高度なインストールオプションを選択したユーザーは影響を受けないはずだ、とも述べている。

テスラが数千人のドライバーのAPIキーを失効させたことから、この問題は当初考えられていたよりも広範囲に渡っていた可能性があると、コロンボ氏はTechCrunchに語った。なお、テスラには本記事掲載前にコメントを求めたが、回答は得られなかった(テスラは2020年に広報チームを廃止している)。

画像クレジット:Patricia de Melo Moreira / AFP / Getty Images

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

「噛む」ことで音楽プレイヤーを操作する技術をWisearが開発

Wisear(ワイシア)は、イヤフォンにいくつかの電極と電子部品を追加することによって、あなたの音楽体験をこれまでよりもずっとハンズフリーにすることを目指している。自分の歯で2回、噛む動きをすることで曲を一時停止したり、3回噛んで次の曲にスキップしたりすることができるようになるのだ。音を立てることなく、手でジェスチャーをしたり、ボタンを押したり、その他外から見える動きを一切しなくても、この技術を使えば音楽プレイヤーやAR / VRヘッドセットを操作することが可能になる。同社の創業者たちは、両手がふさがっている時や、周囲がうるさすぎて通常の音声コマンドが使えない場合などに、この技術が特に役立つと想定している。

この技術を既存のヘッドセットメーカーやヘッドフォンメーカーにライセンス供与することを目指し、同社は米国時間1月20日、総額200万ユーロ(約2億6000万円)の資金を調達したことを明らかにした。この投資ラウンドはParis Business Angels(パリ・ビジネス・エンジェルス)とKima Ventures(キマ・ベンチャーズ)が主導し、BPI France(BPIフランス)が支援した。

Wisearは、そのニューラルインターフェースを筆者に見せてくれた。前述の電極を使って脳と顔の動きを記録し、特許出願中のAI技術によって、これらの信号をユーザーが行動を取るためのコントロールに変換するという仕組みだ。同社は競合他社に対してかなり懐疑的で、他の「思考によるコントロール」をてがけるスタートアップ企業は、人々を欺こうとしているのではないかと思っているという。

「現在、思考コントロールや精神コントロールを手がけているといっている人は、基本的に真実を捻じ曲げているのです」と、Wisearの共同設立者であるYacine Achiakh(ヤシン・アキアク)氏は説明する「もし彼らが本当にそれを実現させているのであれば、全財産を投資しても大丈夫。なぜなら、それはすべてに革命をもたらすからです。これは私たちにとって本当に苛立たしいことでした。精神コントロールを実現させたと言っている人たちは、周囲に騒音がなく、人が動かず、外は晴れていて、温度もちょうどいいという、非常に特殊な環境下で動作するデモを行っているだけだと、私たちは気づきました」。

「研究室では動作する」症候群を克服するため、同社は初めからやり直し、既製の部品を使って新しい技術を作り出した。そして十分に機能する技術のプロトタイプを作って披露し、その技術をヘッドフォンやAR/VRヘッドセットのメーカーにライセンス供与しようと考えている。

「私たちは、脳ベースで何かをしようとするときに最も難しいのは、実際にそれをユーザーに一般化し、どんな環境でも機能するようにすることだと気づきました。そこで私たちは、一歩下がって、まず筋肉と眼球の活動をベースにしたニューラルインターフェースを開発することにしました。私たちの主なコントロールは、顎の動きに基づくものです」と、アキアク氏は語る。「イヤフォンに搭載したセンサーが、顎の筋肉の動きを捉えて、コントロールに変換します。音を出す必要は一切ありません。そして2022年の目標は、顎を2回または3回、噛む動きをすることで、2つのコントロールができるようにすることです。今後3年間で12種類のコントロールに拡大することを目指しています」。

先週、同社の創業者はビデオ通話で同社の技術を披露してくれたのだが、その内容は一言でいうとすばらしいものだった。アキアク氏が筆者と話している間に発生したあらゆる物音や動きなどに、ヘッドフォンは一切混乱することがなかった。同氏が自分の歯を噛みしめる、つまり顎を食いしばるような動きをすると、音楽プレイヤーは一時停止したり、またそこから音楽を再開したりした。

この技術はまだ実用化の段階には至っていないものの、成功率はかなり高いようだ。

「私たちが作っているのは、本当に誰にでも使える初めての技術です。CESの我々のブースでは、約80%の人がうまくデモを動作させることができましたが、さらに向上させるために努力しています」とアキアク氏は語った。「私たちが作っているのは、今の時代にきちんと動作する唯一のニューラルインターフェースです。筋活動は、2022年に構築できる真の新しいインターフェースです」。

Wisearは、携帯電話の音楽プレイヤーをコントロールできるイヤフォンの実験中の試作機を公開している。同社はこの分野における既存のメーカーに、その技術をライセンスすることを望んでいる(画像クレジット:Wisear)

画像クレジット:Wisear

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Serve Roboticsの新しい自律型歩道配達ロボットは遠隔オペレーターの助けも必要としない

Uber(ウーバー)からのスピンアウト企業で、歩道を走行する配達ロボットを製造しているServe Robotics(サーブロボティクス)は、一部の商業配達を人間が介入することなく完了できる次世代ロボットを配備すると発表した。特定の運用領域(ジオフェンスで囲まれた地域)において、Serveはロボットを遠隔操作するオペレーターや、安全のためにロボットの後をついていくスタッフに頼ることはない。

Coco(ココ)、Starship Technologies(スターシップ・テクノロジーズ)、Kiwibot(キウィボット)など、この業界のほとんどの企業は、自律走行による配達を監視し、ロボットが停止したり助けが必要な場合に走行を引き継ぐのに遠隔オペレーターに頼っている。なので、Serveのマイルストーンは、まさにロボット配達の進歩への一歩だ。

同社の共同創業者でCEOのAli Kashani(アリ・カシャニ)氏はTechCrunchに「我々が解決した問題は、安全のために遠隔操作に頼るということは、100%信頼できるLTEネットワークと100%ミスのないオペレーターに頼らなければならないということであり、どちらも絶対の確保は不可能です」と語った。「安全のために人間の注意が必要なのに、映像が遅れたり、接続が切れたりする場合を考えてみてください。レベル4ロボットがあれば、安全を確保するために人間がループに入る必要はありません」。

Serveは2021年12月に次世代ロボットの展開を開始し、最近、レベル4の自律性で最初の配達を完了したという。レベル4について自動車技術協会(SAE)は、一定の条件を満たす限り自律的に走行でき、人間が運転を引き継ぐ必要がないシステムと定義している。現在、Serveが2018年から事業展開しているハリウッドなど、ロサンゼルスの一部の地域で使われているロボットがレベル4機能を備えていると、カシャニ氏はいう。

「レベル4が有効な所定エリアにロボットがいるとき、遠隔ビデオフィードはオフになり、ロボットはループ内の人間を必要とすることなく自律的にナビゲートし続けます」と同氏は説明する。「ロボットは、何か予期せぬことに遭遇した場合など、いつでも支援を要請することができます。また、交差点を横断する際には、ビデオをオンにすることもできます。しかし、大半の時間は自律的に動作しています」。

自律走行車両がレベル5に到達し、あらゆる状況で人間がいなくても操作できるようになるまでは、ロボットが不慣れな特殊ケースが常につきまとう。そのような場合に人間に頼ることは、安全面でも商業化の面でも理に適っている、とカシャニ氏はいう。

Serveの新型ロボットには、 Ouster(オースター)の超音波センサーやライダーセンサーなどのアクティブセンサーと、交通量の多い歩道を誘導するためのカメラなどのパッシブセンサーが搭載されている。Serveは自動衝突防止、車両衝突回避、フェイルセーフ緊急ブレーキなど、ボットのために特別な機能を開発したという。これらの機能をリアルタイムで実現するために必要な計算には、チップメーカーNVIDIAのJetsonプラットフォームが使用されている。同プラットフォームはロボットやその他の自律型機械向けに特別に設計されているものだ。

Serveは12月に1300万ドル(約14億円)の拡張シードラウンドを実施し、調達した資金は新しい顧客層や地域への拡大計画の加速に充てられるという。そうした目標に沿って、同社の次のステップは、次世代ロボットをより多くの地域に配備することで、まずはロサンゼルスでの拡大を目指すとカシャニ氏は述べた。

画像クレジット:Serve Robotics

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

遠隔操作DriveU.autoがEasyMileの自動運転シャトルやCocoの配送ロボットをサポート

2021年ステルス状態から脱したイスラエルのスタートアップ企業DriveU.auto(ドライブUオート)は、自動運転シャトルバス企業のEasyMile(イージーマイル)と、歩道ロボット配送スタートアップ企業であるCoco(ココ)が、その業務を同社のテレオペレーションおよびコネクティビティプラットフォームに統合することになったとCESで発表した。

自動運転車の業界では、多くの企業がその実現を約束したり、先進運転支援システムの名称を決めたりしているものの、依然として完全な自動運転技術を商業化するまでにはまだ遠い道程がある。実際、ほとんどの国では、公道における自動運転走行中には、安全のために人間のオペレーターが介在することが義務付けられている。自動運転技術をてがける多くの企業は、より早く市場に投入し、一般の人々に無人運転車を受け入れてもらうために、緊急事態や異常事態、安全上の問題が発生した場合には、遠隔地にいるドライバーが無人運転車の操縦を取って代わることができるテレオペレーションを採用している。

「事故現場で、複数の警察官が身振り手振りで交通整理をしている状況を想定してみてください」と、DriveU.autoのAlon Podhurst(アロン・ポドハースト)CEOは、TechCrunchに語った。「車両に搭載されたAIは、これらの身振りや声による命令を解釈するために、あらゆる可能性の支援を求めます。そのため、遠隔操作オペレーターは、ロボットや自動走行車など支援する車両の周囲の世界を、リアルタイムで見る必要があります。そこで我々は、車両のセンサーから遠隔操作オペレーターのいる場所へフィードをストリーミングしたいと考えました。遠隔操作オペレーターが車両周辺における実際の状況に基づいて判断を下すためには、信頼性の高い高品質で低遅延のコネクティビティ(相互接続性)を確保する必要があります。これはセルラーネットワークを介して行われます」。

テレオペレーションを成功させるためには、映像、音声、その他のセンサーデータを転送するための高性能なコネクティビティが不可欠だ。DriveU.autoのコネクティビティプラットフォームは、安定したネットワーク接続を確保し、自動運転走行車を支援する遠隔操作を妨げる可能性のある遅延や「ダークスポット」と呼ばれる接続性の低下を回避することを目的としている。

「1つのセルラーネットワークでは、5Gでさえ、信頼性の高い遠隔操作に必要なパフォーマンスレベルを保証することができません」と、ポドハースト氏はいう。「つまり、車両には複数のカメラが搭載されているので、複数の高精細な映像フィードを、移動中の車両から、制約のあるセルラーネットワークを使って伝送しなければならないのです。結論として、1つのネットワークでは十分ではないということになります」。

DriveU.autoの技術は、フランスの医療施設にサービスを提供しているEasyMileの「EZ10」自動運転シャトルバスにすでに搭載されており、現在はEasyMileの全車両に統合する作業を進めていると、ポドハースト氏は述べている。

EasyMileのマネージングディレクターであるBenoit Perrin(ブノワ・ペラン)氏は「自動運転車のユースケースを次々と継続的に展開していく中で、遠隔監視は当社のソリューションにおける重要な要素になることが予想されます」と声明で述べている。

DriveU.autoのコネクティビティ・ソリューションは、Coco社が保有する約100台のコンセプト実証用のパイロット車両「Coco 0(ココゼロ)」にもすでに搭載されている。Cocoによると、このプラットフォームへの統合は、新たに1000台が出荷される配送ロボット「Coco 1(ココワン)」でも計画されているという。Segway(セグウェイ)がハードウェアベースを開発しているCoco 1は、2022年第1四半期中に米国のロサンゼルスおよび他の2都市で展開が予定されている。

DriveU.autoは、EasyMileとCocoの他にも、ロボットタクシーや自動運転トラック、その他の配送ロボットや特殊用途の自動運転車でもすでに運用を行っているという。これらすべてのパートナーシップはまだ秘密保持契約の下にあるものの、今後数週間のうちに公開したいと同社では述べている。DriveU.autoは最近、日本の自動車部品メーカーであるDenso(デンソー)との18カ月間におよぶ提携も発表している。

DriveU.autoは通常、車両のコンピュータに統合されるソフトウェア開発キットを顧客に提供する。顧客は、車両に搭載されている既存のセンサーやその他のハードウェアコンポーネントを利用して、テレオペレーションを含む車両の操作を行うわけだ。このソフトウェアのみを提供するというアプローチが、より迅速な統合を可能にするため、同社の市場牽引の鍵となっていると、ポドハースト氏はいう。

同社のソフトウェアベースのコネクティビティプラットフォームは、ダイナミックなビデオエンコーディング、低遅延アルゴリズム、セルラー結合という3つの技術の融合により機能する。融合されたデータパッケージは、送信時のネットワークのパフォーマンスに応じて、複数のセルラーネットワークを介して送信される。このデータは遠隔地のオペレーター側に届くと、ビデオフレームとして再構成される。さらに詳しく見ていくと、このプラットフォームは、車両のシステムに組み込まれたソフトウェアモジュールと、クラウドベースのソフトウェアコンポーネントおよび遠隔操作オペレーターのコンピューターに組み込まれたモジュールで構成されている。

「高度なコネクティビティソリューションを配送ロボットに統合するには、過酷な電力と計算のパラメータが要求されます」と、CocoのCOOであるSahil Sharma(サヒル・シャルマ)氏は述べている。「この分野における業界リーダー各社を評価した結果、DriveUのソリューションが当社の成長計画と積極的な配送スケジュールに最もマッチすることがわかりました」。

画像クレジット:DriveU.auto

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

現代自動車、メタバースにボストンダイナミクスのロボット「Spot」を送り込む

現代自動車(Hyundai)がロボット開発に壮大な野心を抱いていることは確かだ。これまで現代自動車は積極的に資金を投入していて、特にロボットのパイオニアであるBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)の買収には10億ドル(約1160億円)以上を費やした。

今週開催される同社のCESにおけるプレゼンテーションでは、予想どおり、ロボットが中心的な役割を果たしている。2021年12月、現代自動車は、4輪モジュラーモビリティプラットフォームのスニークプレビューをMobile Eccentric Droid(モバイル・エキセントリック・ドロイド)という形で公開した。そして米国時間1月4日は、新しい「メタモビリティ」コンセプトに基づいて、将来に向けたより幅広い計画を発表した。

現代自動車は今後、その戦略についてより多くの情報を公開する予定であり、私たちは実際にどのようなものになるのかを知るために、何人かの幹部に話を聞くことを予定している。とりあえず、今回は「Expanding Human Reach」(人間の手の届く範囲を拡大する)という表題のもとに、バーチャルリアリティのメタバースにおけるモビリティとロボティクスの役割を模索するという大枠のアイデアが提示された。この早期の段階では、宣伝用コンセプトと実用性を切り離すのは難しいが、主な要素は、VRインタラクションの世界でハードウェアに現実世界へのプロキシのような役割を果たさせることようだ。

画像クレジット:現代自動車

現段階では、ずっとVRアプリケーションの根本的な問題となっていた、タンジビリティー(可触知性、実際に触った感覚を得ること)の欠如に関係する大きな成果がありそうだと言っておこう。現代自動車グループのChang Song(チャン・ソン)社長はこう語る。

「メタモビリティ」の考え方は、空間、時間、距離がすべて無意味なものになるというものです。ロボットをメタバースに接続することで、私たちは現実世界と仮想現実の間を自由に行き来できるようになります。メタバースが提供する「そこにいる」ような没入型の体験からさらに一歩進んで、ロボットが人間の身体感覚の延長となりメタモビリティによって日常生活を再構築し、豊かにすることができるようになります。

近い将来には、このような技術を利用して遠隔操作で製造ロボットを制御することが十分考えられる。これは、トヨタが以前から取り組んでいる「T-HR3」というシステム探求しているものだ。現代自動車によると、Microsoft Cloud for Manufacturing(マイクロソフト・クラウド・フォー・マニュファクチャリング)は、このような遠隔操作のためのゲートウェイとして利用することが可能で、このような実用的な機能を果たすシステムを想像するのは難しくないという。

画像クレジット:現代自動車

他のアプリケーションは、まだ先のことになる。現代自動車のプレスリリースによると「例えばユーザーが外出先からメタバース上の自宅のデジタルツインにアクセスすることで、アバターロボットを使って韓国にいるペットに餌をあげたり、抱きしめたりすることができるようになります。これにより、ユーザーはVRを通じて現実世界の体験を楽しむことができます」とのことだ。

このような考えは現時点ではほとんど概念的なもののようだが、現代自動車は今週開催されるCESで、最終的にはどのように見えるかのデモを提供している。新型コロナウイルスが急増する中で、TechCrunchだけでなく多くの人たちがバーチャルで展示会に参加していることを考えると、少なくとも将来的にリモートオペレーションがどのように役立つかを想像するのは簡単だ。

無生物や移動にロボットを導入する

現代自動車は、CESですべての時間をメタバースに費やしたわけではない。また「New Mobility of Things」(ニューモビリティオブシングス、モノの新しい移動方式)と題して、ロボットを使って大小の無生物を自律的に移動させるコンセプトを紹介した。

この「New Mobility of Things」のコンセプトのもとに発表されたのが「Plug & Drive」(プラグアンドドライブ、PnD)という製品だ。この一輪ユニットには、インテリジェントなステアリング、ブレーキ、インホイール電気駆動機構、サスペンションのハードウェアに加えて、物体を検知して周囲を移動するためのLiDARとカメラのセンサーが搭載されている。

このPnDモジュールは、例えばオフィスのテーブルのようなものに取り付けられるようになっている。ユーザーは、こうしたテーブルに対して自分の近くに移動するように命令したり、オフィスでより多くのスペースを必要とする特定の時間にそのテーブルを移動するようにスケジュールすることができる。

現代自動車の副社長でロボット研究所長のDong Jin Hyun(ドン・ジン・ヒョン)氏は「PnDモジュールは、人間のニーズに合わせて適応・拡張が可能です。というのも、これからの世界では、あなたがモノを動かすのではなく、モノがあなたの周りを動き回るようになるからです」と語る。「PnDは、通常は動かない無生物をモバイル化します。この能力があるからこそ、実質的にあらゆる空間を変えることができるのです。必要に応じて空間を構成することができます」。

現代自動車は、待っているバスへ人を運ぶためのパーソナルトランスポートシステムなど、PnDのさまざまな応用例を紹介した。4つの5.5インチ(約14センチ)PnDモジュールを搭載したこのポッドは、そのままこの「マザーシャトル」に合体する。

画像クレジット:現代自動車

理論的には、バスが止まると、(中に座っている人間を乗せた)ポッドが目的地までの最後の移動を行うことになる。

現代自動車がビデオで紹介したアイデアは、高齢の女性がポッドに乗り込んで待っているバスに移動する前に、1台のPnDが杖を彼女に届けるというもので、高齢者を直接ターゲットにしている。しかし、もしこれが仮に実現したとすれば、車道に1人乗りの大きな車を大量に増やすことなく、ファーストマイルとラストマイルの公共交通機関を提供するために使用することができる。

また現代自動車は「Drive & Lift」(ドライブアンドリフト、DnL)と呼ばれる、モノを持ち上げるためのモジュールも披露した。現代自動車は、DnLをそのMobED(Mobile Eccentric Droid)というロボットと組み合わせた。DnLはModEDの各ホイールに取り付けられており、上下に持ち上げることができ、ロボットが段差やスピードバンプなどの低い障害物上を移動しても水平を保つことができる。

画像クレジット:Hyundai

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(文:Brian Heater、翻訳:sako)

スマホでロボットを遠隔操作し農作業に参加できるRaraaSをH2LとPwC財団が共同開発

スマホでロボットを遠隔操作し農業作業を行えるRaraaSをH2LとPwC財団が共同開発

「オーディオビジュアルに次ぐ新世代の感覚共有技術BodySharingの研究開発」を進めるH2Lは9月15日、環境社会問題に取り組む団体への助成を行う公益財団法人PwC財団と共同で、スマートフォンで遠隔地のロボットを操作して農作業に参加できるシステム「RaraaS」(ララース)を開発した。RaraaSは、Remote Agricultural Robot as a Service(遠隔農業ロボットサービス)の略称という。

RaraaSは、農業従事者の減少、都市一極集中型の社会構造、障害者の社会参画機会の制限と低賃金という3つの社会課題の解決を目指して開発された。H2Lは、筋肉の動きを検出する独自の筋変位センサーで人の動作や感覚をデータ化して、それをバーチャルアバター、ロボット、他の人に伝えるという「BodySharing」(ボディシェアリング)技術を開発している。RaraaSは、それを使って農作業を支援しようという試みだ。細かな指の動きや力の入れ具合などがロボットに伝えられ、ロボットからは果実の重さをフィードバックするといったシステムの実現を目指している。

7月から、RaraaSを使った「遠隔ロボットdeいちご摘み」という体験会が実施されている。現在は開発関係者のみで行われているが、10月から12月までは一般から募集した参加者が体験できるようになる予定。申し込み方法などの詳細はまだ発表されていないが、所要時間は15分程度で、Zoomに接続できるPCとiOSを利用できる15歳以上の人が対象となるとのことだ。体験者には、体験写真、遠隔ロボットの操作レポートなどが贈られるとのこと。

2012年7月設立のH2Lは、肉の膨らみから手の動作を検出する技術と、多電極の電気刺激を腕に与えて触感を伝える技術に強みを持つスタートアップ。これらの技術と、アバター合成技術、遠隔操作ロボットなどを組み合わせ、BodySharingを実現している。

PwC財団は、PwC Japanグループに属するPwCコンサルティング合同会社が設立。「人」と「環境」に関する社会課題に取り組む団体を支援するために2020年5月1日に設立され、2021年5月1日に公益財団法人へ移行した。教育やアップスキリング(スキルの向上)、個性や多様性(ダイバーシティ&インクルージョン。D&I)の支援、環境問題への対策など、社会における重要な課題解決に取り組む団体を対象に、公募による助成金交付を中心とした活動を行っている。

分身ロボット「OriHime」開発者が「テレワークで肉体労働」に挑戦したワケ

オリィ研究所所長吉藤オリィ氏

OriHimeは病気や子育て、単身赴任などで行きたいところに行けない人が使う「分身ロボット」だ。最近では、カフェでの接客・運搬や展示会の案内に適したOriHime Porterがモスバーガーの実証実験で導入され、接客用OriHime Dを活用した実験カフェ「分身カフェDAWN version β」がアップデートを重ね、初めて常設店としてオープンしている。OriHimeのパイロット(操作者)には自室から出ることが難しいALS患者などがおり、障がい者雇用の観点からも注目されている。ロボットを使ったテレワークは働き方をどう変えるのか。どんな可能性が生まれるのか。OriHimeを開発、運用するオリィ研究所 所長 吉藤オリィ氏に話を聞いた。

オリィ研究所は「ロボットの会社」なのか?

OriHimeはオリィ研究所が開発した分身ロボットだ。リモートワークに適したOriHime Biz、カフェでの接客、展示会の説明、受付 / 誘導に適したOriHime PorterやOriHime Dなどがある。

OriHime Biz

OriHimeの操作者はパイロットと呼ばれる。パイロットは自宅などの遠隔地からiPad / iPhoneを通して職場にあるOriHimeを操作する。OriHimeにはカメラがついており、パイロットは職場の状況を見ながら、職場で働く同僚とマイクを使って話すことができる。

「遠隔で話す」というと、最近ではオンライン会議システムをイメージする人も多いだろうが、OriHimeはオンライン会議システムと違い、パイロット側の顔や動作を見ることはできない。その代わり、パイロットはOriHimeを操作してOriHimeの顔や手を動かし、ボディランゲージを伝える。

ここまで読んで「オリィ研究所はロボットの会社だ」と思う人もいるかもしれない。しかし、吉藤氏は「当社はロボット会社ではありません。孤独を解消するためのツールを提供し、研究する会社です」と断言する。

吉藤氏は自身が小・中学校で不登校を経験し、子どもの頃には入院も経験した。「孤独」を感じることが多く「孤独」は「人生の問い」のようなものだったという。

「不登校や入院の状態にある時、多くの人は『自分の居場所がない』と感じます。自分の居場所がないと、誰かとコミュニケーションをとったり、誰かの役に立つこともありません。人の役に立てなければ自己肯定感も湧きませんわきません。人は孤独になると死にたくなることだってあります。でも孤独な人はコミュニケーションが苦手だったり、何らかの理由でコミュニケーション自体が難しいわけです。目が悪い人には眼鏡があります。足の悪い人には車椅子があります。コミュニケーションが難しい人にはどんなツールが必要でしょうか?この問いから、私はOriHimeを開発しました」と吉藤氏は語る。

吉藤氏は「OriHimeは着ぐるみのようなもの。だからこそパイロットはコミュニケーションに前向きになれる」ともいう。

OriHimeのパイロットにはALS(筋萎縮性側索硬化症)、筋ジストロフィー、SMA(脊髄性筋萎縮症)、脊髄損傷などの重度障害を持つ寝たきりの人もいる。そうした人が初対面の初めて会う人と対面で話したり、逆に寝たきりの人に慣れていない人が寝たきりの人と対面でコミュニケーションをとると、お互いに構えてしまうところがある。しかし、OriHimeを通すと、パイロットは自分の姿を直接見られない。「自分がどう見えているのか」を気にせずコミュニケーションをとることができる。パイロットではない方は、パイロットのバックグラウンドを気にせず、パイロットとのコミュニケーションの内容そのものに集中できる。

「いつも真面目に怖い顔をしている人でも、かわいいキャラクターの着ぐるみに入ってしまえば、やたらとかわいい仕草ができたりしますよね。それと同じで、OriHimeを通すと自分のいろいろなブレーキを外してコミュニケーションがとれるんです」と吉藤氏は説明する。

ここまで読んでわかるように、OriHimeはあくまで「外側」「分身の体」だ。OriHimeの中身は人間、つまりパイロットでなければいけない。これは最近のデータ活用やAI活用といった「情報を活用してコンテンツを作り、ビジネスを行う」流れとは異なるように見える。

吉藤氏は「OriHimeはコミュニケーションを補助し、人と繋がり、孤独を解消するためのロボットです。確かに、AI技術がものすごく進化すればAIと友達になって孤独を解消できるかもしれません。あるいは、AIを介して人間と友達になれるかもしれない。でも、それは現段階ではできないことです。今AIに褒められてもうれしくないし、自己肯定感には繋がりません。だからOriHimeの中身は人間でなければいけないのです」と人間の重要性を強調した。

遠隔で働くのに「体」は必要なのか?

「遠隔で働く」だけなら、オンライン会議システム、チャット、メール、電話など、さまざまな方法がある。OriHimeのような「物理的な分身」「アバター」を職場に置く必要はない。分身が職場にあると何が変わるのだろうか。

吉藤氏は「『体が同じ空間にある』ということは『一緒に何かをする』という感覚と密接に結びついています」という。

OriHime D

例えばある人が1人でショッピングに行って、その間ずっとショッピングの状況をスマホで撮影しながら実況し、家で寝ている病気の家族と話ことができる。しかし、その人がOriHimeと一緒にショッピングに行って、病気の家族がパイロットとして同行したらどうだろう。おそらくこちらの方が「一緒にショッピングをしている」感覚が強くなる。

実は、物理的な分身にはもう1つの側面もある。就業のハードルを下げることだ。

障がい者、特にOriHimeのパイロットに多い寝たきりの人は、移動が難しい。「それならテレワークをすればいい」と考える人もいるだろう。しかしテレワークは基本的にデスクワークだ。多くのデスクワークには一定の学校教育のバックグラウンドとコミュニケーション能力が必要だ。

しかし、寝たきりの人にはそもそも教育へのアクセスに限りがある。小学校、中学校、高校、大学など「学校に通う」「教室を移動する」ことが難しい。さらに、コロナ禍の今でこそオンライン教育は珍しくなくなったが、それまでは選択肢が限られていた。つまり、寝たきりの人は、教育にアクセスするハードルが高いため、デスクワークに必要な教育を受けてこられなかった人もいるのだ。

OriHime Porter

また、学校や部活動、アルバイト、職場で得られるコミュニケーション経験も得ることが難しい。教育やコミュニケーション経験が少ない人はデスクワークの就業が難しく、したがってテレワークで働くことが非常に難しいのだ。

「当社で秘書として働いていた番田という者がいるのですが、彼がまさにそういう状況でした。デスクワークをしたいが、それに必要な教育やコミュニケーションの場にアクセスできなかったんです。そこで番田と考えたところ、肉体労働であれば就業のハードルが低いのではないかという結論に至りました。『テレワークで肉体労働ができないか?』その問いから、接客や食べ物・飲み物を運ぶ仕事をOriHime PorterやOriHime Dなど、大型のOriHimeでテレワーク化することに繋げました」と吉藤氏は振り返る。

「人助け」ではなく「一緒にミッションを背負う」

吉藤氏は「OriHimeプロジェクトは障がい者とのとの共創で進んできた」と語る。OriHimeの開発、改善のプロセスで障がい者のある友人とコミュニケーションをとり、彼らが困っていることの解決に努めたからだ。

「OriHimeのビジネスは『人助け』に見えるかもしれませんが、そうではありません。まず最初に、OriHimeは私自身の孤独の問題に対する1つの答えです。孤独に苦しんだ自分が、かつて苦しんだ自分を救うために作ったものです。そして私はOriHimeという選択肢を次世代に残したいのです」と吉藤氏は強調する。

さらに、OriHimeは「障がい者を助けるためのプロジェクト」でもないという。

吉藤氏は「寝たきりの人たちは、人と繋がるための最初のステップのサポートを必要としているかもしれません。ですが、それは『いつまでもずっと助けて欲しい』という意味ではありません。多くの障害のある人たちは自立したいのです。それはOriHimeの開発過程でも同じでした。OriHimeの開発に関わった障害のある友人たちは、次の世代の自分と似た境遇にいる人々を助けるために私と一緒に研究をしてくれました。ALS患者の友人は『こういう体に生まれてきたからこそ残せるものがあるなら、私の人生に意味がある』と言っていました。私は『OriHimeで障がい者を助けている』のではなく、『OriHimeという共通のミッションを障がいのある友人たちと背負っている』のです」と話す。

脱「機能」、脱「効率」で経済的自立へ

オリィ研究所は6月から日本橋に「分身カフェDAWN version β」(以下、分身カフェ)を常設で開いている。これはALSなどの難病や障害で外出困難な人々がパイロットとしてOriHime、OriHime-Dを遠隔操作し、スタッフとして働く実験カフェだ。元々は期間限定の実験としてスタートし、これまで4回開催されてきた。今回は常設店として初の開店となる。

分身カフェDAWN version β

その他にも、群馬県庁にあるカフェ「YAMATOYA COFFEE32」でOriHimeが、モスバーガー大崎店ではOriHime Porterが期間限定であるが活用されている。

外出が難しい人々の就業の機会創出の手段としてOriHimeが活用されているわけだが、パイロットはこうしたカフェで経済的に自立できるのだろうか。

吉藤氏は「パイロットの経済的自立は重要なテーマです。オリィ研究所が直接マネジメントする分身ロボットカフェでは東京都の最低時給以上を出せています。ただ、これまでは3週間程度のイベントでこの水準を保ってきました。次の課題は常設カフェとして同じ結果を出せるかどうかです」と力を込める。

分身ロボットカフェでの利益追求には戦略が重要になる。遠隔操作のOriHimeを使う時点で「安さ」「速さ」での戦いは不可能だからだ。

「分身ロボットカフェでは、効率と機能を追求しているわけではありません。食べ物・飲み物を速く安く提供するのであれば、自動販売機やファストフードと競合しないといけません。ですが、私たちが目指すのは『パイロットと話す体験』というエンターテインメントです」と吉藤氏は説明する。

実は、分身カフェには思わぬ効果もあった。接客に当たっていたパイロットが客として来ていた有名企業の人事担当者にヘッドハンティングされたのだ。

「障がい者雇用促進法は、企業に障がい者を雇用することを義務付けていますが、法定雇用率に達していない企業も数多くあります。このような企業にとって、分身カフェは障害を持つOriHimeのパイロットと出会う接点になり得ることがわかりました」と吉藤氏は振り返る。

また、島根県に住むあるパイロットは、障害が重く、部屋から出られない。しかし、大阪のチーズケーキ店でOriHimeパイロットとして販売に従事。さらに東京の分身カフェでもOriHimeを使って働いている。ある日、このパイロットと仲良くなった東京の顧客が大阪のチーズケーキ店を訪れ、そこでチーズケーキを買ったという。

「店員が客のいる店に来て働くのではなく、客が店員のいる店に行くというおもしろい流れが生まれました」と吉藤氏。

障害者雇用の可能性を各方面で広めているOriHimeだが、吉藤氏は今後どんな展開を目指しているのか。

「これまで部屋を出られなかった人たちは『オンラインで勉強すればいい』『遠隔で働けばいい』と言われてきました。ですが、今、コロナを経験し、『その場にいること』『その人と一緒にいること』の大切さがわかった人も増えたと思います。部屋を出られない寝たきりの人たちは、ある意味でニューノーマルの大先輩だったわけです。部屋から一歩も出られなくなった時、『OriHimeを使って外で働きたい』と思ってもらえるようにすること。分身ロボットカフェを常設にして長期運用し、パイロットが継続的に働けるようにすることが直近の目標です。コロナが終わったら、OriHimeを使ったスナックも挑戦したいです。部屋の中から、ベッドの上で、目や指を使ってパイロットがOriHimeを通して接客することを、もっと身近にしたいですね」。

吉藤氏はそう語り、インタビューを後にした。

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倉庫用ドローンがいよいよ本格化

ドローンは、軍用の恐ろしいのを除けばかっこいいし、楽しいし、良いことだらけだ。しかし一般的にクワッドコプターには、その有用性に対して疑問もある。特に消費者製品の場合は、もっぱら趣味と映像撮影用に限られている。

これまでは、農場の監視用や不動産などの分野でのおもしろい使い方はあったが、それらはどれも映像機能の応用だ。しかしカメラと映像処理次第では、いろいろな仕事ができる。最近登場してきたものの中で特におもしろいのは、倉庫用ドローンだ。ドローンというとアウトドアしか想像しない人は「屋内」と「ドローン」の組み合わせに違和感を覚えるかもしれない。

さかのぼるとTechCrunch主催のスタートアップコンペであるDisrupt Battlefieldには、倉庫用ドローンの企業が2社登場した。2016年のIFM(Intelligent Flying Machines)と、それから2年後のVtrusだ。でもそれは、ドローンを倉庫や工場に持ち込もうとするスタートアップの巨大なリストに比べると、氷山の一角にすぎない。

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このリストに最近載ったCorvus Roboticsは、YCが支援するスタートアップで、おそらくその名前はカラスといった驚くほど知恵のある鳥にあやかっている。もちろん、ある種の推理小説のように、殺人を教えてくれるからすではない。少々議論の余地はあるだろうが、同社はその製品を「世界で初めての倉庫用在庫管理ドローン」と呼んでいる。

それでも、おもしろい製品ではある。それは倉庫の中を飛び回ってパレットをスキャンし、在庫を調べる。IEEE Spectrumの記事によると、同社のレベル4の自律ドローンのネットワークは、1時間に200〜400のパレットをスキャンし、飛ぶことは「鳥」にとって重労働であるため合間に充電も行なう。

画像クレジット:Third Wave Automation

倉庫業界には、倉庫の完全自動化という見果てぬ夢がある。この夢に、投資家たちも群がる。Third Wave Automationはこのほど、Norwest Venture Partnersがリードする4000万ドル(約44億円)のシリーズBを発表した。これにはInnovation EndeavorsやEclipse、それにToyota Venturesが加わった。後者は、このベイエリアのスタートアップと組んで自律型フォークリフトを開発している。フォークリフトは、毎年のように人身事故が多いからだ。

関連記事:豊田自動織機と自律型フォークリフト開発のThird Wave Automationが戦略的提携

CEOのArshan Poursohi(アーシャン・プルソヒ)氏はこう述べている。

私たちはあらゆる種類のロボットを開発してきましたが、そのロボットはすべて、どこかの物置に放り込まれています。現在の花形産業Google、私たちの時代のSun Microsystemsのようなテクノロジー企業が主役であり、ロボットはお呼びでないからです。

それでも同社は、2022年末までには100台の倉庫ロボットを販売する予定だ。

画像クレジット:InVia Robotics

一方、同じく倉庫の自動化を志向するinVia Roboticsは、2021年7月末に3000万ドル(約33億円)のシリーズCを発表した。テクノロジー超大手のMicrosoft(M12)とQualcomm(Qualcomm Ventures LLC)がラウンドをリードし、同社の総調達額は5900万ドル(約65億円)に達した。このラウンドには、Hitachi Venturesも参加した。同社によると、パンデミックのおかげで2020年には売上が600%成長したという。

 

今週のロボティクス記事は倉庫だけでまとめようと思ったが、そうもいかない。次はGeneral Electric(GE)の自律ロボットATVerだ。この何でも屋のテクノロジー企業は今、米国陸軍と一緒に自律ロボットの現場テストをしている。ロボティクスの進歩のためには、良かれ悪しかれ、軍による投資の役割が大きい。

GEのロボティクス担当Shiraj Sen(シラジュ・セン)氏がプレスリリースで「私たちのプロジェクトと米国陸軍とのパートナーシップにより、自律システムの重要な進歩を実現しました。このプロジェクトで実現した進歩は、未来の完全自動運転車の実用化を加速するだけでなく、エネルギーや航空やヘルスケアなど、人びとが毎日依存しているその他の産業の自律化をさらに促進するでしょう」と述べている。

Sarcos

といった矢先、今度はSarcosが米国時間8月5日、T-Mobileと提携して後者の5Gの遠隔操作を同社のGuardian XTロボットに行わせると発表した。5Gの低レイテンシーの接続の利点が話題になるときはもちろんロボティクスも引っ張り出されるが、むしろそれは率直に言って、プレスイベントのステージの方がふさわしい話題だ。違いますか、Verizonさん。なぜならロボットは、確実に人びとを楽しませるテーマだからだ。実在するシステムに使われるのも、良い見世物だ。

そのリリースは次のように述べている。

T-MobileとSarcosのコラボレーションは5Gの統合に始まり、T-Mobileの広帯域で低レイテンシーな5Gネットワークが駆動するリモート視聴システムの開発へ向かいます。これにより労働者や管理者、外部の専門家などがリモートのどこにいても、人間のオペレーターが現場で行っている仕事を確認することができる。開発の第2期において、T-Mobileの5Gワイヤレスネットワークの統合により、Guardian XTのテレオペレーションが5Gで可能になり、通信事業者の柔軟性が増して、遠距離からのタスクの実行が可能になります。

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カテゴリー:ロボティクス
タグ:ドローン倉庫Third Wave AutomationinVia Robotics資金調達General Electric5G遠隔操作SarcosT-Mobile

画像クレジット:Corvus Robotics

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(文:Brian Heater、翻訳:Hiroshi Iwatani)

オリィ研究所の分身ロボット「OriHime」に新製品、自走可能で接客・誘導も行える拡張版「OriHime Porter」登場

オリィ研究所の分身ロボット「OriHime」に新製品、自走可能で接客・誘導も行える拡張版「OriHime Porter」登場

遠隔操作ながら「その場にいる存在感」を共有できる分身ロボット「OriHime」(オリヒメ)を展開するオリィ研究所は7月19日、その拡張版として移動能力を備え、カフェの接客や受付誘導なども行える「OriHime Porter」(オリヒメポーター)を発表した。

オリィ研究所の分身ロボット「OriHime」に新製品、自走可能で接客・誘導も行える拡張版「OriHime Porter」登場

いわゆるテレプレゼンスロボットである「OriHime」自体は小さな据え置き型のロボットだが、「遠隔操縦できるワゴン」に「OriHime」を載せる形で移動性を持たせたのが、この「OriHime Porter」。そもそもオリィ研究所では、2018年に移動式の大型ロボット「OriHime-D」(オリヒメディー)を開発し、実験カフェ「DAWN ver.β」(ドーンバージョンベータ)や自治体、企業などでコミュニケーションと給仕の実験を行ってきた。そこでの経験とカフェからの要望で、「OriHime Porter」が誕生したということだ。

特徴は、直感的な遠隔操作ができ、衝突防止センサーを備えるなど人との共存環境で安全に自由に移動できること、OriHimeの身振り手振りを交えた「そこに本当に人がいるかのような」コミュニケーションができること、導入先の地図作成など導入初期の作業負担が少ないことなどがあげられている。

スマートフォンやPCを使った直感的な操作が可能で、前進・後退・その場旋回など自由に走行できる。また、パイロットは動作環境の様子をリアルタイムで認識できるため、地図生成などの事前の設定なども不要(画面は開発中のもの)

スマートフォンやPCを使った直感的な操作が可能で、前進・後退・その場旋回など自由に走行できる。また、パイロットは動作環境の様子をリアルタイムで認識できるため、地図生成などの事前の設定なども不要(画面は開発中のもの)

全12個の接触防止センサーで周囲を監視しており、人やものに接触する前に停止する

全12個の接触防止センサーで周囲を監視しており、人やものに接触する前に停止する

緊急時は本体上部の非常停止ボタンで停止可能。視認性の高い赤色で、サイズも大きく押しやすくなっている

緊急時は本体上部の非常停止ボタンで停止可能。視認性の高い赤色で、サイズも大きく押しやすくなっている

オリィ研究所が考えるOriHime Porter導入イメージには、次のようなものがある。

  • オフィスや商業施設での誘導:「OriHime」の隣に置かれたディスプレイに地図などの資料を表示し、自然な会話を交わしながら客を目的地まで誘導する
  • 展示会:ディスプレイに情報を表示し、棚にパンフレットを載せて配りながら歩き回ったり、呼び込みなどを行う
  • カフェなどでの接客・運搬:客の案内、注文品を棚に載せて運搬。自然な声かけで臨機応変な接客をする

棚の部分はOriHimeのイメージに合わせて曲線で構成され、木材の棚板で温かみを出している。デザインは、歴代OriHimeのデザインを担当しているオリィ研究所の共同創設者・代表取締役CEOの吉藤健太朗氏と、工業デザイナーで「クリエイティブ・コミュニケーター」の根津孝太氏が協同で行っている。

OriHime Porterは、アルミフレームのシャープさと木のやさしい質感を活かしたデザインにより、お店やオフィスの雰囲気になじませやすい。棚板は8種類のカラーリングから選択できる

OriHime Porterは、アルミフレームのシャープさと木のやさしい質感を活かしたデザインにより、お店やオフィスの雰囲気になじませやすい。棚板も、8種類のカラーリングから選択できる

「OriHime Porter」の仕様

  • サイズ:H1300mm×W370mm×D360mm
  • 本体重量:約16kg(OriHime本体・付属iPadディスプレイ含む)
  • 積載スペース:内寸W315mm×D350mm×3段
  • 最大積載重量:1棚あたり最大5kg、全体で10kgを超えないこと
  • 移動速度:時速約1~2km程度
  • 稼働時間:連続8時間(利用方法によって異なる)
  • 写真は試作品のため詳細が異なる可能性がある

オリィ研究所では、ロボット開発以外にもOriHimeを核とした各種製品やサービスを展開している。たとえば、外出困難者のための就労支援サービス「AVATAR GUIL」(アバターギルド)、重度障害者が目や指のわずかな動きだけでコミュニケーションがとれる意思疎通装置「OriHime eye+Switch」(オリヒメアイプラススイッチ)など。

OriHimeはサブスクリプションの形で提供されており、「OriHime Porter」導入に関する問い合わせはこちらから行える。

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カテゴリー:ロボティクス
タグ:オリィ研究所遠隔操作 / リモートコントロール(用語)テレプレゼンス(用語)日本(国・地域)

Haloがユーザーまで遠隔地のオペレーターが運転して届ける5G利用の配車サービスをラスベガスで開始

5G技術は、遠隔オペレーターを使ってドライバーレスカーを動かすことができるという過剰な広告を振りまいてきたが、結局ここ数年はそれらは単なる誇大広告に過ぎなかった。この状況を変えるために、ラスベガスを拠点とするスタートアップHalo(ハロ)と通信事業者大手のT-Mobile(ティーモバイル)が提携し、ラスベガスで5Gを利用したドライバーレス電気自動車のサービスを2021年後半に開始する予定だ。

5台の車両でスタートするこのサービスは、ユーザーがアプリを使ってHaloの試験車両群に接続することで機能する。配車が注文されると、遠隔地のオペレーターがクルマを運転して待っているユーザーのもとへと向かう。クルマが到着したら、ユーザーはハンドルを握って、自分の旅行中普通にクルマを運転することができる。旅行が終わったら、遠隔地のオペレーターが運転を引き継ぎ、次の顧客のいる場所へ車を走らせる。

Haloのアプローチは、Waymo(ウェイモ)やCruise(クルーズ)のような、遠隔地もしくは車内の人間の関与を完全に排除することを目的とした、完全な自動運転技術スタックを開発している企業とは大きく異なる。その代わりに、Haloの車両には9台のカメラが搭載され、レーダーと超音波センサーが補助として搭載され(LiDARはなし)、T-MobileのUltra Capacity(ウルトラキャパシティ)ミッドバンド5Gネットワークを介して遠隔地のオペレーターと接続される。

HaloのCEOであるAnand Nandakumar(アナンド・ナンダクマール)は、TechCrunchに対し、このサービスは、拡張された範囲のローバンド5Gネットワークと、必要に応じてLTEでも運用できると述べている。

Haloのプレスリリースによると、同社の車両には「独自のフィードバックループを構築して、人間がクルマをコントロールしている間にバックグラウンドで学習し、時間をかけてレベル3の能力を達成できる」アルゴリズムが搭載されるとのことで、長期的には自動運転を視野に入れていることが伺える(なおレベル3とは、Society of Automotive Engineersが提唱する自動運転の5段階のレベルを意味している。レベル3は、非常に限定された条件下で人間のドライバーが運転を離れることを可能にするレベルだ)。

ナンダクマール氏はプレスリリースの中で「完全な自動運転は、技術的にも社会的信頼の観点からも大きな課題であり、今後数年間では解決できないでしょう」と述べている。「しかし、Haloのシステムはこれらの課題を解決するために、消費者のみなさまが今日から安心して使えるソリューションから始めて、時間をかけて自動化を実現できるようにデザインされています」。

また同社はその車両には、安全上の問題の可能性が検出された場合に、直ちに車両を完全に停止させる高度な安全停止メカニズムが搭載されると述べている。

Haloは2020年、T-Mobileが共同設立した5G Open Innovation Labに参加し、T-Mobileのエンジニアと対話したりミッドスペクトラム・ネットワークを利用したりできるようになった。ナンダクマール氏は、T-Mobileが同社に投資しているかどうかについては明言を避けた。

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カテゴリー:モビリティ
タグ:Halo5GT-Mobileラスベガス遠隔操作

画像クレジット:Halo

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:sako)

PCやスマホで建機・重機を遠隔操作できる「Model V」を東大発ARAVが提供開始、後付け装着でも利用可能

建設現場のDX・自動化を目指す東京大学発スタートアップのARAVは6月18日、スマホ・PCなどで建設機械(建機)を遠隔操作できるようにするシステム「Model V」の提供を開始した。10~20年以上前に発売されたような古いタイプの建機でも、改造することなく後付けで装着することで遠隔操作が可能になる。

現在建築現場では、「年間死亡者数が多い」「若者の就業率が低く高齢化が深刻」「建設・採掘の人手不足が加速」といった課題があり、安心・安全な働きやすい環境を整備することが急務となっている。

  • 年間死亡者数が約300人以上おり、全産業の33%前後と危険な現場
  • 29歳以上の就業者が11%。全産業と比較して若者の就業率が低く高齢化が深刻
  • 建設・採掘の有効求人倍率が約16%と人手不足が加速

また建築現場の建築機械についても、「粉塵が舞っている」「『高所や斜面での作業』といった環境要因を改善し、作業員が働きやすい環境を作りたい」「『夏は暑く冬は寒い』という季節要因にとらわれず作業をしたい」といったニーズがあるという。

ARAVではこれらの課題を解決するため、インターネット経由で建機を遠隔操作可能なシステムを開発・提供してきた。そして今回、過去に提供してきたシステムを改善・パッケージ化し、Model Vとして提供を開始した。ARAV調べ(2021年5月31日現在)では、スマートフォンやノートPCなどマルチデバイスに対応し、独自技術でセキュアにインターネットを介し建機を遠隔操作できるのは同社のみとしている。

Model Vは、エッジコンピューターやアタッチメントなどのハードウェア、遠隔操作組み込みソフトウェア、操作時のインターフェースを含むシステムとして構成されている。プロダクトを建設機械に取り付けることで、スマートフォン・タブレット・PCなどの通信機器から遠隔操作が可能になる。

PCやスマホで建機・重機を遠隔操作できる「Model V」を東大発ARAVが提供開始、後付け装着でも利用可能

プロダクトイメージ。画像は制作途中のものにつき、実際の仕様とは異なる場合がある

PCやスマホで建機・重機を遠隔操作できる「Model V」を東大発ARAVが提供開始、後付け装着でも利用可能

取り付けイメージ。画像は制作途中のものにつき、実際の仕様とは異なる場合がある

また遠隔操作時にスマートフォン・タブレットを利用している場合は、タッチ操作に対応。専用・汎用のコントローラーを取り付けるとより快適に操作できるという。無線・有線の汎用コントローラー、ジョイスティックコントローラーなども接続でき、ARAVは操作者に合わせたインターフェースを用意するとしている。

東大発ARAVがスマホ・PCで建機建機を遠隔操作できる「Model V」を提供開始、後付け装着でも利用可能

ノートPCとジョイスティックコントローラーを組み合わせた利用イメージ

東大発ARAVがスマホ・PCで建機建機を遠隔操作できる「Model V」を提供開始、後付け装着でも利用可能

スマホを利用した操作イメージ

なお「Long Range Ver.」と「Short Range Ver.」の2種類があり、Long Range Ver.では、1141km離れた土地からも遠隔操作が可能だ(実証実験を伴う接続可能距離の最大実測値)。過去に富士建と行った共同の実証実験では、東京・佐賀間で遠隔操作に成功しており、離れた県での使用も問題なく行なえるという。

Short Range Ver.では、100kmまでの接続・操作が可能としている。これは、「現場と本社」「現場と操作者がいる場所」などの距離が100km圏内であることが前提の場合に適しているそうだ。

 

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カテゴリー:モビリティ
タグ:ARAV(企業)遠隔操作 / リモートコントロール(用語)建設 / 建築(用語)、重機 / 建機 / 建設機械(用語)、東京大学(組織)日本(国・地域)

ファミマの商品陳列を自宅から、遠隔操作ロボット開発のTelexistenceが目指す人とロボットの新たな働き方

私たちにとって、いまや「リモートワーク」は特別なことではなくなった。世界中どこにいてもインターネットにさえ接続すれば仕事ができる。一方で、エッセンシャルワーカーともいわれるコンビニやスーパーで働く人たちは、当然ながら「その場」にいなければ仕事ができない。

この現状を変えることを目指すスタートアップがTelexistence(テレイグジスタンス)だ。「遠隔操作ロボット」を開発する同社は、2021年6月15日モノフルのグループ会社などから約22億円を調達したと発表した。

ターゲットは日本全国のコンビニ

「これまで不可能だったブルーカラーのリモートワークを実現する」と話すのは、同社CEOの富岡仁氏。VRヘッドセットとグローブを装着すると、インターネットを経由して遠く離れた場所にいるロボットを「自分の体のように」操作できる。「自分が左手を動かすと、ロボットの左手も同時に動く」という感覚はまるで、離れた場所にいるロボットへ自分が「憑依」するかのようだ。

上記動画のロボット「Model-T」は、2020年10月より「ローソン Model T 東京ポートシティ竹芝店」に導入され、飲料(ペットボトル、缶、紙パック)をバックヤードから補充、食品(サンドイッチ、弁当、おにぎり)を並べるといった業務を行っている。合計22の関節を持ち、5つのパターンに変化する手を持つこの人型ロボットは、約200形状・約2200SKUにおよぶ商品を「しっかりと掴んで、任意の場所に置く」ことが可能。このModel-Tを遠隔操作することで、従業員は商品陳列作業を自宅からでもできてしまえるのは、なんとも不思議な感覚だ。

また同社は、Model-Tの改善点を踏まえてより機能を向上させたロボットを開発。2021年10月から「ファミリーマート経済産業省店」に導入し、回転率の高い飲料を中心に商品陳列を行っていく。富岡氏は「基本的に、日本のコンビニは店舗フォーマットが決まっていて、扱っている商品も似通っている。つまり1店舗でも問題を解決できれば、日本全国にあるコンビニ5万6000店舗の問題も解決できるというスケーラビリティがある」という。同社は2024年度までに2000店舗に2000台の同社ロボットを導入することを目指している。

マニラから日本のコンビニで作業する

遠隔操作ロボットの登場は、店舗運営の効率化だけでなく、労働市場にも大きな影響を及ぼすかもしれない。「2022年の夏からは、フィリピンのマニラにいる従業員がロボットを操作して、日本のコンビニの商品陳列作業を行っていく予定」と富岡氏。当然、日本のスタッフに比べるとマニラのスタッフは人材コストが低いため、企業にとっては大きなメリットといえる。このように今後、労働力の移転が「小売業のスタッフ」にまで広がっていく可能性を考えると、遠隔操作ロボットのインパクトの大きさは計り知れない。

また同社は陳列什器メーカー大手のオカムラと提携し「ロボットの動きに最適化された什器」の開発にも着手。「例えば、棚の奥までロボットの手が届かない場合は、棚に少し傾斜をつけ商品が滑り落ちるようにするなど工夫をする。こうすることで、大きなコストをかけずにロボットを店舗運営に導入できるようになる」と富岡氏はいう。

同社ロボットの活用場面は店舗での商品陳列にとどまらない。今回の資金調達先であるモノフルと提携し、物流業者向けにもサービスを展開。物流施設内の業務に携わる労働者がロボットを遠隔操作することで、倉庫にいなくても商品の積み下ろしができるようになる。

一方で「人間が遠隔操作するのは私たちが目指す最終型ではない」と富岡氏。同社のロボットはすでに、コンピュータビジョンを活用することで商品陳列作業の約8割を自動的に行うことが可能。また同時に、人が遠隔操作するモーションデータをクラウドに蓄積し、これを教師データとしてロボットに機械学習させている。これらにより、いずれは人の操作さえも必要としない「完全にオートマティックなロボット」を完成させることが狙いだ。

画像クレジット:Telexistence

自動化の恩恵を「個人」へ

テレイグジスタンスが掲げるビジョンは「世界に存在するすべての物理的な物体を、我々の『手』で1つ残らず把持(はじ、しっかり掴むこと)する」こと。「これが実現すると、世の中のあらゆる物理的な仕事をロボットが代替できるようになる」と富岡氏はいう。

しかし同社は、ただ企業の業務効率を上げることのみを目指しているわけではないという。同氏は「これまで産業用ロボットによるFA(工場自動化)の恩恵は、現場で働く労働者ではなく、ロボットを所有する大企業の株主が得ていました。しかし私たちは、究極的には企業ではなく『個人』がロボットを所有する未来を実現したい」と話す。

つまり同氏が目指すのは、労働者である個人がテレイグジスタンスのロボットを所有し、さまざまな現場に派遣して遠隔操作(あるいは自動化)しながら金を稼ぐという未来。同社はハードウェアからソフトウェア、自動化技術までを自社で一貫して開発する稀有なスタートアップだが、その「ビジネスモデル」も既存のものには当てはまらないようだ。

自分は旅行でニューヨークまで来ているけれど、ロボットは東京にいて代わりに仕事をしてくれている……そんな世界はすぐそこに来ているのだろうか。テレイグジスタンスが「掴む」ことを目指す未来に、思わずワクワクしてしまうのは私だけではないはずだ。

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カテゴリー:ロボティクス
タグ:Telexistence遠隔操作資金調達コンビニエンスストア日本エッセンシャルワーカーテレイグジスタンス

画像クレジット:Telexistencem

AI搭載した遠隔操作ロボットのTelexistenceが22億円のシリーズA2調達、製品開発チームを拡大

AI搭載した遠隔操作ロボットのTelexistenceが22億円のシリーズA2調達、製品開発チームを拡大

AI(人工知能)搭載の遠隔操作ロボットを開発するTelexistence(テレイグジスタンス)は6月16日、シリーズA2ラウンドにおいて、約22億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、既存投資家のモノフルのグループ会社(モノフル)はじめ、Airbus Ventures、KDDI Open Innovation Fund、DEEPCORE、東大IPC、複数の新規投資家(非公開)など。2017年創業以来の資金調達総額は約45億円となった。

調達した資金は、製品開発チームの拡大や、オフラインの小売店舗・物流分野で広がる顧客層への製品開発・展開の加速に活用する。

またTelexistenceとモノフルは、物流施設業務向けの拡張労働基盤(AWP。Augmented Workforce Platform)の開発、商用運用や社会実装をさらに進めるため、パートナーシップを強化した。

遠隔操作ロボット技術を核とするAWPは、物流施設内の業務に携わる労働者が倉庫に物理的に立ち会うことなく労働力を提供できるプラットフォーム。倉庫内に設置されたロボットをインターネット経由で操作できるほか、在宅のままパレタイズ(パレットへの積みつけ)やデパレタイズ(パレットからの荷下ろし)などの作業に参加可能という。Telexistenceは、AWPの構築により労働者により安全に、より低コストで、より便利に世界の労働市場に参加できる基盤を提供するとしている。

今回のパートナーシップはその一環となっており、国内最大級の物流業者をパートナーとし、物流分野向けに開発した遠隔操作ロボットのトライアル導入の準備と製品試作を進める。

現在、ロボット(主に産業用ロボット)は、主に自動車・総合電気メーカーの工場内でしか普及していないという状況にある。Telexistenceは、ロボットの活躍の場を工場の外にまで広げ、社会の基本的なあり方を変革することを目指しているという。最終的には、人間が複数の空間的・時間的スケールのネットワーク構造を介してつながり、相互作用し、進化していく社会の創造を目指す。

モノフルは、先進的物流施設のリーディングプロバイダーである日本GLPのグループ会社の出資により2017年11月に設立。社名には、「物(mono)であふれている(full)」という物流の現状を表す意味に加え、同社が目指す未来の物流の姿である「単一の(mono)プラットフォームで遂行させる・実行する(fulfill)」という意味を込めている。

2017年設立のTelexistenceは、「ロボットを変え、構造を変え、世界を変える」をミッションとし、遠隔操作・人工知能ロボットの開発およびそれらを使用した事業を展開するロボティクス企業。世界中から高い専門性をもつ人材が集まり、従業員の国籍は10を超え、ハードウェア、ソフトウェア、自動化技術を一貫して自社で開発している。半自律型遠隔操作ロボットとAWPを通じて、人々が場所を問わず労働参加できる基盤構築を目指す。

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カテゴリー:ロボティクス
タグ:AI / 人工知能(用語)遠隔操作 / リモートコントロール(用語)Telexistence(企業)ロボット(用語)資金調達(用語)日本(国・地域)

Phantom Autoの遠隔操作フォークリフトがGeodisとの提携でフランスに到着、自動運転車から物流にピボット

世界的な物流企業であるフランスのGeodis(ジオディス)は、数百キロ、時には数千キロ離れた場所にいる人間のオペレーターが遠隔操作できるフォークリフトの導入を促進するため、スタートアップのPhantom Auto(ファントム・オート)と提携した。

Geodisによると、この技術を利用することで、オペレーターの疲労やそれによる怪我を減らし、倉庫内にいる人間の数を減らすことを目的としているとのこと。遠隔操作式フォークリフトの使用は、従業員に取って代わるものではなく、働く場所を置き換えるものだという。都心から離れた場所で事業を展開することが多いGeodisにとって、このようなディテールは魅力的だ。

Geodisの西ヨーロッパ・中東・アフリカ事業CEOであるStéphanie Hervé(ステファニー・エルヴェ)氏は、TechCrunchの取材に対し、遠隔操作のフォークリフトを使用することで、身体障害者を含む新しい労働者グループを獲得することができると述べている。この意図は、労働者を他国にアウトソースすることではなく、地域内でより多くの労働者を見つけることにあるという。

このパートナーシップの下、Phantom Autoの遠隔操作ソフトウェアがKION Groupのフォークリフトに組み込まれた。フォークリフトには双方向オーディオが搭載されており、Geodisが「デジタルドライバー」と呼ぶ遠隔オペレーターは、倉庫内の同僚とコミュニケーションを取ることができる。

画像クレジット:Geodis

Phantom AutoとGeodisは、2年以上前からフランスのルヴァロワとルマンでパイロットプログラムを実施し、協力関係を築いてきた。今回の発表は、Phantom Autoにとって有益になり得る、より深い関係の構築を示している。

当初はフランス国内での展開を予定している、とエルヴェ氏は語った。今のところPhantom Autoのソフトウェアは、最初のパイロットサイトであるルヴァロワとルマンでフォークリフトの遠隔操作に使用され、向こう1年の間にフランス全土に拡大していく予定だ。Phantom Autoの共同設立者であるElliot Katz(エリオット・カッツ)氏によると、初期の2つの拠点で働くGeodisの従業員は、すでにフォークリフトを遠隔操作するトレーニングを受けているという。

Geodisのフットプリントはフランス国内にとどまらない。同社は、120カ国に約16万5千の顧客を抱えている。世界各地に300の倉庫を所有し、Amazon(アマゾン)やShopify(ショッピファイ)など、他の何千もの顧客にもサードパーティロジスティクスサービスを提供している。

Phantom AutoがGeodisと提携したことは、同社が当初注力していた自律走行車以外のビジネスを模索していることの一例だ。2017年に設立された同社は、フォークリフトやロボット、トラック、乗用車などの無人車両のフリートを遠隔で監視して介入するための、車両に依存しないソフトウェアを開発した。

同社はAV(自律走行車)業界に隣接している。AV事業者が遠隔操作の必要性を公に語ることはほとんどないが、ロボタクシーを商業的に展開する際や、その他のAVアプリケーションに必要なサポートシステムとして捉えられている。しかし、自律走行車の開発者たちが技術を商業化するためのスケジュールを先送りにしたため、Phantomは新しい分野に進出したのである。

これまでに2500万ドル(約27億7000万円)を調達したPhantom Autoは、歩道、倉庫、貨物ヤードなど、今日、自律走行や遠隔操作が導入されている場所を対象とした物流事業を展開している。

カテゴリー:モビリティ
タグ:Phantom AutoGeodis物流遠隔操作フランス

画像クレジット:Geodis/Francois Bouriand

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Aya Nakazato)