米国の交通システムが直面している課題は数多く、年々悪化している。米国の道路への需要が高まるにつれて、安全性、効率性、持続可能性の問題も増大している。
歴史的な1兆ドル(約114兆円)規模のInfrastructure Investment and Jobs Act(インフラ投資・雇用法)は、数十年間で最大かつ広範囲に及ぶインフラパッケージの1つであり、この国の投資ニーズに対する巨額の頭金となって、すべての州で数千もの重要なプロジェクトの鍵を握ることになる。しかし、公的資金だけでは、特に5年間に配分される場合、人口や都市、そして道路を毎日走る車両の新たなニーズに対応するには不十分である。
例えば、老朽化し荒廃した高速道路、橋、道路の補修に1000億ドル(約11兆円)が割り当てられている。残念なことに、米国は長年にわたり道路の財源を不足させてきたため、公共道路の43%が劣悪あるいは並以下の状態に置かれており、その結果、道路補修の必要額として4350億ドル(約49兆円)の未処理分が生じている。道路の修理に特化した公的資金をもってしても、私たちは依然として必要とされるレベルに達していない。
交通インフラ産業は歴史的にリスク回避の傾向があり、公共交通機関の資金の利用可能性によって制限されてきた。しかし、今日に至るまで私たちすべてが依存してきている初期のテクノロジーネットワークの歴史的な例がいくつかあり、それらは国民経済に劇的なインパクトをもたらしている。これらのプロジェクトは、公共投資によって促進され、地元の公共事業機関による地域での実施を必要とし、大部分は民間組織によって提供され、維持されてきた。
初期の自動車を支えるために舗装道路が導入されたのは、100年と少し前のことである。州間高速道路網は、Dwight D. Eisenhower(ドワイト・D・アイゼンハワー)大統領が1956年のFederal Aid Highway Act(連邦補助高速道路法)に署名して以来「史上最大の公共事業」として知られている。毎日の移動、商業、文化の手段となっている。
この記事をコンピューターやタブレット、スマートフォンの画面で読むには、全国的な電力網やケーブル、携帯電話ネットワークの恩恵が欠かせない。私たちがより多くの生活をテクノロジーに依存し、信頼し、そして放棄するようになるにつれ、交通機関の研究者やスマートインフラのプロバイダーの多くが、安全性、効率性、持続可能性を向上させる創造的な新しい方法を取り入れている。
米国には国を横断する400万マイル(約644万キロメートル)余りの公道が存在する。スマート道路は、次世代の車両、人、都市のインフラを変革するための、わかりやすくアクセスしやすいソリューションである。古いテクノロジーを改良するために新しいテクノロジーを発明するという頻度は非常に高くなっている。道路をネットワーク化することは、テクノロジーを可能にするソリューションの1つである。
道路をデータと通信のプラットフォームに変えることで、オンライン小売業者がインターネットのトラフィックから得るのと同じレベルで、実店舗が車両向けのインサイトを捕捉するために使用できるような匿名性の高いデータが収集されるようになる。オンライン小売業者には、顧客の人口統計、ショッピングおよび購買習慣、市場動向、そしてトラフィックパターンについての情報がもたらされている。インターネットのインフラとサービスにより、トラフィックデータが自動的かつ受動的に収集されるのである。
これに対し、実店舗は基本的に顧客ベースについて何も把握していない。起業家は数百万ドル(数億円)を現地経済に投資するが、その前に何カ月もかけて場所を見つけて調整し、在庫を確保し、人員を配置する。こうした一連の作業を経て、1つの取引が成立する。道路から収集された匿名データは、事業主がオペレーションを改善し、従来の小売業者がオンライン小売業者との競争力を維持するのに役立つだろう。
このようなスマートインフラサービスを活用すれば、道路はその新しいケイパビリティからのキャッシュフローに依存することで、自己資金を得ることができる。携帯電話やインターネットのインフラ市場が概ね自立しているのと同様の構図である。これは、一部の公道において持続可能な財源と自己資金調達が実現可能になることを意味しており、都市は限られた予算を道路から他のコミュニティのニーズに振り向けることができる。
ブロードバンドアクセスのための650億ドル(約7兆4200億円)のインフラ計画は、農村地域や低所得世帯、部族コミュニティのためのインターネットサービスを改善することを目的としている。この計画には、電気自動車の充電ステーションに75億ドル(約8560億円)が割り当てられており、気候変動を抑え、石油への依存度を減らすために電気自動車の普及を加速させることを目指している。
スマート道路が、5GワイヤレスアクセスやワイヤレスEV充電など、当初からソフトウェアアップグレードが可能なように設計されたケイパビリティのメニューを提供するなら、わが国の道路網は進化するテクノロジーに歩調を合わせることができるだろう。道路はすでに農村地域に整備されているので、新たに基地局を建設する必要はない。ワイヤレスEV充電機能を道路に組み込むことで、ガソリンスタンドのように充電ステーションを設置する必要はなくなる。実際、EVの所有者やドライバーは、道路を離れて充電に接続しなくても済むようになる。
こうした道路を介して提供される商用サービスの利用料金、すなわちネットワーク事業者が支払う通信サービス、自動車所有者が支払うEV充電やナビゲーション、あるいはそれらを利用する事業者が支払うデータサービスなどの利用料金を評価することで、スマート道路はこれらの新たなケイパビリティから得られるキャッシュフローに基づいて、自らの費用を支払うことが可能になる。
スマート道路導入の主な課題は、公金ではリスクをとることはできないし、とるべきではないというマインドセットにパブリックオーナーが陥っていることである。歴史的に公的資金はリスク資本であり、そしてこれらのオポチュニティにおける最初の資金でもある。私たちはこのリスクフリーのマインドセットからパブリックオーナーを脱却させ、公共機関がインフラを通じて経済発展を可能にすることはできないし、そうすべきではないという考えに立ち向かう必要がある。
大規模な経済開発を可能にするインフラ整備のオポチュニティに公共投資を投入することにより、私たちは100年前に舗装道路を、60年前に州間道路を建設した。したがって、それはすでに検証されているアプローチであり、米国人が毎日使用している顕著な実証ポイントもいくつか存在している。これらは新しい方法ではない。私たちが何度も行ってきた古いやり方であり、社会の新たなニーズに応じてアップデートされる形でパッケージ化されているものだ。
もう1つの課題は、いかに長期にわたる公共事業を市場活動と比較するかである。公共機関が道路工事許可証を発行するのに18カ月かかるが、ソフトウェアとハードウェアの世代全体が通り過ぎるのを見ることはできても、1つのショベルも地面を打つことはない。公共事業の速度が遅いということは、私たちがはるかに先を見なければならないことを意味する。短期的な目標はプロジェクトが設計段階を終える前になくなってしまうため、焦点を合わせることができない。公共事業の範囲、規模、速度(またはその欠如)は、私たちが非常に長い計画対象期間を設定しなければならないことを意味する。
わが国の道路への投資は、繁栄する経済を成長させる鍵であり、国の将来にとって不可欠である。各都市は現在、都市化への対応、交通流量の合理化、汚染の削減、安全性の向上という重圧に直面している。
スマート道路のテクノロジーは、都市計画者や政府がこれらの課題に正面から対処することに貢献する。交通管理から歩行者や車両の安全性、環境モニタリングに至るまで、モノのインターネット(IoT)は道路をよりインテリジェントに、効率的に、そして適切に管理できるようにする。
インフラ投資・雇用法は、わが国のインフラの現状に取り組むための第一歩である。この投資がどのように使われるかが変化をもたらす。もしそれが単に近年のやり方であるというだけの理由で、老朽化したプロセスに一時しのぎの解決策を適用するために配布されるならば、そのお金は急速に使い果たされ、意味のある改善もないまますぐに忘れられてしまうだろう。
だが、この投資を革新的なインフラプロジェクトの頭金として使ったとしたらどうだろう。その場合私たちには、より強固な未来に向かって前進し、新しいテクノロジーを容易かつ迅速に統合できる、一貫性のある有意義なアップグレードの適切なケイデンスを構築するオポチュニティが用意されている。
編集部注:本稿の執筆者はTim Sylvester(ティム・シルベスター)氏は建設業界で20年の経験を持つ電気・コンピュータエンジニアで、Integrated Roadwaysの創設者兼CEO。
画像クレジット:RBV T / 500px / Getty Images
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(文:Tim Sylvester、翻訳:Dragonfly)