熟成期間が長いハードチーズを動物性原料を使わずに作るBetter Dairyが約25.3億円を調達

Better Dairyが同社のハードチーズ製品の溶け具合をテストする様子(画像クレジット:Better Dairy)

フードテック企業のBetter Dairy(ベターデイリー)は、シリーズAで2200万ドル(約25億3000万円)の資金を確保し、熟成期間の長いハードチーズのテスト段階に向け駒を進めた。

Jevan Nagarajah(ジェヴァン・ナガラジャ)氏が2019年に設立した英国を拠点とする同社は、精密発酵を用いた動物性の原料を使わないチーズを開発するR&D段階を続けている。我々がナガラジャ氏とBetter Dairyと最初に出会ったのは、同社がHappiness Capitalが主導するラウンドで160万ポンド(約2億4600万円)のシード資金を調達した2020年にさかのぼる。

当時、彼は動物を使った酪農が「非常に持続不可能」であり、わずか1リットルの牛乳を生産するために650リットルの水を必要とすることや、そのプロセスの結果、年間17億トン以上のCO2が大気中に放出されていることを説明してくれた。

代わりに、Better Dairyは精密発酵を利用して、従来の乳製品と分子的に同じ製品を製造している、とナガラジャ氏は語った。このプロセスはビールの醸造に似ているが、最終的に得られるのは乳製品だ。

他のフードテック企業がモッツァレラチーズや乳清タンパクのような柔らかいチーズに取り組んでいるのに対し、Better Dailyはより持続可能な方法で、より複雑なプロセスであるハードチーズをターゲットにしている。

画像クレジット:Better Dairy

「ハードチーズには、動物性原料を使わないステーキを作ろうとするのと同じような制限があると考えています」とナガラジャ氏。「製薬業界向けのタンパク質の製造に30年の専門知識を持つ最高科学責任者を含むチームを作ることで、私たちは複雑なことを意識的に行えると気づいたのです」。

Happiness Capitalは、今回はRedAlpineとVorwerkとの共同リードとして、シリーズAを再び主導した。Manta Ray、Acequia Capital、Stray Dog Capitalも今回のラウンドに参加した。

乳製品分野を狙っている企業は、Better Dairyではない。Clara Foods、NotCoClimax FoodsPerfect Dayといった企業が、動物性原料不使用のチーズや乳製品に取り組んでいる。しかしナガラジャ氏は、精密発酵技術の向上を目指した今回の資金調達によって、同社が競合他社に先んじ、この分野でハードチーズを発売する最初のプレーヤーとなることができると考えている。

同社はこの資金によって従業員を8人から35人に増やし、イーストロンドンにある6千平方フィート(約557 m²)の新しい研究所とオフィススペースに投資していくという。

Better Dairyは、食感とさらには熟成について科学的に解明し、すべての構成要素を1つの製品にまとめ、賞味期限を設定できるようにすることを目指している。ナガラジャ氏は、精密発酵プロセスにより、今後18カ月ほどで単位あたりの経済性、つまり同様のクオリティの手作りチーズと同等の価格を達成できると楽観視している。

「当社のサイエンスをアップグレードするには、適切なスペースと設備が必要です」と彼は付け加えた。「動物性原料を使用せず、持続可能であることだけでなく、おいしさも重要です。味が改善すれば、(非動物性の製品を選ぶのは)人々にとって簡単な決断になり、成功の指標となります。正しい方法で製品を作ることにはメリットがあります。でなければ、(植物性製品はまずいと思う観念など)すべてを巻き戻すのに長年かかってしまうかもしれませんから」。

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(文:Christine Hall、翻訳:Den Nakano)

フランスのFinaryは新たな創業理念でプライベートバンクの構築を目指す

フランスのスタートアップ企業であるFinary(フィナリー)が、800万ユーロ(約10億300万円)のシリーズA資金調達ラウンドを実施した。この会社は、富裕層が資産をトラッキングする際に全体像を把握できる包括的なアグリゲータを構築している。そしてそれは、Finaryが銀行口座に限定されないことを意味する。つまり、不動産から暗号資産や株式まで、多くの資産をトラッキングすることができるということだ。

そして、このスタートアップのビジョンは、筆者が初めてこの会社について記事を書いたときからあまり変わっていない。データの集約は、同社にとって最初の一歩に過ぎない。Finaryは、これまでと異なる創業理念でゼロからプライベートバンクを作りたいと考えている。

現在のプライベートバンキング業界について考えてみると、顧客と銀行の間にズレがあることがわかる。銀行は顧客から直接収益を得るのではなく、金融商品を販売し、その商品から収益を得ようとする。彼らはファイナンシャルアドバイスと称しているが、それは単なる胡散臭いセールスだ。

「当社は独立企業だから、何でも話せます。既存の業者は、自分たちに手数料が発生するようなソリューションしか提案しません」と、共同創業者でCEOのMounir Laggoune(ムーニエ・ラグーン)氏は筆者に語った。

次世代の富裕層はこれまでとは異なる体験を求めると、Finaryは確信している。彼らは情報を直接見て、自分自身で十分な知識を得た上で意思決定をしたいと思うだろう。つまり、もはや家族に送金するために銀行員に電話しなくても済むようになったように、Finaryは富裕層に適切なツールと情報を提供したいと考えているのだ。

Finaryの今回の資金調達ラウンドは、既存投資家のSpeedinvest(スピードインベスト)とY Combinator(Yコンビネーター)が主導した。また、Qonto(コント)の創業者であるSteve Anavi(スティーヴ・アナヴィ)氏や、Alexandre Prot(アレクサンドル・プロット)氏、Bitpanda(ビットパンダ)のEric Demuth(エリック・デムス)氏などのエンジェル投資家も参加した。

しかし、それですべてではない。Finaryは、新しいプライベートバンクを作るということは、最も活動的な顧客が同社の株式を所有できるようにすることだとも考えている。このスタートアップ企業は、まもなく株式のクラウドファンディングキャンペーンを開始する予定だ。

具体的には、フランスで近々立ち上げられるエクイティクラウドファンディング(株式投資型クラウドファンディング)プラットフォームを通じて、人々は10ユーロ(約1300円)から投資して株式や端株を購入することができるようになる予定だ。

「私たちは50万ユーロ(約6400万円)を割り当てましたが、多少のオーバーファンディングはOKです」と、ラグーン氏は言っている。

筆者が前回の記事を書いた以降、FinaryはiOSとAndroidの両方でモバイルアプリの提供を開始した。このアプリは現在、同社のサービスにアクセスするための一般的な方法となっており、ユーザーは平均して週に9回、つまり1日に1回以上、Finaryの口座をチェックする傾向があるという。

その後も同社はさらに統合機能を追加し、フランス、米国、カナダ、スペイン、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグで1万種類の資産をトラッキングできるようになった。例えば、ユーザーは複数の銀行口座、株式取引口座を接続し、不動産、金、暗号資産ウォレットの公開アドレスなどを追加することができる。

Finaryは、Plaid(プレイド)やBudget Insight(バジェット・インサイト)など、いくつかのAPIベースのアグリゲータを使って口座をトラッキングしており、また、bitcoin(ビットコイン)やEthereum(イーサリアム)のノードを動かしてウォレットアドレスをトラッキングしている。

このスタートアップ企業は、全体で3万人のユーザーを集め、100億ユーロ(1兆3000億円)相当の資産をトラッキングしている。つまり、同社のユーザーは平均するとそれぞれが30万ユーロ(約3900万円)以上の資産をトラッキングしていることになる。同社は現在、月額10ユーロ(約1300円)のサブスクリプション料金で収益を上げている。

そして、これがこの製品の興味深いところなのだが、Finaryはデータを集約するだけでなく、レコメンデーション(推薦)もできる。例えば、投資信託の隠れた手数料を明らかにしたりする。ユーザーはパフォーマンスレポートを生成し、異なる地理的配分、セクター、リスクプロファイルなど、どのように投資を分散させることができるかを学べる。

今回調達した資金を使って、同社は英国、ドイツ、スイスの金融機関を完全にカバーすることを計画している。同社は他に、新たな追加機能の開発にも取り組んでいる。今後はファミリーモードや、より効率よくRSU(譲渡制限付株式ユニット、フランスではBSPCE)をトラッキングする方法、個人資産と職業資産を分離する機能などが加わる見込みだ。

Finaryはさらに25人の新規雇用も予定している。この先、多くの製品拡張も計画されており、例えばこのプラットフォームから、暗号資産を直接購入できるようになることもあり得るだろう。税務申告を支援するサービスも考えられる。Finaryは2022年末までにユーザーベースを10倍に拡大し、30万人のユーザーに到達することを目指している。

画像クレジット:Finary

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(文:Romain Dillet、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

RightHandが約76億円を調達、白熱する倉庫ロボティクス分野に資金投入

新型コロナウイルス、サプライチェーン問題、人手不足、Amazon(アマゾン)。物流ロボット化に興奮する理由は数多く、そして今も増えている。RightHand Robotics(ライトハンド・ロボティクス)は、ウイルス感染流行によって事態が加速するかなり前から注目を集め、GV、Menlo(メンロ)、Playground Global(プレイグラウンド・グローバル)などの投資家からかなりの資金を調達していた。

そして多くの新規参入者とは異なり、ボストンを拠点とする同社は、そのピック&プレース・システムですでに多くの実働時間を記録している。その中で最も新しいシステムである「RightPick 3(ライトピック3)」は、日本の卸売業者であるPaltac(パルタック)や、欧州でオンライン薬局を展開するapo.com Group(アポ・ドットコム・グループ)を、国際的な顧客として抱えている。

同社は先週、6600万ドル(約76億円)のシリーズC資金調達を発表した。Safar Partners(サファー・パートナーズ)、Thomas H. Lee Partners, L.P.(トーマス・H・リー・パートナーズ)、SoftBank Vision Fund(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)が主導したこの新ラウンドで、同社がこれまで調達した資金総額は約1億ドル(約115億円)となった。今回のラウンドには、GVとMenloも再び参加した他、Zebra Technologies(ゼブラ・テクノロジーズ)、Epson(エプソン)、Global Brain F-Prime Capital(グローバル・ブレイン・Fプライム・キャピタル)、Matrix Partners(マトリックス・パートナーズ)、そしてTony Fadell(トニー・ファデル)氏の会社であるFuture Shape(フューチャー・シェイプ)が出資に加わった。

なかでもゼブラは興味深いパートナーだ。同社は自社開発のロボットを提供していることに加え、2021年の中頃には倉庫ロボットのスタートアップ企業であるFetch Robotics(フェッチ・ロボティクス)を2億9000万ドル(約335億円)で買収している。

「Zebra Technologiesは、世界中の企業がサプライチェーンをデジタル化・自動化して、現場の労働者を補強できるよう、積極的に投資とソリューションの提供を行ってきました」と、同社のZebra Ventures(ゼブラ・ベンチャーズ)部門でマネージング・ディレクターを務めるTony Palcheck(トニー・パルチェック)氏は述べている。「消費財、小売、物流などの業界の顧客にとって、重要なのは、速く、正確に、安全に、コストを抑えて、注文を処理できることです。RightHand Roboticsは、これらの効率化の達成を支援します」。

今回調達した資金は、雇用、オフィススペースの確保、世界規模でのさらなる拡大など、一般的な用途に充てられる予定だ。

画像クレジット:RightHand Robotics

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

心疾患診断アシスト機能付き遠隔医療対応聴診器など手がけるAMIが1.5億円調達、日清紡HDと資本提携し社会実装を加速

心疾患診断アシスト機能付き遠隔医療対応聴診器など手がけるAMIが1.5億円調達、日清紡HDと資本提携しサービス提供目指す

心疾患診断アシスト機能付遠隔医療対応聴診器「超聴診器」や遠隔医療サービスの社会実装で医療革新を目指すAIMは2月28日、日清紡ホールディングス(日清紡HD)と資本業務提携を締結し1.5億円の資金調達を行ったと発表した。両社の技術やノウハウを合わせ、誰もが・どこにいても・質の高い医療を受けられる世界の実現を目指す。

AIMは、医療従事者の経験と聴覚に頼らざるを得なかった聴診器にイノベーションを起こすため、心疾患診断アシスト機能を搭載した「超聴診器」の開発に取り組んでいる。さらに、遠隔医療領域では、AIMの掲げるクラウド総合病院構想を実現するため、アフターコロナ時代の医療DXを推進する新たなDtoD(Doctor to Doctor:医師-医師間)遠隔医療サービスの社会実装、医師の偏在や地域医療課草を解決するソリューションの展開を目指している。

また日清紡HDは、「ライフ&ヘルスケア」を戦略的事業領域の1つに定め、無線通信技術を使った医療機器や介護領域での製品を開発している。そうした中で、ライフ&ヘルスケア事業におけるさらなるイノベーションを実現すべく、遠隔医療事業の開発を目的とする資本業務提携に至ったという。

今後は、日清紡HDの情報通信技術、センシング技術、医療機器製造などのノウハウ、またAIMが持つAIやデータ解析の技術・臨床研究フィールドを通じて両社共創による質の高い遠隔医療サービスの社会実装を加速する。心疾患診断アシスト機能付き遠隔医療対応聴診器など手がけるAMIが1.5億円調達、日清紡HDと資本提携しサービス提供目指す

2020年度に熊本県水俣市で実施された委託事業「遠隔システムを活用した予備健診実施実証事業~クラウド健進~」の報告書より

2020年度に熊本県水俣市で実施された委託事業「遠隔システムを活用した予備健診実施実証事業~クラウド健進~」の報告書より

2015年11月設立のAIMは、遠隔医療サービスの社会実装を目指す研究開発型スタートアップ。「急激な医療革新の実現」をミッションに掲げ、医療機器の開発や遠隔医療サービスの提供を事業としている。

産業用熱の取り組みで10年後の全世界におけるCO2排出量1%削減を目指すRondo

気候分野を扱う界隈では、二酸化炭素の排出削減につながる製造や発電のあり方について多くの議論がなされている。世界的な炭素排出をゼロにするという目標を掲げ、実際に明確なロードマップを策定している企業に出会うことは非常にまれだが、それを実践しているのがRondo Energy(ロンド・エナジー)である。同社は投資家と顧客に向けて炭素排出の取り組みを発表し、熱心な環境保護活動家らを沸き立たせた他、2200万ドル(約26億円)の資金調達に成功した。

同社の売り込みはかなり直球だ。産業では恐るべき量の熱が消費されており、従来、その多くが天然ガスから生成されている。ところが、ここ10年の間に非常に興味深い変化が生じている。炭素クレジットの拡大と天然ガスの価格上昇を受け、大量の熱を必要とする業界が他のエネルギー源に目を向け始めたのだ。これらの業界には、食品加工、石油生産、セメント製造、水素製造、原料精製などが含まれる。先述した価格の上昇に伴い、主に太陽光や風力などの再生可能エネルギーのコストは急落している。カリフォルニア州の一部ではこの動きが顕著になっており、1日のうち一定の時間帯ではエネルギー生産量が需要を上回り、余剰電力を吸収する送電網の容量が大幅に不足しているほどだ。その結果、ある時間帯では電気代を格安ないしは無料で使えるにもかかわらず、電力が消費されずに余ってしまっているのである。

そこで登場するのがRondo Energyだ。同社は電力ではなく、熱の形でエネルギーを貯蔵する新たな方法を開発した。熱には速さという大きな強みがあり、リチウム電池の充電も圧倒的な速さで可能だ。大まかに説明すると、電力を巨大な抵抗器に送り込み、あり得ないほどの高温になるまで加熱する。あとはその熱を取り込み、電力として使うだけだ。

「レンガをかまどに放り込んで加熱してみてください。熱は長時間持続しますよね」そう話すのは、Rondo EnergyのCEO、John O’Donnell(ジョン・オドネル)氏だ。同社のテクノロジーについて、5歳児でもわかるようにかみ砕いて説明してくれた(テクノロジージャーナリストである筆者は40歳だが、朝のコーヒーをまだ飲んでいなかったので非常に助かった)。オドネル氏によると、実際の貯蔵はさほど複雑ではないものの、テクノロジーの神秘はその「レンガ」の形と、原料を加熱して法人顧客の需要に合わせて熱を抽出するAI主導の制御システムにあるという。

「私たちは、固体のなかに熱を超高温のエネルギーとして貯蔵しています。実のところ、私が使っているコーヒー用の魔法瓶は、ノートパソコンのバッテリーよりも多くのエネルギーを格安で貯蔵できるんです。熱については特別な技術は必要ありません。みなさんが使っているトースターやヘアドライヤーも、私たちと同じテクノロジーで熱を発生させています。貯蔵については、新しい配合の素材を開発しました。その素材のなかで空気を循環させ、過熱状態の熱を抽出していけば、継続して熱を発生させることができるというわけです」とオドネル氏は話す。「その後、その熱を従来型のボイラーを使って蒸気に変えるか、ガラス製造やセメント製造の顧客など、高温の熱を必要とするユーザーに直接届けています。このテクノロジーでは化学バッテリーと比較してほんのわずかなコストしかかからないうえ、どの水素システムと比較しても効率は約2倍、コストは半分です」。

余剰電力を抽出し、世界最大サイズのヘアドライヤーを作って、レンガの山に向けてエネルギーを飛ばす。熱が必要になったら、レンガに空気を送り込む。もちろんこれが全容ではないが、偉大なアイデアの概略は至ってシンプルだ(画像クレジット:Rondo Energy)

長い間、市場に存在した唯一のオプションは水素システムだったため、これとの比較は意義深い。水素システムの場合、電力を取り込んで水素を生成し、エネルギーが再び必要になったら水素を燃やすことができる。ただ、オドネル氏の主張によると、こうしたシステムの効率性は最大でも50%程度だ。一方、Rondo Energyのシステムは98%の効率性を掲げており、バッテリーや水素の貯蔵と比較して数倍シンプルだ。

これが大きな意味を持つのは、業界の熱需要が膨大だからだ。現在、Rondo Energyの拠点であるカリフォルニア州では、電力よりも多くの天然ガスが産業用の熱生成に使われている。エネルギーの価格が変化し、余剰天然資源の熱貯蔵がさらに発展すれば、脱炭素化に大きな影響を与えることができるかもしれない。世界的には温室効果ガスの36%が産業から発生しているため、炭素を削減し、ガソリン駆動の熱から炭素捕捉を行う手間を取り除くことができれば、大きな効果が出るはずだ。

「私たちのイノベーションは、物理的な貯蔵に使う素材と、AIによる監視制御の2点が組み合わさったものです。10年前では不可能だったさまざまなことが、現在は可能になっています。私たちが今実践していることは、5年前なら『ばかげている』と言われるようなことです。電力が今より高額だったころには想像もできなかったイノベーションですね」とオドネル氏は笑って話す。「ですが、私たちが進めている事業が今後産業用熱の大半を担うことになる可能性は大いにあります。10年後には、全世界の排出量が1%削減されるでしょう」。

Rondo EnergyのCEOジョン・オドネル氏(画像クレジット:Rondo Energy)

競合他社には、液体塩に約570℃(1050℉)の熱を貯蔵する技術を持つ企業がいる。Rondo EnergyのCEOは、同社の高温電池と類似の規模で熱貯蔵ができる企業としては、これが最大の競合だという。一方、Rondo Energyでは1200℃(2200℉)の熱を貯蔵できる。産業用熱や製造用熱として応用する際のニーズにはるかに近い数字だ。

同社は、シリーズAでBreakthrough Energy Ventures(ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ)Energy Impact Partners(エナジー・インパクト・パートナーズ)から2200万ドル(約26億円)の資金調達に成功した。この資金をもとに、Rondo Energyは製造に着手し、2022年の後半には顧客システムを提供する予定だ。

「私たちは、Rondo Heat Battery(ロンド・ヒートバッテリー)ソリューションが、頑固な排出ギャップを埋めるうえで重要な役割を果たすと確信しています」と、ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズのCarmichael Roberts(カーマイケル・ロバーツ)氏は話す。「再生可能エネルギーのコストは着実に低下してきていますが、高温の加工熱を必要とする業界では再生可能エネルギーの使用は不可能でした。再生可能な電力を高温の熱エネルギーに効率的に変換する方法がないからです」。

もちろん、Rondo Energyの成功は、時代の流れが同じように続くかどうかによって左右される。核融合電力の供給が突然豊富になれば、産業用のこうした種類のエネルギー貯蔵は核融合電力に置き換えられるだろう。また、他の業界も、余剰の太陽光熱から供給される日中の格安電力に目を付け、電力会社の需要が増加する可能性もある。とはいえ、膨大な量のエネルギーを高速で貯蔵する革新的なテクノロジーが登場したのはしばらくぶりのことだ。地球も、これ以上炭素に対応できなくなっている。今のところは、Rondo Energyがウィンウィンのソリューションを見つけたといえるだろう。高温加工産業には安価な熱を、投資家には短期間のROIを得る絶好のチャンスを、というわけだ。個人的な意見だが、炭素排出量を大幅に削減する可能性をある程度持つソリューションにはすべて、投資の価値があるはずである。

画像クレジット:Rondo Energy

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

Zero Acre Farmsが微生物(と約43億円)を使って植物油の代替品開発に取り組む

キャノーラ油やパーム油などの植物油は、否でも応でも私たちの食生活の主要な部分を占めるようになった。有用な物質ではあるが、体に良いとは言い難く、森林破壊の大きな原因になっている。Zero Acre Farmsは、微生物と発酵によって生産される、改良された代替品を提供することを目指す新しい企業で、その目標のために3700万ドル(約42億9600万円)を調達した。

調理に油を使うのは新しいことではないが、私たちの消費量は増えている。確かに私たちは何世紀にもわたって、オリーブ、アボカド、乳製品などの油性の食品を、脂肪として、また調理のために使用してきた。しかし、100本のトウモロコシの穂、あるいは同量の大豆、ひまわりの種などから1カップの油を絞り出すという技術革新が、その方程式を変えてしまった。

他の加工食品と同様、植物油は便利で持ち運びもできるが、体に良いということはほとんどない。フライパンの油引きに小さじ1杯、クッキーのレシピに大さじ1杯を使っても害はないが、これらの油は私たちが食べるカロリーのかなりの部分(5分の1にもなる)を占めるまでに浸透してしまっている。冷蔵庫やスナックの入った引き出し、あるいはファストフード店に行ってみると、いたるところに植物油が使われているが、それは最終的な材料として使われているわけではない。

マヨネーズは何からできているのだろうか?植物油だ。アルフレッドソース(チーズクリームソース)のとろみは何なのか?植物油だ。ポテトチップスを食べた後、指につくのは何か?ご想像のとおりだ。

体に悪いだけでなく、大量に、しかも無駄な工程を経て作られるため、大豆やパームなどの油糧作物が育つ熱帯地域の森林破壊の主な原因になっている。そしてそれを使って調理すると、有害なガスが発生することもある。要するに、植物油はナパーム弾ではなくとも、すばらしいものではない。より健康的で、より資源を必要としない代替品があればありがたい。

Zero Acreは、同じように「自然」でありながら、より健康的で環境に優しいまったく新しい油の開発に取り組んでいる。それは発酵によって行われるもので、基本的には微生物に餌を与え、微生物が出したものを収穫する。

「ビールをつくるようなものですが、エタノールをつくる代わりに、微生物が油脂を作るのです。それもたくさん」と、CEOで共同創業者のJeff Nobbs(ジェフ・ノブス)はいう。

もちろん、発酵は多くの産業でよく知られ、頻繁に利用されているプロセスである。微生物は、入力(通常は糖分やその他の基本的な栄養素)と出力(微生物の自然な傾向か遺伝子操作によって決定される)のある小さな工場のようなものだ。例えば、パン作りに使われる酵母は、二酸化炭素とエタノールを生産する。前者は生地を膨らませるのに十分な量だ。しかし、遺伝子操作された酵母は、新薬のような、より複雑な生体分子を作り出すかもしれない。

画像クレジット:Ashwini Chaudhary

この場合、微生物はエネルギーを油脂として蓄える能力を持つものが選ばれている。「こうした微生物はそれが好きで、得意なのです」とノブスはいう。

このような試みをしたのは彼らが初めてではない。C16 Biosciences(Y Combinatorの2018年夏のバッチで紹介した)は発酵によってパーム油を複製しようとしているし、Xylomeは現在のバイオ燃料生産技術に代わるものを探している。合成生物学は、いわゆる微生物を特定の目的に合わせて調整することだが、それを支えるバイオテクノロジーのインフラが進歩するにつれて、ますます実行可能になっている。

Zero Acreの場合、自分たちが市場で戦いやすくなるように工夫している。コーンビジネスやパームビジネスに対抗するのは難しい命題だ。その代わり、食料品店で倫理的な買い物をしようとする消費者をターゲットにしている。オーガニックの卵、フェアトレードのコーヒーなどを買う消費者だ。価格は高くなるが、ノッブスは、当社が社会的善の側面だけに傾いているわけではないことを注意深く指摘した。

彼は次のようにいう。「私たちは、環境に良い『だけ』の合成油をつくっているわけではないのです。これは新しいカテゴリーの油脂です。私たちはより食品に適した、人間にとってより良い組成物を作ることができるのです」。しかし、一部の代替品とは異なり、レシピの修正などは必要ないとも付け加えている。「小麦粉の代わりにアーモンド粉を使うようなものではなく、1:1の置き換えです。代替しようとしている製品の代わりに、それを使うだけなのです」。

それだけでなく、高温で変なガスを発生させないし(260度の熱に耐える生体分子を進化させる理由は植物にも動物にもないと彼は指摘した)、他の油のような加工や矯味を必要としないため、実は味もさっぱりしている。

しかし、このような合成油に多くの利点があるのなら、なぜ多くの資源を持つ他の企業は、今までこれを試みなかったのだろうか?

「もし、あなたが大企業なら、これは本当に些細なことに思えるでしょう」とノブスは説明した。油は食料品店だけでなく、ファストフードチェーンや基本的な材料として必要とする生産者に、1000ガロン(約3785リットル)のタンクで売られている。家庭用の高級食用油は、油の最大の供給源にとっては誤差のようなものなのだ。それに「私たちのメッセージは植物油は良くないものだということです」と彼は続けた。「大企業はそういうことはできません。彼らは経済的にそのように自分たちの首を絞めることはしません」。

Zero Acreのアプローチに関連して、最近、技術面でもいくつかの進歩があった。

「発酵プロセスには、温度、pH、酸素の量、餌など、たくさんの要素があります。共同創業者がジョークで言っていたように、実験室でどんな音楽を聴くのかというようなものです。些細なことが大きな効果を生みます。私たちには、そのような最適なパラメーターを見つけるためのプラットフォームがあります。まだ多くの研究が必要ですが、いくつかの進歩がありました。そして私たちはこれに対し、世界最高の生物を使っていると思います」とノブスはいう。

より変わった分子の精密発酵と比較すると、製造工程が比較的単純であるため、同社はすでに製造工程を「何千何万リットル」まで拡大し、2022年後半には消費者向けにデビューする予定だ。最終的なブランディングや包装については、まだ明らかにされなかった。公開は実際の発売に近い時期になるだろう。

この3700万ドル(約42億9600万円)のAラウンドは、継続的な研究と商業的立ち上げに充てられるもので、Lowercarbon CapitalとFifty Yearsが主導し、S2G Ventures、Virgin Group、Collaborative Fund、Robert Downey JrのFootPrint Coalition Ventures、そしてシェフのDan Barber(ダン・バーバー)が参加した。

画像クレジット:Tolgart/Zero Acre Foods

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

国内生産の食用コオロギによる商品開発・販売など手がける徳島大学発グリラスが2.9億円達、累計調達額約5.2億円に

国内生産の食用コオロギによる商品開発・販売など手がける徳島大学発グリラスが2.9億円達、累計調達額約5.2億円に

徳島大学発スタートアップ企業「グリラス」は2月28日、約2億9000万円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、既存株主のBeyond Next Ventures、HOXIN、産学連携キャピタルなど、新規株主のいよぎんキャピタル、近鉄ベンチャーパートナーズ、食の未来ファンド(kemuri ventures)、地域とトモニファンド(徳島大正銀行、香川銀行、フューチャーベンチャーキャピタル)。累計資金調達金額は約5億2000万円となった。

グリラスは、徳島大学における30年に及ぶコオロギ研究を基礎に、食用コオロギに関連する品種改良・生産・原料加工・商品開発・販売を一貫して国内で行うフードテック領域スタートアップ企業。徳島県美馬市の2つの廃校をそれぞれ生産拠点・研究拠点として整備し、コオロギの品種改良を目的とした研究開発から、食用コオロギの生産、食品原料や商品の開発・販売までを一貫して国内で行っている。調達した資金は、「生産体制の拡充」「研究開発の加速」「PR・広報・マーケティング活動の推進」「採用の強化」にあてる。

生産体制の拡充

現在グリラスは、同社コオロギを使用した食品原料については、他社との協業商品のほか、自社ブランド「C. TRIA」(シートリア)などに使用している。前回のラウンドでは徳島県美馬市にある廃校(旧芝坂小学校)を食用コオロギの生産拠点・食品原料への加工拠点として整備することで、既存のファームと合わせて2022年2月時点で年間10トン以上のコオロギパウダーを生産する体制を確立した。

しかし、他社との協業商品や自社ブランド商品の売り上げ拡大に対して、食用フタホシコオロギを加工した食品原料の生産が追い付いていない状況が続いているという。

この状況を受け今回のラウンドでは、調達した資金を自社の新規ファームの立ち上げと、生産パートナー制度の整備に活用することで、2023年12月時点で累計年間約60トンのコオロギパウダー生産体制を目指す。

研究開発の加速

現在の食用コオロギは、野生の品種を採取して養殖しているにとどまり、コオロギの大量生産において、品種改良による家畜化が急務となっている。また、コオロギをはじめ、昆虫は甲殻類に類似したアレルギーを引き起こす可能性があり、食用コオロギの一般化に際して数多くの課題が残されているという。

グリラスでは、これら課題をテクノロジーの力で打破すべく、2021年夏に徳島県美馬市の廃校(旧切久保小学校)を、大学で蓄積されたゲノム編集技術を用いてコオロギの高効率な品種改良を行う研究施設として整備した。現在は、高生産性コオロギの開発や、アレルゲンの少ない品種の確立などをテーマとして研究を進めているそうだ。

今回のラウンドでは、人員および設備への投資を行うことで、2023年内で上記2品種の上市を目標として研究開発を加速させる。また、コオロギの持つ独自の栄養成分や特徴を活かした商品の開発を並行して行うことで、食用コオロギの普及に寄与する。

家庭での血液検査ネットワークを構築するGetlabsがシリーズAで約23億円を調達

次に玄関のベルが鳴ったら、それはDoorDash(ドアダッシュ)の配達かもしれないし、食料品配達の覇権を争うスタートアップの1社かもしれない。あるいは、あなたのリビングルームの快適さの中で血液検査をする準備ができている、フレボトミスト(採血の資格を持つ看護師または医療従事者)である可能性もある。

この移動フレボトミストは、Getlabs(ゲットラボ)の心臓部となっている。同社は、1年足らず前に発表されたシードラウンドを経て、シリーズAで2000万ドル(約23億円)を調達したばかりのスタートアップだ。

2018年に設立されたGetlabsは、遠隔医療の現場での伴奏者になることを目指している。例えば、あなたが遠隔医療の訪問を受けたところで、医療提供者が血液検査の時期かもしれないと考えたとしよう。診療所に行く代わりに、Getlabsが家にやってきて血液採取をしてくれる。自己負担料金は、25ドル(約2870円)からの(会社の言い回しを使えば)「コンビニエンスフィー」となっている。

現在、同社はサンプルを収集し、Labcorp(ラボコープ)、Quest Diagnostics(クエスト・ダイアグノスティクス)、Sonora Quest(ソノラ・クエスト)と協力してテストを行っている。

TechCrunchはこちらの記事で、Getlabの起源にまつわるストーリーを詳しく紹介した。端的にいうと、同社は創業者のKyle Michelson(カイル・マイケルソン)氏自身の経験に基づいている。同氏はY Combinator 2016でStreamup(ストリームアップ、ミュージックビデオのストリーミングアプリ)に取り組んでいたとき、自身の診療予約時間に合わせるのに苦労していた。当時同氏は、定期的な臨床検査が必要な健康状態に苦しんでいたという。

遠隔医療プラットフォームは急増していたが、同氏が必要とした対面サービスを実際に提供する企業はなかった。Getlabの命題は、次のようなものである。Direct-to-Consumer(D2C)医療の次のバージョンでは、より臨床的に複雑な病態に取り組むことになる。このような病態では、定期的な血液検査や、診断を確定するための検査が必要になるかもしれない。

Getlabsの時間選択画面(画像クレジット:Getlabs)

「既存の遠隔医療企業の中には、こうした状況に注力するようになっているところもありますが、ハンズオンの医療を必要としないものです」とマイケルソン氏はTechCrunchに語った。「新しいタイプの遠隔医療企業が、患者に物理的にリーチする方法を追求して、ゼロから構築されたのです」。

「当時私が考えていたのは、もし患者の自宅で検査を受ける方法があれば、遠隔医療は今日のものをはるかに超える能力を一気に解き放つだろうということでした」と同氏は語る。

臨床検査は、臨床的意思決定の重要な部分である。一般的に引用される統計は、臨床判断の約70%が臨床検査に基づいているというものだ。誰もその数字の出所を実際には見つけられないと指摘する科学者もいるが、この統計はMayo Clinic(メイヨー・クリニック)からCDC(米国疾病予防管理センター)のウェブサイトにまで反映されている。

CDCによると、米国では年間約140億件の臨床検査が発注されている。また、さらに多くの臨床検査が毎年発注されているというエビデンスも存在する。学術雑誌Implementation Scienceに2020年に掲載された論文によると、2013年から2018年の間に米国での臨床検査への支出は15%超増加している。この傾向は主に、医療提供者がより多くの検査を発注したことによる。同様の傾向は英国のような他の地域でも見られており、2000年代初頭には、平均的な英国国民は年に1〜2回の臨床検査を受けていた。2018年には平均的な国民の検査回数は5回に達している。

重要なことであるが、臨床検査の数が増えたからといって、必ずしも臨床検査の質が向上するとは限らない。だが、臨床検査の利用が増えていること、そして同時に遠隔医療サービスが拡大していることを考慮すると、Getlabsが埋めるべきギャップがあるかもしれない。

遠隔医療の利用はパンデミック前の約38倍の規模で安定しているが、一般的に遠隔医療の受診は、対面での受診よりも検査依頼が少なくなる傾向がある。しかし、遠隔医療の範囲が、緊急医療や遠隔治療から、検査に大きく依存する他の領域へと拡大するにつれて、この様相は変わる可能性がある。

Amwell(アムウェル)のような遠隔医療企業の中には、ハイブリッド医療モデルが慢性疾患治療管理などの領域への遠隔医療の流入を促進することを認識し始めているところもある。Amwellだけではない。投資家の間でも、遠隔医療の未来はバーチャルなものだけではなく、バーチャルな予約と自宅での遠隔患者モニタリング、あるいは訓練を受けた専門家の訪問を組み合わせたハイブリッドモデルになるのではないかという見方が広がっている。

Getlabsはシードラウンド以来、ハイブリッド医療モデルの対面部分としての役割を果たすために、フレボトミストの育成に投資してきた。同社はこれまでに100人を超えるフレボトミストをW-2従業員(源泉徴収の対象となる従業員)として雇用している。マイケルソン氏によると、同社の離職率は5%に満たないという。

Getlabs初の患者、フィラデルフィア在住(画像クレジット:Getlabs)

こうした人員を擁し、同社は米国人口の約45%にサービスを提供する体制が整っているとマイケルソン氏は述べている。わずか4カ月前にはその割合は約6%であった。同社は2022年末までに60%のカバー率を目指している。ただし、注意しなければならないのは、このようなフレボトミストの重点領域は比較的都市中心的な傾向があるということだ。(試しにニューヨーク州北部の田舎の住所をいくつか検索してみたが、Getlabsはまだその地域に到達していなかった。だがブルックリンで検査を受けたいと思う場合には、予約の可能な場所がたくさんあった)。

同社の人員の大半は、農村部あるいは都市部というより、郊外の人々に対応しているとマイケルソン氏は語る。「私たちが最も価値があると考える場面は、郊外に住んでいる患者の状況です。彼らには育てなければならない子どもがいて、診療所に行くのに不便な環境があります」。

その焦点が、この遠隔医療企業次第ではあるが、同社の2つの企業目標の真の整合性を左右するかもしれない。遠隔医療は、そもそも専門家や診療所にアクセスできない農村地域にとって、とりわけ強力な治療介入となる。したがって、これらの地域でも実際に活動してみることで、そうした地域社会への支援が特に重要であることが明らかになるであろう。

究極的には、Getlabsは、医療を官僚的な骨折り仕事ではなく、消費者プロダクトのように扱っている企業に分類される。同社のサービスが自分の地域を対象としているなら、プラットフォームのフロントエンドを使って予約するのは簡単だ。しかし同社は、消費者向け医療のバックエンドにも関心を持っている。

Getlabsは、患者が自分で検査訪問の予約をするのではなく、APIをローンチすることによって、完全に遠隔医療プラットフォームに統合されることを目指している。このAPIを使えば、企業は患者のバーチャルセッションの直後に臨床検査をスケジュールすることができる、と同氏は説明する。

「口頭でイエスかノーかの返事をもらうだけでいいのです。それ以外はすべてシームレスに行われます」と同氏は語った。

このラウンドはEmerson Collective(エマーソン・コレクティブ)とMinderoo Foundation(ミンデルー・ファウンデーション)が主導した。その他の出資者には、Tusk Venture Partners(タスク・ベンチャー・パートナーズ)、Labcorp、Healthworx(ヘルスワークス)、Byers Capital(バイヤーズ・キャピタル)、Anne Wojcicki(アン・ウォシッキー)氏(23andMe[23アンドミー]の共同創業者兼CEO)、Susan Wojcicki(スーザン・ウォシッキー)氏(YouTube[ユーチューブ]のCEO)、Eric Kinariwala(エリック・キナリワラ)氏(Capsule[カプセル]の創業者兼CEO)、Mattieu Gamache-Asselin(マチュー・ガマッシュ・アセラン)氏(Alto Pharmacy[アルト・ファーマシー]の創業者)などが含まれている。

今回のラウンドの主な目標は、同プラットフォームで雇用される医療従事者の数を増やすことにあるとマイケルソン氏は述べている。この資金調達によって同社は、より多くのフレボトミストを雇い入れてカバレッジを拡大し、対面式のコンポーネントを求める新興の遠隔医療企業とのより多くのパートナーシップを推進していくことが期待される。

画像クレジット:Getlabs

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

Web3サイト構築デベロッパーの事実上の標準プラットフォームを目指すAlchemyの評価額が約1兆2760億円に

共同創業者ジョー・ラウ氏とニキル・ヴィスワナータン氏(画像クレジット:Alchemy)

Web3はどうやら一時的な流行ではないようだ。その証として、米国時間2月8日にブロックチェーンインフラストラクチャースタートアップAlchemy(アルケミー)が2億ドル(約232億円)のシリーズC1資金調達ラウンドをクローズした。これで同社の企業価値は110億2000万ドル(約1兆2760億円)となった。

ご存知ない方のために簡単に説明しておくと、Web3とは、ブロックチェーンを基盤とする分散型ウェブのことだ。簡単にいうと、AlchemyはAWS(Amazon Web Services)がインターネット上で実現したことを、ブロックチェーンとWeb3上で実現しようとしている。

この巨額の資金調達で驚くべきことは、Alchemyが比較的短期間で企業価値を上げることに成功した点だ。2021年10月、2億5000万ドル(約290億円)のシリーズCラウンドをクローズした時点で、同社の評価額は35億ドル(約4060億円)だった。2021年4月下旬、8000万ドル(約92億円)のシリーズBラウンドをクローズした時点の評価額は5億500万ドル(約580億円)だった。つまり、Alchemyの評価額は2021年10月から約3倍、2021年4月(9カ月ほど前)からは何と19.8倍にも跳ね上がっている。これを月当たりの上昇額に換算すると約11億ドル(約116億円)となる。この会社を5年前にアパートから始めた2人の若者にとって悪くない額だ。

Alchemyの既存投資家であるLightspeed Venture Partners(ライトスピードベンチャーパートナーズ)と新規投資家で未公開株式投資会社のSilver Lake(シルバーレイク)が今回のラウンドを共同で主導した。これでAlchemyの2017年創業時点からの総調達額は5億4550万ドル(約580億円)に達する。注目すべきは、Andreessen Horowitz(a16z、アンドリーセン・ホロウィッツ)、Coatue Management(コーチュー・マネジメント)、DFJ、Pantera(パンテラ)、Lee Fixel’s Addition(リーフィクセルズアディション)といった以前の投資家たちも全員、今回の投資ラウンドに参加した点だ。

Alchemyの目標は、ブロックチェーン上または主流のブロックチェーンアプリケーション上に製品を構築しようとしている開発者向けに開始点を用意することだ。Alchemyの開発者用プラットフォームは、インフラストラクチャを構築するための複雑な作業やコストを排除し「必須の」開発者用ツールを用いてアプリケーションを改善することを目的としている。Alchemyは2020年8月にサービスの提供を開始した。

それ以来、高収益企業Alchemyは自社のプラットフォーム上で急成長を遂げた。Alchemyの内部事情に詳しい筋によると、同社のユーザーベースは、今回のラウンドをクローズした時点を基準としても約50%拡大しているという。

「基本的に、暗号資産の領域で急成長している重要な企業はほとんど、Alchemyを導入しています。ですから、同社に投資するのは暗号資産領域全体の指数銘柄を買うようなものです」と同筋の1人はいう。「Alchemyは暗号資産業界全体を支えているのです」。

Alchemyは正確な総売上を公開していないが、同社のプラットフォーム上に構築されたチームの数は10月の資金調達ラウンド終了後から3倍以上に増えていると回答している。また、Alchemyプラットフォーム上で実行されたオンチェーントランザクションは年換算で1050億ドル(約12兆円)になるとしており、10月時点で公表された450億ドル(約5兆2000億円)の2倍以上に相当する。その一方で、同社は「無駄のないスリムな」経営を維持している。2021年の始めの時点で、同社の社員数は13人だった。現在でも50人に満たない。社員1人あたりの評価額は歴史的に見ても最大の部類に入るだろう、と共同創業者兼CEOのNikil Viswanathan(ニキル・ヴィスワナータン)氏は確信している。

暗号資産業界はこの1年、さまざまな浮き沈みを経験した。Alchemyは、そうした暗号資産業界における不安定な時代の最中に急成長を達成した。

「ターゲットとする市場が激しく変動していても、依然として成長を続けているときは、何か特別なことを見出したということだと思います。そして、それこそまさにAlchemyで起こっていることです」とライトスピードのパートナーAmy Wu(アミー・ウー)氏はいう。「当社に匹敵するような急成長を遂げた例は過去にもありません。ですが、Microsoft(マイクロソフト)のような永続的な企業の成長の軌跡を見れば、Alchemyが今度どの程度成長するのかもわかると思います」。

Alchemyの急成長は、Web3エコシステム全体が急成長していることの証だと言ってもよいだろう。

過去12カ月間だけでも、Alchemy上に構築されたNFTマーケットプレイスでアーティストに支払われたロイヤルティの額は15億ドル(約1740億円)を超えており、そのうち10億ドル(約1160億円)は過去3カ月だけの合計だという。

ヴィスワナータン氏によると、Alchemyは前回調達した資金にはほとんど手を付けていないという。だが、Web3がこのように急速に進化している状況では、それに応じて成長するために必要なランウェイを確保する必要がある。

「Web3はまだ初期段階です。dot.com時代には、生まれたばかりのベビーインターネットについてさまざまな期待や興奮がありました。今、我々は本物のインターネットを手にしています。Web3はまだベビーフェーズです」とAlchemyのCTO兼共同創業者Joe Lau(ジョー・ラウ)氏は語った。

「コンピューターを見れば分かるとおり、インターネットがコンピューターに取って代わることはありませんでした」と同氏は付け加える。「インターネットはただそれまで不可能だった機能を追加しただけです。Web3はWeb2に取って代わるものではなく、Web2の機能とエクスペリエンスを拡張するものです」。

これだけの利益を上げ急速に成長しているにもかかわらず、Alchemyは数億ドル規模の資金調達を続けている。これは基本的に、Web3の急速かつ広範な利用と成長に追随するためだ、と2人の創業者はいう。

「当社は企業やスタートアップの成長を支援できる最適なポジションに位置していたいと考えています」とラウ氏はいう。「2021年は、Alchemy上でサービスを開始したチームが10億ドル(約1160億円)企業になり、世界中の何百万人というユーザーたちをサポートするのを目の当たりにしてきました。当社はまだスタートを切ったばかりですが、今後も顧客の支援とサポートを続けられるようにしたいと思っています」。

ツイッター上ではWeb3とWeb2.0についてさまざまな議論が繰り広げられているが、ヴィスワナータン氏とラウ氏は両者間にそれほどの敵対関係があるとは思っていない。

「どのようなテクノロジーでも初期段階では、誰もがそのテクノロジーを理解し把握しようとします。90年代半ばのインターネットを見て人々は『遅すぎる。電子メールを使う理由などない』と言っていました」とラウ氏はいう。「しかし、実際にはテクノロジーが向上し今では誰もが当たり前のように使っています。ですから我々は、今から10年後、15年後にどのようになっているのかを考えるようにしています」。

確かに今、何千という新しいWeb3組織が立ち上げられ短期間でスケールしている。だがその一方で、数百の確立されたWeb 2.0企業がその戦略を転換して、Alchemyを導入してWeb3を取り込もうとしている。さらには数万のデベロッパーたちがブロックチェーンを使った新しいツールやサービスを構築している。

「今、AlchemyはデベロッパーがWeb3上で開発を行うための事実上の標準プラットフォームになっています」とヴィスワナータン氏はいう。「我々は本当にワクワクしています。2022年、状況は加速度的に変化して、Web3はマニアが使う周辺テクノロジーではなくなり、誰もがWeb3で実現された製品を無意識に使うようになると確信しているからです」。

Alchemyは、OpenSea(オープンシー)、Adobe(アドビ)Dapper Labs(ダッパーラボ)、Crypto Punks(クリプトパンクス)を始め多数の大手企業で基盤テクノロジーとして導入されている。Alchemyでは、コンピュートユニットに対して課金する。つまり、顧客は使用しているコンピュートユニットの数に応じてAlchemyに料金を支払う。

「当社はWeb3は誰もが利用できなければならないと考えています。それには、ブロックチェーンテクノロジーを介してアイデアを実現する信じられないほど創造的なデベロッパーたちを支援するのが一番です」とラウ氏はいう。

画像クレジット:Alchemy

シルバーレイクの共同創業者Egon Durban(エゴン・ダーバン)氏は「Web3はインターネット上で大きな革命をもたらす」と確信しているとTechCrunchにメールで回答してきた。

「この市場がもたらすビジネスチャンスは巨大です。Alchemyはテクノロジーの歴史上、最速で成長している企業の1つとして、この変革を推進し民主化するインフラストラクチャを構築し、AWSがインターネットで実現したことをWeb3開発の現場でも実現することでWeb3のパワーをすべての人にもたらそうとしています」とダーバン氏は付け加えた。

この3カ月間で、Alchemyは、Web3開発スキルの習得を目指す人のためのオープンな教育リソースであるWeb3 Universityの立ち上げも主導した。また「初期のWeb3ビジネスの加速度的な成長を支援する」という目的でAlchemy Ventures(Alchemyベンチャー)も創設した。現時点で、このベンチャーファンドに1000万ドル(約11億6000万円)を配分しており、この額は今後増える見通しだ。これまでにも、Royal(ロイヤル)、暗号資産取引所FTX(最近の評価額は320億ドル(約3兆7000億円))、Genies(ジーニーズ)、Matter Labs(マター・ラボ)、Arbitrum(アービトラム)など、このファンドから何件か投資を行っている。これらの企業の一部はAlchemyの顧客でもある。

「2021年はデベロッパーがWeb3を主流テクノロジーに昇格させ、数百万人に変革をもたらすビジネスが生まれた年でした」とヴィスワナータン氏はいう。「2022年は、さまざまな場所でデベロッパーのニーズを満たすために、Web3への取り組みを強化し、Web3の潜在能力が簡単に解き放たれるようにしたいと考えています」。

Alchemyは新たに調達した資金で社員数を増やし、年末までに200人ほどの規模にする予定だ。同社はこれまで、高い実績を持つ人材を採用することに重点を置いてきた。例えば10月時点の同社の社員27人のうち、22人は自身でも起業した経験のある人たちで「複数の社員が数百人規模の会社を経営した経験がある」という。

暗号資産企業に基盤テクノロジーを提供するために最近資金を調達した企業はAlchemyだけではない。1月には、暗号インフラストラクチャ企業Fireblocks(ファイアブロックス)が、6カ月でその評価額を約4倍の80億ドル(約9285億円)にまで高めている。また、2021年12月には、Coinbase Ventures(コインベース・ベンチャーズ)がチェーン横断インフラプロバイダーRouter Protocol(ルート・プロトコル)の410万ドル(約4億7000万円)のラウンドを実施している。

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)

Dovetail、顧客調査に特化したソフトウェア事業の拡大に向けて71.6億円調達

オーストラリアの顧客調査ソフトウェア企業であるDovetail(ダブテイル)は、Accel(アクセル)が主導する6300万ドル(約71億6000万円)のシリーズAラウンドを完了したと発表した。これにより、同社は総額7000万ドル(約80億円)強の資金を調達したことになり、同社が「7億ドル(約797億円)以上」とする評価額に新たな資金を加えたことになる。

この数字からもわかるように、これは一般的なシリーズAではなく、Accelによる、いわばレイターステージ(後期段階)の投資である。Accelはこれまでも、資金調達額が少なく、自己資金で運営していたテクノロジー企業が成長して大きな収益を上げるまで、大規模な投資を行ってきた

通常のシリーズAとは異なる今回のDovetailのラウンドについて、ここでは同社の初期の歴史と、同社が作っているものから説明する。

ゼロからの起業であったDovetail

TechCrunchは、Dovetailの共同創業者でCEOであるBenjamin Humphrey(ベンジャミン・ハンフリー)氏に、今回の増資について、会社の創業当初にさかのぼって話を聞いた。ニュージーランド出身のハンフリー氏は、ベイエリアのテクノロジー企業で勤務した後、オーストラリアのAtlassian(アトラシアン)に入社して数年間在籍。その後、ベンチャーキャピタルに頼らずにDovetailを共同創業した同氏は、Buffer(バッファ)やBasecamp(ベースキャンプ)といった有名なテクノロジー企業のように、自己資金で会社を成長させていくことを計画したという。

ニッチに聞こえるかもしれない顧客調査市場向けのソフトウェア開発だが、Dovetailは創業当初から十分な支持を得て、チームを6人に拡大し、年間約50万ドル(約7000万円)の売上を自力で達成するまでに成長した。その時点でベンチャー投資家からのアプローチがあり、2019年に約500万豪ドル(約4億円)というごく小さなラウンドを完了した、と同氏は話す。

そのラウンドに参加したFelicis Ventures(フェリシスベンチャーズ)は、2020年末に向けてさらに資本を投入したいと考えていたという。ハンフリー氏によれば、資金は十分だったので、市場でのポジションを示すために1億ドル(約114億円)を超える評価額で1回目のシードラウンドを完了した(教訓:資金調達に関しては、利益を上げて成長していることが真に「おいしい」スタートアップである)。

現在もこの調子である。新しい投資家であるAccelのRich Wong(リッチ・ウォン)氏とArun Mathew(アルン・マシュー)氏によると、DovetailはAccelが投資する機会を得るまで、調達した資金総額の半分しか使っていなかったという。

市場に「ソフトウェア企業は資金を消費せずに成長できる」という傾向はない。つまり、Dovetailが作っているものを買いたいという顧客がすでに存在したということである。

Dovetailが販売しているもの

前述のAccelの2人は、Dovetailが構築しているものを「顧客調査のための記録システム」という新しいカテゴリーで表現する。

ハンフリー氏はもっと平凡な言葉で、自社の製品を「リサーチャーのための生産性向上ツール」と称し、エンジニアにはGitHubがあり、デザイナーにはFigmaがあるが、顧客のリサーチャーには独自のソフトウェアが必要だと指摘する。同氏はさらに、シリコンバレーやもっと規模の大きいスタートアップ企業は、R&Dの「開発」部分のツール開発には力を入れてきたが「研究」部分はそうではなかった、と付け加えた。

Dovetailの製品は、NPS(ネットプロモータースコア)調査、音声、動画、テキストの回答からユーザーのフィードバックデータを収集し、それをチームでタグ付けして機械で分析し、組織全体で共有することができるソフトウェアである。ハンフリー氏によると、顧客に関する組織的な知識を蓄積し、より迅速な意思決定を行えるようにするための企業向けのリレーショナルデータベースを構築することが目標だ。

例えば、プロダクトマネージャー(PM)が会社を辞めると、彼らと同時にかなりの量の知識がなくなってしまう。新しいPMは知識がないので、仕事を回すために会社中を質問して回らなければならない。Dovetailの製品を使えば、調査から得たデータや知識を永続的に保存して利用することができる。

成長

筆者はDovetailの活動について学んでいる最中なので、同社が顧客調査ソフトウェア市場を開拓していく中で、より多くのことが達成されることを期待している。現段階でいえることは、Dovetailは雑草のように成長しているということだろうか。ハンフリー氏によると、同社は2021年、収益と顧客数を3倍にしたという。すべてセルフサービスで、数カ月前に初めてアカウントエグゼクティブを採用した企業が、である。まさしく製品が主導する成長だ。

製品主導の成長とは、実際のサービスや商品が顧客を引き寄せるという考え方で、本質的にはプロダクトマーケットフィット(PMF、顧客を満足させることのできる製品が適切な市場で受け入れられている状態)の概念を再構築したものである(あるいはPMFの本来の意味をさらに純粋にしたものかもしれない)。いずれにしても、投資家によれば、Dovetailはまだ創業からそれほど時間が経っていないにもかかわらず、2022年も前年と同じ成長率を達成するか、少なくともそれに近くなるという。同社はすでにユニコーンに近い存在なのだ。

ハンフリー氏自らが、今後数カ月間に新たな資本のニュースを教えてくれることはないだろう。2022年の後半に同社の成長について彼を質問攻めにしようと思う。

画像クレジット:Vladyslav Bobuskyi / Getty Images

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Dragonfly)

「デスクレス」ワーカーを対象とした企業向け学習プラットフォームの拡大に向けて英EduMeが約23億円調達

B2B市場で新たなチャンスを狙うテック企業が注目を寄せる「デスクレス」ワーカー。2022年1月、この分野を対象としたeラーニングツールのスタートアップが成長を促進するための資金調達ラウンドを発表した。

ロンドン発のEduMe(エジュミー)は、急成長中のテック企業やさまざまな場所から働く従業員やパートナーを抱える企業を対象に、企業が自由に構築できるオンライントレーニングや教育を「マイクロラーニング」モジュール形式で提供するスタートアップだ。今回のシリーズBラウンドで2000万ドル(約22億9000万円)を調達した同社は、これまで一定の成長を遂げてきた米国でのさらなる事業拡大を図るためにこの資金を活用する予定だという。

今回のラウンドはWorkday(ワークデイ)の戦略的投資部門であるWorkday Ventures(ワークデイ・ベンチャーズ)とProsus(プロサス)が共同でリードしており、EduMeのシリーズAをリードしたValo Ventures(ヴァロ・ベンチャーズ)も参加している。HRプラットフォームであるWorkdayによる投資は、企業内学習やデスクレスワーカーをターゲットにした取り組みを同社が検討しているということの表れでもあるため(どちらも同社の現在のプラットフォームにとって最適な補足要素である)非常に興味深く、また将来M&Aにつながる可能性もなきにしもあらずである。一方EduMeは、IT分野でeラーニングをより使いやすくすることができれば、そこに成長のチャンスがあると踏んでいる。

EduMeのCEO兼創設者であるJacob Waern(ジェイコブ・ワーン)氏はインタビュー中で次のように話している。「デスクレスワーカーへのサービス提供方法のエコシステムが変化しています。アプリを10個持つのは邪魔なので、CRMプラットフォームなどと統合し、従業員が簡単に繋がれるコンテンツを提供したいと考えています」。

EduMeへの投資の他にもProsusは複数のEdTech企業に注力しており、同じく1月に同社は若い消費者ユーザーをターゲットとするオンライン家庭教師プラットフォーム、GoStudent(ゴースチューデント)の大規模ラウンドを主導すると発表した。

かつては敬遠されていたものの、今や主流となったデスクレスワーカー市場への着目は、EduMe自身のDNAを反映している。

もともとは新興国(現在はラテンアメリカ、当時はラテンアメリカとアフリカ)を中心に事業を展開する通信事業者、Millicom(ミリコム)により、通信事業者の顧客層にeラーニングを提供する目的で始まったのが同サービスだ。当時Millicomに在籍し、同サービスを構築したワーン氏は、同サービスが消費者や個人事業主ではなく企業に最も支持されていることを知り、先進国も含めたより広い市場でこの機会を倍増させるために事業のスピンアウトを決行した(EduMeはMillicomからの出資を受けていないとワーン氏は話している)。

急速に規模を拡大し、多様なチームとのコミュニケーション方法を必要としていたライドシェアリングや宅配業者などの業種を初期ユーザーとして見いだした同社。その後、物流、モバイルネットワーク事業者、小売、接客業、ヘルスケアなどの企業にも導入が進められ、現在では、Gopuff(ゴーパフ)、Deliveroo(デリバルー)、Deloitte(デロイト)、Uber(ウーバー)、Vodafone(ボーダフォン)など、約60社のグローバルな顧客を有している。EduMeは、総ユーザー数、使用されている学習モジュール、その他の指標を公開しておらず、評価額についても触れていない。

同社の成長の影には、B2Bのテクノロジー市場における一大トレンドが存在する。デスクレスワーカーは従来、いわゆるナレッジワーカー層に隠れ無視されてきた。1日中パソコンに向かっているナレッジワーカーは、オンライン学習ツールを購入して使用するターゲットとしてあまりにも明白だったからだ。簡単に言えば、こういったユーザーを対象に製品を開発し、販売する方がはるかに簡単だったのだ。

それがここ数年で大きく変わることになる。最も重要なのは、モバイルテクノロジーとクラウドコンピューティングの進歩によってこの進化が促進されたという事実だ。ナレッジワーカーもそうでない人も、今では誰もがスマートフォンを使って仕事をし、より高速な無線ネットワークを利用して小さな画面での利用を想定したアプリケーションを外出先で利用している。

そして最近、その変化を加速させたのが新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックだ。リモートワークが当たり前になったことで、より多くの人に向けたソリューションが民主化されるようになった。ワーン氏によると、現在世界の労働人口の約80%がデスクレスと推定されているという。

リモートワークの台頭が拍車をかけたのはそれだけでない。物理的な共通スペースでともに仕事をすることができなくなったため、オンライン学習ツールは、企業がチームとコミュニケーションをとったり、トレーニング、オンボーディングや専門的能力の開発に利用したりするための、最も重要かつ中心的な存在となった。

このトレンドの成長は非常に大きなビジネスへと変革しており、2020年の企業内学習関連の市場は、2500億ドル(約28兆6211億円)と推定されている。パンデミックの他、ビジネスや消費者の長期的な習慣の変化がもたらす成長の加速により、2026年には4580億ドル(約52兆4247億円)近くにまで膨れ上がる見込みだという。

リモートワーカーおよびデスクレスワーカーに焦点を当てているという点が、現在の市場におけるEduMe独自のセールスポイントだと同社は考えているようだが、実際はこの分野唯一のプレイヤーと呼ぶには程遠く、激しい競争に直面することになるだろう。企業内学習を促進するために多額の資金を調達したスタートアップには、360Learning(360ラーニング)LearnUpon(ラーンアポン)Go1(ゴーワン)Attensi(アテンシ)などがあり、さらにLinkedIn(リンクトイン)もこの分野に大きな関心を持っている。

「パンデミックによって私たちの働き方は、想像もつかないほどの変化を遂げました。それにともない、従来のようなデスクを持たない従業員を多く持つ急成長中の業界をサポートする必要性は高まる一方です」。Workday Ventures のマネージングディレクター兼代表の Mark Peek (マーク・ピーク)氏は声明中でこう伝えている。「EduMeの革新的なトレーニング・学習プラットフォームは、拡大し続けるデスクレスワーカーに対応しながら、組織が変化を乗り越えて成長するのを支援しており、弊社が EduMe をサポートする理由はそこにあるのです」。

画像クレジット:Smith Collection/Gado/Getty Images / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

Ambient.aiはAIを活用したビルセキュリティで偏見やプライバシーによる落とし穴をふさぐ

「ちょっと、そこは入れませんよ」。建物とカメラをいくつか通過すると、セキュリティの仕事はすぐに複雑で途方もない状況になる。誰が一度にすべての場所を見張り、間に合うように人を送って問題を防ぐことができるだろうか。Ambient.aiはAIでそうできると最初に主張したわけではないが、最初に実際に大きな規模でそうしたのかもしれない。そして、成長を続けるために5200万ドル(約59億1000万円)を調達した。

昨今の業務処理問題は、誰でも指摘できる種類のものである。現代の会社や学校にある幾十幾百ものカメラからは膨大な量の映像やデータが生み出され、専門のセキュリティチームでもすべてを把握するのは困難だろう。結果として、重要な事象が発生してもそれを見逃すだけでなく、間違ったアラームや音に耳を向けてしまう可能性もある。

「犠牲者はいつも、誰かが助けに来てくれることを期待してカメラを見るが、実情はそうではない」と、Ambient.ai(アンビエント.ai)のCEO兼共同創業者、Shikhar Shrestha(シカー・シュレスタ)氏はTechCrunchに語った。「ベストの状態でも、インシデントが起きるのを待っていて、ビデオを見て、そこで仕事をするわけです。カメラはあり、センサーはあり、警備員もいる。欠けているのは、仲立ちをする頭脳です」。

明らかに、シュレスタ氏の会社は頭脳の提供を目指している。セキュリティのライブ映像の中央処理装置によって、問題が発生したら即座に適切な担当者に通知できる。そうした努力を危険にさらす先入観はない。顔認識もしない。

以前にもこの特定のアイデアに取り組む例はあったが、これまでのところ本気で採用した例はない。シュレスタ氏によれば、第1世代の自動画像認識は単純な動作検出で、画面上の画素に動きがあるかどうかを確認するにすぎず、木なのか家宅侵入者なのかも見分けられなかった。次に来たのが、深層学習を使用した物体認識だった。手に銃を持っているのか、窓が割れているのか識別できた。これは役に立つことがわかったが、限界があり、維持に少々手がかかった。状況や物に対して特別なトレーニングがたくさん必要だった。

「ビデオを理解するために人が行うことを見て、他の情報も大量に取り入れることにしました。座っているのか、立っているのか、ドアを開けているのか、歩いているのか、走っているのか、屋内にいるのか、屋外にいるのか、昼間か夜間か、といったことです。私たちは、そうしたことをすべて一緒にして状況を総合的に理解します」と、シュレスタ氏は説明した。「私たちは、コンピューターの映像インテリジェンスを使って映像の事象全体をマイニングします。あらゆるタスクを分解してそれをプリミティブと呼びます。相互作用や物体などです。その後、それらの構成要素を結びつけて「シグネチャ」を作成します」。

Ambient.aiのシステムでは、行動の要素を使用し、それらの要素を相互に結びつけて、それが問題になるかどうか示す(画像クレジット:Ambient.ai)

シグネチャは「夜間に長時間車内で座っている人物」や、誰ともやり取りせずにセキュリティチェックポイントの傍らに立っている人物」のようなもので、数は任意である。チームによって調整・追加されたものや、モデルによって独自に追加されたものがある。シュレスタ氏は「管理された半教師あり手法の一種」と説明した。

AIを使用して一度に100のビデオストリームをモニタリングすることのメリットは明らかだ。何か悪いことが起きる見当をつける点でAIの出来がたとえ人間の80%だとしてもである。注意散漫、疲労、目が2つしかないといった弱点がないAIは、時間やフィード数の制限なしに成功のレベルを上げることができる。これは、成功の機会が実際にかなり大きいということだ。

銃だけを探す初期のAIシステムでも数年前から同じことが言われていたかもしれないが、Ambient.aiが目指しているのはもっと総合的なものである。

「私たちは意図的に、プライバシーの考えを中心にしてプラットフォームを構築しました」と、シュレスタ氏は述べた。AIを活用したセキュリティというと「人はすぐに顔認識が含まれているものと考えるが、私たちの手法ではこの大量のシグネチャイベントがあり、顔認識を必要としないリスク指標を利用できます。何が起きるかを示す画像やモデルは1つだけではありません。これらのさまざまな要素をすべて活用して、システムの記述レベルを上げることができます」。

基本的にこれは、各個人の認識活動を最初から先入観のないものに保つことによって行われる。例えば誰かが座っているか立っているか、どれくらい長くドアの外で待っているか、といった行動をそれぞれ監査し、発見して、構成やグループ全体で検出できた場合、そうした推測の総和も同様に先入観のないものになる。このように、システムの構造上、先入観は削減される。

しかし、先入観は潜行的で複雑であると言わなければならず、先入観を認識して軽減する能力は最先端には後れを取っている。それでも、直感的に言って、シュレスタ氏が述べたように「先入観で見られるものに関する推測のカテゴリーがない場合、そのようにして先入観が入り込むことはない」というのは本当のように思える。そうであることを望む。

Ambient.ai共同創業者。左はCTOのVikesh Khanna(ビケシュ・カナ)氏、右はCEOのシカー・シュレスタ氏(画像クレジット:Ambient.ai)

いくつかのスタートアップが同じように登場しては消えていったのを見てきたので、こうしたアイデアを記録で実証することは重要だ。Ambient.aiは比較的静かにしてきたにもかかわらず、製品に関するその仮説の証明に役立ってきた活発な顧客が多数いる。もちろん、過去2年間は厳密には通常の業務ではなかったが、効果がないのであれば「時価総額で米国最大級のテック企業の5社」が顧客になるというのは考えにくい(しかし現にそうである)。

名前の挙げられていない「Fortune(フォーチュン)500テクノロジー企業」のテストで、認証を受けた人のすぐ後からセキュリティで保護されたエリアに入る「共連れ」を減らすことを目指していた。そんなことをする人はいないと思うだろうか。何と、最初の週に2000のインシデントが特定された。しかし、事象のGIFをほぼリアルタイムでセキュリティ担当者に送信し、セキュリティ担当者はおそらく違反者に警告したのだろう。数字は週に200まで減少した。今は週に10である。おそらく私のような人間によるのであろう。

画像クレジット:Ambient.ai

Ambient.aiがドキュメント化した別のテストケースでは、学校のセキュリティカメラが、放課後に誰かがフェンスによじ登っている様子を捉えた。即座に映像が警備責任者に送信され、警察に通報された。その男には前科があることが判明した。ここで強調したいのは、学校を封鎖する必要があるということではなく(これはそうするのに役立つだろう)、そのドキュメントの中で述べられている別のことである。それは、システムが「誰かがフェンスによじ登っている」という認識と「これは8:45の少し前によく起きる」というような他のことを結びつけることができるということだ。だから、子どもが近道しても警察に通報されることはない。またAIは、よじ登ることと、落ちることと、ぶらつくこととを区別することもできる。こうしたことは、状況によって問題になったり、ならなかったりする。

Ambient.aiの主張では、システムの柔軟性は一部こうした「プリミティブ」による。プリミティブは現場の必要に応じて簡単に再調整が可能で、例えば誰かがフェンスによじ登っても、落ちない限りかまわない。また「あっ、これは誰かがフェンスを切断しているようだ」といった新しい状況を学習することもできる。チームは現在、約100の疑わしい行動の「シグネチャ」を持っており、今後1年でそれを倍に増やすつもりだ。

既存の警備人員の電話や無線機の呼び出しが鳴る機会を制御することで、既存の警備人員の効率が向上すれば、時間の節約になり、結果も良くなる(Ambient.aiは、日常的なアラームの数が概して85~90パーセント削減されると述べている)。また、AIを活用した映像のカテゴリー分類は記録やアーカイブにも役立つ。「夜間にフェンスによじ登る人の映像をすべてダウンロードしなさい」と命令する方が、5000時間手作業でスクラブするよりずっと簡単だ。

5200万ドル(約59億1000万円)のラウンドはa16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)が取りまとめたが、Ron Conway(ロン・コンウェイ)氏、Y Combinator(Yコンビネーター)のAli Rowghani(アリ・ローガニ)氏、Okta(オクタ)共同創業者のFrederic Kerrest(フレデリック・ケレスト)氏、CrowdStrike(クラウドストライク)CEOのGeorge Kurtz(ジョージ・カーツ)氏、Microsoft(マイクロソフト)CVPのCharles Dietrich(チャールズ・ディードリッヒ)氏、その他数名の自分が何に投資しているかわかっている個人投資家の名前もあった。

「今は異色の時代です。セキュリティに携わる者はもっと多くのことを行うように期待されています。誰かがすべてのフィードを見守っている必要はないという基本的な提案は普遍的なものになりました」と、シュレスタ氏は述べた。「私たちは1200億ドル(約13兆6000億円)という多額のお金をセキュリティに費やしています。そこに結果が出ていないのはまともではありません。私たちはインシデントを防ぐことができていません。すべての道が一点に収束しているように感じます。組織が採用できる、将来も有効に使い続けられるセキュリティを提供できるプラットフォームになりたいと思っています」。

画像クレジット:Ambient.ai

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

簡単にネット販売ストアを立ち上げて注文を受けられるツールを開発するCococart

2年前、起業家のDerek Low(デレク・ロウ)氏は、自身が所有するバリ島のホテルを失い、生活費を稼ぐために手作りのチーズケーキのネット販売を始めた。しかし、すぐに立ち上げて注文を受けることができる簡単なeコマースツールを見つけるのは、難しいことがわかった。

ロウ氏は、2億もの事業主が注文を取るために電話やWhatsApp(ワッツアップ)やInstagram(インスタグラム)などのメッセージングアプリに頼っており、注文の追跡が困難であることが、代金回収を難しくしていることに気づいた。また、プロフェッショナルなeコマースサイトは立ち上げに数週間かかり、新規ビジネスには高額な費用が必要になることも知った。

Cococart共同創業者兼CEOのデレク・ロウ氏(画像クレジット:Cococart)

ロウ氏はZhicong Lim(ジコン・リム)氏とパートナーを組み、シンガポールを拠点にCococart(ココカート)を設立した。同社のツールは、商品を販売する人が数分でオンラインストアを立ち上げることができ、コードもデザインもアプリのダウンロードも不要だ。このストアには、注文管理からモバイル決済ソリューションまで、あらゆる機能が搭載されている。販売者は、持続不可能な手数料を請求するアプリやマーケットプレイスを利用することなく、自分たちの販売を管理することができる、とロウ氏は付け加えた。

「率直に言って、受注管理は大変です」と、ロウ氏は語る。「ほとんどの地方事業者は、未だにWhatsAppで注文を受け、スプレッドシートを使って注文を管理しています。それでは事業を成長させるために使うべき多くの時間が吸い取られてしまいます。私たちは、地方起業家たちの新しい波の最前線にいます。キッチンで作った料理を販売するところからスタートし、今では業務用キッチンを備えた小売店を経営しているような当社の加盟店のストーリーから、私たちは日々インスピレーションを受けています。私たちのミッションは、地域の事業を変革し、ビジネスオーナーに情熱を追求する力を与えることです」。

Cococartの加盟店の多くは、まさにロウ氏と同じような人々だと、同氏はいう。新型コロナウイルス感染流行から生まれた新世代の個人事業主は、eコマースで急成長しているセグメントを代表する存在となっている。また、人々がオンラインで注文することに慣れたことも、ロウ氏はこの動きがなくならない要因と見ている。

「私のように、職を失った多くの人がネットで副業を始め、それが主な収入源になりました」と、ロウ氏は続けた。「このような起業家は、他人のために働くよりも、自分のビジネスを運営する方が収益性が高く、充実感が得られることに気づいたのです」。

Cococartは設立当初から収益性の高い会社であり、サービスの立ち上げ以来、90カ国で2万人以上の商店主が契約し、合計50万件以上の注文を受け、1500万ドル(約17億円)以上を稼ぎ出している。

例えば、同社のトップマーチャントの1つであるINDOCIN(インドシン)は、オンデマンドで職人によるインドネシア料理を提供している会社だ。ロウ氏の話によると、同社のオーナーが1年前にCococartで商売を始めた当時は、自宅のキッチンで手作りの料理を売っていたそうだ。現在では24人の従業員を雇用し、自分の店舗を経営している。

ロウ氏によると、2021年だけでCococartは契約店数を30倍、顧客数を46倍に伸ばしたという。同じ期間に、同社は創業者2人だけのチームから、12カ国にまたがる22人のチームに成長を遂げた。

この勢いを維持するため、CococartはForerunner Ventures(フォアランナー・ベンチャーズ)とSequoia(セコイア)から420万ドル(約4億8500万円)を調達した。他にも、Y Combinator(Yコンビネータ)、Uncommon Capital(アンコモン・キャピタル)、Soma Capital(ソマ・キャピタル)、Liquid 2 Ventures(リキッド・ツー・ベンチャーズ)、Fitbit(フィットビット)CEOのJames Park(ジェームズ・パーク)氏、Curated(キュレイテッド)CEOのEduardo Vivas(エデュアルド・ヴィヴァス)氏などの投資家が出資した。

ロウ氏は、この新たに調達した資金を使って、雇用と顧客獲得を継続していく意向だ。

「私たちはまだ始まったばかりです」と、同氏は続けた。「私たちの目標は、商取引の次世代を定義することです。事業を始めて運営していくには、配送からサプライチェーン、資金調達に至るまで、まだまだ私たちで解決したい課題が山積しています。私たちは目の前に大きな機会を見出しています。Cococartを世界中の2億の事業主に届けたいと思っています」。

画像クレジット:Cococart

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(文:Christine Hall、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Verdagyの新技術がCO2を排出しない水素製造を加速させる

水素製造の先駆者であるVerdagy(ベルダジー、Verdeは「緑」、agyは「エネルギー」を意味する)は、エネルギー分野の戦略的投資家たちから2500万ドル(約29億円)を調達した。この資金は、複雑で環境に優しいとはいえない水素製造プロセスを、空気中に有害物質を排出しない工業的に拡張可能なソリューションに置き換えるために使用される。

工業用水素を製造する最も一般的な方法(米国で製造される水素の90%以上)は、水蒸気メタン改質(SMR)だ。つまり、メタンガス(CH4)に高圧の水蒸気(H2O)を吹き付けると、化学の神様が働いて大量の水素(ナイス!)とCO2を作り出してくれる。気候変動に関する知識があれば、CO2の排出は避けるべきものであることはご存知だろう。Toyota Mirai(トヨタ・ミライ)Honda Clarity(ホンダ・クラリティ)Hyundai Nexo(ヒュンダイ・ネクソ)のようなしゃれたクルマを、テールパイプからCO2の代わりに水を滴らせながら夕日に向かって走らせれば、独善的な気分になるのも無理はない。しかし、問題はある。その水素がどこから来たのかを知らなければ、CO2はクルマのテールパイプから捨てられる代わりに、どこかの大きな工場で排出されていることに気づいていない可能性があるということだ。おっと、それは困った。もちろん、CO2を回収して再利用する方法もあるが、そもそもCO2を出さない方が望ましいはずだ。そう、やはりそう思うだろう。

もう1つの主な水素の製造方法は、水の分子を分解することだ。水、つまり、H2Oは2つの水素と1つの酸素からできている。もし、この2つの原子を説得して、酸素(高校の生物化学では、酸素は良いものと習っただろう)と水素に平和的に別れさせることができれば、すばらしいことではないだろうか?ひと言でいえば、それがベルダジーのやろうとしていることだ。大型の電解槽に太陽光や風力などの再生可能エネルギーを(理想的に)接続すれば、大量の水素を作り出すことができる。水素燃料電池車のドライバーが「ドヤ顔」をするという、前述の生物学的害悪を除けば、副産物は排出されない。よりクリーンな環境にするという名目のもとであれば、筆者はその危険性を許容してもいい。

同社のイノベーションの核心は、アルカリ水電解(AWE)とプロトン交換膜(PEM)の電気分解プロセスの長所を取り入れながら、それぞれの固有の短所を排除することにある。ベルダジーは、高電流密度と広いダイナミックレンジでの動作を可能とする非常に大きな有効面積のセルを活用した、膜ベースの新しいアプローチを生み出した。それは、セルが最大効率の動作レンジを持ち、もしも大量の電気が余った場合(例えば、ソーラーアレイの発電量が産業用途や電力網で吸収できる量を超えてしまった場合など)、電気分解セルに電気を流して大量の水素を生成し、それを使用したり貯蔵したりすることができるというものだ。

アルカリ水電解(AWE)などでは隔膜を使用しており、使用できる電流密度には物理的な限界がある。当社が行っているセルと似たような素材や構造があるかもしれないが、その場合は隔膜によって高い電流密度での動作が制限される。(プロトン交換膜)PEMは、セルが使用できる有効領域が限られている」とベルダジーのCEOである(マーティ・ニーズ)氏は同社が特許出願している技術の概要を説明する。そして「当社のセルは非常に大きく、当社の技術を再現することは非常に困難だ。セルは単一要素構造をしており、陽極と陰極、そして中央に膜がある。セルの内部構造は、特許出願中の独自のものだ。セルが実際にどのように熱を放散し、気体や液体を循環させ、どのようにセル内の循環フローを管理するか、これが他社との違いだ」と同氏は語る。

支援の申し出が殺到し、2500万ドル(約29億円)を調達した今回のラウンドは、TDK Ventures(TDKベンチャー)主導のもと、多くの投資家が参加した。その中には、2021年ベルダジーがスピンアウトしたChemetry(ケメトリー)にも出資していたKhosla Ventures(コースラ・ベンチャー)も含まれる。その他の投資家としては、石油・ガス大手のShell Ventures(シェル・ベンチャー)、エネルギー・気候変動対策投資会社のDoral Energy-Tech Ventures(ドラルエナジー・テックベンチャー)、シンガポール政府系投資会社のTemasek(テマセク)、資材商品大手のBHP(ビー・エイチ・ピー)、石油・ガス・建設・農業大手のMexichem(メキシケム)の前身であるOrbia(オルビア)などがあり、さらに多くの投資家がいるが、そのうちの何社かはTechCrunchへの掲載を控えた。

ベルダジーがスピンアウトを発表してからわずか数カ月で、これほど豪華な戦略的投資家を集めて2500万ドル(約29億円)の資金を調達できたのは、同社が行っていることの重大さとチームの質の高さを物語っている。同社の新CEOであるマーティ・ニーズ氏は、Ballard Power Systems(バラード・パワー・システムズ、PEM燃料電池を製造)の取締役、および家庭用太陽光発電のパイオニアであるSunPower(サンパワー)のCOOを9年間務め、さらにアルミニウムとシリコンのリサイクル会社であるNuvosil(ヌボシル)の創業者であるなど、すばらしい経歴を誇る。

「TDK」は元々、東京電気化学工業株式会社(Tokyo Electric Chemical Industry Co., Ltd.)の日本名の頭文字をとったものだ。TDKベンチャーズの投資ディレクター、Anil Achyuta(アニル・アチュータ)氏は「(ベルダジーのような)電気化学系の企業に投資しないで、何に投資するのか」とジョークを交えて話す。「当社のビジョンは、TDK株式会社の将来の道筋を示す企業に投資することだ。そして、電気分解、特にグリーン水素のための電気分解は、社内で戦略的に推し進めている重要な分野の1つだ。TDKは世界中に110以上の工場を持っており、それぞれの工場を脱炭素化するだけでも、当社のカーボンフットプリントを減らすことができるため、非常にエキサイティングなことだ。これらの大きな石油化学工場施設や工業用化学施設の脱炭素化を考えるということは、世界の未来に投資するということだ」と同氏は語る。

水素燃料電池車に関する筆者のつまらないジョークはさておき、同社は主に、大規模な工業団地の一部として石油精製、肥料製造、食品加工、金属合金の製造など大規模な水素アプリケーションのために、水素を産業用に使用することを重点に置いているという。水素をオンプレミスで(少なくとも短いパイプラインで供給できる距離で)製造することは、これらすべての産業にとってメリットがある。そしてベルダジーは、現在のほとんどのソリューションよりも小さなカーボンフットプリントとはるかに環境に優しいテクノロジーで水素を製造することを約束している。

画像クレジット:Verdagy

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

LeadGeniusの共同創業者、ウェブ会議による市場調査ツールMarvinでユーザー中心設計の原点に立ち返る

Prayag Narula(プラヤグ・ナルラ)氏と彼の弟Chirag Narula(チラグ・ナルラ)氏は、GongとChorus.aiがセールスコールに対して行ったことを、製品・マーケティングリサーチの通話に対して実現しようとしている。

2020年に彼らは、企業が顧客ニーズをよりよく理解するためのユーザーリサーチプラットフォーム「Marvin」を開発した。これは部分的に、プラヤグ・ナルラ氏の経歴に由来している。彼は、マーケティングテクノロジー企業LeadGeniusを共同設立して長年にわたり経営し、3000万ドル(約34億6600万円)以上のベンチャー資金を調達し、従業員が数百人になるまで成長するよう導いた人物だ。

営業やマーケティングのバックグラウンドを持たない彼は、LeadGeniusに友人を雇うことにし、その友人がパンデミックの始まりとともに最終的にCEOに就任した。同時にプラヤグ・ナルラ氏はCEOを退いたが、取締役には残った。

「Marvinはある意味、私がユーザー中心設計のルーツに立ち返った結果です」と彼は語る。「営業チームは顧客と話をして売上を上げたいと考え、カスタマーサクセスチームはアップセルを求めています。製品チームやデザインチームの場合、唯一のアジェンダは、その製品で顧客の生活をいかに改善するかということです。これはユーザーエンゲージメントの最も純粋な形であり、我々はこれを活用したかったのです」。

ナルラ氏はさらに、LeadGeniusではそれを実現するための適切なツールがなかったと説明する。今日に至っては、ビデオ会議のおかげで、会話を録音し、情報を得ることが簡単にできるようになった。しかし、ユーザー中心であることの価値を理解しながらも、何から始めればいいのかわからないという企業が増えている。

Marvinの共同創業者プラヤグ・ナルラとチラグ・ナルラ氏(画像クレジット:Marvin)

Marvinの技術は、Zoom(ズーム)などのビデオ会議ツールにプラグインし、通話中にメモを取るインタビューおよびユーザーリサーチツールである。また、インタビューのスケジュール設定や、録音した内容をキーワードやハッシュタグで検索可能なインサイトに変換するなど、ユーザー調査のあらゆる側面を自動化することができます。

「企業は、顧客と対話し、フィードバックを得て、調査を行うことに多くの時間を費やしています」とナルラ氏はいう。「このすべてがZoomで行われているのです。当社は、このような会話をより効率的かつコラボレーティブにするお手伝いをします」。

Lattice(ラティス)やSimon-Kucher(サイモン・クチャー)など、すでに数千社の顧客がMarvinを使用しており、毎週何千分もの録音を行っている。多くのユーザーは、この技術を活用して顧客と対話し、課題を理解し、デザインや製品へのフィードバックを得ている。それらの会話からパターンを見つけ出し、各チームで共有することができる。また企業によってはこのツールを経営コンサルタントとして使い、業界の専門家に話を聞いたり、学術的な研究の参照にするのに利用している。

米国時間2月23日、同社はプライベートベータを終了し、先に行われたプレシードラウンドで380万ドル(約4億3900万円)を獲得したことを発表した。同ラウンドはSam Altman(サム・アルトマン)氏のApollo ProjectsとFuel Capitalが共同で主導し、Scrum Ventures、Hack.VC、Global Founders Capital、House Fund、Gaingelsおよびエンジェル投資家のグループが参加した。

今回の資金調達により、Marvinは、ユーザーインタビューの実施、整理、分析、共有をより効果的に行えるよう、チームと製品開発の規模を拡大することが可能になるとのこと。同社の成長の大部分は、この5カ月の間に起こった。現在の従業員数は20名で、全体的に採用活動を行っている。

プラヤグ・ナルラ氏は「2021年の第3四半期に有料ユーザー数がゼロだったのが、1000以上に達したので、今度はそれを数千の有料ユーザーに拡大する時です」と述べている。

画像クレジット:Marvin

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(文:Christine Hall、翻訳:Den Nakano)

人気映画やテレビ番組を活用して語学教育を行うEWAが5100万ダウンロードを達成、初の外部資金を調達

オンラインの外国語学習は、スタートアップにとって良い商機であり続けている。そのユーザーにとって魅力的な体験は、スマートフォンに費やす時間をもっと生産的なことに使いたいと思う一般消費者の関心にもマッチしている。この分野の最新の展開の1つとして、EWAという言語学習アプリがある。それは、言語の取得にメディアを利用し、映画やテレビや本などからの引用を利用して学習者を新しいボキャブラリーと発音に親しませる。このアプリはこれまでに5100万回ダウンロードされており、月間アクティブユーザーは3500万に達する。そしてこのほど、初めての外部資金として270万ドル(約3億1000万円)を調達した。

EWAは「E-vah(エヴァ)」と発音し、共同創業者でCEOのMax Korneev(マックス・コルニーフ)氏によると、2018年の創業以来ずっと自己資金だけでやってきたという。それでも現在の年商は3240万ドル(約37億4000万円)に達している。フリーミアムの部分は3日間のトライアルだが、TikTokやInstagramなどのソーシャルメディア上にそのコンテンツクリエイターとして広く展開しており、同社のポストで数百万のユーザーが非公式に言葉の勉強をしていることになる。英語学習用のEWA Englishだけでも、500万以上のフォロワーがいる。

コルニーフ氏によると、外部資金を導入する目的は、現在、同社が直面している成長の需要に応えて拡大していくこと、またエンジニアを増員して、以前より待望していたソーシャルな要素を増やすゲーム化の仕掛けと対象言語の多様化機能を開発することだ。現在、アプリは英語とスペイン語、フランス語、ドイツ語、イタリア語のみ対応している。

シードラウンドにはDay One VenturesとElysium、それにSemrushやZynga、Nianticなどからのエンジェルや創業者、役員たちが参加した。EWAはすでにシリーズAの準備を始めており、評価額1億5000万ドル(約173億3000万円)で3000万ドル(約34億7000万円)となり、SoftBankらのVCが同社に接触している。TechCrunchは現在、SoftBankにコメントを求めている。コルニーフ氏はコメントを断った。

すでに上場しているDuolingoの本日の時価総額はおよそ34億ドル(約3928億9000万円)だったが、アプリを粘着性の高いもの、ユーザーは学習の流れを維持するために毎日ログインし、トップの位置を守ろうとするものにしてオンライン言語学習市場を席巻した。またリアルの世界で知ってるかもしれない人とアプリ上でリンクさせることで、自然な競争意識が芽生えて、このアプリでの勉強が習慣になる。

これまでのEWAのユニークなセールスポイントは、オンラインメディアの広大な世界をその目的(言葉の学習)のために利用する、その方法だ。アプリユーザーには、有名な本を読む、人気の高い映画やテレビの抜粋を見るなどの選択肢がある。有名な台詞などは、言葉の学習の良いきっかけになり、その知識をワードゲームで強化していく。

その方法は私個人的にも、おもしろいもので、私と家族がロシアから初めて米国に来たときのことを思い出させる。しかもEWAのCEOコルニーフ氏もロシア人だ。同氏によると、教材としてメディアの利用という変わった方法を選んだのは意図的だという。その方が、現代に合っているし、非常に多様な言語学習者にも伝わりやすい。

「現在の独習アプリを見てみると、リアルな教室での学習の進行をコピーしたものがとても多い。はっきりいうと、それは古いやり方だし、今ではあまり効果がありません」とコルニーフ氏は語る。彼はDuolingoが行った調査を引用して、オンラインの言語コースを終了した人は全受講者の1%未満しかいないという。「人間は、楽しいこと、おもしろいことを好みます。ユーザーに、なぜEWAを利用するのか尋ねたら、楽しいからという答えが返ってきます。私たちは、エンターテインメントと教育を結びつけているのです」。

言葉を学ぶために「地元のメディア」を利用したのは、私の家族だけではなかったようだ。コルニーフ氏がITの仕事をしながら別の言語(彼の場合は米国における英語)を学んだのも、その方法だった。

「多くのスタートアップが、痛みを解決しようとして生まれてきます。EWAの始まりもそうでした。私の場合は字幕付きの映画を見たり、言葉に関する傍注のある本を読んだりしました。他の人たちも、そうやって言葉を身につけてきました。言葉に対す自身の方法をビジネスにできないかと考えた彼はITの仕事を辞めて、共同創業者のStepan Nikitin(ステパン・ニキーチン)氏やAnton Aleshkevich(アントン・アレシュケビッチ)氏、Stas Morozov(スタス・モロゾフ)氏らとともにEWAを創業した。

EWAの社籍はシンガポールとなるが、大量のデベロッパーがロシアにいる。ロシアのスタートアップが西側の投資家から資金を調達するのは難しいため、意図的にこの形にしている。コルニーフ氏にとっては、パンデミックが幸いし、チームはリモートのワークフォースだという。同氏自身は、シンガポールとブダペストとバルセロナの3カ所を拠点としている。

画像クレジット:EWA

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Hiroshi Iwatani)

「もっと早く知りたかった」、Gesundが医療アルゴリズム検証データを提供するために2.3億円を調達

医療アルゴリズムを開発することと、それが本当に機能することを証明することは、まったく別の話だ。そのためには、入手しにくいある重要なものが必要だ。医療データである。現在、とあるスタートアップ企業が、そのようなデータを、検証研究を容易にするツールとともに提供する準備を整えている。

今週、2021年に創業されたGesund(ゲズンド)が、500 Globalが主導する200万ドル(約2億3000万円)のシードラウンドでステルスから浮上した。CEOで創業者のEnes Hosgor(エネス・ホスゴー)氏はTechCrunchに対して、同社はすでに多くの実績を残していて、実行可能なプラットフォーム、30社の見込み顧客との取引、今四半期の売上見込みなどを見込んでいると語る。

基本的にGesundは、医療アルゴリズムを開発するAI企業や、自身のモデルをテストするアカデミアのためのCRO(Contract Research Organization、医薬品開発業務受託機関)なのだ。一般のCROが医薬品や医療機器企業向けの臨床試験をデザインするのと同じように、Gesundのプラットフォームは、AI企業が自社の製品をテストするためのデータをキュレーションし、その比較をスムーズに行うためのITインフラを構築する。

ホスゴー氏は「私たちは、自分たちを機械学習運用企業だと考えています」という。「私たち自身はアルゴリズムを手がけません」。

医療アルゴリズムは、学習させるデータがあってこそ役に立つが、多様で有用なデータセットの入手は困難であることが知られている。例えば、2020年にJAMAで発表された研究では、放射線科、眼科、皮膚科、病理科、消化器科などの分野にわたる深層学習アルゴリズムを説明した74の科学論文を分析し、これらの研究で使われたデータの71%がニューヨーク州、カリフォルニア州、マサチューセッツ州からもたらされたものだということを報告している。

実際、米国の34の州は、これらのアルゴリズムの学習に使用したデータを提供しておらず、より広い母集団に対する一般化の可能性が疑問視されている。

また、この問題は医療機関の種類を越えて存在している。大規模かつ権威ある大学病院で収集されたデータを使ってアルゴリズムを学習させることは可能だ。しかし、それを地域の小さな病院に導入しようと思っても、そうしたまったく異なる環境ではうまくいく保証はない。

BMJに発表された152件の研究のメタレビューによれば、アルゴリズムを訓練するために使用されるデータセットは、一般的に、必要とされるものよりも小さいという。当然ながら、アルゴリズムの成功例もあるものの、これは業界全体の問題なのだ。

テクノロジーだけでこれらの問題を解決することはできない。そもそも、そこにないデータを分類したり、提供したりすることはできないのだ。ヨーロッパ人以外の祖先を持つ人々の遺伝子研究が、非常に不足していることを考えてみて欲しい。しかしGesundは、既存のデータへのアクセスを容易にし、データ共有の新たな道を開くパートナーシップを構築するという、テクノロジーを役立てられる可能性のある問題に焦点を絞っている。

Gesundの検証プラットフォームの画面

Gesundのデータパイプラインは「各臨床施設と締結している、データ共有契約」に基づいているとホスゴー氏はいう。現在、Gesundはシカゴ大学医療センター、マサチューセッツ総合病院、ベルリンのシャリテ大学で収集された画像データにフォーカスしている(同社は今後、放射線医学以外の分野にも拡大する計画だ)。

機械学習アプリケーションで使用するためのデータの集約と配信は、Nightingale Open Science Project(ナイチンゲール・オープンソースプロジェクト)のような、研究者に臨床データセットを無料で提供する他の企業によっても行われている(物議を醸しているGoogleの「Project Nightingale」[プロジェクト・ナイチンゲール]とは提携していない)。だが、データそのものも重要な要素だが、実はホスゴー氏が秘密兵器と見ているのは、同社のテクノロジー・スタックなのだ。

「誰もがクラウドでML(機械学習)をやっています。ですが、一般的な医療機関はクラウドを持っていないので、すべてが失われてしまうのです」とホスゴー氏はいう。「そこで私たちは、病院のファイアウォール内に設置できる技術スタックを構築しました。これは機械学習にはつきもののサードパーティのマネージドサービスには一切依存していません」。

そこを起点として、プラットフォームには「ローコード」のインターフェイスが搭載されている。つまり、医師や医療機関は、基本的に必要なデータセットをドラッグ&ドロップし、そのデータに対して自身のアルゴリズムをテストすることができるのだ。

ホスゴー氏は「創業して約6カ月ですが、すでに本格的に走っています。私たちは開発した最初の製品は、クラウドリソースにアクセスできない高度なコンプライアンス環境において、モデルの所有者がデータに対して自身のアルゴリズムを実行し、正確なメトリクスをその場で生成できるようにするものです。それが私たちの強みなのです」と説明する。

現時点では、GesundはNightingaleと同様に、一部のサービスを無料で提供している。同社のCommunity Edition(コミュニティエディション)では、手持ちのアルゴリズムがある研究者たちが、自分たちのアルゴリズムを無料でテストできる(ただし、自分たちのデータセットをアップロードする必要がある)。

一方、同社の「プレミアム」版の費用を払うのは、AI企業だ。これによって、お金を払っている顧客は、独自のデータセットにアクセスできるようになるとホスゴー氏はいう。そして、必要なデータにはお金を払うという実績もある。現在、Gesundは30の潜在顧客との交渉中だとしていて、今期中に収益を上げる予定だという。

「私たちは2021年11月にシカゴで開催されたRSNAに出席しましたが、話を聞いたあらゆるAI企業から『ああ、もっと早く知りたかったです』という発言を聴きました」。

現在Gesundが調達した資金は今回の200万ドル(約2億3000万円)のプレシードラウンドだけだが、ホスゴー氏は2022年中に再び資金調達を行えることを期待している。近い将来、同社は研究開発に注力しつつ、米国および欧州における臨床提携を拡大する予定だ。

画像クレジット:Gesund

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(文:Emma Betuel、翻訳:sako)

オックスフォード大からスピンアウトした英QuantrolOxは機械学習で量子ビットを制御する

2021年にオックスフォード大学からスピンアウトした新しいスタートアップ、QuantrolOxは、量子コンピュータ内部の量子ビットを機械学習(ML)で制御しようとしている。オックスフォード大学のAndrew Briggs(アンドリュー・ブリッグス)教授、テック起業家のVishal Chatrath(ヴィシャール・チャトラス)氏、同社のチーフサイエンティストのNatalia Ares(ナタリア・アレス)博士、量子技術責任者のDominic Lennon(ドミニク・レノン)博士が共同で設立した同社は西ヨーロッパ時間2月23日、Nielsen VenturesとHoxton Venturesが主導して140万ポンド(約2億1700万円)のシードラウンドを調達したと発表した。Voima Ventures、Remus Capital、Arm(アーム)の共同創業者であるHermann Hauser(ハーマン・ハウザー)博士、Laurent Caraffa(ローラン・カラファ)氏もこのラウンドに投資している。

同社の技術はテクノロジー非依存型で、標準的な量子コンピューティング技術のすべてに適用できる。QuantrolOxのシステムは、手動調整の代わりに、量子ビットの調整、安定化、最適化を大幅に高速化することができるというものだ。QuantrolOxのCEOであるチャトラス氏は、既存の方法はスケーラブルではないと主張し、特にこれらのマシンが改良され続ける限りはそうだと語る。

「ある米国の投資家と話していた時のことです。彼は、量子コンピュータが有用であるために収益を得るのを待つ必要はないという点で、我々は量子業界のスコップやつるはしのようなものだと言いました」とチャトラス氏。「5個の量子ビットから、願わくば数百万個の量子ビットになっていく中で、デバイス特性評価と量子ビットの調整を行うために、毎日私たちのソフトウェアが必要になります」。

同社は当面は、固体量子ビットに焦点を当てるという。フィンランドの研究所との緊密な連携など、同社がアクセスできるシステムであることも理由の1つだが、同社はそのパートナーシップについてはまだ公表する準備ができていない。すべての機械学習の問題と同様に、QuantrolOxは効果的な機械学習モデルを構築するために十分なデータを収集する必要がある。

チャトラス氏も述べているように、我々はまだ量子コンピューティングの非常に初期の段階にいる。しかし、QuantrolOxのようなツールが研究者のデバイステストのプロセスを加速するのに役立つなら、それは業界全体にとって恩恵となる。業界ではすでに多くの企業が、同社の制御ソフトウエアの利用を打診していると同氏は指摘した。

同社は現在7人の正社員を擁しているが、近い将来、さらに10人程度を採用する予定だという。だがチャトラス氏は、今後2年間で人数がそれ以上増えることはないだろうと述べている。「ニッチな分野に特化しているため、大きなチームは必要ありません」と彼はいう。「フルスタックにするつもりはありません。スタックの上位には行きたくないし、スタックの下位はハードウェアですから、そこにも行けません。当社がフォーカスしているのは非常に狭いエリアです」。

今のところQuantrolOxは、量子コンピュータの開発者とより多くのパートナーシップを構築することに注力している。チームは物理的なマシンだけでなく、これらのシステムと統合できるように、それらを制御するソースコードにもアクセスする必要があるため、かなり深いパートナーシップとなるからだ。

もちろん、今の業界には標準規格がほとんどないという問題があり、チャトラス氏はそれを痛感している。「量子産業が成功するためには、我々のようにある特定の分野に超特化したスタートアップがたくさん必要です。超特化した企業でなければ、規模の経済が得られないからです」と彼はいう。「フルスタックの(1つですべてなし得るという)ストーリーを語るのは、遅かれ早かれ止めなければならないと思います。人々は、企業のエコシステムを構築し始める必要があります」。

画像クレジット:hh5800 / Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Den Nakano)

デザイントークンやアセットを自動的に収集、保存、配布することでVIの統一を支援する「Specify」

Figma(フィグマ)とGitHub(ギットハブ)の共通言語を作るスタートアップ、Specify(スペシファイ)をご紹介しよう。Specifyは、あなたのデザイントークンとアセットのためのセントラルリポジトリとAPIとして機能する。言い換えれば、デザイナーは標準的なFigmaファイルを更新することができ、変更はGitHubリポジトリに反映される。

このスタートアップは、Eurazeoが主導する400万ユーロ(約5億1600万円)のシードラウンドを調達した。BpifranceのDigital Ventureファンド、360 Capital、Seedcampも同ラウンドに参加した。EurazeoのClément Vouillon(クレマン・ヴイヨン)氏やeFounderのDidier Forest(ディディエ・フォレスト)氏など、ビジネスエンジェルも出資している。

組織がデザインに本腰を入れ始めると、ボタン、アイコン、フォント、ロゴ、色など、統一したスタイルでデザインシステムを作りたくなるものだ。例えばログインページは、Facebook(フェイスブック)、Twitter(ツイッター)、Gmail、Pinterest(ピンタレスト)ではそれぞれまったく異なる印象を与える。

とはいうものの、デザイナーと開発者の双方がこれを手作業で行っていることが多いのが現状だ。デザイナーはConfluenceやNotionでデザイントークンやアセットを使ってドキュメントページを作成する。そして開発者は、手作業でドキュメントをチェックし、最新のエレメントを使用しているかどうか確認しなければならない。

画像クレジット:Specify

Specifyは、デザイントークンやアセットを保存するセントラルリポジトリとして機能する。ユーザーはまず、1つまたは複数のソースと1つまたは複数のデスティネーションでSpecifyを接続する。

例えばSpecifyを使い、Figmaファイルから情報やデータを直接取得することが可能だ。そしてデザイナーはFigmaで何かを更新することができ、その変更はSpecifyのリポジトリに反映される。Specifyは単一の真実のソースとして機能するわけだ。

だが、変更はアプリケーション内でより速く反映されることもある。何かが更新されると、Specifyは自動的にGitHub上でプルリクエストを作成することができ、コマンドラインインターフェイスもある。開発者はワンクリックで変更を受け入れることができる。このようにして、色、ロゴ、フォントなどが、手動で作業することなく更新される。

Specifyは、自社製品の対象をFigmaとGitHubに限定するつもりはないようだ。この先、Dropbox(ドロップボックス)やGoogleドライブなど、さらに多くのデータソースを導入する予定だ。そしてNotionなど、より多くのアップデート先に対応する予定もあるという。特に、1つのデザイン変更を複数の更新先にプッシュできる機能があれば便利だろう。

製品ビジョンは明確だ。Specifyは、デザインチームを一元化する接着剤になりたいと考えている。「当社のアプローチは、Segment(セグメント)とよく似ていますが、デザインのための製品だと考えています」と、共同創業者兼CEOのValentin Chrétien(ヴァランタン・クレティアン)氏は筆者に語った。

画像クレジット:Specify

画像クレジット:Balázs Kétyi / Unsplash (Image has been modified)

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(文:Romain Dillet、翻訳:Den Nakano)

不正なサードパーティアプリの発見を支援するAstrix Securityがステルスから登場

サードパーティアプリ統合のためのアクセス管理を提供するイスラエルのサイバーセキュリティスタートアップAstrix Security(アストリックス・セキュリティ)が1500万ドル(約17億円)の資金調達によりステルスから姿を現した。

このスタートアップは、イスラエルの有名な諜報部門8200部隊の元メンバーであるAlon Jackson(アロン・ジャクソン)CEOとIdan Gour(アイダン・グール)CTOが2021年に共同で創業した。組織が重要システムに接続されたサードパーティアプリの複雑なウェブを監視・管理できるようにする。

リモートワークへの、転じてクラウドベース環境への移行が広まった結果、組織が使用する統合アプリケーションの数は過去2年間で劇的に増加した。Astrixによると、企業は重要システムへのユーザーアクセスの管理にはほぼ対応しているものの、APIアクセスの管理に関しては大半の企業が不十分であり、サプライチェーン攻撃、データ流出、コンプライアンス侵害などにさらされ、脆弱性は増している。そこで同社は、完全な統合ライフサイクル管理を実現するプラットフォーム、Astrix Security(アストリックス・セキュリティ)を開発した。

「現在のソリューションは、採用したいアプリのセキュリティの状態を評価するセキュリティスコアを提示しています。NoName(ノーネーム)のような他のソリューションは、API セキュリティに着目しています。これは、あなたが開発し、他の人が利用するAPIに焦点を当てています」と、Astrix創業前にArgus(アルゴス)でR&D部門のトップを務めていたジャクソン氏はTechCrunchに述べた。「私たちは、Salesforce(セールスフォース)のCRMやGitHub(ギットハブ)の知的財産など、サードパーティを通じて行われる統合を調査します。これらのシステムはすべて、あなたが開発したわけではありませんが、あなたはそれらに対してAPIアクセスを有効にしているのです」。

Astrix Securityは、エンタープライズアプリケーションに接続するすべてのサードパーティのインベントリを即座に提供する。このような統合やローコード、ノーコードのワークフロー構成における変更や悪意のある異常を自動的に検出し、リアルタイムに修復を行う。

この技術があれば、2021年発生したCodeCovのハッキング事件は未然に防ぐことができたとジャクソン氏は主張する。同事件で攻撃者は、同社のソフトウェア監査ツールに侵入し、数百の顧客ネットワークへのアクセスを得た。

「この出来事は、まさに私たちが開発しているものが目指すところです。この開発者は、GitHubにある自分のコードレポジトリの上に、新しいサードパーティ接続を追加しただけなのです。彼はそれを削除しましたが、アクセスを取り消さなかったため、知的財産全体がダークウェブで販売されることになりました」とジャクソン氏は語った。

Astrix Securityはすでに、テクノロジー、ヘルステック、自動車などの分野にまたがる多くのグローバル企業顧客の手に渡っている。ジャクソン氏によると、Bessemer Venture PartnersとF2 Capitalがリードし、Venrockと20以上のサイバーセキュリティ・エンジェル投資家が参加した1500万ドルのシード投資を、現在20人のチームの拡大と、市場開拓強化に使う予定だという。

画像クレジット:Dmetsov / Getty Images

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(文:Carly Page、翻訳:Nariko Mizoguchi