クリエイターがゲーム内でアイテム作成、共有、収益化できるプラットフォームのOverwolfが約85億円調達

クリエイターがゲーム内でアイテムを作り、共有し、収益化できるプラットフォームを提供するOverwolf(オーバーウルフ)は、Andreessen Horowitz(a16z)がリードしたシリーズDで7500万ドル(約85億円)を調達した。既存投資家であるGriffin Gaming Partners、Insight Partners、Intel Capital、Liberty Technology Venture Capital、Markerなども参加した。調達した資金は、OverwolfのCurseForge Coreに投入される。CurseForge Coreは、ゲームスタジオ、IPオーナー、ゲーム内クリエイターがゲーム内にユーザー生成コンテンツを構築することを可能にするソリューションだ。

「ゴールド」やゲーム内MODが売買されていた世界は、大きく変化している。今やプレイヤーは、ゲーム内で体験を構築して共有できることに魅力を感じており、クリエイターとゲームオーナー向けにまったく新しい分野が生まれている。

テルアビブを拠点とするOverwolfは、Andreessen Horowitz、Atreides Management、Griffin Gaming Partners、Insight、Marker、Intel Capital、Liberty Technology Venture Capital、Market、Ubisoftなどの投資家から、これまでに1億5000万ドル(約171億円)超を調達している。

CurseForge Coreはホワイトレーベルのソリューションで、パブリッシャーが既存および新規のゲームにModを簡単に統合することを可能にする。

Overwolfは、技術的なソリューションであると同時に、ゲーム開発者に対してコンテンツのモデレーション、IP、その他さまざまな側面をカバーするフルサービスのUGCプラットフォームを提供している。

Overwolfの共同創業者でCEOのUri Marchand(ウーリ・マルシャン)氏は「情熱的なコミュニティの実行速度と圧倒的な創造性には、単一のゲームスタジオでは太刀打ちできません。主要なゲームスタジオが、コミュニティの創造に抵抗するのではなく、これらのクリエイターがコミュニティやスタジオ自体にもたらす価値を受け入れ始めているという認識の変化が見られます」と話す。

Overwolfによると、約8万7000人のインゲームクリエーターを擁し、毎月2000万人超のゲーマーがOverwolfの製品を利用しているとのことだ。Overwolfは、2020年の約3倍となる2900万ドル(約33億円)をゲーム内クリエイターに支払うと予想している。また、ゲーム内アプリのクリエイターやMODの作者、さらにはMODを新作品に統合することを計画しているゲームスタジオを支援するため、5000万ドル(約57億円)の基金「Overwolf Creators Fund」を立ち上げている。

a16zのパートナー、Jonathan Lai(ジョナサン・ライ)氏は、次のように語る。「TikTok、YouTube、Instagramなど、今日の最大のソーシャルプラットフォームは、友人や家族、コミュニティのためにコンテンツを生成するクリエイターによって大きく支えられています。ゲームがソーシャルネットワークに進化していく中で、クリエイターやユーザー生成コンテンツも同様に重要な役割を果たすでしょう。Overwolfのプラットフォームは、堅牢な開発エンジン、配信用のアプリストア、クリエイターが作品から生計を立てるための収益化ツールを備えているため、どんなプレイヤーでもお気に入りのゲームの共同制作者になることができます」。

筆者は電話でマルシャン氏に、Overwolfがメタバース形式の環境を提案するための「建築用ブロック」のようなものになる可能性があるかどうか尋ねた。

「ゲーム間で一貫した体験ということであれば、IPの所有者と一致した方法でそのようなものを作り、ギャップを埋めることができるかもしれません」と同氏は答えた。

「それは剣かもしれないし、物語かもしれないし、さまざまなものの可能性があります。人々が会話したり、体験を切り替えたり、所有権を生み出したりできることとは別に、メタバースの大きな部分を占めるのは創造であり、当社は創造の要素に焦点を当てている会社です」と付け加えた。

Overwolfの競合他社には、最近2600万ドル(約29億円)の資金調達を行ったMod.ioがある。

画像クレジット:Overwolf / Overwolf leadership team

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

オンラインの接客機能をノーコードで構築するプラットフォームEasySendが63億円以上を調達

ノーコードは、これまで非技術系の従業員が何かをしたいときに技術の専門家に頼らざるを得なかった企業で、ITのさまざまなレイヤーに浸透しつつある。そしてノーコードのツールを開発するスタートアップの事業は急成長し、多額の資金を調達している。

最新の事例を紹介しよう。EasySendはテルアビブのスタートアップで、コーディングの言語をまったく知らなくても顧客とやりとりする機能をドラッグ&ドロップのインターフェイスで構築できるプラットフォームを開発している。そのEasySendがシリーズBで5050万ドル(約57億5700万円)を調達した。同社はこの資金でプラットフォームで利用できるテンプレートを増やし、人材を雇用し、事業開発をしていく。

このラウンドを主導したのはOak HC/FTで、これまでに支援していたVertex IL、Intel Capital、Hanaco Ventureも参加した。EasySendによれば、これとは別にSilicon Valley Bankから500万ドル(約5億7000万円)のベンチャーデットによる調達も実施したという。EasySendのCEOで、COOのOmer Shirazi(オメル・シラジ)氏、CTOのEran Shirazi(エラン・シラジ)氏とともに同社を創業したTal Daskal(タル・ダスカル)氏はEasySendのバリュエーションを明らかにしていないが、前回のバリュエーションの5倍になったと述べた。

参考までに以前の数字をあげると、PitchBookは同社の前回ラウンド時のバリュエーションを3140万ドル(約35億8000万円)と推定しており、この数字が正しいとすれば現在のバリュエーションはおよそ1億5700万ドル(約178億9800万円)となる。いずれにしてもEasySendは、特に米国の売上が10倍とビジネスを急速に成長させている。

現在EasySendはおよそ100社の顧客を抱え、その分野は教育、行政、金融サービス、保険など多岐にわたる。特に金融サービスと保険の分野に強く、Cincinnati Insurance、NJM Insurance Group、PSCU、損保ジャパン、Petplanなどが同社を利用している。

同社の調達金額の合計は7150万ドル(約81億5100万円)となった。

EasySendがターゲットとしているのは、紙のフォームを作って顧客の情報を集め、非技術系の従業員がそうした資料を扱うことが多い市場だ。

企業が顧客サービスをバーチャルの環境に移行する傾向が急激に進むにつれて、企業は紙ベースの業務から離れることを求められている。ダスカル氏によれば「企業がデジタルカスタマージャーニーをゼロから作るための支援をする」ことに、EasySendのチームはチャンスを見出した。同社はまず旧来型の銀行に目をつけたが、類似する多くの市場に同様の問題とソリューションの可能性があることにすぐ気づいた。

さらにコロナ禍もその展開に影響を与えた。多くの企業で「デジタルトランスフォーメーション」と呼ばれる変化が推進され、紙ベースのオフライン業務を急速に減らしていった。これによりさらに多くの企業が、従業員に配慮しデジタルツールを使って仕事をする手段の1つとしてEasySendを利用するようになった。

そして、アナログツールを置き換えるデジタルツールは往々にしてアナログより機能が多い。EasySendがこれまでも開発し、今後充実させていこうとしている領域の1つが分析だ。分析機能があればユーザーは自分が構築した顧客とのやりとりに関するエンゲージメントを追跡できる。ダスカル氏はTechCrunchに対し、近いうちにAIのインサイトを強化してトレンドや予測のデータをもっと提供できるようにすると述べた。

EasySendは今後の投資で「カスタマージャーニー」のユースケースを充実させていくだけではなく、RPAなどのテクノロジーを取り入れて他の業務とも統合できるプロセスを開発する計画だ。IDの確認、電子署名などのテクノロジーといった他社の新しいサービスを組み合わせれば、さらに複雑で幅広い接客を扱える可能性がある。

Oak HC/FTのパートナーであるDan Petrozzo(ダン・ペトロゾ)氏は発表の中で「今日、企業が競争力を持つためには、これまで以上に優れた顧客体験を創造する必要があります。EasySendは、企業がデジタル・エクスペリエンスを迅速かつ効率的に顧客に提供する方法を変革しました。企業をデジタル時代に導く点でユニークな立場にあるEasySendには、今後大きな成長の機会があると信じています。投資はその結果です」と述べた。

画像クレジット:EasySend

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Kaori Koyama)

【コラム】ユニコーンを多数輩出、高い潜在能力を持つイスラエルのテックが抱える問題

人口がEUの50分の1ほどしかないイスラエルで、EUと同じくらいの数のユニコーンが誕生しているのは一見すばらしいことだ。奇妙に思えるかもしれないが、このギャップはさらに広がる可能性がある。実際、奇妙なことだ。

テック系エコシステムは弾み車のようなものだ。創業者が会社を売却したり上場したりすると、エコシステムに資金が流れ込むが、これには3つの形がある。1つはいうまでもなく、資本家からの流動性の注入だ。

2つ目の効果は新しい投資家の創造だ。新しく富裕層になった創業者たち(および従業員たち)は最初に家を買ってから、スタートアップへの投資を開始するという話には一理ある。3つ目は、ベンチャー資金は以前にイノベーションを成功させた人材に集まる。これは一種のハロー効果で、イスラエルにもサンフランシスコと同様明白に存在する。

こうしたことは、Google(グーグル)、Uber(ウーバー)、Twitter(ツイッター)などの初期の社員で、投資家や創業者になった人たちに起こった。イスラエルでも同じようなことが起こっている。ただし、イスラエルでは、そうした社員が、自分たちに富をもたらした創業者たちよりもうまくやれると確信していることをはっきりと態度に表すことも珍しくない。

Monday.comやSentinelOneなど、イスラエルのサクセスストーリーとなっている企業で創業10人目の社員になることは、ウーバーやインスタグラムで創業15人目の社員になるようなものだ。ハロー効果という点でも、ウーバーやインスタグラムほどはないものの、確かにある。このように社員から創業者になる人たちには、投資家が求めているスキルとバックグラウンドがある。また、イスラエル人独特の図太さも強みだ。

イスラエルに100ものユニコーン企業(評価額10億ドル[約1128億6000万円]以上の多くはテック系の株式非公開企業)が誕生している理由もそこにある。人口ではイスラエルよりも圧倒的に多い欧州だがユニコーン企業は125社しかない。イスラエルのこの成功は奥が深いので説明が必要だろう。

起業家にとっては、欧州のビジネス文化はイスラエルに比べてリスク回避的だ。過去の成功に基づいて評価するからだ。EUの大半の国では、もっと簡単に確実にもうける方法はいくらでもあるが、イスラエルでは、古い考え方にあまり縛られていないため、テック系起業家への道は魅力的だった。

こうしたパラダイムは、真の平和というものを経験したことがなく、大部分が移民とその子どもたちで構成されているまとまりのない社会には適していた。イスラエル人の冒険精神、そしてそれに通じるイノベーションや起業家精神の根本にはこうした要因がある。それに加えて、警備産業や軍事産業によって推進されたテクノロジーもある。これは、戦争、解体後のソビエト連邦からの移民の大量流入などによってもたらされた。

新しい要因としては、新型コロナウイルス感染症がある。イスラエルは、早期にワクチン接種を行ったことと、外部のテック分野(おそらく労働人口の10分の1を占める)がリモートワークに適していたため、パンデミックから何とか強く抜け出すことができた。また、パンデミック期間中、イスラエルには大量のVC資金が流入した。

こうしたことが最高のタイミングで起こっている。イスラエルの企業は、サイバー、フィンテック、SaaSなどの分野ですでに自分より格上の企業と張り合っており、フードテック、アグリテック、宇宙テクノロジー、そしてもちろんワクチンなどの分野でも大きな可能性を示している。

しかし、この辺りから見通しが少し怪しくなってくる。大きな障害がこうしたイスラエルの潜在能力の実現を阻害している可能性がある。

表面上は、イスラエルは産業に供給できる十分な労働力を備えているように見える。実際、このデータが示している通り、この国には1万人ごとに135人の科学者とエンジニアがいる。これは先進諸国中で一番の数字だ。しかし、急成長中のテック分野の需要に応えるにはそれでも足りない。

Israel Innovation Authority and Start-Up Nation Central発行の2020 High-Tech Human Capital Reportによると、テック企業の60%が人材の確保に苦労しており、イスラエル国内には現在、1万3000件のテック関連求人があるという。最近のさまざまな調査で慢性的なエンジニア不足が報告されている。9月現在で、1万4000人のエンジニアの求人があるという。

エンジニア不足のせいでエンジニアの賃金が上がっており、イスラエルのエンジニアの賃金は先進諸国中で最も高くなっている。こうした状況の中、リモートワークの時代にあって、企業側はウクライナやルーマニアなどから労働力を調達している。これは「スタートアップ国家」という特製ソースの瓶詰めを続けるにはあまり良い兆候ではない。

悪い方向に進んでいることは他にもある。イスラエルの学生の国際テストにおける数学、科学、国語の成績が他国と比較して急低下しているのだ。政治的大変動が主な原因だが、後続政権は、数学をまったく教えないことが多い宗教色の非常に強い学校の制限なしの成長を許している。

これは、超伝統派の急速な拡大という広範な問題と関係している。超伝統派では、男性の半分はフルタイムで宗教の研究を行い(残りの半分の多くは膨大な宗教関係の業務をこなしている)、女子は1人平均7人以上の子どもを育てることに専心する。テック経済に相応の寄与をしていないもう1つのセクターとして、イスラエルのアラブ系市民がある。アラブ人コミュニティは伝統的に権限が低く資金不足のコミュニティで、犯罪率も高い。

すぐに思いつくアプローチとして、超伝統的ユダヤ人とイスラエルのアラブ系市民を統合して、より広範なイスラエルを形成し、あらゆる道具を与えるようにすることだろう。イスラエルのアラブ系市民の街と学校の資金不足はなくし(2021年から少しずつ始まっており、アラブ系政党が新連合に参加している)、政府はアラブ系コミュニティで蔓延する犯罪を厳しく取り締まるよう警察に命令する必要がある。数学や科学を教えない学校に対しては資金の提供を拒否すべきだろう(これは超伝統派を統合するために必要な多くのステップの1つだ)。

イスラエル政府は官民協力体制のイニシアチブを取って(過去に有望なスタートアップを生み出し資金を提供したときと同じアプローチ)、教育システムの改善を推し進める必要がある。目標は同じで、経済を加速することだ。イスラエルはアイアンドームを建設し反対派に対処したときと同じ活力で教育問題に取り組む必要がある。

考えられる取り組みとして、STEM(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学)教育の改善がある。具体的には、教師の待遇改善、親による教育への積極介入の制限、さらには、Fullstack Academyや外部のコーディング専門学校などの外部プログラムに奨励金を給付してイスラエル国内に学校を設立する、Wixなどのテック大手と協力してシリコンバレースタイルのキャンパスで自国の人材を育成するといったことが考えられる。

学生にコーディングやプログラミングを教えることを早期に始めてもらうようにすれば、研究開発や認知分野を重視している軍の部門にも役立つ上、新しい人口グループに求人対象が広がり、テック分野の新しい社員が生まれることになるだろう。

これらはどれも簡単ではないが、現状に満足していては高い代償を払うことになる。何もしないで最善を望むのは、ただ何もしないよりなお悪い。それでは、不可思議な運命によってイスラエルに授けられた途方もない才能を無駄にしてしまうことになる。

画像クレジット:matejmo / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

「臓器もどき」とAIで、医薬品開発のスピードアップと動物実験の削減を目指すイスラエルのQuris

創薬のプロセスに動物実験は必要悪だ。マウス(ハツカネズミ)は特に人間に近いとはいえないものの、マウスを代替するものはないようにも思える。イスラエルを拠点とするQuris(クリス)は「チップ上の患者(複数のオルガノイドをリンクさせたシステム)」のデータとAIとを組み合わせて、マウスを必要としない新開発の本格的な方法で、低コストで極めて信頼性の高い試験と自動化を実現する、と主張している。

同社は、試験運用から実際の生産に移行するために900万ドル(約10億3000万円)を資金調達した。また、錚々(そうそう)たる後援者およびアドバイザーたちも、同社のアプローチが持つ利点を示す有望な指標となっている。

ベースとなるのは非常に理にかなったアイデアだ。これまで以上に優れた人体の小規模シミュレーションを構築し、それを使って機械学習システムが解釈しやすいデータを収集する。もちろん「言うは易し、行うは難し」だが、研究者たちのそんなアイデアを受けて、Qurisはすぐさまこれを実行に移した。

Qurisのアプローチは、ハーバード大学で行われた、いわゆる「organs on a chip(生体機能チップ)」の使用に関する大規模な研究に基づいている。まだ比較的新しいが、この分野ではすでに確立されたシステムで、少量の幹細胞から作られた組織(オルガノイド、臓器もどき)を薬や治療法の実験台として使用し、例えば人間の肝臓がある物質の組み合わせに対してどのように反応するかを調べることができる。

ハーバード大学では、複数の臓器(肝臓、腎臓、心臓の細胞など)の生体機能チップをリンクさせることで、驚くほど効果的に人体のシミュレーションが可能になるということが発見された。本物(の人体)にはかなわないとはいえ、複数のオルガノイドをリンクさせたシステム=「チップ上の患者」は、マウス実験に代わる真の手段となる可能性がある。というのも、マウスでの実験に合格した分子が人での実験に合格する確率は10%未満という事実にもかかわらず、マウスでの実験は未だに行われているからである。

Qurisの共同設立者でCEOのIsaac Bentwich(アイザック・ベントウィッチ)氏は、同氏と同僚はこの研究結果が発表された直後にこの研究が持つ将来性に気づき、実験的なシステムから規模を拡大するために、エンジニアリングとAIという点で何が必要かを考え始めたという。Qurisが取り組むのは単なるマウスの代替ではない。制約のある、人を使った実験を、人を使わずに、かつマウスの不確実性を排除して(比較的)安価に行う方法である。

自動化された「チップ・オン・チップ」デバイスの全体像(画像クレジット:Quris)

ベントウィッチ氏はインタビューで次のように話す。「あなたが製薬会社だと仮定しましょう」「理論上では効果がありそうな分子があるとします。実際に効果があるかどうかを調べるのに、臨床試験を行う寸前まで待ちますか?ゲノム情報をいくら集めても、マウスの実験で失敗する確率は90%です。Qurisの手法があれば、レースに出る前にうまく機能する(しそうな)分子を選別することができるのです」。

医薬品候補が臨床段階に到達するまでに何百億円もの費用がかかることを考えると、失敗する(はずの)候補を除外するために、わずかな費用(数十億円程度)を費やす価値は十二分にある。手法が正確であれば(おそらく正確なはずだが)、リスクは実質的にゼロであり、高額を費やしながらも失敗する(はずの)医薬品候補を1つ除外するだけで元が取れる。ベントウィッチ氏によれば、要はソフトウェア産業における「Fail fast, fail cheap(損害の少ないうちにさっさと失敗しよう)」という考え方を、こういう考え方がまったく存在しなかった医薬品という領域に持ち込んだのだ。

Qurisのシステムでは、チップオンチップという技術を使用する。つまり、複数のオルガノイド(チップ)を並べて(別のチップ上に)配置するのだが、最新の研究室のシステムと比べてはるかに小さく、効率的である。ハーバード大学で行われた実験方法で100人分のオルガノイドを調査するには何億円もかかるが、Qurisのシステムでは100万円以下で済む。Qurisの自動システムには適切に訓練された機械学習モデルが採用され、使用する生体物質の量も少ないからだ。

機械学習モデルはQurisのもう1つの特徴である。実験を理解し、実験の実行と解釈をサポートするQuris独自のAIを機能させるには、同社だけのデータセットが欠かせない。同社のAIは、既存の医薬品や今後発売される医薬品の一部を学習済みで、物質の安全性にとってさまざまなセンサーからの信号がどのような意味を持つかを学習する。これにより(500匹のマウスの代わりに)一握りのチップで効果的な実験を行えるようになる。

チップ自体もすべて同じではない。幹細胞や組織を慎重に操作・選択することで、人のさまざまなタイプ、さまざまな状態や表現型を検査することができる。効果は十分だが10%の確率で副作用が起こる医薬品があり、その原因がわからないとしよう。自動化された環境で異なる遺伝的素質や複雑な要因に対するテストを行えば、どのような要素がその副作用を引き起こすのかを調べることができるかもしれない。

ラボで作業するQurisチームのメンバー(画像クレジット:Quris)

AIはこれらすべてを認識し、カタログ化しているので、比較的少数の自動テスト(数千ではなく数十のテスト、コストも数億円ではなく数十万円)で、その医薬品候補を臨床試験に持ち込めるかどうかを判断できるようになるはずだ。AIによる解釈がなければ、データの解析は(何種類もの博士号が必要なぐらいの)難しい問題になる。しかし、ベントウィッチ氏は、生物学的な側面を排除してAIだけに頼ることは決して想定できないとすぐに気づいたと言い「『AIは生物という相手と連携する必要がある』というのが、哲学、生物学という点での私たちの見解です」と話す。

科学諮問委員会に参加しているModerna(モデルナ)の共同設立者、Robert Langer(ロバート・ランガー)氏は、このTechCrunchのインタビューでベントウィッチ氏の見解に同意し、この技術はすぐに採用されるだろうが、(本質的に)保守的な大手製薬会社がどうするかはわからない、と予測している。

ランガー氏は次のように話す。「これは非常に大きなチャンスだと思います」「私は他の化学分野でも『AIを使ってこれらの予測を行うことができる』という類似のアイデアを持っています。(動物での、あるいは人での)試験に置き換わるものではありませんが、候補を絞ることで、プロセスを爆発的な速さで進めることができるだろうと思っています」。

ランガー氏やノーベル賞受賞者のAaron Ciechanover(アーロン・チカノーバー)氏のような人物を味方につけるのは良いことだが、ベントウィッチ氏は、Qurisのビジネスはランガー氏やチカノーバー氏の特許ポートフォリオとこの分野における優位性に依存している、と話す。Qurisはニューヨーク幹細胞財団と契約を締結し、財団の幹細胞ワークフローを特別に利用している。

このビジネスモデルには2つの柱がある。1つは、製薬会社に医薬品候補をスクリーニングするサービスを提供し、その結果が正確であると証明された場合(例えばQurisのシステムによって絞り込まれた医薬品が、予測通りに所定の試験をクリアした場合)に支払いを受け取るというものであり、もう1つは、自社の医薬品の開発だ。現在、同社は自閉症に関連する脆弱X症候群の治療薬を開発中で、来年には臨床試験を開始すると予定している。

ベントウィッチ氏は、AIを活用した創薬が急増し、投資が行われているにもかかわらず、自社の研究成果である分子が臨床試験に入ったといえる企業はほとんどない、と指摘する。この理由としては、たとえば企業が、特定の生物活性を持つ分子やその効率的な製造方法を公表するなどの主張を行っていないからではなく、(医薬品候補となる分子の)発見、試験、承認のプロセスには他にも時間のかかる多くのステップがあり、AIなどを利用することで以前よりは高くなったとはいえ、成功する確率はまだまだ低い、ということにある。

シードラウンドでの900万ドルの資金調達について、ベントウィッチ氏は「私たちの装置を製品化し、一層の効率化、自動化を図り、AIを訓練するために最初の100~1000種類の薬をテストするための資金として非常に有効です」と話す。プレスリリースによると、今回の資金調達ラウンドは「心血管治療のパイオニアであるJudith Richter(ジュディス・リヒター)博士とKobi Richter(コビ・リヒター)博士が主導し、データストレージの革新的技術の先駆者であるMoshe Yanai(モシェ・ヤナイ)氏と複数の戦略的エンジェル投資家が参加した」という。機関投資家からの投資が見当たらない点については読者の判断に委ねたい。

ベントウィッチ氏は、Qurisの未来を「完全にパーソナライズされた医療」という自身が持つ大まかな未来像の一部として捉えている。幹細胞のコストが下がり続ければ(数億円だったものがすでに数十万円に下がっている)、まったく新しい市場が開拓されるだろう。

「製薬会社が高価な実験をするだけという状況は変わるでしょう。5年後、10年後には、何億もの人々が創薬をしているかもしれません。考えてみれば、私たちの今の生活は、野蛮なものとも言えるのです」とベントウィッチ氏。「薬剤師は起こりうる可能性のある副作用を教えてくれますが、はっきりとしたことはわかりません。自分はモルモットだと思いませんか?私たちは全員がモルモットです。しかし、それこそがこの状況からの脱却の第一歩です」。

画像クレジット:Andrew Brookes / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

コードとドキュメントの同期を自動化するSwimmが約31.1億円調達

開発チームはプロジェクトの細部を理解したり、新人に仕事を任せるときなどにドキュメントが必要だ。公開するAPIを作っているときには、それらの実装の仕方を述べた良質なインストラクションがますます重要だが、伝統的にドキュメントとそのメンテナンスは多くのプログラマーに愛されない仕事だ。

イスラエルのスタートアップSwimmは、ここに着目した。同社は、デベロッパーにドキュメントを含めるよう促し、その作成を容易にし、古くなったら教えるソリューションを開発した。米国時間11月8日、同社は、そのソリューションの今後の成長のために、2760万ドル(約31億1000万円)という大きなシリーズAを発表した。そして同時に、Swimmのベータをリリースした。

このラウンドはInsight PartnersとDawn Capitalがリードし、これまでの投資家である Pitango FirstとTAU Venturesも参加している。Swimmによると、同社の総調達額は3330万ドル(約37億6000万円)になるという。

SwimmのCEOで共同創業者のOren Toledano(オレン・トレダーノ)氏によると、デベロッパーはドキュメントを軽視することが多い。彼らはコーディングに集中することが好きなので、同社はドキュメンテーションワークをコーディングの工程と容易に統合できる方法を考えた。

「Swimmの目標はデベロッパーがドキュメントを楽に作れる方法、それらがコード自体と一体化しているような方法を作ることだ。そして私の考えによると、そのもっとも重要な部分は、コードドキュメントにくっつけたときに、コードベース本体にある変化を見つけて、何かが変わったからお前は古い、と告げられることだ」とトレダーノ氏はいう。

そんなことをするSwimmは、当然ながらIDEやGitHubなどの上でデリバリーパイプラインの一部になる。そして、変化があればフラグする。それはワードプロセッサーのコメント機能に似ていて、ユーザーはその変化を受け入れたり、必要な変更を加えたりする。そのソリューションはプログラミング言語を特定せず、すべてのタイプのコードに対応する。

トレダーノ氏によれば、ひと言でいえば同社はドキュメントをコードとして扱う。

コードが所在するユーザーのリポジトリにコードも同居し、コードのように振る舞う。つまりコードをプッシュすると、Swimmのドキュメントもプッシュされる。ドキュメントはコードと同じ工程と、CIのパイプラインと、コードをデプロイする同じアプリケーションを通る。そしてこのような環境を使うと、ドキュメントが常にアップツーデートになる。

同社の社員は今30名で、米国に2人、ベルリンに1人、その他はテルアビブにいる。従業員の40%は女性だが、今後の雇用によって男女半々にしたいという。同社は、同社のための雇用のインフラストラクチャが確実にダイバーシティを実現していくものにしたい、という。

「そしてそうなればうちは、人事に関する知識やインフラがオープンになり、私たちが作っている人のインフラは、イスラエルで恵まれていない階層の人びとを今後加えていくものになる。そのやり方は、イスラエルのいろいろな機関とパートナーして、その階層の人たちをハイテクの世界で昇進させていくものになるだろう」とトレダーノ氏はいう。

同社は2019年にローンチし、2020年4月に570万ドル(約6億4000万円)のシード資金を獲得した。今回のラウンドは5月に締め切られた。

画像クレジット:Swimm

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(文:Ron Miller、翻訳:Hiroshi Iwatani)

AIを使った超音波分析の拡大を目指すイスラエルのヘルステックDiAが約15億円調達

独自の光超音波3Dイメージング技術を手がけるLuxonusが約4.3億円調達、2022年に医療機器の開発・生産および薬事申請準備

イスラエルに拠点を置くAIヘルステック企業DiA Imaging Analysisは、深層学習と機械学習を利用して超音波スキャンの分析を自動化している。同社はこのほど、シリーズBのラウンドで1400万ドル(約15億3700万円)を調達した。

DiAの前回の資金調達から3年後に行われた今回の投資ラウンドには、新たにAlchimia Ventures、Downing Ventures、ICON Fund、Philips、XTX Venturesが参加し、既存投資家としてCE Ventures、Connecticut Innovations、Defta Partners、Mindset Ventures、Shmuel Cabilly(シュムール・カビリー)博士らが名を連ねている。同社のこれまでの総調達額は2500万ドル(約27億4500万円)に達している。

今回の資金調達により、DiAはプロダクト範囲の拡大を継続し、超音波ベンダー、PACS / ヘルスケアIT企業、リセラー、ディストリビューターとのパートナーシップの新規構築や拡充を進めるとともに、3つの地域市場でのプレゼンスを強化していく。

このヘルステック企業は、AIを利用したサポートソフトウェアを臨床医や医療従事者に販売し、超音波画像のキャプチャと分析を支援している。このプロセスを手動で行うには、人間の専門家がスキャンデータを視覚的に解釈する必要がある。DiAは、同社のAI技術を「今日行われている手動および視覚による推定プロセスから主観性を取り除く」ものだと強調している。

同社は、超音波画像を評価するAIを訓練して、重要な細部の特定や異常の検出を自動的に行えるようにしており、心臓にフォーカスしたものを含む、超音波分析に関連する各種の臨床要件を対象とした広範なプロダクトを提供している。心臓関連のプロダクトには、駆出率、右心室のサイズと機能などのアスペクトの測定と分析の他、冠動脈疾患の検出支援などを行うソフトウェアがある。

また、超音波データを利用して膀胱容積の測定を自動化するプロダクトもある。

DiAによると、同社のAIソフトウェアは、人間の目が境界を検出して動きを認識する方法を模倣しており「主観的」な人間の分析を超える進歩につながるもので、スピードと効率の向上も実現するという。

「当社のソフトウェアツールは、正しい画像の取得と超音波データの解釈の両方を必要とする臨床医を支援するツールです」とCEOで共同創業者のHila Goldman-Aslan(ハイラ・ゴールドマンアスラン)氏は語る。

DiAのAIベースの分析は、現在北米や欧州を含む約20の市場で利用されている(中国ではパートナーが自社のデバイスの一部として同社のソフトウェアの使用の承認を取得したと同社は述べている)。DiAは、チャネルパートナー(GE、Philips、コニカミノルタなど)と協力して市場開拓戦略を展開しており、チャネルパートナーは自社の超音波システムやPACSシステムに追加する形で同社のソフトウェアを提供している。

ゴールドマンアスラン氏によると、現段階で3000を超えるエンドユーザーが同社のソフトウェアへのアクセスを有している。

「当社の技術はベンダーニュートラルであり、クロスプラットフォームであることから、あらゆる超音波デバイスやヘルスケアITシステム上で動作します。そのため、デバイス企業およびヘルスケアIT / PACS企業の両方と10社以上のパートナーシップを結んでいます。当該分野には、このような機能、商業的牽引力、これほど多くのFDA・CE対応のAIベースソリューションを持つスタートアップは他にありません」と同氏は述べ、さらに次のように続けた。「現在までに、心臓や腹部領域のための7つのFDA・CE承認ソリューションがあり、さらに多くのソリューションが準備されています」。

AIのパフォーマンスは、当然ながら訓練されたデータセットと同等である。そして、ヘルスケア分野での有効性は特に重大な要素である。トレーニングデータに偏りがあると、トレーニングデータにあまり反映されていない患者群で疾患リスクを誤診したり過大評価したりする、欠陥のあるモデルにつながる可能性がある。

AIが超音波画像の重要な細部を突き止めるためにどのような訓練を受けているのかと聞かれて、ゴールドマンアスラン氏はTechCrunchに次のように答えている。「私たちは多くの医療施設を通じて何十万もの超音波画像にアクセスできますので、自動化された領域から別の領域にすばやく移動する能力があります」。

「各種のデバイスからのデータに加えて、異なる病理を持つ多様な集団データも収集しています」と同氏は付け加えた。

「『Garbage in Garbage out(ゴミからはゴミしか生まれない)』という言葉があります。重要なのは、ゴミを持ち込まないことです」と同氏はいう。「当社のデータセットは、数人の医師と技術者によってタグ付けされ、分類されています。それぞれが長年の経験を持つ専門家です」。

「また、誤って取り込まれた画像を拒否する強力な拒否システムもあります。このようにして、データがどのように取得されたかに関する主観的な問題を克服しています」。

注目すべき点は、DiAが取得したFDAの認可が市販前通知(510(k))のクラスII承認であることだ。ゴールドマンアスラン氏は、自社プロダクトの市販前承認(PMA)をFDAに申請していない(また申請する意思もない)ことを認めている。

510(k)ルートは、多様な種類の医療機器を米国市場に投入する承認を得るための手段として広く利用されている。しかし、それは軽薄な体制として批判されており、より厳格なPMAプロセスと同じレベルの精査を必要としないことは確かである。

より大きなポイントは、急速に発展しているAI技術の規制は、それらがどのように適用されているかという点で遅れをとっている傾向があるということだ。巨大な展望が確実に開かれているヘルスケア分野への進出が増えている一方、まことしやかなマーケティングの基準を満たすことに失敗した場合の深刻なリスクもある。つまり、デバイスメーカーが見込んだ展望と、そのツールが実際にどれだけの規制監督下に置かれているかということの間には、依然としてギャップのようなものが存在している。

例えば、欧州連合(EU)では、デバイスの健康、安全性、環境に関するいくつかの基準を定めているCE制度において、一部の医療デバイスはCE制度の下での適合性についての独立した評価が必要になるが、実際にはそれらが主張する基準を満たしているという独立した検証が行われることなく、単にメーカーが適合性の宣言を求められるだけの場合もある。しかし、AIのような新しい技術の安全性を規制する厳格な制度とは考えられていない。

そこでEUは、来るべきAI規制法案(Artificial Intelligence Act:AIA)の下で「高リスク」と見なされたAIのアプリケーションに特化して、適合性評価の層を追加することに取り組んでいる。

DiAのAIベースの超音波解析のようなヘルスケアのユースケースは、ほぼ確実にその分類に該当するため、AIAの下でいくつかの追加的な規制要件に直面することになる。しかし現時点では、この提案はEUの共同立法者によって議論されているところであり、AIのリスクの高いアプリケーションのための専用の規制制度は、この地域では何年も効力を発揮していない状態にある。

画像クレジット:DiA Imaging Analysis

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

グッドイヤーとポルシェ投資部門が自動車が道路を「感じる」ようにするバーチャルセンシングTactile Mobilityに戦略的投資

イスラエルのスタートアップであるTactile Mobility(タクタイル・モビリティ)は、既存の車両センサーデータを利用して、自動車が道路を「感じる」ことを可能にし、クラウドプラットフォームを介して自動車と道路の両方に関する情報を提供している。同社は米国時間10月27日、2700万ドル(約30億円)のシリーズCを発表した。CEOのShahar Bin-Nun(シャハール・ビン-ナン)氏によると、同社はこの資金を、バーチャルセンサーのさらなる開発、製品ラインナップの拡大、クラウドプラットフォームの強化のために使う。目標を達成するために2021年、研究開発部門で最大20人の新規採用が必要になるという。


今回の資金調達により、Tactileの資金調達総額は4700万ドル(約53億円)になった。今回のラウンドはDelek Motorsが主導し、Goodyear Ventures(グッドイヤーベンチャーズ)とPorsche Venturesが戦略的投資を行い、Union Group、The Group Ventures、Zvi Neta(AEV)、Giora Ackerstein(ジョラ・アッカースタイン)氏、Doron Livnat(ドロン・リヴナト)氏も参加した。

ビン-ナン氏は「当社は基本的に、データの取得とデータの収益化の2つの部分に分かれています」とTechCrunchに語った。「データの取得は、シャシーのエンジンコントロールユニットに搭載されているTactile Processor(TP)と呼ばれる非常にユニークなソフトウェアで行います。TPを使用することで、安全性、パフォーマンス、運転の楽しさを向上させる、視覚に頼らない多数のバーチャルセンサーをOEMに提供することができます」と話す。

Tactileの2つめのビジネスモデルは、Tactile Cloud(TC)と呼ばれるクラウドプラットフォームを中心に展開されている。ここにバーチャルセンサーからのデータがアップロードされ、車両のDNAまたは路面のDNAを記述した触覚マップが作成される。これらのマップは、OEM、交通局、自治体、保険会社、タイヤ会社などに販売される。

ビン-ナン氏によると、Tactileが車両に搭載している23のバーチャルセンサーのうち、同社が取り組んだ主要なものはBMWとのタイヤグリップ推定で、これはクルマが走行している間に車両と道路の間のグリップを測定するというものだ。同氏によると、TactileのTPは年間250万台のBMW車に搭載されており、数百万台のクルマが受動的に路面をマッピングしていることになる。

タイヤのグリップ力を測定して道路をマッピングすることで、Tactileは道路の穴やひび割れ、滑りやすさ、降雪などをマッピングすることができる。これらの情報はリアルタイムに収集され、特定の地域を走行する他の車両にダウンロードされる。これにより、ドライバーは前もって劣悪な道路状況を知ることができ、安全性の向上につながる。また、分析結果は地図会社、道路管理者、車両管理者などの第三者が、道路のひどい場所を特定するためのレポートを介して共有することもできる。

Tactileは、クラウド上で収集したあらゆるデータで収益をあげるために、提携するOEM企業との売上高シェアモデルを採用している。ビン-ナン氏によると、Tactileはこれまでに自動車メーカー7社と30件以上の概念実証やパイロット試験を行ってきたが、量産レベルに達したのはBMWだけとのことだ。

「これまでは25人の会社でしたが、現在は40人になり、事業を拡大するには少し限界がありました」とビン-ナン氏は話す。「小さな会社がBMWのプロジェクトを進めていると、BMWへの実装や統合、要求を満たすためのテストなどで、すっかり忙しくなってしまうことが想像できるでしょう。これからは多くのOEMと並行して仕事ができるようにしたいのです」。

これは、より多くのサービスや知見を顧客に提供できるよう、他のセンサーも開発することを意味する。例えば、一部のOEMメーカーはタイヤの健康状態に関心を持っている。Tactileによれば、センサーは走行中のタイヤの溝の深さを極めて正確に測定することができ、タイヤの交換が必要かどうか、タイヤの種類や地形に応じてドライバーがどのような運転をすべきかをOEMに伝えることができるという。

「Goodyearがこの会社に投資した理由でもありますが、もう1つ重要なことはタイヤが硬すぎるかどうかを正確に測定できることです」とビン-ナン氏は話す。「彼らは今回のラウンドで投資した直後に、我々とテストを行いました。ですから、タイヤの健全度を測るバーチャルセンサーは、私たちが開発するバーチャル・センサーの中でも重要な種類のものであることは間違いありません。他のOEMは、重量推定や重心位置などを求めますが、これらは当社のバーチャルセンサーが感知し、機械学習や信号処理を使って多くのノイズを除去しています」。

その他のセンサーとしては、重量推定、アクアプレーニング、車両のヘルスセンサー、マイクロ衝突などがある。今回のシリーズCの資金調達により、Tactileはこれらのセンサーを構築し、OEMメーカーにアピールできるようにしたいと考えている。Tactileの目標は、すべての主要な自動車メーカーに入りこむことだ。そうすることで、大量のデータを収集、分析、収益化することができ、自律走行車など急成長中の技術との連携を図ることができる。

Goodyear VenturesのマネージングディレクターであるAbhijit Ganguly(アビジット・ガングリー)氏は声明文で「コネクテッドドライビングと自律走行は、ヒトとモノの移動の未来にとって重要な鍵となります。コネクテッドかつ自律走行の安全性と効率性を向上させるためには、タイヤデータが鍵となります」と述べた。

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画像クレジット:Tactile Mobility

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

AIを活用して生徒の外国語学習を支援する日本でも人気のMagniLearnが約3.2億円調達

言語を学ぶのは簡単ではない。だから生徒を助けようとするスタートアップがたくさんあるのも当然だろう。個人で学習し学校のシステムとは関係のないスタートアップもあれば、学校への導入に挑戦するスタートアップもある。最近この市場に参入したのがイスラエルを拠点とするMagniLearnだ。同社はAIを活用し、生徒の学習状況に応じて1人ひとりに合うレッスンを提供する。

同社は米国時間10月19日、シードラウンドで280万ドル(約3億2000万円)を調達したと発表した。このラウンドをリードしたのはクラウドファンディングプラットフォーム「OurCrowd」のインキュベーターであるLabs/02とインドのReliance Industriesで、イスラエルのInnovation Authorityや多くの個人投資家も参加した。

MagniLearnの共同創業者でCEOのLana Tockus(ラナ・トックス)氏は「精密にパーソナライズするので、2人の生徒のレッスンが同じになることはまったくなく、生徒は可能性を存分に伸ばすことができます。当社のAIアルゴリズムがリアルタイムで動的に練習問題を作成するので、レッスンは生徒の進捗状況に応じて進化します。練習問題は生徒1人ひとりが挑戦するのにまさにぴったりのレベルで、時間を最も有効に使えます。アルゴリズムが学習者の回答を理解し、正確なフィードバックを学習者の母語で提供します」と説明する。

画像クレジット:MagniLearn

現在は日本、韓国、イスラエルでこのサービスが利用されているが、トックス氏は今回調達した資金でアジアパシフィック地域で拡大していく計画だと述べた。現時点ではMagniLearnのプロダクトは英語教育に特化している。

コロナ禍で学校のシステムはたいへんなストレスを受けたと同社はいう。しかしトックス氏は、MagniLearnが外国語教員を置き換えようとしているわけではないと述べている。「我々は1人ひとりに合わせたデータドリブンのインサイトを通じて教員と生徒が学習効率を最大化できるようにしたいと考えています。グローバルなエコノミーに参加し、収入を倍増させ、自分と家族により良い未来を約束するために英語を必要とする世界中の生徒に対して、チャンスの扉を開くことになるでしょう」(トックス氏)。

画像クレジット:Catherine Falls Commercial / Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Kaori Koyama)

AIを使った超音波分析の拡大に注力するイスラエルのヘルステックDiAが約15億円調達

イスラエルに拠点を置くAIヘルステック企業DiA Imaging Analysisは、深層学習と機械学習を利用して超音波スキャンの分析を自動化している。同社はこのほど、シリーズBのラウンドで1400万ドル(約15億3700万円)を調達した。

DiAの前回の資金調達から約3年後に行われた今回の投資ラウンドには、新たにAlchimia Ventures、Downing Ventures、ICON Fund、Philips、XTX Venturesが参加し、既存投資家としてCE Ventures、Connecticut Innovations、Defta Partners、Mindset Ventures、Shmuel Cabilly(シュムール・カビリー)博士らが名を連ねている。同社のこれまでの総調達額は2500万ドル(約27億4500万円)に達している。

今回の資金調達により、DiAはプロダクト範囲の拡大を継続し、超音波ベンダー、PACS / ヘルスケアIT企業、リセラー、ディストリビューターとのパートナーシップの新規構築や拡充を進めるとともに、3つの地域市場でのプレゼンスを強化していく。

このヘルステック企業は、AIを利用したサポートソフトウェアを臨床医や医療従事者に販売し、超音波画像のキャプチャと分析を支援している。このプロセスを手動で行うには、人間の専門家がスキャンデータを視覚的に解釈する必要がある。DiAは、同社のAI技術を「今日行われている手動および視覚による推定プロセスから主観性を取り除く」ものだと強調している。

同社は、超音波画像を評価するAIを訓練して、重要な細部の特定や異常の検出を自動的に行えるようにしており、心臓にフォーカスしたものを含む、超音波分析に関連する各種の臨床要件を対象とした広範なプロダクトを提供している。心臓関連のプロダクトには、駆出率、右心室のサイズと機能などのアスペクトの測定と分析の他、冠動脈疾患の検出支援などを行うソフトウェアがある。

また、超音波データを利用して膀胱容積の測定を自動化するプロダクトもある。

DiAによると、同社のAIソフトウェアは、人間の目が境界を検出して動きを認識する方法を模倣しており「主観的」な人間の分析を超える進歩につながるもので、スピードと効率の向上も実現するという。

「当社のソフトウェアツールは、正しい画像の取得と超音波データの解釈の両方を必要とする臨床医を支援するツールです」とCEOで共同創業者のHila Goldman-Aslan(ハイラ・ゴールドマンアスラン)氏は語る。

DiAのAIベースの分析は、現在北米や欧州を含む約20の市場で利用されている(中国ではパートナーが自社のデバイスの一部として同社のソフトウェアの使用の承認を取得したと同社は述べている)。DiAは、チャネルパートナー(GE、Philips、コニカミノルタなど)と協力して市場開拓戦略を展開しており、チャネルパートナーは自社の超音波システムやPACSシステムに追加する形で同社のソフトウェアを提供している。

ゴールドマンアスラン氏によると、現段階で3000を超えるエンドユーザーが同社のソフトウェアへのアクセスを有している。

「当社の技術はベンダーニュートラルであり、クロスプラットフォームであることから、あらゆる超音波デバイスやヘルスケアITシステム上で動作します。そのため、デバイス企業およびヘルスケアIT / PACS企業の両方と10社以上のパートナーシップを結んでいます。当該分野には、このような機能、商業的牽引力、これほど多くのFDA・CE対応のAIベースソリューションを持つスタートアップは他にありません」と同氏は述べ、さらに次のように続けた。「現在までに、心臓や腹部領域のための7つのFDA・CE承認ソリューションがあり、さらに多くのソリューションが準備されています」。

AIのパフォーマンスは、当然ながら訓練されたデータセットと同等である。そして、ヘルスケア分野での有効性は特に重大な要素である。トレーニングデータに偏りがあると、トレーニングデータにあまり反映されていない患者群で疾患リスクを誤診したり過大評価したりする、欠陥のあるモデルにつながる可能性がある。

AIが超音波画像の重要な細部を突き止めるためにどのような訓練を受けているのかと聞かれて、ゴールドマンアスラン氏はTechCrunchに次のように答えている。「私たちは多くの医療施設を通じて何十万もの超音波画像にアクセスできますので、自動化された領域から別の領域にすばやく移動する能力があります」。

「各種のデバイスからのデータに加えて、異なる病理を持つ多様な集団データも収集しています」と同氏は付け加えた。

「『Garbage in Garbage out(ゴミからはゴミしか生まれない)』という言葉があります。重要なのは、ゴミを持ち込まないことです」と同氏はいう。「当社のデータセットは、数人の医師と技術者によってタグ付けされ、分類されています。それぞれが長年の経験を持つ専門家です」。

「また、誤って取り込まれた画像を拒否する強力な拒否システムもあります。このようにして、データがどのように取得されたかに関する主観的な問題を克服しています」。

注目すべき点は、DiAが取得したFDAの認可が市販前通知(510(k))のクラスII承認であることだ。ゴールドマンアスラン氏は、自社プロダクトの市販前承認(PMA)をFDAに申請していない(また申請する意思もない)ことを認めている。

510(k)ルートは、多様な種類の医療機器を米国市場に投入する承認を得るための手段として広く利用されている。しかし、それは軽薄な体制として批判されており、より厳格なPMAプロセスと同じレベルの精査を必要としないことは確かである。

より大きなポイントは、急速に発展しているAI技術の規制は、それらがどのように適用されているかという点で遅れをとっている傾向があるということだ。巨大な展望が確実に開かれているヘルスケア分野への進出が増えている一方、まことしやかなマーケティングの基準を満たすことに失敗した場合の深刻なリスクもある。つまり、デバイスメーカーが見込んだ展望と、そのツールが実際にどれだけの規制監督下に置かれているかということの間には、依然としてギャップのようなものが存在している。

例えば、欧州連合(EU)では、デバイスの健康、安全性、環境に関するいくつかの基準を定めているCE制度において、一部の医療デバイスはCE制度の下での適合性についての独立した評価が必要になるが、実際にはそれらが主張する基準を満たしているという独立した検証が行われることなく、単にメーカーが適合性の宣言を求められるだけの場合もある。しかし、AIのような新しい技術の安全性を規制する厳格な制度とは考えられていない。

そこでEUは、来るべきAI規制法案(Artificial Intelligence Act、AIA)の下で「高リスク」と見なされたAIのアプリケーションに特化して、適合性評価の層を追加することに取り組んでいる。

DiAのAIベースの超音波解析のようなヘルスケアのユースケースは、ほぼ確実にその分類に該当するため、AIAの下でいくつかの追加的な規制要件に直面することになる。しかし現時点では、この提案はEUの共同立法者によって議論されているところであり、AIのリスクの高いアプリケーションのための専用の規制制度は、この地域では何年も効力を発揮していない状態にある。

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画像クレジット:DiA Imaging Analysis

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

ロシアの大手Yandexがシェア型eスクーターWindのテルアビブ事業を買収、イスラエルでの事業を拡大

ロシアの大手ハイテク企業であるYandex(ヤンデックス)が、シェア型eスクーター企業Wind(ウィンド)のイスラエルでの事業を買収し、イスラエルにおけるモビリティ事業を拡大しようとしている。両社は取引条件を明らかにしていないが、イスラエルの金融紙Globes(グローブス)が、価格は4000万ドル(約45億4000万円)から5000万ドル(約56億7200万円)だと推定されると報じている

Windは、Lime(ライム)、Leo(レオ)、Bird(バード)といった競合他社と並ぶ、イスラエルでトップクラスのeスクーターシェアリング事業者だ。Yandexは、すでに2018年からイスラエル国内でモビリティプラットフォームYango(ヤンゴ)を運用しており、配車サービスを皮切りに、ラストワンマイルデリバリーやフードテックなどに取り組んでいる。Yandexによれば、Windを買収することで、幅広いラストマイルと交通手段のソリューションを提供することが可能になり、自社のエコシステムを拡大することができるという。

Yangoが、新しく増えた車両を活用して、配達サービスを拡大していくことも考えられる。例えば、最近Yandexは、テルアビブ市周辺のダークストア(EC流通センター)のネットワークを利用した、食料品の即時配達サービスYango Deli(ヤンゴ・デリ)を開始した。まずは14カ所のダークストアから始めて、11月末までには数を倍増させる予定だ。

今回の買収には、Windが保有する1万台以上のシェアリング用スクーター、イスラエル内のスクーターのインフラや運用システム、移動経路の最適化に関する研究開発などが含まれている。ベルリンとバルセロナを拠点とするWindは、今後も欧州での事業運営を継続していく予定だ。これまでに合計で7200万ドル(約81億7000万円)の資金を調達しており、現在テルアビブ都市圏の13都市で数万人の顧客にサービスを提供しており、累計で約400万回の移動が行われたという。

Yandexがロシア国内でYandex Go(ヤンデックス・ゴー)と呼ばれるスクーターシェアリングプラットフォームを開始したのは、今回のWindの買収のわずか数カ月前だった。ロシア国内でのスクーター保有台数は約5000台と言われているので、今回の合併でYandexの規模は倍以上になる。ロシアの顧客は、Windアプリからスクーターを予約できるようになるが、イスラエルでもYangoアプリからスクーターを予約できるようになる。

Yandexはまた、イスラエル、アナーバー、韓国自律走行型配達ローバーのテストも行っており、現地当局から関連する許可を取得次第、ロボットによる配達を開始できると述べている。

また近い将来、同社のロボタクシーをYangoプラットフォームに導入したいといっている。

Yandexの広報担当者はTechCrunchに対して「私たちは2019年初頭からテルアビブ市内やその周辺で自動運転車のテストを行っています。イスラエルには、他の実験地では得難い、技術を試すための条件や課題があるのです。例えばあらゆる種類のラウンドアバウト、無数の2輪車やマイクロモビリティ車両、そしてもちろん地中海の暑さと高い湿度です」と語っている。

Yandexによると、モスクワは寒冷地であるため、伝統的には自転車に適した都市ではないが、それでもロックダウン中およびロックダウン後にラストマイルデリバリーが急増し、モスクワの街には自転車に乗った宅配業者があふれたという。

Yandexの広報担当者は「幸いだったのは、私たちのクルマはすでに過酷な温度条件への対処方法を知っていたということです。テルアビブでの経験は、新型コロナ期間中のモスクワで大いに役立ちました」と語った。

画像クレジット:Wind

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:sako)

AIチップメーカーのHailoが約155億円調達、エッジデバイスにおけるAIモジュールの機会を倍増させる

世界的に半導体が不足するなか、AIチップ業界のスタートアップが、その技術に対する需要の高まりに対応するため、大規模な資金調達を発表した。スマートシティ、小売環境、産業用機器、次世代自動車システムなど、AIワークロード用にカスタマイズされたエッジデバイス用チップを製造しているHailo(ハイロ)が、シリーズCラウンドで1億3600万ドル(約155億円)を調達した。同社に近い情報筋にTechCrunchが確認したところ、今回の投資はHailoのバリュエーションを約10億ドル(約1140億円)とみているという。

このラウンドはPoalim EquityとGil Agmonが共同でリードした。Hailoの会長であるZohar Zisapel(ゾハー・ジサペル)氏、ABB Technology Ventures(ATV)、Latitude Ventures、OurCrowdの他、新たにCarasso Motors、Comasco、Shlomo Group、Talcar Corporation、Automotive Equipment(AEV)社も出資した。Halioの累計調達額は約2億2400万ドル(約255億円)になった。

約1年半前の6000万ドル(約68億円)のシリーズBに続くラウンドだ。同社は約1年前、Intel(インテル)やNVIDIA(エヌビディア)に対抗するHailo 8チップを搭載した最新のAIモジュールを発表した。

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共同創業者でCEOのOrr Danon(オア・ダノン)氏はインタビューで、最近、市場での関心が非常に高まっており、前四半期だけで、Hailoが取り組むプロジェクトの数が100件に倍増したと話した。今回のラウンドを受け、需要増加に応えて規模を拡大すると同時に、プロセッサーの用途にあわせたカスタマイズを継続する。

「現在、Hailo 8を市場に投入していますが、その効率の良さに人々は非常に喜んでいます」と同氏はいう。同社のエッジチップの独自性は、既存のリソースに適応してカスタムニューラルネットワークを動作させるよう設計されている点にある。そのため、同様のタスクを実行するためにデータセンターのコンピューターで必要とされる同等の処理能力より高速であるだけでなく、より少ないエネルギーで動作する。「私たちはこのサービスを拡大していきたいと考えています。そのために、ソフトウェアにも投資しています」と話す。

今回の資金調達は、2021年のチップ業界の複雑な状況の中で実施された。

パンデミックの影響で、一部の分野では旺盛な需要があったものの(例えば、コンシューマー環境では、活動が制限されている時期にユーザーはより良いデバイスへの乗り換えを始めた)、他の分野では活動が大幅に低下し(例えば自動運転車などの野心的なプロジェクト)、全体的に生産が大幅に減速した。

Hailoのようなエッジデバイスを扱う企業にとっては、より効率的でコスト効率の高いシステムをアピールするチャンスだ。ユーザー自身のニューラルネットワークや、TensorFlowおよびONNXなどの人気のある開発フレームワークと統合できることも後押しする。

ダノン氏によると、Hailoは自動車などの一部の分野で需要が軟化しているが、同社のビジネスの幅広さにより、全体的な需要は引き続き増加している。自動車分野は、一時期盛り上がり、その結果としてしばらく落ち込んでいたが、復調しつつある。

例えば、完全自動運転車を対象とするプロジェクトの数は減ったかもしれないが、半自動運転システムに取り組むプロジェクトはまだ数多くあり、それがHailoのビジネスにつながっていると同氏は話す。

「企業は今、現実的な展開を模索し始めており、現実的な課題に直面しています」と同氏はいう。「自動運転車に自動車専用の高速道路を走らせる必要はないかもしれませんが、それでも新しいタスクを学ぶ必要はあります」。

また、産業界や小売業界(エッジデバイスが、セキュリティシステム・自動レジ向けのコンピュータビジョンアプリケーションや、分析に使用されている)、さらには交通機関が今後もビジネスの主要な原動力となるスマートシティなどからも強い関心が寄せられているという。

投資家が同社に投資するのは、現在のビジネスのためだけでなく、今後のチャンスのためでもある。

「今後数年間で、AIは新たなビジネス価値を生み出し、これまでのユーザーエクスペリエンスを再構築する決定的な機能となるでしょう。AIベースの機能を市場に投入する能力は、企業の成功と失敗の分ける決定的要因となることが増えていきます」と語るのはMooly Eden(モーリー・イーデン)氏だ。同氏は、Intelに40年近く勤務し、直近ではイスラエル事業の社長を務めた後に退社した。現在はHailoの取締役を務める。「Hailoの革新的で超効率的なプロセッサー・アーキテクチャーは、従来のコンピューティング・ソリューションに挑戦し、新しいタイプのワークロードを処理する新しい種類のチップに対する需要増加に対応します」。

画像クレジット:Hailo

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

モバイルゲーム会社Voodooがテーブルトップゲームやカードゲーム専門のBeach Bumを買収

フランスのスマートフォン向けゲーム会社であるVoodoo(ヴードゥー)が、カジュアルなモバイルゲーム市場における重要な買収を行った。同社は、イスラエルに拠点を置くゲームスタジオで、テーブルトップゲームやカードゲームを専門とするBeach Bum(ビーチ・バム)を買収すると発表した。

この買収では、Voodooは現金と株式の両方を提供し、リテンションボーナスも支払われるため、取引額について明確な数字を得ることは難しい。ある関係者によると、Voodooは総額で数億ドル(数百億円)を支払う可能性があるとのこと。Beach Bumが過去12カ月に7000万ドル(約77億7000万円)の収益を上げていることを考えれば、この取引の規模を察することはできるだろう。

Voodooは「Helix Jump」「Crowd City」「Hole.io」「Paper.io 2」などの、いわゆるハイパーカジュアルゲームでよく知られている。同社はゲーム開発会社であると同時に、パブリッシャーでもあり、他のゲームスタジオと提携して、配信やユーザー1人当たりの平均収益などを最適化する技術スタックを構築している。

これまでにVoodooは、Tencent(テンセント)やGoldman Sachs(ゴールドマン・サックス)から資金を調達している。最近では、Groupe Bruxelles Lambert(グループ・ブリュッセル・ランバート)が2億6600万ユーロ(約343億円)をVoodooに出資した。これにより同社の評価額は17億ユーロ(約2200億円)となっている。

Voodooは時間を無駄にすることなく、新たな資本を調達した直後から、外部成長の機会として買収対象を検討し始めていた。現時点における同社の従業員数は350名。Beach Bumで働く150名がそれに加わることになる。

米国時間9月30日に発表されたこの買収により、Voodooはそのハイパーカジュアルゲームのカタログに、いくつかのカジュアルゲームを加え、新たなセグメントに拡大することになる。Beach Bumは現在、App Storeで「Backgammon – Lord of the Board」「Spades Royale」「Gin Rummy Stars」という3つのゲームを配信している。

両社では、ビジネスモデルも少々異なる。歴史的に見て、Voodooはゲームの収益化をほとんど広告に頼ってきた。その一方で、Beach Bumは代わりにアプリ内課金に重点を置いている。このように、今回の買収は、Voodooの収益源を多様化させることになる。

「(Beach Bumは)今、さらに2つのゲームを開発中です。Voodooの意向は、Beach Bumをアプリ内課金への入り口にすることです。だからBeach Bumには、できるだけ多くのゲームを出してもらいたいと、彼らは考えているはずです」と、Beach Bum共同設立者の1人であるGigi Levy-Weiss(ジジ・レヴィ・ワイス)氏は筆者に語った。

レヴィ・ワイス氏は、VC会社であるNFXのゼネラルパートナーで、2015年にBeach Bumを共同設立した。同氏は現在、Beach Bumで運営上の役職には就いていないものの、取締役会の会長を務めている。

「イスラエルのゲーム業界は、ここ数年で大きく成長を遂げ、現在までに400社を数えるまでになりました。主に欧州やアジアのバイヤーによって、いくつかのイグジットが起きています。数カ月前には、イスラエルのゲーム会社であるPlaytika(プレイティカ)が110億ドル(約1兆2200億円)の評価額でNASDAQ(NASDAQ)にIPOしました」と、テルアビブを拠点とするシニア投資銀行家のAvihai Michaeli(アヴィハイ・マイケリ)氏は、筆者に話してくれた。

画像クレジット:James Yarema / Unsplash

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(文:Romain Dillet、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

スマホ事業を閉鎖したLGが自動車向けサイバーセキュリティのCybellumを264億円で買収、

韓国の大手テック企業であるLG Electronics(LGエレクトロニクス)は、かつて携帯電話分野でトップシェアを誇っていたが、現在は同事業を縮小している。同社は、次世代の自動車向けハードウェアおよびサービスという新分野への意欲の表れとして、イスラエルの自動車用サイバーセキュリティ専門企業であるCybellum(サイベラム)を買収すると発表した。Cybellumは「デジタルツイン」と呼ばれる手法を用いて、コネクテッドカーのサービスやハードウェアの脆弱性を検出・評価する。

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LGによると、この買収は複数の部分からなっている。

まず、1億4000万ドル(約154億円)でCybellumの株式の64%を取得する。次に2000万ドル(約22億円)をSAFE(Simple Agreement for Future Equity)ノートの形で「第4四半期の取引プロセスの終了時に」拠出する。残りの株式は「近い将来」(日付の指定なし)に取得する予定で、これは最終的なバリエーションと投資が確定する時でもある。

現在のところ、バリエーションが一定であれば、この取引の総額は約2億4000万ドル(約264億円)になると見込まれる(市場やCybellumの業績が影響する可能性もある)。

LGは、自動車関連のスタートアップへの投資家としての実績を積み重ねているが、今回の買収は、イスラエル(Cybellumはテルアビブ拠点)での初の買収となる。この取引は、LGがハードウェアだけでなく、自動車業界にソフトウェアソリューションを提供することに興味を持っていることを示している。

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「自動車業界においてソフトウェアが重要な役割を果たしていることは周知の事実であり、それにともなって効果的なサイバーセキュリティ・ソリューションが必要とされています」とLG Electronicsのビークル・コンポーネント・ソリューションズ・カンパニーのKim Jin-yong(キム・ジンヨン)博士は語る「今回の取引は、LGのサイバーセキュリティの強固な基盤を一層強化するものであり、コネクテッドカーの時代に向けてさらに準備を進めるものです」。LGは以前からこの分野に注目していた。

この取引は、Blumberg Capital、Target Global、RSBG Ventures(ドイツの業界大手RAGのベンチャー部門)など、Cybellumの投資家にとても良いリターンとなる。Cybellumはこの取引に先立ち、1400万ドル(約15億4000万円)強を調達していた。

Cybellumは、イスラエル国防軍のサイバーセキュリティ部門のOBであるSlava Bronfman(スラヴァ・ブロンフマン)氏とMichael Engstler(マイケル・エングストラー)氏の2人が2016年に創業した。同社は長年にわたり、ジャガーランドローバーや日産自動車など、同社の技術を利用する大物顧客を数多く獲得しており、提携先にはハーマン、豊田通商、PTCなどが名を連ねている。

ブロンフマン氏は電子メールによるインタビューで、当面はこれらの企業との協力関係を継続し、独立した事業体として運営していく方針を明らかにした。

Cybellumの技術とそのLGによる買収は、コネクテッドカーとサイバーセキュリティの世界におけるいくつかの重要な傾向を示している。

コネクテッドカーは、悪意のあるハッカーにとって新たな攻撃対象だ。しかも、自動車に搭載されている複数の部品や、自動車という大きなエコシステムの中で動いている多数のOEMや自動車関連の会社を考えると、攻撃対象として非常に複雑だ。自動車がより賢く、よりつながりやすく、最終的にはより自律的に進化していけば、その複雑さは増していく一方だ。

大きな課題の1つは、これらすべてに共通するサイバーセキュリティへのアプローチを開発することだった。LGは、この市場での既存のプレイヤーとして、その地位をさらに高めたいと考えており、自社の将来のビジネスと、業界の幅広いサービスニーズに対応するための投資を行っている。

Cybellumのアプローチは、システムの「デジタルツイン」を作り出すことだ。これは、エンタープライズITヘルスケア世界でも採用されている手法で、脅威を特定・評価すべく全体像を把握するためにモニタリングを行う。個々のコンポーネントの断片化を解消する方法の1つであり、車のシステムに負担をかけずにリアルタイムでイベントを監視することができる。

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「これは何よりもまず、セキュリティへの投資です」とブロンフマン氏はいう。「Cybellumはサイバーセキュリティの会社です。LGは大手自動車サプライヤーの1つとして、現在のコネクテッドビークルの時代や、自動運転車への移行に不可欠な要素であることを理解しているため、サイバーセキュリティを優先しています」。

LGは現在、Cybellumの提携先ではないが、ブロンフマン氏は、両社の最初の統合は2022年に実現する可能性が高いと述べた。

画像クレジット:Joan Cros/NurPhoto / Getty Images 

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

サイバーセキュリティの格付けを行うBitSightがサイバーリスク評価VisibleRiskを買収、ムーディーズも約275億円出資

組織が攻撃される可能性を評価するスタートアップ企業のBitSight(ビットサイト)は、信用格付け大手のMoody’s(ムーディーズ)から2億5000万ドル(約275億円)の出資を受け、イスラエルのサイバーリスク評価スタートアップであるVisibleRisk(ヴィジブルリスク)を非公開額で買収した。

ボストンに本社を置くBitSightは、サイバーリスクが信用格付けに影響を与える可能性があることを長年警告してきたムーディーズから出資を受けたことにより、サイバーセキュリティ・リスク・プラットフォームの構築が可能になると述べている。一方でムーディーズは、BitSightのサイバーリスク・データおよびリサーチを、同社が提供する統合リスク評価に活用することを計画しているという。

この出資により、BitSightの企業価値は24億ドル(約2640億円)となり、ムーディーズは同社の筆頭株主となる。

ムーディーズの社長兼CEOであるRob Fauber(ロブ・フォーバー)氏は、声明の中で次のように述べている。「透明性を高め、信頼を可能にすることは、ムーディーズの使命の中核をなすものです。BitSightはサイバーセキュリティの格付け分野におけるリーダーであり、我々が協力することによって、さまざまな分野の市場参加者がサイバーリスクをより深く理解、測定、管理し、それをサイバー損害のリスクに変換することができるようになるでしょう」。

その一方でBitSightは、ムーディーズとTeam8(チームエイト)が設立したサイバーリスク格付けのジョイントベンチャーであるVisibleRiskを買収したことによって、BitSightのプラットフォームに詳細なサイバーリスク評価機能が加わり、サイバーリスクに対する組織の財務的エクスポージャーをより適切に分析・算出できるようになる。VisibleRiskは、これまでに2500万ドル(約27億5000万円)を調達しており、同社のいわゆる「サイバー格付け」は、サイバーリスクの定量化に基づくもので、企業は同業他社と比較して自社のサイバーリスクをベンチマークし、サイバー脅威が企業に与える影響をよりよく理解し、管理することができると述べている。

BitSightはVisibleRiskの買収後、リスクソリューション部門を設立し、チーフリスクオフィサーとCスイートの最高幹部たち、取締役会を含むステークホルダーに、重要な一連のソリューションと分析結果を提供する。この部門は、VisibleRiskの共同設立者であり、ムーディーズのサイバーリスクグループを率いていたDerek Vadala(デレク・ヴァダラ)氏が率いることになる。

BitSightの社長兼CEOであるSteve Harvey(スティーブ・ハーベイ)氏は、ムーディーズとの提携とVisibleRiskの買収により「デジタル化が進む世界における顧客のサイバーリスク管理を支援する」範囲を拡大することができると述べている。

2011年に設立されたBitSightは、これまでに総額1億5500万ドル(約170億5000万円)の外部資金を調達しており、直近ではWarburg Pincus(ウォーバーグ・ピンカス)が主導した6000万ドル(約66億円)のシリーズDラウンドを終了している。500人弱の従業員を擁し、各国政府機関、保険会社、資産運用会社など、世界中に2300を超える顧客を持つ。

画像クレジット:Getty Images

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(文:Carly Page、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

「量子オーケストレーション・プラットフォーム」でニッチな分野を開拓するQuantum Machinesが55億円調達

イスラエルのスタートアップであるQuantum Machines(クォンタムマシーンズ)は、量子マシンを動かすための古典的なハードウェアとソフトウェアのインフラを構築しており、現地時間9月5日、5000万ドル(約55億円)のシリーズBラウンドを発表した。

今回のラウンドはRed Dot Capital Partnersがリードし、Exor、Claridge Israel、Samsung NEXT、Valor Equity Partners、Atreides Management LPの他、TLV Partners、Battery Ventures、2i Ventures、その他の既存投資家の協力を得て実施された。Crunchbaseのデータによると、同社はこれまで約8300万ドル(約91億円)を調達した。

一般的に量子コンピューティングはまだ始まったばかりだが、Quantum Machinesは「Quantum Orchestration Platform(量子オーケストレーション・プラットフォーム)」と呼ばれるハードウェアとソフトウェアのシステムを構築することで、ニッチな分野を開拓している。

確かに、Quantum Machinesの共同創業者でありCEOのItamar Sivan(イタマール・シバン)氏は、これまでずっと量子分野の仕事に携わり、この技術の大きな可能性を感じている。「量子コンピューターは、古典コンピューターが合理的な時間内に完了することが不可能な計算を極めて高速化する可能性を秘めており、この分野への関心は現在、最高の水準に達しています。Quantum Machinesのビジョンは、量子コンピューターをユビキタスなものにし、すべての産業に革命をもたらすことです」と同氏は語る。

そのために、同社は古典コンピューターが量子コンピューターの発展に力を与えるシステムを開発した。同社はこの目的のために独自のシリコンを設計しているが、量子チップを作っているわけではないことに注意が必要だ。シバン氏の説明によると、古典コンピューターにはソフトウェアとハードウェアの層があるが、量子マシンには3つの層があるという。「心臓部である量子ハードウェア、その上に古典的なハードウェアがあり、さらにその上にソフトウェアがあります」と同氏はいう。

「我々が注目しているのは、後者の2層です。つまり、古典的なハードウェアとそれを動かすソフトウェアです。我々のハードウェアの核心は、実は古典的なプロセッサーです。これが量子スタックの最も興味深い点だと思います」と説明している。

同氏は、古典的なコンピューティングと量子コンピューティングの間のこの相互作用は、テクノロジーの基本であり、将来にわたり、あるいは永遠に続くものであるという。Quantum Machinesが構築しているのは、基本的には、量子コンピューターを稼働させるために必要な古典的なクラウドインフラだ。

Quantum Machinesの創業チーム。イタマール・シバン氏、ニシム・オフェク氏、ヨナハン・コーエン氏(画像クレジット:Quantum Machines)

これまでのところ、このアプローチは非常にうまくいっている。シバン氏によると、政府、研究者、大学、そしてハイパースケーラー事業者(Amazon、Netflix、Googleなどの企業が含まれる可能性があるが、同社は顧客であるとは述べていない)が、いずれも同社の技術に興味を持っているという。具体的な数字については言及していないが、同社は現時点で15カ国に顧客を持ち、名前を明かせない大企業とも協力関係にある。

今回の資金調達は、同社の活動を裏づけるもので、ソリューションの開発継続を可能にする。同社は研究開発にも多額の投資を行っている。開発の初期段階にあり、この先ずっと大きな変化が起こるこの産業では重要なことだ。

このソリューションは、わずか60人の従業員でここまで完成させることができた。今回の資金調達により、今後数年間でチームを大幅に増強することができる。シバン氏は多様性に関して、それが当然とされるアカデミックなバックグラウンドの出身であり、それを会社に持ち込み新しい人材を採用しているという。さらに、パンデミックのおかげで、どこからでも採用できるようになり、同社はこの機会を活用しているという。

「まず第一に、我々はイスラエルだけではなく、世界中で採用活動を行っており、特定の地域での採用に限定していません。当社には多くの国から人が集まっています」と話す。また「私個人にとっての多様性とは、できるだけ多くの人を採用プロセスに参加させることです。それが多様性を確保するための唯一の方法です」。

パンデミック期間中も、ハードウェアチームは、許可されている場合は必要な注意を払い、オフィスで対面のミーティングを行ってきたが、ほとんどの社員は自宅で仕事を続けていた。これは、定期的にオフィスに行くことが安全になったとしても続けていくアプローチだという。

「もちろん、ポストコロナ時代には、相当の仕事量がリモートワークによって行われます。【略】ですから、当社の本社でも(希望者には)リモートワークを認めることを想定しています」。

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画像クレジット:Quantum Machines

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(文:Ron Miller、翻訳:Nariko Mizoguchi

ライブビデオストリーミング会社LiveUの買収をPE大手Carlyleが正式に認める

米国時間7月19日にお伝えした、LiveU(ライブユー)の売却が間近に迫っているというニュースに続き、米国時間7月20日には同社とその買い手であるCarlyle(カーライル)がその取引を正式に認めた。LiveUは世界の約3000の主要メディアに採用されているライブストリーミング・ハードウェアおよびソフトウェアの大手開発会社である。

売り手は、2年前にLiveUを2億ドル(約219億円)で買収したFrancisco Partners(フランシスコ・パートナーズ)で、Carlyleと同じプライベート・エクイティ(PE)企業だ。LiveUとCarlyleは、今回の売却条件を明らかにしていないが、有力な情報筋によれば、4億ドル(約438億円)以上だと伝えられている。Carlyleは、投資資金はCarlyle Europe Technology Partners(カーライルヨーロッパテクノロジーパートナーズ、CETP)IVによって提供されると発表している。同ファンドはヨーロッパと米国のミドルマーケットテクノロジーに焦点を当てて投資を行うファンドだ。LiveUはイスラエルに本社を置いているが、今回の買収はCarlyleにとってイスラエルでの初のハイテク企業買収となる。

LiveUの評価額が2年間で2倍になったのは、現在のメディアの状況を反映したものでもある。特に、動画はコンテンツや情報の消費の中心であり、その存在感は高まる一方だ。このため動画の撮影・送信方法を改善するツールを開発する企業が注目されているのだ。

またパンデミックも動画市場を活性化させた別の要素だ。LiveUは、今回の東京オリンピック大会の数千時間におよぶイベントの録画・配信に使用される予定だ。東京大会では、多くの重要なイベントが無観客で行われるため、これまで以上にライブビデオコンテンツへの依存度が高くなるだろう。

そのことはまた、LiveU自体が成長し、その地位を確固たるものにしていることにも由来している。最近では、同社は英国市場のチャネルパートナーであるGarland Partners(ガーランド・パートナーズ)を買収し、同地域の顧客とより直接的な関係を築き、ビジネスを拡大しようとしている。

同社は、映像を撮影するカメラなどの機器だけでなく、それを送信するためのエンコード機器、そして素材を受け取って利用するハードウェアまでの、垂直統合型の提案を行う。

また、高品質な映像を撮影し伝送するために不可欠なデータ圧縮を行うソフトウェアを開発し、携帯電話や衛星などのさまざまなネットワークを組み合わせて動作させている。

要するにこれは非常に奥行きのあるシステムであり、部分的にも、全面的にも採用することが可能なのだ。そしてこの柔軟性と信頼性により、3000社を超えるメディア企業が顧客として名を連ねており、スポーツイベントや大規模なニュースイベントなどの注目度の高いイベントや、日常的なビデオ報道にも使用されている。

FranciscoはLiveUを資産として比較的早く手放したが、Carlyleはより戦略的な計画を持っているようだ。Carlyleは「メディアテック分野での深い経験を活かして、LiveUの成長への熱望を支援したい」と述べている。同社はすでにDisguise(ディスガイズ)、NEP、The Foundry(ザ・ファウンドリ)、Vubiquity(ビュービクイティ)、BTI Studios(BTIスタジオ)、The Mill(ザ・ミル)などの隣接業務企業に投資している。また、LiveUは、同社が連携プレーを継続するための役割を果たすようだ。

LiveUは声明の中で「Carlyleは、高品質なライブ映像配信の需要が急速に高まっていることを利用しつつ、M&A活動や有機的な成長を通じて、LiveUの市場での地位をさらに強固にすることを目指します」と述べている。同社によれば、5Gが広く普及することでその傾向が加速するという。

LiveUの共同創業者であるCEOのSamuel Wasserman(サミュエル・ワッサーマン)氏は「Carlyleと提携することで、LiveUのグローバルな事業展開とサービスの拡大を図ることが可能になり、大変うれしく思っています。今回の買収は、LiveUにとって重要な節目であり、当社の事業に対する強い信頼を示すものです」と述べている。「Carlyleは、メディアやテクノロジー分野での実績に加え、グローバルなネットワークを活用することで、業界の深い専門知識を提供してくれるでしょう。ここ数年のFrancisco PartnersとIGP Capitalのサポートとパートナーシップに大いに感謝しています」。

CETPのアドバイザリーチームの責任者であるMichael Wand(マイケル・ワンド)氏は「Carlyleは、急速に成長している革新的で破壊的なメディアテクノロジー企業に投資してきた実績を持っています。今回急速に成長している市場の最前線にいるLiveUと提携できることを本当にうれしく思っています」と述べている。「LiveUチームとのパートナーシップにより、新しい分野への進出、ターゲットを絞ったM&A、特にライブコンテンツの需要が急増しているライブスポーツに対する主要メディア放送局との関係強化などを通して、彼らの成長をサポートしていきます。高品質のリアルタイムビデオコンテンツへの移行が進んでいること、他の伝送技術と比較した場合のボンディングセルラー技術(複数の電話回線を束ねて伝送速度を上げる技術)のコスト面での優位性、セミプロやノンプロのスポーツなどのこれまで日の当たらなかった分野にライブ放送を導入する機会などは、LiveUに大きな成長の可能性を提供できると考えています」。

関連記事:PE大手Carlyleがライブ放送・ストリーミング技術のLiveUを438億円超で買収すると関係筋

カテゴリー:ネットサービス
タグ:CarlyleLiveU買収ライブストリーミング動画配信イスラエル

画像クレジット:LiveU

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:sako)

ライブビデオストリーミング会社LiveUの買収をPE大手Carlyleが正式に認める

米国時間7月19日にお伝えした、LiveU(ライブユー)の売却が間近に迫っているというニュースに続き、米国時間7月20日には同社とその買い手であるCarlyle(カーライル)がその取引を正式に認めた。LiveUは世界の約3000の主要メディアに採用されているライブストリーミング・ハードウェアおよびソフトウェアの大手開発会社である。

売り手は、2年前にLiveUを2億ドル(約219億円)で買収したFrancisco Partners(フランシスコ・パートナーズ)で、Carlyleと同じプライベート・エクイティ(PE)企業だ。LiveUとCarlyleは、今回の売却条件を明らかにしていないが、有力な情報筋によれば、4億ドル(約438億円)以上だと伝えられている。Carlyleは、投資資金はCarlyle Europe Technology Partners(カーライルヨーロッパテクノロジーパートナーズ、CETP)IVによって提供されると発表している。同ファンドはヨーロッパと米国のミドルマーケットテクノロジーに焦点を当てて投資を行うファンドだ。LiveUはイスラエルに本社を置いているが、今回の買収はCarlyleにとってイスラエルでの初のハイテク企業買収となる。

LiveUの評価額が2年間で2倍になったのは、現在のメディアの状況を反映したものでもある。特に、動画はコンテンツや情報の消費の中心であり、その存在感は高まる一方だ。このため動画の撮影・送信方法を改善するツールを開発する企業が注目されているのだ。

またパンデミックも動画市場を活性化させた別の要素だ。LiveUは、今回の東京オリンピック大会の数千時間におよぶイベントの録画・配信に使用される予定だ。東京大会では、多くの重要なイベントが無観客で行われるため、これまで以上にライブビデオコンテンツへの依存度が高くなるだろう。

そのことはまた、LiveU自体が成長し、その地位を確固たるものにしていることにも由来している。最近では、同社は英国市場のチャネルパートナーであるGarland Partners(ガーランド・パートナーズ)を買収し、同地域の顧客とより直接的な関係を築き、ビジネスを拡大しようとしている。

同社は、映像を撮影するカメラなどの機器だけでなく、それを送信するためのエンコード機器、そして素材を受け取って利用するハードウェアまでの、垂直統合型の提案を行う。

また、高品質な映像を撮影し伝送するために不可欠なデータ圧縮を行うソフトウェアを開発し、携帯電話や衛星などのさまざまなネットワークを組み合わせて動作させている。

要するにこれは非常に奥行きのあるシステムであり、部分的にも、全面的にも採用することが可能なのだ。そしてこの柔軟性と信頼性により、3000社を超えるメディア企業が顧客として名を連ねており、スポーツイベントや大規模なニュースイベントなどの注目度の高いイベントや、日常的なビデオ報道にも使用されている。

FranciscoはLiveUを資産として比較的早く手放したが、Carlyleはより戦略的な計画を持っているようだ。Carlyleは「メディアテック分野での深い経験を活かして、LiveUの成長への熱望を支援したい」と述べている。同社はすでにDisguise(ディスガイズ)、NEP、The Foundry(ザ・ファウンドリ)、Vubiquity(ビュービクイティ)、BTI Studios(BTIスタジオ)、The Mill(ザ・ミル)などの隣接業務企業に投資している。また、LiveUは、同社が連携プレーを継続するための役割を果たすようだ。

LiveUは声明の中で「Carlyleは、高品質なライブ映像配信の需要が急速に高まっていることを利用しつつ、M&A活動や有機的な成長を通じて、LiveUの市場での地位をさらに強固にすることを目指します」と述べている。同社によれば、5Gが広く普及することでその傾向が加速するという。

LiveUの共同創業者であるCEOのSamuel Wasserman(サミュエル・ワッサーマン)氏は「Carlyleと提携することで、LiveUのグローバルな事業展開とサービスの拡大を図ることが可能になり、大変うれしく思っています。今回の買収は、LiveUにとって重要な節目であり、当社の事業に対する強い信頼を示すものです」と述べている。「Carlyleは、メディアやテクノロジー分野での実績に加え、グローバルなネットワークを活用することで、業界の深い専門知識を提供してくれるでしょう。ここ数年のFrancisco PartnersとIGP Capitalのサポートとパートナーシップに大いに感謝しています」。

CETPのアドバイザリーチームの責任者であるMichael Wand(マイケル・ワンド)氏は「Carlyleは、急速に成長している革新的で破壊的なメディアテクノロジー企業に投資してきた実績を持っています。今回急速に成長している市場の最前線にいるLiveUと提携できることを本当にうれしく思っています」と述べている。「LiveUチームとのパートナーシップにより、新しい分野への進出、ターゲットを絞ったM&A、特にライブコンテンツの需要が急増しているライブスポーツに対する主要メディア放送局との関係強化などを通して、彼らの成長をサポートしていきます。高品質のリアルタイムビデオコンテンツへの移行が進んでいること、他の伝送技術と比較した場合のボンディングセルラー技術(複数の電話回線を束ねて伝送速度を上げる技術)のコスト面での優位性、セミプロやノンプロのスポーツなどのこれまで日の当たらなかった分野にライブ放送を導入する機会などは、LiveUに大きな成長の可能性を提供できると考えています」。

関連記事:PE大手Carlyleがライブ放送・ストリーミング技術のLiveUを438億円超で買収すると関係筋

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:sako)

PE大手Carlyleがライブ放送・ストリーミング技術のLiveUを438億円超で買収すると関係筋

コンテンツに関してはストリーミングが何より肝心になってきている中、世界中のどこからでもライブ配信できる技術を開発している企業の1つが買収されることになった。LiveU(ライブユー)は、ライブ中継やブロードキャスト映像をキャプチャして配信するための衛星 / セルラーハードウェアおよびソフトウェアを提供しており、3000以上の大手メディア企業に採用されているが、プライベートエクイティ投資会社であるCarlyle(カーライル)に4億ドル(約438億円)以上で買収されることになったと、複数の関係筋がTechCrunchに語った。

LiveUはイスラエルに拠点を置いており、取引は地元メディアによって進んでいると報じられていた。TechCrunchの情報筋によると、この買収はクロージングの最終段階に入っており、早ければ米国時間7月19日か20日にも発表される可能性があるとのこと。LiveUの広報担当者はこの記事へのコメントを控えており、Carlyleの広報担当者からはコメントを得られなかった。

注目すべき点は、ここ2年の間にLiveUが買収されるのは2度目だということだ。同社は以前、Francisco Partnersという別のPE企業に2億ドル(約219億円)で買収されている。

25カ月で2倍以上になった評価額の急上昇は、動画コンテンツへの関心が大きく高まっていることが一因だ。

少し前までは、テレビの限られたチャンネルでしかライブビデオを観ることはできなかった。それが今では、ライブやそれに近いもの、あるいはオンデマンドの動画が、あらゆる場所で観られる。オンデマンドやライブストリーミングの映像は、アプリ(放送専用のもの、またはYouTubeやFacebookなど他のコンテンツと一緒に提供されるもの)やウェブサイトで観ることができ、テレビだけでなく、スマホやタブレット、PCでも観ることが可能だ。今日では、人々に情報を提供したり楽しませたりするための主要なメディアとなっており、IPトラフィック全体の80%以上を占めている。

そのため、映像を撮影して配信するプロセスを、より簡単に、より安く、より高い品質で実現する技術を開発している企業が注目されるのは当然のことだ。(LiveUは、テニス選手権からDerek Chauvin〔デレク・ショーヴィン〕被告の裁判まで、多くの注目を集める報道に使用されている)。

もう1つの理由は、LiveUが買収によって規模を拡大したことにあるようだ。2021年初め、LiveUは英国市場のチャネルパートナーであるGarland Partnersを非公開で買収し、同地域の顧客に近づくことに成功した。ある情報筋によると、この統合により、LiveUが買収されるための道筋ができ、その評価も上がったとのことだ。

Carlyleと同時期に他の買い手がいたかどうかは定かでないが、Carlyleは2020年、かなり積極的に買収やグロースステージ投資を行っている。2020年は、新型コロナウイルスのパンデミックとそれにともなう消費者や企業の行動の変化を受けて、資金の動きが激しい年だった。

同社の欧州(特に英国)における他の買収事例としては、英国のハイブリッドワークスタートアップである1eを2億7000万ドル(約295億円)で買収した他、ゲーム会社のJagexを約5億3000万ドル(約580億円)で買収した。また、韓国のMaaSスタートアップであるKakao Mobilityへの2億ドル(約219億円)の出資も行っている。今回のLiveUは、イスラエルでの最初の案件になると思われる。

イスラエルは、こうした活動の大きな恩恵を受けている。テルアビブを拠点とするベテラン投資銀行家でスタートアップアドバイザーでもあるAvihai Michaeli(アビハイ・ミカエリ)氏は、2021年の最初の6カ月間に同国内のスタートアップがまとめて110億ドル(約1兆2039億円)を調達したと見積もっており、それは7月19日の時点ですでに120億ドル(約1兆3133億円)にまで拡大している。PE企業は常連客であり、イスラエルでのエグジットに関しては「内部から改善して、さらに高い価値で売却する」というのが常套手段だという。他の例としては、Francisco Partnersが2021年2月にMyHeritageを約6億ドル(約657億円)で買収している。

さらなる情報が得られれば、この記事を更新する。

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Aya Nakazato)

物議を醸し出しながらも広く使われる顔認識のAnyVisionがソフトバンクなどから約261億円調達

顔認識は、人工知能の応用分野の中でも特に問題の多い分野だ。コンピュータービジョンを使って顔を識別し、その後、その人の身元を特定することは、プライバシーやデータ保護、仕事の目的やシステム自体を支える倫理観について多くの疑問を投げかけている。しかし、その一方で、顔認識はさまざまなユースケースで広く採用されている。今回、この分野で物議を醸しながらも成功を収めているスタートアップの1つが、大規模な資金調達を完了した。

イスラエルのスタートアップであるAnyVision(エニービジョン)は、顔で人を識別するAIベースの技術を開発するだけでなく、大勢の中から高い体温の人を検出する技術も開発している。同社は2億3500万ドル(約261億円)の資金を調達したと認めた。

今回のシリーズCは、AIスタートアップとしては大規模なラウンドの1つだ。ソフトバンクのVision Fund 2とEldridge Industriesが共同でリードし、既存投資家も参加した(表には出ていないが、Robert Bosch GmbH、Qualcomm Ventures、Lightspeedなどが名を連ねている)。同社はバリュエーションを公表しておらず、問い合わせ中だ。PitchBookによると、AnyVisionは過去に約1億1600万ドル(約129億円)を調達しており、2020年の前回のラウンド以来、多くの顧客を獲得してきた。

また、AnyVisionのCEOであるAvi Golan(アビ・ゴラン)氏は、ソフトバンクの投資部門の元オペレーティングパートナーであることも特筆すべき点だ。

今回調達した資金は、SDK(Software Development Kit)の開発継続のため、特にエッジ・コンピューティング・デバイス(スマートカメラ、ボディカメラ、その他のデバイスに使用されるチップ)を動かし、同社のシステムのパフォーマンスとスピードを向上させるために使用されるという。

AnyVisionのシステムは、ビデオによる監視、監視員による警告、会社などの組織が群衆を監視・制御するといったシナリオで利用される。例えば、人数の把握、小売店での滞留時間の分析、違法行為や危険な行為の警告などに利用される。

「AnyVisionの認識AIのイノベーションは、受動的なカメラをプロアクティブなセキュリティシステムに変え、組織が高度なセキュリティの脅威に対してより全体的な視点を持つことを可能にしました」とゴラン氏は投資を発表する声明で述べた。「Access Point AIプラットフォームは、人、場所、プライバシーを保護すると同時に、コスト、電力、帯域幅、運用の複雑さを削減するように設計されています」。

多くの報道に触れ、AnyVisionの名前を知っている人もいるかもしれない。

同社は2019年、その技術によりイスラエル政府がヨルダン西岸地区のパレスチナ人の監視を密かに実行していると報道された。

同社はこれを否定したが、この話はすぐに同社の評判に大きな汚点を残すことになり、同時に顔認識の分野全体にさらなる監視の目を向けることになった。

これを受け、ベンチャー部門「M12」を通じてAnyVisionに投資していたMicrosoft(マイクロソフト)は、その投資と、顔認証投資に対する同社の姿勢を全面的に監査することになった。最終的にマイクロソフトは株式を売却し、今後、このような技術には投資しないことを約束した。

それ以来、AnyVisionは、顔認識という大きな市場には多くの課題や欠点があることを認め、この分野での「倫理的」なプレイヤーになるべく懸命に取り組んできた。しかし、同社を巡っては論争が続いている。

2021年4月のReuters(ロイター)の報道では、ロサンゼルスのCedars Sinai(シダーズ・サイナイ)のような病院から、Macy’s(メイシーズ)のような大手小売店、エネルギー大手のBPまで、今日どれだけ多くの企業がAnyVisionの技術を使用しているかが紹介されている。AnyVisionの権力とのつながりは、単に大きな顧客を持っているということだけではない。ホワイトハウスのJen Psaki(ジェン・サキ)報道官は、かつてこのスタートアップのコミュニケーション・コンサルタントを務めていた。

また7月6日、The Markupに掲載されたレポートでは、2019年に発行されたユーザーガイドブックを含むAnyVisionのさまざまな公開記録を調べ、同社がどれだけの情報を収集できるのか、どんなことに取り組んできたのかについて、かなり不利な状況を描いている(ある試験運用とその報告書では、テキサス州の学区の子どもたちを追跡している。AnyVisionは、わずか7日間で5000枚の生徒の写真を収集し、16万4000件以上の検出を行った)。

しかし、AnyVisionの技術が役に立ち、有用となり、あるいは歓迎されると思われるケースは他にもある。例えば、体温を検知して、高い体温の人と接触した人を特定する機能は、新型コロナウイルスの不明瞭なケースをコントロールするのに役立つ。例えば、人が集まるイベントでウイルスを封じ込め、遂行するための安全策を提供する。

また、これは明確にしておきたいが、この技術を開発・展開している企業はAnyVisionだけではなく、監視の目にさらされているのもAnyVisionだけではない。米国のClearview AIは、何千もの政府や法執行機関で利用されているが、2021年初め、カナダのプライバシー当局から「違法」と判断された。

実際、こうした技術がどのように発展していくのか、どのように使用されるのか、そして一般の人々がこれをどうに見るようになるのかという点においても、物語は完結していないようだ。今のところ、論争や倫理的な問題があったとしても、AnyVisionの勢いはソフトバンクを動かしているようだ。

「視覚認識市場は初期段階にありますが、欧米では大きな可能性を秘めています」と、ソフトバンク・インベストメント・アドバイザーズのパートナーであるAnthony Doeh(アンソニー・ドー)氏は声明で述べた。「我々は他のカテゴリーでAI、バイオメトリクス、エッジコンピューティングによる変革の力を目の当たりにし、AnyVisionが数多くの業界で物理環境分析を再定義するユニークな位置にあると信じています」。

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カテゴリー:人工知能・AI
タグ:顔認識AnyVision資金調達Softbank Vision Fundイスラエルコンピュータービジョン

画像クレジット:Design Cells / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

iPhoneの「天気」アプリで大気の質を表示するBreezoMeterが約33.2億円を調達

Ran Korber(ラン・コーバー)氏は、喘息持ちで妊娠中の妻と一緒に、イスラエルに家を買おうとしていた。環境エンジニアである同氏は、大気汚染が早死の最大の原因であること、早産の原因になること、その他の呼吸器系の病気の原因になることを知っていた。コーバー氏はイスラエルで最も汚染の少ない都市を探し始めたが、そのような情報は存在しないことに気づいた。そこで感じた不満から、花粉、大気汚染、山火事、天候のカテゴリーで40種類の汚染物質を予測するツール、現在の「BreezoMeter(ブリゾメーター)」を作った。

同社は米国時間6月28日、Fortissimo Capital(フォルティシモ・キャピタル)が主導するシリーズCラウンドで、3000万ドル(約33億2000万円)を調達したと発表。これまでに同社が調達した資金の総額は4500万ドル(約49億8000万円)に達した。イスラエルに拠点を置くこの会社は、コーバー氏が妻と家を探していた時から約2年後の2014年に設立された。

BreezoMeterの共同創業者で、現在CEOを務めるコーバー氏は「多くの国では、人々は自分の周りの空気について何も知りません」と、TechCrunchに語った。

BreezoMeterは、AIと機械学習を活用して、世界中に設置されている4万7000基以上のセンサーを含む複数のソースからデータを収集・把握し、100カ国以上の街頭レベルの大気質データ(5メートル間隔)と、花粉、汚染物質、火災のデータを提供している。

Apple WatchやiPhoneを持っている人でも知らなかったかもしれないが、どちらもApple(アップル)の「天気」アプリにBreezoMeterが組み込まれている。どこの都市の天気でも、下にスクロールすると、BreezoMeterによる大気質の指標が表示される。米国のAQI(大気汚染指数)は、0から500のスケールで表示され、0が最もクリーンな状態。ここマイアミの空気の質は、昨日は36(良い)、今日は51(中程度)だった。それに比べてニューヨークの空気は、今日は34(良い)で、マイアミよりも良好だ。

BreezoMeterは、現在の空気の質を測定するだけでなく、予測することも可能なので、自分の感受性に合わせて準備しておくことができる。

コーバー氏は「花粉の飛散時期がいつから始まるのかを予測し、2つの異なる場所の間で花粉がどのように移動するのかを予測することができます」と語っている。

自分の感受性がよくわからなくても、自分がいる場所の空気の質を知っていれば、少なくとも症状に用心することができるだろう。

「空気中の汚染物質の種類によって、BreezoMeterはそれが引き起こす症状を教えてくれます」と、コーバー氏はいう。

問題は、汚染そのものだけでなく、大気質について大きな情報格差があることだ。環境保護庁(EPA)によると、米国では約1億2000万人の人々が、大気汚染のモニタリングが行われていない地域に住んでいるという。

「BreezoMeterが作られる以前は、誰もが同じセンサーのデータを使用していましたが、今ではそれらのセンサーに加えて、交通量、山火事、衛星、ローカルセンサーなどのデータを収集し、花粉については土地利用も考慮しています」と、コーバー氏は語る。

センサーが簡単に破壊されてしまうのは、山火事の時だ。「センサーは文字通り燃えてしまうのです」と、コーバー氏はいう。この問題を回避するために、BreezoMeterは衛星からのデータを含む、他の多数のセンサーを頼っている。

「毎日3億人以上の人々が当社のプラットフォームを利用して、環境上の危険を回避するための情報に基づいた意思決定を行っています」とコーバー氏は述べているが、誰もがアップルの天気アプリのみを利用しているわけではない。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息を持つ人であれば、Resmed(レスメド)傘下のPropeller製品に組み込まれたBreezoMeterの恩恵を受けているかもしれない。Propellerは、空気質に応じて、窓を閉めたり、吸入器を使用したりなど、健康状態を改善するために何をすべきかを患者に伝えるデバイスを製造している。

BreezoMeterによると、PropellerがBreezoMeterを製品に組み込んで以来、Propellerの患者は、喘息発作が約50%減少し、ER訪問も減ったという。

BreezoMeterは今回調達した資金を、より多くの製品カテゴリーの開発や、チームを3倍の約120人に増やすことに充てる予定だ。

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画像クレジット:BreezoMeter

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(文:Marcella McCarthy、翻訳:Hirokazu Kusakabe)