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今年私は6つのエグジットに関わるという幸運に巡り合うことができた。そのプロセスは順調に進むこともあれば、建付けの悪いジェットコースターのような場合もあった。以下に挙げた10のアドバイスは、いずれも私の経験から抽出したものだ。誰かがあなたのスタートアップに買収のオファーを出した場合に役立てて欲しい。
1.買収しようとしている者の動機を理解する
まず理解する必要があるのは、買い手があなたのスタートアップを欲しがっている理由だ。戦略的な製品や技術なのか、ユニークなチームなのか、またはかなりの収益率があるからだろうか?GoogleやFacebookなどの戦略的買収者は、あなたの技術、チーム、時にはそのユーザー牽引力さえも欲しいと考える。未公開株式投資会社(PE)のような財務的関心から買収を行う者は、収益と成長についてより多くのことを気にかける。買い手の動機が、複数の供給者がいる中で、突出して大きな影響力を持つものになりたいというものである可能性も高い。
早い段階で価格について話し合うことも大切だ。経験の少ない創業者が、会社のしっかりとした価値を提示するのはやや難しいかも知れない。しかしこれは、議論の本気度を評価するための重要なステップなのだ。そうでなければ、買収者があまりぱっとしない価格の下で、気の入らない交渉に入ってしまう可能性が高い。より冴えないケースでは、あなたの戦略や製品のロードマップについてもっと知りたいと真剣に考えないかもしれない。
2. 「とりあえず様子見」は禁物。見送るか、完全にコミットするかだ
M&Aプロセスは、創業者が自分の会社に対して行うことのできる、最も影響のある行為だ。もしやり方がまずければ、そのプロセスは最終的に会社にダメージを与える可能性がある。創業者たちには決断を下す前に、以下の3点についてよく考慮するように強くアドバイスしたい:
いまが正しいタイミングなのか?売却を決心することは、未経験の創業者たちにとってはとても厳しい選択だ。多くの場合、会社を売る機会そのものも実行するタスクの1つとなり、楽しめるものになる。連続起業家精神は、多くは見られないものであり、そしてそれは1人の創業者が手に入れることのできるもっとも影響力のある基礎になるだろう。売却に対する反応は理解できる。一晩で自分の銀行口座に何百万ドルものお金が振り込まれる機会は、ほとんどの創業者にとって無いからだ。さらに、配慮しなければならないチームもいる。通常みな住宅ローンを抱えたり、学費を蓄えていたり、その他数えきれない様々な出費の事情があったりする。こうしたニーズが決定の際に考慮されなけれなならない。
それは実際にあなた自身が下した決断なのか?ほとんどの投資家たちは、M&Aのことを、あなたの会社がさらに大きくなる可能性があって、活用される資本を増やす機会として考えている。しかし、VCが確信を失ったところに、まあまあの買収話が来たときや、より大きな競合相手が同じ分野へ参入しようとしているという情報を掴んだときには、あなたに対して売却を迫ってくるかもしれない。もちろん、最良のポジションは、あなた自身の運命をコントロールし、収益性を究極的なBATNA(“best alternative to a negotiated agreement”:交渉の最低ラインを決めることができる、相手から出されたもの以外での最も良い条件)として利用できる立場に立つことだ。
どのくらいの期間会社に留まる必要があるのか?主張の食い違いがあるときには、価格交渉の余地は大きくはないかもしれないが、その他の取引条件は交渉可能だ。最も重要なことの1つは、会社に留まらなければならない期間と、エスクローに積む売却代金の額、もしくはアーンアウト(”earn-out”:買収後の業績の伸びなどに応じて買い手がさらに支払うことを約束する金額)の額である。
3.チームを管理する
買収者からの興味をひいたなら、何はともあれ多くのM&A取引は成立しないということを、即座に関係者全員に周知させること。なぜなら本当に成立しないことが多いからだ。このことは2つの理由から重要だ。
まず経営幹部たちが、個人的な収益の見込みを想像し始めること、そして彼らがビジネスを動かす際にKPIにばかりに目を向けてしまうことだ。そして取引が成立しなかった場合には、上級チームは意気消沈し、やる気を失い、漏れ出る不満の声を聴くようになるかもしれない。こうした雰囲気はすぐにチームに浸透し、企業文化にとって致命的なものとなる可能性がある。あなたの勝利の瞬間と思われていたものが、あっさりとチームの士気を破壊するものに転じてしまうのだ。
これは、一般にM&Aプロセスの中で最も難しい部分だ。取引を実現するためにはエグゼクティブチームが必要だが、人間の心の最も深い場所にも突き当たってしまうのだ。内部の期待を管理することは、外部のプロセスを管理することと同じくらい重要であるという事実を認識しよう。
4.1年は維持できるくらいの十分な現金を持つ
あなたの会社が強みを背景に売却を考えているのなら、バランスシート上の現金不足から、コントロールできない状態に陥らないように、十分な資本を持つようにしよう。私はこれまで、あまりにも多くの企業が、M&Aの議論を始めた後にビジネスの手綱を緩めてしまい、その結果数字が悪化し余裕が無くなって、買い手につけこまれる結果になったケースを沢山見てきた。理想的なシナリオでは、銀行に少なくとも9ヶ月分の現金が必要だ。
5.銀行家を雇う
会社に真剣な興味が注がれたり、会社の売却をしたいと考えたならば、銀行家を雇おう。VCたちは、あなたをいくつかのしっかりした事務所に紹介することができるはずだ。買収交渉は難易度の高い交渉である。銀行家への依頼には費用がかかるが、初心者が陥る高価な間違いを避ける手助けをしてくれる。彼らはまた古典的かつもっともらしい言い方で、あなたが言いにくいことも相手にズバズバと切り込んでくれる。これは買収後の関係にも良い方向に働く。
私から唯一指摘しておきたい落とし穴は、銀行家は既存の作戦に沿って動き、十分に創造的ではない傾向があることだ。それでも、あなたが過去には考えられなかったような買収者とのコミュニケーションを持っている場合には、潜在的買収者の候補を増やすことができる。
6.第2の入札者を見つけよう…そして3番目…そして4番目も
最も難しいアドバイスだが最も価値がある。できるだけ早く第2の入札者を探そう。交渉のイロハだ。手強い競合相手がいなければ、交渉は長引きがちになる。
理想的には、スタートアップを立ち上げながらも、同業他社との対話を続けて来ているのが望ましい。今こそ、連絡先に電話をかけて、取引が進んでいることを知らせよう。そしてもし取引に関わりたいなら急いだほうが良いと言おう。
排他的交渉期間に入るまでは、潜在的な買収者たちと話し続けよう。ゲームの後半に新しいプレイヤーを追加することを恐れないように。あなたはM&Aの裏チャンネルを通して、どれだけ多くの情報が広がっているかに驚くことだろう。仕事にとても役立つライバルにさえ気がついていないかもしれない。
ある買収者との距離が遠かったとしても、もし相手がこちらに予備プランがあることを知っていたならば、重要な条件を交渉する際に貴重な手がかりを提供することができる。評価額は既に決まっているかもしれないが、前払いの額とアーンアウトの額、従業員のロックアップ期間、その他の様々な詳細に、もし本当の代替案を持っているならば、より有利に交渉することができる。もちろん、成長し利益を生み出すビジネスを手にしていること以上に、良い代替案は存在しない!
7. データルームの構築を開始しよう
創業者たちはピッチ資料やスプレッドシートで驚くほど膨大な金額を調達することができるが、自身のスタートアップを高額で売ろうとする段になると、買い手たちは既存のドキュメントを読みたがる。ときにはそれは、エンジニアリングミーティングの議事録に及ぶことさえある。財務記録、将来見通しのモデル、監査記録、ならびにその他のスプレッドシートが精査される。大手の買収者は、人事制度、給与尺度、その他の人事資源の細部に至るまで調べることさえ希望する。交渉が進むにつれて、ほぼすべての詳細を買い手と共有することが期待される。こうした情報のまとめを遅くならないうちに早めに開始しよう。
あるCEOは、精査のピーク時には、自社の従業員よりも多数の人間が買収者側から送り込まれてきていたと語った。自社のCFOと法律顧問に対する十分なケアを心がけて欲しい。この期間中の彼らはほとんど休めていない可能性が高い。
8. ボードメンバー内の情報管理は厳格に。小規模株主に注意
創業者たちは、厳しい状況に置かれアドバイスを求めて飢えているが、交渉に関する情報を部外者に漏らすという誘惑は避けるべきだ。例えば、キャップテーブル(資本構成表)に載った小規模の株主は、あなたと同じインセンティブを持つボードメンバーよりも、報道機関に情報をリークする可能性が高くなる。情報が漏れて、買収者が怖気づいてしまい、台無しになった取引を私たちは知っている。
口は災いのもとだ。
9.もし避けられないのなら、リークを逆に利用する
リークは迷惑なもので、回避することは可能だが、もし本当に起きてしまったならば、それを利用してしまおう。もし報道機関があなたの会社が買収されたと報道したのに、まだ実際には買収されておらず、排他的交渉期間に入っていないなら、他の買収候補者がそれを知るようにしてみよう。もしそれまでに潜在的な入札候補者たちの興味を引くことに、あまり成功していなかったとしたら、 Bloomberg、The Wall Street Journal、あるいはTechCrunchによるレポートは、単純なメールでは引き起こせない関心を集めることができる。
10.突然の通信途絶は覚悟しておく
創業者たちが5億ドルの買収を受け止める方法と、Googleのような巨人がそれを受け止める方法の間には大きな違いがある。創業者にとっては、これは人生を変える瞬間であり、10年にわたる努力の賜(たまもの)であり、そしてチームの努力が証明された日だ。だがGoogleの企業開発担当者にとって、それは単なる火曜日に過ぎない。
この現実が意味することは、ゴールに向けての優先権と数十億ドルの取引を求め激しく殺到する競合たちのために、あなたの会社の買収話が途中で無くなってしまう可能性もあるということだ。創業者たちにとって、それまで生産的に進んでいた話が突然途絶してしまうことは恐ろしいことかもしれないが、そうしたことは想像よりも頻繁に起きている。良い銀行家なら、落ち着いて、あなたよりも良い情勢分析をできるはずだ。それは彼らの仕事であって、あなたの仕事ではない。
M&Aのプロセスに備えるためのアドバイスはいくら述べても終わりはないが、これは創業者として経験する最も質の高い問題の1つであることは覚えていて欲しい。実行に焦点を当てよう。だが多くの起業家が決して味わうことのないマイルストーンに到達することは本当に気分爽快だ!
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(翻訳:sako)