新型コロナ禍でのテクノロジー各社四半期決算まとめ

Equityにようこそ。これはTechCrunchの記者が株式市場やスタートアップの資金調達をテーマに話合うポッドキャストだ。今回は公開企業の四半期決算のトレンドを扱った。スタートアップに対するベンチャーキャピタルの投資についてはこちらを見ていただきたい。

残念ながら新型コロナウイルス(COVID-19)の流行が続き、各社とも影響を受けている。全体として市況は大きく下げ、1%でもアップしていれば十分な成長とみなされる。ともあれこのポッドキャストを続けることができたのは幸いだ。参加してくれたDanny Crighton(ダニー・クライトン)、Natasha Macaranhas(ナターシャ・マカラニャス)、それにポッドキャストのプロデューサーのChris Gates(クリス・ゲイツ)に感謝する。

  • SaaSとエンタープライズは好調:TechCrunchではMicrosoft(マイクロソフト)の決算についてこちらの記事で報じたが、収入が15%アップという四半期決算の発表を受けて株価は大きく上げた。その他ZendeskやServiceNowについても検討した。トレンドとしては大企業向けSaaSの第1四半期は好調だった。しかし各社とも将来動向については慎重だ。影響の出方はばらつきが大きいだろう。
  • サブスクリプションも伸びたSpotifyの第1四半期も好調で、月間アクティブユーザーはなんと31%も伸びている。 Netflixhは第1四半期でアナリストの予測を大幅に上回る加入者数の伸びを示した。Danny CrightonによればSpotifyの純利益の報告はかなり奇妙なものだった。しかしNetflixは「(グレイウハウンドの競争の囮となる)檻から飛び出したウサギなみの猛スピードで規模を拡大した」という。 皆がどれほどポッドキャストを聞くようになるかかは別として、新型コロナウイルスの脅威が続く間は家にこもっていなければならない以上、サブスクリプションサービスが伸びることは間違いない。
  • 広告はまだら模様:広告ビジネスが大打撃を受けたことは周知だが、テクノロジー系の広告ビジネスはそこそこ持ちこたえている。Facebook(フェイスブック)はいつものとおりアナリストの予測を蹴散らし、株価を10%以上アップさせた。四半期決算で投資家に「4月は3月よりさらに好成績」だと言っている。ただしQ2では新型コロナウイルスのパンデミックの影響が出るかもしれない。Snapも急成長を続けており、収入は5割アップしたが、株価はわずかにダウンした。株価がアップしなかった原因はなかなか黒字化が達成できないためだろう。 売上の伸びに比べて、コスト構造にはかなり問題がある。大手SNSの中ではTwitter(ツイッター)はバスに乗り遅れて苦闘中だ。月間アクティブユーザーは1億6600万アカウントと新記録を達成したものの財務では再び赤字に転落した。同社は3月に続いて4月も新型コロナウイルスの影響を受けるとしている。Alphabet(アルファベット)はGoogle(グーグル)の好調により、パンデミックをものともせず収入をアップさせた。1株あたり利益がアナリスト予想に届かなったことを嫌ってわずかに売られたが、株価はその後戻している。

なにかと話題を提供しているTeslaだが、CEOのElon Musk(イーロン・マスク)氏は「株価など知ったことか」と言っていたこともあり、今回は取り上げなかった。Apple(アップル)についてもちょっと触れただで中身のある話はしていない。

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

SaaSアプリケーションとAWSサービスをデータフローで統合するAmazon AppFlowがローンチ

AWSが今日(米国時間4/22)、Amazon AppFlowローンチした。それはAWSとGoogle AnalyticsやMarketo、Salesforce、ServiceNow、Slack、Snowflake、ZendeskなどなどSaaSアプリケーションとの間の、データの移送を容易にするサービスだ。同様のサービスとしてMicrosoft AzureのPower Automateなどがあり、いずれも何らかのイベントをトリガーとして、一定の時間に、またはオンデマンドでデータの伝送を開始する。

しかし競合製品とやや違ってAWSはこのサービスを、ワークフローを自動化する方法としてよりもむしろ、データ伝送サービスと位置づけている。そしてデータフローは双方向が可能だが、AWSの発表は主に、SaaSアプリケーションからそのほかのAWSサービスにデータを送ってさらに分析する、という使い方にフォーカスしている。そのためにAppFlowには、伝送時にデータを変換するさまざまなツールがある。

AWSの主席アドボケイト(advocate, 製品推奨係)Martin Beeby氏が、今日の発表で次のように述べている: 「デベロッパーはSaaSアプリケーションとAWSのサービスの間でデータを受け渡して分析するために、大量の時間を費やして両者の統合のためのコードを書いている。それはとても高くつく仕事であり、数か月かかることもある。データの要求が変われば、そうやって書いた統合に、さらに高くつく複雑な変更を加えなければならない。技術的リソースが十分にない企業は、アプリケーションのデータを手作業でインポートしエクスポートしているかもしれない。それもまた時間がかかるし、データ遺漏のリスクがあり、人的エラーも入り込む」。

データのフローは、ソースのアプリケーションを呼び出してデスティネーションのAWSサービスに送る場合、AppFlowの料金体系では1フローにつき0.001ドルだ。しかし通常のAWSの使い方では、データ処理のコストもある。それは、1GBあたり0.02ドルからだ。

AWSの副社長Kurt Kufeld氏は次のように言う: 「弊社の顧客は、データの保存や処理や分析はAWSでやりたい、と言う。彼らはまた、サードパーティのさまざまなSaaSアプリケーションも使っていて、AWSとそれらのアプリケーション間のデータフローを管理するのが難しい、とも言っている。Amazon AppFlowは、AWSとSaaSアプリケーションのデータを、オープンで公共的ネットワークであるインターネット上で移動せずに、直感的なわかりやすいやり方で結びつける。Amazon AppFlowを使えば、企業のすべてのアプリケーションに散在する数ペタバイト、ときには数エクサバイトものデータをAWSに持ち込むことができ、しかもそのためにカスタムのコネクターを開発したり、APIとネットワークの接続性を管理する必要もない」。

サポートされているサービスはまだ比較的少なく、ソースが14、デスティネーションが4(Amazon RedshiftとS3、Salesforce、Snowflake)だ。デスティネーションとして、AmazonのストレージサービスS3しかサポートされていないソースもある。

もちろん、統合の数は今後増えるだろうが、今のところはサポートされるサービスがもっと多くなることを、AppFlowのチームの努力に期待したい。

AWSは長年、この市場を競合他社に譲ってきたが、しかしそれでも、AWSの複数のサービス間のサーバーレスのワークフローを作るツールAWS Step Functionsや、複数のアプリケーションをこれもサーバーレスで接続するEventBridgeなどがある。サポートされているサードパーティのソースは、今のところEventBridgeの方が多い。でも名前にEventがあるように、これはAWSでイベントをトリガーすることが主で、アプリケーション間のデータ伝送がメインではない。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

新型コロナが我々をデジタルの未来へ駆り立てた

Bruce Springsteen(ブルース・スプリングスティーン)は「Livin’ In The Future」の中でこう歌った。「We’re living in the future and none of this has happened yet(僕たちは未来に生きている。こんなことはまだ何も起きていない)」。世界は我々の目の前で変化しているようだ。新型コロナウイルスは我々みんなを家に閉じ込め、企業のやり方を一夜にして変えさせた。

BoxのCEOのAaron Levie(アーロン・レヴィ)氏がTwitterで最近指摘したように、我々はかつて目撃したことのないレベルのデジタルな創造性を、今まさに目にしている。人々はつながりを失わず、我々を引き離しているウイルスに対峙する方法を探している。

レヴィ氏は最近このようにツイートした。「我々が現在見ている創意工夫は驚くほどすばらしい。Airbnbはバーチャル体験を提供し、Chefsはライブの料理教室を実施している。過越の祭はビデオ会議になった。ドライブイン形式のイースターも教会もストリーミングに移行している」。

2月以降の変化を考えてみよう。たった2カ月前の2月だ! 小学校から大学院までの学校が、膨大な数の児童・生徒・学生のためにオンラインにシフトした。メールも使っていなかった教授が急にZoomで教え始めた。

企業はオフィス中心のワークフローから、ビデオ会議そしてSlackやMicrosoft Teams、Google ハングアウトといったクラウドのコラボレーションツールを中心としたワークフローへ移行した。

毎年恒例のカンファレンスが、ラスベガスの派手で華やかなステージからエグゼクティブの自宅へと変更された。契約し、何カ月もかけて準備していたにもかかわらず、企業は急転直下で方針を変えた。そうするしかなかったからだ。選択肢は他にない。

休暇、誕生日、葬儀、記念日、そのほか人生のさまざまな場面に一緒にいられない家族が、突然FaceTimeやZoomで集まり、現在の状況でできる唯一の方法で支え合い、祝い、悼んでいる。デジタルコンテクストの中で。

このような出来事を我々はたくさん目にしている。驚くべきは、シームレスに計画やトレーニングに何年もかけることなく、こうなっているということだ。我々はシンプルにこの新しいデジタルの現実を受け入れている。そうするしかないから。

我々はSaaSのツールとクラウドインフラストラクチャの見事なレジリエンス(回復力、復元力)を活用して、デジタルの世界のパワーを証明している。しかし人間の精神のパワーも見てとれる。今、我々はすばらしい出来事を世界中で目撃している。ちょっと立ち止まって、感謝しよう。おそろしく困難な状況の中、こうしたあらゆるテクノロジーのおかげで我々の経済、教育、感情が維持されていることを、少しの間考えよう。

新型コロナウイルスは、我々をまとめてデジタルの未来へと駆り立てた。それはいつか起きることではなく、今、起きている。企業も人々も、90日という短い期間でデジタルトランスフォーメーションを推し進めた。このクレイジーな状況でポジティブなことを1つ見つけるとしたら、我々はこのデジタルの世界を受け入れ、もう決して後戻りはしないということだ。

画像クレジット:Chris Williams Black Box / Getty Images

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(翻訳:Kaori Koyama)

急反発翌日の米国株は高値で寄り付くも終値は微減

米国時間4月7日の米国株式市場は、値を下げて1日を終えた。主要インデックスは乱高下の後、下げ気味で引けた。4月6日月曜日の反発に続き、急上昇で明けた1日も終わってみれば利益は消えていた。何とも複雑な動きの一日だった。テック株重視のNasdaq Composite(ナスダック総合指数)は、3%以上の上昇を見せたこともあったが、終値は0.33%のマイナスだった。

昨今の株価の動きの正しい理由を予想することはほとんど無意味だ。しかし、今日の消えた利益の理由は少なくとも部分的には説明できる。おそらく史上最多となる新型コロナウイルス(COVID-19)による死亡者数だ。ある集計によると、本稿執筆時の死亡者数は1690名を数え、感染者の多い未報告の州がまだいくつか残っている。

今日の株式市場の数字は以下の通りだ。

  • ダウ平均株価:-26.13ドル、-0.12%
  • S&P 500:-4.27ポイント、-0.116%
  • ナスダック総合指数:-25.98ポイント、-0.33%

SaaSおよびクラウド関連株は急落し、この日ベッセマー・クラウドインデックスは1.88%下がった。石油株も下落し、WTI原油は執筆時点で7%以上値下がりしている。

あまりの変動ぶりに圧倒されている人のために、主要インデックスの最近の変化を示しておこう。

  • ダウ平均株価の直近52週高値との比較: -23.4%
  • S&P 500の直近52週高値との比較: -21.63%
  • ナスダック総合指数の直近52週高値との比較: -19.83%

付け加えると、ベッセマー・クラウドインデックスは直近の高値と比較して-24.09%だ。つまり、どこもかしこも下げ相場の領域にいるということだ。月曜日の急騰にもかかわらず。確定拠出年金(401k)を積み立てている人にとっては良いニュースとはいえないが、先週金曜日の方がもっと悪かった。

関連記事:How SaaS startups should plan for a turbulent Q2

今日は市場が上昇を試みたが失敗した。明日の新型コロナのデータが何を我々に見せてくれるのかを待とう。再び市場を押し上げてくれるかもしれない。

画像クレジット:Pixabay /under a CC0 license.

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

不況を生き延びたいならプラットフォームフォーマーを目指せ!

世界で最も成功している企業たちを眺めてみると、それらは皆1つの単純なサービスではない。その代わりに、彼らは様々なサービスを持つプラットフォームを提供しており、外部のパートナーや開発者が、それに接続して、提供されているベース機能を拡張できるようにしている。

プラットフォームを目指すことと、実際にプラットフォームの構築に成功することは同じではない。すべてのスタートアップは、おそらく最終的にはプラットフォームとして振る舞いたいと思っているだろうが、実際それを実現することは困難だ。しかし、もしあなたが成功して、提供する一連のサービスが誰かのビジネスワークフローの不可欠な一部となったとしたら、あなたの会社は、最も楽観的な創業者でさえも想像できなかったほどに大きくなり、成功する可能性がある。

Microsoft(マイクロソフト)、Oracle(オラクル)、Facebook(フェイスブック)、Google(グーグル)、そして Amazon(アマゾン)を見て欲しい。どれもみな、リッチで複雑なサービスプラットフォームを提供している。それらはみな、例えサードパーティが宣伝のためにその会社の人気を利用するにしても、サードパーティがプラグインしてプラットフォームのサービスを使う方法を提供する。

The Business of Platforms』(プラットフォームのビジネス)という本を書いたMichael A. Cusumano(マイケル・A・クスマノ)氏、David B. Yoffie(デビッド・B・ヨフィー)氏、そしてAnnabelle Gawer(アナベル・ガワー)氏たちは、MIT Sloan Reviewに「The Future of Platforms(プラットフォームの未来)」という記事を書いた。その中で彼らは単にプラットフォームになるだけではスタートアップの成功は約束されていないと述べている。

「すべての企業と同様に、プラットフォームは最終的に競合他社よりも優れたパフォーマンスを発揮する必要があるためです。さらに、プラットフォームを長期的に存続させるには、政治的および社会的にタフである必要があります。そうでない場合には、プラットフォームは政府の規制や社会的反対運動、および発生する可能性のある大規模な債務によって押しつぶされるリスクがあるのです」と彼らは記している。

つまり、成功するプラットフォームを構築するのは安上がりでも簡単でもないが、成功したときに得られる報酬は莫大だということだ。クスマノ、ヨフィそしてガワーらは彼らの研究が次のことを見出したと指摘している。「……プラットフォーム企業は、(成功した非プラットフォーム企業の)半分の従業員数で同じ売上を達成しています。さらに従来の競合相手よりも、プラットフォーム企業の利益率は2倍、成長速度も2倍そして2倍以上の価値を達成しています」。

企業の観点から、Salesforceのような企業を見てみよう。同社は(特に初期の段階の)比較的少数のエンジニアチームでは、顧客の要求に応じたすべてのサービスを構築することが不可能であることを、ずっと以前から知っていた。

最終的にSalesforceはAPIを開発し、次に一連の開発ツール全体を開発し、API上に構築されるアドオンを共有するための市場を開設した。FinancialForce、VlocityそしてVeevaのような、Salesforceが提供するサービス上で企業全体を構築するスタートアップも存在している。

2014年にBoxWorksのベンチャーキャピタリストのパネルディスカッションで講演した、Scale Venture PartnersのパートナーであるRory O’Driscoll(ロリー・オドリスコル)氏は、多くのスタートアップがプラットフォームを目指しているが、それは傍目で見るよりも難しいと語っている。「狙ってプラットフォームを作れるわけではありません。サードパーティの開発者が関与してくるのは、十分なユーザー数を獲得した場合のみです。そのためには何か他のことをしなければならず、それからプラットフォームになる必要があるのです。プラットフォームとして最初から完成形で登場できるわけではありません」と彼はそのときに語っている。

もし深刻な経済危機の最中にそのような会社を設立する方法を考えているなら、Microsoftが不況の真っ只中である1975年に立ち上げられたことを考えて欲しい。GoogleとSalesforceはどちらも、ドットコムクラッシュの直前の1990年代後半に起業し、Facebookは2008年の大不況の4年前となる2008年に開始した。すべてが途方もなく成功した企業になった。

こうした成功には多くの場合、莫大な支出と販売とマーケティングへの取り組みが必要だが、成功した場合の見返りは莫大なものだ。成功への道が簡単であることを期待してはいけない。

関連記事:How Salesforce paved the way for the SaaS platform approach(未訳)

画像クレジット:Jon Feingersh Photography Inc/Getty Images

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(翻訳:sako)

SaaSやサブスク事業者の業務効率化と収益最大化をサポートするアルプが3.15億円調達

近年、さまざまな業界に「サブスクリプション」の波が押し寄せている。

SaaS型のプロダクトが増えてきたソフトウェア産業や月額定額サービスが浸透しつつあるエンタメ産業はもちろん、自動車や製造業など歴史ある業界も例外ではない。トヨタの「KINTO」などはこの時代の変化を示す事例の1つであり、売り切り型のビジネスモデルを採用していた企業からも、サブスク型のサービスが生まれてきている。

本日3月23日に3.15億円の資金調達を発表したアルプは、そんなサブスク事業者の“業務効率化と収益最大化”を実現しようとしているスタートアップだ。昨年10月にリリースした「Scalebase」を通じて、契約管理や請求管理などサブスクにまつわる業務を一元管理できる仕組みを提供し、担当者を複雑なオペレーションから解放する。

今回の資金調達はScalebaseのさらなる拡大に向けて、エンジニアやカスタマーサクセスを中心に人材採用を加速させることが主な目的。DNX Ventures、 電通ベンチャーズ、ANRI、PKSHA SPARX アルゴリズムファンドから出資を受けた。

なおアルプは2019年3月にもANRI、PKSHA SPARX アルゴリズムファンド、DNX Ventures、千葉功太郎氏、片桐孝憲氏から1.5億円を調達済みで、今回はそれに続くプレシリーズAラウンドでの資金調達となる。

サブスク事業における複雑な契約請求管理業務をシンプルに

Scalebaseはプライシング、商品管理、顧客管理、契約管理、請求書の発行・送付、クレジットカード決済・口座振替などの決済、各種データ分析、前受金管理、仕訳登録など“サブスク事業で必要となる複雑な業務”を一元管理・自動化するSaaS型のプロダクトだ。

たとえばSaaS事業者の契約請求管理業務を例に考えてみよう。多くのSaaSでは複数の料金プランが設けられていて、プロダクトの進化とともにさらに新たなプランが加わったり、料金が値上げされたりすることも珍しくない。

その結果、サイト上では3つの料金プランしかないように見えても裏側の契約管理や請求管理の工程では十数パターンが存在する、といったことが起こる。さらに「ある顧客はディスカウントの対象で一定期間は特別料金」「別の顧客は年間契約で1年分を前受けしている」など、契約単位で細かい料金モデルや請求サイクルが異なる場合もある。

サブスク型のビジネスにおいては事業が成長して顧客との接点が増えるほど、このように顧客の契約形態も多様化し、それに伴うオペレーションも複雑になりがちだ。裏を返せば、事業の急拡大に耐えうるほどのオペレーション体制が構築できていなければ、それが成長を止める足かせにもなってしまう。

だからこそアルプでは「SaaSやサブスクビジネスにおいて収益成長と業務効率化は表裏一体の関係」と考えていて、一連の業務をシンプルにすることの価値も大きいという。

サブスク事業における複雑な契約請求管理業務をシンプルに

ではScalebaseを使うと何が変わるのか。まずサブスク事業の成長を加速させるためのアップセルやクロスセルのオペレーションが円滑に進むようになる。

簡単な画面操作で価格変更や新規オプションなどの商品設計を調整でき、割引キャンペーンや無料トライアルなども柔軟に設定可能。プランのアップグレードも「契約のバージョン管理」によってシンプルに実現される。

商品金額や請求タイミングは契約単位で細かくカスタマイズができ、請求データに関しても自動で料金計算が行われ、データを生成。「マネーフォワード クラウド請求書」など請求発行サービスとAPI連携をしておけば、請求書データの郵送やメール通知も請求日に合わせて自動化される。担当者が毎月契約内容や請求金額を確認して1件1件請求する手間も不要だ。

請求発行サービスに限らず、CRMや電子契約、決済、会計ソフトなど国内外のSaaSと広く連携しているのもポイント。2月にリリースされた「Scalebase Connect for Salesforce」を使えばリアルタイムにサービス間でデータを同期でき入力の手間を最小限に抑えられるほか、クラウドサインや請求発行サービス、会計ソフトなども連携することで、見積作成から契約締結、請求・入金管理までのプロセスが圧倒的になめらかになる。

Scalebaseには必然的にサブスク事業で重要な情報や細かい支払いステータスが蓄積されていくため、リアルタイムでMRRや解約率といった指標をチェックしたり、分析したりする際にも効果的だ。

「プランを複数設定したり、価格を上げていくこと自体はScalebaseがなくてもできるが、自分たちはそれをいかにやりやすくするかを追求している。価格変更や関連する管理業務が簡単になれば、実験的な取り組みもしやすい。オペレーションの摩擦係数を限りなくゼロに近づけることで、企業がポテンシャルを最大限発揮し、収益を最大化する支援をしていきたい」(アルプ代表取締役の伊藤浩樹氏)

150社以上の事業者にヒアリングしてわかったこと

顧客管理についてはSalesforceなどのCMSによって効率化が進む一方、契約管理や請求管理については今でもエクセルやスプレッドシートを用いて対応している企業が多く改善の余地が残されているようだ。

アルプが150社以上のサブスク事業者にヒアリングを実施したところ、これらの業務に関しては6割以上の企業が課題を感じていることがわかったという。

「事業者の1番のペインとなっているのが契約管理と請求管理。特にSaaS企業では売上を伸ばすためにどんどんプロダクトを変えてプランを改定したり、キャンペーンなど多様な売り方をしたりすることでバックオフィスのオペレーションが複雑化する。その結果『請求書が送れていなかった』『間違った内容で送ってしまった』といったことが多くの企業で発生してしまっている」

「Scalebaseはそのような課題を契約データと請求データを正しく持つことで解決していくだけでなく、オペレーションを最適化することで、今後もバックオフィスを気にせずプロダクトをアップデートできる基盤を提供する」(アルプ共同創業者で取締役の山下鎮寛氏)

この領域のプレイヤーとしては米国発のZuoraが特に有名だ。山下氏によると機能面では近しい部分も多いと言うが、Scalebaseでは日本発のプロダクトとして代理店管理や前受金管理など“日本の商習慣”に合わせた機能を複数搭載。導入して終わりではなくハイタッチなサポートが求められる領域のため、業務整理なども含めてカスタマーサクセス体制にも力を入れてきた。

またプライシングも異なる。Scalebaseは国内ではまだエンタープライズのSaaS事業者が少ないこともあり、中堅規模の企業でも導入しやすいように月額15万円から提供。MRRが1000万円以下のスタートアップ向けには、月額固定料金ではなく完全従量料金で提供するプランも用意した。

みんなが同じ課題を持っているならSaaS化する価値は大きい

アルプは2018年8月にIT業界出身の3人が共同で創業したスタートアップだ。

代表の伊藤氏はモルガンスタンレー、ボストンコンサルティンググループを経てピクシブに入社し、同社では代表取締役社長兼CEOも務めた人物。取締役の山下氏はヤフーを経てジョインしたピクシブでサブスクサービスのPMやビジネス開発統括を経験、もう1人の取締役である竹尾正馬氏も前職のサイバーエージェント時代に子会社で動画広告配信事業の開発責任者などを担った。

3人で事業ドメインを模索した際、最終的にScalebaseに行き着くきっかけの1つとなったのが、伊藤氏や山下氏がピクシブ時代にサブスク型のプレミアムプランに携わった際に感じた課題だ。

「決済手段やプランを増やすだけでも、エンジニアの工数が数人月かかり負担が大きかった。日本のC向けのサブスクを見渡してもNetflixやAdobeのようなレベルで決済周りをやれている会社はほとんどいない。誰もやれていなくて、みんなが同じような課題感を抱えているのなら、その解決手段をSaaSとして提供できれば価値があるのではと考えた」(山下氏)

また伊藤氏はピクシブ時代にさくらインターネットと共同で法人向けの画像変換SaaSを運営していた経験もあり、その際にも「コアでない業務はどんどんSaaS化できてしかるべきだと感じた」という。

「Scalebaseでは決済基盤や請求基盤を提供しているが、顧客としては本来サービス側のコアな部分により多くの人の力を投資したいと思っている。だからこそ基盤の部分はSaaS化のニーズもチャンスも大きい」(伊藤氏)

創業から最初の半年はほぼコードを書かず、約100社へのヒアリングに時間を投じた。その結果、当初はC向けの事業者を主なターゲットに考えていたが、実はSaaSなどB2B事業者の方がより大きな課題を抱えていることを発見。どちらにも対応はしているが、プロダクトに対しても今のところSaaS事業者の方がより反応がいいという。

今後は調達した資金を活用しながら組織体制を強化した上で、Scalebaseの機能拡充を進める。他社サービスとのAPI連携に引き続き取り組みつつも、Scalebase側でできることも順次増やしていく計画だ。

市場の荒れ模様は続いているが株価水準は回復、SaaSが遅れる

トランプ大統領の「今年中は給与税をゼロにする」という大盤振る舞いの約束はビジネスにバラ色の楽観的なメガネをかけさせる効果があったようだ。

米国の株式市場は売り一色の惨状から一転して回復基調となった。主要インデックスは引けにかけて軒並み上昇した。昨日の下落を帳消しにするほどの値上がりではなかったが、右肩上がりに慣れていた市場にとっては正常への復帰に近かった。

値動きが平常なときであれば驚くべき上げ幅だが、今日はダウ平均が4.89%、1167.1ドルもアップし、S&P 500は4.94%(135.7ドル)、Nasdaqは4.95%(393.6ドル)とそれぞれ上げた。

ところがBessemer-NasdaqのCloud Indexによると、SaaS・クラウド株は3.1%しか戻していなかった。つまりNasdaq全般のアップに遅れを取っている。SaaS、クラウド関連株の昨日の下落(率)が他カテゴリーよりもよりも大きかったうえに、回復も遅れている。 SaaS・クラウド株はここしばらく新しいソフトウェア企業の代表として株式市場でリーダーを務めてきたが、ここにきて株価の調整が入っているかもしれない。SaaS・クラウドプレミアムは低下する可能性がある。

しかし乱高下は広い範囲で続いており、bitcoinは底を打ち、石油も急上昇した。それでも株式市場は高値までは回復していない。ダウは15%安で、今日回復する前に52週の安値を付けている。 S&Pも最近付けた52週の高値と比べて15%以上ダウンしている。Nasdaqはこれよりわずかに大きくダウンし52週の高値から15.2%安だ。

急落を完全に回復するには本日ぐらいの値上がりがさらに数回必要だ。しかも頭上には次のような暗雲が垂れ込めている。ニューヨーク州ニューロシェルに新型コロナウィルスのために検疫隔離施設が設置された。石油、天然ガス企業の債務はひどいものだ。また政府の救済策も具体性を欠いている。

米国時間3月11日の取引では乱高下が収まり、TechCrunchでも我々(WellcomとShieber)が速報を出すのを止めることができるようになることを期待したい。

ちなみにApple(アップル)とMicrosoft(マイクロソフト)はそれぞれ1兆ドル企業だ。そのためこの大混乱の中でもテクノロジー株は全体としてはほとんど損失を被っていない。ともあれNasdaqは対前年では12.6%上っている。

画像:monsitj / Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

SaaS株も8%安で弱気領域に近づいたが、まだパニックには及ばない

株式市場は内外ともさんざんだったという記事を先ほど書いたところだ。新型コロナウイルス、COVID-19の脅威が続く中で原油安というダブルパンチを受けて米国の主要経済指標はすべてダウンした。しかしテクノロジー系企業に強いNasdaqの下げ幅は最小で、7.29%下げの7950.68ドルにとどまった。

ただ留意すべきポイントがある。テクノロジー業界は全体としては他の米国の株式指標ほど下落しなかったが、肝心の部分、つまりSaaSおよびクラウド企業の株価の下げ率はダウ平均やS&P 500を上回った(Bessemer-Nasdaq指数)。

実際、クラウド企業をバスケットにしたBVP Nasdaq Emerging Cloud指数は8.28%下げの1134.51ドルで引けた。これは2019年10月の水準に戻ったことを意味する。 バスケットの揺れを考えても、この指数は過去52週の安値をわずか7%上回るに過ぎず高値から21%も下げている(Financial Timesによる過去52週のデータ)。

伝統的基準でいうと、弱気相場と分類するためには最近の高値から20%下落していなければならない。SaaSとクラウドの株はまだここまで達していないが「調整(correction)」の局面には入っている(最近の高値からの10%の下げを「調整」という)。他の主要な指数は弱気相場をわずかに上回っているが、明日、3月10日にはほぼ間違いなく弱気相場になっているだろう。残念ながらここに落ち込んだのはSaaSが最初だ。

ただし(まだ)慌てる必要はない

SaaS株の値動きが警戒すべき領域に近づいたのはわずか3日前だ。私の記事(Extra Crunch)にはTwitterでかなりの反発があった。SaaSの成功に賭けている投資家には私がこのカテゴリー自体をディスっているように感じられたようだ。実際はその反対で、SaaS企業の株価は依然として十分に高い。投資家が他業種の株以上にSaaS株を売るということも考えられない。

このカテゴリーの企業が史上最高値をつけたのは2月中旬頃、わずか数週間前だが、今はSaaS株の見通しに対して、(少なくとも)短期的な楽観主義は減じた。しかし、今日の暴落は広範囲に及んだものの、株価売上高倍率(PS Ratio)を見ると、さほど悪くなってはいない。たとえば、

  • Atlassianは7.87%下げたが、株価売上高倍率は23倍もある(YChartsによる)。
  • Slackは6.13%下げたが、株価売上高倍率は21.24倍だ(これもYCharts)。

だからといって、SaaS企業が今日受けた打撃がなくなるわけではない。多くのSaaSスタートアップは、このカテゴリーのリーダー企業の株価が下がったことを見て深刻な痛みを感じたに違いない。しかしSaaSのトップ企業の運営は順調であり、その地位がゆらぐ気配はない。カテゴリー全体を見渡しても株価は十分高い水準にある。なるほど調整が入ったことは確かだが、今のところそれだけだ。もちろん今日のような下げが何度も続くようなことになれば心配し始めねばならない。

画像:Getty Images

【Japan編集部追記】YChartのPS比では、IBMは1.381、Oracleは3.986、Microsoftは8.634となっている。

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滑川海彦@Facebook

Cobalt.ioの「侵入テスト」は問題発見とデベロッパー対応を直結させる

Cobalt.ioは企業がもっと正しいやり方で「侵入テスト」を行ってもらいたい、と願っている。侵入テストとは、アプリケーションを実際に稼働させる前にその脆弱性をテストする工程だ。侵入テストを提供しているCobalt.ioが、このたびプラットフォームをさらに強化した。

Cobalt.ioのCEOであるJacob Hansen(ジェイコブ・ハンセン)氏によると、従来の侵入テストは時間も費用もかかる作業で、最後にテスターが見つけた問題点をリストアップしたPDFを納めて終わる。彼と共同創業者たちが2013年に同社を立ち上げたときは、その工程全体をデジタル化したいと考えた。

「そう考えて作ったものは2つだ。まず、有能で実績のあるテスターのマーケットプレイス。そのマーケットプレイスにいるフリーランスのセキュリティテスターはすべて我々の試験に合格しており、彼らを弊社の被雇用者のようなかたちで顧客企業に派遣する。そしてテストのスケジュールと管理をするソフトウェアも制作した」とハンセン氏は語る。

彼によると、この侵入テストという工程におけるボトルネックの1つは、テストの基本的なパラメータの理解など、最初の段階が難しいことだ。これはたくさんのメールや電話で行われる。そこでCobaltはスタートアップウィザードを構築して、最初の段階を楽にした。

ハンセン氏は「それは、侵入テストの計画のためのTurbo Taxみたいなものだ。テストのための要件収集とセットアップを高速化、合理化するところが似ている。テスターと顧客の両方にとって便利だ」と説明する 。

テストがスタートすると、問題点のリストを顧客に渡すのではなく、問題点をデベロッパーに直送して彼らの開発環境に統合する。例えばテスターが問題を発見すると、自動的にフラグが付き、Jiraに送られてデベロッパーはほぼリアルタイムで必要な修正などを行う。

「この点が、従来の侵入テストサービスとの重要な違いだ。我々はサービスのプラットフォームとしてモダンな侵入テストを構築した。それはリアルタイムで統合可能であり、優れたワークフローでもある」と彼は語る。

また料金も、従来のように個々のテストに課金するのではなく、顧客は一定の前金をCobaltに払っておき、対応が必要な問題が起きればそこから適宜料金を支払うする。顧客には、コストの確実性と可用性を事前に認識させることができる。もちろんCobaltは、サービスが実際に利用される前に支払いを受けることができる。

Cobalt.ioは2013年に創業され、本社はサンフランシスコ、オフィスはボストンとベルリンにある。顧客は500社、2019年はテストを1000回行い、レポートを提供した。2020年はその3倍にしたい、と彼らは願っている。Crunchbaseのデータによると、同社はこれまで800万ドル(約8億4000万円)を調達している。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

米株式市場で初のサーキットブレーカー発動、S&P 500が7%安で自動的に15分間取引停止

世界では新型コロナウイルスへの懸念が引き起こした混乱が続いている。

3月9日朝、米国の株式市場ではS&P 500の下落が7%に達したために、いわゆる「サーキットブレーカー」が落ちた。これは市場の混乱を避けるために組み込まれた自動的な取引停止システムだが、実際に作動したのは今回が初めてだ。

寄り付きから市況は売り一色だった。取引開始後数秒でダウは872.42ドル(S&P 500はNasdaqは90.16ドル(6.96%)下げて1205.58ドルとなった。

S&Pがさらに下落して7%に届いためシステムは自動的に15分間取引を停止した。S&P指数でサーキットブレーカーを落とす場合、7%の下落で15分間の停止、13%でさらに15分間延長、20%で終日停止となる。取引開始の鐘がなって30分後にはダウは6%割り込んで1571.87ドルとなった。

ニューヨークの株式市場で史上初めてサーキットブレーカーが作動し、15分間取引が停止された。これは(S&P 500指数の)下落が7%に達したため。次は13%下落、その次は20%(でサーキットブレーカーは落ちる)。

世界の市場では、日本市場が約5%、中国(上海総合指数)が3%、オーストラリアが7%以上、韓国が4%を超えて下落した。英国ではロンドン市場とFTSE Russelが7%を超えて下落している。

他の経済指標の低下もひどいものだ。原油価格もダウンしているし、米国国債利回りは最低を記録している。暗号通貨でさえ今日は大幅安だ。bitcoinは8000ドルを下回っており、他の暗号通貨の価値も下がっている。

スタートアップに影響が及ぶまでにはまだ少し時間がかかるだろう。しかし、あらゆる企業の価値が低下する場合、関連するスタートアップ、それどころか競合するスタートアップの価値さえ低下せざるを得ない。2019年にきわめて楽観的な展望による会社評価額で巨額の資金を調達したスタートアップにとって、評価額が低下すれば大惨事だ。

また、ベンチャーキャピタルと未公開株式に対する最大の資金の出し手に対する影響も考えねばならない。原油価格の大幅ダウンはオイルダラーを原資にして投資ファンドに巨額の資金をつぎ込むことを困難にする。オリガルヒと呼ばれるロシアの新興財閥や中東の王族からの出資はすでに保留にされている可能性がある。そうであればSoftBankのVision Fund 2成立の可能性をさらに狭めるものだ。

過去数年、ミレニアル世代ために豪華なレストランや郊外のゴルフコースなど金のかかる産業が軒並み苦境にあるとジョーク混じりで報告されている。ベビーブーム世代は国債と金持ち階級を強化し、大きな犠牲を払って戦争をした挙げ句、株式を暴落させているのではないか。どっちもどっちだ。

ともかく市場の現場はこのとおりだ。SaaS株でさえ寄り付きで4.84%安だった。

画像:Mario Tama / Getty Images News

【Japan編集部追記】S&P500は7.60%安(2746.56ドル)で引けている。アメリカYahooのS&P 500

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滑川海彦@Facebook

新型コロナの影響で波乱に満ちた株式市場は広い分野で記録的回復

さて株式市場はどうなっただろう?

新型コロナウイルス、COVID-19の感染者が米国で増加していることを懸念して先週の市場は全面安となった。しかし米国時間3月2日の月曜日になると、外国企業を含め米国で上場している企業の株価は回復し、記録的な利益をもたらしている。

先週、新型コロナウイルスの感染によって国際的な経済の減速に対する懸念が高まり、世界的に株価は暴落した。週末も新型コロナ関連のニュースは流れ続け、感染者、死亡者が増え続けていることが報じられた。

しかし週が明けると米国の投資家のマインドは熊(弱気)から雄牛(強気)に変わり、買いが入り始めた。記録的な下げは、記録的な上げとなった。3月2日の市場では、

  • ダウは1293ドル(約13万9605円)、5%強アップ
  • S&P 500は136ドル(約1万4684円)、4.6%アップ
  • テクノロジー系株が多いNasdaqは385ドル(約4万1564円)、4.5%アップ

市場全般の上げ潮に乗り、Twitterは8%アップで引け「もの言う株主」がトップの交代を狙っているというニュースも流れた。

ただし、すべての企業が上げ潮に乗れたわけではない。 いささか驚きだが、ベンチャーキャピタルのBessemerがまとめているSaaS企業のインデックスの上昇はわずか1.5ポイントにとどまった。つまりその前の暴落で失った価値をほとんど取り戻していない。 この傾向が続くようだと、株価が全面的に戻しているという楽観主義をいささか修正する必要が出てくるだろう。つまり上げ潮もジャンルによるのだと考えねばならない。かつて投資家は、SaaS企業は収入と利益の双方を拡大させ続けると期待して空前の高値を出現させた。

暗号通貨関係企業さえ好調で、bitcoinに続いて4%前後アップした。

Nasdaq総合指数は、この1年の高値(史上最高値)と比べるとまだ9%前後低い。 つまりまだ回復の余地があるはずだが、実際そうなるかどうかは市場のみが知っている。ただし下げ一色は終わり、上下する値動きが戻ってきたということ間違いない。

アップデート:この間の乱高下に関連してTechchCrunchでも最近紹介したRobinhoodの運命に留意する必要がある。この無料オンラン株取引アプリは取引が殺到したためにダウンした。アプリが成功したのはよいが、サービスを稼働させ続けるために苦労しているようだ。企業価値が数十億ドル(数千億円)にも達する企業にとってダウンタイムは名誉ではないだろう。

画像:Drew Angerer / Getty Images

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滑川海彦@Facebook

「デスクを持たない」製造現場の人員のためのSaaSを提供するCioplenu

ドイツのアウグスブルクを拠点とし、製造現場の「オペレーティングシステム」と彼らが呼ぶソフトウェアを開発するスタートアップであるCioplenu(シオプレヌー)は、このほど420万ユーロ(約5億円)のシード投資を獲得した。このラウンドを主導したのはベルリンに本社を置くCherry Venturesだ。そのほか、2018年にCioplenuのプレシードを主導したミュンヘンの42Capと、3つの非常に著名なエンジェルが参加している。

そのエンジェルとは、先日シリーズB投資で6000万ドル(約65億3600万円)の獲得を発表したScoutbeeの共同創設者Fabian Heinrich(ファビアン・ハインリッシュ)氏、クアドリガ大学デジタルトランスフォーメーション学部の創立者であり教授のChristian Heinrich(クリスティアン・ハインリッシュ)氏、2013年にSAPに15億ドル(約1634億円)でイグジットを果たしたHybrisの共同創設者Moritz Zimmermann(モーリッツ・ジマーマン)氏の3名。

「デスクを持たない」作業員のためのSaaSとも呼ばれるCioplenuは、メンテナンス、新人研修、組み立て、検査など、製造現場の一連の作業をデジタル化するこを目指している。このソフトウェアはあらゆるデバイスに対応し、製造業者が導入している既存のIT製造システムと連携できる。すでに、Bosch(ボッシュ)、Schwan-Stabilo(スワン・スタビロ)、Hirschvogel(ヒルシュフォーゲル)など、10カ国以上の大企業がこれを採用している。

「典型的な製造業の作業場に行くと、10mのキャビネットに紙の計画書や資料や指示書などのファイルがぎっしり詰まっている光景を目にします」とCioplenuの共同創設者でCEOのBenjamin Brockmann(ベンジャミン・ブロックマン)氏は話す。

「今はメンテナンスや検査のほとんどがデジタルで行われていますが、組み立ての指示書は紙に印刷されています。書類の検索や配布は悪夢のような作業で、そこにはリアルタイムのコミュニケーションもなく、分析も一切行われません。そこが企業の巨大な盲点になっているのです」。

「この問題を解決するため、Cioplenuは直感的に使える製造現場のための『オペレーティングシステム』、つまりメンテナンス、検査、組み立てなどの工程にオールインワンで対応できるプラットフォームを構築しているのだ」とブロックマン氏は言う。

「私たちは、マルチメディア書類、計画書、アンケートなどが簡単に作れるエディターと、さまざまなデバイスを使い、デスクを持たない作業員のための操作ソフトウェアを提供しています」と彼は説明する。「企業資源計画を簡単に統合できるため、(製造業者は)素早くデータを収集し整理できます。同時に私たちの分析プラットフォームは、その企業の製造工程の整理を手助けします。簡単なことのようですが、企業がすぐに導入できるようにするために、例えば複雑なアクセス権の管理など、その他多くの複雑も盛り込んでいます」

Cioplenuの顧客は、工業市場の中小企業からボッシュやスタビロなどの大企業とされているが、実際に利用する人は、企業内のさまざまな部門や階層に広がっている。例えば、タブレットを手に製造フロアを歩く品質管理責任者は、そのソフトウェアを使ってデジタル化された計画書のチェックリストを埋めながら書類を作成している。

「どこかが故障すれば、品質管理責任者はその写真を撮り、説明を書き添えて記録できます。外国人の同僚と計画書を共有したいときは、自動翻訳された書類をワンクリックで送ることができます」と同社は話している。

そしてチームリーダーは、整理統合され、異常箇所がハイライトされたすべての報告を受け取る。施設管理者は、概要と、すべて計画通りに進んでいるか否かの分析結果をリアルタイムで入手できる。

「モジュラー形式のため、検査は数ある機能のほんの一部に過ぎないというところが美点です」とCioplenuのCEOは語る。「(私たちのソフトウェアは)組み立て方、機械のトラブルシューティングのやり方などなど、さまざまな従業員教育にも使えます」。

また製品の需要が非常に高いCioplenuは、フランクフルトにふたつめの事業所を開くことになったという。「新しいフランクフルト・オフィスのために、大規模な求人を実施し、社員を3倍に増やす計画です。マーケティング部門と営業部門の拡大が鍵になります」と、このスタートアップのもうひとりの共同創設者Daniel Grobe(ダニエル・グローブ)氏は話していた。

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(翻訳:金井哲夫)

チームの目標達成や事業成長を支えるOKRサービス「Resily」が5億円調達

Resilyのメンバーと投資家陣。左から3人目が代表取締役の堀江真弘氏

SaaS型のクラウドOKRサービス「Resily」を展開するResilyは2月20日、DNX Venturesとセールスフォース・ドットコムを引受先とする第三者割当増資により総額約5億円を調達したことを明らかにした。

同社では2019年2月にDNX Venturesより5000万円を調達済みで今回はそれ以来の資金調達となる。今後はプロダクトの機能拡充や顧客拡大に向け、エンジニアやカスタマーサクセスを中心に人材採用を強化していくという。

OKRを軸にチーム状態を可視化し、目標達成をサポート

Resilyは2017年8月にSansan出身の堀江真弘氏(代表取締役)らが創業したスタートアップだ。

創業から半年ほどはOKRのコンサルティングなどを通じて、いろいろなチームが目標管理や目標達成において課題に感じていることを探ってきた。そこで行き着いたのが、組織としてボトルネックにもテコにもなりえるミドルマネジメント層が抱える「チームの状態がわからない」という課題だ。

「既存のツールだけでは『チームの状態がなぜ良いのか、なぜ悪いのか』の原因が正確に把握することは難しい。チーム全体で何が起こっていて、どこにズレが生じているのか。これをシンプルに可視化して、必要な情報を流通させる仕組みが必要だと感じた」(堀江氏)

その解決策として2018年8月にローンチしたResilyは、チーム内でのOKR管理とそれにまつわるコミュニケーションをスムーズにすることで、チームの目標達成や事業成長を後押しする。

OKRマップ

マップ型のUIでチームと個人それぞれの目標(Objectives)および成果指標(Key Results)を階層に分けて可視化。会社と各部署、各メンバーの目標がそれぞれきちんと結びついているか、個人個人がどんなどんな目標を掲げていて現在どのような進捗状況なのかが一目でわかる。成果指標は問題のある箇所や達成の自信がない箇所が“信号”のように色分けされていくため、早い段階で課題を特定し対策を打ちやすい。

全体を把握した上で1つ1つのOKRについて掘り下げたい場合には「ミーティングボード」を用いる。これは各OKRごとに用意された掲示板のようなもので、目標に対するアクションやそこから得られた考えなどを蓄積していくことができる。OKRを上手く運用していくためには定期的な振り返りとアップデートが不可欠であり、それを支えるための役割とも言えるだろう。

その他マネージャー向けの機能として、各メンバーのOKRや進捗率、成果指標の変更履歴などを確認するためのダッシュボード(以前はタイムラインと呼んでいたもの)も備える。

ミーティングボード機能

ダッシュボード

事業成長を支援する「経営管理ツール」へ

Resilyではこれらの機能を月額3万円からのSaaSとして、IT系の企業を中心に累計約100社へ提供してきた。堀江氏の話では、特に上場を控えたフェーズのスタートアップや上場後のベンチャー企業をメインターゲットになるそう。導入企業の約8割はOKR未経験であり、導入や運用の伴走支援にも力を入れている。

ORKに関連するプロダクト自体は日本国内でもいくつか存在するが、人事評価の文脈でOKRを取り入れているものが多い。たとえば過去に紹介した「HRBrain」や「カオナビ」といったサービスは目標管理手法の1つとしてOKRに対応している。

一方でResilyが狙っているのは事業成長を支援する「経営管理ツール」としてのポジションだ。先月米国ではWorkBoardというスタートアップが事業を大きく成長させ、3000万ドルの資金調達に成功した。同社が手がけるプロダクトはOKR管理を軸とした経営管理ツールであり、Resilyでもこの方向性にプロダクトをアップデートさせていく方針だという。

「(WorkBoardのようなプロダクトは)経営陣や事業責任者が経営のヘルスチェックに使うツールだと捉えている。事業KPIの予実ギャップを埋めるアクションをどの部門がどのように進めているかを確認したり、注力ポイントにきちんとリソースを注げているかをチェックしたり。これはHRというよりは経営管理側のプロダクトに近く、自分たちもResilyをその方向に尖らせていきたい」(堀江氏)

そのためにはさらなる進化が必要だ。昨年の調達以降Resilyではいくつか新機能などを試したものの、なかなか仮説通りにはいかない部分もあったそう。現在もリニューアルに向けて開発に取り組んでいる。

今検証を進めているのは、データを軸にチームの課題をプロダクト側で提示する機能。今までは各メンバーが入力したKRの状況を色を使って分類していたが、今後は入力されたデータの標準偏差や平均値を用いて「今のチーム状況を踏まえると、ここに課題がありそうです」というレベルまでResilyが教えてくれる状態を目指している。

「まずは経営者がデータを基にチームの状況や課題を正しく理解した上で、ミドルマネジメントを中心に素早くメンテナンスできるような基盤を作る。その1つのアプローチとして、プロダクト側から優先的にやるべきことを教えてあげることで、スムーズに対策が進められるような仕組みを用意していきたい」(堀江氏)

SaaS 21社のIPOから得られた資本効率に関する教訓

安心してほしい、ほとんどのハイテク企業はWeWorkではない

Uber(ウーバー)とWeWork(ウィワーク)が最近盛んに取り上げられたために、メディアの注目は「ソフトウェア主体の」スタートアップの、高いコスト(ハイバーン)に集まっている。とはいえ、ここ数年のテック分野でのIPOのほとんどは、資本効率の高い「サービスとしてのソフトウェア」(SaaS)スタートアップとして行われているのだ。

SAN FRANCISCO, CA – MAY 10: Adam Neumann Founder of WeWork speaks on stage at the WeWork San Francisco Creator Awards at Palace of Fine Arts on May 10, 2018 in San Francisco, California. (Photo by Kelly Sullivan/Getty Images for the WeWork Creator Awards)

過去30か月間(2017年下半期以降)、米国拠点のVC支援SaaS企業21社がIPOを行った。その中にはZoom、Slack、そしてDatadogなど1が含まれている。私はその21社すべてを分析して、資金調達と収益創出の軌跡をたどった。なお個々の企業の軌跡はこのExtra Crunchの記事で深く掘り下げている。

以下は、そのデータセットからの要点をまとめたものだ。

1. IPOで、調達された資本総額2は、中央値の企業の年間収益予測値(ARR:annual run-rate revenue)3 をわずかに上回っていた

上に示したのは、各企業が上場した時点でのARRと、累積資本の散布図である。ほとんどの企業は、ARRと調達資金が一致することを表す対角線の近くに集まっている。調達された資本金は、しばしば線に接しているかARRよりわずかに高い。

たとえば、Zscaler1億4800万ドル(約162億円)を調達してIPO時点でのARRは1億4600万ドル(約160億円)に達していたし、Sprout Social は1億1200万ドル(約122億円)を調達して、1億600万ドル(約116億円)のARRを達成していた。

データセットとしての企業の収益の間に大きなばらつきがあることを考えると、総額を見る代わりの指標を取り入れると便利だ。なにしろARRを見たときに、SproutSocialは1億600万ドル(約116億円)、Dropboxは12億2200万ドル(約1335億円)と10倍以上の差があったのだ。ARRの倍数として表現された総資本額は、この差異を正規化する。下に示したのは、この指標による分布のヒストグラムである。

分布は約1.00倍から1.25倍に集中しており、中央値の企業はIPOの時点でARRの1.23倍の資本金を得ている。

両端に外れ値が出現している。Domoは、6億9000万ドル(約754億円)を調達して1億2800万ドル(約140億円)のARR、つまりARRの5.4倍という異常値で、これに迫る会社は存在しない。これに対してZoomとDatadogは効率的な方の外れ値だ。Zoomは1億6100万ドル(約176億円)を調達して4億2300万ドル(約462億円)のARRを達成し、Datadogは1億4800万ドル(約162億円)を調達して3億3300万ドル(約364億円)のARRを達成している。

2.キャッシュバーンは資本効率のより正確な尺度であり、調達した資本金額とは大きく異なる場合がある(会社によって異なる)

ある企業がどれくらいの資本金を調達したかは資本効率のストーリーの半分しか語っていない。なぜなら多くの企業が十分な預金残高を保有しているからだ。たとえば、PagerDutyは合計1億7400万ドル(約190億円)を調達したが、公開時には1億2800万ドル(約140億円)の現金が残されていた。また別の例として、Slackは公開前に合計13億9000万ドル(約1519億円)を調達していたが、8億4100万ドル(約919億円)の現金が残されていた。

一部のSaaS企業が、既存の株主への希薄化となるにもかかわらず、当座の現金需要を超えて資本金を過剰に調達しているように見えるのはなぜなのか?

理由の1つは、企業が日和見的であり、市場の状況が良好なときに、実際のニーズよりもはるかに早い段階で資本を調達しているからだ。

もう1つの理由は、目標を達成したいVCがより大きなラウンドを推進していることだろう。たとえば、4億ドル(約437億円)の事前評価を受けた企業が、5000万ドル(約55億円)の現金しか必要としないのにも関わらず、最終的に25%の所有権を持ちたいVCから1億ドル(約109億円)を調達する結果になる場合もある。

これらの諸要因により、調達された総資本から現金残高を差し引いて計算されるキャッシュバーン4の方が、総調達額よりも正確な資本効率指標となるのだ。以下に示したのが、ARRの倍数としての総キャッシュバーンの分布だ。

驚くべきことに、Zoomはマイナスのキャッシュバーンを達成した。つまりZoomは、調達したすべての資本金よりも多くの現金を貸借対照表に載せて公開したのだ。

IPOでの会社のキャッシュバーンの中央値はARRの0.77倍であり、ARRの1.23倍である調達された総資本よりもかなり少なかった。

3.「Rule of 40」の指標でみた最も健全なSaaS企業は、多くの場合最も資本効率が高い

Rule of 40は、SaaS企業のビジネスの健全性を評価するための一般的な経験的法則だ。それが主張しているのは、健全なSaaS企業の収益成長率と利益率の合計が40%以上になるということだ。以下に示したグラフは、21社が「Rule of 40」でどのように採点されるかを示したものである5

21社のうち、8社が40%のしきい値を超えている。Zoom(123%)、Crowdstrike(119%)、Datadog(76%)、Bill.com(56%)、Elastic(55%)、Slack(52%) 、Qualtrics(44%)、そしてSendGrid(41%)という数字になっている。

興味深いことに、キャッシュバーンで測定された資本効率の両端の外れ値は、「Rule of 40」でも同じく外れ値となっている。資本効率が最も高いZoomとDatadogは、「Rule of 40」で最高と3番目に高いスコアを獲得している。逆に、資本効率が最も低いDomoとMongoDBも、「Rule of 40」で最低スコアを獲得している。

実際に「Rule of 40」と資本効率は実際には同じコインの両面であるため、これは驚くようなことではない。企業が利益率をあまり犠牲にせずに高い成長を維持できる場合(つまり「Rule of 40」で高得点)には、同業他社と比べて当然ながら現金の消費量は少なくなる。

結論

これらすべてを、お気に入りのSaaSビジネスに当てはめるためには、いくつかの質問に答えなければならない。調達した総資本金額はARRの何倍だろう?総キャッシュバーンはARRの何倍だろうか?上記の21社と比較した場合、その会社はどの位置に入るだろう?Zoomに近いだろうか、それともDomoに近いだろうか?”Rule of 40″での評価はどのくらいだろうか?それは、その会社の資本効率の良さまたは悪さを説明するのに役立つだろうか?

この記事のドラフトをレビューしてくれたElad Gil(エラド・ギル)とDenton Xu(デントン・スー)に感謝したい。

脚注

1米国拠点のVC支援SaaS企業のみが含まれる。予定されたIPOの直前に買収されたため、公開されはしなかったが、Quatricsを含んでいる。

2IPOに先立つ機関投資を含む。創業者による個人的な資本投資は含まれていない。

3これは、年間経常収益(Annual Recurring Revenue、これもまたARRと略される)ではなく、公開会社の報告要件ではないことに注意してほしい。年間収益予測値は、四半期収益を年換算することで計算される(4倍にするということ)。SaaSの収益は主に定期的なソフトウェアサブスクリプションであるため、両者の指標はSaaSビジネスを厳密に追跡する。

4これは、創業者からの株式買戻しなど、営業とは関係のない現金の利用も含んでいるため、あくまでも単純化された定義である。

5収益成長率は、過去12か月間(LTM)の収益を、その前の12か月間の収益と比べた成長率として計算される。利益率は、非GAAP営業利益率のことで、営業利益に株式ベースの報酬費を加えたものを、過去12か月(LTM)の収益で割ったものだ。

関連記事:資本調達の適切なペースは?(未訳)

【編集部注】著者のShin Kim(シン・キム)は新しいSaaSスタートアップに取り組んでいる最中で、かつ起業家であるElad Gil(エラド・ギル)のスタッフのチーフでもある。以前は、Oak Hill Capitalと J.P. Morganに在籍し、カリフォルニア大学バークレー校でEECS(データサイエンス)の修士号を取得した。

原文へ

(翻訳:sako)

Alphabetの時価総額1兆ドルとSaaS株の記録的高値で見えるこれからのスタートアップ

先の株式市場における記事の続編として、今週は注目すべきことが2つ起きた。1つはアメリカのテクノロジー企業として三番目に大きいAlphabet(アルファベット)が、時価総額1兆ドル(約110兆円)を超えたこと。そして2つめは、2019年の夏に下がったSaaS企業の株価が記録的な高値に達したことだ。

この2つのマイルストーンの間に深い関係はないが、どちらも現在のテクノロジー企業に対する公開株式市場の無節制を表している。そしてその熱気は、非公開市場のスタートアップや、彼らを支援するベンチャーキャピタルにも伝染している。

でもそれは、いくつかの理由でテクノロジースタートアップにとって良いニュースだ。大手テクノロジー企業の懐はこれまでになく暖かく、小さな企業をいくらでも買収できる。SaaSの高値は小さなスタートアップの資金調達と、彼らの先輩たちがエグジットする追い風になる。

大手テクノロジー企業とその小さな兄弟たちが現在、享受している圧倒的な好評価は、ユニコーンが登場する絶好の条件でもある。市場でこの高値が続くかぎり、TechCrunchもこのポイントをずっと追ってみたい。テクノロジー企業の株価はもはや、いかなる月並みの表現を超えたものだ。

関連記事: How many unicorns will exit before the market turns?…この好況の間にいくつのユニコーンがエグジットするか?(未訳、有料記事)

AlphabetとMicrosoftとAppleの3社を合わせると、その時価総額は3.68兆ドル(約410兆円)になるが、株価よりも安定的な数字である売上額を使うと、SaaSの株価は3社の売上の12.3倍だ。しかし、非上場のベンチャー支援の企業は必ずしも、公開株式市場の投資家たちの財布の口のゆるさにあずかることはできない。

テクノロジーの顧客企業はどうか?

現在の公開市場におけるテクノロジー企業の時価総額の膨張は、テクノロジーを生産し提供する側ではなく、最近ますます増えている「テクノロジー利用企業(tech-enabled-startups)」の助けになるだろうか? 2019年に上場した企業の一部は、彼らの非上場時の最後の評価額またはそれ以上になった時価総額を支持する気のない投資家たちから、すぐに見捨てられた。SmileDirectClubは、そんな例のひとつだ

テクノロジー企業を評価する基準は往々にして曖昧だが、粗利率と継続性は重要だろう。粗利率が大きくて、安定的に継続している企業は価値も大きい。市場のこのような見方が、最近のSaaSの株価を当然のように押し上げている。

2020年最初のベンチャー支援のIPOとして期待されるCasperOne Medicalにとっては、テクノロジー利用企業(tech-enabled-startups、テクノロジーをベースとする企業)というイメージを維持する方が、株式市場でも有利だろう。テクノロジー企業は今、時価総額がとても大きいため、非上場と上場を隔てる川を渡るときは、テクノロジーの匂いをほんの少しでもさせていた方が株価にとって有利だ。

関連記事: One Medical’s IPO will test the value of tech-enabled startups…One MedicalのIPOでテクノロジー利用企業の評価が分かる(未訳、有料記事)

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

“根性エクセル”は不要、小売業の売上アップと在庫削減をITで支援するフルカイテンが1.7億円調達

小売企業の売上増加と在庫削減の両立を支援するSaaS「FULL KAITEN」を開発するフルカイテンは1月15日、大和企業投資、京銀リース・キャピタル、みずほキャピタルを引受先とする第三者割当増資により総額1.7億円を調達したことを明らかにした。また同社によるとみずほ銀行から融資も受けているという。

フルカイテンにとって今回は2017年5月、2018年6月に続く3回目の外部調達。投資家3社は全て前回ラウンドから(大和企業投資に関しては初回から)のフォローオン投資となる。

調達した資金は主に開発体制とカスタマーサクセス体制の強化に向けた人材採用に用いる計画。プロダクトのアップデートも実施し、さらなる事業拡大を目指す。

自社の倒産危機を救ったテクノロジーをSaaSとして提供

フルカイテンは2012年5月にハモンズという社名で始まったスタートアップだ。

しばらくはベビー服ECを主力事業として運営していたものの「不良在庫」や「仕入れ数量」の課題にぶちあたり、3度の倒産危機に直面。その都度自分たちで在庫削減機能や仕入れ最適化機能を持つ社内ツールを構築し、危機を乗り越えてきた。

現在社名にもなっている主力サービスのFULL KAITENは、この社内ツールをSaaSとして製品化したものだ(EC事業は2018年に売却)。

今まで多くの企業は「在庫を増やさない限り売り上げは伸ばせず、売り上げを拡大しようとすると不良在庫も増えてしまう」という問題を抱えてきた。要は売り上げ増加と在庫削減の両立が難しく頭を悩ませてきたわけだ。

そこに対してFULL KAITENではAIを用いた需要予測や自社で培ってきた独自のテクノロジーを通じて、在庫をそこまで増やさなくても売り上げを増やせる仕組みを提案する。一言で言うと「『手持ちの在庫を使って』もっと売り上げを増やせる」(代表取締役の瀬川直寛氏)ことが特徴だという。

同サービスは「在庫消化率を上げる」「在庫回転率を上げる」「客単価を上げる」という大きく3つの機能を持つ。まず在庫消化率を上げるための機能。これは全在庫の実力を分析した上で“危険な在庫”を可視化して、適切な削減時期や方法を教えてくれるというものだ。

SKUごとに各在庫を不良(まったく売れない)、過剰(売れ残る)、フル回転(よく売れる)に自動で分類。不良在庫や過剰在庫の増加傾向を日々ウォッチしながら「この商品は今すぐ消化しないと経営が悪化する」「早めに販促しておくと値引きしないでも済む」といった形で在庫削減すべきタイミングがわかる機能や、対象となる在庫をリスト化して削減策を作成できる機能などを備える。

2つ目の在庫回転率を上げる機能は、必要な在庫数量を自動で分析して仕入れを最適化する役割。「売り上げに貢献してくれる商品がどれか」をSKUごとにスコアリングした上で、売れ行きをAIで予測し「各商品をどれくらい追加で仕入れるべきか」を算出する。

これによって売り上げに貢献しない商品は仕入れをストップするという意思決定もできるので、余計な在庫を増やさず余った予算を他の商品の仕入れや新商品の開拓などに回すことも可能だ。

3つ目の客単価を上げる機能では各店舗ごとに「狙うべき客単価帯」を分析し、そのための販売施策を提案してくれる。この商品は単体で売るのがいいのか、それとも他の商品とセットで売るのがいいのか。またセットで売るならどの商品と組み合わせるのが効果的か。

どのくらいの単価の買い物を増やすことで売上増加に繋がりやすく、そのためには既存の在庫をどのような方法で売るのがいいのか。その施策を考えるための手助けをしてくれる機能だと言えるだろう。

「どの企業も売れ筋の人気商品で売り上げを作っている。この商品が欠品するのが嫌なので在庫を多めに保有し、次の売れ筋商品を作るために新商品の在庫を増やす。2つの方法でしか売り上げを増やせなかったので、どんどん在庫が増える構造だった。FULL KAITENではお客さんが気づいていない売れ筋の商品を発見したり、反対にセールで値引きしても売れない危険な商品も直感的にわかるようになる」(瀬川氏)

個人的に興味深かったのが、FULL KAITENでは商品の売れ行き予測にAIを活用しているものの、その精度を疑った設計になっていること。「AIを活用した需要予測は理論的には正しくても、(様々な要因が絡むため)実際の現場では思っているほど当たらない」というのが瀬川氏らの考えだ。

実際に在庫を抱える中で、どのような売り方をすれば売り上げがあがるのかといった部分は、自分たちがかつてEC事業を通じて導き出したメカニズムをフル活用しているそう。ここが同社のコアな技術(瀬川氏いわく“考え方”にも近いとのこと)であり、在庫問題解決テクノロジーとして特許出願中だという。

“根性エクセル”は不要、担当者が実行レベルに集中できる環境を

フルカイテンのメンバー。1番左が代表取締役の瀬川直寛氏

瀬川氏によると現在FULL KAITENはエンタープライズ企業を中心に約40社強が導入済みとのこと。アシックスジャパンやドーム(UNDER ARMOUR)、アーバンリサーチなどが同サービスを活用している。

2017年のリリース当初は中小企業を主な顧客として想定していたものの、蓋をあけると大手企業の問い合わせが多かったそう。そこでエンタープライズ向けにアップデートする形でバージョン2.0を2019年2月にリリースし、事業を拡大してきた。現在は価格もミニマムで月額22万円から(導入費用やオプションなど除く)と、ある程度月商が大きい事業者の利用を想定した設定になっている。

業界や規模は違っても現場のペインは共通だ。これまで担当者はエクセルを使って膨大な数の在庫をリスト化し、1つ1つ分析してきた(業界では「根性エクセル」と言うらしい)。ただ扱う商品数が数万、数十万と増えてくれば人間でやれることには限界がある。結果として最終的には担当者の経験と勘頼みになることも少なくない。

「FULL KAITENを使えばこれまで時間のかかっていた分析業務を一切やらなくて済む。ユーザーは分析結果を見て、そこからどんな販促施策を実施するのかなど、ひたすら“実行”レベルに集中できる。この点に価値を感じてもらえている」(瀬川氏)

たとえば初期のバージョンでは「導入から9ヶ月で在庫が半減し、売上は導入前の前年同月比で毎月更新した事例」や「導入後1年間で在庫数量は変化していないのに、売上は2倍に成長した事例」など具体的な成果に繋がった。余計な会議の時間が減ったり、部署間で認識を合わせるための指標になったりといった効果も出ているという。

今後は顧客の要望なども踏まえ3つの機能をさらにアップデートしていくほか、組織体制を強化しさらなる事業拡大を目指す方針。まずは国内での展開に注力するが、ゆくゆくは海外進出も見えているようだ。

「ものが生産されて、それを誰かが買う。デジタルな社会でもこの流れはこれからも続く。その工程において長年解決できていなかった在庫問題をFULL KAITENを通じて無くしていく」

「もともとは在庫問題で苦しむ人たちの役に立ちたいと思って始めたが、事業を続ける中で企業の在庫削減を実現できれば、必要以上に物を生産したり廃棄したりすることがなくなるとわかった。つまり国内外で導入企業を増やし実績を積み上げることができれば、地球の資源を守ることにも貢献できうるということ。高い視座を持ってチャレンジを続けていきたい」(瀬川氏)

導入企業1万社超え、無料から使えるEC企業向け在庫管理SaaS「ロジクラ」が1.2億円調達

ニューレボのメンバー。前列右から2人目が代表取締役の長浜佑樹氏

EC事業者向け在庫管理SaaS「ロジクラ」を開発するニューレボは1月15日、ジェネシアベンチャーズ、マネックスベンチャーズ、オリエントコーポレーション(以下オリコ)、SGインキュベートより総額1.2億円を調達したことを明らかにした。

ニューレボではこれまで2016年9月にF Ventures、2017年8月にDGインキュベーション、2017年12月にジェネシアベンチャーズから資金調達を実施。今回はそれに続くシリーズAラウンドでの調達になる。

今後はセールスやマーケティング、開発体制の強化に向けて人材採用に投資をするほか、在庫データを活用した新たな事業にも力を入れていく計画。株主のオリコと組んで金融商品の開発に取り組むほか、在庫売買のマーケットプレイスの構築や他社との連携なども進める方針だという。

フリーミアムモデルへの転換で導入企業数は1万社を突破

ニューレボが手がけるロジクラはEC事業者の在庫管理業務を効率化するSaaS型のプロダクトだ。

商品の入荷から在庫管理、受注、出荷に至るまでの工程をオンライン上で管理することが可能。バーコードラベルの発行、宅配送り状の作成、受注データを用いた納品書の作成、iPhoneのカメラ機能を用いた入出荷検品、ロケーション管理などの機能も備える。

特に商品の在庫管理や入出荷検品については、担当者が”Excel”や“紙で出力した注文リスト”を使って実施しているケースがまだまだ多いそう。その結果として単純に作業工数がかかるだけでなく、入力ミスや確認ミスによる誤出荷・送り忘れなどにも繋がり、事業者にとって大きな課題となってきた。

もちろん在庫管理システムを始めとした解決策はすでに存在するが、価格や使い勝手の面がネックになりいまだにアナログな手法を選んでいる事業者も少なくないようだ。たとえば入出荷検品にはハンディターミナルが使われることが一般的だが、一台あたり約30万円するため導入コストは安くない。

その点ロジクラではフリーミアムモデルを採用し、基本となる在庫管理や入出荷管理機能は無料で提供(拠点数やユーザー数の制限あり)。iPhoneを使ったピッキング機能は月額1.5万円のスタンダードプランからの提供にはなるが、カメラを用いてバーコードを読み取ることにより“ハンディターミナル無しで”検品作業をスムーズに実施できる仕組みを構築した。

2019年末の時点で導入企業は1万社を突破。ニューレボ代表取締役の長浜佑樹氏によると当初は有料モデルのみで展開していたが、キャッシュアウトの危機を迎えたこともあり2018年11月に思いきってフリーミアムモデルへと転換したところ、そこから一気にユーザーが増えたそうだ。

現時点では有料で使っているユーザーは1万社のうちの一部にすぎないが、ビジネスモデルを変えて以降は次第に有料化も進み売り上げが拡大してきているとのこと。以前は年商1億円未満の小規模な事業者の利用が多かったものの、現在は1億円〜10億円ほどの中堅企業にも導入が進み始め、単価も上がっているという。

昨年は受注管理システム「ネクストエンジン」やECプラットフォーム「Shopify」とのAPI連携にも力を入れ、ユーザーの使い勝手を向上させるべく機能改善を続けてきた。ユーザーからの要望に合わせて、賞味期限管理機能やロット管理機能なども新たに搭載していく予定だ。

今回の資金調達もそれらの取り組みを加速させるためのもの。開発体制を強化して機能面のアップデートを図るほか、ビジネスサイドの体制強化およびマーケティングへの投資を通じて新規ユーザーの獲得とともに有料プランのユーザー増加を目指していく。長浜氏も1万社を超える既存ユーザーの中から、どれだけの企業に有料で使ってもらえるかが1つのポイントだと話していた。

在庫データを軸に需要予測や金融商品の展開へ

また今後の展開としては「物流郡戦略」として他社とも連携しながら新たな事業や取り組みを展開していく計画だという。

具体的には上述したネクストエンジンなどの例と同じく、API連携を含めて他社と上手く組みながらロジクラの利便性を高めていくほか、蓄積した在庫データを軸に「需要予測」「金融商品」「在庫売買のマーケットプレイス」といった試みも進める。

需要予測については以前から長浜氏が言及していたもので、小売企業にとって大きな課題である“過剰在庫”の削減が大きな目的。これまでは担当者の勘や経験を頼りに行なっていたが、そこに在庫データをAIで分析した需要予測を取り入れ、さまざまな企業がその恩恵を受けられるようにパッケージとして提供していきたいという。

「需要予測としてよくあるのは特定企業の過去のデータと外部データを掛け合わせてその企業にカスタマイズしたアルゴリズムを提供するというもの。一方で自分たちが目指しているものは、複数企業の特定商品の売れ行きなどの実データを活用して、別の企業に対してその商品の売れ行きなどを予測するもの。これはロジクラがフリーミアムでデータを集めているからこそできる予測の仕組みだと考えている」(長浜氏)

金融商品やマーケットプレイスは、過剰在庫の削減とは別の角度から事業者の成長を支援する意味合いが強い。金融商品については今回株主として参画したオリコと業務提携を締結。まずはロジクラユーザーへオリコのローンなどを提供するところからスタートし、ゆくゆくは入出荷データなどを活用した新サービスを共同開発していく予定だ。

データとテクノロジーを活用した新しい融資の仕組み(オルタナティブレンディングと呼ばれたりもする)は近年国内外でも増えつつある。たとえば国内ではマネーフォワードがクラウド会計データや銀行などの明細データを用いたオンライン融資事業を展開しているが、こういった事業が各領域で増えていく可能性はあるだろう。

「本当は借りられる力があるものの、既存の金融機関では融資を断られてしまっているような事業者に新しい機会を提供できるようなサービスを作っていく」(長浜氏)ことが目標とのこと。ゆくゆくは動産担保融資なども検討していくようだ。

もう1つの在庫売買マーケットプレイスはロジクラユーザー間で在庫を売買できる場所を想定している。ロジクラ上からスムーズに出品できる仕様により、手間なく使えることが特徴。従来はかなり安い価格で処分していた在庫を少しでも高い値段で販売でき、仕入れる側はお得な価格で購入できるプラットフォームを作っていきたいという。

「自分たちのミッションは『在庫データを活用し、企業の成長を支援する』こと。ロジクラを通じて蓄積してきた在庫データを用いて、過剰在庫の削減はもちろん、新しい成長支援手段の実現や売上拡大にも貢献できるように事業を広げていきたい」(長浜氏)

「運動療法を軸としたCRM」でリハビリ×IT業界変革へ、理学療法士ら創業のリハサクが1.1億円を調達

リハサクのメンバーと投資家陣。前列左が創業者で代表取締役の近藤慎也氏、右が共同創業者でCOOの石井大河氏

整形外科や接骨院向けのリハビリ支援SaaS「リハサク」を開発するリハサクは12月23日、ANRI、DNX Ventures、マネックスベンチャーズを引受先とする第三者割当増資により総額1.1億円を調達したことを明らかにした。

同社にとっては4月にアプリコット・ベンチャーズから資金調達を実施して以来となる外部調達で、今回はプレシリーズAラウンドという位置付け。カスタマーサクセスの向上や機能追加に向けて人材採用を強化する方針だという。

患者ごとにカスタマイズした運動メニューを30秒で作成

リハサクが手がけているのは整形外科や接骨院、整体向けの「運動療法」を軸としたCRMサービスだ。現在は患者が自宅で実施する“運動メニュー”を最短30秒ほどで作成できるシステムを施設に提供。これによってリハビリにまつわる施設側と患者側双方の課題解決を目指している。

リハサク共同創業者でCOOの石井大河氏によると、リハビリにおける患者の大きなペインは「(提供される情報が少なくて)わからないこと」と「治らないこと」にあるそう。特に「治らない」については、自宅での運動が病院などで受けるリハビリと同等の効果を期待できることが複数の文献等で立証されていることもあり、どれだけ効果的な自主トレを実施できるかが大きなポイントになるという。

ただ多くの施設が運動療法を上手く取り入れられているかというと、必ずしもそうではないようだ。たとえばリハサクが調査を実施したある診療所では約80%の患者が施設から言われた頻度・回数で運動をしていなかった。その理由を掘り下げると「自分でやった場合は効果が低そう」「運動内容を忘れてしまった」など、セラピスト(理学療法士や柔道整復師)が適切な情報を提供できておらず、患者の理解度が不足していることがわかった。

施設側も複数の患者をかわるがわる診察しているため、1人1人に対して自宅運動の重要性や具体的な運動メニューを丁寧に説明するほどの時間を確保することは難しい。結果的に口頭での説明に終わってしまい、患者側に十分に伝わらないことも多いという。

その状況を変えるのがリハサクだ。同サービスには現在エビデンスに基づいた約400種類の運動メニューがデータベースとして登録されている。各メニューには具体的なやり方を解説する動画コンテンツがついていて、手持ちのスマホなどで閲覧することが可能。セラピストがやることは、ダッシュボード上で患者ごとに適切なメニューを組み合わせて送信するだけだ。

患者はセラピストから送られてきた“自分用にカスタマイズされた”メニューリストを、動画を見ながら実施していけばOK。自宅での運動状況はスマホからワンタップで記録することができ、セラピストはそれを基に従来ブラックボックス化していた患者の自主トレの様子をモニタリングしていく。

患者にメニューを提案する際は診断名や症状、運動の内容などから該当するものを検索し、複数のメニューを組み合わせていく。すでにパッケージとして出来上がっているものがいくつも登録されているので、それを活用すれば1人分のメニューが30秒から数分で完成するのが特徴だ。

動画で具体的な方法が示されているため患者側はポイントを把握しやすく、セラピスト側も紙ベースで1から各患者ごとにメニューを用意して説明する負担がない。運動メニューは印刷して紙の資料として提供することもできるので、スマホを持っていない患者でも使えるという。

施設側のダッシュボード。あらかじめ登録されている運動メニューから個々の患者に合わせてカスタマイズしながら提案する。従来は把握するのが難しかった痛みの推移や自主トレの頻度もダッシュボード上で簡単にチェックできる

患者側の画面。スマホで動画を見ながら自分用に作られたメニューをこなしていけばOK。「口頭で説明されたけど忘れてしまった」「人によって言うことがバラバラ」といった問題とは無縁だ

運動療法を軸としたCRMで患者と施設の課題解決目指す

リハサクは2018年5月の設立。創業者で代表取締役を務める近藤慎也氏は、起業前に8年間に渡って理学療法士として船橋整形外科に勤めていた経験を持つ人物だ。同社には近藤氏を含めて2名の理学療法士が在籍していて、コンテンツにはもちろんプロダクト全体にも彼らの現場での経験や知見が活かされている。

「自分が働いていた病院ではセカンドオピニオンやサードオピニオンで他の病院では治らない患者さんを診る機会が多く、きちんと運動について教わったことがないという声をよく聞いていた。そこでどんな医療機関でも運動指導をしっかりと受けられる環境を作りたいという思いで立ち上げたのがきっかけ。最初は主に整形外科向けとして始めたが、接骨院からも十分に運動指導ができていないということで問い合わせをもらい、徐々に顧客層が広がってきた」(近藤氏)

2018年10月にプロダクトをローンチして約1年。現在は整形外科や接骨院など口コミや紹介を中心に数十店舗で活用が進む。

リハサクはBtoBtoC型のSaaSプロダクトで、患者には直接課金をせず施設から月額の利用料を得る構造になっている。まずは「自宅での運動指導」という領域からスタートしているが、ゆくゆくは運動療法を軸としたCRMとして、集客や顧客単価の向上、業務効率化、サービスの標準化に繋がる機能をどんどん追加していく計画だ。

背景には上述してきたリハビリに関する課題に加えて、施設を取り巻く環境の変化がある。石井氏の話では整形外科、接骨院、整体を合わせると店舗数は現在10万軒を超えているそう。今後もその数は増加すると言われている一方で、保険点数の見直しや療養費の減少などの影響から、保険収入頼みではなく自費サービスで収益をあげられる体制を作れなければ経営が難しくなる時代を迎えつつある。

今まで運動療法を十分に取り入れられてなかった施設や、そもそも何もできていなかった施設にとってリハサクは売上アップのためのツールにもなり得る。

通院時のリハビリだけでなく自宅での運動も含めてサポートできる仕組みが作れれば患者にとってもメリットは大きいし、顧客単価の向上も期待できるだろう。実際にリハサク導入後、自費ベースの運動指導単価が2倍に向上した接骨院の例もあるという。

「(CRMという性質上)施設側を向いてはいるが、あくまで患者さんを幸せにするために、患者さんが欲しがっている情報やサービスに基づいた形のCRMとして広げていきたい」(近藤氏)

「整形外科や接骨院が厳しい環境に立たされている中で、質の高いサービスを実現することで単価をあげて収益性を高めたり、業務を効率化できるようなサポートをしていく。施設が運動療法を届けることを応援していけば、結果的に患者さんの体が良くなることにも繋がる。今回の資金調達も受けて、ゲームチェンジャーとしてこの業界をより良い方向に変えていくようなチャレンジをしていきたい」(石井氏)

最大の競合は“エクセル”、約550社が使う人事評価クラウド「HRBrain」が4億円調達

HRBrain創業者で代表取締役社長の堀浩輝氏

人事評価クラウドサービス「HRBrain」を提供する株式会社HRBrainは10月9日、三谷産業、サイバーエージェント(藤田ファンド)、みずほキャピタル、JA三井リースを引受先とした第三者割当増資により、シリーズBラウンドで約4億円を調達したことを明らかにした。

2017年1月リリースの同サービスは現在約550社に導入されるまでに拡大。今回の調達によりプロダクトの機能拡充と組織体制の強化を行い、さらなる事業成長を目指す計画だ。

なおHRBrainは2016年3月の創業で、TechCrunch Tokyo 2017のスタートアップバトルにも登壇した経験を持つスタートアップ。2017年12月のシリーズAラウンドではジェネシア・ベンチャーズ、BEENEXT、KSK Angel Fund、みずほキャピタルなどから2億円を調達しており、累計の調達額は約6億円となる。

人事評価をクラウド化「従来よりもシンプルでカンタンに」

HRBrainは従来エクセルやスプレッドシートなどで行われていたような「人事評価」をクラウド化し、より効果的かつ効率的に管理できるようにするサービスだ。

詳しくは後述するが「豊富なテンプレート」「面談/目標シートへのアクセス性の高さ」「集計作業の自動化」といった機能や仕組みが大きな特徴。これらに加えて約10名ほどのカスタマーサクセスチームによる顧客サポートを武器に事業を拡大してきた。

HRBrainのウリの1つは定番のMBOやOKRを始め、1on1やWill Can Mustなど幅広い目標管理フレークワークをテンプレートに落とし込んで提供していること。社内で目標管理制度が整備されていなくても、他社で成果に繋がっているテンプレートを活用すればすぐにスタートすることが可能だ。

OKRのフォーマット。各目標管理手法ごとにフォーマットが用意されているので、初めてのものでもすぐに使い始めることができる

当初は創業者である堀浩輝氏が前職のサイバーエージェント時代にやっていた手法をクラウド化するような形で始まったサービスだが、ローンチ以降対応できるフォーマットを着々と増やしてきたそう。近年IT企業だけでなく病院や出版社、飲食店、ガソリンスタンド、結婚式場など多様な業界で導入されるようになったのも「世の中の大抵のフォーマットに対応できるようになった」のが大きいという。

このようなフォーマットに沿って目標を設定した後は定期的に振り返りをすることになるが、「目標シートに紐付けて1on1のログを残せる仕組み」は導入企業の約7割が使う人気機能になっている。

メンバーと上司の間で毎回の面談の記録を残していき、いつでも簡単に検索してアクセスできる設計。これを基に期末の人事評価が行われれば、従来はブラックボックスになりがちだった各メンバーへの評価やフィードバックが透明化されることにも繋がるため、納得度もあがる。

これをエクセルやスプレッドシートなどで行うと閲覧権限の管理なども含めて手間がかかるが、HRBrainの場合は権限の付与などもスムーズなため導入企業からは評判が良いそうだ。

エクセルやスプレッドシートだと工数がかかってしまうのは集計作業も同様。こちらについては完全に自動化することですぐに社員全体の評価を可視化できるのはもちろん、人事担当者が創造的な仕事により多くの時間を使えるようにもなる。

このような一連の仕組みをSaaSとして月額3万9800円からまるっと提供するというのがHRBrainのビジネスモデルだ(従業員数に応じた従量課金制)。

導入企業は550社超え、ホリゾンタルSaaSとして拡大

前回のシリーズAから約2年。核となる機能は大きく変わらないものの、細かいアップデートに加えてカスタマーサクセス体制を強化することで着実に基盤を固めてきた。今年に入ってからはフルリニューアルも実施。カスタマイズ性やテンプレートを拡張するとともに、エンタープライズ向けとしてセキュリティやログイン管理機能の強化にも取り組んだ。

結果として幅広い業界に使われるホリゾンタルSaaSとして拡大し、導入企業数はすでに550社を突破している。

「日本中の企業で目標の設定や評価は行われているが、多くの企業ではもっと効率化できる余地がある。プロダクトを磨き込む中でシンプルではあるが深いものが作れているという手応えはある」(堀氏)

堀氏の話では顧客のタイプは大きく2パターンに分かれるそう。1つはまだ「これといった目標管理制度が社内に根付いていない」企業で、優れた目標管理制度を導入するための最短コースとして、テンプレートなどの機能やシステムの使い勝手、サポート体制などを理由にHRBrainを導入するケースが多い。

そしてもう1パターンがすでに目標管理制度を自社で導入しているものの、煩雑なオペレーションに課題を感じて効率化したいという企業。特に従業員数が数百名〜数千名規模の会社が典型例だ。

「社内に目標管理制度がない企業の場合、そもそも目標設定の考え方からセットでサポートすることで自社に合った手法を設計するところから伴走する。一方ですでに何らかの管理制度がある企業の場合、規模が大きくなるほど既存のフローを変えたくないという力学が働く。業界ごとの特徴なども押さえた上で、いかにHRBrainでも同様の形を再現できるか、ここ1〜2年はそのシステムやサポート体制を作り込んできた」(堀氏)

目標管理サービスの領域にはHRBrainの他にも複数のプレイヤーが存在する。たとえば過去に紹介したカオナビやOKRに特化したResilyなども近しい使い方ができるサービスだ。

ただ堀氏いわく「最大の競合はエクセル」。特にそれまでエクセルを使っていたエンタープライズの顧客にHRBrainを使ってもらうのはなかなかハードルが高く「オンボーディングが非常に重要。勉強会をやったり、管理者向けのサポートをこまめにやったり。運用開始に至るまでのプロセスを丁寧に、地道に進めることが成果として現れてきている」という。

今後は人事データベースなどサービス拡張進める

HRBrainでは次の打ち手として人事データベースの準備を進めている

この2年間だけでもエクセルからの乗り換え事例は何社もあり、その手応えは掴めているそう。今回の資金調達は「プロダクトが売れる市場がわかってきたタイミングで、それを一気に加速させるためのもの」(堀氏)だ。

新たに投資家とした参画した3社のうち、サイバーエージェントはHRBrainのメイン顧客の1社。AbemaTVなどサイバーエージェントグループの事業部やグループ企業などで積極的に同サービスを活用しているヘビーユーザーだ。

三谷産業とJA三井リースについては一緒にプロダクトを広げていく構想があり、三谷産業は販売代理店としてHRBrainの拡大をサポート。JA三井リースもファイナンス機能の提供や全国に拡がる顧客網を活かした営業協力などを通じてHRBrainを後押しするという。

このバックアップ体制の下、より多くの顧客への導入を目指していくというのがHRBrainの今後の打ち手の1つ。そして既存プロダクトと並行して関連するHRTechツールの開発にも着手する。

最初のターゲットとなるのは「人事データベース」だ。従業員情報や組織情報をシンプルに一元管理できるだけでなく、従来のHRBrainに蓄積されたデータと連携することで「パフォーマンスデータを経営のヒントとして使える」ような仕組みを考えているようだ。

「(目標管理データと連動することで)自分たちだからこそ実現できるサービスを提供できると考えている。データベースについては特にエンタープライズ企業から以前から要望が多かったもの。これがあれば顧客の対象が増え、成約率が上がることもわかっているので、少しでも早くリリースしたい」(堀氏)

堀氏の話では今後予定している人事データベースを皮切りに、HRBrainシリーズのプロダクトを増やしていく計画とのこと。最終的には人事評価を軸とした「タレントマネジメントプラットフォーム」を見据えているという。

DataHawkのeコマース分析ツールを使ってAmazonのリスティングを最適化しよう

DataHawk(データホーク)を紹介しよう。いわばAmazonのリスティングのためのApp Annieになろうとしているフランスのスタートアップだ。同社のソフトウェアを利用すると、商品と検索結果を追跡できるようになる。競合と自分自身の状況について詳しく検討することが可能となるわけだ。

サードパーティが、直接Amazonマーケットプレイスに商品を掲示して販売することが盛んになるにつれて、この種のソフトウェアは、ますます重要になってきている。

Amazonで商品を販売している人にとって、検索結果は、商品の売れ行きを左右する重要な要素だ。多くの顧客は商品を検索し、最初に表示されたものを検討する。そこで、主要なキーワードに対して、できるだけ上位にランクされたい、ということになる。

DataHawkを使えば、任意のキーワードを追跡し、それに対する検索結果が時間とともにどのように変化するかを確認できる。こうして、もし売上が落ちた場合には、その理由がわかるようになる。このプラットフォームを使って、リスティングを修正し、ランキングの上昇を狙える。

また、商品を直接追跡して、商品のタイトル、価格、レビュー、説明の変化を調べることも可能だ。DataHawkでは、スクレイピングによってデータを収集しているので、自分の商品だけでなく、競合の商品をモニタリングすることもできる。

DataHawkのインターフェースからのデータは視覚化して表示したり、すべてExcelのスプレッドシートにエクスポートすることも可能。電子メールによってアラートを受信する機能もある。

DataHawkは、Axeleo Capitalとエンジェル投資家から130万ドルを調達した。同社は、これまでに140の顧客を獲得している。そのうちの80%は米国の顧客であり、PharmaPacks、Pfizer(ファイザー)、L’Oréal(ロレアル)なども含まれている。現在、毎日260万もの商品を追跡しているという。

同社のソフトウェアは、SaaS(software-as-a-service)として運営されている。サービスを試用するためのフリープランもある。月額プランでは、追跡する製品やキーワードの数に応じて料金が加算される仕組みだ。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)