健康ITのFiNC、今度はゴールドマン・サックスから資金を調達

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先週ANAホールディングスやクレディセゾンなど大手企業を中心とした資金調達を実施したヘルスケアITのFiNCだが、今度はThe Goldman Sachs Group(ゴールドマン・サックス) の本社経営委員会メンバーからの資金調達(先週発表のシリーズBの追加出資)を実施したことを明らかにした。金額や出資比率は非公開。

元みずほ銀行常務の乗松文夫氏を代表取締役副社長CAO兼CWOに、元ゴールドマン・サックス証券幹部の小泉泰郎氏を代表取締役副社長CFO兼CSOにそれぞれ招聘。元ミクシィ代表取締役の朝倉祐介氏や元LINE株式会社代表取締役社長の森川亮氏らを戦略顧問に据えるなど経営陣の強化に努めてきたFiNCだが、このステージの国内スタートアップにゴールドマン・サックスが出資するというのは珍しいケースだ。

FiNCでは今回の調達を契機にグローバル事業の本格展開を進めるとしている。

クラウドキャストがセゾンとIMJ-IPから資金調達、経費精算サービスにクレカ連携機能

lg_staple_intro-3121e45fa784275f1d3ab97e3cd8c23f経費精算サービス「Staple(ステイプル)」を提供するクラウドキャストは12月11日、クレディセゾン(6月に設立した100%子会社のセゾン・ベンチャーズからの出資だ)およびIMJ Investment Partners(IMJ-IP)を引受先とした第三者割当増資を実施することを明らかにした。調達額や出資比率は非公開だが、関係者によれば数億円前半程度の規模になる模様。

Stapleは2014年9月のリリース。アプリへの入力で手軽に経費精算ができるほか、交通系ICカードの読み取り、会計システムとの連携にも対応している。金額は個人向けが無料、承認フローなどを備えた法人向けが1ユーザー月額600円となっている。これまで広告や人材、不動産、全国展開の小売業などの業種の中小・ベンチャー向けにサービスを提供しており、無償・トライアルを含めて150以上の企業・組織で利用されている。

同社ではクレディセゾンとの資本提携を機に、クレディセゾンの3500万人の顧客基盤や永久不滅ポイントなどと連携。Staple の機能拡張および顧客基盤拡大していくとしている。具体的には、クレジットカードの利用履歴をもとに、自動で経費を登録する機能を提供していく。

開発基盤も強化する。クラウドキャスト代表取締役の星川高志氏によると、直近2カ月弱で有償ユーザーの数が2倍になるという状況なのだそうだ。今後は領収書の読み取り機能なども提供する予定だとしている。

協業のイメージ

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メルカリはすでに黒字化、数億円の利益を生んでいる

メルカリの山田進太郎氏

僕は現在、12月8〜9日に京都で開催されている招待制イベント「Infinity Ventures Summit 2015 Fall Kyoto」(IVS)に参加中だ。セッションの内容をはじめとして気になる話はあると思うが、注目集まるCtoCコマースサービスのメルカリについて新しい数字を聞いたのでここで紹介しておこう。

先日開催したイベント「TechCrunch Tokyo 2015」にも登壇してくれたメルカリ代表取締役の山田進太郎氏。登壇の際にも、日米で2500万ダウンロード(米国は500万DL以上)という数字や、世界展開について語ってくれた。今日山田氏に聞いた話によると、メルカリはこの数カ月で数億円規模の単月黒字体制になっているのだという。

ちなみにメルカリは11月24日に第3期の決算公告を出している。それによると売上高は42億3779万円、営業損失11億432万円、経常損失10億9996万円、当期純損失11億460万円。

ただし同社はこの数字以上の成長をしているのだそう。どういう意味かというと、同社の第3期というのは、2014年7月から2015年6月末まで。一方で同社がサービス手数料を取得するようになった、つまり売上が出るようになったのは2014年10月から。それまでに出品されていたアイテムに関しては手数料をかけていないのだという。メルカリの手数料は10%のため、同社の売上高が42億円であれば、プラットフォーム上での取引額はその10倍の420億円と単純計算できそうだが、手数料無料の商品も売れているわけで、その取引額は420億円以上(山田氏いわく、420億円の百数十パーセント程度)になるのだそうだ。

また海外(米国)事業だけを見ると目下グロース中で、赤字を掘り続けている状況。業界関係者から「海外事業がなければすぐにでも上場できる業績ではないか」なんていう話も聞いたのだが、山田氏もそれを否定することはなく、「海外戦略も含めた『エクイティストーリー』をどう描くかが課題」だと語っていた。米国では競合サービスである「Poshmark」が事業規模としては大きいそうだが、これも「来年にはゲームチェンジできるのではないか」(山田氏)としている。

予約台帳サービスのトレタがセールスフォースと資本業務提携、CRM機能を強化

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11月に累計登録店舗数4000店舗、登録社数2000社を超えたと発表している飲食店向け予約/顧客台帳サービス「トレタ」。サービスを提供するトレタは12月3日、米セールスフォース・ドットコムと資本業務提携を実施したことを明らかにした。

資本提携ではセールスフォース・ドットコムの投資部門であるセールスフォース ベンチャーズを引受先とする第三者割当増資を実施しているが、調達額やバリュエーション等は非公開。ただしトレタが公表している2015年7月時点での資本金が1億7995万円、今回の増資後の資本金は2億3991万円であることから、資本準備金に組み入れる金額を考慮しても最大でも1億数千万円程度の調達である可能性が高そうだ。

トレタは今回の資本により、営業体制や開発力の強化を図る。また具体的なスケジュールに関しては現時点では公開していないものの、セールスフォース・ドットコムが提供するクラウドCRMサービス「Salesforce Sales Cloud」とトレタの連携を進めて行くという。これにより、トレタに蓄積された顧客属性や予約行動などのデータを活用した顧客サービスを提供していく。

トレタと言えば、ITリテラシーの低い飲食店ユーザーでも利用できるシンプルさをウリにしてきた印象が強かったので、正直なところどこまでユーザーからCRMに対するニーズが高いのかはかりかねるところがあった。だが同社代表取締役の中村仁氏いわく、この1年でそのニーズは急激に高まっているのだという。

「たとえ今まで新規集客に重きを置いていた店舗でも、トレタを使ってどんどん顧客情報が貯まっていくのを見たら、それは『宝の山』だと直感的に理解してくれる。顧客情報をもっと活用したいという声は、日に日に高まっている。 ただ、CRMといっても単に『DMを送りたい』というレベルの要望にとどまっているのも事実。今回の提携を機に、より簡単で高度なCRMソリューション(による常連作り)を提案していきたい」(中村氏)

ユーザーと配送業者をアプリでマッチング——ネット印刷のラクスルがシェアリング型の新サービス「ハコベル」

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印刷サービスの価格比較や見積もりからスタートし、印刷所の遊休資産を活用したネット印刷、そしてチラシを使った集客サービスを展開するラクスル。同社が新たに配送事業に参画する。同社は12月1日、新サービス「ハコベル」を公開した。

ラクスル代表取締役の松本恭攝氏

ラクスル代表取締役の松本恭攝氏

ハコベルはウェブサイトおよびスマートフォンアプリを使って、配送の予約が可能なサービス。ユーザーと、その周辺にいる配送業者のドライバーを直接マッチングする。集荷は最短1時間で、24時間365日予約申し込みが可能。GPSをもとに配送車両の位置情報を確認できるほか、5段階のドライバー評価制度といった機能を備える。

またラクスルが印刷会社の空き時間を利用して安価な印刷を実現しているように、配送会社の空き時間に配送をすることで安価な価格設定を実現した。一般的な運送サービスであれば最低価格で5000円程度だが、ハコベルは4500円からとなっている。また、GPS情報を利用して、明瞭な価格設定を実現しているのが特徴だ。サービスには冷蔵・冷凍便などのオプションも用意。当初のサービス提供エリアは東京、神奈川、埼玉、千葉、福岡。大手業者では集荷センターに荷物を集めて効率的な配送を行うため、段ボールのサイズや重さなどに規定があるが、ハコベルはいわばチャーター便。荷物のサイズ等はかなり融通がきくそうだ。

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配送を担当する車両は、一般貨物自動車運送事業の貨物自動車利用運送のためのもの——というとややこしいが、ようは認可を得た業者が保有する、黒字に黄色文字が入ったナンバープレートをつけた軽自動車だ。日本の運送業者は5万7440社。ただしトラック物流市場14兆円の50%は上位10社で占められている。ハコベルでは大手ではなく、中小・個人運営の業者とパートナーを組んでサービスを展開する。ちなみにこの仕組みは弁護士および国土交通省にサービスの適法性を確認しているという。

運転手には専用のアプリを提供。配送の依頼があるとアプリに通知が届き、内容を検討した上で仕事を引き受けることができる。逆にいうと、通知がきてもほかの配送をしている最中だったりして引き受けない場合は、依頼を断ることができる。なお、運転手に断られた依頼は、周辺にいるほかの運転手に通知される仕組みになっている。料率は今後調整していくが、ほかのシェアリングエコノミー系サービスと同様になる見込みだ(大体20〜30%程度と考えればいいのではないだろうか)。

同社では8月21日〜11月30日にかけて試験的にラクスルの既存顧客などに向けてサービスを提供していた。配送件数は433件、ドライバー173人で、もっとも多く運んだのは企業の「チラシ」。ラクスルの顧客は中小企業を中心とした20万社。このネットワークがすでにできあがっていることは、ハコベルを展開する上でも大きな力になる。もちろん個人利用も可能。これまでにソファーや自転車を配送するといったケースがあったそうだ。

海外にはGoGoVanなどの先行事例も

「○○版Uber」という表現は僕自身食傷気味なのだけれども、いわゆるシェアリングエコノミーの文脈のサービスという意味では「配送版Uber」なサービスだ。ただしそのUberもすでに香港では自動車をつかった「Uber Cargo」、ニューヨーク市では自転車を使った「Uber Rush」なる配送サービスをスタートさせている。

実はこの「配送×シェアリング」という領域、アジアでは「lalamove」「GoGoVan」といった先行者がいる状況だ。CrunchBaseにもあるが、2013年12月にローンチしたlalamoveは、これまでに2000万ドルを調達。香港のほか、中国やシンガポール、台湾(台北)、タイ(バンコク)でサービスを展開している。一方のGoGoVanは2013年6月のローンチ。これまでに2654万ドルを調達し、香港、台湾、シンガポール、中国、オーストラリア、韓国でサービスを展開している。

なお同社は本日発表会を開催している。TechCrunchではその様子とラクスル代表取締役の松本恭攝氏への個別取材もお届けする予定だ。

元DGインキュベーションの石丸氏が「アコード・ベンチャーズ」を立ち上げ

また1人、東京のスタートアップ界で投資家として独立する人物が現れた。新たに独立系ベンチャーキャピタル「アコード・ベンチャーズ」を立ち上げた石丸文彦氏は、デジタルガレージなどで投資を担当し、国内で最も早く立ち上がったアクセラレーターの1つである「Open Network Lab」の代表取締役として国内外のスタートアップ投資に携わってきた人物だ。アコード・ベンチャーズのファンド規模は約12億円となる見込みで、2016年春頃の最終クローズを予定している。2015年10月半ばには最初の資金調達をクローズし、11月からVCとして活動を本格化している。

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アコード・ベンチャーズ創業者でCEOの石丸文彦氏

石丸氏は1999年にジャフコに入社し、コンサルティング会社を経て2003年にカカクコムで新規事業の立ち上げやM&A、IRなどを担当。その後は国内投資会社でバイアウト業務、2年ほどサイバーエージェント・ベンチャーズで中国駐在を経験して、深セン拠点の立ち上げに携わったという。2012年1月からはデジタルガレージに参画し、執行役員に就任するとともに投資子会社のDGインキュベーション取締役COO、そしてOpen Network Lab代表取締役などを歴任してきた。デジタルガレージ時代には、弁護士ドットコムアイリッジなどはボードメンバーとしてIPOに立ち会ってきた。その他、投資先ではクラウドワークスが上場している。

デジタルガレージで担当した投資案件としては上記3社だけでも7、8倍のリターンとなっているそう。このほか、フリルIncrements(Qiita)、グッドパッチReproなども「向こう2、3年が楽しみ」で、石丸氏は「投資元本に対して10倍くらいのリターンになるのではないか」と自身の投資のトラックレコードについて話す。

十分なリターンを出せたこともあって投資家として独立。アコード・ベンチャーズのLP(出資者)としては、古巣であるDGインキュベーションやカカクコム、そしてこれまでに培ってきた人的ネットワークで上場企業の経営者や役員といった個人投資家などがいるという。

アコード・ベンチャーズには、みんなのウェディングの代表取締役を務めていた内田陽介氏もパートナーとして参画する。内田氏はカカクコムで10年ほど新規事業やマネタイズを手がけてきた人物で、うち6年は役員も務めていたそうだ。現在はスタートアップの顧問をしながら、半分くらいの時間をアコード・ベンチャーズに割くという。

石丸氏、内田氏の強みは「事業サイドに立って経営と事業の成長に携わった経験があること」という。カカクコム、弁護士ドットコムなどで経営やマネタイズ、IPOを見てきた経験から、どういうタイミングでどういうCFOを入れるべきか、資本政策はどうすべきか、採用プランはどう組むか、IPOで公募価格はどう決めるか、上場後の投資家へのIRをどうするかといったことで、VCとしてのハンズオンの付加価値を出していけるだろうという。「どんなに伸びている会社でも課題がある。1社1社、ちゃんとハンズオンをやっていきたい」(石丸氏)。

ベンチャーパートナー制度で外部協力者にインセンティブ

アコード・ベンチャーズはパートナーが1.5人という感じだし、ファンド規模も2015年の今となっては特別に大きいものじゃない。ただ、「ベンチャーパートナー制度」という仕組みを取り入れているのは、ちょっと興味深い。

ベンチャーパートナー制度というのは、例えばUI/UXの専門家、SEOの専門家、管理部門の専門家など、スタートアップ立ち上げに必要となる専門家数人をネットワークして、最大7%程度の成功報酬を出すという仕組みだそう。例えば1億円を投資して5倍の5億円になった案件なら、元手の1億円を引いた4億円の7%、つまり2800万円程度の報酬ということになる。特に成功可能性の高そうな起業家やシード前のスタートアップ企業をVCに繋げる部分、いわゆるディール・ソーシングで案件を持ってきた人には報酬を厚くする。限られたリソースの中で案件の母数を増やすための方策だそうだ。

実際の投資は7割程度を国内で行っていく。ファンド出資者のカカクコムなどが持つ顧客基盤があるため、C向けのメディアおよびB向けのSaaSなどシナジーが効きやすいところで投資していくのが1つの方針という。同じくファンド出資者であるDGインキュベーションとは、海外への投資で協調投資をしていく。

今回のファンド組成発表に合わせてアコード・ベンチャーズは、国内1件、海外1件の投資案件を発表している。国内はプロジェクト管理SaaSのマンモス・チームワークというスタートアップ企業で、DFJSMBCベンチャーキャピタルと合わせて約3000万円の投資を11月末にクローズしている。もう1つはEntrupyという海外のIoT系スタートアップ。スマホに簡易な拡大鏡をつけて撮影した画像をサーバ側で解析することで、偽ブランド品を見抜くサービスを提供しているのだそう。ちなみに真贋判定の精度は99.5%程度はでるそうだ。

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Mammoth TeamWorkは依存関係などを可視化してプロジェクト管理ができるSaaS

IoTの世界観実現のためモバイル回線をクラウドでディスラプト、ソラコム創業者大いに語る

2015年に登場した日本国内スタートアップの中で、ソラコムは初期段階から注目されていた企業だった。AWS(Amazon Web Services)エバンジェリストとして知名度が高い玉川憲氏が創業し、その直後に7億円の資金を調達した。9月には、それまでステルスモードで開発を進めていたサービス内容を明らかにした。IoT向けのSIMを提供するSORACOM Airと、暗号化サービスのSORACOM Beamである。しかも発表と同時にサービスを開始し、さらに多数のパートナー企業の名前も公表した。まさに「垂直立ち上げ」と呼ぶにふさわしい鮮やかな手際を見せてくれた。

そのソラコム創業者で代表取締役社長の玉川憲氏に、TechCrunch Japanの西村編集長がざっくりと切り込んでいくセッションがTechCrunch Tokyo 2015の2日目、2015年11月18日に行われたファイア・サイド・チャット「創業者に聞く、SORACOMが開くクラウド型モバイル通信とIoTの世界」である。

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どのような問題を解こうとしているのか

ソラコムは、会社名でもあり、IoT向けプラットフォームの名前でもある。

同社は何の問題を解こうとしているのか。「IoTの世界観はすばらしい」と玉川氏は言う。実は玉川氏は約15年前、IBM東京基礎研究所の所員だった時代に「WatchPad」と呼ぶLinux搭載の腕時計型コンピュータを開発していた。「今でいうスマートウォッチですよね」と西村編集長。WatchPadのプロジェクトは途中で解散してしまい、これは玉川氏のキャリアの初期に遭遇した挫折となった。

だが、ここにきて、いよいよコンピューティング能力を持った小さなデバイスが世界を変え始めている。クラウドの普及、そしてRaspberry Piのようにプロトタイピングに活用できる安価で小型なコンピューティングデバイスの登場で、今ではモノとクラウドの組み合わせをごく手軽に試せるようになった。

「その一方で、通信回線がボトルネックになっている」と玉川氏。そこに目を付けたのがソラコムだ。IoT向け通信回線にモバイル通信を使うアイデアは有望だが、多数のデバイスにそれぞれSIMカードを挿すことになる。多数のSIMカードの調達や管理は、現状では非常に人手もかかるし高コストになる。「この問題を解くのがソラコムのサービス」と玉川氏は説明する。

携帯電話事業者は、基地局やパケット交換機などの設備に1兆円規模の巨額の投資が必要だ。基地局を借りてビジネスをするMVNO(最近は「格安SIM」といった呼び名の方が通りがいいかもしれない)の場合は基地局への投資の負担はないが、それでも携帯電話事業者とレイヤー2で相互接続する「L2卸し」のMVNOを立ち上げるにはパケット交換機などに数十億円規模の投資が必要だった。通信事業者には巨額投資が必要との常識をクラウドでディスラプト(破壊的革新)してしまったのが、ソラコムだ。

ソラコムは、NTTドコモの基地局を借り、さらにパケット交換設備に替えてパブリッククラウドを活用することで、設備投資の費用がかからずスケーラビリティがあるサービスを構築した。玉川氏は「NTTドコモの基地局とAWSのクラウド、両巨人の肩に上に乗ってバーチャルキャリア(仮想通信事業者)を作っている形です」と表現する。

クラウドで低レイヤーの通信設備を実現するというアイデアは、世界的に見ておそらく初めてだ。「パケット交換機能まですべてパブリッククラウドで実装した例は、他には聞いたことがない」と玉川氏は言う。顧客管理システム、課金システム、APIをパブリッククラウドで実現している例はいくつかあるが、低レイヤーのパケット交換システムまで含めてクラウドで実現した例は見たことがないそうだ。

さらに、ソラコムのサービスを使うさいの流儀も、いかにもクラウド的だ。Webブラウザから管理コンソールを操作でき、SIMごとに契約内容の変更、速度の変更、さらには解約まで手軽に行える。AWSのクラウドを使う場合と同等の手軽さで、多数のSIMとモバイル回線の管理ができてしまう。

Amazon流に「事業アイデアのリリースを書いた」

ソラコムの事業アイデアが誕生した瞬間のことが話題に上った。玉川氏と、現ソラコムCTOの安川健太氏が飲んでいたときのことだ。「パブリッククラウドはサーバーを使いやすくする。何でも動かせるよね」という話をしていくうちに、通信設備のようなレイヤーもクラウドで作れるのでは、という話が出た。

Amazonには、製品開発を始める時点で、完成イメージを発表文(プレスリリース)の形式にまとめる「Working Backward」と呼ぶ文化がある。玉川氏は当時勤めていたAmazonの流儀に従って、アイデアをリリース文に書き起こしてみた。翌朝になって、前の晩に書いたリリース文を見ると「なかなかいいじゃない」と思った──これがソラコムの事業アイデア誕生の瞬間だ。

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ソラコム創業者で代表取締役社長の玉川憲氏

AWSは、初期の設備投資なしにサービスを開始して、巨大サービスまでスケールできるメリットがある。DropboxやInstagramのようにAWS上でサービスを構築して成功したスタートアップも数多い。「AWSのエバンジェリストだった時代に、『AWSを使ったら日本のみんなもすごいスタートアップを作れる』と1万回以上は言った。そのうち、自分でもやってみたくなっちゃったというか」。

資金調達で良い待遇、そしてスケールできるビジネスを目指す

ソラコムのメンバーは13人。そのうち8人がエンジニア。ほとんどが15年以上の経験を持っている。

2015年春の時点で7億円の資金調達を行った理由の1つは一流のメンバーに「ちゃんとした給料を出したかった」ことがある、と玉川氏は打ち明ける。同社のエンジニアは低レイヤーのプロトコルの実装からプラットフォームサービスとしての実装、運用に至る高度な仕事をしている。その上、スタートアップ企業としてのリスクも背負っている。「給料を下げて、リスクも取ってやってもらうのは、アンフェアなゲームだ」と玉川氏は話す。

「シリコンバレーのスタートアップのように、うまくいけばスケールするビジネスモデルで、きちっとお金を集めて、きちっとした待遇でやっていきたい」。

ところで、ソラコムのサービスは、SORACOM Airが”A”、SORACOM Beamが”B”とアルファベット順に並んでいる。「次のサービスは”C”始まり。大分先までサービスができている」そうだ。西村編集長はここで「Androidみたいですね」と突っ込む。Androidのバージョンには、1.5の”Cupcake”から6.0の”Marshmallow”までアルファベット順に並ぶ愛称が付いているからだ。

今後出していくソラコムのサービスも、バーティカルな特定用途向けというよりも、プラットフォーム的に広めていく性格のものを考えている。「皆さんにとって共通に大変で重たいところはどこか。そこをサービス化していきたい」。

ソラコムのパートナー企業に関する説明もあった。フォトシンスのAkerunは、スマートフォンを「鍵」として使えるようにするサービスでソラコムのオフィスでも便利に活用しているとのことだ。キヤノンは複合機など事務機器と組み合わせる実証実験を進めている。車載機器の分野では動態管理のフレームワークスやカーシェアサービス向け応用を狙うGlobal Mobility Service(GMS)がいる。

小売業分野での活用例も要注目だ。リクルートライフスタイルのスマートフォン/タブレット向け無料POSレジアプリ「Airレジ」もソラコムと組む。AWSユーザーとして著名な東急ハンズも、店舗システムのバックアップ回線にソラコムのサービスを導入する。利用料金が格安で従量制のソラコムのサービスは、バックアップ回線としても合理性があるといえるだろう。

ソラコムは、その事業アイデアに基づく人材獲得、資金調達、サービス構築、パートナー獲得を、ごく短期間にやってのけた。利用者コミュニティの形成、エコシステム形成にも成功しつつあるように見える。TechCrunch Tokyoのセッションからは、ソラコムの活躍が日本のスタートアップ界隈への良い刺激になってほしいという願いが伝わってきたように思えた。

マーケティングオートメーションからAIとデータの会社へ——「B→Dash」提供のフロムスクラッチが10億円の資金調達

マーケティングプラットフォーム「B→Dash」を提供するフロムスクラッチは11月30日、電通デジタル・ホールディングス、グローバル・ブレイン、日本ベンチャーキャピタルおよび既存株主を割当先とした総額10億円の第三者割当増資を実施した。同社は5月に、Draper Nexus Venture Partnersおよび伊藤忠テクノロジーベンチャーズなどから総額約3億円の第三者割当増資を実施している。

同社が提供するB→Dashは、企業のマーケティングプロセス全体のデータを統合し、一気通貫で分析するSaaS型のマーケティングプラットフォームだ。ウェブでの集客から顧客管理まで、マーケティングの「入口から出口」までを一元管理できる。

マーケティングオートメーション(MA)なんてキーワードが話題だが、マーケティングの「入口から出口」に至るには、解析ツールをはじめとして、複数のツールのデータを連携する必要がある。だが複数のツールの間でデータ間の断絶が起こり、運用の工数やコストが増える、いわば「ツギハギ」のような状況が起こるケースが多々あったのだという。これに対してB→Dashは集客から顧客管理までの機能を1つのプラットフォームで実装。スムーズなデータ連携を実現する。

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理屈は分かるのだが、たとえツギハギだらけであろうが、既存のツール群からのスイッチングコストは気になるところ。B→Dash導入の提案に対する質問もそこに集中するという。フロムスクラッチ代表取締役の安部泰洋氏は、社員約100人のうち30人以上というコンサル部隊を抱えることで、その課題に答えているという。

「導入前の企業に言われるのはスイッチングコストの大きさ。だがスイッチングコストとはかみ砕けば1つはコミュニケーションコストのこと。我々は営業、開発、コンサルを自社に持つ三位一体構造を強みにうたっている。米国のMAツールなどは開発から営業までを自社で行うが、納品は代理店が行うというケースがほとんど。代理店による導入支援後は電話やメールでのサポートが中心になり、『使い切れない』『運用できない』ということになる。我々はB→Dashがいかに運用に載るかを導入企業とともに設計していく。開発会社が自ら『伴走期間』を提供していることがイノベーションだ」(安部氏)

料金はプラットフォーム開発費用が100万円〜、月額課金が50万円〜。2014年11月に販売を開始。当初はBtoC企業の顧客が中心だったが、BtoB企業を含めて約100社が製品を導入している。

同社では今回の調達をもとに、(1)ビジネス上における、あらゆるビッグデータの取得・統合の実現、(2)人工知能によるビッグデータの活用——の2点を進めていく。

MAの仮面をかぶったデータと人工知能の会社に

今後はSMB向けのツール提供や海外市場向けの製品提供を進めることでユーザーの幅を拡大。さらにはその拡大したユーザーのほか提携企業などから、デジタル領域外のデータの取得・統合を進め、さまざまなビジネスデータをB→Dashに一元集約していくのだという。

それと並行して人工知能の開発を強化。前述の通りB→Dash上に集約したデータを解析し、収益の最も高いユーザーの行動法則を可視化できる仕組みを作っていくのだという。「今は(コンサル部隊による)パワープレイで導入企業の伴走をしているが、今後は抽出されたデータを人工知能に渡せば伴走をしてくれるという状況を作りたい。例えばiPhoneのSiriや、Excelのイルカのようなナビゲーションを実現できるだろう。我々はMAという仮面をかぶりながら、裏側ではデータと人工知能の企業になっていく」(安部氏)

エンジニアVC誕生、始動した500 Startups Japanの日本人パートナーは元野村證券のハッカー

シリコンバレーの著名アクセラレーター「500 Startups」が36億円規模(30Mドル)のファンドで日本で投資活動を本格化するとお伝えしたのは9月のことだ。そのとき、元起業家でDeNA投資部門のVCだったジェームズ・ライニー(James Riney)氏のほかに、もう1人日本人パートナーがいると書いた。その彼が今日、正式に500 Startups Japanのパートナーに就任したことを発表した。

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500 Startups Japanのパートナーに就任したジェームズ・ライニー(James Riney)氏と澤山陽平氏

500 Startups Japanのパートナーに就任した澤山陽平氏は、この11月まで野村證券でベンチャー企業の調査を担当していた。野村證券の未上場企業調査部門である野村リサーチ・アンド・アドバイザリーで副主任研究員として、スタートアップ界隈のイベントやミートアップで活動していたから知っている人も多いことだろう。野村在籍期間中の3年10カ月の間にITセクター担当として、約150本のレポートを執筆し、計9件のIPOに関わったという。関わったIPO案件は、アライドアーキテクツ、みんなのウェディング、ディー・エル・イー、フリークアウト、弁護士ドットコム、レアジョブ、VOYAGE GROUP、ロックオン、Gunosy、AppBankと、アドテクやEdTech、ビッグデータ解析など多ジャンルにわたる。

150本ほど書いたという「レポート」というのは、経営者へのインタビューを通して会社や事業の内容や、その将来性を8〜20ページでまとめる仕事。野村グループ内で、「IT系スタートアップ→金融」という橋渡しをしていたことになる。「例えばアドテクのことなんて、金融側の人からしたら良く分からないわけです。バナー広告とどう違うの? という感じ」(澤山氏)なのだそうだ。もちろんアドテクは証券市場をお手本として発展してきていたので、金融関係者なら説明すれば分かるのだろうけど、ベンチャーやスタートアップは規模が小さい。アンテナ役として澤山氏のような「通訳者」が必要だということだ。

澤山氏の経歴はちょっとユニークで、彼が通訳できるのは、ITと金融の間だけじゃない。もともとは研究者タイプで、東京大学理科2類在学時代はバイオ関連を志していた。

「大学に入ったときから研究室に遊びに行ってたんですが、そこで気付いたのはバイオは時間がかかるということ。実験でなんかやったらすぐ何十時間待ち、とかがあるんですね。それを見てバイオ・インフォマティクスに関心が移って。だんだんとITそのものに傾倒していき、シミュレーションをやるようになったんです。大学を終えて、東大の大学院で医学部に受かっていたんですけど、そちらではなく原子力のシミュレーションのほうへ行きました。2007年4月のことです。まだ原子力ルネッサンスといわれて東芝も日立も勢いがあった頃ですね」

澤山氏はTechCrunch Japan主催のハッカソンに過去2度参加してくれたことのあるハッカーでもある。

「高校生のころは、Windows 98でネットサーフィンとチャットをしていたんですが、その頃に古本屋で見つけたJavaの本でプログラミングを始めました」

そんな彼は「趣味はプログラミング」だといい、Javaのほかに使える言語として、C、C++、FORTRAN、PHP、Ruby、Objective-C、Scalaなどを挙げる。2014年のTechCrunch Tokyo Hackathonで入賞したクラウドファンディングのウォッチ系サービス「CFTraq」は実はいまも動いているが、これはRuby on Railsで動いているそうだ。手を動かして何かを作るのも好きなのだといい、先日はミニ四駆に小型カメラを搭載してVR動画を見ながらコースを走れるなんていうガジェットを自作していたりもした。

理系の修士号を持ち、コードも読み書きすることから、エンジニアと深いところまで話しができるのがVCとしての自分の強みと澤山氏。日本には比較的数の少ない「ハッカーとしてのエンジニアVC」が誕生したと言えそうだ。もともと関心のあった領域であるバイオ関連のベンチャーも広く動向をウォッチしているようだ。

野村證券以前に澤山氏は、JPモルガン証券の投資銀行部門に約3年間勤務し、大手企業に対するM&A戦略の提案や実施時のアドバイザリー業務、資金調達を始めとするコーポレートファイナンス全般を担当していたそう。だから企業規模として大きいところも小さいところも金融を軸足に幅広く見てきたことが強みだという。スタートアップ関連でも「野村證券時代はシードからレイターまで全部みていました。VCだとレイヤー別になりがちですが、調査なので全部みるんです。まだアプリだけで会社も設立していない超シード期の起業家にも会っていました」(澤山氏)という。4年弱で交換した名刺の数は3000枚ほどになったというから、これを読んでいる人の中にも澤山氏に会ったことのある人が少なくないことだろう。

500 Startups Japanで日米を繋ぐ

金融とテクノロジーをバックグラウンドに持つ澤山氏だが、500 Startups Japanのパートナーとして活動していくにあたっては、もう1人のパートナーであるジェームズ・ライニー氏と同じ立場だ。

「(500 Startups Japanは)日米の架け橋になっていけると考えています。2人ともバイリンガルでバイカルチャー。日本もアメリカも、どちらも分かっているというのは、なかなかいません。日米を繋ぐことを求めている人は、日本にもアメリカもいます。例えば、ニューヨークに行ったときにEdTechのKnewtonに会いに行ったんですね。いきなりinfo宛にメールを投げて。彼らは教育関連スタートアップですけど、日本の学研やベネッセ、リクルート、そしてEdTechスタートアップが何をしているかって全然知らないわけです。それで説明したり日本に来た時に色々な人に紹介したりしたんですが、その後もろもろ経て、今では国内で2社と事業提携している。海外から見ると日本はブラックボックスなんですよ」

500 Startups Japanのパートナーの2人は「アメリカを良く知る日本人」と「日本を良く知るアメリカ人」の組み合わせだ。澤山氏いわく、「ジェームズと私は、もともと2人ともJPモルガン出身という繋がりがあるのですが、色んな意味で相互補完関係なんです。ジェームズはビジネスとマーケティング、私は技術の理解とファイナンス。ジェームズには起業家経験があって、一方私は大企業にいたという違いがあります」。

そんな2人は500 Startupsファミリーのメンバーとして日本を拠点に活動する。現在、500 Startupsのメンバーは100人ほどいて、このうち約20人がパートナーだそうだ。過去5年間で500 Startupsは3号ファンドまで組成し、約50カ国で1500社以上に投資している。成功事例としては、GrabTaxiCredit KarmaTwilioなどのユニコーンや、MakerBotWildfireVikiSunriseSimpleといった大型M&Aエグジットが挙げられる。

Rinkak運営のカブクが7.5億円のシリーズA資金調達、「工場デジタル化」で追い風

3Dプリンタを使ったデジタルものづくりプラットフォーム「Rinkak」を運営するスタートアップ企業、カブクが今日、総額7.5億円のシリーズAの資金調達をクローズしたことを発表した。すでに4億円分についてはリードインベスターとなったグローバル・ブレインから2015年8月に先行して発表があったが、今回のラウンドには電通デジタル・ホールディングス三井住友海上キャピタルも投資に参加している。カブクは2013年1月創業で、TechCrunch Tokyo 2013スタートアップバトルのファイナリスト。これまでサイバーエージェント・ベンチャーズフジ・スタートアップ・ベンチャーズから2014年6月に2億円を調達するなど、エンジェル投資によるシードも含めると総額約10億円の資金を調達している。東京・渋谷に拠点を置き、社員は15人。

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Rinkakは、iPhoneケースやアクセサリ、フィギュアの3Dデータをクリエイターがアップロードし、それを消費者が購入するというマーケットプレイスだ。成果物の物珍しさと3Dプリンタという話題性からコンシューマー向けの印象も強いカブクだが、いまビジネスとしての伸びに手応えを感じ始めているのは、C向けのRinkakではなく、むしろデジタル工場向け(BtoF)のクラウド基幹システム「Rinkak 3D Printing Manufacturing Management Service(MMS)」なのだそうだ。

デジタル工場向けのセールスフォースのようなもの

カブク創業者の稲田雅彦CEOによれば、Rinkak 3D Printing MMSは「デジタル工場向けのセールスフォースのようなもの」で、製造業におけるサプライ・チェーン・マネジメントに相当する部分を担うシステム一式をクラウドで提供している。

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3Dプリンタの普及はプラスチックを溶かして造形するプロトタイピング向けのものからスタートしているが、2014年に産業3Dプリンタ関連の特許が切れて、キヤノンやリコーが産業プリンタを出荷し始めたことで現在は転回点を迎えているという。レーザーで溶かす、紫外線で硬化させるといった方式などにより、プロトタイピングではなく最終製品を作れる段階になってきている。

例えば、カブクがトヨタと共同で取り組んだi-Road関連のOpen Road Projectでは、パーツの一部は3Dプリンタによる「打ち出し」となっているが、素人目にはそれが従来のような金型や削りだしによって製作されたパーツなのか3Dプリンタによるものなのか区別が付かないレベルという。素材価格の低下とあいまって、3Dプリンタが適する領域が「プロトタイピング→少量生産→大量生産」と徐々に広がってきている。3Dプリンタを製造の本番に使おうという「マス・カスタマイゼーション」は、最近「インダストリー4.0」と言われはじめたトレンドにおける重要な1つのピースで、カブクの大型資金調達の背景には、この流れがある。

「弊社顧客の中に、例えば北米市場だと航空宇宙とか医療といった単価の高い領域で顧客がいて、年率50%以上伸びている工場もあります。最終製品を、従来のように削り出しで作ってロボットでアセンブリするというのではなく、3Dプリンタで作るという流れが出てきています。数千ロット以下なら3Dプリンタのほうが安いという現在の採算分岐点は、今後2、3年で数万とか、数十万ロットになっていくでしょう」(カブク稲田CEO)

コスト低下はコンシューマー領域でも起こっていて、2年前だとiPhoneケースを作るのに原価2000円強、売値5000〜6000円といった相場だったものが、現在では原価数百円で売値が1500〜2000円となりつつあるという。

ただ、コンシューマー領域はボリュームが大きくならないとビジネスとしては成立しないため、まだ市場の立ち上がりに時間がかかりそうだ。カブクがロフトと組んで多店舗展開している「ロフトラボ3Dフィギュアスタジオ」も、そうだ。これは102台のカメラと3Dプリンタを使って人物をまるごとフィギュア化する面白い取り組みで、将来的には、かつて駅前の写真館で写真を撮ったように、子どもの成長の記念として利用する可能性など市場の広がりが感じられるものの、まだまだこれから。

一方C向けに比べると、デジタル工場向けソリューションは、すでにニーズも市場の伸びも大きい。

背景にあるのは、3Dデータを扱う工場で、これまで利用されていたソフトウェアパッケージが、年間ライセンスだけで数千万円かかっていた上に、それを稼働させるPCが高スペックである必要があったこと。ちょうど、既存会計パッケージ市場にクラウドサービスのfreeeやマネーフォワードなど安価で使いやすいものが登場してきているのと同じ構図で、Rinkak 3D Printing MMSは、既存の専門パッケージソフトの領域をクラウドで置き換えつつあるのだという。このパッケージソフトの役割は、営業案件の管理に始まり、3Dデータの整合性チェック、製造装置の運用管理、後工程の処理、梱包作業などといった一連の業務を管理する統合システムだ。3Dデータのチェックについては、クラウドによる分散処理などにより、多くの資金を集めている米国スタートアップ企業のShapewaysにも負けていないと稲田CEOはいう。

既存パッケージ市場があるとはいえ、そもそも工場の受注・生産管理がデジタル化されていないケースも多く、紙のメモを使っている工場などもまだまだあるという。現在Rinkak 3D Printing MMSの顧客数は数百工場で月間30%ずつ伸びているというが、このうち8割は欧米顧客。日本の工場はデジタル化への対応が遅れていて、電話やファクスが現役ということも。トヨタやオリンパスといった企業の先進的な取り組みを横目に、徐々に製造業のマインドセットが変わりつあるのが現状だと稲田CEOは見ている。

カブクでは工場側を「サプライ・サイド」、法人であるか個人であるかを問わず製作を依頼する側を「デマンド・サイド」と定義していて、その両者が集まるマーケットを作っていくことで「モノづくりの民主化」を目指すという。ちょうど証券取引所をモデルにしてAdTechが興隆したように、デジタルモノづくりもマーケットとなるだろうという。もしマーケットとなって世界中のデジタル工場を繋げていくことができれば、データだけをやり取りして「現地生産」することで物流も最適化できるだろうと話している。

YouTuberと企業をマッチングするルビー・マーケティングが8000万円の資金調達、今後はアジア展開も

ルビー・マーケティングのメンバー。手前中央が代表取締役の平良氏

ルビー・マーケティングのメンバー。手前中央が代表取締役の平良真人氏

 

YouTubeに動画をアップし、その広告収入で生計を立てる「YouTuber」。そんなYouTuberと、彼らに自社のプロダクトを紹介してもらいたい広告主をマッチングするプラットフォームが「iCON CAST」だ。このプラットフォームを提供するルビー・マーケティングが、11月24日、日本ベンチャーキャピタルおよびGenuine Startupsから第三者割当増資を実施。合計8000万円の資金調達を実施したことをあきらかにした。

ルビー・マーケティングは2014年1月の設立。ソーシャルメディアを活用したオンラインマーケティングのコンサルを行いつつ、自社プロダクトの開発を進めてきた。同社の代表取締役である平良真人氏はグーグルで日本の中小企業向けの広告営業部門を立ち上げた人物。社員は十数人だが、グーグル出身者が多い。

同社が提供するiCON CASTは、広告主が動画広告の案件を、YouTuberが自身の実績をそれぞれ公開し、案件への応募をしたりYouTuberの検索をしたりできるプラットフォームだ。日本にもYouTuberは数多くいるが、トップの数人を除いて、広告主から指名で仕事を受けるというのは難しい状況。だがiCON CASTでは、広告主がYouTuberを探すだけでなく、YouTuberの側からも案件を探せる仕組みを採用。そのため、ターゲットとするYouTuberも上位でなく中堅層が中心になっている。

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現在登録するYouTuberは約1000人。案件は当初ゲームやアプリの紹介が中心だったが、現在ではECや旅行、新作映画などその幅を広げている。また1人でなく、複数のYouTuberを起用するケースが増えてきた。人気YouTuberを1人利用すると圧倒的な数のユーザーにリーチすると考えがち。だが平良氏によると、「10万人のファンを持つ1人のYouTuber」よりも、「1万人のファンを持つ10人のYouTuber」で広告を展開する方がROIがよくなる事例もあるのだという。

「前職でGoogle AdWordsをやっていて学んだが、大手企業がビッグワードを購入してCPCを上げてでも戦う一方、中小企業は安価でコアなキーワードを買って効果を出していた。小さいが『原石』のYouTuberがいっぱいいるプラットフォーム」(平良氏)。もちろん紹介するプロダクトの性質にもよるのだろうが、ファンがそこまで多くなくとも自社のプロダクトと親和性の高いファンを持つYouTuberを複数起用すれば、より効果的なマーケティングができるという主張だ。

同社では今回の調達を契機に、YouTuberに加えて、VineやTwitter、Instagramなどで動画や写真を投稿するインフルエンサーの取り込みを進める。また、東南アジアを中心にして、海外展開を進める。実はiCON CASTに登録するYouTuberの2割は、日本以外のアジア圏で活動している人物だそうで、この人数拡大、クオリティの向上に注力する。

楽天が1億ドル規模のFinTechファンドを立ち上げ——欧米での投資を加速

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楽天代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏

昨日の話になるが、注目集まるFinTech領域で少し大きな動きがあったので紹介しておく。楽天は11月12日、最新の金融テクノロジー、いわゆるFinTechを対象としたベンチャーキャピタルファンド 「Rakuten FinTech Fund」の運用を開始したことを発表した。ファンド規模は1億ドルに上る。

Rakuten FinTech Fundでは、初期段階から中期段階のFinTechスタートアップに対して、世界規模で投資を行うという。楽天ではこれまでにもCurrency CloudWePayなどFinTech領域への投資を行っているが、新ファンドはこれをさらに発展させたものになるという。当初は北米および欧州——特にロンドン、サンフランシスコ、ニューヨーク、およびベルリン——の企業に対して投資を行い、その後は他の地域に規模を拡大する見込み。

楽天では直近、グループの「インターネット金融事業」(楽天カード、楽天証券、楽天銀行、楽天生命など)の名称を「FinTech事業」と変更しているが、今回のファンドはそのFinTech事業で組成されたものだという。同社では「FinTechのスタートアップ企業に投資することによって、世界のイノベーションを先取りし、FinTech企業を支援して世界規模でインターネット上の金融サービスに強く影響を与えることができる。また、日本および海外で迅速に成長する楽天のFinTech事業と起業家の橋渡しをする役割も担う」としている。

エンジェル投資家の役割ってどんなこと? TechCrunch Tokyoでコロプラ千葉氏とコーチ・ユナイテッド有安氏に聞く

スタートアップのエコシステムには、起業家だけでなく、彼らに資金や知見を提供する支援者がいるのは周知の通り。起業家が外部から資金を調達して事業のアクセルを踏む際に投資をするのは、ベンチャーキャピタルだったり事業会社だったりさまざまだ。

コロプラ取締役副社長 次世代部長の千葉功太郎

コロプラ取締役副社長 次世代部長の千葉功太郎

そんな支援者の中には「エンジェル投資家」と呼ばれる人たちがいる。TechCrunchの読者ならご存じかも知れないが、彼らは創業期のスタートアップに対しての投資を行う個人投資家たちだ。

一度自ら立ち上げた会社を上場させるなり売却するなりして利益を得た元起業家・元経営メンバーなどが、次の世代の起業家に対して資金を提供し、アドバイスを行い、人脈を紹介するというケースが多い。スタートアップ企業に投資をするだけでなく、ベンチャーキャピタルの手がけるファンドに対してLP出資するなどして、間接的に投資するケースも少なくない。ちなみにエンジェルという呼び名は、演劇業界における出資者からついているのだとか。

日本のネット領域では、ディー・エヌ・エー共同創業者の川田尚吾氏、ネットエイジ創業者の西川潔氏、現在クックパッド代表執行役兼取締役を務める穐田誉輝氏なんかの名前が挙がることが多い。ほかにも上場・事業売却した経営者らが若き起業家に支援をしているなんて話はちらほら聞くが、ここ数年のIPOやバイアウトによるイグジットで比較的若いエンジェル投資家が増えているのは確実な流れだ。

しかし、国内のエンジェル投資家がメディアなどに出て自分たちの存在をアピールすることは少ない。例えば僕たちがスタートアップの資金調達のニュースを書くときにも、「ベンチャーキャピタルの○○社および個人投資家などから資金を調達した」といった表現をすることがあるが、この「個人投資家など」は名前を非公開にしているエンジェル投資家であるケースも多い。クローズドな場を除いて大々的に自身の投資について語ることは少ない。

開催まで1週間弱となったスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2015」では、そんなエンジェル投資家をテーマにしたセッションを開催する予定だ。

コーチ・ユナイテッド代表取締役社長の有安伸宏氏の

コーチ・ユナイテッド代表取締役社長の有安伸宏氏の

このセッションにはコロプラ取締役副社長 次世代部長の千葉功太郎氏と、コーチ・ユナイテッド代表取締役社長の有安伸宏氏の2人が登壇する。いずれも本業では経営陣としての手腕を振るう一方、エンジェル投資家として積極的に若い起業家を支援している人物だ。

千葉氏は新卒でリクルートに入社したのち、ネット黎明期の2000年にサイバードに入社。様々なモバイルビジネスに関わったのち、2009年にコロプラ立ち上げに参画。同社を上場まで導いたのち、新卒採用や人材育成といった面で同社の成長を支えてきた。最近では子会社のコロプラネクストを通じて学生起業家への支援も積極的に行っているほか、個人でも多くのスタートアップに投資をしている。

一方の有安氏は新卒でユニリーバ・ジャパンへ入社したのち、2007年にコーチ・ユナイテッドを設立。語学や楽器レッスンのマーケットプレイス「サイタ」を運営してきた。2013年には同社をクックパッドへ売却。継続して事業を行いつつ、個人や「Tokyo Founders Fund(ノボット創業者の小林清剛氏や元ミクシィ代表取締役の朝倉祐介氏ら経営者8人によるファンド)」での投資活動を行っている。

セッションではエンジェル投資家として活躍する2人に、その実態を語ってもらえればと思っている。投資を始めた理由やそのスタンス、支援したい起業家の人物像、支援の手段や本業との兼ね合いまで、いろいろ話を聞ければと思っている。興味がある人は、是非ともイベントに遊びに来て欲しい。

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ビジネスSNS「Wantedly」がいよいよオープン化、3つの機能が外部サイトでも利用可能に

ウォンテッドリー代表取締役の仲暁子氏(中央)とOpen APIを担当した相川直視氏(左)、坂部広大氏(右)

ウォンテッドリー代表取締役の仲暁子氏(中央)とOpen APIを担当した相川直視氏(左)、坂部広大氏(右)

ウォンテッドリーの提供するビジネスSNS「Wantedly」。6月に発表していたプラットフォームのオープン化がいよいよスタートした。同社は11月9日よりOpen APIの提供を開始。すでに発表されていたサイバーエージェント、クックパッド、ヤフー、ディー・エヌ・エー(DeNA)の4社に加えて、採用管理システムを提供するジャパンジョブポスティングサービス、ワークス・ジャパン、イグナイトアイがローンチパートナーとしてOpen APIの導入を実施。また、本日よりすべての企業に機能を開放する。ウォンテッドリーでは年内に100 社の導入を目指す。

Open APIを利用することで、Wantedlyのサイト外であっても同サービスの機能を利用できるようになるが、今回提供されるのは「話を聞きに行きたいボタン」「会社フィードボックス」「フォーム自動入力ボタン」の3つの機能だ。Wantedlyの会社アカウントを作成し、自動生成されたJavaScriptを一行ホームページに挿入すれば、これらの機能を外部サイトに導入できるようになる。これによって従来の応募フローには乗って来なかった潜在転職者や、採用のフローが面倒で離脱してしまうような転職者とも出会えることが期待できる。

Wantedly には、「本選考へのエントリ-」というかっちりしたものエントリーフォームではなく、カジュアルに企業へ遊びに行きたいという意思を表示する「話を聞きに行きたいボタン」がある。これまでWantedly内のクライアント企業各社のページでのみの利用できたこの機能が、外部サイト(例えばクライアント企業のコーポレートサイトなど)にも設置可能になる。

VisitButton

「話を聞きに行きたい」ボタンのイメージ

「会社フィード」は、Wantedly上に日々の会社の様子を投稿して情報を更新できる機能。ユーザーは気になる会社フィードをフォローすることで、最新の企業情報を受け取ることができる。この会社フィードを外部サイトに表示するのが「会社フィードボックス」だ。

「会社フィードボックス」のイメージ

「会社フィードボックス」のイメージ

「フォーム自動入力ボタン」は、Wantedly上にプロフィールを登録するユーザーが、ワンクリックでその情報をほかのサイトのプロフィール入力フォームにコピーできる機能。例えば転職希望者がWantedlyで興味のある企業を見つけ、話を聞きに行ったあとでその企業の選考に正式にエントリーする場合、企業のエントリーページにこのボタンが設置されていれば、ワンクリックで情報を入力できるようになる。今まではコーポレートサイトにWantedlyの自社ページのリンクを用意するケースが多かったそうだが、今後はWantedly上の更新情報が直接コーポレートサイトなどから閲覧できることになる。

Wantedlyの月間ユーザー数は60万人。クライアントは1万2000社にまで拡大した。ウォンテッドリー代表取締役の仲暁子氏によると「もともと4000社くらいまではスタートアップが中心だったが、その領域はほぼ取り切って、そこからは中小企業や大企業、病院、学校、行政など利用企業の裾野が広がっている状況」という。

「gumiショック」からの復活は? TechCrunch Tokyoでgumi代表の国光氏に聞く

いよいよ開催まで2週間を切ったスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2015」。また新たな登壇者について紹介したい。今回登壇が決まったのはgumi代表取締役社長の国光宏尚氏だ。

gumi代表取締役社長の国光宏尚氏

gumi代表取締役社長の国光宏尚氏

国光氏率いるgumiは2007年の創業(当時の社名はアットムービー・パイレーツ)。当初は自社でSNS「gumi」を提供していた。

実はこのgumi、mixiやDeNA、GREEなどよりも早くオープン化を実施した先進的なSNSだったりするのだが、早すぎるオープン化は当時ユーザーに受け入れられなかった。その後同社はSNSからソーシャルゲームの開発へと事業をシフトするが、これまでに資金繰りに苦戦し、3度倒産の危機を迎えたのだという。

そんな苦労の末に2014年12月、見事東証マザーズ市場に上場するが、今度は上場から2カ月半で業績予想の下方修正を発表。2015年4月期の業績が営業利益13億円の黒字から4億円の赤字になると発表。追い打ちをかけるように無担保での30億円の銀行借入や韓国子会社での横領事件などがあきらかになったこともあって「gumiショック」なんて揶揄され、市場の投資家から厳しい批判を受けた。

今日時点の株価を見てもまだ上場時の価格には遠い状況だが、10月に完全子会社化したエイリムの新作タイトル「ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス」は好調のようだし、以前決算説明会などで発表していた新作タイトルなども続々リリースの予定。さらにはこれまで立ち上げてきた海外拠点での展開も加速するとしている。復活の準備は整ってきたようだ。

TechCrunch Tokyoではそんな国光氏に、上場後の振り返り、そしてgumiの今後の展開について語ってもらう予定だ。取材や講演の場ではことあるごとに「(総合エンターテインメント企業として)ディズニーを目指す」と語っていた国光氏。そのディズニーへの道に向けた新しい話もあるかもしれない。興味がある人は是非とも同氏のセッションを見に来て欲しい。

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エニーカラーの「hi!」は、恋人だけじゃなく友達探しにも使えるマッチングサービス

エウレカの「pairs」やネットマーケティングの「Omiai」をはじめとして、国内でも勢いを増しているマッチングサービス。この領域に新たなサービスが登場した。エニーカラーは11月5日、マッチングSNSアプリ「hi!」を公開した。App Storeより無料でダウンロードできる。

hi!はFacebookアカウントでログインし、ユーザーが自分の趣味や興味のある話題をタグとして登録。そのタグの情報をもとにして、人工知能(AI)で親和性の高いユーザーをレコメンド(またAIか…と思うかも知れないが、非公開ながら学術機関と連携してアルゴリズムを研究しているとのことだ)。その中から気に入ったユーザーに対して「いいかも」のボタンをタップしていき、お互いが「いいかも」を押した時点でマッチングが成立し、テキストやスタンプによるメッセージを送りあうことができる。

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サービスの利用は基本無料。いいかものタップもソーシャルゲームのように時間経過で自然回復する(10回分まで)が、それを追加購入する場合のみ料金(5回分で120円)がかかる。

hi!はレコメンドの範囲を異性だけでなく同性にも広げられるのだが、同性の友人探しにも利用されているという。サービスは10月からオープンテストを行っているが、その際には約3割が女性同士でマッチングしており、「趣味の合うママ友が見つかった」なんて事例もあったそうだ。

プロダクトのトーンも全体的に柔らかい雰囲気を出しているが、「生活をスパイスアップ(より面白く豊かなものにすること)することがテーマ。いかに女性ユーザーが安心して使ってくれるかを考慮している」(エニーカラー代表取締役の津倉悠槙氏)とのこと。いきなり「恋人探し」と意気込まなくても、気軽に趣味の合う友人を探すところからサービスを利用してもらうことでサービスの拡大を狙う。

今後は、リアルイベントなども開催してユーザー間の交流を図る。11月20日には神奈川県・川崎市で第1回の公式オフ会を開催する予定だ。

エニーカラーは2014年10月の設立。代表の津倉氏はエイベックス、Amazonで勤務後に米国でMBAを取得。その後帰国してコンサルティングファームやギルト・グループの立ち上げ、さらにはバンドのプロデュースなど、エンタメ・ITの領域でのビジネスを手がけてきた。同社は起業にあたり複数の個人投資家らから資金を調達しているほか、2015年8月にはベンチャーユナイテッドから資金を調達している。金額は非公開だが数千万円とみられる。

資料を軸にしたBtoBマッチングサービス「Boxil」運営のスマートキャンプが1.5億円の資金調達

サイトトップ

ビジネス向け資料を軸にしたBtoBビジネスマッチングサービス「Boxil(ボクシル)」を提供するスマートキャンプ。同社は11月4日、グリーベンチャーズ、ベンチャーユナイテッド、アーキタイプベンチャーズを引受先とした合計1億5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。またこの発表とあわせてサイトをリニューアル。クラウドサービスに特化した資料共有・BtoBマッチングサービスを展開する。同社はこの調達をもとにマーケティングおよび人材の確保を進める。

スマートキャンプ代表取締役の古橋智史氏

スマートキャンプ代表取締役の古橋智史氏

Boxilのリリースは2015年4月。スマートキャンプは以前から資料作成特化のクラウドソーシングサービス「SKET」を展開していたが、そこで制作した資料を実際に掲載し、実際に売上向上やコスト削減に繋がるような場所を作ることを検討する中でBoxilの提供に至ったという。

Boxilではサービス提供企業がアップロードした資料(おもに営業資料)をダウンロードして閲覧できるという、よくあるホワイトペーパーサービスと同等の機能に加えて、専用のチャットで直接サービス提供企業の担当者とやりとりを行うことができるのが特徴だ。チャット上で直接受発注までに至るケースも多いという。サービス開始から半年弱、現在約200社が法人登録しており、商談発生件数は1000件以上(ただし成約数については確認できなかった)。

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今回の調達に合わせたリニューアル以降、Boxil上に掲載できる資料をクラウドサービスに限定する。「クラウドサービスがBoxil上で高いマッチング率だったこともあるが、特にクラウドサービスは機能が細分化されており、メリットが分からない、セキュリティに不安があるという声が多い。大企業への導入は進んでいるが、本来導入すべき個人や中小企業ではまだ導入が進んでいない。また単価が安いこともあって営業担当を多く置けない状況」(スマートキャンプ代表取締役の古橋智史氏)

将来的には資料のダウンロードやチャットだけでなく、レーティングやレビューの機能も導入することで、「クラウドサービスの価格コムにを目指す。クラウド未導入の個人事業主から中小企業経営者240万社がターゲットになる」(古橋氏)という。すでに海外ではG2 Crowdのようなクラウドサービスに特化したレビューサイトが存在する。

ホームページ作成サービス「ペライチ」運営のホットスタートアップがニッセイから4900万円の資金調達

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ホームページ作成サービス「ペライチ」を手がけるホットスタートアップ。同社は11月2日、ニッセイ・キャピタルを引受先とした4900万円の資金調達を実施したことを明らかにした。調達した資金をもとにサービスの機能追加・改善を進めつつ、プロダクトのスケールを検証するための施策を行う。

ペライチは会員登録をし、テンプレートを選択して写真やテキストを用意するだけで簡単にホームページを作成できるサービスだ。

この領域ではJimdoStrikinglyWIXなど海外発のサービスが先行しているし、日本語対応もしている。日本のスタートアップが提供するペライチの強みはどこにあるのだろうか? ホットスタートアップ代表取締役の橋田一秀氏に聞いたところ、「うまい、安い、早い(それぞれホームページが美しい、価格設定が安価、手早くできる、という意味だ)」が同社の強みだそうで、中でも「『早い』がユーザーに受けている。価格設定については海外サービスを意識しているし、無料でも使えるが、それ以上にシンプルなUIが評判だ」(橋田氏)とのことだった。リテラシーの低い層をターゲットにしており、「ほかのサービスではホームページが作れなかったがペライチで作ることができた」なんていうユーザーの声もあったそうだ。

ペライチの編集画面

ペライチの編集画面

これまでに公開されたホームページは1万ページ以上。ユーザーの属性は「モノではなくサービスを提供する事業者が15〜20%程度、次にEC。そのあとにリアル店舗やイベントの告知などが続く」(橋田氏)という。

ホットスタートアップ代表取締役の橋田一秀氏

ホットスタートアップ代表取締役の橋田一秀氏

ホットスタートアップは2014年4月の設立。橋田氏は新卒でNTTデータに入社してSEになるも、1年半で退社。その後は知人の会社社長の依頼で同社のウェブサイト(オーダースーツのサイトだったそうだ)のディレクションを担当。そこからウェブディレクターを目指すことになる。

未経験ということもありウェブディレクターとしての就職には苦戦したが、最終的にデータ入力や入札情報の検索サービスなどを展開するうるるに入社。そこでプログラマーとして正式なデビューを果たす。

「大学でも新卒の会社でも、プログラミングがまったく面白くなかったし、挫折した。うるるのCTOに『自分で作りたいモノを作れるようになればいいから、エンジニアを目指してみればいい』と言われてチャレンジした。半年でアウトプットが出ずにバイトに降格しても諦めずに続けて、その後社員に戻って仕事を続けた」(橋田氏)

「コーヒーミーティング」でスタートアップを知り、その後起業へ

橋田氏に転機が訪れたのは2011年。リクルートグループが手がける開発コンテスト「Mashup Awards」に参加。さらにはそのイベントを取り仕切っていた山本大策氏(後にレレレを創業)が提供する「コーヒーミーティング」で出会った人々を通じて、スタートアップについて知ることになったのだという。そしてインキュベイトファンドの起業育成プログラム「Incubate Camp」の4th(2012年開催)、5th(2013年開催)に参加。5thでプログラムの審査員らから反響のあったペライチで起業するに至った。その後社員3人プラス外部デザイナーという体制でペライチの開発を進めている「チームができて安定した。みんな特徴が違っていてバランスがいい」(橋田氏)

ロボット資産運用アドバイザーの「ウェルスナビ」が約6億円を資金調達

リスク管理アルゴリズムに基づく資産運用アドバイスを提供するスタートアップのウェルスナビが今日、グリーベンチャーズIVP(インフィニティ・ベンチャー・パートナーズ)、SMBCベンチャーキャピタルみずほキャピタル三菱UFJキャピタルおよびDBJキャピタルと約6億円の資金調達に合意したと発表した。増資に伴ってグリーベンチャーズの天野雄介氏が社外取締役に就任している。

ウェルスナビは2015年4月に設立されたFintechスタートアップで、2015年7月に5000万円のシード資金をIVPから調達していたので、今回の6億円の資金調達はシリーズAということになる。実際のサービスである「WealthNavi」は2016年にリリースする予定。現在はWealthNaviのサイト上では資産運用のシミュレーションを使うことができる。正式版リリース時には、実際の取り引きができるようになる。現在のシミュレーションでは数個の質問に応える形で判定しているが、自分でリスク許容度を設定できるようにもなるようだ。

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WealthNaviは「世界水準の資産運用とリスク管理をすべての人に」がコンセプト。ウェルスナビが世界水準と呼んでいるのはリスク管理に基づいた国際分散投資のことで、ユーザーのリスク許容度に応じて最適なポートフォリオを提示する。人間のファンド管理者による作為的なポートフォリオ提示ではなく、分散投資理論に基いているのが特徴という。ウェルスナビ創業者の柴山和久氏は、東京大学法学部卒業後にハーバード大学で金融取引法を学んだ後、日英での9年間の財務省勤務を挟んで、経営大学院のINSEADで金融工学を学んだ金融の専門家でもある。創業前のマッキンゼー在職時に、ウォール街に本拠を置く機関投資家を1年半サポートして10兆円規模のリスク管理・資産運用プロジェクトに従事していた。この時の経験から、機関投資家やプライベートバンクを通して富裕層しか恩恵を得ることができなかった資産運用のノウハウを民主化する、というウェルスナビの創業アイデアに至っているそうだ。

こうした資産運用サービスは、アメリカでは「ロボットアドバイザー」もしくは短く「ロボアドバイザー」と呼ばれていて、WealthfrontBettermentといったスタートアップ企業が知られている。Wealthfrontは現在すでに約3150億円もの資金を運用していて、急速に成長している。

ちなみにウェルスナビは、11月17日、18日に開催するTechCrunch Tokyo 2015のスタートアップバトルのファイナリストで、18日午後の決勝戦に登壇予定だ。

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元学生起業家の22歳、シード期特化ファンド「IF Angel」をスタート

22歳という恐らく国内最年少のVCが誕生した。

元学生起業家で、2014年7月から独立系インキュベイトファンドでアソシエイトとして活動していた笠井レオ氏が今日、「IF Angel」というファンドを立ち上げたことを発表して活動を開始した。LP出資するのはインキュベイトファンドで、IF Angelという名前が示すようにインキュベイトファンドから独立した形だ。ファンドサイズは1.5億円。笠井氏が単独の個人ジェネラル・パートナー(無限責任組合員)となっている。22歳が負うにはちょっと重たい借入を個人でしていて、笠井氏の自己資金もファンドに入っている。すでにインキュベイトファンドではIF Angelのように若手キャピタリストのファンドに対して出資(ファンド・オブ・ファンズ:FoF)してきていて、これまでに「プライマルキャピタル」や「ソラシード・スタートアップス」が設立されている。

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起業して大学を退学した元学生起業家

ぼくが初めて笠井レオ氏に会ったのは2年前のTechCrunch Schoolというイベントでのことだった。トークセッションが終わるなり、目をキラキラさせて、ものすごい勢いで手を挙げてくれたのが、当事学生起業家だった笠井氏だった。正確に言うと、そのときすでに「実は先週、休学していた学校を退学しました!」と発言していたので、すでに学生起業家そのものではなかったのだけど。

笠井氏は、2012年5月にProsbeeという会社を設立して読書関連サービス「Booklap」を世に問うた。起業は大学在学中の19歳のときのこと。1年間休学して、インキュベイトファンドやVOYAGE GROUPなどから投資を受け、最盛時にはフルタイムが5人、外部ライターなども全部入れると15人くらいのチームとなっていた。

「でも、事業は全然うまくいきませんでした。次の(資金調達)ラウンドに進むか、それとも残金を精算して会社をクローズするのかという岐路に立ったのが2014年6月でした」(笠井氏)

ユーザー数は少しずつは伸びていたものの、当初想定していた数十万UUには遠かった。Booklapは書籍の一部を引用してコメントする形でシェアできるソーシャルサービスだったが、すでに先行していた読書メーター(後の2014年9月にドワンゴが17億円で買収)などに対して勝ち目がないように見えたと笠井氏は振り返る。

Booklapのサービスで学んだことは、SEOがカギとなるサービスで勝つには2つの条件が必要だということだという。新しいキーワードが出てくることと、それが大きなトラフィックを生むこと。

「書籍の場合は、そもそも昔から多くのサイトがあってコンテンツが蓄積されています。どんどん新しい本も出てきていますが、ヒットとなる書籍は少ないのです。例えば、ニンジン、切りかた、という検索ワードで、今からクックパッドには勝てないのと同じです」

Booklapはソーシャル時代らしく実名制採用とか、コンテンツの一部を引用してコメントできるなど目新しい機能はあったが、先行サービスに対して差別化といえるほどのものではなかった。

間近でVCの仕事をみて、その存在意義に気付いた

2014年6月に会社を清算した。この時点では笠井氏は「次は何の事業で起業しようかと考えていた」という。リサーチャーとして独立系VCのインキュベイトファンドに入り、もう1度スタートアップをやろうと事業機会を探していた。

インキュベイトファンドで2014年7月にアソシエイトになって活動する中で、笠井氏は徐々に考えが変わって行った。起業したいという思いは変わらなかったものの、「VCとして起業しよう」という考えに至ったのだそうだ。VCのパートナーを間近で見るようになって、「起業家とあまり変わらないんだなと思った」というのが理由の1つという。

これは多くのスタートアップ業界関係者が言うことだが、独立系VCのパートナーたちの多くは「投資家という役割の起業家」だ。大手投資会社やCVC、あるいは事業会社などで修行を積み、その経験や知見、業界内で築いた人的な信用のネットワークを活かして自らファンドを組成。ファンド出資者にリターンを返すべく奔走する。このとき、多くのVCは自己資金をファンドに投資することで自らリスクを取る。それはコミットメントを示す意味もあるし、出資者と運用者のインセンティブを一致させる意味もある。アメリカではファンド規模の1%とか2%を、そのファンドのジェネラル・パートナーが自己資金として投資することが多い。十分なリターンが出せないと、投資家としての評価が下がって次のファンドが組成できないし、自分も経済的痛手を受ける。

IF Angelの強みは、笠井氏と同年代の若い起業家のネットワークに笠井氏自身が「中の人」として存在していること。優秀な起業家を発掘するというよりも、友だちの友だちという広がりの中から投資先を見つけるスタイルになるという。例えば、いま投資を検討している起業家は2年前からの友人だという。

VCを含む複数のスタートアップ業界の関係者に、若い人が独立VCの道を歩むことについて感想を求めると、「もっと事業経験を積んでからのほうがいい」という意見もあれば、「起業家と同じ目線でシード期に本気でコミットして伴走できるVCは、実は日本に多くない。そうした人材は極めて重要」という意見もあった。

IF Angelの1件あたりの投資額は1000万円程度になる見込み。インキュベイトファンドのほうはファンドが3号目となって、シード投資といっても大型案件が多くなっている。このため投資規模の違いで、IF Angelとインキュベイトファンドは相補関係にある。笠井氏はインキュベイトファンドのアソシエイトとしての籍も残してあるそうだ。

VCという起業で社会貢献がしたい

インキュベイトファンドは2010年の設立以来、これまでに累計で100社程度に投資してきている。笠井氏は新規投資に関わる一方で、6社ほどの投資先の経営会議にジェネラル・パートナーとともにオブザーバーとして出席することで「(VCが)裏方に徹して仕事をして、それで会社が伸びるのを見た」という。

photo03「最後は起業家を信頼して背中を押すんですが、いろんな業界を見てきたパートナーたちは、人や情報を集めてくることができる。あらゆる領域を全て知ることはできません。でも投資家には広いネットワークがあって、それで解決できることがあるんです」。

力強く成長するスタートアップ企業の創業者たちが、ユーザー視点で深く物事を考えていて、多くの試行錯誤を繰り返す中で少しずつ当てながら伸ばしていくという様子を見ることができたのは、気づきに繋がったという。

インキュベイトファンドは、もともとハンズオンを強くやるタイプのVCで、投資家と起業家がチームとなって事業モデルを構築することがある。むしろ事業ドメインを先に決めていて、起業家に対して一緒にやれるならやりましょうと提案するスタンスのこともある。例えば最近だと、ある自動車関連スタートアップでは約10カ月をかけて、5回ぐらい事業プランを変えて1億円ほどの投資を集めた例があるのだそうだ。

笠井氏は、インキュベイトファンドの4人のジェネラル・パートナーからの影響に加えて、シリコンバレーの名門VC、セコイア・キャピタルのジェネラル・パートナー、ダグラス・レオーネ氏の影響を強く受けているという。以下のTechCrunch創業者マーケル・アーリントンとのインタビュー動画は100回以上も見ていて、憧れのキャピタリストだという。実際にアメリカに行って本人にも会ってきたそうだ。

「ジムで走るたびに、ずっとこの講演を聞いています。もうダグの発言が全部そらで言えるぐらいに内容を覚えています。セコイアが運用してきた何千億円というファンドの80〜90%は非営利団体の資金です。大学系の基金で、そのリターンが奨学金になったりして、また大学へ還元される。ダグは、そういう仕事が誇らしいというんですね。そうやって投資家という立場から社会貢献をすることもできると知って、これをやりたいと思ったんです」