京都フュージョニアリング、核融合炉技術の構築に向けシリーズBで13.3億円を獲得

より多くのスタートアップが核技術に参入する中、資金調達が活発になるのは驚くことではない。このたび、日本を拠点としながら海外での事業展開を強化している核融合エネルギーのスタートアップ、京都フュージョニアリング(Kyoto Fusioneering、KF)が、最新のラウンドで13億3000万円の資金を調達した。これにより、同社の累計調達額は16億7000万円となった。

2020年に京都フュージョニアリングは、英国政府が後援する核融合実験炉「STEP(Spherical Tokamak for Energy Production)」の開発をサポートする複数の契約を獲得している。同プロジェクトは2040年までの運転開始を目指しており、KFの将来にとって重要な鍵となりそうだ。

今回のシリーズBラウンドは、既存投資家であるCoral Capitalの支援に加え、大和企業投資、DBJキャピタル、ジャフコ グループ、JGC MIRAI Innovation Fund、JICベンチャー・グロース・インベストメンツを新たな引受先としている。

また、KFは京都銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行から総額7億円のデット調達も実施した。

この資金は、研究の加速と事業の拡大、プラズマ加熱(ジャイロトロン)と熱抽出(ブランケット)のための核融合プラントエンジニアリングの技術開発に使用される。これらの技術は、核融合炉プロジェクトの開発に必要なものだ。

現在、世界7極が参加しているグループ(欧州連合、日本、米国、ロシア、韓国、インド、英国、中国)が国際的なITERプロジェクトを支援している。これは2020年代後半までに、核融合実験炉を実現しようとする超大型国際プロジェクトだ。

米国や中国などでは、国内で独自のプログラムを進めている。日本政府もまた、核融合分野でさまざまな取り組みを行っている。

Coral Capitalの創業パートナー兼CEOのJames Riney(ジェームス・ライニー)氏はこう述べている。「気候変動は人類にとって存亡に関わる脅威ですが、核融合エネルギーの未来が実現すれば、文字通り世界を救う銀の弾丸になるかもしれません。多くのスタートアップが『世界を変えたい』と語るものですが、この会社は本当に変えつつあるのです」。

核融合は多くのことを約束してくれるが、今のところ大きな成果は得られていない。しかし、もし誰かがそれを実現できれば、世界のエネルギーと環境問題の多くを解決できる可能性がある。なぜなら、事実上無限の燃料資源を意味しており、二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーを得られるからだ。

画像クレジット:Kyoto Fusioneering

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

エネルギー卸取引マーケットプレイスeSquare運営のenechainが総額20億円調達、今後3年間で10倍以上の流動性増加を目指す

エネルギー卸取引マーケットプレイスeSquare運営のenechainが総額20億円調達、今後3年間で10倍以上の流動性増加を目指す

様々なエネルギー商品を売買できる卸取引マーケットプレイス「eSquare」を運営するenechainは1月26日、シリーズAラウンドでの16億円の第三者割当増資および取引銀行からの融資により、総額で約20億円の資金調達を行なったことを発表した。引受先は、リードインベスターのDCM VenturesとMinerva Growth Partners。調達した資金により、eSquareの流動性を拡大させ、エネルギー業界全体のDXを推進させたいという。

enechainは「Building energy markets coloring your life」をミッションに掲げ、あらゆるユーザーがオンライン上のマーケットプレイスeSquareを通じ、電力やLNGといったエネルギー商品を自由に売買できる社会の実現を目指すスタートアップ。

2016年の電力自由化以降には数百社の小売事業者が電力事業に参入し、従来の電力会社よりも安価に電力の販売がされるといったメリットが生まれた。しかしその一方で、自由化当初には想定されていなかった、燃料市況や需給動向に応じた電力のスポット価格の乱高下といった課題も浮き彫りになっている。このような事業環境では、生産者にとっても小売企業にとっても価格変動に対して「収益を安定化するためのヘッジ取引」が必要となるものの、これまで日本のエネルギー業界には価格をヘッジするマーケットが存在していなかった。エネルギー卸取引マーケットプレイスeSquare運営のenechainが総額20億円調達、今後3年間で10倍以上の流動性増加を目指す

そうした背景を受けenechainは、経済産業省の認可の元、法人ユーザー向けに電力やLNGなどエネルギー商品のヘッジ取引を行うマーケットプレイスを開設、取引のマッチングサービスを提供。創業から2年半で、ユーザーは電力会社やガス会社、新電力のほかにも欧米トレーダーなど120社を超えるまでに成長している。

今回調達した資金は、採用と組織拡大、コアプロダクトであるeSquareの開発およびユーザーへの導入の加速に充てる。今後3年間で、ソフトウェアエンジニアやコーポレート人材などを中心に社員数を150名と現状の3倍規模にまで増やす予定。ユーザー獲得の加速に向けた投資も積極的に行ない、eSquare上の流動性を10倍以上とすることを目指す。

enechainは、卸電力のヘッジマーケットプレイスでの取引を活性化させることで、発電・小売事業者の収益性を安定させ、エンドユーザー向けにより競争力のある条件での安定的な電力小売に寄与したいという。

スマートホームエナジースタートアップの独Tadoが約588億円の評価額でSPAC上場を計画

サーモスタットを専門とし、最近ではロードシフトテクノロジーに基づく柔軟な「使用時間帯別」エネルギー料金体系に移行したドイツのスマートホームスタートアップtado(タド)は現地時間1月17日、企業としての次なるステップを発表した。SPAC(特別買収目的会社)との取引による株式公開だ。

持続可能な技術に特化したドイツのSPAC企業GFJ ESG Acquisitionは、tadoと合併して新会社をフランクフルト証券取引所に上場させると発表した。GFJとtadoは現在、PIPEs(私募増資)に取り組んでおり、完了すればtadoの評価額は4億5000万ユーロ(約588億円)になると予想される。新会社は引き続きtadoとして取引される。

tadoの広報担当者は、予定している上場での調達額や、上場時期についても2022年前半になりそうだということ以外は明らかにしないと述べた。

今回の動きは、tadoにとって2つの大きな進展があった直後のものだ。同社は1月11日、aWATTar(そう、これは社名の呼び方だ……)を買収し、家庭内のエネルギー消費ハードウェアから管理ソフトウェアへと事業を拡大した。このソフトウェアは顧客のエネルギー使用方法と、エネルギーソースの変動(太陽光や風力などの再生可能エネルギーや、より従来型のチャネルも含む)に応じた価格変動に基づくエネルギー消費とコストを管理できるようにするものだ。

また、5月には4600万ドル(約52億円)を調達した。当時、同社はこれが上場前の最後のラウンドになるだろうと述べていたが、それが今、現実のものとなっている。同社はこれまでにAmazon、Siemens、Telefonicaといった豪華な投資家陣から総額1億5900万ドル(約182億円)弱の資金を調達した。PitchBookのデータによると、そうしたプライベートなラウンド時の評価額は2億5500万ドル(約292億円)で、上場時に見込まれる時価総額4億5000万ドルをかなり下回っていた。

今回の合併は、株式公開する大規模なグリーンテックスタートアップとしては欧州初のケースとなるため注目すべきものだ。tadoの大きな目標は、電力網から消費者の家庭まで、エンド・ツー・エンドのシステムでエネルギー使用を管理するサービスを構築することだ。同社はこれまで2回方向転換した。最初はスマートサーモスタットのメーカーとしてスタートし、約200万のデバイスを販売してきた。その後、tadoはエネルギー料金体系を多様化し、使用状況を管理することで、ビッグデータ、予測分析、再生可能エネルギーとエネルギーハードウェアシステムという広範かつ非常に断片的な市場の活用に基づく幅広いビジネスへと発展してきた。

同社は現在、200万台以上のスマートサーモスタットを販売し、エネルギー管理技術によって20カ国にまたがる約40万のビルや家庭をつなげ、7ギガワット以上のエネルギー容量を管理していると話す。OEM900社が提供する約1万8000のシステムと連携しており、同社の負荷分散技術を使用する顧客は年間暖房費を平均22%節約できる、としている。

気候変動への懸念がますます高まり、そして消費者が温室効果ガスの排出を削減するためのサービスをより簡単に、より手頃な価格で利用できるようになるにつれ、グリーンテックやクリーンテックの企業にとって絶好の機会が出現している。今回の上場は、そのような企業の1つが、さらなる成長を目指して株式公開に踏み切るだけの十分な牽引力を感じていることを明確に示している。

tadoのCEOであるToon Bouten(トゥーン・ボウテン)氏は「tadoのチーム全体が GFJと提携することを非常に誇りに思っています」と声明で述べている。「我々は同じ信念を持ち、環境技術への情熱を共有しています。そして、顧客のコスト削減とエコロジカルフットプリントの抑制に共同で貢献することを決意しました。より持続可能なエネルギーの未来を創造するためのすばらしい位置につけています」。

この取引が完了すると、ボウテン氏は代表を退き(現職はオフィスソリューションプロバイダーRoomの社長と記載されている)、Oliver Kaltner(オリバー・カルトナー)氏がCEOに就任する。そしてChristian Deilmann(クリスチャン・デイルマン)氏がCPO、Johannes Schwarz(ヨハネス・シュワルツ)氏がCTOに就く予定だ。Emanuel Eibach(エマニュエル・アイバッハ)氏は引き続きCFOを務める。Gisbert Rühl(ギスバート・リュール)氏は監査役会会長に就任する。また、Josef Brunner(ジョセフ・ブルナー)氏、Petr Míkovec(ピョートル・ミコヴェック)氏、ボウテン氏、Maximilian Mayer(マキシミリアン・メイヤー)氏が監査役に就く。

GFJのCEOであるGisbert Rühl(ギスベルト・リュール)氏は「GFJとtadoはともに、気候変動との戦いにスマートな方法で挑むことを決意しています。tadoはすでにグリーンテック企業のニューウェーブの精神を受け継ぐマーケットリーダーです。EUのエネルギー消費の約21%は、住宅の冷暖房に使用されています。EUとドイツが、2050年までに世界で初めて経済をクライメート・ニュートラルなものにするという約束を果たしたいのであれば、住宅分野の脱炭素化に代わるものはありません」と述べた。

tadoは上場企業として市場に対して新たなレベルの透明性を獲得することになり、広く捉えるとグリーンテック業界全体にとってもプラスだ。今のところ、同社は3年後の2025年までに年5億ユーロ(約653億円)超の収益を上げるようになると予想している。

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

ポルシェがカーボンニュートラルな家庭のためのワンストップショップを目指す独スタートアップに出資

Porsche(ポルシェ)のベンチャー部門は、エネルギー貯蔵、電気自動車の充電インフラ、太陽光発電など、カーボンニュートラルな家庭を実現するために家庭に必要なものをすべて提供することを目指しているドイツのスタートアップ1Komma5(ワンコンマファイブ)に少数株主として出資した。

投資額は公表されていないが、Porsche Venturesは過去2年間に、イスラエルのセンシング技術のスタートアップTriEye電動マイクロモビリティのオンラインディーラーRidePandaバーチャルセンシングのスタートアップTactile Mobilityなどに出資してきた。

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今回の投資は、Porsche Venturesの典型的なモビリティ技術に関するものとは少し異なる。

Porsche Ventures Europe and Israelの責任者であるPatrick Huke(パトリック・ヒューケ)氏は「今回の投資で、スマートシティとサステナビリティの分野における我々の野心を強調したいと思っています」とTechCrunchに語った。

ドイツ・ハンブルグ拠点のこのスタートアップは、CFOを務めるMicha Grueber(ミーヒャ・グルーベル)氏、そしてTeslaとエネルギー貯蔵システム会社Sonnenで働いた経験を持つPhilipp Schröder(フィリップ・シュローダー)氏によって設立された。

パリ協定の目標である「気温上昇を1.5度以内に抑える」ことにちなんで名付けられた1Komma5は、ワンストップショップという目標に向けて興味深い方法をとっている。

シュローダー氏は最近のインタビューで「今日、どの企業も太陽光発電やエネルギー貯蔵などのコンポーネントの販売に集中しています。その一方で、ヨーロッパでは、これらの分散型資産をまとめることに注力している企業はありません。これでは問題が発生するのは必至です」と話した。

「分散型エネルギーの世界では、各家庭にヒートポンプや充電ポイント、蓄電システムがあっても、それらがグリッドレベルで(あるいは相互に)通信しなければ問題が発生します」と同氏は話す。

1Komma5は、買収だけでなくソフトウェアを通じてすべてを統合することを目指している。具体的には、1Komma5はドイツ国内で、太陽光、ヒートポンプ、エネルギー貯蔵などの再生可能エネルギーに特化した大手電気設備会社の買収を目指しており、最終的にはオーストリアやスイスなどの他の国にも拡大する予だ。1Komma5は、これらの企業に対して、管理業務や顧客関係管理を行うための法人向けソフトウェアや、充電、太陽光、エネルギー貯蔵を結びつけるエネルギー管理ソフトウェアを提供する。

1Komma5のビジネスが興味深いのは、ソーラーやエネルギーストレージなどのコンポーネントを、家庭レベルとグリッドレベルで相互に接続する計画があるからだとシュローダー氏は話す。

1Komma5は、これまでに現金および株式による5件の買収を行っている。

この若いスタートアップは、今後2年間で1億ユーロ(約127億円)の現金と株式を使って、再生可能エネルギーに特化した設置会社をさらに買収するという壮大な野望を抱いている。ターゲットとしているのは、500万〜2000万ユーロ(約6億〜25億円)の売上と、熟練した労働力を持つ設置会社で、単に他の業者に委託しているような販売会社ではない。

Porscheからの資金は、1Komma5の事業拡大のために使用される。その計画には、プレミアムなAppleデザインのような雰囲気の小売店舗を開設し、潜在的な顧客がカーボンニュートラルな住宅に不可欠な構成要素について学べるようにすることが含まれる。このような店舗では、例えば、家庭用充電器、エネルギー貯蔵、太陽光発電などの隣にPorscheのTaycanが展示されるかもしれない。

最初のショールームは、ハンブルクのビネナルスターとリンゲン・アン・デア・エムスに計画されており、2022年第1四半期にオープンする予定だ。

Porscheは、1Komma5の製品を自社の顧客層に提供することをすぐには考えていない。しかし、ヒューケ氏が指摘したように、Porsche Venturesは戦略的な投資を行っており、中長期的にはさまざまな可能性を検討していくことになる。

画像クレジット:Porsche

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Nariko Mizoguchi

AWS、エネルギー業界対象の「AWS Energy Competency Program」を発表、持続可能なエネルギーの未来への移行をナビゲート

Amazon(アマゾン)は米国時間11月30日、エネルギー業界に向けた専門的なソリューションを開発するAWSパートナーを正式に認定する新しいプログラムを発表した。この新しいAWS Energy Competency Program(AWSエナジーコンピテンシープログラム)は、より持続可能なエネルギーの未来への移行をナビゲートしながら、世界中のエネルギー生産者が最新の技術を用いてAWSを搭載したソリューションを構築・実装することを助けることができる技術的専門知識と顧客の成功をすでに実証している専門パートナーを特定するものだ。

現在、多くのAWSパートナーがエネルギー業界と連携し、石油・ガス資産の探査段階から集荷・加工・輸送・管理・保守に至るまでの運用管理や、再生可能・持続可能な分野での運用管理など、AWSテクノロジーの活用を支援している。これらの業界では現在、クラウドコンピューティング、モノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)、機械学習(ML)などのソリューションの導入が加速しているとAmazonはいう。

新しいAWSエネルギーコンピテンシープログラムは、持続可能な再生可能エネルギー資産を含むポートフォリオの開発を支援できるパートナーを含め、世界のエネルギー生産者との連携に関して、特定の専門知識を持つAWSパートナーを業界がよりよく識別できるようにする。

このプログラムは、エネルギー生産者向けの新しいプログラムの開発を支援するためにAWSと協力した32のグローバルパートナーを含んでいる。このグループには、特化したソリューション分野、業界の垂直構造、またはワークロードを支援できるパートナーが含まれている。パートナーは、エネルギー業界特有のベストプラクティスに関連した厳格な技術検証を受けなければならないため、これは現在、AWSパートナーが達成できる最も厳しい指定の1つであると、Amazonは指摘している。

画像クレジット:Amazon

パートナーの1つであるSlalom(スラロム)は、北米のエネルギー企業であるTC Energy(TCエナジー)の4万4000kmにおよぶ天然ガスパイプラインの管理を支援している。TC EnergyはSlalomと協力して、顧客がガスのスケジューリングを最適化できるよう機械学習を利用したビジネスインテリジェンスアプリケーションを開発した。別のパートナーであるAIビデオ分析プロバイダーのUnleash Live(アンリーシュ・ライブ)は、風力発電所、ソーラーパーク、水力発電、天然ガスプロジェクトなどを運営するインダストリアル・エンジニアリング・ソリューション・プロバイダーのWorsley(ウォーズリー)を支援した。Worsleyは、Unleash Liveを利用して、ドローンとコンピュータビジョンを活用して検査を行っている。

その他のパートナーは上流、中流、下流、新エネルギー、基幹業務アプリケーション、ヘルス、安全、環境、データアナリティクスなどのソリューションの提供を支援できるとAmazonは述べている。現在、プログラムへの参加に関心のあるAWSパートナーは、AWS Service Partners(AWSサービスパートナー)とAWS Software Partners(AWSソフトウェアパートナー)の両方の検証チェックリストを見ることができる。

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(文:Sarah Perez、翻訳:Yuta Kaminishi)

商用核融合エネルギーの実現に向けてHelion Energyが約2410億円を確保

クリーンエネルギー企業のHelion Energy(ヘリオン・エナジー)は、核融合によるゼロカーボン電力が豊富にある新時代の創造にコミットしている。同社は米国時間11月5日、5億ドル(約570億円)のシリーズEを完了し、さらに17億ドル(約1936億円)のコミットメントを特定のマイルストーンに結びつけたことを発表した。

このラウンドは、OpenAI(オープンAI)のCEOでY Combinator(Yコンビネーター)の元プレジデントSam Altman(サム・アルトマン)氏がリードした。既存の投資家としては、Facebook(フェイスブック)の共同創業者Dustin Moskovitz(ダスティン・モスコビッツ)氏、Peter Thiel(ピーター・ティール)氏のMithril Capital(ミスリル・キャピタル)、そして著名なサステナブルテック投資家であるCapricorn Investment Group(カプリコーン・インベストメント・グループ)などが名を連ねる。今回の資金調達には、Helionが主要な業績目標を達成するために必要な追加の17億ドルが含まれている。ラウンドリーダーのアルトマン氏は、2015年から投資家兼取締役会長として同社に関わってきた。

約60年前に制御された熱核融合反応が初めて達成されて以来、核融合エネルギーはクリーンエネルギー愛好家の熱い夢であり続けてきた。このテクノロジーは、ごくわずかなリスクで、稼働中の放射能量がはるかに少なく、放射性廃棄物が非常に微量であるという、現行世代の核分裂発電機に対するあらゆる利点を約束している。ただ、1つ難点がある。核融合プロセスはこれまでのところ、その反応を制御し続けるために消費するエネルギーよりも多くのエネルギーを生成することは難しいのが現状である。

Helionは企業として、科学実験としての核融合ではなく、より重要な問題に焦点を当ててきた。このテクノロジーは、商業規模で、そして工業規模で、電力を生成できるだろうかという問いである。

「熱やエネルギー、あるいはその他のことを論じている核融合領域のプロジェクトもありますが、Helionは発電に焦点を当てています。私たちは低コストで迅速にそれを取り出すことはできるのでしょうか。核融合による産業規模の電力を実現することは可能なのでしょうか」とHelionの共同創業者でCEOのDavid Kirtley(デビッド・カートリー)氏は問いかけるように話す。「私たちは輸送用コンテナほどの大きさで、産業規模の電力を供給できるシステムを構築しています。例えば、およそ50メガワットの電力です」。

重水素とヘリウム3は加熱後、磁石で加速され、圧縮されて誘導電流として捕捉される(アニメーションはHelion Energy提供)

2021年6月、Helionは民間の核融合企業として初めて、核融合プラズマを摂氏1億度まで加熱することを確認した結果を発表した。これは、核融合から商用電力への道を歩む上で重要なマイルストーンだ。その後すぐにHelionは、同社が「Polaris(ポラリス)」と呼ぶ第7世代の核融合発電機の製造プロセスの開始に向け、工場の建設に着手したことを明らかにした。

TechCrunchは、2014年の同社の150万ドル(約1億7000万円)というラウンドを知って驚いたことを記憶している。そのとき同社は、3年以内に核融合のネット発電を立ち上げ、稼働させることができると語っていた。それから7年が経過し、Helionはいくつかの問題に直面しながらも、その過程で焦点も見出したようだ。

「エネルギーの科学的マイルストーンにフォーカスするのではなく、より具体的に電力へ焦点を当てるために、方向性を少し変えることにしました。電力、そして電力の抽出という側面で、いくつかのテクノロジーを証明する必要があったのです。また、そうした技術的マイルストーンに到達するために必要な資金も必要でした」とカートリー氏は振り返る。「残念ながらそれには期待していたよりも少し時間がかかりました」。

人々にエネルギーを与えようと待機するHelionチーム(画像クレジット:Helion Energy)

投資ラウンドの一環として、サム・アルトマン氏は取締役会長からHelionの執行会長にステップアップし、同社の商業的方向性へのインプットを含む、より高度な活動を行うことになる。

「最初の資金調達ラウンドはMithril Capitalが主導し、Y Combinatorもその一部を占めていました。そこで私たちはサム(・アルトマン氏)に紹介されました。同氏はそれ以来、私たちの資金調達に関わってくれています。同氏は物理学を真に理解しているアンバサダーで、これは実にすばらしいことです。私たちは同氏が投資をリードすることに興味を持ってくれたことを本当にうれしく思っています。整合性が異なり、テクノロジーについてあまり深く理解していない外部の投資家を連れてくる必要はなかったのです」とカートリー氏は説明する。「同氏は成功を見て、その意味するところを理解してくれました。私たちは同氏を投資家としてだけではなく、より積極的な関与者として迎えることを楽しみにしています。これは私たちがタイムラインを加速できることを意味します。資金調達もその一部であり、テクノロジーもその一部です。最終的に私たちは培ってきたものを世界に送り出す必要があり、サムはそれを支援してくれるでしょう」。

「これまで目にした中で最も有望な核融合へのアプローチを行うHelionに投資できることをうれしく思います」とアルトマン氏は語る。「他の核融合の取り組みに費やされたものに比べてごくわずかな資金、そしてスタートアップの文化を持つこのチームには、ネット電力への明確な道筋があります。Helionが成功すれば、気候災害を回避し、人々の生活の質を向上させることができるでしょう」。

HelionのCEOは、最初の顧客はデータセンターになるのではないかと推測している。そこには他の潜在顧客に対するいくつかの優位性が存在する。データセンターは電力を大量に消費しており、多くの場合、バックアップ発電機を受け入れるための電力インフラストラクチャがすでに整備されている。また、人口密集地から少し離れている傾向がある。

「こうした施設はディーゼル発電機の予備電源を備えており、数メガワットの電力を供給します。これは、電力網の問題に対処するのに必要な時間だけデータセンターを稼働し続けるようにするものです」とカートリー氏は語りながらも、同社は単に予備のディーゼル発電機を置き換えるだけではなく、もっと野心的であることを示唆している。低コストで電力の可用性が高いということは、同社がデータセンター全体にデフォルト電源として電力供給を開始できることを意味する。「50メガワット規模であり、電力コストをキロワット時あたり1セントまで削減できることに大きな期待を寄せています。データセンターの動作を完全に変えることができ、気候変動への対応を本格的に始めることができます。私たちの焦点は、低コストでカーボンフリーの電力を作ることに置かれています」。

発電方法に物理的な制限があるため、同社の現世代の技術はTesla Powerwall(テスラ・パワーウォール)やソーラーパネルに取って代わることはできないだろう。発電機のサイズは輸送用コンテナとほぼ同じである。しかし、50メガワットの発電機は約4万世帯に電力を供給することができ、その電力量で、このテクノロジーは分散型電力網に非常に興味深いオポチュニティをもたらす可能性がある。

Helionの発電ソリューションにおける興味深いイノベーションの1つは、発電の中間段階として水と蒸気を使用しないことだ。

「キャリアの最初の頃、私は核融合の方法に注目し続けていました。そして、プラズマを含めて、すべてが電気的である美しいエネルギーがあるのだ、と確信しながら、それから何ができるだろうか、水を沸かして、古くて低効率な資本集約的プロセスを使うのだろうか、という思いがめぐりました」とカートリー氏は説明する。同社は水を使うのではなく、誘導エネルギーを使うことにした。「この時代を完全に乗り切ることができるだろうか、ガソリンエンジンを使わない代わりに最初からいきなり電気自動車を走らせるようなことができるだろうか。こうした問いへの取り組みに私たちは力を注いできました」。

同社は、2024年までに核融合炉の稼働に必要な量よりも多くの電力を発電できるようにすることを目指しており、現時点での目標は商業規模での発電であるとCEOは指摘している。

「当社の2024年のデータは、現時点では科学上の重要な証明ではありません。目標は、商業的に設置された発電を追求することにあります。巨大な市場が存在しており、これを一刻も早く世界に広めたいと考えています」とカートリー氏は最後に語っている。

「できる限り早く電力に到達するように注力することで、気候変動と二酸化炭素を排出しない発電について話す自然な会話の一部として、核融合を期待できるようになるでしょう。私たちはこの資金を確保できたことに大きな興奮を覚えています。そして調達してきた総合資金により、私たちはそこにたどり着くことができるはずです」。

画像クレジット:Helion Energy

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

北極圏にデータセンターを構えて実質無料で冷却、Neu.roはゼロエミッションの機械学習モデル構築ソリューションを発表

企業が機械学習を活用してビジネスをより効率的に運営しようとする動きはますます活発になっているが、機械学習モデルの構築、テスト、稼働には膨大なエネルギーを必要とすることも事実だ。アーリーステージのスタートアップ企業でフルスタックのMLOps(エムエルオプス、機械学習運用基盤)ソリューションを手がけるNeu.ro(ニューロ)は、より環境負荷の少ないグリーンなアプローチに取り組んでいる。

同社は米国時間11月22日、フィンランドのクラウドインフラストラクチャパートナーであるatNorth(アトノース)とともに、ゼロエミッションのAIクラウドソリューションを発表した。

同社によると、atNorthはティア3に適合するISO 27001認定のデータセンターを提供し、そこでNVIDIA(エヌビディア)A100を搭載したDGXおよびHGXシステムを稼働させるという。80MWの電力容量を持つこのデータセンターは、すべて地熱と水力エネルギーで稼働している。さらに、北極圏に位置しているため、実質的に無料で冷却することができ、Neu.roのソリューションを使用して機械学習モデルを構築する顧客に、エネルギー効率の高いソリューションを提供できる。

Neu.roの共同設立者であるMax Prasolov(マックス・プラソロフ)氏によると、この問題を調査した結果、コンピューティングとテレコミュニケーションが世界の総エネルギー消費量の約9%を占めており、この数字は今後10年間で倍増する可能性があることがわかったという。プラソロフ氏らは機械学習モデルの構築がその中でも重要な役割を果たすと考え、自社の二酸化炭素排出量を削減するために、atNorthと提携することを決めた。

「当社ではすべてのオペレーションとすべての実験を、ゼロエミッションのクラウドに移行することに決めました。目標は、クレジットを購入して使用量を埋め合わせることができるカーボンニュートラルではありません。問題は、どうやってゼロエミッションを達成するかです。私たちは、顧客のために機械学習モデルをトレーニングする際に、非常に多くのエネルギーとコンピューティングパワーを費やしていることに気づきました。それこそが、間違いなく、我々が排出している最大のカーボンフットプリントであることを理解したのです」と、プラソロフ氏は述べている。

その一方で、同社はソフトウェアソリューションを通じて、より効率的な方法でモデルを構築する方法を考え出した。これによって必要なエネルギー量を削減し、さらに持続可能なソリューションを提供することが可能になる。

製品自体については、同社は柔軟性のあるクラウドネイティブなサービスを提供しており、そこでツールの一部を提供するものの、企業が自分たちにとって最適と考える方法で補う余地を十分に残している。

「当社のアプローチは、データの取り込みから、モニタリング、説明可能性、パイプラインエンジンなど、構築が必要なツールをすべて1つずつ構築するのではなく、相互運用性を重視しています。まだ構築されていないものを構築し、すでに存在するKubernetes(クバネティス)によるツールのユニバースに接続します」と、同社の共同設立者である Arthur McCallum(アーサー・マッカラム)氏は説明する。

このスタートアップ企業は現在、商用のソリューションを提供しているが、オープンソース版のスタックにも取り組んでおり、まもなく、おそらく年内にはリリースされる見込みだ。同社の目標は、Amazon(アマゾン)、Microsoft(マイクロソフト)、Google(グーグル)というビッグ3以外の小規模なクラウドベンダーに、クラウドベースのAIソリューションを提供することである。これには世界各地の地域的なベンダーも含まれるだろう。

Neu.roは2019年に創業し、2020年にソリューションの最初のバージョンを公開した。これまでにシード資金として230万ドル(約2億6500万円)を調達しているという。

画像クレジット:a-image / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】ESG目標達成の鍵を握るのは取締役会やCEOではなく技術チームのリーダー

スタートアップ企業のCTO(最高技術責任者)や技術チームのリーダーは、会社創立のその瞬間からESG(Environmental[環境]・Social[社会]・Governance[企業統治])を重要事項として扱う必要がある。なぜなら、投資家が、ESGを重視するスタートアップ企業を優先的に評価して、持続可能性を重視した投資を行う傾向が高まっているからだ。

あらゆる業界にこの傾向があるのはなぜだろうか?答えは簡単だ。消費者が、持続可能性を重視しない企業を支持しなくなっているからである。IBMの調査によると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、消費者の持続可能性(サステナビリティ)への関心と、持続可能な未来のために自身が支出することを許容する意識が高まったという。また、米国がパリ協定に復帰し、最近では気候関連への取り組みに関する大統領令が出されるなど、気候変動に対する米国政府の動きも活発化している。

ここ数年、長期的なサステナビリティ目標を設定する企業が増えているが、CEOやCSO(最高サステナビリティ責任者)が設定する目標は、往々にして長期的かつ野心的なものだ。ESGプログラムの短期的、中期的な実施は運営チームや技術チームに委ねられている。

CTOは、計画プロセスにおいて重要な役割を担っており、組織がESG目標を飛躍的に向上させるための秘密兵器となり得る。ここからは、CTOと技術チームのリーダーがサステナビリティを実現し、倫理的にポジティブなインパクトをもたらすためにすぐにできることをいくつか紹介する。

環境負荷を軽減する

企業のデジタル化が進み、より多くの消費者がデバイスやクラウドサービスを利用するようになった現在、データセンターが消費するエネルギーは増加し続けている。実際、データセンターの電力使用量は全世界の電力使用量の推定1%を占めているといわれているが、International Data Corporation(インターナショナル・データ・コーポレーション)の予測によると、クラウドコンピューティングを継続的に導入することで、2021年から2024年にかけて10億トン以上の二酸化炭素の排出を防ぐことができるという。

コンピューティングワークロードの効率化を図る。まず、コンピューティング、電力消費、化石燃料による温室効果ガス排出の関連性を理解することが重要だ。アプリやコンピューティングワークロードの効率化を図ることで、コストとエネルギー消費を軽減し、ワークロードの二酸化炭素排出量が削減することができる。クラウドでは、コンピューティングインスタンスの自動スケーリングや適正サイズの推奨などのツールを利用して、需要に対してクラウドVM(バーチャルマシン)を過剰に実行したり、オーバープロビジョニングしたりしないようにすることに加え、このようなスケーリング作業の多くを自動的に行うサーバーレスコンピューティングに移行することも検討の余地がある。

コンピューティングワークロードを二酸化炭素排出原単位(Carbon Intensity、一定量の生産物をつくる過程で排出する二酸化炭素排出量)の低いリージョンに配置する。これまでクラウドのリージョンを選択する際には、コストやエンドユーザーに対する遅延などの要素が重視されていた。しかし現在は、二酸化炭素排出量も考慮すべき要素の1つである。リージョンのコンピューティング能力が同程度でも、二酸化炭素排出量は異なることが多い(他の地域よりも二酸化炭素排出量の少ないネルギー生産が可能な地域は、二酸化炭素排出原単位が低くなる)。

そのため、一般的に、二酸化炭素排出原単位の低いクラウドリージョンを選択することは、最も簡単で効果のあるステップである。クラウドインフラのスタートアップ企業、Infracost(インフラコスト)の共同創業者かつCTOのAlistair Scott(アリスター・スコット)氏は、次のように強調する。「クラウドプロバイダーは正しいことを行い、無駄を省きたいと考えるエンジニアを支援できると思います。重要なのは、ワークフローの情報を提供することです。そうすれば、インフラプロビジョニングの担当者は、デプロイする前に、二酸化炭素排出量への影響と、コストやデータレイテンシーなどの要素を比較検討することができます」。

もう1つのステップは、Cloud Carbon Footprintのようなオープンソースソフトウェアを使って、特定のワークロードのカーボンフットプリントを推定することである(このプロジェクトにはThoughtWorksが協賛している)。Etsy(エッツィー)も、クラウドの使用情報に基づいてエネルギー消費量を推定できるCloud Jewelsという同様のツールをオープンソースで提供していて、Etsy自体もこれを利用して「2025年までにエネルギー強度を25%削減する」という目標に向けた自社の進捗状況を把握している。

社会的インパクトを作り出す

CTOや技術チームのリーダーは、環境への影響を軽減するだけでなく、社会的にも直接的で意義のある、大きなインパクトをもたらすことができる。

製品の設計に社会的な利益を盛り込む:CTOや技術系の創業者であれば、製品ロードマップで社会的利益を優先させることができる。例えばフィンテック分野のCTOは、十分な金融サービスを受けられない人々が借り入れをする機会を拡大するための製品機能を盛り込むことができるが、LoanWell(ローンウェル)のようなスタートアップ企業は、主に金融システムから排除されている人々が資本を利用できるようにして、ローン組成プロセスをより効率的かつ公平にしようとしている。

製品デザインの検討にあたっては、有益で効果的なデザインにすると同時に、サステナビリティも検討する必要がある。サステナビリティと社会的インパクトを製品イノベーションの中核として捉えれば、社会的な利益に沿うかたちで差別化を図ることができる。例えばパッケージレスソリューションの先駆者であるLush(ラッシュ)は、スマートフォンのカメラとAIを利用して商品情報を見ることができるバーチャルパッケージアプリ「Lush Lens」で、美容業界で過剰に使用されている(プラスチック)パッケージに取り組んでいる。同社のプレスリリースによると、Lush Lensは200万回の利用を達成したという。

社会的な弊害を避けるためには、企業は責任あるAIプラクティスという文化を持つ必要がある:機械学習と人工知能は、製品やおすすめコンテンツの表示、さらにはスパムフィルタリング、トレンド予測、その他「スマート」な行動に至るまで、高度でパーソナライズされたデジタルエクスペリエンスの中心となり、誰もが慣れ親しむものとなった。

そのため、責任あるAIプラクティスに取り組み、機械学習や人工知能がもたらす利益をユーザー全体で実現すると同時に、不慮の事故を回避することが重要である。まずは、責任を持ってAIを利用するための明確な原則を定め、その原則をプロセスや手順に反映させることから始めよう。コードレビュー、自動テスト、UXデザインを考えるのと同じように、責任あるAIプラクティスのレビューを考えてみよう。技術系の創業者や技術チームのリーダーは、こういったプロセスを確立することができる。

企業統治へのインパクト

企業統治の推進には、取締役会やCEOだけではなく、CTOも重要な役割を担っている。

多様性、包括性を備えた技術チームを構築する:多様性のあるチームが、1人の意思決定者よりも優れた意思決定を行う確率は87%である。また、Gartner(ガートナー)の調査では、多様性のある職場では、パフォーマンスが12%向上し、離職率が20%軽減するという結果が出ている。

技術チームの中で、多様性、包括性、平等性の重要性をしっかりと示すことが重要であるが、この取り組みにデータを活用する、というのも1つの方法である。性別、人種、民族などの属性情報を収集する自主的な社内プログラムを確立できれば、このデータは、多様性のギャップを特定し、改善点を測定するためのベースラインとなる。さらに、これらの改善点を、目標と主要な成果(objectives and key results、OKR)など、従業員の評価プロセスに組み込むことも検討し、HR部門だけでなく、全社で全員が責任を担うようにする。

これらは、CTOや技術チームのリーダーが企業のESG推進に貢献する方法を示すほんの一例である。まずは、会社設立と同時に、技術チームのリーダーとして何らかのインパクトをもたらすことができるたくさんの方法を認識することが重要だ。

編集部注:本稿の執筆者Jeff Sternberg(ジェフ・スターンバーグ)氏は、Google CloudのOffice of the CTO(OCTO)のテクニカルディレクター。

画像クレジット:Maki Nakamura / Getty Images

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(文:Jeff Sternberg、翻訳:Dragonfly)

レーザー核融合の効率化に向け前進、大阪大学が高温プラズマに強磁場を加えるとプラズマ温度が上昇する現象を世界初観測

レーザー核融合の効率化に向け前進、大阪大学が高温プラズマに強磁場を加えるとプラズマ温度が上昇する現象を世界で初めて観測

激光XII号レーザー室

大阪大学レーザー科学研究所は、10月14日、高温プラズマに強磁場を加えるとプラズマが変形するという現象を、世界で初めて実験により観測し、理論とシミュレーションでこの現象の詳細を明らかにしたと発表した。これは、レーザー核融合におけるエネルギー発生の効率化に資すると、同研究所は話している。

核融合では、1億度ほどの超高温でプラズマを閉じ込める必要がある。大阪大学レーザー科学研究所が研究しているレーザー核融合では、100テスラ程度の磁場をプラズマに加えることで核融合反応数が上昇することが、シミュレーションで予測されていた。同時に、磁場が強まるとプラズマの変形が大きくなり、均一な高密度プラズマコアの形成が難しくなるというという負の側面も予測されている。だがこれまで、十分に強力な磁場を実験室で作ることが難しかったため、実証されずにいた。

大阪大学レーザー科学研究所の松尾一輝氏を中心とした、佐野孝好助教、長友英夫准教授、藤岡慎介教授らによる研究チームは、同研究所が所有する国内最大のレーザー装置「激光XII号レーザー」を磁場発生装置「キャパシター・コイル・ターゲット」に当てて強磁場を発生させる手法を用い、実験室内で200テスラの磁場を発生させ、プラズマの挙動を調べた。その結果、周囲への熱エネルギーの損失が抑制され、プラズマの温度が上昇することがわかった。同時に、温度上昇にともないプラズマの変形が大きくなり、熱いプラズマと低温のプラズマが混ざり合う現象が起きることも確認できた。だが同研究所では、この実験結果をもとに、プラズマの保温ができて、それでいて低温高温のプラズマが混ざることのない最適な磁場強度が存在することを、理論モデルから予測している。

さらに、今回確認された磁場によってプラズマが混ざる現象は、宇宙での星雲の崩壊との関連性を示唆しており、宇宙の現象の理解にもつながると期待されている。この研究成果は、フランスの世界最大級のLMJ-PETALレーザー装置における学術枠の実験課題として、日本からの提案としては初めて採択された。またこの研究成果は、10月12日公開の米科学雑誌「Physical Review Letters」に掲載された。

 

【コラム】ウクライナの暗号資産法は正しい方向への第一歩である

現地時間9月8日にウクライナ議会が可決した法案にVolodymyr Zelensky(ウォロディミル・ゼレンスキー)大統領が署名することで、暗号資産がまもなくウクライナで合法的に使用されるようになる見通しだ。

この法律は仮想資産の所有者や取引のためのプラットフォームを詐欺から保護するためのものであり、ウクライナが完全デジタル化経済への移行に向け、ビットコインを法定通貨とみなす準備を進めているという噂が飛び交っている。この法律からウクライナがどのように今後暗号資産市場を規制しようとしているかを判断することができる。またこの法律によりウクライナでビットコイン事業を行うことが正式に許可される。

2009年にBitcoin(ビットコイン)が作られた当初、暗号資産は取るに足らないものという扱いであり、ほとんど注目されることのないテクノロジーであったが、現在では富を生み出す金融商品として人々を刺激し、グルーバル経済の変革に大きな役割を担うまでに成長した。暗号資産経済は次なる1兆ドル産業と目されているが、そのイノベーションは始まったばかりの段階である。

ウクライナ政府、またはそれ以上にウクライナ国民はこのことを理解しており、この法律により、経済成長に参加するために必要な措置を講じられるよう社会の進歩を促している。ウクライナの代表者たちは、エルサルバドルがビットコインを法定通貨にした後、その導入の詳細を知るため同国の担当官に会いに赴いたとされている

暗号資産はデジタルワールド内でのみ取引される通貨の形態で、本来政府からは完全に切り離された存在だ。ユーザーはブロックチェーン(分散型の公的台帳の役割を果たすリストのことで、記録は増え続け、変更することができない)で取引を監視したり承認したりすることが可能である。オンライン上で公開された台帳があることから、取引に銀行などの金融機関の介在を必要としない。

暗号資産経済が活況を呈しているのはウクライナ国民の民意を反映したもので、暗号資産を支持する法律の起草は、この産業にとって重要なステップである。暗号資産はウクライナ国内で人気があり、支払いプラットフォームTriple Aによると、総人口の12.7%にあたる550万人強が現在何らかの形で暗号資産を所持していると推定されている。  ブロックチェーンデータ会社Chainalysisは、2020年9月にウクライナを世界で最も暗号資産の受け入れに積極的な国の1つとするランク付け を行った。

ウクライナでは、電力の半分近くが15基の原子炉によって発電されているのだが、暗号資産のマイニングスペースはウクライナのエネルギー業界に興味深い影響を及ぼしている。ウクライナのエネルギー相は「暗号資産マイニングは余剰エネルギーを消費するための現代的で効率のよい方法だ」と述べた。エネルギー相はこれまでエネルギー浪費の問題を解決し、効率を改善するための革新的な解決策を探し求めてきた。

ビットコインマイニング業界は、余剰電力を引き取り、それを暗号資産マイニングに使用することで原子炉からの余剰電力を利用する理想的なパートナーになっている。これは、エネルギー生産要件を維持しながら、ウクライナの原子力発電所への新しい投資資金を引き付けるのに役立つはずだ。

これにより、ウクライナ政府はマイニングネットワーク全体の強力なサポートノードとなっている。このことは、クリーンで持続可能なビットコインマイニングを提供し、同時にエネルギー部門の非効率性に対し自由市場的解決策を提供するのに役立つだろう。

経済的影響は非常に大きい。ウクライナの原子力発電所の運営にあたっている国営企業NAEC Energoatomは、2020年、1億7000万米ドル(約189億円)を超える損失を計上した。これがウクライナのエネルギー部門がブラックホールから浮上する契機となった。Energoatomが「電力をBitfuryの暗号マイニング部門のマイニングオペレーターに供給する契約に合意した」ことにより、そのプロジェクトがすでに始まっている。ウクライナ政府はビットコインをマイニングし、それを手元に保管しておくことも、マイニングされたビットコインを市民の口座に振り込むことも、または国民総生産を高めるためにビットコインを売却することもできる。

さらに、ウクライナは2019年7月から2020年6月までに80億ドル以上(約8886億円)の暗号資産を受信した。ウクライナはWeld Money、Hacken、Propyなど、暗号資産スタートアップの発祥地であり、また堅牢な暗号資産やブロックチェーン業界も有している。ウクライナには暗号資産分野にすでに100を優に超す数の企業が存在しているのだ。

ウクライナは2020年ビットコインへの投資から約4億ドル(約444億円)を稼ぎ、ウクライナの暗号資産投資家は世界でも有数の金持ちになっている。ウクライナの暗号資産は、市民の間だけではなく、公務員や政府の広い範囲で流行している。2021年初頭、ウクライナの公務員全体で26億ドル(約2888億円)を超えるビットコインを所有していると公表し、その報告書の中で「これまでで最大数の暗号資産所有者が市議会、国防省、国家警察で働いている」と述べた。

世界銀行によると、ウクライナのGDPの10%近くがウクライナへ送られた個人送金によるものだ。多くのウクライナ人は他国へ移民した後もウクライナに残してきた家族に送金するのだが、従来の銀行を通した送金に法外な料金を支払い続けてきた。しかし暗号資産がすべてを変えた。暗号資産により、ウクライナの人々は銀行や金融サービス業者が介在しない形で迅速で安く国際送金することが可能になったのだ。

ビットコイン以前、銀行や金融サービス業者はお金を変換し、受取人の国にそれを送金し、さらに現地通貨に変換し直すということをしていた。しかし、世界銀行の調査によると、平均の送金料は送金額の約6.38%にのぼるという。

この送金料よりさらに悪いのが、ウクライナ国民は深刻な汚職のため銀行システムをほとんど信用していないことである。いくつかの大手銀行が崩壊し、ウクライナ政府は90以上の銀行が破産したことを宣言した。また多くの人が打ち続く銀行スキャンダルによりお金を失った。2016年、ウクライナの銀行部門の20%を占めるPrivatBankの元帳から50億ドル以上(約5554億ドル)が紛失したことが明らかになり、政府が介入してPrivatBankを国営化する事態となった。銀行部門は機能しておらず、腐敗した財閥に支配されていると多くの人が信じている。

2014年にロシアがウクライナに侵攻して以降、ウクライナ経済は急激に落ち込み、ウクライナの通貨であるフリヴニャのドルに対する価値は70%下落した。これが国民の貯金能力や購買能力をさらに弱体化させた。蓄えが少額の人の場合、家にお金を隠す事が多く、敢えて銀行に預け入れることはない。

ソ連崩壊以後ウクライナの銀行業界は、不埒な習慣が横行するようになる以前でさえ、西側諸国と同じようには発展することができなかった。送金プロセスはインフラの不備のため問題が多く、そのためバウチャーや両替といった金融商品を通し悪辣な方法が開発され、大規模なマネーロンダリングや胡乱な商習慣の素地となった。

政府、企業、銀行部門に深く根付いた腐敗、悪徳政治家に摂取された不法な資産、ウクライナのいくつかの著名な銀行の崩壊のため、分散化された性質を持ったビットコインが国民に受け入れられたのはうなづける。ウクライナ人は自らの資産を守るために暗号資産を受け入れ、若く革新的な世代の人々は将来に熱心に目を向け、崩壊したスキャンダルにまみれたシステムとおさらばしようとしている。ウクライナ人が変化を望む気持ちは大きく、彼らが暗号資産に寄せる期待は大きい。

暗号資産の受容率は高まるばかりであり、政府がサポートする枠組みにより、この領域で成長する企業が増え、国家に税金を納め、さらなるイノベーションを促進することが可能になるだろう。暗号資産の受容率が高いという事実や、国が推進する暗号資産に有利な法律の存在を通し、ウクライナは暗号資産の世界的中心地の1つになるチャンスを手にしているのであり、この機会を無駄にしてはならないのである。

編集部注:本稿の執筆者David Kirichenko(デビッド・キリチェンコ)氏はEuromaidan Pressの編集者。サイバースペース、デジタル通貨、経済、テクノロジーについて執筆している。

画像クレジット:SOPA Images / Getty Images

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(文:David Kirichenko、翻訳:Dragonfly)

【コラム】MPG(1ガロンあたり走行マイル)が電気自動車でも重要な理由

もし環境保護が単なるライフスタイルの選択肢の1つなら、自動車メーカーと彼らが作る最新電動自動車は役目を果たしている。Tesla(テスラ)のPlaid(プレイド)は性能が自慢だ。Leaf(リーフ)やPrius(プリウス)、Volt(ボルト)は謙虚さを説き、勧める。そしてFord(フォード)は電動Mustang(マスタング)とF-150を発売して力を見せつける。

しかし、もし消費者の選択がもっとグリーンな未来に向かっているなら、見せびらかしよりもエネルギー効率を重視するのなら、彼らには賢明な購入判断をできる能力が必要になる。そのために、昔ながらのガソリン時代の測定基準が役に立つ。MPG(ガロン当たりのマイル数)のコンセプトだ。

電気自動車(EV)時代になり、クルマの購入はMPGの高いクルマと安いガソリンを探すだけの簡単なものではなくなった。電気のコストはややこしい。価格と効率情報は見つけづらく、理解するのはもっと困難だ。そして最終的には、自分で計算しなくてはならない。

そのためにまず電気エネルギー単位を知る必要がある。「kWh」すなわち「キロワット時」、どちらかというとエンジニアリングの教科書の方が似合う単語だ。コストと炭素排出量を知るために、ドライバーはkWhをドルとマイルに変換する難問を解く必要がある。

それをしないのであれば、あなたは自動車メーカーがあなたと環境のために正しいことをすると信じることになる。

政府はこの問題を先導することができる。実際やってきたし、現在もやっている。ガソリンスタンドはガロン当たりの価格と給油したガロン数と総金額を表示することをが長年義務付けられている。クルマのEPA燃費(ダッシュボードとすべての新車のMPGステッカーに表示されている)はすべてを結びつけてくれる。

つまり、たぶん我々には、EV時代の共通単位がすでにある。コスト、効率、大気汚染について同じ土俵で比較できる親しみやすくて具体的なエネルギー単位だ。

わが同胞なる米国民のみなさん、もう一度、ガロンに「こんにちは」と言おう。たとえガソリン動力車を置き去りにしたとしても、そのエネルギー単位は使い続けることができる。それは具体的であり、ガソリンに含まれているエネルギーで使えるなら、電気にも使えるようにできる。

環境保護庁によれば、1ガロンの無鉛ガソリンにはおよそ34kWhのエネルギーが含まれている。それがわかれば、エネルギーの購入価格がいくらで、それがどこまで遠くへ自分を運んでくれるのかを簡単に計算できる。ガロンは他の電気使用量を理解するためにも役立つので、家庭のエネルギーコストを自動車のエネルギーコストと同列に比較できるようになる。

8月の光熱費をガロン化した結果、次のことがわかった。

  • わが家は56ガロン(212L/1888kWh)分の電気を使用した。
  • わが家の平均電気料金は6.34ドル/ガロン(185円/L)である。
  • Teslaの充電ステーションで、私は8.43ドル/ガロン(25セント[28円]/kWh)払った。

政府はすでに、電気自動車とハイブリッド車のMPG相当値を公開している。MPGを使うことで電気自動車が効率的であの高いガロン当たりコストを埋め合わせていることがはっきりする。中には100 MPG(42.5 km/L)を超えるものもある。

すでにMPGは自動車購入以外にも役立っている。ニューヨーク市のMPG基準は、タクシー燃費を2009年の2倍にすることを義務付けている(さらに同市は、タクシーライセンスの一部をハイブリッド車のために確保している)。Uber(ウーバー)とLyft(リフト)はグリーン政策を打ち出したが、規制状態の緩い彼らはMPG標準を回避することが可能だ。

スマートなエネルギーショッピングだけでは気候変動を解決できない。エネルギー監視団体も、業界の炭素排出への影響を、発電とEV関連ハードウェア生産の両面で監視する必要がある。

しかし、他の条件が同じなら、使用エネルギーが少ないことは大気汚染が少ないことを意味する。そして、共通する単位は、車だけでなはく、はるかに多くを網羅するスマートな選択肢へと我々を誘ってくれる。安いときに電気を貯めるためにバッテリーを買うべきか?ソーラーパネルに意味はあるのか? 断熱や効率のよい暖房器具はどうなのか?

MPGの高い自動車と、1ガロンがとても役立つ住宅。合わせれば確かなライフスタイルの選択肢になるだろう。

編集部注:本稿の執筆者Tom Rutledge(トム・ルトレッジ)氏は、タクシーとライドシェア業界における都市主導のイノベーション実現に特化したスタートアップWapanda(ワパンダ)の共同ファウンダー。

画像クレジット:Image Source / Getty Images

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(文:Tom Rutledge、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】レーザー主導の核融合は安全で安価なクリーンエネルギーへの道を開く

核融合発電を実現するという探求が最近飛躍的な前進を見せている。ローレンス・リバモア国立研究所にある国立点火施設(NIF)は、前例のない高い核融合収率の実験結果を発表した。単一のレーザーショットが1.3メガジュールの核融合収率エネルギーを放出する反応を開始させ、核燃焼の伝搬の痕跡を示した。

このマイルストーンに到達したことは、核融合が実際に発電の達成にいかに近づいているかを物語っている。この最新の研究結果は、進捗の急速なペース、特にレーザーが驚異的なスピードで進化していることを実証するものだ。

実際、レーザーは第二次世界大戦以降で最も影響力の強い技術的発明の1つである。機械加工、精密手術、消費者向け電子機器など、実に多様な用途で広く使用されているレーザーは、日常生活に欠かせないものとなっている。しかし、レーザーが正のエネルギー利得で制御された核融合を可能にするという、物理学のエキサイティングかつまったく新しい章の到来を告げていることはほとんど知られていない。

60年におよぶ技術革新の後、現在レーザーはクリーンで高密度、かつ効率的な燃料を開発する喫緊のプロセスをアシストしている。この燃料は、大規模な脱炭素化エネルギー生産を通して世界のエネルギー危機を解決するために必要とされている。レーザーパルスで達成できるピークパワーは、10年ごとに1000倍もの増加を示している。

物理学者たちは最近、1500テラワットの電力を生み出す核融合実験を行った。短時間で、全世界がその瞬間に消費するエネルギーの4〜5倍のエネルギーを生み出した。言い換えれば、私たちはすでに莫大な量の電力を生産できるのである。ただし、点火用レーザーを駆動するのに消費されるエネルギーをオフセットする、大量のエネルギーを生成する必要もある。

レーザーを超えて、ターゲット側でもかなりの進歩が起きている。最近のナノ構造ターゲットの使用は、より効率的なレーザーエネルギーの吸収と燃料点火を実現している。これが可能になったのは数年前のことだが、ここでも技術革新は急勾配を呈しており、年々大きな進展を遂げている。

このような進捗を目の前にして、商業的な核融合の実現を阻んでいるものは何なのかと不思議に思われるかもしれない。

2つの重大な課題が残存している。第1に、これらの要素を統合し、物理的および技術経済的な要件をすべて満たす統合プロセスを構築する必要がある。第2に、そのためには民間および公的機関からの持続可能なレベルの投資が必要である。概して、核融合の分野は痛ましいほどに資金が不足している。核融合の可能性を考えると、特に他のエネルギー技術との比較において、これは衝撃的である。

クリーンエネルギーへの投資は2020年に5000億ドル(約55兆円)を超える金額に達したものの、核融合研究開発への投資はそのほんの一部にすぎない。すでにこの分野で活躍している優秀な科学者は数え切れないほど存在するし、この分野への参入を希望している熱心な学生も大勢いる。もちろん、優れた政府の研究所もある。総じて、研究者と学生は制御核融合の力と可能性を信じている。私たちは、このビジョンを実現するために、彼らの仕事に対する財政的支援を確保すべきであろう。

私たちが今必要としているのは、目の前の機会の有効性を十分に発揮させる公共および民間投資の拡大である。このような投資にはより長い時間軸が存在するかもしれないが、最終的なインパクトは平行していない。今後10年間のうちに正味エネルギーの増加が手の届くところまでくると筆者は考えている。初期のプロトタイプに基づいた商用化は、非常に短期間で行われるだろう。

しかし、そうしたタイムラインは、資金および資源の利用可能性に大きく依存している。風力、太陽光などの代替エネルギー源にかなりの投資が行われているが、核融合を世界のエネルギー方程式の中に位置づけなければならない。これは、臨界的なブレークスルーの瞬間に向かう中で、特に顕著な真実である。

レーザー駆動の核融合が完成され商業化されることで、核融合が既存の理想的でないエネルギー源の多くに取って代わり、最適なエネルギー源となるポテンシャルが生まれる。核融合が正しく行われれば、クリーンで安全かつ安価なエネルギーが均等に供給されるのである。核融合発電所が最終的には、現在なお支配的な従来型発電所や関連する大規模エネルギーインフラのほとんどに置き換わると筆者は確信している。石炭やガスは不要となるであろう。

高収率と低コストをもたらす核融合プロセスの継続的な最適化により、現在の価格をはるかに下回るエネルギー生産が約束される。極限的には、これは無限のエネルギー源に相当する。無限のエネルギーが存在するなら、無限の可能性をも手に入れることができる。これで何が実現するだろうか?過去150年にわたって大気中に放出してきた二酸化炭素を取り除くことで、気候変動が逆転することは確かであると筆者は予見している。

核融合技術によって強化された未来では、水を脱塩するためにエネルギーを使うこともでき、乾燥地帯や砂漠地帯に多大なインパクトをもたらす無制限な水資源を作り出すことができる。総合的に見て、核融合は、破壊的で汚染されたエネルギー源や関連インフラに依存することなく、持続可能でクリーンな社会を維持し、より良い社会を可能にするものである。

SLAC国立加速器研究所、ローレンス・リバモア国立研究所および国立点火施設での長年にわたる献身的な研究を通じて、筆者は、最初の慣性閉じ込め核融合実験に立ち合い、その統制を担うという光栄に浴した。すばらしいものの種が植えられ、根付いていくのを目にした。人類のエンパワーメントと進歩に向けてレーザー技術の成果が収穫されることに、かつてないほどの興奮を覚えている。

同僚の科学者や学生たちが、核融合をタンジビリティの領域からリアリティの領域へと移行させることに取り組んでいるが、これにはある程度の信頼と支援が求められてくる。世界的な舞台において大いに必要とされ、より歓迎されるエネルギー代替品を提供することに対して、今日の小規模な投資は多大なインパクトを及ぼしかねない。

筆者は楽観主義と科学の側に賭けている。そして他の人々もそうする勇気を持ってくれることを願っている。

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画像クレジット:MickeyCZ / Getty Images

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(文:Siegfried Glenzer、翻訳:Dragonfly)

バイデン大統領が掲げる2050年太陽光発電の目標を達成するために米国が必要な4つのこと

米国エネルギー省(DOE)が発表した太陽エネルギーの未来に関する報告書には、今後30年間における明るい未来像が描かれており、30年後には国のエネルギーの半分近くが太陽でまかなわれるようになるという。ただしそれを実現するためには、太陽光発電の性能向上、エネルギー貯蔵量の増加、ソフトコストの低減、そして約100万人規模の労働力の確保という4つの分野における大きなハードルを乗り越えなければならない。

この野心的な目標を達成するためには何が必要なのか、同報告書による考えをご紹介したいと思う。

太陽光発電の向上

DOEが期待するような導入量を達成するためには、太陽電池自体のコストと効率性の両方を改善していく必要がある。2020年には過去最高の15ギガワット分の太陽電池が設置されているが、2025年までにその2倍、2030年までにはさらに2倍の設置量が必要となる。

もし太陽光発電の効率が上がらなければ、すでに野心的な数字をさらに上げる必要がある。また、現在の価格のままではコストが高すぎてその数量を達成することは不可能である。

太陽光発電は確実に進歩を遂げてきたものの、まだまだ今後の進展が必要だ(画像クレジット:米国エネルギー省)

幸いにもすでに効率は向上しているし、コストも下がっている。しかしこれは当然、ただ自然に起きたことではない。世界中の企業や研究者たちが新しい製造プロセスや新素材などの改良に何百万ドル(何億円)も費やしてきたのである。それぞれが少しずつ進化を遂げ、時間をかけて実績が積み上げられてきた。このような太陽電池に関する基礎研究や科学および手法は、これからも過去20年間と同様のペースで、あるいはそれ以上のスピードで進歩し続けなければならないのだ。

DOEは、より特殊なPVをより安価にしたり、バンドギャップによる損失を最小限に抑えるためにセルを積層したりするなどの研究が重要であると指摘している。また、柔軟性のあるタイル状や板状の基板や、作物や建物の内部に光を通す半透明の設備も考えられるだろう。こういった計画全てを通して、2030年までに全体のコストを現在の1ワット平均1.30ドル(約140円)から、0.70ドル(約77円)とほぼ半減させることを目指している。

このレポートでは太陽集光器が取り上げられているが、多くの企業が産業プロセスの代替として太陽集光器を検討し始めている。大規模なグリッドをサポートするために使用されることはないだろうが、多くの化石燃料ベースのプロセスを置き換えることになるだろう。

より多くのエネルギー貯蔵

太陽からエネルギーを得ていると、夜間は何らかの形での蓄電に頼らざるを得ない。当初は原子力や石炭が使われていたが、最近では昼間に集めた余剰電力を蓄えるタイプのものも増えている。ピーク時の電力を自然エネルギーでまかなうことで、都市は安心して炭素系エネルギーからの脱却を図れるようになる。

蓄電というと電池のイメージがある。確かに電池はあるが、蓄えなければならないエネルギーの大きさを考えると、リチウムイオン電池のようなものは主な蓄電手段としては使えない。しかし、余ったエネルギーは水素燃料電池のようにエネルギーを大量に消費する再生可能な燃料の生産に回すことが可能だ。そしてこの燃料が、太陽光が需要を満たせないときに発電するために使用されるというわけだ。

この図では、通常の需要(紫)、太陽光発電による需要(オレンジ)、蓄電による負荷軽減(混合色)を示している(画像クレジット:米国エネルギー省)

これは数ある計画の中のほんの一部である。報告書には「熱的、化学的、機械的な貯蔵技術は、揚水式熱貯蔵、液体空気エネルギー貯蔵、新しい重力ベースの技術、地中の水素貯蔵など、さまざまな段階で開発が進められている」と記されている。

この国が必要とするさまざまなレベルのエネルギーの冗長性と貯蔵期間をもたらすために、新旧のあらゆるテクノロジーが活用されていくことは間違いない。これらのテクノロジーは、太陽光やその他の再生可能エネルギーがより多くの需要に対応できるようにするため、大いに役立っていくことだろう。

ソフトコストの削減

太陽電池の導入率を2倍、3倍にしようとすれば、太陽電池自体のコストだけでなく、アセスメント、会計、労働、そして当然実際の作業を行う企業の利益など、すべてのエンドツーエンドのプロセスにかかるコストを下げなければならない。

ハードウェア以外のコストを下げるというのは、すでに多くのスタートアップ企業の目標となっている。たとえばAurora Solar(オーロラ・ソーラー)はこの兆候を見逃すことなく、ソーラー設備の計画、視覚化、販売をオンラインでできるだけ簡単に行えるようにしている。

おそらく現在のソーラールーフのすべて込みの価格は、ハードウェアコストの2倍以上になるだろう。これには資金調達、規制、市場など、いくつかの要因があり、それぞれに本稿では説明しきれないほどの複雑な事情がある。ただ、これらの分野で時間やコストを効率化することで、太陽光発電の設置費用を1%でも安くすることができれば、その1%を巨額の金額に変えるだけのボリュームが存在すると言えるだろう。PVの改良に多くの科学者の努力が必要であるように、これを実現するためには多くの組織の努力が必要となる。

100万人規模の労働力

そして何より、これらの作業を実際に行う人がいなければどうしようもない。現在アメリカでソーラー産業に従事していると推定される25万人の何倍にもあたる、大量の労働力が必要となる。

画像クレジット:Will Lester/Inland Valley Daily Bulletin/ Getty Images

この分野での仕事は、建設経験のある熟練工から、送電網を管理してきたエネルギーの専門家、政府の必然的なトップダウンの性質と商業を結びつける官民パートナーシップの専門家まで多岐にわたる。50万から100万の雇用が追加されることで、多くの新企業やサブ業界が形成されることは間違いないが、これまでの一般的な内訳は、設置やプロジェクト開発が約65%、販売や製造が約25%、残りがその他さまざまな役割を担っている。

しかし、現在老朽化しつつある石油や石炭のインフラにしがみついているエネルギー関連企業は、何万人もの従業員を適切に対処していく責任があり、再生可能エネルギー分野がそのための完璧な移行スペースであるということは注目に値する事実である。本報告書では「移行期間中、一部の化石燃料企業の財務状況は悪化する可能性がある」と記されているが、これは控えめすぎる表現である。著者らは、トレーニング、転勤のほか、年金などの既存の経済的利益の保証をカバーする移行プログラムに資金を提供することを強く提案している。

太陽電池業界は他のいくつかの業界と同様、圧倒的に白人と男性が多い業界であるということが同報告書で指摘されている。何百万人もの雇用を少しでも公平にするためには、その面においても努力する価値があるのではないだろうか。

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

ニッケル水素電池で定置型エネルギー貯蔵に革命を起こすEnerVenueが109億円調達、クリーンエネルギーを加速

再生可能エネルギーは、1日のある時間帯に発電が過剰になり、ある時間帯には足りなくなる傾向にある。これを普及させるために、電力網は大量のバッテリーが必要になる。リチウムイオンは家電製品や電気自動車には十分だが、バッテリーのスタートアップEnerVenue(エナベニュー)は、定置型エネルギー貯蔵に革命を起こす画期的技術を開発したという。

ニッケル水素バッテリーのテクノロジー自体は新しくない。実際、航空宇宙分野では人工衛星から国際宇宙ステーション、ハッブル望遠鏡にいたるまで、数十年前からさまざまなものの電力源として用いられている。しかしニッケル水素は、地球規模で利用するには高価すぎた。しかし、スタンフォード大学教授(そして現在EnerVenueのチェアマン)のYi Cui(イ・クイ)氏は最適な材料を組み合わせる方法を見つけることでコストを大幅に引き下げようとしている。

ニッケル水素にはリチウムイオンをしのぐ重要な利点がいくつかある、とEnerVenueはいう。まず超高温にも超低温も耐えられる(空調や温度管理システムが必要ない)、メンテナンスがほとんど必要ない、そしてはるかに寿命が長い。

このテクノロジーが石油・ガス業界の巨人2社の目に留まり、エネルギーインフラストラクチャー企業のSchlumberger(シュルンベルジェ)と石油最大手Saudi Aramco(サウジアラムコ)のVC部門はスタンフォード大学とともに、EnerVenueのシリーズAラウンドに計1億ドル(約110億円)を出資した。EnverVenuがシード資金1200万ドル(約13億1000万円)を調達してから1年後のことだ。同社はこの資金をニッケル水素バッテリー製造の規模拡大に使用する予定で、米国のGigafactory(ギガファクトリー)はその1つだ。またSchlumbergerとは国際市場における製造・販売契約の交渉に入っている。

「私はEnerVenueと出会う前に3年半、リチウムイオンと競争できるバッテリーストレージ技術を探していました」とCEOのJorg Heineでmann(ヨーグ・ハイネマン)氏が最近のインタビューでTenCrunchに話した。「私はほとんど諦めかけていました」。そしてクイ氏に会った。彼は研究成果を駆使して、キロワット時当たり2万ドル(約220万円)のコストを100ドル(約1万1000円)にまで下げる見通しを立てた。それは既存のエネルギー貯蔵と肩を並べる驚愕の価格低下だった。

EnerVue CEOのヨーグ・ハイネマン氏(画像クレジット:EnerVenue ))

ニッケル水素バッテリーはバッテリーと燃料電池のハイブリッドの一種だと思って欲しい。圧力容器の中で水素を発生させて充電し、放電すると水素は水に再吸収される、とハイネマン氏は説明した。宇宙にあるこのバッテリーとEnerVenueが地球上で開発しているものとの大きな違いは材料にある。軌道上のニッケル水素バッテリーはプラチナ電極を使っていて、ハイネマン氏によるとコストの最大70%を占めている。従来技術はセラミックのセパレーターも使っていてこれもコスト高の要因だ。EnerVenueの重要なイノベーションは、低コストで地球に豊富に存在する材料を新たに見つけることだ(ただし具体的な材料は公表していない)。

ハイネマン氏は、社内の上級チームが別の技術革新に取り組んでいて、さらにコストダウンを進めてキロワット時当たり3ドル(約330円)以下を目指していることもほのめかした。

利点はそれだけではない。EnerVenueのバッテリーは、充電速度と放電速度を顧客のニーズに合わせて変えることができる。10分の充電または放電から10~20時間の充電・放電サイクルまで可能だが、同社は約2時間の充電と4~8時間の放電に最適化している。EnerVenueのバッテリーは性能を落とすことなく3万回の充電サイクルが可能なように作られている。

「再生可能エネルギーが益々安くなることで、1日の多くの時間、たとえば1~4時間、何かの充電に使える無料に近い電力を得られる時間帯が生まれます。そしてその電力は電力網のニーズによって速くあるいはゆっくりと送り出される必要があります」という。「そして私たちのバッテリーはまさにそれをやります」。

このラウンドが石油・ガス業界で大きな位置を占める2社によって出資されたことは注目に値する。「私が思うに、現在石油・ガス業界の100%近くが再生可能エネルギーへの大がかりな転換に取り組んでいます」とハイネマン氏は付け加えた。「彼らはみんな、エネルギーミックスがシフトしていく未来を見据えています。私たちは今世紀半ばに75%再生可能を目指していますが、多くの人はそれがもっと早く訪れると考えていて、それは石油・ガス業界が実施した研究に基づいています。みんなそれをわかって新しい台本が必要だと知っているのです」

画像クレジット:EnerVenue

ニッケル水素がもうすぐあなたのiPhoneに搭載されることを期待してはいけない。このテクノロジーは大きく重い。できる限りスケールダウンしても、ニッケル水素バッテリーは2リットルの水筒くらいのサイズなので、当分はリチウムイオンが主役を続けるだろう。

定置型エネルギー貯蔵は別の未来を迎えるかもしれない。EverVenueは現在、米国に工場を建設するための、場所とパートナー選びの交渉が「レイトステージ」に入っている。毎年最大1ギガワット時のバッテリーを生産し、最終的にさらに規模拡大することを目標にしている。ハイネマン氏は、メガワット当たりの設備投資はリチウムイオンのわずか20%になると推計している。SchlumbergerはEverVenueとの提携の下で、独自にバッテリーを生産してヨーロッパと中東に販売する計画だ。

「これは今使えるテクノロジーです」とハイネマン氏は言った。「私たちは技術革新を待っていません、未来に何かを証明するために必要な科学プロジェクトはありません。うまくいくことはわかっています」。

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画像クレジット:EnerVenue

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nob Takahashi / facebook

気候変動で米国は安全保障のあり方が再定義される、書評「All Hell Breaking Loose」

今日の気候変動のポリティクスにおける亀裂の中で最も不幸な分断の1つが環境活動家と国家安全保障に関わる人々との連携の欠如だ。左翼系の環境活動家は右よりの軍事戦略家と付き合わず、前者は後者を破壊的で反エコロジカルな略奪者とみなしているし、後者は人々の安全保障よりも木やイルカを優先する非現実的な厄介者とみなしていることが少なくない。

しかし、気候変動により、両者はこれまで以上に緊密に連携することを余儀なくされている。

名誉教授で数多くの著作を持つMichael T. Klare(マイケル・T・クレア)氏は、自著「All Hell Breaking Loose(大混乱:気候変動に対するペンタゴンの視点)」の中で、過去20年間で気候変動がどのように米国の安全保障環境を形作ってきたかについて、ペンダゴンの戦略アセスメントに対するメタアセスメントを行っている。本書は、謹直で繰り返しが多いがいかめしいわけではない。そして防衛に携わる人々が今日最も厄介な世界的課題にどのように対処しているかについて、目を見張るような見方を提供してくれる。

気候変動は、国防の専門家でなければ気が付かないようなかたちで、実質的にあらゆる分野で安全保障環境を弱体化させている。米海軍の場合、沿岸から工廠や港へアクセスするわけだが、海面の上昇は任務遂行力を減退させたり時には破壊する脅威である。そのよい例がハリケーンが米海軍施設の最大の中心地の1つであるバージニアを襲った時であった。

画像クレジット:Metropolitan Books/Macmillan

米国の軍隊は、米国内のみならず世界中に何百もの基地を持っている。その意味で、戦闘部隊であると同時に大家のようなものでもある。これは当たり前のことだが繰り返していう価値がある。こうした施設のほとんどが、任務の遂行に影響を及ぼしかねない気候変動による問題に直面しており、施設の強化にかかる費用は数百億ドル(数兆円)、あるいはそれ以上に達する可能性がある。

これに加えて、エネルギーの問題もある。ペンタゴンは世界でも有数のエネルギー消費者であり、基地向けの電気や飛行機の燃料、船舶用のエネルギーを世界規模で必要としている。これらを調達する任にあたっている担当官にとって気がかりなのは、その費用もさることながら、それが入手できるのか、という点だろう。彼らは最も混乱した状況であっても信用できる燃料オプションを確保する必要があるのだ。石油の輸送オプションがさまざまな混乱にみまわれる可能性があるなか(暴風雨からスエズ運河での船舶の座礁まで)、優先順位を記したリストは気候変動のために曖昧になりつつある。

ペンタゴンの使命と環境活動家の利益が、完璧ではないにしても、強く一致するのはこの点である。クレア氏はペンタゴンが、戦闘部隊の任務遂行力を確保するためにバイオ燃料、分散型グリッドテクノロジー、バッテリーなどの分野に投資している様子を例として示している。ペンタゴンの予算を見て批評家は嘲笑うかもしれないが、ペンタゴンは、より信頼できるエネルギーを確保するため、いわゆる「グリーンプレミアム」を支払っている。これは他の機関では現実的には支払いが難しいような額であり、ペンタゴンは特殊な立場にあると言える。

両者の政治的な協調は、それぞれの理由は大きく異なるものの、人道的対応ということでも続いている。ペンタゴンの責任者が地球温暖化で懸念していることの1つは、この機関が中国、ロシア、イラン、その他の長年の敵対者からの保護といった最優先の任務ではなく人道的危機への対応へとますます足を取られて行くことである。ペンタゴンは、災害の起こった地域に何千という人数を派遣できる設備と後方支援のノウハウを持っている唯一の米国の機関として頼りにされている。ペンタゴンにとって難しいのは、軍隊は人道支援の訓練ではなく戦闘訓練を受けた存在であることだ。ISIS-Kを攻撃するスキルと、気候変動で難民となった人々のキャンプを管理するスキルとはまったく異なるのである。

気候変動活動家は、気候変動により何百万という人々が飢饉と灼熱から逃れるために難民となることがないよう、安定した公平な世界のために戦っている。ペンタゴンも同様にその中核的任務以外の任務に足を取られることのないよう、不安定な国家にテコ入れしたいと考えている。両者は異なる言語を話し、異なる動機を持っているものの、目指すところはほぼ同じなのである。

気候変動と国家安全保障との関係で最も興味深いのは、世界の戦略地図がどのように変化するかである。氷がとけ、北極海航路がほぼ1年を通して航行できるようになった今( そしてまもなく1年中航行できるようになる)、主な勝者はロシアであるが、クレア氏はペンタゴンが北極圏をどのように安定させるかについて的確な説明をしている。米国は、戦闘部隊に対し北極圏での任務の遂行と、この領域での不測の事態に備えるための訓練を初めて実施した。

クレア氏の本は読みやすく、そのテーマは大変興味深いが、どう想像力を膨らませても、見事に書かれた文章とは言えない。同書はまさにドラマ「Eリング」に出てくる防衛計画専門家チームによって書かれたかのようであり、筆者はそれをメタアセスメントと呼んでいる。これはシンクタンクがまとめた数百ページにおよぶ論文であり、これを読了するには、スタミナが必要である。

厳しい見方をすると、本書のリサーチと主な引用はペンタゴンのアセスメントレポート、議会証言、および新聞などの二次的レポートを中心になされており、当事者による直接的なインタビューはわずかであるかまったくないのであって、これは現代の米国の言説における気候変動の政治的な性質を考えると、大きな問題である。クレア氏は確かに政治を注意深く観察しているだろう。しかし将軍や国防長官が政府の報告書として公的にサインをする必要がない場合に、彼らがどのような発言をするかを私たちは知ることができない。これは大きな隔たりであり、本書を読むことで読者がどれほどペンタゴンの真意をつかめるのかは疑問である。

そうはいっても、本書は重要な位置付けを持つ本であり、国家安全保障に関わるコミュニティもまた、その利益を保護しつつではあるが、気候変動における変化を導く重要な先駆者でありうる、ということを思い出させてくれる。活動家と軍事戦略家は敵意を捨ててもう少し頻繁に話し合うべきである。同盟を結ぶ意義はあるのだから。

2021年夏に発表された気候変動に関する本

画像クレジット:Sergei Malgavko / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

スタートアップが日本のエネルギーセクターに入れないワケ

日本政府は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指している。そのためには、大小あらゆる企業のCO2排出削減や、クリーンエネルギーの活用、イノベーション創出などの協力が不可欠だ。ではスタートアップはこの問題にどう取り組んでいるだろうか。

Energy Tech Meetup共同設立者であるAmanda Ahl(アマンダ・アール)氏をモデレーターに、経済産業省 環境政策課総括係長の太田優人氏、Plug and Play エネルギープログラムリードのKathy Liu(キャシー・リュー)氏、MPower Partnersマネージング・ディレクターである鈴木絵里子氏、U3 Innovations ダイレクター川島壮史氏、Energy and Environment Investment Inc マネージング・ディレクター山口浩一氏が語り合った。

本記事は8月25日、オンラインで開催されたイベント「How can startups help Japan’s energy sector reach net zero?」をまとめたものとなる。

スタートアップを巻き込んだオープンイノベーションの重要性

菅義偉内閣総理大臣は2020年10月、2050年までのカーボンニュートラル実現を目指すと宣言。2021年4月には、2030年度までに温室効果ガスの排出を2013年度比で46%に削減すると話した。

しかしカーボンニュートラル実現までの道のりは長い。2019年時点での二酸化炭素排出量は消費者、産業、交通、電力セクターを合わせて10億3000万トン。これを2050年までにゼロにするのだ。

太田氏は「実現のために何をするのか。まず電力供給源を脱炭素化します。同時に、水素やバイオマスの活用を進めます」という

電力のカーボンニュートラル化に関し、太田氏は4つの主要なアプローチを挙げた。

1つ目は再生可能エネルギー。洋上風力発電、バッテリー活用、地熱産業が注目される。2つ目は水素発電。需要と供給両方を増やすことと、インフラの整備が必要だ。3つ目は二酸化炭素回収と合わせた火力発電。火力発電の活用は最小限に抑えらえるべきだが、太田氏は炭素リサイクル産業も視野に入れるべきだという。そして4つ目が原子力の活用だ。安全性が最優先事項であるという。

太田氏は「こうした状況で日本のスタートアップはどんな立ち位置にいるのでしょうか。国内のオープンイノベーションの状況を見ると、大学や研究機関、既存の企業の取組は活発なのですが、スタートアップを巻き込んだオープンイノベーションは下火です。米国と比べると非常に顕著です」と現状を分析する。

二酸化炭素の排出はさまざまなプロセスで発生する。製造業であれば、製品を製造する過程や製品を運ぶ過程で発生する。運輸業であれば、ビジネスを走らせることそのもので二酸化炭素が発生する。物理的な製品やプロセスが発生しない産業であっても、ビジネスプロセスの中での移動や電力利用まで考慮すれば、CO2排出と無縁ではいられない。

太田氏は「カーボンニュートラルには、産業を超えたコラボレーションやイノベーションが必要です。日本では特にスタートアップを巻き込んだオープンイノベーションが遅れています」と警鐘を鳴らした。

閉鎖的なエネルギーセクターにどう入り込む?

アール氏は「スタートアップはどうエネルギーセクターに貢献できるのでしょうか?」と質問を投げかけた。

環境・エネルギーに特化したベンチャーキャピタルであるEnergy and Environment Investmentの山口氏は「エネルギー産業はこれまで大手や大企業が中心でしたが、今ではスタートアップも参入しています。大企業はマーケティングが上手くないところが多いので、スタートアップはメッセージングの強さで存在意義をアピールできるのではないでしょうか」という。

スタートアップとリーディングカンパニーのマッチングなどを行うベンチャーキャピタル、Plug and Playのリュー氏は「海外のスタートアップがエネルギーセクターに参入する際、3つの壁があります」と話す。

1つ目はエネルギーセクターの閉鎖性だ。特に海外のスタートアップにとって、現地のステークホルダーとリレーションのある日本企業とのコラボレーションは難しい。2つ目は日本のコミュニケーション方法と意思決定の複雑さだ。日本企業の意思決定は複雑で時間がかかるため、海外のスタートアップには理解が難しいという。3つ目は日本企業の高い期待だ。日本企業のスタートアップへに課せられるのはハイスタンダードであることが多く、それを満たせない海外スタートアップも多いという。

太田氏も日本企業にありがちな時間のかかる意思決定と硬直したプロセスに危機感を抱いている。同氏は「多くの日本企業がアジャイルな意思決定に慣れていません。市場トレンドにも迅速に対応できないので、変えていく必要があります」と話す。

アール氏は「スタートアップがエネルギーセクターでビジネスを行う際の国からの支援体制はどうなっていますか?」と太田氏に質問した。

太田氏は「国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がグリーンイノベーション基金事業という支援を行っています。ですが、これには10年分の事業プランが必要です。スタートアップ向きとは言えないかもしれません。NEDOには研究開発型スタートアップ支援事業というものもあります。これはシード期のスタートアップに向けたものなのでこちらを検討してもらったほうが良いかもしれません」と答えた。

カーボンニュートラルはエネルギーセクターだけの問題ではない

ESG重視型グローバル・ベンチャーキャピタルファンドであるMPower Partnersの鈴木氏は日本の消費者のリテラシーの低さに言及した。

「カーボンニュートラルはエネルギーセクターだけの話ではありません。どのセクター、企業にも関わることです。しかし、日本国内では、自動車業界のように明らかにCO2排出に関わっている業界に対してはカーボンニュートラルに責任があるとみなされますが、CO2排出のイメージが薄いセクターや企業は責任がないかのように認識されています。エネルギーセクターだけでなく、その周辺のセクターや企業からのソリューションも重要性なのです」と鈴木氏は話す。

U3 Innovationsの川島氏も「エネルギーセクターではない企業もカーボンニュートラルに貢献できる」として、建設業界を例に出した。

日本国内には多くの建設業事業者がいる。小規模の事業者も多い。川島氏によると、こうした小さな事業者はソーラーパネルの設置など、環境に優しい設備の設置のノウハウがないことが多いという。

「大手の建設業者がこうしたノウハウのない企業にソーラーパネルの設置ノウハウなどを提供すれば、カーボンニュートラルに向けた動きと見なすことができます」と川島氏。

最後にアール氏が「カーボンニュートラルに関わりたいスタートアップにアドバイスはありますか?」と質問すると、リュー氏が回答した。

リュー氏は「海外のスタートアップ向けのアドバイスになりますが、日本のエネルギーセクターに入るのが難しければ、スタートアップの支援をしている組織の力を借りても良いでしょう。また、文化の違いや言語の違いを克服するため、日本にカントリーマネージャーを置いても良いでしょう。日本市場には大きなポテンシャルがあり、日本の企業も変わってきています」と話し、ディスカッションを終了した。

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靴箱サイズのモジュール式エネルギー貯蔵ブロックを開発するMGA Thermalが6.5億円調達

MGA Thermalの共同創業者であるエリッヒ・キジ氏とアレクサンダー・ポスト氏

MGA Thermal(MGAサーマル)は、靴箱サイズの蓄熱ブロックで、電力会社の化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を支援したいと考えている。同社によると、1000個のブロックを積み重ねると小型車ほどの大きさになり、27世帯の電力24時間分を蓄えられるという。これがあれば、太陽光発電や風力発電に適さない天候のときでも、電力会社は大量のエネルギーを蓄え、送電する準備が整えられる。また、ブロックがモジュール化されているため、石炭火力発電所などのインフラをグリッドスケールのエネルギー貯蔵へ転換することも容易になる。

MGA Thermalは現地時間8月2日、800万豪ドル(約6億4800万円)を調達したとを発表した。累計の資金調達額は900万豪ドル(約7億2900万円)となった。今回の資金調達を主導したのは、豪州の国立科学機関が設立したベンチャー企業のMain Sequenceで、最近2億5000万豪ドル(約203億円)のファンドを新たに立ち上げた。また、Alberts Impact Capital、ニュージーランドのClimate Venture Capital Fund、The Melt、CP Venturesの他、Chris Sang(クリス・サング)氏、Emlyn Scott(エムリン・スコット)氏、Glenn Butcher(グレン・ブッチャー)氏などのエンジェル投資家も参加した。

Erich Kisi(エリッヒ・キジ)氏とAlexander Post(アレクサンダー・ポスト)氏はニューカッスル大学で約10年間、混和性ギャップ合金(MGA)技術の研究開発に携わった後、豪州のニューカッスルを拠点とするMGA Thermalを2019年4月に創業した。MGA技術を平易に説明するよう求められたキジ氏は「おいしい」例え話をした。

MGA Thermalのブロックは「基本的には、熱すると溶ける金属粒子を不活性のマトリックス材に埋め込んだものです。ブロックは、電子レンジで加熱されたチョコチップ入りのマフィンのようなものだと思ってください。マフィンは、加熱したときに全体の形を保持するケーキ部分と溶けるチョコチップで構成されています」とTechCrunchに話した。

「チョコチップを溶かすエネルギーは蓄積され、マフィンを噛んだときに口の中をやけどさせることができるほどです。融解エネルギーは、単に何かを加熱するよりも強力であり、融解温度付近に集中しているため、エネルギーを一貫して放出することができます」。

MGA Thermal社のモジュール式エネルギー貯蔵ブロック(画像クレジット:MGA Thermal)

MGA Thermalのブロックに蓄えられたエネルギーにより水を加熱すれば、蒸気タービンや発電機を動かすことができる。ブロックはこのシナリオにおいて、水を汲み上げたり沸騰させたりするための内部チューブを備えていたり、熱交換器と連動する設計となっている。キジ氏によると、MGA Thermalのブロックを使えば、長い日照時間や強風のときに通常ならスイッチを切ってしまう再生可能エネルギーによる発電を、老朽化した火力発電所とともに継続することができるという。

他の熱エネルギーソリューションとしては、ブロック状や顆粒状の安価な固体材料を断熱容器の中で高温に加熱する方法がある。だが、こうした材料の多くは、熱エネルギーの移動が苦手で、温度制限があるとキジ氏はいう。つまり、熱エネルギーは放出されると温度が下がり、効果が薄れてしまうのだ。

熱エネルギーを貯蔵する別の方法としては、再生可能エネルギー源で加熱された溶融塩をホットタンクに貯蔵する方法がある。高温の塩は熱交換器に送られて蒸気となり、低温の塩は冷たいタンクに戻される。

「このシステムは、集光型太陽熱発電では広く使われていますが、それ以外の場所ではほとんど使われていませんでした」とキジ氏は語る。「その理由の多くは、ポンプやヒーターを配管するために巨額のインフラコストが必要になるため、また、塩の凍結防止に大量の電力を浪費するためです」。

MGA Thermalはニューサウスウェールズ州に製造工場を建設中であり、商業レベルのブロック生産を目指している。また、今後1年間でチームを倍に拡大し、毎月数十万個のブロックを生産できるようにする。また現在、スイスのE2S Power ASGや米国のPeregrine Turbine Technologiesなどの提携先と協力して、豪州、欧州、北米での技術展開を進めている。例えば、E2S Power AGは、MGA Thermalの技術を利用し、欧州で運転を終了したか、稼働中の石炭火力発電所を再利用する予定だ。

MGA Thermalの技術は、発電所の改造、オフグリッドストレージの構築、遠隔地のコミュニティや商業スペースへの電力供給など多くの産業用途があるが、消費者の化石燃料の消費を抑えることもできる。例えば、MGAのブロックは、各家庭の屋根にある太陽光パネルや小型風力発電機が発電した余剰エネルギーの貯蔵に使える。そのエネルギーは暖房に利用することができる。

「世界では30億人もの人々が燃料を燃やして家を暖めていると言われています」とキジ氏は話す。「特に寒冷地では、それが大量の二酸化炭素発生の原因となっています」。

Main SequenceのパートナーであるMartin Duursma(マーチン・デュールズマ)氏は声明で「私たちの新しいファンドが特に力を入れているのは、科学的な発見を実際に使える確かな技術に変え、気候変動の影響を逆転させる支援を行うことです。エリッヒ・キジ氏とアレクサンダー・ポスト氏の印象深い研究経歴、彼らの専門家チームと革新的技術が、グリッドスケールのエネルギー貯蔵への道を開き、世界中で再生可能エネルギーの未来の可能性を広げると考えています」。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:MGA Thermal資金調達再生可能エネルギー電力エネルギー

画像クレジット:MGA Thermal

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(文:Catherine Shu、翻訳:Nariko Mizoguchi

中国が「冷却水いらず」な実験用原子炉による9月実験開始を計画、2030年に商業用原子炉の建設を予定

中国が「冷却水いらず」な実験用原子炉による9月実験開始を計画、2030年に商業用原子炉の建設を予定

Thorium pellets. Pallava Bagla/Corbis via Getty Images

中国政府の科学者は、世界初をうたう、冷却のための水を必要としない実験用原子炉の計画を発表しました。来月にも原子炉は完成し、9月から最初の実験が開始される予定です。中国はこの実験炉での実験がうまくいくならば、早ければ2030年に最初の商業用原子炉を建設する予定。そしてその後は水が必要ない利点を活かして砂漠や平原地域にこの原子炉を置き、さらには「一帯一路」構想に参加する国にも最大30基を建設する予定だとしました。

中国人民政治協商会議(CPPCC)の常任委員、王守軍氏は、CPPCCのウェブサイトに掲載された報告書で「原子力での『進出』はすでに国家戦略であり、原子力の輸出は輸出貿易の最適化と、国内のハイエンドな製造能力を解放するのに役立つ」と述べています。

この構想の原子炉が大量の水を必要としないのは、燃料にウランではなく液体トリウムを使う溶融塩原子炉だからです。この原子炉ではトリウムを液体のフッ化物塩に溶かし込み、600℃以上の温度で原子炉に送り込みます。原子炉の中で高エネルギーの中性子が衝突することでトリウムがウラン233に変化し、核分裂の連鎖反応を開始します。こうしてトリウムと溶融塩の混合物が加熱され、それを2つめの炉室に贈ることで大きなエネルギーを抽出、発電に利用します。

溶融塩は空気に触れれば冷えて固まります。そのため、万が一漏洩があったとしても、核反応は自然におさまり、トリウムが外界に漏れ出ることもほとんどないとのこと。またトリウムはウランに比べて核兵器への転用が難しく、また安価で入手しやすいという点もメリットとされます。

この溶融塩原子炉の試作機を開発した上海応用物理研究所によれば、計画は中国が2060年までにカーボンニュートラルを実現するという目標の一環とのこと。2019年の米調査会社の報告によると、世界の炭素排出量の27%が中国が占めています。これは他の先進国全体を合計しても届かない数値であり、世界からの厳しい目が中国に向けられています。

溶融塩原子炉のアイデアは新しいものではなく、1946年に米空軍の前進組織が超音速ジェット機を開発するときに考えられました。しかし、その後の開発においては溶融塩のあまりの温度に配管が耐えられなかったり、トリウムの反応がウランに比べて弱いことから、結局ウランを添加しないと核分裂反応が持続させられないといった技術的なハードルを解決できず、研究は中止されました。

ちなみに、米国では6月に資産家のビル・ゲイツ氏とウォーレン・バフェット氏が出資する企業が「ナトリウム高速原子炉(SFR)」という新しい原子力発電方式の実証炉をワイオミング州の石炭火力発電所に建設することを発表しています。こちらは仕組み的には日本がかつて研究開発していた高速増殖炉「もんじゅ」の方式を発展させた方式のものとされます。

原子力発電というと、われわれ日本人はどうしても福島の原発事故や、広島・長崎の原爆投下を思い出し、放射能流出が心配になりがちです。化石燃料を使った発電から再エネへの積極的な転換を目指す大きな流れもあるなか、米中という大国が従来より安全とはいえ新たな原子力を開発し、これを推進するなら、その先の世界がどうなっていくのかは気になるところです。

(Source:LIve ScienceEngadget日本版より転載)

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【コラム】エネルギーエコシステムは不安定な未来に適応する「エネルギーインターネット」の実現に向かうべきだ

編集部注:本稿の著者Brian Ryan(ブライアン・ライアン)は、多国籍エネルギー企業National Gridのイノベーションおよび投資部門であるNational Grid Partnersのイノベーション担当バイスプレジデント。

ーーー

National Grid Partnersのイノベーション担当バイスプレジデントとして、私はNational Gridの現在の事業に有益なだけでなく、独立した事業になる可能性を秘めたイニシアティブの開発を担っている。だから私は、エネルギー産業の未来について確かな見解を持っている。

しかし、私は未来を映し出す水晶玉は持っていない。持つ人はいないだろう。イノベーションポートフォリオを適切に管理する職務において、私の仕事はすべてを挙げて1つに投じるというものではない。有限の資産を複数のバスケットに最適に配分し、最大の集合的アップサイドを実現するものだ。

別の言い方をすれば、世界や地域のトレンドは「次なる潮流(Next Big Thing)」が単一ではないことを明白に示している。それよりも、エネルギーサプライチェーン全体にわたるオープンイノベーションの推進と要素の統合が、未来に大きく関わっている。このようなオープンエネルギーエコシステムがあって初めて、エネルギー産業が直面する極めて不安定な(予測できないとさえいう人もいるかもしれない)市場状況に適応することができる。

このオープンでイノベーションを可能にするアプローチを「エネルギーインターネット」と捉え、それが今日のエネルギーセクターで最も重要なオポチュニティであると私は確信している。

インターネットアナロジー

エネルギーインターネットのコンセプトが有用だと思う理由はここにある。デジタルインターネット(ここで使用する用語にはその構成要素であるすべてのハードウェア、ソフトウェア、標準が含まれる)が登場する以前は、メインフレーム、PC、データベース、デスクトップアプリケーション、プライベートネットワークなど、複数のテクノロジーがサイロ化されていた。

しかし、デジタルインターネットの進化にともない、これらのサイロの壁は取り払われた。メインフレーム、コモディティハードウェア、クラウド内の仮想マシンなど、デジタルサービスのバックエンドにある任意のプラットフォームを利用できるようになった。

デジタルペイロードは、速度、セキュリティ、キャパシティ、コストの最適な組み合わせを選択して、世界中のあらゆる顧客、サプライヤー、パートナーと接続するネットワーク間で転送できる。ペイロードにはデータ、音声、動画があり、エンドポイントとしてデスクトップブラウザ、スマートフォン、IoTセンサ、セキュリティカメラ、小売店のキオスクなどが挙げられる。

この種々さまざまな物がうまく組み合わされた(mix-and-match)インターネットは、オープンなデジタルサプライチェーンを生み出し、オンラインイノベーションにおける画期的なブームを牽引した。起業家や投資家は、サプライチェーン全体のどこにいても特定のバリュープロポジションに集中することができ、サプライチェーン自体を継続的に見直す必要はない。

エネルギーセクターも同じ方向に向かうべきである。サーバープラットフォームのように、さまざまな世代のモダリティを扱えることが重要だ。データネットワークと同等にアクセス可能な送電網が必要であり、あらゆる消費エンドポイントに柔軟にエネルギーを供給できることが求められる。テクノロジー業界と同様に、こうしたエンドポイントでもイノベーションを促進する必要がある。

デジタルインターネットが、優れたアプリの構築や洗練されたスマートフォンの設計など市場に貢献するあらゆる場面でイノベーションに恩恵をもたらすように、エネルギーインターネットも、エネルギーサプライチェーン全体でより優れた機会を提供する。

5Dの未来

ではエネルギーインターネットとはどのようなものだろうか。まずデジタル化、分散化、脱炭素化という既存のモデルから始めて、さらに先を見据えた見解を示したいと思う。

デジタル化(Digitalization):イノベーションは需要、供給、効率、トレンド、イベントに関する情報に依存する。こうしたデータは正確性、完全性、適時性、共有性を備えていなければならない。IoE、オープンエネルギー、そしていわゆる「スマートグリッド」のようなデジタル化の取り組みは、エネルギー供給の物理、ロジスティクス、経済性を継続的に改善するために必要な洞察をイノベーターに提供する。

分散化(Decentralization):インターネットが世界を変えた理由の1つとして、集中管理された少数のデータセンターからコンピューティング力を取り出し、適切な場所に分散させたことが挙げられる。エネルギーインターネットも同じように機能するだろう。デジタル化は、オープンエネルギーサプライチェーンに資産を統合することで、分散化を促進する。しかし分散化は既存の資産の統合にとどまらず、必要な場所に新しい資産を広げることにもつながる。

脱炭素化(Decarbonization):脱炭素化はもちろんこの運用における核心だ。徹底したエネルギー活用を通じてあらゆる場所でエネルギー需要を満たす分散型インフラの上に構築される、よりグリーンなサプライチェーンを推進しなければならない。市場はそれを求めており、規制当局も要請している。したがって、エネルギーインターネットは単なる投資機会ではなく、実存的な必須事項である。

民主化(Democratization):インターネットに関連するイノベーションの多くは、テクノロジーを物理的に分散させることに加えて、テクノロジーを人口統計学的に民主化したという事実から生まれた。民主化とは、力(この場合は文字通り)を人々の手に委ねることである。エネルギー業界の課題に取り組む頭脳と手腕を大幅に拡充することは、イノベーションを加速し、市場のダイナミクスに対応する能力を高めるだろう。

多様性(Diversity):先に述べたように、未来を映す水晶玉を持つ人はいない。したがって、大規模なイノベーションに投資する際には、リスクを低減し、リターンを最適化するためだけでなく、可能性を高めるための戦略として多様化が必要となる。つまり、もしエネルギーインターネット(あるいは用語を選ぶならグリッド2.0)により、エネルギーサプライチェーンのすべての要素の協働が必要になると真に信じるのであれば、相互運用性と統合を促進するために、これらの要素にまたがるイノベーションイニシアティブを多様化しなければならない。

デジタルインターネットはまさにそのようにして構築された。標準化団体は重要な役割を果たしたが、標準化とその実装を主導したのはMicrosoftやCisco、さらにはトップVCたちであり、こうした業界プレイヤーがサプライチェーン全体の統合を推進することで、エコシステムの成功が実現した。

エネルギーインターネットでも同じアプローチを取る必要がある。そのための力と影響力を持つものは、個々の要素の改善とともに、エネルギーサプライチェーン全体にわたる統合の積極的な推進を支援すべきである。この目的を達成するために、National Gridは2020年、NextGrid Allianceという新しい業界団体を立ち上げた。この団体には、世界中の60を超える電力会社から上級幹部が参加している。

また、エネルギーエコシステムにおける思考の多様化も不可欠であると私たちは考えている。National Gridは、エネルギー産業に携わる女性とSTEMプログラムの学部に占める女性の割合が著しく低いことに警鐘を鳴らしてきた。その一方で、Deloitteの調査では、多様性に富むチームは革新性が20%高いことが示されている。NGPに在籍する私のチームの60%以上は女性であり、その視野の広さは、National Gridが全社的なイノベーションへの取り組みについて強力な洞察を得るのに大きく貢献している。

予測を超える多くの勝利

エネルギーインターネットのコンセプトは、抽象的な未来の理想というものではない。それがどのように市場を変えるのか、具体的な例を私たちはすでに目にしている。

グリーントランスナショナリズム:エネルギーインターネットは、デジタルインターネットと同じようにグローバルに展開しつつある。例えば英国は現在、ノルウェーとデンマークから風力発電による電力供給を受けている。国境を越えて分散化されたエネルギー供給を活用するこうした取り組みは、各国経済に大きな利益をもたらし、エネルギーのアービトラージに向けた新たな機会を創出するものだ。

EV充電モデル:電気を送り出すのはガソリンをくみ上げるようなものではないし、そうあるべきでもない。スマート計測および高速充電エンドポイント設計におけるイノベーションの適切な組み合わせにより、オフィスビルや住宅地などの自動車と利便性が同等の価値を持つ場所において、エネルギーインターネットが新たな機会を生み出すだろう。

災害緩和:テキサスで起きた最近の出来事は、エネルギーインターネットが存在しないことによる弊害を浮き彫りにした。責務を負う公益事業および政府機関は、インフラストラクチャのトラブルシューティングと地域社会の保護をより効果的に行うために、デジタル化と相互運用性を積極的に取り込む必要がある。

ここに挙げたものは、オープンでany-to-any型のエネルギーインターネットがイノベーションを促進し、競争を活性化し、大きな勝利を生み出すという、限りない進展のほんの一部にすぎない。その大きな勝利が何であるかを正確に予測することは誰にもできないが、確実に多く存在し、すべてに恩恵をもたらすだろう。

だからこそ、未来を映し出す水晶玉はなくても、私たちはデジタル化、分散化、脱炭素化、民主化、多様性にコミットすべきである。そうすることで、エネルギーインターネットを協働して構築し、公平で、経済的で、クリーンなエネルギーの未来を実現するのである。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:コラムエネルギー産業電力脱炭素自然災害電気自動車National Grid

画像クレジット:metamorworks / Getty Images

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(文:Brian Ryan、翻訳:Dragonfly)