再利用可能なプラスチック容器エコシステムの構築を目指すAlgramo、シリーズAラウンドで9.3億円調達

世界の廃棄物の中で大きな割合を占める使い捨てのプラスチック容器。しかし、消費者にとって使いやすく、費用対効果の高い容器の代替手段は、今のところ見当たらない。再利用可能なプラスチック容器と販売拠点を組み合わせることで、コスト削減と収益アップを目指すAlgramo(アルグラモ)は、新規の850万ドル(約9億3000万円)の資金調達ラウンドで、その存在感を大幅に拡大しようとしている。

さまざまな業界で企業が環境に配慮することを強く求められている現在、約10年前にチリで設立されたAlgramoはその地位を確立しつつある。

プラスチック廃棄物を減らすための有力な方法の1つは、使い捨てのプラスチックを減らすことだ。ここで難しいのは、消費者にコストを転嫁しないで、具体的にどのような方法で削減するか、である。環境にやさしい製品でも、2倍の値段だったら金銭に余裕がある人しか買わないし、そうでない人は良心に反して、安くて環境に良くない方の選択肢を選ばざるを得ない。

「自分の財布か、地球か、という選択肢です」とCEOのJosé Manuel Moller(ホセ・マヌエル・モラー)氏。「だからこそ、より安く、より良いものが必要なのです。私たちは、物事をさらに複雑にするのではなく、もっとシンプルにしようとしています」。

画像クレジット:Algramo

何年にもわたるテストの結果、Algramoがたどり着いた解決策は、洗剤やシャンプーなどの既存製品のラベルを変更し、ICタグを付けて、消費者がディスペンサーで簡単にボトルを補充できるようにするというものだ。モラー氏が製品コストの30%を占めると推定するパッケージのコストを取り除き、詰め替えを販売することで安価になる。これは店舗に行くだけで購入できる。

画期的だったのはこのアイデアではなく、大手ブランドとの関係だ。食器用洗剤を補充するために、遠くのスーパーまで行かなければならないとしたら、補充するのではなく、新しい洗剤を買ってしまう可能性が高くなる。詰め替え用の商品が適当なノーブランドのものばかりだとしても同様である。そこでAlgramoは、世界中のウォルマートやユニリーバに訴えてきたが、ごく最近、彼らは少なくとも地域レベルで耳を傾けてくれるようになった。

モラー氏は次のように話す。「Algramoの存在がなくても、起こるべくして起こったことです」「しかし、私たちは彼らのサプライチェーンに参加し、既存の関係を壊さないように小売店やブランドと協力しています。実際、詰め替え用の商品では約60%のスペースを節約することができます」。

同社は現在、Unilever(ユニリーバ)、Nestlé(ネスレ)、Colgate-Palmolive(コルゲート・パーモリーブ)、Walmart Chile(ウォルマートチリ)と提携している。大手ブランドと大手小売企業を結びつけ、消費者がすぐに実践できる、少しでも節約できるようなソリューションを提供することで、誰もがハッピーになれるのだ。Algramoは当初、ディスペンサーを搭載した小型車両を使って事業を展開していたが、最終的には小売業との連携の方が成功した。

写真でわかるように、小型車両はまだ存在している

現在、チリ全土にAlgramoのステーションがあり、約5万人のユーザーが詰め替えの商品を購入している。取り扱う商品は、収益性ではなく、環境負荷が大きいものを選んで決定されたのだが、モラー氏によると、最も環境汚染につながるのは飲料だという。同社は意欲的に取り組んでいるものの、これには別の課題があり、まだ商品化には至っていない。

その代わりに、洗濯用洗剤やシャンプー、コンディショナーなどの使用頻度の高い製品、さらにはドライタイプのドッグフードの利用率は高い。また、同社は余裕のない人でも利用しやすいように、ユーザーが必要な分だけを詰め替えの料金で購入できるように配慮している。

チリでの実績により大規模にこのアイデアが実証されたので、Algramoは、世界各地での試験運用に向けて資金調達を行っている。現在、ジャカルタ、ニューヨーク、メキシコ、ロンドンでプロジェクトが進行中だが、いずれも確実に現地での作業が必要になる。というのも、規制や委託企業、流通ネットワークが異なるため、進出先ではどこでも新たな契約や合意が必要になるからだ。

今回のシリーズAラウンドによる850万ドルの資金は、このようなグローバル展開を目的としている。ラウンドはメキシコのDalus Capital(ダラスキャピタル)が主導し、Angel Ventures(エンジェルベンチャーズ)、FEMSA Ventures(フェムサベンチャーズ)、Volta Ventures(ボルタベンチャーズ)、Impact Assets(インパクトアセッツ)、University Venture Fund(ユニバーシティベンチャーファンド)、Century Oak Capital(センチュリーオークキャピタル)、Closed Loop Partners(クローズドループパートナーズ)のVentures Group(ベンチャーズグループ)(Closed Loop Partnersは2019年のシードラウンドも主導)が参加した。

モラー氏は、Algramoのような取り組みは他社も行っていて、最終的には同社のプラットフォームは競合他社のプラットフォームと連携するかもしれない、と話す。このビジネスで最も重要なのは、小売店およびブランドの両方と関係を構築することで、次に顧客との関係であるが、その後のステップはさまざまな状況に合わせることができる。例えばインドで一般的な再利用可能な食品容器などのリバースロジスティクスシステムが成功しているケースがあれば、それがソリューションの一部になるかもしれない。食料品チェーンなどが独自のリサイクルソリューションを構築する場合は、Algramoは役割の一部を担い、裏方に徹したいと考えている(Algramoは特許もいくつか所有している)。

今のところ、これらはすべて計画に過ぎず、Algramoはさまざまな大きな市場における自社の存在感を高めることに集中している。もしこれを読んだあなたが上に挙げた地域にお住まいなら、近所の大規模小売店や食料品店でAlgramoのステーションを探してみるか、ウェブサイトの下部にある地図を確認してみてはどうだろうか。

画像クレジット:Algramo

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

アル・ゴアが英国のグリーンエネルギー技術スタートアップOctopus Energy Groupに約660億円を出資

Al Gore(アル・ゴア)元副大統領は、自身のGeneration Investment Management(ジェネレーション・インベストメント・マネジメント)を通じ、英国のエネルギー関連企業であるOctopus Energy Group(オクトパス・エナジー・グループ)に6億ドル(約660億円)の出資を行い、約13%の株式を取得した。この投資により、Octopusの評価額は約46億ドル(約5100億円)に達した。

Octopusは、再生可能エネルギー源からのエネルギーを競合他社よりもはるかに効率的にネットワーク上で迂回させることができると主張する「Kraken(クラーケン)」技術プラットフォームによって、エネルギー業界で有名になった。Octopusは現在、12カ国で1700万のエネルギー口座をこの方法で管理している。

Generationは、持続可能なビジネスを支援することを目的とした360億ドル(約3兆9970億円)規模のファンドマネジメント企業だ。Octopusは、Generationからの戦略的投資により、テキサス州を足掛かりに展開している米国市場へのさらなる参入を目指している。

今回のGenerationからの出資は、東京ガス、Origin Energy(オリジン・エネルギー)からの株式投資、スマートグリッド技術を専門とするUpside Energy(アップサイド・エネルギー)の買収に続くものだ。Octopusの小売事業は現在、英国、米国、ドイツ、スペイン、ニュージーランドで展開しており、Good Energy(グッド・エナジー)、Hanwha Corporation(ハンファ・コーポレーション)、Origin Energy(オリジン・エナジー)、Power(パワー)そしてE.ONとライセンス契約を結んでいる。

関連記事:AI活用エネルギースタートアップの英Octopusが東京ガスから208億円の投資を受けて評価額2000億円超え

また、Octopusは、ユーザーが電気自動車を充電する際にOctopus Energyの個人アカウントに充電できるよう、欧州に10万カ所の充電ポイントを持つ電気自動車のローミングネットワーク「Electric Juice(エレクトリック・ジュース)」を立ち上げている。また、Teslaと提携し、英国とドイツで「Tesla Power(テスラ・パワー)」を展開している。

Octopus Energyの創業者兼CEOであるGreg Jackson(グレッグ・ジャクソン)氏は、次のように述べた。「現在、英国のエネルギー市場は厳しい状況にありますが、化石燃料への依存をなくすためには、再生可能エネルギーや技術への投資が必要であることが浮き彫りになりました。そのため、世界をより良く変える持続可能な企業を支援するために設立されたGeneration Investment Managementとの契約を発表できることを嬉しく思います」。

「私たちは週に2回、300回のストレステストを行っています。テック企業である当社にとって、それは単なるアルゴリズムです。ライバル企業は、スプレッドシートを使ってやっています」。

Generation Investment Managementを代表して、長期株式戦略のパートナーであるTom Hodges(トム・ホッジス)氏は「Octopus Energyは、システムや気候変動に前向きな企業を支援するために長期的な投資を行うというGenerationのミッションに非常に適しています。世界は、パリ協定の目標を達成するために不可欠な、前例のないエネルギー転換の初期段階にあります。これは、環境と消費者にとってより良い方法で行うことができます」という。

Zoom経由のインタビューでジャクソン氏は、現在の世界的なエネルギー危機には2つの部分があると話してくれた。「1つは、エネルギーの卸売価格の危機です。世界のガス価格は去年だけで3倍、4倍になっています。そして、ガスの価格が高いだけでなく、電力の多くがガスからきているため、電力価格も上昇しています。これは、企業がどれだけ思惑売りと空買いをしてきたかを如実に表していると思います。つまり、現在、破綻している企業は、1年契約を販売していたのだが、6カ月分のエネルギーしか購入しておらず、残りはうまくいくよう祈っていただけの大企業なのです」。

Octopusは、「常に100%の防止策を行ってきました。私たちにとって、エネルギー小売は事業の1つに過ぎません。そして、グループ内には13の事業があります。私たちが常に目指してきたのは、優れたサービスを提供することと、リスク管理の行き届いたバックエンドを提供することでした。私たちは週に2回、ヘッジポジションに対して300回のストレステストを行っています。テック企業である当社にとって、それは単なるアルゴリズムです。ライバル企業は、それをしていないか、スプレッドシートでやっていて、うまくいっていません」。

「現実には、この危機は完全に化石燃料の危機です。もし、再生可能エネルギーを主要な供給源とし、ガスをバックアップとして使用していたら、このような状況にはなっていなかったでしょう」とジャクソン氏は付け加えた。

Octopusは、風力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーのオーナーオペレーターで、35億ポンド(約5200億円)の発電資産を持ち、今後10年間でそれを10倍にする計画だという。

このGeneration案件は、3億ドル(約330億円)の即時投資と、2022年6月までに3億ドル(約330億円)の追加投資で構成されており、さらに一定の資金調達条件を満たす必要がある。

Octopusは、気候変動との戦いを政府レベルで行うため、ロンドンに独立した研究施設Centre for Net Zeroを設立し、さらに熱の脱炭素化に関する研究開発・トレーニングセンターに1000万ポンド(約15億円)を投資した。

画像クレジット:Octopus Energy Founders

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(文:Mike Butcher、翻訳:Yuta Kaminishi)

風力発電機や航空機に使われる炭素繊維複合材の廃棄物をリサイクルして新製品の材料にするFairmat

Fairmat(フェアマット)は、ハイテクな複合素材のリサイクルプロセスを改善しようとしているフランスの新しいスタートアップ企業だ。同社は、廃棄物から新しい種類の材料を生産し、生産企業に販売したいと考えている。

Fairmatは先日、860万ユーロ(約11億2000万円)の資金調達を行ったばかりだ。Singular(シンギュラー)が主導したこの投資ラウンドには、さまざまなビジネス・エンジェルも参加している。

「私たちは、このような製品寿命を終えた素材を処理するための拡張性があるソリューションに取り組んでいます」と、Fairmatの創業者であるBenjamin Saada(ベンジャミン・サーダ)氏は筆者に語った。同氏は以前、Expliseat(エクスプリシート)を共同設立した人物だ。

この企業は、ハイテク素材がなくなることはないと考えている。例えば、風力発電機や航空機には、驚異的な特性を持つ炭素繊維複合材が非常に有効だ。しかし、すべてにハイテク素材を使う必要はない。

だから我々は、新しい物を作る際に、プラスティックや木材、さまざまな金属合金など、より安価な素材に大きく頼ることになる。しかし、Fairmatは、風力発電機や航空機に使われる炭素繊維複合材の代わりになるものを提供したいと考えているわけではない。

同社は、日常生活の中で使われるプラスティックや木材、さまざまな金属合金などの素材を、置き換えたいと考えている。すでに使用された炭素繊維複合材を、軽量かつ堅牢な新しい素材に変えようとしているのだ。

「今日、炭素繊維複合材の廃棄物は、基本的に焼却されるか埋め立てられます」とサーダ氏はいう。Fairmatのやり方なら、複合素材を機械的なプロセスによってリサイクルすることが可能だ。しかも、それほど手間がかかるわけではないという。例えば、炭素繊維複合材の廃棄物を加熱する必要もない。また、このスタートアップ企業は、素材の物理的特性をテストするために、機械学習を利用している。

Fairmatは、同社でリサイクルした素材を製造業の顧客に販売し、それを再利用して企業が新しい製品づくりができるようにすることを計画している。一例を上げると、Fairmatの素材を使ってカーゴバイク(運搬用自転車)の荷台を作ることなどが考えられる。木材や金属よりも軽量であり、バージン素材を使用するのと比べるとカーボンフットプリントにも優れている。

次の段階として、Fairmatは従業員を15人から30人に増やすことを計画している。同社は現在、炭素繊維複合材の廃棄物を扱うサプライヤーや、潜在的な顧客との提携を進めており、2022年の第2四半期には、同社の素材を大規模に販売できるようになる見込みだという。

Fairmatはその後も、さまざまな特性を持つ他の種類の素材を、次々と開発していくつもりだ。順調にいけば、数年後には、同社の素材が使われているイスやノートパソコン、自動車などを、知らずに購入しているかもしれない。

画像クレジット:Rabih Shasha / Unsplash

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(文:Romain Dillet、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

NTTドコモが電力事業に参入、再生可能エネルギーを積極活用の「ドコモでんき」を2022年3月開始

NTTドコモが電力事業に参入、太陽光・風力・地熱などの再生可能エネルギーを積極活用の「ドコモでんき」を2022年3月開始予定

NTTドコモが電力事業に参入します。2022年3月より新電力サービス「ドコモでんき」の提供を開始します。

「ドコモでんき」のサービス開始時点では、太陽光・風力・地熱などの再生可能エネルギーを積極活用した「ドコモでんき Green」、およびdポイントとの連携などにより割安に利用できる「ドコモでんき Basic」の2プランを提供します。NTTドコモが電力事業に参入、太陽光・風力・地熱などの再生可能エネルギーを積極活用の「ドコモでんき」を2022年3月開始予定

申込みはドコモショップおよび専用のウェブサイトで受け付けます。なお、サービスの詳細は2021年末までに公表予定。具体的な料金体系や、ドコモ契約とのセット割の有無は現時点では明かされていません。

また、同サービスはNTTアノードエナジーが小売電気事業者として電力の供給を担い、ドコモが取次事業者としてサービスを提供します。

NTTドコモは2030年までのカーボンニュートラル達成を目標にしていて、「ドコモでんき」の提供開始によって、社会全体のカーボンニュートラルにも貢献したいとコメントしています。

(Source:NTTドコモEngadget日本版より転載)

Sofarと米国防高等研究計画局が「7つの海の天気予報」を得る海洋監視機器のオープン標準を策定

海は無数のさまざまな産業にとって重要だ。しかし、海全体がどのような状態にあるのかを常に把握することは、依然として難しい。Sofar Ocean Technologies(ソーファー・オーシャン・テクノロジーズ)とDARPA(米国防衛高等研究計画局)は、新世代の海洋観測フロートなどの機器の開発を促すために「Bristlemouth(ブリストルマウス)」呼ばれる海洋ハードウェアのオープン標準を策定している。これによって研究者は、貴重な助成金を無駄にして同じ工学的問題を一から解決するのではなく、既製の選択肢を利用することができるようになる。

Sofarは自らを「リアルタイム海洋情報プラットフォーム」と呼んでいる。これは7つの海に関する天気予報のようなものだと考えればいいだろう。しかし大気とは違って、海洋は衛星やレーダーによる遠隔観測が容易ではない。海の運動、塩分、汚染物質の濃度、温度などを把握するには、実際に波に揺られている何百あるいは何千もの機器を必要とする。

同社はフロートセンサーによる独自のネットワークを維持し、価値あるデータを作成して、さまざまな関係者に販売することを事業としている一方で、それだけに留まらず、海洋センシング業界全体を発展させたいとも考えている。同社CTOのEvan Shapiro(エヴァン・シャピーロ)氏は、そのための最良の方法の1つとして、ハードウェアとソフトウェアのオープンな規格を作ることを提案している。

海流などの海の状態を表示するSofarのインターフェース(画像クレジット:Sofar Ocean Technologies)

現在、ハードウェアの接続規格が存在しないことは、開発やイノベーションの大きな妨げになっている。「今日では、新しい海洋技術の開発に割り当てられている予算の大部分が、実際の海洋イノベーションではなく、電力、データ、通信の接続性といった基本的な技術的ボトルネックの解決に向けて費やされているのです」と、シャピーロ氏はTechCrunchに語った。

これは、宇宙関連企業がいくつかの標準的なバスや宇宙船を利用するという考え方にまとまり始めた状況と、よく似ている。宇宙塵の観測や大気圏外における放射線量の測定といったことが研究目標であるならば、宇宙船の製造ではなく、それらの機器に時間と資金を費やしたいものだ。人々は「車輪の再発明」をするよりも、標準的な宇宙船を購入してカスタマイズした方がいいと思うに違いないと、Rocket Lab(ロケット・ラボ)のような企業が考えているのとちょうど同じように、海洋関連の研究者は重要な技術に集中したいと思っているはずだと、Sofarは考えた。

「電力システム、衛星テレメトリ、GPS、イルカ探知用ハイドロフォンを搭載したフロートを作りたいと思う人はまずいません。まずイルカ探知用ハイドロフォンを作りたいと思っても、現在のような(ハードウェアの標準化が進んでいない)環境では、残りの部分も結局は一から作らなければなりません。SofarによるBristlemouthの商業的採用とサポートは、このエコシステムの価値に弾みを付けるために不可欠です」と、シャピーロ氏は言いながらも、このような試みは過去にも行われたことがあると指摘した。「我々が初めて、標準化の必要性を認識したわけでも、初めてこの問題に本格的に取り組んだわけでもありません。しかし、大規模な商用プラットフォームを提供したのは当社が初めてです。例えば、USBがバークレーの報告書ではなく、Intel(インテル)、IBM、Microsoft(マイクロソフト)から登場したのには理由があります。我々はこの分野で最も影響力のある企業や団体とパートナーシップを組んでそれを行っています」。

錆びついたドックに置かれているのは「Bristlemouth」規格を実証するための試作機(画像クレジット:Sofar Ocean Technologies)

その中には、DARPAやOffice of Naval Research(米国海軍研究局)、自然保護団体のOceankind(オーシャンカインド)も含まれている。海洋観測から得られるデータが増えることは、科学や産業にとって良いことに違いないというのが、全関係者の共通認識である。

この標準規格そのものについては、民生用技術の観点から見て特にエキサイティングなものではない。これはキットやリファレンスモデルではなく(上の画像はSofarのスマートブイの1つだが、いくつかの共通点がある)、主にモジュール性と相互運用性に焦点を当てたハードウェアとソフトウェアのパッケージだ。「Bristlemouth Basic(ブリストルマウス・ベーシック)」のような製品を購入してアップグレードするというものではなく、この業界の多くの人達が、電源管理や通信など、基本的なステップをカバーする共有規格を設計し、それによって作られた機器が簡単に連携できるようにするという考え方である。詳細な情報は、Bristlemouthの公式サイトに掲載されている。

海洋インテリジェンスは、海藻の養殖から自動操縦船や気候変動監視まで、海に関わるあらゆる産業で重要な役割を果たす。Bristlemouthのようなものが、これらの領域を制限しているデータ不足を緩和することができれば「ブルーエコノミー」はより早く、より安全にもたらされることだろう。

画像クレジット:Sofar Ocean Technologies

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Carbixは煙道ガスから有用な鉱物を生成するリアクターを開発

世界中の煙突から排出される汚染物質は、大気に悪い影響を与える。しかし、その汚染物質が外に出る前に捕えられたら、排出量を減らすと同時に、貴重な物質を集めることができる。だからこそ、Carbix(カービックス)という企業は、カーボンネガティブを維持しながら排出物から鉱物を抽出するカーボン・シーケスタリング・リアクター(炭素隔離反応器)の開発を目指しているのだ。

米国時間9月22日、Disrupt Startup Battlefield(ディスラプト・スタートアップ・バトルフィールド)で発表を行ったCarbixは、脱炭素化しなければ罰金や高額の税金を課せられるという産業界の圧力を利用しようとしている。セメントの製造はそれだけで炭素排出量の約8%を占めており、経営者たちはグリーン化するために躍起になっている。

セメントをはじめとするさまざまな産業に必要な鉱物が、文字通り捨てられていることがわかっている。煙突から吐き出されると、そのままどこへともなく漂って行ってしまうからだ。実際にはこの鉱物には価値があるため、Carbixは工場に金を払って鉱物を吸い上げ、それを再販することができると考えた。

「私たちは実質的に、排出する工場が通常は風の中に捨ててしまう在庫にお金を支払うのです。彼らにはこれを断る動機がありません」と、Carbixの創業者であるQuincy Sammy(クインシー・サミー)氏はいう。

このプロセスは、大気中の二酸化炭素が、ある種の豊富な鉱物と相互作用して、石灰岩である炭酸カルシウムのような別の鉱物をゆっくりと形成するという、自然界で起こることを加速させるというものだ。二酸化炭素を石に変えることは、我々が永久的炭素隔離市場と呼ぶようないくつかのスタートアップ企業の基盤となっている。Heimdal(ハイムダル)はそのために海水を利用し、44.01という会社は反応性鉱物のフィールドに高濃度炭酸水を注入することでそれを行っている。Carbixはもちろん、人工的な装置を使う。

画像クレジット:Carbix

その仕組みは次のようなものだ。CarbixはCO2や微粒子を大量に排出する場所へ向かい、排出の流れを分析する。そうすることで、どのような炭酸塩鉱物を分離できるか、そのためには何が必要かを予測することができる。そして、その施設からの排出物は、Carbixのリアクターに送られる。この装置では、さまざまな放出物が、石膏や石灰キルンダストなど、物流への影響を少なくするために近隣で調達された反応性のある鉱物と結合され、セメントやガラスなどの原料となる有用な物質が生成される。Carbixはそれらを取り出し、本来であれば大気中に消えてしまう(最終的にはどこかの氷河に落ちてしまう)ばすだったこれらの原料を販売するというわけだ。

現在、X1と呼ばれるスケールプロトタイプに搭載されているこのリアクターは、明らかにここで最も防御力のある知的財産であり、今回のシードラウンドで調達した資金の大部分は、リアクターの容量が数百倍になる生産規模のX2の建造に充てると、サミー氏は述べている。X2は1基あたり年間約1万6000トンの炭酸ガスを処理でき、これは約8000トンのCO2に相当する。X2は並列運用が可能であり、適当な規模の工場であれば、1つの施設で10台のX2を使用することができると、サミー氏は見積もっている。

X1リアクターの試作機。X2は最低でも100倍は大きくなる(画像クレジット Carbix)

最もシンプルな計画としては、排出する企業がお互いにメリットがあることを理解し、初期費用を負担する形に持っていくことだ。Carbixは採取した原料の代金を定期的に支払うようにする。排出企業は、通常なら一銭にもならないものから利益を得ることができる上に、限度枠にカウントされる排出量を減らすことができるため、二重の利点がある。サミー氏は、利益配分する契約などの可能性を否定しなかったが、これが望ましい設定だろう。

「我々はこれらの企業と新境地を開拓するわけですから、互恵関係が重要になります」と、サミー氏はいう。Carbixのプロセスは、セメント製造業を最初のターゲットとしているものの、他の多くの産業にも適用できる。

「私たちは、特定の分野に縛られるつもりはありません。煙道ガスは煙道ガスです。だからこそ、このプロジェクトはエンド・ツー・エンドであり、私たちは人々をそこに導くのです。どのような業界にも対応できることを、私たちは示す必要があります」と、同氏は説明した。

他のハードウェア企業と同様に、産業規模での取り組みには多くの初期費用が必要になる。Carbixは、X2リアクターの製造と認証にかかる費用を調達するために、今回のシードラウンドに取り組んでいる。認証が得られれば、通常の経路で保険や融資を受けることができるようになる。そして、誰もが得をする相互利益をもたらす計画が実現するのだ。

画像クレジット:Carbix

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ついにヨーロッパが携帯電話の充電器を共通化するための法律を制定、共通の充電ポートはUSB-Cに

スマートフォンやタブレットなどの家電製品の充電ポートの標準化に向けて、EUの議員がようやく動き出した。今回発表されたこの提案が採用されれば、カメラ、ヘッドフォン、ポータブルスピーカー、携帯型ゲーム機などの機器に共通の充電ポートとして、USB-Cが採用されることになる。

スマートウォッチやフィットネスバンドのような小型の家電製品は、そのサイズや使用形態などの理由から除外されている。

また、この委員会の計画では、地域の議員が携帯電話の充電器の販売を分離して、自動的に同梱されないようにすることが望まれている。

また、急速充電の規格も統一され、機器メーカーは、必要な電力や急速充電に対応しているかどうかなど「充電性能に関する関連情報」をユーザーに提供する義務を負うことになる。

欧州委員会は「これにより、消費者は既存の充電器が新しい機器の要件を満たしているかどうかを確認したり、互換性のある充電器を選択したりすることが容易になります」と指摘し、さらに一連の措置によって、消費者が新しい充電器を購入する回数を減らし、不必要な充電器の購入にかかっている年間2億5000万ユーロ(約323億9000万円)を節約することができると述べている。

欧州委員会はこの提案の発表の中で、欧州委員会が10年以上にわたって推し進めてきた「自主的なアプローチ」、すなわち覚書のような推奨を通じて電子機器業界に共通の基準を実現させようとする試みが、求められている基準を実現できておらず、たとえば携帯電話の充電器にはいまだに3つの異なるタイプが存在していることを述べている。

より広い目的としては、家電製品から発生する廃棄物の一部を削減することで、世界の廃棄物の山に意味のある変化をもたらすことが目指されている。たとえば欧州委員会は、消費者が携帯電話の充電器を平均3個所有しており、そのうち2個を定期的に使用していると指摘している。それゆえ、機器メーカーが毎回新しい充電器を用意する必要はないのだ。

また、同委員会は、廃棄される未使用の充電器は、年間約1万1000トンの電子廃棄物に相当すると推定していることを付け加えた。

もちろん、現在携帯電話市場に出回っている非標準的な充電器の1つは、iPhoneメーカーであるApple(アップル)のものだ。Appleはこれまで、自社の機器に標準的なポートを搭載させようとする圧力に抵抗してきたが、汎EU法によって世界共通の充電器を強制的に導入することができれば、巨大企業はついに独自のLightning(ライトニング)ポートを放棄せざるを得なくなるだろう。

Appleは長年にわたり、デバイスに標準的なポートを採用する代わりに、間違いなく幅広く莫大な利益を生むアクセサリービジネスを展開してきた。例えば、iPhoneの3.5mmヘッドフォンジャックを削除するなど、標準的なポートを削除することさえあったのだ。つまり、Appleのデバイスのユーザーは、より多くの標準的なポートにアクセスしたい場合には、ドングルを購入しなければならず、将来的にさらに多くの廃棄物が発生することになる。

EUの立法案が、Appleのドングルを使った組み込み型の汎用的な回避策を実際に禁止するかどうかは、まだはっきりしない(私たちは欧州委員会に質問してみた)。

欧州委員会のデジタル戦略担当EVPであるMargrethe Vestager(マルグレーテ・ベステアー)氏は、欧州委員会の提案について次のようなコメントを述べている。「欧州の消費者は、互換性のない充電器が引き出しに溜まっていくことにずっと不満を感じていました。産業界には独自の解決策を提案するための時間を十分に与えてきましたが、今は共通の充電器に向けた立法措置をとる時期に来ています。これは、消費者と環境にとって大切な勝利であり、私たちのグリーンとデジタルの目標に沿ったものです」。

欧州連合(EU)のThierry Breton(ティエリー・ブルトン)域内市場担当委員は、呼応する声明の中で次のように付け加えている「私たちの最も重要な電子機器のすべてに電力を供給しているのが充電器です。機器が増えれば増えるほど、互換性のない、あるいは必要のない充電器がどんどん売られていきます。私たちはそれに終止符を打ちます。私たちの提案により、欧州の消費者は1つの充電器ですべての携帯電子機器を使用できるようになるでしょう。これは利便性の向上と廃棄物の削減のための重要なステップとなります」。

なお、この提案が法律として成立するためには、EUの他の機関である欧州議会と欧州理事会がこの提案を支持する必要がある。欧州議会は、欧州委員会が共通の充電基準を実現できていないことに以前から不満を表明しており、2020年はこの問題への厳しい対応を求める投票が圧倒的に多かった。そのため欧州議会議員がこの問題に関する汎EU法の制定に熱心なのだろう。

とはいえ、一朝一夕に激変するわけではない。欧州委員会は、過去の法制化の適用データから、24カ月間の移行期間を提案しているので、たとえ議会と理事会がこの計画に迅速に合意したとしても、機器メーカーが遵守しなければならなくなるには、何年もかかることになる。

欧州委員会の広報は、これまで産業界にこの問題に関して10年以上の圧力をかけてはきたものの、計画されている法改正に適応するための「十分な時間」を与えたいとしている。

欧州委員会が求める共通の充電器ソリューションを欧州で実現するためには、さらなるステップが必要である。外部電源の相互運用性を確保するためのさらなる調整が必要とされているからだ。立法者によると、こちらの問題はエコデザイン規則の見直しによって対処されるという。この規則は、共通充電器ポート要件と同時に発効することを目指して、2021年後半の開始が予定されている。

後者の提案に関するFAQの中で、欧州委員会は、この問題で立法上の難問に取り組むのになぜこれほど時間がかかったのかという自らの疑問に答えているが、当初は業界が関与することを期待して、より「野心的な」自主的アプローチを継続しようとしていたと書いている。しかし、業界が提案した案は「不十分」であり、共通の充電ソリューションを提供することはできなかったと述べている。

世界が気候変動マイクロプラスチック汚染などの環境問題への取り組みを進める上で、立法者たちが「実際の立法の必要性」を学んだことは重要な教訓となるだろう。

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画像クレジット:Getty Images under a iStock / Getty Images Plus license

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(文:Natasha Lomas、翻訳:sako)

【コラム】レーザー主導の核融合は安全で安価なクリーンエネルギーへの道を開く

核融合発電を実現するという探求が最近飛躍的な前進を見せている。ローレンス・リバモア国立研究所にある国立点火施設(NIF)は、前例のない高い核融合収率の実験結果を発表した。単一のレーザーショットが1.3メガジュールの核融合収率エネルギーを放出する反応を開始させ、核燃焼の伝搬の痕跡を示した。

このマイルストーンに到達したことは、核融合が実際に発電の達成にいかに近づいているかを物語っている。この最新の研究結果は、進捗の急速なペース、特にレーザーが驚異的なスピードで進化していることを実証するものだ。

実際、レーザーは第二次世界大戦以降で最も影響力の強い技術的発明の1つである。機械加工、精密手術、消費者向け電子機器など、実に多様な用途で広く使用されているレーザーは、日常生活に欠かせないものとなっている。しかし、レーザーが正のエネルギー利得で制御された核融合を可能にするという、物理学のエキサイティングかつまったく新しい章の到来を告げていることはほとんど知られていない。

60年におよぶ技術革新の後、現在レーザーはクリーンで高密度、かつ効率的な燃料を開発する喫緊のプロセスをアシストしている。この燃料は、大規模な脱炭素化エネルギー生産を通して世界のエネルギー危機を解決するために必要とされている。レーザーパルスで達成できるピークパワーは、10年ごとに1000倍もの増加を示している。

物理学者たちは最近、1500テラワットの電力を生み出す核融合実験を行った。短時間で、全世界がその瞬間に消費するエネルギーの4〜5倍のエネルギーを生み出した。言い換えれば、私たちはすでに莫大な量の電力を生産できるのである。ただし、点火用レーザーを駆動するのに消費されるエネルギーをオフセットする、大量のエネルギーを生成する必要もある。

レーザーを超えて、ターゲット側でもかなりの進歩が起きている。最近のナノ構造ターゲットの使用は、より効率的なレーザーエネルギーの吸収と燃料点火を実現している。これが可能になったのは数年前のことだが、ここでも技術革新は急勾配を呈しており、年々大きな進展を遂げている。

このような進捗を目の前にして、商業的な核融合の実現を阻んでいるものは何なのかと不思議に思われるかもしれない。

2つの重大な課題が残存している。第1に、これらの要素を統合し、物理的および技術経済的な要件をすべて満たす統合プロセスを構築する必要がある。第2に、そのためには民間および公的機関からの持続可能なレベルの投資が必要である。概して、核融合の分野は痛ましいほどに資金が不足している。核融合の可能性を考えると、特に他のエネルギー技術との比較において、これは衝撃的である。

クリーンエネルギーへの投資は2020年に5000億ドル(約55兆円)を超える金額に達したものの、核融合研究開発への投資はそのほんの一部にすぎない。すでにこの分野で活躍している優秀な科学者は数え切れないほど存在するし、この分野への参入を希望している熱心な学生も大勢いる。もちろん、優れた政府の研究所もある。総じて、研究者と学生は制御核融合の力と可能性を信じている。私たちは、このビジョンを実現するために、彼らの仕事に対する財政的支援を確保すべきであろう。

私たちが今必要としているのは、目の前の機会の有効性を十分に発揮させる公共および民間投資の拡大である。このような投資にはより長い時間軸が存在するかもしれないが、最終的なインパクトは平行していない。今後10年間のうちに正味エネルギーの増加が手の届くところまでくると筆者は考えている。初期のプロトタイプに基づいた商用化は、非常に短期間で行われるだろう。

しかし、そうしたタイムラインは、資金および資源の利用可能性に大きく依存している。風力、太陽光などの代替エネルギー源にかなりの投資が行われているが、核融合を世界のエネルギー方程式の中に位置づけなければならない。これは、臨界的なブレークスルーの瞬間に向かう中で、特に顕著な真実である。

レーザー駆動の核融合が完成され商業化されることで、核融合が既存の理想的でないエネルギー源の多くに取って代わり、最適なエネルギー源となるポテンシャルが生まれる。核融合が正しく行われれば、クリーンで安全かつ安価なエネルギーが均等に供給されるのである。核融合発電所が最終的には、現在なお支配的な従来型発電所や関連する大規模エネルギーインフラのほとんどに置き換わると筆者は確信している。石炭やガスは不要となるであろう。

高収率と低コストをもたらす核融合プロセスの継続的な最適化により、現在の価格をはるかに下回るエネルギー生産が約束される。極限的には、これは無限のエネルギー源に相当する。無限のエネルギーが存在するなら、無限の可能性をも手に入れることができる。これで何が実現するだろうか?過去150年にわたって大気中に放出してきた二酸化炭素を取り除くことで、気候変動が逆転することは確かであると筆者は予見している。

核融合技術によって強化された未来では、水を脱塩するためにエネルギーを使うこともでき、乾燥地帯や砂漠地帯に多大なインパクトをもたらす無制限な水資源を作り出すことができる。総合的に見て、核融合は、破壊的で汚染されたエネルギー源や関連インフラに依存することなく、持続可能でクリーンな社会を維持し、より良い社会を可能にするものである。

SLAC国立加速器研究所、ローレンス・リバモア国立研究所および国立点火施設での長年にわたる献身的な研究を通じて、筆者は、最初の慣性閉じ込め核融合実験に立ち合い、その統制を担うという光栄に浴した。すばらしいものの種が植えられ、根付いていくのを目にした。人類のエンパワーメントと進歩に向けてレーザー技術の成果が収穫されることに、かつてないほどの興奮を覚えている。

同僚の科学者や学生たちが、核融合をタンジビリティの領域からリアリティの領域へと移行させることに取り組んでいるが、これにはある程度の信頼と支援が求められてくる。世界的な舞台において大いに必要とされ、より歓迎されるエネルギー代替品を提供することに対して、今日の小規模な投資は多大なインパクトを及ぼしかねない。

筆者は楽観主義と科学の側に賭けている。そして他の人々もそうする勇気を持ってくれることを願っている。

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画像クレジット:MickeyCZ / Getty Images

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(文:Siegfried Glenzer、翻訳:Dragonfly)

【コラム】気候変動を解決するのは米国のイノベーターであり規制当局ではない

Joe Biden(ジョー・バイデン)大統領は米国の温室効果ガス排出を2030年までに半分に削減することを誓約した。大統領は相次ぐ新たな予算と政府事業計画によってこの野心的目標を達成しようとしている。

しかし、炭素排出削減で我々が最も期待しているのは新たな財政支出ではない。それはテクノロジーの大転換であり、実現できるのは民間セクターだけだ。

実際、政府は排出削減テクノロジーが市場に出ることを妨げる規制を設けることで、気候変動の進展を遅らせている。もし我々の指導者たちが本当にこの惑星を救いたければ、実際にそれを実行できる起業家たちの邪魔にならないようにする必要がある。

政府に期待するのは、炭素汚染を削減する可能性のあるテクノロジーを支援することだ。そもそもバイデン大統領は自身の気候変動政策の中で、米国の技術革新を促進することを約束している。

残念ながら、最も有望なグリーンテックのブレースクルーの数々は、誤った、あるいは時代遅れの政策によって、厳しい逆風に曝されている。

そんなテクノロジーの1つで、イノベーターと規制の関係を描いた新しいドキュメンタリー「They Say It Can’t Be Done(みんな出来ないと言った)」で紹介されているのが、人工樹木であり、アリゾナ州立大学の物理学者・エンジニアのKlaus Lackner(クラウス・ラクナー)氏が開発した。その人造の木に含まれる特別なプラスチック樹脂は、二酸化炭素を吸収し、水に浸されると排出する。天然の木と比べて大気から二酸化炭素を取り込む効果は1000倍以上だ。捕獲された二酸化炭素は回収されて燃料に変換される。

ラクナー氏のデザインは、1台で1日当たり1トンの二酸化炭素を除去できる規模に拡大できる。主な障害は炭素捕獲テクノロジーを巡る明確な規制の欠如であり、特に捕獲した炭素の輸送と貯蔵が問題だ。

統一された枠組みができるまで、このテクノロジーを市場に出すためのプロセスはありえないほど複雑で、かつリスクをともなう

あるいは、大規模な畜産農業の必要性を低下させるテクノロジーを考えてみよう。数十億の鶏や豚や畜牛を育てるためには膨大な水と餌と土地が必要だ。その結果の炭素排出量は膨大で、年間約7.1ギガトンの温室効果ガスを生み出す。

ここでも新たなテクノロジーが排出量削減にひと役買う。研究者らは細胞培養肉をつくっている。飼育場ではなく実験室で生まれた鶏肉、豚肉、牛肉だ。代替タンパク質は安全で健康的で、従来の飼育食肉よりも炭素排出が少ない。

代替肉をつくっているスタートアップであるEat Just(イート・ジャスト)は、最近シンガポールで細胞培養鶏肉を販売するための認可を取得した。しかし、今も米国では規制当局の青信号を待っている。同社のファウンダーによると、米国の承認を得るまでには1年あるいはそれ以上かかるという。

関連記事:Eat Justが世界初の認証を取得しシンガポールで培養肉の販売を開始

代替肉生産のように大きな資本を必要とする業界では、このゆっくりとした承認プロセスによって、スタートアップが開業し、製品を市場に出すことが不可能になりかねない。

このようなハイテクソリューションこそ、気候変動の脅威から地球を守るために必要だ。果たして、代替肉が将来の持続可能食料なのか、それとも大気中の二酸化炭素を固定する最高のソリューションが人工樹木なのかはわからないが、参加しやすく公正な戦いの場は、最高のイノベーションの繁栄を可能にするはずだ。

気候変動に関することは政府だけの仕事だと信じている米国人があまりにも多い。事実は、持続可能なテクノロジーの大規模な導入の主要な障壁は、政府の介入が無いことではなく、過剰な、あるいは少なくとも誤った介入だ。

国の炭素排出量削減の約束を遂行するためには、それを実現する可能性のあるテクノロジーの開発と展開を、政府がいかに妨害しているかを、大統領とチームは認識する必要がある。

編集部注:本稿の執筆者Quill Robinson(キル・ロビンソン)氏は環境保護団体、American Conservation Coalitionの政府業務担当副社長。

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画像クレジット:simpson33 / Getty Images

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(文:Quill Robinson、翻訳:Nob Takahashi / facebook

産業廃棄物を回収する収集車の配車計画を自動作成するSaaS「配車頭」を手がけるファンファーレが1.5億円調達

産業廃棄物を回収する収集車の配車計画を自動作成するSaaS「配車頭」を手がけるファンファーレが1.5億円調達

廃棄物業界の省力化・効率化に取り組むファンファーレは9月21日、総額1億5000万円の資金調達を発表した。引受先はALL STAR SAAS FUND(シンガポール)、Coral Capital。あわせて、Treasure Data(トレジャーデータ)共同創業者であり、同社取締役を務める芳川裕誠氏(前CEO・現会長)と太田一樹氏(前CTO・現CEO)がファンファーレのアドバイザーに就任したと明らかにした。

調達した資金は、産業廃棄物業界独自の機能や要件に応えるための、開発組織の拡充やカスタマーサクセス体制の構築・強化にあてる予定。

2019年6月設立のファンファーレは、産業廃棄物業界の省力化を目的に、2020年9月よりAIを使って産業廃棄物の回収のための配車計画を自動で作成するSaaS「配車頭」(ハイシャガシラ)を提供している。

配車頭は、AIが廃棄物の収集運搬のための配車計画の作成することで、既存の乗務員でより多くの配車を実現し、複雑で手間だった配車計画作成に必要な作業時間を大幅に短縮するという。

産業廃棄物を回収する収集車の配車計画を自動作成するSaaS「配車頭」を手がけるファンファーレが1.5億円調達

産業廃棄物を回収する収集車の配車計画を自動作成するSaaS「配車頭」を手がけるファンファーレが1.5億円調達

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調達した資金は、産業廃棄物業界独自の機能や要件に応えるための、開発組織の拡充やカスタマーサクセス体制の構築・強化にあてる予定。

2019年6月設立のファンファーレは、産業廃棄物業界の省力化を目的に、2020年9月よりAIを使って産業廃棄物の回収のための配車計画を自動で作成するSaaS「配車頭」(ハイシャガシラ)を提供している。

配車頭は、AIが廃棄物の収集運搬のための配車計画の作成することで、既存の乗務員でより多くの配車を実現し、複雑で手間だった配車計画作成に必要な作業時間を大幅に短縮するという。

Salesforceがバリューチェーン全体での温室効果ガス実質ゼロを達成

Salesforce(セールスフォース)はこれまで頻繁に、責任ある資本主義を説き、勧めてきた。そして同社は米国時間9月21日、年次開催の顧客向けイベントDreamforceでグローバル気候変動に対する取り組みでの顕著な成果を発表した。100%再生可能エネルギーで全バリューチェーンでのネットゼロ(温室効果ガス実質ゼロ)エネルギー使用を成し遂げ、それが可能でないときはカーボン相殺を購入している、と同社は述べた。

と同時に、同社は組織の気候変動の取り組みを管理するために組織に販売しているプロダクトSustainability Cloudのアップデートも発表した。このプロダクトでは組織は責任を果たしながらも資本主義者でいられる。米国時間9月20日のDreamforce Pressイベントに登壇した同社の最高影響責任者で企業関係担当EVPであるSuzanne DiBianca(スザンヌ・ディビアンカ)氏は、ポジティブなクライメートアクションを取る大企業の例となっていることを誇りに思っていると話す。

「今日ネットゼロ企業であるという当社のクライメートアクションの約束についてとても興奮しています。これは2030年でも2040年でもなく、未来のことでもありません。取り組みを加速させなければならないことは承知していて、スコープ1、2、3の全バリューチェーンを含め、当社は現在ネットゼロです。これを達成した企業は極めて少数です」とディビアンカ氏は述べた。

持続可能性に関する多くの専門用語があり、TechCrunchはより深く理解するためにSustainability CloudのGMであるAri Alexander(アリ・アレクサンダー)氏に話を聞いた。持続可能性のコミュニティは、スコープ1、スコープ2、スコープ3として知られる3つの主要エリアでの企業のカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)を測定する、とアレクサンダー氏は説明した。「スコープ1とスコープ2はあなたが所有するもの、動かすもの、コントロールするもの、そして事業を展開するためにどのエネルギーを調達するかです」と同氏は述べた。

スコープ3は業界用語で「バリューチェーンの上流と下流」と言及され、あなたの会社が関わるものすべてだ。「企業が責任を負っているエミッションの圧倒的大部分は実際には企業の直接的な業務のものではなく、商品やサービスを調達する上流のものです。あるいは他の産業ではそのプロダクトや寿命を迎えた製品を使用する下流のものです」と説明した。あなたが新しいスマホを入手するときに下取りに出すスマホに起こることが、下流の例として挙げられる。

なので、Salesforceがバリューチェーンの上流と下流もネットゼロだというとき、そこには同社がコントロールするものすべて、そして同社が事業を展開する上で関わる全企業が含まれる。Salesforceのコントロール外のところで多くの変数があるため、パートナーやベンダーが同社が定める基準を遵守していることを確認できなければ「高品質なカーボンオフセット」と呼ぶものを購入する、とアレクサンダー氏は話す。

「また、すぐに対応できないところでも、完全にネットゼロでいられるよう、その不足分を埋め合わせるために当社は高品質なカーボンオフセットを購入します。その一方で、当社はサプライチェーンにわたって絶対的なゼロへと削減するという真に重要な取り組みを今後も続けます」と述べた。

加えて同社は他企業に販売するために開発した商業ツールSustainability Cloudのアップデートを発表した。これはSalesforceが自社で使っているのと同じツールとテクノロジーだ。

「持続可能性は、あるといいものから、実際に事業変革そのものの核心へと変わりつつあります。我々が生きているこの時代の趨勢の1つであり、毎年指数関数的に成長しています。そしてそれが意味するものは、企業は気候危機に対応するためにかなりのリソースを動かしており、持続可能性を事業運営の中心に据えつつあるということです」とアレクサンダー氏は述べた。

同時に、同社はより持続可能な組織になるためのSalesforce Climate Action Planという独自の計画に基づく取り組みの詳細も公開した。この計画はオンラインで無料で閲覧できる。

同社はまた、植林の目標を2021年3000万本に増やす。植林の取り組みには他の企業も参加しており、10年で1億本を植林して育成・保全することを目標に掲げ、早く達成できるよう強力に推進している。

Dreamforceプレスイベントに登場したSalesforceの社長兼COOのBret Taylor(ブレット・テイラー)氏は、気候危機はあらゆる人に影響を及ぼしていて、Salesforceが他の組織のお手本になるよう取り組みつつ、自社の行いで意義ある影響を及ぼすことができると確信している、と述べた。

「我々は事業が変化のための最善のプラットフォームであると考えていることを認識するために、またあらゆる組織が信頼される企業になり、気候変動のような危機を解決するよう、刺激を与えるビジョンを描くためにDreamforceにいます」とテイラー氏は話した。

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Nariko Mizoguchi

バイデン大統領が掲げる2050年太陽光発電の目標を達成するために米国が必要な4つのこと

米国エネルギー省(DOE)が発表した太陽エネルギーの未来に関する報告書には、今後30年間における明るい未来像が描かれており、30年後には国のエネルギーの半分近くが太陽でまかなわれるようになるという。ただしそれを実現するためには、太陽光発電の性能向上、エネルギー貯蔵量の増加、ソフトコストの低減、そして約100万人規模の労働力の確保という4つの分野における大きなハードルを乗り越えなければならない。

この野心的な目標を達成するためには何が必要なのか、同報告書による考えをご紹介したいと思う。

太陽光発電の向上

DOEが期待するような導入量を達成するためには、太陽電池自体のコストと効率性の両方を改善していく必要がある。2020年には過去最高の15ギガワット分の太陽電池が設置されているが、2025年までにその2倍、2030年までにはさらに2倍の設置量が必要となる。

もし太陽光発電の効率が上がらなければ、すでに野心的な数字をさらに上げる必要がある。また、現在の価格のままではコストが高すぎてその数量を達成することは不可能である。

太陽光発電は確実に進歩を遂げてきたものの、まだまだ今後の進展が必要だ(画像クレジット:米国エネルギー省)

幸いにもすでに効率は向上しているし、コストも下がっている。しかしこれは当然、ただ自然に起きたことではない。世界中の企業や研究者たちが新しい製造プロセスや新素材などの改良に何百万ドル(何億円)も費やしてきたのである。それぞれが少しずつ進化を遂げ、時間をかけて実績が積み上げられてきた。このような太陽電池に関する基礎研究や科学および手法は、これからも過去20年間と同様のペースで、あるいはそれ以上のスピードで進歩し続けなければならないのだ。

DOEは、より特殊なPVをより安価にしたり、バンドギャップによる損失を最小限に抑えるためにセルを積層したりするなどの研究が重要であると指摘している。また、柔軟性のあるタイル状や板状の基板や、作物や建物の内部に光を通す半透明の設備も考えられるだろう。こういった計画全てを通して、2030年までに全体のコストを現在の1ワット平均1.30ドル(約140円)から、0.70ドル(約77円)とほぼ半減させることを目指している。

このレポートでは太陽集光器が取り上げられているが、多くの企業が産業プロセスの代替として太陽集光器を検討し始めている。大規模なグリッドをサポートするために使用されることはないだろうが、多くの化石燃料ベースのプロセスを置き換えることになるだろう。

より多くのエネルギー貯蔵

太陽からエネルギーを得ていると、夜間は何らかの形での蓄電に頼らざるを得ない。当初は原子力や石炭が使われていたが、最近では昼間に集めた余剰電力を蓄えるタイプのものも増えている。ピーク時の電力を自然エネルギーでまかなうことで、都市は安心して炭素系エネルギーからの脱却を図れるようになる。

蓄電というと電池のイメージがある。確かに電池はあるが、蓄えなければならないエネルギーの大きさを考えると、リチウムイオン電池のようなものは主な蓄電手段としては使えない。しかし、余ったエネルギーは水素燃料電池のようにエネルギーを大量に消費する再生可能な燃料の生産に回すことが可能だ。そしてこの燃料が、太陽光が需要を満たせないときに発電するために使用されるというわけだ。

この図では、通常の需要(紫)、太陽光発電による需要(オレンジ)、蓄電による負荷軽減(混合色)を示している(画像クレジット:米国エネルギー省)

これは数ある計画の中のほんの一部である。報告書には「熱的、化学的、機械的な貯蔵技術は、揚水式熱貯蔵、液体空気エネルギー貯蔵、新しい重力ベースの技術、地中の水素貯蔵など、さまざまな段階で開発が進められている」と記されている。

この国が必要とするさまざまなレベルのエネルギーの冗長性と貯蔵期間をもたらすために、新旧のあらゆるテクノロジーが活用されていくことは間違いない。これらのテクノロジーは、太陽光やその他の再生可能エネルギーがより多くの需要に対応できるようにするため、大いに役立っていくことだろう。

ソフトコストの削減

太陽電池の導入率を2倍、3倍にしようとすれば、太陽電池自体のコストだけでなく、アセスメント、会計、労働、そして当然実際の作業を行う企業の利益など、すべてのエンドツーエンドのプロセスにかかるコストを下げなければならない。

ハードウェア以外のコストを下げるというのは、すでに多くのスタートアップ企業の目標となっている。たとえばAurora Solar(オーロラ・ソーラー)はこの兆候を見逃すことなく、ソーラー設備の計画、視覚化、販売をオンラインでできるだけ簡単に行えるようにしている。

おそらく現在のソーラールーフのすべて込みの価格は、ハードウェアコストの2倍以上になるだろう。これには資金調達、規制、市場など、いくつかの要因があり、それぞれに本稿では説明しきれないほどの複雑な事情がある。ただ、これらの分野で時間やコストを効率化することで、太陽光発電の設置費用を1%でも安くすることができれば、その1%を巨額の金額に変えるだけのボリュームが存在すると言えるだろう。PVの改良に多くの科学者の努力が必要であるように、これを実現するためには多くの組織の努力が必要となる。

100万人規模の労働力

そして何より、これらの作業を実際に行う人がいなければどうしようもない。現在アメリカでソーラー産業に従事していると推定される25万人の何倍にもあたる、大量の労働力が必要となる。

画像クレジット:Will Lester/Inland Valley Daily Bulletin/ Getty Images

この分野での仕事は、建設経験のある熟練工から、送電網を管理してきたエネルギーの専門家、政府の必然的なトップダウンの性質と商業を結びつける官民パートナーシップの専門家まで多岐にわたる。50万から100万の雇用が追加されることで、多くの新企業やサブ業界が形成されることは間違いないが、これまでの一般的な内訳は、設置やプロジェクト開発が約65%、販売や製造が約25%、残りがその他さまざまな役割を担っている。

しかし、現在老朽化しつつある石油や石炭のインフラにしがみついているエネルギー関連企業は、何万人もの従業員を適切に対処していく責任があり、再生可能エネルギー分野がそのための完璧な移行スペースであるということは注目に値する事実である。本報告書では「移行期間中、一部の化石燃料企業の財務状況は悪化する可能性がある」と記されているが、これは控えめすぎる表現である。著者らは、トレーニング、転勤のほか、年金などの既存の経済的利益の保証をカバーする移行プログラムに資金を提供することを強く提案している。

太陽電池業界は他のいくつかの業界と同様、圧倒的に白人と男性が多い業界であるということが同報告書で指摘されている。何百万人もの雇用を少しでも公平にするためには、その面においても努力する価値があるのではないだろうか。

調査内容の全文はこちらからご覧いただける

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

循環経済を重視してCO2排出量の削減を目指すBMW Neue Klasseのラインナップ

BMW Groupは、米国時間9月2日、走行車両の全世界の二酸化炭素排出量を2030年までに、2019年レベルから50%、車両の全ライフサイクルの二酸化炭素排出量を2019年レベルから40%削減するという目標に向けて尽力する意向を発表した。これらの目標は、持続可能性の高い車両ライフサイクルを達成する循環経済の原則を重視する計画も含め、同社のNeue Klasse(新しいクラス)と呼ばれる新ラインナップ(2025年までに発売予定)で明らかになる。

3月に発表されたBMWの「新しいクラス」と呼ばれる計画は、同社が1962年から1977年までに生産したセダンとクーペのラインナップ、つまりBMWのスポーツカーメーカーとしての地位を確固たるものにしたラインナップを根本的に見直すものだ。同社によると、この新しいラインナップの目玉は「一新されたITおよびソフトウェアアーキテクチャ、新世代の高性能電気ドライブトレインとバッテリー、車両の全ライフサイクルに渡って持続可能性を達成するまったく新しいアプローチ」だという。

「Neue Klasseは、CO2削減の取り組み姿勢を一段と明確にし、世界の平均気温上昇を1.5度に抑える目標を達成するための明確な進路に沿って進むという当社の決意を表明するものです」とBMW AGの取締役会長 Oliver Zipse(オリバー・ジプス)氏は今回の発表で述べた。「CO2削減の取り組みは法人の活動を判断する大きな要因となっています。地球温暖化対策では、自動車メーカー各社の自社製車両の全ライフサイクルにおけるCO2排出ガスの削減量が決め手となります。当社がCO2排出量の大幅な削減について透明性が高くかつ野心的な目標を設定している理由もそこにあります。実際の削減量はScience Based Targets(科学的根拠に基づく目標)イニシアチブによって評価され、効果的で測定可能な貢献度として示されます」。

BMWによると、同グループのCO2総排出量の70%は、車両の利用段階で発生したものだという。これは、BMWの販売車両の大半が未だにガソリン車であるという事実からすると納得がいく。2021年上半期のBMWの総販売台数に占める電気自動車またはプラグインハイブリッド車の割合は11.44%であった(2021年上半期収益報告書による)。同社は、2021年末までに、ハイブリッド車を含め100万台のプラグイン(コンセント充電型)車両を販売するという目標を表明している。第2四半期終了時点で、約85万台を売り上げているが、車両利用段階でのCO2排出量を半分にするという目標を達成するには、CO2排出量が低いかゼロの車両の販売量を大幅に増やす必要がある。同社にはすでにi3コンパクトEVシリーズを販売しており、2021年後半には、i4セダンとiX SUVという2つのロングレンジ(長航続距離)モデルが発売され、2022年にはさらに別のモデルも投入される予定だ。GMやボルボと違い、BMWはガソリン車を廃止する計画をまだ発表しておらず、最初から電気自動車として設計されたラインナップの販売も開始していない。

今回の発表は、BMWが、Volkswagen(フォルクスワーゲン)、Audi(アウディ)、Porsche(ポルシェ)など、ドイツの他の自動車メーカーとともに、1990以来、排出ガスカルテルに関与していたことを認めた2カ月後に行われた。これらのメーカーは、EUの排出ガス規制で法的に必要とされる基準を超えて有害なガス排出量を削減できるテクノロジーを持ちながら、共謀してそれを隠ぺいしていた。EUは4億4200万ドル(約486億円)の制裁金を課したが、BMWの第2四半期の収益が60億ドル(約6599億円)近くになることを考えると、軽いお仕置き程度に過ぎない。

関連記事:EUがBMWとVWに約1110億円の制裁金、90年代からの排ガスカルテルで

また、2021年8月に発表されたEUの「Fit for 55」エネルギーおよび気候パッケージでは、世界全体のCO2ガス排出量の目標削減量が、2030年までに40%から55%に上方修正された。これは、自動車メーカーが電気自動車への移行ペースを早める必要があることを意味し、BMWもその点は認識している。欧州委員会では他にも、CO2ガス排出量を2030年までに60%削減し、2035年までには100%カットするという提案事項も検討されているという。これは、その頃までには、ガソリン車を販売することがほぼ不可能になることを意味する。

BMWによるとNeue Klasseによって、電気自動車が市場に出る勢いがさらに加速されるという。同社は、今後10年で、完全電気自動車1000万台を販売することを目標にしている。具体的には、 BMW Group全体の販売台数の少なくとも半分を完全電気自動車にし、Miniブランドは2030年以降、完全電気自動車のみを販売することになる。BMWは、循環経済重視の一環として、Neue Klasse計画による再生材料の利用率向上と、再生材料市場を確立するためのより良い枠組みの促進も目指している。同社によると、再生材料の利用率を現在の30%から50%に高めることが目標だというが、具体的な時期までは明言していない。

BMWによると、例えばiXのバッテリー再生ニッケルの使用率はすでに50%に達しており、バッテリーの筐体での再生アルミニウムの使用率も最大30%になるという。目標はこれらの数字を上げていくことだという。また、BMWは、BASFおよびALBAグループとの提携プロジェクトで自動車の再生プラスチックの使用量を試験的に増やす試みも行っている。

BMWが称する総合リサイクリングシステムの一環として「ALBA Groupは BMW Group製の寿命末期車両を解析して、車両間でのプラスチックの再利用が可能かどうかを確認している」という。「第2段階として、BASFは分類前の廃棄物をケミカルリサイクル処理して熱分解油を取得できないかどうか調べています。こうして得られた熱分解油はプラスチック製の新製品に利用できます。将来的には、例えばドアの内張りパネルやその他の部品を廃棄車の計器パネルを利用して製造できる可能性があります」。

リサイクリングプロセスを簡素化するため、BMWは、車両の初期段階設計の考え方も取り入れている。材料は、製品寿命が終わったときに容易に分解 / 再利用できるように組み立てる必要がある。BMWでは、再利用可能な材料に戻すことができるように車内インテリアを単一の素材で製造することが多くなっているという。

「例えば車内の配線システムは、車両内のケーブルハーネスで鉄と銅を混在させないようにして、容易に取り外しできるようにする必要があります」と同社は述べている。「鉄と銅が混在していると、再生鉄での鉄の必須特性が失われるため、自動車業界の高い安全性要件を満たすことができなくなるからです」。

また、循環経済では、高品質の車両を使用する必要がある。そうすることで、パーツを容易にリサイクルまたは修理できるため、結果として全材料数が削減されるからだ。

今回の発表で、BMWは車両のライフサイクルについて透明性を高めることを約束している。同社は、他のほとんどの大手自動車メーカーと同様、ライフ・サイクル・アセスメント(生産から回収再利用までの過程で環境に対する影響度を評価する手法)を公開しているが、業界の標準があるわけではない。このため、異種の車両を比較することが難しい場合がある。車両の全ライフサイクルを把握することは、CO2排出量の削減目標を達成するのにますます重要になっている。バッテリーと車両を製造するために必要なすべての材料を取得するためにサプライチェーンおよび製造段階で発生する排出ガスについての調査結果がようやく明らかになってきているが、この調査により、EV化の動きがライフサイクル全体のCO2排出量を却って増やす可能性があることが明らかになるかもしれない。

「内包二酸化炭素の数値化は大変難しく、特にEVでは非常に複雑で不確実です」とManhattan InstituteのシニアフェローMark Mills(マーク・ミルズ)氏は最近のTechCrunchの記事に書いている。「EVは走行中には何も排出しないが、生涯総炭素排出量の約80%は、バッテリーを製造する際のエネルギーおよび自動車を動かすための電力を発電する際のエネルギーから発生している。残りは、車の非燃料部品の製造によるものである。従来型の自動車の場合は、生涯総炭素排出量の約80%が走行中に燃焼した燃料から直接発生する二酸化炭素で、残りは自動車の製造とガソリンの生産にかかる内包二酸化炭素から発生する」。

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画像クレジット:BMW Group

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)

水素ガス用次世代複合材高圧タンクの開発でSPACE WALKERがエア・ウォーターおよびエア・ウォーター北海道と基本合意

水素ガス用次世代複合材高圧タンクの開発でSPACE WALKERがエア・ウォーターおよびエア・ウォーター北海道と基本合意

持続可能な宇宙輸送手段として有翼式スペースプレーンの開発を進めるスペースウォーカーは、9月15日、産業ガス、医療、物流、化学と幅広い分野で水と空気に関わる事業を展開するエア・ウォーターおよびエア・ウォーター北海道と、水素ガス運搬用の次世代型複合材高圧タンク開発のための基本合意締結を発表した。

今回の合意が目指すのは、タイプ4、タイプ5と呼ばれる金属を使わない軽量な高圧水素タンクの技術開発。地上での水素ガスの輸送と水素ステーションなどの供給施設での使用を想定した新しいタンクを開発するのが目的だ。エア・ウォーターは1970年代からロケット開発に携わっており、高圧ガスの製造、運搬、貯蔵に関して豊富な知見を有している。

次世代複合材高圧タンク・タイプ4

次世代複合材高圧タンク・タイプ5

 

水素ガス用次世代複合材高圧タンクの開発でSPACE WALKERがエア・ウォーターおよびエア・ウォーター北海道と基本合意スペースウォーカーとエア・ウォーター、エア・ウォーター北海道とは、2020年9月にスペースウォーカーのスペースプレーン運用(燃料調達、バイオ液化メタンのロケット燃料利用に関する実証、射場の地上設備)に関する基本協定を締結し、北海道大樹町でのスペースプレーン打ち上げを目指しつつ、宇宙開発を通じた地域の発展に貢献するとしている。こうした宇宙技術開発の一方で、脱炭素社会の実現に向けた技術開発にも注力する意味で、今回の合意となった。

それに先立ちスペースウォーカーは、今年7月に次世代複合材高圧タンクの技術を持ち、宇宙開発で協力関係にあったCoMReD(コムリード)を吸収合併し、体制を固めている。金属を使わないタイプ4、タイプ5の容器で「耐久性、長寿命化と軽量化の両立を極限まで追求します」とスペースウォーカーは話しているが、同時にこれは「ロケット開発でもっとも重要となる軽量化の技術のひとつ」であり「宇宙と地球のデュアルユースが可能な次世代の複合材高圧タンク」とのことで、地上と宇宙と両方の展開が期待される。

東京大学と日本気象協会が人工衛星から観測した「重い水蒸気」が天気予報の精度向上に寄与することを実証

東京大学と日本気象協会が人工衛星からのリモートセンシングで観測した「重い水蒸気」が天気予報の精度向上に寄与することを実証

東京大学生産技術研究所芳村研究室(芳村圭教授)は9月14日、日本気象協会と共同で、人工衛星から観測された大気中の水蒸気同位体の比率から気温や風速の予測精度を改善できることを、世界で初めて実証したと発表した。天気予報の精度向上に直接貢献できる可能性がある。

原子には、原子核を構成する陽子と中性子の数によって、軽いものと重いものとがあるのだが、同じ原子番号のもので、軽いの重いのをくるめたのが「同位体」だ。たとえば水素には、原子核に陽子が1つの軽水素、陽子と中性子とが1つずつの重水素、陽子1つと中性子2つの三重水素という3つの安定同位体(放射性のない同位体)がある。また酸素には一般的な質量数16のものに対してと0.2%ほどしか存在しない質量数18という「重い」ものがある。これらの重い同位体で構成される水分子の水蒸気が、「重い水蒸気」ということだ。

重い水蒸気同位体は、気体よりも液体、液体よりも固体に多く含まれる性質があることから、古くから地球上の水の循環の指標に使われてきた。東京大学生産研究所では、重い水蒸気同位体と軽いものとの比率の実測値と、大気大循環(地球規模の大気の循環)モデルを使ったシミュレーションによる推定とを組み合わせること(データ同化)で、気象予測の精度が向上するという理論を2014年に発表していた。

さらに2021年、人工衛星からの水蒸気同位体比の観測情報を得たと仮定して、それを同研究所が開発した全球水同位体大気循環モデル「IsoGSM」によるシミュレーション結果とデータ同化し確認したところ、実測データではないものの、10%以上改善できることがわかった。

そして今回、同研究所は、欧州の人工衛星MetOp(Meteorological Operational Satellite Program of Europe)に搭載された分光センサーIASI(赤外線大気探測干渉計)の実測データを入手しデータ同化を行った。すると、実際に気象に関連する数値の解析精度が向上していることが実証された。4月1日から4月30日までのIASIのデータを使い、データ同化した場合としなかった場合の予測を比較したところ、結果はデータ同化したものが、していないものの成績を上回った。

今後は、観測データを増やし、モデルの性能を高め、「どのような状況でどのような効果が得られるのか」を詳細に調べてゆくという。そうすることで、例えば、台風や線状降水帯など、極端現象の予測性能の向上に繋がる可能性もあると考えているとしている。

持続可能な低炭素ジェット燃料開発のAlder Fuelsに航空大手UnitedとHoneywellが出資

航空産業は脱炭素化が難しいことで悪名を馳せている。これは部分的には航空機が石油ベースの燃料を使って飛んでいるからだ。

Alder Fuels(アルダーフューエルズ)はそうした状況を変えたいと思っている。Bryan Sherbacow(ブライアン・シャーバコウ)氏率いる新興のクリーンテック企業である同社は、既存の航空機やエンジンに手を加えることなく石油燃料と100%互換性のある燃料として使うことができる低炭素のジェット燃料を開発中だ。現在市場で入手可能な持続可能航空燃料(SAF)はまだ従来の燃料との50対50の割合でブレンドする必要があるため、同社の取り組みは注目に値するものだ。

同社のテクノロジーは航空産業の興味をかき立ててきた。Alder Fuelsは現地時間9月9日、航空大手United(ユナイテッド)とHoneywell(ハネウェル)から数百万ドル(数億円)もの出資を受けることで契約を交わした、と明らかにした。またUnitedとは燃料15億ガロンの購入契約も締結した。航空産業におけるSAF契約としては過去最大となる。

Unitedは年40億ガロンの燃料を消費している、と同社の広報担当は語る。つまり、今回の購入契約は同社が1年間に消費する燃料の40%近くに相当することになる。

ただし、Alder Fuelsの燃料がUnitedの航空機を飛ばすようになる前に、さまざまな種類の材料や製品の基準を定める国際組織、ASTM Internationalが定めた規格を満たさなければならない。その後、AlderとHoneywellは2025年までにテクノロジーを商業化する見込みだ。

Alder Fuelsは2021年初めに正式に事業を開始したが、シャーバコウ氏はここ5年ほど同社のテクノロジーを査定してきた、とTechCrunchとの最近のインタビューで述べた。低炭素燃料を支えるテクノロジー、そして特に原材料はスケーラブルで広範に利用できるべき、ということが同氏のこれまでの取り組みで明白になった。

「我々が模索しているのは、こうした炭素を排出する前の油にどのようにアクセスして、既存の精製インフラの中で使えるものに効率的に変換するのか、ということです」とシャーバコウ氏は話した。

その問題を解決するために、同氏は農業廃棄物のような炭素が豊富な木質バイオマスに目を向けた。農業廃棄物は航空燃料を作るのに使うことができる原油に変わる。Alder Fuelsは、バイオマスを液体に変え、既存の製油所に流し込むような方法で扱える、熱分解ベースのテクノロジーを使っている。同社はまずHoneywellが持つ「Ecofining」水素化処理技術を活用する。最終的な目的はすべての精製設備に合う新燃料を作ることだ。

「すでに産業的に集約されているものの、今日まだ経済的価値がなかったりかなり少なかったりする、かなりの量の木質バイオマスがあります」とシャーバコウ氏は説明する。「しかし我々が利用できるカーボンの貯蔵であるため、我々にとっては大きなチャンスです」。林業、農業、そして製紙産業の企業にとっても新たなマーケットを開拓することになる可能性がある。そうした分野の企業はすでに有り余るバイオ廃棄物を生み出している。

Alder Fuelsの研究は米国防兵站局とエネルギー省から支援を受けており、シャーバコウ氏は航空産業の脱炭素化を進める上での官民提携の重要性を強調した。ジョー・バイデン政権にとって気候変動は大きな関心事であり、持続可能な航空燃料に対するインセンティブは議会が現在議論している3兆5000億ドル(約385兆円)支出案に含まれる可能性大だ。

「移行をサポートするのは政府の役目の1つです。企業の行動を変えるためにインセンティブを与える必要があります。そうでもしなければ、企業は破壊的な変化に抵抗するでしょう」と同氏は述べた。

画像クレジット:United

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

再生可能エネルギーを使い、海水から二酸化炭素とセメントの原料を取り出すHeimdalの技術

大気中の二酸化炭素濃度が上昇すると、それに比例して海中の二酸化炭素濃度も上昇し、野生生物に悪影響を与えたり生態系を変化させてしまったりする。再生可能エネルギーを利用して二酸化炭素を大規模に回収し、その過程でコンクリート用の石灰石をはじめとするカーボンネガティブな工業材料を生産しようとしているスタートアップ企業がHeimdalである。同社はアーリーステージの段階でかなりの資金を集めているようだ。

コンクリートと聞いて首を傾げた読者は、次の点を考えてみたら良いだろう。コンクリートの製造は、温室効果ガス排出量全体の8%を占めると言われており、また海水にはコンクリートの原料となる鉱物が豊富に含まれているのだ。おそらく関連業界や分野に身を置いていなければこの関連性に気づくことはないだろう。しかしHeimdalの創業者であるErik Millar(エリック・ミラー)氏とMarcus Lima(マーカス・リマ)氏は、オックスフォード大学でそれぞれの修士課程に在籍していた時からこの関連性を認識していたのである。「気づいてからすぐに実行に移しました」とミラー氏はいう。

気候変動が人類の存続にかかわる脅威であると確信を持つ2人は、世界中で起きているさまざまな影響に対する恒久的な解決策がないことに失望感を感じていた。炭素捕捉は回収してもまた利用されて排出されるという循環型のプロセスになっていることが多いとミラー氏は指摘する。新しい炭素を生産するよりはましなものの、生態系から永久に炭素を取り除く方法は他にないのだろうか。

2人の創業者は、電気と二酸化炭素を多く含む海水だけで、ガスを永久に封じ込めることのできる有用な素材を製造する新しいプロセスを構想した。しかし当然、そんなことが簡単にできるのなら誰もがすでにやっているはずだろう。

画像クレジット:Heimdal

「これを経済的に実現するための炭素市場は、まだ形成されたばかりです」とミラー氏は話す。太陽光発電や風力発電の巨大な設備が、数十年来の電力経済を覆したことでエネルギーコストは大幅に低下している。炭素クレジット(この市場についてはここでは触れないことにするが、これが成功要因であるのには間違いない)と安価な電力市場には新たなビジネスモデルが生まれており、Heimdalもその1つと言えるだろう。

実験室規模(1000ガロンのタンクではなくテラリウム規模)ですでに実証されているHeimdalのプロセスは、簡単にいうと以下のとおりである。まず、海水をアルカリ化してpHを上げ、ガス状の水素、塩素、水酸化物の吸着剤を分離させる。これを別の海水と混ぜると、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムのミネラルが析出し、水中の二酸化炭素の飽和度が下がり、海に戻したときに大気中からより多くの二酸化炭素を吸収できるようになる(小規模なプロトタイプ施設の画像を見せてもらったが、特許申請中のため写真の掲載は拒否された)。

画像クレジット:Heimdal

海水と電気から水素や塩素ガス、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウムなどを生成し、その過程で大量の溶存二酸化炭素を封じ込めるという仕組みである。

1キロトンの海水に対して1トンの二酸化炭素と2トンの炭酸塩が分離されるが、それぞれに産業用の用途がある。MgCO3やNa2CO3はガラス製造などさまざまなものに使われるが、最も大きな影響を与える可能性があるのはCaCO3、つまり石灰石である。

石灰石はセメント製造プロセスの主要構成要素として常に大きな需要がある。しかし、現在の石灰石の供給方法は、大気中の膨大な炭素源となっているのも事実である。世界中の産業界が炭素削減戦略に投資しており、単に金銭的なオフセットが一般的ではあるものの、今後は実際にカーボンネガティブなプロセスが望まれるようになるだろう。

さらにHeimdalは海水淡水化プラントとの連携を見据えている。海水淡水化プラントは、淡水は不足していても海水とエネルギーが豊富にある、例えば米国カリフォルニア州やテキサス州などの沿岸部をはじめ、特に中東・北アフリカ地域のように砂漠と海が接する場所など、世界各地で見られるものである。

海水淡水化では、真水とそれに比例してより塩分を多く含んだ塩水が生成されるが、それを単純に海に戻すと地域の生態系のバランスが崩れてしまうため、一般的には塩水を処理する必要がある。しかし、例えばプラントと海の間にミネラルを集める工程があったとしたらどうだろうか。Heimdalは水1トンあたりのミネラルをさらに得ることができ、淡水化プラントでは塩分を含んだ副産物を効果的に処理することができるという考えである。

元RedditのCEOで、現在はTerraformationのCEOを務め、Heimdalに個人的に投資しているYishan Wong(イーシャン・ウォン)氏は次のように述べている。「Heimdalが海水淡水化の排水を利用してカーボンニュートラルなセメントを生産できるようになれば、2つの問題を同時に解決することになります。カーボンニュートラルなセメントのスケーラブルな供給源を作り、海水淡水化のブライン廃液を経済的に有用な製品に変換するという仕組みを、ともにスケールアップすることができれば、あらゆるレベルで革新的なものになるでしょう」。

Terraformationは太陽光による海水淡水化を推進しており、Heimdalはその方程式にまさにぴったりである。両者は現在、正式なパートナーシップを締結するために取り組んでおり、間もなく発表される予定だ。一方、カーボンネガティブな石灰石は、脱炭素化をはかるセメントメーカーが1グラムも逃すまいと買いあさることだろう。

ウォン氏は、Heimdalのビジネスにおいて、タンクやポンプなどを購入するための初期費用以外の主なコストは、太陽エネルギーにかかる費用だと指摘している。このコストは何年も前から下降傾向にあり、また定期的に巨額の投資が行われているため、今後もコストは下がると考えて良い。また、二酸化炭素を1トン回収したときの利益は、すでに約75%が500〜600ドル(約5万5000〜6万6000円)の収入となっているが、規模と効率が上がればさらに大きくなる可能性がある。

ミラー氏によると、同社の石灰石の価格は政府のインセンティブや補助金を含めると、すでに業界標準と同等の価格になっているという。エネルギーコストが下がり、規模が大きくなれば、この比率はより魅力的なものになっていくだろう。また、同社の製品が天然の石灰石と見分けがつかないというのも魅力の1つである。「コンクリート業者が手を加えなければいけないことは何もありません。採掘業者から炭酸カルシウムを購入するのではなく、当社の合成炭酸カルシウムを購入するだけのことです」と同氏は説明する。

全体的に見れば、これは有望な投資といえそうだ。Heimdalはまだ公に公開されていないが(Y Combinatorの2021年夏のDemo Dayで公開される予定)、640万ドル(約7億円)のシードラウンドを獲得している。参加した投資家は、Liquid2 Ventures、Apollo Projects、Soma Capital、Marc Benioff、Broom Ventures、Metaplanet、Cathexis Ventures、そして前述したウォン氏である。

Heimdalはすでに複数の大手セメントメーカーやガラスメーカーとLOIを締結しており、米国の海水淡水化プラントでパイロット設備を計画している。数十トン規模の試験品をパートナーに提供した後、2023年に商業生産を開始する予定だ。

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画像クレジット:Heimdal

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

重金属廃水をがもみがら・米ぬか・微生物を利用し低環境負荷・低コストで浄化、産総研とJOGMEC開発

産総研がもみがら・米ぬか・微生物による低環境負荷の重金属廃水の浄化方法を開発

産業技術総合研究所(産総研)は、9月9日、鉱山廃水など重金属を含む廃水を、もみがら、米ぬか、微生物を使って安定的に浄化する処理装置の運転管理技術を、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)との共同研究により確立したと発表した。

日本に多く存在する鉱山跡地には、環境に有害な重金属を含む「鉱山廃水」が流れ出ているところがある。そうした場所では、化学薬品で廃水を中和処理する設備が可動しているが、化学薬品の使用は環境に負荷がかかるため、微生物を利用した低コストで低環境負荷の浄水方式(パッシブトリートメント)に注目が集まっているという。

JOGMECでは、農業廃棄物であるもみがらと米ぬかを、微生物の担体(微生物を保持する材料)と栄養源に使い、硫酸還元菌を活性化させて重金属を沈殿除去する装置を研究してきた。だが、装置内でどの微生物が働いているかが未解明であったため、装置の安定的な維持管理が難しかった。そこでJOGMECは産総研と協力し、処理に不可欠な微生物の特定と、装置の運転条件の最適化に取り組み、一部の硫酸還元菌だけが突出して有用であること、そしてその活性を維持することで安定的に廃水処理が行えることを突き止めたというわけだ。

JOGMECの装置は、基本的に2種類の微生物が働いている。ひとつは米ぬかの高分子有機物を、他の微生物の餌となる低分子有機物に分解する分解菌。もうひとつは、その低分子有機物を餌にして、硫酸を硫化物イオンに変換する硫酸還元反応を行う硫酸還元菌だ。硫化物イオンは、重金属と反応して金属硫化物となり、装置内に沈殿する。これを除去することで廃水が浄化される。

今回の研究では、JOGMECの装置を、廃水流量、米ぬかの量、運転準備期間の条件を7通りに設定して200日間運転し、廃水処理能力を比較した。その結果、装置内の硫酸還元菌の種類を制御できれば、長期的な安定運転が可能であることが判明したという。

現在は、今回開発した装置を大規模化した実証実験が行われている。そこで産総研とJOGMECは微生物の解析を行い、米ぬか以外の有機物を使った装置を開発し、鉱山廃水のみならず、産業廃水など、さまざまな条件の廃水への適用を進めるとのことだ。

気候変動で増える水害を抑えるため、ただ成長を良しとする都市部に建築基準で待ったをかけるForerunner

市長は世界一大変な仕事であり、都市を引っ張っていくことは益々困難になっている。世界中の都心部で人口が膨れ上がっているが、その成長が起きる地域は気候変動の制約を受けている。住民に人気の高い海沿い地域も、海面上昇のリスクを負っている。成長のニーズと住民を災害から守る必要性をどう天秤にかけたらよいのだろう。

ほとんどのケースで、針は成長の方向に振りきっている。沿岸都市は大規模な広がりと開発をなすがままにし、より多くの固定資産税と住民を追い求めている。海面は恐ろしいほど上昇しているにもかかわらず。これは大惨事のレシピであり、それでも構わず多くの都市が選んだ献立だ。

Forerunner(フォアランナー)は針を反対側に振れさせようとしている。このプラットフォームは都市計画者や建物管理者が調査、研究を行い、将来の洪水被害の軽減に焦点をあてたより厳しい建築基準や土地利用基準を執行できるようにする。特に焦点の中心にあるのが、国の洪水保険制度の利用が多い米国都市で、Forerunnerは、各都市が同制度の複雑なルールをできるだけだけ遵守するための手助けをする。

画像クレジット:Forerunner

会社はFEMA(連邦緊急事態管理局)などからデータを入手して、各施設に義務づけられている最低床高基準を割り出し、建物がその基準を満たしているかどうかを調べる。さらに、洪水地帯の境界線を追跡し、水位認定証の作成、管理など国の洪水保険書類の処理手続きを支援する。

共同ファウンダーのJT White(JT・ホワイト)氏とSusanna Pho(スザンナ・フォ)氏は長年の友人同士で、MIT Media Lab(メディア・ラボ)で働いたあと、2019年初めにこの氾濫原管理プロダクトを一緒に作り上げた。「多くの自治体が『国の洪水』規則を守っていない問題はいくら強調しても足りません」とフォ氏はいう。「彼らは厳しい条例を元に戻すつもりです【略】多くの日常的な遵守確認が不可能だからです」。

洪水被害にあった沿岸都市は国の洪水保険で保護されるが、そこではしばしば倫理崩壊が起きる。なぜなら被害は補償されるので、そもそも災害を避けようというインセンティブが小さいからだ。連邦政府がこの基準を強化しようとしているのに加え、新しい世代の都市設計家や首長の間では、多くの都市の「建築-破壊-再建築」モデルは気候変動を踏まえてやめるべきだという認識が高まっている。洪水の後には「都市がより高い基準で再構築することを望んでいます」とホワイト氏は語った。「一種の再構築のサイクルや、同じことの繰り返しに私たちは憤慨しています」。

新たなモデルへの移行はもちろん容易ではない。「自治体は多くの難しい決断を迫られます」と彼はいう。しかし「当社のソフトウェアはそれを少しだけ簡単にします」。これまでに会社は早くも手応えを感じており、現在33の自治体がForerunnerを使用している、とファウンダーらは述べている。

顧客はルイジアナ州とニュージャージー州北部に集まっているが、同社最大の顧客はテキサス州ヒューストン市街地の大部分を含むハリス郡だ。郡は国基準の遵守を高めることによって洪水保険料を最大500万ドル(約5億5000万円)節約できる可能性がある、ホワイト氏はいう。「当社サービスの利点の1つは、自治体内の洪水保険契約者全員が来年からすぐに割引を受けられることです」と彼は語る。しかし、いずれFEMAはインセンティブよりも逆インセンティブに焦点を当てるだろう。「FEMAの持つ最強の武器は、自治体から洪水保険制度を取り上げられることです」とホワイト氏は指摘した。

会社は2019年に早期シードラウンドで資金調達し、現在プラットフォームの機能強化と売上を軌道に載せることに集中している。行政テック分野では難しい注文かもしれない。

住宅の増加と成長への要求が高まる中、気候変動は別の要求を都市に突きつける。市長や都市のリーダーたちは、過去のグロース(成長)モデルから、未来のレジリエント(適応)モデルへの転換を益々迫られている。

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画像クレジット:STR/AFP / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Nob Takahashi / facebook