クラウドRPAとiPaaSの二刀流で企業の業務自動化を支援へ、BizteXが6.3億円調達

クラウドRPA「BizteX cobit」を展開するBizteXが、iPaaS(integration Platform as a Service)領域にプロダクトを拡張することで顧客の業務自動化を加速させる取り組みを始めるようだ。

同社は4月20日、みやこキャピタル、KDDI(KDDI Open Innovation Fund 3号)、TISおよび既存投資 家のWiLを引受先とする第三者割当増資と日本政策金融公庫や商工組合中央金庫からの融資により総額で6.3億円を調達したことを明らかにした。

BizteXでは昨年10月よりiPaaS領域のプロダクトを一部の既存顧客に対してステルスで展開しており、5月にも一般公開をする予定。今後はクラウドRPAとiPaaSを組み合わせることで企業のワークフロー改善を広範囲でサポートしていく計画だ。

なお今回の調達はBizteXにとってプレシリーズBラウンドに該当するもの。同社では昨年8月から11月にかけてシリーズAラウンドでWiLやジェネシア・ベンチャーズ、グロービス経営大学院から4億円強を調達しているほか、2017年7月にも同じくジェネシア・ベンチャーズより4000万円を調達している。

クラウドRPAで定型業務を自動化、累計で1000社近くが活用

BizteXでは2017年11月にローンチしたBizteX cobitを通じて、さまざまな顧客企業における定型業務の自動化を支援してきた。

RPA領域のプロダクト自体はすでに多数存在するが、BizteX cobitはクラウド型でスピーディーかつ安価に導入できるのが特徴。月額10万円からのSaaSモデル(初期費用は別途30万円必要)で、即日よりすぐに試せる。複雑なプログラミングスキルも必要なく、現場の業務担当者が身らの業務を効率化することが可能だ。

売上規模100億円以上のミドルエンタープライズ企業がメインの顧客層で、昨年秋頃からは大手企業への導入も加速しているとのこと。業界上位トップ10のうち7割に導入されている広告業界を筆頭に、人材や不動産、IT関連など幅が広がっている状況で、2020年3月末時点でPoCを含めた累計利用社数が1000社近くにまで増えた。

また既存企業によるアップセルも好調だ。BizteX cobitでは作成したロボットのアクション数(ステップ数)によってプランが変わる設計のため、ヘビーユーザーが増えたことで収益面でも大きく成長し、その点が今回のラウンドでも評価されたという。

「1つの現場から小さく始めて、少しずつ広げていくモデル。たとえば営業部門のマネージャーの『この業務を自動化したい』という要望をRPAで実現し、そこから他の業務でも自動化できるものがないか自動化コンサルのような形で伴走しながら進めていく。ミドルマネージャー層の共通課題は、人をあまり増やせない中でいかに売り上げを伸ばしていくか。その点、RPAを用いた業務効率化はニーズにもマッチしていて、部署横断で使ってもらえる事例も増えている」(BizteX取締役CSOの武末健二朗氏)

クラウドRPA+IPaaSで「Automation Tech」を推進

既存事業であるクラウドRPAの拡大と並行して、BizteXでは密かにもう1つのプロジェクトを進めてきた。それが冒頭でも触れたiPaaS領域の新プロダクトだ。

iPaaSについては知っている人も多いとは思うけれど、複数のシステムを連携させて業務自動化やデータ連携を実現するプラットフォームのこと。近年はSaaS型のシステムが増えていることから、APIを用いてSaaSをつなぎ、業務効率化を支援するiPaaSが国内外で注目を集めている。

米国ではZapierWorkatoなど複数のプレイヤーが参入するレッドオーシャンになっているほか、日本国内でも1月に2.2億円を調達したAnyflowなどこの領域にチャレンジする企業が徐々に増えてきた。

BizteXでも昨年からクラウドRPAとAPIコネクタを融合したiPaaSプロダクトを非公開でリリースし、一部の企業へ提供をスタート。現在は一般公開に向けた準備も着々と進んでいる状態で、5月中の公開を予定しているそうだ。

同社の強みは自社でクラウドRPAを保有していること。たとえばRPAを用いて加工したデータをAPI連携でストレージ系のサービスに保存したり、他のSaaSプロダクトにアップロードしていったりといったように、RPAと組み合わせることで多様な業務を自動化できるのが既存のiPaaS事業者と異なる部分だという。

武末氏によると実は当初から社内でもAPIの活用に関する議論はあったそう。ただ当時はAPIの仕様が自動化したい業務と合っていないことや、用途が制限されていることが多かったため「いかにAPIを使わない形で業務自動化を実現するか」にトライしてきた。

「広告業界の例だと、多くの企業が使うディスプレイアドのサービスの管理画面自体はAPIがあるのでそれを活用した業務自動化もできなくはない。ただAPIが昔の設計で用途が制限されていて、そのまま使っても顧客の自動化したい業務に全然応えられないということが過去にあった。これは1つのシステムに限った話ではなかったので、(APIを活用するのではなく)RPAで対応するようにしていた」

「一方で近年はSaaSの台頭でAPIエコノミーも広がってきており、APIを使うことで簡単かつスピーディーに自動化できる業務なら、わざわざロボットを作らなくてもいい場面も出てきた。顧客が実現したいのは業務の自動化で、その手段がRPAなのかiPaaSなのかはそこまで重要視されていない。クラウドRPAとiPaaSの二刀流で、ニーズに合わせて適切なやり方を提案するのがベストな選択肢だと考えた」(武末氏)

時には「RPA vs iPaaS」のように対比構造で紹介されることもある2つのテクノロジーだが、それぞれ得意な領域やできることが異なり、この2つを組み合わせることで「顧客の自動化したいニーズを広範囲にカバーできる」というのがBizteXのスタンスだ。

同社ではクラウドRPAやiPaaSなどを通じて業務自動化を実現するテクノロジーを「Automation Tech」と定義し、今後はSaaSベンダーや販売パートナーとの連携を強化しながら「Automation Tech群戦略」を推進していく計画。新規投資家のKDDIやTISともプロダクトの拡販に向けて連携する方針だという。

「新型コロナウイルスの影響で国内企業でもリモート化が進んでいる。社内システムをオンラインやクラウドに移行する波が広がれば、分散化が進むことでシステム間のデータ連携やデータの転記を簡単にしたいというニーズも増えるはず。こんな状況下だからこそ、クラウドRPAやiPaaSを用いた業務の自動化によって顧客のワークスタイルを支援していきたい」(BizteX代表取締役の嶋田光敏氏)

フィンテックで新たに大規模なイグジット、SoFiが銀行・支払いプラットフォームのGalileoを約1300億円で買収

SoFi

フィンテック戦争はこの分野で新たに実行される大規模なイグジットによって相変わらず熱気を帯びている。

コンシューマー向け金融サービスプラットフォームのSoFiは米国時間4月7日、支払い・銀行口座インフラ企業のGalileo(ガリレオ)を現金と株式により総額12億ドル(約1290億円)で買収すると発表した。この買収は慣習的な買収完了条件を満たしたのちに成立する。

ソルトレイクシティを拠点とするガリレオは、Clay Wilkes(クレイ・ウィルクス)氏により2000年に創業され、自己資金による起業からこれまで20年間にわたり利益を生み出し続けている。ガリレオについては、昨年11月のJon Shieberの記事で、同社が外部からの資金調達の第2ラウンドとして、成長パートナーのJohn Locke(ジョン・ロック)氏が主導するシリーズAでAccel(アクセル)から7700万ドル(約80億円)を調達したことが報告されている。同社はそれまでに2014年4月のシリーズAラウンドでMercato Partners(メルカートパートナーズ)から800万ドル(約8億6300万円)を調達していた。

ガリレオはその数あるサービスの中でも、Monzo(モンゾ)やChime(チャイム)などのフィンテック企業が簡単に銀行口座を開設したり、プラスチックカードやバーチャルカードを発行できるAPIを提供している。理論的にはシンプルだが、銀行業務への規制や金融規定によってフィンテック企業に課される負担は大きく、ガリレオはプラットフォームの機能の一部としてこの規制負担を引き受ける。

同社は英国で目覚ましい成功を収め、同国の大手フィンテック企業5社のすべてが顧客になっている。世界全体で、先月は年換算にして450億ドル(約4兆8540億円)に相当する取引高を処理した。この取引高は2019年10月の260億ドル(約2兆8050億円)から、わずか6か月でほぼ倍増している。

戦略的な視点から見ればSoFiの目標は、拡大を続ける同社の金融商品をガリレオの協力を得て前進させ、コンシューマーサービス以外の新たな収益源を得ることである。SoFiは10年前に、学生ローンの借り換えサービスを提供して創業されたが、現在はローン、投資商品や保険商品、現金・資産管理ツールなど、コンシューマーファイナンスのさまざまなサービスを提供している。ガリレオの買収で、同社は明確なB2Bの収益要素も手に入れたことになる。

現在、Twitterの元COOであるAnthony Noto(アンソニー・ノト)氏がトップを務めているSoFiも、近年カタールなどから数億ドルの新規資本を調達している。同社の直近の企業価値は43億ドル(約4640億円)と評価されている。今後ガリレオはSoFiの独立した一部門として運営し、創業者のウィルクス氏が最高責任者として留任する。

近年フィンテック企業の価値評価が急速に上昇していることから、投資家たちの戦略はフィンテックにサービスを提供する企業に向けられている。今年に入ってVisaはPlaid(プレイド)を53億ドル(約5720億円)で買収したが、これは金融インフラ企業として極めて重要なイグジットと見なされていた。このイグジットが投資家の関心と戦略的な興味をこの分野に強く引き寄せ、ガリレオへの関心もまた日増しに膨らんでいたことは確実だ。そう考えれば同社のイグジットが昨年の資金調達ラウンドから比較的早い時期に行われたことにも説明がつきやすい。

アクセルは長年の戦略として、大部分を自己資金で創業した企業への投資を行ってきた。これらの企業には創業から10年以上経っているものもあり、ガリレオ以外にも1Password(ワンパスワード)、Qualtrics(クアルトリクス)、Atlassian(アトラシアン)、GoFundMe(ゴーファンドミー)、Tenable(テナブル)などがある。また、アクセルはこのようなタイプの資金調達ラウンドを支払いプラットフォームのBraintree(ブレインツリー)でも主導した。そのとき出会ったブレインツリーのゼネラルマネージャーであるJuan Benitez(ホアン・ベニテス)氏も、アクセルのロック氏とともに昨年11月にガリレオの役員となった。

この取引でのアクセルの価値評価は11月には公表されなかったが、現在、買収の情報筋によれば同社のリターンは4倍を越えるという。アクセルが株式を保有したのが約半年であることを考慮すれば、マクロ経済が世界的に困難な状況では、かなりのはIRR投資倍率だ。ガリレオの買収は現金と株式によることから、アクセルは今回SoFiにも出資することになり、リターンの少なくとも一部は未実現となる。

今回の買収で、ガリレオのアドバイザーはQatalyst(カタリスト)が務めた。

画像クレジット: Drew Angerer / Getty Images

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(翻訳: Dragonfly )

GPS不要のドローン自律飛行システムを開発するSpiralが資金調達、建築・土木領域の活用目指す

ドローン自動飛行システムを開発するSpiralは4月14日、テックアクセル1号投資事業有限責任組合(テックアクセルベンチャーズ)、Miraise1号投資事業有限責任組合(MIRAISE)、静岡キャピタルを引受先とする第三者割当増資による資金調達を発表した。調達額は非公開。

土木現場での点検・監視ソリューションのイメージ図

同社は、屋内に特化したドローン自律飛行システム「MarkFlex Air」を開発する2016年10月設立のスタートアップ。GPSが届かない室内などの環境でも独自の特許技術によるマーカーを利用することでドローンの自律飛行を可能にする「MarkFlex Air:MFA」システムなど提供している。今回調達した資金は、エンジニア中心の人材採用と開発拠点の整備、システム開発の加速、開発体制の強化に使われるとのこと。

写真に向かって左から、テックアクセルベンチャーズでアソシエイトを務める萩沢 巧氏、同投資パートナーの大場正利氏、Spiral代表取締役兼CEOの石川知寛氏、同取締役兼COOの濱地健史氏、 ミレイズでパートナー兼CEOを務める岩田真一氏、 同CTOの布田隆介氏

具体的な開発強化ポイントは、建築・土木領域でGPSが使えない環境でのドローン自律飛行技術の開発、クライアント各社の現場における実証実験と共同開発の推進、システムインテグレーターやセンシング、および光学系などを中心としたソリューションパートナー企業の開拓とアライアンス構築などとなっている。人材採用については、シンガポール、ドバイ、ルクセンブルク、フランスなど海外展開も視野に入れ、国内外からエンジニアを積極的に採用する。

リモートワークの普及に取り組むキャスターが6億円調達、既存サービスの利用企業数は1300社を突破

オンラインアシスタントサービス「CASTER BIZ」をはじめ、リモートワークを軸とした人材事業を展開するキャスターは4月9日、STRIVEと山口キャピタルを引受先とする第三者割当増資により総額6億円を調達したことを明らかにした。

キャスターは昨年5月に3.6億円を調達するなど過去に複数のVCから資金調達をしているほか、直近では今年1月にディップを引受先とした第三者割当増資も実施。今回を含めると累計調達額は約15億円となる。

今後はコロナウイルス(COVID-19)の影響もあり国内で急速にリモートワークが広がっていることを受け、そこで必要とされるセキュリティシステムやリモートワーカー向けの業務管理システムの開発などに投資をしていく計画だという。

オンライン秘書から領域拡張、利用企業数は1300社超え

キャスターは2014年の設立。同年に秘書や人事、経理、翻訳、Webサイト運用などの幅広い業務を遠隔にいるオンラインアシスタントに依頼できるCASTER BIZをスタートした。

代表取締役の中川祥太氏によると以前は「オンライン秘書の会社」として捉えられることも多かったが、創業6年目を迎えた現在では同社がカバーする領域はかなり広がっている。運営するサービスの数も10個を超え、会社全体の売上を見てもCASTER BIZ単体が占める割合はかなり減ってきているそうだ。

具体的には経理(CASTER BIZ accounting)、採用(CASTER BIZ recruiting)、労務(CASTER BIZ HR)など各業務領域ごとにCASTER BIZシリーズのサービスを展開すると共に、全国のリモートワーカーをオンラインで派遣する「在宅派遣」やリモート・複業など新しい働き方に特化した求人メディア「Reworker」なども手がける。

キャスターが手がける事業の一部。CASTER BIZシリーズの幅もかなり広がってきている

昨年からの取り組みとしてはソーシャル募集サービス「bosyu」を分社化してサービス成長に向けて舵を切ったほか、500円から使える個人向けのオンラインアシスタント「My Assistant」など新規事業も始めた。11月にはキャスター自体が700人以上のリモートワーク組織を運営してきた知見を活用して、リモートワーク組織の構築を支援する「Caster Anywhere」もスタートしている。

「『リモートワークにおける総合人材サービス』に近い。領域や契約形態ごとでも提供できるサービスが異なるので、クライアントからのニーズを踏まえて事業を広げてきた」(中川氏)

サービスのラインナップが拡充された効果もあり、累計のサービス導入企業は累計で1300社を突破。社数だけでなく導入企業の幅も広がっていて、エンタープライズ企業の利用も増えているという。たとえば在宅派遣の場合は中小企業のバックオフィスをリモート人員でサポートするといったケースが多かったが、この半年ほどでコールセンターなど大型の取引も増えた。

クライアント企業のリモートワーク導入をハンズオンで支援するCaster Anywhereでも同様だ。これからさまざまな業界・企業で人材不足が加速すると予想される中で、場所の制約を取っ払うリモートワークを取り入れることが候補者の幅を一気に広げる有効な打ち手になり得る。

また介護離職など、家庭の事情で退職せざるをえないメンバーが継続して働けるようにもなるかもしれない。中川氏の話では、実際にそういった点を危惧してリモートワークの制度を作りたいとキャスターに問い合わせをしてくる企業もあるそう。スタートアップでは以前からリモートワークを取り入れていた企業も多いかもしれないが、近年は大企業でも少しずつ浸透し始めている。

ただしリモートワークを導入するとなると、それまでの業務内容や業務フロー、人事制度・評価制度、組織設計などを把握した上で、必要に応じてアップデートする必要がある。各メンバーが自宅で不自由なく仕事ができる環境が整っているのか、コワーキングスペースを用意した方がいいのかなど、リモートワーク特有のチェックポイントも多い。社員数や部署の数が多い大手企業はなおさらだ。

「特に大手企業がリモートワークを導入したいと思った場合、(既存の働き方から移行するための)クッションとなる準備期間が必要になる。時間をかけて洗い出しながら検討するべきことはたくさんあり、そこを一緒に整理しながら企業ごとに最適な打ち手を提案するということをやってきた」(中川氏)

リモートワークの支援に向け、社内ツールの提供も視野に

今回の資金調達も当初は既存事業の拡大に向けて必要な資金を集めることを主な目的としていた。

Caster Anywhereのニーズが高まっていることに加え、CASTER BIZシリーズや在宅派遣を中心に事業基盤が整ってきた中で、そこにもっと投資をしていこうと考えていたという。

ただ冒頭でも触れたコロナウイルスの影響でキャスターの事業にも大きな変化があり、大きく状況が変わったようだ。

中川氏によると直近で急激にリモートワークの問い合わせが増加しているそうで、多い時には1日で数百件に及ぶ場合もあった。「明日から急遽リモートワークを導入することになったのですがどうすればいいでしょうか、社員は1.5万人です」といったように急を要するものも多く、今はリモートワークの基本的なノウハウを整理したホワイトペーパーなどを提供しつつ、順次サポートを進めているという。

「既存事業への積極投資というよりは、(コロナウイルスやそれに伴う緊急事態宣言の影響などで)世の中で止まってしまうオペレーションやインフラ維持のためにどこまで貢献できるか。ノウハウの提供であれ、人材の提供であれ、必要とされるところに投資をしていくことになる」(中川氏)

現在計画しているのが、キャスター社内で使っている内製ツールの提供だ。同社では700人以上のメンバーがリモート環境で働いているため、そこに最適化したセキュリティシステムや業務管理システムなどを自分たちで開発している。

中川氏いわく「社員全員、ないし少なくとも大多数のメンバーがリモートで働く環境でしか役にたたないツール」のためあくまで社内用として作ったものだが、急遽リモートワークを取り入れる会社が増えてくる中で「社内ツールが世の中の企業にとっても、非常に役に立つことがわかってきた」。

昨年2月にローンチしたクラウド型デスクトップ仮想化サービス「Caster Entry」も、最初は社内ツールとして開発したものだ。同じような形で、今後は社内の課題を解決するために作ったツールを外部企業にも提供していく方針。それにあたって必要となる開発にも投資をしていくという。

「『リモートワークを当たり前にすること』をミッションとして会社を立ち上げて以来、社内外でリモートワークを推進してきた。今はコロナウイルスの対応策として急激にリモートワークを導入する企業が増えている中で、導入や運用にあたって課題や悩みを抱えている企業も多い。これまで自分たちが培ってきたノウハウを基に、必要な仕組みやサービスを提供していきたい」(中川氏)

ブロックチェーン事業者向けサービスを提供するGincoがDBJキャピタルから資金調達

写真左:Ginco代表取締役 森川夢佑斗氏

ブロックチェーン技術による事業者向けサービスや暗号通貨ウォレットを提供するGincoは4月8日、DBJキャピタルを引受先とする第三者割当増資により、資金調達を実施したことを明らかにした。金額は非公開だが、関係者によれば「億単位」の調達とのこと。今回の調達はプレシリーズAラウンドに当たり、2018年1月発表の1.5億円の資金調達に続くものとなる。

ブロックチェーン事業者の規制・セキュリティの課題を埋める

Gincoは2017年12月の設立。創業当初はクライアント型のウォレットアプリ「Ginco」を個人向けに開発・提供しながら、非中央集権の分散型サービスへの入口としての役割を目指していた。Ginco代表取締役の森川夢佑斗氏は「ブロックチェーン技術の社会実装・普及は、仮想通貨から始まるという見立てだった」と個人向けウォレットサービスから事業をスタートした理由を説明する。

個人向けウォレットアプリGinco

「この見立ては正しかった」と森川氏。ただ、ブロックチェーンの主軸がパブリックチェーンといわれるオープンなものから、エンタープライズユースへと移り、急激に伸びていく中で、「法人向けのシステム提供へと大きく事業の舵を切った」と語る。現在Gincoでは、暗号資産やセキュリティトークンの業務用管理システムを提供してブロックチェーン技術を活用したサービスを開発・提供する事業者を支援する、法人向けのサービスを主力事業としている。

個人向けウォレット開発を通して、ブロックチェーンサービスを提供するためのシステム基盤を構築してきたGincoでは2019年1月末より、ブロックチェーンの鍵管理やAPI、ノードなどの技術をモジュール化。他のサービス開発事業者でも利用できるようにした。

2019年2月には、仮想通貨取引所向けの暗号資産管理システム「Ginco Enterprise Wallet」の提供を開始。ブロックチェーンノードの導入・運用サービスや業務用ウォレット、事業者独自のユーザー用ウォレットの開発など、仮想通貨取引所を運営する事業者がサービスづくりに集中できるよう支援を行う。

また同月、日本マイクロソフトとの提携により、ブロックチェーンサービス事業者向けのクラウド型ブロックチェーン環境「Ginco Nodes(ギンコ ノーズ)」の共同開発も開始しており、インフラとしてのノード提供にも取り組んでいる。

他業種に比べて大きくブロックチェーン活用が進んでいるのは、仮想通貨取引所をはじめとする金融領域の事業者だ。「日本ではこの1年ほど、特に『規制』と『セキュリティ』が、金融領域でブロックチェーンサービスが社会に受け入れられるための課題としてあった。事業者の課題とのギャップを埋めるソリューションとして、我々はいろいろなプロダクトを提供するようになった」(森川氏)

革新的サービスと規制・セキュリティ対応は両取りできる

2019年6月に公布された改正資金決済法では、交換業者のユーザーの資産保護に加えて、暗号資産の管理のみを行うカストディ業務についても規制が強化された。森川氏は「規制強化により、システム面のほか、オペレーションのスタッフやエンジニア増といった体制面でも、事業者は対応を迫られ、ビジネス規模とは別の部分でコストが大きくかかるという問題に直面している。スタートアップなどの小規模なところでは撤退する事業者も現れているが、私たちは(革新的なサービスと規制・セキュリティへの対応は)両取りできると考えている」と述べている。

「でなければ、テクノロジーの発展の意味はない。ブロックチェーンはそもそも、安全性や信用をこれまでより安価で効率よく構築できる技術として現れたもので、我々もそこに期待してこの領域で取り組んでいる。イノベーションと安全・安心の両取りができるようなソリューションを事業者へしっかり提供していくことで、真にブロックチェーンの技術的な価値を社会に適用させたい」(森川氏)

森川氏は「元々は、仮想通貨のウォレットで秘密鍵を個人が持ち、非集権的な個人主導の経済・金融の実現を描いていた部分もある」としながら、直近の事業展開については「実際に社会適用の観点で見ると、仮想通貨、特にビットコインについては2018年ごろから規制がきちんとでき、そこから取引高が日本でも大きく伸びた経緯がある。規制準拠とマーケット拡大とは、なかなか切っても切り離せないところがある。となると、事業者を通じてブロックチェーンが利用されるケースが多いということになる」と述べている。

また「一般向けでブロックチェーンを使った新しい顧客体験を生み出すようなサービスが登場するには、まだ数年かかるのではないか」という森川氏。まずは法人向けソリューション提供にフォーカスするとして、次のように語った。

「ブロックチェーンのエンタープライズユースは増えているが、ほとんどは業務改善・業務効率化といった文脈で活用されているケースが多い。金融業でいえば、発行社債の効率化や不動産登記への活用などが日本では進んでいるところ。また海外では医療系で電子カルテへの活用といったユースケースが増えており、適用されるユースケースはある程度、決まってきている。その中でまずは、我々が培ってきた技術を適用して、ソリューションとして提供していく。実際に進む領域に合わせて、事業者にブロックチェーンを使ったしっかりしたソリューション、社会適用できる、ギャップを埋められるソリューションを提供していきたい」(森川氏)

AIの社会実装の拡大を目指すギリアがグロービス・キャピタル・パートナーズから資金調達

統合AIプラットフォームの開発・提供を手掛けるギリアは4月7日、グロービス・キャピタル・パートナーズを引受先とする第三者割当増資を実施したことを明らかにした。グロービスの出資額は非公開。ギリアは、 同社CEOの清水 亮氏が創業したUEI(旧・ユビキタスエンターテインメント)とソニーコンピュータサイエンス研究所、ベンチャーキャピタルWiLが2017年に共同設立した企業。

同社はこれまで、2018年8月には、保険事業を手掛ける東京海上日動とコンサルティング事業を手掛けるシグマクシス、みずほキャピタル、2019年8月に教育事業を手掛けるトライグループとみずほ銀行、2019年9月に電気機器事業を手掛ける図研と資本提携や業務提携を結んでいたが、今回は創業時のWiLに続くベンチャーキャピタルの出資を受けることになる。今回調達した資金は、エンジニアなどの採用・教育、新サービスの研究開発、同社の認知度向上のためのプロモーション活動などに使われる。

グロービス・キャピタル・パートナーズ シニア・アソシエイトを務める南 良平氏は、「グロービスとしてもAIの社会実装というテーマは強く関心があり、それを可能にする有力な1社としてギリアへの出資を決めた」とのこと。同氏はプレスリリースでも以下のようにコメントしている。

AIの社会実装は社会的に不可逆なトレンドであり、潜在的に市場は巨大と認識しています。一方で、よく言われるように人材不足の中、一定のカスタマイズが発生する多種多様なニーズに応えられるプレーヤーは希少であり、ギリアは間違いなくその有力な1社と考えています。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所と株式会社UEIのジョイントベンチャーとして始まったユニークな“大人のスタートアップ”であり、既に有力な顧客・パイプラインを多く抱え、単なるPoC/受託開発に留まらないモデルを構築しつつあります。ギリアの目指す世界観の実現に大きく期待するとともに、今後ギリアの企業価値向上に向け伴走させていただけることを楽しみにしています。

ギリア代表の清水氏のコメントは以下のとおり。

仕事を通じてAIが社会に貢献できる領域の広がりを日々実感する一方、世界の先行きが不透明なこのタイミングでグロービス・キャピタル・パートナーズ様から資本参画いただいたことを非常に心強く思っております。同社の持つ豊富なコネクションとビジネス経験からの助言を賜りながら、ギリアはさらなるAIの社会実装を加速します。

ギリアは2019年12月にスイッチサイエンスと共同で、ギリアが開発したマウス操作によるAI開発を可能にしたGUIベースの深層学習ソフトウェア「Deep Analyzer」(ディープアナライザー)を利用して企業などの問題解決に活用する手法を学べる入門講座「Deep Analyzerワークショップ」を開催。AIをより簡単に使えるような取り組みを進めている。

関連記事:ソニーCSLが出資のギリアが一般顧客向けAIサービスの提供を2018年内に開始予定、ブラウザだけで誰でも人工知能

Airbnbが新型コロナ禍の中、未公開株式投資会社から1000億円超を調達

Airbnb(エアビーアンドビー)は米国時間4月6日、未公開株式投資会社であるSilver Lake(シルバー・レイク)とSixth Street Partners(シックス・ストリート・パートナーズ)から、融資および株式で10億ドル(約1090億円)調達したと発表した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、同社のオンライン宿泊マーケットプレイスが急激に落ち込む中でのことだ。

契約条件は公表されていない。Airbnbが以前公表していた上場計画に、この出資がどう影響を与えるのかもわかっていない。

新型コロナウイルスによって起こされるCOVID-19は、世界中の政府に自宅待機命令の発出を促し、旅行、接客業界にキャンセルの波を引き起こした。Airbnbはこの資金調達について、長期的投資に向けた現在進行中の事業を支援するためであると説明し、これが戦略的な投資であり低迷からの回復のためではないこと強調した。

「現在の状況が接客業界にとって困難なものであることは明らかだが、旅に出て本物の体験をする欲求は、基本的かつ永遠のものだ」とSilver Lakeの共同CEO兼マネージングディレクターのEgon Durban(イーゴン・ダーバン)氏は声明で述べた。「Airbnbの多様かつ国際的で弾力性のあるビジネスモデルは、世界が必ず復活し外へ出て旅を体験する時、発展するために最適である」

同じく米国時間4月6日にAirbnbのCEO、Brian Chesky(ブライアン・チェスキー)氏は、人とつながり旅に出る欲求はこの期間に強まっているが「それを具現化する方法は世界の変化とともに明らかになっていくだろう」と述べた。

Airbnbは、人々の働く場所と方法が変わっていくことに賭けている。そのため、同社は企業の焦点と新たな資金を「ホスト」「長期滞在」および「Airbnb体験」という3つ主力製品につぎ込むと語った。

2020年4月にAirbnbは、新型コロナの影響を受けたホストを救済するために2億5000万ドル(約272億円)を準備すると語った。これは、3月14日~5月31日の期間、新型コロナによる予約キャンセルがあった場合、ホストが通常のキャンセルポリシーの下で受け取るはずだった金額の25%をAirbnbが支払うものだ。このポリシーは上記期間の予約取り消しすべてについて遡って適用される、とAirbnbはいう。

これは新型コロナのために予約をキャンセルした宿泊客が全額返金を受けられる、という同社のポリシーに不満を募らせるホストに対する補償を目的としている。そのポリシーは現在も有効で、3月14日以前から5月31日までの間の宿泊を予約し宿泊客は、キャンセルして通常の返金または旅行クレジットを受け取れる。

画像クレジット:TOSHIFUMI KITAMURA / Contributor / Getty Images

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

10回のピボットで最適解を探し続ける妊活支援のファミワンが1.5億円を調達

「私自身が妊活に取り組んでいたときには、病院に行く行かないをどう判断するか、また何をすれば妊活によいのかが分からず、あいまいな情報に惑わされて夫婦でたくさん喧嘩もしました」

そう語るのは、LINEで妊活支援サービス「famione(ファミワン)」を提供するファミワン代表取締役の石川勇介氏だ。同社は4月6日、総額約1.5億円の資金調達をプレシリーズAラウンドで実施したことを明らかにした。KVP、Aflac Ventures、ベンチャーユナイテッド、AGキャピタルのほか、西川順氏や守屋実氏ら複数のエンジェル投資家が第三者割当増資を引き受け、また日本政策金融公庫からは融資も受けている。

「何が分からないのか分からない」妊活ユーザーが受け身でも使える

石川氏は起業前、医療関係者向け情報提供サービスのエムスリーに在籍し、新規事業の企画・開発に携わっていたが、自身が当事者として体験した妊活での課題を解消すべく、2015年6月にファミワンを設立した。

写真前列中央:ファミワン代表取締役 石川勇介氏

妊活のために検査・治療を行う夫婦・カップルは、現在6組に1組に上る。そのうち150万〜200万組ほどが病院で治療する(国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」)。人工授精や体外受精は保険が適用されない自由診療のため、治療のステップが上がるにつれて時間や費用の負担も上がる。費用は全体平均でも50万〜70万円、体外受精なら1度の治療で30万〜50万円がかかり、中には「クルマが2台買えるほど費用がかかったという人もいる」(石川氏)という。

年間の体外受精件数は約44万回となっており、2015年時点で体外受精により、5万人が誕生している(日本産科婦人科学会アートデータブック:PDF)。これは新生児の17人に1人という割合で、今や「クラスに1人は体外受精で生まれた子がいる」という時代になっている。

一方で、多額の費用をかけて不妊治療や体外受精を行っても、必ず子どもが授かるわけではないのも確かだ。妊活に取り組む人は、噂や個人の体験談など信頼性の低い情報にさらされ、半数以上の夫婦が「妊活・妊娠に関する情報を正しく理解できているかどうか、自信がない」と不安を感じている。

「Googleのアルゴリズムが変わり、今では検索結果1ページ目は医療機関や専門家からのちゃんとした情報が表示されるようになっているが、階層が深くなると、いまだに真偽のあやふやな情報も多い。『待ち受けにすると子宝に恵まれる画像』など、まあ害がないものならばいいのかもしれないが、こうした情報に踊らされて(妊活のための)時間を無駄にして、後悔する人も多い。1人でもそういう人を減らすサービスを提供したいと考えた」(石川氏)

famioneは、妊娠を望む夫婦・カップルや将来の妊娠を考える女性向けに、LINEを活用して、アドバイスや情報提供により妊活を支援。妊活に必要な知識や思考のサポート、精神面での改善サポートを行うことで、夫婦・カップルの話し合いや継続的な行動を支える。サービスが現在の形になったのは、約2年前の2018年6月のことだ。

「LINEで提供されている“相談”サービスは、妊活領域に限らずいろいろ出ているが『悩んだら使う』というものが多い」と石川氏はいう。「しかし、妊活ではそもそも『何が分からないのかが分からない』というところからスタートする人が多い。また他人には相談しない人が多い。自分もまさにそうだった」(石川氏)

これを「何を聞いていいか分からなくても、妊活を始めたら誰でもすぐ使えるようなサービスにしたい」と考えた石川氏。「LINEで友だち登録して、チェックシートに回答すると、専門家からのアドバイスが無料でLINEに届く」という3ステップで、受け身で質問に答えるだけでアドバイスが得られる形を取ることにした。ライフスタイルや妊活のステージに応じて質問やアドバイスが変わり、回答とアドバイスのやり取りを数カ月程度、継続する形になっている。

アドバイスの内容は、パートナーと妊活についてどう話せばよいか、といったユーザーの行動に関するものや、医療機関の選び方など。プラットフォームとしてLINEは利用しているが、「リアルタイムチャットではなく、適度な利用頻度で、必要なタイミングで情報提供している」(石川氏)とのことだ。国内で171名という妊活専門の不妊症看護認定看護師や、臨床心理士、胚培養士、妊活経験者のピアカウンセラーと連携して、さまざまなカテゴリーで専門性の高い回答が行えるような体制を取っているという。

2020年1月現在、累計登録者数が1万2000人を超えたfamioneは、これまでの利用者のフィードバックをもとにアドバイスの自動化を含め、プロダクトをアップデートしてきた。回答のアルゴリズムも構築できてきたとのことで、「サービス開始当初は、チェックシートからのユーザーの入力に対して2〜3時間ぐらいかけて回答していた。その後、よく書けたアドバイス、ユーザーの反応がよかったアドバイスをアルゴリズム化して、現在は40問のチェックシートに対する答えを8割方、自動で出力し、15分程度でアドバイザーが追記して返すことができるようになった」と石川氏は話している。

アルゴリズムのロジック改善により、始めは15ユーザーほどにしかアドバイスを返せなかったところが、今では約300ユーザーに向けて返信。ユーザーフィードバックの反応は維持・向上しながら、効率化も実現しているとのことで、「手動と自動化とのバランスをうまく取りながら、サービス提供している」と石川氏は述べる。現在、93%のユーザーが「次もアドバイスを受けたい」と答えているそうだ。

妊活開始からの継続利用を目指してサービスを設計

ファミワンが、2016年に最初の「famione」をリリースしてから現在の形のサービスに落ち着くまでには、同じ妊活領域で10回ものピボットを繰り返したと石川氏は語る。

「価値あるサービスを検証して改良し、自動化できるようになってようやく、より多くの人に届けられるところまでたどり着いた。昨年10月ぐらいからは、サービス連携やメディアへの記事提供などでグロースを仕掛けているところだ」(石川氏)

基本サービスは無料で提供されているfamione。収益源は医療機関マッチングによるユーザー送客、企業の福利厚生メニューや顧客特典としての有料版サービス提供、そして一般ユーザーへの有料プラン提供が主なものと想定されている。送客先のクリニックからは治療費の10%程度を手数料として得る考え。また一般ユーザー向け有料版のプレミアムプランは月額3980円で提供されている。

医療機関とのマッチングについては「ただ収益が上がればいいというのではなく、ユーザー本位の選択を重視し、利用フェーズや考え方に合わせて一番適切なところへ結び付けるようにしている」と石川氏はいう。

妊活を始めた時点から、病院や治療方法の選択、体外受精をするかどうかの検討や、妊活の“やめ時”の判断まで、継続的に利用してもらうことを前提に設計しているというfamione。「妊活を始めたばかりで検査・治療まではまだ考えていない人と、医療機関を検討し始めた人、既に通院している人では、ニーズが違う。コンバージョンを求めるのではなく、継続利用を目指している」(石川氏)

ファミワンでサービス設計を担当する、不妊症看護認定看護師の西岡有可氏も「不妊クリニックに長く勤めてきたが、ファミワンが大きく違う点は未受診者のユーザーが多いこと。妊活を始めたばかりの人にとっては、クリニックを予約すること自体が大きなステップとなる」として、次のように話している。

「妊活を始めてみて少し経つと、次に考えるのは、いつ受診したらいいのか、病院はどういうところがいいのか、といったこと。実は病院によって治療方針には結構違いがある。ライフスタイルや症状によっては、治療方針が合う・合わないが出るので、個々に合わせたアドバイス、マッチングができるようにしている。クリニック勤務のときには患者さんに勝手に転院を勧めることはできなかったが、ファミワンでは第三者的にアドバイスができるので、看護師として納得のいく仕事ができる」(西岡氏)

また、石川氏は、病院選びのマッチング精度についても、医療機関との連携とデータ解析により向上を図っていると述べている。

「学会認定医師の有無、不妊症看護認定看護師やカウンセラーの在籍状況や、クリニックサイトの掲載情報などから医療機関をリストアップするところから始めて、医療機関・医師からの情報提供、ファミワンによるヒアリングと見学評価により、情報の提示内容を改善している。最終的にはユーザーの属性ごとの選択結果や受信後の印象・成績、医療機関からの反応をフィードバックとしたビッグデータ解析により、夫婦で受診を考える際のよりよいサポートを実現していく」(石川氏)

妊活のフェーズが同じでも「夫婦・カップルにより考え方はいろいろ」と石川氏はいう。「まずは話を聞いてみたいだけの人、夫婦で話し合ってゆっくり妊活したいという人から、始めから体外受精をやりたいという人まで、多様なニーズがある。医療機関のほうも方針はいろいろなので、そこのギャップを埋めるために、システムやアルゴリズムを開発している」(石川氏)

こうした対応により、ユーザーから病院選びについての相談も多く、実際に通院を報告するユーザーも増えているというfamione。医療機関へのアプローチも始まっているそうだ。また鍼灸院やサプリメントといった代替治療でもアプローチを進めていくという。

「当社では送客の部分での市場規模は、医療で約2000億円、代替医療で約1500億円で、市場全体では全体で約3500億円と見ている」(石川氏)

famioneを妊活・出産領域のプラットフォームに

一般ユーザー向け有料版のプレミアムプランでは、病院選びのアドバイスが利用可能。また、LINEからの自由相談が回数無制限でいつでもできるほか、予約制で電話相談も可能となる(自由相談については、新型コロナウイルスの感染拡大にともない、妊活ユーザーの不安に応えるため、4月末まで無料で利用できる。一方、電話相談は一時休止されている)。

「一般ユーザーへの有料サービスは、直接のコンバージョンとしては捉えていないが、より深い個別サポートが必要なユーザーのために用意している。また、消費財メーカーなどとの連携により、サブスクリプションモデルとしての提供を検討しているほか、企業の福利厚生の一環としての(有料プランの)導入、セミナー実施も進んでいる」(石川氏)

一例として、小田急電鉄には2018年9月から従業員向け福利厚生プランを提供。管理職向けに妊活・不妊の理解促進を目的としたセミナーも実施している。福利厚生プログラムとしては、ミクシィグループでも導入されており、ほか、伊藤忠労働組合、全日本空輸(ANA)、ソニー、メルカリなどにはセミナー提供も実施。企業との連携ではウェディング会場で挙式するカップル向けのワークショップ開催なども行われており、今後、女性向けサービス、生命保険会社とも提携を協議し、検討していくという。

石川氏は「famioneを妊活・出産領域のプラットフォームとして展開していきたい」と語る。医療機関などへの送客や広告、物販支援と個人課金、大学・病院と共同での研究解析を核に、妊活情報の提供・サポートから、出産後まで含めた長期的なサポートへの展開、海外進出なども図っていきたいとしている。

直近では調達資金により、採用による組織拡大とプロモーション活動の強化を予定しているという。ファミワンでは2021年末をめどに、累計登録者100万人超を目指すとしている。

買取価格比較サイト「ヒカカク!」やトレカ専門フリマアプリ「magi」運営のジラフが6.6億円調達

買取価格比較サイト「ヒカカク!」などを展開するジラフは4月2日、DGベンチャーズなどを引受先とした第三者割当増資および金融機関からの融資により総額約6.6億円を調達したことを明らかにした。

ジラフは2017年秋から2018年3月にかけて実施したシリーズBラウンドで約5億円を調達していて、今回の調達はそれに続くシリーズCラウンドという位置付け。同社では本ラウンドでVCなどから追加の調達も検討しているという。

今回ジラフに出資・融資した企業は以下の通りだ。

  • DGベンチャーズ
  • DK Gate
  • オー・エル・エム・ベンチャーズ
  • Donuts
  • AG キャピタル
  • 吉田正樹事務所
  • みずほ銀行、りそな銀行(融資)

トレカのフリマ「magi」は月間流通総額が約1億円規模に

現在ジラフではヒカカク!のほか、匿名質問サービス「Peing-質問箱-」やトレカ専門フリマアプリ「magi」を展開している。特にここ1年ほどで力を入れてきたのが昨年4月にローンチしたmagiだ。

個人間でトレカの取引ができる同アプリのインストール数は現時点で約30万件ほど。直近では若干コロナウイルスの影響も受けてはいるそうだけれど、最高値としては月間の出品数が11万件、取引回数が7.2万件まで成長し、月間の流通総額も約1億円まで拡大しているという。

トレカ自体はこれまでもフリマアプリやオークションサイトなどを通じてオンライン上でやりとりされてきたが、magiの場合は細かいカテゴリごとにカードを検索できるのが1つの特徴。たとえば遊戯王やポケモンカードなどタイトルを絞るのはもちろん、モンスターの属性(ドラゴン、魔法使いなど)やカードの種別(モンスター、魔法、罠など)ごとに細かい軸でカードを探せる。

また「募集」カテゴリを通じて買い手側から欲しいカードを募集する機能を取り入れることで、出品者側の売れ残りの課題を解消するための仕組みを整備。カード特化のフリマアプリならではの取り組みとしては、水漏れや破損を防ぐべく梱包キットの開発・販売なども行なっている。

これらの施策とともに手数料の安さ(当初は無料で昨年10月から3%、この4月からは7%に変更)などもあいまって、序盤からユーザー獲得が進んだようだ。

「熱量の高いユーザーが多いことに加え、買い手と売り手が転換しやすいのがこの領域の特徴だ。平均単価が2000円ほど、1人あたりの月間購入回数も6件ほどとアクティブに使ってもらえていて、良い形で立ち上げることができた。ユーザーの増加に対してなかなか機能整備が追いついていない時期もあったが、そのバランスが取れてきたので今回の調達を機にさらに投資をしていく」(ジラフ代表取締役の麻生輝明氏)

直近ではコレクションニーズに応えるための取り組みとして、プロがカードの真贋鑑定を行う「あんしん取引」機能をリリース。特に遊戯王やマジック:ザ・ギャザリングなどの人気タイトルでは偽物が出回っていることも多いそうで、高価なものだとオンライン上で取引するハードルも高くなる。この機能ではプロの鑑定を挟むことで、高価なカードの流動性を上げていくことが目的だ。

麻生氏によるとリリースから約3週間であんしん取引機能を使って7度の売買が行われたそう。もっとも高額のものは1枚13万円だったという。

ヒカカク!とmagiにさらなる投資へ

創業事業であるヒカカク!はすでに単月黒字化を達成しており、月間利用者数はセッションベースで300万人、見積もり依頼件数は4万件を超える規模に成長。現在もジラフの収益の7割ほどを占める根幹事業となっていて、今後も引き続き強化をしながら伸ばしていく計画だ。

もう1つのPeing-質問箱-については、多くの新規ユーザーを獲得しにいくというよりは、いかに既存ユーザーに継続して使ってもらえるかを現在は重視しているそう。その中で新機能や有料機能・商品などを取り入れながら収益化に向けた取り組みにも力を入れるとのことだった。

今回調達した資金は特にヒカカク!とmagiに投資をする方針。特にmagiについては事業基盤が整ってきた中で、今後はユーザー拡大やマネタイズに向けた動きも進める。大きいところでは、トレカのみならずボードゲームやフィギュア、シールなどコレクターズアイテム領域に広げていく計画もあるようだ(すでに取り扱いがスタートしているものもある)。

直近では元モブキャストゲームス取締役CMOの松本晃宏氏が執行役員として参画するなど経営体制の強化も進んでいるそう。さらなる事業成長に向けて人材採用への投資も引き続き行なっていくという。

法律書籍を自由に横断検索・閲覧できる月額制サービス「Legal Library」が5000万円を調達

約数百冊の法律書籍や官公庁の資料を横断検索できるデータベース「Legal Library」を展開するLegal Technologyは3月31日、マネックスベンチャーズより5000万円を調達したことを明らかにした。

同社はこれまで複数のエンジェル投資家より資金調達を実施しているが、VCからの調達は初めて。今回も含めた累計調達額は約1億円になるという。

昨年12月の正式ローンチ時に詳しく紹介した通り、Legal Libraryは弁護士のリーガルリサーチ業務の負担を削減するサービスだ。

掲載されている書籍を定額でいくらでも閲覧できるという点では法律書籍の電子版に特化したサブスクサービスのようでもあるけれど、リサーチを効率化する仕組みとして「気になるキーワードで書籍を横断検索する仕組み」なども備えている。

たとえば「ストックオプション」と検索すればタイトルや本文中に関連する記載のある書籍がすぐに出てくる。そのままオンライン上で中身までチェックできるためリサーチ業務がサクサク進む。お気に入り登録やメモを残しておけば、いつでも簡単に参照することが可能だ。

従来のやり方だと、弁護士会の図書館や事務所内の図書室などで関連する書籍を手当たり次第調べることから始めなければならなかったので、参考になる文献にたどり着くまでに時間と手間がかかっていた。そもそも外出先や出張先ではすぐに調べ物ができないという場所の制約もある。

Legal Libraryではこのリーガルリサーチ業務を全てオンライン化できるのが特徴。重たい書籍を持ち歩く必要もなく、何かを調べたいと思った際にPCやタブレットからスピーディーにリサーチができる。

Legal Technology代表取締役CEOで弁護士でもある二木康晴氏によると、ローンチから3ヶ月ほどで約2500人が無料トライアルを実施し、すでに1000人程度が有料(月額5200円)で活用しているそう。かなりシンプルなプロダクトではあるものの、既存の業務フローに対して課題意識を持っていた弁護士が多かったのだろう。

今は個人ユーザーが中心だが、一部では弁護士事務所が海外駐在中の弁護士や地方オフィスにいる弁護士のために人数分のアカウントを契約するケースも出てきているという。

「今のところはサブ的な使い方が多い。Legal Libraryだけで業務を完結させるというよりは、これがあることで書籍を持ち運ぶ煩わしさがなくなった、わざわざ家に持ち帰る必要がなくなったという点に価値を感じてもらえている。手元に書籍がない時に急な調べごとや困りごとが発生した時でも、Legal Libraryがあれば安心してもらえる」(二木氏)

掲載コンテンツは現在数百冊ほど。ただし数よりも質を重視し、二木氏自身が「実際に弁護士が実務で使いたいと思う書籍」を1冊ずつリストアップした上で、タッグを組む出版社と交渉をしているそうだ。

「実際にユーザーの利用状況を見ていても、使われる本はかなり偏りがある。冊数を闇雲に増やしても、弁護士の実務において本当に必要とされる書籍が入ってなければ意味がない。もちろん今後も冊数は拡充はしていくが、書籍は厳選していく方針だ」

「本当に必要な本を網羅できていれば、ユーザーにとって利便性が高くなるだけでなく、その結果として出版社にもしっかり収益を分配できるようになる。プロダクト構想時に初めて出版社に声をかけた頃はこのビジネスに懐疑的な会社が多くなかなか共感を得られず大変だったが、最初の分配金をお支払いすると『こんなにもらえるんだ』とポジティブな反応も得られた」(二木氏)

今回調達した資金に関してはプロダクトの機能拡充に向けた人材採用やプロモーションへ投資していく計画。「現時点ではまだまだビューアーにとどまっている状況」だというが、今後はリサーチのためのシステムとしてより便利に使えるような機能追加を進めていく。

まずは4月をめどに書籍内に記載されている契約書のひな形や書式をWord形式で出力できる仕組みを実装する予定。そのほかラインマーカーを引いた箇所やメモの内容をプロダクト上で他のユーザーに共有できるような仕組みも検討している。パートナーとアソシエイトとの間で、もしくはクライアントとの間で書籍に関するトピックをそのままシェアできるようなイメージだ。

「基本的にはリサーチをした後は誰かに報告をするので、その報告業務をいかにしやすくするかという観点でも機能を強化する。自分自身が弁護士として現場経験もあるからこそ、実際のリサーチ業務に沿った形で、そこをより簡単にできるような機能を充実させていく」

「もともとこのプロダクトを作ったのも、コンサル時代に本当に不便だったから。会社のお金でバンバン本を買うのは難しいから図書館を往復したり、自腹で購入したりで時間もお金もかかっていた。そんな状況を変えたくて、自分自身が1人のユーザーとして欲しいと思うものを形にした。みんながスムーズにリサーチできるように今後もプロダクトを進化させていきたい」(二木氏)

この領域では弁護士ドットコムも先日新サービスをリリースしたばかり。これらのプロダクトによって従来のリーガルリサーチ業務がどのように変わっていくのか、今後に注目だ。

“AIを守るセキュリティ”開発へ、研究者4人が創業したChillStackが3000万円を調達

AIを活用したセキュリティシステムの研究開発に取り組むChillStackは3月31日、DEEPCOREを引受先とする第三者割当増資により3000万円を調達したことを明らかにした。

ChillStackは2018年11月に代表取締役CEOの伊東道明氏ら4人の研究者が立ち上げたスタートアップだ。4人は法政大学在学中に同じ研究室でAIの研究を行なっていた仲間で、全員が国際学会で論文を発表した経験を持つ。

中でも代表の伊東氏は学生時代からAI×セキュリティ分野の研究に従事。国際学会での最優秀論文賞の受賞経験があり、その反響で様々な企業からセキュリティシステムに関する相談を受けることもあったそう。次第に「1つの会社に入ってシステムを作るのではなく、いろいろな会社に技術を提供したい」という思いが強くなり、ChillStackの創業を決めた。

AI活用でゲームやアプリの不正利用を自動検知

現在ChillStackでは大きく2つの事業を展開している。1つは「AI“で”守る」プロジェクトだ。Webアプリやゲームなどにおける不正利用をAIを用いて検知する取り組みで、昨年夏に「Stena」というプロダクトをローンチした。

Stenaは導入企業から提供されたログデータを基に、様々なデータからチートやBotなど大きな被害に繋がる不正行為を自動で検知する。過去の利用ログから正常な行動パターンを学習することで、サービス本来の使い方らかけ離れた行動をするユーザーを瞬時に捕捉。人力で対応するには高度な専門知識がなければ発見が難しい複雑なパターンなどにも対応できる点が特徴だ。

現在Stenaではオンラインゲームを手がける企業を対象にサービスを提供している。この業界は競合が多く競争が激しいため、ほとんどの予算をゲームの質を高めることに使う必要があり、どうしてもセキュリティ分野への投資が後回しになりがちなのだそう。結果としてある程度の不正利用を許容せざるを得ないなど、大きな課題になっている。

今の所はSaaSモデルのツールとセキュリティエンジニアによる人的なサポートを組み合わせて提供しているが、今後はより安価に使えるように一連の工程を全自動化したツールも開発していく計画とのこと。対象領域もゲームのみならず、広告やチケット販売システムなど別領域まで広げていきたいという。

AIをサイバー攻撃から守るセキュリティシステム開発へ

このAIで守る事業と並行して研究開発を進めているのが「AI“を”守る」プロジェクトだ。自動運転やスマートシティ、スマートスピーカー、顔認証システムなど日常生活の様々なシーンにおいて今後AIが浸透していくことは間違いないだろう。そこではAI自身がサイバー攻撃の標的となる危険性があり、AIを様々な攻撃から守っていかなければならない。

AIを開発する工程でセキュリティを考慮せずにいると、攻撃者が細工したデータが学習データに注入されることでAIにバックドア(侵入ルート)が設置されてしまったり、AIの入力データが偽装されることでAIの判断に誤りが生じてしまったりするなど様々な問題が起こりうるという。

いずれ顕在化するであろうニーズに備えて、ChillStackではAIを守る技術の研究開発を進めている。伊東氏によると既存システムに対する攻撃手法とAIに対する攻撃手法とは根本的に原理が異なるものが多く、これまでのセキュリティ技術だけでは十分な対策ができないそう。AIを守るためには、それに特化したセキュリティ技術が必要になるわけだ。

今月からは三井物産セキュアディレクションとも共同研究に取り組んでいて、5月を目処にイチからAIの安全確保技術を習得できるハンズオン・トレーニング(研修プログラム)を提供する予定。現時点ではAIのセキュリティに対応できる人材が少ないため、まずはその人材を育てる活動から始める。ゆくゆくはこの領域における脆弱性診断ツールなども開発していく計画だ。

ChillStackでは今回調達した資金を用いてエンジニアやビジネスサイドのメンバーの採用を強化し、プロダクトの研究開発、拡販に力を入れるという。

ウォレットアプリのKyashが約47億円調達、チャレンジャーバンクへの進化目指す

ウォレットアプリ「Kyash」や決済プラットフォーム「Kyash Direct」を展開するKyashは3月31日、シリーズCラウンドで約47億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

Kyashにとっては昨年7月に実施したシリーズBに続く調達で、本ラウンドを含めた累計調達額は約74億円となる。

今回興味深いのはリード投資家を務めたGoodwater CapitalとGreenspring Associatesを筆頭に、海外投資家が多く参画していること。具体的な投資家リストは以下の通りだが、既存投資家でもあるジャフコ以外は全て海外勢となった。

  • Goodwater Capital(既存投資家 / 米国VC)
  • Greenspring Associates(米国ヘッジファンド)
  • Altos Ventures(米国VC)
  • Greyhound Capital(英国グロースキャピタルファンド)
  • Partech Partners(米国VC)
  • Broadhaven Capital Partners(米国ヘッジファンド)
  • Tekton Ventures(米国VC)
  • ジャフコ(既存投資家)
  • Rahul Mehta氏(DST Globalのマネージングパートナー)

Kyash代表取締役の鷹取真一氏によると、同社にとって今回の調達は「決済からその先を作っていく」ことを目的としたものだ。以前から鷹取氏が言及していたデジタルバンク(チャレンジャーバンク)への進化に向け、関連するライセンスの取得なども含めて体制や事業基盤を整えていくという。

新しくなった「Kyash Card」を発表

Kyashでは昨年7月のシリーズB以降、いくつかのアップデートを行ってきた。

個人向けのウォレットアプリ・Kyashでは10月より新たなインセンティブプログラム「Kyashポイント」の提供をスタートし、2020年2月からは新しくなった「Kyash Card」の申し込みも開始した。

概要発表時にも紹介した通りだが、Kyash CardではICチップを搭載して新たにサインレス決済やVisaタッチ決済にも対応。これまで以上にスムーズな決済体験を実現するとともに、1回の利用限度額(30万円)と1ヶ月の利用限度額(100万円)を従来のリアルカードから大きく拡張した。

鷹取氏いわく「(従来の)ライトなプリペイドカードから、カード事業者としてより深く決済事業に入り込んでいくフェーズに差し掛かっている」状況だ。

法人向けのKyash Directについても10月にサービスを始めた。これはKyashがウォレットアプリを通じて培ってきた決済技術を外部企業でも使えるようにする取り組みで、カード発行からプロセシング業務まで、決済に関わる一連のプロセスをAPIを通じてワンストップで提供する。

利用企業にとっては長期の開発期間と大規模な初期投資が必要とされてきた法人Visaカードを、スピーディーかつ低コストで発行できることが大きな特徴だ。この基盤を用いたサービスとして、経費精算サービスと一体となった法人プリペイドカード「Stapleカード」がすでに発行を開始している。

ペイメントからバンキングへの進化へ

鷹取氏の中ではこの2つのサービスをAmazonにおける「Amazon.comとAWS」のような関係性だと捉えていて、今後のKyashにおいても両サービスを軸に展開していく計画。ただ足元ではウォレットアプリの方が1つの大きな転換期を迎えつつあり、これから決済・送金アプリからチャレンジャーバンクへの進化に向けた動きもありそうだ。

「現時点で開示できる情報は限られるが、バンキング関連の準備が徐々に整ってきている。今までは決済および送金ができるペイメントサービスの色が強かったが、今後はそれを軸に周辺の金融サービスも含めて横断的に提供することを目指していく」(鷹取氏)

Kyashが狙っているのは、ローンの引き落としや貯蓄といったセービングアカウントではなく、日常生活での支払いなどで活用するチェッキングアカウントとしての役割だ。

海外ではこの2つが明確に分けられている場合が多いそうだが、日本では「銀行口座」として1つにまとめられている。まずは国内で利便性の高いチェッキングアカウントとして使えるように、関連する機能を準備していく計画だという。

「今でも1ヶ月、1週間で必要な金額をKyashにチャージして支払いに使っているユーザーも多く、管理のしやすさやお金の流れを見える化できる点に利便性を感じてもらえている。その体験をより口座に近い概念で提供できると、もっと便利に使ってもらえる感覚がある」(鷹取氏)

鷹取氏の言う「口座に近い概念」が実現すると何が変わるのか。たとえば、そもそもチャージしなくても使えるようになる。わかりやすく言えば、Kyash上で給料を受け取れるという話だ。

もちろん現行の日本の労働基準法では電子マネーでの給与支払いが認められていないため、法律が変わらない限りは実現できない。ただこれについては以前から議論が進んでおり、規制の見直しが期待されている分野でもある。

Kyashでは電子マネーでの給与支払いが解禁されることも見据え、解禁後に少しでも早く対応できるようにライセンスの取得や体制の強化を進めていくとのことだった。

特定のライセンスに関する言及はなかったものの、現時点で同社は資金移動業者として登録されていないため、仮に給料をアプリ上で受け取れるようになっても現金で引き出すことができない。資金移動業の取得は当然視野に入っているだろう。

デジタルバンクとして新たな市場を作るチャレンジ

Kyash代表取締役の鷹取真一氏

今回同社が新たに資金調達を実施したのは、上述したようにデジタルバンク事業を推進することが大きな目的だ。本ラウンドでは複数の海外投資家が参加しているが、投資家からは既存事業のトラクションやプロダクト基盤なども踏まえた上で「海外のデジタルバンクと今後同じ軌道を辿っていけると期待してもらえた結果、投資に繋がった」という。

「海外では『Monzo』や『N26』など自分たちより数年先を行っているプレイヤーがいるが、各社はバンキングになったタイミングで一気に評価額を上げた。(デジタルバンクは)モバイルファーストの体験によってユーザーの利便性を上げているだけでなく、顧客獲得コストや管理コスト、収益構造なども従来の金融機関とは全く異なる」

「そこに業界を変革できる可能性があることを海外の投資家はいち早く目の当たりにしている。今回のラウンドではテクノロジーカンパニーがこの市場を変えていくと本気で信じている投資家に参画してもらえたことが自分たちにとっても大きい」(鷹取氏)

実際にGoodwater CapitalやGreyhound Capitalなど、すでに海外のチャレンジャーバンクへ出資している投資家が加わっているのも興味深いポイントだ(前者はMonzo、後者はRevolutに出資済み)。

チャレンジャーバンクに関しては欧米を中心にグローバルで複数のユニコーンが存在し、競争が激しくなってきている。一方でこの領域は法規制や既存事業者の状況など地域ごとでも大きく環境が異なるため、各地でローカルのプレイヤーが生まれやすい側面もある。少なくとも今回の投資家陣は、Kyashには日本で市場を作っていけるポテンシャルがあると考えているのだろう。

とはいえ日本の競争環境もシビアだ。昨年末の「ヤフーとLINEの統合合意」や「Origamiのメルカリグループ参画」のニュースは大きな注目を集めたが、変化のスピードが早い上に、豊富な資本力によるパワープレイの要素も大きく、スタートアップが単独で生き残っていくことは簡単ではない。

その点について鷹取氏は「国内の競争環境は当然無視できないものであり、ユーザー視点でも複数の選択肢が存在することは事実」としつつも、「他社サービスに勝つ・負けるということ以上に、日本の金融市場や社会において(デジタルバンクという)新しい市場を作っていけるかが最大の挑戦だ」と話す。

「自分たちの特徴はニュートラルで中立性が高いこと。何か別で本業のミッションがあるわけではなく、『ユーザーのファイナンシャルサクセスを実現すること』に注力して事業に取り組んでいるのはユニークなポジションだと考えている。新しい道を切り開き、市場を作っていけるようなリーディングプレイヤーを目指したい」(鷹取氏)

わずか2行のコード追加でIPベースの音声とビデオを搭載可能になるチャットAPI

チャットのAPIで成功したSendBirdは米国時間3月26日、それに音声とビデオを加えたことを発表した。CEOで共同創業者のJohn Kim(ジョン・キム)氏はTechCrunchに「テキストによるメッセージングだけでなく音声通話とビデオの録画を加えて対話機能を拡張したい。それによって、もっと総合的なAPIを利用できるようになる」と語る。

その新しいツールはIPベースの配信システムを使うので電話回線は必要ない。これによって、Twilioのような人気の高い通信APIプラットホームと差別化できるだろう。

キム氏によると、チャットAPIでは今や彼の企業がトップで、毎月1億の対話を提供している。それによって、ライドシェアやフードデリバリーなどのオンデマンドサービスや、オンラインのマーケットプレースとコミュニティが成り立っている。「最近では、デジタルヘルスのアプリケーションが伸びていて、特に今の新型コロナウイルス(COVID-19)の危機の間はテレヘルスのアプリが医療アドバイスをもらう実用的な方法だからますます伸びるだろう」とキム氏は言う。

「音声とビデオを加えればそのぶんサービスを支えるリソースも増えるが、SendBirdはすでにそれらに対応したプラットホームになっている」と同氏。「おそらくSendBirdの差別化要因は、スケール能力だ。だから需要が増えても技術的には何ら問題ない」とのこと。

課金は分単位。それが音声とビデオに関する業界のベストプラクティスだ。SendBirdを使えば、自分のアプリにわずか2行のコードを追加するだけで音声とビデオ機能を加えられる。しかし同じような価値命題を最近MasterCardが買収したPlaidやTwilioやStripeも表明している。でも、高度なAPIを簡単に使えずに自分で音声やビデオ機能を実装するとしたら、それは大変すぎる。

SendBirdは2013年創業で、Y Combinatorの2016年冬季に参加した。今社員は200名あまりで、PitchBookによると1億2000万ドル(約130億円)以上を調達している。同じくPitchBookによると、評価額は昨年5月現在で2億8700万ドル(約312億円)あまりだ。そのとき同社は5000万ドル(約54億円)の拡張シリーズBを発表し、シリーズBの総額は1億200万ドル(約111億円)になった。

関連記事:メッセージングAPIツールのSendBirdが第2次シリーズBで累計約133億円調達

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

月額4万円からの住み放題サービスADDressが関西初上陸、大阪・枚方と岡山・奉還町に拠点展開へ

月額4万円からの全国住み放題・多拠点コリビング(co-living)サービス「ADDress(」アドレス)を展開するアドレスは3月27日、JR西日本イノベーションズの出資を受けたことを明らかにした。今後はJR西日本グループと連携を図り、西日本エリアに拠点を拡大していく。なお、JR西日本イノベーションズのほか、NECキャピタルソリューション、みずほ成長支援第3号投資事業有限責任組合、MSIVC2018V投資事業有限責任組合、ガイアックスからも資金を調達している。

ADDressは、月額4万円からの定額で全国の拠点に自由に住めるサービス。個室を確保しながら、シェアハウスのようにリビングやキッチンなどを共有。空き家や空き別荘のオーナーと契約することで、遊休不動産の活用とコスト抑制を図っている。

JR西日本グループとの提携第1弾となるのは大阪の枚方と岡山の奉還町の2拠点で、それぞれ大阪府、岡山県では初の拠点となる。

ADDress枚方

ADDress枚方は、長尾家具町に立地する準工業エリアの長年空き家になっていいた物件。昭和に建てられた木造2階建の住宅で「高度経済成長期にタイムスリップ」をコンセプトにリノベーションしたという。オーナーが初期費用を負担し、アドレスがオーナーと転貸借契約を結んで賃貸物件として提供する仕組みとなる。

ADDress奉還町

一方のADDress奉還町は、新幹線の岡山駅西口を下車すぐの岡山市北区奉還町の物件。商店街内の路地を少し入った場所にある土間造りのある古民家風のゲストハウスとなっている。壁一面には、アーティスト「ESOW」による、くつろいでいるおじさんの絵が描かれている。 また、部屋には岡山で有名なデニムブランド「JAPAN BULE」のデニム畳とデニムクロスを施している、さらに近所には、純喫茶を改装したコワーキングスペースカフェもある。

 

自治体から住民への通知を自動化する「BetterMe」開発のケイスリーが1.9億円を資金調達

写真後列中央:ケイスリー代表取締役CEO 幸地正樹氏

地方自治体のSDGs推進支援や行政機関向けプロダクトの開発に取り組むケイスリーは3月26日、モバイル・インターネットキャピタルが運営するMICイノベーション5号投資事業有限責任組合を引受先とする第三者割当増資により、総額1億9000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。同社の外部からの資金調達はこれが初となる。

コンサルティングとプロダクトの両輪で社会課題解決目指す

ケイスリーは2016年4月、PwCコンサルティングでコンサルタントとして、主に官公庁向けの支援に従事していた代表取締役CEOの幸地正樹氏が「日本でもインパクト投資の手法として、(課題解決の成果に対し報酬を出す契約である)ソーシャルインパクトボンドの導入をもっと進めたい」と設立したスタートアップだ。

ケイスリーが目指すのは、社会課題解決の基盤づくり。これまでに、地方自治体のSDGs推進支援、ソーシャルインパクトボンドの導入推進など、新しい社会的課題解決手法の構築に携わってきた。地方自治体へのコンサルティング事業と、行政分野を対象にしたGovTechプロダクト事業を両輪として展開している。

2017年8月には、日本初のソーシャルインパクトボンドを組成し、八王子市で成果連動型の大腸がん検診受診率向上事業に行政アドバイザーとして関わったケイスリー。その後、広島県内6市で実施した大腸がん受診勧奨事業で得た知見もあわせ、厚生労働省の支援のもとで、2019年3月から沖縄県浦添市で機械学習と行動経済学の知見を用いたプロダクトの実証実験を開始した。浦添市では、大腸がん検診の受信を勧めるメッセージをSMS経由で、国民健康保険に加入する1万7000人の住民に自治体から自動で配信するサービスを、SMS配信事業のアクリートとの提携により行っている。

この実証実験をベースに、さらに公的通知自動化サービスとして進化させたのが、同社が開発中のGovTechプロダクト「BetterMe」だ。BetterMeは2019年10月、500 KOBE ACCELARATORSにも採択され、現在開発を本格化させている。

500 KOBE ACCELARATORSに参加したケイスリーのプロダクトチームメンバー。左から2人目が取締役CFO 森山健氏

ケイスリー取締役CFOの森山健氏は、「コンサルティングとGovTechの両輪で事業展開することで、自治体が抱える課題を発掘して、解決手法を見つけ、洗練し、プロダクトとして戻すという流れを作ることができ、PDCAをまわすことを可能にしている」と同社の特性について説明する。実際、自治体で支援を行うときにも役所の担当者と行動をともにして、住民からのヒアリングをもとにPDCAサイクルに反映しているという森山氏は「現場は大事」と語る。

事業のうち、コンサルティング領域では、現場に近いNPOから国際イニシアチブまで、さまざまな規模の組織について、産官学および金融との連携にかかわる戦略策定から、案件組成に不可欠な現場支援まで、幅広くサービスを提供しているという。

「IT系スタートアップがいきなり地方自治体へプロダクトを持ち込んで営業しても、門前払いされることも多い。ケイスリーでは、成果連動型のソーシャルインパクトボンドを取り入れる手法や、コンペで政策課題の解決を目指す方法をコンサルティングで伝え、課題解決のためにテクノロジーを掛け合わせることで、実際の社会課題解決につなげることを目指している」(森山氏)

また、官民が連携し、成果に連動して報酬が得られるソーシャルインパクトボンドの効用については、森山氏は次のように述べている。「課題に対して、例えばSMSのサービスというモノを売るのでは、1配信につき単価数円といったつまらないビジネスになってしまう。『受診者が増えたら1万円』といった成果・付加価値を売るという形に切り替えることで面白いサービスができ、行政コストの適正化も図ることができる」(森山氏)

浦添市のケースでは、職員が検診を勧める電話などをかけるのにかかる年間4万2000時間を人件費として換算すると、およそ1.3億円をSMSの自動送付で置き換えることができると試算。また受診率を12%改善できるとすれば、早期治療により適正化できる医療費は年間約2000万円と見積もられている。

行動経済学とデータでよりよい意思決定を促すプロダクトづくり

ケイスリーでは事業コンセプトに掲げる「社会課題を最速で解決するための基盤をつくる」を実現するために、データサイエンスと行動経済学を組み合わせ、プロダクトへ取り入れようとしている。

浦添市の実証では、単に自治体から住民への告知を紙からSMSに変えたというだけではなく、どういうメッセージを送るかでも、がん検診の受診率に差が出ているという森山氏。例えば、他の民間業者がこれまで手を付けていなかった、「無関心期」にある未検診者へのメッセージ配信では、受診率1%だったところが16%にまで向上したという。「文面は30パターンほど用意し、12回の配信でPDCAをまわして改善していったところ、よい実証成果が得られたと思う。メッセージへの反応(ナッジ)には地域性もあるようだ」(森山氏)

森山氏は「検診に行かない人には、交通手段がない、検診に行く時間やお金がつくれないなど、何らかの理由があり、これが検診率と密接に関連している。面倒くさがり屋だとか、健康意識が低いと決めつけるのではなく、これこそを行動経済学の知識で階層化していくと、よりよい成果が得られるだろう」と話す。「そのほか、気温と受診率などにも相関がある。今後、行政データや行動データなどのデータベースを拡張し、ビッグデータを解析することでも成果がさらに上がるのではないか」(森山氏)

「行動経済学はノーベル経済学賞を4回受賞している分野だが、紙と鉛筆で研究が行われている非常にアナログな世界。まだテクノロジーがそれほど使われていないので、これはチャンスだと感じている。行動経済学をデジタル化・インフラ化することで、現在手がけているがん検診の受診勧奨だけでなく、今感染症で話題になっているソーシャルディスタンス対策や、災害時の自治体からの迅速で的確な発信などにも役立てることができるようになるだろう」と森山氏は言う。

森山氏は「人間の意思決定の数理モデル化、ナッジと呼ばれる人の行動のきっかけとなるしかけ(浦添市の例ではメッセージの内容に当たる)、成果の効果測定の3つをそろえることで、PDCAサイクルをまわして、行動経済学のデジタル化に取り組むことができる」と考えている。

「行動経済学でアナリティクスカンパニーをやる、というのは世界でも例がない。行動経済学をデジタル化して、API開放することにより、ショートメッセージだけでなく、LINEでも、チャットボットと組み合わせても使えるようにできる。チャネルは多様化させるとして、エンジンとなる部分をこれから掘り下げていけば、世界にないサービス、テクノロジーが提供できると考えている」(森山氏)

調達資金は、500 KOBE ACCELERATORで本格化させた「BetterMe」の開発に活用するというケイスリー。特に、自治体向けサービスを開発するにあたって求められる行政ビッグデータの解析では、情報セキュリティ対策を重視し、インフラ、ネットワークに強いエンジニアの採用を強化すると森山氏は述べている。

「ガンダムに例えれば、僕らがやろうとしているのは、人間をニュータイプにする試み。また、これは消費者保護の取り組みでもあると考えている」という森山氏。「古典経済学で言うところの『合理的判断』ができないのが人間で、不確実性のもとでの人間の意思決定を科学するのが行動経済学だ。これをプロダクトに取り入れることで、『この広告に騙されたらダメだよ』『50代になったので、がん検診に行った方がいいですよ』と、チャットボットなどが分身として人間の判断を助けてくれるようになれば、人間はニュータイプになれるのではないかと思っている」(森山氏)

「行政に都合の良い市民を作りたいというのではなく、市民が情報を正しく認識して、よりよい意思決定を自分のためにできるよう、お手伝いしたい。それが行政が望む姿と重なっている領域で、事業を行っていきたい」(森山氏)

イベント一元管理プラットフォーム運営のbravesoftが約4億円調達、キャッシュレスや整理券など機能拡充を進める

bravesoft(ブレイブソフト)は3月26日、第三者割当増資とデットファイナンス(借入)によって総額約4億円の資金調達を発表した。第三者割当増資の引受先は、ベネッセホールディングス、ディップなどを含む複数の事業会社。

同社は、初期費用30万円、月額10万円でイベントの申込管理やライブ配信、公式アプリ構築などを一元管理できるプラットフォーム「eventos」(イベントス)を開発・展開。そのほかにも「ボケて」や「TVer」「首相官邸」「31 アイスクリーム」など800件以上のアプリの開発実績がある。

eventosは、チケット・来場申込、情報収集、マッチングなどイベント前に使える機能のほか、スケジュール、ガイドマップ、待ち時間といった、イベント当日のストレスを軽減する機能、スタンプラリー、リアルタイムアンケートなど、イベントを盛り上げる機能、イベント後のアンケート、分析など、次回のイベントをより良くするための機能を備えているのが特徴だ。もちろん、ライブ配信によるオンラインイベントを開催することも可能となっている。東京ゲームショウや東京モーターショーなどでの運用実績があり、これまで100件以上のイベントで、累計100万人以上が利用したという。

同社今回の調達した資金を、無料版、キャッシュレス対応、整理券、高度な分析、グローバル対応など、ユーザーにニーズが高い機能の開発を進めるという。

AIが飲み込む力を計測する嚥下計「GOKURI」開発のPLIMEが1.5億円を調達

PLIMESは3月24日、シードラウンドで1.5億円の資金調達を完了したことを明らかにした。第三者割当増資による資金調達で、引受先はCYBERDYNE(サイバーダイン)。併せて両社の業務提供も発表され、PLIMESが発案した嚥下計「GOKURI」の開発と市場展開を共同で進める。PLIMESは2018年4月創業の筑波大発のスタートアップ。

GOKURIは、筑波大学と筑波大学附属病院の研究成果を基に開発された嚥下計だ。特許取得の頸部装着型嚥下モニターを使い、専用のネックバンドと人工知能技術を組み合わせて嚥下の能力を計測する。具体的には、首に装着したネックバンドで嚥下音と姿勢を計測し、その結果を基にAIが嚥下の能力を分析する仕組みだ。

嚥下機能が低下すると、高齢者を中心に餅やゼリーなどが喉につまって窒息したり、食べ物などが気管に入ってしまう誤嚥などの事故の発生確率が高まる。GOKURIを利用することで各自の嚥下能力を数値化でき、嚥下の能力が低い人に対しては事前に予防処置などを講じられるようになる。

PLIMESは今回調達資金を、資金調達により、GOKURIを利用した嚥下機能検査、モニタリングの研究、医療機器化の開発を進めるほか、言語聴覚士やエンジニアなどの各領域で専門性の高い人材の採用に充てるとのこと。

エッジAI開発のエイシングが第一生命、未来創生ファンドから4億円を資金調達

エッジデバイスに組み込んで利用するAI技術を提供するエイシングは3月23日、第一生命保険および未来創生2号ファンドを引受先とした4億円の資金調達実施を発表した。今回の第三者割当増資は、2019年11月に発表したシリーズBラウンド調達の追加に当たり、ラウンド全体では7億円の調達となる。また同社創業からの累計では約9億円の調達金額となった。

エイシングが開発・提供するのは、エッジデバイス組み込み型のAIアルゴリズム「Deep Binary Tree(DBT)」をはじめとする、エッジAIのプロダクト群「AI in Real-time(AiiR)」。産業用ロボットやスマートフォン、コンピュータを搭載したクルマなどのエッジデバイスに組み込んで利用する「エッジAI」技術だ。

AiiRは軽量・インターネット接続不要で、低スペックなコンピューティング環境でも学習と予測が完結できる点が特徴。エッジでの学習、調整のいらない逐次学習を可能としており、クラウドを介する必要がないため高速で、リアルタイムな学習やデータ処理を実現している。

エイシングでは現在、オムロンやデンソー、JR東日本といった大手企業との間で、PoCおよび共同開発を実施している。エイシング代表取締役CEOの出澤純一氏によれば「PoC実施は30件前後、共同開発も5〜6件と順調に進んでいる」とのことだ。

また技術ライセンス提供も実現し、1社とは既に契約締結が完了したという。ライセンスについては、ほか数社とも契約締結を目指しており、「サブスクリプションモデルや受託モデルではなく、当初から考えていた技術ライセンス提供というモデルでの市場展開が進められそう」と出澤氏は話している。

調達資金にの使途については「技術力の高い人材や、自律的にビジネスデベロップメントができる人材の採用を進める。顧客対応や新技術の研究開発も加速・強化する」(出澤氏)とのこと。さらに「海外展開も視野に入れており、ヨーロッパ市場への進出も目指す」と出澤氏は語っていた。

スマホとAIで運転動態をスコアリング、タイでモビリティー事業を手がけるFlareが1.5億円調達

タイでモビリティー関連事業を運営するFlareは3月23日、Spiral Ventures、千葉道場、Sun Asterisk、VOYAGE VENTURESを引受先とする第三者割当増資により総額1.5億円を調達したことを明らかにした。

同社ではこれまでKVP、Sun Asterisk、VOYAGE VENTURESなどから資金調達済み。今回はそれらに続くシリーズAラウンドとなる。主にエンジニアおよびセールスメンバーの採用に投資し、体制強化した上でさらな事業拡大を目指す計画だ。

Flareは2017年に代表取締役の神谷和輝氏が設立したスタートアップ。スマートフォンを活用した運転動態の解析プラットフォーム「Flare Analytics」を基盤技術として、カーラッピング広告プラットフォーム「Flare AD」やドライバー勤怠・動態管理システム「Flare Dash」を手がける。

本社は日本に構えているものの、現在は現地の100%子会社を通じてタイを軸に事業を展開中だ(現地法人としても豊田通商タイランドから出資を受けているとのこと)。

スマホだけで様々な運転データを取得

基盤となるFlare Analyticsはこれまで車載デバイスを用いて取得していた運転データを“スマートフォンだけで”取得できるのが特徴。スマホのGPSやセンサーから取得したデータをAIなどを活用して解析し、その傾向や運転スコアをダッシュボード上で可視化する。

急発進や急ブレーキ、走行スピードなどの基本的なものから、スマホを持った・触ったという情報を基に「スマホの脇見運転」などもわかる。これについても数万円〜数十万円するようなカメラデバイスを車内に設置したら把握できるものではあるけれど、Flare Analyticsはデバイスの初期コストや設置の手間もないので導入ハードルが低い。

神谷氏によるとタイは交通事故の死亡率が高く(以前WHOが公開したレポートでは10万人当たりの交通事故死亡者数が世界2位となった)、スマホの脇見運転は主要な原因の1つになっているそう。たとえば後述するFlare Dashを導入している企業であれば、自社のドライバーの脇見運転や危険運転を事故に繋がる前に把握し、対策を打つこともできるようになるわけだ。

Flare AnalyticsではSDKを提供していて、これをアプリに実装することで行動データを取得できるようになる。現時点で2つの自社プロダクトに実装されているほか、今後は他社とタッグを組み、テレマティクス保険や車両管理、タクシーの不正チェック、ローン審査などの領域でも事業展開を見据えているという。

Flare Analyticsを活用しC向け・B向け双方でプロダクトを展開

自社プロダクトのFlare ADの場合は、ドライバーと交通広告を出したい企業をマッチングする際に運転スコアを活用(スコアが高いドライバーをマッチング)。企業の広告をステッカーとして自分の車にラッピングして走ることで報酬を貰える仕組みで、開始以来のべ3万人が登録している。特にGrabなどライドシェアのドライバーが車の維持費やガソリン代を稼ぐ目的で始めるケースが多いとのことだ。

Googleマップと連動し、人が多い場所・時間帯で運転するほど収入があがる。広告主はダッシュボード上でリアルタイムに走行距離や走行ルートをチェックできるため、広告効果を簡単に把握することが可能だ。神谷氏の話では自動車広告領域ですでにタイ1位の実績があり、カンボジアへの展開も進めているという。

もう1つのFlare Dashは企業向けのサービスだ。タイを含めた東南アジアの新興国では交通インフラが十分に整ってないので、マネージャークラスや営業マンには1人1人にドライバーがついてるそう。ただ勤怠管理はいまだに紙ベースが主流で、効率化の余地があるほか虚偽報告の多発が課題になっている。

Flare DashはFlare Analyticsを通じて各ドライバーの動態や挙動を可視化することで不正を防止するとともに、ドライバーがアプリから簡単に勤怠を打刻できるようにすることで紙の勤怠管理の手間をなくす。

「(Flare Analyticsと連動することで)安全運転も管理できて、不正もなくなり業務も効率化される。ドライバーに関する業務を一括管理できるのが特徴だ。東南アジアの企業はまだそこまで安全運転意識が高くないところも多く、安全運転の機能だけを訴求してもそこに投資をする企業は限られる。一方で勤怠管理のニーズは明確にあり、自分たちはその両軸からアプローチできている」(神谷氏)

昨年12月にローンチしてからまだ日は浅いものの、タイに進出している日系大手企業などを始めミャンマーやインドネシアでも導入企業があるという。

今後は自動車のP2P保険などへの展開も

FlareとしてはADとDashを軸に経営基盤を整えつつ、今後はAnalyticsを使った自動車のP2P保険やてれマティクス保険などに事業を広げていく考え。今回の資金調達もそれに向けた組織体制の強化が目的だ。

同社の強みは個人ドライバーと法人に所属するドライバー双方にサービスを展開することによって、多様な運転データを取得できること。そしてAnalyticsをベースにした自社プロダクトも持っているため、細かいテストや改善などPDCAをスピーディーに回し、そこから得られたものを再びAnalyticsに反映した上で他社にも提供できることがあげられる。

「業務車両の動態を取得するプロダクトはあれど、個人ドライバーのデータを持っているプレイヤーはまだまだ少なく、保険領域への展開などを考えるとそこが重要だ。一般の人が持っているもので運転データを取得できるものはないか、そう考えた時にベストなのがスマートフォンだった。(Flare ADを通じて)自分たちはすでに約3万人のデータを蓄積できているのは強みだ」(Flare CSOの林真也氏)

水面下ではAnalyticsのアップデートも進めているところで、危険運転のイベントなどから事故率を推定して事故を起こしにくい人を判定したり、評価の高いドライバーの運転挙動を分析することで「会社で高いパフォーマンスを出すドライバーの傾向」を見極められる仕組みも開発中なのだそう。そうなるとドライバー採用などの領域でもFlareの技術を活かせるようになる。

また、今は車の領域に絞って事業を構築しているものの「スマホ×移動×データ」というジャンルであれば同社の技術を転用できるため、ゆくゆくは車以外での領域に進出することもありえるだろう。

ちなみに日本での事業展開も中長期的に検討していくそう。Flare ADについては難しいようだけれど、Flare AnalyticsやFlare Dashなどを用いた取り組みに関しては日本でもありえるとのことだった。

クラウド受付システムのRECEPTIONISTがオプト、Salesforceから数億円規模の資金調達

写真左からオプトベンチャーズ パートナー 日野太樹氏、RECEPTIONIST代表取締役CEO 橋本真里子氏、セールスフォース・ベンチャーズ日本代表 浅田慎二氏、セールスフォース・ベンチャーズ パートナー 浅田賢氏

クラウド受付システム「RECEPTIONIST(レセプショニスト)」を提供するRECEPTIONIST(旧社名:ディライテッド)は3月13日、オプトベンチャーズとセールスフォース・ドットコムの投資部門Salesforce Venturesを引受先とした資金調達実施を発表した。金額は非公開だが、関係者の話によれば、総額で数億円規模と見られる。

2500社以上へ導入、大企業向け機能も追加されたRECEPTIONIST

RECEPTIONISTは、従来の内線電話による来客対応を自動化する、オフィス受付のためのクラウドサービスだ。受付に置いたiPadから来訪者があらかじめ発行されたコードを入力、または担当者の名前で受付を行うと、担当者にはSlackやChatworkといったビジネスチャットや、アプリなどで直接通知が送られる。

電話の取次や、担当者が離席していた場合の「○○さん今どこにいる?」といった捜索なども不要になるほか、来客情報がデータ化されて残るため、管理や分析のための転記や、来訪者の手を煩わせて来客票を書かせる手間もなくなる。

また2018年12月に搭載した新機能「調整アポ」を利用することで、来客受付だけでなく、日程調整の工程も約8割減らすことが可能となった。Google カレンダー、Outlook カレンダーと連携した調整アポにより、関係者・会議室の空き日時を仮押さえすると、来訪者にはURLが通知される。来訪者が、リンク先の候補から都合の良い日時を選択すると予定が確定し、それ以外の仮予定は自動でキャンセル。予定確定後、来訪者には受付コードが自動で送られ、受付時の名前や社名の入力も不要だ。

このため、「ご都合の良い日時候補をいくつかいただけますか?」から始まる来訪者・関係者のスケジュール調整、会議室仮押さえや、日程が決まってから仮押さえした会議室を開放する、といった細かい作業のほとんどを省くことができる。

RECEPTIONIST誕生のきっかけは、TechCrunch Tokyo 2015で開催されたハッカソン。このとき開発された「キタヨン」というオフィス受付のiPadアプリをベースに、譲渡を受けたRECEPTIONIST(当時の社名はディライテッド)が追加開発を行い、2017年1月にサービス提供を開始した。同年秋に開催されたTechCrunch Tokyo 2017スタートアップバトルでは、東急電鉄賞を獲得している。

2020年1月にサービス開始3周年を迎えたRECEPTIONISTは現在、2500社以上に導入されるようになっている。RECEPTIONIST代表取締役CEOの橋本真里子氏は「顧客に大手企業が増えており、そこはプロダクトの機能強化の際にも意識している」と話している。

例えば、大手企業向けに提供されているプレミアムプランでは、AD(Active Directory)連携により社員の一括登録・更新・削除が可能。グループ会社で共通の受付を可能とするホールディングス機能も搭載されている。

また拠点を複数持つような、中規模以上の企業を対象にしたエンタープライズプランでも、拠点をまたいだアポイント、会議室予約が行えるような機能や、逆に別の拠点の社員を間違えて呼ばないように、参加者を管理できる機能などを搭載。

以前はアポイントごとに発行していた受付コードも、来客ごとに発行できるようにアップデートされた。これはプロジェクトなどに外部から参加する人がいる場合、1つのミーティングでも先に帰る人や途中から参加する人がいることも多いことを受けての改良だ。

「昨年からスタートアップやIT系企業だけでなく、枠を飛び越えた利用の広がりを感じている」と橋本氏。中には、当初は「やはり内線の受付にする」と導入を見送られた企業から、1〜2年経ってからもう一度、利用を検討するとコンタクトがあったケースもあるという。

橋本氏は、スマートフォンの普及がさらに進むなどして「プライベートでもビジネスでも、(ツールやアプリ利用において)取り巻く環境が変化したのではないか」と分析する。企業の経営陣や決裁権を持つ人から「そろそろうちも受付をiPadにした方がいいのでは」との声が、導入担当者にかかることも増えているらしい。

当初のRECEPTIONISTには、オフィスを構えたばかりのスタートアップに取材で訪問すると、必ずと言っていいほど導入されているような印象があった。小規模で受付に割く人手がもったいないと考える、先進的な企業が積極的に取り入れているというイメージだ。しかし今では、有人の受付と併用するような大手企業も現れているそうだ。

「RECEPTIONISTは受付の人をリプレースするものではなく、人がやらなくてもよい取次や、来客情報のデータを残すといった部分を担当するもの。それ以外の人にしかできない案内などは、今まで通り人がやることで、ホスピタリティーを発揮できる。だから管理画面でも、受付の人が気づいたトピックを共有するために入力できるような項目を用意するなど、工夫している」(橋本氏)

2月にオフィスを移転、3月1日に社名をプロダクト名に合わせる形で変更したRECEPTIONIST。橋本氏は「ほかの領域でプロダクトを開発する可能性もあったので、社名はディライテッドとしていたが、RECEPTIONISTの認知が広がり、現プロダクトと大きくかけ離れたプロダクトは出さないことも確実になってきた。それに何より、インサイドセールスのメンバーが、電話口でプロダクト名と社名を両方名乗っているのが大変そうで、『これは早く変えなければ』と思って」と社名変更について語る。

オフィス移転に伴い、元受付嬢である橋本氏の起業の原点でもある受付カウンターをシンボルとして設置したという。

iPad受付システムの市場を広げ、シェア獲得目指す

RECEPTIONISTは、2017年5月に大和企業投資やツネイシキャピタルパートナーズ、個人投資家から数千万円規模、2018年3月に大和企業投資、ツネイシキャピタルパートナーズなどから約1.2億円、2019年2月にSalesforce Venturesから1億円超の資金調達を発表しており、今回の調達はこれらに続くものとなる。調達資金は、マーケティングおよびプロダクトの開発強化、人材採用に投資していくと橋本氏は説明している。

本ラウンドのリード投資家であるオプトベンチャーズのパートナー・日野太樹氏は「労働人口が減少し、生産性向上が必須とされる中で、RECEPTIONISTはこれらの大きな社会課題を解決するプロダクトとしてシンプルで、取り組みやすい領域にある」と語る。

「IT系以外の大手企業にも浸透するだろうと分析していて、これからの時代に必ず広がるサービスだと感じた。また大手だけではなく、中小規模の古い企業にとっても、業務改善のためにIT化を進めようという文脈に乗っているサービスではないだろうか」と言う日野氏。「自分も受付からの電話を受けるのは面倒に感じるし、ペインが分かりやすい。橋本氏の経営者としての力、メンバーへのリスペクトの強さも見ており、大きくなる企業だと感じている」と述べている。

Salesforce Venturesにとっては、本ラウンドは前回に続く追加投資となる。セールスフォース・ドットコム常務執行役員でセールスフォース・ベンチャーズ日本代表の浅田慎二氏は「(事業計画を)実行してきて、数字も上がっていることを見ての追加投資。(Salesforceとのサービス連携など)いろいろな構想はあるが、まずは受付システムのマーケットシェアを取ることに集中しようと橋本氏とも話している」と話す。

北米では、エンタープライズ向け来客管理システムを提供するカナダのTraction Guestにも投資実績があるSalesforce Ventures。浅田氏は「大手企業の引き合いも増えると思うが、そうなると、いずれセキュリティなどの既存システムとの接続を求められるようになるはず。今のところは、事業が伸びていて、人材をプロダクトに集中しなければならないスタートアップで(単体で)展開し、市場シェアを拡大するのは重要」と話している。

橋本氏は「iPad受付システムが世の中に受け入れられる世界を作らなければならないので、競合も含めて一緒に市場を広げる必要があるとは思っている」としながら、「とはいえ、その中できっちりシェアは取っていかなければならない。そこは当社のメンバーが自信を持って進めてくれている」と語っていた。