「GIF文化史」/ 大野謙介 – 全3回連載概要
大野謙介/GIFMAGAZINE(GIFの人)
1987年に誕生し、インターネットのビジュアルコンテンツを支えた1990年代。FLASHによりミームとしての役割が弱まった2000年代。そして2011年、スマホ&SNSの爆発的普及によってサクッと手軽に楽しめるGIFは 「1) 次世代ビジュアル言語」また「2) 芸術、エンタメコンテンツ」として復活します。ファイルフォーマットの次元を超え、新たなポップカルチャーに変化しつつある「GIF文化」についてデータや事例と共に全3回で考察をします。
第1回 “1度死んだGIFが復活した理由”
第2回 “GIFの生存戦略 – 次世代ビジュアル言語編”
第3回 “GIFの生存戦略 – 芸術、エンタメコンテンツ編”
第2回 1分要約
世界中のチャットやSNSでGIFが送り合われています。スタンプや絵文字と共に表意文字として世界中に送られるようになった理由を、1to1のコミュニケーションツールの歴史と共に考察します。
以下、GIFアニメーションを中心に述べますが簡略化のため「GIF」という言葉を用います。
第1回の振り返り
第1回では、本当に「GIF」が流行っているのかを定量的に見てみました。そしてGIFが復活した理由は2011年以降のスマホ&SNSの爆発的普及であり、その背景には各国にそれを支えるカルチャライズされたGIFプラットフォームの存在がありました。
GIFの2つの役割
GIFの役割は大きく2つあります。
1) コミュニケーションコンテンツとしてのGIF
2) メディアコンテンツとしてのGIF
1) コミュニケーションコンテンツとしてのGIF、これは人に送るからこそ楽しいというスタンプと同じ楽しみ方で、超短尺動画ならではの楽しみ方の1つです。
2) メディアコンテンツとしてのGIF、これは芸術や新たなエンタメコンテンツとして、作品を見て楽しむという超短尺動画の楽しみ方の1つです。
第2回は、1) のコミュニケーションコンテンツとしてのGIFについて様々な事例やデータを元に見ていきましょう。
実際、世界では何人がコミュニケーションとしてGIFを送り合っているのか?
アメリカのGIPHYやTenor、中国の闪萌-weshine、インドのGIFSKEY、Googleなどが公表しているデータを元に算出すると、毎月約10億人がGIFを送り合っている可能性があります。
もちろん、複数ツールの利用による重複はあるかと思いますが。地球の人口が74億人、スマホ人口が約40億台とすると、世界のスマホを持つ4人に1人はGIFを送り合っていることになります。
しかしスタンプの台頭する日本においては、世界で10億人が送っているという実感が無いのが正直なところかなと思います。
世界の10億人がどのようなGIFを送っているのか?
実際にどのようなGIFを送っているのか、各プラットフォームが公表しているデータから見てみましょう。
◯アメリカで送られているGIFとは?
GIPHY(アメリカ)が公表しているデータによれば、2018年に最も閲覧されたGIFのベスト3は下記です。英語圏の芸能人やスラングを理解していないと送りづらいコンテンツです。日本の女子高生がこのGIFを送るようなイメージはありません。
GIPHY 2018年1位:Cardi B “Okurrrrr” by The Tonight Show Starring Jimmy Fallon
GIPHY 2018年2位:Colombia Futbol by Alkilados
GIPHY 2018年3位: Happy Party Gnome by Sherlock Gnomes, 268M Views
出典:GIPHY’s Top 25 GIFs of 2018
また、具体的な感情、挨拶で見てみると、例えば「Happy」は月間800万回、「Dance」は月間1290万回送られているそうです。
送信回数が多く、好意的な会話で使われる「Happy」や「Dance」の場合、Amazonなどの大手企業もGIFを用意しています。広告色が強いと使いづらいですが、シーンにきちんと合っていて、コンテンツとして成立していれば送り合うことがあるでしょう。
Amazonの「Happy」GIF(GIPHYより)
Amazonの「Dance」GIF(GIPHYより)
◯インドで送られているGIFとは?
インドではどのようなGIFがコミュニケーションで送られているのか、事情を聞くためにインドのGIFプラットフォーム「GIFSKEY」の社長であるMahesh Gogineni(マヘシュ)さんにお話を聞きました。
右がGIFSKEY代表のマヘシュさん
第1回でも触れましたが、インドでは国内に多数の公用語が存在します。インドのGIFSKEYはヒンディー語やベンガル語などインドならではの9言語でGIFが探せるようになっています。
英語をメインの検索キーワードとしたGIPHYやTenorでは対応しきれないGIFを見つけることできます。また、宗教や独特なインド映画産業など、GIFSKEYは地元インドに好まれるGIFを提供しており、トップページの主要カテゴリには「Gods(神)」が存在しています。
マヘシュさんによると、インドで最も送られているのは「नमस्ते(ナマステ)」だそうです。ナマステは、おはよう、こんにちは、こんばんは、さよならといった、非常に沢山の意味を持つ単語なので、様々なシーンでナマステGIFが送られているのは想像ができます。
「ナマステ」GIF(GIFSKEYより)
また、マヘシュさんによると「Gods(神)」が重要なトップページのカテゴリとして存在している理由にはヒンドゥー教の習慣が関係しているそうです。
ヒンドゥー教では、月曜日は「シヴァ」、火曜日は「ハヌマーン」と曜日ごとに神様が決まっています。そのため、インドの方は曜日ごとの神様GIFをコミュニケーションで頻繁に送り合っているそうです。
「シヴァ神」GIF(GIFSKEYより)
◯日本で送られているGIFとは?
日本ではGIFMAGAZINEが、LINEのトークの「+」メニューの中からGIFを送れる機能「ジフマガ」を2019年2月に提供開始しました。日本のアニメ、映画、芸能事務所、クリエイターなどの公式GIFコンテンツがLINEの中で送れるようになっています。
第1回と繰り返しになりますが、アメリカのGIFではフェアユースという考えが比較的浸透しています。ディズニーを始め多くの大手コンテンツホルダーが自社の映像コンテンツをGIFにして世界中の人に送り合ってもらったり、二次創作を許容しています。アメリカも日本もコンテンツに対する愛や、クリエイターに対するリスペクトは非常に強い国だと思います。しかし、日本ではフェアユースという考えは浸透していません。
GIFMAGAZINEは、様々なクリエイターやアニメ、映画、芸能事務所の方々と共に、公式のGIFコンテンツを日本の方が楽しめるようにGIFを制作・配信しています。日本でGIFが日常的に送られるようになるのはこれからと言えそうです。
実際に日本では次の感情、あいさつのカテゴリのGIFが多く送信されています。
GIF送信カテゴリランキング(日本)
1位:OK
2位:うれしい
3位:ラブ(いいね)
4位:ダンス
5位:(笑)
「Dance(ダンス)」のカテゴリは英語圏と共通しています。わたし自身が友人に「ダンス」のGIFカテゴリを送ってみて実感をしたことが1つあります。
同意したい時も、喜ぶ時も、「いいね」と伝えたい時も、会話を切りたいときも「ダンス」のGIFを送っておけば、テキストを送らなくても、ある程度どんな文脈でもポジティブな雰囲気で会話が成立してしまう点です。
時間や場所などの詳細情報をやり取りしたい場合は不向きですが、コミュニケーションをすること自体が目的になっている、信頼関係を確認することが目的になっている時のコミュニケーションにおいては「ダンス」は使いやすいのかもしれません。
ここまでアメリカ、インド、日本など国によって異なるGIFが送り合われていることを確認しました。
第1回では、GIFが、世界的に送り合われている理由として、2011年のスマホ&SNS、チャットの爆発的普及を挙げました。
それでは、いつまでGIFは送り合われるのでしょうか?
この連載を読まれている方はおそらくGIFになんらかしらの思い入れがある方だと思います。
ファイルフォーマットとしてのGIFは、Googleが開発を進めるWebPなどに取って代わる可能性はあるかもしれません。しかし超短尺のループ動画、体験としてのGIFが100年、1000年、愛くるしいインターネットのポップカルチャーとして存在し続けて欲しいと思っているのは、私だけでは無いと思います。
そこで、コミュニケーションにおいてGIFという表意文字がチャットアプリで送り合われるようになった理由をもう少し掘り下げてみながら、将来のGIFについて考察してみたいと思います。
そもそも、GIFという表意文字はどうしてスマホのチャットで送り合われるのか?
人類は誕生以来、さまざまなツールを使ってコミュニケーションをしてきました。コミュニケーションをするデバイス次第で文字を送ったり音を送ったりと、送るコンテンツは大きく変わってしまいます。
ある時代では鳴声で味方にエサが良く取れる場所を伝え、ある時代では狼煙を上げて敵の襲来を伝えます。
馬に乗る時代では、手紙を届けて愛を伝え、車に乗る時代では、ブレーキランプを5回点滅させて愛を伝えることができます。
それではコミュニケーションに用いられたデバイスやツールの歴史の一部をみてみましょう。
・鳴声(発話)
・パピルス(紙)
・飛脚
・狼煙
・電話
・留守電
・LINE
コミュニケーションのツールが移り変わる理由は
音声、身振り手振り、狼煙など、そのツールの進化の歴史を調べていくと、次の3つの性質に変化が生じた時に、次のコミュニケーションのツールへ移り変わるのではないかと考えています。
1) 速さと距離
2) 保存(非同期コミュニケーションができる)
3) 伝達できる情報の量
1) 速さと距離の性質では、例えば鳴声よりも電話の方が地球の離れた場所でもコミュニケーションすることができます。
2) 保存の性質では、鳴声は受信者と時間を同期しなければ伝えることはできませんが、紙に文字を書くことで1時間後でも2時間後でも時間をずらして非同期的にコミュニケーションすることができます。
3) 伝達できる情報の量の性質では、紙に文字だけを書くと誤解が増えるから、絵文字やスタンプ、GIFなどで感情を付与して、単位時間あたりに受け取る情報量を増やしてコミュニケーションすることができます。
1) 速さと距離
2) 保存(非同期コミュニケーションができる)
3) 伝達できる情報の量
これらのいずれか1つの性質が著しく上回った時、または3つ全ての要素がわずかでも上回った時、次のツールに移りかわっていくのではないかと考えています。
もし仮に「速さと距離」「保存」「伝達できる情報の量」という仮説が正しいとするのならば、未来のコミュニケーションツールを予測することができるかもしれません。
数年後のコミュニケーションツールは?そこでGIFは送られるのか?
「速さと距離」「保存」「伝達できる情報の量」の3つの性質を現在のスマホのコミュニケーションから著しく成長させるとどうなるでしょうか?
伝えたい人に一瞬で誤解なく伝えることができる。それはまるでテレパシーのようなコミュニケーションかもしれません。
いちいち視覚情報に変換して電気信号に変換し直すのではなく、BMI(ブレインマシーンインターフェース)のように脳に直接送り届けるとするならば、その時、GIFは「見るもの」というよりは、「送り合われるデータ」としての役割を担っているかもしれません。
テレパシーの1歩手前のコミュニケーションツールは?そこでGIFは送られるのか?
テレパシーのような体験が将来的な理想の1つとした時に、テレパシーに至る途中のコミュニケーションツールについて先ほど説明した3つの性質を元に考えてみます。
「1) 速さと距離」は地球上ではLINEを使って日本とブラジル間を一瞬で伝えることができます。なのでこれ以上の改善は今すぐは難しそうです。「2) 保存=非同期」は紙からサーバーに変わり半永久的な保存は十分できています。しかし、「3) 伝達できる情報の量」つまり相手に誤解なく文脈や感情を伝えるという点では改良の余地がまだまだあるかもしれません。
現在、LINEなどのチャットでは文字とスタンプなどの静止画像を中心にやり取りをしています。しかし、自分自身の感情をより豊かに、楽しく伝えていくには動画コンテンツの方がリッチそうだと感じます。
しかし10秒〜15秒の尺ほどになってしまうと、情報量は確かに増えるのですが、今度は伝えたい内容を理解するまでに「速さ」を大きく阻害してしまい文字や画像に勝ることはできません。
改めてコミュニケーションコンテンツを歴史を追って見ていくと、静止画でない動きのある「動画」のコンテンツが1to1のコミュニケーションにスムーズに入ることができたのは、ガラケーの「デコメール」や「動く絵文字」、LINEの「動くスタンプ」の体験が挙げられます。それは短編、ループ、クリックレス再生する映像体験です。まさにGIF動画が満たす体験です。
人類が視覚(目)を利用する限りは、超短尺の動画をコミュニケーションコンテンツとして利用し続けるかもしれません。
まとめ
第2回は「GIFの生存戦略 – 次世代ビジュアル言語編」と題して1) コミュニケーションコンテンツとしてのGIFについて触れました。世界各国で送られるGIFの違い、そしてコミュニケーションツールが移り変わる理由を 1) 速さと距離、2) 保存、3) 伝達できる情報の量の3つと仮設を立てました。また5G時代に向かい、より誤解なく情報量多く伝達するために「短尺、ループ、クリックレス再生」する体験をもつコンテンツが重要性が高まりました。
中国語、英語、日本語あらゆる言語を話す人が、たった一つの同じGIFを見ることで、「こんにちは」「好き」「具合悪い」という気持ちを伝えることができます。世界中のGIF作家やGIFプラットフォームによって新たな次世代のビジュアル言語が創られ、「ねこ」「楽しい」「素敵」といった名詞、形容詞、形容動詞にどのようなGIFがあてはまるかという壮大なGIFの辞書が創られていると言えそうです。
第3回は「GIFの生存戦略 – 芸術,エンタメコンテンツ編」です。2) メディアコンテンツとして、実際に芸術として評価されているGIFや政治、広告、エンタメに活用されるGIFについて、その理由を世界中の事例と共に考察してみましょう。Twitter(@sekai_seifuku)で感想やご意見いただけたら嬉しいです。DMもお待ちしています。ではまた次回お会いしましょう。
筆者
大野謙介 / GIFMAGAZINE 代表取締役社長 CEO
GIFの人。1989年、福島生まれ。2012年、横浜国立大学工学部卒。リクルート入社。2013年7月に「株式会社GIFMAGAZINE」を大学後輩の中坂雄平(CTO)と創業し、GIFプラットフォーム「GIFMAGAZINE」をリリース。世界中のチャットやSNSで頻繁に送り合われている「GIF」を通じて、絵文字やスタンプに続く「次世代ビジュアル言語の創造」を目指す。また「GIF」の芸術的側面とマスエンタメ側面(映画,アニメ)を両立した「新しいポップカルチャー」を創ることを目指している。Twitter(@sekai_seifuku)
第1回 “1度死んだGIFが復活した理由”
第2回 “GIFの生存戦略 – 次世代ビジュアル言語編”
第3回 “GIFの生存戦略 – 芸術、エンタメコンテンツ編”
(編集:Daisuke Kikuchi / TechCrunch Japan編集記者)