【コラム】暗号資産の規制が米国でスーパーアプリが生まれるきっかけになるかもしれない

今や、中国社会の大部分が「スーパーアプリ」と呼ばれるものに依存するようになった。診察の予約からタクシーの配車、ローンの申し込みに至るまで、さまざまなタスクを1つのプラットフォームでこなすWeChat(ウィーチャット)などのアプリのことだ。

米国ではこのようなワンストップショップが勢いに乗ることはなかったが、ついに米国でもそのときが来たのかもしれない。フィンテック業界、とりわけ暗号資産を専門とするプラットフォームからスーパーアプリが誕生する可能性が高いのだ。

株価の高騰と金利の記録的な低下、近い将来に起きるインフレへの不安などが重なり、暗号資産は急速に人気を集めている。米国政府が暗号資産を全面的に規制することを決定した場合(現在、米国議会はこの議題を検討している)、暗号資産の正当性はさらに高まるかもしれない。

今後、暗号資産の発行体が規制当局と連携し、消費者を保護しながら金融および投資に関する新たなオポチュニティを生み出すための妥協案を見いだせた場合、Coinbase(コインベース)などの暗号資産専用プラットフォームの他、PayPal(ペイパル)、Venmo(ヴェンモ)、Stripe(ストライプ)など、最近になって暗号資産による決済機能を追加したサービスが米国版のスーパーアプリに進化する可能性がある。消費者が暗号資産を安全かつ正当なもの、そして使いやすいものとして見ることができれば、これがスーパーアプリの基盤となり得るだろう。

関連記事:オンライン決済の巨人「Stripe」が暗号資産市場に再参入

これらの暗号資産アプリや決済アプリを拡大し、他のアプリやサービスと統合すれば、さまざまなタスクが便利になるはずだ。結局のところ、人は銀行に行くときにだけ資金管理のことを考えているわけではない。そもそも銀行口座を持っていない人も存在する。人は、買い物や旅行をするとき、診察料を払うときにも資金管理について考えており、こうしたアプリはそれぞれの人に必要な金融サービスを各個人に合わせて提供する助けとなるだろう。

暗号資産による決済を他のタスクと統合することは、金融業界を一般に広く行き渡るものに変えるという面でも大きなカギとなるだろう。暗号資産を普及させることで、十分なサービスを受けていないコミュニティの他、信用履歴がなくクレジットカードやローンの申し込みが困難な人に対し、より幅広い金融サービスを提供できるようになるからだ。

スーパーアプリの台頭

WeChatは2011年に中国国内のメッセージングアプリとしてサービスを開始したが、2013年には決済プラットフォームとしての機能を果たし、その後まもなく買い物や食料配達、タクシーの配車といったさまざまなサービスを展開するようになった。

今や、WeChatは何百万もの種類のサービスを提供しており、その大部分は、各企業がWeChat内で動作するミニアプリを開発し、そのミニアプリを通してサービスを提供する形となっている。10億人以上のユーザー数を誇るAliPay(アリペイ)の仕組みも同様だ。これら2つのアプリは、過去10年間で中国を現金主義経済からデジタル決済に大いに依存する経済へと変換したとして評価されている。デビットカードやクレジットカードが普及する中間段階を飛び越えた形での進化だ。

この仕組みはインドネシアをはじめ、同地域の他の国でも普及が進んでいる。ここでカギとなるのは、スーパーアプリのサービスの多くに、決済手段を含む金融サービスが搭載されているという点だ。

米国と欧州でも、こうしたアプリの使用は急増している。Apple(アップル)やFacebook(フェイスブック)、Google(グーグル)などの大手テック企業が決済サービスを追加し、VenmoやSquare(スクエア)といった複数の決済アプリがさらに普及するようになった一方で、スーパーアプリの出現はいまだに見られていない

その理由の1つは、データプライバシーに関する規制だ。米国、そして特に欧州におけるプライバシー規制によってアプリ間のデータ共有が制限されているため、アリペイなどのスーパーアプリにミニアプリを自動統合するようなエコシステムの構築が困難となっている。

また、以前から米国に充実したインターネットエコシステムがあることも理由の1つだ。フェイスブックなどの人気ソーシャルメディアやペイパルなどの決済サイトがスマートフォンの誕生以前から存在したため、1つのアプリが複数のサービスを提供する代わりに、これらのプラットフォームがそれぞれ別のアプリを展開する結果となっている。一方中国では、インターネットの大半がモバイルファーストで、スマートフォンの出現以降に進化している。米国市場は長きにわたり、各タスクについて別個のプラットフォームを使用する形態に慣れていたというわけだ。

しかし、アナリストの多くは、さまざまなアプリやテック企業がサービスの種類を拡大している点(例えばTikTok(ティックトック)はショッピング機能を追加し、Snapchat(スナップチャット)はゲーム用のミニアプリを統合し、Appleは決済業界に参入)を指摘し、米国でもいずれスーパーアプリが台頭するか、たとえそうでなくても今より多機能の大型アプリが出現するだろうと述べている。1つのアプリにサービスを追加し、ユーザーのリテンションを維持する方法を見いだすことができれば、あるアプリでのユーザーの挙動を別のアプリと共有せずに済むため、プライバシー規制を回避することにもなる。

米国では、アジア市場のように1つまたは2つのアプリが群を抜いて市場を支配することは考えにくいものの、アプリの巨大化、そして包括的なものへの変化が進んでいることは明らかだ。

DeFiの進化

一方、過去10年間で暗号資産が生み出したものは決済アプリとスーパーアプリだけではない。ビットコインという1つの製品から誕生した暗号資産は、今や総合的なピア・ツー・ピアの金融システム、いわゆるDeFi(ディーファイ、分散型金融)へと進化した。これには、Ethereum(イーサリアム)やDogecoin(ドージコイン)など複数の通貨が含まれ、システム上でユーザーによるお金の投資、売買、消費、貸し出しが可能となっている。

新型コロナウイルス感染症の拡大によって経済の先行きが不透明になり、また従来の金融機関のなかにも暗号資産関連のサービスを一部提供する機関が増えたことで暗号資産の人気がさらに上昇している反面、暗号資産はいまだに主要の金融システムや金融セクターから除外されており、高い危険性があることを多くの専門家から指摘されている。暗号資産の発行体もまた、分散型の金融製品を生み出すという目標から外れるとして、規制に長らく抵抗してきた。

しかし、この状況には変化が生じ始めており、一部の暗号資産プラットフォームが規制の遵守に関心を示すようになっている。

例えば、Coinbaseはユーザーがコインを他人に預け入れた場合に利子を獲得できるという製品の提供を計画していた。ところが、米国証券取引委員会によるガイダンスの提供がなかったにもかかわらず、同委員会から「Coinbaseが製品をリリースした場合は同社を提訴する」との警告が発せられ、この計画を断念するに至った。事実、暗号資産の発行体は、一部の規制に従うことで自社の製品の正当性が高まり、より多くの人に幅広い目的で使用してもらうことができると認め始めているのだ。この流れには、最近、Stablecoin(ステーブルコイン)をはじめとする新たな暗号資産製品が市場に現れたことで、従来の通貨の価値が議論されていることも関係している。

暗号資産の規制については、米国証券取引委員会の委員長Gary Gensler(ゲーリー・ゲンスラー)氏をはじめ、一部の議員や暗号資産業界の人物が賛成の立場を表明しており、規制の実現は近づいていると考えられる。

暗号資産が米国初のスーパーアプリを後押しする存在に

暗号資産の発行体が政府関係者と連携し、イノベーションを制限することなく消費者を保護するような規制を定めることができた場合、暗号資産は長年動きのなかった米国のスーパーアプリの開発を促す要素となる可能性が高い。

Coinbaseが米国証券取引委員会と連携し、互いに調整しながら質の高い規制を定めることができたならどうだろうか。法令をもとにCoinbaseが、ユーザーが暗号資産として信頼できる、存続可能かつ認定された金融手段であることを立証し、魅力的な収益創出のオポチュニティとなる新規の金融製品のみならず、日常シーンでも使用できるツールとして成長させることができる。規制によって通貨に安定性が生まれれば、隠れた価値を持つ資産としてだけでなく、買い物に便利なツールとして変化させることができるだろう。現時点では日常生活で暗号資産を使おうとした場合、トランザクション時間の長さや手数料の高さ通貨価値の変動の大きさなどがユーザーエクスペリエンスに摩擦を生むことになるが、こうした規制により、面倒な一部の手順を排除することも可能だ。

規制のフレームワークを作成することで暗号資産の需要は圧倒的に増加し、飲食業から小売業に至るまで、暗号資産を使った決済処理への対応を希望する企業が突如として増えるだろう。そうなれば、既存の暗号資産決済アプリへの統合が加速し、それらがスーパーアプリに進化していくと考えられる。従来の通貨を銀行に預金する代わりに、これらのアプリで暗号資産の預金をする人も増え、経済、そして金融のエコシステム全体が根元から覆るだろう。

銀行はいつでも大衆が望む製品を生み出してきたが、暗号資産および分散型金融の業界はまぎれもなく、人が必要とする製品とサービスを提供してきた。現に、規制や法的な環境がはっきりしない今でさえ、何百万もの人が暗号資産を使用しているのだ。

中国では、クレジットカードのサービスを十分に受けられない市場で現金の代替手段が必要となり、そのニーズを満たすべく、ユビキタスかつ統合型のデジタル決済が急速に進化した。同じように、暗号資産ベースのスーパーアプリは従来の決済手段に代わって、あるいはそれに加えて、暗号資産を安全かつ効率的に使用することを望む消費者や企業のニーズを満たすものとなるだろう。

暗号資産が無規制のグレーゾーンにとどまる限り、そのプラットフォームもスーパーアプリに進化することなく、業界外の経済や日常生活から除外されたままとなってしまう。そうなれば、米国はモバイルファーストかつデジタルファーストな、革新的で新しい金融エコシステムを構築するチャンスを逃すことになるのである。

編集部注:本稿の執筆者David Donovan(デビッド・ドノヴァン)氏は、デジタルコンサルタント会社Publicis Sapientの米大陸におけるグローバル金融サービスプラクティスを率いており、元Fidelity Investmentsの幹部。

画像クレジット:loveshiba / Getty Images

原文へ

(文:David Donovan、翻訳:Dragonfly)

流通小売・メーカーDX支援やリテールメディア運用のアドインテにグローリーとSony Innovation Fund by IGVが資本参加

流通小売・メーカーDX支援やリテールメディア運用のアドインテにグローリーとSony Innovation Fund by IGVが資本参加

IoTとAIを活用し流通小売・メーカーDX支援、リテールメディア開発・運用を行うアドインテは1月24日、グローリー、また新たにSony Innovation Fund by IGV(Sony Innovation Fund、大和キャピタル・ホールディングス)などを引受先とする28.6億円の資本参加を受けたことを発表した。これにより、総額52億円の資金調達と資本参加の実施が完了した。

今回の資本参加により、現在同社が構築しているリテールメディア事業のさらなる拡大と、流通小売・メーカー向けDXソリューション開発を強化する。

今後もアドインテは、店舗でのユーザー体験向上を目的としたリテールメディア開発・運用など販促DX支援と、流通小売企業様と連携したプロダクト開発やサービス強化を進める。また、今後控えているデータ連携の拡大や分析レポートの高度化を図り、デジタルマーケティングキャンペーンにおいて、ファーストパーティデータを活用した、精度の高いマーケティング施策の実現を目指す。

アドインテは、人・モノ・流通の変革を促し、持続可能な社会を構築すべく、様々な社会課題・経営課題を解決するソリューションサービスの提供を目指し事業を展開している。

昨今では、IoT・AIなどを活用した流通小売業のDXとともに、オフラインの消費者行動のデータ化・可視化が進展、また店頭のアナログ販促のデジタル化も進み、リアル空間データとID-POSデータなど既存のデータ資産を掛け合わせることで、店舗を起点としたリテールメディア事業が国内外で成長しているという。

また同社は、消費者ニーズの多様化・消費行動変化を捉えた購買起点でのマーケティングデータ基盤は、GoogleによるサードパーティCookie利用の段階的な制限など、ウェブ広告の活用方法が世界的に見直される方向にあることから、プライバシーに配慮した広告効果の高いマーケティングソリューションは、今後さらに重要になると考えているという。流通小売・メーカーDX支援やリテールメディア運用のアドインテにグローリーとSony Innovation Fund by IGVが資本参加

Valveの携帯ゲームPC「Steam Deck」でEpic GamesのアンチチートEAC必須のゲームが動作しやすく

Valveの携帯ゲームPC「Steam Deck」でEpic GamesのアンチチートEAC必須のゲームが動作しやすく

Valve

Valveは携帯ゲームPC「Steam Deck」につき、Epic Gamesのアンチチートソフト「Easy Anti-Cheat」(EAC)必須のゲームが動作しやすくなったことを発表しました。既存のEACゲームに対するSteam Deckサポートを、新サービスとの統合や、SDKバージョン、ゲームバイナリのアップデートなしで、簡単に追加できるようになったとのことです。

EACとはオンラインゲームプレイ中の不正行為、いわゆるチートを検出して取り締まるためのソフトウェアの一種です。Epicの『フォートナイト』のほか『Apex Legends』や『Dead by Daylight』、『Gears 5』などのマルチプレイゲームに採用されており、EACをインストールせずにこれらゲームを開始することはできません。

つまりEACを採用したゲームにSteam Deckサポートを「簡単に追加」できるようになったのは、それだけ遊べるゲームライブラリの幅が広がったことを意味するわけです。

Valveはこれに先立ち、同じく不正防止プログラム「BattleEye」をProton(WindowsゲームをLinux上で実行できるようにする互換レイヤー)に統合し、開発者がBattleEyeに連絡するだけで有効化できるようにしています

さらに今回の発表も加わったことで、Valveは「これは二大アンチチートサービスが、ProtonとSteam Deckで簡単にサポートされることを意味します」と述べています。EACにしろBattleEyeにせよ、個別のゲームについては早い時期から対応を発表しているものもありましたが、それ以外のゲームがSteam Deck対応しやすくなったといえます。

もともとSteam Deckの出荷は2021年末に予定していたものの「部品が工場に届かない」ために2022年2月に延期されましたが、いち早く入手できた人たちは多くのお気に入りゲームをすぐに楽しめることになりそうです。

とはいえ、当初の販売は米国・英国・カナダや一部の欧州向けのみで、日本を含むそのほかの地域では2月に初回出荷して以降になる見込みです。

ようやく2大アンチチートソフトがSteam Deck上でサポートしやすくなったとはいえ、それと個別のゲームタイトルが動くかどうかは別の問題です。これについてはValveが検証プログラムを開始しており、各ゲームに対して「Verified(検証済み)」「Playable(プレイ可能)」「Unsupported(サポート外)」「Unknown(不明)」の4つのステータスが確認できます。

ちなみに、先日発売されたばかりのPC版『ゴッド・オブ・ウォー』を、ソニー・インタラクティブエンタテインメント インディーズ イニシアチブ代表の吉田修平氏が「Steam Deck」上で動作している写真を公開して「Yeeessss!!!」と感動を露わにしています。

吉田氏が公開したのは静止画であり、実際のフレームレートやプレイの快適さなどは不明ですが、日本でもSteam Deckが発売される日を楽しみにしたいところです。

(Source:ValveEngadget日本版より転載)

メルセデス・ベンツの未来の量産乗用車にはLuminarのLiDARが搭載される

Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)は米国時間1月20日、Luminar(ルミナー)のLiDAR技術を将来の車両に採用する計画を発表した。この計画は、データ共有とMercedes-BenzによるLuminarへの出資を含む広範な契約の一部だ。

この取引の一環として、Mercedes-Benzは特定のデータやサービスと引き換えに、最大150万株のLuminarの株式を取得すると規制当局に報告している。このニュースを受けてLuminarの株価は急上昇し、現在17.7%以上の上昇を記録している。

Daimler North America Corporation(ダイムラー・ノース・アメリカ)との契約には、同社の次世代量産乗用車へのLuminarの技術の開発と統合、およびその他の定義された活動が含まれると、当該申告書には記されている。Daimlerは、開発車両および生産車両からの特定のデータをLuminarのLiDARと共有し、データは継続的な製品の改善と更新に使用される。

これと引き換えに、LuminarはDaimlerに対して、同社のクラスA普通株式150万株を発行することに合意した。

Luminarの創業者兼CEOであるAustin Russell(オースティン・ラッセル)氏は、今回の提携を業界における「歴史的瞬間」とし、「消費者向け車両に搭載される安全機能と自律走行機能の大幅な向上が、SFからメインストリームになることを証明するもの」と述べている。

両社は、LuminarのLiDARがいつMercedesの車両に搭載されるかについての情報提供は控えた。

LuminarはVolvo Cars(ボルボ・カーズ)とも提携しており、同社のLiDARのハードウェアとソフトウェアを統合した独自のパーセプションシステムは、Volvoが近々発表する電動フラッグシップSUVに標準搭載される予定だ。

関連記事
ボルボの次世代電動フラッグシップSUVはLuminarのLiDARセンサーが標準装備に
ダイムラーがLiDAR企業Luminarに投資、自動運転トラックの高速道路投入を推進

今回の発表は、Daimlerの量産車に搭載する計画でLuminarのIris(アイリス)LiDAR技術を開発し、同社が特定の定義された作業に対して非経常的なエンジニアリングサービス料を受け取る契約とは別のものだ。

2020年10月、Daimlerのトラック部門は、人間の運転手がハンドルを握らなくても高速道路をナビゲートできる自律走行トラックを製造するための広範なパートナーシップの一環として、Luminarに投資したと発表した。その際の投資額は非公表だった。

画像クレジット:Luminar

原文へ

(文:Kirsten Korosec、翻訳:Aya Nakazato)

オタクのみなさんご乗車ください、メタバースへ向かいます

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター、The TechCrunch Exchangeへようこそ。

こんにちは、みなさん。元気で暖かく健康で幸せで良好な状態でいらっしゃるだろうか。全部でなくても、一部だけでもそうであればと願う。まあ、すべてが当てはまらないとしたら、アイスクリームが発明された理由を正当化できるだろう。

今回は、メタバースの話、創生期から見守ってきたベンチャーキャピタルの話、そして先週うっかり取り上げていなかった、とてもクールなスタートアップの資金調達の話をしよう。準備はOK?では楽しもう。

先週最も楽しかったのは、仮想環境Decentraland(ディセントラランド)への訪問だった。手短にいうと、編集の仕事をしていた私はその途中、編集チームの邪魔にならないように気を紛らわそうとしていたのだ。そこで、私はソーシャル暗号資産環境──つまりメタバースを始動してツアーに出かけたのだ。モヒカン姿でかっこいいパンツを履いて、道に迷ったり、NFTのギャラリーに行ったり、アリーナに入ることに失敗したりしていた。

現在のメタバースは、MMORPGの「Runescape」によく似ている。これは、オンラインRPGが築いてきた歴史的な足跡を考えれば、それほど馬鹿にした表現ではない。しかし、私がゲームで好む水準よりも半端に多くの経済的な側面を含んだ、あまり特徴のないMMORPGは、私にとって最も不要なものだ。

私は今のところ中立的な立場だし、メタバースが毎日ログインしたくなるほどクールになる日を待ちたいと思う。しかし現在、コミュニティの形成やソーシャルな交流を含むWeb 2.0の特性の中には、暗号チームがこれまで見てきたものよりも優れているものがあるようだ。

Amplifyの新しいジェネラルパートナー

数年前、私はMattermark(マターマーク)というスタートアップに雇われて、彼らの会社のために独立したニュース部門を作ることになった。率直に言って、それはすばらしい学習経験であり、さらに何人かの生涯の友人とも出会うことができた。例えばTechStars(テックスターズ)のKevin Liu(ケビン・リュウ)氏だ。

Sarah Catanzaro(サラ・カタンザロ)氏もまた、Mattermarkチームの中では傑出した存在だった。同社における彼女のデータチームでの仕事は、後に就職したVCのCanvas Ventures(キャンバス・ベンチャーズ)、そしてAmplify Partners(アンプリファイ・パートナーズ)で生かされた。参考までに、Amplifyが2020年後半に発表した最新のファンドは、2億7500万ドル(約312億6000万円)相当のものだった。前回からの時間を考えると、そろそろ同グループが新たなファンド組成を発表するのではないかと考えている。

そのAmplifyでカタンザロ氏は、プリンシパルからパートナー、そしてつい最近ゼネラルパートナー(GP)へと昇格した。彼女がVCの世界で最下層から最上層に至るまでの道のりは、眺めていて楽しいものだった。そして、先々週のTechCrunchとの電話では、Amplifyで彼女のレベルに達した女性は彼女が最初だと語っていた。私が強調したいのは、ベンチャーキャピタルというまだ家内産業規模の世界での昇進は、スタートアップのペースでの成長とは異なるということだ。

ともあれ、カタンザロ氏が話してくれたことは、後で振り返ることができるように、ここに書き留めておきたい。私たちは、彼女の会社の投資アプローチ、チェックサイズのターゲット、シードレベルやシリーズAレベルの企業への参入の頻度などについて話をした。新任GPのカタンザロ氏によれば、シリーズAのラウンドははるかに大きくなっているが、リクスはそれに釣り合って小さくなってはいないという。これは、私が以前から直感的に感じていたことだが、これまで誰かが口に出していうのを聞いたことはなかった。

つまり、VCから見たシリーズAのリスクは、スタートアップの段階でより多くの資本が投入されることで上昇しているということだ。今後数年間で十分なメガイグジットを行うことができるなら、最終的には計算が合うのかもしれない。しかし、市場が急落し「懸念」が「奔放な熱意」よりも多くの紙面を占めている今、私は多少疑問に思っている。

ロードアイランド州の誇り

私が住んでいるオーシャン・ステイト(ロードアイランド州の別称)は、米国で最も有名なテクノロジー・ハブからは少しだけ離れている。しかし、だからといって、魅力的なハイテク企業がこの小さな州に生まれないわけではない。TechCrunchは、大学生のためのフリーランス労働市場を構築しているプロビデンスで設立されたスタートアップ、Pangea(パンゲア)を例として紹介している

リトルローディ(これもロードアイランド州の愛称)のもう1つのスタートアップが、マリーナやボートに乗る人のためのソフトウェアプラットフォームDockwa(ドクワ)を開発する、The Wanderlust Group(ザ・ワンダーラスト・グループ)だ。要するに、ペンと紙の世界に留まっていたボートの船着場の予約管理の世界を、Wanderlustはソフトウェアを使って近代化することにしたのだ。

前回、同社について触れたのは、同社が2020年に1420万ドル(約16億1000万円)を調達したときだった。当時、CEOのMike Melillo(マイク・メリロ)氏はTechCrunchの取材に対し、同社は単に700万ドル(約8億円)を求めていたに過ぎなかったが、数字が倍になったと語った。

だから最近同社から「また調達しました」と聞いても驚かなかった。今回、Wanderlustは1億5000万ドル(約172億5000万円)のプレマネー評価額のもと、シリーズCで3000万ドル(約34億1000万円)を調達した。この資金調達は、Thursday Venturesが主導した。

幸いなことに、Wanderlustは2021年のARR(年間経常収益)成長率を喜んで開示してくれたが、それは71%だった。さらにおもしろいことに、週休3日制に移行した後、同社のARRは2020年6月から2021年6月にかけて100%拡大した。これは、私がスタートアップ界隈で追跡している、より興味深い労働実験の1つの実際のデータだ。

しかし、この会社の最も興味深い点は、自身でファンドを組成していることだ。ただし普通の企業向けベンチャーキャピタルファンドではなく、何か別のものだ。Wanderfund(ワンダーファンド)と名付けられたこのファンドに対して、同社は「国や地域レベルでの環境保護活動」のために2022年30万ドル(約3400万円)の資金を投じた。その一環として、まずは子どもたちが家から出て自然の中で過ごせるように、地元のBoys & Girls Club(ボーイズ&ガールズクラブ)に資金を提供することを始めている。

同社はキャンプ用に使えるDockwaのような製品を開発しているので「外に出よう」というテーマは、Wanderlust(放浪願望)Groupという名前にふさわしいコアとなる。

その他雑多なもの

ということで今日はここまで。また来週!

画像クレジット:Nigel Sussman

原文へ

(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

1カートリッジから100種類以上の飲み物を作り出す、世界初の分子飲料プリンターをCana Technologyが発表

ベンチャーファンドのThe Production Board(ザ・プロダクション・ボード)から3000万ドル(約34億円)の出資を受け、Cana Technology(カナ・テクノロジー)は、約4年間の試作期間を経て「世界初の分子飲料プリンター」という製品を発表した。

これはどういうものかというと、要するにsodastream(ソーダストリーム)とコンピュータープリンターを組み合わせたような製品だ。このスマートコネクテッドデバイスは、トースターほどの大きさで、キッチンカウンターに設置しておけば、1つの「プリンター」カートリッジから、家庭の水と化合させることによって、ジュース、コーヒー、カクテルなど、無限の種類の飲料を、タッチスクリーンを使って作り出すことができる。

ここで「分子」の技術が登場する。Canaは、成分の基本的なセットを特定することに注力し、根本的に飲料を分解して、何がその飲料の味を作っているのかを解明した、とCanaのチーフ・サイエンス・オフィサーを務めるLance Kizer(ランス・カイザー)氏はTechCrunchに語った。

水分を取り除くと、実際に飲んでいる飲み物の量は5%から10%程度にまで減少する。そこでCanaはそれらの成分を濃縮して、100種類以上の飲み物を収容することができるカートリッジに装填した。同社では、特定のブランドと提携して飲料を提供する他、独自の組み合わせも作成している。

「飲料で消費している成分と同じものばかりですから、別の何かで再現しているわけではありません」と、カイザー氏はいう。「品質が重要です。私たちは斬新な方法で飲料を作ることに注力しており、これまでに数百種類もの飲料を生み出しました」。

何百種類もの飲み物がいつでも手の届くところにあるだけでなく、砂糖の量を増やしたり減らしたり、アルコール飲料の場合はアルコールの量を増やしたり減らしたりと、自分の好みに合わせてカスタマイズすることも可能だ。筆者はこのデバイスについての説明を聞きながら、コールドブリューコーヒー、ルートビア、ブラックチェリーモヒートなど、いくつかの飲料を試すことができたが、従来の同じ飲み物よりも味が際立っており、全体的に滑らかな仕上がりになっていた。

それぞれのカートリッジには1〜3カ月分の飲料が入っており、カートリッジの残量が少なくなると、デバイスが感知して自動的に再注文が行われる。使用済みのカートリッジは、リサイクルのために送り返されるように設計されていると、カイザー氏は付け加えた。

Canaの目標は、2兆ドル規模の飲料業界を再構築するとともに、埋め立てられる廃棄物と過剰な水の使用を減らすことでもある。CEOのMatt Mahar(マット・マハール)氏は、この試作品では一般的なアメリカの家庭で1カ月におよそ100個の飲料容器を節約できると説明している。Canaの製品が大規模に普及すれば、プラスチックやガラス製容器の使用量、水の浪費量、そして世界の飲料製造工場から排出されるCO2を80%以上削減することができるという。

今回調達した資金は、サプライチェーンと継続的な技術開発に重点的に投資すると、マハール氏は述べている。現在、同社の従業員は35名だが、2022年はその倍になると見込んでいるという。

マハール氏によれば、価格についてはまだ検討中だが、1回あたりの使用料は飲料の小売価格よりも安くなるだろうとのこと。2月末までには、価格と販売開始時期の両方について完全なデータが得られる見込みだという。

The Production Boardの社長兼COOであるBharat Vasan(バーラト・ヴァサン)氏によると、同社のベンチャーファウンドリーは、食品分野の多くの企業に投資しており、Canaのチームが魅力的だったのは、技術に対する野心的な見通しと、ハードウェア、ソフトウェア、科学を組み合わせて、まったく新しい方法で何かを作ろうとしていたからだと述べている。

同氏にとって、Canaのデバイスは「飲料体験のNetflix(ネットフリックス)のようなもの」に感じられたという。また、飲料に使われているのと同じ濃縮技術は、香水や化粧品など、他の多くの製品にも利用できる可能性がある。

「それはモノが作られ、出荷される仕組みを変えるということです」と、ヴァサン氏はいう。「分散型生産は、1カ所で作られて小売店に出荷されます。現在では、サプライチェーンの制約を回避して家庭に直接届けられる別の配送システムがあります。飲料用プリンターはその1つの現れです」。

画像クレジット:Cana Technology / Cana Technology’s Lance Kizer and Matt Maher

原文へ

(文:Christine Hall、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

現在の自動車に搭載されている先進運転支援技術で、IIHSの新安全性評価を満たすものは「1つもない」

現在の新車に搭載されている先進運転支援システムで、米国道路安全保険協会(Insurance Institute for Highway Safety、IIHS)が策定中の新たな安全基準を満たすものは1つもないと、同協会は述べている。

自動車保険会社が出資する非営利団体であるIIHSが策定中の新しい評価プログラムは「部分的な自動化」機能を備えた車両において、ドライバーが道路に集中していられるように支援するための安全装置を評価することになると、同協会は米国時間1月20日に発表した。

IIHSは、このようなシステムに「good(優)」「acceptable(良)」「marginal(可)」「poor(不可)」の4段階の評価を与える。IIHSによると、最初の評価は2022年に発表予定とのことだが、具体的な時期は明らかにされていない。サプライチェーンの問題により、テスト用に使う車両の入手が困難になっているためだ。

「部分的な運転自動化システムは、長時間のドライブを負担が少ないものにするかもしれませんが、運転をより安全にするという証拠はありません」と、IIHSのDavid Harkey(デイヴィッド・ハーキー)会長は、声明の中で述べている。「実際には、システムが十分な安全装置を備えていないと、逆に危険な状態になることもあるのです」。

IIHSの発表によると「good」の評価を得るためには、ドライバーの目線が道路に向けられており、手が常にハンドルを握っているか、またはすぐに握れる状態にあることを保証するドライバー監視システムが、車両に搭載されている必要があるという。さらにドライバーがこれらの義務を無視し続けた場合、徐々にエスカレートする警告や、緊急措置が取れる機能が備わっていなければならない。

なお、IIHSの新しい評価プログラムでは、カメラやレーダーセンサーによる障害物の識別能力など、事故につながる可能性のある他の機能面については評価を行わない。

自動車メーカーが提供する運転支援システムには「部分的な自動化」機能が多く含まれている。最も一般的なものは、ドライバーが選択した速度と車間距離を維持するために自動的に走行速度を調整するアダプティブ・クルーズ・コントロールと、ドライバーが走行車線の中央に車両を維持し続けるのを補助するためにステアリングを継続的に調整する車線中央維持機能を組み合わせたものだ。自動的に車線変更を行う機能も一般的になってきていると、IIHSは指摘する。

運転自動化システムの評価に乗り出すIIHSの動きは、自動車メーカーを牽制する規制や消費者保護団体の動向に沿ったものだ。Consumer Reports(コンシューマー・レポート、CR)は、十分なドライバー監視システムを備えた部分自動運転システムにポイントの付与を始めるという。IIHSの安全機能評価が提供されるようになれば、CRはそれも考慮に入れる予定だ。

コンシューマー・リポートは、2月17日に発表する2022年の自動車ランキング「Top Picks」で、ドライバー監視システムの評価を盛り込むとしている。テストする車に安全運転を促すシステムが運転支援パッケージの一部として搭載されている場合、CRはその総合得点に2点を加算する。

CRによると、現状でこの追加ポイントを獲得できる先進運転支援システムは、Ford(フォード)の「BlueCruise(ブルークルーズ)」とGMの「Super Cruise(スーパークルーズ)」のみだという。

十分なドライバー監視システムが搭載されていない新型車は、2024年より総合スコアから2ポイントを減点するとCRは述べている。2026年になると減点は4ポイントに増える。

IIHSは、部分的な自動運転システムのほとんどが何らかの安全装置を備えているものの、同組織が策定中の基準をすべて満たしているものは1つもないと指摘。これではドライバーが意図的または無意識に、システムの安全な動作の範囲を大幅に超えてしまう可能性がある。

「これらのシステムの多くは、その機能が実際にできること以上のことが可能であるような印象を人々に与えています」と、IIHSの研究員で新しい評価プログラム策定の指揮を執っているAlexandra Mueller(アレクサンドラ・ミューラー)氏は語っている。「しかし、ドライバーが部分的な自動運転システムの限界を理解していたとしても、気持ちは揺れ動いてしまうことがあります。人間は、すべてを自分で運転しているときよりも、問題が発生するのを見守っているときの方が、警戒心を保つのが難しいのです」。

いわゆる自動運転車はまだ一般に発売されていないが、自動車メーカーが混乱を招いたりシステムの能力を誇張したりするような方法で、そのシステムをブランド化することは止められない。

Tesla(テスラ)は、同社の車両に標準装備されている先進運転支援システム「Autopilot(オートパイロット)」や、1万2000ドル(約136万円)で追加購入できるアップグレード版のソフトウェアパッケージ「FSD(フル・セルフ・ドライビング)」のベータ版のブランディングについて、多方面から批判を受けている。しかし、他の自動車メーカーでも、自社のシステムの能力を誇大宣伝するようなマーケティングキャンペーンは、以前から行われている。

画像クレジット:Veoneer

原文へ

(文:Kirsten Korosec、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

IBMが医療データ管理「Watson Health」事業の大半をFrancisco Partnersに売却

拍子抜けするような結末だが、IBMは米国時間1月21日、Watson Health事業部門のデータ資産をプライベートエクイティ企業のFrancisco Partners(フランシスコ・パートナーズ)に売却した。両社は買収額を明らかにしていないが、以前の報道では約10億ドル(約1137億円)とされていた。

今回の取引でFranciscoは、Health Insights、MarketScan、Clinical Development、Social Program Management、Micromedex、イメージングソフトウェア製品など、Watson Health部門のさまざまな資産を取得する。これによりFrancisco Partnersは、幅広い医療データを傘下に収めることになる。

IBMは2015年にWatson Healthを立ち上げた際、データ駆動型の戦略に基づいてユニットを構築することで、この分野を支配することを望んでいた。そのために、PhytelやExplorysをはじめとする医療データ企業の買収を開始した。

その後、Merge Healthcareに10億ドル(約1137億円)を投じ、翌年にはTruven Health Analyticsを26億ドル(約2955億円)で買収した。同社はWatson Healthが人工知能(AI)の推進に役立つと期待していたが、この事業部門は見込まれていた成果を上げることができず、2019年にGinni Rometty(ジニー・ロメッティ)氏に代わってArvind Krishna(アルビンド・クリシュナ)氏がCEOに就任した際には、クリシュナ氏の優先順位は異なっていた

Francisco Partnersはこれらの資産をもとに、独立した新会社を設立することを計画している。この部門が期待通りの成果を上げられなかったことを考えるとやや意外な動きではあるが、少なくとも今のところは、同じ経営陣を維持する予定だという。

Francisco PartnersのプリンシパルであるJustin Chen(ジャスティン・チェン)氏は、新会社がその潜在能力を発揮できるよう、さらなるサポートを提供する予定だという。「Francisco Partnersは、企業と提携して部門のカーブアウトを実行することを重視しています。我々は、優秀な従業員と経営陣をサポートし、スタンドアロン企業がその潜在能力を最大限に発揮できるよう、成長機会に焦点を当てて支援し、顧客やパートナーに高い価値を提供することを楽しみにしています」と同氏は声明で述べている。

IBMがこの売却を行うのは、ヘルスケア分野が盛り上がっている中でのことだ。2021年、Oracle(オラクル)は280億ドル(約3兆1825億円)で電子カルテ企業のCernerを買収し、Microsoft(マイクロソフト)は200億ドル(約2兆2733億円)近くと見積もられる取引でNuance Communicationsを買収した。どちらの取引も規制当局の承認を得ていないが、大手企業がいかに医療分野を重視しているかを示している。

関連記事
Oracleが電子医療記録会社Cernerを約3.2兆円で買収、ヘルスケアに進出
マイクロソフトが過去2番目規模で文字起こし大手Nuance Communications買収、ヘルスケア分野のクラウドを強化

そのため、この動きはMoor Insights & Strategyの主席アナリストであるPatrick Moorhead(パトリック・ムーアヘッド)氏を驚かせたという。「傾向としてはより垂直なソリューションに移行しているので、非常に驚いています。それを考えると、いかに同部門の成績が悪かったかを潜在的に示しているともいえるでしょう」。

いずれにしても、今回の買収は規制当局の承認を待って行われ、第2四半期中に完了する予定だ。この取引には機密性の高い医療データが含まれていることから、さらに精査される可能性もある。

画像クレジット:Carolyn Cole / Getty Images

原文へ

(文:Ron Miller、翻訳:Dragonfly)

【コラム】注意、会社はあなたを見張っている

新しい1年の始まりに、みんなに役立つことを教えよう。

ITが十分に確立されておらず、会社の構築とともに方針が急速に進化しているスタートアップで働く場合、雇用主が迅速に動いて物事を実行し、後から許可を取ろうとしてしまうリスクが普段よりも高くなる。これはほぼ直感的に理解できるだろう。通常、創業初期のスタートアップは落ち着きなく、猛烈なスピードで動いているものだ。これは合法か?もちろんそうではないが、スタートアップ業界には、会社が成功しなければ許可など無意味なことだという考えも多く存在するようだ。また、会社が一流の急成長企業のスピードで成長しているなら、十分な資金があり弁護士もいるので、後で解決することもできるだろう。

この記事は、スタートアップの従業員数人(みんなが知っているであろう企業だが、名前を明かさないことを希望した)との会話がきっかけで生まれた。会社名を特定するのに十分な裏付け情報を得ることはできなかった(がんばって聞き出すので、ご心配なく)。ここでは、やる気満々で2022年を迎えたみなさんに、いくつか毎年恒例のお知らせを。

会社でのSlack(スラック)では、話の内容に気をつけよう。DMはプライベートなものだと思っているかもしれないが、企業の管理者がSlackインスタンスで送信されたすべてのDMをエクスポートできることをご存じだろうか?もちろん、データのエクスポートについては法律があるが、DMで違法なことや非道徳的なことを話すと、上司がDMのコピーを見せてそれについて説明する羽目になるだろう。過ちを重ねても意味がない。疑った仕事熱心なIT部長が細かく調べることを決めると、雇用主を訴える場合もあるかもしれない。しかし個人的なトークは個人的なチャンネルに、仕事のトークは仕事のチャンネルと区別すれば簡単に避けられる。もちろん、あなたのテキストはプライベートにできかもしれないが、少なくともそれらにアクセスすることは難しくなる。そして、特にこだわりがあるなら、メッセージが一定時間を過ぎると消えるSignal(シグナル)Telegram(テレグラム)もある。

上司は会社の機器を監視することができる。契約書には、会社が提供する備品の使用や使用不可について条項があることが多い。その一部は明確だが(「違法なことをしてはならない」)、一部はもっと曖昧だ。それは仕方がない。契約書をよく読むこと。あなたの会社が、あなたがコンピュータ上で何をしているか監視することが許可されると謳っているかもしれない。法に認められているようには思えないが、多くの労働契約に遠回しに記載されている。AIツールがますます強力になり、追跡されても全然構わないという契約書に署名する世界では、ソフトウェアを作成する多数の企業(AktivTrakActiveOpsVeratio他多数)があなたを監視し、雇用主はこれらをあなたのコンピュータにインストールしてさまざまなレベルのステルス行為を行い、あなたの許可を得ることができる。

AktivTrakは9000を超える組織で使用されており、そのツールは「いつ、誰により、何がやりとりされたかについて理解を深め、同時にコンプライアンスの確保を助けるための知見を提供するための、ユーザーアクティビティおよびセキュリティイベント詳細ログの参照」のために使用できると主張している。みなさんはどうだか知らないが、私はもう安全に感じている(スクリーンショット:AktivTrak website)

人事部はあなたの味方ではない。あなたの会社の人事部門はフレンドリーで、よく手を貸してくれて、親切かもしれない。全力で職場の問題解決を手伝ってくれるかもしれない。しかし彼らはあなたの味方ではない。人事部は会社のために働いているのだ。会社の利益を守るためにそこにいる。あなたの利益と会社の利益が対立すれば、人事部門で働く人は、いくらフレンドリーでも、生活費を稼ぐ必要があるし、あなたが辞めた後、解雇された後、異動した後も彼らの上司と良好な労働関係を維持する必要がある。James Altucher(ジェームズ・オルタッハー)氏が自身のコラム「いずれ、あなたは解雇される」で指摘している通り。

会社への忠誠の義務はない。特に米国では、多くが「随意」雇用であり、すなわちいつでも、いかなる理由でも一時解雇される可能性があり、会社が機会を与える限り雇用されたままになり、最終収益に貢献する。特にスタートアップでは、これは変わりやすい分野である。なぜなら目的と目標は取締役会ごとに代わる可能性があるからだ。ある月は、エンジニアリング部門は会社にとって最も必要不可欠な存在である。しかし銀行口座の金額と資金調達環境はすぐに変わり、翌月にはすべてが変わってしまう可能性がある。特に状況が困難になると、指導的立場にある人にとってKPIを基に運営し、成長と顧客獲得のみに焦点を置くことが魅力的になるかもしれない。その場合、エンジニアリングは短期的にみると重要性が低く、突然広告費と販売活動が最優先事項になる。しっかりした長期的ビジョンを持った偉大なるリーダーたちが急な変化を起こさざるを得なくなる可能性がある。プロの世界の忠誠心は、雇用主のみに恩恵を与える神話である。あなたをやめさせる必要があればそうする。リクルーターが声をかけてきたら、電話をとってその市場でのあなたの値段を確認しよう。

辞めてはならない。マネージャーや人事部門の誰かが経験則であなたに自らの意思でやめさせようとしても、抵抗するのが最善策だ。やめてはいけない!多くのメカニズムが(一部の州では、失業手当を含めて)、あなたが一時解雇された場合にのみ適用される。もし辞めたら、特に会社を訴えないと約束した合意書に同意した場合は、将来的に選択肢を大きく弱めることになる。

人事部はあなたのSlack DMメッセージまたはEメールを、あなたに対して使用しただろうか?現在私は数社のスタートアップの多数の従業員とお話ししている。みなさんのご意見もお聞かせいただきたい。お問い合わせ先:tc@kamps.org

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

原文へ

(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

【コラム】インフレヘッジとしてのビットコインの力を再考、金持ちはより金持ちに

七面鳥からガソリン、衣類、1ドルショップに至るまで、人間の活動のほとんどすべての手段がインフレの不安に見舞われてきた。世界的にインフレ率の上昇が購買計画と支出を混乱させている。

このインフレの猛威に直面して、フィアット通貨の減価を懸念する消費者や金融機関はヘッジの代替策を模索してきた。Bitcoin(ビットコイン)をはじめとする多くの暗号資産が現時の対策として選ばれており、こうした状況は、米証券取引委員会が暗号資産を投資可能な資産クラスとして受け入れる気運を後押ししている。

ビットコインは年初来のリターンが高く、金のわずか4%に対して130%を超える上昇率を示し、伝統的なヘッジを凌駕している。さらに、機関採用の増加毎週の流入額に裏付けられるデジタル資産への継続的なアペタイト、メディアでの露出の広がりは、疲弊した投資家の間のビットコイン擁護論を強固にしている。

これらがビッグマネーに基づいてなされているのであれば、賢明な動きであろう。しかし、ビットコインに対抗するヘッジという展望には個人投資家も興味を抱くかもしれない一方で、個人の金融リスクを軽減する上でのビットコインの有効性については、一定の根強い疑問が依然として残存する。

誤算されている期待

インフレヘッジとしてのビットコインの進行中の議論は、この通貨がしばしば市場の動揺と変動に影響されやすいという事実を前に置く必要がある。ビットコインの価値は2017年12月に80%超、2020年3月に50%、さらに2021年5月には53%急落している。

ビットコインが長期的にユーザーリターンを向上し、ボラティリティを低減する能力があるかどうかはまだ証明されていない。金のような伝統的なヘッジは、1970年代の米国の例をとっても、持続的な高インフレ時に購買力を維持するのに効果があることが実証されているが、ビットコインについてはまだその検証がなされていない。こうしたリスクの増大によって、時として通貨に影響を与える急激な短期的変動にリターンがさらされることになる。

ビットコインが有効なヘッジ手段だと判断するのは時期尚早である

ビットコインが限られた供給を意図している事実を踏まえ、伝統的なフィアット通貨と比較して減価から守られていると推定し、それを根拠にしてビットコインの支持を唱える向きも多い。これは理論的には理に適っているのだが、ビットコインの価格は外部の影響を受けやすいことが示されている。ビットコインの「クジラ(大口保有者)」は大量に売買して価格を操作する能力で知られており、ビットコインはマネーサプライルールだけではなく、投機勢力によっても支配され得るのである。

もう1つの重要な考慮事項は、規制である。ビットコインやその他の暗号資産は、依然として規制当局、そして法域間で実に多様性に富む法律に翻弄されている。反競争的な法律や近視眼的な規制によって、基盤となる技術の採用が著しく妨げられ、資産価格がさらに下落する可能性もある。ビットコインを有効なヘッジ手段と判断するのは時期尚早であるといえよう。

富裕層への迎合

この論争の背景と対照をなして、別の顕著な傾向がその勢いを牽引している。ビットコインの人気が高まる中、それは一部の裕福な個人や企業を含む消費者の間で、この通貨の採用と機関化を促進し続けている。

最近の調査によると、英国のファイナンシャルアドバイザーの72%がクライアントに暗号資産投資の要領を授けており、半数近くが暗号資産は無相関資産としてポートフォリオを多様化するために利用できると考えている。

また、技術的に進歩的であることで知られる、億万長者のウォール街の投資家Paul Tudor(ポール・チューダー)氏、Twitter(ツイッター)の元CEOであるJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏、Winklevoss(ウィンクルボス)氏兄弟、Mike Novogratz(マイケル・ノヴォグラッツ)氏など、潤沢な個人からのビットコイン支持も相当数存在する。Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)やMorgan Stanley(モルガン・スタンレー)といった有力企業でさえ、ビットコインに有望な資産としての関心を示している。

この勢いが続けば、ビットコインの不名誉なボラティリティは、より多くの富裕層や機関がこの通貨を保持するようになるにつれて、徐々に消滅していくであろう。皮肉なことに、ネットワーク上の価値のこのような増加は富の集中につながり、上流の排他的な1%の影響の下で、ビットコインが何のために作られたかのアンチテーゼとなる可能性がある。

財政思想の古典的な流派に従えば、このことは実質的に個人投資家をより大きなリスクにさらすことになるであろう。機関による売買は、クジラが行うような市場操作に似ていると考えられる。

中核的なエートスとの逆行

ビットコインの人気の高まりは、間違いなくそれを所有する人々を増やすであろうし、最大の富の保有者たちが(例によって)その大部分を手にすることになると主張することもできるであろう。

ビットコインをはじめとする暗号資産サークルにおける、超富裕層の個人や企業に向かう影響力の注目すべき転換は、ビットコインのホワイトペーパーがピア・ツー・ピアの電子現金システムを説明したときに基盤としていたエートスそのものに逆行する。

暗号資産の基本的な理論的根拠には、パーミッションレスで、任意の機関による検閲や統制に耐性がある必要性が含まれている。

今、前記の1%が暗号資産市場のパイのより大きな部分を得ようとしており、伝統的で影響力の弱い個人投資家ができない方法で、短期的にこれらの資産の価格を押し上げている。

この動きは間違いなく少数の者をより裕福にするであろうが、市場を1%の意のままにしかねないという議論すべき論点が存在しており、ビットコインの意図したビジョンと相反することになるであろう。

編集部注:本稿の執筆者Kay Khemani(ケイ・ケマニ)氏は、Spectre.aiのマネージングディレクター。

画像クレジット:Boris SV / Getty Images

原文へ

(文:Kay Khemani、翻訳:Dragonfly)

【コラム】いずれメタバースは、あなたをモニターし行動を操作する世話役AI「ELF」で埋め尽くされる

メタバースはマーケティング上の誇大広告に過ぎないという人もいれば、社会を一変させると主張する人もいる。私は後者に属するが、多くの人が提唱しているようなアバターで埋め尽くされたアニメの世界について言っているのではない。

むしろ、社会を変えるような真のメタバースは、現実世界上の拡張レイヤーであり、10年以内にショッピングや社交からビジネスや教育まで、あらゆるものに影響を与え、私たちの生活の基盤になると考えている。

関連記事:【コラム】Web3の根拠なき熱狂

また、企業が管理するメタバースは社会にとって危険であり、積極的な規制が必要だと考えている。なぜなら、プラットフォームのプロバイダーは、SNSが古いと感じるようなやり方で消費者の操作が可能になるからだ。多くの人は、データ収集やプライバシーに関する懸念に共感しているが、メタバースで最も危険なテクノロジーであろう人工知能を見落としているのではないか。

実際、メタバースのコアテクノロジーを挙げろといわれれば、たいてい人はアイウェアを中心に、グラフィックエンジンや5G、あるいはブロックチェーンなどを挙げるだろう。しかし、それらは私たちの没入型未来の仕組みに過ぎない。メタバースにおいて糸を操り、私たちの体験を創造(操作)するテクノロジーはAIなのだ。

人工知能は、私たちのバーチャルな未来にとって、注目を集めるヘッドセットと同じくらい重要な存在になるだろう。そしてメタバースの最も危険な部分は、他のユーザーと同じような見た目で、他のユーザーと同じように行動するが、実はAIによって制御された模擬人格である課題志向の人工主体だ。彼らは私たちに「会話的操作」を行い、人工主体が本物の人間でないことに気づかないうちに、広告主に代わって私たちをターゲットにするだろう。

特に、AIアルゴリズムが表情や声の抑揚を読み取って私たちの感情状態を監視しながら、私たちの個人的な興味や信念、習慣や気質に関するデータにアクセスするようになると危険だ。

SNSにおけるターゲット広告が操作的だと思うかもしれないが、これはメタバースで私たちに関わる会話型エージェントの比ではない。彼らは人間のどんな販売員よりも巧みに私たちに売り込み、単にガジェットを売るだけでなく、最も資金を支払った人のために政治的プロパガンダやターゲットとなる誤報を押し付けてくるだろう。

そして、これらのAIエージェントは、メタバースにおける他の人と同じように見え、同じように話すので、広告に対する私たちの自然な懐疑心は働いてくれない。これらの理由から、私たちはAIによる会話エージェントを規制する必要がある。特に、AIが私たちの顔や声の情緒にアクセスでき、私たちの感情をリアルタイムで私たちに対して利用することが可能になる場合だ。

これを規制しないと、AIドリブンのアバターの形をした広告は、あなたが疑っているのを察知して、文章の途中で戦術を変え、あなた個人にインパクトを与える言葉や画像にすばやく照準を合わせてくるだろう。2016年に書いたように、AIが学習して世界最高のチェスプレイヤーや囲碁の棋士に勝てるなら、消費者を揺さぶることを学習して私たちの利益にならないものを買わせる(そして信じさせる)のは朝飯前だ。

しかし、私たちに向かってくるすべてのテクノロジーの中で、メタバースにおいて最も強力かつ精緻な強制力を持つことになるのは、私が「エルフ」と呼ぶものだ。この「デジタル生活促進者(electronic life facilitators、ELF)」は、SiriやAlexaのようなデジタルアシスタントの自然な進化形だが、メタバースでは姿なき声にはならない。消費者ごとにカスタマイズされた擬人化された人格になるだろう。

プラットフォームのプロバイダーは、これらのAIエージェントを仮想ライフのコーチとして販売し、あなたがメタバースを探索している間、1日中しつこく付きまとう。そして、メタバースは最終的に現実世界の拡張レイヤーとなるので、デジタルエルフは、あなたが買い物をしていても、仕事をしていても、ただぶらぶらしているだけでも、どこにいてもあなたと一緒にいることになる。

そして上記のマーケティングエージェントのように、これらのエルフたちは、あなたの顔の表情や声の抑揚、そしてあなたの生活の詳細なデータ履歴にアクセスし、あなたに行動や活動、製品やサービス、さらには政治的見解に至るまでをそっと促すようになる。

そして彼らは、今日のような粗雑なチャットボットではなく、身近な友人、親切なアドバイザー、気遣いのできるセラピストのような、人生において信頼できる人物として認識されるようになるキャラクターとして具現化される。しかも、友人にはできないような方法で自分のことを知り、血圧や呼吸速度に至るまで、自分の生活のあらゆる面を(信頼できるスマートウォッチを通じて)モニタリングする。

そう、これは不気味だ。だからこそプラットフォームのプロバイダーは、付きまとってくる人間サイズのアシスタントというよりも、あなた自身の「人生の冒険」の魔法のキャラクターのように見える、無邪気な特徴と物腰を持つ、かわいくて脅威を感じさせないエルフを作るのだろう。これが私が「エルフ」という言葉を使って表現した理由だ。エルフは、あなたの肩越しにいる妖精、あるいはグレムリンやエイリアンのような見た目かもしれないからだ。こうした小さな擬人化したキャラクターは、耳にささやいてきたり、私たちの前に飛び出して、こちらに注目して欲しい拡張世界のものに注意を引かせたりすることができる。

これが特に危険な点だ。規制がなければ、こうした「人生のお世話役」はお金を払った広告主に乗っ取られ、現在のSNSのどんなものよりも優れた技術と精度であなたをターゲットにすることになるだろう。そして、今日の広告とは異なり、これらの頭の良いエージェントは、かわいい笑顔やくすくすした笑いとともにあなたの周りを付きまとい、一日をガイドすることになるのだ。

このようなことが実際にどのように起こるのか、ポジティブな面もネガティブな面も伝えるために、2030年以降にAIが私たちの没入型ライフをどのように導いていくのかを描いた短いストーリー、「Metaverse 2030」を書いた。

最終的に、VR、AR、AIの技術は、私たちの生活を豊かにし、向上させる可能性がある。しかしこれらが組み合わさると、イノベーションは特に危険なものになる。これはこのような技術に共通する強力な特性、つまりコンピュータで作られたコンテンツがたとえ意図的に作られた捏造であっても、本物であると信じさせることができるという特性が理由だ。この強力なデジタル欺瞞能力こそが私たちがAIを活用したメタバースを恐れるべき理由であり、それが宣伝目的でユーザーにサードパーティアクセスを販売する強力な企業によって管理されている場合には特にそうなのだ。

メタバースの技術に問題が根付いてしまって元に戻せなくなる前に、消費者や産業のリーダーが意義のある規制を推進してくれることを期待して、私はこれらの懸念を提起したいと思う。

編集部注:本稿の執筆者Louis Rosenberg(ルイス・ローゼンバーグ)氏は、仮想現実と拡張現実のパイオニアであり、Unanimous AIのCEO。

画像クレジット:TechCrunch/Bryce Durbin

原文へ

(文:Louis Rosenberg、翻訳:Dragonfly)

次のランサムウェアのターゲットは組み込み機器か?

2021年は、ランサムウェアギャングが重要インフラに目を向け、製造業、エネルギー流通、食品生産を中心とした企業をターゲットにした年として記憶されるだろう。

Colonial Pipeline(コロニアル・パイプライン)のランサムウェア攻撃は、ITネットワークへのランサムウェア攻撃が燃料を分配するパイプラインを制御する運用ネットワークへ広がる懸念から、結果として5500マイル(約8850km)のパイプラインを停止させる事態となった。

運用・制御技術(OT)ネットワークは、生産ライン、発電所、エネルギー供給を継続的に行うために重要な機器を制御するもので、重要なハードウェアをサイバー攻撃からより適切に隔離することができるよう、通常、企業のインターネット向けITネットワークからセグメント化されている。OTネットワークに対する攻撃が成功することはだが、Colonialへのランサムウェア攻撃をきっかけに、CISA(米国土安全保障省サイバーセキュリティー・インフラセキュリティー庁)は重要インフラ所有者にとって脅威が増大していると警告している。

セキュリティ研究者は現在、これらのOTネットワーク上にある組み込み機器がもたらすリスクについて警鐘を鳴らしている。組み込み機器向けのセキュリティプロバイダーRed Balloon Security(レッドバルーンセキュリティ)は、実際のネットワークで使用されている組み込みシステムでランサムウェアを展開することが可能であることを、新たな調査で明らかにした。

同社によると、Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)のEasergy P5保護リレーに脆弱性が発見された。この装置は、障害が発見されるとサーキットブレーカーを作動させ、現代の電力網の運用と安定性に重要な役割を果たすものだ。

この脆弱性を悪用してランサムウェアのペイロードを展開することが可能で、Red Balloonはこのプロセスを「高度だが再現可能」だと述べている。Schneider Electricの広報担当者はTechCrunchに対し「サイバー脅威には非常に警戒している」とし「Schneider ElectricのEasergy P5保護リレーの脆弱性を知り、直ちにその解決に取り組みました」と述べた。

Red Balloonの創業者で共同CEOのAng Cui(アング・ツイ)氏は、ランサムウェア攻撃は重要インフラプロバイダーのITネットワークを攻撃しているが、OT組み込み機器の攻撃に成功した場合は「はるかに大きな損害」になるとTechCrunchに語った。

「企業は、組み込み機器そのものへの攻撃から回復することに慣れていませんし、経験もありません」とツイ氏は話す。「デバイスが破壊されたり、回復不可能になった場合、代替デバイスを調達する必要がありますが、供給量に限りがあるため、数週間かかることもあります」。

2021年にIoTメーカーがソフトウェアアップデートを確実かつ安全にデバイスに配信できるようサポートするスタートアップを立ち上げたセキュリティのベテランであるWindow Snyder(ウィンドウ・スナイダー)氏は、特に他の侵入ポイントがより回復力を持つようになると、組み込み機器は簡単にターゲットになる可能性があると話す。

組込み機器に関して、スナイダー氏はTechCrunchに対し「その多くは特権分離がなされておらず、コードとデータの分離もなされておらず、多くはエアギャップ・ネットワーク上に置かれることを想定して開発されたもので、それでは不十分です」と述べた。

Red Balloonの調査によれば、数十年前に製造されたものが多いこれらの機器に組み込まれているセキュリティは改善される必要があり、政府や商業部門のエンドユーザーに対して、これらの機器を製造しているベンダーに対してより高い基準を求めるよう呼びかけている。

「ファームウェアの修正版を発行することは、最もミッションクリティカルな産業やサービスにおける全体的なセキュリティの低さに対処できない、消極的で非効率的なアプローチです」とツイ氏は指摘する。「ベンダーは、組み込み機器のレベルまでセキュリティを高める必要があります」。同氏はまた、米政府が規制レベルでより多くの取り組みを行う必要があり、現在、デバイスレベルでより多くのセキュリティを組み込むインセンティブがないデバイスメーカーに、さらなる圧力をかける必要があると考えている。

しかし、スナイダー氏は、規制主導のアプローチは役に立たないと考えている。「最も有効なのは、攻撃対象領域を減らし、区画化を進めることだと思います。より安全なデバイスを作るために規制をかけることはできないでしょう。誰かが、デバイスに回復力を持たせなければならないのです」と述べた。

画像クレジット:Sean Gallup / Getty Images

原文へ

(文:Carly Page、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】生体情報収集への道は善意で舗装されている

ここ数カ月、計画的な生体情報の収集がかなり熱を帯びて加速している。これについて心配していないのなら、した方がいい。

実際、バカバカしいと思うかもしれないが、普通以上に心配してみて欲しい。営利目的の生体情報収集は、この10年間で驚くほど正規化した。Appleが日常的にユーザーの指紋をスキャンするというアイデアは、かつては驚くべきものだった。今では銀行アプリやノートPCのロックを解除する方法として―もちろん顔認証で解除しない場合だが指紋が使われている。生体情報収集が主流になったのだ。

FaceIDや指紋認証などの機能が採用されてきたのは、それらが特に便利だからだ。パスコードがなくても問題がない。

企業やビジネスがこれを理解し、今では生体情報収集を採用する2大理由の1つが利便性となっている(もう1つは公共の安全のためだが、これについては後ほど説明する)。迅速な生体情報のスキャンによって、物事が迅速で容易になると言われている。

英国では最近、給食費の支払いに顔認証を導入し、時間短縮を図っている。しかし、データプライバシーの専門家や保護者の反発を受け、結局いくつかの学校はこのプログラムを中止することになった。彼らの主張によれば、どこかのサーバーに蓄積された幼い子どもたちの顔のデータベースを丸ごと利用することに対し、利便性はまったく見合わない。そして、彼らはまったく正しい。

音楽は耳に、チケットは手のひらプリントに

2022年9月、米国のチケット販売会社AXSは、印刷物や携帯電話上のコンサートチケットに代わるオプションとして、レッドロック野外劇場でAmazon Oneの手のひら認証システムを使用するプログラムを発表した(その後数カ月で他の会場にも拡大する予定だった)。この決定は、プライバシーの専門家とミュージシャンの両方から直ちに抵抗を受けたが、これはライブ音楽業界における生体情報収集をめぐる最初の火種ではまったくない。

2019年、大手プロモーターのLiveNationとAEG(コーチェラ・フェイスティバルなどの大型フェスティバルをコーディネート)は、ファンやアーティストからの世論の反発を受け、コンサートでの顔認証技術への投資・導入計画から手を引いた

しかし、ライブエンターテインメントにおける生体認証の利用をめぐる争いは、まだ決着がついていない。コロナウイルスの大流行によって、満員のスタジアムに依存するプロスポーツの経営者たちは振出しに戻り、新しい計画に大量の顔認証を取り入れることが多くなった。顔がチケットの代わりになり、表向きは誰もがウイルスから安全に守られることになる。

このような経営者たちの決意は固い。オランダのサッカーチーム、アヤックス・アムステルダムは、当初データ保護規制当局によって中止された試験的な顔認識プログラムの再導入を目指している。アヤックスの本拠地アムステルダム・アレナで最高イノベーション責任者を務めるHenk van Raan(ヘンク・ヴァン・ラーン)氏)は、ウォールストリートジャーナルの記事に引用によると「このコロナウイルスの大流行を利用して、ルールを変えることができればいい。コロナウイルスは、プライバシー(に対するどんな脅威)よりも大きな敵だ」と語っている。

これはひどい理由だ。プライバシーに降りかかるリスクは、ウイルスに対するリスクによって軽減されるものでは決してない。

同じ記事の中で、顔認識技術のTruefaceのCEO、Shaun Moore(ショーン・ムーア)氏は、プロスポーツの経営者との会話について、識別情報の受け渡しについてははぐらかし、チケットのバーコードをスキャンする際にウイルス感染の危険性があることを理由にタッチポイントに強くこだわっていると述べる。

チケットをスキャンする際の危険性については強引な主張であり、伝染病学者でなくとも言えることだ。大勢の人が叫び合い、歓声を上げることが主なイベントであるなら、担当者がチケットをスキャンするときの一瞬のマスク付きの交流など、心配するほどのことではないだろう。安全性の主張が崩れれば、利便性の主張も崩れる。単純な事実として、モバイルチケットを手のひらに置き換えたからといって、私たちの生活が飛躍的に、そして有意義に良くなるわけではない。認証にかかる+5秒は無意味なのだ。

ヴァン・ラーン氏がパンデミックを利用してプライバシー保護や懸念を覆すことを直接的に語っているのは興味深い。しかし、彼の理論は恐ろしく、欠陥がある。

確かにコロナウイルスは現実の脅威ではあるが、それは「敵」ではない。具現化しているわけでもなく、動機があるわけでもない。ウイルスなのだ。人間の手には負えない。保険用語でいうところの「天災」だ。そして、それが人間のコントロール下にあるものを正当化するために使われている。公共の安全や利便性のためと称して生体情報収集が大幅に増加している。

公共の安全と自由な社会

公共の安全は、しばしば生体認証による監視の強化が強要される原因となっている。8月、米国の議員たちは、飲酒状態での車の発進を防ぐために、新車にパッシブ技術を搭載することを自動車メーカーに義務付ける法案を提出した。この「パッシブ」技術は、眼球スキャン装置や飲酒検知器から、皮膚を通して血中アルコール濃度を検査する赤外線センサーに至るまで、あらゆるものを網羅する。

確かに、これは一見すると立派な動機のある大義名分である。米国運輸省道路交通安全局は、飲酒運転による死者は年間1万人近くに上ると推定しており、欧州委員会もEUについて同様の数字を挙げている

しかし、そのデータはどこに行くのだろうか?どこに保存されているのだろうか?誰に売られ、何をするつもりなのだろうか?プライバシーのリスクはあまりにも大きい。

パンデミックは、大量の生体データ収集の導入に立ちはだかる多くの障害を消し去った。このやり方を続けることが許されていると、結果は市民の自由にとって悲惨なものとなるだろう。監視の強度は記録的な速さで高まっており、政府や営利企業は私たちの生活や身体に関する最もプライベートな些細なことにまで口を挟むようになっている。

モバイルチケットは十分な監視だ。何しろ会場に入ったことを正確な時刻とともにシステムに知らせるのだから。壊れていないのなら、直さなくていい。そして、病原菌を撒き散らさないためという危うい口実で、生体情報収集を追加するのはやめるべきだ。

生体情報はできるだけ渡さないに限る。GoogleやAmazonが基本的人権や市民的自由に関してひどい記録を持っていることを考えると、これらの企業に生体情報データを渡さないことだけでは十分ではない。

典型的な巨大ハイテク企業と関係のない小さな会社は、それほど脅威ではないように感じるかもしれないが、騙されてはいけない。AmazonやGoogleがその企業を買収した瞬間、彼らはあなたと他のすべての人の生体認証データを一緒に手に入れることになる。そして、私たちは振り出しに戻ることになる。

安全な社会は、監視の厳しい社会である必要はない。私たちは何世紀もの間、ビデオカメラを一台も使わずに、ますます安全で健康的な社会を築いてきた。安全性以上に、これほど詳細で個別化された厳重な監視は、市民の自由を重んじる社会にとって脅威となる。

結局のところ、これが行き着く所なのかもしれない。自由で開かれた社会にはリスクがつきものだ。これは間違いなく、啓蒙主義以降の西洋政治思想の主要な信条の1つである。しかし、そのリスクは、厳重に監視された社会で生活するよりもはるかにましだ。

言い換えれば、私たちが向かっている生体情報の格子から逃れることはできない。今こそ、不必要な生体情報収集、特に営利企業が関与する生体情報収集を規制し、排除することによって、この流れを止めるべき時なのだ。

編集部注:本稿の執筆者Leif-Nissen Lundbæk(ライプニッセン・ルンドベック)氏はXaynの共同創設者兼CEO。専門はプライバシー保護AI。

画像クレジット:SERGII IAREMENKO/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

原文へ

(文:Leif-Nissen Lundbæk、翻訳:Dragonfly)

【コラム】セラノスの事件から学ぶべきことは?「友人は大切に」

Elizabeth Holmes(エリザベス・ホームズ)の詐欺事件の裁判は街中の評判になってきた(Silicon Valleyでも、もちろんTwitterでも)。4カ月にわたる裁判が一般の関心を大いに集めたため、取材するジャーナリストは法廷の席を確保して仕事をするために午前3時に起きる必要があった。物見高い見物人やJohn Carreyrou(ジョン・キャレルー)氏の暴露記事「Bad Blood」のファンが技術の歴史を自分の目で見ようと殺到したのだ。

関連記事:セラノスの元CEO、11件の詐欺容疑のうち4件で有罪評決

そうした物見高い見物人の1人が、サンフランシスコに拠点を置くアーティストのDanielle Baskin(ダニエル・バスキン)氏だった。氏はよく、手の込んだ戯れ(Blue Check Homesなど)でテック文化をやゆする。時には、それが実際の会社になることもある(Branded Fruitなど)。氏はSan Jose(サンノゼ)の裁判所にスーツケースを2つ持ってやって来て、ホームズにちなんだ海賊版商品を売った。ブロンドのウィッグや、赤い口紅、黒のタートルネック、血液栄養ドリンクだ。

それは、詐欺で裁判にかけられている人物に、自らを「ホーミー」と呼ぶ「熱狂的なファン」がいるという不条理をからかうジョークだった。しかし、バスキン氏はホームズの3日目の証言を観察したとき、Theranos(セラノス)がどうしてそこまで制御不能に陥ったのか、その本質を見抜いた。

「ホームズの裁判を見て私は、スタートアップ創業者への最大のアドバイスは、友人を持つことだと思いました」と、バスキン氏は休廷後にツイートした。「人生には、変なことを言ったときに『そんなことをいうとは、お笑いぐさだ』とか、『それは良くない考えだ』とか言ってくれる、親しく付き合える人が必要なんです」。

巧妙なトリック

連邦検事のRobert Leach(ロバート・リーチ)氏は訴訟の冒頭陳述で、どう見ても危険なまでに欠陥のある技術を基にホームズがどうやって評価額100億ドル(約1兆1400億円)の会社を作り上げたかを説明した。連邦検事によれば、ホームズの手口の1つは、セラノスに関する「虚偽の、誤解を招くような」メディア報道を使って資金を投資家から守ることだった。ホームズはFortune(フォーチュン)、Forbes(フォーブス)、Inc. Magazine(インク・マガジン)の表紙に載り、2015年にTIME(タイム)の世界で最も影響力のある100人の1人に選ばれ「技術の先見性がある人」と称賛された。大きな影響力のある非常に多くの人や組織がホームズは第2のSteve Jobs(スティーブ・ジョブズ)だと言っていたのだから、人々がホームズのビジョンを信じたのもっともだった。

「(元国務長官の)George Shultz(ジョージ・シュルツ)氏からエリザベスを紹介されたとき、彼女のプランは学部生の夢のように聞こえました。私は彼女に、見込みは大成功か大失敗、2つに1つだと言いました。その中間は見込めませんでした」。Henry Kissinger(ヘンリー・キッシンジャー)氏はTIME 100(タイム100)の推薦文で、ホームズについてそう書いた。「エリザベスが受け入れた選択肢はただ1つ、状況を変える、ということだけでした」。

キッシンジャー氏はその後も、ホームズを「今にもビジョンを実現しようとしている」「恐ろしいほどの唱道者」と呼んだ。しかしすでに、セラノスを取り巻く状況に一定の不確実性が生じていた。「セラノスの技術面を評価する人もいますが、予期される社会的影響は巨大なものです」と、キッシンジャー氏は推薦文の最後に書いた。

ホームズは誇大広告に取り囲まれていて、ジョージ・シュルツ氏のような投資家はホームズをまるで孫のように扱った。だからジョージ・シュルツ氏は、セラノスで働いていた孫のTyler Shultz(タイラー・シュルツ)氏から、ホームズはセラノスの技術の有効性についてうそをついている疑いがあると言われたとき、自分の孫のいうことを信じなかった。

「エリザベスは非常にカリスマ性のある人です」と、タイラー・シュルツ氏は今週CBS News(CBSニュース)に語った。「彼女は話すとき、相手にその瞬間自分は彼女の世界で一番重要な存在なんだと感じさせます。彼女の周りでは現実がゆがんでいるかのようで、吸い込まれそうになります」。

孤立と虐待

タイラー・シュルツ氏はセラノスの最初の内部告発者になったが、個人的、金銭的に大きな犠牲を払うことになった。自分の音声回想録「Thicker than Water(水よりも濃い)」の中で、David Boies(デビッド・ボイズ)氏のような著名な弁護士から脅され、私立探偵に尾行されたと述べている。しかしシュルツ氏は、回想録の中で短いが当を得た逸話を語った。いつもホームズを招待し、彼女の30歳の誕生パーティーも主催した祖父と一緒に食べた家族の夕食についての逸話だ。

「奇妙な状況でした。私の両親はいつもホームズに自分の両親を招待するようにと言っていました。私の両親は彼女がそうしているものと思っていました。その後、私の祖父母がエリザベスの両親と電話で話していたときのことですが、エリザベスの両親は彼女が30歳の誕生パーティーをしていることをまったく知りませんでした。ですから、彼女は両親とあまり良い関係ではないようでした」と、シュルツ氏は回想した。ホームズは裁判の間、大抵母親の手を握っていた。しかしシュルツ氏の記憶によれば、彼女の犯行時、家族はそれほど緊密ではなかった。

シュルツ氏は続けて、誕生パーティーの出席者について述べている。シュルツ氏とホームズの兄弟だけが30歳未満で、次に若いのはセラノスのCOOであるSunny Balwani(サニー・バルワニ)氏で、50歳近かった。バルワニ氏がホームズに会ったときホームズは18歳、バルワニ氏は37歳だった。2人は10年以上ひそかにデートし、セラノスのほとんどの従業員や投資家には知られなかった。2005年にホームズはバルワニ氏の所に引っ越し、間もなくStanford(スタンフォード)を中退した。

「彼はあらゆることで私の人となりに干渉しましたが、私はそれがよく理解できません」と、ホームズは証言した。

ホームズは法廷で涙ながらに、関係があった間、バルワニ氏に性的にも感情的にも虐待されたと説明した。何を食べるか、いつ寝るか、どのように行動するかコントロールされたと述べた。

ホームズは証言台で「彼は私に、ビジネスで自分がしていることがわかっていない、私の信念は間違っている、私の凡庸さに驚いた、自分の才能に従えば私は失敗する、と言いました」と話した。

被告側は、ホームズがどのようにバルワニ氏にコントロールされていたかを示す2つの資料を証拠として提出した。1つはホームズの日課のスケジュールで、もう1つはホームズの行動の仕方に関する指示を定めたものだった。ホームズによれば、これらのガイドラインは彼女が「新たなエリザベスになる」ために役立つとバルワニ氏から言われた。指示の中で「譲れない」こととして、会議の予定を明確に記載していない限り、ホームズは誰にも、特に直属の部下には5分以上は会わないものとされた。資料によれば、ホームズのライフスタイルは修道士のようだった。午前4時に起き、祈り、交渉をまとめ上げ、体を動かし、特定の食事だけを食べ、レクリエーションは一切しない。

ホームズのスケジュールはネットで広まり、一部のジャーナリストは、どんな感じかそのスケジュールを試してみることさえした。しかし、現実はそれよりずっと暗いものだ。虐待に関するホームズの説明を真剣に受けとめることは難しいだろう。ホームズは有名なうそつきであり、詐欺罪で有罪判決を下されたばかりなのだ。しかし、これらの資料がもし合理的なものであれば、それが示すものは、年上のパートナー兼仕事仲間によってあらゆる行動をコントロールされていた女性である。

ホームズは証言した。「彼は言いました。私は自分のすべての時間をビジネスに費やす必要がある、付き合うのはビジネスの成功に役立つ人だけにすべきだ、週7日働く必要がある、会社の成功に寄与することだけをする必要がある、と」。

これに関しては、ホームズの30歳の誕生パーティーに関するシュルツ氏の説明の方が納得がいく。ホームズはセラノスを大きくすることに全力を傾けていたので、友人はおらず、趣味も無かったようだ。両親と連絡を取って誕生パーティーに招待することもなかった。

ホームズは裁判で「もし私が家族と一緒にいたら、サニーはとても気分を害したでしょう。一緒にいるとビジネスに対する注意がそがれる、と彼は言ってましたから」と述べた。被告側は、2013年感謝祭週末のバルワニ氏の言葉を引き合いに出した。「君の家族がここにいると、僕は寂しいんだ。君は1日にせいぜい10秒しか僕と過ごさないからね」とあった。

ホームズに信頼できる友人がいたら、恋愛相手兼COOが何と言おうと、投資家に対して事実を曲げるのは行き過ぎだとか、信頼性に欠ける血液検査結果を患者に伝えるのは良くないとか、誰かたぶん言ってくれただろう。しかし残念ながら、このひたむきな起業家には話せる人が誰もいなかった。

創業者にはコミュニティが必要

だからといってホームズが罪を免れるわけではない。老練なパートナーにコントロールされ、虐待されたのは本当かもしれないが、詐欺を働いたのもまた事実かもしれない。その上、患者からだまし取ったということで有罪判決を下されることはなかったが、ホームズのうそのために、驚くほど間違った血液検査結果を示されたセラノスの顧客は大きな苦悩を経験させられた。

我々はテクノロジー業界がセラノスから学んだことについては多くを語るが、とても単純明快なことについては軽く扱ってしまっている。スタートアップの創業者には仕事以外の生活が必要なのだ。

我々は、自分のビジョンに献身して大きな犠牲を払い、社会生活を置き去りにして会社を大きくするエリザベス・ホームズのような創業者の価値を認める。しかし通常、そうしたハッスル型の文化による孤立した状況からは成功は生まれない。良くて燃え尽きるだけ、悪くすれば何百万ドル(何億円)もの詐欺罪につながる。

読者がスタートアップの創業者なら、おそらく第2のエリザベス・ホームズにはならないだろう。友人とくだらない映画でも見たりして(新型コロナウイルス感染症の状況が許すなら)、ただ普通のことをしていれば、近視眼的な間違いをすることはたぶんないだろう。

画像クレジット:Michael Kovac / Contributor / Getty Images

原文へ

(文:Amanda Silberling、翻訳:Dragonfly)

友だちと写真をホーム画面で共有できるアプリ「Locket Widget」、米App Store上位にランクイン中

新ソーシャルアプリLocket Widget(ロケットウィジェット)が、1月10日あたりから米App Storeのチャートで上位に躍り出ている。このアプリは、iOSのホーム画面のウィジェットに友人のライブ写真を表示するという巧妙なものである。つまり、通常ならニュースや天気、励みになる格言、iPhoneギャラリーからの写真などが表示されるAppleのウィジェットシステムを、プライベートなソーシャルネットワークプラットフォームにしてしまうのだ。

Apple Worldwide Developer Conference(アップル世界開発者会議)の学生奨学金受賞者で、カリフォルニア大学サンタバーバラ校を卒業したばかりのMatt Moss(マット・モス)氏が考案したこのアプリ。Hawkeye Labs(ホークアイ・ラボ)というユーザーリサーチとテストのためのプラットフォームを構築していたときに思いついたものだという。

Locketはもともと個人的なサイドプロジェクトであり、メインフォーカスではなかったと同氏は認めている。

「2021年の夏、彼女の誕生日プレゼントとして作ったものです。彼女は秋には学校に戻る予定で、遠距離になってしまうところだったため、自分のホーム画面に彼女の小さな写真が表示できれば、繋がりを持つという意味でも良い方法だなと感じたのです」。

1〜2週間でこのアプリを作り上げた同氏は、その後半年間にわたって恋人と1日平均5枚の写真を送り合うなど、かなり頻繁にアプリを使用した。Locketでは送受信した写真が履歴に残るため、写真を振り返って見る楽しみもある。

やがて2人の友人たちがこれに気づき、自分たちも恋人や家族、友人同士で使いたいと言い出したため、モス氏はLocketをApp Storeで一般公開することにした。

元旦に発表されて以来、今朝の時点での登録ユーザー数は200万人を超えている。Apptopia(アプトピア)のApp Storeのデータによると、米国時間1月9日の時点でLocketは米国のApp Storeで総合1位となり、その前日にはソーシャルネットワーキングアプリ部門で1位となっている。Apptopiaの報告によると、これまでのところ全世界でのインストール数は約100万で、そのうち約31%が米国からのものだという。ただしこのデータは1月11日までのものである。

Locketが急速に普及したのは、TikTok(ティックトック)のおかげだとモス氏は考えている。Locketの企業アカウントに動画を公開し、アプリを実際に使用している様子をアピールした結果、同氏の動画はわずか数日で10万回もの再生回数を記録。その後、他のTikTokユーザーも、同アプリとLocketのオリジナルビデオで使用されたカスタムサウンドを使った独自のコンテンツを作り始めたのである。

@locketcamera

Link in bio #locket #widget #2021 #2022

♬ original sound – Locket

その結果、同アプリは若いTikTokユーザー層の間で爆発的に広がった。実際、英国のTikTokユーザーが作ったある動画は、1日で500万回再生を突破したとモス氏は話している。

アプリ開発者がローンチ時にTikTokを活用してインストールを促進するというのはよくあることだが、同アプリでは有料のインフルエンサーを起用してのマーケティング活動は一切行われておらず、またTikTokなどで有料広告を出したこともないとモス氏は伝えている。

TikTokでの露出のおかげで、現在LocketはiPhoneの無料アプリチャートで1位を維持しており、またアーリーアダプターらがアプリをダウンロードするよう友人たちにも呼びかけたため、さらなるインストール数を獲得し続けている。

アプリの利用を開始するには、App StoreからLocketをダウンロードした後、電話番号の認証とサインアップが必要だ。

するとアプリがiPhoneの連絡先とカメラへのアクセスを要求してくるのだが、理想的にはアドレス帳へのアクセスなしで、独立型の招待システムから友人を招待できるようにすることができたら、よりプライバシーに配慮したアプローチとなるだろう。アプリをより使いやすくするためにもこの仕組みの変更を検討しているとモス氏は話しているが、Locketが連絡先を保存したり、電話番号を使って自動的に招待を送信したりするようなことはなく、友人に送るテキストをカスタマイズできるiMessageのウィンドウがポップアップ表示されるだけだという。

しかし、連絡先を取り込むという要求を拒否した場合、アプリがまったく使えなくなるということが判明した。

Locketで友達を招待して追加したら、iOSのホーム画面に同アプリのウィジェットを追加する。友人が画像を追加するたびに、それが自分のウィジェットに表示される。逆も同様で、アプリを起動して自分の写真を追加すれば、いつでも友人のウィジェットに送ることができる。

画像クレジット:Locket

このアプリは、ただこれだけのことなのである。派手なカメラフィルターやエフェクトはなく、Camera Rollから画像をアップロードすることもできない。最大5人までの友人や恋人と、写真をリアルタイムで共有するためだけに設計されているのである。

App Storeでトップの座を掴んだモス氏は現在、次のステップを検討中だ。サブスクリプションモデルの導入、ウィジェットの追加の他、いずれはAndroid版もサポートする予定である。外部からの投資を受けるかどうかはまだわからない。

「いろいろと検討しています。どうなるか楽しみです」と同氏。

しかし同氏は、Locketは現在の写真ウィジェットという体験を超えていく可能性もあると考えている。ユーザーが今後より多くの写真を共有することで、時間をかけてアプリ内の機能も成長していくのだろう。

「親しい友人や家族だけの空間というのは、かなり有意義なものだと感じています。特に若い人たちは、広告中心、指標中心のアプリに少し疲れているようです」。

「Instagram(インスタグラム)で1000人の友だちがいたり、Snapchat(スナップチャット)で100人の友だちと画像を送ったりしなければならなかったりと、アプリの巨大なソーシャルサークルにはまってしまい、結局は疲れきってしまうのです。そのため5人、10人の親しい友人だけに向けたものを作り、スマートフォンをアプリではなく人のための、よりパーソナルなものすることができれば、そこには大きなニーズが存在すると感じています」。

ウィジェットでの写真共有エクスペリエンスを提供しているのはLocketが初めてではない。2020年に登場したMagnets(マグネッツ)というアプリも同様のアイデアだが、ここではウィジェットを介して友人にテキストメッセージを送ることもできる。この分野で競合するアプリには、Ekko(エコー)、Widgetgram(ウィジェットグラム)、Lettie(レティ)、Tile Widget(タイルウィジェット)、Fave(フェーブ)などがあるが、どれもまだマイナーである。

Locketは現在iOSで無料でダウンロードが可能だ。一部のユーザーがウィジェットの動作方法を理解していなかったり、開始プロセスに戸惑ったりしていたようで、星3.4つの評価しか得られていない。同アプリの話題が絶頂に達していたころに問題が発生し、後者の問題が頻発していたようだが、我々はその後Locketをテストし、問題が解決されていることを確認している。

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

PelotonのCEOが是正措置は認めるもバイクとトレッドミルの「全生産停止」を否定

Peloton(ペロトン)のJohn Foley(ジョン・フォーリー)CEOは、同社の決算を控え「沈黙の期間」から一転して、機器の販売不振に関連する数々の報道に対応した。同社がスポーツジムのリニューアルオープンにともない、バイクとトレッドミルの全製品の生産を停止しているという件について、同氏は否定した。

関連記事:需要減退の中、Pelotonがバイクとトレッドミルの生産を一時停止との報道

「バイクとトレッドの全生産を停止しているという噂は間違いです」という見出しで、フォーリー氏はこう綴っている。

新型コロナウイルス(COVID-19)の大流行という100年に一度の出来事に遭遇し、3年かけて起こると予想していたことが、2020年から2021年にかけて数カ月の間で起こってしまったのです。

世界が私たちを本当に必要としている時に、迅速かつ真摯に需要に応えようとしましたが、それは、みなさんが毎日一生懸命努力してくれたおかげでもあります。私たちは、生産規模を適正化することに手ごたえを感じています。そして、より季節性の高い需要曲線へと進化する中で、持続可能な成長のために生産レベルを再設定しています。

決算速報に連動した別の声明で、フォーリー氏はこう述べている。

前四半期に説明したとおり、当社は収益性の見通しを改善し、全社的にコストを最適化するための重要な是正措置を講じています。これには、売上総利益率の改善、より変動性の高いコスト構造への移行、今後より集中を絞ったPelotonを構築するための営業費用の削減が含まれます。

また、2月8日の決算発表の際には、より詳細な情報を伝える予定であると付け加えている。これらには、需要減に対応するための生産の「適正化」が含まれる。しかし、同氏は、バイク / トレッドミルの4つのデバイスすべての生産が数週間または数カ月間停止するという報告には慎重な姿勢を示した。

また、コンサルティング会社McKinsey(マッキンゼー)の報告書を受け、リストラやレイオフが行われていることを認めた。「過去には、レイオフは最後の手段だと言ってきました」と彼は書いている。「しかし、今、私たちは、細心の注意と思いやりをもって、組織構造とチームの規模を評価する必要があります。そして、我々のビジネスをより柔軟なものにするための努力の一環として、あらゆる選択肢を検討している最中です」とも述べている。

このような報道は、前述の「100年に一度の出来事」で普及が進む中、Pelotonが手を出しすぎたことの裏づけとも見られている。このニュースは、同社が2020年の天文学的な上昇に続いて、2021年はパンデミック需要の強さから76%の株価下落を経験したことを受けてのものだった。

画像クレジット:Kimberly White / Stringer

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Akihito Mizukoshi)

中小企業にクレジットカードを提供する支出管理プラットフォーム「Moss」が約97.8億円調達

ベルリンのMossが今週初めに、8600万ドル(約97億8000万円)のシリーズBを発表した。同社は中小企業にクレジットカードを提供して、支出管理が容易にできるようにする。

このラウンドによりMossの評価額は5億7300万ドル(約651億3000万円)に達した。Tiger Global ManagementがこのシリーズBをリードし、A-Starが参加した。合わせて同社の調達額は総額で1億5000万ドル(約170万5000円)近くとなった。

Mossは、支出管理のプラットフォームだということができる。ヨーロッパの競合他社は、SpendeskPleoSoldoなどだ。Mossの強みは、デビットカードでなくクレジットカードを提供していることだ。取引は各決済の数秒後にMossのダッシュボードに表示される。

カード本体だけでなく、従業員はオンライン決済のためのバーチャルカードを作ることができる。何かを買うたびに、Mossの顧客はすべての支出に0.4%の割引がある。

これなら、小さな会社でも1枚のコーポレートカードですべての経費を共有する必要がない。チームリーダーは、従業員ごとに予算を設定し、より簡単に経費を把握することができる。

従業員自身にとっても、ヨーロッパではコーポレートカードはそれほど一般的ではない。Mossに切り替えることで、従業員の経費を自己負担する必要がなくなる。Mossのカードで決済し、レシートを添付すればいい。また、カード決済ができないレストランでは、現金での経費精算もMossで行うことができる。

カード決済以外にも、すべての請求書をMossアカウントで一元管理することで、Mossに頼ることができる。Mossのユーザーは、承認ルールを設定し、ビジネス銀行口座の支払いリストをエクスポートすることができる。

最後に、Mossは、ドイツ市場で人気の会計ソフトであるDatevと統合しているため、会計業務をスピードアップすることができる。今後、このスタートアップは、製品をさらにモジュール化する予定だ。すべてを必要としないのであれば、支出管理スタック全体を使用する必要はないだろう。

Mossは、全体で25万件の取引を処理し、2万枚のカードを発行している。製品はドイツとオランダで提供されている。同社は現在、英国への進出を計画している。

画像クレジット:Moss

原文へ

(文:Romain Dillet、翻訳:Hiroshi Iwatani)

グーグル、広告ビジネスをめぐるテキサス州の反トラスト法訴訟で棄却を要請

米国時間1月21日、Google(グーグル)はテキサス州が主導する反トラスト訴訟中の訴因の大半を却下するよう連邦裁判所に求める申し立てを行った。同社は訴状の中で、テキサス州の訴訟は「信用できない」し、州は同社の広告ビジネスが独占禁止法に違反していることを証明できなかった、と主張している。

Googleの経済政策担当ディレクターであるAdam Cohen(アダム・コーエン)氏は、ブログの中で「Paxton(パクストン)州司法長官の主張は、光よりも熱に満ちており、この事件を裁判にかける法的基準を満たすとは思えない。訴状は、私たちのビジネス、製品、および動機を不当に表現したものであり、私たちは、妥当な反トラスト法上の主張を提示しなかったことを理由に、これを却下する方針です」と述べている。

テキサス州のKen Paxton(ケン・パクストン)司法長官は、Googleがオンライン広告の独占を違法に維持したと主張する訴えを2020年末に発表した。テキサス州は11月に初めて提訴したものの当時は編集されていた訴状を先週、新たに更新し、裁判官から訴状の詳細を公開するよう命じられる前だった。

アラスカ、アーカンサス、フロリダ、アイダホ、インディアナ、ルイジアナ、ミシシッピ、ミズーリ、モンタナ、ネバダ、ノースダコタ、サウスカロライナ、サウスダコタ、ユタ、ケンタッキー、そしてプエルトリコがこの訴訟に加わり、Googleの責任を問う訴訟に加わっている。。

関連記事:複数州にまたがる最新グーグル反トラスト訴訟は広告ビジネスが標的

Googleは、パクストン氏は「明確な事実がたくさんあるのに、それらを看過または誤解」しており、その中には同社がオンライン広告の支配を維持するために、Facebookとの取引で、新たに登場してきた「ヘッダー入札」と呼ばれる広告購入プロセスを封殺したという主張している。

The New York Timesの記事によると、2018年にFacebookはその関係を発表したが、Googleが自分の競合他社に「他のパートナーには提供しなかった、オークションで成功するための特別な情報とスピードの利点を与えた(そこには『勝率』の保証も含まれていた)」ことは公表しなかった。

自らも反トラスト法で苦境に立たされているMetaも同様に、同社にInstagramとWhatsAppを売却させる可能性がある反トラスト法訴訟の却下を裁判所に求めたが、裁判官は2022年1月初め、FTCの再提訴を許可するとの判決を下した。

関連記事:グーグルがGoogle Playの課金をめぐり大規模な反トラスト訴訟に直面

画像クレジット:lex Tai/SOPA Images/LightRocket/Getty Images

原文へ

(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ダブリンのExergynは形状記憶合金を使って温室効果ガスの原因となる冷媒を代替

Exergyn Ltdの共同創業者でマネージングディレクターを務めるケビン・オトゥール博士(画像クレジット:Conor McCabe Photography)

ダブリンに本社を置くExergyn(エクサージン)は、冷媒を固体素材に置き換えて、温室効果ガスの排出を削減する。この技術は、データセンターに適用できる可能性がある。

この産業用クリーンテック企業は今回、シリーズAラウンド3000万ユーロ(約39億円)の資金を調達した。この投資ラウンドはエネルギー・コモディティ企業のMercuria(マーキュリア)とファミリーオフィス系ファンドのLacerta Partners(ラセルタ・パートナーズ)が主導し、プラハを拠点とするプライベート・エクイティおよびベンチャー・キャピタルのMcWin(マックウィン)も参加した。

Exergynは固体形状記憶合金(SMA)と呼ばれる製品をてがけており、HVACRと総称される暖房、換気、空調、冷蔵や、自動車、航空宇宙などの業界で炭素排出量を削減できると主張している。HVACR産業は、世界のCO2排出量の10%以上を占めている。

同社の形状記憶合金は、熱を吸収したり放出したりしながら収縮と緩和を繰り返す。これによって冷媒が不要になる。

モントリオール議定書によれば、地球温暖化の第一の解決策は、地球温暖化係数の高いガスを除去することであるという。

競合としては、メリーランド大学やスロベニアのリュブリャナ大学がこの分野に注目しているが、同じ分野で事業を行う商業組織は少ない。磁気熱量効果はSMAの高価な従兄弟のようなものだが、一般的には高価すぎると考えられている。

今回のシリーズAの発表について、共同創業者でマネージングディレクターを務めるKevin O’Toole(ケビン・オトゥール)博士は次のように述べている。「Mercuria、Lacerta、McWinといったソートリーダーたちと力を合わせることで、当社の提供する製品を複数の新しいエキサイティングな垂直市場に拡大することができます」。

今回の投資について、MercuriaのマネージングディレクターであるDavid Haughie(デヴィッド・ホーヒー)氏は次のように言及している。「Mercuriaの目標は、これらのSMAによって冷却・冷蔵などの分野で伝統的な冷媒の必要性を排除し、さらにコスト効率の高い運用を可能にすることで、HFC(代替フロン)による環境への影響をゼロすることです」。

画像クレジット:Kevin O’Toole, PhD, CEng, MIMechE Managing Director, Exergyn Ltd. Picture Conor McCabe Photography.

原文へ

(文:Mike Butcher、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

集合住宅におけるインターネットプロバイダーの囲い込みを抑制する米FCCの提案

その建物で、他の人が使っているブロードバンドプロバイダーと同じものを使わなければならない。米国で新しいアパートに引っ越した人の多くが、同じ経験をしたことがあるだろう。しかし、米FCCの新しい提案が採用されれば、このようなロックインは少なくなり、プロバイダーと建物オーナーとの間の収益配分を防ぎ、競合他社に門戸が開かれる可能性がある。

アパートのプロバイダーが1社になってしまうのは、建物の配線費用の問題だ。投資が報われるのは当然としても、ISPは地域全体をおさえる方法を見つけ。

例えば、大きな集合住宅との契約では、建物の管理者がキックバックを受け取るなど、(技術的には)合法的な場合もある。また、既存のルールに抜け穴があり、競合他社がインフラを共有することが法外に高くつくようにISPが仕組んでいる場合もある。

米国時間1月21日、FCCのJessica Rosenworcel(ジェシカ・ローゼンウォーセル)委員長が内部的に配布し、プレスリリースにまとめた提案は、このような汚い手口のいくつかを防止し、軽減するものだ。収益分配契約を全面的に禁止し、その他の取り決め(マーケティングなど)をテナントに開示することを義務づけ、配線をリースまたは共有されたりすることを意図しているのに事実上独占できるようにしている抜け穴を塞ぐものだ。

「米国民の3分の1以上がアパート、モバイルホームパーク、コンドミニアム、公共住宅に住んでおり、ブロードバンド競争と消費者の選択肢を閉め出す行為を取り締まる時期にきています。消費者には、自分が住んでいる建物でプロバイダを選択できる権利があります。全米の何百万というテナントのために、ブロードバンドの競争的選択の障害を取り除くために、委員会のみなさんが力を貸してくれることを楽しみにしています」とローゼンウォーセル氏は述べた。

委員会は最近、本問題の調査を開始し、意見募集を開始し、証拠を調査した。当然のことながら、委員会は「委員会の目標に反して競争を阻害し、競争力のあるプロバイダーがアパート、マンション、オフィスビルのユニットテナント向けにサービスを提供する機会を制限する新しい慣行のパターン」を発見した。

ローゼンウォーセル氏の提案は、これらの過程を踏まえている。画期的な新しい規則ではないが、ちょっとした問題解決であり、ISPたちが共通して行っている不正行為を真正面から狙い撃ちしている。提案はFCCの票決の前に一般公開され、それがたとえ明日であっても、事態を修復するためのかなりの猶予期間があるだろう。すぐにプロバイダーを変えたいと思っていた人には選択肢はない。しかし来年になれば、事態は変わっているだろう。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)