人工肉スタートアップのMemphis Meatsは感謝祭のターキーも人工肉にしたいと願う

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Memphis Meatsは、今年の初めに人工肉のミートボールでスタートアップ世界の話題になった。今度同社は、ほかの肉にも挑戦しようとしている—たとえばターキー(turkey, 七面鳥)だ。

同社はこのほどIndiegogoのクラウドファンディングキャンペーンを立ち上げ、未来の肉の姿とその味を一般大衆に教育することによって、毎年の感謝祭に屠殺される5000万羽近くの鳥たちの一部を救おうとしている。

私はIndiegogoのキャンペーンを記事にすることに、それほど熱心な方ではないが、同社の場合は、目的はターキーなどの肉を作るための資金を得ることではなく、啓蒙のためだ、という。資金に関してはMemphis Meatsはすでに、採取した動物の細胞をペトリ皿の中で培養するために、300万ドルのシード資金を獲得している。

動物をめぐる産業複合体は、この惑星と人類にとって非常に有害だ、とMemphis Meatsは言う。一個のハンバーガーを作るために660ガロンの水を消費し、そしてCDC(疫病管理センター)によれば、生肉は食品が媒介する疾病を起こす細菌の、主要な発生源である。そこで同社は、動物の細胞を培養して生物学的に同一の肉を作り、本物の肉だけど残酷さとは無縁で地球環境にフレンドリーな、食肉を提供しようとしている。

Memphis Meatsによれば、その“クリーンミート”が、スーパーの棚に並ぶようになるのは、5年後だそうだ。

Memphis Meatsには、その5年間にやることが、たくさんある。菜食主義者の友人たちに、人工肉を食べたいか聞いてみると、分からない、とか、気持ち悪いという人が多い。でもMemphis Meatsのような、培養によって作った動物製品は、菜食ではなく肉をふつうに食べたいけど、健康や環境上の理由から今は食べていない、という人たちには、理想的かもしれない。

しかしながら同社は、多くの消費者がその気になるためにはかなりの準備期間が必要だ、と認めている。同社は啓蒙活動の一環として、支援者からの寄付を募っており、その一口は3ドルから1000ドルまでだ。3ドル寄付すると–それはふつうのファストフードのバーガーの値段だが–、その人はMemphis Meatsから“チャンピオン”(champion, 主義主張の擁護者)の称号をもらえる。金額に応じて、ロゴ入りのステッカーや水筒、フーディー (hoodie, フード付きトレーナー)なども、もらう。1000ドルの人は、すべての賞品をもらって、Webサイトに名前が載る。

現在までに集まった寄付金は、700名近くの支援者から計52000ドル近い。これもまた、同社がベイエリアのラボで作っているターキーなどの人工肉の、将来的な市場化を支援する。

感謝祭に多くの人たちが人工肉のターキーを買うようになるのは、まだ遠い未来の話だと思うが、でも、もしかして、それほど遠くないかもしれない。

同社のスポークスパーソンはこう語る: “最初は挽肉状の人工肉を開発するが、成型肉も計画している。チキンブレストや、ステーキ、そしてまるまる一羽のターキー(“七面鳥の丸焼き”用)も、需要があれば作るだろう”。

同社からもらったビデオでは、グリルの上でビーフのようなものを焼いている。これの次がターキーか? では、あなたが生まれて初めて見る、Memphis Meats製のビーフ・ ファヒータ(fajita)をご覧いただこう:

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

Amazon CEO Jeff Bezosがまたバイオテク企業に投資、今度は新しいアンチエージング療法のスタートアップだ

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シリコンバレーでは必ず何年かに一度、不老不死や長寿を喧伝する者が現れる。その前に、そんなに長生きをして一体何をするのかを、考えておいた方がよい、と私は思うのだけど。今度登場したUnity Biotechnologyは、加齢に関連した症状の進行を遅くすることによって長寿を実現する、と主張するスタートアップだ。同社は今日(米国時間10/27)、シリーズBで1億1600万ドルという巨額を調達したことを発表した。投資家の中には、AmazonのJeff Bezosもいる。

体(からだ)が、細胞の老化を遅らせることがある。何かのストレスで、細胞が分裂を停止することがあり、それは、がん細胞の分裂と成長を停止することもあるから、抗癌治療にも利用できる、と考えられている。でもそんな細胞が多すぎると、加齢とともに別の問題が生じる。Unityが追究しているのは、炎症や、加齢と結びついているその他の疾病を起こす古い細胞を、体が積極的に捨てるようにするための方法だ。

Unityの技術には、体の老化を遅らせる可能性があり、科学や医療分野の上位投資家たちの関心を招(よ)んでいる。またバイオテクノロジー分野の非上場企業としては、相当巨額な資金を獲得した少数企業の、仲間入りをしている。

Bezosは、前にもバイオテクに投資している。それは2014年のJuno Therapeuticsだが、そのときは彼のVC Bezos Expeditionsからの投資だった。Junoはがんの免疫療法で画期的な発見をして、バイオテク企業としては数少ないIPO成功企業の一つになった。

バイオテク企業への投資案件の多いスコットランドのミューチュアルファンドBaillie Giffordのほか、Venrock, ARCH Venture Capital, Mayo Clinic, WuXi Pharmaceuticalsなどがこの投資ラウンドに参加した。

同社の発表によると、元KYTHERA BiopharmaceuticalsのCEO Keith Leonardが新たにCEOになり、これまでのCEOで協同ファウンダーのNathaniel “Ned” DavidはUnityの社長になる。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

バイオテック系スタートアップのZymergenがソフトバンクなどから1億3000万ドルを調達

photography by Albert Law : www.porkbellystudio.com

遺伝子組み換え微生物から新種の原料を開発するベイエリア出身のZymergenが、シリーズBでソフトバンクなどから1億3000万ドルを調達した。

この会社をご存知ない方のために説明すると、Zymergenは遺伝子を組み替えた微生物を活用して新種の原料を開発する企業だ。前回のラウンドで調達した資金では、微生物の大量生産を実現するためロボットの導入を大規模に進めていた。今回調達した資金では大規模な人員増強とビッグネーム企業との提携などを進め、さらなる規模の拡大を狙うとしている。

TechCrunchとのインタビューのなかでCEOのJohn Hoffmanは、「今回のラウンドによって人材の強化が可能になるだけでなく、さらなる顧客の獲得や長期的な視点に基づいた投資もできるようになります」と語っている。

提携予定の企業名こそ明らかにしなかったものの、それらの企業はすべてFortune 500にリストアップされているとHoffmanは話している。今後Zymergenが目指すのは、より質の高い酵母株の開発だ。これによって新種の食品やフレグランスを創りだすことが可能になるだけでなく、分子特性が限定された新しい原料を顧客企業に供給することで、製品をより安価でかつ素早く製造することが可能になる。

「私たちは実績のあるプラットフォームを構築してきました。大規模で歴史のあるFortune 500のビジネスを、大いに向上させるプラットフォームです。具体的には、売り上げが6億ドルのビジネスがあった場合、その利益率を3倍から5倍にまで伸ばすことが可能なのです」とHoffmanは語る。「Fortune 500の企業はその点にとても関心があります」。

この分野は、バイオロジーの最先端に存在する奇妙で新しい世界だ。科学者たちがマシーンや微生物を活用して次に何を生み出すのか誰にも予測できない。しかし、この分野に取り組むのはZymergenだけではない。Ginkgo BioworksやNovozymesもまた、微生物を活用することで素晴らしい原料を生み出している企業だ。ボストンを拠点とするGinkgoはより小規模のスタートアップでありながら、Zymergenが調達した金額と同規模の1億5400万ドルを調達している。Novozymesは収益10億ドルの巨大企業だ。

いずれにせよ、この新しい分野に目を輝かせるベンチャー企業や通信企業、金融機関が存在するのは事実だ。

今回のラウンドでリード投資家を務めたのはSofbankで、他にもDCVC、True Ventures、AME Cloud Ventures、DFJ、Innovation Endeavors、Obvious Venutures、Two Sigmaといった既存投資家たちが出資に参加している。また、Iconiq Capital、Prelude Ventures、Tao Capital Partnersも今回から新たに出資者の一員となった。

ソフトバンクは元LinkedInのDeep Nisharをチームに加えることをすでに決定している。彼に加え、合衆国エネルギー省とNobel laureateでキャリアを積んだDr. Steven Chuもソフトバングに加わる予定だ。

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(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

遺伝子検査の23andMe、人種の多様性を反映させた遺伝情報の収集を計画

NEW YORK, NY - NOVEMBER 10:  23andMe CEO Anne Wojcicki speaks on stage during 'The Fast Company Innovation Festival' - Data + Drugs: The New Evolution Of Drug Making With 23andMe And Sprout on November 10, 2015 in New York City.  (Photo by Brad Barket/Getty Images for Fast Company)

消費者向け遺伝子検査の先駆けである23andMeは、世界中の多様な遺伝データを積極的に収集し、その領域でトップを目指すと発表した。

同社は本日、系統解析サービスを単独のサービスとして99ドルでリリース、自分の遺伝的出自に興味を持つ人たちは、試験管に唾を吐くだけで自らの祖先や親戚をたどることが出来るようになる。

DNAで家系をたどるサービスは創業者のAnne Wojcickiによると同社のプラットホームにおいて大変人気のあるサービスで、一般的な遺伝学そのものに対しても良い導入点なる。さらに、世界中の誰もが自分たちがどこから来たのかを潜在的に知りたがっているという点で、このサービスに対する需要は万国共通のものがある、とWojcickiは付け加えた。

しかしながら、同社の祖先解析コースのレポートは、人種の多様性を反映した遺伝情報を著しく欠いている点が、厳しく批判されている。例えば、Euny HongがQuartzでレビューを書いているように、彼女の遺伝情報はレポートによるとたった76人の朝鮮人に由来しているということだ。

23andMeによると既に幾つかのプログラムが始動して、そのプラットフォームにおける有色人種の遺伝的データを充実させようとしている。同社は今春、Roots into the Futureというプロジェクトを導入し、アフリカ系アメリカ人の遺伝情報の収集を行っている。さらに、23andMeはHuman Genome Diversity Projectの資金援助も行い、現在アフリカにおいて2つのプロジェクトが進行中で、祖先を構成する遺伝データの多様性の増加を図っている。

しかし、23andMeにとって注力すべき箇所は一点ではない。実際、全米バイオテクノロジー情報センターによれば、遺伝的同定において使用されるサンプルの96パーセントがヨーロッパの人々からのものだった。

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そして、その反動がくる先は少数の遺伝的サンプルから成るグループだ。その点に関して言えば、単にもっと多様性を確保すべく世界中の人々に自社の製品を売り込もうという観点のみならず、ヘルス・リサーチ一般に対する意味合いが大きい。つまり、大きいサンプルサイズを確保することで病気の遺伝的マーカーを発見する確率がずっと増し、また研究が正しく行われる確率も上昇するのだ。

 23andMeはこの問題について、同社のブログ内の「現実問題としての遺伝研究における多様性」という記事で言及している。ある心臓疾患の研究において、偏った研究に基づいたせいで、アフリカ系アメリカ人は白人に比べ、ある遺伝的変異を持っている確率が高く、そのせいで肥大型心筋症という心臓病を発症する可能性が高いという、誤った結論が導かれた。実際、その変異を持つ確率に人種間での差はなかった。遺伝研究が正しく行われればこのような偏りは取り除かれるが、そのためには数と多様性の両面においてより広い範囲のデータが必要である。

23andMeによると、同社が現在供給しているデータに対しては自社独自の研究で対応するものの、次のステップに進むためには一般大衆の参加が必要ということだ。

23andMeが今後増やしていきたいと考えている研究の良い例が、最近発表された、ネバダ州で行われる集団遺伝調査だ。ネバダ州行政府はRenown Health FoundationとNevada’s Knowledge Fundの援助を受け、同州の何千人もの市民に対し無料テストの機会を提供し、健康状態、人口構成、遺伝的・環境的データを調べることを引き受けた。

もちろんネバダはほとんど白人とヒスパニックだ。しかしWojcickiは他の参加者が同様のテストに参加してくれることにより、人種の偏りのギャップを埋めてくれていると期待している。

「この領域には素晴らしい可能性があります。大きなグループの利点を生かせば、そのグループ内で協力し個人それぞれの医療記録を照らし合わせることで、個人にあった医療、オーダーメイド医療といった点で、真に革新をもたらすようなコミュニティーの形成が可能になり、研究が飛躍的に進むでしょう」と、WojcickiはTechCrunchに語った。

僅かばかりのDNAと引き換えに自らの祖先の情報を知りたい人はここに行ってキットをオーダーしよう。

系統解析コースは元来、顧客に提供されるサービスの一部分であり、そのサービスの中に健康に関するデータも含まれていた。現在、顧客は系統解析コースを単独で選ぶことも出来るし、健康・系統解析の両方の選択も可能だ。
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(翻訳:Tsubouchi)

MITと清华大学共同でグラフェンインプラントの実用化に一歩近づく発見、それは「水」だった

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おー、グラフェンよ、汝すばらしき奇跡の物質よ。厚さ1原子の炭素原子の、格子状の素材は、アップロードの速度からスポーツ用品に至るまで、あらゆるものに革命をもたらす方法として提案されている。そしてもしも、それをインプラントする方法を見つけたら、明らかにわれわれ全員が無敵のロボコップになる。いや、控えめに言っても、人体の内部を完全にモニタできるようになり、薬を正しい場所に運ぶことができる。

グラフェンのもっとも革新的な用途としては長年、バイオニクス(bionics, 生体工学)が挙げられている。しかし、この物質と、敏感で傷つきやすい人体の組織との親和性を良くする、という別の課題もある。最大の問題が熱だ。固体素材に電気を通せば、それは当然熱くなる。そして周辺の人体組織を焼き肉にするだろう。

しかし最近MITと北京の清华大学が共同で行ったシミュレーションにより、科学者たちは問題の解を見つけたと信じている。それは、水だ。グラフェンと人体組織の間に薄い水の壁があれば、周辺の細胞が唐揚げになることを防げる。

彼らはそれを、“サンドイッチ”モデル、と呼んでいる。グラフェンと人体細胞がパンで、水が具材だ。おばあちゃんは、水サンドだけは作らなかったが。

MITの科学者Zhao Qinは語る: “水は、体のあらゆるところにある。細胞膜の表面は水を必要とするので、水を完全になくすことはできない。そこでわれわれは、グラフェン、水、細胞膜というサンドイッチ構造を考えついた。それは、二つの物質のあいだに熱伝導があるための、ほどんど自明のシステムだ”。

熱の放散速度をコントロールするためには、水の厚さを変えればよい。場合によっては、…たとえばがん細胞なら…、細胞の唐揚げ化はむしろ良いことだ。水の厚さを変えるコントロール構造は、グラフェン自身の構造物で可能だ。その構成を変えることによって、水の分子を引きつける能力を変えられる。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

RNA配列決定に革新をもたらすバイオテックのAmaryllis

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遺伝情報を読み取り記録することは、世界中のどのバイオテック企業においてもその根幹をなす技術だ。よって、その技術が改善すれば、その産業そのものがアップグレードするといってもいいだろう。Amaryllis NucleicsはRNAから遺伝子を転写する技術を飛躍的に向上させることでバイオテック産業の技術革新を目指している。

ところで、今回の話を始める前に断っておかなければならないことは、この話は普通Disruptのステージで披露されるような、所謂テクノロジーとして定義されるものの範疇には入らないということだ。同社の商売道具は試薬とピペットであり、プログラミングと製品を扱っているわけではない。しかし誰かがバイオそのものをバイオテックに注入する必要があり、馴染みのある半導体チップとソフトウェアの場合と同様に、バイオテックを支える分子機構そのものをアップデートすることは大変重要なことなのだ。

Amaryllisを創設したのは二人のPhDを持つ科学者Brad TownsleyとMike Covingtonで、この分野で何年も研究をする間、RNAから遺伝情報を得るのにかかる時間と費用に常に不満を持っていた。もし、高校の生物で習ったことがうろ覚えになっているのなら、RNAというのは細胞のデータ格納所(DNA)と生産施設(リボソーム)を媒介するものだ。

「我々がUCデービスにいた時、RNAシーケンスを大量にこなしていました。あまりに多かったので全部やり切るだけのお金がなかったし、しかも時間がかかりすぎました」と、Covingtonは言った。「だから、我々は結局RNAを機械で読めるようにする新しいプロトコールを作ってしまったのです。そうしたら、そのプロトコールはこれまでのキットより安くて速くなっただけでなく、ずっと正確に読めるようになったのです」

もし、研究者が不満を溜めることで科学が進歩するなら、科学はとっくの昔に進歩しているだろう。しかし現実はそんなに甘くない。幸い、多くの興味深い発見があったおかげでこの新しいテクニックが見つかったが、それは多かれ少なかれかれ偶然の賜物だ。

彼らは既存のRNAシーケンスのプロトコールを整備しているうちに、奇妙なデータに気づいた。「Mikeは情報科学のバックグランドを持っていたので、その現象の背後にあるメカニズムに探りを入れることが出来たのです。その現象の最適化を繰り返すうちに大変うまく動くものを見つけることができました」と、Townsleyは言った。

ここで言っているのは、ちょっとした効率アップといったものではなく、他のテクニックと比べて半分から10分の1のレベルでの時間の短縮と、同規模のコストの削減だ。

こんないいテクニックを自分たちだけのものにしておくのは勿体ない、と彼らは考えた。

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「始めたきっかけは、単に作業を簡単にしたかっただけなんです」と、Covingtonは言った。「会社を興そうとは考えもしませんでした」

「実際のところ、最初は全く自己の利益は眼中になかったのですが、そのうち、これは良い機会かもしれないと思いついたのです」と、Townsleyは付け加えた。「しかし、実際に自分で商品化することは、発見を世に出す上で最良の方法でもあるのです。新しいテクノロジーは、たとえ良いものでもその多くは大学の技術移転部門で朽ち果てています。その技術を活用してもらうには、誰かがあなたの持つまさにその技術を探しており、その人がたまたまその技術がリストされたカタログを眺めていることを願うしかないからです」

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彼らはIndieBioアクセラレーターに参加し少しばかりの資金を得た。その資金と新規の「物質の組成」のカテゴリーの特許により、彼らは発明をキット化し、研究者や大学、民間企業に発送することができた。キットの説明書通りにするだけでRNAの転写は粛々と進み、他のキットよりも速く正確に結果が得られる。

Amaryllisでは仕事の受託も行っているが、得られるデータ量は膨大で、何百ギガにも及ぶため、データファイルをホストするよりデータドライブを直接発送する方が便利なことがしばしばだ。このサービス自体がスケーラブルでないのは彼らも認めるところだが、顧客との関係を築く役には立ちそうだ。もし常連の顧客が何人かできれば、評判も加速的に広まるだろう。

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キットの販売と自ら行う受託サービスにより、Amaryllisは現在の生産レベルのみでも月10万ドル余りのビジネスを行っている。しかし、ほとんどアカデミアのバックグラウンドしかないたった2人だけの従業員が仕事に当たっており、同社は会社としては極めて初期の段階にある。実際、Covingtonがウェブ・アプリのセットアップをしたものの、サービス全体をカバーするには程遠い状況である。

最終的には、彼らはこのキット販売をそれ自体で持続的なビジネスにしたいと考えており、その製造を完全に外部に委託するつもりだ。現在、セールス、マーケティング、サポートやその他作業をしてくれる人がいないので、彼らにはまずスタッフが必要だ。

「ロボットはあるのですが」と、Townsleyは言った。「そして、ここはUCバークレーに近いので、インターンの配属を数人分申請してきました」

究極的には資金が必要になるということを彼らは認めた。

「資金調達を考えています、もし一緒に働いてくれるスタッフを直ちに雇わなければ成長はとても遅いものとなるでしょう。10人分の仕事をたった2人でこなしているのが現状です。我々に関しては、キットのことはすべて忘れて新しい製品の開発に集中する方が理にかなっているでしょう」と、Covingtonは言った。「何人かテクニシャンを雇い入れてセールス専門の人員を雇用することでビジネスの規模を大きくしたいですね」

Amaryllisは会社としては最初期の段階にあるが、その製品は既存の物を超越している。バイオテック企業で何10億もの資金と収益を集めるとすれば、それは人気商品であり、その開発に偶然の発見が絡むとなれば、これは極めて稀なケースだ。今から1年後に彼ら自らが、ピペット片手に実験していることはないだろう。

 

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(翻訳:Tsubouchi)

ヒト細胞のDNAに「記憶」を記録することが可能に

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CRISPRがまたやった。この留まるところを知らないゲノム編集システムを使って、MITの科学者たちが作ったのは、過去に起こった事象の強さや長さを記録する機能を付加したヒトの細胞だ。

これまでにも科学者たちは事象の発生を細胞に記録するシステムの構築を行ってきた。例えば細胞がある種の化学物質にさらされた場合など、それに伴ってDNAの一部が反転することで事象の発生を記録するシステムが構築されてきたが、今回のものもこのシステムの延長線上にある。しかし、今回のものはこれまでと異なり、細胞に記録される情報に刺激の長さと強さが加わったことだ。

これまでの多くの研究はバクテリアを使ったものに甘んじていた。MITの電子工学、コンピュータ科学、生物工学の準教授であるTimothy Luによると、今回このテクノロジーをヒト細胞で可能にしたことによって様々な可能性が開かれるが、とりわけ病気に強い影響を与える細胞内の事象、例えば遺伝子制御など、を研究するのに特に有用だろうということだ。

さらに今回の研究はこれまでよりさらに改良が加えられ複数の対象を同時に記録することが可能だ。本研究では、抗生物質であるdoxycyclineとラクトース様分子であるIPTGが使われている。

こういった情報が得られれば、感染がもたらす影響やガンなどの疾患に関したより詳細な研究が可能となる。また、胚が成体に発生する過程で特殊な細胞が分化に果たす役割を追跡するのに有用だろう。

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(翻訳:Tsubouchi)

DNAシークエンシングのIllumina社、アップルのPhil Schillerを役員に迎える

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IlluminaはDNAシークエンシングの分野でトップを走る会社の内の一つだ。本日、同社は取締役会にアップルのワールドワイドマーケティング副社長であるPhil Schillerを迎えると発表した

そのいまいちなウェブサイトのデザインとは裏腹に、同社はDNA塩基配列決定にかかるコストを劇的に低下させることに成功した。2007年時点で100万ドルかかっていたものが2013年時点でたったの4000ドルにまで下がった

「ワールドクラスの製品を市場に送り込むことに関して、Philのこれまでの経歴と世界を股にかけた経験は、我々が今後顧客に対して革新的なソリューションを開発する際に大きな指針を与えることになると思います」と、Illumina社長兼CEOのFrancis deSouzaは声明中で述べた。「彼のビジョン、誠実さと熱意はIlluminaの中核を成す価値観と完全に一致します」

そして、この市場のスケールを物語る数字を1つ挙げるならば、Illuminaの株式市場における現在の時価総額は約240億ドルほどである。実のところ、DNAシークエンシングというのは大変実入りの良い産業なのだ。
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(翻訳:Tsubouchi)

不妊診断に取り組むPhosphorusが1000万ドルの資金を獲得

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DNAの塩基配列決定の効率が向上してより安価になるにつれ、多くの企業がその領域に誕生している。そのうちでも、最近設立されたPhosphorusがFirstMarkの主導でシリーズAで1000万ドルの資金を調達した。

Phosphorusは実はゲノミクスを専門とする企業であるRecombineからのスピンアウトだ。Recombineは昨年、CooperSurgicalに8500万ドルで買収された。

Alexander Bisognano率いるRecombineは医療診断を提供する会社だ。子供を作ろうとしているカップルの遺伝子配列を調べ、それらが生まれてくる子供にどのような影響を与えるかを診断する。これらには先天的疾患や病気に関連した劣性遺伝子の情報などが含まれる。

先の売却に関しては、Recombineは医療テストそのものを、その販路を拡大する目的でCooperSurgicalに売却したが、ソフトウェアのプラットフォームとデータマップは手元に残した。

現在BisognanoはRecombineで得られたデータマップを次のベンチャーであるPhosphorusで利用しようと目論んでいる。

Phosphorusが取り組むのは様々な局面での生殖に関する問題で、子供を作りたいカップルに関して不妊の原因として考えられるあらゆる可能性に関してのテストを行う。このテストによりカップルは不妊に結びつく行動を慎んだり、または安心して子作りに取り組んで大丈夫というゴーサインをもらったりする。
同社には、これまでPhosphorusやRecombineで行った検査結果の蓄積がある。これらのゲノムデータは顧客が匿名を条件にグループ内でのデータ共有を許可したものだ。Phosphorusはこれらのリソースにアクセス出来るおかげで、他のテストでは見逃す可能性のあることまで検出可能だ。

FertilityMapWithDesign多くの医師や臨床研究者が直面していることなのだが、難しいのは、何かを新規に発見してもそれが本当なのかを確かめるのに必要な十分なサイズのデータセットにアクセスできない、もしくは巨大なデータセットがあっても必要な情報をそこから取り出してくることが出来ない、という点だ。

PhosphorusのFertilityMapを使えば、医師と研究者はPhosphorusの製品を利用して研究を進めることができる。その一方で、不妊治療クリニックやその患者が利用できるのは、得られたデータや、データを解釈し、さらには遺伝子と健康の直接の関連を理解するためのリソースだ。

以下、Phosphorusのウェブサイトからの引用:

これまでの不妊検査ではせいぜい1、2か所の遺伝的要因をチェックするだけでしたが、FertilityMapではもっと大規模な多変数的アプローチを採用しています。検査を行う際は、本人の履歴、これまでの妊娠の有無、家族の病歴などを考慮して、何百もの臨床的変数と何千もの遺伝的変数を解析します。FertilityMapは、予測的アルゴリズムの開発を通じて不妊原因および予後の診断とその治療に関する有用な情報を引き出すもので、妊娠を望む、より多くの家族の手助けになればと考えております。

もっと詳しく知りたい人はPhosphorusのウェブサイトへ。

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(翻訳:Tsubouchi)

IndieBioデモデーでバイオ系スタートアップの最新動向をチェック!

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場所はサンフランシスコのダウンタウンにあるFolsom Street Foundry、今日の午後はその一室でIndibioの3度目のデモデーが開催されており、最新のイノベーションについて興味津々の人たちでごった返していた。

アクセラレーターのデモデーは一大イベントとなり、今ではTechCrunchもライブストリーミングを行っている

しかし、真の意味で純粋なバイオテックアクセラレーターがSOS Venturesからローンチされたのはほんの2年前のことだ。それ以来多くのアクセラレーターやベンチャーがバイオテックの分野に強い関心を持つようになったが、それでもなお、Indiebioはその業界で、特に奇妙で興味深いアイディアが披露されるという点において皆の注目を集める存在であり、そう言ったアイディアは、例えば動物の体の部位を3Dプリンターで製造するとか、微生物に卵白をつくらす、バイオリアクターを使ってビールを美味しくする、などだ。

3回目の今回も例外ではなく、キノコの皮で服を作ったり、チューインガム一枚のサイズのジカウィルス検出装置や、実験室でヒトのミルクを製造するなど、奇抜なアイディアを披露するスタートアップが次々に登壇した。ここではIndieBioの3度目のデモデーで登場した15のスタートアップ全てについて紹介しよう。

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Mycoworks– Mycoworksは皮革の天然の代用品としてキノコを使おうとしている。その素材は機能的改良が加えらえており、動物を使わず、環境に優しく、価格競争力も強い。同社は靴とファッション業界の3社とパートナー関係を結んでいる。デモデーの日、同社は牛のサイズの「キノコ皮」をお披露目した。これは牛1頭丸ままの皮革に相当し、3週間で培養したという。

SyntheX Labs– SyntheXは現在治療不可能なガンを、いわゆる「合成致死性」を利用して治療する会社だ。同社の開発したプラットフォームでは、たった一枚のペトリ皿で一度に1000万のタンパク変異体をテストできるという。同社は現在複数の製薬会社と連絡をとりながら、将来有望なデータをすでに手にしている。その中でも、新規に改良を加えた、がん細胞を死滅させる新しい方法に関する論文は向こう数カ月内に出版される見込みだ。

Ava Labs– Avaのミッションは最高級ワインをブドウを使うことなく再現することだ。その方法とは、選り抜きのワインの分子レベルの素性を分析し再構成することで、1万1000ドルの1973年製Chateau Montelena Chardonnayのような最高級ワインと同じ飲み口を再現することだ。Avaの先行発売の「複製」ワインは完売し、同社は既に250万ドル調達して最初の顧客には半年以内にワインを発送する予定だ。

Knox Medical Diagnostics– Knoxは子供の喘息を、発症する前に予防することを目指している。同社によると、病院レベルの喘息管理ツールを開発することで、家にいながら喘息の発症可能性に関する洞察を得ることができる。同社はこれまで喘息患者80人を使って研究を行い、UCSFと共同でさらに500人の患者を使った研究を開始した。その結果を製品発表と共に公開し、2017年春までにFDAの承認を得る予定だ。

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AstRoNA Biotechnologies– 食中毒は今日、世界的に懸念されている問題であり、毎年6人に1人以上の割合で食中毒にかかると言われている。AstRoNAは持ち運びできる小型の食品検査装置を開発した。これにより、汚染されている可能性のある食品を食品生産のどの段階においても直接装置を持ち込んで検査することが可能になる。同社によれば、これにより「現場からテーブルまで」この検査装置を使うことができ、正確な結果を得ることが1時間以内に可能だ。また、同社な試験的なプログラムを食品会社4社と立ち上げた。今年度末までに最初の大規模な製品販売を行う為に170万ドルを調達したいとしている。

BioNascent– BioNascentは母乳で育てられていない赤ん坊の為に、母乳と生理的に同等なフォーミュラを製造している。同社はヒトの母乳に含まれるタンパク質を合成し、現在使われている乳製品ベースの幼児用フォーミュラに取って代わる製品の製造を目指す。同社は既に最初の製品を販売するための販路を開拓しており、研究とマーケティングに注力しつつFDAによる認可を3年以内に取り付ける予定という。

Amaryllis Nucleics– AmaryllisはRNAの発見を加速することで研究の効率化を目指す。同社のテクノロジーはRNA配列決定に要する時間を半分に、また費用を8分の1にする。それにより、ガン診断、薬剤の開発、食の安全の確保が促進されるだろう。Amaryllisはこれまで、セールスにおいて25万ドル以上の資金を調達し来年までに国際的に販売を行うことを目指している。

MiraculeX– MiraculeXは次世代の、健康で美味しいタンパク質ベースの甘味料を植物に作らせるべく、研究を行っている。このスタートアップを支えるチームによると、同社の甘味料はゼロカロリーで、苦味は無く、砂糖より美味だという。MiraculeXは同社初のタンパク甘味料を今年度末までに発表し、さらにその他のタンパク質ベースの甘味料を翌年までにリリースしたいとしている。

OneSkin Technologies– OneSkinは研究室で本物の人間の皮膚の合成に成功したという。OneSkinによると、同社は人種と年齢に応じて皮膚を複製し、個人のニーズに合ったスキンケア製品を開発するという。同社は既に大きな化粧品会社と最初の顧客関係を結び、個人のニーズに合ったスキンケアと同社独自のアンチエージング化粧品のラインアップを1年以内に発表したいということだ。

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Willow Cup– Willow Cupは植物を使って乳製品を製造する会社で、まずはラテ用のミルクの泡を手掛ける。同社は特許を取得済みの植物のタンパク質ライブラリーを使って植物由来のミルク産業に革新をもたらそうとしている。同社によると既にサンフランシスコ内の代理店10社と提携販売を行い、全国の市場に販路を広げる予定だという。

Endura Bio– カリフォルニアは依然干ばつで苦しんでおり、当地では水は貴重だ。Enduraは農業用スプレーを製造しており、そのフォーミュラの使用により作物の干ばつ耐性を活性化し、水の使用を33パーセント抑えることが出来る。現在そのテクノロジーを検証すべくカリフォルニアで野外試験を実施中だ。

Ardra– 天然香味料と香水は急速に成長している市場でその市場規模は230億ドル以上にもなるという。Ardraによると同社の酵素テクノロジーにより香味料を他の天然に存在する同等品と比較して、より低コスト高マージンで製造できるという。同社によると最初の4ヶ月の内に手がけた最初の製品において商業収量を達成することに成功し、通常の製品開発サイクルにかかる何年もの期間を短縮することが出来たという。

IndieBio Demo Day 3

mFluidX– ジカ熱は妊娠した母親が感染した場合胎児に小脳症を引き起こす可能性のある恐ろしい病気だ。ブラジルは今年の8月世界が夏のオリンピックで集結しようとするまさにその時、その病気の渦中にいる。mFluidXは診断用のチップを開発したが、そのサイズはこれまでのDNAやRNA分析用の大きな研究室用装置とは違い、ほんのガム1パックのほどの大きさで、ジカウィルスを野外で検出出来るという。同社によるとその検出チップは電源要らずの使い捨てのチップで既存のテクノロジーの1000分の1の費用しかかからず、どこにいても感染病の診断に素早く使用可能だという。同社とパートナーシップを締結した最初の人物はブラジルでZikaウィルスを同定したウィルス学者だ。

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Jungla–  Junglaによると、同社はゲノム上でこれまで重要性が不明だった変異の役割を類推することにおいては世界最高のテクノロジーを保有し、機械学習と同社の専売特許であるタンパク機能マップを組み合わせ、まずガンの分野で応用するという。同社は核酸のシークエンスサービスの分野で著名な企業やゲノム診断の第一線を行く会社、アメリカで最大の心臓専門病院と提携関係にあるという。

Qidni Labs– Qidniは移植可能な人工肝臓だ。同スタートアップはブタを使った最初の臨床前試験を成功させ、来年には臨床前試験の全ての工程を終了し、次の5年以内にそのテクノロジーを市場に出す予定だ。

 

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(翻訳:Tsubouchi)

バクテリアの動きがローターを回す発電機でマイクロデバイスに電力を供給…オックスフォード大学が目下研究中

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オックスフォード大学の科学者たちが、仮想のプロトタイプを使って、バクテリアの自然な動きに円柱状のローターを回転させ、安定的に電力が得られることを立証した。

その研究はScience Advances誌に載り、バクテリアの群(む)れのランダムな動きを組織化して、生物が駆動する発電プラントを得られることを示した。それはまるで、微細なウィンドファームのように。

研究者たちによると、このシステムを利用した顕微鏡的サイズのエンジンにより、将来は、光スイッチやスマートフォンの部品(マイクロフォンなど)、人間の作るデバイスを、自分で自分を組み立て、電力も自分で作り出すタイプのものにすることができる。

共著者の一人、オ大物理学科のTyler Shendrukはこう述べる: “いちばんすごいのは、システムが自分で組織化することだ。その不思議な形をしたローターは、人間技術者が設計したものではない。それらはただ、平滑なディスクであるにすぎない”。

彼のほかにSumesh Thampi, Amin Doostmohammadi, Ramin Golestanian, Julia Yeomansらから成る研究者チームは、顕微鏡的サイズのローターのまわりを浮遊して泳ぎまわるバクテリアをシミュレートした。またシミュレーションではなく実際のバクテリアを使用する実験では、Shendrukによると、大腸菌を使うことが多い。

Shendrukの説明によると、多くのバクテリアが一緒に泳ぐときには、彼らは群れを成してランダムな渦(うず)状の流れを駆動する。それを科学者たちは“動的乱流(active turbulence)”、と呼んでいる。このような即興的な流れに、何か役に立つことをさせるのは、面倒で難しい。彼ら自身は、あまりにも無秩序だ。たとえばコンピューター上の動的乱流のシミュレーションでも、一つの自由に回転するディスクを同定することは困難だった。“それはハリケーンの中に置いた風向計のように、ランダムにスピンしていたからだ”。

鍵となる発見は、ローターの全配列を動的乱流の中に置くことだった。その配列のおかげで、回転が自ら組織化される。“配列中のローターがそれぞれ互いに逆方向に回転しているのを見たときには、自分でもびっくり仰天し、こいつはクールだ!と思った”、とShendrukは思い出を語る。

チームは、ローターが互いに十分に接近していれば、シミュレーション中のローターはどれも恒久的にパターンに従うことを発見した。しかしそのシステムが作り出したのは、あまりにも微少な電力だった。

“現状では、スマホの充電なんかとても考えられない”、とShendrukは語る。“われわれがやってることがどれだか小さなことかを理解していただくために申し上げると、この前バクテリアの群れによる顕微鏡的サイズの発電機が作り出した電力は、推定で1フェムトワットだった”。

1フェムトワットは、1.0⋅10-15 ワットだ。

“ローターの巨大な配列でもまだ携帯電話の駆動はできない。しかし、細胞を作り出したり、小さなマイクロボットを動かす微小流体工学的な(microfluidic)デバイスに、微小な電力を供給することはできるだろう”、とShendrukは語る。“誰かがそれを実験的に作ることは十分にありえるし、そうなれば、ほんとにすばらしいね”。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

光で動くマイクロロボットが血管中を泳いで薬を正しい場所に運ぶ…北大の研究より

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小さなロボットを体内に固定するというアイデアは、楽しいとも思えるけど、でもそのロボットが電池切れになったり爆発したらどうなるのか? しょっちゅうではなくても、いつかは起きるだろう。

北海道大学理学部化学科の研究者たちが、青い光を浴びると自分で動き出す結晶構造を作った。つまりこの微小なロボットに光を当てて、血管中を目的地に向けて泳がせることができる。

この結晶はアゾベンゼン(azobenzene)およびオレイン酸(oleic acid)という有機物でできている…染料や食用油によく使われる物質だ。この化合物に青い光を当てると、“何度も繰り返して、ある形から別の形へ変化する”。

“これがアゾベンゼン-オレイン酸結晶の構造に影響を及ぼすかテストした。結晶には、シス形とトランス形のアゾベンゼンが不等量で含まれている”、と研究者たちは書いている

このロボットは、とてもロボットには見えないかもしれないが、正しい条件下では泳ぎだすので、マイクロロボット技術の未来の実装に役立ちそうだ。

“何度も繰り返してひっくり返る動作など、リズムのある動きを自分で編み出すので、その点は生物器官の基本的な性質に近い”、と研究者のYoshiyuki Kageyama(景山義之(北海道大学大学院理学研究院化学部門液体化学研究室))は述べている。“このメカニズムは将来、生物系の分子モーターやロボットの開発に利用でき、それらの応用〜アプリケーションは、医療を初め、広範囲に存在するだろう”。

この技術を商用化する計画は、まだない。小さな、光を動力とするロボットが体内を泳ぎまわることは、電池で動く小型の烏賊(いか)のような怪物より、ずっと楽しい。Neoも、そう言うだろうね。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

CRISPRを使ったヒト遺伝子改変治療の臨床試験、アメリカで遂に認可

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2015年の春、中国の科学者のグループがCRISPR/Cas9テクノロジーを使って54ものヒト胚のDNAを改変した 。これらの内、28個では成功したものの、約半数である26個では改変は失敗し、ヒトの遺伝子改変の倫理性に関して科学界で熱い議論が巻き起こった。

現在アメリカではヒトのDNAをCRISPRを使って改変する事は認可されていないが、ペンシルバニア大学の研究者がCRISPRテクノロジーを初めてヒトに使用する研究を提案している。このプロポーザルは、遺伝子編集によりT細胞を改変し遺伝性の3種類のガン細胞を攻撃する能力をT細胞に付与するというものだ。

本日、連邦生物安全倫理委員会はペンシルバニア大学のグループがヒトの患者で研究を行うことを認可した。今後実際に研究を行うには研究が行われる予定のメディカルセンターで計画が承認される必要があり、食品医薬品局からの承認も必要だ。

プロポーザルによると初期のトライアルは15人までの患者を使用し、CRISPRテクノロジーをヒトに適用した際の安全性と実現可能性を見極める予定だ。この研究はテック出身の億万長者ショーン・パーカーの創設したParker Institute of Cancer Immunotherapyから手厚いサポートを受ける。この組織は様々な研究機関と協力してガンを撲滅することを目的に、この春正式に設立された。

科学者の間では、ヒトのDNAを操作することの倫理性に関して意見が割れている。このテクノロジーは遺伝子のヒモを切り取ることで様々な驚くべき芸当を可能にするものだ。例えば、微生物に蜘蛛の糸を作らせたり、致死的な病気を引き起こすDNAを取り除いたり出来る。

CRISPRの是非に関しては、一方の言い分によると、CRISPRを使えばこれから生まれてくる子供たちは自分の親からの遺伝のせいで健康な生活が送れないといったことがなくなり、そのうち遺伝的にガンを引き起こす原因すら単純に切り取って治してしまうことが可能になるという。

反対側の意見としては、CRISPRを使うことは、それが究極的に我々に何を引き起こすか分からないうちに、我々の遺伝的基盤をみだりにいじくりまわすことだという。中国で行われた実験ではゲノム上に意図しない効果がもたらされ使用したヒト胚のほぼ半数が死んだ。

ペンシルバニア大チームのリードサイエンティストであるCarl June博士が本日のウェブキャストで認めている通り、望ましくない遺伝子を切り取ってしまう技術は完璧ではない。ある種のPD-1とTCRの遺伝子は、それらが欠損すると肺腫瘍を抑える効果があることが示されているにもかかわらず、今回の処理後も残ってしまう。しかしながら、データによると後に残ったもののレベルは十分に低く、そのおかげでCAR T細胞と呼ばれる特定のT細胞がガン細胞を攻撃する効果が増す。

しかし、ペンシルバニア大のプロポーザルは、今日皆がこの分野で起こっていると想像していたよりも一段上を行くものだ。遺伝子編集を専門とするEditas(本年度初旬に株式公開)は2017年にCRISPRを使った最初の臨床試験を行うという。

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(翻訳:Tsubouchi)

微生物からなんでも作り出すGinkgo Bioworksが1億ドルを調達、合成DNAの大量購入のため

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Ginkgo Bioworksはポストンに拠点を置くバイオテックのスタートアップで、微生物からありとあらゆる種類の香料や調味料を作り出している。この度Ginko Bioworksは6億ベースの製造されたDNAを入手するため1億ドルの資金をシリーズCのファンディングで獲得した。Ginkgoによるとこれは「これまで購入された合成DNAとして最大の規模」だという。

同社はその何百万ベースもの遺伝コードを使って新しい領域に乗り出そうと計画している。例えば、「汎用の化学薬品、工業用酵素、保健医療」などの市場だ。

新たな資金は全て現金で、これでGinkgoがY Combinatorでローンチしてから2年足らずで得た資金の合計は1億5千4百万ドルにもなる。これはY Combinator発のスタートアップの中でもトップ10に入る額だ。

この新しい形態のバイオテック、つまり薬品製造がらみではないバイオテックは、2014年になって、DNA合成コストの劇的な低下に伴い俄然ヒートアップしてきた。GinkgoはY Combinatorが投資した最初のバイオテックスタートアップの内の一つで、今なお競合相手がほとんどいない。数少ない競合相手の中には、西海岸で似たような業務を行うZymergenがあり、微生物のDNAを操作し消費者向け材料を大量生産することを目標に、今日までに4500万ドルの資金を調達した。

このラウンドの資金はYCのContinuity Fund、Senator Investment Group、Cascade Investment、Baillie Gifford、 Viking Global Investors、Allen & Company LLCより調達した。Viking GlobalはシリーズBのリードインベスターでもあった

Ginkgoは現在調味料、香水、食品産業のための商品を製造しているが、DARPAとも共同でプロバイオティックを製造しており、それはアメリカ兵が海外でお腹の調子を崩した時、整腸するためのものだ。しかし同社は昨年から他の産業分野への事業拡張を視野に入れ始めた。

Ginkgoは2015年の春に、1億ベースのDNAを購入し新しい製造分野に進出すると発表したが、それ以来その量を6億ベースに引き上げ、Twist BiosciencとGen9と業務提携し合成DNAの供給を受ける。Twistは少なくともその内の4億ベースを2017年の内に納入すると誓約している。

Ginkgoはさらに資金の一部をBioworks2を建てるのに使う予定だ。Bioworks2は7万平方フィートの広さを持つ新しい自動化された設備で、GinkgoでデザインされたDNAのプロトタイプをテストし新しい製品を創出する場所だ。その製品とは共同設立者のJason Kellyが言うところの「テックが見捨てたバーティカル製品」、例えば栄養や製薬業など。

「これらの産業はソフトウェアのように根本的に破壊的ではないのでとてつもなく大きなチャンスがあります」とKellyは言う。「生物をデザインすることがもっと上手く行き出せば、なんでも作れるようになります。そうすれば、これまでのテック産業が近づくことのできなかったセクターを崩せるのです」

Ginkgoは既にこれらの産業分野で多くの新しい製品を作っており、Kellyによれば、今回の資金は、Bioworks2が完成するのに伴い、Ginkgoがこれまでしてきたのと同様のことを今後も継続して行ってゆく上での助けとなるということだ。

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(翻訳:Tsubouchi)

誰でもDNA折り紙の達人になれるアルゴリズムが開発された

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高さ数インチのものをプリントしたいのなら、プラスチックを押し出して成形すれば良い。しかし、ナノスケールのものが必要ならDNAを使うのが良いだろう。でも、DNA1塩基単位でデザインして組み上げる時間のある人などそうそうはいない。しかし、今回の新しい研究成果を使えば、形さえ決めればあなたもDNA折り紙の達人になれる。A、T、G、Cをどのような順番で並べれば良いかはアルゴリズムが全部決めてくれるのだから。

DNAの構造は単純な二重らせんのみである必要はない。塩基の順番をいじくったり他の分子を入れ替えたりすることで、DNA鎖を右に鋭く旋回させたり、こちら向きやあちら向きに曲げたり出来る。また、深い洞察力があれば、一本鎖のDNA鎖を撚り合せ畳み込んで、有用な幾何学的構造体を作る事も出来るのだ。

そういった構造体はドラッグデリバリー (訳注:薬を体内でターゲットとなる部位まで一旦輸送してから放出する技術)に使ったり、CRISPR-Cas9の遺伝子編集因子のようなツールを内側にセットしたり、さらには情報を格納したりするのに使うことが出来る。

しかしこれまでの問題としては、例えば12面体をデザインするというのはとんでもなく複雑なことで、そのような何千塩基対にも渡る複雑な分子を人の手で組み上げることは事実上不可能だった。MIT、 アリゾナ州立大学、ベイラー大学の研究者たちはまさにその問題の解決を試み、その成果が本日、サイエンス誌に公開された

「この論文によりこれまでの問題は180度反転することになるでしょう。つまり、これまでは構造体を合成する際、専門家がそのために必要なDNAをデザインしていました。しかし、これからは構造体そのものが開始点なのです。その為に必要なDNAの配列は自動的にアルゴリズムにより決定されます」と、MITのMark Batheはプレスリリースで述べた

基本的に、ユーザーは閉曲面を持つ3次元の形状をプログラムに指定するだけで良い。それは多面体や、もう少し丸みを帯びた、例えばトーラスや、もう少し対称性のないティアードロップ状のものでも良い。相応の仕様の枠内でデザインする限り、一旦デザインをコンピューターに渡してしまえば、ユーザーはそれ以上何もしなくて良い。

今回研究者たちが創り上げたアルゴリズムは、その構造体の枠組みを形成する為にDNAをどのような塩基配列で並べれば良いかを厳密に決定してくれる。それは一本鎖DNAであり、それ自身が曲がり撚り合わさって3次元的形状を形成する。アルゴリズムにはDAEDALUSというカッコいい名前も与えられた。DNA Origami Sequence Design Algorithm for User-defined Structuresから来たものだが、 頭文字的にあまり合ってないのはご愛嬌だ。

どんな形状で試しても魔法のようにうまく行く。もちろん、実際に狙った3次元の形状が形成されているかは低温電子顕微鏡を使った単分子3次元解析により確認している。
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医学や遺伝子編集分野での利用価値は明らかだが、研究者たちが望んでいることは、このテクノロジーが急速かつ劇的に利用しやすくなることにより、前述の領域の枠に留まらない新たな利用法が創出されることだ。

例えば、DNAを使った情報保存はこの技術により飛躍的に簡便になる可能性がある。このアルゴリズムを使うことで極めて独自性の高い構造を作り、その一部をバイナリーデータを書き込むのに使用することが出来るようになるかもしれない。要するにそれはDNAで出来たナノスケールのROMディスクという訳だ。なんと素晴らしい。

「この複雑なプロセスを自動化することにより、この極めて強力な分子デザインの枠組みを利用する人が飛躍的に多様化することを願っています」とBatheは言った。

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(翻訳:Tsubouchi)

遺伝子編集技術が人類の健康と生活に革命をもたらす

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この記事はCellectisのchairman、CEOでCrunch NetworkのメンバーAndré Choulikの執筆

遺伝子編集技術は21世紀前半を通して、我々の生活と我々が伝統的に健康というものに抱いている概念を根本的に変えるだろう。

遺伝子編集により病気の治療方法が変わる。これまでの治療が対症療法だったのに対して、遺伝子編集は病気を引き起こす原因を直接治す。遺伝子編集技術は我々が体に取り込むものに対する概念を変える。なぜなら、遺伝子編集を使えば、地球を汚染することなく、より健康的な食物を我々の食卓に供給することが可能になるからだ。こういった食べ物はただ安全なだけでなく、持続的成長や気候変動に関連した環境問題にも対応できるだろう。

結果的に、人々は遺伝子編集の是非について、その倫理性を争点にはしなくなるだろう。問題は、「いつ、遺伝子編集が世界の大部分にとって重要な事実となるか」ではない。実際のところ、これはサイエンスフィクションでも予言でもなく、遺伝子編集は今現在起きていることである。現実に、TALEN®方式で遺伝子編集されたT細胞を使っての最初のガン患者に対する治療が既に行われた。加えて今年の秋には、全米中の畑でTALEN®方式で遺伝子編集された大豆やじゃがいもが収穫される。さらには遺伝子編集を施された豚や乳牛(hornless cow)が実際に牧場を歩き回っている。

遺伝子編集をめぐる状況は明瞭とは言い難いが、近年の新しい遺伝子編集技術の出現と、新興企業の登場により倫理的な議論が不可避な状況になった。

例えば、CRISPRテクノロジーをベースにした、臨床試験の初期段階にあるスタートアップ企業の3社は製薬会社と生命工学会社の大手を主要な提携先としている。それぞれEditas Medicine (Juno Therapeutics)、CRISPR Therapeutics (VertexCelgene) 、Intellia Therapeutics (Novartis)といった具合だ。

これらの提携は重要だが、長期的な成功はこれらの企業が公約を実現できるかどうかにかかっている。CRISPRによる技術革新を、有用な認可薬の開発に結びつけることができるかが最も重要であり、そのような努力がたとえ新薬として結実するにしても、それにはこの先何年ものさらなる懸命な努力が必要だろう。

これらスタートアップ企業に加えて、遺伝子編集の分野ですでに操業しその地位を確立している企業としてSangamo BioSciencesPrecision BioSciencesがある。Precision Bioはこれまで独自のARCUS遺伝子編集技術を用いてパートナーのバイオテクノロジー企業の研究を推進してきたが、現在はその技術を自社の製品開発に使おうとしている。

Sangamoは臨床段階にあるバイオ製薬会社で、Zinc finger nucleasesを商業化する方法を研究している。Zinc fingerヌクレアーゼを使えば細胞内の特定の位置のDNAを改変できるので、狙った遺伝子を修正したり破壊したりできる。同社のリードセラピーであるSB-728はHIV/エイズの機能的治療となる可能性がある。最近公表されたデータは同社のさらなる研究の進展を裏付けており、これはHIVを免疫学的に機能制御することに向けた大きな進歩と称されている。

こういった動きは倫理的論議を引き起こすこととなる、すなわち議論の中心は遺伝子編集の潜在的脅威であり、具体的には遺伝子編集人間への脅威なのだ。

遺伝子編集への恐れ、つまりは遺伝子編集を通じて何が出来てしまうのかに対する不安、は理性的事実に基づいたものでは全くない。

実際、動物を使った遺伝子改変は35年以上前になされ、その方法は直ちにヒトにも適用可能だったが、当時その技術は遺伝子改変人間への動きにはつながらなかったことを思い出して欲しい。同様のことが、ヒトの胚性幹細胞を使って遺伝子破壊をすること、羊のドリーを作成した技術を使ってヒトをクローン化すること、もしくはヒトiPS細胞を使って新規クローンを作り出すことなどに当てはまる。遺伝子編集への恐れ、つまりは遺伝子編集を通じて何が出来てしまうのかに対する不安、は理性的事実に基づいたものでは全くない。

人々はしばしば尋ねる。「遺伝子改変って何だろう?心配すべきことなのだろうか?もし、悪意を持った人たちがこの技術に手を染めたとしたらどうなってしまうのだろう?」

答えは複雑だ。携帯電話やソーシャルメディアなどのテクノロジーはグローバル社会を根本的に変えてしまった。これまで、たとえ悪い人がそれらを悪用したとしても、大多数の場合において、これらのテクノロジーにもたらされた変化は良い方向に働いてきた。

遺伝子編集はそれと似ている。遺伝子編集技術は我々が生命の最も基本的な構成因子を見る目を根本的に変えてしまう。それは我々が病気を治療したり、食物を育てたり、ヒトとしての自分自身について考えたりする上で、これまでの概念全てについて再考を促すほどの力がある。

元来、文明行為の最たるものは植物を育て動物を飼育することにあると考えられた。それ即ち遺伝的選択とクローニングである。クローニング、即ち最高の品種の選択は、もともとは人類の生存率を高める行為として行われた。それ以来、人類はその技術に磨きをかけ続けた。

地球の人口が90億以上に達しようとする時、我々が存続できるかどうかは遺伝子編集の力にかかっているのかもしれない。さらに言えば、今日ある人が体外受精で生まれたとしても誰が気に留めるだろうか。1970年代の体外受精をめぐる議論を覚えているだろうか。この点はもはや議論にすらならない。

2015年は極めて重要な年となった。遺伝子編集は現在我々の生活を真に現実的な意味において一変させている。イギリスのGreat Ormond Street Hospitalにおいて、他の治療法では救うことができなかった白血病の患者に対し、遺伝子編集を施したCAR T細胞の候補産物が初めて使用された。彼女は遺伝子編集により救われた最初の患者となった

European Medicine Agencyの専門家によると、これは彼らが見てきた中でももっとも複雑な生産物ということだ。それはT細胞を非常に洗練された方法で再プログラミングした結果であり、その過程で一部の遺伝子が付け加えられまた他の遺伝子の働きは抑えられ、結果的にそのT細胞は強力なガン撲滅マシーンへと変化したのだ。

この細胞は何千と生産でき、長期の保存に耐え、世界中の病院に供給でき、治療の必要などんな患者に対しても投与することができる。今日、これを製造するのは複雑かもしれないが、患者に投与するのは簡単である。未来の医学においてはこれが標準となる可能性さえある。

2015年は商業的農業においても同じくらい良い年だった。遺伝子編集食物が全米中で豊富に収穫され、遺伝子編集ジャガイモと大豆が2年以内に消費者の手に届くことが現実味を帯びてきた。これまでの50年間、植物の育種の焦点は収穫量を増やすことであり、実際に生産性は向上したもののそれは除草剤と殺虫剤のさらなる使用を伴ったものであった。つい最近まで消費者の健康は重要視されておらず、それが大規模農業の弊害とされ、ひいては有機農業の隆盛を引き起こした。

今日、有機農業は現在のアメリカの農業生産において10%に満たない。それでも、人口の増加と歯止めのかからぬ耕作地の減少(地球温暖化や持続可能性、及び世界の公正成長などの要因は言うに及ばず)といった状況で、より健康的な農産物への強い需要と自然への配慮の両立を満たすには、人類の経済規模を縮小するかテクノロジーで解決するかしかない。来る遺伝子編集食物の収穫はこの利鞘縮小問題に答えを出すための第一歩となり、人類を拡張するための新たな経路の開拓と持続可能な発達の両立への扉を開くものだ。

繰り返しになるが、もし、またはいつ遺伝子編集が現実となるかが問題なのではない。むしろ、我々がそれを最初に実行するかどうかということなのだ。オバマ大統領が最も最近の一般教書演説で言った、「ガンを撲滅しよう、このアメリカの地で」。この演説はCancer MoonShot 2020の立ち上げの次の日になされた。Cancer MoonShot 2020は製薬企業大手とバイオテクノロジー企業の主導で行われる。しかし、我々は2020年までガン細胞を除去するための治療を待つ必要はない。我々は遺伝子編集によりガンの根治に着実に近づいている。

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(翻訳:Tsubouchi)

蜘蛛の糸を作るBoltが5000万ドルを調達、Patagoniaと製品開発を開始

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蜘蛛の糸でできた洋服を着るのが面白いアイディアだと思うなら、蜘蛛を大量に飼うことになるだろう。 Bolt Threadsという名のスタートアップは蜘蛛や他の昆虫が作る繊維を生成し、アパレルメーカーや内装関連の企業が利用できるよう、その繊維で糸を紡ぐ方法を開発した。

2009年にCEOのDan Widmaier、Chief Scientific OfficerのDavid Breslauer、Vice President of OperationsのEthan Mirskyが共同創業したBolt ThreadsはシリーズCラウンドで5000万ドルを調達したとTechCrunch Disrupt NYのステージで公表した。

「今日は大きなニュースが2つあります。1つは、シリーズCラウンドで5000万ドルを調達したことです」とWidmaierは言う。「私たちはスケールする段階にいます。市場にプロダクトを投入するため、サプライチェームを複数確保しました」と彼はインタビューで答えた。

2つ目の発表は、SF映画に出てきそうなこの新たな糸で製品開発とデザインをPatagoniaと行う契約を交わしたことだ。「まだ何をするかは公表できませんが、Patagoniaと協力していることを発表したいと思います」とWidmaierは言う。

Boltは製造パートナーにアウトソースすることで、すでにEngineered Silk(遺伝子操作シルク)のタンパク質を大量生産しているとCEOのDan Widmaierは言う。そして、今年の夏には糸の製造も行うと話す。

Formation8が調達ラウンドのリードを務め、香港に拠点を置くNan FungとInnovation Endeavorsが参加した。Boltの以前の出資者であるAlafi Capital、East West Capital、Foundation Capital、Founders Fundも今回のラウンドに参加している。

Formation 8のファウンダーでジェネラルパートナーのJim Kimは、Boltに投資したのは、彼らのシルクには素晴らしい特徴があるからだという。蜘蛛のシルクでは、ケブラーより強い素材を生成することができ、耐久性がありながらもライクラほどの柔軟性を持つと彼は説明する。

それに加えBolt Threadsは、天然のシルクの製造よりはるかに簡単にこの繊維を製造する方法を開発した。絹の場合、蚕と大量の桑の葉が必要だが、この葉は気候の変化により脅かされていて、絹業界もその影響を受けている。

Kimは「多くの人は次のUber風サービスに投資しますが、テキスタイル業界周りのテクノロジーを理解している人は少ないのです。Boltは何兆ドル市場に影響を与えます」。

投資に関してKimは、2018年までにBolt Threadsの生物が作り出す繊維がメインストリームのプロダクトとなることを期待しているとした。

Modern Meadowも着実に成長

一緒に登壇したModern MeadowのCEOを務めるAndras Forgacsも自社について話をした。Modern Meadowは、バイオプリントで皮革を製作している。

「私たちの場合は皮革を製作していて、この皮革は本物です。生物学的に同じ構造のものです。動物を殺さなくてもそれができます」とForgacsは言う。

もちろん、新しい素材を製作する会社を築くには多くの時間が必要だ。しかし、Modern Meadowはこの先一年で規模を倍にしたい考えだと示した。Forgacsは会社のミッションを心に刻んでいる。「皮革は1000億ドル市場です」と指摘し、「各製造工程の中で多くの化学品が使い、大量の無駄があります」と話す。

Bolt Threadsのニュースに対して Forgacsは、Modern MeadowとBolt Threadsには多くの共通点があると話す。「私たちの事業を行っている企業は多くありません。だからこそ私たちが目立つのです」と言う。

Modern Meadowは累計でおよそ1350万ドル を調達している。スタートアップはいつも新しいことに取り組んでいるものだが、Forgacsは今日はニュースを持ってこなかったと話した。「今の段階で発表できることは何も持ち合わせていません」と笑った。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

わずか1ドルの紙の上で約2時間でジカウィルス感染を検出できる合成生物学的技術をMITが開発

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その日、メディアへの対応に追われていたMITの生物医学工学の教授Dr. James Collinsによると: “これはわれわれのグループにとって、何かの大感染が急激に勃発したとき、どれだけ早く対応できるかを知るための、興味深いケーススタディになった”、という。その日5月6日に発表された論文は、今感染が広まりつつあるジカ・ウィルス(Zika virus)を診断する、安上がりで、結果が出るのが早くて、効果的なツールを詳述していた。

Collins博士は話を続ける: “1月の終わりごろMITは、今誰がジカを研究しているか、と問う同報メールを全研究者に送った。われわれは、何もしていなかった。今のチームと前のチームの全員に、われわれなら何ができるか、と尋ねた。われわれの合成生物学のプラットホームを利用して、診断検査を作れるだろうか? 圧倒的多数が、作れると答えた。全員が、今やってることを棚上げして、新しい検査手法の開発に専念した。そして約5週間か6週間で、それは完成した”。

記録的な短期間でチームは、CollinsのチームがハーバードのWyss Institute(ヴィース研究所)で開発した技術を使って、資源の乏しい地域でも利用できる、紙を使う簡単な検査方法を作り出した。それは、これまでのやり方の数十〜数百分の一の時間と費用で、この疾病を検出できた。チームメンバーの出自は、Harvard, MIT, University of Toronto(トロント大), Arizona State University(アリゾナ州立大), Cornell, University of Wisconsin-Madison(ウィスコンシン大マディソン校)、Boston University(ボストン大)など、多岐にわたる。

“対応しなければならない要件が、いくつかあった”、とCollinsは説明する。“検査はローコストであること。結果が出るのが早いこと。リソースの乏しい現場で簡単に展開できること。われわれのプラットホームなら、これらのチャレンジにうまく対応できる、と私は思った。センサー本体は、きわめて小額でできる。展開の費用も、微々たる額だ。ローコストの検査とはこの場合おそらく、一検査あたり1ドル未満、という意味だ”。

患者から得た一滴の血液を沸騰させてウィルスからRNAゲノムを取り出す。その後のちょっとした処理において、紙を使用する。

“われわれが作ったのは、紙製の本当に上出来な合成生物学プラットホームだ”、とCollinsは語る。“われわれがやったのは、細胞の内部的な働きに着目すること、数十種類の酵素を使うこと。そうすると、紙の上で結果が分かる。それらをフリーズドライし、室温で保存し配布しても、活性の喪失がほとんどない。これこそが、このプラットホームのイノベーションの中核だ”。

上記の全過程に要する時間は約2時間で、安い機材しかない現場でも完全にできる。CDCなどの大規模な研究機関に送って、あらためて検査する必要はない。現在、このシステムではジカとデング熱とエボラを検出できる。この三つが、システムの最初のターゲットだった。

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Collinsは、今後もっと多くの病原にこの技術を適用できる、と信じている。

“今はインフルエンザの検査に使うことを検討している。HIVもだ。ライム病やハンセン病にも利用したい。また、今とは完全に違った形で、迅速で安価な癌の診断にもこのプラットホームを利用できるかもしれない”。

ただし現時点では、チームの主な目標は、ジカ熱がいちばんひどく広がっている地域で展開できる最良で最速の方法を見つけることだ。

“今われわれはブラジルやコロンビアのグループと一緒に、この方法を現場に、そして患者たちに届ける方法を検討している”、とCollinsは語る。“まだまだテストが必要だが、でもこのプラットホームには大きな将来性がある。適正な機関やグループの手に渡れば、普及の速度はとてもはやいだろう”。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

Spirocallは専用アプリなしで世界の誰もが肺の検診を受けられるサービス

2016-05-05-spirocall

最近のスタートアップの多くは利己主義で近視眼的だと批判されることがある。そうした時代に「今までなぜこういうテクノロジーの応用がなかったのか?」と思えるほど画期的で、しかも実際に人々のために役立つサービスを発見するのはすばらしい経験だ。

Spirocallはまさにそのような例だ。無料通話番号に電話するだけで世界中の誰でも肺の健康診断を受けることができる。そう聞けば話がうますぎると思われるかもしれない。しかしこれは現実のサービスで、しかも実際そのとおりに機能する。

肺の疾患は世界で毎年何十万という命を奪っている。しかも喘息のような慢性疾患の患者は何百万人にもなる。途上国の遠隔地では状況は一層悪い。検診を実施できる医師も設備もほとんど存在しないからだ。

プロジェクトのニュースリリースで、サービスを開発したチームのメンバーであるワシントン大学の博士課程の大学院生、Mayank Goelは「一部の地方ではそのような検診を受けるために何日も旅行しなければならないことがある」と述べている。

Spirocallは肺機能の検診で重要な役割を果たすスパイロメーター(肺活量計)という機器の機能を再現する。このサービスは肺がどれほどの空気を吸入、保持できるかを音響によって測定し、これによってさまざまな重要な診断が可能になる。しかも診断を受けるためには普通の電話で息を吐き出すだけでよい。

チームを指導したワシントン大学のShewak Patel教授は「われわれはこのサービスをスマートフォン、フィーチャーフォン、固定回線、公衆電話、その他あらゆる種類の電話に対応させた」と述べた。

プロジェクトがスタートした2012年だが、まずスマートフォンのみに対応するアプリが開発された。しかしその後チームはアメリカ、インド、バングラデシュで4000名以上の患者からデータを収集し、サービスをクラウド化することに成功した。

ユーザーは 1-800の無料通話番号に電話するだけでよい。電話の指示にしたがって息を吸い込み、強く吐き出す。.この音がサーバー側で過去のデータと照合、分析され、肺活量が測定される。原理はシンプルだ。

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テストの結果、Spirocallの測定は商用医療機器である肺活量計の測定との誤差が6.2%であることが判明した。誤差の範囲として十分に実用的な数値だった。強く息を吐き出すことができない患者や十分に感度の高い電話にアクセスできない人々のために3Dプリンターで出力可能な一種のホイッスルも用意された。このデバイスは息を吐き出す音を増幅して診断に役立てる。

われわれの取材に対し、Goelはメールで「さまざまな種類の電話のさまざまなマイクに対応させることがシステムの精度を高める上で非常に重要な意味を持った」と書いている。このシステムは電話の種類と性能をその場で判断することができる。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

高校生が3Dプリントで作った‘ミニ脳’バイオリアクターがジカ熱の研究を加速

A "mini-brain" infected with Zika. The red-dye indicates vulnerable progenitor cells.

ジカ熱に感染した”ミニ脳”。赤の染色は感染した弱い前駆細胞を表す。

あなたのこの夏の計画はなんだろう? 1000個の”mini-brain(s)”(ミニ脳)を検査できるバイオリアクターを設計することでは、たぶんないだろう。バイオリアクターの設計ですら、ないかもね。でもニューヨークの高校生Christopher Hadionoは、それをやった。そして彼の、3Dプリントで作った強力で効率の良いマシンが今、話題になりつつある。

Hadionoがこのマシンを作ったのは、ジョンズ・ホプキンス大学の神経科の教授Hongjun Songの研究室で夏季のインターンをやっていたときだ。SpinΩと名付けられたそのマシンは、Songらが最近の論文で示しているように、安上がりでしかも多芸だ。

ミニ脳そのものは、前からある。それは幹細胞から生成した神経細胞の小さな集まりで、それらを、あたかも発達中の脳であるかのように実験できる。完全ではないが有益であり、多ければ多いほど、良い結果が得られる。

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Hadionoのバイオリアクターのほとんどの部分は、ふつうの3Dプリンターで作れるが、ほかに、実験に必要な精密部品も必要だ。400ドルぐらいでできるから商用製品の2000ドルに比べると安いが、それだけでなく、ずっとコンパクトだから、栄養液の必要量も少ない。かなりの低コストで、標準の培養器の中にそれまでの10倍もの数のミニ脳を置ける。

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Song教授がSpectrum News誌の、自閉症治療技術に関する記事の中で、こう語っている: “ショックだった。バイオテクノロジー専攻の学部学生ですら、これほどのものは作れないだろう”。

Songはそのデバイスをいち早く使ってみた。彼ら研究者たちが専門誌Cellに発表した論文には、SpinΩそのものの工学的詳細(とプリントファイル)だけでなく、ジカ熱の感染と小頭症の関連性をより明白にすると思われる実験も紹介されている。

そのほかの研究室もSpinΩに関心を示し、独自に自作中だ、とSongは述べている。興味を示しているメーカー企業も数社ある。ご心配なく、それは今でもHadionoの作品であり、特許の申請も彼の名前で行われている。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))