牛の個体管理や橋梁センサーにも―、ソラコムが低消費電力IoTに新技術を採用

3G/LTEの通信サービスのクラウド化を推し進めてきた通信系スタートアップのソラコムが今日、新たにLoRaWAN(ローラワン)対応のゲートウェイとモジュール製品の販売を開始すると発表した。これまで実装が難しかったシーンでのIoT利用が広がりそうだ。

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    ゲートウェイ
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    LoRaデバイス

「ローラワン」といっても聞き慣れない人が大半だろう。それもそのはずで、まだまだ新しい通信規格だからだ。LoRaWANはLPWAN(Low Power WAN:省電力WAN)と呼ばれるジャンルの無線規格の1つだ。広域通信としてはすでにケータイ網があって、ソラコムもSIMカードと対応プラットフォームのSORACOM Airを提供しているわけだが、ここに新たに消費電力が小さいLoRaWANが加わる形だ。

通信規格は到達範囲によって、PAN(Personal:近接)、LAN(Local:近距離)、WAN(Wide area:広域)などと区分される。無線でいえば、それぞれBluetooth、WiFi、LTEが代表的だ。Bluetoothの省電力版であるBLEが「低消費電力のPAN」としてIoT領域で活用されているのはご存じのとおり。スマホなどを母艦としてガジェットやセンサーをBLE(Bluetooth Low Energy)でぶら下げて、上流のインターネットへ中継するというやり方だ。これに対してLoRaWANは「低消費電力のWAN」(LPWAN)という、いま注目の領域の無線通信技術の1つだ。

LoRaWANは近接通信のBluetoothはもとより、WiFiなどと比べても伝送距離が圧倒的に長く、障害物がなければ最大10キロメートル程度まで到達するという。LoRaWANはゲートウェイとなる端末に多数のノードがぶら下がる形となるが、1つゲートウェイを置けば半径数キロという面を一気にカバーできるわけだ。

半径数キロといっても、すでにセルラーネットワークなら日本全国ほとんどカバーしてるじゃないかと思う読者もいるだろう。IoT領域で考えたときのセルラーネットワークとLoRaWANを使う違いは、ノードあたりの単価が安くなることや、バッテリー交換の頻度を低く抑えられる点が挙げられる。たとえば、1日に1度だけ少量のセンサーデータをアップロードする程度の話であれば、3G通信はオーバースペックだ。LoRaWANは低速・低消費電力というのが特徴で、乾電池でも数年は稼働するという。

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もう1つのLoRaWANのメリットは、各事業者や個人がネットワークを「自営」できる点。LoRaWANが使用する920MHz帯は「ISMバンド」と呼ばれる免許不要の周波数帯域で、誰でも電波を飛ばすことができる。3G無線が到達しない場所に自分でゲートウェイを設置することで、例えば山の中の橋梁や、ビルの地下にセンサーを設置するといったことがやりやすくなる。

ソラコムではこれまで、LoRaWANの実証実験導入のためのPoCキットを提供してきたが、今日からゲートウェイを月額3万9800円(端末料金は6万9800円)、Arduinoベースのノードモジュールを1台7980円で提供する。この月額3万9800円にはLoRaゲートウェイのセルラー通信利用料、「SORACOM」プラットフォーム利用料(Soracom Beam/Funnle/Harvest)が含まれているという。つまり、LoRaWANゲートウェイとモジュールを必要数導入すれば、センサーから吸い上げたデータをクラウド上で扱えるというわけだ。以下が、ソラコムが公開したユースケース別の月額通信費の目安だ。

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ゲートウェイを「共有」すれば月額料金は4分の1に

LPWANには他にもたくさん規格がある。ソラコム共同創業者の玉川憲CEOがTechCrunch Japanに語ったところによれば、LoRaWAN以外にも「NB-IoTやSIGFOXにも注目しています」という。「それぞれ一長一短がありますが、LoRaWANは協業してやっていけるところが良い」という。

LoRaWANはゲートウェイ機器を各所に設置していく形になるが、このとき「自営ゲートウェイ」の所有者は、他の開発者にもゲートウェイを共有することができる。いわば相乗りだ。特に試しに使ってみたいという開発者や事業者にとって、すでに導入しているゲートウェイを利用させてもらえるメリットは大きいだろう。そこでソラコムでは今回、自営ネットワークを他者と共有する「共有サービスモデル」を開始する。

soracom_lorwan_private_sharedゲートウェイは出荷状態ではプライベート利用のみ可能な「所有モデル」だが、これを他の人と共有して、設置場所を知らせ合う「SORACOM Space」に参加することができる。ゲートウェイを共有し、設置場所を登録することで、ゲートウェイの初期費用は6万9800円が2万4800円に下がり、3万9800円月額利用料も9800円にまで下がる。共有モデルでは月額利用料が4分の1ほどにまで下がる計算だ。

今でこそ「シェアリングエコノミー」という言葉が流行しているが、インターネットはもともと通信ネットワークも中継サーバーもシェアする形で繋がってきた歴史がある。異なるネットワークを結んだ「インター」なネットワークとして発展したのが「インターネット」。同様にLoRaWANも多くの参加者が自営ネットワークをシェアすることで、特定地域をまるっとカバーしてしまうネットワークが出現する可能性もある。「The Things Network」というLoRaWANプロジェクトは、まさにそうしたアプローチで市街地をカバーしようという試みだ。ソラコムの玉川CEOも以下のようにコメントしている。

「LoRaを使うのは位置情報やセンサー情報を送るだけというようなサービスが多く、ゲートウェイ(の帯域)が一杯になることはまずありません。デメリットがほとんどないので、アーリーアダプターやコミュニティーの方は、かなり高い確率で共有モデルを選択していただけると思っています。これは、どちらかというとインターネットを作っている気分です」

農業スタートアップのファームノートは、これまでにもソラコムのSIMカードを使ったシステムを提供してきたが、すでにLoRaWANの導入を始めているという。帯広の酪農家が管理する牛の1頭1頭にセンサーを付けて疾病や発情を管理する、という実証実験だ。これまでBluetoothを使っていたときには牛舎ごとにゲートウェイが必要だったものが、LoRaWANでは集約できて約2キロメートルの農場をカバーできたという。

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Motorola Moto Zのサードパーティによるモジュール開発はそこそこ盛ん、最新作を紹介しよう

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‘モジュール構造’が売りのMotorola Moto Zはまだ、スマートフォンの世界を変えていないようだが、モジュールのシステムを一般公開して以来、世の中の関心は高まっているようだ。ハッカソンも重要な宣伝役を発揮し、これまではニューヨーク、サンフランシスコ、ブエノスアイレスで開催してきた。来月は中国を予定している。

12月に発表された3つのモジュール入賞作品は、ゲームパッド、美容デバイス、そしてオーディオコンバーターだった。サンフランシスコとブエノスアイレスの最新回では、血糖値を測定するSimple Syrup、赤ちゃんのベッド周辺の気温などをチェックするBaby Careなど、健康関連のモジュールが入選した。

予定にあるMoto Colorは、目の不自由なユーザーのために色を音や振動で伝える。またModCoholicという不吉な名前のモジュールは、血中アルコール度が高い人のためにタクシーを呼ぶ。Solar-Powered Battery Chargerは名前のとおりソーラー充電器で、いちばん商業性がありそうだ。ただし、太陽に照らす時間は10時間だ。

MotorolaはIndiegogoとのパートナーシップを発表して、サードパーティによるモジュールの開発を一層振興しようとしている。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

機械学習のクラウドプラットフォームを提供するグルーヴノーツ、5億円を資金調達

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機械学習やビッグデータ処理のクラウドプラットフォーム「MAGELLAN BLOCKS(マゼランブロックス)」を提供するグルーヴノーツは、福岡市に拠点を持つスタートアップだ。そのグルーヴノーツが、WiLおよび大和企業投資が運営する各ファンドを引受先とした、総額5億円の第三者割当増資を2月中にも実施する。

データがあれば予測システムができるMAGELLAN BLOCKSの機械学習サービス

MAGELLAN BLOCKSは、Google Cloud Platformで提供されているビッグデータ処理や機械学習などの処理を、ブラウザ画面の上でブロックを並べるように配置してつなぎ合わせることで、プログラミング知識なしで扱えるようにしたクラウドプラットフォーム。2016年4月にβリリースが公開され、同年7月には正式版をリリースした。機械学習による販売予測や画像分析、音声認識、テキスト認識など、Google提供のAPIを直感的な操作ですぐに使うことができる。例えば「大量の音声データを翻訳してパターンを分析する」といった場合なら、「音声データの取得」「音声認識」「翻訳」「分析」といった、それぞれの機能のブロックを順番に配置することで、データ処理が可能だ。

 

これまでの機械学習では“使える”予測モデルを手に入れるためには、まずアルゴリズムを選び、学習させるデータの収集・選択を行い、チューニングを経るといった工程が必要だった。1月11日にαリリースされたMAGELLAN BLOCKSの機械学習サービス「Machine Learningボード(MLボード)」では、CSV形式の学習データを用意して項目を設定し、あとは精度が上がるまでの学習時間と回数を設定するだけで予測システムを用意することができる。現状では、与えたデータからパターンを判別する「数値分類」と、気象条件からの販売数予測などに使う「数値回帰」の二つのモデルが用意されており、今後も別のモデルを追加していく予定だ。

「テストケースとして、東京電力パワーグリッドが提供する電力の使用状況データと、気温・日照時間・湿度などの気象データから予測モデルを作成してみたところ、未学習データでもかなり精度の高いものができた」とグルーヴノーツ代表取締役社長の最首英裕氏は言う。「福岡のあるホームセンターで、気象データを利用してカイロの販売予測を行ったケースでも精度がよく、顧客に喜ばれた。MAGELLAN BLOCKSの機械学習なら、企業はアルゴリズムやチューニングを気にする必要はなく、“どういうデータを使うか”だけを考えればよい」(最首氏)

現在、MAGELLAN BLOCKSは10数社が導入済みで、金融、エネルギー、流通、製造、医療業界などからの引き合いが多いという。料金は顧客がMAGELLAN BLOCKS上で運営する処理工程の数に対する月額課金制で、最低月額2万円から利用できる。初期導入から運用までの設定とコンサルティングで約100〜200万円、月額20万円くらいで開始する企業が多いそうだ。

MLボードは需要予測、故障予測、言語解析、画像解析などに利用されており、すでに利用が始まっている損保ジャパン日本興亜の事例では「社内の問い合わせに対して、過去の問い合わせデータを元にAIが回答する」という仕組みに活用されているという。

今回の資金調達の背景には、2016年4月のリリース以降も改善が加えられてきたMAGELLAN BLOCKSが、コンサルタントや営業が顧客企業に張り付かなくても、顧客自身で運用できるような完成形に近づいてきたこともある、と最首氏は話す。「機械学習サービスの利用に求められることも見えてきた。今後はマーケティングを強化して、成長の速度を一気に上げたい。IoTやAIを利用した予測に注目する企業が増えてきている今は、重要なタイミングだと考えている。また、MAGELLAN BLOCKSは日英両言語に対応しており、Google Cloud Platformのほか、Salesforceにも対応していることから、海外でもそのまま利用することができる。海外市場にもアピールしていきたい」(最首氏)

社会の一人一人が課題に取り組みやすいプラットフォームを提供したい

最首氏は1998年にウェブシステム開発のイーシー・ワン(現・ノーチラス・テクノロジーズ)を創業し、2002年にはJASDAQに上場(2009年に上場廃止)。その後、MBOにより分散系システムの開発チームとともに独立し、2012年4月に福岡に拠点を持つゲーム開発会社のクリップエンターテイメントへと合流。社名をグルーヴノーツへ変更し、代表取締役社長に就任した(旧・クリップエンターテイメント代表取締役社長の佐々木久美子氏は、グルーヴノーツ代表取締役会長に就任)。

グルーヴノーツでは当初、クラウド技術を活用してオンラインゲームのバックエンド開発を行っていた。大量アクセス、大量データ処理を扱うノウハウを得た後、「このノウハウをもう一度、企業システムに応用して生かしたい」(最首氏)ということで開発されたのが、2014年12月にβリリースされたクラウドプラットフォーム「MAGELLAN」だった。

MAGELLANは最初はエンジニア向けに提供されたが、最首氏は「こうしたシステムのオーナーシップは、もうエンジニアではなく事業側にあるのではないか」と考えるようになったという。「新時代の事業づくりで、事業側が思いついたことをすぐに反映できないのでは時代に遅れるのではないか。エンジニアでない人でも取り組めるサービスが必要だと思った」(最首氏)

こうして誕生したのが、ノンプログラムで利用できるクラウドプラットフォームのMAGELLAN BLOCKSだ。「従来、企業で機械学習による予測を行いたいという場合には、ベンダーにデータだけ与えて処理を任せ、チューニングにより精度が上がるのを待つしかなかった。それはフラストレーションがたまることで、自分で精度を上げて運用したいというニーズがあった」(最首氏)

MLボードの追加により、機械学習を簡便にスタートできる基盤として完成しつつあるMAGELLAN BLOCKS。最首氏はこれを「総合的な課題解決のプラットフォームにしていきたい」と話す。「日本が抱える問題は、エンジニアが新技術で解消していくものではなく、社会の一人一人が解決していくもの。課題への取り組みやすさが大事だ」(最首氏)

グルーヴノーツが福岡に拠点を置いていることから、最首氏は地方から見る視点も意識している。「九州では製造業、特に半導体や精密機械などで高い技術力を持つのに、周りの成長についていけていない企業が多い。だけど、これは日本全体の地方の産業でそうなのではないか、さらには、世界のマニファクチャリングの現場で共通の課題なのではないかとも考える」と言う最首氏は、「高齢化の進んだ田舎の地域で、クルマでなければ移動ができないからとお年寄りが無理して運転して、事故を起こすようなこともある。そういう場所で自動運転技術の導入を考えた時に、ビッグプレーヤーが世界均一の技術やサービスを提供すればよい、というものではないはずだ。大資本だけが課題解決できるというのでは実態に合わない。地域の実態に合った産業の発展を促せれば、産業全体の成長にもつながると思う」と語る。

「自社の課題を解決するのに、すべてベンダー任せというのはおかしい。せめて機械学習の分野では、自分で運営し、試行錯誤できて、自力で解決できる基盤を提供したい。そうでなければ日本の企業は世界に勝てない」(最首氏)

金属部品用の3Dプリンター「Desktop Metal」がBMWなどから4500万ドルを調達

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金属部品を製造できるデスクトップ型3DプリンターのDesktop Metalは現地時間2月6日、シリーズCで4500万ドルを調達したと発表した。Desktop Metalは、従来の金属加工機械を稼働させるスペースを持たなかったり、資金的なリソースを持たない小規模ビジネスやデザイナーに金属製品を製造する手段を提供している。本調達ラウンドでリード投資家を務めたのはGV(以前のGoogle Ventures)で、他にもBMW iVenturesLowe’sの投資部門なども参加している。今回調達した資金を合わせ、Desktop Metalはこれまでに合計で9700万ドルを調達済みだ。

金属部品を製造する3Dプリンターを利用することで、医療機器やロボット、F1カーや宇宙船などの各種車両のテスト部品を製造することができる。しかし、3D SystemsEOSArcamなどが販売する産業用の3Dプリンターはとても高価なものであり、その値段は何十万ドルにもなる。

創業者兼CEOのRic Fulop氏は、かつてバッテリーを製造するA123 Systemsを創業した人物。彼は資金調達を伝えるプレスリリースのなかで、今回調達した資金によって同社初の3Dプリンターを研究開発フェーズからプロダクション・フェーズへと押し上げることができると語っている。彼自身、Desktop Metalを創業する以前からこの業界にある複数のスタートアップにアドバイザーとして参加したり、出資を行ったりしていた人物でもある。North Bridgeのパートナーだった彼は、当時MarkForged、OnShape、ProtoLabs、SolidWorksなどへの出資を担当していた。

Fulop氏はまだ、Desktop Metalに使われているテクノロジーの詳細を明かしていない。しかし、彼はTechCrunchに金属の加工にはレーザーを使用していないことを教えてくれた。Desktop Metalは同社製品である3Dプリンター、およびそれに使用される合金を販売することで収益をあげる。同社の3Dプリンターを使用すれば、金属製のプロトタイプや部品を製造して、すぐにそれを試してみることが可能だ。エンジニアが道路の上で作った「キャブレター」をその場でクルマに取り付けることなんかもできる。

Fulop氏は、Desktop Metalは様々な業界に急速に普及する可能性をもったプロダクトだと話す。「コンピューターや自動車、医療機器から産業用機械にいたるまで、私たちは何らかの金属部品を使用したモノに囲まれています」と彼は話す。「たとえ今は、3Dプリンターによって製造される部品の割合は全体のほんの一部分でしかないとしても、現在世界中で製造されている金属部品の総額は12兆ドルにもなります」。今回の調達ラウンドに参加したBMWやLowe’sや、前回のラウンドに参加したSaudi AramcoやGEといった戦略的出資者たちは、この点に目をつけたのだ。

マサチューセッツ州バーリントンを拠点とするDesktop Metalの競合企業として、イスラエルのXJetなどが挙げられる。また、デスクトップ型3Dプリンターに利用できる金属を混ぜ込んだプラスチック・フィラメントを開発するVirtual Founderも競合企業の1つだ。

BMW iVenturesのマネージングパートナーであるUwe Higgen氏によれば、Desktop MetalはミュンヘンにあるBMWの施設で、クルマ業界における同製品の利用可能性を探っている最中だという。また彼は、今回調達した資金を利用してDesktop Metalは第1号プロダクトを発売する予定だと話す。加えて、ローコストな金属部品の製造手段は、クルマのデザインや開発の現場に即効性のあるインパクトを与える可能性を秘めていると彼はいう。長期的には、「この種のテクノロジーによって、クルマ業界や他の業界の部品製造の現場に存在した様々な問題が解決されることになるでしょう」とHiggen氏は話している。

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(翻訳:木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

スキー板の上にLEDで情報を表示するスマートスキーRossignol Hero Master、センサー技術はPIQが提供

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そろそろ冬も半ばを過ぎたから、スマートスキーという話題など、どうだろう? プロトタイプを共同で作ったのは、フランスのPIQRossignolだ。両社が目指したのは“世界初のコネクテッド・スキー”(インターネットに接続されたスキー)で、ビンディングの前にあるLEDの配列で情報を表示する。

データはPIQのナノコンピューターRobotが集め、スキーの現在のスピードやターンの角度、切り替えなどをリアルタイムで表示する。このRossignol Hero Masterと名付けられたスキーはまだプロトタイプだが、PIQはこれまでにボクシングやテニス、ゴルフなど各種のスポーツ用のセンサーを作っている。

しかしこれまでの製品と違ってこのスマートスキーでは、スポーツ用具本体にディスプレイがある。ただし、スロープを滑降中のスキーヤーがはたして、それらのデータを見てくれるか、それが問題だ。

でも今のところ表示される情報は、安全性よりもおもしろい分析が中心のようだ。ちょっとしたお楽しみ、といったところか。ミュンヘンで行われるスポーツ業界の見本市、ISPO 2017で初お目見えする予定だ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

国際宇宙ステーション、初の商用エアロックを2019年に設置へ

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国際宇宙ステーションに 初の商用エアロック(気密区画)が設置される。宇宙用設備を作るNanoRacksがBoeingと協同で開発し、2019年を目標に打ち上げ、結合する。この商用エアロックは、CubeSats(小型低価格の人工衛星)を始めとする小型実験機器をISSから発射する際の利用を念頭に設計されている。ISSからの衛星発射は、最近民間宇宙会社の間でよく用いられている方法だ。

NASAはかねてからISSを低軌道商用利用に開放する意志が強かった。現在進行中の宇宙ベースの研究や科学的探究の新たな資金源を開拓するために、民間による継続的運用を増やそうとしている。このエアロックは、宇宙船からの衛星発射および、BoeingやSpaceX等の民間宇宙輸送業者を利用して、ISSに商用実験機器を配送することで活動を支援する。

この開発段階に致るまでにNASAは、NanoRacksが作成したBoeingとの独立パートナーシップ契約によって独自のエアロックを開発するという提案を受け入れた。エアロックを製造するためには、第一段階として昨年末の開発に先立ちNASAとNanoRacksの間で取り決めた一連の手順を踏む必要がある。すべてが計画通りに運べば、現在2019年に予定されているISS補給ミッションでこのエアロックを送り込む。

Boeingはエアロックの圧力接続部分の製造を担当する予定で、装置全体がモジュール化され再利用可能に設計されている。将来ISSが別の民間軌道プラットフォームに置き換えられた場合、NanoRacksは自社のモジュールを新しい宇宙船と結合する。

地球低軌道は、民間企業が営利運用を行う最適な場所になりつつある。エアロックのようなミッションの重要部分で資金を提供し所有することは、この新興市場で早く好位置を確保する有力な手段だ。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

飛行中のドローンを空中で捕まえるポータブルな離着陸装置DARPAのSideArm

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軍用機のような形の固定翼ドローンは、離陸は容易だが着陸が難しい。そこでDARPAは、高速で飛行しているドローンを空中で捕まえるポータブルなドローン捕捉システムSideArmを開発した。

SideArmの基本的なアイデアは、航空母艦の甲板にあるフックシステムと似ている。あれを、上下逆さにしたような装置だ。

SideArmは輸送用コンテナに収まり、2人〜4人で組み立てられる。ドローンは同システムの水平状のレール・カタパルトを使って飛び立ち、着陸するときはレール下部にある捕捉機が、その真下を飛ぶドローンを捕まえる(下図)。

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ドローンの背中に出ているフックがワイヤにかかり、機を減速させると同時にネットの位置まで浮上させる。そして鼻部の突起が機体を正しい姿勢で捉える。

この装置のコンセプトとテストを、このビデオで見ることができる:

DARPAのGraham Drozeskiが、プレスリリースで述べている: “SideArmは航空母艦の機能を真似て、ドローンを安全に加速し減速させる。装置はポータブルで低コスト、どんなミッションにも使用でき、地域の特性などに制約されない。現行機だけでなく、将来の無人機でも使えるだろう”。

このシステムはDARPAと海軍の共同プロジェクトTernの一環で、艦船に高価で不可逆的な改造を加えなくても実現可能な、無人航空機システムを目指している。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

韓国、Note 7発火騒動を受けバッテリー安全基準を強化

SAMSUNG CSC

先月末、Samsungは長期にわたるNote 7の謝罪ツアーの中で国際記者会見を開き、数ヵ月に及ぶ社内および第三者による調査結果、ならびに同社の安全基準の強化について詳細を明らかにした。

一連の自己卑下的行動によって、スマートフォン購入層をなだめる多少の効果は見られたようだが、Samsungの母国である韓国は(最近別件でSamsungと争った)、リチウム・イオン電池関連の規制を強化する方針だ。Samsungの長びく問題に駆りたてられたものであることは間違いない。

今日午前、韓国の産業通商資源部は声明を発表し、この普遍的技術の試験を強化する意向を示した。

「業界には、安全を確実にする努力は技術革新を通じて新製品を開発するのと同じくらい重要である、という認識を共有してほしい」と、Jeong Marn-ki 副長官がReutersに提供した声明で述べた。

計画の進め方について当局は詳細を明らかにしていないが、Samsungについては、自社技術の強化を目指している企業として特に監視を強める予定だ。新しい規約では、欠陥機器の報告義務を厳格化するとともに、リコール基準も強構される見込みだ。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

エレクトロラックスがKickstarterのスター、低温調理デバイスのAnovaを2.5億ドルで買収

John Bedell Photography

Kickstarterのスターとして有名なスマート低温調理(Sous vide)器具のAnovaがスウェーデンの家電大手、Electroluxに2億5000万ドルで買収されることが明らかになった。

この買収でElectroluxグループの一員となるもののAnovaのブランドも組織運営も従来通り。共同ファウンファー、CEOのStephan Svajianが引き続き指揮をとる。

「Electroluxに参加したことで、販売チャンネルを含めて同社の豊富が資源が利用できるようになった。われわれは引き続き一般家庭の調理に革命を起こしていく。ElectroluxはAnovaキッチンの実現に向けてわれわれを支援することを約束している。Anovaキッチンのデバイスは精密にコントロールされ、使い方が簡単で、しかも低価格、しかもインターネットに接続可能だ。われわれは人々がプロ顔負けのクッキングができるようになることを日々助けていく」とSvajianはブログに書いた。

Electroluxのホームケア事業部CEOのAnova買収発表

今日(米国時間2/6)、SvajianはTechCrunchの電話取材に対して「Electroluxはインターネットに接続されたデバイスによるキッチンがスマート・ホームのハブとなることをを目指している。〔Anovaの買収は〕この動きによく適合する。われわれ両社が力を合わせればきわめて強力な資産が生まれるはずだ」と述べた。

Anovaの誕生は 2013年にさかのぼる。翌年にスタートしたKickstarterのキャンペーンは大反響を呼び、180万ドルの資金を調達することに成功した。それ以後Anovaは大忙しだった。去年はBluetooth/WiFi機能が内蔵された第2世代の低温調理ヒーターをリリースした。また今年のCESでは低価格バージョンの開発も発表している。

SvajianはTechCrunchに対し、計画どおりに作業を進めていくつもりだとしながらも、「現時点では将来のプロダクトについて話すことはできない」と付け加えた。

〔日本版〕TechCrunch JapanでもAnovaのスマートフォン接続バージョンについていち早く紹介している。訳者もTechCrunch記事でAnovaを知って購入したが、宣伝どおりの機能で使い方も簡単だった。耐久力も十分あると思う。基本的には投げ込みヒーターなので手持ちの鍋その他の耐熱容器に取り付けることができる。Biggs記者は「〔低温調理デバイスは〕本来なら大手家電メーカーから製品が出ていてもいいはず」と書いていたが結局日本でも有名なエレクトロラックスが買収するという結果となった。これで日本の家電メーカーも遅まきながら低温調理器具の存在に気づいたかもしれない。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

書評―『グーグルに学ぶディープラーニング』

TechCrunch Japanでも機械学習やディープラーニングを含めた人工知能について何度も取り上げている。最近ではGoogleのリアルタイム翻訳や日本発のニューラルネットワークを利用した線画着色システムの記事を掲載している。

そこでこうしたトレンドを横断的に見渡せる入門書があると便利だろうと考えていたが、 最近、日経BPから刊行された『グーグルに学ぶディープラーニング』が役に立ちそうなので紹介してみたい。

本書ではまず人工知能の一部が機械学習、機械学習の一部がディープラーニングという位置づけを説明し、続いてGoogleのデータへの取り組みを中心として実例が紹介される。「入門」篇ではニューラルネットワークを利用したディープラーニングが解説されている。ニューラルネットワークの入力層では画像の各部分の明暗などの物理的情報が得られるだけだが、脳のシナプス構造を模した層を重ねるにしたがって高度な情報が生成され、最後に「この写真はネコだ」というような判断が下される。60ページのイラストはこの関係が直感的にわかりやすい。

後半では企業の導入事例が紹介されている。特に三井住友フィナンシャルグループではディープラーニングをクレジットカード不正の検知に利用して大きな成果を収めているというのが興味ある例だ。オンライン取引の不正検知では数年前からアメリカでディープラーニングを利用した取り組みが注目されているが、日本の大手銀行系組織でもすでに実用化されているようだ。

本書はIT実務者、企業管理職向けの入門書なのでディープラーニングの積極面の紹介が中心となっている。そこからはやや脱線するかもしれないが、「弱いAI」と「強いAI」について補足しておいてもいいかもしれない。「強いAI」というのは「人間の知能そのものを再現する」ことを目標にしたアプローチで、初期のAI研究の主流だったが、実はことごとく失敗している。通産省が主導して鳴り物入りで10年間も開発を続けた日本の第5世代コンピュータは「強いAI」のいい例かもしれない。

その後「汎用知能」を目指す「強いAI」に代わって、「結果を出せればよい」とする「弱いAI」が登場した。1997年にチェスの世界チャンピオンを破ったIBMのDeep Blueに対して「強いAI」から「本当の知能ではない」という批判が出た。このとき、コンピュータ科学者のDrew McDermottはNew York TimesにYes, Computers Can Think (イェス、コンピュータは思考できる)という記事を書いた。この中の「Deep Blueが本当は考えていないというのは飛行機は羽ばたいていないから本当は飛んでいないというのと同じだ」という反論は「弱いAI」の立場を代表する言葉としてあちこちで引用されるようになった。

本書でも詳しく紹介されているが、機械学習が成果を挙げるには、機械の能力の進歩と同時に機械に学習させるための膨大なデータが必要となる。つまりハードウェアの能力とインターネットの普及によるデジタル情報量の爆発が「弱いAI」を可能にしたといえるだろう。あるマシンにネコが写っている写真を10万枚入力するとそのマシンはネコが認識できるようになる。「弱いAI」の立場からは機械がネコを認識できれば当面それでよい。

人工知能は現在ガートナーのハイプ・サイクルにいう「流行期」に入ってきた。人工知能がニューラルネットワークやディープラーニングによって強化されると、次第に「汎用知能」を構成したいという誘惑が生じる。つまり「強いAI」的な考え方の復活だ。「機械が知能をもち、なんでもできるようになる」という「強いAI」的約束はわかりやすく、流行期の過剰期待を作り出すのに非常に効果的だ。

しかし、流行期の山が高ければ幻滅の谷も深くなる。このあたりは人工知能利用にあたって現在もっとも警戒しなければならない点だろう。『グーグルに学ぶディープラーニング』の末尾ではGoogleの機械学習の責任者ジア・リー氏にインビューしている。そこでリー氏が「AIの技術ありきではなく、現実世界で解決すべき課題の内容そのものが私たちにとって最も大切」と語っているのは重要な指摘だ。

本書は日経BPの専門誌、日経ビッグデータに掲載された記事を中心に再構成、補筆したものだという。日経ビッグデータの杉本昭彦編集長から献本いだいた。

滑川海彦@Facebook Google+

Uber、NASAの技術者をスカウト―空飛ぶタクシー、Uber Elevate開発に本腰

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UberはNASAの先進航空機エンジニアMark Mooreをスカウトした。「空飛ぶ自動車」の開発に本腰を入れるらしい。以前からUberは都市圏での短距離乗客輸送のための小型の垂直離着陸機に対して強い興味を抱いていた。2010年のレポートでもヘリコプターのように運用できるVTOL機の実現可能性が検討されている。MooreはUber Elevateのエンジニアリング責任者に就任する。Elevateはオンデマンドの空飛ぶタクシーにUberが付けた名前だ。

Bloomberの記事によれば、Uberは最近のVTOL機利用に関するレポートをまとめる際にMooreをコンサルタントとしたという。 MooreはUberのこの分野における真剣さに強い印象を受け、同時に彼自身の長年のアイディアを比較的短い時間で実現するチャンスを見てとったようだ。Mooreは「この〔Uberに参加するという〕決定のカギはUberが短距離旅客航空に関して現実的なビジネスモデルを持っているということだった。市場に需要がないかぎりどんなすぐれたビジョンであっても実現は不可能だ」と語っている。

Uberは「オンデマンド航空」に関して詳細な提案を行っている。これには一回の充電で80-160km程度飛行できる電動モーターを使った垂直離着陸可能な小型の航空機のネットワークが用いられる。最終的な目標はスマートフォンなどのデバイスを通じたユーザーの呼び出しに答えてこうした機体が自律的に飛行するというものだ。MooreがBloombergに語ったところによると、当面の目的は、人間のパイロットが操縦する小型VTOL機をいくつかデザインし実際にテストすることのようだ。

VTOL機の開発は他社も関心を抱いている。Googleのファウンダー、ラリー・ペイジ、航空機メーカーのエアバスがそれぞれ創立した2つのスタートアップなどがそうだ。TechCrunchでも報じているが、エアバスはVTOLタクシー、Vahanaプロジェクトを発表している。エア・タクシーは地上の渋滞を避ける切り札だが、運輸ビジネスにとっての最大の関心は、安価なVTOL機体の開発だ。これが可能であれば長期的に莫大な利益が確保できるはずだ。

今のところElevateは現実のオンデマンド・エア・タクシーではないが、 Uberはこのテクノロジーを真剣に追求しており、年内にオンデマンドVTOL輸送に関心を抱く企業を集めるサミット・カンファレンスを開催しようと努力している。

Uberの先進プログラムの責任者、Nikhil GoelはTechCrunchの取材に対し、下記のようなコメントを寄せた。

Uberは拡大しつつあるVTOL開発エコシステムにおいて今後も重要な触媒的役割を続けていく。 Markが参加してくれたことはUberと株主にとって朗報だ。われわれは〔VTOL機について〕以前のレポートで発表した線にそってユースケースの拡大を検討している。

〔日本版〕Airbusが発表したエアタクシーの想像図。Uberのものも含めてVTOLはV-22と同様のティルトローター式を採用している。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

300機のドローンが空を踊る ― Lady Gagaの後ろにはIntel製ドローンのバックダンサーが

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スーパーボウルのハーフタイムに行なわれたLady Gagaによるイベント。その時、彼女の後ろでは300機のドローンが歌に合わせて踊っていた。「Shooting Stars」と名付けられたそのドローンは、これまでにもDisney Worldのホリデーショーでも踊りを披露している。光を放つ何百機ものドローンが、きれいに動きを揃えながら自由自在に動きまわる。それらをコントロールするのは、たった1人の人間だ ― または、1台のコンピューターだ。

これは、これまでは個体ごとにコントロールされていたドローンを集団飛行させるという、Intelの最新プロジェクトだ。SF小説「Ender’s Game(邦題:エンダーのゲーム)」の世界が実現したのである。Orson Scott Cardが書いたその本のように、たった1人の人間が集団で飛行するドローンに指示を飛ばし、各機の状態をモニタリングする。しかも、Intelによれば1度に飛行させられるドローンの数には限りがないという。1度に1万機以上のドローンを飛行させることも可能だ。

Shooting Starの背後には、たくさんのプログラムによって構築されたデスクトップソフトウェアの存在がある。ドローンが飛行するルートは事前にプログラムされており、各機がそれぞれ与えられた役割をこなす。ドローンがお互いに掛け声を送るわけでも、衝突を未然に防ぐためのセンサーが搭載されているわけでもない。このソフトウェアがドローン同士の衝突を防いでいるのだ。

ドローン本体はとてもシンプルな作りになっている。重さはバレーボール1個分ほどしかない。胴体部分にはStyrofoam製の部品が使われており、4つのプロペラは金属製のゲージによって保護されている。このドローンは15分以内に組み立てできるように設計されていて、Intelはこのドローンをドイツの工場で組み立てている。本体にはネジが使われていないため、ドライバー無しで組み立てることが可能だ。そして、ドローンの下部には複数色を発光するLEDが装着されている。そして、このLEDが空に絵を描くのだ。

  1. intel-shooting-star-4-of-4.jpg

  2. intel-shooting-star-5-of-4.jpg

  3. intel-shooting-star-3-of-4.jpg

  4. intel-shooting-star-2-of-2.jpg

IntelはこのプロジェクトをDisney Worldで最初に披露した。そして私は昨年の12月、第1回目のショーが行なわれる前に、Intelによる集団飛行デモを見学することができた。スーパーボウルでの演技と同じように、Disney Worldのショーもしっかりとした出来映えだった。しかし、このショーの本当にすばらしい部分はテレビカメラには収まっていない。それは、ドローンがまるで蛍のようにローンチパッドから飛び出す場面だ。

1つのローンチパッドには複数のドローンが1インチ間隔で並べられている。ローンチパッドにはドローンのLED部分を収納できるくぼみがあり、Shooting Starはそれに沿うように並べられる。また、このくぼみはドローンの充電用コネクターにもなっている。そして、ドローンがそこから一斉に飛び立つのだ。無数のローンチパッドから1機、また1機と飛び立っていく。発射と発射の間には短い間隔があけられていて、ドローンはその間隔を利用してそれぞれのポジションにつく。

Disneyのショーでは、Intelは実際に使用される機体数の2倍のドローンを用意しており、彼らが持ち込んだローンチパッドには合計で600機のドローンが格納されていた。そして、ソフトウェアが機体ごとのコンディションを判断し、状態が良い機体が空へと飛び立っていくのだ。

Intelはこのプロジェクトを2年前に開始している。2015年後半、同社はオーストリアのArs Electronica Futurelabとパートナーシップを締結し、そこに所属するアーティストやテクノロジー・リサーチャーの協力のもと、100機のドローンを集団飛行させることに成功した。その当時は、合計4つの別々の飛行場から発進した100機ドローンを、4人のパイロットが操縦していた。そして2016年も終盤に差し掛かったころ、Disney Wolrdでの第一回目のショーの前に、Intelは500機のドローンによる集団飛行デモを披露したのだ。

Intelが思い描くのは、集団で飛行するドローンが与えられたタスクをこなす世界だ。Disney Worldのショーで使われたものと同じ技術を利用すれば、複数のドローンで行方不明者を捜索したり、設備の点検や商品の検査をしたりすることが可能だ。IntelのRealSenseプラットフォームのようなソフトウェアを搭載したドローンが、群れをなして飛行機や貯水タワーの点検をしている様子を想像してみてほしい。もしくは、それらの無数のドローンがLEDを利用して空に巨大なスクリーンを描く様子を。でも、今のところ彼らに与えられているのはバックダンサーという役割だけだ。

IntelとDisneyが空に絵を描く

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

300機のドローンが空を踊る ― Lady Gagaの後ろにはIntel製ドローンのバックダンサーが

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スーパーボウルのハーフタイムに行なわれたLady Gagaによるイベント。その時、彼女の後ろでは300機のドローンが歌に合わせて踊っていた。「Shooting Stars」と名付けられたそのドローンは、これまでにもDisney Worldのホリデーショーでも踊りを披露している。光を放つ何百機ものドローンが、きれいに動きを揃えながら自由自在に動きまわる。それらをコントロールするのは、たった1人の人間だ ― または、1台のコンピューターだ。

これは、これまでは個体ごとにコントロールされていたドローンを集団飛行させるという、Intelの最新プロジェクトだ。SF小説「Ender’s Game(邦題:エンダーのゲーム)」の世界が実現したのである。Orson Scott Cardが書いたその本のように、たった1人の人間が集団で飛行するドローンに指示を飛ばし、各機の状態をモニタリングする。しかも、Intelによれば1度に飛行させられるドローンの数には限りがないという。1度に1万機以上のドローンを飛行させることも可能だ。

Shooting Starの背後には、たくさんのプログラムによって構築されたデスクトップソフトウェアの存在がある。ドローンが飛行するルートは事前にプログラムされており、各機がそれぞれ与えられた役割をこなす。ドローンがお互いに掛け声を送るわけでも、衝突を未然に防ぐためのセンサーが搭載されているわけでもない。このソフトウェアがドローン同士の衝突を防いでいるのだ。

ドローン本体はとてもシンプルな作りになっている。重さはバレーボール1個分ほどしかない。胴体部分にはStyrofoam製の部品が使われており、4つのプロペラは金属製のゲージによって保護されている。このドローンは15分以内に組み立てできるように設計されていて、Intelはこのドローンをドイツの工場で組み立てている。本体にはネジが使われていないため、ドライバー無しで組み立てることが可能だ。そして、ドローンの下部には複数色を発光するLEDが装着されている。そして、このLEDが空に絵を描くのだ。

  1. intel-shooting-star-4-of-4.jpg

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  4. intel-shooting-star-2-of-2.jpg

IntelはこのプロジェクトをDisney Worldで最初に披露した。そして私は昨年の12月、第1回目のショーが行なわれる前に、Intelによる集団飛行デモを見学することができた。スーパーボウルでの演技と同じように、Disney Worldのショーもしっかりとした出来映えだった。しかし、このショーの本当にすばらしい部分はテレビカメラには収まっていない。それは、ドローンがまるで蛍のようにローンチパッドから飛び出す場面だ。

1つのローンチパッドには複数のドローンが1インチ間隔で並べられている。ローンチパッドにはドローンのLED部分を収納できるくぼみがあり、Shooting Starはそれに沿うように並べられる。また、このくぼみはドローンの充電用コネクターにもなっている。そして、ドローンがそこから一斉に飛び立つのだ。無数のローンチパッドから1機、また1機と飛び立っていく。発射と発射の間には短い間隔があけられていて、ドローンはその間隔を利用してそれぞれのポジションにつく。

Disneyのショーでは、Intelは実際に使用される機体数の2倍のドローンを用意しており、彼らが持ち込んだローンチパッドには合計で600機のドローンが格納されていた。そして、ソフトウェアが機体ごとのコンディションを判断し、状態が良い機体が空へと飛び立っていくのだ。

Intelはこのプロジェクトを2年前に開始している。2015年後半、同社はオーストリアのArs Electronica Futurelabとパートナーシップを締結し、そこに所属するアーティストやテクノロジー・リサーチャーの協力のもと、100機のドローンを集団飛行させることに成功した。その当時は、合計4つの別々の飛行場から発進した100機ドローンを、4人のパイロットが操縦していた。そして2016年も終盤に差し掛かったころ、Disney Wolrdでの第一回目のショーの前に、Intelは500機のドローンによる集団飛行デモを披露したのだ。

Intelが思い描くのは、集団で飛行するドローンが与えられたタスクをこなす世界だ。Disney Worldのショーで使われたものと同じ技術を利用すれば、複数のドローンで行方不明者を捜索したり、設備の点検や商品の検査をしたりすることが可能だ。IntelのRealSenseプラットフォームのようなソフトウェアを搭載したドローンが、群れをなして飛行機や貯水タワーの点検をしている様子を想像してみてほしい。もしくは、それらの無数のドローンがLEDを利用して空に巨大なスクリーンを描く様子を。でも、今のところ彼らに与えられているのはバックダンサーという役割だけだ。

IntelとDisneyが空に絵を描く

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

コンシューマー向けプロダクトの成功に欠かせないネットワーク効果

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【編集部注】本記事はBattery Venturesに勤めるRoger Lee(ジェネラルパートナー)、Jeff Lu(ヴァイスプレジデント)、Deepak Ravichandran(アソシエイト)によって共同執筆された。

各分野でトップのシェアを握り、「カテゴリーキング」と呼ばれる企業が、そこまで厳しい競争にさらされているわけでもないのに、市場価値の大部分を生み出しているというケースが多く見られる。テック業界ではこの傾向が顕著で、ある調査によれば業界全体が生み出す価値のうち、70%をカテゴリーキング(小売のAmazon、ソーシャルメディアのFacebookなど)がつくりだしているとさえ言われている。

さらに私たちが最近行った調査では、カテゴリーキングによって創出された価値の6分の5が、「ネットワーク効果」を利用したビジネスによって生み出されていることがわかった(この考察は、当初Play Bigger Advisorsのコンサルタントによってまとめられた調査を、私たちが2016年12月31日時点の数値を使ってアップデートした結果得られたものだ)。なおネットワーク効果とは、利用者が増えるほど、その製品やサービスの利便性が高まることを指す。

また、ネットワーク効果についてもっと深く分析したところ、ネットワーク効果の持つ力はさまざまな観点で、私たちの想像を超えるものであることが判明した。ネットワーク効果は、販促活動の効果を高めたり、参入障壁を作ったりするだけでなく、ユーザー数の急増と共にカテゴリーキングの爆発的な成長を支えているということがわかったのだ。

AirbnbやUber、Snapなど今後12〜18ヶ月中のIPOも噂されている(既にSnapは上場を発表した)、ネットワーク効果を有効活用した企業は、それぞれの分野で自分たちがつくり上げた「勝者独り勝ち」の市場をほぼ独占している。

彼らが成功を収め、その名が世に広まっていくにつれ、私たちはコンシューマーテクノロジー市場の中でも、特にカテゴリーキングが持つネットワーク効果の価値を数値化してみたいと考えるようになった。その結果生まれたのが、Battery Ventures Network-Effect Index(詳細はウェブサイト参照)だ。この指数や関連データからは、ネットワーク効果に突き動かされている経済への洞察が得られると私たちは信じている。

ネットワーク効果を生み出すのにこれまで有効だった手段が、明日には通用しなくなるかもしれない。

そもそもBattery Ventures Network-Effect Index(BNI)とは、次の条件を満たす36社の時価総額/評価額を加重平均したものだ。1)現在上場中もしくは過去に上場していた 2)2016年12月31日時点で10億ドル以上の時価総額/評価額を記録していた 3)ビジネスモデルの全体もしくは一部にネットワーク効果が利用されている 4)コンシューマー向けネット企業。以下のチャートからわかる通り、BNIに含まれる企業の株価は過去5年間に全体で161%も伸びており、S&P 500を84%、テック系企業の多いナスダック総合指数を60%も上回っている。つまり、2011年の時点でBNIに含まれる企業群へ1000ドル投資していれば、そのお金が今では2606ドルになっているという計算になる。

さらにBNIに含まれる企業の評価総額は1兆800億ドルに及び、設立からIPOまでにかかった期間の平均は8年だった。これに対し、ベンチャーキャピタルから資金調達を行ったスタートアップ全体を対象にした場合のIPOまでの平均期間は11年だった。

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各月の値は、調査会社CapitalIQが公開しているデータをもとに算出されており、Y軸の数字は全体の時価総額/評価額の伸び率を表している。

以下がBNIに含まれている36社だ。

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印(*)のついている企業は、これまでにBattery Venturesが投資したことのある企業を表している。併記されている金額は、2016年12月31日時点での時価総額。買収の結果、非上場企業になったHomeAway、OpenTable、Kayak、Truliaについては買収額を記載している。

さらにBNIの企業は、以下の3つのカテゴリーにわけることができる。

  • 決済型マーケットプレイス:売り主と買い主が出会い、モノやサービスの売買が行われるプラットフォーム。旅行サイトのPriceline、フードデリバリーのGrubHub、中国のECサイトAlibabaなどが含まれる。
  • 広告型マーケットプレイス:このカテゴリーに含まれるZillow、Yelp、TripAdvisorなどは、消費者に対しては無料でサービスを提供しているが、売り主(不動産業者、クリーニング店、ホテルなど)から広告掲載の対価を受け取っている。
  • ソーシャル・ネットワーク:Facebook、Snapchat、WhatsAppなどがこのカテゴリーの代表的な企業として挙げられる。

そして下のチャートが、過去5年間の時価総額/評価額の推移をカテゴリー別に示したものだ。

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各月の値は、調査会社CapitalIQが公開しているデータをもとに算出されており、Y軸の数字は全体の時価総額/評価額の伸び率を表している。

FacebookやTencent、LinkedInといったサービスの成長をうけ、予想通りソーシャル・ネットワークのパフォーマンスが突出しており、過去5年間の伸び率は254%を記録している。広告型マーケットプレイスの成長率が他の指数を上回り、決済型マーケットプレイスにも勝っているのはなかなか興味深い。広告型マーケットプレイスの時価総額/評価額の伸び率は、S&P 500を57%、ナスダック総合指数を32%上回っており、ネットワーク効果によって彼らは株式公開後も成長し続けていたことを示唆している。

その他にも、私たちの調査から以下のような高次元の洞察を得ることができた。

市場規模の重要性 コンシューマー向け決済型マーケットプレイスは、狙っている市場の規模が500億ドル以上でないと爆発的な成長スピードに達しないことがわかっている。10億ドルの規模を持つターゲット市場というだけでも、スタートアップのピッチ上はまずまずなように感じられる。しかしBNIに含まれるコンシューマー向けマーケットプレイスを運営する企業は、10億ドル以上の評価額を達成するために、最大で500億ドル以上の規模になりえる市場を狙わなければならなかったのだ。

しかし、各企業は最初から大きな市場を狙っていたわけではない。HomeAwayは別荘、OpenTableはレストラン予約、Uberは黒塗りのタクシーというニッチな市場からそれぞれのビジネスをはじめた。その後ビジネスが成長するにつれて、彼らは既存の市場に近い市場へと進出していき、最終的にTAM(Total Addressable Market:狙いうる最大の市場規模)が500億ドルを超えたのだ。

一方TAMに関するルールは、カテゴリーによって変わってくる。私たちが調査対象として選んだソーシャル・ネットワークは、ほとんど需要に際限がないような巨大な市場(消費者全員)を相手にしている。対照的に広告型マーケットプレイスは、決済型マーケットプレイスが狙っている市場の小集団にあたるような、比較的小さな市場を相手にしている。

大きな市場を開拓するための方法のひとつが、既存の市場に隠れている「影の市場」をみつけだすということだ。

例えば、オンラインレビューサイトのYelpは飲食店をターゲットにしているが、同社の収益は広告を掲載したいと考えている各地域の飲食店によってもたらされている。つまりYelp自体は飲食サービスのやりとりには関わっていないため、同社が狙っている市場が飲食業界全体に占める割合は小さい。一方、レストランメニューの配達サービスを行っているGrubHubは、全ての注文から手数料をとっている(私たちはこちらの方が優れたビジネスモデルだと考えている)ため、飲食ビジネスの流れに食い込んだビジネスを展開していると言える。

そのため、Yelpは準独占的な立場にいて、GrubHubは厳しい競争にさらされているにも関わらず、両社の時価総額はほぼ同じ水準にあるのだ。Zillow(不動産)やTripAdvisor(旅行)のように、広告型マーケットプレイスのモデルで、高いパフォーマンスを誇るビジネスを生み出すことは今でも可能だが、そのためにはかなり規模の大きなカテゴリーで魅力あるサービスを売っていかなければならない。

  • 「影の市場」をみつける 大きな市場を開拓するための方法のひとつが、既存の市場に隠れている「影の市場」をみつけだすということだ。AirbnbとUberがその典型例だ。誰が空き部屋をホテルに、自家用車をタクシーに使えると思っていただろうか?彼らは当時まだ発掘されていなかった需要と供給をみつけだし、魔法のように新しい経済行動を消費者に植え付けることに成功したのだ。そして当然のように、この分野の企業は現在自らの功績の恩恵にあずかっている。BNIには含まれていないが、この分野で今後活躍が期待される企業としては、ペットシッター検索サービスのRoverや、スポットコンサルティングサービスのCatalantなどが挙げられる。

小規模な市場を狙っている企業でも、独占状態さえ築くことができれば、何十億ドルという評価額も夢ではない。GrubHubのイギリス・ヨーロッパ版にあたるJust Eatや、Zillowのオーストラリア版にあたるREA Groupは、小規模市場を席巻することで、今の地位につくことができている。

ビジネスモデルを考えるときには需給分析をしっかりと行う コンシューマー向けのマーケットプレイスで、10億ドルを超えるビジネスをつくろうとした場合、まず経営者はどちらの側から料金をとるかというのを決めなければならない。私たちの研究結果を参考にすると、一般的に企業は余裕のある側(単にプレイヤーの数が多い側とも言えるし、よりそのサービスを必要としている側と読み換えることもできる)からお金をとったほうが良い。

例えば300億ドルの評価額を誇るAirbnbは、設立当初より家の所有者ではなく宿泊者から手数料をとっている。というのも、ホテルがすぐに埋まってしまう(しかも高い)ような街で、泊まる場所を必死に探しているのは家の所有者ではなく、宿泊者側だからだ。一方この分野の先駆者にあたり、Expediaによる買収時の評価額が40億ドルだったHomeAwayは、物件を登録する所有者から手数料をとっていた。これこそ、先行者利益がありながら、HomeAwayがシェアを伸ばせなかった理由なのかもしれない。その反面、Airbnbは物件数をどんどん伸ばし、サービスの訴求力を高めていった。

販促費がカギ 最後に、BNIに含まれる企業に共通して見られたのが、販促費とネットワーク効果の関連性だった。ネットワーク効果を大いに発揮し、2200億ドルの時価総額を(2016年12月31日時点で)記録しているAlibabaの販促費は、売上の15%未満におさえられている。一方で育児や介護サービスのマーケットプレイスで、2億4700万ドルの評価額(2016年12月31日時点)を記録しているCare.comは、売上の48%以上を販促費に充てている。結局、ベビーシッターや介護スタッフの検索というのは、一時的に発生するニーズで、中抜きのリスクが高く、ネットワーク効果も薄い。その結果、Care.comは成長を維持するために、大金を販促費につぎ込まなければいけなくなってしまったのだ。

私たちは、ネットワーク効果が未来のスタートアップの成功に欠かせないものであると考えている。しかしルールは常に変化しているため、ネットワーク効果を生み出すのにこれまで有効だった手段が、明日には通用しなくなるかもしれず、起業家は常に新しい情報を仕入れなければならなくなるだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

コンシューマー向けプロダクトの成功に欠かせないネットワーク効果

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【編集部注】本記事はBattery Venturesに勤めるRoger Lee(ジェネラルパートナー)、Jeff Lu(ヴァイスプレジデント)、Deepak Ravichandran(アソシエイト)によって共同執筆された。

各分野でトップのシェアを握り、「カテゴリーキング」と呼ばれる企業が、そこまで厳しい競争にさらされているわけでもないのに、市場価値の大部分を生み出しているというケースが多く見られる。テック業界ではこの傾向が顕著で、ある調査によれば業界全体が生み出す価値のうち、70%をカテゴリーキング(小売のAmazon、ソーシャルメディアのFacebookなど)がつくりだしているとさえ言われている。

さらに私たちが最近行った調査では、カテゴリーキングによって創出された価値の6分の5が、「ネットワーク効果」を利用したビジネスによって生み出されていることがわかった(この考察は、当初Play Bigger Advisorsのコンサルタントによってまとめられた調査を、私たちが2016年12月31日時点の数値を使ってアップデートした結果得られたものだ)。なおネットワーク効果とは、利用者が増えるほど、その製品やサービスの利便性が高まることを指す。

また、ネットワーク効果についてもっと深く分析したところ、ネットワーク効果の持つ力はさまざまな観点で、私たちの想像を超えるものであることが判明した。ネットワーク効果は、販促活動の効果を高めたり、参入障壁を作ったりするだけでなく、ユーザー数の急増と共にカテゴリーキングの爆発的な成長を支えているということがわかったのだ。

AirbnbやUber、Snapなど今後12〜18ヶ月中のIPOも噂されている(既にSnapは上場を発表した)、ネットワーク効果を有効活用した企業は、それぞれの分野で自分たちがつくり上げた「勝者独り勝ち」の市場をほぼ独占している。

彼らが成功を収め、その名が世に広まっていくにつれ、私たちはコンシューマーテクノロジー市場の中でも、特にカテゴリーキングが持つネットワーク効果の価値を数値化してみたいと考えるようになった。その結果生まれたのが、Battery Ventures Network-Effect Index(詳細はウェブサイト参照)だ。この指数や関連データからは、ネットワーク効果に突き動かされている経済への洞察が得られると私たちは信じている。

ネットワーク効果を生み出すのにこれまで有効だった手段が、明日には通用しなくなるかもしれない。

そもそもBattery Ventures Network-Effect Index(BNI)とは、次の条件を満たす36社の時価総額/評価額を加重平均したものだ。1)現在上場中もしくは過去に上場していた 2)2016年12月31日時点で10億ドル以上の時価総額/評価額を記録していた 3)ビジネスモデルの全体もしくは一部にネットワーク効果が利用されている 4)コンシューマー向けネット企業。以下のチャートからわかる通り、BNIに含まれる企業の株価は過去5年間に全体で161%も伸びており、S&P 500を84%、テック系企業の多いナスダック総合指数を60%も上回っている。つまり、2011年の時点でBNIに含まれる企業群へ1000ドル投資していれば、そのお金が今では2606ドルになっているという計算になる。

さらにBNIに含まれる企業の評価総額は1兆800億ドルに及び、設立からIPOまでにかかった期間の平均は8年だった。これに対し、ベンチャーキャピタルから資金調達を行ったスタートアップ全体を対象にした場合のIPOまでの平均期間は11年だった。

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各月の値は、調査会社CapitalIQが公開しているデータをもとに算出されており、Y軸の数字は全体の時価総額/評価額の伸び率を表している。

以下がBNIに含まれている36社だ。

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印(*)のついている企業は、これまでにBattery Venturesが投資したことのある企業を表している。併記されている金額は、2016年12月31日時点での時価総額。買収の結果、非上場企業になったHomeAway、OpenTable、Kayak、Truliaについては買収額を記載している。

さらにBNIの企業は、以下の3つのカテゴリーにわけることができる。

  • 決済型マーケットプレイス:売り主と買い主が出会い、モノやサービスの売買が行われるプラットフォーム。旅行サイトのPriceline、フードデリバリーのGrubHub、中国のECサイトAlibabaなどが含まれる。
  • 広告型マーケットプレイス:このカテゴリーに含まれるZillow、Yelp、TripAdvisorなどは、消費者に対しては無料でサービスを提供しているが、売り主(不動産業者、クリーニング店、ホテルなど)から広告掲載の対価を受け取っている。
  • ソーシャル・ネットワーク:Facebook、Snapchat、WhatsAppなどがこのカテゴリーの代表的な企業として挙げられる。

そして下のチャートが、過去5年間の時価総額/評価額の推移をカテゴリー別に示したものだ。

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各月の値は、調査会社CapitalIQが公開しているデータをもとに算出されており、Y軸の数字は全体の時価総額/評価額の伸び率を表している。

FacebookやTencent、LinkedInといったサービスの成長をうけ、予想通りソーシャル・ネットワークのパフォーマンスが突出しており、過去5年間の伸び率は254%を記録している。広告型マーケットプレイスの成長率が他の指数を上回り、決済型マーケットプレイスにも勝っているのはなかなか興味深い。広告型マーケットプレイスの時価総額/評価額の伸び率は、S&P 500を57%、ナスダック総合指数を32%上回っており、ネットワーク効果によって彼らは株式公開後も成長し続けていたことを示唆している。

その他にも、私たちの調査から以下のような高次元の洞察を得ることができた。

市場規模の重要性 コンシューマー向け決済型マーケットプレイスは、狙っている市場の規模が500億ドル以上でないと爆発的な成長スピードに達しないことがわかっている。10億ドルの規模を持つターゲット市場というだけでも、スタートアップのピッチ上はまずまずなように感じられる。しかしBNIに含まれるコンシューマー向けマーケットプレイスを運営する企業は、10億ドル以上の評価額を達成するために、最大で500億ドル以上の規模になりえる市場を狙わなければならなかったのだ。

しかし、各企業は最初から大きな市場を狙っていたわけではない。HomeAwayは別荘、OpenTableはレストラン予約、Uberは黒塗りのタクシーというニッチな市場からそれぞれのビジネスをはじめた。その後ビジネスが成長するにつれて、彼らは既存の市場に近い市場へと進出していき、最終的にTAM(Total Addressable Market:狙いうる最大の市場規模)が500億ドルを超えたのだ。

一方TAMに関するルールは、カテゴリーによって変わってくる。私たちが調査対象として選んだソーシャル・ネットワークは、ほとんど需要に際限がないような巨大な市場(消費者全員)を相手にしている。対照的に広告型マーケットプレイスは、決済型マーケットプレイスが狙っている市場の小集団にあたるような、比較的小さな市場を相手にしている。

大きな市場を開拓するための方法のひとつが、既存の市場に隠れている「影の市場」をみつけだすということだ。

例えば、オンラインレビューサイトのYelpは飲食店をターゲットにしているが、同社の収益は広告を掲載したいと考えている各地域の飲食店によってもたらされている。つまりYelp自体は飲食サービスのやりとりには関わっていないため、同社が狙っている市場が飲食業界全体に占める割合は小さい。一方、レストランメニューの配達サービスを行っているGrubHubは、全ての注文から手数料をとっている(私たちはこちらの方が優れたビジネスモデルだと考えている)ため、飲食ビジネスの流れに食い込んだビジネスを展開していると言える。

そのため、Yelpは準独占的な立場にいて、GrubHubは厳しい競争にさらされているにも関わらず、両社の時価総額はほぼ同じ水準にあるのだ。Zillow(不動産)やTripAdvisor(旅行)のように、広告型マーケットプレイスのモデルで、高いパフォーマンスを誇るビジネスを生み出すことは今でも可能だが、そのためにはかなり規模の大きなカテゴリーで魅力あるサービスを売っていかなければならない。

  • 「影の市場」をみつける 大きな市場を開拓するための方法のひとつが、既存の市場に隠れている「影の市場」をみつけだすということだ。AirbnbとUberがその典型例だ。誰が空き部屋をホテルに、自家用車をタクシーに使えると思っていただろうか?彼らは当時まだ発掘されていなかった需要と供給をみつけだし、魔法のように新しい経済行動を消費者に植え付けることに成功したのだ。そして当然のように、この分野の企業は現在自らの功績の恩恵にあずかっている。BNIには含まれていないが、この分野で今後活躍が期待される企業としては、ペットシッター検索サービスのRoverや、スポットコンサルティングサービスのCatalantなどが挙げられる。

小規模な市場を狙っている企業でも、独占状態さえ築くことができれば、何十億ドルという評価額も夢ではない。GrubHubのイギリス・ヨーロッパ版にあたるJust Eatや、Zillowのオーストラリア版にあたるREA Groupは、小規模市場を席巻することで、今の地位につくことができている。

ビジネスモデルを考えるときには需給分析をしっかりと行う コンシューマー向けのマーケットプレイスで、10億ドルを超えるビジネスをつくろうとした場合、まず経営者はどちらの側から料金をとるかというのを決めなければならない。私たちの研究結果を参考にすると、一般的に企業は余裕のある側(単にプレイヤーの数が多い側とも言えるし、よりそのサービスを必要としている側と読み換えることもできる)からお金をとったほうが良い。

例えば300億ドルの評価額を誇るAirbnbは、設立当初より家の所有者ではなく宿泊者から手数料をとっている。というのも、ホテルがすぐに埋まってしまう(しかも高い)ような街で、泊まる場所を必死に探しているのは家の所有者ではなく、宿泊者側だからだ。一方この分野の先駆者にあたり、Expediaによる買収時の評価額が40億ドルだったHomeAwayは、物件を登録する所有者から手数料をとっていた。これこそ、先行者利益がありながら、HomeAwayがシェアを伸ばせなかった理由なのかもしれない。その反面、Airbnbは物件数をどんどん伸ばし、サービスの訴求力を高めていった。

販促費がカギ 最後に、BNIに含まれる企業に共通して見られたのが、販促費とネットワーク効果の関連性だった。ネットワーク効果を大いに発揮し、2200億ドルの時価総額を(2016年12月31日時点で)記録しているAlibabaの販促費は、売上の15%未満におさえられている。一方で育児や介護サービスのマーケットプレイスで、2億4700万ドルの評価額(2016年12月31日時点)を記録しているCare.comは、売上の48%以上を販促費に充てている。結局、ベビーシッターや介護スタッフの検索というのは、一時的に発生するニーズで、中抜きのリスクが高く、ネットワーク効果も薄い。その結果、Care.comは成長を維持するために、大金を販促費につぎ込まなければいけなくなってしまったのだ。

私たちは、ネットワーク効果が未来のスタートアップの成功に欠かせないものであると考えている。しかしルールは常に変化しているため、ネットワーク効果を生み出すのにこれまで有効だった手段が、明日には通用しなくなるかもしれず、起業家は常に新しい情報を仕入れなければならなくなるだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

スタートアップが借入前に知っておくべきこと

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【編集部注】執筆者のMartin MacmillanはPollen VCのCEO。フィンテック企業である同社は、revenue recycling(売上のリサイクル)というコンセプトを考え出し、世界中のアプリディベロッパーに、事業の成長に関するコンサルティングサービスと売掛債権担保ローンを提供している。

アプリ・ゲーム事業を成長させるために資金調達を行う場合、スタートアップは株式を手放す以外にも、いくつか負債ベースのアプローチをとることができる。自分たちに合った調達手段を選ぶというのはとても重要なことで、誤った選択をすると、金銭面そして金銭面以外でもダメージを受ける可能性がある。

賢いディベロッパーは、売掛債権を担保に入れたりスタートアップ向けのローンを組んだりすることで、資金調達コストを抑えつつ、株式の希薄化を防いでいる。しかし多くの人は契約書の細部まで読み込んでおらず、契約内容に関して必要以上に譲歩してしまっているケースもある。それでは、どうすればこのような失敗を防ぐことができるのだろうか?

返済順位について理解する

正しい資金調達手段を選ぶ上で大切な点のひとつが、返済順位について知ることだ。企業が銀行やノンバンクから借入を行うときは、何かしらの資産を担保として差し入れなければならない。これが債権者の抵当権(英語では”lien”や”charge”)と呼ばれるものだ。そして企業が破産した際に、債権者はそれぞれの返済順位に応じて債権を回収することができる。

このときにしっかりと返済を受けるために、債権者は特定の事業用資産に対して正当な抵当権を設定しておかなければならない。しかし、全ての債権者が平等というわけではなく、一般的には以下のようなランク付けに応じて、返済順位が決まる。

  • シニア・セキュアード・ローン(Senior secured debt):特定の資産に抵当権が設定されているもの
  • シニア・アンセキュアード・ローン(Senior unsecured debt):抵当権が設定されていないローン
  • 優先株(Preferred equity):一般的には契約内容に従って、まずはVCファンドに対して返済が行われる
  • 普通株(Common equity):ファウンダー、エンジェル投資家、従業員などが保有している株式

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出典:Pollen VC

デットファイナンスを検討する場合、上記の返済順位を理解することは極めて重要だ。さらに、あるローンの担保にする資産についても、しっかりと把握しておく必要がある。というのも、その資産に抵当権を設定している債権者は、他の債権者よりも優先的に返済を受けることになるからだ。つまり、企業が破産したときに彼らは優先的に債権を回収することができる。また、既に担保に入れられている資産に、他の債権者が抵当権を設定することはできない。

担保に入れる資産は、借入資金の使途に合ったものを選ばなければならない。

担保に入れる資産は、借入資金の使途に合ったものを選ばなければならない。例えば、もしもあなたの会社が、事業の成長のために売掛金を担保に借入を行うとすれば、実際に売掛金だけを担保とするべきだ。一般的に、債権者はデフォルト時のリスクを抑えるために、できるだけ広い範囲に抵当権を設定しようとするが、きちんと担保とする資産が決まっていれば、他のものを保証として含める必要はない。

例えば、家を買うときにローンを組んだ場合、その家を担保に入れなければならない。しかし銀行は、自動車や将来的な収入(もしくは知的財産権)など、それ以外の資産に抵当権は設定しない。それと同じことだ。

財務報告とコベナンツ

借入を行う際に見落とされがちなのが、財務報告とコベナンツ(新たな借入についてなど、ローンに付随するオペレーション上のルール)だ。

債権者にもよるが、債務者の財務状況を常時把握するために、詳細な財務報告書の提出が求められることがほとんどだ。さらに、毎週報告書を提出しなければならないケースもあるため、スタートアップは報告書をまとめるためのリソースを社内から捻出できるかしっかりと検討しなければならない。代替案として、コストさえ合えば、報告書作成業務を会計士にお願いするというのもアリだろう。

債権者がここまで頻繁に詳細なレポートを求める主な理由は、会社の財務状況、具体的にはコベナンツがきちんと守られているかをしっかりと確認するためだ。彼らがチェックするポイントは、バランスシート上の負債のレベルや、返済を受けるだけの資産がきちんと残っているかなどだ。コベナンツで規定されている数値は、絶対値の場合もあれば比率の場合もある。例えばDSCR売掛債権回転率は、企業の返済能力を測る上で便利な指標だ。

最悪の場合を想定する

どんな形であれ、借入を行う際に大切なのは、「上手く行かなかった場合」のシナリオをいつも頭に入れておくことだ。債権者はリスクやマイナス面に目を向けがちな一方、アーリーステージの企業は、当然のように「上手く行った場合」のシナリオばかり考えている。だからこそ、借入を行う企業は上手く行かなかった場合のことをよく考え、どの資産であれば最悪手放せるかということを検討しなければならない。経営者は、会社のファウンダーや経営層だけでなく、投資家のことも守らなければいけないのだ。

もしもコベナンツが破られてしまった場合、債権者はすぐにでも抵当権を実行し、担保に入っている資産を回収してしまう可能性が高い。このプロセスはものすごいスピードで進む可能性があり、スタートアップは事務処理に追われるあまり、新たな契約を結んだり、他から資金を調達したりする暇さえないこともある。

借入に関する決断は、事業の成長に長期的な影響を及ぼす可能性がある。

財務状況が良く、多額の資金を投じて開発した新ゲームのローンチも間近という企業を思い浮かべてみて欲しい。この時点での経営指標はまずまずだが、その後新ゲームのローンチは遅れ、綱渡り状態に入ってしまったとしたらどうだろう。さらに既存のアプリやゲームからのキャッシュフローは減少し、他社から請け負ったプロジェクトの支払も遅れたとしよう。ここまでくると、この会社はコベナンツに抵触してしまい、ベンチャーローンの提供者は、担保権を行使せざるをえなくなる。その結果、企業は金策に走る間もなく、管財人の管理下に置かれてしまうのだ。

債務者の義務とは、あくまで債権者(上記の場合で言えばベンチャーローンの提供者)に対するものであって、その企業の株式を保有している投資家に対するものではない。そのため、破産申請を行った企業の知的財産は債権者への返済のために叩き売られ、残り物を株主やファウンダー、共同所有者の間で分け合うことになる。

ファイナンスに関する判断とその影響

アプリ業界にいる企業が借入を検討する際、事業内容を理解している債権者を選ぶということが重要だ。まず、業界やリスクを理解している債権者であれば、低い金利で借入を行える可能性がある。さらに、必要な分だけの資産を担保として差し入れればよいため、将来新たに借入を行うときにも負担になりづらい。

一方、さまざまな業界で貸出を行っている業者は、ある業界に特化した知識を持っていないことが多いため、リスクを過大評価し、金利は高い上、抵当権の設定範囲も広い傾向にある。

もしもあなたが、自分のアプリ事業のために借入を考えているとしたら、特に担保が絡む場合は、実際に契約書を結ぶ前に上記のような点を理解しておいた方が良いだろう。借入に関する決断は、事業の成長に長期的な影響を及ぼす可能性があるのだ。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

スタートアップが借入前に知っておくべきこと

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【編集部注】執筆者のMartin MacmillanはPollen VCのCEO。フィンテック企業である同社は、revenue recycling(売上のリサイクル)というコンセプトを考え出し、世界中のアプリディベロッパーに、事業の成長に関するコンサルティングサービスと売掛債権担保ローンを提供している。

アプリ・ゲーム事業を成長させるために資金調達を行う場合、スタートアップは株式を手放す以外にも、いくつか負債ベースのアプローチをとることができる。自分たちに合った調達手段を選ぶというのはとても重要なことで、誤った選択をすると、金銭面そして金銭面以外でもダメージを受ける可能性がある。

賢いディベロッパーは、売掛債権を担保に入れたりスタートアップ向けのローンを組んだりすることで、資金調達コストを抑えつつ、株式の希薄化を防いでいる。しかし多くの人は契約書の細部まで読み込んでおらず、契約内容に関して必要以上に譲歩してしまっているケースもある。それでは、どうすればこのような失敗を防ぐことができるのだろうか?

返済順位について理解する

正しい資金調達手段を選ぶ上で大切な点のひとつが、返済順位について知ることだ。企業が銀行やノンバンクから借入を行うときは、何かしらの資産を担保として差し入れなければならない。これが債権者の抵当権(英語では”lien”や”charge”)と呼ばれるものだ。そして企業が破産した際に、債権者はそれぞれの返済順位に応じて債権を回収することができる。

このときにしっかりと返済を受けるために、債権者は特定の事業用資産に対して正当な抵当権を設定しておかなければならない。しかし、全ての債権者が平等というわけではなく、一般的には以下のようなランク付けに応じて、返済順位が決まる。

  • シニア・セキュアード・ローン(Senior secured debt):特定の資産に抵当権が設定されているもの
  • シニア・アンセキュアード・ローン(Senior unsecured debt):抵当権が設定されていないローン
  • 優先株(Preferred equity):一般的には契約内容に従って、まずはVCファンドに対して返済が行われる
  • 普通株(Common equity):ファウンダー、エンジェル投資家、従業員などが保有している株式

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出典:Pollen VC

デットファイナンスを検討する場合、上記の返済順位を理解することは極めて重要だ。さらに、あるローンの担保にする資産についても、しっかりと把握しておく必要がある。というのも、その資産に抵当権を設定している債権者は、他の債権者よりも優先的に返済を受けることになるからだ。つまり、企業が破産したときに彼らは優先的に債権を回収することができる。また、既に担保に入れられている資産に、他の債権者が抵当権を設定することはできない。

担保に入れる資産は、借入資金の使途に合ったものを選ばなければならない。

担保に入れる資産は、借入資金の使途に合ったものを選ばなければならない。例えば、もしもあなたの会社が、事業の成長のために売掛金を担保に借入を行うとすれば、実際に売掛金だけを担保とするべきだ。一般的に、債権者はデフォルト時のリスクを抑えるために、できるだけ広い範囲に抵当権を設定しようとするが、きちんと担保とする資産が決まっていれば、他のものを保証として含める必要はない。

例えば、家を買うときにローンを組んだ場合、その家を担保に入れなければならない。しかし銀行は、自動車や将来的な収入(もしくは知的財産権)など、それ以外の資産に抵当権は設定しない。それと同じことだ。

財務報告とコベナンツ

借入を行う際に見落とされがちなのが、財務報告とコベナンツ(新たな借入についてなど、ローンに付随するオペレーション上のルール)だ。

債権者にもよるが、債務者の財務状況を常時把握するために、詳細な財務報告書の提出が求められることがほとんどだ。さらに、毎週報告書を提出しなければならないケースもあるため、スタートアップは報告書をまとめるためのリソースを社内から捻出できるかしっかりと検討しなければならない。代替案として、コストさえ合えば、報告書作成業務を会計士にお願いするというのもアリだろう。

債権者がここまで頻繁に詳細なレポートを求める主な理由は、会社の財務状況、具体的にはコベナンツがきちんと守られているかをしっかりと確認するためだ。彼らがチェックするポイントは、バランスシート上の負債のレベルや、返済を受けるだけの資産がきちんと残っているかなどだ。コベナンツで規定されている数値は、絶対値の場合もあれば比率の場合もある。例えばDSCR売掛債権回転率は、企業の返済能力を測る上で便利な指標だ。

最悪の場合を想定する

どんな形であれ、借入を行う際に大切なのは、「上手く行かなかった場合」のシナリオをいつも頭に入れておくことだ。債権者はリスクやマイナス面に目を向けがちな一方、アーリーステージの企業は、当然のように「上手く行った場合」のシナリオばかり考えている。だからこそ、借入を行う企業は上手く行かなかった場合のことをよく考え、どの資産であれば最悪手放せるかということを検討しなければならない。経営者は、会社のファウンダーや経営層だけでなく、投資家のことも守らなければいけないのだ。

もしもコベナンツが破られてしまった場合、債権者はすぐにでも抵当権を実行し、担保に入っている資産を回収してしまう可能性が高い。このプロセスはものすごいスピードで進む可能性があり、スタートアップは事務処理に追われるあまり、新たな契約を結んだり、他から資金を調達したりする暇さえないこともある。

借入に関する決断は、事業の成長に長期的な影響を及ぼす可能性がある。

財務状況が良く、多額の資金を投じて開発した新ゲームのローンチも間近という企業を思い浮かべてみて欲しい。この時点での経営指標はまずまずだが、その後新ゲームのローンチは遅れ、綱渡り状態に入ってしまったとしたらどうだろう。さらに既存のアプリやゲームからのキャッシュフローは減少し、他社から請け負ったプロジェクトの支払も遅れたとしよう。ここまでくると、この会社はコベナンツに抵触してしまい、ベンチャーローンの提供者は、担保権を行使せざるをえなくなる。その結果、企業は金策に走る間もなく、管財人の管理下に置かれてしまうのだ。

債務者の義務とは、あくまで債権者(上記の場合で言えばベンチャーローンの提供者)に対するものであって、その企業の株式を保有している投資家に対するものではない。そのため、破産申請を行った企業の知的財産は債権者への返済のために叩き売られ、残り物を株主やファウンダー、共同所有者の間で分け合うことになる。

ファイナンスに関する判断とその影響

アプリ業界にいる企業が借入を検討する際、事業内容を理解している債権者を選ぶということが重要だ。まず、業界やリスクを理解している債権者であれば、低い金利で借入を行える可能性がある。さらに、必要な分だけの資産を担保として差し入れればよいため、将来新たに借入を行うときにも負担になりづらい。

一方、さまざまな業界で貸出を行っている業者は、ある業界に特化した知識を持っていないことが多いため、リスクを過大評価し、金利は高い上、抵当権の設定範囲も広い傾向にある。

もしもあなたが、自分のアプリ事業のために借入を考えているとしたら、特に担保が絡む場合は、実際に契約書を結ぶ前に上記のような点を理解しておいた方が良いだろう。借入に関する決断は、事業の成長に長期的な影響を及ぼす可能性があるのだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Microsoft HoloLensを使ったARゲームはこんな感じ―Valve Portalのデモビデオ

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ValveのPortalはパソコンゲームで非常に人気があるシリーズだ。一人称シューティングものばかりで少々うんざりしていたゲーマーはPortalが持ち込んだ一人称パズルを新鮮に感じたようだ。このパズルは拡張現実でプレイすると飛躍的に面白くなりそうだ。テーブル、天井、壁、床といった身の回りの現実の対象物を使ってあの独特のパズルがシームレスにプレイできる。

ともかく上のデモビデオを見るとそういう感じだ。クリエーターはKenny Wで、これまでにも優れたARゲームを開発している。以前発表したポケモンをフィーチャーした拡張現実ゲームは特に印象的だった。

ホロレンズを使って音声コマンドでポケモンにバトルさせよう!

Kennyの最新のプロジェクトはPortal独特のパズルをVR化することに成功している。Portalゲーム内のオブジェクトばかりでなく、キッチンのテーブルだの廊下の壁、天井といった現実の対象から不思議なサイロが飛び出している。

上のビデオから受ける印象とはやや違って、HoloLensは拡張現実デバイスなので仮想現実ビューワーのように視野を完全に遮ることはない。しかし消費者向け拡張現実のデモとしては非常によくできている。Microsoftに拍手だ。

Microsoftに頼みたいのは、HoloLensを使ったユーザー向けアプリを早く出してもらいたいということだ。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


【以上】

イーロン・マスク、入国禁止を議題にあげたことを報告、諮問委員は継続を表明

WASHINGTON, DC - FEBRUARY 03:  SpaceX and Tesla CEO Elon Musk (L) talks with White House Chief Strategist Steve Bannon at the beginning of a policy forum with U.S. President Donald Trump in the State Dining Room at the White House February 3, 2017 in Washington, DC. Leaders from the automotive and manufacturing industries, the financial and retail services and other powerful global businesses were invited to the meeting with Trump, his advisors and family.  (Photo by Chip Somodevilla/Getty Images)

Elon Muskは、金曜日にドナルド・トランプの経済諮問会議に参加した際、移民入国拒問題に「進展」があったことをごく簡単に述べただけだったが、土曜日に同氏は会議で起きたことについてやや詳しく話した。

Muskによると、非公開で行われた同会議で、彼は当初の議事に含まれていなかった移民入国拒否の議論を追加するよう明確に要求した。実際彼の介入によって、委員会の検討リストに載っていなかったにも関わらずこの話題が「真っ先に」議論された、とMuskは語った。

移民問題に加え、Muskは気候変動の問題も提起したことを、同委員会への参加継続を説明する中で話した。同氏は今後も委員を続けることを明言し、会議に先立って彼が作ったグループの一員であり続けることも再度確認した。以前にUber CEOのTravis Kalanickは、社員と大衆の反応を受け委員を辞任している。

ある観測筋は、連邦判事が大統領令を覆す裁定を下したことを挙げ、Muskが懸念を表明した戦術以上にそれが効果を与えたことを示唆した。Muskは、この件は司法、立法、行政の「あらゆる分野で対処すべき問題」だと信じていると返答した。Muskはまた、政治への関与には乗り気でないことも打ち明けた。「人々の生活を改善するテクノロジーの発明と開発」に役立つという彼の基本理念を逸脱しているためだ。

そうなると当然湧いてくる疑問は、顧客の多くが彼の行動に強く反対している中、なぜMuskが頑にトランプ政権の仕事を続けるのかだ。事実、Model 3の予約客の中には、 Muskがホワイトハウスに協力したことを理由にキャンセルした人もいる。

Muskの委員としての役割が、実際どれほど彼の言う「良い行い」なのかは、密室会議という性格上判断が難しい。この透明性の欠如もまた、トランプに対する法的行為の根拠になり得る。事実、このようなビジネスリーダーの参加する諮問委員会を一般公開しないことは、連邦諮問委員会法に反している可能性が極めて高い。しかし政権は自らの行為がこの法令に違反していることを否定している。

しかし他の委員会メンバーの顔ぶれを見る限り、少なくとも気候問題が重要な議題であることは確かだろう。GMのCEOで戦略・政策フォーラムのメンバーでもあるMary Barraが、金曜日の会議に出席したことに関する以下の声明を、広報経由でTechCrunchに送ってきた。

力強く競争力のある米国経済を支援し、職を生み出し、安全・環境問題に取り組むための政策作りどう協力していけるかを検討すす、非常に建設的な議論に参加できることを喜んでいる。既に発表した通り、世界的な競争力をもち雇用を伸ばす活気ある米国ビジネスこそが、われわれの求めているものだ」

GMはトランプ氏の移民入国禁止令について、人事責任者のJohn Quattroneが先週メディアに公開した社内メモで言及しているが、Barra本人は公の場で大統領令について話していなかった。米国主要自動車メーカーの中で、FordのCEO mark Fieldsだけがこの命令に関する声明を発表しており、同社のBill Ford会長と連名で「本政策を含め当社の企業価値に反する政策は一切支持しない」と表明した。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

Conductorの新しいモバイルアプリは、顧客の探しているものを教えてくれる

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SEOプラットフォームと企業コンテンツマーケティングツールを提供するConductorが新しいモバイルアプリをローンチした。共同創業者兼CEOのSeth Besmertnikによれば、それは「顧客の声」に素早くアクセスする手段を提供するものだ。

ニューヨークを拠点とするConductorは、広い範囲のマーケティングツールを提供する前は、SEOに焦点を当てていた。Besmertnikは言う、「私たちがやっていることの中心は、顧客を理解することと、皆が望んでいることを理解することです。皆が望んでいるものを知れば、それを使ってより良いコンテンツを作り、良いマーケティングを行い、より良いメッセージを送ることができます」。

モバイル版では、既存のConductorのデータを使い、それを簡単に検索し理解することが可能になるということだ。アプリを使用すれば、マーケティングの基礎として利用を考えている用語を検索することができる。例えば、と言ってBesmertnikはアプリ上で「online therapy(オンラインセラピー)」という言葉を検索してみせた、その結果この用語に関連して顧客たちが検索している用語が表示された。

顧客の状況に応じた様々な段階でのフィルタリングも可能だ(よって、人びとが購入の決心をする直前に何を検索しているかを知ることができる)、そして企業がそのデータに対する理解を得ることを助ける洞察のフィードも届けられる。

Besmertnikは、Conductorアプリを使うのが、マーケティング担当者だけでなければ良いと考えている。その代わり「会社の中の誰もが、コンテンツのどんな一部でも変更する前に、顧客の声をわずか2分でチェックすることができるのです」と彼は述べた。

小さな変更でも大きな違いを生むことができる。Conductorによれば、そのツールを使うことで、AAAはその顧客が「savings」ではなく「discounts」を検索していることに気が付いた(savingsもdiscountsも、どちらも「値引」や「割引」という意味がある)。そこでウェブサイト全体の「savings」を「discounts」に置き換えてみたところ、トラフィックが30%増加したのだ。

新しいアプリは、Conductorの顧客全員から利用可能になっている。

[ 原文へ ]
(翻訳:Sako)