巨額損失のソフトバンク・ビジョン・ファンドは毎日100億円超を投資していた

ソフトバンクグループの2019会計年度(2020年3月31日終了)の財務状況の発表で、ソフトバンク・ビジョン・ファンドについていくつか興味深い情報が判明している。衛星通信会社のOneWebが倒産し、コワーキングスペース運営のWeWorkと配車・デリバリーサービス運営のUberが苦境に追い込まれ、大株主であるソフトバンク本体とビジョン・ファンドの損失が巨額となる見通しはTechCrunchでもすでに触れた。新型コロナウイルス(COVID-19)によるパンデミックが将来の見通しにも逆風となっている。

ビジョンファンドの財務諸表(PDF)に埋め込まれていた注によれば、ビジョン・ファンド1号が新規投資を終了したのは2019年9月だった。この時点で投資可能なキャッシュをすべて投資し終わったためだ。

注によれば最初のビジョン・ファンドの管理者は、2019年9月12日にファンドがその資本の85%を使用したと判断した。残る15%の資金は 追加投資、義務的支出、ファンド管理手数料をカバーするために残された。ファンドの約款によれば新規投資は2022年11月20日まで投資を続けることが可能だったが、それを待たずこの時点で新規投資は打ち切られた。

ソフトバンクグループの文書で簡単に振り返ると、ビジョン・ファンドは2017年5月20日に初回の出資クローズを発表し、総額968億ドル(10兆円)を調達した。つまりビジョンファンドは845日間で投資と手数料合計で838億ドル(9兆円)を費やしたことになる。簡単な計算で1日あたり1億ドル弱(106億円)を投じていたとわかる。

週末も含めて毎日1億ドル(約100億円)だ!

昨年、ソフトバンクグループは合計で1080億ドル(11.6兆円)とさらにさらに規模の大きいビジョン・ファンド2号を立ち上げる計画を発表した。しかしその資金集めが難航していると報じられており、これは今後も変わりそうにない。

ソフトバンクグループは今年3月31日を終期とする会計年度でビジョン・ファンドが174億ドル(1.87兆円)の価値の減少となったことを決算発表で正式に認めた。その前年度にソフトバンクグループは128億ドル(1.37兆円)の価値増加を発表していた。つまり2019会計年度の運用はこの利益を完全に帳消しにしたわけだ。

しかし重大な問題点はファンドのポートフォリオ企業のパフォーマンスそのものだろう。現在、ビジョン・ファンドには上場や売却などによるイグジットが行われていないポートフォリオ企業が88社ある。うち19件については価値が合計約34億ドル(0.36兆円)増加している。しかし50社は合計207億ドル(2.2兆円)の損失だ。19社については価値の変動はなかった。

初期段階(シード、アーリー)の投資に特化したファンドが赤字になることはよくある。しかし後期段階(レイター)向けファンドがこの種の巨額の損失を被るというのは非常にまれだ。企業価値の評価新型コロナウイルスが世界経済に大打撃を与える前に行われたことはほぼ確実だろう。そう考えるとポートフォリオ企業の57%が1年間でこれほど価値を減少させたというのは驚くべきことだ。しかもこうした企業の大部分は、それぞれの成長段階に応じて短期的、中期的に何らかのかたでイグジットを目指していたのだから驚きはなおさらだ。

もちろんポートフォリオ内にはいくつかの勝利もあるし、明るい面もある。しかし、結局のところ、ポートフォリオの価値を決めるのは各部分の総和だ。残念ながら現在その総和は上に見たような状況となっている。

画像:Getty Images

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook

AI vs ウソと差別的発言、コロナ禍のいまFacebookが抱える大問題とは

FacebookのAIツールは、いまFacebookで吹き荒れている差別的発言や偽情報とユーザーの間に立つモデレーターの役割を一手に引き受けている。同社の研究者は、ミームを装った新型コロナウイルス感染症関連の偽情報や差別発言を特定することで、こうした発言に対する水際対策を講じるための機能をいくつか考え出した。

今は新型コロナウイルス関連の偽情報を検出して排除することが優先事項であることは間違いない。Facebookやその他のソーシャルメディアは、通常の憶測や議論だけでなく、組織的に不和の種をまいたりエセ科学を広めたりするなどの、悪意ある妨害の温床となっているからだ。

「新型コロナウイルス感染症の影響で、サイト全体でユーザーの行動が大きく変わってきている。我々が危険だと感じる偽情報が急増している」とFacebookのMike Schroepfer(マイク・シュローファー)CTOは報道陣の取材に答えた。

Facebookは世界中で数十社のファクトチェック団体と契約している。そうした団体との協力体制がどの程度の効果を上げているのかという疑問はさておき、偽情報はすぐに変異していく傾向があるため、1つの画像やリンクを削除するだけでも複雑な仕事になる。

一例として、次の1つの画像を見てほしい。

これらの画像は、背景、色、書体が同じであることからほぼ同一であるともいえる。だが、2枚目の画像は少し異なっている。オリジナルではなく、誰かがオリジナル画像のスクリーンショットを撮ったものだ。3枚目の画像もほぼ同じだが、文が逆の意味になっている。

あまり洗練されていない画像認識アルゴリズムでは、これらの画像はわずかに異なる部分があるために(生成されるハッシュ値がまったく異なるため)まったく別の画像として認識されるか、圧倒的に類似点が多いためすべて同じ画像として認識されるかのどちらかである。もちろん、人間が見ればすぐに違いが分かるが、この違いを確実に識別できるようにアルゴリズムをトレーニングするのはかなり難しい。それにFacebookでは情報がまたたく間に拡散するため、上記のような同じような画像が数千も存在する状態になることがある。

「我々の目的は、人が見れば同じ画像とみなされるこうした類似画像を同じ画像として検出することだ」とシュローファー氏はいう。「これまでのAIシステムは非常に精度が高かったが、その分、わずかな違いに対して非常に弱い。数ピクセル変更しただけで、別画像と認識してしまい、削除対象から除外されてしまう。そこで我々はこの2年半で、ニューラルネットワークベースの類似性検出システムを構築した。これにより、より広範囲にわたって、こうしたわずかに異なる画像を高精度で特定できるようになった」。

幸いにも、そうした規模での画像解析はFacebookの得意とするところだ。写真を比較して顔やあまり望ましくないものの特徴を検索するためのアルゴリズム基盤はすでに整っている。あとは何を探すのかを教えるだけだ。そうして数年の努力の結果完成したのが「SimSearchNet」だ。SimSearchNetは、最も目立つ(ただし人の目ではまったく気づかないような)特徴を詳しく調べることによって、ある画像に非常によく似た画像を検索および解析するシステムだ。

現在、InstagramとFacebookにアップロードされる1日あたり数十億にのぼる画像はすべて残らずSimSearchNetによって調査されている。

Facebook MarketplaceもSimSearchNetの監視の対象だ。このマーケットプレイスでは、アップロード画像に関するルールをすり抜けようとする人たちが、同じ出品アイテムについて、ほぼ同一だが少しだけ編集した画像(例えばN95マスクの画像など)をアップロードして、削除を免れるようにしている。SimSearchNetでは、色やその他の方法で編集された写真の類似性がチェックされ、(削除対象となっている写真と同一と判定されれば)出品が中止される。

差別的ミームと意味があいまいなスカンク

Facebookが対応に苦慮しているもう1つの問題がヘイトスピーチ、およびそれに準ずる不快表現だ。とりわけAIによる検出が特に難しいことが分かっている領域としてミームがある。

問題は、こうした投稿は画像とテキストの相互作用によって初めて意味を成すことが多いという点だ。テキストだけではまったく問題なかったり意味があいまいだったりしても、画像と組み合わせることで意味が明確になる。それだけではない。画像やフレーズにはそれこそ無限のバリエーションがあり、それによって意味が微妙に変わる(あるいは変わらない)ことがある。次の例をご覧いただきたい。

Facebook上のミーム

これらは悪意のあるミームだがトーンダウンされている。Facebookでよく見かける本当に差別的なミームはこんなものではない

パズルを構成する個々の画像は、コンテキストによって問題ないこともあれば、侮辱的にもなる。こうした善悪を機械学習システムでどのように判別すればよいだろうか?こうした「複合型ヘイトスピーチ」は、AIの動作の仕組みという観点からすると大きな問題となる。既存のAIシステムは言葉を理解し、画像を判別できるが、両者の相互作用によってもたらされる結果を特定するのは簡単ではない。

Facebookの研究者たちによると、このようなテキストと画像の相互作用というテーマに関する研究は驚くほど少ないという。その意味でFacebookの研究は解決策というより探査ミッションのようなものだ。この研究によりFacebookがたどり着いたテクニックは数段階の手順から成る。まず、人に膨大な数のミーム型画像も見てもらい差別的発言かどうかを示す注釈を付けてもらう。次に、このデータに基づいて機械学習システムをトレーニングして、既存のシステムとは決定的に異なるシステムを構築した。

こうした画像分析アルゴリズムはほとんどの場合、テキストと画像を同時に提示すると、まずはテキスト、次に画像という具合に別々に分類してから、両者の関連付けを行う。しかし、その方法には上述のような脆弱さがある。つまり、差別的ミームのテキストと画像を、コンテキストを考えずに別々に見ると、まったく無害なコンテンツであると判別される可能性がある。

Facebookのシステムはテキストと画像の情報をパイプラインの最初の段階で組み合わせて(これを「早期融合」と呼ぶ)、従来の「遅延融合」アプローチとの違いを生み出す。この方法は人の処理方法に近い。つまり、メディアを構成するすべての要素を見てからその意味やトーンを評価するというやり方だ。

この新しいアルゴリズムは現時点ではまだ本格的導入されてはいない。全体的な精度は65~70%程度だ。だがシュローファー氏によると、有効性の評価には「本当に判別の難しい問題」を使っているという。複合型ヘイトスピーチは簡単に判別できるものもあれば、人でも判別が難しいものもある。

システムのミーム判別能力をさらに高めるため、Facebookでは、今年後半に開催されるNeurIPS AIコンファレンスで「差別的ミームチャレンジ」と題するコンテストを実施する予定だ。コンテストは普通、機械学習システムにとって難しいタスクが課題として使われる。そのような新しい問題は研究者たちの大好物だからだ。

FacebookのポリシーにおいてAIが果たす役割の変化

Facebookは、新型コロナウイルス大流行の初期に、AIのモデレーターとしての役割を拡充強化していく計画を発表した。マーク・ザッカーバーグ氏は3月、記者会見で、「1万5000人のモデレーター契約社員が自宅で有給休暇を取っている状態を考えると、『偽陽性』(誤って削除対象にしてしまうコンテンツ)の件数が増えると思われる」と語った。

YouTubeTwitterも同時期にコンテンツのモデレーション作業のAI移行を強化したが、AIによるモデレーションへの依存度が大きくなると、ルールに違反していないコンテンツが誤って削除対象となる可能性があることを警告している。

FacebookはAI化を進める一方で、人間のレビューアの通常出勤を促すことに必死である。ザッカーバーグ氏は4月半ば、社員の通常出勤への復帰スケジュールを明示し、コンテンツレビュアーは通常勤務への早期復帰が最も望まれる「重要職」であると述べた。

FacebookはAIシステムによるコンテンツの削除は行き過ぎる可能性もあると警告しているが、新型コロナウイルス危機の拡大にともない、ヘイトスピーチ、悪質な脅し、偽情報などもサイトで拡散を続けている。Facebookは最近、マスクをしないようにとか、ワクチンが入手可能になっても買い求めないように促す、健康に関する偽情報ルールに明らかに違反した口コミ動画を広めたとして非難されている。

この動画は「Plandemic」という公開予定の偽情報ドキュメンタリーから抜粋され、最初はYouTubeで拡散したものだが、研究者たちはFacebookで活発に活動している陰謀論支持者グループが広くこの動画を共有した結果、ネット上で広く議論される主要な話題となったと見ている。陰謀説がちりばめられた26分間のこの動画は、アルゴリズムで解釈するのが難しいコンテンツの典型例でもある。

またFacebookは火曜、テロリズム、ハラスメント、ヘイトスピーチといったカテゴリ全体にわたるモデレーション作業の詳細を記述したコミュニティ規定違反対応レポートを発表した。今回のレポートにはパンデミックが発生してから1か月分の結果しか含まれていないが、AIによるモデレーションへの移行が進めば、次回は、その成果がより反映されたものとなるだろう。

Facebookのモデレーション作業に関する質問に対し、ザッカーバーグ氏は「パンデミックによって人によるレビューが大変難しくなった。ユーザーのプライバシー保護および社員の精神衛生の保護に関する懸念から、レビューアの在宅勤務は課題が多いが、それでも現在その方向に確実に進めている」と述べた。FacebookはTechCrunchの取材に対し、常勤コンテンツレビュアーの出社勤務については、ごく一部の希望者にのみ許可していると回答した。コンテンツ管理担当副社長Guy Rosen(ガイ・ローゼン)氏によると、大部分の契約コンテンツレビュアーは在宅勤務が可能となったという。「モデレーション作業では今後も人間の能力が重要な役割を果たすだろう」とローゼン氏は語った。

関連記事:いまさら聞けない機械学習入門

Category:AI・人工知能

Tag:Facebook 機械学習 画像認識

“新型コロナウイルス

[原文へ]

(翻訳:Dragonfly)

iPhoneなどの分解で人気のiFixitが医療機器の修理マニュアルのデータベースを無料提供中

デバイスの分解で有名なiFixitが米国時間5月19日に、現在の緊急事態にさらに注力したい、と発表した。これまでの2カ月の間、同サイトはスタッフのおよそ半分を医療機器のマニュアルのデータベースの開発にあてた。この種のデータベースとしては「世界最大」だという。

そこには、数百社分の誰もが自由に使えるマニュアルが13000ほどもある。中にはiFixit自身が制作したものや、多くのエキスパートが寄与貢献したクラウドソーシングの文献もある。

iFixitのCEOであるKyle Wiens(カイル・ウィーンズ)氏は「とても大きな仕事だったが、幸いにも全国の200名を超える司書や文書発掘専門家の協力を得られた。文書官たちの出自は、大学や公立図書館、研究所、保険企業、ソフトウェア企業、それにもちろんバイオメディカルの企業など多岐にわたる。全員がボランティアとして活躍してくれた。彼らが山のようなドキュメントを整理して閲覧と検索が可能な形にまとめるために費やした人時は、数千時間に達するだろう」という。

同サイトは、ボランティアたちのリストも作っており、多数の大学や図書館はもちろんLinkedInのような企業からの参加もある。このようなプロジェクトの遂行は最近まで不可能と思われていたかもしれないが、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックで医療の負荷があまりにも過重になっており、多くの人が自分にできることは何でもやろうという気になっているのだろう。

iFixitによると、このデータベースは新型コロナが収束した後も利用可だが、このようなリソースが最も必要なのは、まさに今だ。

画像クレジット:val lawless / Shutterstock

新型コロナウイルス 関連アップデート

[原文へ]
(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

Build 2020の基調講演に感じたオンライン開催の変なところと良いところ

「私たちは異常な時代を生きています」とMicrosoft(マイクロソフト)のCEOであるSatya Nadella(サティア・ナデラ)氏は、Build 2020の基調講演を暗いムードで切り出した。そこには、司会を務めるSeth Juarez(セス・フアレス)氏とDona Sarkar(ドナ・サーカー)氏の開幕の挨拶からの、なんとも奇妙な落差が感じられた。

2人の司会者は、大きなデスクに米国疾病管理予防センターが認可した社会的距離を保って座り、ぎこちない冷やかしや親父ギャグを交えながら、この48時間のライブストリーミングイベントの開幕を宣言した。少なくとも最後の部分では、現在の異常事態の中でもなんとか正常が保たれていた。

気まずいツッコミやつまらない冗談は、良くも悪しくもハイテク業界のプレゼンには付きものだが、無観客の会場では別次元のものに聞こえてくる(特に観客の間に潜り込ませた大げさに騒ぐサクラがいない)。良い方に考えれば、YouTubeの司会者の意気込みが感じられるが、悪くいえば、笑い声の効果音を削除したコメディドラマのようでもある。

避けて通れない初めての試みとして、Microsoft Build 2020の基調講演は、恐らくマシな方だったのだろう。これは間違いなく、パンデミックが世の中を本格的にロックダウンし始めて以来の、巨大ハイテク企業による本格的な大規模イベントだ。結局のところ、Apple(アップル)のWWDCは来月まで開催されず、Google(グーグル)もI/Oを実質的に諦め、オンライン開催も取りやめてしまった。

「今、私たちがみんなでできるいちばん大切なことは、私たちが直面している新たな困難に立ち向かっている人々の支援に注力することです」と、グーグルは中止を決定した際に述べていた。「私たちはプラットフォームのアップデートを、開発者ブログやコミュニティーフォーラムなどを通じて、今後もみなさまと共有する方法を探っていく所存です」。

確かにどちらにせよ難しい決断だ。パンデミックの重大さに比べたら、これらのイベントなどは取るに足らないものかも知れないが、たとえ不自然な方法であったとしても、企業が正常な感覚を取り戻そうとして何かを主張することには意味がある。

フアレス氏とサーカー氏の掛け合いは、2日間のプログラムを1本につなぐ役目を担っていた。多少のアドリブも当然、必要になる。オープニングで2人は、5分間ほどSurface StudioでTwitterのハッシュタグ付きコメントをスクロールさせていた。この開発者カンファレンスに実際に生身で参加した気分になれるよう、コミュニティの感覚に近づけようという試みだ。

ナデラ氏の講演は、それとちょうどいいバランスを保っていた。シンプルでおそらく録画の、家族の小物や写真で飾られた棚の前に立っての出演だった。彼がカメラに向かって話す間に、画像や動画が挟み込まれる。寂しく感じられるとしたらそれは、どうしても2019年の盛大なイベントと比較しながら見てしまうせいだろう。

マイクロソフトは任天堂からヒントを得たのかも知れない。任天堂は基調講演をライブでは行わず、数年前のE3で行われたNintendo Treehouseのプレゼンテーションから録画に切り替えている。普段の形式での興奮は失われてしまうが、その代わりにいくつもの映像を組み合わせてプレゼンテーションを完璧に仕上げることができる。大切なのはそのバランスだ。任天堂の場合は、無数のゲームの予告編を使ったことが功を奏した。このパズルでは、映像資料が大きくものを言う。

残念ながら、ライブのデモで悪態をつく光景は見られなくなった。だが、マイクロソフトのプレゼンテーションを補足しようと大々的にSkypeに依存した会話では、人はホームスタジオに住んでるわけではない事実を嫌というほど突きつけられる。飛行機やら芝刈り機の騒音が聞こえると、当面は物事が正常ではなくなるということを思い出さざるを得なくなる。一概に悪いとはいえないが、なんか変な感じだ。

このような形式の変更が強要される中からも、良いものが生まれている。ひとつはBuildが無料登録で見られるようになったことだ。オフィシャルなチャット(詳しく突っ込むことはしないが、訳あって悲惨な結果になった)では、大勢の開発者や参加者が、これは歴史上初めてのBuildだと興奮気味に伝えていた。参加費、旅費、人で混み合うイベントの不自由さなどが、多くの人たちにとって高いハードルになっていた。

これから数カ月のうちに、これがこの手のイベントの新常態になるのか否かが決まるだろう。2021年への十分な注意を払わないままの主催者を責めるのは難しい。多くは、いつもの人が集まるイベントに戻ると思うが、バーチャルで参加しやすい今の形が新型コロナウイルス(COVID-19)以降も存続されることを私は望む。

“新型コロナウイルス

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

新型コロナ禍でインドのスタートアップ70%が3カ月以内に資金枯渇か

業界レポートによると、インドのスタートアップの3分の2以上が新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックを乗り越えるために、数週間以内に新たな資金を確保する必要があるという。

インドは世界最大のスタートアップエコシステムを有している国の1つだが、スタートアップの70%は資金がなくなるまでに残された期間、いわゆるキャッシュランウェイは3カ月未満で、年内なんとかもつのは22%だ。業界団体Nasscom(ナスコム)が実施した調査で明らかになった。

調査に参加したスタートアップの中で、今後9カ月以上操業を続けるだけの十分な資金があると答えたのはわずか8%だった。スタートアップの90%が売上高の減少に直面していて、30~40%がオペレーションを一時中止または廃止の過程にあると答えている。

前代未聞の状況に直面し、スタートアップの多くがなんとか生き延びようと大胆な策を取ることを検討している。回答したスタートアップ250社の54%が新規事業に目を向けており、40%がヘルスケアといった成長分野へ参入したいと答えた。

世界第2位のインターネットマーケットプレイスとなっているインドの投資家は、若い企業に新たな小切手を切るのに慎重になっていて、これが資金不足を起こしている。2020年4月の公開レターの中で、いくつかの主要VCファンドが「スタートアップに今後数カ月は新たな資金調達がかなり難しくなるかもしれない」と警告した。

一部のスタートアップにとっては他にも苦戦要因がある。B2Bスタートアップの69%超、中でも小売とフィンテック部門のスタートアップが、クライアントの支払い遅れに直面していると答えた。そうしたスタートアップの半分以上が支払い遅れにより給与削減を余儀なくされ、4分の1が経費削減のためにコストの安いベンダーに切り替えた。

交通・旅行部門のスタートアップも甚大な影響を被っている。調査に参加したスタートアップの78%がビジネスモデルを再考中で現状に合うようプロダクトに変更を加えている。

5月19日に開かれた記者会見で、OYOの幹部は格安ホテルチェーンの同社が事業者と顧客の安全を確保するために取る新たな策を明らかにしている。同社はまた、国や州政府が人々の移動とホテル宿泊を再び許可することを望んでいると述べた。

スタートアップの3分の2以上が規制を緩和し、政府購入を推進する政策を期待していると答えた。また大多数が今後数年間の税の減免を要望した。

インドのスタートアップの3分の2以上が、新型コロナウイルスの影響は最大12カ月続くと考えている(提供:Nasscom)

2020年5月初め、インド政府は失速した経済を復活させようと2660億ドル(約28兆6600億円)の対策を発表した。5月15日に財務大臣のNirmala Sitharaman(ナーマラ・シサラマン)氏はスタートアップもこの救済策の一部を利用できる、と述べている。しかしどのように利用できるようになるのか、詳細は不明だ。

2017年以来、インドのスタートアップエコシステムは順調に成長してきた。2019年にインドのスタートアップは過去最多となる145億ドル(約1兆5600億円)を調達(未訳)した。

「新型コロナウイルスという青天の霹靂の要因で、成長は打撃を受けることになった。新型コロナパンデミックの影響を受けていない国や事業者、暮らしはない。各国の政府が人命を守り、助けるのに懸命になっている一方で、事業者は苦しんでいる。零細事業者やスタートアップが最も深刻な影響を受けている」とNasscomの会長であるDebjani Ghosh(デブジャニ・ゴーシュ)氏はレポートで述べた。

画像クレジット:MONEY SHARMA / AFP / Getty Images

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi

英国のエンジェル投資家はロックダウン中の今もアクティブだが、スタートアップたちよ急げ

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックの中での、英国のエンジェル投資家たちの投資戦略に関する調査によれば、エンジェル投資家の65%以上が、ロックダウン中でもスタートアップへの投資を続けていることがわかった、ただしその内容は新規取引が中心となっている。多くの投資家が取引数を増やし、投資額も18%ほど増加しているのだ。

しかし、パンデミックはエンジェル投資家たちが2020年に投資する総資金を61%減らし、投資家の60%弱は、COVID-19が2020年の残りの期間に投資する能力に悪影響を与えると考えている。 TechCrunchがその調査開始を独占的に記事にした後、2週間のうちに250人を超えるエンジェルがサーベイに答えた。

これらは、新しい英国組織であるActivate our Angels(AoA)によって行われた調査だ。この組織は、今週中に開始される予定であるスタートアップのための英国政府の「フューチャーファンド」(未来基金)と同時に立ち上がった(なおフューチャーファンドは、エンジェルやシードステージのスタートアップのニーズには不十分だと批判されてきた)。

AoAは、昨年買収されたGiveMeSportの元CEOで共同創業者のNick Thain(ニック・タイン)氏が立ち上げた組織で、さらに7percent Ventures、Forward Partners、Portfolio Ventures、ICE、Foundrs、Punk Money、Humanity、Culture Gene、Barndance、Bindi Karia、そしてStakeholderzの代表者たちが参加している。

AoAは、創業者たちが、ロックダウンの最中そしてロックダウン後に資金調達の意思決定を行う際に役立つ実用的なデータを提供することを目的に、2週間弱前にキャンペーンを開始した。

調査によれば、エンジェルたちは現在投資を継続しているものの、出資希望の創業者たちはこうした資金を素早く確保する必要があることが示された。なぜなら調査対象となったエンジェル投資家の59%が、ロックダウンが長引くことによって将来の投資が影響を受けると答えているからだ。

これは、スタートアップの調達額が25万ポンド(約3300万円)より少ない場合には、より重要になる。

さらに同調査は、エンジェルが1取引あたりこれまでより18%多く投資しており、取引の頻度も2019年の1か月の0.27取引から、ロックダウン中の過去3か月には1か月あたり0.6取引と122%以上に増えていると結論付けている。

エンジェルたちは、より長いランウェイ(長期資金余力)と収益力のあるビジネスを求めているが、目にしているのはバリュエーションの減少とより小規模なラウンドだ。

さらに、調査によればエンジェルたちが2020年に投資する資金額は2019年と比較して61%にとどまると伝えられている。これは、エンジェルたちが「ロックダウンもとで太陽がまだ輝いている間に、干し草を作ろうとしている」ことを示唆していると、調査は結んでいる。

その結果、エンジェルたちが2020年の残りの期間に投じる資金は大幅に少なくなる。

まだ調達を済ませていないスタートアップの場合には、最初のラウンドをできるだけ早く行うべきであることを調査結果は示唆している。

すでに資金を調達しているスタートアップにとっては、この差し迫ったエンジェル資金不足は、今後立ち上がる政府支援のフューチャーファンドなどの組織を、これまで以上に重要なものにするだろうと調査は述べている。

「ロックダウンの中で投資を行っていないエンジェルは、彼らは現金を握ったまま、COVID-19が終わったことを確信できるタイミングを待っている。彼らに接触するための最良の手段は、ソーシャルメディアではなく、紹介や推薦、電子メールもしくはLinkedIn経由だ」と調査は付け加えている。

調査の結果を以下に要約する。

● エンジェル投資家の66.7%はロックダウン中でもまだ投資している
○ そのうちの77%が新しい取引に投資している
○ 既存のポートフォリオへの投資は23%にとどまる

● エンジェルの33.3%はロックダウン中に投資を行っていない
○ 71%が取引のレビューを行っている
○ 29%まはったく投資していない

● ロックダウン中は各取引ごとに17.6%以上多く投資している
○ ロックダウン中の1取引あたりの投資金額は2万3071ポンド(約300万円)
○ 2019年は1取引あたりの投資金額は1万9620ポンド(約260万円)

● エンジェルはロックダウン中に平均1.81回の取引を完了したが、2019年全体では平均3.24回の取引を行っている
○ 2020年3月23日のロックダウン以降、おおよそ3〜4週間ごとに1取引
○ 過去1〜3か月間は約7〜8週間ごとごとに1取引
○ 過去4〜12か月間は3〜4か月ごとに1取引
○ 2019年は約3〜4か月ごとに1取引

● エンジェルのうち、Covid-19が2020年における自身投資能力にマイナスの影響を与えると考えているのは58.1%、変化なしは27.2%、そして14.7%はプラスの影響を与えると述べている

● 調査したエンジェルのうち、51.4%は2020年の投資額は少なくなるだろうと回答
○ その人たちは、2019年と比較した2020年の投資額は61%少なくなると回答

● エンジェルの33.3%はロックダウンの中で投資をしていない
○ そのうちの47.6%はCovid-19の危機が終わったと確信できるまで投資はしない
○ また28.6%は投資再開を計画していない

● エンジェルの64.9%は、対象とするビジネスセクターを変えている。対象となるのはヘルスケア、フィンテック、ゲームなどだ

● エンジェルの54.1%が投資要件を変更した。その中では、より長いランウェイ、収益力、定期的収益が最も重視されている
○ エンジェルの46.9%は投資要件を変更していない

● エンジェルの68%はCovid-19の結果、取引条件における評価額の減少を見ており、35%はより少額の投資ラウンドを見ている。

● エンジェルとの連絡に関しては、72%のエンジェルが推薦や紹介を通じて連絡を取りたいと考えている。
○ 54%が電子メールも受け入れ
○ 32.6%がLinkedIn
○ 30.9%がエンジェルネットワークも可としている
FacebookとTwitterはエンジェルに連絡する手段としては最も効果が薄く、この手段を受け入れるのは3%以下だった

● エンジェルの70%は、SEIS/EIS(英国のエンジェル投資向け優遇税制)が投資決定にとって重要、または非常に重要、もしくは決定的であると答え、そのうち58%は、SEISの上限額が現在の10万ポンド(約1300万円)から20万ポンド(約2600万円)に引き上げられても、これ以上投資しないと答えている。

原文へ]
(翻訳:sako)

Uberが新型コロナ禍でさらに3000人解雇、一部オフィスも閉鎖

Uber(ウーバー)は従業員3000人を追加で解雇する。Wall Street Journalが最初に報じている。Uberは45カ所のオフィスを閉鎖し、貨物や自動運転車テクノロジーといった分野の取り組みも見直す。

「難しい決断をしなければならないことはわかっていた。公開会社だからではなく、あるいは株価を守ったり、役員会や株主を喜ばせたりするためではない」とUberのCEO Dara Khosrowshahi(ダラ・コスロシャヒ)氏は5月18日に従業員に送ったメモの中で述べている。TechCrunchはメモの内容を確認した。「世界中の都市にとって必要不可欠なサービスであるという我々の将来のために、何百万という人々や事業者が我々を頼っているという事実のために決断した。成長、拡大、イノベーションを続けるのに新たな資金や投資家に頼ることが今後はないよう、自立性を確立しなければならない」。

米証券取引委員会に提出された書類によると、レイオフの一環として同社は退職給付金やその他の福利給付で1億4500万ドル(約156億円)を従業員に支払い、オフィス閉鎖では最大8000万ドル(約86億円)がかかる見込みだ。

今回のレイオフの数週間前には、Uberはコスト10億ドル(約1074億円)を節約するために従業員3700人を解雇した。新型コロナウイルス( COVID-19)パンデミックの影響で、同社はこれまでに従業員のおおよそ25%を解雇した。

新型コロナで乗車事業はかなりの打撃を受けている。同社によると、具体的には乗車は80%減った。しかしフードデリバリーは絶好調だ。2020年第1四半期のプラットフォーム利用総額は46億8000万ドル(約5024億円)で、2019年同期比52%増と大きく成長した。

「Eatsの成長は加速しているが、社の経費をカバーできるほどではないことをはっきり伝えておきたい」とコスロシャヒ氏はメモの中に書いている。「Rides事業でそうだったように、我々が取っている行動はEatsの収益化につながると信じている。しかし一晩では無理だ」。

一方、WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)とBloomberg(ブルームバーグ)によると、Uberはフードデリバリー事業UberEatsを増強するためにGrubHub買収を交渉中だ。WSJの報道では、Uberが2020年初めに買収の話を持ちかけたが、協議はまだ続いているとされている。Bloombergは買収交渉は2020年5月にもまとまる、と報じている。だが、コスロシャヒ氏はメモでは買収については触れなかった。

主要なサービスを整理するという取り組みの中で、Uberは立ち上げて1年も経たないIncubatorを閉じる。またAI Labsもなくし、シフト業務の労働者をマッチングするために2019年10月に立ち上げたサービスUber Worksの代替も探す。

今回の解雇ではドライバーは影響を受けない。ドライバーは現在、従業員ではなく独立請負業者として分類されている。それでも多くのドライバーが新型コロナ禍の中、手厚い保護と社会保障を求めて声を上げ続けている。先週ドライバーたちは、Uberに対し州の失業者保険基金に拠出するよう抗議活動を行った。ドライバーたちはまた、ギグワーカーを独立請負業者として今後も分類することができるようUberがLyftやDoorDashと共に提案した投票の取り組みを断念することも求めている。

画像クレジット: David Paul Morris/Bloomberg / Getty Images

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi

米国下院議会が遠隔投票を承認、ただし技術は未定

米国下院議会は、米国時間5月15日に新型コロナウイルスのパンデミックに対応するための下院965号決議が採択されたことで、その歴史上で初めての遠隔投票が可能になった。

マサチューセッツ選出のJim McGovern(ジム・マクガバン)下院議員が提出したこの議案は、社会が正常に戻るまでの45日間、議員による代理投票と委員会への遠隔参加を認めるというものだ。

下院決議965号はまた、国会議事堂の外からのデジタル投票を超党派で研究する仕組みを確立することにより、米国議会の運用方法を恒久的に変える可能性もある。

その指示によれば「下院管理委員会の議長は、野党幹部と協議の上、下院議会での遠隔投票を可能にする技術の有効性について調査し、下院議会での遠隔投票に使用できる実施可能で安全性が保証された既存技術を決定した後、下院に対して証明しなければならない」とされている。

これまでの下院の規定では、本人の直接投票のみが認められていた。上院議会では、いまだに声による「賛成」と「反対」を集計用紙に記録している

5月15日の議会の同意は、新型コロナウイルス(COVID-19)が米国中のあらゆる組織に対して、主にデジタルツールを駆使して長年の慣習を改めるよう迫っていることのひとつの表れだ。

下院決議965号が求める短期と長期のそれぞれの対応に、下院議会がどのような技術を導入するのか、詳細はまだ不透明だ。

この代理投票の合意により、下院議員は指名された議事堂内の代理人を通じて遠隔投票できるようになる。つまり事実上の議会の代打だ。公聴会の遠隔参加においては、Google MeetやMicrosoft Teamsといったいくつかのオプションが選択できる。先週、上院議会で証言を行ったAnthony Fauci(アンソニー・ファウチ)博士はZoomを使用した。

長期的な遠隔投票の手段については、下院運営委員会の議長Zoe Lofgren(ゾーイ・ロフグレン)氏(民主党カリフォルニア州選出)と、下院決議965号に反対票を入れた野党Rodney Davis(ロドニー・デイビス)氏(共和党イリノイ州選出)に委ねられている。

ロフグレン氏は5月15日の下院決議965号を支持する声明で、それがどのようなシステムになるかを、こう説明している。「議場での投票では、議員主導の遠隔管理による承認を組み合わせた安全性が保証された電子メールシステムを信頼することになります。このシステムでは、代理投票用として安全性が保証された電子メールを使用します。つまり、サイバーセキュリティーの観点からよく理解されていて、非常に低い帯域幅に対応した、堅実で、既知の、回復力のある技術です」。

もちろんその前に、ロフグレン氏と共和党下院議員デイビス氏は、ほぼすべての案件で両党が対立している今の状況下で合意を得なければならない。下院決議965号の採決は、党によってくっきり割れた。民主党議員の217名は賛成票を投じたが、共和党議員は誰ひとりとしてこの議案を支持しなかった。

関連記事:Why Congress isn’t working remotely due to COVID-19(未訳)

これまで下院議会は、遠隔投票を求める声に抵抗してきた。911事件の後、そして2001年の炭疽菌攻撃の後にも、同様の対策が必要だとの議論があった。だがそれは有権者の代表として議会で実際に投票する姿を見てもらいたいという、昔からの願望によって掻き消されてしまった。

この2カ月間で下院議会は、国中がテクノロジーを利用した対策で遠隔化が進む中、人と人が直接面と向かう米国最後の職場となりそうだ。

3月に新型コロナウイルスが米国を襲った直後、下院議員Eric Swalwell(エリック・スウォルウェル)氏(民主党カリフォルニア州選出)は、アーカンソー州選出の共和党下院議員Rick Crawford(リック・クロフォード)氏と共同で、特別な状況化で議員が公聴会に遠隔参加し投票できるようにする決議案を提出したことがある。

画像クレジット:Bill Dickinson / Getty Images

だがそれは、その当時、議会をそのまま存続させ、初めての新型コロナウイルス景気刺激法案を通すために議員の出席を望んでいた下院議長Nancy Pelosi(ナンシー・ペロシ)氏によって拒否されてしまった。

それから2カ月、200名のアメリカ人の命が失われてようやく、下院議会で最も重要な手続きに、その231年の歴史で初めて変革をもたらす影響力が新型コロナウイルスにあることがわかってきた。

人による直接投票は、間もなく2段認証のデジタル投票に置き換えられそうだ。それは、各地を回って有権者と話をし、ワシントンD.C.と地元との間に時間を割いてきた政治家の長年の慣習を変えることになるだろう。

画像クレジット:Brendan Hoffman / Getty Images

新型コロナウイルス 関連アップデート

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

米国の失業者数が3600万人を突破する中、テック企業では雇用増加も

先週米国では、過去2週間の失業申請が3600万件を超えた。パンデミックによる事業閉鎖は無数の業界に打撃を与え、多くの分野で再開の時期は定まっていない。求人大手のIndeed(インディード)は、2019年の同時期と比べて雇用は著しく低調であると最新の報告で伝えている。報道に注目している人にとってはなんら驚きではない。

大規模なレイオフが日常的に起きているように感じる。この数週間だけでもUber(ウーバー)、Lyft(リフト)、TripAdvisor(トリップアドバイザー)、Casper(キャスパー)、Juul(ジュール)の会社が大がかりの解雇を行っており、多くの人はこれを氷山の一角だと思っている。

しかし国が大恐慌以来最悪の失業率を経験している一方で、テック業界は前進を続けている。つまるところこの数カ月間、リモート会議や遠隔医療、フードデリバリーから個人保護具(PPE)製造まで、テクノロジーは一種のライフラインとして機能している。

新型コロナウイルス(COVID-19)の影響(都市封鎖など)に対応するために生まれた新たな職の多くが一時的なものであるのは間違いないが、パンデミックが多くの分野で重要なパラダイムシフトを起こしていると見るのも理にかなった考えだ。社会が新しい日常に適応するにつれ、テクノロジーがその変化を育む力になることは間違いない。

多くの場面で役割を担うのはギグエコノミーだ。DoorDash(ドアダッシュ)のようなフードデリバリーなら配達要員が必要になり、Amazon(アマゾン)なら配送センターの雇用が増大する。しかしこうした職は万人向けとはいえない。仕事によっては労働者の新型コロナウイルス感染リスクを高くする可能性があり、それは企業がウイルス蔓延を阻止するための努力をしていても完全には防ぎきれない。

Zoom(ズーム)のように増加する需要に答え、サービスの人気の高まりとともに露見した古い問題を修正するために、雇用を急増している会社もある。最近同社は、ソフトウェアエンジニア500人を採用する計画を発表した。Cloudflare(クラウドフレア)もテキサス州オースチンに雇用枠がある。一方Apple(アップル)、Facebook(フェイスブック)、Goolge(グーグル)といったテック巨人も揃って、ロックダウンにも関わらずエンジニアリング職の採用を順調に続けている。

スタートアップに入社することは、現時点では難しい選択だ。小さな会社は著しく不安定な未来に立ち向かっているからだ。新型コロナウイルスが、既に足元の揺らいでいるスタートアップの終結を早める可能性は非常に高い。一方で最近調達ラウンドを完了した企業は有望であり、嵐を乗り切るのに十分な資金を持っている。例えば資金豊富なBerkshire Grey(バークシャー・グレイ)も、ソーシャルディスタンス時代にロボティクスがますます魅力的なソリューションになっている今、拡大を計画している。

テック求人情報を検索可能な単独データベースにまとめているサイトやアプリが新旧取り混ぜたくさんある。新型コロナの流行によって職を失った人を支援するために作られているサイトを以下のリストに載せた。完全に網羅したリストではないが、良い出発点になるはずだ。

画像クレジット:Manuel Breva Colmeiro / Getty Images

新型コロナウイルス 関連アップデート

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

新型コロナ後、スタートアップはどうやって職場復帰するかを米国で調査開始

世界的な新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックの中で、スタートアップの働き方が将来どうなっていくかに関する総合的な調査を、英国の非営利団体であるFounders Forum(ファウンダーズ・フォーラム)が実施する。この研究は、多くの企業が長期にわたるオフィス閉鎖や「Work From Home(WFH、在宅勤務)」の方針を打ち出していることを受けて行われる。

同グループは、COVID-19 Workplace Survey(COVID-19職場調査)がスタートアップコミュニティーの今後の行動に役立つデータを提供することで、経営者は職場復帰戦略の重要な決定を下し、サービス提供者(アクセラレーター、コワーキングスペース、投資家など)は、「ポスト新型コロナ」世界のスタートアップを最大限支援できるために役立てることを期待している。

このプロジェクトはFounders Forum(ファウンダーズ・フォーラム)、Founders Factory(ファウンダーズ・ファクトリー)、およびfirstminute capital(ファーストミニット・キャピタル)の共同ファウンダー・エグゼクティブ・チェアマンであるBrent Hoberman(ブレント・ホバーマン)氏が設立した。

ホバーマン氏はTechCrunchのインタビューに対して「ファウンダーは職場復帰に関わる重要な決定を孤独に下さなくてはならない」と語っている。研究の目的は「早期ステージのスタートアップが、オフィススペースやリモートワークに関する戦略について現在実施している方策」を調査することだとホバーマン氏はいう。そしてこの調査結果は「ファウンダーと支援サービスを提供する人たちの両方に関して、スタートアップやその社員たちの置かれた状況を改善するために何ができるかを導いていく」と述べている。

COVID-19 Workplace Surveyでは、回答者が以下のような基本的質問に匿名で回答する。

  • スタートアップはオフィスを再開するのか?
  • しない場合は、いつ再開する予定か?
  • 英国政府が安全であることを通知したらすぐに?
  • 今年? 来年?
  • そのために講じる安全施策は?
  • それ以外に、COVID-19によってリモートワークポリシーに対する考え方がどう変わったか?

「ファウンダーには『他のファウンダーは職場戦略をどう変えているのか』の回答を知って欲しいと思っている」とホバーマン氏は説明した。

さらに同氏は、社員各個人のリモートワーク環境が今後のリモートワークポリシーに対する意見に影響を与えることをファウンダーは理解する必要がある、なぜなら万人向けのソリューションはないからだ、と付け加えた。「さまざまな層がどんなリモートワーク環境を望んでいるかを考えるべきだ」。

コワーキングスペースなどのサービス提供者も、ポストロックダウン環境でスタートアップがどんな作業場所を求めているか(フレキシブルなデスクスペース、共用ミーティングルームなど)を、研究結果から知ることができる

調査は10日間実施され、結果はTechCrunchで公表される。

画像クレジット:Amy Galbraith

新型コロナウイルス 関連アップデート

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

グーグルが老人ホームで簡易UI版Nest Hub Maxをテスト中

先週、ニューヨーク市のマウントサイナイ病院は、患者の遠隔監視にNestデバイスを利用し始めたことを発表した。そして米国時間5月18日、Google(グーグル)は新型コロナウイルス(COVID-19)ロックダウンの中で老人ホームの人たちの孤独感を少しでも減らすために、Nest Hub Maxがに役立っている様子を紹介した

同社はこれにともない、スマートスクリーンを機械の苦手な人たちにも使いやすくするために、簡易化したインターフェースをテストしている。グーグルは現在、ワシントン州の高齢者施設であるMerrill Gardens(メリル・ガーデンズ)の居住者にデバイスを渡して使用状況のパイロットテストを行っている。その新しいUIを最初に使うのが施設の人たちということになる。

新UIにはアラーム、天気、音楽などのよく使われる機能のショートカットとして「What can you do」カードが加わる。配布されるデバイスにはビデオ通話の連絡先があらかじめ登録してある。国全体でソーシャルディスタンスが実践されている今、ビデオ通話は最もよく使われる機能に違いない。

関連記事:Mount Sinai deploys Google Nest cameras for COVID-19 patient monitoring and communication

「つながりを保つことは高齢者の精神的、感情的健康のために重要であり、現在の隔離状態の中でそれを行うことは特に困難だ」とグーグルのMolly McHugh-Jonhson(モリー・マキュー・ジョンソン)氏はいう。「Nest Hub MaxとDuoのビデオ通話なら、離れていても『一緒』にいられることが、祖母と使ってみてわかった」。

老人ホームや介護施設は、新型コロナパンデミックの影響が特に大きい。高齢者全般がウイルスの打撃を大きく受けており、65~84歳の致死率は3~11%、85歳以上では10~27%にも上る。このため高齢者の集団では、強力なソーシャルディスタンス対策を講じることが特に重要になっている。

新型コロナウイルス 関連アップデート

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

紫外線でフィルターを自己消毒する透明マスクをHuamiが開発中

新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックでは、中国の製造業企業が次々に新型コロナ対策備品の製造に乗り出すことになった。深圳拠点の電気自動車大手BYDはいち早く世界最大とうたうマスク製造プラントを立ち上げた。杭州市拠点の音声知能スタートアップRokid(ロキッド)は米国マーケット向けにサーマルイメージングメガネを製造している。他にも多くの企業が似たような取り組みを展開中だ。

最新例となるのがHuami(ファーミ)によるものだ。NASDAQに上場しているウェアラブルスタートアップの同社は、Xiaomi(シャオミ)のMiブランドを製造し、また自社のAmazfitブランドのフィットネストラッキングウォッチを世界70カ国超で販売している。TechCrunchによる電話インタビューで、同社は紫外線をビルトインしたシースルーのプラスチックマスクを開発中だと述べた。USBポートを通じて電源につなぐと10分でフィルターを消毒できるというものだ。ただし、紫外線が消毒できるのはマスクの内側だけで、外側はユーザーがきれいにしなければならない。

Aeriのコンセプト。紫外線ライトをビルトインし、USBポート経由で電源につなげると10分でフィルターを消毒できる。

Aeriと呼ばれるマスクは取り外し可能なフィルターを採用していて、このフィルターはN95マスクと同等の濾過能力を持つ。コンセプトが実現すればフィルターは1カ月半使用可能と、サージカルマスクやN95レスピレータよりもずいぶん長く持つ。モジュラーのデザインは呼吸しやすいようファンのようなカスタマイズされたアクセサリーを取り付けることができ、「airy(風通しの良い)」と同音のマスクの名称Aeriはそこからきている。

Aeriの開発は、マスクの装着が顔認証の急速な浸透を妨害するかもしれないという想定で始まった。画像認識を手がける企業は虹彩や鼻尖といった他の顔の特徴を分析できるようアップグレードに取り組んでいる。

Huamiの工業デザイン担当副社長Pengtao Yu(ペンタオ・ユー)氏は、Aeriがマーケットにアピールするものになるかもしれない、という。「人々がスマホを顔認証でアンロックする必要があるかどうかはともかく、他人と交流するときは互いの顔を見たいものだ」とユー氏は話す。同氏はカリフォルニアを拠点とする中国人デザイナーで、Huamiに加わる前はNest Labs(ネスト・ラボ)、Roku(ロク)、GoPro(ゴープロ)、Huawei(ファーウェイ)といったクライアントと仕事をしていた。

研究・開発にフォーカスしているHuamiの米国オペレーションは2014年にスタートし、従業員は現在12人ほどだ。

パンデミック対応の製造に取り組んでいる多くの企業は主要事業で打撃を受けているが、Huamiはなんとか影響を免れている。同社の2020年第1四半期の決算では、純利益は前年の1060万ドル(約11億4000万円)から270万ドル(約2億9000万円)に減ったが、売上高は1億5400万ドル(約165億3000万円)で、前年同期比36%増となった。だが、同社の株価は1月に記録した最高値16ドル(約1720円)から5月中旬には10ドル(約1070円)に下がっている。

HuamiはAeriマスクのプロトタイプに取り組んでいる最中だ。深セン市に置く同社本部にはウェアラブル部門がある。同市はサプライチェーンリソースが豊富なため、アイデアから実際のマーケット投入までハードウェアプロダクトの開発期間は6〜12カ月だ、とユー氏は述べた。

Aeriはまだ初期段階にあり価格は決まっていない。しかし、同氏は医療関係者にアピールするというより、ウイルスに加えて日々の大気汚染から身を守るという世界中の「大衆消費者マーケット」をターゲットとしていることを認めた。Huamiがこれまで、儲けの少ないウェアラブルを製造してきたことを考えると、Aeriがかなり競争力のある価格になるのは何ら不思議ではない。

Aeriプロジェクトは、フィットネスモニターという域を超えてHuamiが総合ヘルス部門に参入するための足掛かりのひとつだ。同社は、ウェアラブルを使った呼吸系疾患追跡でZhong Nanshan(ゾン・ナンシャン)博士のラボとこのところ協業してきた。同氏は新型コロナ対策において中国を代表する人物だ。Huamiはまた、スマートウォッチで作動するウイルスモニタリングのアプリでドイツの公衆衛生当局と協議していることもTechCrunchに明らかにした。

画像クレジット:Huami’s concept of the self-disinfecting mask, Aeri

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi

アップル直営店が米国で一部店舗の営業再開、マスク着用義務や体温チェックなどの安全対策も

3月中旬にApple(アップル)は中国以外の店舗を「無期限」休業とした。これは、拡大する新型コロナウイルスのパンデミックに直面した世界における、徹底した、かつ必要な行動だった。同社は、米国時間5月17日付の「To our Customers」(お客様へ)と題した声明で、同社の営業再開計画についてリテール担当上級副社長のDeirdre O’Brien(ディアドラ・オブライエン)氏が展望を語った。

同氏によると、100店舗近くがすでに営業再開している。ただし、開店した店舗スペースは、感染力の強い新型コロナウイルスへの対策で大きく様相が変わっている。「どの店舗でも滞在人数を制限し、全員に十分な空間を与えるとともに、ジーニアスバーをはじめ店舗全体で、当社の1対1パーソナルサービスのやり方を見直した」とのこと。

アップルの広報担当者はさらに「来週も、米国内店舗の営業再開を非常に緩やかにかつ慎重に進め、7つの州で25店舗を追加する予定だ。多くの顧客が地元店舗の再開を待っていることを承知しているが、安全が確保されている確信がもてた店舗を再開することが当社の義務だ。お客様と早くまたお会いできることを願っている」と述べている。

関連記事:アップルが新型コロナによる実店舗閉鎖を無期限延長

写真のように、店員、顧客ともにマスクの着用が必要で、これは多くの地域で法的制約となっている。多くの店舗が実施しているやや珍しい取り組みとして、店の入口で体温の検査が実施され、健康に関する質問が掲示されている。さらに同社は、壁面や陳列商品などあらゆる部分の清掃を強化徹底している。

最後の点は、同社の店舗レイアウトが商品を手に取ることを中心にデザインされていることを考えると特に重要だ。対人接触を避けたいという当然の要求に答えるために、路上での受け渡しも実施している。

各店舗の営業再開時期についてAppleは、健康状況の傾向と地域・国の指示を見定めてスケジュールを決定する、と語った。地元店舗の営業状況はここで見られる。そして、感染の第2波到来の話題が現実のものとなりつつある中でオブライエン氏は、必要があれば再び店舗を閉鎖すると語った。「これは結論を急ぐべき問題はなく、今回の営業再開にかかわらず、地域の状況によっては予防措置として再度の営業中止もありうる」とのことだ。

新型コロナウイルス 関連アップデート

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

Everlywellの在宅新型コロナ検査キットが米食品医薬品局の認可を取得

Everlywell(エヴァリーウェル)は、新型コロナウイルス(COVID-19)の在宅検査キットに取り組んでいると最初に発表したスタートアップの中の1社だ。当初、規制当局がガイドラインに沿っていないと判断を下す前にキットを出荷することを模索していた。後に同社は、消費者にキットを提供する前に、FDA(米食品医薬品局)の正規の緊急使用許可(EUA)を取得することにした。そうしたアプローチは報われ、FDAは5月16日に同社の技術に対しEUAを出した。

EverlywellのCOVID-19在宅検査キットではユーザーが自分で検体を採取できる。この手のものをFDAが認可するのは初めてだ。他のキットは医療従事者による検体採取が想定されている。また特定の検査所で調べられるものだったりする。そうした点で、今回の認可はユニークだ。Everlywellはあらゆるテストラボにサンプルキットを提供し、さまざまなラボと協力して検査体制を拡充させることができる。

Everlywellのテストキットは、別の新型コロナEUAが認可されている2つのラボのどちらかに送られる。このラボの数は近い将来さらに増えることが予想される。ただし、EUAを申請し、緊急許可を受けるにあたって必要なデータを提出しなければならない。綿棒を使って鼻からサンプルを採取するやり方で家庭で回収された検体がラボに搬送される間も安定した状態を保てることを示すために、Everlywellはビル&メリンダ・ゲイツ財団の支援を受けた研究などから得られたデータを提出・開示したとFDAは言及している。

そうしたデータは同様のテストキット提供を考えている他社も閲覧できる、とFDAは述べている。これにより、競合する製品で認可を得ようとしている企業は証明にかかるかなりの負担を減らすことができる。これはひいては、さらなる検査実施につながる。多くの公衆衛生の専門家らは、新型コロナ抑え込みでは検査が鍵を握ると考えている。

「複数のラボで使え、複数のテストに使用できる在宅新型コロナ検査キットの認可では、患者がテストを受けやすくなるだけでなく、ウイルスとの接触から人々を守ることができる」とFDA機器・放射線医学センターのディレクター、Jeffrey Shuren(ジェフリー・シュレン)氏はTechCrunchへの声明文で述べた。「今日の決定は、私費研究のデータがEUA申請をサポートするために業界で使われるという公私提携の素晴らしい例であり、パンデミックに関する取り組みを続ける中で時間を節約することになる」。

画像クレジット: Sebastian Gollnow / Getty Images

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi

フォードが新型コロナ症状のある労働者に対してPCR検査を実施、工場再開計画の一環として

フォードは米国時間5月16日、主要事業を展開する4つの都市圏での今月の工場再開に向けて準備を進める中で、新型コロナウイルス(COVID-19)の疑いのある症状を持つ、時間給、月給従業員に対して検査を行うと発表した。

5月18日以降北米の工場で、生産と操業の一部を再開する予定だ。工場労働者のほかにも、車両のテストや設計など、リモートで行うことができない仕事を行う約1万2000人の従業員も呼び戻す。なお、同社の北米部品流通センターは、5月11日に再開済みだ。

まず、ウイルス感染を識別するためにPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査を行うと発表している。PCR検査はウイルスRNAの存在を検知するためのものであり、身体の免疫応答である抗体の存在を調べるためのものではない。

同社は、テストを実施するために各地の保健機関と契約した。フォードの検査に協力するのは、ミシガン州南東部にあるBeaumont Health(バーモントヘルス)病院、ケンタッキー州西部ルイビルにあるルイビル大学保健機関、ミズーリ州西部カンザスシティ地域のLiberty(リバティ)病院、イリノイ州シカゴ地域のシカゴ大学医療センターならびにシカゴ大学Medicine-Ingalls(メディシン=インガルス)記念病院。同社は、ミシガン南東部、ルイビル、カンザスシティー、そしてシカゴに、合わせて7万2000人を超える従業員を雇用している。

フォードのメディカルディレクターを務めるWalter Talamonti(ウォルター・タラモンティ)博士によると、この契約によって、フォードは症状が疑われる従業員を検査し、24時間以内に結果を出すことを目指せるようになる。検査結果は同時にフォードの医師と共有され、感染した労働者と密接に接触した可能性のある他の従業員を特定するのに役立てられる。それらの従業員は、14日間の自己隔離を求められる。

フォードCTOのKen Washington (ケン・ワシントン)氏は声明で、同社は検査の拡大に取り組んでいると語った。同氏はまた、フォードは従業員のために将来的には自主的な抗体検査も検討していると付け加えた。

同社は、工場での生産が再開された際に進めるべき手順について説明した業務再開手順書を5月1日にリリースした。従業員は毎日自己診断による健康診断を行い、フォードの作業場に到着したら体温を測定する必要がある。フェイスマスクの着用も義務付けられる。仕事上対人距離が十分とれない場合には、サイドシールドまたはフェイスシールド付きの保護メガネの装着が必要とされる。

画像クレジット: Ford

原文へ]

(翻訳:sako)

パンデミック中の買収でフェイスブックが再び独禁法調査の標的に

多くの業界が身動きをとれず損失に動揺するなか、テック業界のビッグプレイヤーたちは、ここでもルールの外にいることを証明しつつある。米国時間5月15日、Facebook(フェイスブック)はGIPHY(ジフィー)を買収する計画を発表した。人気GIF検索エンジンの価値は4億ドル(約430億円)といわれている。

フェイスブックは、GIPHYとは新たな開発およびコンテンツで関係を結びたいといっているが、世界最大のソーシャルネットワークが人気のGIFプラットフォームを欲しがる本当の理由は別にあるかもしれない。Bloomberg(ブルームバーグ)などの報道によると、フェイスブックの真の狙いはGIPHYを競合プラットフォームのユーザー動向を見るメガネとして使うことだという。GIPHYのGIF検索ツールは現在いくつかのメッセージングプラットフォームに組み込まれていて、その中にはTikTok、Twitter、Apple(アップル)のiMessageもある。

2018年にフェイスブックが、Onavoというモバイルアプリの使用を巡って窮地に立たされたことはよく知られている。このアプリはフェイスブック以外のアプリの利用状況を覗き見するもので、アップルのデータ収集に関するポリシーに違反した。その問題が修正された後も、フェイスブックはライバルの動向を見ることに執着するあまり、未成年を含むユーザーに報酬を渡し、ユーザーのモバイル行動をすべて見ることのできるアプリをインストールさせたことをTechCrunchは2019年に暴露した。

議員や規制当局にとって、GIPHYの買収は2種類の警鐘を鳴らす案件だ。1つはテック業界における反トラストに関わるの不正行為の新たな証拠として、もう1つはこの買収が消費者のプライバシー侵害となる可能性だ。

「司法省や連邦取引委員会はこの買収提案を精査すべきだ」とミネソタ州のAmy Kobuchar(エイミー・クロブシャー)上院議員がTechCrunch宛の声明で語った。「フェイスブックのライバルも含め多くの企業がGIPHYの共有コンテンツライブラリーなどのサービスに依存している。そのためこの買収提案に関して私は大変懸念している」。

2020年4月に提案された法案でElizapeth Warren(エリザベス・ウォーレン)上院議員(民主党・マサチューセッツ州)とAlexandria Ocasio-Cortez(アレクサンドリア・オカシオ・コルテス)下院議員は、 大型買収の凍結を求め、巨大企業はパンデミックに乗じて中小会社を買い叩くことで権力基盤を固めようとしているのではないか、と警告した。

ウォーレン上院議員の広報担当者は声明で、フェイスブックのニュースを「巨大企業がパンデミックを利用して権力基盤をさらに広げようとしている」と指摘し、同社の「プライバシー違反の歴史」に言及した。

「ウォーレン上院議員によるパンデミック期間中の大型買収の一時休止計画は必要であり、巨大テック企業を分割する執行者が必要だ」と広報担当者は語っている。

関連記事:AOC and Elizabeth Warren call for a freeze on big mergers as the coronavirus crisis unfolds

フェイスブックのこの最新の動きは、UberがGrubhubの買収を計画していることをWall Street Journalが暴露した数日後だった。GrubhubはフードデリバリーでUber Eatsと直接競合する会社だ。

そのニュースは、巨大テック企業の分解を目論んでいた規制賛成派議員たちも驚かせた。下院の反トラスト小委員会委員長を務めるDavid Cicilline(デビッド・シシリーニ)下院議員(民主党・ロードアイランド州)は、この買収を「パンデミック不当利益の最悪事例」と評した。

「本件は買収停止令の緊急度を改めて強調するものである。これは私が同僚議員とともに党によるサポートを強く要請してきたことだ」とシシリーニ氏がGrubhubに関する声明で語った。

パンデミック初期の日々には、テック大企業の反トラスト対する注目はやや薄らいでいたかもしれないが、政府も国民も新型コロナウイルス危機の中でリズムを取り戻すと、それも長くは続かなかった。5月15日のWall Street Journalは、司法省と何人かの州検事がGoogle(グーグル)に対する反トラスト訴訟を準備中で、夏頃には実行する予定だと報じた。

関連記事:A Grubhub-Uber tie-up would remake the food delivery landscape

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

アップルの上級副社長が新型コロナ対応サプライチェーンの安全性について説明

Apple(アップル)は米国時間5月14日、2020年のサプライヤー責任進捗報告書を公開した。Sabih Khan(サビ・カーン)オペレーション担当上級副社長は報告書中の書簡で、世界中のサプライチェーンにおける安全と保護に関する取り組み強化に向け同社が策定した計画の概要を詳述した。

カーン氏が2019年に現職に就任してから公に何かを発表するのは筆者が知る限りこれが初めてだ。この書簡ではアップルの従業員とサプライチェーンメンバーの「安全で健康的な職場に対する権利」を確保するためのアップルの取り組みについて説明している。

世界で最も優れた家電メーカーであり、ポールポジションに位置する企業として、アップルの取り組みと姿勢は明らかに、いわばつぶさに見られている。アップルの施策は世界中に展開する他の製造業者の手引きとなるだろう。

カーン氏はアップルのサプライヤーにまず感謝し、何千人もの従業員がサプライヤーと協力して事業を継続する計画を立てたと述べている。その計画は、各国の健康に関する推奨事項と新型コロナウイルス(COVID-19)の拡散緩和に関する普遍的なルールを考慮して策定された。

サプライヤーの工場で実施された施策は次のとおりだ。

  • 健康診断
  • 密度の制限とソーシャルディスタンス(社会的距離)の厳格な順守
  • 作業中および共有エリアの両方で個人防護具の使用を義務付け
  • ディープクリーニングプロトコルの実施
  • マスクと消毒剤の従業員への配布

アップルはまた、必要に応じてサプライヤーの工場のフロアプランを再設計・再構成した。社会的距離の確保のために時差勤務シフトなどの柔軟な労働時間も導入している。

アップルは自社のサプライヤーに対して実施したさまざまな安全保護の施策実行に加えて、業界全体のスタンダード確立に向け、NGOや他の組織に同社の計画を共有した。

「我々はあらゆるもののなかで人を第一に考える。そして我々と一緒に働くすべての人に同じことを求める。最高の基準を維持したいと考えるからだ」とカーン氏は書簡で述べている。「当社のサプライヤー行動規範は、あらゆる種類の差別やハラスメントを防ぎ、サプライヤーの従業員が匿名で声を上げられる通報手段を提供する。我々はサプライヤーと提携して教育と訓練の機会を創出している。大学の学位取得プログラム、職業訓練イニシアチブ、健康増進プログラムなどを提供し、従業員が新しいスキルを学び、目標の達成に向けて取り組めるようにしている」。

アップルのサプライヤー報告書は例年2~3月に公開されるが、報告書で新型コロナウイルス対応の詳細を発表する前に、まず保護対策の計画・実行に時間をかけたかったという。

「新型コロナは前例のない挑戦となったが、同僚、友人、隣人の健康を改めて大切に思う人間愛から希望とインスピレーションを得た。自分と他人の健康を思う気持ちは我々がいつも持てるものだ。人と地球を守る我々の取り組みに終わりはないかもしれないが、この先に最高に明るい未来が待っていると今ほど確信したことはない」。

2020年のサプライヤー報告書は、サプライチェーンの従業員5万2000人へのインタビューに基づいている。現在49カ国のサプライヤーを監査しており、2018年の30カ国から増加した。2019年の監査は合計1142件だった。アップルの廃棄物ゼロプログラムは、サプライチェーンからの炭素排出量と廃棄物を削減するために2015年に導入された。報告書によるとこのプログラムは現在、すべての主要製品の最終組み立て、検査、包装工程に統合されている。アップルは2019年に130万トンの廃棄物の埋め立て地行きを回避し、製造工程から出る水の40%(約94億ガロン=427億リットル)を再利用した。

カーン氏の書簡の全文は以下のとおり。

健康が第一です。 今も、いつでも。

世界中の人々が新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックに伴う多くの困難に直面する中、地球を守り、あらゆる人々に尊厳と尊敬をもって接することの重要性を再認識しました。これは我々の意思決定すべてに反映されている価値観です。

サプライヤー責任進捗報告書は、そうした理念をどの程度実行に移したのか、進捗状況を振り返っています。しかし、私はまず、グローバルサプライチェーンにおいて今、新型コロナという前例のない挑戦に対処し、人々が安全に仕事に戻れるよう、我々がどう行動しているかについて共有したいと思います。あらゆる人々に安全で健康的な職場に仕事に戻る権利があるからです。

パンデミックによって影響を受けなかった国はありません。新型コロナによる複雑かつ急速に変化する影響を乗り切るにあたり、世界中のすべてのサプライヤーのコミットメント、柔軟性、チームへの配慮に感謝したいと思います。我々は当初からサプライヤーと協力して、人々の健康を最優先する計画を策定し、実行してきました。何千人ものアップルの従業員が、世界中のサプライヤーと協力してその計画を実行するために精力的に取り組んできました。

これは何よりもまず、健康診断、密度の制限、工場における社会的距離の厳格な順守など、各国の状況に適したさまざまな保護策について世界中のサプライヤーと協力することを意味します。作業中およびすべての共用エリアの両方で個人保護具の使用を義務付け、ディープクリーニングプロトコルを実施しマスクと消毒剤を配布するためにサプライヤーと協力してきました。

また、当社のチームはサプライヤーと提携し、必要に応じて工場のフロアプランを再設計および再構成し、人間同士の距離を最大化するため、時差勤務シフトを含む柔軟な労働時間を設定しています。我々は、最先端の医療およびプライバシーの専門家と緊密に協力して、高度な安全衛生プロトコルを開発し続けます。

サプライチェーン全体でツールを開発しベストプラクティスを実行するにあたり、業界内外で得た知見を共有しています。我々が何者であるかを長く定義してきた価値が、新型コロナによって弱められることはありません。その価値は我々がお互いやこの惑星に対して負っている責任に根ざしています。

今年のサプライヤー責任進捗報告書では、こうしたことを実現するために2019年に取り組んだことについて説明しています。100%再生可能エネルギーへ移行することであっても、職場での権利について何百万人もの従業員に周知することであっても、事業のすべての側面に当社の価値観を適用します。そして毎年、サプライヤーも順守を求められる基準の水準を引き上げています。

我々はあらゆる事のなかで人を第一に考えます。そして我々と一緒に働くすべての人に同じことを求めます。当社のサプライヤー行動規範は、あらゆる種類の差別やハラスメントを防ぎ、サプライヤーの従業員が匿名で声を上げられる通報手段を提供します。我々はサプライヤーと提携して教育と訓練の機会を創出しています。大学の学位取得プログラム、職業訓練イニシアチブ、健康増進プログラムなどを提供し、従業員が新しいスキルを学び、目標の達成に向けて取り組めるようにしています。

我々は実現したこと、していないことに関して進捗状況を報告し、透明性の確保に努めています。この報告書は、サプライチェーンの5万人を超える従業員へのインタビューと、抜き打ち監査を含む49カ国1000以上のサプライヤー工場監査に基づいています。当社の製品に注ぐのと同様の細部と革新への注意が、この報告書だけでなく、我々の世界中のサプライヤーネットワークが確実に基準を維持するための作業にも反映されています。

我々全員が共有する環境は壊れやすいものです。気候変動との戦いや排出量の削減にこれまで以上に力を注いでいます。戦略的パートナーシップを通じて、当社のサプライヤーは二酸化炭素排出量を削減し、水やエネルギーなどの貴重な資源を節約に貢献しています。グリーンマニュファクチャリングはスマートマニュファクチャリングであり、より広く言えば、環境に良いものはビジネスにも良いことを理解しています。

新型コロナは前例のない挑戦となりましたが、同僚、友人、隣人の健康を改めて大切に思う人間愛から希望とインスピレーションを得ました。自分と他人の健康を思う気持ちは我々がいつも持てるものです。

人と地球を守る我々の取り組みに終わりはないかもしれませんが、この先に最高に明るい未来が待っていると今ほど確信したことはありません。

サビ・カーンはアップルのオペレーション担当上級副社長です。

サビは、サプライヤーに関する責任を含むアップルのグローバルサプライチェーンをリードしています。

新型コロナウイルス 関連アップデート

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi

Foxconnの利益が新型コロナによる工場閉鎖で90%近く落ち込む

決算報告のシーズンがひと段落して、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックが企業経営にもたらした深刻な影響がよりはっきりわかるようになってきた。台湾の製造業大手であるFoxconnも、前四半期が散々な結果になった企業の1つだ。主に中国における工場の閉鎖で、利益は前年同期比で90%も落ち込んだ。

Foxconnは3月の時点で既に、投資家たちに凶報を予告していた。そのとき同社は、年度の業績に関する明確なガイダンスを提供できず、それをウイルスという前例のない不確定要素のせいにした。当時、会長のLiu Young-Way(劉揚偉)氏は「アウトブレイクの防止、仕事と生産の再開が弊社のプライオリティの最上位にある」と語っている。

それから2カ月になるが、不確定性は残っている。劉氏は今週行われた発表で「1年の展望に関しては未知の部分が多い。現状では2020年後半に関する展望を提示できない」と述べている。しかし劉氏は、次の四半期における売上の減少は、今期よりはるかに小さいだろうとも語っている。

関連記事: 新型コロナの不確かな未来を前にiPhoneの売上が減少

このやや明るい見通しは、主に中国の工場の多くが2020年1月後半の閉鎖の後、通常の生産を再開していることによる。Foxconnの生産能力の約3/4は中国にある。ただし、多くの企業でスマートフォンの売上が低迷すると予想されるため、Foxconnのサービスへの需要も減少により、理想の数字にはならないだろう。

Foxconnの大型クライアントの1つであるApple(アップル)は、消費者の需要とサプライチェーンの不足により、同社の次期フラグシップモデルのリリースを遅らせるといわれている。

新型コロナウイルス 関連アップデート

[原文へ]
(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

新型コロナ時代に企業はいかにオフィスを再開させるのか

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がパンデミックとなって数カ月が経つ。規模を問わず企業はオフィスを再開するのか、そうだとしたらそれはいつになるのか、再開に向けどのような措置が必要になるのか、など多くの疑問がある。今後の見通しはかなり不透明で、不動産業界の人間でもすべてには答えられない。しかし彼らは、次に何が起こるか知識や経験に基づいて推測し始めている。

商業用不動産サービス大手のCBREが5月15日に発表した新たなデータでは、従業員が直面すると思われる決断しにくい状況が示されている。これまで通りオフィスで業務を行うと答えた世界の200社を対象としたCBREの調査によると、59%が従業員にフェイスカバーを用意すると答え、28%がフェイスカバーの常時使用を必須とする計画だ。そして21%がオフィス再開初期にオフィスへの訪問者を許可するとし、13%が全施設で従業員のスクリーニング検査を行うと答えた。

だが、ソーシャルディスタンス(社会的距離)策をいかに正しく導入するかというのは、全体の一部にすぎない。新型コロナウイルスを根絶させることができるワクチンが開発されるまで、従業員の安全と平常維持のバランスをとらなければならない企業にとって、オフィスでの業務再開は難しいものとなる。実際、管理部門にとって唯一確かなことは、変更を加える必要があるということだ。調査でCBREが尋ねた多くの質問の中で「はい」の答えが最も多かったのが、ソーシャルディスタンスを反映させたスペース使用ポリシーを設ける計画か(80%)と、オフィスのレイアウトを再設計する計画か(60%)というものだった。

おそらく多くが、休憩室やカフェテリアすらも廃止する。従業員同士が少なくとも6フィート(約1.8メートル)離れて座るようにし、シフト制で出社させる企業も出てくるだろう。しかし他にも多くの変更が予想される、と不動産と建設テックを専門とし、今後数カ月あるいは数年にわたって最も需要が見込まれるテックを現在見出そうとしているベンチャー投資家2人は指摘する。

2人ともプロの投資家で、彼ら自身もまだリモートワークをしている。まずBrick and Mortar Ventures(ブリック・アンド・モーター・ベンチャーズ)の創業者Darren Bechtel(ダレン・ベクテル)氏から。同社は主に建設テックにフォーカスしており、最初のファンドは9750万ドル(約104億円)で9カ月前にクローズしたばかりだ。ベクテル氏は、自身と妻、幼い子供が住んでいる賃貸物件のドライブウェイに停めたAirstream社製トレーラーで働いている。自身も妻も、仕事の電話が1日中あるからだ。トレーラーに入ったり出たりするのは理想的ではない。しかし、カリフォルニア州が徐々に経済を再開させているものの、ベクテル氏はベイエリアにあるオフィスをすぐに再開させる準備はしていない。「我々は急いでいない。私はかなり保守的だ」。

不動産技術にフォーカスしているロサンゼルス拠点のFifth Wall(フィフス・ウォール)の共同創業者Brendan Wallace(ブレンダン・ワラス)氏もまた、従業員をすぐにオフィスに戻すことを躊躇している。「チームがリモートワークの環境でかなり生産的であることはうれしくも驚かされている」とも付け加えた。

もちろん2社とも従業員に負担をかけたくない。しかし他の多くの企業と同様、彼らもオフィスのデザインを再設計すべきかを現在考えており、異なるテクノロジーの活用も真剣に検討している。

例えば、ワラス氏もベクテル氏もそれぞれの電話で、暖房や換気、空調の一環で空気をきれいにして循環させるのに使用される高度な空気清浄機やエアハンドリングユニットに言及した。ビルオーナーやデベロッパーが関心を寄せるものになるだろう、と2人は口をそろえる。

ワラス氏はまた、他のスマートテクノロジーを積極的に採用する動きが出てくるとみる。部屋の最適人数や回転式扉で何人通すかを決めることができるセンサーや、身体接触を最小限に抑えるのに役立つ顔認証技術などを挙げる。そしてこれまでより多くの企業が建物内のパトロールに、そしておそらく清掃にもロボットを活用するかもしれない、と想像している。

事業者は現在、「これまでになかった責任をテナントに対して持たなければならない」とワラス氏は話す。事業者は(スペースを)より大胆に改変しようとしていて、「我々はそうした動きに先駆けたい」という。

一方のベクテル氏は、業界に個々のプライベートオフィスの需要が出てくるかもしれないとみている。同氏はまた、例えば抗菌のテキスタイルを生産する材料の企業に光が当たるかもしれないと考える。「このところ環境に優しい材料を開発する動きがあったが、需要はなかった」とベクテル氏は指摘する。

Brick and Mortar Venturesは主に建設テクノロジーに注力しているため、建設会社が建設現場の安全を向上させ、生産性を改善する方法を熱心に模索している。これは、接触追跡から、写真やレーザースキャンをもとに3Dモデルを作り出す「現実キャプチャソフトウェア」と呼ばれるものまですべてを意味する。

オフサイトのプレハブ建設需要の高まりがあるかもしれない、ともベクテル氏は話す。「エリアの中で働ける人数に制限があり、働いている人同士が重ならないようにあなたが管理しなければならないとする。すると、次世代HVACシステムが空気を清浄し、フロアにマーキングされるなど、よりコントロールされた環境にどうやったらできるかという疑問がわいてくる」。

ベクテル氏は「人々はいまこう口にしている。我々はどれくらいオフサイトを準備できるだろう」という。

こうしたテックの出現やその浸透は、効果的なワクチンが出てくるまでにどれくらいの時間を要するかにもよる。予想しているよりも早くワクチンが実用化すれば、事業者は物理的スペースへの大きな変更はさほど優先することではないと考えるかもしれない。すぐに忘れるのは人間の性だ。

それでも、経済再開に伴い、事業者や大学、さまざまな機関はウイルス拡散を阻止するための計画を立てるより他はなく、これはおそらく永久的な変更につながる。

投資家らはそう願っている。現在では「建物は役立たずだ。ほとんどは暖房と冷房を保つためだけに存在している」とワラス氏は話す。

いまこの現状から何かいいものが生み出されるとしたら、それは長期的によりスマートで安全に作られた、そして今回のような健康リスクに対応できる建物かもしれない、と同氏は期待している。

画像クレジット:Hero Images

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi

有望な新型コロナ抗体を米Sorrentoが発見、実験室では100%の効果と発表

カリフォルニアの新治療法研究企業、Sorrento Therapeuticsは新型コロナウイルス対策の突破口となる可能性のある物質を発見したと発表した。この物質はパンデミックの原因となっているSARS-CoV-2(COVID-19)ウイルスに対して臨床前実験で100%の感染阻止の効果を示したという。

5月15日にSorrentoは前臨床研究の論文を発表し「4日間にわたる培養で健康な細胞へのSARS-CoV-2の感染を100%阻止する抗体を発見した」と報告した。論文は前臨床研究の報告であり、まだ専門家の査読を受ける必要がある。これはインビトロ(「試験管内」という意味)の研究で、臨床前のものだが、有望な発見だ。SorrentoはさらにSARS-CoV-2ウイルスが変異しても有効な抗体の「カクテル」の開発を進めるという。

SorrentoによればSTI-1499と呼ばれる抗体が候補物質の中で際立った効果を示したのだという。同社は広汎なヒト抗体ライブラリーを持ち、数十億の候補をスクリーニングした。SARS-CoV-2ウイルスはスパイク状のタンパク質を標的細胞の受容体に結合させて細胞に侵入する。STI-1499はこの結合作用を完全にブロックする能力がみられた。つまり、ウイルスがヒトの健康な細胞に感染するのを阻止できるわけだ。

現在、Sorrentoは新型コロナウイルス治療薬を開発中だが、STI-1499は細胞への感染阻止に高い有効性があるため、この「カクテル」に含まれる最初の抗体の候補だという。「カクテル」と呼ばれるのは治療薬はウイルスが細胞と結合するのをブロックする効果のある多数の抗体を含むことになるからだ。これはウイルスがヒトからヒトへの感染ないし特定個人の体内で変異を起こしても効果が持続することを狙っているためだ。

実際、研究者が現在答えを求めている最大の問題の1つは、SARS-CoV-2変異原性だ。例えば普通の風邪のワクチンや抗ウイルス薬の開発が困難なのは、原因となるコロナウイルスが急速に変異する傾向を示すためだ。

Sorrentoが開発している抗ウイルスカクテルのCOVID-SHIELDは、さまざまな変異株に対しても効果があるよう多数の抗体をミックスさせたもになるはずだが、同社ではSTI-1499を単独の抗体として使用する研究も進めるという。Sorrentoは、STI-1499の実用化を加速するためにFDA(米国食品医薬品局)と協議中だとしている。またFDAの使用承認の取得を進める一方で、投与100万回分を生産する準備も進めている。

ただしSARS-CoV-2(COVID-19)を根絶できる「魔法の弾丸」となるようなワクチンや特効薬が、すぐに登場する可能性はほとんどないことに留意しておく必要があるだろう。そうではあっても、これは非常に有望な発見であり、今後の臨床試験の結果や使用承認のプロセスに注目していくべきだろう。

画像クレジット:Getty Images

新型コロナウイルス 関連アップデート

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook