レーザー狙撃による害虫駆除の2025年までの実用化目指し、農研機構が害虫の飛行パターンから動きを予測する方法を開発

高出力レーザー狙撃による害虫駆除の2025年までの実用化目指し、農研機構が害虫の飛行パターンから動きを予測する方法を開発

農研機構

独立行政法人 農研機構は11月29日、害虫の飛翔パターンをモデル化し、ステレオカメラで撮影したリアルタイム画像から数ステップ先(0.03秒先)の位置を予測できる方法を開発したと発表しました。将来的には、予測された位置に高出力レーザーを照射するなどし、害虫を駆除するシステムに繋げたい考えです。

病害虫の防除と言えば、化学農薬のイメージがありますが、多額の開発コストや長期に渡る開発期間のため、新薬の開発数は減少傾向にあるとのこと。また、おなじ薬剤を使用し続けることで、害虫が耐性を獲得するなどの問題もあります。

このため、ムーンショット型農林水産研究開発事業「害虫被害ゼロコンソーシアム(先端的な物理手法と未利用の生物機能を駆使した害虫被害ゼロ農業の実現)」では、レーザー狙撃による物理的防除方法を開発しています。飛翔している害虫を検知し、レーザー光によって狙い撃ちするというものですが、害虫を検知してからレーザーで狙撃するまでに0.03秒程度のタイムラグが発生してしまうとのこと。虫は移動し続けているため、レーザーを命中させられないわけです。

高出力レーザー狙撃による害虫駆除の2025年までの実用化目指し、農研機構が害虫の飛行パターンから動きを予測する方法を開発

農研機構。レーザー狙撃による害虫防除システムの概略(イメージ)

これを解決するため、検知から0.03秒後の害虫の位置をリアルタイムで予測しようというのが、今回開発された方法です。

研究では、対象害虫としてハスモンヨトウの成虫を使用。3次元空間で不規則に飛行するハスモンヨトウをステレオカメラを用いて1秒間に55回のペースで撮影。飛行パターンをモデル化し、リアルタイムで計測される位置と組み合わせることで飛行位置を予測します。なお、ハスモンヨトウはタイムラグの0.03秒の間に、体長1個分(約2~3cm)移動するとのことです。

高出力レーザー狙撃による害虫駆除の2025年までの実用化目指し、農研機構が害虫の飛行パターンから動きを予測する方法を開発

農研機構。8匹のハスモンヨトウの位置を同時に計測した様子。1秒間に55回撮影した画像からハスモンヨトウを検出し飛行軌跡を描画した。青色は検出を開始したハスモンヨトウの位置を表し、赤色がその終点を表す。ハスモンヨトウは夜間に活発になるため、撮影は夜間を模した暗闇環境で実施。ステレオカメラの画像には壁や柱なども写り、暗闇環境で撮影するため画像中に小さい塵のようなノイズが含まれることがある。これら不要なものをリアルタイムで除去し、飛翔するハスモンヨトウだけを検出できる方法を考案した

害虫被害ゼロコンソーシアムでは、2025年までに、今回開発した手法で予測した位置にレーザーを照射して害虫を駆除する技術の実用化を目指します。将来的には、車両やドローンなどに搭載し、人的労力ゼロで害虫などによる被害を抑制するための基盤技術になることを期待しているとしています。

(Source:農研機構Engadget日本版より転載)

Digi-Key、スマート農業などにフォーカスし即座にIoT展開ができる「プライベートLoRaWAN-in-a-Boxソリューション」

Digi-Key、スマート農業などにフォーカスし即座にIoT展開ができる「プライベートLoRaWAN-in-a-Boxソリューション」発表

電子部品ディストリビューター大手Digi-Key(ディジキー)は、おもにスマート農業、高精度農業プロジェクトにフォーカスした、即座にプライベートなIoTの展開ができるハードウェアとソフトウェアのセット「プライベートLoRaWAN-in-a-Boxソリューション」を発表した。Digi-Keyは、業界初となるこの製品の独占ディストリビューターとなる。

これは、オープン技術とアジャイル製造を提供するハードウェア開発企業Seeed Studio(シードステューディオ)による製品。買ってすぐに使えるLoReWAN(低電力広域ネットワーク)IoTセンサーおよびゲートウェイからなるハードウェアと、IoTデータ管理ソリューションを展開するソフトウェア開発企業Machinechat(マシンチャット)のソフトウェア「JEDI Pro Seeed Studio Edition」を統合したもの。「迅速なIoT展開と、ユーザーによるデバイスデータの完全管理を可能にする強化したセキュリティー機能を実現」するという。これにより開発期間が短縮され、技術的な複雑さとコストが低減される。

主な用途として、次のようなものが挙げられている。

  • データのロギングとモニタリングを必要とする社内または商用のIoTプロジェクト
  • スマート農業、温室モニタリング、造園、灌漑、および精密農業のユースケースシナリオ
  • 火災検知、冷蔵監視、畜産などの環境関連アプリケーション

「Seeed Studio SenseCAP LoRaWANソリューション」の特徴は以下のとおり。

  • LoRaWANプロトコルクラスAに対応
  • 超長距離のデータ伝送:見通しの良い場所で最大10km
  • 複数のISMバンドに対応:EU868、US915、AU915、AS923
  • イーサネットバックホールに対応。オプションでセルラーバックホールにも対応
  • 産業グレードの保護:エンクロージャーによる保護等級IP66。野外での利用可。-40°C~+70°C(SenseCAPセンサーは最大+85°C)で動作可能
  • 高い信頼性と安定性
  • センサーバッテリー寿命は3年以上

「Machinechat JEDI Pro Seeed Studio Edition」は、以下の特徴を備える製品としている。

  • 統合されたSeeed Studioデータ収集装置を使用し、Seeed StudioのSenseCAP LoRaセンサーからデータをインジェスト(Chirpstackのインストールが必要)
  • 統合されたHTTP APIサーバー、TCPセンサー、MQTTブローカーを使用し、ほぼあらゆるデバイスやセンサーからのデータを収集(インジェスト)
  • 折れ線グラフ、面グラフ、タイルグラフ、レーダーチャート、データグリッドチャートにより、リアルタイムや過去のデータを視覚化するダッシュボードを構成
  • 統合されたルールエンジンを使用してデータを監視し、電子メール通知やSMSを作動させるか、外部スクリプトを実行(電子メール通知にはSMTPサーバーが必要。SMSにはTwilioアカウントが必要)
  • デバイスやマシンがオンラインかどうかを監視
  • データ収集装置とアクションプラグインを通じ、ユーザーのカスタムビジネスロジックをIoTデータに適用
  • 仮想データセンサーにより、デベロッパーやインテグレーターはプロジェクト展開シナリオのシミュレーションが可能
  • ローコード:コーディングではなく設定にフォーカス
  • 統合データベースと管理されたローカルデータストレージにより、サービスとして実行するシングルアプリケーションバイナリー
  • SSLサポートとロールベースのユーザー管理による、ブラウザベースのユーザーインターフェース
  • 最大200デバイス・センサーをサポート
  • Windows、macOS、Linux、Raspberry Pi、BeagleBoneプラットフォームに対応

システムの中心となるゲートウェイ「SENSECAP LORAWAN GATEWAY」の価格は4万8674円(税抜)。その他、センサー類は1万2077円(税抜)よりとなっている。

もっと地下へ、GreenForgesは地下農場システムで野菜を栽培

垂直型農場と聞けば、空に向かって伸びているさまを思い浮かべるのが一般的だろう。例えばAerofarms(エアロファームズ)、Plenty(プランティー)、Gotham Greens(ゴッサムグリーンズ)などの企業は、高層のプラントに栽培装置を満載して農業に革命を起こそうとしている。しかし、ある人物は地下に着目しているようだ。その人物とはPhilippe Labrie(フィリップ・ラブリー)氏。2019年に設立されたプレシード(シード以前のステージ)の地下農業スタートアップ、GreenForges(グリーンフォージズ)のCEOかつ創業者である同氏は、垂直型農場技術を地下に導入することを考えている。同氏もキャリアの初期には、屋上の温室で農業の可能性を求めて空を見ていたが、空には限界があることに気がついたという。

ラブリー氏は次のように話す。「都市部の屋上温室にはどのくらいの食料生産能力があるか、という分析を行っている論文を偶然見つけました」「2050年で2~5%、という低めの数字でした。誰も『地下で栽培できないか?』とは考えなかったようです」。

空間を利用した事業である農業には常に制約があった。農耕が始まったとされる1万2000年前、人々は森を切り開いて農地にしていた。この自然破壊的なプロセスは現在も続いている。農家がより多くの食物を育て、より多くの利益を得るためには、さらに多くの土地が必要である。従来の垂直型農場は、都市部にプラントを設置し、栽培装置を積み重ねることでこの農地転用という問題を解決しようとするものだ。しかし、それでもプラントの用地という問題が残る。そこでGreenForgesは、私たちの足元にある、使われていないスペース(地下)を利用しようとしている。

2年間の研究開発を経て、同社は農業技術のインキュベーター、Zone Agtech(ゾーンアグテック)と共同で、2022年春にモントリオール北部で最初の試験的な地下農場システムを稼働させることを計画している。GreenForgesの農業システムは、LED照明のコントロール、水耕栽培(土を使わない栽培)、湿度と温度の管理など、既存の屋内農業の管理技術の他にも、斬新なアプローチを採用している。

GreenForgesのシステムでは、大きなプラントを利用するのではなく、新たに建造される建物の下の地面に直径1メートルの穴を開け、そこに栽培装置を降ろす。メンテナンスや収穫の際は、それを機械で地表に引き上げ、人が修理や収穫を行う。今回の試験的なプログラムでは地下15メートルのシステムを利用するが、地下30メートルまでの農場システムを計画済みだ。

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    GreenForgesのシステムでは、地下の垂直型農場から栽培装置が機械で引き上げられ、利用者は地上で簡単に葉物野菜を収穫できる(画像クレジット:GreenForges)
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    画像クレジット:GreenForges
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    画像クレジット:GreenForges
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    画像クレジット:GreenForges
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    画像クレジット:GreenForges
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    画像クレジット:GreenForges

ラブリー氏によると、垂直型農場を地上から地下に移すことには多くの利点があるが、その中には、環境制御型農業が直面する最大の障害であるエネルギーコストを解決できるものもあるという。

「暑さ、寒さ、降雨、乾燥など、外の気候の変化に合わせて空調システムを常に稼働させなければならないことが、垂直型農場にとって最大のエネルギー負荷となっています。室内の環境を安定させるために、空調システムが必要なのです」とラブリー氏は話す。

このエネルギーコストという問題により、垂直型農場は従来の農法と比較して、二酸化炭素排出量と金額の両面で高くつく場合もあり、これが、多くの垂直型農場が葉物野菜のみを栽培している理由の1つだ。つまり、他の作物の栽培はエネルギーコストがかかり過ぎて割に合わないのである。しかし地下に潜ると「天気が変化しても室内で安定した環境を維持しなければならない」という課題が一気に解決される。

GreenForgesのエンジニアリングマネージャーであるJamil Madanat(ジャミル・マダナト)氏は次のように話す。「地下に潜った途端に季節に関係なく栽培できるようになります」「地下こそ が省エネの聖地です」。

マダナト氏によると、世界中どこでも、いつでもどんな環境でも、地下は温度が安定しているという。地上の温度変化に関係なく、マレーシアでは深度10メートルで温度は安定して20℃になり、カナダでは深度5メートルで温度は安定して10℃になる。

「電気やエネルギーの供給に関しては、条件が安定していれば経済的にもメリットがあります」とマダナト氏。「一度に大量のエネルギーを消費し、それをいきなり停止するのは電力網にとって良くありません。安定的な需要(供給)のほうが電力網にとっても好ましいのです」。

地下施設は外気温が安定していて、その結果エネルギーの需要も安定すれば、大規模な省エネと持続可能性につながるだろう。GreenForgesでは、植物の半分には昼間、残りの半分には夜間に照明を当てることで、照明にかかるエネルギーが常に同じになるようにして、さらなる安定化を実現している。

さらに、GreenForgesは、化石燃料の燃焼による環境への二酸化炭素排出を増やさないために、エネルギーのほとんどが太陽光や水力などの再生可能エネルギーで賄われている地域のみをターゲットにしている。

「単に、何かを燃やして屋内で食べ物を育てるのは理にかなっていないからです」とラブリー氏。

GreenForgesは、地下システムでは従来の垂直型農場に比べてエネルギー効率が30~40%向上する、と予測している。現在、同社は葉物野菜、ハーブ、ベリー類などの伝統的な屋内作物だけを扱っている。同社の計画では、地下30メートルの農場ではレタスを毎月約2400個、年間では約6400kg生産できる。しかしラブリー氏は、GreenForgesの効率が上がれば、将来的には他の野菜や作物、それも小麦のように代用肉になるような作物にも対応できるようになるだろうと期待している。

地下での栽培に障害がないわけではない。マダナト氏によると、トラックのタイヤ2本分しかないトンネルに収まる栽培装置の設計が課題だという。このような小さなスペースにシステムを収めるためには、独自のハードウェアソリューションを開発する必要がある。また、地下の湿気との戦いも残っている。

垂直型農場の先駆者であるPlentyやAerofarmsとは異なり、GreenForgesは食料品ブランドになることを望んでいない。その代わりに、高層ホテルやマンションの建設業者にアピールし、宿泊客や入居者に新鮮な野菜を提供することで、新たな収益源を生み出すことにフォーカスを当てている。

「建築物に組み込むことで、多くの可能性が見えてきました。ホテル会社や不動産開発会社にも関心を寄せてもらっています」とラブリー氏は話す。「建物の中に食料生産システムを組み込むことは、見た目ほど簡単ではありません。平米単価が非常に高い商業施設やマンションのスペースが犠牲になるからです。私たちのソリューションを利用すれば、地下の空間を収益化することが可能です」。

画像クレジット:GreenForges

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(文:Jesse Klein、翻訳:Dragonfly)

30cm下の土壌を調査し、栄養素や微生物といった実際の畑の化学的特性把握を支援するEarthOptics

ここ数十年の間に、持続可能で効率的な農業は、巨大なトラクターの問題からビッグデータの問題へと変化してきた。スタートアップのEarthOptics(アースオプティクス)は、精密農業の次のフロンティアは土壌の奥深くにあると考えている。同社は、ハイテク画像処理技術を用いて、従来の技術よりも早く、より正確に、より安く、農地の物理的および化学的組成をマッピングできると謳い、そのソリューションを拡大するために1000万ドル(約11億円)を調達した。

EarthOpticsの創業者でありCEOのLars Dyrud(ラース・ダイルード)氏は「土壌をモニタリングするほとんどの方法は、50年間変わっていない」とTechCrunchに語る。そして「農業における精密データや最新のデータ手法の利用については、非常に多くの進歩があった。しかし、その多くは植物や季節的な作業に焦点を当てたもので、土壌に対する投資は比較的少なかった」と続ける。

植物が根を張る土壌をより詳しく調べるのは当然だろうと思うかもしれないが、単純な事実としてそれは難しいことだ。航空写真や衛星写真、IoT技術を組み込んだセンサーが水分や窒素などを検出し、農地の表面レベルでのデータは非常に豊富になった。しかし、1フィート(約30センチメートル)より深くなると簡単にはいかない。

同じ畑でも部分ごとに、作物の出来に大きな影響を与える土壌圧縮などの物理的特性や、溶解している栄養素や微生物叢などの化学的特性のレベルが大きく異なる場合がある。こういった違いを調べるための最善の方法は「非常に高価な棒を地面に突き刺すこと」だとダイルード氏はいう。それらのサンプルから得られるラボの結果によって、畑のどの部分を耕したり肥料を与えたりすべきかを判断する。

画像クレジット:EarthOptics

棒による調査は重要であり、農場では今も行っているが、数エーカー(数千平方メートル)ごとに土壌サンプルを採取することは、1万エーカー(約40平方キロメートル)もの土地を管理する場合では、大変な作業となってしまう。そのため、データが得られない多くの農場では、すべての畑を耕し肥料をまき、何のメリットもない、むしろ有害なプロセスに多額の費用を投じている(ダイルード氏は、米国では約10億ドル[約1100億円]もの費用をかけて不必要な耕作を行っていると推定している)。そしてこれは、地中に安全に封じ込められていた大量の炭素を放出してしまうことにもなる。

画像クレジット:EarthOptics

EarthOpticsは「高価な棒」に相当する部分を最小化することで、根本的により優れたデータ収集プロセスを目指している。同社は、地中探知レーダーと電磁誘導を利用した画像処理システムを構築し、土壌深部の組成地図を作成している。1つのサンプルから何エーカー(何千平方メートル)ものデータを推定する方法に比べ、より簡単で、より安く、より正確なものだ。

GroundOwl(グラウンド・オウル)とC-Mapper(シーマッパー、Cはcarbon[炭素]の頭文字)という同社の2つのツールでは、機械学習がその中核をなしている。同社のチームは、非接触データを通常よりはるかに低いレートで採取された従来の土壌サンプルと照合するモデルを学習させ、従来よりもはるかに高い精度で土壌の特性を正確に予測できるようになった。画像処理装置は、通常のトラクターやトラックに搭載可能で、数フィート(数十センチメートル)ごとに測定値を取得する。物理的なサンプリングは継続して行われるが、その頻度は数百回から数十回のレベルに低減した。

現在の方法では、何千エーカーも(何十平方キロメートル)の農地を50エーカー(約20万平方メートル)ごとに分割し、この区画にはもっと窒素が必要だとか、この区画は耕す必要があるとか、この区画にはあれこれの処理が必要だとかいったことを考える。EarthOpticsは、それをメートルの単位にまで細分化し、そのデータを、耕す深さを変えられるスマート耕運機のようなロボット化された農業機械に直接供給することができる。

画像クレジット:EarthOptics

畑に沿って走らせると、必要な深さだけ耕して進んでいく。もちろん、誰もが最新の農業機械を持っているわけではないため、データは、より一般的な地図として、耕したり他の作業を行ったりする時期など、ドライバーに一般的な指示を提供することもできる。

このアプローチが軌道に乗れば、コストダウンを目指す農家にとっては大きな節約になり、規模拡大を目指す農家にとっては、農地面積や耕作費用に対する生産性が向上することになる。そして最終的なゴールは、自動化やロボット化された農業を実現することでもある。この移行は、機器や運用方法を練り上げている初期段階ではあるが、いずれにしても必要となるのは優れたデータだ。

ダイルード氏は、EarthOpticsのセンサーシステムが、ロボット化されたトラクターや耕運機などの農業機械に搭載されることを期待しているが、同社の製品は、データと何万回もの現地調査での実測値を用いてトレーニングした機械学習モデルに他ならない、と述べている。

同社の1030万ドル(約11億3000万円)のシリーズAラウンドでは、Leaps by Bayer(リープス・バイ・バイエル、複合企業バイエルのインパクト投資部門)がリードし、S2G Ventures(S2Gベンチャーズ)、FHB Ventures(FHBベンチャーズ)、Middleland Capital(ミドルランド・キャピタル)のVTC Ventures(VTCベンチャーズ)、Route 66 Ventures(ルート66ベンチャーズ)が参加した。今回の資金調達では、既存の2つの製品の規模を拡大するとともに、明らかにすべての農場が関心を示すであろう次の製品、水分マッピングに着手する予定だ。

画像クレジット:EarthOptics

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

農家のDXを支援するFieldinがアグリテック仲間のMidnight Roboticsを買収

新型コロナが注目される以前から、農業ロボットにとってこの2年間は大きな意味を持っていた。人口増加と環境問題は、将来的に人々に食料を供給する方法を考える上で大きな原動力となってきた。またパンデミックは、多くの農家が現場作業員の確保に苦労していることから、その懸念に拍車をかけている。

2016年にテルアビブで行われたピッチオフ(投資家への売り込みコンペ)で優勝して、TechCrunchにでも紹介したFieldinが米国時間11月17日、Midnight Roboticsを買収する計画を発表した。外野からすると、お似合いのカップルだ。イスラエルとオーストラリアを経由し、現在はカリフォルニアを拠点とするFieldinは、農家のデータ収集と自動化を支援する。一方、Midnightはトラクターなどの農業機械にLiDARを利用したセンサー技術をもたらす。

Fieldinによると、同社の技術は1日程度で立ち上がるという。他の多くのサービスと同様に、同社は技術者を農場に派遣し、農家をサポートしている。少なくとも、新しい技術を手に入れなければならない既存の多くの技術に比べると、コスト的に楽だ。

この買収によって、Midnightの技術がFieldinの既存のソリューションに統合される。

Fieldinの共同創業者でCEOのBoaz Bachar(ボアズ・バチャー)氏は、プレスリリースで次のように述べている。「過去8年間、私たちは数百の農場と1万台以上のトラクターと、その他の農業機械をデジタル化してきました。大規模農業の世界ではどこよりも多いと自負しています。またその間、農場管理のベストプラクティスを伝えることができる大量の貴重なデータを集積しました。Midnight Roboticsを買収することで、農家はデータから得る洞察を自律的なアクションに結びつけるループを閉じることができます。農家は、自分が何をやるべきかを正確に知り、すべてを同じプラットフォーム上で、自律的に実行できます」。

Midnight Roboticsの共同創業者であるYonatan Horovitz(ヨナタン・ホロビッツ)氏とEdo Reshef(エド・レシェフ)氏はFieldinに移り、それぞれ自律担当最高責任者(chief autonomy office)とCTOになる。またこの買収により、両人はFieldinの共同創業者に名を連ねることになる。

画像クレジット:Midnight Robotics

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(文:Brian Heater、翻訳:Hiroshi Iwatani)

人工衛星で地表温度データを収集・解析するHydrosatがさらに11.4億円の資金調達

地理空間データのスタートアップであるHydrosat(ハイドロサット)は、地表温度分析製品の商業化を加速するため、シードラウンドで1000万ドル(約11億4000万円)を確保した。

Hydrosatは、赤外線センサーを搭載した人工衛星を使って地表の温度データを収集することを目指している。同社がサブスクデータ分析プロダクトとして販売する予定の温度データでは、水ストレス、山火事の脅威、干ばつに関する理解を深めることができる。カリフォルニア州での記録的な干ばつの年、米国西部で歴史的な火災シーズンが終わる今、その3つが将来も起こると予想することは極めてやさしい。

Hydrosatは、継続的な情報収集を計画している。各衛星が地球上のあらゆる範囲を継続的に監視するため、それぞれの衛星に特定の地域を監視させる必要がないという意味だ。

「環境モニタリングや農林業における多くの利用例で、そのことが非常に有益になっています。我々はデータを、将来のためにライブラリに保存しているため、その日、翌週、翌々年など、いつでも使えるのです」と同社のCEOであるPieter Fossel(ピーター・フォッセル)氏は最近のインタビューで語っている。

6月に500万ドル(約5億7000万円)の資金調達を完了後、またすぐに資金調達を行うことにしたのは「チャンスがあった」からだとフォッセル氏はいう。「我々は、ヨーロッパに拠点を置くすばらしいグループであるOTB Venturesと繋がりをもちました。同社はレーダー衛星のICEYEをはじめ、この分野の先進的な企業に出資してきました」。

「これまで既存の投資家シンジケートから得たサポートもありましたが、それに加え、この新しい投資家と一緒に仕事をする機会に恵まれたのです」とフォッセル氏は付け加えた。

今回の追加資金は、商用のサブスクリプション向けアナリティクス製品の2022年初頭の発売や、同年後半に宇宙サービスプロバイダーのLoft Orbitalと共同で実施する最初の衛星ミッションを十分に検討するために使用される。また、同社は、市場投入までの時間短縮のために従業員を大幅に増やすことできる。

画像クレジット:Hydrosat

同社は、資金調達のニュースと同時に、スイスの多国籍テクノロジー企業であるABBと協力し、宇宙で使う熱赤外機器を製造することを明らかにした。ABBは、これまでにNASA(米航空宇宙局)、カナダ宇宙庁、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)、および民間企業向けにイメージャーやセンサーを製造してきた。ABBが製造した赤外線イメージャーは現在、同名の会社が運営する温室効果ガスの排出量を検出・測定する宇宙機「GHGSat」に搭載されている。

また、Hydrosatは、NASAのランドサットプログラムの熱赤外データの調整を行っているロチェスター工科大学と提携している。同社が政府機関との取引を成功させるには、すでに政府機関と取引実績がある企業や機関との契約の確保が鍵となりそうだ。

Hydrosatは、すでに欧州宇宙機関との契約と、米空軍および国防総省との3つのSBIR(Small Business Innovation Research)契約を獲得した。空軍との契約の一環として、同社はニューメキシコ州の高高度気球に第1世代のイメージャーを搭載し、宇宙との境界まで飛行させた。同社にとって重要な技術的マイルストーンとなった。熱赤外画像を収集し、その処理と調整が正確に行えるようになったからだ。

また、同社は商業分野にも目を向ける。フォッセル氏は、農業や環境分野の企業とすでに契約を結んでいると付け加えたが、詳細は明らかにしなかった。

中期的な目標として、同社は16機の衛星を打ち上げたいと考えている。フォッセル氏によると、衛星群の数は、同社が提供できるデータの頻度ほど重要ではないという。中期目標を理解するには、データ収集の頻度が鍵となる。同社は、地球上のあらゆる場所で毎日熱赤外画像を撮影できるようにしたいと考えている。「それが中期的な目標であり、衛星群の規模は単にそれを実現する手段にすぎません」。

今回の資金調達ラウンドはOTB Venturesがリードし、Freeflow Ventures、Cultivation Capital、Santa Barbara Venture Partners、Expon Capitalも参加した。

画像クレジット:Hydrosat

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

初版から10年、その間何が起こったか?書評「垂直農場」10周年記念版

最初のメールを出してから初回のZoomチャットまで、ほぼ2時間が経過している。まさに日曜日である。ジムの後にシャワーを浴びたり、野球帽をかぶったりするのはやめておこう。いつ好機が再び訪れるかわからない。

20年以上にわたり世界中で垂直農法の利点を提唱してきたDickson Despommier(ディクソン・デポミエ)博士は、今でも筆者と同じように、このテーマについて熱心に語っているようだ。2020年末に「The Vertical Farm(垂直農場)」の10周年記念版が発売されたことも少なからず影響しているだろう。ほとんど不可逆的に記念日にこだわっているように見える文化の中にあって、この本のオケージョンは、主にその間の10年間に起こったあらゆる出来事を反映して得られたものだと感じられる。

「現時点では垂直農場の事例は存在しないが」とデポミエ氏は初版に記している。「私たちは進める方法を心得ている。複数階建ての建物に水耕栽培と空中栽培の農法を適用して、世界初の垂直農場を作ることが可能である」。

「The Vertical Farm:Feeding the World in the 21st Century by Dr. Dickson Despommier(邦訳:垂直農場―明日の都市・環境・食料 / ディクソン・デポミエ著)」、Picador、2020年、368ページ(画像クレジット:Picador)

この本の最新版では「And Then What Happened?(それから何が起こったのか)」というタイトルの第10章の形式をとったコーダ(音楽用語で終結部をさす)が提供されている。その問いの答えは、筆者自身も垂直栽培の世界との関わりの中で見出していることだが、1つの章で扱えそうにないと思われるほど長く、さらにいえば、テクノロジー系ウェブサイト上の短い書評で対処できるものでもない。

「この本が最初に出版された2010年当時、垂直農場は存在していなかった」とデポミエ氏は新しい章の冒頭に記し、始まりは米国とアジアにおける緩やかな細流であったと説明する。「この記事を書いている時点では、非常に多くの垂直農場が見られるようになっており、実際にどれほどの数になるか正確なところはわからない」。

続く垂直農場のリストは4ページ半にも及ぶが、あまり網羅的ではない。日本については同国最大の垂直農法企業Spread(スプレッド)だけを掲載するなどスペースの面で多少の譲歩を示し、日本には少なくとも200の垂直農場があると説明している。一方、米国のリストでは、TechCrunch読者にはおなじみのAeroFarms(エアロファームズ)とBowery Farming(バワリー・ファーミング)から始まっている。

網羅的なリストがなくても、気候変動の危機的状況に対処する潜在的な方法として垂直農法の概念を採用する国や企業の数の多さは、多くの人にとって、適切な時期の適切なアイデアであることの驚くべき証となるだろう。作物を密に植え込み垂直方向に積み重ねて都市環境で栽培するという概念を、万能の解決策だと考える人は(もしいるにしても)少ないだろうが、そのパズルの重要なピースになるかもしれないという考えには十分なモメンタムがある。

2021年に「垂直農場」という本を手にした人の多くにとっては、人間が作り出した気候変動という点に説得力はさほど必要ないと思う。しかしデポミエ氏は、自身の提唱の中の懸念、特に人口増加や過剰農業への危惧に関連する精微な論及を、今も精力的に行っている。食肉生産を明確に(そしてしかるべき価値があると筆者は考えている)ターゲットとすること以上に、一般的な食品生産のインパクトに関して、おそらく依然として認識を高めていく必要があるのだろう。

これらの大きな課題が、垂直農法の概念を造成する触媒的な要素となった。この考え方の現代的な定義が生まれたのは、コロンビア大学でデポミエ氏が率いた1999年の授業での思考実験からである。類似したタイトルの書 「Vertical Farming(垂直農法)」が1915年に出版されているが、それは突き詰めると、私たちが理解しているこの用語の意味とほとんど一致しない(米国の地質学者 Gilbert Ellis Bailey[ギルバート・エリス・ベイリー]氏が執筆したこの本はオンラインで無料で入手可能。爆発物を使った農業についてのおもしろいアイデアなどが掲載されていて、1時間を楽しくつぶすことができる)。

デポミエ氏はアイビーリーグの名誉教授(現在81歳)というステータスにあるが、その著書「垂直農場」は非常にわかりやすい言葉で書かれている。この本は、同氏のクラスの初期の思考実験の続きとなるような、ブループリントやハウツーガイドには至っていない。これもまた、最初の出版時には主要な垂直農場がなかったという事実を考えれば理解できる。この本の本質は、著者のユートピア的理想主義の観念に通じるものがある。

Bowery FarmingのCEOであるIrving Fain(アービング・フェイン)氏は、2014年の会社立ち上げを前にデポミエ氏に会っているが、最近の筆者との会話の中で、その所感の一端をうまくまとめて語ってくれた。

どの業界でも、ある時点でノーススター(=北極星、正しい方向を知るための目印のような存在)が必要になると思います。私が思うに、ディクソン(・デポミエ氏)はこの産業界の並外れたノーススターであり、いくつかの点で、屋内農業に対する人々の意識が高まる以前からその役割を果たしていました。彼が思い描くことはすべて実現するでしょうか?必ずしもそうはならないかもしれませんが、それは実際のところ、ノーススターのゴールではないのです。

これは「垂直農場」のような本にアプローチする正しい方法だと思う。デポミエ氏は気候変動、過剰人口、過剰農業の脅威に関しては確かに現実主義者だが、その解決策を論じるときには理想主義者だ。ある意味、そうした実存的な課題に直面したときに多くの人が(理解できると思うが)はるかに暗い何かに傾きがちな時代に、新鮮な息吹を吹き込んでいるのである。

この力学の最も強力な例示となるのは、屋内で植物を育てる上で太陽からの直接のエネルギーの代わりとして必要になる、エネルギーとコストに関する重要な問いである。この本の新しい章では、その答えとして、透過性の高い太陽光発電窓、雨水集水、炭素隔離などのグリーンな解決策を示している。農場のオンライン化が進めば、そのような解決策が正味プラスであるかを判断する複雑な計算を割り出す機会が増えてくるであろう。よりスケールの大きい、より優れたテクノロジーが、私たちを目指すべきところへと近づけてくれることを願ってやまない。

一方、筆者はスタートアップについて記事にする中で、グリーンテクノロジーにおける利他的なモチベーションについて、シニカルとは言わないまでも少なからず懐疑的になった。私の中の現実主義者は、少なくとも米国では、資本主義的な推進力の制約をまず取り除く必要があると固く信じている。企業は、垂直農場が積極的に収益を生み出せることをしっかり検証する必要がある。そうすることで、希望的観測ではあるが、この考慮すべき事柄の持続可能性の面で真の進歩を見ることができるのではないか。

BoweryのCEOの言葉を借りれば、ノーススターとして、この仕事は非常に効果的である。10年前に農業革命的なデポミエ氏と「垂直農場」が触媒的な作用を果たしたことの他に、その例証を語る必要はないだろう。

「The Vertical Farm:Feeding the World in the 21st Century by Dr. Dickson Despommier(邦訳:垂直農場―明日の都市・環境・食料 / ディクソン・デポミエ著)」、Picador、2020年、368ページ

画像クレジット:JohnnyGreig / Getty Images

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(文:Brian Heater、翻訳:Dragonfly)

【コラム】中南米の食品事情パラドックス

中南米の農場や畑ではたくさんの食糧が生産されているが、それでも4700万人の人々が今も飢餓状態にある。

この地域は果実、野菜、サケ、トウモロコシ、砂糖、コーヒーなど、世界の農水産物輸出量の約4分の1を占めている。農業は中南米の生計にとってなくてはならない部門であり、GDPの平均4.7%を生み出し、地域住民の14%以上の雇用に貢献している。

しかしながら逆説的に、地域の栄養不良の人々の数は毎年増え続けており、過去5年間に約1300万人増加している。汎米保険組織(PAHO)は、2030年までに「飢餓の影響は地域住民6700万人におよび、この数値に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの波及効果は考慮されていません」と推定している。

主要な責任の一端は、食品廃棄にある。世界で生産される食品の3分の1以上が使用されずに廃棄されており、中南米・カリブ海も例外ではない。流通網が改革、強化されれば、この量の廃棄食品は世界で最大20億人に栄養分を与えるのに十分だ。

それには課題がある。中南米の栄養不良対策が成功するためには、アグリテックとフードテックの技術的ソリューションが当地から生まれる必要がある。中南米は膨大な天然資源を有しているだけでなく、中南米の人々ほぼ全員が、何らかの形で食料不安を経験している。問題を理解している人は最適な解決策を構築するのに最適な人たちだ

Nilus(ナイラス)の最高執行責任者、Ady Beitler(アディ・バイトラー)氏が雄弁に語っている。「世界には飢饉を撲滅するために必要な量以上の食糧があります。それは間違いありません。ないのは、最も必要としている人たちにその食糧を届ける流通システムです」。

幸いなこと、中南米はアグリテックやフードテックのソリューションを創り出し、農業効率を高め人々を飢饉から救う創造力の温床でもある。起業家たちは農民が自分たちの役に立つツールを利用し、食品廃棄を減らし植物由来製品を開発する手助けをする。そんなソリューションは、畑から皿まで、食糧生産システムのさまざまな部分に取り組んでいる。

食品廃棄を減らすことが期待されるイノベーションのカテゴリーの1つが、農業従事者の生産性を上げるためのツールだ。例えばブラジル、ミナスジェライス州の会社Sensix(センシックス)は、ドローンと機械学習を使って農地の肥沃度のマップを作っている。チリのスタートアップ、Ciencia Pura(シェンシア・プラ)は、自然光が得られない時、さまざまな成長段階に 合わせた植物に光を当てるソフトウェアを開発している。

コスタリカのスタートアップ、ClearLeaf(クリアリーフ)は、植物の成長を促進する天然由来の殺菌剤を開発した。そしてブラジルのスタートアップ、SensaIoTech(センサイオテック)は、監視して害虫を適時に検出・特定するための情報を収集するプラットフォームを運営している。

サプライチェーンもまた、食品廃棄を防ぎ、その結果温室効果ガス排出量を減らすための重要な位置にいる。

規格外」を理由にある地域で捨てられる食糧は、人々が飢餓に苦しむ別の地域では十分健康的で消費可能だ。アルゼンチンのスタートアップらが流通を改革しようとしているのはそれが理由だ。Nilusは、食べるのは完全に安全だが、いつもなら捨てられてしまう食糧を回収し、低所得地域に割引価格で販売している。Savetic(サベスティック)は、商品を追跡、データ分析して消費者の購買傾向を予測することでスーパーマーケットの食品廃棄を減らす。

もう1つの食品廃棄を減らすカテゴリーは、農業廃棄物の再利用だ。チリのスタートアップ、Fotortec(フォトーテック)は、農業廃棄物をキノコ類に転換して、香料やタンパク質増強剤に使用する。

そして、タンパク質と栄養分を環境に優しい形で提供する植物由来製品を作っている起業家たちもいる。メキシコシティーのPlant Squad(プラント・スクワッド)は、栄養豊富で環境に配慮した植物由来の代替タンパク質製品を開発している。ブラジル、サン・レオポルドのFaba(ファバ)は、ひよこ豆から持続的な方法でタンパク質を抽出している。

中南米の食糧システムは巨大かつ複雑なので、1日で変わることはない。しかし上に挙げたスタートアップ(他にもたくさんいる)は、集団的行動の道を開き、起業家が必要とする経済的支援を巡る認識を高めている。

アグリテックとフードテックの分野は、世界と地域の投資家やエコシステム構築者たちの関心を呼んでいる。もし起業家たちがこうした重要なエコシステム関係者からもっと支援を受けられるようになれば、とてつもない量の食糧廃棄物が減り、起業家たちは中南米に魅力的で持続可能なフードシステムを作るだろう。

編集部注:Daniel Cossío(ダニエル・コッシオ)氏はVillage Capital Latin Americaのリージョナル・ディレクターとして、地域のより公正な未来の構築に取り組んでいる。

画像クレジット:Jose Luis Raota / EyeEm / Getty Images

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(文:Daniel Cossío、翻訳:Nob Takahashi / facebook

微生物を活用した最先端のバイオテックソリューションPluton Bioscienceが7.4億円調達

現在、我々が生物学と農業の分野で直面している問題の多くは、実は以前、人間ではないある生物体が経験していたものである。自然界のどこかには、科学者や生物工学者が再現するのに悪戦苦闘しているプロセスを、自然かつ効率的に実行してしまう微生物が存在している。Pluton Biosciences(プルトンバイオサイエンス)は、そうした微生物またはそれに類する生命体を見つける方法を開発したという。同社はすでに、アンチモスキート(蚊の駆除)および二酸化炭素隔離の手法をデモしており、その他のデモも準備中である。

地球上には、動物および植物の体内外、および土中に、科学でも解明されていないバクテリアやその他の微生物が存在している。人間が培養して制御できるようになった乳酸菌や大腸菌といったひと握りの微生物は革新的な変化をもたらし、さまざまな新しい食品が生まれ、さまざまな発見がなされ、産業プロセスが実現された。そうした微生物は、人類にとって極めて有益ではあるが、ほとんど無限に存在する微生物種のわずか一握りに過ぎない。

「微生物は1兆種類存在しており、人類が利用しているのはわずか数個に過ぎません」とPlutonの創業者兼CEOであるBarry Goldman(バリー・ゴールドマン)氏はいう。ゴールドマン氏は、Monsanto(モンサント)で約20年間、この未知の微生物たちを利用する方法を考えていた。「私たちは地球上の生物の計り知れないほどの多種多様性を利用して大きな問題を解決しようと試みています。自然に答えを見つけてもらおうというわけです」。

もちろん、地球が保有しているこうした未開拓の知的財産を何とか見つけ出して活用することを考えたのはゴールドマン氏が最初ではない。実際、Plutonのアプローチは驚くほど保守的なものだ。基本的には、微生物が大量に含まれている土やその他の媒体を一握り持ち帰って、何かおもしろいことが行われていないか調べるというものだ。

なんとも曖昧なやり方だと思われたかもしれない。実際にその通りだ。だが、体系的に行えば、土は膨大な微生物の供給源となるのだ。しかし、問題は、文字通り土を掘り起こして次のペニシリンを見つけ出そうとしていた頃は「その中から単一の生命体を特定したり、シーケンス解析(同定)することは決してできませんでした」とゴールドマン氏は説明する。1立方センチの土の中で微生物が抗生物質を生成したり、窒素固定を行ったり、インシュリン生成効果を発揮していることはわかっていた。そうした作用は計測できたからだ。だが、それらの微生物を分離するツールはなかった。

この微生物を分離するという次の段階は、研究者たちが数十年前に放置してしまい、まったく進んでいなかった。Plutonはその壁を突破したのだという。

「中核となる技術は、個別に生育させる方法はわかっていないが、その作用をテストすることはできる有機体の小集団を形成するというものです」とCEOのSteve Slater(スティーブ・スレーター)氏はいう。「この方法で、現在培養も、そしてもちろんシーケンス解析もできていない微生物の99.999%を生育させることが可能です」。

ゴールドマン氏とスレーター氏がこのプラットフォームの具体的な内容について話したがらないのは理解できるが、彼らの初期の成功は、このアプローチの有効性を証明しており、660万ドル(約7億4000万円)のシードラウンドが実施されたことから、投資家たちも納得していることが伺われる(PlutonはIlluminaのアクセラレーターが選択したスタートアップの成功ケースの1つだ)。

「鍵は、二酸化炭素の隔離、害虫や菌の殺傷など、関心のある表現型(遺伝子型の一部が目に見えるかたちで現れる生物組織の特質)をすべて選び出す方法を知ることです。そうすれば、その特定の作用を持つ有機体または遺伝子のセットをすぐに特定できます」とスレーター氏は説明する。独自のプロセスにより、彼らはこの分離プロセスを実行し、関心のある生命体のシーケンス解析を実行できる。

この「微生物マイニングエンジン」の有効性を証明するため、彼らは、蚊に効く天然の殺虫剤を探すことにしたという。蚊はもちろん、多くの地域で重大な驚異となっている。「蚊を殺す作用のある同定されていない新しい微生物を見つけることができるかと自問してみました。それは可能でした。しかも実に単純でした。実際数カ月で見つけることができました。バリーの家の裏庭で採取した土から見つかったのです」。

このような発見が創業者の極めて身近な所に眠っているのは驚くべきことだと思う人は、微生物の生物多様性の程度を過小評価しているかもしれない。これは、我々があまり注意を払わないような「驚くべき科学的事実」の1つであり、ショベル一杯の土には、何億兆の未知の有機体や百万の種が含まれているといったことは、よく耳にする話だ。私達はそうしたことを理解して「そう、生命はどこにでも存在する。すごいことだ」と思う。

耐抗生物質バクテリアの生物膜。棒状バクテリアと球状バクテリア。大腸菌、シュードモナス菌、ヒト(型)結核菌、クレブシエラ菌、黄色ブドウ球菌、MRSA。3Dイラストレーション(画像クレジット:Dr_Microbe/Getty Images)

だが、これらは、ゲノムがわずかに異なるだけの生命体ではない。バクテリアなどの微生物は驚くほど多様性に富み迅速に変化する。そうして、我々が存在することさえ知らなかった多様性の隙間をあっという間に埋めることで、植物の果糖製造の過程で捨てられた微粒子を食べたり、表面下のちょっとした暖かみや腐食有機物を利用して生き延びる方法を見つける。こうしたさまざまな生命体はいずれも、人類の食糧生産、薬品製造、農業などを一変させる可能性のある新しい化学経路を独自に発達させている可能性が高い。

Plutonが心配しているのは農業だ。農業分野は、他の分野と同様、CO2排出量を削減する方法を探している(動機はいくつもある)。PlutonはBayer AGと提携して土壌添加剤の開発に取り組んでいる。これが成功すれば、すでに存在する可能性が高い有機微生物の作用を単純に増幅させるだけで、さまざまなことを成し遂げられる可能性がある。

Plutonは次のように説明する。「私たちの概念実証研究によれば、微生物を適切に組み合わせて、種まきと収穫時にスプレー散布すれば、0.4ヘクタールの農地で年あたり約2トンのCO2を空中から除去できます。同時に、土中の栄養分も補給できます」。

蚊の駆除剤も商用化可能だ。また、害虫が耐性を獲得してしまっている現在市場に出ている殺虫剤よりも効果的な天然由来の殺虫剤も実現できる。

同じ方向性で製品開発に取り組んでいる企業は他にもある。Pivot Biosciences(ピボットバイオサイエンス)は、基本的に土中の微生物に肥料を作らせるために膨大な資金を調達した。Hexagon Bio(ヘキサゴンバイオ)も薬品の開発に使える自然に存在する微分子を特定するという同じような提案を行い資金を調達した。つまり、自然の金庫からは次々に財産が盗まれているが、財産が枯渇することはない。

「これが投資家に説明するのが最も難しい点です」とゴールドマン氏はいう。「1兆種というとてつもない多様性規模をどうすればわかってもらえるでしょうか」。

それでもPlutonは、シードラウンドで660万ドル調達したことからもわかるように、ある程度成功を収めているようだ。シードラウンドはオークランドのBetter Ventures(ベターベンチャーズ)が主導し、Grantham Foundation(グランサムファウンデーション)、Fall Line Capital(フォールラインキャピタル)、First In Ventures(ファーストインベンチャーズ)、Wing Venture Capital(ウイングベンチャーキャピタル)、およびYield Lab Institute(イールドラボインスティチュート)が参加した。今回調達した資金で、Plutonは、パートタイムから正規雇用への移行、ラボの設置などを実施して正規の会社として運営を開始できるはずだ。ゴールドマン氏の裏庭の生物多様性から抜け出すこと(実験施設の拡充)も考えているかもしれない。

画像クレジット:TEK IMAGE/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

自動化農業Iron Oxが従来の温室で使える移動・モニタリングロボットを発表

米国時間11月2日、Iron Oxはハウス栽培をアシストする移動式ロボットGroveを発表した。同社はベイエリアの屋内農業のアグリテック企業だが、この移動ロボットは最大450kgの荷物を持ち上げて運ぶことができるという。

Iron Oxでの主な積み荷は、180cm四方の屋内水耕栽培用のモジュールだ。そのモジュールをマシンのところに持って行き成長をチェックし、さらに、その他のケアや収穫の工程へ運ぶ。システムはLiDAR(ライダー)を搭載し、前方用と上方用のカメラが栽培スペースを上手にナビゲートする。

CEOのBrandon Alexander(ブランドン・アレクサンダー)氏は、プレスリリースで次のように述べている。「私たちはテクノロジーを利用して土地と水とエネルギーの使用量を減らし、増加する未来の人口を養おうとしています。短期的な目標は、農業系に対する気候変動の影響を抑えることです。そのための努力は、地球上の農産物生産部門がカーボンネガティブになるまで続けます」。

このロボットは、屋内農業への関心が高まり、スタートアップたちがもっと持続可能な方法で爆発的な人口増を養える農業を探している時期に登場した。この分野では垂直栽培が最もバズっているキーワードだが、Iron Oxのソリューションはより従来的な温室が対象となっている。ただし、最初から全面的な自動化を目指している。

カリフォルニアに本社のあるIron Oxは最近、テキサスに5万平方メートルの屋内農場を立ち上げた。2021年9月に同社は5300万ドル(約60億4000万円)のシリーズCを調達し、調達総額が9800万ドル(約111億6000万円)になっている。

画像クレジット:Iron OX

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(文:Brian Heater、翻訳:Hiroshi Iwatani)

インドのアグリテック大手DeHaatが約131億円調達、世界第2の生産量を誇るインド農業に注目が集まる

インドの農家にオンラインで総合的な農業サービスを提供するDeHaatが、インドのアグリテックスタートアップとしてはこれまでで最大となる資金調達ラウンドで1億1500万ドル(約131億円)を調達した。インドでは年間1兆ドル(約113兆8350億円)の小売支出のうち、その3分の2を農産物が占める。


創業10年のスタートアップのシリーズD投資ラウンドは、SofinaとLightrockが共同でリードした。他に、Temasekと現存の投資家であるProsus Ventures、RTP Global、Sequoia Capital India、そしてFMOがこのラウンドに参加した。これで同社のこれまでの資金調達総額は1億6100万ドル(約183億2000万円)になるが、この内1億5700万ドル(約178億7000万円)はここ30カ月のうちに調達している。

DeHaatはヒンドゥー語で「村」という意味で、同社はインドやその他の国の農家が直面する3つの大きな問題である「運転資金」「種子や肥料など農業資材の安定入手」「収穫物の安定市場」を解決しようとしている。インドの農家の収穫量のわずか3分の1しか大市場には届けられていない。

グルグラムとパトナーに本社を置く同社は、農業資材の販売と、機関投資家、そしてバイヤーの三者の役割を1つのブランドに集約し、また3000ほどの零細企業家に集荷や配達のサービスを提供している。

同社は、農家と積極的な関わりを持ちながらヘルプラインを提供し、また社名と同名のAndroidアプリを複数言語対応で提供している。

SofinaのプリンシパルYana Kachurina(ヤナ・カチュリナ)氏は「総合サービスというユニークな特徴とフィジカル、デジタル両方の市場開拓努力で、同社はインド農業における重要なプレイヤーに育つ路線に確実乗っていると私たちは確信している」と述べている。

DeHaatによると同社は、ビハール州とウッタル・プラデーシュ州、ジャールカンド州、オリッサ州の65万人以上の農家にサービスを提供し、また同社のプラットフォーム上では850あまりのユニークなアグリビジネスを提供している。

同社の共同創業者でCEOのShashank Kumar(シャシャンク・クマール)氏はTechCrunchインタビューに対して、同社は今回の新たな資金は「インドの主要な農業クラスターすべて」に同社サービスを拡大するために投入すると語った。

彼によると、DeHaatはここ7カ月間で5倍に成長した。

これまでほとんど無視されていたインド農業に最近では多くのスタートアップや大手テクノロジー企業が群がり、中国に次ぐ世界第2の生産量を誇る果物や野菜の、多様な市場化方式を探求している。世界4大会計事務所の1つであるEYは、インドのアグリテック産業には2025年の売上が約240億ドル(約2兆7311億円)に達するポテンシャルがある、としている。

Amazonは最近、農家が作物を決めるために役立つリアルタイムのアドバイスと情報を提供し始めている。またMicrosoftは、100の村と協働してAIをデプロイし、プラットフォームの構築を目指している。

CEOのクマール氏は「私たちのチームは850名を超える深い専門知識のあるプロフェッショナルの大部隊になりました。彼らの専門分野は成長、戦略、サプライチェーン、農業科学と多岐にわたっています」という。人材募集はまだまだこれからも続く。

画像クレジット:DeHaat

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(文:Manish Singh、翻訳:Hiroshi Iwatani)

月面など長期宇宙滞在時の食料生産を目指しISS「きぼう」日本実験棟で世界初の袋型培養槽技術の実証実験

月面など長期宇宙滞在時の食料生産を目指しISS「きぼう」日本実験棟で世界初の袋型培養槽技術の実証実験

密閉した袋内で栽培されたレタス。写真左は収穫前の様子、写真右が地上に回収する前の様子

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月22日、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」にて、将来の月面探査などにおける長期宇宙滞在時の食料生産を目指した、世界初となる袋型培養槽技術の実証実験を実施したことを発表した。これは、「JAXA宇宙探査イノベーションハブ」の共同研究提案公募の枠組みで、JAXA、竹中工務店、キリンホールディングス、千葉大学、東京理科大学によって2017年から行われてきた共同研究の一環だ。

袋型培養槽技術とは、小さな袋の中で植物を増殖させるというもの。密閉した袋の中で栽培されるため、雑菌の混入がなく、外に臭いが出ない。設備が簡易でメンテナンスしやすく、省エネルギーで、人数に合わせた数量調整も簡単に行えるコンパクトなシステムという特徴がある。今回の実験は、微小重力環境、閉鎖環境での有効性、水耕栽培や土を使った栽培と比べた優位性を確認するため実施した。

実証実験用栽培装置

実証実験用栽培装置

「きぼう」内の実験装置の設置場所

「きぼう」内の実験装置の設置場所

実験装置は、44×35×20cm、重量5kgという小さなもの。この中で、3袋のレタスの栽培が行える。内部にはISSの飲料水を無菌化して培養液を作り供給する装置と、生育状況を定期的に自動撮影する装置が組み込まれている。また袋の中の空気交換も行われる。

実験は、2021年8月27日から10月13日までの48日間行われた。9月10日にはレタスの本葉が確認され、その後、順調に成長して収穫に至った。今後は、レタスと培養液、生育記録を回収して、宇宙での適用可能性やこの栽培方式の優位性を評価するという。また、レタスが食用に適しているかを調べるとともに、培養液を分析して、ISSの環境制御・生命維持システムで再利用処理が可能かを確認する。

月面農場モデルイメージ

月面農場モデルイメージ

JAXAでは、地球からの補給に頼らず、月面に農場を設営して長期滞在のための食料を生産する研究を行っている。将来的には、この袋型培養槽技術を用いた宇宙船や滞在施設での大規模栽培により、持続的な宇宙活動に貢献できるよう研究を続けると話している。

機械学習を使って作物の気候変動への適応を加速するAvalo

気候変動は世界中の農業に影響を及ぼしており、その解決策に単純なものはほとんどない。しかし、何千マイルも離れた場所に移動することなく、暑さ、寒さ、干ばつに強い作物を植え付けることができたらどうだろう?Avaloは、AIを利用したゲノム解析によって、この高温の世紀においてより丈夫な植物を育てるために必要な時間と費用を削減することで、こうした植物の実現を支援している。

アカデミアの世界に入る前にスタートアップを試してみたいと考えた友人2人によって設立されたAvaloは、極めて直接的な価値提案をしている。だがそれを理解するには科学的な知識が少し必要となる。

大手の種子会社や農業会社は、主要な作物の改良版の開発に力を注いでいる。トウモロコシや米について、暑さ、虫害、干ばつ、洪水への耐性を少しでも高めることで、農家の収量と利益を大幅に向上させることができる他、以前は育たなかった場所で植物を育てることも可能になる。

「赤道地域では収穫量が大幅に減少しています。それはトウモロコシの種子が少なくなっているからではありません」と共同創業者でCEOのBrendan Collins(ブレンダン・コリンズ)氏はいう。「塩水の侵入により農地が劣化しているため、農家は高地を移動しています。しかし、苗木を枯らす早春の霜に見舞われます。あるいは、湿度が高く湿った夏に発生する真菌に対処するには、さびに強い小麦が必要です。こうした新しい環境の現実に適応するには、新しい品種を作る必要があります」。

このような改良を系統的に行う上で、研究者は植物の既存の形質を強調する。これは新しい遺伝子のスプライシングではなく、すでに存在している性質を引き出すものである、ということだ。これまでは、例えば遺伝学入門編におけるメンデルのような感じで、いくつかの植物を育てて比較し、目的の形質を最も良く体現する植物の種を植え付けるという単純な方法で行われていた。

しかし現在では、これらの植物のゲノム配列が決定されており、もう少し直接的になる可能性がある。望ましい形質をもつ植物においてどの遺伝子が活性であるかを知ることによって、これらの遺伝子のより良い発現を将来の世代に向けた標的とすることができる。問題は、これを実現するには依然として長い時間を要することだ。10年単位の時間である。

現代のプロセスの難しい部分は、干ばつにさらされた状態における生存のような形質は単一の遺伝子によるものではないという問題からきている。それらは、複雑に相互作用する任意の数の遺伝子であり得る。オリンピックの体操選手になるための単一の遺伝子がないように、干ばつに強い米になるための唯一の遺伝子というものはない。そのため、企業がゲノムワイド関連解析と呼ばれる研究を行うと、その形質に寄与する遺伝子の候補が何百も出てきて、生きた植物でこれらのさまざまな組み合わせを苦労してテストしなければならない。しかもそれを工業的な比率と規模で行うには何年もかかる。

試験目的で栽培されている、遺伝子的分化を検出して番号付けされたイネ(画像クレジット:Avalo)

Avaloの共同創業者でCSOのMariano Alvarez(マリアーノ・アルバレス)氏は「遺伝子を見つけて、その遺伝子を使って何かを行う能力は、実際にはかなり制約されています。こうした形質はより複雑なものになるからです」と語る。「酵素の効率を高めようとするのは簡単で、CRISPRを使って編集すれば済みます。ですが、トウモロコシの収量を増やそうとすると、何千、ともすると何百万もの遺伝子がそれに寄与しています。干ばつに強い米を作るという大きな戦略を立てようとするなら(例えばMonsanto)、15年という時間と、2億ドル(約220億円)という金額を検討することになるでしょう【略】それは長期にわたる賭けのような取り組みになります」。

ここにAvaloが足を踏み入れる。同社は、植物のゲノムに対する変化の影響をシミュレートするためのモデルを構築した。同社によるとこのモデルは、15年間のリードタイムを2〜3年に短縮し、コストを同等の比率で削減できるという。

「そのアイデアは、より進化的に認識できる、より現実的なゲノムモデルを作り出すことでした」とコリンズ氏は語る。つまり、ゲノムと遺伝子をシステムの上でモデル化し、そのシステムに生物学と進化に由来するコンテキストが組み込まれていくというものだ。より優れたモデルでは、ある形質に関連する遺伝子についての偽陽性がはるかに少なくなる。ノイズ、無関係な遺伝子、マイナーな寄与因子などの除外をより多く行うからである。

同氏はある企業が取り組んでいる耐寒性を持つイネの例を挙げた。ゲノムワイド関連解析では、566個の「興味深い遺伝子」が発見され、各調査に要する費用は、必要な時間、スタッフ、材料を考慮するとそれぞれ4万ドル(約440万円)前後になることが示された。つまり、この形質を調査すると、数年間で2000万ドル(約22億円)もの資金が必要になる可能性があり、このような操作を試みることができる当事者と、時間と資金を投資する対象作物の両方が必然的に制限されることになる。投資収益率を期待するのであれば、アウトライヤー市場向けのニッチ作物の改良にその種の資金をつぎ込むことはできないだろう。

「私たちはそのプロセスを民主化するためにここにいます」とコリンズ氏はいう。同じ耐寒性のイネに関するデータ群の中で「興味深い32の遺伝子を発見しました。私たちのシミュレーションとレトロスペクティブ研究に基づき、これらすべてが真の因果関係を持つことがわかっています。そして、それらを検証するために、3カ月の期間で3つ、10のノックアウトを育てることができました」。

それぞれのグラフの点は、検査しなければならない遺伝子の信頼水準を表している。Avaloモデルはデータを整理し、最も有望なものだけを選択する(画像クレジット:Avalo)

ここで専門用語を少し明らかにしてみよう。Avaloのシステムは当初から、個別に調査しなければならなかったであろう遺伝子の90%以上を除外した。この32個の遺伝子は単に関連しているだけでなく、因果関係があり、形質に実際に影響を及ぼしているという確信が高かった。そしてこれは、特定の遺伝子をブロックし、その影響を研究する「ノックアウト」研究の簡潔版により立証されたものである。Avaloはその方法を「情報のない摂動による遺伝子発見」と称している。

ノイズからシグナルを引き出すという点では、機械学習アルゴリズムが本来持っている機能もその一部だが、コリンズ氏によると、同社は新しいアプローチでこの問題に取り組む必要があり、モデルが自ら構造や関係を学習できるようにする必要があったという。また、モデルが説明可能であること、つまり、その結果がブラックボックスの外に表示されるのではなく、何らかの理由で正当化されることも重要であった。

後者に関しては難しい問題だが、彼らは繰り返しシミュレーションを行い、興味深い遺伝子をダミーの遺伝子に相当するものと系統的に入れ替えることでそれを達成した。ダミーの遺伝子は形質を破壊することなく、各遺伝子が何に寄与しているかをモデルが学習するのに役立つ。

Avaloの共同創業者Mariano Alvarez(マリアーノ・アルバレス)氏(左)とBrendan Collins氏(ブレンダン・コリンズ)氏、温室のそばで撮影(画像クレジット:Avalo)

「当社の技術を使えば、興味深い形質のための最小限の予測育種セットを考案することができます。完全な遺伝子型をin silico(すなわちシミュレーション)で設計し、集中的な育種を行い、その遺伝子型を観察することができます」とコリンズ氏は語る。そしてコストが十分低いことから、小規模な作物やあまり人気のない作物、あるいは可能性に欠ける形質でも導入することができる。気候変動は予測がつかないので、今から20年後に耐暑性小麦と耐寒性小麦のどちらが優れているかは誰にもわからない。

「こうした活動にかかる資本コストを低減することで、気候耐性のある形質に取り組むことが経済的に実現可能な空間を解放するような役割を私たちは果たしています」とアルバレス氏は語っている。

Avaloはいくつかの大学と提携し、他の大学では決して日の目を見ることのなかった、回復力があり持続可能な植物の創造を加速させようとしている。これらの研究グループは大量のデータを保有しているが、十分なリソースを持ち合わせていないため、企業の能力を実証する優れた候補者にすぎない。

大学とのパートナーシップにより、大規模に利用する前にある程度の作業が必要な「十分に栽培品種化されていない」植物にもこのシステムを適用していくことが確立される。例えば、自然界に存在する大型の穀物に干ばつ耐性を付与しようとするのではなく、自然界に存在する干ばつ耐性を持つ野生の穀物を大型化する方が得策かもしれないが、それを解明するために2000万ドルを投じようとする者はいなかった。

商業面では、データ処理サービスを最初に提供することを計画している。つまり同社は、農業や製薬などの分野で実績はあるが速度に欠けている企業に、コストと時間の大幅な節約を提供する多くのスタートアップの1つとなる。うまくいけば、Avaloはこの種の植物を農業に持ち込み、種子ども給者にもなることができるだろう。

同社は数週間前にIndieBioのアクセラレーターを卒業したばかりで、すでに300万ドル(約3億3000万円)のシード資金を確保して大規模に活動を続けている。このラウンドはBetter VenturesとGiant Venturesが共同で主導し、At One Ventures、Climate Capital、David Rowan(デイビット・ローワン)氏、そしてもちろんIndieBioの親会社であるSOSVも参加した。

「ブレンダン(・コリンズ氏)は私に、スタートアップを始めることは教員の仕事に応募するよりもずっと楽しくておもしろいことだと確信させました」とアルバレス氏。「そして、彼は完全に正しかったのです」。

画像クレジット:Avalo

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

ランサムウェアBlackMatterのグループが米国食品業界を標的にしているとNSA、FBI、CISAが注意喚起

CISA(サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁)、FBI(米連邦捜査局)、NSA(米国家安全保障局)は共同で勧告を発表し、ランサムウェア「BlackMatter」のグループが米国の食品・農業分野の2つの組織を含む、重要インフラとみなされる「複数」の組織を標的にしていると警告した。

当局は被害者の名前を明らかにしなかったが、アイオワ州に本拠地を置く農業サービスプロバイダーのIowa New Cooperativeは9月にランサムウェア攻撃を受け、ハッカーからシステム解除と引き換えに590万ドル(約6億7600万円)を要求された。この攻撃に続いて、ミネソタ州に本社を置く農場供給・穀物販売協同組合であるCrystal Valleyにも同様に攻撃を受けた。

今回の勧告では、BlackMatterの脅威の概要、その戦術(バックアップデータの保存先やアプライアンスの暗号化ではなくワイピングなど)、検知シグネチャ、緩和策のベストプラクティスなどが紹介されている。また、BlackMatterは、Colonial Pipeline(コロニアル・パイプライン)への攻撃の背後にあったとFBIが発表した、今はなきランサムウェア「DarkSide」が「再ブランド化した可能性」があるとの見方も広がっている。

BlackMatterは、ランサムウェア・アズ・ア・サービス(RaaS)を提供している。他のグループがそのインフラを借りることができ、被害者が身代金を支払えば、そこから上前をはねる。勧告では、BlackMatterの身代金要求額は、暗号資産(暗号資産)で8万〜1500万ドル(約916万〜17億円)だと指摘している。

当局はまた、特に重要インフラに属する組織に対し、サイバーセキュリティの防御を強化し、強力なパスワードや多要素認証の使用など、セキュリティのベストプラクティスに従うよう促している。加えて、すべてのOSを最新の状態に保ち、ホストベースのファイアウォールを使用し、すべてのバックアップデータを確実に暗号化することを推奨している。

ランサムウェアの攻撃を受けた組織は直ちに報告し、ハッカーからの身代金の要求を拒否することも勧告している。

「身代金を支払うことで、敵対者がさらに別の組織を標的としたり、他の犯罪者がランサムウェアの配布に関与するようになったり、あるいは違法活動の資金源となったりする可能性があります」と3機関は警告している。「身代金を支払っても、被害者のファイルが復元される保証はありません」。

BlackMatterは、日本のテクノロジー大企業のOlympus(オリンパス)も攻撃しており、同社のヨーロッパ、中東、アフリカのネットワークが停止する事態となった。

画像クレジット:Joe Raedle / Getty Images

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(文:Carly Page、翻訳:Nariko Mizoguchi

炭素市場Agreenaは農家が環境再生型農業に切り替える経済的インセンティブを提供する

ヨーロッパの温室効果ガス排出量の24%は農業が占めているが、これは過去数十年間に行われてきた集約的な「工業型」農法と、肉の消費の増加によるところが大きい。しかし、新しいアプローチが農業界に旋風を巻き起こしている。「環境再生型農業(リジェネラティブ農業)」とは、劣化した土壌を自然に戻し、野生生物を増やし、地球を破壊する二酸化炭素を蓄えるというもので、文字通り土壌を炭素吸収源として利用する。

森林地帯を作り、泥炭地を復元することで、炭素を吸収すると同時に、ミツバチの授粉などに欠かせない自然多様性の減少を食い止めることができる。さらに、再生農業は、環境やCO2排出に焦点を当てた古い政府の補助金制度や、工業的な農業からの脱却にもつながる。

Agreenaはデンマークのスタートアップで、環境再生型農業に移行した農家が生み出す炭素クレジットを発行、証明、販売している。

2021年夏に設立されたばかりの同社は、このたびGiant Venturesとデンマーク政府のDanish Green Future Fundがリードし、470万ドル(約5億3000万円)のシード資金を調達した。また、欧州の多くの農家も参加している。

Agreenaのプラットフォームは、農家に「CO2e-certificate」を発行し、農家と購入希望者の間で販売することで、農家が従来の耕作地から再生農法に切り替えるための経済的なインセンティブを提供するという。

その仕組みとは?農家は自分の畑を登録し、再生農法に移行するためのアドバイスを受ける。そして、その変化をAgreenaが衛星画像と土壌の検証によって監視する。その後、農家はCO2e-certificateを単独で、またはAgreenaのマーケットプレイスを通じて、農家からカーボンオフセットを購入したい企業に販売することができる。買い手は、Agreenaのプラットフォームを介して、スポンサーしたCO2削減をフィールドレベルで追跡する。

AgreenaのCEOであるSimon Haldrup(サイモン・ハードルップ)氏は次のように述べている。「当社のチームは、カーボンサイエンティスト、ソフトウェア開発者、商業的グロースハッカーを含む30人のプロフェッショナルで構成されています。農業は、歴史的に誇り高い農業国であるデンマークに深く根ざしているため、会社はここで生まれましたが、私たちはヨーロッパ全体で規模を拡大しており、今後はグローバルに展開していく予定です」。Agreenaは、ハードルップ氏、Julie Koch Fahler(ジュリー・コッホ・ファーラー)氏、Ida Boesen(アイダ・ボエセン)氏によって設立された。

Agreenaは、初年度に5万ヘクタール以上の契約を締結し、発行されたカーボンオフセット証書の20%以上を事前に販売したという。

Agreenaには、いくつかの競合が存在する。農業分野のボランタリー炭素市場には、米国のスケールアップ企業Indigo(米国のユニコーン)、Nori(米国&ブロックチェーン特化)、英国・フランスを拠点とするSoil Capitalなどがある。しかし、Agreenaは、垂直統合されたカーボンプラットフォームが重要な差別化要因だとしている。

Giant Venturesの共同設立者兼マネージングパートナーであるCameron McLain(キャメロン・マクレーン)氏は、次のように述べた。「Agreenaの農業カーボンオフセットに対する垂直統合型のアプローチは、業界のニュアンスや農家にとってのインセンティブに共感的なもので、大きな期待を抱いています。また、Agreenaは、まだ誰も解いていない農業分野でのオンラインB2Bコマースを促進する有力なインターネット市場になれると信じています」。

画像クレジット:Agreena

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

IoTでミツバチの動きや健康状態をリアルタイムで追跡するBeeHeroの精密受粉プラットフォーム

精密農業をさらに超え、精密「養蜂」が未来志向の農家の心を捉えている。「BeeHero(ビーヒーロー)」は、2020年の登場とシードラウンド以来、急速に成長してきた。新たに1900万ドル(約21億1600万円)の資金を獲得したことで、当初の市場を超えて規模を拡大し、何千もの活発なミツバチの巣から収集した独自のデータをさらに活用できるようになる。

同社はミツバチの巣にIoT技術を導入することで、ミツバチの動きや健康状態を実質的にリアルタイムで追跡し、ダニの蔓延などを未然に防ぐことができる。その結果、作物の収穫量が大幅に向上し、巣箱が健康になり、結果的にトラクターに乗る回数も減らせる。巣箱を設置してから数週間ごとに様子を見に行くという通常の方法では、時間がかかる上に効率が悪く、その間に巣箱が崩壊していたり、受粉がうまくいかなかったりして、何エーカーもの農場を不作のシーズンへ導いてしまう。

BeeHeroのCEO兼共同設立者であるOmer Davidi(オメル・ダビディ)氏は「今日行われている受粉法は困難です。巣箱が不足していて、たとえ箱を手に入れられても、中に何が入っているのかわからず、ただ期待するしかありません。これでは、受粉を戦略的に行うことはできません。ストレス要因やさまざまなインプットとアウトプットを理解する必要があります。しかし、データをあまり必要としない古い産業でこれを行うのは難しいことなのです」と語っている。

画像クレジット:BeeHero

パンデミックが発生した当初の数カ月間のうちに製品を発売するという困難な状況にもかかわらず、農家とのつながりを構築する方法を見つけ出してからは、多くはゆっくりとだが、しかし確実に最新のソリューションを採用するようになっており、彼らの牽引力は目覚ましいものがあったとダビディ氏は語っている。彼ら農家はそのメリットに懐疑的で、(ビデオ通話やバーチャルデモなどで)手っ取り早い解決策を提示するスタートアップの創業者なんて当然ながら詐欺師だと疑っている。

「当初、私は『ひまわりやカシューを100%増やしたとみんなに伝えなければならない!』と言っていました。ただ、気をつけなければならないことがあります。彼ら農家は何世代にもわたって同じやり方を続けてきたのです。いきなり『私が新手法を解明しました』と言っても、すぐに信用を失ってしまいます」と同氏は説明した。「そのため、私たちは約束以上のことをしなければなりませんでしたし、それによって、より手がかからずに導入できるプロセスを構築することができました。そして、一度でもその成果を見ると、毎年それをやりたいと思うようになるのです」。

現在、BeeHeroは、世界的にアーモンドの生産量が多いカリフォルニア州の複数のトップアーモンド生産者と提携している。2021年末までには、10万個の巣箱を管理し、米国最大の受粉業者になることを目指している(現在は第4位)。

スマートフォンのBeeHeroアプリで巣の健康状態を表示しているところ。(画像クレジット:BeeHero)

1500万ドル(約16億7100万円)のAラウンドには、ADMキャピタル、Rabo Food and Agri Innovation Fund(ラボ・フード&アグリ・イノベーション・ファンド)、iAngels(アイエンジェルズ)、FirstTime(ファーストタイム)、J-Ventures(Jベンチャーズ)、UpWest(アップウェスト)、Entrée Capital(エントリー・キャピタル)、Good Company(グッド・カンパニー)、the Arison Group(アリソン・グループ)、Gaingels(ガインゲル)が参加している。また、同社は欧州委員会、BIRD財団、イスラエル・イノベーション局から400万ドル(約4億4500万円)の助成金も獲得している。

今回の調達の第一の目的は、米国やアーモンド品目以外にも展開することだ。まずベリー類、アボカド、リンゴなどに展開し、次にヒマワリや大豆などの作物にも展開する計画だ。トマトのような温室栽培の作物も可能かもしれない。オーストラリアやヨーロッパも候補に挙がっているが、パートナーシップやその他の要素次第となる。少なくとも資金はあるということだ。

ダビディ氏は、今自分たちがいる段階に現実的でありながらも、増大し続けるミツバチの活動データベースが、他の方法でも価値あるリソースになることを期待している。

「データサイエンティストとして言えることは、我々は何も知らないということです」と彼は認めた。しかし「我々」とは業界全体のことであり、BeeHeroは蜂に関連するデータにおいて最大のコレクションを構築している。蜂の巣や受粉が、さまざまな天候パターン、作物や植え付けスタイル、農薬、外来種(彼らは殺人スズメバチを注視している)、その他多くの要因に対してどのように反応するかを知ることは、非常に価値のあることであり、同社の仕事はまだ始まったばかりだ。

「例えば、まだ解明されたばかりですが、ミツバチは雨が降る30分前には雨が降ることを知っています」とダビディ氏はいう。なぜ、どうやって?いずれにせよ、その情報は農家にとって、そしておそらく養蜂業全般にとっても、有益なデータとなるだろう。

「世界ミツバチ計画」や日本の文部科学省をはじめとする学術界での研究提携は、このデータの宝庫に未開発の可能性があることを示している。世界の食糧供給を維持するために受粉が非常に重要であるにもかかわらず、ハチへの脅威は増加の一途をたどっているため、私たちはどのような情報でも得る必要があると言えるだろう。

画像クレジット:BeeHero

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Akihito Mizukoshi)

Just Verticalのエレガントな家具で家庭でも水耕栽培ができる

屋内栽培産業は拡大傾向にある。水耕栽培(通常大きな倉庫で土壌を使わずに作物を栽培する)と伝統的な温室を利用する農園は、主にレタス、ホウレンソウ、ルッコラなどの葉物野菜向けに、私たちの食物サプライチェーンの不可欠な一部となり始めている。

垂直水耕栽培は、伝統的な栽培に代わる持続可能な選択肢として捉えられている。水の使用量は95%少なく、土壌への環境負荷を抑えることができ、都市部の農園は食の砂漠エリアや食料品店の近くに設置することで輸送コストを削減できる。しかし、屋内農場の照明への大量のエネルギー使用は、農業からの炭素排出量の抑制を妨げてきた。

この業界のリーダーAeroFarmsは2021年中に上場することを発表した。サンフランシスコを拠点とする垂直農園企業Plentyは、カリフォルニア州北部のSavewayの17店舗への進出を果たした。東海岸の都市農業企業Gotham Greensは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による景気後退を乗り切り、コロラド州カリフォルニア州などの地域に屋内農園の建設を進めている。全体として、世界の垂直農法市場は2026年までに58億ドル(約6400億円)に達し、年平均成長率は14%になると予想されている。

一方、カナダを拠点とするスタートアップJust Verticalは、屋内栽培のムーブメントに家庭菜園を組み込もうとしている。同社の2つの製品AevaとEveは、水耕技術を利用して月に8〜10ポンド(約3.6〜4.5Kg)の作物を栽培できるエレガントな家具として販売されている。

これらの製品は木製のキャビネットをベースにしており、成長機構は約5フィート(約1.5m)上方に伸びている。AevaとEveは葉物野菜、ズッキーニ、イチゴ、ハーブ、ピーマン、キュウリの栽培が可能だ。同社は現在、花の分野にも進出しており、マイクロブルワリー向けのホップの栽培にも対応する。またハードウェアの販売以外にも、種やピートモスのポッドのサブスクリプションモデルを提供している。

「1年中栽培に専念することが難しい人や、裏庭やバルコニーがない人などの利用を想定しています」と共同創業者のKevin Jakiela(ケヴィン・ジャキーラ)氏は語る。「ただのカウンタートップバージョンになることは意図しませんでした」。

競合にはClick and GrowAerogardensなどがあり、主にハーブ向けの製品を手がけている。一方で、Tower GardenZipGrowといった大規模な競合も存在する。だがJust Verticalは、他社のバージョンとは異なる方向性に目を向けており、装飾と菜園の両立を目指している。

ジャキーラ氏によると、Just Verticalの最大の市場はマンションなどの住居で、レストラン、学校、カフェ、バーがそれに続く。また同社は、オフィス空間への関心についても、純粋に食を重視するというよりはインテリアとして捉えている。

「マンションや住宅内のアメニティのような、ビルド済み製品の一部になりたいと思っています。食洗機や洗濯機を選ぶように人々が選択する、電子レンジに準ずるような存在です」とジャキーラ氏はいう。「IKEAのような大型小売店への参入も考えています」。

同社はこれまでに1500台を売り上げ、District Venturesからシード投資を受けた。同ファンドはArlene Dickinson(アーリーン・ディッキンソン)氏が設立し、ジェネラルパートナーを務める。(同氏はShark Tank[アメリカ版「¥マネーの虎」]のカナダバージョンの番組Dragon’s Denに、Shark TankではShark[サメ]と呼ばれる投資家として出演している。)Just Verticalは現在、9月のシリーズAを目指している。

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ただ、Verticalの600〜1000ドル(約6万6千~11万円)という価格の高さを考えると、食料安全保障や環境問題への大きなインパクトに直面している家庭に対して、実際に変化をもたらす可能性は低いとも言えるかもしれない。

現在Just Verticalがターゲットとしている消費者は「Whole Foods(アメリカの高級スーパー)の買い物客」であることをジャキーラ氏は認めている。それでも同社のウェブサイトでは、人々が自分たちの食料を栽培することにより、1億1200万マイル(約1億8024km)超の食料輸送が節約されたことや、200万リットルを超える水が節約されたことなど、製品の環境上の利点を示唆するデータを取り上げて、自社のミッションを強調している。会社が規模を拡大するにつれて、社会的、ビジネス的なインパクトが生み出されていくことをジャキーラ氏は期待する。

「ホビイストから脱却し、より大きなインパクトを求めていきたいと思っています」と同氏は語る。「Aevaを使うことでコストのオフセットを可能にしたレストランでの実績に追随する形で、食料品店の前線に立ちたいと考えています。社会的な要素に照準を合わせた、小売ネットワークと分散型ネットワークの構築を進めていきます」。

Just Verticalは、ハイエンドの消費者側から始めて市場への適合性を証明し、実証済みの成功を携えて食料品店に向かうことで、真にインパクトを与えることができると判断した。

「特にスタートアップにとって、食料品店のドアをノックして『こんにちは、アイデアがあります』と切り出すことにはかなりの困難がともないます」とジャキーラ氏。「実績と適合証明を持って出直すように言われるか、8カ月から12カ月のプロセスを保証もなく繰り返すことになるかでしょう。何度も繰り返すことになります。食料品店側としては、自ら新機軸に着手するという危ない橋は渡りたくないものの、同時に後れを取ることは避けたいと思っているのです」。

画像クレジット:leungchopan / Shutterstock

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(文:Jesse Klein、翻訳:Dragonfly)

【インタビュー】Misoca創業者が農業×ロボットにかける想い「有機農業を劇的に加速させすべての人に安心・安全な食環境を」

業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を政府が推し進めている。とはいえ、エッセンシャルワークと呼ばれる職種、つまり人々が日常生活を送る上で必要不可欠とされている医療・福祉や保育、小売業、運輸・物流などに関しては、重要度が高いのにDXが進まないというジレンマが生じている。

エッセンシャルワークの主な7つの職種の中に含まれていないとはいえ、農業も生活基盤に不可欠な仕事であることは疑念の余地がない。にもかかわらず、農業は最もDXが進んでいない分野の1つだ。

農業をロボットで変えようと起業した人がいる。トクイテン代表取締役豊吉隆一郎氏と共同創業者で取締役の森裕紀氏だ。高専時代にロボット研究に携わり、2011年にクラウド請求管理サービス「Misoca」を立ち上げた豊吉氏が、なぜ農業という分野を選んだのか、考える農業の未来などについて、豊吉氏と森裕紀氏に話を聞いた。

わずかなITツールで大きなインパクトを与えられる農業というフィールド

豊吉氏は、工業高等専門学校卒業後、Webシステム開発で独立し、2011年には後に20万事業者以上が登録するクラウド請求管理サービス「Misoca」を立ち上げた。

会社を売却した後もしばらくは同社内にとどまっていたが2018年11月に代表を退任し、2021年8月にロボット開発の知識を活かした有機農業を事業とする「トクイテン」を森氏と共同創業した。

ここで、疑問が生じる。なぜオフィスのバックヤード業務の効率化を進めるMisocaから農業へとシフトしたのだろうか。

実は、豊吉氏の実家は兼業農家。農業に幼い頃から親しんでいたという背景がある。農業に興味を持っており、家庭菜園まで行っていたところ、知り合いの農家の灌漑(かんがい、水やりのこと)システム開発に携わる機会を得たという。

「スマホから遠隔操作で畑に水やりをするシステムを作りました」と豊吉氏。「わずか数万円という費用に、自分の得意なプログラミング技術を使っただけなのに、『これで旅行にも行きやすくなる』ととても喜んでもらえた」と振り返る。

「これだけのことで、ここまでインパクトがあるのか」と、農業にITを持ち込むことの影響力の大きさに驚いた瞬間だった。

これほどまでに感動をもって受け入れられた理由を「農業分野ではDXが遅れているという現状がある」と豊吉氏は分析する。

「製造業なら、24時間、休まず人間以上のスピードでロボットが働けば、時間ごとの生産性は上がる。ソフトウェアなら、やはり人間が行う以上のスピードで正確に計算し続けられる。

しかし、農作物の成長スピードは、ロボットが入っても変わらない。そのため、コストをかけても無駄、という考え方があるのだろう」と豊吉氏はいう。

灌漑システム開発で、何度もその農家を訪れるうちに、成長していく作物を情を持って見つめるようになり、農業について真剣に学ぶため県の農業大学校1年コースに入学し、農業者育成支援検研修を修了。農業の素晴らしさと大変さを身をもって感じたという。

「20種類ほどの農作物を育てて収穫したが、在籍していた2020年の夏は特に暑かったため、熱中症で倒れてしまう人も出るほど過酷な状況だった。また、有機野菜は管理が大変で、そのぶん価格も高いのが現状。これを自動化できれば、大変な思いをすることなく農業を行え、有機野菜も一般化するのでは……との思いが強まった」。

そこで、高専時代の同級生であり、現在は早稲田大学次世代ロボット研究機構で主任研究員・研究院准教授となっている森氏と共同でトクイテンを立ち上げたのだ。

社名に込められているもの

それにしても、農業のスタートアップ企業名に「トクイテン」を選んだのはなぜだろうか。一体何の「特異点」なのだろう。

「それには3つの意味が込められている」というのは森氏だ。「ロボットの勉強会をしたときに、通常とは異なる(特異な)取り扱いをしなければならない場合のことを特異点というよね、という数学的な話が出た。自分たちがこれから挑む農業は、今までとは違うやり方で行うことが決まっていたという意味が1つ」と解説する。

続けて「宇宙論やロボット工学ではある種の状態が特異点に近づくと劇的に加速し変化することがあります。わたしたちの技術が浸透することで農業が劇的に変わるという意味の特異点。それから、人工知能も含め、新しい技術が出てきて加速度的に指数関数で物事が進んでいき、ある瞬間に世の中が劇的に変わるのも技術的特異点(シンギュラリティ)と呼ばれており、その意味も含んでいる」と森氏は説明してくれた。

「これまでの農業では、人が介入することで収穫(人が摂取するエネルギー)を得られたが、それを人間なしにまかなえるようにすることが、トクイテンの目指す農業。それは後から振り返ると、文明が変わってしまうほどの特異点になるのではないか。また、そういう特異点と呼ばれるような存在になりたい、という想いで、この社名を選んだ」(森氏)

農地法に守られているからこそ難しかった農地の取得

あくまでも、農業を事業の柱とするのがトクイテンなので、作物を植える土地が必要になる。しかし、その取得には苦労があったという。

それは、農地が農地法によって守られているからだ。この農地法では、地域の農業委員会から許可を得た農家または農業従事者以外に農地を売却してはならないと定められている。また、売却先の管理者が管理を怠り、害虫を発生させる、耕作を放棄して荒れ地にするといったことを防ぐため、信用を得ていることも重要になる。

「農地売却は二束三文にしかならないうえ、信用できない人に売ってしまうことで回りからつまはじきにされるなど、デメリットが多いため、売りたくてもそれをためらう農家が多い」と豊吉氏は解説する。

ここで活きてきたのが、農業大学校を修了したことや、地元の農業法人の土地を間借りし、有機トマトを苗から育てて出荷したという豊吉氏の実績だ。「この人たちなら、きちんと活用してくれる、というお墨付きをもらえた」と豊吉氏は振り返る。

「ようやく30a(アール)程度の農地売却の許可を得られそうというところまでこぎつけた。ビニールハウスを建て、来年の春から本格的に生産を開始したい」と豊吉氏は語る。

それでも国内で始めることのメリット

農地取得が難しいことに加え、国土の狭さ、台風が毎年来襲することも日本で農業のDXを進めることの難しいところだが、それでも日本だからこそのメリットがあると豊吉氏は考える。1つは水資源の豊富さ、そしてもう1つはロボティクスの強さだ。

「農業という業種で高齢化が進んでいることがDXを阻む1つの要因になっているが、高齢化が進んでおり、人手不足だからこそ、ロボットが活きてくる」と豊吉氏は説明する。

「まず、わたしたちはできあいの産業用ロボットに手を加えてすばやく現場投入し、実地経験を積みながら改善していくことを考えている。いちから作ると、1つの作業に特化したものができてしまい、年に数時間しか使わないようないくつものロボットで倉庫が満杯になってしまうこともあるからだ。

ただし、工業用ロボットは、人が近づかないところで作業するよう設計されているので、Co-ROBOT(人と一緒に作業できるロボット)という点ではまだまだ改善が必要。収穫作業や、人があまりやりたがらない運搬作業、農薬散布など、さまざまな作業を行える汎用性の高いロボットを目指したい」(森氏)

手間のかかる有機農業を劇的に加速させたい

2022年春に本格始動を予定しているトクイテン。まずはロボット×有機農業で作ったミニトマトを販売して収入を得るビジネスモデルを確立したいと考えている。

ミニトマトを最初の作物に選んだのは「ミニトマトが好きだったから」と豊吉氏。「嫌いな野菜だと、おいしくできたのかそうでないのかがわからないし、愛着もわかない。しかも、ミニトマトは、野菜の中で産出額が高く市場が大きい。また、最初のロボットは雨が当たらないビニールハウスの中で作業するものを作りたかったことと、品種によって、そこまで育て方に違いがないことも、選んだ理由」だと教えてくれた。

海外のベンチャー企業150社程度を調査し、有機農業を広げようとするところもあれば、作ったロボットの販売を事業の柱にしようとしているところもあったという。

豊吉氏は「ロボットを開発するが、それを単体で売るようなことは考えていない。あくまでも農業が主体で、農作物を売っていきたい」と語る。「ただ、蓄積されたノウハウを売って欲しいという要望が出たら、ロボットを使った有機農業の方法も含めたシステムという形で販売することもあるかもしれない」と展望を述べた。

「今は、有機野菜を作るのに手間がかかるため、一般的な野菜の2〜3割、場合によっては5割ほど高く販売されていて、なかなか手が出せない状況にある。でも、出始めは高くて手が出せなかった電気自動車を一般の人が買えるまでになっているのと同じように、ロボティクスによって、有機野菜が一般化するようになるとわたしたちは考えている。

今はまだ会社のメンバーが少なく、エンジニアをしている段階だが、農業分野の拡大や、有機野菜の一般化などにより、農業の特異点となれるよう邁進していきたい」と豊吉氏は語る。

画像クレジット:トクイテン

プロ農家の栽培技術を動画で継承するAGRI SMILEが3つの農業協同組合とともに「AGRIs by JA」を全国提供開始

プロ農家の栽培技術を動画で継承するAGRI SMILEが3つの農業協同組合とともに「AGRIs by JA」を全国提供開始アグリテック領域のスタートアップ「AGRI SMILE」は10月4日、持続可能な農業を実現するDXプラットフォームの一環として、動画で栽培技術を分かりやすく体系化することで農業協同組合(JA)の営農指導業務をDX化する「AGRIs by JA」(アグリス バイ ジェーエー)の提供を開始したと発表した。複数の産地のJAと連携して多品目の栽培ノウハウを網羅的に蓄積し、全国のJAの営農指導において活用できる仕組みを構築している。

プロ農家の栽培技術を動画で継承するAGRI SMILEが3つの農業協同組合とともに「AGRIs by JA」を全国提供開始AGRIs by JAは、従来対面で行われてきたJAの営農指導をDXすることで、営農指導業務の効率化や質の向上に寄与するという。プロダクトの開発や改善、配信する動画コンテンツの制作において、国内有数の農畜産物取扱高を有する「とぴあ浜松農業協同組合」「晴れの国岡山農業協同組合」「越智今治農業協同組合」とAGRI SMILEで協議会を設立し実行している。

AGRIs by JAが提供する主な機能は以下のとおり。

  • 協議会JAの営農指導員が実演・解説する100トピック以上の栽培基礎技術動画を視聴できる(農林水産省の作況調査対象となっている野菜計41品目のうち、87%を網羅)。作物ごとの栽培法はもちろん、畝立てや農薬散布、出荷調整などの作業、農業機械のメンテナンス、栽培基礎知識の講義などのコンテンツを揃えている(毎月更新予定)
  • 各JAからの産地内限定の動画の配信、また生産者へのお知らせを掲載できる掲示板を設置
  • 農林水産消費安全技術センター(FAMIC)の農薬登録情報に基づき、適用作物名用途から農薬を検索し、使用基準などを閲覧できるデータベースを搭載

プロ農家の栽培技術を動画で継承するAGRI SMILEが3つの農業協同組合とともに「AGRIs by JA」を全国提供開始AGRI SMILEによると、2019年より同社は、JA・行政機関とのプロジェクトにおいて栽培技術を動画にまとめて産地内で共有するAGRIs for Teamの取り組みを進めてきたという。プロジェクトを通して全国各地の生産者・指導員と対話する中で、信頼できる発信元からの栽培情報を生産者がオンラインでタイムリーに受け取れることや、就農者・従業員・直売所出荷者が基礎的な栽培技術を学べるインフラに関するニーズの高さに気づいたそうだ。

また、JAの営農指導員の業務は、良質で安全な作物を生産するための栽培指導だけでなく、農業経営の指導や生産部会活動の支援、農地の利用調整、地域農業振興ビジョンの策定など多岐にわたるという。営農指導の現場では、1対1、対面でのコミュニケーションのために、遠隔地への移動や生産者からの問い合わせ対応に割かれる時間も少なくない。新規就農支援や直売所の拡充といった、産地振興のための新しい取り組みを推進する上でも、業務の効率化による指導員のリソース確保が求められている。

そこでAGRI SMILEでは、基本的な栽培技術や農薬の使用基準、JAからのお知らせを生産者がオンラインで確認できるサービスを構築することで、産地の農業生産の底上げや、指導員の業務負担軽減に寄与できると考えた。この構想に共感した3つのJAとともに協議会を組織し、動画の撮影・編集やシステム構築を行ったという。プロ農家の栽培技術を動画で継承するAGRI SMILEが3つの農業協同組合とともに「AGRIs by JA」を全国提供開始

AGRI SMILEは、今後も、ユーザーアンケート等に基づくコンテンツ拡充や、営農に役立つ機能の追加などを、協議会JAとともに進めるとしている。対面指導とオンラインでの情報提供を組み合わせることで、産地の生産力を維持・向上させるために欠かすことのできない営農指導事業の充実を目指すという。また、プロダクトとR&Dにより栽培現場のDXを多面的に支援する。

牛群管理クラウドや牛向けウェアラブル機器など手がけるファームノートHDが14.4億円調達、累計調達額が約44億円に

牛群管理クラウドや牛向けウェアラブル機器など手がけるファームノートHDが14.4億円調達、累計調達額が約44億円に

ファームノートホールディングス(ファームノートHD)は9月29日、第三者割当増資による総額14億4000万円の資金調達を発表した。引受先は未来創生2号ファンド、マイナビ、丸紅、前田工繊キャピタル、千葉道場2号投資事業有限責任組合、中部飼料、SMBCベンチャーキャピタル6号投資事業有限責任組合、KOBASHI HOLDINGS、萩原建設工業、イノベーション・エンジンPOC第2号投資事業有限責任組合、個人・事業会社など。累計資金調達額は約44億円となった。

ファームノートHDは、ファームノートとファームノートデーリィプラットフォーム(ファームノートDP)の2社を保有する、2016年設立の純粋持ち株会社。

同社は、ファームノートを通じクラウド牛群管理システム「Farmnote Cloud」と牛向けウェアラブルデバイス「Farmnote Color」を提供している。Farmnote製品の有償ユーザー数は約1600生産者、契約頭数約32万頭(2021年8月時点、参考:日本の飼養頭数380万頭)まで成長したという。

またファームノートDPは、2020年8月に自社牧場による生乳生産を開始。牛舎設計やロボット搾乳といったリアル技術とFarmnote製品などのデジタル技術を統合し、労働生産性は国内平均の2倍以上を実現したという。設立8カ月でEBITDA黒字を達成したそうだ。

調達した資金は、酪農DXを実現するための製品群強化と拡大に向けたシステム開発投資をはじめ、顧客基盤拡大と既存顧客の継続課金収入(ARR)の増加を狙った営業体制強化とマーケティングへの投資、酪農生産事業の拡大と酪農DXプラットフォーム構築(設備・開発投資)にあてる予定。

酪農DXは、ファームノートホールディングスが保有する2社を通して推進している事業。内容としては、牧場におけるIoTやAIソリューションの活用、牛舎の設計から搾乳などの自動化技術・牛の遺伝改良技術・疾病予防技術といった酪農生産技術を高いレベルで両立・パッケージングしたものという。