京都のヤサカタクシーとNearMeが「攻めのDX」でタッグ、タクシー業界のDXと乗車客の快適な移動を目指し業務提携

京都のヤサカタクシーとNearMeが「攻めのDX」でタッグ、タクシー業界のDXと乗車客の快適な移動を目指し業務提携

京都エリアを中心に、安全・快適・信頼をモットーに移動を提供する彌榮自動車(やさかじどうしゃ。ヤサカタクシー)と独自のAIで最適化した空港送迎などのスマートシャトルを運営するNearMe(ニアミー)は4月13日、業務提携を発表した。タクシー業界のDXの更なる推進と、次世代のシャトルのあり方を見据えた共創取り組みのためとしている。

NearMeが手がけるルーティングの最適化を行う独自AIに合わせ、乗車客とタクシー会社をオンラインプラットフォームでつなぐことで、乗車客が多数言語対応ウェブサイトやアプリケーションにより、予約から決済までを可能としている。タクシー会社は、プラットフォームを通じ自社が対応できる案件を選択できる。

ヤサカタクシーは、同プラットフォームの活用によるルーティングの効率化により、エリア拡大の可能性を模索していく。また、マニュアル作業になっていた業務オペレーションも大幅に改善することで、予約規模の増加による業務負担も軽減されるという。両社の協業はまずは空港送迎から開始する。またアフターコロナも見据え、観光MaaSへの発展をにらみ市内移動をなめらかにする可能性も模索する。

昨今、タクシー業界でも即時の配車アプリや決済領域などでDXが進められているものの、事前予約における配車やルーティングの人手による運用、電話の個別対応など旧態依然とした業務がまだまだ残っているという。

DX推進はこれからといった状況の中、コロナ禍による京都の観光客数の激変が、タクシー業界にとっても次世代の運用を考えるきっかけになったとしている。

安全・快適・信頼をモットーに京都エリアで信頼を獲得してきたヤサカタクシーにおいても、この潮流は例外ではないと指摘。アナログな運用は、タクシー会社だけでなく、乗車客にとって不便なものになっており、特に海外からの旅行客にとって多言語対応が手間となっていることから、常に利便性向上を検討していたという。

ヤサカタクシーは、社内の業務効率化としての「守りのDX」だけでなく、顧客中心のDX、つまりAI活用による「攻めのDX」で乗車客に貢献できないかを検討。その中で、独自AIでルーティングを発展させ、タクシー会社とお客様をつなぐプラットフォームとして機能するNearMeと連携し、タクシー業界の革新に挑戦することとしたという。

ヤサカタクシーは、1945年9月の創業以来、一貫して「旅客運送事業を通じて地域社会に貢献する」ことを目標に掲げ、地道な企業活動を展開。京都・滋賀・大阪・兵庫・東京・埼玉・神奈川などの各地域において、確固たる地歩を築き上げてきた。

特にハイヤー・タクシー、路線バスは安全な市民の足として、観光バスは地域住民や企業で働く人々の観光旅行・レジャーに利用されており、学校教育の一環としての修学旅行や校外学習などにも寄与しているという。

また、テナントビル事業などの新分野にも積極的にシフトするなど、多様化する時代のニーズに柔軟に対応。現在では7業種17社、3700名を超える社員が働く企業集団に成長している。

2017年7月設立のNearMeは、リアルタイムの位置情報を活用して地域活性化に貢献する「瞬間マッチング」プラットフォーム作りを目指し、まずシェアリングエコノミーのMaaS(Mobility as a Service)領域からスタート。

2019年8月、空港版のオンデマンド型シャトルサービス「スマートシャトル」の「nearMe.Airport」(ニアミー エアポート)を開始。独自AIを発展させ、ルーティングの最適化をはかってきた。

このルーティングの技術を活用し、コロナ時代においても、不特定多数ではなく、少人数かつ誰が乗車したか追跡できる方法で活用可能な通勤シャトル「nearMe.Commute」(ニアミーコミュート)や、快適な移動を創造する「タクシーの相乗り(nearMe.)」アプリ(Android版iOS版)、またオンデマンド型シャトルサービス「スマートシャトル」を展開している。

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カテゴリー:モビリティ
タグ:オンデマンド交通新型コロナウイルス(用語)NearMe(企業)彌榮自動車 / ヤサカタクシー(企業・サービス)日本(国・地域)

モバイル機器に搭載可能な新型コロナウイルス検出センサー開発でGE技術研究開発部門がNIHの助成金を獲得

モバイル機器に搭載可能な新型コロナウイルス検出センサー開発でGE技術研究開発部門がNIHの助成金を獲得

GE Research

世界最大の米総合電機メーカーGeneral Electric(GE)の技術研究開発部門GE Researchが、スマートフォンなどモバイルデバイスのディスプレイやテーブルなど、あらゆる表面上の新型コロナウイルスを検出できる小型センサーの開発で、米国立衛生研究所(NIH)の助成金を獲得したと発表しました。今後2年間のプロジェクトで、検出精度の向上などを行うとしています。

通常、ウイルスの検出には電子レンジサイズの分析器が必要となりますが、GE Researchが開発したのは、それと同じ検出機能を備えつつ指先よりも小さい小型のセンサー。この小型化は、もともと新型コロナウイルスを目的にしたものではなく、過去10年間の研究の成果とのこと。センサーの小型化により、スマートフォンの画面や指紋センサー、あるいはキーボードなどに組み込める可能性があるとしています。

実験室と違い、これらのデバイスが使われる環境では、様々な種類のウイルスや菌、微粒子などが存在しており、その検出精度が気になるところ。これについてGE Researchの主任科学者であるRadislav Potyrailo氏は、開発中のセンシング技術は、他の要素からの分離性能に優れ、信頼性が非常に高いとしています。

Potyrailo氏は「私たちのセンサーは一種のブラッドハウンド(嗅覚の鋭い猟犬)のようなものだ」とも述べています。「特定のものを検出するよう訓練されており、他のものに邪魔されることなく、うまく検出できるのです」

助成金を受け、今後2年間でセンサーを改良し、新型コロナウイルスに関連するような懸念される数個のナノ粒子を、一般的な環境の中で確実に検出できることを実証する予定だとしています。

2年後では、新型コロナ対策としてはやや遅い気もしますが、技術的にはインフルエンザやノロなど、他のウイルスにも活用できるなら実用性は高そうです。数年後には、ウイルス検出はスマートフォンで行う時代が来るのかもしれません。

(Source:GEEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:医療(用語)新型コロナウイルス(用語)センサー(用語)General Electric / ゼネラルエレクトリック(企業)GE Research米国立衛生研究所 / NIH(組織)

欧州の主要テックイベント「Shift」と「TOA」がアフターコロナの新拠点・新モデルへとシフト

パンデミックの影響で、かつては業界の活力源であったテックイベントにも大きな変化が訪れている。これまで幾多のスタートアップがイベントで資金調達ピッチを行い、幾多のハッカソンでチームが結成され、より大きな目標に向かって進んでいった。少なくともパンデミックが完全に収束するまでそのような時代は終わったということは悲しい事実だが、これには時間がかかりそうだ。欧州の2つの重要なイベントは、ブランドを新たな境地へと導くために、変化を余儀なくされた。

ヨーロッパで大ブレイクしたサクセスストーリー「Infobip」(資金調達額2億ドル、約219億4000万円以上)は、クロアチア発のユニコーンだ。また、影響力の大きい開発者カンファレンスであるShiftもクロアチアで生まれた。Infobipはエンジニアリングコミュニティを必要としており、Shiftは不安定な時代に安定した拠点を必要としている。InfobipがShiftを買収し、後者の創業者兼CEOであるIvan Burazin(イワン・ブラジーン)氏を最高開発者エクスペリエンス責任者(chief developer experience officer)として役員に任命することで、開発者を企業戦略の中心に据えるのは自然な動きに思える。Shiftは、Infobipの新しい開発者エクスペリエンス部門の基盤となる。

ブラジーン氏はこう述べている。「世界最大級の開発者カンファレンスになること、そして、クロアチアとソフトウェア開発者の世界とのつながりを強化することが、常にビジョンとしてありました。ですから今、ユニコーン企業の後ろ盾を得て、独立して活動を続けられる自由を得たことで、ようやくそのビジョンが可能になったように思います」。

同氏によれば、Shiftは消滅するわけではなく、今後はグローバルに展開し、まずは米国、そしてラテンアメリカや東南アジアで、最初はバーチャルイベントで展開していくとのこと。

InfobipのCEOであるSilvio Kutić(シルビオ・クティッチ)氏はこう語った。「Infobipは、B2C分野、より具体的にはB2D(Business-to-Developer)の領域で急速に拡大する成長軌道に乗っています。B2D SaaS企業であるCodeanywhereの創業者であり、地域最大の開発者カンファレンスであるShiftの生みの親としての経験を持つイワン(・ブラジーン)を迎え入れることは、これからの当社にとって大きな財産となるでしょう」。

一方、スタートアップや創業者・投資家向けの重要なカンファレンスである「Tech Open Air Berlin」も変化している。

Tech Open Air(TOA)はテクノロジーとスタートアップの祭典として知られ、毎年夏になるとベルリンに2万人以上の人々を集めていたが、現在は「TOA Klub」という新しいブランドにピボットしている。これは今後「コホートベースの学習・行動プラットフォーム」となる。4~6週間のオンラインプログラムは、テック業界で活躍するプロフェッショナルを支援することを目的としている。

TOA Klubでは、Founders Klub(スタートアップを学ぶ創業者向け)、Investors Klub(初心者投資家向け)、Crypto Klub(「暗号資産分野の速習コース」)、Co-Creators Klub(ピボットや成長を目指す創業者向け)が提供される予定だ。

最初に確定したメンターとスピーカーには、Trivago(トリバゴ)の創業者Rolf Schrömgens(ロルフ・シュレームゲンス)氏、HelloFresh(ハローフレッシュ)の創業者Dominik Richter(ドミニク・リヒター)氏、そしてLa Famiglia VCの創業パートナーJeannette zu Fürstenberg(ジャンネット・ツー・フュルステンバーグ)氏が含まれる。

TOAの創業者であるNikolas Woischnik(ニコラス・ヴォイシュニック)氏は次のように述べている。「世界はこのパンデミックを乗り越える過程で、数年ではなく数十年単位でデジタル化を進めることになるでしょう。ビジネス環境の複雑さは大きく加速しています。TOAの『人、組織、そして地球を未来につなげる』という長年のミッションは、これまで以上に大きな意味を持ちます。Klubの立ち上げにより、当社はテクノロジーを活用して、よりインパクトのある、利用しやすい方法でそのミッションを実現する時が来たのです」。

筆者個人としても、これらのすばらしいブランドが新しい拠点を見つけたことをうれしく思う。ブランドも創業者たちも、ヨーロッパのスタートアップシーンで大きな尊敬を集めていると知っているからだ。

カテゴリー:イベント情報
タグ:バーチャルイベントShift Conference新型コロナウイルスクロアチアTech Open Air Berlin買収ドイツTOA Klub

画像クレジット:TechCrunch

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

新型コロナで増えるバーチャルワークアウト、フィットネスインストラクター向けサービスMoxieが約6.9億円調達

新型コロナウイルスの影響で地球上の人々が屋内でワークアウトをするようになり、家庭用フィットネス市場がブームになっている。2020年10月には、設立3年目のFuture(フューチャー)がシリーズBラウンドで2400万ドル(約26億3000万円)を調達、パーソナルトレーナー向けストリーミングサービスのPlaybook(プレイブック)はシリーズAラウンドで930万ドル(約1億200万円)を調達した。新たにこの市場に参入したMoxie(モキシー)は、フィットネスインストラクターが、ライブや録画でクラスを配信できるプラットフォームだ。ライセンスを受けた音楽プレイリストにアクセスしたり、CRMや支払い用のツールを活用することもできる。クラスの受講価格は5~25ドル(約550〜2700円)で、さまざまなサブスクリプションやパッケージが提供されている。

Moxieは米国時間4月8日、Resolute Ventures(リゾルト・ベンチャーズ)が主導した「シード+」ラウンドで、630万ドル(約6億9100万円)の資金を調達したと発表。この投資ラウンドには、Bessemer Ventures(ベッセマー・ベンチャーズ)、Greycroft Ventures(グレイクロフト・ベンチャーズ)、Gokul Rajaram(ゴクル・ラジャラム)氏などの投資家も参加した。2020年10月に行われた210万ドル(約2億3000万円)のシードラウンドと合わせて、Moxieは合計840万ドル(約9億2100万円)の資金を調達したことになる。

今回の資金を使って、Moxieはユーザーと講師をつなぐ新しいツールや、受講前のクラスのプレビュー機能などを導入し、Moxieの厳選された人気クラスにおけるユーザー体験の最適化を計画している。

Moxieは、新型コロナウイルスが流行した時代に、その利便性から同社が「指数関数的な成長」を遂げたと主張する。2021年3月には8000クラスが完了し、100万クラス分 / 月を超えたという。Moxieの独立したインストラクターは、自分でスケジュールや価格を設定し、プラットフォームで得た収益の85%を確保することができる。

同社はStride Health(ストライド・ヘルス)との提携により、インストラクターに健康保険、歯科・眼科プラン、生命保険などを提供するヘルスケア特典「Moxie Benefits(モキシー・ベネフィット)」の導入も予定している。

また、同社が計画している「Moxie Teams(モキシー・チームズ)」は、Uber(ウーバー)のドライバーがチームを結成するのと同じように、インストラクターのグループがプラットフォーム上で小さなビジネスを行うことを可能にする。

Moxieの創設者でCEOのJason Goldberg(ジェイソン・ゴールドバーグ)氏は、声明の中で次のように述べている。「Moxieは、パンデミックの際にジムやスタジオから追い出され、突然起業家となってバーチャルフィットネスという新たなフロンティアを開拓しなければならなくなった何千人もの独立したフィットネスインストラクターとともに誕生しました。現在はオンラインフィットネスが人々の生活に広く浸透しており、Moxieの成長はこのような消費者行動の変化が持続力を持つことを証明しています。Moxieのユーザーの89%は、その利便性からバーチャルワークアウトを、新型コロナウイルス収束後も継続するつもりであることがわかっています」。

Resolute Venturesのパートナーであり、共同設立者であるRaanan Bar-Cohen(ラーナン・バーコーエン)氏は、次のように述べている。「我々の投資理論は、常に今日の問題を解決する起業精神に溢れた創業者を見極めることにあります。Moxieには、ジェイソンという経験豊富な経営者がいて、インストラクターや消費者がオンラインフィットネスへの移行で経験した問題を解決する製品があり、継続的な成功のための明確なロードマップを持っていると、我々は考えています」。

ではなぜ、Moxieは新しいバーチャルワークアウトの文化に定着することができたのだろうか?ゴールドバーグ氏によると、それにはさまざまな要因があるという。

まず、MoxieがVODアプリやPeloton(ペロトン)とも決定的に異なるのが、インタラクティブなグループフィットネスのクラスをライブで提供するという、2面性のあるフィットネスマーケットプレイスであるということだ。さらに、Pelotonのように「スター」として選ばれるのを待つのではなく、Moxieではどんなインストラクターでも教えることができる。なぜなら、クラスの90%はライブのグループフィットネスのクラスであり、これらはパーソナルトレーニングではなく、ヨガスタジオやHIIT(高強度インターバルトレーニング)クラスの代わりとなっている。ゴールドバーグ氏によると、多くのトップインストラクターがこのプラットフォームで6桁ドル(数千万円)の収入を得ているという。

確かにMoxieは、ジムが閉鎖されている間に、バーチャルクラスを簡単に行うことができるという事実をうまく利用してきた。だが、新型コロナウイルス収束後も彼らは残ってくれるだろうか?おそらく、多くの人が、ジムに足を運ぶよりも便利で、実際に対面するクラスに参加するよりも敷居が高くないことに気づくだろう。加えてユーザーは、テレビのチャンネルを切り替えるように、簡単にクラスを変更することができるのだ。

ゴールドバーグ氏は、メールで次のように語っている「新型コロナウイルスにより、誰もが初めてバーチャルフィットネスに挑戦せざるを得なくなりました。それでどうなったでしょう?人々は、オフラインのジムに行くよりも便利で、よりつながりが感じられると思うようになりました。それでどうなったでしょう?Peloton以外を選ぶ人が増えたのです」。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:フィットネス新型コロナウイルスMoxie資金調達オンラインレッスン

画像クレジット:(c) Daniel Hofer / (c) Daniel Hofer under a (c) Daniel Hofer license.

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ジャマイカの新型コロナアプリ失敗の経緯、サイバー攻撃ではなく単に安全ではなかった

2020年3月に新型コロナウイルスのパンデミックが宣言され、各国の政府が次々とロックダウンを発令する中、一部の国では国境の再開に向けた計画が進められていた。2020年6月、ジャマイカは国境を開放した最初の国の1つとなった。

ジャマイカ経済の約5分の1を占める観光業。2019年だけでも400万人の旅行者がジャマイカを訪れ、300万人の住民に多大な雇用をもたらしている。しかし夏が近づくにつれ新型コロナウイルスの影響が忍び寄り、ジャマイカは経済の急落に直面する。同国にとっては観光業が復活の道への唯一の希望である。たとえそれが公衆衛生の犠牲を意味したとしてもだ。

ジャマイカ政府は、キングストンに本社を置くテクノロジー企業Amber Groupと契約し、住民や旅行者が島に戻ってこられるような国境通過システムを構築した。アプリとウェブサイトで展開されたこのシステムは「JamCOVID」と名づけられ、到着前に入国者をスクリーニングできるようになっている。旅行者が米国などの高リスク国からのフライトに搭乗する前に、新型コロナウイルス検査の陰性結果をJamCOVIDにアップロードしなければ入国できないというシステムである。

Amber Groupの最高経営責任者Dushyant Savadia(ドゥシャント・サヴァディア)氏は、同社がJamCOVIDをわずか「3日」で開発し、ジャマイカ政府に同システムを事実上寄贈したと誇らしげに語っている(その見返りに政府がAmber Groupに対して追加機能やカスタマイズの費用を支払うという条件だ)。この導入は成功したと見られ、同社はその後少なくとも4つのカリブ海の島々に国境通過システムを導入する契約を獲得している。

ところが2021年3月、過去1年間に島を訪れた50万人近い旅行者(多数の米国人を含む)の入国書類、パスポート番号、新型コロナウイルス検査結果がJamCOVIDから漏洩したという事実をTechCrunchが暴いたのだ。Amber Group はJamCOVIDのクラウドサーバーへのアクセスをパブリックに設定しており、誰もがウェブブラウザーからデータにアクセスできるようになっていたのである。

今回のデータ流出の原因が人為的なものであれ過失によるものであれ、これはテクノロジー企業が、ひいてはジャマイカ政府が犯してしまった恥ずかしい過ちだ。

さらに、この騒動も終わるかというところで、今度はこれに対する政府の対応が新たな騒動となってしまった。

セキュリティ問題3連チャン

接触者追跡アプリがまだ初期段階の、新型コロナウイルスの第1波が終わった頃、国境に到着した旅行者をスクリーニングする計画を立てている政府はほとんど存在せず、ウイルスの広がりを把握するための技術を構築したり、獲得したりするために各国の政府は奔走していた。

関連記事:AppleとGoogleが共同開発する新型コロナ追跡システムは信頼できるのか?

ジャマイカは位置情報を利用して旅行者を監視していた数少ない国の1つで、権利団体からは当時からプライバシーやデータ保護に関する懸念が寄せられていた

こういった新型コロナウイルス関連のアプリやサービスを幅広く調査した結果、TechCrunchはJamCOVIDがパスワードのない露出したサーバーにデータを保存していることを発見した。

TechCrunchが報道を通じてセキュリティ上の欠陥データの流出を発見したのは今回が初めてではなく、またパンデミック関連のセキュリティ脅威もこれが初めてではない。イスラエルのスパイウェアメーカーであるNSO Groupは、新たな接触者追跡システムのデモに使用した保護されていないサーバーに、実際の位置情報を残していた。また、ノルウェーは接触者追跡アプリを最初に導入した国の1つだが、国民の位置情報を継続的に追跡するというのはプライバシー上のリスクになると同国のプライバシー当局が判断したため、アプリの導入は中止されている。

どんな記事の場合でも同様だが、我々はサーバーの所有者と思われる人物に連絡を取り、またジャマイカ保健省には2月13日の週末にデータが流出していることを報告した。しかし保健省の広報担当者であるStephen Davidson(スティーブン・デビッドソン)氏にデータ流出の具体的な内容を伝えたにも関わらず返事が来ない。その上2日後、データは依然として流出されたままだったのである。

このサーバーからデータが流出した2人の米国人旅行者と話した後、サーバーの所有者をAmber Groupに絞り込む事ができた。2月16日、CEOのサヴァディア氏に連絡を取ったところ、同氏はメールの受領は認めたもののコメントはなく、その約1時間後にサーバーのセキュリティが確保された。

その日の午後、 TechCrunchが本件の記事を掲載した後ジャマイカ政府が声明を発表し、この失態は「2月16日に発覚」し「直ちに修正した」という嘘を述べている。

それどころか同政府は 、TechCrunchが最初に書いた記事の発端となった保護されていないデータに「不正な」アクセスがあったかどうかについて刑事捜査を開始した。これは我々に向けられた薄っぺらな脅しである。同政府は海外の法執行機関と連絡を取ったと伝えている。

FBIの広報担当者にジャマイカ政府から連絡があったかどうかについて聞いてみたが、回答は得られなかった。

その後もJamCOVIDが改良されたことはない。最初の記事から数日後、政府はクラウドコンサルタントのEscala 24×7にJamCOVIDのセキュリティ評価を依頼しており、その結果は公表されなかったものの同社はJamCOVIDには「脆弱性がない」と確信していると述べている。またAmber Groupは、今回の失態が「単発的な出来事」であったと結論づけている。

1週間が経過し、TechCrunchはAmber Groupにさらに2つのセキュリティ問題を警告することになる。最初のニュースを見たセキュリティリサーチャーがJamCOVIDのサーバーやデータベースの秘密鍵やパスワードがウェブサイトに隠されているのを発見し、さらに50万人以上の旅行者の検疫命令の流出という3つ目の失態を暴いている。

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2週間で3回目、旅行者50万人の個人情報が露出しジャマイカの新型コロナ対策アプリ・サイトがオフラインに

Amber Groupと同政府はサイバー攻撃やハッキングに見舞われたと主張しているが、実際は単にこのアプリのセキュリティがなっていないだけである。

政治的に不都合なタイミング

ジャマイカ政府は今回2度目の試みとなる国民識別システム(NIDS)の立ち上げを行おうとしている最中のため、このセキュリティ問題はジャマイカ政府にとって政治的に非常に不都合だ。NIDSにはジャマイカ国民の指紋などの生体情報も保存されることになる。

1度目の試みがジャマイカの高等裁判所で違憲と判断されてから2年、政府は今回2度目の立ち上げを目前にしている。

JamCOVIDのセキュリティ問題を国家データベース案打ち切りの理由として挙げている評論家もいる。プライバシーや権利に関する団体の連合はJamCOVIDを例に挙げ、国家データベースは「ジャマイカ人のプライバシーとセキュリティにとって危険」と主張。ジャマイカの野党の広報担当者は地元メディアに対し「そもそもNIDSはあまり期待されていなかった」と語っている

最初の記事を掲載してから1カ月以上が経過したが、Amber GroupがJamCOVIDの構築や運用の契約をどのようにして獲得したのか、クラウドサーバーがどのようにして公開されたのか、また発売前にセキュリティテストが行われたのかなど、多くの疑問点が残されている。

TechCrunchはジャマイカの首相官邸とジャマイカ国家安全保障省のMatthew Samuda (マシュー・サムダ)大臣にメールを送り、JamCOVIDを運営するために政府がAmber Groupにいくら支払いまたは寄付したのか、またどのようなセキュリティ要件が合意されたのかを尋ねてみたが、回答は得られなかった。

Amber Groupもまた政府との契約でいくらの金を手にしたのか明らかにしていない。同社のサヴァディア氏はある地方紙に対して契約額の開示を拒否しており、また契約に関するTechCrunchの質問メールにも答えていない。

ジャマイカの野党は、政府とAmber Groupとの間で交わされた契約書の公開を首相に要求しているが、Andrew Holness(アンドリュー・ホルネス)首相は記者会見で、政府との契約について国民には「知る権利がある」と述べた上で、国家安全保障上の理由や「機密の貿易および商業情報」が開示される可能性がある場合など「法的なハードル」が開示を妨げることもあると伝えている

地元紙のThe Jamaica Gleanerが国家公務員の給与を示す契約書の入手を要求したところ、法律に守られているため個人のプライバシーを開示することはできないとして政府から拒否された数日後に、首相のこの発言である。評論家らは、政府役人に対して公的資金がいくら支払われているかを知る権利が納税者にはあると主張している。

ジャマイカの野党は、被害者に対してどのように今回の件を通知したのかという質問も投げている。

サムダ大臣は当初セキュリティ問題を軽視し、影響を受けたのはわずか700人だと主張していた。我々は証拠を見つけるためソーシャルメディアを探ったが、何も見つかっていない。これまでのところ、ジャマイカ政府が旅行者にセキュリティ事故について通知したという証拠は一切見つかっていない。情報が流出して被害を受けた数十万人の旅行者にも、政府が通知したと主張しながらも公表されていない700人の旅行者にも同様である。

TechCrunchは政府が被害者に送ったという通知のコピーを要求するため大臣にメールを送ったが、回答は得られなかった。また、Amber Groupとジャマイカの首相官邸にもコメントを求めたが、返事は未だない。

今回のセキュリティ過失の被害者の多くは米国人である。1度目の記事で話を伺った2人の米国人は、いずれも情報漏えいの通知を受けていない。

住民の情報が流出したニューヨーク州とフロリダ州の検事総長の広報担当者は、TechCrunchの取材に対し、州法でデータ流出の開示が義務づけられているにもかかわらず、ジャマイカ政府からもAmber Groupからも連絡がなかったと伝えいてる。

大きな代償を支払うことになったジャマイカの国境解放。ジャマイカではその後1カ月間に100人以上の新規感染者が判明したが、その大部分は米国から到着した人々である。2020年6月から8月にかけてコロナウイルスの新規感染者数は、毎日数十人単位から数百人単位へと推移してしまった。

これまでにジャマイカでは、パンデミックによる3万9500人以上の感染者と600人の死亡者が報告されている。

ホルネス首相は先月、国会で国の年間予算を発表する際に、当時の国境解放に対する決定を振り返りコメントしている。同氏によると2020年度の経済の落ち込みは「観光産業における70%という大規模な縮小によってもたらされた」とのことで、住民と観光客を含む52万5000人以上の旅行者がジャマイカを訪れたというが、この数字は2月に流出したJamCOVIDサーバーで見つかった旅行者の記録の数をわずかに上回っている。

ホルネス首相は、同国の国境解放の決定を擁護している。

「もし国境を開けていなかったら観光収入の落ち込みは75%ではなく100%になり、雇用も回復せず国際収支の赤字も悪化し、政府全体の収入も脅かされ、さらに支出を増やそうという議論にもならなかったでしょう」と同氏。

ジャマイカ政府もAmber Groupも国境を開くことで利益を得た。ジャマイカ政府は落ち込んだ経済を回復させたいと考え、Amber Groupは政府との新たな契約でビジネスを活性化させたわけだ。しかし、どちらもサイバーセキュリティに十分な注意を払っておらず、彼らの過失による被害者には、その理由を知る権利がある。

カテゴリー:セキュリティ
タグ:ジャマイカ新型コロナウイルス旅行データ漏洩プライバシー

画像クレジット:Valery Sharifulin / Getty Images

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Dragonfly)

Uberがコロナ収束後のドライバー不足対策で総額約274億円の報奨金を用意

新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた頃、配車サービスのドライバーは「不可欠な労働者」とされていたにもかかわらず、2020年4月にUber(ウーバー)のビジネスは80%も落ち込んだ。運転手たちは、1日数回の乗車で得られるわずかな収入のために、新型コロナウイルスに感染したり、それを広めたりするリスクを負いたくないと考えた。米連邦政府のCARES法(コロナウイルス支援・救済・経済保証法)が失業支援をギグワーカーにも拡大したため、多くのUber運転手はクルマのキーを置くことにしたのだ。

米国では人口の4分の1以上がすでにワクチンを接種しているため、Uberは現在、ドライバーの数よりも送迎を希望する乗客の数の方が多いという、困った状況におかれている。そこでこの配車サービス大手企業は、ドライバーに再び仕事があることを知ってもらうだけでなく、インセンティブ(報奨金)を用意して契約に誘い込みたいと考えている。

Uberは米国時間4月7日、パンデミックが収束に向かいつつある中、ドライバーの復帰を歓迎し、新しいドライバーを募集するために、総額2億5000万ドル(約274億円)のドライバー刺激策を開始すると発表した。同社の広報担当者によると、復帰したドライバーと新たに就業したドライバーの両方とも、今後数カ月にわたってボーナスを受け取ることができるという。

「2020年には、多くのドライバーが、自分の就労時間に見合うだけの乗客が期待できないため、運転業務を止めてしまいました」と、この刺激策を発表したブログ記事には書かれている。「2021年には、送迎を希望する乗客数が、移動を提供できるドライバーの数を上回っています。ドライバーになるには絶好の時期です」。

乗客の需要が高く、ドライバーの供給が少ないことで、フィラデルフィア、オースティン、シカゴ、マイアミ、フェニックスなどの都市における現在のドライバーの時給は、2020年3月と比べると25%から75%も高く、中央値は26.66ドル(約2930円)となっている。Uberは「これは一時的な状況である可能性が高い」として、ドライバーに今の高収入を利用して欲しいと考えている。つまり、国全体が新型コロナウイルスから回復し、より多くのギグワーカーがハンドルを握るようになれば、収益は現在のレベルよりも低下する可能性が高いということだ。

この現在の高い時給に、さらにドライバー刺激策のボーナスが上乗せされると、同社の広報担当者はTechCrunchに語った。このインセンティブの仕組みは、各人の活動状況と場所に基づいて決定される。例えば、オースティンでは、現在のドライバーが115回の乗客移送を完了すると、1100ドル(約12万円)の出来高ボーナスが保証される。フェニックスでは、200回の運転業務で1775ドル(約19万5000円)の追加報酬を得ることができる。

「これらの都市だけでなく、我々が米国で対象としている他のすべての市場で、より多くの保証金を提供する予定です。金額や送迎回数は、地域的な要因によって若干変わる可能性があります」と、広報担当者は述べている。

この資金は、最低賃金の保証や、新規ドライバーの導入にも充てられる予定で、2億5000万ドル全額がUberの金庫から直接支払われる。この発表を受け、同社の株価は水曜日の取引中に3.6%も下落した。

Uberはまた、米国の薬局チェーンであるWalgreens(ウォルグリーン)と提携し、アプリ内の予約ポータルで、ドライバーがワクチンを接種するプロセスを能率化するための支援も行っている。

カテゴリー:シェアリングエコノミー
タグ:Uber配車サービス新型コロナウイルスギグワーカー

画像クレジット:Uber

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

医療ICTのアルムが約56億円をシリーズA調達、コロナ禍拡大に対応するソリューション開発・研究開発に投資

医療ICTのアルムが約56億円をシリーズA調達、コロナ禍拡大に対応するソリューション開発・研究開発に投資

医療ICTベンチャーのアルムは4月5日、シリーズAラウンドにおいて、第三者割当増資による総額約56億円の資金調達を完了したと発表した。引受先は、SOMPOホールディングス、三井物産、エーザイ、ロイヤル フィリップス、エヌアイデイ、CYBERDYNE、フィナンシャル・エージェンシー、ミクシィ、キャピタルメディカ、ベクトル、SBIインベストメント、Bonds Investment Group、みずほキャピタル、Asia Africa Investment and Consultingおよび個人株主。

調達した資金は、国内外における事業の拡大と成長に活用する。新型コロナウイルス感染症の感染拡大に対応するためのソリューション開発を含む研究開発投資を積極的に実施することで、医療・ヘルスケア業界のニーズに素早く応え、急速に変革する社会にさらに貢献する。

アルムは、2021年について、東京オリンピック・パラリンピック開催に伴う人の移動の増加により、新型コロナウイルス感染症の拡大が課題となる中で、ワクチン接種の開始をはじめとする「新型コロナウイルス感染症の制御が本格化する年」と捉えているという。

そこで、地域包括ケア推進ソリューション「Team」および救命・健康サポートアプリ「MySOS」を連携させた、自宅・宿泊施設療養者向けモニタリングシステムや、PCR検査の結果がいち早く届くサービスを強化し、より一層の安全・安心の提供や経済活動の両立を目指したソリューションの開発・提供を推進するとしている。

また、医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」のネットワークを活用した治験サポートサービスの強化や、手術映像等を院外へ配信するストリーミングサービスを活用した教育・医療サポートサービスなどの新しい価値創造を加速。Joinのプラットフォーム化を強化し、医療AIサービスとの連携を強め、医療現場の働き方改革に貢献する。

さらに、医療データを活用した新型保険商品の開発など、新たな収益構造を構築するとしている。

Joinは、医療関係者がセキュアな環境でコミュニケーションをとれるアプリ。標準搭載のDICOMビューワーにより医用画像を閲覧、チャットに共有可能。夜間休日などに院外にいる医師へのコンサルテーションツールとしての活用や、救急患者の転院の際の病院間連携・情報共有などに利用できるという。日本で初めて保険収載されたプログラム医療機器(販売名は汎用画像診断装置用プログラム「Join」)。

Teamは、医療・介護サービスをシームレスにつなぎ、地域包括ケアシステムの推進をサポートするソリューション。介護事業所向けアプリ「Kaigo」や看護事業所向けアプリ「Kango」で記録した業務内容などを多職種間で情報共有・連携が可能。

MySOSは、患者自身や家族の健康・医療記録を行い、救急時などのいざという時にスムーズな対応をサポートするアプリ。健康診断結果やMRI・CTなどの医用画像をスマホで確認可能。PHR(Personal Health Record)としても活用でき日々の健康管理に役立てられる。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:アルム(企業)医療(用語)介護(用語)資金調達(用語)新型コロナウイルス(用語)ワクチン(用語)日本(国・地域)

我々を殺すのはAIではなく「何もしないこと」、シリコンバレーは災害やパンデミックといった現実の問題を解決する努力をすべきだ

この1年間、私たちの多くは存亡の危機について考えながら過ごしてきた。非常食セットから核バンカーまで、サバイバル用品の売り上げは増加しており、Twitterで1日中ドゥームスクローリング(ネットで悲観的な情報を読み続けること)をしていると、少なくとも文明崩壊の可能性が話題にならない週はないように感じる。

しかし、テック業界に長くいると、存亡の危機に関する「現実の問題」と「憶測に基づくシナリオ」との間に驚くほどのずれがあることに気づく。

シリコンバレーでは「実は今、偏屈な生物学博士が小さな実験室にこもって、個人あるいは全人類を暗殺できる特別な病原菌を作っているのだ」というようなシナリオが話のネタとしておもしろおかしく話題にのぼっている(ゲノム編集技術の略称「CRISPR」を使って話せば、よりそれっぽく聞こえる)。他にも、コロナガスの噴出や電磁爆弾のようなものが頻繁に発生して、すべての電力供給を停止させる可能性があるというシナリオや、世界中のすべてのCPUが同じコード行に対して脆弱であるという(おそらくMeltdownやSpectreから発想を得た)ある種のハッキングシナリオもよく耳にする。

しかし、ここ1年を振り返ってみると、私たちには、問題を認知する際に偏った思い込みをしてしまう傾向があることに気づく。つまり、憶測にすぎないリスクについては考え過ぎるのに、文明的な生活を脅かしかねないありふれたリスクについてはあまり考えていないのだ。

確かに、先ほどのようなシナリオはおもしろく想像力に富んでいて「仕事は何をしているの?」なんていう話を続けるよりもずっとZoom飲み会を盛り上げてくれる。

しかし、ここ1年を振り返ってみると、私たちには、問題を認知する際に偏った思い込みをしてしまう傾向があることに気づく。つまり、憶測にすぎないリスクについては考え過ぎるのに、文明的な生活を脅かしかねないありふれたリスクについてはあまり考えていないのだ。

新型コロナウイルス感染症は、文字どおり何十年も前から何らかのかたちで予測されてきた、あまりにも明白なパンデミックの例である。しかし「想定済み」だったはずの災害に遭遇した例は他にもある。2021年2月、テキサス州のエネルギー供給網の多くが故障したために数日間にわたって停電し、数百万人の人々が、それまで地元で経験したことのない寒さに耐えなければならなかった。電磁爆弾が落とされたわけではないのに、これだけの被害が生じたのだ。またカリフォルニアの山火事シーズンが拡大し、人命が失われ、大規模な停電や何十億ドル(何千億円)もの損害が発生した。空を象徴的なオレンジ色に染めたのはハリウッドの特殊効果ではない。2021年1月には「ソフトウェアの問題」により東海岸のあちこちでインターネットが使えなくなったし、クリスマス休暇中にはナッシュビルで単独犯による自爆テロのせいで通信施設が破壊され、都市部の通信回線の大部分がダウンした。

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ここで問題の認知にずれが生じる。私たちはすでに文明的な生活を脅かされたことがあるのだ。ただ、これまではその期間や範囲が限定されていた。2月はテキサス州、2020年はカリフォルニア州で大規模な停電が発生したが、全土で停電したことはない。同じく、東海岸とナッシュビルでインターネットが使えなくなったが、時間差があったし、全土で同時にインターネットが使えなくなったことはない。パンデミックが発生し、ウイルスの拡散を抑えるために世界の大部分で学校や店舗を定期的に閉鎖しなければならなくなったが、文明的な生活が消滅してしまったわけではない。人口の10%がNetflix(ネットフリックス)を使えている限り、このパンデミックでさえも大した災害ではないと思えるくらいだ。

汎用人工知能や、AIの能力が人類を超えるというシンギュラリティ(特異点)の概念、火星への避難について話している人たちがいるが、目の前の現実では、何千カ所ものダムに信じられないほど大きな負担がかかっており、これらのダムのいくつかが決壊すれば、今後数年間で何百万人もの人々が命を落とす可能性がある。これは仮定の話ではない。ダムの構造物が耐用年数に達し、次第に崩れやすくなると、ダムは予測に違わず決壊する。

私たちはなぜか、このような身近に迫る深刻な事態をリスクとして認識することを避けるようになってしまった。数年前は極度の非難を受けていたAWSの障害が、今ではZoom会議から私たちを解放してくれるものになった。停電は新たな日常にすぎない。パンデミックについては、私たちすべてが期待している回復を変異ウイルスが脅かし始めているとしても、現段階でわざわざマスクをする意味はないと考える人もいる。ある同僚が私に言ったように、電池式のラジオを買うべきだ。すぐに必要になるだろう。インターネット通信が突然使えなくなる可能性を想定すべきである。

シリコンバレーを起業家精神あふれる場所にしているソリューショニズムは、存亡にかかわる非常に日常的な脅威を解決するという方向に向かうことはないようだ。送電網の故障は防ぐことができる。インターネットは、障害を迂回し、わずか数カ所の中央データセンターや電話局のみを拠点することはないように設計されているはずだ。これにより不正なパッチや妨害者が世界のGDPが低下させることはない。医療システムはアウトブレークを制御することができる。私たちはどんな戦略を取るべきかを知っている。ただその戦略を実行できさえすればいいはずだ。

回復力と計画性には、シリコンバレーが得意とする分析力が役に立つ。それなのに、シリコンバレーにはその回復力と計画性が欠如している。そして、それ以上にいら立たしいのは、このような大惨事にあっても行動をまったく起こさないことだ。この1年でわかったことは、政府も会社も一般市民もすべてが完全に無気力状態にあり、災害が起きた場合の備えを明らかにまったくしていないことだ。

私は、人々を病院に案内したり、データを追跡したり、ワクチンを見つけるように人々を指導したり、初期の慌ただしい時期にマスクを探したりする、新型コロナウイルス感染症から生まれたクラウドソーシングのプロジェクトを非難したいわけではない。このようなプロジェクトは、たとえうまくいかなくても重要であり、豊かで新しい市民生活を象徴している。しかし重要なのは、現場での行動の欠如をキーボードで完全に補えると考えないことだ。テック業界では、あらゆる問題を解決するためにウェブアプリを開発することを好むが、Pythonコードだけで対応できる災害などないに等しい。

テックコミュニティで私が見つけた唯一の例外は、Googleの共同創設者であるSergey Brin(セルゲイ・ブリン)氏だ。彼はGlobal Support and Development(GSD)という災害救援チームとともに世界規模の災害対応能力を築くことに時間とリソースを費やしたようだ。Mark Harris(マーク・ハリス)氏は2020年、この取り組みに関して詳細な記事を書いている

GSDはこの5年間、新型コロナウイルス感染症のパンデミックをはじめ、注目を集めたさまざまな災害が発生した際、ひそかにハイテクシステムを使い、迅速な人道支援を行ってきた。ドローンやスーパーヨットから、巨大な新しい飛行船まで、チームが期待する幅広いハイテクシステムを使えば、支援物資を被災地に簡単に輸送できるようなる。

このような取り組みをもっと増やすべきだ、しかも、今すぐに。

存亡リスクは常にハイテク業界の中心にある。ラジオ放送の「宇宙戦争」、マンハッタン計画から、1960年代のAIや人工頭脳工学、80年代のサイバーパンクや気候パンクなどのあらゆるパンク、そして今日の汎用人工知能やシンギュラリティ(特異点)に至るまで、自分たちが作る技術の進歩が、現代の世界に大きな影響を与える可能性があることを私たちは知っている。

今こそ、現在利用できるツールを使って、クレイジーな憶測に基づく未来ではなく、現在の世界が直面している大混乱と課題に目を向けるときである。私たちの主要な課題のほとんどは、単に解決可能であるだけでなく、時間をかければ事態を大幅に改善できるものである。しかしそのためには、恐怖をあおる憶測に対してばかり危機感を感じるのではなく、ありふれた日常的な問題(でも最終的には確実に私たちを苦しめる予測可能な問題)をリスクとして認知するよう、意識的に努力することが必要だ。

カテゴリー:その他
タグ:コラム自然災害新型コロナウイルスGlobal Support and Development

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

新型コロナで非接触モバイル決済が浸透、米国の小売店頭での使用は2020年の29%増

新型コロナウイルスパンデミックによってテクノロジーのトレンドが強まったが、その中でも2020年は非接触モバイル決済の使用増が顕著だった。分析会社eMarketerの最新レポートによると、米国では店舗でのモバイル決済使用が2020年29%増えた。パンデミックにより人々は店頭におけるより安全な決済方法として、現金やクレジットカードからモバイル決済へと移行したからだ。

14歳以上の米国の消費者9230万人が2020年、近接ベースのモバイル決済を6カ月の間に少なくとも1回は使った。2021年はその人数が1億120万人に増えるとeMarketerは予想している。そしてモバイル決済を使用する消費者は今後も順調に増え、2025年までにスマホユーザーの半分を超えるとしている。

画像クレジット:eMarketer

2020年、モバイル決済はZ世代とミレニアル世代を含む若い消費者の間で最も浸透した。2021年から2025年にかけて、年間新規モバイルウォレットユーザー650万人のうちZ世代は400万人超を占めると予想される。一方、モバイルウォレットユーザー10人のうち4人が引き続きミレニアル世代だと見込まれる。

いくつかの業界レポートがすでにモバイルウォレット産業全般へのパンデミックの影響を指摘した。金融・投資会社Finariaが2021年3月初めに出したレポートでは、モバイルウォレット産業は2021年に前年から24%成長し、2兆4000億ドル(約264兆3684億円)に達すると予想している。アジアマーケット、特に中国がモバイル決済の浸透に貢献してきた一方、米国は小売店舗におけるモバイル決済テクノロジーの展開が遅かったために苦戦していたと指摘した。しかし現在、米国のモバイル決済額は4651億ドル(約51兆2349億円)と世界で2番目の規模に成長し、2023年には6980億ドル(約76兆9115億円)に達する見込みだ。

パンデミックにより、遅れをとっていた小売業者はようやくモバイル決済を導入することになった。全米小売業協会が2020年に発表した中間調査では、小売での非接触決済が69%増え、小売業者の67%がモバイル決済やコンタクトレスカードなど何かしら非接触の決済を受け入れていることが明らかになった。

画像クレジット:eMarketer

業界の変化の結果として、モバイルウォレット使用が増えただけでなく、ユーザー1人あたりの平均年間使用額も増えているとeMarketerは指摘する。2020年に1973.70ドル(約21万7400円)だったのが2021年には23.6%増の2439.68ドル(約26万8800円)に成長し、2023年までに3000ドル(約33万500円)を超えると予想する。

米国では引き続きApple Payが最も使用されているモバイル決済で、2021年のユーザー数は4390万人だ。そして2020年から2025年にかけて1440万人増えると予想されている。StarbucksがApple Payに続き、ユーザー数は3120万人だ。そして同期間にユーザー1020万人を獲得すると見込まれるGoogle Payが続く。一方、Samsung Payのユーザー数は伸び悩んでいて同期間に200万人しか増えないと予想されている。

画像クレジット:eMarketer

カテゴリー:フィンテック
タグ:新型コロナウイルスモバイル決済アメリカApple PayGoogle PaySamsung PayeMarketer

画像クレジット:Apple

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nariko Mizoguchi

バイオテック関連スタートアップのY Combinatorが次世代の治療法とツールを開発中

先に開催されたY Combinator(Yコンビネータ)のデモデイでは医療分野とバイオテック分野が登場し、その中で10社近くの企業が筆者の目を引いた。最近のスタートアップはこの分野で特筆すべき実績をあげているため、来年のトップニュースでいくつかの企業について報道されても不思議ではない。

スタートアップが大手製薬会社に挑む

Atom Bioworks(アトム・バイオワークス)は、とても短いスケジュールで非常に大きな可能性を見せている企業の1つである。筆者がデモデイに登場した注目企業に関する2番目の記事で書いたように、同社はDNAのプログラミングが可能な解析装置の実現にかなり近づいているようだ。これは、生化学における究極の目標の1つでもある。このようなツールによって分子を実質的に「コード化」して特定の物質や細胞型に密着させることで、さまざまなフォローアップが可能となる。

一例として、あるDNA解析装置は、新型コロナウイルス感染症のウイルスに取りついて感染を示す化学信号を出してから、ウイルスを除去できる。がん細胞やバクテリアにも同じ原理を適用できるというわけだ。

アトムの創業者は、その技術の詳細をNature Chemistry(ネイチャーケミストリー)誌で発表している。新型コロナウイルス感染症の検査に加え、コロナウイルスやその他の疾患に対する治療法にも取り組み、同社では今のところ9桁台の売上を見込んでいるという。

LiliumX(リリアムX)も、このような方向性を持つ企業の1つである。リリアムXは、プレハブ式のDNA解析装置のような「二重特異的抗体」を目指している。ヒトの抗体は学習できるため、さまざまな病原体や老廃物、体内で不要な物を標的にできる。カスタマイズした抗体を注射すると、がん細胞にも同様のことが可能だ。

関連記事:Serimmuneが新型コロナ向けに新しい免疫反応マッピングサービスを開始

リリアムXは、効果がありそうな抗体の構造を生成するのに、アルゴリズム的アプローチを採用している。これはAIに精通したバイオテック企業が採用する手法と同じだ。同社では、ロボットによる試験装置を使って抗体を間引きながら試験管で結果を出すことで、有望な候補を選び出している。見込み客を獲得するというのは困難だが、このような活動で同社の価値はさらに高まっている。

Entelexo(エンテレクソ)はその先を行っており、自己免疫疾患の治療に活用できるエクソソームという有望な治療法の開発に取り組んでいる。この小さな小胞(細胞間でやり取りするパッケージのようなもの)は、あらゆる種類の物質(他の細胞の挙動を変えられるカスタマイズされたmRNAなど)を運ぶことができる。

細胞の挙動を系統的に変更することにより、多発性硬化症のような疾患を軽減できる可能性があるが、その厳密なメカニズムに関する詳しい説明を同社は発表していない。簡潔に説明できるような内容ではないだろう。同社はすでに動物実験に入っている。スタートアップとしては驚くべきことだ。

さらに進んでいる企業をあえてもう1社挙げるとすれば、Nuntius Therapeutics(ヌンティウス・セラピューティクス)だ。同社は細胞特異的(骨格筋や腎細胞など)なDNA、RNA、CRISPRに基づく治療を提供する方法に取り組んでいるが、こうした最先端の治療には課題がある。このような治療法で標的とする細胞型と接触できれば的確に処理できるが、その細胞に治療薬が到達するかどうかは確実ではない。住所を知らない救急車の運転手のように、治療薬が目標とする細胞を見つけられなければ効果を発揮することはない。

関連記事:「遺伝子編集技術CRISPRは新型コロナ治療に欠かせない」とUCバークレー校ダウドナ教授は語る

ヌンティウスは、多岐にわたる標的細胞に対して遺伝子治療のペイロードを届ける確実な方法を考案したと主張している。だとすれば、Moderna(モデルナ)のような大手製薬会社が開発した技術を上回る。同社は独自に薬の開発とライセンス供与も行っているため、この技術をヒトにも活用できれば、ある意味で遺伝子治療の包括的なソリューションを提供できる。

同社は治療薬だけでなく、人工臓器の分野でも成長を遂げている。生体適合性材料を使用しても拒絶反応のリスクがともなう場合があるため、人工臓器は実験段階にとどまっている状態だ。Trestle Biotherapeutics(トレッスル・バイオセラピューティック)は腎不全という特定の疾患に取り組んでおり、実験室で培養された移植可能な腎組織を使用して、腎不全の患者が透析を回避できるように支援している。

腎置換療法を開発することが最終的な計画ではあるが、腎不全の患者にとっての1週間や1カ月という時間はとても貴重である。透析を受けていれば、ドナーが見つかる可能性や待機リストの順位が繰り上がる可能性は高くなるが、誰も好んで定期的に透析に行っているわけではない。透析しなくてもよくなるのであれば、非常に多くの患者は喜ぶだろう。

幹細胞科学と組織工学に関する豊富な経験を持つチームから、今回のYale(エール大学)とHarvard(ハーバード大学)の協力関係が生まれた。共同で実施されたヒト組織の3Dプリントも、間違いなくこのアプローチの一環である。

治療以外の取り組み

YCバッチでは、さまざまな疾患に対処するための技術だけでなく、そのような疾患や技術を研究して理解するプロセスの改善にも、かなりの力を注いだ。

多くの業界では、Google Docs(グーグル・ドックス)のようなクラウドベースのドキュメントプラットフォームを利用して、共有やコラボレーションを進めている。コピーライターや営業担当者の場合は、おそらく標準のオフィススイートで十分である。だが、科学者には専門分野で固有の文書やフォーマットを使用する必要があるため、このようなツールが使えるとは限らない。

Curvenote(カーブノート)は、そのような分野に従事するユーザーのために構築された、共有ドキュメントプラットフォームである。Jupyter(ジュピター)、SaturnCloud(サターン・クラウド)、Sagemaker(セージメーカー)と連携し、さまざまな読み込み・書き出しオプションに対応している。さらに、Plotly(プロットリー)のような可視化できるプラグインを統合し、Gitでバージョンを管理している。あとは自分の部署の責任者に、お金を払う価値があることを納得だけだ。

画像クレジット:Curvenote

Pipe | bio(パイプ|ビオ)にアクセスすると、専門分野にさらに特化したクラウドツールを入手可能だ。パイプ|ビオはリリアムXと同じように、抗体薬物を開発するためのバイオインフォマティクスに取り組んでいる。バイオテック企業のコンピューティングおよびデータベースのニーズは非常に特殊であることに加え、すべての企業にバイオインフォマティクスの専門家が揃っているわけではないため、ここで詳しく説明するのは難しい。

データサイエンスが専門の大学院生に研究室で夜勤してもらう代わりに、お金を払うだけで使えるツールがあるというのは望ましいことだ(会社名に特殊文字を使わないのも望ましいのだが、これは実現しないだろう)。

専門分野に特化したツールはPCだけでなく作業台でも使用できる。これから紹介する企業はしっかりと現状を見据えている。

Forcyte(フォーサイト)もまた、デモデイで登場したお気に入り企業のニュースで紹介した企業の1つだ。この企業では、化学や分子生物学というより、細胞で発生する実際の物理現象を扱っている。この現象は体系的に観察するのが困難だが、重要な分野と言えるさまざまな理由がある。

同社では、非常に細かくパターン化された表面で細胞を個別に観察し、収縮やその他の形状変化を特に注視している。細胞の物理的な収縮や弛緩は、いくつかの主要な疾患とその治療における重要な要素であるため、その変化を観察・追跡できれば、研究者が有用な情報を入手できる。

フォーサイトはこうした細胞の特性に作用する薬剤の実験を大規模に実施できる企業として自社を位置づけており、すでに肺線維症に有効な化合物を発見したと主張している。同社のチームはNature(ネイチャー)誌に掲載され、NIHから250万ドル(約2億7500万円)のSBIR賞を受賞した。これは非常に珍しいことだ。

画像クレジット:Kilobaser

Kilobaser(キロベイサー)は、成長を続けるDNA合成の分野に参入することを目指している。企業は多くの場合、DNA合成に特化した研究所と契約してカスタムのDNA分子群を作成するが、作成する量が少ない場合は社内で作業したほうが効率が良い。

技術的な知識がない従業員でも、キロベイサーの卓上型マシンをコピー機のように簡単に使うことができる。アルゴン、試薬供給、ミクロ流体チップ(同社がもちろん販売している)があれば、デジタル形式で送信したDNAを2時間以内に複製できる。これにより、別の施設に依頼することで制約があった小規模ラボでの検査スピードを速めることができる。同社はすでに、1台につき15000ユーロ(約194万円)のマシンを15台販売したが、かみそりの替え刃にコストがかかるように、実際のコストは材料などを補充する際に発生する。

画像クレジット:Reshape Biotech

Reshape Biotech(リシェイプ・バイオテック)の取り組みは、おそらく最もわかりやすいと言えるだろう。研究室での一般的な作業を自動化するために、それぞれの作業に合わせたロボットを作成するというアプローチだけに特化している。口でいうほど簡単でないことは明らかだが、レイアウトと設備が類似している研究室が多いことを考えると、カスタムのロボットサンプラーや高圧滅菌器が多くの研究室で採用される可能性がある。定時制の大学院生を雇う必要がなくなるわけだ。

バイオテック分野と医療分野で注目すべき企業は他にもある。すべての企業を1つずつ紹介できるスペースが紙面にはないが、ハードルが高いために参入しにくかった分野でも、技術やソフトウェアの進歩により、スタートアップが参入しやすくなっているということを最後に付け加えておこう。

カテゴリー:バイオテック
タグ:Y Combinator新型コロナウイルス

画像クレジット:Peter Dazeley / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

リモートワークの普及により職場ですでに疎外されていた人たちはさらに居づらくなったというレポート

2020年は誰にとっても簡単な年ではなかったが、Project Includeの新しいレポートによると、リモートワークへの移行は一部のグループに対し他のグループよりも悪影響を及ぼした。当然のことながら、それはすでにハラスメントや偏見に苦しんでいた人々で、特に有色人種の女性やLGBTQと認識している人々が、そうした振る舞いに大きな影響を受けた。

このレポートは、約2800人への調査と、多くの国や業界の技術者や対象分野の専門家へのインタビューに基づいている。良いニュースはあまりないが、そもそもあると期待すべきだろうか。悲しいことに、2020年に発生した前例のない複数の災いが合わさって、労働条件の点で別のより静かな災いが発生している。

在宅勤務は人々の対話の方法を変えた。その結果、特に性別および人種に基づくハラスメントが大幅に増加した。調査対象者の4分の1以上が、嫌がらせと職場での敵意が増加したと答えている。増加したと答えた人のうち、98%は女性またはノンバイナリーであり、99%は非白人だった。

トランスジェンダーの人々は、すべての黒人の回答者、特に女性とノンバイナリーの人々がそうであるように、ハラスメントと敵意をより多く経験していた。アジア系、ラテン系、およびマルチレイシャルの回答者も同様に多かった。

画像クレジット:Project Include

リモートでの生産性とコミュニケーションへの切り替えにより、ハラスメントは避けがたいものになっているようだ。チャット、電子メール、ビデオ通話による1対1のコミュニケーションへの依存度の高まりにより、ハラスメントをする人と直接働くことが避けられず、それを報告するのが難しくなっている。「回答者は、ハラスメントをする個々の人間がオンラインスペースを越えて彼らを追いかけてくると述べた」とレポートは付け加える。

メンタルヘルスに何らかの症状がある人、特にPTSD(心的外傷後ストレス障害)のある人は、そうでない人に比べてハラスメントを2倍多く経験する傾向がある。

期待とツールの変化は、不安の大幅な増加とワークライフバランスの低下を意味する。回答者のほぼ3分の2は、より長時間働くことが期待されていると回答し、半数以上は公式の労働時間外にもオンラインにとどまるようプレッシャーを感じている(または明らかに期待されている)と述べた。調査によると、10%はマネージャーが毎日チェックしていると述べ、5%が1日に2回以上チェックしていると報告した。キーストロークや画面監視などの監視ソフトウェアについて不満を述べる人もいる。

障害のある労働者は、企業がアクセシビリティ機能が不十分な生産性ツールやコラボレーションツールをよく選択することに気づいている。例えば自動キャプションなしのズームコールでは、読唇術が必要となる。

ほとんどの人が、苦情の適切な処理や公正な対応という点で人事部門や会社全体を信頼していなかったため、ハラスメントについて報告しなかったと述べた。ハラスメントを行っているのは人事部の人であるという回答もあった。こうした問題に適切に対応するという点で自社を信頼している回答したのは半数未満だった。約3分の1は、会社が適切に対応するとは思っていないと述べた。ほぼ同数が、職場には、発生する可能性のある問題に介入したり解決したりするためのツールすらないと述べた。

こうした統計がこのレポートで手に入る。このレポートでは、他の多くの問題や行動について詳しく説明し、企業がステップアップするためにできることついて多くの提案をしている。もちろん、あなたの会社が今まで行動を起こさなかったのなら、それはまさにそこにある問題だ。だが一般的には、実際に従業員に耳を傾け、リーダーシップに責任を持ち、ノーミーティングデーや寛大な休暇ポリシーなど、目に見えるインパクトを与える行動を取ることが解決になる。

何より、単純に物事が「通常に戻る」と期待しないで欲しい。Vaya ConsultingのCEOであるNicole Sanchez(ニコル・サンチェス)氏は、レポートで引用されているように、そのことについて適切に語っている。

ほとんどの企業は、選択制であっても、人々を物理的に元に戻す準備ができていません。エグゼクティブレベルの人々は、自分たちが実際に扱っているのが現在進行形の多数のトラウマであると知ってショックを受けるでしょう。以前のやり方に戻ろうとする多くの企業は「なぜ1つ1つのピースがもう合わなくなってしまったのか」と疑問に思うでしょう。私たちの意見が一致する答えは次のとおりです。そうしたピースがお互いにしっかりと合うことはもはやありません。合うのは自分自身にとってだけです。今、あなたはすべての継ぎ目と脆弱性を目にしています。したがって、会社を再構築しなければなりません。

レポートの作成者には、Project IncludeのEllen Pao(エレン・パオ)氏、Shoshin InsightsのYang Hong(ヤン・ホン)氏、およびConvocation Design + ResearchのCaroline Sinders(キャロライン・シンダーズ)氏が含まれる。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:ハラスメント新型コロナウイルスリモートワーク

画像クレジット:Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi

Facebookが取り締まりを拡大、ルール違反のグループとそのメンバーに対する罰則を強化

Facebook(フェイスブック)は米国時間3月17日朝、ルールに違反するFacebookグループとそのメンバーに対する罰則の強化や、グループの有害なコンテンツの可視性を減らすための変更を行うことを発表した。同社は今後、米国外の市場における市民団体や政治団体を推奨から除外し、規則に違反し続ける団体やメンバーのリーチをさらに制限すると述べている。

同社はこれまでにも有害で偏向した、あるいは危険なコンテンツを作成し共有するグループに対する取り締まりを継続的に行ってきたものの、遅々として進まず、さほど効果がないものが多くあった。

先の米国の選挙に先立ち、Facebookは、コミュニティ規定に違反したユーザーやFacebookグループを通じて偽情報を拡散したユーザーに罰則を科すことを目的とする一連の新しいルールを導入した。これらのルールは、グループ自体に大きな責任を割り当て、ルールを破った個人を罰するものとなっている。Facebookはまた、新型コロナウイルス感染症に関する情報を含む健康情報の公式情報源にユーザーを誘導するために行っていた医療団体への推奨も停止した。

2021年1月、Facebookは潜在的に危険なグループに対してさらに重要な措置を講じている。2021年1月6日の米連邦議会での暴動を受け、米国内の市民団体、政治団体、新たに創設された団体を推奨から除外することを発表した。同社は以前にも、米国の選挙を前にしてこれらの団体を一時的に制限していた

関連記事:Facebookが大統領選直前にアルゴリズムによる一部の政治・社会問題グループ推奨を一時中止

このポリシーが恒久化したときにWSJの記事が伝えているように、Facebookの内部調査により、米国のFacebookグループはユーザーを両極化させ、選挙後に広がる暴力の声を煽っていることが明らかになった。米国で最も活動的な市民向けFacebookグループトップ100のうち約70%に、ヘイト、誤情報、いじめ、嫌がらせの問題があり、これらは推奨されるべきではないと研究者たちが指摘しており、2021年1月の取り締まりにつながったとみられる。

そして3月17日、同じポリシーが米国のFacebookユーザーだけでなく、グローバルユーザーにも適用されることになった。

すなわち、世界中のユーザーがFacebookを閲覧する際にも、ヘルス関連グループに加えて市民団体や政治団体が「おすすめ」に表示されなくなるということだ。しかし、おすすめ機能はユーザーがFacebookグループを見つける多くの方法のうちの1つにすぎないことに注意して欲しい。ユーザーは、検索、ユーザーが投稿したリンク、招待状、友人のプライベートメッセージなどからそれらを見つけることができるのだ。

Facebookはさらに、グループでFacebookルールへの違反が発生した場合、おすすめでの表示頻度を減らすことを表明している。これはFacebookがニュースフィードのコンテンツの表示を減らすためによく使う、ランクダウンのペナルティだ。

また、規則に違反したグループやその個々のメンバーに対する罰則を、さまざまな強制措置を通じて強化する。

画像クレジット:Facebook

例えばFacebookのコミュニティ規定に違反したことのあるグループに参加しようとすると、警告メッセージ(上図参照)によってそのグループの違反が警告されるため、ユーザーは参加を再考することになるかもしれない。

ルールに違反するグループは招待通知を制限され、現在のメンバーはグループのコンテンツをニュースフィードで見ることが少なくなり、コンテンツはさらに下に表示される。これらのグループはFacebookのおすすめでも降格される。

あるグループがFacebookのポリシーに違反したメンバーや、Facebookコミュニティ規定に違反したために閉鎖された他のグループに参加したメンバーを大量に受け入れた場合、そのグループ自体に、すべてのメンバーの新しい投稿を一時的に承認する必要が生じる。そして、管理者やモデレーターが規則に違反するコンテンツを繰り返し承認する場合、Facebookがグループ全体を削除する。

このルールの目的は、禁止された後にグループが再結成し、不正行為が繰り返されることを防ぐためのものだ。

本日発表された最後の変更は、グループメンバーに適用される。

Facebookグループ内で何度も違反行為を繰り返した人は、一時的にグループ内での投稿やコメントを停止され、他の人をグループに招待することも、新しいグループを作ることもできなくなる。Facebookによると、この措置は悪者のリーチを減らすことを目的としている。

新しいポリシーは、最終的な閉鎖につながったグループの悪い行動をより透明に記録する方法をFacebookに与えるものだ。この一種の「ペーパートレイル」は、Facebookが強制措置を講じた際に生じることのある偏見の告発をかわすのにも役立つ。ソーシャルネットワークは保守派に対して偏見を持っていると信じている右派のFacebook批判者たちによってしばしば提起される非難だ。

しかし、これらのポリシーの問題は、最終的にはFacebookのルールを破った人たちを容赦なく叩くことにつながることだ。今日のユーザーたちが冗談まじりに「Facebookの牢獄」と呼んでいるものとそれほど変わらない。個人やFacebookページがFacebookのコミュニティ基準に違反すると、一時的にサイト上でのやり取りや特定の機能の使用が禁止される。Facebookは今まさに、Facebookグループとそのメンバーのために、修正を加えてこの公式を再現しようとしているのだ。

他にも問題がある。1つには、これらのルールはFacebookに依存しており、それがどの程度効果的かは不明な点だ。もう1つは、グループを見つける際の重要な手段である検索を無視しているという点だ。Facebookは、質の低いグループの検索結果の表示順を下げることで解決すると主張しているが、その取り組みの結果は明らかに混沌としている。

Facebookは2020年秋の誤情報取り締まりで、プラットフォーム全体でのQAnonコンテンツの禁止について抜本的な声明を出しているが、QAnonに関連するコンテンツ(QAnonという名前ではないが、QAnon風の「愛国者」や陰謀に迎合するグループなど)を検索することは依然として可能だ。

関連記事:Facebookは全プラットフォームで米国の陰謀論グループQAnonを締め出しへ

似たようなケースでは「antivax(反ワクチン)」や「covid hoax(コロナウイルスのデマ)」などの用語を検索すると「一般的な反ワクチン派」ではなく「RNAのみ反対派」と自称するグループの他「ワクチンに反対する親たち」というグループや「ワクチンを嫌う人たち」のグループで「『真』のワクチン情報」を広めるていると提唱するグループなど、問題のあるグループに誘導される(Facebookが発表する前の3月16日、我々はこの件を確認している)。

明らかに、これらは公式の医療情報源ではなく、Facebookのポリシーに基づいて推奨されるものでもないが、Facebookの検索で簡単に見つけることができる。しかし同社は、新型コロナウイルスやワクチンに関する誤った情報に対してより強力対策講じている。同社によると、虚偽の申し立てを繰り返し共有していたページ、グループ、アカウントを削除し、それ以外の場合はランクを下げるという。

念のために言っておくと、Facebookはコンテンツへのアクセスをブロックする強力な技術的手段を完全に備えている。

例えば同社は米国の選挙後の「stop the steal(選挙泥棒を止めろ)」などの陰謀を禁止した。そして今でも「stop the steal」というキーワードでグループを検索すると、検索結果が見つからなかったことを示す空白のページが返ってくる。

Facebookは「stop the steal(選挙泥棒を止めろ)」を完全にブロック

では「QAnon」のような禁止されているトピックがなぜ検索結果に出てくるのか。

なぜ「covid hoax」なら出てくるのだろう。(以下参照)

Facebookグループにおける「covid hoax」の検索結果

Facebookが、問題のある検索語のリストを拡大し、他の種類の有害なコンテンツについて空白のページを返そうと思えば、それは可能なのだ。実際、偽の情報を拡散することが分かっているURLのブロックリストを維持したいのであれば、それも可能だ。これにより、ユーザーはそれらのリンクを含む投稿を再共有できなくなる。これらの投稿をデフォルトで非公開にすることもできる他、規則に繰り返し違反したユーザーや、規則の一部に違反したユーザーには、投稿を公開できなくなったユーザーとしてフラグを付けることもできるのである。

言い換えれば、Facebookがプラットフォーム上で拡散される偽情報、悪影響、偏向などの有害なコンテンツに本当に大きな影響を与えたいのであれば、非常に多くのことができるのだ。にもかかわらず、一時的な刑罰や、今日発表されたような「繰り返される」違反のみを目的とした刑罰を淡々と進めている。おそらく以前よりも罰則が強化されてはいるが、十分とは言えないのではないだろうか。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Facebook米国大統領選挙QAnon新型コロナウイルスワクチン

画像クレジット:TechCrunch

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(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

Facebookがワクチン接種呼びかけに使えるプロフィールフレームを立ち上げ

米国の多くの人が新型コロナウイルスのワクチンをただちに接種できるようになり、Facebook(フェイスブック)は米保健福祉省(HHS)、疾病管理予防センター(CDC)とタイアップして新たなFacebookプロフィールフレームが用意された。ユーザーが家族や友人とワクチン接種支持を共有することができるものだ。この取り組みは、英国で国民保健サービス(NHS)との提携を通じて実施されたものと似ている。英国ではこの取り組みの結果、すでに英国Facebookユーザーの4分の1がワクチン支持のプロフィールフレームを使っている。

立ち上げにあたって米国のユーザーは、英語あるいはスペイン語で書かれている「ワクチンを接種しよう」「私は新型コロナのワクチンを接種しました」のいずれかのバナーを含むフレームから選ぶことができる。バナーはプロフィール写真の端、そして「私たちにはこれができる」と書かれた青い円の横にくる。

Facebook上ではすでにワクチンを推進するさまざまな種類のプロフィールフレームがあるが、それらはすべてサードパーティのものだった。新しいフレームはフェイスブックが制作していて、同社は使用状況をしっかり追跡できる。

今後数週間内に、ユーザーがフォローしている家族や友人で新しい新型コロナプロフィールフレームを使っている人全員をニュースフィードでまとめて表示するようになる、とFacebookは話す。この理由は、もしあなたが他人のフィードに表示されるリストに入りたければ、Facebook製のフレームを受け入れることが重要だからだ。

Facebookは、社会通念がいかに人々の健康に関する態度や行動に大きな影響をもたらすかが研究で示されているため、フレームを立ち上げると指摘した。Facebookが誤情報反ワクチン感情の拡散になるとネットワークのパワーを軽視しようとすることを考えると、これは注目すべき指摘だ。

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今回の取り組みではFacebookは、知り合い、あるいは信用している人がワクチンを接種することを知ると、同様に自身も接種しようと促される、と信じていて研究もその考えを支持している。そうでもなければワクチン接種を迷っていた人たちに接種を促すとき、これは特に効果的だろう。

ワクチン接種を促進するのにソーシャルメディアを活用するというのは、CDCのツールキットの一部でもあった。だからこそヘルスケアワーカーやエッセンシャルワーカーが自身のワクチン接種の写真や体験談を披露するのを目にしてきた。CDCはまた、FacebookやTwitter、LinkedInでワクチン接種を促進したい組織が使えるソーシャルメディア用のグラフィックスとメッセージのサンプルセットを提供した。

新しいプロフィールフレームは米国のFacebookユーザーに米国時間4月1日から提供されている。

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タグ:Facebookワクチン新型コロナウイルスアメリカ保健福祉省疾病管理予防センター

画像クレジット:Facebook

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nariko Mizoguchi

味の素が一般アスリート・部活生向け自動献立提案AIアプリ「勝ち飯AI」β版を開発、限定ユーザーテスト開始

味の素が一般アスリート・部活生向け自動献立提案AIアプリ「勝ち飯AI」β版を開発、限定ユーザーテスト開始

味の素は3月31日、アスリート向け献立提案AIアプリ「ビクトリープロジェクト管理栄養士監修 勝ち飯AI」β版を開発し、ユーザーテストを開始した。限定ユーザーテストを通してコンセプトの受容性を確認するとともに、同社では今後さらに多様な領域において生活者への価値を創出・提案する予定。

勝ち飯AIは、同社がトップアスリート向けに培ってきた栄養計算や高度なサポートの知見を、一般のアスリートにも広く提供することをコンセプトとして開発した、自動献立提案アプリ。アスリートの厳しい栄養基準を満たしつつ好きなメニューを献立に組み込むなど、食事を楽しみ、親子のコミュニケーションなどを促しながら選手の目標に向けてサポートを行う。

同アプリは、献立やレシピに関する独自テクノロジーを基盤に、栄養面でトップアスリートへの食サポート活動を実施している同社「ビクトリープロジェクト」管理栄養士監修の下、開発。ビクトリープロジェクトのサポート現場で使用される栄養計算基準をアルゴリズム化し、ユーザーがアプリ上で必要な情報を入力するとAIが栄養基準を満たす献立を提案する。

また、必要栄養価を充たす献立を提案するためのメニューデータベースには、同社運営のレシピサイト「AJINOMOTO PARK」のデータを活用。各メニューに対し、栄養情報に加えて、ジャンル・季節・調理時間など様々な情報を紐づけており、AIがユーザーに適した献立を提案するという。

具体的な使用方法として、「選手」と、食で選手をサポートする「調理する人」とがアカウント連携することで利用できるという。

「選手」は、性別・体重・体脂肪率などの基礎情報に加え、種目(瞬発系、持久系、球技系、その他)や目標(体重を減らす、体重を増やす、現状維持)を選択し登録。日々の体組成をアプリに登録し、食事記録の際に味や食べた量を5段階で評価することでどのくらいの栄養価を摂取したかが分かるとともに、AIがユーザーの好みの味や量を学習し、使えば使うほど選手に最適化された献立が提案されるようになる。

「調理する人」は、選手の目標や体組成に応じてAIが提案する献立(10日分、毎食3パターン)から調理するメニューを選ぶことが可能。その際、あらかじめ選手が食べられない食材を登録したり、選手からのリクエストメニューを表示することもできる。

味の素は2018年、「食から未来を楽しく」というミッションの下、「生活者にとってのさまざまな価値」を実現することをすべての起点とし、新たな事業を生み出す部署として生活者解析・事業創造部を創設。研究機関やパートナーとの連携、AIなどのテクノロジーやデータの活用、サービスの開発と運用、生活者やパートナーからのフィードバックを通して世の中全体で多様な生活者価値を生み出し、新たな食の楽しい未来を作り上げたいという。

同アプリ開発にあたり生活者にヒアリングやリサーチを実施した結果、食事によるパフォーマンス向上への関心が高い「一般アスリート・部活生」に、トップアスリートと同様の食サポートプログラムを提供するサービスのニーズが高いことが判明。さらに、中高部活生を子に持つ親にインタビューを行ったところ、親としても食事面からサポートすべく講習会などに参加するものの、自分の子供に置き換えた場合栄養計算や献立の組み立てなどが結局分からないといった声があったという。

また、コロナ禍において活動休止・縮小となっている部活動も多く、「これまでの『たくさん動いて、たくさん食べよう』といった指導ができなくなっている」といった声も指導者から多く聞かれたそうだ。思うように練習ができない時にどのような食事でカラダ作りをするべきかなど、食事の内容に対する関心度の高まりを感じ、アスリート・部活生や食サポートをする方々の悩みを同社の知見を活かし解決することをアプリの目標として位置付けているという。

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カテゴリー:フードテック
タグ:味の素(企業・製品)アプリ / モバイルアプリ(用語)AI / 人工知能(用語)食品(用語)新型コロナウイルス(用語)スポーツ(用語)料理 / クッキング(用語)レシピ(用語)日本(国・地域)

アップルが「マップ」に世界300超の空港における新型コロナ指針を表示

Apple(アップル)は純正の地図アプリ「Map」をアップデートし、新型コロナウイルス(COVID-19)の拡散を緩和しつつ旅行をアシストするための有用な情報を盛り込んだ。現在、iPhone、iPad、Macの「Map」アプリで空港を検索すると、空港の新型コロナウイルスアドバイスページへのリンクを通じて、あるいはアプリ内ロケーションカードそのものに、空港で実施されている新型コロナウイルス対策に関する情報が表示される。

この新しい情報は国際空港評議会との提携を通じて提供され、世界300超の空港で適用されている新型コロナ安全ガイドラインの詳細を提供している。情報には、新型コロナの検査、マスクの使用、スクリーニング手順、および現在実施されている検疫措置に関するものが含まれている。グローバルパンデミックが続く中、そしてワクチン接種プログラムや他の対策がグローバルの旅行の回復を促進しようとしている中で、旅行のプロセスを簡単なものにしようというのが狙いだ。

2021年3月初め、Appleは米国でアップルマップにワクチン接種会場の情報を追加した。テキストやSiri、あるいは位置情報に基づく「Find nearby」で会場を検索できる。また2020年は世界各地のマップに新型コロナの検査場所を追加し、新型コロナ情報モジュールをカードに加えている。

関連記事:Appleの「マップ」が新型コロナワクチン接種場所を表示、まずは米国で

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:AppleAppleマップ新型コロナウイルス

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Nariko Mizoguchi

米国初の新型コロナワクチン接種デジタル証明をニューヨーク州が運用開始、IBMがブロックチェーン活用で協力

米国初の新型コロナワクチン接種デジタルパスをニューヨーク州が運用開始、IBMがブロックチェーン活用で協力

New York State

米ニューヨーク州は3月26日(現地時間)、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種あるいは、陰性であることを証明するデジタルパスポート「Excelsior Pass」の運用を開始しました。Android、iOSアプリで提供されており、読み取り側も同じくスマートフォンで対応します。同種のデジタル証明書の運用は、米国では初だとしています。

新型コロナのワクチン接種が開始されている国々では、ワクチンを接種したことや陰性であることを証明することで、徐々に経済活動を再開する動きが始まっており、そのための証明アプリの開発も盛んです。ただ、怪しげなアプリを規制する意味でも、Appleは、証明アプリについては信頼できる機関からのみ申請を受け付けています。

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その点、Excelsior Passはニューヨーク州の公式ということで、信頼性が高いもの。開発にはIBMが協力しています。医療情報を含む個人情報はブロックチェーンや暗号化により保護されており、開発元のIBMはもちろん、それを読み取って利用する企業側でも把握できないとしています。また、利用時には、QRコードとともに名前と生年月日の分かる写真付きの身分証明書の提示が必要とのことです。なお、QRコードをスマートフォンで表示するのではなく、紙に印刷したQRコードを提示することでも利用出来ます。

ニューヨーク州ではExcelsior Passを利用することで、スタジアムやアリーナ、結婚披露宴などのイベントへの参加が可能になるとのこと。マディソンスクエアガーデンやダイムズユニオンセンターなどの主要な施設では今後数週間でExcelsior Passに対応するとしています。

ただし、Excelsior Passの利用は強制ではなく、個人あるいは企業側も任意です。利用しない場合には、従来通りに紙の証明書を利用できるとのことですが、今後、事実上必須になっていく可能性はありそうです。

(Source:New York State、Via:USA TodayEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:IBM(企業)IBM Digital Health Pass(用語)新型コロナウイルス(用語)ブロックチェーン(用語)ワクチン(用語)ニューヨーク(国・地域)

ソーシャルメディアCEO3人が米下院公聴会で反ワクチン誤情報アカウントを削除するか聞かれ言葉を濁す

米国12州の検事総長からなる連合は米国時間3月24日、Facebook(フェイスブック)とTwitter(ツイッター)に対し、両社のプラットフォーム上での新型コロナワクチンに関する誤情報の拡散を減らすため、コミュニティガイドラインの施行を強化するよう求めた。検事総長らは今回の書簡の中で、Facebookと同社の傘下にあるInstagram(インスタグラム)、そしてTwitter上で公開されている反ワクチン情報の65%を占める12の「反ワクチン派」アカウントを特定している。25日に行われた偽情報と過激主義に関する下院公聴会では、TwitterとFacebookのCEO、そしてGoogle(グーグル)のCEOであるSundar Pichai(サンダー・ピチャイ)氏が、これら12のアカウントを削除する意思があるかどうかを直接問われた。

関連記事:ザッカーバーグ氏、ピチャイ氏、ドーシー氏が下院公聴会で情報操作と過激主義について証言

彼らの答えはまちまちだったが、パンデミックを終息させるために予防接種を受けるか否かという米国人の意思決定に大きな影響を与えかねない、ほんのひと握りの意図的誤報のソースを排除するというシンプルな行動を、ソーシャルメディアの経営者たちは取る意思がないことを示していた。

公聴会の中で、ペンシルベニア州選出のMike Doyle(マイク・ドイル)下院議員(民主党)は、55万人近くの米国人が新型コロナウイルスによって命を落としていること、また、独立した調査によると、米国を含む5カ国のFacebookユーザーが新型コロナウイルスの偽情報に38億回さらされていることを指摘した。現在、米国政府はこの致命的なウイルスの蔓延を抑えるためにワクチン接種を急ピッチで進めているが、ソーシャルメディアサイトが人々にワクチン接種を躊躇させるようなコンテンツを宣伝・推奨し続けていることにも続けて対処しなければならない。

「私のスタッフは、YouTube(ユーチューブ)でワクチンを打たないように伝えるコンテンツを見つけ、そのあと似たような動画を勧められました。Instagramでも同じことがいえます。ワクチンに関する偽情報を簡単に見つけられるだけでなく、プラットフォームが似たような投稿を推奨していました」とドイル氏は述べた。「Facebookでも同じことが起こりましたが、そこではさらに反ワクチングループも推奨されていました。ツイッターも同様でした」。

ドイル氏はCEOたちにこう語りかけた。「あなた方は、こうしたコンテンツを削除することができます。(偽情報の)ビジョンを減らすことができます。あなた方はこの問題を解決できるのに、そうしないことを選んでいるのです」。

同氏はその後、検事総長らが書簡の中で偽情報の「super-spreaders(スーパー・スプレッダー)」と呼んだ12のアカウントを削除する意思があるかどうか、CEOたちに直接尋ねた。

連合からの書簡には、FacebookとTwitterの両社が、利用規約に繰り返し違反している12人の著名なワクチン反対派ユーザーのアカウントをまだ削除していないと書かれている。これらのユーザーのアカウント、関連する組織、グループ、そしてウェブサイトは、2021年3月10日の時点で、Facebook、Twitter、Instagram全体で公開されている反ワクチンコンテンツの65%を占めていると、書簡は指摘した。

これらの12のアカウントを削除するかどうかという質問に対して、ザッカーバーグ氏は言葉を濁した。同氏は、まずFacebookのチームが参照されている正確な例を見なければならないと述べ、ドイル氏は彼の答えを遮ることになった。

一方のピチャイ氏は、YouTubeが誤解を招くような新型コロナウイルス情報を含む85万本以上の動画を削除したことを指摘して回答を始めようとしたが、ドイル氏が「YouTubeが12人のスーパー・スプレッダーのアカウントを削除するかどうか」という質問をし直したため、回答がそれによって遮られた。

「当社にはコンテンツを削除するポリシーがあります」とピチャイ氏は述べたが「人々の個人的な体験談であれば、コンテンツの一部は許可されています」と付け加えた。

TwitterのCEOであるJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏は、同じ質問を受けた際「はい、ポリシーに反するものはすべて削除しています」と答えた。より前向きな答えではあるが、Twitterが実際に特定された12のアカウントを削除することを確認するものではない。

ドーシー氏は公聴会の冒頭で、誤情報に対処するためのTwitterの長期的なビジョン「Bluesky」と呼ばれる分散型の未来像についても幅広く語った。同氏は「Bluesky」では、共有されるオープンソースのプロトコルをベースに活用することで「ビジネスモデル、推薦アルゴリズム、モデレーションコントロールなど、私企業ではなく個人の手に委ねられることで、イノベーションが促進される」と説明した。この回答はTwitterのモデレーションに関するビジョンが、最終的には他者に責任を委ねることであると示している。これはFacebookがここ数カ月の間に、最も困難なモデレーションの決定の際に意見を述べる外部機関であるOversight Committee(監督委員会)で行っていることと同じだ。

これらの動きは、ソーシャルネットワークが自分たちだけではコンテンツモデレーションの責任を果たせないと判断したことを示している。しかしその結果、米国政府が実際に規制に乗り出すかどうかは、さらに見ていく必要がある。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:FacebookGoogleTwitter新型コロナウイルスワクチン偽情報

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(文:Sarah Perez、翻訳:Aya Nakazato)

ウイルスの突然変異予測からClubhouse話者識別まで、今、人工知能に期待されていること

2021年2月に開催された「『自然言語処理(NLP)』の可能性 -コロナ禍のウイルス対策から、感情を理解する音声認識まで-」というイベントで、AppierのAIチーフサイエンティストであり、台湾国立精華大学准教授でもあるMin Sun(ミン・スン)氏が登壇、昨今のAI技術のトレンドやそのユースケースについて解説した。今回はそのレポートをお届けする。

ミン氏は、世界での人工知能に関する論文を学会で多数発表しており、2015年から2017年までCVGIP(Computer Vision Graphics and Images Processing)より最優秀論文賞を3年連続で受賞している。今回、ミン氏は、新型コロナウイルス関連でのAIの活躍と、AI系でトップクラスの学会であるVirtual NeurIPSで近年注目されている自然言語処理技術の2点について語った。

新型コロナウイルス関連において、AIはフェイクニュース検知だけでなく、医療分野でも活躍している。ウイルスの突然変異検知や新薬生成では、GoogleのDeepMindによって開発された人工知能プログラムAlphafoldが注目されている(2020年にはバージョン2が開発されている)。また、生物医学領域においてタンパク質構造を記憶することで異変のある配列を持つアミノ酸を検知し、新型コロナウイルスの突然変異の判別や予測が可能だという。さらにX線結晶学を組み合わせることで、従来より5万倍早い速度で抗ウイルス薬を検証できるとのこと。

患者が重度の場合、検証、対策はしやすいが、軽度や無症状患者の場合、ウイルスの突然変異は予測が難しく、軽度や無症状患者を介した爆発的拡大は防ぎづらい。しかしAIによる突然変異検知が進むことで、このパンデミック防止も防げるのではないかと考えられている。

自然言語処理技術の話題について、ミン氏は2つの技術を紹介した。トップクラスの学会であるNeurIPSの2020年開催分でBest Paperにも選ばれた、GPT-3(Generative Pretrained Transformer)という文章生成言語モデルが現在、注目されている。これはElon Musk(イーロン・マスク)氏やMicrosoftが出資する非営利団体OpenAIが制作しており、一つ前のモデルであるGPT-2と比較すると、事前学習に使用されるテキストデータは約1100倍となる45TB、パラメータ数は約117倍の1750億個と、データセットが飛躍的に大きくなっている。事例を少し与えただけで、続きの文章をまるで人間が書いたかのように自然に生成してくるとエンジニアの間で話題になった。

そんなGPT-3を超えると注目を集めているのが、Googleの研究者たちが集結するGoogle Brain Teamが発表した、1兆個を超えるパラメータを持つことができると言われているNLP AIモデル、Switch Transformerだ。その特徴は、処理のところどころにゲーティングネットワークを置き、与えられた処理を最も効率的に行ってくれそうなエキスパートと呼ばれる特化型FFN(Feed Forward Network)に聞きに行くこと。FFNは順伝播型ニューラルネットワークと訳され、一方向に処理を進める。戻りがないため再帰型と比較し処理が速くなるが、これによって従来より7倍以上の事前トレーニングの高速化が可能だと言われており、実際、研究者たちがSwitch Transformerを用いて、一部の単語をマスクした状態で欠落した単語を予想するなどのトレーニングを行ったが、不安定性がないという。

Real time Voice Cloningの操作画面キャプチャ

Min Sun(ミン・スン)氏

自然言語処理能力の向上は、音声解析分野での期待が大きい。コロナ禍で自宅で過ごす時間が多くなり、ポッドキャストや音声SNSのClubhouseの利用者は増加。従来、話者が複数で長時間録音された音声データの書き起こしは要素が多すぎることもあり難しいとされてきたが、大規模処理モデルを用いれば、その処理や新たな音声コンテンツの作成も期待できるという。例として、Real time Voice Cloningを使用することで、リアルタイムに音声をコピーし、別の話者の声に変換することもできるという。

今後もAIの進化、そしてAIが叶える未来に期待が膨らむ。

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Appier新型コロナウイルス自然言語処理

VR/AR/MR企画・開発のSynamonと三井住友海上が「VR事故車損害調査研修」を共同開発

VR/AR/MR企画・開発のSynamonと三井住友海上が「VR事故車損害調査研修」を共同開発

「VR事故車損害調査研修」イメージ

「XRが当たり前の世界をつくる」をミッションに、VR・ARを含むXR市場の創造に取り組むSynamon(シナモン)は3月22日、MS&ADインシュアランスグループの三井住友海上火災保険(三井住友海上)が実施している「事故車損害調査 基礎研修」にVR技術を提供し、「VR事故車損害調査研修」を共同開発したと発表した。事故車の損害調査ができるバーチャル空間を構築することで、全国どこからでも研修への参加が可能になる。

2021年4月以降にVR事故車損害調査研修」を開催し、7月以降は自然災害の損害調査におけるVR研修を開催する予定。

三井住友海上によると、同社は自動車事故の保険金額の算出過程として、事故車の損害調査を実施しているという。損害調査は同社の根幹業務であり、その意義を全社員が理解する必要があるため、全国にいる数百人の新入社員を千葉にある研修所に集め、毎年研修を実施してるそうだ。しかし、昨年来のコロナ禍により研修の開催が厳しい状況となっているという。

そこで、VR技術を活用し全国どこからでも参加できる研修を創出できないかと考え、Synamon提供のVRビジネス施設「NEUTRANS」を活用し、「VR事故車損害調査研修」のバーチャル空間構築に取り組んだ。

VR/AR/MR企画・開発のSynamonと三井住友海上が「VR事故車損害調査研修」を共同開発

「事故車損害調査 基礎研修」の流れ

  • 部品名称や新品部品の補給形態を学習(VR空間で実施予定)
  • 部品構成・材質や組付け構造を学習(VR空間で実施予定)
  • 事故類型によって異なる損部形態や特徴的な痕跡について学習(VR空間で実施予定)
  • 実車(事故車)を使用して、調査プロセスを学習(VR空間で実施予定)
  • 損傷状態の証拠保全方法を学習(VR空間で実施予定)
  • 見積作成手順を学習

期待される効果

  • 集合研修と同等以上の学習効果:VRは高い没入感を創出できるため、参加者間でアバター姿で身振り手振りを交えての議論や、ホワイトボードや付箋をVR空間で使ったアイデア出しなど、緊密なコミュニケーションが可能。また、仮想空間に配置された自動車のドアやボンネットの開閉、メジャーを用いた測量などの操作も可能で、従来の集合研修と同等以上の学習効果を期待できる
  • 研修時の移動時間やコストを削減:研修場所を仮想空間上に設けるVR研修では、集合研修時のような移動が発生せず、時間短縮につながる。交通費や宿泊費なども削減
  • 三密回避で感染リスクを軽減:コロナ禍で集合研修の開催が困難な中、研修参加者は、三密を回避して各職場・自宅からリモートで参加可能。感染リスクを心配することなく研修を行える

2016年8月設立のSynamonは、「XRが当たり前の世界」を実現するため、VR/ARをはじめとするXR技術を使ったサービス開発や研究開発を行うテックカンパニー。自社開発しているNEUTRANSは、VR技術の活用によって、バーチャル空間であらゆるビジネス活動を可能にするVRビジネス施設という。

世界中どこからでも働けるオフィス、リモートでもリアルのような体験を可能にするトレーニングや開発予定の未来都市を見学できるプロモーションなど、バーチャル空間を活用した次世代事業の創出拠点を目指している。

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カテゴリー:VR / AR / MR
タグ:教育 / EdTech / エドテック(用語)Synamon(企業)新型コロナウイルス(用語)保険 / インシュアテック / InsurTech(用語)三井住友海上火災保険(企業)日本(国・地域)

欧州が推し進める新型コロナ「デジタルパス」に存在する差別や技術的課題の懸念

個人の新型コロナウイルス感染やワクチン接種のステータスを証明する、欧州委員会の汎EU「digital green pass(デジタルグリーンパス)」案についての詳細が現地時間3月17日に示された。明らかに差別のリスクをともなうことから、この計画は人権と市民の自由の観点から論争の的になっている。プライバシーとセキュリティの専門家も、詳細がまだ完全に明らかになっていないデジタルグリーンパスのシステムを支えるテクノロジーアーキテクチャについて疑問視している。

「案はデータ保護と差別に対する保護の要件をまだ満たしていません」とドイツ海賊党の欧州議会議員Patrick Breyer(パトリック・ブレイヤー)氏は同日の声明で述べた。「証明書のデジタル版が中央ワクチンレジスタではなく、本人のデバイスに分散されて保存されることを保証していません」。

EUの新型コロナワクチンパスポート、あるいは「デジタルグリーンパス」と呼んでいるもの、はたまた「デジタル新型コロナ証明書」なるものの意図は所持者が新型コロナワクチンを接種したかどうか、または最近の検査結果が陰性だったかどうか、感染から回復して抗体をもっているかどうかを示すことにある、とEU委員長のUrsula von der Leyen(ウルズラ・フォン・デア・ライエン)氏は3月17日に「共通の手法」のための立案の詳細を明らかにする記者会見で語っている。

「証明書は、それが示す結果(最小限のデータセット)が加盟国で相互に認証されるようにします」と同氏は述べ、このシステムの目的が加盟国の行き来の自由を「安全で責任ある、信頼できる方法で」回復させることにある、と付け加えた。

EU司法長官のDidier Reynders(ディディエ・レンデルス)氏は、意図は全EU市民が無料で証明書を受け取り、他の加盟国に受け入れを求めることができるようにすることだと話した。同氏によると、欧州委員会はパスの使用をほとんど管理しない。共通の手法に関連する特定要件の設定は加盟国に委ねられる。

レンデルス氏は、たとえばEUで使用が承認されていないワクチンを受けた人のワクチン接種ステータスを受け入れることを欧州各国が明示できるとの例を挙げた。しかし同氏は、欧州医薬品庁が承認したワクチンを接種したパス保持者の受け入れを委員会が加盟国に義務づけると述べた。

欧州委員会は「夏前」にこのシステムを利用できるように準備したいと考えているとも同氏は述べた。しかしながら新型コロナのステータスが差別や個人の市民の自由の不当な侵害に使われる明らかなリスクを考えると、本質的に物議を醸す目的のために使われるセンシティブな個人情報を含む複雑でテクニカルなプロジェクトにとって、そのタイムラインは驚くほど野心的なものだ。

デジタル証明書の準備は、欧州委員会が中心的要素を実装・獲得し、システムが意図した通りに機能するよう加盟国が必須のテクニカル的なことを国レベルで実装できるようにするだけでなく、欧州連合理事会と議会が法制化を承認する必要があることを意味する。レンデルス氏によると「おそらく」早ければ2021年6月にもすべてを行う。

このプロジェクトがいかに野心的かを踏まえて、記者会見の出席者が「プランB」はあるかと尋ねると、レンデルス氏は他のプランはないと答えた。加盟国が国境で新型コロナをめぐる一方的な判断をすることを防ぐために、共通の手法を導入して細分化を回避することが唯一のプランだからだ。

それでも、ブレイヤー氏によると現在のところ、案は欧州各国が異なるルールを適用する余地を残している。同氏はまた、たとえば加盟国がワクチン接種の代替要件として検査陰性を受け入れないことを選んだ場合、ワクチン接種に純粋にリンクされている旅行の自由を認めることで差別に繋がりえるとも警告した。「これは改善される必要があります」と同氏は述べた。

「一方で、証明書を提示した後に医療情報の保持が除外されているという事実は歓迎します」と付け加えた。

EUの議員たちはどの加盟国が共通のツールを使うかという突っ込んだ議論は回避したが、デジタルパスは紙とデジタルの両方で提供されると確認した(しかし、繰り返しになるが、ブレイヤー氏は各国が紙という形態を導入しないことを選ぶかもしれず、それによってスマートフォンへのアクセスを持たない人に対する差別につながるのではとの懸念を示した)。

レンデルス氏もまた、デジタルパスは証明書の内容を認証するためのQRコードを有し、それが検証済みかどうかをチェックすると認めた。

ドイツで検討されている欧州委員会のスキームは少なくとも1つの要素が、最近のSpiegelの報道と同じだ。それは、QRコードだけでなくブロックチェーンテクノロジー(IBMとローカル企業Ubirchが落札した)も含む。このテクノロジーはEUのデジタルパス要件との互換性を意図している。

記者会見ではブロックチェーンについて言及はなかった。域内市場委員長のThierry Breton(ティエリー・ブレトン)氏はテクニカルソリューションは「信頼の一部でもある」とだけ述べた。

「だからこそ、我々の認識が一致するよう加盟国と協業しています。我々はまさに同じテクノロジーを共有します」とブレトン氏は続け、次のように付け加えた。「もちろんGDPRを高度なレベルで守ります。我々はデータを交換しませんし、加盟国が今この見方を共有しているというのはいいニュースです。そして、もちろんこれは非常に重要です。というのも、ある国から別の国へと移動するとき、誰もがQRコードだけで自身の証明書の内容とそれが認証されているかを示すことになり、信頼もともないます」。

汎EUシステムがブロックチェーンの要素を含むかどうか、会見後に尋ねられた広報担当は質問をはぐらかし「ゲイトウェーはシグネチャーキーのために国家公共キーダイレクションをリンクさせます」とだけ答えた。

「どこがテクニカル的にこれを実行するのか、まだ伝えることはできません」と付け加えた。

続けて広報担当は2011年にe-Health目的でクロスボーダーデータ共有を促進するためにEU指令によって作られた加盟国代表の自主的なネットワークに言及し「信頼のフレームワーク」は「加盟国が3月12日にeHealth Networkで合意したアウトラインに基づいた」委員会によって開発される、とも述べた。

関連ウェブページでは、委員会は次のように書いている。「eHealth Networkは、デジタルグリーン証明書インフラを確立するのに必要な信頼のフレームワークの概要を公開しました。引き続き、ワクチンと検査、回復の認証の相互承認と相互運用のためのメカニズムを開発します」。

「さらなる作業はEU機関、健康安全委員会、世界保健機構、その他の機関と協業しているeHealth Networkが行います」ともある。

eHealth Networkの「健康証明書の相互運用のための信頼できるフレームワーク」は16ページのPDFとしてここで閲覧できる(2021年3月12日からのv.1.0)。

書面では、いくつかのデザインの選択と意図する結果を協議しているが、選んだテクニカルソリューションの詳細は示しておらず、委員会のすべての作業を終えて2カ月ちょっとで運用できるようにするという目標にもかかわらず、決定はまだなされていないようだ。

観光に大きく頼っている経済への新型コロナの影響を懸念している南欧の国々からの圧力が、ワクチン接種証拠書類の相互承認のための共通アプローチを委員会が急いで展開しようとしている原動力の1つだ。欧州の単一市場の細分化の恐れが委員会にとってさらに大きな促進剤となっている(例えばフランスやドイツなど他の加盟国が旅行する権利をパスにリンクさせることについて懸念を以前表したのは特筆すべきだろう。そのため、欧州各国がどれくらい考えを共有するかは議論の余地があるようだ)。

詳細の多くがまだ明らかになっておらず、さらに疑問なのはデジタルパスを支えるテクニカル的なものがどれくらい信用できるかだ。

eHealth Networkの概要では、たとえば「デザインとデフォルトによるデータセキュリティ」のセクションは、信用できるフレームワークは「セキュリティとプライバシーを確保しつつ、デジタルワクチン証明システムの実装に従ってデータのセキュリティとプライバシーをデザインとデフォルトで保証すべき」と断言している。しかしこれをいかに達成するのかについては説明していない。

「デザインは識別子や他のデータと相互参照されるかもしれない似たようなデータの収集やトラッキングの再使用を防ぐべきです」、さらには「これらの機能を信頼できるフレームワークに組み込むための技術的観点とタイムラインについてはさらなる議論が必要です」と書かれている。

「全体説明」を提供する他のセクションには、EUの信頼のフレームワークが「主に分散される」ようデザインされると記している。ただ「いくつかの中央化の要素」があるとも認めている。具体的には、共通のディレクトリ/ゲートウェイに保存される「信頼のルーツ」と「ガバナンスモデル」で、そうした主要な要素をめぐる信頼に核心となる疑問を提起している。

EUパブリックキーディレクトリについては、ゲートウェイが「欧州委員会のような公共セクター機関によって提供されるべき」とある。しかし明らかにその役割を他の機関が担う余地はまだある。

その他、概要ではオフライン証明は、定期的に認証のパブリックキーを取る専用証明ソフトウェアを組み合わせているデジタル署名を含む2Dバーコードの使用を取り込んでいる。オンライン証明は「 UVCI (Unique Vaccination Certificate/assertion Identifier)に頼ると書かれていて、次の仕様バージョン(V2)で組み込まれる」。

表示フォーマットのセクションでは、2Dバーコードが使われるとある。しかしまた「W3C Verifiable Credentials」が利用される可能性にも触れていて、決定は「後に下される」とだけ書かれている。

欧州委員会のデジタルグリーンパスのテクニカルデザインはオープンさを欠いていると批判的で「W3Cの非中央集権的識別子やVerifiable Credentials(ヴェリファイアブル・クレデンシャルズ)といったあまり知られていない一連の基準」を含む免疫パスポートスキームを批判する論文を2020年出した、CEOで研究科学者のHarry Halpin(ハリー・ハルピン)氏は、欧州委員会が自身の論文で指摘した「ブロックチェーンテクノロジーの問題ある使用」をデジタルグリーンパスに組み込むことを検討している、と懸念する。

同氏はW3Cのヴェリファイアブル・クレデンシャルズの免疫パスポートでの使用はプライバシーとセキュリティの面で危険だと主張する。

「テクノロジー的にいかなるグローバルIDを含むことなくテスト結果を証明する方法はあります」とハルピン氏はTechCrunchに語った。「もしあなたがただ『属性』を持っていると医学的信憑性を証明したければ、つまり過去72時間以内の新型コロナ検査で陰性だった、2020年新型コロナワクチンを接種した、あるいはその他のことを証明したければ、別のIDフォームがあります。属性ベースのクレデンシャルはIDを明らかにすることなく属性を証明します。こうしたユースケースのためのグローバルIDは必要ありません」。

「形而学的には、新型コロナのために私の以前のプライベートな健康データは公開されるべきだが、そうであるならはっきりと言えばいい。ブロックチェーンのナンセンスさの後ろに隠してはいけない」と同氏は付け加えた。

eHealth Networkの概要を議論するとき、セキュリティとプライバシーの研究者Lukasz Olejnik(ルーカス・オレジニク)博士は、誰が信頼のソースとなるのか、そして提案されたデザインに関連するファンクションクリープ(本来の目的以外にも拡大流用されること)のリスクがあるかどうかなど、概要は疑問を提起していると述べた。同氏はワクチンパスポートのプライバシーリスクと広範な影響についても指摘した

「このテクニカル面について書かれた文書は、ユーザーのIDが証明書に組み込まれていることを認めています。これはパスポートがID証明になることを意味します」とTechCrunchに語った。「今日の規制案を考えると、ファンクションクリープのような拡大が、将来こうしたパスポートが実際のID証明になることにならないかという疑念につながります」。

「それ以外にも、eHealthの書類は記述的ですが、将来のソリューションに関して詳細が含まれていません。このシステムでの信頼のソースは関心のある重要な問題です」とオレジニク氏は付け加えた。「我々は詳細についてさらに待たなければならないようです」。

この度の記者会見で、レンデルス氏は他のアングルから将来の拡大のスペクトルを提起した。デジタルパスが「一時的な」手段となる一方で、法制化でシステムがパンデミックの終わりに「棚上げ」され、また別のパンデミックが起こったときなど必要に応じて後に再び活性化される可能性を折り込むかもしれないと述べた。

「我々はWHOがパンデミックの終焉を宣言するときに証明を一時停止する可能性を持っています。ですので、これは新型コロナ専用です」とレンデルス氏は話した。「これは『一時停止』であり、委任行為を通じて、そして欧州議会とともに、もし別のパンデミックが起こったときにこの手段を使うかもしれないということです。しかし基本的に我々は加盟国、欧州議会と一時的なソリューションについて話をしています」。

「それを延長したくはありません」とも付け加えた。「WHOがパンデミックの終わりにあるということができるようになれば、我々はそうした手段を停止します。そしてもちろん、その後の手段の再活用の可能性について考えるだけです。私はそれを望んでいませんが、将来別のパンデミックがあるかどうか次第です。ただそれは専門的な行為であり、常にプロセスには議会が含まれます」。

ファンクションクリープの問題について、レンデルス氏は欧州各国がデジタルパスを、たとえばEU市民の自由な移動を促進するという欧州委員会の目的外での使用を模索するかもしれないと認めた。

しかし同氏は、そうした使用はEU法や基本的権利に則る必要があると強調する一方で、加盟国がマスク着用やすでに特定の状況で行われている迅速検査を求めるのと変わりはないと主張した。

「もし他の使用があれば、課せられているマスクのような他のものをおそらく使うことができるというケースです。また検査、人々が自分で扱うセルフ検査もあります。しかしもし証明書を他の方法で使うことになれば、その使用が見合ったもので、差別的でなく、EU規制に適合していることを確認しなければなりません」と述べた。

「もちろん我々はケースバイケースで状況を確認しますが、証明書と迅速抗原検査やマスクといった他の手段の区別をつける必要があるとは思いません。使用されているツールは他にもあります。他の使用がふさわしいもので、差別的ではなく、明らかに自由な移動のルールに沿うものであると確認する必要があります」。

EUのデジタル新型コロナパスは、2021年1月から議論されている。欧州委員会は1月に「加盟国の証明書が急速に欧州や欧州外のヘルスシステムで使えるものになるよう」1月末までに「適切な信頼のフレームワーク」に同意してもらえるよう働きかけていると述べた。

そして2021年3月初め、欧州委員会がパスを整備する計画があることを発表したとき、国境を超えた安全な移動を今夏促進したいと強調した。とはいえ、第1四半期の欧州のワクチン展開のペースがゆっくりしたものであることを考えると、そうした希望はいま脆いものになっている。

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欧州委員会の委員長はまた、一部の加盟国が新型コロナの第3波への移行期にあると警告した。

新型コロナのステータスを認証するデジタルパスでもって全速力で前進するというEU首脳陣の計画は依然として議論の的となっている。少なくとも、欧州でのワクチンへのアクセスはまだかなり限られていて、これはツールが不公平に適用される恐れを強調している。

市民の自由の懸念も「ワクチンパスポート」から切り離すことはできない。そうした懸念は「デジタルパス」と名称を変えて和らげても払拭されない。しかしいま、欧州委員会の共有の手法のためのテクノロジーの選択肢をめぐって新たな疑念もある。それは、システムのアーキテクチャが、EUデジタルグリーンパスは「データ保護、セキュリティ、プライバシーを尊重する」と約束したフォン・デア・ライエン氏のツイート内容に沿うかどうかだ。

EU市民にとって、そうした主張を信じるのに完全な透明性は不可欠だ。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:EU新型コロナウイルス

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch/

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi