フリマアプリの元祖「Fril」運営のFablic、楽天が数十億円で買収へ

Fablic代表取締役社長の堀井翔太氏(写真は2014年9月撮影)

楽天がフリマアプリ「Fril」を手がけるFablicを買収する。日経新聞が9月3日に報じた。関係者に確認したところによると、週明けにも正式な発表がなされる予定だという。

楽天はファブリックの全株を経営陣などから取得。取得額は数十億円になるという。また今後も楽天の完全子会社として存続させる。

Fablicは2012年4月の設立。OpenNetworkLabの第4期に参加している。2012年7月にはフリマアプリの元祖とも言えるFrilをスタートした。当初は女性に限定してサービスを提供してきたこともあり(現在はその制限はない)、若い世代の女性を中心にサービスを展開している。また最近ではバイクに特化したフリマアプリ「RIDE」の提供も開始した。楽天もフリマアプリ「ラクマ」を2014年11月から提供しているが今後Frilとラクマのユーザーを補完していくことで、月間流通総額を30億円程度を目指すという。

現在国内のフリマアプリ市場を牽引しているのは、Frilより後発、2013年2月にローンチした「メルカリ」だ。2016年3月に84億円の大型調達を発表した際の取材でも「国内月間流通総額100億円を超えた」と語っている。メルカリのようなサービスが現れる一方で2013年頃立ち上がったフリマアプリの中にはすでに終了しているものも少なくない。2013年12月にスタートした「LINE MALL」も、2016年5月にサービスを終了している。TechCrunch Japanでは現在、Fablicに本件に関するコメントを求めている。コメントが得られ次第、情報をアップデートする予定だ。

コイニー、決済ページが簡単に作れる「Coineyペイジ」を提供——WeChat Payへの対応も発表

img_109879_1

先ほどは決済サービス「AnyPay」の正式ローンチに関するニュースが流れたが、スマホ・タブレット向け決済サービスを提供するコイニーも昨日、今日と決済サービスに関する発表を行っている。

同社は8月31日、決済ページをネット上で簡単に作成できるサービス「Coiney(コイニー)ペイジ」と開発者向けの「CoineyペイジAPI」を発表。9月1日には、中国・テンセント提供のモバイル決済サービス「WeChat Pay(微信支付)」とのアクワイアリング(加盟店獲得・契約・管理業務)契約を締結したことを発表した。

リアルとオンラインの決済をまとめて管理

まずはCoineyペイジについてお伝えする。コイニーではスマホ・タブレット専用の決済端末を利用した、実店舗向けのモバイル決済サービス「Coiney」を提供してきたが、オンラインショップも運営する加盟店からは「リアルとオンラインの決済をまとめて管理したい」との要望が多かったという。コイニー代表取締役の佐俣奈緒子氏は「事業者にとって分かりやすく、簡単に代金徴収方法の幅を広げられる仕組みを作りたかった」と話す。

Coineyペイジでは、オンラインショップの機能の中でも請求・決済に特化。管理画面から商品名やサービス名と金額を入力するだけで決済用のページが作成でき、顧客へメールなどでURLを送信することで請求が完了する。デザインの簡単なカスタマイズは管理画面から行えるが、ショッピングカートや予約機能などとの連携は、CoineyペイジAPIを利用して行うことになる。

想定される利用シーンについて、佐俣氏は「Coineyを既に利用している工務店の場合、これまではリフォーム施工後にCoiney端末を使って客先で決済をしていたのが、今後はCoineyペイジを使った事後決済も可能になる。今までオンライン販売は銀行決済のみに対応していた家具店もあるが、Coineyペイジで決済ページを作ってURLをメールで送ることで、海外からの受注にも対応できるようになる」と例を挙げた。

年内にはWeChat Pay対応も

また、コイニーは9月1日、中国のテンセントが提供する、アプリを利用したモバイル決済サービス「WeChat Pay(微信支付)」のアクワイアリング(加盟店獲得・契約・管理業務)契約を締結。一般公開に先駆けて、東急カードにWeChat Payサービスの提供を始める。

WeChat Paymentは、中国で人気を集める(月間アクティブユーザー(MAU)7億6000万人以上)メッセージングアプリ「WeChat」の決済機能。ユーザーがあらかじめ銀行口座を登録しておけば、ユーザーもしくは店舗がWeChatのQRコードを提示し、もう一方がそのコードをスキャンするだけで、キャッシュレスで決済が完結する。日本の銀行口座には対応していないため馴染みがないが、中国ではさまざまなシーンで日常的に利用が進んでいるという。

コイニーでは幅広い決済手段を提供することで、Coiney導入店舗の訪日外国人対応を強化する。例えば宿泊施設などであれば、事前予約のオンライン決済はCoineyペイジで行い、施設訪問時や利用後の決済であればWeChat PayアプリやCoiney端末でのクレジット払いができるようになる。先行する東急を除いては、年内にサービス受付開始を予定している。

「より多くの決済、お金の流れに関わるサービスを提供したい。加盟店にリアルの店舗を持っているのが我々の強み。そこへさらにネットの決済もつなげていくことで、お店の人のお金の管理をもっと簡単に、楽にしていきたい」(佐俣氏)

14215397_10154545883296600_1080535676_o

「電子透かし×超流通」でコンテンツ流通の新ルートを開拓するPulitが5000万円を調達

Pulitは、2016年8月29日に総額5000万円を調達した。同社は、独自の「電子透かし」技術をデジタルコンテンツの「超流通(Wikipedia)」の実現のために活用する取り組みを進めている。今回の資金調達に参加したのは、BonAngels Venture Partners Inc.(本社:韓国)が運用するファンドおよび、成松淳氏(ミューゼオ代表取締役CEO)、佐藤裕介氏(フリークアウト 取締役COO、M.T.Burn代表取締役)、松田良成氏(漆間総合法律事務所 所長弁護士)、加藤寛之氏(イロドリ代表取締役CEO)、山口豪志氏(54 代表取締役社長、デフタ・キャピタル アクセラレーター 兼 横浜ジェネラルマネージャ)の各氏である。Pulitは今後、人員を現在の4名から6人程度までに増やし、各分野のパートナー企業と手を組んで今後1年以内をメドに同社サービスを事業化する考えだ。

サンプル0_SD画像

SD画像の例(一部ボカシあり)。コンテンツのキービジュアルであると同時に、画像そのものにコンテンツ配信システムへのアクセスするための情報が埋め込まれている。

同社が考え出したコンテンツ流通の仕組みは、大筋で次のようになる。コンテンツホルダーは、まずPulitのシステムにコンテンツを登録する。扱うコンテンツとして、当初の段階では日本発のコンテンツが国際競争力を持つ分野であるアニメーション作品やコミック作品を想定している。Pulitのシステムではこれらのコンテンツに対して、Direct Access Link(URL)および「SD画像」(SD=超流通。「SD画像」は現段階では仮称)と呼ぶ画像ファイルを紐付ける。

ここでSD画像はコンテンツの「看板」(キービジュアル)としての役割があると同時に、画像そのものに「電子透かし」としてコンテンツのメタデータ(コンテンツ利用条件やDirect Access Link)が埋め込まれている。このような、キービジュアルとコンテンツ配信システムへのアクセスのための情報が一体化した「SD画像」がPulitのシステムを特徴付けている。TwitterなどSNSに「SD画像」を貼り付けて情報を拡散することも可能だ。

もちろんDirect Access Link(URL)そのものをSNSに貼って拡散することもできるが、「(単なる)URLにはない特徴がSD画像にはある」と同社CEOのKunwoo Lee氏は説明する。「(単なる)URLは有料コンテンツ発信には向いていない。URLだけをたくさん保存すると埋もれてしまう。SD画像はローカルに保存でき、いつでも閲覧して素早くコンテンツを探し出せる」(Lee氏)。

ユーザーが最小の手間でコンテンツに到達できることを狙う

ここでユーザーの視点で、スマートフォンなどのデバイスの上でPulitのコンテンツを発見してから再生するまでの流れを追うと、次のようになる。

(1) コンテンツの発見。SD画像がWebサイト、SNSなどに置かれているのを見て、デバイス内のギャラリーに保存する。あるいは、Direct Access Link(URL)がSNSなどに貼られているのを発見し、クリックする。

サンプル2_SD画像の閲覧

ギャラリーに保存したSD画像から、ワンクリックでコンテンツ閲覧アプリへ遷移できる。

(2)SD画像もしくはDirect Access Link(URL)をクリックするとコンテンツ閲覧機能を備えたViewerアプリ(PulitのViewer APIを組み込んだアプリ)が立ち上がる。もしViewerアプリがない場合はViewerアプリの入手の画面に誘導する。

(3)コンテンツが広告モデルの場合はそのまま再生し、課金モデルの場合はその場で購入できる。なお、コンテンツホルダーは広告モデルにするか課金モデルにするかを管理画面から自由に指定できる。

(4) 後で見たいコンテンツ、繰り返し見たいコンテンツの場合、SD画像をギャラリーにダウンロードする(URLをブックマークするのと違いキービジュアルを見ることができる)。

以上の流れの中で重要なのは、コンテンツ再生までをシームレスにカバーしてくれるViewerアプリだ。このViewerアプリについては、Pulitが独自アプリを配布するというよりも、ニュースアプリやSNSのようなすでに多数のユーザーを抱えている有力アプリがViewer APIによりSD画像再生の機能を組み込む方向で普及させていく考えとのことだ。

コンテンツ配信元としては、アニメーション制作会社2社、コミックのエージェント会社2社と交渉中としている。他の分野のパートナーとも交渉中だ。

ユーザー、コンテンツホルダー、広告主にメリットがある「もう一つの配信ルート」を目指す

Pulitのシステムが狙うのは、ユーザー、コンテンツ提供者、広告主のそれぞれにとって、手軽で有利な「もう一つの手軽なコンテンツ配信チャネル」となることだ。

例えばユーザーから見れば、従来のコンテンツ配信では、配信チャネル(コンテンツ配信サービス)ごとにそれぞれ独自アプリをインストールし、入会手続き、課金のためのクレジットカード登録などを個別に行う必要があった。Pulitによる配信の場合、個別アプリのインストールや入会手続きは必要なく、課金もスマートフォンアプリのアプリ内課金のような標準的な方法を使う。コンテンツを発見してから閲覧するまでの手間を最小限に抑えられるとPulitでは考えている。

一方、コンテンツホルダーから見た場合、PulitのViewer APIを組み込んだアプリが増えてくれば、新たな配信チャンネルをコストをかけずに開拓できることになる。Pulitシステムへの登録、SD画像の作成は、独自Webサイトやアプリの構築、課金システム構築に比べてずっと敷居が低いからだ。コンテンツの価格設定なども、自分たちで決められる部分が大きくなる。再生や広告収入に関する情報がコンテンツ提供者にも詳しく開示されることも特色だ。

広告分野の企業も同社の取り組みに魅力を感じているそうだ。コンテンツホルダー側に有利な仕組みにより注目度や満足度が高いコンテンツを獲得できる可能性が高く、コンテンツの閲覧状況を一貫性を持って追跡して効果測定できる仕組みを備えているからだ。

Pulitの独自技術についても少し触れておきたい。同社のコア技術は画像にメタデータを埋め込む一種の「電子透かし」の技術だ。前述のSD画像に情報を埋め込むにあたり、空間周波数が高い領域ではなく中間の領域を使う。SNSなどに画像をアップロードすると大幅な画像圧縮がかかって画像の情報量が減ってしまうが、同社の電子透かしの情報はそのような劣化した画像からでも取り出せる特色がある。なお、画像の隅にある丸い模様の領域には、情報を取り出すさいの「ヒント」としての意味がある。同社の電子透かし技術は信号処理/マルチメディアアプリケーション分野の学会SIGMAPで最優秀論文の候補になった実績があり、特許も申請中とのことだ。

ひとつ疑問が残るのは、コンテンツ配信の入り口はPulitのシステムがカバーできるとして、コミックやアニメーション、つまりサイズが大きな画像や動画を含むコンテンツの配信という「力仕事」をどうするのかだ。同社に聞いたところ、詳細を話せる段階ではないものの次の一手を進めているとのことだ。

コンテンツビジネスは難しい分野だが、同社は独自技術と超流通を組み合わせたアイデアで挑む。コンテンツ流通の分野に風穴を開けてもらうことを期待したい。

決済サービス「AnyPay」が正式ローンチ、木村新司氏が狙うのはスマホ時代の“ウォレット”か

ap

ドリームインキュベーターでコンサルタントとして活躍した後にシリウステクノロジーズ取締役を務め、広告配信を手がけるアトランティスを立ち上げてグリーに売却。その後はエンジェル投資家としてGunosy(のちに共同経営者となり、退任。同社はマザーズに上場)を始めとしたスタートアップの成長を支援してきた木村新司氏。

2014年には拠点をシンガポールに移して、投資家としての活動に注力していた木村氏だったが、再び自身で事業を開始した。6月末に新会社AnyPayを設立(資本金は5000万円)。8月に入って新サービス「AnyPay」ベータ版を公開していたが、9月1日、いよいよ正式にサービスをローンチした。

新事業は決済サービス

ap03

AnyPayは、個人でも手軽に利用できる決済サービス。サイト上では「AnyPayは誰でも、どこでも、簡単にリンク作成でき、リンクを相手に送るだけで決済ができるサービス」とうたっているとおりで、アカウントを作成した後、管理画面上で自分の売りたいアイテムを登録すれば、すぐさま自らの「ショップ」の商品として販売できるようになる。物販やサービスチケット、月額課金、ダウンロード販売などに利用できる機能を提供する。決済に利用できるのはVISAおよびMasterブランドのクレジットカード。

初期費用および月会費は無料で、登録時の審査も必要ない。決済手数料については、キャンペーン期間中として無料で提供している。ただし1アカウントあたりの月額売上が5000万円を超える場合、5000万円を超過した売上の2.8%の手数料が発生する。また口座への振り込みは1件あたり200円の手数料がかかる。AnyPayでは、3年以内に月額流通額500億円を目指すとしている。

ap02

スマートフォンで使える「ウォレット」を作る

PayPalやその傘下のBraintree、StripeにSquare、さらに国内でもコイニー(昨日リリースしたばかりのCoineyペイジもかなり似たサービスだ)やWebPay、BASEの手がけるPAY.JPなどなど、手軽に使えるオンライン決済サービスは数多く登場している。やはり一番気になるのは、数多くの決済サービスがある中で、どうしてこの領域でのチャレンジを選んだのか、ということだ。サービスの正式ローンチに先駆けて木村氏に尋ねたところ、次の様な答えが返ってきた。

「(ビットコイン取引所の)bitFlyerなどに投資したこともあり、決済まわりのことは調べていた。(ビットコインの)ウォレットで送金をしてみるとその便利さを感じる。だがそれがスマートフォンでできないのはおかしい。例えば送金サービスをやりたくても送金業の縛りもあって日本では簡単に立ち上げられず、いろんな工夫をしないといけない。とは言え誰かがやらないといけないと思っていた」(木村氏)

日本で送金サービスをするために資金移動業者としての登録が必要になるし、供託金をつまないといけない。またKYC(顧客の本人確認)を行う手間でユーザーのドロップ率は高まってしまう。そうそう簡単にスマートフォンで完結するサービスを成長させるのは難しい。では前述の決済サービスのように、個人であってもクレジットカードを使ってお金をやり取りすることもできるが、決済手数料を取られてまでユーザーはやりとりをするのだろうか。こういった課題を解決するべく、木村氏はAnyPayを立ち上げたと語る。

「シンガポールだとPayPalとApple Payを使っているので、そこはすごく意識した。日本はまだまだ不便だと思う」(木村氏)

競合についてはあまり考えていないという。「決済ビジネスはぶっちゃけて言えば誰でも作れると思う。ただ問題なのはどこにポジショニングするか」(木村氏)。加えて、PayPalなどよりはVenmo(Paypal傘下の個人間送金サービス)のほうが気になっているとも語った。

仕組み上は「決済サービス」だが、木村氏が本当に狙っているのはデビットカードの置き換え——つまりリアルタイムに送金、決済でき、手数料の安い(もしくはゼロの)、スマホ時代の新しい「ウォレット」を作るということではないだろうか。

“フリマ”で個人のニーズを喚起

木村氏は「最初はAnyPayをツールとして提供していく」と語る一方で、「今は個人とスモールBに注力しているが、個人の場合、目的があるわけでもないのでそこまで使われない」と分析。今後はそんな個人の利用を喚起するための施策を打っていくという。

「個人の場合、決済のタイミング——CtoCの売買であればチケットや本など、目的をはっきりさせないといけない。今後は目的があるプロダクトを『AnyPay』のアカウントで出していく」(木村氏)。その言葉を聞いて僕の頭に浮かぶの「カテゴリ特化型のフリマアプリ」だったが、木村氏の回答はそのとおりで、今後、領域特化型のフリマアプリをいくつか提供していく予定だという。特化型のフリマという具体的な目的を用意することで、アカウントの拡大を狙う。

BASEがネットショップの構築サービスから決済領域のPAY.JPを提供するに至った。AnyPayは順序こそ逆(決済からショップ(というかフリマ))ではあるが、少し似たアプローチにも感じる。フリマアプリは、年内にもリリースする予定だという。

今後は国内にとどまらず、アジア圏でもサービスを展開していく予定だ。「アジア各国はそれぞれ(決済まわりの)特性が違う。国によってはフリマサービスは提供できても決済はライセンスが必要だったりする。そういった環境に合わせつつ動く。サービスのベースは作ったし、FinTech関連の状況も分かってきたので、M&Aすることも考えていく」(木村氏)

ヤマトがマネーフォワードと提携し、自社ポータルに請求業務支援サービスを追加

スタートアップ企業と大企業の提携は増えているが、多くはAPIによるつなぎ込みや、スタートアップ側が既存サービスをまるっとOEM提供するようなことが多い。今日ヤマト運輸とマネーフォワードが発表した提携は、もう少し互いに踏み込んだ共同開発による新サービスという意味でも興味深い「請求書業務支援サービス」だ。

ヤマト運輸は2012年から自社顧客向けに業務支援ポータルサイト「ヤマトビジネスメンバーズ」を提供している。送り状の発行や利用運賃履歴確認など、ヤマトの発送業務を支援する顧客向けポータルとして中小企業や個人事業主を中心に75万アカウントを持つサービスに成長している。

このヤマトビジネスメンバーズに新たに請求業務支援サービスとして「請求業務クラウドサポート」の提供を開始する。

サービスはフリーミアムモデルで提供し、見積書や納品書、請求書・領収書の発行などが無料でできる。月額980円の有料プランでは、さらにファクス送信(1通20円)や売上レポートなどの機能が利用できる。マネーフォワードは「MFクラウド請求書」のシステムを提供していて、要望の多かったファクス送信機能などは共同で開発したという。今も中小企業の物販の現場では請求書を手書きやExcelで作成してファクスで送受信する、煩雑で非効率的な作業が残っているという。

yamato01

yamato02

ところでヤマト運輸はシステム開発や運用を行う子会社としてヤマトシステム開発をグループ企業に抱えている。だから今回のような機能開発を自社開発するという選択肢もあり得ただろう。あるいは他にも多くのソリューションがある。今回の提携を担当したヤマト運輸の中西優氏(営業推進部プロジェクトマネージャー)はTechCrunch Japanの取材に対して、請求書業務についてほかのソリューションやクラウドベースのプロダクトを比較したうえで、実績と実際に使ってみた印象からMFクラウド請求書に決めたという。

ヤマトではこれまでLINEで荷物問い合わせができるサービスや、メルカリでの自宅発送サービス、DeNAと自動運転による次世代物流サービスの実験など、B2C向けでスタートアップ企業と提携する例はあったが、今回のようなB2Bは初めて。

ヤマトでは今回の提携を機に自社顧客向けでスタートしていたヤマトビジネスメンバーズを広くヤマト非利用者にも開放。むしろ、「請求書業務もITで統合された宅配事業者」として同業他社と差別化、本業での新規顧客開拓という面でも期待しているそうだ。既存自社顧客向けサービスから、積極的なマーケティングツールへといったところだろう。「もともと請求関連業務をやってる人が、新たに宅配業務をやる、というときにヤマトを選んでもらうというのも考えている」。

最近でこそAPI利用が業務システムでも増えてきているが、かつてこうした業務システムや、その機能モジュールは、パッケージソフトウェアの納品やSIerの受託案件という形で提供されることも多かった。そう考えると、UI・UXに強くてスピード感のあるスタートアップ企業と提携して共同開発するというのは、ちょっと新しいソフトウェア流通のあり方と言えるかもしれない。

同様の取り組みとしてマネーフォワードはこれまでにも、2016年2月にアパート経営管理サービスを提供するインベスターズクラウド向けに確定申告機能を、3月にはアスクルが運営する日用品ECのLOHACOに対してEC連動型家計簿サービスを提供するなど、提携による外部へのサービス提供を加速している。

スマートドライブ、法人向けの車両管理・安全運転支援サービス「DriveOps」を正式公開

sd03

自動車に備え付けられた「OBD-IIコネクタ」に専用デバイスを接続して車速やエンジン回転数などの走行データを取得。スマートフォン経由でクラウドにそのデータを保存・解析することで、自動車の安全運転を診断する個人向けサービス「DriveOn」を提供するスマートドライブ。同社は9月1日、法人向けの車両管理・安全運転支援サービス「DriveOps」の正式提供を開始した。

DriveOpsは、専用デバイスを通じて取得した自動車のデータ、それと連携するスマートフォンから取得する位置情報データをなどを組み合わせることで、自動車の運転に従事する従業員の走行データの可視化や管理、安全運転のフィードバック、経費精算や日報の自動作成などを行う法人向けのサービスだ。料金は月額1480円から。ドライブレコーダーやデジタコ(運行記録計)が必要だった領域を工事不要、3980円から購入できる安価な専用デバイスとスマートフォンで解決するプロダクトとなっている。

sd2 sd01

スマートドライブ代表取締役の北川烈氏によると、正式公開以前に、大手コンビニの配送車両へ導入したような事例もあるという。「これまでOBD-IIコネクタを通じて走行データを取得しても、結局保険(テレマティクス保険:運転特性に応じて保険料を割引する保険)くらいにしか使っていないと思われていたが、すでにそれだけでない状況になってきている」(北川氏)

同社では法人向けのサービスの展開に合わせてデバイスのバリエーションも追加。従来のBLE接続型に加えて、3Gの常時接続型、シガーソケット給電型(OBD-IIコネクタから直接データを取得できないが、これまで取得してきた大量の運転データをもとに、精度の高いデータが取得できるようにチューニングしていくという。近日発売予定)の2種類のデバイスを追加している。

またスマートドライブでは、デバイスを通じて取得したデータをパートナー企業に提供するプラットフォーム「SmartDrive Data Platform」を構築していくとして、パートナー企業の募集も開始した。

今後はパートナーとともに、個人向けには運転特性をもとにしたテレマティクス保険(すでにアクサ損害保険と提携している)から自動車ローン、ロードサービス、トレーサビリティサービスなどを、法人向けには安全運転のスコアリング、リアルタイムな位置管理、経費精算、GIS(地理情報システム)などを提供していくことを検討している。

screenshot_620

KDDI ∞ Labo卒業生で高速動画配信技術などを持つMist Technologies、アドウェイズ傘下に

前列左からMist Technologies(Mist)代表取締役CEOの田中晋太朗氏、アドウェイズ取締役の山田翔氏、Mist CTOの井上碩氏、同Co-CEOの山下真寛氏、後列左からKDDIバリュー事業本部 新規ビジネス推進本部 戦略推進部長(KDDI ∞Labo長)の江幡智広氏、グローバル・ブレイン パートナーの熊倉次郎氏

前列左からMist Technologies(Mist)代表取締役CEOの田中晋太朗氏、アドウェイズ取締役の山田翔氏、Mist CTOの井上碩氏、同Co-CEOの山下真寛氏、後列左からKDDIバリュー事業本部 新規ビジネス推進本部 戦略推進部長(KDDI ∞Labo長)の江幡智広氏、グローバル・ブレイン パートナーの熊倉次郎氏

 

KDDIが2011年から手がけているインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」。その採択企業の1社がイグジットしたようだ。∞ Labo第6期(2014年上期)の最優秀チームであるMist Technologies(Mist)がアドウェイズとの株式譲渡契約を締結。今後はアドウェイズ子会社として活動していくことを明らかにした。買収の金額等は非公開。

東大大学院発の技術系ベンチャー

Mist Technologiesは2013年の創業。東京大学大学院の学生だった代表取締役CEOの田中晋太朗氏を中心にしたメンバーの研究チームが母体となっている。2015年にはKDDIが手がけるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンド「KDDI Open Innovation Fund」からの出資を受けている。

創業前から手がけてきたのは、サーバの負荷を分散しつつ拘束にコンテンツ配信を実現するP2P型CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)の「mistCDN」。∞ Laboへの参加などを経てサービスをブラッシュアップしてきた。現在ではフジテレビオンデマンド(FOD)の一部のコンテンツなどで導入が進んでいる。

このFODでのmistCDN導入がMist Technologiesのターニングポイントだったと語るのはCo-CEOの山下真寛氏。mistCDNによって4K動画の高速配信が実現する一方、配信された動画を再生できる高品質のプレーヤー自体がほとんどないということを知った。そこにニーズがあると踏んだMistは、モバイルブラウザ向けの動画プレーヤーである「Mist Inline Player」やモバイル・PCのブラウザ向けの360度動画プレーヤー「360 VR Player」などを開発していった。

今後は共同での商品開発も

現在、積極的なスタートアップ投資を行っているアドウェイズ。VC経由でMistの存在を知り、当初はプレーヤーまわりの知財の買収について話し合いを進めていたそうだが、最終的に今回の発表どおり子会社化に至ったという。

「アドウェイズはスマートフォンマーケティングをグローバルに展開している。広告効果測定のPartyTrackやアドネットワーク事業のOct-passなどを子会社のBulbitで開発しているが、現在DSPについても試験運用中だ。そこでの動画配信で何か一緒にできないかという話になった」(アドウェイズ取締役の山田翔氏)。なお今後のスタートアップ買収については、「積極的にできるわけではないが、今後事業とフィットするのであればやっていきたい。今回の取り組みが試金石になると思っている」(山田氏)とのこと。

今後Mistでは、田中氏をはじめとした既存メンバーを中心にプロダクトの提供を続ける一方、Bulbitをはじめとしたアドウェイズグループと共同での商品開発を進める。

農産流通基盤「SEND」運営のプラネット・テーブルが4億円の資金調達、“農業×FinTech”の挑戦も

プラネット・テーブルのメンバーら。中央が代表取締役の菊池紳氏

プラネット・テーブルのメンバーら。中央が代表取締役の菊池紳氏

農産流通プラットフォーム「SEND(センド)」などを運営するプラネット・テーブルは8月31日、SBIインベストメント、Genuine Startups、Mistletoeを引受先とした第三者割当増資により総額4億円の資金調達を実施したことをあきらかにした。評価額、出資比率等は非公開。同社はこれまでに2015年3月にGenuine Startupsと個人投資家から3500万円のシードマネーを調達。同年12月にサイバーエージェント・ベンチャーズ、セゾン・ベンチャーズなどから総額約1億円のシリーズAの調達を実施している。

プラネット・テーブルは2014年5月の設立。代表取締役の菊池紳氏は外資系金融機関、コンサル、投資ファンドなどを経験したのちに起業した。農林水産省のファンド「農林漁業成長産業化支援機構」の立ち上げにも携わった。

SENDの登録飲食店は1000件、生産者は3000件以上に

同社は2015年8月から農産流通プラットフォームのSENDの提供を開始した。SENDは農作物、肉類の生産者と飲食店の間での直接取引を実現するプラットフォームだ。飲食店はプラットフォームに登録した生産者が生産する食材などをオンラインで取引できる。特長となるのは、取引のためのオンラインでのプラットフォームだけでなく、食材保管用の拠点を自ら持ち検品から配送までも自前で行っている点だ。

サービス開始から1年で登録飲食店は1000件、登録生産者数は3000件を突破した。また8月には東京都・目黒区にこれまでの10倍(約200平方メートル)の物流拠点「GATE Meguro(ゲート メグロ)」を新設している。この拠点と後述の物流機能の強化により、これまでの東京都心部(渋谷、広尾、恵比寿、六本木など)から、西東京、川崎、横浜北まで配送エリアを拡大するとしている。

send

シェアリングやIoTを導入

今回の調達を受けて同社が進めているのは、いわゆる「シェアリング」モデルやIoTの導入による物流機能の強化、そして農業×FinTech領域への参入だ。

シェアリングに関しては、地域の生産者をネットワーク化し、トラックを共有して地域の集荷を行うモデルを導入するほか、中小配送業者の有休資産を活用したサービスの試験運用を行う。通常生鮮食品の配送は夜中が中心。それ以外の有休時間での配送を依頼できる配送業者をネットワーク化していく。

また、IoTスタートアップなどと組み、物流過程の滞留時間や温湿度変化といった物流ロス要因の可視化を進めるとしている。「物流ロスを減らし、物流によるモノの劣化を防ぐ。品質劣化の原因を追うと製造者の責任になりがちだが、物流の責任になることもある。それを可視化していく。売り手と買い手、どちらとも組んだプラットフォームでないとできない話だ」(菊池氏)。具体的な取り組みについては間もなく発表があるとしう。

今後は「Square Capital」ライクな生産者向け金融サービスも

先ほど「農業×FinTech」と書いたが、プラネットテーブルでは今後、生産者向けの決済やファイナンス支援サービスを手がける。菊池氏は、マーケットを改革するためには商流や物流だけでなく、お金の流れが変わらないといけないと語る。では農産取引においてのお金の流れを変えるというのはどういうことなのか。

生産者には、収穫期や出荷期においては人件費をはじめとした早期支払があったり、作付や生産拡大向けた資金需要があったりと、業界独自の資金ニーズがある。そこにたいしてプラネット・テーブルは金融機関と組み(実際、プラネット・テーブルでは複数の金融機関系VCからの支援を受けている)、独自の決済サービスを提供していくほか、、ファイナンスの支援をしていくのだという。

この話を聞いて思い出すのは、決済サービスのSquareが米国で提供している「Square Capital」というサービスだ。このサービスは、Squareを導入する小売店が事業拡大のための資金をSquareから借り受け、売上の一部から返済していくというプログラムだ。このプログラムをSquareが提供できるのは、小売店の売上や財務状況をビッグデータとして持ち、それを活用して独自の与信機能を持っているからに他ならない。

SENDは生産者と購入者、両方の情報を持っている。これを利用することでSquareと同じように生産者の財務状況を把握し、最適なファイナンス(の支援。自ら出資するのではなく、金融機関を繋ぐ予定)を行えると考えているようだ。「流通が見えるということは、お金の流れも見えるということ。(SENDも売買データから需給予測をしているので)売れることが分かっているのであれば、現物(生産物そのもの)で資金回収するというのでもいい」(菊池氏)

同社では今期中(2017年3月末まで)にもこれらの取り組みを進め、将来的にはプラットフォーム丸ごとをアジア地域にも展開したいと語る。また6月に発表していた生産者向けバックオフィスツールの「SEASONS!」については、当初7月頃の正式リリースを予定していたが、「ユーザーからのヒアリングを行って機能やUI/UXを改善しており、10月にもリリース予定」(菊池氏)としている。

ライブ配信サービス「ツイキャス」の累計配信回数が3億回突破、最大同時配信者数は1万人に

screenshot_619

モイが提供するライブ配信サービス「TwitCasting(ツイキャス)」。2010年2月にスタートしたこのサービスの累計配信回数が3億回を突破した。

ツイキャスのユーザー数は現在1600万人超。最近一般ユーザーにプラットフォーム開放を行った「LINE LIVE」のほか、ディー・エヌ・エー(DeNA)グループの「SHOWROOM」、ドワンゴの「ニコニコ生放送」、Twitterの「Periscope」などなどの競合がいる中、ユーザー数を拡大。1日の最大同時配信者数も増加しており、この8月には過去最高となる1万人を突破する日も複数回あったという。「配信者数が増えたことが配信数増加に繋がっている。ツイキャスは文化ができているので、(競合が出てきても)あまり大きな影響がない」(モイ)

同社が7月に実施したユーザーアンケートによると、ユーザー登録の理由は「好きなキャス主(ツイキャスの配信者を指す)と交流したい」と「知り合い・友だちを作りたい」という回答が過半数を占めたという。「イケボ(イケメンボイスの略)」なんて言われる人気のキャス主も数多く生まれているそう(7月にはキャス主をまとめたムックも出ている。すでに季刊化が決定した)。またアンケートでは視聴頻度も「ほぼ毎日」という回答がもっとも多かったという。「きっかけはキャス主や知り合いが配信しているというところからだが、LINEやTwitterのようにコミュニケーションのツールとして使うようなことも多い」(ツイキャス)

ところで同社は以前から海外進出についても検討しており、米国にも拠点を構えていたと聞いているが、今回の発表ではそのあたりのアップデートは聞くことができなかった。現在はアジア圏への進出を進めているそうで、韓国、インドネシア、シンガポールなどでマーケティングを進めているという。売上についても具体的な数字は公開していないが、ギフトアイテムやチケット販売機能などで黒字化しているという。

自動コードレビュー「SideCI」が、技術的負債を可視化する「負債カンバン」提供開始

開発者向けの自動コードレビューサービス「SideCI」を運営するアクトキャットが今日、「負債カンバン」という新機能をリリースした。カンバンといえば、トヨタのカンバン方式としてビジネスパーソンなら知っているだろうし、「技術負債」という言葉はエンジニアなら良く知っていることだろう。その両方をくっつけたのは面白い。以下がその画面例だ。

sideci01ソースコードを書いてプロダクトを育てていくとき、常にコードを理想的な状態を保てるとは限らない。特にスピード優先でプロダクトの有効性を検証するようなフェーズでは、読みづらさやコードの保守性といった品質を犠牲にしててでも、まず動くものを作るのことを優先することがある。どんなに品質の良いソースコードを書いたとしても、そのプロダクトに市場やユーザーがないと分かれば意味がないからだ。だからソースコードの品質が低いところには目をつぶって、まずは突っ走ってみよう。スタートアップ企業なら、そうなることが多いのではないだろうか。

複雑すぎたり、冗長だったりして読みづらいコードを、機能や性能を落とさずにより良く修正することを「リファクタリング」と呼ぶ。多くのソフトウェア・エンジニアはリファクタリングを日々息を吸うようにやっているだろうが、スピード命のスタートアップでは、そんな細かいことにかまっていられるか、という突き進むべきタイミングもあると思う。企業の借り入れやスタートアップの増資ににて、いつか返済することが必要なものだが、スピードを得るために前借りするようなものだ。

そうやって後回しにされたリファクタリングするべき「ダメなコード」を「技術的負債」と呼ぶ。余裕があればリファクタリングするべきと分かっているが、つい後回しになる。コスト的に正当化できないときもある。とくに技術的負債という概念に馴染みが薄い非エンジニアの管理職や経営者にしてみれば、その必要性は分かりづらい。当のエンジニアチームも、技術的負債を抱えすぎると、いずれ開発速度が落ちることを知りつつも負債を抱えたまま走りがちだ。

SideCIが新たに提供する「負債カンバン」は、こうした技術的負債のうち明らからに手を付けるべきコードを示してくれる新機能だという。開発したアクトキャットの角幸一郎CEOによれば、これまでの同社でのヒアリングから「スタートアップは概ね、コードの綺麗さを可視化するサービスを使うとA~EランクのうちEランクのファイルが多い。大手Web企業ともなると数百、数千ファイルあって、どこから手を付けて良いか分からない状態」になっているという。ソースコードの品質を判定するサービスはいろいろあるが、「スタートアップ向けで、負債を抱えながら突っ走るチーム向けというプロダクトはないのではないか」と角CEOは話している。

SideCIの負債カンバンが実際にどの程度意味のある指標(ROIなど)を示してくれるのか、それは未知数だが、今後のエンジン開発次第では興味深い分野が広がる可能性があるのではいだろうか。SideCI自体はPHP、JavaScript、Python、Go、Java、Scala、Swiftに対応しているが、今回の新機能はRubyから開始。順次対応していく。

アクトキャットは2016年3月にベンチャーユナイテッドとYJキャピタルから数千万円規模の資金を調達している。SideCIのローンチは2014年4月で、現在約3600の組織・個人が登録している。海外からのアクセス比率は2割。2016年4月に有償の正式版をリリースし、現在課金顧客は30社程度という。

労務管理クラウド「SmartHR」運営のKUFU、WiLなどから5億円の資金調達——すでに1700社が利用

左から500 Startups Japanの澤山陽平氏、James Riney氏、KUFUの宮田昇始氏、WiLの難波俊充氏

左から500 Startups Japanの澤山陽平氏、James Riney氏、KUFUの宮田昇始氏、WiLの難波俊充氏

Open Network Lab(Onlab)10期卒業生であり、そのデモデイで最優秀賞を受賞。その後はTechCrunch Japanが開催するイベント「TechCrunch Tokyo 2015」のプレゼンコンテストである「スタートアップバトル」をはじめ数多くのイベントで優勝を果たしたことでも話題を集めたのがクラウド型労務管理ソフトウェア「SmartHR」を運営するKUFU。そんな同社が大規模な資金調達を実施した。

KUFUは8月30日、WiL、BEENEXT、500 Startups Japanおよびコロプラ元取締役副社長の千葉功太郎氏、エウレカ共同創業者で元代表取締役CEOの赤坂優氏、エウレカ共同創業者で取締役副社長COOの西川順氏を引受先とする総額5億円の第三者増資を実施したことを明らかにした。なお、赤坂氏、西川氏が立ち上げたエウレカは、SmartHRエンタープライズ版の最初の導入企業でもある。

KUFUは2013年の創業。クライアントワークを行いつつ自社サービスを検討する中でOnlabに参加。自身が労務手続きで苦労した経験から、社会保険や雇用保険の手続き自動化を行うSmartHRが生まれた。

SmartHRは労務関係の書類の自動作成から、手続きのToDoリスト化、オンラインでの役所への申請、人事情報の管理、マイナンバーの暗号化保存などの機能を備える。2016年8月現在、IT企業を中心に1700社がサービスを導入。利用継続率も98%と好調だ。当初は10人規模の比較的小さなスタートアップをユーザーとして想定していたが、いざサービスを提供してみると、50〜200人規模の中小企業にも好評なのだという。

「会社のフェーズによって担当者や抱えているニーズが違うことが分かってきた。10人未満の会社では、社長が労務管理を行っている。そうなると書類が自動で作成でき、オンラインで申請までできるということ、そしてそもそも労務まわりの学習コストが下がることが評価されている。10〜30人規模になるとバックオフィスの専任担当者がいるが、その場合は効率化のためにSmartHRを利用する。50人以上にもなると、今度は管理のコストが大変なことになるので、プロジェクト管理ツール、人事管理ツールとしても使う様になる」(KUFU代表取締役の宮田昇始氏)

KUFUでは今回の調達をもとに、開発や営業人員の増員進める。開発面では、大規模な組織について対応するための細かな管理機能を強化するほか、社会保険労務士(社労士)向けの機能を開発・提供していく予定だという。「サービスは口コミを中心に広がっているが、企業が契約する社労士から導入を進められるというケースもある。今後は街の社労士を味方に引き込んでいきたい」(宮田氏)。エンタープライズ向けの営業についても進めていく。マーケティング施策も強化する。

また最近では「ヘルプの文言やボタンの名称までコピーした競合サービスも出てきた」(宮田氏だが、「競合が市場を開いてくれているという意識もある」「SmartHRは社労士法人も持っており、ユーザー企業が電子申請の際にわざわざ電子証明書を取得する必要がないなど、システム面での優位性も高い」(宮田氏)だと語る。同社は2019年に20万社への導入を進めるとしている。

余談だが、KUFUも登壇してくれたTechCrunch Tokyoのスタートアップバトルは今年も開催予定。登壇を希望する創業3年未満、サービスローンチ1年未満のスタートアップはこちらを読んで是非とも応募して欲しい。

やむを得ないキャンセル時に宿泊予約の権利を売買、「Cansell」がプレビュー版をリリース

ティザーサイトメインビジュアル

ホテル予約の権利を売買できるWebサービス「Cansell」がプレビュー版を9月15日にリリースする。プレビュー版のリリースに先がけ、今日から宿泊権利の事前募集を開始した。

ホテルのキャンセル料の支払いを節約

Cansellのユーザーは宿泊予約の権利を第三者に販売することで、キャンセル料を払う場合に比べて費用を節約できる可能性がある。権利の購入者は通常より安い宿泊料でホテルに泊まることができ、ホテル側も通常の宿泊料金を受け取れるというメリットがある。

Cansellのビジネスモデルは成果報酬型の手数料モデルで、プレビュー版の期間(11月30日までを予定)は手数料無料でサービスを提供し、その後の手数料率は15%を予定している。

Cansell_サービスの流れ

 

国内ほぼ全てのホテルに対応

Cansellではプレビュー版のリリース段階で国内のほぼすべての宿泊施設に対応している。宿泊権利の受け渡しを出品者から購入者への名義変更という形で対応しており、Cansellと宿泊施設のあいだで特別な契約を結ぶ必要がないからだ。Cansell代表の山下氏は、「名義変更を受けつけてさえいれば、国内のあらゆるホテルの宿泊権利をCansellで販売することができます。ディズニーランドで有名なホテルミラコスタなど、一部のホテルでは名義変更を受け付けないという例はありますが、その場合にはホテルと個別に提携を結ぶなどの方法で、今後その課題も解決していきたい」と話す。

日本の二次流通マーケット

チケットや各種権利の二次流通マーケットが盛んな欧米諸国に比べ、日本では二次流通市場に対する風当りが強い。特に、高値での転売目的でチケットを買い占める行為などが問題視されているのが現状だ。8月23日には、日本音楽製作者連盟など4団体がコンサートチケットの高額転売に反対する共同声明を発表している。

その課題に対し、Cansellではすべての出品に対し人間による審査を設けるという方法で対処している。キャンセル枠の実在確認を行うほか、権利を実際の宿泊料金以上の金額で販売することができないように制限して転売目的の出品を防ぐのだ。審査にかかる時間は最短で1時間、21時以降の出品の場合でも翌日には審査が完了する。山下氏は「当初はCansellにも市場原理を取り入れて、転売目的の出品も容認するという案もありました。しかし、高値での転売で得をするのは出品者だけであり、出品者、購入者、そして宿泊施設がすべてハッピーになるのは今のCansellの形でしか実現できません。健全な二次流通プラットフォームを創っていきたい」と語る。

また、宿泊権利の二次流通という分野はCansellが国内初のサービスであり、マーケットの大きさは未知数だ。山下氏は「スケーリングという問題は、正直なところ私たちが懸念している部分でもあります。宿泊施設のキャンセル数のデータが存在しないため、市場規模を計るのが困難なのです。しかし、ホテル予約という母数は大きく、消費者が抱える課題の大きさからチャレンジする価値のあるマーケットだと判断しました」と話す。また、将来的には海外のホテルにも対応したり、航空券など他ジャンルへの拡大も想定しているという。

Cansell_山下恭平

Cansell代表の山下恭平氏

Cansellは2016年1月の創業。代表の山下氏は2013年にYahoo!が買収したドリパスの創業メンバーの1人でもある。Cansellのチームは全員がYahoo!出身のメンバーだ。Cansellでは年内に少なくとも一回の資金調達を目指し、具体的な話し合いを進めている最中だとしている。

宿泊権利の事前予約はWebサイトから可能だ。

スマホ対応クラウド経費精算サービス「Dr.経費精算」、税制改正に対応したタイムスタンプ版を公開

screenshot_618

経費精算に悩まされるビジネスマンや経理担当者にとっては、2016年度の税制改正は朗報と言える。領収書保管に関する規制が緩和され、早ければ2017年の1月1日から、スマホのカメラで撮影した領収書が税務書類として認められるようになるからだ。これにより、各従業員が領収書を受け取って社外でスマホで撮影したデータが経費精算に使えるようになる。領収書の原本を従業員から集め、台紙に貼ってとじ、7年間物理的に保管するといった手間や空間コストの削減にもつながる。

ただし、保管する領収書データには解像度や色階調などのほかに「領収書の受領後3日以内に“タイムスタンプ”を付与すること」という要件がある。タイムスタンプは、電子文書がその時点で存在していたこと、その時刻以降に改ざんされていないことを電子的に証明するものだ。この要件を企業が個別に満たすためには、日本データ通信協会が認定する時刻認証サービス事業者と契約し、事業者の提供するAPIなどを利用したタイムスタンプシステムを自社で構築しなければならず、いささかハードルが高い。

この動きにいち早く対応したのが、クラウド経費精算サービス「Dr.経費精算」を提供するBearTailだ。BearTailではスマホアプリに対応した国産の経費精算システムでは国内初となるタイムスタンプ付与機能がついた「Dr.経費精算タイムスタンプ版」を8月29日に発表。同日から利用申し込みを開始した

Dr.経費精算タイムスタンプ版は、Dr.経費精算コーポレートプランをベースに、タイムスタンプ機能を追加。タイムスタンプには、セイコーソリューションズの時刻認証サービスを利用する。Dr.経費精算ですでに提供している2000人のオペレーターによる領収書入力代行、クレジットカードや交通系ICカードの利用明細自動取得といった機能との組み合わせにより、一連の経費精算業務を自動で、かつモバイルで完結することができる。領収書をはじめとするデータはすべてクラウド上に保管される。

スマホで撮影した領収書データを税務書類として利用するためには税務署への申請が必要だが、BearTailでは申請書類や添付資料、備え付け資料などのテンプレート提供も予定。また、導入に当たってのコンサルティングサービスで、企業の希望に応じて申請代行なども実施するという。

BearTail代表取締役の黒﨑賢一氏は「無駄な時間を省き、豊かな時間を作るという我々のミッションを、当面は“領収書の管理”という軸で突き詰めていく。世界的に見ればSAPの一員となったConcur(コンカー)が経費精算サービスの分野でNo.1だが、日本では我々のサービスを経費精算のスタンダードとなるようにしていきたい」と話す。

Dr.経費精算タイムスタンプ版の料金は、ユーザー1人あたり月額1080円から。2017年5月までにコーポレートプランとタイムスタンプ版の合計で1000社の利用を目指す。

スペースシェアの「スペースマーケット」が約4億円を調達して開発・営業を強化

space

球場からお寺からオフィスの会議室まで、空きスペースを1時間単位で貸し借りできるマーケットプレイス「スペースマーケット」。サービスを運営するスペースマーケットは8月29日、オプトベンチャーズ、リクルートストラテジックパートナーズ、みずほキャピタル、SBI インベストメント、オリックスを引受先とした約4億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。

スペースマーケットは2014年1月の設立で、同年4月にサービスを開始した。現在のスペース数は8500箇所で毎月順調に増加しているという。ユーザー数は対前年比で300%増加の3万人。これまでの成約件数は非公開だが、現在7割弱がパーティーでの会場探しに使われているという。それも首都圏で、15人未満の比較的小さな規模のものが中心だ。

また最近では、これまで提供してきたマーケットプライスに加えて、コンシェルジェが会場手配からイベント企画までをサポートするエンタープライズ向け事業も拡大。企業のサンプリングやマーケティング、リクルーティングのための場作りなどにも利用されているという。件数ベースではプラットフォーム経由での案件が7割程度を占めるが、現在はこのエンタープライズにも注力している。加えて直近ではピザハットベネフィットワンとも提携。利用用途や機能を拡大しているほか、民泊事業も開始。法制面の整備に合わせてサービスを拡大していく予定だ。

スペースマーケットでは、今回の調達を元にして開発および営業、マーケティング人材を強化。プラットフォームの利便性を高めると同時に、積極的なマーケティング施策を展開していく。具体的な開発内容としてはまず、AIを活用したレコメンド機能を開発するほか、ボットによる24時間体制のカスタマーサポート、最適なレンタル価格の提案機能、多言語・他通貨決済への対応などを進める(これは2020年の東京五輪や、将来的な海外展開を視野に入れたものだそう)。

これに加えて地方自治体などとの連携も強化する。「『入場料×365日×人数』しか売上を出せず、観光施設を生かしきれていない地域も少なくない。その体制を変えていく。各種パートナーと連携することで、企画や送客なども行っていく」(スペースマーケット)。同社では2019年時点で5万箇所のスペース提供を目指す。

「CTO・オブ・ザ・イヤー2016」登壇者決定、参加者チケット登録も開始しました!

cto01

今年11月もまたスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」におけるイベント内イベントとして、「TechCrunch Tokyo CTO Night 2016 powered by AWS」を開催するというのはお伝えした通り。登壇者も参加者も、キホンみんなCTOというイベントだ。

CTOばかりが集まって技術的観点からビジネスや経営にいかにコミットしてきたかというピッチを披露して讃え合う。今年も経験豊富なCTO審査員によって、今年最高に輝いていたCTOに対して「CTO・オブ・ザ・イヤー2016」の称号を贈りたいと考えている。

今年の登壇企業は以下のとおりだ。

プレイド(ウェブ接客プラットフォーム「KARTE」) 関連記事
クフ(クラウド労務管理「SmartHR」) 関連記事
Repro(アプリ解析・マーケティング「Repro」) 関連記事
・One Tap BUY(モバイル証券「One Tap BUY」) 関連記事
フロムスクラッチ(次世代マーケティングプラットフォーム「B→Dash」) 関連記事
カラフル・ボード(ファッション人工知能アプリ「SENSY」) 関連記事
BONX(ウェアラブルトランシーバー「BONX」) 関連記事
チカク(スマホ・テレビ遠隔連携コミュニケーションIoT「まごチャンネル」) 関連記事
フューチャースタンダード(遠隔カメラ画像処理プラットフォーム「SCORER」) 関連記事
ウェルスナビ(個人向け資産運用管理サービス「WealthNavi」) 関連記事

イベントは11月17日木曜日に渋谷ヒカリエで19時半からスタートする。1社あたり7分の発表時間と3分の質疑で合計10分。約100分ほど技術や組織、ビジネスの話をする、とっても濃いイベントだ。

参加登録はCTOもしくはそれに準じるエンジニア職の人に限らせていただいているが、イベント参加自体は無料。イベント終了後には、TechCrunch Tokyo 2016本編の懇親会とも合流するので、ほかのスタートアップコミュニティーの人たちとの交流を楽しんでいただければと思う。また、参加登録時にはJublia(説明はこちら)の登録も促している。積極的にほかの人たちと交流したいという人は是非お使いいただければと思う。

なお、超早割チケットも含めてTechCrunch Tokyo 2016の入場チケットをお買い上げいただいた参加者の皆さんは、CTO Nightにももちろん参加できる。会場は最大1000人近く入れるほど広いので、ぜひCTOたちのアツいバトルを見に来てほしい。

CTO Night参加登録は、こちらから

【イベント名称】TechCrunch Tokyo CTO Night 2016 powered by AWS
【日時】TechCrunch Tokyo 2016初日の11月17日木曜日の夜19時30分スタート(90〜100分)
【コンテスト】登壇CTOによる1人7分の発表+3分のQAセッションを10社行い、審査を経て「CTO・オブ・ザ・イヤー 2016」を選出する
【審査基準】技術によるビジネスへの貢献度(独自性、先進性、業界へのインフルエンス、組織運営についても評価対象)
【審査】CTOオブ・ザ・イヤー実行委員会による
【審査員】順次発表予定
【企画・協力】アマゾン ウェブ サービス ジャパン
【運営】TechCrunch Japan / AOLオンライン・ジャパン
【チケット】無料(参加登録ページ
【事務局連絡先】tips@techcrunch.jp

SNS横断でフォロワーの属性も絞り込めるインフルエンサーのキャスティング基盤「iCON Suite」

icon02

YouTube、Instagramなどのソーシャルプラットフォームで多くのファンを獲得し、大きな影響力を持つようになった「インフルエンサー」。YouTubeに投稿した動画の広告収入で生計を立てるYouTuberや、Instagramでリクエストに応じて商品を紹介することで収入を得るInstagrammerという名前も良く聞くようになってきたが、彼らは従来のメディアとは違うチャネルで顧客との有効な接点を見つけたい企業にとっても重要な存在となりつつある。

2015年1月にYouTubeクリエイターと広告主をマッチングさせるサービス「iCON CAST(アイコンキャスト)」を提供したTHECOO(ザクー)は8月25日、動画メディアを展開するC Channelの子会社でインフルエンサーマーケティング企業のYellow Agencyと業務提携。ソーシャルプラットフォーム横断でインフルエンサーを検索、キャスティングする「iCON Suite(アイコンスイート)」を開始した。

iCON SuiteはYouTubeに加え、InstagramやTwitter、Snapchatといったソーシャルプラットフォームに横串で対応。インフルエンサーの影響力やファンの属性(デモグラフィック情報)を機械学習と自然言語解析を用いることで分析可能にした。これにより、クライアントのニーズも高まるInstagramについても、従来利用してきたYouTube APIでは取得できなかった情報を提供。感覚ではなくデータに基づいたインフルエンサーのキャスティングを実現する。

icon5

iCON Suiteでは、インフルエンサーをファッション・コスメ・ペット・ゲームなどのカテゴリと、ファンの性別・年代、ファン(フォロワー)数から絞り込むことが可能だ。サービス開始時は、全インフルエンサーの検索ができ、キャスティングはYellow Agency所属のインフルエンサーのみに対応する。

「iCON CAST提供から1年半、YouTuberと企業とのマッチングでは日本最大のサービスとすることができた。Google出身者の多いTHECOOでは、AdWordsの営業時代も含めて、クライアントがいかに効果を求めるものなのか、データの力がどれだけ大切かということにかけては、ノウハウがかなり蓄積されている。」とTHECOO代表の平良真人氏は語る。「iCON Suiteでは、対象をYouTubeから他のプラットフォームに広げても、実際に使っていただける企業・インフルエンサーの数で日本最大を目指したい」(平良氏)

icon3

THECOOでは、iCON Suiteの利用企業を2016年内に100社以上、インフルエンサーではInstagramユーザーのうち5000人の利用を目標としている。また、アジアをはじめとした海外への展開も年内に予定。その際には、各国で主に使われている、日本とは異なるソーシャルプラットフォームにも対応していくという。

平良氏は「ソーシャルプラットフォーム上で、自分のアカウントできちんとファンとのコミュニケーションを取れる人をインフルエンサーと定義している」とした上で、日本ではゲームやファッション・コスメ、あるいは“やってみた”動画などに人気が偏るインフルエンサーのカテゴリについて、こう話す。「発展途上だが今後に期待できる。中国やタイでは、インフルエンサーがクルマやゴルフ、スポーツなど、自分の好きなことを突き詰めた結果、カテゴリとして成立するテーマが増えた。その結果、自動車業界やラグジュアリブランドなどにも、クライアントが増えている。誰でもインフルエンサーになれる時代だ」(平良氏)

左からC Channel代表取締役社長の森川亮氏、Yellow Agency代表取締役社長の平本誠二郎氏、THECOO代表取締役CEOの平良真人氏

左からC Channel代表取締役社長の森川亮氏、Yellow Agency代表取締役社長の平本誠二郎氏、THECOO代表取締役CEOの平良真人氏

スタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo」、白熱した昨年のセッションをおさらい

超早割チケットの販売終了まで1週間を切った、スタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」。11月17〜18日に東京・渋谷ヒカリエで開催するこのイベント、これまでにも概要はお伝えしているが、実際昨年はどのようなセッションが盛り上がったかご紹介したい。

50億円を捨ててスタートアップした男・マネックス松本氏

TC-0068

この数年、TechCrunch Tokyoでは国内、海外の企業家それぞれ1人ずつが基調講演を行っている。2015年、海外の企業家としてはコミュニケーションロボットを手がける米JiboのCEO、Steve Chambers氏が登壇した。国内の企業家として登壇したのは、こちらでご紹介するマネックス証券の松本大氏だ。

マネックス証券は1999年の設立。ゴールドマン・サックス(GS)のゼネラルパートナーであった松本大氏が、ソニーとの共同出資で立ち上げたネット証券だ。当時の松本氏はGSの上場に伴い、10億円とも50億円とも言われる報酬を得られる予定だったそうだが、それを蹴っての起業だった。松本氏はこの創業ストーリーに加えて、起業の際の市場やタイミングの重要性、起業を支援してくれたソニー代表取締役の出井伸之氏との関係、起業家へのメッセージなどを語った。

松本氏の登壇レポートはこちら

起業初期は海外進出よりも開発を——99designs・Llewellyn氏

99designs01

デザインに特化したクラウドソーシングを手がける豪メルボルン発のスタートアップ・99designs。リクルートからの出資を受けて日本進出したばかりだった同社からは、CEOであるPatrick Llewellyn氏が登壇。デザイナー、フリーランスを取り巻く環境や、成長のためのマーケット拡大といったテーマでスピーチを行った。

早くにオーストラリアから米国に進出したという自身の経験からも、海外市場の重要性訴える99designsだ。開発初期段階での海外進出については慎重であるべきだと説く。そしていざ海外に進出する際、現地の市場で信用を得るためにどのようにローカライズを行うべきかというノウハウに触れた。

Llewellyn氏の登壇レポートはこちら

ピュアなCtoCサービスがヒット、メルカリ・山田氏

photo01

米国App Storeのトップ3位にもランクインしたと話題のメルカリも、昨年のTechCrunch Tokyoに登壇してくれた。代表取締役の山田進太郎氏は、創業期の楽天で経験を積んだ後にウノウを設立。同社は米Zyngaに買収されたが日本での事業を撤退。その後1年の充電期間を経てメルカリを立ち上げた。

当時から急成長を続けるメルカリだが、山田氏はその理由について「ピュアなCtoCサービスであるから」と説明する。それはどういう意味か。またこのほかにも面倒なやり取りを「仕組み化」することなどでユーザーが付いてきているという、成長のポイントについても語ってくれた。

山田氏の登壇レポートはこちら

クロスボーダーM&Aを実現したエウレカ・赤坂氏

代表取締役CEOの赤坂優氏

2015年にあったスタートアップのイグジットで、もっとも話題を集めたのが米IACグループの傘下となったエウレカだ。マッチングサービス「pairs」、カップル向けアプリ「Couples」を手がける同社。共同創業者で代表取締役(現在は退任)の赤坂優氏は、pairsが競合サービスの8倍の頻度でマッチングが行われるまでのサービスに成長していると語ってくれた。

エウレカを買収したIACグループは、matchやTinderをはじめとしたマッチングサービスを世界で展開する企業。赤坂氏はクロスボーダーでの買収という選択肢を選んだ理由や、実際に買収されてからの状況などについても語った。

赤坂氏の登壇レポートはこちら

今年も注目セッション、企画が盛りだくさん

2016年の登壇者については9月以降に発表していく予定だ。今年も気鋭の起業家、投資家らが登壇する予定なほか、メインイベントとなる創業3年未満、サービスローンチ1年未満限定のプレゼンコンテストである「スタートアップバトル」、スタートアップのCTOが集う「CTO Night」などさまざまな展示なども予定している。気になる人は急いでチケットを購入して欲しい。定価の約半額となる超早割チケットの販売は今月いっぱいとなっている。

InstaVRがグリーVなどから総額約2億円を調達——ブラウザで動くVRアプリ作成ツール

スクリーンショット 2016-08-24 8.29.14

ウェブブラウザで動くVRアプリ作成ツールを提供するスタートアップのInstaVRは8月24日、グリーベンチャーズをリードインベスターとして、同社およびColopl VR Fundを割当先とした総額約2億円の第三者割当増資を実施したと明らかにした。

InstaVRは2015年11月に設立。ウェブブラウザ上で手軽にVRコンテンツを作成・配信・分析可能なツール「InstaVR」を展開している。作成したVRコンテンツは、ウェブに埋め込んだり、iOS、Android、Gear VRなど幅広い端末で動作するネイティブアプリとして出力することができる。

使い方は、リコーの「THETA」シリーズなどをはじめとする全天球カメラで撮影した360度動画を、ブラウザ上のInsitaVRにドラッグアンドドロップ等で読み込ませる。すると360度動画内にリンクや動画を埋め込むなどインタラクティブな要素を加えることができる。またVRゴーグル向けに視差のあるステレオVRにも対応する。「チュートリアルは1分、作成は5分で済む」(代表取締役社長の芳賀氏)という手軽さや、編集やアプリの出力までもがブラウザ上で完結する敷居の低さを売りにする。

さらに、利用者の注意点をヒートマップで分析し、VR体験を改善する機能も搭載。「VRって儲かるの?」という視点がマーケティング側にあるといい、そのニーズにも対応したという。

InstaVRは、米国を代表する博物館のスミソニアン博物館や、世界最大級の建設グループ AECOMをはじめ、2016年8月24日までに世界100か国以上、約1800社に導入実績がある。具体的な事例は不動産の内見や観光案内、自動車の試乗など。今回の総額約2億円の調達でも、海外での導入実績が評価されたとInstaVRの代表取締役社長 芳賀洋行氏は語る。

DSC03640

読み込んだ360°動画に「リンク」や「動画」、オブジェクトなどを埋め込んだVRコンテンツを手軽に作成できる

ヒートマップ表示2_ユーザーの注視点を分析

VR空間上のユーザーの注意点をヒートマップで表示した様子

個人で開発したVRアプリは150万ダウンロードに

芳賀氏は「実はVRは古いんですよ。コンピュータの歴史と同じくらい」と振り返る。同氏がVRに関わったのは19〜20歳の頃。当時は大学でコンピューターサイエンスを専攻しており、1999年にVRで3Dホラーハウスを作成するプロジェクトに参加していた。

InstaVR 代表取締役社長の芳賀洋行氏

InstaVR 代表取締役社長の芳賀洋行氏

その後、2003年にAutoDeskに入社。そこでは3Dグラフィックスソフトウェア Mayaの開発や、マーケティングソリューションのアジア担当などに携わった。2011年にはグリーに入社し、ソーシャルネイティブアプリのソフトウェアエンジニアを経て、プロダクトマネージャー、最終的にはCTO室でCTOの補佐を担当した。なおグリー在籍中には経済学修士(MBA)も取得している。

2013年末にグリーを退職しフリーに転向。個人で開発したVR動画プレーヤー「AAA VR」は約150万ダウンロードを達成した。2014年頃から「VRアプリを作りたいんだけど、作り方がわからないから作って欲しい」という依頼が増えてきたこともあり、簡単にVRコンテンツを作成できるソリューションのニーズを感じ、InstaVRの開発に取りかかった。

2015年夏にgumi代表取締役の国光宏尚氏、ジャーナリストの新清士氏らが立ち上げたTokyo VR StartupsのVR特化インキュベーションプログラムに申し込み、通過。そこで500万円を調達し、会社を登記したのが同年12月。その直後にInstaVRのベータ版サービスの提供を開始。海外を中心に顧客を伸ばし、今回の資金調達に至った。

月額課金でマネタイズ

マネタイズに関しては、月額課金制を採用。有償版は月300ドル、年間契約では月200ドルとなる。また、機能が若干制限されるものの無償版も提供している。

InstaVRの従業員数は世界中で約10人ほど。グローバルで展開しており、内訳は日本に3〜4人、インドに2〜3人、北米に5人。などまたブラジルやヨーロッパにもカスタマーサポートを設置している。ただ芳賀氏は「日本と違い、海外では人材の流動性が大きい」とも語り、従業員数はあまり意識していないという。

InstaVRでは、今回調達した2億円を元手に、市場展開や製品開発を加速させていく方針。現在の導入企業は1800社だが、これを年内に1万社にまで増やしていきたいとも語った。

低消費電力の深層学習で新分野開拓、日本のLeapMindがシリーズAで3.4億円の資金調達

unspecified2012年設立の日本のスタートアップ企業、LeapMindは今日、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、米Visionnaire Ventures Fundアーキタイプベンチャーズを引受先とした第三者割当増資で総額約3億4000万円の資金調達を完了したことを発表した。創業者でCEOの松田総一氏によれば、LeapMindはGPUを含む高い処理能力や大容量メモリーを前提としたこれまでの深層学習と違い、精度を落とさずに必要となる計算リソースを減らすことに取り組むスタートアップだ。

特に画像認識や音声認識といった応用分野で、深層学習が大きな前進を見せているのは皆さんご存知の通り。ただ、これまでの深層学習の応用はクラウドだったりGPUをふんだんに投入する「力技」の競争という面があった。ニューラルネットワークは人間の中枢神経系と同じく多数のノードを層状にして積み重ねるもので、最近この層数が深くなっている。現在の深層学習ブームの背景の1つに計算テクニックの発展があったのは間違いないが、それでも計算量は多い。精度を上げるために計算リソースをぶち込むのが「最先端」の研究だ。ボードゲームへの深層学習の適用で圧倒的な成果を見せつけたAlphaGoは、1000個以上のCPU、100個以上のGPUを組み合わせるような取り組みだった。

一方、LeapMindの松田CEOによれば、もっと劇的に計算量を減らすことができる研究が、この1年ほどで出てきているのだという。層と層の間の計算の受けた渡し方の計算順序を工夫したり、受け渡しの数値を実数ではなく2値にしてしまうような研究があるという。例えば、この論文によれば「バイナリCNN」を使った画像分類ベンチマークでは、メモリー効率32倍と58倍の速度向上を達成。精度は2.9%劣るだけだったという。

松田CEOによれば、LeapMindはこうした最新の研究を参照してプロダクトを実装している。深層学習の人気ライブラリの1つ、Caffeに含まれるモデルをLeapMindで実装したところ、Caffeで450MBの容量となったニューラルネットのモデルが、LeapMindでは45KBで保存できた例もあるという。このときの精度はオリジナルのCaffeが58%であるのに対して、52%と十分なものだったという。

すでにできていることを少し精度を落として低コスト、低リソースでやるというインセンティブはアカデミックな世界にはあまりないのか、この方面への研究は注目度が低い。世界的にみると競合としては、VicariousMovidiusといったところがあるが数は少ないのだそう。「この分野を徹底して研究しているLeapMindのほうが大学の研究者より詳しいこともある」(松田CEO)という。

低商品電力になると何ができるのか?

leapmind

Droneに高度な画像認識モジュールを搭載するイメージ図

低商品電力で深層学習が利用できるとなると、例えば冷蔵庫に搭載もできるだろうという。冷蔵庫の中身の残りものを画像認識してレシピを提案するといった応用があったとき、最新GPUを搭載してガンガン熱を出してしまっては冷蔵庫という自らの存在を否定するような製品になってしまうが、低商品電力で非力なチップで処理できれば応用可能性が開ける。松田CEOは「今後、名刺入れにさえ深層学習が入ってくるような世界を目指す」としていて、現在はNTTデータ、KDDI、DNP、小糸製作所などと共同研究を進めているほか、実験的プロダクトをいくつか出している

今後は企業と組んで消費者へ届けるアプリケーションを発掘・開発していくほか、自社でモデルを作成してモジュール化した「Juiz System」をSaaSモデルで売っていくモデルの2通りでマネタイズを考えているそうだ。より広く生活者に深層学習の恩恵を届けるためには、それぞれの応用分野を詳しく知っている各企業に任せる、ということだそうだ。

unspecified-2

ところで深層学習を省電力対応していく方向性が今後ひとつのトレンドになるのだとしたら、その技術的アドバンテージのコモディティー化は早そうだ。LeapMindは企業として何の差別化ができるのだろうか? 「確かに2年後ぐらいには技術は平準化していくと思います。ただ、その間にユーザーや共同開発の企業を増やします。そこから入って来るトレーニングデータが大事」(松田CEO)。たとえアルゴリズムでGoogleに勝てなくても、例えば日本人がどんな食事をしていて何が好きなのかといったことの予測精度ではGoogleに勝てるだろうという。「だからバラマキ戦略をやっているのです。深層学習を商用まで持っていけてる企業は少ないですし、より広い企業と繋がる努力をしているAI企業も少ないのです」(松田CEO)

980円から購入できるStroboのスマート窓センサー「leafee mag」ーーMakuakeに登場

Strobo代表取締役の業天亮人氏

Strobo代表取締役の業天亮人氏

Stroboは8月23日、IoT窓センサー「leafee mag(リーフィー・マグ)」の先行予約をクラウドファンディングサイト「Makuake」にて開始した。同社はこれまで、姿勢改善をサポートするスマホ連動型スマートクッション「クッシーノ」の開発など、オフィス向けのIoT製品の開発が事業の中心になっていたが、今後はコンシューマー向けのIoT製品の開発にも事業の裾野を広げていく。

leafee magは、Bluetoothでスマートフォンと連動するスマート窓センサー。窓にセンサーを貼り、鍵部分に専用マグネットを取り付けるだけで自宅の窓の戸締まりをスマートフォンから確認できるようになる(※鍵を閉めることは不可能)。これにより、朝、家を出るときに誰もが感じたことのある、「窓の戸締まりしたかな?」という日常生活の不安が解消される。

どうやって窓の戸締まりを検知するのか? 仕組みは非常にシンプル。センサーと専用マグネットの距離を測って、戸締まりができているかを確認。距離が10mm以内であれば閉まっているいると認識され、10mm以上離れれば開いていると認識される。

leafee magの利用イメージ

leafee magの利用イメージ

 

これだけ見れば、「また似たようなIoT製品が登場したのか」と思うかもしれない。確かにスマートホームを可能にするIoT製品は、すでに数多く誕生してきているが、leafee magは導入のハードルが既存製品に比べて低く、そして安価だ。

使用にあたって、必要なものはスマートフォンだけ。既存のIoT製品はブロードバンド回線やルーターといった機器を用意しなければならなかったが、leafee magは先立って準備しておくべき機器が一切ない。価格も1000円台(Makuakeでは980円から販売)と誰もが気軽にモノとインターネットがつながった生活を体験できるようになる。

既存のIoT製品は導入のハードルが高すぎる

この手軽さ、低価格を実現した背景には代表取締役である業天亮人氏のIoT製品への強い思いがあった。

「Stroboを創業する前にもインターネット家電メーカーを起業し、IoT製品の開発を行っていました。自分たちの中では、『これは上手くいく』という感覚があったのですが、蓋を開けてみたら、思ったように普及していきませんでした。なぜ上手くいかなかったのか、その原因はハードルの高さにありました。その製品はルーターやインターネット回線も用意していただければいけなかったですし、何より価格を1万円以上に設定していた。それでも当時は安い方だったんですけど、やはり導入のハードルが高いと誰も必要としないんだなと思いました」(業天氏)

この経験があったからこそ、誰もが気軽にモノとインターネットがつながった便利な生活を体験してほしいと強く思うようになり、価格1000円台のスマート窓センサー「leafee mag」が誕生したという。

「IoTによって、生活はもっと便利に、そして豊かになると思っています。しかし、まだまだコンシューマー向けのIoT製品のハードルは高い。僕たちのleafee magが、そんな状況を変えていく第一歩になればと思っています」(業天氏)

ユーザーの反応も上々、想定外の使い道も

すでにleafee magのユーザーテストは済んでおり、ユーザーの反応も上々とのこと。このユーザーテストによって、窓に取り付けるだけでなく、エアコンに取り付けたり、冷蔵庫に取り付けたり、様々な使い道があることも発見されたという。

「まさか、エアコンや冷蔵庫に取り付ける使い方があるとは思ってもみませんでした。でも、このユーザーテストを通じて、多くの人がモノとインターネットがつながった生活に便利さを感じていることも分かりました」(業天氏)

Stroboはまず、Makuakeでのプロジェクトの成功を目指す。ただし、プロジェクトに関わらず、モノとインターネットがつながった便利なライフスタイルを提供するためにも、コンシューマー向けのIoT製品の開発は今後も進めていくという。

エアコンや冷蔵庫に利用するケースも

エアコンや冷蔵庫に利用するケースも