Facebookで新たに違法コンテンツ放置の疑い―、レコメンド機能にも疑いの目

英紙の調査によって暴かれた、児童性的虐待やテロリストのプロパガンダに関連したコンテンツの拡散により、再びFacebookは、問題のあるコンテンツへの対処について厳しい批判にさらされることとなった。

UGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)をアルゴリズムで管理するというFacebookの仕組みは、確かに違法コンテンツの拡散に繋がっているようだ。

昨日のThe Timesの報道では、同紙の記者が仮のアカウントを作成したところ、すぐに不快で違法性の高いコンテンツを発見できたと、Facebookが糾弾されている。発見されたコンテンツの中には、小児性愛を想起させるイラストや子どもが暴力をふるわれている様子をおさめた映像、ISISサポーターが作成した断首映像やエジプトの教会でおきたテロ事件を称賛するコメントのように、テロリストのプロパガンダを支持するものが含まれていた。

しかもこれらのコンテンツをFacebookに通報した際にも、ほとんどのケースで、画像や動画が同プラットフォームの規約に違反していないという返答をFacebookから受け取ったとThe Timesは報じている(しかしその後、The Timesが身元を明かして再度Facebookにコンタクトしたところ、最終的にモデレーターがそのままにしていた小児性愛を想起させるイラストが削除されたとのこと)。

その後、The Timesが通報したコンテンツは全て削除されたとFacebookは話している。

まさにこのような問題を解決するために、現在ドイツで議論が進められている法案では、苦情を受け付けた後に違法コンテンツを早急に削除しないソーシャルメディア・プラットフォームに対して、巨額の罰金が課されることになっている。ドイツ政府も今月に入ってからこの法案に対する支持を表明しており、今期中に同法案が可決される可能性もある。

そしてヨーロッパの他の国も、ドイツに追従する可能性が高い。イギリスを例にとれば、先月ロンドンで起きたテロ事件を受けて、同国政府は再度ソーシャルメディアとテロリズムに対する警戒を強めており、内務大臣はFacebookを含むソーシャルメディア各社に対して、テロ組織のプロパガンダを自動で検出・削除するツールの開発を進めるよう圧力をかけている。

The Timesの調査にあたり、同誌の記者はFacebook上で30代のITプロフェッショナルに扮したプロフィールを作成した上で、100人以上のISISサポーターと友だちになり、児童の”わいせつもしくは性的な”画像を奨励するグループに参加した。「それからすぐに、児童性愛に関連した何十枚といういかがわしい画像を、ジーハーディストが投稿している様子を目にした」と同記者は記している。

The Timesが、発見されたコンテンツを勅選弁護士のJulian Knowlesに見せたところ、同コンテンツはイギリスのわいせつ罪にあたるか、テロ行為を直接もしくは間接的に奨励する言論や出版を禁じているTerrorism Act 2006に触れる可能性が高いという返答を受け取ったされている。

「もしも誰かが違法な画像をFacebookに通報し、シニア・モデレーターが画像を削除しないと決定した場合、Facebookは違法画像の出版および流通を奨励またはほう助したとみなされ、有罪となる可能性があります」とKnowlesはThe Timesに語っている。

Facebookは先月にも、コンテンツ・モデレーションの仕組みについて同様の批判を浴びていた。児童のわいせつ画像に関する通報に対し、Facebookがどのような反応を示すのかBBCが調査したところ、Facebookは通報を受けた画像の大半を放置していたのだ。実は昨年にも、非公開のFacebookグループ内で、小児性愛者が児童のわいせつ画像をやりとりしているのをBBCが報じていた。

FacebookはThe Timesの報道に関する広報担当者へのインタビューには応じなかったものの、グローバルオペレーション担当VPのJustin Osofskyは、TechCrunchに対するメールでの声明の中に「私たちはThe Timesによる通報をありがたく思っています。問題の画像はFacebookのポリシーに違反していたため全て削除されました。このような事態が発生してしまい、大変遺憾に思っております。依然として改善の余地は残されていますが、今後もFacebookに対して人々が当然抱いているであろう、高い期待に応えるため、努力を重ねていきます」と記している。

Facebookは世界中のオフィス(ヨーロッパのコンテンツはダブリンオフィスの管轄)で、”何千人”という数のモデレーターを雇い、24時間体制で問題のあるコンテンツへの対応にあたっていると言う。しかし20億近いMAU(厳密には2016年末時点で18.6億MAU)を記録しているFacebookのユーザーが、常に無数のコンテンツをアップロードしていることを考えると、モデレーターの数は大海の一滴でしかない。

人間の手で対処するとなると、現状のモデレーターの数では到底追いつかず、人件費を考慮するとFacebookがモデレーターの数を急激に増やすということも考えづらい(Facebook全体の従業員数でさえ1万7000人強しかいない)。

FacebookはMicrosoftのPhotoDNA技術を導入し、アップロードされた画像全てを予め準備された幼児虐待の画像と照らし合わせているが、問題につながる可能性のあるコンテンツを全て見つけるというのは、エンジニアリング力ではなかなか解決しづらい課題だ。というのも、問題のあるコンテンツを全て検出するには、文脈や各コンテンツの内容に応じて個別の判断が必要となるだけでなく、世界各国の法体制や文化的な考え方も考慮しなければいけない可能性があり、作業の自動化が極めて困難なのだ。

CEOのマーク・ザッカーバーグは、この問題に関して最近発表したコメントの中で、「ユーザーの安全を守るための素晴らしい手段のひとつとして」Facebookが「プラットフォーム上で何が起きているかをより速く、より正確に理解できるようなAIを開発中」だと述べている。

さらに彼は、Facebookには「もっとやるべきことがある」と認めたものの、コンテンツ・モデレーションの仕組みを改善するにはまだ「数年」かかると記している。

また、「現在私たちは、テロ組織の採用活動にFacebookを利用しようとしている人を早急に締め出すために、テロ行為に関する報道と実際のプロパガンダを区別できるようなAIの使い方を模索しています。問題を解決するには、報道内容を読んで理解できるようなAIを開発しなければならず、これは技術的に難しいことです。しかし、Facebookは世界中のテロ行為と戦うために、そのようなAIの開発に取り組んでいかなければいけません」という言葉に続き、彼は「個人の安全と自由を守る」という考えが、Facebookコミュニティーの哲学のコアにあることを強調していた(同時にこの考え方が背景となって、Facebookは言論の自由と不快な発言の間でうまくバランスをとることを余儀なくされている)。

究極的には、違法なコンテンツが最低ラインのモデレーションのハードルを上げ、Facebookのモデレーションプロセスを大きく変化させる原動力となっているのかもしれない(たとえ、その国/地域では何が違法な発言で、何が単なる悪口や不快な発言と解釈されるかは、別途議論を要するとしてもだ)。

ただし否定できない事実として、Facebook自身が、大手メディアによって発見されたコンテンツは規約に違反しているため、プラットフォーム上から削除されなければいけないと認めている。これは同時に、それではなぜ最初に通報があったときにそのようなコンテンツを削除しなかったのかという疑問にも繋がってくる。その原因は、モデレーションシステムの障害なのかもしれないし、企業全体の偽善なのかもしれない。

The Timesは、今回の調査結果をロンドン警視庁と国家犯罪対策庁に提出したとしているが、テロ行為や小児性愛関連のコンテンツを削除しなかったことで、Facebookが今後イギリスで刑事告発されるかどうかはまだわかっていない。

さらに同紙は、Facebookのアルゴリズムが問題のあるコンテンツの拡散を促しているということについても、同社を非難している。これはユーザーが特定のグループに加入したり、特定の人と友だちになった際に、問題のあるコンテンツが自動的に表示されるようになっている仕組みのことを指している。

この点に関しては、「おすすめのページ」機能のように、共有の友だちや職歴、学歴、加入しているグループ、インポートされたコンタクト情報や、表には現れないその他のさまざまな要因をもとに、各ユーザーが興味を持つ可能性の高いコンテンツが自動的に表示される機能がFacebookには確かに存在する。

ニュースフィードの機械学習アルゴリズムが偽ニュースを広めていると非難されたときと同じように、ユーザー同士やユーザーが興味を持っている事柄を繋ぎ合わせようとするアルゴリズムの動き自体が、犯罪行為を助長しているのではないかと疑われ始めているようだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

事故や事件などの緊急情報をAIで自動検知——報道機関向けサービス「FASTALERT」が正式公開

日本国内で発生している事件や事故、自然災害——こうした緊急情報は警察署や消防署からの発表を受け、報道機関が現地に足を運び、そして報じる。それが一般的な報道の形だった。それがこの数年で変化してきた。

その変化の中心にあるのがSNSだ。すでに実感している人も多そうだが、何かあればFacebookやTwitterに情報を投稿する時代。現場にいる人の投稿で事件や事故、自然災害の発生を知ることが増えている。東日本大震災が起きたときも、Twitterを使って最新の情報をチェックしていたという人は多かったのではないだろうか?

こうした時代の変化を受け、報道機関も公的機関だけでなくSNSを使って第一報の収集にいそしんでいる。だがそこには人手や時間的な制約といった課題もある。そんな課題に着目し、解決しようとするサービスがある。それが「FASTALERT(ファストアラート)」だ。

JX通信社は4月13日、FASTALERTの正式リリースを発表した。2016年9月に有償ベータ版としてすでに公開していたが、正式リリースにあたって解析精度を向上。インターフェースも刷新した。

SNSに投稿されている緊急情報をAIが自動で検知

FASTALERTは、AIによってSNSに投稿されている事件や事故、自然災害といった緊急情報を自動検知するサービス。これにより、報道機関はFacebookやTwitterなどを細かくチェックし続けなくとも、いち早く報道すべき緊急情報をパソコン、スマートフォンから知ることができる。

検知の仕組みだが、JX通信社 代表取締役の米重克洋氏によれば、自社開発のAIが「いつ・どこで・何が起きたのか」という3つのポイントでSNSに投稿されている情報を判定し、報道機関をはじめとしたユーザーに伝える。Twitterにはデマ情報も多く投稿されているが、FASTALERTはきちんとフィルタリングを行い、間違った情報は低く評価し、ノイズが入らないようにしているそうだ。

もともと、JX通信社はテーマ特化型のニュース収集サービス「Vingow(ビンゴー)」、ニュース速報特化型サービス「NewsDigest(ニュースダイジェスト)」など消費者向けのサービスを展開している印象が強いが、なぜ、法人向けのサービス開発に至ったのだろうか?

「我々は『ビジネスとジャーナリズムの両立』というビジョンを掲げ、その実現を目指しています。昨今、ニュースキュレーションアプリが登場したことで収益をあげる構造はできあがってきていますが、一方で報道機関やメディア運営は典型的な労働集約型でコストがかかったまま……。そんな状況に対し、緊急情報の収集を全て機械化することで、情報収集や取材のコストを削減できると思い、FASTALERTの開発に着手しました」(米重氏)

在京TV局や大手報道機関から高い評価

そして、2016年9月に有償ベータ版として公開。約半年の運営にもかかわらず、すでに日テレ、テレ朝をはじめとした複数の在京TV局、共同通信社、産経デジタルなど多数の大手報道機関で正式に採用されるなど実績も出ている。

この領域には米Dataminrのほか、日本のデータセクションSpecteeなどが先行して参入している。後発のサービスながらここまでの実績が出せた理由について、米重氏は「検知スピードの速さと情報の網羅性」を挙げる。FASTALERTはAIの活用に加え、ニュース速報アプリとして実績のあるNewsDigestのシステムも活用しているため、ノイズの少ない情報をスピーディーに検知してくる。報道機関からは「ニュースになる前の情報を知れるので、いち早く取材対応ができる」との声も挙がっているという。

実際、2016年10月に発生した東京の大規模停電、2016年12月に発生した糸魚川市大規模火災の第一報はFASTALERT経由だったそうだ。

また、情報の網羅性については国内だけでなく海外の緊急情報を検知する。そのため報道機関にとっては非常に重宝するサービスになっているとのこと。導入企業数は非公表とのことだったが、かなり高い評価を得ているそうだ。

今後について、米重氏は「ライフラインとして機能するプラットフォームを目指していく」と語った。

全自動衣類折りたたみ機「laundroid」の体験型カフェがオープン(製品デモ動画あり)

全自動衣類折りたたみ機「laundroid(ランドロイド)」を開発する日本のセブンドリーマーズは3月16日、同プロダクトを展示したカフェレストラン「laundroid cafe(ランドロイド・カフェ)」を3月18日よりオープンすると発表した。

ランドロイド・カフェでは、昼にはコーヒーやかき氷、夜には「焼かない焼き肉屋『29ON(ニクオン)』」のディナーを楽しむことができる。営業時間は午前11時から午後11時までで、年中無休(年末年始を除く)で営業予定。カフェの運営は飲食系スタートアップのfavyが手がける(favyは同日、サイバーエージェント・ベンチャーズなどから総額3.3億円を調達したことも併せて発表している)。

カフェには「ランドロイド・ルーム」と呼ばれる体験スペースが併設されており、プロジェクトマッピングを利用して「ランドロイドのある生活」を疑似体験できるようになっている。ランドロイド・ルームの利用には別途予約が必要だが、実際のランドロイドを触って衣類をたたむ様子を体験することができる。

本日開催されたメディア向けオープンイベントに登場したセブンドリーマーズ代表取締役の阪根信一氏は、「ショールームを作って販売するというのが通常の流れだと思うが、ランドロイドを体験しながら食事をするという空間をつくりたかった」とランドロイド・カフェ誕生の背景を語る。

セブンドリーマーズ代表取締役の阪根信一氏

また、ランドロイドカフェの運営を手がけるfavy代表取締役の高梨巧氏は「このレストランでは、日本のスタートアップが開発した機械を使って料理工程を削減している」と語り、テクノロジーと飲食の融合をアピールした。ちなみに、このカフェには店員の呼び出し用にエスキュービズムが提供するIoTデバイス「noodoe(ヌードー)」が採用されている。だから、デバイス好き、スタートアップ・プロダクト好きのTechCrunch Japan読者も楽しめることだろう。

IoT店員呼び出しデバイスの「noodoe」

阪根氏によるランドロイドの製品デモ

今回のオープンイベントで、これまで注目されていたランドロイドの販売価格が明らかとなった。阪根氏によれば、価格は185万円〜(税別)で、5月30日から一般販売が開始されるようだ。

また、セブンドリーマーズは同時に「laundroid購入宣言キャンペーン」を行うことを発表。これは、SNS上で購入意思を表明した後、実際にランドロイド購入すると各種特典がもらえるキャンペーンだ。実施期間は2017年3月16日〜4月30日となっている。

セブンドリーマーズは2011年の創業。同社は2015年6月に15億円をシリーズAで調達している。続いて2016年11月には60億円の資金調達を行っており、同社の累計調達金額は75億円だ。今後の展望について阪根氏は、「今後は他社製品とランドロイドとのコラボも予定しているので、楽しみにして頂きたい」と語り、オープンイベントを締めくくった。

AIが作り置きレシピを提案 ― ダイエット支援アプリ「CALNA」に新プログラム

1人暮らし世代のTechCrunch読者の中には、「外食や飲み会が増えたのでお腹まわりが気になってきたが、自炊をして健康的な生活を送るための時間や気力がない」という悩みをもつ人も多いのではないだろうか(僕もその1人だ)。そんな悩みを解決してくれるのが人工知能(AI)アシスタントの「CALNA(カルナ)」だ。

日本のmeuron(ミューロン)が提供するCALNAは、ユーザーが入力した身長や体重などのデータとアンケート診断の結果をもとに、AIがユーザーに最適なダイエットメニューを提案してくれるというアプリ(2016年10月のリリースはTechCrunch Japanでも紹介している)。

当初からCALNAはユーザーの目的に合わせていくつかのダイエットプログラムを用意する計画だった。リリース時から提供している「外食中心ダイエットプログラム」では、大手コンビニや飲食チェーン店(「ガスト」などのホームレストランや「ほっともっと」などの弁当チェーン)など、計13店舗のメニューをデータベース化しており、約700万点あるメニューから適切な組み合わせを提案してくれる。

そのmeuronは3月13日、これまで提供していたプログラムに加えて、CALNAに「あっという間の作り置きプログラム」を追加すると発表した。

平日は自炊する時間はなくても、「休日ならばできるかも」という人も多いだろう。平日に食べるご飯を休日にまとめて作り置きしておけば、より健康的な生活も送りやすい。

この新プログラムでは、レンジで簡単につくれるレシピなど、1品あたり5〜10分で調理できる作り置きレシピを毎月配信する。月額480円でレシピ本1冊分のボリュームのあるコンテンツが配信されるようだ。レシピの幅も広く、カレーやシチューなどの定番作り置きメニューだけでなく、ハーブチキンや魚を使ったメニューなどもあるそうだ。

なお、既存の「外食中心ダイエットプログラム」は今後も無料で提供を続けるとのこと。

新プログラム開発の背景について、meuron代表取締役の金澤俊昌氏は「CALNAを利用するユーザーから『簡単にできる自炊のプログラムを作ってほしい』という要望があったのがきっかけでした。また社内からの意見でも、『すべての食事を外食で済ませるダイエットユーザーはいないよね』という声もあり、ユーザーが簡単に調理可能で、かつ作り置きができる料理に特化したプログラムを開発することに決めました」と語る。

料理レシピを見るだけならクックパッドでも事足りる。しかし、あくまでも「作り置き」にフォーカスしたこの新プログラムでは、ユーザーの好みを学習したAIが何品分ものレシピをまとめて提案し、それをすべて考慮したうえで作業工程を最適化。買い物リストや調理手順まで教えてくれる。西澤氏は、「料理を何品も作るときには、例えば5品分の野菜をまとめて切って、つぎに野菜を切ってという作業になる。CALNAでは、そういった『まとめて作る』という作業工程をシステム側で再設計することで、『料理を作る』という体験をアシストすることが目的です」と語る。

リリースから約5ヶ月が経過するいま、CALNAは累計で8万ダウンロードを達成。「リリース当初に比べると、ユーザーの継続率は2倍程度まで伸びている」という(西澤氏)。2014年10月に創業のmeuronは、これまでに累計で1億8000万円の資金調達を完了している。

乗合いタクシーの最適ルートをAIで自動計算、NTTドコモと未来シェアが共同開発へ

タクシードライバーは、長年の経験と勘を頼りに乗客を探しているだろう。しかしそう遠くない未来には、人工知能が乗客のいる場所を予測し、最適な運行ルートを提案するようになるようだ。本日NTTドコモは未来シェアと「AI運行バス」の実現にむけた共同開発を行うと発表した。交通事業者が運行する「AI運行バス」では、AIが事前に移動需要、時間、乗車人数を予測し、それに応じて最適な走行ルートや配車数を決定するという。

未来シェアは公共交通や移動をスマート化するSAV(Smart Access Vehicle)技術の実用化を目指し、公立はこだて未来大学から2016年7月に発足した大学発ベンチャーだ。彼らが手がけるSAVは、同じ方角に向かう乗客をバスのように複数人乗せ、それぞれを目的地まで送り届けるためのシステムだ。乗客が専用アプリで乗車位置と降車位置を指定すると、ドライバーはアプリで迎車と行き先、運行ルートなどの指令を受け取る。この仕組みは、タクシー配車サービスUberが提供するuberPOOLのライドシェアと似ている。

一方、NTTドコモでは以前よりタクシーの移動需要予測技術の開発に着手している。2016年5月には、東京無線協同組合、富士通、富士通テンと協力して、リアルタイムでの「移動需要予測技術」の商用化を目指した実証実験を開始すると発表した。この技術では、ドコモの携帯電話ネットワークから得られるエリア毎、属性毎の集団の人数といった人口統計と東京無線が持つタクシーの運行データ、時間や季節での変動傾向、エリア特性を組み合わせて解析することで、30分後のタクシー需要を予測する。

今回NTTドコモと未来シェアが協力し、互いの持つノウハウを組み合わせることで、2018年度中にも「AI運行バス」によるモビリティサービスプラットフォームの実現を目指すという。2016年12月には、NTTドコモが主催したデマンド乗合い車両の実証実験に未来シェアも参加し、東京お台場での実証実験を行っている。

お台場での実証実験:SAVドライバーの走行ルート

NTTドコモは今回の共同開発について以下のようにリリースでコメントしている。

「AI運行バス」の提供を通じ、交通事業者利用者の更なる利便性の向上や交通サービス事業者の高効率な経営の一助となる「技術」「ノウハウ」を確立することにより、社会課題である「少子高齢化」「人口減少」から生じる交通課題の解決に貢献してまいります。

今のところ、この「AI運行バス」は人間のドライバーに対して最適な運行データを提供することを想定しているようだ。けれど、グーグルやテスラをはじめ、各自動車会社が研究を進めている自動運転車にも組み込まれる日が来るのもそう遠くないかもしれない。

Googleの「A.I. Duet」は人間に合わせて即興演奏してくれる

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Googleは今日(米国時間2/16)、楽しい機械学習実験を新たにスタートした。ウェブベースで行われるこの実験では、パソコンのキーボード(または対応するMIDIキーボード)でメロディーを奏でるとコンピューターがデュエット演奏してくれる。

しくみはこうだ。まずいくつか音階を弾いてコンピューターがレスポンスするのを待つ。ただしコンピューターから戻ってくるサウンドはデタラメに聞こえることが多い。演奏した音階と演奏の速さが何かしら関係しているのは確かだが、その「関係」は何らかのメロディーにも演奏のタイミングやリズムに近いものにも変換されない。まあそれがコンピューターにとっての音楽の楽しみかたなのだろう。

しかし、時にはアルゴリズムの理解が正しいこともあり、マシンとのすてきなやりとりが、音楽らしきものに感じることもある。

Googleによるとこの実験は機械学習ライブラリーTensorflowのMagentaというオープンソースプロジェクトに基づくもので、機械学習を音楽とTone.jsに持ち込むことが狙いだ。システムでは事前にプログラムされたアルゴリズムは使っておらず、既存のメロディーを使った訓練を受け、そこで得た知識を使ってレスポンスを返す。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

Baiduが音声アシスタントのRaven Techを買収してAI色を一層強める

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Baiduがこのほど、音声アシスタントを開発している中国のスタートアップRaven Techを買収して、AIへの進出をさらに一歩前進させた。Baiduは、Ravenの技術と製品と60名のスタッフすべてを買収したことを確認した。

Baiduは1か月前に、以前Microsoftにいた、AIのエキスパートとして著名なQi Luを雇用し、COOとGroup Presidentの座に据えた。Raven Techの買収額は公表されていないが、同社はMicrosoft Venture AcceleratorとY Combinatorの出身であり、DCM VenturesやZhenfundなどのVCから1800万ドルを調達している。

Raven TechのFlowは中国のSiriと言われつつ、ビジネスとしては離陸できなかった。Tech In Asiaの指摘によると、そのアプリは中国のApp Storeで700位よりも下を一貫して低迷、一方Siriは標準中国語をサポートし、またXiaomiやBaiduのような有力企業からもライバル製品が登場していた。

Baiduによると、この買収を機に同社はデジタルアシスタントDuerや、それと関連する拡張現実製品に特化した新たな事業部門を作る。Raven TechのCEO Cheng LuはBaiduのスマートホームデバイス部門を率い、また、“新製品開発に関してDuerのチームと協働する”。Cheng Luは、Qi Luの配下になる。

BaiduのAIおよび機械学習路線は、CourseraのファウンダーAndrew Ngがそのトップであり、彼はカリフォルニアにあるBaiduの研究部門の長でもある。先月Baiduはそこへ拡張現実の研究グループを加え、さらにこの研究部門にはディープラーニングとビッグデータの研究グループも前からある。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

バーチャルナースが退院後の患者の病状を確認―、Sense.lyが800万ドルを調達

Doctor holding heart in hands, medical concept

サンフランシスコ発のスタートアップSense.lyが、この度シリーズBで800万ドルを調達した。同社は、さまざまな病状に悩む患者や病院のためのプロダクトとして、バーチャルナースを開発している。このプロダクトを利用することで、内科医は退院した患者とも連絡を取り続けることができ、再入院の可能性を低減させることができる。CEO兼ファウンダーのAdam Odesskyは、同社のプラットフォームを「人の健康状態に関する重要なサインを読み取ることができる、WhatsappとSiriの掛け合わせ」のようなものだと説明する。

まず患者サイドから見てみると、ユーザーはSense.lyのナースアバターが行う5分間の「チェックイン」を通して、毎日もしくは2、3日に1回、自分の健康状態をスマートフォンに記録するようになっている。ナースの質問には声で答えるだけでよく、文字を打つ必要はない。また、ユーザーが入力した情報は、医療機関の担当者のみが見られるカルテに記録される。レポートにはそれ以外にも、ユーザーが日常的に利用しているさまざまな医療機器やウェアラブルデバイス、その他のインターネットに接続された機器からSense.lyが引っ張ってきた情報も含まれている。

さらにSense.lyには、MindMeldBeyond VerbalAffectivaなどと似たAIが搭載されており、患者の症状や行動だけでなく、彼らの気持ちも感知できるようになっている。つまり、アプリはユーザーの話を親身になって聞けるようにできているのだ。この点についてOdesskyは、肥満や心臓病などについて真剣に心配している人に対して、冷たいロボットっぽい声やビジネスっぽい反応を返したいと思う人はいないと話す。感情を分析することで、Sense.lyは患者が精神的なケアを必要としていると思われるときや、処方薬や生活の変化から、気分が落ち込んだり不安を感じたりしているときに、医療機関にその状況を知らせることができる。

"Molly" is a virtual nurse app made by Sense.ly.

Sense.lyが開発したバーチャルナースアプリ「Molly」

Sense.lyでは、さまざまな疾患や年齢層に対応できるように、慢性病の診断や治療に広く利用されている医療手続きを参考に、コアコードやルールベースのエンジン、アルゴリズムが組まれている。さらに同社は、主にパートナーシップを結んでいる病院やクリニックから入手した、新しい手続きなどの情報を常にプラットフォームに追加し、アプリが対応できる疾患や人の範囲を広げようとしている。

これまでにSense.lyは、60歳以上のユーザーをターゲットとして、肺気腫や心不全、肥満といった年齢と関係の深い疾患に悩む患者に向けてサービスを提供してきた。一方でSense.lyは拡大を続け、今ではイギリスのNational Health Serviceや、アメリカにある大手病院やクリニックにもプロダクトを提供している。同社の他にも、HealthLoop、Your.md、Babylon Healthなどの競合企業が、AIメディカルアシスタントを開発している。

Chengwei Capitalがリードインベスターとなった今回のラウンドには、Mayo ClinicやBioved Ventures、Fenox Venture CapitalStanford StartXのファンドが参加していた。Chengwei Capitalでマネージング・ディレクターを務めるRichard GuはTechCrunchに対し、Chengwei Capitalは「中国戦略」がとれるようなスタートアップにだけ投資していると語った。つまり、投資先企業のプロダクトが巨大な中国市場でも通用するかや、中国でも再現できるかといった点をもとに彼らは投資判断をしているのだ。

「Sense.lyの中国でのビジネス拡大に向けて、キーパーソンと彼らを引き合わせることができるでしょう。ただ、今回の調達資金はコアとなる研究開発に充ててほしいと考えています」とGuは話す。さらに彼は、Sense.lyのテクノロジーによって、人はより健康に長く生きることができるばかりか、今よりも病院ではなく家にいる期間を伸ばすことができる可能性があると話す。またOdesskyは、アメリカ以外にも医療従事者数の減少で困っている国があることを考えると、Sense.lyによって高品質の医療をもっと安く、たくさんの人に届けられるかもしれないと言う。

一方でバーチャルナースは、人間の仕事を「奪って」しまうのだろうか?Odesskyは、その可能性を否定し「現在Mollyの仕事をしている人はいません。これだけの数の患者に電話をかけて、データを分析するというのは人間にはできないことです。Sense.lyはむしろ、医療従事者が効率的に業務を行うサポートをしており、彼らの生活を脅かすようなものではりません」と語った。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

イーロン・マスク、「脳とコンピューターの直結」を主張

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最近、ITの世界では人工知能の改良に大量の資源が振り向けられている。こうしたトレンドの中で時代に取り残されないためにはどうしたらよいだろう? TeslaとSpaceXのCEO、イーロン・マスクによれば「コンピューターと人間がさらに一体化すること」だという。

マスクは以前にも脳とコンピューターのインターフェイスが持つ大きな可能性を論じ、 「ニューラル・レース」〔SF作家、イアン・M・バンクスの創作に登場する脳・コンピューター・インターフェイス〕についても触れている。今週月曜にUAE〔アラブ首長国連邦〕が主催するWorld Government Summitに登壇したマスクはこの点をさらにはっきり述べた。マスクによれば人類は近い将来コンピューターとの一体化をさらに進めることになるという。

デュバイでのマスクの講演は、昨年のRecodeのCodeカンファレンスでの発言を想起させる。マスクはここで「ニューラル・レース」について触れ、こうした脳に埋め込まれたデバイスがコンピューターと人間を直結させ、思考でコンピューターを操作できるようになるとした。これにより現在のキーボードやマウスを利用するインターフェイスに比べて脳とコンピューターを結ぶ帯域幅は大きく拡大し、逆にレイテンシーは減少するという。CNBCによれば、マスクはデュバイの講演で「われわれは人間と人工知能を共生させるこうしたインターフェイスを必要としている。このような方向で〔人工知能につきまとう〕コントロール問題、有用性問題を解決することができるかもしれない」と述べた。

AIの有用性は単に特定の問題を解決する能力だけでなく、その処理速度の速さにもある。この場合、AIがネットワークを通じて他のデバイスと相互作用するスピードが重要だ。人間がテキストを読み書きするのにに比べて、コンピューター間の情報転送速度は1兆倍も速い。

マスクは「AI全般が持つ可能性は別としても、自動運転テクノロジーだけでも社会を根本的に変革するような影響を与える」と強調した。マスクよれば、自動運転テクノロジーは「人間にとって最大の雇用者になる」という。つまり自動運転が普及することによってどんな職が新た生まれるか、既存の職にどんな影響を及ぼすかを検討することが当面最大の課題だとした。

この点で、脳とコンピューターを直結するニューラル・インターフェイスは一つの解決の方法を示唆する。人間の脳は、さまざまな面で、現在最大のコンピューター・システムの能力を上回っている。マスクは「脳とコンピューターの間にある溝を埋めるようなインターフェイスが実用化されれば人類とコンピューターの間に起こるかもしれない齟齬を食い止めるために役立つだろう」という。rニューラル・レース・テクノロジーを実用化するための研究を続けているとマスク自身が繰り返し述べてきたのは興味ある点だ。

画像: DAVID MCNEW/AFP/Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

電力自由化ビジネスに挑む「エネチェンジ」が5億円を調達ーーマーケティングの強化と海外事業展開を推進

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2016年4月、電力の小売が全面自由化された。規制緩和によって新規の事業者が参入する市場が生まれており、電力ではすでにソフトバンクをはじめとした通信キャリアや楽天などのネット企業も参入している。そんな新市場にチャンスを見い出したスタートアップの1社がエネチェンジだ。同社は2017年1月23日、オプトベンチャーズ、IMJ Investment Partners Japan LLPから総額5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

電力自由化を見越して、2015年4月に創業したエネチェンジ。同年9月には電力の価格比較サイト「エネチェンジ」をリリースした。電力自由化が開始される直前の2016年2月には4億円の資金調達を実施。さらに創業メンバーである城口氏も関わるケンブリッジ大学の産学連携ベンチャーで、AIを活用した電力データ解析サービスを開発する「SMAP Energy」と組み、海外へも電力事業を展開している

現在は電力比較サイトエネチェンジを中心に事業展開を行う一方で、法人向けの電力切替サービス「エネチェンジBiz」、格安SIM比較サイト「SIMチェンジ」を展開している。

調達した資金はマーケティング予算に投下

エネチェンジでは、今回調達した資金をもとにテレビコマーシャルを中心としたマス広告を展開する。ウェブ中心の集客から、より大きなインパクトを目指すために予算を投じていく。テレビコマーシャルは1月25日より関西エリアで開始する。

また、電力使用量をデジタル計測する「スマートメーター」の普及を見据え、AI(人工知能)技術を利用した電力消費量の研究及び海外での事業展開を本格化。すでにイギリス、ドバイなどで電力サービス事業展開をステルスで展開中だ。ケンブリッジ大学で電力データ解析の研究を行う、創業メンバーの城口氏は「2週間に1度はイギリスに行ったり帰ったり」(エネチェンジ)し、海外での開発、事業展開を行っている。

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写真左から)IMJIP 千葉貴史氏、エネチェンジ 有田一平、オプトベンチャーズ 細野尚孝氏

2016年2月時点で電力価格比較サイトのエネチェンジは月間180万UUと回答していたが、現在は170万UUとやや減少している。「2016年2月は電力自由化の波があり、3月、4月をピークに増加していましたが、今はやや落ち着いています。夏場や冬場で電力消費が多くなるタイミングに比例して、申し込みが増加する傾向があります」(エネチェンジ)

同時期にサービスを開始した法人向けサービスのエネチェンジ Bizに関しては「個人の電力自由化の注目が法人向けサービスにも影響を与えています。当初は申し込みも少なかったのですが、自由化直後の2016年4月から2016年8月にかけて申し込みが増え、当該期間で売り上げベースで1200%の成長を果たしました。現在は営業、コールセンターも設けて本格稼働をしています」(エネチェンジ)と語った。

電力比較サイトと同様の仕組みで展開する格安SIM比較サイトのSIMチェンジは月間140万UU程度。格安SIM比較サイトの中での月間UU数は1位(エネチェンジ調べ、2016年9月時点)だ。

今後は主力サービスのエネチェンジのマーケティングを強化しつつ、海外での電力事業展開に資金の一部を投下していく。また、1月16日より都市ガス比較のサービスをエネチェンジ内で開始。同18日には関西電力出身で元大阪府副知事の木村愼作(きむらしんさく)氏が顧問に就任。今後は電力・ガス自由化普及に向けた講演活動、メディアへの出演をメインに活動するとしている。

ソーシャルメディアでお小遣い稼ぎ ー UGCマーケットプレイスのLobsterが100万ポンドを調達中

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ユーザーが生成したコンテンツ(UGC)のマーケットプレイスを運営しているLobsterが、スケールアップに向けてシリーズAで100万ポンドを調達しようとしている。既に目標額の85%が集まっており、残りの投資家の意向も来週中にはまとまる予定だ。

既に投資を決定している投資家には、現在Lobsterの開発チームが拠点を置くモスクワでコーワーキングスペースを運営しているKL10CH(”The Key”という名でも知られている)や、Otkritie Capitalの前CEOで50万ポンドの出資を決めたNikolay Katorzhnovのほか、少額出資を予定している複数の投資家が含まれている。現在足りていない資金は、イギリスや海外のエンジェル投資家、そして以前のラウンドに参加していた投資家から調達される予定だ。

2014年のTechCrunch Disrupt EuropeでBattlefield決勝に出場していたLobsterは、先日行われたシードラウンドで、Wayra UKやイギリスのエンジェル投資家、そしてクラウドファンディングプラットフォームから70万ポンドを調達していた。

同社は、ブランドや広告代理店をターゲットとして、UGCを簡単に広告で使えるようなライセンシングプラットフォームを運営している。Lobsterの顧客は、同社のプラットフォーム上でソーシャルメディアで使えそうな(使い古されたストック写真ではなく)オーガニックな素材を簡単にみつけ、そのライセンスを購入することができる。同社はサブスクリプション制を採用しており、顧客は複数のプランから自分にあったものを選べるほか、1ヶ月のお試し期間も準備されている。

ソーシャルメディアユーザー(=Lobsterのコンテンツクリエイター)側のメリットは、いつものようにソーシャルメディアを利用するだけで、お小遣い稼ぎができるということだ。

共同ファウンダー兼CEOのOlga Egorshevaは、アメリカとアジアに開設予定のオフィスとともに、シリーズAで調達した資金を利用して海外でのマーケティングやパートナーシップ締結に力を入れていくと話す。また同社は、昨年ローンチしたAI検索エンジンを強化し、コンテンツのランク付けの精度を上げるとともに、関連コンテンツをもっとみつけやすくしようとしている。

「今回のラウンドは、私たちが次のステップに進む上で大きな意味を持っています。私たちは今ちょうど、クリエイターだけでなくコンテンツを利用する顧客の規模を拡大していく上での岐路に立っており、今後重要な市場でビジネスを成長させるために資金が必要なんです」と彼女はTechCrunchに対して語った。

「現在アメリカに顧客企業が数社、そしてアメリカを含む世界中にLobsterを利用しているクリエイターがいますが、私たちはAPIを利用してもっとアメリカの広告代理店やメディア企業などの法人顧客を重点的に攻めていきたいと考えています」

先週Lobsterは、イギリスのウェブサイトビルダーMoonfruitと初となるAPI統合を行ったと発表したが、今後さらにこの分野に力を入れようとしているようだ。Lobsterは10社以上とのAPI統合をQ1・Q2を通しての目標にしており、将来的にはPhotoshopと同社のプラットフォームを連携させようとAdobeとも話を進めている。

コンテンツに関し、Lobsterは今のところInstagram、Flickr、Facebook、Vk、YouTube、Vimeoをサポートしているほか、クリエイターはDropboxやVerizon Cloudなどのクラウドストレージサービス経由でも、コンテンツをLobster上で公開できるようになっている。

コンテンツの公開にあたり、クリエイターは全ての写真や動画を自動でLobsterと同期するか、自分で同期したいファイルやフォルダをピックアップするか選択することができる。ファイル公開後は、プラットフォームがハッシュタグや位置情報、タイトル、画素数などの情報をファイルから抽出し、検索にひっかかりやすいようにメタデータをインデックス化する。Egorshevaによれば、新しいメタデータが追加されても自動で情報が抽出されるようになっているため、クリエイターは既にLobster上で公開したファイルをアップデートしなくてもいい。

さらにLobsterのAI検索エンジンには、検索精度を上げるための自動タグ付け機能や、コンテンツの色に基いたフィルター機能(ブランドカラーに合ったフコンテンツをみつけるのに便利)、顧客がアップロードした画像と似たコンテンツを表示する機能などが搭載されている。

また同社のAIには顔認識機能も備わっているので、例えば人が含まれているかいないかでコンテンツをフィルリングできるほか、性別や民族、年齢、表情や感情表現のように、もっと細かな条件でコンテンツを絞り込むこともできる。

AI検索エンジンは動画コンテンツにも対応しているが、Lobsterは今回の調達資金を使って、理想的には既に動画検索テクノロジーを開発したことがあるようなAIスタートアップと提携し、この機能をパワーアップさせたいと考えている。

「(現在の)AIの一部は、スタンフォード大学が開発したテクノロジーを、Lobsterの開発チームが改変し、ソーシャルメディアフィードや私たちが保有するソーシャルメディアのデータベースに対応させたものです。今後はAI業界の企業とも協業していきたいです」とEgorshevaは話す。

現在Lobsterに登録している約1万7000人のクリエイターは、InstagramやFacebook、Flickr、Youtubeなどを通してコンテンツをライセンスしており、顧客が利用できるコンテンツの数は500万点以上にのぼる。

さらに顧客はプラットフォーム上で公開されているコンテンツを利用するだけでなく、(上位のプランに登録すれば)Lobsterがサポートしているソーシャルメディアの一般ユーザーから自分たちが求めているコンテンツを募集することもできるため、コンテンツ数は最大300〜400億点に達する。

またLobsterは、(Egorshevaいわく)ライセンシングのプロセスを簡素化するため、一般的な非独占契約を使っているが、これまでにプラットフォームを経由せずに独占契約もいくつか結んでおり、もしも需要が増えれば独占契約をオプションに含めることも検討していくとEgorshevaは話す。

コンテンツの価格はソースや画質、既に他の顧客が使ったことがあるかといった情報をもとに、プラットフォームが自動で設定している。ライセンシングにあたっては、100万ビュー/再生以下のコンテンツ用と100万を超えるビュー/再生数のコンテンツ用(こちらの方が高い)の2種類の価格が準備されている。

Lobsterはライセンス料の25%を手数料として受け取り、残りの75%がPayPal経由でクリエイターに支払われる。

クリエイターにとってのもうひとつのメリットが、モデルリリース(写真に写っている人から、商業利用に関する許諾をもらうこと)に関する機能だ。Lobsterは署名済みの紙やPDFのフォームを回収する代わりにリンクを生成し、クリエイターがFacebook経由で利用許可を貰えるような仕組みを提供している。

単なるレポジトリではなく、積極的にコンテンツをかき集めて販売する同社のアプローチこそ、Lobsterの”戦略的な強み”だとEgorshevaは考えている。

「他のサービスにも登録しているファイルをLobsterへ再度アップロードさせるのではなく、私たちは既にオンライン上にたくさんあるコンテンツを探し出すというやり方をとっています」と彼女は語る。

「そうすることで、私たちのプラットフォームもほぼ際限なくスケールすることができるんです」と彼女は付け加える、「というのも、私たちはコンテンツ自体を保管するのではなく、データを引っ張ってきて保存し、検索アルゴリズムがそのデータを解析するようにしていますからね」

さらに、Lobsterはコンテンツの収集元をソーシャルメディアに絞っており、金銭的なメリットによってクリエイターのソーシャルメディアへのエンゲージメントが高まる可能性もあることから、各ソーシャルメディアも同社のアプローチを気に入っているとEgorshevaは主張する。

「私はソーシャルメディア各社に対して何度も売上を分け合う提案をしてきましたが、彼らはLobsterから得られる(または得ようとしている)エンゲージメントの方がずっと価値があると話していました」

現在LobsterはHills PetsやColgate Palmolive、さらにColgate Palmolive傘下の広告代理店Red Fuse/WPPを含む30社と契約を結んでいる(Hills Petsが可愛い犬の写真を求めているのは容易に想像がつく)。

そして同社は今のところビジュアルコンテンツにフォーカスしているが、将来的にはSoundCloudのようなプラットフォームを使って、ユーザーがつくった音楽のライセンシングをしていくことも検討したいとEgorshevaは話す。

ところでクリエイターはLobsterでどのくらい稼げるのだろうか?広告代理店が気に入るようなスタイルのコンテンツを提供しているユーザーであれば、数百ポンド稼ぐこともできるとEgorshevaは言っているが、実際のところは(少なくとも欧米のユーザーにとっては)お小遣い程度(”数ポンドから数十ポンド”)のようだ。

一方で、いずれにしろどこかにアップロードするであろうコンテンツから収入を得られるという意味では、Lobsterは”パッシブワーク”用のプラットフォームであり、少なくともソーシャルサイトにメディアを頻繁にアップロードする人にとってのLobsterの本当の魅力は、”無料のお金”を受け取れるチャンスだと言える。

「ただアカウントを連携して、いつも通りソーシャルメディアを使うだけで、コーヒーやビール分のお金が浮くと考えれば、なかなかのインセンティブではないでしょうか」とEgorshevaも話している。

「ヨーロッパやアメリカなどの先進国では、広告キャンペーンにコンテンツが利用されるということや、どこかにあるコンテンツを勝手に使ったり、画像のスクリーンショットを使うのではなく、きちんとクリエイターから許可をとる文化を育むという金銭面以外でのインセンティブが機能しているように見受けられます」と彼女は付け加える。

「例えばインドや東欧のユーザーの状況は全く違います。新興国では物価の違いもあり、Lobsterからの収入が大きなインパクトを持っているので、彼らは報酬にも魅力を感じているとわかっています」

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Eloquent Labsが150万ドル調達ーAI+担当者+クラウドソースの新しいサ―ビス

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Keenon Werlingは、恐らく対話型AIが過大評価されていると最初に認めた人物だろう。そんな彼が最近設立したEloquent Labsは、他社のようにきらびやかなディープラーニングならぬディーパーラニングのアルゴリズムを売り出す代わりに、人間というもっとローテクな力を使ったサービスを開発している。カスタマーエクスペリエンス向上のための彼らの秘策は、AIとAmazonのMechanical Turkのようなクラウドソース、そして従来のカスターマービス担当者の融合だ。

本日Eloquent Labsは、シードラウンドでKhosla VenturesXSeed CapitalAlchemist Accelerator、エンジェル投資家などから150万ドルを調達したと発表した。

同社のビジネスモデルは、Elleと名付けられた対話型AIアシスタントを、Shopifyを利用しているオンラインショップに組み込み、配達状況の確認や返品処理、キャンセル、よくある質問への対応など、一般的なカスタマーサポート機能をスモールビジネスに提供するというものだ。このようなビジネスはこれまでにも存在したが、ここにクラウドソースが融合することに彼らのユニークさがある。

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左からSydney Li、Gabor Angeli、Keenon Werling、Brandon Maddick、Tian Wang

まずDigital Geniusのような企業は、以前からカスタマーサポートにおける「人間+AI」の活用をうたっている。例えばセーターを返品したいという人がシームレスなサービスを受けられるようにするため、ほとんどのスタートアップはシステムがどこで諦めるべきかに関するトレーニングを行っている。こうすることで、顧客とAIアシスタントのやり取りがとんでもない方向へ向かうのを防ぎ、顧客の質問内容がAIの処理できる範囲を超えると、人間の担当者が出てきてスムーズにやり取りを引き継ぎ、問題を解決できるようになっている。

この人間と機械の連携によって、企業はかなりのコストを削減してきた。Werlingによれば、小売企業は人間の担当者が関わるたびに平均で5ドル消費しており、逆に言えば機械が問題を処理するたびに、企業は自動的に5ドル得しているのだ。

しかしEloquent Labs設立の背景には、ほぼ機械がこなせるという十分な確証がないようなタスクに人間の担当者をあてがうことで、企業は未だに無駄なお金を使っているという考えがある。

Werlingは、AmazonのMechanical Turkのようなクラウドソースを利用した機械学習の研究を大学で行っていた。クラウドソーシングプラットフォーム上では、何十万もの人々が比較的簡単な作業をオンラインで請け負うことで収入を得ている。Eloquent Labsは、Mechanical Turkと人間の担当者、そしてAIを組み合わせることで、企業のコストをさらに抑えるようとしているのだ。

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実際のところ、ほとんどの機械学習は情報の分類の問題だ。誰かがチャットに文章を入力すると、機械がそのよくわからない文章を予め準備したリストと照らし合わせて、どうにか分類しようとする。もしも質問内容が商品の配達日に関することだと機械が自信を持って判断できれば、これは簡単な話だ。

しかし質問内容に(例示のためにかなり簡略化しているが)”オーダー”や”配送”といった単語が含まれていない場合、”DHLの予定”というフレーズが62%の確率で商品の配達日を示していたとしても、それは実際に機械が配達日に関する回答をするには十分な確率ではないのだ。従来のサービスであれば、ここで企業の担当者が出てきてフレーズの意味を判断するのだが、Eloquent Labsはこの段階でクラウドソースを利用している。

コスト削減以外にも、このアプローチには利点がある。クラウドソースを通じて仕事を請け負っている人は、Elleが処理できなかったタスクを引き継ぐと同時にEloquent Labsの機械学習モデルのトレーニングも行っているのだ。このような利点は全て、訓練もなしにオンデマンドで短い間だけ仕事をお願いすることができるクラウドソースのおかげで成り立っている。

営業・ビジネス開発面において、Eloquent Labsは発展段階にあるため、まだ同社のサービスに対してお金を払っている企業は存在しない。Zendeskのような巨大な競合がいるため、WerlingはAppleの戦略をまねて、まずはエグゼキューションを完璧にしようとしているのだ。

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さらにElleは、人間と機械の連携における他の問題の解決にも役立つようにつくられている。例えば”見習い”モードを使えば、重要な顧客とのやりとりをElleに任せられると感じるまで、企業はElleが生成した回答を手動で承認・却下することもできる。

プロダクトの開発にあたり、Eloquent Labsはうまく課題に優先順位をつけられているようだ。人間の担当者にふられたやりとり(全く意味をなさないような質問)を再度機械に戻すといった機能を搭載することで、同社はさらにプロダクトを進化させられる可能性を持っている。一方でこのような双方向の連携は、現状のAIの性能を考えると大変難しいため、同機能を省いたのはEloquent Labsの賢い選択だと言える。しかし競争の激しい市場の中で、最終的には彼らもさらに他社との差別化を図る必要が出てくるだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

テクノロジーが「人間の温かみ」を置き換えることはできない

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最近、どこに行ってもオートメーションが人間の職を奪うという議論を耳にする。テクノロジーはもちろん急速に進歩し、クリックを中心とするメディア環境のなかではセンセーショナリズムが生まれる。しかし、テクノロジーが人間の代わりに働けるからといって、私たちがテクノロジーによるサービスを望むとは限らない。テクノロジーがまずまずの働きをするとしても、状況によっては、人間とやりとりしたいと思う場面があるのだ。

機械は与えられたタスクを人間よりも効率的にこなせる一方で、それらが行うアクティビティには「芸術性」が欠けている。つまり、ニーズに応える能力だ。たとえ定められた手順があったとしても、優秀な人材はいつそのプロトコルを修正するべきか、そして、そこで必要となる機微とは何かを理解している。

オバマ政権は先日、人工知能とオートメーションが与える経済的な影響をまとめた調査結果を発表している。この調査結果は、この問題を政策運営を担う立場から捉えたものだ。このレポートでは、「AIが失業を増やすのかどうか、そして長い目でみて不平等を増加させるかどうかは、テクノロジーそのものだけに依存する訳ではなく、その時の政権や政策に依存する」と述べられている。また、今後10年から20年間でオートメーションによって影響を受ける職業は全体の9%から47%程度だろうと推測している。そのレンジの大きさから分かるのは、オートメーションが与える本当の影響はまだ未知数だということだ。

スタートアップのエコシステムに関わる人々はたいてい、自分たちであればテクノロジーを存分に普及させることができるし、また自分たちであればそれが可能だと考えている。しかし、誰もがそのアプローチに賛成という訳ではない。先週、New York TImesはMcKinseyによるレポートを発表したが、その調査で明らかになったのは、オートメーションは成長している一方で、そのペースは私たちが思っていた程のスピードではないということだ。「オートメーションが人間の職に与える影響の大きさを決めるのは、多くのテクノロジストがフォーカスするような、”技術的に可能なものは何か”という問いではありません」とNew York Timesに語るのは、McKinseyのJames Manyika氏だ。

結局のところ、オートメーションが与える影響の大きさを決めるファクターは実にさまざまだ。人間との交流に対する欲求もその1つである。現金自動支払機(ATM)を例に考えてみよう。ATMが開発されたのは1960年代のことで、それが普及したのは70年代から80年代にかけてのことだった。ATMは銀行の窓口業務を置き換えるだろうと言われていたが、2017年になってもまだ銀行の窓口では人間が働いている。もちろん、銀行の営業時間外でもお金を引き出せるのは便利なことだ。最近ではスマホでお金のやり取りも完了する。それでも、いまだに銀行では人間が働いている。それはなぜなら、お金に関してはプロに相談してみたいと思う人々がいるからだ。

また、医療に関しても同じことがいえる。たとえ適切な診断結果や治療法を提案する機械があったとしても、私たちは病気になったときには優秀な医師に相談したいと思うだろう。たとえ機械が適切な医療プランを決定するとしても ― 医療の分野には絶対的な治療法は数えられるほどしかないと理解しているが ―、考えられるオプションについて患者とともに考え、治療手順を実行するように訓練された医師と一緒に治療に励みたいと私たちは思うのだ ― 科学の”アート”について理解している彼らとだ。

人間はいまだ重要な存在である。そして、そのことを心に留めておく必要がある。高度な教育を受けた医師の場合に限らず、人間である私たちは、人間の代わりに機械と交流することを望んでいるわけではないのだ。

例えば、給仕スタッフをiPadのメニューに置き換えるというテクノロジーが存在する。サンフランシスコには人間を完全に除外したレストランも存在している。iPadで料理を注文すると、注文された品が小さな棚から出てくる ― 料理を運ぶ人間もいないので、そこに人間との交流はまったくない ―。だが、誰もがその体験をしたいと思っているわけではない。人間の店員に「いらっしゃいませ」と言われたい人もいるし、メニューや出される料理について人間に質問したいと思う人もいるのだ。

同じことがUberやLyftでもいえる。ドライバーレスは明らかに実現しつつあるし、その方がコストが低くなるから企業もそれを望んでいる。だからといって、すべての顧客がドライバーレスを望んでいるわけではない。ドライバーとの会話を楽しみたいと思う人もいる。ただ単にA地点からB地点まで運んでくれればいいと思う人ばかりではないのだ。

私はラダイト(19世紀初頭のイギリスで機械化に反対した熟練労働者の組織)になりたいわけではない。テクノロジーは容赦なく進歩を続けていく。それに反対することは馬鹿げたことだろう。しかし、テクノロジーによってファンダメンタルが失われることはない。人間と人間とのあいだのコミュケーションもその1つだ。あることを可能にするテクノロジーが存在するからといって、それが最良のオプションであるとは限らないのだ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

Naverが間もなく自動運転車の公道テストを開始予定

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韓国の大手ネット企業Naverは、自動運転車の公道テストに向けた最終段階に入り、現在国土交通部からの許可を待っている。同社はTechCrunchに対して、当局から最終許可を受け取り次第すぐに公道でのテストを開始すると話しており、関係者からの情報をまとめた韓国紙Yonhapの報道によれば、早ければ来月にはテストがスタートする予定だ。

Naverは韓国の巨大ウェブポータル運営企業で、同国最大の地図プラットフォームやメッセージアプリのLINE、そしてSnapchatに似たSnowなどを展開している。Naverが力をいれているAIへの取り組みの一環としてはじまった自動運転テクノロジーの開発は、同社がこれから「グローバル企業と競合していく」上で欠かせない要素だと、Naver CTOのChang-hyeon Songは語った。

さらにNaverは自動運転車がデータを集める上でもとても役に立つと考えており、彼らのコアビジネスとのシナジーも期待できる。「自動化の時代においては、自動車自体が情報交換のためのプラットフォームとなっていくでしょう」とNaverの広報担当者は話す。BaiduやGoogleのように、自動運転テクノロジーを事業ポートフォリオに加えるということは、消費者のオンライン生活の欠かせない要素になるという、より大きな目標にも上手く合致する。

Naverによると、現在の同社の自動運転テクノロジーはレベル3にあたり、まだ車が必要だと判断したときには人間のドライバーが運転を交代する必要があるが、ドライバーが実際にリラックスして全く注意を払わなくてすむレベル4に向けて改良が重ねられている。自動運転車に関連した事業は、新しくNaverの傘下に設立される会社が引き継ぎ、AIやロボットの事業もこの会社が受け持つことになる予定だ。さらにNaverはこれらの事業に4億2500万ドルを投じるとコミットしている。

自動運転テクノロジーの分野に参入している他のテック企業のように、Naverはさまざまな企業とのパートナシップを通して、この事業を加速させたいと考えている。しかし自動運転テクノロジーの製品化計画に関する時期や詳細については、まだ明かされていない。一方Naverの競合にあたるAlphabet傘下のWaymoは、FCAなど大手自動車メーカーとのパートナーシップを通じて、既に製品化に向けた準備を着々と進めている。

韓国政府は既に、自動車メーカーや研究組織あわせて10団体に公道での自動運転車のテストを許可しており、最終許可が下りればNaverは11番目となる。そして現段階ではそうなる可能性が高い。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

テクノロジーの”見えない化”のススメ

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【編集部注】執筆者のElizabeth McGuaneは、Intercomのリードコンテントデザイナー。

プロダクト開発の世界では毎年バズワードが生まれているが、今年のバズワードは間違い無くボットだろう。

私たちはボットを含め、つくったものには通常名前を付ける。これはほとんどの人が疑問にも感じないようなプロセスだ。HAL 9000Herのようにボットは予め擬人化され、iPhoneにはSiriが、AmazonのEchoにはAlexaが、そしてFacebook MessengerにはPSL(Pumpkin Spice Latte)Botが搭載されているように、私たちがすぐにコンピューターとの関係性を構築できるように準備されている。

名前を付けることで、私たちは無機物に対して信頼感を抱くことができ、対象物を支配下においていると感じることができる。デザイン用語で言えば、名前はアフォーダンス、つまり私たちが掴むことのできる持ち手のようなものなのだ。

Intercomのプロダクトデザインチームで言語のエキスパートとして働いている私にとって、ものに名前を付けるということは日常業務の一部だ。メッセージ系のプロダクト上で動くボットを開発し始めたとき、私はブレインストーミングで男性っぽいものや女性っぽいもの、中性的なものや機能的なものなど、何百個もの名前を考え出すつもりでいた。

しかし私たちはまず最初に、ボットや言語や名前とユーザーとの関係性を理解するためにテストを行うことにした。その結果、ボットにアイデンティティを与えることが必ずしも最良ではないということがわかった。ボットをSiriと呼ぶことには、車をBessieやOld Faithfulと呼ぶことほど関係性を構築する力があるとは言えないのだ。

会話とタイピングは全くの別物

音声認識機能が搭載されたボットを使うときは名前があると何かと便利だ。「Siri」、「Alexa」、「OK Google」といった呼びかけには、実質的にGoogleのウェブサイトを開いて検索ワードを入力するのと同じ効果がある。ユーザーが検索欄を見ると、彼らの脳は「何か検索したいものがある」という考えから、実際のアクションへと思考を移していく。世界中で1秒間に4万回以上も検索が行われている今、実際にはシステムに質問を投げかけて何らかの回答を待っているとしても、私たちはシステムと対話しているというような印象を持っていない。

しかしテキストベースのボットやチャットボットにおいては、名前はアクションに直結しない。人気の仕事向けメッセージプラットフォームSlackに備わっているSlackbotでも、ユーザーは予めプログラムされた回答を取り出すために「Hey Slackbot」などと呼びかける必要はない。

検索内容を声に出すことで、検索するという目的自体は果たせるが、私たちの注意はシステムとの交流に向けられてしまう。これには良い面と悪い面の両方がある。声は文字に比べて、より”人間っぽい”ものだ。昨年の8月に行われた研究によれば、私たちは同じ情報を耳で聞いた場合と目で読んだ場合、耳を介して得た情報の方が人間によってつくられたものだと考えやすい傾向があるとわかっている。

今日のデザイナーの成功は、ユーザーがその存在を感じないようなテクノロジーをつくれるかどうかにかかっている。

しかし人間らしさは苛立ちにつながる可能性もある。一日に「OK Google」と75回言う方が、同じ回数だけ静かにノートパソコンを開いて検索内容をタイプするよりも疲れる気がしないだろうか。

プロダクトデザインの観点から言うと、ボットとメッセージングプラットフォームの本質は同じだ。つまり人間同士が会話するために設計されたシンプルな要素をそのまま利用して、メッセンジャー内にボットを組み込むことができるのだ。

そのため私たちは、ボットの開発に向けて色々と試していたときに、ボットとユーザーのやりとりにもメッセージングプラットフォームの要素を応用しようとした。具体的には、テスト用のボットに名前を付け、人間のように「こんにちは。私はIntercomのデジタルアシスタントのBotです」と自己紹介をさせるようにしたのだ。

ユーザーからの反応は意外なものだった。ボットに不快感や苛立ちを感じた彼らには、人間っぽいコミュニケーションが全く好まれなかったのだ。とても軽い内容のやりとりだったにも関わらず、ユーザーはボットを邪魔で、自分たちの(本当の人間に話しかけるという)目的を妨げるような存在だと感じていた。

ボットの声に変化をつけて、あるときはフレンドリーに、またあるときは控えめで機械的な対応をするように設定するなど色々と試したが、結果はほとんど変わらなかった。

しかし私たちがボットの名前を取り去り、一人称代名詞の使用や自己紹介をやめると事態は好転しだした。どの要素よりも名前が1番の原因だったのだ。

誰が持ち手を握っているのか?

私たちは一世紀以上にわたって、ロボットにまつわる恐ろしい物語を自分たちで広めてきた。そしてその物語の中で私たちは、ロボットという存在を哀れむと共に疑ってきた。前述の通り、人間は道具に名前を付けるときにその支配権を主張している。この背景には、自分が実際に道具を使ってものごとと関わりあい、仕事をする主体であると感じたいという私たちの思いが存在するのだ。

デジタルツールは実世界のツールとは心理的に全く異なる性質を持っている。デジタルツールには実際に握れる持ち手が存在しないのだ。職人が自分の手で修理できる金槌とカリフォルニア(Intercomで言えばダブリン)かどこかのデザインチームが設計・開発したチャットボットの間には大きな違いがある。

Intercomに務めるほとんどのライターとは違い、私の仕事はユーザーに気付かれないほど良いとされる。コントロール(または支配)とは、デジタルツールを設計する上で大変重要な概念だ。あるプロダクトの中でユーザーが目にする言葉のほとんどは、ライターである私ではなく実際にプロダクトを使うユーザーにコントロールを与え、プロダクトの理解を促すために存在する。ここでのゴールは、ユーザに直感的にプロダクトを使ってもらうことであり、スクリーンに表示される言葉は金槌の持ち手でしかない。

名前やアイデンティティが付加されることで、スクリーン上のツールは直感を越え、それまでとは違った仮想ツールとなり、ユーザーとの関係性にも大きな変化が生じてくる。しかしユーザーは必ずしもその変化を求めておらず、好ましいものだとも感じていない。

これは目新しさが原因なのかもしれない。時間が経てば仮想ツールという存在に慣れて、ユーザーもツールを信用するようになるかもしれない(最近のニュースの見出しを見ているとそんな気もしないが)。しかし何百という数のロボットに関する映画や本で描かれている内容に反し、テクノロジーに人間性を持たせるというのは、私たちがロボットに慣れるための方法としては適していないのかもしれない。

デザイン上の他の考え方として、テクノロジーとはほとんど目に見えないものだと主張する人もいる。SiriやAlexaがその例になるのかもしれないが、実際に”見る”ことができないため、ユーザーはバックグラウンドに隠れたボットに気づかないというのが彼らの主張だ。しかしこの考えが正しいとは言い切れない。

確かに人間は視覚的な生き物で、私たちは目で見たものに反応する。しかしそれ以上に人間は社会的な生き物で、私たちはコミュニケーションがとれるものに反応する。それゆえ私たちは持ち物に名前を付け、長い間妄想していたロボットに恐怖を抱いているのだ。

今日のデザイナーの成功は、ユーザーがその存在を感じないようなテクノロジーをつくれるかどうかにかかっている。テクノロジーはユーザーから見えなくなることで、本当の意味でのツールになれるのだ。そして言葉を扱うデザイナーの成功は、ユーザーが直感的にツールを使えるよう、言葉が前面に出てこないようなツールをつくれるかどうかにかかっている。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

日本のCAMPFIREが約3億円を調達:レンディング事業参入とAIの研究開発へ

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クラウドファンディング・プラットフォーム「CAMPFIRE」を運営する株式会社CAMPFIREは本日、第三者割当増資を実施し、合計で3億3000万円を調達したと発表した。

今回の資金調達に参加した投資家は以下の通りだ:D4V1号投資事業有限責任組合、GMOインターネット株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社、East Ventures、株式会社iSGSインベストメントワークス、株式会社サンエイトインベストメント、株式会社セプテーニ・ホールディングス、株式会社ディー・エヌ・エー、株式会社フリークアウト・ホールディングス、ほか個人投資家3名。

また今回の資金調達に伴い、お金のデザインを立ち上げた谷家衛氏が取締役会長に、フリークアウト・ホールディングス代表取締役の佐藤裕介氏が社外取締役に、富士山マガジンサービスCTOの神谷アントニオ氏が社外取締役に、データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤーの原田博植氏が執行役員CIOに就任する。

支援金の総額は16億円

CAMPFIREがクラウドファンディング・プラットフォームを立ち上げたのは2014年6月のこと。その後、2016年2月に共同代表である家入一真氏が代表取締役に就任し、同時期にサービス手数料をそれまでの20%から5%にまで大幅に引き下げた。同社によれば、この手数料率は国内最安値の水準であり、これがCAMPFIREの特徴1つでもある。

実際、手数料率を引き下げた頃から掲載プロジェクトへの「支援金」が急速に伸びた。現在の支援金総額は16億円で、過去4年間の支援金総額を2016年の1年で上回るほどに急成長している。

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レンディング事業への参入と、人工知能のR&D

今回調達した資金を利用して、CAMPFIREはレンディング事業への参入と、機械学習を中心とした人工知能の研究開発を行う。

レンディング事業への参入を決めた背景について代表取締役の家入一真氏は、「現状の購入型のビジネスモデルにとらわれないところにチャレンジしたかった。お金をよりなめらかに流通させることが目的」と語る。

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CAMPFIRE代表取締役の家入一真氏

もう1つの資金の使い道は、人工知能の研究開発だ。家入氏によれば、CAMPFIREはこれまでにも機械学習の研究開発を進めていたという。

具体的にはプロジェクトの審査にこのテクノロジーを利用しているようだ。家入氏は、「機械学習を利用して目視による審査を自動化することで、手数料を下げることができると考えた。これから参入するレンディングビジネスでは難しいとは思うが、これまでの購入型のクラウドファンディングでは審査をほぼ全自動化することも可能だと考えている」と話す。

機械学習の活用方法はもう1つある。それは、掲載するプロジェクトの「見た目」の改善だ。プロジェクトの支援金額はタイトル付け方や本文の構成によって大きく左右される。CAMPFIREはこれまでに同社に蓄積されたデータを分析し、支援を受けやすいタイトルの付け方やコンテンツの構成方法を提案していく。

国内におけるクラウドファンディングの市場規模は約480億円。CAMPFIREによれば、そのうちの8割が貸付型であり、今後は数千億円規模の成長が見込まれるという。CAMPFIREが次に狙う領域はここだ。

製品化への道に潜む「AIの溝」の超え方

Blue Little Guy Characters Full Length Vector art illustration.Copy Space.

【編集部注】執筆者のSimon ChanはSalesforce Einsteinのプロダクト管理担当シニアディレクターを務めており、以前はPredictionIOの共同ファウンダー兼CEOでもあった。

AIが私たちの生活やビジネスをより良くしているという、うきうきするようなニュースを毎日耳にする。AIは既にX線写真を解析し、モノのインターネットを動かし、営業・マーケティングチームの次の一手を考え出すほどまでになった。その可能性は無限大に広がっているようにさえ見える。

しかし全てのサクセスストーリーの背景には、研究段階から抜け出せずに終わった無数のプロジェクトが存在する。というのも、機械学習の研究の成果を製品化し、顧客にとって本当に価値のあるものへと転換することは、理論上うまくいくアルゴリズムを組むよりもよっぽど難しいことが多いのだ。私が過去数年間に出会った企業の多くは同じ問題に直面しており、私はこれを「AIの溝」と呼んでいる。

最近行われたApacheConで、私はこの問題に関する考察を発表した。本記事では、AIを扱う企業が直面するであろう技術・プロダクト面での溝を越えるために必要な上位4つのポイントを紹介したい。

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技術面におけるAIの溝

新しいデータ AIとデータは切っても切れない関係にある。例えばチャットボットをトレーニングするためには、顧客からのリクエストとそれに対する正しい回答例をアルゴリズムに読み込ませなければならない。通常そのようなデータはCSVのように、きれいに整えられた静的なフォーマットで準備されることが多い。

静的データを使って、上手く機能するAIデモを開発することはできるが、実際に使っていくうちに賢くなっていくような、自動学習タイプのAIには常に新しいデータが必要だ。そのため各企業は機械学習モデル開発の早い段階で、新しいデータをもとに定期的にAIモデルがアップデートされるような仕組みを構築しなければならない。

一方でライブデータを利用するためには無数の技術的な問題を解決しなければならない。スケジューリングやアップデート時にダウンしない仕組み、プロダクトの安定性やパフォーマンスモニタリングなどがその一例だ。さらに新しく取り入れたデータのせいで何かが起きてしまったときのために、問題が起きる以前の状態へプロダクトを復元できるような仕組みも必要だ。これが次の論点にもつながってくる。

トレーニング用データの品質管理 AI企業は製品開発当初からデータ品質に気をつけなければならない。特にユーザーから集めたデータを利用する場合にはなおさらだ。機械学習のプロセスが自動化されること自体は素晴らしいことだが、それが仇となる場合もある。最近Twitter上で問題を起こしたチャットボットは、自動化が誤った方向に進んでしまった典型例だ。

実際のところ、AIの溝とはそこまで恐ろしいものではない。

件のチャットボットは自由に会話できるようになる前に、不要なモノを省いてモデル化された公なデータをもとにトレーニングされていた。しかしその後、現実世界のユーザーとの不適切な会話からデータを読み込み始めると、ツイート内容が急激に悪質なものに変化していった。ガーベッジ・イン・ガーベッジ・アウトは機械学習の基礎的な法則であり、優秀なAIシステムは問題の芽を発見すると、人間の手が加えられるように管理者へアラートを発するようになっている。

プロダクト面におけるAIの溝

正しいゴールに向けた最適化 どのような回答をAIに求めているかを明確にすることにAIの成功はかかっている。トレーニング開始当初から、インプットされる問題とその回答、そして何を良い・悪い回答とするかということをハッキリと決めておかなければならない。データサイエンティストは、このような基準をもとにAIモデルの正確性を見極めていくのだ。

まずはゴールの設定だ。AIを使う目的は売上の最大化なのか、ユーザーエクスペリエンスの向上なのか、手作業で行われているタスクの自動化なのか、それともまた別の目的があるのか?AIプロダクトが成功をおさめるためには、ビジネス上のゴールがきちんと反映された評価基準を利用しなければならない。

この点に関し、Netflixのアルゴリズムコンテストからは学ぶべきことが間違いなくある。Netflixは新しい映画レーティング・アルゴリズムの開発者に100万ドルを授与したものの、DVDレンタルから動画ストリーミングへサービス内容が移行したことから、当初のゴールが当時の状況にマッチせず、結局そのアルゴリズムを現実で利用することができなかったのだ。

評価基準を設定するときには、以下のポイントを抑えておく必要がある。1)本当に意味がある数値を計測する 2)新しいライブデータを使って評価を行う 3)関係者が理解でき、かつ重要だと思えるように評価結果を説明する。そして3点目は人間とAIの交流という重要なポイントにつながってくる。

人間とAIの交流 人間というのは複雑な生き物だ。そのため、人間とAIが関わり合いはじめると、研究所でデータだけを相手にしていたときには浮かんでこなかったような問題が生まれてくる。消費者は信用できないようなAIプロダクトは利用しない。そして企業は予測モデルがどれほど正確か見せることで信用を勝ち取ろうとするが、ほとんどの消費者はいくら素晴らしい数値を見せられても専門的な内容を理解することができない。

結果的に企業は、プロダクトのUXやUIを利用して消費者の信用を築いていかなければならなくなる。例えばAppleはバーチャルアシスタントのSiriを最初にリリースしたとき、ユーザーのいる国に応じてデフォルト設定の声の性別を変えていた。さらにGoogleの自動運転車では、可愛らしいフレンドリーな顔が表示され、安全性に不安を感じている利用者の気持ちを落ち着けるようになっている。アルゴリズムの見せ方は、問題だけでなく解決策にもつながっているということを覚えておいてほしい。

実際のところ、AIの溝を越えるということはそこまで恐ろしいことではない。よく練られた計画と共に、下ではなく前を見ながら進んでいけば良いだけなのだ。そしてAI第一の企業になるためには、顧客第一でなければならないということをお忘れないように。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

空飛ぶ車実現の鍵を握る自動運転車とドローンのテクノロジー

Cartoon illustration of a flying car passing above other land vehicles

【編集部注】執筆者のTony AubeはOsmoのリードデザイナー。

幼い頃は、日曜朝のアニメチャンネルを兄弟で見ながら、宇宙家族ジェットソンの再放送で一家が空飛ぶ車で空を走り回る様子を眺めていた。当時はサイエンス・フィクションの黄金期で、ハリウッドは、ブレードランナー、バック・トゥ・ザ・フューチャー、スター・ウォーズ、フィフス・エレメントといった映画で溢れていた。そしてこのような映画の影響で、私たちは夢のようなテクノロジーで溢れた未来がいつか訪れると信じていた。

今周りを見てみると、当時の未来像に含めれていた、たくさんのものが既に実現したように感じる。道を歩いている人のポケットの中には高機能の通信機が入っており、地球上の誰とでもすぐにコミュニケーションがとれる。人間の遺伝子情報は全て解明され、世界中のほとんどの情報を指先で集めることができるばかりか、火星を侵略しようとさえしている。ここまで技術が進歩しているにも関わらず、何かが欠けている気がしないだろうか。まだ空飛ぶ車が誕生していないのだ。空飛ぶ車を作るのがそんなに難しいはずはないだろう。

空飛ぶ車の忘れ去られた歴史

信じられないかも知れないが、空飛ぶ車の誕生から既に70年以上が経っている。1904年にJules Verneが発表した小説Master of the Worldの中に空飛ぶ車が登場して以来、技術者は何世代にも渡ってその実現に向けて努力を重ねてきた。1940年にはHenry Fordが、飛行機と自動車を組合せた乗り物がそのうち誕生すると予言していた。当時の飛行機と自動車は、機体の価格が低下する一方、技術力は向上し、普及率も上がってきていた。そのため、近いうちに車と飛行機を組合せた乗り物が登場すると思われていたのだ。Fordの予言は正しく、彼の予言から数年後に、航空エンジニアのTed Hallが世界初の完全に機能する空飛ぶ車を完成させた。

70年前に作られたこのビデオには、実際に空を飛んでいる車の様子がおさめられている。機体は乗用車と取付可能な翼からできている。当時の航空機大手だったConvairが支援していたこのプロジェクトの中で、彼らは66回もテスト飛行を成功させていたため、あとは微調整を加えれば商業的な成功は目の前だと考えられていた。しかし1947年に行われたテスト飛行中、着陸時に衝突事故が起き、それ以後Convairはプロジェクトから手を引くことになった。そして、危険すぎると判断されたこのプロジェクトは、Hallの空飛ぶ車を一家に一台という夢とともに、最終的には消えてなくなってしまった。

それ以来、幾度となく空飛ぶ車の開発プロジェクトが立ち上げられたが、プロトタイプの段階を越えるようなものは生まれなかった。しかし、空飛ぶ車のアイディアに関して注目すべきなのが、誰も諦めないということだ。挫折や失敗が繰り返されているにも関わらず、どの世代のエンジニアも空飛ぶ車のアイディアの虜になり、その状況は今でも変わっていない。

究極的に言えば、空飛ぶ車が実現しない理由はテクノロジーやコストの問題ではない。

今日でも、TerrafugiaAeroMobilMoller Internationalといった企業が、この夢の実現に向けて動いている。彼らの名前は聞いたこともないかもしれないが、3社とも実際に動くプロトタイプを既に完成させている。

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AeroMobil 3.0というぴったりな名前が付けられた、AeroMobileの最新のプロトタイプ。

それじゃなぜ空飛ぶ車は世界中を飛び回っていないのか?

前述の通り、空飛ぶ車に必要なテクノロジーが誕生してからは既に何十年も経っており、今日でも空飛ぶ車の開発を行っている企業が存在する。それではなぜ、未だに車が空を飛んでいる様子を目にしないのだろうか?

一言で言えば、それは人間のせいなのだ。

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以前の記事でも触れた通り、人間というのはひどいドライバーだ。アメリカでは、車が関連する事故で年間3万人が命を落としており、8710億ドルものお金が消えてなくなっている。あなたの周りで運転が1番下手な人を思い浮かべてみてほしい。次に、その人が2トンの重さを持つ死のマシンに乗って、空を飛び回っている様子を想像してみてほしい。どんな気持ちがしただろうか?

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空飛ぶ車が一般に普及すれば、間違いなく世界中の建物で死亡事故が起きるだろう。現代の建築物は、(常に発生している)普通の車の衝突事故には耐えられるように設計されているが、空飛ぶ車は想定されていない。さらに、空中ではちょっとした衝突事故が起きるだけで、衝突した車と衝突された車の両方が地上に落ちる可能性がある。空飛ぶ金属の塊がいつ自分の頭の上に降ってくるかもわからないような世界には誰も住みたくないだろう。

究極的に言えば、空飛ぶ車が実現しない理由はテクノロジーやコストの問題ではない。空で何かを操縦するにあたって、ほとんどの人間はあてにならないという事実こそが、本当の理由なのだ。

ドライバーレステクノロジーの登場

ここから空飛ぶ車の議論は面白くなってくる。私たちは既に自動車に関して、あてにならない人間の問題を自動運転技術で解決した。

自動運転車は現実のものだ。大手テック企業は軒並み自動運転車の開発に力を入れており、街がGoogleカーのような自動運転車で溢れるのも時間の問題だ。自動運転車は素晴らしいアイディアである一方、その後継候補である自動飛行車には魅力では勝てない。

「どうすれば、空飛ぶ車を操縦できるほどコンピューターが賢くなれるのか?」と疑問に思うかもしれない。

どうやら、路上を走る車よりも空を飛ぶ車用のドライバーレステクノロジーの方が、簡単につくれらしい。空中には歩行者もいないし、くぼみもない。工事現場もなければ、その他のコンピューターが判断に迷うような障壁も空中には存在しないのだ。これこそ、ドライバーレステクノロジーがまず航空機に導入され、既に何十年間も航空業界で利用されている理由だ。センサーや演算能力、AIといったテクノロジーの発展に伴い、最近ではパイロットの必要性さえ問われている。今日のパイロットは、1フライトあたり平均3.5〜7分しか飛行機を操縦しておらず、以前は弁護士や医者と肩を並べていた給与に関しても、現在アメリカのパイロットの初任給は最低で時給10.75ドルまで下がってしまっている。自動化によって、タクシーやトラック運転手の仕事がなくなってしまうという議論が至る所でされているが、パイロットも例外ではない。

ここまでをまとめると、安全性が空飛ぶ車の主な問題点で、ドライバーレステクノロジーがそれを解決できるかもしれない。それでは、誰がその研究を行っているのだろうか?

いつもの顔ぶれ

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シリコンバレーに拠点を置く3人の著名人は、近年空飛ぶ車に強い関心を持っており、現在全員がドライバーレステクノロジーの開発に注力している。さらに3人とも豊富な資金力を持っているほか、世界トップクラスのエンジニアの力を借りることができ、これまでにも不可能と思われていたことを可能にした実績がある。Travis Kalanick、Larry Page、Elon Muskがその3人だ。

先月公開した98ページに及ぶ白書の中で、Uberは空飛ぶ車の未来に関するビジョンを説明している。この文書(概要はこちら)には、今後10年のうちにグローバルなオンデマンドのシェア航空サービスを提供するため、Uberがビジネスをどのように展開していくかについての具体的な計画が記載されている。要するに彼らは、ドライバーレスの空飛ぶ車用のUberアプリをつくろうとしているのだ。

UberそしてTravis Kalanick以外に、Larry Pageも空飛ぶ車にはかなり興味を持っている。これまでに彼は、1億ドル以上ものお金を、空飛ぶ車の開発に力を注ぐZee.AeroとKitty Hawkという2社のスタートアップに密かに投資してきた。Zee.Aeroは現在ホリスター市民空港でプロトタイプのテストを行っており、変わった見た目の乗り物が離着陸する姿を見たと報告している人もいる。Kitty Hawkの動きは謎に包まれているが、とても興味深いことに、以前Googleで自動運転車プログラムのトップを務めていたSebastian Thrunがこの会社の経営に関わっている。

Uberはドライバーレスの空飛ぶ車用のUberアプリをつくろうとしているのだ。

Muskはと言えば、どうやら彼は空飛ぶ車のアイディア自体そこまであてにしていないようだ。誤解しないでほしいのが、彼は空飛ぶ車をつくるのが難しい考えているわけではなく、ハイパーループのようにもっと効率的に都市間を移動する手段があると信じているのだ。しかし、長距離移動手段としてMuskが推奨しているのが、電気飛行機だ。いくつかのインタビューの中で、Muskは次なる大きなアイディアとして超音速電動ジェットのことを話していた。すでに彼は電気飛行機のデザインを終えているため、このまま競合が登場しなければ、またMuskは新たな会社を立ち上げて超音速電動ジェットを現実のものにしてしまうかもしれない。

面白いことに、これらのプロジェクトの機体のデザインには共通点がある。UberもPageもMuskも、電動で人間を運ぶことができ、地面に対して直角に離着陸できるような機体を考えているのだ。特に最後のポイントが重要だ。

人間用ドローンとして知られるVTOL機

ここまでに紹介した空飛ぶ車は、せいぜい飛行機と車が奇妙に組み合わさった高価な乗り物としか捉えられない(車と飛行機の良い点が潰されてしまっている)、と思う人もいるだろう。もともと車と飛行機は全く別の目的を持った乗り物であるため、単純にふたつを組み合わせただけでは上手くいくはずもない。突き詰めれば、飛行機と車を別々に購入した方が良いくらいだ。

このような設計上の問題を解決するために、空飛ぶ車は車か飛行機のような見た目をしていなければならない、という固定観念をまず捨て去る必要がある。以前公開した記事の中でも、人は旧来のソリューションを新たなテクノロジーに応用しようとする悪い癖があるということや、なぜ全く新しいプロダクトには新しい設計上のアプローチが必要かということに触れていた。これこそ、VTOL機の構造を空飛ぶ車に採用すべき理由なのだ。

VTOL機とは垂直離陸機(Vertical Take Off and Landing vehicles)のことを指している。要するに、今日のドローン革命を起こしたテクノロジーを使って、将来人間を運べるような空飛ぶ車をつくることができるかもしれないのだ。翼や車輪のことは一旦忘れ、宇宙家族ジェットソンが乗っているような空飛ぶ車や、DJIのドローンを人間が乗れるように大きくしたものを思い浮かべてみてほしい。

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CES 2016で公開されたEHang 184は、数あるプロトタイプの中でも注目の機体だ。

もしも、ドライバーレステクノロジーが空飛ぶ車実現の鍵を握っているとすれば、ドローンのテクノロジーは、機体を大量生産できるように簡素化する上で重要な役割を担っている。

飛行機の翼を車に取り付けるというアイディアは、見た目以外にもさまざまな問題を抱えている。翼を使って飛ぶためには、乗り物が水平方向に離陸する必要があり、これは危険なだけでなく、プロセスも煩雑になる上、離陸時に広大なスペースが必要になる。翼を垂直スラスタに替えるだけで、機体は素早く空高くへと舞い上がることができ、そうすれば燃料も節約できる。このように設計を行えば、主翼や尾翼、エレベーターといった、飛行機の中で最も危険とされる可動部を乗り物に搭載しないですむのだ。その結果、もっとシンプルで安全かつ大量生産しやすい機体が生まれる。

空飛ぶ車は車か飛行機のような見た目をしていなければならない、という固定観念を捨て去らなければいけない。

設計上重要な別の点として、電気モーターが挙げられる。これは単に環境に優しいだけでなく、VTOL機の動力源としては電気が一番理にかなっているのだ。電気モーターであれば、可動パーツの数を抑えられ、内燃エンジンよりも簡単につくることができる。また、電気モーターの方がずっと燃費が良く、メンテナンスも簡単で、飛行中に壊れる可能性も低いほか、内燃エンジンのように衝撃で爆発することもない。さらに電気を利用すれば、複数のスラスタを別々にコントロールすることもできる。そのため、もしも複数あるスラスタのうちどれかが故障しても、それ以外が直ちに浮力を補正し、無事に着陸することができる。そして最後に、電気モーターは騒音面でも内燃エンジンに勝っている。これこそ、VTOL機とヘリコプターの違いを生んでいるポイントだ。前述の白書の中でUberは、VTOL機の離陸時のノイズは、街の環境音と変わらない程度の大きさで、飛行中にはほとんど音が聞こえないはずだと推測している。

毎日の飛行通勤

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出典: Shutterstock

渋滞にひっかかっているときに、大きな赤いボタンを押して空に浮かび上がり、他の車を飛び越えていければと思ったことはないだろうか。渋滞の解消という夢を空飛ぶ車が実現しようとしている。

超高層ビルが都市部の限られた土地を有効利用しているように、都市部で空を飛ぶ交通機関が発達すれば、空の3次元空間を有効活用して地上の渋滞を解消できるかもしれない。― Jeff Holden, Uber CPO

これまでにも述べている通り、渋滞は大きな社会問題のひとつだ。アメリカだけでも、渋滞のせいで年間1240億ドルが無駄になっている。そして、交通渋滞の主な原因のひとつがインフラ不足だ。私たちが利用している高速道路は、今日の車の台数を想定してつくられてはいない。しかしVTOL機を利用すれば、この問題も解決する。VTOL機が一般に普及すれば、道路や線路、橋、トンネルの必要性がかなり減ることになる。これは環境に優しいだけでなく、公共事業に投じられるはずだった何千億ドルものお金の節約にもつながるのだ。

さらに、インフラに依存しない交通機関を利用することで、時間の節約もできる。電車やバスや車は、必ずしも効率的とは言えない限られた道順をたどってしか移動することができない。また、旧来の交通手段には、車両事故や工事などで道が遮断される可能性が常につきまとう。一方、空飛ぶ車であれば、最短距離で一直線に目的地まで到達することができる。さらに、地面と垂直に離着陸できれば、空港や滑走路など、現代の飛行機が離着陸するのに必要なスペースもいらなくなる。家のそばで離陸して、目的地のすぐとなりに着陸すればいいだけなのだ。繰り返しになるが、必要とするインフラの量が減るほど時間は節約できる。

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Uberは白書の中で、VTOL機の最初のユースケースには、長距離通勤が最適だと記している。VTOL機の大量生産が実現すれば、最終的には車を所有するよりもVTOL機を利用した方が安くなるとUberは考えているのだ。例えば、車だと2時間12分かかるサンフランシスコからサンノゼまでの道のりも、20ドルの料金を支払えばVTOL機に乗って15分で移動できるようになるかもしれないのだ。

空飛ぶ車実現への道

空飛ぶ車の実現にはまだまだ時間がかかる。前述の白書の中で、Uberも空飛ぶ車の実現までに解決しなければいけない主な課題を明示していた。まず、ドライバーが必要ないとしても、空飛ぶ車は連邦航空局の規制に準拠しなければならず、承認までにはかなりの時間がかかることが予想される。さらに安全面やコスト面の問題もまだ残っており、バッテリー周りのテクノロジーも追いついていない。Uberは、いかにこのような課題を解決し、10年以内にVTOL機を一般普及させるかについても白書の中で述べている。

著書「From Zero to One」の中でPeter Thielは、私たちはもう革新的な世界に住んではいないと述べ、物議を醸した。産業革命の結果、電気や家電、超高層ビル、自動車、飛行機といったさまざまなイノベーションが誕生した一方、現代のイノベーションのほとんどは、ITや通信の世界に留まっていると彼は主張しているのだ。Thielの指摘通り、ライフスタイルが1950年代から不思議なほど変わっていないという事実に、私たちはスマートフォンのせいで気づいていないだけなのかもしれない。

しかし私は、少なくとも交通の分野ではその現状が変わろうとしていると主張したい。自動運転車やハイパーループ、再利用可能な宇宙ロケットといった最近のプロジェクトを見る限り、イノベーションは未だに生まれ続けている。そして、かつて自動車が地上交通の敷居を下げたように、オンデマンドで共有型の空飛ぶ車によって、空中移動が身近なものになろうとしている。このテクノロジーによって、将来的には誰もが、今よりも快適に速く、安く、安全でより環境に優しい手段で移動できるようになるのだ。

空飛ぶ車の実現に向けた道のりは長いかもしれないが、そんなことは問題ではない。だってMarty、私たちがこれから行こうとする場所には、道など必要ないのだから。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

人体とテクノロジーの融合のこれまでとこれから

A man with a computer chip inside his head

【編集部注】執筆者のDaniel Waterhouseは、Balderton Capitalのジェネラル・パートナー。

”人間”と”機械”の距離が縮まりつつある。機械学習によって、仮想現実はより”リアル”に感じるようになり、これまで人間の脳でしか処理できないとされていたことも、AIがどんどん再現できるようになってきている。このような技術の力によって、テクノロジーはこれまでにないほど人間の体に近づいており、だんだんと奇妙な感じさえしてくる。

しかし、これからもっと奇妙なことが起きようとしている。

まずはこんな問いからスタートしてみよう。VRモードのMinecraftで教会の屋上の端っこに立っているのと、ノルウェイの山の絶壁に立っているのではどちらの方が怖いだろうか?私は両方を体験したが、Minecraftをプレイしているときの方が強いめまいを感じたのを覚えている。

私たちの脳は、進化を通して私たちが住む世界を理解し、種の保存を念頭に置いて数々の判断を下せるようになった。この仕組みのおかげで高さを恐れる感覚が養われていき、「高い場所の端には寄るな、落ちて死ぬかもしれないぞ」と感じられるようになったのだ。

実際のところ私たちが見ているものは、目を通して得た情報を脳が処理したものだ。つまり、私たちが見ているものは現実ではなく、私たちが進化の中で有用と考えるようになった現実の一部を脳が読み取ったものなのだ。そのため、私たちがどのように”見るプロセス”を”見ているもの”に変換していくのかが分かれば、VRが作り出す幻想を現実よりもリアルに感じられるようになる。その例が先ほどのMincraftとノルウェイの山の話だ。

VR内で教会の屋根の上に立つことが生死に関わるリスクだと人間が認識しないようになるには、かなりの時間がかかると予想されている。むしろ今後数年の間に、脳が特定のパターンで物事を認識するように仕向けるテクノロジーが発展していくだろう。

同時に、私たちの脳に関する理解も日を追うごとに深まっている。神経の可塑性に関する最近の研究の結果、脳の一部が損傷しても、トレーニングを通じて他の部分がその機能をカバーできることが分かっている。今後さらに脳の詳細が明らかになれば、そのうち人工的な刺激の処理方法をプログラムで調整し、今日のVRよりもリアルな体験ができるようになるかもしれない。

さらに新たな種類のスマートイヤホンや音声ソフトの登場で、聴覚を欺く方法も明らかになってきた。OculusはOculus Rift用のイヤホンを最近発表し、没入感の提供に力を注いでいる一方、以前H__rと名付けられていたアプリは、音声フィルタリングの技術を使ってノイズを心地良い音に変える機能を備えている。

VRが作り出す幻想を現実よりもリアルに感じられるようになるかもしれない。

自分たちのことを”人工嗅覚の専門家集団”と呼ぶThe eNose Companyは、人間の鼻の機能を再現できるテクノロジーの開発に成功した。彼らの技術は、肺のテスト機器警察犬の代わりとしての応用が検討されている。

このようにさまざまなテクノロジーが発展していく様子を見ていると、仮想世界と現実の境界が分からなくなるほどのフルVR装置(ヘッドセット、イヤホン、グローブ、さらには嗅覚や味覚の代わりになるセンサーのセット)がそのうち誕生しても不思議ではない。

それどころか、記憶に関連したシナプスの結合を強化する脳内物質を発生させる方法がみつかれば、現実ではできない体験をVR上でできるようになる可能性もある。トランセンデンスの世界やマイノリティ・リポートのVRポッドも、そう遠い話ではないのかもしれない。

このような技術が発達した結果、テクノロジーが私たちの体と密接に絡み合うようになってきた。しかし、テクノロジーと人体の相互作用は、VRの中だけで力を発揮するわけではない。機械上で脳の作用を再現しようとしているAIの技術がここに混ざりあうことで、テクノロジーと人体の融合はさらに面白くなっていく。

技術者は何十年にも渡り、脳の仕組みを利用してとても複雑な問題を解くことができるアルゴリズムを構築しようと努力してきた。そして、コアアルゴリズムの進化やコードのスマート化、さらにはコンピューターの機能が向上したことで、最近ではこの分野でも大きなブレイクスルーが起きている。

脳全体を再現した汎用AIまでの道のりはまだまだ遠く、実現までにどのくらいの時間がかかるかや、実際に汎用AIを作ることができるかどうかさえも現時点では分かっていない。そもそも、脳を再現した機械を作る前に、私たちは自分たちの脳のことを完全に理解しなければならない。

画像認識や言語学習など、脳のさまざまな機能を研究することで、脳でどのような処理が行われているかや人間の学習プロセスについて解明することができる。脳は新しい概念について学ぶとき、似たような例をたくさん確認必要があるのか、または自力で新たな概念を学ぶことができるのだろうか?言い換えれば、脳のアルゴリズムは教師あり(Supervised)なのか、それとも教師なし(Unsupervised)なのだろうか?

本当の意味で教師なし学習を行えるAIの開発にあたって、今後何年間も関係者が頭を悩ませることになるだろう。そして、関係者の中にはこの新たな分野を受け入れはじめた(=数多くの企業買収を行っている)大手テック企業も含まれている。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

人工知能が企業のセールス業務に利用される例が増えている

Asian woman over microchip circuits

2016年は人工知能(AI)が非常に注目された年だった。人工知能の開発は何十年も前からはじまっていたが、パワフルなコンピューターを安価で利用できるようになったことと、アクセスできるデータの量が飛躍的に伸びたことで、今年になってやっと人工知能の時代が訪れたようだ。

AIによるビジネスの効率化が最初に始まったのは企業のセールス業務だった。毎日のように繰り返される営業ワークフローをAIによって効率化させようという試みだ。考えてみれば、企業の収入を直接的に左右するこの分野でAIの応用がはじまったのは、当然の成り行きだったと言えるだろう。AIがビジネスに与える影響を調査する、Constellation ResearchアナリストのAlan Lepofskyは、ベンダーたちがこの動向に注目しているのは確かだと話す。

彼によれば、人間は情報オーバーロードに苦しめられているという。私たちがより多くのデータを集めるにつれて、そのデータがもつ意味を理解するために私たちはコンピューターの処理能力に頼らざるを得なくなる。「AIが情報をフィルタリングしたり、タスクを自動化することで、その負担を軽減してくれることが期待されます」とLepofskyは話す。

AIはスタートアップ・コミュニティにも多大な影響を与えている。TechCrunchでも今週、AIによる営業アシスタントを開発するConversicaが3400万ドルを調達したことを報じたばかりだ。このAIアシスタントには自然言語処理(NLP)、推論エンジン、自然言語生成などの技術が使われている ― なかなか洗練されたテクノロジーだ。このAIが見込み客との初期コンタクトを自動化し、その後に人間の営業員に引き継ぐという仕組みだ。

一方、CRM業界のベテランが創業したTactは、営業員のスケジューリング管理などにAIを活用するスタートアップだ。同社もまた、今月初めに1500万ドルを調達したことを発表している。営業員が「CRMの奴隷」になってしまうことを防ぎ、AIを活用して彼らにロジカルで効率的な営業法を提供するというアイデアだ。

これらのスタートアップは、営業という分野のなかにある様々な側面をAIによって効率化させようとしている一方で、SalesforceOracleBaseなどといったCRM業界の巨人たちは単に顧客情報を記録するためのツールではなく、それに内蔵された「知性」によって営業活動を強化するというCRMツールを開発している。

従来型のCRMは顧客と営業員とのやり取りを記録するためのツールだったが、AIによってそれ以上のことが可能になったと話すのは、Bluewolfでカスタマー・エクスペリエンス部門のSVPを務めるVenessa Thompsonだ(BluewolfはSalesforceと提携するコンサルティング企業である)。

「AIはカスタマー・インタラクションがもつ力を引き出し、新たなデータが追加されるたびにツールはより賢くなります」と彼女は語る。

プラットフォームがもつ力を有効活用することで、営業員は顧客と接する時間を増やし、契約を獲得することだけに集中することができる。「営業員がどこに時間を費やすべきか、そして次に何をすべきかを予測するためには ― 彼らに適切なデータを、適切なときに与える必要があります。営業員はあらゆるソースからデータを取得する必要があり、彼らがそのデータを利用して意思決定をするためにはコグニティブなプラットフォームが必要なのです」と彼女は説明する。

AIをカスタマーサービスの分野に適用する企業も増えている。ボットを利用した初期コンタクトの自動化などがその例である。シンプルなタスクはボットにまかせ、より複雑なタスクは人間のオペレーターが対応するというアイデアだ。今週、SalesforceはLiveMessageをリリースした。これは、同社のService Cloudプラットフォームにメッセージング・アプリを組み込み、人間のオペレーターとボットの力を組み合わせるためのツールだ。

AIを営業やカスタマーサービス分野に適用する動きは、AIによるビジネス効率化の初期事例にすぎないだろう。コンピューターによって従業員の能力を拡張することが主流になりつつある今、今後数年間のうちにAIがさまざまなビジネス分野に適用される事例が増えていくことだろう。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter