Salesforceは、自分たちはマーケットの刺激剤であると考えることを好む。現状を打破し、既存のプレイヤーに冷や汗をかかせる存在だ。しかし、ビジネスのクラウド化が主流の動きとなり、Salesforce自身も100億ドルの収益目標の達成に動き出した今、創業から17年となるSalesforceの時代がいよいよ到来したのではないかと感じざるを得ない。
今年、Salesforceによる買収案件の数は過去最大級だった。捕らえた獲物もあれば、逃した獲物もあった ― 時には、Wall Street Journalによって買収ウィッシュリストがリークしてしまうこともあった。加えて、Salesforceは人工知能を同社のプロダクトに取り入れることで、テクノロジーの最先端にとどまり続けている。
今年はSalesforceにとって躍進の年であったが、彼らは今でも地域社会への奉仕活動を続けている。2015年にインディアナ州の反LGBTQ法案をくつがえした同社は、2016年にはジョージア州とノースカロライナ州で同様の活動を行う。加えて、「責任ある資本主義」を熱心に主張するCEOのMarc Benioffは今年、
Salesforceは、自分たちはマーケットの刺激剤であると考えることを好む。現状を打破し、既存のプレイヤーに冷や汗をかかせる存在だ。しかし、ビジネスのクラウド化が主流の動きとなり、Salesforce自身も100億ドルの収益目標の達成に動き出した今、創業から17年となるSalesforceの時代がいよいよ到来したのではないかと感じてしまう。
今年、Salesforceによる買収案件の数は過去最大級だった。捕らえた獲物もあれば、逃した獲物もあった ― 時には、Wall Street Journalによって買収ウィッシュリストがリークしてしまうこともあった。加えて、Salesforceは人工知能を同社のプロダクトに取り入れることで、テクノロジーの最先端にとどまり続けている。
今年はSalesforceにとって躍進の年であったが、彼らは今でも地域社会への奉仕活動を続けている。2015年にインディアナ州の反LGBTQ法案をくつがえした同社は、2016年にはジョージア州とノースカロライナ州で同様の活動を行う。加えて、「責任ある資本主義」を熱心に主張するCEOのMarc Benioffは今年、Tony Prophetを同社初の「Chief Equality Officer」に任命した。
すべてが上手くいったという訳ではないが、概していえば、今年はSalesforceにとって悪くない一年だったと言えるだろう。Salesforceの2016年を振り返ってみよう。
数字を見せろ
事業の集中化を目指すSalesforceであるが、その目標を達成できていないのではと考える人もいるだろう。同社の2017年Q2の業績はあまり良いものとは言えなかった。しかし、今年11月に発表された2017年Q3の業績は同社の力強い成長を表し、売上高も伸び続けている。CEOのMarc Benioffは、2018年には同社の売上高が100億ドルに達するだろうと話すだけでなく、「エンタープライズ向けのソフトウェアを開発する企業のなかでは、誰よりも早く」その数字を200億ドルまで伸ばすことができるだろうと語っている(だが、その具体的なタイムラインは示されていない)。
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2014年度の収益をもとにソフトウェア開発企業をランク付けしたPwC Global 100 Software Report(PDF)によれば、Salesforceの収益は世界第9位の規模だった。彼らが掲げる高遠な目標からも分かるように、同社はその成長スピードを落とすつもりはない。つまり私が言いたいのは、SaaSベンダーであるSalesforceが収益を伸ばし続けているという事実自体が、SaaSベンダーでも成功することが可能だということの証明になっている、ということなのだ。
買収ラッシュ
今年のSalesforceは財布の紐をゆるめた。買収価格が公開されている案件を合計すると、同社は少なくとも50億ドルの資金を費やして合計10件の企業買収を完了している。その1年前の2015年にSalesforceが買収した企業は5社で、2014年はたった1社だった。2015年に買収した5社のうち、2社の買収が12月に行なわれているという点には注目で、これが2016年の買収ラッシュを予見していたと言えるだろう。
企業は他社を買収することで優秀なエンジニアを確保できるだけでなく、プロダクトの機能の拡充、収益のさらなる拡大を狙うことができる(買収による収益の拡大はあらゆる企業が目指す目標であることは明らかだが、それはSalesforceにとって特に重要な意味をもつ)。Salesforceのプレジデント、そして副会長兼COOでもあるKeith Blockは今年9月、同社が企業を買収するときに重視する項目について話している:
「買収する企業がもつ文化を見ます。その企業文化と当社の企業文化はマッチするか?当社のプロダクトを上手く補完できるか?優秀な人材を抱えているか?財政的なメリットはあるか?その企業を吸収することによって当社が抱えるリスクとはなにか?」とBlockは説明する。
今年4月、Salesforceは人工知能のMetaMindを3280万ドルで買収している。同社の買収案件としては比較的規模の小さなものだったが、彼らはこの買収によりMeta Mind CEOのRichard Socherを同社に引き入れることに成功した。彼はその後Salesforceのチーフサイエンティストに就任し、ディープラーニングと自然言語処理に関する豊富な知識を同社にもたらした。TechCrunchも後になって知ったのだが、Salesforceはその頃すでに人工知能プラットフォームの開発に着手しており、今年9月にそのプラットフォームの詳細を発表している(これについては後ほど詳しく紹介する)。
Salesforceにとって最大の買収案件となったのは、今年6月に28億ドルを費やして買収したDemandwareだ。SalesforceはDemandwareのテクノロジーを元に開発したCommerce Cloudを9月末に発表し、同社のプラットフォームに存在していた大きな穴を埋めることに成功した。
2016年にSalesforceが買収した企業のなかでも特に変わった存在といえば、同社が7月に7億5000万ドルを費やして手に入れた文章処理のQuipだろう。この買収は、バーティカル・マーケットに力を入れるというSalesforceの理念に反したものだとも考えられる。しかし、今年9月に行ったKeith Blockへのインタビューによれば、同社はQuipがもつポテンシャルを見出していた。「Quipは非常に魅力的な企業です。これを変わった買収だと考える人もいるかもしれませんが、これはユーザーのプロダクティビティを向上するというコンテキストのもとで実行されたものなのです」と彼は話している。
善良な市民
Salesforceは創業当初からコーポレートシチズンシップを追求してきた。同社はコミュニティへの奉仕を企業定款に書き記している ― コミュニティに資金やソフトウェアを寄付したり、従業員がコミュニティに対して金銭的、または時間的な奉仕をすることを奨励している。
Salesforce会長兼CEOのMarc Benioff(左)と、Chief Equality OfficerのTony Prophet(右)
今年9月に開催され、10万人以上が参加したDreamforceカンファレンスでBenioffは、環境問題や不平等、そして教育問題などについて世界はいま歴史的な転換点にあり、企業の有力者がもつ能力によって社会的問題を解決することは、彼らが果たすべき義務であると語った。
「自分の能力は仕事のためだけに使うのだと主張してみずからを孤立させることも、人種的差別をしない人生を送るのだと主張することもできます。私は自分の世界観をもとに、みずからの能力を利用してより良い世界を創っていきます」
Benioffの言葉は空約束ではない。彼は社会的問題を解決を目指すという約束を実行している。2016年、BenioffはSalesforceがもつ経済的な影響力を利用してジョージア州とノースカロライナ州の反LGBTQ法案を否決させようと試みた。そのような差別的な法案を通すことがあれば、Salesforceはそれらの州におけるビジネスから撤退すると脅したのだ。
さらに今年、彼はTony ProphetをSalesforceのChief Equality Officerに任命している。これは、これまで多様性の欠如をたびたび指摘されてきたテック業界にとって前例のないレベルの進歩だといえる。この人事を発表するプレスリリースでSalesforceは、Prophetを「基本的人権と社会正義の擁護者」だと評している。
アインシュタインがSalesforceに加わる
Salesforceは、常に最先端のテクノロジーをプラットフォームに取り込む企業であると自負している。同社による今年最大の発表は人工知能に関するものだった。今年9月にSalesforceが発表した同社初の人工知能イニシアティブは、「Einstein」と名付けられている。Einsteinは1つのプロダクトではなく、Salesforceのプラットフォームに人工知能を導入するためのアプローチのようなものである。
長らくの間、CRMツールは営業員が顧客情報を記録するためのツールだった。AIとCRMの融合によってSalesforceが目指しているのは、営業員に情報を与えることで彼らを積極的にサポートするようなツールだ。つまり、CRM(を含むSalesforceプラットフォーム)自体が営業員に指示や提案を与えることで彼らをアシストするのである。どの企業へ営業をかけるべきか、そして、その前にどのニュースに目を通しておくべきかなどを教えてくれるのだ。
その試みはまだ始まったばかりだが、前述したようにSalesforceはMetaMindの買収によって優秀な人材を獲得し、すでに人工知能を活用したツールの構築を始めている。今後、人工知能こそがSalesforceのツールによって提供される価値の大部分を占める可能性もあるだろう(もちろん、AIに力を入れているのは他社も同様だということは述べておく必要がある)。
失敗
2016年におけるSalesforceの挑戦がすべて成功に終わった訳ではない。ソーシャル企業を買収するという彼らの試みは失敗しているのだ。その1つが、6月にMicrosoftが260億ドルという巨額資金を費やして買収したLinkedInだ。このソーシャル企業がもつデータには非常に大きなポテンシャルがあり、Salesforceのような企業にとってLinkedInはとても魅力的な買収案件だった。それに気がついたMicrosoftは、LinkedInをグループに迎え入れるために巨額の資金を喜んで支払った。そのデータをMicrosoftに供給し、Salesforceがそのデータにアクセスすることを防ぐことが目的だ。
260億ドルという巨額な資金はSalesforceが支払える許容範囲をゆうに超えた金額だった可能性が高いが、Benioffによれば、同社にはLinkedInに買収金額を提示するチャンスすらもなかったという。この市場の流れに乗り遅れるのを防ぐため、Salesforceは9月に他の企業の買収を試みる。LinkedInと同じくデータを豊富にもつソーシャル企業、Twitterだ。Twitte買収の噂が即座に広がる一方で、Salesforceのシェアホルダーたちは困惑していた。彼らは、TwitterのデータにSalesforceが感じていた程の価値を見出だせなかったのだ。
株価は下落し、取締役はその買収に難色を示しはじめた。Benioffは引き下がるしかなかった。彼はのちに、この買収が広範囲に報じられるきかっけとなった情報のリークには困惑させられたと語り、そのようなリークは過去に経験したことがないと話している。
しかしその後、Twitter買収の噂以上に大きなリークが発生することになる。10月19日、Wall Street JournalはSalesforceの取締役であるColin PowellのEメールから1つのプレゼンテーション資料を発見する。そのプレゼンテーションにはSalesforceが買収を狙う大小さまざまなSaaS企業の名前が書かれていたが、そこにはTwitterの名前は無かったのだ。おそらく、BenioffはTwitterを買収できる可能性は低いと見ていて、良いチャンスがあれば買収しようというくらいに考えていたのだろう。それも結局は上手くいかなかったのだが。
どんな企業でも、まったく失敗をせずに1年を終えることなど不可能だ。企業であれ人間であれ、成功する時もあれば失敗する時もある。達成できる目標もあれば、達成できずに終わる目標もある。しかし、そのような失敗と成功を平均してみれば、Salesforceにとっての2016年は良い1年だったと言えるだろう。彼らにとっての挑戦とは、2017年もその好調さを維持することなのだ。
[原文]
(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter)