垂直農業の米KaleraがSPAC上場を検討

垂直農法(バーチカルファーミング)の企業がまた1つ、SPACを利用してNASDAQに上場する計画を明らかにした。今週、米国フロリダ州に本社を置くKalera(カレラ)が、Agrico Acquisition Corp.(アグリコ・アクイジション・コープ)との合併計画を発表したのだ。この合併により同社の評価額は3億7500万ドル(約433億1000万円)となる。現在、Euronext Growth Oslo(ユーロネクスト・グロース・オスロー)取引所に上場しているKaleraの株価はこの1年下落が目立っていたが、今回の動きは、このカテゴリーに多くの期待が寄せられていることを示している。

Google Finance(グーグル・ファイナンス)のデータによれば、同社の評価額の下落は際立っている。同社の株価はこの52週間の最高値である1株あたり5.99ドルから、直近ではわずか0.91ドルにまで下降しているのだ(ニュースリリースによれば、同社は今回の取引の一環として、現在の取引所からの上場廃止を予定している)。

すでに上場しているのに、なぜSPACを行おうとしているのか?この取引により、同社は現在の4つの農場を10に増やすための資金を得ることができる。2021年12月の投資家向けプレゼンテーションによれば、同社は「2022年の資金調達要件を満たすために、さまざまな資金調達の選択肢を積極的に追求している」と述べている。

その理由を納得することは難しくはない。同社の2021年第3四半期決算報告書によると、2021年の1~9月に営業活動で870万ドル(約10億円)の支出があったが、同時期の投資キャッシュフローはより厳しく、マイナス1億1000万ドル(約127億1000万円)となった。Kaleraは6150万ドル(約71億円)の資金調達により、これらの不足を一部相殺したが、2021年第1四半期の純現金収支は5720万ドル(約66億1000万円)の赤字となった。9月の四半期決算では、5620万ドル(約64億9000万円)相当の現金および現金同等品を保有していた。より簡単に言えば、事業の赤字が深刻で、純利益の黒字化はおろか、キャッシュフローが損益分岐点に到達するのもはるかに遠いため、同社が拡大を続けるためにはさらなる資金が必要だということだ。

Kaleraが合併を予定しているSPACのAgricoは「1億4660万ドル(約169億3000万円)の現金が信託されている」という。これにより、Kaleraは、現在のキャッシュポジションが許すものよりもはるかに長い時間をかけて、業績を改善することができるだろう。

成長する市場

今回の買収は、急成長中のカテゴリーの健全性を示す指標となるだろう。2021年、AeroFarms(エアロファームス)はSpring Valley Acquisition Corp.(スプリング・バレー・アクイジション・コープ)とのSPACを計画していたが、AeroFarmsが最終的に「株主の利益にならない」と発表したことを受けてSPAC取引は中止された

AgricoのCEOであるBrent De Jong(ブレント・デ・ジョン)氏は「Kaleraは、稼働中または建設がほぼ完了している10の施設と、環境制御に特化したシード事業である子会社のVindara(ビンダラ)により、垂直農法業界のリーダーとしての地位をすでに確立しています」と述べている。「提案されているAgricoとの合併によって、Kaleraは葉菜類の垂直農法企業としては初めて、地元に密着しながら、米国内に拠点を持ち全米規模の長期供給契約を確実に結べるようになります」と述べている。

「米国内に拠点を持ち」という表現は興味深い。確かに、AeroFarmsやBowery(バワリー)など、地域的に成功を収めている企業は少なくない。垂直農法は地域密着型の性質を持つので、米国本土に拡大するには多くの農場を建設する必要がある。結局このカテゴリーは、一般的な農場を展開できない都市部でのサービスが大きなセールスポイントとなっている。そうした都市部の中もしくは隣接地に屋内農園を建設すれば、農産物を遠隔地から輸送する際の排気物を十分に削減することができる。

Kaleraは現在、地元オーランドをはじめ、アトランタ、ヒューストンで農場を運営しており、さらにデンバー、シアトル、ホノルル、コロンバス、セントポールでも農場を建設中だ。特に最後の2つは、米国の伝統的な農場地帯である中西部に事業を立ち上げるという点で興味深い。また、Kaleraはミュンヘンとクウェートで海外農場を運営しており、シンガポールには3つ目のファームを建設中だ。

両社は、SPAC取引を2022年の第2四半期中に完了させる予定だ。現在の暫定CEOであるCurtis McWilliams(カーティス・マクウィリアムス)氏は引き続き同社を率いる予定である。

画像クレジット:JohnnyGreig / Getty Images

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(文:Brian Heater、Alex Wilhelm、翻訳:sako)

農業助成金の申請支援を起点に金融サービスの巨人を目指すFarmRaise

左からFarmRaise共同ファウンダーでCEOのジェイス・ハフナー氏、プロダクト責任者のアルバート・アベディ氏、COOのサミ・テラティン氏(COO)

何かから始めなくてはならない。Jayse Hafner(ジェイス・ハフナー)氏とSami Tellatin(サミ・テラティン)氏がスタンフォード大学のMBAで出会い、米国の農業をもっと効率的にすれば国のためになりすごいビジネスにもなるという信念を共有したとき、2人は助成金から始めようと決めた。

バージニア州の牛牧場で育ったハフナー氏は、助成金の申請が、たとえ家族の牧場の持続可能な作業慣習を改善するためであってさえ、複雑で時間のかかる手続きであることを身を持って知っていた。一方、テラティン氏は、大学で生物工学を学び、USDA(米国農務省)で3年間農業経済を研究した。彼女もまた、助成金がもっと簡単に手に入れば農業従事者はもっと良い選択ができるはずだと感じていた。

FarmRaise(ファーム・レイズ)は、現在社員12名のカリフォルニア州サンディエゴを拠点とする設立2年の会社だ。2人がパロアルト拠点のPear VCのアクセラレーター・プログラムで知り合ったもう1人の共同ファウンダーであるAlbert Abedi(アルバート・アベディ)氏と力を合わせて以来、会社は目覚ましい進展を遂げてきた。

ハフナー氏によると、同社のプラットフォームにはすでに1万カ所の農場が登録している。それは口コミとちょっとした検索エンジンのマジック、そしてなによりも、Cargill(カーギル)やCorteva(コーテバ、2018年にDuPont[デュポン]をスピンアウト)などの炭素排出量削減目標をもつ農業の巨人と提携して、低炭素排出農業に関連する助成金申請でFarmRaiseの支援を受けるよう農業従事者に薦めてきたおかげだ。

FarmRaiseのプラットフォームでは、農場の詳細な実態を尋ね、FarmRaiseが彼らに代わってさまざまな助成金プログラムに手早く申請できるようにデータを構成する。そこに投資家が加わったことで、さらに勢いが増している。同社はつい最近、720万ドル(約8億2000円)のシードラウンドをSusa Venturesのリードで完了した。

しかし、多くのスタートアップと同じく、非常に広範囲に渡る金融サービス企業を目指しているFarmRaiseにとって、助成金(国も民間も)は出発点に過ぎない、とハフナー氏はいう。農場が十分なデータを渡せば、FarmRaiseは融資、器具の割引購入、さらには節税対策の支援も行うことができる、と同氏は話した。

これらのサービスの多くは第三者を経由して提供され、FarmRaiseは仲介手数料を受け取る仕組みだと彼女はいう。FarmRaiseは車輪の再発明をするつもりはない。しかし、農場が頼りにできる「フルスタック(複数業務に精通した)」のリソースが存在しない理由などない、と彼女は付け加えた。また、多様なサービスを提供することによって、助成金の申請結果を待つ間(6~12カ月かかるものもある)も利用者を満足させることができる。

自分たちにとって助成金は「くさび」だとハフナー氏はいう。「物語の終わりではありません」。

現在FarmRaiseは、人員を追加し、対象となる助成金を増やして、月額料金と獲得した助成金の10%を請求している現行サービスに顧客が確実に満足することに注力している。

正しく手続きを進めることが重要だ。助成金は大きなチャンスだとハフナー氏は言い、理由の1つとして農務省の助成金が「爆発的に増えている」ことを挙げた。

彼女は、新型コロナウイルスの蔓延によるサプライチェーン崩壊に苦しむ農家を支援するために「数百億ドル(数兆円)」規模の資金を配布したトランプ政権の政策を示した。

バイデン政権もFarmRaiseを勇気づけていると感じるとハフナー氏は付け加えた。「重点的な保護基金拡大が見られ、今後倍増する可能性が高いと見ています」。「持続可能な農業は、農家の利益性を高めるだけでなく、炭素排出量を抑制して気候変動対策に寄与します。そこには本当に限りなくたくさんの恩恵があるのです」。

同社のシードラウンドには、他にCendana Capital、Ulu Ventures、Pear、Better Tomorrow Ventures、Incite Ventures、およびFinancial Ventures Studioが参加した。

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(文:Connie Loizos、翻訳:Nob Takahashi / facebook

農作物の防虫をセンサーと機械学習で実現するFarmSense

かじる、潜る、感染させる。米国農務省農業研究局によると、マメコガネ(上記写真)などの害虫が農業に与える被害は毎年1000億ドル(約11兆6730億円)を超えるという。また、節足動物は植物の病気も媒介するため、世界の農業生産の年間40%が節足動物によって失われているといわれている。

カリフォルニア州リバーサイドに拠点を置くAgTechのスタートアップ企業、FarmSenseは、害虫問題の解決に挑んでいる。同社は、光学センサーと機械学習アルゴリズムに基づく新しい分類システムを構築し、リアルタイムで昆虫を識別・追跡する。ここでポイントとなるのは「リアルタイムの情報」だ。

彼らによると、センサーが提供するリアルタイムの情報は早期発見に役立ち、殺虫剤やバイオコントロールなどの害虫管理ツールをタイムリーに配備することができる。現在、モニタリングに使われている機械式トラップは、虫がやってきてから10〜14日後にしか重要な情報を得られない場合もある。

「このような虫の中には、成虫として5日間しか生きないものもあります。そのため、問題を発見したときには、すでに問題が根付いてしまっており、より大きな問題になっているのです」と、FarmSenseの共同設立者であるEamonn Keogh(イーモン・キーオ)氏はいう。「リアルタイムで知っていれば、介入する場所を1カ所に絞り、農薬の節約、労働力の節約、作物の損傷を防ぐなど、より良い結果を得ることができたはずです」。

より良い結果を得るための重要な情報の提供方法は、少し複雑だ。

ファームセンスの新型光学センサー「FlightSensor」の圃場での様子。このセンサーは、農家にとっての害虫の被害を軽減するために、リアルタイムのデータと管理戦略を提供することを約束する(画像クレジット:FarmSense)

現在、中小企業技術革新研究プログラムの助成を受け、南カリフォルニアのアーモンド園で試験・研究が行われているFlightSensorと呼ばれる同社の最新センサーは、キーオ氏がこのセンサーのアイデアを得た場所について考えると、最もわかりやすい。つまり、ジェームズ・ボンドと冷戦時代のスパイ活動だ。

キーオ氏は、ロシアのスパイがガラス窓にレーザーを当てて、人の声の振動を拾っていたことを説明した。そしてセンサーがその情報を翻訳し、部屋の中で何が起こっているのか、おおまかな情報を提供してくれる。

「同じような仕掛けを考えて、レーザーの前を虫が飛んだらどうなるかを想像してみました。虫の音だけが聞こえて、他の音は聞こえないでしょう」。

しかし、FlightSensorは振動を読み取るのではなく、小さなトンネル内のライトカーテンと影を利用し、誘引物質によって昆虫を引き込む。センサーの片側には光源、もう片側には光学センサーが設置されている。昆虫が飛んできたときに、どれだけ光が遮られたか、あるいはどれだけ光が通り抜けたかをセンサーが測定する。そのデータを音声にし、クラウド上の機械学習アルゴリズムで解析する。

このセンサーは生産者が使いやすいように昔のアナログ機器のようなデザインになっているが、FarmSenseによると、風や雨などの周囲の音は拾わない。

キーオ氏によれば「シグナルの質はとてもクリアで、通常畑で聞こえる周囲の音は聞き取りません。本質的には昆虫の音を聞く異なったモダリティですが、ヘッドフォンをつけてセンサーからの音声クリップを聞くと、まるで蚊や蜂が飛び回っているように聞こえます」。

カリフォルニア大学リバーサイド校のコンピューターサイエンスとエンジニアリングの教授であるキーオは、データマイニングを専門としており、FarmSenseが識別目的で採用した新しい機械学習アルゴリズムに取り組んでいる。共同設立者のLeslie Hickle(レスリー・ヒックル)氏をはじめ、昆虫学者や分野のスペシャリストが開発・配備を支援している。

ハードウェア面では、当社CEOであり、無線・携帯電話ネットワークやセキュリティのシステム開発を手がけるShailendra Singh(シャイレンドラ・シン)氏が担当している。シーズンごとに課金される各センサーの価格は300ドル(約3万4000円)とのことだ。

この技術がもたらすインパクトは明らかだ。大小の畑を管理する農家にとって、昆虫に関するリアルタイムの情報は経済的な安全性にとって重要なだけでなく、土壌の健康状態など重要な資源の保全・保護につながる可能性もある。

しかしFarmSenseは、昆虫による被害で不当に影響を受けているという地方の農家を支援したい考えだ。

だが、センサー1つにつき1シーズン300ドルというのは高額であり、この技術の採用にあたるリスク、ひいては虫害という問題をそもそも解決できるかどうかというリスクもある。

小規模農家にとって最も難しいことの1つはリスク管理だと語るのは、米国農務省が資金提供する「市場、リスク、レジリエンスのための未来のイノベーションラボ(Feed the Future Innovation Lab for Markets, Risk, and Resilience)」の所長で、カリフォルニア大学デービス校農業・資源経済学の著名教授であるMichael Carter(マイケル・カーター)氏だ。

「リスクは人々を貧しいままにしてしまうことがあります。リスクは将来を不透明にするため、平均所得を向上させる技術への投資を抑制します。富の少ない人々は、当然貯蓄が多くありません。しかし彼らは、彼らの収入を向上させるかもしれないし、彼らの家族を餓死させることになるかもしれないものに投資するために貯蓄を危険にさらすことはできません」とカーター氏はいう。

しかし彼は、FlightSensorのような技術が、特に小規模農家をさらに保護する保険のようなものとなる場合、小規模農家の投資の恐怖を軽減することができると考えており、この点に関しては楽観的であった。

シャイレンドラ・シン氏(左)とイーモン・キーオ氏は、カリフォルニア州リバーサイドで昆虫の監視に革命を起こそうとしているアグテックスタートアップ企業、FarmSenseの共同設立者だ(画像クレジット:FarmSense)

この技術について、こんな疑問も浮かぶ。リアルタイムでの識別は、害虫管理にとって本当に最良の選択なのだろうか?米国農務省森林局の昆虫学者Andrew Lieb(アンドリュー・リーブ)氏によれば、そうではないかもしれないとのことだ。リーブ氏は、農業や森林にとって最も破壊的な害虫である侵入昆虫の主な原因は、移動や貿易であると説明した。

彼は、昆虫の定着制御のためのテクノロジーに関しては賛成しているが、究極的には、この問題をより早期に解決することが最適な戦略であると考えている。現在の輸出入に関する法律や、害虫駆除製品の処理方法、さらには渡航の制限の制定などに取り組むべきだろう。

こうした懸念はあるものの、FarmSenseの技術がインパクトを与える態勢にあることは間違いない。農家の経済的な不安やグローバルなフードチェーンへの脅威だけでなく、蚊のような病気を媒介する昆虫の追跡や重要な情報の拡散に役立つかもしれない。

新型コロナウイルス感染症による混乱が続く中、バイオセキュリティの成功や失敗が、私たちの無数のシステムにどのように波及していくのか、それを強く意識しないわけにはいかない。

2050年までに外来種の昆虫の侵入が36%増加すると予測されていることや、人口増加により食糧生産がより一層圧迫されることを考えると、私たちが脅威を理解し思慮深く対応する能力を高めてくれるFlightSensorのような革新的技術は、むしろ歓迎すべきことだ。

カーター氏がアグテックが農業に恩恵をもたらす可能性のあるあらゆる方法について語る通り「私たちはその可能性においてクリエイティブになる必要がある」。

画像クレジット:Chris Sorge / Flickr under a CC BY-SA 2.0 license.

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(文:Matt Marcure、翻訳:Dragonfly)

畑を走り回るAigenの農業ロボットは二酸化炭素排出量のマイナス化を目指す

そのロボットは今のところ、雑草を抜くことしかできないが、Aigen(アイジェン)は「雑草を抜くロボットを作っているわけではない」と断固主張する。同社のミッションは惑星規模の土壌再生であり、農業をカーボンネガティブにするための道筋を作っているのだという。

そんな主張には説得力があったに違いない。なぜなら、同社はシードラウンドで400万ドル(約4億6000万円)を調達したと発表したばかりだからだ。このラウンドはNEAが主導し、AgFunder(アグファンダー)、Global Founders Capital(グローバル・ファウンダーズ・キャピタル)、ReGen Ventures(リジェン・ベンチャーズ)が参加した。

Aigenは太陽電池を搭載した自律型ロボットを開発している。このロボットは、コンピュータビジョンを利用して、敵か味方か、作物か雑草かを見分けながら、畑を走り回ることができる。その最初のバージョンは、1日に最大3エーカー(約1万2000平方メートル)の農地を、ただひたすら歩き回っている。

「私の親戚がミネソタ州で農業を営んでいるのですが、彼らとは以前から話をしてきました。農家は従来の農業のやり方では問題があることを実感しています。化学薬品を進んで使い、土壌の耕起を愛し、何千年にもわたって大気中に炭素を放出してきた農法を愛する保守的な人々でさえ、他の方法に目を向けるべきなのではないかと気づき始めているのです」と、AigenのCEOであるRichard Wurden(リチャード・ウルデン)氏は語る。そんな話を聞いてきた同氏は、農業の炭素排出量をマイナスに逆転させることに、特に情熱を注いでいる。「現在、農業は炭素排出量の約16%を占めています。将来的には、ディーゼルの排出ガス、土壌の圧縮、化学薬品の使用、耕す回数を減らすことで、マイナスにできる可能性があります」。

このスタートアップ企業が根拠としているのは、光合成は全体ではカーボンネガティブであるということだ。植物は空気中のCO2を取り込んで糖(正確には炭水化物)に変える。つまり、実質的には空気中の二酸化炭素を大地に戻しているのだ。Aigenは、テクノロジーと農業のやり方を変えれば、カーボンニュートラル、あるいはネガティブな状態にすることも可能だと主張している。この草取りロボットは、会社が進むべき道の第一歩にすぎない。今、本当に価値がある物を作り、プラットフォームを拡大して、将来的にはより多くのミッションを遂行できるようにするというのが、同社創業者たちの主張だ。

「私たちは画像によるデータ収集を行っています。このロボットには複数のカメラが搭載されており、あらかじめ学習させたAIを使って植物やさまざまな物体を識別しています。見ているものが何だかわかったら、ロボットの下に備わる2本のアームを使って、植物を取り除くか、増殖させるかを判断します」と、同社COOのKenny Lee(ケニー・リー)氏は説明し、その小型軽量ロボットの価値をアピールする。「重機は土壌を圧縮するため、根が下ではなく横に伸びてしまいます。これが問題なのです。なぜなら、これでは植物が取り込んだ炭素を地中深くに送ることができないからです。トラクターや大型の農業機械を減らすことができれば、農業の仕組みを変えられます」。

Aigenの小さな太陽電池ロボットは、クルージングしながら自分の仕事をこなしている(画像クレジット:Aigen)

「Aigenの技術は、クラス最高のAIとロボット工学を活用し、人類最大の問題にエレガントなソリューションを提供します」と、NEAのパートナーであるAndrew Schoen(アンドリュー・ショーン)氏は述べている。「彼らの製品は、惑星規模で相当な量の大気中の炭素を封じ込める自然の強大な力を解放させるものです」。

同社は、今回の資金調達の評価額を公表していない。

画像クレジット:Aigen

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Upward Farmsがペンシルバニア州に広大な垂直農場の開設を計画

ブルックリンに本拠を置くUpward Farms(アップワード・ファームズ)は今週、25万平方フィート(約2万3000平方メートル)の巨大な垂直農場を建設する計画を明らかにした。2023年初頭のオープンを目指しており、場所はペンシルバニア州北東部のルザーン郡に設けられる予定だ。限られた土地の有効活用を謳っているはずの垂直農場としては非常に大きな面積であり、競合他社の施設と比べると数倍の広さだ。この場所はUpwardにとって3番目の農場となる。

この農場では、特にマイクログリーン(若芽野菜)に注力することになっている。マイクログリーンは、他の作物に比べて柔軟性が高く、必要な空間が小さくて済むため、屋内栽培する作物としては人気が高い。競合他社の多くが採用しているハイドロポニック栽培やエアロポニック栽培ではなく、Upwardではアクアポニックスを採用する。これは魚を利用した循環型システムで、天然の肥料を生成して植物を育てるというものだ。

このシステムのおもしろい工夫点は、同社がそのアクアポニックスで育てた農作物だけでなく魚(バス)も販売するということだ。ニューヨークのWhole Foods(ホールフーズ)の一部店舗で農産物を販売するのに加えて、ブルックリンのGreenpoint Fish & Lobster(グリーンポイント・フィッシュ・アンド・ロブスター)で、ストライプバスの販売も始めるつもりであることを、同社は2021年12月に発表した。

画像クレジット:Upward Farms

「この新しい施設により、これまで西海岸から作物を受け取るまで1週間かかっていたのに対し、私たちは全米で最も人口の多い地域の1億人近い米国人に、1日で届けることができるようになります」と、共同創業者兼CEOのJason Green(ジェイソン・グリーン)氏は声明の中で述べている。「これは、食物をどこでどのように栽培するかということについて、世界的に大きな影響を与えるローカルなサクセスストーリーであり、また同時に、次世代の製造技術でもあります」。

Upwardは、2023年の初めにこの農場で穫れた作物の販売を開始する予定だ。2021年のシリーズBラウンドで1億2100万ドル(約138億円)の資金を調達した同社は、2023年にはさらなる市場への拡大も計画している。

画像クレジット:Upward Farms

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

トヨタベンチャーズ、トラクターを自律走行車に変えるAgtonomyのシード拡張をリード

Agtonomy(アグトノミー)の共同創業者でCEOのTim Bucher(ティム・ブッチャー)氏は農場で生まれ育ち、自らも農場経営に深く関わっていたが、カリフォルニア大学デービス校在学中にコンピューターのコースを取り、その魅力にとりつかれた。

その農業とテクノロジーのパラレルキャリアが、Agtonomyの起業につながった。同社は自律と遠隔アシストのハイブリッド型サービスのスタートアップで、トラクターやその他の装備を自律型マシンに変え、そうしたマシンを管理するための労働力を、テクノロジーを駆使して低コストで地方の農場に提供する。

同社は2021年9月にGrit Ventures、GV、Village Globalを含む支援者グループから400万ドル(約4億5000万円)のシード資金を得て、ステルスモードから脱却した。

GritとGVは、南サンフランシスコに拠点を置くAgtonomyに再び投資すべく、500万ドル(約5億7000万円)のシードエクステンション(追加拡張投資)に出資した。Toyota Ventures(トヨタ・ベンチャーズ)がシードエクステンションをリードし、Flybridge、Hampton VC、E²JDJ、Momenta Venturesも参加した。今回の資金調達により、Agtonomyの累計調達額は900万ドル(約10億円)になった。

資金調達をしたばかりだったため、ブッチャー氏はこんなに早く再び資金を調達するとは思っていなかったが、2022年の展望として、アグテックが2022年以降の「ホットな分野」としてトップになると、追加の資金調達に踏み切った。

「5年前は、アグテック関連のVCはなかなか注目されませんでしたが、ちょうど投資家から圧倒的な関心が寄せられました。当社はまだスタートしたばかりですが、地方の農業は今、助けを必要としています」と同氏は付け加えた。「今回の資金調達は、試験やパートナーの追加を加速させ、チームの拡大も含めた取り組みのスピードを倍増させる活動や能力を増強します」。

ブッチャー氏は、今後数カ月の間に50の試験を行い、20人の従業員を倍増させることを期待している。

Agtonomyは、Uberドライバーを呼ぶくらい簡単なものだと同氏は話す。携帯電話のアプリを使って、農家はトラクターに畑の草刈りなどの仕事を割り当てることができる。このような自動運転技術や、John Deere(ジョンディア)のような他社が行っていることは、世界中の農場が直面している数十年にわたる労働力不足を解消するのに役立つ、と同氏は考えている。

Agtonomyは、ブッチャー氏が「概念実証」と呼ぶ電動車両を少台数保有し、自身のTrattore Farmsで1年間稼働させている。同氏の農場での農作業は、ほとんどこれらの車両で行われているという。

ブッチャー氏は2023年に商業展開を見込んでいて、差し当たっては数百台のトラクターでスタートする予定だ。参考までに、トラクターは毎年30万台ほど販売されている、と同氏は付け加えた。トラクターの価格は50万〜100万ドル(約5700万〜1億1500万円)で、John Deereのような企業は通常、大規模農場を狙っている。

これに対し、Agronomyの自律走行車両の価格は5万ドル(約570万円)程度で、この価格設定により大規模農場は24時間稼働し、環境にやさしく、土地を荒らさない小型機械を購入するようになるとブッチャー氏は考えている。

トヨタ・ベンチャーズの創業マネージングディレクターで、Toyota Research Institute(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)のエグゼクティブアドバイザーであるJim Adler(ジム・アドラー)氏は「完全自律走行車は、都会の道路で実現するよりもずっと早く、より切実に必要とされている農場で現実のものとなるでしょう」と書面で述べている。

同様に、ブッチャー氏は、今日の自律走行車の多くは、より「便利な技術」に対応している一方で、アグテック分野の企業は同氏が「必要な技術」と呼ぶもので同様の車を作っていると信じている。

「消費者の需要、気候変動、電動化、農業分野における労働力不足など、一種のパーフェクトストームです」と同氏は付け加えた。「我々は、他の種類の自律走行技術を生活に取り入れるよりも、アグテックでこうした問題をずっと早く解決することができるのです。当社の技術で、私たちみんながおいしいものを食べることができるのです」。

画像クレジット:AnneCN / Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

インドネシアの魚やエビの養殖業者向けサービスeFisheryが約104億円調達、アグリテックとして世界最大規模

インドネシアのeFishery(イーフィッシャリー)は現地時間1月10日、アグリテックのスタートアップとしては世界最大規模の資金を調達したと発表した。魚やエビの養殖業者向けに給餌機器やソフトウェア、融資を提供する同社は、Temasek、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2、Sequoia Capital Indiaが共同でリードしたシリーズCラウンドで9000万ドル(約104億円)を調達している。復帰投資家のNorthstar Group、Go-Ventures、Aqua-Spark、Wavemaker Partnersも同ラウンドに参加した。

調達した資金は、プラットフォームの拡大、そして中国やインドなど養殖業における上位10カ国に進出するのに使用される予定だ。

eFisheryの製品には、エビ養殖業者がオペレーションを監視できるeFarmや、魚養殖業者向けに同様の機能を提供するeFisheryKuといったソフトウェアがある。融資商品にはeFundがあり、これは資材や原材料といったものを購入するための後払いサービスなどのために養殖業者と金融機関をつなげる。これまでに7000人以上の養殖業者がeFundを利用し、承認された融資総額は2800万ドル(約32億円)超だという。

その他の製品にはスマートフィーダーなどがあり、現在インドネシアで3万人以上の業者が利用している。

ソフトバンク・インベストメント・アドバイザーズの投資ディレクターであるAnna Lo(アンナ・ロー)氏は「インドネシアは世界最大の水産物生産国の1つであり、養殖業界は世界の増大する人口に食料を提供するという大事な役割を果たすと信じています」と声明で述べた。

最近、多額の資金を調達した他のインドネシアのアグテックスタートアップには、マーケットプレイスのTaniHubEden Farm「海から食卓へ」企業のAruna、ソーシャルコマーススタートアップのChilibeliなどがある。

画像クレジット:Wokephoto17 / Getty Images

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(文:Catherine Shu、翻訳:Nariko Mizoguchi

まるで畑のルンバ!? 作業状況をスマホで確認できる自律制御型電動トラクターDeer 8Rが2022年後半に市場投入

まさに畑のルンバ!? 作業状況をスマホで確認できる自律制御型電動トラクターDeer 8Rが2022年後半に市場投入

John Deere

米国の農機ブランド「ジョン・ディア」が、自律制御型電動トラクターの市販に向けた量産に入る予定だと発表しました。Deere 8Rと称するそのトラクターは2022年後半に市場投入される計画です。

農業機器の自動運転化は、農作業人口の減少への対策として各社研究を進めており、日本メーカーでもヤンマーやクボタ、井関農機などがトラクターのほか田植え機などの開発を行っています。テレビドラマ『下町ロケット』にも、クボタ製の自動運転トラクターが登場していました。

ディア・アンド・カンパニーのブランド、ジョン・ディアも早くから自律制御農機の開発を手がけておりトラクターだけでなくコンバイン、田植機、自走式ハーベスターといった機器に自動操舵システムを開発、GPSやAI制御を取り入れた製品開発をしてきました。

今回生産開始が伝えられた「Deere 8R」は、完全自律型トラクターとして開発されており、運転席はあるものの人が乗る必要はありません。トラクターは牽引車部分だけで、これに「チゼルプラウ」と呼ばれる部分を取り付けて畑を耕します。

農作業員は、畑にこのDeere 8Rを配置して必要な器具の取り付けなどを済ませれば、あとはタブレットやスマートフォンのスワイプひとつで指定した畑を自動的にすべて耕せます。その進行状況はやはりタブレットなどで随時確認可能。本体のカメラ映像をリアルタイムで確認したり、各種パラメーターを表示し、必要なら爪で掘り起こす深さや走行速度を変更することもできます。

本体には6ペアのステレオカメラとその映像を分析するローカルニューラルネットワークが搭載され、畑に存在する物体を認識します。また自機の位置はGPS信号によって把握し、あらかじめ設定したジオフェンスによってその行動範囲を制限します。

このような自律制御型の農機具は今後、高齢化や人口減少が予想される農業分野では間違いなく普及していくことでしょう。

(Source:John DeereEngadget日本版より転載)

2021年に倒産した米国スタートアップを振り返る

2020年、この特集記事の導入部分を書いたときは、2021年のその頃になっても、まだ私たちがいろいろな意味でその健康問題に強く影響を受けているとはまったく思っていなかった。2021年もまたホリデーシーズンもまた新種のウイルスに襲われ、さらにいろいろなことが変化しそうだ。そう、今はそんな状況だ。

しかし意外なことに、現在もまだグローバルなパンデミックのまっただ中であるにも関わらず2021年は、前年ほど多くの、有名なスタートアップの喪失が印象に残るという年ではなかった。

パンデミックの最初の1年は、すでにあっぷあっぷだった多くの企業にとって、まさに最後の藁のようなものだったのかもしれない。あるいは、資本ソースの流入で、水面上に頭を上げているのかもしれない。新型コロナウイルスで世界が一変した結果、ピボットに成功した企業もあれば、誕生した企業もある。

2021年は、QuibiやEssentialのような、2020年にあったような超大型の倒産もほぼなかった。しかし、パンデミックでない年でも、スタートアップを存続させることは非常に難しい課題であり、誰もが無傷で新年を迎えることができたわけではない。

Abundant Robotics(2016-2021)

総調達額:1200万ドル(約13億8000万円)

画像クレジット:Abundant

これは、うまくいけば2021年をロボティクススタートアップの記念すべき年にしたであろうスタートアップの、大失敗だ。ある意味でAbundantは、アグリテックのスタートアップとしてカーブの先頭を走っていた。それはどちらかというと、脱落者の多いカーブだった。最初の商用展開を行ってからわずか2年の、このリンゴの収穫ロボット企業は、静かに店を閉じた。同社はそれまでに1200万ドルを調達し、その中にはGV(元Google Ventures)が2017年にリードした1000万ドル(約11億5000万円)のシリーズAもあった。

農家は労働力不足が続く中で、ロボティクスとオートメーションに真剣に期待している。その中でJohn Deereのような企業は、自家製と買収によるソリューションに多くを投資している。果物農家のための大規模な収穫機ロボットなんて、そんなに難しくはないだろう、と誰もが思いがちだが、問題はどこがそれを作るかだ。

10月に、Waverly Labs hadがAbundantのIPを買収したことが報じられた。同社の技術は、形を変えて生き残るのだ。

Chanje(2015-2021)

画像クレジット:Chanje

2018年の11月にTechCrunchは、FedExがデリバリーバンの車隊を本格的に電動化するために無名のスタートアップと提携している、と報じた。同社はそのとき、2015年に創業されたカリフォルニアの中国が支援するスタートアップChanje Energyから1000台の電動デリバリーバンを導入する、と発表した。それまでの数年間でChanjeは、電動デリバリーバンを中国から輸入してFedExやRyderのような企業や、さらにAmazon(アマゾン)にさえ販売する企業として知られるようになっていた。そしてFedExなどの企業は、米国時間12月15日のThe Vergeの記事によれば、同社が2021年のある時期に「密かに店をたたんだ」ので、前のめりにずっこけてしまった。同社CEOの、一部の社員によれば「カリスマ的」で「自己陶酔型」の、Bryan Hansel(ブライアン・ヘンゼル)氏が提携していた中国企業が倒産した。ヘンゼル氏は投資家たちにChanjeの破片の買上げを訴えたが、無駄だった。The Vergeによると彼は、メモリアルデーの週末の前の金曜日に、Chanjeの最後の社員たちを解雇した。

報道によるとChanjeには元社員従業員たちに対する何カ月分もの給与とボーナスのバックペイ(法的に支払い義務のある未払賃金)があり、少なくとも4人が同社を訴えている。またRyderはChanjeがまだ同社に納車していない多くのバンに関して300万ドル(約3億4000万円)ほどの訴訟を起こしている。一方、FedExは、2018年に契約した1000台の電動バンをChanjeから受け取っていない。この宅配大手は、カリフォルニア州全域のFedExの補給基地に整備する予定だった充電インフラストラクチャの建設プロジェクトも、放棄せざるをえなくなった。その充電インフラにすでに投じた数百万ドル(数億円)の一部を取り戻そうとして、FedExはChanjeを訴えているが、見通しは暗い。

Dark Sky(2012-2021)

画像クレジット:Dark Sky

2020年3月にApple(アップル)は、天気予報アプリDark Skyを買収した。それは、地方重視の天気予報として人気があった。Appleも当然その機能に目を付け、それらの多くをiPhoneの天気予報アプリに導入した。最初からAppleは、Androidアプリは7月に閉鎖と契約していた。しかしそのiOSアプリとAPIサービスの命運は不確かだった。そのAPIサービスは他の開発者も利用し、Dark Skyの天気予報と天候データの履歴にアクセスできた。

2021年6月に、iOSアプリとAPIサービスは公式の期限を迎え、共同創業者のAdam Grossman(アダム・グロスマン)氏は「既存の顧客に対するDark SkyのAPIサービスのサポートは2022年末まで続ける。iOSアプリとDark Skyのウェブサイトも2022年末まで可利用である」と書いた。これはアプリとAPIの明示的な閉鎖発表ではないが、実質的には閉鎖だった。

Katerra(2015-2021)

総調達額:20億ドル(約2299億1000万円)

画像クレジット:Katerra

かつてKaterraは、建設テックの世界でアイドルだった。同社はプレハブ建築を主流にし、しかもクールにしたと言われる。成長とともにKaterraは意欲的になり、建設プロジェクトを軸とするテクノロジースタックを自分で持とうとした。オフィスビルでも、あるいはアパートでも。しかし2020年の終わりごろには、深刻な問題が起こった。同社は第11条倒産の瀬戸際といわれ、そのとき日本の投資コングロマリットであるソフトバンクが2億ドル(約230億円)で救済に乗り出したが、それは少なすぎ、遅すぎた。建設工程を上から下まで垂直統合するKaterraのやり方は、労賃と建築費用の高騰に追随できず、随所で納期遅れや費用超過に見舞われた。パンデミックも、遅れに貢献した。また、経理の不正が見つかり、頭痛に輪をかけた、とThe Wall Street Journalは述べている。

そのため、2021年6月1日にKatteraが20億ドルの投資を使い尽くした挙げ句、公式に閉鎖したと報じられても、大きなショックではなかった(最初にThe Informationがそのニュースを報じた)。2015年に創業したKaterraは、一時期40億ドル(約4598億6000蔓延)と評価され、8000人ほどの従業員を抱えた。閉鎖したときの従業員数は約2400名だったといわれる。この失敗は、最近の数年間で苦境を抱えたソフトバンク系大物プロプテックとして2番目にあたる。最初はWeWorkだった。Katerraの内部崩壊が全体としての建設テック産業への不信を招くかと思われたが、2021年、この分野には大きな投資が相次いだ。

Loon(2015-2021)

画像クレジット:Alphabet

9年間高く飛び続けたAlphabet(アルファベット)のLoonは、2021年早く地球に舞い降りたことがその最後の任務だった。2年あまり、Xの卒業生のスピンオフだったが、同社はこの、気球を使って恵まれない地域にインターネットの接続を提供するプロジェクトを地上に戻した。LoonのCEOであるAlastair Westgarth(アラステア・ウェストガース)氏はブログで、このプロジェクトは要するに利益を上げなかったのだと述べている。

「パートナー志願者はいくつも現れたが、長期的でサステナブルなビジネスを十分築けるほどの低コストを実現できなかった。ラジカルな新しいテクノロジーは本質的にリスクを抱えているが、かといってこのニュースを軽卒に伝えることはできない」。

Loonによると、技術そのものは今後も生き続けて、すでにProject Taaraのような装備で生き続けている。これまたAlphabet Xのムーンショットの1つで、光通信で高速インターネットを提供することを狙っている。9月にAlphabetは、さらに200件の特許をSoftBankに渡し、それらを同社のHigh Altitude Platform Stations(HAPS)で使ってもらうことになった。Alphabetのもう1つの空高く飛ぶムーンショットの仲間であるWingは相変わらず元気がいい

Houseparty(2015-2021)

画像クレジット:TechCrunch

日没の前のHousepartyは、空高くそびえた。パンデミックの初期のイニングでは、このソーシャルビデオチャットのアプリは、1カ月の新規ユーザー獲得数が5000万と主張した。隔離を課せられた人類は、バーチャルな接続を求めるからだ。しかし早回しをして今日このごろを見れば、Housepartyのパンデミック景気は同社の長寿に貢献しなかったようだ。9月にEpic Gamesは、Housepartyを10月に閉鎖すると発表した。同社を3500万ドル(約40億2000万円)で買収したと報じられてから、2年ちょっとしか経っていない。

かつて大人気だったこのアプリが閉鎖する理由は、いくつか考えられる。Clubhouseの上昇や、Zoomが必然的にもたらす疲労もあるだろう。閉鎖を発表するスレッドでHousepartyのCEOで共同創業者のSima Sistani(シマ・シスタニ)氏は、戦略の変化にすぎないと暗示している。

「メタバースというビジョンや、私たちがEpic Gamesで取り組んでいたプロダクトも、体験の共有がテーマだ。しかしそれは2Dのビデオよりリッチな形であり、むしろ、次世代のインターネットを形作る形式と位置づけるべきものだろう」とシスタニ氏はいう。

HousepartyはFortniteの音声チャットの中核的技術や、Epic Gamesのメタバースのもっと大きなプロジェクトの中で生き続けるだろう。

Pearl Automation(2014-2021)

自動車のアクセサリーを作っていたPearl Automationは、ステルスを脱してからわずか1年後に閉鎖した。元Apple(アップル)の技術者が作ったPearlは、ワイヤレスのリアビューカメラを披露し、すでに499.99ドル(約5万7500円)で発売していた。

2016年のTechCrunchレビュー記事でDarrell Etheringtonが「完全な魚眼体験、またはディスプレイの隅から隅までクルマの後方スペースで埋め尽くすワープ補正されたビューの間で切り替えることができる。また、必要に応じて、より多くの空や地面を見るために、ビューを上下に回転させることが可能だ」とまとめている。

Etheringtonはこの製品の工業デザインと最小限のソフトウェアを気に入っているが、アップグレードが必要な高級品とも述べている。「それでもこれは、特定のユーザー向けの製品だ。職人技の名機を愛する人、そのためにお金を払える人、最初から後部カメラのある現代のクルマを持っていない人、そして近く買い換える気のない人だ」。2021年は、これらの特殊な客層が同社を支えられなかったようだ。

Axiosによると、閉鎖の原因は売上の不振と、VCから5000万ドル(約57億5000万円)を調達したにもかかわらず高いバーンレート(資本燃焼率)だ。Crunchbaseによると、投資家はAccel、Venrock、Shasta Ventures、そしてWellcome Trustだった。

残念賞

Fry’s Electronics

ダラス2021年2月26日、米国の電子製品チェーンストアFry’s Electronicsは、そのすべての店舗を恒久的に閉鎖すると発表した。同社ウェブサイト上の声明によると「恒久的で全面的な終業という困難な決定をした」理由は消費者の購入習慣の変化と新型コロナウイルスパンデミックの蔓延だ。Fry’s Electronicsは米国の9つの州に31のストアがあった。テキサス州プレイノウの閉店したFry’s Electronicsのストア2021年2月25日撮影(画像クレジット:Xinhua/Dan Tian/Getty Images)

注意:これはスタートアップではないが、ここにないと寂しい。ベイエリアで生まれたこのエレクトロニクスチェーン店の2月の閉鎖は、同店の通路をうろつきながら成長した多くの人びとの心に、ポッカリと大きな穴を開けてしまっただろう。少年の私がうろついたのはフリーモント店で、外装の1893年万博のテーマはどうでもよかったが、店内で見たテスラコイルに魅了された。

現在のようなAmazon(アマゾン)が支配する世界で、Circuit Cityはすでになく、RadioShackも影が薄い。そんな中で、この奇妙で美しい獣が、できうるかぎり長生きしたことは、すごいの一言しかない。ピーク時にはFryの大型店は9つの州に34あった。しかし結局は、物理店だけという不利な環境に対して新型コロナが致命傷になった。これらの大型店は、跡地がものすごく大きいので、都市計画の難題になっている。

LGのスマートフォン

画像クレジット:Joan Cros/NurPhoto/Getty Images(Image has been modified)

過去2年間の他のパンデミックによる損失と違い、LGのモバイル部門の死は長い間待たねばならなかった。韓国の巨大エレクトロニクス企業は、Samsung、Appleそしてますます増えている中国のメーカーが支配する市場についていけなかっただけなのだ。4月に、LGはテレビやその他のスマートホーム製品にもっと時間を費やすために、携帯電話からの撤退を発表した。

Visionrare(2021-2021?)

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

そしてそのビジョンは本当に稀だった。創業者のJacob Claerhout(ジェイコブ・クレアハウト)氏とBoris Gordts(ボリス・ゴーツ)氏がVisionrareを立ち上げたとき、彼らは2つのトレンドを結びつけた。投資のゲーム化とNFTへの関心の高まりだ。その最終結果は、ユーザーがさまざまなスタートアップのNFTによる株を売買して人工的なポートフォリを築き、他と競合するプラットフォームだった。それにはY Combinatorのスタートアップの一部すら加わった。

暗号技術という側面は別として、Visionrareのピッチは興味深かった。その偽装的な株式市場は、非公認の投資家がそこからスタートアップへの投資の実績を得る可能性があり、いずれは、「次の採用候補者を探しているVCのためのシグナルになる」だろう。

そんなのバズワードの一種だ、と思っている方もおられると思うが、でも一部の起業家や投資家の言葉は違う。その言葉とは「違法」だ。投資のセキュリティがあればそのプラットフォームは合法だったのか? 本物のスタートアップの株を新しいNFTで売ることにともなう「法的複雑性」を過小評価して、共同創業者たちが有料マーケットプレイスを閉鎖してしまったという反感もある。

暗号資産のマーケットプレイスに難しい議論はないが、新興の業態へのVisionrare流のアプローチは警報ベルを鳴らした。そしてそれは、そんなに頻繁に起きることではない。にもかかわらず創業者たちは、同社をいずれ再ローンチすると約束している。彼らのLinkedInには継続して協働中とあり「新しいプロダクト」を作っているそうだ。

Nuzzel(2012-2021)

10年近く前にFriendsterのJonathan AbramsがNuzzelを立ち上げた。そのソーシャルなニュースリードサービスは、読んでる記事のヘッドラインを高輝度で表示し、友だちとシェアできた。そのシンプルで知的なスタートアップはすぐに熱心なファンができて、特に個人化されたタイムラインを欲しがるTwitterユーザーが多かった。Crunchbaseによると、Nuzzelは投資家から5100万ドル(約58億6000万円)を調達し、その中にはSalesforceのCEOであるMarc Benioff(マーク・ベニオフ)氏もいた。

2019年にNuzzelはScrollに買収され、当時後者はそのサブスクリプションサービスにアグリゲーションとキュレーションを加えたがっていた。NuzzelのチームからフルタイムでScrollに加わった者はいなかったが、アプリは以前どおりに使えた。ただし、2021年までは。

5月にTwitterがScrollをすくい上げ、同時にNuzzelを閉鎖した。後に削除されたブログ記事でNuzzelのチームは、Twitterとともにスケールするには再構築が必要と説明した。

ScrollのCEOであるTony Haile(トニー・ハイレ)氏は消されたポストでで「Nuzzelを愛し、当面、現在のままのNuzzelを維持できないことに落胆された方に申し上げるが、私もみなさんと同様に落胆している。さまざまな奇跡のような延命策を探したが、どれもだめだった。将来に関しては、Nuzzelの機能性はTwitterの一部として常に感じられるので、そのような結果に導けたことは良かったと思う」。

それから数カ月後に、良いニュースが飛び込んできた。私たちが知っていたNuzzelはもはやないが、そのアプリのもっとも愛された機能をTwitterは復活した。そのTop Stories機能は、Twitter Blueの有料サブスクリプションサービスでデビューする

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Brian Heater、Mary Ann Azevedo、Natasha Mascarenhas、翻訳:Hiroshi Iwatani)

2021年に倒産した米国スタートアップを振り返る

2020年、この特集記事の導入部分を書いたときは、2021年のその頃になっても、まだ私たちがいろいろな意味でその健康問題に強く影響を受けているとはまったく思っていなかった。2021年もまたホリデーシーズンもまた新種のウイルスに襲われ、さらにいろいろなことが変化しそうだ。そう、今はそんな状況だ。

しかし意外なことに、現在もまだグローバルなパンデミックのまっただ中であるにも関わらず2021年は、前年ほど多くの、有名なスタートアップの喪失が印象に残るという年ではなかった。

パンデミックの最初の1年は、すでにあっぷあっぷだった多くの企業にとって、まさに最後の藁のようなものだったのかもしれない。あるいは、資本ソースの流入で、水面上に頭を上げているのかもしれない。新型コロナウイルスで世界が一変した結果、ピボットに成功した企業もあれば、誕生した企業もある。

2021年は、QuibiやEssentialのような、2020年にあったような超大型の倒産もほぼなかった。しかし、パンデミックでない年でも、スタートアップを存続させることは非常に難しい課題であり、誰もが無傷で新年を迎えることができたわけではない。

Abundant Robotics(2016-2021)

総調達額:1200万ドル(約13億8000万円)

画像クレジット:Abundant

これは、うまくいけば2021年をロボティクススタートアップの記念すべき年にしたであろうスタートアップの、大失敗だ。ある意味でAbundantは、アグリテックのスタートアップとしてカーブの先頭を走っていた。それはどちらかというと、脱落者の多いカーブだった。最初の商用展開を行ってからわずか2年の、このリンゴの収穫ロボット企業は、静かに店を閉じた。同社はそれまでに1200万ドルを調達し、その中にはGV(元Google Ventures)が2017年にリードした1000万ドル(約11億5000万円)のシリーズAもあった。

農家は労働力不足が続く中で、ロボティクスとオートメーションに真剣に期待している。その中でJohn Deereのような企業は、自家製と買収によるソリューションに多くを投資している。果物農家のための大規模な収穫機ロボットなんて、そんなに難しくはないだろう、と誰もが思いがちだが、問題はどこがそれを作るかだ。

10月に、Waverly Labs hadがAbundantのIPを買収したことが報じられた。同社の技術は、形を変えて生き残るのだ。

Chanje(2015-2021)

画像クレジット:Chanje

2018年の11月にTechCrunchは、FedExがデリバリーバンの車隊を本格的に電動化するために無名のスタートアップと提携している、と報じた。同社はそのとき、2015年に創業されたカリフォルニアの中国が支援するスタートアップChanje Energyから1000台の電動デリバリーバンを導入する、と発表した。それまでの数年間でChanjeは、電動デリバリーバンを中国から輸入してFedExやRyderのような企業や、さらにAmazon(アマゾン)にさえ販売する企業として知られるようになっていた。そしてFedExなどの企業は、米国時間12月15日のThe Vergeの記事によれば、同社が2021年のある時期に「密かに店をたたんだ」ので、前のめりにずっこけてしまった。同社CEOの、一部の社員によれば「カリスマ的」で「自己陶酔型」の、Bryan Hansel(ブライアン・ヘンゼル)氏が提携していた中国企業が倒産した。ヘンゼル氏は投資家たちにChanjeの破片の買上げを訴えたが、無駄だった。The Vergeによると彼は、メモリアルデーの週末の前の金曜日に、Chanjeの最後の社員たちを解雇した。

報道によるとChanjeには元社員従業員たちに対する何カ月分もの給与とボーナスのバックペイ(法的に支払い義務のある未払賃金)があり、少なくとも4人が同社を訴えている。またRyderはChanjeがまだ同社に納車していない多くのバンに関して300万ドル(約3億4000万円)ほどの訴訟を起こしている。一方、FedExは、2018年に契約した1000台の電動バンをChanjeから受け取っていない。この宅配大手は、カリフォルニア州全域のFedExの補給基地に整備する予定だった充電インフラストラクチャの建設プロジェクトも、放棄せざるをえなくなった。その充電インフラにすでに投じた数百万ドル(数億円)の一部を取り戻そうとして、FedExはChanjeを訴えているが、見通しは暗い。

Dark Sky(2012-2021)

画像クレジット:Dark Sky

2020年3月にApple(アップル)は、天気予報アプリDark Skyを買収した。それは、地方重視の天気予報として人気があった。Appleも当然その機能に目を付け、それらの多くをiPhoneの天気予報アプリに導入した。最初からAppleは、Androidアプリは7月に閉鎖と契約していた。しかしそのiOSアプリとAPIサービスの命運は不確かだった。そのAPIサービスは他の開発者も利用し、Dark Skyの天気予報と天候データの履歴にアクセスできた。

2021年6月に、iOSアプリとAPIサービスは公式の期限を迎え、共同創業者のAdam Grossman(アダム・グロスマン)氏は「既存の顧客に対するDark SkyのAPIサービスのサポートは2022年末まで続ける。iOSアプリとDark Skyのウェブサイトも2022年末まで可利用である」と書いた。これはアプリとAPIの明示的な閉鎖発表ではないが、実質的には閉鎖だった。

Katerra(2015-2021)

総調達額:20億ドル(約2299億1000万円)

画像クレジット:Katerra

かつてKaterraは、建設テックの世界でアイドルだった。同社はプレハブ建築を主流にし、しかもクールにしたと言われる。成長とともにKaterraは意欲的になり、建設プロジェクトを軸とするテクノロジースタックを自分で持とうとした。オフィスビルでも、あるいはアパートでも。しかし2020年の終わりごろには、深刻な問題が起こった。同社は第11条倒産の瀬戸際といわれ、そのとき日本の投資コングロマリットであるソフトバンクが2億ドル(約230億円)で救済に乗り出したが、それは少なすぎ、遅すぎた。建設工程を上から下まで垂直統合するKaterraのやり方は、労賃と建築費用の高騰に追随できず、随所で納期遅れや費用超過に見舞われた。パンデミックも、遅れに貢献した。また、経理の不正が見つかり、頭痛に輪をかけた、とThe Wall Street Journalは述べている。

そのため、2021年6月1日にKatteraが20億ドルの投資を使い尽くした挙げ句、公式に閉鎖したと報じられても、大きなショックではなかった(最初にThe Informationがそのニュースを報じた)。2015年に創業したKaterraは、一時期40億ドル(約4598億6000蔓延)と評価され、8000人ほどの従業員を抱えた。閉鎖したときの従業員数は約2400名だったといわれる。この失敗は、最近の数年間で苦境を抱えたソフトバンク系大物プロプテックとして2番目にあたる。最初はWeWorkだった。Katerraの内部崩壊が全体としての建設テック産業への不信を招くかと思われたが、2021年、この分野には大きな投資が相次いだ。

Loon(2015-2021)

画像クレジット:Alphabet

9年間高く飛び続けたAlphabet(アルファベット)のLoonは、2021年早く地球に舞い降りたことがその最後の任務だった。2年あまり、Xの卒業生のスピンオフだったが、同社はこの、気球を使って恵まれない地域にインターネットの接続を提供するプロジェクトを地上に戻した。LoonのCEOであるAlastair Westgarth(アラステア・ウェストガース)氏はブログで、このプロジェクトは要するに利益を上げなかったのだと述べている。

「パートナー志願者はいくつも現れたが、長期的でサステナブルなビジネスを十分築けるほどの低コストを実現できなかった。ラジカルな新しいテクノロジーは本質的にリスクを抱えているが、かといってこのニュースを軽卒に伝えることはできない」。

Loonによると、技術そのものは今後も生き続けて、すでにProject Taaraのような装備で生き続けている。これまたAlphabet Xのムーンショットの1つで、光通信で高速インターネットを提供することを狙っている。9月にAlphabetは、さらに200件の特許をSoftBankに渡し、それらを同社のHigh Altitude Platform Stations(HAPS)で使ってもらうことになった。Alphabetのもう1つの空高く飛ぶムーンショットの仲間であるWingは相変わらず元気がいい

Houseparty(2015-2021)

画像クレジット:TechCrunch

日没の前のHousepartyは、空高くそびえた。パンデミックの初期のイニングでは、このソーシャルビデオチャットのアプリは、1カ月の新規ユーザー獲得数が5000万と主張した。隔離を課せられた人類は、バーチャルな接続を求めるからだ。しかし早回しをして今日このごろを見れば、Housepartyのパンデミック景気は同社の長寿に貢献しなかったようだ。9月にEpic Gamesは、Housepartyを10月に閉鎖すると発表した。同社を3500万ドル(約40億2000万円)で買収したと報じられてから、2年ちょっとしか経っていない。

かつて大人気だったこのアプリが閉鎖する理由は、いくつか考えられる。Clubhouseの上昇や、Zoomが必然的にもたらす疲労もあるだろう。閉鎖を発表するスレッドでHousepartyのCEOで共同創業者のSima Sistani(シマ・シスタニ)氏は、戦略の変化にすぎないと暗示している。

「メタバースというビジョンや、私たちがEpic Gamesで取り組んでいたプロダクトも、体験の共有がテーマだ。しかしそれは2Dのビデオよりリッチな形であり、むしろ、次世代のインターネットを形作る形式と位置づけるべきものだろう」とシスタニ氏はいう。

HousepartyはFortniteの音声チャットの中核的技術や、Epic Gamesのメタバースのもっと大きなプロジェクトの中で生き続けるだろう。

Pearl Automation(2014-2021)

自動車のアクセサリーを作っていたPearl Automationは、ステルスを脱してからわずか1年後に閉鎖した。元Apple(アップル)の技術者が作ったPearlは、ワイヤレスのリアビューカメラを披露し、すでに499.99ドル(約5万7500円)で発売していた。

2016年のTechCrunchレビュー記事でDarrell Etheringtonが「完全な魚眼体験、またはディスプレイの隅から隅までクルマの後方スペースで埋め尽くすワープ補正されたビューの間で切り替えることができる。また、必要に応じて、より多くの空や地面を見るために、ビューを上下に回転させることが可能だ」とまとめている。

Etheringtonはこの製品の工業デザインと最小限のソフトウェアを気に入っているが、アップグレードが必要な高級品とも述べている。「それでもこれは、特定のユーザー向けの製品だ。職人技の名機を愛する人、そのためにお金を払える人、最初から後部カメラのある現代のクルマを持っていない人、そして近く買い換える気のない人だ」。2021年は、これらの特殊な客層が同社を支えられなかったようだ。

Axiosによると、閉鎖の原因は売上の不振と、VCから5000万ドル(約57億5000万円)を調達したにもかかわらず高いバーンレート(資本燃焼率)だ。Crunchbaseによると、投資家はAccel、Venrock、Shasta Ventures、そしてWellcome Trustだった。

残念賞

Fry’s Electronics

ダラス2021年2月26日、米国の電子製品チェーンストアFry’s Electronicsは、そのすべての店舗を恒久的に閉鎖すると発表した。同社ウェブサイト上の声明によると「恒久的で全面的な終業という困難な決定をした」理由は消費者の購入習慣の変化と新型コロナウイルスパンデミックの蔓延だ。Fry’s Electronicsは米国の9つの州に31のストアがあった。テキサス州プレイノウの閉店したFry’s Electronicsのストア2021年2月25日撮影(画像クレジット:Xinhua/Dan Tian/Getty Images)

注意:これはスタートアップではないが、ここにないと寂しい。ベイエリアで生まれたこのエレクトロニクスチェーン店の2月の閉鎖は、同店の通路をうろつきながら成長した多くの人びとの心に、ポッカリと大きな穴を開けてしまっただろう。少年の私がうろついたのはフリーモント店で、外装の1893年万博のテーマはどうでもよかったが、店内で見たテスラコイルに魅了された。

現在のようなAmazon(アマゾン)が支配する世界で、Circuit Cityはすでになく、RadioShackも影が薄い。そんな中で、この奇妙で美しい獣が、できうるかぎり長生きしたことは、すごいの一言しかない。ピーク時にはFryの大型店は9つの州に34あった。しかし結局は、物理店だけという不利な環境に対して新型コロナが致命傷になった。これらの大型店は、跡地がものすごく大きいので、都市計画の難題になっている。

LGのスマートフォン

画像クレジット:Joan Cros/NurPhoto/Getty Images(Image has been modified)

過去2年間の他のパンデミックによる損失と違い、LGのモバイル部門の死は長い間待たねばならなかった。韓国の巨大エレクトロニクス企業は、Samsung、Appleそしてますます増えている中国のメーカーが支配する市場についていけなかっただけなのだ。4月に、LGはテレビやその他のスマートホーム製品にもっと時間を費やすために、携帯電話からの撤退を発表した。

Visionrare(2021-2021?)

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

そしてそのビジョンは本当に稀だった。創業者のJacob Claerhout(ジェイコブ・クレアハウト)氏とBoris Gordts(ボリス・ゴーツ)氏がVisionrareを立ち上げたとき、彼らは2つのトレンドを結びつけた。投資のゲーム化とNFTへの関心の高まりだ。その最終結果は、ユーザーがさまざまなスタートアップのNFTによる株を売買して人工的なポートフォリを築き、他と競合するプラットフォームだった。それにはY Combinatorのスタートアップの一部すら加わった。

暗号技術という側面は別として、Visionrareのピッチは興味深かった。その偽装的な株式市場は、非公認の投資家がそこからスタートアップへの投資の実績を得る可能性があり、いずれは、「次の採用候補者を探しているVCのためのシグナルになる」だろう。

そんなのバズワードの一種だ、と思っている方もおられると思うが、でも一部の起業家や投資家の言葉は違う。その言葉とは「違法」だ。投資のセキュリティがあればそのプラットフォームは合法だったのか? 本物のスタートアップの株を新しいNFTで売ることにともなう「法的複雑性」を過小評価して、共同創業者たちが有料マーケットプレイスを閉鎖してしまったという反感もある。

暗号資産のマーケットプレイスに難しい議論はないが、新興の業態へのVisionrare流のアプローチは警報ベルを鳴らした。そしてそれは、そんなに頻繁に起きることではない。にもかかわらず創業者たちは、同社をいずれ再ローンチすると約束している。彼らのLinkedInには継続して協働中とあり「新しいプロダクト」を作っているそうだ。

Nuzzel(2012-2021)

10年近く前にFriendsterのJonathan AbramsがNuzzelを立ち上げた。そのソーシャルなニュースリードサービスは、読んでる記事のヘッドラインを高輝度で表示し、友だちとシェアできた。そのシンプルで知的なスタートアップはすぐに熱心なファンができて、特に個人化されたタイムラインを欲しがるTwitterユーザーが多かった。Crunchbaseによると、Nuzzelは投資家から5100万ドル(約58億6000万円)を調達し、その中にはSalesforceのCEOであるMarc Benioff(マーク・ベニオフ)氏もいた。

2019年にNuzzelはScrollに買収され、当時後者はそのサブスクリプションサービスにアグリゲーションとキュレーションを加えたがっていた。NuzzelのチームからフルタイムでScrollに加わった者はいなかったが、アプリは以前どおりに使えた。ただし、2021年までは。

5月にTwitterがScrollをすくい上げ、同時にNuzzelを閉鎖した。後に削除されたブログ記事でNuzzelのチームは、Twitterとともにスケールするには再構築が必要と説明した。

ScrollのCEOであるTony Haile(トニー・ハイレ)氏は消されたポストでで「Nuzzelを愛し、当面、現在のままのNuzzelを維持できないことに落胆された方に申し上げるが、私もみなさんと同様に落胆している。さまざまな奇跡のような延命策を探したが、どれもだめだった。将来に関しては、Nuzzelの機能性はTwitterの一部として常に感じられるので、そのような結果に導けたことは良かったと思う」。

それから数カ月後に、良いニュースが飛び込んできた。私たちが知っていたNuzzelはもはやないが、そのアプリのもっとも愛された機能をTwitterは復活した。そのTop Stories機能は、Twitter Blueの有料サブスクリプションサービスでデビューする

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Brian Heater、Mary Ann Azevedo、Natasha Mascarenhas、翻訳:Hiroshi Iwatani)

リアルタイムで土壌検査を行うドイツのアグリテックStenonが22億円を調達

リアルタイムの土壌センシングソリューションを持つアグリテック企業のStenon(ステノン)は、シリーズAラウンドで2000万ドル(約22億円)を調達した。ラウンドには、Founders Fund、David FriedbergのThe Production Boardの他、Cherry VenturesやAtlantic Labsなどの既存投資家も参加した。

2018年にドイツのポツダムで創業したStenonのデジタル土壌データは、ラボを必要とせずに生成されるため、より速く、より効率的だと同社は主張する。Stenonによると、農家はデータにより栽培に関して最適な判断を下し、収穫量、作物の品質、土壌の健全性を高められるという。また、土壌検査機関を利用する必要がないため、時間とコストを大幅に削減することができるとしている。

共同創業者でCEOのDominic Roth(ドミニク・ロス)氏は、次のように語った。「Stenonのミッションは、農業における土壌データ会社となり、物理的なラボの必要性をなくすことです。土壌データが大規模に利用できなければ、農家は今後、持続的かつ収益性の高い仕事をすることはできません。さらに、市場は再生農業や自律型農業の方向にダイナミックに動いています。これらの実践にはすべて、当社が提供するデータセットが必要になります」。

農業による温室効果ガス排出の半分は、現在の土壌管理方法に起因しているため、Stenonのような土壌管理システムが気候変動との戦いにおいて非常に重要となりつつある。

Stenonの技術は、20カ国で特許を取得するか認証を受けるかして、活用されている。ヨーロッパの主要な農業組合が、ドイツのユリウス・キューン研究所などの研究機関のパネルと共同で認証を行っている。

主な競合他社は、Agrocares、360 Soilscan、ChrysaLabs(140万カナダドル=約1億2300万円を調達)だ。

The Production BoardのDavid Friedberg(デービッド・フリードバーグ)氏は「Stenonのリアルタイム土壌測定は、農家に重要なデータを提供し、コストと時間のかかる現在の土壌分析プロセスに革命をもたらします」とコメントした。

画像クレジット:Stenon soil testing

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

作物栽培システム「宙農」で地球の循環型農業の発展と宇宙農業を目指すTOWINGが約1.4億円のプレシリーズA調達

人工土壌「高機能ソイル」活用の作物栽培システム「宙農」で地球の循環型農業の発展と宇宙農業を目指すTOWINGが約1.4億円調達循環型栽培のシステム開発を展開するTOWING(トーイング)は12月20日、プレシリーズAラウンドにおいて第三者割当増資による約1億4000万円を資金調達を実施したことを発表した。引受先は、Beyond Next Ventures、epiST Ventures、NOBUNAGAキャピタルビレッジ。累計調達額は約1億8000万円となった。

調達した資金により、持続可能な次世代の作物栽培システム「宙農」(そらのう)のサービス開発に向けて、愛知県刈谷市に自社農園を立ち上げて宙農の実証を開始する。研究者・農園長・エンジニアの採用による研究開発体制を強化するとともに、事業開発人材の採用により組織体制を拡大し宙農の量産化に向けたシステム開発を進めるという。また今後、月面や火星の土をベースとした高機能ソイルを開発し、宇宙でも作物栽培可能なシステムの実現を目指すとしている。人工土壌「高機能ソイル」活用の作物栽培システム「宙農」で地球の循環型農業の発展と宇宙農業を目指すTOWINGが約1.4億円調達

TOWINGは、人工土壌による宇宙農業の実現を目標としたプロジェクト宙農を手がける名古屋大学発のスタートアップ。人工土壌「高機能ソイル」を栽培システムとして実用化しており、地球上における循環型農業の発展と宇宙農業の実現を目指している。

この高機能ソイルとは、植物の炭など多孔体に微生物を付加し、有機質肥料を混ぜ合わせて適切な状態で管理して作られた人工土壌の名称。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が開発した技術に基づき、TOWINGが栽培システムとして実用化した。「有機質肥料を高効率に無機養分へと変換」「畑で良い土壌を作るためには通常3~5年程度かかるが、高機能ソイルは約1カ月で良質な土壌となる」「本来廃棄・焼却される植物残渣の炭化物を高機能ソイルの材料とするため、炭素の固定や吸収効果も期待できる」の3点を大きな特徴とするという。人工土壌「高機能ソイル」活用の作物栽培システム「宙農」で地球の循環型農業の発展と宇宙農業を目指すTOWINGが約1.4億円調達

垂直農法スタートアップInfarmがカタールに果物の栽培センターを計画

欧州の垂直農法企業であるInfarm(インファーム)は今週、シリーズDラウンドで2億ドル(227億円)を調達したことを発表した。カタール投資庁(QIA)の主導した今回のラウンドは、2020年の1億7000万ドル(約193億円)の資金調達に続くもので、これにより社の資金調達総額は6億ドル(約680億円)を超えた。評価額も10億ドル(1134億円)を「大きく」超え、欧州初の垂直農法ユニコーン企業としての地位を確立している。

関連記事:垂直農業ネットワークの構築継続に向けInfarmが株式と負債で170億円超を調達、日本の紀ノ国屋でも買える

「気候変動に強い垂直農法でグローバルな農業ネットワークを構築することは、Infarmの中核的な使命です。だからこそ、今回の資金調達を発表できることに私たちは興奮しています」と、共同創業者兼CEOのErez Galonska(エレツ・ガロンスカ)氏はリリースの中で述べている。「今回の戦略的な投資は、当社の急速なグローバル展開を支え、研究開発を強化するものです。それによって私たちは、欧州、アジア、北米、中東の消費者の近くで、より多くの種類の作物を栽培できるようになります。それは、近い将来、果物と野菜のバスケット全体を栽培し、高品質な生産物を手頃な価格ですべての人に提供するという当社の野望を達成するための新たな一歩です」。

今回調達した資金の多くは、米国、カナダ、日本、欧州などを視野に入れたInfarmの国際的な事業拡張計画に充てられる。また、同社はアジア太平洋地域や中東へのさらなる拡大も予定している。

QIAが今回のラウンドに参加したことが、後者の大きな原動力になることは間違いない。今回の提携の一環として、同社はカタールにトマトやイチゴなどの果物を栽培するための栽培センターを設立する計画を発表した。制御された屋内環境で比較的容易に栽培できることから、これまで主流であった葉物野菜やハーブの栽培からの脱却を目指している多くの垂直農法企業にとって、果物は強力な後押しとなっている。

「責任ある長期投資家として、QIAの目的は将来の世代のために価値を創造することです。私たちは、垂直農法を、世界のあらゆる地域の食糧安全保障を向上させる手段であると考えています」と、QIAのMansoor bin Ebrahim Al-Mahmoud(マンスール・ビン・エブラヒム・アル・マフムード)氏は、同じリリースで述べている。「私たちは、Infarmと協力してカタールに同社初の栽培センターを開発し、カタールの食糧安全保障と経済の多様化に貢献できることを楽しみにしています」。

垂直農法は確かにこの地域にとって理に適っている。生産者は、標準的な農法よりもはるかに少ない水で、気候制御された建物内で作物を生産する能力を得られるからだ。2018年には、Crop One(コープ・ワン)が、UAEに13万平方フィートの農業施設を開設すると発表している。もちろん今後、このような懸念は、1つの地域に留まるものではなくなるだろう。

画像クレジット:Infarm

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

気候変動に強い作物づくりの技術を開発するPhytoformが6.5億円調達、人工知能を使ってゲノム編集

気候変動は農家の作物栽培に影響を及ぼしており、英国の厳しい栽培条件を知り尽くしたPhytoform(ファイトフォーム)は、作物をより気候変動に強いものにすることを目指している。

ロンドンとボストンに本社を置くこのバイオテクノロジー企業は、作物の改良を目的とした人工知能ゲノム編集技術の拡張のために、Enik Venturesがリードするラウンドで570万ドル(約6億5000万円)を調達したと発表した。

Phytoformは、William Pelton(ウィリアム・ペロトン)氏とNicolas Kral(ニコラス・クラール)氏が博士号を取得する過程で2017年に興した会社だ。CTOのクラール氏は植物発生生物学を研究し、CEOのペロトン氏は作物科学者だ。祖父が農家で、英国の天候などで作物が失敗する話を聞いて育った、とペロトン氏はTechCrunchに語った。

Phytoformの共同創業者ウィリアム・ペロトン氏とニコラス・クラール氏(画像クレジット:Phytoform)

「私たちは、遺伝学の分野で幸運に恵まれています」とペロトン氏は話す。「数百ドル(数万円)で植物全体のゲノムができ、ゲノムの合成もできるのですから。ニックと私は博士課程の学生だったのですが、技術を取り入れ、私たちが目にするいくつかの問題に適用してみることにしました」。

現在の作物改良のための育種法は、通常、開発に数十年かかり、遺伝子組み換え生物の技術も限られている、と同氏はいう。

気候変動に強い新しい作物を開発するPhytoformのアプローチでは、機械学習とゲノム編集技術で植物のDNA配列の組み合わせの可能性数を決定し、新しい特性を特定しつつ、農業の気候変動への影響を軽減している。そして、それらの特性は、フットプリントフリーのCRISPRゲノム編集を用いて作物品種に直接実装される。

農業におけるCRISPR技術の成功は、植物ゲノムを操作して害虫や気候への耐性を高め、より安定した製品を栽培する方法として、長年にわたってよく知られている。

国連食糧農業機関は毎年世界の食糧の14%が失われていると推定しており、今後数年間は干ばつや酷暑、害虫が増加する中で気候変動が悪化する一方のため、この技術を植物に活用することが急がれるとペロトン氏とクラール氏は話す。

今回のラウンドに参加したのは、Wireframe Ventures、Fine Structure Ventures、FTW Ventures、既存投資家のPale Blue Dot、Refactor Capital、Backed VC、そしてJeff Dean(ジェフ・ディーン)氏、Ian Hogarth(イアン・ホガース)氏、Rick Bernstein(リック・バーンスタイン)氏を含むエンジェル投資家のグループだ。

「Eniacは、これまでVenceやIron Oxなどに投資しており、持続可能な農業の未来を大いに信じています。気候危機が深刻化する中、我々は、計算ゲノム学を活用することで食料廃棄を減らし、より質の高い多様な農産物を市場に送り出すことができることを目の当たりにしてきました。我々は、Phytoformの創業者であるウィルとニックの、植物の遺伝学に関する深い機械学習とゲノム編集を組み合わせて消費者に最適な農産物のポートフォリオを提供するというアプローチにすぐに惹かれました」とEniac Venturesのゼネラルパートナー、Vic Singh(ヴィック・シン)氏は述べた。

今回の資金調達により、Phytoformはチームを拡大し、トマトやジャガイモに特性を導入し、食品サプライチェーンに沿ってより大きな収穫量と作物の損失を少なくするための取り組みを強化することができるようになる。

2人の創業者は、トマトとジャガイモのプログラムを市場に投入する準備をしており、2022年は同社にとって「すばらしい年になる」と話す。また、他の3つのプログラムにも取り組んでいて、地域も米国だけでなくオーストラリアと英国にも広げている。

加えて、種苗業者や生産者といったサプライチェーンの初めに位置する個人や企業とのパートナーシップに力を入れており、将来的にはそれを食品製造業者にも広げていく計画だ。

一方、初期ビジネスモデルは種子の販売によるロイヤルティ収入となるが、顧客基盤が消費者まで進化するにつれてビジネスモデルが変化することを期待していると、ペロトン氏は述べた。

Phytoformは2021年、従業員6人でスタートしたが、現在その数は倍増していると、クラール氏は話す。さらに、ソフトウェアとウェブラボの機能の両方でAIプロセスのコンセプトを実証し、技術的にも良い成長を遂げた。

「トマトプログラムの開発後期にたどり着くには、まだかなり大きなプロセスが控えていますが、今後もさらに試行錯誤を続けます。現在の技術では新品種の生成に10年かかっていますが、我々はそれを短縮できることを証明しています」と同氏は付け加えた。

画像クレジット:Pgiam / Getty Images

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

気象データを駆使し気候変動リスク下にある小規模農家向けマイクロインシュランスを実現可能にするIBISA

農業マイクロインシュランスのスタートアップであるIBISAは、150万ユーロ(約1億9000万円)のシードラウンドを調達したと発表した。今ラウンドは、ロンドンのインシュアテック専門VCであるInsurtech Gatewayが主導し、RockstartのAgriFoodファンドなどが参加した。

マイクロインシュランス(Microinsurance)とは、一般的に、低所得者を対象に、特定クラスのリスクに対する補償を提供することを指す。IBISAの場合は、残念ながら増加傾向にある不利な気候変動によって生活に影響を受ける可能性のある小規模農家を対象としている。

ルクセンブルクを拠点とするIBISAは、新興市場に焦点を当て、パートナーシップに基づくアプローチを行っている。「当社は、相互会社、保険会社、マイクロファイナンス機関、研究機関、農家・育種家協会、政府などと協力しています」とサイトでは説明されている。

2019年に設立されて以来、同社はフィリピン、インド、ニジェールのパートナーと協力してきた。今回の資金調達により、既存市場および新規市場での雇用とプレゼンスの拡大を図る予定だという。

農作物が被害を受けたときに補償を受けることで、農業従事者が安心するのは容易に想像がつく。しかし、農業保険に加入しない理由も根強くあり、IBISAによると、ほとんどの農家が加入していないという。オプションはコストがかかりすぎるかもしれないし、保険金を請求するための事務手続きは大変そうで不可能に思えるかもしれない。

そこで登場するのがテクノロジーだ。IBISAの保険金支払いは、迅速で手間のかからないものになっている。個別に請求するのではなく、集合的なインデックスに依拠しているからだ。これはインデックスベースの保険で、パラメトリック保険とも呼ばれている。例えば壊滅的な気象現象の通知など、特定のパラメータによって支払いが発生するというものだ。

Insurtech Gatewayの共同設立者であるStephen Brittain(スティーブン・ブリテン)氏は、このアプローチは保険会社側の運営コストの削減にもつながり、より低い料金を実現すると述べている。

「これまでマイクロインシュランスは、低い保険料、高額なクレーム処理費用、困難な販売、信頼性の欠如など、多くの理由により商業的に成立していませんでした」。

何が変わったのか?繰り返しになるが、テクノロジーである。

IBISAなどの企業がインデックスに信頼を置くとしたら、それはデータに裏付けられているからだ。共同設立者でCEOのMaría Mateo Iborra(マリア・マテオ・イボラ)氏は、衛星産業で数年間働いた経験がある。このスタートアップのアプローチの重要な要素は、軌道画像を利用して被害状況を把握することだ。さらに、現地の「ウォッチャー」からのクラウドソースデータも活用している。

宇宙テックとクラウドソーシングはさておき、IBISAにはブロックチェーンの要素もあり、同社はそれをコストを低く抑えるための手段と考えている。会社の名前は実際には「Inclusive Blockchain Insurance Using Space Assets(宇宙資産を利用した包括的ブロックチェーン保険)」の略で、欧州連合のブロックチェーンに特化したプロジェクト「Block.IS」によって加速されている

同社は最近、RockstartのAgriFoodのデモデイでもプレゼンテーションを行った。2020年9月に同プログラムに参加した際、IBISAの共同設立者であるJean-Baptiste Pleynet(ジャン=バティスト・プレネ)氏は、IBISAの保険、衛星、ブロックチェーンのコンポーネントや、ポジティブなインパクトをもたらす可能性について言及した

プレネ氏は同時に、興味深いシナジー効果のポイントを強調していた。「当社のソリューションは、食品産業にとって、サプライチェーンにレジリエンスをもたらし、気候変動リスクを管理する上で大きな価値をもたらすと考えており、その観点からもこの道を加速させたいと考えました」と同氏は説明した。

画像クレジット:Santhosh Janardhanan / 500px / Getty Images

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(文:Anna Heim、翻訳:Aya Nakazato)

肉体労働を支える、ロボティクススタートアップFJDynamicsが約79億円調達

DJIの元チーフサイエンティストであるWu Di(ウー・ディ)氏が設立したFJDynamicsが、過酷な環境下で働く人々にロボティクステクノロジーを提供するという目標を推進すべく、シリーズBラウンドで7000万ドル(約79億円)を調達した。

同社の農業用ロボットの特徴を尋ねたところ、ウー氏は広報担当者が冷や汗をかきそうな答えを返してきた。「当社のテクノロジーはさほど特別なものではありません」。多大な労力のかかる産業のために、便利かつ安価なロボットを作ることが同社のビジョンだと同氏は話す。

「最先端のAIアルゴリズムを持っていても、業界での経験がないためにその技術が生産ラインや農場で活用できなければ、人々にとって何のメリットもありません」と同氏。

ウー氏がFJDynamicsを始める前に携わっていたテクノロジーは、あらゆる意味で最先端のものだった。ドローン大手のDJIではチーフサイエンティストを務め、そこで同氏は2017年にスウェーデンのフォーマットカメラメーカーであるVictor Hasselblad ABの買収を監督している。中国に戻る前の10年間をスウェーデンで過ごしており、その間にドメインスペシフィック・プロセッサーデザインの博士号を取得。また、ファブレス半導体メーカーのCoresonic ABで副社長、スウェーデンの高級スポーツカーメーカーKoenigsegg ABでディレクターを務めた経歴を持つ。

「これだけの一流技術を目の当たりにした後で、FJDynamicsをハイテク企業と呼ぶのはおこがましい」と語る創業者。色あせたチェックのシャツに細縁の眼鏡という姿で取材に応じてくれた。

私たちが座っていたのは数台のデスクが置かれた仮設のミーティングルームだ。オープンプランのオフィスが可動式の壁で仕切られている。テクノロジーの中心地である深圳にある同社は急速に事業を拡大しており、従業員も1000人に近づいている。

FJDynamicsの 創業者兼CEOのウー・ディ氏

2019年、ウー氏はDJIを離れ、FJDynamicsを創設した。同社は当初より農業用ロボットに焦点を当て、無人の芝刈り機や果樹園の噴霧器、飼料押し出し機などのツールを作っているが、徐々に建設業や製造業など、肉体労働に大きく依存するその他の分野にも進出している。

北京が国内の伝統産業のデジタル化を推進する中、FJDynamicsのような中国企業は投資家から熱い視線を浴びており、FJDynamicsにもTencentや国有自動車メーカーのDongfeng Asset Managementなどの有力な投資家が名を連ねている。DJIは初期の段階で同社に出資していたものの、その後株式を売却している。

関連記事:アグリテック企業FJ DynamicsにTencentが投資

同社は今回のシリーズBラウンドにおける単独投資家名を明かしておらず、中国の大手インターネット企業であるとのみ伝えている。今回の資金調達により、同社は「農業、施設管理、建設、園芸などの分野で、ロボットによる自動化テクノロジーを成長させるとともに、60カ国以上で提供している同社のESG製品の需要拡大をサポートする」ことができると話している。

これまでに多くの技術系の人材が、自分の会社を立ち上げたり他のスタートアッププロジェクトに移籍したりするためにDJIを離れている。ポータブルバッテリーメーカーのEcoFlow、ヘアドライヤーのZuvi、電動歯ブラシブランドのEvoweraなどはその代表的な例である。ウー氏は世界最大のドローン企業であるDJIの名誉あるポジションを去った理由として「高級品」を作ることへの違和感を挙げている。

「ロボティクステクノロジーは、多くの企業によってドローンや自律走行車に活用されていますが、 地球上の大多数の人はその恩恵を受けていません」。

「農業、建設業、園芸業といった分野の労働条件は肉体的に厳しく、このような仕事をしている人はまだ大勢います。ロボティクステクノロジーを使って彼らの労働環境をいかに改善するかということが問題であり、また単にロボットに置き換えるということでは解決しません」と創業者は話している。

買収したスウェーデンの農業会社SveaverkenのロゴがプリントされたFJDynamicsの牛用フィードプッシャー

FJDynamicsの人気製品の1つに自動フィードプッシャーがある。高品質な牛乳を生産するためには1日に約10回の給餌が必要となり、そのためには24時間体制でスタッフを配置する必要がある。例えば500頭の牛を飼っている牧場なら牧草を与える人が交代制で3人ほど必要になるが、貧しい国ではそれほど多くのスタッフを配置することができず、寒い季節でも1日中牛の世話をすることになる。

FJDynamicsは農家の仕事を少しでも楽にしたいと考えている。1台約2万ユーロ(約255万円)のビジョンガイド式フィーダーは、1日に最大500頭の牛に餌を与えることができる。2019年、同社は110年の歴史を持つスウェーデンの農業会社Sveaverkenを買収しており、これがFJDynamicsの飼料押し出しロボットの実用化に貢献した。

「当社のお客様とは、テクノロジーについてお話ししたことがありません。農家の人々は、作物の収穫量を向上させるのに役立つかどうかという点により関心があるのです。農家さんは皆、経済家なんです」。

「テクノロジーを手の届きやすい価格で」というビジョンを掲げているため、利益率は「控えめ」で、そのため経営陣は運用コストに対して慎重だ。

現在、売上の約40%が中国以外の約60カ国で展開されている同社。海外に進出する中国企業の多くは「中国」と名の付くものへの反感を恐れてその出自に対して用心深くなっているのだが、ウー氏はより積極的なアプローチをとっている。

「10年間ヨーロッパに住んでいようと、自分のアイデンティティを変えることはできません。そんなことは重要ではなく、中国人でも米国人でもスウェーデン人でも、顧客の利益となる優れた製品を作り続けていれば、ユーザーは必ずい続けてくれるのです」。

特に企業のグローバル展開においては、データのコンプライアンスが重要な鍵となる。FJDynamicsはハードウェアとソフトウェアを提供し、現地のパートナーがデータを使った「システム」の展開を支援する。中国国外ではMicrosoft Azureが主なクラウドパートナーとなっており、それにより「GDPRなどのデータプライバシー要件を満たしながら、弾力的な展開が可能に」なっているという。

「データを欲しないというのが我々の企業文化です」とウー氏。

高度なプロセッサーを必要とするスマートフォンやドローンとは異なり、FJDynamicsの製品には中国で手に入る比較的シンプルなチップが使用されているため、昨今のサプライチェーンの混乱の影響を受けにくいと創業者は考えている。

現在は最先端のテクノロジーを開発しているわけではないが、自身の知識を伝える方法を模索しているウー氏。農業ロボットを開発する合間に、深圳の南方科技大学で講義を受け持つこともある。

「私は製品(FJDynamics)と教育という2つのことにフォーカスしながら、シンプルな生活を営んでいます。さまざまなことを目にしてきましたが、人はお金で変わることはできず、また幸せになることもできません。シンプルな目標を持つことが重要で、そういったシンプルな目標の達成が人を幸せにしてくれるのです」。

画像クレジット:FJDynamics

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(文:Rita Liao、翻訳:Dragonfly)

NYの都市型屋内水耕農業ゴッサムグリーンズがカリフォルニアに4万平米の研究農場開設

この数カ月間、かなりの時間を割いて垂直農法(vertical farming)について調査、執筆する中、あるキーワードが何度も浮かんできた。「近接」だ。近年の農業で使われている手法の多くが、農作物を遠距離に輸送することに注力し、結果的に炭素排出量を増やしている。Gotham Greens(ゴッサムグリーンズ)は厳密には垂直農法ではないが、地元生産農業の象徴になってたのは、ニューヨーク州ブルックリン、ゴーワヌス地区のWhole Foods(ホールフーズ)店舗の真上に立てられた都市型グリーンハウスのおかげだ。

創立10年の同社は、現在ニューヨーク市内の3カ所(ブルックリンに2つ、クイーンズに1つ)の他、東海岸(メリーランド州ボルチモアとロードアイランド州プロビデンス)に2カ所、中西部(ミシガン州シカゴ)に2カ所、山岳部(コロラド州デンバー)に1カ所所農場を所有している。米国時間12月8日、同社は西方向への拡大を進め、カリフォルニア州で初めてのグリーンハウスを、UC Davis(カリフォルニ大学デービス校)近くに設置したことを発表した。

画像クレジット:Gotham Greens

Gothamで9番目の農場は、広さが10エーカー(約4万平米、4ヘクタール)で、栽培に必要な資源を劇的に減らすように設計されている。同社は水耕技術を用いて、レタス1玉の栽培に通常必要な水、10ガロン(約37.9リットル)を1ガロン以下まで減らすことができるという。農場全体では年間2億7000万ガロン(約102万キロリットル)の水を節約でき、占有面積は従来型農業よりも300エーカー(121ヘクタール)少ない。

国の農作物のかなりの部分を生産しているカリフォルニアへの進出は興味深い動きであり、ニューヨークやシカゴに施設を開設するのとは明確に異なる戦術だ。もちろん、カリフォルニアの農作物栽培への誇り高き伝統にも関わらず、この州も気候変動の極めて深刻な影響を受けている。

画像クレジット:Gotham Greens

「カリフォルニアは北米の葉物野菜生産の中心であり、気候変動による水不足や山火事をはじめとするさまざまな影響が、農業に不可欠な資源を圧迫しています。私たちはカリフォルニアに拠点を置くことで、ますます深刻化する気候変動の影響に対する農産業界の解決策の1つになることを熱望しています」と共同ファウンダー・CEOのViraj Puri(ビラージ・プーリー)氏はリリースで語る。「カリフォルニア北部の当社最新のグリーンハウス施設は、地域全体の小売店やフードサービス提供者に商品を提供しながら、土地や水をはじめとする貴重な資源を保護するために、戦略的に選ばれた場所にあります」。

UCデービス校近郊という場所に間違いはない。同社は同大学の研究者と協力していきながら、将来の従業員との堅牢なつながりをつくるに違いない。さらに同社はこの機会を利用して、2024年までに同社がパッケージに使うプラスチックを40%(対2020年比)、使用電力を5%削減する計画も発表した。

画像クレジット:Gotham Greens

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(文:Brian Heater、翻訳:Nob Takahashi / facebook

コーヒー2050年問題に挑むTYPICA、世界のコーヒー流通をDX

朝、目覚めたあとに、「まずコーヒー」という人は多いだろう。全世界でコーヒーは毎日22億杯飲まれている。つまり、(正確ではないが)世界人口の4分の1の人にとって欠かせない飲み物である。世界中で石油の次に多い流通量というのもうなずける。

しかし今のままでは、おいしいコーヒーを飲めなくなる時代がやってくるといわれている。「コーヒー2050年問題」だ。

その問題とは何か、何がその原因となっているのだろうか。コーヒー豆のダイレクトトレードプラットフォームを提供するTYPICAが開催したメディアセミナーで、それらに加え、同社の考える解決策や、実際に見られている成果について代表 後藤将氏に聞いた。

TYPICA代表の後藤将氏。普段はオランダを拠点としている(画像クレジット:YASUAKI HAMASAKI)

コーヒー2050年問題

私たちが普段飲んでいるコーヒーは、赤道を挟んで北回帰線(北緯25°)と南回帰線(南緯25°)に挟まれた「コーヒーベルト」と呼ばれる、地球上でもごく限られた地域で生産されている。そのため、消費量の多い欧米をはじめ、日本でも輸入に頼らざるを得ない。つまり、コーヒーは貴重な農産物なのだ。

しかし、過去30年間で世界のコーヒー生産は600万トンから1030万トンへと70%も増加している。

喜ばしいように見えるこの成長の裏にあるのが、これまで生産していなかった国のコーヒー業界への台頭だ。以前であれば主要な生産国はコロンビア、メキシコ、エチオピア、グアテマラ、エルサルバドルなどであったが、最近ではベトナムといった東南アジアでも生産が盛んになってきている。

もともと生産量の高かったブラジルと、近年になって生産を開始したベトナム。この2国による大量生産が、コーヒー生産の増加の85%を牽引している。

国別生産量の遷移。赤い線で表されている生産国は今後の生産が危ぶまれている

では何が問題なのか。

コーヒーの品種(原種)にはアラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種があり、全流通の60%をアラビカ種が占めている。

このアラビカ種は、高品質で、いわゆる「おいしい」コーヒー。缶コーヒーなどでも、誇らしげに「アラビカ豆使用」とプリントしてあるものを目にしたことがあるだろう。

おいしくて高品質な反面、アラビカ種は病害虫に弱く手間がかかる。つまり、コストがかかるのだ。

しかし、気候変動による収穫量の減少、収穫可能なエリアの変化、買い手が価格を決める「先物市場」という取り決めなどにより、生産者が1年もの間、手間ひまかけて生産したコーヒーで生活できなくなりつつある。しかも、大量生産する国が生産量を上げてきたことから、需要と供給のバランスが崩れ、価格が下がり気味。流通量が増えれば増えるほど、小規模生産者の手取りが減り、コーヒーで生活できなくなってしまうのだ。

コーヒーは天候に左右されやすく、収穫後も果皮を発酵させたり、水洗いしたり、天日干ししたりと何かと手間がかかる

そうすると、生活のためにマンゴーやバナナといったリスクが少なくコストのかからない農産物へと添削する農家が増える。その結果、これまで小規模ながらも高品質で希少なコーヒー豆を輩出していた生産者が減り続け、2050年には「普遍的」で「平準化」されたコーヒーは飲めても、おいしくて高品質、かつ個性豊かなコーヒー(ケニア、メキシコ、エルサルバドルといった産地のもの)を飲めなくなってしまうと予測されているのだ。

セミナーの最中にふるまわれた3種の希少なコーヒー(画像クレジット:YASUAKI HAMASAKI)

これがコーヒー2050年問題といわれているものだ。

サステナビリティ×DX=TYPICA

では、30年後の世界にもおいしいコーヒーが存在し続ける方法はないのだろうか。

それを解決する1つの鍵は、生産者がコーヒー豆の生産で生計を立てられるようにすることだ。つまり、生産者が生活を続けられるようにすることが、おいしいコーヒーのサステナビリティにつながる、というわけだ。

TYPICAは、コーヒー豆生産者が国際価格で売らざるを得ない状況から、世界各地のロースターに適正価格でダイレクトトレードできるような仕組みを整えた。

それが、社名にもなっているコーヒー豆のダイレクトトレードプラットフォーム「TYPICA」だ。

TYPICAの仕組みはこうだ。

コーヒー豆の生産者がニュークロップ(収穫し精製したて)のコーヒー豆を、TYPICAのオンラインプラットフォームに登録(オファー)する。ロースターは更新されたオファーリストから、購入したい生産者のコーヒー豆を選び、価格を確認して予約する。単位は麻袋で、1袋に約60キログラムの生豆が入る。

購入個数により、手数料率が変化する。輸入にかかる費用などもわかったうえで、ロースターは購入する

予約数が確定したところで、TYPICAが総数を取りまとめ、輸入する。国内到着後、各ロースターに配分。在庫を持たず、在庫から受注分を配送するわけではないため、到着したばかりのフレッシュな生豆をロースターに届けられる。もちろん、在庫を持つことによる余計なコストもかからない。

一般的に、個人店のロースターが生豆を購入するのは問屋や卸業者からである。それら業者は、商社がコンテナ単位(約18トン)で仕入れて流通させたものを取り扱う。その結果、チェーン店ではないロースターは、「一般的」な「よく知られている」生豆を仕入れるほかない。独自性を打ち出すとしたら、焙煎方法やブレンドの比率を変更するぐらいしかなかったのだ。

しかし、TYPICAを利用することにより、名前を知ることがなかったような中小規模の農園が作る、高品質で希少なコーヒー豆に出会えるため、他店との差別化を図れるようになる。

国内で名前の知られていない中小規模の農園で作られたコーヒー豆の買い付けに不安を感じさせないよう、TYPICAでは次のようなものを提供している。

  1. サンプルリクエスト:オファーリストの中から、生産者(農園または精製所)の扱っている品種を選び、リクエストする。ロースターは、届いたものをカッピング(ワインでいうところのテイスティング)して購入を検討する
  2. カッピングコメント:カッピングしたロースターは、オファーリスト内にカッピングコメントを書き込める。それを参考にして購入を検討する
  3. 生産者情報:コーヒーの味を決めるのは品種だけでなく、エリアや標高も関係している。開示されている生産者情報をもとに味を予測し、購入を検討する

実際に、サービスを利用しているロースターの1人である石井康雄氏(Leaves Coffee Roasters)は、「新しい農園を発見することにより、他店との差別化が図れる。大規模ロースターのようなネームバリューがなくても、高品質なコーヒーを入手するチャンスが与えられている」とコメントした。

ケニアでコーヒーカンパニーを経営しているピーター・ムチリ氏(ロックバーンコーヒー)は、「生産者からロースターの元へ豆が届くまでの費用に透明性があるおかげで、生産者のモチベーションが上がっている。なぜなら、彼らにきちんとした対価が支払われていることがはっきりわかるからだ」とコメント。ボリビアで精製所を経営しているフアン・ボヤン・グアラチ氏(ナイラ・カタ)は、TYPICA側の人がインタビューのために生産者と会うので、信頼関係が生まれ、モチベーションもアップして、コーヒーの生産を続けるという意志が生まれている。また、ヨーロッパやアジアのロースターに、自分たちの豆が届く、ということも、彼らに良い影響を与えている」と語った。

なお、TYPICA自体のサステナビリティも気になるところだが、現在のところロースターから得る手数料(15~30%。購入袋数によって段階的に遷移)によってマネタイズしているという。

世界59カ国でサービスを開始したとはいえ、まだ赤字状態が続いている。「2025年が損益分岐点になるだろう。今は、投資を受けつつ、面を取りにいく段階にある」と後藤氏は語った。

コーヒーを愛するすべての人がコーヒーを愛し続けられるように

「これまで、ロースターが、離れた場所にいる生産者について知るすべはほとんどなかった」と後藤氏。「今回のように我々がオーガナイズしたイベントに、生産者とロースターにオンラインで参加してもらうことで、お互いの顔を見られるようになった。それが、ロースターにも生産者にも良い影響を与えている」という。

また、「今まで、中小規模の生産者は、世界にオファーできなかったが、TYPICAのプラットフォームを通じて、ダイレクトトレードが可能になった。ロースター側も中小規模の生産者からオンラインで購入できるようになった」と述べ、「これがコーヒー業界のDXたる所以だ」と説明した。

共同代表の山田彩音氏は「大規模生産されたものが大量に流通するようになったため、コーヒー豆の生産地に依る多様性が失われているという声がある。また、どのロースターに行っても、同じような品種しか置いていない。TYPICAというプラットフォームを利用することで、ロースターはオリジナリティを発揮できるし、客側としてはスペシャリティコーヒーを身近なロースターで楽しめるようになる。生産者の生活も守られ、持続性に役立つと考えている」と、TYPICAが果たす役割についてまとめたていた。

鈴木洋介氏(ホシカワカフェ)は、「遠い国にいる生産者も、私たちと同じように生活しているんだ、という意識を改めてもてるようになった。彼らの中には、自分たちが生産したコーヒーを飲んだことのない人がいることだろう。『あなたの育てたコーヒーは、こんなふうに焙煎されました』と、生産者に飲んでもらえる仕組みを作ってもらえたら」とコメントとともに要望を出した。

今後の展望については、「マンツーマンで、オンライン商談できる場を提供したいと考えている。言語の壁があるので、通訳付き。チケット制にして30分間、直接商談してもらえるようになる」と後藤氏。それがもたらす「おいしくて高品質」なコーヒーの持続性への効果について、次のように期待を込めて語った。

「これにより、中小規模の生産者であっても、世界中のロースターを相手に取引できるようになり、農園を続けるモチベーションを保ってもらえる。また、自分たちが販売した価格と、ロースターが購入した価格の差について透明性が保持されているため、搾取されているという気持ちが生まれない。正当な対価が支払われていると感じてもらえる。

コーヒー生産で生活できるようになれば、農園を続けたいと考えたり、もっと質の高いものを生産したいと試行錯誤したりしてくれるようになる。それが、多様で希少なコーヒーのサステナビリティへとつながるのだ」と後藤氏はいう。

画像クレジット:YASUAKI HAMASAKI

中国eコマースのPinduoduoが利益のすべてを農業に投資する理由

ここ数年、Pinduoduo(拼多多、ピンデュオデュオ)は、Alibaba(阿里巴巴、アリババ)の最強挑戦者として広く知られてきた。Alibabaの小売プラットフォームにおける年間アクティブユーザー数が、9月までの12カ月間で8億6300万人だったと報告されている一方、Pinduoduoは9月までの四半期の月間平均アクティブユーザー数が7億4000万人を超えたと発表している。

新たな成長エンジンを求めて、Pinduoduoはライバル企業とは異なる道を歩もうとしている。電子商取引の巨人である両社はともに成長が頭打ちになり始めているが、Alibabaがクラウドコンピューティングに力を入れているのに対し、Pinduoduoが資金を投入しているのは農業だ。

Pinduoduoは8月に「農業分野と農村地域の重要なニーズに直面し、対処する」ことを目的とする100億元(約1770億円)規模の農業プログラムを発表した。この包括的な取り組みには、農業関連のスタートアップ企業に対する出資や、基礎研究や人材育成への助成などが含まれている。

このプログラムは利益を目的としたものではなく、この第2四半期に得られたすべての利益と「今後の四半期に得られる可能性のある利益は、この取り組みに充てられる」と、同社は約束している。

Pinduoduoの農業に対する投資は、農村部の貧困を緩和するための努力であり、中国政府が最近呼びかけている「共同繁栄」(物心両面の豊かさをみんなで共有すること)への回答であるという見方もある。しかし、同社は当初から農業がその中核事業であることを繰り返し主張してきた。

2015年に設立されたPinduoduoは、果物のオンライン販売からスタートし、徐々に商品カテゴリーを広げていった。多くの生産者にとってeコマースは有益だった。中国の農業は、数百万もの小規模な家族経営の農場が中心で、生産した農産物を全国に販売するためには、何重もの流通業者に頼らければならなかった。そのため、農家はわずかな利益しか得られないことも多かった。

農産物の販売業者を誘致するため、Pinduoduoは手数料を免除しており、先週の決算説明会では「将来の四半期」もこの方針を維持する予定だと述べた。農家が登録すると、Pinduoduoは彼らをデジタルストアの運営やマーケティングに長けた人材に育成する。注文が入れば、中国の電子商取引ブームの中で形成された成熟した配送ネットワークを活用し、サードパーティの物流サービスが農産物を消費者に届ける。

農村の農産物を都市部の家庭に届けようとしているのは、Pinduoduoだけではない。AlibabaのTaobao(タオバオ)は、以前から「農業関連の電子商取引」を重要な取り組みとしており、Kuaishou(クアイショウ、快手)のような動画アプリは、ライブストリーミングを通じて農家の販売を支援している。

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しかし、Pinduoduoは販売だけでなく、農家の生産上の問題に関しても解決に役立ちたいと考えている。

2021年3月にColin Huang(コリン・ホアン)氏の後任としてCEOに就任したChen Lei(チェン・レイ)氏は「エンジニアとしての訓練を受けた私と私のチームは、農業のサプライチェーン全体に導入できる技術ソリューションを見つけることに専念してきました」と、決算説明会で語った

「当社の農業技術への取り組みは、需要と供給をマッチングさせることに留まらず、生産性、栄養組成、環境持続性を向上させるためのアップストリームな技術ソリューションを見出すことにまでおよびます。アグリテックの応用を強化することで、農業が技術に精通した若い世代にとって魅力的なものになることを、私たちは願っています」と、チェン氏は続けた。

販売や栽培のみならず、Pinduoduoは研究機関と協力して、肉や農作物などの生産物に業界標準を導入することにも取り組んでいると、同社の財務担当バイスプレジデントであるJing Ma(ジン・マ)氏は決算説明会で語った。

NASDAQ上場企業であるPinduoduoは、当然ながら投資家に恩義を受けている。第3四半期には、マーケティング費用の削減などにより、2四半期連続で営業利益が黒字となった。その一方で、同社は研究開発費に重点を移しており、これが第3四半期の営業費用の約19%を占めている。

Pinduoduoの農業投資が目に見える形で成果を上げるまでには、しばらく時間がかかりそうだ。例えば、Pinduoduoで販売している1600万人の農家にとって、同社の技術はどのように収穫量の向上に貢献するというのだろうか?

Pinduoduoはいくつか初期の成果を公表している。例えば、同社は2020年、世界中のスタートアップ企業に、最も甘く最も環境に優しいイチゴの栽培を呼びかけ、優勝したチームの精密農業ソリューションは、すでにいくつかの農場に導入されているという。

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画像クレジット:Pinduoduo / A strawberry grower on Pinduoduo

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(文:Rita Liao、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

東京大学・山口県・農研機構が青色LED光を照射しリンゴ・ブドウ果皮の色を改善する「果実発色促進装置」を開発

東京大学・山口県・農研機構が青色LED光を照射しリンゴ・ブドウ果皮の色を改善する「果実発色促進装置」を開発

果実発色促進装置。山口県産業技術センター

東京大学山口県産業技術センター農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)果樹茶業研究部門は、リンゴや赤系ブドウの果実に青色LED光を照射して果皮の着色を促す装置を開発した。リンゴやブドウの生産者は、地球温暖化などの影響で果物の着色が不良になる商品価値が下がる現象に悩まされているが、この装置で改善が期待される。

「果実発色促進装置」と呼ばれるこの装置は、幅50×奥行き40×高さ15cmの箱形をしており、中に青色LEDチップを多数配置した基板が内壁と仕切りに貼り付けられている。果皮に含まれる色素アントシアニンが青色光によってさらに多く蓄積されるために、着色が進むとのこと。この中で、直径12cmまでのリンゴなら12個を同時に処理できる。また、装置内は着色促進に適した温度に保たれる。

青色LED光の照射で、色むらのあるリンゴ(上段)の果皮が赤色(下段)に改善。東京大学

青色LED光の照射で、色むらのあるリンゴ(上段)の果皮が赤色(下段)に改善。東京大学

東京大学の実験では、装置内の温度を15度に設定して、リンゴ品種「ふじ」に青色光を5日間照射したところ、赤身が少なかった部分が赤くなり、色むらが改善された。糖度が13度以上ある果実で、着色促進効果が認められたそうだ。また、農研機構果樹茶業研究部門でも、赤色系ブドウの「クイーンニーナ」「甲斐路」「赤嶺」で着色の改善が確認された。ただし、こちらも糖度が低いと効果は見られないという。

青色LED光の照射で着色が改善されたブドウ品種「クイーンニーナ」。農研機構果樹茶業研究部門

青色LED光の照射で着色が改善されたブドウ品種「クイーンニーナ」。農研機構果樹茶業研究部門

山口県産業技術センターの吉村和正専門研究員は、量産すれば、1台あたり2万6000円程度で販売できると試算している。「将来的には、海外へ輸出される果実を運搬中や貯蔵中に着色促進して商品価値を高める手段にも応用できます。流通事業者だけでなく、生産者が活用すれば農業所得の向上も見込めます」とのことだ。