40%軽量化で航続距離アップ、トレッドが再生可能なContinentalのエコなコンセプトタイヤ

自動車の環境負荷を低減するためにさまざまな取り組みが行われているが、そのクルマが履いているタイヤはどうだろうか?Continental(コンチネンタル)は、それが助けになるかもしれないと考えている。自動車情報サイトRoadshowによると、Continentalは、材料の半分以上が「トレーサブル、再生可能、再生素材」の「Conti GreenConcept」(そう、コンセプトタイヤだ)を発表した。天然ゴム製のトレッドを少しの手間でリニューアルすることも可能だ。それは全く新しいアイデアではないが、再生可能なトレッドは一般的に大型商用トラックに限られていた。3回再生すれば、総走行距離に対してケーシングに使用される材料が通常の半分になる。

原料の約35%は再生可能素材で、タンポポゴム、もみ殻を原料としたケイ酸塩、植物油や樹脂などが使われている。また、17%はペットボトルをリサイクルしたポリエステル繊維、再利用スチール、回収カーボンブラックを使用している。

このデザインによりクルマ自体の効率も向上するはずだ、とContinentalは付け加えた。新しいケーシング、サイドウォール、トレッドパターンにより、GreenConceptは従来のタイヤに比べて約40%軽量化され、約16.5ポンド(約7.5kg)になった。その結果、EUの最高ランクのタイヤに比べて、転がり抵抗が25%減少したという。Continentalの試算によると、EVの航続距離がそれで6%伸びるとのこと。

我々の自家用車にこのタイヤが装着される日はまだそんなに近くないもしれないが、これは単なる思考エクササイズではない。Continentalは2022年からリサイクル技術を段階的に展開する予定で、再生ボトルを使ったタイヤの生産も計画している。

Conti GreenConceptのような取り組みは、Continentalのイメージアップにもつながる。同社は2030年までに最も環境に優しいタイヤメーカーとなり、「遅くとも」2050年までには完全なカーボンニュートラルを実現したいと考えている。しかし、パワートレインだけでなく、多くのコンポーネントが地球に優しくなるような、より全体的なエコカーへのアプローチを示唆している。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Jon Fingas(ジョン・フィンガス)氏は、Engadgetのウィークエンドエディター。

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画像クレジット:Continental

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(文:Jon Fingas、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】EVの充電ソリューションは電力網の資産になる

編集部注:本稿の執筆者Oren Ezer(オレン・イーザー)氏は、電気自動車にワイヤレス充電を提供する共有エネルギープラットフォーム「ElectReon」のCEO兼共同設立者。

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2030年までに米国の販売台数の約半分を電気自動車(EV)にするというJoe Biden(ジョー・バイデン)大統領の計画は、現在、米国の総排出量の約半分を占める交通システムの脱炭素化を進めようとしていることを意味している。

電気自動車の大量導入を促進するためには米国政府の支援が不可欠だが、一方で、何百万、何千万もの人々が頼りにしている劣化した電気インフラ、すなわち電力網を修復する必要にも迫られている。

社会がオール電化に移行し、EVの需要が高まる中、現代社会が直面する課題は、どうすれば電力網に負荷をかけ過ぎずに、増え続けるEVに充電できるかということである。EVは電力網に対して過負荷となるという予測がある一方で、ワイヤレス充電、V2G(Vehicle to Grid、自動車と地域電力網の間で電力を相互供給する技術やシステム)、再生可能エネルギーのより効率的な利用など、エネルギーインフラをバックアップする方法も研究されている。

不安定な電力網に対して信頼性の懸念が高まる現在、この重要なインフラを強化し、電力網の限界を超えないようにするためのソリューションを見つけることは急務となっている。

現在、電力網が直面している課題

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の気候変動報告書は、地球温暖化や人類が排出した二酸化炭素の影響により、以前は50年に1度だった激しい熱波が、今後は10年に1度あるいはそれ以上の頻度で起こると予想している。このことは、すでに2020年も太平洋岸北西部における記録的な熱波や大火災で確認されているが、電力会社や事業者、業界の専門家たちは、現在のエネルギーシステムが気候変動による温度上昇に耐えられるか懸念を示している。

熱波だけではない。2月にテキサス州で発生した寒波は、エネルギーインフラを麻痺させ、何百万もの住宅で停電が発生した。温暖化が進み、電力需要を満たすために電力網が過負荷になればなるほど、このようなことは増加し続けるだろう。

気温の変動に加え、今後数年のうちに市場に出回ると予想されるEVの増加をサポートできるかどうかについても多くの人が懸念している。交通機関の電化にともない、2050年までに米国の発電容量を2倍にする必要があるとの報告もあり、充電のピーク時に柔軟性を向上させ、稼働率を上げられるEV充電の技術が求められている。しかし、現状では、米国の電力網の能力は2028年までに2400万台のEVをサポートできるにとどまり、道路輸送による二酸化炭素排出量を抑制するために必要なEVの数を大幅に下回っている。

このような課題にもかかわらず、業界の専門家は、EVが電力需要管理に大きな役割を果たし、必要に応じて電力網の安定化に貢献する潜在能力があることを指摘している。しかし、全米でEVの普及が進めば、電力会社は、人々がいつEVを充電するのか、何人のユーザーがいつEVを充電し、どのような種類の充電器が使用されてどのような車両(乗用車や中型・大型トラックなど)が充電されているのかといった重要な問題を調査し、電力需要の増加と電力網のアップグレードを決定する必要がある。

EV充電ソリューションは負債ではなく資産になる

電力網インフラのアップグレードには長い時間がかかる上、自動車の電動化を希望する個人や企業が増加しているので、全米の自治体は、EVの増加に先んじて、電力網の安定性を確保しながら必要な充電インフラを展開する方法を必死に模索している。しかし、国際クリーン交通委員会(ICCT)の最近の分析では、米国のEV充電器の数は現在21万6000台で、EVの普及目標を達成するためには2030年までに240万台の公的および民間の充電システムが必要になると推定されている。

各都市は充電インフラの不足を解消するために、必要な充電インフラの導入を早め、電力網を保護するための従来の据え置き型充電器以外の充電オプションを検討し始めている。その1つがワイヤレス充電や走行中充電といったダイナミックチャージング(大電力充電)である。

ワイヤレスのEV充電は、充電レーンの配置や交通量によって充電時間が断片化され、需要の変動が大きくなり、既存の電力網インフラにさらなる負担をかけるという意見がある一方、ワイヤレス充電では、14~19時に多く発生するエネルギー需要をまかなうためにEVを固定式充電器に接続しておく必要がなく、24時間さまざまな場所に分散して充電できるため、実際には電力網の需要を減少させ、グリッド接続の増設やアップグレードの必要性を減らすことができるという主張も多くある。

また、ワイヤレス充電は、道路、商業施設の搬入口の真下、施設の出入り口、タクシーの行列、バスの駅やターミナルなど、導電式(プラグイン)充電ソリューションでは対応できない場所にも設置することができるので、1日のうちに一定の間隔でEVに「上乗せ」充電を行うことができる。

導電式のEV充電ステーションは主に夕方や夜間にのみ使用され、蓄電装置が必要だが、ワイヤレス充電では、主に日中に生産・利用される再生可能な太陽エネルギーをより効率的に利用することができるので、必要な蓄電装置の台数を減らすことができる。

これには、都市や電力会社がワイヤレス充電のような効率的なエネルギー利用戦略を活用することで、エネルギー需要を時間的・空間的に分散させ、電力網に柔軟性をもたせて保護することができるというメリットがある。このエネルギー利用戦略を、自家用車やタクシーだけでなく、中型・大型トラックに適用すれば、EV化が難しいトラック分野でもEVへの移行をより迅速化できるようになる。

電気自動車の普及を支える電力網にプラスとなるワイヤレス充電

電力網にとっては乗用EVだけでも課題を抱えているが、大規模なトラック充電は、電力会社が積極的に移行を準備しなければ、非常に困難な課題となる。2030年には商用や乗用の全車両の10〜15%をEVにすることが計画されている現在、EVへの移行で二酸化炭素排出量の削減目標を達成しようとしている事業者にとって、ワイヤレス充電は費用対効果の高いソリューションになる。大型車のプラグイン充電とワイヤレス充電の比較と、両者が電力網に与える影響は次のようになる。

  • プラグインの導電式充電:240kWhのバッテリーを搭載した100台のEVバスをバス停留所で夜間導電充電する場合、全車両が毎日の運行終了時に同時に充電するために、最低でも6メガワット(MW)のグリッド接続が必要となる。
  • 電磁誘導方式のワイヤレス充電:都心部のバスターミナル、駐車場、ステーションに設置したワイヤレス充電の定置充電技術を使用して、100台のEVバスを、1日を通して運行の合間に「上乗せ」充電することができる。この充電戦略では、蓄電容量を大幅に削減でき(正確な削減量は車両と車両のエネルギー需要によって異なる)、1日を通して充電が行われるので、必要なグリッド接続は(プラグイン充電と比べて)66%減の2MWになる。

道路に隣接するソーラーパネルフェンスを備えたワイヤレス電気道路システムは、発電を分散させ、電力網への負荷を減らすための究極のソリューションになるかもしれない。業界が行った計算によると、約1kmの電気フェンスは、1.3〜3.3MWの電力を供給することができる。太陽光発電と道路に埋め込まれたワイヤレス充電インフラを組み合わせることで、1日あたり1300台から3300台のバスを電力網に接続せずに走らせることができる(平均時速80km、日射量の季節変動を考慮)。

さらに、ワイヤレス電気道路システムはすべてのEVに共通で使用できる。同じ電気道路でトラックやバン、乗用車に充電でき、電力網に新たな負荷をかけることもない。

電力網の近代化に向けて重要な役割をもつ革新的な充電技術

ワイヤレス充電はまだ市場に出てきて間もない技術だが、そのメリットは次第に明らかになっている。交通機関の電化の促進、気温の上昇、異常気象などに直面する電力網の老朽化が懸念される中、革新的な充電技術は最適なソリューションだ。

1日を通してEVの充電を分散させて過負荷を回避し、乗用車と大規模なトラック輸送両方のエネルギー需要を同時にサポートするワイヤレス充電などの技術は、将来の全電化脱炭素社会に向かうための重要なリソースとなる。

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(文:Oren Ezer、翻訳:Dragonfly)

気候変動で米国は安全保障のあり方が再定義される、書評「All Hell Breaking Loose」

今日の気候変動のポリティクスにおける亀裂の中で最も不幸な分断の1つが環境活動家と国家安全保障に関わる人々との連携の欠如だ。左翼系の環境活動家は右よりの軍事戦略家と付き合わず、前者は後者を破壊的で反エコロジカルな略奪者とみなしているし、後者は人々の安全保障よりも木やイルカを優先する非現実的な厄介者とみなしていることが少なくない。

しかし、気候変動により、両者はこれまで以上に緊密に連携することを余儀なくされている。

名誉教授で数多くの著作を持つMichael T. Klare(マイケル・T・クレア)氏は、自著「All Hell Breaking Loose(大混乱:気候変動に対するペンタゴンの視点)」の中で、過去20年間で気候変動がどのように米国の安全保障環境を形作ってきたかについて、ペンダゴンの戦略アセスメントに対するメタアセスメントを行っている。本書は、謹直で繰り返しが多いがいかめしいわけではない。そして防衛に携わる人々が今日最も厄介な世界的課題にどのように対処しているかについて、目を見張るような見方を提供してくれる。

気候変動は、国防の専門家でなければ気が付かないようなかたちで、実質的にあらゆる分野で安全保障環境を弱体化させている。米海軍の場合、沿岸から工廠や港へアクセスするわけだが、海面の上昇は任務遂行力を減退させたり時には破壊する脅威である。そのよい例がハリケーンが米海軍施設の最大の中心地の1つであるバージニアを襲った時であった。

画像クレジット:Metropolitan Books/Macmillan

米国の軍隊は、米国内のみならず世界中に何百もの基地を持っている。その意味で、戦闘部隊であると同時に大家のようなものでもある。これは当たり前のことだが繰り返していう価値がある。こうした施設のほとんどが、任務の遂行に影響を及ぼしかねない気候変動による問題に直面しており、施設の強化にかかる費用は数百億ドル(数兆円)、あるいはそれ以上に達する可能性がある。

これに加えて、エネルギーの問題もある。ペンタゴンは世界でも有数のエネルギー消費者であり、基地向けの電気や飛行機の燃料、船舶用のエネルギーを世界規模で必要としている。これらを調達する任にあたっている担当官にとって気がかりなのは、その費用もさることながら、それが入手できるのか、という点だろう。彼らは最も混乱した状況であっても信用できる燃料オプションを確保する必要があるのだ。石油の輸送オプションがさまざまな混乱にみまわれる可能性があるなか(暴風雨からスエズ運河での船舶の座礁まで)、優先順位を記したリストは気候変動のために曖昧になりつつある。

ペンタゴンの使命と環境活動家の利益が、完璧ではないにしても、強く一致するのはこの点である。クレア氏はペンタゴンが、戦闘部隊の任務遂行力を確保するためにバイオ燃料、分散型グリッドテクノロジー、バッテリーなどの分野に投資している様子を例として示している。ペンタゴンの予算を見て批評家は嘲笑うかもしれないが、ペンタゴンは、より信頼できるエネルギーを確保するため、いわゆる「グリーンプレミアム」を支払っている。これは他の機関では現実的には支払いが難しいような額であり、ペンタゴンは特殊な立場にあると言える。

両者の政治的な協調は、それぞれの理由は大きく異なるものの、人道的対応ということでも続いている。ペンタゴンの責任者が地球温暖化で懸念していることの1つは、この機関が中国、ロシア、イラン、その他の長年の敵対者からの保護といった最優先の任務ではなく人道的危機への対応へとますます足を取られて行くことである。ペンタゴンは、災害の起こった地域に何千という人数を派遣できる設備と後方支援のノウハウを持っている唯一の米国の機関として頼りにされている。ペンタゴンにとって難しいのは、軍隊は人道支援の訓練ではなく戦闘訓練を受けた存在であることだ。ISIS-Kを攻撃するスキルと、気候変動で難民となった人々のキャンプを管理するスキルとはまったく異なるのである。

気候変動活動家は、気候変動により何百万という人々が飢饉と灼熱から逃れるために難民となることがないよう、安定した公平な世界のために戦っている。ペンタゴンも同様にその中核的任務以外の任務に足を取られることのないよう、不安定な国家にテコ入れしたいと考えている。両者は異なる言語を話し、異なる動機を持っているものの、目指すところはほぼ同じなのである。

気候変動と国家安全保障との関係で最も興味深いのは、世界の戦略地図がどのように変化するかである。氷がとけ、北極海航路がほぼ1年を通して航行できるようになった今( そしてまもなく1年中航行できるようになる)、主な勝者はロシアであるが、クレア氏はペンタゴンが北極圏をどのように安定させるかについて的確な説明をしている。米国は、戦闘部隊に対し北極圏での任務の遂行と、この領域での不測の事態に備えるための訓練を初めて実施した。

クレア氏の本は読みやすく、そのテーマは大変興味深いが、どう想像力を膨らませても、見事に書かれた文章とは言えない。同書はまさにドラマ「Eリング」に出てくる防衛計画専門家チームによって書かれたかのようであり、筆者はそれをメタアセスメントと呼んでいる。これはシンクタンクがまとめた数百ページにおよぶ論文であり、これを読了するには、スタミナが必要である。

厳しい見方をすると、本書のリサーチと主な引用はペンタゴンのアセスメントレポート、議会証言、および新聞などの二次的レポートを中心になされており、当事者による直接的なインタビューはわずかであるかまったくないのであって、これは現代の米国の言説における気候変動の政治的な性質を考えると、大きな問題である。クレア氏は確かに政治を注意深く観察しているだろう。しかし将軍や国防長官が政府の報告書として公的にサインをする必要がない場合に、彼らがどのような発言をするかを私たちは知ることができない。これは大きな隔たりであり、本書を読むことで読者がどれほどペンタゴンの真意をつかめるのかは疑問である。

そうはいっても、本書は重要な位置付けを持つ本であり、国家安全保障に関わるコミュニティもまた、その利益を保護しつつではあるが、気候変動における変化を導く重要な先駆者でありうる、ということを思い出させてくれる。活動家と軍事戦略家は敵意を捨ててもう少し頻繁に話し合うべきである。同盟を結ぶ意義はあるのだから。

2021年夏に発表された気候変動に関する本

画像クレジット:Sergei Malgavko / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

【コラム】材料、電池、製造の炭素排出量を積み上げたEVの本当のカーボンコスト

EVの未来を夢見る投資家や政治家は、EVこそが世界の二酸化炭素排出量を大幅に削減すると信じている。しかし、その夢は完全に不透明だ。

従来型の自動車からEVへの置き換えが進んでも、世界の二酸化炭素排出量削減の効果はあまり大きくない。それどころかかえって排出量を増加させてしまう可能性もある、とする研究結果は増え続けている。

問題となるのは、発電時の炭素排出量ではない。顧客がEVを受け取るまでに発生する、私たちが気がついていない炭素排出量、すなわちバッテリーの製造に必要なすべての材料を入手し、加工するという迷路のように複雑なサプライチェーンで発生する「エンボディド・カーボン(内包二酸化炭素、環境負荷の指標)」のことだ。

ハンバーガー、住宅、スマートフォン、バッテリーなどのすべての製品で、生産工程の上流に「隠された」内包二酸化炭素が存在する。マクロレベルの影響については、フランスの気候変動に関する高等評議会が2020年発表した研究結果を参照して欲しい。この分析では、フランスが国を挙げて炭素排出量の削減を達成したという主張は幻想であることがわかる。炭素排出量は実際には増加しており、輸入品の内包二酸化炭素を計算すると、報告されていた値よりも約70%高くなった。

内包二酸化炭素の数値化は大変難しく、特にEVでは非常に複雑で不確実である。EVは走行中には何も排出しないが、生涯総炭素排出量の約80%は「バッテリーを製造する際のエネルギー」および「自動車を動かすための電力を発電する際のエネルギー」から発生している。残りは、クルマの非燃料部品の製造によるものである。従来型の自動車の場合は、生涯総炭素排出量の約80%が走行中に燃焼した燃料から直接発生する二酸化炭素で、残りは自動車の製造とガソリンの生産にかかる内包二酸化炭素から発生する。

従来型の自動車の燃料サイクルは狭い範囲に限定され、ほとんどの特徴が十分に解明している。そのため、厳しい規制がなくてもほぼすべてが追跡可能で、仮定(推定)の部分は少ない。しかし、電気自動車の場合はそうではない。

例えば50の学術研究を調査したレビューによると、電気自動車のバッテリー1つを製造する際の内包二酸化炭素は、最低でも8トン、最高で20トンである。最近の技術的な分析では、約4〜14トンとするものもある。14トンや20トンといえば、効率の良い従来型の自動車が、生涯の走行でガソリンを燃やした際に発生する二酸化炭素とほぼ同じ量である。それに対し、今挙げたEVの数値は、自動車が顧客に届けられ、走り出す前の話である。

この不確実性の原因は、バッテリーのライフサイクルで使用されるエネルギーの量と種類の両方が持つ、固有かつ解決できないばらつきにある。いずれも地理的条件や処理方法に左右され、データが公開されていないことも多い。内包二酸化炭素の分析によれば、ガソリン1ガロン(約3.7リットル)に相当するエネルギーを貯蔵できる電池を製造するために、エネルギー換算値で2〜6バレル(1バレルは約159リットル)の石油が必要であることがわかっている。つまり、EV用バッテリーの内包二酸化炭素は、無数の仮定に基づく推定値であり、実際のところ、今現在のEVの「炭素換算単位あたりの走行距離」を測定したり、将来の数値を予測したりすることは誰にもできない。

政府のプログラムや気候変動対策ファンドへの資金は殺到している。2021年もBlackRock(ブラックロック)General Atlantic(ジェネラルアトランティック)、TPGの3社がそれぞれ40〜50億ドル(約4400~5500億円)規模のクリーンテックファンドの新設を発表するなど、2021年の投資額は2020年の記録を上回る。私たちは炭素排出量を削減するための万能薬と思われているEVなどの技術の内包二酸化炭素に対し、きっちりと検討する時期を逸してしまった。ここからは、この万能薬が期待通りの結果を出していないことをご紹介する。

鉱山のデータ

自動車の目標は、燃料システムが総重量に占める割合をできるだけ小さくして、乗客や貨物のためのスペースを確保することだ。リチウム電池は、ノーベル賞級の革新的な製品であるはずだが、機械を動かすパワーの指標である「エネルギー密度」は、いまだに1位のはるか後塵を拝し、2位に甘んじている。

リチウム系の電池が本来持つ重量エネルギー密度は、理論的には1キログラム(バッテリーセルではなく、化学物質のみの重量)あたり約700ワット時(Wh/kg)である。これは鉛蓄電池のエネルギー密度に比べれば約5倍だが、石油の1万2000Wh/kgに比べればごくわずかに過ぎない。

30kgのガソリンと同じ航続距離を得られるEVのバッテリーは500kgになる。この差はガソリンエンジンと電気モーターとの重量差によっては埋められない。なぜなら、電気モーターはガソリンエンジンよりも90kg程度しか軽くないからだ。

自動車メーカーは、EVのモーター以外の部分を鉄ではなくアルミニウムやカーボンファイバーを使用して軽量化することで、バッテリーの重量による損失の一部を相殺している。残念なことに、これらの素材は鉄と比較して内包二酸化炭素がそれぞれ300%、600%多い。EVの多くに使用されている500kgのアルミニウムによって、バッテリー以外の内包二酸化炭素が(多くの分析で無視されているが)6トン増加することになる。しかし、すべての要素の中で最も炭素排出量の計算が面倒なのは、バッテリー自体の製造に必要な要素である。

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リチウム系の電池にはさまざまな元素の組み合わせがあり、安全性、密度、充電率、寿命など、バッテリーの複数の性能指標を妥協しながら選択される。バッテリーの化学物質自体が持つ内包二酸化炭素は、選択された元素によって600%もの差がある

広く普及しているニッケル・コバルト系電池の主成分を考えてみよう。一般的な500kgのEV用バッテリーには、約15kgのリチウム、約30kgのコバルト、約65kgのニッケル、約95kgのグラファイト、約45kgの銅が含まれている(残りは、スチール、アルミニウム、プラスチックの重さである)。

内包二酸化炭素の不確実性は、鉱石の品位、つまり鉱石の金属含有量から始まる。鉱石の品位は含まれる金属や鉱山、経年によって異なり、わずか0.1%から数%である。今わかっている平均値で計算すると、EV用のバッテリー1台分に必要な鉱石は次のようになる。1000トン以上のリチウムブライン(かん水)から15kgのリチウム、30トン以上の鉱石から約30kgのコバルト、5トン以上の鉱石から約65kgのニッケル、6トン以上の鉱石から約45kgの銅、約1トン以上の鉱石から約95kgのグラファイトである(なお、採掘にはエネルギーを大量に消費する重機を使用する)。

ボリビア・ウユニ塩原の南側ゾーンにある国有の新しいリチウム抽出施設の蒸発プールで、ブラインを積み込むトラックの航空写真。現地時間2019年7月10日(画像クレジット:PABLO COZZAGLIO / AFP via Getty Image)

さらに、そのトン数には、金属を含む鉱石に到達するまでに最初に掘らなければならない岩石物質の量(オーバーバーデン)を追加する必要がある。オーバーバーデンも、鉱石の種類や地質によって大きく異なるが、通常は1トンの鉱石を採掘するために約3〜7トンのオーバーバーデンを掘削する。これらの要素を総合すると、500kgのEV用バッテリー1台を作るためには、約250トンの岩石を掘削して、合計約50トンの鉱石を運搬し、さらに金属を分離するための加工を行う必要があることになる。

内包二酸化炭素は、鉱山の場所によっても影響を受ける。これは理論的には推定可能だが、将来的な数値は推測の域を出ない。遠隔地にある鉱山ではトラック輸送の距離も長くなり、ディーゼル発電機によるオフグリッド電力に頼らざるを得ない。現在、鉱物部門だけで世界の産業エネルギー使用量の約40%を占めている。また、全世界のバッテリーやバッテリー用化学物質の半分以上は、石炭火力発電の多いアジアで生産されている。欧米での工場建設が期待されてはいるとはいえ、いずれの調査も、鉱物のサプライチェーンは長期にわたってアジアが完全に支配すると予測している。

電力網とバッテリーの大きなばらつき

EVの炭素排出量の分析では、ほとんどのケースでバッテリーの内包二酸化炭素が考慮されている。しかし、この内包二酸化炭素は、異なる電力網でEVを使用した場合に生じるばらつきに対し、単純化のために単一の値を割り当てて計算されていることが多い。

国際クリーン輸送協議会(ICCT)が最近行った分析は非常に参考になる。ICCTは、バッテリーに固定の炭素負債を設定し、ヨーロッパのどこでEVを運転するかによってカーボンフットプリント(ライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量を二酸化炭素に換算した指標)がどのように変化するかに着目した。その結果、EVのライフサイクルにおける炭素排出量は、燃費の良い従来型の自動車と比較して、ノルウェーやフランスでは60%、英国では25%削減されるが、ドイツではほとんど削減できないことがわかった(ドイツの送電網における1kWhあたりの平均炭素排出量は、米国の送電網とほぼ同じである)。

この分析では、平均的な送電網の炭素排出量データを使用しているため、必ずしもバッテリー充電時の炭素排出量を表しているわけではない。充電に使用される実際の電力源は、平均値ではなく特定の時間によって決定される。水力発電と原子力発電が24時間稼働しているノルウェーやフランスでは、EV充電のタイミングによる変動は少ないが、それ以外の地域では、太陽光100%の時間や石炭100%の時間など、充電の時間帯や時期、場所によって大きく変動する可能性がある。一方、ガソリンの場合は、使用する場所と時間にこのような曖昧さはなく、全世界でいつでも同じである。

ドイツ・ボクスバーグにある亜炭火力発電所。ドイツ東部のルサティア地方とその経済基盤は、イェンシュヴァルデ、シュヴァルツェ・プンペ、ボクスベルクの石炭火力発電所に大きく依存している(画像クレジット:Florian Gaertner / Photothek via Getty Image)

ICCTが最近行った別の分析でも電力網の年平均値が使用され、従来型の自動車と比較した場合のEVのライフサイクルにおける炭素排出削減量は、インドでは25%、ヨーロッパでは70%となっている。しかし、欧州内での比較と同様に、バッテリー製造時の炭素排出量に、単一の低い値を仮置きしている。

国際エネルギー機関(IEA)は、現在のほとんどの鉱物生産は、炭素排出量の振れ幅の上限で行われていると報告している。そのため、バッテリーの内包二酸化炭素には単一の低い平均値を仮置きするのではなく、バッテリーごとに異なる内包二酸化炭素の影響を考慮しなればならない。ICCTの結果を内包二酸化炭素の現実に合わせて調整すると、EVのライフサイクルにおける排出削減量は、ノルウェーでは40%削減(調整前は60%)できるが、英国やオランダではほとんど削減できず、ドイツでは20%の増加となる。

現実世界での不確実性はこれだけではない。ICCTもその他の類似の分析でも、480kmの航続距離(従来型の自動車からEVへの置き換えを進めるために必要な距離)を実現できるバッテリーのサイズよりも、実際よりも30~60%小さいバッテリーで計算している。現在のハイエンドEVでは大型のバッテリーが一般的だ。バッテリーのサイズを2倍にすると、内包二酸化炭素も単純に2倍になり、多くのシナリオ(あるいはほとんどのシナリオ)で、EVのライフサイクルにおける炭素排出削減効果が大幅に損なわれるか、ゼロになる。

同様に問題なのは、将来の排出削減量を予測する際に、将来の充電サプライチェーンがEVが存在する地域に「存在する」明示的想定していることだ。ある分析は広く引用されているが、米国のEV用アルミニウムは国内の製錬所で製造され、電力は主に水力発電のダムで供給されると仮定している。理論的には可能かもしれないが、現実はそうではない。例えば米国のアルミニウム生産量は全世界の6%に過ぎない。製造プロセスがアジアにあると仮定すると、EV用アルミニウムのライフサイクルにおける排出量は計算上150%も高くなる。

EVの内包二酸化炭素算出の問題点は、石油が採掘、精製、消費される際の内包二酸化炭素の透明性に匹敵する報告メカニズムや基準が存在しないことだ。エグゼクティブサマリーやメディアの主張には反映されていないとしても、研究者は正確なデータを得るためには課題があることを知っている。技術資料の中には「リチウムイオン電池の使用が急速に増加している現状の、環境への影響を正しく評価するためには、リチウムイオンバッテリーセルの製造に必要なエネルギーをより深く理解することが重要である」というような注意書きが見られることがよくある。また、最近の研究論文には「残念ながら、その他のバッテリー原料の業界データはほとんどないため、ライフサイクル分析の研究者はデータギャップを埋めるために工学的な計算や近似値に頼らざるを得ない」という記載もあった。

全世界の鉱物のサプライチェーンを計算の対象にして、何千万台もの電気自動車の生産に対応させようとすると、この「データギャップ」が大きな壁となる。

量を増やす場合

最も重要なワイルドカードは、国際エネルギー機関(IEA)がいうところの「エネルギー転換鉱物」(ETM、風力や太陽光を電気に変換するために必要な鉱物)を必要量確保するために予想されるエネルギーコストの上昇である。

IEAは2021年5月、バッテリーや太陽電池、風力発電機の製造に必要なエネルギー転換鉱物の供給に関する課題について、重要な報告書を発表した。この報告書は、他の研究者が以前から指摘していたことを補強している。従来型の自動車と比較して、EVでは1台あたり約5倍のレアメタルを使用する。これに従い、IEAは、現在のEVの計画と風力発電や太陽光発電の計画を合算すると、一連の主要鉱物を生産するためには、全世界で鉱山生産量を300〜4000%増加させる必要があると結論づけている。

例えばEVは従来型の自動車に比べて銅の使用量が約300〜400%多いが、全世界の自動車総数に占めるEVの割合はまだ1%にも満たないため、世界中のサプライチェーンには今のところ影響が出ていない。EVを大規模に生産するようになると、電力網用のバッテリーや風力・太陽光発電機の計画と合わせた「クリーンエネルギー」分野は世界の銅消費量の半分以上を占めるようになるだろう(現在は約20%)。現在はごくわずかしか使用されていないニッケルとコバルトという関連し合う鉱物についても、クリーンエネルギーへの移行を進めることで、その分野の需要が全世界の需要のそれぞれ60%、70%を占めるようになると考えられている。

横浜港に到着し、駐車場に並べられたテスラ社の車両。2021年5月10日月曜日(画像クレジット:Toru Hanai/Bloomberg via Getty Images)

電気自動車の義務化が鉱業に及ぼす究極の需要規模を説明するために、5億台の電気自動車が普及した世界(それでも自動車全体の半分にも満たない)を考えてみよう。この世界では約3兆台のスマートフォンのバッテリーを製造できる量の鉱物資源を採掘する必要があり、これは、スマートフォンのバッテリーを2000年以上も採掘・生産してきたことに相当する。念のため確認しておくと、これだけのEVを導入しても、世界の石油使用量は15%程度しか削減されない。

全世界での驚異的な採掘量の拡大がもたらす環境、経済、地政学的な影響はさておき、世界銀行は「鉱物と資源の持続可能な開発のための新たな課題」について警告している。原材料の調達はEVのライフサイクルにおける二酸化炭素排出量のほぼ半分を占めるので、このような採掘量の増加は、将来の鉱物の二酸化炭素排出原単位(carbon intensity、炭素集約度ともいう)の予測に直接関係する。

IEAのレポートでも指摘されているように、エネルギー転換鉱物の問題は「二酸化炭素排出原単位が高い」だけでない。鉱石の品位が長年にわたって低下し続け、採掘量1kgあたりのエネルギー使用量が増加する傾向があるのだ。鉱物の需要が加速すれば、採掘者は必然的に低品位の鉱石を、より遠隔地で採掘することになる。たとえばIEAは、リチウムとニッケルをそれぞれ1kg生産する際の二酸化炭素排出量は300~600%増加すると予測している。

フランスの海外共同体ニューカレドニアのチオにあるニッケル鉱山(画像クレジット:DeAgostini / Getty Images)

銅の動向はこの課題をよく表している。1930年から1970年にかけて銅鉱石の品位は年々に低下していったが、採掘後の化学プロセスも進歩したため、1トンの銅を生産するためのエネルギー使用量は30%減少した。しかしこれは、最適化された化学プロセスが物理学的な限界に近づくまでの一時的なものだった。1970年以降も鉱石の品位は下がり続け、それに伴って銅1トンあたりのエネルギー使用量は増加し、2010年には1930年と同じレベルに戻ってしまった。近い将来、他の鉱物でも鉱石の品位が下がると、同じパターンをたどることになるだろう。

それにもかかわらず、IEAは他の機関と同様に、今現在の推定平均サプライチェーン二酸化炭素排出原単位を用いて「将来EVが増加することで二酸化炭素の排出量を削減できる」と主張している。しかし、IEA自身の報告書のデータは、エネルギー転換鉱物の内包二酸化炭素が増加することを示唆している。さらに、IEAは、太陽光発電所や風力発電所は天然ガスの発電所に比べて500〜700%多く鉱物を必要とすると指摘しているが、それらの発電所の建設が大幅に増加すると、鉱山サプライチェーンがさらに逼迫し、商品市場では価格が劇的に上昇することになる。

Wood Mackenzie(ウッドマッケンジー)の資源専門家は、EVのシェアが現在の1%未満から10%に近づくと、到底対応できないほどの資源需要が発生し「バッテリー技術の開発、テスト、商業化、製造、EVとそのサプライチェーンへの適用がこれまで以上に迅速に行われなければ、EV目標を達成し、ICE(内燃機関)を禁止することは不可能であり、現在のEV普及率予測に問題が生じる」と予測している。

政策を定めたところで、化学物質の開発・製造や鉱業など、すでに業界トップクラスのものを短期間で加速させる能力があるという証拠はない。リチウム電池の化学的原理が発見されてから、最初のTeslaセダンが発売されるまでに30年近くかかっているのだから。

炭素効率性を追求するバッテリーサプライチェーン

もちろん、EVサプライチェーンの炭素排出量の増加が世界を脅かす要因を改善する方法はある。それにはバッテリーの化学的性質の改善(1kWhの蓄電に必要な材料の削減)、化学プロセスの効率化、鉱山機械の電動化、リサイクルなどが挙げられ、いずれも「避けられない」あるいは「必要な」解決策とされることが多い。しかし、EVの急速な普及を想定した場合、これらはいずれも大きなインパクトがあるものではない。

よくありがちなニュースでは、何らかの「ブレークスルー」があったように報道されるが、EVの1kmあたりに必要な物理的材料を桁違いに変化させるような、商業的に実現可能な代替バッテリーの化学原理は見つかっていない。ほとんどの場合、化学組成を変えても重量が変わるだけだ。

例えばコバルトの使用量を減らすためにはニッケルの含有量を増やすのが一般的である。炭素やニッケルなどのエネルギー原子を使用せず、代わりに鉄などの(レアではない)エネルギー密度の低い元素を使用したバッテリー(リン酸鉄リチウムイオン電池など)は、エネルギー密度が低くなる。後者の場合、同じ航続距離を維持するためには、より大きく、より重いバッテリーが必要になる。いつかは組成的に優れた電池用の化学物質の組み合わせが発見されるだろうが、化学メカニズムを検証から産業用に安全にスケールアップするには何年もかかる。それ故に、現在、そして近い将来自動車に搭載されるバッテリーに使用される技術は、いつか理論的に可能になる技術ではなく、今現在実現している技術となる。

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また、鉱物の精製や変換に使用されるさまざまな化学的プロセスの効率化も期待されている。技術者が技術者である以上、改良は当然であり、デジタル時代にはさらに改良が進むかもしれない。しかし、研究されつくした物理化学の視点では、すでに物理学的限界に近い状態で精製や変換のプロセスが行われているので「ステップ関数(階段関数、階段を上がるように数値が増える関数)」的な変化は期待できない。つまり、リチウム電池は、プロセス(およびコスト)効率の急速な改善が見られる初期段階をとっくに過ぎて、少しずつしか改良されない段階に入っているのだ。

鉱山用トラックや機器の電動化についてはCaterpillar(キャタピラー)、Deere & Company(ディアアンドカンパニー)、Case(ケース)などがプロジェクトを進めており、量産機もいくつか販売されている。有望なデザインが登場しているユースケースもあるが、ほとんどのユースケースで重機に24時間365日の電力供給を行うにはバッテリーの性能が不足している。さらに、鉱山機械や産業機械の回転率は数十年単位であり、鉱山では、今後も多くの石油燃焼機材を長期間使用することになる。

リサイクルは新たな需要を軽減するためによく提案される手段だ。しかし、仮にすべてのバッテリーがリサイクルされたとしても、現在のEV推進策で提案されている(あるいは義務化されている)EVの増加予測から生じる膨大な需要の増加には到底対応できない。いずれにしても、バッテリーをはじめとする複雑な部品からレアメタルをリサイクルする際の有効性と経済性については、技術的な課題が未解決のまま残っている。いつかは自動化されたリサイクルが可能になるだろうと想像できるかもしれないが、現時点ではそのような解決策は存在しない。また現在も将来も、バッテリーの設計は統一されておらず、政策立案者やEV推進者が想定している期間内に設計の統一化を実現するための明確な道筋はない。

法規制の混乱とEVの排出権

ここまで見てきたとおり、EVの炭素排出量については非常に多くの仮定、推測、曖昧さがあるため、炭素排出量削減に関する主張は、詐欺とまではいかなくても、操作の対象となることが避けられない。必要なデータの多くは、技術的な不確実性、地理的要因の多様性と不透明性、多くのプロセスが公開されていない現状を考慮すると、通常の規制方法では収集できないと思われる。それでも、米国証券取引委員会(SEC)は、そのような開示要求を検討しているようだ。EVのエコシステムにおける不確実性は、欧州や米国の規制当局が法的拘束力のある「グリーン開示規則」を制定したり、二酸化炭素の排出量に関する「責任ある」ESG指標(企業を、環境[Environment]、社会[Society]、企業統治[Governance]の観点から評価した際の指標)を施行したりすれば、法的な大混乱につながる可能性がある。

自動車の石油使用量の削減に熱心な政策立案者に対しては、バッテリー化学や採掘の革命を待つまでもなく、技術者は目標を達成するためのより簡単で確実な方法を開発済みだ。燃料使用量を最大50%削減できる内燃機関はすでに存在している。より効率的なエンジンを積んだ自動車を購入するインセンティブを与え、その半分が燃費の良い自動車を購入するとしても、3億台のEVが供給されるよりも早く実現でき、安価である。そしてその検証は透明で、不確実性は存在しない。

編集部:本稿の執筆者Mark Mills(マーク・ミルズ)氏は「The Cloud Revolution」の著者。「The Cloud Revolution: How the Convergence of New Technologies Will Unleash the Next Economic Boom and a Roaring 2020s」を出版予定。マンハッタン研究所のシニアフェロー、ノースウェスタン大学マコーミック工学部のファカルティフェロー。

画像クレジット:Xu Congjun/VCG / Getty Images

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(文:Mark Mills、翻訳:Dragonfly)

解決策ではなく方向性を示すビル・ゲイツ、書評「地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる」

Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏は、ビジネスでの人生において多くの問題を解決してきたが、ここ数十年は、世界の貧困層の窮状と特にその健康問題に献身的に取り組んできた。財団の活動や慈善事業を通じて、同氏はマラリアや対策が進まない熱帯病、妊産婦の健康などの問題を解決するために世界を巡っているが、常に斬新で、多くの場合安価な解決策に目を向けている。

その工学的な頭脳と思考法を気候変動に注いだ著書が「How to Avoid a Climate Disaster:The Solutions We Have and the Breakthroughs We Need(日本語版:地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる)」だ(原書表紙に斜体で書かれているように、本当に必要『We Need』なのだ)。ゲイツ氏はこの本で、ソフトウェアの巨星からグローバルヘルスの魔術師、そして気候変動に関心を持つ市民へと進化していく過程について触れている。対策が進まない熱帯病などの課題に注目すると、気候変動は蚊などの感染媒介生物の蔓延に大きく影響していることがわかる。発展途上国の食糧安全保障を考える上で、気候変動問題を無視することはできない。

画像クレジット:Alfred A. Knopf/Penguin Random House

ゲイツ氏は、このような書き出しで、気候変動の懐疑論者らとのつながりを持とうとしているのではないだろう(どちらにしても、気候のよい時に彼らとつながりを持つのは難しい)。しかし同氏は代わりに、懐疑的だが再考の可能性のある人たちとの橋渡しをしようとしている。ゲイツ氏は、気候変動の影響を目の当たりにするまでは、この問題についてあまり考えていなかったことを認めており、同様に知的な旅をする準備ができている幾人かの読者を迎え入れたいと考えている。

その上でゲイツ氏は、温室効果ガスの主な構成要素と、年間510億トンのCO2換算排出量を削減して実質ゼロを達成する方法について、極めて冷静な(ドライともいえる)分析を行っている。その内訳は、エネルギー生産(27%)、製造業(31%)、農業(19%)、輸送(16%)、空調(7%)の順になっている。

ゲイツ氏はエンジニアであり、それが表れているところがすばらしい。同氏はこの本の中で、規模を理解すること、そして報道で耳にする数字や単位を常に解きほぐし、あるイノベーションが何か変化を生み出せるかどうかを実際に理解することを非常に重視している。ゲイツ氏は、航空プログラムで「1700万トン」のCO2を削減するという例を挙げているが、同時にこの数字は世界の排出量の0.03%にすぎず、今以上に規模が拡大するとはいえないと指摘する。これは、生活の質において、最小のコストで最大の検証可能な向上をもたらすプロジェクトに慈善資金を投入すべきという効果的な利他主義の考え方を取り入れたものだ。

もちろん、ゲイツ氏は資本主義者であり、同氏の判断の枠組みは、考え得る各解決策の適用に要する「グリーンプレミアム」を計算することにある。例えば、カーボンフリーのセメント製造プロセスは、カーボンを排出する通常のプロセスの2倍のコストがかかるとしよう。これらの追加コストと、その代替策が実際に削減する温室効果ガスの排出量を比較すれば、気候変動を解決するための最も効率的な方法がすぐにわかるのだ。

同氏が導き出す答えは、最終的に非常に応用性の高いものになる傾向がある。すべてを電化し、発電を脱炭素化し、残留物から炭素回収し、より効率的にする。難しいと思うかもしれないが、実際その通りだ。ゲイツ氏は「This Will Be Hard(道は険しい)」という的を射た名の章でその課題を指摘し、その章は「この章のタイトルでがっかりしないでください」という一文で始まる。それを理解するためにこの本を買うまでもないだろう。

ゲイツ氏は結局、この本の中では終始、保守的な姿勢を通している。それは、単に現状を維持するという同氏の一般的なアプローチではない。それは、本質的に私たちの生活様式に対する代替可能な微調整であり解決策の中に明らかに潜んでいる。メッセンジャーであるとすれば驚くべきことではない。また、これらの問題を解決するためのテクノロジーの力に対する同氏の見解も、驚くほど保守的だ。クリーンエネルギーをはじめとする環境保全技術に文字通り何十億もの投資をしてきた人物にしては、ゲイツ氏が提案する魔法は驚くほど少ない。現実的ではあるだろうが、同氏の実績を考えると悲観的にも感じられる。

この気候変動に関する考察を記したいくつかの本と合わせて読むと、ゲイツ氏にはある種の計算されたナイーブさを感じずにはいられない。つまり、もう少しカードを出し続けて、ギリギリまでロイヤルフラッシュが出るかどうかを見るべきだという感覚だ。解決策の兆しはあるものの、その多くは実用的な規模には至っていない。すでに利用可能な技術もあるが、実際に排出量に対する効果を発揮するには、自動車や家庭、企業などを改修するために莫大な費用が必要になる。また、欧米以外の国々には、近代的な設備を利用する資格がある。簡単なことではあるが、手が届かないのだ。

この本の長所であり、同時に短所でもあるのは、政治色がなく、事実に基づいて書かれているため、熱狂的な気候変動懐疑論者を除くすべての人を対象としていることだ。しかし、この本は一種のゲートウェイドラッグのような役割も果たしている。問題の規模、解決策の範囲、グリーンプレミアムや政策実施の課題を理解すると「いずれにしても今後数年でできるはずがない。だから何がいいたいのか」という気持ちになる。

ゲイツ氏はこの本を「私たちは、2050年までに温室効果ガスをなくす道筋をつけるためのテクノロジー、政策、市場構造へ注力することに、今後10年間を費やすべきだ」と締めくくっている。同氏のいっていることは間違ってはいないが、これはエバーグリーンが長く続かないであろう世界で発したエバーグリーンなコメントでもある。

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

世界中の環境テックベンチャー対象の助成プログラムを英Founders FactoryとスロバキアのG-Forceが展開

英国のテックアクセラレーターFounders Factory(ファウンダーズファクトリー)はFounders Factory Sustainability Seedプログラムの立ち上げで欧州の同業と力を合わせる。スロバキアのブラチスラヴァに拠点を置きつつ広範に活動しているG-Force​(GはGreenからとっている)との提携のもとに立ち上げたプログラムは気候テックのスタートアップへの投資と振興を目的としている。

プログラムは世界の温室効果ガス排出を削減し、循環型経済への移行を加速させ、持続可能な住宅供給や製造のソリューションを生み出し、また気候に優しいモビリティ、食糧生産、二酸化炭素・メタン回収・貯留に対応できるスタートアップの起業家に​投資する。

主にブラチスラヴァ以外で活動しているG-Forceとともに展開するこのプログラムは、遠隔と対面のサポートを織り交ぜた「ハイブリッド」方式で展開される。世界の環境テックベンチャーがプログラムに申し込んで参加できるように、との意図だ。

Sustainability SeedプログラムでFounders FactoryのパートナーとなるG-Forceは財務面で、Boris Zelený氏(ボリス・ゼレニー、AVASTに14億ドル[1540億円]で売却されたAVGを創業した人物だ)、Startup GrindのMarian Gazdik(マリアン・ガズディク)氏、そしてアーリーステージ投資家のPeter Külloi(ピーター・キューロイ)氏やMiklós Kóbor(ミクローシュ・コーボー)氏を含む多数の東欧の投資家によって支えられている。

プログラムに選ばれたスタートアップは最大15万ユーロ(約2000万円)のシード投資、Founders Factoryチームによる6カ月のサポート、潜在的な顧客やパートナー、法人、投資家への紹介を受けられる。

Founders FactoryのCEOであるHenry Lane Fox(ヘンリー・レーン・フォックス)氏は次のように述べた。「起業家が創造を得意とするディスラプトを促進することで、すべての人にとってより良い、そしてより持続可能な未来を形成することができます。G-Forceとの提携で、Founders Factory Sustainability Seedプログラムは世界にポジティブな影響を与えるベンチャーの育成とサポートを約束する主要プレシードプログラムになります」。

G-Forceの共同創業パートナーであるMarian Gazdik(マリアン・ガズディク)氏は「Founders Factory Sustainability Seedプログラムとの提携での我々の野望は、G-Forceを欧州の中心を拠点とする世界クラスの持続可能なイノベーションハブにすることです」と述べた。

アイデアを進展させて、レーン・フォックス氏は「これまでは1つの法人パートナーと組み合わせるのが当社のモデルでしたが、この特異なケースではエンジェル投資家のグループをまとめて紹介し、純粋な金融投資家との取引にすることができます。これは実際にこの特異な部門にうまく合うと考えています。我々はまた、そうした企業がプログラムを最大限活用できるよう、早い段階でより多くの資金を提供します」と筆者に語った。

ガズディク氏は、英国ではなく欧州を拠点とすることでEUの助成プログラムを利用することができる、とも付け加えた。

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画像クレジット:G-Force team

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

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EU「2030年までに温室効果ガス55%削減」の目標達成が2051年にズレ込むとの調査報告、約470兆円の投資が必要との試算も

Reuers / Srdjan Zivulovic

欧州連合(EU)は、温室効果ガスを2030年までに1990年比55%削減するという目標「Fit for 55」を達成するのに、21年も遅れていることがわかりました。Reutersは、Enel財団と国際経済会議European House-Ambrosettiの研究の結果、現在のペースのまま大幅な改善がなければ、2030年の目標値は2051年まで達成できないと報じています。

また温室効果ガス以外でも、2030年に40%の再生可能エネルギーを導入するという目標が、2043年にずれ込むと予想しています。

調査では、こうした遅れを取り戻して間に合わせるためにはEU全体で約3兆6,000億ユーロ(約470兆円)の投資が必要だと述べています。

「エネルギー転換プロセスに関与するセクターへの投資は、ヨーロッパとイタリアの両方で、重要な間接的および誘発的効果を伴う連鎖的な利益を生み出すでしょう。実際、この調査によると、今後10年間でこれらのギャップを埋めることで、欧州連合では8億ユーロ以上、イタリアでは4,000億ユーロ以上のGDPに累積的な影響を与える可能性があると報告されています。そして、目標達成のためにはEUの取り組みを抜本的に強化する必要があると警告しています。

イタリアを本拠地としてEU各国にEnelのCEOフランチェスコ・スタラーチェ氏は調査結果を示した上で「これでは遅すぎる」と述べ「目的達成のための具体的な行動力を持つ、課題の大きさに見合ったガバナンスシステムを速やかに整備する必要がある」としました。そのためには、

この研究結果は、電力会社であるEnelが自社で手がける再エネ事業へのEUからの投資を得るのを助けるためのものとも考えられます。ただいずれにせよ、EUはより積極的にクリーンエネルギーの採用を進め、EU加盟国間の調整を円滑化して市場統合を促進していく地域戦略が求められています。

(Source:ReutersEngadget日本版より転載)

スタートアップが日本のエネルギーセクターに入れないワケ

日本政府は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指している。そのためには、大小あらゆる企業のCO2排出削減や、クリーンエネルギーの活用、イノベーション創出などの協力が不可欠だ。ではスタートアップはこの問題にどう取り組んでいるだろうか。

Energy Tech Meetup共同設立者であるAmanda Ahl(アマンダ・アール)氏をモデレーターに、経済産業省 環境政策課総括係長の太田優人氏、Plug and Play エネルギープログラムリードのKathy Liu(キャシー・リュー)氏、MPower Partnersマネージング・ディレクターである鈴木絵里子氏、U3 Innovations ダイレクター川島壮史氏、Energy and Environment Investment Inc マネージング・ディレクター山口浩一氏が語り合った。

本記事は8月25日、オンラインで開催されたイベント「How can startups help Japan’s energy sector reach net zero?」をまとめたものとなる。

スタートアップを巻き込んだオープンイノベーションの重要性

菅義偉内閣総理大臣は2020年10月、2050年までのカーボンニュートラル実現を目指すと宣言。2021年4月には、2030年度までに温室効果ガスの排出を2013年度比で46%に削減すると話した。

しかしカーボンニュートラル実現までの道のりは長い。2019年時点での二酸化炭素排出量は消費者、産業、交通、電力セクターを合わせて10億3000万トン。これを2050年までにゼロにするのだ。

太田氏は「実現のために何をするのか。まず電力供給源を脱炭素化します。同時に、水素やバイオマスの活用を進めます」という

電力のカーボンニュートラル化に関し、太田氏は4つの主要なアプローチを挙げた。

1つ目は再生可能エネルギー。洋上風力発電、バッテリー活用、地熱産業が注目される。2つ目は水素発電。需要と供給両方を増やすことと、インフラの整備が必要だ。3つ目は二酸化炭素回収と合わせた火力発電。火力発電の活用は最小限に抑えらえるべきだが、太田氏は炭素リサイクル産業も視野に入れるべきだという。そして4つ目が原子力の活用だ。安全性が最優先事項であるという。

太田氏は「こうした状況で日本のスタートアップはどんな立ち位置にいるのでしょうか。国内のオープンイノベーションの状況を見ると、大学や研究機関、既存の企業の取組は活発なのですが、スタートアップを巻き込んだオープンイノベーションは下火です。米国と比べると非常に顕著です」と現状を分析する。

二酸化炭素の排出はさまざまなプロセスで発生する。製造業であれば、製品を製造する過程や製品を運ぶ過程で発生する。運輸業であれば、ビジネスを走らせることそのもので二酸化炭素が発生する。物理的な製品やプロセスが発生しない産業であっても、ビジネスプロセスの中での移動や電力利用まで考慮すれば、CO2排出と無縁ではいられない。

太田氏は「カーボンニュートラルには、産業を超えたコラボレーションやイノベーションが必要です。日本では特にスタートアップを巻き込んだオープンイノベーションが遅れています」と警鐘を鳴らした。

閉鎖的なエネルギーセクターにどう入り込む?

アール氏は「スタートアップはどうエネルギーセクターに貢献できるのでしょうか?」と質問を投げかけた。

環境・エネルギーに特化したベンチャーキャピタルであるEnergy and Environment Investmentの山口氏は「エネルギー産業はこれまで大手や大企業が中心でしたが、今ではスタートアップも参入しています。大企業はマーケティングが上手くないところが多いので、スタートアップはメッセージングの強さで存在意義をアピールできるのではないでしょうか」という。

スタートアップとリーディングカンパニーのマッチングなどを行うベンチャーキャピタル、Plug and Playのリュー氏は「海外のスタートアップがエネルギーセクターに参入する際、3つの壁があります」と話す。

1つ目はエネルギーセクターの閉鎖性だ。特に海外のスタートアップにとって、現地のステークホルダーとリレーションのある日本企業とのコラボレーションは難しい。2つ目は日本のコミュニケーション方法と意思決定の複雑さだ。日本企業の意思決定は複雑で時間がかかるため、海外のスタートアップには理解が難しいという。3つ目は日本企業の高い期待だ。日本企業のスタートアップへに課せられるのはハイスタンダードであることが多く、それを満たせない海外スタートアップも多いという。

太田氏も日本企業にありがちな時間のかかる意思決定と硬直したプロセスに危機感を抱いている。同氏は「多くの日本企業がアジャイルな意思決定に慣れていません。市場トレンドにも迅速に対応できないので、変えていく必要があります」と話す。

アール氏は「スタートアップがエネルギーセクターでビジネスを行う際の国からの支援体制はどうなっていますか?」と太田氏に質問した。

太田氏は「国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がグリーンイノベーション基金事業という支援を行っています。ですが、これには10年分の事業プランが必要です。スタートアップ向きとは言えないかもしれません。NEDOには研究開発型スタートアップ支援事業というものもあります。これはシード期のスタートアップに向けたものなのでこちらを検討してもらったほうが良いかもしれません」と答えた。

カーボンニュートラルはエネルギーセクターだけの問題ではない

ESG重視型グローバル・ベンチャーキャピタルファンドであるMPower Partnersの鈴木氏は日本の消費者のリテラシーの低さに言及した。

「カーボンニュートラルはエネルギーセクターだけの話ではありません。どのセクター、企業にも関わることです。しかし、日本国内では、自動車業界のように明らかにCO2排出に関わっている業界に対してはカーボンニュートラルに責任があるとみなされますが、CO2排出のイメージが薄いセクターや企業は責任がないかのように認識されています。エネルギーセクターだけでなく、その周辺のセクターや企業からのソリューションも重要性なのです」と鈴木氏は話す。

U3 Innovationsの川島氏も「エネルギーセクターではない企業もカーボンニュートラルに貢献できる」として、建設業界を例に出した。

日本国内には多くの建設業事業者がいる。小規模の事業者も多い。川島氏によると、こうした小さな事業者はソーラーパネルの設置など、環境に優しい設備の設置のノウハウがないことが多いという。

「大手の建設業者がこうしたノウハウのない企業にソーラーパネルの設置ノウハウなどを提供すれば、カーボンニュートラルに向けた動きと見なすことができます」と川島氏。

最後にアール氏が「カーボンニュートラルに関わりたいスタートアップにアドバイスはありますか?」と質問すると、リュー氏が回答した。

リュー氏は「海外のスタートアップ向けのアドバイスになりますが、日本のエネルギーセクターに入るのが難しければ、スタートアップの支援をしている組織の力を借りても良いでしょう。また、文化の違いや言語の違いを克服するため、日本にカントリーマネージャーを置いても良いでしょう。日本市場には大きなポテンシャルがあり、日本の企業も変わってきています」と話し、ディスカッションを終了した。

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Cruiseがカリフォルニアの農家から購入する太陽光発電を電気自動車や自動運転車の動力源に

General Motors(ゼネラルモーターズ)傘下で自動運転車を開発するCruise(クルーズ)は、カリフォルニア州セントラルバレーの農場から太陽光発電電力を調達する「Farm to Fleet」という新たな取り組みを始めた。San Francisco Chronicle紙が最初に報じたところによると、Cruiseは、Sundale Vineyards(サンデール・ヴィンヤーズ)とMoonlight Companies(ムーンライト・カンパニーズ)から再生可能エネルギー・クレジットを直接購入し、サンフランシスコで運行するすべての電気自動車の電力供給に活用しようとしている。

Cruiseは先日、サンフランシスコで人間のセーフティーオペレーターがいない試験車両で乗客を運ぶ認可を取得した。また、GM Financial(GMフィナンシャル)から50億ドル(約5500億円)の融資枠を受け、電気自動車や自動運転車など数百台のCruise Originを購入し、商用化に向けた動きを加速させている。今回のカリフォルニア州の農家との提携は、再生可能エネルギーの導入を進めるカリフォルニア州にとって有益であることは間違いないが、Cruiseは慈善事業を行っているわけではない。

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California Independent System Operator(カリフォルニア独立系統運用機関)はこの夏、電力需要が高まり、停電を起こす可能性のある熱波を想定し、米国西部の電力会社にメガワット単位での販売を呼びかけた。電力供給は、干ばつや停電、新しいエネルギー源の導入の遅れ、水力発電の減少などにより、すでに予想を下回っている。Cruiseが計画している大幅な台数の増加にカリフォルニア州の送電網が対応するには、送電網を強化するしかないようだ。しかし、Cruiseは、エネルギー源を確保するだけではなく、より高い目標を持っていることを明言している。

Cruiseの広報担当Ray Wert(レイ・ワート)氏はTechCrunchの取材に対し「私たちが都市やコミュニティのために正しいことをし、交通手段を根本的に変えていくことが目的です」と述べた。

環境保護団体「Nature Conservancy」の報告書によると、カリフォルニア州の農家は干ばつに悩まされており、農地を太陽光発電所に変えることにより気候変動の目標を達成できる可能性がある。だからこそCruiseは、セントラルバレーの農家に今アプローチすることに意味があると考えたのだ。

「Farm to Fleetは、都市部の交通機関の二酸化炭素排出量を急速に削減すると同時に、再生可能エネルギーに取り組むカリフォルニアの農家に新たな収入をもたらす手段です」とソーシャル・アフェアーズ&グローバル・インパクト担当副社長のRob Grant(ロブ・グラント)氏はブログで述べた。

Cruiseは、クリーンエネルギーのパートナーであるBTR Energy(BTRエナジー)を通じて、農家に対し合意した契約料金を支払っている。同社はコストを公表していないが、他の形態の再生可能エネルギー・クレジット(REC)を使用した場合と比べて、支払う金額は大きくも小さくもないとしている。RECは、再生可能エネルギー源が1メガワット時の電力を発電し、それを送電網に渡すと生成される。Cruiseによると、Sundaleは20万平方フィート(約1万9000平方メートル)の冷蔵倉庫に電力を供給するために、2メガワットの太陽電池容量を設置し、Moonlightは選別・保管施設に合計3.9メガワットの太陽電池アレイと2つのバッテリー貯蔵システムを設置しているという。これらの農場からクレジットを購入することで、Cruiseは電力使用量のうち特定の量が再生可能エネルギーで賄われていることを証明できる。RECは一意であり追跡できるため、どこから来たのか、どのようなエネルギーを使ったのか、どこに行ったのかが明確になる。Cruiseは、農場から購入するRECの数量について明らかにしていないが、同社のサンフランシスコの車を動かすのに十分な量だと述べている。

「太陽光発電の電力は同じ送電網を通っています。Cruiseは農場のソーラーパネルで発電された再生可能エネルギー・クレジットを購入しますが、最終的にそれはなくなります」とワート氏は話す。「カリフォルニア州大気資源局に四半期ごとに提出するデータにより、車両の充電に使用した電力量に相当する数のRECを償却しています」。

また、CruiseはBTRエナジーと協力し、アリゾナ州での事業に必要なRECの供給を確保している。同州での事業には、Walmart(ウォルマート)との配送試験も含まれる。

カリフォルニア州では低炭素燃料基準が定められており、輸送用燃料の炭素強度を低減し、より多くの低炭素代替燃料を提供することを目的としているため、完全に再生可能な電力を使用することはCruiseにとって有益だとワート氏はいう。同社はすべてのEV充電ポートを自社で所有・運営しているため、電力の炭素強度スコアとエネルギー供給量に応じてクレジットを生成することができる。Cruiseはこのクレジットを、二酸化炭素排出量の削減や法規制の遵守を求める他の企業に販売することができる。

Cruiseは、実用性だけでなく、業界の標準を確立し、再生可能エネルギーの需要を創出することで、より多くの人々や企業に再生可能エネルギーの創出を促すことを目指している。

グリッド分析を行うスタートアップであるKevala(ケバラ)のCEOのAram Shumavon(アラム・シュマボン)氏は、今回の提携について、Cruiseを賞賛すべきだと述べている。

「Cruiseが認めようとしているのは、同社が消費する電力に関する炭素強度であり、それを何らかの形で相殺しているということです」とシュマボン氏はTechCrunchに語った。「炭素会計にはスコープ3と呼ばれるカテゴリーがあり、サービス提供に必要なサプライチェーンが実際にどれだけの炭素を含んでいるのかを把握しようとするものです」。

シュマボン氏は、商業活動の炭素強度を定量化することで、企業はその説明責任を果たすことができ、供給者には自然エネルギーからの供給を求めることで、変化を促すことができると述べている。例えば、ある自動車メーカーは、アルミニウムを供給する会社に、石炭発電ではなく水力発電のある地域からのみ調達するよう依頼することができる。これにより、自動車メーカーの炭素強度を下げることができる。

「輸送部門は温室効果ガス排出量の40%以上を占めています。そのため、我々は2月に『クリーンマイル・チャレンジ』を発表し、自動運転業界の他の企業に、毎年何マイルを再生可能エネルギーで走行しているかを報告するよう呼びかけました」とワート氏は話す。「他の企業が我々に追随することを期待しています」。

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画像クレジット:Cruise

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

何億トンもの二酸化炭素を鉱物化・回収し環境問題に取り組む「44.01」が約5.5億円調達

温室効果ガスの排出量の削減は極めて重要な目標だが、現在我々は大気中のCO2やその他の物質のレベルを下げるという別の課題にも直面している。こういったガスをまったく自然なプロセスで普通の鉱物に変えてしまうという何とも頼もしい方法があるという。44.01は、膨大な量の前駆物質を使用してこのプロセスを大規模に実行したいと考えており、500万ドル(約5億5000万円)のシードラウンド受けてこの取り組みに着手している。

地質学者や気候学者の間では、CO2を鉱物化するプロセスはよく知られている。自然界に存在するかんらん岩と呼ばれる石が、ガスと水に反応して、無害な鉱物であるカルサイトを生成するのだ。実際、かんらん岩の鉱床を貫くカルサイトの大きな筋に見られるように、これは歴史上でも巨大なスケールで発生している。

かんらん岩は通常、海面から数マイル下にあるが、アラビア半島の最東端、特にオマーンの北海岸では地殻変動によって何百平方マイルものかんらん岩が地表に現れている。

オマーンのソブリン投資部門で働いていたTalal Hasan(タラル・ハサン)氏は、オマーンの海岸が世界最大の「デッドゾーン」になっており、その主な原因は排出されたCO2が海に吸収されて集まってくることだという記事を読んだ。環境保護主義者の家系に生まれたハサン氏はこれについて詳しく調べ、驚くべきことに問題と解決策は文字通り隣り合わせであることに気づく。つまりこの国には、理論的には何十億トンものCO2を保持できるかんらん岩の山が存在するのである。

ちょうどその頃ニューヨーク・タイムズ紙は、Peter Kelemen(ピーター・ケレメン)氏とJuerg Matter(ユルク・マター)氏によるオマーンの奇跡の鉱物の可能性についての研究を紹介するフォトエッセイを掲載。当時、タイムズ紙のHenry Fountain(ヘンリー・ファウンテン)氏はこう書いている。

非常に大きな「もしも」の話ではあるが、もしも炭素の鉱物化というこの自然のプロセスを利用し、これをすばやく安価に大規模に適用することができれば、気候変動対策への有効手段になり得るかもしれない。

これが、ハサン氏をはじめ、同スタートアップの「科学委員会」を構成するケレメン氏、マター氏の両氏が提案している計画の大まかな内容だ。44.01(ちなみに同社名は二酸化炭素の分子量に由来する)は、斬新なアイデアとともに経済的かつ安全に鉱物化を達成することを目指している。

第一に、自然な反応を促進させる基本的なプロセスが必要となる。通常はCO2や水蒸気が岩石と相互作用することで何年もかけて起こることであり、反応によって低いエネルギーが発生するため変化を起こすためにエネルギーを加える必要はない。

「大気中のCO2よりも高い濃度のCO2を注入することでスピードを上げています」とハサン氏は話す。「鉱石化と注入を目的とした人工的なボアホールを掘らなければなりません」。

画像クレジット:44.01

これらの穴によって表面積が増し、掘削されたかんらん岩が飽和するまで周期的に高濃度炭酸水が送り込まれる。触媒や毒性のある添加物を使用せず、ただの発泡性の水であるということがこれのポイントである。仮に漏れなどが起きたとしても、ソーダのボトルを開けたときのようなCO2の一吹きが発生するだけだ。

第二に、このために使用する巨大なトラックや重機が新たなCO2を排出して、この取り組みを無意味なものにしてしまわないようにするという課題もある。そのためにハサン氏はバイオディーゼルをベースにした供給ラインをWakudと共同で構築し、原料をトラックで運び、夜間に機械を動かすことで、夜間の燃料費を太陽光発電で補うことができるよう物流面での努力を行なっているという。

かなり大きなシステムを構築しなければならないように感じるが、ハサン氏はその多くがすでに石油産業によってでき上がっていると指摘する。ご存知の通り、石油産業はこの地域のいたるところに存在しているのだ。「石油産業の掘削や探査方法に似ているため、このための既存のインフラがたくさんありますが、我々は炭化水素を引き上げるのではなく、逆にポンプで戻しているのです」。アイスランドで行われている玄武岩の注入計画など他の鉱床開発でもこのコンセプトは採用されており、前例がないわけではない。

第三の課題として、CO2そのものの調達がある。当然大気中にはたくさんのCO2が存在するものの、産業規模で鉱石化できるほどの量を獲得し圧縮するのは容易なことではない。そこで44.01は、CO2回収のエンドポイントを提供するため、ClimeworksをはじめとするCO2回収企業との提携を開始した。

関連記事:支援を求めるExxonMobilを横目にスタートアップ企業は炭素回収に取り組む

排出地点であれ他の場所であれ、多くの企業が排出物の直接回収に取り組んでいる。しかし、数百万トンのCO2を集めたところで次に何をすべきかは不明瞭である。「そこで私たちは炭素回収企業の手助けをしたいと考え、CO2シンクをここに構築してプラグ&プレイモデルを行うことにしました。企業がここに来てプラグインし、その場で電力を使ってCO2の回収を開始することができます」とハサン氏は話す。

具体的な支払い方法については未解決の問題だが、カーボンオフセットに対する世界的な企業の意欲は明白である。従来型のむしろ時代遅れなカーボンクレジットを超えて、カーボンクレジットには大きなボランタリー市場がある。44.01は一時的な隔離からのステップアップと言える、検証済み炭素除去を大量に販売することができるが、そのための金融商品はまだ開発中である(DroneSeedは新世代の排出システムなどの活用を期待して、オフセットを超えたサービスを提供しているもう1つの企業だ。国際的な規制、税金、企業政策などが、進化しながらも非常に複雑に重なり合っている分野である)。

しかし今のところは、このシステムが期待通りの規模で機能することを証明することが第一の目的だ。今回の資金は実際の運用に必要な資金には遠く及ばないものの、実証実験に必要な許可や調査、設備を得るための一歩にはなるだろう。

「純粋に気候変動のために活動している、志を同じくする投資家に参加してもらおうと試みました」とハサン氏。「財務ではなくインパクトで評価されることが、私たちのメリットにもなるのです」(ほとんどのスタートアップがこのような理解ある出資者を望んでいるに違いないが)。

Max Altman(マックス・オルトマン)氏とSam Altman(サム・オルトマン)氏が設立したアーリーステージを対象とした投資ファンドであるApollo Projectsがこのラウンドをリードし、Breakthrough Energy Venturesが参加している(プレスリリースには記載されていないが、オマーンの数家族やヨーロッパの環境保護団体からの少額投資も注目すべき点だとハサン氏は述べている)。

オマーンを起点としながらも、別の場所で最初の商業運用を行うという可能性をハサン氏は示唆している。具体的には言及していないが、地図を見ると、かんらん岩の鉱床はオマーンの北端からUAEの東端にまで広がっていることがわかる。UAEも当然この新産業に興味があるはずであり、もちろん豊富な資金を持っている。44.01のパイロット作業が完了すれば、さらに詳しい情報が得られるだろう。

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クリーン電力サービスのアスエネがAI活用の温室効果ガス排出量管理SaaS「アスゼロ」を正式リリース
電気通信大が粗悪なCO2センサーの見分け方を公開、5000円以下の12製品中8製品はCO2ではなく消毒用アルコールに反応
画像クレジット:Holcy / iStock / Getty Images Plus / Getty Images under a RF license.

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

クリーン電力サービスの「アスエネ」がAI活用の温室効果ガス排出量管理SaaS「アスゼロ」を正式リリース

クリーン電力サービスの「アスエネ」がAI活用の温室効果ガス排出量管理SaaS「アスゼロ」を正式リリース

クリーン電力サービス「アスエネ」を提供する気候変動テック領域スタートアップ「アスエネ」は8月26日、AIなどのテクノロジーを活用したSaaSプラットフォーム型温室効果ガス排出量クラウド「アスゼロ」の正式リリースを発表した。脱炭素を目指す企業や自治体に向けた、温室効果ガス排出量およびカーボンフットプリントの算定・報告・削減・カーボンオフセットなどの一括管理と、業務自動化による工数削減が低コストで行えるというサービスだ。

「アスゼロ」には次の3つの特徴がある。

  • スキャンするだけ自動でCO2見える化:企業や自治体などにおいて、自社だけでなく、サプライチェーン全体の温室効果ガス(GHG)排出量のデータ回収と算出を自動化。請求書やレシートをアップロードするだけで自動入力とGHG排出量をAIが自動算定
  • 分析・報告まるごと自動化:GHG排出量の分析をAIが自動支援。CDP、SBT、省エネ法などへの報告を代行・自動化。分析作業もAIを活用し自動化する
  • CO2削減もまとめておまかせ:GHG排出原因に応じて、再エネ100%電力提供、省エネなど最適な手法を提案。地産地消型クリーン電力、オンサイト・オフサイト両方対応のコーポレートPPA、クレジットオフセット、省エネソリューションなど最適なCO2削減手法を提案する

今後は、AIやブロックチェーンなどの最先端テクノロジーを活用し、脱炭素化への取り組みの自動化、非改ざん性の高い証明力の徹底や、ICP(社内炭素価格)機能の導入などを目指すという。またグローバル展開も視野に入れている。

アスエネでは、「再エネ100%、CO2排出量ゼロでコストも10%削減できる地産地消型クリーン電力」という電力サービス「アスエネ」を展開しており、アスゼロでは、このサービスの利用も提案に組み込まれている。

リコーと九州大学共同開発によるフィルム形状の有機薄膜太陽電池のサンプルが9月提供開始、「充電のない世界」目指す

リコーが「充電のない世界」の実現に向けフィルム形状の有機薄膜太陽電池のサンプルを9月から提供開始

リコーは8月18日、IoT機器を常時可動させるための自律型電源となるフレキシブル環境発電デバイスのサンプルを9月から提供すると発表した。これはリコーと九州大学が2013年から共同研究してきた発電材料を使ったもの。屋内の低照度でも高効率な発電ができる。フィルム形状なので、さまざまなIoTデバイスに搭載が可能。IoTデバイスメーカー、サービス事業者、商社向けにサンプルを提供し、早期の商品ラインアップ化を目指すとのこと。

リコーが「充電のない世界」の実現に向けフィルム形状の有機薄膜太陽電池のサンプルを9月から提供開始

リコーは、九州大学 稲盛フロンティア研究センター 安田研究室との共同研究によって、「光電変換層(P型有機半導体)の分子構造や材料組成などを精密に制御」することで、比較的暗い場所でも高い電圧と電流が得られる有機光電変換系を開発。有機デバイス設計では、中間層(バッファ層)材料の最適化や界面制御による高効率化と高耐久化を実現した。これには、安田研究室の高性能有機半導体の設計と合成の技術、リコーの有機感光体の材料技術が活かされている。

リコーと九州大学が共同開発したフィルム形状の有機薄膜太陽電池のサンプルを9月から提供開始

リコーが開発した有機薄膜太陽電池(OPV)の構成と機能

フレキシブル環境発電デバイスには、次の特徴がある。

  • 発電効率の向上と高耐久化の実現
  • 広い照度域における高い変換効率
  • 高照度環境下における高い耐久性
  • 部分陰による影響が少ない遮光特性

約200lx(ルクス。一般家庭の居間の照明程度)の低照度から、約1万lx(曇りの日の屋外程度)の中照度でも高い光電変換効率を維持でき、約10万lxという太陽光に近い明るさでも高出力を維持できる。また、セルに部分的に影がかかっても、急激な出力の低下は起こらない。

リコーと九州大学が共同開発したフィルム形状の有機薄膜太陽電池のサンプルを9月から提供開始
リコーでは、「移動型・携帯型のウェアラブル端末やビーコンなどのデバイス、およびトンネル内や橋梁の裏側に設置される社会インフラのモニタリング用デバイスなどの自立型電源として適用が可能」としている。これにより、小型電子機器の電池交換や充電の必要がなくなり、九州大学の安田琢麿教授は、SDGsの目標7である「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」の達成に貢献できると話している。

リコーと九州大学が共同開発したフィルム形状の有機薄膜太陽電池のサンプルを9月から提供開始リコーと九州大学が共同開発したフィルム形状の有機薄膜太陽電池のサンプルを9月から提供開始

主な仕様・41x47mmサイズで使用環境(照度)が200lxと10000lxの場合の出力

  • 最大出力(Pmax)min(取り出せる電力の最大値)
    200xl:84µW
    10000lx:4200µW
  • 最大出力動作電圧(Vpmax)typ(電力が最大となる電圧値)
    200xl:3.3V
    10000lx:3.6V
  • 最大出力動作電流(Ipmax)typ(電力が最大となる電流値)
    200lx:25µA
    10000lx: 1200µA

詳細はこちら。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:環境発電 / エネルギーハーベスティング(用語)九州大学(組織)太陽光 / 太陽光発電 / ソーラー発電 / 太陽電池(用語)有機太陽電池 / OPV(用語)リコー(企業)日本(国・地域)

持続可能性にフォーカスするアップルのImpact Acceleratorが支援する有色人種企業15社を決定

Apple(アップル)による最近の社会奉仕事業の中に、Impact Acceleratorがある。ほぼ1年前に立ち上げた取り組みで、持続可能性や気候変動の問題に取り組んでいるマイノリティが経営する小規模企業を見つけて支援する。現在、その事業には最初の15社の参加企業があり、米国中から集まって3カ月のプログラムをこなし、Appleとの契約を得る。

Impact Acceleratorは同社の、1億ドル(約110億円)を投じた人種的平等と正義のための計画の一環だ。この計画はいくつかの努力目標からなり、既存の事業に資金を直接投じるものもあれば、有色人種が経営するベンチャー企業へお金が行くものもある。とにかく、Initiativeのチームが良いと考えた投資が対象だ。

これらの企業は、3カ月のバーチャルプログラムに参加する。Appleの発表にその詳細はないが、その後、Appleのカーボンニュートラルなサプライチェーンという目標のための、サプライヤーになる機会が得られる。

Appleが作成した15社のプロフィールはこのリストに載っているが、特に私の目についたのは次の5社だ。

  • Volt Energy Utility (共同創業者:Gilbert Campbell III): 恵まれてないコミュニティのための電力会社並の規模のソーラープロジェクト。
  • Bench-Tek (創業者:Maria Castellon): 環境フレンドリーな素材を使ったラボベンチ(実験台)。
  • Vericool(創業者:Darrell Jobe): 発泡スチロールの持続可能バージョンなど各種包装資材を作り、元服役者たちの職場とする。
  • Oceti Sakowin Power Authority (会長:Lyle Jack): 6人のスー族によるNGOで、中西部の保留地に再生可能エネルギーを供給する。
  • Mosaic Global Transportation(創業者:Maurice H. Brewster):企業の従業員用や各種イベント用にEVだけによるシャトル隊を提供する。

Appleの環境・政策・社会イニシアティブ担当バイスプレジデントであるLisa Jackson(リサ・ジャクソン)氏は発表声明で次のように述べている。「私たちが現在、提携している企業は、明日の多様で革新的な業界のリーダーになるところです。この方たちが作り出す変化がさざなみのように広がり、伝わり、気候変動がもたらした緊急的な危機に、世界中のコミュニティが対応できるようになるでしょう」。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:Apple持続可能性気候変動カーボンニュートラル

画像クレジット:Apple

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

豪スタートアップFloodMappは洪水の流れを予測しようとしている

洪水は壊滅的な被害をもたらす。コミュニティをバラバラにし、近隣の人たちを離散させ、毎年何千人もが避難を余儀なくされ、復旧に何年もかかることがある。米国政府は、ここ数十年の洪水により1600億ドル(約17兆6000億円)相当の被害があり数百人が亡くなったと推計している。

地上のセンサーや上空の衛星を活用して、世界中で水がどこにあり、どこへ流れていくのかを示すリアルタイムのモデルがあるはずだと考える人もいるだろう。しかしほとんどない。代わりに、ビッグデータやビッグコンピューティングの可能性を考慮しない旧態依然としたモデルに頼っている。

オーストラリアのブリスベンを拠点とするスタートアップのFloodMappは、水文学(すいもんがく)や予測分析の古いアプローチをやめ、もっとモダンなアプローチで緊急対応責任者や市民に洪水がいつ発生するのか、何をすべきかを知らせたいと考えている。

共同創業者でCEOのJuliette Murphy(ジュリエット・マーフィー)氏は、水資源工学の分野に長年関わり、水が引き起こす大変な破壊の状況を直接見てきた。2011年に同氏は大規模な洪水の際に友人の自宅が水没するのを目撃した。「水が屋根を越えました」と同氏はいう。その2年後にカナダのカルガリーで、同氏は再び同じ状況を目にした。洪水と恐怖の中で、友人は避難するかどうか、どう避難するかを決めようとしていた。

こうした記憶と自身のキャリアから、マーフィー氏は災害担当責任者向けの良いツールを作るにはどうすればいいかを考えるようになった。2018年、同氏は共同創業者でCTOのRyan Prosser(ライアン・プロッサー)氏とともにFloodMappを創業し、130万オーストラリアドル(約1億300万円)とマッチング・グラント(同額補助金)を調達した。

FloodMappの前提はシンプルだ。現在、リアルタイムの洪水モデルを構築するツールはあるが、我々はそれを活用しないことを選んできた。水は重力に従って流れる。つまり、ある場所の地形がわかれば、水がどこへ流れるかを予測できる。難題は、2階微分方程式を高解像度で処理する費用がかさむことだった。

マーフィー氏とプロッサー氏は、何十年にもわたって水文学で一般的に用いられてきた従来の物理学的アプローチを避け、機械学習で幅広く利用される手法を活用して適切に計算し、完全にデータに基づくアプローチをとることにした。マーフィー氏は「これまでボトムアップだったことを、トップダウンでやっています。我々はスピードの壁をまさに打ち破りました」と語る。これが、同社のリアルタイム洪水モデルであるDASHの開発につながった。

ブリスベンの川の氾濫に関するFloodMappのモデリング(画像クレジット:FloodMapp)

ただし典型的なテック系スタートアップとは異なり、FloodMappは独立したプラットフォームになろうとはしていない。そうではなく、他のデータストリームと組み合わせることのできるデータレイヤーを提供してESRIのArcGISといった既存の地理情報システム(GIS)と相互運用し、緊急対応や復旧の担当者に状況を知らせる。顧客はFloodMappのデータレイヤーを利用するためにサブスクリプション費用を支払う。FloodMappはこれまでにオーストラリアのクイーンズランド消防救急サービスや、バージニア州のノーフォーク市およびバージニアビーチ市と連携している。

しかしFloodMappがゆくゆく注目して欲しいと考えているのは緊急サービスだけではない。電話や電力から銀行、実店舗のある小売チェーンなど物理的な資産を持つあらゆる企業がこのプロダクトの顧客になる可能性を秘めている。実は、FloodMappはSEC(米国証券取引委員会)が気候変動に関する財務情報の開示を義務づけることに注目しており、そうなれば新規の取引が大幅に増えるかもしれない。

FloodMappのチームは2人の創業者にエンジニアリングやセールスの人材が加わって拡大した(画像クレジット:FloodMapp)

マーフィー氏は「我々はまだ初期段階です」とし、同社は2021年の水害シーズンを乗り切り新規顧客をいくつか獲得して、2022年の早い段階でさらに資金を調達する見込みだと述べた。同氏は、FloodMappが最終的に「人々を助けるだけでなく、気候変動に直面するオーストラリアが変化しこれに対応するための助けとなる」ことを望んでいる。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:FloodMappオーストラリア自然災害気候変動

画像クレジット:Joe Raedle / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Kaori Koyama)

IKEAがスウェーデンの家庭にクリーンエネルギーを販売へ

IKEA(イケア)はスマートライトを売るだけではない。対象となる国で間もなくそうしたライトに供給する電気も販売するようになる。Strömmaサブスクサービスを通じてクリーンエネルギーをスウェーデンの家庭に販売する計画を同社が明らかにした、とElectrekが報じている。顧客は料金を払うと認証された太陽光あるいは風力発電の電気が供給され、使用量はモバイルアプリで追跡できる。

家具大手のIKEAはクリーンエネルギーの販売を他国でも展開するとは言っていないが「すべてのIngka Groupマーケット」で2025年までに人々が再生可能エネルギーを使ったり発電したりできるようになることを望んでいた。

IKEAがエコフレンドリーな取り組みを行うのはこれが初めてではない。非LEDライトの販売を止め、間もなく再充電できないタイプのアルカリ電池の販売もやめる。さらにはスウェーデンの都市を持続可能なコミュニティに変えることも計画している。間違いなくこうした取り組みは同社のイメージ向上につながる。クリーンエネルギーソースとしてサービスを提供することで同チェーンの環境負荷についての懸念も解決できる。

かなり大きな動きだが、他の大手家具メーカーが今後追随したとしても驚きではない。単に、二酸化炭素排出を減らすことができる気持ちの良い努力というものではなく、余剰クリーンエネルギーの販売はコストを回収し、利益を押し上げるかもしれない。

編集部注:この投稿はEngadgetに掲載された。著者Jon FingasはEngadgetの寄稿ライター。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:IKEAスウェーデン電力再生可能エネルギー

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(文:Jon Fingas、翻訳:Nariko Mizoguchi

クリス・サッカ氏の気候変動対策ファンド「Lowercarbon Capital」が880億円を集める

クライメートテックに特化するファンドのLowercarbon Capital(ローワーカーボンキャピタル)が8億ドル(約880億円)の調達を完了したと8月13日にサイト上で発表した。同ファンドは、長年の投資家であるChris Sacca(クリス・サッカ)氏とその妻Crystal Sacca(クリスタル・サッカ)氏が設立した。

サッカ氏によると、資金調達は非常に早く、「わずか数日」で完了した。「未曾有の熱波の中で、そして火事の煙が立ち込める中で、気候変動対策ファンドの募集を行ったことは、おそらく悪いことではなかったと思います。それどころか、そうした全ての汚染は、私たちのズームコールに温かく美しいもやを運んだのかもしれません。Incendiary Doom Glowインスタフィルターのように」

関心が寄せられていることは驚くべきことではない。気温の上昇により、人類の生命が危機に瀕していることを示す、かなり明白な証拠が積み重なっているからだ。西ドイツと中国の洪水、ギリシャとカリフォルニアの山火事、そして太平洋岸北西部の人々が現在備える更なる熱波に先立ち、国連の気候科学研究グループが8月9日に発表した新しい報告書は、現状を明確に示し、「人類にとっての非常事態」を宣言した。

確かに、Lowercarbonの投資家の中には、こうした傾向を少しでも変えようとする技術に興味を持っている人もいるだろう。しかし、サッカ氏が言うように、彼らが注目しているものが、気候変動に取り組む技術がもたらす金銭的な報酬であって構わないだろう。

「私たちは、多くの投資家が気候危機の緊急性を理解し、真の解決策のために資金だけでなく時間も捧げていることに感激しています」とサッカ氏は投稿で語っている。「しかし、率直に言うと、実際には地球のことをそれほど気にせず、金銭的なリターンだけを追い求めている投資家の方々にも心を動かされました」

Lowercarbonが掲げる仮説は、「大規模な変化が起こるのは、ビジネス上の理由だけでそうした投資が回収されるから」というものだと同氏は付け加えている。

サッカ夫妻に加えて、Lowercarbonを運営するのは、ニューヨーク州ブルックリンを拠点とするパートナーのClay Dumas(クレイ・デュマス)氏だ。ファンドは同氏をLowercarbonの中で最も積極的な投資家だと説明している。ハーバード大学を卒業した同氏は、ベンチャーの世界に長く身を置いていたわけではない。2017年にサッカ氏と合流し、サッカ氏の前のファンドであるLowercase Capital(ローワーケースキャピタル)にパートナーとして参加したのが最初だった。デュマス氏は「伝統的」なVCとは異なり政治の世界を理解している。

2008年にBarack Obama(バラク・オバマ)氏の選挙運動のために現場事務所を開設した後、ホワイトハウスで当時の副参謀長の補佐官を務め、その後(再びホワイトハウスの)デジタル戦略室で勤務した。

Lowercarbonがこれまでに行った数十件の投資には、Heart Aerospace(スウェーデン・ヨーテボリを拠点とし、地域間輸送電気旅客機の開発に取り組む創業3年目のスタートアップで、Lowercarbonがシート資金を投資し、最近では追加投資も行った)、Holy Grail(米国カリフォルニア州マウンテンビューを拠点とし、大気から二酸化炭素を取り込む小型でモジュール式の機器の試作品開発に取り組む創業2年目のスタートアップで、6月にシードラウンドを発表した)、Cervest(ロンドンを拠点とする創業6年目の気候リスクプラットフォームで、事業会社と政府機関に対し、複合的な気象リスクが所有資産に与える影響について、現在や過去の、さらに予測的な見解を提供していおり、直近では5月に3000万ドル=約33億円=を調達した)などがある。

サッカ氏は、Twitter(ツイッター)やUber(ウーバー)への初期の巨額投資で有名になった。人気テレビ番組「Shark Tank」の審査員を数シーズン務めたが、2017年に番組を、そしてベンチャーキャピタルを辞め、「40歳で引退するつもりだった」と語った。当時、彼は42歳だった。

サッカ氏は、気候変動への関心が高まり、政治家が気候変動を食い止められるという確信が持てなくなったため、自身の決断を見直すことにした。3月、同氏はフォーブス誌にこう語った。「私たちは、市場が地球を救う鍵を握っているのではないかと考えています」

昨年6月のAxiosの報道によると、Lowercarbonは当初、数千万ドル(数十億円)の資金を投入するファミリーオフィスとして設立された。昨年半ばの時点で外部から受け入れてた資金は「サッカ氏が以前に運営していたファンドの機関投資家といくつかの特別目的会社」だけだったという。

新たに得た8億ドル(約880億円)の投資資金を4つのファンドに分け、Sacca & Co.は完全に仕事を再開したようだ。来月開催のTechCrunch Disruptで実際にサッカ氏に話を聞く予定だ。

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画像クレジット:Chris Sacca

[原文へ]

(文:Connie Loizos、翻訳:Nariko Mizoguchi

国連IPCCの報告書を受け、我々には増加する災害に対応する技術が必要だ

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は今週、気候変動の自然科学に関する第6次評価報告書の主要部分を発表した。その内容は、より良いデータ、より包括的なデータが入手できるようになり、より正確になったとはいえ、厳しいものだ。TechCrunchでMike Butcher(マイク・ブッチャー)氏が先に要約したように、この報告書は「容赦なく、率直な結論」を提示した。

関連記事:地球温暖化がいよいよ「赤信号」、国連IPCCが報告書で警告

報告書の主題の多くは、(ますます暑くなる)岩の下に住んでいない人(編集部注:「岩の下に住む」は「世の中の動きに疎い」の意味)にはおなじみのものだが、文書を熟読していた筆者の目に、ある部分が飛び込んできた。IPCCの作業部会は、地球に起きている負の変化の多くが、緩和策や適応策を講じたとしても将来のあらゆるシナリオにおいて衰えることなく続くと評価した。以下、要約報告書から引用する。

過去および将来の温室効果ガスの排出による多くの変化は、数世紀から数千年にわたって不可逆的であり、特に海洋、氷床、地球の海面レベルの変化が顕著である。【略】山岳氷河や極地の氷河は、数十年から数百年にわたって溶け続けることが確実視されている(信頼度は非常に高い)。永久凍土の融解にともなう永久凍土の炭素の損失は、100年単位の時間スケールで不可逆的である(信頼度は高い)。

要するに、より暖かく、より混沌とした世界へと向かう勢いがすでにあり、こうした傾向の多くを食い止める手段は限られているのだ。

農業や食料生産における収穫量の向上や排出量の削減、電力網の改善、ビルの空調からの排出量の削減など、あらゆるプロジェクトに注目し、クライメイトテックをテーマにした取り組みや投資、スタートアップが急増している。だが、これらの取り組みは、今世紀の私たちが直面している最も困難な課題の1つを解決するものではない。災害はすでに発生しており、また到来しつつあり、今世紀が進むとさらに激しさを増すということだ。

カリフォルニア州ではこの1週間、州史上2番目に大きな火災「Dixie Fire(ディキシー・ファイア)」が発生し、州北部が数十万エーカーの範囲で炎上している。一方、ギリシャでは何百もの山火事が発生し、未曾有の危機にある。干ばつ、洪水、ハリケーン、台風などの自然災害が深刻化し、全大陸の何十億もの人々が被害を受けている。

この問題を解決する方法の1つは復元力の向上だ。自然災害に備えて都市や構造物だけでなく、食料や水のシステムを構築する。しかし、こうしたプロジェクトの多くは、コストも時間もかかり、月単位ではなく、数十年単位で考えなければならない。

それよりも、より優れた災害対応技術の開発を今すぐにでも進める必要がある。筆者はここ数カ月、そうした企業を幅広く取材してきた。RapidSOS(ラピッドSOS)は、緊急通報にデータを加えることで、迅速かつ効率的な対応を実現している。また、550万ドル(約6億500万円)を調達したQwake(クウェイク)は、消防士が煙の中で周辺を可視化するためのハードウェアとクラウドサービスを開発している。一方、YCが支援するGridware(グリッドウェア)は、電力網の障害を迅速に検知するセンサー開発に向け500万ドル(約5億5000万円)以上を調達した

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このように、災害対策技術を提供するスタートアップ企業は増えているが、今後数年間に発生するさまざまな災害に対処するためには、さらに多くの企業が必要となる。

被災者や初期対応者のためのメンタルヘルスリソースの充実、生活再建のための復興資金への容易なアクセス、災害の早期発見のための高品質なセンサーやデータ分析、人々を危険な場所から避難させるための迅速な物流など、やるべきことはたくさんある。実際には、文字通り何十もの分野で、より多くの投資や創業者の注目を必要としている。

販売サイクルの分析でも指摘したように、この市場は容易ではない。予算は厳しく、災害は不定期で、技術は後回しにされがちだ。次世代のサービスをいかに開発し、どう売っていくかは、ハイリターンの可能性を秘めたリスクでもある。

今週、IPCCの報告書で明らかになったように、ここ数十年で目にしてきた混沌とした天候や激しい災害がすぐに和らぐことはないだろう。だが工夫次第で、すでに発生している災害にうまく対応し、命と財産を守ることができる。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:気候変動地球温暖化自然災害国連

画像クレジット:Konstantinos Tsakalidis/Bloomberg / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Nariko Mizoguchi

地球温暖化がいよいよ「赤信号」、国連IPCCが報告書で警告

国連の科学報告書は、人間の活動が前代未聞の速さで気候を変えていると結論づけた。執筆者らは報告書で「人類にとって非常事態」と表現した。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の結論は容赦なく、率直だ。「人間の影響で大気、海洋、陸地の温暖化が進んだことは明白だ」としている。

世界の政府によって支持されている科学者の集まりであるIPCCは、今後10年で猛烈な熱波や干ばつ、洪水、鍵を握る温度の限界超えがますます増えると警告している。

これは「想定よりもずいぶん早く、おそらく2034年半ばに世界の気温が1.5度上昇する」ことを意味する、と報告書にはある。

IPCCは、1.5度の気温上昇で熱波がより過酷になり、かつ頻発すると指摘する。

報告書の著者の1人である英国レディング大学のEd Hawkins(エド・ホーキンズ)教授は「これは事実の陳述書であり、疑う余地はありません。人類が地球を温めているというのは明白であり、議論する余地がない事実です」と述べた。

しかし科学者たちは、世界が迅速に対応して温室効果ガスの排出を大幅に抑制すれば気温上昇を一定に保つことができるかもしれず、大惨事は回避できる、と話す。

そして科学者たちは、世界の二酸化炭素排出量が2030年までに抑制され、21世紀半ばまでにネットゼロに到達することに望みを抱いている。

今回の報告書は2013年以来の大幅な見直しであり、グラスゴーでのCOP26気候サミット開催まで3カ月もない中で発表された。

IPCC報告書の主要ポイント

  • 二酸化炭素排出量が今後数年で削減されなければあらゆるシナリオで2040年までに気温が1.5度上昇する
  • 気温上昇を1.5度に抑えるには、二酸化炭素排出量の「緊急で迅速、かつ大規模な削減」が必要で、対応が遅ければ気温上昇幅が2度になり、地球全体の生物が苦しむ
  • 人間の影響が1990年代からの世界的な氷河の後退と北極海の氷の減少の主な要因となっている「可能性が非常に高い」(90%)
  • 1950年代以降、熱波が頻発し、また強烈なものになっている一方で、寒波の頻度は少なく、程度も緩やかになっている。
  • 多くの国で「火災が発生するような気候」となる可能性が高い
  • 90%超の地域で干ばつが増えている
  • 2011〜2020年の世界の表面温度は1850〜1900年に比べて1.09度高かった
  • 過去5年は1850年以降最も暑かった
  • 近年の海面上昇率は1901〜1971年に比べて3倍近くになった
  • 2100年までの約2メートルの海面上昇、2150年までの5メートルの海面上昇は除外できず、沿岸エリアに居住する何百万人という人を脅かす
  • 100年に1度起こっていた海面の極端な現象が少なくとも毎年起こることが見込まれる

報告書にある二酸化炭素排出量に応じたあらゆるシナリオにおいて、二酸化炭素排出が大幅に抑制さればければ削減目標は今世紀に達成されない。

科学者たちが提案する解決策には、クリーンテクノロジーの使用、二酸化炭素回収・貯留、植林などが含まれる。

別の共同著者である英国リーズ大学のPiers Forster(ピアーズ・フォスター)教授は次のように書いた。「もし我々がネットゼロを達成することができれば、うまくいけばこれ以上気温は上昇しないでしょう。そして仮に温室効果ガスのネットゼロを達成できれば、ゆくゆくは気温上昇をいくらか戻して気温を幾分下げることができるでしょう」。

IPCC報告書は、1850年以降、人間によって2兆4000億トンもの二酸化炭素が排出され、66%の可能性で気温上昇を1.5度に抑えるための二酸化炭素の排出許容量は4000億トンしかないと指摘した。

これは地球がカーボン「予算」の86%をすでに使い果たしたことを意味する。

さらに、気候変動の影響を免れる人はいない。

「カナダやドイツ、日本、米国のような裕福で安全な国の市民が急速に悪化している気候の有り余る最悪の事態を乗り切ることができるとはもはや仮定できません」と自然保護団体The Nature Conservancyの首席科学者Katharine Hayhoe(キャサリン・ヘイホー)教授は話す。「我々は同じボートに乗っていて、我々皆が生きているうちに影響を受ける問題に直面しているのは明らかです」。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:地球温暖化二酸化炭素二酸化炭素排出量国連気候変動

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

地球に太陽エネルギーを送信する有志の寄付による10年の研究プロジェクト、その近況

それはまるで、天才詐欺師のアイデアのようだ。彼の悪賢い目標は、世界中に、安くてクリーンなエネルギーを提供することだ。そのために彼は、3キロメートル四方のソーラーアレイを宇宙に打ち上げて、太陽のエネルギーを電力の形で地表に送る。そのお値段も1億ドルと、低俗SF並だ。でもこれは、カルテック(Caltech、カリフォルニア工科大学)の本当のプロジェクトで、10年近く一人の寄付者が資金を提供している。

その、宇宙に設置する太陽エネルギープロジェクト(Space-based Solar Power Project, SSPP)は、少なくとも2013年から存在する。その年に、Donald Bren/Brigitte Bren夫妻からの最初の寄付がカルテックに届いた。Donald Bren氏は不動産開発企業Irvine Companyの会長で、カルテックの理事の一人だが、Popular Science誌で宇宙に置くソーラーを知った彼は、研究プロジェクトと資金提供を申し出た。これまで彼は1億ドル以上をこのプロジェクトに注ぎ込んでいる。資金源は長年、匿名とされてきたが、今週、カルテックがそれを公表した

このアイデアは、再生可能エネルギーが抱える現状の制約から、当然のように生まれた。太陽エネルギーは地表に遍在するが、天候や季節や時刻に依存する。どんなに理想的な環境に置いても、すべての時間にフル能力で動き続けるソーラーパネルは存在しない。そこで、電力としてのエネルギーをスマートグリッドにどうやって保存し送電するか、という問題になってくる。地球上に置いたソーラーパネルは、どれもその制約がある。

しかしソーラーパネルを軌道に置けば、ほとんど全時間、太陽の100%の光にさらすことができるかもしれない。そしてそのエネルギーは損失ゼロで、惑星を保護している大気層や磁気圏を通ってくるだろう。


SSPPが作った最新のプロトタイプ、太陽光を集めてそのエネルギーをマイクロ波の周波数で送る。画像クレジット: Caltech

カルテックのプレスリリースで、SSPPの研究者Harry Atwater氏がこう言っている: 「この意欲的なプロジェクトは、太陽エネルギーの地球のための大規模収穫技術に革新をもたらし、その間欠性とエネルギー保存の必要性を克服する」。

もちろん、こんなことをする価値があるほどの、十分な量のエネルギーを集める必要があるし、エネルギーが上に述べた保護層で減衰せずに地表に届く方法が必要だ。そしてしかも、途中でやけどや火災が発生する方法では困る。

これまでの10年間でこれらの基本的な問題は体系的に検討されたと思われるが、でもチームは、Bren氏の支援がなければこのプロジェクトはあり得なかっただろう、と明言している。補助金や助成金を探し回ったり、卒業生からの引き継ぎをやったりしていれば、とてもプロジェクトの継続はできなかっただろう。でも、こちらは資金が安定しているから長期の研究者を雇えたし、いろいろな初期的問題でプロジェクトが頓挫することもなかった。

同グループがこれまでに発表した研究論文やプロトタイプは、ここに見るように数十件にものぼる。その中には、従来品に比べて桁違いに軽い太陽熱収集機/送信機(コレクター/トランスミッター)もあり、最初のテスト衛星を宇宙に打ち上げる日も遠くないという。

プロジェクトの共同ディレクターAli Hajimiri氏は、本誌の取材に対して次のように述べた: 「打ち上げは2023年のQ1を予定している。打ち上げには、このプロジェクトでこれまでに開発された重要な技術を、実際に宇宙で検証するデモンストレーションの意味合いもある。それらは、エネルギーの長距離ワイヤレス伝送(ワイヤレス送電)や、軽量で可撓性の光起電子、同じく可撓性があって宇宙で展開できる構造体などだ」。


上図のようなタイルを結合して起電子体の列を作り、さらに発電用の宇宙船を作り、宇宙船の隊列を作る。画像クレジット: Caltech

それは6フィート四方ぐらいの小さなテストになると思われるが、そのビジョンはでっかい。というか、現在宇宙にあるどんなものよりも大きいだろう。

Hajimiri氏は曰く: 「最終的なシステムは複数の展開可能なモジュールの近接編隊になり、お互いに同期して稼動する。ひとつのモジュールは一辺が数十メートルで、今後モジュールをもっと加えていくことによってシステムは大きくなる」。


画像クレジット: Caltech

このコンセプトでは、最終的に出来上がる構造体は一辺が5-6平方キロメートルになる。しかし地球からうんと遠いから、巨大な六角形が星を隠すことはない。エネルギーは電力として、方向制御可能な一定方向のマイクロ波で地上の受信機にワイヤレスで送られる。このような構造体が複数、軌道にあれば、地上のどんな場所でもエネルギーをフルタイムで送ることができる。

以上はあくまでもビジョンであり、実用化までには多くの年月を要するだろう。でも、これをたった一つの野心的なプロジェクトとか、大げさな目標と呼ぶのは間違いだ。ソーラーを宇宙に置くというこの考え方から、太陽電池の進歩や、宇宙に置く可撓性構造体、送電のワイヤレス化などの技術が生まれ、それぞれを他の分野でも利用できる。ビジョンがSF的であっても、科学の進歩は堅実だ。

そしてBren氏自身は、重要だけれど他の人たちが取り組まないタスクに、自分が初球を投げただけで、満足しているようだ。

彼はカルテックにこう言っている: 「これまでの私は、宇宙における太陽エネルギー開発とその応用を、長年研究している学生だった。カルテックで世界クラスの科学者たちを支援する私の関心は、太陽の自然エネルギーを誰もが利用できるための装備があり得るという、私の信念に裏打ちされている」。

打ち上げ間近になったら、SSPPをもう一度取材しよう。

(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)
画像クレジット: Caltech

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靴箱サイズのモジュール式エネルギー貯蔵ブロックを開発するMGA Thermalが6.5億円調達

MGA Thermalの共同創業者であるエリッヒ・キジ氏とアレクサンダー・ポスト氏

MGA Thermal(MGAサーマル)は、靴箱サイズの蓄熱ブロックで、電力会社の化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を支援したいと考えている。同社によると、1000個のブロックを積み重ねると小型車ほどの大きさになり、27世帯の電力24時間分を蓄えられるという。これがあれば、太陽光発電や風力発電に適さない天候のときでも、電力会社は大量のエネルギーを蓄え、送電する準備が整えられる。また、ブロックがモジュール化されているため、石炭火力発電所などのインフラをグリッドスケールのエネルギー貯蔵へ転換することも容易になる。

MGA Thermalは現地時間8月2日、800万豪ドル(約6億4800万円)を調達したとを発表した。累計の資金調達額は900万豪ドル(約7億2900万円)となった。今回の資金調達を主導したのは、豪州の国立科学機関が設立したベンチャー企業のMain Sequenceで、最近2億5000万豪ドル(約203億円)のファンドを新たに立ち上げた。また、Alberts Impact Capital、ニュージーランドのClimate Venture Capital Fund、The Melt、CP Venturesの他、Chris Sang(クリス・サング)氏、Emlyn Scott(エムリン・スコット)氏、Glenn Butcher(グレン・ブッチャー)氏などのエンジェル投資家も参加した。

Erich Kisi(エリッヒ・キジ)氏とAlexander Post(アレクサンダー・ポスト)氏はニューカッスル大学で約10年間、混和性ギャップ合金(MGA)技術の研究開発に携わった後、豪州のニューカッスルを拠点とするMGA Thermalを2019年4月に創業した。MGA技術を平易に説明するよう求められたキジ氏は「おいしい」例え話をした。

MGA Thermalのブロックは「基本的には、熱すると溶ける金属粒子を不活性のマトリックス材に埋め込んだものです。ブロックは、電子レンジで加熱されたチョコチップ入りのマフィンのようなものだと思ってください。マフィンは、加熱したときに全体の形を保持するケーキ部分と溶けるチョコチップで構成されています」とTechCrunchに話した。

「チョコチップを溶かすエネルギーは蓄積され、マフィンを噛んだときに口の中をやけどさせることができるほどです。融解エネルギーは、単に何かを加熱するよりも強力であり、融解温度付近に集中しているため、エネルギーを一貫して放出することができます」。

MGA Thermal社のモジュール式エネルギー貯蔵ブロック(画像クレジット:MGA Thermal)

MGA Thermalのブロックに蓄えられたエネルギーにより水を加熱すれば、蒸気タービンや発電機を動かすことができる。ブロックはこのシナリオにおいて、水を汲み上げたり沸騰させたりするための内部チューブを備えていたり、熱交換器と連動する設計となっている。キジ氏によると、MGA Thermalのブロックを使えば、長い日照時間や強風のときに通常ならスイッチを切ってしまう再生可能エネルギーによる発電を、老朽化した火力発電所とともに継続することができるという。

他の熱エネルギーソリューションとしては、ブロック状や顆粒状の安価な固体材料を断熱容器の中で高温に加熱する方法がある。だが、こうした材料の多くは、熱エネルギーの移動が苦手で、温度制限があるとキジ氏はいう。つまり、熱エネルギーは放出されると温度が下がり、効果が薄れてしまうのだ。

熱エネルギーを貯蔵する別の方法としては、再生可能エネルギー源で加熱された溶融塩をホットタンクに貯蔵する方法がある。高温の塩は熱交換器に送られて蒸気となり、低温の塩は冷たいタンクに戻される。

「このシステムは、集光型太陽熱発電では広く使われていますが、それ以外の場所ではほとんど使われていませんでした」とキジ氏は語る。「その理由の多くは、ポンプやヒーターを配管するために巨額のインフラコストが必要になるため、また、塩の凍結防止に大量の電力を浪費するためです」。

MGA Thermalはニューサウスウェールズ州に製造工場を建設中であり、商業レベルのブロック生産を目指している。また、今後1年間でチームを倍に拡大し、毎月数十万個のブロックを生産できるようにする。また現在、スイスのE2S Power ASGや米国のPeregrine Turbine Technologiesなどの提携先と協力して、豪州、欧州、北米での技術展開を進めている。例えば、E2S Power AGは、MGA Thermalの技術を利用し、欧州で運転を終了したか、稼働中の石炭火力発電所を再利用する予定だ。

MGA Thermalの技術は、発電所の改造、オフグリッドストレージの構築、遠隔地のコミュニティや商業スペースへの電力供給など多くの産業用途があるが、消費者の化石燃料の消費を抑えることもできる。例えば、MGAのブロックは、各家庭の屋根にある太陽光パネルや小型風力発電機が発電した余剰エネルギーの貯蔵に使える。そのエネルギーは暖房に利用することができる。

「世界では30億人もの人々が燃料を燃やして家を暖めていると言われています」とキジ氏は話す。「特に寒冷地では、それが大量の二酸化炭素発生の原因となっています」。

Main SequenceのパートナーであるMartin Duursma(マーチン・デュールズマ)氏は声明で「私たちの新しいファンドが特に力を入れているのは、科学的な発見を実際に使える確かな技術に変え、気候変動の影響を逆転させる支援を行うことです。エリッヒ・キジ氏とアレクサンダー・ポスト氏の印象深い研究経歴、彼らの専門家チームと革新的技術が、グリッドスケールのエネルギー貯蔵への道を開き、世界中で再生可能エネルギーの未来の可能性を広げると考えています」。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:MGA Thermal資金調達再生可能エネルギー電力エネルギー

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(文:Catherine Shu、翻訳:Nariko Mizoguchi