見積プロセスの変革で“製造業の原価低減”を実現する「RFQクラウド」公開、3億円の調達も

日本国内で約66万社存在するという製造業系の企業。そこで各社の競争力の源泉となる“モノの仕入れ”を担当しているのが購買部門だ。

特に規模の大きい企業ほど、資材や部品の購入価格が1%変わるだけでも数千万円、数億円の利益の違いをもたらすため「購買価格を最適化すること」には価値がある。

ただし現実はそう簡単ではない。現場では担当者1人あたりが「数百〜数千のサプライヤ、数百〜数千品目」を担当し、年間で数十億〜数百億円分の部品を調達するようなことも珍しくなく、そこには膨大な見積もり査定工数がかかる。査定プロセスはアナログで、そもそも複数社を同じ条件で比較することも難しい。

A1Aが本日10月2日にローンチした「RFQクラウド」はそんな購買担当者の課題を解決する製造業向けのSaaSプロダクトだ。テクノロジーの活用で見積査定の工数を削減するとともに、最適な価格での購買をサポートする。

今回同社ではBEENEXT、PKSHA SPARX Algorithm Fund、複数名の個人投資家から合計3億円の資金調達を実施したことも合わせて発表。RFQクラウドの機能強化を進め、より使いやすいサービスを目指していく計画だ。

統一フォーマットの導入などで見積査定工数が1/5程度に

RFQクラウドのポイントは「サプライヤー主導だった見積をバイヤー(購買担当者)主導に変えること」にある。

そもそも従来の商慣習では部品を提供するサプライヤー側が“自社のフォーマット”で見積を送るのが一般的。購買担当者は異なる形式で入力された情報を基に見積項目を比較しなければいけないので、査定に大きな負担がかかっていた。

手に入れた見積も保管場所はバラバラなことが多く、過去のデータが一覧できるデータベースのようなものも存在しないため、適正価格を判断するのに必要な材料を探してくるのも大変。本来時間を使うべき「見積の精査」にかけられる時間も限られていた。

そこでRFQクラウドでは購買担当者側から統一フォーマットを指定し、各サプライヤーがそれに合わせて見積を入力することによって見積工数を大幅に削減する。要は同じ形式で入力された“見積のデータベース”を作り「価格の妥当性」を把握しやすい環境を提供するというわけだ。

項目が統一されていれば複数社を横並びで比較することはもちろん、過去のデータと見比べることも可能。今までは難しかった「細かい条件による比較」や「埋もれてしまっていた古いデータの検索」も簡単だ。

アナログだった見積プロセスをデジタル化することで、余計に工数がかかっていた業務を効率化したり、担当者ごとに属人化しがちだったノウハウを共有する効果も見込める。テスト版を導入した企業では見積査定工数が1/5程度に短縮された事例もあるという。

ベータ版は約40社が活用も、多業種に広がりすぎて頭を悩ます

ベータ版ローンチ時にも紹介した通り、このプロダクトはA1Aの創業者である松原脩平氏がキーエンス時代に感じた現場の違和感を解決するべく開発したものだ。プロダクトを作るにあたって実際に約100社の担当者にヒアリングをしたところ、まさに「バラバラな見積もりフォーマット」や「データの属人化」といった共通の課題が浮かびあがった。

3月に公開したベータ版は40社以上が活用。当初メインの顧客層として考えていた製造業だけでなく、幅広い業界から想像以上に問い合わせが殺到したそうだ。ただこの予期せぬ状況が、結果的に松原氏の頭を悩ますことに繋がった。

「RFQクラウドの価値は見積もりの妥当性を把握することで、原価の低減を実現すること。『原価を下げる』というのは製造業以外にもニーズがあるため、さまざまな企業から反響があった。ただあまりに広い業界から問い合わせを頂いたので、細かい要望を聞きすぎた結果SaaSを提供する企業ではなくSIerよりのビジネスになってしまう懸念も出てきて。山を登るスピードが遅くなってしまった」(松原氏)

そんな状況が続いたため、原点に立ち戻り改めてRFQクラウドの価値を整理したそう。その上で顧客を再定義し、製造業の中でもまずは量産品を手がける企業にフォーカスして機能を磨き正式版をリリースした。

「自分たちが目指すのはB2Bの取引をワンランクあげるために『取引コスト』を解消すること。それを紐解くと意思決定に必要な情報を集めるのに要する『探索コスト』、当事者間の交渉に要する『交渉コスト』、契約を確実に遵守させるための『監視コスト』が存在する。まずは見積もりデータをRFQクラウド上で一元管理することで、探索コストや交渉コストを解消していきたい」(松原氏)

正式版の提供は本日からになるが、年商数兆円クラスのエンタープライズ企業から100億円規模の成長企業まですでに7社で正式導入が決定している。

この領域で国内の競合となるのは、オンプレの基幹システムを作っている企業がモジュールとして同様の機能を提供するケース。高額なオンプレシステムに比べてRFQクラウドは月額15万円から導入できるのがわかりやすい利点ではあるが、ゆくゆくは企業間取引の領域まで拡張していくことで利便性を高め、購買部門におけるインフラを目指す計画だ。

最終的にはB2Bの取引プラットフォームへ

今回A1Aではプロダクトのローンチと合わせて3億円の資金調達も発表している。

BEENEXTは前回ラウンドからのフォローオン投資。PKSHAも前回は本体からの出資だったので少し形は変わるものの(今回はスパークスと共同運営するファンドからの出資)、継続してA1Aに出資することになる。

調達した資金はプロダクトの機能強化と事業拡大に向けた人材採用に用いる計画。今後は一品ものを手がける製造業向けの機能を整備することから始め、次のステップではサプライヤー側へのサービス提供も見据える。

「サプライヤー側も見積の属人化や見積の管理など同様の課題を抱えている。適正な見積を算出するのは簡単なことではなく、実は赤字受注をしてしまう企業も少なくない。サプライヤーが自社の強みと実績をアピールできる仕組みを作ることで、正当な評価を受けられるようにしていく」(松原氏)

RFQクラウドは現在サプライヤー側が無料で使える仕様になっていて、各バイヤーからリクエストを受けたサプライヤーがどんどんネットワークに入ってきている状態だ。バイヤーは1日あたり10〜30件の見積依頼を行なっているため、同サービスは日々の業務で欠かせない存在。その特性を活かしてバイヤーを起点に一気に双方の企業数を拡大していく狙いだ。

また機能拡張と並行してグローバル対応も進めていく方針。松原氏によると多くの企業は海外のサプライヤーにも見積をとっていることが珍しくなく、言語や通貨の違いを超えて複数社を比較できる機能が求められているそう。国を跨いで使えるようになれば、RFQクラウドの規模が拡大することはもちろん、日本の製造業をエンパワーすることにも繋がる。

「当初は『商慣習を変えるなんて本当にできるのか』と周囲から言われ続けた中でのスタートだったが、やってみてわかったのは十分変えられるということ。バイヤーとサプライヤー双方にとって利便性の高いプロダクトを作り上げ、最適なB2B取引を実現するプラットフォームを目指していく」(松原氏)

A1Aのメンバー。前列左から2番目が代表取締役の松原脩平氏

日本発の強いSaaSビジネスを作るには?SaaSビジネスモデルを7年の経験から徹底解剖

編集部注:この記事はfreeeのCEO、佐々木大輔氏による寄稿だ。佐々木氏はGoogleで日本およびアジア・パシフィック地域での中小企業向けのマーケティングチームを統括を経験した後、20127freeeを設立。Google以前は博報堂、投資ファンドのCLSAキャピタルパートナーズにて投資アナリストを経て、レコメンドエンジンのスタートアップALBERTにてCFOならびに新規レコメンドエンジンの開発を兼任した。freeeは「スモールビジネスが強くかっこよく活躍する社会」を目指し、「クラウド会計ソフト freee」などを提供する。

日本でもビジネスとして関心が高まるSaaS

freeeを創業してから7年以上が経った。創業当時はまだSaaSビジネスをどう評価すべきか、何を指標として伸ばすのか、そのノウハウはまだ日本にはなかっただろう。僕自身は、Googleの頃にSaaSビジネスについては少しだけ馴染みはあったものの実際に事業として運営をするのは、ほぼほぼ、初めてであった。よって、多大なる試行錯誤、海外VCとのディスカッション、海外の記事の読み漁りなどを重ね、SaaSビジネスについて理解を深めてきた。

海外では、SaaSの草分けとも言えるSalesforceは2004年より上場しており、SaaSビジネスモデルについての世の中への理解促進の活動を繰り返してきた。そして今や米国に上場する主要SaaS企業のリストだけでもこれくらいの大きなリストになっており、ビジネスが理解されることで、ビジネスモデルへの大きな期待が集まっていることが良くわかる。

SaaSのビジネスノウハウにおいても海外が先行している。最近では日本のSaaS業界の人も多く訪れるようになったSaaStr Annualというイベント(以前はサンフランシスコ、今はサンノゼで開催されている)に僕も数年前に訪れたが、SaaSの主にビジネス面をテーマとしてこれほど大規模なカンファレンスが行われているということ自体に、この業界に対する日本と海外での注目度に圧倒的な差を感じた。

そして、ついにここ数年、日本においてもSaaSが大きく注目を集める領域となってきた。SaaS企業への投資は圧倒的に増えているし、今年は、Sansan、スマレジ、Chatwork、カオナビなどSaaS企業の上場などがあり、日本にもSaaS分野の上場企業が増えている。

SaaSはテクノロジー業界における総合格闘技

SaaSは「テクノロジー業界の総合格闘技」とも言える産業であると、僕は日々思っている。技術、プロダクト戦略、営業やマーケティング、カスタマーサクセス、事業計画やシミュレーション、組織づくり、ファイナンス、など、あらゆる力を駆使して初めて顧客への価値とビジネスに結びつくのだ。

技術やプロダクト戦略は当然ながら最も重要なピースだ。「クラウドでソフトウエアを提供すること」自体が価値になるわけではない。例えば、会計ソフトの文脈で言えば、クラウド型の会計ソフト自体はfreee以前からも存在していた。しかし、freeeの登場によって市場が大きく変わったのは、単に「会計ソフトをクラウド化する」というコンセプトで参入したのではなく、「会計帳簿づけを自動化する、会計だけでなく、業務全体を効率化する」というこれまでの会計ソフトで焦点があたっていなかった価値を提供することができたからだ。

営業、マーケティング、カスタマーサクセスも当然重要だ。後述するように、LTV(生涯価値)ベースで従来とは異なる管理が求められるし、販売する製品は日々進化していくものであるので、個別の機能をアピールして販売するのではなく、コンセプトを理解いただき販売することが重要である。そして、販売後も、実際に使われていないと解約となってしまいビジネス上の価値がないことも当然ながら課題である。自然と強い顧客目線が求められるのが、SaaSビジネスの面白い部分だ。

また、後述する通り、SaaSビジネスには成長投資が求められ、中長期的に価値を生み出し投資を回収していく。故に、まとまった資金を確保できないとビジネスは成立しづらい。資金調達力や資金余力がなければ、ビジネスを支えられない。実は、この点は日本においてSaaS産業の立ち上がりが遅れた大きな理由の一つでもあると僕は考えている。最近、SaaSに対するVC投資が活発であることは大きな追い風だ。

SaaSビジネスは、しっかりシミュレーションすれば、将来が非常に読みやすいという大きな特徴があるため事業計画も非常に重要だ。個人的には若いころにPEファンドで、キャッシュフローモデルなどをつくりまくる仕事などをした経験などは大きく活きたし、計画や分析をしっかりできる状態になっていないと、将来の読みやすさを武器にできない。

このように、技術やプロダクト戦略を中心として、ビジネスのあらゆる部分がこれまで以上にチャレンジングな側面を持ち、それらを持ち寄って噛み合っていないと成功しない、強い組織力と総合力の求められる面白い分野だと思う。

SaaSがつくるソフトウエアの未来と「評価できない」というボトルネック

「あらゆる人々がパソコンやスマホに限らず、さまざまなデバイスからソフトウェアを操作し、自分や自分のビジネスに関するデータを見る、AIがインサイトを届ける」ということは今後、ますます当たり前になっていくであろうし、その際に「クラウド化」や「SaaS化」は重要な前提条件だ。

ここ20年くらいの間は、いわゆるホワイトカラーと呼ばれる人たちの中では、エクセルなどのスプレッドシートをいかに使いこなせるかは一つの重要なスキルであったが、ある程度の分析はスプレッドシートと格闘しなくとも、それこそスマートスピーカーに聞くだけで結果がでてくるようになっていくだろう。

SaaSはこのようなソフトウェアのパラダイム・シフトを牽引する産業であり、この産業が強いことは、そのマーケットのソフトウエア産業の実力値であるとも言える。SaaSビジネスが成長していくには、サービス提供とイノベーションをおこすために求められる様々な技術はもちろんのこと、ソフトウェアを育てる上で求められるビジネススキルや、それを取り巻く資本市場などのエコシステムが、そのマーケットにおいていかに充実しているか強く求められるためだ。

そういったエコシステムの形成において特に妨げとなる重要な事実は、会計ソフトの会社を経営する僕が言うのもおかしな話ではあるが、SaaSビジネスは、伝統的な決算書(すなわち会計上のP/Lやキャッシュフロー)からはなかなか正しくビジネスを評価できないこと、そして一般的に成長投資のための資金が必要という部分にある。

freeeは、会計や人事という、あまり業界を選ばないソフトウエアの領域で、個人事業主や小規模法人をターゲットとしたビジネスから急速に成長し、多額の資金調達も行い、今日では中堅規模の企業もターゲットとして販売活動に力を入れ、広い顧客セグメントを対象に急成長をしてきた。こんな経験を踏まえ、SaaSビジネスにおけるKPIを対象となる顧客セグメントの特性や僕たちの学びを交えながら解説していきたい。

SaaSで短期に会計上黒字化するには顧客を獲得しないのがベスト?!

SaaSでは、決算書にある期間損益ではなく、ユニットエコノミクス(顧客1件あたりの経済性)を見ながら投資判断することが非常に重要である。なぜそれが重要なのかをまずは見てみよう。

サブスクリプションビジネスであるSaaSにおけるキャッシュインとキャッシュアウトは次のようになる。

青で表されるキャッシュインはすなわち、毎月SaaSビジネスが頂けるソフトウェア利用料から原価を引いたものである。SaaSの原価としては、一般的にサービス運用のための原価(サーバー運用やカスタマーサポート)などが含まれる。

赤で表されるキャッシュアウトは、顧客獲得コスト(CAC:Customer Acquisition Cost)である。CACは顧客1件を獲得するためにかかるマーケティングおよび営業コスト。マーケティング費用と営業およびマーケティングに関連する当月の人件費を当月の新規顧客獲得件数で割ったものである。

つまり、サブスクリプション型であるSaaSモデルの特徴は、このようにCACを何ヵ月もかけて取り返すというところにあり、新規顧客獲得は先行投資的な性質を持つのだ。

(簡便のため、キャッシュインとキャッシュアウトという言葉を使っているが、会計上の粗利と販管費の関係と基本的には同じ構造である。キャッシュ・フローに関しては、1年分などの利用料を前受する場合などもあり、さまざまなテクニックがあるが、会計上の収益構造は原則にこのような構造となる)。

では、顧客1件あたりのキャッシュフローが上記のようになっていたとして、毎月1件ずつ顧客を獲得するとどうなるか、それが次の図だ。

青のキャッシュインは、毎月顧客が増えるにつれ増えていく。オレンジのキャッシュアウトは、毎月1件の新規の顧客獲得なので固定で毎月80かかる。このとき、既存の顧客からのキャッシュインが新規顧客獲得のためのキャッシュインを超える8ヵ月目で、このビジネスは会計上(もしくはキャッシュフロー上)黒字化することになる。新規顧客獲得コストを既存顧客からの売上でまかなえるかどうか、これがSaaSにおける会計上の黒字化の意味するところである。

ここには一つの面白い示唆がある。つまり、SaaSにおいて会計上黒字化を達成する最短の方法は顧客獲得をしない、ということになる。それではどのように投資判断をするべきなのか、次のセクションにて考えていきたい。

その時点でのサブスクリプションの実力値を評価するARR

サブスクリプションビジネスにおいて、いわゆる会計上の売上はトップラインを示す指標としては遅行指標である。オンプレのソフトウエアのようにライセンス販売の場合、販売時点で数年分の利用にかかる売上が会計上の売上として一括計上されるが、サブスクリプションの場合には利用月毎に売上が案分される。例えば、会計年度の最後の月に始まるサブスクリプション契約については、1か月分のSaaS利用料しか反映されないため、売上は期末時点でのSaaS企業の実力値を正しく評価できない遅行指標となる。

そのため、SaaSビジネスでは、その月の契約におけるその月のSaaS利用料の合計を年換算(12倍)した数値であるARR(Annual Recuring Revenue)をトップラインのKPIとしておき、その時点でのサブスクリプション契約の価値を評価する。

次のグラフは毎月ARRが5%成長する際のARRと会計上の売上の比較となる。

ARR成長のための3つの要素

ある期間におけるARRの成長は大きく3つに分けることができ、SaaSの事業計画を考えていく上では、大まかにはこの分解に則って考えるのが通常である。以下、それぞれについて解説するが、海外記事としてはこの SaaS Metrics 2.0がバイブルとも言える。

    • ①既存顧客の解約(Churn)によるARRの減少
    • ②新規顧客獲得によるARRの増加
    • ③既存顧客へのアップセルによるARRの増加

①顧客に価値を届けられているのか:Churn Rate(解約率)

SaaS企業は、顧客企業に見合った価値を提供できていないと容赦なく解約されてしまう。自分たちがしっかり顧客に価値を届けているかを白黒つけてモニタリングする指標として、Churn Rate(解約率)は重要な指標だ。

Churn Rate=当月の解約顧客数 / 前月末の顧客数

Month 0において、1000社の顧客がいたとして、月次のChurn Rateに応じてどれほど顧客が自然減してしまうかが次のグラフである。

このChurn Rateは通常は対象とする顧客が大きな企業であるほど低く、小さな企業や消費者であるほど高くなる傾向にある。

大きな企業がSaaS製品を利用する場合、適切な評価プロセスを通り、その企業のニーズにフィットするのかはしっかり検証されるし、導入に伴うデータ移行や各種設定、社内での運用ルール徹底などにコストがかかることもあり、大きな組織において頻繁にソフトウエアを変えることは得策ではない面がある。

一方、小さな会社では、SaaS導入自体のコストが低かったり、導入に際する評価プロセスが整っていないことも多く、導入後にフィットしない要因が見つかりやすい傾向にある。また、当然廃業の率も高まるため、一般的にChurn Rateは高めになる。

freeeでは、リリース後1年ほどは、このChurn Rateを一切見ていなかった。当時持っていたダッシュボードと言えば、課金の度に来るメール。解約の度にも来るようになっていたが、圧倒的に頻度は低かった。一年ほどすると、それなりに顧客基盤もできたので解約の絶対数が気になるようになった。そこで初めてChurn Rateを見るようになった。既存顧客基盤がまだ小さいときは解約数も絶対数では気になりにくいということだ。もちろん、もっと早く気づいておくべきだった。見るべきものは率だ。

新規顧客の獲得を一定とした場合、顧客ベースの増え方はChurn Rateによって大きく影響を受ける。Churn Rateが高いほど、顧客ベースの成長は当然スローダウンしていく。そのため、Churn Rateが高い場合、全体としてのARRの成長をするためには、より新規顧客の獲得を増加させたり、既存顧客からの売上拡大を増加させるなどの対応が必要となる。

コーホート別のChurn Rate

Churn Rateを改善するために、アクショナブルな示唆を得るための最も一般的な分析は、コーホート別のChurn Rate、もしくは生存率の分析である。顧客の獲得月毎のコーホートに分けて、獲得時から時間が経つにつれどのような生存曲線を描いているかを見るものだ。

例えば、営業手法が悪ければChurn Rateは増加する。値引きなどのインセンティブを武器にアグレッシブな営業をした月のコーホートの生存率が低いというようなことから検出できる。

一般的に、Churn Rateは、最初の更新時などのマイルストンまでの間で最も高く、その後はそれよりも低い水準に落ち着く。最初の更新時までのChurnは、販売の仕方やコミュニケーションあるいは、導入における課題が原因である可能性が高い。一方で最初の更新時以降のChurnはプロダクトやサポート体制の実力値が数値に表れる。

Revenue churnという考え方

ここでまとめてきたように、Churn Rateを顧客ベースではなく、金額ベースで見る見方もある。顧客ベースのChurnがCustomer churnやLogo Churnと言われるのに対して、こちらはRevenue Churnと呼ばれる。顧客ベースも金額ベースもどちらも見るべき重要な指標であるが、Revenue Churnは複数の料金プランを持っていたり、顧客企業のなかで何ユーザーがIDを持っているかで料金が大きく変わるSaaS企業において、より重要性が高い。

②新規顧客の獲得

一般的に急成長フェーズのSaaSにおける最も大きな成長ドライバーは新規顧客獲得からのARR増加である。前に触れている通り、新規顧客獲得は、会計上のP/Lには短期的にネガティブなインパクトがある。そのため新規顧客獲得に投資する判断のため、ユニットエコノミクス(顧客一件あたりの経済性)に着目するのが一般的である。このユニットエコノミクスを表す指標として、LTV/CAC(エルティーヴィートゥキャックとか呼ばれる)が非常に重要である。

顧客のLTV(生涯価値)

顧客1社あたりの生涯価値。(顧客の平均月額単価x粗利率)x平均ライフタイムで求められる。粗利率をかける、すなわち売上から原価分を除いて評価すべきである。ライフタイムは通常、平均ライフタイム(月)=1/(月次Churn Rate)で算出される。これは、同じChurn Rateが今のまま続いたら、この値に収束するという理論値である。

この計算手法は一般的には、LTVを過小評価する傾向にはある。なぜならば、コーホート別Churnの箇所で触れた通り、Churn Rateは契約の1年目などの初期段階でもっとも高い傾向にありがちであるからだ。つまり、製品利用後になんらかのミスフィット要因が見つかり、利用継続できないというケースが多く、一定期間安定利用が続いた顧客のみで見るとChurn Rateは相対的に低くなる傾向にある。一定期間利用した顧客の割合が高くなる(つまり、全顧客の中での新規顧客の割合が減る)につれ、Churn Rateは通常下がっていく傾向にあり、この傾向からのアップサイドは上記の計算式では捉えることができない。

SaaSの原価としては、一般的にサービス運用のための原価(サーバー運用やカスタマーサポート)などが含まれる。原価を抑えられればLTVはあがる。

グローバルレベルで見るとSaaSの上場企業の原価率は急成長フェーズで少しずつ原価率が下がってきて20〜30%程度に落ち着くことが多い。

freeeでは、当初原価率はあまり気にしていなかったし、それが正しいと今でも思っている。明確な指針として、AWSのサーバー代の節約のためのアクションをとる暇があったらユーザーのための開発をする、カスタマーサポートの原価を気にするよりは神対応をして一社でもハッピーカスタマーを増やすことの方が大事、としていた。原価率については、改善余地だけは大まかに認識しておいて、大きく資金調達をしてバーンレート(毎月失ってしまうキャッシュ額)が億単位になってから、向き合うでよいだろう。

LTV/CACへ着目した成長投資

このLTVがCACを上回るようであれば、顧客を獲得すればそのSaaS企業にとっては中長期的にプラスといえるので、可能な限り多くの新規顧客を獲得のための成長投資をすればよいというのがユニットエコノミクスの考え方だ。

ただし、実際にはSaaS企業は顧客獲得コスト(CAC)以外にも、プロダクト開発のための開発コスト(R&D)や、企業全般の管理コスト(G&A)を支払っている。そして、安定期には利益率を確保するという観点からも一般的には、LTV/CACが3以上で成長投資をすること望ましいとされている。

実際には、プロダクトマーケットフィットとGo-to-Marketがある程度確立するまでは、様々な試行錯誤が行われる。なので、新規プロダクトの投入時や新規セグメント参入時は、LTV/CACが低い状態でプロダクトの精緻化や販売手法の確立のための試行錯誤を続けることになる。この低LTV/CAC状態での投資が、ある意味SaaS業界における本来の先行投資とも言える。健全なLTV/CACにおける投資は健全なリターンの実現が見込める投資であり、成長投資である。

freeeの場合は、このLTV/CACは、Series Aの資金調達後、積極的にマーケティング投資をする中ですぐに見始めたメトリクスだった。Googleにて広告製品の中小企業向けのマーケティングをする中でも似たようなアプローチで投資判断をしていたことがきっかけであったが、当時はここまで広く使われている指標だと想像していなかった。LTVは原価を引いて算出するべき、といったことは、その後グローバル・スタンダードを学ぶ中で取り入れたことであった。

回収期間(Payback period)

LTV/CACは、さらにライフタイムと回収期間(Payback Period)に分解することができる。

回収期間はCACを「平均月額単価から原価を引いたもの」で割ったものであり、月額利用料の何ヵ月分でCAC(顧客獲得費用)を取り返すかを表すものである。

この回収期間はダイレクトに成長に必要な資金に関連する指標で、短ければ短いほど、同じ成長をしたときに短い期間で会計上orキャッシュフロー上の黒字化を達成できる。回収期間によるキャッシュフローへのインパクト(R&D投資やG&A費用は考慮していない)は下記の図でわかりやすいだろう。

freeeでは、この回収期間の重要性については、すでに頭で理解したり海外の様々な記事などや投資家との議論を中心に見聞きしていたものの、実際に強く意識し始めたり、重要性を体感するようになったのは、はじめて上位のプランを追加してからであった。違う単価のプロダクトがあることにより、回収期間に差が出てくることから、そのインパクトを実感したものであった。

③既存顧客へのアップセル(Revenue Expansion)とNet Revenue Retentionについて

既存顧客のアップグレードや、自社が提供する他のSaaS製品からの売上がRevenue Expansionの部分に該当する。一般的には顧客のエンゲージメントが取れた状態で営業やマーケティングができるため、この部分のARR獲得コストは新規顧客からのARR獲得コストに比べて低い構造にある。これがビジネス上のRevenue Expansionの魅力といえる。

大企業向けのSaaSなどの場合で既存顧客からの新規ARRの割合が高くない場合には、上記の新規顧客獲得のROIとしてLTV/CACを見るよりも、新規顧客も既存顧客も関係なく、売上1円あたりの獲得コストを見ていく方が実用性が高い場合もあるだろう。

Net Revenue Retention

近年注目される指標として、Net Revenue Retentionという指標がある。これは、あるコーホートからのある期間の売上が、その前期の売上の何%であったかという指標だ。同じコーホートだけを見るので、新規獲得は見ずに、Revenue ChurnとRevenue Expansionではどちらが大きいかを表すことになる。100%を超えていれば、Revenue ExpansionがRevenue Churnを上回り、100%以下であれば、Revenue ChurnがRevenue Expansionを上回るという構図だ。言い換えると、Net Revenue Retention が100%を上回れば、理論的には獲得した顧客からの売上が増え続けるということになる。

大企業向けで、組織の一部から使い初めて、その組織の中でどんどん広まっていくと売上が上がるという性質を持つようなSaaSの場合、特に Net Revenue Retention はよい数字になる(Atlassian、Zoom、SlackなどはNet Revenue Retentionの高い企業としてよく知られている)。

中小企業向けSaaSの場合には、アップセル余地がある程度限られるので、Net Revenue Retention が 100%を超えることは容易でないと言われるが、一方で、中小企業向けSaaSでは通常新規獲得の余地が非常に大きいという特性もある。

ユニットエコノミクスの代替指標

SaaSのユニットエコノミクスに関する指標は、上場企業であっても詳細に開示されていない場合も多い。その際に代替案として、Sales Efficiency という指標が多く用いられる。これは、(ある期間から翌期の間のネットでの売上成長額)/(その期間のセールス&マーケティングコスト)で表される。この指標のよいところは、成長において新規顧客獲得を重視するタイプのSaaSであっても既存顧客の売上拡大を重視するタイプのSaaSであっても、共通の尺度で図れるという簡便性がひとつである。もうひとつの利点として、現時点で日本のSaaS企業において、セールス&マーケティングコストとして切り出して開示しているケースはレアである(広告宣伝費だけが区分開示されていて、セールス&マーケティングに係る人件費等が含まれない)が、海外のSaaS企業であれば必ず開示している項目であるため、上場企業であればほぼ必ず比較可能な指標となっているという点だ。分子の売上成長額はサブスクリプション売上のみを利用するべきであろう。

R&D投資とG&Aコスト

ここまでのLTV/CACというフレームでは、獲得コストの回収という観点で考えられているものの、実際にはSaaS企業は顧客獲得コスト(新規顧客獲得が中心の会社では、セールス&マーケティングコスト)に加えて、R&D投資やG&Aコストなどの費用をかけていることを加味していなかったが、事業計画という観点ではR&DやG&Aについても当然加味するべきである。これらを加味することで、顧客獲得コストの回収という意味で考えてきたキャッシュフロー上や会計上の黒字化はさらに時間がかかる傾向にあることに注意が必要である。

R&D投資

シード~アーリー期のスタートアップにおいては、R&D投資はボトムアップだけで決める(何を開発したくて、そのためにどれだけの投資が必要かで考える)ことが多い。財務面をしっかりと管理するようになると、売上のx%程度という基準を持っておくというのが一つの考え方になる。

海外SaaS企業で、ある程度成熟期にはいると売上の15%-40%くらいにおいている会社が多い。売上の成長率が高い段階では高めで、成長率が下がるにつれて開発投資の売上に対する比率も下がってくるというのが一般的だ。

freeeでも、開発投資の計画はどのようにつくるべきか非常になやんだ。常にやりたいことにはきりがないというのがスタートアップの本音であるが、かといって無限の投資をする訳にもいかない。そこで数年スパンで開発投資の対売上比率のゴールを決め、それをひとつの基準として考え始めるようにしたところ考えやすくなった。もちろん、そのようなターゲットに制約されずに考えるべきタイミングもあるだろう。

G&Aコスト

G&Aコストは海外の上場SaaS企業の場合、売上の10%〜20%くらいの範囲となっている。こちらは主にコーポレート部門の人件費や経費だ。

成長投資のインパクト、どれだけの成長率を支えられるのか

ここまで、ARRが増えるメカニズムとユニットエコノミクスについて議論をしてきたが、ユニットエコノミクスに加えて、キャッシュフローに大きなインパクトを与えるのは、冒頭でも振れている通り、売上成長率(特に新規顧客の成長率)である。

 

次のグラフは、次の3つのシナリオにおいて、どのような売上と営業利益をもたらすかを図示している。

      • シナリオ1:新規顧客からの売上が毎年200
      • シナリオ2:新規顧客からの売上が初年度300で毎年100ずつ増える
      • シナリオ3:新規顧客からの売上が初年度300で毎年300ずつ増える
      • すべてのシナリオにおいて、顧客獲得コストだけでなく、R&Dコスト、G&Aコストを売上に対して固定の割合で想定

ここから明らかになるのは、成長率が高ければ高いほど、赤字の期間が長くなるが長期的な売上や利益は圧倒的に大きくなるという構図である。だからこそ、SaaSで大成するには、ユニットメトリクスにより成長投資の質を担保した上で、将来の成長のために大きな投資をしていく必要があり、そのための資金調達環境があることが非常に重要なのだ。

salesforce.comは現在でもP/Lの利益よりは、成長率を中心においた戦略をとっており、継続的な成長を実現しているが、このように科学的に成長を管理し、そのような管理に基づき、積極投資を続けていくという考え方が根付いていくことは、今後の日本のソフトウエア産業の進化において、非常に重要なカギになっていくと考えられる。

最後に

以上、本稿ではSaaSビジネスモデルの特性、SaaSビジネスにおける主要KPI、SaaSビジネスにおける投資の考え方について、freeeの経験を踏まえつつ紹介してきた。今後、日本国内においてもSaaSビジネスはさらに活況を呈し、ソフトウェア産業の進化を担っていく上で、このビジネスモデルについての本質がより広く理解されていくことは非常に重要だと考えられる。本稿がその中での一助となれば、非常に嬉しく思う。

小売業界のデータドリブンな意思決定を支援、店舗分析サービス開発のFlow Solutionsが1.5億円を調達

小売業界向けのデータ活用ソリューションを展開するFlow Solutionsは9月26日、複数の投資家を引受先とした第三者割当増資により総額1.5億円を調達したことを明らかにした。投資家リストは以下の通りだ。

  • DNX Ventures
  • アコード・ベンチャーズ
  • 博報堂 DY ベンチャーズ
  • 楽天キャピタル
  • Darwin Venture

Flow Solutionsは小売店舗が“データドリブンな意思決定”を行うのに必要となる基盤を開発するスタートアップだ。主要プロダクトの「InSight」ではカメラなどのIoT端末を通じて取得した来店客数や顧客属性、POSや店内の導線、レジ待ちなど店舗内の各種データを中心に、天気やスタッフのシフトなど付随する情報を含む様々なデータを統合し、ダッシュボード上で可視化する。

店舗の売上に直結する主要な指標をリアルタイムで常に把握できるのはもちろん、様々な角度からデータを収集することで従来は実現できていなかった観点からの深い店舗分析が可能。それにとどまらず客数や店内の混雑を予測した上で現場のスタッフに次のアクションを提案する機能を備えるほか、スタッフのデータ活用をサポートするeラーニングシステムなども提供している。

これまでFlow Solutionsのソリューションは59ブランド、800以上の店舗が導入。たとえば商品棚ごとのパフォーマンス分析を実施した上で店内の商品陳列が変更されるなど、同社のサービスを活用した実店舗での改善事例も多数生まれているという。

なおInSightに関しては店舗ごとの月額サブスクリプションモデル、IoTセンサーなどのハードウェアについても同様にHaaS(Hardware–as–a–Service)モデルの月額制だ。

Flow Solutionsによるとカナダや米国、欧州などではすでに7割程度の小売店で来店者分析や転換率の計測などデータに基づいた店舗分析が実施されているそう。一方で日本ではPOSに集積したデータ分析が主流になっていて、購買に至らなかった人に関するデータなど網羅的な店内データの収集や分析が進んでおらず、店員の勘や経験に依存している店舗も未だに多いようだ。

「顧客データの必要性を感じ、いち早く分析システムを導入した小売業者でも、データがバラバラであったり、顧客を洞察するまでに及んでおらず、従来は経験と勘に基づいた意思決定をせざるを得ない状況にあります。顧客のニーズが多様化し進化するのを感じながらも、今なお、ほとんどの小売業者が、顧客の好みや行動に対する推測、直感に基づいて意思決定を行っています」(代表取締役CEOのチャド・スチュワート氏)

上述した通りInSightではPOSや人員配置、キャンペーンなどこれまで散らばっていた各種データととももに、IoTセンサーから取得できる店内の行動情報を統合・分析し誰でも使えるようにするのが特徴。「店長からCEOまで、組織内のすべての人が、簡単に多数のデータソースを表示・実行できることも、お客様がFlowを選んでくださっている理由の1つ」だという。

今後はポイントサービスの分析機能やエクスポート機能の追加や、AIを用いた予測機能の拡充など引き続きプロダクトのアップデートに力を入れる計画。今回調達した資金を活用して組織体制を強化しながら、さらなる事業拡大を目指す。

「『小売データを実用的なものにする』という私たちの使命を一貫し、小売のデジタル化を強化するため、今後数か月に渡り素晴らしい新機能を提供していく所存です。予想よりも早くなりましたが、日本以外の小売業者やパートナーから注目が集まり始めています。 そして、日本の小売業者においても国外での成長機会を求めているため、言語や文化を超え管理できる『データ駆動型ツール』を使用し成長をサポートする態勢を整えていきたいと思っています」(スチュワート氏)

難解なITシステムの使い方を“画面上でガイド”する「テックタッチ」が1.2億円調達

企業内でのWebシステム活用をサポートするSaaS「テックタッチ」開発元のテックタッチは9月18日、Archetype Ventures、DNX Ventures他個人投資家などから総額1.2億円を調達したことを明らかにした。

スクリーン上のガイドでWebシステムの使い方をナビゲート

テックタッチは対象となるWebシステムの使い方や注意事項に関する「ガイド」をスクリーン上にリアルタイムで表示することで、ユーザーをサポートするプロダクトだ。

たとえば経費精算システムに経費を入力する場合に「どのような順番でどのボタンをクリックし、どこに必要事項を入力すればいいのか」をチュートリアルのような形で順々に示すことができる。

手順をナビゲートするだけでなく、入力の誤りが合った際にアラートを出してチェックすることも可能(半角英数字のみが対象となる入力欄にそれ以外の記号があった場合など)。条件によって次に表示されるガイドの内容を変える「条件分岐」を始め、細かいニーズに対応した機能を搭載する。

ガイドの作り方もシンプルだ。操作フローにそって「画面上のどこで」「どんなアクションをするか」を設定していくだけ。プログラミングスキルも不要で、吹き出しやポップアップなどを使いながら説明文をテキストで入力しておけばOKだ。

メインのターゲットはエンタープライズ企業。テックタッチ代表取締役の井無田仲氏はもともと金融業界の出身で、自身も過去に社内の業務システムなどに複雑さや使いづらい部分を感じた経験があるそう。社員数が多いためWebシステムに接する人も必然的に多く、なおかつ自社開発のものを含めて社内で複数のシステムが動いている。テックタッチが狙っているのはまさにそのような企業の課題解決だ。

「特に自社でフルスクラッチで開発した業務システムなどは様々な機能が盛り込まれている反面、複雑で使い方がわかりづらいことも多い。これまで社員にとって『難解でわからない、面倒なもの』と捉えられることもあったWebシステムを『便利で業務の生産性を上げてくれるもの』へと変えるのがテックタッチの役割だ」(井無田氏)

現場ではこれまで操作画面のキャプチャとテキストを組み合わせてマニュアルを作成したり、従業員向けの研修を開催してシステムの使い方をレクチャーするのが一般的だった。ただ結局のところシステム担当者には問い合わせが殺到し、ユーザーである社員も時間をかけた割に使い方がわからず、双方が負担を感じていたという。

テックタッチは画面上にガイドを表示できるので、マニュアルと画面を見比べながら操作をする必要がない。研修やeラーニングなどに比べると担当者側の負担も少なく、なおかつユーザーにとってもフレンドリーな形でシステムの使い方を浸透できるのが最大のメリットだ。

「自分たちが作っているのは『企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するプラットフォーム。マニュアルだけでなくOJTなどの研修やeラーニングなどをリプレイスするものであると同時に、システム導入担当者への問い合わせや不要な作業を減らす効果もある」(井無田氏)

従業員数1万人超えの企業を始めすでに10数社で活用

同サービスは2019年2月にクローズド版、同年5月にオープンベータ版をリリース。従業員数1万人を超える大企業を始め、現時点で10数社で活用されている。

井無田氏によると金融業界のほか、まだ本導入に至った企業はないもののコールセンターなどは特に相性が良いと感じているそう。コールセンターのように社員の退職や入れ替わりが定期的に発生する業界では、新メンバーの教育にその都度時間とコストがかかっていたが、その負担をテックタッチを通じて解消できるという。

プライシングは1ユーザーごとの月額定額制。たとえば従業員1万人の会社で全社員が使うシステムに活用された場合は、1万ユーザーになる。なお複数のシステムに導入しても料金は同じだ。

直近はエンタープライズ企業を中心に比較的規模の大きい企業への導入を進めていく方針だが、もう1つのアプローチとしてシステムを開発するベンダー向けの展開も見据えているそう。

例としては勤怠管理や労務管理などのHRTech、会計システムなどのFinTech周りのSaaSを手がけるスタートアップにテックタッチを提供するような形で、カスタマーサクセスの一環としてテックタッチが活用されていく可能性もありそうだ(その場合はベンダーが料金を払い、ユーザー企業に対して提供)。

約50社へのヒアリングで手応え、企業のDX支える基盤目指す

中央がテックタッチ代表取締役の井無田仲氏

テックタッチは2018年3月の創業。代表の井無田氏はドイツ証券や新生銀行を経てユナイテッドに入社し、同社では着せ替えアプリ「CocoPPa」を運営する米国子会社の代表などを勤めていた人物だ。

CocoPPa時代を振り返った時に「ユーザーの声をもっとプロダクトに活かせれば良かった」との思いがあったことから、企業のユーザーの関係性作りを支援するようなプロダクトでの起業を考えた。

いくつかアイデアを検討する中で行き着いたのが、現在のテックタッチ。グローバルではユニコーン企業の「WalkMe」を始め複数社がWebシステムの使い勝手を改善するプロダクトに取り組んでいることを知り、この領域に強い関心を持ったという。

「(構想段階で)大企業を中心に50社くらいの担当者にヒアリングしたところ、最初の10社の時点で大きなペインやプロダクトに対する熱狂を感じた。単純に『担当者のマニュアル作成や問い合わせのコストが減る』『企業のDXを支援できる』だけでなく、これまでITを上手く活かせなかった企業やそこから取り残されてしまっていた人をサポートできる事業になりえるとも思った」(井無田氏)

現在のプロダクトはまだその第1段階にすぎない。今回の資金調達で開発チームを中心に人材採用を進め、プロダクトのさらなるアップデートに取り組む計画だ。

次のステップでは来年春頃を目安に、企業内における「システム利用状況の解析機能」をリリースする予定。社内で各システムがどのように使われているかを可視化することで、システム利用についての課題をあぶり出したり、システム投資のROIを分析できる環境を提供する。

ゆくゆくは一部の業務を自動化するような機能なども取り入れながら、システムをよりわかりやすいものに変え、誰もが便利に使いこなせるようなサポートをしていきたいという。

テックタッチの今後の展望

“コミュニティタッチ”で顧客との継続的な関係性構築を支援するコミューンが5000万円を調達

デジタルコンテンツからリアルなモノやサービスに至るまで、従来一般的だった買い切り型のビジネスモデルではなく、継続的に顧客と関係性を構築するサブスクリプション型のモデルで事業を展開するプレイヤーが各業界で目立つようになってきた。

それに伴って企業と顧客との接点の持ち方やコミュニケーションの取り方にも変化が生まれている。ここ数年で「カスタマーサクセス」という言葉も頻繁に使われるようになった。

今回紹介する「コミューン」はユーザーコミュティを活用した“コミュニティタッチ”という手法でカスタマーサクセスのあり方をアップデートし、新たな顧客コミュニケーション基盤の実現を目指したプロダクトだ。

同サービスを展開するコミューンは7月3日、ユーザベースグループのUB Venturesを引受先とする第三者割当増資により5000万円を調達したことを明らかにした。

コミューンはオンライン上で企業独自のユーザーコミュニティを簡単に構築し、ユーザーエンゲージメントを向上する場所として活用できるツールだ。

プログラミングなしでデザインや機能のカスタマイズが可能で、データ分析の仕組みやSNS・コマースサービスなどとのAPI連携機能、オフラインイベントの管理機能などを備える。

コミューン代表取締役の高田優哉氏の話では「プログラミングなしでもある程度高度な運用ができること」がユーザーからの評価に繋がっているそう。たとえば最近始めたばかりのユーザーや長く使っているコアユーザーなど、ユーザーの属性に応じて全てのコンテンツを細かく出し分けられる。

「アンケートやインセンティブを組み合わせることで、サービスを一定期間使ってくれているユーザーだけにアンケートを実施し、お礼にポイントやバッジを送付する」「Shopifyを使っているようなコマース系のサービスなら、API連携をすることで購買データと紐付けた施策を行う」といったことも、管理画面上から簡単に設定することが可能だ。

ユーザー会などのオフラインイベントとオンラインコミュニティを連動させる機能も特徴の1つ。イベントに参加したユーザーだけが見られるオンラインページや、参加した後一定期間コミュニケーションできる場を作ることでイベントの効果を高めることも見込めるという。

昨年9月のベータ版リリース以降、東京ガスやBASE FOOD、BONX、MEDULLAなど上場企業からスタートアップまで数十社に導入されているそう。高田氏によるとC向け/B向け問わず「サブスク型」のビジネスを手がける企業を主なターゲットとして事業を展開しているようだ。

「コミュニティタッチのポイントはユーザーとの共創関係を作ること。(コミュニティを通じて)企業がこれまでやってきた活動をユーザーの力を借りながらさらに良くしていこうというものだ。サブスク型の場合は既存顧客の満足度を重要視していて月次のチャーンなどをKPIとして追っている一方、適切なユーザー接点を持てていないことに課題を感じている企業も多い」(高田氏)

利用シーンは大きく(1)マーケティングやプロモーション(2)カスタマーサクセス・ユーザーサポート(3)R&D の3つに分かれるそう。特にC向けプロダクトの企業はマーケティング用途、SaaSを含めたB向けプロダクトの企業はカスタマーサクセスの最適化やコスト削減用途での引き合いが強いという。

「顧客単価が低いとどうしても1対1の接点を設けるのが難しく、特にC向けの場合はどうしてもCSが受身のアプローチになりがち。いわゆるカスタマーサクセス的な関わり方が困難なケースも多かった。B向けの場合も、がっつり担当者がついてコミュニケーションを取るのは簡単ではない」(高田氏)

もちろん、ほとんどの企業がユーザーエンゲージメントを高めるために何らかのコミュニティ施策をやっている。たとえば「ユーザー会」のようにオフラインのイベントを定期的に開いたり、FaceBookグループなどでオンラインコミュニティを開設したり。

ただオフラインイベントの場合はどうしても“点”の施策になってしまいがちで、毎回ある程度の参加者は見込めても「それなりのリソースとコストも要する中で、結局どれくらいのインパクトを出せているのか」悩んでいる企業の担当者が一定数いるという。

またFBグループを使ったコミュニティについても企業のコミュニティ運用に特化したツールではないのでできることに限界があることに加え、そもそもユーザー属性の偏りや実名制に対する抵抗感などの要因も重なって効果的に支えている事例は少ないそう。コミューンを導入している顧客の約半数は実際活用した経験があり、期待するほどの成果を見込めなかったようだ。

「中には『コミュニティタッチをやりたい』と問い合わせを頂く企業もあるが、お客さんの声をもっと聞きたい、継続率を高めたいけどこれといった打ち手がわからないといった形で相談頂くケースも多い」(高田氏)

いわゆるコミュニティを作成できるツールはオンラインサロンやファンクラブなど多岐に渡るが、コミューンの場合は企業向けのSaaSとして、企業がユーザーエンゲージメントを高めるためのツールに特化して展開している。

企業担当者が必要なデータ分析機能や他SNSとのAPI連携機能を備える一方で「ユーザー課金」などの仕組みは取り入れていない。また「いかに自分たちの存在を消せるか」を徹底的に意識しているそうで、コミューンの名前は出さず、顧客のサービスにインテグレートすることに重きを置いている。

「自分たちが運営しているのは企業向けのSaaSで、Howとしてコミュニティを提供している。ユーザーは顧客のサービスやコミュニティにアクセスしたいのであって、コミューンは知ったこっちゃない。ユーザーにとっては顧客のサービスと違和感を感じることなく使うことができ、企業にとっては自分たちのサービスに寄り添ったものを作ることができる」(高田氏)

企業のコミュニティ活用は日本よりも海外の方が進んでいて、高田氏の話では「海外のSaaS時価総額トップ50にランクインする企業の約90%がコミュニティタッチを行なっている」という。

Khoros(旧Lithium)」を始めそれをサポートするツールも複数あるが、日本ではまだそこに特化したツールもなく、ノウハウ自体も浸透していない状況だ。

もともと高田氏たちはパーソナライズサプリのD2C事業からスタートした。β版のユーザーが数百名の時にユーザーとの間に距離感を感じコミュティタッチを実施しようと思ったものの、知識やリソースが足りず断念した過去がある。

「プロダクトを考え直す際に当時の経験を思い出し、周りの経営者や担当者にヒアリングしたところ、同じような課題を抱えていることがわかり、確実にニーズがあることを実感した」ことからコミューンの開発を始めた。

今後は調達した資金も活用しながら、オフラインイベント との連動性の向上や他SNSとの連携を含むプロダクトのアップデートに向けて開発体制の強化などを行なっていくという。

ネット予約を軸に飲食店業務の自動化・最適化を進めるTableCheckが6億円を調達

TableCheckのボードメンバーおよび投資家陣。中央が代表取締役CEOの谷口優氏

飲食店向けにクラウド型レストランマネジメントシステム「TableSolution(テーブルソリューション)」などを提供するTableCheckは7月2日、DNX VenturesとSMBCベンチャーキャピタルを引受先とする第三者割当増資により総額約6億円を調達したことを明らかにした。

同社では2017年12月にもSMBCベンチャーキャピタルから1.5億円を調達しているほか、これまでにジャフコ、出井伸之氏、山田進太郎氏などから4.65億円の資金調達を実施しており、累計調達総額は 10.65億円になる。

今回調達した資金を活用して海外拠点の新設と人材採用を加速させる計画。今年より本格稼働するオーストラリアとタイの2拠点に加え、2020年2月までに香港とドバイにも拠点を構える方針だ。また今後も継続的にテクノロジーの活用による飲食店業務の最適化・自動化に向けたプロダクトのアップデートを進めていくという。

なお同社では資金調達と合わせて福島純夫氏、倉林陽氏の2名が社外取締役に就任したことも明かしている。

導入店舗は19ヶ国約4000店舗まで拡大

TableSolutionはネット予約管理・顧客管理を軸とした飲食店向けのSaaS型プロダクトだ。予約の取りこぼしを防ぐ電話自動応答機能や着信と同時に顧客情報を表示するCTI連携機能、無断キャンセルを防ぐクレジットカード決済機能など、レストランの業務を効率化しつつ売上拡大も支援する仕掛けをいくつも用意している。

以前から積極的にグローバル展開を進めていて、現在は19ヶ国約4000店舗に導入済み。同サービスと連動したコンシューマー向けの飲食店検索・予約サイト「TableCheck」の月間予約人数も約100万人まで到達している。

SaaSの重要指標とされているチャーンレート(解約率)は1%以下を維持していて、海外の導入店舗数は前年比で2倍、国内も1.7倍になるなど比較的順調に成長しているようだ。

TableCheck代表取締役の谷口優氏によると、前回調達時からの約1年半は海外展開を積極的に進めてきたそう。「以前からグローバルに力を入れていくと言っていて、実際にシンガポールやオーストラリアなどに店舗を構えるグローバルチェーンからの引き合いが増えている。グローバルチェーンだからこそ徹底的にローカライズしなくても評価されるという仮説が実証されてきたので、今後はより広範囲で展開していきたい」という。

昨年韓国とシンガポールに拠点を開設し、今年の2月にインドネシアにも進出。7月より本格稼働するオーストラリアとタイを含めると海外拠点は5ヶ国に及ぶ。来年2月までには香港とドバイにも広げる予定で、これまで中心だったASEANから中東、ゆくゆくはアメリカなどへの展開も含めて検討していく計画だ。

とはいえ谷口氏が「申し込みの店舗数ベースでは日本とグローバルが5:1くらいの比率」と話すように、店舗数に関しては日本国内がいまだに中心。日本に関しては高級店だけでなくカジュアルな店舗への導入が進んでいることに加え、引き続き同業他社からのリプレイスが多いという(現在も新規申し込みの約半数ほどが別サービスからの乗り換えとのこと)。

TableSolutionの管理画面(フロア)

特に直近では個店だけでなく、20〜40店舗に予約台帳システムを導入しているような大規模店舗からのリプレイスが多いそう。この領域では同じくスタートアップのトレタを始め、国内だけでも複数のプレイヤーが事業を展開しているため「ある程度マーケットに浸透してきた中で、機能面などを踏まえてより自社に合ったプロダクトを選ぼうという流れになってきている」というのが谷口氏の見解だ。

「自分たちのフィロソフィーは『電話予約でできていたことはネット予約でも全部できないといけない。さらに電話予約ではできないことをネット予約で実現する』ということ。その部分をしっかりと評価してもらえている」(谷口氏)

たとえば人気店では電話予約時に人力で細かい調整が行われているそう。キッチンがパンクしないように、複数のテーブルに空きがあっても全席を同時刻に埋めるのではなく時間を微妙にずらしたり。ガラガラの月曜日には4人席で2〜3人の予約を積極的に受けつつ、客数が多い金曜日には4名の予約だけを受けたり。クリスマスには席数を増やしながら18時と20時半の2回転制にしたり。

このようなシーズンやニーズごとの飲食店側のオペレーションに細かく対応できるシステムは意外と少なく、場合によっては「売上を増やすため、業務効率化を進めるためにネット予約システムを入れたのに、席効率が悪くなることで却って売上が減ってしまったようなケースもある」(谷口氏)という。

結果的にネット予約に席をほとんど解放せず、電話予約で対応している店舗もあるとのこと。そこにペインを感じ、上述したような点を含めて柔軟にチューニングができるTableSolutionに行き着く顧客も多いようだ。

TableSolutionの管理画面(予約作成)

海外展開を加速、個人向けプロダクトの強化も見据える

電話予約でできることをネット予約でもスムーズにできるようにするという特徴に加え、ネット予約システムならではの機能も好評だ。

その1つが前回も紹介したカード決済機能「キャンセルプロテクション」。これは予約時に事前決済や与信をとることで無断キャンセルを抑止する機能で、ネット予約に加えて昨年11月には電話予約にも対応を始めた。

TableSolution導入企業は無料で使うことが可能で、適用される条件も予約人数や曜日、エリアなどに応じて細かく設定することができる(たとえば4人以上の場合は予約時にカード情報が必要など)。同機能は約1200店が活用しており、これらの特徴が顧客のニーズにマッチした結果として「原則ネット予約以外は受け付けない」という店舗も複数生まれてきているようだ。

このような店舗向けのソリューションを軸としつつ、直近では飲食店を訪れるコンシューマー向けの機能も少しずつ強化をしている状況。実運用は少し先になるとのことだが飲食店版クレジットスコアのような構想に向けた取り組みや、来店時にカードもスマホも一切使用せずに会計できる決済機能の展開も進めている。

今回の資金調達については海外展開を中心に導入店舗数を一層拡大することが大きな目的となるが、中長期的にはコンシューマー向けのプロダクト強化や新プロダクトも見据えているという。

「飲食店の『オートメーション』と『オプティマイゼーション』が2大テーマであることはこれからも変わらない。まずは国内外で飲食店の課題解決に向けた取り組みを強化しながら、世界中の飲食店とユーザーをシームレスに繋ぐプラットフォームとして機能拡充を進めていきたい」(谷口氏)

ITで“面接の近代化”へ、約1100社が使うウェブ面接ツール開発のスタジアムが5.6億円を調達

スタジアムの経営陣とジャフコのメンバー。前列右からスタジアム取締役の間渕紀彦氏、代表取締役の太田靖宏氏、取締役の石川兼氏。後列右からジャフコ取締役パートナーの三好啓介氏、プリンシパルの吉田淳也氏

「いろいろな業界がテクノロジーの力で変わってきているが、“面接”は未だに進化していない。応募者と企業それぞれにストレスや課題があって、みんな『これでいいのか』と疑問を持っている。僕たちが目指すのは面接とテクノロジーを掛け合わせることで、最高の面接の場を提供すること」

そう話すのはSaaS型のウェブ面接ツール「インタビューメーカー」を展開するスタジアム取締役の間渕紀彦氏だ。

同社が取り組むのはまさにテクノロジーによる「面接のアップデート」。まずは場所や時間の制約を取っ払うウェブ面接ツールからスタートし、面接を進化させる取り組みを実施していく計画だ。

そのスタジアムは5月28日、ジャフコを引受先とした第三者割当増資により5億6000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今後同社では面接映像データのAI解析や新機能の開発を進める方針。調達した資金を基にエンジニアやセールスメンバーを中心とした人材採用やマーケティング活動を強化するほか、シンガポール拠点を軸としたグローバル展開にも力を入れるという。

時間や場所の制約なし、スマホやPCから面接ができるツール

インタビューメーカーはスマホやPCを使って、場所や時間の制約を受けることなくオンライン上で面接ができるサービスだ。

コアとなる機能はオンライン上で面接ができる「ウェブ面接」、応募者が投稿した動画を基に選考する「録画面接」、選考状況や採用目標などを管理できる「採用管理」の3つ。付随する機能も合わせて、企業が応募者を獲得するところから人材の選定、面接、内定後のフォローに至るまでの各課題を解決する。

中でもウェブ面接の効果はわかりやすいだろう。オフラインの会場で面接を実施する場合と比べて応募者と面接官双方の移動コストを削減できるほか、ウェブ面接の選択肢を用意することでより多くの人材と接点を持てる可能性もある。

特に今は一部の人気企業はさておき、多くの企業が人材難で困っている状況だ。遠方に住む人材がエントリーしやすい環境を作るという観点でも、一次面接などにウェブ面接を取り入れている企業も少しずつ増えてきているようだ。

面接官面接可能な日程を登録しておけば、あとは応募者が日程を予約するだけで日程調整が完了する機能も搭載。Googleカレンダーなど外部のカレンダーツールとも連携が可能

僕自身も学生時代は関西に住んでいたため、面接や会社説明会のために頻繁に東京に訪れていた経験がある。当時は時間や体力的なもの以上に金銭的なコストが負担になっていたので、一次面接だけでもオンライン対応が可能になれば、特に地方に住む学生は助かるだろう。

そういう点では、そもそも面接に至る前の段階(人材を絞る段階)でお互いの認識をすり合わせる用途でもインタビューメーカーは活用できる。そこで活躍するのが録画面接だ。

「録画面接はどちらかと言うと多くの応募が集まる人気企業が面接に進む候補者を絞り込む際に使いたいという需要が多い。動画を通じて書類だけでは伝わらない雰囲気を確認でき、時間調整なども不要。優秀な人材や熱量の高い志望者に気づくこともできる」(スタジアム代表取締役の太田靖宏氏)

もちろん新卒採用に限らず、アルバイトの採用や中途採用でも使える。たとえば働きながら転職活動をしている求職者だと平日の日中は面接が難しい場合もあるだろう。そんな際にウェブ面接や録画面接を有効活用すれば、お互いの負担を最小限に留めてスピーディーに選考フローを進めることもできる。

面接用の動画を撮影して録画データでエントリーする「録画面接」は24時間エントリーが可能。事前に用意された質問に対して、回答となる動画を送る仕組みだ

面接の「録画データ」が重要な資産に

インタビューメーカーには面接を自動で録画する機能が搭載されているのだけど、実はこの録画データが「面接の質を高める」際に重要な役割を果たすそうだ。

「面接の様子は面接官と応募者以外にはわからず、いわばブラックボックスとなっていた領域。録画が残ることで面接官がきちんと応募者の話を引き出せているのか、内定辞退率が高い面接官はどのようなコミュニケーションをとっているのかなどが全て可視化される。企業全体として面接の質を高めるための教育ツールにもなりうる」(太田氏)

実際にスタジアム社内でも日常的にインタビューメーカーを活用しているが「面接の様子を見ると、一方的に面接官が話してしまっていたり、本質的な質問ができていないことが原因で面接官によって評価にズレが生じてしまっていることもわかるようになった」(間渕氏)という。

面接の模様を他の担当者と共有できる自動録画面接機能を搭載

たとえば一次面接で担当者が評価に迷った場合、役員などに動画を見せて判断を仰ぐこともできるので、ポテンシャルの高い人材を途中で不採用にしてしまうリスクも減らせる。面接の録画データを有効活用できる点は企業から好評なのだそうだ。

興味深いのが、まだ一部の企業には限られるものの「対面の面接時にもインタビューメーカーを開いてその様子を録画する事例もある」(太田氏)こと。太田氏や間渕氏は面接のブラックボックス化が課題と話すが、同じような課題感を持っている企業は少なくないという。

自分たちが感じた「面接の大変さ」を解決するツールとして開発

スタジアムはもともとライフノートという社名で2012年にスタートした会社だ。

創業者の太田氏はリクルートで「HOT PEPPER」の創成、成熟に主要メンバーとして携わっていた人物。同社を退職後ライフノートを立ち上げ、営業アウトソーシングを軸に事業を展開してきた。

ある時クライアントから約2ヶ月で70名規模の営業部隊を立ち上げて欲しいというオーダーが入り、期間内で800名ほどの面接を実施。そのプロジェクトを通じて「採用や面接の大変さを痛感した。それを解決できるようなシステムがないのであれば、自分たちで作ろうと思った」(太田氏)ことをきっかけに生まれたのが、インタビューメーカーの前身とも言える「即ジョブ」だった。

機能改善を進める中で「面接」に機能を絞り込み、2016年5月に無料のβ版を公開。翌年5月に正式版をリリースし、現在はADKホールディングス、コーセー、積水ハウス、キユーピー、ダイドードリンコを始めとする1100社以上に導入されている。

料金体系は月額3万9800円(ベーシックプラン)からの定額課金モデル。業界や規模はさまざまだが、初期からエンタープライズの顧客が多いことも特徴だ。

IT業界やスタートアップ界隈にいるとウェブ面接やオンライン会議も決して珍しくないような気もするが、太田氏や間渕氏によると「特に大企業を中心とする非IT系の企業や求職者にとってはまだなじみが薄く、過渡期」だという。

「それでも採用マーケットが厳しくなってきた中で、何かを変えなきゃいけない、特に『地方の学生や遠方の人材にもアプローチできる仕組みが必要』という声はよく耳にする。昨年ごろから『ウェブ面接を考えているので資料を欲しい』という問い合わせも一気に増え、他社ツールも含めて具体的に検討しているお客さんが多くなってきた」(太田氏)

グローバルで見ると日本企業も複数社が導入する「HireVue」が特に有名。そのほか国産のサービスでもウェブ面接を軸にしたものがいくつか立ち上がっている状況だ。

もちろん機能面やプロダクトの使い勝手も差別化要因にはなるが、ツールに慣れるまでにある程度の期間や教育コストがかかること、蓄積される録画データを活用したい企業が多いこともあり、一度入ってしまった後はスイッチングコストが高い。

それだけに「いかに早く多くの企業に使ってもらえるか、スピードも非常に重要」(太田氏)で、今回の資金調達はそのための体制強化が1つの目的だ。

合わせて、これまでインタビューメーカーは子会社のブルーエージェンシーを通じて提供していたが、事業を加速させるこのタイミングでライフノートと統合。5月からスタジアムとして再スタートを切った。

面接テックの追求へ、7万件の面接データの活用も

今後スタジアムではインタビューメーカーの新機能開発に取り組むほか、7万件を超える面接データの解析を進める。

「たとえば表情や声のトーンを解析することで応募者が言っていることの真偽を判定したり、感情を分析した結果あまり楽しそうでなければ『こういう質問をしたらどうですか』と面接官をアシストしたり。面接が終わった時に『楽しかったね』と思える状況を作りたい」(間淵氏)

面接の場を盛り上げるための仕掛けだけでなく、録画されたデータと社内で実績のあるメンバーのデータを照らし合わせることで、自社で活躍しそうな人材を抽出することもできるかもしれない。実際HireVueには人工知能が選考を支援する機能があるが、そのような展開も可能性としてはありえるという。

スタジアムはもともと営業アウトソーシング事業から始まっているため当初はセールスに強みを持つメンバーが中心となっていたが、近年はテクノロジーサイドの人材採

用も進めてきた。

取締役の間淵氏と石川兼氏はそれぞれクックパッド在籍時に執行役員広告事業部長、人事部長を務めた人物。その他クックパッドやお金のデザインを経て加わったCTOを始め、IT業界で経験を積んだ人材も増えてきているそうだ。

今回ジャフコの三好啓介氏、吉田淳也氏にも少し話を聞けたのだけど「人材と雇用は企業の最重要課題になっているものの、『採用』という部分については変革が進んでいないこと」「面接を科学していくことが、最適な人材や雇用の在り方にも繋がっていくと考えていること」に加えて、「営業だけでなくエンジニアを中心とした開発チームも良い人材が集まってきていること」が出資の決め手になったという。

スタジアムでは調達した資金を活用して、営業やエンジニアを中心とした人材採用にはさらに力を入れる計画だ。

「『面接の場』にだけ絞って、追求している会社はほとんどないと思っている。そこを誰よりも深く考え、面接×テクノロジーで大きな変革を起こすチャレンジをしていきたい」(間淵氏)

200兆円の間接費市場を変えるコスト削減SaaS「Leaner」ローンチ、5000万円の資金調達も

「200兆円にのぼる間接費市場はブラックボックスすぎて、全然適正化が進んでいない。そこにコンサル時代の知見を基に開発したプロダクトとデータを持ち込み、現場の購買担当者が『最適な商品を適正な量だけ、適正な価格で』調達できる仕組みを提供したい」

そう話すのはLeaner Technologiesで代表取締役CEOを務める大平裕介氏だ。同社は5月21日、間接費の無駄を徹底的に見える化し、コスト削減をサポートするSaaS型のプロダクト「Leaner(リーナー)」を公開した。

間接費とは個々の製品やサービスに紐付けることが難しい費用のことで、コピー用紙からシステム機器まで扱う費目は多岐に渡る。いわゆる総務や経理といった部門のメンバーが様々な商品・サービスを調達しているのだけれど、この領域は不透明なことが多くブラックボックス化しているという。

それゆえに経営層や現場の購買担当者が抱えている課題を「テクノロジーとコンサル流のナレッジ」で解決していくのがLeanerの役割だ。

ブラックボックスすぎる間接費市場を透明化する

Leaner Technologiesは2019年2月の創業。学生時代に起業経験もある大平氏は大学卒業後にコンサルティングファームのATカーニーに入社し、幅広い企業のコスト改革を支援してきた。

Leaner Technologiesで代表取締役CEOを務める大平裕介氏

そこで大平氏が痛感したのが、「マーケットの不透明さ」と「経営者の課題」だったという。

「個人におけるAmazonのような存在がないため、費目ごとに無数の商品から最適なものを選ぶ難易度が高い。多くの費目では見積もりをとらなければ価格がわからず、しかも合見積もりと交渉によって価格が変動するため適正な価格を判断するのも困難。加えて他社と比較することも難しいので自社のタクシー代やコピー費が使いすぎなのかどうかも判断しづらい」(大平氏)

まさに最適な商品、適正な価格、適正な調達量を見極める上で必要なものがほとんど透明化されていないので、最適化をしようと思ったところで「自社だけではどうしようもない」という状況に陥ってしまう企業も多い。

そこで重宝されるのがATカーニーなどコスト削減のプロフェッショナル集団だ。

「自社の間接費が他社や業界水準と比べて多いか少ないかを比較したり、ビッグデータを活用して現在の調達条件が適正価格とどのくらい離れているかを分析して見える化したり。実際の実行支援も含めて、コスト削減に関する一連のサポートを行っている」(大平氏)

ただ、どんな企業でもこのようなサポートを受けられるわけではない。相場観としてはだいたい数千万円半ばあたりからのオーダーになることが一般的で、その場合コスト削減額が1億円を超える規模くらい見込めないと発注しづらいのだという。

大平氏によると、ATカーニー在籍時に企業の経営層と話をしていて「株主からイノベーションを期待されたり、事業改善を求められたりするが、そのために必要な原資がない。そもそもの原資を生み出すためにコスト削減をお願いしたい」というリクエストが多かったそうだ。

本来このようなニーズは大企業に限らず中小企業でも抱えているもの。だが一定の予算や事業規模がないとマッチせず「(中小企業の経営者には)コンサルティングファームに相談したけど、費用が見合わず断られた人も少なくない」(大平氏)という。

間接費市場を抜本的に変革でき、かつより多くの経営者が挑戦できるように原資を生み出すサポートができないか。最終的に大平氏が行き着いたのが、それまでATカーニーでやってきたようなことをプロダクト化し、より安価に提供することだった。

大手コンサルの約1/10の価格でコストを適正化する

大平氏いわくLeanerは「めちゃくちゃ簡単なプロダクト」だ。

既存の財務・購買データ(3年分くらいのデータがあると望ましいとのこと)をアップロードするだけで、データを基に自社のこれまでや他社の動向と比較して割高な間接費目を一覧できる仕組みを構築。そこに専門的なナレッジを用いて「各費目がどのくらいコスト削減できる余地があるのか」を試算し、最優先で手をつけるべきポイントを示す。

つまり自社の間接費の中で「どの費目を、どのように改善するのがいいのか」を提案してくれるわけだ。

コスト削減の手順とサプライヤーについてもオススメのプランをレコメンドする機能を備え、トータルのコスト削減効果を定量的に評価するまでの工程をサポートする。

同業他社や業界水準との比較、削減余地の算出などはデータを基に機械的に対応。一方で各費目の改善プランなどはベースとなる部分は人間が作り、顧客の状況や条件に合わせて最適なものをテクノロジーでマッチングする。

ただしプロダクトを渡して終了という類のものではないので、カスタマーサクセスチームが定期的に担当者とコミュニケーションをとり、細かいチューニングを行っていく。

Leaner上にデータを蓄積することで、担当者が変わった際の引き継ぎや経営陣による確認がよりスムーズになる効果も見込める。

一般的にこのようなデータはほとんどの企業がエクセルを使って管理しているそう。担当者ごとに名寄せが変わることもしばしばで、そういった意味でも非常に属人化しがちな業務と言える。そこをクラウド上でわかりやすく、かつ統一したルールで管理・把握できる点はメリットだ。

Leanerではこれらの仕組みをミニマムで月額10万円から提供する。「ほとんど手間なく、既存のコンサルの1/10くらいの価格でコストを適正化できるのが最大の特徴」(大平氏)で、同サービスとコンサルティングファームの関係性は「税理士事務所とfreeeの関係性にも似ている」という。

またLeaner Technologiesには創業メンバー兼アドバイザーの1人としてクラウドワークス取締役社長兼COOの成田修造氏が参画している。

今回成田氏にも話を聞くことができたのだけれど「『SmartHR』などと近しい存在なのではないか。本来もっと効率的にやれるはずなのに、膨大な手間がかかっている領域。そこにテクノロジーを用いて、シンプルに、かつ安価にやれる仕組みを作った」のがポイントだと話す。

コンサルティングファームで培った知見とクラウド上に蓄積されるデータを活用して、導入企業の間接費管理とコスト削減を効果的にサポートする

総務担当者が正しく評価される仕組みとしても活用

当初こそマーケットの現状と経営者の課題に着目してLeanerの開発を始めたが、実際に現場の声を聞いたりトライアル版を試してもらったりする中で、大平氏はもう1つの大きな課題と提供できる価値に気づく。現場で必死にコスト削減に向き合う購買担当者の悩みだ。

「経営者からコスト削減してと言い渡されるが、何をやっていいかもわからなければ、トラッキングする仕組みもないので(成果を出しても)なかなか正当な評価を受けられない。結果的に頑張っても報われない傾向になりがちで、モチベーションが上がりづらい構造だ」(大平氏)

Leanerの場合だとどうなるか。誰にでもわかる形でコスト削減効果が見える化されるので、営業が顧客を獲得して売り上げをあげれば評価されるのと同じように、総務のメンバーも正当に評価されやすくなる。

実際Leanerの問い合わせの約半数は経営者から、そして残りの半数が総務担当者からなのだそう。コスト削減の正しいやり方がわかるのはもちろん、評価される軸ができるという点に対する反応は良いという。

間接材マーケットプレイスの展開も見据えて事業拡大へ

今回Leaner Technologiesではプロダクトのローンチと合わせて、インキュベイトファンドから5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

資金は主にプロダクト開発チームとカスタマーサポートチームの体制強化に用いる計画だ。同社には大平氏やCOOの田中英地氏などATカーニー出身のメンバーに加えて、成田氏とともにVapes創業者の野口圭登氏が創業メンバー兼アドバイザーとして参画している。

Leaner Technologiesのメンバー

初期のスタートアップとしてはなかなか豪華な顔ぶれだが、今回の調達を機に、かつてMonotaROの創業投資にも携わっていたインキュベイトファンドの本間真彦氏が投資家として加わったことも大きいという。

今後Leanerでは間接費の管理と最適な改善プランのレコメンドを軸にプロダクトを磨いていく方針。水平的に全ての間接費の状況がしっかりと管理された上で、担当者にとって1番良い製品やサービスが出てきたときに教えてあげられるようなプラットフォームにしていくのが直近の目標だ。

「アメリカの大企業だとCPO(最高購買責任者)という役職の人がいて、コストに対してものすごくシビアに向き合う。それが企業の営業利益や株価の差にも繋がっている。今まではコンサルにお金を払える企業だけがコスト削減を導入できたが、そうではない企業でも使える仕組みを通じて、日本企業を強くするサポートもできる」(成田氏)

大平氏や成田氏によると、中長期的にはLeaner自体にコマースの機能を組み込み「間接材全体のマーケットプレイスを担うこと」も考えているそう。大平氏も認めるように「なかな地味な領域」ではあるが、これからLeanerがどのようなポジションを確立していくのか。今後の動向にも注目だ。

知識なしでも最短1分で動画作成、「RICHKA」が2.1億円を調達

SaaS型の動画生成ツール「RICHKA(リチカ)」を運営するカクテルメイクは5月14日、ベンチャーキャピタルのNOWなど6社を引受先とする第三者割当増資により総額で2.1億円を調達したことを明らかにした。

今回の資金調達はカクテルメイクにとって昨年9月にNOWや佐藤裕介氏などから5000万円を調達して以来のラウンドで、シリーズAに該当するもの。需要が高まっている動画広告用途を軸に、5G時代到来に向けてプロダクトの機能拡充やパートナー企業との連携、人材採用など組織基盤の強化を通じてさらなる事業拡大を目指す。

なおシリーズAに参加した投資家陣は以下の通りだ。

  • NOW
  • みずほキャピタル
  • 新生企業投資
  • ドリームインキュベータ
  • マネックスベンチャーズ
  • FFGベンチャービジネスパートナーズ

素材とテキストのみでサクッと動画生成

RICHKAは専門知識がないユーザーでもパフォーマンスの高い動画を作れる動画生成サービスだ。

必要なのはシーンに合わせて素材(動画や画像)とテキストを入れるだけ。動画の制作経験がなくても、ドラッグ&ドロップで用意した素材を配置して、表示させたいテキストを入力すればブラウザ上でスピーディーに動画が完成する。

素材についてはRICHKA上にある100万点以上の動画や画像素材を使うことも可能。素材を選択すると画像認識システムを通じて最適な切り抜き位置を判定するなど、AIを用いた制作サポート機能も搭載されている。

細かいポイントはいろいろとあれど、RICHKAの大きな特徴となっているのがバラエティに富んだ動画フォーマットだ。

約100人のクリエイターが毎月100種類以上の動画フォーマットを作成していて、ユーザーはその中から目的や業種、配信先などに合わせて最適なものを選び動画を作る。

現在用意されているフォーマットはだいたい1000種類ほど。RICHKAで蓄積されたナレッジを反映してどんどん新しいものが追加される仕組みが構築されていて、これが高いパフォーマンスを実現することにも繋がっているという。

この領域では昨年9月にリリースされた「VIDEO BRAIN」のように動画制作をAIで自動化するようなプロダクトも登場してきているが、今のところRICHKAではユーザーがツールを活用して自身で動画を作成する。AIは一部の工程を補助する位置付けだ。

この点についてカクテルメイク代表取締役の松尾幸治氏に話を聞いてみたところ「自分たちもAIで全自動化するような実験にも取り組んでみたが(現段階では)多様なニーズをAIだけで捌くのは難しいと判断した」結果、今の仕組みで提供しているという。

「ユーザーの視聴態度はSNSや年齢層によっても異なり、ものすごく細分化される。ただ広告という数秒〜長くても30秒くらいの尺の中で、かつ業種業態が限られているという条件下であれば自動化できる余地はある。それも見据えて今はフォーマットの種類を増やしている段階。トレンド自体は人が作るものなので、そこはクリエイターに担ってもらうことは変わらない」(松尾氏)

今後はフォーマットのレコメンドなどにも力を入れていく計画。サービスのサービスの業種業態や特徴を入れたら適切なものを推薦したり、もう一歩進んで出来上がりの状態まで提示するような仕組みも検討しているという。

動画広告用途を中心に累計200社以上が導入

松尾氏によると、RICHKAはこれまでで累計200社以上に導入され月間の動画生成数は5000本を突破。トータルで生成された動画数は10万本を超えたそうだ。

2018年9月の調達時に話を聞いた際は「動画広告用のクリエイティブ、Webメディアやプラットフォームでの利用、その他の用途がそれぞれ3分の1ずつ」ということだったけれど、直近では動画広告用途が増加。現在は全体の約7割を占める。

「広告事業者や事業会社において高速で(動画クリエイティブ作成の)PDCAサイクルを回したいという声がものすごく増えてきている。特に以前に比べて広告代理店からの引き合いが強くなってきた。クライアントからの動画広告のニーズを無視できない状況である一方で、制作会社に頼るとコスト感が合わなかったり、PDCAを回すスピードが遅くなってしまったりする」(松尾氏)

そこでRICHKAの登場というわけだ。RICHKAの場合は動画制作経験のない広告運用者でも手軽に動画を作ることが可能。料金も月額10万円からの定額モデルのため、コストを抑えながら何本もの動画を試すこともできる。

実際RICHKAのユーザーの9割ほどは動画を作ったことが一度もないような人たちだが、上述した機能とフォーマットの助けを借りることで、成果を出しているケースも多いようだ。

「フォーマットを介して各業界や用途ごとに今の動画のトレンドを知れるのも特徴。(各フォーマットの)パフォーマンスなどを把握した上で動画を作れるため、ゼロから自分でナレッジを貯めていくよりも効率が良い」(松尾氏)

2月には広告代理店向けの「RICHKA for Agency」をリリース。サービス上の動画フォーマットを営業資料として持ち歩き、自社のオリジナルWebカタログ(自社のロゴを入れることが可能)として使えるような仕組みも整えた。

カクテルメイクでは今回調達した資金を用いてRICHKAのさらなる機能拡張やマーケティングの強化、人材採用などを進めていく計画。培ってきたノウハウやデータを活かしながら、5Gの本格的な商用化が見込まれる2020年末までに、ハイクオリティでリッチな動画を100万本生成することを目指すという。

企業と社員のアップル製デバイス管理を自動化するFleetsmithが海外進出を目指す

Fleetsmithは2016年に、クラウド上のApple(アップル)製デバイスを管理することをミッションとしてローンチした。同社はAppleのDevice Enrollment Program(日本語ページ)を利用して、これまでは複雑だったITの活動を単純化する。同社は昨年そのサービスを大幅に充実し、そして米国時間4月8日、Menlo VenturesがリードするシリーズBのラウンドで3000万ドルを調達したことを発表した。

Tiger Global ManagementとUpfront Ventures、およびHarrison Metalがこのラウンドに参加した。契約の条件として、MenloのパートナーですNaomi Pilosof Ionita氏が同社の取締役会に加わる。彼女の同僚であるMatt Murphy氏が取締役会のオブザーバーになる。同社発表のデータによると、これで同社の調達総額は4000万ドルあまりになる。

同社の共同創業者でCEOのZack Blum氏によると、最初のミッションは痛点の解消を目指し、共同創業者はAppleのデバイスを管理する現代的なアプローチを手探りで探した。Blumはこう説明する。「Fleetsmithを利用すると、顧客企業はデバイスを社員たちに直接配布できる。そして、それをもらった社員はWi-Fiに接続し、デバイスは自動的に管理システムに登録される」。

彼によると、このような自動化と、同社プロダクトのセキュリティおよびインテリジェンスの機能が合わさって、ITはデバイスの登録やアップデートについて心配する必要がなくなる。社員は、世界中のどこにいてもよい。

最初は主に中小企業に問題解決を提供していたが、最近では規模の大小を問わず、ワークフォースが分散している企業が主な顧客だ。そういう企業にとっては、どこからでも自動的に登録ができるのでとても便利だ。登録が完了したら顧客企業は、会社の全社員にセキュリティアップデートをプッシュしたり、必要ならアップデートを強制できる。ただし社員がクライアントところで会議に出ていることもあるので、そのようなアップデートができない場合には、強力なリマインダーを送る。

昨年同社は、ITが管理下のすべてのデバイスを一望にできるために、ダッシュボードを開発した。それを見ると、個々のデバイスの健康状態や問題点が分かる。たとえば、ディスクの暗号化をやっていないMacBook Proが数台見つかるかもしれない。

このダッシュボードは、Office 365やG Suiteのアイデンティティ管理部位に統合できる。ITはこれら両ツールから直接に社員をダッシュボードへインポートし、すると社員はFleetsmitこれらツールの認証情報でサインインできるから、全社員を管理下に収めることが迅速にできる。

スクリーンショット提供: Fleetsmith

Fleetsmithはまた、Managed Service Providers(MSPs, 各種のマネージドサービスのプロバイダー)とのパートナー事業により、そのリーチをさらに広げた。MSPsは中小企業のITを管理しているから、彼らとの関係を構築すればFleetsmithの拡大も迅速に行える。

現在同社は社員数30名、顧客企業数1500社に成長しているから、このやり方がうまく行ってるようだ。今回の新たな資金は今後のさらなる社員増と、プロダクトの能力拡大、そして海外進出に充てられる(これまでは米国市場のみ)。

関連記事: 中小企業の多様なApple製品の利用を自動化クラウドサービスで管理するFleetsmith$7.7Mを調達(同社シリーズA時)

画像クレジット: MacFormat Magazine / Getty Images

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

20歳になったSalesforceから学ぶ、スタートアップ成功の心得

Salesforceは、3月8日に創立20周年を迎えた。当時はOracleやSiebel Systems(シーベル・システムズ)などの1990年代のCRM市場の巨人たちを追いかけていた、この小さくて元気な企業が、今や本格的SaaS企業へと成長した。年間収益が140億ドルを超える同社は、これまで作られたものの中で最も成功している純粋クラウドアプリケーションである。

20年前の時点では、それは製品を出荷することを狙う、アイデアを抱えたスタートアップの1つに過ぎなかった。今では、同社の起業当時にまつわる伝説が語られるようになっている。それマーク・ザッカーバーグ氏の大学寮の部屋や、スティーブ・ジョブズ氏のガレージのようなものではなく、すべては1999年のサンフランシスコのアパートの一室から始まった。元Oracleの幹部だったマーク・ベニオフ氏と開発者のパーカー・ハリス氏がインターネット上で実行されるビジネスソフトを開発するためにチームを組んだのだ。彼らはそれをSalesforce.comと名付けた。

1999年の営業初日に、そのアパートに集まったほんのひと握りの従業員たちの中で、20年後の姿を想像できていた者はおそらくいなかっただろう。特にそれがドットコムクラッシュの始まる一年前だったことを思うとなおさらだ。

今や歓喜の頂点へ

すべては1999年3月8日に、サンフランシスコのモンゴメリー通り1449番地にあるアパートから始まった。そこがSalesforceの最初のオフィスが置かれた場所である。最初に集結した4人の従業員は、ベニオフ氏とハリス氏、そしてハリス氏のプログラミング仲間であるデイブ・メレンホフ氏とフランク・ドミンゲス氏だった。この場所を彼らが選んだのは、ベニオフが近くに住んでいたからだ。

SaaS(Software as a Service)という名のもとに、最初に市場に投入されたものがSalesforceだ、という表現は正確なものではないだろう。この用語はその数年後に登場したものだからだ。実際に、当時は他にもたくさんのエンタープライズソフトウェアのスタートアップたちが、ビジネスをオンラインで行おうとしていた。たとえばその中には、後にNetSuiteに名前を変え、2016年にはOracleに93億ドルで売却されたNetLedgerなどがいた。

ほかにもオンラインCRM競合企業としては、Salesnet、RightNow Technologies、そしてUpshotといった企業が存在していた。いずれの企業も数年のうちに売却されることになる。だがSalesforceだけが独立した会社として生き残った、それは2004年に株式公開され、最終的には世界のトップ10のソフトウェア企業の1つに成長することになる。

共同創業者でCTOのハリス氏は、当初こうしたことが起きることは想像していなかったと、最近語っている。もちろんベニオフ氏とは出会っており、彼がなにか凄いことが起きると考えていることは知っていたのだが。「当時私達が20年後にこんなにも成功した企業となり、世界にこれほどの影響を持つようになるとは、私自身はほとんど想像していませんでした」とハリス氏はTechCrunchに語った。

止めるものは何もなかった

ベニオフ氏とハリス氏が出会ったのはまったくの偶然というわけではなかった。ベニオフ氏は、オラクルからサバティカル(長期一時休暇)を取って、インターネット上で実行されるセールスオートメーションツールを開発することに狙いを定めていた。一方ハリス氏、メレンホフ氏、そしてドミニゲス氏の3人は営業自動化ソフトウェアソリューションを開発していた。そして両者のビジョンが合体することになったのだ。しかし、クライアントサーバーソリューションを構築することと、オンラインソリューションを構築することはとても異なるものだった。

1998年に送られた、マーク・ベニオフ氏からパーカー・ハリス氏へのミーティング出席依頼電子メール(パーカー・ハリス氏の厚意による)

これが1999年だったということを思い出して欲しい。この頃にはサービスとしてのインフラストラクチャ(IaaS)という概念は存在していない。Amazonが2006年にAmazon Elastic Compute Cloudを発表するまでには、まだ何年も待たなければならなかった。そこでハリス氏と彼の勇敢なプログラミングチームは、スケール可能で成長するソフトウェアの開発とサーバーの提供を、自力で行うことになった。

「ある意味では、それが私たちを成功させた理由の1つなのです。何より先に、私たちは世界規模で考えなければならないことに気付いていたからです」とハリス氏は言う。解くべき問題は、ある大企業向けにCRMツールを1つ構築しては、その組織の需要に合わせて拡張して行ったり、それを次々に横展開して行ったりすることではなかったのだ。本当に行おうとしていたのは、人びとがサインアップするだけでサービスを使い始めることができるような方法を編み出すことだったのだ、と彼は語る。

「ある意味では、それが私たちを成功させた理由の1つなのです。何より先に、私たちは世界規模で考えなければならないことに気付いていたからです」(ハリス・パーカー氏)(Salesforce

それはいまでは、ありふれたやり方に思えるかもしれないが、1999年にビジネスを行う方法としては決して一般的ではなかった。当時のインターネットは、消費者向けの無数のドットコムたちによって支配されていたが、その多くは翌年、またはさらにその翌年に破綻することになる。Salesforceは、オンラインでエンタープライズソフトウェア企業を立ち上げることを望んでいた。そうした試みをする企業は彼らだけではなかったものの、先行者の常として前例のない課題に直面し続けていた。

「当時『サービスとしてのインフラストラクチャ(IaaS)』が世の中になかったために、ハードウェア層での最適化が行えなかったために、私たちは大規模マルチテナントと呼ぶソフトウェアを作成しました。そしてその上で、最適化を行ったのです。実際には、初期段階では私たちはとても小規模なインフラストラクチャを持っているだけでした」と彼は説明した。

夢を追い続けて

当初からベニオフ氏はビジョンを持っており、ハリス氏はその構築の責任を負った。2007年にZuoraの共同創業者となるティエン・ツオ氏がSalesforceの11番目の従業員になったのは、ビジネスのためのアパートオフィスがオープンして5ヶ月後のことだった。その時点では、まだ公式の製品は存在していなかったが、ベニオフ氏がツオ氏を雇ったときにはそのリリースは迫っていた。

ツオ氏が言うには、彼はプロダクトマネージャーとしての役割を期待していたのだが、彼のOracleでの営業経験を見たベニオフ氏は、彼をADR(Account Dvelopment Representative、マーケティングの集めた見込み客情報を、適切な営業チームに引き渡す役割)として雇用した。「私の本能は、この男に逆らうな、ただ引き受けよ、と告げていました」とツオ氏は語る。

Salesforce.comの初期プロトタイプ(写真提供:Salesforce)

ツオ氏が指摘するように、少数の人間しかいないスタートアップでは、結局肩書には、あまり大きな意味はなかったのだ。「あなたの肩書が何だったかなど、誰も気にしません。私たち全員がそのような姿勢でした。コードを書くか書かないかの違いがあるだけです」と彼は言った。コーダーたちは、サンフランシスコ湾を眺めることのできる2階で隠れるように仕事をしており、ベニオフ氏からは彼らの邪魔をしていけないという厳命が下されていた。残りの従業員たちは階下にいて、顧客を獲得するために電話をかけていた。

「あなたの肩書が何だったかなど、誰も気にしません。私たち全員がそのような姿勢でした。コードを書くか書かないかの違いがあるだけです」(ティエン・ツオ氏)。

Salesforce.comのWayback Machine上の最初のスナップショットは、1999年11月15日のものである。洒落たものではないがCRMツールに期待するものがひととおりそろっていることがわかる。アカウント、連絡先、商談、予想、報告が、タブで分類されている。

このサイトが正式に立ち上げられたのは2000年2月7日だった。そのときの顧客数は200人だった。

遠い道のり

成功したスタートアップの背後にはみな、強力に推進するビジョナリーが控えているものだ。Salesforceの場合、その人物とはマーク・ベニオフ氏だ。彼が会社のコンセプトを思いついたとき、ドットコムブームは加速していた。それから1年か2年で、それらの多くは退場して行くのだが、1999年の時点は何でもありの状況だった。ベニオフ氏は大胆で無鉄砲で、そしてアイデアにあふれた人物だったのだ。

しかし、たとえいいアイデアであってもさまざまなな理由から上手くいくとは限らない。このことは多くの失敗したスタートアップの創業者なら骨身に染みて知っていることだ。スタートアップが成功するためには、この先どうなっていくかについての長期的なビジョンが必要である。ベニオフ氏はビジョナリーであり、そしてフロントマン、チャンピオン、チーフマーケターのすべてを兼ね備えた人物だったのだ。そう言われても彼は否定しないだろう。

The 56 GroupのマネージングプリンシパルでありCRM業界に関する複数の書籍(2001年に出版された「CRM at the Light」などを含む)があるポール・グリーンバーグ氏はSalesforceの初期ユーザーだった。彼によれば、初期の製品にはあまり感心しなかったそうである。ある記事の中ではそのエクスポート機能に対する不満を述べている。

当時のSalesforceの競合相手だったSalesnetは、グリーンバーグ氏の投稿に気付くと、その不満を自社のウェブサイトに掲載した。ベニオフ氏はそれを読むと、早速電子メールをグリーンバーグ氏に送信した。「私どもの製品に疑いを感じていらっしゃるようですね。説得力のある疑念は大歓迎です。納得していただけるよう話を聞いていただけるでしょうか?」グリーンバーグ氏は、ニューヨーカーらしく1行で返信したと語った。「お好きなように」。20年後、グリーンバーグ氏はベニオフ氏はその仕事をやってのけたと語った。彼をついに納得させたのだ。

「私どもの製品に疑いを感じていらっしゃるようですね。説得力のある疑念は大歓迎です。納得していただけるよう話を聞いていただけるでしょうか?」(初期のマーク・ベニオフ氏のメール)

SMBグループの共同創業者兼パートナーであるローリー・マッケーブ氏は、1999年にベニオフ氏がSalesforceを彼女のチームにプレゼンするためにやって来た当時は、ボストンのコンサルティング会社で働いていた。彼女はすぐにマーク本人に感銘を受けただけでなく、エンタープライズソフトウェアをオンラインにして、多くの企業の手に届くものにするという概念にも感銘を受けたと話す。

「彼は、SaaSでもクラウドでも、その他何と呼ぼうと構いませんが、そうしたものの舞台監督だったのです。決して他の人たちが素晴らしいビジョンを持っていなかったという意味ではありませんが、彼のドラムはひときわ大きく鳴り響いていたのです。そして、彼は非常に優れたストーリーテラー、マーケター、その他全てを兼ね備えた人物であるという事実に加えて、オンプレミスソフトウェアはほとんどのビジネスにとって手を出せないものであるという正しい認識を持っている人物だと思いました」と彼女は語った。

極端にやろう

ソーシャルメディアが登場するよりも前の時代に、ベニオフ氏が世間の注目を会社に集めるために行った方法の1つは、ゲリラマーケティングのテクニックだった。彼はインターネット上のソフトウェアを説明する方法として「ソフトウェア不要(no software)」というアイデアを思いついた。2000年2月にモスコーンセンターで開催されたSiebelの会議に、彼は初期の従業員の何人かを「抗議」のために送り込んだ(下の写真)。彼は主要な競争相手の1つにゲリラ的に挑んだのだ、そのことによって、テレビニュースクルーたちによる十分な注目を集め、ウォールストリートジャーナルの中で言及されるほどの騒ぎを巻き起こすことに成功した。こうしたことはみな、まだ初期段階にあった会社にとって、貴重な宣伝となった。

写真提供:Salesforce

ブレント・ラーリー氏は、2003年に業界コンサルタントとして独立し、現在の自分の会社であるCRM Essentialsを立ち上げた人物だ。彼によればこの製品を売り込む力こそが、同社にとっての差別化の力であり、彼の注意を引いた点だと言う。「私はSalesnetやその他のものについても聞いたことがありましたが、Salesforceは本当に良い製品を提供していただけでなく、すでにそれを力強く推進していたのです。彼らは『ソフトウェア不要』の福音を全面的に打ち出すことで、この競争を有利に運んでいるように思えました。そしてそれもショー全体の一部だったのです」とラーリー氏は、Salesforceとの初めての協業体験について語った。

さらにラーリー氏は「私が最初にDreamforce(Salesforceの年次ユーザー会議)に参加したのは2004年でした、その年の会議は特に印象的なものでした。なぜならそれは2004年のエレクションデイ(米国の公職選挙の日)に開催され、ジョージ・W・ブッシュ大統領のそっくりさんがやってきて開会宣言を行ったのです。それが本物の大統領だと思った人もいたことでしょう」と付け加えた。

グリーンバーグ氏は、「ソフトウェア不要」キャンペーンは、ソフトウェアをオンラインで提供するというアイデアを、人間のレベルで語ったことが素晴らしいと語った。「マークが『ソフトウェア不要』と言うとき、もちろん彼自身はソフトウェアがあることは知っていました。ですが、彼が本当に素晴らしい点は、ビジョンを人びとに届ける力に長けているところなのです」。1990年代から2000年代初頭にかけてのソフトウェアは、主にCD(または3.5インチフロッピーディスク)の箱に入って出荷されていた。よってソフトウェア不要という言葉は、そうしたソフトウェアに直接触る必要がないことを人びとに理解させた。単にサインアップして使うだけでよいのだ。グリーンバーグ氏によれば、このキャンペーンは、当時提供手段として一般的でないオンラインソフトを、人びとに理解させる役に立ったということだ。

カルチャークラブ

Salesforceを会社として差別化している大きな要因の一つは、創業1日目から続くその企業カルチャーである。ベニオフ氏は責任ある資本主義のビジョンを持ち、その最初期の計画文書の中に、彼らの慈善1-1-1モデル(1%の誓約)を記している。そのアイデアとは、Salesforceの株式の1%、製品の1%、および従業員の労働時間の1%をコミュニティに提供するということだ。ベニオフ氏がかつて笑いながら述べたように、その誓約を行ったときには、彼らは製品を持っておらず、まったくお金を稼いでもいなかった。しかし彼らはその誓約を忘れず、他の多くの企業もSalesforceが生み出したモデルに従っている。

画像提供:Salesforce

Wildcat Venturesのパートナーであり、ジェフリー・ムーア氏(著書「キャズム」で有名)と「Traversing the Traction Gap」という本を共同で著したブルース・クリーブランド氏は、まさしくベニオフ氏がやったように、初期にカルチャーを確立しておくことが、スタートアップにとって不可欠だと語る。「CEOは、そうしたカルチャーを、自社の運営基準だと言い切らなければなりません。私たちが価値を置くのはそういうところなのです。こうすることで社員たちは、お互いに責任をもって日々の運営を行っていくのです」とクリーブランドは語った。それがベニオフ氏のやったことなのだ。

また別の要素は、顧客との信頼関係を築くことだった。これは今日に至るまでベニオフ氏が追求し続けているテーマである。ハリスが指摘したように、1999年の時点では、まだ人びとはインターネットを完全には信頼していなかったので、同社はクレジットカード情報をオンラインで入力することに対する抵抗を克服しなければならなかった。だがそれ以上に困難だったことは、利用する企業たちに、彼らの貴重な顧客情報をインターネット上で預けることに同意させることだった。

「私たちは規模について考えるだけでなく、顧客の信頼をどのようにすれば得られるのかについても考えなければなりませんでした。顧客に向かって私たちは、ご自身で管理なさるよりも、私たちの方が同等以上に良い情報保護をご提供できますと説得したのです」とハリス氏は説明した。

成長する

同社はもちろんこれらの抵抗を克服し、さらに進むことができた。現在Oktaで共同創業者兼CEOを務めているトッド・マキノン氏が2006年にエンジニアリング担当副社長としてSalesforceに入社したのは、会社が1億ドル規模の会社に成長を始めた頃だった。彼は当時を振り返り、ある程度の成長痛があったことを語る。

2006年から現在に至るSalesforceの収益の成長(グラフ出典:Macro Trends

彼が就任したとき、Salesforceは3台の中規模Sunサーバーを、コロケーション施設に置いて運用していた。マキノン氏はそれは現代の基準から考えるとハイエンドとは言えないものだったと言う。「現代のMacBook Proに搭載されているものよりもおそらく少ないメモリーしか搭載されていなかった筈です」と彼は笑いながら言った。

着任時には同社にはまだ13人のエンジニアしかおらず、実際のインフラストラクチャへの要求はまだとても低かった。それは彼が任にあたっていた6年の間に変わることになるのだが、彼が入社時点ではそれは上手く動作していた。5年以内に、それは劇的に変化したと彼は語る。その当時同社は自社データセンターを運営し、Dell X86サーバーのクラスタを運用するようになっていたが、変更は不可避だった。

その変更を行うために、彼らはもう一度Sunに戻って、そのとき売られていた最大のサーバーを4台購入し、そしてすべてのデータを転送した。問題は、Oracleデータベースがうまく機能していなかったことだった。そのため、マキノン氏が語ったところによれば、Oracleのラリー・エリソン氏に電話をかけることになった。設定について話を聞いたエリソンは、どうしてそのような設定にしているのかと質問してきた。彼らがそれを設定した方法は単純に上手くいかないやり方だったのだ。

彼らはそうしたことをすべて解決して、先に進むことができたが、こうしたことは現代のスタートアップなら出会うことのない危機だっただろう。なぜなら現代なら企業は自社ハードウェアではなく、クラウドインフラストラクチャサービスを利用するからだ。

ウィンドウショッピング

これとほぼ同じ時期に、Salesforceは買収を通じて成長する戦略を開始した。2006年には、その後続いていく買収の最初の1社として、Sendiaという名の小さなワイヤレステクノロジー企業を1500万ドルで買収した。これは最初のiPhoneが発売される1年前の2006年の時点だが、同社はすでにモバイルについて考えていたのだ。

昨年、同社は52回目の買収を行った。これはこれまで行ったものの中でも最も高額なものだった。MuleSoftを65億ドルで買収したのだ。そのソフトウェアを使うことでSalesforceの顧客はオンプレミスとクラウドの世界の橋渡しを行うことが容易になる。グリーンバーグ氏が指摘したように、これは会社からのメッセージに大きな変化をもたらした。

「SalesforceによるMuleSoftの買収により、バックオフィスとフロントオフィスの間、およびオンプレミスとクラウドの間のサイクルを、ほぼ完全に自己完結させることができるようになりました。そして突然気付くのです、彼らは『ソフトウェア不要』と言っていないということに。彼らはオンプレミスを攻撃していないのです。おわかりのように、そうした話はみな脇へ追いやられてしまったのです」とグリーンバーグ氏は語った。

成長して優先順位が変化していく中で、完全に一貫性を保てる企業は存在していないが、もしどのように成功する企業を成長させるべきかの青写真を、スタートアップとして探しているのなら、Salesforceは学ぶべきとても優れた企業である。20年が経った今も、彼らは成長し続けており、まだ強くなっている最中だ。そして責任ある資本主義のための力強い発言力でもあり続けている。仕事をしながら多くのお金を稼ぎ、コミュニティに対しても還元を行っている。

さらに学ぶことができるもう一つのレッスンは、これで終わりではないということだ。20年というのは大きな節目だが、成功した組織にとっては長めの1歩に過ぎないのだ。

画像クレジット: Getty Images

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(翻訳:sako)

チームの目標達成を支援するOKR管理サービス「Resily」が5000万円を調達

クラウドOKR管理サービス「Resily」を運営するResilyは2月13日、DNX Ventures(旧 Draper Nexus Ventures)より5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

近年チーム内の目標管理手法のひとつとして、OKR(Objectives and Key Results)が注目を集めている。この手法は元インテルCEOのアンディ・グローブ氏が提唱したもの。グーグルやメルカリを始め、それこそTechCrunchで紹介しているようなテック系の企業を中心に国内外で広く採用されている(ちなみにGoogleが運営する「Google re:Work」ではOKRに関するナレッジがかなり具体的に公開されている)。

OKRではまずO(Objectives / 簡単には達成できない高いレベルの目標)とそれを達成するための鍵となるKR(Key Results / 定量的な成果指標)を設定。出来上がったOKRは組織全体に共有して、お互いの状況をいつでも把握できるようにしておくこと、そして月に1回など比較的短いスパンでレビューすることがポイントだ。

チーム内でOKRを活用する場合、通常はまずチーム(会社や部署など)のOKRを設定し、各メンバーはそれに基づく形で個々の目標と成果指標を決める。そうすることで組織全体で同じ方向を向いてプロジェクトを進めることにも繋がる。

今回紹介するResilyは「マップ」「コミュニケーションボード」「タイムライン」という3つの機能を軸に、チーム内でのOKRの管理とそれにまつわるコミュニケーションをスムーズにするサービスだ。

全体のOKRをマップビューで一覧できる「マップ機能」は、中期と短期の目標の整合性を確認したり、それぞれの進捗度をパッと把握したりする際に便利な機能。単にOKRが階層状に並んでいるだけでなく、問題のある箇所や達成の自信がない箇所については赤や黄色で色付けされるため、一目で気づくことができる。

マップが高いところからチーム内のOKRの全体像を捉えるための機能であるとすれば、反対に「ミーティングボード機能」は1つ1つのOKRに関する細かい粒度のコミュニケーションを集約するための機能だと言えるだろう。

上述した通りOKRは設定したら終わりではなく、頻繁に振り返ることで初めて効果が出る。そのためには定期的に各目標に関連するアクションや気づきなどの情報を蓄積しておくことが重要だ。ミーティングボードはまさに各OKRごとの“掲示板”の役割を担い、この場所に来れば各メンバーの最新の進捗や課題、考えなどを一通り把握できる。

もし部下を持つような立場であれば、自身の進捗だけでなく部下の進捗も頻繁に確認したくなるだろう。そんなマネージャー層向けの機能が自分の成果に関連するメンバーの動向をチェックできる「タイムライン機能」だ。

ここでは各メンバーの最新動向に加え、KRの変更履歴なども見ることができる。部下がどんな課題を抱えているのか、何に悩んでいるのかをスピーディーに把握する際にも活用できるだろう。

Resilyのアイデアは、創業者の堀江真弘氏が前職のSansanでプロダクトマネージャーとして働いていた際に感じた課題をきっかけに生まれたもの。チームを横断して一緒に仕事をする際に、それぞれのチームが「何を優先事項に掲げているのか」「どんな目標を設定しているのか」を把握するのに時間がかかって大変だった経験から、その状況を改善する事業を始めるべく2017年8月にResilyを創業している。

会社を立ち上げて半年ほどはOKRのコンサルティングなどを通じて、色々な企業が目標管理をする上でどのような課題を感じているのかを探った。結果的には「お互いの目標を一箇所で把握でき、適切な意思決定をするのに十分な量の情報が集約された情報基盤」の必要性を感じ、2018年の8月にResilyをローンチした。

OKRに対応した目標管理ツールとしては以前紹介している「HRBrain」などもあるが、堀江氏いわくResilyは「コミュニケーションツールに分類されるもの」であり、人事評価などに重きを置いた他のソリューションとは方向性が異なるという。

Resilyは現在Sansanやパソナの関連会社、大手新聞社や消費財メーカーなど約50社で導入済み。今後はセールスフォースなど外部ツールとの連携なども強化しながら、プロダクトの拡充を進める計画だ。

ビジネスの“サブスク化”を後押しする「サブスク振興会」が発足

左から、テモナ代表取締役社長の佐川隼人氏、エアークローゼット代表取締役社長兼CEO天沼聰氏、東海大学 総合社会科学研究所 Eコマースユニット 客員准教授の小嵜秀信氏、ファインドスター代表取締役社長の渡邊敦彦氏、富士山マガジンサービス代表取締役社長の西野 伸一郎氏、そしてネオキャリア代表取締役の西澤亮一氏

サブスクリプションビジネスの認知拡大と産業振興を目的とした一般社団法人「日本サブスクリプションビジネス振興会」が1月23日、発足した。日本でもSaaSから月額制の衣類や家具レンタルまで幅広い分野のサブスクビジネスが誕生してきたが、同振興会では更に多様なビジネスの“サブスク化”を後押しする。

日本サブスクリプションビジネス振興会の目的は「リピーターによる定期的な取引によって売り上げが安定する」ストック型サブスクビジネスの日本国内での振興。サブスクを日本のマーケットに浸透させるべく、情報やノウハウ、ビジネス事例など成功に必要な情報を提供する。

「サブスクビジネスをこれから始めたい人、興味がある人、もっと加速したい人。この振興会はそんなみなさんに、どうやったらサブスクが上手くいくのか、必要なポイントは何なのか、事例、データ、情報など一つでも多くのものを提供していきます」

当日開催された会見でそう話したのはサブスク振興会の代表理事を務めるテモナ代表取締役社長の佐川隼人氏だ。

「『うちの商材だとサブスクが出来ない』と思っている人は多い。けれども、サブスク化出来ない商材は基本的にない。情報や事例がないから出来ないと思い込んでらっしゃる。その方たちにしっかりと情報を発信していく」(佐川氏)

また同氏は「不景気になればなるほどサブスクモデルは強い。この先の状況を見ると、サブスクにとっては追い風だ。やる人はこれからも増えていく」と話していた。

振興会の理事を務めるのはエアークローゼット代表取締役社長兼CEO天沼聰氏、東海大学 総合社会科学研究所 Eコマースユニット 客員准教授の小嵜秀信氏、ファインドスター代表取締役社長の渡邊敦彦氏、富士山マガジンサービス代表取締役社長の西野 伸一郎氏、そしてネオキャリア代表取締役の西澤亮一氏。

事務局はテモナ執行役員CMOの青栁陽介氏が務める。

テモナは1月18日、サブスクリプションビジネスに特化したメディア「サブスクリプションマガジン」のローンチも発表していた。

世界を手中に収めたオープンソースソフトウェア

わずか5年前には、ビジネスモデルとしてのオープンソースの実現可能性について、投資家たちには懐疑的な考えが少なくなかった。よく言われていたのは、Red Hatは奇跡的な例外であり、他にはソフトウェア業界で重要な存在となるオープンソース企業は存在しないということだった。

話を現在にまで早送りしてみると、私たちはこの分野で高まり続ける興奮を目の当たりにしてきた。Red HatはIBMに320億ドルで買収された。これは同社の2014年の時価総額の3倍に相当する。 MuleSoftは株式公開した後に65億ドルで買収された。 MongoDBの価値は、現在40億ドルを上回っている。 ElasticはIPOによって、現在60億ドルの価値を持つとされている。そして、ClouderaとHortonworksの合併によって、時価総額が40億ドルを超える新しい会社が出現することになる。そして、進化の過程の成長段階を経て、さらに成長を続けるOSS企業の一団もある。たとえば、ConfluenceHashiCorpDataBricksKongCockroach Labsなどだ。ウォールストリートや個人投資家が、これらのオープンソース企業について見積もっている相対的な株の価値を考えると、何か特別なことが起こっていることはかなり明らかのように思える。

この、かつてソフトウェアの最先端の動きとされていたものが、なぜビジネスとしても注目を集めるようになったのか? それには、オープンソースのビジネスを推し進め、市場での展望を増大させる、いくつかの根本的な変化があったのだ。

M写真はDavid Paul Morris/Getty ImagesのBloombergから

オープンソースからオープンコアへ、さらにSaaSへ

当初のオープンソースプロジェクトは、実際にはビジネスというわけではなく、クローズドソースのソフトウェア会社が享受していた不当な利益に対する革命だった。Microsoft、Oracle、SAPといった企業は、ソフトウェアに対して「モノポリーのレンタル料」のようなものを徴収していた。当時のトップクラスのデベロッパーは、これを普遍的なものとは考えていなかった。そこで、進歩的なデベロッパーが集り、通常は非同期的に協力して、最も広く利用されているソフトウェアのコンポーネントであるOSとデータベースを皮切りに、素晴らしいソフトウェアの一群を作成した。そうしたソフトウェアは、単にオープンというだけではなく、彼らが付け加えたゆるい管理モデルによって改善され、強化されたことは誰の目にも明らかだ。

そうしたソフトウェアは、もともとデベロッパーによって、デベロッパーのために作成されたものだったので、最初はあまりユーザーフレンドリーとは言えないものだった。しかし、それらは高性能かつ堅牢で、柔軟性も兼ね備えていた。こうしたメリットは、ソフトウェアの世界にだんだん浸透し、10年ほどの間に、Linuxはサーバー用として、Windowsに次いで2番目にポピュラーなOSとなった。 MySQLも、Oracleの支配を切り崩すことで、同様の成功を収めた。

初期のベンチャー企業は、これらのソフトウェアのディストリビューションに「エンタープライズ」グレードのサポート契約を提供することによって、こうした流れをフルに活用しようとした。その結果、Red HatはLinuxの競争で、MySQLは、会社としてデータベースでの勝者となった。ただし、そうしたビジネスには明らかな制約もある。サポートサービスだけでソフトウェアを収益化することが難しいのだ。しかし、OSとデータベースの市場規模が非常に大きかったため、少なからぬ困難を背負ったビジネスモデルにもかかわらず、かなり大きな会社を築き上げることができた。

LinuxとMySQLの手法が成功したことによって、第2世代のオープンソース企業のための基盤が整備された。その世代のシンボルが、ClouderaとHortonworksだ。これらのオープンソースプロジェクト、そして同時にビジネスは、2つの観点で第1世代とは根本的に異なっている。まず最初に、これらのソフトウェアは主に既存の企業の中で内で開発されたもので、広い、関連の薄いコミュニティによって開発されたものではない。現にHadoopは、Yahoo!の中で生まれたソフトウェアだ。2番めに、これらのビシネスは、プロジェクト内の一部のソフトウェアのみが無料でライセンスされるというモデルに基づいたもので、別の部分のソフトウェアについては、商用ライセンスとして、顧客に使用料を請求することができる。そしてこの商業利用は、エンタープライズの製品レベルを意識したものなので、収益化が容易なのだ。したがって、これらの企業は、彼らの製品がOSやデータベースほど訴求力がないものであっても、多くの収益を上げる力量を備えていたことになる。

しかしながら、こうしたオープンソースビジネスの第2世代のモデルには欠点もあった。1つには、こうしたソフトウェアに対する「道徳的権威」を単独で保持する企業が存在しないため、競合する各社がソフトウェアのより多くの部分を無料で提供することで、利益を求めて競い合うことになった。もう1つは、これらの企業は、ソフトウェアのバージョンの進化を細分化することによって、自らを差別化しようとするのが常態化したこと。さらに悪いことに、これらのビジネスはクラウドサービスを念頭に置いて構築されていなかった。そのために、クラウドプロバイダーは、オープンソースソフトウェアを利用して、同じソフトウェアベースのSaaSビジネスを展開することができた。AmazonのEMRがその典型だ。

起業家のデベロッパーが、オープンソース企業の最初の2世代、つまり第1世代と第2世代に横たわるビジネスモデルの課題を把握し、2つの重要な要素を取り入れてプロジェクトを展開したとき、新しい進化が始まった。まず第1に、オープンソースソフトウェアの多くの部分を企業の内部で開発するようにしたこと。現在では、多くの場合、そうしたプロジェクトに属するコードの90%以上が、そのソフトウェアを商品化した会社の従業員によって書かれている。第2に、それらの企業は、ごく初期の段階から彼ら独自のソフトウェアをクラウドサービスとして提供するようにしたこと。ある意味では、これらはオープンコアとクラウドサービスのハイブリッドビジネスであり、自社製品を収益化するための複数の道筋を備えている。製品をSaaSとして提供することによって、これらの企業はオープンソースソフトウェアと商用ソフトウェアを織り交ぜることができるので、顧客はもはやどちらのライセンスに従っているのか心配する必要がない。Elastic、Mongo、およびConfluentなどの企業は、それぞれElastic Cloud、MongoDB Atlas、Confluent Cloudといったサービスを提供しているが、それらが第3世代の代表だ。この進化の意味するところは、オープンソースソフトウェア企業が、今やソフトウェアインフラストラクチャの支配的なビジネスモデルとなる機会を持っているということなのだ。

コミュニティの役割

それらの第3世代の企業の製品は、確かにホスト企業によってしっかりと管理されてはいるものの、オープンソースコミュニティは、オープンソースプロジェクトの作成と開発において、いまだ中心的な役割を果たしている。1つには、コミュニティはもっとも革新的で有用なプロジェクトを発見し続けている。彼らはGitHub上のプロジェクトにスターを付け、そのソフトウェアをダウンロードして実際に試してみる。そして優れたプロジェクトだと感じたものは拡散して、他の人もその素晴らしいソフトウェアの利益を享受できるようにする。ちょうど、優れたブログ記事やツイートが感染のように広まるのと同じで、素晴らしいオープンソースソフトウェアもネットワークの効果を最大限に活用している。その感染を発生させる原動力となっているのがコミュニティというわけだ。

さらにコミュニティは、事実上それらのプロジェクトの「プロダクトマネージャ」として機能しているようなものだ。コミュニティは、ソフトウェアに対して機能強化と改良を求め、欠点も指摘する。製品に付随するドキュメントには、要求仕様書こそ含まれていないが、GitHubにはコメントスレッドがあり、Hacker Newsというものもある。そうしたオープンソースプロジェクトがコミュニティに誠実に対応すれば、やがてそれはデベロッパーが必要とする機能と性能を備えたものに、自然となっていくのだ。

またコミュニティは、オープンソースソフトウェアの品質保証部門としても機能している。ソフトウェアに含まれているバグや欠陥を指摘し、0.xバージョンを熱心にテストし、何が動いて何が動かないかをフィードバックする。そしてコミュニティは、すばらしいソフトウェアに対しては肯定的なコメントによって報いる。それによって、利用者数の拡大を促すことになる、

しかし、以前と比べて変わったことは、ソフトウェアプロジェクトの実際のコーディングについては、コミュニティはそれほど関与しなくなったこと。こうした傾向は、第1世代と第2世代の企業にとっては障害となるとしても、進化し続けるビジネスモデルの不可避な現実の1つなのだ。

Linus Torvaldsは、オープンソースのオペレーティングシステム、Linuxの設計者だ

デベロッパーの台頭

こうしたオープンソースプロジェクトにとって、デベロッパーの重要性が高まっていることを認識することも大切だ。伝統的なクローズドソースソフトウェアの市場開拓モデルは、ソフトウェアの購買センターとしてのITをターゲットにしていた。ITは、いまでもそのような役割を果たしているものの、オープンソースの本当の顧客はデベロッパーなのだ。彼らは、ソフトウェアを発見し、ダウンロードして開発中のプロジェクトのプロトタイプバージョンに組み込む、ということを普段からやっている。いったんオープンソースソフトウェアに「感染」すると、そのプロジェクトは、設計からプロトタイプ作成、開発、統合とテスト、発表、そして最終的に製品化まで、組織的な開発サイクルに沿って進行し始める。オープンソースソフトウェアが、製品に組み込まれるまでに、置き換えられるということはめったにない。基本的に、そのソフトウェア自体が「販売」されるということは決してない。それは、そのソフトウェアを高く評価しているデベロッパーによって選定されるのだ。それは彼ら自身の目で確かめ、実際に使ってみての判断であり、経営者の決定に基づいて決められたものではない。

言い換えれば、オープンソースソフトウェアは真のエキスパートを介して普及し、選択のプロセスを、これまでの歴史には見られなかったような民主的なものにした。デベロッパーは、自分の意志に従って行動する。これは、ソフトウェアが伝統的に販売されてきた方法と好対照を成している。

オープンソースビジネスモデルの美点

その結果、オープンソース企業のビジネスモデルは、従来のソフトウェアビジネスとはまったく異なって見えるものになった。まず最初に、収益ラインが違う。比べてみるなら、クローズドソースのソフトウェア会社は、オープンソース企業と比較して単価を高く設定できる。しかし今日でも、顧客は理論的には「無料」のはずのソフトウェアに対して、高額の対価を支払うことに、ある程度の抵抗を感じている。オープンソースソフトウェアは、単価は安くても、市場の弾力性を利用して全体としての市場規模を確保しているのだ。ものが安ければ、より多くの人が買う。それこそが、オープンソース企業が大きな規模で、かつ急激に製品市場に適合できた理由だ。

オープンソース企業のもう1つの大きな強みは、はるかに効率的かつ感染性の高い市場開拓の動きにある。中でも第1の、そしてもっとも明白な利点は、ユーザーはお金を払う前から、すでに「顧客」になっているということ。オープンソースソフトウェアの初期導入の大部分は、デベロッパーがソフトウェアを組織的にダウンロードして使用することによるものであるため、販売サイクルにおいて、市場への売り込みと概念実証の両方の段階を、企業自体が迂回できるのが普通だからだ。セールトークは、「あなたは、すでに私たちのソフトウェアの500のインスタンスを、あなたの環境で使用しています。エンタープライズ版にアップグレードして、これらの付加機能を入手されてはいかがでしょうか?」といったものになるだろう。これにより、販売サイクルが大幅に短縮され、顧客担当者1人あたりに必要なセールスエンジニアの数を大幅に減少させることができる。そして、販売費用の回収期間も大幅に短縮できるわけだ。実際、理想的な状況では、オープンソース企業は顧客担当者に対するシステムエンジニア数の比率を好ましいものに保って業務を遂行でき、四半期以内にセールスクオリファイドリード(SQL)から商談成立まで持ち込むことができる。

このようなオープンソースソフトウェアビジネスの感染性は、キャッシュフローの面でも、従来のソフトウェアビジネスよりはるかに効率的でいられるようになる。最高のオープンソース企業の中には、中程度の現金バーンレートを維持しつつ、3桁の成長率でビジネスを伸ばすことができたところもある。そんなことは、伝統的なソフトウェア会社では想像するのも難しい。言うまでもなく、現金の消費が少なければ、創業者にとっては希薄化も少ないことになる。

写真はGetty Imagesのご好意による

オープンソースからフリーミアムへ

変化し続けるオープンソースビジネスにおいて、詳しく説明する価値のある最後の様相は、真のオープンソースからコミュニティに支援されたフリーミアムへの緩やかな移行だ。すでに述べたように、初期のオープンソースプロジェクトは、コミュニティをソフトウェアベースへの重要な貢献者として活用していた。その際には、商業的にライセンスされたソフトウェアの要素がわずかでも混入すると、コミュニティから大きな反発を受けた。最近では、コミュニティも顧客も、オープンソースビジネスモデルについてより多くの知識を持つようになった。そしてオープンソース企業は「有料コンテンツの壁」を持つことで、開発と革新を続けていけるのだ、という認識も広まった。

実際、顧客の観点からすれば、オープンソースソフトウェアの価値を決める2つの要素は、1)コードが読めること、2)それをフリーミアムとして扱えることだ。フリーミアムの考え方は、それを製品として出荷しなければ、あるいはある一定数までは、基本的に無料で使用できるということ。ElasticやCockroach Labsのような企業は、実際にすべてのソフトウェアをオープンソース化するところまで踏み込みつつ、ソフトウェアベースの一部に商用ライセンスを適用している。その論拠は、実際のエンタープライズ契約の顧客は、ソフトウェアがオープンかクローズドかにかかわらず料金を支払うが、実際にコードを読むことができるのであれば、商用ソフトウェアを利用する意欲も高まる、というものだ。もちろん、誰かがそのコードを読んで、わずかな修正を加え、亜流を配布するという危険性もある。しかし、先進国では、すでにさまざまな分裂が生じているが、エンタープライズクラスの企業が模倣者をサプライヤーとして選ぶことなどありそうもない。

このような動きを可能にした重要な要因は、より現代的なソフトウェアライセンスにある。そのようなライセンスを最初から採用してた企業もあれば、時間をかけて移行してきた会社もある。Mongoの新しいライセンス、そしてElasticやCockroachのライセンスは、その良い例だ。10年ほど前に、オープンソースプロジェクトの原点となったApacheのインキュベートライセンスとは異なり、これらのライセンスははるかにビジネス向きで、モデルとなるようなオープンソースビジネスのほとんどが採用している。

(関連記事:MongoDBがそのコードのオープンソースライセンスを改定、オープンソースの“食い逃げ”に むかつく

将来は

4年前に、このオープンソースに関する記事を最初に書いたとき、私たちは象徴的なオープンソース企業が誕生することを熱望していた。Red Hatという1つのモデルしかなかった頃には、もっと多くのモデルが登場すると信じていた。今日、オープンソースビジネスの健全な一団を見ることができるようになったのは、非常にエキサイティングなことだ。これらは、オープンソースの遺伝子プールから登場してくるのを目にすることになる象徴的な企業のほんの始まりに過ぎないと、私は信じている。ある観点から見ると、何十億ドルもの価値があるこれらの企業は、このモデルの力を立証するものだ。明らかなのは、オープンソースはもはやソフトウェアに対する非主流のアプローチではないということ。世界中のトップクラスの企業がアンケート調査を受けたとき、その中核となるソフトウェアシステムを、オープンソース以外のものにしようとするような企業はほとんどないだろう。そして、もしFortune 5000の企業がクローズドソースソフトウェアへの投資をオープンソースに切り替えれば、まったく新しいソフトウェア企業の景観を目の当たりにすることになる。そしてその新しい一団のリーダーたちは、数百億ドルもの価値を持つことになるのだ。

もちろん、それは明日にも実現するようなことではない。これらのオープンソース企業は、今後10年間で、成長、成熟し、自社の製品と組織の開発を進める必要がある。それでも、この傾向は否定できない。そして、ここIndex Venturesでは、この旅の初期に、私たちがここにいたことを光栄に感じている。

画像クレジット:aurielaki

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

入居申込から契約まで完結、不動産業務基盤「キマRoom! Sign」にIT重説・電子契約の新機能

「不動産業界はアナログで、紙の書類・FAX・電話が好き、というイメージがあるが、あれは全部“ウソ”。なるべくしてなった“必然”なんです」広島発の不動産テックスタートアップ、セイルボート代表取締役の西野量氏は、そう切り出した。

「不動産業界、特に賃貸物件では、管理会社と仲介業者の間で、契約が決まるまでの間に情報のやり取りが数多く発生する。しかも、そのキャッチボールは無数の仲介業者との間で行われる。相手ありきの自己完結しない業界。そのことがローテクに寄る理由です」(西野氏)

大家、管理会社には自分で借主を見つける手段はない。そこで管理会社は何軒もの仲介業者と、物件の空き状況確認から始まり、内覧の可否伝達や条件交渉など、契約までやり取りを重ねる。だが、キャッチボールの方法は相手である仲介業者に委ねることになる。そこで選択されるのは、どんな業者でも最大公約数的に使える、最も“枯れた”テクノロジー、すなわち「紙・FAX・電話」にどうしても偏ってしまうのだと西野氏はいう。

仲介業者も巻き込んで使えるプラットフォームを作りたい。1つのプラットフォームの中で、入居申込から契約まで、やり取りを完結したい。そうした西野氏の思いから誕生したのが、不動産業務の電子プラットフォーム「キマRoom! Sign(キマルームサイン)」だ。

このキマRoom! Signに11月27日、「IT重説」(ITを活用した重要事項説明)と電子契約の機能が加わった。IT重説とは、それまで義務とされていた、対面での賃貸契約の重要事項説明がオンラインでも行えるようになったもの。2017年10月に本格運用が始まり、テレビ会議システムなどを使った説明が各社で始まっているが、1つのシステムで入居申込・IT重説・契約の3つの業務を行えるのは、日本では初だという。

「システム連携があってこそ不動産業界の電子化は進む」

キマRoom! Signが公開されたのは、2017年8月のことだ。このときには、入居の電子申込機能が先行してリリースされた。

仲介業者は入居希望者に、タブレット端末への手書き入力で入居申込に記入してもらう。記入するとリアルタイムでテキストデータ化されるので、その場で電子化された内容が確認ができ、データの再入力の手間や誤転記などの心配もない。

仲介店舗で記入したデータは直接、管理会社へ送信される。従来の紙と同じフォーマットで、手書き文字が記入されたPDFも送信可能だ。印刷すれば紙で保存できるし、FAXしか受け取れない相手にはFAXで送信もできる。西野氏は「一斉に取引先全部が導入してくれるわけではない以上、どうしても紙でのやり取りは残る。従来の業務を電子化しながら、運用に乗せることを重視している」と話す。

サービス公開から1年経ち、今年の11月5日には家賃保証会社、少額短期保険・火災保険会社、付帯サービスといった“不動産周辺業種”の各社とのデータ連携を実現する「キマRoom! Sign コネクト」がリリースされた。APIを提供することで、周辺業種での審査や契約もスムーズに行えるようになる。

西野氏は「不動産会社が業務過多となっているのは、契約主体の貸主と借主だけでなく、関係する第三者も多いから」と、API提供による業界の枠を超えた連携を進めた理由についても述べている。

「せっかく契約が電子的に一気通貫でできるようになったとしても、家賃保証や火災保険、かけつけサービスなどの付帯サービスの申込はまた別の紙で、となっていたら、意味がない。周辺業種も含めた全体でやらないと、電子化は浸透しない」(西野氏)

そしてキマRoom! Signは今回、IT重説・電子契約機能が追加されたことで、申込から契約までのフローを一気通貫で完結することが可能となった。

西野氏は「重要事項説明のみオンラインでできたとしても、説明を確認したことを示す書面はどうするのか。契約は紙・郵送のまま、というのでは、そこからまた書類を返送してもらって、大家さんに送って……となって時間もかかるし、確認の手間も減らず、電子化・効率化は進まない」と機能追加の意図について話している。

前述したとおり、IT重説ではテレビ会議の仕組みを活用して各社工夫もされているようだ。また電子契約の仕組みでは、「クラウドサイン」や「DocuSign」などの汎用的なものもある。だが西野氏は「電子化とは単に紙をデータに置き換えるということではなく、システム連携があってこそ」と不動産賃貸業務に特化した、キマRoom! Signのメリットを説明する。「契約に至るまでのキャッチボールの間に、紙や手入力の業務が入らずに済むようにするためには、システム連携も必要なんです」(西野氏)

保証人や仲介業者も含めた契約プレイヤーが多いために、書類の転送だけでも時間がかかる不動産賃貸契約では、電子化することで締結までのタームを短くすることも期待できる、と西野氏。IT重説と電子契約なら、借主も仲介店舗に出向く必要がなく、スマートフォンを使って、すきま時間で重要事項の確認と契約が完了できるため、時間の節約にもなる。

さらに、これまでは今、何件の申込が契約までのどの段階にあるのか、不動産会社がステータスを一覧することは困難だった。それがキマRoom! Signでは、「社内審査中」「審査OKで契約待ち」など、ステータスが見える化されるため、契約件数などの目標に対する進捗管理もやりやすくなる。

キマRoom! Signの料金体系は、書類を電子化するための初期費用が1書式あたり5万円、月額費用は基本料1万円(店舗など1拠点あたり)。それに申込1件につき300円〜500円の従量課金が加わる(いずれも税抜価格)。金額については「書類の送付コストを意識した」と西野氏は言う。「契約書類を対面受取で1回送付するのに約500円。それを貸主・借主と会社との間で、返送プラス往復で3回は使うと考えれば、その3分の1の費用で利用できる。業務効率という見えないコストよりは、書類のデリバリーコストが節約できると考えてもらえれば、分かりやすいと思って」(西野氏)

「5年後には電子化が進んだ業界と言われるようになる」

セイルボートは2010年の設立。広島・岡山の物件を中心に紹介する、不動産業者間の物件情報検索ポータル「キマRoom!」を運営し、2014年3月には広島ベンチャーキャピタルから3000万円の資金調達を実施している。

その後、物件検索では不動産流通機構(レインズ)のオンラインシステムの浸透もあって苦戦。不動産流通のフローの中でテクノロジーを生かせる領域を探していた西野氏は、「物件確認」や「VR内見」、「スマートロックによる内見自動化」といったサービスは既にあるものの、「入居申込」「契約」の部分ががら空きだと気づく。こうして、申込から契約までをシームレスにカバーする、不動産業界向けのデジタルソリューションの提供に注力することとなった。

そして2017年8月に、キマRoom! Signをリリース。2018年11月にはリログループの子会社リロケーション・ジャパンと既存株主の広島ベンチャーキャピタルから合計約2億円の資金調達を実施した。

「不動産業界は、例えば飲食業界などに比べれば、エンドユーザーである借主の利用頻度も低く、非日常の世界。それだけにカスタマー最適化が構造的に進まない分野です。そこを、頻度高く利用する仲介業者や管理会社をユーザーとしたマーケットインで考えることで、カスタマー最適化を進め、電子化を推進したい」と西野氏は語る。

キマRoom! SignのIT重説・電子契約機能は、大手不動産会社から徐々に導入を進める、と西野氏。「日本の不動産会社は13万社ある。5000戸以上を管理する大手企業は、そのうち約250社。この250社で日本の半分の物件を管理している。2020年度には、この250社にサービスを浸透させたい。そうしていくうち、5年後には不動産業界が『電子化が進んだ業界』と言われるようになるのではないか」と今後の見通しについて述べていた。

セイルボート代表取締役 西野量氏

SAP、オンライン調査のQualtricsを80億ドルで買収へ――SaaS企業買収として最大規模

TechCrunch Disrupt SF 2015に登壇したQualtricsのRyan Smith

今日(米国時間11/12)、SAPはQualtricsを80億ドルのキャッシュで買収することで同社と合意したと発表した。SAPはエンタープライズ・ソフトウェアの世界的有力企業である一方、Qaltricsはオンライン調査サービスとソフトウェアを提供するスタートアップで上場を目前に控えていた。買収手続きは来年、2019年の上半期に完了するものとみられている。Qualtrics の直近のラウンドは2016年に実行され、25億ドルの会社評価額で1億8000万ドルの資金調達に成功している。

SaaS企業の買収としては2016年にOracleが93億ドルでNetsuiteを買収したのに次ぐ第2の規模となる。

電話記者会見でSAPのCEO、Bill McDermottはQualtricsの上場による株式販売はすでに募集枠を上回っており、両者は数ヶ月前から話し合いをしていたという。SAPは「われわれのソフトウェアは世界のソフトウェア・トランザクション収入のシェアの77%に達している。Qualtricsの調査、アンケートのサービスとソフトウェアが加わることで、今後、9000以上の大企業は必要としている顧客満足度や社員の会社に対するエンゲージメントに関する情報を容易に知ることができるようになる」と述べた。

McDermottはまたSAPによる Qualtricsの買収の影響をFacebookのInstagram買収に匹敵するものだとして 「90年代のレガシー・テクノロジーを21世紀まで引きずってきた企業は完敗した。SAPはライバルの既存のマーケットの大きな部分を消滅させた」と強調した。SAPのライバルと考えられている企業はOracle、 Salesforce.com、Microsoft、IBM.だ。

SAPはドイツのヴァルドルフに本拠を置くグローバル企業で、買収に必要なコスト70億ユーロ(79.3億ドル)の資金をすでに確保しているという。これには支払いが必要な社員へのボーナス、買収時点での貸借対照表の負債分などのコストが含まれる。

2002年にQualtricsを共同創業したRyan Smithが買収後もCEOを務める。買収手続きの完了後、同社はSAPのCloud Business Groupに属すが、本社は引き続きアメリカのユタ州プロボとワシントン州シアトルに置かれる。ブランドおよび社員も従来どおり維持される。

われわれのCrunchbaseによれば、QualtricsはAccel、Sequoia、Insight Venturesなどから総額で4億ドルの資金を調達している。.予定されていた株式上場では18ドルから21ドルの範囲を目標として2050万株を売り出す予定だった。CrunchBaseのAlex Wilhelmによれば、新規上場で4億9500万ドル程度を調達できるものと予測されていた。この株価であれば時価総額は39億ドルから45億ドル程度となる。

新規上場申請書によれば.、Qualtricsの収入は今年の第2四半期の9710万ドルから8.5%アップして第3四半期には1億540万ドルとなっていた。第3四半期のGAAPベースの純利益も第2四半期の97万5000ドルから490万ドルにアップしている。前年同期の純利益も470万ドルだった。2018年初頭から9ヶ月のQualtricsの営業キャッシュフローは525万ドルで、前年同期の361万ドルからアップしている。

今日の発表で、Qualtricsは2018年通年の収入は4億ドルを超えるという予想している。これは40%の急成長となるが、SAPの買収によるシナジーの効果は計算に入っていない。

Qualtricsの主たるライバルはSurveyMonkeyで、同社は今年9月に上場を果たしている。

画像:Steve Jennings (opens in a new window) / Getty Images

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滑川海彦@Facebook Google+

CommonSense Robotics、最初の超小型自動出荷センターを開設

イスラエルのスタートアップ、CommonSense Roboticsは、初めての全自動マイクロ出荷センターをテルアビブに開設した。6000平方フィート(557平米)の小さな倉庫には床から天井まで製品が積まれている。製品の配送が決まったらあとはロボットが重労働を引き受ける。。

TechCrunchはCommonSense Roboticsのテスト用配送センターのビデオを撮影した。今日の新しい倉庫はこれよりもずっと大きいが、Amazonの倉庫よりはずっと小さい。同社初の顧客はイスラエル最大の薬局チェーン、Superpharmだ。

CommonSense Roboticsは、都市部の食料雑貨小売業者に対して、注文から1時間以内で配送できると売り込んでいる。現在の小売業者は、店舗を活用するか、郊外に巨大な倉庫を持つかのどちらかだ。

CommonSense Roboticsを利用すれば、都市内のそう遠くない場所に小さな配送センターを複数配置することが考えられる。注文が入るとロボットがすぐに倉庫内の棚を移動して商品を取り出す。中央サーバーが全ロボットをリアルタイムに制御して経路を最適化する。こうすることで人間はスキャニングステーションに居て、自分は移動することなく注文をさばくことができる。

CommonSense Roboticsは出荷センターの仕事を受け持つ。Eコマース小売業者は同社に料金を払って出荷センターの開設と管理を依頼する。こうして小売業者は在庫管理と配送のラストワンマイル(最終区間)に集中することができる。

すでに同社は、イスラエルの食料雑貨小売業者、Rami Levyと12箇所の配送センターを作る契約を結んでいる。さらに、2019年には米国でも複数のセンター設立を計画している。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

資金に加えて採用も支援——ビズリーチがファンド開始、投資第1号は電話営業解析AIのRevComm

転職サイト「ビズリーチ」をはじめとした人材サービスを展開するビズリーチは10月11日、創業期のスタートアップを資金面・採用面から支援する「ビズリーチ 創業者ファンド(以下、創業者ファンド)」の立ち上げを発表した。この“ファンド”は投資組合として設立されたものではなく、同社の事業として企業へ直接投資する形。また投資第1号案件として、セールステック領域でAIを活用したサービスを提供するRevComm(レブコム)へ出資したことも明らかになった。

創業期の原体験をスタートアップコミュニティに還元

2017年版の中小企業白書によれば、起業家が創業初期・成長初期の課題として第1に挙げるのは、資金調達に関するもの。また、人材採用に関する課題も大きくのしかかっているという。

ビズリーチは、2009年の創業以来、転職サイトをはじめとしたサービスでスタートアップを含む企業の採用活動をサポートしてきた一方、自らもスタートアップとして人材採用に苦心した経験を持つ。これらの経験を創業期・成長初期のスタートアップ支援に生かすべく、資金と採用の両面をサポートするために立ち上げられたのが創業者ファンドだ。

ビズリーチ代表取締役社長の南壮一郎氏は「創業10年目の節目に、これまでを振り返る機会も多いのだが、正直、一番苦しかったことといえば、最初はひとりぼっちのところから、経営チームを組成するところだった。勉強会に参加したり、知り合いのつてをたどったりして、何とか人を探すところから始まった」と語る。

その後、創業期の原体験を元に何かスタートアップコミュニティに還元できないか、と考えるようになった南氏。海外で、投資家も含めたさまざまな人に会う機会が増えて感じたのは「シリコンバレーのVCの投資実績は、金銭だけでなく、補完的価値をどれだけ提供できて、出資先とどう向き合うかで見られている」ということだった。

「彼らはファンドの中に、創業期の経営者チーム組成のための採用支援を行う、プロのリクルーターを従業員として在籍させている。自分が創業当時なら受けたかった支援だ」(南氏)

こうした金銭面だけでない、事業への貢献・支援が世界中、特に米国のVCで広がっている、と南氏は言う。だが日本では、スタートアップと向き合い、事業にも踏み込んだ積極的なサポートはまだまだ浸透していない。そこで「自らの本業を、スタートアップ支援に生かせるのでは」と考え始めたのが、2017年秋のことだった。

「自分の創業期と違い、ビズリーチやキャリトレといった、企業からの声かけを待っている人材が何十万人も登録しているプラットフォームが、今はある。それに創業者としての考え方や、人材の採用テクニックも知っている。プラットフォームと採用活動のノウハウとを、資金と合わせて“投資”することができるのではないかと考え、1年ぐらい前から構想していた」(南氏)

そして構想だけではなく何らかの形で実現したい、そのためにプロトタイプとなるケースで実験できないか、と思っていた南氏に、ちょうど起業についての相談を持ちかけたのが、学生時代からの知り合いで、投資第1号案件となるRevCommを創業したばかりの會田武史氏だったそうだ。

會田氏の相談を受けて、南氏はまず「テクノロジードリブンのプロダクトを出そうとしているのに、エンジニアがいない。このままでは事業が立ち上がらないのではないか」と感じたという。そこで採用ノウハウと自社サービスを資金とともに提供する、というファンドの構想を會田氏に伝え、「モデルケースとしてサポートしていいなら、出資も含めて支援する」と申し入れた。

それからは「資金+付加価値を提供する、新しい日本のモデルケースとなる投資事業を一緒につくってきた」(南氏)というビズリーチとRevComm。ビズリーチの支援もあって、RevCommは3人のエンジニアを創業チームとして採用することに成功。2月には、プロダクト「MiiTel(ミーテル)」のプロトタイプを、6月にはクローズドベータ版をリリースした。

電話営業の可視化で生産性を向上させるMiiTel

RevCommは2017年7月、企業の生産性向上をフィロソフィーに掲げ、會田氏により設立された。會田氏は三菱商事の出身。商社マンとしていろいろな国の人と仕事をする中で、「日本の生産性はG7各国のうち最下位とされているが、果たしてこれは本当なのか」と疑問を持つに至る。「日本人のレベルは低くない。生産性=効率×能率としたら、日本人は教育水準も高く、能率は担保されているはず。では効率はどうか、と考えたときに、高いコミュニケーションコストに行き当たる」(會田氏)

「日本では『何を言ったか』ではなく『誰が誰に言ったか』『どう言ったか』に焦点が当たるようなコミュニケーションが多い。テクノロジーの力でコミュニケーションのあり方を変えたい」というのが會田氏の考えだ。

セールスやマーケティング畑が長い會田氏は、「マーケティングの世界は、かなりデータドリブンになってきているが、セールスはいまだに属人的。現状では気合いと根性で、とにかく数打ちゃ当たるという労働集約的な世界だからこそ、テクノロジーの力で生産性は大きく向上できる」と話す。

特に電話営業の分野では、営業と顧客が会話した内容が他の人には可視化されず、それが効率よく成果につながるものかどうかを知るすべがなく「ブラックボックス化」しやすい。そこで、AIによる音声解析を用いて電話営業を可視化しよう、と開発されたのが、AI搭載型クラウドIP電話サービスのMiiTelだ。

MiiTelはSalesforceと連携したIP電話で、営業トークの内容を録音し、ログを取得。AIでトークの音声を分析し、担当者自らが課題を確認してセルフコーチングできる。

會田氏も、自社プロダクトを営業する際にMiiTelを使ってみたところ、「話す・聞くの割合では、話す時間が長く、相手の話の途中で話をかぶせてしまう“発話かぶり”も多かった」とのこと。クセが可視化されたことで、意識して改善したところ、アポイント成立率や成約率が実際に向上したそうだ。「これなら、営業担当者自身のエンゲージメントも上がり、生産性が向上すると実感した」と會田氏は話している。

2月のプロトタイプからビズリーチでもテストを兼ねて活用されていたMiiTelは、6月リリースのクローズドベータ版がすでに有料で30社に利用されており、本日、正式版がリリースとなる。利用料金は月額4980円/ID。10 ID以下の場合は導入費用が8万9000円、11 ID以上では導入費は無料だ。

「5年後には、MiiTelの1万社への導入を目指す」という會田氏は、「生産性を向上するサービスを提供することで、(経営分析に必要な)ビッグデータを集め、将来的には経営判断を行うAIプラットフォームを開発したい」と話している。

資金+側面の支援で「アイデア」を「事業立ち上げ」へつなぐ

創業者ファンドでは「経営チーム組成のための採用ノウハウ・テクニックの提供」「転職サイトのビズリーチ、キャリトレのサービス1年間無償提供」「資金援助+調達ノウハウ、投資家ネットワークの紹介」「経営チームによるメンタリング」「プロダクトのプロトタイプのテスト利用とフィードバック」を出資先企業への支援内容としている。

対象企業は、企業の生産性向上をテクノロジーで促すSaaS型のB2B事業や、AI、ブロックチェーンなどの最新技術を活用した事業を営むスタートアップ。南氏は「ビズリーチの『働き方、経営の未来を支える』という理念に沿った事業を行うシード期の企業を対象とする。資金の他に採用ノウハウ・テクニックや自社サービスを“投資”することで、創業期の経営チーム組成を支援していく」と述べる。

會田氏は創業者ファンドについて、こう語る。「創業期は金も時間も足りない中で、マインドセットやスキルセットが合致したメンバー選びが重要になる。だが、ふつうに採用サービスを利用するとお金がかかる。ビズリーチのダイレクトリクルーティング機能を使い、『カジュアルでいいので会ってみませんか』と声をかけられたのは、非常に良かった」

南氏によれば、會田氏は「ビズリーチの登録データを何人も見て、数百人という相手に会っている」という。「創業前の企業でも興味を持つ人が、これだけいるのかと驚いた。スタートアップがキャリア選択の可能性のひとつになった。起業家もパッションさえあれば、データベースがあって、そこを探せば人材が見つかる、という状況になっている」(南氏)

南氏は「アイデアだけはある、というのが創業者でよくあるパターン。事業立ち上げまで支援できれば、それが自分が恩恵を受けてきた、スタートアップコミュニティへの恩返しになるのではないか」と考えている。

「スタートアップはやっぱり人。創業期は特にそうだ。自分の創業した時には人材のデータベースがなかったが、データベースからスタートアップ採用人材の情報が集められるというのは、衝撃的。これは起業家の諸先輩方を含め、みんなでつくってきたエコシステムだ。採用候補者が話を聞いてくれる、努力すれば見つかる、というところまでは来ている。創業者ファンドの支援によって、事業立ち上げの確度も上げていきたい」(南氏)

写真左から:ビズリーチ代表取締役社長 南壮一郎氏、RevComm代表取締役 會田武史氏

OpenPhoneは仕事用の電話番号を持てるモバイルアプリ

OpenPhoneは、Y Combinatoの現行バッチに参加しているスタートアップだ。この会社は仕事の電話番号を使いやすくするアプリの開発に取り組んでいる。2台目の電話機は不要で、大会社向けの高価なソリューションも必要ない。

「共同ファウンダーと私は、二人とも両親の経営する会社の収入に依存する家庭に育った。後に私は家屋リフォーム業者のバックオフィスツールを開発するソフトウェア会社に勤めた」と共同ファウンダーのMahya Raissiは私に言った。

「そこで私は重要なことに2つ気が付いた。まず、ユーザーのほとんどが個人の電話番号を仕事に使っていて、そのことを非常に嫌がっていた。彼らは自分の番号をオンラインに載せたり赤の他人に教えたりしなければならなかった。これは、家族と過ごしていたり忙しく仕事をしているときに電話ががかり続けるという意味だ。もうひとつ、コミュニケーションの方法ががプロフェッショナルで応答の早い業者は成功して稼ぎが多かった」

OpenPhoneはiPhone、iPad、およびAndroid用のアプリだ。アプリをダウンロードして、月額9.99ドル払うと第2の番号が手に入る。番号は市内でも米国・カナダの無料ダイヤルでもよい。既存の電話番号を移行して2台目の電話機を捨てることもできる。

これで、仕事の電話やメッセージはOpenPhoneアプリで受信できる。プロフェッショナルと個人の電話やテキストは完全に分離できることになる。

第2の番号を持つメリットはいろいろある。留守番電話を別にしたり、営業時間を自分でコントロールできる。OpenPhoneアプリを使って留守電を文字起こしすることもできる。

OpenPhoneはVoIPを使って、通話とテキストはすべてインターネット接続を経由して送られる。定期使用料には米国・カナダ国内での無制限通話とテキストが含まれている。

いずれOpenPhoneは、協業を支援する新機能を追加したいと思っている。たとえば、自分の電話番号を他のチームメンバーと共有することも考えられる。Aircallに似ているところもあるが、OpenPhoneは社員20人以内の小企業に焦点を合わせている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

製薬企業のサプライチェーンからにせ薬を撃退するTraceLinkがさらに$60Mを調達

このお天気の良い金曜日(米国時間6/8)の午後、SECが処理したばかりのTraceLinkは、薬を調べて偽薬(にせぐすり)をの処方を根絶やしにしようと努力しているSaaSだ。同社はこのほど、シリーズDで6000万ドルを調達した。

SECのファイルによると、参加した投資家は18社で、そこにはたぶんGoldman Sachsもいる…同社の成長資金部門は約18か月前にTraceLinkのシリーズC 5150万ドルをリードしている。この9歳になるスタートアップの初期の投資家には、ほかにFirstMark Capital, Volition Capital, F-Prime Capitalらがいた。

本誌TechCrunchのライターJordan Crookがそのときに書いているが、TraceLinkは製薬企業のサプライチェーンを、各国のコンプライアンス要件に応じて調べる。これはとくにアメリカでは、2013年のDrug Supply Chain Security Act(薬剤サプライチェーン安全法)によって重要性を増している。この消費者保護法は、消費者を偽薬や盗品薬、汚損薬などから守ることがそのねらいだ。

この法律が施行されたときには、業界は今後10年以内に最小単位レベルのトレーサビリティを確立することが、義務化された。その期限が5年後に迫っている。

さらにTraceLinkにとって追い風になっているのは、麻薬だ。その拡大は90年代の後半以降とくに激しく、薬剤のサプライチェーンにおいてそれに対する脆弱性を摘出すべし、という圧力がますます強くなっている。

同社が今、上場に備えて四半期ごとの売上や顧客数の伸びを報告するようになったのも、不思議ではない。まさに、2週間前の同社の“成長ハイライト”によれば、同社の2018Q1の売上は前年同期比で69%も伸びたのだ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa