マイクロソフトと米軍がARヘッドセット「HoloLens 2」ベースのIVAS供給契約を1年延期、2022年9月へ

マイクロソフトと米軍がARヘッドセット「HoloLens 2」ベースのIVAS供給契約を1年延期、2022年9月へ

Courtney Bacon/US Army

今年の春、米陸軍とマイクロソフトはARヘッドセット「HoloLens 2」をベースとした統合視覚補強システム(Integrated Visual Augmentation System:IVAS)の供給で、向こう10年間(基本5年、オプション5年)の契約を結びました。この契約は2021年9月30日から開始され、マイクロソフトは順次ARゴーグルの供給を開始する予定でしたが、Reutersが報じたところでは予定日を過ぎてもデバイスの納入は始まっておらず、契約開始日が1年先送りの2022年9月からになったと伝えられています。

延期の理由は定かではありませんが、マイクロソフトはこの10月上旬、国防総省の監察官からシステム的な要件を満たすかどうかの監査を受けています。とはいえ、監査の結果が延期につながるものかはわかりません。米陸軍はIVAS契約に「完全にコミット」していると述べており、9月にもテストを実施していました。このテストは来年9月まで定期的に行うとのことです。

ちなみに、IVASは戦闘支援と訓練の両方で利用できるようになっており、戦闘の現場でもまるでSF映画やゲームなどにみるHUD表示のように、ゴーグル内に隊の位置やその他重要な情報を表示確認できます。暗視機能も備え夜間や地下といった暗い場所での作戦遂行にも利用が可能です。訓練の場においては演習に関する情報を提供し、インストラクターが特定の技術向上のためのメニューを提示するのに活用されます。

なお、米軍とのHoloLens契約に関しては、正式な契約に至る以前から、マイクロソフト社内に反発の声が聞かれました。従業員たちの一部は、自社の技術が軍を直接支援して、実際の戦争をゲームのように感じさせてしまうことに反対しています。しかし、サティア・ナデラCEOは契約を翻す考えはないと主張してきました。もし仮にマイクロソフトがこの契約を失ったりすれば、会社としての収益とHoloLens事業そのものに大きな打撃となることは間違いありません。

(Source:DoD(PDF)Engadget日本版より転載)

渋谷区公認「バーチャル渋谷」が10月16日からハロウィンフェス、バーチャルSNS「cluster」で渋谷の街を完全再現

渋谷区公認「バーチャル渋谷」が10月16日からハロウィンフェス、バーチャルSNS「cluster」で渋谷の街を完全再現渋谷駅周辺の街並みを3DCGで再現した、渋谷区公認のオンラインスペース「バーチャル渋谷」において、ハロウィンイベントが10月16日から10月31日まで開催されます。

「バーチャル渋谷」は、いわば「マインクラフト」や「あつまれ どうぶつの森」で渋谷の街を再現したように、皆が集まれるオンライン空間です。

構築にはKDDIが出資する3DCGのバーチャルイベントプラットフォーム「cluster」(クラスター)を活用。街へはスマートフォンの「cluster」アプリや、PC・VRゴーグルなどからアクセスでき、アバターに扮して友達と渋谷の街を歩き回ったり、バーチャルのスクランブル交差点の前で自撮り撮影も行えます。

「バーチャル渋谷」におけるハロウィンイベントの開催は、2020年に続き2回目。昨年は新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、家にいながら”ニューノーマルのハロウィン”として注目を集めていました。

今回は、新型コロナウイルスの感染拡大が一旦落ち着きつつあるなか、ハロウィンの時期には渋谷に人が殺到し、ゴミのポイ捨てや路上での排泄、店舗の破損等が問題になるとして、渋谷区側もバーチャル渋谷の利用を呼びかけています。

また、オリジナルのアバターでバーチャル渋谷に入れるようになったほか、カラオケのジョイサウンドと提携し、カラオケルームから直接バーチャル渋谷にダイブできる仕組みも用意します。

加えて、「バーチャル渋谷」および特設サイトでしか買えないタンブラーやランチバックなどの期間限定グッズも販売予定。「バーチャル渋谷」には商品ラインアップが展示されており、販売利益のすべてを渋谷区へ還元することで、バーチャル空間から渋谷の街づくりへ貢献できる仕組みも用意します。

(Source:バーチャル渋谷特設サイトEngadget日本版より転載)

「約2240億円の評価額で約560億円調達」から7年、ARグラスのMagic Leapは変わらず「約2240億円の評価額で約560億円調達」

Magic Leap(マジック・リープ)は苦しい道のりを歩んできた。彼らの名誉のために言っておくと、投資家はまだ同社に資金を喜んで供給したいようだ。

拡張現実を扱うスタートアップである同社は米国時間10月11日、既存の投資家から20億ドル(約2240億円)のバリュエーションで5億ドル(約560億円)を調達したと発表した。2014年10月に20億ドルのバリュエーションで5億4200万ドル(約607億円)を調達したときと同じ条件だ。その間に幾多の出来事があった。

不思議なことに、Magic Leapは今回の資金調達に参加した投資家を特定する情報を公表しないと決めた。Crunchbaseによると、同社は現時点で35億ドル(約39億円)の資金を調達している。これまでに参加した投資家のほとんどは、あまり良い結果を得ていないことになる。

直近のバリュエーションは、同社が2019年に達成した67億ドル(約7500億円)から随分かけ離れているが、2020年清算寸前だったことを考えれば、もっと悪かった可能性もあった。Magic Leapは2020年、スタッフの大部分を解雇し、切り下がったバリュエーションの下で数億ドル(数百億円)の資金調達を余儀なくされた。また、創業者のRony Abovitz(ロニー・アボヴィッツ)氏に代わって、Microsoft(マイクロソフト)の副社長を努めたPeggy Johnson(ペギー・ジョンソン)氏がCEOに就任した。

同社は、法人顧客に力のすべてを注ぎ、状況を好転させようと試みてきた。軍との契約を巡りMicrosoftと競合し(失敗した)、法人顧客をめぐってMicrosoftと競合した(成功した)。その一方で、非常に高価なヘッドセットを使う高価なゲームを提供することで消費者の目に留まろうとしてきた。

今回の新ラウンドのニュースと同時に、同社の次のARグラス製品の新しいレンダリング画像がCNBCで公開された。デバイスはかなり小さくなったようだが、Magic Leapはその新しい機能についてあまり多くを語らなかったようだ。同社はプレスリリースで、Magic Leap 2と呼ばれる新しいハードウェアを来年中に展開することを明らかにした。

画像クレジット:Bram Van Oost/EyeEm / Getty Images

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(文:Lucas Matney、翻訳:Nariko Mizoguchi

キヤノンがVRコンテンツ撮影向け「EOS VR」システム用デュアルレンズを発表、8K対応ミラーレスカメラ「EOS R5」対応

キヤノンがVRコンテンツ撮影向け「EOS VR」システム用デュアルレンズを発表、8K対応ミラーレスカメラ「EOS R5」に対応

Canon

キヤノンが、VRコンテンツ撮影のために設計された「EOS VR」システム用デュアルレンズ「RF5.2mm F2.8 L Dual Fisheye」を発表しました。キヤノンの直販サイトでは税込27万5000円の価格で12月下旬に発売予定です。

2つの魚眼レンズが並ぶこのレンズをミラーレスカメラ「EOS R5」に装着すれば、8K相当の180度映像を撮影可能です。レンズは人の目の幅に合わせて約60mm間隔で配置されており、VR映像にしたときに自然な視差が得られるとのこと。

RF5.2mm F2.8 L Dual Fisheyeには、2枚のレンズのフォーカスを同時に合わせるためのリングや、6角レンチで左右のフォーカスを調整するための機構など、デュアルレンズならではの独特な機能を備えています。また見た目よりもコンパクトになっており、キヤノンの35mm F1.8レンズと比べてもさほど大きくはなさそうです。

キヤノンがVRコンテンツ撮影向け「EOS VR」システム用デュアルレンズを発表、8K対応ミラーレスカメラ「EOS R5」に対応

Canon

キヤノンは専用ソフト「EOS VR Utility」およびAdobe Premiere Pro用の「EOS VR Plugin」ソフトウェアを有償で提供し、これらのアプリを用いて、撮影した通常形式の映像をVR用の方式に変換することができます。

キヤノンによれば、たとえば結婚式、スポーツやトレーニング、その他イベントなどで立体視できるVR映像を撮影、活用できると説明されます。また報道の現場で使っても、臨場感あふれる映像を記録することができるはずです。

2つのレンズがひとつになっていることで、ハイエンドな製作現場で使われるデュアルカメラに比べて、プロダクション工程での作業がシンプルになるメリットは大きそう。またデータの保管に関してもデュアルカメラ方式だと最終的に2つのファイルになることが多いとされますが、EOS VRシステムなら1つのファイルで編集や保存ができるため、データの管理、保管の面でも利便性は高いかもしれません。

(Source:CanonEngadget日本版より転載)

動画に話しかけることでユーザーがストーリー展開を変えるAdventrのボイスコントロール技術

誰にも経験がある。ホラー映画を見ていて、主人公がその不気味な家に入ってはいけないことを、あなたは知っている。画面に向かってどれだけ叫んでも、あなたは彼の運命を変えられない。でも、もしも画面の男に、その家に近づくなと言って、彼がそれを聞き入れたらどうなるだろう?

エンターテインメント系の起業家であるDev Harris(デブ・ハリス)氏の最新のベンチャーなら、それが可能かもしれない。彼はグラミー賞を獲得し、Kanye West(カニエ・ウェスト)やJohn Legend(ジョン・レジェンド)のようなアーティストと長年のビジネス仲間だ。

2020年8月にベータでローンチしたAdventrは、ユーザーフレンドリーなインターフェースで、誰もが画面上の要素をドラッグ&ドロップしながらインタラクティブな動画を作ることができる。すでに何千ものユーザーがインタラクティブなエクスペリエンスを作っており、その中には、宇宙をテーマとする子ども向けの教育モジュールや、Marc JacobsやLVMHのようなラグジュアリーファッションのプロモーションビデオもある。

20のスタートアップが競うTechCrunch Disrupt, Startup Battlefieldでは、創業者でCEOのハリス氏は、Adventrのきわめつけの機能を披露した。それは、ユーザーがビデオの進む方向を命令できる音声コントロールの特許機能だ。

具体的には、音声認識を利用して、ビデオの途中でコースを変更する技術に関する特許だ。また、他のデータベースやアプリケーションと連携して、リアルタイムに答えを調べたり、質問に答えたりすることができる。

「これは『音量を上げろ』といった簡単な命令ではなく、『その部屋に入るな』といったものです。テレビと話せるなら、携帯電話と話せるなら、なぜビデオと話せないのでしょうか?私たちの技術により、これらのビデオは視聴者のマイクを使って、その視聴者が望んでいることを理解し、リアルタイムに対応することができます。インターネットの大部分はビデオであるため、私たちはビデオが他のスマートデバイスのように機能することを可能にしています」とハリス氏はいう。

画像クレジット:Adventr

彼のチームは現在わずか5名だが、クリエイティブを重視するだけでなく、eコマースのエキサイティングなアプリケーションもありえると考えている。彼は、2002年の映画「Minority Report(マイノリティ・リポート)」を指して、主役の Tom Cruise(トム・クルーズ)がGAPの店頭でホログラムに遭遇し、パーソナライズされたショッピング体験について質問されるシーンを、例として挙げる。

Adventrのデモビデオでは音声コントロール技術が登場し、買い物客がTargetでパジャマを買う。そのとき視聴者は「グリーンのものを着てみて」とか「Lサイズを見つけなさい」などと声で命令し、買うべき品物を決める。そしてどのパジャマを買うか決めたらTargetのウェブサイトへ移り実際に購入するが、ハリス氏は、いずれその経験過程のすべてがAdventrネイティブで行われると期待している。

現在、Adventrのツールはサブスクリプションで利用できるが、月額29ドル(約3200円)のプロプランや99ドル(約1万900円)のビジネスプランに決める前に、フリープランで試してもいい。Adventrの用途はeコマースや教育やエンターテインメントに限定されているわけではないため、今後企業やアーティストからまざまなアプリケーションが生まれるだろう。

「Adventrは、TwilioとVimeoを組み合わせたような、ビデオベースのAPIだと考えてください。基本的に、ユーザーはフレーズやキーワードを入力することで、特定のビデオクリップを再生することができます」とハリス氏はいう。

Adventrは、100万ドル(約1億1000万円)のシードラウンドでスタートしましたが、さらなる資金調達についてはまだ発表していない。しかし、このスタートアップは、すでに自社製品を加入者に販売しており、早い段階で収入源を確保している。ハリス氏は具体的な財務状況を明らかにしなかったが、顧客獲得に費用をかけずに、Adventrの収益は2021年初頭から現在まで80倍に増加しているという。

画像クレジット:Adventr

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Hiroshi Iwatani)

Robloxに仮想世界が今本当に必要する「ボイスチャット」機能が登場予定

メタバース構築の先駆者であるRoblox(ロブロックス)は、仮想世界が今本当に必要としているものを見据えている。2021年7月時点で4700万人のデイリーアクティブユーザーを抱えるRoblox。これまでの道のりでも十分な成長を遂げてきた同社だが、より深く、より豊かな仮想体験を提供することで、今後も何年にもわたってユーザーを惹きつけていこうと目論んでいるようだ。

同プラットフォームの中核となるエクスペリエンスにボイスチャットを取り入れるべく、同社は慎重かつ確実なステップを踏もうとしている。それを実現するための最初のステップが信頼できる開発者の招集だ。Vansがスポンサーするスケートパークでキックフリップをメイクするようなクールでヴェイパーウェイブ的な雰囲気のゲームなど、同プラットフォームの中核をなす大人気の体験に近接ベースのオーディオをどのように統合できるかを模索しようとしているのだ。

空間オーディオ機能により、ユーザーは近くにいる人とライブボイスチャットで話すことができるようになる。Robloxはこの新しい音声製品を、現在のテキストチャットの自然な延長線上にあるものとして考えている。周囲の誰にでも見えるアバターの頭上のふきだしの代わりに、プレイヤーは出会った人々に自然に話しかけることができるようになる。

例えばRobloxの仮想スケートパークで空間オーディオをオンにして遊んでいるとする。ハーフパイプで一緒に滑っているスケーターの声は、現実の世界と同じようにはっきりと聞こえるが、通りの向こう側の歩道を歩いている人の声は遠すぎて聞こえない。近くの友人と2人きりで話をしたいときは、その場を離れて近所のお店に向かって歩いて行けば良い。

RobloxのチーフプロダクトオフィサーであるManuel Bronstein(マニュエル・ブロンスタイン)氏は、TechCrunchのインタビューに応じてくれた際に次のように話している。「メタバースにおける将来のコミュニケーションのあり方は、とても自然で我々の普段のコミュニケーションと似たような感覚でなければならないと思っています。さらに、物理的なものや空間が生み出す現実の世界の制限を超えることも可能なのです」。

Robloxのメタバースに対する特有のビジョンを実現するためにGoogle(グーグル)を退職し、3月にRobloxに入社したブロンスタイン氏。Robloxに入社する前はZynga(ジンガ)、Xbox(エックスボックス)、YouTube(ユーチューブ)という3社のまったく異なる企業でプロダクトチームに所属していたが、実際は同氏の現在の仕事とも大きな関連性がある。

「買い物やコンサート、学校に行くことができるようになる次なる形態としてメタバースを考えると、社会のすべての人に関連している必要があり、そうした行動のすべてをサポートするコンテンツやルール、機能を構築する必要があると思います。そしてプラットフォームに音声をもたらす理由の1つには、若くないユーザーが自然にコミュニケーションをとれる方法を確保する必要があるということが挙げられます」とブロンスタイン氏は話している。

Robloxがボイスチャットに注力しているからと言って、一夜にしてそれが叶うわけではない。しかしこの長い開発期間は意図的なものである。同社は13歳以上の開発者5000人を対象に、カスタムメイドのRobloxコミュニティスペースで新しい空間ボイスチャット機能を試してもらう予定なのだ。

「おもしろい機能を多数搭載し、彼らがチャットやハングアウトできる場所を用意しました。彼らは私たちがコミュニティスペースのために書いたコードから学ぶことができ、数週間後あるいは1カ月後にはそれを自分のエクスペリエンスに当てはめて、活用することができるのです」とブロンスタイン氏はいう。

ブロンスタイン氏はRobloxがこのプロセスをゆっくりと進め、新しいモデレーションツールと安全ツールを並行して構築していくことを強調する。選ばれた開発者のグループから始め、モデレーションツールで十分に安全な環境を作れると確信したらそこから徐々に広げていくという形で、ボイス展開がゆっくりと進められる予定だ。

「ゆっくりと進め、やりながら学んでいきたいと思っています。先ほども言った通り、まずは開発者から始めることになるでしょう。その後に13歳以上のユーザーを対象にして、すべてがうまく進んでいるかどうかを正確に理解するまでしばらくそこに留まってから、その後若いユーザーに公開するかどうかを決めることになるでしょう」とブロンスタイン氏は話す。

広大な仮想世界を適切に管理するために、Robloxでは自動スキャンと3000人の人間のレビュアーからなる安全性チームを完備。他のソーシャルネットワークと同様に、プレイヤーは他のプレイヤーを報告したり、ブロックしたり、ミュートしたりして自分の体験をより快適なものにすることが可能だ。また、Robloxのプレイヤーの半数は13歳未満であるため、テキストチャットなど年齢に応じた体験を親がコントロールできるような許可機能を用意している。ボイスチャットが低年齢層にも普及するようになれば、親はボイスチャットを完全に無効化することもできる。

Robloxのユーザーは13歳以下が圧倒的に多いものの、ティーネイジャーやそれ以上の若者も意外なほど多く利用しているようだ。同社によるとユーザーの50%は13歳以上であり、特に17歳から24歳のユーザーが爆発的に増加しているという。新しいユーザーも獲得している同社だが、コアユーザーの成長に伴い、同社もともに成長する必要があると考えている。

若いユーザーにボイスチャットが導入されるかどうかは別として、Robloxはボイスチャット機能のある仮想環境を安全かつ友好的に保つことが大変な課題であることをよく理解しているようだ。同社は音声の導入時にはユーザーからの報告システムに頼る予定であり、これを強化できるその他のツールも検討中だ。例えばユーザーが通報される直前の会話を自動的に録音して、レビュアーに悪質な行為を伝えるツールなどもその1つである。また、一定数の違反があったユーザーを自動的に制限するレピュテーションシステムの拡大にも関心があるようだ。

他のソーシャルプラットフォームと同様に、Robloxはユーザーからの報告に大きく依存することになるだろう。ヘイトやハラスメントを受ける側のユーザーに不均衡な負担を強いることになるが、これはソーシャル企業がどこも適切な人的資源を投じて解決策を導いていないということによる不幸な結果である。

関連記事:RobloxがDiscordと競合するゲーマー向けチャットプラットフォームのGuildedを買収

ボイスチャットの今後の行方

Robloxにとって空間オーディオは、自然なコミュニケーションのビジョンにおける「一要素」に過ぎないとブロンスタイン氏は話している。次のステップは、体験を超えた永続的なボイスチャット体験を統合することであり、お互いを知っているユーザー同士が同じことをしていなくても交流できるようにすることである。RobloxがGuildedという会社を2021年8月に密かに買収したニュースに気づいた読者なら、これは驚くことではないだろう。Robloxの音声に関する取り組みは買収以前からのものではあるが、GuildedはRobloxの将来の音声計画の基礎を築くことになるだろう。

Discord(ディスコード)と競合関係にあるGuilded(ギルデッド)。Discordはゲーム以外の分野に視野を広げているが、Guildedは同様にゲーマー向けのチャットプラットフォームを構築して、対戦型ゲームの分野に力を入れている。Guildedはグループボイスチャットに加えて組み込み式のスケジューリングツールやコミュニティ管理ツールをゲーマーに提供しており、World of Warcraftで20人以上のゲーマーを集めて攻撃を行うというような、複雑なオンラインソーシャルイベントを開催する手間を軽減している。

「Guildedはすばらしいロードマップを持っているので、現時点では大規模な統合をせずに、そのロードマップを継続して成長させていきたいと考えています」とブロンスタイン氏は話している。

メタバースの世界へ

モデレーションの問題はさておき、基本的に今Robloxの道を阻むものは何もない。3月に株式を公開した同社は、現在では490億ドル(約5兆4000億円)の価値があると言われており、ゲーム業界で最も価値のある企業の1つとなっている。投資家、コンテンツ制作会社巨大テック企業がこぞってメタバースに参入しているが、これはかなり安全な賭けと言えるだろう。

関連記事:ザッカーバーグ氏は110兆円規模のフェイスブックを「メタバース」企業にすると投資家に語る

メタバースは今、流行語にもなっているが、これは誇大広告というよりは略語のような存在だ。人々がメタバースについて語るとき、一般的には相互に接続された仮想世界の未来像を思い描いているだろう。つまり、移動したり、交流したり、買い物をしたりできるオンライン空間である(良くも悪くも、最後の部分が鍵と言える)。これがすべてバーチャルリアリティになるのか、そうでないのか、またそれがいつになるのかは議論の余地があるが、実際には「相互接続」という部分が大きな課題となる。アプリの時代、ソフトウェアは設計上サイロ化されていた。しかしメタバースを実現するためには、仮想の自分と仮想のモノが、オンラインの世界を流動的に行き来できるようになる必要がある。

この点については数社の企業が先行しているが、カスタムアバター、ゲーム内経済、シームレスなソーシャルレイヤーを備えた、仮想世界で有名なRoblox とEpic(Fortniteの製作会社)の2社がユーザー作成コンテンツのレベルを引き上げているのは単なる偶然ではない。このような体験や、仮想空間で何かをしているときに友人と簡単に一緒にいられるという能力が、結局はメタバースのすべてなのかもしれない。

ほとんどの大人は、子どもたちが夢中になって遊んでいる奇妙な世界の魅力を理解することができずにいるが、Robloxはオンラインライフがどこに向かっているかという基本的なこと、またはむしろRobloxの世界のような、私たちみんなが行き着く先を理解しているのではないだろうか。

画像クレジット:Roblox

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Dragonfly)

テレワーク・イベントなど対応のバーチャル空間を提供するoViceが18億円調達、海外進出やハイブリッドワーク対応加速

テレワーク・イベントなど対応のバーチャル空間を提供するoViceが18億円調達、海外進出やハイブリッドワーク対応強化

ちょっとした会話・雑談も行え、自由に動いて自由に話しかけられるバーチャル空間「oVice」(オヴィス)を手がけるoViceは9月15日、シリーズAラウンドにおいて、第三者割当増資による18億円の資金調達を発表した。引受先は、リード投資家のEight Roads Ventures Japan、既存株主のOne Capital、MIRAISE、DGベンチャーズおよびDGインキュベーション、新規投資家のJAFCO。ファーストクローズとなる今回は14億円を調達し、セカンドクロージングも合わせると総額18億円になる予定。調達した資金により、海外への展開を加速させるとともに、アフターコロナのハイブリッドワークでも快適にoViceを使用できるよう開発を進める。

調達の目的と今後の展開

  • 海外市場への積極的な展開:海外でのテレワークやオンラインイベントの需要の高まりから、日本以外での販売も徐々に増加していることを受け、今後はさらに積極的に海外市場に展開。特に韓国など新たな市場に参入、定着を図る
  • ハイブリッドワーク対応に向けた技術開発:アフターコロナで増加するであろうハイブリッドワークに対応するべく、技術開発や他社との提携を引き続き行う。例えば他社の開発している360度カメラとoViceを連携させ、リモートワーク・テレワークでオンラインで勤務する人と実オフィスに出社している人がシームレスにコミュニケーションができるような環境構築などを行う
  • 他ツールとの連携強化:ビデオ会議システムやチャットツールなど、様々なテレワーク関連ツールと連携することで、ユーザーがより快適にoViceを利用できる環境を構築する

2020年2月設立のoViceは、「人々の生活から物理的制約をなくす」ことをミッションに掲げ、バーチャル空間「oVice」を開発・提供。oViceは、ウェブサイト上で自分のアバターを自由に動かし、相手のアバターに近づけることで話しかけられる2次元のバーチャル空間となっており、自分のアバターに近い声は大きく、遠い声は小さく聞こえ、現実の空間で話しているような感覚を体験できる。また偶然聞こえてきた雑談・会話にも参加でき、会話する中で生まれた新たなアイデアを形にしやすい環境を整えている。テレワーク・イベントなど対応のバーチャル空間を提供するoViceが18億円調達、海外進出やハイブリッドワーク対応強化

2020年8月のサービス開始から9000件以上利用されており、テレワークにおけるバーチャルオフィスとして、また展示からネットワーキングまで自由にできるオンライン展示会、自由に席替えができるオンライン飲み会など、さまざまな場面での活用が進んでいるそうだ。

 

Diver-Xが寝ながら使う据え置き型VRデバイスHalfDiveの開発発表、3000万円の資金調達も

人が基底状態にいながらにして(つまり布団の中で寝ながら)最大限の行動、体験ができるような世界を目指すというDiver-X(ダイバーエックス)は9月13日、寝ながらの使用に最適化したVRデバイス「HalfDive」(ハーフダイブ)を発表した。2021年11月6日から、クラウドファンディングKickstarterでの支援者募集を行う予定。価格はベーシックモデル(8万円程度)、フルセット(12万円程度)、可変焦点機能対応モデル(40万円程度)を想定している。ハンドコントローラーは9月末にYouTubeで情報公開予定。また同時に、DEEPCOREを引受先とし、シードラウンドにおいて第三者割当増資による3000万円の資金調達実施も発表した。

現在普及しているVRヘッドマウントディスプレイ(VR HMD)は、そのほとんどが装着して動き回ることが想定されているため、小型化・軽量化に重点が置かれている。それに対してHalfDiveは、寝ながら使うことに最適化した据え置き型なので、小型軽量のための性能上の制約を受けない。

主な特徴は次のとおり。

最大134度の視野角と映像美を実現する可変焦点機能(最上位モデル)に対応する独自光学系

フレネルレンズを使用した通常のVR HMDとは異なり、10枚の非球面レンズを組み合わせることで、フレアや映像の歪みをなくし、最大134度の視野角と鮮明な映像を両立。最上位モデルには可変焦点機能も搭載される。

球状の筐体を活かした没入型サウンドシステム

頭全体を覆う球状の筐体に合計4つのスピーカーを配置し、没入感のあるサウンドを提供。

多数の感覚フィードバック

2基のファンによる風フィードバックにより、顔に風を感じさせることで没入感の高いVR体験を提供する。送風で装着者の快適性を保つこともできる。

またワイヤーを用いた力覚フィードバックにより、VR空間内で物に触れる感覚、剣で切った感覚、摩擦感などを表現する。

エキサイターを用いた振動フィードバックでは、モンスターの足音、銃声、環境音などの振動を伝える。

足コントローラーおよびエミュレーションシステムでは、左右の足首の傾きでアバターの動作をエミュレート。寝ていても立っているときと同じ動作表現が行える。

モジュラーおよびオープンソース設計

据え置き型なので、感覚フィードバックモジュール、無線通信モジュールなどの拡張モジュールによる増設が可能。筐体側面には拡張モジュールを接続するためのRJ45端子とねじ穴が存在する。

モジュールの設計や通信プログラムはオープンソース化する予定なので、サードパーティーやユーザーが独自のモジュールを開発できる。これにより「より質の高いVR体験の実現に向けたエコシステムの構築」を目指す。

「布団に入ったまま学校に行きたい、仕事を終わらせたい。誰しも一度は考えた事があると思います」とDiver-Xは話す。さらに「完全据え置き型という時代に逆行した、寝ながらに最適化しているからこその長所を最大限に生かし、これまで小型化軽量化のトレードオフの中で切り捨てられきた多くの機能やインターフェイスを実装し、新たな体験を生み出す」という。

だが、単に楽をするための機器ではなく、想定されるユースケースには医療や介護のための利用法も含まれている。寝たきりの人が社会活動できる機会が広がる可能性がある。

Diver-Xは、慶応義塾大学在学中の迫田大翔氏とコロンビア大学在学中の浅野啓氏が2021年3月に共同創業したスタートアップ。「布団の中に居ながらにして学校にいるのと同等の体験、職場にいるのと同等の生産ができるようになれば、人類のQOLは大きく向上するはず」と彼らは言う。「そこで得られる価値、体験が同じであるならば、人はよりモチベーションが低くとも実行できる手段をとるはずであり、必要なモチベーションが低ければ低いほどより多くの物事に対して働きかけられるようになると仮定するならば、寝ながらという人間にとっての基底状態は、もっとも行動に適した状態である」とのことだ。

仕様

    • 自由度:4.5dof
    • 光学系:合計10枚の非球面レンズを用いた独自の光学系(可変焦点機能に対応)
    • 最大視野角:水平約134度
    • 解像度:片目1600×1440px 両目3200×1440px
    • リフレッシュレート:90Hz以上
    • ダイアル式物理IPD調節:58~82mm
    • オーディオ:4つのスピーカーを用いた没入型サウンドシステム
    • マイク:単一指向性コンデンサマイク
    • コントローラー:両手・足コントローラー
    • トラッキング:LightHouse対応・足コントローラーよるアバター動作エミュレーションシステム
    • カメラ:キーボードオーバーレイシステム
    • インターフェース:DisplayPort 1.2、USB 2.0/3.0、3.5mmオーディオジャック、12V電源、RJ45(I2C:モジュール接続)
    • プラットフォーム:SteamVR完全対応(OpenVR・OpenXR)
    • SDK:Unity(VRchat専用機能あり)、Unreal Engine

広島市立大学発スタートアップ「Movere」がVR用歩行装置「Crus-TypeC-DK1」開発者向け評価版を販売開始

広島市立大学発スタートアップ「Movere」がVR用歩行装置「Crus-TypeC-DK1」開発者向け評価版を販売開始VR用揺動装置・歩行装置を製造販売する広島市立大学発スタートアップMovere(モヴェーレ)は9月2日、「これまでにない新しいタイプ」のVR用歩行装置「Crus-TypeC-DK1」開発者向け評価版の販売を開始した(歩行感覚呈示装置および呈示方法、日本国特許第6795190号、国際特許出願中)。価格は9万9800円(税込・送料込)。Movereの販売サイト注文できる

同装置は、固定した荷重センサーに大腿部を押し当てるだけというシンプルな構造で、特別な靴やハーネスを装着する必要がない。センサーが大腿部から歩行動作を感知すると、それに合わせて歩行アニメーションが表示され、ユーザーは足にかかる抵抗とともに、実際に歩いているかのように錯覚するという。

机と大腿部の間にクッションを挟み、目と閉じて足をクッションに押し当てながら足踏みをすると、歩いているのに近い感覚が得られるとMovereは話している。簡単に実験できるので、試してみるといい。そこから発想を得て、この装置が開発された。荷重センサーは、体の傾け具合や足の動きから歩行動作や歩行速度を推定する。これに映像を連動させることで、歩行感覚の錯覚を与える。大がかりな装置ではないため、消費電力は0.2W程度と低く、従来式の床が動いたり足を滑らせる装置のような違和感がないとのこと。

キーエミュレーションが可能な専用ソフトウェア、ソフトウェア開発キットを用意

専用の常駐ソフトウェア(Windows 10版)を使うことで、体の傾け具合、左右の足の上がり具合、進行方向などをリアルタイムで推定し、キーボードやマウスの操作に対応させること(キーエミュレーション)ができる。キーの割り当てはカスタマイズできるので、既存VRソフトウェアの操作をこの装置で行うことが可能になる。前進・横移動が可能なWASDモードや、前進・旋回が可能なモードなどに切り替えられるそうだ。

またソフトウェア開発キットも準備中で、Unreal Engine 4やUnity用のプラグイン、シンプルプログラムをまとめたキットが順次ダウンロード可能になるという。これにより、VRゲームなどのアバターの動作に対応させることができる。

机などに固定できるほか、別売の専用スタンドを2種類用意

本体は重量が4.2kg。机などに固定できるほか、別売の専用スタンドも用意されている。土台の直径が60cm、高さが2cmごとに5段階で調整できる(地面から大腿部までの高さが488〜588mm)のSサイズと、土台直径が75cm、高さが10段階調整できる(地面から大腿部までの高さが588〜788mm)のLサイズの2種類。スタンドカバーは、透明、若草(半透明)、スカイブルー、レッドが選べる。

Crus-TypeCは本体を机に取り付け可能。取り付け可能な最大板厚42mm

別売の専用スタンド2種類も用意されている

販売価格(税込・送料込)

  • Crus-TypeC-DK1(開発者向け評価版)本体セット:9万9800円
  • Crus-TypeC-DK1専用スタンドSサイズ:3万9800円。地面から大腿部までの高さ488~588mm程度。土台直径600mm・重量9.5kg
  • Crus-TypeC-DK1専用スタンドLサイズ:4万9800円。大腿部高さ588~788mm程度。土台直径750mm・重量13.5kg

この装置は、東京ゲームショウ2021に出展予定。

次世代型テーマパーク「リトルプラネット」が「レーザーミニ四駆」向けにXR技術採用したデジタルコース開発に着手

次世代型テーマパーク「リトルプラネット」が「レーザーミニ四駆」向けにXR技術採用したデジタルコース開発に着手

子どもの探究心を刺激するファミリー向け次世代型テーマパーク「リトルプラネット」を展開するプレースホルダは8月30日、マンガ誌「コロコロコミック」とタミヤが展開する次世代のミニ四駆シリーズ「レーザーミニ四駆」の体験拡張コンテンツとして、XR技術を用いた最先端のデジタルコース「MINI4WD LASER CIRCUIT」を開発すると発表した。

タミヤはミニ四駆の新シリーズ「レーザーミニ四駆」を8月に発売開始し、同時に小学館の「月刊コロコロコミック」では9月号からこのレーザーミニ四駆を題材にした新連載「MINI4KING」(ミニヨンキング)が始まった。これを受けてプレースホルダは、XR技術を使って、アニメやマンガのような演出効果を見られるデジタルコース「MINI4WD LASER CIRCUIT」を開発する。

そのプロトタイプがYouTubeの「コロコロコミック』」公式チャンネル「レーザーミニ四駆第一弾!ロードスピリット発売記念生配信」で公開されているが(1:32:50あたりから登場)、このプロトタイプでは、プロジェクションマッピングとセンサー技術を駆使し、ミニ四駆が走ると光の軌跡が現れたり、コース中央に走行タイムが表示されたりする。「MINI4WD LASER CIRCUIT」は、さらにデジタル演出を加えて完成を目指すとのことだ。

2016年9月設立のプレースホルダは、2018年より「遊びが学びに変わる」をコンセプトとする次世代型テーマパークとして、リトルプラネットの運営を開始。建築士、ゲームプログラマー、元幼稚園教諭、大手テーマパーク従事者など多様なスキルを持つ人材を擁し、デジタルアトラクションの企画開発から施設設計、パーク運営までを内製している(一部パークのみライセンスパートナーとの共同運営)。

また2020年より、これまでに培った知見やノウハウを活かし店舗や商業施設、保育施設、イベント会場などで新たなキッズ・ファミリー体験を生み出すエクスペリエンスデザイン事業を本格的に開始。あらゆる空間において、デジタルとリアルが融合したこれまでにない体験を提供しているという。

リトルプラネットは、デジタル技術を駆使して子どもたちの探究心や創造力を刺激するという、新タイプのファミリー向けテーマパーク。砂遊びや紙相撲、影絵遊びといった昔ながらの遊びにテクノロジーを融合させたアトラクションを通じて、子どもたちに「未来のアソビ」を提供する。現在、首都圏のほか大阪・名古屋など全国9カ所(ショップ融合型パークを含む)に常設パークを展開している。

TikTok親会社のByteDanceがVRハードウェアスタートアップPicoを買収

TikTok(ティクトック)親会社のByteDance(バイトダンス)が、可能な分野でFacebook(フェイスブック)を出し抜くことを模索しているようだ。TikTokは世界で最もダウンロードされたソーシャルメディアプリという地位を獲得したが、ByteDanceは今、Pico(ピコ)というVR(仮想現実)ヘッドセットメーカーを買収し、Facebookの挑戦を追随している。

最初にBloomberg(ブルームバーグ)が報じたこの買収についてByteDanceは米国時間8月30日に認めたが、買収価格については明らかにしなかった。Picoは3月の3700万ドル(約41億円)のシリーズBなど、ベンチャーファンディングで中国企業から6200万ドル(約68億円)を調達した。OculusのようにPicoはVRデバイスのためのハードウェアとソフトウェアの両方を手がけている。そしてOculusと違ってPicoの存在感は中国では大きい。PicoはOculusやHTCほどの認知度はないかもしれないが、トップのVRハードウェアメーカーであり、中国の消費者と西欧の法人顧客に販売している。

ByteDance傘下となることで、世界最大のVRブランドの2つが今、ソーシャルメディア企業内に存在している。皮肉にも、ここ数年筆者が話を聞いてきたPicoの北米顧客の多くは、Facebookのデータと広告頼みのビジネスモデルに辟易し、Oculusもやがてその一部になるのではとの懸念から、少なくとも部分的にOculusハードウェアの代わりにPicoのヘッドセットを選んできた。

VRマーケットがしょっぱなから低調であることは誰もが知っているところだが、Facebookはテクノロジーの道を切り開き、従来の投資家の多くが関心を示さなかったエコシステムに近年大金を注いできた。

買収取引条件は明らかではなく(筆者は詮索している)、これがVRにとっての復活のときなのか、あるいは契約市場の兆しなのかは判断しかねる。最も可能性がありそうなのは、ByteDanceが消費者VRブランドの構築に真に関心を持っており、Facebookの失敗から学び、エコシステムへのFacebookの貢献を利用しながら同社の歩みをたどることだ。ByteDanceが中国の消費者マーケットに完全にフォーカスするのか、あるいは同時に米国の法人顧客もゆるく追求するのかは、同社が今後対応しなければならない大きな問題だ。

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画像クレジット:Pico

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(文:Lucas Matney、翻訳:Nariko Mizoguchi

韓国の3D空間データツールスタートアップで日本の三菱地所、ニトリなどとも取引のあるUrbanbaseが約12億円調達

米国時間8月29日、ソウルに拠点を置きインテリアプランニングやインテリアデザインのための3D空間データプラットフォームを開発するUrbanbaseが、成長にともなうシリーズB+ラウンドで130億ウォン(約12億円)を調達したと発表した。

このラウンドは、韓国コングロマリットのHanwha Corporationの子会社であるHanwha Hotel & Resortが主導した。

Urbanbaseは、もともと建築家で同社のCEOであるJinu Ha(ハ・ジヌ)氏が2013年に創業した。これまでに合計で230億ウォン(約21億6000万円)を調達している。

既存の投資家は今回のラウンドには参加しなかった。Urbanbaseは2017年のシリーズAで180万ドル(約2億円)、同年中に追加で120万ドル(約1億3000万円)、2020年4月にはシリーズBラウンドを実施した。ハ氏によれば、既存の投資家には韓国を拠点とするShinsegae Information & Communication、Woomi Construction、SL Investment、KDB Capital、Shinhan Capital、Enlight Ventures、CKD Venture Capital、Breeze Investmentなどがある。

同社は今回の資金でB2BのSaaSを拡大する。また、ハ氏が新規ビジネスとして今後参入する計画であると語るメタバースのコアテクノロジーになると思われる高度なVR、AR、3Dツールの研究開発も進める。Strategy Analyticsの調査によると、世界のメタバースの市場規模は2021年の307億ドル(約3兆3678億円)から2025年までに2800億ドル(約30兆7200億円)に成長すると予測されている。

VRやAR、そのためのハードウェアやソフトウェア、新しいテクノロジーといった領域で有望なビジネスモデルを構築するための次世代のアプローチの1つとして、いわゆる「メタバース」における成功を目指す企業が増えている。FacebookからIntel、Microsoftまでさまざまな大手テック企業がこの分野への参入を狙っている。AppleもハイエンドのVRヘッドセットを開発中と報じられている

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Urbanbaseも家庭用インテリアのソフトウェアプラットフォームであるUrbanbase Studioをアップグレードしようとしている。Urbanbase Studioには2Dの室内空間イメージを3D表示に変換する機能があり、これには同社が特許を取得しているアルゴリズム、ARでのインテリア製品の視覚化、AIテクノロジーをベースにした空間イメージ分析が使われている。

Urbanbaseは、登録しているB2Cユーザーは7万人、月間アクティブユーザーは5万人であるとしている。B2Bのクライアントはおよそ50社ある。

ハ氏は「当社のB2Bクライアントの大半は韓国と日本の大手企業です。例えばLG Electronicsの他、日本の三菱地所、ニトリホールディングス、電通、ソフトバンクなどが挙げられます。しかしシリーズB+の資金調達完了後は、中小規模のB2Bクライアントにも拡大しB2Cユーザーも増やしたいと考えています」と述べた。

ハ氏はTechCrunchに対し、Urbanbaseは不動産テックや建設テクノロジーの分野で買収対象を探していると語った。韓国と日本では70〜80%の世帯が集合住宅に住んでいることから、同社は現在集合住宅向けインテリアのツールの開発に力を入れているという。ハ氏は、今後は別のタイプの住宅を得意とするスタートアップを買収して事業を多角化したいと付け加えた。

ハ氏によれば、同社のプラットフォームは現在韓国語と日本語で運営しているが、2021年末にシンガポールに進出する前に英語にも対応する予定だという。

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(文:Kate Park、翻訳:Kaori Koyama)

サウナで「ととのう」を見える化。KDDI総合研究所関連プロジェクトにてVIE STYLEが開発開始

サウナで「ととのう」とは、サウナと水風呂を繰り返すことで訪れるある種のトランス状態のような感覚のこと。

感覚的な状態のため言葉で表したり共有するのが難しいのですが、これを可視化するシステムの開発をVIE STYLEがスタートしたと発表しました。

これは、KDDI総合研究所の研究拠点「KDDI research atelier」が実施する取り組み「FUTURE GATEWAY」のプロジェクト「Hoppin’ Sauna」からうまれました。「いつでもどこでも、呼べばサウナがやってくる」をコンセプトに、労働生産性の向上や医療費抑制への貢献を目的にしたものです。

VIE STYLEのイヤホン型脳波計「VIE ZONE」を活用して、脳波をはじめとするさまざまな生態情報を高精度に取得、「ととのう」プロセスを数値化して個人差や体調差を定量的に表現。さらに、被験者の視覚や聴覚、触覚に嗅覚などを刺激したときのフィードバックから「ととのう」プロセスの可能性を検証、最適化を目指します。

TikTokがAR開発ツール「Effect Studio」のベータ版を米国でテスト中

Facebook(フェイスブック)、Snap(スナップ)いずれも、デベロッパーがそれぞれのアプリ向けの拡張現実(AR)体験と機能を構築できるツールを提供している。そして今、TikTok(ティクトック)も同じことをしようとしている。同社はこのほど、TikTok Effect Studioという新しいクリエイティブツールを立ち上げた。現在ベータ版をテスト中で、同社のデベロッパーコミュニティのみがTikTokのショートビデオアプリのためにARエフェクトを構築できる。

「Effect House」と名付けられた新しいウェブサイトで、TikTokは関心を持っているデベロッパーにEffect Studioへの早期アクセスを申し込むよう呼びかけている。

デベロッパーは用意されているフォームに名前、電子メール、TikTokアカウント情報、会社名、AR制作の経験レベル、作品例などを記入する。ウェブサイトはまた、Mac、PCのどちらを使っているのか(おそらくどのデスクトッププラットフォームを優先すべきか判断するためだろう)、仕事と個人使用どちらのためにEffect Houseをテストするのかを確認する。

このプロジェクトは、ソーシャルメディアコンサルタントのMatt Navarra(マット・ナヴァラ)氏がSam Schmir(サム・シュミル)氏のヒントを得て最初に発見した。

TikTokはウェブサイトが8月初めに開設されたことをTechCrunchに認めたが、プロジェクトそのものはまだ米国を含むいくつかのマーケットだけでテストを行っている初期段階にある。

これらのツールがいつ広く利用できるようになるのか、同社はタイムフレームを示さなかった。その代わり、Effect Studioは初期の「実験」と位置付け、実験したものすべてが実際に提供されるとは限らないと付け加えた。さらに、他の実験も初期ベータ段階から一般提供されるまでの間にかなりの変化があるかもしれない。

とはいえ、ARツールセットの立ち上げでTikTokは業界のライバルとこれまで以上に張り合えるようになりそうだ。ライバルたちは新しい機能やエクスペリエンスを追加してアプリの機能セットを拡大するのにクリエイティブなコミュニティに頼っている。例えばSnapは2020年にSnapchat AR Lens構築のために350万ドル(約3億8400万円)の基金を立ち上げた。一方、6月に開催されたFacebookのF8デベロッパー会議で同社は、Spark ARプラットフォームを190カ国のクリエイター60万人超に提供し、世界最大のモバイルARプラットフォームになったと発表した

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画像クレジット:TikTokウェブサイトのスクリーンショット

TikTokもここ数年、デベロッパーツールへの投資を増やしてきた。しかし最近は自前のアプリにTikTokをより深く統合したいサードパーティデベロッパー向けのツールキットに注力してきた。今日、TikTokのデベロッパーウェブサイトはアプリ開発者がTikTok機能をアプリに加えられるようにしているツールへのアクセスを提供している。ユーザー認証フローやサウンド共有、そしてユーザーがサードパーティの編集アプリからTikTokへとビデオを公開できるようにするその他のものなどだ。

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ただし、新しいTikTok Effect Studioはサードパーティアプリで使うためのものではない。

消費者向けビデオアプリで直接TikTokユーザーに提供される、ARエクスペリエンス(そして他のクリエイティブなエフェクト)を構築するためのものだ。

TikTokは、TikTok Effect Studioのより広範な目標を喜んで認めたが、プロジェクトがまだ初期段階にあるとして具体的なツールの詳細を明らかにするのは却下した。

「当社は常にコミュニティに価値をもたらし、TikTokエクスペリエンスを豊かなものにする新しい方法を検討しています」とTikTokの広報担当はTechCrunchに語った。「現在当社はクリエイターのクリエイティブなアイデアをTikTokコミュニティのために現実のものにする追加のツールを提供する方法を実験しています」。

画像クレジット:Nur Photo / Getty Images

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nariko Mizoguchi

フェイスブックがVRコラボ・ミーティングツール「Horizon Workrooms」オープンベータ開始

バーチャルリアリティ(VR)の普及に向けたFacebook(フェイスブック)の道のりは長く、紆余曲折を経てきたが、VRのより幅広いユーザーを獲得することには部分的にしか成功していないものの、その過程で非常に優れたハードウェアを構築することができた。皮肉なことに、FacebookはOculusデバイスのハードウェアとOSの改良には成功したが、VR用の優れたアプリを実際に作るという面では長年にわたって最も苦労してきた。

同社はこれまでに数多くのソーシャルVRアプリをリリースしてきたが、どのアプリも何かしらの工夫を凝らしてはいるものの、提供終了をまぬがれるだけの出来栄えではなかった。大多数のVRユーザーはVRヘッドセットを持っている友人をたくさん持っていないという事実はさておき、これらのソーシャルアプリの最大の問題は、ユーザーにとってそのアプリを使う大きな理由がないということだった。360度動画を見たり、友達とボードゲームをするのはおもしろいギミックだったが、VRでは「ソーシャル」専用アプリはあまり意味がないのと同時に、ユーザーはスタンドアロンソーシャルアプリを求めているのではなく、ソーシャルダイナミクスによって向上する魅力的な体験を求めているのだということを、Facebookが理解するのに非常に多くの時間がかかった。

ここで、今週Facebookがデモを見せてくれた「Horizon Workrooms」というワークプレイスアプリの話をしよう。このアプリは、Quest 2のユーザーを対象に、米国時間8月19日からオープンベータを開始する。

このアプリは在宅勤務の従業員向けに、その中でコラボレーションを行う仮想空間を提供するものだ。ユーザーは自分のMacやPCをワークルームに接続し、デスクトップをアプリにライブストリーミングできる一方で、Quest 2のパススルーカメラを利用して、手元にある物理的なキーボードを通じ入力することができる。また、ユーザー同士がアバターでチャットしたり、写真やファイルを共有したり、バーチャルホワイトボードにアイデアを書き留めることも可能。このアプリはもう少し早くパンデミックの初期に発売されていれば、Quest 2プラットフォームにとってもっと大きな利益をもたらしただろう。しかし同アプリは、リモート環境での有意義なコラボレーションを支援する技術的なソリューションを見つけるという、 テクノロジーに精通したオフィスでいまだに大きな問題となっている課題に挑んでいる。

Horizon Workroomsはソーシャルアプリではないが、VRでのソーシャルコミュニケーションへの取り組み方は、これ以前にFacebookが世に送り出した他のファーストパーティのソーシャルVRアプリよりも思慮深いものとなっている。空間的な要素は、他のVRアプリに比べて大げさでなく、ウケ狙いでもなく、単に優れた機能的な体験を高めるだけで、時に通常のビデオ通話よりも生産的でエンゲージメントが向上したように感じられた。

画像クレジット:Facebook

これはMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)CEOが最近、Facebookは「メタバース企業」へと移行していると宣言したことと繋がる。

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さて、メタバースとは何なのか。ザッカーバーグ氏の言葉を借りれば、こういうことになる。「デジタル空間で人々と一緒にいることができる仮想環境です。見ているだけではなく、自分がその中にいるような感覚になれるインターネットのようなものです」。これは、AR / VRを同社のモバイルアプリ群とは完全に別ものとして扱ってきたFacebookにとって、かなり重要な再調整のように聞こえる。デスクトップユーザーとVRユーザーは、長年にわたって事実上、お互いにサイロ化されてきた。

概してFacebookは、Oculus(オキュラス)を次のスマートフォンを作るかのようにスケールアップし、ネイティブアプリのパラダイムを核としてヘッドセットを構築してきた。一方、ザッカーバーグ氏のいう未来志向の「メタバース」は、Facebookがこれまで実際に開発してきたものよりも、Roblox(ロブロックス)が目指してきたものに近い。「Horizon Workrooms」は、Facebookのこれからのメタバースの動きのベースになると思われるHorizonブランドの下で運営されている。興味深いことに、このVRソーシャルプラットフォームは、2年近く前に発表された後、まだクローズドベータ版である。もしFacebookがHorizonのビジョンを実現することに成功すれば、Robloxのようにユーザーが作成したゲーム、アクティビティ、グループのハブに成長し、ネイティブアプリのモバイルダイナミクスをより柔軟性のあるソーシャルエクスペリエンスに置き換えることができるだろう。

Workroomsの洗練されたデザインが、これからのFacebookの方向性を示す有望な兆候であることは間違いない。

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画像クレジット:Facebook

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(文:Lucas Matney、翻訳:Aya Nakazato)

ハイエンドのレーシングシミュレーターをクルマに積んだまま稼働する「移動型レーシングシミュレーター」が登場。

zenkairacing

ZENKAIRACING

 

レーシングシミュレーターの開発やeSportsチームのマネジメントなどを手がけるゼンカイレーシングが、ハイエースに搭載した状態で利用できるハイエンドレーシングシミュレーター「移動式レーシングシミュレーター」のサービス提供を開始しました。

搭載するシミュレーターは、可動式フレームやディスプレー、レーシングシートに音響設備も備えたフルスペックの据え置き型モデル。従来は移動や設置が困難でしたが、既存品よりも省スペースかつ稼働軸数を増加するなど大幅強化した同社独自の4軸モーターシミュレーターを開発。トヨタ・ハイエース(ハイルーフ、ワイド&ロング)に積んでのサービス提供です。

移動式なので全国のサーキットやイベント会場への出展が可能、さらにシミュレーターを密閉した状態で使えるので「密」を避けた運用もできます。サービスに必要な利用料は「日額15万円+移動交通実費」とのこと。

レーシングシミュレーターというと、PS4やPC向けのフィードバック付きゲームコントローラーやコクピットフレームなど手軽に試せるものもありますが、同社が販売している「TYPE MOTION-PRO基本SIMパッケージ(Win10)」は、泣く子も黙る超「ハイエンド」仕様。

49インチのウルトラワイドモニターやCore i9のゲーミングPC、可動式フレーム、レーシングシートに油圧ペダル、シフトなどなどといった構成例で税別398万円。さすがに個人では手が出ませんが、イベントなどで有料でも試せる機会があるなら、是非とも載ってみたいと思いませんか?

 

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カテゴリー:eSports
タグ:ハードウェアゲーム

バーチャルSNS「cluster」キーパーソンと建築家小堀哲夫氏に聞く「バーチャルはリアルを変えるのか」

コロナ禍による三密回避の影響もあり、バーチャル空間でのコミュニケーションやイベント開催に注目が集まっている。クラスターは、スマホ、PC、VR機器からバーチャル空間にアクセスし、ユーザー同士で集まったり遊んだりするバーチャルSNS「cluster」を提供する企業だ。同社はデザイン戦略を明確化するため、5月にデザインエバンジェリストとして有馬トモユキ氏を迎えた。そこで、学校や研究所、旅館など、大規模建築物を設計しながら「人間がもっともクリエイティブになれる空間」を追求する建築家小堀哲夫氏と有馬氏、同社クラスタープラットフォーム事業部クリエイターコミュニティチーム所属DevRelディレクター福田晃司氏に「バーチャル空間」という新しい空間の可能性について聞いてみた。

バーチャル空間はどんな世界?

clusterはユーザーが交流したり、ゲームをしたり、企業がイベントを開催するバーチャル空間だ。バーチャル空間といえばゲーム空間とほぼ同義だった時期もあるが、近年では個人も企業も多様な用途を見出し、活用しようとしている。

クラスターデザインエバンジェリスト有馬トモユキ氏

クラスターでデザインや体験設計を行う有馬氏は「最近ではバーチャル空間の中で『生活』している人もいます」と話す。

わかりやすい例が「VR睡眠」だ。バーチャル空間の中でユーザーが集まり、ヘッドマウントディスプレイをつけたまま、同じバーチャル空間の中で寝る。その他にも、例えばclusterの中にバー空間を作り、そこでバーテンダーとして他のユーザーと交流するクリエイターもいる。

VR睡眠(画像クレジット:与八尋、ワールド制作:のほほ)

他のユーザーと睡眠するにしても、バーで雑談するにしても、ユーザーが特定の行動をバーチャル空間で行うには、そのための空間が必要だ。clusterではこの「空間」を「ワールド」と呼ぶ。

cluster内のワールド「BAR GEKKO/バー月光」(ワールド制作:高千穂マサキ)

福田氏は「ワールドが多ければ多いほど、ユーザーの体験の幅が広がります。clusterでは、ユーザーが自力でワールドを構築できるので、多種多様なワールドが日々生まれています。逆にいえば、clusterの豊かさはワールドを作るクリエイターはもちろん、イベントを開催する方やそこに遊びに来る方、生活している方などあらゆるクリエイターに支えられています。そのため、クリエイターのサポートが重要です」と話す。

クラスタープラットフォーム事業部クリエイターコミュニティチーム所属DevRelディレクター福田晃司氏(アバター)

一方、小堀氏は「私は建築家なので、設計するときに物理的な制限を受けます。敷地面積はどうなのか、その土地と条件ではどれくらいの高さの建物が許容されるのか、などを考慮して建物を計画しなければいけません。なので、クリエイターが距離やサイズに囚われることなく、制約を受けずに自由にワールドを作れるという環境が魅力的に思えます」と語る。

建築家の小堀哲夫氏

ペルソナの使い分け

コロナ禍になってから、clusterのようなバーチャル空間の活用とまでいかなくとも、学校教育のオンライン化やテレワークの拡大など、より広義な「リアル(物理空間)」と「バーチャル(オンライン空間)」の間を行ったり来たりする人が増えた。

小堀氏は「私は仕事柄、学校や企業に関連する施設を設計するのですが、オンラインの方が効率よく学べる学生や、オンラインの方が生産的に働ける会社員が増えてきています」という。

「もちろん、教室で先生や他の学生とコミュニケーションを取りながら学ぶ方が得意な学生はいます。しかし、それが苦手な学生はオンラインで他の参加者と距離を保ちながら学んだ方が効率が良い場合もあります。これは『どちらの方が本当の自分に近いのか』という問題です。コミュニケーションする自分が本当の姿に近いなら、リアルな教室の方が勉強に集中できるでしょうし、そうでないなら、人との関わりが少ないオンラインの方が勉強に集中できる。会社員でも、上司から物理的に離れていたほうが仕事の効率が上がる人がいるでしょう。コロナ禍で人々が離れ離れになっていることが問題視されていますが、本当に必要なのは『リアルな場所』と『バーチャルなオンライン』を柔軟に使い分けることでしょうね」と小堀氏はいう。

有馬氏は小堀氏の指摘を聞き「ペルソナの使い分け」という観点に言及する。

「例えば、Facebookは『モノペルソナ』を前提にしています。つまり、『ネット上のペルソナ=リアル空間のペルソナ』というのが前提です。基本的に本名での運用を推奨しているのもそれが理由ですね。しかし、最近では『ペルソナの使い分け』も一般化しています。代表例がTwitterの複数アカウントの使い分けです」と有馬氏。

つまり、リアルな教室での学生は『教室でのペルソナ=リアル空間のペルソナ』のモノペルソナに近い状態にあり、オンラインの学生は、『オンラインのペルソナ』を選択する『ペルソナを使い分けている状態』に近い。

バーチャル空間でユーザーが自身のペルソナをどう扱うのか。これは今後注目すべきバーチャル空間の側面かもしれない。

アバターとペルソナの組み合わせ

では、ペルソナとそれを収める器の組み合わせはどう考えるべきか?この器はリアル空間では「肉体」であり、バーチャル空間では「アバター」となる。

有馬氏は「本当にリアリティのあるアバターを作るにはどうしたら良いのか?例えば身長170cmの男性がいたら、同じ身長のアバターを作ればいい。ですが、実際のバーチャル空間では、こうした男性が身長158cmのアバターを使うこともできます。そうすると、バーチャル空間の中の多くのものがリアル空間のものよりも大きく感じられます。見える世界が変わり、新しい価値観にも出会えるかもしれません」とアバターとペルソナの組み合わせの重要性を指摘する。

cluster内のワールド「BAR GEKKO/バー月光」に立つ有馬氏のアバター(ワールド制作:高千穂マサキ)

さらに、バーチャル空間におけるアバターとペルソナの組み合わせには、もう1つ別の側面がある。アイデンティフィケーションだ。つまり、バーチャル空間では、特定のデザインのアバターにユーザーのペルソナが備わることで「このアバターはAさん」と認識される。言い換えれば、まったく同じデザインのアバターが2体あったとしても、その中のペルソナは別々なので、どちらがAさんなのかはコミュニケーションを通して判別できる。この理屈はリアル空間でも通じる。双子のように見た目がまったく同じ人が2人いても、ペルソナが異なればコミュニケーションをとることで判別できる。

しかし有馬氏は、バーチャル空間のアイデンティフィケーションはさらに進化する可能性があるという。

有馬氏は「私の知人のVRクリエイターはあるとき、アバターの影をプログラムしました。ですがこの影、アバターの動きに100%忠実に作られていませんでした。このクリエイターは自分の好きなエフェクトを影につけたんです。つまり、このクリエイターのアバターの影は他のアバターの影と同じにはなりません。これは、影がアバターの個性になりえることを示しています。バーチャル空間のアイデンティフィケーションは、アバターでもペルソナでもない、あらゆるもので可能なのです」と語る。

小堀氏は「人間は鏡で自分の姿を見ると、『これは自分の分身だ』と認識しますが、動物はそれができません。人間は鏡に映る自分やアバターに自分を投影し、外から『自分』を認識することができます。しかし、自分を投影するアバターには匂いも温度もありません。本来、人間は自分や他人の匂いや温度から、誰が敵で誰が味方なのかを見極めます。ですが、アバターではそれができません。アバターは人間の代理の身体なのに、身体性から逸脱しているのです。今後バーチャル空間を活用するなら、その逸脱の意味を考える必要がありますね」と話す。

バーチャル空間はリアル空間を超えるのか?

ここ数年、VRヘッドセットを使ったコンテンツが進化し、バーチャル空間を使ったコミュニケーション、イベント、さらには商業活動が活発化し、バーチャル空間に対する期待が高まっている。これはバーチャル空間に関わる企業にもユーザーにもうれしいことではあるが、有馬氏と福田氏は危機感も覚えている。

「先ほど、バーチャル空間で生活する人も出てきていると話しました。ですが、それがすぐに当たり前になったり、SF映画のようにバーチャル空間がリアルな空間以上に重要になるか、というと今すぐそうなるわけではありません。そんな日も来るかもしれませんが、現時点でのバーチャル空間の開発環境は、3Dゲームの開発環境とほぼ同じで、バーチャル空間の進化に求められている要件と必ず一致するとも限らない。なので、そういう未来的なバーチャル空間を今期待すると、方向を見誤ることになるでしょう」と有馬氏。

では、バーチャル空間の利用が一般化するまでには、どんなフェーズが必要なのだろうか。

有馬氏は「バーチャル空間の進化はリニアには進みません。階段のように、ある場所でドンと進み、また次のどこかの段階でドンと進みます」と話す。

福田氏は「さまざまな試行錯誤が必要です。将来的にはリアルとバーチャルを分ける意味がなくなり、3次元データ(空間)が共通のメディアになると思います。そのため、そこから先に進化するには、リアルの建築設計のようなバーチャル空間の開発技術やゲーム技術とは異なる知見も必要になります。多様なワールドを作るには、多様な知識と世界観が必要だからです」という。

小堀氏は「例えば、リアルな空間の建築で絶対に使えない素材のものがあるとして、それを使ってバーチャル空間で建物を建てたらどんな可能性があるのでしょうか?」と質問した。

有馬氏は「継ぎ目のない和紙で1つのワールドを作ってみたとしましょう。もしかしたら、それを建築家の方が見て、『普通の設計だと和紙で建物は建てられないけれど、この方法ならできるかもしれない』とインスパイアされ、従来の建築とは異なる形で和紙の建物ができるかもしれません。そういうバーチャル空間とリアル空間の相互作用が、リアルとバーチャルを同時に進化させるのではないでしょうか」と語った。

リアルとバーチャルの同時進化、いつ目にすることができるのか楽しみだ。

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カテゴリー:VR / AR / MR
タグ:clusterVR日本インタビュー

画像クレジット:cluster

Nianticが3D-LiDARスキャンアプリのScaniverseを買収

Nianticはこの世界の3Dマップを作るクエストを進めている。

米国時間8月10日、同社はオブジェクトと周囲を高解像度3DでスキャンするiPhoneおよびiPad用アプリのScaniverseを買収したと発表した。

Nianticの担当者は筆者に対し、Scaniverseアプリは今後もApp Storeで公開され、スタンドアローンのアプリとして引き続きサポートする予定だと述べた。高解像度の処理やモデルを他の3Dソフトウェアに書き出すなど、これまで年額17ドル(日本では1950円)だった「Pro」のサブスクリプションに限定されていた機能は無料になった。

2019年3月に筆者が初めて記事にしたとおり、Nianticのゴールの1つは詳細で無限に進化する3Dマップを作ることだ。3Dマップは、ARメガネのようなものが受け入れられるとすれば、そのときにリアルでリッチなAR体験を可能にするための基盤となるステップだと同社は考えている。相当大がかりな(そして終わることのない)タスクではあるが、「ポケモンGO」や「ハリー・ポッター:魔法同盟」、「Ingress Prime」といったゲームであちこち歩き回っているプレイヤーたちがいるので少しは実現しやすい。

この買収にともない、ScaniverseのクリエイターであるKeith Ito(キース・イトー)氏がNianticのARチームに加わる。その他の買収の条件は明らかにされていない。Nianticは2020年3月に金額非公開で6D.aiを買収しており、今回は3Dマッピング分野での最新の買収だ。

参考までに、Scaniverseアプリのデモ動画を紹介する。

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カテゴリー:VR / AR / MR
タグ:NianticポケモンGO買収3D3DスキャンScaniverse拡張現実3D-LiDAR

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文:Greg Kumparak、翻訳:Kaori Koyama)

クリエイターの作品発表を支援するnoteと「バーチャルマーケット」のHIKKYが提携、VRクリエイターの創作環境作りを加速

クリエイターの作品発表を支援するnoteと「バーチャルマーケット」のHIKKYが提携、VRクリエイターの創作環境作りを加速

「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」をミッションにクリエイターの創作活動を支えるメディアプラットフォーム「note」(Android版iOS版)を提供するnote(ノート)は7月20日、世界最大規模のVRイベント「バーチャルマーケット」を運営するHIKKY(ヒッキー)とのパートナーシップ締結を発表した。「両社がこれまで担ってきたことを連携させることで、VRクリエイターが創作をより一層楽しめる環境づくりに取り組みます」とのこと。

新型コロナの影響で直接人と接するコミュニケーションが減少する中、HIKKYのVRイベントは盛り上がりを見せ、2020年12月19日から2021年1月10日までの3週間開催された「バーチャルマーケット5」は、1000人規模のクリエイターが出展し、100万人を超える来場者数を記録した。

しかしその一方で、VRクリエイターがVR作品を作り、発表し、ファンと交流できるVR空間は不足している。そこで、クリエイターのコンテンツ発信の場として「創作の街」をインターネット上に展開してきたnoteは、「VRクリエイターの作品制作の背景やストーリーを発信する場としても利用しやすくする」ことでクリエイターとファンのつながりを深められると考えた。それがHIKKYの考え方と一致し、それぞれ共通の取り組みを加速する目的でパートナーシップ締結に至った。

このパートナーシップでの取り組みは、主に次の3つが挙げられている。

  • note proを利用した、HIKKY公式noteの開設:法人向けプラン「note pro」をHIKKYに無償提供し、HIKKYは「HIKKY公式note」を運営する。他の手段では語りきれないブランドメッセージの発信、企業の職務内容の紹介など、「noteでだからこそできるHIKKYの情報を発信」する
  • バーチャルマーケットとnoteの連動:バーチャルマーケット出展者紹介ページやブースに、クリエイターのnoteアカウントや個別記事をリンクさせ、背景やストーリーが伝わりやすい環境を作る。2021年8月14日から開催予定の「バーチャルマーケット6」から実施
  • VRクリエイター向け勉強会の開催:VRクリエイターを対象にnoteの活用法を紹介する勉強会を、両社で継続的に開催。第1回は7月30日20時からライブ配信

また、バーチャルマーケットの常設型ECモール「VketMall」で販売される商品を「note」の記事に埋め込めるようにして、商品とストーリーをシームレスにつなぐことなども検討している。

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カテゴリー:VR / AR / MR
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技術的、機械的なメンテナンスや修理をより効果的にする拡張現実プラットフォーム「SightCall」

新型コロナウイルス(COVID-19)が企業にデジタルトランスフォーメーションの波を引き起こすはるか前から、カスタマーサービスやカスタマーサポートはオンライン上やバーチャル上で運用されるよう設計されてきた。それでもなお、この分野はテクノロジーの力を借りて引き続き進化し続けているようだ。

2021年5月、SightCallというスタートアップが4200万ドル(約46億円)の資金調達を発表した。同社はフィールドサービスチームやそのチームが所属する企業、そしてその顧客が技術的および機械的なメンテナンスや修理をより効果的に行うための拡張現実プラットフォームを構築している。今回の資金は人工知能ツールの追加や顧客基盤の拡大など、同社の技術スタックへの投資に充てられる予定だ。

CEO兼共同設立者のThomas Cottereau(トーマス・コテロー)氏によると、同社のサービスの中核となるのはAR技術であるという。この機能は同社のアプリや顧客が使用するサービスアプリに組み込まれており、またMicrosoft、SAP、Salesforce、ServiceNowなどの顧客サービス環境で使用される標準的なソフトウェアにも統合されている。この拡張現実では、ビデオストリーム上に追加情報やポインターなどさまざまなツールが重ねて表示される。

例えばフィールドサービスエンジニアが機器を修理する際に本社と連携したり、または緊急時や何かが故障した際にエンジニアを呼ぶよりも顧客自身で修理したほうが早い場合にメーカーが利用したり、あるいはコールセンターがAIの助けを借りて問題を診断したりする際などに、このテクノロジーが使用される。これまで作業指示書や急いで用意した図面、取扱説明書、口頭説明に頼って作業を進められてきた状況が、これにより大きく前進することになる。

「我々はフィールドサービス組織とお客様の間に存在する壁を打ち壊しているのだと自負しています」とコテロー氏は話している。

長年かけて構築された同テクノロジーはSightCall独自のもので、一般的なスマートフォンを使って通常のモバイルネットワークでも使用できるように設計されている。電波状況が悪かったり、離れた場所にいたりする際などに活躍するのだが、その仕組みについては後ほど詳しく説明したいと思う。

当初はフランスのパリで設立され、その後サンフランシスコに移転した同社だが、これまでに保険、電気通信、輸送、テレヘルス、製造、ユーティリティー、ライフサイエンスや医療機器など幅広い分野で大規模なビジネスを構築してきた。

SightCallはKraft-Heinz、Allianz、GE Healthcare、Lincoln Motor Companyなど約200社の有名企業の顧客を抱えており、B2Bベースでサービスを提供している他、現場に出て消費者顧客のために尽力するチームにもサービスを提供している。2019年と2020年の年間経常収益が前年比100%の伸び率を達成したSightCall。同社CEOは2021年もその伸び率を達成できそうだと話し、年間経常収益1億ドル(約110億円)を目標としている。

今回の資金調達は欧州のプライベートエクイティ企業であるInfraViaが主導し、またBpifranceも参加する。今回のラウンドの評価額は公表されていないが、ある投資家から聞いた話によると、PitchBookが発表したポストマネーの1億2200万ドル(約133億5000万円)という見積もりは正確ではないようだ(この件についてはまだ調査中のため、何か分かったら更新しようと思う)。

InfraViaは複数の産業ビジネスに投資しており、最近ではJobandtalentへの投資など産業ビジネスに関連したサービスを提供するテック企業への投資も行っている。これは戦略的な投資であり、SightCallはこれまでに6700万ドル(約73億円3000万円)を調達している。

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近年、最前線や現場で働く人々が使用する技術スタックを構築するスタートアップが続々と登場している。これは新世代のアプリケーションを構築するスタートアップが、ナレッジワーカーに注目しているから故の変化である。

WorkizJobberは中小企業のビジネスマンが仕事を入れたり管理したりするためのプラットフォームを構築しており、BigChangeは大規模なフリートマネジメントをサポート。Hoverは建設業者が自身や潜在顧客のスマートフォンのカメラで撮影した画像をAIで分析することで、工事のコストを評価して見積もることができるプラットフォームを構築している。

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Streemは比較的SightCallに似た競合企業で、同社はGoogleでのSightCallの検索結果に基づいてGoogle広告を取得しているようだ。新型コロナのパンデミックが始まる直前、General Catalystが支援するStreemがFrontdoorに買収され、Frontdoorのホームサービス事業の構築に貢献していることからも、こういった事業がいかに躍進を遂げているかよくわかる。

SightCallが他と比べて際立っている理由はその技術にある。2007年、現在は製品・エンジニアリング担当SVPのAntoine Vervoort(アントイン・ベルボー)氏コテロー氏とが共同で設立した同社だが、この2人は通信業界に長く身を置き、ともに次世代ネットワーク構築の技術面を担当してきた。

モバイルウェブやSMSアプリにリッチメディアサービスを導入しようと各社取り組んでいた当時、同社はWebRTCベースのフレームワーク上で動作するビデオチャットサービスを構築するWeemoという会社として事業を開始している。一般消費者や多くの企業にとって「オーバーザトップ」(携帯電話会社ではなく、携帯電話のOSを運営する企業が配信し、そのために一部をコントロールする)で動作する携帯電話アプリは、メッセージングやメッセージングにおけるイノベーションの市場をリードし、現在も優位に立っている。

その後Weemoは方向性を転換してSightCallに社名を変更し、自社で開発した技術を企業顧客が望むアプリ(ネイティブまたはモバイルウェブ)にパッケージ化することに注力した。

SightCallが構築された方法こそが、同社の仕組みのカギとなったとコテロー氏は説明する。同社は10年の歳月をかけて顧客に近いデータセンターにネットワークを構築、最適化してきた。このネットワークはTier 1の通信事業者と相互接続しており、アップタイムを確保するためにシステムには多くのレイテンシーを持たせている。「この接続性がミッションクリティカルな企業と仕事をしているため、ビデオソリューションは完璧でなければなりません」。

同氏の説明によると、SightCallが構築したハイブリッドシステムはテレコムハードウェアとソフトウェアの両方で動作する独自のIPを組み込んでおり、その結果、ビデオストリーミング向けの10種類の方法を提供するビデオサービスと、ユーザーがどこにいるかによって特定の環境下で最適なものを自動的に選択するというシステムを実現している。これにより、モバイルデータやブロードバンドの電波が届かなくてもビデオストリーミングが可能になるというわけだ。「通信業界とソフトウェア業界の間にはいまだに大きな壁があり、考え方も異なります。だからこそ我々の秘密兵器であるグローバルローミングメカニズムが重要になってくるのです」。

同社がこれまでに構築してきた技術は、この分野への参入を検討している他の企業に対して確固たる基盤を与えたと同時に、顧客からの強い支持も得ることができた。SightCallの技術をすでに使用している業界で採用されている自動化をより深く活用するため、その技術を継続的に構築していくというのが同社にとっての次のステップである。

InfraVia Capital PartnersのパートナーであるAlban Wyniecki(アルバン・ウィニエツキ)氏は声明の中で次のように述べている。「SightCallはARを利用したビジュアルアシスタンスの市場を開拓し、リモートサービスにおけるデジタルトランスフォーメーションを推進するためのベストポジションに立っています。グローバルリーダーとしての能力をさらに押し広げ、よりインテリジェントなサービスを提供するとともに、人々が最大限の力を発揮できるようにするため、今後もますます多くの自動化を実現してくれることでしょう」。

「今回の4200万ドルのシリーズBは、この分野では最大の資金調達ラウンドです。資本、R&Dリソース、業界をリードするテクノロジー企業とのパートナーシップにおいてSightCallは紛れもないリーダーとして確立し、同社のソリューションを企業の複雑なITに組み込むことを可能にしました。より大きなスケールでの顧客中心性を実現すると同時に、効率性を引き出し、継続的なパフォーマンスと利益をもたらす知識と専門性で技術者を増強する、SightCallのようなソリューションを企業は求めています」とBpifranceのAntoine Izak(アントイン・イザック)氏は付け加えている。

コテロー氏によると、同社はこれまでに何度も買収のオファーを受けてきたという。信頼性の低いネットワーク環境でも機能し、異なるキャリアやデータセンター間のビデオネットワークを構築する方法について同社が築き上げてきた基盤技術を考えれば、これはむしろ当然のことである。

「独立した存在であり続けたいと思っています。この先に巨大な市場があると信じているため、自分たちでこの旅を進め、リードしていきたいと思っています。それに、独立性を保ちながら皆とともに仕事を続けていく方法が私には見えているのです」。

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タグ:SightCall資金調達拡張現実フランス

画像クレジット:yoh4nn / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)