米政権、1月19日より自宅コロナ検査キットをオンライン注文で無料配布

世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスのパンデミックを宣言してから1年10カ月と8日後、米国人は政府から無料で簡易検査キットを注文できるようになる。米国時間1月19日から、COVIDTests.govにアクセスしてオンラインで注文することができ、検査キットは自宅に郵送されるという。

今のところ、このサイトには英語とスペイン語のランディングページしかない。また、送料も無料だと書かれている。

バイデン政権は、家庭用の簡易検査キットを10億回分購入し、米国居住者に無料で配布するとしている。この目的は、すべての人が必要なときに検査を受けられるようにすることだ。ホワイトハウスによると、1月19日には5億回分のテストが提供可能になるとのこと。当初は、1つの住所につき4回分の検査キットを注文することが可能となる。

ウェブサイトにアクセスできない人でも注文できるよう、電話回線を設置しているとも。政府は、国や地域の組織と協力して、リスクの高い、大きな打撃を受けたコミュニティの人々が検査キットを確保できるように努力していると述べた。

注意すべき点は、検査キットは通常、注文から7〜12日以内に発送されるということだ。そのため、新型コロナの症状が出ている人や、陽性者と濃厚接触した場合、すぐに使える家庭用検査キットが手元にないため探している人にとってはあまり意味がない。

しかし、簡易検査キットの需要の高さを考えると、これらの無料キットをストックしておく価値はあるだろう。売り切れている新型ゲーム機を人々が見つけるのを支援することで知られるTwitterアカウントでも、最近は新型コロナ検査キットの在庫アラートを行っているぐらいだ。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Kris Holt(クリス・ホルト)氏は、Engadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:georgeclerk / Getty Images

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(文:Kris Holt、翻訳:Aya Nakazato)

議事堂暴動を調査する米下院委員会がMeta、YouTube、Twitter、Redditに召喚状

2021年1月6日の米議会議事堂での暴動に関する調査を主導する下院委員会は米国時間1月13日、テック大手4社に召喚状を出した。

「1月6日特別委員会」の委員長Bennie G. Thompson(ベニー・G・トンプソン、民主・ミシシッピ州選出)氏は、YouTube(ユーチューブ)の親会社Alphabet(アルファベット)、Facebook(フェイスブック)とInstagram(インスタグラム)の親会社のMeta(メタ)、Reddit(レディット)、Twitter(ツイッター)に対し、これらのプラットフォームが当日の暴動を組織するためにどのように使われたかについて追加情報を提供するよう要求する文書を送付した。

発表の中で委員会は、連邦議会議事堂への攻撃計画に関連したコンテンツをホストしていると各社を非難している。「Metaのプラットフォームは憎悪、暴力、扇動のメッセージを共有するため、選挙に関する誤った情報、偽情報、陰謀論を広めるため、そして『Stop the Steal運動』を調整、または調整しようとするために使われたとされています」と委員会は述べ、その後解散したFacebookのCivic Integrityチームが調査に関連する情報を持っていたと考えていると指摘した。

当時報じたように、Facebookは2020年の米大統領選の正当な結果を否定するコンテンツの拡散を制御できず、Stop the Steal運動の主要ハブだった。また、Facebookは以前、Proud BoysやThree Percentersなど、議事堂襲撃事件の一翼を担うに至った一部の過激派や民兵的なグループを組織するためのプラットフォームとして選ばれていたこともあった。

同委員会のRedditへの苦情は、2020年1月下旬にヘイトスピーチを巡って禁止された後、独自ドメインに移行した悪名高いサブレディット「r/The_Donald」に焦点を当てているようだ。委員会はまた、YouTubeが暴動のライブストリームに使用されたこと、Twitterユーザーが「暴行の計画と実行に関するコミュニケーションに同プラットフォームを使用したとされている」ことを指摘した。

委員会は2021年8月に初めて15のプラットフォームに関連記録を要求したが、その回の書簡では、Snapchat(スナップチャット)、Twitch(ツイッチ)、TikTok(ティクトック)といった従来のソーシャルメディアアプリに加え、4chan(4チャン)、8kun(8クン)、Gab(ギャブ)、Parler(パーラー)、theDonald.win(ザドナルド・ドット・ウィン)といった過激派向けのサイトにも情報を要求している。

「繰り返し具体的に要請したにもかかわらず」4つの主要なソーシャルプラットフォームが十分に詳細な情報を提供しなかったため、委員会は前回と同じ要請をしており、今回は1月27日を期限としている。

画像クレジット:Photo by Spencer Platt/Getty Images / Getty Images

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Nariko Mizoguchi

米連邦通信委員会がデータ漏洩に関する企業の報告義務を厳格化する規制改正案を発表

米連邦通信委員会(Federal Communications Commission、FCC)は、データ漏洩に対する企業の責任を強化しようとする次の米国の規制当局となった。Jessica Rosenworcel(ジェシカ・ローゼンウォーセル)委員長は米国時間1月12日、データ漏洩の報告に関するより厳しい要件を導入するための規制改正案を発表した。最も注目すべきことは、新規制では「不注意による」データ漏洩が生じた場合も、影響を受ける顧客へ通知することが義務づけられるという点だ。データの漏洩を放置していた企業は、サイバー攻撃の被害者と同様に、顧客に伝達しなければならない。

また、データ漏洩の発覚から顧客へ通知するまでに現在設けられている1週間の待機期間も廃止される。一方、通信事業者は、FBIやシークレットサービスに加えて、FCCにもデータ漏洩に関する報告すべき情報を開示しなければならない。

ローゼンウォーセル委員長は、情報漏洩の「進化する性質」と被害者にもたらすリスクを考慮すると、より厳しい規則が必要だと主張。より大規模で頻繁に発生する事態から、人々を守るべきだと述べている。つまり、規制は現実に追いつく必要があるということだ。

FCCは、この改正案がいつ投票にかけられるかについては言及していないが、FCCの次回の公開会議は1月27日に予定されている。FCCがこの新しい改正案を承認するという保証はない。しかし、このような規則改定が進められることになっても、まったく不思議ではない。現在、企業は情報漏洩を開示する傾向にあるものの、顧客への通知に時間がかかったり、まったく通知されなかったりする事件が何度か発生して注目を集めている。この新たな規制が採択されれば、顧客に通知されるまでの時間が短縮され、人々がデータ保護や不正行為防止の対策を講じられる可能性が高まるはずだ。

編集部注:本記事の初出はEngadget。執筆者のJon FingasはEngadgetの寄稿ライター、

画像クレジット:JuSun / Getty Images

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(文:Jon Fingas、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

米国メリーランド大学が遺伝子操作した豚の心臓を人間の患者に移植し成功、術後3日経過も安定

米国メリーランド大学が遺伝子操作した豚の心臓を人間の患者に移植し成功、術後3日経過も安定

Thierry Dosogne via Getty Images

米メリーランド大学の医師が、遺伝子操作した豚の心臓を人間の患者に移植し、成功したと発表しました。術後3日の時点では顕著な拒絶反応もなく、機能しているとのこと。

移植を受けたのは57歳のデヴィッド・ベネット氏。57歳のベネット氏は、彼の息子がAPに語ったところによると心臓移植をしなければ余命わずかと診断されているものの、人間の心臓移植を受けることができない状況にありました。ほぼ前例がないだけに、成功するかどうかはわからない遺伝子操作済みの豚の心臓移植だけが唯一の選択肢といて示されたとき、ベネット氏は「一か八かだが、最後の選択だ」と語ったとのことです。

通常、このような手術の許可は簡単には下りません。しかし、米食品医薬品局(FDA)は、生命を脅かされた状況にあり、なおかつ他の選択肢がまったくない患者の最後のチャンスとなる「同情的利用」と呼ばれる緊急認可手段を適用しました。

とはいえ、豚の心臓をそのまま人体に移植すれば、強い拒否反応が出るのは目に見えています。ただ、逼迫している心臓移植の需要への対処のため、近年はいくつかのバイオテック企業が豚の心臓を人体に移植するための研究と技術開発を行っており、その中のひとつであるUnited Therapeuticsの子会社Revivicorが、ベネット氏へ移植するため、遺伝子組み換えで拒否反応の原因となる4種類の遺伝子を取り除き、一方で6種類の人の遺伝子を挿入した特別な心臓の提供を申し出ました。

昨年9月には、実験用に献体された人に豚の腎臓を一時的に移植したところ、それが機能したとの実験結果がニューヨークの研究者らによって発表されており、豚から人への臓器移植の相性が良いことが注目されています。

そして、今回のベネット氏への移植手術は、過去5年間に50頭のヒヒに豚の心臓を移植して研究を重ねてきたバートリー・グリフィス医師が担当しました。7時間かけて手術を終えたグリフィス医師は、ベネット氏の心不全と不整脈の状態は人間の心臓を移植しても改善できなかった可能性があると述べています。そして、豚の心臓弁は人に移植されるようになって長く、ベネット氏自身も(息子によれば)10年程前に弁の移植を受けていたとのことでした。

もちろん、術後しばらくは安定していてもその後拒否反応が出てしまう可能性はまだ否定できません。ベネット氏の息子は「父はこの手術におけることの大きさと重要性をしっかり理解している」とし「今後2~3日、いや1日しか生きながらえられないかもしれない。今の時点ではまったく未知の領域です」と述べました。

しかし術後の経過は悪くなく、メリーランド大学医学部の異種移植プログラムの責任者ムハンマド・モヒディン博士は「この手術が成功すれば、苦しみながら移植の順番待ちに並ぶ患者たちに臓器を提供しやすくなり、劇的な変化をもたらすだろう」と述べました。

米国では、臓器移植の順番待ちでおよそ10万人がリストアップされており、毎日17人が持ちこたえられず命を落としているとされています。

(Source:AP NewsEngadget日本版より転載)

【コラム】米国で増えている暗号資産市長

Bitcoin(ビットコイン)をはじめとする暗号資産の価格は、2021年に急騰した。パンデミックの時代、この分野では暗号資産で大富豪になったという話もよく聞く。

暗号資産といえば、元々は民間セクターの話である。ビットコインやその他の暗号資産プロジェクトは、非中央集権的で政府の金融政策の影響を受けない変更不能なデジタル通貨を作ることを意図して始まったものだ。

しかし、この市場の価値が2兆ドル(約230兆円)を超えた近年、公的機関も暗号資産に注目するようになった。初期の規制を導入した国、全面的に禁止した国、大規模な導入を行った国など、対応も国によってさまざまである。

自国の不換紙幣を印刷する国家政府と地方自治体とでは、暗号資産に対する見方は大きく異なり、最近では、暗号資産をこの新しい産業が持つ技術的、財政的、経済的発展の可能性を活用する機会と見る都市も増えている。

確かに、市役所でビットコイン、ブロックチェーン、NFT(非代替性トークン)といった言葉を聞くことはあまりない。しかし、マイアミ、タンパ、ニューヨーク、ジャクソン(テネシー州)などの4都市ではこれらの言葉を耳にすることも増えてきた。というのも、市長が自身の給与の一部をビットコインで受け取ることに合意するなど、暗号資産の分野に参入するためのきっかけを示したからだ。

都市のイノベーションに関する多くのストーリーがそうであるように、このストーリーも1人の市長が話題を先導し、他の市長たちに挑戦状を叩きつけることから始まる。今回のケースでは、マイアミ市長のFrancis Suarez(フランシス・スアレス)氏が、次の給料をビットコインで受け取るとツイートしたことに対抗して、次期ニューヨーク市長のEric Adams(エリック・アダムス)氏が複数回の給料をビットコインで受け取ると発言している。

スアレス氏は次のように話す。「教育は、暗号資産にまつわる恐怖や誤解を払拭するための最良の方法であり、アダムス市長と私の発言の根本は教育を狙ったものです。私たちが真っ先に水に飛び込む姿を見れば、おそらく他の人々も自信を持って水に足をつけることができるでしょう」。

1人目の市長は注目すべきで、2人目の市長はその模倣だろう。しかし、3人以上の市長がビットコインの勢いに乗るのであれば、これは明らかにトレンドといえる。

ジャクソンは人口約7万人。Scott Conger(スコット・コンガー)市長は、同市が選出した市長の中では最も若い部類に入るが、この友好的な挑戦に参加し、給与をビットコインで受け取ると発言した。コンガー氏とスアレス氏は、これについてツイッターでやりとりをしている。コンガー氏はジャクソンという小さな都市で、暗号資産分野のイノベーションを起こしてきた。

これに負けじとフロリダ州の別の市長も参入してきた。タンパの Jane Castor(ジェーン・キャスター)市長は、コンガー氏のツイートからわずか数日後、タンパで開催された暗号資産カンファレンスで、給料をビットコインで受け取ることを発表したのだ。最近、新興技術都市のトップに選ばれたタンパは、フロリダ州内の技術系雇用の25%を占め、暗号資産という新興分野と親和性が高い。

コンガー氏は、スアレス氏の行動は大都市だけに当てはまるものではなく、あらゆる規模のコミュニティで通用すると指摘する。彼は、大都市で起きているテクノロジーや暗号資産に関する興味深い出来事を観察し、それがジャクソンのような(小さな)都市にはどのように反映されるかを考え、(優れた市長なら当然だが)ジャクソンの経済発展の可能性に目を向けた。

彼は次のように話す。「マイアミや大都市に限定される必要はありません」「ジャクソンにはそのチャンスがあります。ジャクソンは、テネシー州で家庭にギガビットの光ファイバーを導入した最初の都市です。新しい技術をいち早く取り入れるのは当然でしょう?」。

ジャクソンでは超高速のインターネットサービスが普及しており、ハイテク企業の獲得競争に大きく貢献している。コンガー氏は、この結果としてジャクソンに暗号資産や分散型金融(DeFi)の企業が増えるはずだ、と考える。

「場所は存分にあります」とコンガー氏。小売業界が縮小し、既存の企業が使用する物理的な空間が減る中、彼はチャンスを見出している。「DeFi、暗号、技術系の企業が生まれれば、彼らには事業を行う場所が必要になります」。

この小さなコミュニティの利点を強調し、コンガー氏は次のように付け加える。「人口7万人の都市で十分なのに、なぜ数百万人の都市に行く必要があるのでしょうか」。

経済発展を重視する姿勢は、4人の市長だけでなく、暗号資産の世界を知ることとなった他の地域のリーダーたちも共通していて、彼らはそれぞれの都市で雇用の未来について考えている。マイアミでは、暗号資産分野における市長の取り組みの中核にそれが見て取れる。

スアレス氏は次のように話す。「マイアミは共通のテーマの上に成り立っています。マイアミに来る人たちは、自国の政府に取り残されたり、さらにひどいケースでは迫害されたりすることに嫌気がさし、より良い生活を求めてここに来ています。そしてお返しにとこの街をもっと良いものにしてくれます」「マイアミムーブメントは、質の良い、高収入の仕事をこの街にもたらしています。私は、マイアミの将来を見据え、次世代のリーダーたちをこの街から輩出したいと考えています」。

人材の誘致と定着に力を入れているのは、国内の多くの都市でも同じである。マイアミは、テクノロジー、金融、(そしてこの記事で紹介するようにその両方が融合した)暗号資産といったあらゆる分野を成長させることを目指している。

「マイアミムーブメントは、パンデミックなどの数々の要因で人々がマイアミに集まったことに起因するものですが、成長中の金融やテック部門への支援は何十年も前から行っています 」とスアレス氏。「多くの人が思っているほど『突発的』なものではありません。この街にイノベーションと成長を呼び込むことは、すべてのマイアミの住人にとって大きな利益となります」。

金融の分野で長年の優位性を持ち、テック部門も引き続き強化されているニューヨークのような都市が、暗号資産の分野で何ができるかは想像することしかできない。同様に、何年も前から成長を続けるタンパも、テック系の人材を惹きつける力と経済的なポテンシャルがますます高まっている。暗号資産分野が成熟するにつれて、興味深い違いが見えてくるかもしれない。

メタバースで重要なポジションを取る最初の都市は?最初に自治体のNFTを導入する都市は?このデジタル分野の成長に取り組む市長たちのリーダーシップが現場レベルで発揮されれば、その答えはすぐに出るはずだ。

編集部注:本稿の執筆者Brooks Rainwater(ブルックス・レインウォーター)氏は、Center for City Solutions and Applied Research at the National League of Citiesのディレクター。

画像クレジット:Alexander Spatari / Getty Images

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(文:Brooks Rainwater、翻訳:Dragonfly)

ボーダーレス暗号資産ネットワークは国家による制裁と戦う、曖昧なガイドラインでWeb3企業はイランなどのユーザーを置き去りに

イランのような国に対する米国の金融制裁は、暗号資産スタートアップがその戦いを慎重に選ばなければならない厄介な規制環境を作り出している。これまでのところ、これらの企業が選んでいない戦いはユーザーに実質的な影響を与えており、時には企業が主張する分散化の哲学と相反することもある。

「誰かに何かが降りかかってくるでしょう。こうした規制がどこで、いつテストされるのか、私たちにはわかりません」と、テクノロジーに精通した共同体の「自律分散型組織(DAO、Decentralized Autonomous Organization)」の実現に注力するSyndicate(シンジケート)のゼネラルカウンセル、Larry Florio(ラリー・フロリオ)氏は述べている。

以前の例では、暗号資産カストディスタートアップのBitGo(ビットゴー)が、制裁対象国のユーザーとのインタラクションの発生を「防ぐように設計された制御を実装」しなかったとして、2020年に外国資産管理室(OFAC、Office of Foreign Assets Control)から罰則を科された。BitGoは基本的に暗号資産銀行のようなものである。クライアントの資産を安全な金庫室に保管することを支援している。この法的な罰則は、そのようなクライアントの一部が制裁対象国の個人から暗号資産を受け取った可能性がある場合に生じた。OFACはこうしたことが米国の制裁下では許容されないことを示したのである。同様の流れで、暗号資産取引所のBinance(バイナンス)は、イラン人とキューバ人が所有するアカウントを定常的に無効化していることで知られている。

業界をリードするEthereum(イーサリアム)主体教育機関の1つであるConsenSys Academy(コンセンシス・アカデミー)が、2021年11月に自社のオンラインプラットフォームから約50人のイラン人学生を締め出したのも、それが理由であろう。「当社の記録の最近のレビューに基づき、米国の法律で商品やサービスの提供が禁じられている国にあなたが所在していることが示されました」と主張するものだった。

このコンプライアンスレビューは、同プログラムが無料であり、取引は含まれていないことから、疑問を提起している。ConsenSys Academyの開発者リレーションヘッドであるCoogan Brennan(コーガン・ブレナン)氏は、イラン人学生と彼らが直面する課題に関するインタビューを2021年2月にCoinDesk(コインデスク)へ提供していた。このプログラムに参加していたSalman Sadeghi(サルマン・サデギ)氏は、TechCrunchに対し「イラン人はWeb3で二流市民のように扱われている」と語った。

「彼らは私たちがイラン出身であることを最初から知っていました」とサデギ氏。「このように制裁は、政府ではなく罪のない人々に害を与えていると思います。公正ではありません【略】イランにおいて、Ethereumマイニングはまだ一般大衆に普及しています。しかし、暗号資産マイニングのほとんどは政府によって行われているのが実情です」。

さらに、@Alireza__28と名乗る別の学生は、自分はアカデミーで勉強するためにテヘランでの仕事を辞めており、何カ月も参加した後で修了証なしにプログラムから追い出され、キャリアプランを台無しにしたと語っている。

「本当に屈辱的でした」と同氏は話す。「暗号資産で報酬が得られるリモートブロックチェーンの仕事のオポチュニティは数多くあります。どこに住んでいるかは関係ありません。私は1つの希望として、ビザのスポンサーシップで(イランを去って)仕事のオファーを受けることを期待していました。そしてもう1つの大きな展望は、私自身で、この地から分散型のアプリを作り上げることでした」。

この教育プログラムに制裁が実際に適用されるかどうかも不明だ。教育プラットフォームのCoursera(コーセラ)は、米国政府から直接許可を得てイランの学生を受け入れている。金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN、Financial Crimes Enforcement Network)の元ディレクター代理のMichael Mosier(マイケル・モシエ)氏によると、バイデン政権はイランとの関係を緩和しようとしており、OFACはこうしたユーザーへのサービス提供の許可をConsenSysに与えた可能性がある。別の認可国の例として、OFACは2020年に、ベネズエラでの人道支援を目的としたStableCoin(ステーブルコイン)流通キャンペーン承認している。

「ConsenSysのような事例から見えてくる大きな要点は、OFAC領域の経験豊富な弁護士と話す価値があるということです」とモシエ氏は語る。「ConsenSysにこれができないのは信じ難いことです。人々は往々にして、リスクに対処するのではなく、逃げ道のようなものを自ら選んでしまうことがあります」。

一方、フロリオ氏は、こうした制裁に保守的な姿勢を取っている企業を責めることは難しいと反論した。

「免除を求めようとするだけでも、自分たちの注目度を高め、規制当局のさらなる監視を引きつけることがあります」とフロリオ氏。「最近の業界のやり方の多くは、問わない、話さない、というものです」。

イランのEthereumファンにはまだ希望があるかもしれない。ConsenSysのグローバルPRリードであるElo Gimenez(イーロ・ギメネス)氏はTechCrunchに対し、同社は「明日のデジタルエコノミーを構築するという自らの使命に全面的に専心しており、国際的なエンゲージメントが困難な地域を含め、世界中で合法的に共有し教育する方法を模索しています」と語った。

その一方で、依然としてイラン人たちにとっては、Gitcoin(ギットコイン)やMetaMask(メタマスク)といったEthereumの共同創設者Joe Lubin(ジョー・ルービン)氏のポートフォリオ企業が提供する集中型NFTプラットフォームやツールを使う上で、通常はVPNサービスと組み合わせて、自分たちのロケーションを隠すことが常套的になっている。例えばクラウドファンディングプラットフォームのGitcoinは、ペルシア語を話す学生のためのキャンペーンをホストしており、同キャンペーンは2021年3月から12月までアクティブになっていた。

GitcoinのCOOであるKyle Weiss(カイル・ワイス)氏がTechCrunchに語ったところによると、2021年12月8日現在、同氏の資金調達プラットフォームは「米国の法律を順守するために細心の注意を払い、この助成金を非アクティブ化している」という。

しかし、暗号資産取引所のKraken(クラーケン)でビジネス組織のための判決ガイドライン策定に貢献した元顧問弁護士のMary Beth Buchanan(メアリー・ベス・ブキャナン)氏はTechCrunchに対し、GitcoinやConsenSys Academyのような企業が制裁対象国のユーザーを必然的に禁止する必要があるという考えには同意しないと語った。

「彼らが携わることを望んでいた活動は、制裁の対象外になる可能性も十分にあります。おそらく、企業が適切な問いを発しなかったのでしょう」とブキャナン氏は語っている。「多くの活動が制裁体制から完全に免除されており、その他の活動は一般認可を受けることができます。また、OFACに個別に申請して、行っていることに問題がないかを確認することも可能です。一般の人々でも、OFACに電話して活動が制裁から免除されるかについて相談できるように、問い合わせ窓口が用意されています」。

端的にいえば、暗号資産企業は、社会から取り残されたコミュニティを取り込む戦略的な方法を考案するのではなく、コミュニティを回避することを選択しているのかもしれない。ブキャナン氏によると、特に芸術や教育に関するケースでは、ほとんどのビジネスオーナーが予想する以上に、コンプライアンスに従うコストははるかに低いという。一方、イラン、キューバ、その他の制裁対象国の一部の人々は、暗号資産業界が事実上のカースト制度で運営されていると感じている。オンラインコミュニティに参加するために自分のアイデンティティを隠す必要があることは、コミュニティがボーダーレスで包括的であることと同一ではない。

「確かに、私たちは独自のユーザーインターフェイスとWeb3ウェブサイトを開発することができます」と、閉鎖されたGitcoinキャンペーンに関わった女性の1人であるAysha Amin(アイシャ・アミン)氏は述べ、EthereumプロジェクトやSolana(ソラナ)のようなアルトコインの競合相手を語る際に人々が言及する、Web3あるいは「メタバース」という深遠なコンセプトについて次のように言い表した。「この種の孤立は良くないように思います」。

Gitcoin以外では、アミン氏は現在、Secureum(セキュリアム)と呼ばれるEthereum Foundation(イーサリアム財団)が支援する教育プログラムに参加している他、テヘランを拠点とするテック企業でも働いている。この記事で紹介している多くのイラン人同様、同氏もMetaMaskのユーザーで、特定のプラットフォームでの差別的な禁制にもかかわらずこの分野で働き続ける意向である。

「このグループ(ブロックチェーン愛好家のためのファルシ語[ペルシア語]言語グループ)を始めたのは(別の)ConsenSysブロックチェーン開発者ブートキャンプを終えた後でした」とアミン氏は続けた。「自分のプライベートキーさえあれば、心配する必要はありません。MetaMaskは自分の情報をローカルに保存します」。

少し背景を説明すると、同氏が所属するイラン人グループには、2019年のDevCon Ethereumカンファレンスの際に日本で出会ったメンバーも含まれている。アミン氏は、2021年にこのイラン人女性5人のグループに加わった。米国を拠点とする同氏らのGitcoinキャンペーンのパートナーであるThessy Mehrain(テッシー・メヘライン)氏は、Gitcoinキャンペーンについて次のように説明した。

私は多様性イニシアティブでConsenSys Academyと協働してきました。その一環としてマイノリティコミュニティのための奨学金を提示され、それをWeb3に関する教育を目的としたアムステルダムに拠点を置くCoinIran(コインイラン)に供与したのです。私は彼ら(CoinIranのブロガー)と大阪で開催されたEthereumカンファレンスで会いました。2020年にある女性開発者グループがSolidity(ソリディティ)ブートキャンプに参加して【略】そしてWomen in Blockchain(ウーマン・イン・ブロックチェーン)の支部がテヘランで結成され、ニューヨーク、ボストン、ブリスベン、ラゴスなど世界中で行われているのと同じように【略】ローカルに、完全に独立して運営されており、テクノロジーとそのオポチュニティに関する教育を行っています。

すべてを考慮すると、これらのイニシアティブは金融取引よりも教育に重点を置いているようだ。

「教育は、個人が情報に基づいた決定を自ら行うのを助け、社会と国家の発展に貢献します」とメヘライン氏。「こうした女性たちは国際社会の一員であり、教育によって有意義な貢献を行う権限を与えられるべきです」。

また、この最近のGitcoinにまつわる禁止措置は、Ethereum Foundationの創設者であるVitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)氏やConsenSysの主要投資家であるルービン氏のようなEthereumの共同創設者が資金提供した世界的なイニシアティブの中では突出しているようだ。その理由の一端には、フロリオ氏が指摘したように、メタバース全体を識別することは不可能だということがある。

「主権国家が外交政策を放棄するとは思えません【略】しかし、何らかのファイアウォールをイラン全土に適用しなければイラン人は何にも参加できないと主張するのは、法的強制力のないことです。そうしたインターネット封鎖のようなことを行う技術は存在しないと思います」とフロリオ氏は語っている。「制裁法を課すことは容易ではなく、創造的な解釈を必要とするでしょう【略】執行がそこにどのようにもたらされるのか、あるいはこのコンテキストで完全に遵守する方法が既知ではないことが考慮に入れられるのかどうかはわかりません」。

今のところ、一部の暗号資産企業は、イランなど制裁対象国の人々を含めて法的に対応する戦略を求めるよりも、アクセスを禁止する方を選んでいる。

「常時のフルアクセスを私たちは有していません。Web3では簡単に排除したりアクセスを禁止したりできます」とアミン氏。「ここイランでは、ブロックチェーン技術を扱う人々、マイニングを行う人々、トレーダー、開発者は常にWeb3へのアクセスについて不安を抱いています。そして私たちは間違いなく、この『二級市民』扱いを感じているのです」。

画像クレジット:cokada / Getty Images

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(文:Leigh Cuen、翻訳:Dragonfly)

Airbnbのクルマ版、カーシェアリングのTuroがIPOを申請

ピア・ツー・ピア・カーシェアリングのスタートアップTuro(トゥーロ)が、米国で上場申請したことを正式発表した。2021年8月から密かに進めていた手続きだ。

米国時間1月10日、米国証券取引委員会(SEC)に提出されたS-1書類に、募集条件は書かれていない。

Turoは2010年に設立され、Airbnb(エアビーアンドビー)のクルマ版と言われている会社で、民間の自動車所有者が、同社のウェブサイトを通じて車両を貸し出すサービスを提供している。2021年9月30日時点で、7500以上の都市にアクティブ・ホスト8万5000人、アクティ車両16万台が登録していると同社は言っている。自動車オーナーは保有コストの削減が見込め、ユーザーは、パンデミックによるサプライチェーン問題でレンタカーが値上げされている時期に、短期レンタルを利用できるメリットがある。伝統的レンタカー業界の苦境が、激しい競争にもかかわらずTuroの市場シェア獲得に寄与したことは間違いないが、その人気は時として負担をもたらすことをS-1のリスクファクター記述が示している。

財務状況概要

まず財務状況を見てみよう。

2020年、Turoは純売上1億4990万ドル(約172億9000万円)を計上し、対前年比6%の成長だったとS-1に記載されている。収支は純損失9710万ドル(約112億円)で、2019年の純損失9860万ドル(約113億7000万円)からわずかに改善された。

Turoは売上増加についていくつかの要因を挙げているが、中でもRisk Score(リスク・スコア)と同社が呼ぶデジタルツールが目立っている。2020年4月に提供開始されたこの機能は、利用者が予約する際にTuroが徴収する手数料を動的に調整する。Turoは、このツール、およびホストが車両を貸し出す料金を引き上げたことが、純売上の増加に貢献したという。

2021年、売上と損失が急増。

Turoは2021年最初の9カ月間に3億3050万ドル(約381億2000万円)の純売上を生み出し、2020年同期間の1億780万ドル(約124億3000万円)から207%急増した。純損失も同じく急増した。2021年9月31日までの9カ月間に、Nuroは1億2930万ドル(約149億2000万円)の損失を計上し、2020年の同時期は5170万ドル(約59億6000万円)だった。

その理由?TuroはS-1書類で、レンタル日数の増加および1日当たりの総取扱高の増加によって売上が増えたと書いている。

S-1を精査したところ、Turoは2020年、少ない労力で多くのことを行おうとした結果、この年の財務状況が好転したとみられる。同社は2020年の出費を抑え、事業経費を2019年の1億3390万ドル(約154億4000万円)から2020年は9580万ドル(約110億5000万円)に削減した。

2021年最初の9カ月間の状況は異なる。同期間の事業経費は1億2401万ドル(約143億円)で、前年同期間の7160万ドル(約82億6000万円)を上回った。

リスクファクター

同社が直面するリスクファクターには、当然ながら「人々がTuroを使わなくなったらどうするか」および、類似アプリと伝統的レンタカー会社との「競争に直面する」ことが挙げられる。しかし、他にもいくつか気になる点がある。

まず、Turoは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが同社ビジネスに変動性を加えたことを指摘している。会社は社員の解雇を余儀なくされ、2020年にはドイツでの操業を閉鎖し、なんとか「新型コロナ以前レベルを超える」ところまでこぎつけた。

同社は、ホストに対する犯罪行為の責任問題に直面する可能性を指摘している。これまでに訴訟や罰金が発生した様子はないが、2021年8月、Turoをはじめとする複数のピア・ツー・ピア・レンタル・アプリが人身売買などの犯罪に利用されたことが発覚した。国境付近で増加傾向にあると米国税関・国境警備局が認めている犯罪だ。

Turoは、同社に対してレンタカー許可の取得を義務づけている都市、具体的には空港当局からの訴訟リスクもある。実際この面においては、Turoは訴訟を受け反訴もしている。空港利用に関する訴訟は4件あり、Turoがロサンゼルス市を相手取った訴訟を含め3件は未解決だ。

機会と成長

リスク要素はあるものの、Turoは現在のサービス可能獲得可能市場規模を1460億ドル(約16兆8405億円)、総獲得可能市場規模(TAM)を2300億ドル(約26兆5257億円)と推計している。

「当社の総獲得可能市場規模、2300億ドルのうち1340億ドル(約15億4541億円)は北米、650億ドル(約7兆4969億円)が欧州、310億ドル(約3兆5754億円)がそれ以外(中長期的機会があると当社が考える国々が含まれます)と推計しています」と提出書類にかかれている。

同社が事業を本拠地米国だけでなく世界市場に進出する用意ができているらしいことは注目に値する。さらに同社は、戦略的買収および提携によって「ホストやゲストに現在自社で提供していないサービスや機能を提供する」つもりだ。

画像クレジット:Turo

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(文:Rebecca Bellan、Kirsten Korosec、翻訳:Nob Takahashi / facebook

米議事堂襲撃事件から1年、右派系ソーシャルアプリParlerが約23億円を調達

2021年に起こった米国会議事堂襲撃事件の記念日である米国時間1月6日に署名・提出されたSEC報告書によると、保守系ソーシャルメディアプラットフォームのParler(パーラー)が2000万ドル(約23億円)を調達した。登録ユーザー1600万人超とうたうこのアプリは、そのミッションを「ビッグテック、ビッグ政府、そしてキャンセル・カルチャーの権威主義の力」に抵抗することに焦点を当てたものだと説明している。このアプリはまた、超党派だと主張しているが、名誉毀損防止同盟南部貧困法律センターを含む反ヘイト組織や研究者は、議事堂での暴動における役割から反ワクチン誤情報の拡散まで、極右情報エコシステムにおけるParlerの影響力に注意を向けている。

新たな投資家が誰なのか、Parlerはコメントのリクエストに応じていないが、申請書によると、10人の非適格投資家が今回出資しているとのことだ。前回の額非公開のエンジェルラウンドでは、共和党の主要政治献金者であるRebekah Mercer(レベッカ・マーサー)氏が資金を提供した。マーサー氏は、提出報告書に執行役員および取締役として記載されている。また、保守系風刺サイトBabylon BeeのCEOであるSeth Dillon(セス・ディロン)氏も取締役に名を連ねている。

Axiosがこの報告書に最初に気づき、AxiosもまだParlerからコメントを得ていない。

Parlerは、2021年1月6日の暴動の頃に、Twitter(ツイッター)やFacebook(フェイスブック)などのソーシャルメディア企業がDonald Trump(ドナルド・トランプ)前大統領を自社のプラットフォームから追放したことで注目されるようになった。この禁止令は、トランプ氏が自身のフォロワーを利用して、大統領権力の平和的な移行を妨害しているという懸念から、再三警告経て実行された。

トランプ氏が主流のソーシャルプラットフォームから姿を消したことに触発され、同氏の支持者の多くが、コミュニティガイドラインがそれほど厳しくないParlerに集まった。Parlerは議事堂攻撃の数日後にApp Storeでランキング1位に上昇したが、2021年1月8日にGoogle Playから削除された。Amazon(アマゾン)と(Apple(アップル)もすぐに、利用規約違反を理由にプラットフォームからParlerを削除した。両社は、このアプリがトランプ氏の支持者や他の極右ユーザーによって、暴力を呼びかけ、議事堂を襲撃する計画を組織するために使用されていたと述べた。

「Parlerは、人々の安全に対するこうした脅威が拡散していることについて、適切な対策を取りませんでした。当社は、Parlerがこれらの問題を解決するまで、App Store利用を停止します」と、Appleは禁止措置の際にTechCrunchに述べた。

Parlerの当時のCEOであるJohn Matze(ジョン・マッツェ)氏は、App Storeからのコンテンツモデレーション改善計画の提出要求に協力しない、と自身のParlerアカウントに投稿した。しかし、同氏は1月29日、マーサー氏が支配するパーラーの取締役会から解雇された。4月には、新CEOのGeorge Farmer(ジョージ・ファーマー)氏のリーダーシップのもと、ParlerアプリはApp Storeに復活した。

ファーマー氏は最近のニューヨーク・タイムズとのインタビューで、Parlerが自身の着任前にApp Storeから削除されたとき、アプリにはAIによるモデレーションがなく、人間のモデレーションのための仕組みである陪審システムも初期段階だったと説明した。

ファーマー氏によると、自身のリーダーシップの下、ParlerはApp Storeから削除された時点では搭載していなかったAIコンテンツモデレーションを実装した。今回の2000万ドルの追加資本注入は、Parlerが人間のモデレーションと並行して使用するこのフィルタリング技術の構築を継続するのに役立つかもしれない。また、Parlerのコミュニティガイドラインには現在、同アプリが「犯罪、民事上の不法行為、その他の不法行為のためのツールとして使用されることを故意に許可しない」と明記されている。

Sensor Tower(センサータワー)のデータによると、Parlerのモバイルアプリはリリース以来、全世界で約1130万回ダウンロードされた。2021年5月にParlerがApp Storeに復帰してから現在までの間に、同アプリのダウンロード回数はわずか14万1000回にすぎないと、Sensor Towerは指摘している。Parlerが発表している登録ユーザー1600万人超という数字が正確であれば、大半は元々のモバイルアプリからParlerにアクセスしていることになる。

Parlerは、2月21日の大統領の日に立ち上げられる予定のトランプ氏自身のソーシャルネットワークTRUTH Socialという新たな競争相手を間もなく得る。

画像クレジット:Photo Illustration by Thiago Prudêncio/SOPA Images/LightRocket via Getty Images

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi

ランサムウェア攻撃で米国5000校のウェブサイトがオフラインに、コロナ集団感染の通知に障害も

米国各地の学校区にウェブサイトのデザイン、ホスティング、コンテンツ管理のソリューションを提供しているソフトウェアハウスのFinalsiteが、ランサムウェア攻撃を受けた。

先週初め、Finalsiteがホストしているウェブサイトを利用している学区は、サイトにアクセスできなくなったり、エラーが表示されることに気づいた。当初、Finalsiteはこの問題を複数のサービスにおける「パフォーマンス上の問題」としていたが、コネチカット州グラストンベリーを拠点とする同社は、今回の障害がランサムウェアによるものであることを認めた。

「1月4日(火)、当社のチームは、我々の環境の一部のシステム上にランサムウェアが存在することを確認しました」と同社は声明で述べている。「当社は直ちにシステムの安全を確保し、活動を抑制するための措置を講じました。また、第三者のフォレンジック専門家の協力を得て、迅速に調査を開始し、特定のシステムを積極的にオフラインにしました」とも。

Finalsiteの広報担当者であるMorgan Delack(モーガン・デラック)氏がTechCrunchに語ったところによると、同社の全世界の顧客総数8000のうち、カンザスシティ、イリノイ州、ミズーリ州の学区を含む約5000校の顧客が今回のインシデントの影響を受けているとのこと。ウェブサイトの停止に加えて、あるRedditユーザーによると、このインシデントにより、新型コロナ集団感染の発生による休校に関するメール通知を送信できない学校もあったという。

Finalsiteは最新の状況報告の中で「エンドユーザーに表示されるウェブサイトの大部分はオンラインに戻っている」と述べているが、「一部のサイトでは、適切なスタイル、管理者のログイン機能、カレンダーイベント、関係者ディレクトリがまだ欠けている可能性がある」と指摘している。Finalsiteの顧客の1つであるペンシルバニア州のHoly Ghost Preparatory Schoolは、1月7日に、ウェブサイトは復旧したものの、クラス登録フォームと電子メールシステムは依然として利用できないと発表した。

Finalsiteの広報担当者によると、同社は問題に気づいた時点で顧客サイトをオフラインにし、クリーンな環境でシステムを一から再構築したという。「そのため、復旧に時間がかかっています。「マルウェアの問題が原因でサイトがダウンしたのではなく、お客様のデータを保護するために停止したのです」と同担当者は述べている。

攻撃者がどのようにしてFinalsiteのシステムにアクセスしたのかは依然として不明で、攻撃に使用されたランサムウェアの種類もまだわかっていない。同社はTechCrunchに対し、フォレンジック専門家と協力して徹底した調査を続けていると述べている。

同社は、今のところランサムウェアの攻撃によってデータが盗まれたという「証拠はない」としているが、広報担当者は、調査中であることを理由に、Finalsiteがデータの流出を検知するログなどの手段を持っているかどうかについては言及を避けた。

教育機関やそのプロバイダーはパンデミックの発生以降、多くの学校区がオンラインでの遠隔授業に移行したことから、狙われやすい攻撃対象となっている。例として、2021年9月には、ワシントンD.C.のハワード大学がランサムウェア攻撃を受け、授業の中止を余儀なくされた。

画像クレジット:Olivier Douliery / Getty Images

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(文:Carly Page、翻訳:Aya Nakazato)

米雇用統計の不振を受け、ハイテク株は小幅な上昇を続ける

更新:この記事を掲載してから、ハイテク株は上昇を止め、NASDAQと我々が追跡しているソフトウェア銘柄はともに下落した。少し遅れて、完全雇用への懸念とそれによる金利上昇が市場でのセンチメントバトルに勝利したようだ。

ここ数カ月、経済ニュースとテクノロジー銘柄の価値の関係は、楽しいパズルだった。

例えば、雇用統計が好調であれば、一般的に経済が楽観的になり、その結果、テクノロジー株も上昇すると考えるかもしれない。また、経済指標が悪いと、一般的な景気悲観論につながり、その結果、テクノロジー株は下落すると思うかもしれない。なぜなら、テクノロジーは現在の経済の大きな部分を占めているからだ。

ハハ、違う。まあ、部分的にはそうだが、そうでもない。

米国時間1月7日の雇用統計に向けて、市場にはある恐ろしい空気が漂っていた。つまり、米連邦準備制度理事会(FRB)が2022年に、おそらく債券買い入れプログラムの終了、バランスシートの圧縮、金利引き上げなどを通じて金融引き締めに乗り出すというものだ。FRBが金利を引き下げる結果、債券やその他の低リスク資産の魅力が増すことになる。同時に、リスク調整後のリターンで考えると、金利上昇により、高価なハイテク株の魅力が薄れると予想される。

このような力学からして、力強い雇用統計ではハイテク株は下がり、雇用統計が冴えなければハイテク株は上がると予想できるかもしれない。それはほとんど現実のもとなった。1月7日に発表された2021年12月雇用統計は予想を下回り(19万9000人の新規雇用、予想の約半分)、ハイテク株は当初売られた。しかし、取引が始まると、NASDAQは0.34%上昇し、ダウ平均はわずかに下落したが、ソフトウェア株は約0.8%上昇した。

なぜハイテク株の価値が下がり、そして跳ね返ったのか。

事実上、完全雇用に達したという懸念がある。つまり、12月の雇用者数が伸び悩んだのは、雇用側の需要不足だけでなく、労働者不足も一因だったということだろう(もちろん、世界的なパンデミックが続いていることも、この動きの一因だ)。

そして、雇用統計の悪化は、経済が予想以上に好調(完全雇用に近い)であることを示すという奇妙な状況に陥っていて、賃金と物価が上昇し続け、FRBが利上げに踏み切ることを示唆している。そうなると、前述のように、高リスクの資産が売られ、低リスクの資産がより魅力的になることを意味する。にもかかわらずテック株が少し上がっているのは、ここ数週間で急激に売られたハイテク株にとって、この低調な統計がプラスに働くと市場が判断しているからだろう。あるいは、冴えない雇用統計は、強い雇用統計よりもFRBを刺激しない、と判断しているのかもしれない。

というわけで、今日のハイテク株は高く、この業界で働く人はみんな、ちょっとした富を手に入れたことになる。

画像クレジット:Jorg Greuel

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Nariko Mizoguchi

米アマゾン、IoTネットワーク「Sidewalk」を拡張するエンタープライズ級のブリッジを発売

2019年にAmazon(アマゾン)は、Sidewalkネットワーク発表した。それは、小型のデバイスを接続するための、長距離ワイヤレスのプロトコルおよびネットワークで、たとえば自分のWi-Fiネットワークがダウンしても近隣のネットワークに便乗して接続を維持する。2021年以降、Amazonは同社のEchoデバイスをSidewalkのブリッジにして、RingやTileのデバイスの一部がこのネットワークにアクセスできるようにしている。そしてAmazonは初めて、大学のキャンパスや公園のような広い範囲をカバーするプロフェッショナルグレードのSidewalkデバイスをローンチする。

新しいデバイスの正式名称は「Amazon Sidewalk Bridge Pro by Ring」という。屋内にも設置可能だが、主に屋外に設置することを想定しており、理想的には高い場所に設置することで、最大5マイル(約8km)先まで数百台のデバイスをカバーできる(もちろん、地域の事情によるが)。

このデバイスをテストするために、アマゾンはアリゾナ州立大学と提携し、テンピのキャンパス内の電柱にこのSidewalk bridgeを設置することになる。大学の技術室では、太陽光や温度センサー、CO2検出器、粒子カウンターなどを接続する計画となっておる、概念実証として使用する予定だ。

画像クレジット:Amazon

Amazonは、環境のモニタリングを専門とするIoT企業Thingyとも提携して、同社の大気質モニタリングツールを据え付け、山火事の可能性をファーストレスポンダーに警告する。

「Amazon Sidewalk Bridge Proは、観測機器は広い範囲に数置く設置される場合に力を発揮し、AWSの既存アプリケーションと簡単に統合でき、デバイスとアプリケーションに信頼できるセキュリティを提供してくれます。Amazon Sidewalkと協力して、当社のセンサーで大気質や山火事を測定し、これらの重要なアプリケーションの接続性の課題を解決できることを大変うれしく思います」と、ThingyのCEO兼共同創業者のScott Waller(スコット・ウォーラー)氏は述べている。

しかしながら、最も重要なことは、デバイスそのものよりもAmazonがSidewalkのエコシステムに投資を続けているという事実だ。

Amazon SidewalkのディレクターであるStefano Landis(ステファノ・ランディス)氏は、次のように語る。「私たちはネットワークを構築して、関係者たちがIoT産業を支えられるようにしています。結局のところ、スマートでコネクテッドなデバイスをあらゆる場所で普及させたければば、そのための適切なネットワークが必要です。今日のIoT開発者たちと話をすると、確かに選択肢はとても多いが、接続がセルネットワークに比べて非常に高価だったり、範囲が狭すぎたり、バッテリーがすぐに空になったり、開発サイクルの全体が複雑すぎたりしています。そのため私たちは、IoTのコミュニティが、消費者、エンタープライズ、公共セクターなど、どのようなタイプのアプリケーションでも開発できるようなネットワークを可能にするための投資を継続しなければならないのです」。

ランディス氏によると、ネットワークのローンチからまだ数カ月しか経っていないが、すでに米国において100以上の広域都市圏の居住地区を強力にカバーしているという。それは米国の家庭にはすでに大量のEchoデバイスが普及し、その最新モデルがデフォルトでSidewalkを有効にしているからでもある。しかし、それを快く思わない人もいるため、Amazonはそのネットワークがプライバシーファーストで、ビデオのフィードを送るRingのカメラなどと違ってアラートを送るだけであるため多くの帯域を使わないと主張している。そもそも、Sidewalkのことなど知らないユーザーがほとんどだろう。

しかし、話は大都市圏の居住地区をカバーしているだけで終わらない。Sidewalk Bridge Proを使えば今や企業が、その所有するすべての土地をカバーしてセンサーを設置できるだろう。ランディス氏は、ネットワークの商用ユースケースについてすでに「数千社以上の企業から引き合いがある」と述べていたため需要はあるようだ。その引き合いの多くは、AmazonのクラウドベースのマネージドIoTサービスであるAWS IoT関連のものだ。ランディス氏によると、関心の多くはスマートシティサービスを軸とする、公共セクターのソリューションの構築を志向する企業からのものだという。

「Sidewalk Bridge Proは、居住地区の外でのデプロイに適したプロフェッショナルグレードのブリッジです。現状、あらゆるところがカバー範囲になっています。商業センターや公園、都市公園、州立公園、国立公園、野生保護地区、都市計画上の商業地区など、すべてをカバーできます。遍在的なネットワークの接続があれば、どのようなところでも必要なソリューションを構築できるでしょう」とランディス氏は説明する。

さらにランディス氏は、ユーザーの多くはBridgeを屋外に設置すると思いますが、倉庫や大型店などの屋内でも利用できるという。名前に「Pro」が付いているが、今後消費者向けの「ノンプロ」バージョンをローンチすることはない。EchoやRingのデバイスが、まさに消費者製品なのだから。

画像クレジット:Amazon

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Hiroshi Iwatani)

セラノスの元CEO、11件の詐欺容疑のうち4件で有罪評決

Elizabeth Holmes(エリザベス・ホームズ)被告は、Theranos(セラノス)の創業者兼CEOとして、投資家を欺いた罪で有罪評決を受けた。4カ月にわたる裁判手続きと7日間の審議の末、陪審団はシリコンバレー以外にも永続的な影響を与える評決に達した。

かつて最年少で最も裕福であり、一代で億万長者となった女性は、2件の通信詐欺共謀罪と9件の通信詐欺罪に問われた。ホームズ被告は、投資家詐取の共謀と、デボス家、ヘッジファンドマネージャーのBrian Grossman(ブライアン・グロスマン)氏、元不動産・信託弁護士のDan Mosely(ダン・モーズリー)氏からの投資家を詐取したことで有罪評決を受けた。患者への詐取に関する容疑については無罪となった。

Black Diamondの幹部Chris Lucas(クリス・ルーカス)氏、Hall Groupの幹部Bryan Tolbert(ブライアン・トルバート)氏とマネーマネージャーのAlan Eisenman(アラン・アイゼンマン)氏が裁判で証言した3件の通信詐欺については、陪審団は評決に至らなかった。Edward Davila(エドワード・ダビラ)判事は、これら3件について審理無効とした。Jeffrey Schenk(ジェフリー・シェンク)検事は、司法省と協議した後、政府がどのように進めたいかを1月9日の週に裁判所に伝えると述べた。

ホームズ被告はスタンフォード大学を中退した後、2003年にTheranosを設立した。静脈内の血液を採取して検査結果を何日も待つ代わりに、指先を刺して採取するほんの少しの血液だけで、瞬時に何十もの検査を行うことができるという、医療システムに革命を起こす技術を投資家やパートナーに売り込んだ。間もなくホームズ被告は評価額100億ドル(約1兆1620億円)の企業のCEOとなったが、1つ問題があった。それは、その技術が機能しなかったことだ。

Theranosは2018年に解散したが、ホームズ被告の刑事裁判は、パンデミックとホームズ被告の出産による遅れを経て、2021年秋に始まった。検察側は11週間にわたり、元米国防長官のJames Mattis(ジェームズ・マティス)氏、内部告発者のErika Cheung(エリカ・チャン)氏、Theranosの患者、投資家、医療関係者、ジャーナリストなどの証人に尋問を行い、ホームズ被告が故意に投資家を欺いたと主張した。

Theranosの技術が実際には同社が主張するような成果を上げていなかったにもかかわらず、ホームズ被告は、自分は真実を語っていると思っていたと述べた。投資家に提示したスライドショーは科学者やエンジニアが作ったものだとさえ主張した。しかし検察側は、ホームズ被告が故意に投資家やパートナーをミスリードしたと陪審団を説得することに成功した。その証拠の1つは、TheranosがWalgreens(ウォルグリーン)との提携交渉中にPfizer(ファイザー)のロゴを無許可で使用していたことを示すものだった。Theranosの元シニアプロダクトマネジャー、Daniel Edlin(ダニエル・エドリン)氏は、Theranosが投資家の前で偽りの技術デモンストレーションをすることがあったと証言した。億万長者の投資家Rupert Murdoch(ルパート・マードック)氏が血液検査を受けたとき、Theranosは報告書を送る前に異常な結果を削除したと、エドリン氏は述べた。

注目を集めている裁判の大きな展開として、ホームズ被告は自ら証言台に立ち、スタートアップ創業者としての失敗は、自身が詐欺を働いたことを意味するものではないと主張した。重要な場面で、ホームズ被告はTheranosのCOOであるRamesh “Sunny” Balwani(ラメッシュ・”サニー”・バルワニ)被告が自身を虐待したと主張した。

2023年に別の裁判に臨むバルワニ被告は、ホームズ被告の秘密のボーイフレンドだった。2人はホームズ被告が18歳、バルワニ被告が37歳のときに出会い、ホームズ被告がスタンフォード大学を中退した翌年に同居し始めた。ホームズ被告はまた、スタンフォードの学生時代にレイプされ、それが学位を取得できなかった理由の1つだと公判で述べた。ホームズ被告は「この会社をつくることで、人生を切り開こうと決めた」。ホームズ被告はバルワニ被告の支配的な行動について詳しく説明し、そこには何を食べ、いつ眠り、どのような服を着るかなど、毎日のスケジュールを指示する書面を作成することも含まれていた。ホームズ被告は「彼(バルワニ被告)は私が平凡であることにかなり失望し、どうすればもっと良くなれるかを教えようとしていた」と述べた。

陪審団は7日間審議し、陪審説示を家に持ち帰ってレビューしてもよいか尋ねさえした。また、証拠として提出されたホームズ被告と投資家の通話音声の一部の聞き直しを求め、それでも審議は新年に入っても続いた。

審議7日目に、陪審団は11件の罪状のうち3件について全員一致の評決に至らなかったとする3回目のメモを判事に提出した。検察側はダビラ判事に、陪審団がデッドロック状態に陥った場合の対処法についての指示書を読むことを提案した。ホームズ被告側の弁護人は、このような指示は強制的と見られる可能性があるとして反対したが、判事は指示書を配布した。判事はまた、有罪が証明されるまでホームズ被告が無罪と推定されることを陪審団に念押しした。4時間後、陪審団は、3件の容疑について全員一致の評決に至ることができなかったというメモを再度提出した。その直後、他の8つの罪状についての評決が出された。

著名なホワイトカラー裁判で、審議がこれほど長引くのは予想外ではない。Ghislaine Maxwell(ギスレーヌ・マックスウェル)の4週間にわたる直近の裁判では、陪審団は5日間審議し、6件の容疑のうち5件つについて有罪とした。2007年、元報道界の大物Conrad Black(コンラッド・ブラック)は、14週間にわたる裁判の12日間の陪審団審議の末、詐欺罪で有罪になった。

この裁判の評決は、テック系の創業者たちに、自社の技術について嘘をつくことは許されない、特にそれが実際の人々の健康に影響を与える場合はなおさらだ、というメッセージを送るものだ。しかし、患者を欺くことに関する訴えが無罪とされたことは、複雑なメッセージだ。それ以上に、この事件は、投資家やスタートアップと協業するパートナーにとって、デューデリジェンスがいかに重要であるかを示した。注目すべきは、Theranosの投資家が、通常疑われるようなベンチャーキャピタル企業ではなかったことだ。むしろ、前教育長官のBetsy DeVos(ベッツィ・デボス)氏、億万長者のメディア王ルパート・マードック氏、前国務長官のHenry Kissinger(ヘンリー・キッシンジャー)氏、ウォルトン家など、裕福なエリートたちがホームズ被告の資金源となっていた。これらの投資家は、ホームズ被告がより突っ込んだ質問から逃れても、Theranosに資金を提供する意思があったことを示す証拠もある。

しかし、投資家たちのホームズ被告に対する誤った信頼だけが、欠陥のあるTheranosの技術を前進させたのではない。Theranosや他の診断会社は、FDAの承認を受けていない機器が市場に出回ることを可能にする規制の抜け穴を利用していた。

ホームズ被告の評決言い渡し日はまだ決まっていない。検察は米国時間1月3日、ホームズ被告の勾留を求めないが、政府は同被告の保釈金を確保するために現金か財産のいずれかを望んでいる、と述べた。

Theranosはまだ過去のものではない。バルワニ被告は2023年に自身に対する詐欺罪の刑事裁判を控えている。

画像クレジット:Justin Sullivan / Getty Images

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi

ツイッター、米議員の個人アカウントを新型コロナ誤情報規約違反で使用禁止に

Twitter(ツイッター)は、米国のMarjorie Taylor-Greene(マージョリー・テイラー・グリーン)下院議員(共和党、ジョージア州)の個人アカウントを「新型コロナウイルス誤情報規約に繰り返し違反したため」永久停止したと発表した。同氏の政府公式アカウントは引き続き有効だ。

グリーン下院議員は、パンデミックに関連すると思われる記事や統計情報を盛んに投稿・拡散していたが、多くは誤解を招いたり、完全に間違っていたりした。これはTwitterが超えてはならない一線を引いたトピックの1つだ。ウイルス、感染経路、ワクチンの効果などに関する誤った情報は公衆衛生に重大な影響を及ぼすためだ。

Twitterの新型コロナ規約の概要はこちら。同社は声明で「我々は、この規約のストライクシステムに従い、繰り返し規約に違反したアカウントを永久停止することを明確にしてきました」と述べた。

永久停止の前の2021年には、短期間のアカウントロックと警告が複数回発生し、報告されていた。グリーン氏はその際「言論の自由」が侵害されていると訴えていた。Twitterが民間が所有・運営するプラットフォームで、ルールを明確に示しているにもかかわらずだ。同氏は米国時間1月2日朝の声明で最後の苦言を呈した。「Twitterは米国の敵で、真実を扱うことができません。いいでしょう。奴らは米国に必要ないことを教えてあげましょう。敵を倒す時が来たのです」。

関連記事:新型コロナワクチン誤情報の投稿でツイッターが米共和党員のアカウントを一時停止

この声明が、同氏が必要ないと主張する「敵」プラットフォームの利用を、自身が中止することを意味するのかどうかは不明だ。同氏の米議会の公式アカウントは、1週間前から使用されていないものの、オンライン上に残っている。このアカウントも同氏の違反行為によって危険にさらされているのか、Twitterに問い合わせた。回答があればこの記事を更新する。

Twitterは、暴力の扇動、虚偽情報や個人情報の公開、パンデミックに関する虚偽情報の拡散に関する規則に違反した非主流派に対して、定期的に停止措置を出している

本件は進展を続けている。後ほど更新の有無を確認して欲しい。

関連記事:Twitterが右翼を挑発する政治的な問題を扱うビデオ制作会社のジェームズ・オキーフ氏を偽アカウントに関するポリシー違反で永久停止

画像クレジット:Bloomberg / Contributor / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】「セキュリティ・バイ・デザインの時代がやってきた

近年、サイバー犯罪者の手口はますます巧妙になっている。最新のトレンドや世間の関心が高い問題を悪用してマルウェアを拡散し、無防備なユーザーから個人情報を盗むのである。

お気に入りのテレビ番組に関するアプリであろうと、新型コロナ関連の政府の健康情報であろうと、荷物の不在配達の追跡であろうと結果はどれも同じで、結局はデバイスを感染させて詐欺や盗難を行うのだ。

ごく一般的な種類のマルウェアからデバイスを保護するためには、日頃からの基本的なサイバーセキュリティ衛生が鍵となる。しかし、非常に巧妙なサイバー攻撃を防ぐためには、テクノロジーにあらかじめ組み込まれたセキュリティが欠かせないのである。

シークレットサービスは大統領を守ることで有名だが、彼らの別の主要任務には米国の金融インフラと決済システムを保護し、米国の偽造通貨、銀行・金融機関詐欺、不正資金操作、ID窃盗、アクセス機器詐欺、サイバー犯罪など、幅広い金融・電子犯罪から経済の健全性を維持するというものがある。

モバイル機器が広く普及した現在、国土安全保障省(DHS)が推奨しているように「ユーザーはアプリのサイドロードや未承認アプリストアの使用を避けるべきであり、企業もデバイス上で禁止すべき」なのである。

サイバー犯罪者にとって今回のパンデミックは実に好都合であったと話すのは連邦捜査局のPaul Abbate(ポール・アベイト)副局長だ。「社会のテクノロジー依存から利益を得る機会を利用して、インターネット犯罪が盛んになった」のである。

FBIのインターネット犯罪苦情センターに寄せられた苦情は、2020年には79万1790件を記録し、前年の約2倍、前年比で過去最大の伸びを記録している。特に陰湿な例としては、ワクチン予約のためのアプリをダウンロードするよう促すテキストメッセージが送られるというもので、そのユーザーの連絡先にあるすべてのデバイスにマルウェアを送り、個人データや銀行情報を盗み出すというものがあった。

2021年初め、英国の国家サイバーセキュリティセンター(NCSC、National Cyber Security Centre)は、パンデミック時に多発した不在配達の荷物の追跡リンクを装った新種のマルウェアについて注意を呼びかけた。このリンクは、FluBotと呼ばれるマルウェアアプリケーションをダウンロードさせ、ユーザーの銀行口座やその他の金融口座の詳細を危険にさらすのである。サイバーセキュリティの研究者によると「悪意のあるSMSメッセージ(FluBot)の量は、1時間あたり数万件に上ることがある」という。さらにハッカーたちは大ヒットテレビ番組「イカゲーム」の人気に乗じて、同番組に関連するアプリに隠されたマルウェアを使ってモバイル機器を狙うというサイバー犯罪の新風を巻き起こしてさえいるようだ。

モバイル端末は今やインターネットの主要なアクセスポイントとなっており、2020年の米国におけるウェブサイトアクセス数の61%はモバイル端末によるものである。これは2019年に多数派に転じたばかりの傾向だが、すでに確固たる事実として確立されている。これを反映するかのようにモバイル端末へのサイバー攻撃が増加し、FBIに寄せられたフィッシングやスミッシング攻撃(悪意のあるリンクが貼られたメールやSMSテキストメッセージ)の苦情は2020年には倍以上に増え、2019年の11万4702件から2020年は24万1342件となっている。

ある調査によると、年末商戦を迎えるにあたり、買い物客の55%以上が少なくとも1回はモバイル端末で買い物をすると言われており、端末の所有者が攻撃から身を守るための予防策を講じることが不可欠だと言える。

NCSCが推奨する対策は、頻繁にデバイスのバックアップを取る、ウイルス検出ソフトウェアを使用する「メーカーが推奨するアプリストアからのみ新しいアプリをインストールする」などのごく基本的な保護策だ。DHSの指針も同様だが、加えてOS、アプリ、その他のソフトウェアを定期的に更新することの他、ユーザーと企業が多要素認証を採用することなどの勧告も含まれている。

サイバー衛生のシンプルな推奨事項を実行することで攻撃に対する防御の層を形成し、モバイル機器への不正アクセスの脅威を劇的に減少させることができる。しかし、このようなユーザーの行動が重要かつ効果的であるのと同時に、サイバー犯罪者は人間の心理や行動を利用した高度な技術を駆使してユーザーを欺き、デバイスに侵入するのである。

ソーシャルエンジニアリング攻撃と呼ばれるこの種の攻撃は、人間同士の交流や社会的スキルを利用してユーザーを騙し、攻撃者がデバイスやシステムにアクセスできるようにするだけでなく、時にはオプションのセキュリティ保護をユーザー自らに無効化させてしまうことさえある。FluBot、偽の予防接種サイト、悪意のある「イカゲーム」アプリなどの攻撃は、すべてソーシャルエンジニアリングの一例だ。

DHSのサイバーセキュリティ・インフラストラクチャ・セキュリティ庁(CISA、Cybersecurity and Infrastructure Security Agency)によると、モバイル機器の所有者は、テキストメッセージを通じたソーシャルエンジニアリング攻撃に対してより脆弱である可能性があるという。モバイル機器は「メール、音声、テキストメッセージ、ウェブブラウザの機能を統合しているため、操作された悪質行為の犠牲になる可能性が高くなる」のである。

2021年初めに開催されたホワイトハウスのサイバーセキュリティサミットでは、不正アクセスから保護するための、サイバー衛生に留まらない方法が話し合われた。「今後、テクノロジーの安全性はデフォルトとして構築されていく必要があります。我々は皆、安全な技術を購入していることを確信できなければならないのです」とホワイトハウスの高官は述べている

セキュリティ・バイ・デザインのモバイル機器は、サイバー衛生管理をあらかじめデバイスに組み込み、セキュリティの方程式から人間の心理を排除するのである。シートベルトやエアバッグも当初は自動車購入者のオプションとして始まったが、今ではすべての自動車に必須の安全装備となっているのである。

多要素認証や公式アプリストア以外からのアプリのダウンロード禁止など、基本的なサイバー衛生管理は、設計上システムに組み込むことが可能である。このような保護機能が最初から組み込まれているモバイル端末であれば、端末所有者が人気番組に興味を持ったりパンデミックを心配したりしたとしても、ソーシャルエンジニアリング攻撃に対して脆弱になることはないだろう。

確かに市民は、サイバーセキュリティ機関が推奨する基本的なサイバー衛生に従うべきである。しかし、作り手が高度なソーシャルエンジニアリング攻撃を回避し、技術の設計に高度なセキュリティ保護を組み込むことが必要不可欠なのではないだろうか。

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images

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(文:Mark Sullivan、翻訳:Dragonfly)

ランサムウェアの潮目が変わった、米国当局が勝ち目のないと思われた戦いにわずかながら勝利を収めた

2021年はランサムウェアが蔓延した。2021年には、ITソフトウェア企業Kaseyaへの攻撃で1500社がオフラインにされ、CD Projekt Redのハックでは、Cyberpunk 2077やThe Witcher 3などのゲームのソースコードがやられた。大手有名企業も被害を受け、その中にはオリンパス富士フイルム、そしてパナソニックが含まれている。

また2021年は、ハッカーが重要なインフラストラクチャを攻撃して世界的な注目を集め、被害者の中には米国の石油パイプラインColonial Pipelineや、食肉加工大手JBS、農家がコーンや大豆などを売るための協同組合Iowa New Cooperativeなども含まれる。

これらの犯行でプラットフォームの閉鎖が長引き、石油価格が高騰し、食糧不足の危険も生じたため、数年間何もしなかった米国政府もやっと腰を上げ、かつては勝てないと思われていたランサムウェアという疫病に対する戦いで、わずかながらも勝利を収めた。

最初は4月に米司法省が、Ransomware and Digital Extortion Task Force(ランサムウェアとデジタル強奪対策本部)を立ち上げた。司法省によると、ランサムウェア犯行の最悪の年と呼ぶ事態に同省が対応した動きで「ランサムウェアとデジタル強盗の壊滅と捜査と訴追」を最大の目的としている。そしてそれから2カ月後に司法省は、ラトビア国籍で55歳のAlla Witte(アラ・ウィッテ)を逮捕し、国際的サイバー犯罪組織で演じた役割で彼女を告訴した。銀行を狙った、よく知られ広く使われているトロイの木馬とランサムウェアツールTrickBotの背後にいるのが、その犯罪組織だ。

その数日後にはもっと大きな勝利がやってきて、司法省は、Colonial PipelineがランサムウェアギャングのDarkSideにビットコインで払った230万ドル(約2億7000万円)を押収し、データを取り戻したと発表した。その後、米国政府はその悪名高いランサムウェアグループのリーダーたちの発見や追跡の役に立つ情報の提供者に対する、最大で1000万ドル(約11億5000万円)の賞金を提示した。

同じころ米財務省は、暗号資産の取引所Chatexに対し、身代金の取引に便宜を図ったとして制裁を発表した。その数週間前にも財務省は、暗号資産取引所Suexに対して同様の措置を講じている。

司法省対策本部の最大の勝利は10月に訪れ、悪名高いランサムウェアギャングREvilを壊滅させた。検察の発表では、22歳のウクライナ人が、7月にKaseyaに対するランサムウェア攻撃を仕かけたギャングと関係があるとして訴追されている。司法省は、その悪名高いランサムウェアグループのもう1人のメンバーに結びついている600万ドル(約6億9000万円)の身代金を押収したという。

ランサムウェアグループを追う米国政府の2021年の取り組みは、多方面から称賛されている。特に評価が高いのは、金の行方を追うというその戦術だ。ブロックチェーンの取引を分析するソフトウェアを提供しているChainalysisは、司法省の対Suex作戦を、ランサムウェアの犯人たちに対する「大きな勝利」と称賛し、TechCrunchの取材に対して、ランサムウェアのグループが彼らの暗号資産を現金化する仕組みを解明して無効化すれば、彼らを弱体化する特効薬になるという。SentinelOneのチーフセキュリティアドバイザーであるMorgan Wright(モーガン・ライト)氏は、金という彼らのメインの動機がなくならないかぎり、ランサムウェアギャングたちの犯行と拡大は続くと述べている。

「規則や法律に従わないため、犯人たちの方は常に有利な状況にあります。しかし、現金を手に入れるという最終的な目標を達成する前にランサムウェアギャングの力を削ぐ、強力なアプローチが2つあります。身代金として暗号資産を使う能力を奪い、マシンスピードの犯行に対してはマシンスピードで応ずることだ」とライト氏はいう。

米国政府はまた、DarkSideの1000万ドルの賞金やREvilに関する情報への賞金にも見られたように、ランサムウェアの犯行手口に関する情報に報奨金を提供している。BreachQuestのCTOであるJake Williams(ジェイク・ウィリアムズ)氏は「賞金額がこれだけ大きければ、犯人たちの寝返りが続くことも考えられます。ランサムウェア・アズ・ア・サービス(RaaS)のアフィリエイトモデルへの信頼が損なわれる」と述べている。

しかし一部の人たちは、政府の行動で弱気になる者もいるかもしれないが、相変わらず金銭的な利益を追い続けているランサムウェアギャングたちのやる気を抑えることはできないと信じている。

ITセキュリティ企業QualysのJonathan Trull(ジョナサン・トラル)氏は「ランサムウェアの犯人たちに正義の鉄槌を下そうとする司法省の努力は称賛するが、逮捕拘禁されない可能性と、これらの犯行グループが作り出す巨額の金を比べると、断然後者は魅力的なものだ。残念ながらランサムウェアに対する戦いは非対称であり、膨大で複雑な捜査を扱うためにグローバルに必要となるリソースの量に、法執行機関の現状はまだ達していない」という。

ライト氏は同意し、これまでの米国政府の活動にあまり満足していないのは、次のような点となる。「これまで2人を逮捕して数百万ドル(数億円)を取り戻したが、それはランサムウェアに対する勝利ではない。それはむしろ、ランサムウェアに対して何かやったぞと誇示するための、政治的な声明だ。すでに失われた数十億ドル(数千億円)に対して、230万ドルは誤差にもならない」。

同様に、多くの人が、これらの戦術は新年以降におけるランサムウェアの脅威の成長を抑えるほど強力ではない思っている。特に悪者たちは、適応力がある。エキスパートたちによると、ランサムウェア・アズ・ア・サービスのモデルは、首謀者が自分のランサムウェアのインフラストラクチャを他人に貸して、得られた身代金の分け前をもらう。このモデルは2022年にも盛り上がり、法執行機関が首謀者を追うのもより困難になる。

何段階にも及ぶ犯行連鎖を予想する人たちもいる。フィッシングからスタートしたデータ侵犯がデータ窃盗になり、最後にランサムウェアになる。並行してそれは、ますます多くの犯人が手がける、流行のようなものになる。それによって、防護の厳しいネットワークインフラストラクチャでも、ハッカーは侵入できるようになる。

上記の後者の問題により、米国政府は2022年に民間部門との協力を密接にせざるをえなくなる、とトラル氏はいう。「法執行機関だけでは、潮流を逆転するのは無理だろうと私は思います。必要なのは法執行の複数のアクションがセットになって専門家と協力し、システムを強化し、重要なデータとシステムのバックアップを開発してその運用可能状態を常時維持し、さらにまた民間部門からの有効な反応も得られるようにしておくことです」とトラル氏はいう。

もっと多くのアクションが必要なことは明らかだが、米国政府は進歩している。ほんのひと握りの立件を軽視する人たちもいるが、しかしそれはインパクトを与えた。特に、ランサムウェアのグループがパートナーを獲得するための広告活動が被害を受けた。いろいろなところが注意するようになったため、一部の人気の高いハッキングのフォーラムではランサムウェアが禁じられ、あるハッキンググループは偽の会社を作って何も知らないITスペシャリストたちに訴求し、お金になる産業であるランサムウェア産業の継続的拡大に寄与させようとしている。

ランサムウェアのエキスパートでEmsisoftの脅威アナリストであるBrett Callow(ブレット・キャロウ)氏は「一部のサイバー犯罪フォーラムではランサムウェアグループが以前ほど歓迎されなくなっている」という。

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画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Carly Page、翻訳:Hiroshi Iwatani)

2021年に知ることになったサイバーセキュリティの6つのポイント

この12カ月間におけるサイバーセキュリティは、暴れ馬のようだった。サイバーセキュリティで何もかもが壊れ、あとはそのことを認めるだけとなり、そして今年、2021年は、特に年末にかけて何もかもが一度に壊れた。しかし、何はともあれ、私たちはこれまで以上に多くのことを知り、この年を終えることになる。

この1年で、私たちは何を学んだのだろうか。

1.ランサムウェアの被害で大きいのはダウンタイムであり身代金ではない

ファイルを暗号化するマルウェアの被害が続いている。2021年だけでもランサムウェアは町全体にオフラインを強いることになり、給与の支払いをブロックし、燃料不足を招いた。企業のネットワークの全体が、数百万ドル(数億円)の暗号資産と引き換えに人質に取られたからだ。米財務省の推計では、ランサムウェアの2021年の被害額は、これまでの10年を合わせた金額よりも多い。しかし研究者たちによると、企業の被害の大半は、生産性の落ち込みと被害後の困難な後始末作業によるものだ。後者には、インシデント対応や法的サポートも含まれる。

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2.FTCはモバイルのスパイウェアメーカーに被害者の通知を命じることができる

SpyFoneは、2021年9月の連邦取引委員会(FTC)からの命令により米国で禁止される初めてのスパイウェアになった。FTCはこの「ストーカーウェア」アプリのメーカーを、人目につかない秘かなマルウェアを開発し、ストーカーや米国ないの悪意を持つ者が、被害者のスマートフォンのメッセージや位置情報の履歴などを知られることなくリアルタイムでアクセスできるようにしたと訴えた。さらにFTCはSpyFoneに、同社が不法に集めたデータをすべて削除し、同社のソフトウェアによってスマートフォンをハックされた人たちに通知することを命じている。

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3.サイバーセキュリティへのVCの投資は2020年に比べて倍増

2021年はサイバーセキュリティへのVCの投資が、記録破りの年だった。8月には、投資家たちが2021年の前半に115億ドル(約1兆3242億円)のベンチャー資金を投じたことが明らかとなっている。これは2020年の同時期に投じられた47億ドル(約5412億円)の倍以上の額となる。最大の調達はTransmit Securityの5億4300万ドル(約625億円)のシリーズAと、Laceworkの5億2500万ドル(約605億円)のシリーズDだった。投資家たちは、クラウドコンピューティングとセキュリティのコンサルティング、およびリスクとコンプライアンス方面の好調が投資に火をつけたという。

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ハイテク企業がユーザーデータの最大の保有者であることは周知の事実であり、意外にも、犯罪捜査のための情報を求める政府のデータ要求の頻繁な対象になっている。しかし、Microsoftは2021年、政府が検索令状に秘密命令を添付する傾向が強まっていることを警告し、ユーザーのデータが調査の対象となる時期をユーザーに通知しないようにしている。

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Microsoftによると、法的命令の3分の1は秘密保持条項付きで、その多くは「意味のある法的分析や事実分析に裏づけられていない」と、同社の顧客セキュリティー・トラストの責任者Tom Burt(トム・バート)氏はいう。Microsoftは、秘密保持命令は技術産業全体に蔓延していると述べている。

5.FBIはサイバー攻撃の後処理の一環として、プライベートネットワークへのハッキングを許される

2021年4月にFBIは、この種の操作としては初めてハッカーが数週間前に放置した米国の数百に及ぶ企業のメールサーバーにあるバックドアの削除を開始した。MicrosoftのメールソフトウェアであるExchangeの脆弱性を大規模に悪用して、ハッカーが米国全域の何千ものメールサーバーを攻撃し、連絡先リストと受信箱を盗んだ。非難されているのは中国だ。その犯行により数千のサーバーが脆弱性を抱えたままであり、企業は緊急に欠陥を修復すべきだが、しかしパッチは残されたバックドアを削除しないので、ハッカーが戻ってきて容易にアクセスを取得できる。

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テキサス州の連邦裁判所が操作を許可し、FBIはハッカーが使ったのと同じ脆弱性を利用してバックドアを削除した。裁判所による操作許可の根拠は、今後の再犯への恐れだ。それにより、悪人たちによる今後の悪用を防いだ。同様の「ハックとパッチ」操作でボットネットを駆除した国は他にもあるが、サイバー攻撃の後でFBIがプライベートネットワークを効果的に掃除したのは、知られているかぎり、これが初めてだ。

6.詐欺師たちが自動車保険のサイトを襲って失業手当を詐取

2021年は複数の保険企業が、ありえないがますます普通になってきた詐欺のターゲットになった。Metromileによると、保険の見積もりを保存する同社のウェブサイトにバグがあり、運転免許証の番号が盗まれた。そして数カ月後には、Geicoもターゲットになり、同じく運転免許証の番号を盗み取られている。

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Geicoのデータ侵犯報告は、盗んだ免許証番号を使って、ユーザーの名前で「失業手当を申請した」詐欺師たちを非難した。米国の多くの州では、州の失業手当を申請する前に運転免許証を必要となる。自動車保険会社ならその番号がわかるので、ターゲットにされたのだ。

画像クレジット:Getty Images

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Hiroshi Iwatani)

【コラム】欧州は独禁法と競争政策で中国の反競争的行為に対応すべき

TechCrunch Global Affairs Projectは、テクノロジー部門と世界政治のますます複雑になっている関係を検証する。

欧州はプライバシー、データ保護、特に競争において主導的な役割を果たし、テック大手の規制で高い評価を得ている。現在、大規模なオンライン「ゲートキーパー」を明確にする基準を導入する新しい独占禁止法が欧州議会を通過中だ。しかし、デジタル市場法(DMA)は多くの米テック企業を標的にすることが予想される一方で、戦略的にDMAを、そして欧州の反トラスト・競争政策全体を使用すれば、中国と競争するためのツールにもなり得る。

ここ数年、欧州は自らのテクノロジーのリーダーシップに対する中国の挑戦に徐々に目覚めてきた。多くの欧州人は、米国の脅威に対する認識を徐々に収束させつつあるが、欧州には中国の大手企業から発せられる挑戦に対処する手段も政治的意志もまだ欠けている。

中国に対する欧米の政策対応は一致させるべきだが、同じである必要はない。米国と欧州はそれぞれの強みとツールボックスを活用して、テック分野における中国の市場歪曲行為に対抗すべきだ。そして欧州はDMAを始め、中国に対抗するために競争政策の策定と実施という比較優位を生かすべきだ。

中国のテック大手は、世界のテクノロジーエコシステムの規模と支配をめぐって競争している。中国共産党(CCP)は、中国の最大手テック企業が市場を支配することを目標に掲げている。この目標を達成するために、中国共産党は自国企業の市場地位を向上させるために反競争的な行為を行っている。国家補助金に加え、中国共産党はしばしば、市場地位を向上させるために企業に心付けを提供する。

5Gが良い例だ。中国政府は5Gの覇者Huawei(ファーウェイ)に対し、減税、資源の割引、融資支援などを通じて750億ドル(約8兆6250億円)サポートした。一方、こうした中国の国内市場によって、Huaweiを含む国家が支援する有力企業が中国国内での非常に少ない競争と高い市場シェアを活用し、第三国での価格の何分の一かでサービスを提供することが可能になっている。このような現実に直面し、欧州の5Gテック主要メーカーであるNokia(ノキア)とEricsson(エリクソン)は以前、自国市場でHuaweiと競争するのに苦労していた。中国の国内経済政策はこのように世界的な影響を及ぼす。

欧州各国は2020年に、中国の欧州での事業増強に対抗するため、投資審査機構を設立した。しかし、まだやるべきことは残っている。加盟27カ国のうち、投資審査機構を設立したのは18カ国にすぎないが、さらに6カ国が準備中だ。また、この機構の有効性に疑問を呈する理由もある。欧州委員会が審査した265件のプロジェクトのうち、阻止されたのは8件にすぎない。審査したプロジェクトのうち、中国のプロジェクトはわずか8%だった。また、機構は反競争的行為にはっきりと取り組んでいるわけでもない。

それが変わり始めている。2021年5月、欧州委員会は域内市場を歪める外国補助金に関する規則を提案した。この規則では、外国補助金に関わるEU外の政府による資金拠出を調査し、停止させる可能性のあるツールを盛り込んでいる。しかし、欧州の初期の取り組みは心強いものではあるが、中国企業の市場での地位や中国政府の歪んだ政策に対処するには十分ではない。

とはいえ、欧州は規制の勢いを利用するのに適した立場にある。中国の多面的な戦略を考えると、欧州は補助金以上のものを考えなければならない。中国のテック大手と効果的に競争し、中国企業の不公正な市場地位に対処するために、欧州はデジタル市場法(DMA)を調整するなどして、反競争的行為を行う中国企業を対象とする反トラスト規制を利用する必要がある。投資審査と反トラスト政策を組み合わせることで、欧州委員会は中国の反競争的行為に対処するための十分な手段を得ることができる。

中国の反競争的行為に独禁法政策で対抗することは、欧州のツールキットの論理的な拡張だ。米国は伝統的に消費者福祉というレンズを通して独禁法政策を見るが、欧州はしばしば市場競争というレンズを通して独禁法政策を見る。さらに、欧州では、中国企業を国家安全保障や反中国の枠組みで見ることを嫌う傾向がある。投資審査機構が国家安全保障を重視しているのに対し、欧州では市場競争を確保するために独占禁止法や競争政策が追求される。このような枠組みがあるため、独禁法政策を通じて中国の反競争的慣行に対処することは、欧州にとって自然なことだ。実際、欧州議会の議員は12月19日の週に、DMAを中国のAlibaba(アリババ)に拡大適用すべきだと主張した

このような動きは、反トラスト法施行に関して、反米的な偏見があると思われていることを是正することにもなる。欧州委員会の担当者は、中国企業はDMAの対象となるほどビジネスを欧州で行っていない、と主張している。しかし、そのようなやり方では、欧州の規制当局が対象とするのはほとんど米国企業だけということになる。しかし、地政学的なレンズを通して見ると、中国が支援するテック企業は欧州のイノベーションのエコシステムにとって、米国のテック企業よりも大きな脅威となる。このことは、米国における争点であり続け、欧州との関係を弱める恐れがある。

欧州は、テック問題における米国の反中国的枠組みにしばしば苛立っているが、欧州が望ましいとする問題のフレーミングである、民主化を肯定する課題を前進させるには、米国と欧州がそれぞれのイノベーション・エコシステムを強化することが必要だ。デジタル市場法で米企業のみを対象とすることは、潜在的な大西洋横断協力に支障をきたし、欧米の肯定的議題を阻害する恐れがある。

デジタル市場法は、米テック企業の責任を追及する上では間違っていないが、欧州にとっては、独禁法と競争政策を利用して、欧州の認識と強みに合った中国の課題へのアプローチを再調整する機会だ。欧州は、中国の市場を歪める行為に対処し、中国の反競争的行為を押し返すためのツールボックスに別のツールを加えるこの機会を逃すべきではない。

編集部注:本稿の執筆者Carisa Nietsche(カリサ・ニーチェ)氏は新アメリカ安全保障センターの大西洋横断セキュリティプログラムのアソシエイトフェロー。

画像クレジット:MicroStockHub / Getty Images

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(文:Carisa Nietsche、翻訳:Nariko Mizoguchi

アルファベット傘下Waymoが中国メーカー「Geely」と提携、米国での配車サービス用電動AVを製造へ

Alphabet(アルファベット)の自律走行技術部門であるWaymo(​​ウェイモ)は、中国の自動車メーカーGeely(吉利)と提携し、全電動の自動運転配車サービス車両を製造する。WaymoのAVシステムであるWaymo DriverをGeelyのZeekr車両に統合し「数年内」に米国市場で使用する予定だ。

Waymoは生産開始時期やこれらの車両が路上を走るようになる時期など具体的なタイムフレームを示していないが、この提携はWaymoがOEM提携に向けたマルチプラットフォーム・アプローチを追求していることを示している。Waymoの現在の配車サービス車両は、Jaguar(ジャガー)のI-PacesとChrysler Pacifica(クライスラー・パシフィカ)のハイブリッド構成で、アリゾナ州フェニックスで自律走行による乗車を提供している。また、 Fiat Chrysler automobiles(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)を傘下に持つStellantis(ステランティス)との提携を拡大し、ローカル配送サービスも行っている。Waymoの広報担当者によると、吉利との計画によるWaymoの既存の提携への影響はないとのことだ。

Geelyが2021年3月に立ち上げた高級EVブランドZeekrは11月、初のプレミアムモデルである洗練されたクロスオーバーを中国で発売した。Waymoのバージョンは、レンダリング画像ではミニバンのような外観で、スウェーデンのヨーテボリでカスタム設計とエンジニアリングが行われている。米国に出荷された後、Waymoがライダー、センサー、カメラなどのハードウェアとソフトウェアを含む同社のDriverを車両に統合し、自社の配車サービスフリートで展開する予定だと同社は話している。

関連記事:中国自動車メーカーGeelyがTeslaら対抗でラグジュアリーなEVブランド「Zeekr」を立ち上げ

Waymoのブログ記事によると、Zeekrの車両は「ライダーファースト」に設計されていて「よりアクセスしやすいフラットフロア、Bピラーレス設計による容易な乗降、低い踏み込み高、ゆったりした頭上と足元のスペース、完全に調節可能なシート」を備えている。完全なドライバーレス化を見据えてハンドルやペダルがない代わりに、ゆったりとくつろげるよう頭上と足元のスペースは十分に確保され、リクライニングシートやスクリーン、充電器も手の届くところに設置される。

Cruise(クルーズ)やArgo AI(アルゴAI)など他のAV企業も、専用の配車サービス用EVの計画を明らかにしている。Cruiseは2020年、ライドシェア向けのOriginを発表した。9月にはArgoとVolkswagen(フォルクスワーゲン)が共同開発した自律走行バンのID Buzz ADの計画を明らかにし、2025年にドイツのハンブルクで自律走行配車プールシステムの一部として商業展開する予定だ。

画像クレジット:Waymo

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】2人のFBI捜査官が私の家にきた、米国における法的要求と報道の自由について

2020年8月、予告なしに2人のFBI捜査官が私の家の玄関先にやってきて、前年に掲載したTechCrunchの記事について質問したいと言ってきた。

記事の内容は、あるハッカーがグアテマラのメキシコ大使館のサーバーから、ビザや外交官パスポートを含む数千件の書類を持ち出したというものだった。そのハッカーによると、脆弱なサーバーについてメキシコ当局に連絡したが無視されたため、大使館のファイルへのリンクをツイートしたという。「返事がない場合は公開する」とハッカーは言っていた。

関連記事:ハッカーがメキシコ大使館の文書を大量にネット公開

私は取材時の常套手段として、ニューヨークのメキシコ領事館にコメントを求めた。広報担当者によると、メキシコ政府はこの問題を「非常に深刻」に受け止めているとのことだった。私たちは記事を公開し、それで終わったように思えた。

1年後、FBIが私の家のドアをノックしてきた。終わったというのは間違いだったようだ。私は捜査官との会話を断り、ドアを閉めた。

私たちが記事を発表した後、メキシコ政府は外交ルートを通じて米国司法省にハッキングの調査あるいはハッカーの特定への協力を依頼した。私がそのハッカーと接触したことで、メキシコ政府は私を関係者としたに違いない。それで1年後に訪問してきたのだろう。

訪問の1カ月後、メキシコ政府はFBIに対し書面による質問リストを提出し、私たちに回答を求めてきたが、その多くはすでに記事の中で回答されているものだった。私たちの司法省への回答は、すでに発表した内容以上のものではなかった。

報道者に対する法的要求は珍しいことではない。メディア業界で働く上での職業病と考える人もいる。要求は脅しの形で行われることも多く、ほとんどの場合、ジャーナリストや報道機関に記事の撤回を迫り、場合によっては記事の公開前に中止させる。特にサイバーセキュリティを扱うジャーナリストは明るく元気な見出しではあまり知られておらず、企業や政府は自らのセキュリティ対策の不備を恥ずかしい見出しで報じられるのを避けようとするため、法的な脅迫を受ける傾向がある。

例えば、米国ミズーリ州のMike Parson(マイク・パーソン)知事とSt. Louis Post-Dispatch(セントルイス・ポスト・ディスパッチ)紙との間で最近起きた対立を見て欲しい。知事は、この新聞社の記者が州の教育局のウェブサイトに何千もの社会保障番号が掲載されているのを発見した後、違法なハッキングを行ったと訴えた。この記者は、社会保障番号が流出した3人に確認を取った上で、州にセキュリティの不備を速やかに報告し、データが削除されるまで記事の公開を保留していた。

パーソン知事は、この報道が州のハッキング法に違反しているとし、法執行機関と州検察官に同紙の調査を命じ「州に恥をかかせようとしている」と主張した。これに対し法律家や議員、さらにはパーソンの所属する政党のメンバーまでもが、倫理的にまったく問題のない行為であると認められた新聞社を非難した知事を嘲笑した。パーソンは、自身の政治活動委員会が費用を負担した動画の中でまたもや非難し、いくつかの誤った主張をした他、新聞社を「フェイクニュース」呼ばわりした。2021年11月初め、教育局は、最終的に62万人以上の州の教育者に影響を与えた過失について謝罪した。

違法性や不適切性の主張は、悪意のあるハッカーに悪用される前に流出した個人情報やセキュリティ上の欠陥を発見して公開するセキュリティ研究者に対して広く用いられる戦術だ。独立系ジャーナリストと同様に、セキュリティ研究者も単独で活動していることが多く、たとえ彼らの活動が完全に合法的であり、将来起こりうる最悪のセキュリティ事故を防ぐのに役立ったとしても、彼らは裁判の高額な訴訟費用を恐れて法的な脅しに応じるしかない。彼らに経験豊富で意欲的なメディア法務チームがついているとは限らない。

関連記事:オープンソース版の登場に対してWhat3Wordsがセキュリティ研究者に法的警告を送付

これまでにも不当な法的要求を断ったことはあったが、仕事をしているだけで連邦捜査官が玄関先にやってくるというのは、私にとっては初めての経験だ。違法行為があったとは聞いていないが、もし私がメキシコの地を踏んだ場合、メキシコがどのような見解を示すかわからないのは不安だ。

しかし、最もダメージが大きいのは、紙面に載らない法的な脅しや要求だ。法的な要求には本来、口封じの効果がある。時には成功することもある。ジャーナリズムにはリスクがつきものであり、報道局が常に勝つとは限らない。法的な脅しは、放置すると仕事をすることが法的に有害となるため、セキュリティ研究とジャーナリズムの両方に対する萎縮効果がある。これは、世界の情報量の減少、そして時には安全性の低下にもつながる。

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Dragonfly)

米国憲法の原本をめぐるConstitutionDAOによる大胆でユニークな暗号資産入札は失敗に

米国憲法の原本は13部現存している。その1部がアートディーラーのSotheby’s(サザビーズ)のオークションに出品された。2021年11月半ば、ある自立型分散組織(DAO、Decentralized Autonomous Organization)が、インターネットの注目を集めた激しい入札合戦の末、その落札に敗れたことを発表した。それでも、インターネット上で出会った人々のグループであるDAOの大胆な台頭は、単一のミームとオークションで多くの人々を一度に暗号資産の世界に巻き込むという、ユニークなケーススタディだった。

Twitter(ツイッター)上では、同グループの一部のメンバーがライブのTwitter Spaces(スペース)チャットで誤って勝利宣言し、短時間の興奮が沸き起こった後、同グループは結局敗北したことが声明で発表された。その声明によると、同グループは「72時間以内にクラウドファンディングによる最高額の記録を破った」という。

あるオーガナイザーは、グループのDiscord(ディスコード)チャンネルで、文書の維持と管理に必要な予備費を継続的に確保するための十分な資金を調達できなかったために敗北したと述べている。同グループの説明では、ConstitutionDAOの参加者はガス代(取引手数料)を除いて返金を受けることができる。参加者にまだ与えられていないガバナンストークンがあるという事実を踏まえると、一部のメンバーがグループに残りたいと思った場合、金銭の返還はさらに複雑になる可能性もあるだろう。

アトランタ在住で金融関係の仕事をしているAustin Cain(オースティン・ケイン)氏とGraham Novak(グラハム・ノバック)氏は、Discordのチャットから始めてこの取り組みに着手した。現在では8000人以上のメンバーが参加している。ローンチから一週間もたたないうちに、このDAOは初期段階のDAOプラットフォームJuiceboxで4000万ドル(約46億2000万円)相当のETHを調達した。

この取り組みは、主にTwitter、そして膨れ上がるDiscordサーバーを介して展開されており、所有権の共有と透明性が原則となっているWeb3ユニバースの中で、コミュニティの取り組みがどのように見え、感じられるかを知るための窓のような存在になっている。DAOの構造がもたらすオポチュニティは広範な関心を呼び起こしている。DAOのトレジャリーが管理する価値は、一部の推計によると、現在60億ドル(約6930億円)を超えている。

先週、Daniel Monteagudo(ダニエル・モンテアグード)氏は、ある友人から、ETHを使って憲法を購入しようとしている人々との3分以内に始まるコールに参加したいかどうか尋ねるメッセージを午後7時57分に受け取った。同氏は見ていた映画を途中で切り上げ、コールに参加し、その運動を支援することにした。これまでに1000ドル(約11万5000円)を投じ、現在はConstitutionDAOのTwitterアカウントを運営している。

大部分のDAOとは異なり、ConstitutionDAOはトークンゲートではないため、コミュニティを求めてDiscordに参加する人は組織に投資する必要がない。例えばBored Apes Yacht Clubのように、会員制のコミュニティにアクセスするためには高価なNFTを買う余裕がなければならないのとは別物である。

「実に奇妙なことです」とモンテアグード氏は、これまでにGrimes(グライムス)氏を含む1万9000人を超えるメンバーが参加しているこのDAOプロジェクトの勢いについて触れ、次のように語った。「ただ、人々は特定の目標に向けて行動を起こすために巨額の資金を迅速に調達できることに興奮を覚えているのだと思います」。

サードパーティのダッシュボードを用いて、ConstitutionDAOのコントリビューターの13%がETHを初めて利用しているとモンテアグードは推計している。同プラットフォームによると、ConstitutionDAOに貢献した人の約44%は、自分の名義でのトランザクション数が40に満たないという。

人々を暗号資産へと駆り立てる魅了感は、劇場的に見えるかもしれないが、それはConstitutionDAOの刺激的な副作用である。人々に分散化されたコミュニティのインパクトと感触を理解する方法を与えると同時に、米国憲法が抽象的アート作品よりも優れているかもしれないというふうに、彼らの感情に訴えかけてくるものだ。

「DAOは、世界中から集まった大勢の人々が一緒に活動することを支援します。企業もこれを行うことができますが、設立には時間がかかる傾向があり、国境を越えて人々に報酬を支払うことは困難な場合があります」と同氏はいう。「DAOを使用すると、世界規模の組織を簡単に構築できます」。

新規ユーザーの多さはエキサイティングかもしれないが、それはまた、新しい暗号資産を教育する責任が誰かに生じることを意味している。例えば、初期の段階では、コントリビューターが自分の資金がどのように使われるかを正確に理解できるように、ConstitutionDAOチームはピッチを「憲法の一部を所有する」から「ガバナンストークンを取得する」に変更する必要があった。

「多くの人々、例えば3000人が暗号資産に参入した理由は憲法(の原本入手への参加)であると考えていますので、そうした人々がうまく暗号資産を利用していけるようにする責任を感じています」とモンテアグード氏は語っている。

Upstream(アップストリーム) の創業者Alexander Taub(アレクサンダー・タウブ)氏は「DAO」という言葉を完全に廃止したいと考えている。その代わりに同氏の会社は、Dapper Labs(ダッパー・ラボ)のやり方に倣い、その構造に「collective(共同体)」という呼び名をつけた。

「私たちは車輪を再発明(不要あるいは冗長な準備を行うこと)しているのではありません。友達とお金をプールすることは長い間行われてきており、コミュニティに支払うことも以前から行われています」とタウブ氏はいう。その代わり、DAOは2つのうちの1つを望んでいる個人の賭けである、と創業者は続けた。お金を稼ぐか、コミュニティの中で所有権と透明性の感覚を得るかだ。後者の方が有望ではあるが「今はあまり研究されておらず、話題にもなっておらず、議論もされていない」ように感じられる。

これはUpstreamが先に、DAOs-in-a-boxを提供するプラットフォームを開発していることを発表した理由の一部である。同氏が構想している世界では、collectiveのメンバーが共通のETHウォレットに資金を寄付したり、資金の使用方法に関する提案書を作成したり、意思決定について投票したり、コミュニティ内でより多くの投票権を持つ代表者を選んだりすることができる。DAOを設定するためのフルスタックスポットを作ることで、ガバナンスとコンプライアンスがより明確になるとタウブ氏は考えている。

「Upstream collectiveは、多くの人々が初めてDAOに参加し、 MetaMask(メタマスク)ウォレットでEthereum(イーサリアム)を使い、それを快適に活用していける場となるでしょう」とタウブ氏。「一般的に言って、より多くの人がお金がどう動くかの未来を理解するのは良いことです。私たちはすでに隔たりを越えているのです」。

Upstreamは、DAO開発を加速させようと奮闘している複数のスタートアップのうちの1社にすぎない。Andreessen Horowitz (アンドリーセン・ホロウィッツ)は8月にDAOのツールビルダーであるSyndicate(シンジケート)を支援し、Utopia Labs(ユートピア・ラボ)は10月にDAOオペレーティングシステムのために150万ドル(約1億7300万円)を調達した。

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ConstitutionDAOのようなグループは、DAOの支持者たちに新しい構造を約束しているが、彼らは新規の暗号資産テクノロジーに対する一般的な批判を免れない。一部の人は、ConstitutionDAOを単なる見せかけの購入の1つにすぎないと見ており、文書の購入に費やされた数百万ドル(数億円)の代わりとなる用途が膨大にあると指摘している。

注目を集める仕組みは、NFTのような新テクノロジーの力を人々が理解するのに役立ってきたが、それだけが暗号資産の魅力ではないし、そうあるべきでもない。とはいえ、新しいテクノロジーの黎明期にはよくあることだが、暗号資産を使いこなせない人々にアピールするイベントは、不完全ではあるが教育に役立つ可能性がある。

DAOは、貴重な歴史的文書を入札するだけでなく、さまざまなユースケースを想定している。MirrorのようなクリエイターのDAOは、人々が自分の仕事を部分的に収益化することを可能にし、PieDAOのようなプロジェクトは、企業がするようにビジネス上の意思決定をするためにその構造を使用する。Uniswap(ユニスワップ)やAAVE(アーべ)など、ほとんどの有名なDeFi(分散型金融)融資プラットフォームはDAOによって管理されている。

1回限りの購入を目的に設立されたDAOの中には、その後、対象範囲を広げたものもある。例えば、PleasrDAOはもともとUniswap NFTのアートワークを購入するために設立されたが、その後DeFiに進出し、インキュベーターを立ち上げた。非常に多くの牽引力を得ており、豊富なリソースを集めていることから、ConstitutionDAOも容易に同じことができるだろう。

タウブ氏は、公共の利益になるようなDAOの長期的な利用の可能性を考えている。例えば、地方自治体では、市の住民が財務省の資金の使い方について直接投票することができる。しかしタウブ氏はまた、その新しさと、白人で男性であることで知られるWeb3コミュニティとのつながりを考えると、DAOにはまだまだ長い道のりがあることを認めている。

多くのDAOを支えているガバナンストークン構造が、個人の寄付額に基づいて投票権を割り当てていることは注目に値する。ConstitutionDAOは将来この構造を採用すると思われるが、現時点ではConstitutionDAOのDiscordチャットは誰でも利用できる。DAOは透明性と所有権を提供しているが、より大きな利害を持つことができない人々はグループの決定に対して同じレベルの発言権を持たないことから、DAOを民主的と呼ぶのは無理があるかもしれない。

また、他の新しいWeb3テクノロジーと同様に、DAOは正式な監督や規制がほとんどない状態で大規模な資本移転を促進する。自分たちが提供するコミュニティのビジョンに惹かれている人たちは、お金を失ったり、詐欺の被害に遭ったりすることに不安を抱くかもしれない。

DAOへの参加は、今日存在する規制のグレーゾーンを考えると、大きなリスクをともなう可能性がある。米国のほとんどの州では、DAOは具体的な法的構造によって規制されていないため、プロトコルの開発者と参加者は、規制を受ける企業の株主に比べて高い責任を負っている。

これらの障壁が克服されるまでは、DAOは、企業や社会の強固な構造に重大な脅威を与えるというよりも、むしろソーシャルグループやConstitutionDAOのようなニッチコミュニティを中心に据えている可能性が高い。しかし、インフラが整備されれば、ニッチなアイテムを購入したり、インターネットで楽しんだりする暗号資産に関心のあるユーザーのグループから、企業のように振る舞うものの、意思決定においてより機敏で包括的な役割を果たすことのできる本格的な共同体へと、DAOは変化するかもしれない。

画像クレジット:Bryce Durbin

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(文:Anita Ramaswamy、Natasha Mascarenhas、翻訳:Dragonfly)