循環経済を重視してCO2排出量の削減を目指すBMW Neue Klasseのラインナップ

BMW Groupは、米国時間9月2日、走行車両の全世界の二酸化炭素排出量を2030年までに、2019年レベルから50%、車両の全ライフサイクルの二酸化炭素排出量を2019年レベルから40%削減するという目標に向けて尽力する意向を発表した。これらの目標は、持続可能性の高い車両ライフサイクルを達成する循環経済の原則を重視する計画も含め、同社のNeue Klasse(新しいクラス)と呼ばれる新ラインナップ(2025年までに発売予定)で明らかになる。

3月に発表されたBMWの「新しいクラス」と呼ばれる計画は、同社が1962年から1977年までに生産したセダンとクーペのラインナップ、つまりBMWのスポーツカーメーカーとしての地位を確固たるものにしたラインナップを根本的に見直すものだ。同社によると、この新しいラインナップの目玉は「一新されたITおよびソフトウェアアーキテクチャ、新世代の高性能電気ドライブトレインとバッテリー、車両の全ライフサイクルに渡って持続可能性を達成するまったく新しいアプローチ」だという。

「Neue Klasseは、CO2削減の取り組み姿勢を一段と明確にし、世界の平均気温上昇を1.5度に抑える目標を達成するための明確な進路に沿って進むという当社の決意を表明するものです」とBMW AGの取締役会長 Oliver Zipse(オリバー・ジプス)氏は今回の発表で述べた。「CO2削減の取り組みは法人の活動を判断する大きな要因となっています。地球温暖化対策では、自動車メーカー各社の自社製車両の全ライフサイクルにおけるCO2排出ガスの削減量が決め手となります。当社がCO2排出量の大幅な削減について透明性が高くかつ野心的な目標を設定している理由もそこにあります。実際の削減量はScience Based Targets(科学的根拠に基づく目標)イニシアチブによって評価され、効果的で測定可能な貢献度として示されます」。

BMWによると、同グループのCO2総排出量の70%は、車両の利用段階で発生したものだという。これは、BMWの販売車両の大半が未だにガソリン車であるという事実からすると納得がいく。2021年上半期のBMWの総販売台数に占める電気自動車またはプラグインハイブリッド車の割合は11.44%であった(2021年上半期収益報告書による)。同社は、2021年末までに、ハイブリッド車を含め100万台のプラグイン(コンセント充電型)車両を販売するという目標を表明している。第2四半期終了時点で、約85万台を売り上げているが、車両利用段階でのCO2排出量を半分にするという目標を達成するには、CO2排出量が低いかゼロの車両の販売量を大幅に増やす必要がある。同社にはすでにi3コンパクトEVシリーズを販売しており、2021年後半には、i4セダンとiX SUVという2つのロングレンジ(長航続距離)モデルが発売され、2022年にはさらに別のモデルも投入される予定だ。GMやボルボと違い、BMWはガソリン車を廃止する計画をまだ発表しておらず、最初から電気自動車として設計されたラインナップの販売も開始していない。

今回の発表は、BMWが、Volkswagen(フォルクスワーゲン)、Audi(アウディ)、Porsche(ポルシェ)など、ドイツの他の自動車メーカーとともに、1990以来、排出ガスカルテルに関与していたことを認めた2カ月後に行われた。これらのメーカーは、EUの排出ガス規制で法的に必要とされる基準を超えて有害なガス排出量を削減できるテクノロジーを持ちながら、共謀してそれを隠ぺいしていた。EUは4億4200万ドル(約486億円)の制裁金を課したが、BMWの第2四半期の収益が60億ドル(約6599億円)近くになることを考えると、軽いお仕置き程度に過ぎない。

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また、2021年8月に発表されたEUの「Fit for 55」エネルギーおよび気候パッケージでは、世界全体のCO2ガス排出量の目標削減量が、2030年までに40%から55%に上方修正された。これは、自動車メーカーが電気自動車への移行ペースを早める必要があることを意味し、BMWもその点は認識している。欧州委員会では他にも、CO2ガス排出量を2030年までに60%削減し、2035年までには100%カットするという提案事項も検討されているという。これは、その頃までには、ガソリン車を販売することがほぼ不可能になることを意味する。

BMWによるとNeue Klasseによって、電気自動車が市場に出る勢いがさらに加速されるという。同社は、今後10年で、完全電気自動車1000万台を販売することを目標にしている。具体的には、 BMW Group全体の販売台数の少なくとも半分を完全電気自動車にし、Miniブランドは2030年以降、完全電気自動車のみを販売することになる。BMWは、循環経済重視の一環として、Neue Klasse計画による再生材料の利用率向上と、再生材料市場を確立するためのより良い枠組みの促進も目指している。同社によると、再生材料の利用率を現在の30%から50%に高めることが目標だというが、具体的な時期までは明言していない。

BMWによると、例えばiXのバッテリー再生ニッケルの使用率はすでに50%に達しており、バッテリーの筐体での再生アルミニウムの使用率も最大30%になるという。目標はこれらの数字を上げていくことだという。また、BMWは、BASFおよびALBAグループとの提携プロジェクトで自動車の再生プラスチックの使用量を試験的に増やす試みも行っている。

BMWが称する総合リサイクリングシステムの一環として「ALBA Groupは BMW Group製の寿命末期車両を解析して、車両間でのプラスチックの再利用が可能かどうかを確認している」という。「第2段階として、BASFは分類前の廃棄物をケミカルリサイクル処理して熱分解油を取得できないかどうか調べています。こうして得られた熱分解油はプラスチック製の新製品に利用できます。将来的には、例えばドアの内張りパネルやその他の部品を廃棄車の計器パネルを利用して製造できる可能性があります」。

リサイクリングプロセスを簡素化するため、BMWは、車両の初期段階設計の考え方も取り入れている。材料は、製品寿命が終わったときに容易に分解 / 再利用できるように組み立てる必要がある。BMWでは、再利用可能な材料に戻すことができるように車内インテリアを単一の素材で製造することが多くなっているという。

「例えば車内の配線システムは、車両内のケーブルハーネスで鉄と銅を混在させないようにして、容易に取り外しできるようにする必要があります」と同社は述べている。「鉄と銅が混在していると、再生鉄での鉄の必須特性が失われるため、自動車業界の高い安全性要件を満たすことができなくなるからです」。

また、循環経済では、高品質の車両を使用する必要がある。そうすることで、パーツを容易にリサイクルまたは修理できるため、結果として全材料数が削減されるからだ。

今回の発表で、BMWは車両のライフサイクルについて透明性を高めることを約束している。同社は、他のほとんどの大手自動車メーカーと同様、ライフ・サイクル・アセスメント(生産から回収再利用までの過程で環境に対する影響度を評価する手法)を公開しているが、業界の標準があるわけではない。このため、異種の車両を比較することが難しい場合がある。車両の全ライフサイクルを把握することは、CO2排出量の削減目標を達成するのにますます重要になっている。バッテリーと車両を製造するために必要なすべての材料を取得するためにサプライチェーンおよび製造段階で発生する排出ガスについての調査結果がようやく明らかになってきているが、この調査により、EV化の動きがライフサイクル全体のCO2排出量を却って増やす可能性があることが明らかになるかもしれない。

「内包二酸化炭素の数値化は大変難しく、特にEVでは非常に複雑で不確実です」とManhattan InstituteのシニアフェローMark Mills(マーク・ミルズ)氏は最近のTechCrunchの記事に書いている。「EVは走行中には何も排出しないが、生涯総炭素排出量の約80%は、バッテリーを製造する際のエネルギーおよび自動車を動かすための電力を発電する際のエネルギーから発生している。残りは、車の非燃料部品の製造によるものである。従来型の自動車の場合は、生涯総炭素排出量の約80%が走行中に燃焼した燃料から直接発生する二酸化炭素で、残りは自動車の製造とガソリンの生産にかかる内包二酸化炭素から発生する」。

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画像クレジット:BMW Group

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)

再生可能エネルギーを使い、海水から二酸化炭素とセメントの原料を取り出すHeimdalの技術

大気中の二酸化炭素濃度が上昇すると、それに比例して海中の二酸化炭素濃度も上昇し、野生生物に悪影響を与えたり生態系を変化させてしまったりする。再生可能エネルギーを利用して二酸化炭素を大規模に回収し、その過程でコンクリート用の石灰石をはじめとするカーボンネガティブな工業材料を生産しようとしているスタートアップ企業がHeimdalである。同社はアーリーステージの段階でかなりの資金を集めているようだ。

コンクリートと聞いて首を傾げた読者は、次の点を考えてみたら良いだろう。コンクリートの製造は、温室効果ガス排出量全体の8%を占めると言われており、また海水にはコンクリートの原料となる鉱物が豊富に含まれているのだ。おそらく関連業界や分野に身を置いていなければこの関連性に気づくことはないだろう。しかしHeimdalの創業者であるErik Millar(エリック・ミラー)氏とMarcus Lima(マーカス・リマ)氏は、オックスフォード大学でそれぞれの修士課程に在籍していた時からこの関連性を認識していたのである。「気づいてからすぐに実行に移しました」とミラー氏はいう。

気候変動が人類の存続にかかわる脅威であると確信を持つ2人は、世界中で起きているさまざまな影響に対する恒久的な解決策がないことに失望感を感じていた。炭素捕捉は回収してもまた利用されて排出されるという循環型のプロセスになっていることが多いとミラー氏は指摘する。新しい炭素を生産するよりはましなものの、生態系から永久に炭素を取り除く方法は他にないのだろうか。

2人の創業者は、電気と二酸化炭素を多く含む海水だけで、ガスを永久に封じ込めることのできる有用な素材を製造する新しいプロセスを構想した。しかし当然、そんなことが簡単にできるのなら誰もがすでにやっているはずだろう。

画像クレジット:Heimdal

「これを経済的に実現するための炭素市場は、まだ形成されたばかりです」とミラー氏は話す。太陽光発電や風力発電の巨大な設備が、数十年来の電力経済を覆したことでエネルギーコストは大幅に低下している。炭素クレジット(この市場についてはここでは触れないことにするが、これが成功要因であるのには間違いない)と安価な電力市場には新たなビジネスモデルが生まれており、Heimdalもその1つと言えるだろう。

実験室規模(1000ガロンのタンクではなくテラリウム規模)ですでに実証されているHeimdalのプロセスは、簡単にいうと以下のとおりである。まず、海水をアルカリ化してpHを上げ、ガス状の水素、塩素、水酸化物の吸着剤を分離させる。これを別の海水と混ぜると、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムのミネラルが析出し、水中の二酸化炭素の飽和度が下がり、海に戻したときに大気中からより多くの二酸化炭素を吸収できるようになる(小規模なプロトタイプ施設の画像を見せてもらったが、特許申請中のため写真の掲載は拒否された)。

画像クレジット:Heimdal

海水と電気から水素や塩素ガス、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウムなどを生成し、その過程で大量の溶存二酸化炭素を封じ込めるという仕組みである。

1キロトンの海水に対して1トンの二酸化炭素と2トンの炭酸塩が分離されるが、それぞれに産業用の用途がある。MgCO3やNa2CO3はガラス製造などさまざまなものに使われるが、最も大きな影響を与える可能性があるのはCaCO3、つまり石灰石である。

石灰石はセメント製造プロセスの主要構成要素として常に大きな需要がある。しかし、現在の石灰石の供給方法は、大気中の膨大な炭素源となっているのも事実である。世界中の産業界が炭素削減戦略に投資しており、単に金銭的なオフセットが一般的ではあるものの、今後は実際にカーボンネガティブなプロセスが望まれるようになるだろう。

さらにHeimdalは海水淡水化プラントとの連携を見据えている。海水淡水化プラントは、淡水は不足していても海水とエネルギーが豊富にある、例えば米国カリフォルニア州やテキサス州などの沿岸部をはじめ、特に中東・北アフリカ地域のように砂漠と海が接する場所など、世界各地で見られるものである。

海水淡水化では、真水とそれに比例してより塩分を多く含んだ塩水が生成されるが、それを単純に海に戻すと地域の生態系のバランスが崩れてしまうため、一般的には塩水を処理する必要がある。しかし、例えばプラントと海の間にミネラルを集める工程があったとしたらどうだろうか。Heimdalは水1トンあたりのミネラルをさらに得ることができ、淡水化プラントでは塩分を含んだ副産物を効果的に処理することができるという考えである。

元RedditのCEOで、現在はTerraformationのCEOを務め、Heimdalに個人的に投資しているYishan Wong(イーシャン・ウォン)氏は次のように述べている。「Heimdalが海水淡水化の排水を利用してカーボンニュートラルなセメントを生産できるようになれば、2つの問題を同時に解決することになります。カーボンニュートラルなセメントのスケーラブルな供給源を作り、海水淡水化のブライン廃液を経済的に有用な製品に変換するという仕組みを、ともにスケールアップすることができれば、あらゆるレベルで革新的なものになるでしょう」。

Terraformationは太陽光による海水淡水化を推進しており、Heimdalはその方程式にまさにぴったりである。両者は現在、正式なパートナーシップを締結するために取り組んでおり、間もなく発表される予定だ。一方、カーボンネガティブな石灰石は、脱炭素化をはかるセメントメーカーが1グラムも逃すまいと買いあさることだろう。

ウォン氏は、Heimdalのビジネスにおいて、タンクやポンプなどを購入するための初期費用以外の主なコストは、太陽エネルギーにかかる費用だと指摘している。このコストは何年も前から下降傾向にあり、また定期的に巨額の投資が行われているため、今後もコストは下がると考えて良い。また、二酸化炭素を1トン回収したときの利益は、すでに約75%が500〜600ドル(約5万5000〜6万6000円)の収入となっているが、規模と効率が上がればさらに大きくなる可能性がある。

ミラー氏によると、同社の石灰石の価格は政府のインセンティブや補助金を含めると、すでに業界標準と同等の価格になっているという。エネルギーコストが下がり、規模が大きくなれば、この比率はより魅力的なものになっていくだろう。また、同社の製品が天然の石灰石と見分けがつかないというのも魅力の1つである。「コンクリート業者が手を加えなければいけないことは何もありません。採掘業者から炭酸カルシウムを購入するのではなく、当社の合成炭酸カルシウムを購入するだけのことです」と同氏は説明する。

全体的に見れば、これは有望な投資といえそうだ。Heimdalはまだ公に公開されていないが(Y Combinatorの2021年夏のDemo Dayで公開される予定)、640万ドル(約7億円)のシードラウンドを獲得している。参加した投資家は、Liquid2 Ventures、Apollo Projects、Soma Capital、Marc Benioff、Broom Ventures、Metaplanet、Cathexis Ventures、そして前述したウォン氏である。

Heimdalはすでに複数の大手セメントメーカーやガラスメーカーとLOIを締結しており、米国の海水淡水化プラントでパイロット設備を計画している。数十トン規模の試験品をパートナーに提供した後、2023年に商業生産を開始する予定だ。

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画像クレジット:Heimdal

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

気候変動で増える水害を抑えるため、ただ成長を良しとする都市部に建築基準で待ったをかけるForerunner

市長は世界一大変な仕事であり、都市を引っ張っていくことは益々困難になっている。世界中の都心部で人口が膨れ上がっているが、その成長が起きる地域は気候変動の制約を受けている。住民に人気の高い海沿い地域も、海面上昇のリスクを負っている。成長のニーズと住民を災害から守る必要性をどう天秤にかけたらよいのだろう。

ほとんどのケースで、針は成長の方向に振りきっている。沿岸都市は大規模な広がりと開発をなすがままにし、より多くの固定資産税と住民を追い求めている。海面は恐ろしいほど上昇しているにもかかわらず。これは大惨事のレシピであり、それでも構わず多くの都市が選んだ献立だ。

Forerunner(フォアランナー)は針を反対側に振れさせようとしている。このプラットフォームは都市計画者や建物管理者が調査、研究を行い、将来の洪水被害の軽減に焦点をあてたより厳しい建築基準や土地利用基準を執行できるようにする。特に焦点の中心にあるのが、国の洪水保険制度の利用が多い米国都市で、Forerunnerは、各都市が同制度の複雑なルールをできるだけだけ遵守するための手助けをする。

画像クレジット:Forerunner

会社はFEMA(連邦緊急事態管理局)などからデータを入手して、各施設に義務づけられている最低床高基準を割り出し、建物がその基準を満たしているかどうかを調べる。さらに、洪水地帯の境界線を追跡し、水位認定証の作成、管理など国の洪水保険書類の処理手続きを支援する。

共同ファウンダーのJT White(JT・ホワイト)氏とSusanna Pho(スザンナ・フォ)氏は長年の友人同士で、MIT Media Lab(メディア・ラボ)で働いたあと、2019年初めにこの氾濫原管理プロダクトを一緒に作り上げた。「多くの自治体が『国の洪水』規則を守っていない問題はいくら強調しても足りません」とフォ氏はいう。「彼らは厳しい条例を元に戻すつもりです【略】多くの日常的な遵守確認が不可能だからです」。

洪水被害にあった沿岸都市は国の洪水保険で保護されるが、そこではしばしば倫理崩壊が起きる。なぜなら被害は補償されるので、そもそも災害を避けようというインセンティブが小さいからだ。連邦政府がこの基準を強化しようとしているのに加え、新しい世代の都市設計家や首長の間では、多くの都市の「建築-破壊-再建築」モデルは気候変動を踏まえてやめるべきだという認識が高まっている。洪水の後には「都市がより高い基準で再構築することを望んでいます」とホワイト氏は語った。「一種の再構築のサイクルや、同じことの繰り返しに私たちは憤慨しています」。

新たなモデルへの移行はもちろん容易ではない。「自治体は多くの難しい決断を迫られます」と彼はいう。しかし「当社のソフトウェアはそれを少しだけ簡単にします」。これまでに会社は早くも手応えを感じており、現在33の自治体がForerunnerを使用している、とファウンダーらは述べている。

顧客はルイジアナ州とニュージャージー州北部に集まっているが、同社最大の顧客はテキサス州ヒューストン市街地の大部分を含むハリス郡だ。郡は国基準の遵守を高めることによって洪水保険料を最大500万ドル(約5億5000万円)節約できる可能性がある、ホワイト氏はいう。「当社サービスの利点の1つは、自治体内の洪水保険契約者全員が来年からすぐに割引を受けられることです」と彼は語る。しかし、いずれFEMAはインセンティブよりも逆インセンティブに焦点を当てるだろう。「FEMAの持つ最強の武器は、自治体から洪水保険制度を取り上げられることです」とホワイト氏は指摘した。

会社は2019年に早期シードラウンドで資金調達し、現在プラットフォームの機能強化と売上を軌道に載せることに集中している。行政テック分野では難しい注文かもしれない。

住宅の増加と成長への要求が高まる中、気候変動は別の要求を都市に突きつける。市長や都市のリーダーたちは、過去のグロース(成長)モデルから、未来のレジリエント(適応)モデルへの転換を益々迫られている。

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画像クレジット:STR/AFP / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】EVの充電ソリューションは電力網の資産になる

編集部注:本稿の執筆者Oren Ezer(オレン・イーザー)氏は、電気自動車にワイヤレス充電を提供する共有エネルギープラットフォーム「ElectReon」のCEO兼共同設立者。

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2030年までに米国の販売台数の約半分を電気自動車(EV)にするというJoe Biden(ジョー・バイデン)大統領の計画は、現在、米国の総排出量の約半分を占める交通システムの脱炭素化を進めようとしていることを意味している。

電気自動車の大量導入を促進するためには米国政府の支援が不可欠だが、一方で、何百万、何千万もの人々が頼りにしている劣化した電気インフラ、すなわち電力網を修復する必要にも迫られている。

社会がオール電化に移行し、EVの需要が高まる中、現代社会が直面する課題は、どうすれば電力網に負荷をかけ過ぎずに、増え続けるEVに充電できるかということである。EVは電力網に対して過負荷となるという予測がある一方で、ワイヤレス充電、V2G(Vehicle to Grid、自動車と地域電力網の間で電力を相互供給する技術やシステム)、再生可能エネルギーのより効率的な利用など、エネルギーインフラをバックアップする方法も研究されている。

不安定な電力網に対して信頼性の懸念が高まる現在、この重要なインフラを強化し、電力網の限界を超えないようにするためのソリューションを見つけることは急務となっている。

現在、電力網が直面している課題

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の気候変動報告書は、地球温暖化や人類が排出した二酸化炭素の影響により、以前は50年に1度だった激しい熱波が、今後は10年に1度あるいはそれ以上の頻度で起こると予想している。このことは、すでに2020年も太平洋岸北西部における記録的な熱波や大火災で確認されているが、電力会社や事業者、業界の専門家たちは、現在のエネルギーシステムが気候変動による温度上昇に耐えられるか懸念を示している。

熱波だけではない。2月にテキサス州で発生した寒波は、エネルギーインフラを麻痺させ、何百万もの住宅で停電が発生した。温暖化が進み、電力需要を満たすために電力網が過負荷になればなるほど、このようなことは増加し続けるだろう。

気温の変動に加え、今後数年のうちに市場に出回ると予想されるEVの増加をサポートできるかどうかについても多くの人が懸念している。交通機関の電化にともない、2050年までに米国の発電容量を2倍にする必要があるとの報告もあり、充電のピーク時に柔軟性を向上させ、稼働率を上げられるEV充電の技術が求められている。しかし、現状では、米国の電力網の能力は2028年までに2400万台のEVをサポートできるにとどまり、道路輸送による二酸化炭素排出量を抑制するために必要なEVの数を大幅に下回っている。

このような課題にもかかわらず、業界の専門家は、EVが電力需要管理に大きな役割を果たし、必要に応じて電力網の安定化に貢献する潜在能力があることを指摘している。しかし、全米でEVの普及が進めば、電力会社は、人々がいつEVを充電するのか、何人のユーザーがいつEVを充電し、どのような種類の充電器が使用されてどのような車両(乗用車や中型・大型トラックなど)が充電されているのかといった重要な問題を調査し、電力需要の増加と電力網のアップグレードを決定する必要がある。

EV充電ソリューションは負債ではなく資産になる

電力網インフラのアップグレードには長い時間がかかる上、自動車の電動化を希望する個人や企業が増加しているので、全米の自治体は、EVの増加に先んじて、電力網の安定性を確保しながら必要な充電インフラを展開する方法を必死に模索している。しかし、国際クリーン交通委員会(ICCT)の最近の分析では、米国のEV充電器の数は現在21万6000台で、EVの普及目標を達成するためには2030年までに240万台の公的および民間の充電システムが必要になると推定されている。

各都市は充電インフラの不足を解消するために、必要な充電インフラの導入を早め、電力網を保護するための従来の据え置き型充電器以外の充電オプションを検討し始めている。その1つがワイヤレス充電や走行中充電といったダイナミックチャージング(大電力充電)である。

ワイヤレスのEV充電は、充電レーンの配置や交通量によって充電時間が断片化され、需要の変動が大きくなり、既存の電力網インフラにさらなる負担をかけるという意見がある一方、ワイヤレス充電では、14~19時に多く発生するエネルギー需要をまかなうためにEVを固定式充電器に接続しておく必要がなく、24時間さまざまな場所に分散して充電できるため、実際には電力網の需要を減少させ、グリッド接続の増設やアップグレードの必要性を減らすことができるという主張も多くある。

また、ワイヤレス充電は、道路、商業施設の搬入口の真下、施設の出入り口、タクシーの行列、バスの駅やターミナルなど、導電式(プラグイン)充電ソリューションでは対応できない場所にも設置することができるので、1日のうちに一定の間隔でEVに「上乗せ」充電を行うことができる。

導電式のEV充電ステーションは主に夕方や夜間にのみ使用され、蓄電装置が必要だが、ワイヤレス充電では、主に日中に生産・利用される再生可能な太陽エネルギーをより効率的に利用することができるので、必要な蓄電装置の台数を減らすことができる。

これには、都市や電力会社がワイヤレス充電のような効率的なエネルギー利用戦略を活用することで、エネルギー需要を時間的・空間的に分散させ、電力網に柔軟性をもたせて保護することができるというメリットがある。このエネルギー利用戦略を、自家用車やタクシーだけでなく、中型・大型トラックに適用すれば、EV化が難しいトラック分野でもEVへの移行をより迅速化できるようになる。

電気自動車の普及を支える電力網にプラスとなるワイヤレス充電

電力網にとっては乗用EVだけでも課題を抱えているが、大規模なトラック充電は、電力会社が積極的に移行を準備しなければ、非常に困難な課題となる。2030年には商用や乗用の全車両の10〜15%をEVにすることが計画されている現在、EVへの移行で二酸化炭素排出量の削減目標を達成しようとしている事業者にとって、ワイヤレス充電は費用対効果の高いソリューションになる。大型車のプラグイン充電とワイヤレス充電の比較と、両者が電力網に与える影響は次のようになる。

  • プラグインの導電式充電:240kWhのバッテリーを搭載した100台のEVバスをバス停留所で夜間導電充電する場合、全車両が毎日の運行終了時に同時に充電するために、最低でも6メガワット(MW)のグリッド接続が必要となる。
  • 電磁誘導方式のワイヤレス充電:都心部のバスターミナル、駐車場、ステーションに設置したワイヤレス充電の定置充電技術を使用して、100台のEVバスを、1日を通して運行の合間に「上乗せ」充電することができる。この充電戦略では、蓄電容量を大幅に削減でき(正確な削減量は車両と車両のエネルギー需要によって異なる)、1日を通して充電が行われるので、必要なグリッド接続は(プラグイン充電と比べて)66%減の2MWになる。

道路に隣接するソーラーパネルフェンスを備えたワイヤレス電気道路システムは、発電を分散させ、電力網への負荷を減らすための究極のソリューションになるかもしれない。業界が行った計算によると、約1kmの電気フェンスは、1.3〜3.3MWの電力を供給することができる。太陽光発電と道路に埋め込まれたワイヤレス充電インフラを組み合わせることで、1日あたり1300台から3300台のバスを電力網に接続せずに走らせることができる(平均時速80km、日射量の季節変動を考慮)。

さらに、ワイヤレス電気道路システムはすべてのEVに共通で使用できる。同じ電気道路でトラックやバン、乗用車に充電でき、電力網に新たな負荷をかけることもない。

電力網の近代化に向けて重要な役割をもつ革新的な充電技術

ワイヤレス充電はまだ市場に出てきて間もない技術だが、そのメリットは次第に明らかになっている。交通機関の電化の促進、気温の上昇、異常気象などに直面する電力網の老朽化が懸念される中、革新的な充電技術は最適なソリューションだ。

1日を通してEVの充電を分散させて過負荷を回避し、乗用車と大規模なトラック輸送両方のエネルギー需要を同時にサポートするワイヤレス充電などの技術は、将来の全電化脱炭素社会に向かうための重要なリソースとなる。

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画像クレジット:Bloomberg Creative / Getty Images

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(文:Oren Ezer、翻訳:Dragonfly)

気候変動で米国は安全保障のあり方が再定義される、書評「All Hell Breaking Loose」

今日の気候変動のポリティクスにおける亀裂の中で最も不幸な分断の1つが環境活動家と国家安全保障に関わる人々との連携の欠如だ。左翼系の環境活動家は右よりの軍事戦略家と付き合わず、前者は後者を破壊的で反エコロジカルな略奪者とみなしているし、後者は人々の安全保障よりも木やイルカを優先する非現実的な厄介者とみなしていることが少なくない。

しかし、気候変動により、両者はこれまで以上に緊密に連携することを余儀なくされている。

名誉教授で数多くの著作を持つMichael T. Klare(マイケル・T・クレア)氏は、自著「All Hell Breaking Loose(大混乱:気候変動に対するペンタゴンの視点)」の中で、過去20年間で気候変動がどのように米国の安全保障環境を形作ってきたかについて、ペンダゴンの戦略アセスメントに対するメタアセスメントを行っている。本書は、謹直で繰り返しが多いがいかめしいわけではない。そして防衛に携わる人々が今日最も厄介な世界的課題にどのように対処しているかについて、目を見張るような見方を提供してくれる。

気候変動は、国防の専門家でなければ気が付かないようなかたちで、実質的にあらゆる分野で安全保障環境を弱体化させている。米海軍の場合、沿岸から工廠や港へアクセスするわけだが、海面の上昇は任務遂行力を減退させたり時には破壊する脅威である。そのよい例がハリケーンが米海軍施設の最大の中心地の1つであるバージニアを襲った時であった。

画像クレジット:Metropolitan Books/Macmillan

米国の軍隊は、米国内のみならず世界中に何百もの基地を持っている。その意味で、戦闘部隊であると同時に大家のようなものでもある。これは当たり前のことだが繰り返していう価値がある。こうした施設のほとんどが、任務の遂行に影響を及ぼしかねない気候変動による問題に直面しており、施設の強化にかかる費用は数百億ドル(数兆円)、あるいはそれ以上に達する可能性がある。

これに加えて、エネルギーの問題もある。ペンタゴンは世界でも有数のエネルギー消費者であり、基地向けの電気や飛行機の燃料、船舶用のエネルギーを世界規模で必要としている。これらを調達する任にあたっている担当官にとって気がかりなのは、その費用もさることながら、それが入手できるのか、という点だろう。彼らは最も混乱した状況であっても信用できる燃料オプションを確保する必要があるのだ。石油の輸送オプションがさまざまな混乱にみまわれる可能性があるなか(暴風雨からスエズ運河での船舶の座礁まで)、優先順位を記したリストは気候変動のために曖昧になりつつある。

ペンタゴンの使命と環境活動家の利益が、完璧ではないにしても、強く一致するのはこの点である。クレア氏はペンタゴンが、戦闘部隊の任務遂行力を確保するためにバイオ燃料、分散型グリッドテクノロジー、バッテリーなどの分野に投資している様子を例として示している。ペンタゴンの予算を見て批評家は嘲笑うかもしれないが、ペンタゴンは、より信頼できるエネルギーを確保するため、いわゆる「グリーンプレミアム」を支払っている。これは他の機関では現実的には支払いが難しいような額であり、ペンタゴンは特殊な立場にあると言える。

両者の政治的な協調は、それぞれの理由は大きく異なるものの、人道的対応ということでも続いている。ペンタゴンの責任者が地球温暖化で懸念していることの1つは、この機関が中国、ロシア、イラン、その他の長年の敵対者からの保護といった最優先の任務ではなく人道的危機への対応へとますます足を取られて行くことである。ペンタゴンは、災害の起こった地域に何千という人数を派遣できる設備と後方支援のノウハウを持っている唯一の米国の機関として頼りにされている。ペンタゴンにとって難しいのは、軍隊は人道支援の訓練ではなく戦闘訓練を受けた存在であることだ。ISIS-Kを攻撃するスキルと、気候変動で難民となった人々のキャンプを管理するスキルとはまったく異なるのである。

気候変動活動家は、気候変動により何百万という人々が飢饉と灼熱から逃れるために難民となることがないよう、安定した公平な世界のために戦っている。ペンタゴンも同様にその中核的任務以外の任務に足を取られることのないよう、不安定な国家にテコ入れしたいと考えている。両者は異なる言語を話し、異なる動機を持っているものの、目指すところはほぼ同じなのである。

気候変動と国家安全保障との関係で最も興味深いのは、世界の戦略地図がどのように変化するかである。氷がとけ、北極海航路がほぼ1年を通して航行できるようになった今( そしてまもなく1年中航行できるようになる)、主な勝者はロシアであるが、クレア氏はペンタゴンが北極圏をどのように安定させるかについて的確な説明をしている。米国は、戦闘部隊に対し北極圏での任務の遂行と、この領域での不測の事態に備えるための訓練を初めて実施した。

クレア氏の本は読みやすく、そのテーマは大変興味深いが、どう想像力を膨らませても、見事に書かれた文章とは言えない。同書はまさにドラマ「Eリング」に出てくる防衛計画専門家チームによって書かれたかのようであり、筆者はそれをメタアセスメントと呼んでいる。これはシンクタンクがまとめた数百ページにおよぶ論文であり、これを読了するには、スタミナが必要である。

厳しい見方をすると、本書のリサーチと主な引用はペンタゴンのアセスメントレポート、議会証言、および新聞などの二次的レポートを中心になされており、当事者による直接的なインタビューはわずかであるかまったくないのであって、これは現代の米国の言説における気候変動の政治的な性質を考えると、大きな問題である。クレア氏は確かに政治を注意深く観察しているだろう。しかし将軍や国防長官が政府の報告書として公的にサインをする必要がない場合に、彼らがどのような発言をするかを私たちは知ることができない。これは大きな隔たりであり、本書を読むことで読者がどれほどペンタゴンの真意をつかめるのかは疑問である。

そうはいっても、本書は重要な位置付けを持つ本であり、国家安全保障に関わるコミュニティもまた、その利益を保護しつつではあるが、気候変動における変化を導く重要な先駆者でありうる、ということを思い出させてくれる。活動家と軍事戦略家は敵意を捨ててもう少し頻繁に話し合うべきである。同盟を結ぶ意義はあるのだから。

2021年夏に発表された気候変動に関する本

画像クレジット:Sergei Malgavko / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

【コラム】材料、電池、製造の炭素排出量を積み上げたEVの本当のカーボンコスト

EVの未来を夢見る投資家や政治家は、EVこそが世界の二酸化炭素排出量を大幅に削減すると信じている。しかし、その夢は完全に不透明だ。

従来型の自動車からEVへの置き換えが進んでも、世界の二酸化炭素排出量削減の効果はあまり大きくない。それどころかかえって排出量を増加させてしまう可能性もある、とする研究結果は増え続けている。

問題となるのは、発電時の炭素排出量ではない。顧客がEVを受け取るまでに発生する、私たちが気がついていない炭素排出量、すなわちバッテリーの製造に必要なすべての材料を入手し、加工するという迷路のように複雑なサプライチェーンで発生する「エンボディド・カーボン(内包二酸化炭素、環境負荷の指標)」のことだ。

ハンバーガー、住宅、スマートフォン、バッテリーなどのすべての製品で、生産工程の上流に「隠された」内包二酸化炭素が存在する。マクロレベルの影響については、フランスの気候変動に関する高等評議会が2020年発表した研究結果を参照して欲しい。この分析では、フランスが国を挙げて炭素排出量の削減を達成したという主張は幻想であることがわかる。炭素排出量は実際には増加しており、輸入品の内包二酸化炭素を計算すると、報告されていた値よりも約70%高くなった。

内包二酸化炭素の数値化は大変難しく、特にEVでは非常に複雑で不確実である。EVは走行中には何も排出しないが、生涯総炭素排出量の約80%は「バッテリーを製造する際のエネルギー」および「自動車を動かすための電力を発電する際のエネルギー」から発生している。残りは、クルマの非燃料部品の製造によるものである。従来型の自動車の場合は、生涯総炭素排出量の約80%が走行中に燃焼した燃料から直接発生する二酸化炭素で、残りは自動車の製造とガソリンの生産にかかる内包二酸化炭素から発生する。

従来型の自動車の燃料サイクルは狭い範囲に限定され、ほとんどの特徴が十分に解明している。そのため、厳しい規制がなくてもほぼすべてが追跡可能で、仮定(推定)の部分は少ない。しかし、電気自動車の場合はそうではない。

例えば50の学術研究を調査したレビューによると、電気自動車のバッテリー1つを製造する際の内包二酸化炭素は、最低でも8トン、最高で20トンである。最近の技術的な分析では、約4〜14トンとするものもある。14トンや20トンといえば、効率の良い従来型の自動車が、生涯の走行でガソリンを燃やした際に発生する二酸化炭素とほぼ同じ量である。それに対し、今挙げたEVの数値は、自動車が顧客に届けられ、走り出す前の話である。

この不確実性の原因は、バッテリーのライフサイクルで使用されるエネルギーの量と種類の両方が持つ、固有かつ解決できないばらつきにある。いずれも地理的条件や処理方法に左右され、データが公開されていないことも多い。内包二酸化炭素の分析によれば、ガソリン1ガロン(約3.7リットル)に相当するエネルギーを貯蔵できる電池を製造するために、エネルギー換算値で2〜6バレル(1バレルは約159リットル)の石油が必要であることがわかっている。つまり、EV用バッテリーの内包二酸化炭素は、無数の仮定に基づく推定値であり、実際のところ、今現在のEVの「炭素換算単位あたりの走行距離」を測定したり、将来の数値を予測したりすることは誰にもできない。

政府のプログラムや気候変動対策ファンドへの資金は殺到している。2021年もBlackRock(ブラックロック)General Atlantic(ジェネラルアトランティック)、TPGの3社がそれぞれ40〜50億ドル(約4400~5500億円)規模のクリーンテックファンドの新設を発表するなど、2021年の投資額は2020年の記録を上回る。私たちは炭素排出量を削減するための万能薬と思われているEVなどの技術の内包二酸化炭素に対し、きっちりと検討する時期を逸してしまった。ここからは、この万能薬が期待通りの結果を出していないことをご紹介する。

鉱山のデータ

自動車の目標は、燃料システムが総重量に占める割合をできるだけ小さくして、乗客や貨物のためのスペースを確保することだ。リチウム電池は、ノーベル賞級の革新的な製品であるはずだが、機械を動かすパワーの指標である「エネルギー密度」は、いまだに1位のはるか後塵を拝し、2位に甘んじている。

リチウム系の電池が本来持つ重量エネルギー密度は、理論的には1キログラム(バッテリーセルではなく、化学物質のみの重量)あたり約700ワット時(Wh/kg)である。これは鉛蓄電池のエネルギー密度に比べれば約5倍だが、石油の1万2000Wh/kgに比べればごくわずかに過ぎない。

30kgのガソリンと同じ航続距離を得られるEVのバッテリーは500kgになる。この差はガソリンエンジンと電気モーターとの重量差によっては埋められない。なぜなら、電気モーターはガソリンエンジンよりも90kg程度しか軽くないからだ。

自動車メーカーは、EVのモーター以外の部分を鉄ではなくアルミニウムやカーボンファイバーを使用して軽量化することで、バッテリーの重量による損失の一部を相殺している。残念なことに、これらの素材は鉄と比較して内包二酸化炭素がそれぞれ300%、600%多い。EVの多くに使用されている500kgのアルミニウムによって、バッテリー以外の内包二酸化炭素が(多くの分析で無視されているが)6トン増加することになる。しかし、すべての要素の中で最も炭素排出量の計算が面倒なのは、バッテリー自体の製造に必要な要素である。

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リチウム系の電池にはさまざまな元素の組み合わせがあり、安全性、密度、充電率、寿命など、バッテリーの複数の性能指標を妥協しながら選択される。バッテリーの化学物質自体が持つ内包二酸化炭素は、選択された元素によって600%もの差がある

広く普及しているニッケル・コバルト系電池の主成分を考えてみよう。一般的な500kgのEV用バッテリーには、約15kgのリチウム、約30kgのコバルト、約65kgのニッケル、約95kgのグラファイト、約45kgの銅が含まれている(残りは、スチール、アルミニウム、プラスチックの重さである)。

内包二酸化炭素の不確実性は、鉱石の品位、つまり鉱石の金属含有量から始まる。鉱石の品位は含まれる金属や鉱山、経年によって異なり、わずか0.1%から数%である。今わかっている平均値で計算すると、EV用のバッテリー1台分に必要な鉱石は次のようになる。1000トン以上のリチウムブライン(かん水)から15kgのリチウム、30トン以上の鉱石から約30kgのコバルト、5トン以上の鉱石から約65kgのニッケル、6トン以上の鉱石から約45kgの銅、約1トン以上の鉱石から約95kgのグラファイトである(なお、採掘にはエネルギーを大量に消費する重機を使用する)。

ボリビア・ウユニ塩原の南側ゾーンにある国有の新しいリチウム抽出施設の蒸発プールで、ブラインを積み込むトラックの航空写真。現地時間2019年7月10日(画像クレジット:PABLO COZZAGLIO / AFP via Getty Image)

さらに、そのトン数には、金属を含む鉱石に到達するまでに最初に掘らなければならない岩石物質の量(オーバーバーデン)を追加する必要がある。オーバーバーデンも、鉱石の種類や地質によって大きく異なるが、通常は1トンの鉱石を採掘するために約3〜7トンのオーバーバーデンを掘削する。これらの要素を総合すると、500kgのEV用バッテリー1台を作るためには、約250トンの岩石を掘削して、合計約50トンの鉱石を運搬し、さらに金属を分離するための加工を行う必要があることになる。

内包二酸化炭素は、鉱山の場所によっても影響を受ける。これは理論的には推定可能だが、将来的な数値は推測の域を出ない。遠隔地にある鉱山ではトラック輸送の距離も長くなり、ディーゼル発電機によるオフグリッド電力に頼らざるを得ない。現在、鉱物部門だけで世界の産業エネルギー使用量の約40%を占めている。また、全世界のバッテリーやバッテリー用化学物質の半分以上は、石炭火力発電の多いアジアで生産されている。欧米での工場建設が期待されてはいるとはいえ、いずれの調査も、鉱物のサプライチェーンは長期にわたってアジアが完全に支配すると予測している。

電力網とバッテリーの大きなばらつき

EVの炭素排出量の分析では、ほとんどのケースでバッテリーの内包二酸化炭素が考慮されている。しかし、この内包二酸化炭素は、異なる電力網でEVを使用した場合に生じるばらつきに対し、単純化のために単一の値を割り当てて計算されていることが多い。

国際クリーン輸送協議会(ICCT)が最近行った分析は非常に参考になる。ICCTは、バッテリーに固定の炭素負債を設定し、ヨーロッパのどこでEVを運転するかによってカーボンフットプリント(ライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量を二酸化炭素に換算した指標)がどのように変化するかに着目した。その結果、EVのライフサイクルにおける炭素排出量は、燃費の良い従来型の自動車と比較して、ノルウェーやフランスでは60%、英国では25%削減されるが、ドイツではほとんど削減できないことがわかった(ドイツの送電網における1kWhあたりの平均炭素排出量は、米国の送電網とほぼ同じである)。

この分析では、平均的な送電網の炭素排出量データを使用しているため、必ずしもバッテリー充電時の炭素排出量を表しているわけではない。充電に使用される実際の電力源は、平均値ではなく特定の時間によって決定される。水力発電と原子力発電が24時間稼働しているノルウェーやフランスでは、EV充電のタイミングによる変動は少ないが、それ以外の地域では、太陽光100%の時間や石炭100%の時間など、充電の時間帯や時期、場所によって大きく変動する可能性がある。一方、ガソリンの場合は、使用する場所と時間にこのような曖昧さはなく、全世界でいつでも同じである。

ドイツ・ボクスバーグにある亜炭火力発電所。ドイツ東部のルサティア地方とその経済基盤は、イェンシュヴァルデ、シュヴァルツェ・プンペ、ボクスベルクの石炭火力発電所に大きく依存している(画像クレジット:Florian Gaertner / Photothek via Getty Image)

ICCTが最近行った別の分析でも電力網の年平均値が使用され、従来型の自動車と比較した場合のEVのライフサイクルにおける炭素排出削減量は、インドでは25%、ヨーロッパでは70%となっている。しかし、欧州内での比較と同様に、バッテリー製造時の炭素排出量に、単一の低い値を仮置きしている。

国際エネルギー機関(IEA)は、現在のほとんどの鉱物生産は、炭素排出量の振れ幅の上限で行われていると報告している。そのため、バッテリーの内包二酸化炭素には単一の低い平均値を仮置きするのではなく、バッテリーごとに異なる内包二酸化炭素の影響を考慮しなればならない。ICCTの結果を内包二酸化炭素の現実に合わせて調整すると、EVのライフサイクルにおける排出削減量は、ノルウェーでは40%削減(調整前は60%)できるが、英国やオランダではほとんど削減できず、ドイツでは20%の増加となる。

現実世界での不確実性はこれだけではない。ICCTもその他の類似の分析でも、480kmの航続距離(従来型の自動車からEVへの置き換えを進めるために必要な距離)を実現できるバッテリーのサイズよりも、実際よりも30~60%小さいバッテリーで計算している。現在のハイエンドEVでは大型のバッテリーが一般的だ。バッテリーのサイズを2倍にすると、内包二酸化炭素も単純に2倍になり、多くのシナリオ(あるいはほとんどのシナリオ)で、EVのライフサイクルにおける炭素排出削減効果が大幅に損なわれるか、ゼロになる。

同様に問題なのは、将来の排出削減量を予測する際に、将来の充電サプライチェーンがEVが存在する地域に「存在する」明示的想定していることだ。ある分析は広く引用されているが、米国のEV用アルミニウムは国内の製錬所で製造され、電力は主に水力発電のダムで供給されると仮定している。理論的には可能かもしれないが、現実はそうではない。例えば米国のアルミニウム生産量は全世界の6%に過ぎない。製造プロセスがアジアにあると仮定すると、EV用アルミニウムのライフサイクルにおける排出量は計算上150%も高くなる。

EVの内包二酸化炭素算出の問題点は、石油が採掘、精製、消費される際の内包二酸化炭素の透明性に匹敵する報告メカニズムや基準が存在しないことだ。エグゼクティブサマリーやメディアの主張には反映されていないとしても、研究者は正確なデータを得るためには課題があることを知っている。技術資料の中には「リチウムイオン電池の使用が急速に増加している現状の、環境への影響を正しく評価するためには、リチウムイオンバッテリーセルの製造に必要なエネルギーをより深く理解することが重要である」というような注意書きが見られることがよくある。また、最近の研究論文には「残念ながら、その他のバッテリー原料の業界データはほとんどないため、ライフサイクル分析の研究者はデータギャップを埋めるために工学的な計算や近似値に頼らざるを得ない」という記載もあった。

全世界の鉱物のサプライチェーンを計算の対象にして、何千万台もの電気自動車の生産に対応させようとすると、この「データギャップ」が大きな壁となる。

量を増やす場合

最も重要なワイルドカードは、国際エネルギー機関(IEA)がいうところの「エネルギー転換鉱物」(ETM、風力や太陽光を電気に変換するために必要な鉱物)を必要量確保するために予想されるエネルギーコストの上昇である。

IEAは2021年5月、バッテリーや太陽電池、風力発電機の製造に必要なエネルギー転換鉱物の供給に関する課題について、重要な報告書を発表した。この報告書は、他の研究者が以前から指摘していたことを補強している。従来型の自動車と比較して、EVでは1台あたり約5倍のレアメタルを使用する。これに従い、IEAは、現在のEVの計画と風力発電や太陽光発電の計画を合算すると、一連の主要鉱物を生産するためには、全世界で鉱山生産量を300〜4000%増加させる必要があると結論づけている。

例えばEVは従来型の自動車に比べて銅の使用量が約300〜400%多いが、全世界の自動車総数に占めるEVの割合はまだ1%にも満たないため、世界中のサプライチェーンには今のところ影響が出ていない。EVを大規模に生産するようになると、電力網用のバッテリーや風力・太陽光発電機の計画と合わせた「クリーンエネルギー」分野は世界の銅消費量の半分以上を占めるようになるだろう(現在は約20%)。現在はごくわずかしか使用されていないニッケルとコバルトという関連し合う鉱物についても、クリーンエネルギーへの移行を進めることで、その分野の需要が全世界の需要のそれぞれ60%、70%を占めるようになると考えられている。

横浜港に到着し、駐車場に並べられたテスラ社の車両。2021年5月10日月曜日(画像クレジット:Toru Hanai/Bloomberg via Getty Images)

電気自動車の義務化が鉱業に及ぼす究極の需要規模を説明するために、5億台の電気自動車が普及した世界(それでも自動車全体の半分にも満たない)を考えてみよう。この世界では約3兆台のスマートフォンのバッテリーを製造できる量の鉱物資源を採掘する必要があり、これは、スマートフォンのバッテリーを2000年以上も採掘・生産してきたことに相当する。念のため確認しておくと、これだけのEVを導入しても、世界の石油使用量は15%程度しか削減されない。

全世界での驚異的な採掘量の拡大がもたらす環境、経済、地政学的な影響はさておき、世界銀行は「鉱物と資源の持続可能な開発のための新たな課題」について警告している。原材料の調達はEVのライフサイクルにおける二酸化炭素排出量のほぼ半分を占めるので、このような採掘量の増加は、将来の鉱物の二酸化炭素排出原単位(carbon intensity、炭素集約度ともいう)の予測に直接関係する。

IEAのレポートでも指摘されているように、エネルギー転換鉱物の問題は「二酸化炭素排出原単位が高い」だけでない。鉱石の品位が長年にわたって低下し続け、採掘量1kgあたりのエネルギー使用量が増加する傾向があるのだ。鉱物の需要が加速すれば、採掘者は必然的に低品位の鉱石を、より遠隔地で採掘することになる。たとえばIEAは、リチウムとニッケルをそれぞれ1kg生産する際の二酸化炭素排出量は300~600%増加すると予測している。

フランスの海外共同体ニューカレドニアのチオにあるニッケル鉱山(画像クレジット:DeAgostini / Getty Images)

銅の動向はこの課題をよく表している。1930年から1970年にかけて銅鉱石の品位は年々に低下していったが、採掘後の化学プロセスも進歩したため、1トンの銅を生産するためのエネルギー使用量は30%減少した。しかしこれは、最適化された化学プロセスが物理学的な限界に近づくまでの一時的なものだった。1970年以降も鉱石の品位は下がり続け、それに伴って銅1トンあたりのエネルギー使用量は増加し、2010年には1930年と同じレベルに戻ってしまった。近い将来、他の鉱物でも鉱石の品位が下がると、同じパターンをたどることになるだろう。

それにもかかわらず、IEAは他の機関と同様に、今現在の推定平均サプライチェーン二酸化炭素排出原単位を用いて「将来EVが増加することで二酸化炭素の排出量を削減できる」と主張している。しかし、IEA自身の報告書のデータは、エネルギー転換鉱物の内包二酸化炭素が増加することを示唆している。さらに、IEAは、太陽光発電所や風力発電所は天然ガスの発電所に比べて500〜700%多く鉱物を必要とすると指摘しているが、それらの発電所の建設が大幅に増加すると、鉱山サプライチェーンがさらに逼迫し、商品市場では価格が劇的に上昇することになる。

Wood Mackenzie(ウッドマッケンジー)の資源専門家は、EVのシェアが現在の1%未満から10%に近づくと、到底対応できないほどの資源需要が発生し「バッテリー技術の開発、テスト、商業化、製造、EVとそのサプライチェーンへの適用がこれまで以上に迅速に行われなければ、EV目標を達成し、ICE(内燃機関)を禁止することは不可能であり、現在のEV普及率予測に問題が生じる」と予測している。

政策を定めたところで、化学物質の開発・製造や鉱業など、すでに業界トップクラスのものを短期間で加速させる能力があるという証拠はない。リチウム電池の化学的原理が発見されてから、最初のTeslaセダンが発売されるまでに30年近くかかっているのだから。

炭素効率性を追求するバッテリーサプライチェーン

もちろん、EVサプライチェーンの炭素排出量の増加が世界を脅かす要因を改善する方法はある。それにはバッテリーの化学的性質の改善(1kWhの蓄電に必要な材料の削減)、化学プロセスの効率化、鉱山機械の電動化、リサイクルなどが挙げられ、いずれも「避けられない」あるいは「必要な」解決策とされることが多い。しかし、EVの急速な普及を想定した場合、これらはいずれも大きなインパクトがあるものではない。

よくありがちなニュースでは、何らかの「ブレークスルー」があったように報道されるが、EVの1kmあたりに必要な物理的材料を桁違いに変化させるような、商業的に実現可能な代替バッテリーの化学原理は見つかっていない。ほとんどの場合、化学組成を変えても重量が変わるだけだ。

例えばコバルトの使用量を減らすためにはニッケルの含有量を増やすのが一般的である。炭素やニッケルなどのエネルギー原子を使用せず、代わりに鉄などの(レアではない)エネルギー密度の低い元素を使用したバッテリー(リン酸鉄リチウムイオン電池など)は、エネルギー密度が低くなる。後者の場合、同じ航続距離を維持するためには、より大きく、より重いバッテリーが必要になる。いつかは組成的に優れた電池用の化学物質の組み合わせが発見されるだろうが、化学メカニズムを検証から産業用に安全にスケールアップするには何年もかかる。それ故に、現在、そして近い将来自動車に搭載されるバッテリーに使用される技術は、いつか理論的に可能になる技術ではなく、今現在実現している技術となる。

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また、鉱物の精製や変換に使用されるさまざまな化学的プロセスの効率化も期待されている。技術者が技術者である以上、改良は当然であり、デジタル時代にはさらに改良が進むかもしれない。しかし、研究されつくした物理化学の視点では、すでに物理学的限界に近い状態で精製や変換のプロセスが行われているので「ステップ関数(階段関数、階段を上がるように数値が増える関数)」的な変化は期待できない。つまり、リチウム電池は、プロセス(およびコスト)効率の急速な改善が見られる初期段階をとっくに過ぎて、少しずつしか改良されない段階に入っているのだ。

鉱山用トラックや機器の電動化についてはCaterpillar(キャタピラー)、Deere & Company(ディアアンドカンパニー)、Case(ケース)などがプロジェクトを進めており、量産機もいくつか販売されている。有望なデザインが登場しているユースケースもあるが、ほとんどのユースケースで重機に24時間365日の電力供給を行うにはバッテリーの性能が不足している。さらに、鉱山機械や産業機械の回転率は数十年単位であり、鉱山では、今後も多くの石油燃焼機材を長期間使用することになる。

リサイクルは新たな需要を軽減するためによく提案される手段だ。しかし、仮にすべてのバッテリーがリサイクルされたとしても、現在のEV推進策で提案されている(あるいは義務化されている)EVの増加予測から生じる膨大な需要の増加には到底対応できない。いずれにしても、バッテリーをはじめとする複雑な部品からレアメタルをリサイクルする際の有効性と経済性については、技術的な課題が未解決のまま残っている。いつかは自動化されたリサイクルが可能になるだろうと想像できるかもしれないが、現時点ではそのような解決策は存在しない。また現在も将来も、バッテリーの設計は統一されておらず、政策立案者やEV推進者が想定している期間内に設計の統一化を実現するための明確な道筋はない。

法規制の混乱とEVの排出権

ここまで見てきたとおり、EVの炭素排出量については非常に多くの仮定、推測、曖昧さがあるため、炭素排出量削減に関する主張は、詐欺とまではいかなくても、操作の対象となることが避けられない。必要なデータの多くは、技術的な不確実性、地理的要因の多様性と不透明性、多くのプロセスが公開されていない現状を考慮すると、通常の規制方法では収集できないと思われる。それでも、米国証券取引委員会(SEC)は、そのような開示要求を検討しているようだ。EVのエコシステムにおける不確実性は、欧州や米国の規制当局が法的拘束力のある「グリーン開示規則」を制定したり、二酸化炭素の排出量に関する「責任ある」ESG指標(企業を、環境[Environment]、社会[Society]、企業統治[Governance]の観点から評価した際の指標)を施行したりすれば、法的な大混乱につながる可能性がある。

自動車の石油使用量の削減に熱心な政策立案者に対しては、バッテリー化学や採掘の革命を待つまでもなく、技術者は目標を達成するためのより簡単で確実な方法を開発済みだ。燃料使用量を最大50%削減できる内燃機関はすでに存在している。より効率的なエンジンを積んだ自動車を購入するインセンティブを与え、その半分が燃費の良い自動車を購入するとしても、3億台のEVが供給されるよりも早く実現でき、安価である。そしてその検証は透明で、不確実性は存在しない。

編集部:本稿の執筆者Mark Mills(マーク・ミルズ)氏は「The Cloud Revolution」の著者。「The Cloud Revolution: How the Convergence of New Technologies Will Unleash the Next Economic Boom and a Roaring 2020s」を出版予定。マンハッタン研究所のシニアフェロー、ノースウェスタン大学マコーミック工学部のファカルティフェロー。

画像クレジット:Xu Congjun/VCG / Getty Images

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(文:Mark Mills、翻訳:Dragonfly)

解決策ではなく方向性を示すビル・ゲイツ、書評「地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる」

Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏は、ビジネスでの人生において多くの問題を解決してきたが、ここ数十年は、世界の貧困層の窮状と特にその健康問題に献身的に取り組んできた。財団の活動や慈善事業を通じて、同氏はマラリアや対策が進まない熱帯病、妊産婦の健康などの問題を解決するために世界を巡っているが、常に斬新で、多くの場合安価な解決策に目を向けている。

その工学的な頭脳と思考法を気候変動に注いだ著書が「How to Avoid a Climate Disaster:The Solutions We Have and the Breakthroughs We Need(日本語版:地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる)」だ(原書表紙に斜体で書かれているように、本当に必要『We Need』なのだ)。ゲイツ氏はこの本で、ソフトウェアの巨星からグローバルヘルスの魔術師、そして気候変動に関心を持つ市民へと進化していく過程について触れている。対策が進まない熱帯病などの課題に注目すると、気候変動は蚊などの感染媒介生物の蔓延に大きく影響していることがわかる。発展途上国の食糧安全保障を考える上で、気候変動問題を無視することはできない。

画像クレジット:Alfred A. Knopf/Penguin Random House

ゲイツ氏は、このような書き出しで、気候変動の懐疑論者らとのつながりを持とうとしているのではないだろう(どちらにしても、気候のよい時に彼らとつながりを持つのは難しい)。しかし同氏は代わりに、懐疑的だが再考の可能性のある人たちとの橋渡しをしようとしている。ゲイツ氏は、気候変動の影響を目の当たりにするまでは、この問題についてあまり考えていなかったことを認めており、同様に知的な旅をする準備ができている幾人かの読者を迎え入れたいと考えている。

その上でゲイツ氏は、温室効果ガスの主な構成要素と、年間510億トンのCO2換算排出量を削減して実質ゼロを達成する方法について、極めて冷静な(ドライともいえる)分析を行っている。その内訳は、エネルギー生産(27%)、製造業(31%)、農業(19%)、輸送(16%)、空調(7%)の順になっている。

ゲイツ氏はエンジニアであり、それが表れているところがすばらしい。同氏はこの本の中で、規模を理解すること、そして報道で耳にする数字や単位を常に解きほぐし、あるイノベーションが何か変化を生み出せるかどうかを実際に理解することを非常に重視している。ゲイツ氏は、航空プログラムで「1700万トン」のCO2を削減するという例を挙げているが、同時にこの数字は世界の排出量の0.03%にすぎず、今以上に規模が拡大するとはいえないと指摘する。これは、生活の質において、最小のコストで最大の検証可能な向上をもたらすプロジェクトに慈善資金を投入すべきという効果的な利他主義の考え方を取り入れたものだ。

もちろん、ゲイツ氏は資本主義者であり、同氏の判断の枠組みは、考え得る各解決策の適用に要する「グリーンプレミアム」を計算することにある。例えば、カーボンフリーのセメント製造プロセスは、カーボンを排出する通常のプロセスの2倍のコストがかかるとしよう。これらの追加コストと、その代替策が実際に削減する温室効果ガスの排出量を比較すれば、気候変動を解決するための最も効率的な方法がすぐにわかるのだ。

同氏が導き出す答えは、最終的に非常に応用性の高いものになる傾向がある。すべてを電化し、発電を脱炭素化し、残留物から炭素回収し、より効率的にする。難しいと思うかもしれないが、実際その通りだ。ゲイツ氏は「This Will Be Hard(道は険しい)」という的を射た名の章でその課題を指摘し、その章は「この章のタイトルでがっかりしないでください」という一文で始まる。それを理解するためにこの本を買うまでもないだろう。

ゲイツ氏は結局、この本の中では終始、保守的な姿勢を通している。それは、単に現状を維持するという同氏の一般的なアプローチではない。それは、本質的に私たちの生活様式に対する代替可能な微調整であり解決策の中に明らかに潜んでいる。メッセンジャーであるとすれば驚くべきことではない。また、これらの問題を解決するためのテクノロジーの力に対する同氏の見解も、驚くほど保守的だ。クリーンエネルギーをはじめとする環境保全技術に文字通り何十億もの投資をしてきた人物にしては、ゲイツ氏が提案する魔法は驚くほど少ない。現実的ではあるだろうが、同氏の実績を考えると悲観的にも感じられる。

この気候変動に関する考察を記したいくつかの本と合わせて読むと、ゲイツ氏にはある種の計算されたナイーブさを感じずにはいられない。つまり、もう少しカードを出し続けて、ギリギリまでロイヤルフラッシュが出るかどうかを見るべきだという感覚だ。解決策の兆しはあるものの、その多くは実用的な規模には至っていない。すでに利用可能な技術もあるが、実際に排出量に対する効果を発揮するには、自動車や家庭、企業などを改修するために莫大な費用が必要になる。また、欧米以外の国々には、近代的な設備を利用する資格がある。簡単なことではあるが、手が届かないのだ。

この本の長所であり、同時に短所でもあるのは、政治色がなく、事実に基づいて書かれているため、熱狂的な気候変動懐疑論者を除くすべての人を対象としていることだ。しかし、この本は一種のゲートウェイドラッグのような役割も果たしている。問題の規模、解決策の範囲、グリーンプレミアムや政策実施の課題を理解すると「いずれにしても今後数年でできるはずがない。だから何がいいたいのか」という気持ちになる。

ゲイツ氏はこの本を「私たちは、2050年までに温室効果ガスをなくす道筋をつけるためのテクノロジー、政策、市場構造へ注力することに、今後10年間を費やすべきだ」と締めくくっている。同氏のいっていることは間違ってはいないが、これはエバーグリーンが長く続かないであろう世界で発したエバーグリーンなコメントでもある。

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画像クレジット:Michael Cohen / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

世界中の環境テックベンチャー対象の助成プログラムを英Founders FactoryとスロバキアのG-Forceが展開

英国のテックアクセラレーターFounders Factory(ファウンダーズファクトリー)はFounders Factory Sustainability Seedプログラムの立ち上げで欧州の同業と力を合わせる。スロバキアのブラチスラヴァに拠点を置きつつ広範に活動しているG-Force​(GはGreenからとっている)との提携のもとに立ち上げたプログラムは気候テックのスタートアップへの投資と振興を目的としている。

プログラムは世界の温室効果ガス排出を削減し、循環型経済への移行を加速させ、持続可能な住宅供給や製造のソリューションを生み出し、また気候に優しいモビリティ、食糧生産、二酸化炭素・メタン回収・貯留に対応できるスタートアップの起業家に​投資する。

主にブラチスラヴァ以外で活動しているG-Forceとともに展開するこのプログラムは、遠隔と対面のサポートを織り交ぜた「ハイブリッド」方式で展開される。世界の環境テックベンチャーがプログラムに申し込んで参加できるように、との意図だ。

Sustainability SeedプログラムでFounders FactoryのパートナーとなるG-Forceは財務面で、Boris Zelený氏(ボリス・ゼレニー、AVASTに14億ドル[1540億円]で売却されたAVGを創業した人物だ)、Startup GrindのMarian Gazdik(マリアン・ガズディク)氏、そしてアーリーステージ投資家のPeter Külloi(ピーター・キューロイ)氏やMiklós Kóbor(ミクローシュ・コーボー)氏を含む多数の東欧の投資家によって支えられている。

プログラムに選ばれたスタートアップは最大15万ユーロ(約2000万円)のシード投資、Founders Factoryチームによる6カ月のサポート、潜在的な顧客やパートナー、法人、投資家への紹介を受けられる。

Founders FactoryのCEOであるHenry Lane Fox(ヘンリー・レーン・フォックス)氏は次のように述べた。「起業家が創造を得意とするディスラプトを促進することで、すべての人にとってより良い、そしてより持続可能な未来を形成することができます。G-Forceとの提携で、Founders Factory Sustainability Seedプログラムは世界にポジティブな影響を与えるベンチャーの育成とサポートを約束する主要プレシードプログラムになります」。

G-Forceの共同創業パートナーであるMarian Gazdik(マリアン・ガズディク)氏は「Founders Factory Sustainability Seedプログラムとの提携での我々の野望は、G-Forceを欧州の中心を拠点とする世界クラスの持続可能なイノベーションハブにすることです」と述べた。

アイデアを進展させて、レーン・フォックス氏は「これまでは1つの法人パートナーと組み合わせるのが当社のモデルでしたが、この特異なケースではエンジェル投資家のグループをまとめて紹介し、純粋な金融投資家との取引にすることができます。これは実際にこの特異な部門にうまく合うと考えています。我々はまた、そうした企業がプログラムを最大限活用できるよう、早い段階でより多くの資金を提供します」と筆者に語った。

ガズディク氏は、英国ではなく欧州を拠点とすることでEUの助成プログラムを利用することができる、とも付け加えた。

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画像クレジット:G-Force team

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

現在も成長する石油化学分野でバイオベースの代替品を創造するFabricNanoが13.7億円を調達

DNAを「ウェハー」と表現するのを耳にすることはあまりないが、セルフリーのバイオ製造企業FabricNanoの創業者であるGrant Aarons(グラント・アーロンズ)氏は、自社の主要製品を説明する際にアナロジー的な表現としてこれを使用している。このDNAが、化石燃料とその副産物に目下依存しながら成長を続ける世界の石油化学産業に資することを、同社は期待している。

FabricNanoはロンドンを拠点とする会社で、2018年にテクノロジースタートアップアクセラレーターのEntrepreneur Firstによって設立された。FabricNanoは、セルフリーのバイオ製造における創案に注力している。バイオ製造は、単純に、細胞または微生物内の酵素を使用して最終産物を産生する。FabricNanoのアプローチは、その酵素をDNAウェハー上に置くことだ(このプロセスは「酵素固定化」と呼ばれる)。

アーロンズ氏によると、これらの酵素は、薬品やプラスチックの製造に使用されるような化学物質を、細胞ベースのシステムに比べて高効率で生成できるという。化学物質の大量生産に現在使用されている化石燃料に依存することはない。同社の核となるのはDNAの骨格で、反応をスケールアップするのに十分な酵素を収容できる。

FabricNanoは先にシリーズAで1250万ドル(13億7000万円)を調達したことを発表した。このラウンドはAtomicoが主導し、Twitterの共同創業者であるBiz Stone(ビズ・ストーン)氏、女優で国連のSustainability Ambassadorを務めるEmma Watson(エマ・ワトソン)氏、そしてBayerの元CEOであるAlexander Moscho(アレクサンダー・モショー)氏が出資した。

「会社に適したエンジェル投資家を積極的に獲得しようと努めました」とアーロンズ氏。「また、テクノロジー界のエンジェル投資家にも目を向けました。つまるところ、私たちが作っているものは、製造業者にとって有効なテクノロジーとなるからです」。

「バイオマスプラスチックやバイオマスモノマーを十分な規模で製造することを意図してはいません」と同氏は続ける。「(製造業者が)十分な低コストで大量生産できるテクノロジーを提供することを私たちは目指しています。それは、バイオプラスチックのような低価額の分子を生産するための、スケーラブルで持続可能な方法です」。

FabricNanoのアイデンティティの一端は、成長する石油化学分野において、バイオベースの代替品を創造することにかかっている。

現在、世界の石油需要の約14%がプラスチックの製造に向けられている。国際エネルギー機関(International Energy Agency)による2018年の予測では、プラスチックやその他の材料の製造に利用し得る石油化学製品、すなわち石油とガスから得られる化学物質は、2050年までに世界の石油需要の約半分を占めると推定されている。

石油化学産業の主要な最終製品であるプラスチックは、石油やエタンを加熱して製造されることや、廃棄物として焼却されることなどにより、ライフサイクルのほぼすべての段階で気候変動に影響を及ぼしている。プラスチックの生産と利用が現在のペースで続けば、2030年までに排出量は1.34ギガトン(石炭火力発電所295基分)に達すると、国際環境法センター(Center for International Environmental Law)は予測している。

もちろん、プラスチックの生産量を増やせば、それがどのように生産されたものであっても、それ自体が生態系の破壊につながる(科学者たちは、2040年までに「未使用」プラスチックの生産を段階的に廃止するよう求めている)。

また「バイオプラスチック」という漠然とした用語は、生分解性プラスチックから、化石燃料を使わずに作られたプラスチック(生分解性でないものも含む)まで、あらゆるものを指すことができる。それゆえ「環境に優しいプラスチックの世界」をグリーンウォッシュに向かいやすくしている。

残された問いは、バイオ製造が石油化学による気候変動への影響をどの程度減らすことができるかということである。現時点ではそれは明らかではない。アーロンズ氏は、セルフリー製造が持つ強みの一端が、プラスチックなどの汎用化学品の製造に石油(あるいは米国ではエタノール)を使うことから業界を遠ざける可能性があると主張する。

「私たちが真に検討しているのは、コモディティセクターの大部分を掌握し、石油ベースの製品の多くを石油から切り離してバイオの領域に引き込むことにつながる、新しいテクノロジーです」とアーロンズ氏は語る。

とはいえ、プラスチック生産の現状には明らかな懸案事項も存在している。既存の石油化学産業に取って代わるだけの拡張性とコスト効率を実証できるなら、代替品を生み出す余地は残されるだろう。

セルフリー製造がすでに順調に拡大している証拠がいくつかある。例えば、高果糖コーンシロップはコーンスターチが酵素によってブドウ糖に分解されるときに生成される。最終段階にはグルコースイソメラーゼという酵素が必要である。アーロンズ氏は、高果糖コーンシロップ製造を「世界最大のセルフリー化」と評している。

そのコンセプトを踏まえて、FabricNanoはより多くの化学物質を提供しようとしている。Fabric Nanoは現時点ですでに「1,3-プロパンジオール」のような化学物質を作ることができる。1,3-プロパンジオールは、歯磨きやシャンプーに含まれるポリエチレングリコールの代わりに使用できる成分だ。この製品を作るのに必要な材料は、バイオディーゼル製造の主要な廃棄物であるグリセリンであり、コストの抑制、そして化石燃料の代替原料の提供に寄与する可能性がある。

アーロンズ氏によると、FabricNanoはさらに4つの製品を製造できることを実証済みだが、その種類は明らかにしていない。FabricNanoは「医薬品分野」と汎用化学品に注目していると同氏は述べている。「私たちが製造できる汎用化学品は数多くあります。1,3-プロパンジオールは氷山の一角にすぎません」。

それでも、FabricNanoの際立ったアプローチは、おそらく今までに開発した汎用化学品ではなく、実在するDNAの骨格であろう。DNAウェハーに付着して化学物質の生成を助ける酵素がソフトウェアなら、DNAの骨格はFabricNanoのハードウェアだ。

このハードウェアは、同社が汎用化学品の世界にセルフリーをもたらすための主要な道筋を形成するだろう。

「実際に欠けている部分、そして(セルフリー製造が)長い間ニッチなテクノロジーであった理由は、こうしたタンパク質をすべて固定化する一般化可能な技術が存在しなかったことにあります」とアーロンズ氏は語っている。

今回の資金調達で、FabricNanoは従業員を12人から30人に増員し、ロンドンの新しいオフィスに移る計画だ。同社への投資総額は1600万ドル(約17億6000万円)になる。

画像クレジット:chabybucko / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

EU「2030年の温室効果ガス55%削減」が21年遅延・2051年まで未達との調査報告、挽回には約470兆円の投資必要との試算も

EU「2030年までに温室効果ガス55%削減」の目標達成が2051年にズレ込むとの調査報告、約470兆円の投資が必要との試算も

Reuers / Srdjan Zivulovic

欧州連合(EU)は、温室効果ガスを2030年までに1990年比55%削減するという目標「Fit for 55」を達成するのに、21年も遅れていることがわかりました。Reutersは、Enel財団と国際経済会議European House-Ambrosettiの研究の結果、現在のペースのまま大幅な改善がなければ、2030年の目標値は2051年まで達成できないと報じています。

また温室効果ガス以外でも、2030年に40%の再生可能エネルギーを導入するという目標が、2043年にずれ込むと予想しています。

調査では、こうした遅れを取り戻して間に合わせるためにはEU全体で約3兆6,000億ユーロ(約470兆円)の投資が必要だと述べています。

「エネルギー転換プロセスに関与するセクターへの投資は、ヨーロッパとイタリアの両方で、重要な間接的および誘発的効果を伴う連鎖的な利益を生み出すでしょう。実際、この調査によると、今後10年間でこれらのギャップを埋めることで、欧州連合では8億ユーロ以上、イタリアでは4,000億ユーロ以上のGDPに累積的な影響を与える可能性があると報告されています。そして、目標達成のためにはEUの取り組みを抜本的に強化する必要があると警告しています。

イタリアを本拠地としてEU各国にEnelのCEOフランチェスコ・スタラーチェ氏は調査結果を示した上で「これでは遅すぎる」と述べ「目的達成のための具体的な行動力を持つ、課題の大きさに見合ったガバナンスシステムを速やかに整備する必要がある」としました。そのためには、

この研究結果は、電力会社であるEnelが自社で手がける再エネ事業へのEUからの投資を得るのを助けるためのものとも考えられます。ただいずれにせよ、EUはより積極的にクリーンエネルギーの採用を進め、EU加盟国間の調整を円滑化して市場統合を促進していく地域戦略が求められています。

(Source:ReutersEngadget日本版より転載)

「豆のないコーヒー」を分子合成技術で生み出すCompound Foods、環境や生産農家にも配慮

Compound Foodsの創業者でCEOのマリセル・センツ氏(画像クレジット:Compound Foods)

米国人の80%が毎日コーヒーを飲むといわれている。Compound Foodsの創業者でCEOのMaricel Saenz(マリセル・センツ)氏もその1人だが、彼女はコーヒーだけでなく、環境も愛している。

コスタリカで生まれて今はベイエリアの起業家である彼女は、気候変動が世界中のコーヒー生産農家に与えている影響にも関心がある。農産物を温室効果ガスの排出量の多さで順位をつけると、コーヒーは第5位になる。そこで彼女は、おいしいだけでなく持続可能性のあるコーヒーを作りたいと思った。

「気温の上昇と不規則な降雨が収穫量減少の原因です。同じ産地で、以前と同じような収穫量を望むことはできません。品質も悪くなってます。コスタリカの農家は農地を売って高地に移動しています。専門家の予測では、現在の農地の50%が20年後には使えなくなります」とセンツ氏はTechCrunchの取材に対して答えている。

2020年に創業されたCompound Foodsは、コーヒー豆を使わずに、合成生物学を利用して分子を取り出し、コーヒーを作る。センツ氏によると、同社はコーヒー、特に良質なコーヒーの組成を知るために多くの時間を費やし、味と香りの関係を突き止めようとした。

コーヒー豆が入っていなくても、公式な規制上の定義がないため、同社はそれを「コーヒー」と呼ぶことができる、とセンツ氏はいう。

センツ氏によると、カップ1杯のコーヒーを作るために140リットルの水が消費されているというが、同社は持続可能な原料を使い、大量の水を使わない科学的な方法で基本的な配合を生み出した。また同社は、コスタリカやチョコレート風味のブラジルコーヒーなど、世界各地の味と香りを再現できる人工コーヒーの作り方にも挑戦している。

Compound Foodsは450万ドル(約5億円)のシード資金を発表し、総調達額が530万ドル(約5億8000万円)になった。同社の支援者は、Chris Sacca(クリス・サッカ)氏の気候ファンドLowercarbon CapitalやSVLC、Humboldt Fund、Collaborative Fund、Maple VC、Petri Bioそしてエンジェル投資家のNick Green(ニック・グリーン)氏(Thrive MarketのCEO)などとなる。

センツ氏は、新たな資金を配合の改良とブランドの拡張に充てて、年内を予定しているソフトローンチに備えたいと述べている。

この分野にも別の技術による競合もある。たとえばシアトルのAtomoは「種子がコーヒー豆に似ている果実や植物」を使っているという。

Compound Foodsは、コーヒー愛好家を雇用してその技術を磨き、今後はマーケティングとプロダクトとビジネス担当のチームを作りたい、とのことだ。

そしてセンツ氏は、コーヒーと競合するつもりはないと明言している。

「コーヒーは好きだし、農家のこともよく知っている。私たちが提供するのは、あくまでも代替製品です。私たちはそれを別の方法で作り、将来は火星でも飲めるようにしたいと考えています。その宇宙旅行は、コーヒー農家や業界の人たちとご一緒したいですね」とセンツ氏は語る。

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(文:Christine Hall、翻訳:Hiroshi Iwatani)

温暖化でリスクが高まる山火事に備える家屋強化のマーケットプレイス「Firemaps」にa16zが出資

世界中の国々を山火事が襲っている。カリフォルニア州は史上最悪(この比較級を毎年のように使っている気がする)の山火事に対処中であり、州北部ではCaldor fire(カルドア・ファイアー)などの火災が起きている。一方、ギリシアをはじめとする地中海の国々は数週間に渡る消火活動の結果巨大な火災を鎮圧した

気候温暖化が進む中、米国だけでも数百万世帯が山火事の高リスク地域に位置している。保険会社と政府は家屋所有者に対し、いわゆる「hardening」(ハードニング、耐火性強化)を実施するよう緊急な圧力をかけている。火災に遭った際に家屋が損害を免れる可能性を最大限に高め、それ以上災害を広げないための対策だ。

サンフランシスコ拠点のFiremaps(ファイアマップス)は、事業規模を急速に拡大し、複雑で時間のかかる手続きをできる限り簡易化することで、家屋ハードニングの問題を解決する、という壮大なビジョンを持っている。

会社は数カ月前(2021年3月)に創業したばかりで、ドローンを装備した作業員を山火事の高リスク地域にある家屋に派遣する。作業チームは20分以内に、センチメートル単位で物件の高解像度3Dモデルを作成する。そこからハードニングのプランを構成し、同社のマーケットプレイスに参加している業者に入札依頼が送られる。

ドローンで家をスキャンした後、Firemapsは建築物と近隣物件の高精細CADモデルを作成する(画像クレジット:Firemaps)

始まったばかりだがサービスはすでに好調だ。同社ウェブサイトに登録した数百人のホームオーナーに加えて、数十人がドローンによるスキャンを終えており、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ、a16z)のAndrew Chen(アンドリュー・チェン)氏は同社の550万ドル(約6億円)のシードラウンドをリードした(Form D申請書によるとラウンドは4月ごろ実施された)。ラウンドにはUber(ウーバー)CEOのDara Khosrowshahi(ダラ・コスロシャヒ)氏、Addition(アディション)のLee Fixel(リー・フィクセル)氏も参加している。

Firemapsを率いるJahan Khanna(ジャハン・カンナ)氏は都市工学の長い経験を持つ弟とRob Moran(ロブ・モラン)氏の3人で会社を共同設立した。カンナ氏は初期のライドシェアリングスタートアップ、Sidecar(サイドカー)の共同ファウンダー兼CTOで、モラン氏は同社の初期従業員の1人だった。3人は気候問題にどう取り組むかを繰り返し研究しながら、今ここににいる人たちを助けることに焦点を当て続けてきた。「人類が(気候に関する)一定のしきい値を超えてしまった今、私たちはこの問題を制御する必要があります」とカンナ氏は言った。「当社はそのソリューションの一部です」。

過去数年間、カンナ氏兄弟はカリフォルニアにソーラー施設かソーラー利用の家屋を作ろうとしていた。「誰と話した時にも驚いたのは、カリフォルニアには何も建てられない、なぜなら燃えてしまうから、と言われたことでした」とカンナ氏は言った。「それが転機でした」。2人は火災ハードニングについて調べるうちに、何百万というホームオーナーが、手軽で安い選択肢を必要としていることを知った。それもできるだけ早く。

家を火災に強くする方法は何十とある。家から1〜2メートル以内に耐火ゾーンを作るのはその1つで、花崗岩の砂利を置くことが多い。天井裏の換気口や排水溝、家の羽目板などを耐火性で高温に耐えられるようにすることもそうだ。これらの方法の価格はさまざまだが、一部の自治体や州政府は、助成金プログラムを設けて、ホームオーナーがこうした改善にかけた費用の一部でも取り戻せるようにしている。

Firemapsの3Dモデルで描かれた家にハードニングの代表例と価格が表示されている(画像クレジット:Firemaps)

同社のビジネスモデルはシンプルだ。選別された契約業者は、Firemapsのプラットフォームに掲載料を支払う。カンナ氏は、同社がドローンを使った家屋の総合的モデルを提供するので、契約業者は自分で現地視察をすることなく入札に参加できる、と考えている。「業者はすぐに取りかかれるプロジェクトが手に入るので、取得コストは事実上ゼロです」とカンナ氏は言った。

長期的に「当社の事業上の仮説は、プラットフォームを作り、このような家屋のモデルを作ることには本質的な価値がある、というものです」とカンナ氏は言った。現在同社はカリフォルニア州でサービスを開始し、2022年の目標は「このモデルを反復、スケール可能にして週に何百もの家屋をスキャンすることです」と彼は言った。

関連記事:国連IPCCの報告書を受け、我々には増加する災害に対応する技術が必要だ
画像クレジット:Firemaps

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(文:Danny Crichton、翻訳:Nob Takahashi / facebook

何億トンもの二酸化炭素を鉱物化・回収し環境問題に取り組む「44.01」が約5.5億円調達

温室効果ガスの排出量の削減は極めて重要な目標だが、現在我々は大気中のCO2やその他の物質のレベルを下げるという別の課題にも直面している。こういったガスをまったく自然なプロセスで普通の鉱物に変えてしまうという何とも頼もしい方法があるという。44.01は、膨大な量の前駆物質を使用してこのプロセスを大規模に実行したいと考えており、500万ドル(約5億5000万円)のシードラウンド受けてこの取り組みに着手している。

地質学者や気候学者の間では、CO2を鉱物化するプロセスはよく知られている。自然界に存在するかんらん岩と呼ばれる石が、ガスと水に反応して、無害な鉱物であるカルサイトを生成するのだ。実際、かんらん岩の鉱床を貫くカルサイトの大きな筋に見られるように、これは歴史上でも巨大なスケールで発生している。

かんらん岩は通常、海面から数マイル下にあるが、アラビア半島の最東端、特にオマーンの北海岸では地殻変動によって何百平方マイルものかんらん岩が地表に現れている。

オマーンのソブリン投資部門で働いていたTalal Hasan(タラル・ハサン)氏は、オマーンの海岸が世界最大の「デッドゾーン」になっており、その主な原因は排出されたCO2が海に吸収されて集まってくることだという記事を読んだ。環境保護主義者の家系に生まれたハサン氏はこれについて詳しく調べ、驚くべきことに問題と解決策は文字通り隣り合わせであることに気づく。つまりこの国には、理論的には何十億トンものCO2を保持できるかんらん岩の山が存在するのである。

ちょうどその頃ニューヨーク・タイムズ紙は、Peter Kelemen(ピーター・ケレメン)氏とJuerg Matter(ユルク・マター)氏によるオマーンの奇跡の鉱物の可能性についての研究を紹介するフォトエッセイを掲載。当時、タイムズ紙のHenry Fountain(ヘンリー・ファウンテン)氏はこう書いている。

非常に大きな「もしも」の話ではあるが、もしも炭素の鉱物化というこの自然のプロセスを利用し、これをすばやく安価に大規模に適用することができれば、気候変動対策への有効手段になり得るかもしれない。

これが、ハサン氏をはじめ、同スタートアップの「科学委員会」を構成するケレメン氏、マター氏の両氏が提案している計画の大まかな内容だ。44.01(ちなみに同社名は二酸化炭素の分子量に由来する)は、斬新なアイデアとともに経済的かつ安全に鉱物化を達成することを目指している。

第一に、自然な反応を促進させる基本的なプロセスが必要となる。通常はCO2や水蒸気が岩石と相互作用することで何年もかけて起こることであり、反応によって低いエネルギーが発生するため変化を起こすためにエネルギーを加える必要はない。

「大気中のCO2よりも高い濃度のCO2を注入することでスピードを上げています」とハサン氏は話す。「鉱石化と注入を目的とした人工的なボアホールを掘らなければなりません」。

画像クレジット:44.01

これらの穴によって表面積が増し、掘削されたかんらん岩が飽和するまで周期的に高濃度炭酸水が送り込まれる。触媒や毒性のある添加物を使用せず、ただの発泡性の水であるということがこれのポイントである。仮に漏れなどが起きたとしても、ソーダのボトルを開けたときのようなCO2の一吹きが発生するだけだ。

第二に、このために使用する巨大なトラックや重機が新たなCO2を排出して、この取り組みを無意味なものにしてしまわないようにするという課題もある。そのためにハサン氏はバイオディーゼルをベースにした供給ラインをWakudと共同で構築し、原料をトラックで運び、夜間に機械を動かすことで、夜間の燃料費を太陽光発電で補うことができるよう物流面での努力を行なっているという。

かなり大きなシステムを構築しなければならないように感じるが、ハサン氏はその多くがすでに石油産業によってでき上がっていると指摘する。ご存知の通り、石油産業はこの地域のいたるところに存在しているのだ。「石油産業の掘削や探査方法に似ているため、このための既存のインフラがたくさんありますが、我々は炭化水素を引き上げるのではなく、逆にポンプで戻しているのです」。アイスランドで行われている玄武岩の注入計画など他の鉱床開発でもこのコンセプトは採用されており、前例がないわけではない。

第三の課題として、CO2そのものの調達がある。当然大気中にはたくさんのCO2が存在するものの、産業規模で鉱石化できるほどの量を獲得し圧縮するのは容易なことではない。そこで44.01は、CO2回収のエンドポイントを提供するため、ClimeworksをはじめとするCO2回収企業との提携を開始した。

関連記事:支援を求めるExxonMobilを横目にスタートアップ企業は炭素回収に取り組む

排出地点であれ他の場所であれ、多くの企業が排出物の直接回収に取り組んでいる。しかし、数百万トンのCO2を集めたところで次に何をすべきかは不明瞭である。「そこで私たちは炭素回収企業の手助けをしたいと考え、CO2シンクをここに構築してプラグ&プレイモデルを行うことにしました。企業がここに来てプラグインし、その場で電力を使ってCO2の回収を開始することができます」とハサン氏は話す。

具体的な支払い方法については未解決の問題だが、カーボンオフセットに対する世界的な企業の意欲は明白である。従来型のむしろ時代遅れなカーボンクレジットを超えて、カーボンクレジットには大きなボランタリー市場がある。44.01は一時的な隔離からのステップアップと言える、検証済み炭素除去を大量に販売することができるが、そのための金融商品はまだ開発中である(DroneSeedは新世代の排出システムなどの活用を期待して、オフセットを超えたサービスを提供しているもう1つの企業だ。国際的な規制、税金、企業政策などが、進化しながらも非常に複雑に重なり合っている分野である)。

しかし今のところは、このシステムが期待通りの規模で機能することを証明することが第一の目的だ。今回の資金は実際の運用に必要な資金には遠く及ばないものの、実証実験に必要な許可や調査、設備を得るための一歩にはなるだろう。

「純粋に気候変動のために活動している、志を同じくする投資家に参加してもらおうと試みました」とハサン氏。「財務ではなくインパクトで評価されることが、私たちのメリットにもなるのです」(ほとんどのスタートアップがこのような理解ある出資者を望んでいるに違いないが)。

Max Altman(マックス・オルトマン)氏とSam Altman(サム・オルトマン)氏が設立したアーリーステージを対象とした投資ファンドであるApollo Projectsがこのラウンドをリードし、Breakthrough Energy Venturesが参加している(プレスリリースには記載されていないが、オマーンの数家族やヨーロッパの環境保護団体からの少額投資も注目すべき点だとハサン氏は述べている)。

オマーンを起点としながらも、別の場所で最初の商業運用を行うという可能性をハサン氏は示唆している。具体的には言及していないが、地図を見ると、かんらん岩の鉱床はオマーンの北端からUAEの東端にまで広がっていることがわかる。UAEも当然この新産業に興味があるはずであり、もちろん豊富な資金を持っている。44.01のパイロット作業が完了すれば、さらに詳しい情報が得られるだろう。

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クリーン電力サービスのアスエネがAI活用の温室効果ガス排出量管理SaaS「アスゼロ」を正式リリース
電気通信大が粗悪なCO2センサーの見分け方を公開、5000円以下の12製品中8製品はCO2ではなく消毒用アルコールに反応
画像クレジット:Holcy / iStock / Getty Images Plus / Getty Images under a RF license.

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

クリーン電力サービスの「アスエネ」がAI活用の温室効果ガス排出量管理SaaS「アスゼロ」を正式リリース

クリーン電力サービスの「アスエネ」がAI活用の温室効果ガス排出量管理SaaS「アスゼロ」を正式リリース

クリーン電力サービス「アスエネ」を提供する気候変動テック領域スタートアップ「アスエネ」は8月26日、AIなどのテクノロジーを活用したSaaSプラットフォーム型温室効果ガス排出量クラウド「アスゼロ」の正式リリースを発表した。脱炭素を目指す企業や自治体に向けた、温室効果ガス排出量およびカーボンフットプリントの算定・報告・削減・カーボンオフセットなどの一括管理と、業務自動化による工数削減が低コストで行えるというサービスだ。

「アスゼロ」には次の3つの特徴がある。

  • スキャンするだけ自動でCO2見える化:企業や自治体などにおいて、自社だけでなく、サプライチェーン全体の温室効果ガス(GHG)排出量のデータ回収と算出を自動化。請求書やレシートをアップロードするだけで自動入力とGHG排出量をAIが自動算定
  • 分析・報告まるごと自動化:GHG排出量の分析をAIが自動支援。CDP、SBT、省エネ法などへの報告を代行・自動化。分析作業もAIを活用し自動化する
  • CO2削減もまとめておまかせ:GHG排出原因に応じて、再エネ100%電力提供、省エネなど最適な手法を提案。地産地消型クリーン電力、オンサイト・オフサイト両方対応のコーポレートPPA、クレジットオフセット、省エネソリューションなど最適なCO2削減手法を提案する

今後は、AIやブロックチェーンなどの最先端テクノロジーを活用し、脱炭素化への取り組みの自動化、非改ざん性の高い証明力の徹底や、ICP(社内炭素価格)機能の導入などを目指すという。またグローバル展開も視野に入れている。

アスエネでは、「再エネ100%、CO2排出量ゼロでコストも10%削減できる地産地消型クリーン電力」という電力サービス「アスエネ」を展開しており、アスゼロでは、このサービスの利用も提案に組み込まれている。

持続可能性にフォーカスするアップルのImpact Acceleratorが支援する有色人種企業15社を決定

Apple(アップル)による最近の社会奉仕事業の中に、Impact Acceleratorがある。ほぼ1年前に立ち上げた取り組みで、持続可能性や気候変動の問題に取り組んでいるマイノリティが経営する小規模企業を見つけて支援する。現在、その事業には最初の15社の参加企業があり、米国中から集まって3カ月のプログラムをこなし、Appleとの契約を得る。

Impact Acceleratorは同社の、1億ドル(約110億円)を投じた人種的平等と正義のための計画の一環だ。この計画はいくつかの努力目標からなり、既存の事業に資金を直接投じるものもあれば、有色人種が経営するベンチャー企業へお金が行くものもある。とにかく、Initiativeのチームが良いと考えた投資が対象だ。

これらの企業は、3カ月のバーチャルプログラムに参加する。Appleの発表にその詳細はないが、その後、Appleのカーボンニュートラルなサプライチェーンという目標のための、サプライヤーになる機会が得られる。

Appleが作成した15社のプロフィールはこのリストに載っているが、特に私の目についたのは次の5社だ。

  • Volt Energy Utility (共同創業者:Gilbert Campbell III): 恵まれてないコミュニティのための電力会社並の規模のソーラープロジェクト。
  • Bench-Tek (創業者:Maria Castellon): 環境フレンドリーな素材を使ったラボベンチ(実験台)。
  • Vericool(創業者:Darrell Jobe): 発泡スチロールの持続可能バージョンなど各種包装資材を作り、元服役者たちの職場とする。
  • Oceti Sakowin Power Authority (会長:Lyle Jack): 6人のスー族によるNGOで、中西部の保留地に再生可能エネルギーを供給する。
  • Mosaic Global Transportation(創業者:Maurice H. Brewster):企業の従業員用や各種イベント用にEVだけによるシャトル隊を提供する。

Appleの環境・政策・社会イニシアティブ担当バイスプレジデントであるLisa Jackson(リサ・ジャクソン)氏は発表声明で次のように述べている。「私たちが現在、提携している企業は、明日の多様で革新的な業界のリーダーになるところです。この方たちが作り出す変化がさざなみのように広がり、伝わり、気候変動がもたらした緊急的な危機に、世界中のコミュニティが対応できるようになるでしょう」。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:Apple持続可能性気候変動カーボンニュートラル

画像クレジット:Apple

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

豪スタートアップFloodMappは洪水の流れを予測しようとしている

洪水は壊滅的な被害をもたらす。コミュニティをバラバラにし、近隣の人たちを離散させ、毎年何千人もが避難を余儀なくされ、復旧に何年もかかることがある。米国政府は、ここ数十年の洪水により1600億ドル(約17兆6000億円)相当の被害があり数百人が亡くなったと推計している。

地上のセンサーや上空の衛星を活用して、世界中で水がどこにあり、どこへ流れていくのかを示すリアルタイムのモデルがあるはずだと考える人もいるだろう。しかしほとんどない。代わりに、ビッグデータやビッグコンピューティングの可能性を考慮しない旧態依然としたモデルに頼っている。

オーストラリアのブリスベンを拠点とするスタートアップのFloodMappは、水文学(すいもんがく)や予測分析の古いアプローチをやめ、もっとモダンなアプローチで緊急対応責任者や市民に洪水がいつ発生するのか、何をすべきかを知らせたいと考えている。

共同創業者でCEOのJuliette Murphy(ジュリエット・マーフィー)氏は、水資源工学の分野に長年関わり、水が引き起こす大変な破壊の状況を直接見てきた。2011年に同氏は大規模な洪水の際に友人の自宅が水没するのを目撃した。「水が屋根を越えました」と同氏はいう。その2年後にカナダのカルガリーで、同氏は再び同じ状況を目にした。洪水と恐怖の中で、友人は避難するかどうか、どう避難するかを決めようとしていた。

こうした記憶と自身のキャリアから、マーフィー氏は災害担当責任者向けの良いツールを作るにはどうすればいいかを考えるようになった。2018年、同氏は共同創業者でCTOのRyan Prosser(ライアン・プロッサー)氏とともにFloodMappを創業し、130万オーストラリアドル(約1億300万円)とマッチング・グラント(同額補助金)を調達した。

FloodMappの前提はシンプルだ。現在、リアルタイムの洪水モデルを構築するツールはあるが、我々はそれを活用しないことを選んできた。水は重力に従って流れる。つまり、ある場所の地形がわかれば、水がどこへ流れるかを予測できる。難題は、2階微分方程式を高解像度で処理する費用がかさむことだった。

マーフィー氏とプロッサー氏は、何十年にもわたって水文学で一般的に用いられてきた従来の物理学的アプローチを避け、機械学習で幅広く利用される手法を活用して適切に計算し、完全にデータに基づくアプローチをとることにした。マーフィー氏は「これまでボトムアップだったことを、トップダウンでやっています。我々はスピードの壁をまさに打ち破りました」と語る。これが、同社のリアルタイム洪水モデルであるDASHの開発につながった。

ブリスベンの川の氾濫に関するFloodMappのモデリング(画像クレジット:FloodMapp)

ただし典型的なテック系スタートアップとは異なり、FloodMappは独立したプラットフォームになろうとはしていない。そうではなく、他のデータストリームと組み合わせることのできるデータレイヤーを提供してESRIのArcGISといった既存の地理情報システム(GIS)と相互運用し、緊急対応や復旧の担当者に状況を知らせる。顧客はFloodMappのデータレイヤーを利用するためにサブスクリプション費用を支払う。FloodMappはこれまでにオーストラリアのクイーンズランド消防救急サービスや、バージニア州のノーフォーク市およびバージニアビーチ市と連携している。

しかしFloodMappがゆくゆく注目して欲しいと考えているのは緊急サービスだけではない。電話や電力から銀行、実店舗のある小売チェーンなど物理的な資産を持つあらゆる企業がこのプロダクトの顧客になる可能性を秘めている。実は、FloodMappはSEC(米国証券取引委員会)が気候変動に関する財務情報の開示を義務づけることに注目しており、そうなれば新規の取引が大幅に増えるかもしれない。

FloodMappのチームは2人の創業者にエンジニアリングやセールスの人材が加わって拡大した(画像クレジット:FloodMapp)

マーフィー氏は「我々はまだ初期段階です」とし、同社は2021年の水害シーズンを乗り切り新規顧客をいくつか獲得して、2022年の早い段階でさらに資金を調達する見込みだと述べた。同氏は、FloodMappが最終的に「人々を助けるだけでなく、気候変動に直面するオーストラリアが変化しこれに対応するための助けとなる」ことを望んでいる。

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タグ:FloodMappオーストラリア自然災害気候変動

画像クレジット:Joe Raedle / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Kaori Koyama)

クリス・サッカ氏の気候変動対策ファンド「Lowercarbon Capital」が880億円を集める

クライメートテックに特化するファンドのLowercarbon Capital(ローワーカーボンキャピタル)が8億ドル(約880億円)の調達を完了したと8月13日にサイト上で発表した。同ファンドは、長年の投資家であるChris Sacca(クリス・サッカ)氏とその妻Crystal Sacca(クリスタル・サッカ)氏が設立した。

サッカ氏によると、資金調達は非常に早く、「わずか数日」で完了した。「未曾有の熱波の中で、そして火事の煙が立ち込める中で、気候変動対策ファンドの募集を行ったことは、おそらく悪いことではなかったと思います。それどころか、そうした全ての汚染は、私たちのズームコールに温かく美しいもやを運んだのかもしれません。Incendiary Doom Glowインスタフィルターのように」

関心が寄せられていることは驚くべきことではない。気温の上昇により、人類の生命が危機に瀕していることを示す、かなり明白な証拠が積み重なっているからだ。西ドイツと中国の洪水、ギリシャとカリフォルニアの山火事、そして太平洋岸北西部の人々が現在備える更なる熱波に先立ち、国連の気候科学研究グループが8月9日に発表した新しい報告書は、現状を明確に示し、「人類にとっての非常事態」を宣言した。

確かに、Lowercarbonの投資家の中には、こうした傾向を少しでも変えようとする技術に興味を持っている人もいるだろう。しかし、サッカ氏が言うように、彼らが注目しているものが、気候変動に取り組む技術がもたらす金銭的な報酬であって構わないだろう。

「私たちは、多くの投資家が気候危機の緊急性を理解し、真の解決策のために資金だけでなく時間も捧げていることに感激しています」とサッカ氏は投稿で語っている。「しかし、率直に言うと、実際には地球のことをそれほど気にせず、金銭的なリターンだけを追い求めている投資家の方々にも心を動かされました」

Lowercarbonが掲げる仮説は、「大規模な変化が起こるのは、ビジネス上の理由だけでそうした投資が回収されるから」というものだと同氏は付け加えている。

サッカ夫妻に加えて、Lowercarbonを運営するのは、ニューヨーク州ブルックリンを拠点とするパートナーのClay Dumas(クレイ・デュマス)氏だ。ファンドは同氏をLowercarbonの中で最も積極的な投資家だと説明している。ハーバード大学を卒業した同氏は、ベンチャーの世界に長く身を置いていたわけではない。2017年にサッカ氏と合流し、サッカ氏の前のファンドであるLowercase Capital(ローワーケースキャピタル)にパートナーとして参加したのが最初だった。デュマス氏は「伝統的」なVCとは異なり政治の世界を理解している。

2008年にBarack Obama(バラク・オバマ)氏の選挙運動のために現場事務所を開設した後、ホワイトハウスで当時の副参謀長の補佐官を務め、その後(再びホワイトハウスの)デジタル戦略室で勤務した。

Lowercarbonがこれまでに行った数十件の投資には、Heart Aerospace(スウェーデン・ヨーテボリを拠点とし、地域間輸送電気旅客機の開発に取り組む創業3年目のスタートアップで、Lowercarbonがシート資金を投資し、最近では追加投資も行った)、Holy Grail(米国カリフォルニア州マウンテンビューを拠点とし、大気から二酸化炭素を取り込む小型でモジュール式の機器の試作品開発に取り組む創業2年目のスタートアップで、6月にシードラウンドを発表した)、Cervest(ロンドンを拠点とする創業6年目の気候リスクプラットフォームで、事業会社と政府機関に対し、複合的な気象リスクが所有資産に与える影響について、現在や過去の、さらに予測的な見解を提供していおり、直近では5月に3000万ドル=約33億円=を調達した)などがある。

サッカ氏は、Twitter(ツイッター)やUber(ウーバー)への初期の巨額投資で有名になった。人気テレビ番組「Shark Tank」の審査員を数シーズン務めたが、2017年に番組を、そしてベンチャーキャピタルを辞め、「40歳で引退するつもりだった」と語った。当時、彼は42歳だった。

サッカ氏は、気候変動への関心が高まり、政治家が気候変動を食い止められるという確信が持てなくなったため、自身の決断を見直すことにした。3月、同氏はフォーブス誌にこう語った。「私たちは、市場が地球を救う鍵を握っているのではないかと考えています」

昨年6月のAxiosの報道によると、Lowercarbonは当初、数千万ドル(数十億円)の資金を投入するファミリーオフィスとして設立された。昨年半ばの時点で外部から受け入れてた資金は「サッカ氏が以前に運営していたファンドの機関投資家といくつかの特別目的会社」だけだったという。

新たに得た8億ドル(約880億円)の投資資金を4つのファンドに分け、Sacca & Co.は完全に仕事を再開したようだ。来月開催のTechCrunch Disruptで実際にサッカ氏に話を聞く予定だ。

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画像クレジット:Chris Sacca

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(文:Connie Loizos、翻訳:Nariko Mizoguchi

国連IPCCの報告書を受け、我々には増加する災害に対応する技術が必要だ

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は今週、気候変動の自然科学に関する第6次評価報告書の主要部分を発表した。その内容は、より良いデータ、より包括的なデータが入手できるようになり、より正確になったとはいえ、厳しいものだ。TechCrunchでMike Butcher(マイク・ブッチャー)氏が先に要約したように、この報告書は「容赦なく、率直な結論」を提示した。

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報告書の主題の多くは、(ますます暑くなる)岩の下に住んでいない人(編集部注:「岩の下に住む」は「世の中の動きに疎い」の意味)にはおなじみのものだが、文書を熟読していた筆者の目に、ある部分が飛び込んできた。IPCCの作業部会は、地球に起きている負の変化の多くが、緩和策や適応策を講じたとしても将来のあらゆるシナリオにおいて衰えることなく続くと評価した。以下、要約報告書から引用する。

過去および将来の温室効果ガスの排出による多くの変化は、数世紀から数千年にわたって不可逆的であり、特に海洋、氷床、地球の海面レベルの変化が顕著である。【略】山岳氷河や極地の氷河は、数十年から数百年にわたって溶け続けることが確実視されている(信頼度は非常に高い)。永久凍土の融解にともなう永久凍土の炭素の損失は、100年単位の時間スケールで不可逆的である(信頼度は高い)。

要するに、より暖かく、より混沌とした世界へと向かう勢いがすでにあり、こうした傾向の多くを食い止める手段は限られているのだ。

農業や食料生産における収穫量の向上や排出量の削減、電力網の改善、ビルの空調からの排出量の削減など、あらゆるプロジェクトに注目し、クライメイトテックをテーマにした取り組みや投資、スタートアップが急増している。だが、これらの取り組みは、今世紀の私たちが直面している最も困難な課題の1つを解決するものではない。災害はすでに発生しており、また到来しつつあり、今世紀が進むとさらに激しさを増すということだ。

カリフォルニア州ではこの1週間、州史上2番目に大きな火災「Dixie Fire(ディキシー・ファイア)」が発生し、州北部が数十万エーカーの範囲で炎上している。一方、ギリシャでは何百もの山火事が発生し、未曾有の危機にある。干ばつ、洪水、ハリケーン、台風などの自然災害が深刻化し、全大陸の何十億もの人々が被害を受けている。

この問題を解決する方法の1つは復元力の向上だ。自然災害に備えて都市や構造物だけでなく、食料や水のシステムを構築する。しかし、こうしたプロジェクトの多くは、コストも時間もかかり、月単位ではなく、数十年単位で考えなければならない。

それよりも、より優れた災害対応技術の開発を今すぐにでも進める必要がある。筆者はここ数カ月、そうした企業を幅広く取材してきた。RapidSOS(ラピッドSOS)は、緊急通報にデータを加えることで、迅速かつ効率的な対応を実現している。また、550万ドル(約6億500万円)を調達したQwake(クウェイク)は、消防士が煙の中で周辺を可視化するためのハードウェアとクラウドサービスを開発している。一方、YCが支援するGridware(グリッドウェア)は、電力網の障害を迅速に検知するセンサー開発に向け500万ドル(約5億5000万円)以上を調達した

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このように、災害対策技術を提供するスタートアップ企業は増えているが、今後数年間に発生するさまざまな災害に対処するためには、さらに多くの企業が必要となる。

被災者や初期対応者のためのメンタルヘルスリソースの充実、生活再建のための復興資金への容易なアクセス、災害の早期発見のための高品質なセンサーやデータ分析、人々を危険な場所から避難させるための迅速な物流など、やるべきことはたくさんある。実際には、文字通り何十もの分野で、より多くの投資や創業者の注目を必要としている。

販売サイクルの分析でも指摘したように、この市場は容易ではない。予算は厳しく、災害は不定期で、技術は後回しにされがちだ。次世代のサービスをいかに開発し、どう売っていくかは、ハイリターンの可能性を秘めたリスクでもある。

今週、IPCCの報告書で明らかになったように、ここ数十年で目にしてきた混沌とした天候や激しい災害がすぐに和らぐことはないだろう。だが工夫次第で、すでに発生している災害にうまく対応し、命と財産を守ることができる。

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タグ:気候変動地球温暖化自然災害国連

画像クレジット:Konstantinos Tsakalidis/Bloomberg / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Nariko Mizoguchi

地球温暖化がいよいよ「赤信号」、国連IPCCが報告書で警告

国連の科学報告書は、人間の活動が前代未聞の速さで気候を変えていると結論づけた。執筆者らは報告書で「人類にとって非常事態」と表現した。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の結論は容赦なく、率直だ。「人間の影響で大気、海洋、陸地の温暖化が進んだことは明白だ」としている。

世界の政府によって支持されている科学者の集まりであるIPCCは、今後10年で猛烈な熱波や干ばつ、洪水、鍵を握る温度の限界超えがますます増えると警告している。

これは「想定よりもずいぶん早く、おそらく2034年半ばに世界の気温が1.5度上昇する」ことを意味する、と報告書にはある。

IPCCは、1.5度の気温上昇で熱波がより過酷になり、かつ頻発すると指摘する。

報告書の著者の1人である英国レディング大学のEd Hawkins(エド・ホーキンズ)教授は「これは事実の陳述書であり、疑う余地はありません。人類が地球を温めているというのは明白であり、議論する余地がない事実です」と述べた。

しかし科学者たちは、世界が迅速に対応して温室効果ガスの排出を大幅に抑制すれば気温上昇を一定に保つことができるかもしれず、大惨事は回避できる、と話す。

そして科学者たちは、世界の二酸化炭素排出量が2030年までに抑制され、21世紀半ばまでにネットゼロに到達することに望みを抱いている。

今回の報告書は2013年以来の大幅な見直しであり、グラスゴーでのCOP26気候サミット開催まで3カ月もない中で発表された。

IPCC報告書の主要ポイント

  • 二酸化炭素排出量が今後数年で削減されなければあらゆるシナリオで2040年までに気温が1.5度上昇する
  • 気温上昇を1.5度に抑えるには、二酸化炭素排出量の「緊急で迅速、かつ大規模な削減」が必要で、対応が遅ければ気温上昇幅が2度になり、地球全体の生物が苦しむ
  • 人間の影響が1990年代からの世界的な氷河の後退と北極海の氷の減少の主な要因となっている「可能性が非常に高い」(90%)
  • 1950年代以降、熱波が頻発し、また強烈なものになっている一方で、寒波の頻度は少なく、程度も緩やかになっている。
  • 多くの国で「火災が発生するような気候」となる可能性が高い
  • 90%超の地域で干ばつが増えている
  • 2011〜2020年の世界の表面温度は1850〜1900年に比べて1.09度高かった
  • 過去5年は1850年以降最も暑かった
  • 近年の海面上昇率は1901〜1971年に比べて3倍近くになった
  • 2100年までの約2メートルの海面上昇、2150年までの5メートルの海面上昇は除外できず、沿岸エリアに居住する何百万人という人を脅かす
  • 100年に1度起こっていた海面の極端な現象が少なくとも毎年起こることが見込まれる

報告書にある二酸化炭素排出量に応じたあらゆるシナリオにおいて、二酸化炭素排出が大幅に抑制さればければ削減目標は今世紀に達成されない。

科学者たちが提案する解決策には、クリーンテクノロジーの使用、二酸化炭素回収・貯留、植林などが含まれる。

別の共同著者である英国リーズ大学のPiers Forster(ピアーズ・フォスター)教授は次のように書いた。「もし我々がネットゼロを達成することができれば、うまくいけばこれ以上気温は上昇しないでしょう。そして仮に温室効果ガスのネットゼロを達成できれば、ゆくゆくは気温上昇をいくらか戻して気温を幾分下げることができるでしょう」。

IPCC報告書は、1850年以降、人間によって2兆4000億トンもの二酸化炭素が排出され、66%の可能性で気温上昇を1.5度に抑えるための二酸化炭素の排出許容量は4000億トンしかないと指摘した。

これは地球がカーボン「予算」の86%をすでに使い果たしたことを意味する。

さらに、気候変動の影響を免れる人はいない。

「カナダやドイツ、日本、米国のような裕福で安全な国の市民が急速に悪化している気候の有り余る最悪の事態を乗り切ることができるとはもはや仮定できません」と自然保護団体The Nature Conservancyの首席科学者Katharine Hayhoe(キャサリン・ヘイホー)教授は話す。「我々は同じボートに乗っていて、我々皆が生きているうちに影響を受ける問題に直面しているのは明らかです」。

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】核融合に投資すべき理由

編集部注:本稿の著者Albert Wenger(アルバート・ウェンガー)氏はUnion Square Venturesのマネージング・パートナー。

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デジタルテクノロジーは過去に類を見ない広がりと規模で市場構造を破壊してきた。今、また1つイノベーションの波が訪れている、それは世界経済の脱炭素化だ。

各国政府は未だに気候変動危機と正面から戦うために必要な信念に欠けているが、全体的方向性ははっきりしている。欧州における炭素の価格は、1トンあたり10ドル(約1100円)以下から50ドル(約5500円)以上へと高騰している。Shell(シェル石油)はオランダ裁判所で厳しい審判を下された。2021年初めにテキサス州で起きた大規模停電は、既存のエネルギー供給が高度工業国においてさえ脆弱であることを露見させた。脱炭素化を現実にするためには、信頼できるクリーンな発電技術の開発、配備への投資が緊急の課題である。

先見の明のある投資家はこれを理解している。Bloomberg(ブルームバーグ)によると、2020年に低炭素テクノロジーへの国際投資は5000億ドル(約55兆350億円)に達した。再生可能エネルギーがそのうち3000億ドル(約33兆210億円)を占め、運輸の電化(1400億ドル、約15兆4110億円)と暖房(500億ドル、約5兆5040億円)が続いている。

しかし、まだゴールにはほど遠い。International Energy Agency(国際エネルギー機関)によると、2021年の全世界CO2排出量は、2020年水準を15億トン上回る見込みだ。そして全世界エネルギー消費の80%は 未だに石炭、石油、ガスからなっている。

我々が飛躍的革新の可能性を持つ新技術を支援し続けなくてはならない理由はそこにある。中でも期待されているのが核融合だ。核融合は恒星を光らせる原動力となるプロセスであり、人類にとって最もクリーンなエネルギー源になる可能性を有している。我々はすでに、核融合エネルギーを間接的に利用している、ソーラーエネルギーとして。核融合炉ができれば、天候に左右されない「常時稼働」バージョンを手に入れることができる。

しかし、まだその方法もわからない核融合になぜ投資するのか。第1に、これは二者択一の提案ではない。再生可能エネルギー設備を築くのと同時に新たなエネルギー生産方法に投資することができる。なぜなら後者は、少なくとも開発の初期段階では、比較的少額の費用しか必要としないからだ。米国政府の最新計画では、今後10年間に自動車輸送の電化に1740億ドル(約19億1530億円)を投入する予定なので、核融合発電所の建設に20億円投資することは実行可能と思われる。

第2に、我々は今これまで以上の電気が必要になりつつある。無炭素エネルギー源の国際需要は2050年までに3倍になると予測されている。都市化の増加、産業プロセスの電化、生物多様性の損失、新興市場におけるエネルギー消費の増加などによる。

第3に、必要な支援技術の飛躍的な発展がある。核融合の磁場封じ込め方式に使用される超電導磁石は価格が大きく低下し、慣性封じ込め核融合のためのレーザーははるかに強力になり、材料科学の躍進によってナノ構造ターゲットが利用できるようになることで、低エネルギー中性子燃料 PB11などのまったく新しい核融合のアプローチが可能になる。

幸い、多数の世界レベルのチームが起業家精神を発揮して核融合の開発、製造に取り組んでいる。現在世界で少なくとも25のスタートアップが核融合を目標に掲げ、広範囲のテクノロジーを駆使して問題にアプローチしている。Crunchbaseによると、2020年に全世界で民間核融合企業に投資された金額は約10億ドル(約1100億円)に上る。

成功した核融合の利点は無限に近い。クリーンエネルギー生成市場には1兆ドル(約110兆円)規模の可能性がある。Materials Research Societyは、増加する世界エネルギー需要を満たすために2030年から2050年までに26 TV(テラワット=10億キロワット)の一次エネルギー容量が必要になると推計している。1 TWの発電能力があれば3000億ドルの収益を生み、2030~2050年の市場シェアの15%は年間収益1兆ドルに相当する。

ここでは枠を捉えるシュートがたくさん必要であり、Susan Danziger(スーザン・ダンジガー)氏と私がすでに3社の核融合スタートアップに個人投資しているのはそのためだ(米国のZap EnergyとAvalanche、およびドイツのMarvel Fusion)

しかし私たちを動機付けている主な理由は経済的利点の可能性ではない。人類の歴史の軌跡に消えることのない違いを残すチャンスがあるからだ。過去数十年間に起業家や投資家が蓄積してきた巨大な富のごくわずかな部分をここる投資することで、核融合が成功する可能性は飛躍的に高まる。それは、ベンチャー資金と政府からさらに多くの出資を得られることにつながる。

今こそ、一致団結して脱炭素化に向かう時だ。そして核融合の画期的可能性への投資はその取り組みの一部になるべきだ。

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タグ:コラム脱炭素気候変動核融合

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(文:Albert Wenger、翻訳:Nob Takahashi / facebook